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玄海原子力発電所3号機等再稼働差止仮処分申立事件
事件番号平成23(ヨ)21
事件名玄海原子力発電所3号機等再稼働差止仮処分申立事件
裁判年月日平成29年6月13日
裁判所名・部佐賀地方裁判所
結果却下
裁判日:西暦2017-06-13
情報公開日2017-10-17 20:01:27
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平成23年
(ヨ)
第21号

玄海原子力発電所3号機再稼働差止仮処分申立事件
(第

1事件)
平成28年
(ヨ)
第49号

玄海原子力発電所4号機再稼働差止仮処分申立事件
(第

2事件)

当事者の表示


別紙1当事者目録記載のとおり

(以下,第1事件債権者ら及び第2事件債権者らを併せて債権者らといい,第1事件及び第2事件債務者を単に債務者という。)
主文1
本件各申立てをいずれも却下する。

2
申立費用は,両事件を通じて,債権者らの負担とする。

第1
1由
申立ての趣旨
第1事件
債務者は,玄海原子力発電所3号機を再稼働させてはならない。

2
第2事件
債務者は,玄海原子力発電所4号機を再稼働させてはならない。

第2

事案の概要

1
事案の要旨
第1事件は,第1事件債権者らが,人格権又は環境権に基づき,債務者が設置している玄海原子力発電所3号機(以下本件3号機という。)の運転の差止めを命ずる仮処分命令を申し立てた事案である。
第2事件は,第2事件債権者らが,人格権又は環境権に基づき,債務者が設置している玄海原子力発電所4号機(以下本件4号機といい,本件3号機と併せて本件各原子炉施設という。)の運転の差止めを命ずる仮処分命令を申し立てた事案である。
2
前提事実(当事者間に争いのない事実並びに証拠及び審尋の全趣旨により容易に認められる事実)


当事者

債権者らは,その大多数が佐賀県又は福岡県に居住する者であるが,その他,九州地方の県では,5名が長崎県,7名が熊本県,4名が大分県,3名が宮崎県,2名が鹿児島県に居住し,それ以外の都府県では,1名が青森県,1名が千葉県,1名が東京都,2名が神奈川県,1名が静岡県,1名が大阪府,1名が高知県に居住する者である。




債務者は,福岡市に本店を置き,電気事業等を営む株式会社である。本件各原子炉施設の概要
本件各原子炉施設は,佐賀県東松浦郡玄海町大字今村(東松浦半島の北西
先端部)に所在し,加圧水型原子炉(PWR)を使用する発電用原子炉施設である。


原子力発電所の仕組み

原子力発電所では,原子炉でウラン235等を核分裂させ,その際に生ずるエネルギーを蒸気の形で取り出し,蒸気でタービンを回し,タービンにより駆動される発電機で発電を行う。


全ての物質は,原子から成り立っており,原子は,原子核とその周りを周囲する電子から構成されている。
ウラン235等の原子核が,中性子を吸収すると,2つから3つの異なる原子核に変化する核分裂が起こり,これにより膨大なエネルギーが発生するとともに,核分裂生成物と2から3個の速度の速い中性子(高速中性子)が生ずる。そして,この中性子の一部が他のウラン235等の原子核に吸収されて次の核分裂を起こし,連鎖的に核分裂が維持される現象を,核分裂連鎖反応と呼び,こうした核分裂が安定的に継続する状態を,臨界状態という。

ウラン235等の原子核が中性子を吸収して核分裂する確率は,中性子の速度が遅い場合に大きくなるため,核分裂を継続させるためには,高速中性子の速度を速度の遅い熱中性子の速度まで減速させる必要があり,原子炉では減速材が用いられる。また,核分裂連鎖反応を安定した状態に制御するためには,核分裂を起こす中性子の数を調整する必要があり,原子炉では中性子を吸収する物質である制御棒及び制御材を用いている。

原子炉には,減速材及び冷却材(原子炉内で発生する熱を炉外に取り出し,炉心を冷却するために用いる物質)の組合せによっていくつかの種類があり,減速材及び冷却材の両者の役割を果たすものとして軽水を用いるものを軽水炉原子炉という。軽水炉原子炉のうち,高圧の1次冷却材を原子炉で高温水とし,これを蒸気発生器に導き,蒸気発生器で高温水の持つ熱エネルギーを,2次冷却設備を流れている2次冷却材に伝えてこれを蒸気に変え,この蒸気をタービンに送る方式の原子炉を加圧水型原子炉という。



加圧水型原子炉を使用する本件各原子炉施設の仕組み
加圧水型原子炉を使用する本件各原子炉施設は,ア)1次冷却設備,イ)2次冷却設備,ウ)電気設備,エ)工学的安全施設,オ)使用済燃料貯蔵設備等により構成されており,その概要は,以下のとおりである。

1次冷却設備
1次冷却設備は,(ア)原子炉,(イ)加圧器,(ウ)蒸気発生器,(エ)1次冷却材ポンプ及び(オ)1次冷却材管から構成されており,原子炉内で生じた熱エネルギーで1次冷却材を高温水とした上で,これを蒸気発生器に導き,蒸気発生器内において2次冷却材を蒸気にする機能を果たしている。なお,蒸気発生器内で温度が下がった1次冷却材は,再び原子炉に戻される。(ア)

原子炉は,燃料集合体,制御棒,1次冷却材及びこれらの要素を取り
囲む原子炉容器から構成されている。

原子炉容器は,底部と上蓋が半球形となっている円筒型の容器であり,本件3号機の場合,高さ約13m,内径約4.4mである。


燃料集合体は,ウランやプルトニウムの酸化物を小さな円柱形に焼き固めたペレットを約300から400個燃料被覆管(長さ約4m,ジルコニウム合金製)の中に詰め,両端を溶接して密封した燃料棒を束ねたものである。本件3号機の場合,燃料棒を264本束ねた燃料集合体193体を炉心に装荷している。


制御棒は,中性子を吸収する能力を有しており,これを原子炉内の燃料集合体に出し入れすることにより中性子の数を調整し,核分裂の数を調整することで,原子炉の出力を制御する設備である。制御棒には,銀,インジウム,カドミウム合金が用いられており,燃料棒とほぼ同じ長さ,径のステンレス鋼製被覆材で被覆されている。
本件3号機では,24本の制御棒を束ねて制御棒クラスタを作り,制御棒クラスタを,原子炉内の特定の位置の燃料集合体に挿入し又は引き抜くことができるように設置している。制御棒クラスタが挿入される燃料集合体は,
本件3号機では53体である。
制御棒クラスタは,
電動の駆動装置により挿入又は引抜きをすることができ,通常運転時には,ほぼ全部が引き抜かれた状態であるが,緊急時等には,自重により自動的に急速挿入され,速やかに原子炉を停止させる。


1次冷却材は,原子炉容器の内部を満たしており,熱エネルギーを伝達する役割と中性子を減速させる役割を果たしている。加圧水型原子炉では,
1次冷却材に中性子を吸収する性質を持つほう素
(ほう酸)
を制御材として添加し,この濃度を調整することにより中性子の数を調整し,原子炉の出力制御を行っている。

(イ)

加圧器は,1次冷却材が沸騰しないよう,1次冷却材を高い圧力で一
定に制御するための機器である。
(ウ)

蒸気発生器は,熱交換器であり,1次冷却材と2次冷却材の境界を形
成している。蒸気発生器の伝熱管内を流れている1次冷却材から,伝熱管の外側を流れている2次冷却材に熱が伝わり,2次冷却材が蒸気となり,タービンに導かれる。
(エ)

1次冷却材ポンプは,1次冷却材を循環させる機器であり,蒸気発生
器の1次冷却材出口側に設置される。
(オ)

1次冷却材管は,原子炉で発生した熱を蒸気発生器に運ぶための1次
冷却材が通るステンレス鋼製配管であり,原子炉容器,蒸気発生器及び1次冷却材ポンプ相互を連絡し,循環ループを形成している。

2次冷却設備
2次冷却設備は,蒸気系統,タービン,復水器,主給水ポンプ,主蒸気管等から構成されており,蒸気発生器で発生した蒸気をタービンに導き,タービンを回転させる。タービンを回転させた蒸気は,復水器において海水で冷却されて水となり,ポンプで再び2次冷却材として蒸気発生器へ送られている。


電気設備
タービンの回転により(ア)発電機において電気が発生し,変圧器を通じて送電線に送られる。
また,原子力発電所内の機器を運転するのに必要な電気は,通常時においては(ア)発電機から所内変圧器を通じて供給するが,発電機の起動,停止時には,(イ)送電線(外部電源)から主変圧器,所内変圧器を通じて供給することができ,(ウ)別系統の送電線(外部電源)から予備変圧器を通じて供給することもできる。
その他,
(ア)発電機が停止し,
かつ,
(イ)(ウ)外部電源も喪失した場合に備え,
発電所内に(エ)非常用ディーゼル発電機が設けられている。
原子炉等を監視,制御するために必要な機器に電気を供給する計測制御用電源設備(計装用電源設備)に対しては,上記の機器を運転するのに必要な電気と同じく(ア)発電機,
(イ)(ウ)外部電源及び(エ)非常用ディーゼル発電機
から供給されるが,これらの全てが喪失した場合に備え,更に(オ)蓄電池が設けられている。

工学的安全施設
1次冷却設備及び2次冷却設備の故障等により燃料の重大な損傷及びそれに伴う多量の放射性物質が放散される可能性がある場合に,これらを抑制又は防止するため,(ア)非常用炉心冷却設備(ECCS),(イ)原子炉格納施設,(ウ)原子炉格納容器スプレイ設備及び(エ)アニュラス空気浄化設備等から構成される工学的安全施設を設置している。
(ア)

非常用炉心冷却設備は,ほう酸水を注入するポンプを有する高圧注入
系及び低圧注入系,加圧されたほう酸水を貯えるタンクを有する蓄圧注入系で構成され,1次冷却材喪失事故時等において,原子炉を冷却するとともに安全に停止するため,ほう酸水を原子炉内に注入する。
(イ)

原子炉格納施設は,原子炉格納容器及びアニュラス部で構成されてい
る。原子炉格納容器は,1次冷却設備を格納する容器であり,気密性が確保されていて,1次冷却材喪失事故時等において圧力障壁となり,かつ,放射性物質の放散に対する最終の障壁となる。アニュラス部は,原子炉格納容器に設けられた配管などの貫通部等から漏えいした空気をアニュラス空気浄化設備で処理するために設けられた,原子炉格納容器を取り巻く密閉された空間である。
(ウ)

原子炉格納容器スプレイ設備は,格納容器スプレイポンプ,スプレイ
リング等で構成されている。1次冷却材が原子炉格納容器内に放出された場合に,核分裂により生成した放射能を持つよう素(放射性よう素)を吸収する性質を持つ苛性ソーダを燃料取替用水タンクに貯蔵するほう酸水に添加しながら,原子炉格納容器内にスプレイして圧力を下げるとともに,空気中の放射性よう素を除去する機能を持つ。
(エ)

アニュラス空気浄化設備は,1次冷却材が原子炉格納容器内に放出さ
れた場合に,環境に放出される放射性物質の濃度を減少させるための施設である。

使用済燃料貯蔵設備
原子力発電所は,原子炉から使用済燃料を取り出した後,それを燃料集合体の形のままで貯蔵するための使用済燃料貯蔵設備を備える。使用済燃料貯蔵設備は,ほう酸水を満たしたステンレス鋼内張りの使用済燃料ピット,水温を保つための冷却器,ピット水中の異物を分離するためのフィルタ,溶け込んだ化学物質を吸着するための脱塩塔等から構成される浄化・冷却系統設備を備えており,使用済燃料は,使用済燃料ピットに貯蔵される。使用済燃料ピットでは,貯蔵した使用済燃料の上方に,使用済燃料からの放射線を遮へいするのに十分な水深を確保している。また,水位を監視する設備が設けられており,水位が通常範囲を外れると警報が発信し,必要に応じて運転員が水を補給する等速やかな対処ができるようになっている。



本件各原子炉施設の設置変更許可,耐震安全性評価等

本件各原子炉施設の設置変更許可等
(ア)

債務者は,昭和57年10月19日付けで,通商産業大臣(当時)に
対し,本件各原子炉施設に係る原子炉の増設についての原子炉設置変更許可申請(昭和58年11月17日付け,昭和59年8月7日付け及び同年9月26日付けで一部補正)をした。
(乙2〔枝番を含む。以下,枝
番のある書証について,特に断りのない限り同じ。〕,24)
(イ)

債務者は,上記(ア)の申請について,昭和59年10月12日付けで,
核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以下,特に断りのない限り,改正の前後を問わず原子炉等規制法という。)26条1項に基づく設置変更許可を受けた。
そして,債務者は,本件3号機について,昭和60年3月から平成5年10月までの間に複数回にわたり工事計画又は工事計画変更の認可を受け,平成6年3月18日付けで使用前検査に合格した。
(乙24,40,41,78,審尋の全趣旨)
(ウ)

本件各原子炉施設は,本件3号機については平成6年3月18日に運
転が開始され,本件4号機についても,本件3号機の場合と同様の工事計画の認可及び使用前検査等を経て,平成9年7月25日に運転が開始された。(乙111,審尋の全趣旨)

本件各原子炉施設の設置変更許可時における耐震設計等
原子力委員会(当時)は,昭和53年9月29日,発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針(乙89)を決定した。同指針においては,原子炉施設の耐震設計に用いる地震動は,敷地の解放基盤表面における地震動に基づいて評価しなければならず,その強さの程度に応じ,設計用最強地震を考慮して策定する基準地震動S1並びに設計用限界地震及び直下地震を考慮して策定する基準地震動S2の2種類の基準地震動を選定するものとされた。なお,解放基盤表面とは,基盤(おおむね第三紀層及びそれ以前の堅牢な岩盤で,おおむねせん断波速度Vs=700m/s相当以上の値を有する硬質な地盤であって,著しい風化を受けていないもの)面上の表層や構造物がないと仮定した上で,基盤面に著しい高低差がなく,ほぼ水平であって相当な広がりのある基盤の表面をいう。
そして,原子力安全委員会(当時)は,昭和56年7月20日,上記指針に基づき,当時の知見に基づき静的地震力の算定法等について見直して改訂を行い,発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針(以下旧耐震指針という。)を決定し,平成13年3月,これを一部改訂した。(甲32,乙91,93)

旧耐震指針の改訂に伴う耐震安全性評価
(ア)

原子力安全委員会は,平成18年9月19日,発電用軽水型原子炉の
設置許可申請(変更許可申請を含む。)に係る安全審査のうち,耐震安全性の確保の観点から耐震設計方針の妥当性について判断する際の基礎を示すことを目的として,旧耐震指針を全面的に改訂した発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針(以下新耐震指針という。)を決定した。(甲32,乙91,92)
(イ)

経済産業省原子力安全・保安院(当時。以下,単に原子力安全・保安院という。)は,平成18年9月20日,債務者に対し,上記(ア)の新耐震指針の決定を受けて,本件各原子炉施設を含む既設発電用原子炉施設について,新耐震指針に照らした耐震安全性評価(以下耐震バックチェックという。)の実施及び報告を求めた。(乙3,92)また,原子力安全・保安院は,平成19年12月27日,債務者に対し,同年新潟県中越沖地震(以下新潟県中越沖地震という。)を踏まえて,耐震バックチェックに反映すべき事項を通知した。(乙4)(ウ)

債務者は,本件各原子炉施設について耐震バックチェックを実施し,
平成20年3月31日,経済産業省に対し,中間報告書を提出するとともに,平成21年3月26日,これを再提出した。また,債務者は,同年6月18日,原子力安全・保安院に対し,本件各原子炉施設について耐震バックチェックを実施した結果を報告した。
(甲48,乙6,8,2
6)
上記中間報告書のうち,本件3号機のものについて,原子力安全・保安院は,同年12月3日,債務者に対し,これを妥当と判断する評価結果を取りまとめたことを通知し,また,原子力安全委員会は,平成22年3月18日,耐震安全性評価特別委員会において,原子力安全・保安院の上記評価報告が,新耐震指針に基づき,本件3号機に係る敷地・敷地周辺の地質・地質構造,基準地震動及び主要な施設の耐震安全性に関して適切に評価していると判断したとの報告を受け,審議の結果,これを妥当なものと認める旨決定した。(乙5,6,98)


玄海原子力発電所2号機における配管のひび割れ事象
債務者は,平成19年2月16日,玄海原子力発電所2号機(以下玄海2号機という。)において,平成18年11月14日から実施した第20回定期検査として,余剰抽出配管(化学体積制御設備の一部である余剰抽出系統を構成する配管)の超音波探傷検査を実施したところ,平成19年1月16日,同配管に欠陥を示す有意な信号指示が認められたことから,当該配管について調査をした結果,これが配管内面に発生したひび割れであることが判明したこと(以下,この事象を2号機配管ひび割れ事象という。)を発表した。
当該配管は,当時の発電用原子力設備に関する技術基準を定める省令(昭和40年通商産業省令62号。
以下,
改正の前後を問わず
省令62号
という。乙19)6条が定める一次冷却系統に係る施設に属する・・管(現
在の実用発電用原子炉及びその附属施設の技術基準に関する規則〔平成25年原子力規制委員会規則第6号。以下技術基準規則という。〕19条が定める一次冷却系統に係る・・管に相当する。)に当たるほか,当時の省令62号9条の2(現在の技術基準規則18条1項)が定める使用中のクラス1機器のうちクラス1管(後記前提事実⑺イ(オ)参照)に当たり,ひび割れの状態は,配管肉厚8.7㎜(必要最小厚さ5㎜〔当時〕)に対し,ひび割れ長さが約90㎜,ひび割れ深さが最大で約8.1㎜とされており,その破壊を引き起こす亀裂その他の欠陥といえるから,当時の省令62号9条の2第1項(現在の技術基準規則18条1項)に適合しない状態であった。
ひび割れの原因は,①1次冷却材管からL字型に伸びた1次系余剰抽出配管のエルボ部の曲がり部(以下本件L字部分という。)に滞留している低温水に,1次冷却材管からの高温水(原子炉運転中は約300℃)が渦を巻いて流入すること(キャビティフロー)により熱成層が発生し,②その渦の先端が1次系余剰抽出配管のL字状に曲がった本件L字部分に達し,本件L字部分において,熱成層の境界面が上下に変動する時に,接触している配管に高温水及び低温水が交互に接触し,加熱,冷却され,③この局部的な温度変動による繰り返し応力が発生したため,疲労亀裂が発生し,進展したことにある(以下,この原因による配管のひび割れをキャビティフロー型熱成層による高サイクル熱疲労割れという。)。(甲28,乙76)


新規制基準の策定等

平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う福島第一原子力発電所の事故(以下福島第一原発事故という。)を契機として,平成24年法律第47号が成立したことにより,原子力規制委員会を設置するための原子力規制委員会設置法(以下設置法という。)が制定されるとともに,原子炉等規制法等が改正された(以下,平成24年法律第47号による各法律の改正を併せて本件改正といい,本件改正後の原子炉等規制法を改正原子炉等規制法という。)。

イ(ア)

改正原子炉等規制法は,発電用原子炉を設置しようとする者は,政令
で定めるところにより,原子力規制委員会の許可(以下原子炉設置許可という。)を受けなければならないと規定する(43条の3の5第1項)とともに,原子炉設置許可を受けた者は,同条2項2号から5号まで又は8号から10号までに掲げる事項を変更しようとするときは,政令で定めるところにより,原子力規制委員会の許可(以下設置変更許可という。)を受けなければならないと規定する(43条の3の8第1項)。
(イ)

改正原子炉等規制法は,原子炉設置許可及び設置変更許可の基準とし
て,発電用原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上支障がないものとして原子力規制委員会規則で定める基準に適合するものであることと規定し
(43条の3の6第1項4号,
43条の3の8第2項)

これを受けて,原子力規制委員会は,実用発電用原子炉及びその附属施設の位置,構造及び設備の基準に関する規則(平成25年原子力規制委員会規則第5号。以下設置許可基準規則という。)を定め,併せて,設置許可基準規則の解釈を定める実用発電用原子炉及びその附属施設の位置,構造及び設備の基準に関する規則の解釈(平成25年原規技発第1306193号。甲68,乙60。以下設置許可基準規則解釈という。)を制定した。(ウ)

設置許可基準規則は,耐震重要施設は,その供用中に当該耐震重要施設に大きな影響を及ぼすおそれがある地震による加速度によって作用する地震力(以下「基準地震動による地震力という。)に対して安全機能が損なわれるおそれがないものでなければならない。」と定めるところ(4条3項),設置許可基準規則解釈によれば,同項所定の基準地震動は,最新の科学的・技術的知見を踏まえ,敷地及び敷地周辺の地質・地質構造,地盤構造並びに地震活動性等の地震学及び地震工学的見地から想定することが適切なものとして策定することとされており(別
記2第4条5項),敷地ごとに震源を特定して策定する地震動及び震源を特定せず策定する地震動について,解放基盤表面における水平方向及び鉛直方向の地震動としてそれぞれ策定することとされている(同項1号)。そして,敷地ごとに震源を特定して策定する地震動の策定に当たっては,
①内陸地殻内地震,
プレート間地震及び海洋プレー
ト内地震について,活断層の性質や地震発生状況を精査し,中・小・微小地震の分布,応力場及び地震発生様式(プレートの形状・運動・相互作用を含む。)に関する既往の研究成果等を総合的に検討し,敷地に大きな影響を与えると予想される地震(以下検討用地震という。)を複数選定し,②選定した検討用地震ごとに,不確かさを考慮して応答スペクトルに基づく地震動評価及び断層モデルを用いた手法による地震動評価を,解放基盤表面までの地震波の伝播特性を反映して策定することとされている(同項2号)。なお,応答スペクトルに基づく地震動評価とは,距離減衰式による地震動評価の一つで,過去の地震記録から導かれた回帰式により地震動の応答スペクトルを作成する方法をいい,応答スペクトルとは,建物等の周期ごとの揺れの大きさを表すものであり,いろいろな周期を有する建物等に対して,地震動がどのくらいの揺れを生じさせるかを,横軸に周期,縦軸に最大応答値をとって,わかりやすいように描いたものである。また,断層モデルとは,震源の断層面を詳細にモデル化したものであり,断層面の向きや傾き,大きさ,面上でのずれの量,破壊の進行速度などの断層パラメータで表現される。
(エ)

改正原子炉等規制法は,原子炉設置許可を受けた者が,発電用原子炉
施設を原子力規制委員会規則で定める技術上の基準に適合するように維持しなければならないと規定し(43条の3の14本文),これを受けて,原子力規制委員会は,技術基準規則を定め,併せて,技術基準規則の解釈を定める実用発電用原子炉及びその附属施設の技術基準に関する規則の解釈(平成25年原規技発第1306194号。乙109。以下技術基準規則解釈という。)を決定した。
(オ)

技術基準規則は,

使用中のクラス1機器〔中略〕には,その破壊を引き起こす亀裂その他の欠陥があってはならない。と定めるところ

(1
8条1項。省令62号9条の2第1項も同様。),技術基準規則解釈によれば,技術基準規則18条1項が規定する

その破壊を引き起こす亀裂その他の欠陥があってはならない。

とは,「実用発電用原子炉及びその附属施設における破壊を引き起こす亀裂その他の欠陥の解釈(原
規技発第1408063号
〔平成26年8月6日原子力規制委員会決定〕

以下欠陥の解釈という。)の規定に適合するものであること。」と定められている(乙109)。
なお,クラス1機器とは,原子炉冷却材圧力バウンダリ(原子炉の通常運転時に,原子炉冷却材を内包して原子炉と同じ圧力条件となり,運転時の異常な過渡変化時及び事故時の苛酷な条件下で圧力障壁を形成するもので,それが破壊すると原子炉冷却材喪失事故となる範囲の施設)を構成する機器であって,クラス1容器,クラス1管,クラス1ポンプ又はクラス1弁から成る(省令62号2条16号,技術基準規則2条2項32号,33号ロ。別紙2参照)。

これらの新規制基準の定めのうち,本件の争点と関係する設置許可基準規則及び技術基準規則等の定める内容は,別紙3記載のとおりである。


設置変更許可申請及び設置変更許可

債務者は,平成25年7月12日,原子力規制委員会に対し,本件各原子炉施設について,改正原子炉等規制法43条の3の8第1項に基づき,発電用原子炉の設置変更許可の申請(以下本件設置変更許可申請という。)をした。(乙97)


原子力規制委員会は,本件設置変更許可申請について,新規制基準への適合性審査を行い,平成29年1月18日,原子炉等規制法43条の3の8第1項に基づき,本件各原子炉施設に係る発電用原子炉の設置変更について許可した。(乙138,139)



保全の必要性
仮に,本件各申立てに係る被保全権利の存在が認められる場合には,保全の必要性が存在することについては,当事者間に争いがない。
3
争点


本件各原子炉施設の耐震安全性に関する基準地震動策定の合理性



本件各原子炉施設の配管の安全性

4
争点に関する当事者の主張


本件各原子炉施設の耐震安全性に関する基準地震動策定の合理性
(争点⑴)

(債権者らの主張)
本件各原子炉施設の耐震重要施設は,設置許可基準規則4条3項が求める耐震安全基準に違反しており,その安全性が疎明されていない。

地震モーメントの過小評価
地震モーメント(Mo)とは,断層面の剛性率μ×断層面積の合計S×断層全体のすべり量の平均Dで表される地震規模をいうところ,債務者は,設置許可基準規則4条3項所定の耐震重要施設(設計基準対象施設のうち,地震の発生によって生ずるおそれがあるその安全機能の喪失に起因する放射線による公衆への影響の程度が特に大きいものをいい,耐震重要度分類においてSクラスとして指定される施設)についての基準地震動を策定するに当たり,以下のとおり,断層面積と地震モーメントの関係式として,武村雅之日本列島における地殻内地震のスケーリング則-地震断層の影響および地震被害との関連-(甲43,乙65)において提案された経験式(以下武村式という。)を採用すべきであるのに,入倉孝次郎・三宅弘恵シナリオ地震の強震動予測
(甲47,乙63。以下入倉・三宅(2001)という。)において提案された経験式(以下入倉・三宅式という。)を採用し,これにより本件各原子炉施設の基準地震動を過小に評価している。
(ア)

入倉・三宅式を採用すべきでなく,武村式を採用すべき根拠
債務者は,震源モデルの断層面積と地震規模とを関連付ける経験式に
ついて,津波の評価に当たっては,津波を起こす地震動の評価について武村式を適用しながら,耐震重要施設の安全性に係る基準地震動の評価に当たっては,入倉・三宅式という別の方法を適用し,二重の基準を採用している。
入倉・三宅式は,
世界中の強震動を集めたデータに基づくものであり,
日本国内で発生した地震は福井地震しか含まれていないのに対し,武村式は,日本国内で生じた地震のデータのみに基づくものである。日本の地震は,世界的に見たばらつきの中で最も厳しい地震動を起こす位置にあるものであり,武村式は,そのことを反映することにより,日本国内の地域的特性を表しているものである。
(イ)

島崎邦彦の提言等
原子力規制委員会前委員長代理の島崎邦彦は,原子力規制委員会の委員を退いた後,平成27年には,複数の地震関係の学会において,入倉・三宅式が地震動の過小評価をもたらす旨を発表するとともに,平成28年には,同年熊本地震(以下熊本地震という。)を受け
て,入倉・三宅式を用いた場合,
震源の大きさ(地震モーメント)が1/3.5程度の大きさに過小評価されている。日本列島の垂直,あるいは垂直に近い断層で発生する大地震の震源の大きさ(地震モーメント)の推定には,入倉・三宅式を用いてはならない。などと論文(甲59)で提言をしている。


この点について,入倉孝次郎は,上記提言に対し,①島崎邦彦が根拠としている熊本地震の断層の想定が間違っており,同人が取り上げた一様な断層ではなく,
震源インバージョン
(地震観測記録を用いて,
実際に起きた地震における地下の断層面の動きを把握する手法の一つ。後記債務者の主張ア(ア)c参照。)で求めた不均一な断層モデルを用いるべきである,②最近の地震について震源インバージョンで導いた断層モデルは,入倉・三宅式と整合的であり,武村式の基とされた10個の地震データ(Mw6.5以上。なお,Mwは,モーメント・マグニチュードを示す略称記号で,地震モーメントの大きさをマグニチュードに換算したもの。)を震源インバージョンで評価し直すと,入倉・三宅式と整合的となる旨コメントする(甲62,乙129)。
しかしながら,
上記①については,
熊本地震について,
震源インバー
ジョンによって求められた二つの断層データ(甲63,64)のすべり量分布をみると,同じ地震を扱ったものであるにもかかわらず,様相を異にしているのであり,インバージョン解析をすれば決まった結果が得られるというほど単純なものではなく,最初の断層面の想定や伝播経路特性,サイト特性の設定等様々な付加的条件の設定により結果が異なることが示されている。
上記②については,検証に用いた地震データについて,最初の断層面積を,地震モーメントから入倉・三宅式によって定まる断層面積よりも大きい値に設定し,かつ,トリミング(すべり量の小さい領域の除外。後記債務者の主張ア(ウ)b参照)をしていないから,これを震源インバージョンで導いた断層モデルが入倉・三宅式と整合する結果となっているにすぎない。また,武村式の基とされた10個の地震データを震源インバージョンで評価し直した修正データを用いても,基本的には武村式の位置にとどまっているといえ,
地震モーメントも入倉・
三宅式の約3.0倍となる。

以上のような震源インバージョンの有する不確実性を踏まえると,熊本地震のデータ及び島崎邦彦の提言を踏まえ,基準地震動をより安全側の立場に立って見直すべきである。

(ウ)

