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地位確認等請求事件
事件番号平成27(ワ)36800
事件名地位確認等請求事件
裁判年月日平成29年7月3日
裁判所名東京地方裁判所
分野労働
裁判日:西暦2017-07-03
情報公開日2019-02-02 13:04:03
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平成29年7月3日判決言渡
平成27年(ワ)第36800号

地位確認等請求事件

主1文
原告が,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを
確認する。
2
被告は,原告に対し,平成27年12月から,本判決確定の日まで,
毎月24日限り39万7900円,並びに,毎年6月24日及び12月24日限り39万7900円,並びに,これらに対する各同日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3
被告は,原告に対し,55万円及びこれに対する平成27年11月
30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4
原告のその余の請求を棄却する。

5
訴訟費用は,これを5分し,その1を原告の負担とし,その余を被
告の負担とする。
6
この判決は,第2項及び第3項に限り,仮に執行することができる。事
第1

実及び理由
請求

1
主文1,2項同旨

2
被告は,原告に対し,220万円及びこれに対する平成27年11月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2

事案の概要
本件は,被告の従業員であった原告が,産前産後休暇及び育児休業を取得した後に被告がした解雇が男女雇用機会均等法(以下均等法という。)9条
3項及び育児休業,介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(以下育休法という。
)10条に違反し無効であるなどとして,被告
に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることの確認と,解雇された後の
平成27年12月分以降の賃金(毎年6月及び12月に支払われる割増分を含む。
)及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,被告が原告の育児休業後の復職の申出を拒んで退職を強要し,解雇を強行したことは,均等法9条3項及び育休法10条に違反し,不法行為を構成するとして,損害賠償金200万円及び弁護士費用20万円並びにこれらに対する不法行為のあった日以降の日である平成27年11月30日(第1の2の日付は誤記と認められる。)から
支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。
1
前提事実(争いのない事実及び掲記の証拠又は弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
(1)

被告は,英文の学術専門書籍,専門誌の出版及び販売等を行う株式会社
であり,ドイツ連邦共和国法人であるZ1(以下ドイツ法人という。)
がその親会社となっている。
(2)

原告は平成18年10月に労働契約を結んで被告に入社し,制作部のZ
2チームに所属して,学術論文等の電子投稿査読システムの技術的なサポートを提供する業務に従事していた。なお,原告は,被告社内で旧姓のZ3を使用しており,書証等には,Z3と表記されている場合がある。
(3)

原告は,平成22年9月から産前産後休暇に入り,同年▲月▲日に第一
子を出産した後,引き続き育児休業を取得して,平成23年7月から職場復帰し,上記休業取得前に従事していた業務に従事した(このときに原告が取得した休暇・休業を,以下第1回休業という。。

(4)

原告は,平成26年4月25日,被告に産前産後休暇・育児休業の取得
を申請して,同年8月から産前産後休暇に入り,同年▲月▲日に第二子を出産した後,引き続き育児休業を取得した(このときに原告が取得した休暇・休業を,以下第2回休業という。。第2回休業に入る直前の原告の給)

与は,年棒557万0600円,毎月20日締めで当月24日に年俸の14分の1である39万7900円を支払い,毎年6月及び12月に更に同額を上乗せして支払うものとされていた。
(5)

平成27年3月,原告が,被告に対し,第2回休業後の職場復帰の時期
等についての調整を申し入れたところ,被告の担当者らは,Z2チームの業務は原告を除いた7人で賄えており,従前の部署に復帰するのは難しく,復帰を希望するのであれば,インドの子会社に転籍するか,収入が大幅に下がる総務部のコンシェルジュ職に移るしかないなどと説明して,原告に対して,退職を勧奨し,同年4月分以降の給与は支払われたものの,その就労を認めない状態が続いた。
(6)

原告は,被告のした退職勧奨や自宅待機の措置が均等法や育休法の禁ず
る出産・育児休業を理由とする不利益取扱いに当たるとして,東京労働局雇用均等室に援助を求め,育休法52条の5による調停の申請を行い,原職や原職に相当する職に復職させることを求めた。紛争調整委員会は,平成27年10月23日,原告の申立てに沿った調停案受諾勧告書を提示したが,被告がその受諾を拒否したため,調停は打ち切られた。
(甲5から8まで)
(7)

被告は,原告に対し,平成27年11月27日付けの書面により,同月
30日限り解雇する旨を通知した。同書面には,解雇事由として,被告就業規則(後記3(1))の26条2号,12号から15号まで,92条1項6号,24号,2項6号,27号,30条1号(5),2号(27)に該当する旨が記載されていた。
(被告が原告に対してした解雇を,以下本件解雇というこ
とがある。(甲9)

2
関係法令の定め(要旨)
(1)

均等法9条(婚姻,妊娠,出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)
3項
事業主は,その雇用する女性労働者が妊娠したこと,出産したこと,労働
基準法65条1項の規定による休業を請求し,又は同項若しくは同条2項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として,当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
(2)

育休法10条(不利益取扱いの禁止)
事業主は,労働者が育児休業申出をし,又は育児休業をしたことを理由と
して,当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。3
被告の就業規則等の定め(要旨)
(1)

就業規則(甲2)
26条
社員等が次の各号の一に該当する場合は解雇とする。
2号

協調性が不十分で注意・指導しても改善の見込みがないと認められ
るとき
12号

諭旨解雇又は懲戒解雇事由に該当するとき

13号

諭旨解雇又は懲戒解雇事由以外の懲戒事由に該当し,改悛の情が

認められない場合又は懲戒事由を繰り返す等,改善の見込みがないと認められるとき
14号
15号

当社の社員などとしての適格性がないと認められるとき
その他前号に準ずるやむを得ない事由があるとき

92条1項
社員等が次のいずれかに該当するときは,情状に応じ,戒告,減給,又は出勤停止とする。
6号
24号

職務上の指揮命令に従わないとき
その他この規則,諸規程,その他誓約書等に違反し,又は前各号

に準ずる不都合,危険な行為,不正な行為,過失があったとき

92条2項

社員等が次の各号のいずれかに該当するときは,諭旨解雇又は懲戒解雇に処するものとする。ただし,情状により減給又は出勤停止とすることがある。
6号

正当な理由なく,配転・出向命令等の職務命令に従わないとき

27号

その他この規則,諸規程,その他誓約書等に違反し,又は前各号

に準ずる行為があったとき

30条
社員等は職場の秩序を保持し,業務の正常な運営を図るため,次の各号の事項を遵守しなければならない。
1号

勤務に当たり次のような姿勢で臨むこと

(5)他の社員等又は関係取引先,利用者との間で,非協力的,非協調的,独善的な行為,態度をとってはならず,適正良好な人間関係を維持すること
2号

勤務に当たり次の事項を遵守すること

(27)
(2)

