判例検索β > 平成23年(ワ)第275号
開門差止請求事件、諫早湾干拓地潮受堤防北部及び南部各排水門開放差止請求事件
事件番号平成23(ワ)275
事件名開門差止請求事件,諫早湾干拓地潮受堤防北部及び南部各排水門開放差止請求事件
裁判年月日平成29年4月17日
裁判所名・部長崎地方裁判所  民事部
裁判日:西暦2017-04-17
情報公開日2017-10-17 20:03:57
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主1文
原告らの被告に対する,別紙6(開門方法)記載4の開門(ケ
ース2開門)の差止めを求める訴え及び別紙6(開門方法)記載
1ないし4以外の方法による開門の差止めを求める訴えをいず
れも却下する。

2
被告は,別紙1の原告目録1ないし6のケース3-2開門
欄に認容と記載された原告らに対する関係で,別紙6(開門
方法)記載3の開門(ケース3-2開門)をしてはならない(た
だし,別紙7記載の調整池から諫早湾海域への排水を行う場合を
除く。)。

3
被告は,別紙1の原告目録1ないし6のケース1開門欄に
認容
と記載された原告らに対する関係で,
別紙6
(開門方法)
記載1の開門(ケース1開門)をしてはならない(ただし,別紙
7記載の調整池から諫早湾海域への排水を行う場合を除く。)。

4
被告は,別紙1の原告目録1ないし6のケース3-1開門
欄に認容と記載された原告らに対する関係で,別紙6(開門
方法)記載2の開門(ケース3-1開門)をしてはならない(た
だし,別紙7記載の調整池から諫早湾海域への排水を行う場合を
除く。)。

5
原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

6
訴訟費用
(ただし,
補助参加によって生じた費用を除く。は,

①別紙1の原告目録1ないし6のケース3-2開門欄に認容と記載された原告らに生じた費用の5分の2と被告に生じた費用の565分の112を上記原告らの負担とし,②上記目録1ないし6のケース3-1開門欄に認容と記載され,上記
目録1ないし6のケース3-2開門欄に棄却と記載され

1
第1

請求

た原告らに生じた費用の5分の3と被告に生じた費用の226
0分の123を上記原告らの負担とし,③上記目録1ないし6のケース1開門欄に認容と記載され,上記目録1ないし6
のケース3-1開門欄に棄却と記載された原告らに生じ
た費用の5分の4と被告に生じた費用の565分の12を上記
原告らの負担とし,④上記目録1ないし6のケース1開門欄に棄却と記載された原告らに生じた費用と被告に生じた費用
の452分の175を上記原告らの負担とし,⑤上記①の原告らに生じたその余の費用,上記②の原告らに生じたその余の費用,上記③の原告らに生じたその余の費用と被告に生じたその余の費用を被告の負担とする。
7
補助参加によって生じた費用は被告補助参加人らの負担とする。

第1章
第1
1実及び理由
請求及び事案の概要等
請求
被告は,別紙6(開門方法)記載3の開門(ケース3-2開門)をしてはな
らない(ただし,別紙7記載の調整池から諫早湾海域への排水を行う場合を除く。)。
2
被告は,別紙6(開門方法)記載1の開門(ケース1開門)をしてはならない
(ただし,
別紙7記載の調整池から諫早湾海域への排水を行う場合を除く。。)

3
被告は,別紙6(開門方法)記載2の開門(ケース3-1開門)をしてはならない(ただし,別紙7記載の調整池から諫早湾海域への排水を行う場合を除く。)。

4
被告は,別紙6(開門方法)記載4の開門(ケース2開門)をしてはならない
(ただし,
別紙7記載の調整池から諫早湾海域への排水を行う場合を除く。。)

5
被告は,別紙6(開門方法)記載1ないし4以外の方法による開門をしては
1


事案の概要
現地の状況等

ならない(ただし,別紙7記載の調整池から諫早湾海域への排水を行う場合を除く。)。
第2
1
事案の概要等
事案の概要
被告は,国営諫早湾土地改良事業(以下本件事業という。)において,諫早湾に,その奥部を締め切る諫早湾干拓地潮受堤防(以下潮受堤防という。)を設置し,潮受堤防によって締め切られた奥部を調整池(以下調整池という。)とするとともに,調整池内部に干拓地を形成し(以下新干拓地といい,本件事業前からある干拓地を旧干拓地という。),調整池を淡水化した。また,被告は,潮受堤防の北部及び南部に排水門(以下本件各排水門という。)を設置して所有しており,本件各排水門の開門権限を有する。上記位置関係は別紙7記載のとおりである。
被告は,福岡高等裁判所平成20年
判所平成14年

第683号事件(第一審・佐賀地方裁

第467号ほか。以下,同事件の第一審及び控訴審を併せて

前訴という。)の控訴人兼被控訴人(第一審被告)であり,福岡高等裁判所は,平成22年12月6日,被告に対し,前訴第一審原告らのうち諫早湾近傍の漁業者ら(58名)に対する関係で,判決確定の日から3年を経過する日までに,防災上やむを得ない場合を除き,本件各排水門を開放し,以後5年間にわたって本件各排水門の開放を継続することを命ずる判決(以下,福岡高等裁判所が前訴においてした上記判決を前訴判決という。)をし,同判決は,同月21日に確定した。
本件は,
原告ら
(諫早湾付近の干拓地を所有又は賃借し農業を営むという者,
諫早湾内に漁業権を有する漁業協同組合の組合員として漁業を営むという者及び諫早湾付近に居住するという者など)が,被告は,前訴第一審原告ら58名との関係で本件各排水門を開放し,以後5年間にわたってその開放を継続する義務を負っており,被告は地元関係者の同意と協力なしに開門をする可能性
第2

事案の概要等

があって,原告らは開門により被害を受けるおそれがあるなどと主張して,上記の干拓地を所有するという者は所有権に基づく妨害予防請求として,上記の干拓地を賃借するという者は賃借権に基づく妨害予防請求として,上記の諫早湾内で漁業を営むという者は漁業行使権に基づく妨害予防請求として,上記の諫早湾付近に居住するという者は人格権又は環境権・自然享有権に基づく妨害予防請求として,被告に対し,調整池から諫早湾海域への排水を行う場合を除き,別紙6(開門方法)記載3の方法による開門(以下ケース3-2開門という。),同記載1の方法による開門(以下ケース1開門という。),同記載2の方法による開門(以下ケース3-1開門という。),同記載4の方法による開門(以下ケース2開門といい,これらを併せてケース1~3開門という。)及びケース1~3開門以外の方法による開門(以下その余の開門といい,ケース1~3開門と併せて本件開門という。本件開門は,淡水化した調整池に海水が浸入する態様での本件各排水門の開門方法である。)の各差止めを求めるのに対し,被告が,事前対策(事前とは,本件開門をする前に,あるいは,本件開門による被害が発生する前にとの趣旨である。以下同じ。)を実施することによって,本件開門による原告らの被害は回避され,また,本件開門によって漁場環境が改善する可能性があり,開門調査を実施し,調査結果を公表することに公共性ないし公益上の必要性があるなどと主張して,原告らの請求を争う事案である。
2
前提事実
次の事実は,当事者間に争いがないか,証拠(事実の後に掲記。枝番のある書証につき枝番の記載のないものは,各枝番を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨により認めることができる。


現地の状況等

諫早湾
潮受堤防が設置された諫早湾は,有明海の西側にある支湾である。


2前提事実
現地の状況等

有明海(調整池を含む。)は,福岡,熊本,長崎及び佐賀の4県に囲まれ,九州の西岸に南から入り込む内湾であり,水域面積約1700㎢,容積約340億㎥,湾軸延長約96㎞,平均幅約18㎞,平均水深約20mである。
これに対し,諫早湾(調整池を含まない。)の面積は約75㎢(有明海の4.4%),容積は約5億㎥(同1.5%)である。
有明海,諫早湾及び調整池の概況は,別紙8記載のとおりである。なお,諫早湾には,本明川等の河川水が流入する。そのうち本明川の過去10年間(平成12年から平成21年)の年平均流量(河口から6㎞地点)は,1.69㎥/sである(乙A32の1_3.1-15頁,乙H2)。イ
本件事業
諫早湾においては,600年以上にわたって,形成された干潟に対する干拓が繰り返され,
本件事業の前までに約35㎢に及ぶ干拓地
(旧干拓地)
が形成された。旧干拓地及びその付近では,新たな干潟の形成により湛水被害や水害が生じ,また,農業用水を確保する必要性が高かった。被告は,昭和61年に本件事業を開始し,諫早湾の奥部に南北約7㎞にわたる潮受堤防を設置し,
平成9年4月,
諫早湾の奥部約35.42㎢を締
め切り(この時点の潮受堤防による海域の締切りを,以下本件締切りという。),以降,その内部に農地用の干拓地(新干拓地)を造成するとともに,締め切られた内部の海水を淡水化して調整池とし,平成19年度に事業を完成させた。
上記締め切られた内部(約35.42㎢)には,調整池(干陸地の面積を含め約26㎢であり,容積は約0.29億㎥である。),新干拓地の農地部分(約6.38㎢)及び新干拓地の農地以外の部分等がある。なお,干陸地(乙A86の1)とは,本件各排水門の操作により調整池の水位を低く保つことでほとんど冠水しなくなった陸地部分であり,調整池の水位
第2

事案の概要等

により面積が変動する。調整池の水位が標高(-)1.0mの場合の干陸地の面積は約7㎢である。
本件に関する現地の概況は,別紙7記載のとおりである。


当事者等

原告ら
旧干拓地のうち諫早干拓土地改良区の農業者ら
別紙1の原告目録1記載の各原告は,旧干拓地のうち諫早干拓土地改良区の区域(以下旧干拓地(諫早)という。)内に農地を所有し
(土地につき共有持分権を有する場合を含む。以下同じ。),農業を営む農業者である(以下,併せて原告旧干拓地(諫早)農業者らと
いう。)。具体的には,別紙9旧干拓地(諫早)土地目録の原告目録1の番号欄記載の番号の原告が物件の表示欄記載の土地を所有するものである。旧干拓地(諫早)の位置は,別紙7記載のとおりであり,各原告旧干拓地(諫早)農業者が所有する土地の位置は別紙10記載のとおりである。
これに対し,被告は,原告旧干拓地(諫早)農業者らが,旧干拓地(諫早)に農地を所有し,実際に農業を営んでいることを否認するが,証拠(甲A34の2,甲B1,甲B3の4,甲C3,甲C24の1)によれば,原告旧干拓地(諫早)農業者らが,上記のとおり,旧干拓地(諫早)に農地を所有し,実際に農業を営んでいることが認められる。旧干拓地のうち吾妻土地改良区の農業者ら
別紙1の原告目録6記載の各原告は,旧干拓地のうち吾妻土地改良区の区域(以下旧干拓地(吾妻)という。)内に農地を所有し,農業を営む農業者である(以下,併せて原告旧干拓地(吾妻)農業者らという。)。具体的には,別紙11旧干拓地(吾妻)土地目録の原告目録6の番号欄記載の番号の原告が物件の表示欄記
2


前提事実
当事者等

載の土地を所有するものである。旧干拓地(吾妻)の位置は別紙7記載のとおりであり,各原告旧干拓地(吾妻)農業者が所有する土地の位置は別紙12記載のとおりである。
これに対し,被告は,原告旧干拓地(吾妻)農業者らが,旧干拓地(吾妻)に農地を所有し,実際に農業を営んでいることを否認するが,証拠(甲A34の2,甲B3の7,甲B4,甲C9,甲C24の2・3)によれば,原告旧干拓地(吾妻)農業者らが,上記のとおり,旧干拓地(吾妻)に農地を所有し,実際に農業を営んでいることが認められる。
公益財団法人長崎県農業振興公社
別紙1の原告目録2記載の原告である公益財団法人長崎県農業振興公社(以下原告県公社という。)は,新干拓地の農地(別紙13新干拓地土地目録記載の各土地)を所有し,その一部の土地(上記各土地のうち,別紙13の原告目録3の番号欄に賃借人なしと記載
されていない土地。以下新干拓地(賃貸部分)ということがある。)を,農地として使用収益をすることを目的として農業者に賃貸するものである(甲E2,3,14,16~21,25~27)。
新干拓地のうち中央干拓地の農業者ら
別紙1の原告目録3記載の1番,
2番,
4番~8番,
10番~14番,
17番,19番,21番,22番,24番,26番~28番,31番~34番,36番,37番,44番~47番,49番の各原告(以下,個別の原告は,別紙1の原告目録記載の原告らの原告番号を目録番号と併せ目録3-1番などと表記して特定する。)は,新干拓地のうち中央干拓地(以下新干拓地(中央)という。)内の農地を原告県公社から賃借し,その賃借地において農業を営む農業者である(以下,併せて原告新干拓地(中央)農業者らという。)。具体的には,別紙13
第2

事案の概要等

の原告目録3の番号欄記載の番号の原告が物件の表示欄記載の
土地を賃借するものである。新干拓地(中央)の位置は別紙7記載のとおりであり,各原告新干拓地(中央)農業者が賃借する土地の位置は別紙14記載のとおりである(甲E2,3,14,16~21,25~27)。
新干拓地のうち小江干拓地の農業者ら
別紙1の目録3-38番,41番,48番の各原告は,新干拓地のうち小江干拓地(以下新干拓地(小江)という。)内の農地を原告県公社から賃借し,その賃借地において農業を営む農業者である(以下,併せて原告新干拓地(小江)農業者らという。)。具体的には,別紙13の原告目録3の番号欄記載の番号の原告が物件の表示欄記
載の土地を賃借するものである。新干拓地(小江)の位置は別紙7記載のとおりであり,各原告新干拓地(小江)農業者が賃借する土地の位置は別紙15記載のとおりである(甲E2,3,14)。
新干拓地(中央・小江)の農業者ら
別紙1の目録3-3番,18番の各原告は,新干拓地(中央)及び新干拓地(小江)(なお,新干拓地(中央)及び新干拓地(小江)を併せたものが新干拓地である。)内の農地を原告県公社から賃借し,その賃借地上において農業を営む農業者である(以下,併せて原告新干拓地(中央・小江)農業者らという。)。具体的には,別紙13の原告目録3の番号欄記載の番号の原告が物件の表示欄記載の土地を賃借するものである。新干拓地(中央)及び新干拓地(小江)の位置は別紙7記載のとおりであり,各原告新干拓地(中央・小江)農業者が賃借する土地の位置は別紙14及び別紙15記載のとおりである(甲E2,3)。
以下,原告旧干拓地(諫早)農業者らと原告旧干拓地(吾妻)農業者
2


前提事実
当事者等

らを併せて原告旧干拓地農業者らといい,原告新干拓地(中央)農業者ら,原告新干拓地(小江)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らを併せて原告新干拓地農業者らという。そして,原告旧干拓地農業者ら及び原告新干拓地農業者らを併せて原告農業者らという。原告旧干拓地農業者らは188名であり,原告新干拓地農業者らは36名,原告農業者らは合計224名である。
漁業者ら
別紙1の原告目録4記載の各原告は,諫早湾内で漁業を営む漁業者である(以下,併せて原告漁業者らという。原告漁業者らは41名である。)。目録4-1番~27番,37番~43番,45番の各原告は,小長井町漁業協同組合(以下小長井漁協という。)の正組合員であり(以下,併せて原告小長井漁業者らという。原告小長井漁業者らは35名である。乙G2),目録4-28番~31番,33番,36番の各原告は,国見漁業協同組合(以下国見漁協という。)の正組合員である(以下,併せて原告国見漁業者らという。原告国見漁業者らは6名である。乙G3)。

漁業法の定め
漁業法8条1項は,漁業協同組合(以下,単に漁協ということ
がある。)の組合員(漁業者又は漁業従事者であるものに限る。)であって,当該漁業協同組合がその有する各特定区画漁業権若しくは共同漁業権又は入漁権ごとに制定する漁業権行使規則等で規定する資格に該当する者は,当該漁業協同組合の有する当該特定区画漁業権若しくは共同漁業権又は入漁権の範囲内において漁業を営む権利(以下漁業行使権という。)を有する旨定める。


原告小長井漁業者ら
小長井漁協は,別紙16漁業権・漁業権行使規則対照表(小長井・第2事案の概要等国見)の免許取得者・管理者欄,免許番号欄,漁業の種類欄,漁業の名称欄及び免許期限欄の№1~14記載のとおり,南共第1号及び2号の免許番号に係る第1種共同漁業権と第2種共同漁業権,南区第2001号,2003号,2005号,2007号及び2012号の免許番号に係る第3種区画漁業権,南区第2002号,2004号,2006号,2008号,2009号,2011号及び2016号の免許番号に係る第1種区画漁業権を有している(甲G62の1~4,乙G2)。上記免許番号の免許に係る区域の位置は,
別紙17及び別紙18記載のとおりである
(甲G50-11頁,
甲G64-6頁)。
そして,小長井漁協では,別紙16の漁業権行使規則欄記載の
とおり,漁業権行使規則が定められている。上記漁業権行使規則は,別紙16の資格要件欄記載のとおり,資格要件を定めており,原
告小長井漁業者ら(目録4-1番~27番,37番~43番,45番の各原告)は,その漁業権行使規則の定める資格を有する(同別紙を含む別紙において債権者とあるのを,いずれも原告と改める。
乙G2)。
以上のとおり,小長井漁協は漁業権を有しており,小長井漁協の個人の正組合員である原告小長井漁業者ら(目録4-1番~27番,37番~43番,45番の各原告)は,その漁業権行使規則の定める資格を有しているから,別紙16記載の№1~14の漁業行使権を有している。

原告国見漁業者ら
国見漁協は,別紙16の免許取得者・管理者欄,免許番号
欄,
漁業の種類欄,
漁業の名称欄及び免許期限欄の№1,
15,16記載のとおり,南共第1号の免許番号に係る第1種共同漁
2


前提事実
当事者等

業権と第2種共同漁業権,南区第505号及び506号の免許番号に係る第1種区画漁業権を有している
(甲G62の5・6,
乙G2,。
3)
上記免許番号の免許に係る区域の位置は,別紙29及び別紙18記載のとおりである(甲G50-11頁,乙A167)。
そして,国見漁協では,別紙16の漁業権行使規則欄の№1,
15,16記載のとおり,漁業権行使規則が定められている。上記漁業権行使規則は,別紙16の資格要件欄記載のとおり,資格要件
を定めており,原告国見漁業者らのうち,目録4-28番~31番の各原告は,別紙16の№1,16の漁業権行使規則の定める資格を有している。また,原告国見漁業者らのうち,目録4-33番及び36番の各原告は,別紙16の№1,15の漁業権行使規則の定める資格を有している(乙G3)。
以上のとおり,国見漁協は漁業権を有しており,国見漁協の個人の正組合員である原告国見漁業者らのうち,目録4-28番~31番の各原告は別紙16記載の№1,16の漁業権行使規則の定める資格を有しているから,別紙16記載の№1,16の漁業行使権を有している。また,原告国見漁業者らのうち目録4-33番及び36番の各原告は,別紙16記載の№1,15の漁業権行使規則の定める資格を有しているから,
別紙16記載の№1,
15の漁業行使権を有している。
後背地に居住する住民ら
別紙1の原告目録5記載の各原告並びに目録1-1番及び46番の各原告は,旧干拓地(諫早)及び新干拓地(中央)の後背地(以下本件後背地ということがある。)である長崎県諫早市内の上記各目録記載の住所(居住地の位置は別紙19記載のとおり。)に居住する住民である(以下,併せて原告住民らという。原告住民らは188名である。甲J1,甲M3)。

第2

事案の概要等

以下,別紙1の原告目録1~6記載の原告らを併せて単に原告ら
という。

被告
被告は,
潮受堤防の北部及び南部に設置されている本件各排水門
(以下,
潮受堤防の北部に設置された排水門を北部排水門といい,南部に設置された排水門を南部排水門という。その位置関係は別紙7記載のとおり。)を所有し,潮受堤防により締め切られ,淡水化された調整池へ海水の浸入が生じる方法による本件各排水門の開門(本件開門)を実施する権限を有するものである。


被告補助参加人ら
被告補助参加人らは,諫早湾内又はその近傍の漁業協同組合に所属し,漁業行使権を有する漁業者である。



本件事業に至る経緯

旧干拓地の形成
諫早湾における干拓
諫早湾の奥部では,有明海の潮流や干満差のため,有明海から運ばれるガタ土(潟土)と呼ばれる泥が堆積し,ガタ土による干潟は毎年沖合に10m程度拡大していた。ガタ土は,有明海の国内最大級の干満差により後背地よりも高く堆積した。
ガタ土の堆積によって生じた広大な干潟は,そのまま放置すると,河川から海への排水を阻害して大きな水害をもたらすことから,排水のための水道(みずみち)であるミオ筋を確保するため,人力でガタ土を排除せざるを得なかった。
そして,
これが困難になると干潟の外側に堤防
(そ
のうち本件締切り前の旧干拓地と当時の諫早湾海域を区切る堤防を以下既設堤防という。その位置は,別紙21記載のとおり。)を作り,干潟を乾燥させて農地(干拓地)にした。



2前提事実
本件事業に至る経緯

しかし,ガタ土は,干拓地の先に次々と堆積し,再び干潟が形成される。その結果,再度の干拓が必要となる。これが諫早湾奥部において数百年間にわたり続いてきた。
旧干拓地の形成
このように,諫早湾においては,600年以上にわたって干潟の形成と干拓が繰り返され,
約35㎢に及ぶ干拓地
(旧干拓地)
が形成された。

本件事業前の状況-本件事業の必要性
諫早湾沿岸地域の特性
諫早湾沿岸地域の地面は,
その多くが海水面より低く,
旧干拓地では,
諫早湾の大潮時平均満潮位(標高(+)2.5m)よりも低い土地が約20㎢存在した。
諫早湾沿岸地域では,本件事業の実施前,一旦雨が降れば,潮が引くまで排水が困難で,水害や湛水被害が起きやすく,しかも,潮が引いても,樋門付近や河口等には大量のガタ土がたまっていたため,排水の支障となっていた。そこで,沿岸地域の住民等は,人力でガタ土を除去し(甲C69),その重労働が負担となっていた。
なお,
樋門とは,
排水のために堤防を横断して堤体内に暗渠を埋設し,
川表に制水門を取り付けた施設の総称であり,小規模なものを樋管ともいう(乙A34)。また,湛水とは,洪水時に内水が樋門・樋管から堤防外に排水されずに堤防内に水がたまることである。
水害対策の必要性
諫早湾沿岸地域は,集中豪雨が発生しやすい地形であり,昭和32年の諫早大水害では,諫早湾に流れ込む本明川(別紙21)流域だけで死者・行方不明者539名,家屋損壊2221戸,床上・床下浸水3409戸の被害が発生した。昭和57年の長崎大水害でも甚大な被害が発生した。また,台風により,度々,高潮被害が発生した。

第2

事案の概要等

このような水害は,住民の生命・身体・財産だけでなく,農業にも多大な被害をもたらし,特に,海に近い低平地では,排水困難により農地が浸水する湛水被害が発生しただけでなく,海水による塩害が生じるため,海水に弱い畑作はできなかった。
農業用水確保の必要性
旧干拓地の周囲は海域であり,
農業用の淡水を確保することは困難で,
旧干拓地においては,農業用水の多くを地下水に頼った。その結果,地盤沈下が生じた。旧干拓地においては,平成3年から平成11年(本件締切りの約2年後)までに地盤が140㎜沈下した場所があり,農地だけでなく,住宅や道路等にも地盤沈下による被害が生じた。
本件事業前の諫早湾干拓事業計画
そうした問題状況の中,諫早湾沿岸地域においては,昭和27年に,戦後の食糧不足という状況下での食糧増産を目的とする長崎大干拓構想が発表された。昭和39年には,昭和32年の諫早大水害を受けて,抜本的な防災対策を取り込んだ事業へと構想が見直され,以降,一貫して防災・農業振興が事業の目的とされた。そして,昭和45年には,長崎市への都市用水の開発も目的に加えた長崎南部総合開発事業が計画されたが,漁業関係者との協議が整わなかったため,昭和57年に同計画はいったん中断した。


本件事業について

本件事業の概要等
本件事業
本件事業は,長崎県南東部に位置する諫早湾の奥部の海面を潮受堤防で締め切り(本件締切り),淡水の調整池とすることで,後背地における,高潮,洪水,常時排水不良等に対する防災機能を強化し,併せて調整池を水源とするかんがい用水を確保し,大規模で平坦な優良農地とし


2前提事実
本件事業について

て干拓地を造成して,生産性の高い農業を実現することを目的とする事業であった。
本件事業は,複式干拓方式を採用して,諫早湾の奥部に位置する長崎県北高来郡高来町(現諫早市)と同県南高来郡吾妻町(現雲仙市)との間に長さ約7㎞の潮受堤防を築造して諫早湾のうちその奥部約35.42㎢を締め切り,締め切られた区域内に堤防(本件事業によって造成された新干拓地と調整池を仕切る堤防。以下内部堤防という。その位置は別紙21記載のとおり。)により囲まれた新干拓地(農地部分の面積:約6.38㎢)を造成し,併せて調整池を淡水化するものである(別紙7)。
潮受堤防には,本件各排水門(北部排水門〈幅200m〉及び南部排水門〈幅50m〉)が設けられ,被告は,本件締切り以後,現在に至るまでの間,平成14年の短期開門調査時に調整池へ海水の浸入が生じる方法による開門をしたほかは,調整池からの排水のみを行う後記

の管

理方法により,本件各排水門を管理していたため,現在,調整池の水は淡水である。
干拓地の高さと調整池の水位,諫早湾の潮位等との関係
旧干拓地周辺の旧干拓地,潮遊池(旧干拓地内にある排水路のうち,既設堤防沿いにあるもの。なお,潮遊池以外の排水路を,以下旧干拓地排水路という。),既設堤防,調整池,潮受堤防及び諫早湾のそれぞれの標高は,鉛直方向の断面(以下垂直断面という。)を記載した別紙22及び別紙23のとおりである。
新干拓地(中央)周辺の新干拓地(中央),排水路(新干拓地内にある排水路。以下新干拓地排水路という。),内部堤防,調整池,潮受堤防及び諫早湾のそれぞれの標高は,垂直断面を記載した別紙24のとおりである。また,新干拓地(中央)の地層の構成,畑に埋設された
第2

事案の概要等

暗渠管及び新干拓地排水路の垂直断面の状況は,別紙57-2頁記載のとおりである。
新干拓地(小江)周辺の新干拓地(小江),内部堤防,調整池,潮受堤防及び諫早湾のそれぞれの標高は,垂直断面を記載した別紙25のとおりである。また,新干拓地(小江)の地層の構成及び畑に埋設された暗渠管の状況は別紙57-2頁記載のとおりである。なお,新干拓地排水路は,新干拓地(中央)では内部堤防沿いと新干拓地内部にあるが,新干拓地(小江)では新干拓地内部のみにある。
新干拓地の一括配分と営農開始
本件事業では,
昭和61年12月に国営土地改良事業計画が決定され,
平成元年頃に潮受堤防に係る基礎地盤改良工事が開始され,
平成9年4
月に潮受堤防の締切り(本件締切り)がなされ,平成19年11月に事業が完成した。
被告は,
平成20年4月,
原告県公社に対し,
新干拓地を一括配分し,
これにより原告県公社は,その所有権を取得した。そして,原告県公社は,41経営体(個人25,法人16)に対し,リース方式により新干拓地に借地権を設定した。新干拓地では,平成20年度から営農が開始された。
現在の本件各排水門の管理方法
被告は,現在,長崎県に対し,本件各排水門の管理を委託しており,長崎県は,諫早湾の干潮時に本件各排水門を開門することにより調整池から諫早湾海域への排水を行う場合に限り,本件各排水門を開門している。調整池への海水の浸入が生じる方法による開門(本件開門)は行っていない。そして,長崎県は,調整池の管理水位を標高(-)1.0mから(-)1.2mまでの範囲内として管理している。詳細は後記

のとおりである。なお,管理水位とは,調整池の水位を管理するに当た


2前提事実
本件事業について

って,水位の上限及び下限として設定された目標値である。

漁業補償契約の締結等
諫早湾内の12の漁協関係
被告
(九州農政局長)
は,
昭和62年3月19日,
長崎県知事を介し,
諫早湾内の12の漁協(高来町湯江漁協,小長井漁協,小江漁協,深海漁協,諫早市長田漁協,諫早漁協,小野漁協,森山町漁協,吾妻町漁協,瑞穂漁協,国見町神代漁協及び国見町土黒漁協。これらの漁協を,以下湾内12漁協という。なお,旧国見町神代漁協と旧国見町土黒漁協は,平成20年4月1日に合併し,国見漁協となった。)及びそれらの組合員との間で,本件事業及び本件事業に伴い長崎県が施行する城ノ下港整備事業(これらを併せて,以下本件事業等という。)の実施に伴う漁業補償について,
漁業補償契約を締結した
(甲A7,乙A26)

上記漁業補償契約には,以下のような条項がある。

湾内12漁協及びそれらの組合員は,本件事業等の実施に同意し,この契約締結後は,農林水産省及び長崎県(知事)は,いつでも本件事業等を実施することができるものとする。


本件事業等の実施に伴う湾内12漁協及びそれらの組合員に対する漁業補償の対象は,次のとおりとする。
潮受堤防内に位置する漁協及びその組合員が,諫早湾内における
全ての漁業権等(共同漁業権,区画漁業権,許可漁業,自由漁業及びこれらの行使権の全てを含む。以下同じ。)を放棄することにより生ずる損失に対する補償
潮受堤防外に位置する漁協及びその組合員が,諫早湾内における
漁業権等の一部放棄及び制限により生ずる全ての損失に対する補
償c
上記bの漁業補償の総額を243億5000万円とする。

第2

事案の概要等


湾内12漁協及びそれらの組合員は,この契約締結をもって,本件事業等に伴う漁業補償については,
全て解決したものとし,
長崎県
(知
事)に対し,今後一切異議,求償等を行わないものとする。
諫早湾外の11の漁協関係
被告(九州農政局長)は,昭和62年7月20日,諫早湾外にある1
1の漁協
(深江町漁協,
島原市安中漁協,
国見町多比良漁協,湯江漁協,
大三東漁協,島原市三会漁協,島原市北部漁協,島原市東部漁協,島原市中央漁協,島原市漁協,布津町漁協。これらの漁協を,以下湾外11漁協という。)との間で,本件事業に伴う漁業補償について,漁業補償契約を締結した。なお,上記各漁協の組合員は,同契約の締結に当たり,上記各漁協の組合長理事に同契約締結等の委任をした(甲A8,43)。
上記漁業補償契約において,湾外11漁協は,被告が本件事業を実施することに同意するものとし,被告は,湾外11漁協に対し,本件事業の施行に伴う湾外11漁協の有する漁業権等につき生じる全ての損失に対して補償するものとし,湾外11漁協は,本件事業に伴う漁業補償については,全て解決したものとし,今後異議,求償等を行わないものとした。そして,湾外11漁協及び被告は,漁業補償の総額を12億1000万円とする旨合意した。
佐賀県,福岡県,熊本県の漁業組合連合会関係
被告(九州農政局長)は,昭和63年2月29日,佐賀県有明海漁業協同組合連合会,福岡県有明海漁業協同組合連合会及び熊本県漁業協同組合連合会(これらを併せて,以下3県漁連という。)との間で,本件事業に伴う漁業補償について,
漁業補償契約を締結した
(甲A10)

上記漁業補償契約において,3県漁連は,被告が本件事業を実施することに同意するものとし,被告は,3県漁連に対し,本件事業の施行に


2前提事実
本件事業について

伴い3県漁連が受けると予測される漁業上の影響等の損失について補償するものとし,3県漁連は,このことについて,今後異議,求償等を行わないものとした。そして,3県漁連及び被告は,漁業補償の総額につき15億円とする旨の合意をした。
大浦漁協関係
被告
(九州農政局長)昭和63年3月17日及び同年4月28日,
は,
大浦漁協との間で,本件事業に伴う漁業補償について,それぞれ漁業補償契約を締結した。
なお,
大浦漁協の組合員は,
同契約の締結に当たり,
大浦漁協の組合長理事に同契約締結等の委任をした(甲A9,43)。上記漁業補償契約において,大浦漁協は,被告が本件事業を実施することに同意するものとし,被告は,大浦漁協に対し,本件事業の施行に伴い大浦漁協が受けると予測される漁業の損失について補償するものとし,大浦漁協は,このことについて,今後異議,求償等を行わないものとした。そして,大浦漁協及び被告は,漁業補償の総額につき8億6000万円とする旨の合意をした。
補償金の支払
被告は,上記

ないし

の各漁業補償契約を締結した後,上記各契約

に基づき,約定に係る補償金をそれぞれ支払った。

本件事業によって実現された利益
防災効果
本件事業によって,高潮災害が防止できるようになり,また,樋門付近や河口等にガタ土が堆積することがなくなった。さらに,本件締切り後は,本件各排水門からの排水によって調整池の水位が標高(-)1.0mから(-)1.2mまでの範囲内で管理され,水害への不安が大きく解消された。
新干拓地における営農

第2

事案の概要等

平坦で大規模な農地が少なかった長崎県において,本件事業により,平坦で大規模な農地約6.38㎢が新干拓地として形成され,大規模な環境保全型農業が実施されることとなった。
旧干拓地における農業用水の確保・畑作の拡大
潮受堤防によって形成された調整池が淡水化されたことで,農業用水が確保され,地下水からの取水抑制により地盤沈下が収まり,塩害の心配がなくなった。また,調整池の水位を周辺の低平地より低く管理することにより,湛水被害が軽減し,排水不良が改善された。これにより,旧干拓地では,麦・大豆等の転作や裏作,さらには施設園芸や露地野菜の栽培が拡大した。
新たな漁場の形成
諫早湾海域では,漁業者が本件締切り後の漁場環境に適合した漁業の構築に努力してきた結果,新たな漁場環境が形成された。
例えば,諫早湾内に漁業権を有する漁協では,近年カキの養殖が軌道に乗り始め,また,アサリの養殖にも成功した。


諫早湾及び有明海における漁獲量の減少
諫早湾又は有明海において漁業権を有する小長井漁協,瑞穂漁協,大浦漁協(区画漁場の位置は別紙26記載のとおり。ただし,平成25年2月当時の区画である。)及び国見漁協の漁獲量(魚類,アサリ及びタイラギの各漁獲量)の推移(昭和60年から平成18年までの推移等)は,別紙27記載のとおりであり,昭和60年から平成18年までの間,諫早湾及び有明海において,長期的な漁獲量の減少があった(乙A53,56)。



有明海における漁業生産の不振に関する調査等

農林水産省有明海ノリ不作等対策関係調査検討委員会の報告
農林水産省有明海ノリ不作等対策関係調査検討委員会(以下ノリ第三者委員会という。)は,平成12年度の有明海におけるノリ不作を契機


2前提事実
有明海における漁業生産の不振に関する調査等

として,平成13年2月,農林水産省により,有明海沿岸4県(福岡県,佐賀県,長崎県及び熊本県)におけるノリ養殖の不作等の原因を究明し,今後の対策を提言することを目的として,学識経験者及び漁業者を委員として設置された。
ノリ第三者委員会は,平成13年3月3日の第1回委員会以降,検討を重ね,平成15年3月27日,最終報告書を公表した。

被告(九州農政局)の開門総合調査・報告
調査内容
被告(九州農政局)は,有明海の再生に向けて,その環境変化の原因を早急に究明し,有明海全体としての環境改善の方策を講ずることを目的とし,そのための総合調査として,平成14年度から平成15年度にかけて,ノリ第三者委員会の本件各排水門の開門調査に関する見解を踏まえ,開門総合調査運営会議(学識経験者及び有明海沿岸4県の水産研究機関の長で組織されるもの)から指導・助言を得て,開門総合調査として次の各調査を実施した。

短期開門調査
被告が,一定期間ケース3-2開門と共通する方法で開門を行い,調整池や諫早湾及びその付近の海域にどのような変化が生じるかを調査した(その概要は後記


のとおり。)。

干潟浄化機能調査
有明海に現存する諫早干潟に類似した干潟での現地調査等から干
潟の物質循環を再現する干潟生態系モデル(コンピュータによる数値シミュレーションモデル)を構築してコンピュータ解析を行い,かつての諫早干潟等での水質浄化機能を推定するもの。


流動解析等調査
本件締切り前後における有明海の流動,水質,底質(粒度)の変化
第2

事案の概要等

及び貧酸素水塊の形成等について,有明海海域環境調査で構築した海域環境予測モデルのうちの流動モデルや水質モデル及び上記調査で構築した底質モデルによりコンピュータ解析を行うとともに,短期開門調査及び干潟浄化機能調査により得られる情報をも活用し,本件事業による有明海の流動,
水質及び底質等への影響を検討するものである。
報告
開門総合調査の調査結果は,平成15年11月,諫早湾干拓事業開門総合調査報告書としてまとめられた(甲Aア18の4)。

有明海・八代海総合調査評価委員会の調査・報告
有明海・八代海総合調査評価委員会(以下評価委員会という。)は,平成12年度のノリ大不作等を契機として制定された有明海及び八代海を再生するための特別措置に関する法律により環境省に設置された。評価委員会は,平成15年2月7日の第1回委員会以降,有明海及び八代海の両海域で実施されてきた各種調査の結果等を踏まえて検討を重ね,平成18年12月21日,委員会報告を行った(乙C45)。


公害等調整委員会による原因裁定
公害等調整委員会(以下公調委という。)は,公害等調整委員会設置法に基づいて設置された行政委員会であり,公害紛争処理法の定めるところにより公害に係る紛争についてあっせん,調停,仲裁及び裁定等を行う機関である(同法3条)。
被告補助参加人らのうち一部の者(別紙4の被告補助参加人目録記載の7番ほか)及び福岡県有明海漁業協同組合連合会(以下福岡県有明海漁連という。)等は,平成15年4月16日,公調委に対し,被告を被申請人として,有明海における漁業被害(ノリ,タイラギ,クチゾコ及びアサリの漁業被害)につき本件事業において行われた工事が原因であるとの裁定を求めた(公調委平成15年(ゲ)第2号,同第3号有明海における


2前提事実
短期開門調査の概要等

干拓事業漁業被害原因裁定申請事件。以下原因裁定事件という。)。公調委は,平成17年8月30日,原因裁定事件について,申請人らの申請をいずれも棄却する旨の裁定をした。

有明海漁場環境改善連絡協議会による調査
被告(九州農政局)は,平成17年7月26日,有明海の再生への道筋を明らかにすることを目的として,有明海の環境変化の要因解明のための調査や現地実証の実施のため,
漁業関係者をはじめ4県
(福岡県,
佐賀県,
長崎県及び熊本県)及び水産庁の出先機関の参加による有明海漁場環境改善連絡協議会を設置した。被告は,有明海の環境変化の原因究明のための具体的な調査として,貧酸素現象及び赤潮の各発生状況等の調査,潮流調査,調整池等の水質モニタリング,
調整池排水の拡散調査,
底質環境についての底質攪拌等の調査,
底質特性別海域区分図の作成,二枚貝類等生息環境調査,サルボウ・タイラギ・アサリ等の生息状況の調査(有明海特産魚介類生息環境調査)等を実施した。また,被告は,現地実証として,覆砂等の効果実証,浮泥堆積抑制技術の開発,貧酸素対策技術の開発等を実施した(乙A32の2-79頁,乙C47)。



短期開門調査の概要等

短期開門調査の目的
前記のとおり,被告は,開門総合調査を実施した(前記


)。その

中の短期開門調査は,調整池に海水を導入することによって調整池や諫早湾海域の環境(水質や流動など)にどのような変化が生じるのかを現地で観測するものである(甲A2-1~4頁)。

短期開門調査の概要
実施期間
平成14年4月1日から同年12月10日まで

第2

事案の概要等

実施方法

被告は,平成14年4月1日,短期開門調査を開始し,同日から同月23日までの間,現在の本件各排水門の管理方法(調整池は淡水のまま。後記


ア。)下での観測(事前観測)を行った。

被告は,平成14年4月24日から同年5月20日までの間,①調整池の水位を標高(-)1.0mから(-)1.2mまでの範囲内で管理し,②上記管理水位内において,外潮位が調整池の水位より低い時に本件各排水門を開門し調整池の水を諫早湾海域へ排水し,外潮位が調整池の水位より高い時に本件各排水門を開門し調整池に海水を導入する点において,ケース3-2開門と共通する開門方法による開門を行い,上記期間中に,合計約6615万㎥の海水を調整池に導入した。なお,排水門の開度は,導水時及び排水時ともに90㎝であった。
なお,被告は,開門による海水導入を開始した同年4月24日及び26日ないし29日においては,昼間に1回のみの海水導入を行い,その導入量は,
24日37万㎥,
26日68万㎥,
27日226万㎥,
28日282万㎥,29日318万㎥と,1回当たりの導入量を徐々に増加させた。また,上記開門をした期間中の同年5月2日ないし7日及び15日は,小潮期とその前後であったこと及び降雨により河川からの流入量が多かったことなどの事情から,
海水導入をしなかった。
また,同月4日ないし6日は排水もしなかった。


被告は,平成14年5月21日以降,再び,現在の本件各排水門の管理方法
(排水のみ。に戻し,

調整池の淡水への回復過程を調査し,
同年12月10日,現地観測を終了した(甲A2-5~21頁)。

漁業補償
短期開門調査の際の漁業被害の発生




2前提事実
現在の本件各排水門の管理方法及びケース1~3開門の開門方法等
アサリ養殖に係る漁業被害の発生
短期開門調査の際,諫早湾内(諫早湾湾奥部,諫早湾湾央部及び諫早湾湾口部。以下,それぞれ湾奥部
湾央部
湾口部というこ
とがある。これらの位置関係は別紙20記載のとおり。)において,アサリのへい死が発生し,諫早湾内の小長井漁協,瑞穂漁協,旧国見町神代漁協及び旧国見町土黒漁協
(以下
諫早湾内4漁協
という。

のアサリ養殖につき漁業被害
(漁獲量又は養殖生産量が減少する被害。
以下同じ。)が発生した。アサリ養殖に係る漁業被害が発生した漁場の位置は別紙30記載のとおりである(甲G25~27,乙A17,27)。


魚類に係る漁業被害の発生
短期開門調査の際,諫早湾内4漁協が共有する南共第1号共同漁業権の区域内(漁業権の免許に係る区域の位置は,別紙18記載のとおりであり,湾奥部,湾央部及び湾口部に存在する。)において,魚類(スズキ,カニ〈ガザミ〉,タコ等)の漁獲量の減少が生じ,魚類に係る漁業被害が発生した。なお,上記漁獲量の減少は,諫早湾内4漁協の過去3か年平均漁獲量と平成14年の漁獲量を比較した結果,認められたものである(甲G26,27,乙A17)。
漁業補償の支払
被告は,平成15年11月頃,前記

の短期開門調査による漁業被害

(アサリ及び魚類の漁業被害)に係る損失の補償として,諫早湾内4漁協に対し,合計約6080万円の補償をした(甲G27,乙A27)。⑻

現在の本件各排水門の管理方法及びケース1~3開門の開門方法等ア
現在の本件各排水門の管理方法
管理方法
被告は,現在,調整池から諫早湾海域への排水を行う場合に限り,本
第2

事案の概要等

件各排水門を開門し(後記

),調整池の水位を標高(-)1.0mか

ら(-)1.2mの範囲内で管理している(後記

)。なお,外潮位・

調整池水位の変動並びに開門時における垂直断面の状況(調整池,潮受堤防,本件各排水門及び諫早湾の垂直断面)は,別紙44-1頁記載のとおりである。
管理水位
標高(-)1.0mから(-)1.2mまでの範囲内で管理する(別紙22)。
排水門操作
調整池の水位を上記

の管理水位内とするため,外潮位が調整池の水

位より低い時に本件各排水門を開門し調整池の水を諫早湾海域へ排水する,すなわち,調整池から諫早湾海域への排水を行う場合に限り開門する。なお,本件各排水門のゲートは,上下方向に移動し,閉門時は,ゲートを下ろし,
開門時に引き上げるという操作を行う
(別紙44-1頁)

調整池の水位
調整池の水位は,上記

の管理水位のもと,上記

の本件各排水門の

操作をした場合,降雨量が平成19年度における降雨量(以下平成19年降雨量という。)以下であれば,概ね標高(-)0.68mから(-)1.2mまでの範囲内となる(乙A32の1_6.1.1-70頁,乙A107,108)。
また,30年大雨(6時間)が発生すれば,調整池の最高水位は標高(+)1.4mとなる(別紙22)。

ケース1~3開門の開門方法
開門方法
後記

の環境アセスメント(アセス評価書等)は,開門方法として,

次のとおり,本件各排水門のゲートの開度や調整池の管理水位が異なる


2前提事実
現在の本件各排水門の管理方法及びケース1~3開門の開門方法等
ケース1開門,ケース2開門,ケース3-1開門及びケース3-2開門という4つの方法を設定し,それぞれの開門方法ごとに,有明海,諫早湾,調整池並びに諫早市及び雲仙市のうち調整池に流入する河川の流域への環境影響評価を実施した(乙A32の1はじめに,乙A32の1_1-4・5頁)。
被告は,ケース1~3開門のいずれの開門方法であっても,防災上やむを得ない場合を除き,当該開門開始後5年間にわたって,当該開門を継続することとしている。

ケース1開門
管理水位
なし。本件各排水門を全開とする方法による開門であり,前訴判
決の定める開門方法に含まれる。
なお,外潮位・調整池水位の変動並びに開門時における垂直断
面の状況(調整池,潮受堤防,本件各排水門及び諫早湾の垂直断
面)は,別紙44-2頁のケース1欄記載のとおりである。
排水門操作及び排水門開度
全開
調整池の水位
ケース1開門をした場合,外潮位の変動に伴い,調整池水位が変
動する。
調整池の水位は,
降雨量が平成19年降雨量以下であれば,
概ね標高(+)2.4mから(-)1.8mまでの範囲内となる。また,30年大雨(6時間)が発生すれば,調整池の最高水位は
標高(+)2.8mとなる(別紙45)。
流速
流速は,調整池(本件各排水門付近)及び諫早湾海域(湾奥部)
で最大4m/s程度になる。

第2

事案の概要等


ケース3-1開門
本件各排水門を,後記
水位を後記

の排水門操作等により開門し,調整池の

の管理水位の範囲内で管理する方法による開門である。

なお,外潮位・調整池水位の変動並びに開門時における垂直断面の状況(調整池,潮受堤防,本件各排水門及び諫早湾の垂直断面)は,別紙44-2頁のケース3-1欄記載のとおりである。
管理水位
標高(-)0.5mから(-)1.2mまでの範囲内で管理する。排水門操作
前記

の管理水位内において,外潮位が調整池の水位より低い時

に本件各排水門を開門し調整池の水を諫早湾海域へ排水し,外潮位が調整池の水位より高い時に本件各排水門を開門し調整池に海水
を導入する。
排水門開度
導水時には90㎝,排水時には120㎝開門する。
調整池の水位
調整池の水位は,上記

の管理水位のもと,上記

の排水門操

作等をした場合,降雨量が平成19年降雨量以下であれば,概ね標高(-)0.41mから(-)1.2mまでの範囲内となる。
また,30年大雨(6時間)が発生すれば,調整池の最高水位は
標高(+)1.5mとなる(別紙46)。
流速
流速は,調整池(本件各排水門付近)で最大1.1m/s程度になり,諫早湾海域(湾奥部)で最大1.6m/s程度になる。

ケース3-2開門
本件各排水門を,後記

の排水門操作等により開門し,調整池の



水位を後記

2前提事実
現在の本件各排水門の管理方法及びケース1~3開門の開門方法等
の管理水位の範囲内で管理する方法による開門である。

平成14年4月から5月に実施された短期開門調査の開門と同じ開門方法である(ただし,被告は,漁業への影響を抑制するため,本件各排水門の開門幅を短期開門調査時の開度90㎝よりも小さくすることとしている〈乙A32の1_6.13.1-557頁,乙A32の2-74頁〉)。
なお,外潮位・調整池水位の変動並びに開門時における垂直断面の状況(調整池,潮受堤防,本件各排水門及び諫早湾の垂直断面)は,別紙44-2頁のケース3-2欄記載のとおりである。
管理水位
標高(-)1.0mから(-)1.2mまでの範囲内で管理す
る。現在の管理水位と同じである。
排水門操作
上記

の管理水位内において,外潮位が調整池の水位より低い時

に本件各排水門を開門し調整池の水を諫早湾海域へ排水し,外潮位が調整池の水位より高い時に本件各排水門を開門し調整池に海水
を導入する。
排水門開度
導水時及び排水時ともに90㎝より小さい開度で開門する(乙A
32の1_6.13.1-557頁,乙A32の2-74頁)。
調整池の水位は,上記

の管理水位のもと,上記

の排水門操

作をした場合,降雨量が平成19年降雨量以下であれば,概ね標高(-)0.68mから(-)1.2mまでの範囲内となる。
また,30年大雨(6時間)が発生すれば,調整池の最高水位は
標高(+)1.4mとなる(別紙47)。
流速

第2

事案の概要等

流速は,調整池(本件各排水門付近)で最大0.8m/s程度になり,諫早湾海域(湾奥部)で最大0.6m/s程度になる。

ケース2開門
第1段階としてケース3-2開門をし,第2段階としてケース3-1開門をし,第3段階としてケース1開門をする方法による開門であり,調整池への海水導入量及び調整池からの排水量を段階的に増加させる開門方法である。
ケース1~3開門をする場合におけるゆるやかな排水門操作等
被告は,ケース1~3開門をする場合は,諫早湾海域の濁りや塩分の
変化を緩やかにして漁業生産への影響が緩やかになるように,次の措置を執ることとしている。
すなわち,被告は,ケース1~3開門をするに当たっては,①最初に調整池に海水を導入した後,導入日を含め5日程度かけて塩分による粘土粒子の凝集効果により調整池の濁りを低減させる,②その上で,3日程度かけて徐々に調整池への海水の導水量及び調整池からの排水量を増加させるような排水門操作をする,開門後約1か月目までに8門ある排水門をゆるやかに開閉しながら徐々に調整池を塩水化する,更にケース3-2開門においては,③諫早湾海域の濁りの発生を抑制するため,導水・排水が時間をかけて徐々に行われるように,導水時及び排水時ともに90㎝より小さい開度で開門する(以下,上記①~③の措置をゆるやかな排水門操作という。)こととしている。また,被告は,ケース1~3開門をするに当たり,④開門直後の時期のみならず,その後の開門期間中も,諫早湾海域の濁りの状況につき常時監視をする,
⑤上記常時監視の結果等に基づき,
後記(開門の中断)
の場合には,調整池への海水導入及び調整池からの排水を中断する(以下,上記④,⑤の措置を常時監視及び開門の中断の措置という。)


2前提事実
現在の調整池への排水方法と開門に伴う措置

こととしている(乙A32の2-73・74頁)。
開門の中断

調整池からの排水をする時に湾奥部(本件各排水門の付近)の水質を常時監視し(監視地点の位置は別紙48の監視地点(案)記載
のとおり。),濁度に異常がある場合,具体的には,北部排水門前面のS1地点及び南部排水門前面のS6地点(上記各地点の位置は別紙28記載のとおり。)において,濁度200度以上が5時間を超えて観測された場合は,直ちに開門操作を中断する。


潮遊池及び後背地排水路における塩分濃度が,急激に上昇することが認められる場合には,開門を一時中断し,異常な状況の解消を待って開門を再開する。


長崎県南部地域に高潮に関する警報が発令された場合,有明海地域に津波警報が発令された場合,台風が有明海地域に接近するおそれがある場合等は,開門を一時中断し,安全性が確認された後に,開門を再開する。



現在の調整池への排水方法と開門に伴う措置

現在の調整池への排水方法(樋門・樋管ないし既設排水ポンプの使用)現状(本件開門がなされていない現在の状況・状態。以下本件開門がなされていない現在の状況・状態を単に現状ということがある。)では,旧干拓地,新干拓地,本件後背地から調整池等への排水状況は,次のとおりである。
旧干拓地(諫早)
旧干拓地(諫早)の陸地,旧干拓地排水路,潮遊池,既設堤防,樋門・樋管,主ゲート(樋門・樋管に設置されたもの。以下同じ。),調整池,潮受堤防及び諫早湾の垂直断面の状況は,別紙31及び別紙22記載のとおりであり,旧干拓地(諫早)における潮遊池及び旧干拓地排水路の
第2

事案の概要等

位置は,別紙32記載のとおりである。なお,旧干拓地排水路は,別紙32で用排兼用水路と記載されたものである。また,旧干拓地(諫早)の地下に設置された暗渠管(暗渠排水管)及び旧干拓地排水路の垂直断面の状況は,別紙32記載のとおりである。
旧干拓地(諫早)では,現状,農業用水及び雨水等を主ゲート付き樋門・樋管2か所(その位置は別紙33の30番及び31番)により潮遊池から調整池へ排水している。樋門・樋管の敷高は,旧干拓地(諫早)の陸地の標高より低い。なお,上記樋門・樋管は,平成25年12月までに改修することが予定されていた。そして,次のとおり,降雨により調整池の水位が潮遊池の水位より高くなった時は,既設排水ポンプによる排水を行うことになる。既設排水ポンプの位置は,別紙34の14番及び15番であり,旧干拓地(諫早)には2か所ある。
すなわち,上記排水方法は,無降雨時は,樋門・樋管の主ゲートを開き,自然排水を行い,降雨時も,調整池の水位が潮遊池の水位より低い場合には,
樋門・樋管の主ゲートを開き,
自然排水を行うものである
(別
紙31)。これに対し,降雨により調整池の水位が潮遊池の水位より高くなった時は,樋門・樋管の主ゲートを閉じ,調整池の水が潮遊池に流入するのを防ぐとともに,既設排水ポンプにより,潮遊池の水を調整池へ排水するものである。なお,6時間連続降雨量が30年に1度の発生頻度であるような雨量の降雨(以下30年大雨(6時間)という。)が発生した場合,調整池の最高水位は標高(+)1.4mとなる(別紙31)。
旧干拓地(吾妻)
旧干拓地(吾妻)の陸地,旧干拓地排水路,潮遊池,既設堤防,樋門・樋管,主ゲート,調整池,潮受堤防及び諫早湾の垂直断面の状況は別紙35及び別紙23記載のとおりであり,旧干拓地(吾妻)における潮遊


2前提事実
現在の調整池への排水方法と開門に伴う措置

池及び旧干拓地排水路の位置は,別紙36記載のとおりである。なお,旧干拓地排水路は,別紙36で用排兼用水路と記載されたものである。また,旧干拓地(吾妻)の地下に設置された暗渠管(暗渠排水管)及び旧干拓地排水路の垂直断面の状況は,別紙36記載のとおりである。旧干拓地(吾妻)では,現状,農業用水及び雨水等を主ゲート付き樋門・樋管4か所(その位置は別紙33の39番~42番)により潮遊池から調整池へ排水している。なお,上記樋門・樋管は,平成25年12月までに改修することが予定されていた。
旧干拓地(吾妻)での排水方法は,旧干拓地(諫早)における排水方法と同様である(前記ア。別紙35)。なお,降雨により調整池の水位が潮遊池の水位より高くなった時に排水のため用いる既設排水ポンプの位置は,別紙34の16番及び17番のとおりであり,旧干拓地(吾妻)には2か所ある。
新干拓地(中央)
新干拓地(中央)の陸地,新干拓地排水路,内部堤防,調整池,潮受堤防及び諫早湾の垂直断面の状況は,別紙37及び別紙24記載のとおりであり,新干拓地(中央)における新干拓地排水路の位置は,別紙38記載のとおりである(なお,新干拓地排水路は,別紙38で末端排水路,支線排水路,幹線排水路及び中央遊水池と記載されたものである。)。また,新干拓地(中央)の地下に設置された暗渠管(暗渠排水管)及び新干拓地排水路の垂直断面の状況は,別紙38記載のとおりである。
新干拓地(中央)では,現状,農業用水及び雨水等を既設排水ポンプにより新干拓地排水路から調整池へ排水しており(既設排水ポンプの位置は,別紙34の18番のとおりであり,新干拓地(中央)には1か所ある。),樋門・樋管による排水は行っていない(別紙37)。

第2

事案の概要等

新干拓地(小江)
新干拓地(小江)の陸地,新干拓地排水路,内部堤防,樋門・樋管,主ゲート,調整池,潮受堤防及び諫早湾の垂直断面の状況は,別紙39及び別紙25記載のとおりであり,新干拓地(小江)における新干拓地排水路の位置は,別紙40記載のとおりである(なお,新干拓地排水路は,別紙40で末端排水路及び支線排水路と記載されたもので
ある。)。また,新干拓地(小江)の地下に設置された暗渠管(暗渠排水管)及び新干拓地排水路の垂直断面の状況は,別紙40記載のとおりである。
新干拓地(小江)では,現状,農業用水及び雨水等を主ゲート付き樋門・樋管2か所(その位置は別紙33の45番及び47番)により新干拓地排水路から調整池へ排水している。なお,樋門・樋管の敷高は,新干拓地(小江)の陸地の標高より低く,調整池の現状の管理水位の最高水位より高い。新干拓地(小江)には,既設排水ポンプは設置されておらず,排水ポンプによる排水は行っていない。
すなわち,上記排水方法は,無降雨時は,樋門・樋管の主ゲートを開き,
自然排水を行うもので,
基本的に降雨時も同様である
(別紙39)

仮に,降雨により調整池の水位が樋門・樋管の敷高より高くなった時は,調整池の水が新干拓地排水路に流入するのを防ぐため,樋門・樋管の主ゲートを閉じることになる。なお,30年大雨(6時間)が発生した場合,調整池の最高水位は標高(+)1.4mとなる(別紙39)。旧干拓地(諫早)及び新干拓地(中央)の後背地
旧干拓地(諫早)及び新干拓地(中央)の後背地(本件後背地。原告住民らの居住地を含む地域である。原告住民らの居住地は,別紙19記載のとおり。)の陸地,後背地排水路(本件後背地に存在する地区内排水路。以下後背地排水路という。),既設堤防又は内部堤防,樋門・


2前提事実
現在の調整池への排水方法と開門に伴う措置

樋管,主ゲート,調整池(又は河川。以下,調整池又は河川を調整池等という。),潮受堤防及び諫早湾の垂直断面の状況は,別紙41及び別紙42記載のとおりである。
本件後背地では,現状,生活用水及び雨水等を主ゲート付き樋門・樋管16か所(その位置は別紙33の20番~35番。本件後背地付近の旧干拓地(諫早)の樋門・樋管を含む。以下同じ。)により後背地排水路から調整池等へ排水している。
後背地排水路からの排水方法は,旧干拓地(諫早)における潮遊池からの排水方法と同様である(別紙41及び別紙43)。なお,降雨により調整池の水位が後背地排水路の水位より高くなった時に排水のため用いる既設排水ポンプの位置は,別紙34の5番~12番であり,本件後背地及びその付近には8か所ある。

開門に伴い予定されている措置(樋門・樋管の主ゲートの閉門等)樋門・樋管に係る措置

現地の状況
旧干拓地の陸地,旧干拓地排水路,潮遊池,既設堤防,樋門・樋管,主ゲート及び調整池の状況(垂直断面)は,旧干拓地(諫早)につき別紙31,旧干拓地(吾妻)につき別紙35記載のとおりである。新干拓地の陸地,新干拓地排水路,内部堤防,主ゲート付き樋門・樋管(新干拓地(小江)にあるもの)及び調整池の状況(垂直断面)は,新干拓地(中央)につき別紙37,新干拓地(小江)につき別紙39記載のとおりである。本件後背地の陸地,後背地排水路,既設堤防,樋門・樋管,主ゲート及び調整池等の状況(垂直断面)は,別紙41記載のとおりである。


予定されている措置
被告は,ケース1~3開門をするに伴い,調整池の塩水が,樋門・
第2

事案の概要等

樋管を通じ,
旧干拓地の潮遊池,
新干拓地排水路及び後背地排水路
(こ
れらを併せて,以下潮遊池等という。)に浸入することを防止す
るため,樋門・樋管(その敷高が一定の高さより低いもの)につき,次の措置を取ることとしている。
無降雨時
被告は,ケース1~3開門をする場合,樋門・樋管のうち,その
敷高が調整池の最高水位より低いものについて,調整池からの塩水の浸入を防止するため,無降雨時には,その主ゲートを閉門することとしている。すなわち,ケース1開門をする場合はその敷高が標高(+)2.4m(降雨量が平成19年降雨量以下である場合の調整池の水位変動における最高水位)より低い樋門・樋管につき,ケース3-1開門をする場合はその敷高が標高(-)0.5m(管理水位の範囲における最高水位)より低い樋門・樋管につき,ケース3-2開門をする場合はその敷高が標高(-)1.0m(管理水位の範囲における最高水位)より低い樋門・樋管につき,その主ゲートを閉門することとしている。旧干拓地及び新干拓地(又は,その付近)において,無降雨時に閉門する樋門・樋管の位置は,ケース1開門では別紙49,ケース3-1開門では別紙50,ケース3-2開門では別紙51各記載のとおりである。
ケース3-2開門における樋門・樋管の敷高が調整池の上記最高
水位より低い場合(旧干拓地及び本件後背地のみ)における潮遊池等,既設堤防,樋門・樋管,主ゲート及び調整池の状況(垂直断面)は,別紙52(旧干拓地(諫早))の無降雨時部分,別紙53
(旧干拓地(吾妻))の無降雨時部分及び別紙54(本件後背
地)の無降雨時(敷高(-)1.0m以下)部分記載のとおり
であり,無降雨時に調整池の水位が上記敷高よりも高くなった時に,

2前提事実
事前対策を実施しない場合の本件開門による被害発生のおそれ

主ゲートを閉門しなければ調整池の塩水が潮遊池及び後背地排水
路へ流入することになる。
降雨時
被告は,ケース1~3開門をする場合,前記

の樋門・樋管につ

いて,降雨時には,当該樋門・樋管ごとに調整池の水位と潮遊池等の水位を比較し,調整池の水位が潮遊池等の水位より低い場合に,上記樋門・樋管の主ゲートを開けて潮遊池等から調整池へ排水を行うこととしている。ケース3-2開門の場合の状況は,旧干拓地における排水につき別紙52の
降雨時(潮遊池水位>調整池水位)
部分及び別紙53の降雨時(潮遊池水位>調整池水位)部分記
載のとおりである。
そして,調整池の水位が潮遊池等の水位と同程度になったら,調
整池から潮遊池等への塩水の浸入を防止するため,主ゲートを閉門することとしている。ケース3-2開門の場合の状況は,旧干拓地における排水につき別紙52の
降雨時(調整池水位>潮遊池水位)
部分及び別紙53の降雨時(調整池水位>潮遊池水位)部分記
載のとおりである。
既設堤防の補修等
被告は,ケース1~3開門をする前に,既設堤防の安全性を確保し,調整池から既設堤防を通じて潮遊池及び後背地排水路へ塩水が浸入することを防止するため,別紙55記載のとおり既設堤防の補修等を実施することとしている。

事前対策を実施しない場合の本件開門による被害発生のおそれ

本件開門による被害発生のおそれ(農業用水の水源喪失,潮風害,作土層の塩化物イオン濃度上昇)
農業用水の水源喪失

第2

事案の概要等

原告新干拓地農業者ら,原告旧干拓地(諫早)農業者ら及び原告旧干拓地(吾妻)農業者らのうち46名(目録6-39番~73番,75番~83番,85番,86番。以下原告Aら46名という。)は,

新干拓地及び旧干拓地において農業を営み,現状,新干拓地においては淡水である調整池から,旧干拓地においては淡水である潮遊池から農業用水を取水しているところ,事前対策がなされないまま本件開門がなされれば,調整池が塩水化し,さらに,既設堤防を介して隣接する潮遊池(別紙32,別紙36)に塩水が浸入して潮遊池の水が塩水化して,調整池及び潮遊池のいずれもが農業用水として利用できなくなるため,新干拓地及び旧干拓地における上記農業につき農業用水の水源を喪失する。潮風害
一般に,海岸近くの耕地で塩水の浸入や潮風のために作物が受ける被害を塩害というところ,以下,塩害のうち,台風や季節風等の強風により塩分が内陸部まで運ばれることに起因するものを潮風害といい,それ以外の塩害を塩害という。
原告農業者らは,新干拓地及び旧干拓地において農業を営むところ,現状では,調整池が淡水であり,耕地が諫早湾海域から一定の距離があるため,一般に甚大な潮風害をもたらす降雨を伴わない台風(以下潮風害台風という。)を除き,潮風害がなかった。なお,諫早湾海域と新干拓地及び旧干拓地の耕地との距離は別紙60記載のとおりである。本件開門がなされれば,調整池が塩水化するため,季節風等の強風が長時間続く場合,海面の波高が高くなり,波が砕けて飛沫となって強風により塩分が内陸部まで運ばれ,その間に降雨がないときは,新干拓地及び旧干拓地における上記農業につき潮風害が発生する高度の蓋然性がある。
なお,
潮風害の被害程度は,
海岸に近いほど指数的に大きくなる。
旧干拓地における作土層の塩化物イオン濃度の上昇


2前提事実
事前対策を実施しない場合の本件開門による被害発生のおそれ

旧干拓地では,本件開門がなされれば,次のaからcの機序により作土層(別紙57)の塩化物イオン濃度が上昇する。

毛管現象による塩分上昇
潮遊池の塩水化
現状では,調整池が淡水であるため,旧干拓地の潮遊池も淡水
であるが(調整池及び潮遊池の状況は旧干拓地(諫早)につき別
紙22,旧干拓地(吾妻)につき別紙23記載のとおり。),本
件開門がなされれば,塩水化した調整池から既設堤防及びその基
礎部を通して潮遊池に塩水が浸入し,潮遊池が塩水化する。
なお,ケース1開門及びケース3-1開門がなされた場合にお
ける調整池の水位は,ケース3-2開門がなされた場合における
調整池の水位より高くなるから(降雨量が平成19年降雨量以下
である場合,調整池の最高水位は,ケース3-2開門では概ね標
高(-)0.68mであるのに対し,ケース1開門では概ね標高
(+)2.4m,ケース3-1開門では概ね標高(-)0.41
mである。),ケース1開門又はケース3-1開門がなされた場
合は,ケース3-2開門がなされた場合より,調整池から潮遊池
への塩水の浸入量が増加する。
塩化物イオン濃度が高い地下水の存在
心土層(別紙57)には,現状でも,塩化物イオン濃度の高い地
下水が存在する。
毛管現象
毛管現象とは,干天が続くような場合に土壌(土粒子と土壌間
隙水によって構成される。)中の水分が蒸発散作用によって徐々
に上昇することである。毛管現象の際,土壌中の塩分が高けれ
ば,土壌中の水分の移動とともに塩分が上昇することになる。

第2

事案の概要等

上記

のとおり,本件開門がなされれば,塩水化した調整池から

既設堤防及びその基礎部を通して潮遊池に塩水が浸入し,潮遊池が塩水化することから,かんがいによる塩分の洗い流しができない。そうすると,心土層に存在する塩化物イオン濃度の高い地下水
は,毛管現象により作土層へ上昇し,それとともに,土壌間隙水
に含まれる塩分が作土層へ上昇し,作土層の塩化物イオン濃度が
上昇する。

大雨時における地下水位の上昇等による塩分上昇
潮遊池の水の暗渠管への浸入
潮遊池の水(本件開門によって塩水化したもの)は,大雨による
潮遊池の水位の上昇に伴い旧干拓地排水路を通じて暗渠管(暗渠排水管。旧干拓地(諫早)につき別紙32,旧干拓地(吾妻)につき別紙36。なお,別紙57,別紙62,別紙63参照)に浸入する。⒝

大雨時における地下水位の上昇
心土層には現状でも塩化物イオン濃度の高い地下水が存在する。
大雨時には,この地下水が,雨水の心土層への浸入や心土層に存在する地下水と潮遊池との水位差により生じる圧力によって心土層
から暗渠管が埋設された高さまで上昇し,上記⒜の暗渠管に浸入した潮遊地の水と混合し,さらに暗渠管の上にある作土層まで上昇する。


飛来塩分の増加
旧干拓地は,現状では,調整池が淡水であり,諫早湾海域から一
定の距離があったところ(別紙60),本件開門がなされれば,調整池が塩水化するため,波が砕けて飛沫となった海水が強風により内陸部まで運ばれやすくなり,飛来塩分が増加する。その塩分が地表から作土層の水分に溶解して,作土層の塩化物イオン濃度が上昇する(別

2前提事実
事前対策を実施しない場合の本件開門による被害発生のおそれ

紙62)。

ケース1開門及びケース3-1開門による被害発生のおそれ(湛水被害の程度が大きくなるおそれ)
ケース1開門による旧干拓地及び新干拓地(小江)の10年大雨時の湛水被害のおそれ及びケース3-1開門による旧干拓地の10年大雨時の湛水被害のおそれ
原告旧干拓地
(諫早)
農業者らのうち98名
(目録1-1番~30番,
33番~40番,42番~79番,81番~97番,100番~103番,105番の各原告。以下原告Bら98名という。)はその所

有に係る旧干拓地(諫早)において,原告旧干拓地(吾妻)農業者らのうち84名
(目録6-1番~21番,
23番~35番,
37番~83番,
85番~87番の各原告。以下原告Cら84名という。)はその

所有に係る旧干拓地(吾妻)において,原告新干拓地(小江)農業者ら及び原告新干拓地
(中央・小江)
農業者らはその賃借に係る新干拓地
(小
江)において,それぞれ農業を営むものである。
ケース1開門がなされれば,3日間での総降雨量が10年に1度の発生頻度であるような雨量の降雨(以下10年大雨という。)があった場合に,以下のa及びbの機序による排水不良が競合することによって,現状より,湛水被害の程度(範囲・湛水深)が大きくなり,旧干拓地及び新干拓地(小江)における上記農業につき湛水被害が発生する高度の蓋然性があり,上記所有権ないし賃借権に基づく使用収益につき妨害のおそれがある。
また,ケース3-1開門がなされれば,10年大雨があった場合,原告旧干拓地(諫早)農業者らのうち91名(目録1-1番~30番,33番~37番,42番~46番,48番~79番,81番~96番,101番,102番,105番の各原告。以下原告Bら91名とい

第2

事案の概要等

う。)及び原告旧干拓地(吾妻)農業者のうち83名(目録6-1番~21番,23番~35番,37番,38番,40番~83番,85番~87番の各原告。以下原告Cら83名という。)が,旧干拓地に

おける上記農業につき,ケース1開門と同様の機序で湛水被害が発生する高度の蓋然性があり,上記所有権に基づく使用収益につき妨害のおそれがある。

樋門・樋管の閉門による排水不良
現状,旧干拓地及び新干拓地(小江)では,農業用水及び雨水等
を主ゲート付き樋門・樋管(その位置は,旧干拓地(諫早)においては別紙33の30番及び31番の2か所,旧干拓地(吾妻)においては同別紙の39番~42番の4か所,新干拓地(小江)においては同別紙の45番及び47番の2か所である。)により旧干拓地では潮遊池から,新干拓地(小江)では新干拓地排水路から,それぞれ調整池へ排水している(具体的な排水方法は前記






のとおり。

無降雨時には,樋門・樋管の主ゲートを開き,自然排水を行うものである。)。
ケース1開門がなされれば,被告は,塩水化した調整池から潮遊池ないし新干拓地排水路への塩水浸入を防止するため,無降雨時には,その敷高が標高(+)2.4m(降雨量が平成19年降雨量以下である場合の調整池の水位変動における最高水位である。)より低い上記全ての樋門・樋管の主ゲートを閉門することとしている(前記

イ。

別紙49)。そうすると,無降雨時に潮遊池ないし新干拓地排水路の水位が現状より高くなり,
これにより,
旧干拓地及び新干拓地
(小江)
では排水不良が起こる。
また,ケース3-1開門がなされれば,被告は,調整池から潮遊池への塩水浸入を防止するため,無降雨時には,その敷高が標高(-)

2前提事実
事前対策を実施しない場合の本件開門による被害発生のおそれ

0.5m(調整池の管理水位の最高水位)より低い上記全ての樋門・樋管の主ゲートを閉門することとしている(前記

イ。別紙50)。

そうすると,無降雨時に潮遊池の水位が現状より高くなり,これにより旧干拓地では排水不良が起こる。

排水時間短縮による排水不良
現状では,被告は,調整池の水位を標高(-)1.0mから
(-)1.2mまでの範囲内で管理しており,調整池の水位は,降雨量が平成19年降雨量以下であれば,概ね標高(-)0.68mから(-)1.2mまでの範囲内となる(前記

ア)。

ケース1開門がなされれば,外潮位の変動に伴い,調整池水位が変動し,調整池の水位は,降雨量が平成19年降雨量以下であれば,概ね標高(+)2.4mから(-)1.8mまでの範囲内となるため(前記イ
a),1日2回の諫早湾の干満により,潮遊池ないし新干拓

