判例検索β > 平成23年(行ウ)第48号
分限免職処分取消等請求事件
事件番号平成23(行ウ)48
事件名分限免職処分取消等請求事件
裁判年月日平成29年4月25日
裁判所名・部札幌地方裁判所
判示事項の要旨社会保険庁に入庁し,社会保険事務所で船員保険事務等に従事してきた原告が,日本年金機構法に基づいて日本年金機構が設立されるに当たり,社会保険庁が廃止されることにより社会保険庁の全ての官職が廃止されることが,国家公務員法78条4号にいう「官制の改廃により廃職を生じた場合」に該当するとして,同号の規定による分限免職処分を受けたことにつき,上記の官職の廃止は同号所定の分限事由に該当しない,上記処分は,処分行政庁が,分限免職回避義務を怠り,分限免職の対象者を公正かつ平等に選定することなくしたものであり,その裁量権の範囲を逸脱し又はそれを濫用してしたものであるとして,国を被告として,上記処分の取消し等を求めたが,同処分は,社会保険庁の廃止により社会保険庁の全ての官職が廃止されたことが国家公務員法78条4号の「官制の改廃により廃職を生じた場合」に該当することから,されたものであり,処分行政庁がその裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してしたものであるということはできないとして,原告の請求が棄却された事例
裁判日:西暦2017-04-25
情報公開日2017-10-17 20:02:49
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主文1
原告の請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は原告の負担とする。

第1
1実及び理由
請求
北海道社会保険事務局長が平成21年12月25日付けで原告に対してした分限免職処分を取り消す。

2
被告は,原告に対し,300万円及びこれに対する平成21年12月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2

事案の概要
本件は,北海道社会保険事務局の管内のα社会保険事務所に勤務する社会保険庁職員であった原告が,日本年金機構法(平成19年法律第109号。以下機構法という。に基づいて日本年金機構(以下機構という。が設


立されるに当たり,平成21年12月31日をもって社会保険庁が廃止されたことにより社会保険庁の全ての官職が廃止されたことが,国家公務員法78条4号にいう官制の改廃により廃職を生じた場合に該当するとして,北海道社会保険事務局長(以下,社会保険庁が廃止される前の北海道社会保険事務局長を処分行政庁という。
)から,平成21年12月25日付けで同号の規
定による分限免職処分(以下本件処分という。
)を受けたため,
の官職の廃止は国家公務員法78条4号所定の分限事由に該当しない,
上記

件処分は,処分行政庁が分限免職回避義務を怠り,分限免職の対象者を公正かつ平等に選定することなくしたものであり,処分行政庁がその裁量権の範囲を逸脱し又はそれを濫用してしたものであるから,違法であると主張し,国を被告として,本件処分の取消しを求めるとともに,併せて,本件処分によって精神的苦痛を受けたと主張し,国家賠償法1条1項の規定により,300万円の
損害賠償及びこれに対する本件処分の効力が生じた日である平成21年12月31日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1
前提事実
当事者等

原告(昭和51年4月生)は,α社会保険事務所に所属する社会保険庁職員であったものである。原告は,平成13年3月,β工業大学大学院工学研究科博士前期課程を修了した。原告は,同年4月から,γ株式会社に勤務し,平成15年3月,退職した。原告は,平成17年4月,δ市の臨時的任用職員として採用され,同年12月,任期満了により退職した。原告は,同年8月,国家公務員Ⅱ種試験に合格し,平成18年4月1日,厚生労働事務官に採用された。原告は,北海道社会保険事務局の管内のα社会保険事務所に配属され,船員保険業務を担当した。原告は,エクセルを使用して船員保険業務に関するシステムを作成した(甲各共19)。原告
は,平成19年6月頃から,病気休暇を取得するようになった。原告は,抑うつ状態と診断され(甲各B4,6)
,同年12月2日から,国家公務
員法79条1号の規定による病気休職をした。原告は,平成20年6月1日,復職したが,同年8月頃から,再び病気休暇を取得するようになった。原告は,同年11月24日から,再び病気休職をし,平成21年12月31日をもって分限免職されるまで,復職することはなかった。原告は,一般行政職2級の職員であった。原告は,懲戒処分を受けたことがない。(
乙B2の1,2)


処分行政庁は,原告の任命権者であったものである。北海道社会保険事務局は,厚生労働省の外局であった社会保険庁の地方支分部局であった地方社会保険事務局(以下社会保険事務局という。
)の一つであった。
α社会保険事務所は,北海道社会保険事務局の所掌事務の一部を分掌する
ために設置された社会保険事務所であった。社会保険庁職員の任命権は,国家公務員法55条1項の規定により,厚生労働省の外局の長であった社会保険庁長官に属していたところ,社会保険庁長官は,同条2項の規定により,北海道社会保険事務局の管内の社会保険事務所に所属する職員の任命権を処分行政庁に委任していた。
Aは,平成19年9月から平成21年3月まで,社会保険庁総務課課長補佐の職に,同年4月から同年12月まで,同課人事調整官の職に,それぞれあった者である。Aは,本件処分ほかの一連の分限免職処分に係る社会保険庁本庁の事務を担当していた。B課長は,平成21年4月から同年12月まで,北海道社会保険事務局総務課長の職にあった者である。(乙
A84,85)
C面接官は,平成18年4月から平成21年3月まで,厚生労働省の地方支分部局である地方厚生局(以下,単に厚生局ともいう。
)の一つ
である北海道厚生局の総務課長の職にあった者である。D面接官は,平成19年4月から平成21年3月まで,北海道厚生局企画調整課医療構造改革推進官の職にあった者である。C面接官及びD面接官は,社会保険庁職員の北海道厚生局への転任候補者の選考のための書類審査及び面接審査を担当し,同年2月4日,原告の面接審査を実施した。
(乙A91,92)
本件処分に至った経緯1(社会保険庁の廃止と職員の分限免職)

社会保険庁の廃止と機構の設立
社会保険庁は,政府が管掌する健康保険事業,船員保険事業,厚生年金保険事業,国民年金事業等を適正に運営することを任務としていた。社会保険庁は,事業運営の在り方を批判されていたところ,平成16年3月,年金個人情報の漏洩が疑われる事態が生じ,社会保険庁に対する国民の信頼が大きく揺らいだ。同年8月,内閣官房長官の下に社会保険庁の在り方に関する有識者会議が設置され,同会議は,平成17年5月,社会保険庁改革の在り方について(最終とりまとめ)を提出した(乙A2)。
この取りまとめは,社会保険庁の組織の改革について,公的年金制度の運営と政府管掌健康保険の運営を分離した上,それぞれ,新たな組織を設置し,各事業の運営を担わせることが適当であるとした。同年6月,厚生労働大臣の下に社会保険新組織の実現に向けた有識者会議が設置され,同会議は,同年12月,社会保険庁を廃止し,新組織を設立することなどを提言した(乙A3)
。厚生労働省は,平成18年3月,
ねんきん事業機構法案を国会に提出した(乙A4)が,同年5月,国民年金保険料免除等の不適正な事務処理が明らかとなったことから,実質的な審議が行われないまま廃案となった。与党年金制度改革協議会は,同年12月,公的年金制度の運営を再構築し,国民の信頼を回復するため,社会保険庁を廃止し,新たに非公務員型の法人を設立して,公的年金制度の運営に関する業務を担わせることを柱とする提言を取りまとめ,組織人員は必要最小限とし,一層の合理化・効率化を図るものとし,社会保険庁職員を新法人に自動的に承継させるべきでないという考え方(新法人の職員は,社会保険庁を一旦退職した後,第三者機関の厳正な審査を経て,再雇用するという考え方)を示した(乙A5)
。厚生労働省は,平成19年3月,機構法案
を国会に提出した。内閣総理大臣は,公的年金制度に対する国民の信頼を回復するため,漫然と職員を引き継ぐべきでなく,第三者機関による厳正な審査を行うと答弁した(乙A6)
。同年6月30日,機構法が成立し,
社会保険庁は平成21年12月31日をもって廃止され,平成22年1月1日,機構が設立されることとなった。

社会保険庁職員の機構への採用に関する機構法の定め
機構法(乙A7)は,次のとおり定めている。すなわち,機構は,業務運営の基本理念に従い,厚生労働大臣の監督の下に,厚生労働大臣と密接な連携を図りながら,政府管掌年金事業に関し,法令の規定に基づく業務
等を行うことにより,政府管掌年金事業の適正な運営及び政府管掌年金に対する国民の信頼の確保を図り,もって国民生活の安定に寄与することを目的とする(1条)
。機構の業務運営の基本理念は,政府管掌年金が国民
の共同連帯の理念に基づき国民の信頼を基礎として常に安定的に実施されるべきものであることに鑑み,政府管掌年金事業に対する国民の意見を反映しつつ,サービスの質の向上を図るとともに,業務運営の効率化並びに業務運営における公正性及び透明性の確保に努めなければならないというものである(2条1項)
。政府は,社会保険庁長官から厚生労働大臣及び
機構への業務の円滑な引継ぎを確保し,政府管掌年金事業の適正かつ効率的な運営を図るため,機構の当面の業務運営に関する基本計画を定めるものとする(附則3条1項)
。基本計画は,機構の設立に際して採用する職
員の数その他の機構職員の採用についての基本的な事項について定めるものとする(同条2項2号)
。厚生労働大臣は,設立委員を命じて,機構の
設立に関する事務を処理させる(附則5条1項)
。設立委員は,基本計画
に基づき,機構職員の労働条件及び採用基準を定めなければならない(同条2項)
。機構法は,社会保険庁職員の機構への承継について何らの定め
も置いていない。機構法は,社会保険庁職員からの採用について,設立委員は,社会保険庁長官を通じ,その職員に対し,機構職員の労働条件及び採用基準を提示して,機構職員の募集を行うものとする(附則8条1項),
社会保険庁長官は,その職員に対し,機構職員の労働条件及び採用基準が提示されたときは,機構職員となることに関する社会保険庁職員の意思を確認し,機構職員となる意思を表示した者の中から,機構職員の採用基準に従い,機構職員となるべき者を選定し,その名簿を作成して設立委員に提出するものとする(同条2項)
,名簿に記載された社会保険庁職員のう
ち,設立委員から採用する旨の通知を受けた者であって機構法の施行の際現に社会保険庁職員であるものは,機構の成立の時に,機構職員として採
用される(同条3項)と定めている。

基本計画の閣議決定
平成19年8月,国・地方行政改革担当大臣の下に,機構法附則3条3項に定める年金業務・組織再生会議が設置され,同会議は,平成20年6月,
日本年金機構の当面の業務運営に関する基本的方針について(最終整理)を取りまとめた(乙A8)。政府は,同年7月29日,機構法附
則3条1項の規定により,
日本年金機構の当面の業務運営に関する基本計画を閣議決定した(乙A9)。基本計画では,機構職員の採用に係る
基本的な考え方について,

国民の信頼の確保,国民の意見の反映,サ

ービスの質の向上,業務運営の効率化,公正性及び透明性の確保という機構の基本理念の下,機構に採用される職員は,公的年金業務を正確かつ効率的に遂行し,法令等の規律を遵守し,改革意欲と能力を持つ者のみとすることを大前提とすること,

社会保険庁職員からの採用に当たっては,

国民の公的年金業務に対する信頼の回復の観点から,懲戒処分を受けた者は機構の正規職員及び有期雇用職員に採用しないこと,

機構の必要人

員数について,設立時の人員数は1万7830人程度とし,そのうち,1万0880人程度を正規職員,6950人程度を有期雇用職員とする(正規職員のうち,おおむね1000人程度は外部から採用する)ことが盛り込まれ,

社会保険庁職員のうち機構に採用されないものについて,退

職勧奨,厚生労働省への配置転換,同年12月31日に内閣府に設置された官民人材交流センターの活用など,分限免職回避に向けてできる限りの努力をするとされた。

府省横断的な配置転換が活用されなかったこと
社会保険庁及び厚生労働省は,平成19年1月,
簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律(平成18年法律第47
号。以下行革推進法という。
)に基づく国家公務員雇用調整本部(以

下雇用調整本部という。
)に対し,社会保険庁の廃止に伴う社会保険
庁職員の配置転換に雇用調整本部の枠組による府省横断的な配置転換を活用することの可否について協議を要請したところ,雇用調整本部は,同枠組は平成18年6月の国の行政機関の定員の純減に関する閣議決定に基づくものであり,社会保険庁の廃止に伴う職員の配置転換は趣旨目的が異なるため,同枠組を活用することはできないと回答した。厚生労働省は,平成20年10月及び同年11月にも,雇用調整本部に対し,雇用調整本部の枠組の活用について確認を求めるなどしたところ,雇用調整本部からは,厚生労働省においても制度の趣旨に基づいた取扱いをしてもらう旨の回答があった。厚生労働省は,雇用調整本部の枠組による府省横断的な配置転換により,他府省の職員の転任の受入を行っていたことから,その免除を求めたが,雇用調整本部は,これを拒否した。
(乙A88)

全国健康保険協会職員の募集及び採用
平成17年5月の最終とりまとめが,社会保険庁の組織の改革について,政府管掌健康保険の運営を分離した上,新たな組織を設置し,当該事業の運営を担わせることが適当であるとしたことを受けて,平成18年6月21日に成立した健康保険法等の一部を改正する法律(同年法律第83号)により健康保険法の一部が改正され,平成20年10月1日,全国健康保険協会(以下協会という。
)が設立された。社会保険庁職員の一部は,
社会保険庁の廃止に先立ち,協会職員として採用された。
上記の健康保険法等の一部を改正する法律は,次のとおり定めている。すなわち,厚生労働大臣は,設立委員(以下協会設立委員という。)
を命じて,協会の設立に関する事務を処理させる(附則13条1項)。協
会設立委員は,協会職員の労働条件及び採用基準を定めなければならない(同条2項)
。同法は,社会保険庁職員の協会への承継について何らの
定めも置いていない。同法は,社会保険庁職員からの採用について,協会
設立委員は,社会保険庁長官を通じ,その職員に対し,協会職員の労働条件及び採用基準を提示して,協会職員の募集を行うものとする(附則15条1項)
,社会保険庁長官は,その職員に対し,協会職員の労働条件及び
採用基準が提示されたときは,協会職員となることに関する社会保険庁職員の意思を確認し,協会職員となる意思を表示した者の中から,協会職員の採用基準に従い,協会職員となるべき者を選定し,その名簿を作成して協会設立委員に提出するものとする(同条2項)
,名簿に記載された社会
保険庁職員のうち,協会設立委員から採用する旨の通知を受けた者であって協会の成立の際現に社会保険庁職員であるものは,協会の成立の時に,協会職員として採用される(同条3項)と定めている。
厚生労働大臣に任命された協会設立委員は,全国健康保険協会設立委員会(以下協会設立委員会という。
)を組織した。協会設立委員会は,
協会職員の労働条件及び採用基準を定めた上,平成19年10月25日,社会保険庁長官に対し,社会保険庁職員に,これらを提示して,協会職員の募集を行うことを求めた(乙A23)
。同月29日開催の全国社会保険
事務局総務課長事務打合せ及び同月31日開催の全国健康保険協会意向調査説明会では,社会保険庁から,社会保険事務局に対し,協会職員の労働条件及び採用基準のほか,協会の理念・運営方針・人事方針,職員意向調査の実施等の協会職員の採用手続の説明がされ,職員全員に周知させるものとされた(乙A24)
。社会保険庁長官は,社会保険庁職員全員に対し,
協会職員の募集に係る職員意向調査を実施し,協会職員となることに関する職員の意思を確認した(乙A25)
。社会保険庁長官は,職員意向調査
に対して協会職員となる意思を表示した者の中から,協会職員の採用基準に従い,協会職員となるべき者を選定し,その名簿を作成して,平成20年4月14日,協会設立委員会に提出した(乙A27,乙A28)。協会
設立委員会は,名簿登載者の採用を内定した(乙A29)
。同年10月1

日,協会が設立され,社会保険庁職員のうち,協会職員の採用内定を得ていたものは,協会職員として採用された。

厚生労働省への配置転換
厚生労働省は,平成20年7月の基本計画で,社会保険庁職員のうち機構に採用されないものについて,厚生労働省への配置転換など,分限免職回避に向けてできる限りの努力をするとされていたほか,社会保険庁の廃止に伴い,年金業務の一部や保険医療指導監査業務(保険医療機関に対する指導監査業務)が厚生労働省本省又は地方厚生局に移管されることとなり,業務の円滑な実施のため,一定数の社会保険庁職員を転任させる必要があったことから,社会保険庁職員の厚生労働省本省及び地方厚生局への転任を受け入れた。また,厚生労働省は,船員保険制度の労働保険制度への統合に伴い,船員保険業務が厚生労働省本省(労働関係部門)及び都道府県労働局(以下,単に労働局という。
)に移管されることとなった
ことから,船員保険業務の経験を考慮しつつ,社会保険庁職員のうち一般行政職1級ないし3級のものの厚生労働省本省又は労働局への転任を受け入れた。厚生労働省は,社会保険庁職員の転任を受け入れるに当たり,上記の移管に伴う定員の増分(社会保険庁から,本省年金局への振替166人,厚生局への振替245人,保険医療指導監査業務の移管に伴う厚生局への振替12人,本省労働関係部門及び労働局への振替43人)に加えて,社会保険庁から総務省年金記録確認第三者委員会への定員の振替252人の一部,新規採用の抑制や退職等によって生じた欠員の不補充により捻出した定員をも活用した(甲総67)

すなわち,社会保険庁は,平成20年11月,社会保険庁職員の厚生労働省又は機構への転任又は採用の希望について把握するため,厚生労働省と共同で,社会保険庁職員全員を対象とする職員意向準備調査を実施した。同年12月,日本年金機構設立委員会(以下設立委員会という。
)か

ら機構職員の労働条件及び採用基準が,協会から協会職員の労働条件及び採用基準が,それぞれ提示され,機構職員の募集及び協会職員の追加募集を行うことが求められたことを受けて,平成21年1月9日開催の全国社会保険事務局長等事務打合せでは,社会保険庁から,社会保険事務局に対し,機構職員の募集の説明がされ,併せて,協会職員の追加募集,厚生労働省への転任の説明もされた(乙A13,77)
。社会保険庁は,同日,
厚生労働省に対し,厚生労働省への転任候補者の選考に当たっては当該職員の経験等を踏まえて積極的に採用するように要請するとともに,厚生労働省職員の新規採用及び欠員補充に当たっては社会保険庁職員からの転任を検討するなど社会保険庁職員の分限免職回避に特段の配慮をするように要請した(乙A38)
。社会保険庁長官は,同月,社会保険庁職員全員に
対し,機構職員の募集及び協会職員の追加募集に係る職員意向調査を実施し,機構職員となることに関する職員の意思及び協会職員となることに関する職員の意思を確認したところ,併せて,職員意向準備調査の際に回答した厚生労働省への転任希望について変更の有無を確認した(乙A14)。
同月から,職員意向準備調査及び職員意向調査の際に厚生労働省への転任を第1希望とした社会保険庁職員約6000人全員について,厚生労働省本省又は地方厚生局の面接官による書類審査及び面接審査が実施された。面接審査については,評価の公正及び公平のため,面接要領(乙A39)が定められた。面接要領は,面接目的について,被面接者の人柄,性向を評定し,転任者が就くことが予想される官職への適性を判定することとするとともに,面接手順について,面接開始前に,社会保険庁の人事記録等の資料の確認をするとし,面接評価は,A是非任用したい
,B任用したい
,C任用してもよい
,D任用には多少疑問がある
,E任用不可に従ってするとしている。面接要領は,志望動機,異動可能な範囲,希望分野(保険医療指導監査部門,年金部門)
,懲戒処分の有無,労

働関係部門の希望及び船員保険業務の担当経験の有無,健康状態を確認事項としている。北海道厚生局は,被面接者の一般的資質を評価する観点から,
容姿・態度会話視線意欲・元気度をも確認事項とし



た(乙B2の11)
。社会保険庁職員の多くは地元での勤務を希望したこ
とから,面接審査は当該職員の所属官署の所在地を管轄する厚生局が担当し,転任候補者の選考は地域単位で行われた。同年3月,厚生労働省から厚生局に対し,級別の転任者数が提示され,これを受けて,厚生局の職員選考会議は,書類審査及び面接審査の評価,厚生局ごとの級別の転任者数,業務経験,年齢等を考慮し,特段の事情がない限り,書類審査及び面接審査の評価が上位にある者から,転任候補者を選考した。
厚生労働省本省(労働関係部門)及び各労働局への転任について,地方厚生局は,厚生労働省本省の指示を受け,船員保険業務の経験者であれば一般行政職3級以下のもの,船員保険業務の経験者でなければ一般行政職1級及び2級のもので,厚生局の面接評価がC以上であるものを,労働局の面接審査の対象者として選定した。平成21年4月,労働局の面接審査が実施され,書類審査及び面接審査の評価等を考慮し,労働局への転任候補者の選考が行われた。労働局への転任候補者の選考の基準は厚生局への転任候補者の選考の基準と同一である。
平成21年5月18日,厚生労働省本省の職員選考会議が開催され,地方厚生局及び労働局が選考した転任候補者について,その内容が確認された上,1216人の転任予定者が内定した。

機構職員の募集及び採用
社会保険庁は,平成20年11月,厚生労働省と共同で,上記カの職員意向準備調査を実施した(乙A32)
。職員意向準備調査に当たり,職員
には,職員意向準備調査の趣旨目的に関する説明文書のほか,厚生労働省,厚生局及び機構に関する資料が配布された。厚生労働大臣に任命された設
立委員は,設立委員会を組織した(乙A10)
。設立委員会は,機構職員
の労働条件及び採用基準を定めた上,同年12月22日,社会保険庁長官に対し,社会保険庁職員に,これらを提示して,機構職員の募集を行うことを求めた(乙A11)
。機構職員の採用基準は,

国民本位のサービ

スを提供する意識,公的年金という国民生活に極めて重要な制度の運営を担う高い使命感を持ち,法令の規律を遵守し,公的年金業務を正確かつ効率的に遂行するとともに,業務の改革やサービスの向上に積極的に取り組む意欲がある者であること,また,機構の理念・運営方針・人事方針に賛同する者であること,
あること,

機構の業務にふさわしい意欲能力を有する者で

職務遂行に支障のない健康状態であること,心身の故障に

より長期にわたり休養中の者については,回復の見込みがあり,長期的にみて職務遂行に支障がないと判断される健康状態であること,

社会保

険庁職員のうち懲戒処分を受けたものは採用しないと定めていた。機構法附則8条5項の会議である日本年金機構職員採用審査会(以下採用審査会という。)は,上記の機構職員の採用基準の

