判例検索β > 平成30年(う)第441号
政治資金規正法違反
事件番号平成30(う)441
事件名政治資金規正法違反
裁判年月日平成30年10月11日
裁判所名・部東京高等裁判所  第2刑事部
結果棄却
原審裁判所名東京地方裁判所
原審事件番号平成27特(わ)2148
裁判日:西暦2018-10-11
情報公開日2018-11-20 16:00:28
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平成30年10月11日宣告

東京高等裁判所第2刑事部判決

平成30年(う)第441号

政治資金規正法違反被告事件
主文
本件控訴を棄却する
理由
本件控訴の趣意は,弁護人石田省三郎(主任)及び同神山啓史作成の控訴趣意書及び同補充書に記載されたとおりであり,論旨は,事実誤認及び法令適用の誤りを主張するものである。これに対する答弁は,検察官瓜生めぐみ作成の答弁書に記載されたとおりであり,控訴趣意には理由がないというものである。第1

原判決が認定した罪となるべき事実と論旨の概要

原判決は,罪となるべき事実として,要するに,被告人は,政治団体であるA(以下Aという。)の副理事長及び会計責任者,政治団体であるB(以下Bという。)の会計責任者で,かつ,政治団体であるC(以下Cという。)の会計責任者の職務を補佐していた者であるが,第1
平成21年4月から平成23年

3月までAの代表者であり,かつ,平成22年3月から平成23年3月までCの代表者であったDと共謀の上,1

平成23年3月頃,東京都千代田区のA事務所に

おいて,政治資金規正法12条1項によりE選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出すべきAの収支報告書につき,真実は,Aの支出に関し,平成22年5月13日,Cに5000万円の政治活動に関する寄附をしたにもかかわらず,Aの平成22年分の収支報告書にその旨記載せず,F党参議院比例区G(以下Gという。)に対して5000万円の政治活動に関する寄附をした旨虚偽の記入をし,これを平成23年3月31日,E選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し,2
平成2

3年3月頃,A事務所において,政治資金規正法12条1項によりE選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出すべきCの収支報告書につき,真実は,Cの収入に関し,平成22年5月13日,Aから5000万円の政治活動に関する寄附を受けたにもかかわらず,Cの平成22年分の収支報告書にその旨記載せず,Gから500
0万円の政治活動に関する寄附を受けた旨虚偽の記入をし,これを平成23年3月31日,E選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し,第2

平成23年4月か

ら平成27年6月までAの会長及び代表者であり,かつ,Bの代表者であったHと共謀の上,1
いずれもAの役職員として,AがBに対して政治活動に関する寄附
をするに当たり,平成25年1月23日,A名義の銀行口座からC名義の銀行口座を経由してB名義の銀行口座に5000万円を入金した上,同年3月15日,A名義の銀行口座からB名義の銀行口座に4500万円を入金し,もって政党及び政治資金団体以外の政治団体において平成25年中に政党及び政治資金団体以外の同一の政治団体に対して5000万円を超える政治活動に関する寄附をし,2
BがA

から政治活動に関する寄附を受けるに当たり,平成25年1月23日,A名義の銀行口座からC名義の銀行口座を経由してB名義の銀行口座に5000万円の入金を受けた上,同年3月15日,A名義の銀行口座からB名義の銀行口座に4500万円の入金を受け,もって政党及び政治資金団体以外の政治団体において平成25年中に政党及び政治資金団体以外の同一の政治団体に対して5000万円を超える政
治活動に関する寄附を受け,3

平成26年3月頃,A事務所において,政治資金

規正法12条1項によりE選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出すべきAの収支報告書につき,真実は,Aの支出に関し,平成25年1月23日,Bに5000万円の政治活動に関する寄附をしたにもかかわらず,Aの平成25年分の収支報告書にその旨記載せず,Cに対して5000万円の政治活動に関する寄附をした旨虚偽の記入をし,これを平成26年3月28日,E選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し,4

