判例検索β > 平成25特年(わ)第302号
法人税法違反被告事件
事件番号平成25特(わ)302
事件名法人税法違反被告事件
裁判年月日平成30年11月20日
裁判所名・部東京地方裁判所  刑事第8部
裁判日:西暦2018-11-20
情報公開日2019-01-10 20:00:10
裁判所の詳細 / 戻る / PDF版
法人税法違反被告事件
平成30年11月20日宣告

東京地方裁判所刑事第8部
主文
被告人を懲役4年及び罰金2億4000万円に処する
その罰金を完納することができないときは,金50万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
不動産賃貸事業を営むX株式会社
(平成21年1月15日設立時の
商号はY株式会社,
本店所在地は東京都中央区ab丁目c番d号。
同年2月26
日商号変更,
平成23年12月1日北九州市e区f町g番h号に本店移転,
同月
31日解散。以下申告法人という。)の代表取締役として同社の業務全般を統括していたものであるが,被告人において,申告法人の業務に関し,売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上
第1

申告法人の設立日である平成21年1月15日から同年12月31日ま
での事業年度における実際所得金額が15億6749万1983円(別紙1-1の修正損益計算書(添付省略)参照)であったにもかかわらず,平成22年2月26日,
東京都中央区ij丁目b番k号所轄l税務署において,
同税務
署長に対し,
欠損金額が2803万5782円で,
これに対する法人税額が零
円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,
もって不正の行為により,
同事業年度における正規の法人税額4億69
28万7300円(別紙2-1のほ脱税額計算書(添付省略)参照)を免れ第2

平成22年1月1日から同年12月31日までの事業年度における実際
所得金額が9億0406万5630円
(別紙1-2の修正損益計算書
(添付省
略)参照)であったにもかかわらず,平成23年2月25日,前記l税務署において,同税務署長に対し,欠損金額が2154万2096円で,これに対する法人税額が零円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,
もって不正の行為により,
同事業年度における正規の法
人税額2億7025万9500円
(別紙2-2のほ脱税額計算書
(添付省略)
参照)を免れ
第3

平成23年1月1日から同年12月31日までの事業年度における実際
所得金額が10億7153万0071円
(別紙1-3の修正損益計算書
(添付
省略)参照)であったにもかかわらず,平成24年2月29日,北九州市e区m町n番o号所轄p税務署において,
同税務署長に対し,
欠損金額が1495
万4975円で,これに対する法人税額が零円である旨の虚偽の法人税解散確定申告書を提出し,
そのまま法定納期限を徒過させ,
もって不正の行為によ
り,
同事業年度における正規の法人税額3億2049万9000円
(別紙2-
3のほ脱税額計算書(添付省略)参照)を免れ
たものである。
(証拠の標目):省略
(事実認定の補足説明)
第1

争点の概要

被告人は,申告法人の代表者として,判示各事業年度(以下本件対象期ともいう。)の法人税確定申告をしたものであるが,本件の争点は,要するに,①その収入を構成するとされる被告人所有の不動産合計31物件(証拠略。以下本件不動産という。)の賃貸事業の収益が申告法人に帰属すると認められるか,②認められるとして,本件対象期において,被告人が,売上の一部を除外するなどの指示を,申告法人の決算書作成及び確定申告書案作成に携わった丙に対して行ったと認められるかである。
1
争点に関する検察官の主張


争点①について

本件以前の本件不動産賃貸事業の形態や,申告法人を含む被告人の関係会社の法人税及び被告人の所得税の各申告状況等からすれば,
申告法人は,
被告人か
らリースを受けた本件不動産につき,その賃貸管理業務等をY株式会社(別表(添付省略)のYE,変更後の商号丁株式会社。以下これと同様に本判決において,別表株式会社名欄記載の各会社につき戊,YAないしYD及びYFと記載することがある。)に委託するなどした上で,各テナントにサブリースする事業を営んでいたのであって,同事業による収益は申告法人に帰属する。⑵

争点②について

丙の公判証言は,多数の物証に裏付けられているなど信用することのできるものであり,
これらによれば,
被告人が丙に対して売上の一部を除外するなどの
不正な経理処理の指示を行ったことは明らかである。
2
争点に関する弁護人の主張



争点①について

申告法人は実体のない会社で本件不動産の賃貸事業には関与しておらず,同事業は全て被告人の個人事業であって,その収益は被告人個人に帰属する。このことは,申告法人には事務所や被告人以外の役員,従業員,同社名義の預貯金口座が存在せず,
本件不動産の所有者は被告人であって,
本件不動産に関し
て申告法人を当事者とする被告人とのマスターリース契約もテナントとの賃貸借契約もなく,テナントからの賃料はY株式会社又は戊株式会社名義の口座に入金されていたこと,本件不動産の賃貸,管理業務は,被告人の判断,指示により,実質的に被告人個人と評価されるべきY株式会社の名義で行われていたこと,
申告法人名義で税務申告することを選択したのは,
被告人にとってY株式会
社も申告法人も実質的には被告人個人と同じであってどちらに賃料収入を帰属させるかは重要な問題ではなく,北九州市e区qr丁目所在の土地及び同区m町所在の土地
(その登記簿上の所有名義は,
YC又は被告人。北九州物件
以下
という。)の補償金の関係で申告法人が既に設立されており,申告法人に生じる見込みの赤字を経費として利用しようと考えたためにすぎないことなどから,認められる。


争点②について

被告人は,
税理士事務所に対し,
申告法人に賃料収入が帰属することを前提に
して経理処理に必要な書類を郵送していただけであって,同事務所に所属する丙に対して不正な経理処理の指示は一切していない。
3
当裁判所は,
①本件不動産の賃貸事業の収益は申告法人に帰属し,②本件

対象期において,
被告人が丙に対し,
申告法人の売上の一部を除外するなど不正
な経理処理の指示を行ったと認めた。そして,被告人は,申告法人の代表者として,
これに基づいて作成された虚偽過少の法人税確定申告書を提出し,各法人税
を不正に免れたものとして,
判示各法人税法違反の罪が成立すると判断した。

下,その理由を説明する。
第2

証拠上容易に認められる事実

以下の各事実は,証拠により容易に認められる。
1
被告人個人及び申告法人を含む被告人の関係会社の概要及び確定申告状況
被告人個人のほか,被告人がその全株式を保有するとともに代表取締役を務める申告法人をはじめとする関係会社のそれぞれの概要及び確定申告状況は,別表のとおりである(証拠略)。
被告人は,これらの関係会社及び申告法人の代表者であり,設立,解散,本店所在地を決しており,商号についても概ね被告人が決していた(証拠略)。2
被告人が本件不動産の所有権を取得した経緯,本件不動産の賃貸借への関与状況等