地排水路の水位よりも調整池の水位が低くなる時にのみ,農業用水及び雨水等を潮遊池ないし新干拓地排水路から調整池へ排出することができるようになる。このように,排水を行うことのできる時間が短くなるため,旧干拓地及び新干拓地(小江)では,農業用水及び雨水等を十分に排水できないという排水不良が起こる。
また,ケース3-1開門がなされれば,被告は,調整池の水位を
標高(-)0.5mから(-)1.2mまでの範囲内で管理し,調整池の水位は,降雨量が平成19年降雨量以下であれば,概ね標高
(-)0.41mから(-)1.2mまでの範囲内となるのであるから(前記


b),現状と比べ,調整池の水位が潮遊池の水位より

低くなる時間帯が短くなり,排水を行うことのできる時間が現状より短くなる。そのため,旧干拓地では,農業用水及び雨水等を十分に排水できないという排水不良が起こる。

第2

事案の概要等

ケース1開門及びケース3-1開門による後背地住民の10年大雨時の湛水被害のおそれ
原告住民らは,前記


のとおり,本件後背地(旧干拓地(諫早)

及び新干拓地(中央)の後背地)に居住している(居住地の位置は別紙19記載のとおり。)。
ケース1開門がなされれば,10年大雨があった場合,次の機序による排水不良が競合することによって,本件後背地に居住する原告住民らのうち43名(目録5-50番,52番,55番,56番,60番~77番,82番~84番,115番,136番,142番~144番,159番~167番,170番,172番,184番及び目録1-1番の各原告。以下原告Dら43名という。居住地の位置は,別紙19

記載のとおり。)は,現状より,湛水被害の程度(範囲・湛水深)が大きくなり,上記居住地が湛水する被害を受ける高度の蓋然性があり,平穏に日常生活を営むという人格的利益が侵害される被害(生活妨害)を受けるおそれがある(原告Dら

43名の居住地と環境アセスメントに

より湛水被害が予測される場所との位置関係は別紙72記載のとおり。。)
また,ケース3-1開門がなされれば,10年大雨があった場合,本件後背地に居住する原告住民らのうち38名
(目録5-50番,
52番,
55番,56番,60番~77番,82番~84番,115番,136番,143番,144番,160番,162番~167番,170番,184番の各原告。以下原告Dら38名という。居住地の位置は

別紙19記載のとおり。)は,その居住地が同様の機序で,現状より,湛水被害の程度(範囲・湛水深)が大きくなり,上記居住地が湛水する被害を受ける高度の蓋然性があり,平穏に日常生活を営むという人格的利益が侵害される被害(生活妨害)を受けるおそれがある(原告

Dら

38名の居住地と環境アセスメントにより湛水被害が予測される場所と

2前提事実
事前対策を実施しない場合の本件開門による被害発生のおそれ

の位置関係は別紙75記載のとおり。)。

樋門・樋管の閉門による排水不良
本件後背地では,
現状,
生活用水及び雨水等を主ゲート付き樋門・樋
管16か所(その位置は別紙33の20番~35番)により後背地排水路から調整池等へ排水している(具体的な排水方法は前記

アの
とおり。無降雨時には,樋門・樋管の主ゲートを開き,自然排水を行っているものである。)。
ケース1開門がなされれば,調整池等が塩水化することから,被告は,調整池等から後背地排水路への塩水浸入を防止するため,無降雨時には,その敷高が標高(+)2.4m(降雨量が平成19年降雨量以下である場合の調整池の水位変動における最高水位である。)より低い樋門・樋管12か所(その位置は別紙49の20番~23番,25番~31番,35番)の主ゲートを閉門することとしている(前記イ
b⒜)。そうすると,無降雨時に後背地排水路の水位が現状よ

り高くなり,これにより,排水不良が起こる。
また,ケース3-1開門がなされれば,被告は,調整池等から後背地排水路への塩水浸入を防止するため,無降雨時には,その敷高が標高(-)0.5m(調整池の管理水位の最高水位)より低い樋門・樋管10か所
(その位置は別紙50の22番,
23番,
25番~31番,
35番)の主ゲートを閉門することとしている(前記


b⒜)。

そうすると,無降雨時に後背地排水路の水位が現状より高くなり,これにより,排水不良が起こる。

排水時間短縮による排水不良
旧干拓地(10年大雨時の湛水被害)の場合と同様(前記

b。た

だし,農業用水を生活用水に,潮遊池ないし新干拓地排水路を後背地排水路に,旧干拓地及び新干拓地(小江)を本第2事案の概要等件後背地にそれぞれ読み替える。以下,本件後背地につき旧干拓地(諫早)
と同様であるという場合における読替えについて,同じ。。


環境アセスメント
被告(九州農政局)は,平成23年6月10日,環境影響評価法に準拠して定められた諫早湾干拓事業の潮受堤防の排水門の開門調査に係る環境影響評価の指針(平成20年9月30日)及び諫早湾干拓事業の潮受堤防の排水門の開門調査に係る環境影響評価方法書(平成22年3月16日)に基づき,諫早湾干拓事業の潮受堤防の排水門の開門調査に係る環境影響評価(以下環境アセスメントという。)を行い,諫早湾干拓事業の潮受堤防の排水門の開門調査に係る環境影響評価準備書(素案)(以下アセス準備書(素案)という。乙A2の1)を作成し,平成23年10月18日,諫早湾干拓事業の潮受堤防の排水門の開門調査に係る環境影響評価準備書(以下アセス準備書という。乙A11の1)を作成し,平成24年8月21日,アセス準備書の内容を一部変更した諫早湾干拓事業の潮受堤防の排水門の開門調査に係る環境影響評価書(以下アセス評価書という。乙A28の1)を作成し,同年11月22日,アセス評価書の内容を一部変更した諫早湾干拓事業の潮受堤防の排水門の開門調査に係る環境影響評価書(補正版)(以下アセス評価書(補正版)という。乙A32の1)を作成した(アセス準備書(素案),アセス準備書,アセス評価書及びアセス評価書(補正版)を併せて,以下アセス評価書等という。)。ア
環境アセスメントの目的
環境アセスメント(アセス評価書等)は,ケース1~3開門がなされたそれぞれの場合について,有明海,諫早湾,調整池並びに諫早市及び雲仙市のうち調整池に流入する河川の流域にどのような変化や影響が生じるかにつき,調査・予測・評価を行い,必要に応じてその影響を回避・低

2前提事実
環境アセスメント

減する措置を検討するものである(乙A28の1はじめに,乙A28の1_1-4・5頁,乙A32の1はじめに,乙A32の1_1-4・5頁)。
なお,アセス評価書等は,ケース2開門(前記


d)について,ケ

ース3-2開門をする期間(第1段階)を最初の2年間,ケース3-1開門をする期間
(第2段階)
をその後の2年間,
ケース1開門をする期間
(第
3段階)を最後の1年間(合計5年間)として,上記の調査・予測・評価を行った(乙A32の1_6.2.1-117頁)。

予測・評価の方法
被告は,環境アセスメントにおいて,水象,水質,地下水・土壌,地形・地質などの予測・評価については,既存調査結果及び現地調査結果を用いて構築した数値シミュレーションモデルに基づき,平成19年度を対象年度として定量的に行った。すなわち,被告は,平成19年度の気象,潮流などの条件において,ケース1~3開門をした場合の影響を予測した。平成19年度を予測・評価年度とした理由は,夏季の出水(河川の流量が多い状態。以下同じ。)及び日射に伴う塩分・水温躍層の形成,赤潮・貧酸素水塊の発生といった有明海で特徴的な現象が確認されていること及び再現の検証・予測に必要な気象,河川水量,潮流等の種々のデータが総括的に取得される直近年であったからである(乙A32の1_6.1.1-54~57・79頁)。
なお,被告は,水象及び水質のシミュレーションについて,平
成19年度のほか気象条件等の異なる平成21年度も対象年度として追加するとともに,地下水・土壌のうち土壌については,平成8年度も予測の対象年度として追加した。
また,被告は,生物・生態系,漁業生産,農業生産,後背地防災については,上述の水象,水質,地下水・土壌,地形・地質の自然的構成要素の
第2

事案の概要等

変化を踏まえ,既存の文献等客観的な資料を基に,現地調査も補足的に行いつつ,予測・評価を行った。

本件に関連する訴訟等の経緯

関連訴訟等
ムツゴロウ裁判
長崎県の諫早市,愛野町(現雲仙市)及び長与町の住民らは,平成8年7月,被告に対し,本件事業実施の差止めを求める訴訟(長崎地方裁判所平成8年(行ウ)第5号。以下ムツゴロウ裁判という。)を長崎地方裁判所に提起した。
長崎地方裁判所は,平成17年3月,ムツゴロウ裁判において,当該訴訟の原告らの請求を棄却する旨又は訴えを却下する旨の判決をした。本件事業の工事差止めを求める訴訟(佐賀地方裁判所・前訴)

訴え提起等
有明海の漁業者ら並びに諫早湾及び有明海付近の住民らは,平成14年11月26日,被告に対し,本件事業の工事続行禁止を求める訴訟を佐賀地方裁判所に対して提起するとともに(佐賀地方裁判所平成14年

第467号事件〈前訴〉。その後,12件の同様の事件が訴

訟提起され,上記事件に併合された。なお,その請求内容は,後に,潮受堤防の撤去及び本件各排水門の常時開放を請求する旨に変更された。前訴の訴訟提起をした者(前訴の原告ら)を,以下前訴原告らという。),上記工事続行禁止を求める仮処分の申立て(佐賀地方裁判所平成14年

第79号事件。その後,同様の申立てをする2件の

事件が申し立てられ,上記事件に併合された。以下,上記事件を,保全異議及び保全抗告における事件も含めて本件事業工事差止仮処分申立事件という。)を佐賀地方裁判所に対して行った。b
仮処分決定等


2前提事実
本件に関連する訴訟等の経緯

佐賀地方裁判所は,平成16年8月26日,本件事業工事差止仮処分申立事件において,工事続行禁止の仮処分決定をした。被告は,上記決定を受けて,本件事業に係る工事を中断した。
被告は,上記工事続行禁止の仮処分決定に対し,保全異議の申立て(佐賀地方裁判所平成16年
裁判所平成16年

第268号)
及び執行停止の申立て
(同

第289号)をしたが,佐賀地方裁判所は,平成

17年1月12日,
本件事業工事差止仮処分申立事件
(保全異議事件)
について,上記仮処分決定を認可する旨及び上記執行停止の申立てを却下する旨の決定をした。
被告は,佐賀地方裁判所の仮処分決定の上記認可決定に対し,保全抗告の申立て
(福岡高等裁判所平成17年

第41号)
をしたところ,

福岡高等裁判所は,平成17年5月16日,本件事業工事差止仮処分申立事件について,佐賀地方裁判所のした上記仮処分決定(本件事業の工事続行を禁止するもの)
及び認可決定を取り消す旨の決定をした。
被告は,上記決定を受けて,本件事業の工事を再開した。
有明海の漁業者ら(本件事業工事差止仮処分申立事件の仮処分命令の申立人である。)は,福岡高等裁判所の上記の決定に対し,最高裁判所に対して許可抗告をしたが
(最高裁判所平成17年

第27号)


最高裁判所は,同年9月30日,本件事業工事差止仮処分申立事件につき,抗告棄却の決定をした。

前訴判決等
佐賀地方裁判所は,平成20年6月27日,前訴第一審において,前訴原告らのうちの一部の者に対する関係で,請求を一部認容し,被告に対し,一定の限度で,本件各排水門の開放を命ずる旨の判決(判決確定の日から3年を経過する日までに,防災上やむを得ない場合を除き,本件各排水門を開放し,以後5年間にわたって本件各排水門の
第2

事案の概要等

開放を継続することを命ずるもの)をした(乙A9)。
被告及び前訴原告らのうち一部の者は,佐賀地方裁判所の上記判決に対し,控訴をした(福岡高等裁判所平成20年

第683号)が,

福岡高等裁判所は,平成22年12月6日,前訴において,被告の控訴を棄却するとともに,前訴原告らの一部の者に対する関係で,請求を一部認容し,被告に対し,一定の限度で,本件各排水門の開放を命ずる旨の判決をし,上記判決は,同月21日に確定した(その詳細は後記イのとおり。乙A10)。
原因裁定の申請(公調委)
有明海の漁業者らと福岡県有明海漁連は,平成15年4月,公調委に対し,被告を被申請人として,有明海における漁業被害(ノリ,タイラギ,クチゾコ及びアサリの漁業被害)につき本件事業において行われた工事が原因であるとの裁定を求める原因裁定の申請をした(原因裁定事件)。
公調委は,
平成17年8月30日,
原因裁定事件につき,申請人ら
(有
明海の漁業者らと福岡県有明海漁連)の申請をいずれも棄却する旨の裁定をした(前記

エ)。

本件各排水門の開放等を求める仮処分申立て(佐賀地方裁判所)
有明海の漁業者らは,平成17年10月31日,被告に対し,本件各排水門の開放等を求める仮処分の申立て(佐賀地方裁判所平成17年第47号)を佐賀地方裁判所に対して行った。
中長期開門調査を求める行政訴訟及び民事訴訟(福岡地方裁判所)福岡県有明海漁連は,平成18年1月,被告に対し,中長期開門調査を求める行政訴訟及び民事訴訟(福岡地方裁判所平成18年(行ウ)第5号。以下開門調査命令等請求事件という。)を福岡地方裁判所に提起した。


2前提事実
本件に関連する訴訟等の経緯

福岡地方裁判所は,平成18年12月,開門調査命令等請求事件の請求のうち行政訴訟に係る請求について,原告らの請求を棄却する旨又は訴えを却下する旨の判決をした。
福岡県有明海漁連は,平成18年12月,上記判決に対し,控訴をしたが,平成19年1月,上記控訴を取り下げた。
福岡県有明海漁連は,平成19年7月,福岡地方裁判所における開門調査命令等請求事件について,訴えの全部を取り下げた。
本件各排水門の開放等を求める訴訟1(長崎地方裁判所・別訴)
諫早湾及び有明海の漁業者らは,
平成20年4月30日,
被告に対し,
本件各排水門の開放等を求める訴訟(長崎地方裁判所平成20年

第2

58号事件〈乙A52〉。上記訴訟を,以下別訴といい,別訴の原告らを,以下別訴原告らという。)を長崎地方裁判所に対して提起した。別訴は,別訴原告ら(諫早湾内又は有明海の漁業協同組合に所属して漁業行使権を有すると主張する漁業者ら〈被告補助参加人らの一部を含む。〉)が,被告が設置した潮受堤防によって漁場環境の悪化及び漁業被害が生じたと主張し,被告に対し,漁業行使権に基づく妨害予防請求及び妨害排除請求として本件各排水門を開放することなどを求めるものである。
長崎地方裁判所は,平成23年6月27日,別訴について,別訴原告らの請求のうち,本件各排水門の開門を求める請求はこれを棄却し,損害賠償請求はその一部を認容する旨の判決をした。上記判決に対し,別訴原告ら(諫早湾内又は有明海の漁業者ら)及び被告(被告)は,それぞれ控訴し,福岡高等裁判所(平成23年

第771号事件)は,平成

27年9月7日,1審判決のうち原告らの損害賠償請求を認容した部分を取り消し,同部分に係る別訴原告らの請求を棄却した(乙A52)。本件各排水門の開放等を求める訴訟2(長崎地方裁判所)

第2

事案の概要等

諫早湾の漁業者らは,平成22年3月11日,被告に対し,本件各排水門の開放等を求める訴訟(長崎地方裁判所平成22年

第207号な

いし第209号事件。その後,同様の請求をする長崎地方裁判所平成23年

第212号事件の訴訟が提起され,併合された。)を長崎地方裁

判所に対して提起した。
本件開門の差止めを求める訴訟(長崎地方裁判所・本件)
原告らの一部は,平成23年4月19日,被告に対し,本件各排水門につき本件開門の差止めを求める訴訟(長崎地方裁判所平成23年

275号)を提起した。その余の原告らは,その後,同様の請求をする各訴訟(長崎地方裁判所平成26年

第151号,同平成27年

第1

81号,同第236号)を長崎地方裁判所に対してそれぞれ提起し,併合された。
仮処分命令の申立て(長崎地方裁判所・保全事件)
調整池あるいは諫早湾周辺の農業者ら,原告県公社,漁業者ら,住民ら(これらの一部は原告らと重複する。)は,平成23年11月14日,平成24年2月21日及び同年12月14日,長崎地方裁判所に対し,被告を債務者として,本件各排水門につき,本件開門の仮の差止めを求める仮処分命令を申し立てた(長崎地方裁判所平成23年(ヨ)第36号。その後,同様の請求をする各保全申立て〈平成24年(ヨ)第5号,同第27号〉がされ,併合された。)。
長崎地方裁判所は,平成25年11月12日,一部の債権者との関係で,ケース1開門,ケース3-1開門及びケース3-2開門の仮の差止めを求める部分について,それぞれ申立てを認容(ケース毎に人数は異なる。)し,その余を却下する旨の決定(原決定)をした。
原決定に対し,債務者補助参加人ら(被告補助参加人らを含む。)は,保全異議の申立て(長崎地方裁判所平成25年(モ)第1040
3
本件訴訟における各請求の概要
事案の概要

号)をした。長崎地方裁判所は,平成27年11月10日,原決定の一部を認可し,その余を取り消した上,却下する旨の決定をした。被告(債務者)及び債権者らは,同決定に対し,保全抗告の申立てをした。イ
前訴の概要
前訴(福岡高等裁判所平成20年
裁判所平成14年

第683号事件〈第一審・佐賀地方

第467号ほか〉)は,前訴原告ら(有明海の漁業者

ら並びに諫早湾及び有明海付近の住民らであり,別紙4の被告補助参加人目録-1番~8番の各被告補助参加人を含む。)が,本件事業において被告が設置した潮受堤防によって諫早湾及び有明海の漁場環境悪化及び漁業被害が生じたと主張し,被告に対し,漁業行使権等に基づく妨害予防請求及び妨害排除請求として本件各排水門を開放することなどを求めた事案である。
前訴の控訴審である福岡高等裁判所は,平成22年12月6日,被告に対し,
前訴原告らのうち諫早湾近傍の漁業者ら
(58名)
に対する関係で,
判決確定の日から3年を経過する日までに,防災上やむを得ない場合を除き,本件各排水門を開放し,以後5年間にわたって本件各排水門の開放を継続することを命ずる判決(前訴判決)をし(口頭弁論終結日:平成22年8月9日),前訴判決は,同年12月21日に確定した(前訴原告らのうち上記58名を,以下前訴原告58名という。乙A9,10)。3
本件訴訟における各請求の概要
事案の概要
本件は,①原告旧干拓地農業者らが,旧干拓地の所有権に基づく妨害予防請求として,②原告新干拓地農業者らが,新干拓地の賃借権に基づく妨害予防請求として,③原告県公社が,新干拓地の所有権に基づく妨害予防請求として,④原告漁業者らが,漁業行使権に基づく妨害予防請求として,⑤原告住民らが,人格権又は環境権・自然享有権に基づく妨害予防請求として,被
第1

争点

(被告が本件開門をする蓋然性)について

告に対し,調整池から諫早湾海域への排水を行う場合を除き,ケース3-2開門,ケース1開門,ケース3-1開門,ケース2開門及びその余の開門をいずれもしないこと(本件開門の差止め)を求める事案である。
差止請求を認容すべき違法性の判断要素等
本件において,原告らは本件開門の差止めを求めるところ,本件開門につき差止請求を認容すべき違法性があるかを判断するに当たっては,侵害行為の態様と侵害の程度,被侵害利益の性質と内容,侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか,被害の防止に関する措置の有無及びその内容,効果等の事情をも考慮し,これらを総合的に考察して決すべきものである。
4
争点
被告が本件開門をする蓋然性
ケース3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか
ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか
ケース3-1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか
ケース2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか

第2章
第1

争点に対する当事者の主張
争点

(被告が本件開門をする蓋然性)について

(原告らの主張)
被告が本件開門(ケース3-2開門,ケース1開門,ケース3-1開門,ケース2開門及びその余の開門)をする蓋然性がある。その根拠は,次のとおりである。
前記前提事実⑿イのとおり,前訴の控訴審である福岡高等裁判所は,平成22年12月6日,被告に対し,前訴原告58名(諫早湾近傍の漁業者ら)に対する関係で,判決確定の日から3年を経過する日までに,防災上やむを得ない場合を除き,本件各排水門を開放し,以後5年間にわたって上記開放
(被告の主張)
原告ら以外の被侵害利益

を継続することを命ずる判決(前訴判決)をし,前訴判決は,同月21日に確定した。したがって,被告は,前訴原告58名に対する関係で,平成25年12月20日までに本件各排水門を開放し,以後5年間にわたって上記開放を継続する義務を負っている。
アセス評価書(補正版)は,
開門方法については,・・・ケース3-2開門で5年間の開門が適当であるとしており,被告は,平成25年12月20日までにケース3-2開門をすることを予定しているということができるが,前訴原告ら代理人が,平成23年9月24日,ケース3-2開門の場合,判決不履行として裁判所に強制執行を求める旨発言していることからも明らかなように,前訴原告58名は,前訴判決を債務名義として,ケース1開門を求める強制執行の申立てを行うことが考えられる。
したがって,被告がケース3-2開門をする蓋然性があるのみならず,ケース3-2開門以外の本件開門をする蓋然性がある。
(被告の主張)
福岡高等裁判所の前訴判決の内容と同判決が確定したこと,アセス評価書(補正版)のはじめにの記載内容,被告が,それぞれ必要な事前対策を実施した上で,ケース3-2開門のほか,ケース1開門,ケース3-1開門及びケース2開門の各開門方法による開門をする可能性を否定していないこと,前訴原告ら代理人の発言内容は,認め,その余は否認し又は争う。
第2

争点

(ケース3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)につい

なお,以下,本件開門(ケース1~3開門及びその余の開門)を通じて本件開門に共通の争点については,項目の後に(原告ら共通)などと記載する。1
違法性の判断において考慮すべき被侵害利益の範囲(原告ら共通)
(原告らの主張)
原告ら以外の被侵害利益

第2

争点

(ケース3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
原告らは,合計452名の多数人であるのみならず,旧干拓地において農業を営む者,
新干拓地において農業を営む者,
諫早湾において漁業を営む者,
本件後背地において生活する者で本件の原告となっていない者(以下訴訟外農業者等という。)の代表として,権利主張を行っている。したがって,
原告らの本件開門の差止めを求める請求について,差止請求を認容すべき違法性があるかを判断する際に,被侵害利益を侵害行為のもつ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等との間で比較検討するに当たっては,原告らの被侵害利益のみならず,訴訟外農業者等の被侵害利益も併せて考慮すべきである。
各原告の被侵害利益
本件開門の差止めを求める各原告の請求について,差止請求を認容すべき違法性があるかを判断する際に,
被侵害利益の性質と内容及び侵害の程度を,
侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等との間で比較検討するに当たっては,上記請求に係る当該原告(個々の原告)の被侵害利益(妨害のおそれが認められる被侵害利益)を考慮するのみならず,当該原告以外の原告(原告らのうち,当該原告以外の者。以下相原告らという。)
の被侵害利益(妨害のおそれが認められる被侵害利益)全てを考慮すべきである。すなわち,上記比較検討をするについては,原告ら(原告農業者ら,原告県公社,原告漁業者ら及び原告住民ら)各人の被侵害利益(妨害のおそれが認められる被侵害利益)
につきその性質と内容及び侵害の程度を検討し,
相原告らにつき認められる妨害のおそれのある被侵害利益を全体として考慮し,相原告らの被侵害利益に係る妨害に当たる被害の全体を考慮すべきである。
(被告の主張)
原告らの主張は否認又は争う。
各原告が主張する所有権,賃借権,漁業行使権,人格権は,個々の原告に帰
2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失・原告農業者ら共通)
属しているのであるから,各原告が妨害予防請求として本件開門の差止めを求めることができるかを判断する際に,被侵害利益を考慮するに当たっては,当該原告について妨害のおそれが認められる被侵害利益のみを考慮すべきであり,相原告らの被侵害利益は考慮すべきでない。
2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失・原告農業者ら共通)(被告の主張)
事前対策を実施しなかった場合,本件開門による農業用水の水源喪失の蓋然性がある(争いがない。
)が,被告は,事前に農業用水を確保するため,以
下のアないしオの対策を単独又は組み合わせて実施する蓋然性が高い。被告が以下の事前対策を実施することにより,農業用水を十分確保することができ,妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)はなくなる。したがって,本件開門がなされても,原告農業者らは,新干拓地及び旧干拓地における農業につき農業用水の水源を喪失し,これにより,新干拓地又は旧干拓地において農業を行うことができなくなる高度の蓋然性があるということはできない。

海水淡水化案
対策の内容
潮遊池から塩水を取水し,その塩水から,海水淡水化施設により淡水を造水するとともに,農業用水のピークの水需要に対応するため,造水した淡水を貯水するため池を併設する(以下海水淡水化案とい
う。。

海水淡水化施設及びため池の設置位置
海水淡水化施設を6か所(旧干拓地(諫早)
,旧干拓地(吾妻)
,新干
拓地(中央)
,新干拓地(小江)
,白浜地区及び湯江・宇良地区)に配置
し,ため池を3か所(旧干拓地(諫早)
,新干拓地(中央)及び新干拓地

第2

争点

(ケース3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
(小江)に配置する

(海水淡水化施設及びため池の位置は別紙58記載
のとおり。。


地下水案
旧干拓地(諫早)では,既存井戸(深さ約50~約120m)を深さ約300mまで延伸して深井戸に改修し,
旧干拓地
(吾妻)新干拓地

(中央)
及び新干拓地(小江)では深井戸(深さ300m)を新設し,地下水を取水する(以下地下水案という。。



本明川余剰水案
調整池に流入する河川の中で最も水量の豊富な本明川の降雨時等の余剰水を公園堰で取水し,地区内に造成したため池に貯留し水源として利用する(以下本明川余剰水案という。。



近傍中小河川案
地区近傍の中小河川の表流水を利用する(以下近傍中小河川案という。。



下水処理水案
下水処理水を利用する(以下下水処理水案といい,地下水案,本明川余剰水案,近傍中小河川案及び下水処理水案を併せて,以下地下水案等という。また,海水淡水化案及び地下水案等を併せて海水淡水化案等の事前対策という。。)

(原告農業者らの主張)
被告の主張は否認する。
被告が海水淡水化案等の事前対策を実施する蓋然性が高いということはできない。
仮に,
被告が上記事前対策を実施したとしても,
妨害のおそれ①
(農
業用水の水源喪失)はなくならない。
したがって,本件開門がなされれば,原告農業者らは,旧干拓地及び新干拓地における農業につき農業用水の水源を喪失し,これにより,旧干拓地及
2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ②(潮風害・原告農業者ら共通)

び新干拓地において農業を行うことができなくなる高度の蓋然性がある。妨害のおそれ②(潮風害・原告農業者ら共通)

潮風害台風が襲来した場合における本件開門と潮風害のおそれとの因果関係の有無

(原告農業者らの主張)
本件開門が行われれば調整池が塩水化し,季節風等の強風が長時間続き,その間に降雨がないときは,新干拓地及び旧干拓地における農業につき潮風害が発生する高度の蓋然性がある(争いがない)

そして,潮風害台風が襲来する場合,本件開門がなされたときに発生するであろう潮風害は,現状で上記場合に発生するであろう潮風害より被害の程度が大きなものとなる。したがって,本件開門がなされれば,潮風害台風が襲来した場合にも,本件開門により旧干拓地及び新干拓地における農業につき現状より被害の程度が大きな潮風害が発生する高度の蓋然性がある。
(被告の主張)
原告農業者らの上記

の主張は否認する。

本件開門がなされても,潮風害台風が襲来する場合に発生するであろう潮風害は,現状で上記場合に発生するであろう潮風害より被害の程度が大きなものになるということはできない。
潮風害台風が襲来する場合には,現状でも潮風害が発生するであろうこと(現状のまま本件開門がなされない場合でも,潮風害が発生することに変わりがないこと)からすると,本件開門がなされても,潮風害台風については,旧干拓地及び新干拓地における農業につき,本件開門に起因する潮風害が発生する高度の蓋然性があるということはできない。

潮風害に対する事前対策の内容・効果・蓋然性

(被告の主張)

第2

争点

(ケース3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
被告は,事前に,以下の対策を実施する蓋然性が高い。被告が事前対策を実施することにより,妨害のおそれ②(潮風害)はなくなる。モニタリング
被告は,潮風害の発生許容量と推定される100㎠当たり4.8㎎を超過する風量の発生するおそれがあるかについて,風向・風速及び飛来塩分量を現地でモニタリングする。
散水
被告は,モニタリングの結果,上記潮風害の発生許容量を超過する風量,風向の風が発生するおそれがある場合は,飛来塩分を洗い落とすため,散水機器等による散水を行う。
散水用の水の確保
被告は,上記散水用の水を確保するため,海水淡水化案等の事前対策(前記(被告の主張)
アないしオ)
を単独又は組み合わせて実施する。
畑作物についての潮風害対策
畑作物の付着塩分に対する耐塩性に関する知見を得ることを目的として,新干拓地(中央)等で作付けされている作物を対象に実施している室内試験結果を踏まえ,更なる検討を進める。
(原告農業者らの主張)
被告の主張は否認する。
被告が上記事前対策を実施する蓋然性が高いということはできない。仮に,被告が上記事前対策を実施としても,妨害のおそれ②(潮風害)はなくならない。
妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害・原告旧干拓地農業者ら共通)ア
事前対策が実施されない場合の妨害のおそれ

(原告旧干拓地農業者らの主張)
原告旧干拓地農業者らは,その所有に係る旧干拓地の土地において農業
2旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害・原告旧干拓地農業者ら共通)
を営むところ,ケース3-2開門がなされれば,次の機序による排水不良が競合することによって,10年大雨があった場合に,現状より,湛水被害の程度(範囲・湛水深)が大きくなり,旧干拓地(諫早)における上記農業につき湛水被害が発生する高度の蓋然性があり,上記所有権に基づく使用収益につき妨害のおそれがある。
樋門・樋管の閉門による排水不良
旧干拓地では,現状,基本として降雨時,無降雨時とも,農業用水及び雨水等を自然排水により,主ゲート付き樋門・樋管(その位置は,旧干拓地(諫早)においては別紙33の30番及び31番の2か所,旧干拓地(吾妻)においては同別紙の39番~42番の4か所である。
)を通じ
て潮遊池から調整池へ排水しているところ,ケース3-2開門がなされれば,被告は,調整池から潮遊池への塩水浸入を防止するため,無降雨時には,その敷高が標高(-)1.0m(調整池の管理水位の最高水位)より低い樋門・樋管の主ゲートを閉門することとしている(前記前提事実
イ。争いがない。。そうすると,無降雨時に潮遊池の水位が現状よ)

り高くなり,これにより排水不良が起こり,急激に水位が上昇する10年大雨時には,湛水被害が生じ易くなり,また,その範囲が拡大する。ガタ土堆積による排水不良
旧干拓地では,現状,農業用水及び雨水等を上記

の樋門・樋管によ

り排水しているところ,ケース3-2開門がなされれば,本件締切り前と同様,有明海から運ばれる泥(ガタ土)が樋門・樋管の調整池への排水口付近に堆積して排水を阻害し,排水不良が起こる。
(被告の主張)
原告旧干拓地農業者らの主張は否認する。
樋門・樋管の閉門による排水不良について
被告は,
ケース3-2開門をした場合,
無降雨時には,
敷高が標高
(-)

第2

争点

(ケース3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
1.0m(調整池の管理水位の最高水位)より低い樋門・樋管の主ゲートを閉門することとしているが,降雨時には,当該樋門・樋管ごとに調整池の水位と潮遊池の水位を比較し,調整池の水位が潮遊池の水位より低い場合に,上記樋門・樋管の主ゲートを開けて潮遊池から調整池への排水をし
(別紙52記載の
降雨時(潮遊池水位>調整池水位)部分)

調整池の水位が潮遊池の水位と同程度になった場合には,調整池から潮遊池への塩水の浸入を防止するために,主ゲートを閉門することとしている(別紙52記載の降雨時(調整池水位>潮遊池水位)部分)
。つ
まり,10年大雨があった場合においても,現状と同様に,調整池の水位が潮遊池の水位より低い場合は,樋門・樋管の主ゲートを開けて潮遊池から調整池への排水をする(争いがない。別紙31)

そうすると,ケース3-2開門をした場合,無降雨時に上記のとおり敷高の低い樋門・樋管の主ゲートを閉門することによって,降雨時に現状より排水できる水量が減少するということはできない。
したがって,排水不良が起こる高度の蓋然性があるということはできない。
ガタ土堆積による排水不良について
ケース3-2開門がなされても,それによってガタ土の堆積による排水不良が起こる高度の蓋然性があるということはできない。

事前対策の内容・効果・蓋然性

(被告の主張)
被告は,事前に以下の対策を実施する蓋然性が高い。被告が事前対策を実施することにより,妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)はなくなる。常時排水ポンプの設置
無降雨時に樋門・樋管の主ゲートを閉門することに起因する排水不良を防止するため,潮遊池の水位を現状より30㎝低くすることとし,潮
2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ④(塩害・原告旧干拓地農業者ら共通)
遊池から調整池への排水をする常時排水ポンプを旧干拓地(諫早)には2台,旧干拓地(吾妻)には4台設置して,その起動水位(ポンプが動き始める時の水位)を標高(-)1.3mに,停止水位(ポンプの動きが停止する時の水位)を標高(-)1.8mに設定する。ポンプの設置位置は,旧干拓地(諫早)が別紙61-1頁の6番,旧干拓地(吾妻)が同別紙の1番及び2番である。
ガタ土除去
ガタ土堆積による排水不良を防止するため,ケース3-2開門がなされた後にガタ土の堆積状況を定期的に観測し,ガタ土が堆積した場合には,必要に応じて浚渫によりガタ土の除去を行う。
(原告旧干拓地農業者らの主張)
被告の主張は否認する。
被告が上記事前対策を実施する蓋然性が高いということはできない。仮に,被告が上記事前対策を実施したとしても,妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)はなくならない。
妨害のおそれ④(塩害・原告旧干拓地農業者ら共通)ア
事前対策が実施されない場合の妨害のおそれ

(原告旧干拓地農業者らの主張)
原告旧干拓地農業者らは,その所有に係る旧干拓地において農業を営むところ,現状では,調整池が淡水であるため,塩害がなかった。しかし,ケース3-2開門がなされれば,潮遊池が塩水化し,それに伴い毛管現象や大雨時の地下水位の上昇等,飛来塩分の増加(争いがない)のほか,以下のとおり複数の機序による作土層における塩化物イオン濃度の上昇要因が競合することによって,旧干拓地における上記農業につき塩害が発生する高度の蓋然性があり,上記所有権に基づく使用収益につき妨害のおそれがある。

第2

争点

(ケース3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
毛管現象や地下水位上昇等により作土層に上昇する塩分の増加要因(潮遊池の側壁土壌からの塩水浸入等)
①潮遊池の塩水は,降雨時に,潮遊池の側壁土壌(潮遊池又は新干拓地排水路の側壁である土壌。以下同じ。
)を通じ,心土層へ浸入する。ま
た,②潮遊池の塩水は,降雨時に,暗渠管に浸入し(②は争いがない),
その後,暗渠管を通じて,心土層へ浸入する(別紙52,別紙57-1頁)

そうすると,現状でも塩化物イオン濃度が高い心土層の土壌(土粒子及び土壌間隙水)の塩化物イオン濃度がさらに高くなる。
心土層の土壌(土粒子及び土壌間隙水)に含まれる塩分が,毛管現象ないしは地下水位の上昇により心土層から作土層へ上昇する際,心土層の土壌(土粒子及び土壌間隙水)の塩化物イオン濃度が現状より高くなっていれば,上昇する塩分の量が現状より増加し,作土層の塩化物イオン濃度が上昇する。
大雨時の潮遊池のオーバーフローによる塩分上昇
大雨時,塩水化した潮遊池の水位が上昇し,潮遊池から塩水が直接農地にオーバーフローして,作土層の塩化物イオン濃度が上昇する。マグネシウム等による塩害
現状では,調整池が淡水であるため,マグネシウムやナトリウム(以下,併せてマグネシウム等という。
)による塩害がなかったところ,
上記



と同様の機序による作土層におけるマグネシウム等の濃度の

上昇要因が競合することによって,旧干拓地における農業につき塩害が発生する高度の蓋然性があり,原告旧干拓地農業者らの所有権に基づく使用収益につき妨害のおそれがある。
(被告の主張)
潮遊池の側壁土壌からの塩水浸入等について

2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ④(塩害・原告旧干拓地農業者ら共通)
原告旧干拓地農業者らの主張は否認する。側壁土壌を通じての塩水浸入はない。
旧干拓地(諫早)の周辺地盤(側壁土壌を含む。別紙57-1頁)は,透水性が非常に低く,土壌中の水の移動が小さい有明粘土であるため,潮遊池の水が塩水化したとしても,潮遊池の塩水が側壁土壌を通じて,心土層に浸入することはない。
また,潮遊池の塩水は,降雨時に,暗渠管へ浸入したとしても,降雨後,速やかに排水されるものであり,その塩水が暗渠管を通じ心土層へ浸入することはない。
さらに,旧干拓地のような多量の塩分を含む土壌(作土層及び心土層の土壌)では,交換態(土粒子)に吸着されるイオンは,既に飽和状態にあり,吸着イオンの総量に変化はなく,土粒子の塩化物イオン濃度は高くならない。
したがって,ケース3-2開門により心土層の土壌の塩化物イオン濃度が高くなることはなく,毛管現象により上昇する塩分が増加することはない。
大雨時の潮遊池のオーバーフローによる塩分上昇について
大雨時に,潮遊池から溢れて農地で流出する水は,流出する時点で既に雨水による排水(淡水)により希釈されている上,農地は後背地からの雨水の流出等によって既に湛水し,潮遊池から流出した水はより一層希釈されることになるため,塩害発生につながるような塩化物イオン濃度の上昇は生じない。
マグネシウム等による塩害について
否認する。

事前対策の内容・効果・蓋然性

(被告の主張)

第2

争点

(ケース3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
被告は,事前に,以下の対策を実施する蓋然性が高い。被告が事前対策を実施することにより,妨害のおそれ④(塩害)はなくなる。鋼矢板の打設
塩水化した調整池から既設堤防及びその基礎部を通して潮遊池に塩水が浸入すること(前記アの潮遊池の塩水化)を防止するため,調整池から潮遊池への塩水浸透が大きいと見込まれる箇所(旧干拓地の既設堤防のうち,
樋門・樋管の設置箇所を除いた場所。
設置範囲は別紙64の
鋼矢板想定範囲図(案)記載のとおり。
)に,地下4m程度まで鋼矢板を
打設する。
常時排水ポンプの設置
大雨時の湛水被害に対する事前対策と同じ。
潮遊池の水位を現状より30㎝低くし,潮遊池の塩水が農地に浸入すること,すなわち,潮遊池から暗渠管への塩水の浸入及び大雨時の潮遊池のオーバーフローによる塩害を防止するため,起動水位を標高(-)1.3mに,停止水位を標高(-)1.8mに設定した潮遊池から調整池への排水をする常時排水ポンプを旧干拓地(諫早)においては2台,旧干拓地(吾妻)においては4台設置する。
土壌等の塩化物イオン濃度の観測
一定以上の塩化物イオン濃度の上昇が確認された時に散水することができるようにするため,旧干拓地において,土壌等の塩化物イオン濃度を観測する。
塩害防止のための散水
上記

の観測の結果,一定以上の塩化物イオン濃度の上昇が確認され

た場合及び大雨によりほ場が湛水した場合及び夏季において干天が連続した場合において,塩害発生の可能性があるときは,作土層の塩分上昇による塩害を防止するため,散水を行う。

3
旧干拓地(吾妻)の所有権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)

散水用の水の確保
上記散水用の水を確保するため,海水淡水化案等の事前対策(前記2(被告の主張)アないしオ)を単独又は組み合わせて行う。
(原告旧干拓地農業者らの主張)
被告の主張は否認する。
被告が上記事前対策を実施する蓋然性が高いということはできない。仮に,被告が上記事前対策を実施したとしても,妨害のおそれ④(塩害)はなくならない。
3
旧干拓地(吾妻)の所有権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)

循環かんがい区域外の農業者らについて農業用水の水源喪失のおそれ
(原告旧干拓地(吾妻)農業者らの主張)
本件開門により農業用水の水源喪失のおそれがある原告旧干拓地
(吾妻)
農業者らのうち原告Aら

46名(争いがない。前記前提事実


)以

外の者も,その所有に係る旧干拓地(吾妻)において農業を営むところ,現状では,淡水である潮遊池から農業用水を取水(循環かんがい)しているものであり,ケース3-2開門がなされれば,旧干拓地(吾妻)における上記農業につき農業用水の水源を喪失する高度の蓋然性があり,上記所有権に基づく使用収益につき妨害のおそれがある。
(被告の主張)
原告旧干拓地(吾妻)農業者らの主張は否認する。
現状において,原告旧干拓地(吾妻)農業者らのうち原告Aら

46名

以外の者は,旧干拓地(吾妻)において循環かんがいを行っている区域外において農業を行っている(その位置は別紙65記載の黒字で記載された原告番号部分のとおりである。。そのため,淡水である潮遊池から農業用)
水を取水しているということはできず,ケース3-2開門がなされること
第2

争点

(ケース3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
により,農業用水の水源を喪失する高度の蓋然性があるということはできない。

農業用水の水源喪失(妨害のおそれ①)に対する事前対策の内容・効果・蓋然性
旧干拓地(諫早)の当事者双方の主張と同じ
妨害のおそれ②(潮風害)
旧干拓地(諫早)の当事者双方の主張と同じ
妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)
旧干拓地(諫早)の当事者双方の主張と同じ
妨害のおそれ④(塩害)


事前対策が実施されない場合の妨害のおそれ
以下のハウス栽培における塩害についての主張を付加するほかは旧干拓地(諫早)の当事者双方の主張に同じ

(原告旧干拓地(吾妻)農業者らの主張)
原告旧干拓地(吾妻)農業者らのうち目録6-87番の原告は,その所有に係る旧干拓地(吾妻)において,ハウス栽培の農業を営むところ,現状では,調整池が淡水であるため,塩害がなかった。しかし,ケース3-2開門がなされれば,ハウス栽培の農業につき塩害が発生する高度の蓋然性がある。すなわち,ハウス栽培の場合,降雨が遮断され土壌が乾燥しやすくなるため,毛管現象による塩分上昇の危険性が更に高くなる。その結果,上記原告の所有権に基づく使用収益につき妨害のおそれがある。(被告の主張)
原告旧干拓地(吾妻)農業者らの主張は否認する。ハウス栽培の農業について塩害が発生する高度の蓋然性があるということはできない。イ
事前対策の内容・効果・蓋然性
以下のハウス栽培の塩害に対する対策についての主張を付加するほ
4
新干拓地(中央)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)

かは,旧干拓地(諫早)の当事者双方の主張に同じ
(被告の主張)
被告が以下の事前対策を実施することにより,妨害のおそれ④(塩害)はなくなる。
ハウス栽培における塩化物イオン濃度の予測及び提示
ハウス栽培における塩害(上記ア)を防止するため,現地への立入りができれば,別途,土壌塩化物イオン濃度の予測を行い,これを提示する。
ハウス栽培における散水

上記

の塩化物イオン濃度の予測の結果,塩害発生の可能性がある

ときは(塩化物イオン濃度が野菜に影響を及ぼす下限値の目安である210㎎/Lを超える可能性があるとき)塩害を防止するため,

散水
を行う。

ハウス栽培における散水に必要な水を確保するため,農業用水を確保するため海水淡水化案等の事前対策(前記2

(被告の主張)アな

いしオ)を単独又は組み合わせて行う。
(原告旧干拓地(吾妻)農業者らの主張)
被告の主張は否認する。
被告が上記事前対策を実施する蓋然性が高いということはできない。仮に,被告が上記事前対策を実施したとしても,妨害のおそれ④(塩害)はなくならない。
4
新干拓地(中央)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)
旧干拓地(諫早)の当事者双方の主張と同じ
妨害のおそれ②(潮風害)
旧干拓地(諫早)の当事者双方の主張と同じ

第2

争点

(ケース3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)
(原告新干拓地(中央)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らの主張)
原告新干拓地(中央)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らは,その賃借に係る新干拓地(中央)において農業を営むところ,ケース3-2開門がなされれば,以下の複数の機序が競合することによって,10年大雨があった場合,さらには,3日間での総降雨量が100年に1度の発生頻度であるような雨量の降雨(以下100年大雨という。
)があった場合
に,現状より,湛水被害の程度(範囲・湛水深)が大きくなり,新干拓地(中央)における上記農業につき湛水被害が発生する高度の蓋然性があり,上記賃借権に基づく使用収益につき妨害のおそれがある。

内部堤防の基礎部を通じて浸入する調整池の水の増加
ケース3-2開門がなされれば,10年大雨があった場合,さらには100年大雨があった場合に,調整池から内部堤防の基礎部を通じ新干拓地排水路に浸入する水の量が増加する高度の蓋然性がある。


ガタ土堆積による排水不良
新干拓地(中央)では,現状,既設排水ポンプ(その位置は別紙34の18番であり,新干拓地(中央)には1か所ある。
)により,新干拓地排水
路から調整池への排水を行っている(具体的な排水方法は前記前提事実ア
のとおり。。しかし,ケース3-2開門がなされれば,本件締切り前)

と同様,有明海から運ばれるガタ土が樋門・樋管の調整池への排水口付近に堆積して排水を阻害し,排水不良が起こる高度の蓋然性がある。ウ
調整池の水の内部堤防越波
ケース3-2開門がなされれば,100年大雨があった場合に,調整池の水位が上昇し,調整池の水が内部堤防を越えて新干拓地(中央)に浸入する高度の蓋然性がある。

4
新干拓地(中央)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ④(塩害・原告新干拓地農業者ら共通)
(被告の主張)
原告新干拓地(中央)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らの主張は否認する。

内部堤防の基礎部を通じて浸入する調整池の水の増加について
ケース3-2開門がなされても,調整池から内部堤防の基礎部を通じ新干拓地排水路に浸入する水の量が増加する高度の蓋然性があるということはできない。


ガタ土堆積による排水不良について
新干拓地(中央)では,既設排水ポンプにより,新干拓地排水路から調整池への排水を行っているため,樋門・樋管の調整池への排水口付近にガタ土が堆積したとしても,排水不良は起こらない。


調整池の水の内部堤防越波について
ケース3-2開門は5年間の開門をするものであるから,その開門期間中に100年大雨がある可能性は低く,ケース3-2開門がなされても,開門期間中に100年大雨があることにより調整池の水位が上昇し,調整池の水が内部堤防を越えて新干拓地(中央)に浸入する高度の蓋然性があるということはできない。
妨害のおそれ④(塩害・原告新干拓地農業者ら共通)

事前対策が実施されない場合の妨害のおそれ

(原告新干拓地農業者らの主張)
新干拓地についての塩害
原告新干拓地農業者らは,その賃借に係る新干拓地において農業を営むところ,現状では,調整池が淡水であるため,塩害がなかった。しかし,ケース3-2開門がなされれば,調整池が塩水化し,次の機序による作土層における塩化物イオン濃度の上昇要因が競合することによって,新干拓地における上記農業につき塩害が発生する高度の蓋然性があり,
第2

争点

(ケース3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
上記賃借権に基づく使用収益につき妨害のおそれがある。

毛管現象による塩分上昇
心土層には,
現状でも,
塩化物イオン濃度の高い地下水が存在する。
新干拓地において,現状では,農業用水が不足しておらず,かんがいによる洗い流しがなされているが(そのため,毛管現象により,塩害が発生することはない。,ケース3-2開門により農業用水が不足)
することから,かんがいによる洗い流しができず,塩化物イオン濃度の高い心土層の地下水が毛管現象により上昇し,作土層の塩化物イオン濃度が上昇する。


毛管現象により上昇する塩分の増加
新干拓地排水路の塩水化
新干拓地において,現状では,調整池が淡水であるため,新干拓
地排水路も淡水である(調整池及び新干拓地排水路の状況は,新干拓地(中央)について別紙24及び38,新干拓地(小江)について別紙25及び40記載のとおり。。しかし,ケース3-2開門が)
なされれば,塩水化した調整池から,内部堤防及びその基礎部を通して新干拓地排水路に塩水が浸入し
(別紙62)新干拓地排水路の

水が塩水化する。
心土層の土壌の塩化物イオン濃度が高くなること
新干拓地排水路の塩水は,降雨時に,新干拓地排水路の側壁土壌
を通じ,心土層へ浸入する。また,新干拓地排水路の塩水は,降雨時に,暗渠管に浸入し,その後,暗渠管を通じ,心土層へ浸入する(別紙57-2頁)

さらに,調整池の塩水は,内部堤防下部(基礎部よりさらに下方
に存在する15mから25mの厚さで堆積する有明粘土層。以下同じ。
)を通じ,心土層へ浸入する。

4
新干拓地(中央)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ④(塩害・原告新干拓地農業者ら共通)
そうすると,現状でも塩化物イオン濃度が高い心土層の土壌(土
粒子及び土壌間隙水)の塩化物イオン濃度は,さらに高くなる。
心土層から作土層へ毛管現象により上昇する塩分の増加
心土層の土壌間隙水は,毛管現象により心土層から作土層へ上昇
するところ,心土層の土粒子に含まれる塩分は,上記土壌間隙水とともに,心土層から作土層へ上昇する。
前記

のとおり心土層の土壌(土粒子及び土壌間隙水)の塩化物

イオン濃度が現状より高くなれば,毛管現象により心土層から作土層へ上昇する塩分の量が現状より増加し,作土層の塩化物イオン濃度が上昇する。

大雨時における地下水位の上昇による塩分上昇
新干拓地排水路の塩水化
前記b

のとおり,ケース3-2開門がなされれば,塩水化した

調整池から内部堤防及びその基礎部を通して新干拓地排水路に塩
水が浸入し,新干拓地排水路の水が塩水化する。
大雨時における地下水位の上昇
大雨時には,上記土壌間隙水の地下水位が,雨水の心土層への浸
入や心土層に存在する地下水と新干拓地排水路との水位差によっ
て生じる圧力により心土層から暗渠管
(別紙38,別紙57-2頁)
まで上昇し,
さらに暗渠管の上にある作土層まで上昇する。
(別紙6
2,別紙63)
新干拓地排水路から暗渠管への塩水の浸入による土壌間隙水の塩
分の増加
上記

のとおり心土層から暗渠管まで上昇した土壌間隙水(心土

層の土壌〈土粒子及び土壌間隙水〉は,現状でも塩化物イオン濃度が高い。は,

大雨による新干拓地排水路の水位の上昇に伴って同排

第2

争点

(ケース3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
水路から暗渠管に浸入してきた新干拓地排水路の水と混合する。現状では新干拓地排水路から浸入してきた淡水と混合するが,ケース3-2開門がなされれば,新干拓地排水路から浸入してきた塩水と混合することになる。そうすると,暗渠管まで上昇した土壌間隙水(新干拓地排水路から浸入した水と混合したもの)の塩化物イオン濃度は,現状より高くなる。
大雨時における地下水位の上昇により上昇する塩分の増加
新干拓地排水路の塩水が暗渠管もしくは側壁土壌を通じて心土層
に浸入し,又は,調整池の塩水が内部堤防下部を通じて心土層に浸入し,心土層の土壌(土粒子及び土壌間隙水)の塩化物イオン濃度が現状より高くなれば,大雨時に地下水位が上昇することにより心土層から作土層へ運ばれる塩分の量が現状より増加し,作土層の塩化物イオン濃度が上昇する。なお,心土層の土粒子に含まれる塩分は,土壌間隙水とともに,心土層から作土層へ上昇する。

大雨時の新干拓地排水路のオーバーフローによる塩分の増加
大雨時,塩水化した新干拓地排水路の水位が上昇し,新干拓地排水路(別紙37)の塩水が直接農地にオーバーフローするため,作土層の塩化物イオン濃度が上昇する。


飛来塩分の増加
旧干拓地の場合と同様(前記前提事実


c)


ハウス栽培の塩害
新干拓地(中央)においては目録3-7番,12番の各原告,新干拓地(小江)においては目録3-18番の原告が,その賃借に係る新干拓地において,ハウス栽培の農業を営むところ,現状では,調整池が淡水であるため,
塩害がなかった。
しかし,
ケース3-2開門がなされれば,
前記

a(毛管現象による塩分上昇)のとおり,ハウス栽培の農業につ

4
新干拓地(中央)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ④(塩害・原告新干拓地農業者ら共通)
き塩害が発生する高度の蓋然性があり,上記賃借権に基づく使用収益につき妨害のおそれがある。すなわち,ハウス栽培の場合,降雨が遮断され土壌が乾燥しやすくなるため,毛管現象による塩分上昇の危険性が更に高くなる。
マグネシウム等による塩害
現状では,調整池が淡水であるため,マグネシウム等による塩害がなかったところ,前記



と同様の機序による作土層におけるマグネシ

ウム等の濃度の上昇要因が競合することによって,新干拓地における農業につき塩害が発生する高度の蓋然性があり,原告新干拓地農業者らの賃借権に基づく使用収益につき妨害のおそれがある。
(被告の主張)
新干拓地の塩害について
原告新干拓地農業者らの主張は否認する。

毛管現象による塩分上昇について
新干拓地(中央)では,暗渠管が深度80㎝という深い位置に設置されており,心土層(塩化物イオン濃度の高い土壌間隙水が存在する地層)はその暗渠管より深い位置に存在する。また,暗渠管から作土層(表層から40㎝までの深さにあるもの)までには,毛管力の比較的弱い疎水材(砕石・洗砂)の層(新干拓地の暗渠管から上記作土層までの疎水材の厚さは40㎝である。
)がある(別紙57-2頁)

したがって,心土層の土壌間隙水(塩化物イオン濃度が高いもの)が毛管現象により上記作土層まで上昇することはない。


毛管現象により上昇する塩分の増加及び大雨時における地下水位の上昇による塩分上昇(原告新干拓地農業者らの主張

b及びc)につ

いて
新干拓地は,末端排水路の水路底が幹線・支線排水路の水面より上
第2

争点

(ケース3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
部であるため(新干拓地(中央)につき別紙38,新干拓地(小江)につき別紙40)
,通常時は末端排水路にはほとんど水がない。また,
新干拓地(中央)の周辺地盤(側壁土壌を含む。別紙57-2頁)は,透水性が非常に低く,土壌中の水の移動が小さい有明粘土である。したがって,新干拓地排水路の水が塩水化したとしても,その塩水が側壁土壌を通じて,心土層に浸入することはない。
また,内部堤防下部の有明粘土層は,難透水性の地盤であるため,調整池の塩水が堤体下部を通過して浸出してくるには相当な長期間を要し,ケース3-2開門をする5年間で堤体下部から塩水が浸入する高度の蓋然性があるということはできない。
さらに,新干拓地(中央)のような多量の塩分を含む土壌(作土層及び心土層の土壌)では,交換態(土粒子)に吸着されるイオンは,既に飽和状態にあり,吸着イオンの総量に変化はなく,土粒子の塩化物イオン濃度は高くならない。

大雨時の新干拓地排水路のオーバーフローによる塩分の増加(原告新干拓地農業者らの主張d)について
大雨時に,新干拓地排水路から溢れて農地へ流出する水は,流出する時点で既に雨水による排水(淡水)により希釈されている上,農地は後背地からの雨水の流出等によって既に湛水し,新干拓地排水路から流出した水はより一層希釈されることになるため,塩害発生につながるような塩化物イオン濃度の上昇は生じない。
ハウス栽培の塩害について
原告新干拓地農業者らの主張は否認する。
ハウス栽培の農業についても塩害が発生する高度の蓋然性があるとい
うことはできない。
マグネシウム等による塩害について

5
新干拓地(小江)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)

原告新干拓地農業者らの主張は否認する。
ケース3-2開門がなされても,マグネシウム等による塩害が発生する高度の蓋然性があるということはできない。

事前対策の内容・効果・蓋然性

(被告の主張)
被告は,事前に,以下の対策を実施する蓋然性が高い。被告が事前対策を実施することにより,妨害のおそれ④(塩害)はなくなる。土壌等の塩化物イオン濃度の観測
旧干拓地(諫早)の場合と同様(前記2













塩害防止のための散水
旧干拓地(諫早)の場合と同様(前記2
散水用の水の確保
旧干拓地(諫早)の場合と同様(前記2
ハウス栽培の塩害に対する対策
旧干拓地(吾妻)の場合と同様(前記3

イ)
,土壌塩化物イオン濃度

の予測と塩害防止のための散水を行う。
(原告新干拓地農業者らの主張)
被告の主張は否認する。
被告が上記事前対策を実施する蓋然性が高いということはできない。仮に,被告が上記事前対策を実施したとしても,妨害のおそれ④(塩害)はなくならない。
5
新干拓地(小江)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)
旧干拓地(諫早)の当事者双方の主張と同じ
妨害のおそれ②(潮風害)
旧干拓地(諫早)の当事者双方の主張と同じ

第2

争点

(ケース3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)

事前対策が実施されない場合の妨害のおそれ(ガタ土堆積による排水不良)

(原告新干拓地(小江)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らの主張)
原告新干拓地(小江)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らは,その賃借に係る新干拓地(小江)において農業を営むところ,新干拓地(小江)では,現状,農業用水及び雨水等を主ゲート付き樋門・樋管2か所(その位置は別紙33の45番及び47番)により新干拓地排水路から調整池へ排水しているが(具体的な排水方法は前記前提事実

アの
とおり。,ケース3-2開門がなされれば,本件締切り前と同様,有明海)
から運ばれるガタ土が樋門・樋管の調整池への排水口付近に堆積して排水を阻害し,排水不良が起こる高度の蓋然性がある。これによって,10年大雨があった場合に,湛水被害の程度(範囲・湛水深)が,現状より大きくなるという湛水被害が発生する高度の蓋然性があり,賃借権に基づく上記使用収益につき妨害のおそれがある。
(被告の主張)
原告新干拓地(小江)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らの主張は否認する。
新干拓地(小江)の樋門・樋管の敷高は,ケース3-2開門の管理水位より高いため,ガタ土が樋門・樋管の調整池への排水口付近に堆積して,排水不良が起こる高度の蓋然性があるということはできない。
ケース3-2開門は,調整池の管理水位が現状と変わらないのであるから,ケース3-2開門をすることが湛水被害を発生させる原因となるものではない。したがって,10年大雨があった場合において,ケース3-2開門をしたことに起因して現状より湛水被害の程度(範囲・湛水深)が大
6
新干拓地の所有権の行使についての妨害のおそれ(原告県公社の請求関係)妨害のおそれ④(塩害)

きくなる高度の蓋然性があるということはできない。

事前対策(ガタ土除去)の内容・効果・蓋然性
旧干拓地(諫早)の当事者双方の主張と同じ
妨害のおそれ④(塩害)
以下の主張を付加するほかは,新干拓地(中央)の当事者双方の主張に同

(被告の主張)
新干拓地(小江)の主ゲート付き樋門・樋管2か所(その位置は別紙33の45番及び47番)の敷高は,いずれも標高(-)0.8mであり,ケース3-2開門の最高水位
(管理水位の範囲における最高水位)
である標高
(-)
1.0mより高いため,調整池の塩水が樋門・樋管を通じて新干拓地排水路へ浸入するおそれはない。
6
新干拓地の所有権の行使についての妨害のおそれ(原告県公社の請求関係)
(原告県公社の主張)
原告県公社は,別紙13新干拓地土地目録記載の新干拓地を所有し,その一部である新干拓地(賃貸部分)を原告新干拓地農業者ら等に対して賃貸し賃料収入を得ているところ,前記4及び5のとおり,ケース3-2開門がなされれば,原告新干拓地農業者ら等が新干拓地(賃貸部分)において営む農業につき,農業用水の水源喪失,潮風害,大雨時の湛水被害及び塩害が発生する高度の蓋然性がある。これらにより新干拓地(賃貸部分)は,農地として利用することができなくなる高度の蓋然性がある。そうすると,原告県公社は,上記賃貸に係る賃料収入を失う高度の蓋然性があり,新干拓地(賃貸部分)の所有権に基づく賃料収受につき妨害のおそれがある。
(被告の主張)
原告県公社の主張は否認する。
前記4及び5のとおり,ケース3-2開門をしても,原告新干拓地農業者ら
第2

争点

(ケース3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
等が新干拓地(賃貸部分)において営む農業につき,大雨時の湛水被害及び塩害が発生する高度の蓋然性があるということはできない,又は,事前対策を実施することによって,農業用水の水源喪失,潮風害,大雨時の湛水被害及び塩害が発生する高度の蓋然性はなくなる。
したがって,
原告県公社の新干拓地
(賃
貸部分)の所有権に基づく賃料収受につき妨害のおそれがあるということはできない。
7
原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
漁業行使権に基づく妨害予防請求としての侵害行為の差止めの可否(原告漁業者らの主張)
原告漁業者らは,前記前提事実


のとおり,漁業行使権を有するとこ

ろ,漁業協同組合の組合員が有する漁業行使権は,物権的性格を有する権利であるから,漁業行使権を有する者は,第三者がその権利行使の円満な状態を侵害するおそれがあるときは,その第三者に対し,漁業行使権に基づき,将来生ずるおそれのある侵害を予防するため,侵害行為の差止めを求めることができる。
(被告の主張)
原告漁業者らの主張は争う。
漁業行使権は物権的性格を有しないから,漁業行使権に基づく妨害予防請求として侵害行為の差止めを求めることはできない。
妨害のおそれ①(赤潮による漁業被害)

事前対策が実施されない場合の妨害のおそれ

(原告漁業者らの主張)
原告漁業者の漁業行使権に基づく漁業
原告漁業者ら(別紙66の番号欄及び氏名欄記載の各原告)
は,前記前提事実


の漁業行使権のうち,別紙66の区画漁業

欄又は共同漁業欄記載の漁業行使権に基づき,別紙66の魚種

7
原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ①(赤潮による漁業被害)

欄記載の魚種に係る漁業を(スズキ,カニ〈ガザミ〉
,イイダコについて
は,別紙66の漁法欄記載の漁法で)諫早湾内において行っている(上記の区画漁業及び共同漁業に係る区域の位置は別紙17,別紙29及び別紙18記載のとおり。。

赤潮による漁業被害が発生する蓋然性
現状では,淡水である調整池において,淡水性の動植物プランクトンが高密度に発生し,これが諫早湾に流出することがあったとしても,海水である諫早湾では淡水性動植物プランクトンは死滅するため,諫早湾において,赤潮(海水性動植物プランクトンなどが高密度に発生すること。以下同じ。
)による漁業被害は発生していない。
しかし,ケース3-2開門がなされれば,調整池が塩水化し,調整池内において,海水性動植物プランクトンが増大し,赤潮が発生する。その赤潮が,潮流に乗って調整池から諫早湾に流出し,これによって,諫早湾内における前記

の漁業につき漁業被害が発生する高度の蓋然性が

あり,上記漁業行使権に基づく漁業につき妨害のおそれがある。
(被告の主張)
原告漁業者らの主張は否認する。
ケース3-2開門がなされても,
調整池内で赤潮が発生し,
その赤潮が,
諫早湾に流出することにより,諫早湾内における漁業につき,漁業被害が発生する高度の蓋然性があるということはできない。

事前対策の内容・効果・蓋然性

(被告の主張)
被告は,事前に,以下の対策を実施する蓋然性が高い。被告が事前対策を実施することにより,妨害のおそれ①(赤潮による漁業被害)はなくなる。
漁場の監視

第2

争点

(ケース3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
海域の環境監視として,調整池及び諫早湾を対象に,水質,底質,底生生物等を調査する。
微細気泡や高濃度酸素水供給装置の稼働
前記水質調査の中でクロロフィルa濃度を監視し,
諫早湾において
(調
整池を除く。,赤潮の増加が見込まれる時には,貧酸素対策として,微)
細気泡を海中供給する装置や高濃度酸素水を海中供給する装置を稼働する。
(原告漁業者らの主張)
被告の主張は否認する。
被告が上記事前対策を実施する蓋然性が高いということはできない。仮に,被告が上記事前対策を実施したとしても,妨害のおそれ①(赤潮による漁業被害)はなくならない。
妨害のおそれ②(魚介類へい死による漁業被害及び風評被害)ア
事前対策が実施されない場合の妨害のおそれ

(原告漁業者らの主張)
原告漁業者の漁業行使権に基づく漁業及び魚介類のへい死
原告漁業者ら(別紙66の番号欄及び氏名欄記載の各原告)
は,同別紙の区画漁業欄又は共同漁業欄記載の漁業行使権に基
づき,別紙66の魚種欄記載の魚種に係る漁業を諫早湾内において行っている。
現状では,淡水である調整池内には,多くのフナやコイ等の淡水性魚介類が生息しており,諫早湾内にはボラ,コノシロ等の魚介類が生息するところ,ケース3-2開門がなされれば,調整池が塩水化し,これによって,調整池内の淡水性魚介類がへい死し,さらに,諫早湾内に生息する上記魚介類がへい死する。
魚介類へい死による漁業被害

7原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ②(魚介類へい死による漁業被害及び風評被害)
上記へい死した魚介類が腐敗し諫早湾の海底にたまることにより漁場環境が悪化し,これによって,諫早湾内における上記漁業につき漁業被害が発生する高度の蓋然性があり,同漁業につき妨害のおそれがある。魚介類へい死による風評被害
前記

のへい死した魚介類の大量発生によって,消費者が,諫早湾の

魚介類全般にわたって安全性について不安を感じ,購買を差し控えるという風評被害が発生する高度の蓋然性があり,前記

の漁業行使権に基

づく漁業につき妨害のおそれがある。
(被告の主張)
原告漁業者らの主張は否認する。
調整池の塩水化により淡水性魚介類がへい死することは認めるが,へい死した淡水性魚介類が諫早湾に流出したからといって,原告漁業者らに漁業被害が生ずる高度の蓋然性があるということはできない。
また,淡水性魚介類がへい死する原因が調整池の塩水化に伴うものであることは明らかであるから,風評被害が生じる高度の蓋然性があるということはできない。

事前対策の内容・効果・蓋然性

(被告の主張)
被告は,事前に,以下の対策を実施する蓋然性が高い。被告が事前対策を実施することにより,妨害のおそれ②(魚介類へい死による漁業被害及び風評被害)はなくなる。
淡水魚を保護するための対策

移動経路の確保
土のうの設置や石積みを行い,農業用排水路の流末や河川との落差を解消し,淡水性生物の調整池から他の水域への移動経路を設ける。

淡水池の設置

第2

争点

(ケース3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
干陸地等の環境を活用して,調整池及びその付近に淡水池(調整池内の淡水性生物を移動するためのもの)を設置する。

淡水魚の捕獲・淡水池への移動
調整池内の淡水魚がへい死することを防ぐため,地元漁業者の協力を得て,事前に淡水魚を捕獲し,淡水池へ移動する。
へい死した魚介類の回収
開門初期から数か月間は,調整池及び諫早湾を対象に毎日,数隻の船
で監視・回収を実施する。その後は,へい死魚等が確認された場合の連絡体制を整備した上で,1~2週間に1回の頻度で調整池及び諫早湾内を監視し,へい死魚等が確認された場合には回収する。さらに,出水時(河川からの流量が多いとき)には,調整池の塩分濃度の低下により海水性の魚類等がへい死する可能性もあることから,一定の期間,毎日,監視し,へい死魚等が確認された場合は回収する。
(原告漁業者らの主張)
被告の主張は否認する。
被告が上記事前対策を実施する蓋然性が高いということはできない。仮に,被告が上記事前対策を実施したとしても,妨害のおそれ②(魚介類へい死による漁業被害及び風評被害)はなくならない。
妨害のおそれ③(アサリ養殖)

事前対策が実施されない場合の妨害のおそれ

(原告漁業者らの主張)
原告漁業者らのうち目録4-1番~27番,37番~43番,45番の各原告は,前記前提事実


の漁業行使権のうち,別紙66の区画漁業欄記載の漁業行使権に基づき,アサリ養殖の漁業を諫早湾内において行っている
(上記区画漁業に係る区域の位置は別紙17記載のとおり。と

ころ,ケース3-2開門がなされれば,諫早湾内における上記漁業につき
7
原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ③(アサリ養殖)

漁業被害が発生する高度の蓋然性があり,上記の漁業行使権に基づく漁業につき妨害のおそれがある。
(被告の主張)
原告漁業者らの主張は否認する。
ケース3-2開門がなされても,アサリ養殖の漁業につき漁業被害が発生する高度の蓋然性があるということはできない。

事前対策の内容・効果・蓋然性

(被告の主張)
被告は,事前に,以下の対策を実施する蓋然性が高い。被告が事前対策を実施することにより,妨害のおそれ③(アサリ養殖)はなくなる。汚濁防止膜の設置
汚濁防止膜を諫早湾の本件各排水門付近及びカキ筏等の周辺(その位置は別紙67の汚濁防止膜設置位置イメージ部分記載のとおり。
)に
設置する。
汚濁防止膜による栄養塩類の供給阻害の防止
アサリ養殖場周辺への汚濁防止膜の設置について,汚濁防止膜設置によりアサリへの栄養塩類の供給が阻害されることがないよう,漁業者と協議して,設置方法や設置場所を検討する。
漁場の監視
海域環境の監視として,調整池及び諫早湾を対象に,水質,底質,底生生物等を定期的に調査する。
海底清掃の実施
前記

の漁場監視の結果を踏まえ,底質悪化を防止するための海底清

掃を実施する。
アサリ漁場の耕耘や作澪
前記

の漁場監視の結果を踏まえ,浮泥の堆積を抑制するため,アサ

第2

争点

(ケース3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
リ漁場の海底耕耘
(二枚貝,
クルマエビなどの潜砂性の水産生物の漁場,
養殖場の底質環境の改善などを目的に,浅海底や干潟を耕すこと)や作澪(平坦な海底では澪〈海域等の底部が流れなどによって浸食され,細長い溝状を呈している部分〉の存在によって海水の交換がよくなり,環境が改善することから,養殖場などの水質環境,底質環境の改善を目的として,人工的に澪を作ること)を実施する。
ゴミの監視及び回収
調整池及び諫早湾内を数隻の船で巡回監視し,事前にゴミの回収を行う。
(原告漁業者らの主張)
被告の主張は否認する。
被告が上記事前対策を実施する蓋然性が高いということはできない。仮に,被告が上記事前対策を実施したとしても,妨害のおそれ③(アサリ養殖)はなくならない。
妨害のおそれ④(カキ養殖)

事前対策が実施されない場合の妨害のおそれ

(原告漁業者らの主張)
原告漁業者らのうち目録4-1番,2番,4番~6番,8番~11番,13番,14番,16番~18番,20番,21番,25番の各原告は,前記前提事実


の漁業行使権のうち,別紙66の区画漁業欄記載

の漁業行使権に基づき,
カキ養殖の漁業を諫早湾内において行っている
(上
記区画漁業に係る区域の位置は別紙17記載のとおり。ところ,

ケース3
-2開門がなされれば,諫早湾内における上記漁業につき漁業被害が発生する高度の蓋然性があり,上記の漁業行使権に基づく漁業につき妨害のおそれがある。
(被告の主張)

7
原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ⑤(ノリ養殖)

原告らの主張は否認する。
ケース3-2開門がなされても,カキ養殖の漁業につき漁業被害が発生する高度の蓋然性があるということはできない。

事前対策の内容・効果・蓋然性

(被告の主張)
被告は,事前に,以下の対策を実施する蓋然性が高い。被告が事前対策を実施することにより,妨害のおそれ④(カキ養殖)はなくなる。汚濁防止膜の設置
アサリ養殖の場合と同様(前記





汚濁防止膜による栄養塩類の供給阻害の防止
アサリ養殖の場合と同様(前記


。ただし,
アサリをカキ









に読み替える。。

漁場の監視
アサリ養殖の場合と同様(前記
ゴミの監視及び回収
アサリ養殖の場合と同様(前記
(原告漁業者らの主張)
被告の主張は否認する。
被告が上記事前対策を実施する蓋然性が高いということはできない。仮に,
被告が上記事前対策を実施したとしても,
妨害のおそれ④
(カキ養殖)
はなくならない。
妨害のおそれ⑤(ノリ養殖)

事前対策が実施されない場合の妨害のおそれ

(原告漁業者らの主張)
原告漁業者らのうち目録4-28番,33番の各原告は,前記前提事実ア
の漁業行使権のうち,別紙66の区画漁業欄記載の漁業行使権

第2

争点

(ケース3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
に基づき,ノリ養殖の漁業を諫早湾内において行っている(上記区画漁業に係る区域の位置は別紙29記載のとおり。ところ,

