判例検索β > 平成27年(わ)第553号
死体遺棄、傷害致死
事件番号平成27(わ)553
事件名死体遺棄,傷害致死
裁判年月日平成29年3月10日
裁判所名・部仙台地方裁判所  第2刑事部
判示事項の要旨被害者の死因が不明で犯人性が問題となった傷害致死の事案において,被害者の死亡前の言動や骨折状況等といった間接事実のほか,被告人の捜査段階の供述の任意性,信用性を認めて,被告人の捜査段階の供述と補強証拠とがあいまって全体として被告人の犯人性を肯定し,被告人に懲役9年を言い渡した事例(なお,任意性判断については,別添の平成29年2月27日付け決定がある。)。
裁判日:西暦2017-03-10
情報公開日2019-02-02 13:05:40
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平成29年3月10日宣告

裁判所書記官

平成27年(わ)第553号,同第619号
判無決

被告人

A
上記の者に対する死体遺棄傷害致死被告事件について,当裁判所は,検察官甲及び同乙並びに国選弁護人丙(主任)及び同丁各出席の上審理し,次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役9年に処する
未決勾留日数中300日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1(平成27年11月11日付け追起訴状記載の公訴事実)
当時交際していたB(以下被害者という。)の言動に振り回されていると感じていたことや,被害者が他の男性と性的関係を持ったと知ったことで怒り,さらに,被害者が夜中に無断で出かけたことで,誰かと連絡したりしているなどと感じ,被害者に強い怒りや苛立ちなどを募らせていたところ,平成26年12月11日,東京都杉並区a丁目b番c号d101号室の当時の被告人方において,腕などに何度もしがみついてきた被害者(当時16歳)に対し,その両肩付近を両手で思いきり押し,被害者を後方に転倒させてガラステーブルにその身体を衝突させるなどの暴行を加えて何らかの傷害を負わせ,よって,その頃,同所において,被害者をこの傷害により死亡させ,
第2(平成27年10月20日付け起訴状記載の公訴事実)
平成27年3月15日頃,宮城県栗原市e番地fの杉林において,被害者の
死体を投棄し,もって死体を遺棄した。
(争点に対する判断)
第1

本件の争点
弁護人及び被告人は,死体遺棄罪については争っておらず,本件の争点
は,傷害致死罪の成否である。
傷害致死罪について,被告人は無罪であると述べ,弁護人は,被害者が死亡した原因は不明であるとして事件性を争うほか,被告人の外出中に被害者が死亡していたなどとして被告人の犯人性を争っている。
そこで,以下,検察官が事件性や犯人性を明らかにするものとして主張する間接事実の有無や評価及び被告人の捜査段階の供述の信用性(後記のとおり,捜査段階の供述の任意性も争われている。
)などを取り上げて,検討すること
とする。以下では,まず,被告人の捜査段階の供述を除く他の証拠により認められる事実を取り上げ,その後,その捜査段階の供述や公判供述の信用性を検討することとする。
以下,月日は指摘がない限り,平成26年である。
第2

前提事実
被害者は,12月11日,被告人の当時の勤務先であるC組が被告人のため
に借りていた判示第1のd101号室(以下dという。
)で急に死亡した
こと,及び,被告人が被害者の死亡後間もない時期に被害者が死亡していた場所に居合わせたことは,当事者間に争いがなく,その時間や原因などは別として,被告人も捜査段階から一貫して述べていること(その信用性については後述する。
)も踏まえると,証拠により認定することができる。また,被告人が,平成27年3月15日頃,判示第2の死体遺棄罪を犯したことは証拠上明らかである。
第3
1
検察官主張の間接事実などの検討
被害者が何者かの暴行により死亡したかについて

検察官は,被害者には暴行以外に突然死する原因がなく,12月9日以降にその暴行が加えられていたと認められると主張する。


遺体の骨折について
骨の鑑定をした証人D博士(以下D博士という。その専門性等から供
述の信用性に疑いがない。は,

①被害者の遺体に,
右上顎骨,
左第3肋骨,
右第9肋骨に骨折(以下3か所の骨折という。)があり,骨の状態等からいずれも死亡の前後約二,三週間に生じたと考えられる,②これらの骨折の原因は直径10センチメートル以内の
(右上顎骨は1センチメートル以上
の丸みのある)鈍器(拳も入る)による打撃と考えられる(左第3肋骨骨折及び右上顎骨骨折は,
その受傷箇所からすると転倒によって生じた可能性は
低い。),③右上顎骨骨折は,鼻骨の右横付近にあり,相当な鼻からの出血や腫れなどを伴うはずである,
④左第5肋骨及び右第10肋骨の陳旧骨折は,
治癒痕跡等から死亡前約二,三週間前から長くても二,三か月前までに生じたと考えられ,②と同様の打撃が原因に考えられるなどと供述している。⑵

