判例検索β > 平成29年(わ)第1243号
強盗致傷
事件番号平成29(わ)1243
事件名強盗致傷
裁判年月日平成30年9月25日
裁判所名・部福岡地方裁判所
裁判日:西暦2018-09-25
情報公開日2018-11-28 12:00:19
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主文
被告人を懲役13年に処する
未決勾留日数中180日をその刑に算入する。
理由
(犯行に至る経緯)
被告人は,20年来の知人であるAから,金地金取引を行っている会社の内情を良く知るBの手引きにより,金地金取引の代金を運んでいる者から現金を奪い取る計画を持ち掛けられて承諾し,その後,高校時代からの友人であるCに計画内容を伝えて実行を依頼した。被告人の依頼に応じたCは,D,E及びFに実行役を引き受けさせる一方,G,H及びIに犯行に使用する自動車の運搬等を引き受けさせ,これらの者に犯行の手口を指示した。また,JもAの依頼によりこの計画に加わることになった。被告人は,計画を進める中で,実行役が現金を奪う際に相手が抵抗できなくなるような暴行等を加えることを認識していた。
この計画に基づき,平成29年4月14日及び同月19日,福岡市a区bc丁目d番Kパーキング付近路上に駐車中の自動車内において,実行役であるD,E,G及びFが,催涙スプレー及びスタンガンを携帯した上,同パーキング付近にある銀行で金地金取引代金である現金を引き出すLを待ち伏せるなどして,同人を襲って現金を強奪する機会をうかがったが,同人が現金を所持していない様子であったり(同月14日),現金の運搬者がもう一人いたため(同月19日),いずれも実行には至らなかった。そこで,被告人らは,同様にD,E,G及びFが実行役となって,同月20日に上記パーキングの敷地内で現金を強奪することにした。(罪となるべき事実)
被告人は,D,F,G,H,I,J,E,C及びAと共謀の上,平成29年4月20日午後零時25分頃,前記Kパーキングにおいて,Eが,L(当時29歳)に対し,その顔面に催涙スプレーを噴射する暴行を加えて,その反抗を抑圧し,同人管理の現金3億8400万円在中のスーツケース1個を強取し,その際,前記暴行により,同人に約5日間の治療を要する刺激物質性接触皮膚炎及び化学物質性急性気管炎の傷害を負わせた。
(事実認定及び罪数判断の補足説明)
1
争点
本件の争点は,①被告人には,実行役が現金を奪う際に相手が抵抗できなくなる
ような暴行等を加えることの認識があったか否か(そのような認識を前提として共犯者らとの間で強盗の共謀が成立するか否か)
,②平成29年4月20日の現金奪
取行為(以下本件現金奪取行為という。
)につき強盗致傷罪が成立するとして,
同月14日及び同月19日に催涙スプレー及びスタンガンを携帯した上で,待ち伏せるなどした各行為(以下本件各待ち伏せ行為という。
)につき,強盗致傷罪と
は別に強盗予備罪が成立するか否かである。
2
争点①についての判断
証拠によれば,被告人は,Aから,奪い取る予定の金地金取引代金は約2億円か
ら約7億円と聞いており,自己の経験上その現金の重量がどれほどのものであるかを知っていたことが認められ,これをひったくりのように簡単に持ち去ることができないことは認識していたはずである。
そして,数億円もの現金を奪われそうになれば,現金を運んでいる者は必死になって抵抗するのが通常であろうから,被告人が供述するように,いくら現金を運んでいるのがひょろっとした体格の男性であるなどと事前に聞いていたとしても,その男性の抵抗を排除しなければ現金を奪うことができないことも被告人は認識していたはずである。
加えて,日中,人目に触れる場所で現金を奪う計画であることから,短時間で犯行を終える必要があることも被告人は理解していたはずであり,これらの点を踏まえれば,たとえ具体的な実行の方法を知らなくても,被告人としては,実行役が現金を奪う際に手荒なこと,すなわち,相手が抵抗できなくなるような暴行等を加えることを当然に分かっていたとみるのが常識的である。
これに対して,弁護人は,被告人はBが現場で手引きをするという計画を聞かされており,特に手荒なことをしなくても現金を奪うことができると思っていたなどとして,被告人には窃盗の意思しかなかったと主張する。
しかしながら,
被告人は,
現金を実際に運んでいるのは手引きをするBではなく,
事情を知らない別の者であると聞いていたというのであり,その別の者に手荒なことをせずにどうやって現金を奪うことができるのかは,被告人の説明を前提としても理解することが困難である。しかも,被告人がAから聞いたとされる現金横取りの方法も,当初は空港近くのトイレの窓から投げられた現金を受け取るというものであったのが,その後,銀行で下ろした現金を空港まで運ぶ途中で奪うという話に大きく変わり,さらに,現場で手引きをするはずのBが本件各待ち伏せ行為の当日に連続して不在だったというのであるから,手引きの話の信憑性自体がかなり疑わしいものといえ,被告人自身もそのことを自覚していないはずがない。Bの手引きがあるから,実行役が手荒なことはしないと思っていた旨の被告人の供述は,そうした状況にもそぐわない不自然,不合理なものであって,信用できず,弁護人の主張も採用できない。
以上によれば,被告人には,実行役が現金を奪う際に相手が抵抗できなくなるような暴行等を加えることの認識があったと認められる。そして,そのような認識の下,共犯者らと順次意思を通じているから,強盗の共謀も成立していると認められる。
3
争点②についての判断
本件各待ち伏せ行為につき,強盗致傷罪とは別に強盗予備罪が成立するかは,一
個の強盗に向けた意思が継続されていたといえるかという観点から判断すべきである。
そこで検討するに,証拠によれば,2回にわたる本件各待ち伏せ行為と本件現金奪取行為とはそれぞれ日時が異なり,被告人らは,その都度金地金取引の情報を入手し,それぞれ異なる取引にかかる異なった金額の現金を奪うことを意図していたものであるが,本件の犯行計画において,金地金取引をしている同じ会社の関係者が同じ場所の金融機関から引き出した金地金取引代金の現金を奪うという点は一貫しており,実行するのも1回限りで反復して行うことはもともと想定されていなかった上,各行為の日時及び場所はいずれも近接しており,計画ないし実行された犯行の手段や,関与した共犯者も同じであった。
このような事情に照らせば,本件各待ち伏せ行為と本件現金奪取行為は,いずれも一個の強盗に向けて継続した意思の下に行われたものと認めるのが相当である。よって,本件各待ち伏せ行為はいずれも強盗予備罪を構成せず,本件現金奪取行為による強盗致傷罪に吸収されるものと解される(強盗予備の公訴事実につき無罪の言渡しはしない。。

