判例検索β > 平成29年(わ)第366号
受託収賄被告事件
事件番号平成29(わ)366
事件名受託収賄被告事件
裁判年月日平成30年10月4日
裁判所名・部福岡地方裁判所  小倉支部
裁判日:西暦2018-10-04
情報公開日2018-11-28 12:00:12
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事件番号

平成29年

事件名
受託収賄被告事件

宣告日
平成30年10月4日

宣告裁判所

第366号

福岡地方裁判所小倉支部

主文
被告人を懲役1年6月に処する
この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。
被告人から金30万円を追徴する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,平成25年4月1日から平成28年3月31日までの間,福岡労働局労働基準部健康課において地方労働衛生専門官の職務に従事していたものであるが,平成26年6月21日頃から同年7月2日頃までの間,船舶の建造及び修理等を目的とするA有限会社の取締役を務めていたBから,電話等で,同社が福岡労働局に対して行った特定機械等である移動式クレーンの製造許可申請につき,同申請の審査等を担当していた同部安全課所属の地方産業安全専門官Cに対し,早急に同申請を受理して福岡労働局長までの許可決裁を受け,同社が速やかに前記移動式クレーンの製造許可を受けることができるよう働き掛けるなど,同社に有利な取り計らいをしてもらいたいとの趣旨の請託を受け,
同月20日頃,
福岡県行橋市ab丁目c番
d号のD駐車場において,その請託の趣旨に従って被告人が同社に有利な取り計らいをしたことに対する謝礼及び今後も同様の有利な取り計らいを受けたいとの趣旨の下に供与されるものであることを知りながら,額面合計30万円の全国百貨店共通商品券の供与を受け,もって自己の職務に関し請託を受けて賄賂を収受した。(証拠の標目)
省略
(事実認定の補足説明)
第1

争点等
本件は,福岡労働局労働基準部健康課所属の地方労働衛生専門官であった被
告人が,A有限会社取締役であるBから,A有限会社が福岡労働局に対して行ったつり上げ荷重400トンの旋回式浮きクレーンの製造許可申請(以下本件申請という。)につき,その審査等を担当していた同部安全課所属の地方産
業安全専門官に対し,早急に本件申請を受理して福岡労働局長までの許可決裁を受け,A有限会社が速やかに前記クレーンの製造許可を受けることができるよう働き掛けるなど,A有限会社に有利な取り計らいをしてもらいたいとの趣旨の請託を受け,その後,額面合計30万円の商品券を賄賂として収受したとされる事案である。
検察官は,被告人が福岡労働局労働基準部健康課において地方労働衛生専門官の職務に従事するとともに,同部安全課の所管事務である特定機械等の製造許可の審査等に関し,同審査を担当する同課所属の地方産業安全専門官に対し,指導・助言するなどの職務に従事していたと主張し,同課所属の地方産業安全専門官らに対し,特定機械等の製造許可審査等に関する指導・助言をすることは,
本件当時における被告人の本来職務であった,
あるいは,
少なくとも本来職
務の職務密接関連行為であった旨主張する。
これに対し,弁護人は,①本件申請を含む特定機械等の製造許可の審査等に関して,
同審査等を担当する安全課所属の地方産業安全専門官に対し,
指導・助
言することは,
被告人の職務ではなく,
また,
被告人の職務と密接な関係にある
行為ともいえない,②被告人は,Bから,判示の請託を受けたことはない,③被告人がBから額面合計30万円の商品券を受け取ったのは,判示のような有利な取り計らいをしたことの対価としてではないし,被告人にその認識もなかった,したがって,被告人は無罪であると主張する。
当裁判所は,前記争点①に関して,前記安全課所属の地方産業安全専門官らに対し,
特定機械等の製造許可審査等に関する指導・助言をすることは,
本件当
時における被告人の本来職務であったという検察官の主張は認められないとした上で,
前記指導・助言をすることは,
被告人の本来職務の職務密接関連行為で
あったと判断し,
その余の争点②③ついては,
弁護人の主張を排斥して,
判示事
実のとおり認定した。そこで,その判断過程を以下補足して説明する。第2