ケース3-2開門が
なされれば,諫早湾内における上記漁業につき漁業被害が発生する高度の蓋然性があり,
上記の漁業行使権に基づく漁業につき妨害のおそれがある。
(被告の主張)
原告漁業者らの主張は否認する。
ケース3-2開門がなされても,ノリ養殖の漁業につき漁業被害が発生する高度の蓋然性があるということはできない。

事前対策の内容・効果・蓋然性

(被告の主張)
被告は,事前に,以下の対策を実施する蓋然性が高い。被告が事前対策を実施することにより,妨害のおそれ⑤(ノリ養殖)はなくなる。汚濁防止膜の設置
アサリ養殖の場合と同様(前記













漁場の監視
アサリ養殖の場合と同様(前記
ゴミの監視及び回収
アサリ養殖の場合と同様(前記
(原告漁業者らの主張)
被告の主張は否認する。
被告が上記事前対策を実施する蓋然性が高いということはできない。仮に,
被告が上記事前対策を実施したとしても,
妨害のおそれ⑤
(ノリ養殖)
はなくならない。
妨害のおそれ⑥(その他の魚介類の漁業)

事前対策が実施されない場合の妨害のおそれ

(原告漁業者らの主張)

7
原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ⑥(その他の魚介類の漁業)

原告漁業者らのうち目録4-29番の原告は,前記前提事実

アの
漁業行使権のうち,南共第1号における第2種共同漁業権の漁業行使権(別紙16記載の№1欄)に基づき,雑魚底刺網漁業として,底刺網漁業
(固定式底刺し網漁業。
網を固定して魚介類を漁獲する漁法)
により,
スズキの漁業を諫早湾内において行っている(南共第1号に係る区域の位置は別紙18記載のとおり。
)ところ(別紙66)
,ケース3-2開門
がなされれば,諫早湾内における上記漁業につき漁業被害が発生する高度の蓋然性があり,上記の漁業行使権に基づく漁業につき妨害のおそれがある。
原告漁業者らのうち目録4-5番,29番~31番及び33番の各原告は,前記前提事実


の漁業行使権のうち,南共第1号における第

2種共同漁業権の漁業行使権(別紙16記載の№1欄)に基づき,雑魚底刺網漁業として,底刺網漁業(固定式底刺し網漁業)により,カニ(ガザミ)の漁業を諫早湾内において行っている(南共第1号に係る区域の位置は別紙18記載のとおり。
)ところ(別紙66)
,ケース3-2開門
がなされれば,諫早湾内における上記漁業につき漁業被害が発生する高度の蓋然性があり,上記の漁業行使権に基づく漁業につき妨害のおそれがある。
原告漁業者らのうち目録4-31番,36番の各原告は,前記前提事実ア
の漁業行使権のうち,南共第1号における第1種共同漁業権の

漁業行使権(別紙16記載の№1欄)に基づき,たこ漁業として,イイダコ漁
(たこ縄
〈貝殻を海底に設置して魚介類を漁獲する漁法〉により,

イイダコの漁業を諫早湾内において行っている(南共第1号に係る区域の位置は別紙18記載のとおり。
)ところ(別紙66)
,ケース3-2開
門がなされれば,諫早湾内における上記漁業につき漁業被害が発生する高度の蓋然性があり,上記の漁業行使権に基づく漁業につき妨害のおそ
第2

争点

(ケース3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
れがある。
(被告の主張)
原告漁業者らの主張は否認する。
ケース3-2開門がなされても,諫早湾内におけるスズキ,カニ(ガザミ)及びイイダコの漁業につき漁業被害が発生する高度の蓋然性があるということはできない。

事前対策の内容・効果・蓋然性

(被告の主張)
被告は,事前に,以下の対策を実施する蓋然性が高い。被告が上記事前対策を実施することにより,妨害のおそれ⑥(その他の魚介類の漁業)はなくなる。
汚濁防止膜の設置
アサリ養殖の場合と同様(前記













漁場の監視
アサリ養殖の場合と同様(前記
海底清掃の実施
アサリ養殖の場合と同様(前記
(原告漁業者らの主張)
被告の主張は否認する。
被告が上記事前対策を実施する蓋然性が高いということはできない。仮に,
被告が上記事前対策を実施したとしても,妨害のおそれ⑥(その他の魚介類の漁業)はなくならない。
8
原告住民の人格権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ①(大雨時の湛水による生活妨害)

事前対策が実施されない場合の妨害のおそれ

(原告住民らの主張)

8原告住民の人格権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ①(大雨時の湛水による生活妨害)

原告住民らは,本件後背地に居住しているところ,ケース3-2開門がなされれば,次の機序による排水不良が競合することによって,10年大雨があった場合に,現状より,湛水被害の程度(範囲・湛水深)が大きくなり,上記居住地が湛水する被害を受ける高度の蓋然性があり,平穏に日常生活を営むという人格的利益が侵害される被害(生活妨害)を受ける高度の蓋然性がある。
樋門・樋管の閉門による排水不良
本件後背地では,現状,生活用水及び雨水等を主ゲート付き樋門・樋管16か所(その位置は別紙33の20番~35番)により後背地排水路から調整池等へ排水しているところ(具体的な排水方法は前記前提事実ア
のとおり。無降雨時には,樋門・樋管の主ゲートを開き,自然排

水を行っているものである。,ケース3-2開門がなされれば,調整池)
等が塩水化するから,被告は,調整池等から後背地排水路への塩水浸入を防止するため,無降雨時には,その敷高が標高(-)1.0m(調整池の管理水位の最高水位)より低い樋門・樋管7か所(その位置は別紙51の25番~31番)の主ゲートを閉門する(前記前提事実

イ)こ

ととしている。そうすると,無降雨時に後背地排水路の水位が現状より高くなり,これにより排水不良が起こり,水位が急激に上昇する10年大雨時には湛水被害が生じ易くなり,また,その範囲が拡大する。ガタ土堆積による排水不良
本件後背地では,現状,生活用水及び雨水等を上記

の樋門・樋管に

より後背地排水路から調整池等へ排水しているところ,ケース3-2開門がなされれば,ガタ土堆積による排水不良が起こることは,旧干拓地(諫早)の場合と同様(前記2


)である。

(被告の主張)
原告住民らの主張は否認する。ケース3-2開門がなされても,原告住
第2

争点

(ケース3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
民らが,10年大雨があった場合に,原告住民らの居住地が湛水する被害を受ける高度の蓋然性があるということはできない。
樋門・樋管の閉門による排水不良について
被告は,
ケース3-2開門をした場合,
無降雨時には,
敷高が標高
(-)
1.0m(調整池の管理水位の最高水位)より低い樋門・樋管の主ゲートを閉門することとしている(別紙54)が,降雨時には,当該樋門・樋管ごとに調整池等の水位と後背地排水路の水位を比較し,調整池等の水位が後背地排水路の水位より低い場合に,上記樋門・樋管の主ゲートを開けて後背地排水路から調整池等への排水をし,調整池等の水位が後背地排水路の水位と同程度になった場合には,調整池等から後背地排水路への塩水の浸入を防止するために,主ゲートを閉門することとしている(本件後背地と同様の樋門・樋管の管理を行う旧干拓地(諫早)について記載した別紙52参照)つまり,

10年大雨があった場合において
も,現状と同様に,調整池等の水位が後背地排水路の水位より低い場合は,樋門・樋管の主ゲートを開けて後背地排水路から調整池等への排水をする(争いがない)

そうすると,ケース3-2開門をした場合,無降雨時に上記のとおり敷高の低い樋門・樋管の主ゲートを閉門することによって,降雨時に現状より排水できる水量が減少するということはできない。
したがって,排水不良が起こる高度の蓋然性があるということはできない。
ガタ土堆積による排水不良について
ケース3-2開門がなされても,それによってガタ土の堆積による排水不良が起こる高度の蓋然性があるということはできない。その余は,旧干拓地(諫早)と同様である(前記2

ア。ただし,
調整池を調整池等に,
潮遊池を後背地排水路に読み替える。以下,本件後

8原告住民の人格権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ②(飛来塩分による生活妨害及び健康被害)
背地につき旧干拓地(諫早)の場合と同様であるという場合における読替えについて同じ。。


事前対策の内容・効果・蓋然性

(被告の主張)
被告は,事前に,以下の対策を実施する蓋然性が高い。被告が事前対策を実施することにより,妨害のおそれ①(大雨時の湛水による生活妨害)はなくなる。
常時排水ポンプの設置
無降雨時に樋門・樋管の主ゲートを閉門することにより後背地排水路の水位が現状より高くなること
(それに起因して排水不良が起こること。
前記ア

)の防止を目的として,後背地排水路の水位を現状より30㎝

低くすることとし,そのため,起動水位を標高(-)1.3mに,停止水位を標高(-)1.8mに設定した後背地排水路から調整池等への排水をする常時排水ポンプを8台設置する。なお,ポンプの設置位置は別紙61-1頁の7番~10番である。
ガタ土除去
旧干拓地(諫早)の場合と同様(前記2





(原告住民らの主張)
被告の主張は否認する。
被告が上記事前対策を実施する蓋然性が高いということはできない。仮に,被告が上記事前対策を実施したとしても,妨害のおそれ①(大雨時の湛水による生活妨害)はなくならない。
妨害のおそれ②(飛来塩分による生活妨害及び健康被害)ア
事前対策が実施されない場合の妨害のおそれ
(飛来塩分による生活妨害)

(原告住民らの主張)
塩分の飛来

第2

争点

(ケース3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
現状では,調整池が淡水であり,原告住民らが居住している本件後背地は,諫早湾海域から一定の距離があったため(旧干拓地(諫早)及び新干拓地(中央)と海域との距離は別紙60記載のとおり。,塩分の飛)
来によって原告住民らが生活妨害を受けるおそれはなかった。
しかし,ケース3-2開門がなされれば,調整池が塩水化するため,季節風等の強風が長時間続く場合,海面の波高が高くなり,波が砕けて飛沫となって強風により塩分が運ばれ,その間に雨がないときに,塩分が本件後背地まで飛来する。そして,飛来塩分量は,海岸に近いほど指数的に大きくなる。
生活妨害の蓋然性
上記調整池からの塩分の飛来によって,本件後背地において,電力設備の絶縁不良,沿岸コンクリート構造物の劣化,アスファルト道路の劣化,鉄道,車,橋その他金属の腐食,湿気の増加や雨・霧の核の形成(これらを併せて,以下電力設備の絶縁不良等という。
)が発生する高度
の蓋然性がある。そして,本件後背地において,電力設備の絶縁不良等が発生すれば,原告住民らが平穏に日常生活を営むという人格的利益が侵害される被害(生活妨害)を受ける高度の蓋然性がある。
飛来塩分による健康被害の蓋然性
上記調整池からの塩分の飛来によって,本件後背地に居住している原告住民らに健康被害が生じる具体的危険がある。
(被告の主張)
原告住民らの主張は否認する。
ケース3-2開門がなされても,その開門がなされる5年間において,飛来塩分の増加によって,電力設備の絶縁不良等が発生する高度の蓋然性があるとはいえず,平穏に日常生活を営むという人格的利益が侵害される被害(生活妨害)を受ける高度の蓋然性があるということはできない。
8原告住民の人格権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ③(地盤沈下及び生活用井戸枯渇による生活妨害)
ケース3-2開門がなされても,その開門がなされる5年間において,飛来塩分の増加によって,原告住民らに健康被害が生じる具体的危険があるということはできない。

事前対策の内容・効果・蓋然性

(被告の主張)
被告は,事前対策として,飛来塩分が耐候性鋼材に付着することにより耐候性鋼材の機能(防錆機能)が損なわれないようにするため,有明川橋及び宮添高架橋の鋼橋及び有明川橋の下部工であるコンクリートについて,塗装を行う蓋然性が高い。
被告が上記事前対策を実施することにより,妨害のおそれ②(飛来塩分による生活妨害及び健康被害)はなくなる。
(原告住民らの主張)
被告の主張は否認する。
被告が上記事前対策を実施する蓋然性が高いということはできない。仮に,被告が上記事前対策を実施したとしても,妨害のおそれ②(飛来塩分による生活妨害及び健康被害)はなくならない。
妨害のおそれ③(地盤沈下及び生活用井戸枯渇による生活妨害)(原告住民らの主張)

地下水案を実施する蓋然性
ケース3-2開門がなされれば,被告は,農業用水を確保するための事前対策として,地下水案(前記2


イ)の対策を実施する蓋然性が高い。

地盤沈下による生活妨害
原告住民らは,本件後背地に居住しているところ,ケース3-2開門がなされ,上記地下水案の事前対策が実施されれば,大量の地下水取水がなされ,上記居住地域が地盤沈下する高度の蓋然性があり,平穏に日常生活を営むという人格的利益が侵害される被害(生活妨害)を受ける高度の蓋
第2

争点

(ケース3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
然性がある。

生活用井戸枯渇による生活妨害
原告住民らは,本件後背地において生活用井戸を利用して生活しているところ,ケース3-2開門がなされ,前記地下水案の事前対策が実施されれば,大量の地下水取水がなされ,これによって,原告住民らがその居住地において利用している生活用井戸が枯渇する高度の蓋然性があり,平穏に日常生活を営むという人格的利益が侵害される被害(生活妨害)を受ける高度の蓋然性がある。

(被告の主張)
原告らの主張は否認ないし争う。
前記地下水案の事前対策を実施しても,原告住民らの居住地域である本件後背地が地盤沈下する高度の蓋然性があるということはできないし,原告住民らがその居住地において利用している生活用井戸が枯渇する高度の蓋然性があるということもできない。
9
原告住民の環境権に基づく請求について
環境権に基づく妨害予防請求としての侵害行為差止めの可否
(原告住民らの主張)
原告住民らは,自らを取り巻く自然環境を支配し,良好な自然環境を享受する権利である環境権・自然享有権(自然享有権は,環境権と同義であり,環境権及び自然享有権を併せて,以下環境権という。
)を有しており,環
境権に基づく妨害予防請求として,
侵害行為の差止めを求めることができる。
(被告の主張)
環境権は,実体法上の根拠がなく,その概念,権利の内容,成立要件,法律効果等が不明確であるから,法的な権利ではない。したがって,環境権に基づく妨害予防請求として,侵害行為の差止めを求めることはできない。妨害のおそれ(自然環境の消滅)

9ア
原告住民の環境権に基づく請求について
妨害のおそれ(自然環境の消滅)

事前対策が実施されない場合の妨害のおそれ

(原告住民らの主張)
原告住民らは,現状では,次のとおり,本件後背地及びその周辺において,自然環境を享受しているところ,ケース3-2開門がなされれば,次のとおり,その自然環境が消滅する高度の蓋然性があり,環境権に基づく自然環境の享受につき妨害のおそれがある。
調整池内の淡水性魚介類の消滅
現状では,調整池が淡水であるため,調整池には,フナやコイなどの淡水性魚介類が生息しているところ,ケース3-2開門がなされれば,調整池が塩水化するため,上記淡水性魚介類がへい死し消滅する高度の蓋然性がある。
ヨシ群落の消滅
現状では,調整池が淡水であるため,調整池周辺において,ヨシ群落が存在しているところ,ケース3-2開門がなされれば,調整池が塩水化するため,上記ヨシ群落の一部が枯死し消滅することになり,干潮時には,裸地が露出する景観になる高度の蓋然性がある。
不知火橋周辺地区等における自然の消滅
現状では,調整池が淡水であるため,原告住民らは,本明川沿いの不知火橋周辺地区,
水辺環境の改善地域及び自然干陸地フラワーゾーン
(こ
れらを併せて,以下不知火橋周辺地区等という。その位置は別紙68記載のとおり。における自然環境を享受していたところ,ケース3-)
2開門がなされれば,調整池が塩水化するため,不知火橋周辺地区等の自然が消滅する高度の蓋然性がある。
水生動物・陸生植物・陸生動物の消滅
現状では,調整池が淡水であるため,調整池周辺に,別紙69記載の水生動物・陸生植物・陸生動物が生息しているところ,ケース3-2開
第2

争点

(ケース3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
門がなされれば,調整池が塩水化するため,調整池周辺に生息する上記水生動物・陸生植物・陸生動物が消滅する高度の蓋然性がある。
アサリの潮干狩りができる自然環境の消滅
原告住民らは,現状では,諫早湾において,アサリの潮干狩りを行うことができるところ,ケース3-2開門がなされれば,前記7

アのと

おり,アサリ養殖につき漁業被害が発生する高度の蓋然性があることから,諫早湾における潮干狩りができる自然環境が消滅する高度の蓋然性がある。
(被告の主張)
原告らの主張は否認し又は争う。
前記

のとおり,環境権は法的な権利といえず,環境権に基づく妨害予

防請求として,侵害行為の差止めを求めることはできない。

事前対策の内容・効果・蓋然性

(被告の主張)
被告は,事前に,以下の対策を実施する蓋然性が高い。被告が以下の事前対策を実施することにより,妨害のおそれ(自然環境の消滅)はなくなる。
淡水魚を保護するための対策
漁業行使権の場合と同じ(前記7




アサリの保護
漁業行使権の場合と同じ(前記7

イ)

(原告住民らの主張)
被告の主張は否認する。
被告が上記事前対策を実施する蓋然性が高いということはできない。仮に,被告が上記事前対策を実施したとしても,妨害のおそれ(自然環境の消滅)はなくならない。

10被侵害利益の性質と内容及び侵害の程度
旧干拓地の所有権,新干拓地の賃借権

被侵害利益の性質と内容及び侵害の程度
旧干拓地の所有権,新干拓地の賃借権
(原告農業者らの主張)
原告旧干拓地農業者ら(188名)は,旧干拓地内に農地を所有し,所有権に基づく使用収益として旧干拓地において農業を営み,原告新干拓地農業者ら(36名)は,新干拓地内の農地を原告県公社から賃借し,賃借権に基づく使用収益として新干拓地において農業を営み,これらの営農が原告農業者ら(原告旧干拓地農業者ら及び原告新干拓地農業者ら。合計224名)の生活の基盤となっている。
前記2ないし5のとおり,ケース3-2開門がなされれば,旧干拓地及び新干拓地における上記農業につき,農業用水の水源喪失,潮風害,大雨時の湛水被害及び塩害の被害が発生する高度の蓋然性(妨害のおそれ)があり,原告農業者らは,旧干拓地及び新干拓地において農業を行うことができなくなる高度の蓋然性がある。そして,上記のとおり農業を行うことができなくなれば,生活基盤を失い,その生活に重大な支障が生じることになる。(被告の主張)
原告らの主張は否認し又は争う。
前記2ないし5のとおり,ケース3-2開門をしても,妨害のおそれがあるということはできない,又は,事前対策を実施することによって,妨害のおそれはなくなる。
また,侵害行為とされるケース3-2開門は,本件各排水門を開門し,平成9年の本件締切り
(被告がこれを行ったものである。によって生じた便益

(防災効果・営農効果等)を一部失わせて本件締切り前の状態に復するものであり,本件締切り前の状態より悪化させるものではない。したがって,ケース3-2開門がなされた場合に原告農業者らが受ける被害は軽度であるから,侵害の程度は低い。

第2

争点

(ケース3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
新干拓地の所有権
(原告県公社の主張)
前記6のとおり,原告県公社は,新干拓地(賃貸部分)の農地を所有し,原告新干拓地農業者ら等に対してこれを賃貸し,
賃料収入を得ているところ,
ケース3-2開門がなされれば,原告新干拓地農業者ら等が新干拓地(賃貸部分)における農業を行うことができなくなるため,原告県公社は,原告新干拓地農業者ら等との間の上記賃貸借契約に基づく賃料収入を失う高度の蓋然性がある。
(被告の主張)
原告らの主張は否認し又は争う。
前記6のとおり,ケース3-2開門がなされても,妨害のおそれがあるということはできない,又は,事前対策を実施することによって,妨害のおそれはなくなる。
原告漁業者の漁業行使権
(原告漁業者らの主張)
原告漁業者ら(41名)は,漁業行使権に基づき,諫早湾内において漁業を営み,その漁業が原告漁業者らの生活の基盤となっているところ,前記7のとおり,ケース3-2開門がなされれば,諫早湾内における上記漁業につき相当大きな漁業被害及び風評被害が発生する高度の蓋然性
(妨害のおそれ)
があり,これにより,原告漁業者ら(41名)は,諫早湾内において漁業を行うことができなくなる高度の蓋然性がある。そして,上記のとおり漁業を行うことができなくなれば,生活基盤を失い,その生活に重大な支障が生じることになる。
(被告の主張)
原告らの主張は否認し又は争う。
前記7のとおり,ケース3-2開門がなされても,妨害のおそれがあると
10被侵害利益の性質と内容及び侵害の程度
原告住民の人格権

いうことはできない,又は,事前対策を実施することによって,妨害のおそれはなくなる。
ケース3-2開門により本件締切り前の状態に復するにとどまり,原告漁業者らが受ける被害は軽度であり,侵害の程度が低いことについては,前記と同様である。
原告住民の人格権
(原告住民らの主張)
前記8のとおり,原告住民ら(188名)は,本件後背地に居住しているところ,ケース3-2開門がなされれば,原告住民らの人格権に係る妨害のおそれがある。すなわち,原告住民らの上記居住地における生活につき,大雨時の湛水による生活妨害,飛来塩分による生活妨害及び地盤沈下等による生活妨害が発生する高度の蓋然性があり,また,原告住民らにつき,飛来塩分による健康被害が生じる具体的危険がある。上記妨害が発生すれば,平穏に日常生活を営むという人格的利益が侵害され,また,重大な保護法益である健康が侵害されることになる。
(被告の主張)
原告らの主張は否認し又は争う。
前記8のとおり,ケース3-2開門がなされても,妨害のおそれがあるということはできない,又は,事前対策を実施することによって,妨害のおそれはなくなる。
ケース3-2開門により本件締切り前の状態に復するにとどまり,原告住民らの受ける被害は軽度であり,侵害の程度が低いことについては,前記と同様である。
原告住民の環境権
(原告住民らの主張)
前記9のとおり,原告住民ら(188名)は,本件後背地及びその周辺に
第2

争点

(ケース3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
おいて,自然環境を享受しているところ,ケース3-2開門がなされれば,自然環境が消滅する高度の蓋然性があり,環境権に基づく自然環境の享受につき妨害のおそれがあり,上記の自然環境の享受という利益は,原告住民らの生活に関わるものであり,原告住民らの生活に重大な悪影響を及ぼすものということができる。
(被告の主張)
原告らの主張は否認し又は争う。
前記9

のとおり,原告住民らは,環境権に基づく妨害予防請求として,

侵害行為の差止めを求めることはできない。
侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容及び程度

(被告の主張)
諫早湾及び有明海の漁場環境が改善する可能性
ケース3-2開門がなされれば,諫早湾及び有明海の漁場環境が改善する可能性がある(アセス評価書(補正版)の予測に照らせば,このようにいうことができる。。

開門調査を実施し調査結果を公表することの公共性ないし公益上の必要性
①前記前提事実

のとおり,
諫早湾及び有明海の漁業者らは,
被告に対し,

本件各排水門の開門を求める訴えを提起し,一方,旧干拓地や新干拓地の農業者ら,諫早湾内の漁業者ら及び諫早湾付近の住民らである原告らは,被告に対し,本件各排水門の開門をしないこと(本件開門の差止め)を求める訴えを提起しており,諫早湾及び有明海の漁業者ら,旧干拓地及び新干拓地の農業者ら,諫早湾付近の住民らの間で,本件各排水門の開門を巡って対立状況にあり,
その対立状況を解消する必要がある,
②前記前提事実

のとおり,

昭和60年から平成18年までの間,諫早湾及び有明海において,長期的な漁獲量減少があったことから,諫早湾及び有明海の漁業者らの一部の者は,
12違法性の判断に当たり考慮すべきその他の要素
事後対策

被告(九州農政局)に対し,漁獲量減少の原因究明及び漁場環境改善策を求めている,そして,前記前提事実

のとおり,有明海における漁業生産の不

振等に関する調査がなされたが,上記調査は,漁獲量減少の原因や本件事業と諫早湾及び有明海の漁場環境の変化との関連性を明らかにすることができなかった。以上からすれば,開門調査(本件各排水門を開門して行う海域環境の調査)
を実施し,
その調査結果を公表する必要性がある
(この点につき,
佐賀地方裁判所及び福岡高等裁判所は,前訴において,判決で命じた開門につき,
その開門期間中の海域環境の調査の必要性を示す司法判断をしており,ケース3-2開門による開門調査を実施し,その調査結果を公表する必要性があることは,明らかである。,③前記前提事実


のとおり,佐賀地方裁判

所及び福岡高等裁判所が,
前訴において,
3年の猶予期間が経過するまでに本件各排水門を開放すること及び開放以後,5年間にわたって上記開放を継続することを命ずる司法判断をしたことに鑑みれば,被告の責任と費用において3年間の猶予期間内に十分な被害防止対策を行った上で,ケース3-2開門をし,5年間にわたり詳細に海域環境の調査を実施して調査結果を公表することは,公共性ないし公益上の必要性が極めて高い。
(原告らの主張)
被告の主張は否認し又は争う。
ケース3-2開門を行ったとしても,有明海全体に影響はなく,漁業回復につながることはない。したがって,諫早湾及び有明海の海域環境調査を実施する公益上の必要性は極めて低い。
違法性の判断に当たり考慮すべきその他の要素
事後対策
(被告の主張)

被告は,ケース3-2開門後においても,原告らに被害が生じないように,具体的な状況に応じて柔軟かつ適切な対策を実施することとしており
第2

争点

(ケース3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
(以下事後対策という。,これを実施する蓋然性が高い。


被告が上記アの事後対策を実施することにより,前記2ないし9の妨害のおそれは,事後的に(事後対策を行った時以後は)なくなる。

(原告らの主張)
被告の主張は否認する。
被告が事後対策を実施する蓋然性が高いということはできない。仮に,被告が事後対策を実施したとしても,前記2ないし9の妨害のおそれは事後的にもなくならない。
補償
(被告の主張)
原告らの被侵害利益は,原告住民らの人格権を除き,事後の金銭賠償・補償により回復することが容易な性質のものである。
被告は,前記2ないし9の事前対策及び前記

の事後対策を行った上で,

万が一,原告らにケース3-2開門と相当因果関係がある被害が生じた場合には,上記原告らに対し,上記被害による損害を補填する補償を行うこととしており,これを実施する蓋然性が高い。
(原告らの主張)
被告の主張は否認する。
ケース3-2開門により侵害される原告らの被侵害利益は,事後的な金銭賠償・補償では回復することができないものである。
また,被告は,ケース3-2開門と相当因果関係がある被害に対して補償を行うとしているところ,ケース3-2開門とその被害の因果関係の立証は困難であるので,適切な補償がなされるとは限らない。
被告の背信性
(原告らの主張)
被告は,
次のとおり,
原告らとの関係で背信性のある行為をした。
そして,

12違法性の判断に当たり考慮すべきその他の要素
被告の背信性

上記行為により,被告に対して本件各排水門を開放することを命ずる前訴判決がなされ,それが確定した。

前訴は,前記前提事実

のとおり,前訴原告らが被告に対して本件各排

水門を開門することなどを求める請求に係る訴訟であるが,被告が本件各排水門を開門しないことにつき前訴原告らの開門請求を認容するに足りる違法性はなかった
(被告も前訴においてその旨主張していた。のみならず,

被告は,本件各排水門を開門することにより原告らが営む農業につき被害が生じることを予見することができたのであるから,前訴において,上記請求につき棄却判決を得るよう十分な主張・立証を行うべきであった。ところが,被告は,前訴において,十分な主張・立証を行わなかった。そのため,福岡高等裁判所は,平成22年12月6日,前記前提事実のとおり,上記請求を一部認容する判決(前訴判決)をした。

前訴判決は,被告が本件各排水門を開門しないことにつき前訴原告らの開門請求を認容するに足りる違法性はないにもかかわらず,上記違法性がある旨の誤った判断をし,これに基づき,被告に対し,前記前提事実

とおり,本件各排水門を開門すること,その開門を継続することを命じたものである。また,前訴判決がなされた頃,本件各排水門の開門により被害を受けるおそれのある原告らは,前訴の当事者である被告に対して上告を求める意向を有していたものであり,被告は,そのことを認識していたのであるから(本件各排水門の開門による影響を最も受ける地元住民,長崎県,長崎県議会,諫早市・雲仙市及び各市議会は,前訴判決がなされた頃,前訴に対する上告を強く希望したものである。,被告は,前訴判決に)
対し,上告を行うべきであった。ところが,被告は,前訴判決がなされた頃,これら地元の地方公共団体や住民らと何ら協議することもなく,原告らの上記意向に反して,前訴判決に対して上告を行わなかった。
そのため,前訴判決は,平成22年12月21日に確定した。

第3

争点

(ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
(被告の主張)
原告らの主張は否認し又は争う。
被告は,前訴において,十分な主張・立証を行った。
また,前記11(被告の主張)

のとおり,諫早湾及び有明海の漁業者ら,

旧干拓地や新干拓地の農業者ら,諫早湾付近の住民らの間で,本件各排水門の開門を巡って対立状況にあったところ,被告として,有明海の再生を目指す観点から総合的に判断し,前記前提事実

のとおり,福岡高等裁判所が,

前訴において,5年間の開門を命じつつその間の海域環境の調査の必要性を示した司法判断をしたことを契機に,前訴判決に従って3年の猶予期間内に被害防止のための十分な対策を行った上で5年間という限定された期間の開門を行い,その間,開門による海域環境の変化に関する調査を実施して科学的知見を得るための取組みを行うことが必要であり,また,それが社会的要請であると判断した。そこで,被告は,前訴判決に対して上告せず,被告の責任と費用をもって3年の猶予期間内に万全の事前対策を実施した上で,5年間の開門を行い,その間に詳細な調査を実施することとした。
まとめ
(原告らの主張)
前記2ないし12のとおり,ケース3-2開門をすることについて差止請求を認容すべき違法性がある。
(被告の主張)
争う。

第3

争点

(ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
以下,ケース1開門につきケース3-2開門と同様であるという場合において,
ケース3-2開門をケース1開門と読み替える。
1
違法性の判断において考慮すべき被侵害利益の範囲
ケース3-2開門の場合の当事者双方の主張と同じ(前記第2の1)
22
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)

旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)
ケース3-2開門の場合の当事者双方の主張と同じ(前記第2の2


妨害のおそれ②(潮風害)
ケース3-2開門の場合の当事者双方の主張と同じ(前記第2の2


妨害のおそれ③
(大雨時の湛水被害・原告農業者ら
〈原告新干拓地
(中央)
農業者らを除く〉共通)

事前対策が実施されない場合の妨害のおそれ

(原告農業者ら〈原告新干拓地(中央)農業者らを除く〉の主張)10年大雨があった場合の湛水被害のおそれ
ケース1開門の場合の10年大雨時の湛水被害のおそれがある旧干拓地(諫早)の農業者である原告Bら
業者である原告Cら

98名及び旧干拓地(吾妻)の農

84名並びに原告新干拓地(小江)農業者ら及び

原告新干拓地(中央・小江)農業者ら(争いがない)のほか,原告旧干拓地(諫早)農業者らのうち5名(目録1-31番,32番,98番,99番,104番の各原告。以下原告Eら5名という。
)及び原告

旧干拓地(吾妻)農業者らのうち目録6-84番の原告(以下原告Fという。)は,その所有ないし賃借に係る旧干拓地及び新干拓地(小
江)において農業を営むところ,ケース1開門がなされれば,樋門・樋管の閉門による排水不良,排水時間短縮による排水不良(いずれの機序も争いがない)及び次の機序が競合することによって,10年大雨があった場合に,現状より,湛水被害の程度(範囲・湛水深)が大きくなり,旧干拓地及び新干拓地(小江)における上記農業につき湛水被害が発生する高度の蓋然性があり,上記所有権ないし賃借権に基づく使用収益につき妨害のおそれがある。

ガタ土堆積による排水不良

第3

争点

(ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
旧干拓地及び新干拓地(小江)では,現状,農業用水及び雨水等を樋門・樋管により排水しているところ,ケース1開門がなされれば,本件締切り前と同様,有明海から運ばれる泥(ガタ土)が樋門・樋管の調整池への排水口付近に堆積して排水を阻害し,排水不良が起こる高度の蓋然性がある。

既設堤防ないし内部堤防の倒壊による調整池の水の浸入
ケース1開門がなされれば,10年大雨があった場合に,既設堤防ないし内部堤防が倒壊し,調整池の水が旧干拓地ないし新干拓地(小江)に浸入する高度の蓋然性がある。
20年大雨があった場合の湛水被害のおそれ
ケース1開門がなされれば,樋門・樋管の閉門による排水不良,排水
時間短縮による排水不良(いずれの機序も争いがない)及び上記

の機

序が競合することによって,3日間での総降雨量が20年に1度の発生頻度であるような雨量の降雨(以下20年大雨という。
)があった場
合に,現状より,湛水被害の程度(範囲・湛水深)が大きくなり,旧干拓地ないし新干拓地(小江)における上記農業につき湛水被害が発生する高度の蓋然性があり,所有権ないし賃借権に基づく使用収益につき妨害のおそれがある。
(被告の主張)
原告農業者らの主張は否認する(争いのない事実を除く。。

10年大雨があった場合の湛水被害のおそれについて
原告Eら

5名及び原告

Fの所有する農地は,ケース1開門がなさ

れた場合に10年大雨があったときに湛水すると想定される地域の範囲外にあるから(別紙70,別紙71)
,原告Eら

5名及び原告

Fが営

む旧干拓地における農業につき湛水被害が発生する高度の蓋然性があるということはできない。

2旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害・原告農業者ら〈原告新干拓地(中央)農業者らを除く〉共通)
また,ケース1開門がなされても,それによってガタ土の堆積による排水不良が起こる高度の蓋然性があるということはできないし,既設堤防ないし内部堤防が倒壊する高度の蓋然性があるということはできない。20年大雨があった場合の湛水被害のおそれについて
ケース1開門は5年間の開門をするものであることからすれば,ケース1開門がなされても,開門期間中に20年大雨があり,原告旧干拓地農業者ら及び新干拓地(小江)農業者らの旧干拓地ないし新干拓地(小江)における農業につき湛水被害が発生する高度の蓋然性があるということはできない。また,土地改良事業の低平地農地の排水対策事業における基本的な考え方は10年大雨があった場合を想定したものであり,旧干拓地で現に行われている排水対策においても10年大雨があった場合を想定したものであることからすれば,ケース1開門をする場合における排水対策(湛水被害防止対策)としても10年大雨があった場合を基準とした対策を実施することが相当である。

事前対策の内容・効果・蓋然性

(被告の主張)
被告は,事前に,以下の対策を実施する蓋然性が高い。被告が事前対策を実施することにより,
妨害のおそれ③
(大雨時の湛水被害)
はなくなる。
常時排水ポンプの設置
被告は,無降雨時に樋門・樋管の主ゲートを閉門するので,そのままでは潮遊池の水位が現状より高くなり,それに起因して排水不良が起こる蓋然性がある(争いがない)

被告は,その防止のため,潮遊池及び新干拓地排水路の水位を現状より30㎝低くすることとし,潮遊池及び新干拓地排水路から調整池への排水をする常時排水ポンプを旧干拓地(諫早)には1台,旧干拓地(吾妻)には2台,新干拓地(小江)には2台設置して,その起動水位を標
第3

争点

(ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
高(-)1.3mに,停止水位を標高(-)1.8mに設定する。ポンプの設置位置は,旧干拓地(諫早)は別紙61-2頁の6番,旧干拓地(吾妻)は同別紙の1番及び2番,新干拓地(小江)は同別紙の20番及び21番である。
ガタ土対策

ガタ土除去
ガタ土の堆積状況を定期的に観測し,ガタ土が堆積した場合には,必要に応じて浚渫によりガタ土の除去を行う。


護床工の設置
ガタ土堆積による排水不良(前記ア〈原告農業者ら〔原告新干拓地(中央)農業者らを除く〕の主張〉

a)を防止するため,本件各排

水門周辺で顕著な洗掘や底質の巻き上げが生じないよう,洗掘に対する許容流速(1.6m/s)を超える範囲を対象に護床工(捨石工)を設置する。
洪水時排水ポンプの設置
排水時間短縮による排水不良に起因して,10年大雨があった場合に湛水被害が発生すること(争いがない。前記前提事実


b)を防止

するため,ケース1開門がなされた場合において10年大雨があったときに発生する湛水を,現状において10年大雨があったときに発生する湛水とその程度(湛水位及び湛水時間による湛水の程度)が同程度以下となるよう,洪水時排水ポンプを旧干拓地(諫早)には2台,旧干拓地(吾妻)には6台,新干拓地(小江)には3台設置する。
(原告旧干拓地農業者ら及び原告新干拓地(小江)農業者らの主張)被告の主張は否認する。
被告が上記事前対策を実施する蓋然性が高いということはできない。仮に,被告が上記事前対策を実施したとしても,妨害のおそれ③(大雨時の
2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ④(塩害)

湛水被害)はなくならない。
妨害のおそれ④(塩害)

事前対策が実施されない場合の妨害のおそれ(原告旧干拓地農業者ら共通)
以下の100年大雨があった場合の主張を付加するほかは,ケース3-2開門の場合の当事者双方の主張と同じ(前記第2の2




(原告旧干拓地農業者らの主張)
調整池の水が既設堤防を越波することによる塩害
ケース1開門がなされれば,調整池の水位が上昇し,100年大雨があった場合に,調整池の塩水が既設堤防を越えて旧干拓地に浸入する高度の蓋然性があり,これによって,旧干拓地において作土層の塩化物イオン濃度が上昇し,旧干拓地における農業につき塩害が発生する高度の蓋然性があり,原告旧干拓地農業者らの所有権に基づく使用収益につき妨害のおそれがある。
マグネシウム等による塩害
ケース1開門がなされれば,
ケース3-2開門の場合と同様の機序
(潮
遊池の側壁土壌からの塩水浸入,潮遊池のオーバーフローによる塩分上昇)に加え及び上記

の機序による作土層のマグネシウム等の濃度の上

昇が競合することによって,旧干拓地における農業につき塩害が発生する高度の蓋然性があり,原告旧干拓地農業者らの所有権に基づく使用収益につき妨害のおそれがある。
(被告の主張)
調整池の水が既設堤防を越波することによる塩害について
原告旧干拓地農業者らの主張は否認する。
ケース1開門は5年間の開門をするものであるから,その開門期間中に100年大雨がある可能性は低い。

第3

争点

(ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
マグネシウム等による塩害について
原告旧干拓地農業者らの主張は否認する。
ケース1開門がなされても,マグネシウム等による塩害が発生する高度の蓋然性があるということはできない。

事前対策の内容・効果・蓋然性(原告農業者ら〈ただし,原告新干拓地(中央)農業者らを除く〉共通)

(被告の主張)
被告は,事前に,以下の対策を実施する蓋然性が高い。被告が事前対策を実施することにより,妨害のおそれ④(塩害)はなくなる。鋼矢板の打設
ケース3-2開門の場合と同じ(前記第2の2




常時排水ポンプの設置
大雨時の湛水被害に対する場合と同じ(前記




潮遊池の水位を現状より30㎝低くすることとし,潮遊池から調整池への排水をする常時排水ポンプを旧干拓地
(諫早)
に1台,旧干拓地
(吾
妻)
に2台,
新干拓地
(小江)
に2台設置して,
その起動水位を標高
(-)
1.3mに,停止水位を標高(-)1.8mに設定する。
土壌等の塩化物イオン濃度の観測
塩害防止のための散水
散水用の水の確保



の内容はケース3-2開門の場合と同様(前記第2の2



洪水時排水ポンプの設置
大雨時の湛水被害の場合と同じ。排水時間短縮による排水不良に起因
し10年大雨があった場合に湛水被害が発生するとともに潮遊池の塩水が農地に浸入することによる塩害が発生することを防止するため,洪水
3
旧干拓地(吾妻)の所有権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)

時排水ポンプを旧干拓地(諫早)に2台,旧干拓地(吾妻)に6台,新干拓地(小江)に3台設置する。
(原告農業者ら〈原告新干拓地(中央)農業者らを除く〉の主張)被告の主張は否認する。
被告が上記事前対策を実施する蓋然性が高いということはできない。仮に,被告が上記事前対策を実施したとしても,妨害のおそれ④(塩害)はなくならない。
3
旧干拓地(吾妻)の所有権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)
ケース3-2開門の場合の当事者双方の主張と同じ(前記第2の3


妨害のおそれ②(潮風害)
ケース3-2開門の場合の当事者双方の主張と同じ(前記第2の3


妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)
ケース1開門の旧干拓地(諫早)についての当事者双方の主張と同じ(前記2



妨害のおそれ④(塩害)

事前対策が実施されない場合の妨害のおそれ
以下の100年大雨があった場合のハウス栽培の塩害について
の主張を付加するほかは,ケース1開門の旧干拓地(諫早)についての当事者双方の主張と同じ(前記2

ア)


(原告旧干拓地(吾妻)農業者らの主張)
原告旧干拓地(吾妻)農業者らのうち目録6-87番の原告は,その所有に係る旧干拓地(吾妻)の土地において,ハウス栽培の農業を営むところ,現状では,調整池が淡水であるため塩害がなかったが,ケース1開門がなされれば,ケース3-2開門の場合と同様の機序(なお,ハウス栽培の場合,毛管現象による塩分上昇の危険がさらに高くなる。
)に加え,10

第3

争点

(ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
0年大雨の場合に調整池の水が既設堤防を越波することによる塩害の機序が競合することによって,上記ハウス栽培の農業につき塩害が発生する高度の蓋然性があり,上記所有権に基づく使用収益につき妨害のおそれがある。
(被告の主張)
否認する。

事前対策の内容・効果・蓋然性

(被告の主張)
被告は,事前に,以下の対策を実施する蓋然性が高い。被告が事前対策を実施することにより,妨害のおそれ④(塩害)はなくなる。鋼矢板の打設
ケース3-2開門の旧干拓地(諫早)の場合と同じ(前記第2の2イ

常時排水ポンプの設置
ケース1開門の旧干拓地(諫早)の場合と同じ(前記2




土壌等の塩化物イオン濃度の観測
塩害防止のための散水
散水用の水の確保


の内容は,ケース3-2開門の旧干拓地(諫早)の場合と同じ

(前記第2の2






ハウス栽培の塩害に対する対策
ケース3-2開門の場合と同じ(前記第2の3

イ)

洪水時排水ポンプの設置
ケース1開門の旧干拓地(諫早)の場合と同じ(前記2
(原告旧干拓地(吾妻)農業者らの主張)
被告の主張は否認する。




4
新干拓地(中央)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)

被告が上記事前対策を実施する蓋然性が高いということはできない。仮に,被告が上記事前対策を実施したとしても,妨害のおそれ④(塩害)はなくならない。
4
新干拓地(中央)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)
ケース3-2開門の場合の当事者双方の主張と同じ(前記第2の4


妨害のおそれ②(潮風害)
ケース3-2開門の場合の当事者双方の主張と同じ(前記第2の4


妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)

事前対策が実施されない場合の妨害のおそれ

(原告新干拓地(中央)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らの主張)
10年大雨があった場合の湛水被害のおそれ(内部堤防の倒壊)
原告新干拓地(中央)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らは,その賃借に係る新干拓地(中央)において農業を営むところ,ケース1開門がなされれば,10年大雨があった場合に,①内部堤防が倒壊し,調整池の水が新干拓地(中央)に浸入して,現状より,湛水被害の程度(範囲・湛水深)が大きくなり,新干拓地(中央)における上記農業につき湛水被害が発生する高度の蓋然性があり,上記賃借権に基づく使用収益につき妨害のおそれがある。
100年大雨があった場合の湛水被害のおそれ(内部堤防の越波)原告新干拓地(中央)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らは,その賃借に係る新干拓地(中央)において農業を営むところ,ケース1開門がなされれば調整池の水位が上昇し,100年大雨があった場合に,①内部堤防の倒壊に加え,②調整池の水が内部堤防を越えて新干拓地(中央)に浸入し,現状より,湛水被害の程度(範囲・湛水深)
第3

争点

(ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
が大きくなり,新干拓地(中央)における上記農業につき湛水被害が発生する高度の蓋然性があり,上記賃借権に基づく使用収益につき妨害のおそれがある。
(被告の主張)
原告新干拓地(中央)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らの主張は否認する。
10年大雨があった場合について
ケース1開門がなされても,10年大雨があった場合に,内部堤防が倒壊する高度の蓋然性があるということはできない。
100年大雨があった場合について
ケース1開門は5年間の開門をするものであるから,その開門期間中に100年大雨がある可能性は低く,ケース1開門がなされても,それによって,開門期間中に大雨が降った時に,調整池の水位が上昇し,調整池の水が内部堤防を越えて新干拓地(中央)に浸入する高度の蓋然性があるということはできない。

事前対策の内容・効果・蓋然性

(被告の主張)
被告は,事前に,以下の対策を実施する蓋然性が高い。被告が事前対策を実施することにより,
妨害のおそれ③
(大雨時の湛水被害)
はなくなる。
ブロックマットの設置
内部堤防の構造維持や防護機能を確保し,内部堤防が倒壊することを防止するため,ブロックマットによる表法面被覆工を行う。
L型擁壁の設置
開門期間中に30年大雨(6時間)があった場合に,調整池の水が内部堤防を越波して新干拓地(中央)に浸入することを防止するため,内部堤防の堤防高が不足する区間で堤防天端にL型擁壁を設置する。
4
新干拓地(中央)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ④(塩害)

(原告新干拓地(中央)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らの主張)
被告の主張は否認する。
被告が上記事前対策を実施する蓋然性が高いということはできない。仮に,被告が上記事前対策を実施したとしても,妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)はなくならない。
妨害のおそれ④(塩害)

事前対策が実施されない場合の妨害のおそれ
以下の100年大雨があった場合の主張を付加するほかは,ケース3-2開門の場合の当事者双方の主張と同じ(前記第2の4⑷)
(原告新干拓地農業者らの主張)
調整池の水が内部堤防を越波することによる塩害
ケース1開門がなされれば,調整池の水位が上昇し,100年大雨があった場合に,調整池の塩水が内部堤防を越えて新干拓地に浸入する高度の蓋然性があり,これによって,新干拓地において作土層の塩化物イオン濃度が上昇し,新干拓地における農業につき塩害が発生する高度の蓋然性があり,原告新干拓地農業者らの賃借権に基づく使用収益につき妨害のおそれがある。
ハウス栽培についての塩害
新干拓地(中央)においては目録3-7番,12番の各原告,新干拓地(小江)においては目録3-18番の原告が,その賃借に係る新干拓地において,ハウス栽培の農業を営むところ,現状では,調整池が淡水であるため,塩害がなかったが,ケース1開門がなされれば,ケース3-2開門の場合と同様の機序(なお,ハウス栽培の場合,毛管現象による塩分上昇の危険性が更に高くなる。に加え,

上記

の調整池の水が内

部堤防を越波することによる塩害が競合することによって,上記ハウス
第3

争点

(ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
栽培の農業につき塩害が発生する高度の蓋然性があり,上記賃借権に基づく使用収益につき妨害のおそれがある。
マグネシウム等による塩害
現状では,調整池が淡水であるため,マグネシウム等による塩害がなかったところ,ケース1開門がなされれば,ケース3-2開門の場合と同様の機序に加え,上記

の調整池の水が内部堤防を越波することによ

る作土層のマグネシウム等の濃度の上昇が競合することによって,新干拓地(中央)における農業につき塩害が発生する高度の蓋然性があり,原告新干拓地農業者らの賃借権に基づく使用収益につき妨害のおそれがある。
(被告の主張)
原告らの主張はいずれも否認する。
原告らの主張

(調整池の水が内部堤防を越波することによる塩害)に

ついては,大雨時の湛水被害の主張と同じ。ケース1開門は5年間の開門をするものであるから,その開門期間中に100年大雨がある可能性は低い。
その余については,ケース3-2開門の場合の被告の主張と同じ(前記第2の4
イア
ないし




事前対策の内容・効果・蓋然性

(被告の主張)
被告は,事前に,以下の対策を実施する蓋然性が高い。被告が事前対策を実施することにより,妨害のおそれ④(塩害)はなくなる。土壌等の塩化物イオン濃度の観測
塩害防止のための散水
散水用の水の確保
ハウス栽培の塩害に対する対策

5



新干拓地(小江)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)

の内容は,ケース3-2開門の場合と同じ(前記第2の4




L型擁壁の設置
大雨時の湛水被害の場合と同じ(前記




(原告新干拓地(中央)農業者らの主張)
被告の主張は否認する。
被告が上記事前対策を実施する蓋然性が高いということはできない。仮に,被告が上記事前対策を実施したとしても,妨害のおそれ④(塩害)はなくならない。
5
新干拓地(小江)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)
ケース3-2開門の場合の当事者双方の主張と同じ
妨害のおそれ②(潮風害)
ケース3-2開門の場合の当事者双方の主張と同じ
妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)

事前対策が実施されない場合の妨害のおそれ
以下の100年大雨があった場合の湛水被害のおそれについての主張を付加するほかは,ケース1開門の旧干拓地(諫早)の場合の当事者双方の主張(10年大雨があった場合の湛水被害のおそれ,20年大雨があった場合の湛水被害のおそれ)と同じ。

(原告新干拓地(小江)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らの主張)
ケース1開門がなされれば,調整池の水位が上昇し,100年大雨があった場合に,調整池の水が内部堤防を越えて新干拓地(小江)に浸入する高度の蓋然性があり,現状より,湛水被害の程度(範囲・湛水深)が大きくなり,新干拓地(小江)における農業につき湛水被害が発生する高度の
第3

争点

(ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
蓋然性があり,原告新干拓地(小江)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らの賃借権に基づく使用収益につき妨害のおそれがある。(被告の主張)
原告らの主張は否認する。
ケース1開門は,5年間の開門をするのであるから,その開門期間中に100年大雨が降る可能性は低い。

事前対策の内容・効果・蓋然性

(被告の主張)
被告は,事前に,以下の対策を実施する蓋然性が高い。被告が事前対策を実施することにより,
妨害のおそれ③
(大雨時の湛水被害)
はなくなる。
常時排水ポンプの設置
ガタ土対策

ガタ土除去


護床工の設置
洪水時排水ポンプの設置


記2

の内容は,ケース1開門の旧干拓地(諫早)の場合と同じ(前





ブロックマットの設置
L型擁壁の設置

記4

の内容は,ケース1開門の新干拓地(中央)の場合と同じ(前





(原告新干拓地(小江)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らの主張)
被告の主張は否認する。
被告が上記事前対策を実施する蓋然性が高いということはできない。仮に,被告が上記事前対策を実施したとしても,妨害のおそれ③(大雨時の
5
新干拓地(小江)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ④(塩害)

湛水被害)はなくならない。
妨害のおそれ④(塩害)

事前対策が実施されない場合の妨害のおそれ
100年大雨があった場合の当事者双方の主張(調整池の水が内部堤防を越波することによる塩害,ハウス栽培についての塩害,マグネシウム等による塩害。その内容は,新干拓地(中央)の場合と同じ。前記4⑷ア)を付加するほかは,ケース3-2開門の場合の当事者双方の主張と同じ。

事前対策の内容・効果・蓋然性

(被告の主張)
被告は,事前に,以下の対策を実施する蓋然性が高い。被告が事前対策を実施することにより,妨害のおそれ④(塩害)はなくなる。土壌等の塩化物イオン濃度の観測
塩害防止のための散水
散水用の水の確保
ハウス栽培の塩害に対する対策


の内容は,ケース3-2開門の新干拓地(中央)の場合と同じ

(前記第2の4






常時排水ポンプの設置
洪水時排水ポンプの設置
,の内容は,旧干拓地(諫早)の場合と同じ(前記2


,)

(原告新干拓地(小江)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らの主張)
被告の主張は否認する。
被告が上記事前対策を実施する蓋然性が高いということはできない。仮に,被告が事前対策を実施したとしても,妨害のおそれ④(塩害)はなくならない。

第3

6
争点

(ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
新干拓地の所有権の行使についての妨害のおそれ(原告県公社の請求関係)ケース3-2開門の場合の当事者双方の主張と同様(前記第2の6)
7
原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
漁業行使権に基づく妨害予防請求としての侵害行為の差止めの可否ケース3-2開門の場合の当事者双方の主張と同様(前記第2の7


妨害のおそれ①(魚介類へい死による漁業被害及び風評被害)ア
事前対策が実施されない場合の妨害のおそれ
ケース3-2開門の当事者双方の主張と同様(前記第2の7


ア)

事前対策の内容・効果・蓋然性

(被告の主張)
被告は,事前に,以下の対策を実施する蓋然性が高い。被告が事前対策を実施することにより,妨害のおそれ①(魚介類へい死による漁業被害及び風評被害)はなくなる。
淡水魚を保護するための対策
淡水魚を保護するため,
移動経路の確保の対策をする(ケース3-
2開門の場合と同様〈前記第2の7


a。ケース3-2開門の場合

と異なり,
淡水池の設置及び淡水魚の捕獲・淡水池への移動の対
策は行わない。)
〉。
へい死した魚介類の回収
ケース3-2開門の場合と同じ(前記第2の7




(原告漁業者ら)
被告の主張は否認する。
被告が上記事前対策を実施する蓋然性が高いということはできない。仮に,被告が上記事前対策を実施したとしても,妨害のおそれ①(魚介類へい死による漁業被害及び風評被害)はなくならない。
妨害のおそれ②(アサリ養殖)

7ア
原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ③(カキ養殖)

事前対策が実施されない場合の妨害のおそれ
ケース3-2開門の場合の当事者双方の主張と同様
(前記第2の7


ア)

事前対策の内容・効果・蓋然性

(被告の主張)
被告は,事前に,以下の対策を実施する蓋然性が高い。被告が事前対策を実施することにより,妨害のおそれ②(アサリ養殖)はなくなる。汚濁防止膜の設置
汚濁防止膜による栄養塩類の供給阻害の防止
漁場の監視
海底清掃の実施
アサリ漁場の耕耘や作澪
ゴミの監視及び回収



の内容は,ケース3-2開門の場合と同じ(前記第2の7




護床工の設置
旧干拓地
(諫早)
(大雨時の湛水被害)
の場合と同じ
(前記2


b)

(原告漁業者らの主張)
被告の主張は否認する。
被告が上記事前対策を実施する蓋然性が高いということはできない。仮に,被告が上記事前対策を実施したとしても,妨害のおそれ②(アサリ養殖)はなくならない。
妨害のおそれ③(カキ養殖)

事前対策が実施されない場合の妨害のおそれ
ケース3-2開門の場合の当事者双方の主張と同様
(前記第2の7


事前対策の内容・効果・蓋然性

(被告の主張)

ア)

第3

争点

(ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
被告は,事前に,以下の対策を実施する蓋然性が高い。被告が事前対策を実施することにより,妨害のおそれ③(カキ養殖)はなくなる。汚濁防止膜の設置
汚濁防止膜による栄養塩類の供給阻害の防止
漁場の監視
ゴミの監視及び回収



の内容は,ケース3-2開門の場合と同じ(前記第2の7




護床工の設置
旧干拓地
(諫早)
(大雨時の湛水被害)
の場合と同じ
(前記2


b)

(原告漁業者らの主張)
被告の主張は否認する。
被告が上記事前対策を実施する蓋然性が高いということはできない。仮に,
被告が上記事前対策を実施したとしても,
妨害のおそれ③
(カキ養殖)
はなくならない。
妨害のおそれ④(ノリ養殖)

事前対策が実施されない場合の妨害のおそれ
ケース3-2開門の場合の当事者双方の主張と同じ
(前記第2の7


ア)

事前対策の内容・効果・蓋然性

(被告の主張)
被告は,事前に,以下の対策を実施する蓋然性が高い。被告が事前対策を実施することにより,妨害のおそれ④(ノリ養殖)はなくなる。汚濁防止膜の設置
漁場の監視
ゴミの監視及び回収


の内容は,ケース3-2開門の場合と同様(前記第2の7

イ7


原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ⑤(その他の魚介類の漁業)



護床工の設置
旧干拓地
(諫早)
(大雨時の湛水被害)
の場合と同様
(前記2


b)

(原告漁業者らの主張)
被告の主張は否認する。
被告が上記事前対策を実施する蓋然性が高いということはできない。仮に,
被告が上記事前対策を実施したとしても,
妨害のおそれ④
(ノリ養殖)
はなくならない。
妨害のおそれ⑤(その他の魚介類の漁業)

事前対策が実施されない場合の妨害のおそれ
ケース3-2開門の場合の当事者双方の主張と同じ
(前記第2の7


ア)

事前対策の内容・効果・蓋然性

(被告の主張)
被告は,事前に,以下の対策を実施する蓋然性が高い。被告が事前対策を実施することにより,妨害のおそれ⑤(その他の魚介類の漁業)はなくなる。
汚濁防止膜の設置
漁場の監視
海底清掃の実施



の内容は,ケース3-2開門の場合と同じ(前記第2の7




護床工の設置
旧干拓地
(諫早)
(大雨時の湛水被害)
の場合と同じ
(前記2


b)

(原告漁業者らの主張)
被告の主張は否認する。
被告が上記事前対策を実施する蓋然性が高いということはできない。仮
第3

争点

(ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
に,被告が上記事前対策を実施したとしても,妨害のおそれ⑤(その他の魚介類の漁業)はなくならない。
8
原告住民の人格権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ①(大雨時の湛水による生活妨害)

事前対策が実施されない場合の妨害のおそれ

(原告住民らの主張)
10年大雨があった場合の生活妨害のおそれ

居住地の湛水による生活妨害
ケース1開門がなされれば,原告住民ら(原告住民らのうち145名〈目録5-1番~49番,51番,53番,54番,57番~59番,78番~81番,85番~114番,116番~135番,138番~141番,145番~155番,157番,158番,168番,169番,173番~176番,178番~183番,185番~190番,目録1-46番の各原告。以下

原告Gらという。〉及び原告Dら145名


43名)は,樋門・樋管の閉門及び排水時間

短縮による排水不良(いずれの機序も争いがない。前記前提事実


)に加え,次の機序が競合することによって,10年大雨があった場合に,
現状より,
原告住民らの居住地で発生する湛水被害の程度
(範
囲・湛水深)が大きくなり,上記居住地が湛水する高度の蓋然性があり,平穏に日常生活を営むという人格的利益が侵害される被害(生活妨害)を受ける高度の蓋然性がある。
ガタ土堆積による排水不良
本件後背地では,現状,生活用水及び雨水等を樋門・樋管(その
位置は別紙33の20番~35番)により後背地排水路から調整池等へ排水しているところ,ケース1開門がなされれば,ガタ土堆積による排水不良が起こる。すなわち,本件後背地では,現状,生活
8原告住民の人格権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ①(大雨時の湛水による生活妨害)

用水及び雨水等を樋門・樋管により排水しているところ,ケース1開門がなされれば,
本件締切り前と同様,
有明海から運ばれる泥
(ガ
タ土)が樋門・樋管の調整池への排水口付近に堆積して排水を阻害し,排水不良が起こる高度の蓋然性がある。
内部堤防ないし既設堤防の倒壊による調整池等の水の浸入
ケース1開門がなされれば,10年大雨があった場合に,内部堤
防ないし既設堤防が倒壊し,調整池の水が本件後背地に浸入する高度の蓋然性がある。

学校等の湛水による生活妨害
原告住民らは,本件後背地付近にある,学校,職場,公共施設,幹線道路等(以下学校等という。
)を日常生活において利用している
ところ,ケース1開門がなされれば,前記aの機序が競合することによって,10年大雨があった場合に,現状より,上記学校等で発生する湛水被害の程度(範囲・湛水深)が大きくなり,上記学校等の利用時に湛水被害を受ける高度の蓋然性があり,平穏に日常生活を営むという人格的利益が侵害される被害(生活妨害)を受ける高度の蓋然性がある。
20年大雨があった場合の湛水による生活妨害のおそれ
ケース1開門がなされれば,
前記

aの機序が競合することによって,

20年大雨があった場合に,現状より,湛水被害(前記

aの居住地及

び学校等で発生するもの)の程度(範囲・湛水深)が大きくなり,原告住民らが,居住地及び学校等において湛水被害を受ける高度の蓋然性があり,平穏に日常生活を営むという人格的利益が侵害される被害(生活妨害)を受ける高度の蓋然性がある。
(被告の主張)
10年大雨があった場合の湛水による生活妨害のおそれについて

第3

争点

(ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
原告住民らの主張は否認する(争いがない事実を除く)


原告Gら

145名の居住地は,ケース1開門がなされた場合に1

0年大雨があったときに湛水すると想定される地域の範囲外にあるから(湛水被害の範囲は別紙72記載のとおり。,原告Gら


145名

の居住地につき,湛水被害が発生する高度の蓋然性があるということはできない。また,ケース1開門がなされても,ガタ土堆積による排水不良が起こったり,既設堤防が倒壊したりする高度の蓋然性があるということはできない。

ケース1開門がなされても,原告住民らが学校等における湛水被害により平穏に日常生活を営むという人格的利益が侵害される被害(生活妨害)を受ける高度の蓋然性があるということはできない。
20年大雨があった場合の湛水による生活妨害のおそれについて
原告住民らの主張は否認する。
ケース1開門は5年間の開門をするものであることからすれば,ケー
ス1開門がなされても,開門期間中に20年大雨があり,原告住民らが居住地又は学校等における湛水被害により平穏に日常生活を営むという人格的利益が侵害される被害(生活妨害)を受ける高度の蓋然性があるということはできない。また,土地改良事業の低平地農地の排水対策事業における基本的な考え方は10年大雨があった場合を想定したものであり,旧干拓地で現に行われている排水対策においても10年大雨があった場合を想定したものであることからすれば,ケース1開門をする場合における排水対策(湛水被害防止対策)としても10年大雨があった場合を基準とした対策を実施することが相当である。

事前対策の内容・効果・蓋然性

(被告の主張)
被告は,事前に,以下の対策を実施する蓋然性が高い。被告が事前対策
8原告住民の人格権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ①(大雨時の湛水による生活妨害)

を実施することにより,妨害のおそれ①(大雨時の湛水による生活妨害)はなくなる。
常時排水ポンプの設置
無降雨時に樋門・樋管の主ゲートを閉門することにより後背地排水路の水位が現状より高くなること
(それに起因して排水不良が起こる。

の防止を目的として,後背地排水路の水位を現状より30㎝低くし,そのため,起動水位を標高(-)1.3mに,停止水位を標高(-)1.8mに設定した後背地排水路から調整池等への排水をする常時排水ポンプを6台設置する
(その位置は別紙61-2頁の7番~12番)

ガタ土対策

ガタ土除去
ケース3-2開門の場合と同様(前記第2の8

bイ


護床工の設置
旧干拓地(諫早)の場合と同様(前記2


b)

洪水時排水ポンプの設置
排水時間短縮による排水不良に起因し10年大雨があった場合に湛水被害が発生することを防止するため,ケース1開門がなされた場合において10年大雨があったときに発生する湛水を,現状において10年大雨があったときに発生する湛水とその程度(湛水位及び湛水時間による湛水の程度)が同程度以下となるよう,洪水時排水ポンプを現地に20台設置する(その位置は別紙61-2頁の5番,7番~12番)

(原告住民らの主張)
被告の主張は否認する。
被告が上記事前対策を実施する蓋然性が高いということはできない。仮に,被告が上記事前対策を実施したとしても,妨害のおそれ①(大雨時の
第3

争点

(ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
湛水による生活妨害)はなくならない。
妨害のおそれ②(飛来塩分による生活妨害及び健康被害)ケース3-2開門の場合の当事者双方の主張と同じ(前記第2の8


妨害のおそれ③(地盤沈下及び生活用井戸枯渇による生活妨害)ケース3-2開門の場合の当事者双方の主張と同じ(前記第2の89


原告住民の環境権に基づく請求について
環境権に基づく妨害予防請求としての侵害行為の差止めの可否
ケース3-2開門の場合の当事者双方の主張と同じ-(前記第2の9


妨害のおそれ(自然環境の消滅)

事前対策が実施されない場合の妨害のおそれ

(原告住民らの主張)
自然環境の享受についての妨害のおそれ
原告住民らは,現状では,次のとおり,本件後背地及びその周辺において,自然環境を享受しているところ,ケース1開門がなされれば,次のとおり,その自然環境が消滅する高度の蓋然性があり,環境権に基づく自然環境の享受につき妨害のおそれがある。

調整池内の淡水性魚介類の消滅


ヨシ群落の消滅


不知火橋周辺地区等における自然の消滅


水生動物・陸生植物・陸生動物の消滅


アサリの潮干狩りができる自然環境の消滅
その理由は,ケース3-2開門の場合と同様である(前記第2の9





内部堤防における散策等ができる自然環境の消滅
原告住民らは,現状では,内部堤防において散策やジョギングを行っているところ,ケース1開門がなされれば,新干拓地における大雨時の
10被侵害利益の性質と内容及び侵害の程度
漁場環境が改善する可能性

湛水被害等に対する事前対策として内部堤防にL型擁壁が設置される(そこに大型土のうが設置される)ため,原告住民らが内部堤防において散策等ができる自然環境が消滅する高度の蓋然性がある。
(被告の主張)
原告らの主張は否認し又は争う。
前記

(前記第2の9

と同様)のとおり,環境権は法的な権利といえ

ず,環境権に基づく妨害予防請求として,侵害行為の差止めを求めることはできない。

事前対策の内容・効果・蓋然性

(被告の主張)
被告は,事前に,前記7の妨害のおそれ②(アサリ養殖)に対する事前対策(前記7

イ)を実施する蓋然性が高い。被告が事前対策を実施する

ことにより,妨害のおそれ(自然環境の消滅)はなくなる。
(原告住民らの主張)
被告の主張は否認する。
被告が上記事前対策を実施する蓋然性が高いということはできない。仮に,被告が上記事前対策を実施したとしても,妨害のおそれ(自然環境の消滅)はなくならない。
被侵害利益の性質と内容及び侵害の程度
ケース3-2開門の場合の当事者双方の主張と同じ(前記第2の10)
侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容及び程度

(被告の主張)
漁場環境が改善する可能性
ケース1開門がなされれば,諫早湾及び有明海の漁場環境が改善する可能性がある(アセス評価書(補正版)の予測に照らせば,このようにいうことができる。。


第4

争点

(ケース3-1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
開門調査を実施し調査結果を公表することの公共性ないし公益上の必要性
ケース3-2開門の場合と同じ(前記第2の11



(原告らの主張)
被告の主張は否認する。
ケース1開門を行ったとしても,有明海全体に影響はなく,漁業回復につながることはない。したがって,諫早湾及び有明海の海域環境調査を実施する公益上の必要性は極めて低い。
違法性の判断に当たり考慮すべきその他の要素
ケース3-2開門の場合と同じ(前記第2の12)


まとめ

(原告らの主張)
前記2ないし12のとおり,ケース1開門をすることについて差止請求を認容すべき違法性がある。
(被告の主張)
争う。
第4

争点

(ケース3-1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)につい
て1
違法性の判断において考慮すべき被侵害利益の範囲
ケース3-2開門の場合の当事者双方の主張と同じ
(前記第2の1。
ただし,
ケース3-2開門をケース3-1開門に読み替える。以下,ケース3-1開門につきケース3-2開門と同じであるという場合における読替えについて,同様とする。。


2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)
ケース3-2開門の場合の当事者双方の主張と同じ(前記第2の2


2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ②(潮風害)

妨害のおそれ②(潮風害)
ケース3-2開門の場合の当事者双方の主張と同じ(前記第2の2


妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)

事前対策が実施されない場合の妨害のおそれ

(原告旧干拓地農業者らの主張)
10年大雨があった場合の湛水被害のおそれ
ケース3-1開門の場合の10年大雨時の湛水被害おそれがある旧干拓(諫早)の農業者である原告Bら
業者である原告Cら

91名及び旧干拓地(吾妻)の農

83名(争いがない)のほか,原告旧干拓地(諫

早)
農業者らのうち目録1-31番,32番,
38番~40番,
47番,
97番~100番,103番,104番の各原告(以下原告Eら12名という。)及び原告旧干拓地(吾妻)農業者らのうち目録6-39
番,84番の各原告(以下原告Aら2名という。
)は,その所有に

係る旧干拓地において農業を営むところ,ケース3-1開門がなされれば,
樋門・樋管の閉門による排水不良,
排水時間短縮による排水不良
(い
ずれの機序も争いがない。
)及び次の機序が競合することによって,
10
年大雨があった場合に,現状より,湛水被害の程度(範囲・湛水深)が大きくなり,旧干拓地における上記農業につき湛水被害が発生する高度の蓋然性があり,上記所有権に基づく使用収益につき妨害のおそれがある。

ガタ土堆積による排水不良
旧干拓地では,現状,農業用水及び雨水等を樋門・樋管により排水しているところ,ケース3-1開門がなされれば,本件締切り前と同様,有明海から運ばれる泥(ガタ土)が樋門・樋管の調整池への排水口付近に堆積して排水を阻害し,排水不良が起こる高度の蓋然性がある。

第4

争点

(ケース3-1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について

既設堤防の倒壊による調整池の水の浸入
ケース3-1開門がなされれば,10年大雨があった場合に,既設堤防が倒壊し,
調整池の水が旧干拓地に浸入する高度の蓋然性がある。
20年大雨があった場合の湛水被害のおそれ
ケース3-1開門がなされれば,樋門・樋管の閉門による排水不良,
排水時間短縮による排水不良(いずれの機序も争いがない)及び前記a,bの機序が競合することによって,20年大雨があった場合に,現状より,湛水被害の程度(範囲・湛水深)が大きくなり,旧干拓地における前記農業につき湛水被害が発生する高度の蓋然性があり,所有権に基づく使用収益につき妨害のおそれがある。
(被告の主張)
原告旧干拓地農業者らの主張は否認する(争いのない事実を除く。。)
10年大雨があった場合の湛水被害のおそれについて
原告Eら

12名及び原告Aら

2名の所有する農地は,ケース3-

1開門がなされた場合に10年大雨があったときに湛水すると想定される地域の範囲外にあるから(別紙73,別紙74)
,原告Eら
び原告Aら

12名及

2名が営む旧干拓地における農業につき湛水被害が発生す

る高度の蓋然性があるということはできない。
また,ケース3-1開門がなされても,それによってガタ土の堆積による排水不良が起こる高度の蓋然性があるということはできないし,既設堤防が倒壊する高度の蓋然性があるということはできない。
20年大雨があった場合の湛水被害のおそれについて
否認の理由は,ケース1開門の場合と同様(前記第3の2



。た

だし,
ケース1開門をケース3-1開門に読み替える。以下,ケ
ース3-1開門につき,ケース1開門と同じであるという場合の読み替えについて同様とする。

2イ
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ④(塩害)

事前対策の内容・効果・蓋然性

(被告の主張)
被告は,事前に,以下の対策を実施する蓋然性が高い。被告が事前対策を実施することにより,
妨害のおそれ③
(大雨時の湛水被害)
はなくなる。
常時排水ポンプの設置
ケース3-2開門の場合と同様(前記第2の2



。ただし,常時

排水ポンプを旧干拓地(諫早)に2台,旧干拓地(吾妻)に2台設置する。ポンプの設置位置は,旧干拓地(諫早)が別紙61-3頁の6番,旧干拓地(吾妻)が同別紙の1番及び2番である。
ガタ土除去
ケース3-2開門の場合と同様(前記第2の2




洪水時排水ポンプの設置
排水時間短縮による排水不良に起因し10年大雨があった場合に湛水被害が発生すること(前記ア

)を防止するため,ケース3-1開門が

なされた場合において10年大雨があったときに発生する湛水を,現状において10年大雨があったときに発生する湛水とその程度(湛水位及び湛水時間による湛水の程度)が同程度以下となるよう,洪水時排水ポンプを旧干拓地(諫早)に1台,旧干拓地(吾妻)に5台設置する。(原告旧干拓地農業者らの主張)
被告の主張は否認する。
被告が上記事前対策を実施する蓋然性が高いということはできない。仮に,被告が上記事前対策を実施したとしても,妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)はなくならない。
妨害のおそれ④(塩害)

事前対策が実施されない場合の妨害のおそれ
ケース3-2開門の場合の当事者双方の主張と同じ(前記第2の2
第4

争点

(ケース3-1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
ア)

事前対策の内容・効果・蓋然性

(被告の主張)
被告は,事前に,以下の対策を実施する蓋然性が高い。被告が事前対策を実施することにより,妨害のおそれ④(塩害)はなくなる。鋼矢板の打設
ケース3-2開門の場合と同じ(前記第2の2