死亡前の被害者の言動について

被害者と交友があった証人E(以下Eという。)は,12月7日,被害者と会うこととなり,仙台市などで被害者と遊び,E宅に宿泊させた際に被害者と公園でセックスをした,
夜中に被害者がEの携帯電話機を借
りてツイッターをしていた,同月8日夜も被害者らと遊び,その際卓球をした,この頃被害者の左腕に痣があるのを見たが,顔に目立った怪我はなく,身体の痛みを訴えたことはなかった,同月9日午後3時頃から翌10日午前零時頃までの間に,3回被害者から電話があり,その際,被害者はEから無理やり強姦されたと繰り返し話していた,3回目の電話では,途中から男が電話を代わり強姦の事実を確認してきたため否定し,
その後近
くにいた先輩に電話を代わったなどと供述する。この供述は,被害者がEに宛てて記載した手紙(発見箇所や記載内容から,この頃書いたと認めら
れる。)とよく整合し,被害者がセックスの後に書き込んだと考えられるツイッターの時刻などとも整合すること,
被害者とのセックスの事実や大
麻の所持などにも言及して率直に述べていることから,
信用できる。
なお,
弁護人は,被害者に対する好意の感情から殊更に虚偽の供述をしたとか,先輩の素性を隠しているなどと主張するが,
先輩の素性に関する質問はさ
れていないし,上記の供述内容等に照らし,弁護人の主張は採用することができない。

被害者の父親である証人F(以下Fという。)は,12月9日午前10時頃から同日午後3時頃までの間,仙台市内の自宅(被害者の実家)で,被害者,F,被害者の祖父G及び被告人が集まり,被告人と被害者が交際を続けるかなどについて話し合い
(以下
12月の話合い
という。,

その際,
被害者が顔などに怪我をしていたり痛みを訴えたりしたことはな
く,
2階に階段を駆け上がるなどしてその様子に異常はなかったことなどを供述する。
Fは,当初別れ話になり被害者が涙をこぼしていたことや,にもかかわ
らず二人が二階で話合いを始めたら大きな笑い声が聞こえて驚き,その後,
一転して交際を継続することにしたと告げられ,
被害者はとても嬉しそう
にしていたことなど,
当時の被害者の様子や自身の心情も含めて具体的に
供述していること,
この頃被害者の顔に怪我がないことはEの供述とも符
合していること(被告人も怪我がなかったと述べる。)に照らし,信用することができる。これに対し,弁護人は,Fが被害者に関心がないから,その会話や被害者の様子に注意を払っていなかった旨主張する。しかし,10月17日頃までには,児童自立支援施設H学園(以下H学園という。)の職員である証人I(以下Iという。)がFに対し,被告人の被害者に対する暴力を知らせ,その後にIとFらが面談していること(Iの供述の信用性は後述する。),12月の話合いの際には,Fが前日から
の夜勤の仕事を休んだことなどが認められ,
このような経緯も踏まえると,
Fはやや無関心なところがあっても,
この点は供述の信用性に疑いを生じ
させるような事情とまでは認められない。


暴行による死亡である可能性について


3か所の骨折の原因について
被害者の骨は,もろくはなく正常な頑丈さがあって,3か所の骨折について,その周辺部分の骨折を伴わない(受傷箇所の狭い)骨折が複数箇所に生じていることから,
これが意図的な打撃によって生じた可能性が高い
と考えられることは,D博士の供述のとおりである。また,このような骨折をほぼ同時期に2回以上偶然に繰り返す事態は,
日常生活の中で生じる
とは考え難い。さらに,dのような場所で,小さい突起物等に身体を打ち付けるようなことになる転倒事故を起こす可能性はかなり低い。
死亡後に被害者の遺体をdからエスティマまで運び,
これに乗せた際に
遺体を何かにぶつけてこれらの骨折を生じさせた可能性も,
骨折箇所や想
定される移動方法に照らして,ほとんど考えられない。
よって,3か所の骨折は,意図的な打撃により生じた可能性が高い。