前提事実
関係証拠によれば,以下の事実が認められる。
1
福岡労働局労働基準部の事務について
厚生労働省設置法や厚生労働省組織規則等によれば,福岡労働局は,厚生労働省の地方支分部局であり,総務部,雇用環境・均等部,労働基準部,職業安定部が設置され,
労働基準部には,
監督課,
賃金課,
労災補償課のほか,
産業安全
(鉱山における保安を除く。に関する事務を所掌する安全課と労働)
衛生に関する事務を所掌する健康課が設置されている。福岡労働局を含む,いわゆる大規模都道府県の労働局の労働基準部では,前記のように安全課と健康課が別個に置かれているが,
大規模都道府県以外の労働局では,
健康安全課が置かれて,産業安全対策及び労働衛生対策に関する事務を一括して所掌しており,厚生労働省労働基準局長名通達(平成15年3月12日基発第0312010号)においても,安全課の所掌する産業安全対策と健康課の所掌する労働衛生対策とは安全衛生業務として位置づけられ,一体とした運営要領が規定されているなど,両課の所掌事務は安全衛生業務として性質が近く,密接に関連した業務であるといえる。福岡労働局でも,健康課と安全課は,安全衛生業務担当部署として,相互の協力や連携などが日常的に行われ,一体的な業務運営が行われていた。

2
産業安全専門官と労働衛生専門官について
労働安全衛生法により,都道府県労働局には産業安全専門官と労働衛生専門官を置くことが規定されており
(同法93条1項)前記福岡労働局労働基

準部の安全課には地方産業安全専門官が,健康課には地方労働衛生専門官が配置されている。
労働安全衛生法,産業安全専門官及び労働衛生専門官規程等によれば,地方労働衛生専門官は,労働安全衛生法93条3項で規定される事務(健康障害を生ずるおそれのある物の製造の許可等,
特に専門的知識を有する事務で,
衛生に係るものをつかさどるほか,事業者,労働者その他の関係者に対し,労働者の健康障害を防止するため必要な事項及び労働者の健康保持増進を図るため必要な事項について指導及び援助を行うこと)
等を行うこととされる。
また,地方産業安全専門官は,労働安全衛生法93条2項で規定される事務(移動式クレーン等の特に危険な作業を必要とする機械等として政令で定められた特定機械等の製造に関する許可等,特に専門的知識を必要とする事務で,安全に係るものをつかさどるほか,事業者,労働者その他の関係者に対し,労働者の危険を防止するため必要な事項について指導及び援助を行うこと)等を行うこととされる。
なお,地方産業安全専門官及び地方労働衛生専門官は,都道府県労働局に置くものにあっては都道府県労働局に勤務する職務の級が三級以上である職員で産業安全又は労働衛生に関する専門的知識を有するもののうちから任命するとされている(産業安全専門官及び労働衛生専門官規程2条)。
実際,安全衛生業務を専門に行っている職員は,安全課と健康課のどちらかに配置され,両課をまたいで異動することが通常であり,職務経験を積んだ厚生労働技官は,安全課に配属されれば地方産業安全専門官に,健康課に配属されれば地方労働衛生専門官に任命されていた。
3
被告人の職歴及び本件当時の勤務内容について
被告人は,厚生労働技官として長く安全衛生業務に従事し,労働衛生専門官,産業安全専門官ともに経験があり,産業安全専門官として平成10年4月1日から平成15年3月31日までと平成18年4月1日から平成25年3月31日まで,労働衛生専門官として平成25年4月1日から本件後の平成28年3月31日まで勤務し,その後は再び産業安全専門官として勤務していた。
本件当時(平成26年)の被告人は,福岡労働局の健康課に所属し,地方労働衛生専門官として勤務しており,安全課には所属せず,地方産業安全専門官には任命されていなかったが,安全課と健康課の職員の中で最も特定機械の製造許可審査等に関する知識経験が豊富で,安全課の職員から特定機械等の技術関係の業務について相談を受けた際に助言をし,その業務を手伝っていた。
4
本件申請の経緯等について
平成25年の9月か10月頃,Bは,A有限会社の単独申請で,つり上げ荷重400トンの旋回式浮きクレーン
(以下
本件クレーン
ともいう。