に該当するか否かが問

題となり得る職員について採用審査をするには当該職員の健康状態に関する医師の意見を徴する必要があることから,平成21年1月29日,社会保険庁長官に対し,上記職員の主治医1名及び主治医以外の医師1名からの各回答書(当該職員が回復の見込みがあり,長期的にみて職務遂行に支障がないと判断される健康状態に該当するかを回答するもの等)が採用審査会に直接送付されるように取り計らうことを求めた(乙A56)。
社会保険庁は,平成20年12月24日及び平成21年1月21日,社会保険事務局に対し,職員全員に,機構職員の労働条件及び採用基準のほか機構の理念・運営方針・人事方針に関する資料を配布し,周知するように通知した(乙A12)
。同月9日開催の全国社会保険事務局長等事務打合
せでは,社会保険庁から,社会保険事務局に対し,機構職員の労働条件及
び採用基準のほか機構の理念・運営方針・人事方針,職員意向調査の実施等の機構職員の募集の説明がされ,併せて,協会職員の追加募集,厚生労働省への転任の説明もされた(乙A13,77)
。社会保険庁長官は,同
月,社会保険庁職員全員に対し,機構職員の募集に係る職員意向調査を実施し,機構職員となることに関する職員の意思を確認した(乙A14)。
社会保険庁長官は,職員意向調査に対して機構職員となる意思を表示した者の中から,機構職員の採用基準に従い,機構職員となるべき者を選定し,その名簿を作成して,同年2月16日,設立委員会に提出した(乙A15)
。採用審査会は,提出された名簿を基に,提出された書類を審査し,面接を要すると判断した者の面接審査を実施した上,同年5月19日,機構職員の採否の判定をし,設立委員会に報告した。設立委員会は,同日,正規職員として採用することが適当とされた9613人,准職員として採用することが適当とされた358人の採用を内定した(乙A16)。設立
委員会は,健康状態の判断に慎重を期する必要がある等の理由により,183人については採否保留とした。

協会職員の追加募集及び採用
協会は,船員保険法の改正により,平成22年1月1日から,船員保険事業が移管されることとなったことから,平成20年7月の基本計画を踏まえて,協会職員の採用基準を改定し,社会保険庁職員のうち懲戒処分を受けたものは採用しないと定めた上,機構職員の採用内定を得られなかった社会保険庁職員を対象として,協会職員の追加募集をした。すなわち,協会は,同年12月25日,社会保険庁長官に対し,社会保険庁職員に,協会職員の労働条件及び採用基準を提示して,協会職員の追加募集を行うことを求めた(乙A34)
。社会保険庁は,同月26日,社会保険事務局
に対し,職員全員に,協会職員の労働条件及び採用基準を配布し,周知するように通知した(乙A35)
。平成21年1月9日開催の全国社会保険

事務局長等事務打合せでは,社会保険庁から,社会保険事務局に対し,機構職員の募集の説明がされ,併せて,協会職員の追加募集に係る協会職員の労働条件及び採用基準,協会の概要,厚生労働省への配置転換の説明もされた(乙A13,77)
。社会保険庁は,同月,社会保険庁職員全員に
対し,協会職員の追加募集に係る職員意向調査を実施し,協会職員となることに関する職員の意思を確認した(乙A14)
。社会保険庁長官は,職
員意向調査に対して協会職員となる意思を表示した者の中から,協会職員の採用基準に従い,協会職員となるべき者を選定し,その名簿を作成して,同年2月16日,協会に提出した(乙A36)
。協会は,同年6月,名簿
登載者45人の採用を内定した(乙A37)


職員への伝達と職員再就職等支援対策本部の設置
機構及び協会は,平成21年6月頃,社会保険庁に対し,機構職員又は協会職員の採用内定を得た者を通知した。厚生労働省は,同月22日,社会保険庁に対し,転任予定者に内定した者にそのことを内々示するように依頼するとともに,厚生労働省への転任を第1希望としていた職員のうち,転任者に選考されず,かつ,機構又は協会の採用内定も得られなかったものに対しては,引き続き厚生労働省への転任の努力,官民人材交流センターの活用など分限免職回避に向けた努力を行うこととしていることを説明するように依頼した(甲共各32)
。社会保険庁は,社会保険事務局に対
し,職員に対する伝達を行うように指示し(甲共各34)職員への伝,達に関する進め方等についてと題する連絡文書(乙A94)を送付した。地方厚生局長は,社会保険事務局長に対し,厚生労働省への転任予定者に内定した者の一覧表(乙A93)を送付した。社会保険庁は,同月25日,職員に対し,機構職員及び協会職員の採用内定並びに厚生労働省への転任予定者の内定の伝達を実施した(乙A37の2)

基本計画が,社会保険庁職員のうち機構に採用されないものについて,
退職勧奨,厚生労働省への配置転換,官民人材交流センターの活用など,分限免職回避に向けてできる限りの努力をするとしていたことは,上記ウのとおりであるところ,社会保険庁は,機構職員及び協会職員の採用内定並びに厚生労働省への転任予定者の内定がされたことを受けて,平成21年6月24日,いずれにも採用され又は転任することができない可能性のある職員を支援対象職員とし,社会保険庁長官を本部長とする社会保険庁職員再就職等支援対策本部を設置し,本庁に社会保険庁職員再就職等支援室を,各社会保険事務局に社会保険事務局職員再就職等支援室を,それぞれ設置した。社会保険庁は,分限免職回避のための取組として,官民人材交流センターの活用,厚生労働省ほかの府省及び地方公共団体に対する受入要請,退職勧奨を実施するとともに,職員意向確認追加調査及び支援対象職員との面談を実施することとした(乙A31)
。社会保険庁職員再就
職等支援室は,職員意向確認追加調査の実施の際には,支援対象職員との面談を実施し,官民人材交流センターの活用,職員の求職活動の支援(休暇の承認等)
,厚生労働省ほかへの受入要請について説明し,職員意向確
認追加調査票を手渡すこと,職員意向確認追加調査票の提出後も,支援対象職員との面談を実施し,当該職員の意向を詳細に確認することを指示した(乙A33,90)


厚生労働省への転任予定者の追加内定
厚生労働省は,平成21年12月末まで,内定を辞退した者の枠や欠員の状況を勘案しながら,職員意向準備調査で広域異動を受け入れる意思を表明し,地方厚生局の面接評価がC以上である者を対象に,厚生労働省本省及び地方厚生局への転任予定者の追加内定をした。厚生労働省は,機構における年金記録問題への対応を支援するため,社会保険庁から厚生局への転任予定者の内定を得た者のうち130人を,平成24年3月までの2年3か月,機構に出向させることとしたところ,その出向者が厚生局で行
う予定であった業務を支援させるため,非常勤職員が採用された。厚生労働省は,平成21年12月1日,社会保険庁職員で再就職先が決まっていないものを対象に,非常勤職員の採用をした。

機構職員の追加募集及び採用
設立委員会は,平成21年5月19日,社会保険庁長官に対し,前回の募集の際に機構職員となる意思を表示していない社会保険庁職員に,機構職員の労働条件及び採用基準を提示して,機構の准職員の追加募集を行うことを求めた(乙A17)
。社会保険庁は,社会保険事務局に対し,対象
職員に,資料を配布するように通知した(乙A17)
。設立委員会は,採
用審査会から,准職員の追加募集に応じた社会保険庁職員の採否の判定に関する報告を受け,同年10月8日,准職員として採用することが適当とされた154人の採用を内定した(乙A19)
。設立委員会は,同年12
月1日,社会保険庁長官に対し,前回及び前々回のいずれの募集の際にも機構職員となる意思を表示していない社会保険庁職員に,機構職員の労働条件及び採用基準を提示して,機構の准職員の第2次追加募集を行うことを求めた(乙A21)
。社会保険庁は,社会保険事務局に対し,対象職員
に,資料を配布するように通知した(乙A21)
。設立委員会は,採用審
査会から,准職員の第2次追加募集に応じた社会保険庁職員の採否の判定に関する報告を受け,同月17日,准職員として採用することが適当とされた60人の採用を内定した(乙A22)



機構職員の採否保留者の再審査
社会保険庁は,健康状態を理由に機構職員の採否を保留された職員について採用審査会が再審査をするには当該職員の健康状態に関する医師の意見を再度徴する必要があるとして,平成21年7月27日,社会保険事務局に対し,上記職員の主治医1名からの回答書(当該職員が採用内定者の決定予定日である同年10月1日の時点で特に勤務制限を加えることなく,通常勤務の形態で職務遂行に支障がないと判断される状態にあるものと考えられる勤務時間を制限する等一定の条件が整えば,職務遂行,に支障がないと判断される健康状態に該当するものと考えられる上,記のいずれの状態にも該当しないものと考えられるのいずれに該当するかを回答するもの)が採用審査会に直接送付されるように取り計らうことを求めた(乙A57)
。採用審査会は,同年8月頃,健康状態を理由に採
否保留とされた社会保険庁職員の面接審査を実施した上,機構職員の採否の判定をし,設立委員会に報告した。機構職員の採用において,健康状態の判断に慎重を期する必要がある者の採否の判定は,上記キの機構職員の採用基準中の健康状態に係る基準に基づいて,採用審査会が面接審査の結果等を勘案して行うものとされており,具体的には,採否保留者が機構職員の採用内定を得るためには,医師の意見書で,医師から,職務遂行に支障のない健康状態であるとされ,かつ,面接審査で,面接員のうちの1人以上から,
採用してもよい以上の評価を得ることを要するとされてい
た(面接員は,
採用することが適当である採用してもよい採用,,すべきか判断に迷う採用することは適当でないという4段階で評,
価するものとされていた。。設立委員会は,同年10月8日,正規職員)
として採用することが適当とされた59人,准職員として採用することが適当とされた78人の採用を追加内定した(乙A19)


他府省への配置転換等
厚生労働省は,平成21年7月,他府省に対し,社会保険庁職員の転任の受入に協力を要請した(乙A81)
。社会保険庁は,同月から同年8月
にかけて,他府省に対し,職員の転任の受入に協力を要請した(乙A42)
。社会保険事務局も,他府省の地方支分部局に対し,職員の転任の受入に協力を要請した(乙A43,60,67)
。公正取引委員会及び金融
庁は,社会保険庁に対し,社会保険庁職員の転任を受け入れる旨の応答を
し,それぞれ,書類審査及び面接審査を実施した上,8人及び1人の転任が内定した(乙A44)
。社会保険庁は,同年7月3日,各地方公共団体
に対し,欠員補充のために採用予定がある場合等には,社会保険庁職員の選考採用について検討するように要請し,社会保険事務局も,同様の要請をした(乙A46,68)
。しかし,各地方公共団体からは,上記の要請
に応ずる旨の回答はなかった。
官民人材交流センターによる再就職の斡旋も,社会保険庁職員の分限免職回避のために活用された。平成22年3月末までに,官民人材交流センターの再就職支援を依頼をした者は348人,官民人材交流センターの斡旋により再就職した者は108人である(乙A47)


退職勧奨の実施
社会保険庁は,平成21年6月24日,社会保険庁職員から,勧奨があれば応じたい旨の意思表示がある場合,当該職員の勤続年数,年齢にかかわらず,勧奨による退職を認めることとし,社会保険庁職員に周知させていたところ,社会保険庁は,同年12月,それまでに機構又は協会への採用や厚生労働省への転任内定を得ていなかった社会保険庁職員に対し,退職勧奨をした。
(乙A31,51)


分限免職処分の実施
平成21年12月の時点で,社会保険庁職員であった1万2566人のうち,1万0069人(正規職員が9499人,准職員が570人)が機構に,45人が協会にそれぞれ採用された(協会は追加採用)
。1284
人が厚生労働省に転任したところ,その内訳は,

厚生労働省が新たに

行う業務に伴う定員増の枠内での配置転換として,年金業務の事業管理部門(本省年金局配置)が148人(定員措置166人)
,年金業務の社会
保険審査官等(厚生局配置)が245人(定員措置245人)
,労働関係
部門の船員保険業務(本省内部部局・労働局配置)が43人(定員措置4
3人)
,年金記録確認業務(総務省年金記録確認第三者委員会配置)が162人(定員措置252人)


厚生労働省の既定の定員での配置転換

として,本省内部部局の実施業務,保険医療指導監査業務(本省・厚生局配置,他府省出向)が570人(定員措置なし)
,欠員(退職不補充)の
定員枠活用(本省・厚生局・労働局配置,他府省出向)が116人(定員措置なし)である(甲総190,乙A41)
。厚生労働省は,社会保険庁
が廃止される平成22年1月の時点では他府省による社会保険庁職員の転任の受入が困難な場合を想定し,平成21年度の定員要求で,平成22年1月から同年3月までの間,社会保険庁の廃止に伴う残務整理を行わせるための要員として,本省年金局及び厚生局に113人の暫定定員を確保していたところ,この定員は活用されなかった(甲総67)
。9人が金融庁
及び公正取引委員会に転任され,631人が退職勧奨に応じて,3人が自己都合により,それぞれ退職した。原告を含む525人については,社会保険庁の廃止と同時に,国家公務員法78条4号の規定による分限免職処分がされた。分限免職された社会保険庁職員に対しては,国家公務員退職手当法の規定により,退職金の割増がされた。上記の525人中,401人が退職金の割増がされることから分限免職を希望したものである。(乙
A37の1,乙A52)
本件処分に至った経緯2(原告の意向と処分行政庁等の対応)

協会職員の募集に係る職員意向調査の際の意向
原告は,平成19年11月,協会職員の募集に係る職員意向調査で,第1希望を厚生労働省本省(内部部局,地方厚生局)
,第2希望を機構,第
3希望を協会とした上,広域異動を困難(札幌市にある病院に通院治療中のため,当面通院可能な場所への異動のみ可)と,健康状態を良好ではない(うつ状態で,病気休暇を取得し,実家にて療養中)と,特記事項を情報処理技術者(ソフトウエア開発)取得と,それぞれした(乙B2の3)。

原告が送付を受けた関係書類には,調査の目的,協会職員の労働条件及び採用基準,採用等の日程が記載されていた(乙A25)
。原告は,上記の
職員意向調査で厚生労働省本省を希望に含んでいる職員が記入する調査票でも,同様の意向を示した上,厚生労働省本省での希望する業務を医療関係,衛生関係,福祉関係とし,道外への異動は健康上の理由(札幌市にある病院に通院治療中)により困難であるとした(乙B2の4)


職員意向準備調査の際の意向
原告は,平成20年11月,職員意向準備調査で,第1希望を厚生労働省本省(内部部局,地方厚生局)
,第2希望を機構,第3希望をなしとし
た上,厚生労働省本省での希望する業務を医療関係,福祉関係,年金関係とし,道外への異動も可能であるとした(乙B2の5)
。原告が送付を受
けた関係書類には,
職員意向準備調査についてと題する書面,調査票
の記入要領,厚生労働省の組織・業務関係の資料,機構の組織関係資料等が含まれていた(乙A32)



機構職員の募集等に係る職員意向調査の際の意向
原告は,平成21年1月,機構職員の募集及び協会職員の追加募集に係る職員意向調査において,機構への採用を希望する,協会への採用は希望しない,機構への採用が内定しなかった場合は厚生労働省等への転任を希望する,厚生労働省本省の希望順位は職員意向準備調査から変更がないとした(乙B2の6)
。原告が送付を受けた関係書類には,機構職員の労働
条件及び採用基準,協会職員の労働条件及び採用基準が記載されており,意向調査の目的について記載された書面,職員採用等スケジュール,意向調査票の記入要領等が含まれていた(乙A12,14,35)



厚生労働省への転任候補者の選考に係る面接審査の実施
北海道厚生局の面接官であったC面接官及びD面接官は,平成21年2月4日,原告と面談し,厚生労働省への転任候補者の選考に係る面接審査
を実施した。その際,C面接官が作成した面接票の面接記録欄の特記事項欄にはうつ病ソフトウェア技術者資格あり船員保険の手書き,,だった保険証や記録をパソコンで処理するようにしたと記載され,評価欄には予定する業務に対する適性をD(上記

カ)と記載されている。

C面接官が作成した採用面接評定票の容姿・態度欄(評価のポイントは,身だしなみは整っているか,動作に落ち着きがあるか)にはふつうと,会話欄(評価のポイントは,音声,言語は明瞭か,話に道筋が通っているか)にはふつうと,視線欄(評価のポイントは,面接官の目を見て話しているか)にはふつうと,意欲・元気度欄(評価のポイントは,積極性はあるか,行動力はあるか)には不可と,それぞれ記載されており,その他気付いたこと欄にはうつ病医師からは復職可と言われ,ていると記載されている。D面接官が作成した面接票の書類確認欄の出勤簿欄及び休暇簿欄には復帰まち,タイミングをはかっている状態と考えていると記載されている。同面接票の面接記録欄の特記事項欄には医療保険の指導に興味あり(船保のレセプトを見ての経験から),PCが得意→手続の自動化,台帳の電子化(手書きだった)を船保担当時代に開発したソフトウェア開発技術者と記載されており,評価欄には,
予定する業務に対する適性をDと記載されている。D面接官が作成した採用面接評定票の容姿・態度欄にはふつうと,会話欄には不可
と,視線欄にはふつうと,意欲・元気度欄には不可と,それぞれ
記載されている。
(乙B2の11)

厚生労働省への転任予定者の内定が得られなかったこと
平成21年3月,北海道厚生局長,総務管理官,総務課長及び総務課長補佐で構成された北海道厚生局の職員選考会議が開催され,原告を含む北海道厚生局の管内の社会保険庁職員について,書類審査及び面接審査による評価,北海道厚生局の転任予定数,転任先の職務内容を考慮して,41
人の転任候補者が選考され,厚生労働省大臣官房地方課に報告された。この報告を受けて,同年5月,厚生労働省本省の職員選考会議が開催され,上記の41人の転任予定者が内定した。原告は,厚生労働省への転任候補者に選考されず,転任予定者の内定が得られなかった。北海道厚生局への転任候補者の選考に係る面接審査を受けた者のうち,原告と同じ一般行政職2級のものは,原告を含めて50人であったところ,面接評価がAであった2人及び面接評価がBであった10人は,いずれも,転任候補者に選考され,面接評価がC以下であった38人は,いずれも,転任候補者に選考されなかった(乙A54)
。原告は,厚生局の面接評価がDであったこ
とから,転任候補者に選考されなかったものである。

労働局の面接審査の対象者として選定されなかったこと
地方厚生局が,厚生労働省本省の指示を受け,船員保険業務の経験者であれば一般行政職3級以下のもの,船員保険業務の経験者でなければ一般行政職1級及び2級のもので,厚生局の面接評価がC以上であるものを,労働局の面接審査の対象者として選定したことは,上記

カのとおりであ

るところ,上記エのとおり,原告は,厚生局の面接評価がDであったことから,労働局の面接審査の対象者として選定されず,労働局への転任候補者の選考に係る面接審査を受けることができなかった。なお,北海道労働局への転任候補者の選考に係る面接審査を受けた者のうち,原告と同じ一般行政職2級のものは,8人であったところ,面接評価は全員Cであり,そのうち2人が転任候補者に選考された(乙A55)


機構職員の採否の判定が保留されたこと
原告の主治医及び主治医以外の医師は,平成21年2月6日,採用審査会に対し,原告の健康状態に関する意見として,原告は現在病気休職中であるが,
回復の見込みがあり,長期的にみて職務遂行に支障がないと判断される健康状態に該当するものと考えられ,回復の見込時期は同年6
月頃と推定するとする回答書を提出した(乙B2の10)
。採用審査会は,
提出された書類を審査し,原告については,健康状態の判断に慎重を期する必要があるとして,面接審査を実施せず,機構職員に係る採否の判定を保留した(乙A79)


協会職員となるべき者の名簿に登載されなかったこと
社会保険庁長官が,職員意向調査に対して協会職員となる意思を表示した者の中から,協会職員の採用基準に従い,協会職員となるべき者を選定し,その名簿を作成して,協会に提出したことは,上記

クのとおりであ

るところ,上記ウのとおり,原告は,平成21年1月,機構職員の募集及び協会職員の追加募集に係る職員意向調査において,協会への採用は希望しないとしたことから,協会職員となるべき者の名簿に登載されず,協会職員の採用内定を得ることができなかった(乙A79)


機構職員の採否保留の伝達
α社会保険事務所長は,平成21年6月25日,原告に対し,電話を架け,機構職員の採用については,現時点では健康状態の関係から採否の判定をすることができず,採否保留とされたことを伝えた。北海道社会保険事務局次長は,同年7月2日,α社会保険事務所で,原告に対し,機構職員の採用については,採用審査会の審査の結果,健康状態の判断に慎重を期する必要があることから,現時点では採否の判定をすることができず,採否の決定が保留されたことを伝えた上,同年8月から同年9月にかけて,再審査が予定されていることを説明し,健康管理に努めるように話した。原告が厚生労働省への転任予定者の内定を得られなかったことは,原告が機構職員を採否保留とされたことから,原告に対し,伝達されなかった。
(乙B2の7)


機構職員の採用に係る面接審査の実施
原告の主治医は,平成21年8月3日,採用審査会に対し,原告の健康
状態に関する意見として,機構職員の採用内定者の決定予定日である同年10月1日の時点で原告が特に勤務制限を加えることなく,通常勤務の形態で職務遂行に支障がないと判断される状態にあるものと考えられる状態及び勤務時間を制限する等一定の条件が整えば,職務遂行に支障がないと判断される健康状態に該当するものと考えられる状態のいずれにも該当しないものと考えられるとする回答書を提出した(乙B2の10)。
採用審査会の2名の面接員は,同年8月25日,原告と面談し,機構職員の採用に係る面接審査を実施した。その際,同面接審査を担当した面接員が作成した機構職員採用審査面接評価シートの1枚目のメモ欄にはなぜ病気になったかもよく理解できないとある。同面接評価シートの1枚目の総合判定欄は採用することは適当でないに丸印が記されており,その理由として

業務への熱意は余り考えられない(病気の影響か)。職務歴短く,病歴長期化しており,復帰の可能性疑問。応対は普通だが,回答は全般的なものにとどまる。自己の問題として認識できる状況にない

と記載されている。同面接評価シートの2枚目の総合判定欄は採用すべきか判断に迷うに丸印が記されており,その理由として1月出社の見込み懐疑的と記載されている(乙B2の9)。

機構職員の採用内定が得られなかったこと
採用審査会は,原告の採否の判定をし,設立委員会に報告した。設立委員会が,平成21年10月8日,正規職員として採用することが適当とされた59人,准職員として採用することが適当とされた78人の採用を追加内定したことは,上記

シのとおりであるところ,原告は,機構職員の

採用内定を得られなかった。その理由は,原告が,上記コのとおり,健康状態の判断に慎重を期する必要がある者の採否の判定の基準(上記をいずれも満たさないためである。

機構職員の採用内定が得られなかったことの伝達

シ)

北海道社会保険事務局総務課長であったB課長は,平成21年10月15日,δ市内のホテルで原告と面談し,機構職員の採用内定が得られなかったことを伝えた上,
社会保険庁職員の分限免職回避等への取り組みについてと題する書面(乙A31の1)の内容を伝え,現時点での意向の確認のため,職員意向確認追加調査票の作成を依頼した。B課長は,官民人材交流センターについて説明をしたが,原告は,官民人材交流センターに登録する意思を表示しなかった。B課長は,原告の質問を受けて,厚生労働省への転任予定者となっていないことを伝えた。B課長は,他府省への配置転換について,極めて厳しい状況であり,転任の可能性はほとんどないことを説明した。
(乙B2の7)