3か所の骨折の時期などについて
E及びFの供述からすれば,被害者は,12月7日頃から12月の話合
いが終わる同月9日午後3時頃までの時点で,
身体に異変が生じていた様
子はうかがわれず,顔にも外傷もなかったと認められる。また,被害者の右上顎骨骨折は相当の出血や腫れを伴うはずであるから,
この骨折につい
ては,同日午後3時頃以降にできたものと認められる。さらに,肋骨骨折は日常生活を送ることができる程度のものであったとしても,
痛みは伴う
はずであるから,被害者は,セックスや卓球をすることを避けたり,痛みを口にしたりすることもなかったことからすると,
3か所の骨折が同日午
後3時頃以降に生じた可能性は相応にある。

3か所の骨折自体が被害者の死因ではなく,
骨折を生じさせる暴行によ
り被害者が死亡したと断定することはできないが,この骨折の事実は,被害者が12月11日頃に暴行を受けて死亡したこととよく整合する事情といえる。

暴行以外の原因で死亡した可能性について
被害者が当時16歳と若く,特に病歴もうかがわれず,12月7日から同月9日午後3時頃にかけて特に身体に異変はなかったことからすれば,病死の可能性はほとんどない。
11月10日に児童相談所で被害者の身体の状況を確認した証人J(以
下,
Jという。)の供述(この点の供述の信用性は疑う余地がない。)によれば,同日被害者にリストカットの痕はなかったし,そのほか被害者に自殺念慮があったとうかがわせる事情はない。なお,被害者は,12月8日頃,自身の交際関係などで自己嫌悪に陥っている様子はあったが,精神的に追い詰められているとか,
将来をひどく悲観しているまでの状況に
あったとはうかがえず,
被告人との交際を続けるために東京に来た直後に
自殺する可能性も低い。


以上によれば,被害者は,12月11日頃,何者かの暴行により死亡した可能性は相当程度高いといえる。

2


被告人だけが被害者に暴行をする機会を有していたか否かについて証拠によれば,被告人は11月18日からC組で勤務し,同月22日にdを借り受けたこと,被害者は同月23日頃から同所で生活していたが,12月6日にg警察署に保護されて仙台市内の実家に戻った後,
同月10日午前
2時40分から同日午前4時20分にかけて宮城県内で高速道路を利用するなどし,被告人が運転するエスティマでdに戻ったことが認められる。


このように,被告人も被害者もdで2週間余りしか生活しておらず,仙台から戻った直後の12月11日に被害者が死亡したことに加え,
被害者には,

dの近くに知人等がいた形跡もなく,
被害者はこの頃携帯電話機を持ってい
なかったことからすると,その間にdに知人が訪ねてくる可能性は低い。また,被告人も,被害者が死亡した際にdの部屋が荒らされるなどしていた事情もなかったと述べており,
部屋の状況からも無関係の第三者が侵入した可
能性は考え難い。そうすると,第三者の暴行により被害者が死亡した可能性は相当低い。
3
被告人が被害者の死亡後に暴行の犯人でないとすると説明が付かない行動をしたか否かについて


12月11日以降の被告人の行動について

被告人は,12月11日,被害者がdで死亡して間もない時間に同室で被害者が死亡していた場所に居合わせたが,119番通報や110番通報をせず,被害者をそのまま放置した。また,被告人は,被害者の死亡後,エスティマ内に遺体を隠した上,最終的に平成27年3月15日頃には被害者の遺体を宮城県栗原市内の杉林に遺棄した。その間,被告人は,12月8日には交際を始めていたK(以下Kという。
)に依頼して,新たな
車両(ウィッシュ)の購入や駐車場の賃借をさせ,遺体を乗せたエスティマを同駐車場に移動させるなどして何度か遺体の場所を移動した。さらに,
被告人は,平成27年3月23日頃にFに電話をした際,正月以降に被害者が被告人の元を去り,その居場所が分からなくなっているが,被害者から連絡はある旨伝え,被害者の生存を装っていた。


加えて,Fは,平成26年の年末頃,被告人の携帯電話機から,

Aちゃんママが入院して正月に帰ることができない。とのメールを受け取った旨

供述している(この供述は,翌年3月に,Fからその交際相手に対し,彼氏のお母さんが入院したことは嘘であったらしいなどと被害者に対する苛立ちを表すメールが送信されていたことにより裏付けられていて,信用することができる。。したがって,被告人は,平成26年の年末頃にも,F)

に対し,既に死亡していた被害者が生存していたことを装っていた。ウ
さらに,被告人の養父であった証人L(以下Lという。
)は,12月
11日午後5時過ぎ頃,被害者名で登録していた番号から電話があり,その電話に出ると被告人が出たため,
被害者と交際しているのかと尋ねると,
被告人は,