武村式を適用した場合の基準地震動
仮に,基準地震動の策定に関して武村式を適用すると,基準地震動の
加速度は,断層面積が与えられた時に,基本的に短周期では地震モーメントに比例するため,武村式を適用することにより地震モーメントが現行の約4.7倍となると,基準地震動の加速度も約4.7倍となり,これらの加速度に基づいて設置された基準地震動も約4.7倍となるということができる(竹木場断層による地震に基づく基準地震動が524ガルではなく,2273ガルになる。)。
本件3号機についていえば,
その総合評価
(ストレステスト。
甲49)
における本件各原子炉施設の設備の耐震裕度の評価結果によれば,武村式を適用することにより基準地震動が約4.7倍になると,各設備の耐震裕度をはるかに超えてしまい,これによる起因事象が発生し得ることになるのであり,機器・施設の耐震安全性が全く成り立たなくなることは明らかである。

経験式のばらつきを考慮していないこと
(ア)

入倉・三宅式にせよ,武村式にせよ,これらは過去の地震動のデータ
から導かれた経験式である。こうした経験式は,過去の地震の平均像を基礎とするものであるが,将来起こり得る地震は過去の地震の平均像に限られないから,経験式の基となった過去のデータと経験式により算出される平均像との間には,かい離(ばらつき)が生じ得る。そして,原子力規制委員会が定めた地震動審査ガイド
(別紙3・1⑶参照)
において,
経験式を用いて地震規模を設定する場合には,経験式が有するばらつきも考慮する必要があるとされているのは,経験式からかい離している地震データを考慮しなければ,現実の地震に対応することができないからである。なお,ここでいう経験式のばらつきに関する地震動審査ガイドの指示は,地震動審査ガイドのいう震源モデルの不確かさとは別の概念である。
(イ)

入倉・三宅式は,世界中のデータセットの回帰分析によって得られた
(すなわち,最小二乗法を適用して求められた)平均値であるところ,経験式が有するばらつきを考慮するためには,上記平均値とデータ集合を構成する各地震動のデータとの間に存在するかい離の平均値(標準偏差)を算出し,これを考慮することも一つの方法として考えられるが,それでも過小評価となる可能性があるので,安全性をより重視し,測定点の範囲で地震モーメントが最も大きくなる地震動データをもって耐震安全基準とするように考慮すべきである。そして,これによれば,結果として武村式とほぼ同様の式となることからすれば,結局,入倉・三宅式においてばらつきを考慮するということは,事実上,武村式を採用することとほぼ同じ結果となるのであって,このことからも,武村式を採用すべきであることが裏付けられている。
なお,武村式を採用した上でばらつきを考慮すると,地震モーメントは,ばらつきを考慮しない入倉・三宅式の約11.5倍になる。
(ウ)

債務者は,ばらつきを内在する誤差と定義付けていることからも,債
務者がばらつきを考慮していると主張する点は,地震動審査ガイドに基づく震源モデルの不確かさを考慮したものにすぎず,経験式の有するばらつきを考慮したものではない。

加速度の過小評価
(ア)

壇ほか(2001)の式が合理性を欠き,片岡ほか(2006)の式
を用いるべきであること
壇一男ほか断層の非一様すべり破壊モデルから算定される短周期レベルと半経験的波形合成法による強震動予測のための震源断層のモデル化(乙67。以下壇ほか(2001)という。)において示された地震モーメントと短周期レベル(強震動予測において重要となる短周期の揺れの大きさに直接影響を与えるパラメータ)との関係式(以下壇ほか(2001)の式という。)では,短周期レベルは,地震モーメントの1/3乗に比例するとされているが,これは,そのような形を仮定して,残るパラメータを最小二乗法で決めているにすぎない。
これに対し,片岡正次郎ほか短周期レベルをパラメータとした地震動強さの距離減衰式(甲67,
乙132。
以下
片岡ほか(2006)
という。)において示された地震モーメントと短周期レベルとの関係式(以下片岡ほか(2006)の式という。)は,日本の内陸地震について,地震モーメントと短周期レベルのデータを基に,地震モーメントの1/3乗のスケーリングを仮定せずに,最小二乗法でパラメータを定め,その結果,短周期レベルが,地震モーメントの1/2乗に比例するという結果を導いている。
また,平成28年日本地震学会の秋季プログラムにおける入倉孝次郎ほか日本国内の内陸地殻内地震の震源パラメータのスケーリング則の検証-2016年熊本地震(Mj7.3)への適用-(2016)
(甲
74。以下入倉ほか(2016)という。)においても,これまでの平均すべり量の経験式は地震モーメント1/3乗に比例していたが,地震モーメントが7.5×1018〔Nm〕(Mw6.5)より大きい地震の平均すべり量は,入倉・三宅(2001),宮腰ほか(2015)のデータ及び2016年熊本地震(Mj7.3)を含めて地震モーメントの1/2乗に比例して大きくなる傾向を示している。との記載があることからすれば,壇ほか(2001)の式により短周期レベルを算出すると,地震モーメントが7.5×1018(Nm)以上の場合には,明らかに過小評価となるというべきである。
(イ)

壇ほか(2001)の式の代わりに片岡ほか(2006)の式を用い
ると,アスペリティの総面積が震源断層の総面積よりも大きくなるという矛盾が生じないこと
なお,
原子力規制庁は,
大飯原子力発電所
(以下
大飯原発
という。

において,入倉・三宅式の代わりに武村式を用いて,地震調査研究推進本部地震調査委員会(以下,単に地震調査委員会という。)の震源断層を特定した地震の強震動予測手法(「レシピ)」(甲75,乙62。以下地震本部レシピという。)により地震動を試算すると,アスペリティ(地震を起こす震源断層面の中でも強く固着した領域で,この部分がずれると特に大きなずれを生じ,大きな揺れが生ずる。)の総面積が震源断層の総面積よりも大きくなるという矛盾が生ずるとの結果を示したが,壇ほか(2001)の式の代わりに片岡ほか(2006)の式を用いると,アスペリティの面積が断層面積を超えることにはならず,上記矛盾が生ずることもない。このことからも,壇ほか(2001)の式が適応していないことが明らかである。

熊本地震が新たに提起した問題
債務者は,連続して地震が生じた場合,1回目の地震で塑性変形を起こした設備が2回目の地震に耐えられずに破損する可能性があることについて何ら検討していない。

(債務者の主張)

地震モーメントを過小評価していないこと
(ア)

入倉・三宅式の合理性
入倉・三宅式を含む地震本部レシピの合理性
債務者の地震動の評価方法は,汎用的に用いることができるように標準化された評価手法を基に,調査や観測事実等から得られる地域的な特性を安全側に配慮するというものであり,原子力規制委員会による地震動審査ガイドが定める評価手法における考え方と同じである。そして,債務者は,この考え方に基づき,ボーリング調査等の各種調査や多くの観測記録の分析を行い,本件各原子炉施設の敷地(以下本件敷地という。)周辺の地域的な特性を把握し,その上で,本
件各原子炉施設の基準地震動の策定に当たり,地震動審査ガイドに従い,
断層モデルを用いた手法による地震動評価
(活断層調査により
将来活動する可能性のある断層等を認定した上で,震源断層面を設定し,ある一点の破壊開始点〔固着している断層面において,最初にずれ始める点〕からこれが次第に破壊伝播し,揺れが伝わっていく様子を解析することにより地震動を計算する評価手法)を行い,その際,標準化された評価手法として,地震本部レシピを用いている。
地震本部レシピは,国の地震調査研究推進本部(以下地震本部
という。)の下部組織である地震調査委員会において実施されてきた強震動評価に関する検討結果から,強震動予測手法の構成要素となる震源特性,地下構造モデル,強震動計算及び予測結果の検証の現状における手法や震源特性パラメータの設定に当たっての考え方を取りまとめたものである。
地震調査委員会は,地震本部レシピ策定以降に発生した平成12年鳥取県西部地震(以下鳥取県西部地震という。)及び平成17年
福岡県西方沖地震(以下福岡県西方沖地震という。)等の各観測
波形と,これらの地震の震源像を基に地震本部レシピを用いて行ったシミュレーション解析により得られる理論波形とを比較検討し,整合的であることを確認している。
また,債務者においても,地震本部レシピに基づく地震動評価により,福岡県西方沖地震の際の敷地の観測記録を再現できること,すなわち,本件敷地周辺の地域的な特性に適合していることを確認している。
したがって,入倉・三宅式を含む地震本部レシピは,現在の科学技術水準に照らして合理的なものであることが明らかである。

国内で最近発生した18個の地震等との整合性
入倉・三宅式は,主として海外で発生した地震について,震源インバージョン解析に基づくデータと同等のデータを基に提案されていたものであるが,
入倉孝次郎ほか
強震動記録を用いた震源インバージョンに基づく国内の内陸地殻内地震の震源パラメータのスケーリング則の再検討(乙66。以下入倉ほか(2014)という。)における平成7年以降に国内で発生した最新の18個の内陸地殻内地震(鳥取県西部地震及び福岡県西方沖地震を含む。)に関する震源インバージョン結果も,入倉・三宅式による計算結果と整合的である。また,武村式の基とされた地震データについて,既往の震源インバージョン解析結果によるデータも,入倉・三宅式と整合的であることが確認されているのであって,
入倉・三宅式は,
地下の震源断層面積と地震モー
メントの関係を適切に表す関係式であるというべきである。
また,熊本地震本震(平成28年4月16日,マグニチュード7.3)についても,平均破壊面積と地震モーメントの関係について,入倉・三宅式に整合することが確認されている(乙129)。
以上によれば,入倉・三宅式が,海外の地震データによるものであり,日本国内の地域的特性を表すものではない旨の債権者らの主張には,理由がないというべきである。

震源インバージョンの信頼性
なお,入倉・三宅式は,主として海外で発生した地震に関する震源インバージョンのデータに基づいて作成された経験式であるところ,震源インバージョンとは,複数の観測地点で得られた観測記録を基に断層面を仮定し,当該断層面の各地点において生ずるすべり量及びすべりの方向等を解析によって求め,それらの結果から震源断層を推定する方法であり,高精度に断層面積を求めることができるものであって,地震学においては確立された手法である。
震源インバージョンは,国内外の研究者によって,近年の海外及び国内の内陸地震の各観測結果とも整合することが確認されており,これにより求められた断層パラメータは,最も精度が高いといわれている。
(イ)

武村式を採用すべきでないこと
武村式は,入倉・三宅式と同じく,過去の地震のデータを基に,各パラメータ(断層長さ,断層面積及び地震モーメント)の関係式を導き出したものであり,その関係式としての正確性は,基にするデータの信頼性に依存することとなる。
我が国においては,平成7年兵庫県南部地震(以下兵庫県南部地震という。)以前は,強震観測網(K-NET,KiK-net等)が貧弱であり,
地震学的情報を必ずしも十分に取得できなかったため,
地震直後の地表断層調査や測地学的な情報から震源パラメータを間接的に推定する場合が多く,断層長さについても地表断層長さに近い不十分なデータしか取得できないことが多かった。これに対し,兵庫県南部地震以後は,上記強震観測網が整備され,強震動記録を用いた震源インバージョン解析結果が数多く蓄積され,地下の震源断層の長さを把握することができるようになり,より信頼性の高いデータが集積された。
武村式の基とされたデータは,兵庫県南部地震以前に国内で発生した地震の測地学的データが大半であり,入倉ほか(2014)による検討結果において,地表断層長さに近い不十分なデータであったことが示されているというべきである。


そもそも,地震動審査ガイドにおける地震動評価手法の考え方は,全国的な調査や観測事実等に基づき汎用的に用いることができるように標準化された評価手法(基本震源モデルの策定における地震本
部レシピ)を基に,各サイト周辺の調査や観測事実等から得られる地域的な特性を安全側に配慮する(不確かさの考慮)というもので
あり,このような考え方は,地震に限らず,自然現象を評価するに当たって一般的に共通する極めて合理的な考え方である。
債権者らは,観測事実との整合性を無視し,闇雲に武村式を用いて評価すべきである旨主張するものであり,合理的ではない。

債務者が,基準津波の策定における海域活断層による津波評価で用いる地震モーメントについて武村式により評価しているのは,内陸地殻内地震に起因する津波の観測データが少なく,その検証が十分にされていない現状に鑑み,津波評価の観点からは,すべり量,すなわち海底面の変動が大きくなる武村式をあえて用いているにすぎないのであり,そのことをもって,基準地震動の策定において武村式を用いるべきであることにはならない。

(ウ)

島崎邦彦の提言等を踏まえた債権者らの主張に対する反論
熊本地震については,研究機関によって断層(長さ・幅等)の評価にばらつきが見られたが,一般に,地震後の初期の段階では,様々な研究機関が様々なデータを基に独自の震源インバージョンを行うため,断層幅等の設定が解析者によって異なることがある。もっとも,余震分布に用いるデータが統一化され(気象庁の一元化震源データ),当該地震の震源像に関する知見,見解が固まった後は,ばらつきが小さくなる。


また,一般に,観測波形に基づく震源インバージョンによる震源過程の推定(震源断層面のすべり分布推定)は,震源断層面を仮定して設定し,
その断層面上でのすべり量分布を推定するものであるところ,
震源断層面は,分析の対象とする地震直後の余震分布やCMT解(地震の発震機構〔横ずれ型,縦ずれ型〕),地表の断層情報(断層による地変動の痕跡,測地データ等)を基に設定されるが,破壊過程を説明するため,実際の震源の破壊領域よりも大き目に設定される場合がある。このような場合,断層端部のすべり量は小さくなるが,この領域を一定のルールに基づき除外して適切なすべり分布を有する震源断層面積を求める行為(すべり量の小さい領域の除外)をトリミングといい,P.SomervilleほかCharacterizingCrustalorundtheEarthquakePredictionSlipofModelsStrongfGroMotion(甲65。以下Somervilleほか(1999)という。)により示された考え方である。そして,入倉ほか(2014)において示されている8個の地震(Mw6.5以上のもの)は,解析の精度が高く,信頼性のある知見として著者が選定し,Somervilleほか(1999)の規範に基づき震源領域の抽出を行ったとされていることからしても,トリミングの要否について適切な検討がされていると考えられる。債権者らが主張するように,上記8個の地震の断層面積及び地震モーメントの分布を武村式に近付けるには,震源断層の面積をトリミングにより半分程度以下とする必要があるが,上記8個の地震の震源断層は,地震の余震分布等に基づき断層長さや断層幅を想定して震源インバージョンを行ったものであり,トリミングによって面積が半分になるような精度の低いものではないのであって,債権者らの主張は,科学的な根拠がなく失当である。
(エ)

武村式を適用した場合の基準地震動
なお,実際に発生した地震の観測記録の回帰分析から地震モーメント
と短周期レベルとの関係について求めた壇ほか(2001)の式によれば,地震動の短周期レベルは,地震モーメントの1/3乗に比例することが確認されているから,仮に,ある条件の下で地震モーメントが4.7倍となっても,地震による揺れの加速度は4.7倍にはならず,その1/3乗の1.7倍程度となるにすぎない(壇ほか(2001)の式を用いることに合理性があることについては,後記ウのとおりである。)。イ
経験式のばらつきを踏まえて安全側に地震動評価を行っていること(ア)

債務者が行った地震動評価
ある特定の地域の地震動評価において経験式を用いる際には,a)そ
の経験式自体の信頼性を確認するとともに,b)その経験式が評価しようとする地震の地域性と照合して適用することができるかを確認することが重要である。
そして,c)経験式による評価には多少のばらつき(内在する誤
差)が存在するため,地震動評価を行う際には,経験式による評価結果を基に,地域的な特性を踏まえて安全側の評価となるように様々な考慮を行うことが必要である。

入倉・三宅式の信頼性
前記ア(ア)のとおり,入倉・三宅式は,経験式として信頼性を有するものである。


入倉・三宅式の適用性


入倉・三宅式の適用範囲については,原理的には,断層幅が飽和
しているか否かでスケーリング則(地震の震源特性を表す断層パラメータ間に見られる一定の比例関係)が変わるものであり,地震本部レシピにおいても,断層幅が飽和している場合は入倉・三宅式を用いる方が合理的であるとされている。そして,債務者は,本件各原子炉施設の基準地震動の策定に当たり選定した二つの検討用地震が,いずれも断層幅が飽和した地震を想定しているため,
入倉・三宅式の適用範囲内であることを確認している。



また,債務者は,福岡県西方沖地震時に本件敷地地盤において観
測された地震記録が,入倉・三宅式を含む地震本部レシピに基づくシミュレーション解析によって精度良く再現できることを確認しており,本件敷地周辺の地域的な特性に照らしても,入倉・三宅式を含む地震本部レシピを地震動評価に用いることが妥当であることを確認している。

地震動評価が安全側となるように多面的に考慮していること
債務者は,敷地ごとに震源を特定して策定する地震動の基準地
震動の策定に当たり,本件各原子炉施設への影響が最も大きいと選定した二つの検討用地震の断層モデルを用いた手法による地震動評価において,経験式自体にばらつき(内在する誤差)が存在することを踏まえ,詳細な活断層調査等の結果及び観測記録に基づく分析により把握した地域的な特性を基に,地震動評価に用いる基本とする地震の震a
源モデル(以下基本震源モデルという。)について,○断層長さ,b



断層幅,○断層傾斜角,○応力降下量,○アスペリティの位置及び○
破壊開始点においていずれも十分安全側に設定するとともに,上記分析等によっても十分に把握し切れないものについては,不確かさとして考慮することとし,不確かさを考慮したモデル(以下不確かさ考慮モデルという。)として設定している。(イ)

ばらつきの考慮に関する債権者らの主張について
経験式が有するばらつきに関する地震動審査ガイドの記載は,当

該地域の地質調査等の結果を踏まえて設定される震源断層の面積等と経験式が前提とするモデルとの整合性など,当該経験式の適用範囲が十分に検討されていることを確認する際の留意事項として示されたものであり,経験式そのものの修正を要求するものではないと解するのが相当である。
債権者らが主張するように,経験式の基とされたデータのうち,ばらつきが最大となるものをもって耐震安全基準とした場合には,評価対象地域とは異なる地域の特性が反映されたデータを基準とすることとなるばかりでなく,そもそも経験式を求める意味もないこととなるのであって,明らかに不合理である。

加速度の過小評価をしていることはないこと
(ア)

壇ほか(2001)の式の合理性
地震本部レシピにおいて,断層面積から導かれた地震モーメントを基
に,短周期レベルを求めるときに用いられるのが,壇ほか(2001)の式である。
壇ほか(2001)においては,比較的規模の大きいMw5.6以上の地震を対象として,短周期レベルが地震モーメントの1/3乗に比例するという関係性を仮定した上で,
観測記録の回帰分析がされているが,
短周期レベルが地震モーメントの1/3乗に比例するとの仮定については,過去の内陸地殻内地震の観測記録等から合理的であることが確認されている。
また,前記ア(ア)aのとおり,壇ほか(2001)の式が体系的に組み込まれている地震本部レシピは,地震調査委員会により,鳥取県西部地震及び福岡県西方沖地震の地震観測記録の再現性が確認されている。さらに,熊本地震に関しても,熊本地震の短周期レベルと地震モーメントの関係が壇ほか(2001)の式に整合することが,佐藤智美経験的グリーン関数法に基づく熊本地震の強震動生成域の推定(乙130。以下佐藤(2016)という。)により示されている。
このように,短周期レベルを設定するに当たり,壇ほか(2001)の式を適用することは,科学的合理性を有し,妥当である。
(イ)

片岡ほか(2006)の式を用いるのが合理的でないこと
片岡ほか(2006)の式は,強震動予測において重要な地震動推定結果と観測記録との照合による検証等を経た科学的な裏付けがなく,評価体系として確立されていない。
また,壇ほか(2001)の式,片岡ほか(2006)の式が示された後の知見である佐藤智美逆断層と横ずれ断層の違いを考慮した日本の地殻内地震の短周期レベルのスケーリング則(乙81。以下佐藤(2010)という。)や佐藤智美・堤英明2011年福島県浜通り付近の正断層の地震の短周期レベルと伝播経路・地盤増幅特性(乙82。以下佐藤・堤(2012)という。)においても,短周期レベルと地震モーメントの関係性を示す際に,比較検証の対象として壇ほか(2001)の式が用いられていることからしても,特に大規模な地震についての短周期レベルと地震モーメントの関係を表す場合には,壇ほか(2001)の式を適用することが合理的であることが示されているというべきである。
(ウ)

原子力発電施設耐震信頼性実証試験の実施
財団法人原子力発電技術機構(当時)は,加圧水型原子炉の試験対象
機器(試験体)と大型高性能振動台を用いて耐震実証試験を実施したところ,原子炉容器については,試験体重量及び寸法による振動台の性能限界である961ガルまで加振しても損傷は確認できなかったこと,原子炉格納容器については,3398ガルで機能喪失し,十分な耐震安全性の余裕を有すること,配管については,振動台の加振性能範囲内で試験体を破損させるため,試験体から一部の配管支持物を外すなど,同じ応答加速度に対し大きな曲げ応力が生ずるようにした上で,振動台の性能限界である最大加速度約1900ガルで加振し,試験体に応答最大加速度約5900ガルを与えた結果,
5回目の加振でようやく機能喪失し,
十分な耐震安全上の余裕を有することが実証された。

連続した地震について
(ア)

本件各原子炉施設において大きな揺れが連続して発生する可能性
本件敷地周辺の活断層(竹木場断層,城山南断層)の長さは,それぞ
れ20㎞程度と想定され,熊本地震の震源断層(長さ約93㎞)と比べて短いし,本件各原子炉施設はせん断波速度平均1350m/sという硬い岩盤の上に設置されており,熊本地震の際に震度7を観測した地点の軟らかな地盤
(せん断波速度約110m/s)
とは異なることに加え,
一度地震が発生し,
ひずみとして蓄えられたエネルギーが開放されると,
次にひずみが限界に達するまでには長期間を要するという地震発生のメカニズムによれば,上記断層の一部の異なる領域が別々に動いたとしても,本件各原子炉施設において,熊本地震の際に観測されたような大きな揺れが2回続けて発生する可能性は極めて低い。
(イ)

地震発生後の対応
債務者は,地震に対する安全性を確保するため,地震発生時における
原子炉の停止措置や地震終了後における原子炉施設の点検等に関する玄海原子力発電所原子炉施設保安規定を定めている。これによれば,本件各原子炉施設は,地震の影響により原子炉施設の保安に重大な影響を及ぼす可能性があると判断された場合には,協議の上で必要に応じて運転員の操作により原子炉を停止し,他方,一定以上の地震加速度が検知された場合には,自動的に制御棒が挿入されて原子炉が緊急停止する。また,震度5弱以上の地震が観測された場合及び一定以上の地震加速度の検知により原子炉が自動停止した場合には,原子炉施設の損傷の有無について点検を実施し,
原子炉施設の安全に問題がないことを確認する。
以上により,地震発生後の安全性も確保されている。


本件各原子炉施設の配管の安全性(争点⑵)

(債権者らの主張)

債務者は,本件各原子炉施設の1次冷却系の管であるクラス1配管に関する技術基準規則18条1項及び19条適合性について相当の根拠をもって疎明したとはいえないから,上記配管の安全性に関し具体的な危険があることが事実上推認される。
(ア)

技術基準規則18条1項違反
技術基準規則18条1項は,使用中のクラス1機器には,その破壊を
引き起こす亀裂その他の欠陥があってはならないと定めているが,前提事実⑹記載のとおり,2号機配管ひび割れ事象は,クラス1管である余剰抽出配管にその破壊を引き起こす亀裂が存在したものであるから,同項所定の欠陥に当たるものであった。
2号機配管ひび割れ事象は,通常の定期検査により発見されずに,長年放置され,他の事業者における事故の水平展開として,通常は行わない超音波探傷検査を行った結果偶然発見されたものであり,このことからすれば,債務者が実施している定期検査では,法令に不適合な状態が発見されず,見逃されていることがあり得る。とりわけ,2号機配管ひび割れ事象は,平成3年には発生し,事象が発見された平成18年より相当前には必要最小厚さ5㎜を割り込んでいたものと思われ,法令に不適合な状態が長期的に継続していた。しかも,その間,平成17年には,配管の高サイクル熱疲労という新しい知見が得られ,
また,
原子力安全・
保安院の指示という損傷を発見する契機があったにもかかわらず,法令に不適合な状態が発見されずに見逃されていた。
他方,本件各原子炉施設においても,余剰抽出系配管を含む呼び径100A未満のクラス1配管については浸透探傷検査(検査物の表面に浸透液を塗布し,その後表面に付着している余剰浸透液を洗浄,乾燥後表面に現象剤を吹き付けることにより,亀裂等に浸透した浸透液が表面に染み出てくることにより亀裂等を検出する検査)
を行っているにすぎず,
1次冷却系統等の耐圧部を構成する設備についても漏えい検査(検査物の内部に流体又は空気等の気体を注入し,圧力をかけて漏えいの有無を検出する検査)を行うにとどまっており,2号機配管ひび割れ事象のように配管の内部から進展する損傷が発生していた場合,債務者の現行の検査態勢では事前に損傷を発見することは困難である。したがって,本件各原子炉施設においても,法令に不適合な状態が発見されずに見逃されている可能性を否定することができない。
以上によれば,債務者は,本件各原子炉施設の余剰抽出系配管を含むクラス1配管について,相当の根拠をもって技術基準規則18条1項適合性の疎明ができているとはいえない。
(イ)

技術基準規則19条違反
技術基準規則19条は,1次冷却系統に係る施設に属する管は,損傷を受けないように施設しなければならないと定めているところ,債務者は,同条は設計,施工段階に関する基準であり,運転開始後に従前知られていなかった原因により損傷が発生した事象については,同条違反の問題は生じない旨主張する。しかるに,運転開始後に,設計時には想定していなかった原因により損傷が発生した場合,損傷を受けないように施設されていたとはいえず,同条違反の状態が生ずることになり,その損傷発生によって得られた新たな知見に即して速やかに事後の設計変更を行うのでなければ,同条違反状態が継続することになる。そして,債務者による現行の検査態勢では,2号機配管ひび割れ事象のように配管の内部から進展する損傷が発生していた場合,損傷を事前に発見することは不可能であり,超音波探傷検査などによって損傷が発生し得る配管を漏れなく検査しない限り,1次冷却系統に係る施設に属する管において未知の損傷が発生している可能性を否定できない。以上によれば,債務者は,本件各原子炉施設の1次冷却系統に係る施設に属する配管について,相当の根拠をもって技術基準規則19条適合性の疎明ができているとはいえない。
(ウ)

疲労の蓄積
基準時震動に類する地震が複数回生じた場合などにおいて,繰り返さ
れる地震動により配管等の疲労が蓄積し,疲労限度を超えてしまう可能性がある。そこで,疲労累積係数(許容値1以下)が問題となるが,債務者は,本件各原子炉施設の疲労累積係数を明らかにせず,続けて起きる地震に対する耐震安全性を疎明していない。

本件各原子炉施設の配管の破断により重大事故が生ずる可能性があること
(ア)

配管の破断
2号機配管ひび割れ事象では,内径約4.3㎝の小口径管である余剰
抽出配管につき,配管肉厚8.7㎜(必要最小厚さ5㎜〔当時〕)に対し,ひび割れ深さが最大で約8.1㎜に及んでいたのであり,このような場合,ひび割れ先端に応力が集中する効果が生ずることにより,基準地震動規模の地震動であっても,配管が破断に至る危険性があったことは明らかである。
(イ)

配管の破断により炉心溶融に至る可能性
余剰抽出配管は,1次冷却材配管に接続されているところ,弁がひび
割れより下流にあるため,地震動により同配管が破断すると,1次冷却材流出事故(小LOCA)が生ずる。債務者は,こうした1次冷却材流出事故が生じた場合,必ず2次側の補助給水系統を働かせ,補助給水系統からの水を,蒸気発生器を通して主蒸気逃し弁から大気中に蒸気として放出する経路により,原子炉を冷却することとしているが,補助給水として存在する電動補助給水2系統とタービン動補助給水1系統の配管が地震動により破損した場合,上記経路によっては原子炉を冷却することができず,事故を収束させることができないまま,崩壊熱により炉心溶融(原子炉中の燃料集合体が核燃料の過熱により融解すること)に至る可能性が極めて高くなる。
(ウ)

炉心溶融による原子炉容器及び原子炉格納容器の破損
炉心溶融が起こると,原子炉容器の下部に溶融燃料がたまり,原子炉
容器の底が破損し,外側の原子炉格納容器のコンクリート製底部も破損するおそれがある。そして,原子炉格納容器が破損すると,大量の放射性物質が原子炉施設外に流出することとなる。
債務者は,炉心溶融が始まると,炉心に注入していた冷却水を,原子炉容器の下にある原子炉格納容器下部キャビティに水をためるように切り替え,炉心については溶けるに任せるという対策しか講じていないのであり,この対策は,重大事故が発生した場合,原子炉格納容器の破損を防止するために必要な措置として原子炉容器内の炉心の冷却を求める設置許可基準規則37条2項に違反するものというべきである。
そして,
福島第一原子力発電所においては,溶融炉心を冷却するため,原子炉容器内に注入している1日当たり400トンもの冷却水に溶融炉心の放射性物質が溶け込んで汚染水となり,その全てが原子炉格納容器の外部に流出している事実があるのであって,こうした福島第一原発事故後の実態からみても,炉心溶融が一たび起こると,放射性物質が原子炉格納容器から様々なルートで外部に出て,広範な汚染を引き起こす危険性が極めて高いと考えるべきである。
(エ)