被告人は,平成14年頃から平成16年頃にかけて,戊,己,YA,YB及びYCの債務を被告人個人の資産で代位弁済し,
平成17年頃までに,
当時これら
関係会社が東京都中央区a,
静岡県熱海市,
北九州市及び福岡市s区といった各
地に賃貸用として所有していた本件不動産を代物弁済により取得し,自ら所有するに至った(証拠略)。
被告人は,
本件対象期当時においても,
本件不動産に係るテナント等への賃貸
借契約を自ら決裁した上で,
Y株式会社等の名義で締結させ,その賃料等は
管理下にある銀行預金口座に振込入金させ,
管理に係る経費等の支払も,
被告人
が逐一決裁した上で行われていた。
そして,
雇い入れた従業員にtと称するシス
テムを操作させて契約状況及び賃料等の請求・入金状況の管理等をさせていたが,これらの者には経理処理は行わせていなかった(証拠略)。なお,上記代物弁済の後においても,自然人たる被告人が自らその名義で本件不動産の賃貸借に係る取引をした証跡はない。
本件対象期における本件不動産の賃貸借に係る収入の実際額は,申告法人に帰属したものとした場合,別紙1-1ないし3(各添付省略)の各修正損益計算書の売上高・差引修正金額欄に記載のとおりとなる(証拠略)。
3
平成20年以前における関係会社及び被告人の決算処理・申告状況(証拠

略)


平成17年1月から同年12月まで

戊,己及びYAは,各平成17年9月期の法人税確定申告において,それぞれ約1億4876万円,
約3億3341万円,
約4億3018万円を売上として計
上するとともに,経費として修繕費及び水道光熱費等を計上した。また,YBは,平成17年9月期の法人税確定申告において,売上を零円として計上するとともに,経費として給料手当等を計上した。
YCは,
平成17年12月期の法人税確定申告において,
約5億0714万円
を賃料収入として計上するとともに,
経費として修繕費,
水道光熱費及び給料手
当等を計上した。
他方,
被告人は,
平成17年分の所得税確定申告において,
賃借人を(株),
Y
賃貸不動産の所在地を北九州市とする不動産収入約5111万円を唯一の収入として申告し,本件不動産の賃料収入を被告人個人の所得として申告することはなかった(証拠略)。


平成18年1月から平成19年12月まで

YCは,平成18年12月期及び平成19年12月期の各法人税確定申告において,
それぞれ約6億5564万円,
約5億4746万円を受託報酬として計
上した。その一方で,各期につき経費として,給料手当,修繕費及び水道光熱費等を計上するとともに,
平成18年12月期において礼金として,
平成19年1
2月期においては雑費として,それぞれ3600万円を計上した。他方,
被告人は,
平成18年分及び平成19年分の所得税確定申告において,
いずれも所得の生ずる場所又は給与などの支払者をY株式会社とする雑収入3600万円が収入の全てである旨を申告し,本件不動産の賃料収入を被告人個人の収入として申告することはなかった
(証拠略。
平成19年分について
は後に修正申告がなされているが雑収入の金額には変更はない。)。⑶

平成20年1月から同年12月まで

YCは,
平成20年4月期の法人税確定申告において,
約8億0958万円を
受託報酬として計上するとともに,修繕費,水道光熱費,保守管理費及び給料手当等を経費として計上した。
YDは,
平成20年12月期の法人税確定申告において,
約15億6174万
円を売上高として計上するとともに,
経費として修繕費,
水道光熱費及び給料手
当等を計上した。
なお,YCの平成20年4月期及びYDの平成20年12月期の各法人税確定申告においては,被告人に対する経費として計上した勘定科目は見当たらず,被告人は平成20年分の所得税確定申告をしなかった。
4
本件対象期における申告法人,
関係会社及び被告人の決算処理・申告状況



申告法人について
申告法人は,
本件対象期の各法人税確定申告において,
それぞれ本件不動産の
賃料等約6億0854万円,
約5億7053万円,
約5億7939万円を計上す
るとともに,
経費として修繕費及び水道光熱費等を計上したが,
被告人に対する
経費として計上した勘定科目は見当たらない(証拠略)。被告人は,本件不動産の賃料収入を被告人個人でなく申告法人で申告する旨を自ら決め,申告法人での申告を続けた(証拠略)。
なお,
前記2のような本件不動産の賃貸管理業務について,
本件対象期の当初
はYEの従業員が行っていたが,平成23年3月にYEの従業員が全員退職して以降は,被告人の知人である庚らが行っていた。そして,申告法人は,平成21年12月期においては,
事務費として月額130万円,
年間合計1560万円
を,
平成22年12月期においては管理費として月額105万円,
年間合計12
60万円をそれぞれ計上する一方,
給料手当等の人件費は計上しなかったが,

成23年12月期においては,運営管理費として平成23年3月頃までのYEの従業員に対する給料手当分の費用や,庚に対する人件費等を計上した。(証拠
略)


YEについて

YEは,平成21年12月期及び平成22年12月期の法人税確定申告において,
売上としてはそれぞれ1560万円,
1260万円の運営管理のみを計上
する一方,
経費としてそれぞれ990万円余りの給料手当を計上した
(証拠略)



被告人について

被告人は,
平成21年分ないし平成23年分についても,
平成20年分と同様,
所得税確定申告をしなかった(証拠略)。
5
本件対象期後における関係会社及び被告人の決算処理・申告状況
(証拠略)

YFは,
平成24年12月期の法人税確定申告において,
売上として約9億9
693万円を賃料売上及び更新料売上等の勘定科目で計上するとともに,経費として修繕費及び水道光熱費等を計上した。
YFの同期の法人税確定申告においても,被告人に対する経費として計上した勘定科目は見当たらず,被告人は,同年分についても,所得税確定申告をしなかった。また,関与税理士に対し,本件不動産の賃料収入を被告人個人において申告するよう指示することもなかった(証拠略)。
6
申告法人の修正申告状況

申告法人は,被告人が本件により起訴された当日である平成25年3月25日,
本件対象期である3期分について,
本件不動産の賃料収入等が申告法人に帰
属することを前提とする法人税の修正申告書を所轄税務署長に対して提出した(証拠略)。
第3
1
争点に関し関係者の証言及び供述等から認定した事実
関係者の証言及び供述等により認定できる事実関係

