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懲戒免職処分取消請求事件
事件番号平成27(行ウ)71
事件名懲戒免職処分取消請求事件
裁判年月日平成29年4月26日
裁判所名・部神戸地方裁判所  第6民事部
裁判日:西暦2017-04-26
情報公開日2017-10-17 20:02:38
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平成29年4月26日判決言渡
平成27年(行ウ)第71号
口頭弁論の終結の日

同日原本領収

裁判所書記官

懲戒免職処分取消請求事件

平成29年1月11日
判主1決文
処分行政庁が平成25年12月26日付けで原告に対してした
懲戒免職処分を取り消す。

2
訴訟費用は被告の負担とする。

第1

実と理由
請求

主文と同じ。
第2

事案の概要

本件は,被告(兵庫県宝塚市)の消防職員であった原告が,許可を受けずにみずから営利企業を営んだこと,妻子があるのに独身と偽って女性と交際し,それが発覚してその女性から損害賠償請求訴訟を提起されたこと,行先について虚偽記載をした旅行願を提出したことを理由として処分行政庁から懲戒免職処分を受けたため,処分行政庁の所属する被告に対しその取消しを求める事案である。1
関係法令等の定め



被告における消防職員の服務規律

消防職員に関する任用,給与,分限・懲戒,服務その他身分取扱いに関しては,消防組織法に定めるものを除くほか,地方公務員法(平成26年法律第34号による改正前のもの。以下地公法という)の定めるところによるとされている(消防組織法16条1項)。
被告では,宝塚市職員服務規程(昭和42年宝塚市訓令第4号。以下職員服務規程という)と宝塚市消防職員の服務等に関する規程(昭和58年宝塚市消防長訓令第8号。以下消防服務規程という)によって消防職員の服務を規律している。消防職員の営利企業への従事等の制限,所在の明確,旅行願についてのこれらの関係法令等の定めは別紙①の1のとおりである。


懲戒処分の指針(甲7,乙公47)

一般職に属する地方公務員に対する懲戒処分には戒告,減給,停職,免職の4種がある(地公法29条1項)。被告は,宝塚市懲戒処分の指針(以下指針という)を定め,懲戒処分に付すべき代表的な事案を選び,それぞれにおける標準的な懲戒処分の種類を掲げている。本件に関係する部分の概要は別紙①の2のとおりである。
2
基本的事実関係(本件訴え提起の年月日は当裁判所に顕著であり,それ以外
の事実は当事者間に争いがないか,カッコ内の証拠と弁論の全趣旨により認める。引用する書証は,特に枝番号を掲げるもののほかはすべての枝番号を含む)⑴

原告の身分と就労状況(甲1,乙公20,21,38,40,50)
原告は昭和42年11月生まれの男性である。結婚し,子供を2人もうけたが,平成25年12月に離婚している。
高校卒業直後の昭和61年4月に被告の消防本部の消防職員として採用され,平成21年4月に係長に昇任し,おもに火災現場で消防署出張所の消防隊を指揮する小隊長として職務に従事してきた。後記のとおり本件で問題とされている懲戒事由の調査は平成25年6月に始まっており,その当時はa消防署b出張所警防第2係長であったが,同年10月1日にa消防署庶務係に配属された。懲戒免職となった同年12月当時の職名は消防吏員,階級は消防司令である。


cの営業行為(乙公1から13まで)

アc
原告の父親は農業を営んでいるが,原告は平成19年11月以降,父親や知り合いの農家の生産する農産物等をcの名称でインターネットを通じて販売し,また小売業者に委託して販売するなどの業務に従事するようになった。イ
株式会社阪食との取引

原告はスーパーマーケット阪急オアシスを経営する株式会社阪食と交渉し,平成24年5月1日から同社に委託してその複数の店舗においてcの商品を販売してもらうこととなった。その際,原告とその父親を含む十数名が,商品の生産者として阪食に登録した(以下,登録した者を登録農家という)。取引が終了した平成25年6月下旬までの約14か月間において,登録農家の総売上額(販売額から阪食の手数料を差し引いた額)は6616万7500円に上った。このうち原告を登録農家として販売された商品の売上額は434万4073円であり,父親のそれは4012万7026円である。

許可の不存在

原告はcとの関係で営利企業等に従事する許可を処分行政庁から受けておらず,許可申請書の提出すらしていない。


株式会社dの営業への関与(乙公14から19まで)


給水装置工事主任技術者の資格の取得

原告は給水装置工事主任技術者試験に合格し,平成10年2月17日付けで厚生大臣から免状の交付を受けた。この試験は給水装置工事に関して3年以上の実務の経験を有する者でなければ受けることができない(水道法25条の6第2項)。イ
株式会社d

株式会社dは水道施設工事の請負,設計施工等を目的として平成12年6月に成立した宝塚市に本店を置く株式会社である。原告は設立時発行株式のすべてを引き受けた発起人であり,妻が代表取締役に,両親が取締役に就任したが,原告自身は役員に就任しなかった。
dは同年9月,兵庫県三田市と被告の各水道事業管理者に対して指定給水装置工事事業者の指定を申請し,それぞれ指定を受けた。この指定を受けるためには事業所ごとに給水装置工事主任技術者として選任されることとなる者を置かなければならないため(水道法25条の3第1号),給水装置工事主任技術者免状の交付を受けている原告を選任し,届け出た。ウ
許可の不存在

原告はdとの関係で営利企業等に従事する許可を処分行政庁から受けておらず,許可申請書の提出すらしていない。


女性との交際とこれをめぐる訴訟(乙公20から22まで,49,50)

交際の経緯

原告は平成24年10月初旬,神戸市内で開催された街コン(男女の出会いをとりもつために街ぐるみで行われる大規模な男女懇親会)に参加した。当時44歳で妻子がいたにもかかわらず,参加者である当時32歳の独身女性(以下Aという)に対し,年齢は39歳,妻を3年前に亡くした,子はいない,大阪の消防署で勤務しているなどとうそをついて親しくなり,同月28日には結婚を前提とする交際を申し込み,交際を開始した。その翌日には肉体関係を求め,応じさせた。同年11月に1泊2日の旅行に出かけた際には先に子供ができたらすぐに結婚しようなどと述べた。原告と結婚する気になったAは平成25年3月頃,その素姓を知りたくてインターネットで原告の氏名を検索し,実際は大阪ではなく被告の消防署で勤務していることを知った。
その後情報収集を続けて原告の自宅住所を突き止め,
同年4月1日,
母親とともにその自宅に赴き,原告とその両親の5人で話をした。これにより,交際を申し込むにあたって原告が述べたことがすべてうそであったことが判明し,原告とAの関係は破局を迎えた。原告は同月29日,Aに30万円を手渡し,以後両者が会うことはなかった。