水素の爆轟
燃料被覆管のジルコニウムは,900℃以上になると水の酸素を奪っ
て酸化し,残った水素が水素ガスとなり,この発熱反応によりますます酸化が進む(正のフィードバック)。この水素ガスは,加圧器逃し弁や冷却材喪失事故が発生した場合の破断口から原子炉格納容器内に放出される。
また,
溶融燃料が原子炉容器を破損して更に落下し
(メルトスルー)

原子炉格納容器内の下部キャビティに落ちると,原子炉容器内にあった水素が原子炉格納容器内に放出される。さらに,原子炉格納容器内に存在する水蒸気の放射線分解によっても,水素が発生する。
そして,原子炉格納容器の水素濃度が,ドライ換算(水蒸気を無視した場合)で体積比4%を超えると水素爆発(爆燃)が発生し,これが13%を超えると水素の爆轟が発生し得るのであり,この水素の爆轟による衝撃波により,原子炉格納容器が破損するおそれがある。
(債務者の主張)

技術基準規則18条1項の適合性について
(ア)

2号機配管ひび割れ事象への対策


キャビティフロー型熱成層による高サイクル熱疲労割れへの対策
(配
管の取替え,設計の変更,検査の充実等)


債務者は,2号機配管ひび割れ事象が発生したことを受けて,玄
海2号機において,ひび割れが生じた配管を直ちに新しいものに取り替えるとともに,キャビティフローの先端が本件L字部分より下流側の水平部に位置するように1次系余剰抽出配管のルートを変更することにより,局所的な温度変動が生じず,キャビティフロー型熱成層による高サイクル熱疲労割れが発生しないように設計を変更した。



また,本件各原子炉施設については,原子力安全・保安院が,玄
海2号機において2号機配管ひび割れ事象が発覚する以前の平成17年12月及び発覚した後の平成19年2月に発した指示により,1次冷却材系,化学体積制御系及び余熱除去系を対象に,配管の高サイクル熱疲労割れが発生する可能性が高い部位を抽出し,一般社団法人日本機械学会(以下日本機械学会という。)の配管の高サイクル熱疲労に関する評価指針(JSMES017)(乙

70。以下熱疲労評価指針という。)に基づき評価して,抽出し
た全配管(本件L字部分に該当する箇所を含む。)の健全性を確認した。その上で,本件L字部分に該当する箇所については,設備の信頼性の維持,向上を図るため,直後の定期検査期間中に玄海2号機と同様の設計変更を行い,配管の取替えを実施した。
原子力発電所の配管については,その機能上の要求から,分岐や
合流箇所が存在することが避けられず,そのような箇所で温度の異なる二つの流体が混合し,成層化する現象に伴い,2号機配管ひび割れ事象のように配管に高サイクル熱疲労が生ずる場合があるが,こうした配管の高サイクル熱疲労割れの再発防止に向けた恒久的な対策として,定期検査(超音波探傷検査)の充実,熱疲労評価指針の制定,流体の混合等の温度変動による損傷防止に関し,省令62号6条の改正等が行われた。
以上のとおり,現時点においては,本件各原子炉施設について,
設計(変更)及び検査の充実等により,配管の高サイクル熱疲労割れの発生を防ぐ態勢が整ったといえる。

法令への適合性


以上のとおり,2号機配管ひび割れ事象については,債務者は,
原因究明と対策を行い,本件各原子炉施設の他の部位について,2号機配管ひび割れ事象と同様の事象が発生するおそれがなく,省令62号9条の2(現在の技術基準規則18条1項)に適合していることを確認するとともに,定期検査においてその健全性を継続的に確認している。
したがって,本件各原子炉施設において,2号機配管ひび割れ事
象と同様の事象が発生するおそれはなく,配管の健全性が確保されている。


なお,
2号機配管ひび割れ事象においてひび割れが生じた部位は,
余剰抽出配管のうち溶接部以外の耐圧部分であり,保全計画では漏えい検査のみの対象とされていたところ,他社の事故事例を踏まえて超音波探傷検査(UT検査)を実施したことによって発見したものである。債務者は,当該部位には溶接等がなく,過去のトラブル事例等もなかったため,保全計画において当該部位を漏えい検査のみの対象としていたものであって,それ自体は何ら不合理なことではない。



また,2号機配管ひび割れ事象のように,様々な知見や過去のト
ラブル事例等を踏まえても具体的に想定できないような事象が今後発生する可能性について,
全くないとは言い切れないが,
債務者は,
長年の火力発電所や原子力発電所における運転実績及び様々なトラブル事例を踏まえて,配管の健全性確保を行っており,こうした未知の事象が発生するような具体的な危険はないと考えられる。
万一,配管において小規模漏えいや破断が生じても,本件各原子
炉施設の安全性に全く問題がないことについては,後記ウのとおりである。

(イ)

配管の健全性確保(破断防止)に向けた取組
配管の管理の概要
本件各原子炉施設で使用する配管は,配管の中を流れる内包流体の条件等を踏まえた上で,安全が確保されるように材料の選定や設計,製作及び据付時の品質管理を行っている。
また,運転開始後は,配管の使用状況や部品,部材等の劣化状況等に応じて,定期的に点検,補修,取替え及び改造といった必要な保全を行っている。また,保全計画においては,設備が関係法令,関係規格,基準に適合していることを確認するとともに,設備の重要性を勘案して,必要に応じて事故事例や科学的知見を考慮することとし,新たに事故事例や科学的知見等を入手した場合には,随時,必要な点検,補修等を実施している。
さらに,配管については,本件敷地周辺で発生することが予測される地震に対しても十分な安全性を確保している。

余剰抽出配管の破断防止策
余剰抽出配管(1次冷却材管との接続配管)は,抽出系統に加えて1次冷却材の抽出を行う必要がある場合(主にプラント起動時)に用いられ,通常運転中には用いられない。
債務者は,余剰抽出配管の材料には,耐食性に優れ,劣化が生じにくいステンレス鋼を使用し,その設計に当たり,配管の口径については限界流速を考慮し,配管の板厚については使用圧力,管の外径等から求めた計算結果に基づき決定し,配管ルート(配管の接続や曲げ角度,直管部の長さ等のレイアウト)については,応力解析の結果等を考慮するとともに,高サイクル熱疲労割れの原因を排除することも考慮の上,基準地震動(最大加速度540ガル)による地震力に耐えることができることを確認し,
技術基準規則に適合する構造としている。
また,債務者は,1次冷却材の溶存酸素濃度を5ppb以下と極めて低く制限するなどして,ステンレス鋼を使用した配管に想定される経年劣化事象の一つである応力腐食割れ(腐食性の環境におかれた金属材料に引張応力が作用して生ずる割れ現象)を起こさないようにしている。さらに,債務者は,前記保全計画に従い,余剰抽出配管のうち,クラス1に区分される余剰抽出配管の溶接部については浸透探傷検査を,溶接部以外の耐圧部分(圧力保持範囲)については漏えい検査をそれぞれ実施した。
加えて,他の電力会社における余剰抽出配管のひび割れの発生を踏まえ,本件3号機については,第10回定期検査(平成18年12月17日~平成19年4月11日)において超音波探傷検査を実施し,異常のないことを確認するとともに,本件各原子炉施設の設備の信頼性の維持,向上を図るため,本件3号機については,第11回定期検査(平成20年5月2日~同年7月31日)において,本件4号機については,第8回定期検査(同年1月5日~同年4月16日)において,それぞれ余剰抽出配管の取替えを実施した。

技術基準規則19条に関する債権者の主張について
省令62号6条(流体振動等による損傷の防止。現行の技術基準規則19条)は,技術基準規則解釈に記載された日本機械学会等による各種規格等にのっとり設計,施工することを求めているものであって,その後の運転段階に関する規定ではないから,
上記規格等にのっとり設定,
施工を行っ
ていれば,省令62号6条(技術基準規則19条)に適合していることになり,2号機配管ひび割れ事象のように設計,施工時に知られていなかった新たな知見による事象が発生したとしても,上記規定に適合しないということにはならない。
よって,債権者らの同条に関する主張は理由がない。


1次系配管の破断時等における安全性の確保
万一,1次系配管(1次冷却材が循環する配管及びこれに接続された各種の安全上重要な配管)の破断等が発生したとしても,債務者は,以下の安全確保対策を講じているから,債権者らが主張する重大事故に至る具体的な危険はない。
(ア)

ひび割れが貫通したとしても原子炉を安全に停止できること
2号機配管ひび割れ事象は,保全(点検)の結果,ひび割れが当該発
生部である本件L字部分を貫通する前に発見したものであるが,仮に,本件各原子炉施設において,ひび割れが1次系配管を貫通していたとしても,ひび割れの貫通部から1次冷却材のわずかな漏えいが生じ,原子炉格納容器モニタの数値上昇や凝縮液量測定装置の凝縮液量の増加,格納容器サンプ水位の上昇率増加等によって,漏えいを早期に検知することができる。
したがって,1次系配管が破断に至る前に,原子炉停止等の適切な対応をとることができる。
(イ)

1次系配管が破断に至っても原子炉を安全に冷却できること
また,仮に,1次系配管が破断し,1次冷却材が流失するような事故
に至ったとしても,原子炉の緊急停止後,非常用炉心冷却設備及び補助給水設備により原子炉を安全に冷却することができる。
なお,債務者は,AからEまでの5つの部分から構成される補助給水設備の配管について,その材料として,AからCまで及びE部分の配管には炭素鋼を使用し,D部分の配管には耐食性に優れたステンレス鋼を使用し,
その設計に当たり,
各配管の使用条件等を考慮し,
配管の口径,
板厚,ルート等を決定し,基準地震動(最大加速度540ガル)による地震力に耐えることができることを確認するとともに,その構造についても,法令等が定める基準に適合させている。また,債務者は,2次冷却材のpHを8.5以上に保つなどの水質管理を実施し,炭素鋼を使用した配管に想定される経年劣化対策をしている。さらに,債務者は,前記保全計画に従い,定期検査の際,補助給水設備配管のうち,クラス2に区分されるA及びB部分の配管に対しては肉厚測定(測定対象部位の一部について定期検査の際に実施。)及び漏えい検査(対象となる配管全てについて,10年間の検査期間中に1回)を,クラス区分に該当しないC及びE部分の配管に対しては肉厚測定及び外観検査を,同じくD部分の配管に対しては外観検査(定期検査の都度)をそれぞれ実施している。補助給水設備の配管は,事故時に備えるものであり,常に水や蒸気の流れがあるわけではないため,減肉管理(肉厚測定)の必要性が低く,法令上も減肉管理は求められていないが,債務者は,配管の経年変化の状況を確認するため,念のために肉厚測定を実施している。
(ウ)

重大事故が生ずるとの債権者らの主張に理由がないこと
炉心溶融に至ることはないこと
債権者らは,余剰抽出配管のような1次系配管の小口径配管が破断し,地震動により補助給水設備配管が破損した場合に,炉心溶融に至る可能性が高い旨主張する。
しかしながら,本件各原子炉施設の1次系配管や補助給水設備配管等は,基準地震動による地震力に対する耐震安全性を確保しているので,地震動により破損することはないし,また,万一補助給水設備が機能しない場合にも,非常用炉心冷却設備による原子炉への注水により原子炉を冷却することができるから,炉心溶融に至ることはない。

原子炉格納容器の破損に至ることはないこと
債権者らは,炉心溶融が起きると,溶融燃料が原子炉容器の底を溶かし,原子炉格納容器に落下し,原子炉格納容器が破損する旨主張する。
しかしながら,
上記aのとおり,
炉心溶融に至ることはない。
また,
債務者は,非常用炉心冷却設備や補助給水設備等がその安全機能を喪失する事態においても,炉心の著しい損傷や原子炉格納容器の破損を防止することができるように,事態収束のための手順の整備や,常設及び可搬型の注水設備,電源設備等を新たに設置している。そして,債務者は,新たに設置した大容量空冷式発電機により交流動力電源を確保した後,新設した常設電動注入ポンプによる代替格納容器スプレイにより原子炉格納容器雰囲気の冷却,
減圧及び原子炉下部キャビティ
への注水を実施し,溶融炉心を同キャビティで冷却するとともに,格納容器再循環ユニットによる原子炉格納容器の除熱により,原子炉格納容器が破損に至らないことを確認している。なお,こうした債務者の対策は,設置許可基準37条2項に違反するものではない。

水素爆轟に至ることはないこと
債権者らは,溶融燃料が原子炉容器を破損して原子炉格納容器内に落下した場合,原子炉容器内にあった水素が原子炉格納容器内に放出されるなどして水素爆轟が起こり,原子炉格納容器が破損する旨主張する。
しかしながら,本件各原子炉施設は,加圧水型原子炉であり,沸騰水型原子炉の福島第一原子力発電所と比べて原子炉格納容器が大きく,自由体積が大きいこと(約10倍)から,万一原子炉格納容器内に水素が発生したとしても,水素濃度が高濃度となりにくい特徴を有しているところ,
本件3号機においては,
福島第一原発事故を契機として,
水素濃度を低減するための静的触媒式水素再結合装置を5台設定するとともに,より一層の水素低減を図るための設備として電気式水素燃焼装置(イグナイタ)を14台(予備1台含む。)設置している。しかも,
大破断LOCA
(1次系配管が大破断による1次冷却材喪失事故)
時に,非常用炉心冷却設備の低圧注入及び高圧注入機能が喪失し,電気式水素燃焼装置も機能しないという条件の下でも,炉心が溶融した場合において水素爆轟に至ることがないことを評価し,
確認している。

第3

当裁判所の判断

1
本件各申立てについての司法審査の在り方について


差止請求の根拠及び要件
一般に,
人の生命,
身体は,
それ自体が極めて重大な保護法益であるから,
人は,個人の生命又は身体が違法に侵害され,又は違法に侵害されるおそれがある場合には,現に行われている違法な侵害行為を排除し,又は将来生ずべき違法な侵害行為を予防するため,人格権を被保全権利として,当該侵害行為の差止めを求めることができると解される。
そして,本件差止めの申立てに係る被侵害利益が生命,身体という各人の人格にとって本質的な価値に関するものであり,本件各原子炉施設の安全性の欠如に起因する放射線被ばくという侵害行為の態様,当該侵害行為によって受ける債権者らの被害の重大さ及び深刻さに鑑みると,そのような侵害行為を排除するため,人格権に基づく妨害予防請求としての本件各原子炉施設の運転の差止めの申立てが認められるためには,本件各原子炉施設につき安全性に欠けるところがあり,その運転に起因する放射線被ばくにより,債権者らの生命,身体に直接的かつ重大な被害が生ずる具体的な危険が存在することを要すると解すべきである。
なお,この点について,債権者らは,環境権を被保全権利とする差止めも求めているものと解されるが,債権者らの主張する環境権については,我が国において法律上の明文の根拠がなく,その要件及び効果が明らかではないから,人格権とは別に,実体法上独立の差止請求の根拠となり得ると解することはできない。


改正原子炉等規制法等による発電用原子炉施設の設置,運転等に対する規制
ところで,発電用原子炉施設の設置及び運転等については,福島第一原発事故の前から,
原子炉等規制法及び電気事業法
(いずれも本件改正前のもの)
により,原子炉の設置又は変更の許可により原子炉の基本設計についての安全審査を行うとともに,工事計画の認可又は届出により原子炉の具体的な詳細設計についての安全審査を行い,さらに,使用前検査を受けさせ,保安規定を定めて認可を受けさせるなど,いわゆる段階的な安全規制を行うことによって,原子炉の安全性の確保を図る仕組みが設けられてきた。
そして,福島第一原発事故の反省を踏まえ,本件改正により,設置法が成立するとともに,原子炉等規制法が改正され,これにより平成24年9月に原子力規制委員会が設置され,同委員会において策定された新規制基準等に基づく規制が行われることとなり,発電用原子炉施設は,原子炉等規制法等の関係法令及び新規制基準を含む原子力規制委員会規則に定める基準を満たした場合に初めて同委員会の許認可を受け,適法に運転することができるという制度が採用された。
本件改正の具体的な内容についてみると,
改正原子炉等規制法においては,
発電用原子炉の設置,運転等に関する規制として,原子炉設置許可及び設置変更許可(43条の3の5,43条の3の8),工事の計画の認可(43条の3の9),使用前検査(43条の3の11),保安規定の認可(43条の3の24)などの段階的な安全規制の仕組み自体には変更がないものの,設置許可の申請書の記載事項として,発電用原子炉の炉心の著しい損傷その他の事故が発生した場合における当該事故に対処するために必要な施設及び体制の整備に関する事項(43条の3の5第2項10号)が加えられ,原子炉設置許可の基準の一つとして,設置者に重大事故(発電用原子炉の炉心の著しい損傷等)の発生及び拡大の防止に必要な措置を実施するために必要な技術的能力その他の発電用原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があること
(43条の3の6第1項3号)
が定められ,
発電用原子炉設置者が,
発電用原子炉施設の保全等について講じなければならない保安のために必要な措置(保安措置)に,重大事故が生じた場合における措置に関する事項を含むものとされる(43条の3の22第1項)など,重大事故対策が強化されたほか,許可を受けた発電用原子炉施設について最新の科学的技術的知見を踏まえた新たな基準が定められた場合には当該施設を当該基準に適合させるバックフィット制度が導入され(43条の3の14,43条の3の16。基準を満たさない発電用原子炉施設に対しては使用の停止等の措置又は許可の取消し若しくは運転の停止を命じられ得ることとなる。
43条の3の23,
43条の3の20第2項),発電用原子炉施設の運転期間を使用前検査に合格した日から起算して40年
(ただし,
20年を超えない期間を限度として,
1回に限り,延長の認可をすることができる。)とする運転期間制限制度が導入され(43条の3の32),さらに,発電用原子炉設置者等が自ら当該発電用原子炉施設等の安全性についての評価を行うことを義務付け,その結果等を届け出させ,
届出に係る評価の結果等を公表する制度も導入される
(4
3条の3の29)などした。
また,設置法は,原子力規制委員会の設置について,概要,次のとおり定めている。原子力規制委員会は,福島第一原発事故を契機に明らかとなった原子力利用に関する政策に係る縦割り行政の弊害を除去し,一の行政組織が原子力利用の推進及び規制の両方の機能を担うことにより生ずる問題を解消するため,原子力利用における事故の発生を常に想定し,その防止に最善かつ最大の努力をしなければならないという認識に立って,確立された国際的な基準を踏まえて原子力利用における安全の確保を図るため必要な施策を策定し,又は実施する事務(原子炉に関する規制に関することを含む。)を一元的につかさどるとともに,その委員長及び委員が専門的知見に基づき中立公正な立場で独立して職権を行使し,もって国民の生命,健康及び財産の保護,
環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的として
(1条)

国家行政組織法3条2項に基づき,環境省の外局として設置された行政機関であり(2条),国民の生命,健康及び財産の保護,環境の保全並びに我が国の安全保障に資するため,原子力利用における安全の確保を図ること(原子炉に関する規制に関することを含む。)を任務とし(3条),原子力利用における安全の確保に関すること,原子炉に関する規制等その他これらに関する安全の確保に関すること等に係る事務をつかさどる(4条)。原子力規制委員会は,委員長及び委員4人をもって組織され(6条),委員長及び委員は,人格が高潔であって,原子力利用における安全の確保に関して専門的知識及び経験並びに高い識見を有する者のうちから,両議院の同意を得て,内閣総理大臣が任命し(7条),独立してその職権を行う(5条)。原子力規制委員会は,その所掌事務について,法律若しくは政令を実施するため,又は法律若しくは政令の特別の委任に基づいて,原子力規制委員会規則を制定することができる(26条)。原子力規制委員会には,その事務を処理させるため,事務局として原子力規制庁が置かれる(27条)。
発電用原子炉施設の設置,運転等に対する規制について,このような制度が採用された趣旨は,核燃料を使用する発電用原子炉施設は,その稼働により,内部に多量の人体に有害な放射性物質を発生させるものであって,発電用原子炉施設の安全性が確保されないときには,当該原子炉施設の周辺住民等の生命,身体に重大な危害を及ぼし,周辺の環境を放射能によって汚染するなど,深刻な被害を引き起こすおそれがあることに鑑み,発電用原子炉施設においては,こうした災害が万が一にも起こらないようにする必要があるところ,
発電用原子炉施設の安全性が確保されているか否かを判断するには,当該原子炉施設そのものの工学的安全性,平常運転時における周辺住民及び周辺環境への放射線の影響,事故時における周辺地域への影響等について,当該原子炉施設の立地の地形,地質,気象等の自然的条件,人口分布等の社会的条件及び当該原子炉設置者の原子炉の設置,運転等に必要とされる技術的能力との関連において,多角的,総合的見地から検討されるべきであり,このような検討を行うに当たっては,原子力工学はもとより,多方面にわたる極めて高度な最新の科学的,専門技術的知見に基づく総合的判断が必要とされるものであることが明らかであるから,上記のとおり各専門分野の学識経験者等を擁し,専門性,独立性が確保された原子力規制委員会において,総合的,専門技術的見地から十分な審査を行わせ,もって原子力利用における安全の確保を徹底することにあるものと解される。
とりわけ,福島第一原発事故の深い反省に立ち,その教訓をいかしてそのような事故を二度と起こさないようにするとともに,我が国の原子力の安全に関する行政に対する損なわれた信頼を回復し,当該行政の機能の強化を図るため,改正原子炉等規制法において,最新の科学的,技術的知見を規制に反映し,これを踏まえた基準に許可等済みの発電用原子炉施設等を適合させる制度(バックフィット制度)を導入し,事故の発生防止はもとより,万一炉心の著しい損傷その他の重大な事故が起きても放射性物質が異常な水準で外へ放出されるような事態に進展しないように多様かつ重層的な対策を要求するなどの重大事故対策を強化し,運転期間の制限等を行うなど,発電用原子炉施設等の安全規制体制を強化するとともに,
規制と利用の分離を徹底し,
規制の任に当たる原子力規制委員会の独立性を確保し,もって,その専門技術的知見に基づきその規制権限を行使することができるようにしたと解される。
そして,このような本件改正後の原子炉等規制法における規制の目的及び趣旨からすれば,改正原子炉等規制法は,最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的に予測される規模の自然災害を想定した発電用原子炉施設の安全性の確保を求めるものと解されるのであって,改正原子炉等規制法の規制の在り方には,我が国の自然災害に対する発電用原子炉施設等の安全性についての社会通念が反映しているというべきである。


疎明の責任の所在と債務者による疎明の必要性

このような改正原子炉等規制法の規制の在り方に鑑みれば,裁判所は,発電用原子炉施設の安全性に欠けるところがあるか否かについて,その安全性に関して専門性,独立性が確保された原子力規制委員会の総合的,専門技術的見地による判断に不合理な点があるか否かという観点から審理,判断するのが相当である。すなわち,同委員会における調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり,又は当該発電用原子炉施設が上記具体的審査基準に適合するとした同委員会の調査審議及び判断の過程等に看過し難い過誤,欠落があるときは,当該発電用原子炉施設の安全性に関する同委員会の判断に不合理な点があるということができるのであり,そのような場合には,当該発電用原子炉施設の安全性に欠けるところがあるといわざるを得ず,深刻な事故が起こる具体的な可能性が否定できないこととなる。そして,発電用原子炉施設が,現在の科学技術水準に照らし,客観的にみて上記のような安全性に欠けるものである場合には,当該発電用原子炉施設の運転等によって放射性物質が周辺環境に放出され,放射線被ばくにより人の生命,身体に重大な被害を与える具体的な危険が存在するものと解すべきである。

また,人格権に基づく妨害予防請求として発電用原子炉施設の運転の差止めを求める本件各申立てにおいては,本件各原子炉施設につき安全性に欠けるところがあり,その運転に起因する放射線被ばくにより,債権者らの生命,身体に直接的かつ重大な被害が生ずる具体的な危険が存在することについて,債権者らが疎明の責任を負うべきものと解される。
もっとも,前記のとおり,発電用原子炉施設の設置及び運転等が原子炉等規制法に基づく安全性についての多段階の審査を経た上で行うことができるものとされている上,改正原子炉等規制法において,発電用原子炉設置者が当該発電用原子炉施設の安全性について自ら評価を行う制度が導入されたことにも鑑みると,当該発電用原子炉施設の安全審査に関する資料や科学的,専門技術的知見は,発電用原子炉施設の設置者である債務者が十分に保持しているのが通常である。
以上の事情を考慮すると,債務者において,まず,原子力規制委員会の上記判断に不合理な点がないこと,すなわち,①同委員会における調査審議に用いられた具体的審査基準の合理性並びに②当該基準の適合性に係る調査審議及び判断の過程等における看過し難い過誤や欠落の不存在を相当の根拠,資料に基づき疎明する必要があり,債務者が上記の疎明を尽くさない場合には,同委員会がした判断に不合理な点があるものとして,債権者らに上記の具体的な危険があることが事実上推認されるものというべきである。
他方で,債務者が上記の疎明を尽くした場合には,本来的に疎明の責任を負う債権者らにおいて,本件各原子炉施設の安全性に欠けるところがあり,本件各原子炉施設の運転に起因する放射線被ばくにより,債権者らの生命,身体に直接的かつ重大な被害が生ずる具体的な危険があることについて疎明しなければならないと解するのが相当である。
2
争点⑴(本件各原子炉施設の耐震安全性に関する基準地震動策定の合理性)について
前記1を踏まえ,以下では,まず,債務者において,原子力規制委員会の判断に不合理な点がないことを相当の根拠,資料に基づき疎明したといえるか否かについて検討し,債務者が上記の疎明を尽くしたと認められる場合には,債権者らの主張を検討して,本件各原子炉施設の安全性に欠けるところがあるといえるか否かを検討する。


認定事実等
前提事実並びに掲記の証拠及び審尋の全趣旨により認定した事実を総合すると,本件各原子炉施設の基準地震動に関する事実関係は以下のとおりである。

新規制基準策定前の耐震バックチェックにおける評価
(ア)

新耐震指針の内容
原子力安全委員会は,平成18年9月19日,旧耐震指針策定以降その時点までにおける地震学及び地震工学に関する新たな知見の蓄積並びに発電用軽水型原子炉施設の耐震設計技術の著しい改良及び進歩を反映し,旧耐震指針を全面的に改訂し,発電用軽水型原子炉に適用される新耐震指針を決定した。(前提事実⑸ウ(ア),甲32,乙91)b
新耐震指針においては,旧耐震指針では,建物・構築物及び機器・配管系の重要度に応じて,2種類の基準地震動(設計用最強地震を考慮した基準地震動S1と,
設計用限界地震及び直下地震を考慮した基準
地震動S2)
が策定されていたのに対し,発電用軽水型原子炉施設の耐
震設計において基準とする地震動が基準地震動Ssとして一本化された。
基準地震動Ssは,敷地周辺の地質・地質構造並びに地震活動性等の地震学及び地震工学的見地から発電用軽水型原子炉施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があり,同施設に大きな影響を与えるおそれがあると想定することが適切なものとして策定しなければならないとされ,
敷地ごとに震源を特定して策定する地震動
及び震源を特定せず策定する地震動について,敷地における解放
基盤表面における水平方向及び鉛直方向の地震動としてそれぞれ策定することとされた。
そして,
敷地ごとに震源を特定して策定する地震動
については,
選定した検討用地震ごとに,応答スペクトルに基づく地震動評価及び断層モデルを用いた手法による地震動評価の双方を実施し,それぞれによる基準地震動Ssを策定することとされ,震源を特定せず策定する地震動については,震源と活断層を関連付けることが困難な過去の内陸地殻内の地震について得られた震源近傍における観測記録を収集し,これらを基に敷地の地盤物性を加味した応答スペクトルを設定し,これに地震動の継続時間,振幅包絡線の経時的変化等の地震動特性を適切に考慮して策定することとされた。
また,
地質調査等について,
活断層の活動性評価に万全を期すため,
その評価期間について,旧耐震指針では5万年前以降とされていたものを,新耐震指針では後期更新世(13~12万年前)以降の活動が否定できないものに拡張するとともに,
変動地形学的調査,
地質調査,
地球物理学的調査手法を総合したより詳細かつ入念な活断層調査を実施することとされた。
(甲32,乙89,91,92)

なお,新耐震指針は,原子力安全委員会が,平成13年6月,原子力安全基準専門部会(当時)に対し,昭和56年の旧耐震指針の策定以降,地震学及び地震工学に関する新たな知見の蓄積並びに原子炉施設の耐震設計技術の著しい改良及び進歩を反映する必要があり,
また,
兵庫県南部地震に関する調査研究を通じ,断層の活動様式,地震動特性,構造物の耐震性等に係る貴重な知見が得られたという状況を踏まえ,耐震安全性に係る安全審査指針類について,最新の知見等を反映し,より適切な指針類とするために必要な調査審議を行い,その結果を報告するように指示したことを受けて,同部会及びその下に置かれた耐震指針検討分科会において,4年10か月にわたり調査審議が行われ,旧耐震指針を全面的に見直す内容として取りまとめられた耐震指針検討分科会報告書によるものである。(甲32,乙91,93)
(イ)

耐震バックチェックにおける基準地震動の評価及び策定
債務者は,平成21年6月18日,原子力安全・保安院に対し,本件
各原子炉施設について耐震バックチェックを実施した結果を報告したが,その内容は,次のa及びbのとおりである。(前提事実⑸ウ(ウ),乙8,26の1,審尋の全趣旨)

