判例検索β > 平成27年(わ)第551号
詐欺・窃盗
事件番号平成27(わ)551
事件名詐欺・窃盗
裁判年月日平成29年3月15日
裁判所名・部広島地方裁判所  刑事第1部
裁判日:西暦2017-03-15
情報公開日2017-10-13 01:33:49
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平成29年3月15日宣告
第551号


被告人は無罪

理1由
本件公訴事実の要旨は,

被告人,分離前相被告人A及び同Bは,警察官及び銀行協会関係者等になりすまし,不特定の者からキャッシュカードをだまし取った上,同キャッシュカードを使用して現金を窃取しようと企て,C及び氏名不詳者と共謀の上第1平成26年10月14日,氏名不詳者が,複数回にわたり,広島県安芸高田市a町bc番地d所在のD方に電話をかけ,同人(当時80歳)に対し,同人の氏名が振り込め詐欺に使用されているので,新たなキャッシュカードを作成しなければならず,そのために,現在のキャッシュカードを銀行協会関係者が受け取りに行くので渡してもらう必要がある旨うそを言い,さらに,同日,Aが,前記D方において,同人に対し,銀行協会関係者になりすまして銀行協会の者である旨うそを言い,前記Dに,電話の相手が警察官及び銀行協会関係者等であり,新たなキャッシュカード作成のために現在のキャッシュカードを銀行協会関係者に交付しなければならないと誤信させるとともに,目の前にいるAが銀行協会関係者であり,Aが,新たなキャッシュカード作成のために現在のキャッシュカードを預かるものと誤信させ,よって,同日,前記D方において,同人から,同人名義のキャッシュカード3枚の交付を受け,もって人を欺いて財物を交付させた第2別表1記載のとおり,同日午後零時56分頃から同月15日午前8時54分頃までの間,13回にわたり,同市e町fg番地h所在のセブン-イレブンE店ほか4か所において,同所に設置された現金自動預払機に株式会社F銀行G支店等発行の前記D名義のキャッシュカード3枚を挿入して同機を作動させ,株式会社H銀行お客さまサービス部長Iほか1名管理の現金合計200万円を引き出してこれを窃取した第3同日,氏名不詳者が,複数回にわたり,同県庄原市i町j番地k所在のJ方に電話をかけ,同人(当時91歳)に対し,同人の口座が振り込め詐欺に使用されているので,新たなキャッシュカードを作成しなければならず,そのために,現在のキャッシュカードを銀行協会関係者が受け取りに行くので渡してもらう必要がある旨うそを言い,さらに,同日,Aが,前記J方において,同人に対し,銀行協会関係者になりすまして銀行協会の者である旨うそを言い,前記Jに,電話の相手が警察官及び銀行協会関係者等であり,新たなキャッシュカード作成のために現在のキャッシュカードを交付しなければならないと誤信させるとともに,目の前にいるAが銀行協会関係者であり,Aが,新たなキャッシュカード作成のために現在のキャッシュカードを預かるものと誤信させ,よって,同日,前記J方において,同人から,同人名義のキャッシュカード2枚の交付を受け,もって人を欺いて財物を交付させた第4別表2記載のとおり,同日午前11時39分頃から同日午後零時29分頃までの間,同市l町m番地n所在のセブン-イレブンK店ほか1か所において,4回にわたり,同所に設置された現金自動預払機に株式会社F銀行L支店等発行の前記J名義のキャッシュカード2枚を挿入して同機を作動させ,株式会社H銀行お客さまサービス部長I管理の現金合計100万円を引き出してこれを窃取した
というものである。
2
被告人は,公訴事実第1及び第3の各詐欺(以下本件各詐欺という。)並びに公訴事実第2及び第4の各窃盗(以下本件各窃盗といい,本件各詐欺と本件各窃盗を合わせて本件各犯行という。)のいずれについても関わっていない旨述べ,弁護人も同供述に従い,被告人はいずれの公訴事実についても無罪であると主張する。これに対して検察官は,被告人は本件各犯行において重要な
役割を果たしており,共同正犯の責任を負う旨主張する。
当裁判所は,被告人が本件各犯行において重要な役割を果たすなどして関わったと認定するには合理的な疑いが残ると判断したので,以下,その理由を述べる。なお,本判決において,括弧内の甲を付した数字は,証拠等関係カード記載の検察官請求証拠番号を,弁を付した数字は,同カード記載の弁護人請求証拠番号を,それぞれ示す。また,公判調書中の供述部分と公判廷における供述とを区別せず,単に供述と表記する。
3
前提事実
関係証拠によれば以下のような事実を認めることができ,これらについては被告人も特段争っていない。