被告に対する被害の訴え

Aは平成25年5月27日,
母親とともに被告の総務部行政管理室人事課に赴き,
原告から結婚詐欺の被害を受けたと訴え,原告と電話で会話した内容を録音した音声データを提供した。同月31日と同年7月2日にも同様のデータを提供した。ウ
損害賠償請求訴訟の提起Aは同年9月,原告に対し不法行為に基づき330万円の損害賠償(慰謝料300万円,
弁護士費用30万円)
を求める訴えを神戸地方裁判所伊丹支部に提起した。


旅行願に記載した行先と異なる行先への旅行(乙公23,24)

原告は平成25年2月21日,3月8日から10日までの3日間,長崎県にある妻の実家に帰省すると記載した旅行願を当時の所属先であるa消防署の署長へ提出したが,実際にはその期間中,長崎県には行かず中国の上海に渡航した。⑹

消防本部による調査(乙公12,38から40まで,46)

Aが被告に提供した音声データ(上記⑷イ参照)には原告がcの営業に関与していると疑われる会話内容が記録されていた。被告の消防本部はこのデータとAの供述をもとに原告の非違行為に関する調査を開始し,平成25年6月17日以降,消防職員からの事情聴取,阪食等に対する聞き取り調査,現地調査等を行った。同月19日にはこの問題に対処するために宝塚市消防職員に関する信用失墜行為等に関する調査会を設置し,調査を進めた。この結果上記⑵~⑸の事実が判明した。原告からの事情聴取は同月17日と26日の2回行い,17日の事情聴取の後には顚末書を徴求した。


懲戒処分(甲1,4,12,13)

被告の消防職員懲戒審査委員会は平成25年12月19日,原告に対する懲戒について審議し,懲戒免職とすることを決定した。対象となった非違行為は上記⑵~⑸に対応するもので,次の①~④(以下非違行為①などという)である。非違行為①・②は地公法38条に,非違行為③は同法33条に,非違行為④は同法32条,消防服務規程9条,14条に違反するとされた。


営利企業等に従事する許可を受けずに営利企業であるcを営んだこと


営利企業等に従事する許可を受けずに営利企業であるdを営んだこと


妻子があるのに独身と偽ってAと交際し,これが発覚して損害賠償請求訴訟を提起されたこと



本来は中国の上海を行先とする旅行願を提出して承認を受けなければならないのに長崎を行先とする虚偽の旅行願を提出したことこれを受け,処分行政庁は同月26日付けで,地公法29条1項1号~3号の規定により懲戒処分として原告を免職した(以下本件処分という)。原告に交付された懲戒処分事由説明書の記載は別紙②のとおりである。⑻

審査請求と訴えの提起(甲2,3)

原告は平成26年2月17日付けで宝塚市公平委員会に審査請求をした。同委員会は平成27年5月25日,これを棄却する裁決をし,裁決書の写しは同月27日に原告に送達された。原告は同年11月26日,本件訴えを提起した。3
おもな争点

非違行為①~④が懲戒事由に該当することは当事者間に争いがないため,おもな争点は本件処分における裁量権の逸脱・濫用の有無である。


被告の主張


個別の非違行為に関する事情
非違行為①について

cは営利企業であり,原告は長期間にわたって実質的代表者としてその経営に関与し,巨額の取引を行い,みずから利益を得た。農産物の販売にあたって生産地を偽ること(産地偽装)や生産者の表示を偽ることもあった。判明しているだけで6名もの同僚職員を関与させ,飲食費の負担,外国旅行を含む旅費の負担,現金の供与など様々な形で対価を与えていた。
非違行為②について
原告はdの事実上の経営者としてその営業を行った。その取引において原告は,司法書士に土地の分筆登記を委任しながらその費用等38万円を支払わない,ガソリンスタンドで後払いの約束をして給油をさせながらその代金21万9453円を支払わないなどの不誠実な行為をした。
非違行為③について
原告は妻子のある身でありながら街コンに参加し,出会ったAに対し年齢,勤務先,住所を偽ったうえ独身であるとうそをついて交際し,Aに結婚の期待を持たせた。やがてうそが発覚することとなったが,これに対し原告はわずか30万円を手切れ金であるかのごとく手渡し,責任回避を図ろうとした。このような行為に及んだあげく損害賠償請求訴訟を提起されたことは,それだけでその職の信用を傷つけ,職員の職全体の不名誉となる。Aが被告に被害を申告したという事実は,この問題が単に原告とAの個人的な問題にとどまらない状況に至っていたことを示している。Aが提供した音声データに記録されていた原告の発言内容は,おじん,おばんは殺すしかない,障害者も含めて一掃するしかない(大地震が起こった場合)全部死ぬやつは死んだらええやん

消火活動は一生懸命するのはばからしい。公務員は働いたらだめ

などの聞くに堪えないものであった。非違行為④について
非常事態の発生に即応できるよう常に所在を明らかにしておくことは消防職員の基本的な義務であるにもかかわらず,原告は外国旅行に行くことを隠蔽する目的で長崎県を行先とする旅行願を提出したのであり,これは虚偽報告である。イ
非違行為①・②(営利企業への従事等)に関する過去の類似行為
原告は平成5年7月に父親の手伝いとして営利企業等に従事する許可の申請をしている。この時は地公法38条1項に抵触しないとして許可は不要とされたものの,従事に際しては必要最小限にとどめ節度ある行動を特に望むとの指導を受けた。平成12年には不動産取引への関与が疑われ,第三者に疑念を抱かれるような言動は厳に慎むよう注意を受けた。ところが翌平成13年には妻名義で会社を設立し土木業を営んでいる疑いがもたれ,平成17年には土建屋事務所を設けて金もうけをしているとの通報があった。
このようにたびたび営利企業への従事等を問題にされ調査や注意を受けてきたにもかかわらず調査をくぐり抜け,これをやめずにいっそう拡大しているのであり,相当長期間にわたり地公法38条に抵触する行為を継続していた疑いがきわめて強い。ウ

日頃の勤務態度

原告の主張する日頃の勤務態度を前提としても本件処分が重すぎるとはいえない。Aに対する

発言内容からすると,原告は,社会公共の秩序を維持

する崇高な使命を帯びる消防職員としての自覚を欠き,むしろこのような自覚とはかけ離れた認識で日頃の業務に従事していたことを否定できない。エ
非違行為後の態度

非違行為が明らかになった後も真摯に反省するのではなく,到底通用しないことが明らかな弁解を平然と繰り返し,責任転嫁や責任回避を図った。非違行為①については,関係した消防職員に口裏あわせや口止めを強いるなどした。非違行為に及んだことを反省するどころか,その違法性を熟知したうえでさらに事実を隠蔽し,調査を妨害しようとしたのであり,悪質きわまりない。非違行為④の手続の懈怠については何の反省の態度もみせていない。オ
指針との関係