職員意向確認追加調査の際の意向
原告は,平成21年10月19日,職員意向確認追加調査票を提出し,優先順位1を厚生労働省等への転任の話があれば受けたいと,優先順位2ないし4をなしと回答し,その他相談したい点について,
現在,病気療養中であるが,主治医の意見を受けた上,平成22年1月から勤務したい(転任希望)と記載した。(乙B2の8)


原告に対する退職勧奨
α社会保険事務所長は,平成21年11月13日,原告に対し,電話を架け,退職勧奨をし,退職についての現時点での意思を確認するなどしたところ,原告は,退職勧奨には応じない,厚生労働省等への転任のみを希望すると回答した。原告は,同年12月1日,抑うつ状態により平成22年3月末まで実家での療養及び通院治療を要するという診断を受け(甲各B4)
,平成21年12月4日,平成22年1月1日から同年3月31日までの病気休職を願い出た(甲各B2)
。α社会保険事務所長は,平成2
1年12月9日,原告に対し,電話を架け,北海道厚生局の非常勤職員の募集について説明をした。原告は,病気療養中であることを理由に,応募
しないと回答した。α社会保険事務所長は,退職勧奨をし,分限免職における退職手当について説明するなどしたところ,原告は,退職勧奨には応じないと回答した。
(乙B2の7)
本件処分
処分行政庁は,平成21年12月25日付けで,原告に対し,国家公務員法78条4号の規定により,同月31日限り免職する旨の本件処分をした。本件処分の理由は,機構法に基づいて機構が設立されるに当たり,同日をもって社会保険庁が廃止されることにより社会保険庁の全ての官職が廃止されることが,国家公務員法78条4号にいう官制の改廃により廃職を生じた場合に該当することにある。不服申立て
原告は,平成22年1月22日,人事院に対し,国家公務員法90条及び人事院規則13-1の規定により,本件処分についての審査請求をした。本件訴えの提起
原告は,平成23年12月15日,本件訴えを提起した。
人事院の判定
人事院は,平成25年5月31日,本件処分の審査請求に対し,本件処分を承認する旨の判定をした。
(甲各共24)
2
争点
本件の争点は,取消しの訴えについて,本件処分の適否,具体的には,機構法に基づいて機構が設立されるに当たり,平成21年12月31日をもって社会保険庁が廃止されたことにより社会保険庁の全ての官職が廃止されたことが,国家公務員法78条4号にいう官制の改廃により廃職を生じた場合に該当するか否か,

処分行政庁が原告に対し,本件処分をしたことについ

て,処分行政庁の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるか否か(原告についてされた,分限免職回避の措置は十分なものであったか否か,分限免職の対象
者の選定は公正かつ平等であったか否か)であり,また,国家賠償請求について,
3
本件処分の国家賠償法上の違法性の有無である。

当事者の主張
当事者の主張は別紙のとおりである。
なお,次の当裁判所の判断の各項目中で,必要に応じ,原告の主張の要旨を掲げてある。

第3
1
当裁判所の判断
廃職を生じたことを理由とする分限免職が違法となる場合について国家公務員法78条4号にいう官制の改廃により廃職を生じた場合に該当することを理由とする分限免職(以下廃職による分限免職という。)に
ついても,公務の能率の維持及びその適正な運営の確保の目的から,任命権者には一定の裁量が付与されていると解されるが,国家公務員の身分保障の見地からすると,任命権者が職員に対し,廃職による分限免職をするに当たり,当該職員の分限免職を回避する措置が十分にとられなかった場合や,当該措置において対象者の選定が公正かつ平等にされなかった場合,当該廃職による分限免職は,任命権者がその裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してしたものとして,違法となるというべきである。
原告は,廃職による分限免職について,それが適法であるためには私人間の労働関係に適用される解雇権濫用の法理の一場合である整理解雇の4要件を満たすことを要する旨を主張する。しかし,整理解雇の4要件(要素)が,私人間の労働関係において,契約締結の自由の原則の下で,使用者が一方的にすることができる解雇権の行使を制約するものとして,裁判例等によって生成されてきたものであるのに対して,分限免職は,法律による行政の原理によって,法令が定める処分要件がある場合に,法令が定める効果を生じさせるものとしてしか,することができないものであるから,整理解雇の4要件(要素)の適用の前提を欠く。廃職による分限免職に整理解雇の4要件(要素)の適用があ
ると解することはできない。
2
社会保険庁の廃止による廃職の有無について
そこで,まず,機構法に基づいて機構が設立されるに当たり,平成21年12月31日をもって社会保険庁が廃止されたことにより社会保険庁の全ての官職が廃止されたことが,国家公務員法78条4号にいう官制の改廃により廃職を生じた場合に該当するか否かについて検討するに,同号の官制とは行政組織をいうものであり,また,
廃職とは官職(同法2条4項)が廃止
されることをいうものであると解されるのであって,社会保険庁が廃止されたことにより社会保険庁の全ての官職が廃止されたことは官制の改廃により廃職を生じた場合に該当するということができる。原告は,国家公務員法78条4号の廃職又は過員を生じた場合とは,職員が従事していた職務がなくなるなどすることによって,当該職務に従事する職員の人員削減の必要性が生じた場合をいうとした上,社会保険庁は廃止されたが,社会保険庁が行っていた業務は機構に承継されたのであり,社会保険庁職員が従事していた職務は存在し,運営主体が変更されたにすぎないから,人員削減の必要性がなく,廃職を生じた場合に当たらないと主張する。しかし,社会保険庁が廃止され,その業務が機構に承継されたことによって,国家公務員が従事する職務は消滅し,新たに設立された法人である機構の職員が従事する職務が発生したのであるから,官制(行政組織)の改廃(廃止)により廃職(官職の廃止)を生じたものであることは明らかである。原告が指摘する,組織の名称が変更されたにすぎない場合は,組織の名称が変更されても,国家公務員が従事する職務が消滅していないことから,廃職を生じた場合に該当しないにすぎない。原告の上記主張は採用することができない。
また,原告は,うつ病を発症していることを実質的な理由として,厚生労働省への転任予定者の内定や機構職員の採用内定を得られず,本件処分を受けたものであり,本件処分は,実質的には,原告の健康状態が国家公務員法78条
2号の分限事由である心身の故障のため,職務の遂行に支障があり,又はこれに堪えない場合に該当することを理由とするものであると主張し,本件処分は,同号の規定により分限免職をする場合について任命権者が指定する医師2名による診断を要する旨を規定する人事院規則11-4第7条2項に違反し,処分行政庁がその裁量権の範囲を逸脱し又はそれを濫用してしたものであるとする。しかし,本件処分は,社会保険庁が廃止されたことにより社会保険庁の全ての官職が廃止されたことが,国家公務員法78条4号にいう官制の改廃により廃職を生じた場合に該当することを理由とするものであり,実質的にみても,同条2号の心身の故障のため,職務の遂行に支障があり,又はこれに堪えない場合に該当することを理由とするものではない。原告の上記主張は採用することができない。
3
分限免職回避の措置について
処分行政庁が原告に対し,本件処分をするに当たり,原告ほかの社会保険庁職員の分限免職を回避する措置が十分にとられたか否かについて検討する。分限免職回避の措置の主体及び内容について
まず,社会保険庁長官ほかの任命権者が分限免職回避の措置の主体となるか否かについてみると,社会保険庁は,厚生労働省の外局であったものであり,社会保険庁長官は,国家公務員法55条1項の外局の長として,社会保険庁に属する官職の任命権を本来的に有していた。各社会保険事務局長は,同条2項の規定により,社会保険庁長官の委任を受け,各社会保険事務局に属する官職の任命権を有していた。社会保険庁長官は,この委任により,各社会保険事務局に属する官職の任命権を失ったが,本来の任命権者であるし,社会保険庁に属するそれ以外の官職の任命権は有していた。これらの社会保険庁長官ほかの任命権者は,機構法に基づいて機構が設立されるに当たり,平成21年12月31日をもって社会保険庁が廃止されることにより社会保険庁の全ての官職が廃止されることから,社会保険庁職員に対し,廃職によ
る分限免職をすべきこととなることが見込まれたのであるから,当該廃職による分限免職をするのに先立ち,社会保険庁職員の分限免職を回避する措置をとる職務上の義務を負っていたということができる。
次に,厚生労働大臣が分限免職回避の措置の主体となるか否かについてみると,社会保険庁は,厚生労働省の外局として,厚生労働省の所掌事務の一部をつかさどっていたものであり,社会保険庁長官に対する任命権は,厚生労働大臣に属するものであったこと(同条1項ただし書)からすると,厚生労働大臣も,社会保険庁長官ほかの任命権者が社会保険庁職員に対し,廃職による分限免職をするのに先立ち,社会保険庁職員の分限免職を回避する措置をとる職務上の義務を負っていたということができる。
内閣及び内閣総理大臣が分限免職回避の措置の主体となるか否かについて,国家公務員の勤務に関わる公法上の法律関係の主体は被告(国)であり,分限免職を回避する措置をとる義務は実体的には被告(国)に帰属するところ,被告(国)の行政権は内閣に属し,厚生労働大臣は,内閣総理大臣及び他の国務大臣と共に内閣を組織し,厚生労働省の主任の大臣として,その所掌する行政事務を分担管理する立場から,社会保険庁長官は,厚生労働省の所掌事務の一部をつかさどる社会保険庁の長としての立場から,それぞれ上記の権限を有していたのであるから,内閣又はその首長である内閣総理大臣も,社会保険庁長官ほかの任命権者が社会保険庁職員に対し,廃職による分限免職をするのに先立ち,社会保険庁職員の分限免職を回避する措置をとる職務上の義務を負っていたと解する余地がないものではない。
もっとも,これらの分限免職回避の措置の主体が,いずれも同じ内容の措置をとる職務上の義務を負っていたと解するのは相当でない。社会保険庁長官ほかの任命権者は,社会保険庁職員の分限免職回避の措置を,社会保険庁の所掌事務を遂行する上で,その一環として行っていたものであるから,公務員の勤務に関わる公法上の法律関係の主体たる国の機関として社会保険庁
職員の分限免職回避の措置をとる第一次的な義務を負うということができる。また,厚生労働大臣も,社会保険庁長官に対する任命権を有し,社会保険庁の所掌事務は厚生労働省の所掌事務の一部であるから,社会保険庁職員の分限免職回避の措置をとる第一次的な義務を負うということができる。これに対して,内閣及び内閣総理大臣は,社会保険庁の所掌事務を自ら直接遂行するものではなく,内閣においては,行政権の行使について,国会に対し連帯して責任を負う立場から,国の行政機関を統轄するものであり,また,内閣総理大臣においては,内閣の首長であり,閣議にかけて決定した方針に基づいて,行政各部を指揮監督するものであるから,仮に社会保険庁職員の分限免職を回避する措置をとる職務上の義務を負っていたと解するとしても,国の行政権の行使の全体的な見地から,社会保険庁長官ほかの任命権者,厚生労働大臣が分限免職回避の措置をとることに必要に応じて協力し,それを補完する義務を負うにとどまるものとするのが相当である。
そして,裁判所の審査の範囲について,職員の分限免職回避の措置をとるに当たり,どのような時期に,どのような措置をとるか,その措置をどのような手続によって実施するかは,一義的に定められるものでなく,任命権者等のように当該行政組織の状況や当該職員について分限免職回避の措置がとられることとなった事情に通じているものでなければ,時宜にかなった適切な判断をすることは困難であるから,職員の分限免職回避の措置をとる時期,その内容及び手続は,当該措置をとる者の裁量に委ねざるを得ないのであり,裁判所が,職員の分限免職を回避する措置がとられた時期,その内容及び手続を全面的に審査することができるものと解するのは相当でなく,裁判所は,当該措置者の判断が合理性を欠く場合に限り,当該措置が十分なものでないとすることができるというべきである。
被告は,本件訴えの訴訟物は本件処分の違法性一般,すなわち,処分行政庁の権限の行使の適否であるから,処分行政庁の権限が及ばない事項は本件
処分の違法事由とならないとし,本件処分の取消事由たり得るのは,処分行政庁が分限免職回避の努力をするに当たり,その権限の範囲内で可能な限りの努力を尽くしたかという点にとどまり,それ以外の本件処分をめぐる政府や厚生労働省の取組等の一連の経過は,本件処分の事情として考慮されるにすぎないと主張する。確かに,廃職による分限免職が,任命権者がその裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してしたものであるか否かの判断は,任命権者の権限の行使の適否の判断である。しかし,そうであるからといって,その判断の基礎となる事実が,任命権者がその権限を行使してとった措置に限られると解する理由はない。任命権者以外の行政庁がその権限を行使してとった措置に,任命権者の権限が及ばないものとしても,任命権者がその権限に基づき,上記の行政庁がとった措置を前提としてした裁量的判断が合理性を欠くなどするものであれば,その任命権者の判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があったものとされることは当然である。被告の上記主張は採用することができない。
内閣又は内閣総理大臣がとった分限免職回避の措置について

原告の主張
原告は,内閣又は内閣総理大臣が社会保険庁職員の分限免職を回避する措置を十分にとらなかったとし,

平成19年6月30日に成立した機

構法は,行政機関が独立法人化される場合の通例に反し,社会保険庁職員の機構への承継の規定を設けないという特殊な方式を採用しており,法案審議の段階から,社会保険庁職員に対し,分限免職がされることが念頭に置かれていた,

平成20年7月29日に閣議決定された基本計画は,

機構の必要人員数を意図的に少なくし,相当数を非常勤とした上,民間から1000人採用することとし,また,懲戒処分を受けた職員を採用しないこととしたのであり,分限免職を前提としている,

社会保険庁及び

厚生労働省が平成19年1月,雇用調整本部に対し,社会保険庁の廃止に
伴う社会保険庁職員の配置転換に雇用調整本部の枠組による府省横断的な配置転換を活用することの可否について協議を要請したところ,雇用調整本部は,同枠組は社会保険庁の廃止に伴う職員の配置転換とは趣旨目的が異なるため,同枠組を活用することは不可能であると回答し,かえって,雇用調整本部は,厚生労働省が上記の枠組による他府省の職員の受入の免除を要請したのに対し,これにさえ応じなかったと主張する。

上記ア

の点について

しかし,上記ア

の点は,社会保険庁職員の機構への承継の規定を設け

ないという機構法の立法政策を問題とするものにほかならないところ,そのような立法政策を採用したことが立法府の裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものであるということはできない。

上記ア

の点について

上記ア

のうち,基本計画が,機構の設立時の人員数を1万7830人

程度とし,そのうち,1万0880人程度を正規職員,6950人程度を有期雇用職員とし,正規職員のうち,おおむね1000人程度は外部から採用するとしたことにつき,社会保険庁職員のうち機構の正規職員として採用されるものを殊更に少なくしたものであるとする点については,政府が管掌する厚生年金保険事業及び国民年金事業の適正かつ効率的な運営を図るという基本計画の目的(機構法附則3条1項)に照らし,また,基本計画が,社会保険庁職員のうち機構に採用されない者については,分限免職回避に向けてできる限りの努力をするとしていたことをも併せて考えると,基本計画が,機構の業務運営の効率化の観点から,機構の設立に際して採用する職員の数を上記のとおり定めたことが,合理性を欠くということはできない。
上記ア

のうち,基本計画が,社会保険庁職員のうち懲戒処分を受けた

ものは機構職員として採用しないとしたことを問題とする点については,
政府が管掌する厚生年金保険制度及び国民年金制度に対する国民の信頼の確保を図るという機構の目的(機構法1条)に照らし,また,基本計画が,社会保険庁職員のうち機構に採用されない者については,分限免職回避に向けてできる限りの努力をするとしていたことをも併せて考えると,基本計画が,国民の公的年金業務に対する信頼の回復の観点から,機構の設立に際して社会保険庁職員のうち懲戒処分を受けたものは採用しないとしたことが,合理性を欠くということはできない。

上記ア

の点について

上記ア

のうち,雇用調整本部が,社会保険庁の廃止に伴う社会保険庁

職員の配置転換に雇用調整本部の枠組による府省横断的な配置転換を活用することはできないとした点について,
国の行政機関の定員の純減について
(平成18年6月30日閣議決定。以下純減計画という。
)は,
総人件費の抑制の観点から,国の行政機関の定員を5年間で5%以上純減するとした上,それを達成するため必要となる職員の配置転換,採用抑制等については政府全体で取り組むとしており(乙A45の3)国家公,務員の配置転換,採用抑制等に関する全体計画(同日閣議決定)は,純
減計画に基づいて定員の純減を図るに当たり,職員の雇用の確保を図りながら純減を進めることの重要性に鑑みて,公務の能率の維持向上にも十分配慮しつつ,配置転換,採用抑制等の取組を行うとし,その取組を政府全体として着実に実施するとするとともに,それらの取組が円滑に進むように,各府省に対して必要な助言,調整,支援等を行うため,内閣に雇用調整本部を設置した(乙A45の1)ところ,純減計画の取組対象となる重点事項の中には,社会保険庁の廃止に伴う定員の減少は掲げられていなかった(乙A45の3)
。このように,雇用調整本部は,純減計画に基づい
て定員の純減を図るに当たり,配置転換,採用抑制等の取組が円滑に進むように,各府省に対して必要な助言,調整,支援等を行うため,設置され
たものであるところ,純減計画の取組対象となる重点事項の中には,社会保険庁の廃止に伴う定員の減少は掲げられていなかったのであるから,雇用調整本部が,社会保険庁及び厚生労働省がした協議の要請に対し,雇用調整本部の枠組は社会保険庁の廃止に伴う職員の配置転換とは趣旨目的が異なるため,同枠組を活用することは不可能であると回答したことが,合理性を欠くということはできない。なお,純減計画に先立つ行政改革の重要方針(平成17年12月24日閣議決定)は,小さくて効率的な政
府を実現し,財政の健全化を図るとともに,行政に対する信頼性の確保を図るための改革の一つとして,総人件費改革の実行計画等を掲げ,公務員の総人件費を定員の大幅な純減等により大胆に削減するとし,具体的には,5年間で国家公務員を5%以上純減させるとするとともに,社会保険庁改革をも掲げ,内部統制の強化,業務の効率化,保険料収納率の向上,国民サービスの向上等を図る観点から,平成17年5月の最終とりまとめに即して,社会保険庁を廃止するとともに,公的年金と政府管掌健康保険の運営を分離した上,それぞれ新たな組織を設置する解体的出直しを行い,併せて,大幅な人員削減を行うとしていた(乙A74)が,行政改革推進本部は,平成18年2月,行革推進法案の作成方針として,法案には,総合的な基本方針,推進方策等を定めることとし,個別の改革事項であり,かつ,改革の内容が既に定まっている社会保険庁改革等は盛り込まないものとしたのであって(乙A70)
,社会保険庁の廃止に伴う人員削減は行革
推進法の改革事項には盛り込まれなかった。
上記ア

のうち,雇用調整本部が,厚生労働省が雇用調整本部の枠組に

よる他府省の職員の受入の免除を要請したのに対し,これにも応じなかった点について,雇用調整本部は,純減計画に基づいて定員の純減を図るに当たり,配置転換,採用抑制等の取組が円滑に進むように,各府省に対して必要な助言,調整,支援等を行うという上記の設置目的の観点から,厚
生労働省の要請に応じないこととしたものであり,そのことが合理性を欠くということはできない。

内閣及び内閣総理大臣が,仮に社会保険庁職員の分限免職を回避する措置をとる職務上の義務を負っていたと解するとしても,国の行政権の行使の全体的な見地から,社会保険庁長官ほかの任命権者,厚生労働大臣が分限免職回避の措置をとることに必要に応じて協力し,それを補完する義務を負うにとどまるものとするのが相当であることは,上記

のとおりであ

るところ,基本計画や雇用調整本部の対応等がいずれも合理性を欠くということはできないことは,上記イないしエのとおりであり,内閣又は内閣総理大臣が原告ほかの社会保険庁職員の分限免職を回避する措置を十分にとらなかったということはできない。原告の上記アの主張は採用することができない。
厚生労働省大臣がとった分限免職回避の措置について

原告の主張
原告は,厚生労働大臣が社会保険庁職員の分限免職を回避する措置を十分にとらなかったとし,

厚生労働省は,平成21年12月末までに,

1284人の厚生労働省への転任予定者を内定したが,この配置転換は機構の設立に伴い年金業務の一部が厚生労働省に移管されることを受けたものにすぎない,

厚生労働省は,定員増や新規採用の抑制等によって配

置転換可能人数を確保すべきであったのに,定員増要求については,平成20年12月,査定官庁から要求どおり認めないとされ,新規採用の抑制等もしなかった,

厚生労働省は,機構の設立時,機構の業務を支援す

るため,職員を出向させたことから,130人の欠員が生じたのに,これを活用せず,平成21年12月,欠員補充ではなく,非常勤職員の採用をするにとどまった,

厚生労働省は,社会保険庁の廃止に伴う残務整理

のため,平成22年3月まで113人の定員を確保していたにもかかわら
ず,この定員を活用して,国家公務員の身分をつないだ上,同年4月以降,更なる配置転換をすることをせず,かえって,大量の新規採用をし,配置転換可能人数を確保しなかった,

厚生労働省は,外郭団体に職員を出

向させて欠員を作り,その補充として新たに職員を採用するといった柔軟な対応が可能であるにもかかわらず,そのような対応をしなかった,原告は,公務災害により病気休職中であったものであるから,より一層の分限免職回避の努力が尽くされるべきであるのに,北海道厚生局の面接審査の手続において,公務災害により病気休職中であることを考慮されないなど,十分な分限免職回避の措置を受けることができず,かえって,病気休職中であることを不利益に取り扱われた,

厚生労働大臣は,機構及

び協会に対し,指揮命令権を有しているところ,厚生労働省は,機構の設立時,内定辞退者が相次いだことから,300人の欠員が生ずることが予想されたのに,機構に対し,正規職員の追加採用を指示せず,准職員の追加募集がされるにとどまった,