前記第2で認定した事実関係に加え,辛弁護士,丙,壬,癸及びZの各供述又は証言に関係証拠を併せれば,次の⑴ないし⑻のような事実関係が認定できる。なお,
認定の主たる根拠とした上記各供述又は証言の信用性は,
後記2で検討す
る。


被告人による辛弁護士に対する契約書案の作成依頼(証拠略)

平成19年4月頃,YCの代表取締役であった被告人は,辛弁護士に対し,被告人個人所有の不動産物件で被告人個人が不動産業を営む場合,多額の維持管理費や損害賠償責任等の様々なリスクについて無限責任を負うことになるのを回避するため,
法人がこれら維持管理費用を負担し,
発生するリスクを全て引き
受けることを条件に,不動産物件を自由に使用収益できるとする内容の契約書案の作成を依頼した。
これを受けて,辛弁護士は,まずは維持保全契約書と題する契約書案を作成して被告人に示し,
次いでこれに対する被告人の意見及び指示を反映した保険契約書
と題する契約書案を作成した。
同契約書案においては,
前文において,
自然人である甲がその保有不動産のランニングコスト及びリスクの負担の回避を希望していること並びに株式会社である乙は甲の希望に最大限沿いつつ収益をあげることを希求していることが契約の理由として記載されている。また,法
人である乙の権利として,第3条に

乙は,第三者への賃貸その他任意の方法で本物件を使用・収益することができる。

,第6条本文に

乙は本件業務の報酬として本物件から生ずる一切の収益を収受することができるものとする。と規

定していた。他方,前記契約書案においては,乙の義務として,第4条に⑴乙は,本物件の固定資産税,都市計画税,清掃,修繕,メンテナンスに要する費用,水道光熱費その他本物件の維持保全に要する一切の費用を負担する。火災,⑵地震,その他甲乙いずれの責めに帰すべき事由がない場合によって本物件が破損または滅失したときにおいても,乙の負担により乙がこれを修繕,再調達,再建築その他により復旧しなければならない。,第6条ただし書に

乙は甲に対し,収益還元金として毎年金3600万円を支払う。

と規定していた。⑵

被告人が申告法人の経理処理等を丙に依頼した経緯及び状況等(証拠略)
税理士事務所の事務員である丙は,
知人の紹介で被告人に面会し,
しばらくし
た平成20年の半ば頃,被告人からYDの給与計算を依頼され,その後,経理処理も依頼され,総勘定元帳や税務申告用の決算書等の作成をした。この際,被告人は丙に対し,
経理処理に当たっては送られてきた資料のみで行い,
送られてき
た資料について一切質問をしてはならず,
確定申告書等に関しては,
税務署等か
らの質問があったとしても被告人が対応するため税理士の署名押印は要らず,税務署から質問があっても一切答えてはならない旨の条件を付した。その後,
被告人は,
平成21年夏頃,
丙に対し,
申告法人の経理処理を依頼し,
これについても前同様の条件を付した。


被告人の丙に対する申告法人の事業形態についての説明内容(証拠略)
被告人は,丙に対し,申告法人の事業形態について,被告人が所有する複数のビルを被告人から申告法人が借り受け,それらのビルをテナントに賃貸するという不動産賃貸業を営み,そこから得た家賃収入の範囲で経費の支出をしている旨説明していた。


平成21年12月期の決算処理・申告状況


決算書案を作成させた状況(証拠略)

被告人は,平成21年夏頃,丙に対し,申告法人が利用する3口座(Y株式会社名義のG銀行a支店及びH銀行I支店の各口座,戊株式会社名義のG銀行J支店の口座)
に係る預金の動きに関する資料である当座勘定照合表,申告法人への入金に関する資料である入金チェック表(平成23年12月期においては表題が入金状況表と変更されているが,以下変更の前後を問わず入金チェック表という。),申告法人からの出金に関する資料である資金移動表について説明した。
丙は,
平成21年9月頃から平成22年1月頃までの間,
2か月に1度程度の
割合でこれらの資料の送付を受け,
会計ソフトに入力をし,
仕訳日記帳及び総勘
定元帳を作成した。なお,賃料等の売上については,入金チェック表等には入金分しか記載されておらず,
未収分が分かる資料は送付されなかったため,は,

やむなく発生主義ではなく,現金主義に従って経理処理をした。また,入金チェック表では賃料等の収入がどのように支払われたかも不明で,相手勘定が現金か預金か特定できなかったため,便宜上の相手科目として預け金という仮勘定を用いることとし,平成21年12月頃までにはその旨被告人に説明していた。
丙は,
申告法人に係る平成21年12月期の決算書案を作成し,
平成22年1
月末ないし同年2月初旬頃,
被告人に対して同決算書案の内容について,
売上高
が約16億8084万円,純利益が12億円ないし13億円程度になる旨説明した。

被告人が架空の固定資産除却損を計上させた状況(証拠略)

被告人は,平成22年2月14日又は同月15日頃,丙に対し,電話で,申告法人の資産として,
被告人の資金で購入した土地15億6000万円,
建物3億
5000万円,設備合計10億1900万円及び造作設備合計1億7100万円を計上するよう指示した。
丙は,
被告人からの指示内容を手書きでメモした後,
同月16日,表計算ソフトであるエクセルを用いて申告法人において計上する資産の一覧表(以下エクセル一覧表という。)を作成した。
被告人は,
平成22年2月17日又は同月18日頃,
丙からエクセル一覧表を
見せられると,
丙に対し,
前記土地等の購入日は平成21年1月28日である旨,
エクセル一覧表の記載の資産のうち設備の一部に・等の印を付け,当該設備については全額を固定資産除却損として計上すべき旨及びその余の設備については4分の3に当たる額を固定資産除却損として計上すべき旨をそれぞれ指示した。
以上の指示を受け,丙は,相手方勘定科目を短期借入金として,前記土地等を資産計上した上,平成21年12月31日付けで相手勘定科目を設備として固定資産除却損合計7億9100万円を,
相手勘定科目を造作設備として,
固定資
産除却損1億7100万円を,それぞれ計上した。
さらに,
被告人は,
丙に指示をして,
平成22年2月中旬頃ないし同月下旬頃,
計上した上記固定資産除却損9億6200万円を同額の売上高と相殺し,各勘定科目から同額ずつ減額する経理処理をさせ,
同月下旬頃には,
平成21年12
月31日付けで土地15億6000万円,建物3億5000万円及び固定資産除却損分減額後の設備2億2800万円について,
相手勘定に短期借入金
(減額)
等を計上の上,資産から消去する経理処理をさせた。
以上の処理に際し,被告人は,丙に対し,前記土地,建物及び設備の購入に関する資料及び前記固定資産除却損が発生したことが判明する資料を示すことはなかった。