の製造許可を取得したいと考え,クレーンの設計コンサルタント業を営んでいたEに本件申請の代行を依頼した。
A有限会社は,つり上げ荷重80トンの移動式クレーンの製造許可を得ていたものの,つり上げ荷重400トンもの大型クレーンを作るための工場やドッグ,機器設備等はなく,専門的知識を持った技術者もいなかったが,Bは,実際に同クレーンを製造するつもりはなく,修理や改造等を行うときに備えて製造許可を得ておこうと考えていた。
本件クレーンは,水上を移動する船に搭載されたクレーン(浮きクレーン)で移動式クレーンの一種であり,つり上げ荷重3トン以上の移動式クレーンとして,前記2の特定機械等に該当し,その製造には都道府県労働局長の許可が必要である。本件申請は,特定機械等の製造許可申請であるから,前記のとおり安全課所属の地方産業安全専門官の職務内容とされている。福岡労働局においても,事務分掌上,特定機械等の製造許可に関しては,安全課に所属する地方産業安全専門官であるCが分担従事することとされていた。
Eは,平成26年6月頃,数回にわたって,本件申請のために福岡労働局の安全課を訪れた。本件申請に係る審査等を担当することになったCは,Eから見せられた申請書類や,安全課におけるA有限会社に関する過去のデータを見て,A有限会社が単独で本件クレーンを製造する能力があるか疑問を抱き,Eに対し,その旨伝えた上で本件申請を受理せず,他の事業者との共同申請を勧めた。
Eは,同年7月2日,再度安全課を訪れ,Cに本件申請を受理するように頼んだ。Cが前同様の理由で本件申請を受理せずにいたところ,被告人がやってきて,本件申請を受理するようCに助言した。その際,Cは,A有限会社の製造能力に疑問があるから単独申請は難しく,共同申請すべきだと考えていることやA有限会社の事業所等を実地調査する必要があることなどを伝えたところ,被告人は,他の事業場の設備を借りれば,A有限会社単独での申請が可能であり,また,A有限会社は既に移動式クレーンの製造許可を得ているから実地調査の必要はないなどと言って,Cの考えに反対した。そのため,Cは,本件申請を受理する一方,実地調査は断念し,Eに対し,製造能力を確認するための敷地や設備に関する書面や,被告人から提案された他の事業者の設備を利用できることを証明する書面の追完を依頼するにとどめた。また,Cは,Eに,許可が出るまでには一,二か月はかかると述べた。
被告人は,同月3日,健康課の事務室に置かれていたファクシミリの機械を使って,A有限会社に対し,送り主やその担当者として福岡労働局健康課&安全課安全課/C健康課/被告人等と表記した移動,,式クレーンの製造許可についてと題する書面を送信し,
その書面中で
③大型台船を新造する場合の敷地(協力造船所の設備を使う場合は,工場使用内諾書(7月2日以前の日付分)等の資料の追加を求めた。これを受けて,Eは,工場使用承諾書の文案作りに取り掛かり,被告人から手直しや追加の指示を受けて完成させた。
同月3日,Bは,F株式会社に工場使用承諾書を持参し,同所代表取締役のGに対し,
本件クレーンの製造許可を得るために,A有限会社にF株式会社のドックや機器設備を貸すことにしてほしい。本当にそれらを借りることはないし,迷惑もかけないので,工場使用承諾書に判を押してほしい。旨頼み込み,Gに社印を押してもらって工場使用承諾書を完成させ,
Eに託して,同月9日,Cに提出した。
なお,Cに提出された工場使用承諾書はA4判で1枚限のものであり,A有限会社が大型台船を新作又は補修工事等を行う場合には,F株式会社の工場のドックや設備を使用することを承諾するとは書かれているものの,実際にどのドックや機器設備を使用させるのか,期間,条件,損害が発生した場合の補償等,A有限会社がその工場を使用するにあたっての具体的な取決めは一切記載されていなかった。
同年7月18日,福岡労働局長は,A有限会社に対し,本件クレーンの製造を許可した。被告人は,Eに,許可が下りたので,受け取りに来てもらいたい旨電話をした。
なお,本件申請の許可に関する決裁文書には,安全課所属の職員全員が目を通し,押印したが,被告人が押印することはなかった。
5
額面合計30万円の商品券の授受について
Bは,平成26年7月20日,被告人に対し,中身を告げずに,額面合計30万円の商品券(以下本券商品券という。
)入りの紙袋を手渡した。被
告人は,
帰宅後,
紙袋の中に本件商品券が入っていることに気付き,
その夜,
Bに電話してこんなにもらっていいのかと尋ねたが,Bから受け取るように言われたので,受け取ることにした。