その他,会社の命令,注意,通知事項を遵守すること

育児・介護休業規程(甲4)
上記(1)の就業規則に基づいて定められた被告の育児・介護休業規程には,
以下の定めがある。
17条(復職後の勤務)
1項

育児・介護休業後の勤務は原則として,休業直前の部署及び職務と
する。
2項

前項の定めにかかわらず,組織の変更,事業の必要性等の事情によ
り,部署及び職務の変更を行うことがある。この場合は,育児休業終了予定日の1か月前までに正式に決定し通知する。
4
本件の争点及びこれに係る当事者の主張
本件の争点は,本件解雇の効力(均等法,育休法違反の有無,客観的に合理
的な理由の有無)
,不法行為の成否にある。これらの点に係る当事者の主張は
以下のとおりである。
(1)

原告
解雇の無効と地位確認・賃金支払請求
(ア)

均等法及び育休法違反による解雇の違法・無効
均等法9条3項,育休法10条は,妊娠・出産・育休の取得を理由と
した不利益取扱いを禁じており,事実として,妊娠・出産・育休の取得と時間的に近接して不利益取扱いがされており,それが妊娠・出産・育休の取得を契機として行われたといえる場合には,使用者がその取扱いをした業務上の必要性の内容及び程度や,労働者に生じる不利益の内容及び程度に照らして,上記各規定の趣旨及び目的に実質的に反しないと認められる特段の事情がないときは,原則として,上記各規定に反して違法であるとみるべきである。
被告は,原告が育児休業からの復職に当たって,原職復帰を原則としている被告の育児・介護休業規程にも反して,実際上不可能なインドへの転任や,年収を半減させる大幅な降格であって,原告が到底受け入れられないことを理解した上で総務事務への転換を提示しており,原告が詳細な条件提示を求めても,結局,被告社内にポジションはないなどとしてこれに応じず,復職そのものを一切拒否して退職の強要に及んでおり,原告がこれに応じず飽くまでも復職を要求したことを受けて,本件解雇が行われたものである。
上記のとおり,本件解雇は原告の育児休業終了から約7か月後と時間的に近接して行われており,妊娠・出産・育休取得を契機として行われた不利益取扱いにほかならない。
育休法21条及び22条は,育児休業終了後の配置その他の労働条件についてあらかじめ定めておいて,これを労働者に周知させ,育児休業
終了後の就業が円滑に行われるよう,事業所の労働者の配置その他の雇用管理等に関して必要な措置を講ずべきことを定めているところ,被告においては,こうした措置を一切講じない上,Z2チームを原告の産休取得直前の8人態勢から減員しており,当初は人員削減を理由として退職勧奨を行いながら,本件解雇に際して,職務命令違反や勤務態度,協調性等を解雇理由に持ち出しており,人員削減の必要性は認められない。また,解雇理由として指摘された点も,それまで大きな問題として指摘されたことはなく,原告に及ぶ不利益と対比して,業務上の必要性が認められるようなものではなく,均等法及び育休法の趣旨・目的に反しないような特段の事情は存在しない。
したがって,本件解雇は均等法及び育休法に違反する不利益取扱いであって違法であり,無効なものである。
(イ)
a
解雇の客観的に合理的な理由の欠如
被告は,本件解雇が妊娠・出産・育休取得を理由としてされたものではなく,原告の職務命令違反や勤務態度,協調性等を理由とするものであると主張する。しかし,被告の主張する解雇事由(後記(2)ア(ウ))は,客観的に合理的なものではなく,本件解雇は社会通念上の相当性を欠くものであり,労働契約法16条からも無効である。原告の従前の業績評価は高く,行動評価にしても解雇に相当するようなものはなかった。

b
まず,制作部の部長であったZ4(以下Z4部長という。
)は,
平成26年2月,原告に交付することを予定して注意書を起案したとする。そこに記載されていたのは,①以前も注意を受けていたのに,平成26年の業務目標の設定の際に上司からの督促への対応が悪かった,②出勤時にチーム全体に対する挨拶をするというルールを守るようにとの指導に対して,話を切り上げようとしたことが協調性を欠
いていたとする2点である。被告は,原告の種々の行動を問題にするが,上記注意書作成時までに生じていた事実についていえば,上記注意書にも触れられていなかったのであり,それぞれの事実が発生した時点では,解雇に値するような重大な事由と考えられていなかったことが明らかである。
また,上記2点をみても,目標設定の点について,平成25年分の提出が遅れたのは,前年に議論になった点について上司から回答がなく目標設定ができなかったこと,上司の交代があったこと等の事情があるためであり,上司がZ4部長になってからは速やかに提出しているし,原告がZ4部長の原告に対する1という行動評価(4段階
中の下から2番目)は客観性を欠いていると考えて,Z4部長と合意しないままこれを2と改めて提出したことには酌むべき事情があ
る。平成26年分について督促を受けたとする点についても,
口頭で確認したいことがあったので白紙で提出したい旨を連絡しており,面談で確認した上で補充して目標設定文書を作成しているのであるから,上司を無視した不誠実な対応であるなどとはいえない。また,挨拶をしないことについてのZ4部長の指導について,原告が話を切り上げようとしたことはない。妊娠初期で体調不良を理由に面談を早めに切り上げようとしたことはあったが,それを指しているのであれば,原告に責められるべきところはない。
c
上記bの注意書作成時までに生じた事実で,上記注意書で触れられていないものについての反論は,以下のとおりである。
被告は,原告がレイプ事件の被害者と同じであるという非常識
な発言をしたとするが,原告は,第1回休業前の引継ぎが非常につらかったことがトラウマになっており,それを表現するためにレイプ事件の被害者のトラウマの深さを引き合いに出したにすぎない。仮に表
現として不適切であったとしても,それを原告に指摘すれば足りる話であって,解雇に結び付くような事情ではない。
被告は,原告が,評価が上がらないので収入を得るために副業の許可の申請をし,その際,なぜ副業をしようと考えたのかについて被告側が事情を聴こうとしないのが不当であるとして責め立てたことが非常識かつ身勝手であったとするが,原告は,こうした言動をしておらず,副業許可を求めたものの,許可が得られなかったため,副業を諦めたという経過があっただけである。
台風で通勤に支障が生じた際の被告の出勤時刻の取扱いに対する原告の対応は,被告が全社員の出勤時刻について午後2時までに出勤すればよいとした上,実際の出勤時刻にかかわりなく,一律に午前9時30分に出勤があったものと扱おうとしたことについて是正を求めたものである。原告は保育園の送り迎えがあり退勤が早いことを踏まえて当日も正午過ぎには出勤しており,これを午後2時までに出勤した社員と同じように扱われたのでは不公平であると感じて是正を求めたものであって,不合理とされるようなものではない。また,原告は,是正を求めたものの,それ以上に異議を申し立てたわけでもなく,職場秩序を乱すようなことはしていない。
d
被告は,上記bの注意書作成時よりも後に生じた事実として,平成26年の目標設定のミーティングの招集メールを無視したこと,第2回休業前の引継ぎ時に業務上のメールの共有を指示したにもかかわらず,これに従わなかったことを,解雇理由に挙げる。
しかし,前者については,システムの切替えによる不具合の対応に追われていたことや,下書きフォルダに誤ってメールを入れてしまったかもしれないことを述べて,返信できなかったことを謝罪しており,Z4部長への応対もメールに気付かないまま業務対応していたときに
発せられた言葉であって上司への愚弄などには当たらない。
また,後者については,第1回休業の引継ぎ時の経験に照らして,必要なメールを分類して共有フォルダに保存しており,それ以外のすべてのメールを保存するようにとのZ4部長からの指示にも,産休に入る直前までには対応している。後任者の紹介メールに対する取引先からの返信は子供に関する内容であったことから,後任者と共有しないこととしたものであり,後任者からの開示の求めに対しても,事情を説明して断っている。
被告は,第2回休業開始時までに2件の引継ぎが未了であり,うち1件を休業開始後自宅で行った点も問題としているが,原告は,可能な限りの引継ぎを行っており,出産を控えて安静を要する状況であったことを踏まえれば,若干の欠落をもって解雇理由とするのは余りにも酷である。被告は,原告の休業中,業務は順調に遂行されていたなどと主張しており,原告の引継ぎにより何らかの支障が生じたという事情も認められない。
(ウ)

