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建造物侵入(変更後の訴因・建造物侵入、非現住建造物等放火)被告事件
事件番号平成28刑(わ)898
事件名建造物侵入(変更後の訴因・建造物侵入,非現住建造物等放火)被告事件
裁判年月日平成29年7月20日
裁判所名・部東京地方裁判所  刑事第8部
裁判日:西暦2017-07-20
情報公開日2019-02-02 13:03:23
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事件番号

平成28年刑(わ)第898号

被告事件名

建造物侵入(変更後の訴因・建造物侵入,非現住建造物等放火)被告
事件
宣告日

平成29年7月20日

宣告裁判所

東京地方裁判所刑事第8部
主文
被告人を懲役3年6月に処する
未決勾留日数中310日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,金品窃取の目的で,平成28年4月12日午後1時18分頃から同日午後1時23分頃までの間,Aほか1名が所有し,株式会社B代表取締役Cの看守する東京都新宿区D町E丁目F番G号所在のH(木造トタン葺2階建店舗居宅,延床面積約43.4平方メートル)に無施錠の出入口ドアから侵入し,その頃,同店舗2階において,何らかの方法で同所内に火を放ち,その火を同所の柱,床等に燃え移らせるとともに,同店舗に隣接するIが所有するJ(木造トタン葺3階建店舗居宅,延床面積約22.7平方メートル),同店舗に隣接するKが所有するL(木造トタン葺2階建店舗居宅,床面積約10.2平方メートル)及び同店舗に隣接するMが所有するN(木造トタン葺3階建店舗居宅,延床面積約31.5平方メートル)に順次燃え移らせ,よって,現に人が住居に使用せず,かつ,現に人がいない建造物であるH2階部分(焼損面積約20.2平方メートル),J2階及びロフトの一部(焼損面積約9.0平方メートル),Lの一部(焼損面積約0.1平方メートル)並びにN2階及び3階の一部(焼損面積約7.2平方メートル)を焼損した。
(事実認定の補足説明)


括弧内の証拠は,認定に用いた主要証拠を指し,証人の公判供述については
供述者名の後に速記録の丁数を付している。
第1

事案の概要及び争点1

事案の概要等

本件は,繁華街の長屋形式に連なる店舗4軒を焼損した火災につき,被告人が放火したとされる事案である。
関係証拠によれば,次の事実が容易に認められる。すなわち,本件火災の出火建物は,南北に判示各建物がつながる長屋の最北端に位置する判示H(以下本件建物という。)である。その2階(以下本件現場という。)は,1階北側にある青色ドア(以下本件ドアという。)より入ってすぐの階段からしかたどり着けない独立したワンフロアの改装中の空き店舗で,大きさは東西約4.22メートル,南北約5.3メートルで,北壁に1か所,西壁に2か所,東壁に1か所及び東壁ロフト部分に2か所の窓をそれぞれ有し,東端北寄りに階段が,その南側にトイレがあり,中央部分を境に北側床が南側床よりも約30センチメートル高くなっており,床面の焼損が最も激しい北側部分が出火箇所であった。本件当日午後0時25分頃までに本件現場で内装工事をしていたOら作業員(以下Oらという。)が退出して以降,本件火災の発生が確認された同日午後1時31分頃までの間に本件ドアから本件現場へ出入りしたのは,同日午後1時18分頃に侵入し,同日午後1時23分頃に退出した被告人だけであった。
2
争点

被告人は,金品窃取の目的で本件現場に侵入したものの放火はしていない旨述べ,これを受けて弁護人は,本件火災が放火以外による可能性を排斥できない上,被告人が放火した犯人であると認めるに足りる証拠もないとして非現住建造物等放火については無罪である旨主張する。そこで,本件の争点は,①本件火災が放火によるものか否か(事件性)及び②放火をしたのが被告人か否か(犯人性)の2点である。第2

本件火災が放火によるものか否か(事件性)

本件火災の原因としては,放火以外に電気,ガス,自然発火,たばこの不始末,その他火源となる物が想定しうるところ,以下のとおり,これらの可能性は排斥でき,本件火災は放火によるものであると認められる。
1
証人P及び証人Qの各証言