第3

争点①(職務権限の有無,職務密接関連行為の該当性)について1
前記のような福岡労働局労働基準部内における安全課と健康課との業務内容の共通性や,労働基準部内の実際の事務処理状況,地方産業安全専門官及び地方労働衛生専門官の地位等に鑑みると,
特定機械の製造許可審査等に関する
業務については,事務分掌上の担当事務ではなくとも,被告人の一般的な職務権限に属するものであると認められる。
実際に,前記のとおり,被告人は,福岡労働局の労働基準部健康課に所属していたが,
特定機械の製造許可審査等の安全課の業務に精通していたことから,自ら直接手伝い,あるいは地方産業安全専門官らに助言するなど,安全課の業務に日常的に関与しており,本件申請についても,Eとの間で工場使用承諾書の作成についてやりとりをするなど事務に関与していた。そして,被告人の上司である労働基準部長及び健康課長に加え,安全課長も,被告人がこのように関与することについて,安全課と健康課の協力の必要性や安全課職員の知識・経験の向上を図る観点から肯定的に捉えていたと認められる。
確かに,法令上,地方産業安全専門官が取り扱うことができる職務内容と地方労働衛生専門官のそれとは明確に区別されているが,前記のとおり,法令上も地方産業安全専門官と地方労働衛生専門官の職務内容は類似し,関連性が強
いものであることが前提とされており,
安全衛生業務を取り扱うことで共通し
ていること,
福岡労働局においても健康課と安全課では受付や審査等において
相互に補助連携した事務処理が行われていたと認められること,
一定の職務経
験を積んだ後は,人員配置の都合によって,安全課に配属されれば地方産業安全専門官に,
健康課に配属されれば地方労働衛生専門官に任命され得ることに
鑑みると,健康課に所属する地方労働衛生専門官であったとしても,同じ労働基準部内の安全課が所管し地方産業安全専門官が従事する特定機械等の製造許可審査に係る職務についても,一般的職務権限を有しているといえる。
2
他方で,地方産業安全専門官は,自身の職務を遂行するにあたり,被告人の決裁を受ける必要はなく,不明な点が生じた場合に豊富な知識・経験を有する被告人に相談していたに過ぎないのであって,
必ずしも被告人の指導や助言を
受けなければならなかったというわけではなかった。また,被告人のような知識や経験のある者がそうでない者の相談に応じることが事実上の義務となっていたわけでもない。そうすると,被告人が,検察官が主張するような特定機械の製造許可審査等に関し,同審査等を担当する安全課所属の地方産業安全専門官に対し指導・助言をするなどの職務権限を事実上あるいは慣行上有していたとは認められず,前記指導・助言は被告人の本来的職務とはいえない。3
もっとも,特定機械の製造許可審査について一般的職務権限を有する被告人が,
同様の一般的職務権限を有するCに同審査に関する助言等の働き掛けをすることは,
特定機械の製造を許可するか否かという判断に影響を与え得るものであり,
少なくとも職務と密接な関係にある行為であると認められるから,職務に関して行われたものと認められる。