原告は,機構職員の採用でも,面接審

査の手続において,病気休職中であることを考慮されないなど,十分な分限免職回避の措置を受けることができず,かえって,病気休職中であることを不利益に取り扱われた,

原告は,協会職員の採用でも,病気休職

中であることから,十分な情報提供を受けられないなど,不利益に取り扱われたなどと主張する。

上記ア

ないし

の点について

上記ア

ないし

の点は,厚生労働省が,平成21年12月31日の社

会保険庁の廃止までに,1284人の厚生労働省への転任予定者を内定したことについて,定員増や新規採用の抑制等によって,より多くの定員を確保し,厚生労働省への配置転換をすべきであったのに,そのような措置をとらず,また,機構の設立時の業務の支援のための出向職員の定員130人,社会保険庁の廃止に伴う残務整理のための定員113人,その他の
定員を十分に活用しなかった旨をいうものである。
しかし,厚生労働省は,厚生労働省設置法3条の任務を達成するため,同法4条各号に掲げる行政事務をつかさどる機関として置かれたものであり,その事務を継続的かつ安定的に滞りなく実施するには,組織全体としての業務遂行能力を適切に保持することを要するところ,そのためには,組織の人員構成や個々の職員の職務遂行能力,適性を考慮しつつ,職員の定員の確保や任用を適切に行わなければならず,その判断を適切に行うことができるのは,上記の行政事務に通暁し,かつ,組織の人員構成や個々の職員の職務遂行能力等を把握する厚生労働大臣を始めとする厚生労働省職員の任命権者を措いて,他には存在しない。厚生労働大臣ほかの任命権者は,厚生労働省の職員の定員の確保及び任用について,広範な裁量を付与されているといわなければならない。
このことを前提に,原告の上記主張に係る厚生労働省の職員の定員の確保や採用についてみると,

そもそも,平成20年の定員要求について

は,厚生労働省は,社会保険庁の廃止に伴い,社会保険庁の業務の一部が厚生労働省に移管されることから,同年夏の定員要求で1381人の定員増を求めたが,査定官庁である総務省行政管理局が,社会保険庁の廃止に伴う定員の措置では,従前の社会保険庁の業務方法を踏襲し,組織人員を平行移動することはできず,業務を効率化,合理化した上で,真に必要な業務を精査し,最小限の定員を措置することとするという方針を採用したことから,社会保険庁からの業務の移管に伴う定員増として706人の増員が認められるにとどまったものであり(甲総187)
,このことは,厚
生労働大臣が社会保険庁職員の分限免職を回避する措置を十分にとらなかったことの根拠となるものではない(なお,政府管掌年金事業の適正かつ効率的な運営を図るという基本計画の目的(機構法附則3条1項)に加えて,総人件費の抑制の観点から国の行政機関の定員の純減が図られていた
当時の状況にもよれば,査定官庁が厚生労働省の要求どおり定員増を認めなかったことが,合理性を欠くということはできない。。そして,)
厚生労働省への転任予定者の内定を得られた社会保険庁職員が合計1284人となったことについて,甲総第187号証,第188号証によれば,厚生労働省は,平成21年度の定員要求で,総務省行政管理局の上記

査定減のほか,同年度の定員の合理化による定員減や,総務省年金記録確認第三者委員会等への定員の振替による定員減があったことから,全体としては655人の定員減となったところ,厚生労働省の各部局等において,業務遂行上の必要や,職員の年齢構成,級別定数の状況,退職予定のほか,組織の将来を担う人材の確保の要請をも考慮しつつ,新規採用の抑制や,退職等によって生じた欠員の不補充,その他の人事上の工夫によって,欠員を確保した結果,1284人の社会保険庁職員の転任の受入が可能となったものであると認めることができ,また,

機構の設立時の業務の支

援のための出向職員の定員130人を欠員扱いすることにより,その欠員補充として常勤職員を採用するのではなく,同出向職員を欠員扱いしないこととし,非常勤職員を採用したことについて,甲総第188号証によれば,厚生労働省から機構への出向者は,機構における年金記録問題への対応を支援するため,社会保険庁から地方厚生局の保険医療指導監査業務を担当する部署への転任予定者の内定を得た者のうち130人を,平成24年3月までの2年3か月の予定で,機構に出向させたものであり(前提事実
コ)
,この出向に伴い,保険医療指導監査業務の実施率が低下するこ

とを防止するため,上記部署で,非常勤職員であっても実施可能な業務を行っている常勤職員を,常勤職員でなければ実施不可能な業務にシフトさせ,その常勤職員が担当していた業務を支援させるため,非常勤職員が採用されたところ,定員及び予算の要求時,査定官庁である総務省行政管理局及び財務省は,当初,出向者に係る定員及び人件費を不必要とする方向
を示していたが,厚生労働省としては,年金記録問題への対応が終了した後,出向者を復帰させるためには,その定員を確保しておく必要があったことから,査定官庁に対する説明を重ねることにより,定員のみを存続させ,人件費は措置しないという解決を図ったものであり,人件費が措置されていない同定員に人員を配置することはできないことから,非常勤職員を採用したものであると認めることができる(この点について,原告は,厚生労働省から機構への出向が現在も続いていることを指摘し,同出向は一時的,暫定的なものではないと主張するが,出向が現在も続いているからといって,それが当初から継続的なものと位置付けられていたということはできないから,原告が指摘する上記事実は,上記認定を左右するものではない。。


社会保険庁の廃止に伴う残務整理のための定員113

人を平成22年3月まで確保していたにもかかわらず,この定員を活用しなかったことについて,甲総第188号証によれば,厚生労働省は,社会保険庁の廃止に伴う残務整理のための定員を,同年4月の転任等の待機ポストとして活用することもできたが,その転任等を受け入れる府省や法人は現れなかったことや,厚生労働省の新規採用予定者については,既に平成21年10月1日付けで採用内定がされており,撤回することができないことから,上記の定員を活用せず(前提事実

ソ)
,また,残務整理業

務は,社会保険庁が廃止されるまで関係業務を担当していた職員らに行わせることが円滑な事務処理に不可欠であったことから,厚生労働省と機構が協定を締結し,当該職員らが中心となって実施されたため,別途人員を配置する必要はなく,その結果,社会保険庁の廃止に伴う残務整理のための定員は使用されなかったものであると認めることができる。
人事院の判定(甲各共22,24)は,厚生労働省が,平成21年度に,新規採用の抑制等により定員を確保したものの,他方で,新規採用を相当数行ったことについて,新規採用の更なる抑制により,限定的にではあれ,
受入数を一部増加させることができた可能性は否定することができないとし,また,社会保険庁の廃止に伴う残務整理のための定員が活用されず,平成22年4月には新規採用が相当数行われたことについて,同月の新規採用に係る採用内定前に検討を行い,残務整理のための定員を活用しつつ,同月の新規採用を抑制することは可能であったとし,これらのことからすると,新規採用の抑制の取組及び社会保険庁の廃止に伴う残務整理のための定員の活用により,限定的にではあれ,受入を一部増加させる余地があったとみるのが相当であると指摘する。しかし,行政庁の裁量に属する判断は,それに当不当の問題があるとしても,直ちに違法となるものではなく,それが行政庁の裁量権の範囲を逸脱し又はそれを濫用してされたものである場合に限り,違法となるものであるところ,処分者の処分が違法であるか否かについてのみならず,処分の当不当の問題についてまで,審査する権限を有する人事院と異なり,裁判所は,行政庁の処分が違法であるか否かについてのみ審査する権限を有し,それが行政庁の裁量権の範囲を逸脱し又はそれを濫用してされたものである場合に限り,違法とすることができる。厚生労働大臣ほかの任命権者が,厚生労働省の職員の定員の確保及び任用について,広範な裁量を付与されていることは,上記のとおりであり,このことからするならば,厚生労働大臣が社会保険庁職員の分限免職回避の措置をとる第一次的な義務を負うことを踏まえ,人事院の判定の上記指摘を斟酌しても,なお,厚生労働省の組織全体としての業務遂行能力を適切に保持する観点から,組織の人員構成や個々の職員の職務遂行能力,適性を考慮しつつ,厚生労働大臣ほかの任命権者がした,厚生労働省の職員の定員の確保及び任用に係る上記

ないし

の判断が,その裁量

権の範囲を逸脱し又はそれを濫用してされたものであるということはできないのであり,上記の各判断が違法でないことはもちろん,原告ほかの社会保険庁職員の分限免職回避の措置としても,原告の上記ア

ないし


主張に係る厚生労働省への転任予定者の内定に係る定員の確保や採用が合理性を欠くということはできない。

上記ア

の点について

厚生労働大臣や社会保険庁長官ほかの任命権者等が社会保険庁職員の分限免職を回避する措置をとるに当たり,その措置の手続に合理性を欠く瑕疵があった場合であっても,その瑕疵を原因として,直ちに,当該措置をとった意義が否定され,当該廃職による分限免職は,社会保険庁職員の分限免職を回避する措置が十分にとられなかったものとして,任命権者がその裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してしたものとなると解するのは相当でなく,上記の場合であっても,その瑕疵が当該措置をとった意義を失わせるような重大なものであるときでない限り,当該廃職による分限免職は,社会保険庁職員の分限免職を回避する措置が十分にとられなかったものとして,任命権者がその裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してしたものであることとはならないというべきである。原告は,北海道社会保険事務局に採用された後,うつ病を発症し,長期にわたり病気休職をしていたものであるところ,原告に発症したうつ病は公務上の災害であると主張するが,本件全証拠によるも,原告が,当該うつ病の発症前おおむね6か月の間に,公務による強い心理的負荷を受けたと認めることはできないのであり,原告のうつ病が公務による心理的負荷が原因となって発症したものであると認めることはできず,原告のうつ病が公務上の災害であるということはできない。原告は,北海道厚生局の面接審査の手続の瑕疵のほか,厚生労働大臣が社会保険庁職員の分限免職を回避する措置をとるに当たり,その措置の手続に種々の瑕疵があったと主張するが,仮に原告が指摘する瑕疵があったものとしても,その瑕疵は,いずれも,厚生労働大臣が当該措置をとった意義を失わせるようなものではないのであり,本件処分が,原告ほかの社会保険庁職員の分限免職を回避する措置が十分にとら
れなかったものとして,処分行政庁がその裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してしたものとなるということはできない。なお,原告がうつ病を発症して病気休職中であることが不利益に考慮されたからといって,北海道厚生局への転任の措置における対象者の選定が公正かつ平等にされなかったということはできないことは,後記4

上記ア

ウのとおりである。

の点について

厚生労働大臣は,設立委員を命じて,機構の設立に関する事務を処理させるものであり,設立委員会は,機構の設立時の職員の採用を行うものであるから,機構職員の採用は,厚生労働大臣がとる社会保険庁職員の分限免職を回避する措置であると考えることもできる。しかし,設立委員会は,機構職員の採用についての基本的な事項について定める基本計画に基づき,機構の設立時の職員の採用を行うものであるところ,基本計画は,社会保険庁長官から厚生労働大臣及び機構への業務の円滑な引継ぎを確保し,政府管掌年金事業の適正かつ効率的な運営を図るため,定められたものであるから,設立委員会が,社会保険庁職員の分限免職を回避する措置として,機構が行う事業の適正かつ効率的な運営の観点から,正規職員の追加採用をせず,准職員の追加採用をするにとどめたこと(前提事実

サ)が,合

理性を欠くということはできない。

上記ア

及び

の点について

厚生労働大臣や社会保険庁長官ほかの任命権者等が社会保険庁職員の分限免職を回避する措置をとるに当たり,その措置の手続に合理性を欠く瑕疵があった場合であっても,その瑕疵が当該措置をとった意義を失わせるような重大なものであるときでない限り,当該廃職による分限免職は,社会保険庁職員の分限免職を回避する措置が十分にとられなかったものとして,任命権者がその裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してしたものであることとはならないことは,上記ウのとおりであるところ,この理は,
機構職員又は協会職員の採用にも,妥当する。原告は,機構の面接審査の手続の瑕疵のほか,機構又は協会が社会保険庁職員の分限免職を回避する措置をとるに当たり,その措置の手続に種々の瑕疵があったと主張するが,仮に原告が指摘する瑕疵があったものとしても,その瑕疵は,いずれも,機構又は協会が当該措置をとった意義を失わせるようなものではないのであり,本件処分が,原告ほかの社会保険庁職員の分限免職を回避する措置が十分にとられなかったものとして,処分行政庁がその裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してしたものとなるということはできない。

厚生労働大臣が,社会保険庁職員の分限免職回避の措置をとる第一次的な義務を負うことは,上記

のとおりであるところ,厚生労働省への転任

予定者の内定に係る定員の確保や採用,機構職員の採用等がいずれも合理性を欠くということはできないことは,上記イないしオのとおりであり,厚生労働大臣が原告ほかの社会保険庁職員の分限免職を回避する措置を十分にとらなかったということはできない。原告の上記アの主張は採用することができない。
社会保険庁長官ほかの任命権者がとった分限免職回避の措置について原告は,社会保険庁長官ほかの任命権者が社会保険庁職員の分限免職を回避する措置を十分にとらなかったとし,ア

社会保険庁の再就職支援には実

態がなく,当初から,公務職場への配置転換は困難であるとしていた,イ北海道社会保険事務局は,地域内の国の機関や地方公共団体に対し,職員の受入を要請したが,それ以上,積極的な働き掛けをしなかった,ウ
原告は,

公務災害により病気休職中であるのに,機構及び協会の採用基準,採用日程,採用人数等について周知されず,かえって,病気休職中であることを不利益に取り扱われた,エ

原告は,厚生労働省への転任予定者の内定を得られて

いないことを,平成21年10月15日まで知らされなかったなどと主張する。しかし,厚生労働大臣や社会保険庁長官ほかの任命権者等が社会保険庁
職員の分限免職を回避する措置をとるに当たり,その措置の手続に合理性を欠く瑕疵があった場合であっても,その瑕疵が当該措置をとった意義を失わせるような重大なものであるときでない限り,当該廃職による分限免職は,社会保険庁職員の分限免職を回避する措置が十分にとられなかったものとして,任命権者がその裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してしたものであることとはならないことは,上記⑶ウのとおりであるところ,原告は,社会保険庁の再就職支援に実態がなかったことのほか,社会保険庁長官ほかの任命権者が社会保険庁職員の分限免職を回避する措置をとるに当たり,その措置の手続に種々の瑕疵があったと主張するが,仮に原告が指摘する瑕疵があったものとしても,その瑕疵は,いずれも,社会保険庁長官ほかの任命権者が当該措置をとった意義を失わせるようなものではないのであり,本件処分が,原告ほかの社会保険庁職員の分限免職を回避する措置が十分にとられなかったものとして,処分行政庁がその裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してしたものとなるということはできない。なお,上記エの点について,原告は,厚生労働省への転任を第1希望としていたのであるから,処分行政庁としては,平成21年6月,原告が厚生労働省への転任予定者の内定を得られなかったことが判明した時点で,速やかに,そのことを原告に伝達すべきであったと主張し,原告は,
職員への伝達に関する進め方等についてと
題する連絡文書(前提事実

ケ)の区分中に該当するものがなく,処分行政

庁は,社会保険庁総務課と個別に相談の上,伝達を実施しなければならなかったとする。しかし,原告が,形式的にみて,上記区分中のF機構保留者(健康面等での保留者)に該当することからすれば,処分行政庁が,上記の連絡文書の指示に従い,原告に対しては,健康状態の判断に慎重を期する必要があるため,現時点では採否の判定を行うことができず,機構の採否が保留とされたこと,8月から9月にかけてを目途に再審査が行われることを伝達するにとどめたことが,合理性を欠くということはできない。
社会保険庁長官ほかの任命権者が,社会保険庁職員の分限免職回避の措置をとる第一次的な義務を負うことは,上記

のとおりであるところ,社会保

険庁長官ほかの任命権者が原告ほかの社会保険庁職員の分限免職を回避する措置を十分にとらなかったということはできない。原告の上記の主張は採用することができない。
4
分限免職回避の措置の対象者の選定の公正性について
処分行政庁が原告に対し本件処分をするに当たりとられた措置において対象者の選定が公正かつ平等にされたか否かについて検討する。
対象者の選定について
国家公務員法27条は,平等取扱いの原則を規定し,同法74条1項は,全て職員の分限については,公正でなければならないと規定する。また,人事院規則11-4職員の身分保障は,いかなる場合においても,国家公務員法27条に定める平等取扱いの原則,同法74条に定める分限の根本基準に違反して,職員を免職してはならないと規定する(2条)ほか,同法78条4号の規定により職員のうちいずれを免職するかは,任命権者が,勤務成績,勤務年数その他の事実に基づき,公正に判断して定めるものとすると規定する(7条4項)
。同項の規定は,複数の職員のうちいずれを分限免職
するかを選定する場合についてのものであるところ,本件処分を始めとする一連の分限免職処分は,社会保険庁が廃止されたことにより社会保険庁の全ての官職が廃止されたことから実施されたものであり,社会保険庁が廃止された平成21年12月31日の時点で,機構職員若しくは協会職員に採用されず,又は厚生労働省への配置転換を受けることもなく,退職勧奨にも応じていなかった社会保険庁職員は,全員が分限免職の対象となったのであるから,本件処分を始めとする一連の分限免職処分をするに当たり,複数の職員のうちいずれを分限免職するかを選定する必要はなく,実際に分限免職の対象者の選定はされなかった。しかし,本件処分を始めとする一連の分限免職
処分が実施されるに当たっては,社会保険庁職員の分限免職を回避する措置が種々とられたことは,上記3のとおりである。そして,これらの措置において,機構職員若しくは協会職員の採用内定を受け,又は厚生労働省への転任予定者の内定を得た者は,社会保険庁が廃止された時点で分限免職の対象とならなかったのであるから,これらの措置における対象者の選定は,分限免職の対象者とならないものを選定する行為でもあるということができるのであり,国家公務員法27条,74条1項,人事院規則11-4第7条4項の趣旨に照らすと,これらの措置における対象者の選定が(勤務成績,勤務年数その他の事実に基づき)公正かつ平等にされなかった場合,当該廃職による分限免職は,任命権者がその裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してしたものとなるというべきである。
基本計画が懲戒処分を受けた者を不採用としたことについて
原告は,機構職員の採用において懲戒処分を受けた者がその内容及び軽重を問わず一律に不採用とされていたことをもって対象者の選定が公正かつ平等にされなかったと主張する。しかし,一連の不祥事などによって社会保険庁に対する国民の信頼が揺らいだことにより,社会保険庁の在り方に関する国民的な議論がされた結果,社会保険庁を廃止し,新たな組織である機構を設立して,公的年金事業の運営を担わせるという,抜本的な改革を行うこととされた状況の下で,基本計画が,国民の公的年金業務に対する信頼の回復の観点から,懲戒処分を受けた者は機構の職員に採用しないものとしたことが,合理性を欠くということはできない。このことに,厚生労働省への配置転換においては,懲戒処分を受けた者も,転任予定者の内定を受けることができたことをも併せ考えると,機構職員の採用において懲戒処分を受けた者は採用しないものとされていたことについて,対象者の選定が公正かつ平等にされなかったということはできない。
厚生労働省への転任候補者の選考について


原告の主張
原告は,厚生労働省への転任候補者の選考について,

北海道厚生局

への転任候補者の選考に係る面接審査の評価は,社会保険庁の人事評価を考慮せずにされたのであり,北海道厚生局への転任候補者の選考は,勤務成績に基づき公正にされなかったものである,

北海道厚生局への転任

候補者の選考に係る面接審査の評価は,原告がうつ病を発症して病気休職中であることを不利益に考慮してされたのであり,北海道厚生局への転任候補者の選考は,公正かつ平等にされなかったものである,

原告は,

北海道労働局への転任候補者の選考に係る面接審査の対象者の資格を有していたにもかかわらず,北海道厚生局が北海道労働局の上記の面接審査の対象者を選定するに当たり,北海道厚生局の面接評価がC以上であることという資格要件を新たに加えたことから,北海道労働局の面接審査の対象者に選定されず,北海道労働局の面接審査を受けることができなかったのであり,北海道労働局への転任候補者の選考は,公正かつ平等にされなかったものであると主張する。

上記ア

の点について

確かに,証人Cの証言及び証人Dの証言の中には,平成21年2月4日に原告の面接審査を実施した北海道厚生局の面接官である両名は,それぞれ,原告の予定する業務に対する適性をDと評価するに当たり,面接の結果のみにより,社会保険庁の人事評価を考慮しなかったとする供述がある。しかし,上記各証言の中のその他の供述に加えて,厚生労働省の面接官は,書類審査を行い,職員意向準備調査票,人事記録,健康診断書,勤務評価資料に基づいて,事実関係を把握した上,面接審査を実施し,面接審査においては,書類審査に基づく事実関係を確認し,志望動機,業務経験,直近の健康状態などを聴取するとともに,取組姿勢,積極性などを観察し,書類審査及び面接審査の結果に基づいて,総合評価を行ったもの
である(乙A80)ところ,C面接官及びD面接官が原告の面接審査を実施した際に作成した面接票(乙B2の11)の中にも,C面接官及びD面接官において,原告の面接審査を実施するに先立ち,社会保険庁の人事評価で能力評価及び実績評価がいずれもCであることを確認した旨の記載があることからすると,C面接官及びD面接官は,原告の面接審査を実施するに先立ち,原告が社会保険庁の人事評価で能力評価及び実績評価がいずれもCであることを確認した上,それを踏まえながらも,鵜呑みにはしない考え方で,面接審査に臨み,面接審査の結果に基づいて,上記の面接評価をしたものであり,このことは,北海道厚生局の他の面接官においても,同様であったと認めるのが相当である(なお,この点について,被告指定代理人は,本件訴訟の第18回口頭弁論期日において,原告の求釈明を受けた裁判所の釈明に対し,厚生労働省への転任候補者の選考に当たり社会保険庁の人事評価は考慮されておらず,また,北海道厚生局の面接官は原告の面接評価に当たり社会保険庁の人事評価の内容を考慮しなかったと回答したが,これが裁判上の自白に該当するものとしても,被告は,その後,同陳述を訂正(撤回)しており,かつ,同陳述は,真実に反し,表示の錯誤によるものであると認めることができるから,有効に撤回されているというべきである。。そうすると,北海道厚生局への転任候補者の選考に)
係る面接審査の評価が社会保険庁の人事評価を考慮せずにされたということはできないから,北海道厚生局への転任候補者の選考が勤務成績に基づき公正にされなかったということはできないのであり,この措置における対象者の選定が公正かつ平等にされなかったということはできない。ウ
上記ア

の点について

確かに,C面接官及びD面接官が原告の面接審査を実施した際に作成した面接票(乙B2の11)の面接記録等によれば,C面接官及びD面接官は,原告がうつ病を発症し,長期にわたり病気休職中であること,または,
うつ病を発症していることに由来する原告の面接態度そのものを不利益に考慮し,
予定する業務に対する適性をDと評価したものであると認め
ることができる。しかし,地方厚生局の面接審査は,多くの社会保険庁職員が厚生労働省への転任を希望する中で,一定数の転任候補者を選考するため,行われたものであり,多数の転任希望者の中から,その一部にすぎない転任候補者を選考するに当たり,当該転任希望者の健康状態が考慮されたことは,やむを得ず,原告がうつ病を発症して病気休職中であることが不利益に考慮されたからといって,北海道厚生局への転任の措置における対象者の選定が公正かつ平等にされなかったということはできない。なお,原告が公務に起因してうつ病を発症したと認めることはできないことは,上記3