地位確認請求と賃金支払請求
本件解雇は無効であるから,原告は,被告に対し,引き続き,労働契
約上の権利を有する地位にあり,本件解雇以前(産休・育休取得以前)に支払を受けていたのと同額の賃金(解雇後である平成27年12月分から本判決確定時まで)及びこれに対する支払期日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。イ
不法行為に基づく損害賠償請求
(ア)

原告の復職希望を拒否し,自宅待機を強いた上で,退職強要を続け
た被告の行為は,均等法及び育休法に抵触する違法な不利益取扱いであり,東京労働局雇用均等室からその可能性を指摘されながら,本件解雇に踏み切った点は極めて悪質である。こうした被告の行為は原告の権利
又は法律上の利益を侵害するもので不法行為を構成し,原告に生じた損害について賠償すべき義務を負う。
(イ)

入社以来約10年にわたり誠実に業務に取り組み,キャリアを積み
重ねてきた原告にとって,本件解雇は,アイデンティティを基礎付け,生活の糧でもある職を奪い,仕事に対する誇りややりがいを否定し,キャリア形成までも阻害するものであり,これによってもたらされた精神的苦痛と有形無形の損害は甚大であり,賃金支払によっても填補されない。これらの損害を金銭に換算すると200万円を下ることはなく,訴訟追行等に必要な弁護士費用20万円と合わせた220万円及びこれに対する本件解雇がされた日以降の日である平成27年11月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。(2)

被告
解雇が有効であることについて
(ア)
a
本件解雇に至る経緯
被告では,原告から第2回休業が申請される以前から,原告の異常な言動により業務が著しく阻害されていることに困惑しており,平成24年から産業医面談を設定し,産業医が心療内科での受診を勧めていたが,原告は一度しか受診しておらず,平成25年7月を最後に産業医との面談も行われなくなった。産業医は,面談時の原告の説明について,
過去に対する執着,感情のコントロールが難しく,上司に対する攻撃的な言動を行い,人の揚げ足を取って徹底的に追い詰めて,相手が自分の言うなりに仕向けるタイプであり,被告の秩序(ルール)を守らず,周囲をかき乱す性格冷静な判断力は欠け,ておりなどと指摘されるような内容が多かったとしており,正式な診断ではないものの,原告のことをHumanClasherタイプで,パーソナリティ障害ではないかという見立てをしており,通常のうつでは生
じ得ない症状で,性格的な問題が大きく,病院へ通院しても言動は改善しない,Z4部長や人事部のZ5マネージャーでは太刀打ちできないので,弁護士や社会保険労務士に相談して同席してもらった方がよいなどの意見を述べた。
b
平成25年12月に相談した弁護士からは,原告がパーソナリティ障害の可能性があり,このままでは被告の組織内部に悪影響を及ぼし抱え込んでおくこともできないので,退職誘導も考えざるを得ないのではないかとの助言を得ていた。そして,個々の事例に対しては,就業規則等の根拠を明確にして対応し,注意・警告,けん責,減給のように段階を踏んで処分を進め,その過程で改善が認められればよいが,事情を聞く限り改善は困難であろうから,その過程で本人が耐えられなくなれば自主的に退職するであろうし,そうでなければ解雇もやむを得ないなどとする助言も得ていた。

c
被告では,平成26年4月下旬には,弁護士等の助言を踏まえて行った注意・指導も全く効果がみられないという現実を受けて,顧問の社会保険労務士とも相談しつつ,原告に注意書を発して退職勧奨を行うほかないとの結論に至っていたが,その直後に原告から産休・育休取得の申出があったため,妊娠への悪影響を慮り,退職勧奨等のアクションは休業からの復帰時まで待つことになった。

d
平成27年3月24日,ドイツ法人にあって,Z2チームの上部組織に所属するZ6,当時の被告代表者であるZ7,Z5が同席して原告との面談を行い,具体的事例を挙げて,原告には協調性が著しく欠如しており,元上司であるZ8や現上司であるZ4部長に対して公然と反抗し職場の秩序を乱していたこと,原告が現ポジションに不適切であり,被告の業務にも悪影響を及ぼすという評価は日本サイドだけではなく,外国の上部組織も一致したものであることを原告に伝え,
Z2チームに復帰させるのは困難であり,それでも勤務継続を希望するのであれば,インドで同種のポジションに充てることを調整してみるか,国内での勤務を希望するのであれば,年収が低下し,本人のキャリア形成上好ましくはないと思われるが,現在嘱託職員が行っている総務部門での業務しかないこと,そのどちらも希望しないのであれば,退職加算金の支払,再就職支援サービスの提供,育児休業満了までの在籍保障を条件とする合意退職を提案する旨を申し出た。しかし,原告から被告の対応が違法であるとの指摘を受け,原告の申出に基づき原告との間で雇用均等室を介したやり取り,調停が続けられることになり,被告では,同室の担当者の提案に応じ,保育園入園のために必要な復職証明書の発行や平成27年4月以降の賃金の仮支給に応じることにしたが,結局,原告の復職希望が強く,被告でこれに対応できる部署が見つからなかったことから,調停成立の見通しがつかなかった。
e
被告では,問題行動の多かった原告が産休に入って不在になると,職場が快適になり仕事の効率も高まりストレスも非常に減ることが実感されており,原告から実際に復職の申出があった時点で,原告在籍当時のストレスフルな状況に逆戻りすることは到底耐えられないという深刻かつ率直な訴えが社内から噴出していた。被告は,原告の第2回休業取得前に検討していた,軽い処分から重い処分へというようなプロセスを経た方が,解雇の客観的合理性,社会的相当性の立証が容易となることは理解していたものの,原告を一旦復職させた場合には,被告の組織や業務に深刻な支障を生じさせることが懸念されたため,やむなく方針を変更して,従前の事情により原告との間の労働契約を存続させることが困難であるとして,退職勧奨を行い,原告がこれに応じなかったことから,解雇やむなしとの結論に至り,解雇通知を発
した。
(イ)