被告人とCは,10代の頃からの知り合いで,被告人よりも5歳ほど年上のCが暴走族の総長をしていた際,被告人がその暴走族の一員だったことがあり,Cが被告人の地元の先輩に当たるという関係にある。


CとAは,知人を介して二,三年ほど前に知り合い,本件各犯行当時,AがCの自宅で寝泊まりをしていた。


CとBは,10年ほど前から友人関係にある。


被告人とAの間及び被告人とBの間には,いずれも友人・知人といった関係はない。
少なくとも,A,B,C及び氏名不詳者は,共謀の上,本件各犯行に及んで
いる。
これらの犯行における各人の具体的な行動は,①A,B及びCが,Cの運転する車で,各犯行日の朝に安芸高田市及び庄原市に行き,②氏名不詳者が本件各詐欺の被害者に電話をかけて,公訴事実第1及び第3のとおりのうそを言い,③何者かがCに各被害者の名前と住所を電話で伝え,C,A及びBが各被害者の自宅付近まで車で行き,④Aが各被害者の自宅に行き,銀行協会関係者になりすまして公訴事実第1及び第3のとおり被害者らにキャッシュカードを交付
させ,⑤Aがキャッシュカードを持って車に戻り,車内で待機していたBにキャッシュカードを渡し,⑥何者かがB又はCに電話でキャッシュカードの暗証番号と同カードに係る金融機関口座の預貯金残高等を教え,⑦A,B及びCが,Cの運転する車で,本件各窃盗の現場であるコンビニエンスストアに行き,Bが現金自動預払機を操作して,公訴事実第2別表1番号1ないし10及び公訴事実第4のとおり現金を引き出し(公訴事実第2別表1番号11ないし13については後述する。),⑧車内に戻ったBが現金と利用明細票(キャッシュカードについては後述する。)をCに渡し,A,B及びCが現金の一部を報酬として分け合い(報酬の割合については後述する。),⑨その後,残りの現金と利用明細票をCが何者かに渡す,というものである。
被告人は,本件各犯行の日に,本件各犯行の現場には行っておらず,両日とも,朝から夕方まで,広島県呉市oのマンション新築工事現場で,現場管理者として,地面に穴を掘って杭を入れる作業に従事していた。
4
検討対象
本件各詐欺の実行行為のうち,欺罔行為を担ったのは氏名不詳者とAであり,キャッシュカードの授受を担ったのはAである。また,本件各窃盗の実行行為者はBである。被告人が本件各犯行の実行行為を担ったとは認められないし,被告人は本件各犯行の現場にも行っておらず,AとBは,被告人のことを知らないと述べている。
本件各犯行への被告人の関与について述べるのはCのみであり,Cは,被告人の指示に従って本件各犯行に及んだなどと述べている。そのため,被告人が本件各犯行について共同正犯の責任を負うか否かを決するに当たっては,Cの供述の信用性を検討する必要がある。

5
Cの供述
本件各犯行への被告人の関与及びこれに至る経緯についての,Cの供述の概要は以下のとおりである。

平成24年12月頃にCが刑務所を出所した後,平成26年(以下,月日は特に断らない限り平成26年のことを指す。)の夏前頃に被告人から電話が掛かってきて,見てもらいたいものがあると言われ,会ってみると,被告人が,本件各犯行のような詐欺及び窃盗の一連の流れが記載されているファイルを見せてきて,銀行協会関係者のふりをしてキャッシュカードを受け取る役をする者を探していると言ってきた。そこで,Cは,Aを被告人に紹介するとともに,自身も運転手として関与することとし,被告人から,報酬として引き出した金額の1割程度を各人がもらえると聞いた。
C,A及び被告人は,本件各犯行と同様の詐欺及び窃盗を実行するために,当時キャッシュカードで現金を引き出す役(以下出し子という。)をすることになっていた氏名不詳者1名とともに,8月22日よりも少し前の頃,車で神戸に2回行ったが,電話を掛ける役の側の都合により実行できなかった。その後も,CとAは,出し子(当初は氏名不詳者であったが途中からBとなった。)とともに,詐欺及び窃盗を実行するために,広島県内各所及び近隣の県に車で多数回行った。
他方,被告人は,