4
結論
以上のとおり,被告人には,判示のとおり強盗致傷罪が成立する。
(量刑の理由)
まず,全体的な犯情についてみるに,当裁判所が量刑上最も重視した事情は,本件の被害金額が3億8400万円と巨額に上っており,財産的被害が極めて大きい点である。被害者の怪我の程度は比較的軽いものの,被害者が受けたであろう恐怖や精神的苦痛は軽視できない。
被告人及び9名の共犯者らは,あらかじめ入手した情報に基づき,犯行使用道具や車両の準備・運搬,実行,見張り,犯行使用物品の処分などの役割を分担し,綿密な計画の下に犯行を遂行しており,組織性,計画性は高い上,強盗を実行する機会を逃しても,日を改めて繰り返し実行を試みるなど犯行の遂行に向けた意思の強さがみてとれる。
次に,被告人の本件への関わり方をみると,被告人は,Aから得た情報をCに伝達し実行を依頼したほか,AとCの間の連絡役を果たしたり,土地勘のないCを犯行現場等に案内したりするなど,計画立案者と実行役との間の橋渡しという重要で不可欠な役割を担っている。また,犯行直後に奪った現金を受け取り隠匿するとともに,奪ったスーツケースを処分するなど犯行の発覚を回避し,Aに現金の引渡しを行うための重要な役割も担っている。そして,自らの手を汚すことなく,約4000万円という極めて高額の報酬を得ているが,このことは被告人が果たした役割の大きさを示すものであり,強い非難に値する。
これらの事情に加え,本件が及ぼした社会的影響の大きさをも考慮すると,本件は,共犯事件で被害金額が1000万円以上の強盗致傷事件1件の事案の量刑傾向の中では,かなり重い部類に属するといえる。
その上で,一般情状としては,被告人は本件について捜査機関に供述することによって事件の全容解明に一定程度貢献しており,反省の言葉を述べているものの,自己の責任を回避するような曖昧な供述もしており,自ら犯した罪と正面から向き合うことができていないこと,被告人の両親や妻による社会復帰後の監督が期待できること,被告人の帰りを待つ幼い子らがいることなどが認められることから,これらの事情も考慮し,被告人を主文の刑に処することとした。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑:懲役14年,弁護人の科刑意見:窃盗罪の成立を前提として懲役8年)平成30年10月4日
福岡地方裁判所第3刑事部
裁判長裁判官

足立
裁判官

太田寅彦
裁判官

池上恒太勉
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