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窃盗被告事件
事件番号平成29(わ)700
事件名窃盗被告事件
裁判年月日平成31年1月22日
裁判所名・部福岡地方裁判所
裁判日:西暦2019-01-22
情報公開日2019-02-12 10:00:21
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平成31年1月22日宣告

被告人Aにつき

第700号

被告人Bにつき

窃盗被告事件
窃盗被告事件

主文
被告人両名をそれぞれ懲役9年に処する
被告人両名に対し,未決勾留日数中各400日を,それぞれその刑に算入する。
訴訟費用のうち,被告人Bの国選弁護人に関する分は被告人Bの負担とし,その余は被告人両名の連帯負担とする。
理由
※人名については,特記がある場合を除き再出時以降は本名の姓のみで表記する。※共犯者として認定した者は,いずれも分離前の相被告人である。
(罪となるべき事実)
被告人両名は,C,D,E,F,G及び氏名不詳者らと共謀の上,平成28年7月8日午前9時27分頃,福岡市a区bc丁目d番e号fビル1階エレベーター前エントランスにおいて,H,I及びJ管理の金塊合計160個在中のキャリーケース5個(時価合計約7億5861万円相当)並びにI所有又は管理に係る現金約130万円並びに財布及びiPad在中のショルダーバッグ1個及び携帯電話機2台(時価合計約24万円相当)を持ち去り窃取した。
(事実認定の補足説明)
1
本件の争点等
被告人両名及び判示の共犯者らが金塊を入手することを企て,金塊を売却する
ために判示のfビル(以下fビルという。)を訪れる者らから金塊を持ち去るこ
とについて意思を相通じた上,被告人らのうち一部の者がfビルで金塊合計160個(以下本件金塊という。
)が入ったキャリーケース5個(以下本件キャリーケースといい,本件金塊と併せて本件金塊等という。)とIが所有又は
管理していた現金やショルダーバッグ,携帯電話機等(以下I私物という。)
を持ち去ったこと(以下本件持ち去りという。
)については,当事者間に争い
はなく,証拠上も明らかに認められる。
本件の争点は,
本件持ち去りの時点で,
①H,
I及びJ
(以下,
3名を併せて
Hらという。
)が本件金塊等を占有していたか否か,②Hらが本件持ち去りに同意していたか否か,
③被告人らが,
Hらが本件持ち去りに同意していると誤信してい
たか否か,④被告人Bと共犯者との間でI私物の持ち去りについて共謀が成立していたか否かである。
2
争点①(Hらが本件金塊等を占有していたか否か)について刑法における占有概念と本件で関連する前提事実
窃盗罪は財物の占有者の意思に反してその財物を犯人又は第三者の占有下に移し
た場合に成立する罪であり,占有とは「人が物を実力的に支配する関係」をいうと解される(最高裁判所昭和32年11月8日判決・最高裁判所刑事判例集11巻12号3061頁参照。なお,弁護人が主張する「財物に対する事実的支配・管理」も同意義である。。そして,この意味での占有が誰に帰属するかは,具体的事情に基づ)
き,社会通念によって決せられる。その観点から関係各証拠をみると,本件金塊等の入手,本件持ち去りの経緯等について,以下の事実が認められる。すなわち,Hらは,それぞれ,金塊を購入,売却してその差額で利益を得るビジネスを行っていたL(H及びIの雇用主)やその出資者ら(Jの依頼主ら。以下,Lや出資者らを併せて上位者という。
)から金塊を購入して売却するよう委託を
受け,
平成28年7月7日,
金塊の購入に充てる現金を入れたキャリーケースを携え,
東京都内から山口県下関市内まで,新幹線や航空機で移動した。そして,同日夜,
同市内のホテルのHの宿泊する客室内で取引相手と会い,その相手が持参した本件金塊の数や重さ等を確認した上,これらを,持参した現金と引き換えに受け取り,現金を運んできたキャリーケース3個に分けて入れるなどし,各自の客室内で保管した(Hは,その後,Lら本件金塊の取引関係者に対し,本件金塊の写真を送信して購入の報告をした。。
)Hらは,
翌8日の朝,
Hからの連絡で運転手役を引き受けた
K及びMと合流し,本件金塊を更に2個のキャリーケースにも分けて入れ(本件金塊等)
,これらを自動車で売却先の店舗があるfビル内のエレベーターホールに運び入れたところ,被告人らによって持ち去られた(本件持ち去り)
。その後,H及びJ
は,それぞれ,上位者に対し,電話で,本件持ち去りの事実を報告した。Hらが本件金塊等を占有していたか否かについて