常時排水ポンプの設置
大雨時の湛水被害の場合と同じ
(前記


)常時排水ポンプを旧干


拓地(諫早)に2台,旧干拓地(吾妻)に2台設置する。
土壌等の塩化物イオン濃度の観測
塩害防止のための散水
散水用の水の確保



の内容は,ケース3-2開門の場合と同じ(前記第2の2




洪水時排水ポンプの設置
大雨時の湛水被害の場合と同じ
(前記


)洪水時排水ポンプを旧


干拓地(諫早)に1台,旧干拓地(吾妻)に5台設置する。
(原告旧干拓地農業者らの主張)
被告の主張は否認する。
被告が上記事前対策を実施する蓋然性が高いということはできない。仮に,被告が上記事前対策を実施したとしても,妨害のおそれ④(塩害)はなくならない。
3
旧干拓地(吾妻)の所有権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)
ケース3-2開門の場合の当事者双方の主張と同じ(前記第2の3


3
旧干拓地(吾妻)の所有権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ②(潮風害)

妨害のおそれ②(潮風害)
ケース3-2開門の場合の当事者双方の主張と同じ(前記第2の3


妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)
ケース3-1開門の旧干拓地
(諫早)
の場合の当事者双方の主張と同じ
(前
記第2



妨害のおそれ④(塩害)

事前対策が実施されない場合の妨害のおそれ
ケース3-2開門の場合の当事者双方の主張と同じ
(前記第2の3


ア)

事前対策の内容・効果・蓋然性

(被告の主張)
被告は,事前に,以下の対策を実施する蓋然性が高い。被告が事前対策を実施することにより,妨害のおそれ④(塩害)はなくなる。鋼矢板の打設
ケース3-2開門の旧干拓地(諫早)の場合と同じ(前記第2の2イ

常時排水ポンプの設置
ケース3-1開門の旧干拓地(諫早)の場合と同じ(前記2




土壌等の塩化物イオン濃度の観測
塩害防止のための散水
散水用の水の確保


の内容は,ケース3-2開門の旧干拓地(諫早)の場合と同じ

(前記第2の2






ハウス栽培の塩害に対する対策
ケース3-2開門の場合と同じ(前記第2の3

イ)

洪水時排水ポンプの設置
ケース3-1開門の旧干拓地(諫早)の場合と同じ(前記2




第4

争点

(ケース3-1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
(原告旧干拓地(吾妻)農業者らの主張)
被告の主張は否認する。
被告が上記事前対策を実施する蓋然性が高いということはできない。仮に,被告が上記事前対策を実施したとしても,妨害のおそれ④(塩害)はなくならない。
4
新干拓地(中央)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)
ケース3-2開門の場合の当事者双方の主張と同じ(前記第2の4


妨害のおそれ②(潮風害)
ケース3-2開門の場合の当事者双方の主張と同じ(前記第2の4


妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害・原告新干拓地農業者ら共通)(原告新干拓地農業者らの主張)
原告新干拓地農業者らは,その賃借に係る新干拓地において農業を営むところ,ケース3-1開門がなされれば,10年大雨があった場合に,内部堤防が倒壊し,
調整池の水が新干拓地に浸入し,
現状より,湛水被害の程度
(範
囲・湛水深)が大きくなり,新干拓地における上記農業につき湛水被害が発生する高度の蓋然性があり,上記賃借権に基づく使用収益につき妨害のおそれがある。
(被告の主張)
原告新干拓地農業者らの主張は否認する。
ケース3-1開門がなされても,10年大雨があった場合に,内部堤防が倒壊する高度の蓋然性があるということはできない。
妨害のおそれ④(塩害)
ケース3-2開門の場合の当事者双方の主張と同じ(前記第2の45
新干拓地(小江)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)



5
新干拓地(小江)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ②(潮風害)

ケース3-2開門の場合の当事者双方の主張と同じ(前記第2の5


妨害のおそれ②(潮風害)
ケース3-2開門の場合の当事者双方の主張と同じ(前記第2の5


妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)

事前対策が実施されない場合の妨害のおそれ

(原告新干拓地(小江)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らの主張)
10年大雨があった場合の湛水被害のおそれ
原告新干拓地(小江)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らは,その賃借に係る新干拓地(小江)において農業を営むところ,ケース3-1開門がなされれば,次の機序が競合することによって,10年大雨があった場合に,現状より,湛水被害の程度(範囲・湛水深)が大きくなり,新干拓地(小江)における上記農業につき湛水被害が発生する高度の蓋然性があり,上記賃借権に基づく使用収益につき妨害のおそれがある。

樋門・樋管の閉門による排水不良
新干拓地(小江)では,現状,農業用水及び雨水等を主ゲート付き樋門・樋管2か所
(その位置は別紙33の45番及び47番)により新
干拓地排水路から調整池へ排水しているところ(具体的な排水方法は前記前提事実


のとおり。無降雨時には,樋門・樋管の主ゲート

を開き,自然排水を行っているものである。,ケース3-1開門がな)
されれば,調整池が塩水化することから,被告は,新干拓地排水路への塩水浸入を防止するため,無降雨時に,その敷高が標高(-)0.5m(調整池の管理水位の最高水位)より低い樋門・樋管2か所(上記45番及び47番)の主ゲートを閉門する(前記前提事実

イ)こ

ととしている。そうすると,無降雨時に新干拓地排水路の水位が現状
第4

争点

(ケース3-1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
より高くなり,これにより,排水不良が起こる。

排水時間短縮による排水不良
被告は,現状では,調整池の水位を標高(-)1.0mから(-)1.2mまでの範囲内で管理しており,調整池の水位は,降雨量が平成19年降雨量以下であれば,概ね標高(-)0.68mから(-)1.2mまでの範囲内となる(前記前提事実

ア)


しかし,ケース3-1開門がなされれば,被告は,調整池の水位を標高(-)0.5mから(-)1.2mまでの範囲内で管理し,調整池の水位は,
降雨量が平成19年降雨量以下であれば,
概ね標高
(-)
0.41mから(-)1.2mまでの範囲内となるのであるから(前記前提事実


b)現状と比べ,

調整池の水位が潮遊池の水位より

低くなる時間帯が短くなり,排水を行うことのできる時間が現状より短くなる。そのため,新干拓地(小江)では,農業用水及び雨水等を十分に排水できないという排水不良が起こる。

ガタ土堆積による排水不良
ケース3-1開門の旧干拓地(諫早)の場合と同じ(前記2


a)

内部堤防の倒壊による調整池の水の浸入
ケース3-1開門の新干拓地(中央)の場合と同じ(前記4



20年大雨があった場合の湛水被害のおそれ
ケース3-1開門がなされれば,上記

の機序が競合することによっ

て,20年大雨があった場合に,現状より,湛水被害の程度(範囲・湛水深)が大きくなり,新干拓地(小江)における前記の農業につき湛水被害が発生する高度の蓋然性があり,原告新干拓地(小江)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らの賃借権に基づく使用収益につき妨害のおそれがある。

5
新干拓地(小江)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)

(被告の主張)
10年大雨があった場合の湛水被害のおそれについて
否認する。ケース3-1開門がなされても,それによって10年大雨があった場合に湛水被害が発生する高度の蓋然性があるということはできない。

樋門・樋管の閉門による排水不良について
被告は,無降雨時には,前記前提事実


のとおり敷高の低い樋

門・樋管の主ゲートを閉門することとしているが,降雨時には,当該樋門・樋管ごとに調整池の水位と新干拓地排水路の水位を比較し,調整池の水位が新干拓地排水路の水位より低い場合に,上記樋門・樋管の主ゲートを開けて排水を行い,調整池の水位が新干拓地排水路の水位と同程度になったら,調整池から新干拓地排水路への塩水の浸入を防止するため,主ゲートを閉門することとしている。これは現状と同様の排水方法である。
そうすると,10年大雨があった場合においても,現状と同様に,調整池の水位が新干拓地排水路の水位より低い場合は,樋門・樋管の主ゲートを開けて新干拓地排水路から調整池へ排水することができるということができ,ケース3-1開門がなされても,それによって湛水被害が発生する高度の蓋然性があるということはできない。

排水時間短縮による排水不良について
ケース3-1開門がなされた場合,10年大雨があったときに新干拓地
(小江)において発生する湛水被害
(湛水面積及び湛水時間)
は,
現状で発生する湛水被害(湛水面積及び湛水時間)より増加するということはできない。したがって,ケース3-1開門がなされても,排水時間短縮による湛水被害が発生する高度の蓋然性があるということはできない。

第4

争点

(ケース3-1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について

ガタ土堆積による排水不良について
ケース3-1開門がなされても,それによってガタ土の堆積による排水不良が起こる高度の蓋然性があるということはできない。


内部堤防の倒壊による調整池の水の浸入について
ケース3-1開門がなされても,それによって内部堤防が倒壊する高度の蓋然性があるということはできない。
20年大雨があった場合の湛水被害のおそれについて
否認する。否認の理由は,ケース1開門の旧干拓地(諫早)の場合と
同様(前記第3の2
イア



事前対策の内容・効果・蓋然性

(被告の主張)
被告は,事前に,以下の対策を実施する蓋然性が高い。被告が事前対策を実施することにより,
妨害のおそれ③
(大雨時の湛水被害)
はなくなる。
ガタ土除去
ケース3-2開門の旧干拓地(諫早)の場合と同じ(前記第2の2イ

常時排水ポンプの設置
起動水位を標高(-)1.3mに,停止水位を標高(-)1.8mに
設定した新干拓地排水路から調整池への排水をする常時排水ポンプを2台設置することとしている。ポンプの設置位置は,別紙61-3頁の20番及び21番である。
(原告新干拓地(小江)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らの主張)
被告の主張は否認する。
被告が上記事前対策を実施する蓋然性が高いということはできない。仮に,被告が上記事前対策を実施したとしても,妨害のおそれ③(大雨時の
6
新干拓地の所有権の行使についての妨害のおそれ(原告県公社の請求関係)妨害のおそれ④(塩害)

湛水被害)はなくならない。
妨害のおそれ④(塩害)

事前対策が実施されない場合の妨害のおそれ
ケース3-2開門の場合の新干拓地(中央)についての当事者双方の主張と同じ(前記第2の4⑷ア)


事前対策の内容・効果・蓋然性

(被告の主張)
被告は,事前に,以下の対策を実施する蓋然性が高い。被告が事前対策を実施することにより,妨害のおそれ④(塩害)はなくなる。土壌等の塩化物イオン濃度の観測
塩害防止のための散水
散水用の水の確保
ハウス栽培の塩害に対する対策


の内容は,ケース3-2開門の新干拓地(中央)の場合と同じ

(前記第2の4






常時排水ポンプの設置
大雨時の湛水被害の場合と同じ(前記




(原告新干拓地(小江)農業者らの主張及び原告新干拓地(中央・小江)農業者ら)
被告の主張は否認する。被告が上記事前対策を実施する蓋然性が高いということはできない。仮に,被告が上記事前対策を実施したとしても,妨害のおそれ④(塩害)はなくならない。
6
新干拓地の所有権の行使についての妨害のおそれ(原告県公社の請求関係)ケース3-2開門の場合の当事者双方の主張と同じ(前記第2の6)
7
原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
ケース3-2開門の場合の当事者双方の主張と同じ(前記第2の7)
第4

8
争点

(ケース3-1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
原告住民の人格権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ①(大雨時の湛水による生活妨害)

事前対策が実施されない場合の妨害のおそれ

(原告住民らの主張)
10年大雨があった場合の湛水による生活妨害のおそれ

居住地の湛水による生活妨害
ケース3-1開門がなされれば,原告住民ら(原告住民らのうち150名〈目録5-1番~49番,51番,53番,54番,57番~59番,78番~81番,85番~114番,116番~135番,138番~142番,145番~155番,157番~159番,161番,168番,169番,172番~176番,178番~183番,185番~190番,目録1-1番,46番の各原告。以下原告Gら150名という。〉及び原告Dら

38名)は,樋門・樋管

の閉門及び排水時間短縮による排水不良
(いずれの機序も争いがない。
前記前提事実


)に加え,次の機序が競合することによって,1

0年大雨があった場合に,現状より,原告住民らの居住地で発生する湛水被害の程度(範囲・湛水深)が大きくなり,上記居住地が湛水する高度の蓋然性があり,平穏に日常生活を営むという人格的利益が侵害される被害(生活妨害)を受ける高度の蓋然性がある。
ガタ土堆積による排水不良
本件後背地では,現状,生活用水及び雨水等を樋門・樋管(その
位置は別紙33の20番~35番)により後背地排水路から調整池等へ排水しているところ,ケース3-1開門がなされれば,ガタ土堆積による排水不良が起こる。すなわち,本件後背地では,現状,生活用水及び雨水等を樋門・樋管により排水しているところ,ケース3-1開門がなされれば,本件締切り前と同様,有明海から運ば
8原告住民の人格権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ①(大雨時の湛水による生活妨害)

れる泥(ガタ土)が樋門・樋管の調整池への排水口付近に堆積して排水を阻害し,排水不良が起こる高度の蓋然性がある。
内部堤防ないし既設堤防の倒壊による調整池等の水の浸入
ケース3-1開門がなされれば,10年大雨があった場合に,内
部堤防ないし既設堤防が倒壊し,調整池の水が本件後背地に浸入する高度の蓋然性がある。

学校等の湛水による生活妨害
ケース1開門の場合と同じ(前記第3の8


b)

20年大雨があった場合の湛水による生活妨害のおそれ
ケース1開門の場合と同じ(前記第3の8





(被告の主張)
10年大雨があった場合の一部原告住民の湛水による生活妨害のおそれについて
否認する(争いのない事実を除く。


居住地の湛水による生活妨害について
原告Gら

150名の居住地は,ケース3-1開門がなされた場合

に10年大雨があったときに湛水すると想定される地域の範囲外にあるから(湛水被害の範囲は別紙75記載のとおり。,原告Gら


15

0名の居住地につき,湛水被害が発生する高度の蓋然性があるということはできない。また,ケース3-1開門がなされても,ガタ土堆積による排水不良が起こったり,既設堤防が倒壊したりする高度の蓋然性があるということはできない。

学校等の湛水による生活妨害について
ケース1開門の場合と同じ(前記第3の8


b)

20年大雨があった場合の湛水による生活妨害のおそれについて
否認する。否認の理由は,ケース1開門の場合と同じ(前記第3の8
第4

争点

(ケース3-1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
アイ


事前対策の内容・効果・蓋然性

(被告の主張)
被告は,事前に,以下の対策を実施する蓋然性が高い。被告が事前対策を実施することにより,妨害のおそれ①(大雨時の湛水による生活妨害)はなくなる。

常時排水ポンプの設置
起動水位を標高(-)1.3mに,停止水位を標高(-)1.8mに設定した後背地排水路から調整池等への排水をする常時排水ポンプを6台設置する(その位置は別紙61-3頁の7番~11番)



ガタ土除去
ケース3-2開門の場合と同じ(前記第2の8

cイ


洪水時排水ポンプの設置
排水時間短縮による排水不良に起因し10年大雨があった場合に湛水被害が発生することを防止するため,ケース3-1開門がなされた場合において10年大雨があったときに発生する湛水を,現状において10年大雨があったときに発生する湛水とその程度(湛水位及び湛水時間による湛水の程度)が同程度以下となるよう,洪水時排水ポンプを現地に14台設置する(その位置は別紙61-3頁の5番,7番~12番)。

(原告住民らの主張)
被告の主張は否認する。
被告が上記事前対策を実施する蓋然性が高いということはできない。仮に,被告が上記事前対策を実施したとしても,妨害のおそれ①(大雨時の湛水による生活妨害)はなくならない。
妨害のおそれ②(飛来塩分による生活妨害及び健康被害)ケース3-2開門の場合の当事者双方の主張と同じ(前記第2の8


9原告住民の環境権に基づく請求について
妨害のおそれ③(地盤沈下及び生活用井戸枯渇による生活妨害)
妨害のおそれ③(地盤沈下及び生活用井戸枯渇による生活妨害)ケース3-2開門の場合の当事者双方の主張と同じ(前記第2の89


原告住民の環境権に基づく請求について
ケース3-2開門の場合の当事者双方の主張と同じ(前記第2の9)
被侵害利益の性質と内容及び侵害の程度
ケース3-2開門の場合の当事者双方の主張と同じ(前記第2の10)
侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容及び程度
ケース3-2開門の場合の当事者双方の主張と同じ(前記第2の11)
違法性の判断に当たり考慮すべきその他の要素
ケース3-2開門の場合の当事者双方の主張と同じ(前記第2の12)
まとめ

(原告らの主張)
前記2ないし12のとおり,ケース3-1開門をすることについて差止請求を認容すべき違法性がある。
(被告の主張)
争う。
第5

争点

(ケース2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
(原告らの主張)
前記前提事実


dのとおり,ケース2開門は,第1段階としてケース3

-2開門をし,第2段階としてケース3-1開門をし,第3段階としてケース1開門をする方法による開門である。
したがって,ケース2開門がなされれば,
第1段階では前記第2のとおり,第2段階では前記第4のとおり,第3段階では前記第3のとおり,原告らの権利行使につき妨害のおそれがある。(被告の主張)
原告らの主張は否認する。
ケース2開門がなされても,前記第2ないし第4のとおり,妨害のおそれが
第1

争点⑴(被告が本件開門をする蓋然性)について

あるということはできない,又は,事前対策を実施することによって,妨害のおそれはなくなる。
第3章
第1
1
当裁判所の判断
争点⑴(被告が本件開門をする蓋然性)について
本件差止めを求める訴えの要件としての本件開門の蓋然性
ある者に対して一定の作為をしないこと(不作為)を求める給付訴訟におい
ては,その者によって当該一定の作為がなされる蓋然性のあることが,訴えの利益として必要である。
本件訴えは,各原告が,被告に対し,本件開門をしないという不作為を求める訴えであるから,本件開門の差止めを求める各訴えについて,被告が当該開門をする蓋然性のあることが,訴えの利益があるということができるための要件として必要である。
2
ケース1~3開門をする蓋然性について
認定事実
前記前提事実及び証拠(事実の後に掲記)並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

福岡高等裁判所は,
平成22年12月6日,
前訴について,
被告に対し,
前訴原告58名(諫早湾近傍の漁業者ら)に対する関係で,判決確定の日から3年を経過する日までに,防災上やむを得ない場合を除き,本件各排水門を開放し,以後5年間にわたって上記開放を継続することを命ずる判決(前訴判決)をし,前訴判決は,同月21日に確定した。
(前記前提事実


イ)

ケース1~3開門は,いずれも本件開門(調整池への海水の浸入が生じる方法により本件各排水門を開門すること)
の開門方法の一つであるが
(各
開門方法の具体的内容は前記前提事実

イのとおり。,開門の程度が異な


る。まず,ケース1開門が本件各排水門を全開とする開門方法であるのに
2
ケース1~3開門をする蓋然性について
認定事実

対し,ケース3-2開門がケース1~3開門の中で最も制限的な(開門の程度が小さい)開門方法である。そして,ケース2開門(第1段階ではケース3-2開門を,第2段階ではケース3-1開門を,第3段階ではケース1開門をするものである。及びケース3-1開門は,ケース1開門より)
は開門の程度が小さいが,ケース3-2開門よりは開門の程度が大きいものである。

環境アセスメントにおいては,ケース1~3開門がなされた場合のそれぞれについて,有明海,諫早湾,調整池並びに諫早市及び雲仙市のうち調整池に流入する河川の流域にどのような変化や影響が生じるかにつき,
調査・予測・評価を行い,必要に応じてその影響を回避・低減する措置が検討された。

(前記前提事実



そして,被告(九州農政局)が平成24年11月22日付けで作成したアセス評価書(補正版)は,
ケース3-2による開門方法は,防災上,営農上,漁業上の影響を最も小さくできる方法であるとしている。(乙A32の1はじめに


農林水産大臣は,平成24年11月4日から平成25年2月15日までの間,数回にわたって,被告がケース3-2開門をすることを予定している旨の発言・回答をした。

(甲A63,乙A45,46,48)

このように,被告は,これまでケース3-2開門をすることを予定している旨表明してきたが,本件訴訟において,本件開門をするに当たっての開門方法の特定に関し釈明を求められたのに対し,ケース1開門,ケース2開門及びケース3-1開門の各開門方法による開門をする可能性を否定しなかった。
(平成24年1月23日付け求釈明申出書に対する回答書及び同年3月7日付求釈明申出書に対する回答書)

被告が,制限的な開門方法を実施することを予定している旨の見解を示
第1

争点⑴(被告が本件開門をする蓋然性)について

したのに対し,前訴原告ら代理人は,平成23年9月24日,前訴判決は全開門をすることを命じたものであり,被告が制限的な開門方法をした場合は前訴判決の命じた義務の不履行となるから,裁判所に対して強制執行を求めることになる旨発言した。
前訴原告58名のうち49名は,
平成25年12月24日,
被告に対し,
前訴判決が命じた義務の履行を求め,併せてこれを履行しないときには,1日当たり1億円を支払うよう命じるなどの方法(間接強制)による強制執行を佐賀地方裁判所に申し立てた(佐賀地方裁判所平成25年

第20

号)

佐賀地方裁判所は,平成26年4月11日,被告に対し,決定送達の日の翌日から2か月以内に前訴判決が命じた義務を履行するよう命じるとともに,期間内にこの義務を履行しない場合には,期間経過の翌日から履行済みまで1人当たり1日1万円を支払うよう命じた。この佐賀地方裁判所の決定に対し,被告は,執行抗告及び執行停止の申立てをした。
(甲A12,75,90,乙A131,149)
検討1(ケース3-2開門をする蓋然性)
前記

の事実によれば,①被告は,確定判決である前訴判決により命じら
れた義務として,前訴原告58名に対し,平成25年12月20日までに本件各排水門を開放し,以後5年間にわたって上記開放を継続する義務を負っていること,②被告は,前訴判決により命じられた本件各排水門の開放に関し,環境アセスメントが開門方法についてはケース3-2開門が,防災上,営農上,漁業上の影響を最も小さくできる方法であるとしていることを踏まえ,現時点において,ケース3-2開門をすることを予定していることが認められ,これらによれば,被告がケース3-2開門をする蓋然性がある。検討2
(ケース1開門,
ケース2開門及びケース3-1開門をする蓋然性)
被告は,前記

のとおり,ケース3-2開門をすることを予定していると

2ケース1~3開門をする蓋然性について
被告の主張1(ケース3-2開門以外についての予算措置の欠如)について
いうことができるが,①被告が前訴判決によって命じられた開門義務を負っていること,②前訴原告ら代理人が,制限的な開門方法(ケース3-2開門を含むと解される。
)では,前訴判決の不履行であるから,強制執行の申立て
をすることになると述べており,前訴判決が命じた開門義務の履行方法について前訴原告58名と被告との間で解釈上の争いがあること,③前訴原告58名の一部が,前訴判決を債務名義として強制執行(間接強制)の申立てを行い,被告は,佐賀地方裁判所から前訴判決を履行しない場合には,一人当たり1日1万円を支払うよう命じられたこと,④被告は,本件訴訟においてケース1~3開門をする可能性につき釈明を求められたのに対し,その可能性があることを否定しなかったこと,⑤ケース1開門及びケース3-1開門については,
ケース3-2開門と同様,
環境アセスメントで前記

ウの調査・

予測・評価等が行われていることからすれば,被告が,予定していたケース3-2開門ではなく,ケース1開門,ケース2開門又はケース3-1開門をする蓋然性があると認められる。
被告の主張1(ケース3-2開門以外についての予算措置の欠如)について
前記

に対し,被告は,被告がケース1開門,ケース2開門及びケース3
-1開門をする蓋然性はない旨主張し,その根拠として開門方法は,事前対策と一体のものであるところ,ケース1開門,ケース2開門及びケース3-1開門については,事前対策に必要な予算措置がとられていないとの事実を挙げる。
しかし,事前対策に必要な予算措置がとられていないとの事実は,被告が負っている前訴判決に命じられた前記

の開門義務を免れさせるものではな

いから,被告が当該開門をする蓋然性があることを否定する根拠となるものではなく,前記

の判断を左右しない。

したがって,被告の上記主張は採用することができない。

第1

争点⑴(被告が本件開門をする蓋然性)について

被告の主張2(対策工事未了)について
前記



に対し,被告は,被告がケース1~3開門をする蓋然性はない

旨主張し,その根拠として被告は,前訴判決の履行期限を徒過した現在においても,対策工事を行わない限り,いずれの開門もしないという立場をとっており,現在は対策工事に着手すらできない状況であるとの事実を挙げる。
しかし,①被告が前訴判決に命じられた開門義務を負っていること,②前訴原告58名の一部が,前訴判決を債務名義として強制執行(間接強制)の申立てを行い,被告が佐賀地方裁判所から前訴判決を履行しない場合には,一人当たり1日1万円を支払うよう命じられたこと,③被告が対策工事を実施した場合に本件各排水門を開門することを否定していないことからすれば,被告が国として国民の生命,身体,財産等を保護すべき立場にあり,前訴判決の履行期限を徒過した現在において開門をしていないことを踏まえても,今後,被告が,ケース1~3開門をする蓋然性があるというべきである。したがって,被告の上記主張は採用することができない。
3
その余の開門をする蓋然性について
前記2

の事実及び証拠(乙A2の1,乙A11の1,乙A28の1,乙

A32の1)並びに弁論の全趣旨によれば,環境アセスメント(アセス評価書等)は,ケース1~3開門については,前記2

イの調査・予測・評価等

を行ったが,その余の開門については,上記調査・予測・評価等を行っていないことが認められる。
そうすると,前訴原告58名が,前訴判決を債務名義として,ケース1開門の強制執行の申立てを行った場合,被告は,前訴判決に命じられた開門義務の履行として本件開門をするに当たっては,上記申立てに係るケース1開門をするか,又は,ケース1開門と比べると開門の程度が小さい開門方法ではあるが,環境アセスメントによる調査・予測・評価等が行われている開門
1
違法性の判断において考慮すべき被侵害利益の範囲
違法性の判断において考慮すべき要素

方法(ケース2開門,ケース3-1開門及びケース3-2開門)のいずれかを行うと考えられ,上記調査・予測・評価等が行われていないその余の開門をするとは考え難い。
その余に,被告がその余の開門(淡水化した調整池に海水が浸入する態様での本件各排水門の開門方法である本件開門のうちケース1~3開門以外のもの。
)をする蓋然性があると認めるに足りる証拠はない。
したがって,本件請求のうち,その余の開門の差止めを求める訴えは,その余の開門がなされる蓋然性があるということができず,訴えの利益を欠き,不適法というべきであるから,これを却下することとする(主文第1項)。
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について1
違法性の判断において考慮すべき被侵害利益の範囲
違法性の判断において考慮すべき要素
本件において,各原告は,被告が本件開門をして各原告の権利行使(土地所有権,土地賃借権,漁業行使権,人格権又は環境権の各行使)の円満な状態を侵害するおそれがあるとして,被告に対し,上記各権利に基づく妨害予防請求として,本件開門の差止めを求める。
一定の事業につき,差止請求を認容すべき違法性があるかを判断するに当たっては,前記第1章第2の3

のとおり,侵害行為の態様と侵害の程度,

被侵害利益の性質と内容,侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか,被害の防止に関する措置の有無及びその内容,効果等の事情をも考慮し,これらを総合的に考察してこれを決すべきである(最高裁昭和51年

第395号同56年12月16日大法廷判決・民

集35巻10号1369頁,最高裁昭和62年

第58号平成5年2月25

日第一小法廷判決・民集47巻2号643頁,最高裁平成4年

第1503

号同7年7月7日第二小法廷判決・民集49巻7号1870頁,最高裁平成
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
4年

第1504号同7年7月7日第二小法廷判決・民集49巻7号259
9頁参照)

考慮すべき被侵害利益の範囲

原告らの主張1(訴訟外農業者等の被侵害利益)について
原告らは,
原告らは,旧干拓地において農業を営む者等で,原告となっていない者の代表として,権利主張を行っているとして,本件開門の差止めを求める請求について,差止請求を認容すべき違法性があるかを判断するに当たって,被侵害利益の性質と内容を,侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等との間で,比較検討するについては,原告らの被侵害利益のみならず,訴訟外農業者等の被侵害利益も併せて考慮すべきである旨主張する。
しかし,一定の事業により第三者には多様な利害得失が生じるものであり,他方で,事業の差止めを求める裁判手続の判断は,第三者にも事実上影響が及ぶものであるから,第三者の意思を離れての権利の主張は相当ということはできない。そして,原告らの本件請求は,法律の規定により第三者が訴訟追行権を有する法定訴訟担当の場合に該当しないのみならず,本件記録上,原告らにつき訴訟外農業者等から選定当事者等の手続による適法な授権があったことを認めるに足る証拠はないのであるから,原告らが,本件請求において,訴訟外農業者等の代表としてその権利ないし被侵害利益の主張を行うことは相当でないというべきである。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない


原告らの主張2(相原告らの被侵害利益)について
また,原告らは,本件開門の差止めを求める請求について,差止請求を認容すべき違法性があるかを判断するに当たって,被侵害利益の性質と内容を,侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等との間で,比較検討するについては,上記請求に係る個々の原告の被侵害利益を
1
違法性の判断において考慮すべき被侵害利益の範囲
判断の枠組み

考慮するだけでなく,当該個々の原告以外の原告(相原告)の被侵害利益全てを考慮すべきであると主張する。
しかし,各原告の請求の基礎となる所有権,賃借権,漁業行使権,人格権等は,個々の原告に帰属しており,共同で本件請求をしたとしても,この権利が当該個々の原告以外の原告にも帰属することとなるものではない。侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等との間で比較検討すべき被侵害利益について,当該個々の原告以外(相原告)の被侵害利益を直接考慮することはできないというべきである。
もっとも,本件開門により多数人の権利・利益について妨害のおそれが認められるならば,そのことは公共的な性質を有する事項というべきであるから,本件開門により多数の当事者の権利・利益について妨害のおそれが認められることは,本件開門の公共性ないし公益上の必要性を減殺する事情として斟酌することができるというべきである。すなわち,裁判手続において一定の事業の持つ公共性ないし公益上の必要性の有無及び程度を判断するに当たっては,当該事業の種々の社会的な側面(公共性,公益性だけでなく,弊害を含む。
)について多面的に評価すべきであり,当該事業
の主体である一方当事者の側からみた経済的,社会的利益だけでなく,法人を含む個々人の集合体である他方当事者の側の経済的,社会的損失をも考慮する必要があるからである。
したがって,
公共性ないし公益上の必要性を考慮するに当たっては,
個々
の原告の被侵害利益だけでなく,相原告の被侵害利益を,公共性ないし公益上の必要性を減殺する事情として考慮することができるというべきである。
判断の枠組み
そこで,
以下,
後記2ないし8において,
ケ-ス3-2開門がなされれば,
旧干拓地の所有権,新干拓地の賃借権・所有権,諫早湾内における漁業行使
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
権及び人格権の各行使につき妨害のおそれがあるか,妨害のおそれがある場合,その内容及び程度等はどのようなものであるか,被告が予定する被害防止のための事前対策の内容及び効果,その実施の蓋然性について検討する。また,後記9において,環境権に基づく請求の可否を検討し,その上で,後記10から12において,被侵害利益の性質と内容,侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性,侵害行為の違法性判断に当たり考慮すべきその他の要素を個別に検討し,後記13(397頁)において,上記⑴の見地に基づく総合的な考察を行い,ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるかを判断する。
2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ


妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)

事前対策を実施しない場合の妨害のおそれの存在
前記前提事実(⑽ア

)のとおり,原告旧干拓地(諫早)農業者らは,

その所有に係る旧干拓地(諫早)の土地において農業を営むところ,現状(本件開門がなされていない現在の状況・状態)では,淡水である潮遊池(その位置は別紙32のとおり)から農業用水を取水している。そして,事前対策を実施しないまま本件開門
(ケース3-2開門を含むものである。

がなされれば,調整池が塩水化し,既設堤防を介して隣接する潮遊池に塩水が浸入し,潮遊池の水が塩水化して農業用水として利用できなくなる。そうすると,旧干拓地(諫早)における上記農業につき農業用水の水源を喪失する高度の蓋然性がある。

被告が地下水案等の事前対策を実施する蓋然性
被告が主張する事前対策の内容
被告は,
被告は,事前に,農業用水を確保するため,地下水案等(本明川余剰水案,近傍中小河川案,下水処理水案及び地下水案),海水淡水化案の対策を単独又は組み合わせて行う蓋然性が高い旨主張する。
2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑴妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)
そこで,まず被告が,地下水案等の事前対策を実施する蓋然性が高いということができるか検討する。
認定事実
証拠(事実の後に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

地下水案及び海水淡水化案の内容
被告主張に係る事前対策のうち,地下水案及び海水淡水化案の内容は,次のとおりである。


地下水案
旧干拓地(諫早)においては既存井戸(深さ約50~120m)
を深さ約300mまで延伸して深井戸に改修する。旧干拓地
(吾妻)

新干拓地(中央)及び新干拓地(小江)においては深井戸(深さ300m)を新設し,地下水を取水する。



海水淡水化案

事前対策の内容
旧干拓地では潮遊池から,新干拓地では調整池から,それぞれ
塩水を取水し,その塩水から,海水淡水化施設において淡水を造
水するとともに,農業用水のピーク時の水需要に対応するため,
造水した淡水を貯水するため池を併設する。


海水淡水化施設及びため池の設置位置
海水淡水化施設は,新干拓地(中央)
,新干拓地(小江)
,旧干
拓地(諫早)
,旧干拓地(吾妻)
,白浜地区及び湯江・宇良地区の
6か所に設置し,そのうち新干拓地(中央)
,新干拓地(小江)及
び旧干拓地(諫早)の3か所については,ため池を併設する(そ
の位置は別紙58のとおり)



予算の成立

(乙A32の2-84頁)

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
内閣は,平成25年1月29日,次のとおりの,海水淡水化案を前提とした農林水産省予算の概算を閣議決定した。
海水淡水化施設の予算(平成25年度)約103億円(旧干拓地(諫早)
,旧干拓地(吾妻),白浜及び湯江・宇良に係る水田分として約58億円,新干拓地(中央)及び新干拓地(小江)に係る畑地分として約45億円の合計)


(乙A42,
44)

国会は,平成25年5月15日,上記の閣議決定された内容と同内容の予算を成立させた。

(乙A44,117,118)

国の平成27年度の予算案において,海水淡水化施設の建設工事費等約54億円が計上された。なお,農林水産省は平成24年ないし平成26年度の3か年で計243億円の工事費を計上(うち平成26年度は51億円)して事業を進める計画であったが,地元の反対により着工することができず,平成24年度及び平成25年度の工事費の大半が,
平成26年度の予算に繰り越された。
これらの過年度の予算は,
平成26年度末までに着工できなければ,平成27年度の予算に繰り越される見通しであった。

(甲A79,乙A166)

農林水産大臣の発言・回答
農林水産大臣は,平成24年11月4日から平成25年1月24日までの間,数回にわたって,被告がケ-ス3-2開門をする場合につき農業用水を確保するための事前対策として海水淡水化案を行うことを予定している旨の発言・回答をした。


(乙A45~47)

工事請負契約の締結
被告は,海水淡水化施設を設置するため,平成25年5月21日から同月24日までの間,次のとおり工事請負契約を締結した。


水ing株式会社との間で,同月21日,新干拓地(中央)の海
水淡水化設備製作据付工事等の請負契約を,代金10億2165万
2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑴妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)
円で締結した。
(乙A90の4,乙A104の3,乙A105の3,乙A111の3)


扶桑建設工業株式会社との間で,同月24日,旧干拓地(諫早)
の海水淡水化設備製作据付工事及びポンプ設備製作据付工事等の
請負契約を,代金20億7270万円で締結した。
(乙A90の6,乙A104の5,乙A105の5,乙A111の5)



五洋建設株式会社との間で,同月24日,旧干拓地(諫早)及び
旧干拓地
(吾妻)
の海水淡水化施設設置のための工事
(ため池工等)
請負契約を,代金43億3965万円で締結した。
(乙A90の2,乙A104の2,乙A105の2,乙A111の2)



水道機工株式会社との間で,同月24日,旧干拓地(吾妻)の海
水淡水化設備製作据付工事及びポンプ設備製作据付工事請負契約
を,代金11億6865万円で締結した。
(乙A90の7,乙A104の6,乙A105の6,乙A111の12)



西松建設株式会社との間で,同月24日,新干拓地(中央)及び
新干拓地(小江)の海水淡水化施設設置のための工事(ため池工,海水取水設備工等)請負契約を,代金18億6690万円で締結した。
(乙A90の1,乙A104の1,乙A105の1,乙A111の1)



扶桑建設工業株式会社との間で,同月24日,新干拓地(小江)
の海水淡水化設備製作据付工事並びに新干拓地(中央)及び新干拓
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
地(小江)のポンプ設備製作据付工事等の請負契約を,代金4億9350万円で締結した。
(乙A90の5,乙A104の4,乙A105の4,乙A111の4)

ケース3-2開門以外の開門方法との関係
なお,海水淡水化案は,ケース3-2開門以外の開門方法であっても,事前対策の内容としては同じである。
検討(被告が地下水案等を実施する蓋然性)
上記のとおり,内閣が海水淡水化案を前提とした予算の閣議決定を行
い,国会が上記閣議決定と同じ内容の予算を成立させたこと,農林水産大臣が被告において海水淡水化案を行うことを予定している旨繰り返し発言・回答したこと,被告が海水淡水化施設の設置工事等の請負契約を締結しており,海水淡水化施設設置を含む施設の建設工事費等の過年度の予算が平成27年度予算に繰り越される見通しであったことに照らせば,被告は,ケ-ス3-2開門をするに当たって,農業用水を確保するための事前対策として海水淡水化案を行うことを予定しており,地下水案等を行うことは予定していないというべきである。
したがって,被告が地下水案等を行う蓋然性が高いということはできない。
被告の主張について
これに対し,被告は,農業用水の代替水源対策として,複数の案の比較検討をした上で,海水淡水化案を基本とすることとし,予算を確保して一般競争入札を行い,工事業者との請負工事契約を締結したが,そのことから直ちに,地下水案実施の蓋然性が否定されるものではない旨主張する。
しかし,証拠(甲A29~31,63,甲C93,110,111,
2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑴妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)
乙C57)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,当初,代替水源案として地下水案を実施する方針としていたものの,地盤沈下を懸念する者らの反対等を踏まえ,海水淡水化案に方針を転換したこと,被告(九州農政局)が,平成23年12月15日付けで雲仙市地下水採取の規制に関する条例に基づき,雲仙市長に対し地下水案実施のための試験用井戸の設置許可申請をしたところ不許可とされ,異議申立てをしたものの,平成25年2月26日付けでこれを取り下げたこと,被告(九州農政局)は,
取下げの理由として

海水淡水化施設を基本とすることにしたため,ボ-リング調査の必要がなくなった。旨説明したこと,

諫早市が九州農
政局の申請に係る地下水取水の事前協議について合意できないとの意向を示し,農林水産大臣が諫早市についても地下水調査が条例により認められなかったこと等により地下水の取水を断念した旨発言したことが認められる。
上記のような農業用水の水源対策の方針転換や地下水取水に関する地方公共団体とのやりとりの経緯からすれば,被告が地下水案を実施する蓋然性が高いということはできず,被告の上記主張は採用することができない。

被告が海水淡水化案の事前対策を実施する蓋然性
海水淡水化案実施の蓋然性と特段の事情の有無
被告は,

被告が海水淡水化案の事前対策を実施する蓋然性は高い。

旨主張するところ,前記イのとおり,被告は海水淡水化施設設置のための予算を計上した上で,
工事施工業者との間で工事請負契約を締結した。
そうすると,海水淡水化施設やため池を設置できない特段の事情等がない限り,
被告が海水淡水化案を実施する蓋然性は高いというべきである。
そこで,以下,原告らが主張する特段の事情の有無について検討する。特段の事情の有無1
(資材等の仮置きのための民有地借上げの可能性)

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
原告らは,被告は海水淡水化施設設置のための施工機械や資材の仮置きのために民有地を借り上げる必要があるところ,その民有地を賃借できる見込みはないから,被告が海水淡水化案を実施する蓋然性が高いということはできない旨主張する。
証拠(甲A98,甲M16)及び弁論の全趣旨(被告第10準備書面において援用された同書面添付の債務者第42準備書面10頁等)によれば,海水淡水化施設の設置工事を実施するためには,施工機械や資材等を仮置きするための仮設用地を確保する必要があり,被告は,上記仮設用地を確保する方法として,原告らの一部を含む旧干拓地及び新干拓地の地権者数名が所有する民有地を賃借することを予定しているものの,旧干拓地及び新干拓地の地権者のほとんどは,本件開門に強く反対し,海水淡水化施設の設置工事に必要な仮設用地を賃貸して工事に協力することを拒否していることが認められる。そうすると,被告が,旧干拓地及び新干拓地の上記数名の地権者から土地を賃借して,海水淡水化施設の設置工事を実施するために工事現場近くの仮設用地を確保する可能性は低いというべきである。
しかし,仮設用地は,あくまで施工機械や資材を仮置きするためのものであるから代替性があり,海水淡水化施設の設置予定地から多少遠方の土地であれば,利便性が犠牲となりうるとはいえ,これを賃借する可能性はあり,また,施工機械や資材を仮置きする目的は,工事の便宜のためであって,仮設用地を賃借することができなければ,施工機械や資材を仮置きせずに車両で海水淡水化施設設置予定地に直接搬入して工事を施工することも可能というべきである。
そうすると,工事計画の変更や予算の組み替えなどが必要と考えられるが,上記いずれかの方法によって,海水淡水化施設を設置する工事を施工することは可能というべきであり,現在被告が予定している施工機
2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑴妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)
械や資材を仮置きするための仮設用地を確保できていないことをもって,直ちに被告が海水淡水化施設を設置する蓋然性を否定するに足る事情であるということはできない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
特段の事情の有無2(車両通行のための民有地借上げの可能性)
また,原告らは,被告が海水淡水化施設の設置工事の工事車両の通行のために,多くの民有地を借り上げる必要があるが,被告がこれを賃借できる見込みはないから,被告が海水淡水化案を実施する蓋然性が高いということはできない旨主張する。
証拠(甲A88,99)によれば,政府参考人は,平成25年11月6日,内閣委員会において

工事の施工に当たりましては,車両の通行ですとか資材置き場など,民有地を借り上げる必要もございます。

と述べたこと,旧干拓地(諫早)に農地を所有する者が,被告(国)の職員から対策工事の工事車両の離合場所
(狭い道路で車同士がすれ違う場所)
として既存道路の拡幅に必要な土地を借りたいと相談された際に,開門には反対だと答え,その所有する土地を賃貸しない意志であったことが認められる。
そうすると,被告が,上記農地所有者からその所有に係る農地を離合場所として賃借できる可能性は低いというべきである。
しかし,車両通行のため土地を賃借する目的は,あくまで離合場所としてであり,海水淡水化施設の設置工事において必要不可欠なものとはいい難く,交通整理員の配置などの代替措置も考えられ,工事用車両の通行ができないとまではいうことができない。そうすると,上記認定に係る事実のうち政府参考人が述べた車両の通行のために必要な土地を賃借する必要性は,このような離合場所を賃借するなどの,いわば工事を施工するに当たっての便宜上の必要性を含むものとして述べられたと解
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
され,具体的な工事用車両の通行可能性を否定する事情ということはできない。また,仮に通常の幅員の道路では通行できないような大型車両を通行させるため隅切りなどをする必要があったとしても,海水淡水化施設設置予定地へ至る道ないし手段は,
複数考えられることからすれば,
工事自体が不可能又は著しく困難とまではいうことができない。
そうすると,工事計画の変更や予算の組み替えなどが必要と考えられるが,
道路拡幅のための農地の賃借が困難といった事情があるとしても,直ちに工事の可能性が否定されるものではないから,当該事情をもって海水淡水化施設設置の蓋然性を否定するに足る事情であるということはできない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
特段の事情の有無3(高圧電力の供給可能性)
原告らは,一般財団法人造水促進センターによる長崎県からの海水淡水化施設導入に関する照会への回答(甲C94-4頁)を根拠に,海水淡水化施設では高圧ポンプの稼働のために高圧電力が必要であり,高圧電力を海水淡水化施設まで導引(供給)する必要があること,海水淡水化施設の周辺は,現在,海水淡水化施設を稼働するために必要な高圧電力が供給されておらず,上記高圧電力を海水淡水化施設まで導引するためには,新たな電線の配置計画の策定,配電工事,受電するための鉄塔の設置工事,鉄塔設置のための用地買収が必要となるが,被告はこれらを行っていないから,被告が海水淡水化案を実施する蓋然性が高いということはできない旨主張する。
証拠(甲C94,乙A132)によれば,①一般財団法人造水促進センターは,長崎県からの海水淡水化施設導入に当たっての問題点の有無についての照会に対し高圧ポンプの稼働のために高圧電力が必要であり,九州電力との電力網の調整が必要になるものと思われます。また,2旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ⑴妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)新たに造水施設までの高圧電力の送電施設等や受電のために鉄塔も必要になるなど,大掛かりになるかも知れません。と回答したこと,他方で,
②被告は,平成24年10月以降,九州電力株式会社との間で,海水淡水化施設の施設容量の説明や変電所等の必要性の有無等について9回の協議を実施し,被告が,同社に,必要な手続き,施設容量,変電所等を確認したところ,同社より,変電所の増設は不要であるが,電線の張り替えが必要であるとの回答を得たことが認められる。
そして,上記①の一般財団法人造水促進センターの長崎県からの照会に対する回答は,その内容に照らし海水淡水化施設を設置するに当たって一般的に考えられる問題点について回答したものであり,海水淡水化施設設置予定地への送電設備の現状や被告が使用予定の高圧ポンプに要する電力の具体的数値を踏まえての回答であるということはできない。他方で,上記②の協議における九州電力の回答は,現地に設置予定の海水淡水化施設の施設容量や同施設への送電設備の現状を踏まえたものであるから,より具体的で現実的ということができる。
上記のとおり,被告は,新たな電線の配置計画の策定のために九州電力と協議したから,これに基づいた配電工事(電線の張り替え)を実施する蓋然性が高く,また,上記九州電力の回答によれば,海水淡水化施設に高圧電力を供給するために,電線の張り替え以外に特段の工事が必要であるとの事情はうかがえないから,原告らが主張する受電のための鉄塔の設置やそのための用地買収は不要というべきである。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
特段の事情の有無4(ため池の設置に関する河川法上の規制)

原告らの主張
原告らは,被告が河川である調整池にため池を設置するには,河川法により,河川管理者との協議の成立が必要であるところ,調整池の
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
管理を行う長崎県等が開門に反対しており(甲C119,120),協
議にも応じていないから,協議が成立する見込みがあるということはできず,被告が海水淡水化案を実施する蓋然性が高いということはできない旨主張する。

河川法の定め
ため池設置に関連する河川法の定めは,概要以下のとおりである。⒜

9条
1項

一級河川の河川管理は,国土交通大臣が行なう

2項

国土交通大臣が指定する区間(以下指定区間という。
)内

の一級河川に係る国土交通大臣の権限に属する事務の一部は,政
令で定めるところにより,当該一級河川の部分の存する都道府県
を統括する都道府県知事が行うこととすることができる。
3項

国土交通大臣は,指定区間を指定しようとするときは,あら

かじめ,関係都道府県知事の意見をきかなければならない。これ
を変更し,又は廃止しようとするときも,同様とする。
(以下略)


24条
河川区域内の土地(河川管理者以外の者がその権原に基づき管理
する土地を除く。
以下次条において同じ。を占用しようとする者は,

国土交通省令で定めるところにより,河川管理者の許可を受けなければならない。



26条
1項

河川区域内の土地において工作物を新築し,改築し,又は除

却しようとする者は,国土交通省令で定めるところにより,河川
管理者の許可を受けなければならない。河川の河口附近の海面に
おいて河川の流水を貯留し,又は停滞させるための工作物を新築

2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑴妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)
し,改築し,又は除却しようとする者も,同様とする。
(以下略)


95条
国が行う事業についての(中略)
,第24条から第27条まで(中
略)の規定の適用については,国と河川管理者との協議が成立することをもって,これらの規定による許可,登録又は承認があったものとみなす。


認定事実
証拠(事実の後に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。


調整池は,一級河川である本明川の一部と扱われており,その河
川管理者は,国土交通大臣である(河川法9条1項)
。そして,本明
川(別紙94の図の青色部分)及び調整池の一部(段堂川から北部排水門までの長さ6.9㎞。別紙94の図の濃い水色部分。
)は,国
土交通大臣(国土交通省)が管理し,その余の調整池(別紙94の図の薄い水色部分)は,河川法9条2項の指定区間であり,長崎県知事が管理している(以下,長崎県知事が管理を行う部分を長崎県知事管理部分という。。)
また,被告が設置を予定するため池の一部は,長崎県知事管理部
分にその設置が予定されている。



(乙A50,61,165)

長崎県は,
開門の意義・目的,対策の不備など,問題が多々見受けられ,本県地元が必要性や公共性等のある事業として認めることができる内容ではありませんとして,被告との河川法95条の協議に応じていない。


(甲C119)

検討(ため池の設置に関する河川法上の規制)
前記のとおり,河川の一部とされる調整池に適法にため池を設置す
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
るには,河川管理者による土地占用の許可(河川法24条)及び工作物の新築の許可(同法26条1項)を得なければならないところ,調整池へのため池の設置は,国が行う事業であるから,同法95条により,河川管理者との協議が成立することをもって,河川管理者の許可があったものとみなされる。被告が設置する予定のため池のうち一部の設置予定地は,長崎県知事管理部分であるから,被告(国)は,これらのため池を設置するに当たり,河川管理者たる国土交通大臣から権限を移動された長崎県知事と同法95条の協議を成立させる必要がある。
そして,同法24条の許可は,国有地である河川の使用許可であって申請者に土地を占有する権利を与える処分であり,占用することの公益性,必要性等が考慮要素とされる。また,同法26条は,工作物の新築等が,治水上又は利水上支障を生ぜしめ,他の工作物に悪影響を与え,
景観その他自然的社会的環境を損なう等のおそれがあるため,
河川の使用関係を調整し,社会公共の秩序に障害を及ぼすのを防止するため,法律によってこれらの使用を一般的に禁止し,一定の申請に基づいて,河川管理者が具体的な事案について検討の上,支障がなければその禁止を解除し,河川の使用を許可するものである。
被告が,海水淡水化案において予定するため池を設置するために河川区域内の土地を占有し,工作物(ため池)の新築を行う目的は,本件開門を行うに当たって,農業用水の水源を喪失する新干拓地及び旧干拓地に農業用水を供給するというものであるから,公益性,必要性があるということができる。また,後記(エ

)のとおり,ため池

を設置することによって,調整池の調整能力に有意な影響があるということはできず,また,ため池設置時の地盤改良剤による環境汚染のおそれがあるともいうことはできないから,河川区域内の土地の占有
2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑴妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)
ないし工作物の新築等が,治水上又は利水上支障を生ぜしめ,工作物に悪影響を与え,景観その他自然的社会的環境を損なう等のおそれがあるということはできない。
この点,
長崎県は,

開門の意義・目的,対策の不備など,問題が多々見受けられ,本県地元が必要性や公共性等のある事業として認めることができる内容ではありません。

として,河川法95条の協議を行わ
ない。しかし,同法95条の協議においては,同法24条,同法26条の考慮要素に照らして,ため池を設置することの公益性ないし必要性,ため池を設置することの支障等がその協議の対象であり,本件開門それ自体の必要性,公共性等の開門の是非は,ため池設置の公益性等とは異なる事項である。
本件において,河川区域内の土地の占用及び工作物の新築に関して,河川法95条の協議に応じない具体的理由となるべきものはほかに見当たらない。そうすると,同条の協議が成立する見込みは否定されないから,
現在,
長崎県が同条の協議に応じないことをもって,
被告が,
海水淡水化案を実施する蓋然性を否定すべき事情ということはできない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
小括(海水淡水化案実施の蓋然性について)
以上のとおり,被告は,海水淡水化施設設置のための予算を計上した上で,工事施工業者と工事請負契約を締結しており,原告らの主張する海水淡水化施設やため池を設置できない特段の事情はいずれも採用できないから,被告が海水淡水化案を実施する蓋然性は高いというべきである。

海水淡水化案による農業用水確保等の効果
原告らの主張

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
原告らは,被告が予定する海水淡水化案では,農業用水を確保することができない上,海水淡水化施設設置や操業に環境上の問題等があり,実現可能性を欠く旨主張する。
認定事実
証拠(事実の後に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

海水淡水化の仕組み(逆浸透膜〈RO膜〉
)とその問題点
被告が予定する海水淡水化の方法は,取水した海水に,その塩分濃度に応じた圧力をかけて,逆浸透膜(RO膜)と呼ばれる塩分等を除去するろ過膜に通し,淡水を精製するというものである(海水淡水化のイメージは,別紙59記載のとおり。。

逆浸透膜(RO膜)を利用する海水淡水化施設については,逆浸透膜に許容濁度以下の海水を供給するための前処理施設などを設けることとされる。この前処理施設とは,逆浸透膜の目詰まり及び劣化を防止するため,凝集・沈殿・ろ過等により原水中に含まれる濁質を除去し,逆浸透膜への供給に適した清澄度に水質調整する設備である。また,逆浸透膜は,①膜の圧密化などによる経年的劣化,②化学物質による劣化,③微生物の繁殖などによる劣化,④温度,圧力等による変形,目詰まり等の機械的・物理的外因による劣化により,膜透過水量の減少及び塩除去率の低下を示す。
そして,逆浸透膜処理では,前処理を慎重に行っても,膜ろ過を継続すると膜の目詰まり(ファウリング)が生じる。通常は,これらの目詰まりは逆圧洗浄やエアスクラビング(空気洗浄)などの物理洗浄で除去するが,それでも徐々に目詰まり物質が膜表面及び膜内面に蓄積する。
これらの物質を除去し,
膜性能を回復させるため化学洗浄
(薬
品洗浄)が実施される。海水淡水化施設の設計時には,このような膜
2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑴妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)
洗浄ができるような薬品タンク,洗浄ポンプ,配管などを組み込んでおくとよいとされる。膜を洗浄する際は,0.5㎏f/㎠程度の定圧で1~3時間程度薬液を循環し,汚染が著しい場合は,10時間以上洗浄液に浸漬した後,循環洗浄すると効果があるとされる。
そのため,海水淡水化施設の設置場所については,できるだけ清澄な原水が得られ,取水施設,前処理,膜の性能等に基づき,目標とする水質で処理するのに適するか,また,膜エレメントの長期かつ安定した機能を維持できるか判断した上で,選定すべきとされる。
(甲C31,乙C25,26)

他県の海水淡水化施設の造水能力,稼働率等


沖縄県
沖縄県北谷町宮城では,逆浸透膜(RO膜)を利用した海水淡水
化施設を設置した。その造水能力は4万㎥/日であり,回収率は約40%であった。



(乙A65)

福岡県
福岡県は,
造水能力が5万㎥/日の海水淡水化施設を建設した。

水となる海水の塩分濃度は約3.5%であり,原水のうち淡水化された残余の処理水の塩分濃度は,約2倍の7~8%であった。
(甲C96,乙A84)



香川県
香川県では,海水淡水化施設の導入可能性について検討し,稼働
率は,機器保守を除いて常時稼働した場合,90%であると想定した。


(甲C100)

平成14年ないし平成23年の9月の降水量
平成14年ないし平成23年の9月の降水量は,下表のとおりであり,
その平均は126㎜である。

(甲C34)

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について

降水量(㎜)


H14
H15

H16

H17

H18

H19

H20

H21

H22
H23
旧干拓地(諫早)の取水実績等(環境アセスメントの結果)
釜ノ鼻地区(同地区の干拓地が旧干拓地(諫早)である。
)は,調整
池が淡水化する以前は,地下水を農業用水として利用していたが,平成12年以降,調整池の淡水化に伴い循環かんがいの利用が始まり,短期開門調査以降,
徐々に地下水から循環かんがいへの切替えが進み,
現在は農業用水の全量が循環かんがいとなっている。
釜ノ鼻地区の平成22年度の年間取水量(かんがい期〈6月ないし10月〉と同じ。
)は,合計約195.8万㎥/年であり,これは地下
水利用も含めた過去10年間(平成13年度ないし22年度)で最大であったところ,月別では,6月に11万7330㎥,7月に44万9970㎥,8月に67万6040㎥,9月に67万8680㎥,10月に3万5800㎥の取水がされた。なお,平成17年度から平成22年度の水需要のピーク月は,8月又は9月であり(なお,月間降水量が41㎜しかなかった平成21年9月の取水実績は42万㎥/月であった。,10月の取水実績は,10万㎥前後であった。

なお,昭和48年から平成11年(循環かんがいの利用前)までの27年間の年間取水量のうち,上記平成22年度の取水量(195.8万㎥/年)を上回った年は,昭和53年の214.0万㎥/年,昭和56年の209.5万㎥/年,昭和57年の209.7万㎥/年,平成2年の196.7万㎥/年,平成6年の258.5万㎥/年の5回のみであった。
(甲C14,乙A32の1_6.14.1-20・29頁)


小野地区ないし小野島地区の使用水量
小野地区ないし小野島地区(その位置は甲A22のとおり)と旧干拓地(諫早)との間には,二反田川(その位置は別紙21)があるた
2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑴妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)
め,これらの地域は用水系統・排水系統を異にする。
そして,小野地区ないし小野島地区のうち赤崎町,川内町,小野島町,小野区土木では,河川水(小ヶ倉ダムからの水を含む。
)から水中
ポンプを使用して農業用水を取水し,これらの地区で使用された農業用水は,旧干拓地(諫早)の潮遊池ではなく,新干拓地(中央)の北部内部堤防付近の天狗鼻樋門・排水機場ないし梅崎樋門・排水機場から調整池等へと排水される。
(甲A22,甲C35の1~3,甲C108,109,乙A32の1_6.14.1-15・31・36・41・42頁,乙A102)f
被告が設置する予定の海水淡水化施設及び前処理施設の概要
被告は,環境アセスメントの調査結果を踏まえ,過去10年間(平成13年度~22年度)で年間取水量が最大であった平成22年度の取水量(195.8万㎥/年)を確保することとし,旧干拓地(諫早)に,
造水能力が1万5000㎥/日の海水淡水化施設を設置し,
併せて
59万1500㎥の容量のため池を設置する予定である。
なお,旧干拓地(吾妻)では,造水能力が7700㎥/日の海水淡水化施設を設置する予定である。
(甲A87,乙A32の1_6.14.1-78頁,乙A90の2・6・7)
被告が設置を予定する海水淡水化施設における海水淡水化の具体的過程は,以下のとおりである。すなわち,旧干拓地については新たに設置する常時排水ポンプにより潮遊池の塩水を分岐取水し,新干拓地では既設の揚水ポンプにより調整池の塩水を取水し,いずれもこの原水を前処理施設(濁水処理装置)へと送水する。前処理施設では,原水にポリ塩化アルミニウム凝集剤(PAC)を注入して攪拌した後,高分子凝集剤を添加して攪拌し,凝集した懸濁物質を沈降させ,上澄
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
みの処理水を海水淡水化施設に送水する。前処理施設から送水された水は,海水淡水化施設内に設置された凝集沈殿槽(沈砂池)
,急速ろ過
器(砂ろ過。比較的粗い砂利や砂の層に水を通すことで,水中の不純物をろ過して水を浄化する方法)菌・ウイルス等を除去するUF膜に,
よるろ過を経て,逆浸透膜(RO膜)に圧力をかけることで海水から淡水を精製する。
このような過程で精製された淡水は,旧干拓地(諫早)及び新干拓地については,一旦ため池に貯留され,用水の需要に応じて,既設の循環かんがいポンプを経由して,
ほ場へと送水され,
旧干拓地
(吾妻)
については,ため池を経由せずそのままほ場へと送水される。
海水を淡水化する過程で塩水から淡水を抽出することにより生じ
る高濃度の塩水(以下高塩分濃度処理水という。
)は,旧干拓地に
ついてはそのまま調整池に排出し,新干拓地については調整池の塩水で調整池と同程度まで希釈してから,調整池に排出する。
(甲A87,乙A32の1_6.13.1-90・91頁,乙A60,64,66,67,70~73)

被告等による試験の実施及び水収支の検討
被告は,前処理(凝集沈殿等)の室内試験を行い,調整池及び潮遊池から原水を取水し,開門後に想定される塩分濃度や濁度となるよう調整した上で,これにポリ塩化アルミニウムや塩化第二鉄を添加することによって,逆浸透膜に通すことができる水準まで濁りを低減し,海水淡水化施設の原水として問題が生じないとされる目安まで処理できることを確認した。また,海水淡水化施設設置の受注業者においては,実際に設置する装置を使った稼働試験を行った。
被告は,釜ノ鼻地区について,海水淡水化施設のため潮遊池から約4万㎥/日の水が利用可能として,
造水能力を1万5000㎥/日とし,

2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑴妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)
海水淡水化施設により供給する淡水のほか,上流域からの流入(概ね7000㎥/日)やため池の貯水利用により,年間の水収支上,不足が生じないと判断した。

(甲A77)

被告担当者の回答
被告の担当者は,被告補助参加人代理人弁護士らとの会談において,タンクロ-リ-によって不足する水を運搬することも考えられる旨示唆した。

(乙A147)

検討(海水淡水化案の実施によって必要な農業用水を確保できるか)a
確保予定水量について
被告は,旧干拓地(諫早)について,過去10年間で最大の年間取水量であった平成22年度の195.
8㎥/年の農業用水を確保する旨
主張する。
上記認定事実によれば,旧干拓地(諫早)に設置予定の海水淡水化施設を1か月間フル稼働した場合の造水量は,
単純計算で45万㎥/月
又は46.5万㎥/月(1万5000㎥/日〈24時間〉×30日又は31日)となる。
しかし,海水淡水化施設では,前処理施設等による原水のろ過等を行った場合でも,淡水化を継続することによって,逆浸透膜に目詰まり(ファウリング)が生じるため,逆浸透膜の洗浄作業や交換作業が必要となり,その作業には一定の時間がかかる(上記設置予定の海水淡水化施設の造水能力が,これらの作業時間を踏まえたものであると認めるに足りる証拠はない。。そして,前記のとおり,香川県の事例)
では,機器保守のために1割程度稼働することができないと想定されていることからすれば,
海水淡水化施設の稼働率を考慮した造水量は,
40.5万㎥/月又は41万8500㎥/月(45万㎥/月又は46.5万㎥/月×0.9)であり,ため池の最大貯水量(59万1500㎥)
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
との合計は,99万6500㎥又は101万㎥となる。
これに対し,旧干拓地(諫早)の過去10年間(平成13年度~22年度)の一月当たりの最大取水量は,平成22年度9月の67万8680㎥である。
同年度の各月の取水量を考慮すると,5月末時点でため池が満水の状態であると仮定した場合,平成22年度10月末までの取水量と造水能力,ため池の残水量の経過は,下表のとおりとなる。
(単位:㎥)
取水量

造水能力

ため池水量増

ため池残水量


5月末

418,500

591,500

6月末

117,330

405,000

591,500

7月末

449,970

418,500

-31,470

560,030

8月末

676,040

418,500

-257,540

302,490

9月末

678,680

405,000

-273,680

28,810

10月末

35,800

418,500

382,700

411,510

上記表のとおり9月末頃には,ため池残水量が約2万8810㎥程度になる可能性がある。そして,過去の最大取水量を記録した平成22年9月の降水量は130㎜であり,過去10年平均(126㎜)と同程度であるから,より渇水の年となった場合には,最大取水量がさらに増加し,現在予定している海水淡水化施設による造水能力及びため池の容量ではまかないきれなくなる可能性が一定程度存在する。しかし,過去の取水実績(例えば,前年の平成21年9月の降水量は平成22年9月の約3分の1である41㎜であったが,取水量は平成22年9月を下回る。や前訴判決で命じられた5年の開門期間を踏)
まえると,仮に必要な農業用水が一部不足するとしても,その不足水2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑴妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)
量として見込まれる水量は比較的少量であり,農業用水が不足する日数は数日にとどまるものと考えられ,また,農業用水としては,海水淡水化施設による造水のほか,上流域からの流入(7000㎥/日)があり,前記被告担当者の回答のとおり,タンクロ-リ-によって不足する水を運搬することで,不足する農業用水を補うことも考えられるから,水不足により直ちに農業被害が生じるということはできない。そうすると,
認定事実によれば,
被告が予定する海水淡水化案では,
原告旧干拓地(諫早)農業者らの所有に係る農地において農業被害が生じるということはできない。
したがって,原告旧干拓地(諫早)農業者らの上記所有権に基づく使用収益につき,妨害のおそれがあるということはできない。

原告らの主張1(1/10確率渇水年の降水量)について
これに対し,原告らは,旧干拓地(諫早)について,1/10確率渇水年の降水量を前提とする必要水量を確保すべきである旨主張する(なお,その水量は明らかではない。。

しかし,証拠(甲A16)によれば,原告らの主張する1/10確率渇水年(10年に1回程度の干ばつ年)の降水量を前提とする必要水量は,
土地改良事業計画設計基準
によって定められた計画日消費水
量であると認められ,これは,その条件に照らし,ある程度余裕をもった必要水量の基準であるから,この水量に不足したとしても,過去の最大取水量が概ね確保できていれば,直ちに農業被害が生じるものということはできない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。


原告らの主張2(潮風害対策のための用水量)について
原告らは,海水淡水化案では,潮風害対策として農作物に散水するための用水量を考慮していない旨主張する。

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
しかし,後記(


e〈189頁〉
)のとおり,潮風害対策の水は,

かんがい用水を兼ねるものとされており,かんがい用水とは別に潮風害対策の水を確保する必要があるとまではいうことができない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

原告らの主張3(小野地区等のポンプによる用水量)について
原告らは,環境アセスメントにおいて,小野島地区ないし小野地区(甲A22)でのポンプによる用水使用量が考慮されていない旨主張する。
しかし,前記認定事実のとおり,小野島地区ないし小野地区と旧干拓地(諫早)では用排水系統を異にしていると認められ,これを覆すに足る的確な証拠はない。そうすると,小野島地区ないし小野地区での移動式ポンプによる取水は,旧干拓地(諫早)の使用可能水量等に影響を及ぼすものではないというべきである。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。


原告らの主張4(実証試験の欠如)について
原告らは,造水促進センターや日本水道協会との打ち合わせ内容,他の海水淡水化施設での事例(甲C94~97)をもとに,調整池のように濁りが多く,クロロフィルa濃度が高いところで海水淡水化施設を設置するに当たっては,実証試験が必要である旨主張する。
しかし,前記認定事実のとおり,被告においては,開門後に予想される調整池ないし潮遊池の塩水を調整して汚濁除去の室内試験を実施しており,受注業者においては,実際に設置する装置を使った稼働試験を行っているから,予測の正確性が一定程度担保されており,現地における実証試験が行われていないことは,上記の海水淡水化案による農業用水確保等の効果に関する各判断を直ちに左右するものではない。

2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑴妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
原告らの主張5(高塩分濃度処理水の排出による塩害の危険性等)について
原告らは,海水淡水化案実施による塩害や環境汚染等の問題を挙げて,その設置,操業について実現可能性を欠く旨主張するので,以下,順に検討する。
まず,原告らは,海水淡水化後の高濃度の塩水を既設堤防ないし内部堤防の近くで調整池に排水することによって,既設堤防ないし内部堤防を介して,高濃度の塩水が農地側に浸透し,塩害が生じやすくなる旨主張する。
前記認定事実及び証拠(甲A87-2頁,乙A16-2頁,乙A32の1_6.5.1-44頁,乙A32の1_6.2.3-27・69頁)によれば,被告は,旧干拓地において,潮遊池から原水を取水して海水淡水化後に高塩分濃度処理水の調整池への排出を予定すること,ケ-ス1開門
(平成19年気象条件下)
における調整池
(B1地点,
B2地点)
の塩分濃度は,表層,底層ともに約20~29‰と予測され(塩化物イオン濃度:1万1070~1万6052㎎/L
〈換算式は乙A159等〉

中間値は1万3561㎎/L)
,このときの潮遊池の塩化物イオン濃度は,
平均8900㎎/Lと予測されること,
そして,
調整池の容量2900万
㎥(前記前提事実

イ)に対し,本件各排水門からの1回当たりの導排

水量は,
その量が最も少ないケース3-2開門で,
平均約150万㎥
(年
間約10億㎥)であること(別紙44-2頁)が認められる。
以上を前提に,本件開門の中で海水導入量が多いため,調整池の塩分濃度が高く,それに伴い潮遊池の塩分濃度も高いケース1開門についてみると,高塩分濃度処理水の塩化物イオン濃度は,海水淡水化前の原水の概ね2倍になるから
(前記

b⒝)ケース1開門での高塩分濃度処理


第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
水の塩化物イオン濃度は,平均1万7800㎎/L(計算式:8900㎎/L×2)程度となる。また,海水を淡水化した場合の淡水化率が4割程度の事例があることを踏まえると(沖縄県の事例〈前記

b⒜〉,淡水


造水量と高塩分濃度処理水との比率は,概ね4:6となる。そして,旧干拓地(諫早)及び旧干拓地(吾妻)の海水淡水化施設の造水能力は,それぞれ1万5000㎥/日と7700㎥/日であるから
(前記

f)旧


干拓地における高塩分濃度処理水の排水量は,1日当たり約3万4050㎥(計算式:淡水造水量〈1万5000㎥+7700㎥〉÷4×6)程度となる。
そうすると,①調整池の水と高塩分濃度処理水とでは塩化物イオン濃度の差は,ケース1開門であっても4000㎎/L程度(計算式:1万7800㎎/L-1万3561㎎/L)である,②調整池の容量2900万㎥に対し,1日当たりの高塩分濃度処理水の排水量は,約3万4050㎥であり,その約1‰にとどまる,そして,③本件開門のうち最も導排水量の少ないケース3-2開門でも,調整池の2900万㎥の水のうち,平均150万㎥/回
(年間約10億㎥)
の導排水が行われて調整池の水が
交換されるのであるから,上記のような濃度差の高塩分濃度処理水が,容量があり,導排水が行われる調整池の水の塩化物イオン濃度を著しく高めるとは直ちにいい難く,その排出によって,塩害のおそれが高まるとまではいうことができない。また,調整池における局所的な高塩分濃度処理水の存在が潮遊池の塩化物イオン濃度に与える影響については,認めるに足りる証拠が見当たらない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
原告らの主張6(ため池設置による調整池の調整能力への影響)について
原告らは,調整池内にため池を設置すれば,調整池に貯留できる水が
2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑴妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)
減少し,高潮等が発生した場合の調整能力を喪失する旨主張する。しかし,証拠(乙A138)によれば,被告において,昭和32年の諫早大水害の洪水量で,ため池を設置する場合としない場合とで,調整池の水位が上昇するか予測したところ,その水位差は約2㎝にとどまった。そうすると,調整能力について有意な違いがあるということができず,これにより原告旧干拓地(諫早)農業者らの所有に係る土地における農業被害が生じる具体的なおそれがあるということはできない。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
原告らの主張7(ため池設置時の地盤改良剤による環境汚染)について
原告らは,ため池設置の際に地盤改良剤(セメント)のアルカリ成分の漏出による環境汚染が生じる旨主張する。
しかし,証拠(乙A87,乙A139,164)によれば,被告は,通達に従って,アルカリ成分を中和する処理施設を設ける,調整池との間で仮締切りを設けるなどの対策をとることとしており,ため池の設置から直ちに環境への悪影響が生じるおそれがあるということはできない。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
小括(海水淡水化案による農業用水確保等の効果について)
以上のとおり,認定事実によれば,被告が,旧干拓地(諫早)に海水淡水化施設等を設置した場合,概ね必要な水量の農業用水を確保することができるということができ,仮に農業用水が不足するとしてもその不足の程度が農業に被害をもたらすほど著しいものとなるとはいい難く,この不足する農業用水を確保することも可能であるということができる。また,被告が設置する予定の海水淡水化施設等について,その設置,操業の実現可能性を否定する,環境上の問題や塩害などがあるということはできない。

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について

妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)について
以上のとおり,事前対策をしなければ本件開門(ケース3-2開門を含むものである。により農業用水の水源喪失の高度の蓋然性があるが,)
認定
事実によれば,被告が海水淡水化案という事前対策を実施することにより農業用水が確保され,その実施の蓋然性は高い。
したがって,原告旧干拓地(諫早)農業者らの旧干拓地(諫早)の所有権の行使につき,本件開門(ケース3-2開門を含むものである。)がなさ
れた場合の農業用水の水源を喪失することによる妨害のおそれがあるということはできない。



妨害のおそれ②(潮風害)

事前対策を実施しない場合の妨害のおそれ(潮風害台風を除く)の存在前記前提事実(


)のとおり,本件開門(ケース3-2開門を含む

ものである。
)がなされれば,調整池が塩水化するため,季節風等の強風が
長時間続き,その間に降雨がないときは,事前対策をしない場合,新干拓地及び旧干拓地における農業につき潮風害が発生する高度の蓋然性がある。イ
潮風害(潮風害台風を除く)に対する事前対策の効果
認定事実
証拠(事実の後に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