上記ア

ウのとおりである。
の点について

確かに,厚生労働省大臣官房地方課長であったE及び同参事官であったFの人事院公平委員会の口頭審理における証言(甲総170の3及び4)の中には,地方厚生局の面接評価が一定以上であることを労働局の面接審査の対象者の選定の基準としたことはないという供述があるのであり,厚生労働省本省で定められた労働局への転任候補者の選考に係る面接審査の対象者の資格は,船員保険業務経験者であれば一般行政職3級以下の者,船員保険業務経験者でなければ一般行政職1級及び2級の者で,かつ,労働関係部門への転任を希望するものというものであり,その中に,厚生局の面接評価がC以上であることは含まれていなかったと認めることができる。しかし,弁論の全趣旨によれば,労働局への転任候補者の選考において,上記の資格要件を満たす者が全て労働局の面接審査の対象者とされていたものではなく,現実の取扱いとしては,そのうち,厚生局の面接評価がC以上であるものに限り,労働局の面接審査の対象者とされていたと認めることができる。そして,労働局の面接審査が,多くの社会保険庁職員
が厚生労働省への転任を希望する中で,一定数の転任候補者を選考するため,行われたものであることは,上記の地方厚生局の面接審査の場合と同様であるところ,直前に行われた厚生局の面接審査でC以上の評価(すなわち,A是非任用したい
,B任用したいC任用してもよい

という積極的評価)を得られなかった者の面接審査を,労働局において改めて行ったとしても,その者が,多数の転任希望者の中から,その一部にすぎない転任候補者に選考される可能性は,それほど高いものではなかったと考えることができるから,労働局の面接審査の対象者の選定をした厚生局が,面接審査の現場の実情を踏まえた判断として,同対象者を厚生局の面接評価がC以上であるものに限ったことについて,合理性を欠くということはできない。原告が,北海道厚生局の面接評価がC以上であるものでなかったことを理由として,北海道労働局への転任候補者の選考に係る面接審査の対象者に選定されなかったからといって,北海道労働局への転任の措置における対象者の選定が公正かつ平等にされなかったということはできない。
機構職員の採用について
原告は,機構職員の採用についても,機構職員の採用内定者の選考に係る面接審査の評価は,原告がうつ病を発症して病気休職中であることを不利益に考慮してされたのであり,機構職員の採用内定者の選考は,公正かつ平等にされなかったものであると主張する。しかし,機構職員の採用についての基本的な事項について定める基本計画は,機構職員の採用に係る基本的な考え方について,国民の信頼の確保,サービスの質の向上,業務運営の効率化等という機構の基本理念の下,機構に採用される職員は,公的年金業務を正確かつ効率的に遂行し,法令等の規律を遵守し,改革意欲と能力を持つ者のみとすることを大前提とすると定めていたのであり,機構職員の採用内定者を選考するに当たり,当該採用希望者の健康状態が考慮されたことは,やむ
を得ず,原告がうつ病を発症して病気休職中であることが不利益に考慮されたからといって,機構職員の採用の措置における対象者の選定が公正かつ平等にされなかったということはできない。
処分行政庁が原告に対し本件処分をするに当たりとられた措置において対象者の選定が(勤務成績,勤務年数その他の事実に基づき)公正かつ平等にされなかったということはできない。
5
告知聴聞の機会の付与について
憲法31条に定める法定手続の保障が行政手続に及ぶか否かは,当該行政処分により制限を受ける権利利益の内容,性質,制限の程度,当該行政処分により達成しようとする公益の内容,程度,緊急性等を総合較量して決定されるべきものであり,常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではないと解するのが相当である(最高裁判所平成4年7月1日大法廷判決・民集46巻5号437頁参照)

これを本件についてみると,行政手続法3条1項9号は,公務員に対してその職務又は身分に関してされる処分について,聴聞に関する規定を含む同法の規定は,適用しないと定めているところ,この適用除外は,公務員は,通常の国民とは異なり,単に行政処分の客体となり得るにとどまらず,一方で公務遂行の主体としての地位を有するものであり,これに対して監督的な立場から行われる処分については,一般の国民に対する手続的な保障を規律する同法を直接適用することは適当でなく,また,公務員に対する処分等に適した手続の整備については,必要に応じ,国家公務員法等の中で適切に処理されれば足りるという考え方に基づくものである。そして,公務の能率的な運営を確保するための処分である分限処分については,原則として,行政不服審査法による不服申立てをすることができないが,公平審査制度が設けられ,事後救済手続が整備されている。これは,公務運営の迅速性の要請と職員の利益保護の要請とを調和させる観点からのものである。これらのことを併せ考えると,本件処分に
ついて,告知聴聞の機会を付与しなければならないと解することはできないのであり,原告にそれが付与されなかったことをもって,本件処分が違法なものとなることはない。
6
本件処分の適法性
上記1ないし5のとおり,本件処分は,社会保険庁の廃止により社会保険庁の全ての官職が廃止されたことが国家公務員法78条4号の官制の改廃により廃職を生じた場合に該当することから,されたものであり,処分行政庁がその裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してしたものであるということはできない。本件処分が違法なものであるということはできない。

7
国家賠償請求について
本件処分が違法なものであるということができないことは,上記6のとおりである。このことに加えて,社会保険庁及び厚生労働省ほかの公権力の行使に当たる公務員が,その職務を行うについてした行為が違法なものであるということはできず,仮にそれが違法なものであるとしても,当該公務員が,その職務を行うについて,故意によって当該行為をし,または,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく,漫然と当該行為をしたと認めることはできないから,当該行為が国家賠償法1条1項にいう違法の評価を受けるということはできない。原告の国家賠償請求には理由がない。

第4

結論
よって,原告の請求はいずれも理由がないから,これらを棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
札幌地方裁判所民事第1部

裁判長裁判官

内野俊夫
裁判官

剱持亮
裁判官

中川希当事者の主張
原告の主張

本件処分の違法性について
本件処分は,違法な処分であり,取り消されるべきである。機構法では,職員の承継規定が設けられなかった。社会保険庁の業務を引き継ぐ機構については,職員の承継規定が設けられず,極めて特殊な選抜方式による職員採用がされた。この選抜方式は,社会保険庁職員から一定の分限免職者を生み出すことを目的とするものであった。原告は,既に社会保険庁の廃止が決まっている一方で,厚生労働省や他府省への配置転換をされることもなく,分限免職処分が不可避の状況に追い込まれた。これは,他府省では,組織改編により余剰人員が生ずる場合,配置転換がされていることと比べて,明らかに差別的な措置であった。
本件処分に至った経緯

原告の休職
原告は,船員保険事務を担当し,複雑かつ専門的な知識や判断が求められる業務に従事していた。原告は,課の人員削減により,事務負担が増え,長時間のサービス残業が増加した。原告は,平成19年3月から同年5月にかけて,船員保険の届出,健康保険の任意継続の得喪等の業務繁忙期が重なり,また,社会保険庁に対する苦情対応等に追われたため,過度の精神的負荷が生じた。原告は,抑うつ状態となり,同年12月2日から病気休職をした。原告は,職員意向調査等に取り残されるのではないかという不安から,平成20年6月1日,復職したが,復職を急いだことから,症状が再発悪化し,同年11月24日,再び病気休職をした。原告は,その後,復職をすることができないまま,本件処分により,平成21年12月31日をもって,分限
免職となった。

原告の意向
原告は,平成19年11月の職員意向調査の際,電話で説明されたのみで,十分な説明を受けることができなかった。原告は,年金業務を希望しており,協会の労働条件を提示されていなかったため,協会を厚生労働省や機構に後れる第3希望としていた。原告は,平成20年11月,職員意向準備調査の際,退職という選択はあり得ず,厚生労働省を第1希望とし,年金業務を続けることができる機構を第2希望とした。原告は,平成21年1月,職員意向調査の際,第1希望を厚生労働省,第2希望を機構とした。


北海道厚生局による面接審査
原告は,平成21年2月4日,北海道厚生局の面接官による面接を受けた。原告は,この面接に先立ち,エントリーシートや小論文等を提出しておらず,面接内容や,面接の際に評価の対象となる事柄,採用される人数を知らされていなかった。この面接で,原告は,うつ病とされ,積極性,行動力がないと判定された。その結果,原告は,任用には多少疑問があると評価された。


機構による面接審査
採用審査会は,平成21年8月,原告の主治医に対し,機構職員の採用基準とは関係がない事項について,照会をした。原告は,同月25日,機構の面接員による面接を受けた。この面接で,面接員は,医師でもないにもかかわらず,抑うつ状態の原告が病気の原因を説明することができなかったことを否定的に評価したほか,
話に熱意があったかなどという面接員の印象によるところが大きい項目を評価の対象とし,病気の影響で熱意が余り考えられないと一方的に評価した。原告は,面接員の一人から,採用することは適当ではないと評価され,
もう一人の面接員から,採用すべきか判断に迷うと評価された。その結果,原告は,機構に採用されなかった。

原告が放置されたこと
平成21年5月18日,厚生労働省への転任予定者が内定し,その後も,追加的に,厚生労働省への転任予定が内定したところ,原告は,これらの中に含まれていなかった。原告がこのことを知ったのは,当初の内定から5か月以上経ち,追加の内定もあった後である,同年10月15日であり,原告は,それまで,厚生労働省への転任予定者の内定について,何らの情報も与えられず,全く放置された状態にあった。原告は,同日,B課長と面談したところ,病気休職者に対する官民人材交流センターの扱いについて具体的な説明がなかったことから,官民人材交流センターに登録すべきか否かを判断することができなかった。原告は,健康状態について確認を受け,段階的な復帰プログラムを経ることなく,現時点でフルタイムの就労をすることを前提に,

日常つらいときもある。フルタイムでの就労は無理と考えている

と答えたが,健康状態が回復すれば,復職の意思も能力もあることも伝えた。原告は,処分歴がなく,国家公務員として最低限の身分保障がされるという期待があったことから,職員意向確認追加調査に対し,厚生労働省等への転任のみを希望すると回答し,また,近い将来,症状が回復する見込みがあり,復職する意思も能力もあることを伝えた。原告は,同年12月9日,α社会保険事務所長に対し,厚生労働省の非常勤職員には応募しないと回答したところ,これは,病気休職中であることから,段階的な復帰が必要であり,無理に厚生労働省の非常勤職員として復職したところで,症状が悪化しないとも限らず,また,雇用期間が限定されており,長期的に安定して稼働することができないためである。原告は,同日,α社会保険事務所長に対し,退職勧奨
には応じないと回答したところ,これは,退職手当の増額を理由とするものではなく,原告の症状には回復の見込みがあり,復職する意思も能力もあったためである。
本件処分の違法性を判断する前提となる考え方
公務員の身分保障について,国家公務員法27条が定める平等取扱原則によれば,職員に対する偏頗な取扱いは,いかなる場合にも許されない。公務員の身分保障は,公務の安定的な運用という公共の福祉の観点から,また,処分の著しい不利益性という公務員の人権の観点から,強固にされなければならない。国家公務員法75条は,公務員が国民全体の奉仕者として安んじてその職務に専念することができるように,その職務から排除することができる場合を限定し,身分保障を全うしようとしている。このことは,人事院規則11-4第2条からも明らかである。最高裁判所昭和48年9月14日第二小法廷判決・民集27巻8号925頁は,分限免職の場合における適格性の有無の判断については,特に厳密,慎重であることを要すると判示している。
分限免職処分と解雇権濫用の法理との関係について,いわゆる整理解雇については,整理解雇の4要件(人員削減の必要性,解雇回避努力義務を尽くしたこと,被解雇者選定の妥当性,当該労働者及び労働組合との誠実な協議をしたこと)によって,解雇権濫用の有無が判断されるところ,国家公務員法78条4号の規定による分限免職処分が適法とされるためには,少なくとも,上記の整理解雇の4要件が満たされなければならない。すなわち,これらは,いずれも,組織の縮小や廃止等の目的のために,個々の労働者に帰責事由がないにもかかわらず,その意に反して離職を迫られるものであり,本質的な性質が同じであるからである。整理解雇の4要件が満たされることは,上記規定による分限免職処分が適法とされるための最低限の要件である。被告(国)も,これまで,こ
れと同様の考えにより,上記規定による分限免職処分を運用してきたのであり,整理解雇の4要件を満たさない上記規定による分限免職処分は,当然に,裁量権の範囲を越え,又はこれを濫用したものとして,違法となる。
本件処分の違法事由1
国家公務員法78条4号に定める廃職による分限免職処分は,人員削減の必要性があることがその処分要件であると解され,人員削減の必要性を欠くにもかかわらずされた分限免職処分は,同号の廃職又は過員を生じた場合に該当せず,違法である。すなわち,同号の廃職又は過員を生じた場合とは,職員が従事していた職務がなくなったり,その業務量が減少したりして,当該職務に従事する職員の人員削減の必要性が生じた場合をいうと解されるところ,組織の名称が変更された場合,形式的には,それまでの組織の職は廃止されるが,このような場合も同号にいう廃職に当たると解するのは,実態と乖離した非常識な解釈というほかなく,そのような解釈が許されれば,公務員の身分保障の趣旨が失われる。同号の廃職に該当するか否かは,当該職務を担当してきた組織の改廃という形式に基づいて判断すべきではなく,当該職務との関係で人員削減の必要性があるかという見地から判断されるべきである。公務が一部民営化された場合,当該職務に従事していた職員は,形式的には,同号の過員となるが,公務の一部民営化を定める法律で,職員の雇用を確保する措置を義務付けるのが通例であり,職員が担当していた業務が公法人や民間業者に委ねられる場合でも,そのことから直ちに,分限免職処分の要件に該当するという考え方は採られていない。同条は,処分権者に対し,裁量を付与しており,その前提として,形式的に同条各号が規定する要件に該当しても,実態に照らして処分をしないことも認めているから,分限免職処分をするには,実態に照らし
て,処分をする必要性が当然に要求される。
これを本件についてみると,社会保険庁は廃止され,職員の承継の規定も置かれなかったが,他方で,社会保険庁が行っていた年金業務は機構に全てそのまま承継され,ほとんどの社会保険事務所が年金事務所に看板を掛け替えただけで,所在地,建物,備品に至るまで,これまでと同様の状況で年金業務に従事していた。すなわち,社会保険庁職員が従事していた職務はそのまま存在しており,運営主体が変更されたにすぎない。このような実態に照らすと,本件が廃職又は過員が生じた場合に該当するとすることはできず,そのように解すれば,社会保険庁職員の身分保障はなきに等しい。本件では人員削減の必要性がなく,国家公務員法78条4号の要件に該当しない。社会保険庁は,元来,欠員状態にあり,違法な長時間労働,サービス残業が慢性化していたのであり,人員増の必要性こそあれ,人員削減の必要性はなかった。行政機関が独立法人化,民営化された場合,従前の業務を継続し,国民サービスを低下させないため,職員は当然に承継されるのが通例であり,機構においても,原告を始めとする知識と経験のある実務に精通した社会保険庁職員を必要とし,希望者全員を採用しない理由はなかった。ところが,機構は,社会保険庁職員の採用を制限し,外部から1000人以上の職員を採用した。国民の信頼回復の観点から,社会保険庁職員を機構から排除し,分限免職処分に追い込むという方針は,目的と手段との間に関連性がない上,その目的が分限免職制度の趣旨と異なるのであり,社会保険庁職員を分限免職処分に追い込む必要はなかった。本件処分は,人員削減の必要性がなく,
廃職又は過員が生じた場合に当たらないの
であり,国家公務員法78条4号に違反する。
また,北海道厚生局の面接の評価によれば,面接官は,原告が精神疾患により病気休職中であることを過度に否定的に評価し,予定する業務
に対する適性を任用には多少疑問があると評価したことが,機構の面接の評価によれば,面接員は,精神疾患に罹患した原告について,否定的評価を一方的に下し,
採用することは適当でない又は採用すべきか判断に迷うと評価したことが,それぞれ明らかであって,原告は,心身の故障を実質的な理由として,厚生労働省への配置転換を受けられず,機構にも採用されず,本件処分を受けたものである。そうすると,本件処分は,これを実質的にみると,原告の健康状態(うつ病)が国家公務員法78条2号の分限事由である心身の故障のため,職務の遂行に支障があり,又はこれに堪えない場合に該当することを理由とするものであるところ,人事院規則11-4第7条2項は,同号の規定により免職することができる場合は,任命権者が指定する医師2名による診断を要する旨を規定しているのであり,本件処分をするに当たっては,指定医師2名による診断を経ることを要した。ところが,処分行政庁は,指定医師2名による診断を経ないまま,医師でもない面接官(面接員)による短時間の面接の低い評価により厚生労働省への配置転換を受ける等することができなかった原告に対し,本件処分をしたものであり,本件処分は,処分行政庁が裁量権の範囲を逸脱し又はそれを濫用してしたものである。
本件処分の違法事由2
国家公務員法78条4号に定める廃職による分限免職処分は,行政側の事情のみを理由として,落ち度のない職員に対し,公務員としての一切の地位を奪うという重大な不利益を課すものであるから,慎重な判断が求められ,特に謙抑的に行われるべきであるところ,この考え方は,整理解雇における解雇回避努力義務そのものである。人事院も,行政組織の改廃等に当たり,整理解雇の4要件,特に解雇回避努力義務を意識した運用をしており,独立行政法人等が設立されるときは,職員の承継
の規定が置かれ,各府省の人員削減のときは,府省を越えた配置転換が実施される。
社会保険庁長官ほかの任命権者は,廃職による分限免職処分をするに当たり,分限免職回避努力義務が課されるところ,分限免職回避努力義務の主体は任命権者だけでなく,厚生労働大臣,さらに内閣総理大臣を始めとする政府全体が,分限免職回避努力義務を負うと解すべきである。すなわち,国家公務員の使用者は,政府であり,任命権者は,公務員関係における国の権限の一部を内部的に分配されたものにすぎない。公務員関係で,任命権者は自己の名において行政行為をする権限を付与されたものであり,権利義務の主体は行政主体たる国である。国は,使用者としての責任を負い,その一内容として分限免職回避努力義務を負うのであり,任命権者のほか,政府の責任者である内閣総理大臣,部内の上級職員(社会保険事務局長)に任命権を委任した機関の長たる任命権者(社会保険庁長官)
,任命権者を任命した上級組織の任命権者(厚生
労働大臣)も分限免職回避努力義務を負う。
本件では,遅くとも,機構法が公布され,分限免職回避の措置を執らない限り職員が分限免職となることが明らかになった平成19年7月6日から,平成21年12月31日をもって社会保険庁が解体されるまで,より多くの職員を,社会保険庁の業務を引き継ぐ機構や協会に採用し,又は厚生労働省に配置転換することによって,分限免職となる職員の人数を減少させる義務があった。また,社会保険庁が解体されたとしても,直ちに分限免職処分をしなければならないものではなく,引き続き,機構や協会の欠員補充,厚生労働省への配置転換等によって,分限免職となる職員の人数を減少させる義務があった。
ところが,a
わち,

政府は,分限免職回避の努力を尽くさなかった。すな

行政機関が独立法人化される場合,職員が承継されるのが通

例であるにもかかわらず,機構法8条では,特殊な職員の選別方式が採用され,職員の承継の規定も,雇用の確保もなく,法案審議の段階から分限免職が念頭に置かれていた。

基本計画は,機構の必要人員数を

意図的に少なくした上,相当数を非常勤とし,民間から1000人採用することとした。基本計画は,懲戒処分歴を有する職員を採用しないこととしたのであり,分限免職を回避せず,むしろ,分限免職を前提としている。

内閣府に置かれ,内閣総理大臣が本部長を務める雇用調整

本部は,合理的な理由なく,行革推進法45条2項の府省横断的な配置転換の枠組を活用しなかった。それどころか,雇用調整本部は,厚生労働省から,上記の府省横断的な配置転換の枠組による他府省の職員の受入の免除を要請されたが,これにさえ応じなかった。
次に,b

厚生労働大臣は,分限免職回避の努力を尽くさなかった。

すなわち,

厚生労働省は,平成21年5月18日,1216人の厚

生労働省への転任予定者を内定し,同年12月末までに,追加内定も含めて1284人の転任予定者が内定したが,この配置転換は,機構の設立に伴い年金業務の一部が厚生労働省に移管されることを受けたものであり,分限免職回避のために必要以上の人数を配置転換したものではなく,分限免職回避の努力の一環であると評価することはできない。厚生労働省は,定員増や新規採用の抑制によって,配置転換可能人数を確保すべきであったのに,定員増要求については,平成20年12月,査定官庁から要求どおり認めないとされ,新規採用についても,平成20年度及び平成21年度の新規採用及び追加採用を抑制しなかった。厚生労働省は,機構の設立時,機構の業務支援のため,職員130人を出向させたことから,130人の欠員が生じたのであり,この欠員を活用すれば,社会保険庁職員の分限免職を回避することは可能であった。しかし,厚生労働省は,通常と異なり,出向者を欠員扱いしないことと
し,欠員補充ではなく,非常勤職員の採用をし,平成21年12月,社会保険庁職員152人を含む264人が採用された。非常勤職員は,有期雇用であり,解雇の先送りの意味しかない。機構の業務支援のための出向は,現在も続けられているのであり,一時的,暫定的なものではない。

厚生労働省は,社会保険庁が廃止された後,113人の残務整

理定員を活用しなかった。平成21年度予算では,社会保険庁廃止に伴う残務整理のための措置として,平成22年3月まで113人の定員が確保されていたが,厚生労働省は,この予算による社会保険庁職員の雇用継続をしなかった。厚生労働省は,この定員を活用することを見越して,同年4月以降の新規採用を抑制していれば,厚生労働省への配置転換をすることが可能であったのに,かえって,平成22年度中,追加採用248人を含む436人もの大量の新規採用をし,新規採用を抑制しなかった。

厚生労働省は,多くの外郭団体を有しており,外郭団体

に職員を出向させて欠員を作り,その欠員補充として新たに職員を採用するといった柔軟な対応が可能であるにもかかわらず,社会保険庁の廃止に当たり,そのような対応をしなかった。厚生労働大臣は,機構法の施行日を平成22年4月1日とすることができたのであり(機構法附則1条)
,そのようにすれば,社会保険庁職員の分限免職を回避すること
ができた。

原告は,公務災害により病気休職中であったところ,そ

のことを理由に,厚生労働省への転任候補者の選考等の手続で不利益に取り扱われた。原告は,α社会保険事務所で船員保険事務を担当し,複雑かつ専門的な知識や判断が求められる業務に従事していたところ,人員削減により事務の負担が増加し,長時間の残業を強いられた上,平成19年3月から,業務繁忙期が重なった結果,過度の精神的負荷を受け,抑うつ状態となったものであり(甲各B6)
,原告の精神疾患は公務災
害に該当する。そのため,原告に対しては,一層きめ細かい分限免職回
避の努力が尽くされるべきであるのに,原告は,北海道厚生局の面接官らから,公務災害により病気休職中であることを考慮されず,主観的,恣意的に評価されるなど,十分な分限免職回避の措置を受けることができなかった。C面接官が原告の意欲・元気度について否定的評価をした理由はうつ病であるから,
予定する業務に対する適性Dという
評価の根拠はうつ病のみである。面接票で,
予定する業務に対する適性Dという評価の根拠は復帰まち,タイミングをはかっている状態と考えてることのみであり,D面接官は,面接要領で評価事項となっていない,被面接者の復職時期のみを根拠に評価したものであり,面接官の評価の裁量を越えた恣意的判断である。