第4
1
争点②(Bによる請託の有無)について
B供述について
Bは,被告人に対し,本件申請に関して早期に許可を得るように依頼したとして,公判廷及び捜査段階において,概要,以下のような供述をする。すなわち,Bは,本件申請が正式に受理される前(検察官調書甲34によると,平成26年6月21日)に,車内で,被告人に対し,Eが本件申請に行っても,
なかなか担当者に受理してもらえないことを伝え,
何とか単独申
請で許可を取らせてほしい旨依頼した,
被告人から担当者をごまかすための
書類として工場使用承諾書を提出することを提案された,
その後,
平成26
年7月2日に本件申請が受理されたことから,
同日頃,
被告人にお礼を言っ
た際,工場使用承諾書の提出を指示され,同月3日,工場使用承諾書にGに押印してもらいEに渡した,
また,
被告人に1日でも早く許可を出してほし
い旨依頼した,その理由は,受理から許可が下りるまで一,二か月かかると聞いたが,
その間に虚偽の内容が記載された工場使用承諾書が労働局の職員
の目に留まったら面倒なことになると考えたからである,などと供述する。Bの公判供述は,本件申請を担当者に受理してもらえず,健康課の被告人に働き掛けを頼もうと考えたこと,
単独申請では難しい旨被告人から聞かさ
れたが,
何とか単独申請で受理して欲しいと頼んだことや,
被告人から工場
使用承諾書の提出を提案されて急いで作成したこと,
工場使用承諾書は実際
に工場等の設備を借りることを予定していない内容虚偽のものであるから,審査に時間を要すると許可が下りなくなると考え,
早期に許可してもらえる
ように頼んだことなど,
前記の事実経過にあらわれた本件申請が許可される
までの被告人の行動や経過等とよく符合するものである。
確かに,
Bの公判
供述は,日付等について曖昧な点があり,検察官調書(甲31ないし37)からも変遷が認められるが,
前記事実経過は被告人作成のファックス等の証
拠や信用性の高いE供述等にも支えられていること,公判廷で証言するまでの間にB自身も贈賄事件で有罪判決(確定)を受けるなど,時日を要しており,
前記変遷等にはそのような時間の経過が影響したとみるのが合理的であることなどを踏まえると,B供述の前記根幹部分の信用性は揺らがない。また,
Cは,
福岡労働局では,
製造許可が下りそうにない案件については,
申請自体を受理しない取扱いをしており,
本件申請についても,
A有限会社
に400トンもの大型クレーンの製造能力があるのか疑問視していたので,特定機械等に関して局内随一の豊富な知識を有する被告人からの説明や助言がなければ,
本件申請を受理することはなかったこと,その後も本件申請
の追加資料の提出指示などを被告人が行ってくれたが,
追加で提出された工
場使用承諾書には,
工場設備の使用に関して責任を当事者のどちらが負うこ
とになるのかなどの記載もなく,
不十分な内容と思ったので,
被告人に内容
に問題ないか相談したところ,
大丈夫だと言われたこと,
本件申請書の副本
を確認した被告人から,特に問題はなく,書類はそろっているので,早く決裁に回してあげてと言われたこと,
Cとしては納得できなかったが,
未提出
書類が提出された頃に決裁を回したことなど,
被告人の働き掛けによって本
件申請の受理や決裁に影響を受けた旨供述するところ,
このようなC供述も,
前記のような請託をしたというB供述と整合するものである。
以上からすれば,
被告人に対し,
本件申請の受理や許可を得るよう働き掛
けを頼んだというB供述の根幹部分の信用性は高い。
2
被告人供述について
被告人は,Bから早く許可を出してほしいと頼まれたことはない,Bか
ら許可が出るまでに2か月間かかると言われたと聞いたので,
そんなにかからないと思うと答えたことはある,審査担当者には常日頃から製造許可審査を早めにやるようにと言っているので,本件でもCにできるなら早く許可を出すようにと言ったかもしれない,
などと供述して,
Bから請託を受けた事
実を否認している。
しかし,
実際には,
被告人は,
自ら申請書類の副本を検討してBらに必要な追
加書類の提出を指示し,殊に,工場使用承諾書については,申請代行者であるEに対し,作成日付を遡らせるような細工を入れ知恵するなど,本件申請の審査事務に積極的に関与していた上,本件申請の受理及び審査についても,慎重な構えを崩さないCに対し,早期に受理して決裁に回すよう働き掛けるなど,Bからの請託内容を実現しようとまい進したとしか解されないような行動を示していた。
被告人は,以上のような自己の行動について,①被告人がCと一緒にEの話を聞いたのは,荷重400トンのクレーンを見たことがなく,どういう仕組みか興味があったからである,②工場使用承諾書の記載内容についてEに細かく教えたのは,本当に工場を借りるのであれば対価等を最低でも書かないと書類として変だからである,③A有限会社は既に荷重80トンのクレーンの製造許可を持っており,製造許可を既に取得している事業場には実地調査に行く例はあまりないと言ったに過ぎないなどとも供述する。
しかし,
①については,
被告
人は,
本件申請が受理されるよりも前からEに申請に関する助言をしていたし,工場使用承諾書の差し入れによって十分な工場設備を持たないA有限会社でも大型クレーンの製造許可を得られるように画策するなど,本件申請に絡んだ後の被告人の行動は興味本位の域を超えている。
また,
②については,
実際に提出
された工場使用承諾書には具体的な対価の記載がないことからすると,被告人がEに対価の記載を指示したのか疑わしいというほかないし,他方で,被告人がEに同承諾書の作成日付を遡らせるように細工させるなど,辻褄合わせに終始していることからすると,被告人は,A有限会社が実際に他の事業所から設備を借りることはないと分かっていたものと考えられる。さらに,③については,A有限会社がつり上げ加重80トンの旋回式浮きクレーンの製造許可を得ていたとしても,本件申請は,つり上げ加重400トンという格段に大型のクレーンの製造許可に関するものであって,審査担当者であるCがA有限会社の製造能力に疑問を抱き,実地調査を行う必要があると考えるのも当然であることからすると,そのようなCを説き伏せて実地調査を断念させるためには,相当強硬に反対する必要があると考えられるから,被告人が供述するように,前例があまりないといった程度の物言いに過ぎなかったとは考えられない。以上から,被告人の供述は信用できない。
3
以上より,Bは,被告人に,何とか単独申請で,かつ,早期に許可を得させてほしい旨依頼し,被告人はこれに応じた言動をしたと認められる。したがって,被告人は,Bから,早急に本件申請を受理されるよう,また,早急に本件申請の許可決裁を受け,速やかに許可を受けられるよう働きかけるなどのA有限会社に有利な取り計らいをしてもらいたい旨の請託を受けたと認められる。
第5
1
争点③(対価関係の有無,賄賂性の認識の有無)について前記認定のとおり,Bは,被告人に対し,早急に本件申請を受理し,A有限会社が速やかに許可を受けることができるよう働きかけるなどのA有限会社に有利な取り計らいをしてほしい旨の請託をしており,
これを受けて被告人は,
本件申請の審査を担当していたCに働きかけを行っていたこと,
本件商品券を
受け取ったのは本件申請の許可が出た2日後であること等からすれば,Bが本
件申請に関するお礼として本件商品券を渡したことは明らかであり,被告人も
それを認識していたと認められる。
2
これに対し,被告人は,本件商品券が入った紙袋をもらった当初,四角くて重かったので,カステラかようかんだと思った,審査に手心を加えてくれたお礼だとは言われず,いつも世話になっているからと言われた,家に帰って開けてみると30万円分の商品券が入っていたことから,これはいけないと考えてBに電話した,Bは,たいしたことない,いつも世話になっているからなどと言ったので,固辞しすぎると今後の人間関係が悪化するかもしれないと考えて本件商品券をもらったままにしてしまった,本件商品券に対する返礼はしていない,後になって振り返ると,Bが本件商品券をくれたのは,当時,被告人が持っていた梅の木をBの息子に譲渡するという話があり,そのお礼としてであったと考えられる,その梅の木は二,三十万円はすると思うなどと供述する。しかし,本券商品券の受取りが本件申請に係る許可が出てから間もないことに加え,本件商品券は,本件以前に中元や歳暮として贈られていた額(2万円から3万円)を大きく上回る高額なものであったこと,被告人はこれに気付いて,Bに電話をかけるなどしたにもかかわらず,受け取ったままにし,かつ何も返礼していないこと等からすれば,日頃の付合いに対する社交儀礼として本件商品券をもらったわけではないことは明らかであり,被告人もそうでないことを認識していたといえる。
被告人は,第8回公判期日に至って初めて,Bが梅の木のお礼として30万円をくれたのかもしれないと思ったなどとも供述するが,実際に梅の木がBの息子に譲渡されることはなかったというのであるから,そのお礼と考えるのは不合理であるし,その供述経緯に照らしても,被告人の供述は不自然であって信用できない。
3
第6

