判例検索β > 平成26特年(わ)第1059号
覚せい剤取締法違反、窃盗、建造物侵入被告事件
事件番号平成26特(わ)1059
事件名覚せい剤取締法違反,窃盗,建造物侵入被告事件
裁判年月日平成29年5月30日
裁判所名・部東京地方裁判所  刑事第16部
裁判日:西暦2017-05-30
情報公開日2017-10-13 01:33:34
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平成26年特(わ)第1059号,平成26年刑(わ)第1977号,第2470号,第2762号,第3176号,平成27年刑(わ)第124号,第418号覚せい剤取締法違反,窃盗,建造物侵入被告事件
平成29年5月30日宣告

東京地方裁判所刑事第16部
主文
被告人を懲役4年に処する
未決勾留日数中700日をその刑に算入する。
本件公訴事実中,平成26年7月28日付け起訴に係る覚せい剤の使用及び所持の点並びに同年8月15日付け追起訴に係る窃盗の点については,被告人は無罪
理由
(罪となるべき事実)
第1

被告人は,A及び氏名不詳者らと共謀の上,平成25年8月22日午前4時
6分頃から同日午前4時48分頃までの間,横浜市a区b町c番地d株式会社B敷地内において,同社代表取締役C管理の普通乗用自動車1台(時価約160万円相当)
を窃取した
〔平成27年3月2日付け追起訴状記載の公訴事実第1〕

第2

被告人は,A,D及び氏名不詳者と共謀の上,金品窃取の目的で,平成25
年12月12日午前5時2分頃,
有限会社E従業員Fが看守する浜松市e区f町g
番地のhiビル1階G店店内に,
同店正面出入口自動ドアの施錠を外して侵入し,
その頃,同所において,同人管理の新幹線回数券2875枚等4028点(時価合計約969万2030円相当)を窃取した〔平成27年3月2日付け追起訴状記載の公訴事実第2〕。
第3

被告人は,H及びIと共謀の上,金品窃取の目的で,平成26年2月20日
午前5時37分頃から同日午前5時41分頃までの間,
群馬県高崎市j町k番地l
ホテルJ支配人Kが看守する同ホテルに1階出入口から侵入し,その頃,同ホテル2階フロント脇において,同所に設置された自動精算機をバールでこじ開け
るなどして,同機内から同人管理の現金69万5500円在中の現金ユニット2台(時価合計約200万円相当)を窃取した〔平成26年12月17日付け追起訴状記載の公訴事実〕。
第4

被告人は,H及び氏名不詳者と共謀の上,金品窃取の目的で,平成26年3
月1日午前4時26分頃から同日午前4時36分頃までの間,L店店長Mが看守する千葉県君津市mn丁目o番p号の同店舗に,店舗裏側出入口ドアをバールでこじ開けて侵入し,その頃,同所において,同人管理の現金1万2060円在中の手提げ金庫1個(時価約5000円相当),記念硬貨1万円,切手50枚(金額合計5000円),デジタルカメラ2個等35点(時価合計約28万1315円相当)及び腕時計2個等22点(販売価格合計9万2000円)を窃取した〔平成27年1月28日付け追起訴状記載の公訴事実第1〕。第5

被告人は,H及び氏名不詳者と共謀の上,金品窃取の目的で,平成26年3
月1日午前4時36分頃から同日午前4時46分頃までの間,N経営者Oが看守する千葉県君津市qr丁目s番t号の同店舗に,店舗裏側出入口ドアをバールでこじ開けて侵入し,その頃,同所において,同人所有の現金約1万7000円及び湿布薬約10個等約192点(販売価格合計約24万8760円)を窃取した〔平成27年1月28日付け追起訴状記載の公訴事実第2〕。第6

被告人は,平成26年4月20日午前零時頃から同日午前1時頃までの間,
兵庫県尼崎市u町v丁目w番P駐車場において,
同所に駐車中のQ所有の普通乗用
自動車1台(時価約30万円相当)を窃取した〔平成26年10月10日付け追起訴状記載の公訴事実〕。
第7

被告人は,Hと共謀の上,平成26年6月3日午前4時30分頃,群馬県高
崎市x町y番地zR南側駐車場において,
同所に駐車中のS所有の普通乗用自動車
1台(時価約75万円相当)を窃取した〔平成26年11月10日付け追起訴状記載の公訴事実〕。
(量刑の理由)

本件は,共犯者らと共謀の上又は単独で,約10か月の間に,店舗等4軒に侵入して現金や商品を盗んだり,車両3台を窃取することを繰り返したものであり,その多くは周到に準備された計画的で手慣れたものであり,
悪質な職業的犯行である。
被害総額は合計約1570万円と多額である。
被害品は一部還付されているものの,
被告人による被害弁償はなされていない。
被告人には,累犯前科を含む窃盗罪(他の罪との併合罪を含む)による前科3犯があり,最終刑の執行終了後約2年で判示第1の犯行に及び,その後も窃盗を繰り返しているのであって,規範意識が低下している。
このような被告人の刑事責任は相応に重い。
従って,被告人が,本件各犯行を認め,被害者らに対する謝罪の意思を示していることなどを考慮しても,主文掲記の刑は免れない。
(一部無罪の理由)
第1

当裁判所は,平成26年7月28日付け起訴に係る覚せい剤の使用及び所持の事実並びに同年8月15日付け追起訴に係る窃盗の事実につき,いずれも無罪と判断したので,以下に理由を説明する。

第2
1
平成26年8月15日付け追起訴状記載の公訴事実について
平成26年8月15日付け追起訴状記載の公訴事実は,

被告人は,Tと共謀の上,平成26年6月15日午後0時27分頃,東京都青梅市ab丁目c番地のdU駐車場に駐車中のV管理の普通乗用自動車1台(時価約20万円相当)を窃取したものである。

というものである。
2
弁護人は,本件普通乗用自動車(以下単に本件インプレッサという。)の窃盗は,客観的状況からみてもTが単独で行ったものであるし,Tの共謀についての証言は変遷しており,信用できず,被告人との共謀は認められないとして,無罪を主張し,被告人もこれに沿う供述をしている。