本件解雇が均等法及び育休法違反に当たらず,客観的に合理的理由
があることについて
本件解雇は上記(ア)の経緯によるものであり,原告の後記(ウ)の各問題行動等が,業務妨害や,業務命令違反,職場秩序のびん乱,業務遂行能力や資質の欠如に当たることを理由にされたものであって,原告の妊娠・出産・育休の取得を理由とするものでないことは明らかであるから,均等法及び育休法の違反となる余地はない。また,後記(ウ)の各問題行動に照らせば,本件解雇には,客観的に合理的な理由がある。
(ウ)
a
原告の具体的な問題行動
Z8の異動時までの問題行動等
(a)

原告は,第1回休業を終えて復職した後,執拗に給与の改定を

求めて,Z2チームのマネージャーであるZ8ら上司の職務を妨害しており,
SeniorZ2Coordinatorとの職名を付与されたことについても,
責任が重くなったのに給与は変わらないのかなど
と不満を述べたて,
シニアっておばあさんということですねな
どと愚劣な皮肉を述べ,原告の職名を決定した者を愚弄する発言を繰り返していた。
(b)

Z8が,原告に対し,ミーティングの設定を求めて連絡を重ね

ても,原告は日程を確定させず,ランチ時間でも構わないとするZ8の申し出にも,

業務の相談は業務時間内に。ランチのお誘いは受けられると思う

などと,Z8を愚弄するような対応をした。(c)

Z8が,原告主催のシステムサポートに関する勉強会に出席を

求めところ,原告はお母さんが小学校の授業に参加するのと同じなどとZ8を愚弄する発言をして,その出席を拒んだ。(d)

Z8との面談中に,原告は体調不良と称して途中退席したにも

かかわらず,その後に謝罪を述べて面談の再開を求めるようなこともしなかった。
(e)

原告が外部で開催されるセミナーへの出席希望を申し出た際,

Z8が業務に影響がないことを確認し回答するよう求めたにもかかわらず,これには回答しないまま,出席のために外出してしまった。(f)

原告は,Z8からミーティングの設定を指示されてもこれに応

じず,今の状況を聞かせてほしいとの連絡にも,検討をいただけると幸いであるなどと回答になっていない返信を行った。
(g)

原告は,平成24年6月に人事部が実施した就業規則説明会に

おいて,アンケートを白紙で提出し,Z5がその補正を求めたところ,無関係なZ8に対する批判を記載して提出し,Z5らがこの点に関するミーティングを実施しても,原告は,Z8とは価値観が違い,どうマネジメントしたいのかわからないなどと抽象的な意見を述べることに終始した。
(h)

原告が平成24年10月9日に産業医と面談したことを受け,

Z4部長,Z5及びZ8がミーティングを設定したところ,原告は体調が悪い,Z8さんの仕事ぶりが不満などと不平を述べ,
Z8が許せないなどと泣き出して収拾がつかなくなった。
(i)

平成24年12月3日に設定したミーティングでも,目的と無

関係な話題を持ち出すとともに,Z8に対する抽象的な批判を繰り返し,上司との対話を求めても,こうした指示を無視して,反抗的,非協力的な態度を続け,感情的に騒ぎ立てるのみであった。
(j)

原告は,平成25年2月25日に行われた評価ミーティングの

際も,
給料の上がらないのはなぜか
復帰したら埃だらけで歓迎されていないと感じたなどと泣きながら,Z8の悪口と不満を述べ続け,自分が被害者で,悪いのはZ8であるとの考えに固執した。
同年3月22日,Z8から昇給通知書の交付を受け,その算定根拠の説明を受けた際,全く納得できないなどと怒鳴り散らして昇給率の低さに憤慨し,Z8の説明にも耳を貸そうとしなかった。同月25日のミーティングで,Z5が上記態度を注意し,原告は一応謝罪をしたが,
なんであんな人のためにこんな思いをしなければならないのかなどと申し述べたため,更に注意を受けた。b
Z8の異動とZ4部長が直属の上司となってからの問題行動等
(a)

被告では,Z8から原告の言動に疲弊しきっている旨の申出を

受けて,組織変更が必要であると決意するに至り,Z8をZ2チームのマネージャーの地位から異動させ,Z4部長を原告の直接の上司とすることにした。平成25年6月20日には,Z4部長,Z5が原告とミーティングを行って新態勢について伝え,目標設定のような重要な責務は上司の連絡にきちんと返答し,Z8に対するような態度は今後取らないように注意を与えたが,原告は,
他の人には絶対にしませんなどと答えたものの,
私が産休前にZ8さんから受けたことは,インドのレイプ事件の被害者と同じだなどと異常な発言を行った。
(b)

原告は,Z4部長が直接の上司になってからも,自身の評価を

変更させることに固執し,平成25年7月には,会社の評価が上がらないのであれば副業して収入を確保したいとして副業許可の申請を行おうとし,Z4部長がこのことについての面談を行うと,
副業を希望している理由をなぜ考えないのか
会社での評価が上がらないから収入を守ろうとしているなどと筋違いの非難や主張を繰り広げた。
(c)

平成25年10月17日,台風のため通勤に支障が生じ,被告

が全社員に対し,午後2時までに出勤すれば遅刻扱いとせず,かつ,
出勤時刻は一律午前9時30分と扱うという温情的取扱いをしたところ,原告は,自身には特別なルールを適用して他の社員よりも早く出勤した扱いとするよう執拗に要求し,被告側の説明を受け入れようとせず,対応を拒否して,
自分は馬鹿を見ているなどと大
泣きした。
(d)

原告は,平成26年1月31日,Z4部長と話をすると体調が

悪くなる,健診で不整脈があると言われたことがあり,心臓に来るなどと述べ,そうであれば治療をすべきであると指摘したのに対し,Z4部長と話すと具合が悪くなるだけだとして,あたかもZ4部長に問題があるかのような非常識な発言をし,上司とのコミュニケーションを拒否した。
(e)

