判例検索β > 平成28年(わ)第89号
詐欺、殺人、電磁的公正証書原本不実記録・同供用、有印私文書偽造・同行使、詐欺未遂
事件番号平成28(わ)89
事件名詐欺,殺人,電磁的公正証書原本不実記録・同供用,有印私文書偽造・同行使,詐欺未遂
裁判年月日平成29年8月25日
裁判所名・部甲府地方裁判所
裁判日:西暦2017-08-25
情報公開日2019-02-02 13:03:05
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主文
被告人を死刑に処する
理由
(犯罪事実)
被告人は,
第1A及びBと共謀の上,保険金目的で殺害することを計画していたCから,その殺害前に事業資金名目で金銭をだまし取ろうと企て,平成26年9月16日頃,山梨県笛吹市内に所在のショッピングモールa飲食店bにおいて,Cに対して,真実は,同人を殺害するための実行役に支払う報酬等に用いるつもりであるのに,その情を秘し,フィリピン共和国において新会社を設立するための事業資金に用いるために各自が資金を拠出する旨嘘を言った上,同月17日頃から同月18日頃にかけて,被告人,A,B及びCが参加する無料通話・メールアプリであるLINEのトークルームにおいて,被告人らが各300万円をAの口座に振り込んだように装うメッセージを送信して,被告人らが各300万円を事業資金に拠出したように装うなどして,Cをして,自ら拠出する300万円も,被告人らが拠出したのと同様に,フィリピン共和国において新会社を設立するための事業資金に用いられるものと誤信させ,よって,同月19日,c信用金庫d支店に開設されたA名義の普通預金口座に現金300万円を振込入金させた。
第2A及びBと共謀の上,Cから,その殺害前に見せ金のための預り金名目で金銭をだまし取ろうと企て,真実は,被告人が第1記載の事業資金に300万円を拠出したことはなく,同人の後見人的立場にあるDから300万円の拠出に反対されて被告人の旅券を取り上げられた事実はないのに,同年10月8日から同月10日までの間,被告人,A,B及びCが参加するLINEのトークルームにおいて,それぞれメッセージを送信するなどして,Cに対して,前記のとおり,被告人の旅券がDに取り上げられてしまい,被告人がフィリピン共和国に渡航できなくなったことから,Dから同旅券を取り戻すために,一人当たり70万円を拠出
して合計280万円とした上で,被告人が300万円の返還として受けた現金であるなどと装う見せ金としてDに呈示し,被告人の旅券を取り戻すとともに,各自が拠出した70万円は,フィリピン共和国から帰国した後に返還するなどと嘘を言い,Cをして,その旨誤信させ,よって,同月10日,e銀行f支店に開設されたB名義の普通預金口座に現金70万円を振込入金させた。
第3

A,B及びEらと共謀の上,C(当時32歳)の死亡保険金を入手するために
同人を殺害しようと企て,同月19日午前零時30分頃(現地時間同月18日午後11時30分頃),フィリピン共和国マニラ首都圏ラスピニャス市内において,Cに対し,けん銃で弾丸数発を発射して,同人の胸部等に命中させ,よって,同月19日,同市内の病院において,同人を胸部臓器損傷により死亡させて殺害した。
第4Aらと共謀の上,B(当時42歳)の死亡保険金を入手するために同人を殺害しようと企て,平成27年8月31日から同年9月1日までの間,フィリピン共和国マニラ首都圏ラスピニャス市内において,Bに対し,けん銃で弾丸数発を発射して,Bの胸部等に命中させるなどし,よって,その頃,同所において,同人を胸部射創による左血気胸及び胸部臓器損傷により死亡させて殺害した。第5部分判決の(犯罪事実)第1に記載のとおり
第6部分判決の(犯罪事実)第2に記載のとおり
第7部分判決の(犯罪事実)第3に記載のとおり
第8部分判決の(犯罪事実)第4に記載のとおり
第9部分判決の(犯罪事実)第5に記載のとおり(ただし,同記載中第4とあるのを第8と読み替える。)
(判示第1から第4までの争点に対する判断)
第1
1
判示第1から第3までについて
争点
判示第1に関して,CがAの預金口座に300万円を振り込んだこと,判示
第2に関して,Cに対して虚偽の請求がされ,同人がBの預金口座に70万円を振り込んだこと,判示第3に関して,Cが判示の日時,場所で殺害されたことについては争いがない。
争点は,①判示第1に関して,300万円の振り込みが虚偽の請求に基づくものであったか否か,②判示第1及び第2に関して,被告人とA及びBとの間の共謀が認められるか否か,③判示第3に関して,被告人とA,B及びEらとの間の共謀が認められるか否かである。
2
Aの供述の信用性
Aの供述の要旨


入院中であった平成26年7月4日,見舞いに来た被告人から,Bに保険を
掛けて殺害する,そのためにフィリピンでいわゆるヒットマンを雇えるかと持ち掛けられた。当初は曖昧な返事をしていたが,被告人から,膝が悪く仕事ができない状況にあることを指摘された上,金が入ればフィリピンでうなぎの稚魚の事業を行うことができるなどと説得され,その話に乗ることにした。

もっとも,膝の手術後で動けなかったことから,被告人の了承を得た上で,
妻であるフィリピン人のFと,フィリピンで知り合ったEにヒットマンの手配を頼むことにした。

同年8月頃,被告人から,株式会社gを保険の関係で利用するために,殺害
対象をBからCに変更すると言われた。被告人は,Bを仲間に誘い込み,Aがヒットマンの手配を担当し,被告人とBがCを被保険者とする保険の加入手続や必要な登記手続を担当するという役割分担を決めた。

Cを被保険者とする保険に,株式会社g名義で加入する必要があったため,
同人が行っていたhという事業を,同社がフィリピンで展開することを持ち掛け,同人に同社の役員となることを了承させた。
オ被告人は,株式会社gに実体があることを装うために,iという物件を賃借した。被告人は,同社の役員変更登記や本店所在地の変更登記のための書類を作成した。

同年9月頃,被告人の発案で,Cからヒットマンの報酬等の資金をだまし取
ることになった。被告人とともに,Cに対して,フィリピンで新会社を設立するために1200万円の資金が必要であり,これを,被告人,B,C及びAの4人でそれぞれ300万円ずつ負担すると嘘を言い,Cに300万円を振り込ませた。キ
Fは,当初,ヒットマンの手配をすることを承諾していなかった。そのため,
被告人からもFに頼むよう求めたところ,被告人は,これを了承した。被告人からいつのタイミングでFに話すとのメールが送られてきた日(同月19日)かその翌日頃,被告人及びFとショッピングモールaの飲食店jに行った。jを出た後,Fから,被告人からヒットマンの手配を頼まれたが本当かと聞かれ,本当だと答えた。その夜,Fは,知り合いに聞いてみると言って,ヒットマンの手配を引き受けてくれた。
また,後に,Fから,同月下旬に被告人らとフィリピンに渡航した際にも,ホテルの喫煙所で被告人からヒットマンをよろしく頼むと言われたと聞いた。ク
同年10月頃,Cをフィリピンに誘い出すために,被告人及びBとともに,
LINEのトークルームに,フィリピンの神父で多数の信徒を抱えているパストールがhの事業に興味を持っているなどと架空の話を投稿し,Cを乗り気にさせた。ケ
Eに対して,殺害対象がBからCに変更されたことを伝えられずにいたので,
被告人からEに伝えるように依頼すると,被告人は,これを了承した。同月6日,Eから,殺害するのはBではなくCであると被告人に言われたが本当かと確認する電話があったので,そのとおりであると答えた。

同月,Bから,フィリピンでの追加費用として必要な70万円をCからだま
し取るという計画を聞かされた。そして,被告人の指示にも従いつつ,被告人及びBとともに,Dが被告人の300万円の出資に激怒してパスポートを取り上げてしまったので,Dからパスポートを取り返すために,見せ金として各自70万円を用意する必要があるとの嘘の内容をLINEのトークルームに投稿するなどし,Cに70万円を振り込ませた。


フィリピンでのヒットマンの手配の進捗状況については,EやFから随時連
絡を受けていた。ヒットマンの手配ができた際は,被告人とBに対し,手配ができたことや,殺害の報酬が40万ペソであること,殺害予定日が同月18日であること,EがCを殺害場所まで連れ出す予定であることなどを伝えた。

同月16日,ヒットマンの報酬の一部に充てるため,フィリピンに行く被告
人に50万円を手渡した。その際,被告人がその50万円をEに直接渡すことを拒否したため,被告人がFに渡し,同人がEに渡すことになった。

Fからは,同月17日に被告人から50万円を受け取ったこと,同月18日に
Eに20万ペソを渡したこと,同日から翌日に日付が替わる頃に更に20万ペソを渡したことの報告を受けた。
セ同月19日,Bから,二人死んだとの連絡を受けたため,Cの殺害が成功したことが分かった。
信用性判断

Aの供述は,被告人に保険金目的の殺害計画を持ち掛けられてから犯行に至
るまでの一連の経緯を具体的かつ詳細に述べたものである上,その内容も自然かつ合理的である。

Aは,平成27年10月に,本件を自白し,それ以降捜査に協力している。
自白に至った理由も,Bの最後の言葉が頭に残っていたことと,Cの殺害の主犯がBになる可能性があると警察官から聞かされたことから,真実を話さなければBが不憫であると思い自白したという自然なものである。Aは,自白後にフィリピンに2度渡航しているが,そのままフィリピンに滞在して逃亡することもできたのに,それをせずに帰国して自白を続けた上,Fを説得して日本に連れてきたり,フィリピンから証拠を持ち帰ったりしている。
このように,Aが自白をした経緯や自白後の行動は,真実を話していると信頼できるものである。

Aは,自己の刑事裁判はすでに確定して終了しているから,被告人を巻き込
むことで自らの刑事責任を軽くすることは考えられない。

Aの供述内容は,証拠により認められる客観的事情とも整合している。被告人と共謀して新会社設立費用の名目でCから300万円をだまし取った
という供述は,被告人も参加するLINEのトークルームにおいて,新会社設立費用のために各自が300万円ずつ振り込む旨のやり取りがされ,被告人も,300万円を振り込んだことなどを内容とするメッセージを投稿していること,Aの預金口座には,Cから300万円の振込入金がされている一方で,被告人とBからは300万円の入金がないこと,さらに,被告人,A,B及びCの4名が300万円ずつ出資してフィリピンで会社を設立することを前提とした内容の文書のファイルデータがCのパソコン内に存在するとともに,そのファイルデータと同一内容の文書が被告人及びBの自宅から発見されていることと整合する。
被告人と共謀してDへの見せ金名目でCから70万円をだまし取ったという供述は,上記LINEのトークルームにおいて,Dに取り上げられた被告人のパスポートを取り戻すための見せ金として280万円が必要で,各自70万円ずつ振り込んで見せ金を作る旨のやり取りがされ,被告人も,見せ金が必要な時期を伝える内容のメッセージを投稿していることや,Bの預金口座には,Cから70万円の振込入金がされている一方で,被告人とAからは70万円の入金がないことと整合する。
Cの殺害に関して,被告人とともに,パストールが事業に興味を示しているという架空の話をしてCをフィリピンに連れ出そうとしたという供述は,上記LINEのトークルームにおいて,パストールが事業に興味を持っている旨のAの投稿に対して,Cが非常に乗り気になっている内容のメッセージを投稿し,Bや被告人のアカウントからもこれに同調するメッセージが投稿されている一方で,Aと被告人のアカウント間では,Cを乗せすぎたことを心配したり,乗り気になっているCを冷やかしたりするような内容のメッセージがやり取りされていることと整合する。被告人が登記手続の担当であり,役員変更登記のための書類を作成していた
という供述は,上記LINEのトークルームに,被告人から

被告人です。書類を作ってます。A,C,被告人を取締役に就任って事でいいだよね

との投稿がされていることと整合する。
平成26年9月19日に被告人からAに送信されたいつのタイミングでFに話すとのメッセージについて,Aは,被告人がヒットマンの手配を依頼することをいつFに話すのかという意味であると合理的に説明しており,その日か翌日頃に飲食店jへ行った後,Fから被告人にヒットマンの手配を依頼されたと聞いたという出来事についても,同メッセージに関連させて合理的に供述している。オ
Aの供述内容は,後述するE,F及びGの供述とも整合しており,相互に供
述の信用性を高め合っている。