架空の固定資産売却損を計上させた状況(証拠略)

被告人は,平成22年2月中旬以降,丙に対し,平成21年12月期中に土地を購入して売却したが,
その際に損失が生じた旨を伝え,
固定資産売却損を計上
するよう指示した。その後,被告人は,丙に対し,同土地の売却金額を変更するよう指示し,
最終的には,
固定資産売却損4億2000万円を計上するよう指示
したが,同土地の購入日及び売却日については指示をしなかった。これを受け,
丙は,
期首である平成21年1月15日付けで土地9億2000
万円を資産計上し,期末である同年12月31日付けで同額分の土地を資産から減額するとともに固定資産売却損4億2000万円を計上する経理処理をした。
また,被告人は平成22年2月下旬頃,丙に対し,前記固定資産売却損4億2000万円を同額の売上高と相殺し,各勘定科目から同額ずつ減額する経理処理をさせた。
以上の処理に際し,
被告人は,
丙に対し前記固定資産売却損が発生したことが
判明する資料を見せず,前記土地の所在地及び名称も伝えなかった。エ
被告人が決算書等の内容について了承した状況(証拠略)

被告人は,
丙に対し上記イ及びウの各指示をし,
法人税確定申告書及び決算書
等を作成させ,平成22年2月25日頃,丙から,このようにして作成された欠損金額が約2803万円である旨の法人税確定申告書及び決算書等を見せられ,その内容につき説明を受けた。
そして,被告人は,前記法人税確定申告書等の内容を了承した上,同申告書に署名押印し,同月26日,丙をして,所轄l税務署に提出させた。⑸

平成22年12月期の決算処理・申告状況


決算書案を作成させた状況(証拠略)

被告人は,丙に指示し,平成21年12月期と同様の資料に基づいて,会計ソフトに入力をさせ,仕訳日記帳及び総勘定元帳を作成させた。丙は,売上高が約17億7653万円計上され,純利益が発生する内容の申告法人に係る平成22年12月期の決算書案を作成し,
平成23年1月末頃,
被告人に同決算書案を
見せてその内容について報告した。

減価償却費等を保守管理費として計上させた状況(証拠略)

被告人は,
平成23年1月末頃に丙から上記決算書案を見せられた際,
丙に対
し,
平成21年12月期において貸借対照表から消去させた土地,
建物及び設備
(前記⑷イ)を改めて計上した上,このうち,建物及び設備について減価償却費を計上するよう指示した。
同指示を受け,丙は,前期の総勘定元帳や当時のエクセル一覧表を参照し,土地15億6000万円,建物3億5000万円及び設備2億2800万円を資産計上した上,固定資産台帳兼減価償却費明細書を作成し,減価償却費(当期償却額)
が合計5073万9000円
(前記建物につき700万円及び前記設備に
つき合計4373万9000円)となる旨算出した。丙は,この算出に際し,被告人から減価償却に係る建物や設備の取得金額や構造等が判明する資料を示されなかったため,自らが所持していた税務手帳の中にあった一般的な建物の構造ごとに決められた耐用年数の記載された表を見ながら,特定の構造であれば耐用年数は何年である旨を被告人に伝え,それを聞いた被告人から構造についての指示を受け,それに基づいて耐用年数を決め,償却額を算出していた。被告人は,丙から,前記固定資産台帳兼減価償却費明細書を見せられ,その内容をいったん了承したが,平成23年2月中旬頃,丙に対し,計上を指示した減価償却費を改修費に振り替えるよう指示するとともに,
その頃,
建物の改修費が
2000万円発生したとして,
改修費として計上するよう指示した。
この指示に
関し,
被告人が丙に対し改修費に係る資料を示すことはなく,
その建物の所在地
や名称等を伝えることもなかった。
同指示に従い,
丙は,
申告法人において,
改修費合計7073万9000円
(5
073万9000円と2000万円の合算額)を計上した。
さらに,被告人は,丙に指示し,計上した改修費を保守管理費に振り替えさせた上,
土地15億6000万円,
建物3億4300万円及び設備1億8426万
1000円(建物及び設備は減価償却費分減額後の残額)については,相手勘定に短期借入金(減額)を計上することにより,資産から消去させた。ウ
売上高を減額させた状況(証拠略)

丙は,前記⑷アのとおり,現金主義に従った経理処理をしており,売上高に債権としては発生しているが回収することができないものが含まれることはない処理となっていた。しかし,被告人は,平成23年2月中旬頃,丙に対し,資料等を示すことなく,売上のうち1億4800万円が回収できないのでこれを売上高から除外するよう指示した。
そこで,
丙は,
平成22年12月31日付けで,
相手勘定科目を預け金として,計上済みの売上高から1億4800万円を減額する経理処理をした。

架空の固定資産売却損を計上させた状況(証拠略)

被告人は,平成23年2月下旬頃,丙に対し,平成22年1月31日に土地を購入し,同年9月30日に売却したが,その際,損失が発生した旨伝え,固定資産売却損の計上を指示した。しかし,その後,被告人は,丙に対し,同土地の売却金額の変更を指示し,最終的には固定資産売却損10億5800万円の計上を指示した。
同指示に従い,
丙は,
平成22年1月31日付けで土地21億円を資産計上し,
同年9月30日付けで同額分の土地を資産から減額するとともに,固定資産売却損10億5800万円を計上する経理処理をした。
さらに,被告人は,平成23年2月25日までに,丙に指示し,前記固定資産売却損10億5800万円を同額の売上高と相殺し,各勘定科目から同額ずつ減額する経理処理をさせた。
以上の処理に際し,被告人は丙に対し前記固定資産売却損が発生したことが判明する資料を見せず,前記土地の所在地及び名称も伝えなかった。オ
決算書等の内容について了承した状況(証拠略)

被告人は,
丙に前記各指示をし,
これに沿った法人税確定申告書及び決算書等
を作成させたところ,平成23年2月24日又は同月25日頃,丙から,欠損金額が約2154万円である旨の法人税確定申告書等を見せられ,その内容について説明を受けた。そして,被告人は,その内容を了承した上,同申告書に押印し,同月25日,丙をして,所轄l税務署に提出させた。