敷地ごとに震源を特定して策定する地震動
債務者は,敷地周辺における地震発生状況及び敷地周辺の活断層の性質等を考慮して,その発生様式による地震の分類を行った上で,敷地に大きな影響を与えると予想される検討用地震を選定し,新潟県中越沖地震で得られた新知見等も考慮して,敷地での地震動評価を実施した。
債務者は,各種調査資料等を基に,過去に敷地又はその周辺に影響を与えた,若しくは与えたと考えられる被害地震について調査し,敷地に大きな影響を与えた地震として,震度5弱(平成8年以前の旧気象庁震度階級Ⅴに相当。以下,旧気象庁震度階級Ⅴを含めて,震度5弱という。)程度以上を目安に選定した結果,1700年壱岐・対馬の地震(以下壱岐・対馬の地震という。)及び福岡県西方沖
地震が抽出され,これらを考慮した。
また,債務者は,敷地周辺の活断層として,陸域については,①竹木場断層,②城山南断層,③真名子-荒谷峠断層,④楠久断層,⑤国見断層及び⑥今福断層があり,海域については,⑦糸島半島沖断層群及び⑧F-h断層があり,半径30㎞以遠の活断層については,地震規模及び敷地からの距離を考慮して,⑨警固断層帯で代表させた。これら敷地周辺の主な活断層から想定される地震は,全て震度5弱以上となるため,
いずれも敷地に大きな影響を与える地震として考慮した。
そして,壱岐・対馬の地震及び福岡県西方沖地震並びに上記敷地周辺の活断層から想定される地震は,地震発生様式による分類では,いずれも内陸地殻内地震であるため,これらの地震の中から,Nodaet
ign
on

al.ResponsePurposeRockofSpectraStiffforDesStructuresSites(以下Nodaetal.(2002)という。)の方法(岩盤における観測記録に基づいて提案された距離減衰式で,解放基盤表面における水平方向及び鉛直方向の地震動の応答スペクトルを予測するもの)による応答スペクトルの比較により,敷地に特に大きな影響を及ぼすと想定される地震として,竹木場断層による地震及び城山南断層による地震を検討用地震として選定した。
そして,これらの検討用地震について,応答スペクトルに基づく地震動評価及び断層モデルを用いた手法による地震動評価のそれぞれを実施し,不確かさを考慮した地震動評価を行った。
なお,債務者は,プレート間地震及び海洋プレート内地震については,その発生位置から敷地までの距離が十分に離れており,敷地での震度が5弱以上と推定される地震はないとした。

震源を特定せず策定する地震動
加藤研一ほか震源を事前に特定できない内陸地殻内地震による地震動レベル-地質学的調査による地震の分類と強震観測記録に基づく上限レベルの検討-(2004)(以下加藤ほか(2004)という。)は,日本及びカリフォルニアにおける震源近傍で得られた観測記録を収集し,詳細な地質学的調査によっても震源位置と地震規模を事前に特定できない地震の地震動レベルを設定している。
債務者は,上記加藤ほか(2004)に,敷地における地盤物性を考慮して,震源を特定せず策定する地震動の応答スペクトルを求
めた。


基準地震動の策定


敷地ごとに震源を特定して策定する地震動
検討用地震として選定した竹木場断層による地震及び城山南断層による地震について地震動評価を行った結果,敷地ごとに震源を特定して策定する地震動について,応答スペクトルに基づく手法による基準地震動Ss-1は,竹木場断層による地震
及び城山南断層による地震の応答スペクトルに基づく地震動評
価による地震動評価結果を包絡して設定した。また,断層モデルを用いた手法による基準地震動Ss-2及びSs-3は,城山南断層による地震及び竹木場断層による地震の断層モデルを用いた手法による地震動評価結果と基準地震動Ss-1とを比較し,
城山南断層による地震及び竹木場断層による地震の各震源の不
確かさのうち,断層の傾斜角の不確かさを考慮した場合の地震動評価結果が基準地震動Ss-1を一部の周期で上回ることから,城山南断層による地震の断層の傾斜角の不確かさを考慮した地震動評価結果を基準地震動Ss-2,竹木場断層による地震の断層
の傾斜角の不確かさを考慮した場合の地震動評価結果を基準地震動Ss-3として選定した。


震源を特定せず策定する地震動
震源を特定せず策定する地震動
による応答スペクトルは,
敷地ごとに震源を特定して策定する地震動による基準地震動Ss-1の応答スペクトルに全ての周期帯において包絡されているため,基準地震動Ss-1で代表させた。



まとめ
以上の評価に基づき,基準地震動Ss-1,Ss-2及びSs-
3における最大加速度を,それぞれ540ガル,268ガル及び524ガルと策定した。
なお,旧耐震基準の下で本件各原子炉施設が建設された際,設計
用最強地震を考慮して策定された基準地震動S1の最大加速度は,1
88ガルとされ,設計用限界地震及び直下地震から策定された基準地震動S2の最大加速度は,
それぞれ275ガル及び370ガルとさ
れていた。(前提事実⑸イ,乙2,26の1,審尋の全趣旨)

新規制基準の内容について
新規制基準では,設計基準対象施設(発電用原子炉施設のうち,運転時の異常な過渡変化又は設計基準事故の発生を防止し,又はこれらの拡大を防止するために必要となるもの〔設置許可基準規則2条2項7号〕)について,地震力に十分に耐えることができるものでなければならないとされる
(設置許可基準規則4条1項)
とともに,
耐震重要施設については,
その供用中に当該耐震重要施設に大きな影響を及ぼすおそれがある地震による加速度によって作用する地震力〔中略〕に対して安全機能が損なわれるおそれがないものでなければならないとされた(同条3項)。また,基準地震動については,設置許可基準規則解釈において,最新の科学的・技術的知見を踏まえ,敷地及び敷地周辺の地質・地質構造,地盤構造並びに地震活動性等の地震学及び地震工学的見地から想定することが適切なものとして策定することとされ(別記2第4条5項),その策定手法の基本的な枠組みとしては,新耐震指針と同様,敷地ごとに震源を特定して策定する地震動及び震源を特定せず策定する地震動について,解放基盤表面における水平方向及び鉛直方向の地震動としてそれぞれ策定することとされた(同項1号)。そして,敷地ごとに震源を特定して策定する地震動については,内陸地殻内地震,プレート間地震及び海洋プレート内地震について,敷地に大きな影響を与えると予想される地震〔中略〕を複数選定し,選定した検討用地震ごとに,不確かさを考慮して応答スペクトルに基づく地震動評価及び断層モデルを用いた手法による地震動評価を,解放基盤表面までの地震波の伝播特性を反映して策定することとされ(同項2号),震源を特定せず策定する地震動につい
ては,震源と活断層を関連づけることが困難な過去の内陸地殻内の地震について得られた震源近傍における観測記録を収集し,これらを基に,各種の不確かさを考慮して敷地の地盤物性に応じた応答スペクトルを設定して策定することとされた(同項3号)。なお,新規制基準の地震動評価において,基準地震動を策定する基本的ⅰ


な枠組みや,○震源特性,○伝播経路特性及び○サイト特性について地域性を含めて詳細に考慮するという点自体は,新耐震指針から変更されていないが,新規制基準においては,プレート間地震や海洋プレート内地震並びに地下構造による地震波の伝播経路特性及びサイト特性の考慮に関する要求水準が高度化したため,
従来よりも詳細な調査や確認が必要となった。
具体的には,
地震動審査ガイドにおいて,
敷地及び敷地周辺の地下構造
(深
部・浅部地盤構造)などが地震波の伝播経路特性に与える影響を適切に評価すること(Ⅰ3.3.2⑷⑤4))や,地震動の継続時間,振幅包絡線の経時的変化等の地震動特性を適切に評価すること(Ⅰ3.3.1⑴)などが要求されている。
(前提事実⑺イ(ウ)・ウ,甲50,68,乙59,60,91,92)ウ
新規制基準の下での債務者の基準地震動の評価,策定
(ア)

敷地ごとに震源を特定して策定する地震動
検討用地震の選定

地震による揺れの大きさは,震源特性

(震源の大きさマグニチュー


ドなど),○伝播経路特性(震源からの距離,減衰の大きさなど)及ⅲ
び○サイト特性(地盤の硬さ,地層の褶曲など)によって決まるとこ
ろ,債務者は,敷地ごとに震源を特定して策定する地震動につい

て,本件敷地周辺で発生する地震の地域的な特性を把握するため,○
震源特性については,地質調査(地表地質調査・ボーリング調査・微小地震調査・海上音波探査・文献調査等を実施して,敷地内,敷地近傍及び敷地周辺における活断層を把握),地震調査(地震発生様式,地震発生状況,被害地震並びに断層型及び応力場に関する調査)及びⅱ

地震観測を行い,○伝播経路特性及び○サイト特性については,それ
ぞれ地震観測及び地下構造調査(試掘坑内の弾性波試験,微動アレイ探査,単点微動観測など)を行った。
そして,過去の被害地震のうち,壱岐・対馬の地震及び福岡県西方沖地震が,本件敷地において,震度5弱程度以上と推定され,これらの内陸地殻内地震をいずれも検討用地震の選定対象とした。
また,敷地周辺及び敷地近傍の陸域及び海域における地質調査を行い,敷地周辺の主な活断層として,陸域については,①竹木場断層,②今福断層,③城山南断層,④楠久断層,⑤国見断層,⑥真名子-荒谷峠断層及び⑦鉾ノ木山リニアメントを抽出し,海域については,⑯F-h断層及び⑮糸島半島沖断層群があり,半径30㎞以遠の主な活断層として,⑧警固断層帯,⑨佐賀平野北縁断層帯,⑩日向峠-小笠木峠断層帯,⑪宇美断層,⑫西山断層帯,⑬水縄断層帯,⑭雲仙断層群,⑰壱岐北東部断層群,⑱対馬南方沖断層,⑲対馬南西沖断層群,⑳厳原東方沖断層群,㉑宇久島北西沖断層群,㉒沖ノ島東方沖断層,㉓FTW-3,㉔FTW-4,㉕中通島西方沖断層群及び㉖FTW-1を抽出した(なお,上記の丸数字は,乙第96号証〔11頁〕記載の通し番号による。以下,上記活断層について上記丸数字を引用する部分についても同じ。)。

他方で,債務者は,○震源特性として,プレート間地震(太平洋側
沖合の日向灘周辺で十数年から数十年に一度発生しているマグニ
チュード7クラスの地震を想定。)及び海洋プレート内地震(1909年宮崎県西部の地震など)は,発生位置から本件敷地までの距離が200㎞程度以上離れているため,本件敷地に大きな影響を与えることはないこと,本件敷地周辺で発生する内陸地殻内地震は,逆断層型よりも揺れの大きさが小さい横ずれ断層型が多いこと(兵庫県南部地震,鳥取県西部地震,福岡県西方沖地震,熊本地震も,これに当たる。),本件敷地周辺は,東西方向の圧縮応力場にあるが,ひずみがほとんど確認されず,過去に基準地震動を超過する地震動の原因となる地震が発生したひずみ集中帯には位置していないこと,
本件敷地及び敷地から半径5㎞範囲に活断層がないこと,福岡県西方沖地震における観測記録の分析によれば,震源特性は横ずれ断層の平ⅱ
均レベルであり,地震本部レシピとよく適合すること,○伝播経路特ⅲ
性及び○サイト特性として,原子炉建屋等の重要な施設を支持する基
盤(せん断波速度平均1350m/sの硬い岩盤)がある程度の広がりをもって比較的浅所に分布しているため,本件敷地は揺れにくいこと,本件敷地において観測された76個の地震の観測規則を分析しても,本件敷地及び周辺の地下構造に関し,地震動の到来方向又は周期帯によって特異な増幅がみられないこと,本件敷地の観測記録の傾向として,観測記録から本件敷地周辺で発生する地震による揺れは,Noda

et

al.(2002)の関東・東北地方の過去の地震動の平均像に比べて小さいことを把握した。そして,
上記の敷地周辺の活断層から想定される地震による揺れは,
地震規模及び敷地からの距離を考慮すると,上記⑪,⑬,⑭,⑳から㉖までの活断層による地震を除く18個の地震(壱岐・対馬の地震及び福岡県西方沖地震を含む。)について,震度5弱程度以上と推定され,
敷地に大きな影響を及ぼすとして,
その全てをNoda

et


l.
(2002)
の方法により算定した応答スペクトルを基に評価し,
全周期帯において敷地に及ぼす影響が大きい
竹木場断層による地震
及び城山南断層による地震の二つを検討用地震として選定した。
(乙61,96,97,99,審尋の全趣旨)

検討用地震の地震動評価における震源モデルの設定


基本震源モデル
債務者は,本件敷地地盤の観測記録のうち,揺れが最も大きかっ
た福岡県西方沖地震(本件敷地内で85ガルを観測)の震源特性について,地震本部レシピに基づき主な断層パラメータを設定し,震源モデルを構築して,経験的グリーン関数法(実際に発生した小さな地震の観測記録のうち,地震動評価に用いるのに適切な観測記録〔要素地震〕
を足し合わせて大きな地震による揺れを計算する方法)
による地震動評価を実施した結果,福岡県西方沖地震で得られた本件敷地地盤の観測記録をおおむね再現することができた。
そして,債務者は,検討用地震の地震動評価に当たり,本件各原
子炉施設の調査結果及び観測記録に基づく分析等により把握した地域的な特徴を踏まえつつ,上記のとおり本件敷地での観測記録をおおむね再現できることを確認した地震本部レシピに基づき,基本震源モデルの断層パラメータを設定した。
ここで,地震本部レシピにおいては,地震モーメントについて,
断層面積との経験式である入倉・三宅式を用いて設定し,短周期レベルにつき,壇ほか(2001)による地震モーメントとの経験式を用いて設定することとされており,債務者も,地震モーメント及び短周期レベルについて,これらの経験式を用いて設定した。

具体的には,①竹木場断層による地震について,○断層長さ
及び震源断層の拡がりについて,地表付近の断層長さが約5㎞と短く,震源断層が地表付近の長さ以上に震源幅と同じ断層長さが拡がるものとして,17.3㎞とより長く設定し,地震発生層の厚さをb
上端3㎞,下端20㎞と設定して17㎞,○断層傾斜角を断層露頭
及び発生地震の傾斜角を参考に西側傾斜80度としたことに伴って,c
断層幅を17.3㎞と設定し,○応力降下量を地震本部レシピによa
り設定した。③城山南断層による地震について,○断層長さ及
び震源断層の拡がりを19.5㎞,地震発生層の厚さを上端3㎞,b
下端20㎞と設定して17㎞,○断層傾斜角を鉛直(90度),断c
層幅を17㎞とし,応力降下量を地震本部レシピにより設定した。○

それらについて,○アスペリティの位置は,本件敷地に最も近い位e
置とし,○破壊開始点は,破壊の進行方向が本件敷地に向かう方向
となるように断層面下端に設定した。
(乙61,96,101)


不確かさ考慮モデル
債務者は,基準地震動の策定過程において,調査結果及び観測記
録に基づく分析等によっても十分には把握されていないものについて,不確かさとして考慮することとし,不確かさ考慮モデルを設定した。

具体的には,①竹木場断層による地震について,○断層長さ
及び震源断層の拡がりの不確かさを考慮したケース(以下断層長さ等考慮ケースという。)として,断層長さ及び震源断層の拡がb
りを20㎞としたもの,○断層傾斜角の不確かさがあることを考慮
したケース(以下断層傾斜角考慮ケースという。)として,断層
傾斜角を60度とし,断層長さ及び震源断層の拡がりを19.7㎞c
としたもの,○応力降下量の不確かさを考慮したケース(以下応力降下量考慮ケースという。)として,新潟県中越沖地震の知見を踏まえ,地震本部レシピの1.5倍に設定したものを検討候補とd
し,加えて,それぞれのケースについて,○アスペリティの位置にe
ついて,敷地に近い位置に設定するとともに,○破壊開始点につい
て,破壊が敷地に向かうような位置に複数設定した。

また,③城山南断層による地震について,○断層長さ等考慮
ケースとして,
断層長さ及び震源断層の拡がりを20㎞としたもの,

○断層傾斜角考慮ケースとして,断層傾斜角を60度とし,断層長c
さ及び震源断層の拡がりを19.7㎞としたもの,○応力降下量考
慮ケースとして,新潟県中越沖地震の知見を踏まえ,地震本部レシピの1.5倍に設定したものを検討候補とし,加えて,それぞれのd
ケースについて,○アスペリティの位置について,敷地に近い位置e
に設定するとともに,○破壊開始点について,破壊が敷地に向かう
ような位置に複数設定した。
(乙61,96)

応答スペクトルに基づく地震動評価
応答スペクトルに基づく地震動評価は,マグニチュードや等価震源距離などの数少ないパラメータから,地震による揺れを応答スペクトルにより評価するものである。
応答スペクトルに基づく地震動評価では,過去の地震動の平均像に関する知見として,関東・東北地方の平均像を導き出す手法であ
るNoda

et

al.(2002)による手法を用いて評価を実

施した。
そして,
応答スペクトルに基づく地震動評価による地震動は,
過去の地震動の平均像を地域的な特性を踏まえて補正すること(実際の観測記録が小さいことを踏まえて下方修正すること)も可能であったが,債務者は,地震動評価がより安全側となるようにするため,補正を実施せず,実際の観測記録を上回る関東・東北地方の平均像
を応答スペクトルに基づく地震動評価による地震動とした。
(乙61,96)

断層モデルを用いた手法による地震動評価

断層モデルを用いた手法による地震動評価は,地域的な特性(○震ⅱ

源特性,○伝播経路特性及び○サイト特性)を詳細に反映することが
可能であり,時刻歴波形(地震波の到達によって起こされた評価
地点での地震動が時間の経過とともに生ずる変化を表したもの)により評価するものである。



債務者は,○基本震源モデルを基に,○伝播経路特性や○サイト特性を精度良く反映することができる経験的グリーン関数法及び経験的グリーン関数法と理論的手法によるハイブリッド合成法とを用いて精緻な評価を行い,本件敷地周辺の地域的な特性を反映した地震動を,断層モデルを用いた手法による地震動評価による地震動とした。その際,経験的グリーン関数法で用いる要素地震は,敷地までの地震波のⅱ

伝わり方(○伝播経路特性,○サイト特性)の地域的な特性が反映さ
れている観測記録(平成17年3月22日福岡県西方沖地震の余震,マグニチュード5.4)が本件敷地で得られていたため,これを用いた。また,理論的手法で用いる地下構造モデルは,試掘坑内弾性波試験の調査結果,微動アレイ探査から推定されたせん断波速度構造及び既往の知見を参考に設定した。
(乙61,96)

敷地ごとに震源を特定して策定する地震動による基準地震動の
策定
敷地ごとに震源を特定して策定する地震動による基準地震動の
策定においては,敷地に大きな影響を及ぼす可能性があるとして選定した二つの検討用地震それぞれについて,不確かさも考慮した上で,応答スペクトルに基づく地震動評価による地震動を求め,それらを全て包絡する設計用応答スペクトルを設定し,これを基準地震動S
s-1(最大加速度540ガル)とした。
次に,それぞれの検討用地震について,断層モデルを用いた手法による地震動評価による応答スペクトルを求め,
基準地震動Ss-1
(設
計用応答スペクトル)と比較した結果,③城山南断層による地震b
の○断層傾斜角不確かさ考慮ケース(破壊開始点3)及び①竹木場断層による地震b断層傾斜角不確かさ考慮ケースの○
(破壊開始点2)
の断層モデルを用いた手法による地震動評価結果が,一部の周期帯において基準地震動Ss-1(設計用応答スペクトル)による応答スペクトルを上回ったため,前者を基準地震動Ss-2(最大加速度268ガル),後者を基準地震動Ss-3(最大加速度524ガル)とした。
(甲53,乙61,96)
(イ)

震源を特定せず策定する地震動
債務者は,震源を特定せず策定する地震動の評価で収集対象とな

る内陸地殻内の地震の例として地震動審査ガイドに示される16個の地震(別紙3の1⑶エ(イ)b⒞。以下本件16地震という。)のうち,Mw6.5以上の2個の地震について,その発生した地震の震源域周辺A
と本件敷地周辺との地質,地質構造等の比較,検討を実施し,○平成2
0年岩手・宮城内陸地震(以下岩手・宮城内陸地震という。Mw6.9)は,その震源域周辺(顕著な褶曲・撓曲構造が発達し,ひずみ集中帯に位置しており,逆断層を主体とする地域である。)と本件敷地周辺(ひずみ集中帯には位置しておらず,顕著な褶曲・撓曲構造は認められず,横ずれ断層を主体とする地域である。)の地質学的,地震学的背景が異なるため,
検討対象から外すこととした一方,B鳥取県西部地震

(M
w6.6)は,その震源域周辺と本件敷地周辺の地質学的,地震学的背景が異なるものの,顕著な活断層が分布しておらず,横ずれ断層型が主体であり,相対的にひずみ速度が小さいなどの共通性も見られるため,震源を特定せず策定する地震動の検討対象地震として選定した。そして,鳥取県西部地震の震源近傍の記録としては,震源断層のほぼ直上に位置し,かつ,硬い岩盤上に設置されたダムの基礎上(監査廊内)の観測記録である賀祥ダムの観測記録を選定した。なお,賀祥ダムの堰体基礎下の地盤のせん断波速度(1200~1300m/s)は,本件各原子炉施設の解放基盤表面のS波速度1350m/sと同等であるため,賀祥ダムの観測記録を本件各原子炉施設の解放基盤表面相当の地震動として扱い,これを震源を特定せず策定する地震動として策定した。また,
本件16地震のうちMw6.
5未満の14個の地震については,
これらの観測記録のうち本件敷地に大きな影響を与える可能性のある地震を抽出するため,加藤ほか(2004)による応答スペクトルとの比較,検討を実施し,かつ,ボーリング調査等による精度の高い地盤情報C
(せん断波速度,減衰,非線形特性など)が得られている○平成16年
北海道留萌支庁南部地震(以下留萌支庁南部地震という。)のK-NET港町観測点の観測記録を選定した。
そして,
同観測点においては,
佐藤浩章ほか物理探査・室内試験に基づく2004年留萌支庁南部の地震によるK-NET港町観測点(HKD020)の基盤地震動とサイト特性評価(以下佐藤ほか(2013)という。)の知見において,深さ-41mまでの地盤の物性値(せん断波速度など)や室内試験による深さ-6mまでの地盤の非線形特性(大きな揺れに伴うひずみの増加に応じたせん断波速度の低下や減衰の増加)に係る詳細なデータという精度の高い地盤データを基にはぎとり解析を実施し,深さ-41m(せん断波速度938m/s)での解放基盤波(585ガル)が推計されており,債務者は,この知見を基に,地盤の減衰定数のばらつき等を考慮し,解放基盤波(620ガル)を策定し,これを震源を特定せず策定する地震動として策定した。C
その上で,○留萌支庁南部地震のK-NET港町観測点のはぎとり解
析によって求めた地震動を基準地震動Ss-4
(最大加速度620ガル)

とし,○鳥取県西部地震の賀祥ダムの観測記録を基に策定した地震動を
基準地震動Ss-5(最大加速度531ガル)として策定した。
(前提事実⑺ウ,乙96,審尋の全趣旨)
(ウ)

基準地震動Ssの策定
前記(ア)及び(イ)のとおり,債務者は,敷地ごとに震源を特定して策定する地震動及び震源を特定せず策定する地震動の評価結果に基づき,基準地震動Ssとして,Ss-1(最大加速度540ガル),Ss-2(同268ガル),Ss-3(同524ガル),Ss-4(同620ガル)及びSs-5(同531ガル)を策定した。なお,本件敷地地盤において観測された既往最大の地震による揺れは,平成17年3月20日福岡県西方沖地震時における最大加速度85ガルである。また,債務者は,上記各基準地震動の年超過確率(基準地震動を超過する揺れに見舞われる確率)について,10-4ないし10-6(1万年ないし100万年に1回程度)であると評価している。
(乙96,99)

原子力規制委員会による基準地震動Ssの策定に関する新規制基準適合性の審査結果
原子力規制委員会は,債務者が行った地震動評価の内容について審査した結果,本件設置変更許可申請における基準地震動は,各種の不確かさを考慮して,最新の科学的・技術的知見を踏まえ,敷地及び敷地周辺の地質・地質構造,地盤構造並びに地震活動性等の地震学及び地震工学的見地から適切に策定されていることから,設置許可基準規則解釈別記2の規定に適合していることを確認したと判断した。その判断の具体的な内容は,以下のとおりである。(乙139)
(ア)

地下構造モデル
解放基盤表面の設定
原子力規制委員会は,債務者が設定している解放基盤表面は,必要な特性を有し,要求されるせん断波速度を持つ硬質地盤の表面に設定されていることから,設置許可基準規則解釈別記2の規定に適合していることを確認したと判断した。

敷地地盤の地下構造の評価
原子力規制委員会は,本件敷地及び敷地周辺の地下構造の評価に関して,債務者が行った調査の手法は,地質ガイド(敷地内及び敷地周辺の地質・地質構造調査に係る審査ガイド〔原管地発第1306191号〕。乙95)を踏まえているとともに,調査結果に基づき地下構造を水平成層かつ均質と評価し,一次元地下構造モデルを設定しており,当該地下構造モデルは地震波の伝播特性に与える影響を評価するに当たって適切なものであることから,設置許可基準規則解釈別記2の規定に適合していることを確認したと判断した。

(イ)

敷地ごとに震源を特定して策定する地震動
震源として考慮する活断層
原子力規制委員会は,審査の過程において,債務者が当初,⑰壱岐北東部に複数の断層が分布するが,震源として考慮する活断層ではないと評価していたため,
断層評価を再検討するように求め,
債務者が,
壱岐北東部に分布する断層群を一連の断層とし,震源として考慮する活断層として評価を見直したことも踏まえ,債務者が実施した震源として考慮する活断層の評価が,調査地域の地形・地質条件に応じて適切な手法,範囲及び密度で調査を実施した上で,その結果を総合的に評価し,
活断層の位置,
形状,
活動性等を明らかにしていることから,
設置許可基準規則解釈別記2の規定に適合していることを確認したと判断した。


検討用地震の選定
原子力規制委員会は,審査の過程において,債務者が当初,⑲対馬南西方沖断層群と㉑宇久島北西沖断層群の同時活動を考慮する必要はないと評価していたため,それぞれの断層の位置や走向・傾斜を踏まえ,検討用地震の選定に際しては,これらの断層が連動する場合を考慮して評価することを求め,債務者が,これらを反映して検討用地震の選定に係る評価を示したことも踏まえ,債務者が実施した検討用地震の選定に係る評価が,活断層の性質や地震発生状況を精査し,既往の研究成果等を総合的に検討することにより検討用地震を複数選定するとともに,評価に当たっては複数の活断層の連動も考慮していることから,設置許可基準規則別記2の規定に適合していることを確認したと判断した。

地震動評価
原子力規制委員会は,審査の過程において,①竹木場断層の震源特b
性パラメータのうち基本ケースの○傾斜角については,債務者が当初
90度に設定していたため,地質調査結果を考慮して検討するように求め,債務者が,断層露頭での傾斜角の傾向や近年日本で発生した大規模な地震のうち横ずれタイプの地震の震源メカニズム解を踏まえ,基本ケースの傾斜角を西傾斜80度に設定したこと(前記ウ(ア)b⒜)も踏まえ,債務者が実施した敷地ごとに震源を特定して策定する地震動の評価については,検討用地震ごとに,不確かさを考慮して,応答スペクトルに基づく地震動評価及び断層モデルを用いた手法による地震動評価に基づき策定していることから,設置許可基準規則別記2の規定に適合していることを確認したと判断した。
(ウ)

震源を特定せず策定する地震動
原子力規制委員会は,審査の過程において,本件16地震について観
測記録等を収集していなかったことから,これら全ての地震について観B
測記録等の分析,評価を実施することを求め,このうち○鳥取県西部地
震について,鳥取県西部地震震源域と本件各原子炉施設周辺地域との間に地質学的背景に大きな地域差が認められないことを指摘するとともに,C
○留萌支庁南部地震については,その地震観測記録について,既往の知見である微動探査等に基づく地盤モデルによるはぎとり解析のみならず,適切な地質調査データに基づく地盤モデルによるはぎとり解析等を求め,債務者が,鳥取県西部地震の観測記録を収集し,その地震動レベル及び地盤特性を評価し,震源近傍の観測記録を震源を特定せず策定する地震動として採用するとともに,留萌支庁南部地震については,佐藤ほか(2013)で推定された基盤地震動に不確かさを考慮した地震動を震源を特定せず策定する地震動として採用したことも踏まえ,債務者が実施した震源を特定せず策定する地震動の評価については,過去の内陸地殻内の地震について得られた震源近傍における観測記録を精査し,各種の不確かさ及び敷地の地盤物性を考慮して策定していることから,設置許可基準規則別記2の規定に適合していることを確認したと判断した。
(エ)

基準地震動の策定
原子力規制委員会は,債務者が,敷地ごとに震源を特定して策定する地震動及び震源を特定せず策定する地震動に関し,敷地の解放基盤表面における水平方向及び鉛直方向の地震動として基準地震動を策定していることから,設置許可基準規則別記2の規定に適合していることを確認した。