以上によれば,Aの供述には,信用性が認められる。
弁護人の主張


これに対して,弁護人は,①Aが被告人と保険金の分け前について話し合っ
ていないというのは不自然である,②被告人がAに送信したいつのタイミングでFに話すとのメッセージは,文面自体から直ちにヒットマンの手配の話をすることと捉えることはできない,③AがCを被保険者とする傷害保険のことを知らなかったというのは不自然である,④平成26年9月22日の50万円の出金について,ATMの位置関係と出入金の時間からすると,Aの供述どおりに行動することは不可能である,などと指摘して,Aの供述は信用できないと主張する。しかしながら,①については,Aは,保険金の分配に関して,保険金が入ればフィリピンでうなぎの稚魚の事業を行うことができると被告人から誘われ,被告人とは友人で対等な関係なので,同事業に充てた残りを等分するものと考えていたと述べているが,そのような事情からすれば,保険金の分配について話し合わなかったとしても不自然とはいえない。②については,確かに,上記メッセージは,文面だけをみれば,ヒットマンの手配の話をFにするという内容であると一義的に読み取ることはできないものの,上記のとおり,Aは,その趣旨を自己の供述内容との関
係で合理的に説明しているのであり,その意味で供述を裏付けているということができるから,Aの供述の信用性を否定する事情とはならない。③については,Aは,本件で保険の関係を担当していたのは被告人であり,その被告人から,Cに掛けた保険は海外旅行保険であると聞かされ,それを信じていたと供述しているのであって,必ずしも不自然であるとはいえない。④については,確かに,Aが供述するように,AがATMで出金した後,飲食店bで被告人に現金を渡し,被告人がATMで入金するという行動をとることは,関係各所の位置関係や出入金の時間に照らすと困難であるといえるから,この点についての供述内容は事実と異なるものと考えられる。しかしながら,Aは,50万円の出金を複数回行っており,被告人と金銭の授受をしたことも複数回あったというのであるから,他の機会におけるやり取りと混同していることは十分に考えられる。したがって,弁護人の指摘する点は,Aの供述の重要部分の信用性に影響を与えることにはならない。

さらに,弁護人は,A,E及びFは自らの刑事責任を軽くするために口裏合
わせをしている可能性があると指摘する。
しかしながら,まず,Eは,平成27年3月に自首をしてAらとの接触を断っており,Aは,Eと連絡が取れなくなったことに慌て,その旨のメッセージを被告人らに送信しているのであるから,AとEとの間で口裏合わせをする機会がなかったことは明らかである。また,A及びFの供述には,自分たちにとって不利な事情も包み隠さずに供述しているとみられる箇所が多数含まれている上に,フィリピンにとどまることもできたのに,それをせずに日本に渡航して進んで自白したという経緯等も考慮すると,被告人を巻き込むために口裏合わせをしたということは考えられない。

その他弁護人が主張する事情も,Aの供述の信用性を否定する事情とはなら
ない。
3
Eの供述の信用性
Eの供述の要旨

Eは,Aからヒットマンの手配を持ち掛けられ,実際にフィリピンでヒットマンを手配し,Cを殺害現場まで連れ出したことを供述するが,被告人との関わりについても,以下のとおり供述する。

平成26年10月6日,飲食店bで被告人と二人きりになった際,

Bじゃないよ,間違えないでね。Cをやってくれ

と言われた。その後,Aに電話をし,殺害対象がBからCに替わったことが本当か確認したところ,Aから,同月17日からのフィリピン渡航の際にCを殺害する予定であることなどを聞かされた。イ
同月16日,被告人に対して,フィリピンに到着した際に空港まで迎えに行
く旨のメールを送信したところ,被告人からすべてよろしくお願いしますとの返信があった。

同月17日,フィリピンで,被告人に,ヒットマンの報酬が高いと怒られた
り,殺害現場の下見に行かなくてよいのかと言われたりした。被告人がフィリピンに滞在している間,Cの殺害の件で被告人と話が通じないと思ったことはなく,Aに連絡していたことは被告人も分かっているようだった。

犯行当日,Cを殺害現場に連れて行くためにタクシーに乗せた際,被告人か
ら,お願いしますよと言われた。

被告人は,Cの殺害に関わる話をするときは,丁寧ではあるが命令と感じら
れる口調で話しており,被告人からお願いしますと何度か言われたのは,Cの殺害を計画どおり実行しろという意味だと認識した。
信用性判断

Eの供述は,AにBの殺害を持ち掛けられてから,被告人から殺害対象をB
からCに変更することを伝えられ,その後犯行に至るまでの一連の経緯を具体的かつ詳細に述べたものである上,その内容も自然かつ合理的である。イ
Eは,家族がいるフィリピンで生活し続けることもできたにもかかわらず,
平成27年3月に帰国して自首しており,それ以降,被告人や共犯者らとのやり取りについて一貫した供述をしている。


Eは,自己の刑事裁判はすでに確定して終了しているから,被告人を巻き込
むことで自らの刑事責任を軽くすることは考えられない。

Eは,平成26年10月16日に被告人から送信されたすべてよろしくお願いしますというメッセージについて,うなぎの稚魚の事業とともにCの殺害計画のことをしっかりやるようにという意味も含まれていると思ったなどと,前後の流れや他の証拠関係に沿う合理的な説明をしている。

Eの供述内容は,Cの殺害に関する一連の経緯に加えて,被告人とのやり取
りに関する部分についても,A及びFの供述と整合しており,相互に供述の信用性を高め合っている。

以上によれば,Eの供述には,信用性が認められる。
弁護人の主張


これに対して,弁護人は,①被告人がEと初めて会った翌日に殺害を依頼し
たというのは不自然である,②Eが被告人らと保険金の分け前の話をしていないというのは不自然である,③EがCとともにタクシーに乗り込んだ際,被告人は離れたウッドデッキにいたので,Eに声を掛けることはできなかった,などと指摘して,Eの供述は信用できないと主張する。
しかしながら,①については,Aは,被告人に対し,それ以前からヒットマンの手配をEに依頼していることを伝えていたと供述しており,そのような事情があれば,初めて会った翌日に殺害を依頼することが不自然とはいえない。②については,Eは,フィリピンにおいてうなぎの稚魚の事業さえ出来ればよいと考えていたのであり,その立場も,株式会社gに雇用されたばかりであったことも併せ考慮すると,保険金の分け前の話をしていないことが不自然とはいえない。③については,Eは,被告人から声を掛けられた際,被告人がウッドデッキにいたとは供述していない上に,道路とウッドデッキの位置関係も,声を掛けることができないほど離れてはいないと認められる。

その他弁護人が主張する事情も,Eの供述の信用性を否定する事情とはなら
ない。
4
Fの供述の信用性
Fの供述の要旨

Fは,Aからヒットマンの手配を依頼され,フィリピンでEとともにヒットマンの手配に奔走したことなどを供述するが,被告人との関わりについても,以下のとおり供述する。

平成26年9月,A及び被告人とショッピングモールaの飲食店jに行った
が,Aが席を外した際に,被告人からヒットマン知ってるのかい,頼むよ,Fと言われ,ヒットマンを探すことを頼まれた。その後,Aに対して,被告人からヒットマンを探すよう頼まれたと伝えると,Aから,手伝えば被告人からお金をもらえるなどと言われたので,知り合いに聞いてみると返事をした。イ
同月29日,フィリピンのホテルの喫煙所で,被告人に頼むよと言われ,
ヒットマンの手配を再度頼まれたと思い,泣いてしまった。

同年10月17日,フィリピンのホテルで,被告人から50万円を渡されて,
お願いね,Eさんに渡してと言われた。
信用性判断

Fの供述内容は,Aと被告人にヒットマンの手配を依頼されてから,本件に
関与するまでの一連の経緯を具体的かつ詳細に述べたものである上,その内容に格別不自然,不合理な点は認められない。

Fは,母国であるフィリピンで生活し続けることもできたにもかかわらず,
日本に渡航して本件を自白している上,被告人からヒットマンの手配を依頼されたという点については一貫した供述をしている。

Fは,自己の刑事裁判はすでに確定して終了しているから,被告人を巻き込
むことで自らの刑事責任を軽くすることは考えられない。

Fの供述内容は,Cの殺害に関する一連の経緯に加えて,被告人とのやり取
りに関する部分についても,A及びEの供述と整合しており,相互に供述の信用性
を高め合っている。

以上によれば,Fの供述には,信用性が認められる。
弁護人の主張

これに対して,弁護人は,①ショッピングモールaの飲食店jで被告人にヒットマンの手配を依頼されたという点は,被告人が外国人女性と同店に来たことはないとのHの供述に反する,②ヒットマンの手配を最初に依頼してきたのが誰かについて,捜査の初期の段階から供述の変遷がある,③ヒットマンの意味や被告人から50万円を受け取った際の被告人の言動について,自己の刑事裁判の際から供述の変遷がある,などと指摘して,Fの供述は信用できないと主張する。しかしながら,①については,Hは,勤務中もカウンターや客席を常に見ていたわけではないと供述しており,また,そもそも週に2日は休日で店に出勤していないというのであるから,同人の供述が被告人とFの来店の事実を否定することにはならない。②及び③については,Fは,当初は夫であるAを守るために嘘をついたとか,自己の刑事裁判の際は怖くて否認したり答えるのを忘れたりしてしまったと説明して,変遷の理由をそれなりに合理的に説明しているから,供述の信用性を左右する事情とはならない。
5Gの供述の信用性
Gの供述の要旨
ア被告人は,株式会社gの実質的な代表者であり,保険の担当者であると認識していたので,同社の保険に関する連絡は被告人としていた。
イ平成26年6月,被告人から,Bを被保険者とする生命保険に,株式会社gで加入したいと持ち掛けられた。被告人と保険金額などについてやり取りし,被告人の指示する内容で,Bを被保険者とする保険金額1億円の生命保険の加入手続を行った。ウ同年9月,被告人から,被告人,A,E及びCの4名を被保険者とする保険に,株式会社gで加入したいと持ち掛けられた。保険金額と保険料の見積りを被告人にLINEで送信した後,被告人及びBと会って打合せを行い,被告人から,保険金額を
1億円とし,死亡保険金の受取人を株式会社gとすること,Bはすでに生命保険に入っており,予算の関係もあるので被保険者とはしないことなどを指示され,具体的な保険内容を決めた(以下,このときに加入した傷害保険のことを本件傷害保険という。)。この打合せの際,被告人とBとでは,被告人が8割方話をしていた。エ本件傷害保険に加入するに際し,保険会社から,被保険者の全員が役員であることが加入の条件であると言われた。その旨を被告人に伝えると,被告人から,役員登記を行っているところであると言われたので,名刺や役員名簿などを提出するよう伝え,被告人から役員名簿の提出を受けた。
オ本件傷害保険の申込書を被告人に渡し,被保険者同意署名欄に各人の署名をもらうことなどを依頼した。翌日,被告人から申込書等を回収し,その際に保険料も受け取った。株式会社gの印は被告人が押した。
カ被告人は,株式会社gの実質的な代表者であったため,その従業員である各被保険者の同意は当然に得られていると思っていた。
キ本件傷害保険は,同年12月,告知義務違反で解除されたが,その際も,被告人に連絡をして説明した。説明の際にはAもいたが,同人は余り説明を聞いていない感じであった。Bがその場にいたかは記憶にない。そして,被告人に,契約解除に了承する旨の書面に,株式会社gの印を押してもらった。
ク同年9月と10月に,それぞれ,契約者を株式会社g,被保険者を被告人,B及びCらとし,死亡保険金の受取人を被保険者の法定相続人とする海外旅行保険の加入手続をした。いずれも被告人から加入したいという話があり,保険金額等について,被告人の指示する内容で申込手続をした。被告人は,作成された申込書を持参するか,申込書に株式会社gの印を押すかし,保険料を支払った。
信用性判断
ア保険契約に関するGの供述は,具体的なものであり,格別不自然,不合理な点は認められない。Gには,被告人を陥れたり,AやBに加担したりするような事情はなく,虚偽供述をしなければならない理由は認められない。