平成26年2月にZ4部長との間で平成25年度の評価面談が

行われたが,第1回面談では原告との合意に至らず,第2回面談で,挨拶をするというチームで決めたルールが守られていないとし
て,チームワーク,コミュニケーション,ビジネスマナーの項目で1の評価とされたが,原告は,1対1では挨拶をしている,全
体への声掛けをしないことを理由に低く評価するのは問題だなどと不満を述べた。
(f)

原告は,平成26年度の評価・目標設定でも,提出の締め切り

を無視して,不合理な言い逃れをし,Z4部長が提出を促しても,顧客優先で優先順位が低いなどと居直った態度を取った。原告が平成25年度の昇給率と評価について不満を述べたため,Z4部長がミーティングを設定しても,原告は出欠の返事すらせず,決められた日時にも出頭せず,これを追及されても,業務優先であったなどと上司を愚弄するかのような対応を取った。
(g)

Z4部長が業務上必要な連携や相談の時間を作るよう指示して

も,種々の口実をつけてこれに応じず,ランチを取りながらの面談を丁寧に求めても,これに応答せず,あるいは,業務と関係のないランチの誘いであると曲解した慇懃無礼な返答をするなど,非常識かつ不誠実な対応に終始した。
(h)

原告から産休・育休取得の申請があったことを受けて,Z4部

長は,平成26年7月初旬,引継ぎのために担当業務の過去の経緯の分かるメールを後任者向けに共有メールボックスに残すよう原告に指示したが,原告はやりますなどの返答を繰り返すも,これ
を実行せず,Z4部長が同年8月6日に原告の行為が業務命令違反で懲戒処分の対象となるが,今回に限り温情で口頭での警告にとどめる旨を申し述べたところ,原告は同僚に対し,
処分を検討していると言う恐ろしい脅し文句を頂きましたという内容のメールを送信し,
Z4部長が処分検討と書いたメモを貼るという異常な
行動に出た。
(i)

Z4部長が,原告の第二回休業中,原告が業務上使用していた

メールアカウント内のメールを確認する必要が生じて,パスワード変更を行ったところ,原告はこうした措置を不満として,1か月間に9通もの抗議メールを送信し,Z5やシステム担当者にも執拗にメールを送り続けた。

不法行為に基づく損害賠償請求について
原告に対する退職勧奨や本件解雇が均等法及び育休法に違反せず,本件解雇に客観的に合理的な理由があることは上記アで述べたとおりであるから,不法行為は成立しない。
原告主張の損害については争う。

第3
1
当裁判所の判断
認定事実

前記前提事実(第2の1)
,甲22,乙125から128まで,証人Z4,
同Z5及び原告本人のほか,各項掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる(ただし,甲22及び原告本人のうち,以下の認定に反する部分は採用しない。。

(1)

Z8が上司であった時期の原告の言動等


原告は,第1回休業に入る前に行っていた引継ぎについて,Z2チーム
のマネージャーであるZ8から不十分であるとの指摘を受けており,引継ぎのために夜遅くまで残業をすることがあったほか,社内の挨拶回りよりも引継ぎを優先して行うようにとの注意を受けたこともあって,強い不満を抱いていた。

Z8は,原告が第1回休業後に復職してから,給与等の待遇に繰り返し
不満を述べ,面談の機会を設けようとして送信したメール等にも積極的に対応しないほか,事前に求めた連絡をしないまま外部で開催されるセミナーに参加したり,原告が開催するシステムサポートの勉強会にZ8が出席を求めても拒まれたりするなどの問題もあって,原告への対応に苦慮しており,そのために残業時間も増えて負担が大きくなっていることをZ4部長に申し出ていた。Z4部長は,こうした状況がZ2チーム内の大きな問題であると考えており,同チームの上部組織に所属するZ6に報告したり,Z8と原告との面談に同席したりするなどして対応していた。
(乙21か
ら27まで,30,34)

一方,原告は,Z8にシステム設計の実務経験がないことが原因となっ
てZ2チームのマネジメントが効率的に行われていないのではないかという疑問を持っており,他のメンバーと理解度が異なるため,Z8の質問に時間を費やされると上記イの勉強会の意義が薄れるという意図の下にその出席を断っていた。

平成24年5月,被告の就業規則の改定について人事部が主催する社員
向けの説明会が開催され,原告もこれに参加した。席上,出席者にアンケート用紙が配布され,回答・提出が求められたが,原告はこれに記入しないまま提出した。その後,Z5から改めて提出を求められ,原告は同年6月7日にアンケートを提出した。その自由記載欄には,就業規則の改定への意見のほか,派遣社員の更新時期の就労についての管理職の対応に疑問を呈するような内容も含まれていた。
(乙32,33)

平成25年3月22日,Z8は,Z5の同席の下,昇給通知を原告に交
付し,その内容を説明したが,Z8の説明に対して原告が強い不満を述べ,その言動も感情的なものであった。Z5は上記面談での原告の言動にショックを受け,翌営業日である同月25日に原告を呼び出して,上司への態度として不適切なものである旨注意したところ,原告は謝ったものの,Z8に非があるかのような不満を述べた。

原告は,平成25年3月,原告が作成することになっている平成25年
度の目標設定文書について,Z8と協議する機会を持った。その後,Z8が進捗状況を尋ねたところ,原告はZ8に再度の協議を求めたものの,Z8が協議の方法を尋ねても,これに正面から答えず,結局,原告がこれを提出したのは,後記(2)イのとおり,Z8が他部門に異動し,Z4部長が原告の上司となった後の同年7月末であった。
(乙39,40)

Z4部長やZ6は,原告とZ8との関係が改善せず,原告への対応がZ
8の大きな負担となっていることを踏まえて,Z8を他部門へ異動させ,Z4部長が原告の直接の上司となるよう組織変更を行うこととした(乙41,42)

(2)

Z4部長が上司になってからの原告の言動等


Z4部長は,平成25年6月中旬頃,Z8が異動し自身が原告の上司と
いう体制になることを原告に説明する際,それまでのZ8に対する原告の言動が不適切であったことを指摘したところ,原告は謝罪の言葉を述べる
一方で,他の人に対しては同じようなことはしない,Z8が自分にやったことはインドのレイプ事件と同じであるという趣旨を述べて,泣き出してしまった(乙77)


原告は,平成25年7月26日に至って,平成25年度の目標設定文書
をようやく提出したが,Z4部長は,このような案件は上司に対しもっと素早く返答すべきであること,何か理由があって返答できないとしても,その旨を上司に伝えるべきことをメールで原告に注意した(乙40)。