平成23年12月期の決算処理・申告状況


決算書案を作成させた状況(証拠略)

被告人は,
丙に指示し,
平成21年12月期及び平成22年12月期と同様の
資料に基づいて,
会計ソフトに入力をさせ,
仕訳日記帳及び総勘定元帳を作成さ
せた。丙は,売上高が約12億4595万円計上され,純利益が約7億5427万円発生する内容の申告法人に係る平成23年12月期の決算書案を作成し,被告人に同決算書案を見せてその内容について報告した。
なお,
被告人は同期に
ついては,売上高を賃料収入という勘定科目名に変更するよう丙に指示した。また,被告人は,平成24年1月末ないし同年2月初旬頃,丙に対し,領収証の束を渡し,被告人が立て替えた申告法人の経費がある旨説明してこれを申告法人の経費として計上させた。

固定資産売却損を計上させた状況(証拠略)

被告人は,丙から前記決算書案を見せられて報告を受けた後の平成24年2月末頃,丙に対し,平成23年12月期中に,2億6000万円で土地を,9億2200万円で建物を購入し,これらを売却したが,その際,損失が発生した旨伝え,固定資産売却損を計上するよう指示した。その後,被告人は,丙に対し,土地の売却金額の変更を指示し,最終的には固定資産売却損4億5400万円を計上するよう指示した。
丙は,
同指示を受けて同額の固定資産売却損を計上することとしたが,
被告人
から同土地及び同建物の購入日及び売却日について指示がなかったことから,期首である平成23年1月1日付けで,土地2億6000万円及び建物9億2200万円を各資産計上し,期末である同年12月31日付けで同額分の土地及び建物を資産から各減額し,固定資産売却損4億5400万円を計上した。被告人は,
平成21年12月期及び平成22年12月期の決算時と異なり,

に対し,
固定資産売却損と売上高を相殺する経理処理を指示しなかったため,丙
も,平成23年12月期については,そのような経理処理をしなかった。以上の処理に際し,被告人が,丙に対し,前記固定資産売却損が発生したことが判明する資料等を示すことはなく,同土地及び同建物の所在地及び名称を伝えることもなかった。

賃料収入を減額させた状況(証拠略)

被告人は,平成24年2月半ば以降,丙から,被告人が送付した資料に基づき丙に作成させた月々の賃料収入が分かる表を見せられると,
丙に対し,
特定の月
の数字が過大になっており,本件不動産に含まれるPビルほか複数のビルに係る賃料収入を足したくらいの金額が間違っているとして,その分だけ賃料収入から除くよう指示した。
同指示に従い,丙は,平成23年12月31日付けで,賃料収入2億9995万2892円を減額する経理処理をした。
以上の処理に際し,
被告人が丙に対し,
賃料収入が過大となっていることを示
す資料等を提示することはなかった。

決算書等の内容について了承した状況(証拠略)

被告人は,
丙に対して前記各指示をし,
それに沿った法人税確定申告書及び決
算書等を作成させたところ,
平成24年2月28日又は同月29日頃,
丙から,
欠損金額が約1495万円である旨の法人税確定申告書等を見せられ,その内容につき説明を受けた。
そして,被告人は,前記法人税確定申告書等の内容を了承した上,同申告書に押印し,同月29日,丙をして,所轄p税務署に向けて発送,提出させた。⑺

いわゆるLビルに係る不動産売買契約の状況(証拠略)

被告人は,平成21年1月28日,自己の資金で,東京都中央区ab丁目c番d号所在のY株式会社(当時これに該当するのは申告法人)名義で,東京都中央区ah丁目K番c所在の土地(以下本件土地という。)及び同土地上の建物(以下Lビルという。)を購入する内容の売買契約を,癸が代表者を務める株式会社Mを買主側立会人,壬の当時の勤務先である株式会社Nを売主として締結した。その売買契約書では,売買代金の内訳として,本件土地代金が15億6000万円,Lビル代金が3億5000万円(内税),その他の設備が18項目合計11億9000万円(いずれも内税)との定めがなされているところ,これは,同月27日になって突然,被告人が癸に対し,売買代金をこのような内訳にするよう言い出したためにこのような定めがなされるに至ったもので,売主側においてそのような内訳を設ける根拠も理由もないものであった。⑻

北九州所在の土地収用に関する被告人と北九州市との交渉の状況(証拠略)

北九州市は,
北九州物件につき,
都市計画道路を作るための用地買収を計画し
ていた。被告人は,平成10年以降,一貫して自ら北九州市職員との間での北九州物件の買収交渉に対応し,最終的には,平成24年4月16日,所有者又はYCの代表者清算人名義で,
北九州物件の収用裁決に係る補償金を受領し,
また,
上記m町所在の土地の地上物件が己の所有ではなく,YCの所有に属することの確認書に己の代表者清算人名義で署名押印した。
なお,
上記過程で申告法人が北九州物件を所有したり,
取得のための出捐をし
たと目すべき証跡はなく,被告人も,申告法人において,被告人に対し北九州物件の対価を支払ったことがないことを自認している(証拠略)。
2
認定に用いた主たる証拠の信用性評価



辛弁護士の供述の信用性

辛弁護士の検察官調書(証拠略)における供述は,前記1⑴の範囲では被告人の質問てん末書(証拠略)の内容と合致している上,その保険契約書と題する契約書案前文に記載されている趣旨の契約書案を作成するよう被告人から依頼があったという作成経緯についても,被告人の住居から押収された前記契約書案の記載内容とよく符合する内容であって,信用することができる。この点弁護人は,
①辛弁護士作成に係る契約書案は,
税務申告に関し辛弁護士
がY株式会社に賃料が帰属することの説明のために作成したものである,②被告人の質問てん末書の記載は,
担当者から,
誤りがあれば後に何度でも訂正でき
ると言われたため真剣に話を聞かず署名したもので信用性がないなどと主張する。しかし,①については,弁護士という職にある辛弁護士において,被告人から依頼を受けることなく契約書案を作成し,
かつ,
その作成経緯について虚偽の
供述をする理由が全く見当たらないことからすれば,弁護人の主張は採用できない。また,②についても,質問てん末書の内容を後から何度でも訂正できるのであれば質問てん末書を作成する意味がないから,担当者においてそのような発言をしたとは到底認めがたく,採用の限りでない。