以上の事実からすると,Hらは,本件金塊の入手や保管,本件金塊等の運搬の全てを自らの手によって直接行っており,その処分(売却)についてもHら自身が行う予定であったのであるから,Hらはまさに本件金塊等を実力的に支配していたといえる。もとより,Hらは,上位者の委託を受け,その指示下に行動したものではあるが,Hらは,相当の時間を掛けて上位者のいる東京都内から遠く離れた下関市内まで購入代金を携えて移動した上で本件金塊等の入手,保管,運搬に当たっており,その間,上位者が同行したり,上位者が直接本件金塊等を握持するなどしたことは一切ないことからすれば,上位者等Hら以外の者が本件金塊等を事実上支配していたとみることはできない。よって,Hらが本件金塊等を占有していたと認められる。
弁護人は,本件金塊の買取量と金額はあらかじめ上位者によって定められ,Hらは本件持ち去り後に上位者に電話でその事実を報告しているから,Hらは上位者の指示で本件金塊を運搬したに過ぎず,本件金塊について何ら処分権限を有していないから,Hらが本件金塊等を占有していたとはいえない旨主張するが,既に指摘した事情に加え,Hらが上位者に本件金塊に関する報告を行ったのが本件金塊の購入時と本件持ち去りの直後のみであったこと等からすると,Hらは,基本的に自らの判断と裁量に基づいて本件金塊の保管や運搬等を行っていたというべきで,社会通念に照らし,本件金塊等に対する実力的支配が専ら上位者にあり,Hらの占有が全く排除されていたとみることはできない。弁護人の主張を踏まえても,上記判断は揺らがない。
3
争点②(Hらが本件持ち去りに同意していたか否か)について公判廷において,Hらは,いずれも,本件持ち去りについて同意や承諾はしてお
らず,本件持ち去りに抵抗しなかったのは犯人らが警察官であると誤認してその指示に従ったからである旨供述した。
Hらが本件持ち去りに同意等をしていなかったとする点については,既に認定したとおり,Hらは上位者の委託を受けて高額な本件金塊等を売却するために運搬していたことに加え,Hらと被告人らとは一切面識がなかったこと(争いがない。)な
どに照らして至極自然なものである。また,犯人らが警察官であると誤認した旨の供述についても,当事者間に争いがなく証拠上明らかな本件犯行態様とよく整合する。すなわち,被告人ら(被告人Bを除く。
)は,本件持ち去りに際して,警察を意
味するPOLICEと記載されたワッペンを取り付け,警察の機動捜査隊を意味するものとの理解が可能な機捜の刺繍を施した黒色ベスト等を着用してHらに近付き,強い口調で「警察。」と告げ,密輸をしているのではないかなどと質し,Iから携帯電話機2台を取り上げたりHらに対し本件キャリーケースのうち1個を開けさせるなどした上,これらを調べる旨告げて,本件金塊等及びI私物をfビルの外に運び出した(本件持ち去り)ことが認められる。Hらの供述内容は,被告人らが殊更に警察官であるかのような服装や言動をしたことや,およそ持ち去りに同意するとは思われない私物まで同時に持ち去られていることに照らして自然かつ合理的なものである。さらに,Hらが被害当日に警察署に赴いて本件持ち去りについて被害申告したことも併せ考えれば,Hらの供述には高い信用性が認められる。この点,弁護人は,①Hらが本件持ち去り後,特段の追跡行為をせず,直ちに1
10番通報してもいないのは被害に遭った者の行動として不自然であり,②被告人らは事前に本件金塊の取引について正確な情報を得ていたことからすると上位者がその情報を漏えいしたと考えられるなどとして,Hら及び上位者が本件持ち去りに同意していた可能性がある旨主張し,Hらの前記供述の信用性を争っている。しかしながら,①については,Hらが特段の追跡等をしなかったことは,被告人らを警察官であると信じ込んだ者の行動としてはむしろ自然ともいえる。また,Hらが警察への被害申告をするまでに約1時間半を要したことは確かであるが,Hらは,この理由につき,想定外の事態に混乱,困惑し,上位者への報告等の対応に追われるなどして相当の時間を要した旨供述しており,その説明に特に不自然さは感じられない。②については,被告人らがHらよりも約1時間も前に本件現場付近に到着して待機していたこと等の証拠上明らかな事実からすれば,被告人らが確実に本件金塊を受け渡しできるほど正確な情報を入手し,あるいは,上位者との間で何らかの約束事を決めていたとは到底考えられず,上位者の事前の指示等に基づきHらが本件持ち去りに同意していたことはうかがわれない。その他,弁護人らは様々な主張をするが,前記判断は揺らがない。
よって,Hらが本件持ち去りに同意していなかったと認められる。4
争点③(被告人らが,Hらが本件持ち去りに同意していると誤信していたか否か)について