以上より,被告人は,本件商品券を賄賂として受け取ったと認められる。結論

弁護人のその余の主張を踏まえて検討しても,前記認定は動かない。したがって,被告人には判示の受託収賄罪が成立する。
(法令の適用)
省略
(量刑の理由)
被告人は,本件申請を受理し早期に許可してほしい旨依頼されると,申請の代行者への教示や本件申請の担当官に対する働きかけを積極的に行い,30万円分の商品券という少なくない賄賂を収受したのであり,特定機械の製造許可審査に対する信頼を失墜させた。また,特定機械の製造許可審査は,人命にかかわる労働災害の防止を目的としており的確な処理が求められるにもかかわらず,被告人の言動により,
十分な検討がなされないまま本件申請を許可するに至っていることも考えると,その職務の公正さを害した程度も軽視できない。
他方,被告人から賄賂を要求したわけではないこと,前科前歴がないこと等被告人にとって酌むべき事情を考慮すれば,被告人に対し,主文の刑を科した上,その刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。
(求刑

懲役1年6月,主文同旨の追徴)

平成30年10月4日
福岡地方裁判所小倉支部第1刑事部
裁判長裁判官

松藤和博
裁判官

向井
亜紀子

裁判官髙野将人は育児休業のため署名押印することができない。
裁判長裁判官

松藤和博
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