指針はもともと処分量定を決定するにあたって参考にすることを目的として作成されており,標準的な事例を前提に処分を例示するものである。基準やなされるべき量定を定めたものではない。事案によっては標準例に掲げる処分の種類以外とすることもありうるとされている。
非違行為①・②・④は標準例のうち休暇の虚偽申請勤務態度不良虚偽報告兼業の承認等を得る手続きの懈怠に該当する。非違行為③に該当する項目は標準例には存在しないが,いわゆる結婚詐欺にあたる。非違行為①・②については,長期間にわたって複数の営利企業に従事し巨額の利益を得ていたうえ,産地偽装,名板貸し,債務不履行などもあり,仮に従事する許可の申請をしたとしても許可を受けることなど到底できない内容であるから兼業の承認等を得る手続きの懈怠では評価しきれない。原告の非違行為は標準例を参考にして処分を決定することができる範囲をはるかに超えており,標準例へのあてはめにより評価することは妥当でない。カ

免職が相当であること

非違行為①・②は,ただ多額の利益を得ようとするためだけの行為であり,非違行為③は,女性の人格を踏みにじる非人道的行為であり,非違行為④は,消防職員の基本的義務を怠る行為である。一般職員の模範となるべき係長という立場にあったにもかかわらず同僚職員を多数巻き込んで営利企業に従事させており,職務への影響はきわめて大きい。被告の消防職員が事業を行い多額の利益を得ているという評判は職場外にも広まっていた。Aに対する発言においても,全精力を営利事業にそそぐことを公言する一方,消防職員の職務についてあしざまに語っており,被告の消防職員,ひいては被告の職員一般に対する評価を地に落としめた。過去に許可を得ることなく営利企業に従事等した事実はその疑いを含めて少なくとも4件以上あったが,巧みに処分を回避してきた。原告の非違行為は悪質であるばかりか多く重なっており,単発的で一時的な非違行為とは次元が異なる。上記エのような非違行為後の態度も処分の加重事由として考慮すべきである。
これほどの悪質な事案は稀有であり,原告の任用を継続すれば被告はきわめて大きな社会的非難を受けるし,他の職員への悪影響ははかりしれない。原告の非違行為は公務員に対する信頼を根底から失わせるものであり,免職以外の結論を選択することはできなかった。

ほかの事案との比較

本件は比較すべき事案も見あたらないほどの特異で悪質な事案であるし,類似する事案において懲戒免職が相当とされた裁判例もあり,本件処分がほかの事案と比較して均衡を失するとはいえない。

まとめ

以上のとおり,原告の非違行為はほかに例をみないほどきわめて悪質であり,懲戒免職処分以外にとるべき方法はなかった。裁量権の逸脱・濫用はなく,本件処分は適法である。


原告の主張ア

指針との関係

指針は懲戒における裁量権行使の基準であり,
これに反することは認められない。
標準例に掲げられていない非違行為についても懲戒対象事実とはなりうるが,あくまでも標準例を参考とすべきである。停職以下の処分では足りない場合に初めて免職が肯定される。
非違行為①・②の標準的な処分の種類は戒告または減給であり,非違行為③は直接には標準例に該当せず,非違行為④については虚偽の旅行願は提出していないから非違行為とまでは認定できないともいえる。したがって標準例から加重するとしても,停職とすることはできたとしても免職とすることはできない。イ
個別の非違行為に関する事情
非違行為①について

原告を生産者と表示した農産物が阪食の店舗で販売された事実はない。登録農家となるためには阪食から生産者番号と呼出コードの付与を受け,商品ラベルを作成する高額な専用機械を購入する必要があったため,
登録農家とならない農家もあり,
原告の父親は自身と原告の生産者番号・呼出コードを使ってそのような農家が生産した農産物を出荷した。阪食の売上金は原告の口座に送金されたが,これはこれらの農家に分配されており,原告は利得していない。なお原告が登録農家となったのは,退職後に農産物を出荷することを考えたからにすぎない。
原告の父親は三田市,宝塚市,神戸市で農園を経営しており,三田市と宝塚市の農園で生産した農産物を神戸市で経営する農園に運んだうえで出荷することがしばしばあった。その場合,一括して生産地が神戸市と表記されてしまったが,本来は兵庫県産という表記で足りる。これは産地偽装ではなく誤表記にすぎないし,上記のとおり原告の父親がしたことであり原告がしたことではない。
同僚職員に対し非番の日に父親や友人の農作業の手伝いをすることを願い出て,同僚職員がこれに自発的に応じてくれたことはあったが,現金で報酬を支払ったことはない。非違行為②について
原告がdの役員の地位についたことはない。また,消防職員としての業務が多忙であったため,dがした給水装置工事に実質的に関与する暇はなかった。3年以上の実務経験という給水工事主任技術者の受験資格を満たしたのは,高校在学中の3年間,父親が経営する会社で給水装置の工事計画立案,工事現場における監督,給水装置工事の施工等のアルバイトをしていたからである。
dが支払っていない債務は高額とまではいえないし,すでに消滅時効が完成している。
非違行為③について
Aに対し独身であると伝えたのは,当時妻との間で協議離婚の話合いが行われていたからであり,交際期間も長期ではない。
Aから提起された損害賠償請求訴訟は本件処分後の平成26年8月に和解により終了した。和解において原告が謝罪の意を表明し,本件処分を受けて生活が困窮しているにもかかわらず200万円という多額の解決金を支払ったこと,Aがこれを受け入れてそのほかの請求を放棄したことを含め,当該訴訟の最終的な結論は,原告に対する懲戒処分を行う際に判断要素とすべき重要なことがらである。しかし処分行政庁はこれらの事情をいっさい斟酌しようとすることなく拙速に本件処分を行った。
非違行為④について
原告は故意に虚偽の旅行願を提出したのではない。本件で問題となった旅行願については,
その提出後に行先が変更になったという事情があった。
このような場合,
所属長に報告して了承を得ればいいと考えていた原告はそのとおりに行動したにすぎない。しばしば外国旅行に行っているが,旅行願に不備があるとされたのは今回だけであり,今回にかぎって虚偽の旅行願を提出する理由はない。具体的にいうと,長崎県を行先とする旅行願を提出する一方で,原告は上司である所長に対し,格安航空券が入手できれば上海に行く予定であると事前に伝えており,実際に入手した後,行先を上海に変更すると伝えた。このように自己の所在について上司に伝えるよう努めており,消防服務規程に違反したとしても,実務慣行を誤解したものであり過失による違反である。そしてその原因は消防署長の指導不足であったというべきである。