3
関係証拠から認められる前提事実
被告人は,顔見知り程度であったTから,車両窃盗を手伝わせて欲しいなど
と頼まれ,平成26年6月13日頃(以下,月日の記載は,断りのない限り,いずれも平成26年を示す。から行動を共にしていた。

被告人は,
Tに対し,
盗難車を売却する際に売却先に車両を運転していけば報酬として2万円を渡すなどと伝え,実際に売却しに行ったこともあった。被告人は,6月14日夜から15日明け方にかけて,被告人の当時の使用車両レガシィ(以下本件レガシィという。)を運転し,Tと共に神奈川県内からe湖方面に向かった。その途中,
インプレッサ,
セルシオ,
ランドクルーザー,
マジェスタといった,
盗難後に高額で売却できる車種の自動車を探し,目星の付いた自動車について,自らカーナビゲーションにその位置を登録したり,Tにメモをさせるなどした。被告人は,
その間,
2回にわたり自動車の窃盗を試みたが,
明け方であったり,
人目が気になったりして断念した。
被告人は,
助手席に乗車しているTに対し,
複数回,ぼうっとしていないでめぼしい車があったらお前もちゃんと見ておけ,などと指示した。
被告人とTは,6月15日午前中は,e湖で釣りをし,昼頃,横浜へ戻るため,Tが本件レガシィの運転をして出発した。被告人は,出発後すぐに助手席のシートを倒して寝てしまった。途中,U駐車場(以下本件コンビニ駐車場という。)に差し掛かったTは,本件コンビニ駐車場に駐車中のエンジンが掛かった状態で運転手のいない本件インプレッサを発見し,本件コンビニ駐車場に本件レガシィを駐車した。その頃,Tは,助手席で就寝中の被告人を揺さぶって起こし,本件レガシィを降車した。
Tは,同日午後零時27分頃,本件インプレッサに乗車し,その場から持ち去った。Tは,運転開始後間もなく,後部座席にいた被害者の子供らの存在に気付き,前方を走行中の被告人運転の本件レガシィに横付けし,子供の存在を伝えた。被告人は,Tに対し,

馬鹿野郎,そんな子供が乗ってる車何で乗ってくんだ。

などと怒り,

しょうがないからついて来い。

といって本件レガシィを走行させた。Tは,本件インプレッサを運転して追尾し,少し離れた
駐車場に,子供らを乗車させたまま本件インプレッサを放置し,本件レガシィに乗車して被告人と共に逃走した。
4
Tの第7回公判証言及びその信用性
検察官は,信用性の高いTの第7回公判証言に基づき,被告人とTの共謀が認められる旨主張するので,同証言の信用性を検討する。
Tの第7回公判証言は,大要以下のとおりである。
本件コンビニ駐車場で本件インプレッサを見つけた。被告人から,何度か

お前もちゃんとめぼしい車を探しておけよ。

などと言われていたことから,すぐに被告人に知らせたが,被告人は椅子を倒して半分寝ている状態だったので,被告人を起こし,

インプレッサがあるんですけど,どうしますか。

と聞いたと思う。被告人から

とっちゃおう。

と言われた。さらに,被告人に対して,

様子を見てくるんで。

もし乗っていけるようであればインプレッサに乗るので,W(被告人の姓)さんは運転席に移って,こっちのレガシィのほうの車に乗っててくださいね。

と言ったところ,被告人は「分かった。」と言った。コンビニの中にいったん入り,コンビニから出たとき,
被告人は本件レガシィの運転席にいた,
再度被告人の方を向くと,
被告人が首を縦に振ってうなずいたのでゴーサインだと思い,慌てて本件インプレッサに乗り込んだ。すると,被告人が駐車場の出入口まで本件レガシィを出していたので,その後を追うようにして本件インプレッサを発進させた。その後,被告人に子供が乗っていることを知らせると怒鳴られ,被告人について行った先の駐車場に本件インプレッサを放置した。
上記第7回公判の証言は,相応に具体的なものであるし,証言時,Tは既に本件につき実刑判決を受けて確定していたから,
殊更被告人に不利益な虚偽の
証言をする必要性はなかったようにも思われる。
しかし,
本件インプレッサは,
被告人とTが事前に下見などをしたものでは
なく,
直前にTが発見したものであった上,
従前Tと共に窃盗を実行したこと

も,Tに窃盗の実行を指示したこともなかった被告人が,寝起きの状態で,周囲の状況を十分に把握しないまま,

とっちゃおう。

などとTに車両窃盗を指示したということ自体,不自然である。
そして,Tは,第13回公判において,本件コンビニの駐車場で,被告人の身体を揺すって起こしたが,まだ被告人は完全に起きていなかった,

見てきます。乗っていけそうだったら自分が運転していくので,Wさんは,こっちを運転して下さいね。

と言ったが,寝起きの被告人に伝わっているのか確認しないまま車から降りた,被告人は

とっちゃおう。

とか「分かった。」などとは言っていなかった,
被告人が首を縦に振ったのも見ていない,
被告人が了
解していないのに,自分が暴走して行動してしまったなどと証言した。第7回公判と第13回公判の各時点でTが置かれた状況には特段の差異がないにもかかわらず,
被告人による指示又は承諾があったという,
証言の核心
部分について,供述を変遷させている。
Tは,
第7回公判のような供述をした経緯について,
取調べ担当警察官から