Bは今監禁されていて会えない。

と言い,泣きながら

M(長男)のことをよろしくお願いします。

と言った,それで何か犯罪をしたのではないかと考えたと供述する。
Lの上記供述は,電話を受けた場所なども含め詳しく話していて,具体的で迫真性もある。また,Lは,この電話が強く印象に残った旨述べているが,
それはLが白骨死体を発見した際にすぐに被害者ではないかと考え,捜査機関に伝えた経過ともよく符合する。Lと被告人との関係は良好とはいえないが,9月頃から上記電話を受ける前日までの間,Lは被告人の元妻と長男を2か月以上にわたってL宅で預かり世話をしていたのであって,そのような関係性等にも照らすと,被告人が長男の養育を心配してLに連絡をするのがあり得ないとか不自然であるとはいえない。以上によれば,Lが,被告人から電話をもらった時期を当初は11月下旬から12月上旬頃と述べていたとうかがわれる供述経過などを考慮しても,被告人から上記内容の電話を受けたという供述は,信用することができる(Lは,被告人の元妻と長男を送った日の前日ということで記憶喚起して日付を絞り込んだとうかがわれ,
当初の時期の供述についての記憶の減退も考慮すると,
不自然不合理とはいえない。なお,Lが言及するメモはそれ自体正確なものとはいい難く,重視できないが,それがL供述の信用性を失わせるほどではない。。




3⑴に関する検察官の主張について
被告人は,被害者が死亡してさほど時間が経っていない時期に,その死亡に気づいたというのに,直ちに119番通報又は110番通報をしないこと
は,気が動転するなどの事情を考慮しても,何かを隠す意図が強かったことをうかがわせる。また,被告人は,新たな車両(ウィッシュ)や駐車場をKに準備させるなどして,約3か月間も被害者の遺体をエスティマ内で保管しつつ同駐車場に移動した上で,最終的に宮城県栗原市内の杉林に遺棄しているが,早い時期からKに働きかけていることからすると,遺体を隠そうとする意図は当初強かった(ただし,平成27年3月頃は,元妻や長男のことをある程度考慮した可能性がある。。また,Fに対し,12月末に被害者の生)
存を積極的に装う虚偽の連絡をしていることなどからしても,被告人は,被害者の遺体を隠そうとする意思は強かったものと推認される。なお,被告人の供述によっても,12月11日頃は,被告人と長男との面会が具体的なものにはなっていないから,この点が被害者の遺体を隠したことの大きな理由になったとは認め難い。さらに,Lに対する電話内容やそのときに泣いていたという被告人の様子からすれば,被告人は,被害者が死亡したことのみならず,長男に長期間会えないような重大な事態が生じ,それにより,冷静な状態ではなかったと見る方が自然である。このように,被告人は,被害者の死亡を隠ぺいする強い意思を有しており,重大な事態が生じたと考えていたことに照らすと,これらの事情のみから,検察官がいうように,被告人が暴行の犯人でないとすると説明が付かない行動をしたとまでは断言できないものの,被告人が被害者の死亡やその原因に関与した可能性が相当程度うかがえる事情ということができる。
4
被害者に暴行を加える動機があり,
暴行を加えても不自然ではなかったか否
かについて


9月ないし11月頃の被害者の状況

11月10日に児童相談所の職員として被害者を一時保護したJは,同日,被害者が彼氏から暴力を受けたこと,被害者が入浴中に被害者の身体を観察し,左目周辺及び口の左側の古い痣や,左耳の新しい切り傷などを
確認したことなどを供述する(同供述は,当時記録した書面の記載に基づくもので,信用性に疑いがない。また,被害者がJに述べた彼氏が被告人のことを指すのは明らかである。。


被害者の高校の元担任であった証人N(以下Nという。
)は,被害者
は,9月下旬に会った際に,交際相手である被告人から製氷皿で殴られたと言い,11月12日には,被告人が同月4日の夜に被害者の浮気を疑って怒り,被告人から木刀のようなもので殴られたことで,被害者の耳が切れ,
顔が腫れ,
携帯電話機も折られたと言っていたなどと供述する
(Nは,
詳細に当時の記録を残しており,それに基づいて供述していることや,9月下旬の件はIの供述と,11月4日の件はFやJの供述と一致していること,被害者のアカウントのツイッターの投稿内容とも一致することなどから,信用性に疑いはない。。