そのほかの考慮すべき事項

指針によれば,具体的な処分量定を決定するにあたっては日頃の勤務態度を考慮することとされている。原告はこれまで署長功績賞,消防長功労賞,優秀職員賞,医師会からの表彰を受けるなどしており,日頃から真面目に勤務してきた。平成19年1月に発生したカラオケボックス店における火災では,原告の指示により女子中学生4名が軽傷ですんだという功績がある。1年間に42日ほどある有給休暇も10日ほどしか取得せず,自発的に勤務に励み,人命救助にあたってきた。これらの良好な勤務態度を斟酌していれば本件処分がされなかった可能性はきわめて高いし,これらの考慮すべき事項を考慮していないこと自体が指針に反する。エ
ほかの事案との均衡

非違行為①~④はいずれも地公法違反や民事上の責任が問題となるにすぎない行為である。ほかの懲戒事案をみると,窃盗,文書偽造,詐欺,傷害,青少年保護育成条例違反などの刑事上の責任が問題となる事案ですら,減給や短期間の停職にとどまっている。被告の管財課の副課長が会社を設立して勤務時間中に公用メールで商談を行い年間約7000万円の収入を得ていた事案や,佐賀広域消防局の消防副士長がマンションや駐車場の賃貸で年間約7000万円の収入を得ていた事案でも,停職,減給にとどまっている。これらの事案と比較しても本件処分は均衡を失して重すぎる。

Aに対する発言内容

原告がAとの会話において行った発言内容自体が信用失墜行為にあたるなどと被告は主張するが(上記⑴ア

,ウ,カ参照),懲戒処分事由説明書に記載はなく非

違行為とされていない。そのような主張は処分理由の差替えに等しく,認められない。カ
まとめ

以上のとおり本件処分は著しく相当性を欠き,裁量権の範囲を逸脱・濫用したものであるから違法である。
第3
1
当裁判所の判断
認定事実

基本的事実関係に加えて証拠(カッコ内のもののほか甲24,乙公49,50)と弁論の全趣旨により以下の事実を認める。


過去における原告と営利企業との関わりについての処分行政庁の対応(乙公
34から37まで)

平成5年の許可の申請と指導

原告は平成5年7月15日,父親が代表取締役を務めるe株式会社において平成2年7月頃から業務に従事していたと処分行政庁に報告した。①父親の送迎,②残業している従業員への弁当等の買出し,③事務所の清掃,④事務所の電話番,⑤事務用品の買出し等を1回1,2時間程度,週に1,2回行ったが,報酬の支給はなくガソリン代のみ支給を受けていたという内容である。同時に,今後も父親に協力していきたいとして,父親が代表取締役を務める同社と有限会社fにおいて同年8月1日以降業務に従事することについて,営利企業等に従事する許可を申請した。報酬の支給はないという申告をふまえ,処分行政庁は同月30日,申請のあった業務内容は地公法38条に抵触しないと判断し,a消防署長に通知した。同署長は同年9月7日,原告に対し上記通知の内容を伝えるとともに,地公法38条の立法趣旨を常に遵守し,今後いっそう言動に注意するよう指導した。

平成12年の調査と指導

平成12年8月頃,原告が農地法に基づき神戸市甲区にある農地を購入する許可の申請をしたことに関連して,被告の農政課長は処分行政庁に対し,原告のdへの関与の有無に関する問い合わせをした。消防本部次長が同月25日,原告から事情を聴取したところ,原告は,
その農地は妻名義で購入することにするとしたうえで,
eはdに,fはg株式会社に,名称変更したと報告した。名称が変更になったのであれば新たに申請書を提出するようにと次長は指示し,営利企業への従事等について第三者から疑念を抱かれるような言動は厳に慎むよう指導した。原告はこれに応じると答えたが,結局申請書は提出しないままとなった。

被告への投書に基づく調査

平成13年1月25日,被告に対し,原告は公務員なのに会社を設立し,神戸市甲区乙に事務所を置いている,こういうことを被告は認めるのかという内容の匿名の投書があった。調査したところ,原告が妻名義で会社を作って実質的に経営しており,自分でも実際に土木作業をしているとの報告がほかの消防職員からあり,また,神戸市甲区乙にdの事務所があり,その駐車場に原告所有の自動車が駐車していることが確認された。しかし原告が妻名義でdを設立したとの事実については確認がとれず,調査は続行となり,対応は先送りされた。
平成17年3月17日,市政に関する市民の意見や要望を聴くため被告が設置している投書箱に,原告が消防署で働きながら会社を設立して金もうけをしている,こんなことが許されるのか,4年前にも知らせたが放置しているからやめないのだろう,なぜやめさせないのかなどと記載された広聴カードが投函され,翌日には同じ内容の手紙が処分行政庁に届いた。消防本部次長は同月23日,原告から事情聴取を行った。原告は,広聴カードに記載されている会社は妻が代表取締役を務める会社(d)であると思われるが,自分はいっさい報酬を受けておらず,地公法38条に抵触する行為はしていないと答え,
ここでも処分行政庁の対応は先送りされた。


dをめぐる個別の事情(乙公14から19まで)


給水装置工事への関与

dが平成20年4月に三田市長の承認を受け,同年7月に完了した給水装置工事において,原告は主任技術者とされていた。

土地分筆登記の委任と費用等の不払い原告は平成15年12月16日,dの代表取締役を名乗って司法書士に対し神戸市甲区にある土地の分筆登記手続を委任した。司法書士は平成16年2月6日までに委任事務を処理し,その費用と報酬として38万円を請求したが,dは支払わなかった。
司法書士は平成18年2月,伊丹簡易裁判所の裁判所書記官に対し上記の38万円について支払督促の申立てをし,裁判所書記官は支払督促を発した。dは督促異議の申立てをし,訴えの提起があったものとみなされたが,口頭弁論期日に出頭しなかったため,
同裁判所は同年4月19日,
請求を全部認容する判決を言い渡した。
dはそれでも上記費用等を支払わないままである。

