判例検索β > 平成28年(わ)第5349号
背任、電磁的公正証書原本不実記録・同供用、詐欺被告事件
事件番号平成28(わ)5349
事件名背任,電磁的公正証書原本不実記録・同供用,詐欺被告事件
裁判年月日平成30年6月15日
裁判所名・部大阪地方裁判所  第1刑事部
裁判日:西暦2018-06-15
情報公開日2018-07-23 20:00:09
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主文
被告人を懲役4年10月に処する
未決勾留日数中300日をその刑に算入する。
本件公訴事実中平成28年6月15日付け起訴状記載の詐欺の点
(平成29年11月8日付け訴因変更請求書による訴因変更後のもの)については,被告人は無罪
理由
(犯罪事実)
被告人は,
第1

A大本山B寺の末寺であるC寺の代表総代を自称していた者であるが,C寺の住職であり,宗教法人C寺の代表役員であるDことEと共謀の上,F株式会社から,財団法人(現一般財団法人)Gが所有する座禅研修施設であるGの改修工事及び宗教法人B寺が所有する事業施設であるHの建替工事の工事請負に関する建設保証金の名目で現金をだまし取ろうと計画し,真実は,同財団法人,同宗教法人及び宗教法人Aにおいて,前記各工事を発注する意思はなく,工事代金等を支払うことができるだけの資金の確保も計画しておらず,かつ,E及び被告人に各工事の発注権限を与えた事実もなかったのに,これらがあるかのように装い,平成25年4月頃,京都府宇治市ab番地所在の前記B寺及び同市cd所在の前記Gの各施設内等において,複数回にわたり,被告人が自ら,あるいは,情を知らないIらを介して,F株式会社の代表取締役であるJに対し,
工事は,Gの改修工事とB寺Hの建替工事の2件です。最初にGの改修工事をしてから,Hの建替工事をします。工事予算は,Gが17億円くらいで,Hが5億円くらいです。条件として,先に3億円を建設保証金として出していただきます。この3億円は,請負工事代金に含めてお返しします。3億円は,Gの理事を入れ替えるための退職金に使います。「2件の工事とも,AB寺が末寺から集める寄付金で工事します。Gは,B寺の所有地に建っていて,Aの僧侶の宿泊施設として建てられたものなので,B寺で集めた寄付金をその建設資金に充てることができます。2件の工事とも,Aの許可は出ています。」な
どとうそを言い,Jをして,F株式会社が建設保証金として3億円を支払えば,F株式会社が前記各工事を受注でき,建設保証金3億円の返還分を含む請負工事代金全額の支払を受けられるものと誤信させ,よって,同年5月30日,Jをして,F株式会社

銀行L支

店に開設された被告人名義の普通預金口座に2億円を振込入金させるとともに,同月31日,前記Gにおいて,Jから現金1億円の交付を受け,もって人を欺いて財物を交付させた
第2

M株式会社の代表取締役であるとともに,C寺の代表総代を自称していた者であり,前記Eは宗教法人C寺の代表役員であるが,E及び被告人は,平成24年1月25日頃,C寺が,株式会社Nから1億5000万円を借り入れるに当たり,E及び被告人において,その頃から平成26年3月11日頃にかけ,C寺あるいはEが所有する別紙物件目録記載の不動産合計11物件(以下本件不動産という。)に係る登記済証等,所有権移転登記に必要な書類を株式
会社Nの代表取締役Oに交付して預け,同人との間で,C寺が前記1億5000万円及びその利息金等(以下借入金等という。
)を株式会社Nとの間で
定めた支払期限までに株式会社Nに支払わなければ,本件不動産の所有権を株式会社Nに移転する登記を行うことを了承する旨合意した上,同年5月20日,株式会社Nから,既に支払期限が経過しており,同月22日までに借入金等を支払わなければ本件不動産の所有権移転登記を行う旨の通知を受けたにもかかわらず,同日までに借入金等を支払わなかったのであるから,株式会社Nが本件不動産の所有権移転登記手続を行う際には,前記合意に従い,速やかにこれに協力すべき任務を負っていたのに,その任務に背き,同移転登記の申請手続について委任を受けたP

h町i番地

j所在の松山地方法務局に対して,同年4月30日付けでEあるいはC寺が本件不動産を株式会社Nに売買した旨の所有権移転登記申請をしたことに対し,同移転登記を妨害することで,C寺及びEの利益を図り,株式会社Nに財産上の損害を加える目的で,共謀の上,Eにおいて,同年5月29日頃,同法務局において,同法務局登記官に対し,