平成26年3月頃,A事務所において,政治資金規正法12条1

項によりE選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出すべきBの収支報告書につき,真実は,Bの収入に関し,平成25年1月23日,Aから5000万円の政治活動に関する寄附を受けたにもかかわらず,Bの平成25年分の収支報告書にその旨記載せず,Cから5000万円の政治活動に関する寄附を受けた旨虚偽の記入をし,これを平成26年3月28日,E選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出した,
との事実を認定している。
論旨は,要するに,原判決が,①原判示第2の1及び2のAとBとの間での寄附及び原判示第1の各虚偽記入等の前提となるAとCとの間の寄附について,各年中において,同一の政治団体に対する寄附が5000万円を超えたものとして,いわゆる量的制限違反を認めている点について,本件で問題とされている口座間の資金移動は,Aの資金の使い道等を明確にするためのA内部の事務手続上の移動にすぎず,これらの資金移動は,政治資金規正法が定める量的規制違反には当たらないし,被告人には,これが違法であるとの認識は全くなく,その可能性もなかったとの事実誤認の主張,②原判示第1の1及び2並びに原判示第2の3及び4の各収支報告
書の虚偽記入等について,そもそも収支報告書には客観的な資金移動を正確に記入すべきところ,本件各収支報告書には,客観的帳票類に基づいて,資金移動の経過が忠実に記載されていたのであるから,虚偽記入等には当たらず,虚偽記入罪等が成立するとした原判決には法令適用の誤りがあるとの主張と,被告人は,提出された本件各収支報告書の記載が一点の疑いもなく正しいと認識していたのであって,
違法性の認識を持ちようもなかったとの事実誤認の主張である。
そこで,記録を調査して検討する。
第2

寄附の量的制限違反について

1

原判決の認定理由の骨子
原判決は,証拠上認められる事実として,概要,以下の事実を摘示している。

Aは,歯科医師である会員の診療環境向上を目指し,もって国民医療の発展
に寄与することを目的として,設立された政治団体である(原判決4頁)。Aは,その政治活動の一環として,I及びAを代表する国会議員を送り出し,かつ,その政治的発言力を確保すべく,Aが会員から選考した職域代表候補者,又は選考は経ていないが政党の公認を得た会員をAとして支援することを決した準職域代表候補者につき,高得票で高位当選させるため,その氏名を冠した中央後援会を設立し,選挙に必要な政治活動に関する資金を寄附として注入し,支援活動を行ってきた
(原判決5頁)。
被告人は,平成16年6月から平成27年7月1日まで,Aの副理事長として会計責任者を務めた。Dは,平成21年4月1日から平成23年3月31日までAの会長かつ代表者を務めた。Hは,平成21年4月1日から平成23年3月31日までの間,Dの下でAの理事長を務め,同年4月1日から平成27年6月30日までの間,Aの会長かつ代表者を務めた(原判決12頁)。

Aは,平成22年の参議院比例代表選挙(以下平成22年選挙という。)
においては,F党公認を得たA会員のJを準職域代表候補者として支援することとした。また,平成25年の参議院比例代表選挙(以下平成25年選挙という。)においては,既に平成19年の同選挙にAの職域代表候補者としてK党公認で立候補し,当選していたLを,再度職域代表候補者として擁立し,再選を目指すこととした(原判決5,6頁)。
Aは,平成19年の参議院比例代表選挙に向けて,Lの社会活動及び政治活動を後援すること等を目的として,平成18年4月14日,政治団体であるBを設立し,
平成22年3月11日には,Jの社会活動及び政治活動を後援すること等を目的として,政治団体であるCを設立した(原判決14,18頁)。また,F党の公認候補として出馬するJに係る同党の支部組織で,同党からの政党交付金や公認料の受入れなどをするためにAにおいて同党の要請を受けて設立手続や口座開設を行って,平成22年3月15日,政治団体Gが設立された(原判決19頁)。
Bの役員は,Aの役員がそのまま充てられ,その代表者は,Aの会長の交代に合わせて,平成21年4月1日から平成23年3月31日までの間はDが,同年4月1日から平成27年6月30日までの間はHがそれぞれ務めた。会計責任者は,その設立時から平成27年6月30日までの間,被告人が務めた。Cの代表者は,設立時から平成23年3月31日までの間はDが,同年4月1日から平成27年7月
1日までの間はHが務め,会計責任者は,平成22年3月11日から平成24年1月31日までの間はAの当時の庶務・会計担当の常任理事であったMが務めた。G
の代表者はJで,会計責任者は,平成22年3月15日から同年9月28日までの間はMが務めた(原判決14,18,19頁)。