イその供述内容は,証拠により認められる客観的事情とも整合している。すなわち,被告人が株式会社gの実質的な代表者であり,同社の保険担当者としてやり取りをしていたという供述は,Gと被告人との間で,保険の見積りや待ち合わせなどに関する電話やメールの履歴が多数存在すること,被告人の自宅から,本件傷害保険の保険証券の写しが発見されていること,被告人が経営する飲食店bから,本件傷害保険の保険料領収証及び同社のゴム印が発見されていること,同ゴム印を被告人が発注していることなどの事情と整合する。また,本件傷害保険の普通傷害保険被保険者明細書及び被保険者同意確認書の署名のうち,被告人のものは,本人の筆跡と同一と推定されるのに対して,A,E及びCのものは,いずれも本人の筆跡と相違すると推定されるとの筆跡鑑定がされていることからは,上記各書面に自署したのは被告人のみであることが認められるが,このことは,被告人が同契約に関与していたこと,同契約についてのやり取りを被告人のみと行ったこと,その契約内容等は被告人の意向に従って決めたことなどの供述と整合するものである。
ウGの供述内容は,被告人がCの殺害計画で保険関係を担当する役割を担っていたというAの供述と整合しており,相互に信用性を高め合っている。エ以上によれば,Gの供述には,信用性が認められる。
6
被告人の弁解の信用性
被告人の弁解の要旨

被告人は,A,E及びFに対して,保険金目的殺人の話を持ち掛けたこともヒットマンの手配を依頼したこともない,保険については,Bから頼まれてGに取り次いだだけである旨述べ,また,Cに対する300万円の詐欺については,それが虚偽の請求によるものとは知らなかったし,AやBと共謀していない,Cに対する70万円の詐欺については,AやBと共謀していないなどと弁解する。また,上記の300万円や70万円の振り込みに関してLINEのトークルームに投稿されたメッセージについては,そのようなやり取りがされていたことは認識していない,被告人のアカウントから送信されたメッセージについては,何者かが被告人に成り済
まして送信したものか,内容を理解せずに言われるままの文面を送信したものであるなどと弁解する。
信用性判断

被告人の弁解は,不自然で不合理な箇所が随所にみられるものである。被告人の供述を前提とすると,保険金目的殺人の真犯人は,事件とは無関係
な被告人に,保険金目的殺人にとって重要な保険に関する手続を行わせたり,フィリピンでの架空の共同事業をCに持ち掛けさせたり,さらには300万円と70万円の各詐欺に関与させたりしていたことになるが,犯行に無関係な者をわざわざ関与させる必要性は認められないばかりか,無関係な者を巻き込めば,そのことによってかえって犯行が発覚するおそれが高まるのであるから,被告人の弁解は不合理である。
自らも参加し,投稿もしているLINEのトークルームにおける一連のやり取りを認識していないとしていることや,自分のアカウントから多数回にわたり成り済ましによるメッセージが送信されていることに気が付かずにいたとしていること,さらには,内容を理解せずに言われるままの文面のメッセージを送信したとしていることなどは,それ自体からして不自然,不合理である。
本件傷害保険について,Gから説明を受けておらず,何の保険か分からずに署名したかもしれないと弁解する点は,被告人が,自ら保険の資格を持ち,保険に詳しいことや,株式会社gの大株主で,同社が高額な保険料を支払うことについて関心を有してしかるべき立場にあったことからすれば,不自然である上に,信用できるGの供述にも反している。
本件傷害保険が解除されたことをGから説明されたが,その内容はよく分からなかったとする点は,上記のとおり,被告人は保険に詳しい上に,Gから落ち着いて話しをしたいとのメッセージでわざわざ呼び出されて説明を受けたという経緯があることからすると,不自然である。
株式会社gに関係するものが飲食店bから発見されているのは,Bが同店を
同社の事務所代わりに使っていたからであると弁解する点は,家賃を負担してまで同社の事務所として借りた物件があったことや,Bが同人の実家が経営する会社の事務所を利用することもできたことなどからすると,不合理である。イ
被告人の弁解は,信用できるA,E,F及びGの供述に反している。

被告人は,供述の不自然さや不合理性を追及されると,分からない,覚えて
いないと述べるなど,その弁解は具体性を欠いている。

以上によれば,被告人の弁解は信用できない。
弁護人の主張

弁護人は,①被告人は金に困っているような経済状況にはなく,保険金目的殺人をする動機がない,②Cとの関係は良好であり,同人を殺害する動機がない,③本件は保険金取得に至っていないずさんなもので,被告人と共犯者との間に意思疎通は図られておらず,共謀は認められないなどと主張する。
しかしながら,①については,飲食店bの収入状況や,住民税及び社会保険料の滞納状況などからすれば,被告人が余裕のある経済状況ではなかったことが認められるし,仮に経済的に困窮していなかったとしても,遊興費等に使うための不正な利益を得ようとして犯行に及ぶことはあり得ることである。②については,AやI,Eの供述からすれば,被告人は,平成26年6月にイベントkに出店した際に商品を送らなかったことでCから厳しく糾弾されるなどしており,同人に対して遺恨があったことがうかがわれる(この点,Dは,イベントkに関するトラブルは解決し,被告人とCとの関係は良好であったと供述するが,表面的には良好な関係を保っていたとしても,心の底では遺恨を抱えているというのはあり得ることである。)上に,そもそも保険金目的の殺人は,保険を掛けたり保険金を得たりするプロセスを必要としており,そのためには関係が良好である者を標的にすることがあり得るのであるから,弁護人の主張は当たらない。③については,本件で被告人らが保険金を取得できなかったのは,Cを株式会社gの役員とする旨の登記がされていなかったために保険契約が解除されたことが直接の理由であるが,そのことは必ずしも被
告人とA,B及びEらとの共謀を否定する事情とはならず,弁護人の主張は当たらない。
7
結論

争点①に関しては,信用できるAの供述に加えて,Cのみが300万円を振り込み,被告人,B及びAは300万円を振り込んでいないこと等の事情から,Cによる300万円の振り込みは虚偽の請求に基づくものであったと認められる。争点②に関しては,信用できるAの供述及びLINEの履歴等の証拠から,被告人とA及びBとの間に,Cに対する300万円及び70万円の各詐欺を行うことについての共謀があったと認められる。
争点③に関しては,信用できるA,E及びFの各供述等の証拠から,被告人とA,B及びEらとの間に,保険金目的でCを殺害することについての共謀があったと認められる。
そして,被告人の弁解は信用できないから,これらの認定に疑いを容れる事情とはならない。
第2
1
判示第4について
争点
Bが判示の日時,場所で殺害されたことについては争いがない。
争点は,被告人とAらとの間の共謀が認められるか否かである。

2
Aの供述の信用性
Aの供述の要旨


フィリピンから帰国した平成27年4月12日,被告人から,Bに保険を掛
けてフィリピンで殺害する計画を持ち掛けられ,その話に乗ることにした。イ
Bを殺害する計画においても,Aがヒットマンの手配を担当し,被告人がB
を被保険者とする保険の加入手続を担当するという役割分担となった。ウ
当時,被告人とBは公正証書を作成することなどに関して仲違いをしていた
が,Bをフィリピンに誘い出すために,被告人とともに,LINEのトークルーム
を利用して,3人でミーティングの機会を持つことを提案するなどした。そして,被告人とBの関係を修復させるとともに,Bにフィリピンに行くことを承諾させた。エ
同年5月9日から同月24日まで,フィリピンに渡航した(以下,この時の
フィリピン渡航のことを1度目のフィリピン渡航という。)が,ヒットマンと保険の準備が整えば,この渡航中にBの殺害を実行することになっていたので,気が重かった。もっとも,この時の渡航では,被告人から保険の準備ができていないことを伝えられ,殺害は実行しないことになった。

同年6月頃,被告人から,BをEの捜索名目でフィリピンに誘い出すために,
Eの居場所が記載されているメモをJから入手してBに10万円で売りつけるという話を聞いた。そして,被告人は,そのメモを10万円でBに売った。カ
同じ頃,被告人から,Bが死亡した後に保険金を請求するために,株式会社
gの取締役になるよう依頼され,これを了承した。被告人は,登記変更に必要な書類を作成した。

同月20日から同年7月2日まで,フィリピンに渡航した(以下,この時の
フィリピン渡航のことを2度目のフィリピン渡航という。)が,この時は,Kが遠方にいたために会うことができず,ヒットマンの手配を依頼できなかった。ク
同月11日から同月14日まで,フィリピンに渡航したが,この時は,Bが
パスポートを忘れたと言って渡航せず,殺害計画は実現しなかった。ケ
同年8月,被告人から,Bの保険加入を疑われないようにするために,Aも
生命保険に加入したほうがよいと言われ,被告人の指示どおりに,保険金額3000万円の生命保険の加入申込みをした。

同月22日から同年9月7日まで,フィリピンに渡航した(以下,この時の
フィリピン渡航のことを4度目のフィリピン渡航という。)。この時も,Kは遠方にいて会えなかったが,被告人から,保険の関係は準備が終わっているので,電話でヒットマンの手配を頼むように指示されたことから,Kに電話してヒットマンの手配を依頼した。Kの仲介により,ヒットマンであるL1と直接会うことにな
り,Bの殺害を引き受けてもらった。

同年8月31日の夜,計画どおりにBを犯行現場まで連れ出し,ヒットマン
に殺害させた。

同年9月1日の午前,被告人に電話をして,Bの殺害状況を報告した上,ヒ
ットマンの報酬の20万円の送金を依頼した。被告人は,なかなか送金してこなかったが,同月4日,メールで送金方法を提示したところ,いわゆる地下銀行を利用して20万円を送金してきた。

同年10月,Bが最後に自分に助けを求めた言葉を聞いていたことと,警察
官から諭されたことなどから,C及びBの殺人のことを自白した。セ
被告人は,Bに掛けていた保険金を請求することや,押収された株式会社g
の印鑑の返還を警察官に依頼すること,株式会社gの登記簿謄本を取ることなどを求めてきた。

自白後の警察官とのやり取りを通じて,被告人が表に出ていないことに気が
付いたため,被告人との会話を秘密裏に録音することにした。
信用性判断

Aの供述は,被告人にBを保険金目的で殺害することを持ち掛けられてから,
犯行に至り,犯行後に自白して捜査に協力するまでの一連の経緯を具体的かつ詳細に述べたものである上,その内容も自然かつ合理的である。また,第1で検討したとおり,Aが自白をした経緯や自白後の行動は,真実を話していると信頼できるものであり,Aが虚偽の供述をするような事情も認められない。

Aの供述内容は,証拠により認められる客観的事情とも整合している。本件の保険金目的殺人において,被告人が保険に関することを担当していた
という供述は,Bを被保険者とする保険金額5000万円の生命保険(以下本件生命保険という。)の復活手続に関する書面や保険料の再請求の通知文書,契約内容を照会した書面が被告人の自宅や飲食店bから発見されていることや,被告人が同保険の滞納保険料の支払をしていることと整合する。

被告人とBが仲違いしていたので,Bをフィリピンへ誘い出すためにその関係を修復しようとしたという供述は,Bが,被告人とAに対して,LINEのトークルームにおいて,公正証書の件でだまそうとしているのかと追及するメッセージを送信していることや,その後,Aと被告人が3人でミーティングをすることを提案するなどしても,Bが被告人の電話に出ない状態が続いていたこと,その後に,Bが金銭関係を解決することを条件に会う旨の返信をするなどし,被告人とBとの間で通話がされるようになったことと整合する。
1度目のフィリピン渡航時に,被告人から保険の準備ができていないと言われてBを殺害する計画が中止となったという供述は,同渡航の際,本件生命保険は失効していて,復活手続をしようとしている最中であったことと整合する。被告人が,Jから入手したメモをBに売ったという供述は,同メモを撮影した画像ファイルが被告人の携帯電話機に保存されていることと整合する。Aが,被告人から持ち掛けられて,株式会社gの役員になったり生命保険に加入したりしたという供述は,飲食店bのパソコン内に,Aの役員登記に関するファイルデータが存在することや,被告人の自宅から,Aを被保険者とする生命保険証券(ただし,保険金額は2000万円に変更されたもの)が発見されていることと整合する。
被告人にヒットマンの報酬の送金を催促して送金してもらったという供述は,Aが,被告人に対して,フィリピンへの送金方法を示す内容のメールをし,被告人が,正規の送金方法ではない方法(ドアtoドアと呼ばれる送金方法)でAに20万円を送金していることと整合する。
Aが被告人との会話を秘密裏に録音したものには,被告人が,Aに対して,Bの免許証などを日本に持ち帰って来ないように注意するとともに,Bのパスポートなどの遺留品があれば廃棄することを指示する内容や,本件生命保険の保険金を請求する方法を具体的に説明している内容のやり取りがあるが,これらは,被告人が証拠の隠滅を指示し,積極的に保険金を請求しようとしている内容のやり取りと
理解できるものであり,本件を被告人が計画して主導していたという供述と整合する。
Aは,①1度目のフィリピン渡航の際,今回の旅は久しぶりに行きたくねぇよ不安と生きるか?理想と死ぬか?と被告人にメッセージを送信し,被告人からう~ん!実に人間らしい!