権利書が搾取されたため,不正な登記の申請がされるおそれがある。

などとする内容虚偽の記載をした不正登記防止申出書等を提出した上,同年6月10日,同法務局において,同法務局登記官に対し,

私の知らぬうちに登記申請がなされた。代理人とは会ったことがない。

などと虚偽の申立てをするなどし,同法務局登記官をして,同月23日付けで前記登記申請を却下させ,これに引き続き,E及び被告人において,同年7月8日,同法務局において,情を知らないQをして,同法務局登記官に対し,本件不動産に対し,平成22年12月9日付けでM株式会社を根抵当権者,EあるいはC寺を根抵当権設定者,C寺を債務者とする極度額2億円の共同根抵当権を設定した旨の内容虚偽の共同根抵当権設定登記の申請をM株式会社及びEあるいはC寺の共同申請名義で行い,平成26年7月15日頃,同所において,情を知らない同法務局登記官に,本件不動産の登記簿の原本として用いられる電磁的記録である登記記録にその旨不実の登記をさせ,これをその頃同所に備え付けさせて公正証書の原本としての用に供するとともに,本件不動産に株式会社Nの所有権に対抗し得る共同根抵当権を設定し,さらに,E及び被告人において,同月18日及び同年8月27日,同法務局において,情を知らない前記Qをして,同法務局登記官に対し,同年4月10日付けでEあるいはC寺が本件不動産を宗教法人R寺に寄付した旨の内容虚偽の所有権移転登記の申請を同宗教法人及びEあるいはC寺の共同申請名義で行い,同年7月28日及び同年9月1日頃,同所において,情を知らない同法務局登記官に,本件不動産の登記簿の原本として用いられる電磁的記録である登記記録にその旨不実の登記をさせ,これをその頃同所に備え付けさせて公正証書の原本の用に供するとともに,本件不動産に株式会社Nの所有権に対抗し得る所有権移転登記を行い,もって株式会社Nに財産上の損害を負わせた
ものである。
(証拠の標目)
省略
(事実認定の補足説明)
第1
1
判示事実第1について
公訴事実のうち,欺罔行為以外の事実関係については概ね争いはない。争点は,欺罔行為の有無,被告人の故意及び共謀の有無である。検察官は,公訴事実記載の欺罔行為が認められ,被告人の故意に欠けるところはなく,共謀も成立すると主張する。弁護人は,被告人が公訴事実記載の欺罔文言を述べた事実はなく,また,被告人は,共犯者から実際に工事を行うものと聞かされてこれを信じていたので,詐欺の故意が無く,従って共謀も成立しないと主張する。
2
そこで,まず,欺罔行為の有無について検討する。本件詐欺の被害者であるJの供述調書並びにJが欺罔された場に同席していた証人I及び証人Sの当公判廷における各証言によれば,犯罪事実欄記載のとおり欺罔行為が認められ,それによれば,もっぱら被告人から,本件各工事の資金が末寺からの寄付金であるなどと聞いたことが認められる。
被害者であるJの供述調書の内容は,当公判廷において弁護人による反対尋問を経ていないものではあるものの,証人Iや証人Sの各証言の内容と相互に符合している上,末寺からの寄付金が原資になるという点については,被害者であるJの立場からしてそのように信じたことは自然で合理的であり,また,JらがB寺を訪れた際に,多額の寄付金で建てられた旨の立て札を見せられたことをその根拠の一つとして挙げているところ,実際にそのような立て札が存在すること(甲67)にも支えられており,その信用性は十分に認められる。これに対し,被告人は,本件各工事の資金について,EがT教団4代目教祖になった暁に同教団の資金から出す旨説明したものであって,末寺からの寄付金で行うとの説明はしていないし,JらがB寺を訪れた際に立て札に案内したこともないなどと供述している。