(1)証人Pは,次のとおり,本件火災について,ガス,自然発火及びその他火源となる物が原因である可能性はなく,電気やたばこの不始末が原因である可能性は考えられるもののゼロに近く,放火によるものである可能性が高い旨証言する。ア
まず,ガス火災の可能性については,本件現場にはガス給湯器及びカセット
コンロがあったものの,前者はガス管と接続されておらず,後者はボンベ缶が設置されていなかったこと,本件火災後の気密検査で本件建物内のガス管にガス漏れは確認されなかったこと,本件建物の燃え方が,爆発により壁が内側から外側に広がるなどのガス火災の特徴を有していないことなどから,否定される。また,自然発火やその他火源となる物による火災の可能性についても,本件建物において自然発火するような油,塗料等の物件は認められなかったことや本件建物において発見されたスプレー缶やボンベ缶,コーティング剤等は着火物にはなっても発火源にはならないことから否定される。

電気火災の原因としては,電気配線のショート,コンセント部分のトラッキ
ング,電気器具の故障による発熱・発火等が考えられる。このうち,トラッキングは,コンセントとプラグの差刃の隙間に付着したほこりや水分に電気が流れて発熱,発火する現象であるところ,その痕跡である溶断したプラグの差刃は本件建物内から発見されず,また,電気器具の故障については,本件現場で発見されたアイロン,電気ストーブ,クリップライトにそれ自体から火災が発生した痕跡は見つからなかった。そして,電気配線のショートについては,これが生じた場合,ショートした配線の先端に,配線の太さよりも少し大きく,若干光沢を帯びた球状のショート痕又は短絡痕と呼ばれる痕跡が発生する。本件建物内からは,このようなショート痕が,2階北側床面の東側部分にあった器具コードの束(甲73中の現場見分調書(1)(第3回)写真19。以下本件コード束という。),2階南側床面の中央付近にあった配線(同写真5),階段の下から2段目及び6段目にあった各配線(甲73中の現場見分調書(1)(第2回)写真6,8。以下,下から2段目にあった配線を本件配線という。),本件建物1階に設置された分電盤の裏側の屋内配線(甲73中の現場見分調書(1)(第5回)写真9,10)の計5か所で確認された。ショート痕が出火原因である一次痕か火災によって生じた二次痕かの判断は周囲の状況を見なければ困難であるところ,本件現場から発見されたショート痕のうち,本件コード束以外のものは,出火箇所と離れた場所にあったので出火原因である可能性は低い。本件コード束から発見されたショート痕については,本件コード束に電気器具が接続されていたとは認められず,このような場合に自然にショートが起こることは考えにくい。そのため,これらの5か所のショート痕はいずれも火災の熱で配線の絶縁体が溶けた結果生じた二次痕であると考えられ,出火原因である可能性はかなり低く,本件火災が電気によるものである可能性は限りなくゼロに近い。ウ
たばこの不始末については,火種が布団や畳に落下したときに無炎燃焼とい
う現象が生じ,その後,周囲の可燃物に着火して有炎燃焼に移行することがよくあるが,本件現場には無炎燃焼を引き起こすような布団や畳はなかった。そして,本件現場の床は木の板であって,たばこを落としても周囲が少し炭化する程度でそのまま自然鎮火するにとどまると思われ,現に,本件現場の床や発見されたたばこの吸い殻及び灰皿の周辺に,無炎燃焼の痕跡である焼け込みと呼ばれる炭化した深い溝は見つからなかった。また,本件現場には紙類等があったが,この辺りにたばこが置かれて無炎燃焼が生じた場合,条件にもよるが早ければ10分から15分で燃え上がることから,本件火災発生確認から1時間以上前に退出したOらのたばこの不始末が原因であれば火災はもっと早く起きた可能性が高い。たばこの不始末が本件火災の原因である可能性は考えられるもののゼロに近い。