給油取引と代金不払い

原告は平成20年以前,dの代表取締役を名乗って神戸市甲区にあるガソリンスタンドを経営する石油店と取引を開始し,この取引に基づき原告とdの従業員がガソリンスタンドを利用した。しかしdは平成21年3月分以降の給油代金を支払わず,店主は原告が来店するたびに支払いを促したが,その後も支払いがないままである。原告が最後に来店した同年8月までの未払額は21万9453円であった。このガソリンスタンドは平成22年6月に閉店した。


cをめぐる事情
(乙4から8まで,
乙公1から13まで,
25から33まで)


cの営業の実態と原告の関与

原告は平成19年11月以降,農産物等をcの名称でインターネットを利用して販売し,あるいは小売業者へ販売の委託をするなどしていた(基本的事実関係⑵ア参照)。すると平成22年11月頃,大手スーパーである阪食に販売委託をすることができるという話が持ち上がり,
原告は規模を広げて阪食と取引することにした。
当初は三井物産ロジスティクスマネジメント株式会社を介しての取引であったが,平成24年5月からは阪食との直接の取引となった。cの名称で農産物等の取引をした登録農家は十数軒に上った。
直接の取引を開始するにあたり,原告はcの代表として阪食と契約書を取り交わした。取引の仕組みは,cの名の下に集まった登録農家が生産した農産物等を阪食がその各店舗で販売し,売上金から阪食の手数料を控除した金額が,原告の氏名にcを冠した名義の銀行口座に振り込まれるというものであった。売上金は登録農家ごとに管理されており,原告は上記口座に振り込まれた売上金を登録農家に分配していた。
原告やその父親と関係する農家の中には,登録はしたくないが阪食に販売を委託したいという者もあり,このような農家が生産した農産物等について原告は,cの名の下に,原告あるいは父親を登録農家として阪食に販売を委託し,阪食から振り込まれた売上金を分配していた。

同僚への仕事の依頼

原告は遅くとも平成21年頃から,部下であるhやiをはじめとする被告の消防職員に対し,cの商品である農産物の収穫や袋詰め作業等の手伝いを依頼するようになった。iは平成21年から平成22年にかけての冬頃,猪肉のパック詰め作業を手伝い,作業後に余った猪肉を譲り受けた。平成22年2月と平成23年1月の2回,原告とともに中国へ旅行に行った際は,日頃の農作業の手伝いに対する報酬として旅費は全額原告が負担した。hについても,国内旅行,中国旅行を共にし,原告が費用を負担したことがあった。hとiはまた平成25年3月22日,登録農家の生産したブロッコリーの袋詰め作業を手伝い,原告から報酬としてそれぞれ1万円を手渡された。

兵庫県農政環境部等による立入検査(乙公12)

近畿農政局神戸地域センターと兵庫県農政環境部農政企画局消費流通課は共同で,平成25年5月2日と13日の2回,cすなわち原告に対し立入検査を実施した。阪食の店舗で販売された商品について,①三田市と宝塚市で生産した農産物の生産地を神戸市と表示した,②登録農家でない農家が生産した農産物を登録農家である原告の父親が生産したと表示した,という疑いについて調査するためである。原告は事実関係を認め,同年11月5日付けで改善報告書を提出した。⑷
Aが提起した訴えの顚末(甲5,甲公27,乙公20から22まで)
Aが提起した損害賠償請求訴訟(基本的事実関係⑷ウ参照)において原告は,妻と離婚協議中であったことからAとの再婚を視野に入れて交際していた,Aに手渡した30万円は交際解消についての慰謝料であるなどと主張して争ったが,平成26年8月26日,訴訟上の和解が成立した。その内容は,既婚者であることなどを隠して交際を続けた結果多大な精神的苦痛を与えたことについて原告は謝罪の意を表明し,Aはこれを真摯な反省と誠意の表れとして受け入れる,原告は解決金として200万円の支払義務があることを認め,このうち170万円を和解の席上で支払い,残金についてはAに手渡した30万円を支払いに充当する,Aはそのほかの請求を放棄するというものである。
なおAとの交際に関しては次の事実があった。第1に,Aは原告と交際していた当時,独身であり子供もいなかったが,離婚歴があった。第2に,交際にあたって飲食や宿泊をする際,その費用はほとんど原告が負担していた。


旅行願をめぐる事情(甲公14,乙公23)

原告は平成25年2月初め頃,3月8日から10日までの日程で中国の上海に行くことができる格安航空券が2月末に発売されることを知り,これを購入して上海に行くことを計画したが,その時点では確実に入手できるかどうか明らかでなかった。そこで2月21日,3月8日から10日までの期間に不在になることを上司に知らせるため,長崎県にある妻の実家に帰省するという内容の旅行願を提出し,承認を受けた(基本的事実関係⑸参照)。その後上海行きの格安航空券を首尾よく入手できたため,3月初旬頃a消防署を訪れ,行先を上海に変更することを副署長に報告しようとしたが,不在であったため,庶務係の職員にこれを伝えた。そして上海を行先とする旅行願を提出しないまま上海に出かけた。


部下に対する証拠隠滅の働きかけ(乙公25から30まで)


hに対する働きかけ

原告は平成25年6月17日,自分の非違行為に関する調査の一環としてhが消防本部から事情聴取をされたことを知り,hに電話をかけて何を聞かれたかを確認した。同月20日にも電話をかけて,提出を求められている顚末書に虚偽の事実を記載するよう指示した。具体的な指示内容は,一緒に兵庫県北部に旅行した際に原告が負担したガソリン代をhが負担したことにすること,一緒に中国の大連に旅行した際に原告が旅費を負担したことのお礼としてhが5000円相当の酒を2本渡したことにすることなどである。電話をかけたこと自体についても口止めをした。イ
iに対する働きかけ

原告は同じく6月17日,iに電話をかけて,原告に関係している職員が消防本部から事情聴取を受けていることを伝え,万一事情聴取を受けた場合はとぼけろ」

と指示した。同月19日,iが事情聴取を受けた後にも電話をかけ,「今後も何を聞かれても知らない,覚えていないを貫け

と指示した。⑺

表彰歴等(甲8,乙公48)

原告は昭和61年4月に採用されてから懲戒免職処分となった平成25年12月26日まで約27年9か月にわたって勤続した。平成13年1月14日から平成24年1月8日までの間に,処分行政庁による消防優秀賞2回,消防功労賞1回を含む合計8回の表彰を受けた。懲戒処分を受けたことはない。
2
懲戒事由該当性