俺はすべてをキレイにサッパリしたい。

と返信されたやり取りについて,被告人に送信したメッセージは,友人であるBを殺害する可能性のある渡航だったので,気が進まないことを示したものであり,被告人からのメッセージは,Bを殺害したいことを示した返信であること,②1度目のフィリピン渡航中に,

早く勝負決めよう。短期決戦だ

1。血判状正証書3。保険各種2。公4。6月出発手続き

と被告人に送信したことについては,
次の渡航で早くBの殺害を実行したいとの決意表明と,そのための準備内容を送信したものであること,③2度目のフィリピン渡航中に,どうするか?考えるじゃん!味方が誰もいない中でBOSSの決断で…と被告人にメッセージを送信し,
被告人からBOSSはあなたですよ!と返信されたやり取りについて,被告人に送信したメッセージは,Kに会えず,他にヒットマンの手配を頼める人もいない状況で,B殺害の計画を継続するかどうかを首謀者である被告人に伺いを立てたものであるのに対して,被告人からの返信は,はぐらかす内容が返って来たものであり,その後の電話で,本件に関することをメールに残さないよう注意されたこと,④4度目のフィリピン渡航中に,ファイナルアンサーで良いのけと被告人にメッセージを送信し,被告人からファイルアンサーでお願いしますと返信されたやり取りについては,ヒットマンの手配も完了し,Bの殺害について被告人に最終的な意思確認を行ったものであることなど,被告人との間の一連のメッセージのやり取りの意味について,自らの供述内容に沿った合理的な説明をしている。ウ
Aの供述内容は,後述するGの供述のみならず,被告人にフィリピンのでた
らめな住所を記載したメモを渡したとするJの供述及びAが自白する前後の言動等に関するMの供述とも整合しており,相互に供述の信用性を高め合っている。

以上によれば,Aの供述には,信用性が認められる。
弁護人の主張


これに対して,弁護人は,第1で検討した事情に加えて,①Aは,l労働金
庫に約15年間勤務しており,保険や公正証書に詳しいはずであるのに,それらがよく分からないと供述している,②ヒットマンの手配ができないままフィリピンに渡航するなど,場当たり的に対応しており,保険金目的殺人の準備としてはずさんである,③Bの殺害計画に関係するとAが指摘するメッセージは,文面自体から直ちに意味を捉えることができないものであったり,被告人とのやり取りがかみ合っていなかったり,意味不明なものを一方的に送り付けたりしたもので,被告人との意思疎通が図れているとはいえない,④Aの供述は,メモを作成した経緯やメモの代金の授受等に関するJの供述と整合していない,⑤Aが被告人との会話を秘密裏に録音したものには,被告人がBの殺害に関与したことを直接示すような発言はない,⑥Aが最初に作成した上申書には,Bを殺害した実行犯はL2であると,公判廷での供述と異なる内容が記載されている,などと指摘して,Aの供述は信用できないと主張する。
しかしながら,①については,Aがl労働金庫に約15年間勤務した経験があったとしても,実際に担当した職務内容によっては,保険や公正証書に詳しくないことはあり得る。②については,実際にフィリピンに行ってからでないと,ヒットマンを手配するために行動することが難しい面もあることからすると,計画としてずさんなものであったとまではいえない。③については,Aは,Bを殺害するとは直接書けないので,隠語みたいなものを使ったが,被告人とは意思疎通が図れていたと述べている上に,決意表明などはAが一方的に送ったもので,被告人の返信等がなくても格別不自然とはいえないものである。④については,AとJは,メモに関して直接やり取りをしていたわけではないから,間に入っている被告人が双方に異なる話をしていれば,両名がメモの作成経緯やメモの代金授受等に関して異なる供述をすることはむしろ当然である。⑤については,被告人がBの殺害に関与したこ
とを直接示す発言はないものの,Bの遺留品を廃棄することや,保険金請求の具体的な方法など,本件への関与を前提としなければ発言しないであろう内容が録音されていることからすると,被告人の関与を否定することにはならない。⑥については,Aは,Bの最後が悲惨な死に方だったので,人に聞かせたくなかったからと,その理由を合理的に説明しているから,供述の信用性を左右する事情とはならない。イ
その他弁護人が主張する事情も,Aの供述の信用性を否定する事情とはなら
ない。
3
Gの供述の信用性
Gの供述の要旨


平成26年6月に加入した,Bを被保険者とする保険金額1億円の生命保険
は,保険料の滞納により同年10月に失効した。被告人は,Bに金を貸している関係でBに何かあると困るので,復活手続をしてほしいと言っていたが,Bとなかなか連絡がつかなかったため,手続をすることができなかった。

被告人に対して,保険料の支払が難しいのであれば,保険金額を下げて新規
に保険に加入する方法もあると提案したところ,被告人から,保険金額を5000万円に下げて加入すると言われたため,平成27年1月に,本件生命保険の申込手続をした。この申込手続の際は,被告人及びBと申込書類や保険料の受け渡しをした。被告人から,申込人の住所を飲食店bに近いiの住所にするように言われて訂正した。また,申込みに必要な特別条件承諾書兼申込内容訂正・変更請求書を飲食店bに届けて,被告人に株式会社gの印を押してもらった。

本件生命保険も,保険料の滞納により平成27年5月に失効してしまったが,
被告人から,復活手続をしたいと言われた。同月18日,被告人から,Bが来るという話を聞いたので,復活手続に必要な書類を飲食店bに持っていったが,Bは来なかった。そこで,書類を被告人に渡し,その日の夜か翌日の朝,被告人から書類を回収した。保険料は,書類を渡したときに被告人から受領した。エ
本件生命保険は,復活手続をした後も保険料が滞納されていたため,被告人
に,同年7月末までに保険料を支払わないと失効してしまうことを伝えた。オ
同月下旬頃,被告人から,Aを被保険者として,Bと同様の保険に入りたい
と言われた。保険金額や保険料の見積りについて被告人とやり取りするなどして,最終的には保険金額2000万円の保険に加入する手続をした。

平成27年5月,被告人から,Bがフィリピンに渡航するに当たり海外旅行
保険に入りたいという連絡を受けたが,急な連絡であったため,対応できないと断った。

同年6月,7月にBとAがフィリピンに渡航した際も,被告人から,両名に
ついて海外旅行保険に加入したいと言われた。被告人は,申込書に株式会社gの印を押し,保険料を支払った。

同年8月にBとAがフィリピンに渡航した際は,Aが,同人とBの海外旅行
保険申込書と保険料をGの事務所に持ってきた。被告人に連絡すると,被告人はこのことを知っているようだった。

上記の海外旅行保険の申込書の中には,死亡保険金の受取人が株式会社gと
記載されているものがあったが,被告人とは,以前から,海外旅行保険の死亡保険金の受取人は法定相続人にするという話をしていたので,それらの記載は削除した。コ
Bの死亡後,被告人から,本件生命保険の保険金を請求する方法の問い合わ
せを2,3回受けた。同年11月には,被告人が,本件生命保険の内容を確認したいと言って,AとともにGの事務所を訪れたので,契約内容を印字した紙を見ながら説明し,被告人にその紙を渡した。このとき,被告人とAとでは,被告人が7割くらい話をしていた。その後,被告人から,本件生命保険の保険金請求書を送ってほしいと言われ,保険会社に連絡をして送付してもらった。

Bが死亡した後,Aから本件生命保険の保険金を請求したいとか,保険金の
請求書類を発送してほしいなどと言われたことはない。
信用性判断

Gの供述は,具体的なものであり,格別不自然,不合理な点は認められない。
第1で検討したとおり,Gが虚偽供述をしなければならない事情も認められない。イその供述内容は,証拠により認められる客観的事情とも整合している。すなわち,被告人が株式会社gの保険について中心となってやり取りをしていたという供述は,Gと被告人との間に,保険の見積りや,滞納保険料の支払の確認,待ち合わせの約束などに関する電話やメールの履歴が多数存在すること,被告人の自宅から,本件生命保険の失効及び復活手続の案内の書面,Aを被保険者とする保険金額2000万円の生命保険証券及び本件生命保険の契約内容を照会した書面が発見されていること,飲食店bから,本件生命保険の保険料を再請求する通知文書が発見されていることと整合する。
ウGは,一連の保険契約に関するやり取り及び各保険契約申込書の記載等について合理的な説明をしている。

Gの供述内容は,被告人がBの殺害計画の中で保険を担当する役割を担って
おり,犯行後も保険金の請求に向けて積極的に行動していたというAの供述と整合しており,相互に信用性を高め合っている。
オ以上によれば,Gの供述には,信用性が認められる。
4
被告人の弁解の信用性
被告人の弁解の要旨

被告人は,AにBを殺害する話を持ち掛けたことはない,本件生命保険については,Bから頼まれてGに取り次いだだけであるなどと弁解する。
信用性判断

被告人の弁解は,不自然で不合理な箇所が随所にみられるものである。被告人の供述を前提とすると,保険金目的殺人の真犯人は,事件とは無関係
な被告人に,保険金目的殺人にとって重要な保険に関する手続や,Bのフィリピンへの誘い出し,ヒットマンの報酬の送金などをさせていたことになるが,犯行に無関係な者をわざわざ関与させる必要性は認められないばかりか,無関係な者を巻き込めば,そのことによってかえって犯行が発覚するおそれが高まるのであるから,
被告人の弁解は不自然,不合理である。
Bを被保険者とする保険金額1億円及び5000万円の各生命保険について,いずれもBから通院や入院のことを重視して加入すると聞いていたと述べている点は,被告人質問の際に,死亡時のみの保障となっており,通院や入院は保障の対象となっていないことを指摘された後も,なぜそのような契約内容になっているかは分からないとあいまいで不合理な供述をしている。
具体的な事業をしていない株式会社gが高額な保険料を負担してまで保険に加入することに特に関心は持たなかったと述べている点は,被告人が同社の大株主であったことからすると,不自然,不合理である。
本件生命保険の滞納保険料に関して,Bから振込書と現金を渡されて支払ったと述べている点は,Bが自らコンビニエンスストア等に行って支払うことは容易であるのに,あえて被告人に依頼したというもので,不自然である。本件生命保険について取次ぎをしていただけであると述べている点は,被告人がAに対して保険金請求の具体的な方法を積極的に提案しているやり取りに照らすと不自然である上に,信用できるGの供述にも反している。
4度目のフィリピン渡航の際に,ファイナルアンサーでお願いしますとメッセージを送ったことについて,被告人がフィリピンに渡航しないことの最終確認であったと述べる点は,平成26年10月以降,Aは何度もフィリピンに渡航し,被告人はフィリピン渡航を断り続けていたのであるから,このタイミングで被告人のフィリピン渡航の話が蒸し返されるのはそれ自体が不自然である上に,フィリピン渡航の話であれば隠語を使う必要もないのに,内容を明示しないやり取りをしているのも不合理である。
Aに送金した20万円は,Bの遺体搬送費として送ったと述べている点は,そもそもそのような費用を被告人が負担しなければならない理由は見出し難い上に,Bの妻に確認もせずに送金したという点も不合理である。