現場に同行せず,①Cに対し,翌日行っても

らう地域を前日に電話で連絡し,②ガソリン代などの経費を被告人の自宅アパートの集合ポストに入れておく方法で当日の朝にCに渡し,③当日,キャッシュカードを受け取る相手の名前と住所を電話でCに伝えるなどし,④キャッシュカードを受け取った旨の電話をAから受けると,出し子又はCに対し,キャッシュカードの暗証番号と同カードに係る金融機関口座の預貯金残高等を教え,⑤現金を引き出した旨の電話での報告をCから受け,引き出した現金からCらの報酬を除いた残りを,広島市p区qの方にあるアパートの一室のドアポスト又は集合ポストに入れてもらうなどの方法でCから受け取る,という形で関与しており,本件各犯行時も同様であった。なお,③については,被告人に代わり他の何者かが電話で指示をしてくることも数回あったが,本件各犯行時に電
話で指示をしたのは被告人であった。
6
検討
確かに,被告人の関与及びこれに至る経緯についてのCの供述は具体的で,ある程度の詳細さを備えている。しかし,このような供述は,被告人ではない何者かが関与していた場合にもできるのであって,本件各犯行に関与した者が被告人であることを直ちに裏付けることにはならない。
他方,Cの供述には,被告人の関与及びそれ以外の点に関して,他の証拠との整合性又は供述内容それ自体等において,以下の問題がある。
本件各犯行当日及び前日の電話連絡について

Cは,本件各犯行の当日に

の電話連絡を取り

も被告人がしていたことになると考えられる。
しかし,被告人らの通話記録(甲72資料1)を見ても,公訴事実第1及び第2別表1番号1ないし10の当日である10月14日の午前7時10分に被告人が発信しCが受信した通話が1件,同日午後3時21分にCが発信し被告人が受信した通話が1件,公訴事実第2別表1番号11ないし13,第3及び第4の当日である同月15日の午後5時43分にCが発信し被告人が受信した通話が1件あるだけで,

の供述によればあ

るはずの,本件各犯行の時刻に近接した時間帯における被告人とCらとの通話の履歴は見当たらない。Cは,被告人との連絡に飛ばしの携帯電話を使っていたと述べるが,これを裏付ける証拠はなく,飛ばしの携帯電話を使っていたにもかかわらず,本件各犯行当日に,前記のとおり飛ばしではない携帯電話で合計3回通話したというのもやや不自然である。

しかも,被告人は,本件各犯行当時,工事
に従事していたのであり,これらの作業について弁護人が提出した証拠(弁9ないし12,45,46)に照らすと,騒音の中,セメントで汚れながら,
杭の施工作業のみならず,工程の管理や写真撮影等も行わなければならず,忙しくしていた旨の被告人の供述を排斥できない。
確かに,前記通話記録によれば,これらの作業が行われていた時間帯に,被告人がCら以外の複数の者と電話で話していたことが認められるので,作業中であっても,被告人が全く電話で通話できないわけではなかったと認められる。しかし,そうであっても,そのような作業に従事する被告人が,前
えられる計画の中で,キャッシュカードを受け取る相手の名前,住所,キャッシュカードの暗証番号及び預貯金残高といった詳細な情報を,時期を失することなく電話で伝える役割を担うのが現実的であるのか疑問がある。ウ
また,前記通話記録によれば,公訴事実第1及び第2別表1番号1ないし10の前日である10月13日の夕方から夜にかけて,被告人とCとの間で複数回の通話があり,これらの通話及び既に見た同月14日午後3時21分の通話の存在によって,本件各犯行の前日に被告人から翌日行く地域についての連絡があった旨のC


かし,これらの通話内容までは証拠上明らかでなく,前述した本件各犯行当日の他の通話も含め,通話がなされた時刻及び通話時間のいずれを見ても,それ自体から,被告人が述べるような日常的なやり取りの枠を超えたやり取りがなされたことをうかがわせるところはない。
本件各犯行前後のCらの動きについて