確かに,実際に被告人らは,別の会社に対し,本件各工事をT教団の資金で行う旨説明したことがあったことからすると,被告人がJらに対しても,同様の話をした可能性は否定できない。しかし,虚偽の事実を告げて貸し付けを受けようとする者としては,資金繰りについて複数の虚偽の話をすることも考えられ,実際に,Sの証言によれば,本件の資金に関連して,Eの養母の外国銀行における資産の話なども聞き,支払能力について信頼したというのであるから,資金繰りについて複数の話をしていたとしても特段不自然であるとまでは言えない。そうすると,被告人の供述によっても,被害者の供述の信用性が否定されるという関係にはないし,Jらが,B寺の立て札に関する説明を受けていないのに,そのような話を作る理由も考え難いことからすると,被告人の供述が,Jらの供述や証言の信用性を否定するものとは言えない。
以上のことからすると,犯罪事実欄記載のとおりの欺罔行為が認められる。なお,平成29年2月14日付け起訴状記載の公訴事実には,Jに対する一連の欺罔文言について,
E及び被告人が自ら,あるいは
I
らを介して
うそを言ったこととなっているが,当公判廷で証言した関係者の中でEが一連の欺罔文言の一部を述べたことを明確に証言している者はおらず,いずれも曖昧な証言にとどまっていることからすると,EがJに対して自ら発言したことについては合理的な疑いが残るのであって,判示のとおり,一連の欺罔文言は被告人が自ら,あるいは
I
らを介してうそを言ったものと認定
した。
3
次に,被告人の故意及び共謀について検討する。上記のとおり,詐欺の外形的事実が認められ,特に,もっぱら被告人において欺罔文言を述べたことが認められる上,その後に実際に寄付を募る行為や工事を進展させる現実的な行動をとっていないことなどからすると,被告人においても本件各工事の権限がないことや,資金調達の話が虚偽であることについて認識していたものと推認でき,詐欺の故意や共謀に欠けるところはない。
この点,被告人は,当公判廷において,共犯者であるEから,HについてはU総長が発注権限を持っていると聞いており,お金は住職がTから出すので,二人の意見が一致すれば発注できると思っていた,Gについては,理事長は住職であり,同じく建設資金はT教団からのお金で払うということで聞いており,住職の権限で建つものだと疑っていなかったなどと供述している。しかしながら,宗教法人や財団法人において,法律上そのような仕組みにはなっておらず,法人の中の何らかの組織の承諾行為が必要であることはいわば常識であり,総長や理事長の権限で建築ができると思っていたとする被告人の供述は不自然,不合理と言わざるを得ない。加えて,捜査段階において,U総長から委任状をもらったことに関連して,総長に権限がなかったことについて知っていた旨の供述をしていながら,当公判廷では上記のとおりこれと異なる供述をしており,その変遷について合理的な説明ができていないと言わざるを得ないことも合わせ考慮すると,被告人の上記弁解は信用できない。
4
第2
1
以上のことからすると,被告人には判示のとおり詐欺罪が成立する。判示事実第2について
被告人が公訴事実記載の行為をしたことについては争いはない。争点は,共謀の有無である。検察官は,被告人と共犯者との間の共謀が認められると主張し,弁護人は,被告人は共犯者の指示を仰いで実行したもので,被告人には正犯意思がなく,共同正犯は成立しないと主張する。