Wは自動車のメモを付けたことを含めて全てTのせいにしている。と聞か

された上,覚えていないことについて,毎日のように責め立てられ,警察官に誘導されて事実に反する調書を作成してしまい,
これに合わせて証言したと述
べている。検討するに,共犯者の供述は引き込みの危険がある上,T自身は,犯行現場で被告人に話した内容が伝わっていると思っていたから,警察官に誘
導されやすい状況にあり,
被告人の指示があったという内容の供述調書を作成
してしまい,その内容に沿って証言したという可能性も十分に考えられる。そうすると,Tの第7回公判証言の信用性には疑問が残る。
なお,検察官は,Tが証言を変遷させた真の理由は,第7回公判後に被告人の知り合いの交際相手からの手紙によって被告人らの意向を忖度したからであり,第7回公判証言の方が信用できるなどと主張する。しかし,T自身手紙を受け取ったことを認めている上,その手紙の内容は,Tに証言の内容
を変更することを促すものとは到底解されないから,検察官の主張は採用できない。
5
被告人の公判供述及びその信用性
一方,被告人は,公判廷において,自らが窃盗をする際には,人目のつかない場所を狙い,夜中の時間帯に盗み,日中に盗ることはせず,エンジンキーがついていたり,エンジンが温かかったり,誰かがすぐに乗りに来るような車は盗らない,本件インプレッサのように,白昼のコンビニエンスストアの駐車場にエンジンが掛かったまま停車中の車など,防犯カメラがあるだろうし,逮捕されるから盗むわけがない,Tとは本件インプレッサの窃盗の共謀をしていない,Tが勝手に盗んだものであると供述している。
また,
被告人は,
本件直前直後の状況について,
大要次のとおり供述する。
助手席で寝ていたところ,Tに肩を叩かれて起きた,運転できるかと尋ねられた。被告人が,できると答えると,Tは本件レガシィから降車した。被告人が,本件レガシィ車内から運転席側窓の後方を見ると,Tが店内へ入るのを見た。再度振り向くと,Tが店前に駐車した本件インプレッサの運転席の横にいたので,本件インプレッサを盗むと思った。被告人は,左手で手招きする仕草をしながら,やめろ,と呼びかけたが,Tが本件インプレッサに乗り込むところが見えた。被告人は,その場から逃走しようと,本件レガシィ車内で助手席から運転席へと移り,直ちに発進させた。
被告人の供述は,それ自体,自然で合理的な内容を含んでいるし,寝起きの状態であったため,Tの発言内容の一部のみを聞き取って,返事をしたということも十分にあり得ると考えられる。
被告人が逮捕されるまでの10か月間で断続的に窃盗を繰り返してきた判示第1ないし第7の各窃盗事件は,いずれも,深夜から明け方の時間帯に敢行されたものであり,車両窃盗にあっては,駐車場や会社敷地内に施錠されて駐車中の車両であった。そして,Tと車両窃盗の下見に出かけた際も,人
目を気にして窃盗を断念するなど慎重な対応をとっていた。
被告人の供述は,
このような過去の事件の特徴や前日からの行動にも整合するものである。さらに,被告人は,Tがインプレッサの横にいたので,盗むことが分かった,自らレガシィを発進させて逃走を開始したなどと,自らが窃盗を主導したと評価されてもおかしくはない行動についても,素直に供述している。従って,被告人の公判供述は,従前の経緯や当時の状況に整合し,合理的であり,信用することができる。
6
検討
現場における明示の共謀について
現場での明示の共謀の主たる証拠はTの第7回公判証言であるところ,上記のとおり,Tの証言は,内容自体不自然であり,変遷があって信用できないから,明示の共謀は認められない。
現場における黙示の共謀について
本件窃盗の態様は,昼の時間帯のコンビニエンスストアの駐車場という,人目のつく,そして,防犯カメラの設置されている場所において,エンジンのかかった車両を,何らの変装もなく,準備もなく,乗り逃げるという,極めて発覚の危険の高いものである。このような態様自体,過去の被告人の事件の特徴とは全く異なるものであり,被告人がTによる本件インプレッサの窃盗を,自らの犯罪としてかつ共同で行うものとして,積極的に承認していたとすると不自然というほかない。そして,上記のとおり信用できる被告人の公判供述に照らしても,被告人とTとの間に本件窃盗の黙示の共謀があったと認めるには合理的な疑いが残る。
事前共謀について
本件インプレッサの窃盗の前日夜から当日の早朝にかけて,Tとの間で車両窃盗の準備行為として,対象車両の位置登録などをして,窃盗の機会をうかがっていたこと自体は認められるものの,本件インプレッサについては,
被告人の想定した窃盗の機会でも,対象車両として位置登録したものでもなかった。従って,本件インプレッサの窃盗は,事前の共謀に基づく犯行であるとは認められない。
7
以上のとおり,被告人にTとの間で窃盗の共謀があったと認めるには合理的な疑いが残るというべきであり,平成26年8月15日付け追起訴状記載の公訴事実については犯罪の証明がないこととなるから,刑事訴訟法336条により,被告人に対し,無罪の言渡しをする。

第3
1
平成26年7月28日付け起訴状記載の各公訴事実について
平成26年7月28日付け起訴状記載の公訴事実は,被告人は,第1法定の除外事由がないのに,平成26年6月16日頃,神奈川県相模原市f区gh-ij西詰南側駐車場に駐車中の自動車内において,覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン塩酸塩若干量を含有する水溶液を自己の身体に注射し,もって覚せい剤を使用し第2みだりに,同日,同所において,覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する結晶約0.732グラムを所持したものである。というものである。2
弁護人は,警察官が被告人から覚せい剤及び尿を押収した手続には,GPS
捜査及びけん銃の使用という重大な違法が影響しているから,これらに関係する取調べ済みの証拠
(甲第1号証ないし第14号証,
甲第27号証)
について,
証拠排除すべきであると主張している。
甲第1号証(任意提出書),甲第2号証(領置調書),甲第3号証(採尿状況報告書),甲第4号証(鑑定嘱託書謄本),甲第5号証(鑑定書)は,いずれも6月16日に被告人から採取した尿に関するもの,
甲第6号証
(差押許可状執
行状況写真撮影報告書)は,同日,被告人使用車両レガシィの差押状況を撮影した報告書,甲第7号証(注射痕撮影報告書)は,同日,被告人の腕の注射痕を写真撮影したもの,甲第8号証(犯罪日時場所特定報告書),甲第9号証(任意提出書),甲第10号証(領置調書),甲第11号証(写真撮影報告書),甲第1
2号証(覚せい剤1袋〔平成26年東地領第2945号符号1〕),甲第13号証(鑑定嘱託書謄本),甲第14号証(鑑定書)は,同日,被告人から押収した覚せい剤に関するものであり,
甲第1号証ないし第14号証の各証拠はいずれも,
平成26年7月28日付け起訴状記載の各公訴事実に係る覚せい剤の使用及び所持の事実を立証するために証拠請求されたものである。
また,甲第27号証(行動確認捜査報告書)は,無罪と判断した前記窃盗罪に関して,
被告人とTの6月15日の行動を立証するために証拠請求されたものである。
3
関係証拠から認められる前提事実
GPS捜査の経緯及び内容等について