他方,放火の可能性については,本件ドアに施錠がされていなかったことや
出火箇所に紙類等の可燃物で燃えやすいものがあったことから,他の出火原因より高いと思う。そのような紙類にライターの火で点火すれば,二,三分ないし5分で燃え上がり,10分くらいあれば窓から炎が噴き出す可能性がある。(2)また,本件火災の原因が電気であるか否かに関しては,証人Qが電気火災をうかがわせる痕跡はなかった旨述べ,その理由について,次のとおり証言する。すなわち,電気火災の主な原因としては,器具コードからの出火,トラッキング,抵抗発熱,漏電火災,電気器具の不適切使用がある。本件建物の屋外設備や分電盤自体,分電盤から2階に引き込まれる屋内配線の断線部分,屋内配線の切れ端や器具コードの束,電工ドラム,コンセント,テーブルタップ,クリップライト,換気扇,照明など電気火災に関係しそうなものを一通り確認したが,本件コード束に認められた電気的溶融痕(ショート痕)及び本件配線に認められた電気的溶融痕か否か判別不能な痕跡以外に電気火災をうかがわせる痕跡はなかった。そして,本件配線の痕跡については発見場所からして一次痕とは考えにくく,本件コード束の電気的溶融痕についても,その周辺の焼損が弱かったことや器具コードから出火した場合には絶縁被膜も溶融することが多いが本件コード束には若干絶縁被膜が残っていたこと,コードの曲げやねじれの形跡,複数重なった小さな電気的溶融痕といった器具コードから出火する場合にまず疑われる半断線に特有の痕跡が認められなかったことから,出火原因とは関係のない二次痕であると判断した。
(3)証人Pは,東京消防庁の消防官であって平成23年4月から本件火災当時までに約300件の火災原因調査に職務として携わり,火災原因調査に関して豊富な経験と専門的知識を有している上,本件火災発生の翌日から連日6日間にわたり現場の見分を実施し,本件建物内部やその周辺を十分に調査し,関係者らからの事情聴取の結果も踏まえて火災原因を検討している。ガス,自然発火又はその他火源となる物が本件火災の原因となった可能性を否定した判断部分は,客観的状況に合致した合理的なものであり,電気及びたばこの不始末が本件火災の原因である可能性がゼロに近いとする説明内容にも,本件現場の状況を踏まえたものであって,不合理な点は見受けられず,証人Pの証言は高い信用性を有する。
そして,証人Qは,警視庁科学捜査研究所電気係物理研究員であって電気分野に関して十分な専門的知見を有し,本件火災の原因が電気によるものか否かを判断するため本件建物の検証に補助者として携わった。その証言は,その検証の際に認識した客観的状況を踏まえた合理的なものであって,本件火災が電気火災である可能性につき,証人Pの証言と整合し,やはり高い信用性を有する。
2
放火以外の火災原因の可能性

(1)前記のとおり信用性の高い証人Pによれば,まず,本件火災の原因は,ガス,自然発火ないしその他火源となる物ではないと認めることができる。(2)電気火災の可能性については,証人Qがこれをうかがわせる痕跡はなかったと証言する。他方,証人Pは限りなくゼロに近いと証言するにとどまるが,それは,炎がずっと当たり続けるような特殊な状況においてはショート痕が消えてしまう可能性が否定できないことや一次痕か二次痕かの判定が周囲の状況も踏まえた判断であることなどを考慮して慎重な表現を取ったものと理解される。証人Q及び証人Pの各証言に加え,Oらの各証言及び本件現場の状況から,本件コード束に電気製品は接続されていなかったと認められ,また,ショート痕が消える可能性は特殊な場合であるとされることも踏まえれば,本件火災の出火原因が電気である合理的な疑いはないと認められる。
なお,弁護人は,本件現場に電気配線がどのように配置されていたかは不明であり,また,Oらの作業や長年の経年劣化により電気配線がショートしやすい状態になっていた可能性があるから,本件火災がショートによるものである可能性を否定できないと主張する。しかし,本件建物内からは電気配線のショート発生を示すショート痕は二次痕と認められる前記5か所しか発見されず,警察の検証(甲1)及び東京消防庁の現場見分(甲73)において,他のショート痕を見落としたとは考え難い。また,前記のとおり,火災の熱によりショート痕が消える可能性は抽象的なものにとどまる。したがって,弁護人が指摘する事情を踏まえても,本件火災の原因が電気である可能性は合理的疑いとして想定できない。
(3)たばこの不始末による可能性については,前記のとおり証人Pがゼロに近いと証言していることに加え,本件現場においてOらが吸ったたばこは灰皿か空き缶内で適切に処分されたと認められること,Oらのほかに本件現場でたばこを吸った者がいたとはうかがわれないこと,仮にOらのたばこの不始末が本件火災の原因であるとすれば,被告人が本件建物に侵入した時点には本件現場には無炎燃焼に伴う相当量の煙が充満していたはずであるところ(証人P33丁),被告人の入退室に当たって本件ドアから煙の漏れ出す様子は確認できず,また,本件現場ないし同所に至る階段に約5分間も滞在していた被告人の様子にも入退出前後で特に異変が見られないこと(甲32写真77~93)に照らし,被告人の侵入時点で本件現場に煙が充満していたとは認め難いことを考慮すれば,本件火災の原因がたばこの不始末である合理的な疑いはないと認められる。
なお,弁護人は,床面の焼失により焼け込みの有無は完全には確認できていないことやたばこから段ボールに着火して有炎燃焼に至るまで約40分かかったとの実験結果もあることから,Oらによるたばこの不始末が本件火災の原因である可能性が十分に認められるという。しかし,前記のとおり,被告人が本件現場に侵入した時点で無炎燃焼が発生していたとは認め難い上,そもそもOらが内装工事を請け負った本件建物内で,灰皿等があるにもかかわらず,たばこを可燃性の高い物の付近に置いたり捨てたりするという極めて不注意な行動に及ぶことは考え難く,本件現場で吸ったたばこの吸い殻は水の入った灰皿や缶コーヒーの空き缶に入れて捨てた旨のOらの証言の信用性を疑うべき事情はない。また,弁護人は,被告人のたばこの不始末による失火の可能性も指摘するが,被告人すら述べていない事実を前提とする主張であってその可能性は抽象的なものにすぎない。
(4)