H学園のIは,
10月17日,
被害者から連絡を受けて被害者と会った,
そこで交際相手である被告人から製氷皿で殴られたことなど3回の暴行の内容等を聞いたと供述する(Iは,そのやり取りや対応状況を書面に記録し,
それに基づいて供述している上,
暴行の一部はNの供述と一致するし,
置き手紙の内容は被害者のアカウントのツイッターの投稿内容とも整合しており,その信用性に疑いはない。なお,弁護人は,Iが暴力を振るわれたと訴えていたのに不自然な対応をしたなどと主張するが,Iのその後の対応に不自然な点はない。。



被害者が関係者に相談していた内容に関し,弁護人は,被害者がNやIに嘘を言っていた可能性を指摘する。しかし,被告人に強い好意を抱き,交際していた被害者が被告人の暴力を創作する理由もなく,被害者の怪我や暴行の状況に関する供述は他の証拠とも一致していることからすると,被害者がいずれの者に対しても虚偽の内容を述べているとは考え難い。また,弁護人は,被害者のアカウントによるツイッターは,第三者が被
害者を装って投稿した可能性があるとも指摘する。しかし,その投稿内容をみると,いずれも被害者の個人的な内容であって,第三者が容易に知り得ない事項が含まれ,そのような記載を第三者が被害者を装って投稿する理由もうかがわれず,第三者による投稿の可能性はない。さらに,弁護人は,被害者が嘘をついたり誇張した投稿をしたりしていた可能性についても指摘するが,ツイッターの記載は,被害者の当時の行動状況等によく整合しているし,被害者が当時の自己の気持ちなどをそのまま率直に記載したと考えられ,感情的に高ぶって書いた内容があるにしても,嘘や事実と異なる内容が書かれているとは考え難い。

以上によれば,被告人は,9月後半頃から11月頃にかけて,被害者に対し,製氷皿を用いた暴行を含め,わき腹を蹴ったり,殴ったりするなどの暴行を複数回にわたり繰り返していたことが認められ,12月11日頃においても,被告人の被害者に対する暴行への抵抗感は相当程度低くなっていた可能性が高い。特に,11月4日頃については,被害者と男性との電話で被告人が浮気を疑い,木刀のようなもので殴るなどしたことで,被害者の耳が切れ,顔が腫れたことも認めることができる。



また,Eの供述などによれば,被告人は,12月9日午後3時頃に被害者の実家を出た後,被害者とEが数日前に性交をしたのを知り,同時刻頃から翌10日午前零時頃までの間,3回にわたり,被害者からEに電話をさせ,Eに対し被害者がEに強姦されたと話していることが真実かどうかを確認させている。
この点,
被告人は,
それまで被害者の男性関係に強い関心を持ち,
浮気を疑って被害者に暴力を振るったこともあったと認められるところ,被告人が被害者からEとの性交の事実を伝えられたことで,被害者に対する怒りや苛立ちを一層強めたものと考えられる。
以上によれば,12月11日当時,被告人は,被害者に対し悪感情を募らせ,きっかけがあれば被害者に暴力を振るいやすい状態にあったということ
ができる。もっとも,このことは,被告人の被害者に対する暴行への抵抗感が低くなっていたことと相まって,同日に被告人が被害者に暴行を加えたとしてもおかしくない状況にあったとはいえるが,このことから直ちに,同日に被告人が被害者を死亡させるような暴行を加えたことを合理的な疑いを超えて推認することができるようなものではない。


なお,弁護人は,従前の被害者に対する暴力から,被告人と犯人との同一性を推認することは許されないと主張する。
しかし,本件は,被害者の遺体の状態やこれまで取り上げてきた事実関係によっても,
被害者にどのような理由で死亡する原因が生じたかが明らかで
ない。また,16歳と若い被害者が,被告人のみが入居者となっていたdで死亡し,さらに,死亡して間もない時期に被告人が同所に居合わせたことは争いがなく,被告人が被害者の死亡に対し,何らかの関与をした可能性が他の証拠から相当程度うかがわれる事案である。
被害者の死因に結びつき得る
暴行の有無を確認するために事前の暴行を取り上げる必要性は高い。このよ
うな場合に,
被告人が本件と近接する時期に傷害結果を生じさせる程度の暴
行を繰り返した事実から,
被害者に対する暴力への抵抗感が低くなっていた
ことを推認し,
このことを被告人と犯人との同一性等の認定資料として用い
ることは,その客体,時期,暴行態様からして,被告人の犯罪傾向という実証的根拠に乏しい人格評価をもとに被告人と犯人との同一性を推認するものではなく,許されると解される。