厚生労働大臣は,

機構に対し,指揮命令権を有しているところ,厚生労働省は,機構の設立時,内定辞退者が相次いだことから,300人の欠員が生ずることが予想されたのに,機構に対し,正規職員の追加採用を指示しなかった。厚生労働省が機構に対し,正規職員の追加採用を指示していれば,社会保険庁職員の分限免職を回避することができた。設立委員会が平成21年12月1日に社会保険庁長官に要請した准職員の追加募集は,同月17日には採用決定に至っているのであり,機構の正規職員の追加採用は容易であった。准職員は,有期雇用であり,解雇の先送りの意味しかなく,正規職員の追加採用が容易であったことからすれば,准職員の追加採用をもって分限免職回避の措置ということはできない。

原告は,

機構職員の採用の手続でも,病気休職中であることを理由に,不利益に取り扱われた。機構職員の採用基準は,
職務遂行に支障のない健康状態であること心身の故障により長期にわたり休養中の者について,は,回復の見込みがあり,長期的にみて職務遂行に支障がないと判断される健康状態であることを基準の一つとしているのであり,病気休職中の者を殊更に不利益に取り扱っている。厚生労働大臣は,その指揮命
令権を行使し,機構職員の採用基準の適正化を図るなど,病気休職中の者が不利益に取り扱われないようにすべきであったにもかかわらず,これを怠った。

採用審査会は,平成21年8月,原告の主治医に対し,

採用基準とは関係のない,同年10月1日の時点で職務遂行に支障がないと判断される健康状態であるか否かについて,医療照会をした。原告が,長期にわたり病気休職中であったことからすれば,わずか2か月での復職可能性を問うことは不合理であり,原告の病気に関する理解を欠いている。採用審査会が医療照会の内容を同年2月の照会から変更した理由は,機構の設立が近くなったことから,採否保留者について,設立の時から職務を遂行することができるか否かにより採否の判断をするためであり,心身の故障による採否保留者を不採用とするためであった。機構の面接評価は不当である。機構の面接評価シートの1枚目は,原告が機構職員としての意欲,使命感に劣るとしているが,その理由は,
なぜ病気になったかもよく理解できないというものであり,
恣意的である。医師でもない面接員が,抑うつ状態の原告が病気の原因を説明することができなかったことを否定的に評価すること自体,面接員の資質を欠く。原告は,機構に採用され,知識経験,業務効率化の実績を活かして,サービス向上と社会貢献を心掛けたいことを積極的に伝えたが,意欲,向上心に劣ると評価された。この評価は,事実に基づかない。原告は,スーツを着用し,まじめな態度で面接を受け,自分の考えを明確に話し,質問に的確に答えたが,
業務への熱意は余り考えられないとされ,面接態度が劣ると評価された。この評価は,面接員の印象でしかない。機構の面接評価シートの1枚目は,原告の総合判定を採用することは適当でないとしているが,この評価は,上記の不当な評価を前提とし,医師でもない面接員が評価事項でない原告の病気や復職可能性を不利益に考慮してしたものである。機構の面接評
価シートの2枚目は,共通質問項目のメモ欄に1月出社の見通し暗いという否定的な評価が記載され,平成22年1月に出社する見込みが懐疑的であることを理由に,原告の総合判定を採用すべきか判断に迷うとしているが,面接員が原告の病気に対する偏見や先入観を有していたことが窺われるのであり,不当である。

機構職員の採否決定

は不当である。機構職員の採用基準は,医師の意見書によって,平成21年10月1日の時点の健康状態が職務遂行に支障がないと判断される状態にあるとされないものについては,面接員のうち1名以上の総合判定が採用してもよい以上の積極的評価でなければ,不採用とするとされていたが,原告を不採用とした決定は,機構職員の採用基準と無関係な医療照会及び不当な面接評価を前提とするものであり,不当である。協会職員の採用について,原告は,平成19年11月の協会職員の募集に係る職員意向調査に当たり,電話で調査票の書き方を説明されただけで,職員意向調査票の趣旨目的,採用審査における位置付け,採用基準や日程,採用人数等を一切知らされなかったため,協会を第3希望とした。ところが,上記の職員意向調査において協会を第1希望とした者のみが,協会から採用内定を受けたのであり,協会職員の採用日程や採用人数等を開示することなくされた協会職員の採用は,分限免職回避の措置として不十分であった。
また,c

社会保険庁長官ほかの任命権者は,分限免職回避の努力を

尽くさなかった。すなわち,

社会保険庁は,平成21年6月の機構

職員の採用内定に先立ち,本庁に職員再就職等支援対策本部及び再就職等支援室を,地方支分部局に地方支援室を,それぞれ設けたが,これらの組織による再就職の支援は実態がなく,社会保険庁は,当初から,公務職場への配置転換は困難であるとし,官民人材交流センターを通じた民間企業への再就職を斡旋する方針を決定していた。

平成21年7

月の時点で,北海道内の国家公務員Ⅱ種の採用予定者は66名であったところ,平成21年度試験で採用された者は,Ⅱ種が49名であったから,平成22年4月の時点で,北海道内の官公庁では,Ⅱ種で17名の欠員が生じていた。原告は,他府省への配置転換を受け入れる態度を早期に示していたのであるから,原告の任命権者である処分行政庁は,原告に対し,他府省への配置転換を打診すべきであった。北海道社会保険事務局は,平成21年7月,北海道内の32か所もの国の機関に要請文書を送り,又は訪問して,社会保険庁職員の受入を要請したのであり,更なる働き掛けをすれば,他府省の欠員状況を把握し,原告を早期に配置転換することができた。北海道社会保険事務局は,同月,道内の地方公共団体に対しても,社会保険庁職員の受入を要請したが,それ以上,積極的な働き掛けをしなかった。

社会保険庁長官ほかの任命権者は,

社会保険庁が廃止された平成21年12月31日,社会保険庁の廃止により廃職となった者全員に対し,機構職員や協会職員の採用や厚生労働省への配置転換等によって分限免職を回避する努力を一切することなく,直ちに分限免職処分をした。機構は,平成22年5月以降,毎月のように新規採用を行っていた。

原告は,公務災害により病気休職中であ

ったところ,そのことを理由に,不利益に取り扱われた。原告に対しては,一層きめ細かい分限免職回避の努力が尽くされるべきであることは,上記b

のとおりであるのに,原告は,機構及び協会の採用基準,採用

日程,採用人数等について十分に周知されず,北海道厚生局の面接の日程を知らされたのが面接日の1週間前であったなど,十分な分限免職回避の措置を受けることができなかった。

原告は,厚生労働省への転

任予定者とされていないことを,平成21年10月15日まで知らされなかった。原告は,一貫して,厚生労働省を第1希望としていたのであるから,処分行政庁は,原告が厚生労働省への転任の内定を得られなか
ったことが判明した時点で,速やかに,そのことを原告に伝達すべきであったにもかかわらず,原告は,本件処分の直前まで,第1希望が叶わなかったことを知らされなかったものである。原告は,同日,職員意向確認追加調査票の配布を受けて,同月19日,提出したものの,個別面談を受けて,厚生労働省の非常勤職員の募集に応じたり,官民人材交流センターに登録するなどの対応をとることができず,他の社会保険庁職員と同様の分限免職回避の措置を受けることができなかった。同年6月24日,社会保険庁総務部総務課長から各社会保険事務局長宛てに,職員への伝達を同月25日に行うこととした旨の事務連絡がされており(乙A37)
,そこで触れられている書面(甲各共34)に添付されてい
る書面(甲各共32)の中で,厚生労働省への配置転換を第1希望としていた職員のうち選考されなかった職員に対し,その旨連絡するように依頼されている。北海道厚生局長は,同月22日付けで,処分行政庁に対し,転任等予定者一覧表を送付した(乙A93)ところ,原告は転任等予定者に含まれていなかったのであり,原告に対しては,他の職員と異なり,厚生労働省への転任内定が得られなかったことが遅れて通知されたことは,不平等な扱いであり,違法である。被告は,原告が職員への伝達に関する進め方等について(連絡)(乙A94)の区分中のF機構の採否保留者に該当すると主張するが,原告は,厚生労働省を第1希望,機構を第2希望としていたのであるから,原告が上記区分のいずれに該当するかは厚生労働省を基準として判断すべきであり,原告がFに該当するとするのは適切でない。厚生労働省を第1希望,機構を第2希望とする者が,いずれも不採用になればL厚労省転任無し者(厚労省第1希望者)に該当するとして厚生労働省への転任内定が得られなかったことが伝達されるのに,厚生労働省が不採用,機構が採否保留となればFに該当するとして伝達されないのは,不合理である。
原告と同様に,第1希望の厚生労働省が不採用,第2希望の機構が採否保留となったが,平成21年6月に厚生労働省への転任内定が得られなかったことを伝達された者もおり,伝達されなかった者は見当たらない(甲各共33)
。原告は,上記区分に該当するものがなかったのであ
り,処分行政庁は,上記連絡文書に従い,原告への伝達については,社会保険庁総務課と個別に相談の上,実施しなければならなかった。本件処分は,分限免職回避努力義務を尽くさずにされたものであり,裁量権の範囲を越え,又はこれを濫用してされた違法がある。
本件処分の違法事由3
国家公務員法78条4号の分限免職処分では,処分の対象者の選定行為が必要になる(被告は,本件処分ほかの一連の分限免職処分は,社会保険庁という官制の廃止に伴い社会保険庁の全ての官職が廃止となったことによるものであり,処分の対象者を選定する場合ではないと主張するが,厚生労働省等への転任がされた者等は,処分の対象者とならないのであるから,転任等の対象者の選定は,分限免職の対象者の選定でもある。
)ところ,同号の規定を受けて,人事院規則11-4第7条4項
が,
法78条4号の規定により職員のうちいずれを降任し,又は免職にするかは,任命権者が,勤務成績,勤務年数その他の事実に基づき,公正に判断して定めるものとすると規定していることによれば,分限免職の対象者の選定は,勤務成績等の事実に基づいて,公正に判断されるべきものである。そして,行政機関が不利益処分をするに当たり,考慮すべきでないことを考慮し,又は要考慮事項を考慮しなかった場合,当該処分には裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法があることとなるところ,この理は分限免職処分にも及ぶのであり(前掲最高裁判所昭和48年9月14日第二小法廷判決)
,廃職による分限免職処分に
当たり,人事院規則11-4第7条4項に基づく公正な選定がされなか
った場合,当該処分は,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法な処分であることとなる。
これを本件についてみると,社会保険庁の解体及び機構の設立では,懲戒処分歴を有する者をその内容及び軽重を問わずに一律不採用にするという,極めて特殊な方法が採られ,これらの者は,分限免職処分を受けるに至った。この懲戒処分は,年金記録問題等に関する世論の批判をかわすために,又は職員団体に打撃を加えるために,強引に作り出されたものであり,処分の理由となる事実関係を欠くものが多かった。この分限免職処分は,まず根拠の薄い強引な懲戒処分によって処分者を作り出した上,懲戒歴があることを理由にしたものであり,考慮すべきでない事項を考慮してしたものである。懲戒処分歴を有する者をその内容及び軽重を問わずに一律不採用とすることは,憲法が禁ずる二重処罰に該当し,平等取扱原則にも反する。機構の採用基準は,懲戒処分歴を有する者を,社会保険庁に対する国民の批判をそらすための生け贄にしようとするものであり,不公正である。
また,厚生労働省への転任候補者の選考について,各地方厚生局の面接には客観的な基準がなく,面接官の主観的な評価により厚生労働省への転任の可否が決定された。厚生労働省本省と各厚生局との間で転任の可否の比率には大きな差異がある。そして,分限免職の対象者の選定は,勤務成績等の事実に基づいて,公正に判断されるべきものであることは,上記のとおりであり,勤務成績を評価したものが人事評価である(国家公務員法18条の2第1項)から,人事評価に基づかない判断は,勤務成績に基づかない判断であることとなるところ,厚生労働省への転任候補者の選考が人事評価に基づかないものであることは,次のとおりであり,分限免職の対象者の選定が勤務成績に基づかなかったこととなる。本件処分は,勤務成績に基づかずに対象者を選定してしたものであり,
成績主義に違反する重大な違法がある。すなわち,a
の転任候補者の選考について,

北海道厚生局へ

同選考は,社会保険庁の人事評価に

基づかず,厚生局の面接評価のみによってされたものであるから,国家公務員法33条1項の成績主義の原則に反する。北海道厚生局の面接評価は社会保険庁の人事評価を考慮せずにされた。北海道厚生局の面接評価がA又はBの候補者はいずれも転任候補者になった。D又はEの候補者はいずれも転任候補者にならなかった。Cの候補者は一部が転任候補者になったところ,Cの候補者については,書類審査の結果を加味して転任候補者が選考された。面接官の手持書類の中には,社会保険庁の人事評価があり,面接官は,面接審査に先立ち,その確認はしたが,書類審査に当たり,それを考慮しなかった。北海道厚生局への転任候補者の選考に当たっては,厚生局の面接評価のみが考慮され,社会保険庁の人事評価(能力評価及び業績評価)は考慮されなかった。原告は,社会保険庁の能力評価及び業績評価(人事評価)がいずれもCであったところ,北海道厚生局の面接を受けて,厚生労働省への転任候補者となった者のうち,原告と同じく,社会保険庁の能力評価及び業績評価がいずれもCであったものは,2名である。その1名は,行政一般職5級で,厚生局の面接評価がBであったことから,北海道厚生局への転任候補者となった。もう1名は,行政一般職1級で,厚生局の面接評価がCであり,北海道厚生局への転任候補者とはならなかったが,北海道労働局の面接を受けて,北海道労働局への転任候補者となった。原告は,厚生局の面接評価がDであったことから,北海道厚生局への転任候補者とならず,また,北海道労働局の面接審査の対象者とされなかったため,北海道労働局への転任候補者ともならなかった。原告は,厚生局の面接評価がDであったことから,厚生労働省への転任の機会を奪われたものであり,厚生労働省への転任候補者の選考に当たり,社会保険庁の人事評価を考慮
しなかったことには,成績主義の原則に反する重大な違法がある。被告は,本件訴訟の第18回口頭弁論期日において,原告の求釈明を受けた裁判所の釈明に対し,厚生労働省への転任候補者の選考に当たり社会保険庁の人事評価は考慮されておらず,また,北海道厚生局の面接官は原告の面接評価に当たり社会保険庁の人事評価の内容を考慮しなかったと回答したのであり(これは裁判上の自白に該当する。被告は,本件訴訟の第18回口頭弁論期日における回答(陳述)の趣旨について説明し,正確性を欠くならば訂正するとするが,この主張の訂正は,厚生労働省への転任候補者の選考に当たり社会保険庁の人事評価は考慮されなかったという主張を撤回するものであるところ,被告は,上記の口頭弁論期日で,本件処分の違法性につき原告が立証責任を負う評価障害事実の存在を認めたものであるから,裁判上の自白が成立しており,その自白を撤回することはできない。,厚生労働省への転任候補者の選考は,)
厚生局の面接評価のみが考慮され,社会保険庁の人事評価(業績評価及び能力評価)は考慮されなかった。原告を厚生労働省への転任候補者に選考しなかったことは,国家公務員法58条1項に違反する(被告は,国家公務員法58条1項の人事評価は,平成19年法律第108号による国家公務員法の改正により,平成20年10月1日から本格的に実施されたものであり,本件で問題になっている社会保険庁の人事評価は,社会保険庁が他府省に先行して独自に実施していたものであるから,同項の人事評価に該当しないと主張するが,国家公務員法70条の3第2項の政令である人事評価の基準,方法等に関する政令
(平成21年
政令第31号)1条1項は,人事評価は国家公務員法及び同政令の規定のほか所轄庁の長が定めた人事評価の実施に関する規程に基づいて実施するとするところ,社会保険庁は,社会保険庁長官が定めた社会保険庁人事評価実施規程(平成18年社会保険庁訓第10号。乙A97)に基
づいて,人事評価制度を実施していたのであるから,この人事評価は国家公務員法58条1項の人事評価に該当する。また,仮に該当しないとしても,平成19年法律第108号附則8条1項の経過措置にいうその他の能力の実証に該当する。したがって,社会保険庁の人事評価を考慮しなかったことは国家公務員法58条1項に違反する。。



告は,北海道厚生局の面接審査の結果に基づき,厚生労働省への転任候補者が選考されたことをもって,
その他の能力の実証に基づくもの
であると主張する。しかし,
その他の能力の実証とは,人事評価そ
のものでないとしても,それに匹敵するものである必要があるところ,わずか10分ほどの面接で,国家公務員法18条の2第1項にいう職員の能力や業績を把握することなど到底できないのであり,厚生労働省への転任候補者の選考が北海道厚生局の面接審査の結果に基づいてされたことをもってその他の能力の実証に基づくものであるということはできない。
さらに,b

北海道労働局への転任候補者の選考について,同選考は,

地方厚生局が労働局の面接審査の対象者を選定し,労働局が面接審査を実施して,行われた。被告は,労働局への転任については,厚生労働省本省において,厚生局の面接評価がC以上であり,かつ,船員保険業務経験者であれば一般行政職3級以下の者,船員保険業務経験者でなければ一般行政職1級及び2級の者のうち,労働関係部門への転任を希望する者を,面接対象者として選定することとし,この基準に従って労働局の面接審査の対象者が選定されたと主張する。しかし,厚生労働省大臣官房地方課長であったE及び同参事官であったFは,厚生局の面接評価を労働局の面接審査の対象者の選定の基準としたことはなく,船員保険業務の経験があれば面接対象者になるものであったと供述しているのであり,厚生局の面接評価がC以上であることが労働局の面接審査の対象
者の選定の基準であったと認めることはできない。原告は,厚生局の面接評価がDであったことから,労働局の面接審査の対象者とされなかったが,一般行政職2級の職員であり,かつ,船員保険業務の経験者であったから,厚生局の面接評価以外は被告の主張に係る労働局の面接審査の対象者の基準を満たしていたのであり,北海道厚生局の判断のため,労働局の面接審査の対象者から除外され,労働局の面接を受けることができなかったものである。もっとも,実態として,被告が主張する基準により労働局の面接審査の対象者の選定がされたことは否定することができないが,北海道厚生局の面接評価が社会保険庁の人事評価に基づかないものであることは,上記a

のとおりであり,厚生局の面接評価が

基準に満たないことを理由として労働局の面接審査の対象者としなかったことは,社会保険庁の人事評価に基づかずに転任候補者を選考したこととなる。原告を北海道労働局の面接審査の対象者とせず,同労働局への転任候補者としなかったことは,成績主義に反する。また,厚生局の面接審査は,厚生局で転任者が取り扱うことが予想される保険医療指導監査業務や年金業務への適性を判定することを目的とするものであり,労働局で取り扱うことが予想される船員保険業務への適性を判定することを目的とするものではないから,労働局の面接審査の対象者の選定に当たり厚生局の面接評価を考慮したことは不合理である。労働局の面接審査の対象者は,船員保険業務の経験の有無が最大限に考慮されるべきであり,厚生局の面接評価を考慮することは,考慮すべきでない事項を考慮したことになる。
本件処分は,公正な人員選定がされなかったものであり,裁量権の範囲を越え,又はこれを濫用してされた違法がある。
本件処分の違法事由4
行政手続法は,国家公務員法に基づく分限免職処分について,行政手
続法の適用を除外しているが,これは,分限免職処分で適正手続が全うされなくてよいということではない。最高裁判所平成4年7月1日大法廷判決・民集46巻5号437頁は,処分の相手方に事前の告知,弁解,防御の機会を与えるか否かは,処分により制限を受ける権利利益の内容,性質,制限の程度,処分により達成しようとする公益の内容,程度,緊急性等を総合衡量して決定されるとしているところ,行政手続法が上記の適用除外をしたのは,公務員に対する処分が一般の処分とは異なる特殊性を有しているため,その手続は,一般法である行政手続法ではなく,国家公務員法自体に定めるのが望ましいという考え方によるものである。ところが,国家公務員法には,処分理由書の交付(理由の提示)を除く,適正手続について何ら定めを置いていないのであり(立法の不備),こ
のような場合,上記判例の趣旨に照らして,憲法31条から直接,適正手続の保障が導かれると解されるべきである。そして,廃職による分限免職処分は,被処分者自身には何らの帰責事由がないにもかかわらず,専ら任命権者の側の事情によって,その職員の職を奪う処分であるところ,機構法の成立から社会保険庁の廃止まで2年半もの期間があり,緊急性は全くないから,このような処分に,適正手続の保障が適用されるのは,当然である。憲法31条が保障する適正手続の中でも,とりわけ重要であるのが,告知聴聞の権利であるところ,廃職による分限免職処分に当たり,告知すべき内容は,分限免職処分を伴う人員整理を必要とする事情,分限免職処分をすべき人員数,当該職員が分限免職の対象となる理由,退職金など退職の条件,妥当な再就職の斡旋等であり,聴聞すべき内容は,収入状況や家族の状況,個々の職員の転職等の意向であって,告知聴聞の手続を欠く,廃職による分限免職処分は,裁量権の範囲を越え,又はこれを濫用してされたものである。
これを本件についてみると,a

社会保険庁は,廃止直前である平成

21年12月まで,労働組合との交渉の中で,分限免職を伴う人員整理の必要性,分限免職の対象となる人員数,分限免職の基準等について説明することなく,専ら,分限免職にならないように最大限の努力をすると繰り返すにとどまっていた。職員意向調査でも,分限免職回避のため,できる限りの努力をするとされているのみで,上記の説明はされていなかった。誠実な説明交渉義務は一切果たされなかった。また,b

原告

は,本件処分の前提として,免職となった場合の収入状況や家族の状況を訊かれたことはなく,意向を丁寧に聴取されたこともない。本件処分については告知聴聞の機会は何ら付与されなかった。むしろ,原告は,厚生労働省への転任内定が得られなかったことを,遅く伝えられ,配置転換についての情報が提供されなかった。本件処分は,適正手続を欠くものである。本件処分は,誠実な協議がされず,適正な手続に則ってされたものでないのであり,裁量権の範囲を越え,又はこれを濫用してされた違法がある。