警視庁刑事部捜査第三課(以下捜査第三課という。)を主体とする捜査本部は,平成24年5月頃から発生した,盗難車を利用した店舗荒らし等の広域連続窃盗事件の捜査の過程で,判示第1及び第2の共犯者Aらを中心とする犯行グループの関与を疑い,平成24年9月ころから,Aらの使用車両にGPS端末を取り付けて位置情報の取得を行っていた。捜査本部は,
平成25年4月頃,
被告人を犯行グループの一員として把握した。


捜査第三課所属の甲巡査長は,平成25年12月8日から平成26年3月25日までの間,いずれも民間の駐車場において,被告人又は共犯者の使用する車両(ベンツ)の車底部に,合計7台のGPS端末を両面テープ又は磁石で取り付け,概ね1週間から1か月間経過後のバッテリー消耗時に交換することにより,ほぼ間断なく新たにGPS端末を取り付けることを繰り返した。また,甲巡査長は,平成26年4月16日から同月22日までの間,民間の駐車場やコインランドリー駐車場において,被告人が使用していた車両(フォレスタ―)に2台のGPS端末の取付けを行った。さらに,甲巡査長外1名は,平成26年4月27日から被告人が逮捕される同年6月16日まで,民間の駐車場で合計8台のGPS端末を,当時被
告人が使用していた本件レガシィに取付け,紛失したものを除き,概ね1週間から3週間経過後に交換し,ほぼ間断なく新たなGPS端末を取り付けることを繰り返した。
一連の窃盗事件の捜査において,被告人及び窃盗の共犯者らが使用した疑いのある車両に取り付けられたGPS端末は,合計約70台に上っており,ホテルの駐車場で密かに取り付けられたこともあった。
GPS端末の取り付けに当たり,警察官は,民間駐車場などの管理人に対し,立ち入りに関する連絡をしていない。また,GPS端末の契約約款によれば,
同意なく第三者の位置情報を取得することは禁止されていたが,
警察官は,自動車の使用者の同意を得ていない。

本件GPS端末の位置情報は,その時の電波状況などにより精度が異なるものの,
町名や何丁目付近であるかまで表示され,
最も正確な場合に
50メートル以内,誤差の大きい場合には500メートル以上と表示された。また,本件のGPS端末の機能には,一定間隔で自動的に位置情報を検索するスケジュール検索設定,位置情報が民間業者に3か月間保存され,後に確認できる位置履歴取得,立ち寄り場所等の拠点登録をした場所からの出入りをメールで通知する見守り設定という各種機能があった。警察官は,これらの機能を使用して,日中は概ね1時間ごと,夜間は30分ごと,そして必要に応じて分刻みで位置情報を取得していた。

GPS捜査については,平成18年6月30日付けで警察庁刑事局刑事企画課長作成名義の移動追跡装置運用要領の制定についてと題する通達(以下本件運用要領という。)が全国都道府県警察の長宛てに発出された。本件運用要領においては,GPS捜査は任意捜査であるとされ,連続的に発生した窃盗罪等の一定の対象犯罪について,GPS捜査の必要性,取付け方法等の使用要件,事前承認や運用状況の報告等の手続要件が定められていた。また,保秘の徹底の項目が掲げられ,GPS捜査を行っ
たことを被疑者等の取調べにおいても,捜査書類上及び事件広報においても一切明らかにしないことが定められていた。
捜査第三課においても,本件運用要領に沿い,GPS捜査を任意捜査として把握し,令状請求についての検討は一切なされなかった。GPS端末の利用に際しては,これを利用する警察官ごとに,特定移動物体位置確認装置使用承認書に事件名として
外食店等を対象とした連続金庫破り事件

発信装置使用場所を被疑者の車両などと記載して,利用の終期は定めることなく,包括的な使用承認を得ていた。

被告人は,使用する自動車にGPS端末が取り付けられているのを発見して取り外し,これを本件レガシィに保管していた。警察官は,被告人の逮捕後,本件レガシィの捜索差押をした際,このGPS端末を押収したものの,押収品目録に衣類等一式とだけ記載し,その後に作成した写真撮影報告書にも白色塊と記載し,その存在を明らかにしなかった。捜査第三課所属の乙警部は,被告人の逮捕後間もない平成26年6月下旬の時点で,捜査担当検事から,GPS捜査について公判で将来問題となり得るとして,GPS端末による位置情報の履歴を取得し,一覧表を作成するように指示され,これを作成していた。
しかし,捜査本部が平成27年2月16日に解散となった際,一連の窃盗事件に関するGPS端末の取付け及び取外しについて記載した捜査メモが,管理官立会の下に廃棄された。
被告人の逮捕に至る経緯


平成26年6月4日,被告人に対し,判示第1の事実に係る窃盗被疑事件につき逮捕状が発付され,6月13日,同じ被疑事実につき再度逮捕状が発付された。この事件については,防犯カメラ映像の画像鑑定結果により,被告人が犯人である旨特定がなされた。また,当時被告人が使用していた本件レガシィに対する差押許可状及び車内の捜索差押許可状,被告人
の身体に対する捜索差押許可状も発付されていた。

被告人は,Tと6月13日頃から行動を共にするようになった。
6月14日夜から15日昼頃までの被告人とTの行動経過は,前記第2の3で認定したとおりである。
すなわち,
盗めそうな自動車を探しながら,
神奈川県内からe湖に向かい,釣りをした後,横浜へ戻る途中で,Tが本件コンビニ駐車場で,被害者の子供が乗っていた本件インプレッサを盗んだ。