Z証言の信用性

また,
前記1⑻の認定根拠となるZ証言は,
公文書である裁決書及び交渉記録,
被告人の署名押印のある補償金受領証及び確認書によって裏付けられており,高い信用性を有する。


壬証言及び癸証言の信用性

さらに,
前記1⑺の認定根拠となる壬及び癸の各証言も,
それぞれ売主側の担
当者又は買主側の実質的な仲介業者と立場を異にしながら,売買契約の直前になって突如被告人が売買代金の内訳に関する条項を入れるよう言い出したとするなど,被告人の態度について一致した内容となっている。また,土地以外に売買代金を割り振れば,
消費税の課税取引となり売主に不利であったが,
株式会社
Nには譲渡担保の関係で売買契約を急ぐ事情があったためやむなく応じたとの壬の証言する経緯も合理的であり,現に株式会社Nが本件土地及びLビルを取得した際の契約では土地のみに売買代金が割り振られており,本件土地の更地価格は約39億円との不動産鑑定が存在したこと
(証拠略)
に照らしても首肯で
きるものである。
この点被告人は,
上記の内訳を定めたのは株式会社Nである旨供述する
(証拠
略)が,既にみたとおり,株式会社Nにとっては本件土地以外に売買代金を割り振る理由がなく,
むしろ消費税を課税されることになることからすれば,
信用す
ることのできるものではない。


丙証言の信用性

丙証言のうち前記1⑷ないし⑹の経理処理等に関する部分は,仕訳日記帳
(証
拠略)及び総勘定元帳(証拠略)から認められる,申告法人における現金主義に従った売上計上,決算期末日における多額の固定資産除却損等の計上及び資産の減額,
売上と固定資産除却損等との相殺,
仮勘定である預け金が多数利用され
ていること等,一般的な経理処理と異なる不正な処理をよく説明することのできるものである。
また,
入金チェック表等の送付を受けていたとする点及び入金
チェック表には入金分しか記載されていないとする点については,YFから押収されたパソコン内の電子データ(証拠略)によっても裏付けられている。さらに,
前記1⑵及び⑶に関する証言も,
このような不正な処理に関与することにな
った経緯を説明するものとして自然な内容である上,現に被告人は本件対象期の税務申告を全て,経理責任者及び関与税理士の署名押印欄を空欄として行っており,その後の税務調査等に対する対応も被告人自身で対応していることともよく整合している。
また,
本件対象期の各期の経理処理についてみても,
平成21年12月期に関
する証言(前記1⑷)は,平成22年2月16日作成のエクセル一覧表に手書きで記載された内容(証拠略)と整合するものであり,現実にこの記載内容で同期の固定資産除却損に関する経理処理がなされていることも認められる。平成22年12月期に関する証言(前記1⑸)は,YFから押収された決算書の草稿と見られる書面(証拠略)において丙証言と同内容の売上高の減額,固定資産売却損の計上,減価償却費の改修費への振替え等が行われていることともよく符合している。平成23年12月期に関する証言(前記1⑹)は,丙の勤務先である税理士事務所から押収されたメモ書き様の書面
(証拠略)
に記載された内容と整
合的であり,
同期においても,
同内容で固定資産売却損の処理が行われている。
以上の点に加え,
丙の証言するような処理により,
本件対象期における申告法
人の所得額が大幅に減少し,判示のとおり合計10億円余りの法人税をほ脱するという利益を申告法人が享受するのに対し,丙がこれに相応する報酬その他の利益を得たことは関係証拠によってもうかがわれない。むしろ前記の供述内容は,それにもかかわらず自身が不正な経理に荷担したことを淡々と自認するものであって,
税理士事務所の職員である丙において,
あえて自己に不利益な虚
偽の供述をすべき理由は見当たらない。被告人が申告法人やYEの入出金等の経理に関する決裁権限の一切を有していたと認められること(証拠略)に加え,
前記⑵,⑶のとおりの信用できる関係者の証言により認定できる前記1⑺及び⑻のとおり,
被告人は,
被告人が設立した申告法人を含む別表の法人の解散や設
立等による変動にかかわらず,一貫して代表者として北九州市との交渉を行っていること,
Lビルの売買契約についても,
契約直前に被告人の発案で契約内容
を変更させて代金の相当部分を減価償却・除却が可能な建物・設備名目に割り振るなど,その独断により申告法人への費用計上をもくろんでいたとうかがわれる行動をしていること,丙証言に表れている資産計上及び固定資産除却損計上は,
まさにLビル購入におけるそのような被告人の作為の投影で,
被告人の指示
なくしては行い得ない内容であることをも併せ考慮すれば,既にみた不正な経理処理はすべて被告人の指示に基づき行ったものである旨の丙の証言は,その内容を真っ向から否定する被告人の供述を踏まえても,十二分に信用することができる。
第4
1
争点①に関する判断
当裁判所の判断

前記第2の1ないし5の事実を総合すると,
被告人は,
平成17年頃までに本
件不動産の所有権を取得したが,その後も自らが本件不動産の賃貸事業に関してその名義で取引の前面に出ることはなく,関係会社の設立と解散を繰り返しながら,
本件不動産の賃料収入やこれに要する経費を自己の一存で順次YC,Y
D,
申告法人,
YFといった各時点で現存する関係会社の所得を構成するものと
して税務申告をしていたことが認められる。
そして,
この事実に前記第3の1⑴
及び⑶の事実を併せ考慮すれば,
被告人は,
本件不動産を,
自己が唯一の株主で,
かつ代表取締役を務める会社にリース(マスターリース)し,その会社に,本件不動産の管理費用や破損・滅失等の危険を負担させる代わりに,本件不動産を自由に使用して本件不動産から生じる一切の収益を収受する権利を付与した上,その会社がテナントに対して当該物件を賃貸
(サブリース)
するという事業形態
によって,
その会社の計算において不動産賃貸業を営むことを意図し,
そのよう
に振る舞っていたものと推認することができる。
この点,被告人も,捜査段階ないし国税局の質問調査の段階においては,かかる意図を有していたことを自認し,むしろ賃料収入が被告人個人に帰属することを否定し申告法人に帰属すると供述していた(証拠略)ものである。この捜査段階ないし質問調査段階の供述は既にみた事実関係によく符合するものであって,
この限りで信用することができる。
また,
被告人が本件で起訴された直後に,
本件不動産の賃貸事業の収益が申告法人に帰属することを前提とする修正申告を行っていること(前記第2の6)も,被告人において同収益を申告法人に帰属させる意思を有していたことと整合的である。
以上によれば,
被告人と申告法人との間で契約書等は交わされていないが,