5
被告人の捜査段階の供述以外の証拠や争いがない事実により認められる事実関係
12月11日,何者かの暴行により被害者が死亡した可能性は,相当程度高いと認められる。
また,
被告人以外の第三者の暴行により被害者がdで死亡した可能性は低い。その上で,①被害者の遺体を隠匿するなど,被告人が被害者の死亡に関与した
可能性が相当程度うかがえる行動をしていたこと,②被告人が被害者に対する暴力を振るう抵抗感は低くなっていたこと,
③被害者の男性関係に関心を持ち,
被害者に干渉していた被告人が,12月11日に被害者に怒りや苛立ちを募らせ,その時の状況次第で被害者に強度の暴行を加えたとしてもおかしくない状況にあったことからすれば,被告人が被害者に暴行を加えて死亡させた犯人である可能性も相当高いものと認められる。もっとも,これのみでは,事件性及び被告人の犯人性について合理的な疑いを超える立証がされたというのはためらわれる。
第3
1
被告人の捜査段階の供述について
被告人の捜査段階の供述の任意性について
弁護人は,被告人の捜査段階における自白を記載した警察官調書及び検察官
調書は,任意性が欠けるから証拠能力が認められない旨主張していた。当裁判所は,裁判員の参加する刑事裁判に関する法律68条3項に基づき裁判員の意見も聞いた上(本件のように事件の帰趨を決する証拠の証拠能力が争われ,それに関する事実関係が証拠の信用性にも影響する場合,その審理に裁判員も関与させるのが相当と認めた。,弁護人の主張を採用せず,警察官が被)
告人に対する取調べにおいて黙秘権を侵害したり,虚偽自白を強く誘引するような言動等に及んだりした疑いはないとして,被告人の警察官調書及び検察官調書を証拠として採用したが,その理由は平成29年2月27日付け決定書のとおりである。
2
被告人の捜査段階の供述の信用性について


被告人は,平成27年10月15日付け供述調書において,被害者は,dで被告人の腕にしがみついてきたので,被告人は,被害者の手を振りほどいてその両肩付近を押したが,その後も同様に何度もしがみついてきたので,思いきり被害者の両肩付近を押し,被害者を引き離したこと,その後に被告人はすぐに玄関方向に身体を向けたが,ガシャンという音がしたので振り返
ると,被害者がうつぶせでガラステーブルのそばに倒れており,被告人が被害者を押したために被害者がガラステーブルに当たったと思ったこと,被告人が被害者のそばに行くと,被害者は,口から勢いよく息を吸って鼻から長い時間をかけて息を吐き出し,いびきのような呼吸を2分間くらいした後に死亡したこと,被害者が死亡した後に家族のことなどを考え,Lに電話をかけて長男の世話を頼んだことなどを供述している(乙20)



被害者が暴行を受けた後に上記のような呼吸を来した状況は,直接体験したものでないと語ることのできないような臨場感や迫真性があり,医師である証人Oが供述する延髄の呼吸中枢の損傷による呼吸困難の症状とも一致する。また,Lに対して電話をした点については,Lが供述する被告人の発言内容や時間帯とも整合する。
さらに,被告人は,取調べの初日である平成27年9月27日の早い段階から被害者に暴行を振るい死亡させた旨認める供述をしており,その過程に警察官の不当な働きかけがなかったことは上記決定書のとおりである。ところで,被告人は,同年11月11日までの取調べの過程において,暴行内容や被害者が倒れるのを見ていたか否かなどについて少しずつ供述を変遷させていて,弁護人はその供述が真実に合わないと主張する。しかし,この点は当初詳しく供述していた暴行態様を徐々に後退させたものと理解できるのであって,不自然ということはできない。他方で,被告人は,弁護人が選任された後も,被害者に対して暴行を加えて死亡させたという事実を捜査の最終段階まで一貫して認める供述をしていた(なお,被告人は,最終陳述において,検察官による取調べの際に傷害致死の事実を否認したとか,公判で真実を明らかにすると言い,それらが録音録画されていた旨にわかに述べた。しかし,被告人は,被告人質問の際は検察官に対し一貫して傷害致死を認めていた旨供述していたことなどに照らすと,上記の指摘は捜査段階の供述の信用性に疑いを生じさせるものではない。。


もっとも,被告人の捜査段階の供述は,後に述べる公判段階の供述と同様に,3か所の骨折を生じるような暴行をしたはずであるのにそのことに言及していないとか,被害者の両肩を思いきり押したのにすぐに振り向いたと述べるなど,やや不自然なところがあることも否定できず,全面的には信用することはできない。
なお,弁護人は,12月12日午前1時頃に,被害者の遺体をお姫様抱っこのような形で運び出してエスティマに載せたとの被告人の捜査段階の供述は,遺体の死後硬直を考えると,不合理である旨主張する。しかし,死後硬直の経過は室温等によっても異なると考えられる上,被害者が小柄な女性であることなどからすれば,被害者の遺体を運び出した際の状況に関する捜査段階の供述が不合理と断ずることはできないし,この点が他の場面の供述の信用性に疑いを生じさせるものでもない。