捜査第三課の警察官らは,本件インプレッサの窃盗事件を未成年者略取事件であると疑い,かつ,現場の防犯カメラ映像等から,犯人を被告人及びTであるとの疑いを持った。


捜査第三課の警察官らを含む捜査本部の警察官らは,6月4日に逮捕状の発付を受けた後も引き続き,本件レガシィの位置情報をGPS端末で把握しつつ,被告人の行動確認をしていた。6月16日午前,捜査第三課理事官である丙警視は,未成年者略取事件が発生したことに加え,Tには真正けん銃を所持した逮捕歴があることの報告を受け,早急に被告人を逮捕する必要性があると判断し,以降,捜査本部の捜査指揮を執ることとなった。


GPS捜査の結果,6月16日午後,被告人とTがk湖付近にいることが判明し,丙警視や捜査第三課所属の警察官を含む合計20ないし30名の捜査官が,被告人の逮捕に向かった。その際,上記のとおりのTの前歴に加え,従前,被告人の窃盗グループについては,警察官が共犯者を逮捕しようとして取り押さえたとき,他の者がバールを振り上げて共犯者を奪還された経験があったことなどを理由として,捜査第三課所属の警察官約5名がけん銃を携帯することとなった。また,現場近くのゴルフ場でけん銃使用の予行練習を行うなどした。なお,被告人に逮捕状を執行する役割は,捜査第三課所属で捜査本部の捜査主任であった丁警部補が予定されて
いた。丁警部補は,当初,被告人の逮捕に当たっては任意の所持品検査や本件レガシィの捜索差押を先行させ,違法薬物等が発見された場合には,被告人を薬物所持の被疑事実で現行犯人逮捕することを想定していた。カ
警察官らは,6月16日午後5時30分頃,本件レガシィが駐車されていた神奈川県相模原市f区gh-ij西詰南側駐車場(以下本件k湖駐車場という。)に到着した。
被告人の逮捕時の状況並びに覚せい剤及び尿の各押収経過等


k湖湖岸において被告人の逮捕状が執行されるまでの経過は,戊警察官
が撮影したビデオカメラ(甲103)の映像及び音声により,概ね,次のとおりであると認められる。
警察官らは,本件k湖駐車場の崖下約30メートルの湖岸で釣りをしていた被告人及びTを確認した。6月16日午後6時25分頃,丙警視を先頭に警察官約10名が崖下に降りた。丙警視は,けん銃をホルスターから抜き,ズボンと腹部の間に収めた状態で崖を降りて行き,湖岸に着くとけん銃を右手に持ち,銃口を下に向けてTに背後から近づき,襟首の後ろを持って引きずり倒した。直ちに警察官数名がTをうつ伏せの状態に制圧した。
そのとき,被告人はTから少し離れた浮石の上で釣竿を持ち,釣りをしていた。
丙警視は,
被告人に対し,

撃つぞ。「W,


動くな。などと大声で叫び,

被告人のいる方向にけん銃を水平やや下向きに両手で構えて近づきながら,

大人しくしろ。「こっちへ来い。

」などと警告した。被告人は,丁警部補

何もしないから。

と,なだめられながら湖岸に戻り,

何,何撃つって。

などと言った。丙警視は,銃口を下に向けた状態で,面前に立つ被告人に対し,

いいか,動いたら撃つぞ。

と言い,警察官らに対し,

身体捜検しろ。

と指示した。

同日午後6時27分頃,警察官数名が被告人の周りを取り囲み,被告人の両腕を上に挙げさせ,ズボンのポケット内から煙草等を取り出し,被告人の両腕を両側から掴みながら,所持品を確認した。丙警視は,その後も

いいか,動いたら撃つぞ。「抵抗したら撃つぞ。などと繰り返し発言し



(なお,
丙警視がどの時点でけん銃をしまったのかは,
定かではない。。

丁警部補らは,被告人をすぐ近くの岩場に座らせ,靴や靴下を脱がせて内部の隠匿物の有無を確認するなどした。
なお,ビデオカメラには,Tの所持品検査中の映像の背後で,いずれかの警察官による

車の中にあるんだろ。という質問や,

被告人の
うん。
シャブという発言がかすかに録音されている。
また,被告人が岩場で身体検査を受けている途中には,背後で,丙警視が他の警察官らに対し,

あれいるだろ,シヤク。「シヤク。と発言した


り,

注射器さ,注射器,よく物を見てな。

と他の警察官に指示している音声も録音されている。
丙警視は,
丁警部補らに対し,

身体捜検終わったか,逮捕状執行しろ。

と早く逮捕状を執行するよう命じた。被告人は,丁警部補らに対し,

令状って何の。「令状見せてよ。

」などと逮捕状を早く呈示するよう要求し
た。
逮捕状は崖上の捜査車両に置いてあったため,一旦警察官が崖上の駐車場に逮捕状を取りに行った。このころ,丙警視がTに対し,

シャブはどこだ。

などと発言した音声が録音されている。丁警部補は,逮捕状を執行したかと確認を求める丙警視に対し,

車を先に差し押さえてから。

と答えたが,丙警視から更に逮捕状を執行するよう促された。
同日午後6時36分頃,丁警部補が,k湖湖岸の岩場に座った状態の被告人に窃盗被疑事件の逮捕状を示し,
被疑事実を読み上げ,
執行した。

警察官は,逮捕状執行後,崖上の本件k湖駐車場に被告人を連行し,同
日午後6時44分頃,
同所に駐車中の本件レガシィを差押許可状により差
押えた。
丁警部補は,
本件レガシィ内に積載されたショルダーバッグ1個と在中
品であるビニール袋入りの覚せい剤と思われる白色結晶1袋,
注射器16
本等を被告人に提出させ,
これを被告人から押収した
(甲9ないし11)


被告人は,同日午後10時38分頃,小岩警察署で尿を排出し,警察官に提出した(甲2,3)