Aは,Cの活動資金について,平成22年3月30日,Cの口座に5000
万円を寄附として振込送金し(以下①の資金移動と表記することがある。平成22年選挙に向けた資金移動について別紙1参照。),同日,Gの口座に5000万円を寄附として振込送金し(以下②の資金移動と表記することがある。),さらに,同年5月13日,Gの口座からCの口座に5000万円が寄附として振込送金された(以下③の資金移動と表記することがある。)。その上で,Aの平成22年分の収支報告書には,支出として①の資金移動に対応するCへの5000
万円の寄附及び②の資金移動に対応するGに対する5000万円の寄附の記載があり,Cの同年分の収支報告書には,収入として,①の資金移動に対応するAからの5000万円の寄附,③の資金移動に対応するGからの5000万円の寄附の記載がある。
Aは,Bの活動資金について,平成25年1月23日,Aの口座からCの口座に
5000万円を寄附として振込送金し(以下⑥の資金移動と表記することがある。平成25年選挙に向けた資金移動について別紙2参照。),同日,Cの口座からBの口座に5000万円を振込送金し(以下⑦の資金移動と表記することがある。),同年3月15日,AからBの口座に4500万円を寄附として振込送金した(以下⑨の資金移動と表記することがある。)。その上で,Aの平成25
年分の収支報告書には,支出として⑥の資金移動に対応するCへの5000万円の寄附及び⑨の資金移動に対応するBに対する4500万円の寄附の記載があり,Bの同年分の収支報告書には,収入として,⑦の資金移動に対応するCからの5000万円の寄附,⑨の資金移動に対応するAからの4500万円の寄附の記載がある(原判決5~7頁)。


Aでの会議等において,被告人は,平成22年選挙について,CのほかF党
の比例区支部が存在する予定で,5000万円ずつ合計1億円を確保できる見通し
であると述べ,政党支部に入れた資金を中央後援会に動かす旨明言していた(原判決19,20,43頁)。また,選挙後の会議では,①ないし③の資金移動について,CにAから後援会活動の資金として直接又は間接に合計1億円を移動したもので,AからCには1年間に5000万円しか動かせないので,Gに5000万円を入れ,その後GからCに5000万円を入れ,合計で1億円をCへ入れた旨,ときには迂回の形をとったという表現を交えて重ねて説明をしていた(原判決24~28,43頁)。
被告人は,平成25年選挙については,Aの会議等において,その後援会活動に合計1億5000万円を確保する必要があり,Aの政治活動運営会計からその中央
後援会に2年に分けて各5000万円を動かせるのに加えて,残りの5000万円をどう動かすべきかについての問題意識を表明していた(原判決29,30,57頁)。そして,⑥,⑦の資金移動に関し,5000万円についてはAからCを経由してBへ入れた,CがAから受けた5000万円の寄附はBへ移すためのものであると説明していた(原判決37頁)。



原判決は,以上の認定事実を前提に,①ないし③の資金移動について,Gに
は独自の意思決定はなかったこと,①ないし③の資金移動に関する被告人の会議等における説明内容からは,A及びCにおいては,当初から,AからCへ1億円を寄附するため,うち5000万円についてGを経由させる方法を用いることが予定され,その通りの資金移動が実行され,報告されたものであり,会議等における出席者の間では,そのような認識が共有されていたと推認できるなどとし(原判決42~45頁),これに反する被告人の供述は,当時の会議での発言等と矛盾し,客観的事実とも整合的な説明がつかないとして,②,③の資金移動は,AからCに対する寄附であり,①の資金移動と合わせて平成22年中にAからCへ合計1億円の寄附がされたものと認められるとする(原判決51頁)。