潮風害の機序等
潮風害は,降雨を伴わない台風(潮風害台風)によって,海水を含んだ潮風が陸地に吹き込み,風の中の塩分が作物に付着し,作物の表面や茎葉の細かい傷などを通して作物内に吸収され,生理的脱水現象を起こして発生するものであり,潮風害台風のみでなく季節的な強風によって潮風害が発生することもある。潮風害の被害の程度は,海岸に近いほど指数的に大きくなる。

2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑵妨害のおそれ②(潮風害)

そして,本件開門がなされれば,調整池が塩水化するため,現状よりも海岸と農地との距離が1.2㎞ないし3.6㎞程度近くなり(現状の海岸線である潮受堤防と農地との距離は,別紙60のとおり。,)
季節風等の強風が長時間続く場合,海面の波が高くなり,砕けた波が飛沫となってその塩分が強風により内陸部まで運ばれ,新干拓地ないし旧干拓地の作物に付着する。
その間に降雨がなく,事前対策を実施しないときは,上記の機序で潮風害が発生することになる。
(甲A3,甲A34の3,甲A61,甲Cア5の37)

塩分付着量と潮風害の関係
潮風害が生じる可能性がある塩分付着量は,作物によって異なるとされている。


水稲
水稲は,1穂当たりの塩分付着量が1㎎以上で大きな被害がある
とされており(なお,この塩分付着量未満でも玄米重量が低下する場合もあるが,
ほとんど変化がないこともあるから,
1㎎/穂で潮風
害が生じると判断することが不適切ということはできない。,この)
量を100㎠当たりの塩分付着量に換算すると,
4.8㎎/100㎠
となる。
潮風害を起こすような風速の風が数日(長くても3,4日程度)
吹き続けると付着塩分が蓄積し,上記潮風害の発生塩分量(4.8㎎/100㎠)に達する。
(甲Cア5の33・34,甲C47,乙A32の1_6.14.3-38頁)



レタス(被告による耐塩性試験の結果)
被告が,レタスの苗,生育株に塩水を噴霧する耐塩性試験を行っ

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
た結果は,以下のとおりである。

(乙A144)


苗について,
風速10m/sの風に1時間当てて,
複数の塩分濃
度の水を噴霧したところ,その噴霧塩分濃度(‰)
,苗葉の付着塩
分量(㎎/100㎠)と対比率(噴霧塩分濃度が0‰の場合の1株当たりの生茎葉重の平均を100%とした場合の,各噴霧塩分濃
度における1株当たりの生茎葉重の平均の比率)との関係は,以
下のとおりであった。なお,各噴霧塩分濃度の苗の数は,それぞ
れ10株程度であった。
噴霧塩分濃度(‰)

苗葉付着塩分量(㎎/100㎠)

対比率(%)

0.0

100

4.0

2.72

96

8.0

4.39

87

16.0

9.91

88

35.0

23.87

71

70.0

0.00

62.69

41

生育株
生育株について,作物の茎葉をゴム手袋で人為的にこすって,
傷を付け,複数の塩分濃度の水を噴霧したところ,噴霧塩分濃度
(‰)
,生育葉の付着塩分量,対比率との関係は,以下のとおりで
あった。なお,各噴霧塩分濃度の生育株は,それぞれ3株程度で
あった。
噴霧塩分濃度(‰)

生育葉付着塩分量(㎎/100㎠)

対比率(%)

0.0

0.00

100

4.0

1.58

95

8.0

2.99

93

16.0

7.02

76

35.0

20.65

56

2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑵妨害のおそれ②(潮風害)

70.0


37.93

25

諫早湾干拓地の作付品目(平成21年度)の塩類抵抗性
環境アセスメントによれば,諫早湾干拓農地の作付品目(平成2
1年度)の塩類抵抗性は,バレイショ,カンショ,エンドウが弱
程度,カボチャ,タマネギ,ニンジン,レタス,ホウレンソウ,大麦,
スーダングラス,
ソルゴー,
稲,
麦,
ミニトマト,
トマトが

程度とされている。



(乙A32の1_6.
14.
3-21頁)

長崎県農林技術開発センターによる潮風害試験の結果

潮風害試験の内容
長崎県農林技術開発センターでは,
レタス,
ハクサイについて,
潮風害試験を行った。同試験では,29日間中毎週1回,ハンド
スプレーで,①無処理,②1倍濃度海水,③2倍濃度海水,④3倍濃度海水を15回噴霧して,生育初期のレタス,ハクサイの成
長への影響を分析した。

(甲C46)

そして,散布開始後29日目の塩分付着量,草丈,生重量,葉
先の症状,
障害が発生する閾値について,
以下のとおり報告した。

レタスの試験結果
生育葉付着塩分量(㎎/100㎠)

草丈(%)

生重量(%)

0.43(無処理)

100

100

0.92(1倍濃度海

102

109

1.84(2倍濃度海

90

86

2.18(3倍濃度海水)

85

62

このほか,2倍濃度海水,3倍濃度海水では,葉先が枯れる症
状が認められた。
したがって,
レタスについては,
2㎎/100㎠程度の塩素付着
量で障害が発生する。

ハクサイの試験結果

(甲C46の2)

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
生育葉付着塩分量(㎎/100㎠)

草丈(%)

生重量(%)

0.57(無処理)

100

100

1.12(1倍濃度海

152

259

2.61(2倍濃度海

115

146

4.86(3倍濃度海水)

138

219

このほか,2倍濃度海水,3倍濃度海水では一部の葉先に白い
部分が認められた。
したがって,ハクサイについては,2.6㎎/100㎠程度以上
の塩素付着量で障害が発生する。

(甲C46の1)

環境アセスメントにおける飛来塩分量の現地調査の結果等


飛来塩分量の現地調査の概要
環境アセスメントでは,飛来塩分に関する現地調査を実施し,調
査結果の解析を行った。観測地点は,別紙95のAないしN地点である。調査の方法は,1方向(諫早湾側)又は4方向(北東,南東,南西,北西)に100㎠のガーゼを設置し,付着した塩化物イオン濃度を分析し,飛来塩分量を調べるというもの(ガーゼ法)であった。ガーゼの試料採取は原則1か月単位とし,例外的に台風時等の異常気象時に追加採取することとされた。
(乙A32の1_6.
14.
3-2頁,
乙A32の2-108頁)



飛来塩分量と海岸からの距離との関係
上記現地調査の結果,飛来塩分量は,海岸から離れるに従って減
衰する傾向があった。そして,塩分付着量が,水稲の潮風害の発生塩分量である4.
8㎎/100㎠となる距離は,
現在の海岸線となる
潮受堤防から2.3㎞までと分析された。海水との接点は,現状,潮受堤防であるところ,本件開門を実施した場合には,内部堤防ないし既設堤防に移行することから,内部堤防ないし既設堤防から2.3㎞の範囲で潮風害の発生塩分量を上回ることがあると予測され
2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑵妨害のおそれ②(潮風害)

た。
(乙A32の1_6.14.3-34・37・41・43~45頁)⒞

飛来塩分量と風向との関係
また,上記現地調査の結果,観測地点のうち潮受堤防上にあるF
地点と中央干拓地にあるC地点は,いずれも北東方向ないし北西方向のガーゼへの飛来塩分量が多かった。
そして,
北東風については,
(風速-5m/s)
の2乗値の累積値
(以下
風量累積値
という。

と飛来塩分量との間に相関関係が認められた。
他方,北西風については,N地点(諫早湾に面する島原半島北西
地点)の観測期間中の風量累積値が最大となった期間のデータから,海岸から2.
8㎞の範囲で4.8㎎/100㎠となり得ると予測され
た。なお,北西風については,北東風と比較して海域の広がりが少ないため,潮風害の発生確率が下がると分析された。そして,北西風を考慮しない場合でも,考慮した場合でも原告農業者らが被りうる潮風害の範囲には概ね変化がなかった。
また,
南西風については,
新干拓地及び旧干拓地について潮風害の発生源となる海域が存在
しない。南東風については,4.8㎎/100㎠を超過する飛来塩分量となる風量は観測されていない。
そして,南東風,南西風,北西風の風量累積値は,飛来塩分量と
の間に相関関係が認められず,北東風が飛来塩分量に大きく関与していると分析された。
(乙A32の1_6.14.3-33・46~49頁)



潮風害発生の必要条件の推定
環境アセスメントでは,以上を総合して,北東方向の風速5m/
s以上の季節風が,一定時間(4日程度)継続的に発生すること
で,内部堤防から2.3㎞の範囲内において作物に付着する塩分

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
が蓄積し,付着塩分量が4.8㎎/100㎠以上となると予測し
た。他方,塩分が一定程度付着した場合でも,降雨があると,一
定量の塩分は洗い流されるものと推定した。
(乙A32の1_6.14.3-39・41・56頁)

塩分が付着した場合の対策に関係する知見


土地改良事業設計基準の記載
土地改良事業計画設計基準計画農業用水(畑)(甲A3)

には,作物に付着した塩分の洗い流しについて,以下のような趣旨の記載がある。
危険な量の塩が付着した場合,どの範囲の時間内に洗浄を行えば
よいかは,風の吹き方,着塩状況,日照の有無,作物体の条件等によって差異があるところ,みかん,茶の実測例によれば,4時間以内の洗浄で顕著な効果を認めている場合が多く,8時間以内でも若干の効果がある。しかし,それ以上の時間が経過すれば,付着した塩分のかなりの部分は作物体内に移行してしまい,直接の洗浄効果はあまり期待できない。また,どの程度の水量を散布するかについては,みかん,茶等の調査事例を参照すると,おおよそ4㎜程度と思われる。あまり少量では作物体表面に付着している塩分を洗い流す効果は乏しく,むしろ結晶化している塩分を再溶解させ,再び作物体内に吸収させることとなって被害を助長する場合もあるので,注意しなければならない。単位用水量は12~24㎜/日となる。(甲A3-210頁)


沖縄県宮古島におけるサトウキビ畑での散水の効果
沖縄県の宮古島において,サトウキビ畑に台風が襲来し,付着塩
分量が増加した後に,無散水,10,20,30㎜の散水をしたところ,30㎜の散水時には,付着塩分量が一定程度減少する効果が
2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑵妨害のおそれ②(潮風害)

あったが,その他については付着塩分量を減少させる効果はほとんどみられなかった。


(甲Cア5の36)

ハクサイの葉の特徴等
ハクサイの葉には,毛じと呼ばれる産毛があり,葉に凹凸が多
いのに対し,茶やみかんについては,葉の凹凸は少ない。
(甲C48~50)


被告が予定する事前対策の内容(散水等)


被告の予定する潮風害の事前対策は以下のとおりである。
複数のモニタリング地点においてガーゼ法(4方向)により飛来
塩分のモニタリング(通年観測)を行う。併せて,風向・風速をモニタリング
(連続観測)
して5m/s以上の風による飛来塩分量を推
定し,必要に応じて飛来塩分量をガーゼ法によって4時間程度かけて分析する。そして,潮風害の発生塩分量に達するおそれがあると推定される場合(すなわち潮風害の発生塩分量に達するよりも前)に,
ローテーションによる散水を開始する。
ローテーション散水は,
例えば,干拓地を2つ又は3つのブロックに分け,地域毎(調整池に近い方)
・作物毎(潮風害の発生塩分量が低い作物)の潮風害の発
生する可能性の高さを考慮し,調整池に近い方から1日当たり1ブロックを散水し,2日間又は3日間かけて全ブロックを散水する。(乙A32の1_6.14.3-55頁,乙A32の2-115~117頁)
観測期間中のガーゼの交換は,基本的に1か月に1回の頻度で行
うが,潮風害を未然に防止する観点から潮風害発生のおそれがあると判断される場合には,
適宜交換して付着塩分量を分析する。
また,
風向・風速については,
前日の結果から風向別に5m/s以上の風の
発生状況を確認する。

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
散水方法は,畑地かんがい施設によるか,自走式スプリンクラー
ないし多孔ホースによるが,これらの使用が困難な場合(旧干拓地等)には送水ポンプやレインガン等による。
1回の散水量は,
土地改良事業設計基準計画農業用水(畑)

(甲A3)に示された4㎜程度を想定しており,散水に必要な水量は,営農用水(農業用水)と併せて確保し,潮風害対策としての散水は,かんがい用水を兼ねるものとして扱う。仮に散水用の水が不足する場合には,給水車等で対処する。なお,自走式スプリンクラーでの散水は3日程度,多孔ホースでの散水は2日程度要するが,間に合わない場合は,給水車,組み立て式水槽,スプレーヤー等を利用して応急的な対処をする。


被告は,室内試験及び試験ほ場における試験の結果など畑作物に
関する新たな知見を踏まえ,飛来塩分量の監視,作付状況などに応じた散水ローテーションや自走式スプリンクラー,レインガンなどの散水器具の設置,散水の実施体制などについて,地元と話し合いを行い,開門に必要な対策を確定する。

(乙A13-39頁,乙A32の1_6.14.3-55~61頁)検討(潮風害〈潮風害台風を除く〉に対する事前対策の効果)

潮風害発生の塩分付着量


長崎県農林技術開発センターが行った潮風害試験の適切性につい

原告らは,長崎県農林技術開発センターが行った前記レタス,ハ
クサイの潮風害試験の結果を援用して,レタス,ハクサイの潮風害の発生塩分量が,それぞれ2.0㎎/100㎠,2.6㎎/100㎠であり,
これを前提とすると,
稲よりも短時間で潮風害が発生する,
あるいは畑地の潮風害を受ける範囲が広くなると主張し,これに沿
2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑵妨害のおそれ②(潮風害)

う証拠(甲C47の1)がある。
しかし,同試験は,毎週1回,ハンドスプレーで一定濃度の海水
(処理水)を15回噴霧するものであるところ,この方法では,処理水を噴霧して付着した塩分が,一旦,作物に付着,吸収されて,作物に潮風害の影響を及ぼした後,処理水の噴霧を再度行うことで従前の塩分を溶解して洗い流しつつ,新たな塩分を供給することになり,いわば,週1回の頻度で潮風害の原因となる塩分を一定程度除却し,新たに付着させることとなる。そうすると,最終的な付着塩分量(試験結果の値)は,洗い流された付着塩分や作物の生育に影響を及ぼしたと考えられる吸収された塩分を考慮しないため,潮風害の被害の程度に比して過少になると考えられる。他方で,特にハクサイについては,無処理水よりも塩分濃度が高い処理水の方が,草丈や生重量が増加している上,3倍濃度海水よりも2倍濃度海水の方が草丈が高く,生重量が多くなっているという結果からすれば,潮風害試験の方法が適切か疑問がある。
そうすると,前記試験結果を採用することはできないから,その
試験結果であるレタス,ハクサイの潮風害の発生塩分量が,それぞれ2.0㎎/100㎠,2.6㎎/100㎠であるということはできない。また,上記潮風害の発生塩分量を前提とする原告らが援用する証拠(甲C47の1)は,上記のとおり,前提を欠き採用することができない。


被告による耐塩性試験の結果について
他方,前記の被告の実験に係るレタスの潮風害の発生塩分量は,
被告が実験の対象とした株数が少ないため,誤差があるといわざるを得ず,採用し難いところ,ほかに稲以外の作物が具体的にどの程度の塩分付着量で潮風害が発生するかという適切な知見は見当た

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
らない。
そうすると,諫早湾干拓地の各作付品目については,少なくとも
水稲と同程度の塩分付着量(4.8㎎/100㎠)で,潮風害が発生するというのが相当である。

風速等と飛来塩分量との関係
前記のとおり,飛来塩分量は,新干拓地及び旧干拓地では,風速5m/s以上の北東風と一定の相関関係があり,
水稲等の潮風害の発生塩
分量である4.8㎎/100㎠の塩分が付着するには,この風が,概ね4日間程度,降雨がない状態で吹いて,付着する塩分が蓄積することが必要となる。


被告が予定する事前対策の内容
前記のとおり,被告は,海岸線から概ね2.3㎞以内の範囲に潮風害のおそれがあるとして,風速・風向をモニタリングして前日の結果から風向別に潮風害が発生するような風速
(5m/s以上)
の風の発生
状況を確認し,必要に応じてガーゼに付着した塩分量を4時間程度かけて分析し,4.8㎎/100㎠を超過しうると判断した場合,調整池に近い方から,2日又は3日かけて順次ローテーションによる散水をすることを予定する。
そして,
ローテーションによって散水する場合,
潮風害被害が発生しやすい海岸に近い農地から4㎜程度の散水をすることになるが,自走式スプリンクラー等が使用できない旧干拓地については,レインガン等によって散水を行うことを予定する。


事前対策による潮風害の防止効果
確かに,潮風害を惹起する季節風が一定程度発生した場合,潮風害が発生しやすい海岸付近,すなわち,調整池側から順次散水することで,潮風害が発生する前にこれを防ぐことができる可能性があると考えられる。

2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑵妨害のおそれ②(潮風害)

しかし,みかんや茶の実施例では4時間内の洗浄で顕著な効果があるものの,8時間以内では若干の効果にとどまり,それより後では効果が期待できないとされている。
そして,風速5m/s以上の強風が4
日程度吹き続けると潮風害の発生塩分量に到達すると認められるところ,被告が予定するモニタリング,ローテーションによる散水という事前対策は,前日のデータに基づいて風向・風速の分析を行った後,更に試料
(ガーゼ)
を採取して付着塩分量を4時間程度かけて分析し,
潮風害の発生塩分量に達するおそれがあると判断した場合に,散水の準備をして調整池に近い方から2日又は3日程度かけて順に散水するというものであるから,強風が吹き始めて1日経過時点でガーゼの付着塩分量の確認をするか否かを判断し,塩分付着量を4時間程度かけて分析したとしても,この時点で既に強風の吹き始めから1日半ないし2日程度経過しているため,散水開始時までに付着塩分の相当程度が作物内に吸収されると考えられる。また,この場合,散水する作物の順序や作物毎の適切な散水方法等が予め適切に決められていなければ,潮風害の発生塩分量に達して潮風害への効果がある時間内に散水することは困難というべきであるところ,環境アセスメントの結果によっても,複数の農作物の潮風害の発生塩分量の高低等を塩類抵抗性中
弱程度にしか確定することはできず,上記散水等の事前対策
は,その実効性に疑問がある。
また,作物に付着した塩分を除去するための散水については,ミカン,茶等の散水量が参考とされているが,全ての作物に応用することができるのか疑問があり,少なくとも,前記のとおりミカンや茶と比較して葉に凹凸があるような作物やハクサイのように葉に毛じがある作物については,付着塩分の洗い流しの容易さや効果に差があると考えられる上,前記のとおり,サトウキビについては,塩分が付着した
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
後,10㎜,20㎜の散水では,付着塩分を減少させる効果がなく,30㎜の散水で付着塩分を減少させる効果があったというのであり,また,散水量が少ないと塩分が再溶解して再び作物内に吸収されるおそれがあるとされていることからすると,4㎜の散水量で,潮風害が発生する高度の蓋然性を否定できるということはできない。

被告の主張(潮風害の発生頻度)について
被告は,潮風害を発生させる風量は,過去23年間(平成元年ないし平成23年3月)で6回,本件締切り後では4回しか確認されていない旨主張する。
しかし,前訴判決で命じられた開門期間は5年間であり,被告の主張する頻度が潮風害のおそれを否定しうる程度に少ないということはできない。また,この主張の根拠となる証拠(乙C58)において算定に用いられた計算方法からすると,上記の被告が主張する潮風害を発生させる風量の回数は,本件開門をしていない現状の諫早湾(潮受堤防)から3.7㎞離れた内部堤防上において飛来塩分量が4.8㎎/100㎠となる風量累積値=1184.
8を算定して,
過去に湯江観
測所(北部排水門に近い所にあるが,季節風の風速・風向は,概ね干拓地と同様であると考えられる。でこれ以上の風量累積値が無降雨期)
間に観測された回数である。
しかし,前記のとおり,飛来塩分量は,海岸から離れるに従って減衰するところ,本件開門がなされた場合,北東風で内部堤防より2.3㎞の範囲において付着塩分量が潮風害の発生塩分量を上回ると予想されるから,
現状の潮受堤防から3.
7㎞での風量累積値=1184.
8よりも低い風量累積値で潮風害が発生するものと予想され,上記内部堤防の風量累積値が比較対象として適切であるということはできない。

2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑵妨害のおそれ②(潮風害)

なお,証拠(甲F37)によれば,長崎県は,潮風害の発生塩分量(4.8㎎/100㎠)を超える日は,平成19年の気象条件下で年10日あるとの資料を作成したが,その推測根拠が明らかということはできず,採用することはできない。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
小括(潮風害のおそれ〈潮風害台風を除く〉について)
以上によれば,原告旧干拓地農業者らは,その所有に係る旧干拓地の土地において,原告新干拓地農業者らは,その賃借に係る新干拓地の土地において,それぞれ農業を営むところ,本件開門がなされれば,上記各土地において栽培する作物について潮風害が発生する高度の蓋然性があり,被告の予定する散水等の事前対策は,上記潮風害が発生する高度の蓋然性を否定するものということはできない。

潮風害台風による妨害のおそれ
認定事実
前記認定事実(イ

)のほか,証拠(事実の後に掲記)及び弁論の全

趣旨によれば,以下の事実が認められる。

潮風害台風の発生頻度
諫早地域や有明海沿岸に甚大な被害を及ぼした降雨を伴わない潮
風害台風は,平成3年台風17号(本件締切り前)と平成18年台風13号(本件締切り後)の2回が確認された。


平成3年台風17号と平成18年台風13号の概要
平成3年台風17号と平成18年台風13号は,進路や大きさが概ね同様であったが,
風速5m/s以上の時間は,
長崎市において平成3
年台風17号が約9時間,平成18年台風13号が約16時間であった。また,湾口部にある竹崎島の平均水面潮位は,平成3年台風17号は128㎝であったのに対し,平成18年台風13号は397㎝と
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
高かった。

(甲C13の1,甲C85の1・2)

潮風害台風時の長崎県諫早市,佐賀県川副町の米の単収
長崎県諫早市,佐賀県川副町における平年単収と平成3年,平成18年の単収(面積当たりの収穫量)は,以下のとおりであった。
(単位:㎏/10a)
平年単収

平成3年単収

平成18年単収

長崎県諫早市

439

161

188

佐賀県川副町

522

111

47

なお,諫早市の平成14年ないし平成17年の10a当たりの収
量(単収)は,322㎏ないし473㎏まで変動があった。
(甲C13の1,
乙C3)

潮風害台風とその被害の程度に関する知見
環境アセスメントによれば,平成18年台風13号について,佐賀県では,満潮時と重なる風台風であったことに加え,その後の降雨が少ない気象条件であったことから,稲作について,海岸線から4.5㎞以内までは,潮風害の被害が生じており,海岸線から3㎞以内までは,潮風害の甚大な影響を受けたとされている。
また,山形県における台風と潮風害との関係についての調査・研究では,水稲の潮風害による被害程度は,海岸線から約6㎞までは枝梗(しこう。茎から出ている細い枝。
)枯れ数歩合は80%以上で多~甚
,6~10㎞では50~70%で中であった。
さらに,
山形県庄内地域における2004年台風15号からみた水稲の潮風害リスクマップの作成(甲Cア5の38)によれば,一定
方向からの台風の風と付着塩分量との関係は,海岸からの距離が約10㎞以内で,1穂当たりの塩分付着量が1.0㎎(前記水稲の潮風害の発生塩分量)となるという関係であった。作成されたリスクマップ
2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑵妨害のおそれ②(潮風害)

では,1穂当たりの塩分付着量が,1.51㎎以上の被害程度甚(減収率55~77%)となる距離が南西方向の海岸線から6㎞とされ,0.91㎎~1.5㎎の被害程度多(減収率24~54%)となる距離が同海岸線から12㎞以内とされた。
(甲Cア5の34・38,乙A32の1_6.14.3-8頁)
検討
(淡水の調整池による潮風害台風の被害緩和効果の有無及び程度)a
淡水の調整池による潮風害台風の被害緩和効果の有無
前記のとおり,佐賀県川副市では,平成18年台風13号襲来時,海岸から4.5㎞以内では被害があり,3㎞以内では潮風害被害が強かったと報告されており,山形県の事例でも,海水が存在する海岸からの距離が6㎞(被害:多~甚)
,10㎞(被害:中)と離れるに従っ
て潮風害が低減している。
したがって,
潮風害台風の場合においても,
海岸から近い方が潮風害の被害の程度が強く,海岸から離れるに従って潮風害の被害の程度が小さくなるものということができる。
そして,本件開門がなされれば,調整池が塩水化し,海岸線から農地までの距離が1.2㎞ないし3.6㎞程度減少するから,潮風害台風による潮風害の程度は,現状よりも大きくなる蓋然性がある。


淡水の調整池による潮風害台風の被害緩和の程度


平成18年台風13号の場合との比較
前記の平成18年台風13号は,本件締切り以降,すなわち調整
池が淡水である時期に発生した潮風害台風であるところ,旧干拓地を含む諫早市の農地に潮風害が発生した。
したがって,調整池が淡水であることによって潮風害台風による
潮風害の発生を防ぐ効果があるとまではいうことができない。



山形県での報告との比較
また,前記のとおり,山形県では,海岸からの距離が10㎞以内

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
について潮風害の発生塩分量を上回る塩分が付着するとの報告が
あり,海岸から6㎞の範囲で,被害程度が甚とされていることや枝梗枯れ数歩合が80%以上で多~甚とされていることからすれ
ば,調整池が淡水であることによって海岸線からの距離が1.2㎞ないし3.6㎞確保される(別紙60)としても,水稲等の作物に甚大な被害が生じることは避けられない。


潮風害台風の発生頻度
さらに,旧干拓地に被害を及ぼした潮風害台風は,平成3年と平
成18年の2回以外には見当たらないことに照らすと,本件締切りに伴って調整池が淡水であることによる潮風害台風の潮風害軽減
効果は,限られた機会の限定的な効果にとどまるというべきである。


原告らの主張について
なお,原告らは,諫早市では,10a当たりの平年単収が439
㎏であったところ,平成3年及び平成18年の台風の規模が同程度であったのに,本件締切り前である平成3年の単収が161㎏,本件締切り後である平成18年の単収が188㎏であったことから,本件締切りに伴い調整池が淡水化されたことにより潮風害台風に
よる被害が軽減された旨主張する。
しかし,①台風よる被害(単収の減少)は,潮風害のみに限られず,倒伏被害等も含まれること,②諫早市の平年単収(10a当たりの収量)は439㎏であるところ,年毎の日照や降水量等の条件によって各年の単収には相当の幅があり(322~437㎏)27,
㎏(計算式:187㎏-161㎏)という違いは,年ごとの変動の範囲を大きく超えるものではないこと,
③証拠
(甲C7)
によれば,
平成18年台風13号では調整池が淡水となっていたため,風下に当たる諫早市小長井町及び同市高来町の被害が軽減されたとされ

2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑶妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)
ており,旧干拓地における潮風害台風による潮風害の有無,程度については明らかでないことからすると,平成18年の諫早市の単収が平成3年の単収よりも多かったことから,直ちに旧干拓地において調整池が淡水であったことによる潮風害の軽減効果があるとい
うことはできない。
小括(潮風害台風による妨害のおそれについて)
以上のとおり,認定事実によれば,本件開門(ケース3-2開門を含むものである。がなされれば,旧干拓地及び新干拓地において栽培する)
作物の潮風害台風による潮風害が,現状よりも被害の程度が大きくなる蓋然性があるが,限られた機会のものであり,その被害が増大する程度は,限定的なものにとどまるというべきである。

妨害のおそれ②(潮風害)について
原告旧干拓地(諫早)農業者らは,その所有に係る旧干拓地(諫早)の土地において,それぞれ農業を営むところ,上記のとおり,本件開門(ケース3-2開門を含むものである。がなされれば,

上記各土地において栽
培する作物について季節風等の強風による潮風害が生じる高度の蓋然性があり,被告の予定する散水等の事前対策は,上記潮風害が発生する高度の蓋然性を否定するものということはできない。
したがって,原告旧干拓地(諫早)農業者らの上記所有権の行使については,本件開門がなされれば,潮風害による妨害のおそれがあるというべきである。
なお,本件開門により,上記各土地において栽培する作物の潮風害台風による潮風害が現状よりも被害の程度が大きくなる蓋然性があるが,その被害が増大する程度は,限定的なものにとどまる。



妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)

事前対策を実施しない場合の妨害のおそれ(ガタ土堆積によるものを除
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
く)
原告らの主張
原告らは,ケ-ス3-2開門がなされれば,10年大雨があった場合に,樋門・樋管の閉門による排水不良が起こり,これによって,原告旧干拓地(諫早)農業者らの所有に係る旧干拓地(諫早)の土地は,現状において発生する湛水より,
湛水の程度
(範囲・湛水深)
が大きくなり,
旧干拓地(諫早)における農業につき湛水被害が発生する高度の蓋然性があり,
所有権に基づく使用収益につき妨害のおそれがある旨主張する。
認定事実
前記前提事実並びに証拠(事実の後に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

現状における調整池への排水方法
旧干拓地(諫早)では,現状,農業用水及び雨水等を既設堤防内の主ゲ-ト付き樋門・樋管2か所により潮遊池から調整池へ排水している(その位置は別紙33の30番及び31番)

その排水方法は,無降雨時は,樋門・樋管の主ゲ-トを開き,自然排水を行うところ,降雨時も,調整池の水位が潮遊池の水位よりも低い場合には,樋門・樋管の主ゲ-トを開き,自然排水を行うが,降雨により調整池の水位が潮遊池の水位より高くなるときは,樋門・樋管の主ゲ-トを閉じ,
調整池の水が潮遊池に流入するのを防ぐとともに,
既設排水ポンプ
(その位置は,
別紙34の14番及び15番)
により,
潮遊池の水を調整池へ排水する(排水方法は別紙31のとおり)ものである。

(前記前提事実



乙A112)

なお,
現状においても,
10年大雨があった場合,旧干拓地
(諫早)
のうち調整池に近い部分(別紙81の旧干拓地(諫早)の水色部分)には湛水被害が発生する可能性がある。

(乙J5-3頁)

2b
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑶妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)
ケ-ス3-2開門をした場合の排水方法


無降雨時
被告は,ケ-ス3-2開門をする場合,調整池が塩水化すること
から,調整池の塩水が,樋門・樋管を通じ潮遊池に浸入することを防止するため,無降雨時には,その敷高が標高(-)1.0m(調整池の管理水位の最高水位)より低い樋門・樋管の主ゲ-ト(前記樋門・樋管の全て〈2か所。別紙51の30番及び31番〉
)を閉門
する(別紙52記載の無降雨時部分)

(前記前提事実



イ,乙A114,乙C70の3,乙J5-3頁)

降雨時
被告は,ケ-ス3-2開門をする場合,降雨時には,当該樋門・
樋管ごとに調整池の水位と潮遊池の水位を比較し,調整池の水位が潮遊池の水位より低い場合に,上記樋門・樋管の主ゲ-トを開けて潮遊池から調整池への排水をし(別紙52記載の降雨時(潮遊池水位>調整池水位)部分),調整池の水位が潮遊池の水位と同程度
になった時に,調整池から潮遊池への塩水の浸入を防止するため,主ゲ-トを閉門する(別紙52記載の降雨時(調整池水位>潮遊池水位)部分)。


(前記前提事実

イ,乙A114)

環境アセスメントの予測
環境アセスメントは,
調整池の水位変動は現状と同じであり,
樋門・
樋管の主ゲートの閉門により,洪水時の排水への影響はないものと予測している。(乙A32の1_6.14.4-61・62・77頁)検討(湛水被害発生の蓋然性〈ガタ土堆積によるものを除く〉

前記認定事実のとおり,①旧干拓地(諫早)では,現状,無降雨時は,
2か所の樋門・樋管の主ゲ-トを開き,潮遊池から調整池へ自然排水を行うという方法で排水しているところ,被告は,ケ-ス3-2開門をす
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
る場合,無降雨時に上記樋門・樋管(2か所)の主ゲ-トを閉門することとしているから,ケ-ス3-2開門がなされれば,上記主ゲ-トの閉門により,無降雨時に樋門・樋管による潮遊池から調整池への排水ができなくなり,そのままでは無降雨時の潮遊池の水位が現状より高くなること(なお,この場合,既設排水ポンプによる排水が可能である。,②)
被告は,ケ-ス3-2開門をする場合においても,降雨時には,現状と同様,調整池の水位が潮遊池の水位より低い場合に,上記樋門・樋管の主ゲ-トを開けて潮遊池から調整池への排水を予定していることが認められる。
上記降雨時の排水状況,既設排水ポンプによる排水可能性及び洪水時の排水への影響はないとの環境アセスメントの予測に照らすと,ケ-ス3-2開門がなされれば無降雨時に潮遊池の水位が現状より高くなり得ることから,直ちに,ケ-ス3-2開門がなされれば,10年大雨があった場合に排水不良による湛水被害(現状において発生する湛水より,湛水の程度〈範囲・湛水深〉が大きくなることを含む。
)が発生する高度
の蓋然性があるということはできず,ほかにこれを認めるに足りる証拠はない。
なお,ケース3-2開門がなされれば,調整池及び潮遊池が塩水化する。その場合の湛水により塩害が発生するおそれがあるか,また,被告の予定する事前対策の効果及びその実施の蓋然性については,妨害のおそれ④(塩害)の項で検討する(後記


c〈237頁〉ク〈239頁


以下〉。


湛水被害(ガタ土堆積によるものを除く)に対する事前対策の効果とその実施の蓋然性
原告らの主張
原告らは,ケ-ス3-2開門がなされれば,湛水被害が発生する高度
2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑶妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)
の蓋然性がある旨主張し,その根拠として,昭和57年7月の長崎大水害の際に,旧干拓地(諫早)において湛水が広がり,道路と水路の区別がつかなくなったため,管理者が既設排水ポンプの排水機場へ近づけず排水不能に陥った事実があること(甲A4)を挙げる。
そこで以下,被告の予定する事前対策の内容及び効果,その実施の蓋然性について検討し,その上で原告らの上記主張について検討する。認定事実
前記認定事実(前記


b)並びに証拠(事実の後に掲記)及び弁

論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

被告の予定する事前対策の内容(常時排水ポンプの設置)
被告は,ケ-ス3-2開門をするに当たっては,事前に,次のとおりの常時排水ポンプの設置の対策を実施することを予定する。
潮遊池の水位を現状より30㎝低くするため(無降雨時に前記アの樋門・樋管の主ゲ-トを閉門することにより潮遊池の水位が現状より高くなることを防止するため。,起動水位(ポンプが自動で動き始め)
る水位)を標高(-)1.3mに,停止水位(ポンプの動きが自動で停止する水位)を標高(-)1.8mに設定した旧干拓地(諫早)から調整池への排水をする常時排水ポンプを2台設置する(その位置は別紙61-1頁の6番)(乙C55,乙A32の2-128頁)



事前対策に要する費用
環境アセスメントは,ケ-ス3-2開門の事前対策(上記aの常時排水ポンプの設置を含み,
農業用水を確保するための事前対策を除く。

に要する費用を合計約42億円とした。(乙A32の2-154頁)

予算措置
内閣は,平成25年1月29日,ケ-ス3-2開門の事前対策(ただし,
農業用水を確保するための事前対策を除く。に要する費用につ


第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
き合計約49億円を計上した農林水産省予算の概算を閣議決定した。(乙A42,44)
国会は,同年5月15日,上記の閣議決定された内容と同内容の予算を成立させた。

(乙A44,
117,
118)

検討(事前対策の効果とその実施の蓋然性)
前記のとおり,認定事実によれば,常時排水ポンプを設置することによって,無降雨時に樋門・樋管の主ゲ-トを閉門することにより潮遊池の水位が現状より高くなることを防止することができる。
そして,被告は,常時排水ポンプの設置のための予算を国会で成立させたから,これを実施する蓋然性は高いというべきである。
原告らの主張(排水不能事例の存在)について
前記のとおり,常時排水ポンプは,起動水位を標高(-)1.3mに設定して自動で起動するものであり,湛水が発生したときに手動で起動するものではないから,原告ら主張の排水不能に陥った事例(排水機場に近付けなかったことによる排水不能)の存在は,上記判断を左右するものではない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

ガタ土堆積による湛水被害発生の蓋然性
原告らの主張
原告らは,ケ-ス3-2開門がなされれば,本件締切り前と同様,有明海から運ばれる泥(ガタ土)が樋門・樋管の調整池への排水口付近に堆積して排水を阻害し,
排水不良が起こる高度の蓋然性がある旨主張し,
その根拠として,
短期開門調査をした時に,
調整池内の山田川河口部
(山
田川の位置は別紙21記載のとおり。にガタ土が約6㎝堆積したと主張)
する。
検討(ガタ土堆積による湛水被害発生の蓋然性)

2
前記前提事実(



旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑶妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)
)及び証拠(事実の後に掲記)によれば,短期

開門調査の開門方法は,
調整池の管理水位
(標高
(-)0mから
1.
(-)
1.2m)及び排水門操作の方法(外潮位が調整池の水位より低い時に本件各排水門を開門して調整池の水を諫早湾海域へ排水し,外潮位が調整池の水位より高い時に本件各排水門を開門し調整池に海水を導入するというもの)において,ケ-ス3-2開門と同じである(ただし,開門初期の排水門操作及び本件各排水門の開度等を除く。
)ところ,
旧干拓地
(諫早)の2か所の樋門・樋管(釜ノ鼻西樋門及び釜ノ鼻東樋門〈別紙33の30番及び31番〉の調整池への排出口は,

同じ調整池内であっ
ても,短期開門調査をした時にガタ土が約6㎝堆積した山田川河口部とは場所が異なり
(乙A32の1_6.
15.
2.
2-5頁,
乙A102)

短期開門調査をした際,
上記各樋門樋管の調整池への排水口付近では,

ガタ土が堆積することはなく,かえって洗掘があったこと(甲A2-386・387頁)
,また,環境アセスメントは,平成19年の気象条件下
でケ-ス3-2開門がなされた場合における開門1年後の地形の変化(堆積及び洗掘)につき,上記樋門・樋管の調整池への排水口付近についてはガタ土の堆積はほとんどないと予測していること(乙A32の1_6.6.1-73・74・102頁)が認められる。
上記のとおりの短期開門調査時の旧干拓地(諫早)の樋門・樋管付近のガタ土の堆積状況,環境アセスメントの予測に照らせば,原告らが挙げる短期開門調査時の山田川河口附近におけるガタ土堆積の事実から,旧干拓地(諫早)の2か所の樋門・樋管の排水口付近に,ガタ土が排水を阻害するほど堆積する高度の蓋然性があるとの事実を推認することはできず,ほかに上記事実を認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
小括(ガタ土堆積による湛水被害発生の蓋然性について)

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
したがって,ケ-ス3-2開門がなされれば,10年大雨があった場合に,ガタ土堆積による排水不良が発生し,原告旧干拓地(諫早)農業者らの所有に係る土地における農業につき湛水被害(現状において発生する湛水より湛水の程度(範囲・湛水深)が大きくなることを含む。)が
発生する高度の蓋然性があるということはできない。

妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)について
以上によれば,原告旧干拓地(諫早)農業者らの所有権の行使につき,ケース3-2開門がなされた場合の大雨時の湛水被害による妨害のおそれがあるということはできない。



妨害のおそれ④(塩害)

事前対策を実施しない場合の塩害のおそれ
開門による作土層の塩化物イオン濃度上昇の機序(①~④)a
争いのない事実
塩害は,作土層の塩化物イオン濃度が作物の限界塩化物イオン濃度以上になると発生するおそれがあるところ,本件開門がなされれば,旧干拓地において,①大雨時における地下水位の上昇,②毛管現象,③飛来塩分の増加という機序が競合して,作土層の塩化物イオン濃度が上昇する(前記前提事実





上記①の大雨時における地下水位の上昇による塩分上昇の具体的機序としては,別紙63のとおり,本件開門により,潮遊池(別紙32及び36の潮遊池(排水路)と記載されたもの)の水が塩水化
し(その塩化物イオン濃度については争いがある。),大雨時には,現状,心土層に存在する塩化物イオン濃度の高い地下水(その具体的な濃度については争いがある。)が,大雨時の地下水の水位上昇によって心土層から暗渠管付近まで上昇し,また,排水路の水位が暗渠管の高さ以上になると,潮遊池に由来する塩水が暗渠管に浸入し(浸入
2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑷妨害のおそれ④(塩害)

する農地の範囲については争いがある。),上記塩化物イオン濃度の高い地下水と潮遊池に由来する塩水が,暗渠管付近で混合した水(以下,この機序によって混合した水を単に混合水という。)が,さ
らに暗渠管の上の土層まで上昇する。
また,上記②の毛管現象による塩分上昇の機序に関し,現状,心土層に塩化物イオン濃度の高い地下水(上記のとおりその濃度については争いがある。)が存在するところ,本件開門がなされれば,かんがいに利用していた潮遊池の水が塩水化するため(上記のとおりその塩化物イオン濃度については争いがある。),農業用水の水源確保が行われない限り(前記⑴),かんがいによる洗い流しができなくなり,塩化物イオン濃度が高い心土層の地下水が毛管現象により上昇して(その結果の作土層の塩化物イオン濃度の上昇量は争いがある。),作土層の塩化物イオン濃度が上昇する。

争点
上記のとおり,争いとなっているのは,本件開門後の潮遊池の塩化物イオン濃度(後記イ),心土層の地下水の塩化物イオン濃度(後記ウ),潮遊池の塩水が暗渠管に浸入する農地の範囲(後記エ),毛管現象による作土層の塩化物イオン濃度の上昇量である(後記オ)。これらについては,環境アセスメントが予測しているから,その信頼性が争点である。
また,④大雨時に潮遊池の水位が上昇して,潮遊池の塩水が直接農地にオーバーフロー(溢水)し,湛水することにより作土層の塩化物イオン濃度が上昇して塩害が生じるか及び③飛来塩分が増加して塩害が生じるかが争点となるが,これらは事前対策を実施しない場合(後記ク)及び実施した場合(後記コ)の塩害のおそれの中で検討する。塩害発生の蓋然性に関するその他の要因(⑤,⑥)
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
さらに,
⑤塩害のおそれの有無を判断すべき土壌深さ
(深度)後記カ)

及び,⑥塩化物イオンによる塩害のほか,マグネシウム等による農作物被害の可能性(後記キ)について争いがある。
判断の枠組み
そこで,以下,上記の争点について判断し(後記イないしキ),事前対策を実施しない場合の塩害のおそれの有無(後記ク),被告が事前対策を実施する蓋然性及びその効果について検討した上で(後記ケ),旧干拓地(諫早)について塩害が生じる高度の蓋然性があるか判断する(後記コ)。

開門後の潮遊池の塩化物イオン濃度について
(ア①地下水位の上昇関係)
原告らの主張(調整池の塩水の潮遊池への浸透量)
原告らは,旧干拓地の既設堤防は,ガタ土の上に木組み,栗石を敷いた土台の上に築造されており,その土台部分の透水性は高く,本件開門をした場合に調整池の塩水が潮遊池に浸透する量は,環境アセスメントにおいて予測されている量よりも多く
(甲A21)潮遊池の塩化物イオ

ン濃度はより高くなる旨主張する。
認定事実
証拠(事実の後に掲記)によれば,以下の事実が認められる。

土中の間隙水の移動のしやすさは透水性と呼ばれ,透水係数として定量的に表される。透水係数は,数値が小さいほど水を通しにくいことを意味する。土の透水性は,土の種類,密度,飽和度などによって大きく異なるところ,
土の種類ごとの概ねの透水係数は,
礫が102~
100㎝/s,粗砂あるいは中~細砂が100~10-4㎝/s,シルトが10-4~10-8㎝/s,有明粘土層が10-6~10-7㎝/sとされている。
(乙A32の1_6.4.1-39頁,乙A32の1_参考-147
2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑷妨害のおそれ④(塩害)

頁)

新干拓地(中央)の内部堤防(別紙21)の堤防基礎には,砂層があり,
水を通しやすい構造となっている。


旧干拓地(諫早)の既設堤防(別紙21)の基礎部には,土混じりの捨石部が一部存在する。


(甲F8,
20)

(甲A50)

環境アセスメントでは,
旧干拓地
(諫早)
において,
調整池の水が,
堤防又はその基礎を介して潮遊池(排水路)へ浸透する量を算出する際の堤防部の透水係数について,新干拓地(中央)の内部堤防の最大値である2.05×10-2㎝/sを採用した。
そして,上記透水係数を用いて浸透量を推定するなどし,現況での塩化物イオン濃度を予測した結果,新干拓地(中央)の幹線排水路,中央遊水池及び旧干拓地(諫早)の潮遊池の実測の平均値と概ね一致することが確認された。

(乙A32の1_6.5.1-24頁)

検討(調整池の塩水の遊水池への浸透量)
①上記のとおり,環境アセスメントは,旧干拓地(諫早)の既設堤防の基礎部の透水係数として,新干拓地(中央)の内部堤防の最大値を採用したもので,その値は,約2.05×10-2㎝/sであり,これは土の種類毎の透水係数に照らすと,既設堤防の基礎部をシルトや有明粘土層のような透水係数の低い地質ではなく,粗砂あるいは中~細砂という透水係数が高めの地質とするものであること,②他方で,環境アセスメントにおいては,上記透水係数を用いて現状の旧干拓地(諫早)における調整池の水の潮遊池への浸透量等を推定し,潮遊池等の塩化物イオン濃度を予測したところ,現状の潮遊池等の塩化物イオン濃度の平均値と概ね一致したことからすれば,上記透水係数の合理性は裏付けられたということができる。そして,③旧干拓地(諫早)の既設堤防の基礎部は,石だけでなく,土がその周りに敷き詰められており,このような土混じ
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
りの捨石部が,環境アセスメントが採用した新干拓地(中央)の砂層よりも透水性が相当程度高いということはできず,ほかにこれを認めるに足りる証拠は見当たらない。
そうすると,旧干拓地(諫早)の既設堤防の基礎部に土混じりの捨石部が存在することは,環境アセスメントの推定ないし予測を覆すに足りるものということはできない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
小括(開門後の潮遊池の塩化物イオン濃度について)
環境アセスメントは,本件開門後の旧干拓地(諫早)の潮遊池の塩化物イオン濃度を予測するに当たり,旧干拓地(諫早)の既設堤防の透水係数として,新干拓地(中央)の内部堤防の透水係数の最大値を用いたが,上記のとおり,その係数は,合理的ということができ,これを覆すに足る証拠はない。
したがって,調整池の塩水の潮遊池に浸透する量が環境アセスメントの予測値よりも多いとの原告らの主張は採用することができない。ウ
心土層の地下水の塩化物イオン濃度(ア①地下水位の上昇,同②毛管現象関係)について
堤体下部から心土層への調整池の水の浸透について
原告らは,調整池の塩水が,内部堤防あるいは既設堤防の堤体の下方15m~25mの厚さで堆積する有明粘土層から心土層に浸透することが,環境アセスメントにおいて考慮されていないから,心土層の地下水の塩化物イオン濃度は環境アセスメントの予測よりも高いと主張し,これに沿う九州大学名誉教授


(以下H名誉教授という。)

の意見書(甲C105の1・10)の記載がある。
そして,上記意見書では,有明粘土層の透水係数を9.3×10-6㎝/sとした上で,
ケース3-2開門の場合に調整池に導入された塩水が堤

2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑷妨害のおそれ④(塩害)

防内に達するのに14.5年かかると予測し,内部堤防下層には,高濃度の塩水が存在するため,浸透流が発生すると,既存の塩水が農地側の地下水に浸出する旨の見解が示されている(甲C105の10)。しかし,
内部堤防下層の塩水については,
その濃度及び量が明らかではなく,
さらに,証拠(乙A32の1_6.5.1-12・16・17頁)によれば,
旧干拓地の地下水の塩化物イオン濃度は,
深度110㎝において,
現状でも1652~2191㎎/L
(計算式:3310~4390㎎/㎏・
乾土×0.4991。別紙98)と,もともと高い(なお,新干拓地ではより高いものである。)ことからすれば,上記のように調整池から堤体下部を通じて塩水の浸透があったとしても,心土層の地下水の塩化物イオン濃度への影響は明らかでないといわざるを得ない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
排水路からの横浸透について
原告らは,旧干拓地の排水路の多くは,ほ場からの排水を促すために構造的に土水路であり,その法面は有明海特有の粘土質であることから,法面のひび割れや崩壊(スレ-キング)が激しくなり,かつ,排水路の水位が上昇したときに,
排水路に含まれる塩水が,
排水路から心土層
(作
土層の下の土層)に浸透し,排水後も表面張力や吸着によって多量の塩水が残る旨主張し,これに沿うH

名誉教授の意見書(甲Cア5の1,

甲C105の1,甲C124)の記載がある。
証拠(甲A92-16~21頁,甲C51,乙A140)によれば,旧干拓地及び新干拓地には,コンクリート製の排水路,あるいは木の柵で土の表面が保護されている排水路がある一方で,草などが繁茂している土水路が複数あるものの,亀裂や崩壊等の内容・程度は不明であること,土壌は,含水比が約20~34%を下回ると,収縮限界(粘土等の体積は,乾燥によって収縮するところ,一定の含水比以下になるとそれ
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
以上体積が減少しなくなる場合の含水比を収縮限界という。となり,)

縮限界まで収縮した法面に崩壊が生じることが認められる。
しかし,証拠(甲C51,90,乙A32の1_6.5.1-12・14・42頁,乙F7)によれば,①現地の土水路は,農地の畑面や田面よりも低い位置にあり,釜ノ鼻地区の地下水位が40㎝~50㎝程度にあること,一定の深さ(心土層)では,体積含水率(土壌中の水分の体積を,水分を含む土壌の体積で除したもの)が80%近くとなっていること,新干拓地(中央)の3地点において,深度40㎝以深の含水比(土壌中の水分の重量を,土壌の固形分の重量で除したもの)が100%~170%程度となっていることから,農地の地下40㎝程度は,土壌間隙水が飽和状態に近く,表面以外は湿潤した状態となっていると推認され,乾燥と湿潤を繰り返すのは,土水路表面(法面)付近に限られると考えられ,②土水路は,草が繁茂しており深部まで亀裂や崩壊が容易に生じることは考え難く,③土水路のひび割れや崩壊は,通常の管理によって未然に防げること,④排水路の水が体積含水率の高い心土層に浸水するのは,降雨時に排水路の水位が上昇し,排水路から心土層へ浸透しようとする水圧が,心土層から排水路へ浸出しようとする水圧を上回る場合であると考えられるところ,農地の心土層は,上記のとおり体積含水率が高く,降雨により容易に飽和状態となり,地下水面が上がって水圧が上昇するため,容易には浸透し難いと考えられることから,土水路が存在することをもって,直ちに心土層の塩化物イオン濃度が高まるということはできない上,仮に横浸透が生じるとしても,その程度は明らかでない。しかも,旧干拓地の土水路は,本件締切り前から土水路であったと考えられるが,本件締切り前に潮遊池の塩水が農地の下層土壌に横浸透して塩害が生じたという事情は見当たらない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑷妨害のおそれ④(塩害)

小括(心土層の地下水の塩化物イオンの濃度について)
以上のとおり,調整池から堤体下部の有明粘土層を介した塩水の浸透があったとしても,農地の心土層の地下水の塩化物イオン濃度への影響は明らかでなく,また,排水路からの横浸透により心土層の地下水の塩化物イオン濃度が高まるということはできないから,環境アセスメントがこれらを考慮しなかったからといって,心土層の地下水の塩化物イオン濃度が環境アセスメントの予測よりも高いということはできない。エ
潮遊池の水が暗渠管へ浸入する農地の範囲(ア①地下水位の上昇関係)について
原告らの主張(潮遊池の塩水の遡上と塩水が暗渠管へ浸入する土地の範囲)

原告らは,①洪水時に排水路を流れてきた洪水流は,潮遊池と合流する地点において,塩分濃度の高い潮遊池の水と攪拌され,淡塩混合水(以下淡塩混合水という。)が形成されること,②洪水時には,淡塩混合水が農地に湛水すること,③-ⅰ湛水に至らなくとも,排水路からの洪水流が弱まれば,淡水よりも密度が高い淡塩混合水が塩水くさびを形成して上流へ遡上すること,③-ⅱ排水路からの洪水流が停止すれば,淡水よりも密度が高い淡塩混合水が密度カレントを形成して上流へ遡上すること,
③-ⅲ上記の塩水くさびや密度カレント
(以
下,これらを併せて密度流という。)によって,淡塩混合水が干
拓地全体の排水路や暗渠管まで遡上して,農地全体に浸入するから,環境アセスメントが予測した範囲よりも塩化物イオン濃度の変化する範囲は広い旨主張(原告準備書面
れに沿うH

ないし







等)し,こ

名誉教授の意見書等(甲Cア5の1,甲C15の1,甲

C84,124)の記載がある。
認定事実

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
証拠(事実の後に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

現地の状況
旧干拓地及び新干拓地では,別紙96-1頁のとおり,若干の高低差があり,その標高は,調整池側が低く,内陸になるにつれて高くなる。なお,各干拓地の最低農地標高は,下表のとおりである。
干拓地の別

最低農地標高TP.m

旧干拓地(諫早)

(-)0.8

旧干拓地(吾妻)

(-)0.7

新干拓地(中央)

(-)1.1

新干拓地(小江)

(+)1.2

旧干拓地では,暗渠管が概ね深度約45㎝に敷設されているが(別紙57-1頁)深度60㎝に敷設されている地点もある。

新干拓地で
は,暗渠管が概ね深度80㎝に敷設されている(別紙57-2頁)。暗
渠管の敷設位置(深さ)は,潮遊池ないし排水路の水位と農地の標高との関係によって定まったものと推認される。
また,長崎県農村整備課で実施している排水対策特別事業において基準とされた田面として基準田面があり,これは多くの低い田面
が存在する高さであるところ,旧干拓地(諫早)の基準田面は,標高(-)0.5mであり,その暗渠管は,標高(-)0.95mに敷設されていると推認される(原告準備書面

-3頁)。なお,上記のと

おり,旧干拓地には標高(-)0.8mの農地が存在するが,仮に深度45㎝に暗渠管を敷設すると,標高(-)1.25mとなる。
(甲Cア5の16,乙A32の1_6.14.4-6・7頁,乙F7,12)

事前対策を実施しない場合の調整池の水位(環境アセスメントの予
2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑷妨害のおそれ④(塩害)

測)
環境アセスメントの予測によれば,旧干拓地(諫早)において潮遊池の水位を30㎝下げる事前対策(後記ケ

a⒜)をせずに本件開門

を実施した場合,被告は潮遊池の水位を標高(-)1.0m(調整池の管理水位上限)~(-)1.5m(樋門・樋管の敷高)の範囲での管理を予定するところ,一定量以上の降雨があると,潮遊池及び排水路の水位が上昇し,潮遊池の水位が暗渠管の高さに達する。
(乙A32の1_6.5.1-23・24・30・31・44・51・52・62・63・72・73頁,乙A85,乙C72)

淡水と塩水が交わることによって生じる現象(塩水くさび等)
感潮河川(潮の干満の影響を受けて下流の流速や水位が変動する河川)の河口部は,河川の流れ,河川水と海水の密度差による流れ,潮汐による流れが生ずる複雑な場所であり,その流動形態は,河川水と海水の乱れや混合の強弱により,弱混合型,緩混合型,強混合型に分類される。
弱混合型は,
淡水と塩水の混合が弱く,
明瞭な二層をなし,
塩水が淡水の下に潜り込んで,淡水の下に,くさびを打ち込んだような塩水の層を形成する。
これは塩水くさびと呼ばれ,
その長さは長い。
これに対し,同じ塩水の遡上でも密度カレントと呼ばれるものは,その長さが短く,先端部の形状が鈍い。このように流況の異なる2種類の流動形態が存在する。


(甲Cア5の21)

水理実験の結果


水理実験の概要

名誉教授は,洪水時に潮遊池の塩水が排水路を遡上すること,

その場合の暗渠管に浸入する水の塩化物イオン濃度及び農地への
湛水が生じた場合の塩化物イオン濃度等について,模型を用いた実験(以下本件水理実験という。)を行った。

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
本件水理実験では,箱形の潮遊池(模型)に塩水を入れ,そこに
接続された排水路(模型)から潮遊池(模型)に淡水を流入させるものとした。そして,潮遊池(模型)の下流側(調整池側)には,潮遊池
(模型)
の水量調整用として越流堰が設置された。
潮遊池
(模
型)
の初期の塩化物イオン濃度は,
5700㎎/L又は15000㎎
/Lとされ,水位は模型であるため,(-)1.0m,(-)1.3m,(-)1.5mをそれぞれ25分の1とした。


塩水くさびの発生
本件水理実験では,潮遊池(模型)に排水路(模型)から淡水を
流し入れると,密度フルード数(=U/εgh。ただし,Uは平均流速,εは相対密度差,gは重力加速度,hは水深。水の流れの慣性力〈大きさと速度が及ぼす勢い〉に対する重力等の相対的な比率。値が大きいほど密度界面の安定性が弱くなる。)が小さい場合は塩水くさびが発生して排水路を遡上し,排水路の流量が増加して密度フルード数が大きくなると塩水くさびの長さが短くなり,密度フルード数が1に近づいたところで,塩水くさびが消失することが観測された。



(甲C15の1-6・7頁)

密度カレントの発生
本件水理実験において,潮遊池(模型)に排水路(模型)から淡
水を流し入れ,塩水くさびがない状態で,一旦,潮遊池(模型)と排水路(模型)の間に仕切りをいれて水流を停止させた後に,排水路からの水の流入を止めて仕切りを除いたところ,
潮遊池側
(模型)
の淡塩混合水が,密度カレント(塩水くさびと比較して先端の形状が鈍いものである。)により,排水路(模型)に遡上することが確認された。



(甲C15の1-7~11・16~21頁)

遡上した淡塩混合水の混合

2H
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑷妨害のおそれ④(塩害)

名誉教授は,密度カレントにより遡上した淡塩混合水は,淡

塩境界面が水平状態であり,淡水の流れや外部撹拌がなくても,時間の経過とともに主に淡塩成層間の静拡散現象による塩分輸送に
より,洪水後に比較的高い塩分濃度の水が暗渠管の高さに達し,暗渠管からの塩水浸入が起こる可能性があるとした。
なお,密度カレントによって遡上した淡塩混合水の塩化物イオン
濃度は,上記塩分輸送により排水路末端(潮遊池と合流する地点)から15m先(現地の距離に換算したもの)の暗渠管の高さで,潮遊池(模型)の初期濃度が1万5000㎎/Lの場合(ケース1開門の最大値と同様),2000~2430㎎/Lであった。なお,潮遊池(模型)の初期濃度が5700㎎/L(ケース3-2開門の最大値と同様)についての結果は明らかでない。
(甲C15の1-7~11・16~21頁)


潮遊池の水が農地に溢水した場合
潮遊池(模型)の水をアクリル板で作成した農地(模型)に溢水
させたところ,農地(模型)の塩化物イオン濃度は,潮遊池(模型)の初期濃度が1万5000㎎/Lのときは,7890㎎/Lから550㎎/L,潮遊池(模型)の初期濃度が5700㎎/Lのときは,610㎎/Lから180㎎/Lであった。
本件水理実験では,
排水路
(模
型)から農地(模型)への浸水を生じさせなかったが,H

名誉教

授は,潮遊池が氾濫する場合は排水路末端からも農地に氾濫が生じるとした。なお,農地(模型)は,当初乾燥状態であった。
(甲C15の1-13~15・22頁)

潮遊池からの排水方法
現状では,潮遊池には,既設排水ポンプが設置されており,潮遊池の底部に既設排水ポンプの取水口が設置されている。なお,被告が事
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
前対策で設置する予定の常時排水ポンプの取水口の位置も同様である。そして,降雨時には,上記各排水ポンプにより排水が行われる。
旧干拓地では,本件開門をした場合,降雨時でも,潮遊池の水位が調整池の水位より高い時は,樋門・樋管の主ゲートを開けて潮遊池から排水を行い(前記前提事実

イ。ケース3-2開門の場合につき,

別紙52,53),調整池の水位が潮遊池の水位と同程度になると,樋門・樋管の主ゲートを閉じることとされている。
(乙A32の1_6.14.4-91・93頁,乙A112,113,乙C69の1・2)

環境アセスメントが塩化物イオン濃度の変化があると予測する土地環境アセスメントにおいて塩化物イオン濃度の変化があると予測
している土地の範囲は,
概ね別紙96-2頁である。

(乙C35)

検討(本件水理実験の妥当性について)

本件水理実験における潮遊池の塩化物イオン濃度の設定について
本件水理実験は,初期の塩化物イオン濃度を5700㎎/L及び1万5000㎎/Lとして,
比較的短時間の集中豪雨時にみられる洪水の
開始から終焉時に生じる現象を実証したものとされているところ,上記潮遊池の塩化物イオン濃度は,洪水時ではない,すなわち,洪水前の環境アセスメントの予測の最大値であり,洪水時の排水路からの淡水の流入による希釈が考慮されていない。しかも,現状では,洪水開始から終焉までは,
潮遊池の水位が調整池の水位よりも高い場合には,
樋門・樋管によって排水が行われ,潮遊池の水位が調整池の水位より低い場合には,潮遊池の底部に取水口がある既設排水ポンプにより,潮遊池の底部の塩化物イオン濃度の高い水が排水される(前記


a〈200頁〉。別紙31参照。なお,被告が設置を予定する常時排水ポンプも同様である〈前記

e〈217頁〉)。そうすると,潮遊池の塩水

2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑷妨害のおそれ④(塩害)

は,洪水終焉頃には,排水路からの淡水による希釈と上記の塩化物イオン濃度の高い水の排水によって塩化物イオン濃度が低下すると考えられる。
これに対し,本件水理実験では,潮遊池(模型)からの排水は,潮遊池(模型)の上部に設けられた越流堰から行われ,潮遊池上部の淡水が優先的に排水され,塩化物イオン濃度が下がりにくい。
塩水くさびや密度カレントは,塩化物イオン濃度ないし密度の差によって生じるものであるから,潮遊池(模型)の塩化物イオン濃度の設定が重要な条件であるところ,上記のとおり,本件水理実験の潮遊池(模型)の塩化物イオン濃度の設定が適切ということはできない。b
塩水くさびについて
前記のとおり,本件水理実験では,洪水流(又は排水量の流量)が増加した場合には,密度フルード数が大きくなり,1に近くなると塩水くさびが消失することが観測された上,塩水くさびが発生した場合でも,淡水の下に存在する淡塩混合水が暗渠管の位置に達するためには,淡塩成層間の静拡散現象による塩分輸送が必要となるが,洪水が収まった後も,潮遊池の水位が,調整池の水位より低い場合は樋門・樋管により,調整池の水位より高い場合は排水ポンプにより排水が続き,洪水が収まった後も排水路では潮遊池に向かう水流があるから,上記のような静拡散現象が生じて暗渠管の高さまで淡塩混合水が達するかは疑問がある。


密度カレントについて
本件水理実験では,洪水終了時に排水路からの水流が生じない状態で密度カレントが生じ,その際遡上した淡塩混合水の塩化物イオン濃度は2000㎎/Lを上回るとされているところ,
①洪水終了後に排水
路から潮遊池への淡水の流入がないとは考え難く,実験方法として適
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
切であるということはできず,密度カレントが生じる可能性が高いということはできない,②仮に排水路からの淡水の流入が停止しても,樋管・樋門または排水ポンプによって潮遊池の水が排水され続けることにより,排水路の水位もまた低下するため,淡塩混合水の水位が暗渠管の高さに到達しうるか疑問がある,③さらに,本件水理実験において暗渠管の高さで塩化物イオン濃度が上昇したとされている地点(排水路末端から15m)は,環境アセスメントにおいて塩化物イオン濃度の変化があると予測している土地の範囲に含まれているため(別紙96-2頁),本件水理実験をもって,環境アセスメントの予測よりも広い範囲のほ場で,塩化物イオン濃度の変化が生じるということはできない。

本件水理実験における溢水時の農地(模型)の塩化物イオン濃度について
本件水理実験では,農地(模型)に溢水した状態の塩化物イオン濃度を測定しているところ,上記aのとおり,潮遊池(模型)の塩化物イオン濃度の設定が適切ということができない上,本件水理実験において農地(模型)は,溢水前は乾燥した状態とされているが,実際に洪水が生じる場合は農地にも相当量の淡水が存在し,洪水終了後,土壌に浸透せず農地から排水される水分も存在すると考えられるから,湛水した場合の塩化物イオン濃度の推定としては前提が適切ということはできない。


本件水理実験の評価
そうすると,本件水理実験で確認された現象や塩化物イオン濃度は,必ずしも適切な方法によって観察ないし測定されたものではなく,実験結果と推論の過程には疑問があるから,これを直ちに採用することはできない。

2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑷妨害のおそれ④(塩害)

また,前記のとおり,排水路を遡上する淡塩混合水は,遡上する際に淡水の下に潜り込むことになるところ,潮遊池の洪水発生前の潮遊池の水位は,潮遊池の管理水位を常時30㎝下げる事前対策をしない場合,調整池の管理水位の上限と同じ標高(-)1.0m~樋門・樋管の敷高である標高(-)1.5mであるのに対し,暗渠管の最低標高が(-)0.95m(仮に標高(-)1.25mとしても以下のことは同様に当てはまる。)であること,排水路は洪水時に大量の淡水が流入しており,遡上した淡塩混合水が淡水の下に潜行することからすれば,淡塩成層間の静拡散現象を考慮しても,その淡塩混合水の水位が暗渠管が位置する程度の高さに達することは困難である。
なお,被告が予定する事前対策により,常時排水ポンプ及び洪水時排水ポンプを設置し稼働させた場合,潮遊池の水位とともに排水路の水位も下がるので,淡塩混合水の水位が相当程度の高さに達することは更に困難となる。加えて,原告らが,淡塩混合水が遡上すると主張する農地は,潮遊池付近よりも高い標高のものが多く含まれ,排水路の標高も高くなるから,潮遊池付近の排水路に比べて,排水路内での淡塩混合水の水位は相対的に低くなると考えられる。そうすると,本件水理実験の結果をもって,淡塩混合水が暗渠管へ浸入する可能性のある範囲が,環境アセスメントで予測した範囲を越える高度の蓋然性があるということはできない。
以上のとおり,原告らの上記主張は採用することができない。
小括(淡塩混合水が暗渠管に浸入する農地の範囲について)
したがって,原告らが主張する淡塩混合水の密度流という現象が生じる可能性はあるものの,以上のとおり,原告らの主張に沿う本件水理実験の結果は採用することができず,環境アセスメントの予測が妥当する範囲よりも広い範囲で,遡上した淡塩混合水が暗渠管に浸入する高度の
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
蓋然性があるということはできない。

毛管現象による作土層の塩化物イオン濃度の上昇量
(ア②毛管現象関係)
について
原告らの主張
原告らは,現状で心土層に存在する塩化物イオン濃度の高い地下水,あるいは,暗渠管付近の混合水が,毛管現象によって作土層に運ばれる機序(前記ア②の機序)に関し,環境アセスメントにおいて,透水係数等の現地調査がされた場所は,実際に営農が行われている場所よりも透水性が低いため,水分・塩分の移動量が過小評価されている(後記



環境アセスメントのシミュレーションでは,作物の根による吸水が考慮されていないため,水分・塩分の移動が過小評価されている(後記



暗渠管直上だけでなく暗渠管から離れた地点も予測すべきであり,少なくとも二次元以上のシミュレーションを実施すべきであり
(後記

)作


土層の塩化物イオン濃度は,環境アセスメントの予測よりも大きく上昇すると主張するので,以下検討する。
認定事実
証拠(事実の後に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

環境アセスメントにおける調査内容とその結果
環境アセスメントでは,以下のとおり,既往の文献の調査,現地調査等が実施され,新干拓地(中央)の土壌の透水係数,新干拓地及び旧干拓地の土壌の塩化物イオン濃度,新干拓地(中央)の土壌間隙水の塩化物イオン濃度の現況について分析がなされた。


文献調査
新干拓地の透水係数を既往の文献によって調査した。その結果,
新干拓地(中央)については,表層から深度35㎝までの作土層の
2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑷妨害のおそれ④(塩害)

透水係数は,10-1~10-3㎝/sの値を示すか所が多くみられ,最小値は6.90×10-6㎝/s,最大値は6.90×10-1㎝/sであり,平均は6.92×10-2㎝/sであった。
(乙A32の1_6.5.1-8~11頁)


透水係数の現地調査
新干拓地(中央)の現地調査の結果は,下表のとおりであり,土
壌の透水係数は,10-7~10-8㎝/sであった。なお,調査地点(DJ-3地点)は,ほ場の周辺部である。
深度
対象土層

飽和透水係数(㎝/s)

0~20㎝

作土層①

5.78×10-7

15~30㎝

作土層②

1.06×10-7

30~50㎝

作土層③

9.28×10-8

60~80㎝

心土層①

9.48×10-8

(乙A32の1_6.5.1-12・14頁,乙A32の2-94頁)


土壌中の塩化物イオン濃度の現地調査
環境アセスメントにおいて,旧干拓地及び新干拓地の表層土壌及
び深度別の塩化物イオン濃度の現地調査が行われた。調査地点及びその結果は,別紙97記載のとおりであり,いずれの調査地点及び時期においても,下層ほど塩化物イオン濃度(含有量)が高くなる傾向を示しており,深度30~80㎝程度から下層で濃度が上昇する。特に,新干拓地ではその傾向が顕著で,新干拓地(中央)の耕作地(DJ-6~9地点)における4回の測定平均は深度0~20㎝で102㎎/㎏・乾土に対し,深度20~40㎝で479㎎/㎏・乾土と約5倍に増加する。これに対し,旧干拓地では,深度が深くなるにつれて上昇する傾向はゆるやかである。もっとも,旧干拓地
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
(諫早)の耕作地(DJ-4地点)における深度0~20㎝の4回の測定平均は256㎎/㎏・乾土,
深度20~40㎝は733㎎/㎏・
乾土と高い水準での濃度の上昇となっているのに対し,旧干拓地
(吾妻)
の耕作地
(DJ-5地点)
では深度0~20㎝で23㎎/㎏・
乾土,
深度20~40㎝で63㎎/㎏・乾土と低い水準での濃度の上
昇であった。
(乙A32の1_6.5.1-2・3・15・16頁)


土壌間隙水中の塩化物イオン濃度の現地調査
新干拓地(中央)のDJ-3地点において,深度別の土壌間隙水
の塩化物イオン濃度の調査(5回)が行われた。調査の結果は,別紙98の表6.5.1-7のとおりであり,表層土壌及び深度別の塩化物イオン濃度(含有量)と土壌間隙水の塩化物イオン濃度の結果とは,
高い相関関係を有していた
(別紙98の図6.1-6)
5.

そして,土壌間隙水の塩化物イオン濃度(㎎/L)をy,土壌の塩化物イオン濃度(含有量)
(㎎/㎏・乾土)をxとすると,y=0.4
991xという一次回帰式
(R2=0.
9267。2は決定係数で,

回帰分析の精度の指標である。
)が得られた。
上記一次回帰式を用いて上記⒞の表層土壌(深度0~20㎝,2
0~40㎝)の塩化物イオン濃度(含有量)の4回の測定平均を,土壌間隙水の塩化物イオン濃度に換算すると,下表のとおりとなる。新干拓地

旧干拓地

旧干拓地

(中央)

(諫早)

(吾妻)

DJ-6~9

DJ-4

DJ-5

干拓地

地点
0~20㎝
20~40㎝

51㎎/L

128㎎/L

11㎎/L

239㎎/L

366㎎/L

31㎎/L

(乙A32の1_6.5.1-12・17頁)

2b
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑷妨害のおそれ④(塩害)

環境アセスメントにおける予測手法等


予測モデル(土層中の水分と塩化物イオンの鉛直方向の移動につ
いて)
環境アセスメントでは,土層中の水分と塩化物イオン濃度の鉛直
方向の移動,変化を解析し,調整池の水位及び塩化物イオン濃度の影響が,作土層にどのように及ぶかを予測することとした。予測のイメージは,別紙99のとおりである。
環境アセスメントにおいては,水分と塩分の作土層への上昇につ
いての予測は,土壌中の水分と塩分の挙動が,概ね鉛直方向の動きと考えられることから,鉛直一次元飽和・不飽和移流分散モデルにより実施され,
HYDRUS-1D
という解析コードを用いて,
水分・塩分の移動を一次元(上下方向)でシミュレーションした。HYDRUS-1Dは,
近年,
特に農学分野で蒸発散量,
根の吸収,
暗渠排水等を考慮した解析に広く用いられている。この水理条件となる土層上端(土壌表面)からの蒸発散量(㎝/日)については,各種気象データ等を用いて,ペンマン法という手法で算定された。もっとも,環境アセスメントでは,作物の蒸発散量について,成長期別の変化等を考慮しない値が用いられ,それを考慮した場合の蒸発散量に比べて大きな値となっており,塩分を含む下層の土壌間隙水が上層に移動しやすい計算となっている。
(乙A32の1_6.5.1-28・30・33・34頁,乙A
32の1_6.14.2-27頁)



DJ-3モデルの現況再現性
環境アセスメントでは,新干拓地(中央)において透水係数の現
地調査が行われた地点(DJ-3地点)が,ほ場の周辺部であったことから,文献調査の結果である作土層の透水係数を踏まえて,現
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
地調査の透水係数を補正したDJ-3モデルを作成した。
環境アセスメントでは,上記DJ-3モデルについて,現況のデ
ータと比較して現況再現性が確認された。各土層の体積含水率及び塩化物イオン濃度の現況値(実測値)と予測値の結果は,別紙100のとおりであり,塩化物イオン濃度の予測値は,深度20㎝,45㎝,70㎝において,現況をやや下回っていた。
(乙A32の1_6.5.1-41~43頁)


DJ-3モデルの作成・検証に用いた土地と予測の対象地

DJ-3モデルの作成・検証に用いた土地
DJ-3モデルの作成・検証に用いられた新干拓地(中央)の
土地は,
現地調査が行われた土地
(DJ-3地点)
と同じであり,
ほ場の周辺部である。


予測の対象地
塩化物イオン濃度の予測の対象として設定された地点は,新干
拓地(中央)では,暗渠管直上の任意の耕作地(暗渠管直上の耕
作地については,
別紙57-2頁参照。とされた

(暗渠モデル)

また,旧干拓地(諫早)では,潮遊池近くの耕作地(MJ-1地
点)
とされた
(森山モデル)
(乙A32の1_6.1-31頁)
5.