6月23日,鑑定の結果,被告人の尿から,覚せい剤成分であるフェニルメチルアミノプロパンが検出された(甲5)



7月2日,鑑定の結果,被告人から押収した上記白色結晶は,フェニルメチルアミノプロパン塩酸塩であることが判明した(甲14)



7月3日,
被告人に対し,覚せい剤使用の被疑事実につき逮捕状が発付
され,7月7日,逮捕状が執行された。
警察官らの証言の信用性


丙警視の証言について
丙警視は,①被告人に対してけん銃の銃口を向けて構えたことはない,
②Tに対して

シャブはどこだ。

などと話していない旨証言する。しかし,ビデオカメラの映像及び音声に加え,丁警部補が

おい,何だよ,俺にチャカ向けやがって,俺釣り竿しか持ってねぇじゃねぇか。

という被告人の発言を聞いていることなどによれば,丙警視がけん銃の銃口を被告人に向けて構えたことは明らかである。これに反する丙警視の証言は,明らかな虚偽であり,足場が悪かったから,バランスを取るためにそういう動作をしたかもしれないなどという場当たり的で不自然な証言は,到底信用することができない。
また,
ビデオカメラの音声によれば,
丙警視が,
他の捜査官に対し,

あれいるだろ,シヤク。「シヤク。

」と呼びかけたり,注射器の存在を確認

するように指示したりしている上,Tに対し,

シャブはどこだ。

と発
言したことが明らかである。これらの発言を殊更否定する丙警視の証言も虚偽である。

丁警部補の証言について
丁警部補は,①丙警視が崖下に降りる際にけん銃を腰に当てているのを見た以外は,一切けん銃を見ていない,②崖下の湖岸では,被告人に対し,
やばいものがあったら出すようにと言ったが,
覚せい剤や薬物という
発言はしていない,記憶にないと証言している。
しかしながら,ビデオカメラの映像及び音声によると,丁警部補は,丙警視からけん銃を向けられた状態の被告人のすぐ傍らにいて,
被告人に
対し,

何もしないから。と言って,


なだめながら湖岸に連行したのであ
るから,
当然,
丙警視がけん銃を構えている場面を目撃しているはずであ
り,これを否定する証言も虚偽と認められる。
また,丁警部補自らが証言するとおり,丁警部補が捜査主任を務める捜査本部としては,当初,窃盗罪による逮捕状の執行の前に,任意の所持品検査や車両の捜索等を行い,覚せい剤等の薬物が発見されれば薬物所持による現行犯人逮捕を先行させる予定であったこと,丁警部補らは,実際に,覚せい剤などの違法薬物が発見されることを念頭に置いて,岩場において,被告人の靴や靴下を脱がせるなどして身体検査を入念に行ったこと,丙警視も,
シヤクや注射器について言及し,Tに覚せい剤
のありかを質問したこと,丙警視から逮捕状を執行するように指示されたのに対し,丁警部補が,

車両を差し押さえてから。

などと発言したことが認められる。
そして,被告人は,湖岸の岩場で,丁警部補らから覚せい剤所持の有無について尋ねられたと供述しているところ,ビデオカメラによると,いずれかの警察官が

車の中にあるんだろ。

などと発言しており,被告
人供述を裏付ける発言が録音されている。
そうすると,少なくとも,丁警部補において,被告人に対する任意の所持品検査やレガシィ内の捜索によって覚せい剤等の薬物を発見することを第一次的な目的とし,これが奏功しなかった場合に最終的に窃盗被疑事件による逮捕状を執行することを予定していたものと認められる。被告人に対する所持品検査の際に,丁警部補自身が覚せい剤とか薬物という言葉自体は使っていないとしても,湖岸で,違法薬物を前提にしたやりとりがなされているから,丁警部補がそのことも否定するのであれば,上記の経緯に照らし不自然であり,信用できない。

戊警察官は,
丙警視がけん銃を構えている場面の静止画を撮影している
のに,その場面は見ていなかったと証言しているが,これも虚偽と認められる。

4
GPS捜査の違法
本件においては,前記認定のとおり,被告人から覚せい剤及び尿の任意提出及び差押えがなされるまでの過程において,令状を取得することなく,被告人使用車両及び窃盗の共犯者らの使用車両に,被告人らの承諾なく密かにGPS端末を取り付けて位置情報を検索し把握する捜査(以下本件GPS捜査という。)がなされていた。個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品に秘かに装着することによって,合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法であるGPS捜査は,個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な法的利益を侵害するものとして,刑訴法上,特別の根拠規定がなければ許容されない強制の処分に当たるとともに,一般的には,現行犯人逮捕等の令状を要しないものとされている処分と同視すべき事情があると認めるのも困難であるから,令状がなければ行うことのできない処分と解すべきである(最高裁平成29年3月15日大法廷判決)。

したがって,無令状により行われた本件GPS捜査は,強制処分法定主義(刑訴法197条1項ただし書)に違反し,違法である。
5
本件GPS捜査の違法性の程度及び証拠(甲1ないし14)の収集手続と
の関連性の程度


検察官は,覚せい剤及び尿の押収手続には,被告人の任意提出行為が介在しており,本件GPS捜査が証拠収集手続に直接寄与していないから密接関連性がなく,仮に何らかの影響を及ぼし得るとしても,本件GPS捜査の違法は重大なものではないと主張する。そして,違法が重大でない根拠として,①本件GPS捜査は,連続窃盗事件の犯人を早期に検挙するためという高度の必要性があり,実施目的が正当であったこと,②GPS端末の取付け方法や取付け場所にも配慮し,事前の包括決裁を受け,運用状況を報告するなどして,GPS端末の使用に当たり,個人のプライバシーや財産権等を過度に制約しないよう相応の配慮がされていた上,③GPS端末の精度は高くなく,取得蓄積した過去の位置情報を網羅的に把握はしておらず,被告人のプライバシーに対する制約は大きくなかったこと,④GPS端末の取り付け台数の多さは,本件が複数共犯による特殊事案であり,かつ,電池交換ができないGPS端末の特殊性からやむを得ない合理的理由があったこと,⑤GPS端末の契約締結に当たり,民間業者は契約相手が警察官と認識しており,GPS端末が捜査に利用されることを想定していたこと,⑥本件当時は,GPS捜査を強制処分とする司法判断が示されておらず,本件レガシィ車内から押収したGPS端末を押収品目録等に明示しなかった点も,警察内部の運用要領に忠実に従ったにすぎず,警察官らに令状主義潜脱の意図はなかったことなどを挙げる。
本件GPS捜査の実態は,前記第3の3