以上のとおり,本件火災の原因が,電気,ガス,自然発火,たばこの不始
末及びその他火源となる物である合理的な疑いはない。
3
放火の可能性

他方で,本件ドアは施錠がされていなかったことや出火箇所に紙類等の可燃物で燃えやすいものがあったことに加え,本件現場から複数のライターやその部品が発見されていることにも照らせば,何者かが,本件現場において,ライターで紙類等の可燃物に点火するなど何らかの方法により放火することが十分可能な状況にあり,本件火災の状況は,このような放火方法により引き起こされたものとして特に矛盾する点はうかがわれない。他に火災原因がない中でこれらの事実が存することを踏まえれば,本件火災は放火によるものであると認められる。
第3
1
放火をしたのが被告人か否か(犯人性)
本件放火が可能な時間帯

Oらは,本件当日午前10時頃から本件現場の内装工事を行い,同日午後0時25分頃までには本件建物を退出し,最後に退出した作業員のRは,退出時点で本件建物2階に何らの異変も感じていない(証人R9丁)のであるから,本件放火は,同日午後0時25分頃から本件火災発生が確認できる同日午後1時31分頃までの間(以下本件犯行時間帯という。)に行われたと認められる。
2
本件現場に侵入可能な経路

(1)本件建物は,北側及び西側で道路に接し,南側において共有する内壁を隔てて判示Jに接し,東側において,幅員0.5メートルで北端を竹垣で遮られた敷地を挟んで南北につながる2棟の木造モルタル2階建建物(以下東側建物という。)に隣接する。東側建物の南側にはS方があり,両建物の間には外階段が設けられたS方2階踊り場がある。S方及びS方2階踊り場への出入口は東側建物とその東側マンション敷地の塀との間にある通路のみであり,その通路への人が通り抜けられる出入口は,本件建物及び東側建物の北側にある道路と接する北端部分(以下S方出入口という。)のみである(甲61)。
(2)本件現場への侵入可能な経路は,本件ドアのほか,本件現場の東西及び北に設けられた窓がある。しかし,北側及び西側の窓は道路に面しており,ここから直接侵入することは想定し難い上,防犯カメラ映像からも本件犯行時間帯にここから侵入した者はいなかったと認められる(甲32,33)。他方,東側の窓に関しては,S方2階踊り場から,アルミサッシの柵に登り,東側建物のひさしを利用して同建物の屋根に登り,そこから本件現場東壁ロフト部分の窓から侵入することが可能である(甲61)。
3
被告人以外の者による放火の可能性