被告人の弁解には,重要な部分について合理的な理由なく変遷がみられる。
本件生命保険を知った時期について,捜査段階では,平成27年12月頃に,Gの事務所で本件生命保険の契約照会の書面を受け取った時か,その直前にAから説明を受けた時であると述べていたが,公判廷では,本件生命保険に加入した平成27年1月頃には知っていたと述べるなど,供述を変遷させている。被告人は,変遷の理由について,捜査段階では,契約が有効と分かった時期を供述したと述べるが,供述調書の記載からは到底そのように理解することはできず,結局,変遷の理由を合理的に説明できていない。
被告人は,Bとの株式譲渡契約書に関連して,区分事件の審理の際には,契約書は形だけで,実際には株式の譲渡はしていないと述べていたのを,併合事件の審理では,契約書を作成したので,株式はBに譲渡済みであると,合理的な理由なく供述を変遷させている。

被告人の弁解は,信用できるA,G及びJの供述に反している。


被告人は,供述の不自然さや不合理性を追及されると,分からない,覚えてい
ないと述べるなど,その弁解は具体性を欠いている。

以上によれば,被告人の弁解は信用できない。
弁護人の主張

弁護人は,①Bとの関係は良好であり,同人を殺害する動機がない,②本件は保険金取得に至っていないずさんなもので,被告人とAとの間に意思疎通は図られておらず,共謀は認められないなどと主張する。
しかしながら,①については,被告人とBは,公正証書の作成等に関して仲違いをしていた上に,被告人はかつてBの借金を肩代わりしたことがあったと供述しており,被告人にはBに対する遺恨があったことがうかがわれるし,また,そもそも保険金目的の殺人は,保険を掛けたり保険金を得たりするプロセスを必要としており,そのためには関係が良好な者を標的にすることがあり得るのであるから,弁護人の主張は当たらない。②については,被告人が保険金を取得できなかったのは,捜査が及んで,株式会社gの印鑑が押収されたり,被告人らが逮捕されたために保
険金の請求ができなかったからであって,そのことが被告人とAとの共謀を否定する理由にならないことは明らかである。
5
結論

以上によれば,信用できるAの供述等の証拠から,被告人とAらとの間に,保険金目的でBを殺害することについての共謀があったと認められる。そして,被告人の弁解は信用できないから,この認定に疑いを容れる事情とはならない。
(量刑の理由)
1
本件は,被告人が,平成22年に,共犯者と共謀の上,偽装自動車事故に基
づく保険金詐欺を行い(判示第5),平成26年に,共犯者らと共謀の上,偽装自動車事故に基づく保険金詐欺を行い(判示第6),同年9月及び10月に,共犯者らと共謀の上,Cに対する300万円及び70万円の各詐欺を行い(判示第1及び第2),同月に,共犯者らと共謀の上,Cに対する殺人を行い(判示第3),平成27年1月から3月にかけて,共犯者らと共謀の上,Cの遺族に対する詐欺未遂を行い(判示第7),平成26年12月から平成27年3月にかけて,共犯者らと共謀するなどして,電磁的公正証書原本不実記録・同供用(判示第8)及び有印私文書偽造・同行使(判示第9)を行い,平成27年8月から9月に,共犯者らと共謀の上,Bに対する殺人を行った(判示第4)という事案である。
2
本件で量刑判断の中心となるのは,C及びBに対する各殺人(判示第3及び
第4)である。
本件各殺人は,いずれも被害者らに掛けられた死亡保険金を得る目的で行われている。このような保険金目的殺人は,人の生命を金銭獲得の手段にするもので,人命軽視の度合いが甚だしく,殺人罪の中でも最も重い類型の一つに位置づけられる。本件により,2名の尊い命が奪われている。Cは,被告人らと共同事業をすると信じてフィリピンに渡航し,Bは,Eの所在が判明したと信じてフィリピンに渡航し,いずれも突然人生を閉ざされることとなったものであり,その無念さは察する
に余りある。Cは,被告人らとともに保険金詐欺を行っていたという事情があり,Bは,被告人らとともにCに対する殺人等に関与していたという事情があるものの,そうであるからといって,両名とも殺されなければならない理由はないというべきである。このように,本件の結果は誠に重大であり,本件の量刑を考える上で,まず重視されるべき事情である。
被告人らは,被害者らに対し,法人を利用して高額の死亡保険を掛けた上,フィリピンに誘い出して現地のヒットマンに銃撃させ,殺害している。法人を利用することは,不審に思われずに高額の死亡保険に加入することを可能にし,フィリピンで殺害することは,日本の警察権が及ばず,犯行を発覚しにくくすることを可能にし,ヒットマンを雇うことは,自らの手を汚さずに確実に被害者を殺害することを可能にするもので,各犯行とも結果的には保険金を取得するに至っていないものの,本件は,非常に巧妙で,計画性の高い犯行である。
本件各殺人の犯行態様についてみると,いずれも至近距離から被害者らの胸部などにけん銃で弾丸を数発撃ち込むというもので,被害者らを確実に殺害することのできる方法である。さらに,Bに対しては,殴打したり,アイスピック様のもので刺突したりといった執拗な暴行も加えている。このように,いずれの犯行態様も,極めて冷酷で残虐なものである。
被告人は,各保険金目的殺人について,いずれも計画を立案し,殺害対象を決定した上,共犯者を言葉巧みに説得して誘い込み,役割分担を決め,共犯者に指示をして動かすなどしている。このように,被告人は,本件各殺人について,終始主導的に犯行に関与している。また,被告人は,保険金目的殺人において不法な利益を得る上で重要な保険に関する手続を自ら中心となって行い,共犯者にさえ,被害者らに掛けられた保険の全容を明らかにしていなかったものである。さらに,被告人は,保険の契約者で,保険金の受取人でもある会社を実質的に支配していたほか,同社の印鑑や預金通帳を管理しており,実際に保険金が振り込まれた際には,これを自由に扱うことができる立場にあったものである。このようにみてくると,本件
各殺人は,被告人の発案なしには実現しなかったばかりか,被告人のみが犯行計画の全貌を把握し,終始主導的に犯行に関与していたのであって,振り込まれた保険金を自由にできる立場にあったことも併せ考慮すると,被告人は,本件各殺人の首謀者であったことは明らかである。したがって,その責任は他の共犯者に比して格段に重いというべきである。
3
以上によれば,本件各殺人は,殺人罪の中で最も重い類型である保険金目的
殺人の中でも,特に重い部類に位置づけられるものであり,過去の裁判例の集積からみると,被害者の数が2名の保険金目的殺人で,首謀者とされた者に対しては,死刑が選択されていることからすれば,特段の事情のない限り,本件で死刑を選択することはやむを得ないというべきである。
4
その上で,本件に関するその他の事情を検討する。
各殺人以外の事件の情状についてみる。

判示第1及び第2のCに対する詐欺は,殺害する相手から殺害資金等をだまし取ったという卑劣なものである上に,判示第7のCの遺族に対する詐欺未遂も,Cを殺害した後に,その遺族から金をだまし取ろうとしたという卑劣なものである。判示第8の商業登記簿原本の不実記録・同供用と判示第9の有印私文書偽造・同行使は,Cの死亡保険金の取得に失敗したことから,Eに保険を掛けて殺害しようとして行ったもので,動機に同情の余地はない。
被告人は,判示第1及び第2のCに対する詐欺,判示第5及び第6の保険金詐欺,判示第7のCの遺族に対する詐欺未遂,判示第8の商業登記簿原本の不実記録・同供用について,いずれも犯行を計画して,共犯者を誘い込むなど,首謀者として犯行に及んでいる。
その他の情状についてみる。
各殺人の被害者の遺族らは,被告人らによって被害者を殺害され,愛する人を突如として失わざるを得なくなったことに対する憤りを述べ,被告人に対して,一様に死刑を望んでいる。

被告人は,本件後,警察の捜査が自らに及んでいることを知った後に至っても,保険金の請求を画策するなどしている。本件各犯行の動機や態様等も併せ考慮すると,被告人には,金銭を取得するためには手段を選ばない非道さ,強欲さがあることを見て取ることができる。
被告人は,公判廷において,不合理な弁解に終始して,責任をAやBに押し付けようとしており,反省や悔悟の情は皆無である。
本件は,保険金目的での殺人が2件敢行された事件として,模倣性も高く,社会に与えた影響も大きい。
他方で,被告人には,前科前歴がないこと,家族がいることなど,酌むことのできる事情も存在するが,いずれも量刑上大きく考慮することのできない事情といわざるを得ない。
5
以上によれば,本件各殺人は,殺人罪の中で最も重い類型である保険金目的
殺人の中でも,特に重い部類に位置づけられるもので,特段の事情のない限り,死刑を選択することがやむを得ない事案であるところ,その他の事情を考慮しても,特段の事情は見出し難いといわざるを得ない。そうすると,死刑が人間の生命を永遠に奪い去る究極の刑罰であり,その適用は慎重に行われなければならないことを踏まえても,罪刑均衡の見地からも,一般予防の見地からも,被告人に対しては,死刑をもって臨むことが真にやむを得ないものと判断した。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑-死刑)
平成29年8月25日
甲府地方裁判所刑事部

裁判長裁判官

丸山哲巳
裁判官

望月千広
裁判官

種村仁志主文
本件区分事件の各公訴事実につき,被告人はいずれも有罪。
理由
(犯罪事実)
被告人は,
第1Nと共謀の上,故意に自動車事故を作出し,Nが軽四輪貨物自動車を借り受けた株式会社mが自動車保険契約を締結しているn保険株式会社から対物賠償保険金名目で金銭をだまし取ろうと企て,平成22年10月8日午後5時30分頃,甲府市内に所在の被告人が経営する飲食店o駐車場において,Nが,軽四輪貨物自動車を運転し,同車後部を同店店舗壁面に故意に衝突させる自動車事故を作出した上,同日,東京都新宿区内に所在のp株式会社q事故受付部の担当者に対し,事故が故意に作出したものではなく,偶然によるものである旨内容虚偽の事故状況等を報告し,同報告に基づく事故の受付・登録をさせ,さらに,被告人が,同月12日から同年11月19日までの間,甲府市内に所在のn保険株式会社rセンタ―所長代理Oらに対し,自動車保険契約に基づく対物賠償保険金の支払を請求するなどし,同人らを介して報告を受けた同センター所長Pらをして,同請求が保険契約に基づく正当な請求である旨誤信させて対物賠償保険金の支払を決定させ,よって,同年11月10日から同年12月21日までの間,前後6回にわたり,被告人名義の普通預金口座及び店舗の所有者であるs株式会社名義の普通預金口座に現金合計995万円を振込入金させた。
第2