件対象期については,
被告人はその自由意思に基づき,
申告法人が被告人との間
のマスターリース契約によって本件不動産から生ずる一切の収益を享受する地位にあるとの法形式を選択し,
法人税確定申告において,
本件不動産からの賃料
収入等及びこれに対応する経費を計上し,他者にもそのような説明をしていたのであって,申告法人の計算において本件不動産の賃貸事業を行っていたといえる。
したがって,
本件不動産の賃料収入は申告法人に帰属するものというべき
である。
2
弁護人の反論



マスターリース契約に関する主張

弁護人は,
上記のようなマスターリース契約は不存在であると主張し,
その理
由として,
①辛弁護士作成の契約書案の内容は,
賃貸物件の所有者である被告人
がテナントからの責任追及回避の目的で作成したもので,
被告人・会社間の賃貸
借については触れられていないし,そもそも同契約書案は申告法人設立以前に作成されたものでこれが申告法人に引き継がれたことを示すものは何もない,②被告人が平成18年分及び平成19年分の個人所得として申告している3600万円はYCとのマスターリース契約に基づく収益還元金ではないし,申告法人は本件対象期の決算報告書で被告人に対するマスターリース料の支払をしていない,③申告法人には従業員が不存在で,預金口座もなく,賃貸借契約に関する決裁等は全て被告人個人が行っており,賃料は申告法人以外の名義の口座に入金されていたなどと指摘する。
しかし,①の点については,
保険契約書と題する契約書案が被告人のテナ
ントからの責任追及回避目的から検討されたものであったことは,その前文にも記載されているところであるが,それだからこそ託された会社の計算において本件不動産の賃貸事業を営むことを企図していたことを示すもので,同事業の損益が託された会社すなわち本件では申告法人に帰属することに整合的である。
また,
契約書案で被告人と会社の間の賃貸借については触れられていないとする点も,被告人所有の本件不動産につき,会社が使用収益の権限を得,被告人に対し会社が対価を支払うという契約内容を両者間の賃貸借契約であると解することに障害はない。同契約書案が作成されたのが申告法人設立以前であるのは弁護人指摘のとおりであるが,同契約書案作成時点でいずれかの会社に本件不動産の賃貸事業の収益を帰属させる意思であった被告人において,申告法人設立後にこれを翻意したことを窺わせる事情は見当たらず,むしろ前記第3の1⑶で認定したように,この契約書案に沿うような申告法人の事業形態を丙に説明していたことからすれば,本件対象期においても同様の事業形態を企図していたとみるべきであって,同契約書案に署名押印等をして完成させたものが存在しないことは,この認定を左右しない。
②の点も,平成18年及び平成19年に被告人が3600万円を収益還元金として受領していたからこそ辛弁護士作成の契約書案においては同額が収益還元金として記載されたと考えられるし,被告人はその質問てん末書(証拠略)において,
平成19年には収益還元金を受け取っていたが,
平成20年以降はこれ
を受け取らない内容に契約を改めた旨供述していたもので,これに反する証拠はない。そして,既にみたとおり,マスターリース契約を締結することについての被告人の意図は無限責任の回避にあり,収益還元金を重視していたとは考えがたいところであるから,やはり前記1の認定を左右しない。
③の点も,
被告人は,
申告法人を含む関係会社全ての唯一の決定権者かつ本件
不動産の所有者として,
一存で前記1のような法形式を採用して,
それに沿う税
務申告をしているのであるから,本件不動産の賃貸事業について被告人のした種々の決定を申告法人の代表者としての決裁等とみることに障害はないし,申告法人に従業員がいないことについても,被告人は同事業をYEの従業員又は庚に行わせ,その人件費等を申告法人において支出,計上していた(前記第2の4⑴)
のであるから,
やはり申告法人の計算で同事業が行われていたことを否定
するものではない。
申告法人名義の口座が存在せず,
賃料が別法人名義の口座に
入金されていたとしても,
被告人は,
前記の従業員等にこれらの口座に対する入
金の状況を入金チェック表等に記載させ,申告法人での申告の資料として丙に送付していたのであるから,
被告人において,
申告法人に賃料収入を帰属させる
意思で,かつ,そのように振る舞っていたことは明らかである。


申告法人には実体がない旨の主張

弁護人は,申告法人はマスターリース契約の当事者となるような実体が存在しなかったと主張し,①テナントに対して申告法人が賃貸人になった旨の告知もなされておらず,賃貸人は戊等の名義のままであった,②Oビルの賃借人が原告となり,被告人を被告として同ビルの賃貸人としての責任等を追及した訴訟においても,
被告人は申告法人が責任を負う旨の主張をしていない上,
同訴
訟の判決では申告法人を含む被告人が設立等をした法人の法人格が形骸化又は濫用されていたと認定されていること,③法的にも所有権を取得した被告人が賃貸人たる地位を当然承継することなどを指摘する。
しかし,
①のテナントに賃貸人の変更を告知しなかった点については,被告人
は,
テナントの混乱や事務量の増加を避けるためであった旨供述しており証拠(
略),この点が申告法人の実体の不存在を示すものとはいいがたい。また,弁護人の主張を前提としても,被告人は平成17年に清算結了させた会社等の名義でその後も賃貸事業を継続していたのであるから,
被告人において,
賃貸借契約
等に用いる名義の形式はともかく,その会社の実体を重視していたものとは認められず,これを根拠に申告法人に本件不動産の賃貸事業の計算を帰属させるに足りる実体がなかったということはできない。
また,
②及び③の点については,
弁護人主張の賃貸人たる地位の当然承継や法
人格否認の法理は,賃借人等取引の相手方保護のための私法上の法理であって,租税法上の所得の帰属に関しては,被告人が選択した法形式に相応の根拠と合理性が伴う以上,
これに依拠できないわけではなく,
弁護人の主張は的を射てい
ない。


小括

以上のほかにも,弁護人は本件不動産の賃貸事業の収益は申告法人に帰属するものではない旨るる主張するが,いずれも採用することのできるものではない。
前記1の判断は揺らがない。
第5