そして,⑥,⑦,⑨の資金移動については,これに関する被告人の会議等における説明内容は,平成25年の資金移動の前後を通じ一貫して,AからCへ寄附した
5000万円については,Cを通じてBへ寄付するためのものである旨説明を繰り返すものであり,⑥,⑦の資金移動は,このような被告人の計画に基づき実行されたと考えるのが自然であるとする(原判決59頁)。さらに,当時Aの理事長であったNは,被告人から,AよりBへ資金を移動させるに際し,うち5000万円についてCを迂回させるという案を事前に聞いていた旨具体的に証言しているが,その内容は,被告人が当初から5000万円ルールに抵触するためBに直接には寄附できない5000万円についてその経由先が悩ましいと発言していたことと時期的に整合し,上記各資金移動の趣旨,経緯を自然な脈絡の中で説明しており信用できるとする。これに対し,⑥,⑦の資金移動に気付かなかった旨の被告人の弁解は,
会計事務を統括することを主たる任務として,高額な入出金伝票を決裁していた立場であったことからすると,それ自体にわかに真に受けることが困難な上,その弁解内容は,被告人の会議等における説明内容と整合もしておらず信用できないとする。原判決は,以上によれば,⑥,⑦の資金移動は,一体としてAからBに対する寄附であると認められると判断し,⑨の資金移動と合わせ,1年間の寄附の上限で
ある5000万円を超える寄附を行ったと認定している(原判決67頁)。また,原判決は,被告人は,5000万円ルールの存在を明確に認識し,これを強く意識していたからこそ,これに抵触しないように見える外形を作出するため,様々な手法を試みるなどした結果,超過寄附を行ったものであり,当然に違法性の意識があったといえるとする(原判決68頁)。

2
以上の原判決の認定,判断は,関係証拠の内容に沿うものであって,経験則
等に照らして不合理なところもない。
3
所論について

これに対し,所論は,CとBは,届け出られた独立した組織ではあるものの,実質的な運営や財務管理等は,Aが行っており,この意味において,各団体は,Aの内部組織としての一部門にすぎないことは明らかである,本件で問題とされている口座振替は,Aの後援活動資金の使い道について,予算上も執行上もこれを明確に
するためのA内部の事務手続上の移動にすぎず,政治資金規正法で量的規制の対象となる寄附にはあたらない,などという。
しかし,CとBは,歯科医師である会員の診療環境の向上等を目的とするAとは異なり,JないしLの政治活動を後援すること等をそれぞれ目的とした政治団体であって,Aとは別の政治団体として設立手続が行われ,政治資金規正法による届出がされている。そして,CとBともにそれぞれの会則に基づき役員を選任し,その役員の多くはAの役員と重なっていたものの,CとBは選挙に向けて職域代表候補を後援することを主たる目的としていたことから,役員には,A以外のIやOなどの関連団体からも選任がされていたものである(原審甲2,3,5,158〔9冊
3246,3258丁〕,原審M72丁)。
このようにCとBは,それぞれ候補者の名を冠し,選挙に向けて政治活動を行うために設立されたものであり,Aとは別個の政治団体であって,CとBがいずれも政治資金規正法の規制に服する独立した団体であると認められる。原判決(67頁)が,D,H及び被告人をはじめとするA執行部において,政治団体を別にすること
によって,それぞれの名の下での政治活動を行いやすくするとともに,会計も透明化するという方法を選択した以上,その法形式に対応した法的規制に従って資金移動を行うべき義務が措定されることは当然であると判断し,本件各資金移動が寄附に当たると認定したことに不合理なところはない。所論は採用できない。また,所論は,本件各資金移動が,A内部の口座振替にすぎないことを前提に,
被告人は,名目的にも寄附の量的制限に抵触しないように配慮して行ったものであり,これが違法であるとの認識は全くなかった,理事会等の会議に同席していた顧問弁護士から問題を指摘されたこともないし,主要な会議の議事内容が録音され保管されていたのも違法性の認識がなかったことを示している,などという。しかし,原判決が指摘するとおり,被告人は,Aとは別個の政治団体であるC,
Bへの寄附に当たり,5000万円ルールの存在があることを明確に認識していながら,実質的に5000万円を超える寄附を行おうと外形を作出しようとしていた
のである。被告人自身も,Aから他の政治団体を経由させて目的の中央後援会に寄附することについて,適法であると説明する一方,会議等では,このように他の政治団体を経由させることに関して,