原子力規制委員会の判断の合理性

審査基準である新規制基準の内容の合理性
新規制基準では,基準地震動を策定するに当たり,最新の科学的,技術的知見を踏まえ,敷地及び敷地周辺の地質,地質構造,地盤構造並びに地震活動性等の地震学及び地震工学的見地から想定することが適切なものとすることを前提として,敷地ごとに震源を特定して策定する地震動と震源を特定せず策定する地震動の双方を考慮し,敷地ごとに震源を特定して策定する地震動については,敷地に大きな影響を与えると予想される検討用地震を複数選定し,
検討用地震ごとに,
不確かさを考慮して,
応答スペクトルに基づく地震動評価及び断層モデルを用いた手法による地震動評価に基づき策定することとされ,
震源を特定せず策定する地震動
については,震源と活断層を関連付けることが困難な過去の内陸地殻内地震について得られた震源近傍における観測記録を収集し,これらを基に敷地の地盤物性を加味した応答スペクトルを設定して策定することとされている(前記⑴イ参照)。このように,新規制基準は,複数の手法を併用して地震動を評価した上で,その結果を総合し,最も厳しい評価結果を基準地震動として採用することを想定しており,こうした基準地震動の策定の基本的な枠組みは,それ自体,合理的なものというべきである。
また,新規制基準では,設置許可基準規則解釈において,敷地ごとに震源を特定して策定する地震動について,検討用地震の選定や基準地震動の策定に当たって行う調査や評価は,最新の科学的・技術的知見を踏まえること(別記2第4条5項2号⑦)とされたり,震源を特定せず策定する地震動についても,その妥当性について,最新の科学的・技術的知見を踏まえて個別に確認すること(同項3号②)とされたりするなど,最新の科学的,技術的知見を踏まえて検討,評価を実施すべきであることが明確に要求されている。
さらに,新規制基準では,設置許可基準規則解釈において,不確かさの考慮についても,敷地ごとに震源を特定して策定する地震動については,基準地震動の策定過程に伴う各種の不確かさ(震源断層の長さ,地震発生層の上端深さ・下端深さ,断層傾斜角,アスペリティの位置・大きさ,応力降下量,破壊開始点等の不確かさ,並びにそれらに係る考え方及び解釈の違いによる不確かさ)については,敷地における地震動評価に大きな影響を与えると考えられる支配的なパラメータについて分析した上で,必要に応じて不確かさを組み合わせるなど適切な手法を用いて考慮すること(同項2号⑤)とされたり,
震源を特定せず策定する地震動につい
ては,地表に明瞭な痕跡を示さない震源断層に起因する震源近傍の地震動について,確率論的な評価等,各種の不確かさを考慮した評価を参考とすること(同項3号②)とされたりするなど,不確かさを考慮して評価すべきであることが明確に求められている。
なお,この基準地震動の策定の基本的な枠組み自体は,新耐震指針において既に採用されていたものであり(前記⑴ア(ア)b),新規制基準においてはこれを踏襲しているにすぎないものではあるものの,新耐震指針は,耐震安全性に係る安全審査指針類について,最新の知見等を反映し,より適切な指針類とするため,原子力安全委員会の下に置かれた専門部会及び分科会における4年10か月にわたる調査審議を経て,旧耐震指針を全面的に見直す内容として改訂されたものであるから(前記⑴ア(ア)c),それ自体,相応の科学的,技術的知見に基づいたものということができる。加えて,新規制基準の規定内容(前記⑴イ)からすれば,新規制基準における基準地震動の策定に係る規制は,新耐震指針において採用されていた基本的な枠組みを維持しつつ,新耐震指針と比較してより詳細な調査や確認を必要とするものとされており,この点からしても,新規制基準における基準地震動の策定の基本的な枠組みの合理性が裏付けられているというべきである。
以上検討したところによれば,
基準地震動に係る新規制基準の内容には,
相当の根拠,資料に基づき,合理性があることが疎明されたものというべきである。

調査審議及び判断の過程等における看過し難い過誤や欠落の不存在原子力規制委員会は,本件設置変更許可申請に対し,前記⑴ウ記載のとおり債務者が行った地震動評価が,設置許可基準規則解釈別記2の要求する内容に適合するか否かの審査を行い,債務者が本件設置変更許可申請において策定した基準地震動は,設置許可基準規則解釈別記2の規定に適合していることを確認したと判断したものである(前記⑴エ参照)。そして,原子力規制委員会は,原子力利用における安全の確保に関して専門的知識及び経験並びに高い識見を有する者である委員長及び委員4人をもって組織され,独立してその職権を行うとされ(前記1⑵参照),上記判断に至る過程においては,設置者(債務者)から多数回にわたるヒアリングを行うとともに,一般からの意見募集及びそこで提出された意見の検討を経て,新規制基準に適合しているとの判断を示したものであり(乙140,審尋の全趣旨),その調査審議及び判断過程に適正さを欠く部分があるとは認め難い。
かえって,
前記⑴エ記載のとおり,
原子力規制委員会は,
債務者に対し,
上記審査の過程において,敷地ごとに震源を特定して策定する地震動の評価について,震源として考慮する活断層の断層評価,検討用地震の選定の際に考慮すべき事情,地震動評価の際の震源モデルのパラメータの設定について再検討を求めるとともに,震源を特定せず策定する地震動の評価について,本件16地震の観測記録等の分析,評価を求めるとともB

に,○鳥取県西部地震や○留萌支庁南部地震の分析,評価の際に検討すべ
き事情を指摘するなどしたのであり,その調査審議は,厳格かつ詳細に行われたものと評価することができる。
以上によれば,原子力規制委員会における審査についても,厳格かつ適切に行われたものと評価するのが相当であり,債務者が行った基準地震動の策定について,新規制基準に適合するとした同委員会の調査審議及び判断の過程等に看過し難い過誤,欠落があるとは認められない。

まとめ
以上検討したところによれば,債務者は,①原子力規制委員会における調査審議に用いられた具体的審査基準の合理性並びに②当該基準の適合性に係る調査審議及び判断の過程等における看過し難い過誤や欠落の不存在を相当の根拠,資料に基づき疎明したものと認められる。


債権者らの主張について

地震モーメントの過小評価との主張について
債権者らは,
債務者が,
基準地震動の策定に当たり,
断層面積と地震モー
メントの関係式として,武村式を採用すべきであるのに,入倉・三宅式を採用しているため,地震モーメントを過小評価しており,その結果として基準地震動が過小となっている旨主張することから,以下では,債権者らの上記主張について,その根拠として指摘する事情を踏まえて検討する。(ア)

入倉・三宅式及び武村式が適用される場面について
新規制基準においては,設置許可基準規則4条3項所定の基準地震動について,敷地ごとに震源を特定して策定する地震動及び震源を特定せず策定する地震動について策定することとされ,敷地ごとに震源を特定して策定する地震動の策定に当たり,選定した検討用地震ごとに不確かさを考慮して,応答スペクトルに基づく地震動評価及び断層モデルを用いた手法による地震動評価を策定することが要求され,このうち断層モデルを用いた手法による地震動評価をするに当たっては,検討用地震ごとに,適切な手法を用いて震源特性パラメータを設定し,地震動評価を行うこととされている(前記⑴イ,設置許可基準規則解釈別記2第4条5項2号④ⅱ))。そして,地震動審査ガイドにおいては,上記震源特性パラメータについて,活断層調査結果等に基づき,地震本部レシピ等の最新の研究成果を考慮し設定されていることを確認することとされているところ(Ⅰ3.3.2②1)。別紙3参照),地震本部レシピ(甲75,乙62)においては,地震モーメント(Mo)を設定する際に,断層面積(S)と地震モーメントの関係式として,入倉・三宅式が採用されており,債務者も,Mw6.5相当(Mo≧7.5×1018〔Nm〕)以上の地震の地震モーメントMoについては,次の式で表される入倉・三宅式を用いて設定している(前記⑴ウ(ア)b⒜参照)。Mo=(S/4.24×1011)2×10-7
これに対し,Mw6.5を下回る地震の場合には,Somervilleほか(1999)により,地震モーメントと震源断層の面積の関係は,次の式で表される。
Mo=(S/2.23×1015)3/2×10-7
ただし,原理的には断層幅(W)が飽和しているかどうかでスケーリング則が変わるため,断層幅が飽和していない場合(内陸の活断層地震の断層幅は,地震規模が小さいときは,断層長さ(L)に比例する。
W=kL

for

L<Wmax)Somervilleほか
は,
(1

999)の経験式を用い,断層幅が飽和している場合(ある規模以上の地震[Mo≧7.5×1018〔Nm〕]では,断層幅は飽和して一定値となる。W=Wmaxfor

L≧W)は,入倉・三宅式を用いる方

が合理的であるとされる(甲75,乙62,63)。

他方で,武村式は,入倉・三宅式と同様に,過去の地震のデータを基に,断層パラメータ間(断層長さ又は断層面積と地震モーメント)の関係式を導き出しているものであり,具体的には,一定以上の地震モーメントの場合(Mo≧7.5×1018〔Nm〕)について,次の式で表されるものである(甲43,乙65)。
LogL(㎞)=1/2logMo(dyne・㎝)-11.82LogS(㎢)=1/2logMo(dyne・㎝)-10.71
(イ)

入倉・三宅式の合理性について


入倉・三宅(2001)の内容について


証拠(甲47,乙63,64)によれば,入倉・三宅(2001)における強震動予測の概要は,次のとおりであると認められる。
入倉・三宅(2001)は,従来の強震動予測が,起震断層の長
さや代表的変位量から地震マグニチュードを推定し,地震動に関するマグニチュードと距離との関係式(距離減衰式)から対象地域の最大加速度,最大速度,震度などを推定するものであったが,兵庫県南部地震,鳥取県西部地震等の震災の経験から,上記のような強震動予測のみでは種々の異なる構造物の被害やその分布を説明することが困難であることが明らかとなってきたとする。そして,強震動は,震源となる断層の性質と震源から観測点に至る地下構造により地域的に異なり,結果として構造物に対する破壊力の強い地震動が生じた地域で大きな被害が引き起こされることになり,様々な構造物に対する地震動の破壊力を一つの指標で表すのは困難であり,それぞれの構造物,施設の動的な耐震性を知るには,地震動の時刻歴波形又は応答スペクトルの評価が必要となり,そのためには,震源断層の破壊過程及び震源から対象地点までの地下構造による波動伝播特性に基づいた強震動の予測がされなければならないとする。その上で,強震動予測を行うには,地質・地形学的アプローチだけではなく,
地下にある断層の動きを知る必要があり,
そのためには,
地震記録や測地記録から断層運動を推定する地震学的アプローチとの連携が重要であり,活断層や地震活動の調査に基づく活断層ごとの地震危険度評価,
これまでの地震動記録のインバージョン解析
(逆
解析)に基づく震源のモデル化,地下構造調査や地震動観測によるグリーン関数(ある地点に入力された情報が伝播し,評価地点で確認される応答を求めるもの)の評価を総合して,各地の地震動推定が可能となるとする。
以上を前提として,入倉・三宅(2001)においては,強震動予測のための震源特性化の手続について,強震動予測のための震源モデルは,巨視的断層パラメータ,微視的断層パラメータ及びその他のパラメータにより,次のとおり,決定論的に与えられるとする。まず,巨視的断層パラメータとしては,活断層調査により同時に活動する可能性の高い断層セグメントの総和から断層長さが,地震発生の深さ限界から断層幅がそれぞれ推定され,長さと幅との積から断層面積が,
断層面積と地震モーメントとの経験的関係から地震モー
メントがそれぞれ推定され,断層の走向と傾斜角は,地質・地形・地理学的調査,更には反射法探査などから推定される。次に,微視的断層パラメータは,断層面上のすべり不均質性をモデル化するものであって,地震モーメントとアスペリティ面積の総和,最大アスペリティ面積,アスペリティ個数などに関する経験的関係から,アスペリティの面積及びそこでの応力降下量が与えられる。
そして,入倉・三宅(2001)は,上記の方法により予測された地震動は,これまでに得られている地震動の関係式や過去の大地震の被害分布などとの比較により,その有効性の検証がされる必要があるとするところ,その有効性については,兵庫県南部地震の震源モデル化及びそれに基づいた経験的グリーン関数法並びにハイブリッドグリーン関数法を用いて合成された強震動が観測記録とよく一致することで検証されている。


このように,入倉・三宅(2001)における震源特性化の手続
は,特定の活断層を想定した強震動の予測手法として,震源断層の破壊過程及び震源から対象地点までの地下構造による波動伝播特性に基づいた強震動の予測をするものであり,従来の地質・地形学的アプローチだけではなく,地下にある断層の動きを知るため,地震学的アプローチとの連携を図るものであって,現在の科学技術水準に照らして合理的なものということができ,
その有効性についても,
地震動の関係式や過去の大地震の被害分布などと比較して検証されているものである。

地震本部レシピ(甲75,乙62)について
地震本部は,地震防災対策特別措置法7条に基づき文部科学省に設置され,その下に,地震に関する観測,測量,調査又は研究を行う関係行政機関,大学等の調査結果等を収集し,整理し,及び分析し,並びにこれに基づき総合的な評価を行うため,関係行政機関の職員及び学識経験のある者を委員とする地震調査委員会が置かれている(同法10条)。
そして,地震本部レシピは,地震調査委員会において実施してきた強震動評価に関する検討結果から,強震動予測手法の構成要素となる震源特性,地下構造モデル,強震動計算,予測結果の検証の現状における手法や震源特性パラメータの設定に当たっての考え方について取りまとめたものであり,地震本部レシピにおいては,地震モーメントと断層面積との関係式について入倉・三宅式を用いることとされているところ,地震調査委員会は,地震本部レシピ策定以降に実際に発生した鳥取県西部地震及び福岡県西方沖地震等の各観測波形と,これらの地震の震源像を基に地震本部レシピを用いて行ったシミュレーション解析により得られる理論波形とを比較,検討した結果,整合的であることを確認している(乙61,96,審尋の全趣旨)のであるから,その内容の合理性が裏付けられているということができる。


地震動審査ガイドの内容について
原子力規制委員会は,発電用軽水型原子炉施設の設置許可段階の耐震設計方針に関わる審査において,審査官等が設置許可基準規則及び設置許可基準規則解釈の趣旨を十分踏まえ,基準地震動の妥当性を厳格に確認するために活用することを目的として,平成25年6月地震動審査ガイドを定めたものであり(甲50,乙59),断層モデルを用いた手法による地震動評価に関する専門家を含めた検討チーム(発電用軽水型原子炉施設の地震津波に関わる規制基準に関する検討チー・
ム。以下地震等基準検討チームという。)の検討を踏まえて策定
したものである。
そして,地震動審査ガイドにおいては,前記(ア)a記載のとおり,断層モデルを用いた手法による地震動評価の際の震源モデルの設定について,震源断層のパラメータは,活断層調査結果等に基づき,地震本部レシピ等の最新の研究成果を考慮し設定することを確認するものと定められており,地震本部レシピが,震源断層のパラメータの設定の確認方法の代表的な手法であるとして例示されている。

まとめ
以上のとおり,入倉・三宅(2001)における震源特性化の手続は,現在の科学技術水準に照らして合理的であり,その有効性についても検証されているのであるから,その内容を成す断層パラメータに関する経験式である入倉・三宅式にも相応の合理性があるということができる。そして,入倉・三宅式を採用した地震本部レシピは,専門家により構成される地震調査委員会において,平成12年以降に我が国において発生した地震に係る地震観測記録を精度良く再現できることが確認されているものであり,地震等基準検討チームも,その内容が最新の知見を反映するものとして,震源断層のパラメータの設定方法の代表的な手法であると評価しているのであるから,その内容は,現在の科学技術水準に照らして合理的なものであるというべきである。したがって,入倉・三宅式は,震源断層のパラメータを設定する際の地震本部レシピの一部を成すものとして,合理性を有するものということができる。
(ウ)

武村式の合理性の有無について
他方で,債権者らは,武村式が,世界的に見たばらつきの中で最も厳しい地震動を起こす位置にある日本国内で生じた地震のみのデータに基づくものであるから,そのことを反映し,日本国内の地域的特性を表しているものであるとして,武村式を採用すべきである旨主張する。


そこで検討すると,証拠(甲43,乙65,66)によれば,武村式2は,Mw6.5以上の10個の地震(◇明治24年濃尾地震,◇昭和42年北丹後地震,◇昭和18年鳥取地震,◇昭和23年福井地震,◇7昭和5年北伊豆地震,◇兵庫県南部地震,◇昭和14年男鹿地震,◇10昭和53年伊豆大島地震,◇昭和36年北濃尾地震,◇昭和20年三
河地震)のデータセットにより導き出したものであること,この10個の地震は,兵庫県南部地震(平成7年)を除き昭和53年以前に日本国内で発生した地震であったこと,我が国においては,兵庫県南部地震以降,強震観測網(K-NET,KiK-net等)が整備され,強震動記録を用いた震源インバージョン解析による断層面の不均質すべり分布の結果が数多く蓄積され,地下の震源断層の長さが把握できるようになったのに対し,それ以前の地震については,強震観測網が貧弱であり,
地震学的情報が必ずしも十分に取得することができなかっ
たため,地震直後の地表断層調査や測地学的な情報から震源パラメータを間接的に推定する場合が多く,断層長さについても多くの場合地表断層長さに近い不十分なデータしか取得できなかったことが認められる。
そして,入倉ほか(2014)
(乙66)によれば,上記武村式の基
とされた10個の地震について改めて震源インバージョン解析を行ったところ,
データが収集できた6個の地震のうち5個の地震において,
震源断層長さが,武村式において用いられた震源断層長さに比して大幅に長くなったという結果が得られたこと(残1個は同値。),その原因については,武村式において用いられた断層長さが,測地学データによっていたため,地下の震源断層の長さではなく,地表断層長さに近い不十分なデータであったことによるものと分析されていることが認められる。
そうすると,武村式のうち,断層長さと地震モーメントの関係式については,その基とされた地震の断層長さのデータが不十分なものであった以上,その関係式としての正確性は乏しいというべきである。c
加えて,証拠(甲43,乙65)によれば,武村式は,まず,断層長さと地震モーメントの関係式を求め,引き続き,断層幅の断層長さに対する関係について検討し,地震規模の大きな地震(Mo≧7.5×1018
〔Nm〕の場合,

地震発生層の厚さの制限を受けるものとして,
断層幅を固定数値である13㎞と定めているから,断層面積は,断層長さに依拠して算定されているということができる。
そうである以上,武村式のうち,断層面積と地震モーメントの関係式についても,上記b記載のとおり,断層長さのデータが不十分なものであった以上,その関係式としての正確性も乏しいというべきである。


前記a記載のとおり,債権者らは,武村式が,日本国内の地域的特性を表したものである旨主張する。
しかしながら,武村式は,古い地震データを基に,震源パラメータの関係式を導き出したものであるところ,前記bで検討したところによれば,経験式としての正確性は,その基にした地震データの分析結果の信頼性に依拠しているものというべきである。したがって,当該地震データの分析結果の信頼性の検証をせずに,当該地震データが日本国内において発生した地震であることのみを根拠として,武村式の経験式としての正確性が論証されているということはできない。
また,
日本国内において発生した地震であるとしても,その地震が有する地域的な特性は様々であると考えられるから,武村式が,日本国内の地域的特性を表すものとも直ちに認め難い。
加えて,前記b記載のとおり,入倉ほか(2014)において,武村式の基とされた10個の地震のうち6個の地震について,
震源インバー
ジョンの解析結果による震源断層長さは,入倉・三宅式のスケーリング則とよく一致する(乙66)とともに,後記e記載のとおり,他の日本国内における震源インバージョン結果とも調和的であることが確認されたことが認められるのであるから,
武村式の基とされた地震デー
タによっても,入倉・三宅式の経験式としての正確性が覆されることはないというべきである。
以上によれば,債権者らの上記主張を採用することはできない。

また,債権者らは,入倉・三宅式が,主に世界中の強震動を集めたデータに基づくものであるとして,
その正確性に乏しい旨を主張する。
しかしながら,証拠(乙66)によれば,入倉ほか(2014)において,平成7年以降に国内で発生した最新の18個の内陸地殻内地震2(□兵庫県南部地震,□岩手・宮城内陸地震,□平成19年能登半島5地震,□平成23年福島県浜通り地震,□新潟県中越沖地震,□鳥取8県西部地震,□福岡県西方沖地震〔3月20日〕,□平成16年新潟10県中越地震,□平成23年長野県北部地震,□平成15年宮城県北部12地震,□平成9年鹿児島県北西部地震〔3月〕,□平成9年鹿児島県14北西部地震〔5月〕,□平成23年静岡県東部地震,□平成10年岩16手県内陸北部地震,□平成9年山口県北部地震,□平成25年栃木県18北部地震,□平成25年淡路島地震,□福岡県西方沖地震〔3月22
日,最大余震〕)のうち,入倉・三宅式がその対象とするMw6.5以8上のもの(上記□~□の地震)に関する震源インバージョン結果も,
入倉・三宅式とよく一致することが確認されたことが認められ,このことからすれば,入倉・三宅式が,日本国内において発生する地震について適用することに差し支えないということができ,これに反する債権者らの上記主張を採用することはできない。

さらに,債権者らは,債務者が,津波の評価に当たっては,津波を起こす地震動の評価について武村式を適用しながら,耐震重要施設の安全性に係る基準地震動の評価に当たっては,
入倉・三宅式を適用し,
二重の基準を採用している旨主張するところ,債務者も,本件各原子炉施設に係る基準津波策定における海域活断層による津波評価で用いる地震モーメントについて,武村式を用いて評価していることは認めている(甲42)。
この点について,土木学会の原子力発電所の津波評価技術(乙
68)
においても,
海域活断層の想定される地震に伴う津波について,
活断層長さと地震モーメントとの関係について,武村式を用いることが示されているが,
これは,
内陸地殻内地震に起因する津波の観測デー
タが少なく,その検証が十分にされていないことから,津波評価においては,すべり量,すなわち海底面の変動が大きくなるように武村式を用いているものであると認められる(審尋の全趣旨)。
そうすると,津波評価においては,より安全側の評価をするため武村式が用いられているということができ,それが不合理であるということはできないし,その一方で,基準地震動の策定に当たって入倉・三宅式を用いることが科学技術水準に照らして合理性があることについては前記(イ)のとおりであって,津波評価において武村式が用いられているからといって,そのことから直ちに基準地震動の策定においても武村式を用いるべきであることにはならないというべきである。(エ)

震源インバージョンの合理性について
上記(ウ)に関し,債権者らは,熊本地震について,震源インバージョンによって求められた二つの断層データのすべり量分布の結果が異なっており,インバージョン解析により震源断層が画一的に推定されるというものでもないとして,震源インバージョンが信頼性を欠くものである旨主張する。
そこで検討すると,そもそも,震源インバージョンとは,地震観測記録を用いて,実際に起きた地震における地下の断層面の動きを把握する手法の一つであり,複数の観測地点で得られた地震観測記録に基づき断層面を仮定し,当該断層面の各地点において生ずるすべり量及びすべりの方向等の地下の震源の動きを逆解析
(インバージョン解析)
によって求め,それらの結果から震源断層を推定する方法である。そして,震源インバージョンについては,平成11年トルコ・Kocaeli地震(Mw7.4),同年台湾・Chi-Chi地震(Mw7.6)
とも整合することが確認されているほか,
前記(ウ)e記載のとおり,
国内の地震データとも整合的であることから,強震動記録を用いた震源インバージョンによる断層パラメータは,最も精度が高いといわれている。(乙63,66,102,審尋の全趣旨)
そして,熊本地震については,確かに,各研究機関において実施された震源インバージョンの結果をみると,断層(長さ,幅)の評価にばらつきが存在する(甲63,64)ものの,これらの解析は,熊本地震の発生からそれほど間もない時点において,
各研究機関が様々なデー
タを基に独自に実施したものであり,震源像に関する知見や見解がいまだ固まっていないことに原因があると考えられ,他方,余震分布に用いられるデータが統一化され(気象庁の一元化震源データ),地震の震源像に関する知見や見解が固まった後は,ばらつきが小さくなるものと予想され,熊本地震に係る初期の震源インバージョンの結果のみをもって,その手法の有効性を否定するのは相当でない。

また,債権者らは,入倉ほか(2014)において,入倉・三宅式がその対象とするMw6.
5以上の合計8個の地震に関する震源インバー
ジョン結果が入倉・三宅式と整合するのは,これらの地震について,最初に想定する断層面積を大きくとり,かつ,トリミングを行っていないからである旨主張する。
しかしながら,そもそも,震源インバージョンにおけるトリミングとは,震源断層面が破壊過程の説明のため実際の震源の破壊領域よりも大き目に設定された場合において,断層端部のすべり量が小さくなるため,
この領域を一定のルールに基づき除外すること
(具体的には,
断層端部の列又は行全体における要素断層当たりのすべり量が,断層全体の平均すべり量の0.3未満であれば除外する。)をいい,Somervilleほか(1999)により示された考え方である(甲65)。そして,入倉ほか(2014)においては,上記8個の地震を含む合計18個の日本国内で発生した地震について,Somervilleほか(1999)の規範に従い,震源インバージョン結果から震源パラメータを抽出したとされているのであるから(乙66),Somervilleほか(1999)におけるトリミングのルールに従い,適切な震源断層の設定がされたものと考えるのが相当である。債権者らが主張するように,入倉ほか(2014)が,最初に想定する断層面積を大きくとり,かつ,トリミングを行っていないことを裏付ける事情は見当たらない。


さらに,債権者らは,武村式の基とされた10個の地震データを震源インバージョンで評価し直しても,基本的には武村式の位置にとどまっているものというべきである旨主張する。
しかしながら,前記(ウ)b記載のとおり,武村式の基とされた10個の地震のうち6個の地震について,武村式において用いられた断層長さが,測地学データによっていたため,地下の震源断層の長さではなく,地表断層長さに近い不十分なデータであったと分析されているのであり,震源インバージョン結果による震源パラメータでは,多くの地震データについて,断層長さが大きくなり,断層面積をより大きく設定するのが相当とされているのであるから(乙66),債権者らの上記主張は採用できない。

したがって,債権者らの上記各主張をいずれも採用することはできない。


経験式のばらつきを考慮していないとの主張について
次に,債権者らは,経験式の基となった過去の地震動のデータと経験式により算出される平均像との間には,かい離(ばらつき)が生じ得るのであり,この点について,地震動審査ガイドにおいても,経験式を用いて地震規模を設定する場合には,経験式が有するばらつきも考慮する必要があるとされているのに,債務者が,基準地震動の策定に当たり,こうした経験式である入倉・三宅式の有するばらつきを考慮していない旨主張するので,これを検討する。
(ア)

経験式のばらつきの考慮の解釈について
地震動審査ガイドにおいては,敷地ごとに震源を特定して策定する地震動の策定における検討用地震の選定の際の震源特性パラメータの設定について,震源モデルの長さ又は面積,あるいは1回の活動による変位量と地震規模を関連づける経験式を用いて地震規模を設定する場合には,経験式の適用範囲が十分に検討されていることを確認する。その際,経験式は平均値としての地震規模を与えるものであることから,経験式が有するばらつきも考慮されている必要がある。(Ⅰ3.2.3
⑵)と記載されている。
この点について,当該経験式が適用範囲を定めている場合には,当該地域の地質調査結果や観測記録等から設定された震源モデルの長さ等が,当該経験式が想定する適用範囲から外れる場合もあり得る。
したがって,
経験式を用いる際には,当該経験式を当該地域の地質調査の結果等を踏まえて設定される震源断層に適用することが適当であるかの観点から,上記震源断層が当該経験式の適用範囲に含まれているかについて検討する必要があり,地震動審査ガイドにおいては,この点を踏まえて,

経験式の適用範囲が十分に検討されていることを確認する。

と定められていると解される。
また,経験式は,観測データ(データセット)を回帰分析して得られる(すなわち,最小二乗法を適用して求められる)ものであり,地震動評価に用いる経験式についても同様であって,こうした経験式とは,その基とされた各データのいわば平均像を示すものであるから,経験式とその基とされた各データとの間には,かい離が当然に存在するものであるが,これが,経験式の有するばらつきであると解される。そして,検討用地震の選定に当たって考慮される震源特性は,
一般的に地域によっ
て異なるため,当該地域の特性を考慮するのが合理的であると考えられる。そこで,経験式を用いる際には,上記のような当該地域の特性を考慮した上で,当該経験式を適用することの可否について検討すべきであり,こうした観点から,地震動審査ガイドにおいては,

経験式が有するばらつきも考慮されている必要がある。

と記載しているものと解される。
(イ)

本件各原子炉施設における入倉・三宅式の適用の可否の検討

地震本部レシピ(甲75,乙62)によれば,断層面積と地震モーメントの関係式として,入倉・三宅式は,地震モーメントが7.5×1018(Nm)(Mw6.5相当)以上の場合(震源断層の面積が大きい地震)に適用することとされているが,原理的には断層幅が飽和しているかどうかでスケーリング則が変わるため,断層幅が飽和している場合(前記ア(ア)a参照)に用いるのが合理的であるとし,この点にも配慮して,用いる式を選択すべきであるとされている。そして,本件各原子炉施設の基準地震動の策定に当たり検討用地震として選定した竹木場断層による地震及び城山南断層による地震は,いずれ
も断層幅が飽和している場合として想定されていると認められること(乙61,96,審尋の全趣旨)からすれば,債務者は,上記検討用地震が入倉・三宅式の適用範囲を満たしていることを確認したというべきである。


また,前記ア(イ)b記載のとおり,地震本部レシピによる特性化震源モデルと福岡県西方沖地震の観測記録との相関は良好であるところ,地震調査委員会は,福岡県西方沖地震の平成17年3月22日余震観測記録を地震本部レシピの特性化震源モデルに当てはめたところ,福岡県西方沖地震の本震観測記録をおおむね再現できることが確認されたことが認められ(乙61,96),このことからすれば,本件敷地周辺の地域的な特性に照らしても,入倉・三宅式を含む地震本部レシピを地震動評価に用いることの妥当性が確認されているということができる。