前記のとおり非違行為①~④が懲戒事由に該当することは当事者間に争いがないが,地公法の各規定に照らしてその当否をここで確認しておく。


非違行為①

被告の主張(別紙②の懲戒処分事由説明書の説明のとおりである。非違行為②~④に関する被告の主張も同様である)は,原告は任命権者である処分行政庁の許可を受けることなく,cの名称で農産物の販売等の営業行為を行ったから,地公法38条1項に違反し,同法29条1項1号~3号の懲戒事由に該当するというものであると解される。
地公法38条1項の要件に照らしてみると,この主張は,営利企業を営むことを目的とするcという団体の役員を兼ねたというのか,それともみずからcという名称で営利企業を営んだというのか,必ずしも明らかでない。原告はcの組合長などと名乗っていたが(乙公2,11),cがいったいいかなる団体であるのかは明らかでなく,いわゆる権利能力なき社団の要件(最一小判昭和39年10月15日民集18巻8号1671頁参照)を満たす事情があるとは認められない。むしろ基本的事実関係⑵と認定事実⑶によれば,原告自身がcという名称を使用して農産物等の販売委託を中心とする営業行為を行っていたと認めることができる。したがって被告の主張は,原告が許可を受けることなくみずから営利企業を営んでいたことをいうものとして正当というべきであり,これを前提にして,同法29条1項1号~3号の懲戒事由に該当するという結論も肯定することができる。


非違行為②

被告の主張は,原告は任命権者である処分行政庁の許可を受けることなく,dという株式会社を営んでいたから,地公法38条1項に違反し,同法29条1項1号~3号の懲戒事由に該当するというものであると解される。
しかし第1に,dには法人格があるから,その事業はいうまでもなくd自身が営んでいるのであり,これを原告が営むということはありえない。第2に,原告がdの役員の地位についたことはないから,許可を受けることなくdの役員を兼ねたということもできない。被告は発起人が株式会社の役員であると理解しているようであるが,一般に法人の役員とは,その業務執行に関連する権限を有する者のことをいうのであり,設立のみに関与する発起人を役員ということはできない。第3に,原告がdの事業ないし事務に従事していたことは認められるが,それについて報酬を得ていたという証拠はない。このように,原告についてdとの関係で地公法38条1項に直接違反する事実があるとみることは困難である。もっとも,基本的事実関係⑶と認定事実⑴・⑵によれば,原告はdの事実上の代表取締役として行動していたと認めることができる。このような行動は,許可を受けることなく株式会社の役員である代表取締役を兼ねることと実質的に同じであり,その地位を公的な関係と私的な関係とで使い分け,責任の所在を不明確にしている点でより悪質であるといいうるから,地公法38条1項の趣旨に反することは明白である。したがって,許可を受けることなくdの役員を兼ねていたのと同視できるという点で非違行為②は同項の趣旨に反し,同法29条1項1号~3号の懲戒事由に該当するといえる。被告の主張はこの趣旨をいうものとして肯定することができる。


非違行為③

被告の主張は,結婚詐欺ともいいうる原告の行為は,信用失墜行為として地公法33条に違反し,同法29条1項1号・3号の懲戒事由に該当するというものであると解される。
たしかに原告は,結婚を視野に入れた男女の交際という人の一生にも影響を及ぼしうる重要な問題についてAをだましてその心情を著しく傷つけたのであるから,Aの人格権を侵害する不法行為が成立するといえる。しかしこれは公務外の,しかもまったくの私的なことがらであり,
刑罰の対象にもならない。
道義的に非難され,
民事上の責任を負うべきものであるとしても,全体の奉仕者として公共の利益のために勤務する公務員としてふさわしくない行為であるとか,公務員関係の秩序を維持するため制裁を科すべき行為であるとはただちにいいがたく,そもそも懲戒処分になじみにくい行為である。ただ,そうはいっても,消防服務規程において特に,

消防職員は,その職の信用を傷つけ,又は職全体の不名誉となる行為のないよう常に心を清潔にし,身辺の潔白に努めなければならない。

(7条),

消防職員は,常に身体,服装及び態度を清潔かつ端正にし,品位の保持に努めなければならない。

(8条)と規定されていることを考慮すると(乙3,乙公42),非違行為③が地公法33条に違反し,同法29条1項1号・3号の懲戒事由に該当することを否定することまではできない。


非違行為④

被告の主張は,虚偽の旅行願を提出したことは消防服務規程9条,14条に違反し,地公法29条1項1号~3号の懲戒事由に該当するというものであると解される。しかし認定事実⑸によれば,原告が提出した長崎県を行先とする旅行願が虚偽のものであったということはできない。この旅行願を提出した2月21日の時点では上海行きの格安航空券はまだ入手しておらず,上海に行くことは決まっていなかったからである。もちろん,その後これを入手し,上海に行くことを決めた以上,消防服務規程14条に従い,上海を行先とする旅行願を処分行政庁に提出して承認を受けるべきであった。原告が責任を問われるべきはこの不作為であり,これが同規程9条,14条に違反することはいうまでもない。したがって虚偽の旅行願を提出したという被告の主張は採用できないが,法令の適用に関するかぎり被告の上記主張は正当である。
3
判断枠組み

地方公務員につき地公法29条1項各号所定の懲戒事由がある場合に,懲戒処分を行うかどうか,懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは,懲戒権者の裁量に任されている。懲戒権者は懲戒事由に該当すると認められる行為の原因,動機,性質,態様,結果,影響等のほか,当該公務員の上記行為の前後における態度,懲戒処分等の処分歴,選択する処分がほかの公務員および社会に与える影響等,諸般の事情を総合的に考慮して,懲戒処分をすべきかどうか,また懲戒処分をする場合にいかなる処分をすべきかを,その裁量的判断によって決定することができる。裁判所がその処分の適否を審査するにあたっては,懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き,裁量権の範囲を逸脱しこれを濫用したと認められる場合にかぎり,違法であると判断すべきである(最一小判平成2年1月18日民集44巻1号1頁参照)。
本件においては,これに加えて指針との関係が問題となる。指針は,被告における職員に対する懲戒処分をこれに従って行うべきものとして公表されたものである。代表的な事例を選び,それぞれにおける標準的な懲戒処分の種類を掲げたものであるとしながらも,懲戒処分の対象となりうる非違行為には様々なものがあること,情状にも様々なものがあることを前提としたうえで,あらゆる事例に対処できるよう,種々の考慮要素を掲げている。すべて職員の懲戒については公正でなければならず(地公法27条1項),職員は同法の適用について平等に取り扱われなければならないこと(同法13条)をも考慮すると,指針は被告に所属する行政庁を拘束するというべきであり,指針を逸脱して懲戒処分が行われた場合,裁量権を逸脱・濫用するものとして違法になると解すべきである。もちろん上記のとおり結局は個々の事例ごとに種々の考慮要素を検討する必要があるから,指針を逸脱するか否かの判断は必ずしも容易とはいえないが,標準例と異なった処分量定をすることが許されるとしてもそこにはおのずから一定の限度があるから,個々の事例について逸脱の有無を判断することは可能というべきである。これに対し,行政の内部規則と位置づけられる指針が裁判所を拘束することはないから,指針を逸脱しないと判断される場合であってもなお,裁量権の逸脱・濫用があるか否かを判断する必要がある。
以上の判断枠組みに従って,
処分行政庁の裁量権の逸脱濫用の有無を検討する。