前提事実
関係各証拠によれば,本件持ち去り及びその経緯について,以下の事実が認めら
れる。
すなわち,被告人両名は,Cから本件当日にfビルで金塊の取引があるとの情報を得て,その金塊を持ち去ることを決めたが,その実行に先立ち,POLICE
のワッペンを取り付け機捜の刺繍を施した前記黒色ベストを複数用意するなどした。また,本件持ち去りには,被告人両名のほか,D,E,F及びGも加わるこ
ととなった。平成28年7月8日午前8時30分頃,被告人両名,D,E,F及びGの6名は,2台の自動車に分乗してfビル付近まで移動し,その周辺で,金塊を持ち込んでくる人物が来るのを待った。約1時間後の同日午前9時27分頃,Hらがfビル付近に到着し,同ビル内に本件金塊等を運び入れると,事前に用意した前記黒色ベストを着用した被告人A及びDのほか,E,F及びGがHらに近付き,前記3で認定したとおりの態様で本件持ち去りを実行した。その後,被告人らは,本件金塊等及びI私物を乗せた2台の自動車に分乗し,本件現場付近で対向車線を逆走するなどした上,同日午前9時40分頃,福岡都市高速b流入口から高速道路に乗り入れたが,山口県内で一旦高速道路を下り,同県内の河川敷で,本件金塊を取り出した本件キャリーケースや前記黒色ベスト等を投棄した。
また,
その頃までに,
本件持ち去り時にHが施錠して管理していたキャリーケースは,被告人らによって鍵の部分が破壊された。
被告人らが,Hらが本件持ち去りに同意していると誤信していたか否かについて
以上の事実によれば,被告人らは,自分らを警察官であるように見せ掛けるためにかなり手の込んだ準備をし,本件持ち去りの際もあくまでも警察官らしく振る舞っていること,本件金塊等を受け取って運搬するだけにしては多数の協力者を実行役として関与させていることや,Hらがfビルに到着する約1時間も前から周辺で待ち伏せして本件持ち去りに及んでいる(事前にHやその上位者らなどと合流時刻を決めるなどした形跡は一切ない)こと,本件持ち去りに際しては本件金塊だけでなく,Iから携帯電話機を取り上げたり,それ以外のI私物を持ち去るなどしていることなどが認められるが,これらはいずれも,被告人らが,Hらが本件持ち去りに同意していると考えていたとすると明らかにそぐわない行動である。むしろ,被告人らが事前に周到な準備をした上で,警察官を装って本件持ち去りに及んだことからは,本件金塊の占有者が本件持ち去りに同意していないことを当然の前提とし,同占有者の抵抗を押さえるための策を弄したことが極めて強く推認されるし,I私物を奪った点も,110番通報等を防止するため携帯電話機を取り上げ,その際Hらがさしたる抵抗をしなかったことにつけ込んで本件金塊とは無関係な物まで持ち去ったと考えるのが自然かつ合理的である。また,被告人らが,本件持ち去り後,ときに極めて危険な運転をしてまで急いで本件現場から立ち去り高速道路に乗り入れる一方,現場から離れるやわざわざ高速道路を下りてまで本件キャリーケースや犯行用具を投棄するなどの罪証隠滅とも見える行為に及んでいることや,本件キャリーケースから本件金塊を取り出す際にはキャリーケースの鍵を壊すなどしていることなども,
被告人らがHらの同意があると考えていたとすればかなり奇異であり,むしろ本件持ち去りがHらの意思に反することを分かっていたとすれば極めて合理的な行動といえる。そうすると,被告人らは,Hらが同意していないことを認識した上で本件持ち去りに及んだと認められる。
被告人両名は,それぞれ,情報元との連絡役であったCから,本件持ち去りに関し,警察に摘発されず,暴力団の資金も入っていない事案であって,相手方が持ち去りに承諾しているなどと聞いていた旨述べると共に,警察官を装ったのは,相手方からの要望に従ったからで,相手方との合図の意味もあり,さらに,強盗等により奪われた体裁を整える一方で一般市民からの通報を免れる目的もあった旨弁解する。しかしながら,Cからの情報については,仮に被告人らが述べるような話がCからもたらされたとしても,高額な財物である金塊を持ち去られることについて相手方が承諾しているという話自体が極めて奇異なものであり,その経緯や理由についても説明されていないというのであるから,被告人らがそれを鵜呑みにすることはおよそありえないというべきである。また,既に認定したとおり,本件持ち去りに際しては,被告人らはHらと待ち合わせていたわけではなく,Hらがfビル付近に到着する正確な時刻も把握していなかったほか,証拠によれば,被告人らは,本件持ち去りに先立ち,Cからの情報に基づいて2回ほど金塊の占有者を待ち伏せたことがあったが,そのいずれについても金塊の占有者と出会えず金塊の持ち去りに失敗していることが認められるところ,こうした事実からすれば,Cの情報はかなり不正確なもので,少なくとも金塊の占有者との間で意思疎通が図られてなどいないことは被告人らにおいても十分認識していたと考えられる。警察官を装った点についても,相手方との合図のためというには余りにも手が込んでいる割にはおよそ合理的とはいえないし,強盗等の犯罪行為の体裁を整えるためとの説明に至っては警察官の行う適法な所持品検査を装っていることとまったく相反する不可解な弁解というほかない。被告人両名の供述は全く信用できない。