(ウ)

債権者らの主張について
債権者らは,入倉・三宅式が有するばらつきを考慮するためには,安
全性を最も重視し,測定点の範囲で地震モーメントが最も大きくなる地震動データをもって耐震安全基準とするように考慮すべきである旨主張する。
しかしながら,前記(ア)記載のとおり,経験式は,観測データ(データセット)を回帰分析して得られるものであって,債権者らが主張するように測定点の範囲で地震モーメントが最も大きくなる地震動データをもって耐震安全基準とすることは,こうしたデータセットの回帰分析により得られた経験式自体を事実上修正し,経験式がその基としたデータセットを回帰分析した結果を放棄しているのと同じこととなってしまうのであり,そうした基準により地震モーメントを算定することが,科学的合理性を有するものであると認めることができないのは明らかである。そして,前記(ア)で説示したとおり,地震動審査ガイドも,経験式が有するばらつきの考慮について,飽くまでも経験式の適用範囲を検討する際の留意事項として定めているにすぎず,経験式そのものを修正する趣旨で定めているわけではないというべきである。
以上のとおり,少なくとも,地震動審査ガイドの記載をもって,入倉・三宅式を適用すべきでないということにはならないのであって,債権者らの上記主張は,独自の見解にすぎないというべきである。
(エ)

補足的検討
なお,債権者らは,債務者が,地震動審査ガイドにおける不確かさの
考慮しかしておらず,経験式が有するばらつきの考慮をしていない旨主張するところ,この点について,債務者が,経験式が有するばらつきの考慮に係る債権者らの主張に対する反論として,地震動評価が安全側となるように多面的に考慮しているとする点は,検討用地震について地震動評価に用いる震源モデルを設定する際に,策定する基準地震動が過小とならないように,詳細な活断層調査等の結果及び観測記録に基づく分析により把握した地域的な特性を踏まえて,安全側に設定したことを主張するものと評価することができ,地震動審査ガイドが求める経験式を用いた地震規模を設定する際の経験式が有するばらつきの考慮の必要性とは別の側面から,地震動評価を安全側に行ったことを述べるにすぎないものというべきである。
他方,前記(イ)記載のとおり,債務者が本件各原子炉施設の基準地震動の策定に当たり入倉・三宅式を適用したことは,その適用範囲を充足していることが認められるのであるから,債務者が上記主張をしているかどうかにかかわらず,経験式が有するばらつきを考慮する必要がある旨の地震動審査ガイドの要請は満たされているとの前記(イ)の認定,判断は左右されないというべきである。

加速度が過小評価されているとの主張について
さらに,債権者らは,地震モーメントから短周期レベルを算定する際の経験式について,壇ほか(2001)の式は合理性を欠くものであり,片岡ほか(2006)の式を用いるべきであるのに,債務者がこれを用いていないため,本件各原子炉施設の基準地震動の策定に当たり,加速度が過小評価されている旨主張するので,これを検討する。
(ア)

壇ほか(2001)の式及び片岡ほか(2006)の式の合理性
証拠(甲75,乙62)によれば,地震本部レシピにおいては,短周期レベルの算出に当たっては,壇ほか(2001)による地震モーメントと短周期レベルの経験的関係(壇ほか(2001)の式のこと)を用いることとされているところ,前記ア(イ)b及びcで検討したとおり,地震本部レシピは,専門家により構成される地震調査委員会において,平成12年以降に我が国において発生した地震に係る地震観測記録を精度良く再現できることが確認されたものであり,地震等基準検討チームも,その内容が最新の知見を反映するものとして,震源断層のパラメータの設定方法の代表的な手法であると評価し,地震動審査ガイドにおいても,地震本部レシピが,震源断層のパラメータの設定の確認方法の代表的な手法であるとして例示されているのであるから,その内容は,現在の科学技術水準に照らして合理的なものであるというべきである。
したがって,壇ほか(2001)の式は,震源断層パラメータを設定する際の地震本部レシピの一部を成すものとして,合理性を有するということができる。

この点について,債権者らは,壇ほか(2001)の式が,短周期レベルについて,地震モーメントの1/3乗に比例するという形を仮定した上で残るパラメータを算出している点で適切でないのに対し,片岡ほか(2006)の式が,地震モーメントの1/3乗のスケーリング則を仮定せずに算出しているから相当である旨主張する。
しかしながら,地震本部レシピは,震源断層を特定した地震を想定した場合の強震動を高精度に予測するための誰がやっても同じ答えが得られる標準的な方法論を確立することを目指すものであり(甲75,乙62),震源特性パラメータの設定についても,想定した震源断層で発生する地震に対して,特性化震源モデルを構築するための基本的な方針を示し,強震動予測における震源断層パラメータの標準的な値の設定が,再現性をもってされることを目指したものであるとされていることに鑑みれば,その設定内容の合理性については,各震源特性の設定の際に用いられる個々の経験式の問題としてとらえるのではなく,
地震本部レシピ全体の問題として考慮するのが相当である。
そして,前記ア(イ)b記載のとおり,地震本部レシピの内容は,現在の科学技術水準に照らして合理的なものであるというべきである以上,その一部を成す壇ほか(2001)の式の経験式も,合理性を有するというべきである。


他方で,片岡ほか(2006)の式については,地震本部レシピと異なり,この経験式による地震動推定結果と観測記録とを照合し,その内容が整合することを確認するなどして,その合理性が科学的に裏付けられていることを認めるに足りる客観的な証拠が提出されていない以上,これを基準地震動の策定に当たり科学的な合理性を有する評価方法として取り込むだけの根拠に乏しいといわざるを得ない。

さらに,債権者らは,入倉ほか(2016)においても,Mw6.5より大きい地震の平均すべり量が,地震モーメントMoの1/2に比例して大きくなる傾向を示している旨の記載があることをもって,片岡ほか(2006)の式の合理性が裏付けられている旨指摘する。しかしながら,他方で,佐藤(2010)や佐藤・堤(2012)においては,断層タイプ(逆断層,横ずれ断層,正断層)別に短周期レベルが検討される際に,壇ほか(2001)の式が比較検証の対象として用いられている(乙81,82)のであるから,債権者らの上記指摘をもって,壇ほか(2001)の式の合理性が直ちに否定されるものということはできず,前記a及びbの認定,判断が左右されることはないというべきである。

(イ)

武村式を用いてもアスペリティの総面積が震源断層の総面積よりも大
きくなるという矛盾は生じない旨の債権者らの主張について
また,債権者らは,原子力規制庁が,大飯原発において,入倉・三宅式の代わりに武村式を用いて地震本部レシピにより地震動を試算すると,アスペリティの総面積が震源断層の総面積よりも大きくなるという矛盾が生ずるとの結果を示したこと(甲61,乙104)について,壇ほか(2001)の式の代わりに片岡ほか(2006)の式を用いると,上記のような矛盾が生ずることはない旨主張し,第1事件及び第2事件債権者Aの陳述書(甲79)にも,これに沿う記載が存在する。
しかしながら,前記ア(ウ)で検討したとおり,そもそも地震本部レシピのうち断層面積から地震モーメントを算出する際に武村式を用いることの科学的な合理性があるとは認め難い。また,断層面積から地震モーメントを算出する経験式として武村式を用いて,地震モーメントから短周期レベルを算出する経験式として片岡ほか(2006)の式を用いることにより,大飯原発において入倉・三宅式の代わりに武村式を用いて地震本部レシピにより地震動を試算する過程で,アスペリティの総面積が震源断層の総面積よりも大きくなるという矛盾を回避することができたとしても,そうした試算により行われた基準地震動の策定の過程が科学的な合理性を有することを裏付ける証拠がないのであるから,そのことをもって,片岡ほか(2006)の式を用いることの合理性が裏付けられているとは認め難い(そもそも,原子力規制庁は,大飯原発において入倉・三宅式の代わりに武村式を用いて地震本部レシピにより地震動を試算すること自体,無理があるものであり,原子力規制委員会として行うべき規制において要求又は推奨すべきアプローチとして位置付けるまでの科学的,技術的な熟度には至っていないとの結論に至っているものであり〔甲61,乙103,104〕,この立場を前提とすると,債権者らの上記主張は,その前提を欠くものというべきである。)。


争点⑴についてのまとめ
以上によれば,債務者が,原子力規制委員会における調査審議に用いられた具体的審査基準の合理性並びに当該基準の適合性に係る調査審議及び判断の過程等における看過し難い過誤や欠落の不存在を相当の根拠,資料に基づき疎明したということができ,かつ,債権者らの疎明を検討しても,債務者が策定した本件各原子炉施設の基準地震動が合理性を欠くため本件各原子炉施設の耐震安全性に欠けるところがあり,その運転に起因する放射線被ばくにより,債権者らの生命,身体に直接的かつ重大な被害が生ずる具体的な危険が存在するとは認められない。
したがって,争点⑴についての債権者らの主張は,採用できない。3
争点⑵(本件各原子炉施設の配管の安全性)について⑴

配管の健全性確保の取組について

疎明の責任の所在と債務者による疎明の必要性
本件各原子炉施設の配管の健全性については,原子炉等規制法43条の3の14を受けて定められた技術基準規則(本件改正前は,電気事業法48条1項を受けて定められた省令62号)に適合していることを確認することにより,配管の健全性を確認することとされている。具体的には,前記1⑵記載のとおり,原子炉等規制法においては,発電用原子炉施設の設置及び運転等について,本件改正の前後を問わず,いわゆる段階的な安全規制を行うことによって,原子炉の安全性の確保を図る仕組みが設けられているところ,この段階的な安全規制の中で,技術基準規則への適合については,工事計画認可(原子炉等規制法43条の3の9),使用前検査(同43条の3の11)及び施設定期検査(同43条の3の15)において確認することとされている。
そして,本件各原子炉施設の技術基準規則に適合していることに関する資料や科学的,専門技術的知見は,設置者である債務者が保持しているのが通常であるから,前記1で説示した内容を踏まえると,債務者が,本件各原子炉施設における配管の健全性確保の取組の状況及びその内容が欠陥の発生を防止し又は発生した欠陥の早期発見の観点から合理的であることについて相当の根拠,資料に基づき疎明することにより,本件各原子炉施設における配管の健全性が確保されており,配管の欠陥に起因して債権者らの生命,身体に直接的かつ重大な被害が生ずる具体的な危険が存在しないことを事実上推認させる必要がある。
他方,債務者が上記の疎明を尽くした場合には,本来的に疎明の責任を負う債権者らにおいて,本件各原子炉施設の配管に欠陥があり,これに起因して債権者らの生命,身体に直接的かつ重大な被害が生ずる具体的な危険があることを疎明しなければならないと解するのが相当である。イ
認定事実等
前提事実並びに証拠(掲記のもののほか,乙105,106)及び審尋の全趣旨によれば,本件各原子炉施設における配管の健全性確保の取組の状況に関する事実は,次のとおりである。
(ア)

設計及び施工時における配管の健全性確保
本件各原子炉施設で使用する配管の材料の選定については,内
包流体の種類,性質,圧力,温度,配管の使用環境等の条件を考慮し,ステンレス鋼や炭素鋼が使用されている。具体的には,1次冷却材等が循環する1次系配管については,耐食性に優れ劣化が生じにくいステンレス鋼を素材とするものが使用され,1次系配管以外の配管については,火力発電所等で多数の使用実績があり安全性が確立されている炭素鋼を素材とするものが多く使用されている。(乙28ないし30)


配管の設計に当たっては,内包流体の種類や性質,圧力,温度
及び配管の使用環境等の条件を考慮することはもとより,長年の火力発電所や原子力発電所における運転実績及び様々なトラブル実績を踏まえ,同様のトラブルが発生しないように定められた国の技術基準規則に適合するよう,配管の口径,厚さ及びルートが決定されている。具体的には,
①配管の口径については,
限界流速を踏まえて決定され,
②配管の板厚については,使用圧力や管の外径等から求めた計算結果を考慮の上決定され,③配管ルートについては,配管の内圧や自重,熱等により配管に加わる力を分析した結果(応力解析)等を考慮の上決定されている。
また,債務者は,本件各原子炉施設の設計に当たり,安全上重要な建物・構築物及び機器・配管系が基準地震動による地震力に対する耐震安全性を備えていることを確認している。
(乙13,26の3,29,107,108)

配管の据付けは,配管メーカーが厳格な品質管理の下に製造し
た配管について,日本機械学会の発電用原子力設備規格(2007年版)JSME溶接規格SNB1-2007等に従って厳格な
品質管理の下に行われ,配管の受入時や溶接等の各過程において,社内検査(材料検査,非破壊検査及び漏えい検査等)を実施した。
本件各原子炉施設の運転開始前に,
通商産業大臣から使用前検査
(漏
えい検査等)を受け,通商産業大臣から,電気事業法43条1項に基づき,使用前検査に合格したとされた(本件3号機については平成6年3月18日)。
(前提事実⑸ア(イ)・(ウ),乙41)

配管の腐食対策として,ステンレス鋼配管の内包流体について
は,腐食の原因となり得る溶存酸素濃度を5ppb以下と極めて低く制限するなどの処理をした1次冷却材を使用し,配管の損傷の一つとして知られている応力腐食割れが発生しないように設備を設置し,管理されている。また,炭素鋼配管の主な内包流体である2次冷却材については,これをアルカリ性に保つことによって,鉄と反応して腐食を発生させる酸の活動を抑え,応力腐食割れが生じにくいように設備を設置し,管理されている。

(イ)

運転開始後における配管の健全性確保
債務者は,本件各原子炉施設の運転開始後,配管を含めた設備につい
て,実用発電用原子炉の設置,運転等に関する規則等に基づき,点検,
補修,
取替及び改造といった保全を行っており,
保全に当たっては,
一般社団法人日本電気協会の原子力発電所の保守管理規程JEAC4209-2007に準拠して保全プログラムを策定し,保全を行っている。そして,債務者は,配管に発生し得る経年劣化事象(ひび割れ事象等)には,配管の材料と配管の内包流体等との組み合わせや,配管の構造(直管部,曲がり部,溶接部等)など,様々な原因が考えられるところ,主に設計によってその発生を防止できないもの(減肉事象等を原因とするもの)について,保全プログラムに基づく保全を行っている。a
保全重要度の設定及び保全計画の策定
債務者は,本件各原子炉施設の配管について,基本的にはほとんどの設備を対象とし,これらの保全を行うに当たり,設備の安全上の重要度に応じて,設備ごとに保全重要度として高又は低の二つ
に分類し,この保全重要度に応じて,系統(化学体積制御設備系統など)ごとに保全方式を決定し,これにより保全を実施している。
配管の保全に当たっては,供用期間中において,ひび割れの有無の確認を含めてその健全性を確認するとともに,設計で防止できない配管の主な経年劣化事象である減肉事象を管理する必要がある。健
全性の確認については,日本機械学会の発電用原子力設備規格持規格(2008年版)JSMES維NA1-2008(乙35,

42。以下維持規格という。)が,減肉事象については,日本
機械学会の
加圧水型原子力発電所配管減肉管理に関する技術規格(2006年版)JSMESNG1-2006(乙16。以下減肉管理規格という。)がそれぞれ定められており,技術基準規則解釈等においても,維持規格及び減肉管理規格を用いて配管の保全を行うように記載されているため,債務者は,これらの規格に準拠して配管の保全計画を策定している。


維持規格に基づく保全計画の策定
維持規格では,原子力発電所の安全上重要な設備(設備を構成す
る配管を含む。)について,その重要度に応じてクラス1から3に分類し(前提事実⑺イ(オ),別紙2参照),クラスごとに,各種機器類の維持のための点検方法や,欠陥評価,補修等に関する事項が記載されており,本件各原子炉施設においては,維持規格に基づき,配管の点検計画が定められている。
点検箇所については,これまでの火力発電所及び原子力発電所の
運転経験において,ひび割れ事象の多くが配管の溶接継手又はその近傍で発生していることから,別紙2(表3)記載のとおり,いずれのクラスの配管についても,原則として,点検可能な溶接継手部及びその近傍の母材部が点検箇所とされている。
また,点検方法に関しては,別紙2(表3)記載のとおり,クラス1配管及びクラス2配管については,超音波探傷試験又は浸透探傷試験若しくはその両方を行うこととし,クラス3配管については,目視試験を行うこととされているところ,債務者は,保全計画に従い,余剰抽出配管のうち,クラス1に区分される余剰抽出配管の溶接部については浸透探傷検査を,溶接部以外の耐圧部分(圧力保持範囲)については漏えい検査をそれぞれ実施してきた。
さらに,点検頻度については,超音波探傷試験,浸透探傷試験及
び目視試験のいずれも,供用開始後の運転期間を10年間ごとに分割し,10年間を一つの検査間隔(1サイクル)として設定し,10年目までにそれぞれの試験で実施すべき全ての検査(試験程度)を行うこととされている。試験程度については,別紙2(表3)記載のとおり,クラスごとに定められ,クラス1配管の超音波探傷試験及び浸透探傷試験については,設備の重要度,構造健全性が損なわれる可能性及び構造健全性が損なわれた時の発電所への影響度を考慮し,全体の25%(一部7.5%)に相当する部分を10年間で検査し,クラス2配管の超音波探傷試験及び浸透探傷試験については,クラス1配管の試験程度の30%である全体の7.5%に相当する部分を10年間で検査し,クラス3配管の目視試験については,クラス2配管と同じく全体の7.5%に相当する部分を10年間で検査することとされている。この検査対象箇所については,経年劣化事象の顕在化が懸念される同一部位に対して繰り返し検査を行う定点サンプリング方式が採用されている。
併せて,1次冷却系統等の耐圧部を構成する設備(設備を構成す
る配管を含む。)に対し,漏えい試験が行われており,クラス1配管については定期検査ごとに,クラス2及び3配管については,各検査間隔中に1回(10年に1回)行われている。
債務者は,点検箇所ごとの点検方法及び点検頻度について,10
年を基本とする供用期間中検査10年計画表を作成し,この表
により検査管理を行っている。


減肉管理規格に基づく保全計画の策定
本件各原子炉施設においては,減肉管理規格に基づき,液体によ
る配管壁面に対する腐食である流れ加速型腐食及び液体中で飛
散する水滴の衝突による配管壁面に対する損傷である液滴衝撃エロージョンによる配管減肉事象について,これらの事象が発生する可能性のある配管(系統)を対象として,試験計画に基づき配管の肉厚測定を行い,その評価結果に基づき必要に応じて配管の
取替え等が実施されている。
流れ加速型腐食については,ステンレス鋼等配管の減肉事象
が炭素鋼配管のそれと比べて極めて小さいことから,炭素鋼配管のみが試験対象とされている。試験対象部位については,選定された試験対象系統において,偏流が発生するオリフィス(配管〔内径〕を絞り流量を測定するため,配管の途中等に取り付けるドーナツ状の板)やエルボ(L字型の曲がり部)等の部位や機器の出口管が選定されている。
また,液滴衝撃エロージョンについては,炭素鋼配管に限ら
ず,ステンレス鋼等配管においてもその発生が知られていることから,材料にかかわらず試験対象配管が選定されている。試験対象系統については,負圧機器に接続され,連続的に高速二層流が流れる系統において液滴衝撃エロージョンが発生する可能性があるこ
とから,
負圧機器である復水器や第1給水加熱器,
第2給水加熱器,
低圧ドレンタンクに接続され,連続的に高速二層流が流れる系統が対象とされている。試験対象部位としては,負圧機器に接続され,常時流れがある系統についてはオリフィスや制御弁下流側など急激に減圧され,フラッシングが発生する部位の下流管及びその下流で高速流れが発生する範囲のうち,液滴の衝突により比較的損傷しやすいエルボ,曲がり管等が対象とされている。
債務者は,こうした流れ加速型腐食及び液滴衝撃エロージョンに係る配管減肉管理のため,保全プログラムに基づき,配管肉厚管理中期計画表を定め,定期検査時における肉厚測定結果に基づき,配管減肉の進み具合(減肉率)の評価を行い,配管の余寿命(必要な肉厚を下回るまでの期間)を踏まえ,配管の取替えなどの管理をしている。

配管の点検結果
債務者は,
本件各原子炉施設におけるこれまでの定期検査において,
上記aの保全計画に従い,各箇所について浸透探傷試験及び漏えい試験等を実施してきたが,これまで,配管に関し,ひび割れ等は発見されておらず,また,配管の肉厚測定において,配管の減肉事象は発生しているものの,適切に配管の取替えを行うことで,技術基準規則が要求する肉厚を下回るような配管はなく,配管に係る事故が発生した事実はない。

国による確認
債務者は,原子力規制委員会(従前は経済産業大臣)が,技術基準規則(従前は省令62号)に適合しているか否かを確認するための原子炉等規制法の定める施設定期検査(従前は定期検査)を受けなければならないところ,直近では,本件3号機については,平成21年8月30日から同年12月2日までの間に第12回定期検査が行われ,本件4号機については,平成22年9月4日から同年11月26日までの間に第10回定期検査が行われ,それぞれ経済産業大臣により省令62号の規定に適合していることが確認され,現在,本件3号機については第13回定期検査が,本件4号機については第11回定期検査が,それぞれ実施中である。(乙53,57,79,112,116,119)

(ウ)

2号機配管ひび割れ事象の発生等
ひび割れの内容
前提事実⑹記載のとおり,2号機配管ひび割れ事象は,債務者が,平成18年11月14日から実施した定期検査として配管の超音波探傷検査を実施したところ,平成19年1月16日,余剰抽出配管に欠陥を示す有意な信号指示が認められたことから,当該配管について詳細調査をした結果,これが配管内面に発生したひび割れであることが判明したものである。
当該配管は,内径約4.3㎝の小口径管である余剰抽出配管であるところ,配管肉厚8.7㎜(必要最小厚さ5㎜〔当時。現在は4.3㎜。〕)に対し,ひび割れ長さが約90㎜,ひび割れ深さが最大で約8.1㎜とされている。
(甲28の2,審尋の全趣旨)

ひび割れ事象の原因
2号機配管ひび割れ事象は,本件L字部分にキャビティフローの先端部が存在し,蒸気発生器の取替え前の短周期かつ大きな温度変動の条件下で,原子炉の運転に伴い発生する局部的な温度変動による繰り返し応力が疲労限を超え,疲労亀裂が発生し,進展したことを原因とするものである(キャビティフロー型熱成層による高サイクル熱疲労割れ)。(甲28の2〔4枚目〕)


ひび割れ事象の発生が判明するに至った経緯


平成11年7月他社において高サイクル熱疲労を主な原因として
発生した再生熱交換器連絡配管の損傷を契機に,同年11月には,定期検査の充実(超音波探傷検査の充実)が図られた。
これを受けて,債務者は,平成12年,定期検査期間中に,熱成

層化による熱疲労が生ずる可能性のある配管について温度測定をしたところ,玄海2号機の1次系余剰抽出管のL字状に曲がった部分(本件L字部分)に渦の先端ができ,熱成層化による熱疲労が発生する可能性のあることが判明したことから,
本件L字部分について,
非破壊試験の一種である超音波探傷試験を行ったが,欠陥を示す有意な指示は出なかった。


債務者は,平成13年,蒸気発生器を取り替え,1次冷却材管内
を流れる1次冷却材の状況が変化する可能性があったため,本件L字部分の温度測定をしたところ,蒸気発生器の取替え後の1次冷却材の状態であっても,本件L字部分に渦の先端があることを確認した。
債務者は,蒸気発生器の取替え前後においても本件L字部分の温
度変化に変化がないものと考え,蒸気発生器の取替え後の温度測定データを用いて本件L字部分に関して熱成層化による熱疲労が発生するか否かの評価(以下疲労評価という。)を行ったところ,当
該データを前提にすると熱疲労が発生するおそれはなかった。


債務者は,平成15年12月,原子力安全・保安院から,至近の
定期検査期間中に,高サイクル熱疲労が発生する可能性の高い部位について検査を行うように指示が出されたこと
(甲33)
を受けて,
定期検査期間中において,上記指示に該当する箇所の検査を実施した(ただし,本件L字部分は,高温の流体と低温の流体とが合流する部分ではないため,上記指示に該当する箇所ではない。)。



省令62号6条は,平成17年経済産業省令第68号による改正
前においては,燃料体,減速材及び反射材並びにこれらを支持する構造物,熱しゃへい材並びに一次冷却系統に係る施設に属する容器,管,ポンプ及び弁は,一次冷却材又は二次冷却材の循環,沸とう等により生ずる振動により損傷を受けないように施設しなければならない。と規定していたが,上記改正により,燃料体及び反射材並びにこれらを支持する構造物,熱遮へい材並びに一次冷却系統に係る施設に属する容器,管,ポンプ及び弁は,一次冷却材若しくは二次冷却材の循環,沸騰等により生ずる流体振動又は温度差のある流体の混合等により生ずる温度変動により損傷を受けないように施設しなければならない。と規定され(平成18年1月1日施行)配管は,

温度差のある流体の混合等により生ずる温度変動
による損傷を受けないように施設しなければならないこととされた。債務者は,
この改正に伴う原子力安全保安院の指示文書を受けて,

同年,本件L字部分について,前記⒝の時と同様に蒸気発生器の取替え後の温度測定データを用いて再度疲労評価を行い,問題がないことを再確認した。


債務者は,平成18年11月から実施した定期検査期間中に,本
件L字部分について,非破壊試験の一種である超音波探傷試験を実施したところ,2号機配管ひび割れ事象を発見した(前記a)。
債務者は,蒸気発生器の取替え前後の本件L字部分の温度変化が

ほぼ同一であると考えていた(前記⒝)が,改めて温度測定データを調査したところ,蒸気発生器の取替え前は,取替え後と比べて,本件L字部分の温度変化が大きく,かつ,短い周期で発生していたことが判明した。そして,本件L字部分について,蒸気発生器の取替え前の温度測定データを用いて再度疲労評価を実施したところ,前記⒝及び⒟の評価結果と異なり,本件L字部分に熱疲労が発生するおそれがあることが判明した。
上記疲労評価によれば,2号機配管ひび割れ事象は,前記⒜の平
成12年の超音波探傷検査の時点では既に存在していたと推定されたところ,当時債務者が使用していた検査機器の性能では,2号機配管ひび割れ事象を発見することができなかった可能性が高いが,超音波探傷検査技術の改善が行われた平成13年以降の方法では,検出が可能となっていた。しかし,債務者は,前記⒝のとおり,蒸気発生器の取替え後の温度測定データを用いて疲労評価を行い,問題がないと判断したことから,超音波探傷検査を実施していなかった。(甲28の1〔4枚目〕)


以上のとおり,債務者は,平成13年の蒸気発生器の取替えによ
り,本件L字部分の温度変化が大きく,かつ,短い周期で発生していたにもかかわらず,その取替えの前後において本件L字部分の温度変化に変化がないとの誤った判断をしたため,蒸気発生器の取替え後の温度測定データを用いて疲労評価を行い,熱疲労が発生するおそれはなかったと判断したものであり,蒸気発生器の取替えの影響を適切に考慮し,蒸気発生器の取替え前の温度測定データを用いて疲労評価を行っていれば,その時点で熱疲労が発生するおそれがあると判断することができた。
債務者は,この事実を踏まえ,平成19年2月,このような機器
の取替え等の影響が考えられる場合には,データの妥当性を評価した上で,適切なデータを用いて評価を行うこととするように社内のマニュアルを改正した。
また,原子力安全・保安院も,同月,各電力会社等に対し,熱疲
労の評価を行う際には,現状の運転状況だけではなく,過去に当該部位の上流又は下流で改造工事が行われている場合には,改造前の運転状況による影響を適切に考慮するように指示を出した(甲28の2〔8枚目〕)。

対策


玄海2号機について,債務者は,平成19年2月2日及び同月1
6日,経済産業大臣に対し,2号機配管ひび割れ事象について報告するとともに,キャビティフローの先端が本件L字部分より下流側の水平部に位置するように,1次系余剰抽出配管のルートを変更することにより,局所的な温度変動が生じず,キャビティフロー型熱成層による高サイクル熱疲労割れが発生しないよう設計変更を行い,その後,余剰抽出ラインの配管取替工事を行うため,電気事業法47条1項の規定により,工事計画の認可の申請をし,同年3月12日,同申請について工事計画の認可を受け,また,同月19日,経済産業大臣に対し,同法49条1項の規定により,使用前検査の申請をし,同年4月19日,同検査について合格し,ひび割れが生じた配管を新しいものに取り替えた。(甲28,乙76,77,105,122ないし126)


他方,債務者は,本件各原子炉施設においても,超音波探傷検査
を実施して異常のないことを確認した(本件3号機については平成18年12月17日~平成19年4月11日の第10回定期検査)後,上記⒜と同様に,余剰抽出ラインの配管取替工事として,設備の信頼性の維持,向上を図るための熱疲労評価指針を基とした配管ルートへの設計変更を行うこととし,本件3号機については,工事計画の届出をした上で,平成20年5月2日から同年7月31日までの間に行われた第11回定期検査期間中に,本件4号機については,工事計画の届出をした上で,同年1月5日から同年4月16日までの間に行われた第8回定期検査期間中に,いずれも上記配管の取替え工事及び設計変更が行われた。
(乙32,52,55,56,
71の2,73,117,118)


判断
(ア)