以上検討したことのほか,被告人が公判でもdで被害者の肩を押した事実は述べていることも考え併せると,被告人の捜査段階の供述は,全面的には信用することができないが,被告人が,12月11日,被害者に対する悪感情を募らせ,dにおいて,しがみついてきた被害者に対して両肩を押す暴行をし,それによって被害者が死亡したとの限度では,信用することができるというべきである。

第4

被告人の公判段階の供述について
被告人は,12月11日午後1時頃,K宅からdに行くと,被害者が覚せい
剤を使用していたので,2万円を渡して仙台に帰るように言ったこと,室内のアコーディオンカーテン付近において,被告人の胸付近にしがみつく被害者の両肩を押し戻し,すぐに玄関付近を向いたこと,その後,ガシャンという音が4秒程度の間に2回したが,既に玄関で座って靴を履こうとしていて後ろを振り向かなかったこと,同日午後9時ないし午後10時頃までパチンコで遊ぶなどして帰宅した後,室内で左腕を上げながら倒れて死後硬直していた被害者を
発見したこと,付近に嘔吐の跡があったこと,119番通報や110番通報はしなかったこと,被害者に外傷はなかったことなどを供述する。
被告人の上記供述は,それ自体としては一応具体的であるし,死後硬直の時間の点などは客観的な証拠とも矛盾しない内容である。しかしながら,被害者を押した後にガシャンとする音がすれば,通常は被害者の方に振り向くと考えられるし,玄関で靴を履こうとする間にガシャンという音が2回もしたとの供述には不自然さが残る。また,dに使用後の覚せい剤や嘔吐の痕があったのであれば,被害者の死因は容易に判明するはずであって,捜査機関から,被告人が自己の暴行により死亡させたとの疑いをもたれることはないと思われる。その当時であれば,パチンコ屋の防犯カメラ映像等で容易に自分のアリバイを明らかにできたと思われる点でも,覚せい剤使用や被害者の死亡に関する自己の関与を疑われると思った旨の供述は不自然である。さらに,遺体の右上顎骨骨折は,12月9日午後3時頃以降に生じたと認められ,同月11日頃の被害者の顔には,相当な出血や腫れなどがあったはずであるのに,これも見ていないとの供述は,客観的な証拠に明確に反する。加えて,被害者が覚せい剤を使用していたとか,被告人がパチンコに行っていたと述べる点も,これを裏付ける資料はなく,被害者が容易に覚せい剤を入手できるとも考えられない上,この点を捜査段階で供述することに何ら支障などないはずであるのに,いずれも公判になって供述を始めている。これについて,被告人は,被害者の名誉のために言わなかったと不合理な理由を指摘しており,供述経過も不自然である。以上によれば,被害者がdで覚せい剤を使用していたとの被告人の供述には大きな疑問がある。
そして,被告人はそもそも被害者とは交際関係もなかったというが,被害者のツイッターの記載,2度も被害者の実家で話合いをしたことや,被害者がJやI,
Nに述べてきた内容,
12月9日のEへの電話の内容などに反しており,
逮捕時に被害者が被告人に宛てた手紙を所持していたことの説明もつかない。
被告人と被害者が交際関係にあったのは明らかである。
また,被告人は,これまでに被害者の頭をはたく程度のことはあったが,被害者に暴行をしたことはなく,被害者が顔などに怪我をしているのを見たこともない,12月9日に被害者の実家に行った際には,Fらとの間で,被害者が売春関係の知人と交際を断つべきであることなどを話していた旨も供述するが,この供述は,
信用性の高い従前の暴行に関するNら及びFの供述に反しており,信用できない。
以上によれば,被告人の公判供述は,全体として信用することができない。第5

結論
以上のとおり,本件では,上記の間接事実などから,12月11日,被害者が何者かの暴行により死亡した可能性は相当高く,被告人が被害者に暴行を加えて死亡させた犯人である可能性も相当高いと認められる。これに加えて,被告人が被害者の両肩付近を両手で思いきり押して転倒させて後方のガラステーブルに衝突させ,被害者を死亡させた旨の被告人の捜査段階の供述が信用できることも併せて考えると,傷害致死罪の事件性及び被告人の犯人性に合理的な疑いを容れる余地はなく,被告人に対し,判示第1のとおりの傷害致死罪が成立すると認めることができる(被告人の自白と補強証拠とがあいまって全体として犯罪事実を認定することができる。。