Q,B及びAらと共謀の上,故意に自動車事故を作出し,Qが自動車保険契約
を締結するとともに,被告人が所得補償保険契約を締結しているt保険株式会社及びBの父親が自動車保険契約を締結しているu保険株式会社から,対人賠償保険金,人身傷害保険金及び所得補償保険金等名目で金銭をだまし取ろうと企て,平成26年4月23日午前0時55分頃,甲府市内の路上において,Qが運転する軽四輪貨物自動車前部を,Bが運転する普通乗用自動車後部に故意に衝突させ
る自動車事故を作出した上
1
t保険株式会社と代理店契約を締結しているv株式会社担当者らを介して,同
日,同市内に所在のt保険株式会社w課担当者に対し,事故が故意に作出したものではなく,偶然によるものである旨内容虚偽の事故状況等を報告し,同報告に基づく事故の受付・登録をさせ,さらに,同月30日頃から同年5月7日頃までの間,同課Rに対し,自動車保険契約に基づく対人賠償保険金及び人身傷害保険金の支払を請求するなどし,同人らを介して報告を受けた同課課長Sらをして,同請求が保険契約に基づく正当な請求である旨誤信させて対人賠償保険金及び人身傷害保険金の支払を決定させ,よって,同月28日から同年8月21日までの間,前後5回にわたり,被告人名義の普通預金口座に現金合計58万9280円を,Q名義の通常貯金口座に現金合計38万2700円を,A名義の普通預金口座に現金61万5600円を,それぞれ振込入金させた。
2
v株式会社担当者らを介して,同年5月29日頃,東京都渋谷区内に所在のt
保険株式会社x課主事Tに対し,前同様の内容虚偽の事故状況等を報告し,同報告に基づく事故の受付・登録をさせるとともに,同人に対し,所得補償保険契約に基づく所得補償保険金の支払を請求するなどし,同人を介して報告を受けた同課課長代理Uをして,同請求が保険契約に基づく正当な請求である旨誤信させて所得補償保険金の支払を決定させ,よって,同年6月13日,東京都新宿区内のy銀行z支店に開設された被告人名義の普通預金口座に現金37万4000円を振込入金させた。
3
aa株式会社担当者を介して,同年5月2日,甲府市内に所在のu保険株式会
社cc課課長代理Vに対し,前同様の内容虚偽の事故状況等を報告し,同報告に基づく事故の受付・登録をさせ,さらに,同月19日頃,同課Wに対し,自動車保険契約に基づく人身傷害保険金の支払を請求するなどし,同人を介して報告を受けたVをして,同請求が保険契約に基づく正当な請求である旨誤信させて人身傷害保険金の支払を決定させ,よって,同月26日,同市内に所在のc金庫d支
店に開設されたA名義の普通預金口座に現金10万円を振込入金させた。第3A及びBと共謀の上,Cが死亡したことにより,Cの法定相続人であるXらが取得することとなった保険金の中から貸付金等回収名目で金銭をだまし取ろうと企て,平成27年1月9日頃から同年3月31日頃までの間,前後4回にわたり,真実は株式会社gがCに現金279万円を貸し付けるなどした事実はないのに,これがあるように装い,Xの代理人弁護士であるYに対して,その旨嘘を言い,同人をしてその旨誤信させて,Xに貸付金等の返済として現金279万円を支払わせようとしたが,Yが,嘘を信用しなかったため,その目的を遂げなかった。第4A及びBと共謀の上,Eの死亡保険金を入手するために,同人を株式会社の取締役等に就任させた上で,同人を被保険者とする生命保険契約を同社名義で締結しようと企て,平成26年12月11日から平成27年3月5日までの間,前後2回にわたり,甲府市内に所在の甲府地方法務局において,同法務局登記部門商業法人係係員に対し,Eが株式会社gの取締役及び株式会社eeの代表取締役に就任した旨の内容虚偽の株式会社変更登記申請書等を提出するなどし,よって,平成26年12月16日頃から平成27年3月10日頃までの間,情を知らない同所登記官をして,商業登記簿の原本である電磁的記録にその旨不実の記録をさせ,その頃,これを同法務局に備え付けさせて商業登記簿の原本の用に供した。第5第4と同様に企て,平成27年1月21日頃から同年3月27日頃までの間,前後2回にわたり,行使の目的をもって,ほしいままに,ff保険株式会社宛gg傷害保険申込書の被保険者になることの同意欄に,情を知らない保険代理店担当者をしてEと記入させるなどして,もって死亡保険金1億円とする保険の被保険者となることを同意するE名義の文書2通を偽造した上,同年1月28日頃から同年3月31日頃までの間,これを真正に成立したもののように装って,前記保険代理店担当者らを介して,甲府市内に所在のff保険株式会社hh支店ii支社担当者に対し,提出して行使した。
(争点に対する判断)

第1判示第1について
1争点
判示第1の事故(以下平成22年事故という。)が発生したこと及び被告人らが判示第1の各保険金をそれぞれ受領したことについては争いがなく,争点は,①平成22年事故が偽装によるものであったか否か及び②被告人とNとの間の共謀が認められるか否かである。
2Nの供述の信用性
Nの供述の要旨は,以下のとおりである。
平成22年9月頃,Zへの借金を返済できずにいたところ,被告人から,その借金を直接被告人に返済するように迫る電話が毎日のようにかかってくるようになった。そして,返済できないのであれば,自動車を被告人が経営する店の壁にぶつける偽装事故を起こし,その保険金で借金を清算するよう持ち掛けられた。当初は断っていたが,同年10月8日未明に,自宅に帰宅したところを被告人に待ち伏せされ,偽装事故を起こさないのであれば母親に請求すると言われたことなどから,偽装事故を起こすことを決め,被告人の指示に従って,平成22年事故を起こした。信用性判断
アNの供述は,被告人に金銭の支払を迫られてから事故を起こすまでの一連の経緯を具体的かつ詳細に述べたものである上,その内容も自然かつ合理的なものである。また,その供述内容は,証拠により認められる客観的事情とも整合している。まず,Nのパソコン内に保存されていた同人の携帯電話機のバックアップデータには,平成22年10月8日午前3時16分に被告人の携帯電話機の電話番号等が登録された記録が残っているが,これは,Nが,同日未明に自宅前で被告人に待ち伏せされた際に,被告人の連絡先を登録させられたと供述していることと整合している。また,被告人の携帯電話機にNの電話番号等が記載されたメモを撮影した画像データが保存されていることや,Nが事故の翌日に被告人に送信したメッセージの内容が,謝罪ではなく,被告人にお礼を述べ,レンタカー会社に申請書類を提出したことを報告するものとな
っていることとも整合する。
次に,Nの供述は,Zの供述とも沿うものである。すなわち,Zは,Nに金を貸していたことについて被告人に相談したことがあり,その際,被告人が何とかしてやる旨言っていたことや,Nの連絡先や住所が記載されたメモを見せた可能性があることなどを供述しているが,これは,被告人から電話が来てZに対する借金の件を持ち出されたり,自宅で待ち伏せされたりしたというNの供述に沿うものである。さらに,Nは,平成22年事故によって何の利益も得ておらず,事故が偽装であるなどと自らも刑事責任を負うことになるような虚偽の供述をする理由は見出し難いし,自己の刑事裁判はすでに確定して終了しているから,被告人を巻き込むことで自らの刑事責任を軽くすることも考えられない。
以上によれば,Nの供述には,信用性が認められる。
イこれに対して,弁護人は,①Nが事故当日に飲食店oで見掛けたという従業員風の男について,捜査の過程でも特定するに至っていないこと,②Nと被告人との電話のやりとりを裏付ける通話履歴等の証拠が存在しないこと,③被告人とのやり取りの話をZに確認しなかったのは不自然であることなどを指摘し,Nの供述は信用できないと主張する。
しかしながら,①については,Nは従業員風の男を見掛けただけで,その身上等を知っていたわけではないから,捜査において特定できなかったとしても不自然とはいえない。②については,通信事業会社における保存期間が経過しているなどの事情があるから,通話履歴等が存在しないのはやむを得ないのであって,供述の信用性を疑わせる事情とはならない。③については,Nは,当時,多数の者から借金をしており,その中でZは督促が厳しい方ではなかったというのであるから,Zに対して確認をしなかったとしてもあながち不自然とはいえない。
また,その他弁護人が主張する事情も,Nの供述の信用性を否定する事情とはならない。
3被告人の弁解の信用性

被告人は,Nに対して金銭の請求をしていないし,平成22年事故当日の未明にNとは会っておらず,Nと共謀はしていないなどと弁解する。
しかしながら,被告人の弁解は,被告人の携帯電話機にNの電話番号等が記載されたメモを撮影した画像データが保存されていたことや,事故の翌日にNからお礼のメッセージを受け取っていることなどの客観的事情とそぐわないものである。また,その内容も,事故の加害者であるNに対し,怒りを感じることも,事故の原因を詳しく問いただすこともなく,事故当日には食事を提供したばかりか,後には仕事を与えて面倒を見たなどという不自然,不合理なものである。
よって,被告人の弁解は信用できない。
なお,弁護人は,①店舗を所有する会社の会長であるAAが中心となって保険会社との示談交渉を行っていたことは,被告人の弁解を支える事情となる,②被告人は経済的に困窮していたわけではないから,被告人には犯行の動機がないなどと主張する。
しかしながら,①については,証拠によれば,被告人自身も,保険会社の担当者とやり取りをして損害を訴えていたことや,飲食店oの売上状況を記載したメモを提出していたこと,被告人の実家から見積書をファックス送信していたことなどの事情が認められ,これらの事情からすれば,被告人自身も積極的に保険会社との示談交渉に関わっていたということができるから,弁護人の主張は失当である。②については,経済的に困窮していない場合であっても,不法な利益を得るために犯行に及ぶことはあり得ることであるから,弁護人の主張は当たらない。
4結論
以上によれば,信用できるNの供述等の証拠から,平成22年事故が偽装によるものであったこと,被告人とNとの間に,この偽装事故に基づいて保険金詐欺を行うことについての共謀があったことが認められ,被告人の弁解は信用できないから,この認定に疑いを容れる事情とはならない。
第2判示第2について

1争点
判示第2の事故(以下平成26年事故という。)が偽装事故であったこと及び被告人らが判示第2の各保険金をそれぞれ受領したことについては争いがなく,争点は,被告人とQ,B及びAらとの間の共謀が認められるか否かである。2Qの供述の信用性
Qの供述の要旨は,以下のとおりである。
平成26年4月頃,被告人とCから,Cが経営する介護施設の経営権の買取りに関するトラブルで厳しく責められ,両者から600万円を借り受けた旨の念書を作成させられた上,Qの母親が会社を設立して介護施設の経営権を買い取ることを約束させられた。その設立費用を用意できずにいたところ,被告人から,自動車の偽装事故を起こし,その保険金を会社設立資金に充てることを持ち掛けられ,偽装事故を起こすことを決めた。その後,被告人の提案で,B及びAを偽装事故に参加させることになり,同月22日夜に,被告人が経営する飲食店bに,被告人,B,A,C及びQが集まり,Qと被告人が偽装事故の具体的な流れを説明した上,Cを除く4名で平成26年事故を起こした。
信用性判断
アQの供述は,介護施設の経営権の買取りに関するトラブルから平成26年事故を起こすまでの一連の経緯を具体的かつ詳細に述べたものである上,その内容に格別不合理な点は認められない。
また,その供述内容は,証拠により認められる客観的事情とも整合している。まず,会社設立並びに被告人及びCから600万円を借り入れた旨が記載された念書の写しが残されていることや,Qの母親らを発起人とする会社設立に関する書面や同社が上記介護施設の経営権を買い取る旨の営業権譲渡契約書などのファイルデータが,被告人が経営する飲食店bにあったパソコン内に保存されていたことは,被告人とCから責められて念書を書かされたり,Qの母親が設立した会社が介護施設の経営権を買い取ることを約束させられたりしたというQの供述内容と整合する。また,被告人が平
成26年4月10日及び同月23日にCに対して送信したメッセージには,Qの母親を会社設立に関与させようとしていたことやQが会社設立費用を用意できなかったことを述べたとみられるものが存在しており,これも上記供述内容と整合するものである。さらに,Qは,jj整骨院に通院したことにして,偽装事故による保険金を取得する計画であった旨供述しているところ,この点については,Cが同月22日夜に飲食店bに集合したにもかかわらず,その後上記4名とは行動を共にせずに帰宅していることや,被告人が使用していたLINEのアカウントとCとの間で,jj整骨院への架空通院を内容とする通院証明書を作成することや保険金を6月分まで請求することを相談する内容のやりとりが残されていること,被告人の自宅から平成26年事故に関するjj整骨院発行の架空の通院証明書が発見されていることと整合する。さらに,Qは,自己の刑事裁判はすでに終了しており,被告人を巻き込むことで自らの刑事責任を軽くすることは考えられない。
次に,Aも,被告人らとQとの間の介護施設の経営権の買取りに関するトラブルから平成26年事故までの主要な経緯について,Qの供述に沿う供述をしており,相互に信用性を高め合っている。
なお,Aの供述は,具体的で自然なものである上に,被告人が,平成26年7月頃,台湾での事業のことでCやBらに責められた際に,平成26年の偽装事故のことを警察に告げると言っていたと供述する点は,Aが,CやBらに対して,被告人に偽装事故のことを口外させないようにすることを約束する旨のメッセージを送ったことと整合している。また,AとQとは,被告人を介しての知人という程度の関係にすぎないから,AがあえてQと口裏を合わせることは考え難い。よって,その供述は信用できる。
以上によれば,Qの供述には,信用性が認められる。
イこれに対して,弁護人は,Qの供述は,①偽装事故を起こしたことによる報酬の話し合いの場面に被告人が居合わせていたかについて変遷があることや,②Qが警察に相談に行っているにもかかわらず,その後も被告人と関わり続けたことは不合理
であることなどを理由に,信用性が認められないと主張する。
しかしながら,①については,Qは,記憶の整理をしてみたところ,捜査段階とは違う供述をすることになった旨述べるが,平成26年事故から証言までの間には相当の期間が経過していることからすれば,理解できるところであるし,上記場面に被告人が居合わせていたかどうかという点は,供述全体の中では周辺事情にすぎないのであるから,その点に変遷があったとしても,被告人との共謀に関する供述全体の信用性を揺るがすものとはならない。また,②については,Qは,知人にも相談の上,車を返すだけなら大丈夫と考えて飲食店bに赴いたが,実際に行ってみると,被告人らから母まで呼び出されて深夜まで責められ続けたと述べているところ,そのような経緯をたどったのであれば,もはや本件に関与するしかないなどと考えて付き合いを継続したとしても,あながち不合理とはいえない。
また,その他弁護人が主張する事情も,Q供述の信用性を否定する事情とはならない。
3被告人の弁解の信用性
被告人は,Q,B及びAらと,偽装事故を起こして保険金を請求するとの共謀はしていない旨弁解する。
しかしながら,まず,被告人がjj整骨院への架空通院の事実は知らなかったとする点は,被告人の自宅から平成26年事故に関するjj整骨院発行の通院証明書が発見されていることや,jj整骨院が保険会社に施術証明書等を提供することに同意する旨の同意書に被告人の署名があることにそぐわないものである。また,Qを脅して金銭を要求したことはない,介護施設の経営権の買取りには関係していないとする点は,被告人が使用していたアカウントとCとの間で,Qに対する怒りを示したり,オートローンを組ませることができず,会社設立費用を出させることができなかったので,回収に入ろうと提案したりする内容のメッセージを送っていることにそぐわないものである。
その供述内容も,Qが自ら念書を作成して持参してきたなどというもので,借金を
する前に念書を差し入れること自体,不自然である上に,被告人がそのような念書を保管していたということも不合理である。また,被告人以外の3人が偽装事故を起こそうとして,わざわざ何も知らない被告人を巻き込むことも,不自然で不合理である。さらに,被告人が使用するアカウントから架空通院を前提とする内容のメッセージが送られていることについて,自分が送ったものではないと述べる点も,第三者がわざわざ被告人のアカウントを利用してそのようなメッセージを送る必要性は考えられないから,不合理である。
よって,被告人の弁解は信用できない。
4結論
以上によれば,信用できるQ及びAの各供述等の証拠から,被告人とQ,B及びAらとの間に,平成26年事故に基づいて保険金詐欺を行うことについての共謀があったと認められ,被告人の弁解は信用できないから,この認定に疑いを容れる事情とはならない。
第3判示第3について
1争点
本件で,Xの代理人弁護士であるYに対して,貸付金等の返済として279万円の請求がされたことについては争いがなく,争点は,①上記279万円の請求が架空の請求であったか否か及び②被告人とA及びBとの間の共謀が認められるか否かである。2Aの供述の信用性
Aの供述の要旨は,以下のとおりである。
平成26年11月頃,被告人から,Cに対する貸付金の返済などを名目にCの遺族から金銭をだまし取る計画を持ち掛けられ,それに参加することにした。被告人やBとともにXらに対して面会を求めるなどしたが,YがXらの代理人に就任して以降は,Yと交渉するようになった。交渉に当たっては,C作成名義の念書を偽造して提出したり,BB弁護士に委任するなどしたが,Yから証拠が十分でないなどとして請求を拒絶されたため,請求を断念した。