4
指針の定める処分の標準例

指針に基づいて非違行為①~④についての標準的な処分の種類を検討する。⑴

非違行為①・②について

指針によれば,非違行為①・②はいずれも兼業の承認等を得る手続の懈怠であり(別紙①の2⑵エ),これに対する標準的な処分の種類は減給または戒告である。
被告の主張は必ずしも明確でないが,勤務態度不良(同イ),虚偽報告(同ウ)にもあたると主張するようである。しかし原告が勤務時間中に職場を離脱してcやdの業務に従事していたとは認められないし,cやdに関し事実を捏造して虚偽の報告をしていたとも認められない。被告の上記主張を採用することはできない。


非違行為③について指針には非違行為③にあてはまる標準例は存在しないので,標準例に掲げる取扱いを参考として判断する。
非違行為③は公務外の行為である。指針において公務外非行関係の標準例に掲げられているのはいずれも刑罰を受ける可能性のある行為である。規定されている処分のうちもっとも軽いものは減給または戒告であり,その対象とされている犯罪行為は,暴行・けんか,器物損壊,単純賭博,公共の場所等における酩酊による粗野な言動等である(甲7,乙公47)。これに対し非違行為③は,結婚詐欺といわれるものであるとしても,詐欺罪の構成要件に該当するとはいえず,刑罰の対象にならない行為であり,上記の各行為よりも類型的に違法性の程度が低いと評価されるから,標準的な処分の種類は減給と戒告のうち軽い方である戒告にとどまるとみるべきである。


非違行為④について

前記のとおり,非違行為④の内容は,旅行願を提出して承認を得るという手続を怠って外国旅行をしたことである。指針にはこれにあてはまる標準例は存在しないが,関係するものとして,申告に関わるものである休暇の虚偽申請すなわち病気休暇または特別休暇について虚偽の申請をしたこと(別紙①の2⑵ア)と虚偽報告すなわち事実を捏造して虚偽の報告を行ったこと(同ウ)があり,標準的な処分の種類はいずれも減給または戒告である。
前記のとおり原告は虚偽の旅行願を提出したわけではなく,非違行為④の実質は不作為であるから,これを虚偽報告とみることはできない。また,病気休暇と特別休暇は特定の事由がある場合に職員に与えることができる休暇である。年次休暇とは異なり本来職員に与えられている休暇ではないため,その申請にあたり事実と異なる内容を申告することの非違の程度は小さくない。これに対し非違行為④については,外国旅行に関する旅行願は処分行政庁へ提出することになっているため(消防服務規程14条),行先が事実と異なるだけでなく提出先も誤っていたことにはなるが,本来受けることのできない承認を受けるための行為であったとか,本来されないはずの承認がされたとは認められない。消防職員は非常事態の発生に即応できるよう常に自己の所在を明らかにしておかなければならないが(同規程9条)

そうであるからといって,非違行為④について,虚偽の申請をして本来与えられないはずの休暇を取得することと比較して非違の程度が類型的に重いと評価することはできず,むし軽いといえる。以上の事情を考慮すると,非違行為④に対する標準的な処分の種類は戒告にとどまるというべきである。
5
指針からの逸脱の有無



具体的な処分量定について

上記4のとおり,非違行為①・②についての標準的な処分の種類はいずれも減給または戒告であり,非違行為③・④についての標準的な処分の種類はいずれも戒告である。
そこで,
重い非違行為①・②に加えて軽い非違行為③・④が存在すること,そのほか諸般の事情を考慮して,具体的な処分量定として免職を選択した処分行政庁の判断が指針を逸脱するものであるかを検討する。

原告はcの名称による営業活動を平成19年から平成25年までの約6年間
にわたって行った。dの実質的な代表取締役を兼ねていた期間は明確にはなっていないものの,平成12年の会社成立時から平成25年までの約13年間にわたるものと推認することができる。これらの業務に従事する以前から営利企業への従事等の制限に関して個別に調査・指導を受けており,従事するにあたって許可を受ける必要があること,
住民から強い非難を受けうる行為であることを十分認識していた。それにもかかわらず許可を受けずに長期間にわたり営業行為を続けていたのであるから,行為の態様は悪質である。被告にあてられた投書の内容からすると(認定事実⑴ウ参照),原告の行為を被告の職員の行為として認識していた住民は現実に存在したのである。公務員が営利企業を営み,あるいは営利企業の役員を兼ねることは,全体の奉仕者であり職務専念義務を負うことと相容れない面があり,住民に与える不信感は小さくない。
非違行為①に関しては,部下に農作業を手伝わせ,報酬を与えている。係長として部下を指導する立場にあったにもかかわらず部下の地公法違反の非違行為を助長しており,非難の程度は高い。生産地や生産者について事実と異なる表示をしており,これを正当化するだけの事情は認められない。非違行為②について,dは被告の給水装置工事事業者の指定を受けているため,被告が経営する水道事業に関する工事を被告の職員が事実上営む会社が施工することになるのであり,被告の公務全体の公正性も疑われかねない。dには複数の債務不履行の事実もあり,営業態度は不誠実であったと評価できる。非違行為①・②は消防職員の職に対する信頼を損なうだけでなく,これを被告が容認しているとして被告に対する信頼も損なうことになりかねない行為である。
非違行為①が発覚した後,部下に対して口裏あわせを指示し,口止めをするなどしており,非違行為後の態度も悪く真摯な反省はみられない。