証拠(甲72資料1等)によれば,Cは,公訴事実第2別表1番号11ないし13,第3及び第4の当日である10月15日の午前9時14分に,M料金所から高速道路に入り,そのまま庄原市内まで行ったことが認められるが,被告人の住居から近いN料金所(甲72資料2-①の1枚目の図面)を利用せずに,Cの当時の自宅である広島市p区rから近いところにあるM料金所(甲72資料2-②の1枚目の図面)を利用した事実からすれば,被告
人及び弁護人が主張するように,少なくとも,この日に,CがA及びBを連れて庄原市内に行く途中で,被告人の自宅に立ち寄ったことはなかったと考えるのが自然である。

また,前記通話記録等によれば,Cは,公訴事実第2別表1番号10の現金引き出しのために10月14日午後1時58分頃にs区t町大字uのローソンに行ったが,その後,同日午後3時6分頃には同区vに,同日午後5時14分頃には広島市w区にいたことが認められる。これらの地点の位置関係及び道路状況に加えて,当時広島市w区に住んでいたB(甲120の7頁)が,Cが現金をどうやって指示役に渡していたか知らないと述べていることからすれば,被告人及び弁護人が主張するように,少なくとも,この日に,Cが窃盗の現場からA及びBを連れて帰る途中で,広島市p区qの方のアパートに立ち寄ってドアポスト等に現金を入れたことはなかったと考えるのが自然である。


ところで,Cが供述する広島市p区qの方のアパートというのは,正確には,広島市p区xにあるOの住んでいるアパートのことであるが,Oは,10月頃かその少し前の頃に,被告人の依頼により,Oの住居のドアポストに入れられた現金を集合ポストの中に移したことが1回はあると記憶している旨述べている。O及び被告人の供述によれば,Oは被告人の地元の後輩で,被告人から借金をしていたことが認められるものの,虚偽の供述をして被告人を無実の罪に陥れるほどの動機は見当たらず,他にOの供述の信用性を疑うべき理由も見当たらない。そうすると,Cの供述のうち,被告人がOの住むアパートのドアポスト又は集合ポストを介してCから現金を受け取っていたという点は,信用できるOの供述によって一部裏付けられている。しかし,Cが,被告人の指示によってドアポストに現金を入れたことが何度もあると述べている(第10回公判Cの証人尋問調書39頁)のに対し,Oは記憶にあるのが1回だと述べており,この点で両供述は一致しない。し
かも,Oが述べる1回というのが具体的にいつのことなのか明らかでなく,本件各犯行の日ではない可能性もある。
その上,Oの供述によっても,被告人から移し替えを依頼された現金が本件のような窃盗の被害金であったのかどうか明らかでない。被告人は,信用できるOの供述に反して,Oに現金の移し替えを依頼したことを否定しており,Oへの依頼の事実を被告人が隠そうとする理由が,何らかの違法性を帯びた行為によって獲得した現金だからであるとの推認は一応可能である。しかし,本件各犯行の当時,Cの覚せい剤の買い付けに同行したり,他人に高利で金を貸したり,のみ行為を行ったりしていたという,被告人が自認するような規範意識に問題のある生活状況(第22回公判被告人供述調書8頁,27頁)に照らすと,現金獲得の原因として考えられる違法行為は本件のような窃盗に限られないから,被告人の供述態度から直ちに本件各犯行への関与が推認されることにはならない。
そうすると,Oの供述によっても,本件各犯行への被告人の関与に係るCの供述の信用性はそれほど補強されない。

加えて,前記通話記録等によれば,Cは,10月14日午後5時14分頃に広島市w区にいた後,同日中に自宅付近の地域,広島市w区,y区又はz区にいたことは認められるが,Oの自宅付近の地域に行った様子はうかがわれない。同月15日に行われた公訴事実第4の窃盗の後について見ても,前記通話記録等によれば,Cは,同日午後2時50分にM料金所から高速道路を降りた後,同日中に自宅付近の地域又は広島市w区にいたことは認められるが,Oの自宅付近の地域に行った様子はうかがわれない。