これらの予測地点が選定された理由は,基準田面が低く,排水
路(遊水池又は潮遊池)の水位・水質が,新干拓地(中央)では,暗渠管を通じて土層の水位・水質に影響すると予測されたからで
あり,旧干拓地(諫早)では,直接土層の水位・水質に影響する
と予測されたからである。
そして,暗渠モデル及び森山モデルは,DJ-3モデルの透水
係数を作土層①(暗渠モデルは深度0~10㎝,森山モデルは深度0~8㎝)について10倍,作土層②(暗渠モデルは深度10
2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑷妨害のおそれ④(塩害)

~40㎝,
森山モデルは深度8~38㎝)
について1万倍とした。
さらに,暗渠モデルは,DJ-3モデルの作土層③(深度40~60㎝)心土層①

(深度60~80㎝)
を砕石,
洗砂に変更した,
すなわち,暗渠モデルは,DJ-3モデルの作土層及び心土層①を暗渠周りに用いられる土層に変更したモデルである。また,森
山モデルは,MJ-1地点(旧干拓地(諫早)
)の土層区分(作土
層①②のほか,深度38~45㎝が砕石・洗砂,深度45㎝~60㎝が作土層③,深度60~80㎝が心土層)に対応したDJ-3モデルの透水係数を設定したモデルである。したがって,暗渠
モデル及び森山モデルは,DJ-3モデルより水を通しやすいも
のとして予測を行った。
(乙A32の1_6.5.1-30~32・38頁)

予測(森山モデルを用いたもの)が妥当する範囲
環境アセスメントは,土壌中の塩化物イオン濃度の農作物に対
する影響は,釜ノ鼻地区(MJ-1地点)と同様に地盤が低く,
堤防際の潮遊池や排水路に接するなどの条件が類似し,畑作物を
栽培している後背地のほ場では釜ノ鼻地区(MJ-1地点・森山
モデル)と同様の影響が推定されるとした。その範囲は,旧干拓
地(諫早)においてはその最低位部である。
(乙A32の1_6.14.2-6・7頁,乙C35)


予測モデルの水理条件(蒸発散量)を算定するペンマン法の概要
ペンマン法は,土壌表面からの蒸発量と植物葉面からの蒸散量を総合的に捉えて可能蒸発散量を算定する方法である。ペンマン法では,気温,湿度,風速などの気象データからペンマン式により計算した水面蒸発量(蒸発位)に,ほ場で栽培されている作物の種類を踏まえた作物係数をかけて,ほ場からの蒸発散量を推定する。

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
環境アセスメントにおいては,植物葉面の蒸散に伴う根の吸水により土壌水分が毛管現象によって下層から根群域へ移動する現象が考慮されているが,蒸発散量は土層上端(土壌表面)を流量境界として扱い,作物の根からの水分吸収はこれに含まれるとして,基礎方程式に作物根からの水分吸収に係る吸水項を設けずにシミュレーション
をした。

(乙A143,
153-139~141頁)

根の分布を考慮した場合と考慮しない場合の根群域内塩分量の相違H
名誉教授の意見書(甲C105の1・5)によれば,
環境アセスメントのシミュレーションで使用されたプログラムであるHYDRUSは,根群域を多数の層に分割して各深さの水分・塩分濃度を短時間単位の変動を捉えて評価する分布定数系のモデルであり,根群域全体を大きな箱とする集中定数系のモデルではない。とされ,作物蒸散量は根群域の分布を考慮して土壌中の各深さから吸水されるべきであるのに,環境アセスメントでは,(土壌の)上端から蒸発散量(土壌面蒸発量+作物蒸散量)をまとめて吸引しているため土壌水分と塩の移動を正確に捉えていないとしている。H
名誉教授は,独自に開発したシミュレーションモデルによって,

ジャガイモを対象に作物の根による吸水が,水分輸送及び塩分輸送に及ぼす影響を評価した。具体的には,蒸発散の全てを土壌面蒸発散とした場合(環境アセスメント)と,作物の根の分布を考慮した水分吸収がある場合とをシミュレーションモデルによって比較し,
根群域
(鉛
直方向0.31m)における単位面積当たりの塩分量の最大値は,後者(根の分布を考慮した場合)が1.85㎏NaCl/㎡と予測されたのに対し,前者(根の分布を考慮しない場合。環境アセスメントの方法)
は1.
62㎏NaCl/㎡と予測された。(甲C105の1・5)

暗渠管直上と暗渠管から離れた地点における排水性の相違及び二次
2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑷妨害のおそれ④(塩害)

元以上のシミュレーション
暗渠管は,農地の上層から供給される水を集めて排水するために,土壌に埋設された管で,水を管中に取り込むために孔が空いている。そして,暗渠管から離れた場所ほど,暗渠管の直上と比較して,土壌の水分(含水率)の減少に時間を要する。このことは,本件の干拓地とは別の土地についての二次元のシミュレーション(上下方向,左右方向の水分の移動を予測)によって確認された。
(甲C62,63,甲C105の6)
HYDRUSでは,一次元のシミュレーションのほか,二次元,三次元でのシミュレーションが可能であり,それが望ましいとする専門家の意見が存在する一方で,
三次元モデルでは不確定要素が多くなり,
問題点を明確にするには一次元モデルを用いる方が適切であるという専門家の意見が存在する。
(甲C105の1,乙A32の2-96頁)
原告らの主張1(現地調査が行われた場所)について
原告らは,環境アセスメントで土壌間隙水中の塩化物イオン濃度の現地調査が行われた場所(DJ-3地点)は,実際に営農が行われている場所よりも透水性が低いため,水分等の上昇の程度が過小評価されている旨主張する。
しかし,前記認定事実(

a,b〈222頁〉
)によれば,環境アセスメ

ントでは,現地調査された地点(DJ-3地点)がほ場周辺部であること,文献調査の結果の新干拓地(中央)におけるほ場の表層から深度35㎝までの作土層の透水係数が,平均6.92×10-2㎝/sであることを考慮し,暗渠モデル,森山モデルを用いて,ほ場における水分・塩分の移動の予測を行うに当たっては,2つの作土層(暗渠モデルは深度0~10㎝及び深度10~40㎝,森山モデルは深度0~8㎝及び深度8~38㎝)について,より水を通しやすいものとして,DJ-3モデ
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
ル(現地調査によるDJ-3地点の透水係数を補正したもの)の更にそれぞれ10倍,1万倍である5.78×10-2㎝/s,1.06×10-2
㎝/sの透水係数を採用した。環境アセスメントは,上記のとおり,新
干拓地(中央)のほ場の平均透水係数に近い透水係数を採用したから,妥当性を欠くということはできない。なお,証拠(乙A32の1_6.14.2-27頁)によれば,実際のほ場での透水試験は,被告が農業者らの協力を得られなかったため,実施しなかったもので,このような予測もやむを得ないというべきである。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
原告らの主張2(作物の根の分布の不考慮)について

原告らは,環境アセスメントにおいて,土壌内の水分・塩分の移動について,HYDRUS-1Dという解析コードを用いて予測をしているところ,作物の根の分布を考慮すべきであるのに,これを考慮していない旨主張する。


前記のとおり,環境アセスメントでは,ペンマン法の適用に当たって,作物の成長期別の蒸発散量の変化等を考慮する作物係数を乗じていない値が用いられ,
これは作物係数を乗じた場合
(通常の計算方法)
の蒸発散量に比べて大きな値となっており,下層の塩分を含む土壌間隙水が上層に移動しやすい計算となっている。それにもかかわらず,現況再現性の確認において,塩化物イオン濃度は,予測値が現況をやや下回った。
また,
ペンマン法は,
作物の根の吸水を考慮するものの,
環境アセスメントでは,蒸散のために吸水する水が,土壌上端(深度0㎝)から吸水される計算とされており,根群域の分布を考慮し,各根群域の深さから吸水される計算とはされていないところ,HYDRUS-1Dは,作物の根群域を多数の層に分割して各深さの水分・塩分濃度を評価することができるとされており,作物の根群域の分布を
2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑷妨害のおそれ④(塩害)

考慮した吸水を算定の基礎とした方が,水分・塩分の移動をより正確に予測できるというべきである。これらを考慮すると,補正係数を用いる必要がある。
そして,

名誉教授がシミュレーションをした根群域内塩分量
(㎏

NaCl/㎡)の最大値は,根郡域の分布を考慮した値が,これを考慮しない値の約1.1倍となっていることからすれば,塩害のおそれを判断するにあたっては,土壌間隙水の塩化物イオン濃度(㎎/L)の算定は,環境アセスメントの予測に補正係数1.1を乗じた数値を基準にすべきである。

これに対し,被告は,H

名誉教授のシミュレーションでは,ジャ

ガイモの休耕期が考慮されておらず,休耕期には,蒸散がなくなるから,蒸発散量の計算を誤っている旨主張する。
しかし,証拠(甲C105-2・8頁)によれば,H

名誉教授の

シミュレーションにおいては,休耕期も考慮し,ジャガイモの休耕期には蒸散がないものと扱っているから,被告の上記主張は採用することができない。
原告らの主張3(一次元シミュレーション)について
原告らは,環境アセスメントでは,暗渠管直上の耕作地についてのシミュレーションを一次元(上下方向の水分・塩分の移動)で行っているところ,暗渠管から離れた位置(暗渠管と暗渠管の中間)の方が暗渠管直上よりも排水が遅くなることや,排水路から心土層への横浸透による塩化物イオン濃度の上昇が考えられるから,二次元ないし三次元のシミュレーションを行うべきである旨主張する。
確かに,前記(

e〈228頁〉
)のとおり,HYDRUSにおいては,

水分・塩分の移動について,土層の上下方向の一次元のシミュレーションのみならず,左右方向の移動を考慮した二次元のシミュレーション,
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
奥行きをも考慮した三次元方向のシミュレーションが可能であり,三次元シミュレーションの方がより様々な要素を考慮することができる。しかし,
三次元シミュレーションについては,
不確定要素が多くなり,
問題点を明確にするには,一次元モデルを用いる方が適切との専門家の意見があるから,三次元シミュレーションを採用しなかったことから直ちに環境アセスメントが合理性を欠くということはできない。
また,前記のとおり,暗渠管の直上から離れた位置は,暗渠管での排水による影響が乏しくなるため,暗渠管の直上よりも,一旦上昇した塩化物イオン濃度が下がりにくいということはできるものの(前記


〈228頁〉,他方で,暗渠管からの塩水の逆流,すなわち塩化物イオン)
濃度の上昇も生じにくいのであり,暗渠管の直上よりも塩害が生じやすいということはできない。また,前判示のとおり(前記ウ〈211頁〉,)
排水路からの横浸透により心土層の地下水の塩化物イオン濃度が高まるということはできないものである。ほかに一次元でのシミュレーションが不適切であるとの事情は見当たらない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
小括(毛管現象による塩化物イオン濃度の上昇量について)
以上のとおり,一次元シミュレーションの結果については,1.1の補正係数を乗ずるべきであるが,環境アセスメントの現地調査が行われた場所が妥当性を欠くということ,及び,水分・塩分の移動について一次元シミュレーションを選択したことが不適切であったということはできない。

塩害のおそれの有無を判断すべき土壌の深さ
(深度)
(ア⑤その他の要因
関係)について
原告らは,作物の根の深さは作物毎に異なるから,一律に深度10㎝,20㎝で塩害の評価を行うべきではない旨主張する。

2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑷妨害のおそれ④(塩害)

証拠(乙C87)によれば,主要根群域とは,根群の大部分(90%以上)が分布する土層をいい,土壌の物理性や化学性に関する基準の対象とされているものであることが認められる。上記のとおり,主要根群域は,土壌の物理性や化学性に関する基準の対象とされているものであるから,塩害のおそれの有無を検討する際も,主要根群域を基準に検討すべきである。
これに対し,被告は,表層下45㎝では現状でも高い塩化物イオン濃度の水が存在することから,表層下10,20㎝で塩害のおそれがあるかを予測するのが妥当である旨主張するが,そうであるとしても,主要根群域の最低深さが,表層下45㎝より浅い,30㎝~40㎝程度に存在する作物についての塩害のおそれを除外すべき理由はない。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。

マグネシウム等による農作物被害のおそれ(ア⑥その他の要因関係)について
原告らの主張
原告らは,環境アセスメントにおいて,塩化物による塩害のおそれについて検討がされているが,マグネシウム等による農作物被害について検討されていない旨主張する。
認定事実
証拠(事実の後に掲記)によれば,以下の事実が認められる。

海水の塩分は,主に塩化ナトリウム,塩化マグネシウム等の物質によって構成される。
(乙A32の1_参考―139頁,乙A153-137頁)


マグネシウムは,一般に過剰症が出にくいとされているが,生育不良が現れることがあり,葉脈間の黄化,褐色小斑点が生じ,小斑点はやがて壊死に至ることがある。また,マグネシウムを過剰に蓄積する
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
と,カルシウム等の吸収が抑えられてその欠乏症が発生することがあるが,その可能性は比較的小さく,ミトコンドリアの機能を阻害することによる根の活性低下への影響が大きい。
他方で,
マグネシウムは,
供給量が少ないと欠乏症を生じる。

(甲C30,59,60)

ナトリウムを含む粘土は,海水によって凝集するが,除塩が進んで間隙水中の塩分濃度が低下すると分散状態となり,団粒構造(土壌の粒子が小さな塊を形成している状況)が破壊されて団粒間の間隙が減少し,水・空気が移動しにくくなり,根の活性が低下する。そして,陽イオンであるナトリウムは,土壌に吸着し,その除去には長期間を要する。


(甲C52-45頁,
甲C58)

海性干拓地では,営農開始後も下層土にはマグネシウム等の含有量が高く,陽イオン飽和度が高いことが確認されており,被告は,干拓地のような海性粘土では,マグネシウム等の陽イオン飽和度が高く,既に飽和状態であると考えられるとしている。
(甲C57,乙A153-137頁)


塩化物(イオン)は,農作物に対する土壌ないし土壌間隙水の成分による塩害等の被害の指標ないし基準として用いられることが多い。降雨の多い日本では塩類の集積はほとんどみられず,カルシウム,マグネシウムなどの塩基の流亡がみられる。
(甲C19,43,52,53,55,59,103-57頁)
検討(マグネシウム等による農作物被害のおそれ)
以上のとおり,①マグネシウムは,直ちに農作物被害を発生させるも
のではなく,②陽イオンであるナトリウムによる団粒構造の破壊は,土壌間隙水中の陰イオンである塩化物イオンの増減に依存する関係にあると考えられること,③海水は,塩素(塩化物イオン)が,マグネシウム又はナトリウムのいずれかと結合する形で構成されていることが多く,
2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑷妨害のおそれ④(塩害)

海水に含まれる成分としては,塩素がマグネシウム等よりも多く,マグネシウム等は,通常,降雨によって流亡すること,④一般に塩素(塩化物イオン)が,塩害等の海水成分による被害の指標ないし基準とされていること,⑤海性干拓地である新干拓地及び旧干拓地では,下層土に,マグネシウム等の陽イオンが,現在も多く吸着され,既に飽和状態にあると予想され,本件開門による顕著な変化は考え難いことからすると,環境アセスメントにおいて,塩素(塩化物イオン)について検討し,マグネシウム等について検討しないことが,環境アセスメントの合理性を否定する理由になるということはできない。また,マグネシウムは,塩素(塩化物イオン)以上に顕著な被害が生じるということはできないから,妨害のおそれを検討するに当たり,塩素(塩化物イオン)による塩害のほかにマグネシウム等による農作物被害を検討する必要があるとまではいうことができない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

事前対策を実施しない場合の塩害のおそれ
認定事実
証拠(事実の後に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

本件締切り前の塩害の発生状況
旧干拓地においては,本件締切り前から,稲作を中心に営農が行われていたところ,本件締切り前に塩害の報告がされたのは,昭和61年5月の旧干拓地
(諫早)
で栽培されていた施設栽培のメロン
(なお,
メロンは耐塩性が弱いとされている。
)のみであった。
(甲Cア5の15,乙F4)
上記認定に対し,原告らは,本件締切り前にも,稲作について塩害が発生していた旨の書証(甲A101,甲C3,9,24)を提出す
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
る。しかし,稲作については,メロンと異なり塩害の報告はされておらず,塩害として主張する被害が,長時間の湛水(前記⑶)によるものか,塩害によるものかについての根拠が明らかでなく,これらを直ちに採用することはできない。

環境アセスメントの予測


開門による農地の地下水位及び塩化物イオン濃度の変化
本件開門に伴う調整池への海水導入により,調整池下の有明粘土
層付近には,地下水位及び塩化物イオン濃度の変化がみられるが,有明粘土層より下の帯水層
(淡水と推測される。中の地下水位及び

地下水の塩化物イオン濃度の変化はないと予測されている。
(乙A32の1_6.
4.
1-50~55頁)



潮遊池の塩化物イオン濃度の変化
潮遊池の塩化物イオン濃度の最大値は,
現況約500㎎/Lに対し,
事前対策を実施しないでケース3-2開門をした場合は約5700㎎/Lであった。



(乙A32の1_6.
5.
1-57・62頁)

土壌中の塩化物イオン濃度の変化
旧干拓地(諫早)における土壌間隙水の塩化物イオン濃度の予測
(MJ-1地点・森山モデル)では,ケース3-2開門の各深度の塩化物イオン濃度の年間最大値は,以下のとおりと予測された。なお,上記の予測は,前記アの①ないし③の機序,すなわち,大雨時の地下水位の上昇,毛管現象,飛来塩分の増加を踏まえたものである。
深度

平成19年度気象下

平成8年度気象下

10㎝

157

109

20㎝

180

132

2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑷妨害のおそれ④(塩害)

30㎝

281

181

38㎝

517

282

(乙A32の1_6.5.1-64~67頁)

湛水した場合の塩化物イオン濃度(被告の予測値)
被告は,
旧干拓地
(諫早)
において,
1/10確率年の降雨
(3日間)
で湛水が発生した場合の塩化物イオン濃度について予測を行った(森山モデル)

ケース3-2開門において,事前対策をせずに湛水した場合,深度10,20,30,38㎝の土壌間隙水の塩化物イオン濃度は,それぞれ最大約150,180,280,520㎎/Lであった。また,潮遊池の水位を30㎝低下させる事前対策を実施した場合は,
深度10,
20,30,38㎝の順に,最大235,191,225,278㎎/Lと予測された
(別紙102-1頁の
Bケース3-2開門1の/10確率降雨湛水
欄参照)


(乙A142)

農作物の主要根群域及び限界塩化物イオン濃度
旧干拓地(諫早)においては,稲類(水稲のほか,にこまる,にこまる飼料,WCS飼料稲を含む。以下,旧干拓地(諫早)について同じ。,麦類(麦,ミシマハダカ麦,小麦,シロガネ小麦,大麦,西チ)
カラ大麦。以下,旧干拓地(諫早)において同じ。,カボチャ,大豆,)
タマネギ及び飼料等(飼料作物,イタリアン,ソルゴー等)が作付けされているところ,旧干拓地(諫早)におけるこれらの作物(稲類を除く)の主要根群域の最低深さ及び限界塩化物イオン濃度は,それぞれ概ね次のとおりである。
タマネギ20㎝・250㎎/L,麦類25㎝・300㎎/L,カボチャ40㎝・300㎎/L,大豆40㎝・350㎎/L程度。このほかの飼料作物等については,不明である(別紙102-2頁の主要根群第2争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について域の最低深さ(㎝)欄及び限界塩化物イオン濃度欄の各認定欄)
。なお,証拠(甲A67-7頁,甲A68-5頁,乙A32の1_6.5.1-54頁)によれば,文献上,大豆の根の垂直方向への広がりは30~60㎝とされているが,大豆の根は地下水位によって大きく変動し,地下水位が高い場合には浅根性となるところ,森山モデルにおいて,現況で,ほ場の土層下端水位が概ね深度40~50㎝と予測されることが認められるから,深度40㎝を超える深度に主要根群域が存在すると認めることはできない。また,カボチャ(文献上60㎝)についても同様である。仮に深度40㎝を超える深さに主要根群域があるとしても,それは,当該農地において,現状(塩害が発生していない)
,大雨時の作土層の塩化物イオン濃度上昇の要因となる,
地下水位やその付近の土壌間隙水の塩化物イオン濃度が低いためと推認されるから,開門をした場合の塩害のおそれは低いと考えられる。(甲A65,67~69,乙A32の1_6.5.1-54頁,乙A32の1_6.14.2-2頁,乙A142,乙C86)

他の干拓地の状況
他県の干拓地の潮遊池ないし遊水池の塩化物イオン濃度は,福岡県の大和干拓でおよそ6700~8800㎎/L,
同県の三池干拓でおよ
そ500~9800㎎/L,
熊本県の玉名横島干拓でおよそ1500~
5600㎎/L,
岡山県の笠岡湾干拓地は1万1400~1万3800
㎎/Lとなっている。これらの干拓地のうち,少なくとも,大和干拓及び玉名横島干拓では,塩害が発生していない。
(乙A32の1_6.5.1-13・18頁,乙A32の2-106頁)


潮遊池の樋門部と中間点の塩化物イオン濃度の違い
短期開門調査期間中の平成14年5月17日の,潮遊池のうち樋門
2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑷妨害のおそれ④(塩害)

部,潮遊池からの取水点,中間点の塩化物イオン濃度は,下表のとおりであり
(なお,
上記地点の位置は,
別紙103の下表の括弧内の印,
番号のとおりである。,釜ノ鼻西樋門付近では,樋門から離れるに従)
って塩化物イオン濃度が高まっているのに対し,他の潮遊池では,そのような傾向は認められなかった。(甲A2-377頁,
甲C16)
樋門のブロック

地点

塩化物イオン
濃度の最大値

釜ノ鼻西樋門側

314

中間点(△印8番)

498

中間点(△印7番)

572

樋門部(○印13番)

148

中間点(△印10番)

111

潮遊池取水点(□印3番)

111

樋門部(○印18番)

111

潮遊池取水点(□印4番)

111

中間点(△印11番)

221

樋門部(○印21番)

111

中間点(△印13番)

山田4号樋門側

258

中間点(△印9番)

山田1号樋門側

185

潮遊池取水点(□印2番)

釜ノ鼻東樋門側

樋門部(○印12番)

111

また,平成14年度の年間の変動についてみると,樋門付近,取水地点及び中間点では,塩化物イオン濃度が高い時期に違いがある。(乙A142)
検討(事前対策を実施しない場合の塩害のおそれ)

開門による作土層の塩化物イオン濃度上昇の機序

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
以上のとおり,開門による作土層の塩化物イオン濃度の上昇の機序としては,①大雨時における地下水位の上昇,②毛管現象,③飛来塩分の増加という機序の競合,さらに,④大雨時の湛水被害が考えられるところ,これらに関する環境アセスメント等の予測は信頼することができる。
そこで,以下,環境アセスメントの予測をもとに,事前対策を実施しない場合の塩害のおそれ,被告の予定する事前対策の内容,効果,実施の蓋然性
(後記ケ)事前対策を実施した場合の塩害のおそれにつ

いて順に検討する(後記コ)

なお,原告らは,潮遊池の塩化物イオン濃度は,樋門から離れた中間点等の方が樋門付近よりも高いから,塩害のおそれが高い旨主張するが,前記認定事実(前記

f)のとおり,常にそのような状況が観

測されているものではないから,樋門から離れた中間点等の方が塩害のおそれが高いということはできない。

稲類についての塩害のおそれ
前記認定事実のとおり,旧干拓地では,本件締切り前,稲作を中心に営農が行われたところ,水稲について本件締切りまで塩害の報告はなく
(前記

a)他の干拓地でも塩害の報告はないから

(前記

e)


稲類について,塩害のおそれの高度の蓋然性があるということはできない。

稲類以外についての塩害のおそれ
ケース3-2開門後の釜ノ鼻地区(MJ-1地点)の各深度の土壌間隙水の塩化物イオン濃度の最大値は,
環境アセスメントの予測値
(前
記b
)の平成19年度気象下及び平成8年度気象下を通じての最

大値に補正係数1.1を乗じた数値というべきであるから(前記オ〈230頁〉,深度10㎝が173㎎/L,20㎝が198㎎/L,30)

2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑷妨害のおそれ④(塩害)

㎝が309㎎/L,
38㎝が569㎎/Lであるところ,
釜ノ鼻地区
(M
J-1地点)と条件が類似する地域はこれと同様と予測される(前記オ
b⒞ⅲ〈226頁以下〉。そして,旧干拓地(諫早)において栽培さ)

れている農作物(稲類を除く)の主要根群域の最低深さ及び限界塩化物イオン濃度は,タマネギ20㎝・250㎎/L,麦類25㎝・300㎎/L,カボチャ40㎝・300㎎/L,大豆40㎝・350㎎/Lであり,
このほかの作物については限界塩化物イオン濃度が不明である
(前

d)上記の主要根群域及び限界塩化物イオンが明らかな旧干拓地


(諫早)の作付作物については,カボチャ及び大豆を除き,主要根群域において塩化物イオン濃度が限界塩化物イオン濃度を上回る農作物は見当たらない。
また,10年大雨で湛水が発生した場合の土壌中の塩化物イオン濃度の予測値の最大値は,
深度10㎝が150㎎/L,
20㎝が180㎎
/L,
30㎝が280㎎/L,
38㎝が520㎎/Lであり
(前記

c)


上記の主要根群域及び限界塩化物イオンが明らかな旧干拓地(諫早)の作付作物については,カボチャ及び大豆を除き,主要根群域において土壌間隙水の塩化物イオン濃度が限界塩化物イオン濃度を上回る農作物は見当たらない。
したがって,旧干拓地(諫早)で生産される作物(稲類を除く)については,事前対策をしない場合,環境アセスメントが土壌間隙水中の塩化物イオン濃度を予測した釜ノ鼻地区(MJ-1地点)と同様,地盤が低く,潮遊池の付近の土地では,カボチャ及び大豆について塩害が発生するおそれがあり,他の作物については,主要根群域及び限界塩化物イオン濃度について認めるに足る証明はなく,そのおそれは不明である(検討結果は,別紙102-1頁のB門の事前対策なし欄に記載のとおりである。。)

ケース3-2開

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について

塩害に対する事前対策の効果とその実施の蓋然性
認定事実
証拠(事実の後に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

旧干拓地で予定されている事前対策


常時排水ポンプの設置による潮遊池水位の低下
旧干拓地について,潮遊池の水を排水する常時排水ポンプを旧干
拓地に設置する(ケース1~3開門の各設置数及び位置は,別紙61のとおり。。そして,常時排水ポンプの起動水位を30㎝低くし)
て,潮遊池の水位を,標高(-)1.3m~(-)1.8mで管理することで,湛水や暗渠管を通じての塩水の浸入を起こりにくくする(ケース1~3開門)

被告は,ケース3-2開門において,潮遊池の水位を30㎝低下
させる事前対策をした場合の釜ノ鼻地区(MJ-1地点・森山モデル)における各深度の土壌間隙水の塩化物イオン濃度の年間最大値を,深度10㎝が228㎎/L,深度20㎝が184㎎/L,深度30㎝が223㎎/L,深度38㎝が266㎎/Lと予測した。
(乙A142)



鋼矢板の打設
旧干拓地について,調整池から潮遊池への塩水の浸透が大きいと
見込まれる場所(旧干拓地の既設堤防のうち樋門・樋管の設置箇所を除いた場所)について,調整池と潮遊池の間に地下4m程度まで鋼矢板を打設し,塩水の浸入を防止する。設置する場所は,概ね別紙64記載のとおり。



(乙A32の2-105頁,
乙A142)

モニタリング及び散水
ほ場及び排水路(潮遊池)において,電気伝導度(EC。この数

2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑷妨害のおそれ④(塩害)

値を測定することで,
塩化物イオン濃度を推定できる。のモニタリ

ング(連続観測)等を行う。モニタリングにおいて,観測地の塩化物イオン濃度に一定以上の上昇が確認された場合,大雨によりほ場が湛水した場合,夏季において干天が連続した場合,地元関係者との協議により,深度別の調査を行い,塩害発生の可能性があるときは,散水等の対策を講じる。

(乙A32の2-104頁)

散水による除塩の効果
塩害により土壌中に多量の塩分が残った農地では,次作に備えて基本的な対策(土壌改良)が必要となる。土壌中の塩分の除去は,水で洗い流すか除塩作物によって吸収させることで行われるが,高塩分濃度の場合,除塩作物は補助的手段と考え,水洗を基本として対策を講じる。塩化物イオンの場合は,陰イオンのため,水によって流れやすく,佐賀県のデータでは,1日50㎜の水によって,土壌中の塩化物イオンを約30㎎/100g土,
・洗い流すことができるとされている。
なお,粘土地帯においては,ナトリウムによって排水性が悪化していることが考えられるので,土壌の物理性の改善も考える必要があり,佐賀県では,
石こうを300㎏/10a施用して,
透水時間を短縮した。
この場合,
上記石こうの施用により土壌のpHが0.
6低下するため,
除塩後に酸度矯正が必要となるとの報告がある。
また,
熊本県では,
塩害が生じた施設栽培の野菜について,
収穫後,
ほ場に湛水し,強制暗渠排水による急速洗浄(湛水状態の18時間を含め3日間)を行い,土壌の塩害対策を実施した。そして,土壌の塩化物イオン濃度が約50㎎/100g土以下に低下したことが確認さ・
れた。除塩用の水は10a当たり100t(約100㎥)必要とされる。
なお,
ほ場の滞水や土壌水分の過多は,
根の吸収を阻害
(酸素不足)

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
し,出芽期においては出芽不良のみならず,その後の生育や収量の低下を招き,
生育期においては生育遅延や根腐れを引き起こすとともに,
日照不足と重なって作物体を軟弱化させ,病害虫に帯する抵抗性を弱める。

(甲C39,甲C52-44・45頁,甲C55)

検討(塩害に対する事前対策の効果とその実施の蓋然性)

常時排水ポンプの設置について


事前対策実施の蓋然性
前記のとおり,被告は,ケース3-2開門の事前対策について
予算措置をとり,国会でその予算が成立したから,被告が事前対
策として,常時排水ポンプを設置する高度の蓋然性がある(前記
⑶ウ〈204頁〉。




事前対策を実施した場合の潮遊池の塩化物イオン濃度の変化
ケース3-2開門では,潮遊池の水位を30㎝低下させる事前
対策を実施した場合には,実施しない場合よりも,調整池からの
塩水浸透量が増加し,潮遊池の塩化物イオン濃度が,約2倍(約
12000㎎/L)となり,農地の深度10㎝の塩化物イオン濃度は,約100㎎/L増加すると予測され,他方,深度30㎝以上の土壌においては,地下水位の低下に伴い,塩化物イオン濃度が低
下すると予測される(別紙102-1頁参照)

以上のとおり,常時排水ポンプの設置によって潮遊池の水位を
30㎝下げることにより,農地の土壌間隙水の塩化物イオン濃度
は深度10㎝では上昇し,深度30㎝以上では低下すると予測さ
れる。


鋼矢板の打設について
鋼矢板の打設という事前対策は,被告がこれを実施する可能性は
あるが,具体的な設置場所及び設置数は不明であり,調整池から潮遊
2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑷妨害のおそれ④(塩害)

池への水の浸透をどの程度防ぐ効果があるかについてのシミュレーションが行われたかも明らかでないから,塩害に対して効果があるということはできない。

散水等について
前記のとおり,散水が土壌中の塩化物イオン濃度の低下に効果が
あり(前記

b)
,開門後,被告が農業用水を確保する蓋然性は高い

ものの(前記⑴オ〈182頁〉,作物の生育中に大量の水をほ場に散水)
すると,作物の生育不良を起こし(前記

b)
,農作物被害が発生す

る可能性があり,生育中の実施は困難である。仮に少量ずつ散水したとしても,下方への浸透量が少ないため,土壌中の塩化物が下層土に流れず,毛管現象によって再び上層に移動することが予想され,その実効性には疑問がある。さらに,湛水による塩化物イオン濃度の上昇(前記ク

〈c

湛水した場合の塩化物イオン濃度(被告の予測値)

237頁〉
)は,散水等によって事前に防ぐことはできず,湛水した後
に大量の水を散水することができないことは上記のとおりである。そうすると,被告が行うとする散水等の事前対策は,塩害により土壌中に塩分が残留した農地につき,次作に備えて土壌改良のため,作物の収穫後に行うことができるという限られたものでしかないから,塩害の事前対策として効果があるということはできない。
小括(塩害に対する事前対策の効果とその実施の蓋然性について)以上によれば,潮遊池の水位を30㎝低下させる事前対策は,被告がこれを実施する蓋然性及びその実施により農地の塩化物イオン濃度が変化する蓋然性は,いずれも高いが,鋼矢板の打設や散水等の事前対策については,その効果があるということはできない。

事前対策を実施した場合の塩害のおそれ
稲類

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
前判示のとおり(前記クれ

事前対策を実施しない場合の塩害のおそ

b),稲類の塩害のおそれがあるということはできない。

稲類以外
前記のとおり,ケース3-2開門後,常時排水ポンプを設置して,潮遊池の水位を30㎝低くした場合の釜ノ鼻地区の各深度の土壌間隙水の塩化物イオン濃度の最大値は,環境アセスメントの予測値(前記ケ)に補正係数1.1を乗じた数値というべきであり(前記オ


〈230

頁〉),深度10㎝が251㎎/L,20㎝が202㎎/L,30㎝が245㎎/L,38㎝が293㎎/Lであるところ,釜ノ鼻地区(MJ-1地点)と条件が類似する地域はこれと同様と予測され(前記オ

bⅲ
〈226頁〉),旧干拓地(諫早)において栽培されている農作物の主要根群域の最低深さ及び限界塩化物イオン濃度は,タマネギ20㎝・250㎎/L,麦類25㎝・300㎎/L,カボチャ40㎝・300㎎/L,大豆40㎝・350㎎/Lである。このほかの作物については不明である(前記ク

d〈237頁〉)。

また,ケース3-2開門において,常時排水ポンプを設置して,潮遊池の水位を30㎝低くした場合の,10年大雨で湛水が発生したときの土壌中の塩化物イオン濃度の予測値は,
深度10㎝が235㎎/L,
20
㎝が191㎎/L,
30㎝が225㎎/L,
38㎝が278㎎/Lである
(前
記ク

c)。

上記の主要根群域及び限界塩化物イオンが明らかな旧干拓地(諫早)の作付作物については,タマネギを除き,主要根群域において塩化物イオン濃度が限界塩化物イオン濃度を上回る農作物は見当たらない。そうすると,旧干拓地(諫早)においては,タマネギについて,事前対策を実施した場合の土壌水の塩化物イオン濃度が限界塩化物イオン濃度を上回る。

2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑷妨害のおそれ④(塩害)

したがって,旧干拓地(諫早)で生産される作物については,事前対策をした場合,釜ノ鼻地区(MJ-1地点)と同様,地盤が低く,潮遊池の付近の土地では,タマネギについて塩害が発生するおそれがある。他の作物については,これを認めるに足りる証拠がない(検討結果は,別紙102-1頁のBケース3-2開門の事前対策あり欄に

記載のとおり。)。
塩害のおそれのある原告

認定事実
前記認定事実のほか,証拠(甲A65,甲B3の5,乙A32の1_6.14.4-7頁)によれば,原告旧干拓地(諫早)農業者らのうち,目録1-7番の原告は,旧干拓地(諫早)においてタマネギを栽培していること,また,同原告の所有に係る旧干拓地(諫早)の土地は地盤が低く,潮遊池の付近であることがそれぞれ認められる。

検討(塩害のおそれのある原告)
そうすると,ケース3-2開門(事前対策あり)を実施した場合に塩害のおそれがある農作物は,タマネギであるところ,旧干拓地(諫早)
においてタマネギを栽培しているのは目録1-7番の原告であり,同原告の所有にかかる旧干拓地
(諫早)
の土地は,
潮遊池付近であり,
農地の標高が低いから,環境アセスメントにおいて土壌の塩化物イオン濃度の変化が予測される範囲に含まれるものということができる。したがって,上記原告は,その所有に係る旧干拓地(諫早)で栽培する農作物(タマネギ)について,塩害が生ずるおそれがある。
なお,原告らは,ケース3-2開門をした場合,潮遊池の水が塩水化することから,かんがいによる洗い流しができず毛管現象によって作土層の塩化物イオン濃度が上昇する旨主張するが,前判示のとおり(前記

)海水淡水化案の事前対策によってかんがいに必要な農業用


第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
水を確保することができるから,原告らの主張は採用することができない。

妨害のおそれ④(塩害)について
以上によれば,目録1-7番の原告は,ケース3-2開門がなされることにより,旧干拓地(諫早)の土地の所有権の行使につき,塩害による妨害のおそれがある。
その余の原告旧干拓地(諫早)農業者らについては,上記農地において栽培する農作物に塩害が発生し,上記所有権の行使について妨害のおそれがあるということはできない。



結論(旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ)以上のとおり,原告旧干拓地(諫早)農業者らは,その所有する旧干拓地(諫早)の農地において,農業を営むところ,ケース3-2開門がなされれば,季節風等の強風による潮風害(妨害のおそれ②)が生じる高度の蓋然性があり,被告の予定する散水等の事前対策は,上記潮風害の発生する高度の蓋然性を否定するものということはできない。また,大雨時の地下水位の上昇等により,作土層の塩化物イオン濃度が上昇し,地盤が低く,潮遊池付近の土地では,一部の農作物(カボチャ,大豆)について塩害が発生する(妨害のおそれ④)高度の蓋然性があるところ,被告の事前対策によって,土壌間隙水の塩化物イオン濃度が一定範囲で低下するものの,タマネギについて塩害発生の高度の蓋然性がある。そのため,その所有する旧干拓地(諫早)の土地でタマネギを栽培する目録1-7番の原告については,その所有する土地につき塩害のおそれがある。
他方,
事前対策を実施しない場合,
農業用水の水源喪失
(妨害のおそれ①)
の高度の蓋然性はあるが,被告が事前対策として,海水淡水化案を実施することにより,農業用水が確保され,その対策実施の蓋然性は高い。また,事前対策を実施しない場合,10年大雨があった場合に排水不良により原告旧
3
旧干拓地(吾妻)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑴妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)
干拓地(諫早)農業者らの所有の土地について湛水被害が発生する(妨害のおそれ③)高度の蓋然性があるということはできない。したがって,原告旧干拓地(諫早)農業者らの旧干拓地(諫早)の土地の所有権の行使について,妨害のおそれ②(潮風害)及びその一部について同④(塩害)があるというべきである。
3
旧干拓地(吾妻)の所有権の行使についての妨害のおそれ


妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)

事前対策を実施しない場合の妨害のおそれ
原告Aら

46名

前記前提事実(⑽ア
うち原告Aら

)のとおり,原告旧干拓地(吾妻)農業者らの

46名(目録6-39番~73番,75番~83番,8

5番,86番)は,その所有に係る旧干拓地(吾妻)の土地において農業を営むところ,現状では,淡水である潮遊池から農業用水を取水しているものであり,事前対策をせずに本件開門(ケース3-2開門を含むものである。
)がなされれば,調整池が塩水化し,既設堤防を介して隣接
する潮遊池(別紙36)に塩水が浸入し,潮遊池の水が塩水化して農業用水として利用できなくなり,そのため,旧干拓地(吾妻)における上記農業につき農業用水の水源を喪失する高度の蓋然性があり,上記所有権に基づく使用収益につき妨害のおそれがある。
原告Aら

46名以外の者

上記事実及び証拠(事実の後に掲記)並びに弁論の全趣旨によれば,原告旧干拓地(吾妻)農業者らのうち原告Aら

46名以外の者は,旧

干拓地(吾妻)のうち循環かんがいを行っている区域(別紙36及び71参照)外において,その所有に係る土地で農業を営むところ,現状では,河川水のほか,移動式の循環ポンプを利用して,淡水である潮遊池から農業用水を取水しており,このことは平成24年7月分の吾妻土地
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
改良区宛の電気料金請求書の請求内訳の中に,河川水を取水するためのポンプのほか,移動式の循環ポンプによるものがあることにより裏付けられること(甲C9,18,24の2-6頁。別紙65)
,そして,本件
開門がなされれば,潮遊池の水が塩水化して農業用水として利用できなくなること(前記

)が認められる。

したがって,原告旧干拓地(吾妻)農業者らのうち原告Aら

46名

以外の者は,旧干拓地(吾妻)の土地における上記農業につき農業用水の水源を一部喪失する高度の蓋然性がある。
小括(事前対策を実施しない場合の妨害のおそれについて)
したがって,原告旧干拓地(吾妻)農業者らは,その所有に係る旧干拓地(吾妻)の土地において農業を営むところ,現状では,河川及び淡水である潮遊池から農業用水を取水しているものであり,事前対策を実施せずに本件開門がなされれば,潮遊池の水が塩水化して農業用水として利用できなくなるため,旧干拓地(吾妻)における上記農業につき農業用水の水源の全部又は一部を喪失する高度の蓋然性がある。

被告が地下水案等の事前対策を実施する蓋然性
被告は,
被告は,事前に,農業用水を確保するため,地下水案等(本明川余剰水案,近傍中小河川案,下水処理水案及び地下水案),海水淡水化案の対策を単独又は組み合わせて行う蓋然性が高い旨主張する。しかし,前判示のとおり(前記2旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ〈以下旧干拓地(諫早)の所有権という。〉イ
〈156頁〉,
)内閣が海水淡水化案を前提とした予算の閣議決定を行い,
国会が上記閣議決定と同じ内容の予算を成立させたこと,農林水産大臣が被告において海水淡水化案を行うことを予定している旨繰り返し発言・回答したこと,被告が海水淡水化施設の設置工事等の請負契約を締結しており,海水淡水化施設設置を含む施設の建設工事費等の過年度の予算が平成
3
旧干拓地(吾妻)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑴妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)
27年度予算に繰り越される見通しであったことに照らせば,被告は,ケ-ス3-2開門をするに当たって,農業用水を確保するための事前対策として海水淡水化案を実施することを予定しており,地下水案等を実施することは予定していないというべきである。
したがって,被告が地下水案等を行う蓋然性が高いということはできない。

被告が海水淡水化案の事前対策を実施する蓋然性
前判示のとおり(前記2〈旧干拓地(諫早)の所有権〉ウ〈161頁〉,)
被告は,

被告が海水淡水化案の事前対策を実施する蓋然性は高い。

旨主張するところ,前記イのとおり,被告は海水淡水化施設設置のための予算措置をとった上で,工事施工業者との間で工事請負契約を締結した。そうすると,
海水淡水化施設やため池を設置できない特段の事情等がない限り,被告が海水淡水化案を実施する蓋然性は高いというべきであるが,原告ら主張に係る特段の事情は,
いずれも採用することができない。
したがって,
被告が海水淡水化案を実施する蓋然性は高いというべきである。


海水淡水化案による農業用水確保等の効果
被告は,被告が予定する海水淡水化案を実施することにより,農地に必要な農業用水を確保することができる旨主張する。
なお,これに対し,原告らは,海水淡水化施設の設置や操業の実現可能性を否定する事情として,
高塩分濃度処理水の排出による塩害の危険性等ため池設置による調整池の調整能力への影響ため池設置時の地,,盤改良剤による環境汚染を主張するが,前判示のとおり(前記2〈旧干拓地(諫早)の所有権〉




〈179~181頁〉,いずれも採用するこ


とができない。
そこで,以下,海水淡水化施設によって必要な農業用水を確保することができるかについて検討する。

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
認定事実
前記認定事実(前記2〈旧干拓地(諫早)の所有権〉⑴エ〈170頁〉,
前記⑴ア〈249頁〉
)に加え,証拠(事実の後に掲記)及び弁論の全趣旨
によれば,以下の事実が認められる。

旧干拓地(吾妻)の過去の取水実績
湯田川地区(旧干拓地(吾妻)
)は,調整池が淡水化する以前は,河
川水と地下水を農業用水として利用していたが,調整池の淡水化に伴い平成18年以降,循環かんがいを補給水として併用して利用しており,平成22年度の取水量が平成19年度以降最大となった。湯田川地区におけるかんがい期(6月ないし10月)の取水実績は,下表のとおりである。

(乙A32の1_6.14.1-19・78頁)
(単位:万㎥)

平成19年度
ピ-ク

合計

9月
16.5

平成20年度

平成21年度

平成22年度

ピ-ク

ピ-ク

ピ-ク

合計

7月
52.1

10.5

合計

9月
35.5

15.4

合計

9月
46.3

20.2

54.1

なお,上記の取水実績は,環境アセスメントにおいて,湯田川地区について,踏査,作付調査,揚水ポンプ運転日報調査,揚水ポンプ電気使用量調査を実施し,2つの循環かんがいポンプ(その位置は別紙36のとおり)のほかに潮遊池の水を循環かんがいに利用するためのポンプはないものとして算出・補正されたものである。
(乙A32の1_6.14.1-3・16~19・31・32・35頁,乙C9)

旧干拓地(吾妻)に設置予定の海水淡水化施設の造水能力
被告は,環境アセスメントの結果を踏まえ,湯田川地区(旧干拓地(吾妻)
)については,平成22年度の取水量54.1万㎥/年が平成

3
旧干拓地(吾妻)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑴妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)
19年度に循環かんがいポンプを設置した以降で最大であるとともに,そのピ-ク用水量がポンプの施設能力となっていることから,同水量を必要水量とした。なお,ピ-ク取水月は平成22年度9月であり,取水量は20.2万㎥であった。
湯田川地区(旧干拓地(吾妻)
)に設置予定の海水淡水化施設は,造
水量が7700㎥/日であり,被告はため池を設置しない予定である。(甲A87,乙A32の1_6.14.1-78頁,乙A90の7)c
原告Aら

46名以外の者の取水状況等

原告旧干拓地
(吾妻)農業者らのうち原告Aら

46名以外の者は,

その所有に係る旧干拓地(吾妻)において農業を営むところ,現状では,河川水及び移動式の循環ポンプを利用して淡水である潮遊池から農業用水を取水している(前記ア




検討(農業用水確保等の効果)

原告Aら

46名について

前記のとおりの旧干拓地(吾妻)に設置予定の海水淡水化施設の造水能力からすれば,計算上同施設を1か月間フル稼働させた場合の造水量は,23.1万㎥/月又は23.87万㎥/月(7700㎥/日〈24時間〉×30日又は31日)となる。そして,前記のとおり,海水淡水化施設の稼働率は9割程度であり(前記2〈旧干拓地(諫早)の所有権)エ〈175頁〉,これを考慮した造水量は,約20.8万㎥)
/月又は約21.5万㎥/月(23.1万㎥/月又は23.87万㎥/月×約0.9)である。
これに対し,旧干拓地(吾妻)の循環かんがい地域における平成19年度から平成22年度の一月当たりの最大取水量は,前記のとおり平成22年度9月の20.2万㎥/月である。
そうすると,旧干拓地(吾妻)のうち循環かんがいを行っている地
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
域については,本件開門がなされたとしても,海水淡水化施設を設置することにより必要な農業用水を確保することができる。
したがって,原告旧干拓地(吾妻)農業者らのうち原告Aら

46

名は,本件開門がなされても,被告が事前対策として海水淡水化施設を設置することにより必要な農業用水を確保することができると認めることができるから,上記旧干拓地(吾妻)農業者らの所有に係る農地についてその所有権に基づく使用収益につき妨害のおそれがあるということはできない。

原告Aら

46名以外について

前記のとおり,
旧干拓地
(吾妻)
では,
循環かんがい地域以外でも,
農業用水の一部につき移動式ポンプを使用して潮遊池の水をかんがいに利用しており,本件開門によってこれらの地域についても潮遊池の水を農業用水として利用することができなくなる(前記ア

)から,

同地域について農業用水を確保する必要があるところ,現時点での旧干拓地(吾妻)の海水淡水化施設の規模は,これらの地域への農業用水の供給を考慮していない(前記

a)


したがって,少なくとも移動式ポンプを使用して潮遊池の水をかんがいに利用している地域については,農業用水を一部喪失することとなるから,原告Aら

46名以外の者は,本件開門がなされれば,旧

干拓地(吾妻)における農業に被害が発生する高度の蓋然性があるということができる。

妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)について
前記のとおり,原告旧干拓地(吾妻)農業者らのうち原告Aら

46名

は,
事前対策を実施せずに本件開門
(ケース3-2開門を含むものである。

がなされると,農業用水の水源を喪失するものの,認定事実によれば,被告が事前対策として海水淡水化案を実施することにより農業用水が確保さ
3
旧干拓地(吾妻)の所有権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ②(潮風害)

れるから,旧干拓地(吾妻)において農業に被害が生じる高度の蓋然性があるということはできない。
これに対し,原告旧干拓地(吾妻)農業者らのうち原告Aら

46名以

外は,本件開門がなされれば,農業用水の水源を一部喪失し,これにより旧干拓地(吾妻)において農業に被害を生じる高度の蓋然性があるということができる。
以上のとおり,原告旧干拓地(吾妻)農業者らのうち原告Aら

46名

以外(目録6-1番~21番,23番~35番,37番,38番,74番,84番,87番の各原告)は,ケ-ス3-2開門がなされれば,旧干拓地(吾妻)における上記農業につき農業用水の水源を一部喪失し,これにより,旧干拓地(吾妻)における農業に被害を受ける高度の蓋然性があり,その所有権の行使につき農業用水喪失による妨害のおそれがある。妨害のおそれ②(潮風害)

事前対策を実施しない場合の妨害のおそれ(潮風害台風を除く)の存在前判示のとおり(前記2〈旧干拓地(諫早)の所有権〉⑵ア〈182頁〉,)
本件開門(ケース3-2開門を含むものである。
)がなされれば,調整池が
塩水化するため,季節風等の強風が長時間続き,その間に降雨がないときは,事前対策をしない場合,新干拓地及び旧干拓地における農業につき潮風害が発生する高度の蓋然性がある。


潮風害(潮風害台風を除く)に対する事前対策の効果
前判示のとおり(前記2〈旧干拓地(諫早)の所有権〉⑵イ)〈182頁〉,

本件開門がなされれば,上記各土地において栽培する作物について潮風害が発生する高度の蓋然性があり,
被告の予定している散水等の事前対策は,
上記潮風害が発生する高度の蓋然性を否定するものということはできず,原告農業者らの上記賃借権の行使について,妨害のおそれがある。

潮風害台風による妨害のおそれ

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
原告旧干拓地(吾妻)農業者らは,その所有に係る旧干拓地(吾妻)の土地において,農業を営むところ,前判示のとおり(前記2〈旧干拓地(諫早)の所有権〉⑵ウ〈195頁〉,淡水の調整池が潮風害台風による被害を)
緩和する効果はあるものの,その程度は限定的であるから,本件開門がなされれば,
上記各土地において栽培する作物の潮風害台風による潮風害が,
現状よりも被害の程度が大きくなる高度の蓋然性はあるが,その被害が増大する程度は,限定的なものにとどまるというべきである。

妨害のおそれ②(潮風害)について
原告旧干拓地(吾妻)農業者らは,その所有に係る旧干拓地(吾妻)の土地において,農業を営むところ,上記のとおり,本件開門(ケース3-2開門を含むものである。
)がなされれば,
上記各土地において栽培する作
物について季節風等の強風による潮風害が生じる高度の蓋然性があり,被告の予定している散水等の事前対策は,上記潮風害が発生する高度の蓋然性を否定するものということはできない。
したがって,原告旧干拓地(吾妻)農業者らの所有権の行使につき,本件開門がなされれば,
潮風害による妨害のおそれがあるというべきである。
なお,本件開門により,上記各土地において栽培する作物の潮風害台風による潮風害が現状よりも被害の程度が大きくなる高度の蓋然性があるが,その被害が増大する程度は,限定的なものにとどまる。
妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)


事前対策を実施しない場合の妨害のおそれ(ガタ土堆積によるものを除く)
原告らの主張
原告らは,ケ-ス3-2開門がなされれば,10年大雨があった場合に,樋門・樋管の閉門による排水不良が起こり,旧干拓地(諫早)の場合と同様の機序(前記2


〈200頁〉
)により,排水不良が起こり,

3
旧干拓地(吾妻)の所有権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)

これによって,
原告旧干拓地
(吾妻)
農業者らの所有に係る旧干拓地
(吾
妻)の土地が湛水し,現状において発生する湛水より,湛水の程度〈範囲・湛水深〉が大きくなり,旧干拓地(吾妻)における農業につき湛水被害が発生する高度の蓋然性があり,所有権に基づく使用収益につき妨害のおそれがある旨主張する。
認定事実
前記前提事実及び証拠(事実の後に掲記)並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

現状における調整池への排水方法
旧干拓地(吾妻)では,現状,農業用水及び雨水等を主ゲ-ト付き樋門・樋管4か所(その位置は別紙33の39番~42番)により潮遊池から調整池へ排水している。
旧干拓地(吾妻)での排水方法は,旧干拓地(諫早)における排水方法と同様であり(前記2


a〈200頁〉,無降雨時には自然排


水とし,降雨により調整池の水位が潮遊池の水位より高くなったときには主ゲートを閉じて既設排水ポンプ2か所(その位置は別紙34の16番及び17番)により排水する(別紙35)

なお,
現状においても,
10年大雨があった場合,
旧干拓地
(吾妻)
のうち調整池に近い部分(別紙81の旧干拓地(吾妻)の水色部分)には湛水被害が発生する可能性がある。
(前記前提事実


,乙A32の1_6.15.2.2-5・7頁,

乙J5-3頁)

ケ-ス3-2開門をした場合の排水方法


無降雨時
被告は,ケ-ス3-2開門をする場合,調整池が塩水化すること
から,調整池の塩水が,樋門・樋管を通じ潮遊池に浸入することを
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
防止するため,無降雨時には,その敷高が標高(-)1.0m(調整池の管理水位の最高水位)より低い樋門・樋管の主ゲ-ト(前記樋門・樋管の全て〈4か所〉
)を閉門する(別紙53記載の無降雨時部分)



(前記前提事実

イ,乙A115,乙C70の3)

降雨時
被告は,ケ-ス3-2開門をする場合,降雨時には,当該樋門・
樋管ごとに調整池の水位と潮遊池の水位を比較し,調整池の水位が潮遊池の水位より低い場合に,上記樋門・樋管の主ゲ-トを開けて潮遊池から調整池への排水をし(別紙53記載の降雨時(潮遊池水位>調整池水位)部分),調整池の水位が潮遊池の水位と同程度
になった時に,調整池から潮遊池への塩水の浸入を防止するため,主ゲ-トを閉門する(別紙53記載の降雨時(調整池水位>潮遊池水位)部分)。


(前記前提事実

イ,乙A115)

環境アセスメントの予測
環境アセスメントは,
調整池水位の変動は現状と同じであり,
樋門・
樋管の主ゲートの閉門により,洪水時の排水への影響はないものと予測している。(乙A32の1_6.14.4-61・62・77頁)検討(湛水被害が発生する蓋然性〈ガタ土堆積によるものを除く〉)
前記のとおり,①旧干拓地(吾妻)では,現状,無降雨時は,樋門・
樋管4か所の主ゲ-トを開き,潮遊池から調整池へ自然排水により排水しているところ,
被告は,
ケ-ス3-2開門をする場合,
無降雨時には,
上記樋門・樋管全て(4か所)の主ゲ-トを閉門することとしているのであるから,ケ-ス3-2開門がなされれば,上記主ゲ-トの閉門により,無降雨時には樋門・樋管による潮遊池から調整池への排水ができなくなり,そのままでは無降雨時の潮遊池の水位が現状より高くなること(なお,この場合,既設排水ポンプによる排水が可能である。,②被告)

3
旧干拓地(吾妻)の所有権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)

は,
ケ-ス3-2開門をする場合においても,
降雨時には,
現状と同様,
調整池の水位が潮遊池の水位より低い場合に,上記樋門・樋管の主ゲ-トを開けて潮遊池から調整池への排水をすることとしていることが認められる。
上記降雨時の排水状況,既設排水ポンプによる排水可能性及び洪水時の排水に影響がないとの環境アセスメントの予測に照らすと,ケ-ス3-2開門がなされれば無降雨時に潮遊池の水位が現状より高くなり得ることから,直ちに,ケ-ス3-2開門がなされれば,10年大雨があった場合に排水不良による湛水被害が発生する高度の蓋然性があるということはできず,ほかに上記事実を認めるに足りる証拠はない。

原告らの主張(排水不能であった事例の存在)について
これに対し,原告らは,ケ-ス3-2開門がなされれば,湛水被害が発生する高度の蓋然性がある旨主張し,その根拠として,昭和57年7月の長崎大水害の際に,旧干拓地(諫早)において湛水が広がり,道路と水路の区別がつかなくなったため,管理者が既設排水ポンプの排水機場へ近づけず排水不能に陥った事実があること(甲A4)を挙げる。
そこで,以下,被告の予定する事前対策の内容及び効果,その実施の蓋然性について検討し,その上で上記原告らの主張について検討する。認定事実
前記ア

の認定事実並びに証拠(事実の後に掲記)及び弁論の全趣旨

によれば,次の事実が認められる。

被告の予定する事前対策の内容(常時排水ポンプの設置)
被告は,ケ-ス3-2開門をするに当たっては,事前に,次のとおりの常時排水ポンプの設置の対策を行うことを予定する。
潮遊池の水位を現状より30㎝低くするため,
起動水位を標高
(-)
1.3mに,停止水位を標高(-)1.8mに設定した旧干拓地(吾
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
妻)から調整池への排水をする常時排水ポンプを4台設置する(その位置は別紙61-1頁の1番及び2番)(乙A32の2-128頁)。

予算措置
環境アセスメントは,ケ-ス3-2開門の事前対策(上記aの常時排水ポンプの設置を含み,
農業用水を確保するための事前対策を除く。

に要する費用を合計約42億円とした。(乙A32の2-154頁)内閣は,平成25年1月29日,ケ-ス3-2開門の事前対策(ただし,
農業用水を確保するための事前対策を除く。に要する費用につ

き合計約49億円を計上した農林水産省予算の概算を閣議決定した。(乙A42,44)
国会は,同年5月15日,上記の閣議決定された内容と同内容の予算を成立させた。

(乙A44,
117,
118)

検討
上記のとおり常時排水ポンプを設置する事前対策を実施することにより,無降雨時に樋門・樋管の主ゲ-トを閉門した際に潮遊池の水位が現状より高くなることを防止することができる。そして,被告は,上記事前対策の予算措置をとっており,
ケ-ス3-2開門をするに当たっては,
事前に,上記常時排水ポンプの設置の対策を行う蓋然性が高い。
そして,前判示のとおり(前記2

イ〈204頁〉,常時排水ポンプは


手動で起動するものではないから,原告らの上記主張は採用することができない。

ガタ土堆積による湛水被害発生の蓋然性
原告らは,ケ-ス3-2開門がなされれば,本件締切り前と同様,有明海から運ばれる泥(ガタ土)が,前記旧干拓地(吾妻)の樋門・樋管の調整池への排水口付近に堆積して排水を阻害し,排水不良が起こる高度の蓋然性がある旨主張し,その根拠として,短期開門調査をした時に,調整池
3
旧干拓地(吾妻)の所有権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)

内の山田川河口部
(山田川の位置は別紙21に記載のとおり。にガタ土が

約6㎝堆積したとの事実を挙げる。
確かに,前記前提事実(⑺及び

)のとおり,短期開門調査の開門方法

は,調整池の管理水位において,ケ-ス3-2開門と同じであることが認められる(ただし,開門初期の排水門操作及び本件各排水門の開度等を除く。。

しかし,証拠(事実の後に掲記)によれば,①旧干拓地(吾妻)の樋門・樋管の調整池への排出口付近は,同じ調整池内であっても,短期開門調査をした時にガタ土が約6㎝堆積した山田川河口部とは場所が異なること(乙A32の1_6.15.2.2-5頁,乙A102)
,②短期開門調査
をした際,旧干拓地(吾妻)の樋門・樋管(4か所。別紙33の39番ないし42番)のうち山田川1号ないし3号樋門の調整池への排水口付近では,ガタ土が堆積することはなく,かえって,洗掘があり,山田4号樋門ではガタ土の堆積は1㎝程度であったこと(甲A2-386・387頁),
③環境アセスメントは,平成19年の気象条件下でケ-ス3-2開門がなされた場合における開門1年後の地形の変化(堆積及び洗掘)につき予測をしているが,旧干拓地(吾妻)の樋門・樋管の調整池への排水口付近についてはガタ土の堆積はほとんどないと予測していること(乙A32の1_6.6.1-73・74・102頁)が認められ,これらに照らせば,原告らが挙げる山田川河口部のガタ土堆積の事実によって,樋門・樋管の排水口付近に排水を阻害するほどガタ土が堆積する高度の蓋然性があるということはできず,ほかにこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)について
以上のとおり,ケ-ス3-2開門がなされれば,10年大雨があった場合に,原告旧干拓地(吾妻)農業者らの所有に係る土地が湛水する高度の
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
蓋然性があるということはできない。
したがって,原告旧干拓地(吾妻)農業者らの所有権の行使につき,ケース3-2開門がなされた場合の大雨時の湛水被害による妨害のおそれがあるということはできない。
妨害のおそれ④(塩害)

開門による作土層の塩化物イオン濃度上昇の機序等と環境アセスメントの信頼性等
開門による作土層の塩化物イオン濃度上昇の機序及びこれに関する環境アセスメントの予測が信頼できること,さらに,塩害のおそれを判断する土壌の深さは,作物毎の主要根群域の深さによるべきであり,作土層の塩化物イオン濃度については,環境アセスメントの予測値に1.1の補正係数を乗ずるのが相当であることは,
前判示のとおり
(前記2
〈旧干拓地
(諫
早〉の所有権〉

)である。

そこで,以上を前提に,事前対策を実施しない場合の塩害のおそれの有無,被告の予定する事前対策の内容,効果,その実施の蓋然性,そして,被告が事前対策を実施した場合の塩害のおそれについて,ハウス栽培以外とハウス栽培に分けて検討する。
なお,原告らは,旧干拓地(吾妻)の既設堤防の築堤年代は,旧干拓地(諫早)の内部堤防よりも古いため,調整池から潮遊池への塩水の浸透量は,旧干拓地(諫早)よりも多くなり(甲C84)
,旧干拓地(吾妻)の潮
遊池の塩化物イオン濃度が,旧干拓地(諫早)について環境アセスメントの予測した最大値5700㎎/L以上となる可能性があり,
旧干拓地
(吾妻)
により多くの塩害をもたらす旨主張する。
証拠(乙A32の1_6.15.2.1-5頁)によれば,旧干拓地(吾妻)の一部の既設堤防は,旧干拓地(諫早)よりも築造年代が古いと認められるが,調整池の塩水の潮遊池への浸透しやすさは,主として堤防の構
3
旧干拓地(吾妻)の所有権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ④(塩害)

造素材等によって異なるのであるから,

築造年代が古いことから直ちに,
潮遊池の塩化物イオン濃度が旧干拓地(諫早)よりも高くなるということはできない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

ハウス栽培以外での塩害のおそれ
事前対策を実施しない場合の塩害のおそれ

稲類について
前記認定事実(前記2〈旧干拓地(諫早)の所有権〉


)のと

おり,旧干拓地では,本件締切り前,稲作を中心に営農が行われたところ,
本件締切りまで塩害の報告はなく
(前記2
他の干拓地でも塩害の報告はないから(前記2

クク

〈235頁〉,

e〈237頁〉,


稲類について塩害のおそれがあるという高度の蓋然性があるということはできない。

稲類以外について


認定事実
証拠(事実の後に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,前記2(旧
干拓地(諫早)の所有権)


の認定事実のほか,以下の事実が

認められる。
旧干拓地(吾妻)においては,稲類(水稲のほか,稲醗酵粗飼料
を含む。以下,旧干拓地(吾妻)について同じ。
)以外に,麦類(大
麦,エン麦。以下,旧干拓地(吾妻)について同じ。,ブロッコリ)
ー,タマネギ,アスパラガス(ハウス栽培)
,レンゲ及びその他飼料
等(イタリアン,ソルゴーを含む。
)が作付けされているところ,こ
れらの農作物の主要根群域の最低深さ及び限界塩化物イオン濃度
は,それぞれ概ね次のとおりである。
ブロッコリー20㎝・210㎎/L(主要根群域について,同じア
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
ブラナ科の葉茎菜類で,ブロッコリーと同様の栽培,施肥設計で生産可能であるとされているカリフラワーに準じる。,タマネギ20)
㎝・250㎎/L,麦類25㎝・300㎎/L,アスパラガス40㎝・300㎎/L。なお,このほかの作物については不明である。
(甲A67,69,71,乙A32の1_6.14.2-2頁,乙A65,142,乙C86)


検討(事前対策を実施しない場合の塩害のおそれ)
ケース3-2開門後の釜ノ鼻地区(MJ-1地点)の各深度の土
壌間隙水の塩化物イオン濃度の最大値は,環境アセスメントの予測値(前記2〈旧干拓地(諫早)の所有権〉

クb
〈236頁〉)の

最大値に補正係数1.1を乗じた数値というべきであり(前記2

〈230頁〉),深度10㎝が173㎎/L,20㎝が198㎎/
L,30㎝が309㎎/L,38㎝が569㎎/Lであるところ,釜ノ鼻地区(MJ-1地点)と同様,地盤が低く,潮遊池付近の地域はこれと同様と予測され(前記2


b⒞ⅲ〈227頁〉),旧干拓

地(吾妻)において栽培されている農作物(ハウス栽培のアスパラガスを除く。後述ウ)の主要根群域の最低深さ及び限界塩化物イオン濃度は,ブロッコリー20㎝・210㎎/L,タマネギ20㎝・250㎎/L,麦類25㎝・300㎎/Lであって,このほかの作物については不明であり(前記⒜),上記主要根群域及び限界塩化物イオン濃度が明らかな旧干拓地(吾妻)の作付作物(ハウス栽培のアスパラガスを除く)については,主要根群域において土壌間隙水の塩化物イオン濃度が限界塩化物イオン濃度を上回る農作物は見当
たらない。
また,10年大雨で湛水が発生した場合の土壌中の塩化物イオン
濃度の予測値は,
深度10㎝が150㎎/L,
20㎝が180㎎/L,

3
旧干拓地(吾妻)の所有権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ④(塩害)

30㎝が280㎎/L,38㎝が520㎎/Lであり(前記2


c〈237頁〉),上記の主要根群域及び限界塩化物イオン濃度が明らかな旧干拓地(吾妻)の作付作物(ハウス栽培のアスパラガスを除く)については,主要根群域において塩化物イオン濃度が土壌間隙水の限界塩化物イオン濃度を上回る農作物は見当たらない。
したがって,旧干拓地(吾妻)で生産される作物(ハウス栽培の
アスパラガスを除く)の,事前対策を実施しない場合の塩害が発生するおそれについては,これを認めるに足りる証拠はない(検討結果は,別紙102-1頁のBケース3-2開門の事前対策なし欄に記載のとおり。)。塩害に対する事前対策の内容,効果とその実施の蓋然性

認定事実
弁論の全趣旨によれば,前記2(旧干拓地(諫早)の所有権)


(242頁)の認定事実のほか,被告が事前対策として,旧干拓地〈吾妻〉に常時排水ポンプ4台の設置(その位置は別紙61-1頁の1番及び2番)を予定することが認められる。

検討(塩害に対する事前対策の効果とその実施の蓋然性)
認定事実によれば,常時排水ポンプを設置する事前対策(潮遊池の水位を30㎝低下させる)は,被告が予算措置をとっており,実施される蓋然性が高く,土壌間隙水中の塩化物イオン濃度の予測値を事前対策実施の有無で比較すれば,土壌間隙水中の塩化物イオン濃度が一定範囲で低下する蓋然性は高い。
これに対し,鋼矢板の打設及び散水等の事前対策は,効果が明らかではないから,塩害のおそれを否定するものということはできない。事前対策を実施した場合の塩害のおそれ


稲類

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
前判示のとおり(前記事前対策を実施しない場合の妨害のおそれa),稲類の塩害のおそれがあるということはできない。b
稲類以外
前記のとおり(前記

),被告は常時排水ポンプを設置する事前対

策を実施する蓋然性が高く,これにより潮遊池の水位は30㎝低下する。
そして,前記のとおり,ケース3-2開門後,潮遊池の水位を30㎝低くした場合の釜ノ鼻地区(MJ-1地点)の各深度の土壌間隙水の塩化物イオン濃度の最大値は,環境アセスメントの予測値(前記2〈旧干拓地(諫早)の所有権〉

ケa
1を乗じた数値というべきであり(前記2

〈242頁〉)に補正係数1.
オ〈230頁〉),深度1

0㎝が251㎎/L,20㎝が202㎎/L,30㎝が245㎎/L,38㎝が293㎎/Lであるところ,釜ノ鼻地区(MJ-1地点)と条件が類似する地域はこれと同様と予測され(前記2


b⒞〈226頁

以下〉),旧干拓地(吾妻)において栽培されている農作物(ハウス栽培のアスパラガスを除く)の主要根群域の最低深さ及び限界塩化物イオン濃度は,ブロッコリー20㎝・210㎎/L,タマネギ20㎝・250㎎/L,麦類25㎝・300㎎/Lであり,このほかの作物については不明である(前記イ

b⒜)。上記主要根群域及び限界塩化物

イオン濃度が明らかな旧干拓地(吾妻)の作付作物(ハウス栽培のアスパラガスを除く)については,ブロッコリー及びタマネギを除き,主要根群域において土壌間隙水の塩化物イオン濃度が限界塩化物イオン濃度を上回る農作物は見当たらない。
また,ケース3-2開門後,常時排水ポンプを設置して,潮遊池の水位を30㎝低くした場合の,10年大雨で湛水が発生したときの土壌中の塩化物イオン濃度の予測値(森山モデル)の最大値は,深度1
3
旧干拓地(吾妻)の所有権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ④(塩害)

0㎝が235㎎/L,20㎝が191㎎/L,30㎝が225㎎/L,38㎝が278㎎/Lであり(前記2


c〈237頁〉),上記の主要

根群域及び限界塩化物イオン濃度が明らかな旧干拓地(吾妻)の作付作物(ハウス栽培のアスパラガスを除く)については,ブロッコリー及びタマネギを除き,主要根群域において土壌間隙水の塩化物イオン濃度が限界塩化物イオン濃度を上回る農作物は見当たらない。
したがって,旧干拓地(吾妻)で生産される作物(ハウス栽培のアスパラガスを除く)については,事前対策をした場合,環境アセスメントが土壌間隙水中の塩化物イオン濃度を予測した釜ノ鼻地区と同様,地盤が低く,潮遊池の付近の土地では,ブロッコリー及びタマネギについて塩害が発生するおそれがあるが,他の作物については,認めるに足りる証拠はない(検討結果は,別紙102-1頁のBケース3-2開門の事前対策あり欄に記載のとおり。)。なお,この事前対策は大雨時の湛水被害に対する事前対策を兼ねるものであり,
塩害発生の蓋然性にかかわらず実施される蓋然性が高い。
塩害のおそれのある原告

認定事実
証拠(甲A65,甲B3の8,乙A32の1_6.14.4-7頁,乙C38-2頁)によれば,原告の作付作物等について,原告旧干拓地(吾妻)農業者らのうち,目録6-2番,3番,59番,67番,81番の各原告は,旧干拓地(吾妻)においてブロッコリーを栽培しており,目録6-39番,40番,84番の各原告は,タマネギを栽培していること,また,これら原告の所有に係る旧干拓地(吾妻)の土地は,目録6-39番,40番,59番,84番を除き,いずれも地盤が低く,潮遊池の付近であることが認められる。