他方で非違行為①に関し,
原告を登録農家として販売された商品の売上額
(販

売額-阪食の手数料)は約14か月で434万4073円(1か月あたり約31万円)であり,これがすべて原告の手元に残ったとしても,原価や経費等を考えれば得た利益がそれほど多額であったとはいいがたい。父親を登録農家として販売された商品の売上金
(4012万7026円)
から原告が利益を得ているということも,
親子という関係からすると考えられなくはないが,証拠がない。さらに,父親を含めた他の登録農家の売上金(合計約6200万円)の一部を原告が取得しているとも考えられるが,まずはこれらの登録農家に対して相応の金額を分配しなければならない以上,それほど多額の金額を取得できたとは認めがたい。したがって非違行為①により原告が多額の利益を得たという証拠はない。非違行為②についても同じである。勤務時間中にcやdの営業活動を行っていたという証拠もない。非違行為③は,前記のとおり,懲戒処分になじみにくい行為である。Aから提起された損害賠償請求訴訟も,本件処分の後ではあるが,訴訟上の和解により解決している。非違行為④は内部的な手続違反にすぎず,これにより公務に支障が生じたという証拠もない。いずれも標準的な処分の種類より処分を重くするほどの事情があるとはいえない。原告は営利企業に従事等していた期間も含め消防職員としての表彰を8回受けており,勤務態度は良好と評価されていたと認められる。Aに対する発言の内容を被告は問題視するが,まったくの私的な会話の中での発言であり,これをもって勤務態度が不良であったということはできない。過去に懲戒処分を受けたこともない。ウ
以上のとおり,非違行為①・②は職務専念義務の遂行や職務の公正に対する
信頼を損ないかねない悪質な行為であるが,これにより原告が多額の利益を得たとも,現実に消防職員としての職務を怠ったとも認められない。職員の懲戒の手続及び効果に関する条例(昭和29年宝塚市条例第10号)によれば,減給は1日以上6か月以下の期間,給料とこれに対する地域手当の10分の1以下を減ずるとされ(3条)その次に重い停職についても期間は1日以上6か月以下とされており,
(4
条1項),減給の金額や期間,停職の期間によって非違行為に見合う処分をすることができる。そうすると,非違行為が4つあり,このうち重い非違行為①・②は同種の行為を重ねてしたものであることなど,上記アで検討した事情を考慮したとしても,原告について指針上の標準的な処分の種類のうち重い減給から2段階加重して,その職を失わせる重大な不利益処分である免職とすることは,指針を逸脱しているといわざるをえない。


他の事例との比較について

被告は,消防職員が実質的にテレフォンクラブと同内容の営業であるダイヤルQ2事業を経営し,懲戒免職処分とされた事案において,その取消請求が棄却されたこと(大阪地判平成11年2月3日労働判例759号28頁)を挙げ,これを根拠に,本件処分は適法であると主張するが,事業自体が社会的に非難されるものである点でこの事案は非違行為①・②とはまったく異なる。むしろ非違行為①・②について参考とすべき事案は,被告の管財課の副課長が勤務時間中に勤務先のパソコンを使って商談をし,平成24年に年間約7000万円の収入を得ていた事案であり,この職員は停職6か月とされている(甲10)。勤務時間中に職務を怠り,職場で公務用のパソコンを使用して私的な業務を行い,多額の収入を得ていた職員ですら,停職にとどめているのであるから,勤務時間外に職場外で行われ年商もそれほど大きくない非違行為①・②と戒告が相当である非違行為③・④をした原告を免職とすることは,均衡を失するといわざるをえない。⑶

まとめ

以上のとおり,本件処分は指針を逸脱するものであるから,社会観念上著しく妥当を欠き,裁量権を逸脱・濫用するものとして違法である。
6
結論

原告は懲戒事由に該当する行為を行ったが,それに対する懲戒処分として免職は重すぎる。本件処分には裁量権の逸脱・濫用の違法があるから取消しを免れない。
神戸地方裁判所第6民事部

裁判長裁判官

倉地康弘
裁判官

達野ゆき
裁判官

若林貴

別紙①

1
消防職員の服務規律



営利企業への従事等の制限


地公法38条1項において,職員は,任命権者の許可を受けなければ,営利
を目的とする私企業(以下営利企業という)を営むことを目的とする会社その他の団体の役員その他人事委員会規則(人事委員会を置かない地方公共団体においては,地方公共団体の規則)で定める地位を兼ね,もしくはみずから営利企業を営み,または報酬を得ていかなる事業もしくは事務にも従事してはならないとされている。

職員服務規程20条において,職員は,地公法38条1項の規定により営利
企業等に従事する許可を受けようとするときは,従事しようとする業務の名称,場所,職名,勤務の態様,従事時間,収入金額,その他従事の必要な事由等を記載した営利企業等従事許可申請書をあらかじめ任命権者に提出し,許可を受けなければならないとされている。
この規定は,消防服務規程17条において消防職員の服務について準用されている。


所在の明確

消防服務規程9条において,消防職員は,非常事態の発生に即応できるよう常に自己の所在を明らかにしておかなければならないとされている。


旅行願

消防服務規程14条において,消防職員は,墓参,帰郷,転地療養その他私事により外泊を伴う旅行(日帰りは除く)のため,居住地を離れようとするときは,3日前までにその理由,期間および行先を記載した旅行願を所属長へ提出し,承認を受けなければならない,ただし,外国旅行に係る旅行願は,処分行政庁へ提出し承認を受けるものとするとされている。2

指針(宝塚市懲戒処分の指針)



基本事項

具体的な処分量定の決定にあたっては,次の①~⑤等のほか,適宜,日頃の勤務態度や非違行為後の対応等も含め総合的に考慮のうえ判断するものとする。①

非違行為の動機,態様および結果はどのようなものであったか。



故意または過失の度合いはどのような程度であったか。



非違行為を行った職員の職責はどのようなものであったか,その職責は非違行為との関係でどのように評価すべきか。



他の職員および社会に与える影響はどのようなものであるか。



過去に非違行為を行っているか。

個別の事案の内容によっては標準例に掲げる処分の種類以外とすることもありうる。たとえば,標準例に掲げる処分の種類より重いものとすることが考えられる場合として,次の①~⑤がある。


非違行為の動機もしくは態様がきわめて悪質であるときまたは非違行為の結果がきわめて重大であるとき



非違行為を行った職員が管理または監督の地位にあるなどその職責が特に高いとき



非違行為の公務内外に及ぼす影響が特に大きいとき



過去に類似の非違行為を行ったことを理由として懲戒処分を受けたことがあるとき



処分の対象となりうる複数の異なる非違行為を行っていたとき

標準例に掲げられていない非違行為についても懲戒処分等の対象となりうる。これらについては標準例に掲げる取扱いを参考としつつ判断する。


標準例(一般服務関係)


休暇の虚偽申請病気休暇または特別休暇について虚偽の申請をした職員は,減給または戒告とする。

勤務態度不良

勤務時間中に職場を離脱して職務を怠り,
公務の運営に支障を生じさせた職員は,
減給または戒告とする。

虚偽報告

事実を捏造して虚偽の報告を行った職員は,減給または戒告とする。エ
兼業の承認等を得る手続の懈怠

営利企業の役員等の職を兼ね,もしくはみずから営利企業を営むことの承認を得る手続または報酬を得て,営利企業以外の事業の団体の役員等を兼ね,その他事業もしくは事務に従事することの許可を得る手続を怠り,これらの兼業を行った職員は,減給または戒告とする。
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