2
関係各証拠によれば,判示事実第2にかかる犯罪事実に該当する外形的事実が認められる上,これらの行為は,Eの指示の下に行われたことが認められる。そして,その犯罪の実行行為のうち,内容虚偽の共同根抵当権設定登記の申請はまさに被告人も申請名義人の一人である上,その他の実行行為についても,内容虚偽の記載をした不正登記防止申出書等を
実際に法務局に提出し
権移転申請を,情を知らないQに行わせた件についても,被告人は関与している。そのときの被告人の認識について見ても,被告人は,犯罪事実記載の株式会社Nからの1億5000万円の借り入れの当初から,Eに代わっていわばその窓口役として借入の案件を進めていたものであり,その返済ができずに支払いを求められるや,株式会社Nに返済の猶予を申し入れたり,追加担保の求めがあると,これをEに伝えるなどしてもいることからすると,本件において,内容虚偽の不正登記防止申出書を提出することや,内容虚偽の登記申請をするなどの行為が,株式会社Nの利益を害することになることについては,十分認識できたものといえる。そうすると,被告人は,Eの指示に基づくものであったとはいえ,本件犯行時において,自己の行為が犯罪の実行行為にあたることを十分に認識できたにもかかわらず,上記の実行行為の全てに関与したものと認められるのであって,被告人において,本件犯行に関する共謀に欠けるところはない。
弁護人は,被告人がEから受けた命令を機械的にこなしていた道具に過ぎないなどと主張するが,被告人は,Jらから追加担保を求められた際,これを渋るEを説得してこれに応じさせるなどもしているのであって,本件犯行を通じて被告人がEの道具に過ぎなかったとは到底評価できず,幇助犯が成立する余地はない。
第3
記載の事実(平成29年11月8日付け訴因変更請求書による訴因変更後のもの)について
1
本件公訴事実は,

被告人は,レストランの経営等を目的とする株式会社V(平成26年7月1日付けで株式会社Wに商号変更。以下「株式会社V

という。
)の代表取締役として,同社の業務全般を統括していたものであるが,融資実行の判断材料となる売上高や借入金額等の重要情報を偽り,飲食店Xの開店資金の融資名目でY信用金庫本店営業部から金員をだまし取ろうと考え,真実は,株式会社Vが同信用金庫から融資を受けるために提出していた決算報告書が,実際の金額よりも売上高を増やし,借入金額を減らすなどした内容虚偽のものであった上,新たに同信用金庫から受けようとする融資金は,かねてから行っていた株券等の先物取引の証拠金等に充てる意図であるのに,これらの情を秘し,平成21年9月上旬頃,松山市k町l丁目m番地n所在の同信用金庫本店営業部において,同営業部部長Zに対し,
Xの工事代金として2
億685万円が必要である旨の概算見積書並びに実際の金額よりも売上高を増やし,借入金額を減らすなどした内容虚偽の合計残高試算表等を順次提出した上,同月16日,前記Zを介して,同信用金庫本店審査第一部審査課長αらに対し,
Xの開店資金として2億円の借入れを申し込み,前記αらをして提出資料の記載内容が真実であり,融資金はXの開店資金に充てるものと誤信させ,よって,同月28日,同信用金庫代表理事βに株式会社Vへの2億円の融資を決定させた上,同月30日,同信用金庫本店営業部職員をして,同信用金庫本店営業部に開設された株式会社V名義の普通預金口座に2億円を振込入金させ,もって人を欺いて財物を交付させたものである。
」というものであ
る。
2
本件公訴事実のうち,株式会社Vが融資先に提出した書類に実態と異なる記載があったことには争いはない。争点は,被告人による欺罔行為の有無及び被告人の故意である。検察官は,被告人が欺罔した内容を含めて公訴事実通りの事実が認められ,被告人の故意に欠けるところはないと主張する。弁護人は,被告人が開店資金名目で融資を受けたい旨述べたとする欺罔行為はなく,また,提出書類は別の者が作成していたことから,実態と異なる記載があったことを認識しておらず,故意が無いと主張する。