検討(塩害のおそれのある原告)

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
そうすると,ケース3-2開門(事前対策あり)を実施した場合に塩害のおそれがある農作物は,ブロッコリー及びタマネギであるところ,旧干拓地(吾妻)においてブロッコリーを栽培しているのは目録6-2番,3番,59番,67番,81番の各原告であり,タマネギを栽培しているのは目録6-39番,
40番,
84番の各原告である。
これらの原告の所有に係る旧干拓地(吾妻)の土地は,目録6-39番,40番,59番,84番を除き,いずれも潮遊池付近であり,農地の標高が低いから,土壌の塩化物イオン濃度の変化が予測される範囲に含まれるものということができる。
したがって,目録6-2番,3番,67番,81番の各原告は,その所有に係る旧干拓地(吾妻)で栽培する農作物(ブロッコリー)について,塩害が生ずるおそれがある。

ハウス栽培での塩害のおそれ
原告らの主張
原告らは,旧干拓地(吾妻)について,ハウス(施設)では降雨がないため,自然の洗い流しがされず,毛管現象による塩害の可能性が高い旨主張する。
認定事実
前判示及び証拠(いずれも事実の後に掲記)によれば,以下の事実が認められる。

施設栽培では,自然の降雨を遮断して,作物には必要量の水をかん水するため,施与した養分が下層に溶脱するということは少ない。むしろ,施設内では土壌等から蒸発散する水分がかん水量を上回る状況が作られる。すなわち,土壌中での水の動きは下層から表層に向かっている。その際,下層から移動してくる水は土壌中の様々な水溶性成分を溶かし込みながら表層へ向かい,土壌表面で溶かし込んできた養
3
旧干拓地(吾妻)の所有権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ④(塩害)

分を残して,水だけが蒸発していく。このため,土壌表面に硝酸態窒素などの陰イオンとそれに対応するカルシウムなどの陽イオンが集積し,それらが結合して塩類を形成し,いわば人工的な塩類集積作用が行われる。施設栽培では,堆きゅう肥などが多量に施与された多肥条件で栽培することが多いため,肥料中の硝酸塩により塩類集積作用が一層発生しやすい。塩類集積が進めば土壌溶液中の塩類濃度が高まり,作物根が濃度障害を受け,生育不良となる。
(甲C52-64・65頁,乙F3-279頁)

旧干拓地(諫早)では,本件締切り前の昭和61年5月頃,旧干拓地(諫早)において,施設で生育していたメロンについて塩害と思われる症状が発生した。


(甲Cア5の15)

熊本県のハウス栽培(施設栽培)では,トマト,メロンについて塩害と思われる症状がみられた。その原因として塩化物イオン濃度の高い地下水が毛管現象により上昇し,表層に塩化物イオンが集積することによる濃度障害が考えられた。


(甲C55)

目録6-87番の原告は,その所有に係る旧干拓地(吾妻)の土地において,ハウス栽培(施設栽培)においてアスパラガスを生育している。
その位置は別紙12のとおりであり,
概ね潮遊池の近隣であり,
かつ,低地である(別紙96-1頁)。
(甲A65,甲C24の3,乙A32の1_6.14.4-7頁)そして,アスパラガスの主要根群域の最低深さは40㎝,限界塩化物イオン濃度は300㎎/Lであるところ(前記イ

b⒜),ケース3

-2開門をした場合の釜ノ鼻地区(MJ-1地点)の各深度の土壌間隙水の塩化物イオン濃度(予測)については,事前対策なしの場合,深度10㎝が173㎎/L,20㎝が198㎎/L,30㎝が309㎎/L,38㎝が569㎎/Lである(前記イ

b⒝)。また,常時排水

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
ポンプを設置する事前対策を実施した場合は,深度10㎝が251㎎/L,20㎝が202㎎/L,30㎝が245㎎/L,38㎝が293㎎/Lであり,
地盤が低く潮遊池付近の土地は,
これと同様と予測される
(前記イ

b)。

環境アセスメントでは,標高が低く,排水路に隣接し,暗渠管を通じて塩水の影響を受ける可能性のあるハウス栽培については,現地データを取得してシミュレーションを行い,
対策をとることとしている。
(乙A32の1_6.14.2-29頁)
検討(ハウス栽培での塩害のおそれ)


事前対策を実施しない場合の塩害のおそれ
上記のとおり,アスパラガスの主要根群域の最低深さ40㎝,限界塩化物イオン濃度300㎎/Lに対し,ケース3-2開門がなされて,事前対策を実施しない場合の土壌間隙水の塩化物イオン濃度(予測)は深さ30㎝で309㎎/Lである。
したがって,
環境アセスメントが
土壌間隙水の塩化物イオン濃度を予測した釜ノ鼻地区
(MJ-1地点)
と同様,地盤が低く,潮遊池付近の土地では,アスパラガスについて塩害が発生するおそれがある。


事前対策を実施した場合の塩害のおそれ
被告は事前対策として常時排水ポンプを設置する蓋然性が高いと
ころ(前記イ


,その場合,アスパラガスの主要根群域の最低深さ4

0㎝,
限界塩化物イオン濃度300㎎/Lに対し,
土壌間隙水中の塩化
物イオン濃度は深さ38㎝以浅では293㎎/L以下である。
しかし,上記認定事実によれば,ハウス栽培(施設栽培)においては,露地栽培と比較して,塩類集積作用が生じやすいところ,この塩類集積作用に有効な対策について,散水等を除き,被告において予定しているものは見当たらず,散水については前記のとおり生育中に大


3旧干拓地(吾妻)の所有権の行使についての妨害のおそれ
結論(旧干拓地(吾妻)の所有権の行使についての妨害のおそれ)
量の散水を行うと生育障害が発生する可能性があり,他方,少量では実効性に疑問がある(前記2〈旧干拓地(諫早)の所有権〉⑷ケ〈242頁〉)。
そうすると,ケース3-2開門がなされ,被告の予定する事前対策が実施されたときの土壌間隙水中の塩化物イオン濃度は,アスパラガスの限界塩化物イオン濃度を下回るが,その差はわずかであり,上記のとおり,ハウス栽培(施設栽培)を行う目録6-87番の原告所有に係る土地の状況では,塩類集積作用が生じやすく,これに実効性のある事前対策が実施される蓋然性があるということはできない。
そして,旧干拓地(吾妻)において,アスパラガスをハウス栽培しているのは目録6-87番の原告であり,その所有する旧干拓地(吾妻)の土地は,潮遊池付近であり,農地の標高が高くないから,土壌間隙水の塩化物イオン濃度の変化が予測される範囲に含まれるものということができる。
したがって,ケース3-2開門を実施した場合,目録6-87番の原告については,その所有に係る旧干拓地(吾妻)で栽培するアスパラガスについて,塩害が生じるおそれがある。

妨害のおそれ④(塩害)について
以上によれば,目録6-2番,3番,67番,81番,87番の各原告は,ケース3-2開門がなされれば,旧干拓地(吾妻)の土地の所有権の行使につき,塩害による妨害のおそれがある。



結論(旧干拓地(吾妻)の所有権の行使についての妨害のおそれ)以上のとおり,原告旧干拓地(吾妻)農業者らは,その所有する旧干拓地(吾妻)の農地において,農業を営むところ,ケース3-2開門がなされれば,季節風等の強風による潮風害(妨害のおそれ②)が生じる高度の蓋然性があり,被告の予定する散水等の事前対策は,上記潮風害の発生する高度の
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
蓋然性を否定するものということはできない。
また,事前対策を実施せずにケース3-2開門がなされれば,農業用水の水源喪失(妨害のおそれ①)の高度の蓋然性があり,これに対し,被告は事前対策として海水淡水化案を実施することを予定し,その実施の蓋然性は高いが,移動式ポンプを使用して潮遊池の水をかんがいに利用している地域についてはその予定がなく,同地域で農業を営む,原告Aら

46名以外の者

(目録6-1番~21番,23番~35番,37番,38番,74番,84番,87番の39名)については,農業用水の水源の一部を喪失するおそれがある。さらに,事前対策を実施しない場合,大雨時の地下水の上昇等により,
作土層の塩化物イオン濃度が上昇し,
農作物について塩害が発生する
(妨
害のおそれ④)高度の蓋然性が,一部の作物(アスパラガス)についてあるところ,被告が事前対策として常時排水ポンプを設置することによって,その塩害のおそれの蓋然性は低下するものの,ハウス栽培のアスパラガス及び別の作物(ブロッコリー)に塩害発生の高度の蓋然性がある。そのため,その所有する旧干拓地(吾妻)の土地でアスパラガス又はブロッコリーを栽培する原告農業者ら(目録6-2番,3番,67番,81番,87番)については,その所有する土地につき塩害のおそれがある。
他方,認定事実によれば,10年大雨があった場合に排水不良により原告旧干拓地(吾妻)農業者らの所有の土地について湛水被害が発生する(妨害のおそれ③)高度の蓋然性があるということはできない。したがって,原告旧干拓地(吾妻)農業者らの干拓地(吾妻)の土地の所有権の行使につき,妨害のおそれ②(潮風害)及びその一部について妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)
,同④(塩害)があるというべきである。
4
新干拓地(中央)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)

事前対策を実施しない場合の妨害のおそれの存在

4
前記前提事実(⑽ア

新干拓地(中央)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)


)のとおり,原告新干拓地(中央)農業者ら及び

原告新干拓地(中央・小江)農業者らは,その賃借に係る新干拓地(中央)において農業を営むところ,現状では,淡水である調整池から農業用水を取水しているものであり,事前対策をせずに本件開門(ケース3-2開門を含むものである。がなされれば,調整池が塩水化して農業用水として利)
用できなくなり,そのため,新干拓地(中央)における上記農業につき農業用水の水源を喪失する高度の蓋然性があり,上記賃借権に基づく使用収益につき妨害のおそれがある。

被告が地下水案等の事前対策を実施する蓋然性
被告は,
被告は,事前に,農業用水を確保するため,地下水案等(本明川余剰水案,近傍中小河川案,下水処理水案及び地下水案),海水淡水化案の対策を単独又は組み合わせて行う蓋然性が高い旨主張する。しかし,前判示のとおり(前記2〈旧干拓地(諫早)の所有権〉イ〈156頁〉,内閣が海水淡水化案を前提とした予算の閣議決定を行い,国会が上)
記閣議決定と同じ内容の予算を成立させたこと,農林水産大臣が被告において海水淡水化案を行うことを予定している旨繰り返し発言・回答したこと,被告が海水淡水化施設の設置工事等の請負契約を締結しており,海水淡水化施設設置を含む施設の建設工事費等の過年度の予算が平成27年度予算に繰り越される見通しであったことに照らせば,被告は,ケ-ス3-2開門をするに当たって,農業用水を確保するための事前対策として海水淡水化案を行うことを予定しており,地下水案等を行うことは予定していないというべきである。
したがって,被告が地下水案等を行う蓋然性が高いということはできない。


被告が海水淡水化案の事前対策を実施する蓋然性
前判示のとおり(前記2〈旧干拓地(諫早)の所有権〉ウ〈161頁〉,)

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
被告は,

被告が海水淡水化案の事前対策を実施する蓋然性は高い。

旨主張するところ,前記イのとおり,被告は海水淡水化施設設置のための予算を計上した上で,工事施工業者との間で工事請負契約を締結した。そうすると,海水淡水化施設やため池を設置できない特段の事情等がない限り,被告が海水淡水化案を実施する蓋然性は高いというべきであるが,原告ら主張に係る特段の事情は,
いずれも採用することができない。
したがって,
被告が海水淡水化案を実施する蓋然性は高いというべきである。

海水淡水化案による農業用水確保等の効果
被告は,被告が予定する海水淡水化案を実施することにより,農地に必要な農業用水を確保することができる旨主張する。
なお,これに対し,原告らは,海水淡水化施設の設置や操業の実現可能性を否定する事情としてため池設置による調整池の調整能力への影響,
ため池設置時の地盤改良剤による環境汚染を主張するが,前判示のとおり(前記2⑴エ

〈180頁〉,いずれも採用することができない。


そこで,以下,海水淡水化施設によって必要な農業用水を確保することができるか検討する。
なお,必要に応じ,新干拓地(小江)について言及する。
認定事実
前記認定事実(前記2〈旧干拓地(諫早)の所有権〉⑴エ〈170頁〉)
に加え,証拠(事実の後に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

過去36年間の9月の降水量
諫早観測所における9月の降水量のうち,昭和51年から平成23年の36年間で少ない方から上位の10か年は,
下表のとおりである。

順位

1234567894
新干拓地(中央)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)

年度

H21

H15

H18

S62

H6

H23

H14

S52

H8

H19

降水量

41

45

49

50

59

63

83

88

92

95

(㎜)

(乙A32の1_6.
14.
1-15頁)

新干拓地(中央)及び新干拓地(小江)の過去の取水実績
新干拓地(中央)及び新干拓地(小江)において営農が開始された平成20年度から平成23年度の各月の取水量は,以下のとおりである。なお,このうち年間の取水量で最も多いのは,新干拓地(中央)が37万5700㎥/年(平成21年度)
,新干拓地(小江)が4万6
800㎥/年(平成23年度)であった。新干拓地全体での月別使用水量で最大であった平成21年9月の降水量は,上記のとおり,昭和51年から平成23年の9月の降水量(諫早観測所)のうち最小であった(前記a)

環境アセスメントは,新干拓地の必要水量として平成20年度の営農開始から平成23年度までの実績使用水量が最大であった年度の年間使用水量を採用した(新干拓地(中央)37万5700㎥/年〈平成21年度〉
,新干拓地(小江)4万6800㎥/年〈平成23年度〉。

(乙A32の1_6.14.1-13・14頁〈なお下表のうち,左記証拠と整合しない部分〈影あり部分〉は同証拠の誤記と認めた。,〉
乙A148の2)
平成20年度(単位:㎥)

項目
4月

5月

6月

7月

8月

9月

10月

11月

12月

1月

2月

3月


中央

小江


第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
平成21年度(単位:㎥)

項目
4月

5月

6月

7月

8月

9月

10月

11月

12月

1月

中央

小江


平成22年度

項目
4月

5月

6月

7月

8月

9月

2月

3月


(単位:㎥)
10月

11月

12月

1月

2月

3月


中央

小江

1月

2月

3月

計計
平成23年度

項目
4月

5月

(単位:㎥)

6月

7月

8月

9月

10月

11月

12月

中央

小江


2月

3月

計00
平成24年度
4月

5月

6月

7月

8月

(単位:㎥。千㎥未満は捨象)
9月
10月
11月
12月
1月
なお,
表中の数値は,
四捨五入のため合計が一致しない場合がある。

新干拓地の平成14年の計画用水量と環境アセスメントの試算
農林水産省構造改善局作成の土地改良事業計画設計基準は,

消費水量は,ほ場において作物が正常に生育し,高品質や多収量を実現しうる状況下で消費される水量であり,計画日消費水量は,10年に1回程度の干ばつ年に相当する条件によって決定される。

とする。新干拓地では,上記の土地改良事業計画の設計基準に従い,平成1
4
新干拓地(中央)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)

4年に1/10確率渇水年での用水量を計画しており,
その計画用水量
は,年間合計330万㎥であった。
環境アセスメントでは,上記計画の基準となった年である,平成8年(1/10確率渇水年)の降水量における,平成23年度の作付け実績に基づく年用水量を約222万㎥,月用水量を30万3500㎥と試算した(新干拓地(中央)26万5100㎥〈8月〉
,新干拓地(小
江)3万8400㎥〈7月〉。なお,平成23年の作付け実績に基づ)
く年用水量(222万㎥)が計画用水量(330万㎥)よりも少ないのは,農地の利用状況が計画段階と異なることや,麦,大豆,緑肥について一般的にかん水しない品目であることを前提に,そのかん水率を0とし,かん水対象から除いているためであると考えられる。
(甲A16,17,乙A32の1_6.14.1-10・75・76頁)

被告が新干拓地に設置を予定する海水淡水化施設及びため池
新干拓地に設置予定の海水淡水化施設の1日(24時間)当たりの造水能力は,製作据付工事の特別仕様書によれば,新干拓地(中央)が3500㎥,新干拓地(小江)が1200㎥の合計4700㎥である。また,計画年間造水量は合計42万2500㎥(環境アセスメントが新干拓地の必要水量とした新干拓地(中央)37万5700㎥,新干拓地(小江)4万6800㎥の合計)である。また,被告は,新干拓地(中央)について,ピ-ク時の水需要に対応するため,ため池を新干拓地(中央)につき9万9700㎥,新干拓地(小江)につき900㎥の規模で設置することを予定する。
仮にこれらの海水淡水化施設が1年中稼働することができた場合
の造水量は,合計約170万㎥(4700㎥/日×365日)である。そのため被告は,
1/10確率渇水年の降水量における平成23年度の

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
作付け実績に基づく必要用水量(222万㎥)に不足する分(50万㎥)について,暫定的にトラックで搬送可能な海水淡水化施設で造水を行うなどして水量を確保すると説明する。
(甲A87,乙A32の1_6.14.1-76頁,乙A90の1・4・5,乙A159,160)
検討(海水淡水化施設による農業用水確保等の効果)
前記のとおり,農業用水の需要は,かんがい期(新干拓地においては7月ないし11月)が多く,非かんがい期は少ないから,特に水需要の多いかんがい期に必要水量が確保できるか検討する。
まず,海水淡水化施設等の淡水確保量についてみると,海水淡水化施設を30日間フル稼働して確保できる水量は,新干拓地(中央)が10万5000㎥(3500㎥/日×30日)
,新干拓地(小江)が3万60
00㎥(1200㎥/日×30日)である。しかし,前記(2

イ〈160

頁〉
)のとおり,海水淡水化施設の稼働率は9割程度であり,これを考慮した造水量は,新干拓地(中央)が約9万4500㎥,新干拓地(小江)が3万2400㎥であり,ため池の容量を考慮した使用可能な月用水量は,最大で22万7500㎥である(新干拓地(中央)約19万4200㎥〈うち,ため池の容量9万9700㎥〉
,新干拓地(小江)3万33
00㎥〈うち,ため池の容量900㎥〉の合計)

これに対し,
新干拓地の1/10確率渇水年の降水量における平成23
年の作付け実績に照らした月用水量(予測値)は,最大で30万3500㎥である(新干拓地(中央)26万5100㎥,新干拓地(小江)3万8400㎥の合計)

もっとも,平成20年度ないし平成23年度の月別最大取水量(実績値)は,22万0800㎥(新干拓地(中央)19万9000㎥〈平成21年9月〉
,新干拓地(小江)2万1800㎥〈平成23年9月〉
)で

4
新干拓地(中央)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)

あった。
これらの月の降水量は,
1/10確率渇水年である平成8年の9
月の降水量よりも少なかった上,
これらの月の最大取水量は,
上記1/1
0確率渇水年の降水量における平成23年の作付け実績に照らした月用水量(30万3500㎥)より少ないが,農業被害は生じなかった。なお,新干拓地の過去の用水量(前記

b)をみると,増加の一途をたど

っているものではない。また,作付けが今後顕著に変動することをうかがわせる事情は見当たらない。
そうすると,開門期間(5年間)中に1/10確率渇水年(平成8年)程度の降水量となる可能性や,今後の作付け内容の変更(かん水する作物の作付け面積の増加)等により,必要水量が上記の使用可能な用水量を上回る可能性は否定できないが,農業用水不足による農業被害が生じる高度の蓋然性があるとまではいうことができない。仮に農業用水が不足することがあるとしても,その不足量が著しいものとなる可能性が高いということはできず,被告が説明するタンクローリー等によって応急的な対応をすることは可能であると考えられる。
なお,平成14年の計画用水量(年間330万㎥)は,現状と異なった農地の利用状況を前提とするもので採用することができない。
また,
環境アセスメントの試算では1/10確率渇水年であった平成8
年の降水量における平成23年度の作付実績に基づく年用水量は222万㎥であったが,平成20年から平成23年の年間取水量(実績)が最大で新干拓地(中央)37万5700㎥,新干拓地(小江)4万6800㎥(合計42万2500㎥)であって,新干拓地(中央)と新干拓地(小江)の各海水淡水化施設が1年中稼働した場合の造水量170万㎥(なお,稼働率〈9割〉を考慮すると153万㎥)を大きく下回ることからすれば,上記試算結果は,上記判断を左右するものではない。したがって,被告が予定する海水淡水化案の事前対策の内容に照らせ
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
ば,新干拓地(中央)及び新干拓地(小江)において,農業用水の代替水源を喪失することによる農業被害の高度の蓋然性があるということはできない。

妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)について
以上によれば,原告新干拓地(中央)農業者ら及び新干拓地(中央・小江)農業者らの新干拓地(中央)の賃借権の行使につき,本件開門(ケース3-2開門を含むものである。がなされた場合の農業用水の水源を喪失)
することによる妨害のおそれがあるということはできない。
妨害のおそれ②(潮風害)


事前対策を実施しない場合の妨害のおそれ(潮風害台風を除く)の存在前判示のとおり(前記2〈旧干拓地(諫早)の所有権〉⑵ア〈182頁〉,)
本件開門(ケース3-2開門を含むものである。
)がされれば,調整池が塩
水化するため,
季節風等の強風が長時間続き,
その間に降雨がないときは,
事前対策をしない場合,新干拓地及び旧干拓地における農業につき潮風害が発生する高度の蓋然性がある。


潮風害(潮風害台風を除く)に対する事前対策の効果
前判示のとおり(前記2〈旧干拓地(諫早)の所有権〉⑵イ)〈182頁〉,

本件開門がなされれば,上記各土地において栽培する作物について潮風害が発生する高度の蓋然性があり,被告の予定する散水等の事前対策は,上記潮風害が発生する高度の蓋然性を否定するものということはできず,原告農業者らの上記賃借権の行使につき,妨害のおそれがある。


潮風害台風による妨害のおそれ
原告新干拓地(中央)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らは,その賃借に係る新干拓地(中央)の土地において,農業を営むところ,
前判示のとおり
(前記2
〈旧干拓地
(諫早)
の所有権〉
⑵ウ〈195頁〉,

淡水の調整池が潮風害台風による被害を緩和する効果はあるものの,その
4
新干拓地(中央)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)

程度は限定的であるから,本件開門がなされれば,上記各土地において栽培する作物の潮風害台風による潮風害が,現状よりも被害の程度が大きくなる高度の蓋然性はあるが,その被害が増大する程度は,限定的なものにとどまるというべきである。

妨害のおそれ②(潮風害)について
原告新干拓地(中央)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らは,その所有に係る新干拓地(中央)の土地において,農業を営むところ,上記のとおり,本件開門(ケース3-2開門を含むものである。)がな
されれば,上記各土地において栽培する作物について季節風等の強風による潮風害が生じる高度の蓋然性があり,被告の予定している散水等の事前対策は,上記潮風害が発生する高度の蓋然性を否定するものということはできない。
したがって,原告新干拓地(中央)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らの新干拓地(中央)の賃借権の行使につき,本件開門がなされれば,潮風害による妨害のおそれがあるというべきである。
なお,上記のとおり,本件開門により,上記各土地において栽培する作物の潮風害台風による潮風害が現状よりも被害の程度が大きくなる高度の蓋然性があるが,その被害が増大する程度は,限定的なものにとどまる。妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)


新干拓地(中央)における調整池への排水方法
新干拓地(中央)では,現状,農業用水及び雨水等を既設排水ポンプ1か所(その位置は別紙34の18番)により新干拓地排水路から調整池へ排水しており,樋門・樋管による排水は行っていない(別紙37)。新干拓地(中央)には樋門・樋管がないため,ケース1~3開門のいずれを実施する場合においても,排水方法は現状と同じである。
(前記前提事実




イ)

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
被告は,新干拓地(中央)において,大雨による湛水被害への事前対策を予定していない。

原告らの主張
原告新干拓地(中央)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らは,その賃借に係る新干拓地(中央)において農業を営むところ,ケース3-2開門がなされれば,①内部堤防の基礎部を通じて浸入する調整池の水の増加,②ガタ土堆積による排水不良,③調整池の水の内部堤防越波の各機序が競合することによって,10年大雨があった場合,さらには,100年大雨があった場合に,
現状より,湛水被害の程度
(範囲・湛水深)
が大きくなり,新干拓地(中央)における上記農業につき湛水被害が発生する高度の蓋然性があり,上記賃借権に基づく使用収益につき妨害のおそれがある旨主張する。


原告らの主張1
(内部堤防の基礎部を通じて浸入する調整池の水の増加)
について
前記前提事実(


及びイ

c)のとおり,調整池の管理水位は,現

状とケース3-2開門を実施した場合とで同様である。そうすると,ケース3-2開門を実施した場合に,内部堤防の基礎部を通じて浸入する調整池の水量が,現状より増加するとはいい難く,10年大雨あるいは100年大雨があった場合も同様であって,現状より,湛水被害の程度(範囲・湛水深)が大きくなり,新干拓地(中央)における農業につき湛水被害が発生する高度の蓋然性があるということはできない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

原告らの主張2(ガタ土堆積による排水不良)について
前記前提事実(




イ)並びに証拠(事実の後に掲記)及び弁論

の全趣旨によれば,新干拓地(中央)からの排水方法は,現状及びケース3-2開門を実施する場合のいずれも,新干拓地排水路から農業用水及び
4
新干拓地(中央)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)

雨水等を既設排水ポンプによって強制的に排水するものであること(別紙37のとおり)
,そして,新干拓地(中央)における排水は,自然の水位差
によって生じる水流による排水ではなく,強制的に内部堤防内の水を排水するというものであり,既設排水ポンプがある中央排水機場の排水口は,幹線排水路ないし中央遊水池に流入する水を排水するため相当量の排水が行われるものであり(甲C70-2頁)
,環境アセスメントにおいて,既設
排水ポンプの排水口付近にガタ土が堆積するという予測はされていないこと(乙A32の1_6.3.1-30頁)が認められる。上記のとおり,排水口にガタ土が堆積することをうかがわせる事実は見当たらないから,ガタ土の堆積により既設排水ポンプによる強制排水に支障が生じる高度の蓋然性があるということはできない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

原告らの主張3(調整池の水の内部堤防越波)について
前記のとおり(前記ア)
,調整池の管理水位は,現状とケース3-2開門
を実施した場合とで同じである。
したがって,
ケース3-2開門を実施し,
仮に100年大雨が発生して,内部堤防(別紙24)を越える波が起こったとしても,現状で生じうる湛水被害の程度(範囲・湛水深)よりも大きくなるものということはできない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。


妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)について
原告新干拓地(中央)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らは,その賃借に係る新干拓地(中央)において農業を営むところ,上記のとおり,ケース3-2開門がなされれば,10年大雨があった場合,さらには,100年大雨があった場合に,現状より,湛水被害の程度(範囲・湛水深)が大きくなり,新干拓地(中央)における上記農業につき湛水被害が発生する高度の蓋然性があるということはできない。

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
したがって,上記賃借権の行使につきケース3-2開門がなされた場合の妨害のおそれ③(大雨による湛水被害)があるということはできない。妨害のおそれ④(塩害)

事前対策を実施しない場合の塩害のおそれについての原告らの主張開門による作土層の塩化物イオン濃度上昇の機序(①~④)原告新干拓地農業者らは,その賃借に係る新干拓地において農業を営むところ,ケース3-2開門がなされれば,旧干拓地と同様の機序により作土層の塩化物イオン濃度が上昇し,塩害が発生する高度の蓋然性がある,すなわち,調整池が塩水化し,①毛管現象による作土層の塩分上昇,心土層の塩分の増加,②大雨時における地下水位の上昇による塩分上昇,③大雨時の新干拓地排水路のオーバーフローによる塩分の増加,④飛来塩分の増加という機序が競合して作土層における塩化物イオン濃度の上昇により,新干拓地における上記農業につき塩害が発生する高度の蓋然性がある旨主張する(機序のイメージは,別紙104)

塩害発生の蓋然性等に関するその他の要因(⑤,⑥)さらに,⑤ハウス栽培については,露地栽培と比較して,降雨が遮断され,土壌が乾燥しやすくなるため,毛管現象による塩分上昇が生じ塩害が発生する可能性が高い,⑥マグネシウム等による農作物被害が発生する旨主張する。
以下,新干拓地(小江)と併せて順に検討する。


毛管現象による作土層の塩分上昇(ア①毛管現象関係)について原告らは,新干拓地の心土層には,現状でも,塩化物イオン濃度の高い地下水が存在するところ,本件開門により,新干拓地排水路が塩水化し,かんがいによる洗い流しができないため,心土層に存在する塩化物イオン濃度の高い地下水が毛管現象により上昇し,作土層の塩化物イオン濃度が上昇する旨主張する。

4
新干拓地(中央)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ④(塩害)

しかし,前判示のとおり(前記


,新干拓地において,海水淡水化施設

を設置することにより,農業用水が確保され,かんがいによる洗い流しは可能であるから,原告らの主張は前提を欠く。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

心土層の塩分の増加(ア①毛管現象関係)について原告らは,本件開門がなされれば,塩水化した調整池から内部堤防及びその基礎部を通して新干拓地排水路に塩水が浸入し
(別紙62)塩水化し

た新干拓地排水路の水が,降雨時に,㋐新干拓地排水路の側壁土壌を通じて,若しくは㋑暗渠管を通じて,心土層へ浸入し,又は㋒調整池の水が内部堤防下部を通じて心土層へ浸入することにより,毛管現象によって上昇する心土層の土壌間隙水の塩化物イオン濃度が高くなる旨主張する。新干拓地排水路の塩水の側壁土壌から心土層への浸入について
原告らは,新干拓地排水路の多くは土水路であり,有明海特有の粘土質であることから,法面のひび割れや崩壊(スレ-キング)が激しくなり,降雨により排水路の水位が上昇したときに,排水路の塩水が,排水路から心土層に浸透し,排水後も表面張力や吸着によって多量の塩分が残る旨主張し,これに沿うH

名誉教授の意見書(甲F26)の記載等

がある。
証拠(甲A92-1~16頁)によれば,新干拓地において,草が繁茂する土水路が存在することが認められる。
しかし,前判示のとおり(前記2〈旧干拓地(諫早)の所有権〉⑷ウ〈211頁〉,土水路が存在することをもって,排水路の水に含まれる)
塩水が横浸透することにより心土層の塩化物イオン濃度が高まるということはできないし,仮に横浸透が生じるとしても,その程度は明らかでない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
新干拓地排水路の塩水の暗渠管から心土層への浸入について
原告らは,旧干拓地につき,①洪水時に排水路から流れてきた洪水流は,潮遊池と合流する地点において,塩分濃度の高い潮遊池の水と攪拌され,淡塩混合水が形成され,②洪水時に農地に湛水すること,③-ⅰ湛水に至らなくとも,排水路からの洪水流が弱まれば,淡水よりも密度が高い淡塩混合水が塩水くさびを形成して上流へ遡上すること,③-ⅱ排水路からの洪水流が停止すれば,淡水よりも密度が高い淡塩混合水が密度カレントを形成して上流へ遡上すること,③-ⅲ上記の密度流(塩水くさび及び密度カレント)によって,淡塩混合水が干拓地全体の排水路や暗渠管まで遡上して,農地全体に浸入し,塩害が生じる旨主張し,これに沿う旧干拓地(諫早)の模型を用いた本件水理実験を援用したH名誉教授の意見書(甲F26)の記載がある。
しかし,前判示(前記2〈旧干拓地(諫早)の所有権〉⑷エ〈213頁〉)
の趣旨は,新干拓地においても同様に当てはまり,淡塩混合水の遡上の範囲に関する本件水理実験の結果は採用することができない上,(乙証拠
F1,2,6)によれば,新干拓地は,暗渠管からの水が流出する末端排水路(別紙38及び別紙40)には,通常時は水がなく,末端排水路の水位が上昇すれば,深度70㎝の土壌間隙水の塩化物イオン濃度が,6000㎎/L程度まで上昇するものの,暗渠管(深度80㎝)からの排水がされると,
500㎎/L程度まで低下することが認められ,
仮に暗渠
管に淡塩混合水が浸入したとしても,土壌間隙水に塩化物イオンが高い濃度で残留する高度の蓋然性があるということはできない。
なお,新干拓地(小江)については,新干拓地(中央)のように水を貯える幹線排水路や中央遊水池がない(別紙38ないし40のとおり)。
また,前記認定事実のとおり(前記2〈旧干拓地(諫早)の所有権〉エ
a〈214頁〉,新干拓地(中央)よりも最低農地標高が2.3m高い)

4
新干拓地(中央)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ④(塩害)

ため,新干拓地排水路も標高が高いと推認される。そうすると,調整池の塩水が新干拓地排水路へと浸透する量は,新干拓地(中央)よりも少なくなり,新干拓地(小江)の暗渠管に浸入し得る水も,新干拓地(中央)より塩化物イオン濃度が低くなると推認される。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
調整池の塩水の内部堤防下部から心土層への浸入について
原告らは,調整池の塩水は,内部堤防下部(基礎部より更に下方に存在する15mから25mの厚さで堆積する有明粘土層)を通じ,心土層へ浸入する旨主張し,これに沿うH

名誉教授の意見書(甲C105の

1・10,甲F26)の記載がある。
しかし,前判示のとおり(前記2


〈210頁〉,調整池から堤体


下部の有明粘土層を介した塩水の浸透があったとしても,農地の地下水の塩化物イオン濃度への影響は明らかでない(なお,新干拓地(小江)は,その最低農地標高が(+)1.2mであり,有明粘土層を介した塩水の浸透はより考え難い。)。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

毛管現象による作土層の塩分上昇,心土層の塩分の増加(ア①),大雨時
における地下水位の上昇(ア②)及び飛来塩分の増加(ア④)について原告らの主張
原告らは,①毛管現象,②大雨時における地下水位の上昇による塩分上昇(新干拓地排水路の塩水が暗渠管に浸入することも含む。,及び④)
飛来塩分の増加により,心土層ないし作土層の塩化物イオン濃度が上昇し,塩害が発生するおそれがある旨主張する。
認定事実
証拠(事実の後に掲記)によれば,以下の事実が認められる。

土壌の調査結果

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
新干拓地(中央)の10か所の農地において,平成21年8月18日ないし同月20日までの間に,土壌の化学性の調査が行われた。各地点の深度約40㎝を含む層における乾土1㎏当たりの水溶性塩化物イオンの含有量
(㎎/㎏・乾土)
は,
それぞれ538,
442,
394,
18,823,65,391,193,673,89であった。
なお,土壌中の水溶性塩化物イオン濃度(㎎/㎏・乾土)をxとし,土壌間隙水の塩化物イオン濃度(㎎/L)をyとすると,y=0.4991xの関係にあるところ(224頁。別紙98の図6.5.1-6参照)
,農作物の限界塩化物イオン濃度の最低値である210㎎/Lを土壌中の水溶性塩化物イオン濃度に変換すると,
約420㎎/㎏・乾土で
ある。

(甲F4,乙A32の1_6.5.1-17頁)

現状の新干拓地(中央)の土壌の塩化物イオン濃度等
新干拓地(中央)は,海性の干拓地であり,造成当初の土壌中の塩化物イオン濃度は高く,本件締切り直後の3地点の調査の平均値は,深層部(深度50~80㎝)で2万㎎/㎏・乾土の土壌塩化物イオン濃度であった。その後,土壌改良を重ね,平成13年以降は最大約1万㎎/㎏・乾土となっている。これは,上記aの式により土壌間隙水の塩化物イオン濃度に換算すると,平成13年以降は,最大約5000㎎/Lとなる。


(甲F25)

ケース3-2開門後の土壌中の塩化物イオン濃度の予測
環境アセスメントは,①毛管現象,②大雨時の地下水位の上昇(暗渠管からの浸入を含む。,④飛来塩分の増加を踏まえて,ケース3-)
2開門を実施した場合の,新干拓地(中央)の耕作地(暗渠モデル)における各深度の土壌間隙水の塩化物イオン濃度の年間最大値を,深度10㎝が26㎎/L,深度20㎝が36㎎/L,深度30㎝が141㎎/L,深度40㎝が2214㎎/Lと予測した(平成8年度及び平成
4
新干拓地(中央)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ④(塩害)

19年度気象下の予測値のうちの最大値)そして,

ケース3-2開門
では,塩化物イオン濃度は,現状からほぼ変動がないと予測した。(乙A32の1_6.5.1―57・60・61頁)
なお,この暗渠モデルは,新干拓地(中央)において塩水化した幹線排水路又は中央遊水池の塩水の影響を,暗渠管を通じて直接受ける農地として透水係数の現地調査が行われたDJ-3地点(調整池近くのほ場周辺部にある)について,作土層上層の透水係数を補正し,作土層下層及び心土層の土層を暗渠管の周りに用いられる土層に変更したモデルである。
(乙A32の1_6.5.1-30・32・38頁)
新干拓地の農地のうち,標高が最低である農地は,標高(-)1.1mであるところ,前面堤防から4ブロック(約400m以上。別紙96-2頁)は,概ね標高(-)0.6mを下回っており,最低農地標高からの標高差が概ね50㎝以内であるから,大雨時に新干拓地排水路の水位が上昇した際,その塩水が農地の暗渠管に浸入することによる塩化物イオン濃度の変化が考えられ,
環境アセスメントの予測
(D
J-3モデルの透水係数等を補正,変更した暗渠モデル)と同程度の塩化物イオン濃度の変化があると推定される。
(乙A32の1_6.14.2-5~8頁,乙C35)

農作物の限界塩化物イオン濃度
新干拓地で栽培されるニンジン,レタス(210㎎/L以下)
,ブロ
ッコリー(210㎎/L程度)
,タマネギ,バレイショ,ショウガ,ゴ
ボウ(250㎎/L以内)
,ホウレンソウ,キャベツ,カボチャ,サト
イモ,トマト(300㎎/L以内)
,ダイコン,ハクサイ,麦類,アス
パラガス(300㎎/L程度)は,いずれも限界塩化物イオン濃度が155㎎/Lを上回る。その余の野菜については不明である。
(乙A32の1_6.14.2-2頁,乙A142)

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について

原告らの作付作物
新干拓地(中央)において,内部堤防である前面堤防から概ね4ブロックまでの農地を賃借する原告は,
目録3-6番,
13番,
26番,
27番,34番,36番,37番,49番である(別紙14)

(甲E3の3の7)


末端排水路の水位の低下と塩化物イオンの関係
新干拓地では,末端排水路の水位が低下すると,深度70㎝の土壌間隙水の塩化物イオン濃度も低下する。

(乙F6)

検討(毛管現象,地下水位上昇,飛来塩分増加による塩害のおそれ)a
農作物の主要根群域の深さについて
新干拓地(中央)では,現状,土壌間隙水の塩化物イオン濃度(換算値を含む。
)が,深度50㎝で最大約5000㎎/Lを上回り,深度
40㎝でも相当量に達するであると考えられる農地や,深度40㎝で作物の限界塩化物イオン濃度である約420㎎/㎏・乾土を上回る,5
38,442,823,673㎎/㎏・乾土の農地がある(前記

a,

b)深度40㎝で高い塩化物イオン濃度の土壌間隙水が存在する農地。
において,作物の主要根群域が深度40㎝に達しているとすれば,現状でも塩害が生じている可能性が高いと考えられるところ,平成20年度の新干拓地(中央)の営農開始以降,塩害が報告されたという事情はない。これらの農地で栽培する作物の主要根群域は深度40㎝に達していないと考えられる。
そうすると,前記のとおり,環境アセスメントは,ケース3-2開門を実施した場合,大雨時に暗渠を通じた新干拓地排水路からの塩水が供給され得る農地について,深度40㎝において年間最大値が2214㎎/Lという高い塩化物イオン濃度の土壌間隙水の予測を行っており,この塩化物イオン濃度の予測が妥当するのは前面堤防から4ブ
4
新干拓地(中央)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ④(塩害)

ロック以内の農地であるが
(前記

c)
,同農地の作付作物の主要根群

域が深度40㎝以上まで発達しているということはできない。
他方,現状,深度40㎝において,高い塩化物イオン濃度の土壌間隙水が観測されていない地点では,深度40㎝以上まで主要根群域が発達している可能性が考えられるものの,そのような場所は,上記のように深度40㎝に高い塩化物イオン濃度が観測されている地点と比較して,心土層に高い塩化物イオン濃度の地下水が存在するとは考え難い。したがって,高い塩化物イオン濃度の地下水が大雨時に上昇するとはいい難く,環境アセスメントが予測する作土層の塩化物イオン濃度の変化は該当しないというべきである。

ケース3-2開門後の土壌間隙水の塩化物イオン濃度について
前判示のとおり(前記2〈旧干拓地(諫早)の所有権〉


〈230

頁〉,ケース3-2開門後の新干拓地の各深度の土壌間隙水の塩化物)
イオン濃度の最大値は,暗渠モデルを用いた環境アセスメントの予測値(前記

c)に補正係数1.1を乗じた数値というべきであり,そ

うすると,深度10㎝が29㎎/L,20㎝が40㎎/L,30㎝が155㎎/L,40㎝が2435㎎/Lである。

塩害のおそれについて
目録3-6番,13番,26番,27番,34番,36番,37番,49番の各原告は,前面堤防から概ね4ブロックまでの農地を賃借しており,これらの農地では,環境アセスメントが予測(暗渠モデル)する土壌間隙水の塩化物イオン濃度の変化が妥当するところ(前記c)これらの農地で作付けされる作物は,

深度40㎝に主要根群域が
存在せず
(前記a)
,深度0~30㎝までの土壌間隙水の塩化物イオン
濃度の最大値は155㎎/Lであって(前記b)
,農作物の限界塩化物
イオン濃度は,いずれも155㎎/Lを上回る(前記

d)から,塩害

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
のおそれがあるということはできない。
また,
その余の原告新干拓地
(中央)
農業者ら及び原告新干拓地
(中
央・小江)農業者らの新干拓地(中央)の農地については,標高に違いがあり,環境アセスメントの予測が直ちに妥当するということはできない(前記

c,前記a。標高差からすれば,環境アセスメントの

予測より低いと予想される。。また,その余に,これらの原告が農業)
を営む農地において,農作物の限界塩化物イオン濃度が,その主要根群域において,ケース3-2開門をした場合に予想される土壌間隙水の塩化物イオン濃度を下回り,そのため塩害が発生する蓋然性があることを認めるに足りる証拠はない。
したがって,
原告らの上記①毛管現象,
②大雨時の地下水位の上昇,
④飛来塩分の増加により,作土層の塩化物イオン濃度が上昇し,新干拓地(中央)において栽培する作物につき,塩害が発生するおそれがある旨の主張は採用することができない。

大雨時の新干拓地排水路の溢水による塩分増加(ア③)について原告らは,新干拓地排水路の塩水が,大雨時に溢水することにより,作土層の塩化物イオン濃度が上昇し,塩害が発生する旨主張する。
前記認定事実(前記ウ

)及び証拠(甲F6,7,45,乙F1,2)

及び弁論の全趣旨によれば,
新干拓地の末端排水路には通常時は水がなく,
また,新干拓地(中央)では,平成20年度の営農開始以降,5回湛水したところ,降雨の状況からすると,短期降雨強度が強い場合に湛水が発生していると考えられ,地面が逆勾配となっているために支線排水路に水が流下しないなど,排水設備以外の要因で湛水したと考えられる旨の九州農政局の報告があること,新干拓地(小江)については,遊水池や幹線排水路など,内水が一時的に貯留する場所がないことが認められる(なお,新干拓地(小江)では,現状,湛水が生じたことがあることを認めるに足り
4
新干拓地(中央)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ④(塩害)

る証拠はない。。

しかし,新干拓地(中央)において,大雨時に新干拓地排水路の水が溢水する可能性はあるが,新干拓地排水路の水が溢水するまでには,相当量の淡水によって幹線排水路ないし中央遊水池の塩化物イオン濃度が希釈されることとなり,しかも,塩化物イオン濃度が高い水は新干拓地排水路及び中央遊水池において下層にとどまり,湛水した場合の塩化物イオン濃度は相当低くなると考えられる。そして,湛水した場合の塩化物イオン濃度が,作物の限界塩化物イオン濃度を超えることを認めるに足りる証拠はない。
また,新干拓地(小江)については,塩化物イオン濃度が高い水が常時貯留されることはないから,仮に湛水が生じたとしても,塩化物イオン濃度の高い水が溢水する高度の蓋然性があるということはできない。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

ハウス栽培での塩害発生の蓋然性(ア⑤)について原告らの主張
原告らは,目録3-7番,12番の各原告は,その賃借に係る新干拓地
(中央)
の土地において,
ハウス栽培による営農を行っているところ,
ハウス栽培は,降雨が遮断され土壌が乾燥しやすくなるため,毛管現象による塩分上昇の危険性が更に高くなる旨主張する。
認定事実
証拠(事実の後に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

原告らの賃借に係る土地の位置及び標高
目録3-7番,12番の各原告の賃借に係る土地の位置は,別紙14の3-7に続けて枝番が記載されている土地及び3-12
に続けて枝番が記載されている土地であり,幹線排水路から概ね1㎞
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
又は2㎞弱離れている(別紙60)

目録3-7番の原告の賃借に係る土地は,概ね標高(+)0.6mないし(+)1.5mである。
目録3-7番の原告は,上記土地においてハウス栽培(施設栽
培)を行っている。
(甲E3の3の7,甲A34の3,甲A65,甲F1,14,乙A32の1_6.14.4-7頁,乙F7)

環境アセスメントの予測と同程度の塩化物イオン濃度の上昇が予想される土地
新干拓地の幹線排水路の近辺で,農地標高が(-)0.5m未満の土地は,中央干拓地の最低位部にあり,塩水化した排水路の塩水の影響を,暗渠管を通じて直接受けるから,環境アセスメントの予測(暗渠モデル)と同程度の塩化物イオン濃度の上昇が予想される(概ね別紙96-2頁のとおり)。(甲A34の3,乙C35)


新干拓地(中央)の排水路の水位
新干拓地(中央)の排水路の水位の標高は,
(-)2.4m~(-)
2.9mであり,地下水位も概ね同様である(別紙57-2頁)。(乙A85-2頁)
検討(ハウス栽培における塩害発生の蓋然性)


目録3-12番の原告について
目録3-12番の原告は,その賃借に係る新干拓地(中央)の農地において,ハウス栽培(施設栽培)を行っている事実につき,これを認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告らの前記主張は採用することができない。


目録3-7番の原告について
目録3-7番の原告は,その賃借に係る新干拓地(中央)の農地に
4
新干拓地(中央)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ④(塩害)

おいて,ハウス栽培(施設栽培)を行っており,前記認定事実(前記3旧干拓地(吾妻)の所有権の行使についての妨害のおそれ
〈以下
旧干拓地(吾妻)の所有権という。



a〈268頁〉
)のとお

り,ハウス栽培(施設栽培)においては露地栽培と比較して塩類集積作用が生じやすいものの,目録3-7番の原告の農地は,①幹線排水路から2㎞程度離れており,その点で環境アセスメントにおいて塩化物イオン濃度の変化が予測されている土地と異なっており,暗渠管を通じた塩水浸入の影響を直接受けるとはいい難いこと,②標高が,環境アセスメントにおいて暗渠管を通じて排水路の塩水の影響を直接受けると予測された土地より,少なくとも50㎝以上高く,そのため地表と地下水位との高低差があるものと推認されるから,この点からも環境アセスメントの予測(暗渠モデル)が直ちに妥当するということはできない。そうすると,新干拓地(中央)のハウス栽培について,塩害が生じる高度の蓋然性があるということはできない。
したがって,原告らの前記主張は採用することができない。

マグネシウム等による農作物被害のおそれ(ア⑥)について原告らは,マグネシウム等による農作物被害のおそれがあるが,環境アセスメントにおいては,マグネシウム等による農作物被害について検討されていない旨主張する。
しかし,前判示のとおり(前記2〈旧干拓地(諫早)の所有権〉


〈234頁〉,妨害のおそれを検討するに当たり,塩化物のほかにマグネシ)
ウム等による農作物被害を検討する必要があるとまではいうことができない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

妨害のおそれ④(塩害)について
上記のとおり,原告新干拓地(中央)農業者ら及び原告新干拓地(中央・
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
小江)農業者らについて,その賃借に係る新干拓地(中央)の土地における営農につき,ケース3-2開門がなされた場合の塩害が生じる高度の蓋然性があるということはできない。


結論(新干拓地(中央)の賃借権の行使についての妨害のおそれ)以上のとおり,原告新干拓地(中央)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らは,その賃借に係る新干拓地(中央)の農地において,農業を営むところ,ケース3-2開門がなされれば,季節風等の強風による潮風害(妨害のおそれ②)が生じる高度の蓋然性があり,被告の予定する散水等の事前対策は,上記潮風害の発生する高度の蓋然性を否定するものということはできない。
他方,農業用水の水源喪失(妨害のおそれ①)
,10年大雨があった場合,
さらには,100年大雨があった場合に,現状より,湛水被害の程度(範囲・湛水深)が大きくなること(妨害のおそれ③)
,さらに,大雨時の地下水の上
昇等により,作土層の塩化物イオン濃度が上昇し,農作物について塩害が発生すること(妨害のおそれ④)について高度の蓋然性があるということはできない。
したがって,原告新干拓地(中央)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らの賃借権の行使については,妨害のおそれ②(潮風害)があるというべきである。

5
新干拓地(小江)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)

事前対策を実施しない場合の妨害のおそれの存在
前記前提事実(⑽ア

)のとおり,原告新干拓地(小江)農業者ら及び

原告新干拓地(中央・小江)農業者らは,その賃借に係る新干拓地(小江)において農業を営むところ,現状では,淡水である調整池から農業用水を取水しているものであり,事前対策をせずに本件開門(ケース3-2開門
5
新干拓地(小江)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)

を含むものである。がなされれば,調整池が塩水化して農業用水として利)
用できなくなり,そのため,新干拓地(小江)における上記農業につき農業用水の水源を喪失する高度の蓋然性があり,上記賃借権に基づく使用収益につき妨害のおそれがある。

被告が地下水案等の事前対策を実施する蓋然性
被告は,
被告は,事前に,農業用水を確保するため,地下水案等(本明川余剰水案,近傍中小河川案,下水処理水案及び地下水案),海水淡水化案の対策を単独又は組み合わせて行う蓋然性が高い旨主張する。しかし,前判示のとおり(前記2〈旧干拓地(諫早)の所有権〉イ〈156頁〉,内閣が海水淡水化案を前提とした予算の閣議決定を行い,国会が上)
記閣議決定と同じ内容の予算を成立させたこと,農林水産大臣が被告において海水淡水化案を行うことを予定している旨繰り返し発言・回答したこと,被告が海水淡水化施設の設置工事等の請負契約を締結しており,海水淡水化施設設置を含む施設の建設工事費等の過年度の予算が平成27年度予算に繰り越される見通しであったことに照らせば,被告は,ケ-ス3-2開門をするに当たって,農業用水を確保するための事前対策として海水淡水化案を行うことを予定しており,地下水案等を行うことは予定していないというべきである。
したがって,被告が地下水案等を行う蓋然性が高いということはできない。


被告が海水淡水化案の事前対策を実施する蓋然性
前判示のとおり(前記2〈旧干拓地(諫早)の所有権〉ウ〈161頁〉,)
被告は,

被告が海水淡水化案の事前対策を実施する蓋然性は高い。

旨主張するところ,前記イのとおり,被告は海水淡水化施設設置のための予算措置をとった上で,工事施工業者との間で工事請負契約を締結した。そうすると,
海水淡水化施設やため池を設置できない特段の事情等がない限り,
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
被告が海水淡水化案を実施する蓋然性は高いというべきであるが,原告ら主張に係る特段の事情は,
いずれも採用することができない。
したがって,
被告が海水淡水化案を実施する蓋然性は高いというべきである。

海水淡水化案による農業用水確保等の効果
前判示のとおり(前記4新干拓地(中央)の賃借権の行使についての妨害のおそれ〈以下
新干拓地(中央)の賃借権
という。⑴エ
〉〈274頁〉,

被告が予定する海水淡水化案の事前対策の内容に照らせば,新干拓地(小江)において,農業用水の代替水源を喪失することによる農業被害の高度の蓋然性があるということはできない。


妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)について
上記のとおり,原告新干拓地(小江)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らの新干拓地(小江)の賃借権の行使につき,本件開門(ケース3-2開門を含むものである。がなされた場合の農業用水の水源を喪)
失することによる妨害のおそれがあるということはできない。
妨害のおそれ②(潮風害)


事前対策を実施しない場合の妨害のおそれ(潮風害台風を除く)の存在前判示のとおり(前記2〈旧干拓地(諫早)の所有権〉⑵ア〈182頁〉,)
本件開門がされれば,調整池が塩水化するため,季節風等の強風が長時間続き,その間に降雨がないときは,事前対策をしない場合,新干拓地及び旧干拓地における農業につき潮風害が発生する高度の蓋然性がある。

潮風害(潮風害台風を除く)に対する事前対策の効果
前判示のとおり(前記2〈旧干拓地(諫早)の所有権〉⑵イ〈182頁〉,)
本件開門がなされれば,上記各土地において栽培する作物について潮風害が発生する高度の蓋然性があり,
被告の予定している散水等の事前対策は,
上記潮風害が発生する高度の蓋然性を否定するものということはできず,原告農業者らの上記賃借権に基づく使用収益につき,
妨害のおそれがある。

5ウ
新干拓地(小江)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)

潮風害台風による妨害のおそれ
原告新干拓地(小江)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らは,その賃借に係る新干拓地(小江)の土地において,農業を営むところ,
前判示のとおり
(前記2
〈旧干拓地
(諫早)
の所有権〉
⑵ウ〈195頁〉,

淡水の調整池が潮風害台風による被害を緩和する効果はあるものの,その程度は限定的であるから,本件開門がなされれば,上記各土地において栽培する作物の潮風害台風による潮風害が,現状よりも被害の程度が大きくなる高度の蓋然性はあるが,その被害が増大する程度は,限定的なものにとどまるというべきである。


妨害のおそれ②(潮風害)について
原告新干拓地(小江)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らは,その所有に係る新干拓地(小江)の土地において,農業を営むところ,上記のとおり,本件開門(ケース3-2開門を含むものである。)がな
されれば,上記各土地において栽培する作物について季節風等の強風による潮風害が生じる高度の蓋然性があり,被告の予定する散水等の事前対策は,上記潮風害が発生する高度の蓋然性を否定するものということはできない。なお,本件開門により,上記各土地において栽培する作物の潮風害台風による潮風害が現状よりも被害の程度が大きくなる高度の蓋然性があるが,その被害が増大する程度は,限定的なものにとどまる。
妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)


原告らの主張
原告らは,ケ-ス3-2開門がなされれば,本件締切り前と同様,有明海から運ばれる泥(ガタ土)が新干拓地(小江)の樋門・樋管の調整池への排水口付近に堆積して排水を阻害し,排水不良が起こる高度の蓋然性がある旨主張する。


認定事実

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
前記前提事実及び証拠
(事実の後に掲記)
並びに弁論の全趣旨によれば,
次の事実が認められる。
現状における調整池への排水方法
新干拓地(小江)では,現状,農業用水及び雨水等を主ゲ-ト付き樋門・樋管2か所(その位置は別紙33の45番及び47番)により新干拓地排水路から調整池へ排水している。
なお,
上記樋門・樋管の敷高は,
標高(-)0.8mであり,現状の調整池の管理水位の最高水位(-)1.0mより高い。
新干拓地(小江)での排水方法は,無降雨時は,樋門・樋管のゲートを開き,自然排水を行うというもので,降雨時も同様であるが,降雨により調整池の水位が樋門・樋管の敷高より高くなった時は,調整池の水が新干拓地排水路に浸入するのを防ぐため,樋門・樋管の主ゲートを閉じる(別紙39)
。なお,新干拓地(小江)には,排水ポンプは設置され
ておらず,排水ポンプによる排水は行われていない。
(前記前提事実


,乙A32の1_6.14.4-62頁)

ケ-ス3-2開門をした場合の排水方法
被告は,新干拓地(小江)の樋門・樋管の敷高は標高(-)0.8mであって,ケース3-2開門の場合の調整池の管理水位の最高水位(現状と同じ(-)1.0m)より高く,ケ-ス3-2開門を実施した場合でも,塩水化した調整池の塩水が,樋門・樋管を通じ新干拓地排水路に浸入することがないと予測されるため,現状と同様の排水方法によることとしている
(別紙39,
別紙51)


(乙A97,
乙C70の3)

環境アセスメントの予測
環境アセスメントは,平成19年の気象条件下でケ-ス3-2開門がなされた場合における開門1年後の地形の変化(堆積及び洗掘)につき予測をしているが,上記樋門・樋管の調整池への排水口付近については
5
新干拓地(小江)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ④(塩害)

ガタ土の堆積はほとんどないものと予測している(別紙88-1頁)。
(乙A32の1_6.6.1-73・74・102頁)

検討(ガタ土堆積による湛水被害発生の蓋然性)
上記認定に係る樋門・樋管の標高とケース3-2開門の場合の管理水位の最高水位との関係,環境アセスメントの予測に照らせば,新干拓地(小江)の樋門・樋管の調整池への排水口付近にガタ土が排水を阻害するほど堆積する高度の蓋然性があるということはできず,ほかに上記事実を認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告らの前記主張は,採用することができない。


妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)について
以上のとおり,認定事実によれば,ケ-ス3-2開門がなされて,10年大雨があった場合に,ガタ土が堆積して樋門・樋管が排水不良となり,原告新干拓地(小江)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らの賃借に係る土地が湛水するということはできないから,上記原告らの賃借権の行使につき,大雨時の湛水被害による妨害のおそれがあるということはできない。
妨害のおそれ④(塩害)


原告らの主張(事前対策を実施しない場合の妨害のおそれ)について原告新干拓地農業者らは,その賃借に係る新干拓地において農業を営むところ,開門による作土層の塩化物イオン濃度上昇の機序として,ケース3-2開門がなされれば,調整池が塩水化し,①毛管現象による作土層の塩分上昇,心土層の塩分の増加,②大雨時における地下水位の上昇による塩分上昇,
③大雨時の新干拓地排水路のオーバーフローによる塩分の増加,④飛来塩分の増加という機序が競合して,作土層における塩化物イオン濃度の上昇により,新干拓地における上記農業につき塩害が発生する高度の蓋然性がある旨主張する。

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
また,塩害発生の蓋然性に関するその他の要因(⑤,⑥)として,⑤ハウス栽培について,露地栽培と比較して,降雨が遮断されるため,土壌が乾燥しやすくなるため,毛管現象による塩分上昇が生じ塩害が発生する可能性が高い,⑥マグネシウム等による農作物被害が発生する旨主張する。しかし,前判示のとおり(前記4〈新干拓地(中央)の賃借権〉

イ・

ウ・オ・キ〈284頁以下〉),上記原告らの主張のうち①,③,⑥についての各主張はいずれも採用することができない。
そこで,以下,②及び④並びに⑤について検討する。イ
大雨時における地下水位の上昇による塩分上昇(ア②)及び飛来塩分の増加(ア④)について
認定事実
証拠(事実の後に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
環境アセスメントは,①毛管現象,②大雨時の地下水位の上昇(暗渠からの浸入を含む。,④飛来塩分の増加を踏まえて,ケース3-2)
開門を実施した場合の,新干拓地(中央)の耕作地(暗渠モデル)における各深度の土壌間隙水の塩化物イオン濃度の年間最大値を,深度10㎝が26㎎/L,深度20㎝が36㎎/L,深度30㎝が141㎎/L,深度40㎝が2214㎎/Lと予測した(平成8年度及び平成19年度気象下の予測値のうちの最大値)
。そして,
ケース3-2開門で
は,塩化物イオン濃度は,現状からほぼ変動がないと予測した。
(乙A32の1_6.5.1―57・60・61頁)
検討(大雨時における地下水位の上昇による塩分上昇及び飛来塩分の増加)
前判示のとおり(前記4〈新干拓地(中央〉の賃借権〉

エ)
,新干拓

地(中央)においては,上記暗渠モデルで予測された土壌間隙水中の塩
5
新干拓地(小江)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ④(塩害)

化物イオン濃度であれば,栽培する作物につき塩害が発生するおそれがあるということはできないところ,
前記のとおり
(前記2
〈旧干拓地
(諫
早)の所有権〉


a〈214頁〉,新干拓地(小江)は,新干拓地(中


央)よりも最低農地標高が2.3m高いため,新干拓地排水路も標高が高いと推認される。したがって,新干拓地(小江)は,環境アセスメントが新干拓地(中央)の任意の耕作地を前提に土壌間隙水の塩化物イオン濃度を予測した暗渠モデルとは,地盤の高低,排水路の状況といった条件が異なっている。上記条件の違いに照らすと,新干拓地排水路へと浸透する調整池の塩水の量は,新干拓地(中央)よりも少なくなり,暗渠管に浸入し得る水も,新干拓地(中央)より塩化物イオン濃度が低くなると推認される。そうすると,新干拓地(小江)の土壌間隙水の塩化物イオン濃度は暗渠モデルの予測値よりも低いと推定されるから,環境アセスメントの予測値をそのまま適用することはできない。
したがって,
新干拓地(小江)の作付作物について塩害が生じるおそれがあるかは不明であるといわざるを得ない。そして,その余に,新干拓地(小江)の農地に塩害が発生するおそれを認めるに足りる証拠は見当たらない。そうすると,原告新干拓地(小江)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らについて,その賃借に係る新干拓地(小江)の土地におけるハウス栽培以外の営農について,塩害が生じる高度の蓋然性があるということはできない。

ハウス栽培での塩害発生の蓋然性(ア⑤)について目録3-18番の原告は,新干拓地(小江)において,ハウス栽培を営むものであるが,前記前提事実(


)及び証拠(乙F12)によれば,

その農地標高は,
(+)1.7m程度と高く,地下水位が低いと考えられる
こと,新干拓地(小江)には,中央遊水池や幹線排水路が存在せず(別紙40)その農地の高さから調整池からの塩水も浸透し難いことが認められ,,

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
上記地下水位,農地の高さ,中央遊水池や幹線排水路の欠如に照らすと,新干拓地(小江)のハウス栽培における営農について,塩害のおそれがあるということはできない。

妨害のおそれ④(塩害)について
上記のとおり,原告新干拓地(小江)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らについて,その賃借に係る新干拓地(小江)の土地における営農について,
塩害が生じる高度の蓋然性があるということはできない。



結論(新干拓地(小江)の賃借権の行使についての妨害のおそれ)以上のとおり,原告新干拓地(小江)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らは,その賃借に係る新干拓地(小江)の農地において,農業を営むところ,ケース3-2開門がなされれば,季節風等の強風による潮風害(妨害のおそれ②)が生じる高度の蓋然性があり,被告の予定する散水等の事前対策は,上記潮風害の発生する高度の蓋然性を否定するものということはできない。
他方,農業用水の水源喪失(妨害のおそれ①)
,10年大雨があった場合,
現状より,湛水被害の程度(範囲・湛水深)が大きくなり,新干拓地(小江)における上記農業につき湛水被害が発生すること(妨害のおそれ③)大雨時,
の地下水の上昇等により,作土層の塩化物イオン濃度が上昇し,農作物について塩害が発生すること(妨害のおそれ④)について高度の蓋然性があるということはできない。
したがって,原告新干拓地(小江)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らの賃借権の行使につき,妨害のおそれ②(潮風害)があるというべきである。

6
新干拓地の所有権の行使についての妨害のおそれ(原告県公社の請求関係)認定事実
前記前提事実並びに証拠(事実の後に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,
6
新干拓地の所有権の行使についての妨害のおそれ(原告県公社の請求関係)賃貸部分についての妨害のおそれ

次の事実が認められる。
原告県公社は,別紙13(新干拓地土地目録)記載の新干拓地を所有し,その一部である新干拓地(賃貸部分)を農地として使用収益をすることを目的として原告新干拓地農業者ら等に対して賃貸し,賃料収入を得ているものである。

(前記前提事実


ないし

。甲E2,14,16~27)

原告新干拓地農業者ら等は,
原告県公社から賃借した新干拓地
(賃貸部分)
において,農業を営むものである。
(前記前提事実


ないし

。甲E2,14,16~27)

賃貸部分についての妨害のおそれ
前記4及び5の事実並びに弁論の全趣旨によれば,ケ-ス3-2開門がなされれば,原告新干拓地農業者らは,新干拓地(賃貸部分)における農業につき,季節風等の強風による潮風害(妨害のおそれ②)が生じる高度の蓋然性がある(賃貸部分において農業を営む原告新干拓地農業者ら以外の者も同様と考えられる。。もっとも,原告県公社はその所有する新干拓地の土地に)
おいて農業を営むものではない。また,潮風害発生が想定される頻度は必ずしも明らかではなく,ケース3-2開門の期間(5年間)に照らすと,潮風害により,爾後,新干拓地(賃貸部分)において農業を行うことができなくなる高度の蓋然性があるということはできない。なお,原告ら提出の潮風害の発生頻度に関する証拠(甲F37)は,前判示のとおり(前記2〈旧干拓地(諫早)の所有権〉イ

e〈194頁〉,推測の根拠が明らかということは


できず,採用することができない。
そうすると,
前記認定事実のとおり,原告県公社は,
新干拓地
(賃貸部分)
の所有権に基づき,これを農地として使用収益をすることを目的として賃貸し,賃料収入を得ているところ,ケース3-2開門がなされて,原告県公社が賃貸する新干拓地(賃貸部分)において,爾後,農業を行うことができなくなり,そのため,原告県公社は,新干拓地(賃貸部分)について賃料収入
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
を得ることができなくなる高度の蓋然性があるということはできない。結論(新干拓地の所有権の行使についての妨害のおそれ)
以上によれば,原告県公社の新干拓地(別紙13記載の各土地)の所有権の行使につき,妨害のおそれがあるということはできないから,原告県公社のケース3-2開門の差止めを求める請求は理由がない。
7
原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
漁業行使権に基づく妨害予防請求としての侵害行為差止めの可否

原告らの主張等
原告漁業者らは,本件請求において,被告に対し,漁業行使権に基づく妨害予防請求として,調整池から諫早湾海域への排水を行う場合を除き,本件開門をしないこと(本件開門の差止め)を求めるのに対し,被告は,漁業行使権は物権的性格を有しないから,漁業行使権に基づく妨害予防請求として侵害行為の差止めを求めることはできない旨主張し,原告漁業者らの請求を争う。


検討
(漁業行使権に基づく妨害予防請求としての侵害行為差止めの可否)漁業法8条1項は,漁業協同組合の組合員(漁業者又は漁業従事者であるものに限る。であって,

当該漁業協同組合がその有する各特定区画漁業
権若しくは共同漁業権又は入漁権ごとに制定する漁業権行使規則等で規定する資格に該当する者は,当該漁業協同組合の有する当該特定区画漁業権若しくは共同漁業権又は入漁権の範囲内において漁業を営む権利(漁業行使権)を有する旨定める。
そして,漁業協同組合の組合員が有する漁業行使権は,漁業権(漁業協同組合に帰属するとされる権利)そのものではないが,単なる操業請求権にとどまらず,漁業権から派生する権利として,漁業権が物権とみなされている(漁業法23条1項)のに対応して物権的性格を有すると解するのが相当である。

7
原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ①(赤潮による漁業被害)

そうすると,漁業行使権を有する者は,第三者がその権利行使の円満な状態を侵害するおそれがあるときは,その第三者に対し,漁業行使権に基づき,将来生ずるおそれのある侵害を予防するため,侵害行為の差止めを求めることができるものと解すべきである。
妨害のおそれ①(赤潮による漁業被害)

原告らの主張
原告らは,
ケ-ス3-2開門あるいはケース3-1開門がなされれば,調整池内において赤潮が発生し,その赤潮が,潮流に乗って調整池から諫早湾に流出し,これによって,諫早湾内における原告漁業者らの漁業行使権に基づく漁業につき漁業被害が発生する高度の蓋然性がある旨主張する。
そして,その根拠として,①ケ-ス3-2開門あるいはケース3-1開門がなされれば,調整池が塩水化し,調整池内において海水性動植物プランクトンが増大し赤潮が発生する高度の蓋然性があるところ,
調整池には,
栄養物質(窒素やリン)が付近の河川(本明川,有明川等)から流入しており,水面も穏やかであることから,調整池で発生する赤潮は,諫早湾で発生する赤潮よりも規模が大きくなる高度の蓋然性がある,②長崎県総合水産試験場長の


の回答書(以下I回答書という。甲G41の

2)が

調整池内で発生した海水性の赤潮が,そのまま諫早湾に流れ出ることが懸念されます。

としていると主張する。なお,現状では,調整池は淡水であるため,調整池内で発生した赤潮が調整池から諫早湾に流出し,諫早湾内において漁業被害が発生することは,生じていない。

認定事実
証拠(事実の後に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
原告漁業者の漁業行使権に基づく漁業
原告漁業者ら(別紙66の番号欄及び氏名欄記載の各原告)
は,前記前提事実


の漁業行使権のうち,別紙66の区画漁業

欄又は
共同漁業
欄記載の各漁業行使権に基づき,
別紙66の
魚種
欄記載の魚種に係る漁業を(スズキ,カニ〈ガザミ〉
,イイダコについて
は,別紙66の漁法欄記載の漁法で)諫早湾内において行っている(上記の区画漁業及び共同漁業に係る区域の位置は,別紙17,別紙29及び別紙18記載のとおり)

(甲G50-11頁,甲G64,68,乙A167)
植物プランクトンと赤潮の発生要因
植物プランクトンは,通常時は,動物プランクトン,二枚貝,魚の餌となるものであり,ほとんどの海の生物は,植物プランクトンが適度になければ育つことができない。
他方,赤潮とは,植物プランクトンが高密度に発生することで水が着色する現象をいい,内湾や沿岸における赤潮は,大雨ののち高温で日照が続き海面が穏やかなとき,または異質の水塊が混合するような場合に多く発生するといわれている。赤潮に関連する環境因子は数が多いばかりでなく,相互に無関係に変動するため,赤潮発生との相関を見いだすことは極めて困難とされている。

(甲G16,37,
38)

貧酸素水塊
貧酸素水塊とは,海底付近に生じる,酸素が非常に少ない水塊のことである。その要因としては,海域の富栄養化によって生じた赤潮により植物プランクトンが大量発生した後,栄養塩類の枯渇によって植物プランクトンが枯死し,その死骸が海底に溜まり,この死骸をバクテリアが分解する際に大量の酸素を消費する(特に水温が高い夏季に分解が活発となる)ことに加え,夏季の日照により表層と底層との間で水温差が生
7
原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ①(赤潮による漁業被害)

じたり
(水温躍層)出水後の汽水域に表層と底層との間で塩分濃度差が

生じたり(塩分躍層。塩分濃度の高い水が底層に,塩分濃度の低い水が表層に分かれ,層を形成するもの。
)することで,表層と底層とで水の鉛
直混合が生じにくくなり,表層の植物プランクトンが生産する酸素が底層に供給されにくくなるからであると考えられている。
なお,栄養塩類とは,植物の生育に必要な無機態の塩類のことで,窒素,リン,珪素等が塩類の形で摂取されるもののことをいい,これらの栄養塩類が水中で増加することを富栄養化と呼ぶ。
(甲G20ないし22,28,38,乙A32の1_参考-139・152頁)
赤潮の発生状況及び被害状況
諫早湾では,遅くとも平成14年以降,毎年赤潮の発生が確認されているが,
赤潮が生じても漁業被害が確認されないことがあった。
一方で,
赤潮による漁業被害が発生したときには,赤潮の構成プランクトンにシャットネラ(植物プランクトンの一種)が含まれていた。なお,平成23年の赤潮被害については,赤潮と貧酸素等の複合要因により養殖アサリ等がへい死したと推測されるとの報告がある。
有明海では,平成12年から平成21年の10年間において,年間29件ないし42件の赤潮が発生しており,うち漁業被害を惹き起こしたと報告があるものは,1件ないし10件程度であった。
(甲G17,19,39,41の2,乙A32の1_3.1-61頁,乙A32の1_参考-3頁)
クロロフィルaの実測値
クロロフィルaとは,植物プランクトン等に含まれる葉緑素系色素の一つであり,海水中のクロロフィルaを測定することにより,植物プランクトンの相対的な量を推定することができる。