厳密に言えば,露骨な迂回なんですよね。

などと発言し,このような発言に対してこの場だからおっしゃっていただいていいんですけど,あまりよそじゃなどと注意をされると,

表じゃ言えないことなんですけど。

との発言もしている(原審甲156資料3〔9冊3196丁〕)。また,他の者の

ここではいいけど,ほかではね。

などの発言にも同調の態度を示している(原審N214丁)。被告人は,会議等でこのような発言をしつつも,顧問弁護士に対して,別の政治団体を経由して実質的に5000万円を超える寄附
を行うような政治活動資金の運用方法について具体的に相談をした形跡もうかがわれない(原審N267,337丁)。被告人について,当然に違法性の意識があったといえるとした原判決に不合理なところはない。
第3

収支報告書の虚偽記入等について

1
原判決の認定理由の骨子



原判決(51頁以下)は,まず,政治資金規正法は,政治活動が国民の不断
の監視と批判の下に行われるようにするために,政治資金の収支の公開や政治資金の授受の規正を講ずることにより,政治活動の公明と公正を確保することを目的としており(同法1条),この目的を達するため,同法は,政治団体の会計責任者に対し,政治資金の収支の公開の基礎となる収支報告書の提出を義務付け(同法12条),同報告書によって政治資金の収支等を国民の前に明らかにすることを最重要視しているとする。そして,この趣旨は,政治団体として届出をする前に寄附又は受寄附をしたり(同法23条),収支報告書等の提出を怠り,又はこれらに一定の記載をせず,若しくは虚偽の記入をしたり(同法25条1項各号)して,政治資金の収支について,国民の不断の監視と批判の下にさらすこと自体を免れる行為につ
いて,同法違反の罪のうちで最も重い法定刑を定めていることからも明らかである(同法第6章参照)とする。また,同法では,本人の名義以外の名義又は匿名で政
治資金に関する寄附をしてはならないとして(同法22条の6),寄附主体を偽る行為をも規制しているが,その趣旨も,寄附の量的制限,質的制限の実効性確保のみにとどまらず,国民の前に実態に即した政治資金の収支を公開することによってこそ,政治活動の公明と公正を確保することができるという同法の本来的目的達成にあると考えられるとする。
原判決は,このような政治資金規正法の趣旨及び同法における収支報告書の重要性に鑑みれば,同法は,収支報告書に記載すべき政治資金の収支について,形式と実態がかい離するなどということ自体およそ想定も許容もしておらず,収支報告書に記載すべき事項が客観的資料や帳票類に基づいている必要があることはもちろん,
そもそもそのような資料が政治資金の収支の実態と一致していることは当然の前提にしているとする。


そして,原判決(52,53頁)は,①ないし③の資金移動のうち,②,③
の資金移動については,その実態は,平成22年5月13日にAからCに5000万円の寄附が行われ,Cは同日Aから5000万円の寄附を受けたものであり,これが,Gを経由する②,③の資金移動の形をとり,Gとの間の資金移動のみが収支報告書に記載されたのは,AとC間の平成22年中の寄附,受寄附が①の資金移動と合わせて合計1億円となり,5000万円ルールに抵触するのを外形上回避しようとしたことに尽きるとする。また,原判決(68頁)は,⑥,⑦,⑨の資金移動のうち,⑥,⑦の資金移動については,その実態は,平成25年1月23日にAか
らBに5000万円の寄附が行われ,Bは同日Aから5000万円の寄附を受けたものであり,これが,Cを経由する⑥,⑦の資金移動の形をとり,Cとの間の資金移動のみが収支報告書に記載されたのは,AとB間の平成25年中の寄附,受寄附が⑨の資金移動と合わせて5000万円を超え,量的規制に抵触するのを外形上回避しようとしたことに尽きるとする。

したがって,平成22年分のA及びC並びに平成25年分のA及びBの各収支報告書の内容は,記載すべき事項を記載しなかったもの,ないし,虚偽の記入をした
ものに当たると判断している。
2
以上の原判決の認定は,関係証拠の内容に沿うものであって,経験則等に照
らして不合理なところはなく,虚偽記入等に当たるとした判断にも誤りはない。3
所論について