3
そこで検討すると,当時被害を受けたとされるY信用金庫で本件融資を担当していた証人Zは,当公判廷において,被告人からXの開店資金の名目で融資の申し込みを受け,稟議を経た上で,開店資金として融資を実行した,他の金融機関から既にその目的で別途融資を受けていると知っていたら,融資はしなかったなどと証言している。このZ証言については,それと整合する各種稟議書類や契約書類が存在することからすると,一応信用することができ,本件公訴事実のような欺罔行為があったとする疑いは十分に認められる。しかしながら,被告人は,当公判廷で次のように供述している。すなわち,Y信用金庫の理事長は,C寺の檀家で,住職とは非常に親しくしており,平成21年10月に住職がEからDへと改名する襲名披露パーティーの発
期運転資金ということで話が進んでいたが,γ銀行から融資がおりたのでいっZ部長から,理事長が決裁を出されているので
今更取り下げることはできない,今回は契約書上,店舗資金と書くけども長期Zから,
理事長が既に決裁を出されているので,連帯保証人は必要ないと言われた,などというのである。
上記のような被告人の供述を否定するような客観的な証拠は見当たらないば
は,他の書類から推測される被告人の筆跡とは一見して異なる筆跡で住所や連帯保証人欄の被告人の名前が記入されていたり
6資料13)
貸し付けているところ,Y信用金庫という地域金融機関の規模からするといささか不可解な面が見られたりすることなど,むしろ被告人の供述を前提にするとよく説明できる事情が認められるのである。そうすると,被告人の上記供述を完全には排斥することはできないと言うべきである。
以上のことからすると,本件融資がXの開店資金であって,その旨の申込みをしたとする被告人の欺罔行為を認めることについては,合理的な疑いが残ると言わざるを得ない。
4
また,被告人の詐欺の故意についても,以下に述べるとおり,これを認めることには合理的な疑いが残る。
まず,上記のとおり,株式会社Vが融資先に提出した書類に実態と異なる記載があったことには争いはないし,関係各証拠によってもその事実は十分認められることからすると,株式会社Vの代表取締役であった被告人がこの事実を知らないことは通常は考え難いところであるし,当時の株式会社Vでは,営業日報のデータが被告人を含む幹部に電子メールで送信されていたり,売り上げ等をまとめた月報を作成して被告人に交付したりしていたというのであるから,被告人が上記の実態と異なる記載があったことを知っていた疑いは十分に認められる。
しかしながら,被告人は,当公判廷で次のように供述している。すなわち,株式会社Vの経理のうち,日々の会計管理や資金繰りは,住職が,パソコンを2台C寺に持ち込み,1台で会計ソフトを使い,もう1台で私のメール
職がお寺のパソコンで着信すると,自分の方ではもう別のパソコンでは見られっており,自分は
中身をよく見ておらず,金融機関から質問されたときは,いったん引き取って株式会社Vで実態と異なる記
載をした書類を融資先に出したことは認識しておらず,もし認識していたら,平成22年2月頃にY信用金庫で支店長などを歴任した元職員を株式会社Vにδ銀行から仮差押を受けた
後は,自分も会計の中身などを把握し,債権者に説明することができるようになった,などというのである。
この供述自体,いささか不可解な点を含んでおり,そのとおり全体を信用できるものとまでは言い難いが,さりとて,これを覆すだけの十分な証拠があるC寺にパソコンがあったかどうかについては,
被告人自身既に廃棄したものと供述しているのであって,その真偽を確かめよ
株式会
社Vの経理の内容を把握していたとか,外部に説明したと明確に言えるようなY信用金庫の元
職員を雇用した件については,確かに,取引先に粉飾の事実を知られかねないかなり危険な行為であって,被告人が粉飾の事実を知らなかったのではないかという疑いを払拭できず,被告人の供述を完全には排斥することはできないと言うべきである。
株式会社Vの従業員が,被告人から一
部の店舗の売り上げの水増しを指示された旨や,被告人が金融機関に財務内容
平成22年4月に,一部の店舗の会議で売上目標達成に関する発言や,具体的な売