原告は,平成25年8月頃,Z4部長に対し,原告が副業をすることに
ついて承認が得られるかを尋ねた。Z4部長は,原則として承認できないが,期間・内容を聞いた上で止めないことはあり得る旨伝えたところ,原告からは,副業を始めようとした理由をヒアリングしないことについて不満が述べられ,Z4部長は,そのような希望があるのであればオープンに伝えてほしい旨を述べた。
(乙43)

平成25年10月17日,台風で交通機関が乱れ,社員が通常どおり出
勤できない見込みであったことを受けて,被告では,午後2時までに出勤すればよいこと,その場合でも,午前9時30分に出勤したものとみなして一律に扱うことをメールにより社員に告知した。しかし,原告は,保育園の送り迎えで退勤時刻が他の社員一般より早く,在社時間を確保するため当日も正午過ぎには出勤していたところ,退勤時刻を実際の午後5時15分どおりとして申告すると所定労働時間である7.5時間が確保されたことにならないため,他の社員と同じように午前9時30分に出勤したと扱われたのでは不公平であると考えて,出勤時刻を午前8時45分と申告した。原告の申告は不正確なものであるとして,人事部で修正されたため,原告は,Z4部長に対し,こうした運用の改善を求めたが,Z4部長は被告が決めた運用であり,変更はできないなどと答えた。
(乙98から10
3まで)


原告は,平成26年2月,Z4部長と面談した際,それ以前の面談時に
中座したことについて,Z4部長と話すと心臓に来ると感じたので,話を切り上げて失礼した,Z4部長の評価に納得がいったことがない,Z4部長と話すと具合が悪くなるので労災申請してもよいかなどと述べた(乙47)


平成26年4月,Z4部長がミーティングを招集したが,予定の時刻ま
でに原告が現れなかったため,自席にいるところを呼び出されて原告はこれに参加した。その際,原告は,案内メールを下書きフォルダに保管し,見忘れていたなどと弁解した上,Z4部長が声をかければ済むのにそれもしないということは,時間までに出席していない者を出席の意志なしとみなすという方針をとるものと理解した,などと皮肉めいた内容のメールを送信した。
(乙52)

平成26年7月,原告は,第2回休業に入る前の引継ぎとして,休業時
にそれまで原告が担当していた業務を受け持つ予定の社員との間で,過去に関係先と送受信したメールを共有する措置を取るよう指示されていた。同僚のZ9からZ4部長に対して原告の共有の措置が不十分であるとの申出があり,Z4部長が原告に対して指示どおり措置を取らないのは業務命令違反であり処分の検討対象であるなどの注意を与えたところ,原告は適宜の方法で情報共有しており,全てのメールの共有まで必要であるとは考えなかった,他の業務より優先順位が低いと考えていたなどと反論した。さらに,原告は,Z4部長から注意を受けたことについて,さきほど『処分を検討している』という恐ろしい脅し文句をいただきましたので,(というのは冗談ですが・(笑い),取り急ぎご要望いただいていた・・)過去のメールに移動しましたなどの文面のメールを複数の同僚に送信した。なお,Z4部長は,メールの共有について原告に指導を行おうとした際,Z5に連絡を取ったメールの中で,原告の退職勧奨を進めたいなら自
身で行動をとってよいとの指示を受けていたが,業務も忙しくなり,原告もそれほど問題を起こしていなかったので,つかず離れずの対応をしていたという趣旨の内容を送信していた。
(乙54から59まで,106)

原告が第2回休業に入ってからも,原告が共有の措置を講じていないメ
ールがあったことにより,同僚から支障が生じたという申出もあり,結局,原告のメールアカウントについてパスワード変更を行い,原告のメールボックスの内容をZ4部長らが閲覧できる状態にする措置が講じられた。原告は,こうした措置を取ることに強く反発し,Z4部長やZ5らに対し,何度も抗議する内容のメールを送信した。
(乙64から70まで)
(3)

原告に対する人事評価(平成24年度及び平成25年度)


平成24年度の原告に対する人事評価の書面(原告については,平成2
5年3月12日の日付とサインが,Z8については,同月13日の日付とサインが記載されている)において,原告の自己評価は,基本姿勢3項目,チームワーク2項目,業務遂行5項目について,基本姿勢の中のビジネスマナー,チームワークの中のチームプレイ
コミュニケーション
及び業務遂行の中の業務改善・創意工夫
報告・連絡・相談
計画性・期限
問題分析・解決・決断の合計7項目を2
(基本的に満た
している)という4段階中の上から2番目の評価とし,その余の3項目(基本姿勢の中の責任性・向上心
イニシアティブ・自律
,業務遂行
の中の処理速度・正確・質
)を3
(顕著に満たしている)という4
段階中の最高評価としていたのに対し,Z8の評価は,上記報告・連絡・相談を1(やや不足している)という4段階中の上から3番目
の評価としたほかは,いずれも原告の評価と一致しており,両者の合意評価においては,Z8が1とした項目が2とされた。
なお,上記書面の上司の評価欄には,原告の業務上の貢献を積極的に評価する記載があるほか,
コミュニケーションに関しては,私のメッセージが不明瞭であったり,時間が必要であったり,又は,問題が懸念される際を含めた状況下で,私の質問や要望に対する返答を期待しています。私は,私自身のコミュニケーションをより明確にできるように改善します。2013年以降もチームとして一緒に働けることを楽しみにしています。と記載されている。(甲13)

平成25年度の原告に対する人事評価の書面(原告については,平成2
6年2月28日の日付とサインが,Z4部長については,同年3月6日の日付とサインが記載されている)において,原告の自己評価は,上記アと同じ各項目について,全て3の最高評価としていたが,Z4部長の評価は,基本姿勢の中のビジネスマナー及びチームワークの中のチームプレイコミュニケーションの各項目を1と評価とし,その余
の7項目については3と評価しており,両者で面談を実施するも,評価の食い違いについて合意をみるに至らなかった。
なお,上記書面の上司の評価欄には,
編集部やお客様の反応から,本人が自分の知識をフルに使って,最適なサービスを最短時間で工夫していることがわかる。この責任感がなければ,我々はお客様からもっと苦情を受け,時間を費やしたことでしょう。また少なからぬ人が,社内でセミナーを開いたり,知識や技術を合理的な方法で同僚に共有したり,新しい社員に効率的に引継ぎをしていることに対して,ありがたく思っていることを聞いています。オフィス内でのあいさつについては,私は本人の方法を尊重するとともに,やはり最低でも退社する時にはチームにあいさつしてもらいたいと思っています。そのことによって同僚間の関係性が変わりパフォーマンスが上がるはずです。との記載がある。(乙48から50まで)
(4)