国家賠償請求について
原告は,民間で働いて得た技能と能力を活かし,全体の奉仕者としての仕事をしたいと考えて,国家公務員となり,社会保険庁に入庁した。原告は,無断遅刻や無断欠席もなく,懲戒処分も受けることはなかった。原告は,所属課の体制変更や業務の繁忙期などが重なるとともに,国民による安易な社会保険庁バッシングへの対応に追われ,過大な精神的負荷を受け,病気休暇を取得したが,その休暇中に職員意向調査等が実施されたことから,自分の居場所がなくなってしまうと焦り,復職した。しかし,復職を急いだことから,症状が再発悪化したのであり,原告が心身のバランスを崩したのは,専ら社会保険庁における過酷な労働実態が原因である。それにもかかわらず,原告は,健康状態を理由として,機構や厚生労働省に採用されなかった。原告は,段階を踏めば健康状態の回復が可能であり,そ
のための治療,指導を受けていたにもかかわらず,面接官による恣意的判断でうつ病と判断され,それが原因となって,機構や厚生労働省に採用されなかった。原告は,病気休暇又は休職中であったことから,他の職員には当然に周知されていた情報が一切伝えられていなかった。原告は,機構への採用や厚生労働省への転任の可能性がなくなったことについて,数か月もの間,何らの説明も受けられなかった。この情報は,原告が更に転任を希望するか否かを判断するために必要不可欠であった。原告は,本件処分を受けたことにより,交際相手との婚姻にも二の足を踏んでいる。本件処分は,原告の健康も収入も奪い,大切な家族関係にも悪影響を及ぼしている。厚生労働省への転任候補者の選考における違法な手続と,違法な本件処分によって原告が受けた精神的苦痛に対する慰謝料は300万円を下ることがない。

被告の主張

本件処分の適法性について
本件処分は,機構法に基づいて機構が設立されるに当たり,平成21年12月31日をもって社会保険庁が廃止されたことにより社会保険庁の全ての官職が廃止されたことが,国家公務員法78条4号にいう官制の改廃により廃職を生じた場合に該当するとして,525人の社会保険庁職員に対してされた一連の分限免職処分の一つであるところ,この一連の分限免職処分に際しては,処分行政庁を始めとする各任命権者や,政府,厚生労働大臣等によって,種々の分限免職回避の措置が講じられたが,結果的に,機構又は協会への採用や厚生労働省への配置転換等がされず,退職勧奨にも応じなかった職員に対し,分限免職処分をせざるを得なかった。本件処分は,その分限事由が生じたのが機構法附則による国家行政組織法及び厚生労働省設置法の改正によって社会保険庁が廃止されたという立法行為によるものである上,社会保険庁の廃止による社会保険庁の全ての官職の廃止により,社会保険庁職員全員が分限免職の対象となり得たところ,各任命権者や政府,厚生労働大臣等が,適正な採用枠又は配置転換数を確保した上,適正な基準により,恣意的判断が排除された平等かつ公正な採用又は選考が実施されるようにし,可能な限り分限免職回避の努力を尽くしたことから,大多数の職員は,機構や協会での採用,厚生労働省への配置転換等,退職勧奨による退職等によって,分限免職の対象から外れた。法律の改正による社会保険庁の廃止や,機構等への採用,厚生労働省への配置転換等は,処分行政庁の権限の及ぶところではないから,これらの分限事由の発生及び分限対象者の選定については,処分行政庁の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用を観念する余地はない。本件処分について裁量権の範囲の逸脱又はその濫用が問題となり得るのは,処分行政庁が合理的な範囲での分限免職回避の措置を怠ったか否かであるところ,処分行政庁は,
その権限の範囲内で,分限免職回避の努力を尽くしたのであり,処分行政庁がした分限免職回避の措置に,その裁量権の範囲の逸脱又はその濫用はない。本件処分は適法である。
本件処分ほかの一連の分限免職処分の適法性の判断枠組
分限制度は,公務の能率の維持及びその適正な運営の確保の目的から,処分権限を任命権者に認めるとともに,他方で,公務員の身分保障の見地から,処分権限を発動し得る場合を限定している。このような分限制度の趣旨目的に照らし,かつ,処分事由が被処分者の行動,態度,性格,状態等に関する一定の評価を内容として定められていることを考慮すると,任命権者にはある程度の裁量が認められるけれども,もとより,自由裁量に委ねられているものではなく,分限制度の上記目的と関係のない目的や動機に基づいて処分をすることが許されないことはもちろん,処分事由の有無の判断についても恣意にわたることは許されず,考慮すべき事項を考慮せず,考慮すべきでない事項を考慮して判断するとか,その判断が合理性を有する判断として許容される限度を超えた不当なものであるときは,裁量権の行使を誤った違法なものであることを免れない(最高裁判所昭和48年9月14日第二小法廷判決)
。分限免職処分
は,それが裁量処分であることから,a
目的や動機に基づく場合,b

分限制度の目的と関係のない

考慮すべき事項を考慮せず,考慮すべき

でない事項を考慮した場合,c

その判断が合理性を有する判断として

許容される限度を超えた不当なものである場合,d

合理的な範囲で分

限免職回避のための努力をすることを怠った場合など,裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に該当すると認められる場合を除き,違法な処分とはならないところ,本件処分ほかの一連の分限免職処分は,社会保険庁の廃止によりその全ての官職が廃止されることを分限事由とするものであり,その分限事由は,法律の改正(機構法附則による国家行政組織法及
び厚生労働省設置法の改正)によるものであるから,分限事由を生じさせたことについて,処分行政庁の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用を観念する余地はない。また,本件処分ほかの一連の分限免職処分は,社会保険庁職員全員が分限免職の対象となり得たところ,機構への採用や厚生労働省への配置転換等がされず,退職勧奨にも応じなかった一部の者に対し,一律に分限免職処分がされたものであるから,どの職員を分限免職の対象とするかという,任命権者による選定を観念する余地はない。本件処分ほかの一連の分限免職処分については,上記aないしcが問題となる余地はなく,上記d,すなわち,社会保険庁職員に対する分限免職回避の努力をするに当たり,配置転換等が比較的容易であったのにそれを怠ったか否かや,国家公務員法27条,74条,108条の7,人事院規則11-4第2条,7条4項の趣旨に照らし,分限免職処分が平等かつ公正にされたか否かに限られる。
本件訴えは本件処分の取消しを求める訴えであり,その訴訟物は本件処分の違法性一般,すなわち,処分行政庁の本件処分に関する権限の行使の適否であるから,処分行政庁の権限が及ばない事柄は本件処分の違法事由とならない。本件処分の取消事由たり得るのは,処分行政庁が分限免職回避の努力をするに当たり,その権限の範囲内で可能な限りの努力を尽くしたかという点にとどまり,それ以外の本件処分をめぐる政府や厚生労働省の取組等の一連の経過は,本件処分の事情として考慮されるにすぎない。処分行政庁及び社会保険庁長官がその権限の範囲内ですることができた行為としては,職員の意向を聴取することのほか,機構又は協会への採用については,募集内容を職員に周知させることや,採用を希望する職員のうち採用基準を満たすものの名簿を作成することであり,厚生労働省への配置転換等についても,職員の受入を要請するとともに,募集内容を職員に周知させることであり,面接などの手続やそ
の判断は,機構又は協会や受入先の府省がした。処分行政庁及び社会保険庁長官は,その権限の及ぶ範囲内で,職員の意向を聴取し,募集内容の周知や名簿の作成,提出を適正にした上,その他の再就職支援や退職勧奨を可能な限りし,その際,恣意的な取扱いはせず,職員全員について平等かつ公平にした。原告を含む職員525人について一連の分限免職処分を回避することができなかったことはやむを得ず,裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があったということはできない。
一連の分限免職処分に当たってされた分限免職回避の努力
本件処分ほかの一連の分限免職処分に当たり,次のような分限免職回避の努力がされた。

機構職員の採用
機構職員の採用は,次のとおり,適正な採用枠を定め,適正な採用基準を設けて,採否が決定されたのであり,他事考慮や平等取扱原則違反はなかった。

機構職員の採用枠は適正であった。社会保険庁

の廃止は,政府が有識者を交えてした検討を踏まえ,公的年金の運営を再構築し,国民の信頼を回復するととともに,組織人員を必要最小限度とし,一層の合理化,効率化を図ることを意図して決定されたものである。機構の業務運営は,機構法附則3条に基づく基本計画で定められた。機構の必要人員数は,このような背景事情に基づき,通常想定される業務を基本として,正規職員1万0880人,有期雇用職員6950人とされ,正規職員のうち1000人程度は,民間から採用することとされた。機構は,常に合理化,効率化の努力をすることとされた。社会保険庁職員は,1万数千人であったが,1万人弱という機構職員の採用枠は,人員を必要最小限度とし,一層の業務の効率化,合理化を求める機構法の立法政策に基づくものである。

機構

職員の採用基準は適正であった。機構法は,社会保険庁職員の承継規
定を設けず,かつ,機構職員の採用基準は,処分歴がある社会保険庁職員は採用しないこととしたところ,これらは,いずれも必要かつ合理的な措置であった。すなわち,機構法に社会保険庁職員の承継規定が置かれなかったのは,国民の信頼に応えることができる組織とするには,独自の人事制度及び人事方針の下で勤務成績等に基づく公正な採用がされる仕組を設けることが求められ,社会保険庁職員を機構に漫然と移行させない措置を講ずるべきであるとする国会審議の結果に基づくものであるところ,機構は,社会保険庁が担っていた公的年金制度に対する国民の信頼を回復することを目的として設立されたものであるから,職員の承継規定を設け,社会保険庁職員を漫然と機構職員に移行させたのでは,その目的を達成することができないという判断は合理的である。また,社会保険庁職員の度重なる不祥事により,その都度,多数の懲戒処分がされ,公的年金制度に対する国民の信頼が損なわれたことに照らすと,懲戒処分歴がある社会保険庁職員を機構職員に採用しないという採用基準を設けたことは,公的年金制度に対する国民の信頼を回復するという目的を達成するために必要かつ合理的な措置であった。

協会職員の追加採用
協会の設立は,機構法を前提とするものではなく,協会の設立時に採用された社会保険庁職員は,平成20年10月,社会保険庁を退職したが,その後,船員保険法の改正により,協会が船員保険事業を行うこととなったことから,協会職員の追加採用がされた。この協会職員の追加採用は,社会保険庁職員の分限免職回避のために活用された。協会職員の追加採用は,次のとおり,適正な採用枠を定め,適正な採用基準を設けて,採否が決定された。

協会の職員採用枠は適正で

あった。協会も,機構と同様,社会保険庁に対する国民の信頼が揺ら
いだことを受けて,社会保険庁の業務を新たに担う非公務員型の組織として設立されたものであり,協会の人員規模については,健康保険業務の人員の削減,業務の効率化等により,全体として人員規模を削減,合理化し,民間からも積極的に人材を登用するとされていた。この方針に従い,社会保険庁で健康保険業務に従事する職員は,常勤職員約2200人,非常勤職員1500人であったものを,協会では,常勤職員2100人とされ,そのうち1800人程度を社会保険庁職員から採用することとされ,その後,協会で船員保険事業を行うこととなったことから,そのために必要な人員規模が追加で定められた。このように,協会の採用枠は,国民的な議論を踏まえ,健康保険法の改正の趣旨等に従って,合理化,効率化の観点から設定されたものであり,適正である。

協会職員の採用基準は適正であった。平成1

9年10月に示された協会設立時の職員の採用基準は,懲戒処分歴を有する職員は採用しないとはしていなかったが,機構の基本計画を受けて,平成20年12月に示された採用基準では,懲戒処分歴を有する職員は採用しないとされたところ,協会も,社会保険庁に対する国民の信頼が損なわれたことを受け,政府が管掌する健康保険業務を担う非公務員型の公法人として新たに設立されたものであり,当該業務に対する国民の信頼を回復するため,懲戒処分歴がある社会保険庁職員を機構職員に採用しないという採用基準を設けたことは,必要かつ合理的な措置であった。

厚生労働省への配置転換
社会保険庁は,厚生労働大臣に対し,機構に採用されない社会保険庁職員の転任について検討するように要請し,厚生労働省は,行政機関の職員の定員に関する法律等に規定する定員の範囲内で,社会保険庁が担っていた年金業務等をその廃止により厚生労働省が新たに担う
ための定員の増分のほか,厚生労働省の既定定員に生ずる新たな欠員又は退職見込み者の後補充のための定員枠を活用し,あるいは新規採用の抑制等により,定員数を確保し,社会保険庁職員の転任を受け入れた。

厚生労働省への配置転換の枠は適正であった。近時の国家

公務員の定員削減の情勢に鑑みれば,多数の社会保険庁職員を転任によって受け入れることは困難であり,厚生労働省への転任は,法令に定める定員等の枠内で,かつ,業務内容に応じた人員の確保という合理的な数の範囲内で,可能な限りの社会保険庁職員の転任を受け入れるべく,人数が適正に定められた。

厚生労働省への配置転換は適

正に行われた。厚生労働省への転任は,上記

の転任受入数の範囲内

で,平等かつ公正な基準により,約6000人の希望者の中から,1284人について,書類審査及び面接審査の結果を総合的に勘案し,組織における転任受入数,転任先の職務の内容に基づいて,平等かつ公正に,その可否が判断された。転任候補者の選考が地域単位でされたのは,転任希望者の多くが地元での勤務を希望していたためである。厚生労働省への転任には,定員等による制約がある一方,多数の社会保険庁職員が厚生労働省への転任を希望したことから,平等かつ公正に,その可否が判断された。

その他の分限免職回避の努力
処分行政庁等は,基本計画に基づき,社会保険庁が廃止されるまでの間,他府省への配置転換,官民人材交流センターの活用による再就職の斡旋,退職勧奨など,可能な限り分限免職処分を回避するための努力を尽くした。
本件処分に至った経過
原告は,北海道社会保険事務局の管内の社会保険事務所に所属してい
たことから,厚生労働省への転任に当たっては,北海道厚生局への転任
が考えられた。北海道厚生局では,厚生労働省への転任受入数が1284人と設定されたことを受けて,一般行政職1級につき6人,2級につき12人,3級につき10人,4級につき5人,5級につき8人の合計41人の転任受入数の枠が設けられた(乙A54)
。この転任受入数の
設定は,定員等に関する法令の制限の下で各厚生局等の業務内容,職員の配置状況等を踏まえてされたものであり,適正である。北海道厚生局では,厚生労働省への転任を希望する社会保険庁職員全員について,書類審査及び面接審査を実施し,厚生労働省への転任について総合評価がされ,その評価を踏まえ,上記の級別の転任受入数に応じて,転任候補者が選考された。面接に当たり不均衡が生ずることがないように,面接要領が定められ,面接方法,評価方法の統一が図られた。採否については,職員選考会議に諮ることとされた。具体的な選考基準につき,級別に人数が定められていたことから,級別に転任候補者が選考された評価結果は異なるものとなったが,いずれの級でも,評価がC以上又はB以上の者から転任候補者が選考された。同じ評価の者の中から転任候補者を選考する場合,組織の年齢構成を勘案された(乙A54)
。原告は,
一般行政職2級の職員であるところ,北海道厚生局の転任候補者について,一般行政職2級の職員はB以上の評価結果であった。上記の41人とは別に,北海道労働局に3人の転任受入枠が設定され,厚生局の面接を受けた社会保険庁職員のうち一般行政職1級ないし3級の者について,船員保険業務の経験の有無,面接評価を考慮して,労働局の面接審査の対象者が選定されたが,原告は,厚生局の面接評価を考慮した結果,面接対象者とされなかった(乙A55)
。さらに,厚生労働省は,社会保
険庁の廃止までの間,厚生労働省への転任予定者に辞退者が出た場合の調整や,厚生労働省全体の欠員補充のため,転任者の選考を実施し,職員意向準備調査の段階で,いかなる都道府県でも赴任することができる
こと,本省でも勤務することができることを表明しており,厚生局の面接評価がC以上の職員を対象として,面接評価や社会保険庁の人事評価を考慮し,転任予定者を決定したが,原告は,厚生局の面接評価がDであったことから,選考の対象とならなかった。
機構職員の採用基準には,職務遂行に支障のない健康状態であること,心身の故障により長期にわたり休養中の職員については,回復の見込みがあり,長期的にみて職務遂行に支障がないと判断される健康状態であることが含まれていた(乙A23)ところ,採用審査会は,平成21年1月,平成20年中の病気休暇,病気休職の日数が通算30日以上ある者等について,主治医及び主治医以外の医師から,その健康状態に関する意見を聴取することとした(乙A56)
。採用審査会は,平成21年
7月,採否を保留し,健康状態についての更なる調査が必要な者の再審査のため,主治医に対し,健康状態に関する意見を聴取した上,同年8月下旬ないし同年9月上旬,面接を実施した(乙A57)
。採用審査会
は,同年10月1日の時点における,医師の意見,勤務実績,面接評価を総合的に勘案して,最終的な採否を判断した。
原告は,機構職員の採用を希望していたが,平成21年6月,健康状態を理由として,採否保留者となった。原告は,同年8月25日,面接の総合判定が採用することは適当でない及び採用すべきか判断に迷うとなり,再審査では,面接評価,医師の意見,勤務実績を総合的に勘案した結果,機構に採用されなかった。原告は,機構以外では,厚生労働省の常勤職員を希望し,厚生労働省の非常勤職員の募集や官民人材交流センターの活用には応じなかった。原告は,一般行政職2級であるところ,その級の転任受入数は14人であり,面接評価がC以上の者が転任候補者として選考されたが,原告の面接評価はDであったことから,厚生労働省への転任候補者とされず,本件処分がされた。原告は,
健康状態を理由として,機構職員として採用されなかったものであり,採用基準を同じくする,機構の准職員の追加募集に応募しても,採用の可能性はなかったことから,その対象とはされなかった。原告は,北海道厚生局に転任候補者として選考された職員と同等ないし同等以上の評価を受けていないのであり,本件処分が違法とされる余地はない。原告の主張について

本件処分の違法性を判断する前提となる考え方について
国家公務員法78条4号の規定による分限免職処分は,私企業における整理解雇とは趣旨目的が異なるのであり,その適法性の判断に,私企業における整理解雇の4要件は直接妥当するものではない。また,本件処分ほかの一連の分限免職処分は,整理解雇に類似する過員を生じた場合を分限事由とするのではなく,官制の改廃により廃職を生じた場合を分限事由とするのであり,分限免職の対象者の選定行為が存在しないから,整理解雇の4要件が妥当する前提を欠く。


本件処分の違法事由1について
単に名称が変更されただけの形式的な場合が,国家公務員法78条4号にいう廃職等が生じた場合に該当しないとしても,当該職務との関係で人員削減の必要性があるか否かという見地のみから,その要件該当性が判断されるものではない。これを本件についてみると,社会保険庁は,公的年金の運営を再構築し,国民の信頼を回復するため,廃止され,公的年金の運営については,新たに発足した非公務員型の公法人である機構が担うこととされたのであり,社会保険庁の廃止に伴い,社会保険庁の全ての官職が現に廃止された以上,国家公務員法78条4号が定める処分事由である官制の改廃により廃職を生じた場合に該当することは明らかである。機構職員の採用は,基本計画に基づいて,設立委員会が作成した採用基準に従って適正にされた。
社会保険庁の廃止に伴う一連の分限免職処分は,社会保険庁職員のうち,機構及び協会への採用や厚生労働省への転任がされず,退職勧奨にも応じなかった者について,一律にされたものである。
本件処分ほかの一連の分限免職処分は,機構法の規定による国家行政組織法及び厚生労働省設置法の改正によって社会保険庁が廃止され,それに伴い社会保険庁の全ての官職が廃止されたことが分限事由であり,これは立法府がしたことであるから,各任命権者による裁量権の範囲の逸脱又はその濫用を論ずる余地はない。また,行政庁が担ってきた業務を公法人に担わせるに当たり,職員の承継の規定を置くか否かは,専ら立法政策の問題である。機構法に,社会保険庁職員の承継の規定が置かれなかったのは,社会保険庁職員の度重なる不祥事により社会保険庁に対する国民の信頼が失われたことから,機構という非公務員型の公法人を新たに設立して社会保険庁が担っていた業務を担わせ,公的年金制度に対する国民の信頼を回復するには,独自の人事制度及び人事方針の下で勤務成績等に基づき公正な採用が実施される仕組を設けることが求められたためであり,機構の設立目的との関係で,必要かつ合理的な措置であった。

本件処分の違法事由2について
分限免職回避努力義務の主体について,廃職による分限免職処分に当たり,合理的な範囲での分限免職回避のための努力を怠った場合,裁量権の範囲の逸脱又はその濫用として,処分は違法となり得ると解されるところ,本件処分に当たり,分限免職回避努力義務を負っていたのは,任命権者である処分行政庁であり,政府ではない。したがって,処分行政庁が,その権限の範囲内で,合理的な分限免職回避の努力を尽くしたか否かが問題となるのであり,処分行政庁の権限が及ばない事項をもって,処分行政庁が分限免職回避の努力を怠ったと解す
ることができるものではなく,他府省や機構,協会がいかなる手続,基準をもって配置転換や採用の対象となる者を選考したかが,本件処分についての処分行政庁の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用の有無に影響を与えるものでもない。分限免職回避の措置を平等かつ公平に実施しなかった場合,裁量権の範囲の逸脱又はその濫用となるが,処分行政庁は,その権限の範囲内で,原告ほかの社会保険庁職員の機構及び協会への採用,厚生労働省への配置転換,再就職支援や退職勧奨等の可能な限りの努力を尽くした。処分行政庁は,北海道内の国の地方支分部局に対し,北海道社会保険事務局及び同局管内の社会保険事務所の職員の配置転換による受入に協力するように要請するため,各機関を訪問し,要請文書を手渡した。本件訴訟において,内閣の義務違反が問題となるものではない。機構及び協会の採用枠は,公的年金制度及び政府管掌健康保険業務に対する国民の信頼が揺らいだことを受けて,非公務員型の組織がこれらの業務を担うこととするとともに,それぞれ,業務をより合理化,効率化することとして設定されたものであり,適正なものである。
まず,政府の分限免職回避の努力について,雇用調整本部による調整は,平成18年6月30日閣議決定国の行政機関の定員の純減について及び国家公務員の配置転換,採用抑制等に関する全体計画により,行革推進法に基づく国の行政機関の定員の純減を着実に実施するためのものであり,平成19年度からの4年間に国の行政機関の定員の純減を実施し,平成22年度末の職員数がなお定員を上回ることが見込まれる部門については国の行政機関の他の部門に職員の配置転換をさせることを内容とする(乙A45)
。雇用調整本部によ
る調整は,行革推進法44条1項が定める国の行政機関の定員の純減を実施するため,全府省を対象として,定員の純減及び府省横断的な
配置転換が段階的に行われるものであるのに対して,社会保険庁職員の分限免職回避の取組は,社会保険庁の廃止に伴う問題への対応として行われるものであり,簡素で効率的な政府の実現という行革推進法とは趣旨目的を異にするから,本件処分ほかの一連の分限免職処分に際し,雇用調整本部による配置転換の枠組が用いられなかったことをもって,分限免職回避の努力を怠ったということはできない。
次に,厚生労働大臣の分限免職回避の努力について,