以上によれば,本件各犯行に関して,犯行前に被告人の自宅の集合ポストを介して被告人から経費を受け取り,犯行後にOの自宅のドアポスト等を介して被告人に現金を渡した旨のCの供述は,本件各犯行後の現金授受及び10月15日の犯行前の経費授受について,他の証拠との整合性に疑問がある
か,少なくとも他の証拠による裏付けが乏しいものである。唯一,同月14日午前9時19分にCがN料金所から高速道路に入っている事実(甲72資料2-①の1枚目の図面)は,Cが犯行前に被告人の自宅に立ち寄ったことと整合するが,他方で,翌日の朝には立ち寄っていないと考えられることからすると,同月14日に被告人の自宅に立ち寄った可能性があるからといって,犯行前に通常行う経費授受のために立ち寄ったものと直ちに推認することはできない。
被告人名義の金融機関口座への入金について
証拠(甲72資料1等)によれば,10月14日の夜,同月15日の朝及び同日夜に,被告人名義の金融機関口座に,それぞれ,6万円,41万円,58万円の入金があることが認められる。検察官は論告で主張していないが,これらの入金が,犯行後O宅のドアポスト等を介して被告人に現金を渡した旨のCの供述を一部裏付けていると見る余地がある。
しかし,前述したとおり,そもそもCが犯行後にOの自宅付近の地域に行ったのかについても,前記通話記録等に照らして疑問がある。また,同月15日朝に入金された41万円については,被告人が友人のPから購入した自動車を返却したことに伴う返金分を元手としていることが,同人の供述により裏付けられている。それ以外の入金についても,貸金の返済分等である旨の被告人の供述を排斥できる事情はない。また,Cの供述によれば,被告人は,飛ばしの携帯を使い,Oを経由して金銭を授受するなど,本件各犯行に対する自らの関与が明らかにならないよう用心する一方,金融機関口座への入金という明確に記録に残る方法を用いていたことになるが,これでは用心の仕方として一貫性を欠いており,不自然であるとの感を否めない。
したがって,前記各入金の事実によっても,Cの供述の信用性はそれほど補強されない。
本件各犯行日に先立つ経緯

検察官は論告で主張していないが,Cの供述のうち,A,被告人及び氏名不詳者1名とともに,8月22日よりも少し前の頃に車で神戸に行ったという点は,同月1日に兵庫県に行ったという限度で,Cの携帯電話の通話明細(甲73)により裏付けられており,その限度の事実は被告人も認めている。しかし,同日兵庫県に行った理由について,被告人は,Cとその知人が覚せい剤を買いに行くのに同行したと述べており(第22回公判被告人供述調書8頁),この供述を排斥できる事情はない。
更にさかのぼって,Cは,本件のような詐欺及び窃盗に関わるようになったきっかけとして,被告人から電話がかかってきて誘われた旨述べているが,弁護人が弁論及び被告人質問の中で指摘する,Cの携帯電話2台の契約時期並びにC及び被告人の受刑の時期等に照らすと,Cと被告人が刑務所を出た後,まず被告人からCに接触を図ってきたということは裏付けられない。したがって,本件各犯行日に先立つ経緯について見ても,本件各犯行への被告人の関与に係るCの供述の信用性を高める事情は認められない。Cの供述態度等

Cの供述は,①公訴事実第2別表1番号11ないし13にある合計50万円の引き出し,②だまし取ったキャッシュカードの処分及び③本件各犯行で各人が受け取る報酬の割合について,Bの供述と大きく異なる内容となっている。


すなわち,①及び②について,Cは,別表1番号11ないし13のコンビニエンスストアにA及びBと3人で立ち寄ったが,Bが50万円を引き出したことは知らず,当時,だまし取ったキャッシュカードをBが1人で処分することがあった旨述べている(第10回公判Cの証人尋問調書41頁,42頁)。これに対して,Bは,C及びAと話し合った上で50万円を引き出したものであり,そのうち20万円をCが,15万円ずつをBとAがそれぞれ取得し,Cはこの引き出しについて指示役に伝えなかった,キャッシュカー
ドをBが処分したことはない旨述べている(甲120の16頁ないし18頁)。
このうち,Bの供述については,内容及び事実経過に不自然なところはなく,信用性を疑わせる事情はない。他方,Cの供述については,3人でコンビニエンスストアに立ち寄っていながら,Bが50万円を引き出したのに気づかないのは不自然であり,出し子にすぎないBにキャッシュカードの処分を任せるというのも不自然であって,真実は,Bが述べるとおり,指示役に無断で50万円を引き出して3人で分けたにもかかわらず,これが指示役に発覚することを恐れて,キャッシュカードの処分を任されたBが勝手に50万円を引き出した旨虚偽の供述をして,Bに責任を転嫁している疑いがある。ウ
また,③については,Cが,1人につき引き出した額の1割が報酬であった旨述べている(第10回公判Cの証人尋問調書14頁等)のに対し,Bは,引き出した額の1割を3人で分けることになっていた旨述べている(甲120の6頁等)。1人につき1割というのでは報酬額として多すぎて不自然である一方,1割を3人で分けることには合理性が認められると考えられることからすれば,Bの供述の方が信用できるのであり,Cが,実際には1割の3分の1以上の現金を密かに取得しており,これが指示役に発覚することを恐れて,BとAの取り分を含む報酬額全体を水増しして述べている疑いがある。