に認定のとおりであり,被告

人を含む関係者使用の車両にGPS端末が設置された期間全体でみると約1年9か月の間,被告人の使用する車両にGPS端末が設置された期間で
みても約半年という長期にわたっており,合計約70台ものGPS端末が車両に取り付けられ,継続的かつ間断なく実施された。本件のGPS端末による位置情報の精度は相応に高く,被告人らの行動確認を行う捜査官にとって重要な情報源として頻繁に利用されていた。また,GPS端末の取付に際しては,上司による事前承認がなされていたものの,その承認内容は,外食店を対象とした連続金庫破り事件などという漠然とした事件を対象とし,個別具体的な対象事件や対象者,対象車両はもとより,使用の終期についても一切定められていなかった。
その他,警察官は,私有地への立ち入りに関して連絡もしていないし,同意なく第三者の位置情報を取得することを禁止した契約約款にも反している。
このような本件GPS捜査の実施期間,規模及び態様に照らせば,本件GPS捜査は,被告人及び共犯者らを含む個人のプライバシーを大きく侵害するものであった。
本件GPS捜査の目的についてみると,当初は,広域連続窃盗事件の捜査における証拠収集や犯人検挙であったと認められるものの,平成26年6月4日に被告人に対する逮捕状が発付された以降は,主として,被告人の所在確認及び身柄確保にあったと考えるのが自然かつ合理的である。そして,いずれにしても,本件GPS捜査について,その期間を通じて,現行犯人逮捕等の令状を要しないものとされている処分と同視すべき事情は認められない。
なお,捜査第三課の警察官らにおいて,6月15日の未成年者略取被疑事件の発生及び同事件への被告人及びTの関与を疑った事実は認められるものの,被告人又はTのいずれについても,この事件に係る逮捕状の請求はまだなされていなかったし,緊急逮捕できるだけの疎明資料も整っていなかったことに照らせば,同日以降の本件GPS捜査が,この事件による
緊急の身柄確保を目的とした令状を要しない処分と同視することもできない。
さらに,本件GPS捜査の時点においては,捜査第三課を含む捜査本部において,GPS捜査の強制処分該当性や令状請求の要否について検討したり,方針を見直したりするなどした形跡は一切認められない上,本件レガシィ内から押収したGPS端末でさえ押収品目録に記載しなかったばかりか,被告人の逮捕勾留当初に捜査検事からGPS捜査の任意性について将来問題となり得ることを示唆され,違法捜査の問題が生じ得ることを把握した後の公判中に,GPS捜査に関する捜査メモを廃棄している。このように,本件GPS捜査に当たっては,警察組織全体において,保秘の徹底という形で司法審査を経ることを困難にしていた上,捜査を担当した警察官らの行動にも,基本的人権の保障と適正手続を確保しつつ事案の真相を明らかにすべきという基本的な刑事訴訟法の趣旨を蔑ろにし,司法審査及び令状主義を軽視する態度を見て取ることができる。このような本件において表れた警察官らの態度をも考慮すれば,本件GPS捜査の違法の程度は,令状主義の精神を潜脱し,没却する重大なものであると評価せざるを得ない。
ところで,丁警部補を捜査主任とする捜査本部としては,被告人の身柄確保に当たっては,直ちに窃盗を被疑事実とする逮捕状を執行するのではなく,まずは被告人から覚せい剤など違法薬物の任意提出を受けて,違法薬物所持の事実により現行犯人逮捕することを方針としていたというのであるから,本件GPS捜査は,被告人に対する覚せい剤所持等の捜査の目的も兼ね備えていたものと評価できる。また,住居不定であった被告人から覚せい剤等の提出を受けるためには,身柄確保の時機を見計らって行う必要があるから,本件GPS捜査は,その所在確認のために不可欠なものであった。

そして,前記認定のとおり,実際に,本件GPS捜査の結果を直接的に利用して被告人の所在確認及び身柄の確保がなされており,けん銃使用という別の重大な違法行為も加わってはいるものの,これらの結果を直接的に利用して,被告人から覚せい剤の所在を聞き出した上,任意提出の形式を取って,これを押収したことが認められる。
そうすると,少なくとも被告人から押収した覚せい剤1袋(甲第12号証)とその押収手続及び鑑定に関する証拠書類(甲第9号証ないし第11号証,第13号証,第14号証)は,違法な本件GPS捜査により生じた状態を直接的に利用して収集されたものであり,本件GPS捜査と密接な関連性を有するものということができる。また,被告人から覚せい剤を押収して約4時間後に,被告人から提出を受けて押収した被告人の尿に関する押収手続書類及び鑑定書類(甲第1号証ないし第5号証)についても,その間に覚せい剤使用の被疑事実についての令状請求及び令状発付などの司法審査が一切なされていないことなどに照らせば,上記の違法な手続によりもたらされた状態を直接的に利用し,これに引き続いて行われたものであり,違法性を帯びている。
以上によれば,検察官の主張は採用できず,本件GPS捜査及びこれに引き続いて行われた覚せい剤及び尿の押収手続には,令状主義の精神を没却する重大な違法がある。
6
けん銃の使用及びこれに引き続く覚せい剤の押収手続の違法性及び違法の
程度
被告人の逮捕に当たり,捜査第三課では,窃盗の被疑事実に係る通常逮捕状の発付を受けていたのであり,逮捕の実体的な要件を満たしていたこと自体は認められる。そして,検察官の主張するように,当時,捜査機関において,前日に発生したTによる窃盗事件を,被告人及びTによる未成年者略取被疑事件と疑ったこと自体はやむを得なかったものと認められる上,Tが真
正けん銃を所持した逮捕歴があったことや,関係者が過去に警察官に暴行をふるって共犯者を奪還したという情報が捜査機関に寄せられていたというのであるから,警察官としては,被告人及び行動を共にしていたTによる抵抗や妨害の危険を防止するため,逮捕の現場に赴く際に,警察官約5名がけん銃を携帯したことについては,合理的な必要性があり,相当な行為であったといえる。
しかしながら,丙警視は,被告人に対し,いきなり,けん銃の銃口を向けて構えて,