(累犯前科)
被告人は,平成20年6月6日東京簡易裁判所で建造物侵入窃盗罪により懲役1年6月
(3年間保護観察付き執行猶予,
平成21年10月30日その猶予取消し)
に処せられ,平成23年4月12日その刑の執行を受け終わった(乙25により認定)。
(量刑の理由)
1
傷害致死罪における暴行態様は,全てが明らかになっていないが,先に述べた限度で信用できる被告人の捜査段階の供述(乙20)によれば,被告人は,少な
くとも,腕などにしがみついてきた被害者を何度も振りほどいた上,更にしがみついてきた被害者に対し,両肩付近を両手で思いきり押し,被害者を後方に転倒させて,ガラステーブルに被害者の身体を衝突させている。この暴行は,それ自体として被害者の死亡を招くほど強度のものとはいえないが,狭く家具等もある室内で,小柄な女性に対し行われたものであって,後記のとおり被害者に対する怒りや苛立ちの感情から暴行に及んだ点を踏まえると,重い傷害が生じてもおかしくないもので,暴行の危険性は相当高かったといえる。
2
被告人は,
①被害者が警察に2回駆け込むなどしたために被害者に振り回され,12月9日に被害者の実家に行った際にもそれを口にしていたこと,②その際,話し合った末に被害者と交際を継続することとなったが,その後に被害者が直前にEと性交した事実を知り,元々被害者の異性関係に強い関心を示し,束縛しようとしていたとうかがわれる被告人が衝撃を受け,激しい怒りを感じてEに電話をさせるなどしたこと,③12月10日夜遅くに被害者とdに戻った後,被害者が夜中に無断で被告人の携帯電話機を持ち出して外出し,翌日午後1時頃に目を覚ました被告人が,上記携帯電話機の発着信履歴の一部が消されているのを確認し,寝ていた被害者を起こして何をしていたか尋ねても返事がなかったことで更に怒りを募らせたこと,加えて,④上記のとおりしがみついてきたことへの苛立ちなども手伝って,被告人は,被害者に強い悪感情を募らせ,暴行に及んだと考えられる。被害者が被告人を振り回すなどした点で怒りを強くした可能性があるとしても,本件暴行に及んだ点に特に酌むべき事情はない。

3
被告人は,12月9日から本件暴行までのいずれかの時点で,被害者に対し,右上顎骨骨折などを負わせるような強度の暴行を加えたと推認される(被害者の新しい骨折は被告人に有利に本件暴行より前に生じたと考えた。
)ほか,11月初
めにも被害者の顔面を強く叩くなど,被害者との交際を開始してから繰り返し暴行をしていたと認められる。本件暴行は,その延長線上にあり,暴力への抵抗感も少ない中で行われたといえ,この点は被告人に対する非難を一層高める事情で
ある。
4
本件暴行により,当時16歳と若い被害者の命が一瞬にして奪われた結果は重大である。愛情を抱いていた被告人に命を奪われた被害者の無念さを代弁した被害者の父が被告人の厳罰を求めるのは至極当然である。

5
さらに,被告人は,救命等を図ることなく,その保身のため被害者の遺体を約3か月間にわたり車内に隠匿した上,杉林に遺体を遺棄している。その態様は,特に悪質とまではいえないが,自己の保身を優先していて身勝手である。また,異種前科ではあるが刑務所を出所後,3年余りで本件に及んだことも無視できない。

6
以上の犯情によれば,本件は,交友があった者等に対し凶器を用いない暴行を加えた傷害致死事案の量刑傾向の中で,態様が相応に重く,これに従前から暴行を繰り返した末に及んでいることや,死体遺棄を行ったことも併せて考えると,かなり重い事案といえる。
その上で,一般情状についてみると,被告人は,死体遺棄については認めていること,捜査段階では傷害致死を自白し,これが本件の事案解明に寄与した面もあることは否定できないが,公判での供述状況等に照らすと,事件に真摯に向き合い反省しているとは到底いえず,同種再犯に及びかねない自己の粗暴な点を含め,今後内省を深める必要性が高い。

7
そこで,本件事案にふさわしい刑罰として,被告人には主文の刑が相当と判断した。

(求刑

懲役10年)

平成29年3月10日
仙台地方裁判所第2刑事部

裁判長裁判官

小池健治
裁判官

内田曉
裁判官

織本
もなみ

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