このように,Cの供述には,他者に責任を転嫁したり,結果として他者の責任を実際よりも重く述べていることが疑われる部分がある。その上,Cが,少なくともBに対しては,虚偽の供述をして陥れるほどの恨みを抱くような事情は見当たらない。そうすると,Cが,自己保身のために,特段恨みのない相手に対しても責任を押し付ける内容の供述をする可能性が,現実的なものとしてあることを考慮しなければならない。
これを被告人について見ると,C及び被告人の供述によっても,Cが被告
人を陥れるほどの恨みを抱くような事情は見当たらないが,Cにしてみれば,被告人は,地元の後輩で,服役前科があるなど規範意識に問題があり,10月13日の夕方から夜にかけて通話していた相手でもあるから,別に存在する真犯人と被告人とをすり替えて供述しても,供述の信ぴょう性を疑われにくく,すり替えて供述することによる心理的抵抗感も大きくないといえる。また,B及び被告人の供述によれば,CがBやその友人に出し子の仕事の話をした際,AのほかにCの友人複数名が来ていたり(甲120の2頁,28頁),Cが覚せい剤及びこれを使用するための注射器を購入したり(第22回公判被告人供述調書8頁,甲120の8頁)していたというのであり,Cが,被告人,A及びB以外にも,複数の反社会的な人物との交流を有していたことが推認される。それらの人物の中に,本件各犯行を指示する真犯人がおり,Cが当該人物を恐れて虚偽の供述をしているとしても不自然ではない。

検察官は,Cが,被告人が実行犯であるとか,被告人が上位者であると供述しているわけではないから,殊更被告人に不利になるよう役割を押し付けているわけではないと主張する。しかし,Cの供述によれば,Cは,当初本件各犯行について黙秘ないし否認していたが,捜査官から,電話の通話履歴,コンビニエンスストアで撮影された写真及び高速道路料金所の出入り記録等の裏付け証拠を見せられて,逃げられないと思い,本件各犯行について供述するようになったというのである(第10回公判Cの証人尋問調書51頁,第11回公判Cの証人尋問調書42頁)。そうであれば,そもそも,Cが本件についての供述を始めた時点で,被告人を実行犯に仕立てるのは証拠との関係上無理であったと考えられる。また,被告人が指示役である旨のCの供述は,被告人がCよりも詐欺グループの中枢に近い立場,すなわち上位者と評価される立場にあると述べているも同然である。したがって,検察官の主張は採用できない。

が真犯人と被告人とをすり
替えて供述している可能性を排斥できないのであり,この可能性を排斥するためには,本件各犯行への被告人の関与に係るCの供述が,重要な部分において,他の証拠により十分に裏付けられている必要があるというべきである。ところが,

で検討したとおり,本件各犯行当日及び前日のCらと

被告人との連絡についても,本件各犯行前後のCと被告人との現金授受についても,他の証拠によって

で検討した

とおり,本件各犯行よりも前の出来事について見ても,Cの供述の信用性を高める事情は認められない。
そうすると,結局,Cが真犯人と被告人とをすり替えて供述している可能性を排斥できず,Cの供述は,本件各犯行への被告人の関与を合理的な疑いを超えて認定するに足りるだけの信用性を有しないというべきである。7
結論
以上に検討したところによれば,被告人が本件各犯行において重要な役割を果たすなどして関わったと認定するには合理的な疑いが残る。そうすると,本件公訴事実のいずれについても,犯罪の証明がないことになるから,刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言渡しをする。

(求刑

懲役4年6月)

平成29年3月16日
広島地方裁判所刑事第1部
裁判官

武林仁美
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