信用性判断
Aの供述は,被告人に詐欺の計画を持ち掛けられてからYと交渉を継続するまでの一連の経緯を具体的かつ詳細に述べたものである上,その内容も自然かつ合理的なものである。
また,その供述内容は,証拠により認められる客観的事情とも整合している。まず,被告人からAへ通話がされた直後に,Aが,Bに対して,そろそろ反撃開始するじゃんけ気合い入れて行くじゃんけなどと行動を促す内容のメッセージを送信していることや,被告人が,Bに対して,Cの遺族から返事が来たので至急集合することを求める旨のメッセージを送信していること,被告人が,弁護士を依頼するに際して,B及びAに対して,証拠書類を提出することや実印のことを指摘するなどの具体的な注意事項を送信していることなどは,被告人が中心となって本件犯行に及んでいたというAの供述に整合するものである。また,被告人が,A及びBとともに,警察署に2回相談に訪れていること,Yとの交渉に毎回同席したばかりか,単独でYと面会したことやYの事務所に直接電話したこともあること,Yとの交渉の際,8割程度話していたこと,BBに対して,交渉の進捗状況を直接確認する電話をしていることも,同様に,被告人が本件を計画し,中心となって実行していたというAの供述に整合する。なお,Y及びBBは,いずれも弁護士であり,本件で偽証罪に問われる危険を犯してまで虚偽供述をするような事情は認められないから,その供述は信用できる。さらに,被告人がCの遺族に宛てた手紙やYに提出した念書を作成していたと供述する部分は,遺族に宛てた手紙と同一内容の前略と題するファイルデータが被告人の自宅から押収されたUSBメモリ内に存在し,それと同一名称のファイルデータが被告人の自宅のデスクトップパソコン内にも存在することや,Yに提出した念書の作成途中のものとみられる念書と題するファイルデータが上記USBメモリ内に存在し,Yに提出した念書とは押印の位置のみが異なる念書が飲食店bから押収されていること,被告人が,念書にある印影と酷似する印影の印鑑を,Cの死亡後に発注して作成していることなどと整合している。

さらに,Aは,自己の刑事裁判がすでに確定して終了しているから,被告人を巻き込むことで自らの刑事責任を軽くすることは考えられない。
以上によれば,Aの供述には,信用性が認められる。
3被告人の弁解の信用性
被告人は,279万円の請求の当事者ではないから,請求に関心はなく,BやAとの共謀はなかった旨弁解する。
しかしながら,279万円の請求に関心がなかったと述べる点は,被告人が送信している通話,通信履歴の内容に反するものである上,被告人が弁護士との面会や警察への相談の際にも同席していること,被告人の周辺から関係証拠が多数押収されていることにそぐわないものである。また,弁護士との面会の際,単に同席していたにすぎないと述べる点は,信用できるYの供述と反するものである。また,Cの印鑑の手配はBに頼まれて行った,手紙や念書はBが勝手に作成したなどと述べる点は,被告人の供述を前提とすると,Bが,事情を知らない被告人に対して,すでに亡くなっていたCの印鑑の作成という不審なことを頼み,被告人がそれに応じたということになるが,それ自体,不合理なことであるし,証拠関係に照らせば,Bが,深夜に被告人の自宅にあるデスクトップパソコンで念書を作成したことになるばかりか,被告人の周辺に関連文書やそのデータを数多く残していたことになるのであって,不自然,不合理であることは明らかである。
さらに,被告人は,送信したメッセージの一部はAに頼まれたものである旨供述するが,Aがわざわざ被告人にメッセージの送信を依頼すること自体不自然であるし,メッセージの文面からすると,Aから依頼されたとするには明らかに不整合なものも存在している。
よって,被告人の弁解は信用できない。
なお,弁護人は,①弁護士であるBBが279万円の請求権が成立し得ると考えたことからすれば,被告人も請求権があるものと考えて行動したとしても不自然ではない,②被告人にはCの遺族に対する恨みはなく,犯行を行う動機がないなどと主
張する。
しかしながら,①については,知り合いの弁護士から紹介されて相談を受けた弁護士と,死亡した者の印鑑を作成して念書を偽造するなどした被告人とでは,前提が大きく異なるし,②については,恨みがない場合であっても,不法な利益を得るために犯行に及ぶことはあり得ることであるから,弁護人の主張は当たらない。4結論
以上によれば,信用できるAの供述等の証拠から,279万円の請求の根拠とされた念書は,被告人が,Cの死亡後に,Cの印鑑を作成した上で偽造したものであることが認められ,この事実に,被告人らがBBに求められても279万円の原資を示す証拠を用意できなかったこと,Aが279万円の貸付けの事実はなかったと供述していることなどを併せ考慮すると,279万円の請求は,架空の請求であったと認められる。
また,同様に,信用できるAの供述等の証拠から,被告人とA及びBとの間に,Cの法定相続人であるXから貸付金等回収名目で金銭をだまし取ることについての共謀があったと認められ,被告人の弁解は信用できないから,この認定に疑いを容れる事情とはならない。
第4
1
判示第4及び第5について
争点

判示第4の各登記申請がなされ,それぞれその旨の登記がされたこと,判示第5の各文書が作成,行使され,Eを被保険者とする各保険契約が締結されたことについては争いがなく,争点は,①判示第4の各登記の申請及び判示第5の各文書の作成が,Eの了解を得ずにされたか否か,②判示第5の各文書のEとの署名について,被告人が自ら記入し又は被告人の意を受けた者をして記入させたものか否か,③被告人に虚偽登記申請及び文書偽造の故意(Eの了解を得ていない認識)が認められるか否か,④判示第4について,被告人とA及びBとの間の共謀が認められるか否かである。

2
争点①について
Eの供述の信用性


Eの供述の要旨は,以下のとおりである。

株式会社g及び株式会社eeの取締役等に就任することや,両社名義で契約する傷害保険の被保険者になるという話は聞いたことがなく,これらについて了解したことはないし,同保険契約の申込書に署名したこともない。被告人の会社の買取りや登記,保険に関して自分の名前でやりとりされた日本語のメール等は,自分が送受信したものではない。

信用性判断

Eは,平成26年10月8日から平成27年3月23日までフィリピンに滞在していたが,フィリピン滞在中に送信したメール(証拠にあるローマ字によるメール)には,役員就任や保険加入に関する内容のものがないのであって,このことは,役員就任や保険加入の話を聞いたことがないというEの供述内容と整合する。また,Eには2社で死亡保険金合計2億円の傷害保険が掛けられているが,事業が本格的に展開されていない複数の会社のそれぞれについて高額の保険に加入する合理的な理由は見当たらない上に,株式会社eeで保険申込書が作成された平成27年3月27日の時点では,Eはすでに警察に自首していて,保険加入など考えられないことも,Eの供述と整合する。
さらに,Eが,役員就任や保険加入を了解していたとした場合に,あえてそれらを了解していなかったと虚偽の供述をしなければならない事情も認められない上に,Eの供述は,後述するAの供述とも整合しており,相互に信用性を高め合っている。加えて,会社の買取りを希望する旨の日本語のメッセージを送受信していないという点については,Aも,これらの送受信はEによるものではない旨を一致して供述している上に,Eが日本語入力の可能な携帯電話機を持っていたのであれば,わざわざローマ字で記載したメールを送る理由がないことにも整合している。また,Eのメールアドレスでのやり取りをしていないという点については,同メール
アドレスが,Eがフィリピン滞在中に,飲食店bにあるパソコンで取得されていることや,被告人,A及びBが,Eと連絡が取れなくなったことでEの動向等に関するメッセージのやり取りを頻繁にしていた際に,上記Eのメールアドレスには,Eの行方や安否を尋ねるなどの連絡を一切していないことなどの事情に整合している。
よって,Eの供述には,信用性が認められる。
結論
以上によれば,信用できるEの供述等の証拠から,Eの名前でやりとりされた,被告人の会社の買取りや登記,保険に関する日本語のメール等は,Eが送受信したものではなく,判示第4の各登記の申請及び判示第5の各文書の作成は,いずれもEの了解を得ずにされたと認められる。
3
争点②について
Gの供述の信用性


Gの供述の要旨は,以下のとおりである。

被告人から,被保険者をEとする判示第5の各保険の申込みがあった。申込みに際して,被保険者となるEの同意が必要であったので,その旨を被告人に確認したところ,いずれもEの同意は得ているとの返答であった。株式会社gを契約者とする保険の申込みに当たり,被保険者になることの同意欄の署名がされていなかったため,被告人に確認したところ,被告人からEのパスポートの署名部分の写真が送られてきて代筆を依頼されたので,そのとおり代筆した。また,株式会社eeを契約者とする保険の申込みに当たっては,被保険者になることの同意欄にすべき署名が別の欄に書かれていたため,被告人に訂正を求めて申込書を渡したところ,後日正しい部分に署名し直されたものを被告人から渡された。