原告の産業医との面談,弁護士等から助言を受けた被告の対応等


原告は,平成24年10月9日,自ら希望して被告の産業医との面談を
実施し,その後も同年12月11日,平成25年6月11日及び同年7月5日にも産業医との面談が行われた。Z5は,原告の面談の結果について,産業医から意見を聴いており,原告について,感情不安定,強迫観念が強い,上司に対する攻撃的な言動を考慮すると,人間関係をうまく構築できず人の揚げ足をとって徹底的に追い詰めて,相手が自分の言うなりに仕向けるタイプ,相手がストレスで体調を崩す危険性がある,会社の秩序を守らず,周囲をかき乱す性格と思われる,冷静な判断力や思考力は欠けており,職場内でリーダー的な仕事はできないと思われるなどの説明があり,Z4部長やZ5では原告には太刀打ちできないので,今後は弁護士や社労士に相談し,面談にも同席してもらった方がいい,などとする助言を受けた。
(乙71から79まで)

Z5は,平成25年12月以降,原告への対応の仕方について,弁護士,
顧問の社会保険労務士,産業医に相談していた。弁護士からは,いきなり原告を解雇することはできないので,個々の事例について就業規則の根拠を示すなどして段階的に注意・懲戒を行うべきで,本人の態度が改まらないのであれば,最終的には解雇するか,本人が退職を選択する可能性もあるなどの助言を得ていた。
(乙81から86まで)

Z4部長は,平成26年3月初め頃,顧問の社会保険労務士に相談し,
原告に交付するZ5名義の注意書を起案した。そこに記載された内容は,①平成25年の目標設定文書の提出が約5か月遅れ,その点について注意を受けていたにもかかわらず,平成26年の目標設定時も何度も督促を受けたが,優先順位が低いなどと述べて,書類提出の重要性を理解しようとする様子がみられず,その後提出された書類の一部は白紙であった,②出退勤時にチーム全体に対して挨拶するというチームルールを守るよう指導しているのに,話を切り上げ,ルールを守るという行動にも出ていない
ことは著しい協調不良である,③原告の行為は共同作業や業務遂行を大きく乱し,他の社員の業務にも支障を与え,被告就業規則30条1号(5),2号(27)等に違反し,92条1項6号等の懲戒事由に該当するので,このような行為を改善されるよう注意するという趣旨のものであった。しかし,このときに起案された注意書は,結局,原告に交付されなかった。(乙8
7,88)

第2回休業後に原告からの復職申出を受けて,被告との面談が実施され
た際に,被告からは退職勧奨が行われ,原告は職場復帰しないまま自宅に待機した状態で被告との間で折衝を行った。Z5及びZ7と面談した際に,原告からは,Z4部長に謝りたい,Z8には大変申し訳ないことをした旨の発言があった。また,原告がZ4部長に送信したメールには,不愉快な思いをさせたことを詫び,言葉が過ぎて甘えていた,指導を受けて改善されたことが分かるような態度を取ればよかったなどと反省の弁を述べるものがあった。
(前記前提事実(5),乙128・17頁,Z4調書15頁,Z
5調書7,8頁)
2
解雇の効力について
(1)

妊娠等と近接して行われた解雇と均等法及び育休法違反について
前記第2の2のとおり,均等法9条3項及び育休法10条は,労働者が妊
娠・出産し,又は育児休業をしたことを理由として,事業主が解雇その他の不利益な取扱いをすることを禁じている。一方で,事業主は,客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当であると認められる場合には,労働者を有効に解雇し得る(労働契約法16条参照)

上記のとおり,妊娠・出産や育児休業の取得(以下妊娠等という。)
を直接の理由とする解雇は法律上明示的に禁じられているから,労働者の妊娠等と近接して解雇が行われた場合でも,事業主は,少なくとも外形的には,妊娠等とは異なる解雇理由の存在を主張するのが通常であると考えられる。
そして,解雇が有効であるか否かは,当該労働契約に関係する様々な事情を勘案した上で行われる規範的な判断であって,一義的な判定が容易でない場合も少なくないから,結論において,事業主の主張する解雇理由が不十分であって,当該解雇が客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められなかった場合であっても,妊娠等と近接して行われたという一事をもって,当該解雇が妊娠等を理由として行われたものとみなしたり,そのように推認したりして,均等法及び育休法違反に当たるものとするのは相当とはいえない。
他方,事業主が解雇をするに際し,形式上,妊娠等以外の理由を示しさえすれば,均等法及び育休法の保護が及ばないとしたのでは,当該規定の実質的な意義は大きく削がれることになる。もちろん,均等法及び育休法違反とされずとも,労働契約法16条違反と判断されれば解雇の効力は否定され,結果として労働者の救済は図られ得るにせよ,均等法及び育休法の各規定をもってしても,妊娠等を実質的な,あるいは,隠れた理由とする解雇に対して何らの歯止めにもならないとすれば,労働者はそうした解雇を争わざるを得ないことなどにより大きな負担を強いられることは避けられないからである。
このようにみてくると,事業主において,外形上,妊娠等以外の解雇事由を主張しているが,それが客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないことを認識しており,あるいは,これを当然に認識すべき場合において,妊娠等と近接して解雇が行われたときは,均等法9条3項及び育休法10条と実質的に同一の規範に違反したものとみることができるから,このような解雇は,これらの各規定に反しており,少なくともその趣旨に反した違法なものと解するのが相当である。
(2)

被告が主張する解雇理由について
被告は,原告の解雇理由について,前記第2の4(2)ア(イ),(ウ)のとお
り主張しており,原告の問題行動が,業務妨害や,業務命令違反,職場秩序のびん乱や,業務遂行能力及び資質の欠如に当たる旨主張している。イ
被告主張に関連して認定できるのは前記認定事実のとおりであり,原告は,自身の処遇・待遇に不満を持って,Z8やZ4部長ら上司に執拗に対応を求め,自身の決めた方針にこだわり,上司の求めにも容易に従わないなど,協力的な態度で対応せず,時に感情的になって極端な言動を取ったり,皮肉・あてこすりに類する言動,上司に対するものとしては非礼ともいえる言動を取ったりしており,その結果,上司らは原告への対応に時間を取られることを大きな負担と感じ,Z8に関しては他部門へ異動せざるを得なかったものと要約できる。
他方,原告の業務遂行に関しては,その能力・成績等について何ら問題にされておらず,むしろ良好・優秀な部類と受け取られていたことは,平成25年度の原告に対する人事評価において,
ビジネスマナーやチー
ムワークの項目以外,Z4部長も全て4段階中の最高評価としていたことからも明らかであり(前記認定事実(3)イ)
,その評価時点から第2回休業
開始時までの間に約5か月の期間があるものの,この間に原告の業務遂行の状況について顕著な変化があった旨の主張立証はされていないところである。