前記⑴ア記載のとおり,
本件各原子炉施設の配管の健全性については,

原子炉等規制法43条の3の14を受けて定められた技術基準規則(本件改正前は,電気事業法48条1項を受けて定められた省令62号)に適合していることを確認することにより,配管の健全性を確認することとされているところ,技術基準規則18条1項は,使用中のクラス1機器には,その破壊を引き起こす亀裂その他の欠陥があってはならないと定めている。
そこで検討するに,前記イ(ア)(イ)記載のとおり,債務者は,本件各原子炉施設について,配管の材料選定,配管の設計及び施工,配管の腐食対策について,いずれも配管が破断しないように防止策を講じており,これにより配管の健全性を確保しているということができ,工事計画の認可及び使用前検査により,省令62号の規定に適合していることが確認されるとともに,運転開始後においては,主に設計によって発生を防止できないものについて保全プログラムを策定した保全を行うこととし,配管の保全重要度に応じた保全方式を決定し,
健全性の維持については,
維持規格に基づく保全計画を策定し,減肉事象については,減肉管理規格に基づく保全計画を策定し,これに従い,保守点検を適切に行っているということができる。
以上によれば,債務者は,本件各原子炉施設における配管の健全性確保に適切に取り組んでおり,その内容も,欠陥発生の防止及び欠陥の早期発見の観点から合理性を有するものであったといえる。
(イ)

この点について,債権者らは,玄海2号機において2号機配管ひび割
れ事象が発生したことからすれば,
債務者の現在の定期検査の態勢では,
配管の内部から進展する損傷が発生した場合,これを検知することができないから,技術基準規則に適合しない箇所が存在し,かつ,検査により確認されないまま放置されている可能性があり,技術基準規則18条1項に違反している旨主張する。
確かに,2号機配管ひび割れ事象は,配管肉厚8.7㎜(必要最小厚さ5㎜〔当時〕)のクラス1管である余剰抽出配管につき,最大で約8.1㎜の深さのひび割れが生じており,当該抽出配管の破壊を引き起こす亀裂が存在していたものであるから,当時の省令62号9条の2の定める技術基準を満たさないものであったということができる
(乙105
〔41,
42頁〕)。
しかも,前記イ(ウ)記載のとおり,2号機配管ひび割れ事象は,平成13年の蒸気発生器の取替え前の本件L字部分の温度変化が大きく,かつ,
短い周期で発生していたことによるキャビティフロー型熱成層による高サイクル熱疲労により発生したものであるから,平成12年の時点で生じていたものと推認されるところ,債務者は,同年に行った超音波探傷試験の時点では,当時使用した検査機器の性能では,2号機配管ひび割れ事象を発見することができなかった可能性が高いものの,平成13年の時点では,これを発見することができるようになっていた。しかしながら,債務者は,蒸気発生器の取替え前後において,本件L字部分の温度変化に変化がないとの誤った判断をしたため,蒸気発生器の取替え後の温度測定データを用いて疲労評価を行い,熱疲労が発生するおそれはなかったと判断したものであり,蒸気発生器の取替えの影響を適切に考慮し,蒸気発生器の取替え前の温度測定データを用いて疲労評価を行っていれば,その時点で熱疲労が発生するおそれがあると判断することができ,これを受けて超音波探傷試験を実施すれば,2号機配管ひび割れ事象を発見することができたと考えられる。したがって,債務者が,同年の時点で発見することができたはずの事象を平成19年に至るまで発見が遅れたことには,問題があるといわざるを得ない。
債務者は,2号機配管ひび割れ事象においてひび割れが生じた本件L字部分が,余剰抽出配管のうち溶接部以外の耐圧部分であり,供用期間中検査10年計画表では漏えい検査のみの対象としていたが,平成18年11月からの定期検査において,他社の事故事例を踏まえて超音波探傷検査を実施したところ,2号機配管ひび割れ事象を発見したものである(乙105〔27頁〕)。そして,債務者は,点検箇所については,これまでの火力発電所及び原子力発電所の運転経験において,ひび割れ事象の多くが配管の溶接継手又はその近傍で発生していることから,いずれのクラスの配管についても,原則として,点検可能な溶接継手部及びその近傍の母材部を点検箇所としていたものであり(前記⑴イ(イ)a⒜参照),保全計画において本件L字部分を漏えい検査のみの対象としていたことが,それ自体,不合理であったということはできないし,その上で,保全計画の内容を超えて超音波探傷検査を実施したことにより,2号機配管ひび割れ事象を発見したのであるから,そうした2号機配管ひび割れ事象の判明の経過に鑑みれば,債務者の保守点検の体制に,重大事故を招きかねない重大な不備があったとまでは認めることができない。
そして,
債務者は,
2号機配管ひび割れ事象の発生を踏まえた原子力・
保安検査院の指示を受けて,本件各原子炉施設について,余剰抽出ラインの配管取替工事として,熱疲労評価指針を基とした配管ルートへの設計変更を行い,
2号機配管ひび割れ事象の原因となったキャビティフロー
型熱成層による高サイクル熱疲労について,必要な対策を講じたのであるから,現時点においては同様の事象が生ずるおそれがあるとは認め難い。
(ウ)

また,債権者らは,技術基準規則19条は,1次冷却系統に係る施設
に属する管は,損傷を受けないように施設しなければならないと定めているところ,同条(省令62号6条)は,運転開始後に従前知られていなかった原因により損傷が発生した事象にも適用される旨主張するが,技術基準規則解釈(乙128)によれば,技術基準規則19条は,配管の高サイクル疲労への対処として,日本機械学会の設計・建設規格(JSME

NC1-2005)に規定する手法などを適用す

ること,また,配管の高サイクル熱疲労への対処として,日本機械学会の熱疲労評価指針(乙70)に規定する手法を適用して損傷の発生防止措置を講じること,一次冷却材が循環する施設として,原子炉冷却材浄化系,残留熱除去系及び化学体積制御系,余熱除去系を含めて措置を講じることなどを求めているところ,
いずれも設計,
施工段階の問題であっ
て,その後の運転段階に関する規定ではないと解するのが相当である。よって,債権者らの同条に関する上記主張は理由がない。
(エ)

そうすると,
債務者が本件各原子炉施設の配管について保全計画に従っ
た保守点検を行っており,その内容が欠陥発生の防止及び欠陥の早期発見の観点から合理的であることについて疎明があったというべきである。⑵

重大事故対策について

疎明の責任の所在と債務者による疎明の必要性
前記⑴で検討したところによれば,本件各原子炉施設の配管について破断等が生ずる具体的な危険は認められないものの,債権者らは,2号機配管ひび割れ事象を踏まえ,
配管が破断に至って1次冷却材流出事故が生じ,
補助給水系統のいずれの配管も地震動により破損した場合,炉心溶融に至る可能性が高くなり,
これにより原子炉容器及び原子炉格納容器が破損し,
更には水素の爆轟が生ずるという重大事故につながるおそれがある旨主張していることから,以下では,仮に,本件各原子炉施設の配管の破断等が生じた場合に,それが債権者らの主張するような重大事故につながるおそれがあるか否かを検討する。
なお,本件各原子炉施設の重大事故対策に関する資料や科学的,専門技術的知見は,設置者である債務者が保持しているのが通常であるから,前記1で説示した内容を踏まえると,債務者が,本件各原子炉施設における重大事故対策の内容及びその合理性について相当の根拠,資料に基づき疎明することが必要である。


本件各原子炉施設における重大事故対策
証拠(掲記のもののほか,乙46,105,106)及び審尋の全趣旨によれば,債務者の本件各原子炉施設における1次系配管の破断時等の安全性の確保に向けた取組について,次のとおり認められる。
(ア)

原子炉の停止
本件各原子炉施設においては,仮に,1次系配管に生じたひび割れが
当該発生部を貫通し,1次冷却材の漏えいが生じたとしても,原子炉格納容器モニタの数値上昇や凝縮液量測定装置の凝縮液量の増加,格納容器サンプ水位の上昇率増加等によって漏えいを早期に検知することができ,これにより,1次系配管の破断に至る前に原子炉の停止等の対応をとることができるようにされている。
(イ)

原子炉の冷却
また,本件各原子炉施設においては,仮に,本件L字部分に該当する
箇所が破断し,1次冷却材が流出するような事故に至ったとしても,以下のとおり,原子炉を緊急に停止させ,非常用炉心冷却設備及び補助給水設備により,
原子炉を安全に冷却することができるようにされている。

原子炉の緊急停止
本件各原子炉施設において,1次系配管の破断等により原子炉格納容器内に1次冷却材が漏えいした場合,検出器が1次冷却材の流量等の異常を検知し,中央制御室へ警報が発せられ,併せて,燃料や原子炉容器等の損傷を防止するため,検出器があらかじめ定める許容値を超える異常を検知した時点で,原子炉トリップ信号により,制御
棒が急速に挿入され,原子炉が自動的に緊急停止する。


非常用炉心冷却設備等の作動


非常用炉心冷却設備の作動
本件各原子炉施設において,検出器が1次冷却材圧力の著しい低
下や原子炉格納容器圧力の上昇等の異常を検知した際には,1次系配管の破断等による燃料や原子炉容器等が損傷するおそれを防ぐため,高圧注入系,低圧注入系,蓄圧注入系の3つの注水系統から成る非常用炉心冷却設備が自動的に作動し,原子炉内へのほう酸水の注水を開始することとされている。
高圧注入系は,高圧注入ポンプにより,燃料取替用水タンク(本
件3号機)又は燃料取替用水ピット(本件4号機。以下,併せて燃料取替用水タンク等という。)に貯蔵されているほう酸水を原子炉内に注水する系統であり,1台で炉心の損傷を防止するのに十分な量のほう酸水を原子炉容器内に注水できる容量のポンプを2台分離して設置し,ポンプの電動機は各々独立した非常用母線に接続しており,外部電源が喪失した場合でも,非常用ディーゼル発電機から受電でき,燃料取替用水タンク等内の水量が減少した場合には,水源を格納容器再循環サンプに切り替え,原子炉格納容器の底にたまった水を再循環して注水することができる。
低圧注入系は,高圧注入系と同様,1台で炉心の損傷を防止する
のに十分な量のほう酸水を原子炉容器内に注水できる容量の余熱除去ポンプを2台備え,高圧注入ポンプによる注水等により原子炉容器内の圧力が一定程度低下した際,燃料取替用水タンクに貯蔵したほう酸水を原子炉内に注水する系統であり,非常用ディーゼル発電機の利用や,格納容器再循環サンプからの給水の利用もできる。
蓄圧注入系は,ほう酸水を蓄え,窒素ガスで加圧されたタンクと
1次冷却設備とを配管で接続した装置である蓄圧タンク(4基)であり,1次冷却材の圧力が一定程度低下した場合に,外部駆動源を必要とせず,逆止弁の自動開放によってほう酸水を原子炉内に自動的に注水する。


原子炉格納容器スプレイ設備の作動
本件各原子炉施設においては,検出器が1次系配管の破断等によ
る原子炉格納容器内の圧力上昇等の異常を検知した際,2台の格納容器スプレイポンプ及びスプレイリング等で構成され,燃料取替用水タンク内のほう酸水に苛性ソーダを混ぜた冷却水を原子炉格納容器内に噴霧する原子炉格納容器スプレイ設備が自動的に作動する。原子炉格納容器スプレイ設備は,①1次系配管が破断し,高圧かつ高温の1次冷却材が蒸気の状態で原子炉格納容器内に充満した場合,原子炉格納容器内の圧力,温度が上昇し,原子炉格納容器が破損するおそれがあるため,スプレイリングから冷却水を原子炉格納容器内に噴霧することにより,蒸気を凝縮して水に変えて体積を減少させ,原子炉格納容器内の圧力,温度を低下させるとともに,②冷却水に苛性ソーダを添加し,噴霧することによって,1次系配管の破断等により原子炉格納容器内に漏えいした放射性よう素と苛性ソーダとを反応させ,放射性よう素を除去する。また,燃料取替用水タンクの水量が減少した場合には,水源を格納容器再循環サンプに切り替え,注水を継続することができる。


アニュラス空気浄化設備の作動
アニュラス空気浄化設備は,
アニュラス部に2台設置され,
アニュ
ラス空気浄化ファン,アニュラス空気浄化フィルタユニット等により構成された設備であり,非常用炉心冷却設備の作動と同時に自動的に作動し,アニュラス空気浄化ファンの作動によりアニュラス部の圧力を原子炉格納容器より負圧にし,アニュラス部に漏れ出た原子炉格納容器の空気(蒸気)に含まれる放射性物質をアニュラス空気浄化フィルタユニットにより除去する。


補助給水設備による冷却
補助給水設備は,2次冷却材の循環に通常用いている主給水ポンプが使用できない場合や1次系配管の破断等により非常用炉心冷却設備が作動した場合などに,復水タンク等から蒸気発生器へ2次冷却材を供給し,1次冷却材と熱交換することにより,原子炉を冷却する設備であり,
1次系配管の破断等により非常用炉心冷却設備が作動した際,
自動的に作動し,原子炉の冷却を開始する。
本件各原子炉施設においては,電動機により駆動する電動補助給水ポンプ2台と蒸気タービンにより駆動するタービン動補助給水ポンプ1台がそれぞれ設置されており,前者は,外部電源が失われた場合でも非常用ディーゼル発電機から電源供給を受けることができ,
後者は,
動力源として電力を必要とせず,主蒸気管から分岐した蒸気で駆動するため,外部電源及び非常用ディーゼル発電機からの電源が失われた場合にも運転させることができる。また,原子炉停止後の崩壊熱除去のために,余剰の蒸気を逃す,すなわち,1次冷却材で除去した原子炉の崩壊熱を蒸気発生器で2次冷却材に伝え,蒸気として大気へ逃す必要が生じた場合には,放射性物質を含まない蒸気を大気に直接放出する主蒸気逃し弁を手動で開ける等の操作をすることができ,仮に,主蒸気逃し弁が動作不能となった場合にも,主蒸気安全弁により蒸気を大気に放出することができる。
なお,こうした補助給水設備による冷却は,非常用炉心冷却設備による注水により蒸気発生器が1次冷却材で満たされ,1次冷却材の自然循環が期待できる場合に効果的であり,万一補助給水設備による冷却が期待できないような1次系配管の破断が発生した場合も,非常用炉心冷却設備による原子炉容器への注水等により原子炉を冷却することができる。
(ウ)

福島第一原発事故後の対応(複数の安全機能喪失への対応)
債務者は,福島第一原発事故の発生を受けて,非常用炉心冷却設備や
補助給水設備等の安全上重要な設備がその機能を同時に喪失する事態をあえて想定し,そうした事態においても炉心の著しい損傷や原子炉格納容器の破損を防止することができるようにするため,事態収束のための手順の整備や,常設及び可搬型の注水設備や電源設備等を新たに設置した。
そして,債務者は,大破断LOCA時に非常用炉心冷却設備の低圧注入系及び高圧注入系並びに原子炉格納容器スプレイが全て機能喪失するという事態を想定し,外部電源及び非常用ディーゼル発電機並びに原子炉補機冷却機能の喪失という条件を付加して評価したところ,新たに設置した大容量空冷式発電機により交流動力電源を確保した後,新設した常設電動注入ポンプによる代替格納容器スプレイにより原子炉格納容器雰囲気の冷却,減圧及び原子炉下部キャビティへの注水を実施し,溶融炉心を同キャビティで冷却するとともに,格納容器再循環ユニットによる原子炉格納容器の除熱により原子炉格納容器が破損に至らないことを確認した。
(乙75)
(エ)

小括
以上のとおり,債務者は,本件各原子炉施設について,1次系配管に
ひび割れによる貫通や破断が生じた場合においても,速やかに当該事象を検知し,原子炉を緊急に停止させ,非常用炉心冷却設備や補助給水設備により原子炉を冷却することにより,重大な事故が生じないように安全性を確保しているということができる。

債権者らの主張について
(ア)

これに対し,債権者らは,1次系配管が破断した際に地震動により補
助給水設備配管が破損した場合には,補助給水設備による蒸気発生器を通じた原子炉の冷却をすることができないため,炉心溶融に至る可能性が高い旨主張する。
しかしながら,本件各原子炉施設における補助給水設備配管は,策定された基準地震動による地震力に対する耐震安全性を確保していると認められる(乙139)から,債権者らの主張は,その前提を欠くものであるし,この点をおくとしても,前記イの認定事実のとおり,1次系配管が破断した際,補助給水設備が機能しない場合であっても,非常用炉心冷却設備による原子炉への注水により原子炉を冷却することが予定されているのであるから,本件各原子炉施設において,債権者らの主張する事実経過により炉心溶融に至る可能性があるとは認め難い。
(イ)

また,債権者らは,炉心溶融により,原子炉容器及び原子炉格納容器
が破損するおそれがある旨主張する。
しかしながら,本件各原子炉施設において炉心溶融に至る可能性があると認め難いことは,前記イ(イ)で認定したとおりである。また,この点をおくとしても,前記イ(ウ)のとおり,あえて炉心を損傷させるような評価条件を定めて評価しても,福島第一原発事故後新たに設置した設備が機能し,原子炉格納容器が破損するには至らないことが確認されているのであり,仮に,炉心溶融が生じたとしても,そのことから直ちに原子炉容器及び原子炉格納容器が破損するおそれがあるとも認め難い。なお,債権者らは,炉心溶融が生じた際に債務者が講ずる対策は,重大事故が発生した場合,原子炉(圧力)容器内の炉心の冷却により原子炉格納容器の破損を防止することを求める設置許可基準規則37条2項に違反するものである旨主張する。
しかしながら,
同項は,
その文言上,
原子炉(圧力)容器内の炉心の冷却により原子炉格納容器の破損を防止することを求める規定であるとは解されず,設置許可基準規則解釈(乙60)においても,同項について,想定する格納容器破損モードに対して,原子炉格納容器の破損を防止し,かつ,放射性物質が異常な水準で敷地外へ放出されることを防止する対策に有効性があることを確認することが求められるとされているにとどまる。
そして,
前記イ(ウ)のとおり,
債務者は,本件各原子炉施設において,大破断LOCA時に非常用炉心冷却設備の低圧注入及び高圧注入機能並びに原子炉格納容器スプレイ注入機能が喪失するという評価事故シーケンスを想定した上で,原子炉格納容器の破損を防止できる有効な対策が講じられていることを確認しているのであるから,それが同項に違反するものであるということはできない。
(ウ)

さらに,債権者らは,溶融燃料が原子炉格納容器の下部キャビティに
落ち,原子炉格納容器の水素濃度がドライ換算で体積比13%を超えると水素の爆轟が発生し,原子炉格納容器が破損するおそれがある旨主張する。
しかしながら,本件各原子炉施設において炉心溶融に至る可能性があると認め難いことは,前記イ(イ)で認定したとおりである。のみならず,本件各原子炉施設は,加圧水型原子炉であり,沸騰水型原子炉と比べ,原子炉格納容器の体積が大きく(約10倍),万一原子炉格納容器内に水素が発生したとしても,水素濃度が高濃度となりにくい特徴を有するものである。加えて,本件各原子炉施設においては,福島第一原発事故を契機として,水素濃度を低減するための静的触媒式水素再結合装置が5台設置されるとともに,
より一層の水素低減を図るための設備として,
電気式水素燃焼装置(イグナイタ)が14台(予備1台を含む。)設置されており,
水素爆轟を防止するための措置が講じられている。
そして,
債務者は,大破断LOCA時に非常用炉心冷却設備の低圧注入系及び高圧注入系が機能喪失するという事態を想定し,その上で電気式水素燃焼装置(イグナイタ)が機能しないという条件を付加しても,炉心が溶融した場合においても水素爆轟に至らないことを評価し,
確認している
(以
上につき,乙105,審尋の全趣旨)。
したがって,債権者らの主張する経過により水素爆轟が発生するおそれがあるとは認め難い。


争点⑵についてのまとめ
以上によれば,債務者が,本件各原子炉施設における配管の健全性確保及び重大事故対策に適切に取り組んでいることについて,相当の根拠,資料に基づき疎明しており,かつ,債権者らの疎明を検討しても,本件各原子炉施設における配管が損傷し,これにより重大な事故が生ずるおそれがあるとは認められない。
したがって,争点⑵についての債権者らの主張は,採用できない。4
まとめ
以上によれば,債務者において,基準地震動の合理性及び配管の安全性について相当の根拠,資料に基づき疎明したということができ,債権者らの疎明を検討しても,本件各原子炉施設の安全性に欠けるところがあるとは認められないから,債務者が本件各原子炉施設を運転することにより,債権者らの人格権を侵害するおそれがあるとは認められず,本件各申立てに係る被保全権利の疎明があるということはできない。
なお,債権者らの中には,本件各原子炉施設から相当遠方に居住している者が含まれているところ,この者らについては,いわゆる当事者適格の問題として,本件各原子炉施設の安全性の有無にかかわらず,本件各原子炉施設の稼働によりその生命,身体が侵害されることはないのではないかとの疑問もあり得るが,上記のとおり,本件各原子炉施設が安全性を欠くとの疎明があるということができない以上,この点について判断するまでもない。

第4

結論
よって,
本件各申立てはいずれも理由がないからこれらを却下することとし,主文のとおり決定する。
平成29年6月13日
佐賀地方裁判所民事部
裁判長裁判官

立川
裁判官

不破大輔
裁判官

神本博雅毅
(別紙1)
当事者目録
(掲載しない。)
以上
(別紙2)
表2
クラス区分
クラス1

クラス2

クラス3

クラス1~3の対象設備・配管



原子炉冷却材圧力バウンダリを構成する機器の耐圧部分及びそ
の支持部材取付け部分をいう。
a.原子炉を安全に停止させるために必要な設備または非常時に
安全を確保するために必要な設備であって,その故障・損壊
等により公衆に放射線障害を及ぼす恐れを間接的に生じさせ
るものに属する機器(放射線管理設備に属するダクトにあっ
ては原子炉格納容器の貫通部から外側隔離弁までの部分に限
る)。
b.タービンを駆動させることを主たる目的とする流体が循環す
る回路に係わる設備に属する機器であって,クラス1機器か
らこれに最も近い弁までのもの。
c.a.及びb.に掲げる機器以外の機器であって,
原子炉格納容器
の貫通部から内側隔離弁または外側隔離弁までのもの。
クラス1機器,原子炉格納容器,クラス2機器及び放射線管理
設備に属するダクト以外の容器または管(内包する流体の放射
性物質の濃度が37mBq/cm3
(流体が液体の場合には,37kBq/cm3)
以上の管または最高使用圧力0MPaを超える管に限る)をいう。
図2

クラス区分毎の配管のイメージ
表3
クラス
区分

玄海3,4号機における配管の点検計画の概要

点検範囲の考え方



点検箇所

呼び径100A以上の配管,
管台溶接継手
原子炉冷却材圧力バウンダリ呼び径100A未満の配管,
管台溶接継手
クラス
に属する機器かつ呼び径1
1
ソケット溶接継手2
25A以上の配管
配管支持部材溶接継手



点検方法

超音波探傷試験

25%

浸透探傷試験

25%

浸透探傷試験

25%

浸透探傷試験

7.5%

呼び径100Aを超えかつ公称板厚超音波探傷試験及
9.5mmを超える配管溶接継手
び浸透探傷試験,
(※高圧注入系は呼び径40Aを超えまたは浸透探傷試験
るもの)
のみ

下記のいずれかに該当し,か
つ呼び径100Aを超えるもの
呼び径50Aを超えかつ公称板厚5.0mm
(※高圧注入系は呼び径40Aを超える配管溶接継手
を超えるもの)
(※高圧注入系は呼び径40Aを超え
るもの)
クラス
・工学的安全施設のうち直接系
2
呼び径50Aを超える管台溶接継手
に属する機器
・原子炉緊急停止系に属する機(※高圧注入系は呼び径40Aを超えるもの)

・原子炉の停止に直接必要な冷
却系に属する機器
呼び径50A以上100A以下かつ公称板
厚5mmを超えるソケット溶接継手
配管支持部材溶接継手
下記のいずれかに該当するも

・工学的安全施設の間接系に
クラス
配管支持部材溶接継手
属する機器
3
(耐震クラスSの配管)
・使用済み燃料貯蔵設備およ
びその冷却系設備に属する
機器

1
③点検頻度
(10年間の
試験程度)

7.5%

浸透探傷試験

7.5%

浸透探傷試験

7.5%

浸透探傷試験

7.5%

浸透探傷試験

7.5%

目視試験

7.5%

呼び径:配管の外径寸法を表現するために用いる方法。呼び径には,寸法体系によりミリメートルを用いるA呼称とインチを用いるB呼称の二通りがある。ちなみに,A呼称における100Aの配管の外径は,114.3mmとなる。
2
ソケット溶接継手の例:ソケット
(管継手)とは,二つの配管を接合
配管
するための部品で,その両側から配
管を差し込み,配管とソケットを溶
接する。この配管とソケットの溶接
部が点検箇所である。
ソケット
(別紙3)
新1規制基準
基準地震動関係


設置許可基準規則

4条1項
設計基準対象施設は,地震力に十分に耐えることができるものでなければならない。


4条3項
耐震重要施設は,その供用中に当該耐震重要施設に大きな影響を及ぼすおそれがある地震による加速度によって作用する地震力(以下基準地震動による地震力という。)に対して安全機能が損なわれるおそれがないものでなければならない。



設置許可基準規則解釈

設置許可基準規則4条3項に規定する基準地震動は,最新の科学的・技術的知見を踏まえ,敷地及び敷地周辺の地質・地質構造,地盤構造並びに地震活動性等の地震学及び地震工学的見地から想定することが適切なものとし,次の方針により策定すること。(別記2第5項本文)


基準地震動は,敷地ごとに震源を特定して策定する地震動及び震源を特定せず策定する地震動について,解放基盤表面における水平方向及び鉛直方向の地震動としてそれぞれ策定すること。上記の解放基盤表面とは,基準地震動を策定するために,基盤面上の表層及び構造物が無いものとして仮想的に設定する自由表面であって,著しい高低差がなく,ほぼ水平で相当な拡がりを持って想定される基盤の表面をいう。ここでいう上記の基盤とは,おおむねせん断波速度Vs=700m/s以上の硬質地盤であって,著しい風化を受けていないものとする。(別記2第5項1号)

上記の敷地ごとに震源を特定して策定する地震動は,内陸地殻内地震,プレート間地震及び海洋プレート内地震について,敷地に大きな影響を与えると予想される地震(以下検討用地震という。)を複数選定し,選定した検討用地震ごとに,不確かさを考慮して応答スペクトルに基づく地震動評価及び断層モデルを用いた手法による地震動評価を,解放基盤表面までの地震波の伝播特性を反映して策定すること。上記の内陸地殻内地震とは,陸のプレートの上部地殻地震発生層に生ずる地震をいい,海岸のやや沖合で起こるものを含む。上記のプレート間地震とは,相接する二つのプレートの境界面で発生する地震をいう。上記の海洋プレート内地震とは,沈み込む(沈み込んだ)海洋プレート内部で発生する地震をいい,海溝軸付近又はそのやや沖合で発生する沈み込む海洋プレート内の地震又は海溝軸付近から陸側で発生する沈み込んだ海洋プレート内の地震(スラブ内地震)の2種類に分けられる。なお,上記の敷地ごとに震源を特定して策定する地震動については,次に示す方針により策定すること。(別記2第5項2号)
(ア)

内陸地殻内地震,プレート間地震及び海洋プレート内地震について,
活断層の性質や地震発生状況を精査し,中・小・微小地震の分布,応力場,及び地震発生様式(プレートの形状・運動・相互作用を含む。)に関する既往の研究成果等を総合的に検討し,検討用地震を複数選定すること。(別記2第5項2号①)
(イ)

内陸地殻内地震に関しては,次に示す事項を考慮すること。(別記2
第5項2号②)

震源として考慮する活断層の評価に当たっては,調査地域の地形・地質条件に応じ,既存文献の調査,変動地形学的調査,地質調査,地球物理学的調査等の特性を活かし,これらを適切に組み合わせた調査を実施した上で,その結果を総合的に評価し活断層の位置・形状・活動性等を明らかにすること。(別記2第5項2号②ⅰ))b
震源モデルの形状及び震源特性パラメータ等の評価に当たっては,孤立した短い活断層の扱いに留意するとともに,複数の活断層の連動を考慮すること。(別記2第5項2号②ⅱ))

(ウ)

プレート間地震及び海洋プレート内地震に関しては,国内のみならず
世界で起きた大規模な地震を踏まえ,地震の発生機構及びテクトニクス的背景の類似性を考慮した上で震源領域の設定を行うこと。(別記2第5項2号③)
(エ)

上記(ア)で選定した検討用地震ごとに,下記aの応答スペクトルに基づ
く地震動評価及びbの断層モデルを用いた手法による地震動評価を実施して策定すること。なお,地震動評価に当たっては,敷地における地震観測記録を踏まえて,地震発生様式及び地震波の伝播経路等に応じた諸特性(その地域における特性を含む。)を十分に考慮すること。(別記2第5項2号④)

応答スペクトルに基づく地震動評価
検討用地震ごとに,適切な手法を用いて応答スペクトルを評価のうえ,それらを基に設計用応答スペクトルを設定し,これに対して,地震の規模及び震源距離等に基づき地震動の継続時間及び振幅包絡線の経時的変化等の地震動特性を適切に考慮して地震動評価を行うこと。(別記2第5項2号④ⅰ))


断層モデルを用いた手法に基づく地震動評価
検討用地震ごとに,適切な手法を用いて震源特性パラメータを設定し,地震動評価を行うこと。(別記2第5項2号④ⅱ))
(オ)