信用性判断

Gの供述は,被告人が保険の契約を求めてから実際に申込書を作成するまでの経緯を具体的に供述したもので,その内容に格別不合理な点は認められない。また,
各保険申込書の記載にも整合する上,被保険者になることの同意欄に不備があった際の行動としても,契約者側の申込みの窓口となっていた被告人に問い合わせて対応を委ねたという経緯は自然かつ合理的なものである。また,株式会社gを契約者とする保険申込みについては,被告人からGにEのパスポートの署名部分の写真が送られてきていることとも整合する。署名を代筆したことについても素直に述べるなど,その供述態度は真摯なものである。
よって,Gの供述には,信用性が認められる。
被告人の弁解の信用性

被告人は,株式会社gを契約者とする保険の申込書に関しては,Gから頼ま
れてEのパスポートの署名部分の写真を送信しただけであり,Eの署名の代筆を依頼したことはない旨述べ,株式会社eeを契約者とする保険の申込書に関しては,自分は関与しておらず,どのような経緯でEの署名がされたのか分からない旨供述する。

しかしながら,その供述内容は,信用できるGの供述に反する上,株式会社
gによる保険申込書については,事情も分からずに他人のパスポートの署名部分を撮影した画像を送信するというのは,それ自体が不自然である。また,保険代理店の担当者が申込者に無断で署名欄を代筆するということは通常考え難く,本件でもGが被告人に無断で署名を代筆しなければならない理由は見出し難い。さらに,株式会社eeによる保険申込書については,自ら保険申込書に同社の記名印や代表者印を押したと供述しつつ,Eの署名を誰が記載したのか分からないと供述するなど,その供述内容はあいまいで不自然である。
よって,被告人の弁解は,信用できない。
結論
以上によれば,信用できるGの供述等の証拠から,判示第5の各文書のEとの署名は,いずれも,被告人が,自ら記入したか,被告人の意を受けた者をして記入させたものと認められ,被告人の弁解は信用できないから,この認定に疑いを容
れる事情とはならない。
4
争点③及び④について
Aの供述の信用性


Aの供述の要旨は,以下のとおりである。

平成26年12月頃,被告人から,Eを株式会社gの役員にして,保険を掛けた上で殺害するという計画を持ち掛けられ,Bとともに参加することになった。平成27年2月頃には,Eを株式会社eeでも役員にした上で被保険者とする保険契約をすることになった。そして,被告人とBが日本で登記と保険の関係を担当し,Aがフィリピンで保険金受取口座とヒットマンの手配の関係を担当するという役割分担が決まり,判示第4及び第5の犯行に及んだ。
また,この際,被告人は,Eが送信したかのようなメール等を残して証拠にしようと計画し,Eに成り済ますための携帯電話機として株式会社g名義でコーラル色の携帯電話機を購入した。人に成り済ますようなことは被告人が最もうまくできるため,被告人がEに成り済ます役をすることになった。被告人から,Eに成り済ましたメール等を送信する前に,メール等に対して応答する内容等を電話で指示されたことがあったし,被告人がEに成り済ましてコーラル色の携帯電話機でメール等を打ち込んでいるのを見たこともある。

信用性判断
Aの供述は,被告人にE殺害計画を持ち掛けられてからEが失踪して計画が
頓挫するまでの一連の経緯を具体的かつ詳細に述べたものである上,その内容も自然かつ合理的なものである。
また,その供述内容は,証拠により認められる客観的事情とも整合している。まず,Aは,平成26年12月3日,被告人に対して,チンコの命もらうも,虫歯抜くんも同じことなんでとのメッセージを送り,被告人が,Aに対して,チンコの処理はムダ毛の処理と一緒じゃけんと返答するメッセージのやり取りがされているが,Aは,被告人がEのことをチンコと呼ぶことがあり,上記のやりと
りは,Eの命を取ることを内容とするものであると合理的に説明している。また,被告人が作成したメモには,故Eとの記載があるが,Aは,故Eというのは,Eが亡くなるという意味であると合理的に説明している。また,同メモに,故E俺ABgeeとともに数千万単位の数字が列挙され
た記載があることや,平成26年12月10日頃に,死亡保険金1億円を4人分掛けることを内容とする保険見積書が,株式会社g宛てに作成されていることも,会社で保険を掛けてEを殺害する計画であったとするAの供述内容に沿うものである。次に,Aは,Eを殺害して保険金を受領する口座として,Eの内妻の銀行口座を開設しようとした旨供述しているが,この供述部分は,Aがフィリピン渡航中に通帳作成の手配を進めた旨の内容のメッセージを送信していることや,Eが内妻の銀行口座を開設しようとしている旨のメッセージを送信していること,Eに戸籍上の妻との離婚届と内妻との婚姻届を作成させていることなどの事情と整合している。さらに,Eの殺害計画は被告人が持ち掛けてきたものであると供述している点は,被告人が,株式会社gの登記の際に,Bに対して指示をしたり,フィリピンにいるAに対して進捗状況を伝えたりしたメッセージが残されていることや,被告人の経営する飲食店bなどから,Eの婚姻届や印鑑登録証,健康保険被保険者証が発見されていること,被告人が株式会社ee名義の銀行口座の代表者変更に関する手続を自ら行っていること,被告人が代表取締役Eのゴム印を注文して購入しており,被告人の使用車両から同ゴム印が発見されたことなどの事情と整合する。また,被告人がEに成り済ましてメール等を送信していたという点については,Eが会社を買い取ることを望み,役員への就任や保険加入を了解しているかのような内容のメール等はEが送信したものではないこと(上記2)や,コーラル色の携帯電話機が被告人の自宅から発見されていることと整合している上,Eの殺害を計画してAとBに持ち掛けた被告人がEに成り済ます役をするという経過も自然なものである。
以上によれば,Aの供述には,信用性が認められる。

なお,弁護人は,上記のチンコの命もらうとのメッセージの文面からは,殺害計画の共謀を推認することはできない旨主張する。確かに,同メッセージの文言だけから一義的に殺害計画を読み取ることはできないものの,上記のとおり,同メッセージはAの供述を裏付けるものとはなり得るのであるから,弁護人の主張を踏まえても,Aの供述の信用性は揺るがない。
Eを装ったメール等の送信者について

上記2のとおり,Eが会社を買い取ることを望み,役員への就任や保険加入
を了解しているかのような内容のメール等は,Eが送信したものではない。そして,以下に検討するように,これを送信していたのは被告人であると認められる。イ
まず,信用できるAの供述等の証拠によれば,被告人がEに成り済ましてコ
ーラル色の携帯電話機でメール等を送信していたことが認められる。また,証拠によれば,Eのメールアカウントは,被告人の経営する飲食店bにあるパソコンで取得されており,同アカウントにおけるメールアドレス等をたどると,被告人の携帯電話番号及びメールアドレスが登録されていたこと,Bが同アカウントにメールを送信する前に被告人に対して同一内容のメッセージを送っていることが認められ,これらは,被告人が上記アカウントを取得したことやEに成り済ましてやりとりをしていたことをうかがわせる事情である。そして,これらの事情に,被告人がコーラル色の携帯電話機を用いてEに成り済ましていたことを併せて考慮すると,被告人は,Eのメールアカウントについても,これを利用して,Eに成り済ましてメール等を送信していたと認められる。

これに対し,被告人は,上記コーラル色の携帯電話機は被告人の妻にプレゼ
ントしたもので,被告人がEに成り済ましてLINEにメッセージを送ることは不可能であると述べるが,被告人の妻は,同携帯電話機を被告人から受け取ったのは平成27年2月か3月であり,SIMカードも入っていなかったと供述しているのであって,これらの事情からすれば,被告人がEに成り済ますことが不可能であったとはいえない。

被告人の弁解の信用性

被告人は,登記申請や保険契約について,Eが了解していると考えていた,
登記申請などには単に同行したにすぎず,AやBとの共謀はなかった旨弁解する。イ
しかしながら,被告人の供述は,信用できるEの供述やAの供述に反してい
る上,被告人が自らEに成り済まして偽装のメール等のやりとりをしていたことや,被告人が使用していたアカウントから,登記申請に関し,日時の調整をしたり進捗状況を連絡したりするなどのメッセージが送信されていることなどに整合しない。また,株式会社g及び株式会社eeは,いずれも事業が本格的に展開していなかったのであるから,Eが両社の役員になる合理的な理由は見当たらず,ましてや,両社で高額の保険に入らなければならない必要性は認められない。それにもかかわらず,被告人が,Eの了解があると考えたというのは不自然で不合理である。また,被告人は,両社の主要株主で,両社の実質的な支配者であり,誰を役員に就任させるかについては関心を有していてしかるべきであるのに,その点について関心がなかったというのも不自然である。加えて,株式会社eeの譲渡代金を回収できる目処がないにもかかわらず,その点を明確にせずにEに譲渡することにしたと供述する点も不合理である。
また,被告人は,Eに成り済まして送信されたメールについて,自ら経営する飲食店bにあるパソコンで取得されたアカウントから送信されているにもかかわらず,自分がアカウントを開設したものではなく,誰が開設したものかも分からないと述べるなど,あいまいで不合理な弁解をしている。
よって,被告人の弁解は信用できない。

なお,弁護人は,①被告人がBから依頼を受けて保険契約の手続をGに依頼
したと供述する点は,Gが株式会社gを契約者とする保険契約についてBに了解の有無を確認したと供述していることと整合する,②被告人にはEに対する恨みはなく,犯行を行う動機がないなどとして,被告人の弁解は信用できると主張する。しかしながら,①については,上記認定によれば,被告人は,Eの殺害を計画し,
同人を役員とする虚偽登記と同人を被保険者とする保険契約を締結することを中心になって行っていたのであり,そうだとすると,Bが,Gから確認された際に了解している旨を伝えたのは,被告人の意を酌んでのことであるとみられるし,②については,恨みがない場合であっても,不法な利益を得るために犯行に及ぶことはあり得ることであるから,弁護人の主張は当たらない。
結論
以上によれば,信用できるAの供述等の証拠から,被告人は,Eを会社の役員にした上で保険を掛けて殺害することを計画し,Eに成り済まして,役員になることを了解していることなどを装うメール等を送受信していたことが認められるから,被告人が登記申請や保険契約についてEの了解を得ていないことを認識していたことは明らかである。
また,信用できるAの供述等の証拠から,被告人とA及びBらとの間に,虚偽登記申請についての共謀があったと認められる。
そして,被告人の弁解は信用できないから,この認定に疑いを容れる事情とはならない。
(犯罪事実に関連する情状に関する事実)
関係証拠によれば,(犯罪事実)に記載した事実のほか,次のような事実が認められる。
判示第1に関して,被告人は,Nが借金を負っていることに付け込み,同人に偽装事故を起こさせる犯行を計画し,同人を誘い入れて犯行を実行した。同犯行によりNは利益を得ていないのに対して,被告人は保険金を受領した。判示第2に関して,被告人は,Cが経営する介護施設の買取りに関してQがトラブルを抱えていることに付け込み,同人に偽装事故を起こさせる犯行を計画し,同人や他の共犯者を誘い入れて犯行を実行した。他の共犯者とともに保険金を請求したのみならず,他の共犯者が把握していない被告人が契約していた所得補償契約でも保険金を請求して,各保険金を受領した。

判示第3に関して,被告人は,犯行を計画し,共犯者を誘い入れた上,遺族宛ての内容虚偽の手紙や偽造の念書を作成し,遺族側の代理人弁護士と積極的に交渉するなどした。
判示第4及び第5に関して,動機は,Eをフィリピンでヒットマンに殺害させて死亡保険金を入手するために,同人を株式会社g及び株式会社eeの役員に就任させ,同人を被保険者とする傷害保険契約をそれぞれ締結したというものである。また,被告人は,一連の犯行を計画し,共犯者を誘い入れた上,必要書類の作成や傷害保険の加入手続を自ら行うとともに,共犯者にも一部の手続をさせるなど,犯行を分担させた。
平成29年6月8日
甲府地方裁判所刑事部

裁判長裁判官

丸山哲巳
裁判官

望月千広
裁判官

種村仁志
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