なお,弁護人は,犯罪に関する相応の知識と経験を有する被告人らが,顔を隠さず,犯行に用いたレンタカーを実名で借り受け,これに偽造ナンバープレートを装着せず,いわゆる飛ばしの携帯電話機も使用していないことは,本件持ち去りを犯罪と認識しておらず,Hらの同意があるものと誤信していたことの表れである旨主張するが,弁護人が指摘する本件犯行の手段や方法等がありえないほどずさんであるとはいえず,これまでの検討を覆すほどの事情ではない。その他,弁護人らが主張する様々な点も,前記認定を左右するものではない。
5
争点④(被告人Bと共犯者との間でI私物の持ち去りについて共謀が成立していたか否か)について
証拠によれば,被告人Bは,本件犯行の際はfビル周辺に停車した自動車内で待
機しており,実行行為に関与しておらず,I私物を窃取する場面も見ていない。しかし,関係証拠に加えこれまで検討したところによれば,被告人Bを含む共犯者らは,金塊を入手することを企て,金塊を売却するためにfビルを訪れる者が所持する金塊を盗むことについて事前に共謀していたことが明らかであるところ,被告人らは本件金塊の占有者の人数や金塊の運搬方法の詳細を把握していたことはうかがわれず,誰の所持するどの携行品をどのようにして盗むかについて厳密に意思疎通を図っていた形跡はないことから,被告人らは,金塊占有者の携行品を盗むという範囲で共謀していたと認められる。また,本件では,被告人らは警察官が職務質問をするかのように装って金塊の占有者に接触することが当初から目論まれていたこ
とから,それに伴って本件金塊以外の携行品の占有を取得する可能性があることもある程度織り込まれていたと考えられる。
そして,
I私物は,
バッグや現金,
財布,
携帯電話機などであり,携行品として特殊な物は含まれておらず,通常想定され得る物である。そうすると,本件犯行は,I私物を窃取した点も含めて共犯者全員の共謀に基づくものというべきであり,実行行為に携わっていなかった被告人Bもその刑事責任を負う。
(量刑の理由)
本件で窃取された金品は,合計160kgもの大量の金塊のほか,多額の現金も含まれており,その被害合計額は7億6000万円余りに上る。これは,わが国の窃盗事件としては類例を見ないほどの莫大な額であり,被告人両名の量刑上最も重視すべき事情である。態様をみても,事前に提供された情報に基づき多数人が関与して周到に準備された,計画性の極めて高い犯行であり,警察官を装って被害者に近付き,短時間のうちに大量の金塊等を持ち去るその手口は巧妙さと大胆さにおいて際立ったものがある。
被告人Aは,本件犯行の実行に際し,被害者らに対して自分たちが警察官である旨を告げ,I私物を奪うなど実行役の中でも最も中心的な役割を果たしている。また,被告人Bは,情報提供者との仲介役の共犯者と連絡を取り,知り得た情報を他の共犯者に伝えるなど,本件犯行の全般にわたり主導的な役割を果たしている。被告人両名とも,犯行に用いる衣服等を用意し,共犯者間で最も多い約1億円の報酬をそれぞれ得ていることも考慮すると,被告人両名はいずれも本件犯行の主犯格であると評価すべきである。
被告人Aには累犯関係にあるものなど窃盗の前科3犯があり,繰り返し服役した経験があったにもかかわらず,前刑の執行終了からわずか8か月余りで再び同種ともいえる本件犯行に及んでおり,被告人Bも窃盗を含む前科3犯があるにもかかわらず本件犯行に及んだ。こうした点でも,被告人両名は共に強い非難に値する。
被告人両名の刑事責任はほぼ等しく,かつ大変重大である。
以上からすれば,被告人両名がいずれも被害品を持ち去った事実自体は認めていること等の被告人両名のために酌むべき一般情状を考慮しても,被告人両名については,いずれも,主文のとおり相当長期間の実刑に処することはやむを得ないものと判断した。
(求刑・被告人両名につきそれぞれ懲役10年)
平成31年1月28日
福岡地方裁判所第1刑事部
裁判長裁判官

丸田
裁判官

岩田淳
裁判官

中山
さほ子

顕之
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