上記(エ)の基準地震動の策定過程に伴う各種の不確かさ
(震源断層の長

さ,地震発生層の上端深さ・下端深さ,断層傾斜角,アスペリティの位置・大きさ,応力降下量,破壊開始点等の不確かさ,並びにそれらに係る考え方及び解釈の違いによる不確かさ)については,敷地における地震動評価に大きな影響を与えると考えられる支配的なパラメータについて分析した上で,必要に応じて不確かさを組み合わせるなど適切な手法を用いて考慮すること。(別記2第5項2号⑤)
(カ)

内陸地殻内地震について選定した検討用地震のうち,震源が敷地に極
めて近い場合は,地表に変位を伴う断層全体を考慮した上で,震源モデルの形状及び位置の妥当性,
敷地及びそこに設置する施設との位置関係,
並びに震源特性パラメータの設定の妥当性について詳細に検討するとともに,これらの検討結果を踏まえた評価手法の適用性に留意の上,上記(オ)の各種の不確かさが地震動評価に与える影響をより詳細に評価し,震源の極近傍での地震動の特徴に係る最新の科学的・技術的知見を踏まえた上で,さらに十分な余裕を考慮して基準地震動を策定すること。(別記2第5項2号⑥)
(キ)

検討用地震の選定や基準地震動の策定に当たって行う調査や評価は,
最新の科学的・技術的知見を踏まえること。また,既往の資料等について,
それらの充足度及び精度に対する十分な考慮を行い,
参照すること。
なお,既往の資料と異なる見解を採用した場合及び既往の評価と異なる結果を得た場合には,
その根拠を明示すること。
(別記2第5項2号⑦)
(ク)

施設の構造に免震構造を採用する等,やや長周期の地震応答が卓越す
る施設等がある場合は,
その周波数特性に着目して地震動評価を実施し,
必要に応じて他の施設とは別に基準地震動を策定すること。(別記2第5項2号⑧)

上記の震源を特定せず策定する地震動は,震源と活断層を関連づけることが困難な過去の内陸地殻内の地震について得られた震源近傍における観測記録を収集し,これらを基に,各種の不確かさを考慮して敷地の地盤物性に応じた応答スペクトルを設定して策定すること。
なお,
上記の
震源を特定せず策定する地震動については,次に示す方針により策定すること。(別記2第5項3号)
(ア)

解放基盤表面までの地震波の伝播特性を必要に応じて応答スペクトル
の設定に反映するとともに,設定された応答スペクトルに対して,地震動の継続時間及び振幅包絡線の経時的変化等の地震動特性を適切に考慮すること。(別記2第5項3号①)
(イ)

上記の震源を特定せず策定する地震動として策定された基準地震

動の妥当性については,申請時における最新の科学的・技術的知見を踏まえて個別に確認すること。その際には,地表に明瞭な痕跡を示さない震源断層に起因する震源近傍の地震動について,確率論的な評価等,各種の不確かさを考慮した評価を参考とすること。
(別記2第5項3号②)

基準地震動の策定に当たっての調査については,目的に応じた調査手法を選定するとともに,
調査手法の適用条件及び精度等に配慮することによっ
て,調査結果の信頼性と精度を確保すること。また,上記の敷地ごとに震源を特定して策定する地震動及び震源を特定せず策定する地震動の地震動評価においては,適用する評価手法に必要となる特性データに留意の上,地震波の伝播特性に係る次に示す事項を考慮すること。(別記2第5項4号)
(ア)

敷地及び敷地周辺の地下構造(深部・浅部地盤構造)が地震波の伝播
特性に与える影響を検討するため,敷地及び敷地周辺における地層の傾斜,断層及び褶曲構造等の地質構造を評価するとともに,地震基盤の位置及び形状,岩相・岩質の不均一性並びに地震波速度構造等の地下構造及び地盤の減衰特性を評価すること。なお,評価の過程において,地下構造が成層かつ均質と認められる場合を除き,三次元的な地下構造により検討すること。(別記2第5項4号①)
(イ)

上記(ア)の評価の実施に当たって必要な敷地及び敷地周辺の調査については,地域特性及び既往文献の調査,既存データの収集・分析,地震観測記録の分析,地質調査,ボーリング調査並びに二次元又は三次元の物理探査等を適切な手順と組合せで実施すること。
(別記2第5項4号②)
(ウ)

なお,上記の敷地ごとに震源を特定して策定する地震動及び震源を特定せず策定する地震動については,それぞれが対応する超過確率を参照し,それぞれ策定された地震動の応答スペクトルがどの程度の超過確率に相当するかを把握すること。


基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド(平成25年原規技発第1306192号。甲50,乙59。以下地震動審査ガイドという。)ア
目的
地震動審査ガイドは,発電用軽水型原子炉施設の設置許可段階の耐震設計方針に関わる審査において,審査官等が設置許可基準規則及び設置許可基準規則解釈の趣旨を十分踏まえ,基準地震動の妥当性を厳格に確認するために活用することを目的とする。(Ⅰ1.1)


基本方針
(ア)

基準地震動は,
敷地ごとに震源を特定して策定する地震動
及び
震源を特定せず策定する地震動について,それぞれ解放基盤表面における水平方向及び鉛直方向の地震動として策定されていること。
(Ⅰ2⑴)
(イ)

敷地ごとに震源を特定して策定する地震動は,内陸地殻内地震,

プレート間地震及び海洋プレート内地震について,敷地に大きな影響を与えると予想される地震(以下検討用地震という。)を複数選定し,選定した検討用地震ごとに不確かさを考慮して,応答スペクトルに基づく地震動評価及び断層モデルを用いた手法による地震動評価により,それぞれ解放基盤表面までの地震波の伝播特性を反映して策定されていること。不確かさの考慮については,敷地における地震動評価に大きな影響を与えると考えられる支配的なパラメータについて分析した上で,必要に応じて不確かさを組み合わせるなどの適切な手法を用いて評価すること。(Ⅰ2⑵)
(ウ)

震源を特定せず策定する地震動は,震源と活断層を関連づけるこ

とが困難な過去の内陸地殻内の地震について得られた震源近傍における観測記録を収集し,これらを基に各種の不確かさを考慮して,敷地の地盤物性に応じた応答スペクトルを設定して策定されていること。(Ⅰ2⑶)
(エ)

敷地ごとに震源を特定して策定する地震動及び震源を特定せず策定する地震動を相補的に考慮することによって,敷地で発生する可能性のある地震動全体を考慮した地震動として策定されていること。(Ⅰ
2⑷)

敷地ごとに震源を特定して策定する地震動
(ア)

策定方針


敷地ごとに震源を特定して策定する地震動の策定においては,
検討用地震ごとに応答スペクトルに基づく地震動評価及び断層モデルを用いた手法による地震動評価に基づき策定されている必要がある。なお,地震動評価に当たっては,敷地における地震観測記録を踏まえて,地震発生様式,地震波の伝播経路等に応じた諸特性(その地域における特性を含む。)が十分に考慮されている必要がある。(Ⅰ3.1⑴)


震源が敷地に近く,その破壊過程が地震動評価に大きな影響を与えると考えられる地震については,断層モデルを用いた手法が重視されている必要がある。(Ⅰ3.1⑵)

(イ)

検討用地震の選定


地震の分類


内陸地殻内地震,プレート間地震及び海洋プレート内地震につい
て,活断層の性質や地震発生状況を精査し,中・小・微小地震の分布,応力場,地震発生様式(プレートの形状・運動・相互作用を含む。)に関する既往の研究成果等を総合的に検討して,検討用地震が複数選定されていることを確認する。(Ⅰ3.2.1⑴)⒝

施設の構造に免震構造を採用する等,やや長周期の地震応答が卓
越する施設等がある場合は,必要に応じてやや長周期の地震動が卓越するような地震が検討用地震として適切に選定されていることを確認する。(Ⅰ3.2.1⑵)


震源として想定する断層の形状等の評価


内陸地殻内地震,プレート間地震及び海洋プレート内地震につい
て,各種の調査及び観測等により震源として想定する断層の形状等の評価が適切に行われていることを確認する。(Ⅰ3.2.2⑴)


検討用地震による地震動を断層モデル等により詳細に評価した結
果,断層の位置,長さ等の震源特性パラメータの設定やその不確かさ等の評価においてより詳細な情報が必要となった場合,変動地形学的調査,地表地質調査,地球物理学的調査等の追加調査の実施を求めるとともに,追加調査の後,それらの詳細な情報が十分に得られていることを確認する。(Ⅰ3.2.2⑵)


震源特性パラメータの設定


内陸地殻内地震の起震断層,活動区間及びプレート間地震の震源
領域に対応する震源特性パラメータに関して,既存文献の調査,変動地形学的調査,地表地質調査,地球物理学的調査の結果を踏まえ適切に設定されていることを確認する。(Ⅰ3.2.3⑴)


震源モデルの長さ又は面積,あるいは1回の活動による変位量と
地震規模を関連づける経験式を用いて地震規模を設定する場合には,経験式の適用範囲が十分に検討されていることを確認する。
その際,
経験式は平均値としての地震規模を与えるものであることから,経験式が有するばらつきも考慮されている必要がある。(Ⅰ3.2.3⑵)


プレート間地震及び海洋プレート内地震の規模の設定においては,敷地周辺において過去に発生した地震の規模,すべり量,震源領域の広がり等に関する地形・地質学的,
地震学的及び測地学的な直接・
間接的な情報が可能な限り活用されていることを確認する。国内のみならず世界で起きた大規模な地震を踏まえ,地震の発生機構やテクトニクス的背景の類似性を考慮した上で震源領域が設定されていることを確認する。特に,スラブ内地震についてはアスペリティの応力降下量(短周期レベル)が適切に設定されていることを確認する。(Ⅰ3.2.3⑶)



長大な活断層については,断層の長さ,地震発生層の厚さ,断層
傾斜角,1回の地震の断層変位,断層間相互作用(活断層の連動)等に関する最新の研究成果を十分考慮して,地震規模や震源断層モデルが設定されていることを確認する。(Ⅰ3.2.3⑷)


孤立した長さの短い活断層については,地震発生層の厚さ,地震
発生機構,断層破壊過程,スケーリング則等に関する最新の研究成果を十分に考慮して,地震規模や震源断層モデルが設定されていることを確認する。(Ⅰ3.2.3⑸)

(ウ)

地震動評価
応答スペクトルに基づく地震動評価
検討用地震ごとに適切な手法を用いて応答スペクトルが評価され,それらを基に設定された応答スペクトルに対して,
地震動の継続時間,
振幅包絡線の経時的変化等の地震動特性が適切に設定され,地震動評価が行われていることを確認する。(Ⅰ3.3.1⑴)⒜

経験式(距離減衰式)の選定
応答スペクトルに基づく地震動評価において,用いられている地
震記録の地震規模,震源距離等から,適用条件,適用範囲について検討した上で,経験式(距離減衰式)が適切に選定されていることを確認する。(Ⅰ3.3.1⑴①1))参照する距離減衰式に応じて適切なパラメータを設定する必要が
あり,併せて震源断層の拡がりや不均質性,断層破壊の伝播や震源メカニズムの影響が適切に考慮されていることを確認する。
(Ⅰ3.
3.1⑴①2))



地震波伝播特性(サイト特性)の評価
水平及び鉛直地震動の応答スペクトルは,参照する距離減衰式の
特徴を踏まえ,敷地周辺の地下構造に基づく地震波の伝播特性(サイト特性)
の影響を考慮して適切に評価されていることを確認する。
(Ⅰ3.3.1⑴②1))
敷地における地震観測記録が存在する場合には,それらを収集・
整理・解析し,地震の発生様式や地域性を考慮して地震波の伝播特性の影響を評価し,応答スペクトルに反映させていることを確認する。(Ⅰ3.3.1⑴②2))


断層モデルを用いた手法による地震動評価


検討用地震ごとに適切な手法を用いて震源特性パラメータが設定
され,地震動評価が行われていることを確認する。(Ⅰ3.3.2⑴)



観測記録がある場合には,記録の精度や想定する震源断層の特徴
を踏まえ,要素地震としての適性について慎重に検討した上で,経験的グリーン関数法による地震動評価が行われていることを確認する。(Ⅰ3.3.2⑵)


統計的グリーン関数法及びハイブリッド法(理論的手法と統計的
あるいは経験的グリーン関数法を組み合わせたものをいう。以下同じ。)による地震動評価においては,地質・地質構造等の調査結果に基づき,各々の手法に応じて地震波の伝播特性が適切に評価されていることを確認する。(Ⅰ3.3.2⑶)



経験的グリーン関数法,統計的グリーン関数法,ハイブリッド法
以外の手法を用いる場合には,その手法の妥当性が示されていることを確認する。(Ⅰ3.3.2⑷)



震源モデルの設定
震源断層のパラメータは,活断層調査結果等に基づき,地震調査
研究推進本部による震源断層を特定した地震の強震動予測手法
等の最新の研究成果を考慮し設定されていることを確認する。(Ⅰ3.3.2①1))
アスペリティの位置が活断層調査等によって設定できる場合は,
その根拠が示されていることを確認する。根拠がない場合は,敷地への影響を考慮して安全側に設定されている必要がある。なお,アスペリティの応力降下量(短周期レベル)については,新潟県中越沖地震を踏まえて設定されていることを確認する。(Ⅰ3.3.2①2))



経験的グリーン関数法による地震動評価
経験的グリーン関数法を適用する場合には,観測記録の得られた
地点と解放基盤表面との相違を適切に評価する必要がある。また,経験的グリーン関数法に用いる要素地震については,地震の規模,震源位置,震源深さ,メカニズム等の各種パラメータの設定が妥当であることを確認する。(Ⅰ3.3.2②1))



統計的グリーン関数法及びハイブリッド法による地震動評価
統計的グリーン関数法やハイブリッド法による地震動評価におい
ては,震源から評価地点までの地震波の伝播特性,地震基盤からの増幅特性が地盤調査結果等に基づき評価されていることを確認する。(Ⅰ3.3.2③1))
ハイブリッド法を用いる場合の長周期側と短周期側の接続周期は,それぞれの手法の精度や用いた地下構造モデルを考慮して適切に設定されていることを確認する。また,地下構造モデルは地震観測記録等によってその妥当性が検討されていることを確認する。
(Ⅰ3.
3.2③2))


震源が敷地に極めて近い場合の地震動評価
震源が敷地に極めて近い場合の地震動評価においては,地表に変
位を伴う断層全体(地表地震断層から震源断層までの断層全体)を考慮した上で,震源モデルの形状及び位置の妥当性,敷地及びそこに設置する施設との位置関係,並びに震源特性パラメータの設定の妥当性について詳細に検討されていることを確認する。
(Ⅰ3.
3.
2④1))
これらの検討結果を踏まえた評価手法の適用性に留意の上,各種
の不確かさが地震動評価に与える影響をより詳細に評価し,震源の極近傍での地震動の特徴に係る最新の科学的・技術的知見を踏まえた上で,さらに十分な余裕を考慮して地震動が評価されていることを確認する。特に,評価地点近傍に存在する強震動生成領域(アスペリテリィ)での応力降下量などの強震動の生成強度に関するパラメータ,
強震動生成領域同士の破壊開始時間のずれや破壊進行パター
ンの設定において,不確かさを考慮し,破壊シナリオが適切に考慮されていることを確認する。(Ⅰ3.3.2④2))なお,震源の極近傍での地震動の特徴に係る最新の科学的・技術
的知見を取り込んだ手法により,地表に変位を伴う国内外被害地震の震源極近傍の地震動記録に対して適切な再現解析を行い,震源モデルに基づく短周期地震動,長周期地震動及び永久変位を十分に説明できていることを確認する。この場合,特に永久変位・変形についても実現象を適切に再現できていることを確認する。さらに,浅部における断層のずれの進展の不均質性が地震動評価へ及ぼす影響を検討するとともに,浅部における断層のずれの不確かさが十分に評価されていることを確認する。(Ⅰ3.3.2④3))震源が敷地に極めて近い場合の地震動評価においては,破壊伝播
効果が地震動へ与える影響について,十分に精査されていることを確認する。また,水平動成分に加えて上下動成分の評価が適切に行われていることを確認する。(Ⅰ3.3.2④4))⒤

地下構造モデルの設定
広域地下構造調査(概査)と敷地近傍地下構造調査(精査)
を組み合わせた調査により,地震動評価のための地下構造データが適切に取得されていることを確認するとともに,
取得された概査デー
タと精査データがそれぞれ相矛盾していないことを確認する。(Ⅰ3.3.2⑤1))
地震動評価において,震源領域から地震基盤までの地震波の伝播
特性に影響を与える地殻・上部マントル構造,地震基盤から解
放基盤までの広域地下構造,解放基盤から地表面までの浅部地下構造を考慮して,地震波速度及び減衰定数等の地下構造モデルが適切に設定されていることを確認する。特に,検討用地震としてプレート間地震及び海洋プレート内地震が選定された場合には,海域や海洋プレートを含む海域地下構造モデル,並びに伝播経路の幾何減衰及びQ値(内部減衰・散乱減衰)が適切に考慮されていることを確認する。(Ⅰ3.3.2⑤2))
地下構造モデルの設定においては,地下構造(深部・浅部地下構
造)
が地震波の伝播特性に与える影響を検討するため,
地層の傾斜,
断層,褶曲構造等の地質構造を評価するとともに,地震発生層の上端深さ,地震基盤・解放基盤の位置や形状,地下構造の三次元不整形性,地震波速度構造等の地下構造及び地盤の減衰特性が適切に評価されていることを確認する。(Ⅰ3.3.2⑤3))地震基盤までの三次元地下構造モデルの設定に当たっては,地震
観測記録(鉛直アレイ地震動観測や水平アレイ地震動観測記録),微動アレイ探査,重力探査,深層ボーリング,二次元あるいは三次元の適切な物理探査(反射法・屈折法地震探査)等のデータに基づき,ジョイントインバージョン解析手法など客観的・合理的な手段によってモデルが評価されていることを確認する。なお,地下構造の評価の過程において,地下構造が水平成層構造と認められる場合を除き,
三次元的な地下構造により検討されていることを確認する。
(Ⅰ3.3.2⑤4))
特に,敷地及び敷地近傍においては鉛直アレイ地震動観測や水平
アレイ地震動観測記録,及び物理探査データ等を追加して三次元地下構造モデルを詳細化するとともに,
地震観測記録のシミュレーショ
ンによってモデルを修正するなど高精度化が図られていることを確認する。この場合,適切な地震観測記録がない場合も含めて,作成された三次元地下構造モデルの精度が地震動評価へ与える影響について,適切に検討されていることを確認する(信頼性の高い地震動評価が目的であるため,地下構造モデルの精度に囚われすぎないことに留意する。)。(Ⅰ3.3.2⑤5))

不確かさの考慮


応答スペクトルに基づく地震動の評価過程に伴う不確かさについ
て,適切な手法を用いて考慮されていることを確認する。地震動評価においては,用いる距離減衰式の特徴や適用性,地盤特性が考慮されている必要がある。(Ⅰ3.3.3⑴)



断層モデルを用いた手法による地震動の評価過程に伴う不確かさ
について,適切な手法を用いて考慮されていることを確認する。併せて,震源特性パラメータの不確かさについて,その設定の考え方が明確にされていることを確認する。(Ⅰ3.3.3⑵)


支配的な震源特性パラメータ等の分析
震源モデルの不確かさ
(震源断層の長さ,
地震発生層の上端深さ・
下端深さ,断層傾斜角,アスペリティの位置・大きさ,応力降下量,破壊開始点等の不確かさ,並びにそれらに係る考え方,解釈の違いによる不確かさ)を考慮する場合には,敷地における地震動評価に大きな影響を与えると考えられる支配的なパラメータについて分析し,その結果を地震動評価に反映させることが必要である。特に,アスペリティの位置・応力降下量や破壊開始点の設定等が重要であり,震源モデルの不確かさとして適切に評価されていることを確認する。(Ⅰ3.3.3①1))



必要に応じた不確かさの組み合わせによる適切な考慮
地震動の評価過程に伴う不確かさについては,必要に応じて不確
かさを組み合わせるなど適切な手法を用いて考慮されていることを確認する。(Ⅰ3.3.3②1))
地震動評価においては,震源特性(震源モデル),伝播特性(地
殻・上部マントル構造),サイト特性(深部・浅部地下構造)における各種の不確かさが含まれるため,これらの不確実さ要因を偶然的不確実さと認識論的不確実さに分類して,分析が適切になされていることを確認する。(Ⅰ3.3.3②2))

震源を特定せず策定する地震動
(ア)

策定方針


震源を特定せず策定する地震動は,震源と活断層を関連づける
ことが困難な過去の内陸地殻内の地震について得られた震源近傍における観測記録を収集し,これらを基に各種の不確かさを考慮して敷地の地盤物性に応じた応答スペクトルを設定して策定されている必要がある。(Ⅰ4.1⑴)


応答スペクトルの設定においては,解放基盤表面までの地震波の伝播特性が反映されている必要がある。また,敷地及び敷地周辺の地下構造(深部・浅部地盤構造)が地震波の伝播特性に与える影響が適切に評価されている必要がある。(Ⅰ4.1⑵)


地震動の策定においては,設定された応答スペクトルに対して,地震動の継続時間,振幅包絡線の経時的変化等の地震動特性が適切に評価されている必要がある。(Ⅰ4.1⑶)


なお,震源を特定せず策定する地震動として策定された基準地
震動の妥当性については,最新の科学的・技術的知見を踏まえて個別に確認する。その際には,地表に明瞭な痕跡を示さない震源断層に起因する震源近傍の地震動について,確率論的な評価等,各種の不確かさを考慮した評価が適切に行われている必要がある。(Ⅰ4.1⑷)
(イ)

地震動評価


検討対象地震の選定と震源近傍の観測記録の収集


震源と活断層を関連付けることが困難な過去の内陸地殻内の地震
を検討対象地震として適切に選定し,それらの地震時に得られた震源近傍における観測記録を適切かつ十分に収集していることを確認する。(Ⅰ4.2.1⑴)


検討対象地震の選定においては,
地震規模のスケーリング
(スケー
リング則が不連続となる地震規模)の観点から,地表地震断層が出現しない可能性がある地震を適切に選定していることを確認する。(Ⅰ4.2.1⑵)



また,検討対象地震の選定の際には,事前に活断層の存在が指摘されていなかった地域において発生し,地表付近に一部の痕跡が確認された地震についても検討を加え,必要に応じて選定していることを確認する。(Ⅰ4.2.1⑶)


上記aの解説


地表地震断層が出現しない可能性がある地震は,断層破壊領
域が地震発生層の内部に留まり,国内においてどこでも発生すると考えられる地震で,震源の位置も規模もわからない地震として地震学的検討から全国共通に考慮すべき地震(震源の位置も規模も推定できない地震(Mw6.5未満の地震))であり,震源近傍において強震動が観測された地震を対象とする。(Ⅰ4.2.1解説⑴)


事前に活断層の存在が指摘されていなかった地域において発生し,地表付近に一部の痕跡が確認された地震は,震源断層がほぼ地震発生層の厚さ全体に広がっているものの,地表地震断層としてその全容を表すまでには至っていない地震(震源の規模が推定できない地震(Mw6.5以上の地震))であり,孤立した長さの短い活断層による地震が相当する。なお,活断層や地表地震断層の出現要因の可能性として,地域によって活断層の成熟度が異なること,上部に軟岩や火山岩,堆積層が厚く分布する場合や地質体の違い等の地域差があることが考えられる。このことを踏まえ,観測記録収集対象の地震としては,
以下の地震を個別に検討する必要がある。
(Ⅰ
4.2.1解説⑵)


孤立した長さの短い活断層による地震



活断層の密度が少なく活動度が低いと考えられる地域で発生し
た地震



上部に軟岩や火山岩,堆積層が厚く分布する地域で発生した地



震源を特定せず策定する地震動の評価において,収集対象となる
内陸地殻内の地震の例を表-1に示す。(Ⅰ4.2.1解説⑶)表-1

No

収集対象となる内陸地殻内の地震の例
地震名

日時

規模

1
2008年岩手・宮城内陸地震

2008/06/14,08:43

Mw6.9

2
2000年鳥取県西部地震

2000/10/06,13:30

Mw6.6

3
2011年長野県北部地震

2011/03/12,03:59

Mw6.2

4
1997年3月鹿児島県北西部地震

1997/03/26,17:31

Mw6.1

5
2003年宮城県北部地震

2003/07/26,07:13

Mw6.1

6
1996年宮城県北部(鬼首)地震

1996/08/11,03:12

Mw6.0

7
1997年5月鹿児島県北西部地震

1997/05/13,14:38

Mw6.0

8
1998年岩手県内陸北部地震

1998/09/03,16:58

Mw5.9

9
2011年静岡県東部地震

2011/03/15,22:31

Mw5.9

101997年山口県北部地震

1997/06/25,18:50

Mw5.8

112011年茨城県北部地震

2011/03/19,18:56

Mw5.8

122013年栃木県北部地震

2013/02/25,16:23

Mw5.8

132004北海道留萌支庁南部地震

2004/12/14,14:56

Mw5.7

142005年福岡県西方沖地震の最大余震

2005/04/20,06:11

Mw5.4

152012年茨城県北部地震

2012/03/10,02:25

Mw5.2

162011年和歌山県北部地震

2011/07/05,19:18

Mw5.0

応答スペクトル(地震動レベル)の設定と妥当性確認


震源を特定せず策定する地震動の応答スペクトル
(地震動レベル)
は,解放基盤表面までの地震波の伝播特性が反映され,敷地の地盤物性が加味されるとともに,個々の観測記録の特徴(周期特性)を踏まえるなど,適切に設定されていることを確認する。
(4.2.2
⑴)



設定された応答スペクトル(地震動レベル)の妥当性の確認とし
て,例えば原子力安全基盤機構による震源を特定しにくい地震による地震動:2005,震源を特定せず策定する地震動:2009
等に基づく地震動の超過確率別スペクトルを参照する。
併せて,
旧原子力安全委員会による仮想震源を用いた面的地震動評価に
基づき地震動の妥当性が検討されていることを確認することが望ましい。(4.2.2⑴解説⑴)


基準地震動
(ア)

策定方針
基準地震動は,敷地ごとに震源を特定して策定する地震動及び
震源を特定せず策定する地震動の評価結果を踏まえて,基準地震
動の策定過程に伴う各種の不確かさを考慮して適切に策定されている必要がある。(5.1⑴)


基準地震動の策定に当たっては,敷地における地震観測記録を踏まえて,地震発生様式,地震波の伝播経路等に応じた諸特性(その地域における特性を含む。)が十分に考慮されている必要がある。
(5.1
⑵)


施設の構造に免震構造を採用する等,やや長周期の地震応答が卓越する施設等がある場合は,その周波数特性に着目して地震動評価を実施し,必要に応じて他の施設とは別に基準地震動が策定されている必要がある。(5.1⑶)
(イ)

基準地震動の策定
応答スペクトルに基づく手法による基準地震動は,検討用地震ごとに評価した応答スペクトルを下回らないように作成する必要があり,その際の振幅包絡線は,地震動の継続時間に留意して設定されていることを確認する。(5.2⑴)


断層モデルを用いた手法による基準地震動は,施設に与える影響の観点から地震動の諸特性(周波数特性,継続時間,位相特性等)を考慮して,別途評価した応答スペクトルとの関係を踏まえつつ複数の地震動評価結果から策定されていることを確認する。なお,応答スペクトルに基づく基準地震動が全周期帯にわたって断層モデルを用いた基準地震動を有意に上回る場合には,応答スペクトルに基づく基準地震動で代表させることができる。(5.2⑵)


震源を特定せず策定する地震動による基準地震動は,設定された応答スペクトルに対して,地震動の継続時間,振幅包絡線の経時的変化等の地震動特性が適切に考慮されていることを確認する。
(5.
2⑶)


基準地震動は,最新の知見や震源近傍等で得られた観測記録によってその妥当性が確認されていることを確認する。(5.2⑷)
2
配管の安全性に関する定め


使用中の亀裂等による破壊の防止

使用中のクラス1機器,クラス1支持構造物,クラス2機器,クラス2支持構造物,クラス3機器,クラス4管,原子炉格納容器,原子炉格納容器支持構造物及び炉心支持構造物には,その破壊を引き起こす亀裂その他の欠陥があってはならない。(技術基準規則18条1項,省令62号9条の2第1項)


使用中のクラス1機器の耐圧部分には,その耐圧部分を貫通する亀裂その他の欠陥があってはならない。(技術基準規則18条2項,省令62号9条の2第2項)


流体振動等による損傷の防止

技術基準規則19条
燃料体及び反射材並びに炉心支持構造物,熱遮蔽材並びに一次冷却系統に係る容器,管,ポンプ及び弁は,一次冷却材又は二次冷却材の循環,沸騰その他の一次冷却材又は二次冷却材の挙動により生ずる流体振動又は温度差のある流体の混合その他の一次冷却材又は二次冷却材の挙動により生ずる温度変動により損傷を受けないように施設しなければならない。

省令62号6条
燃料体及び反射材並びにこれらを支持する構造物,熱遮へい材並びに一次冷却系統に係る施設に属する容器,管,ポンプ及び弁は,一次冷却材若しくは二次冷却材の循環,沸騰等により生ずる流体振動又は温度差のある流体の混合等により生ずる温度変動により損傷を受けないように施設しなければならない。



重大事故等の拡大の防止等について

発電用原子炉施設は,重大事故に至るおそれがある事故が発生した場合において,炉心の著しい損傷を防止するために必要な措置を講じたものでなければならない。(設置許可基準規則37条1項)


発電用原子炉施設は,重大事故が発生した場合において,原子炉格納容器の破損及び工場等外への放射性物質の異常な水準の放出を防止するために必要な措置を講じたものでなければならない。(設置許可基準規則37条2項)
以上
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