争点②に対する判断
1
前記第3の1⑷ないし⑹で認定したとおり,本件対象期において,
被告人

は,
申告法人の決算書及びこれを添付した法人税確定申告書の作成に当たり,売
上の一部を除外するなどの指示を個別具体的に丙に対して行い,それが反映されていることの確認もしていたことが明らかに認められる。
したがって,同指示に従って丙が作成した各法人税確定申告書に署名押印又は押印して所轄税務署長に提出させ,
法定納期限を徒過させた被告人には,
これ
が虚偽過少のものであることの確定的な認識が認められ,申告税額と実際税額との差額全体について,ほ脱の故意が認められ,ほ脱犯が成立する。なお,
丙は申告法人の売上高・賃料収入につき現金主義に従って経理処理をしていたが,
各事業年度の実際所得金額の算定に当たり,これを発生主義に基づいて算定し直したことにより増差所得が生じている。
この点については,
上記の個
別的な指示に係るものと異なり,被告人に具体的な額についての認識まであったとは直ちに認め難いが,
このような事情は,
そもそもほ脱の故意の成立範囲を
左右しないと解されるし,本件においては,既にみたとおり,被告人が丙に対し発生主義に従った経理処理を行うための資料を提供しなかったことによるものであり,
被告人は,
過去にも税務署から発生主義に従った経理処理をすべきであ
る旨指摘されていながら独自の判断であえて現金主義に従った経理処理をしていたと認められる(証拠略)から,概括的な認識があったことに疑いはなく,犯情も左右しないというべきである。
2
ところで,
本件審理の過程において被告人がした供述の中には,
30年以

上前に被告人と福岡県又は北九州市との間で北九州物件を35億円で売却する旨の合意(以下35億円合意という。)が成立していたところ,被告人は平成21年1月に申告法人に北九州物件を売却したが,これが福岡県又は北九州市にそのような価格で売却できなくなったことから,その減価見込み分を本件対象期に申告法人の固定資産売却損として計上したもので,脱税のつもりなどない,という趣旨のもの(証拠略)がある。しかし,前記第3の1⑻に認定したとおり,
そもそも北九州物件が申告法人に帰属したとは認め難いことに加え,北
九州物件が所在する区域の都市計画事業は,平成9年10月及び平成11年8月に事業認可の告示がなされたもの(証拠略)であり,それ以前に土地の買収価格について合意が成立することは考えがたいこと,
被告人自身,
35億円合意に
関する覚書等を交わしていないことを自認していること(証拠略),北九州市職員作成に係る交渉記録にも収用裁決にも35億円合意に関する記載がないことなどに照らし,35億円合意があったともいえない。さらに,北九州物件の収用裁決は平成24年になされたものであって,期間的対応の面からも本件対象期において計上が認められるものではない。
このように,
被告人の固定資産売却損
の計上に関する供述は,その前提が誤っており,およそ採り得ない。また,
被告人は,
申告法人が平成21年12月期に計上した固定資産除却損及
び平成22年12月期に計上した保守管理費に関し,同期においてLビルを所有していたのは申告法人であり,現にその設備の廃棄処分もしている旨の供述をし
(証拠略)上記経理処理の根拠として説明しようとした節がある。,
しかし,
前記第3の1⑺のとおり,Lビルの購入原資は被告人個人が出捐したものであり,
被告人自身,
第12回公判期日以外では一貫してLビルは申告法人の所有で
はないと述べている(証拠略)ことからすれば,Lビルに係る固定資産除却損及び保守管理費を申告法人において計上することが許されないこともまた認識していたものといえる。
3
第6

その他,前記1の認定に反する証拠はない。
結論

以上の次第で,
前掲各証拠によって,
被告人に判示記載の各罪の成立が認めら
れると判断した。
(法令の適用):省略
(量刑の理由)
本件は,
不動産賃貸事業を営む申告法人の代表取締役であった被告人が,
申告
法人の業務に関し,
売上を減額して計上し,
あるいは架空の固定資産売却損を計
上するなどの方法により敢行した虚偽過少申告ほ脱の事案である。本件におけるほ脱所得は合計約35億4308万円,ほ脱税額は合計約10億6004万円,
ほ脱率は本件対象期のいずれも100パーセントであって,

税規模は同種事案の中でも極めて大きい部類ということができ,国家の租税債権を侵害した結果は誠に重大である。
その手口は,
丙に作成させた決算書案上,
申告法人に所得が発生していることを認識するや,
丙に指示をして,
売上の一部
を除外したり,架空の固定資産売却損,固定資産除却損,保守管理費等を計上したり,さらにはこれらの間で相殺するなどして決算書類に不自然さが表れないようにしたりするなど,
多岐にわたる所得秘匿の手段を用い,
本件対象期におい
てはいずれも欠損が生じている旨の内容虚偽の法人税確定申告書を作成させ,これを提出したものである。
その所得秘匿態様は露骨かつ巧妙である上,
既にみ
たとおり,発生主義に従い修正した増差所得を除いてはほ脱所得額についても確定的に認識していたものであって,
強固な犯意に基づくものといえる。
また,
本件各犯行の動機については被告人が否認していることから詳らかにはし得ないものの,
被告人において,
売上と固定資産除却損等との相殺処理を行ったり,
独自の見解に基づき現金主義を採用した経理処理を行ったりするなど,税務・会
計の基本原則を無視し,したい放題に申告法人の売上及び経費の額を操作して,本件対象期における税額の全てをほ脱していることに鑑みれば,
その動機は,

金を全く納めずに申告法人の売上の全てを意のままにすることにあったと推認することができ,納税義務をないがしろにするものというよりない。そうすると,その刑事責任は重く,被告人に前科がないこと,86歳と高齢であること,被告人において修正申告を行い,本税,延滞税及び重加算税を納付していること等の酌むべき事情を考慮しても,主文程度の実刑は免れない。以上の事情に加え,
申告法人は,
被告人の判断により既に清算を結了しており,
本件各犯行において申告法人がほ脱した税額は,これまでにみた被告人において設立し解散させた複数の法人の状況を考慮すれば,実質的には被告人が利得したものとみることができる。
そこで,
この種事案が経済的に見合わないことを
知らしめる必要があることに鑑み,
被告人に対しては,
懲役刑に加えて主文の罰
金刑を科するのが相当である。
(求刑―懲役5年及び罰金3億円)
平成30年11月20日
東京地方裁判所刑事第8部

裁判長裁判官


裁判官

田関巌洋太
裁判官岸田朋美は差支えのため署名押印することができない。

裁判長裁判官

前田巌
トップに戻る

saiban.in