次に,被告が原告の問題行動についてどのような注意・指導を行っていたかという点についてみると,Z4部長やZ5からは,上司への態度として不適切なものであることが口頭で注意されており(前記認定事実(1)オ,(2)ア)
,第2回休業前のメール共有の措置に関しては,Z4部長から業務命令違反であることを明示し,処分をほのめかしている(前記認定事実(2)キ)ほか,個々の指示に際しての注意も行われている(前記認定事実(2)イ等)
。しかし,これまでに,それ以上に懲戒処分はもちろん,文書を
交付して注意が行われたことはなく,業務命令違反等の就業規則違反であ
ることを指摘したり,将来の処分をほのめかしたりしたのも,上記メール共有の措置の件以外には見当たらない。
被告は,弁護士や社会保険労務士の助言を受けつつ注意書を準備していたとするが,実際に原告には交付されていない。この点について,被告は交付する予定であったものの直前の平成26年4月に原告の妊娠が発覚し母性保護を優先して交付を断念したと主張し,Z5も同旨を供述する(乙128・15頁)
。しかし,注意書の文案(乙88)及び社会労務士作成
の原案(乙87)は同年3月5日及び2月27日に作成されていたというのであり,上記文案の作成から妊娠の発覚までは一定の時間的余裕もあったようにみえながら,原告への注意書の交付が実行されていなかったことからすると,原告の問題行動なるものを被告においてどの程度深刻なものと受け止めていたかについては疑問も残り,少なくとも緊急の対応を要するような状況とまでは捉えていなかったことがみてとれる。
さらに,被告では,原告の問題行動に苦慮し,これへの対応として弁護士,社会保険労務士及び産業医に相談し,助言を受けていたというのであるが,助言の内容は,要するに,今後の原告の問題行動に対して,段階を踏んで注意を与え,軽い懲戒処分を重ねるなどして,原告の態度が改まらないときに初めて退職勧奨や解雇等に及ぶべきであるとするものであるが,第2回休業までの経過及びその後の経過をみる限り,こうした手順がふまれていたとは到底いえないところである。そして,その助言の内容に照らせば,被告(その担当者)にあっては,第2回休業の終了後において直ちに,すなわち,復職を受け入れた上,その後の業務の遂行状況や勤務態度等を確認し,不良な点があれば注意・指導,場合によっては解雇以外の処分を行うなどして,改善の機会を与えることのないまま,解雇を敢行する場合,法律上の根拠を欠いたものとなることを十分に認識することができたものとみざるを得ない。


ところで,被告は,本件解雇につき,弁護士からの助言を踏まえた既定の方針を変更してされたものであることを認めつつ,そうした方針変更の理由について,第2の4(2)ア(ア)eのとおり主張している。その理由は,ある意味,臆面がなく,率直に過ぎるものであるが,これを要約すれば,他の社員にとって,問題行動のある原告がいない職場があまりに居心地がよく,原告が復職した場合にはその負担・落差に耐えられず,組織や業務に支障が生ずるではないかというものである。こうした方針転換の理由は,被告の主張限りのものではなく,Z4部長やZ5も率直に同旨を述べている(Z4調書13頁,Z5調書11頁)

しかし,労働者に何らかの問題行動があって,職場の上司や同僚に一定の負担が生じ得るとしても,例えば,精神的な変調を生じさせるような場合も含め,上司や同僚の生命・身体を危険にさらし,あるいは,業務上の損害を生じさせるおそれがあることにつき客観的・具体的な裏付けがあればともかく,そうでない限り,事業主はこれを甘受すべきものであって,復職した上で,必要な指導を受け,改善の機会を与えられることは育児休業を取得した労働者の当然の権利といえ,原告との関係でも,こうした権利が奪われてよいはずがない。そして,本件において,上司や同僚,業務に生じる危険・損害について客観的・具体的な裏付けがあるとは認めるに足りない。


以上によれば,本件解雇は,客観的に合理的な理由を欠いており,社会通念上相当であるとは認められず無効である。また,既に判断した解雇に至る経緯(第1回休業前の弁護士等の助言内容のほか,紛争調整委員会が発した調停案受諾勧告書の内容(前記前提事実(6))も考慮されるべきである。
)からすれば,被告(の担当者)は,本件解雇は妊娠等に近接して行われており(被告が復職の申出に応じず,退職の合意が不成立となった挙句,解雇したという経緯からすれば,育休終了後8か月が経過していて
も時間的に近接しているとの評価を妨げない。,かつ,客観的に合理的な)
理由を欠いており,社会通念上相当であるとは認められないことを,少なくとも当然に認識するべきであったとみることができるから,前記(1)で判断したところによれば,均等法9条3項及び育休法10条に違反し,少なくともその趣旨に反したものであって,この意味からも本件解雇は無効というべきである。
3
地位確認請求及び賃金支払請求について
上記2で判断したところによれば,原告の被告に対する労働契約上の地位を有することの確認請求並びに賃金及びこれに係る遅延損害金支払請求は全部理由がある。

4
不法行為に基づく損害賠償請求について
解雇が違法・無効な場合であっても,一般的には,地位確認請求と解雇時以降の賃金支払請求が認容され,その地位に基づく経済的損失が補てんされることにより,解雇に伴って通常生じる精神的苦痛は相当程度慰謝され,これとは別に精神的損害やその他無形の損害についての補てんを要する場合は少ないものと解される。
もっとも,本件においては,原告が第2回休業後の復職について協議を申し入れたところ,本来であれば,育休法や就業規則の定め(第2の4(1)ア,3(2)参照)に従い,被告において,復職が円滑に行われるよう必要な措置を講じ,原則として,元の部署・職務に復帰させる責務を負っており,原告もそうした対応を合理的に期待すべき状況にありながら,原告は,特段の予告もないまま,およそ受け入れ難いような部署・職務を提示しつつ退職勧奨を受けており,被告は,原告がこれに応じないことを受け,紛争調整委員会の勧告にも応じないまま,均等法及び育休法の規定にも反する解雇を敢行したという経過をたどっている。こうした経過に鑑みると,原告がその過程で大きな精神的苦痛を被ったことが見て取れ,賃金支払等によって精神的苦痛がおおむね慰謝され
たものとみるのは相当でない。
そして,本件に表れた一切の事情を考慮すれば,被告のした違法な本件解雇により,原告に生じた精神的苦痛を慰謝するに足りる金額は50万円と認めるのが相当であり,これと相当因果関係にあると認められる弁護士費用5万円とを併せて,被告は損害賠償義務を負うものというべきである。
第4

結論
以上によれば,原告の請求は主文1項から3項までに掲記した限度で理由があるので認容し,その余は理由がないので棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第36部

裁判官

田徹
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