段階において公判における証言拒絶権について十分に説明がなされていなかったようであり,公判廷では被告人の関与についてその証言の一部を拒絶するなどしていることからすると,その証言や供述の信用性については慎重に判断する必要がある。そして,被告人は,この点について,Eが被告人を装って送ったメールの指示を自分の指示と勘違いした可能性や,平成22年8月以降のことと混同している可能性などを指摘しているところ,このような被告人の指摘
を見ると,確かに少なくとも平成22年4月の会議における発言(平成29年は,財務内容に関する発言と見るのが普通であ
り,その限度では被告人の供述とは矛盾するものと言い得るが,これとて結局は本件犯行以後のものであって,本件犯行時における被告人の認識を裏付けるものとまでは言えないことからすると,上記のとおりの被告人の弁解全体を排斥するものとまでは言い難い。
以上のことからすると,本件公訴事実について,被告人の故意を認めることについては,合理的な疑いが残ると言わざるを得ない。
5
結局,平成28年6月15日付け起訴状記載の公訴事実(平成29年11月8日付け訴因変更請求書による訴因変更後のもの)については,犯罪の証明がないことになるから,刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言渡しをする。

(法令の適用)
被告人の判示第1の所為は刑法60条,246条1項に,判示第2の所為のうち,任務違背の点は同法65条1項,60条,247条に,虚偽の申立てにより登記簿原本に不実の記載をさせた点は各不動産ごとに同法60条,157条1項に,不実の記録を公正証書の原本としての用に供した点は各不動産ごとに同法60条,158条1項,157条1項にそれぞれ該当するが,各登記簿原本の不実記載とその各供用との間にはそれぞれ手段結果の関係があり,また,判示第2は,1個の行為が25個の罪名に触れる場合であるので,同法54条1項前段,後段,10条により結局以上を1罪として犯情の最も重い背任罪の刑で処断することとし,判示第2の罪について所定刑中懲役刑を選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い判示第1の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役4年10月に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中300日をその刑に算入することとし,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
詐欺事件について見ると,本件は,共犯者Eの宗教法人における社会的地位に対する被害会社の信頼を悪用し,発注権限のない工事の発注と引き換えに3億円という極めて多額の金銭を騙し取ったもので,犯行態様は悪質であり,今後もその弁済が見込まれるような状況にないことを考慮すると,犯行の結果も極めて重大である。背任等事件についても,1億5000万円という多額の融資金に対する担保の実行が妨害されたというもので,同様に犯行の結果が重大であるばかりでなく,虚偽の不動産登記を作出して妨害した点で,その犯行態様も悪質であり,不動産登記に対する社会の信用も著しく害されている。以上のことからすると,本件全体の犯情は非常に悪質である。
このような一連の犯行において,被告人は,その実行行為の大半を分担したものであるところ,被告人がそのような行為を行ったのは,共犯者Eにかなり心酔し,その指示を受け入れてこれに従った面が大きいことは否定できないから,その点は相応に評価するべきではある。もっとも,本件各犯行は,共犯者Eに対する信用を利用するためにも,実際に交渉等を行う人物が必要不可欠であったといえ,被告人と共犯者Eとはお互いがお互いを利用し,補完し合う関係にあったものと評価でき,その意味で,被告人の役割は本件犯行に必要不可欠で重要なものであったといわざるを得ない。
そうすると,被告人にはみるべき個人的な利得が証拠上うかがわれないことを考慮しても,被告人の刑事責任は,共犯者Eに比べてやや劣るものの,なお重大である。
そこで,被告人が被害弁償の努力はしていること,僧籍を返上するなど共犯者Eと縁を切ることを誓っていること,被告人の更生を支える家族がいること,みるべき前科前歴はないことなど,被告人のために酌むべき事情が存在することを考慮し,主文掲記の量刑を定めることとした。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑

懲役8年)

平成30年7月4日
大阪地方裁判所第1刑事部

裁判官

香川
(物件目録省略)

徹也
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