動くと撃つぞ。

などと数回にわたり警告している。その際,被告人は,釣竿以外には何も持たずに釣りをしている状態であった。また,周囲にはT以外は,人がいない状態であったところ,被告人にけん銃を向ける直前に,丙警視がTを背後から引きずり倒し,複数の警察官らが制圧していた上,周囲には他にも複数の警察官が警戒していた。このように,被告人及びTにおいて何らの抵抗も逃亡を企てる気配も認められなかった。また,未成年者略取の疑いのあった窃盗事件は,発生後間もなく車両及び子供らが発見されて保護された一方,この事件についての逮捕状は請求されていなかった。
このような本件の状況においては,被告人に対してけん銃を構えて銃口を向けるという武器の使用を必要とするような差し迫った危険があったとは到底認められない(このことは,現場にいた丁警部補において,けん銃を使用する必要はなかった旨証言しており,実際に,けん銃を取り出していないことによっても裏付けられている。)。従って,本件当時の状況は,警察官職務執行法7条本文に定められた犯人の逮捕若しくは逃走の防止のため必要であると認める相当な理由のある場合には当たらないから,けん銃を構えて銃口を被告人に向けた丙警視の行為は,危害を与えないような武器の使用を例外的に認めた警察官職務執行法7条本文に明らかに違反するものであり,違法である。

次に,
けん銃使用に引き続き行われた覚せい剤の押収手続についてみると,被告人は,丙警視からけん銃の銃口を向けられ,周囲を数人の警察官に取り囲まれて両腕を確保されながら,所持品の提出を求められ,さらに,靴下や靴の中,着衣の中の隠匿物の有無も確認された上,警察官から

車の中にあるんだろ。

と尋ねられて,覚せい剤が自動車の中にある旨答えている。このように被告人が警察官の求めに素直に応じて,覚せい剤の所在を明らかにしたのは,けん銃の銃口を向けられて畏怖したからにほかならない。上記のとおり,何ら抵抗や逃亡の気配を見せることのない被告人に対し,銃口を向けた後,その周囲を警察官らが取り囲み,両腕を掴むなどして徹底的に行われた所持品検査や身体検査は,任意捜査の限界を超えた明らかな違法捜査というほかない。
そして,窃盗被疑事件の逮捕状執行から被告人が覚せい剤を押収されるまで約10分,けん銃使用の時点から起算しても約20分しか経過していなかったという,経緯や時間的な接着の程度に照らせば,けん銃の使用に引き続いてなされた覚せい剤の押収手続は,上記の違法な状態を直接的に利用したものと評価できる。また,このような畏怖状態の下でなされた被告人の覚せい剤の存在についての申告及び提出の意思表示は,真に任意な意思による提出行為とは到底認められず,任意提出の外形をとっていたとしても,上記の違法行為との関連性が希薄であるとは評価できない。
なお,丙警視は,他の警察官に対し,身体捜検を指示しているものの,前記第3の

認定のとおり,警察官らは湖岸には逮捕状を持参していなか

った上,被告人に対する逮捕状の呈示も被疑事実の告知も何ら行うことなく,かつ,靴下を脱がせるまでして行われた被告人の身体検査や所持品検査は,逮捕の際の警察官の危険防止や相手の自害防止の目的のために令状なくして凶器点検することを認めた,
いわゆる身体捜検
(警察官職務執行法2条4項,
犯罪捜査規範126条4項)とは評価できない。

従って,覚せい剤の押収手続は,上記の違法なけん銃使用行為及びこれに引き続く違法な身体検査,所持品検査を直接利用してなされたものであり,違法性の程度は高いものがある。そして,被告人に対するけん銃の使用については,上記のとおり,丙警視らが,明らかに,客観証拠及び事実経過と矛盾する虚偽証言をして違法行為を隠ぺいしているのであって,このような公判廷における警察官らの態度も考慮すると,けん銃使用に引き続く覚せい剤の押収手続には,令状主義の精神を潜脱し,没却するような重大な違法がある。
7
結論
以上のとおりであり,本件GPS捜査並びにけん銃使用及びこれに引き続
く覚せい剤及び尿の押収手続には,令状主義の精神を没却する重大な違法があり,そのような違法な捜査と密接に関連する,覚せい剤及び尿に関する証拠(甲第1号証ないし第5号証,第9号証ないし第14号証)を許容することは,将来における違法捜査抑制の見地から相当でないと認められるから,上記各証拠の証拠能力は否定すべきであり,刑事訴訟規則207条により,排除するのが相当である。
なお,甲第27号証は,前記第2で無罪と判断した平成26年8月15日付け追起訴状記載の窃盗の公訴事実を立証趣旨として証拠請求されているものであるが,令状主義の精神を没却する重大な違法のある本件GPS捜査により直接得られた証拠であるから,これについても,刑事訴訟規則207条により,排除するのが相当である。
そうすると,平成26年7月28日付け起訴状記載の公訴事実第1及び第2の覚せい剤使用及び所持の各事実を認定することはできず,犯罪の証明がないこととなるから,刑事訴訟法336条により,被告人に対し無罪の言渡しをすることとし,主文のとおり判決する。
(求刑

懲役6年,覚せい剤の没収)

平成29年6月12日
東京地方裁判所刑事第16部

裁判長裁判官

島田一
裁判官

島田環
裁判官

髙野将人
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