(1)本件犯行時間帯に本件ドアから本件現場に侵入した者は,被告人のみである。(2)S方2階踊り場等を経由する経路については,証人Tが本件火災の8日後に実施した実況見分で柵やひさしにほこりが堆積しており,手足をかけた痕跡はなかった旨証言するが,その実況見分調書(甲61)添付の写真からはほこりの堆積状況は判然とせず,また,ほこりが堆積していたとしてそれが本件放火当時と同じ状況であったといえるか疑義が残ることから,上記T証言を論拠に,上記経路からの侵入者がいないと認めることはできない。
しかし,前記のとおり,外部からS方2階踊り場へ行くには,S方出入口を通るほかない。本件犯行時間帯に同所を通過したのは,S及び東側建物の改装を請け負う作業員3名のみと認められるところ(甲75),上記作業員らは,本件当日午後0時59分頃までにはS方出入口から外へ出ている。前記のとおり,被告人が本件現場に侵入した時点でその室内で火災等の異常が既に発生していたとは認められないことに照らして,上記作業員らが放火した可能性はないものと認められる。また,Sについては,被告人の本件建物退出から約5分後で本件火災発生確認の約3分前である本件当日午後1時28分頃にS方出入口付近に滞在していたことが認められ(甲75),68歳というその年齢なども考慮すれば,その前後数分の間に,SがS方2階踊り場等を経由する経路で本件現場に侵入して放火することはおよそ考え難い。Sによる放火の可能性もないと認められる。その他,S方2階踊り場等を経由して本件現場に侵入した者の存在は,具体的にはうかがわれない。被告人以外の者による放火の可能性はないと認められる。
4
被告人による放火の可能性

前記のとおり,被告人は,本件犯行時間帯に本件現場に侵入している上,本件火災後に本件現場からライター等が発見されていることなども考慮すれば被告人による放火が不可能であるという事情はないと認められるから,被告人が本件建物侵入時にライターを携帯していたとの検察官主張の間接事実の存否を判断するまでもなく,被告人が本件放火の犯人であると認定できる。
これに対し,弁護人は,被告人には放火の動機がない上,被告人が本件火災発生後数時間も本件建物付近にとどまったり,本件当日夜や翌朝に交番ないし警察署に自ら出向いた事実は,被告人が犯人であるとすれば説明がつかないと主張する。しかし,被告人は,本件現場に目当ての金品がなかったことから腹いせに放火に及ぶことなどが考えられ,放火の動機を抱くことがおよそないとはいえないし,被告人は犯行当時飲酒酩酊していたことに鑑みると,犯行後に上記各行動に出ることが不自然とまではいえない。よって,弁護人の主張を踏まえても,被告人が犯人であるとの前記認定は左右されない。
第4

結論

以上より,判示のとおり,本件火災は被告人が何らかの方法によって放火したものであると判断した。
(量刑の理由)
本件は,被告人が,窃盗目的で侵入した木造店舗の一室で火を放ち,近隣の3店舗に順次燃え移らせ,いずれも一部を焼損したという事案である。本件犯行は200軒以上の飲食店が木造長屋に密集して形成された繁華街Uの一角にある店舗の一室で行われたものであり,延焼店舗の一部が住居に隣接していたことも考え合わせると,不特定多数人の生命及び身体に被害を生じさせかねない非常に危険な犯行であったといえる。焼損面積は合計約36.5平方メートルと広範とまではいえないものの,4棟の飲食店舗が焼損し,各店舗の営業に多大な影響を与えている上,周辺の複数の建物にも被害が及び,財産的損害は多額に上っている。被告人が本件犯行に及んだ動機は不明であるが,被告人に対する責任非難の程度を減少させる事情は見受けられない。そうすると,本件は,燃料を使用した形跡は見られないことを踏まえても,その危険性の高さや被害の程度に照らして,住宅密集地で非現住建造物に放火したという同種事案の中でもやや悪質な部類に属すると評すべきであって,被告人の刑事責任は重く,相応の実刑は免れない。これに加え,被告人が当公判廷において一貫して犯行を否認するなど反省の態度が見られないこと等の一般情状をも考慮し,主文の刑を量定した。
(求刑:懲役4年)
平成29年7月20日
東京地方裁判所刑事第8部
裁判長裁判官

駒田
裁判官

寺尾
裁判官

岸田秀和亮朋美
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