厚生労働

省の定員増や新規採用の抑制による転任受入可能人数の確保,機構職員の採用と厚生労働省への配置転換が並行して行われたこと,機構職員(正規職員)の追加採用,厚生労働省から機構への出向者を欠員扱いするか,欠員扱いとせずに非常勤職員を採用するか,社会保険庁の廃止後の残務整理定員の活用,厚生労働省から外郭団体への出向者の欠員補充の活用については,社会保険庁長官ほかの任命権者は,何らの権限も有しないのであり,当該事情をもって処分行政庁の分限免職回避努力義務の懈怠を基礎付けるものということはできない。これを個別的にみても,

厚生労働省の定員増や新規採用の抑制による転

任受入可能人数の確保について,機構法が成立した平成19年7月の時点では,機構法に職員の承継の規定は置かれていなかったものの,実際には社会保険庁職員の大半が機構に採用されることが想定されており,具体的な機構の在り方については政府内での基本計画の策定を待つ状況にあった。廃職による分限免職処分が行われることが確定したのは,懲戒処分歴を有する者は機構に採用しないものとする基本計画が閣議決定された平成20年7月29日であり,分限免職回避努力義務が具体的に発生したのは,同日である。廃職による分限免職の対象となる可能性がある社会保険庁職員が特定され,その者に対する具体的な取組を行い得るようになったのは,機構及び協会職員の採用,
厚生労働省への配置転換の内定がされた平成21年6月25日である。厚生労働省は,業務遂行上の必要,組織における人事管理上の必要に基づく人員確保の要請を踏まえつつ,新規採用の抑制や,欠員の不補充,その他の人事異動の工夫によって,できる限り多くの欠員を確保し,社会保険庁職員を受け入れた。

厚生労働省から機構への出向

者の扱いについて,機構への出向者は,出向期間が満了した後は,厚生労働省に復帰することを前提としていたことから,厚生労働省は,出向者の復帰を見越して,その人数に応じた定員を確保しておく必要があり,また,

社会保険庁の廃止後の残務整理定員の活用につい

て,残務整理定員は,残務を処理するため,暫定的に確保されたものであり,厚生労働省は,年金局及び厚生局,機構の各職員が残務整理に対処することができることから,これらの職員に対応させ,当該定員を使用しないこととしたものであるから,厚生労働省がこれらの定員を活用して社会保険庁職員の転任を受け入れなかったとしても,本件処分ほかの一連の分限免職処分に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があったということはできない。厚生労働省は,組織の年齢構成,組織体制の維持のための新卒採用者の確保といった人事管理上の必要性等の諸般の事情を考慮しつつ,新規採用の抑制や欠員の不補充等の措置を講ずることにより,可能な限りの定員を確保し,社会保険庁職員の転任を受け入れただけでなく,加えて,社会保険庁職員を非常勤職員として採用した。なお,社会保険庁職員を残務整理定員に充てることにより,平成22年3月末まで,国家公務員の身分を引き継ぎ,同年4月以降に,他府省に配置転換することも考えられなくはなかったが,他府省から社会保険庁職員の転任を受け入れる旨の申出がなかったため,実現しなかった。

厚生労働省への転任候補者の選考は,

適正な転任受入数を設定し,書類審査及び面接審査の結果を総合的に
勘案し,組織における転任受入数,転任先の職務の内容に基づき,平等かつ公正にその可否を判断した。原告が病気休職中であったことについて,原告の抑うつ状態が公務災害に該当するか明らかでない。厚生労働省への転任候補者の選考基準は合理的であった。原告は,病気休職中であることのみを理由として,転任を不可とされたものではないし,6000人以上に及ぶ厚生労働省への転任希望者の中から1000人程度の者を選考するに当たり,職務への適性の有無の評価として,希望者の健康状態を勘案することは必ずしも不合理ではない。面接の実施に当たっても,面接官を2名にするとともに,全国的に統一された面接要領(乙A39)で面接方法を定め,基本的確認事項及び評定方法を統一するなど,不公正又は不公平な面接評価を排除するための措置を講じていた。

機構職員の採用は,機構法に基づき,設

立委員会が審査基準を定め,設立委員会の下に設けられた採用審査会が審査をしたものであり,処分行政庁は,何らの権限も有しなかった。機構の設立時の機構の欠員について,機構法上,機構職員の採用は,機構からの職員募集を受けて,社会保険庁長官が名簿を作成し,提出する仕組とされ,欠員補充のための職員の募集権限は設立委員会にあり,厚生労働大臣や社会保険庁長官には,その権限はなかったから,設立委員会が,その判断により,欠員補充のための正規職員の追加採用をしなかったからといって,分限免職回避の努力が不十分であったということにはならない。

機構職員の採用について,機構職員の

採用は,適正な採用枠を定め,職務遂行に支障のない健康状態であること等の審査も含めた適正な採用基準に従って,採否が決定された。機構職員の採用は設立委員が行うものであり,設立委員を命ずる権限を有するにとどまる厚生労働大臣の権限の行使の適否は問題とならない。

協会職員の採用の職員意向調査が行われたのは,平成20年

7月に基本計画が閣議決定され,廃職による分限免職処分が行われることが確定する前であるから,分限免職回避努力義務は発生していなかった。協会職員の採用についても,原告は,平成19年11月10日,α社会保険事務所長から,電話で,協会の労働条件等について,説明を受けた上,労働条件,採用基準,採用日程,採用人数等について記載した書類(乙A24,25)の郵送を受けた。
また,社会保険庁長官ほかの任命権者の分限免職回避の努力について,

原告は,協会職員の採用を希望せず,機構職員の採用及び厚

生労働省への転任を希望したが,機構職員の採用は機構により不採用とされ,厚生労働省への転任は厚生労働省の選考により内定を得られなかった。処分行政庁は,機構職員及び協会職員の採用,厚生労働省への転任に係る権限を有しない中で,原告の希望に応じ,機構職員の採用,厚生労働省への転任のための手続を実施したものであり,その結果,希望が実現しなかったとしても,処分行政庁がその権限の範囲内で,原告に対する分限免職回避の努力を尽くさなかったこととなるものではない。

社会保険庁総務部総務課長は,平成20年12月

24日,社会保険事務局長に対し,機構職員の労働条件,採用基準等の資料を職員に配布して,周知させるように指示した(乙A12)。
処分行政庁は,職員全員に対し,上記資料を配布した(乙A13,85)
。処分行政庁は,平成21年1月19日,職員全員に対し,機構
職員の労働条件,採用基準等,意向確認調査の実施について説明し,職員意向確認調査の実施に関する書類を配布した(乙A13,14)。
原告は,3度の職員意向調査に当たり,α社会保険事務所長から,職員意向調査の趣旨目的,採用基準,採用日程等について,説明を受けた。原告は,北海道厚生局の面接に先立ち,厚生労働省への転任に係る情報の提供を受け,職員意向調査を受けた。

北海道厚生局長は,

平成21年6月22日付けで,処分行政庁に対し,転任等予定者一覧表(乙A93)を送付した。同表には,厚生労働省への転任予定者の氏名が記載されているところ,原告の氏名は記載されていない。社会保険庁総務課は,機構職員及び協会職員の採用並びに厚生労働省への転任に係る職員への伝達について,社会保険事務局長に対し,同日付け職員への伝達に関する進め方等について(連絡)を発出した(
乙A94)ところ,同連絡文書によれば,機構の採否保留者への対応と,いずれの採用(転任予定)もなかった者への対応とは,取扱いが区別されているのであって,機構の採否保留者に対しては,機構の採否が保留されたこと,同年8月から同年9月にかけて審査が行われることを伝達するとされているにとどまり,厚生労働省への転任予定者とならなかったことについても伝達するように指示されてはいなかった。処分行政庁は,原告に対しても,この連絡に従い,厚生労働省への転任予定者とならなかったことは伝えなかったものである(証人仙庭)
。甲各共32でも,厚生労働省への転任予定者とならなかった旨
の連絡は,いずれの採用(転任予定)もなかった者に対してすることとされている。原告は,同年10月,北海道社会保険事務局総務課長であったB課長から,機構に不採用になったことと,厚生労働省を含む他府省への転任の可能性はほとんどないことを知らされたが,官民人材交流センターに登録をすることも,北海道厚生局の非常勤職員の募集に応ずることもなく,厚生労働省への転任のみに固執していた。このことによれば,北海道社会保険事務局が,同年6月の時点で,厚生労働省への転任の内定が得られなかったことを知らせていても,分限免職処分を回避することはできなかったのであり,上記の伝達時期は,分限免職回避の努力が不十分であったことの根拠となるものではない。


本件処分の違法事由3について
本件処分は,廃職を生じたことを理由とする分限免職処分であり,分限免職の対象となる職員の選定を前提とするものではない。本件処分ほかの一連の分限免職処分は,社会保険庁が廃止され,廃職を生じたことによるものであり,社会保険庁職員のうち,機構への採用や厚生労働省への転任がされず,退職勧奨にも応じなかった者全員に対し,一律にされたものであり,分限免職の対象となる人員の選定はされなかった。人事院規則11-4第7条4項は,分限免職の対象者を選定する場合,すなわち,国家公務員法78条4号の過員を生じた場合について定めたものであり,当該官職に就いていた職員全員が分限免職の対象となり得る廃職を生じた場合を想定したものではな
い。もっとも,廃職を生じたことを理由として分限免職処分をするに先立ち,分限免職回避の努力をする際にも,同法74条に定める分限の根本基準及び人事院規則11-4第7条4項の趣旨に則って,公正に行うことが要請されると解される。
これを本件についてみると,機構及び協会職員の採用や,厚生労働省への転任は,それぞれの組織における採用基準等により,各組織の判断が問題となるのであり,分限免職の対象者を選定するものではない上,いずれも,処分行政庁の権限の及ぶところではないし,それぞれの設立委員会が適正な採用基準に基づいて採用し,又は厚生労働省において書面審査及び面接審査の結果を総合的に勘案し,平等かつ公正にその可否を判断したものであるから,その選定は,人事院規則11-4第7条4項の趣旨に何ら反するものではない。機構職員の採用に当たっては,社会保険庁の廃止の経緯から,公的年金業務に対する国民の信頼回復のため,懲戒処分歴のある者は機構職員として採用されないこととされた。なお,厚生労働省への転任候補者は,懲戒処分
歴の有無にかかわらず,公正な手続によって選考された。
また,被告(国)は,社会保険庁職員の分限免職処分を回避するため,種々の方策を講じたところ,その一環である厚生労働省への転任候補者の選考に当たっては,書類審査及び面接審査の結果を総合的に勘案し,組織における転任受入数,転任先の職務の内容に基づいて,平等かつ公正にその可否を判断した。厚生局への転任者の選考は,厚生労働省本省及び各地方厚生局の管区である地域単位で実施されたところ,これは,転任希望者の多くが地元での勤務を希望していた事情を考慮したものであるから,合理性があり,その結果,地域ごとに内定率に差異が生じたとしても,不合理又は不平等な取扱いということはできない。厚生労働省は,不公正又は不平等な評価を排除する観点から,適切な基準を設定した。原告は,健康状態のみを理由にDと評価されたものではなく,面接での言動を踏まえ,行動力や積極性が足りないことや,強い志望動機を述べなかったことから評価された。厚生局で予定される業務への適性を判断するための事情として健康状態が勘案されたとしても,不当ということはできない。北海道厚生局への転任候補者の選考について,原告は,厚生労働省への転任候補者の選考が人事評価に基づかないものであったと主張するが,

社会保

険庁の人事評価は,北海道厚生局の面接審査の評価に当たり,重要性を有するものではなかった。国家公務員法58条1項の人事評価制度は,平成19年法律第108号による国家公務員法の改正により,従前の勤務成績の評定(上記改正前の国家公務員法72条)に代えて導入され,平成21年10月から本格的に実施されたものであり,地方厚生局への転任候補者が選考され,内定通知がされた同年6月の時点では,人事評価(制度)自体が存在しなかったから,社会保険庁の人事評価を考慮しなかったとしても,違法でない。社会保険庁では,人
事評価制度が実施される以前から,社会保険庁改革の一環として,社会保険庁長官が定めた社会保険庁人事評価実施規程(平成18年社会保険庁訓第10号。乙A97)に基づき,他府省に先行して独自の人事評価制度を実施していたが,この人事評価は,国家公務員法58条1項の人事評価に該当するものでない。そして,

国家公務員法5

8条1項の人事評価は,平成19年法律第108号附則8条1項
により,施行日から起算して3年間は人事評価又はその他の能力の実証と読み替えられていたのであって,厚生労働省への転任候補者の選考は,この経過措置にいうその他の能力の実証に基づき,標
準職務遂行能力と適性を公正に考慮して,されたものであるから,国家公務員法58条1項に違反するものではない。
その他の能力の実証には,任用しようとする官職との関係で合理的な結び付きがある限り,各種の資料を用いることができると解されるところ,北海道厚生局の面接審査は,被面接者の人柄,性向等について評定し,転任者が就くことが予想される官職への適否を判定することを目的とするものであり,業務の適性等の確認のため,職員意向準備調査票,関係書類,社会保険事務局から得た情報等を参考とし,各人の状況に応じて適切な質問をすることとされていた(乙A39)
。面接前に,社会保
険事務局から提出された書類一式を確認するとされていること(乙A39)
,面接票の書類の確認欄に,職員意向準備調査票,人事記録,
出勤簿,休暇簿,健康診断書,懲戒処分・矯正措置の状況に加えて,人事評価書と記載されていること(乙B2の11)から明らかなとおり,上記の関係書類には,社会保険事務局から提出された人事評価に関する書類が含まれる(C3頁。北海道厚生局は,面接前に,北海道社会保険事務局から社会保険庁の人事評価等の提供を受け,それを記載した面接者一覧(乙A106)を作成していた。甲各B15はその
一部を抜粋したものである。。すなわち,地方厚生局の面接では,)
転任者が就くことが予想される官職(業務)への適否を判定するため,社会保険庁の人事評価をも参考資料とし,被面接者の能力,業務への適性等を見極めるのに必要な質問がされることが予定されていた。実際,北海道厚生局の面接審査を担当したC面接官は,面接に先立ち,原告が社会保険庁の人事評価(業績評価及び能力評価)でいずれもCとされたことを確認した(乙B2の11)上,面接では,原告が船員保険業務を担当していたことに関連し,ソフトウエア技術者資格を有するという能力や,手書きだった保険証や記録をパソコンで処理するようにしたという実績について聴取するなどして,上記の人事評価の基礎となった能力や実績について自ら確認し,面接での遣り取りを踏まえて,予想される業務に対する適性をDと評価した(C55頁)。
原告は,社会保険庁の人事評価が一切考慮されていないかのように主張するが,C面接官は,社会保険庁の評価が全て正しいという認識で面接すると,間違った方向に行く可能性があるという考え(C60頁)から,社会保険庁の人事評価の内容を踏まえた上,その評価自体は考慮しない(鵜呑みにしない)こととしたものであり,社会保険庁の人事評価を無視したわけではなく,そのような意味で,
原告については(社会保険庁の人事評価を)考慮していない
(C61頁)と
供述した。

本件訴訟の第18回口頭弁論期日の調書には,被告の

陳述として,
被告は,転任者の選考に当たって,これまでの人事評価は考慮していないということと,原告の面接評価に当たって,これまでの人事評価の内容を考慮していないと主張しているものであると記載されているところ,ここにこれまでの人事評価(の内容)は/を考慮していないとした被告の陳述の趣旨は,上記
のとおり,

Cという社会保険庁の人事評価の評定の結論を踏まえた上,その評価
自体を鵜呑みにしたわけではないというものであり,仮に上記調書の記載がそのように解することができないものなのであれば,正確性を欠くので,そのように訂正する。

転任は,人事評価又はその他の

能力の実証に基づき,官職に係る標準職務遂行能力及び適性を有すると認められる者の中から,人事の計画その他の事情を考慮した上,最も適任と認められる者について,行うことができる(国家公務員法58条1項,人事院規則8-12第26条1項)
。これを換言すれば,
転任は,人事評価又はその他の能力の実証に基づいて適格者を選ぶことが求められているものの,人事評価の順位に従って転任させることが求められているものではない。そのため,本件では,相対的に,社会保険庁の人事評価における全体評語の重要性は低く,面接による業務の適性等の確認が重視されることとなったとしても,そのような判断は,新しく組織に誰を受け入れるかということを決める場面では何ら不合理なものではない。そもそも,厚生労働省への転任は,通常の個別の官職の転任とは異なり,社会保険庁の解体に当たり,組織定員や予算措置の上で可能な限り社会保険庁職員を受け入れるというものであり,社会保険庁の様々な部署の転任希望者の中から厚生労働省の様々な部署への転任を一括して検討しなければならず,転任が認められなかった者に対しても分限免職回避の措置をできる限り講ずる必要があったことから,早期に転任対象者を決定しなければならないという特殊性があった。原告の平成20年度上期の業績評価及び能力評価は,いずれもCであるところ,社会保険庁が実施していた人事評価では,一般行政職2級の職員の場合,下位10%の職員がCと評価されるとされていたのであり(乙A97)
,仮に人事評価に重きを置いた
評価がされていたとしても,原告が厚生労働省への転任候補者として選考された可能性は乏しいから,厚生労働省への転任候補者の選考は,
本件処分の違法事由となるものではない。北海道厚生局の面接を受けた者のうち北海道厚生局又は北海道労働局への転任候補者として選考されたものの平成20年度上期の人事評価(業績評価及び能力評価)について,上記の原告の同期の人事評価よりも劣る者(業績評価又は能力評価のいずれかがDである者)は存在しない(乙A104の1ないし3)
。原告と同じく,業績評価及び能力評価がいずれもCであっ
た者で転任候補者に選考されたものは,2名である。そのうちの1名は,行政一般職5級で,北海道厚生局の面接評価がBであったことから,北海道厚生局への転任候補者となり,もう1名は,行政一般職1級で,北海道厚生局の面接評価がCであったが,北海道労働局の面接を受け,北海道労働局への転任候補者となった。また,全国で各地方厚生局の面接を受けた者のうち原告と同じ一般行政職2級の職員で配置転換がされたものの平成20年度上期の人事評価(業績評価及び能力評価)について,上記の原告の同期の人事評価よりも劣る者(業績評価又は能力評価のいずれかがDである者)は存在しない(乙A105の1及び2)

さらに,北海道労働局への転任候補者の選考について,同選考に当たっては,北海道厚生局の面接評価も考慮されたところ,原告は,北海道厚生局の面接評価がDであったことから,北海道労働局の面接審査の対象者とならなかった。労働局への転任に係る面接対象者の選定は,厚生労働省大臣官房人事課で実施しており,地方厚生局に対し,労働局への転任に係る面接対象者を選定するための基準は,伝達されていない。労働局への配置転換に係る面接対象者を選定した経緯は,次のとおりである。すなわち,厚生労働省大臣官房人事課企画官は,平成21年1月9日に実施された地方厚生(支)局総務管理官会議で,総務管理官に対し,被面接者の労働関係部門への希望の有無を含め,
厚生局の面接の結果を報告するように口頭で指示した。北海道厚生局は,この指示に基づき,同年3月,厚生労働省大臣官房人事課に対し,被面接者の労働関係部門への希望の有無を含む面接の結果を報告した。厚生労働省大臣官房人事課は,労働局への転任については,厚生局の面接評価がC以上であり,かつ,船員保険業務経験者であれば一般行政職3級以下の者,船員保険業務経験者でなければ一般行政職1級及び2級の者のうち,労働関係部門への配置転換を希望する者を面接対象者とすることとし,この基準に従って,同年4月,労働局の面接審査の対象者を選定した。そのため,労働局の面接審査の対象者は,いずれも,厚生局の面接評価がC以上であり,一般行政職1級ないし3級である(乙A59)
。厚生局の面接評価がC以上であることが基準
に取り込まれたのは,労働局への転任を希望する者が5000人を超える相当な人数に及び,全員の面接をするには相当程度の負担があることから,厚生労働省が定めた面接要領に基づいて直近で実施された厚生局の面接の結果を参考にすることとし,その評価が積極的なC(任用してもよい)以上の者を労働局の面接審査の対象者として選定し,D(任用には多少疑問がある)以下とされた者は除外することとしたものである。このことは合理的であり,その上で,北海道労働局は,自らも面接を実施し,その評価結果に基づいて転任候補者を選考しており,北海道労働局が評価を全くしなかったということはできない。原告は,北海道厚生局の面接評価がDであったことから,北海道労働局の面接審査の対象者とならなかったものであり,北海道労働局への転任の可能性はなかった。

本件処分の違法事由4について
国家公務員に対する分限免職処分については行政手続法の適用はなく,国家公務員法上,告知聴聞の機会の付与は分限免職処分の手続的
要件とされていない。憲法31条が定める法定手続の保障が行政手続に及ぶと解するとしても,行政手続は刑事手続とその性質において差異があり,常に必ず告知聴聞の機会を付与すべきこととなるものではない。原告が引用する最高裁判所平成4年7月1日大法廷判決は,憲法31条が定める法定手続の保障が行政手続に及ぶと解すべき場合であっても,一般に,行政手続は,刑事手続とその性質において差異があり,また,行政目的に応じて多種多様であるから,行政処分の相手方に事前の告知,弁解,防御の機会を与えるか否かは,行政処分により制限を受ける権利利益の内容,性質,制限の程度,行政処分により達成しようとする公益の内容,程度,緊急性等を総合衡量して決定されるべきものであって,常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではないと判示しているのであり,行政手続全てに憲法31条による保障が及ぶとしているわけではなく,仮にその保障が及ぶ場合であっても,常に事前の告知,弁解,防御の機会を与えることを必要とするものではないとしている。国家公務員に対する分限免職処分は,適格性を欠く職員又は余剰となった職員について,公務員としての身分を失わせ,あるいは降格させる処分であり,刑事手続との類似性はなく,分限免職処分によって失われる利益は,国家公務員の身分に基づく利益であり,一般国民が刑罰を科せられることによって被る不利益と比べると,質的に異なる。国家公務員に対する分限免職処分については,事後的なものとはいえ,不服申立ての手段が保障されているのであり,憲法31条が定める法定手続の保障が行政手続に及ぶと解することはできない。告知聴聞の機会を欠いたことを理由として本件処分が違法であるとする原告の主張は失当である。本件処分ほかの一連の分限免職処分に当たり,被処分者に告知聴聞の機会を与えなければならない法令上の根拠はなく,そのような機会を与える実質
的な意味もなかった。なお,被告(国)は,厚生労働省への配置転換等,分限免職回避のための種々の方策を講じた際の職員意向調査において,個々の職員の意向を複数回にわたり丁寧に聴取した。社会保険庁職員は,告知聴聞の機会を付与されていないとしても,防御権が違法に制限されたということはできない。厚生労働省への転任予定者の内定を得られなかったことを原告に伝えたのは,平成21年10月15日であるが,同年6月の時点で伝えていれば,分限免職処分を回避することができたという根拠となる事情はない。

国家賠償請求について
本件処分は適法であり,その手続にも違法はないから,国家賠償請求は理由がない。

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