これに対し,所論は,収支報告書には,客観的な資金移動を正確に記入すべ
きところ,本件で問題とされている前記の各収支報告書の内容は,いずれも客観的な資金移動に沿うものであって,かつ,これを裏付ける帳票類が添付されている,帳票類に基づいた客観的な報告書の記載のみから資金移動を把握できること自体が,法の趣旨に適うものであり,客観的資料に基づく一連の流れを無視して,原判決がいう実態なる事情を勘案した記載を義務付け,本件のような記載を虚偽記入等と判断するとすれば,現在の実務が大混乱に陥ることは明白である,本件の各収支報告書の記載を虚偽記入等と認定した原判決には,法令適用の誤りがある,などという。
しかし,原判決が説示するとおり,政治資金規正法は,政治活動が国民の不断の
監視と批判の下に行われるようにするために,政治資金の収支の公開や政治資金の授受の規正を講ずることにより,政治活動の公明と公正を確保することを目的としており(同法1条),収支報告書は,この目的を達成するために,政治資金の収支等を国民の前に明らかにするものである。量的制限違反を免れるため,他の政治団体を形式的に介在させることによって,実質的な寄附者を偽るような行為を許すこ
とが,かかる法の趣旨に反することは明白であり,いくら実態とかい離した迂回寄附であろうと,形式的な資金移動と合致さえしていれば,虚偽記入にはならないというのでは,法が目的とする政治活動の公明と公正は確保しえない。所論は,資金の客観的動きが,仮に原判決のいうところの実態と一致しないとしても,客観的な資金移動さえ記載されていれば,資金の流れを客観的に把握でき,政治資金の収支
の公開により,これを国民の監視と批判の下に置き,政治活動の公明と公正を確保するという法の目的は揺るがない旨も主張する。しかし,実態を覆い隠すべく巧妙
に迂回して寄附を行うことをも収支報告書の記載上は許容し得ることとなるかかる見解が,法の趣旨にそぐわないことも明らかである。また,寄附主体を偽るような寄附を行うこと自体許されないことは当然であり,収支報告書においても,客観的な資金の動きが実態と一致していることは当然の前提であるから,実態に反する記入を虚偽記入とすることによって実務が混乱するなどということもおよそ考え難い。本件各収支報告書の記載について,虚偽記入等と認めた原判決に法令適用の誤りはなく,所論は採用できない。


また,所論は,被告人は,本件各資金移動を示す会計帳簿,伝票,銀行口座
の記録など,いずれの点から見ても,提出された収支報告書の記載が,一点の疑いもなく正しいと認識しており,法を犯すという意識は微塵もなかった,被告人の認識という観点からも収支報告書への虚偽記入等の罪が成立しないことは明らかである,という。
そこで検討すると,平成22年分のA及びCの各収支報告書は,Aの事務局で会計事務を担当していたPが作成し,いずれも被告人がその内容を確認している(原
審P475~481丁)。Aの収支報告書については,被告人が,内容に相違がない旨の宣誓書に押印もしている(原審甲10・2冊299丁)。また,平成25年分のA及びBの各収支報告書についても,いずれも被告人がその内容を確認した上で,内容に相違がない旨の各宣誓書に署名,押印をしている(原審Q378,379丁,同甲13・3冊517丁,同甲14・3冊540丁)。そして,被告人は,
前記のとおり,5000万円ルールの存在を明確に認識し,これを強く意識していたからこそ,これに抵触しないように見える外形を作出するために,②,③の資金移動及び⑥,⑦の資金移動を行い,本件各収支報告書にその旨の虚偽の記入等を行った収支報告書を作成しているのであって,原判決(56,68頁)がその旨指摘し,被告人には当然に違法性の意識があったと認められるとしたことに不合理なと
ころはない。
第4

結論

その他,所論が種々指摘するところを検討しても,寄附の量的制限違反と収支報告書の虚偽記載等を認めた原判決の認定,判断は,関係証拠に沿うものであって,経験則等に照らして不合理なところもなく,法令適用の誤りも認められない。論旨はいずれも理由がない。
よって,刑訴法396条により,主文のとおり判決する。
平成30年10月11日
東京高等裁判所第2刑事部

裁判長裁判官

青柳勤
裁判官

北村和
裁判官

溝田泰之
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