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
クロロフィルaは,
7月から9月にかけた夏季に高くなる傾向を示し,
河川からの出水後(海域の富栄養化)や晴天の連続によりプランクトンの増殖が活発になり,赤潮状態になると特に大きな値を示す。
(乙A32の1_6.2.5-86・88・112頁,乙A32の1_参考-141頁,乙H4-3・5・6頁)
クロロフィルaの予測結果
環境アセスメントは,平成19年度を予測の基準年とし,現況(同年8月平均値)と本件開門のケ-ス毎のクロロフィルa濃度を予測した上で比較した。クロロフィルa濃度の変化予測の平面図は,別紙105記載のとおりである(別紙には,
ケース2と記載されているが,ケース
2開門の1年目及び2年目は,ケース3-2開門と同じである。。)
また,各地点の予測の結果は,以下のとおりである(いずれも表層の値。各地点の位置は,別紙28記載のとおり。経過年は,各ケ-スの開門からの経過年であり,ケ-ス1開門のみ3年目の予測がされている。)
(単位:㎍/L)
地点

現況

ケ-ス

ケ-ス

ケ-ス

1
3-1

3-2

1年目

18.0

21.6

18.3

2年目

16.7

21.9

23.4

北側

3年目

16.6





B2

1年目

19.2

26.4

26.9

2年目

17.7

26.5

30.0

南側

3年目

17.6





S1

1年目

17.9

19.3

16.6

2年目

16.6

19.5

18.1

B1
調整池

調整池

諫早湾





18.6

経過年

7
原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ①(赤潮による漁業被害)

湾奥部北側

3年目

16.5





S6

1年目

18.8

21.3

19.4

2年目

17.4

20.9

20.0

湾奥部南側

3年目

17.3





B3

1年目

19.1

19.1

18.1

2年目

17.3

18.6

18.1

湾央部

3年目

17.2





B4

1年目

20.1

18.5

18.1

2年目

18.4

17.7

17.5

湾口部

3年目

18.3





B5

1年目

19.1

17.7

17.3

2年目

17.6

17.0

16.7

湾口部

3年目

17.5





B6

1年目

19.6

18.0

17.7

2年目

18.1

17.2

17.0

3年目

18.0





諫早湾

諫早湾

諫早湾

諫早湾

諫早湾
湾口部

19.3

19.5

18.8

17.7

18.1

(ケ-ス1開門につき,乙A32の1_6.2.5-232・293・353頁,ケ-ス3-2開門につき,乙A32の1_6.2.5-414・474頁,ケ-ス3-1開門につき,乙A32の1_6.2.5-716・776頁)

原告らの主張1(ケース3-2開門及びケース3-1開門後に調整池で発生する赤潮の規模)について
本件開門後に調整池で発生する赤潮の規模については,前記認定事実によれば,
ケ-ス3-2開門,
ケ-ス3-1開門をした場合の調整池南側
(B
2地点)
のクロロフィルaの予測値は,
諫早湾内の各地点の現況値よりも,

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
平均で5㎍/L以上高い値を示しており,ケ-ス3-2開門,
ケ-ス3-1
開門をした場合の調整池は,現況の諫早湾よりも植物プランクトンが増殖しやすい海域になるということができる。
しかし,クロロフィルa濃度の平均値が,どの程度上昇すれば,赤潮の発生頻度がどの程度変化し,規模がどの程度大きくなるのかに関する知見は見当たらず,
直ちに赤潮の発生を予測させるものということはできない。
また,前記のとおり,調整池で赤潮が発生したとしても,被告の予定するケ-ス3-2開門及びケ-ス3-1開門の開門方法は,本件各排水門の開度を90㎝以下又は120㎝に制限するもので
(前記前提事実

イ)そ


れらの開度では底層から優先的に排水されるため,調整池で発生した赤潮が諫早湾に流出する程度は限られる。
そして,ケ-ス3-2開門及びケ-ス3-1開門では,調整池及び湾奥部では,クロロフィルa濃度が現況の湾奥部よりも高い値となると予測される一方,湾央部及び湾口部では,クロロフィルa濃度が現況よりも低下すると予測されている(前記イ




そうすると,
ケ-ス3-2開門,
ケース3-1開門のいずれについても,
クロロフィルaの増加と赤潮の発生の関係については十分な解明がされておらず,仮にクロロフィルaの増減と赤潮の発生頻度・規模に相関関係があるとしても,調整池で赤潮が発生して諫早湾に流出するのは限られたものであり,湾央部,湾口部のクロロフィルa減少の予測が示すとおり,諫早湾では赤潮の発生頻度・規模が縮小する可能性があるため,調整池及び湾奥部においてクロロフィルaの増加が予測されることをもって,直ちに諫早湾において赤潮による漁業被害が発生する高度の蓋然性があるということはできない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

原告らの主張2(調整池で発生した海水性の赤潮の諫早湾への流出)に
7原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ②(魚介類へい死による漁業被害及び風評被害)
ついて
調整池で発生した赤潮の諫早湾への流出について,I

回答書は,

調整池内で発生した海水性の赤潮が,そのまま諫早湾に流れ出ることが懸念されます。

とするが,これは,調整池内で発生した赤潮がそのまま調整池から諫早湾に流出する高度の蓋然性があることないし蓋然性が高い具体的根拠を述べるものではない。また,認定事実によれば,調整池で発生した赤潮が諫早湾に流出するとしても,上記ウのとおり,直ちに諫早湾での赤潮被害の可能性が増加,拡大するということはできず,現状の赤潮被害と比較して,被害が大きくなる高度の蓋然性があるということはできない。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

妨害のおそれ①(赤潮による漁業被害)について
以上によれば,ケ-ス3-2開門,ケース3-1開門がなされて,調整池内で発生した赤潮が諫早湾に流出することによって,諫早湾内における原告漁業者らの漁業行使権に基づく漁業につき漁業被害が発生する高度の蓋然性があるということはできない。
妨害のおそれ②(魚介類へい死による漁業被害及び風評被害)

ケース1~3開門による魚介類へい死の蓋然性の存在
前記前提事実(


)並びに証拠(甲A2-363~369頁,乙A

2の2-5.9.1-16・25頁)及び弁論の全趣旨によれば,現状では,淡水である調整池内には,多くのフナやコイなどの淡水性魚介類が生息しており,諫早湾内には汽水性のボラ,コノシロ等の魚介類が生息しているところ,ケ-ス1~3開門がなされれば,調整池が塩水化し,これによって,調整池内の淡水性魚介類がへい死し,さらに,諫早湾内に生息する汽水性の魚介類がへい死し,これらのへい死した魚介類が,腐敗して諫早湾の海底にたまる高度の蓋然性があるということができる。

事前対策による漁業被害回避の効果とその実施の蓋然性

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
認定事実
証拠(乙A32の2-48~51頁)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

被告の予定する事前対策の内容
淡水魚を保護するための対策

淡水池の設置(ケ-ス1開門では行わない。

干陸地等の環境を活用して,調整池及びその付近に淡水池(調
整池内の淡水性生物を移動するためのもの)を設置する。


移動経路の確保
土のうの設置や石積みを行い,調整池と農業用排水路の流末や
河川との落差を解消し,淡水性生物の調整池から他の水域への移
動経路を設ける。


淡水魚の捕獲・淡水池への移動
(ケ-ス1開門では行わない。

調整池内の淡水魚がへい死することを防ぐため,地元漁業者の
協力を得て,ケ-ス3-2開門又はケ-ス3-1開門の前に淡水
魚を捕獲し,淡水池へ移動する。
へい死した魚介類の回収
調整池及び諫早湾を対象に,①開門初期から数か月間は,毎日,
数隻の船で監視・回収を実施する。②その後は,へい死魚等が確認された場合の連絡体制を整備した上で,1~2週間に1回の頻度で,調整池及び諫早湾内を監視し,へい死魚等が確認された場合には回収する。さらに,③出水時(河川からの流量が多いとき)には,一定の期間,毎日,調整池及び諫早湾内を監視してへい死魚等が確認された場合は回収する。

予算措置


環境アセスメントは,ケ-ス3-2開門の事前対策(ただし,農

7原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ②(魚介類へい死による漁業被害及び風評被害)
業用水を確保するための事前対策を除く。
)に要する費用について,
合計約42億円と予測した。魚介類へい死に関するケ-ス1開門及びケ-ス3-1開門の事前対策は,ケ-ス3-2開門の事前対策と同様か又はこれを含むものである。

(乙A32の2-154頁)

内閣は,
平成25年1月29日,
ケ-ス3-2開門の事前対策
(た
だし,
農業用水を確保するための事前対策を除く。に要する費用に

つき合計約49億円を計上した農林水産省予算の概算を閣議決定
した。

(乙A42,44)

国会は,同年5月15日,上記の閣議決定された内容と同内容の
予算を成立させた。

(乙A44,117,118)

検討
(魚介類のへい死に対する事前対策の効果及びその実施の蓋然性)そうすると,ケ-ス1~3開門がなされれば,前記のとおり,へい死した魚介類が腐敗し諫早湾の海底にたまる高度の蓋然性があるところ,被告が前記淡水魚の保護,へい死した魚介類の回収の事前対策を行うことにより,へい死する魚介類及び腐敗して諫早湾の海底にたまる魚介類の量は一定程度減少することが認められる。そして,被告は予算措置をとっており,上記事前対策を実施する蓋然性は高い。
原告らの主張について
原告らは,ケ-ス1~3開門後,へい死した魚介類が腐敗し諫早湾の海底にたまることにより漁場環境が悪化し(甲G23)
,これによって,
諫早湾内における原告漁業者らの漁業行使権に基づく漁業につき漁業被害が発生する高度の蓋然性がある旨主張する。
しかし,前記のとおり,諫早湾は,有明海(面積1700㎢)湾奥の西側にある支湾で,その面積が約75㎢と広大であり,その容積も約5億㎥と大きく
(前記前提事実

ア)へい死した魚介類が腐敗し諫早湾の


海底にたまることから,直ちに,諫早湾の漁場環境が悪化し,諫早湾内
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
における漁業につき漁業被害が発生する高度の蓋然性があるということはできず,ほかに上記事実を認めるに足りる証拠はない。
また,被告が上記のとおりの事前対策を行うことにより,へい死する魚介類及び腐敗し諫早湾の海底にたまる魚介類の量は一定程度減少することが認められるから,この点からも,ケ-ス1~3開門により魚介類がへい死し諫早湾の海底にたまるとしても,そのことによって,諫早湾内における漁業につき漁業被害が発生する高度の蓋然性があるということはできない。
したがって,原告らの前記主張は採用することができない。

魚介類のへい死による風評被害発生の蓋然性
原告らは,前記魚介類のへい死が大量に発生することによって,消費者が,諫早湾の魚介類全般にわたって安全性について不安を感じ,購買を差し控えるという風評被害が発生する高度の蓋然性がある旨主張する。前記認定事実によれば,ケ-ス3-2開門がなされれば,調整池に生息するフナやコイなどの淡水性魚介類及び諫早湾内に生息するボラやコノシロ等の汽水性の魚介類がへい死する高度の蓋然性があり,魚介類のへい死が報道や風聞等により消費者に知られることによって,風評被害が発生する可能性があることは否定できない。
しかし,前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば,上記の魚介類へい死の原因は,調整池が淡水から塩水に変わるというケ-ス1~3開門がなされたことによる急激な環境の変化によるものであり,魚介類のへい死が大量に発生するのは一時的なものであること,魚介類がへい死した原因が上記のとおりであることは,その発生とともに報道等によって明らかにされる可能性が高い。そうすると,消費者が,直ちに魚介類のへい死が起こった地域で獲れた魚介類の購入を避けるとは考え難く,
魚介類のへい死

発生することを根拠として,風評被害が発生する高度の蓋然性があるとい
7原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ③~⑥(アサリ養殖,カキ養殖,ノリ養殖,その他の魚介類の漁業・短期開門調査時の被害との関係)

うことはできない。また,短期開門調査時に魚介類のへい死により風評被害があったとする的確な証拠がなく,ほかに上記事実を認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

妨害のおそれ②(魚介類のへい死による漁業被害及び風評被害)について
以上によれば,ケ-ス1~3開門がなされた場合に,
魚介類のへい死
によりへい死した魚介類が腐敗し諫早湾の海底にたまることによって原告漁業者らの諫早湾内における漁業につき漁業被害が発生する高度の蓋然性及び上記魚介類のへい死によって,原告漁業者らの諫早湾内における漁業につき風評被害が発生する高度の蓋然性があるということはできない。
妨害のおそれ③~⑥(アサリ養殖,カキ養殖,ノリ養殖,その他の魚介類
の漁業・短期開門調査時の被害との関係)

原告らの主張
まず,原告らは,妨害のおそれ③(アサリ養殖)
,同④(カキ養殖)
,同

(ノリ養殖)同⑥

(その他の魚介類の漁業)
として,
本件開門によって,
原告漁業者らの漁業行使権に基づく,アサリ養殖,カキ養殖,ノリ養殖及びその他の魚介類の漁業につき被害が発生する高度の蓋然性があると主張し,その根拠として,短期開門調査時にアサリ及び魚類等について漁業被害が生じたことを挙げる。


認定事実
前記前提事実(


,,)及び証拠(事実の後に掲記)によれば,

次の事実が認められる。
原告漁業者らの漁業と漁業区域

アサリ養殖を行っている原告及びその漁業区域

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
目録4-1番~27番,37番~43番,45番の各原告は,別紙66の区画漁業欄記載の漁業行使権に基づき,諫早湾内において
(上記区画漁業に係る区域の位置は別紙17記載のとおり。,アサリ)
養殖の漁業を行っている。

(甲G64,68)

カキ養殖を行っている原告及びその漁業区域
原告漁業者らのうち目録4-1番,2番,4番~6番,8番~11番,13番,14番,16番~18番,20番,21番,25番の各原告は,別紙66の区画漁業欄記載の漁業行使権に基づき,諫早
湾内において(上記区画漁業に係る区域の位置は別紙17記載のとおり。,カキ養殖の漁業を行っている。



(甲G64,68)

ノリ養殖を行っている原告及びその漁業区域
目録4-28番,33番の各原告は,別紙66の区画漁業欄記
載の漁業行使権に基づき,諫早湾内において(上記区画漁業に係る区域の位置は別紙29記載のとおり。,ノリ養殖の漁業を行っている。)
なお,ノリ養殖において,採苗(貝殻に付けた糸状体から殻胞子を放出させ,ノリ網に付着させる作業)を行っている場所は,別紙79の【ノリ採苗場】である。


(甲G64,67,68)

スズキ漁を行っている原告及びその漁業区域
目録4-29番の原告は,漁業行使権に基づき,共同漁業権に係る南共第1号
(位置は別紙18記載のとおり。において,

底刺網漁業
(固
定式底刺し網漁業。
綱を固定して魚介類を漁獲する漁法。の漁法によ

り,スズキの雑魚底刺網漁業を行っている。
(甲G30,甲G40-8頁,甲G64,68)
なお,被告は,
刺し網漁業を行うには,長崎県知事の許可が必要であるところ,上記原告は,上記許可を得ておらず,諫早湾内において刺し網漁業を行う権利を有していない旨主張する。しかし,弁論の
7原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ③~⑥(アサリ養殖,カキ養殖,ノリ養殖,その他の魚介類の漁業・短期開門調査時の被害との関係)

全趣旨によれば,長崎県漁業調整規則6条1項は,別紙80記載のとおり,固定式刺し網漁業を営むについては,一定の場合を除き長崎県知事の許可を要する旨,漁業協同組合の組合員として固定式刺し網漁業の漁業行使権を有している場合には,上記の長崎県知事の許可が不要である旨定めている(同項2号セ)ところ,上記原告は,上記のとおり,底刺網漁業(固定式底刺し網漁業)の漁業行使権を有していることが認められるから,底刺網漁業(固定式底刺し網漁業)を行うにつき長崎県知事の許可を得る必要はない。
したがって,被告の上記主張は,採用することができない。

カニ(ガザミ)漁を行っている原告及びその漁業区域
目録4-5番,29番~31番,33番の各原告は,漁業行使権に基づき,
共同漁業権に係る南共第1号
(位置は別紙18記載のとおり。

において,底刺網漁業(固定式底刺し網漁業)の漁法により,カニ(ガザミ)
の雑魚底刺網漁業を行っている。

(甲G64,
68)

なお,カニ(ガザミ)の漁業を行っている各原告(目録4-5番,29番~31,33番)についてもスズキ漁と同様,底刺網漁業(固定式底刺し網漁業)
を行うにつき長崎県知事の許可を得る必要はない。

イイダコ漁を行っている原告及びその漁業区域
目録4-31番,36番の各原告は,漁業行使権に基づき,共同漁業権に係る南共第1号(位置は別紙18記載のとおり。
)において,イ
イダコ漁(たこ縄。貝殻を海底に設置して魚介類を漁獲する漁法)の漁法により,イイダコの漁業を行っている。

(甲G64,68)

短期開門調査の際に発生したアサリ及び魚類等に係る漁業被害並びに漁業補償

短期開門調査時の漁業被害(アサリ)
短期開門調査をした際,諫早湾内(湾奥部,湾央部及び湾口部)に
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
おいて,アサリのへい死が発生し,アサリ養殖につき漁業被害が発生した。

(前記前提事実

ウ)

小長井漁協のアサリ養殖につき発生した漁業被害の内容は,次のとおりであり(別紙76)
,当時の漁業区画の位置は,別紙77記載のと
おりである。
なお,短期開門調査以降に,新たな漁業権の免許が付与され,漁業区画に変動があったため,以下の短期開門調査時の漁業区画は,現在の漁業区画(別紙17)とは異なる。


(甲G25,50)

湾奥部の南区2015において,平成14年4月から8月までの
間に合計5600㎏(別紙76の南区2015欄記載の各月の
被害重量の合計。以下,後記⒝ないし⒣において同様)の被害が生じた。



湾奥部の南区2013において,平成14年5月から8月までの
間に合計4万5000㎏の被害が生じた。



湾奥部と湾央部にまたがる南区2008(その2)において,平
成14年4月から8月までの間に合計12万1550㎏の被害が
生じた。



湾央部にある南区2008(その1)において,平成14年4月
から8月までの間に合計8万2900㎏の被害が生じた。



湾央部と湾口部にまたがる南区2006において,平成14年5
月から8月までの間に合計4万6650㎏の被害が生じた。



湾口部にある南区2004において,平成14年4月から8月ま
での間に合計6万9700㎏の被害が生じた。



湾口部にある南区2002において,平成14年5月から8月ま
での間に合計3万9700㎏の被害が生じた。



湾口部にある南区2001において,平成14年5月から8月ま

7原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ③~⑥(アサリ養殖,カキ養殖,ノリ養殖,その他の魚介類の漁業・短期開門調査時の被害との関係)

での間に合計6万2750㎏の被害が生じた。

短期開門調査時の漁業被害(魚類等)
短期開門調査をした際,諫早湾内4漁協が漁業権を共有する南共第1号共同漁業権(漁業権の免許に係る区域の位置は,別紙18記載のとおりである。
)に基づく諫早湾内(湾奥部,湾央部及び湾口部)にお
ける漁業につき,魚類(スズキ,カニ〈ガザミ〉
,タコ等)の漁獲量の
減少が生じ,魚類に係る漁業被害が発生した。
なお,上記漁獲量の減少は,諫早湾内4漁協の過去3か年平均漁獲量と平成14年の漁獲量を比較した結果,認められたものである。(前記前提事実


ウ,甲G26,27,乙A17)

短期開門調査による漁業被害に対する漁業補償及びその算定方法
被告は,平成15年11月頃,短期開門調査による漁業被害(アサリ及び魚類の漁業被害)
に係る損害について,
諫早湾内4漁協に対し,
合計約6080万円の補償をした。
漁業補償額は,アサリ等の平成14年分について,
補償額=平均漁獲高×(へい死率+身入り影響率)×純収益率
という式で算定し,魚類等(スズキ,ガザミ,アナゴ,ウシノシタ,タコ等)の平成14年分について,
補償額=(平均漁獲高-平成14年漁獲高)×純収益率
という式で算定し,これらのほか,平成15年以降分についても補償することとされた。

(甲G26)

被告が予定する開門方法
被告は,本件開門に当たり,以下の開門方法を予定する。

ゆるやかな排水門操作
①最初に調整池に海水を導入した後,導入日を含め5日程度かけて,塩分による粘土粒子の凝集効果により調整池の濁りを低減させる(以
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
下粘土粒子の凝集効果による濁り低減措置という。。なお,凝集

とは,コロイド粒子(粘土粒子)が集まって大きな粒子になることをいい,
正電荷のコロイドが存在する淡水中に,
高い電解質成分
(海水)
が加わることによって,粒子同士がファンデルワ-ルス力で吸着しあい,粘土粒子が塊となって沈殿する現象が典型的である。凝集により沈降速度が元の粘土粒子の数倍ないし数10倍に大きくなる。これに有機物が加わると,粒子の大型化が促され,沈降速度が増す。
(乙C11,乙A32の1_参考-141頁)
②その上で,3日程度かけて徐々に調整池への海水の導水量及び調整池からの排水量を増加させるような排水門操作をし,開門後約1か月目までに8門ある排水門をゆるやかに開閉しながら徐々に調整池を塩水化することとしている(ケ-ス3-2開門をしたときにおける1日目から8日目までの導水量と調整池水位の変化は,別紙78の環境アセスメントにおける検討欄記載のとおり。。)
③また,特にケース3-2開門においては,諫早湾海域の濁りの発生を抑制するため,1回毎の海水導入・排水が時間をかけて徐々に行われるように,導水時及び排水時ともに90㎝より小さい開度で開門する。

常時監視及び開門の中断の措置
④開門直後の時期のみならず,その後の開門期間中も,諫早湾海域の濁りの状況等につき常時監視をする,⑤上記常時監視の結果等に基づき,濁度の異常や塩分濃度の急上昇等があったときは,調整池への海水導入及び調整池からの排水を中断する。
(前記前提事実


,乙A32の2-73・74頁)

短期開門調査時の開門とケ-ス3-2開門の管理水位及び排水門操作の異同

7原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ③~⑥(アサリ養殖,カキ養殖,ノリ養殖,その他の魚介類の漁業・短期開門調査時の被害との関係)

短期開門調査時とケ-ス3-2開門では,
調整池の管理水位について,
いずれも標高(-)1.2m~(-)1.0mとし,排水門の操作は,いずれも上記管理水位の範囲内において,外潮位が調整池の水位よりも低い時に本件各排水門を開門して調整池の水を諫早湾海域へ排水し,外潮位が調整池の水位より高い時に本件各排水門を開門して調整池に海水を導入するという点で同様である。なお,被告は,短期開門調査時に海水導入開始から概ね1週間は,昼間のみの海水導入とし,海水導入の影響を目視し,不測の事態が生じた場合又は生じるおそれのある場合には海水導入を一時中断することとしていた。
(前記前提事実⑺イ

b・


c)

これに対し,開度については,短期開門調査では,本件各排水門の開度を導水時及び排水時ともに90㎝としていた
(前記前提事実⑺イ

b)

のに対し,被告は,ケ-ス3-2開門を行う場合の本件各排水門の開度を,短期開門調査時の90㎝よりも小さい開度(60㎝等)とすることとしている(被告第22準備書面において援用された債務者意見書20頁等)


(前記前提事実





乙A16-1頁)

本件各排水門の開度を制限する効果についての予測
環境アセスメントでは,本件各排水門の開度を短期開門調査時と同様の90㎝に制限すると仮定して環境影響評価を行った。その結果は別紙110記載のとおりであり,開門当初の4月に諫早湾の湾奥部及び湾央部で高い浮遊物質量(以下SSという。
)となることが予測された。
被告は,更に本件各排水門の開度を60㎝とした場合の調整池及び諫早湾内の濁りの発生状況(開門後1年間)についてシミュレーションを行った。その結果,濁りの指標となるSSの最大値は,本件各排水門の開度を60㎝に制限した場合は,開度を90㎝に制限した場合に比べ,S1地点(底層)で,214㎎/L(対開度90㎝比=約23.2%)減
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
少し,
S6地点
(底層)
で,
26㎎/L
(対開度90㎝比=約43.
3%)
減少することが予測された。他方,SSの平均値,最小値については,現況
(平成19年度の実測デ-タを元にモデル化した数値)開度90㎝,,
開度60㎝の間で,有意な差はなかった(別紙106記載のとおり。。)
(乙A32の1_6.
2.1-127~129頁,
乙A133)
現況における本件各排水門からの排水量とSS・濁度との関係
平成19年6月26日ないし同年7月2日の排水時の濁度(SSとは異なる濁りの指標の一つ。
)の経時変化は,
別紙107記載のとおりであ
り,濁度は,排水時に各排水門近傍のS1地点及びS6地点で顕著な上昇(SS換算値で300~400㎎/L)を示すが,概ね1潮汐で排水前のレベルまで回復する。なお,現状では,外潮位と調整池の水位の差や排水量により,開門するゲートの数及び開度を調整しており,平成18年から平成22年の5年間の平均開度は,約2.5mである。
(乙A32の1_6.2.1-27・28頁,乙A32の2-73・74頁)

検討(短期開門調査時の漁業被害と被告の予定する開門方法)
原告らは,ケ-ス3-2開門がなされれば,漁業被害が発生する高度の蓋然性があるとし,その根拠として,短期開門調査時に,諫早湾内(湾奥部,湾央部及び湾口部)において,アサリ及び魚類等につき漁業被害が発生したことを挙げる。そこで,被告が予定する開門方法との関係で,短期開門調査時の漁業被害からケース3-2開門の際の漁業被害を推認することができるか検討する。
ケース3-2開門におけるゆるやかな排水門操作等について
前記認定事実(前記イ

〈321頁〉
)のとおり,被告は,ケ-ス3-2

開門をするに当たっては,ゆるやかな排水門操作として,①約5日間の粘土粒子の凝集効果による濁りの低減措置や,②3日程度かけて徐々に
7原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ③~⑥(アサリ養殖,カキ養殖,ノリ養殖,その他の魚介類の漁業・短期開門調査時の被害との関係)

導排水の水量を増加させ,開門後約1か月目までにゆるやかに塩水化をし,③本件各排水門(8門)の開度を60㎝とするなど90㎝より小さくすることとしている。
そして,上記①の塩水導入後の粘土粒子の凝集効果による濁りの低減措置は,海水の高い電解質成分によって,粘土粒子の沈降速度が増すという効果があるという知見の裏付けがあり,淡水域から生ずる濁りを一定程度低減する効果があるものと考えられる。
また,上記②のゆるやかに塩水化する措置については,濁りの発生等を抑制するため,1回毎の海水導入,排水が時間をかけて徐々に行われるようにするもので,諫早湾におけるSSの急激な上昇を一定程度緩和する効果があるものと考えられる。
さらに,上記③の本件各排水門の開度を制限する措置について,被告は,シミュレ-ションを行っており,本件各排水門の開度を小さくすることで,SSの最大値を低減する効果がある旨の結果が示されている(前記イ

〈323頁〉。そこで,上記シミュレーション結果の信頼性に


ついて検討すると,前記のとおり,SSは,本件各排水門からの排水があったとき,あるいはその排水量が多いときに顕著に上昇し(前記イ〈324頁〉,本件各排水門からの排水の有無・程度とSSとは一定の相)
関関係を有するということができる。そうすると,上記③のように本件各排水門の開度を制限することで,本件各排水門の開放による導排水量が減少すれば,
それに伴ってSSも,
一定程度減少するものと予測され,
上記のSSが低減するというシミュレーション結果は,採用することができる。
以上によれば,前記のゆるやかな排水門操作は,短期開門調査時
の開門方法に比して,諫早湾等へのSSの影響を低減する効果,それに伴い浮泥等の堆積速度を減少させる効果もあると考えられる。

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
ケース3-2開門における常時監視及び開門中断の措置について
これに対し,
常時監視及び開門の中断の措置
(前記イ
ては,前記前提事実(

b)につい

)及び弁論の全趣旨によれば,①短期開門調査

をするに当たっても,海水導入開始から概ね1週間は,昼間のみの海水導入とし,海水導入の影響を目視していたこと,②短期開門調査をするに当たっても,不測の事態が生じた場合及び生じるおそれのある場合には,海水導入を一時中断することとしていたものであり,実際,小潮期とその前後であったこと及び降雨により河川からの流入量が多かったことなどの事情から,平成14年5月2日ないし7日及び15日は海水導入をせず海水導入を一時中断したこと(前記前提事実


b・前記イ

)が認められる。そうすると,常時監視及び開門の中断の措置をとった方が,この措置をとらない場合よりも漁業被害を防止する効果がある可能性はあるが,短期開門調査においても,これらの措置をとっていたものであるから,ケース3-2開門と短期開門調査時の開門方法との有意な違いであるということはできない。
小括(短期開門調査時の漁業被害と妨害のおそれについて)
上記のとおり,ケ-ス3-2開門は,短期開門調査に比して,諫早湾等へのSSの影響を低減する効果があるゆるやかな排水門操作を行うこととしていることから,諫早湾の魚介類にもたらす影響は異なるというべきである。
したがって,短期開門調査期間中に,アサリや魚類等に漁業被害が生じたことをもって,ケ-ス3-2開門を行った場合にも,同様に漁業被害が生じる高度の蓋然性があるものと直ちに推認することはできない。また,前記のとおり,被告(九州農政局長)は,漁業者らに漁業補償をしたが,漁業補償は,アサリ等のへい死率と身入り率の低下や,魚類等の平均漁獲量との比較によって,予め補償額の算定方法を定めて,そ
7原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ③~⑥(原告らの主張する漁業被害の具体的機序について)
れに従ったもので(前記イ

c〈321頁〉,厳密な因果関係を問わずに


包括的に補償を行ったものであり,具体的な因果的機序を明らかにした上での補償ではなかった。
したがって,
短期開門調査をしたことと短期開門調査期間中にアサリ及び魚類等の被害が生じたことのみでは,本件開門による漁業被害のおそれを推認させるに足る根拠となるものではなく,これに被告が,漁業補償をしたことを考慮しても,推認の根拠となるものではない。
妨害のおそれ③~⑥(原告らの主張する漁業被害の具体的機序について)ア
原告らの主張
原告漁業者らは,妨害のおそれ③(アサリ養殖)
,同④(カキ養殖)
,同

(ノリ養殖)同⑥

(その他の魚介類の漁業)
として,
本件開門によって,
アサリ養殖,カキ養殖,ノリ養殖,その他の魚介類(スズキ,カニ〈ガザミ〉イイダコ)

の漁業につき漁業被害が発生する高度の蓋然性があると主
張し,漁業被害が発生する具体的機序について,主として①潮流の変化,②濁りの変化,③塩分の変化,④堆積の変化,⑤ゴミ,流木等の漂流を挙げる。


判断の枠組み
本件開門によって,アサリ養殖,カキ養殖,ノリ養殖,その他の魚介類(スズキ,カニ〈ガザミ〉
,イイダコ)の漁業に漁業被害が生じるか否かに
ついては,本件開門による漁場環境の変化と,アサリ,カキ,ノリ,スズキ,カニ(ガザミ)及びイイダコの漁法や生態を踏まえて検討する必要があり,短期開門調査時のアサリ及び魚類等への影響の有無・程度は,上記の検討を行う上での一つの重要な考慮要素として位置付けられるというべきである。
そこで,以下,本件各排水門の開門(調整池に海水の浸入を伴うもの)
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
による漁場環境の変化(環境アセスメントの予測及び短期開門調査時)並びに被告の予定している事前対策の効果及びその実施の蓋然性等についてまず検討し(本項)
,その上で,アサリ,カキ,ノリ,スズキ,カニ(ガ
ザミ)及びイイダコのそれぞれの漁業について認定事実から漁業被害が生じる高度の蓋然性があるということができるか判断する(後記

ないし




認定事実
証拠(事実の後に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
水質等に関する知見

潮流
潮流は,様々な要因によって変動するものであるところ,月の起潮力による半日周期の波と,太陽の起潮力による約半日周期の波が,同位相となったときに大潮(干満の潮位差が大きい潮)となり,逆位相になったとき小潮(干満の潮位差が少ない潮)が起こる。
上げ潮とは,干潮から満潮へと移行する間,潮が満ちてくる潮であり,下げ潮とは,満潮から干潮へと移行する間,沖へ引いていく潮である。


(乙A32の1_参考-143・144頁)

SS(浮遊物質量)
SS(浮遊物質量。SuspendedSolid〈懸濁物質〉の略称。)とは,
水中に浮遊している物質の量のことをいい,
単位は㎎/Lであり,
一定
量の水をろ紙でこし,乾燥してその重量を量る。数値が大きいほど,その水の濁りが多いことを示す。(乙A32の1_参考-150頁)

濁度
水の濁りは,水中に浮遊する泥や砂,プランクトンなどの懸濁物によって生じる。濁度とは,水の濁りの度合いを表すものであり,1L
7原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ③~⑥(原告らの主張する漁業被害の具体的機序について)
の精製水に標準物質(カオリン又はホルマジン)1㎎を混ぜたときの濁度を1度とし,それとの比較で試料の濁度を決定する。SS(浮遊物質量)が同じであっても,濁度は浮遊物質の粒子の種類や大きさによって異なる。

(乙A32の1_参考-149頁)

塩化物イオン濃度及び塩分
塩化物イオンとは,塩化物イオン(CL-)の形で存在している塩素のことであり,塩化物イオン濃度はその量を表す。
塩分とは,海水に溶け込んでいる塩類を表したもので,海洋の平均的な塩分は35‰(千分率)である(1㎏の海水中に35gの塩類が含まれることを示す。。塩分を構成する主な物質としては,塩化ナト)
リウムがほとんどで,ほかに塩化マグネシウム,硫酸ナトリウムなどがある。
一般に海水において塩化物イオン濃度と塩分濃度との関係は,
塩分濃度(‰)=塩化物イオン濃度(㎎/L)×

1.80655
1000

とされている。塩分濃度は,比重によって表記されることがあるが,塩分濃度が同じでも,比重は水温により異なる。
(乙A32の1_参考-139頁,乙A159の1-6頁)
ケース3-2開門についての環境アセスメントの予測

潮流
S1地点(湾奥部北側)
,S6地点(湾奥部南側)及びB3地点(湾
央部。各地点の位置は,別紙28記載のとおり。
)における現況の流速
及びケ-ス3-2開門の場合の流速は,以下の表のとおりである(なお,下表は,ケ-ス3-2開門について,本件各排水門の開度を90㎝とした場合の予測である。前記のとおり,被告は,環境アセスメントの予測とは異なり,ケ-ス3-2開門においては本件各排水門の開度を90㎝未満とすることとしている(前記イ

a〈321頁〉
)ため,

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
予測値はこれより低くなると考えられる。。

ケ-ス3-2開門では,大潮期には,本件各排水門の近傍(S1地点,S6地点)の流速(表層)は,下げ潮時に最大で0.94m/s程度に増加するが,その他の水域では底層を含めて現況と比べてほとんど流速の変化はみられない。上げ潮時の流速の変化は,排水門付近に限られる。表層の下げ潮時及び上げ潮時の流況並びに現況からの流況の変化予測は,別紙108-3頁記載のとおりであり,カキ筏(南区2016号)付近は,表層,底層ともに0.5m/s未満である。(単位:m/s)
8月(大潮期)

地点

2月(大潮期)


現況

ケ-ス3-2

現況

ケ-ス3-2

表層

0.07

0.59

0.07

0.94

底層

0.04

0.03

0.06

0.05

表層

0.05

0.33

0.04

0.49

底層

0.03

0.02

0.02

0.03

表層

0.23

0.23

0.25

0.25

底層

0.13

0.13

0.15

0.15

表層

0.05

0.21

0.03

0.25

底層

0.04

0.19

0.02

0.02

表層

0.09

0.14

0.04

0.20

底層

0.03

0.08

0.05

0.04

表層

0.34

0.34

0.28

0.30

底層

0.10

0.11

0.09

0.09

S1
下げ潮
S6

B3

S1
上げ潮時
S6

B3
(乙A32の1_6.1.1-224・225・227・229・231・286頁)

7原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ③~⑥(原告らの主張する漁業被害の具体的機序について)

SS(浮遊物質量)
ケース3-2開門1,2年目のSS(表層・底層)の経時変化は,別紙109(ケース2(1年目・2年目)のもの。なお,ケース3-2開門は,ケース2開門の1年目,2年目と同様である。
)記載のとお
りであり,4月,8月,2月の現況とケース3-2開門1年目の月平均SSの比較は,別紙110記載のとおりである。これによると,表層のSSは,平均値が若干上昇するが,最大値は,湾奥部(S1,S6)
,湾央部(B3)
,湾口部(B4,B5,B6。湾奥,湾央,湾口
の位置の区分は別紙20参照。のいずれも現況を下回るか同程度と予)
測される。また,湾央部の北側は,湾奥部のS1地点ほどのSSの上昇が予測されず,湾口部では,SSの上昇は予測されない。
そして,ケース3-2開門1年目は,湾奥部の北部排水門前面のS1地点で,現況に比べて排水門からの排水回数が増えるため,現況での排水回数の多い夏季出水時の排水門からの排水期間を除き,SSの上昇がみられる。すなわち,底層では,SSがケース3-2開門1年目の4月に800㎎/L程度まで上昇し,その後2回ほど600㎎/L程度まで増加する(現況の最大値約1000㎎/Lを下回る。。一方,)
湾奥部の南部排水門前面のS6地点では,現況における排水門からの排水回数が多いこと,調整池のSSが現況に比べて低下することにより,開門当初の4月を除き現況における排水門からの排水時と比較してSSの低下がみられる。開門2年目については,湾奥部から湾央部にかけて,特に底層において開門当初の最大濃度が消失するほかは,1年目と比べてほとんど変化はみられない。
(乙A32の1_6.2.1-117・118・122・127~129・136・137・141・145~147・235頁)


塩分濃度

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
諫早湾の塩分の経時変化の状況並びに塩分平面分布図及び現況と
の差分図は,別紙111のとおりである。また,現況とケース3-2開門(1年目)の代表地点における月平均塩分の変化は,以下の表のとおりである(なお,ケース3-2開門の2年目は,4月に各地点の表層で28.3‰~29.8‰,底層で29.1‰~31.1‰となるほかは,概ね1年目と同様である。なお,開門1年目の4月は開門当初の時期である。。

現況では,S1地点,S6地点,B3ないしB5地点の表層の塩分濃度は,出水期などには5‰~10‰程度となる(なお,海洋の平均は35‰)ことがあり,特に本件各排水門からの排水時や有明海湾奥部からの低塩分水の流入時に塩分濃度が急激に低下する状況である。(乙A32の1_6.2.3-17~19頁)
ケ-ス3-2開門をした場合,開門当初を除くと,湾奥部のS1地点及びS6地点では,現況からの低下の程度が,表層について5~10‰程度,底層について大潮期に5‰程度と予測されている。一方で7月の出水時には,表層の塩分が,現況では最小11‰程度まで低下していたのに対し,ケ-ス3-2開門では最小17‰程度までの低下にとどまると予測されている。
湾央部のB3地点では出水時等を除いて表層で数‰程度の塩分低下がみられ,湾口部のB6地点では塩分の変化は表層でもごく一時的である。
(単位:‰)
現況

ケース3-2開門

地点
表層

4月

表層

底層

29.4

S1

底層
29.5

24.3

28.4

7原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ③~⑥(原告らの主張する漁業被害の具体的機序について)
S6

27.8

29.2

25.0

28.3

B3

29.3

30.2

28.3

30.2

B4

29.2

30.2

28.8

30.1

B5

29.5

30.9

29.2

30.9

B6

29.3

30.7

29.1

30.7

S1

26.2

27.5

23.8

26.8

S6

26.0

27.3

24.6

26.9

B3

26.6

29.4

26.3

29.4

B4

26.7

29.5

26.5

29.5

B5

27.0

30.4

26.9

30.4

B6

26.7

30.3

26.6

30.3

S1

29.3

29.5

28.5

29.0

S6

29.1

29.4

28.6

29.2

B3

29.7

30.1

29.6

30.1

B4

29.6

30.2

29.6

30.2

B5

30.1

30.9

30.1

30.9

B6

29.8

30.7

29.8

30.7

8月

2月

(乙A32の1_6.2.3-112・113・121~124・132・144・252頁)

堆積
ケース3-2開門開始から1年後と2年後の地形変化量差分布は,別紙112記載のとおりである。
ケース3-2開門実施から1年後までは,諫早湾北部沿岸で堆積傾向がみられるが,堆積量は数㎝であり,現況においても泥分が比較的高い泥質であるため,泥質の堆積による泥分の変化は小さく,開門の
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
実施前後における底質の変化はほとんどない。ケース3-2開門開始2年後においては,開門開始1年後からの地形変化はほとんどない。(乙A32の1_6.3.1-29~31頁)
短期開門調査時のアサリ被害の経時変化
アサリ養殖の被害があったとされる養殖場
(南区2001,
2002,
2004,2006,2008,2013号の養殖場。ただし,当時の区画。
)では,アサリ被害重量は,海水導入中(平成14年4月,5月)はさほど多くないのに対して,特に平成14年7月,8月が顕著となっているところが多い
(別紙76)平成14年4月は合計2万5300㎏,

5月は7万1100㎏,6月は合計8万0750㎏,7月は12万6600㎏,8月は17万0100㎏であり,9月にも一部被害があったとされている。なお,上記漁業被害量(㎏)及び被害の月は,漁協組合員らの申告に基づくものである。

(甲G25)

短期開門調査時の環境の変化
(この項において特記しない限り,年はいずれも平成14年である。)

潮流
諫早湾と周辺海域で海水導入期間中に潮流調査を実施したところ,この時期の潮流の流向,流速及び平均大潮期潮流ベクトルは,平成13年度の7月の観測結果とよく似た傾向を示した。
なお,海水導入時及び排水時の潮流は,海水導入時よりも排水時の方が大きく影響を受けており,潮受堤防に近い観測地点ではその傾向が顕著にあらわれたが,湾央部の観測地点ではその影響はみられず,排水量の増加による影響は湾奥部にとどまり,湾央部のB3地点までは及んでいないと考えられた。


(甲A2-50~56頁)

SS(浮遊物質量)
短期開門調査時において,本件各排水門は開度90㎝で操作されて
7原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ③~⑥(原告らの主張する漁業被害の具体的機序について)
いたところ,
湾奥部のS1地点のSSの値は,
以下のように変化した。


海水導入前(4月1日~同月23日)
表層及び底層とも,4月1日,同月8日,同月15日の3回の測
定では,
6~13㎎/Lの範囲で変動していたところ,
同月22日に
は,表層・底層とも7㎎/Lとなった。



海水導入中(4月24日~5月20日)
表層は,4月30日に16㎎/L,5月7日に9㎎/L,同月13日に13㎎/L,同月20日に7㎎/Lとなった。底層は,海水導入後に上昇し,同月13日に23㎎/L,同月20日に11㎎/Lとなった。



海水導入終了後(5月21日~12月10日)
表層は5~30㎎/L,底層は8~18㎎/Lの範囲で変動した。(甲A2-193~197頁)


濁度
濁度は,海水導入前は,概ね10で推移したが,海水導入中は,湾奥部のS1地点の表層で4~12(平均8)
,底層で6~39(平均1
7)湾央部のB3地点の表層で2~7

(平均2)底層で5~12

(平
均8)
,湾口部のB4地点の表層で2~6(平均3)
,底層で4~38
(平均7)という値で推移した。
なお,上記の測定値は,1回/時または1回/日の値であるところ,S1地点(湾奥部)及びB3地点(湾央部)では,海水導入期間中に連続観測が行われた。S1地点の最大値(連続観測による値。以下同じ。
)は,海水導入の開始から4月29日までは500以上に上昇し,4月26日には900程度まで上昇しており,4月30日以降の排水時は,200以下であった。一方,B3地点(湾央部)においては,200,150の値が各1回観測されたほかは,50以下で推移し,
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
S1地点(湾奥部)で観測されたような高い値は観測されず,本件各排水門からの排水に伴う変化も明瞭には認められなかった。
海水導入終了後は,湾奥部のS1地点の表層で2~18
(平均6)

底層で3~50(平均16)
,湾央部のB3地点の表層で1~10(平
均3)
,底層で2~23(平均7)
,湾口部のB4地点の表層で1~1
1(平均3)
,底層で1~10(平均6)と推移した。
(甲A2-178~192・220~222頁)
海域のSSと濁度とは,SS(㎎/L)=濁度/0.5636という相関関係(相関係数r=0.94。相関係数とは2つの確率変数の間の類似性の度合いを示す統計学的指標である。
)にあったところ,
S1
地点(湾奥部)においては,開門直後の4月26日の排水時には濁度の最大値が900程度まで上昇しており,4月30日以降の排水時にみられた最大値は200以下であったところ,これらの濁度を上記式によりSSに換算すると,開門直後の4月26日の最大値1600㎎/L程度,4月30日以降の最大値354㎎/L以下となる。また,B3地点(湾央部)については,開門後355㎎/L,266㎎/L程度のSSが各1回推計され,
その他は,
89㎎/L程度以下で推移したと
推計される。
なお,現状において,本件各排水門の排水時には300~400㎎/LのSSの上昇が観測されている。
(乙A32の1_6.2.1-27頁)

塩分(塩化物イオン濃度)
諫早湾における短期開門調査時の塩化物イオン濃度の変化は,以下のとおりである。


海水導入前(4月1日~同月23日)
表層では,海水導入前に湾奥部(北部排水門付近)のS1地点で

7原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ③~⑥(原告らの主張する漁業被害の具体的機序について)
4月15日に1万7000㎎/Lであったものが,同月22日には1万2000㎎/Lまで低下したのに対して,
湾央部のB3地点,

口部のB4地点では4月15日には著しい低下はみられず,海水導入直前の4月23日には各地点とも1万4000~1万5000
㎎/L程度であった。
一方,底層は,湾央部のB3地点及び湾口部のB4地点では1万
7000~1万8000㎎/Lの範囲で推移していたのに対して,湾奥部のS1地点では,1万4000~1万8000㎎/Lの範囲での濃度変化がみられた。


海水導入中(4月24日~5月20日)
表層では,湾央部のB3地点及び湾口部のB4地点がよく似た変
化傾向を示しており,5月1~4日と5月14日にそれぞれ100㎜弱の降雨があった後に,1~3日遅れで塩化物イオン濃度が低下し,5月5日前後と5月18~21日に約1万~約1万2000㎎/Lとなった。5月5日頃は,湾奥部より湾口部の方が,塩化物イオン濃度が低かった。これに対し,北部排水門付近のS1地点では,B3地点(湾央部)及びB4地点(湾口部)で塩化物イオン濃度の低下がみられた時期以外にも2回
(4月28日,
5月10日の前後)
にわたり大きな濃度低下がみられるなど,上記2地点とは異なる変化傾向を示した。なお,5月5日前後の上記3地点での表層の塩化物イオン濃度の低下は,小潮期であり,5月3日の夜以降,本件各排水門からの排水が行われていない時期であった。
底層では,湾央部のB3地点,湾口部のB4地点で1万6100
~1万8000㎎/Lの範囲でほぼ安定して推移したのに対し,北部排水門付近(湾奥部)のS1地点では,5月5日前後及び同月19日,20日には,表層とともに底層でも塩化物イオン濃度の低下
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
がみられた。


海水導入終了後(5月21日~12月10日)
海水導入終了後は,S1地点(湾奥部)
,B3地点(湾央部)及び
B4地点(湾口部)とも,底層は,1万6300~1万7800㎎/Lの範囲で推移していたのに対し,
表層は,
上記3地点とも海水導
入終了直後に約1万1000㎎/Lであったものが,6月3日には1万7000㎎/L程度に上昇した。
(甲A2-153~159頁)



降水量
海水導入前と海水導入中の降水量は,平年値(昭和57年~平成
13年の20年間の平均)
よりも,
それぞれ,
海水導入前1.
9倍,
海水導入後1.1倍と多く,これらの期間を通じて平年の約1.5倍程度の降雨があった。


(甲A2-31頁)

堆積
短期開門調査報告書
(甲A2)には,諫早湾における浮泥等の堆
積量に関する記載はない。農林水産省農村振興局作成の開門調査に伴う魚介類の漁獲高減少に係る因果関係(乙A17-14頁)によれ
ば,
海水導入後の5月2日から6月6日までの間,
漁協の組合員から,
養殖場に汚泥が溜まっている養殖場の砂が黒くなっている」ヘ
,「,ドロの堆積があるといった申し出があった。
底質については,湾奥部のS1地点,S6地点,S7地点及びS8地点では,平成13年度及び海水導入前と同様に粘土分とシルト分が主体であり,粒度組成は年間を通して変化が少なかった。湾央部のS12地点(北側)
,B3地点(中央)
,S13地点(南部)のうち,S
12地点及びB3地点は,シルト分と粘土分が主体であり,平成13年度及び海水導入前と同様に,粒度組成の変化は少なかった。S12
7原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ③~⑥(原告らの主張する漁業被害の具体的機序について)
地点,S13地点は,平成13年度も,開門の前後も,粒度組成の変動が大きかった。湾口部のB4地点(北側)は,シルト分と粘土分が主体であり,B5地点(南側)は,砂分が主体であり,いずれも粒度組成に大きな変化はなかった。
硫化物については,海水導入直前の4月10日と直後の5月25日では,湾央部南側のS13地点,湾口部北側のB4地点を除き,ほぼ同程度か若干減少した。しかし,海水導入終了から2か月以上経過後の7月24日,10月5日には,湾奥部のS1地点及びS6地点(いずれも本件各排水門付近)において,海水導入前,前年度と比較して増加した。湾央部のS12地点(北側)では,前年度と比較して10月に高かったが,海水導入前と同程度であった。
また,
S13地点
(南
側)では,前年度及び海水導入前と比較して,7月に高かった。
化学的酸素要求量(COD)については,湾奥部ないし湾口部にかけて大きな変化はみられなかった。
(甲A2-240・241・245・247頁)
短期開門調査時のアサリ及び魚類等の漁業被害の機序に関する見解農林水産省農村振興局は,平成14年4月1日から同年11月29日にかけて,アサリ・タイラギの事前・事後調査をし,短期開門調査をした際にアサリ養殖の漁業被害や魚類の漁業被害が生じた原因についての見解をまとめた。漁獲量減少の複合要因となる他の因子について,①諫早湾岸において,公共工事等は実施されていないこと,②降雨量が平年と比較して4月が157%と多く,6月ないし9月は34%ないし71%であったこと,③水温について過去のデ-タと平成14年のデ-タに大きな相違はないこと,④赤潮については,平成14年の発生件数は過去5年間の発生件数の中では少なかったことを挙げた。
そして,短期開門調査時に行われた被告の調査によって,アサリのへ
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
い死が確認され,そのへい死率には明らかな差があったところ,アサリにへい死が生じた原因として,①調整池への海水導入及び排水の繰り返しが平成14年4月24日ないし同年5月20日の期間に行われ,この間に,湾奥部においては大きく4回の塩化物イオン濃度の低下があったことにより,アサリの潜砂が鈍ったこと,②濁度,浮遊物質の拡散により,アサリの殻開閉運動の鈍ったこと,③浮遊物質等がアサリ漁場の低平地への沈着及び堆積したことが挙げられ,これらの複合要因により,アサリの衰弱によるへい死が生じたものと考えられる旨報告した。魚類の漁獲量が減少した原因としては,①低塩分水と濁り,浮遊物質の拡散による魚類の忌避行動,②一過性に大量の海水導入と排水を頻繁に繰り返したことにより,諫早湾内の魚類が忌避,③調整池への海水導入により,海水性魚類が調整池でへい死したことにより,漁獲量が減少したものと考えられる旨報告した。

(乙A17)

アサリ及び魚類等の漁獲量の変動

アサリの漁獲量
昭和60年度から平成18年度までの小長井漁業地域のアサリの
漁獲量(t)は,別紙113記載のとおりである。本件締切りよりも後の平成9年ないし平成18年までについてみると,220tから708tまで変動しており,
この間の平均漁獲量は約430tであった。
他方で,
短期開門調査が行われた平成14年及びその翌年の漁獲量は,
404t,
552tであった。


(乙A53-5・11頁)

魚類の漁獲量
昭和60年度から平成18年度までの小長井漁業地域及び国見漁
業地域の魚類の漁獲量(t)は,別紙114記載のとおりである。本件締切りよりも後の平成9年ないし平成18年までについてみると,小長井漁業地域が11tから27tまで変動しており(平均漁獲量2
7原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ③~⑥(原告らの主張する漁業被害の具体的機序について)
1.2t)
,国見漁業地域は6tから72tまで変動した(平均漁獲量
34.3t)
。他方で,短期開門調査が行われた平成14年及びその翌
年の漁獲量は,小長井漁業地域が22t,26t,国見漁業地域が27t,
16tであった。

(乙A53-2・9頁)

平成14年度の赤潮の発生状況
諫早湾では,平成14年7月24日から同年8月6日まで最大面積20㎢の赤潮が発生し,同年7月29日から同年8月1日まで赤潮(最大面積不明)が発生したが,赤潮による漁業被害は確認されなかった。なお,湾奥部,湾口部において同年7月,8月に貧酸素現象が一時的に確認された。

(甲A2-166頁,甲G17の3)

調整池及び諫早湾の漂流物(塵芥)の状況
調整池では,平成23年8月23日及び同月24日の大雨により,相当量の流木等の塵芥が堆積した。
また,諫早湾の小長井町では,平成24年7月11日ないし同月14日の九州北部の豪雨により漂流した流木が,ナルトビエイによる捕食からアサリを守るために設置している防護網やカキ筏に絡まったことがあった。

(甲G13,15,34)

ケース3-2開門において被告の予定する事前対策

事前対策の内容
被告は,事前対策として,①汚濁防止膜の設置,②汚濁防止膜による栄養塩類の供給阻害の防止,③漁場の監視,④海底清掃の実施,⑤アサリ漁場の耕耘や作澪,⑥ゴミの監視及び回収を行うこととしている。


汚濁防止膜について


汚濁防止膜の機能,設置方法等
汚濁防止膜は,テント地等が用いられ,素材の性質上,透水係数

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
が低い(10-2㎝/s程度)
。汚濁防止膜の仕組みには,自立式(海
底面からフロートで膜を立ち上げるもの)垂下式

(海面のフロート
から膜を垂下するもの)等がある。汚濁防止膜は,汚濁防止膜の囲い込みによる流速低減効果,汚濁の一時貯留効果,整流効果及び導水効果により,汚濁粒子の沈下を促進させ,汚濁拡散を適切に防止するという機能を有するとされる。関西国際空港の空港用地造成等の際,水中工事によって巻き上げられる堆積土砂が拡散して周辺の環境を損ねることを防ぐために汚濁防止膜が利用されたことがあ
る。短期開門調査でもS1地点,S6地点付近に設置された。汚濁防止膜を供用するに当たっては,想定される汚濁粒子の負荷,自然条件及び設置条件に応じて,これらの効果を数値シミュレーションにより適切に評価し,予測される性能を満足するように構造物全体や各構成部材,設置形状等の諸元を適切に設定する必要がある。
固定式垂下型汚濁防止膜は,
流速0.
5m/s以下が設置条件とさ
れており,海底に設置する自立式の汚濁防止膜についても,概ね同様の設置条件であると推認される。
(甲A2-187頁,甲G31~33)


汚濁防止膜の効果についての予測
被告は,海底に設置する仕様(自立型)の汚濁防止膜の設置に
よるSSの低減効果についてシミュレーションを行った。その結
果は,別紙115のとおりである。すなわち,本件各排水門付近
に汚濁防止膜を設置した場合,その背後域にあるP3地点及びP
7地点では,SSが40㎎/L又は15㎎/L低減され,低減割合はいずれも66%であった。
また,本件各排水門の開度を60㎝に制限し,かつ,汚濁防止
膜を設置した場合,湾奥部北側のP3地点及び湾奥部南側のP7

7原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ③~⑥(原告らの主張する漁業被害の具体的機序について)
地点では,SSを約7割低減する効果があると予測された。
(乙A134,141)


設置予定場所
上記のとおり,汚濁防止膜は,流速0.5m/s以下が設置条件
とされているところ(前記⒜)
,被告が汚濁防止膜の設置を予定す
る地点は,別紙67のとおり,本件各排水門付近の湾奥部,湾奥
部ないし湾央部中央のカキ筏(南区2016号)付近である。
(乙A32の2-73頁)


海底耕耘及び作澪について
海底耕耘は,二枚貝,クルマエビなどの洗砂性の水産生物の漁場,養殖場の底質環境の改善などを目的に,水中用のブルドーザーやトラクターで浅海底,干潟を耕すもので,砂泥の軟化,還元層の酸化促進,栄養塩類の溶出,被覆生物の除去などの効果があるとされている。
また,海域等の底部が流れなどによって浸食され,細長い溝状を
呈している部分を澪というところ,平坦な海底部では,澪の存在によって海水の交換が良くなり,環境が改善されることから,水の交換を良くして貝類等の増殖を促進するために海底に澪を掘る作澪が行われる。
(乙A32の1_6.13.1-558・560頁,乙A78)


検討(事前対策の効果及びその実施の蓋然性)
汚濁防止膜

ケース3-2開門における設置の蓋然性
前記認定事実のとおり,環境アセスメントの予測によると,ケー
ス3-2開門がなされれば,北部排水門付近のS1地点では,最大流速が,表層で0.94m/s程度となり,底層で0.19m/s程度と
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
なるから(前記ウ

a〈329頁〉,北部排水門付近のS1地点では,


表層の流速が汚濁防止膜の設置条件である流速0.5m/sを上回るから,垂下型の汚濁防止膜は設置することが困難とも考えられる。しかし,垂下型の汚濁防止膜は,ケース3-2開門と管理水位及び排水門操作(ゆるやかな排水門操作を除く。
)が同じであった短期開門調
査期間中もS1地点付近に設置されていたものであり,設置方法によっては設置が可能であると考えられる。同様に,自立型の汚濁防止膜も設置可能であると考えられる。
他方,カキ筏(南区2016号)付近及び南部排水門付近(S6
地点)は,前記認定事実のとおり,流速が表層・底層ともに0.5m/s未満になると予測されており(前記ウ

a〈329頁〉,垂下型・


自立型のいずれの汚濁防止膜も設置することができる。

汚濁防止膜の効果
汚濁防止膜の設置は,SSの低減だけでなく,プランクトン等の
成長・増殖に必要な栄養塩類の背後域への供給をも阻害する可能性がある。そうすると,栄養塩類の供給をできるだけ阻害しないように設置した場合のSSの低減効果は,ある程度差し引いて考慮する必要があり,上記被告の予測に係るSSの低減割合のおよそ半分程度の約3割の低減効果であるというのが相当である。


原告らの主張について
原告らは,
被告は,汚濁防止膜をどのように設置するかは,今後漁業関係者と調整するとしているが,そのような調整はされておらず,汚濁防止膜を適切に設置する蓋然性はない旨主張するが,漁業関係者との調整は,SSによる漁業への被害を低減するとともに栄養塩の供給を阻害しないために意見を取り入れるものであり,漁業関係者との調整がされていないからといって,設置が困難であるというこ
7原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ③~⑥(原告らの主張する漁業被害の具体的機序について)
とはできず,原告らの上記主張を採用することはできない。
漁場の監視
漁場の監視(乙A32の1_6.13.1-560頁)は,他の対策を有効適切に実施するためのものであり,これ自体に漁業被害の防止効果があるということはできない。
海底清掃
海底清掃(乙A32の1_6.13.1-560頁)は,本件開門によって生じるどのような悪影響を低減することとなるのかが明らかでなく,考慮することはできない。
海底耕耘・作澪
耕耘は,海底に生息するアサリ,カニ(ガザミ)及びイイダコには,底質の悪化による悪影響に対して一定の効果があると考えられるが,堆積等にどのような効果があるのか不明であり,考慮することはできない。
また,作澪は,アサリ養殖場等の漁場環境を改善する効果があると思われるが,本件で問題となっている堆積等にどのような効果があるのか明らかではなく,考慮することはできない。
ゴミの監視及び回収
ゴミの監視及び回収は,豪雨等により流出する塵芥の量に鑑みれば,アサリの養殖場に流れ着いて防護網を破ったり,カキ筏に絡まったりするという被害が発生する前に,ゴミ等の漂流物を全て除去することは困難であり,その効果は一定程度にとどまる。

小括(原告らの主張する漁業被害の具体的機序について)
以上のとおりの本件各排水門の開門(調整池に海水の浸入を伴うもの)による漁場環境の変化(環境アセスメントの予測及び短期開門調査時)並びに被告が予定している事前対策の効果及びその実施の蓋然性についての
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
検討を踏まえて,以下,アサリ,カキ,ノリ及びその他の魚介類(スズキ,カニ〈ガザミ〉
,イイダコ)の漁業のそれぞれについて,その漁法・
生態を明らかにし,短期開門調査時の被害の原因等を検討した上で,個別に,これらの漁業についてケース3-2開門による漁業被害が生じる高度の蓋然性があるか検討する。
妨害のおそれ③(アサリ養殖)

認定事実
証拠(事実の後に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
アサリ養殖業の概要
目録4-1番~27番,37番~43番,45番の各原告は,別紙66の区画漁業欄記載の漁業行使権に基づき,諫早湾内(位置は別紙17記載のとおり)において,アサリ養殖の漁業を行っている(前記イ
a〈317頁〉。

アサリ養殖は,本件締切り前は,春頃に水深の浅い干潟の漁場に種貝
をまいていた(種入れ)が,近年では10月から11月頃に種貝を購入して種入れをし,漁場管理をして翌年2月から3月頃に収穫することが多い。
アサリの生態
アサリは,卵,浮遊期,稚貝期,成貝期,産卵期という生活史をたどる。産卵期は,4月上旬から6月及び10月上旬から11月の2回であり,産卵盛期は5月及び11月である。浮遊期は,ふ化後2~3週間ほどであり,風浪潮流により分散・浮遊した後,稚貝期に,干潟や浅海域の砂泥底に着底する。成貝期には,淡水の影響のある塩分のやや低い干潟等に多くみられ,稚貝に比べると移動は少ない。
アサリは,珪藻類等の有機懸濁物やデトリタス(動植物プランクトン
7
原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ③(アサリ養殖)

の死骸,
水生動植物の破片等,
水中に懸濁している細かい有機物のこと)
をえらでこして摂餌する。なお,貝類には,海水中の有機懸濁物やデトリタス等をえらでこしながら摂餌することで,水をろ過する能力があるところ,そのろ過率のことをろ水率という。ろ水率は,摂餌量の指標とされるが,ろ水率の低下が直ちにアサリの生存への影響を示すものではないと考えられる。

濁りに関する知見
成貝期は,300~500㎎/LのSSでろ水率に影響があらわれ,濁りが長期間継続すれば,
300㎎/L以下のSSでも影響があらわれ
る可能性がある。また,卵は一般に濁りに弱いとされている。


塩分に関する知見
浮遊期は,15‰以下では変態まで達する個体はなく,正常な発生のためには20‰以上の塩分が必要とされる。稚貝期(殻長0.3㎜の個体)
は,
淡水に6時間冠水すると全滅する。
成貝期は,
塩分20‰
以下で生理的影響を受ける。96時間暴露で塩分15‰以上ではへい死しなかったが,10‰以下ではほぼ全滅し,低塩分になるほど,また小型固体ほど,影響があらわれる(なお,10‰,15‰,20‰の塩分濃度は,
塩化物イオン濃度に換算すると,
順に約5535㎎/L,
約8303㎎/L,約1万1070㎎/Lとなる。。



泥等の堆積に関する知見
アサリは,河川からの出水等の際の一時的に堆積する泥分による被泥厚が,殻長の2~3倍に達すると100%へい死する。稚貝は,急激な砂面の低下に対しては砂中を潜行し,急激な砂面の上昇に対しては砂中を這い上がる傾向がある。稚貝は,緩やかな砂面の上下動に対して,水管を伸縮させながら常にその先端部を砂面直上に出す行動を示すことが観測される。

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
(甲A103,乙A32の1_6.13.1-107~109・355頁,乙A32の1_参考-147頁,乙A162)

検討1(短期開門調査期間中のアサリのへい死の機序)
以下,アサリについて,短期開門調査の実施された平成14年にへい死が発生した原因,すなわち,その機序について検討する。
アサリのへい死とその原因に関する農林水産省農村振興局の見解
前記認定事実のとおり,農林水産省農村振興局は,短期開門調査時に行われた被告の調査によって,アサリのへい死が確認されたが,そのへい死率にはそれまでと明らかな差があった旨報告した。
農林水産省農村振興局は,そのへい死の要因として,調整池への海水導入及び排水の繰り返しが平成14年4月24日から同年5月20日までの期間に行われ,この間に,湾奥部においては大きく4回,塩化物イオン濃度が低下したことにより,アサリの潜砂が鈍ったこと,濁度,浮遊物質の拡散により,アサリの殻開閉運動が鈍ったこと,浮遊物質等がアサリ漁場の低平地への沈着及び堆積したことを挙げ,これらの複合要因により,アサリの衰弱によるへい死が生じたものと考えられる旨報告した(前記


〈339頁〉。


アサリ被害調査期間中の漁場環境の変化
前記認定事実のとおり,アサリ被害についての調査が,海水導入期間中から海水導入終了後までの平成14年4月24日から同年11月29日までの期間に行われ(前記


〈339頁〉,その期間中には,アサ


リへの影響が考えられる以下のaないしdのような環境の変化があった。a
SS(浮遊物質量)及び濁り
前記認定事実のとおり,短期開門調査時の1回/時又は1回/日の測定では,海水導入前後を通じてほとんどSSの変化がみられず,いずれの測定値もアサリのろ水率に影響を与える300~500㎎/Lを
7
下回っていた(前記


原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ③(アサリ養殖)

b〈334頁〉)。また,濁度については,S

1地点(湾奥部)及びB3地点(湾央部)等において,海水導入期間中に連続観測が行われ(濁度からSSのピーク時の濃度を推計することができる。),湾奥部のS1地点では,ピーク時に1600㎎/L程度のSSが推計された(前記


c〈335頁〉)。これが湾奥部のア

サリのへい死の重要な要因の一つと考えられるものの,湾央部のB3地点で観測されたSSは,最大で354㎎/L程度であり,約89㎎/L程度で推移しており,湾奥部のS1地点のような高い値は推計されていないことからすれば,湾央部,湾口部においてアサリのへい死が発生した原因を,短期開門調査(海水導入)による一時的なSSの上昇によって全て説明することは困難である。SSの上昇は,アサリの被害が生じた要因の一つにとどまる。

塩分濃度の変化
前記認定事実のとおり,平成14年4月,5月(海水導入前から海水導入中)を通じて,平年の約1.5倍の量の降雨があり,同年5月に低塩分濃度の水
(表層1万~1万2000㎎/L=18.

1~21.
6‰)が湾口部から湾奥部にかけて流入した。これらの塩分濃度は,アサリの発生に必要な塩分濃度(20‰)を下回るもので,成貝期でも生理的影響を受ける濃度である
(前記ア
5月)は,アサリの産卵期で(前記ア

)また,

この時期
(4月,


,通常は産卵の疲弊により環

境悪化への耐性が下がるから,低塩分濃度の水が,アサリのへい死に一定の影響を与えた可能性がある。
もっとも,前記認定事実のとおり,上記塩分濃度の低下は,本件各排水門から排水が行われていない時期にもみられ,湾口部の方が,塩分濃度が低かったこともあったことからすれば(前記


d〈336

頁〉,本件各排水門からの排水だけでなく,有明海北西部からの低塩)

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
分濃度の水の流入が寄与していると考えられる。また,本件各排水門からの調整池の淡水を排水することによる塩分濃度の一時的な低下は,現状でも生じるもので(前記


c〈331頁〉,降雨の影響は避け


られず,直ちに短期開門調査の開門(海水の導入)の影響で低塩分濃度の水が生じたということはできない。
なお,原告らは,アサリが生息するのは,底層であるから,表層の塩分濃度をもってアサリへの影響を検討すべきではない旨主張する。しかし,前記認定事実及び証拠(甲A2-158頁,乙A32の1_6.2.3-21・50・51頁等)によれば,塩分については,塩分の比重のため水深によって概ねの濃度分布があり,アサリは水深の浅い干潟に生息し,養殖されるものである(前記ア

)から,塩分と

の関係では,表層の塩分濃度をもって検討すべきである。

赤潮及び貧酸素水塊
前記認定事実のとおり,平成14年の夏季には,最大面積20㎢の赤潮が14日間,最大面積不明の赤潮が4日間にわたって発生した。明確な漁業被害の申告はなかったものの,8月には貧酸素水塊
7,
(現
象)が一時的に確認された(前記

ウ〈341頁〉。そして,短期開門


調査時の漁業被害は,7月,8月に多く申告されているもので(前記ウ
〈334頁〉,赤潮に関連する漁場環境の悪化が,アサリのへい


死に影響を及ぼした可能性がある。

ヘドロの堆積等
前記認定事実のとおり,短期開門調査時の平成14年5月2日から同年6月6日には,漁協組合員からアサリ養殖場にヘドロ様の黒い泥が堆積していたなどの申し出があったところ
(前記



〈338頁〉,


このヘドロ様の黒い泥は,調整池に由来するものである可能性が相当程度高いものの,これが同年4月,5月頃の平年の約1.5倍の降雨
7
原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ③(アサリ養殖)

時に,淡水を大量に排水してもたらされたものか,調整池に海水を導入したことによって流出が誘発されたのかは明らかでない。
また,湾奥部のS1地点では,海水導入直後には,生物に有害な硫化物の上昇はみられなかったのに対し,海水導入終了後の7月や10月には,前年度や海水導入前よりも増加しており,硫化物の増加によるアサリへの影響も考えられるものの,
硫化物増加の時期からすれば,
短期開門調査時の開門との関係が高いということはできない。
さらに,前記認定事実のとおり,短期開門調査時の堆積量は不明であり(前記


e〈338頁〉,環境アセスメントのケース3-2開


門の際の予測では,堆積量は,1年目が数㎝であるから(前記


d〈333頁〉,短期開門調査時の堆積量は多くても同程度と考えられ)
る。そして,このようにゆるやかな堆積であれば,アサリは砂の上に這い上がったり,水管を伸ばしたりして生存することができる(前記ア
)から,堆積によるアサリのへい死への影響の程度は不明といわ

ざるを得ない。
アサリの漁獲量の変動
前記認定事実のとおり,アサリの漁獲量は,平成9年から平成18年までの10年間に220tから708tまで大きく変動しており,この間の平均漁獲量は約430tである一方で,短期開門調査が行われた平成14年及び15年の漁獲量は,404t,552tとなっており,年ごとの変動の範囲内にとどまり,平成15年の漁獲量は,552tと平均漁獲量を大きく上回る(前記


a〈340頁〉。


短期開門調査時の開門(調整池への海水導入)とアサリへい死の機序アサリのへい死が生じた原因としては,短期開門期間中に生じた漁場環境の変化,すなわち,①SSの上昇,②塩分濃度の著しい低下,③赤潮,④ヘドロの堆積等が考えられる(前記



)。

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
しかし,前記のとおり,①のSSの上昇は,短期開門調査の海水導入期間中に一時的なSSの急上昇が観測された湾奥部のアサリのへい死と関連性があると考えられる一方,湾央部から湾口部においては,湾奥部のようなSSの急上昇が観測されていないから,短期開門調査の海水導入によって全てを説明することは困難である(前記

a)。④のヘドロ

の堆積等は,堆積物が調整池に由来する可能性が相当高いが,これが諫早湾に流出した原因が明らかでないほか,堆積量が不明(環境アセスメントの予測では,短期開門調査と管理水位が同じであるケース3-2開門の1年目に数㎝程度の堆積があるとされているにとどまる。)であるから,
アサリのへい死への影響は不明といわざるを得ない
(前記

d)


そして,②の塩分濃度の著しい低下及び③の赤潮は,アサリのへい死に対し,一定の影響を及ぼしたと考えられるものの(前記

b,c),

そのうち,②の塩分濃度の著しい低下は,当時平年の1.5倍の降雨があったことや,調整池からの排水が行われていない時期に塩分濃度の低下がみられ,有明海北西部からの低塩分濃度の水の流入が寄与したと考えられることに照らすと,
短期開門調査
(海水導入による排水量の増大)
によってもたらされたとまではいうことができない
(前記

b)また,


③の赤潮は,諫早湾において少なくとも短期開門調査後,毎年発生しているものであり(前記

イ〈309頁〉),本件において短期開門調査と

赤潮の発生の時期の符合のみでその機序の証明があるということはできない。
また,平成14年度のアサリの漁獲量は,年ごとの変動の範囲内であること(上記

)からすれば,短期開門調査における本件各排水門の開

門とアサリの被害との関係は,なお明らかでないところが多いというべきである。
そうすると,短期開門調査における海水導入が,アサリのへい死率に
7
原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ③(アサリ養殖)

影響を与えたというにはなお疑問が残るものであって,短期開門調査をした(調整池に海水を導入した)ことによって,短期開門調査期間中にアサリ及び魚介類等の被害が生じたことの機序が証明されたということはできない。
そこで,以下,ケース3-2開門によってもたらされる環境の変化によって,アサリにどのような影響が生じ,漁業被害をもたらすかを検討する。

検討2(ケ-ス3-2開門による環境の変化のアサリ養殖への影響)潮流の変化とアサリへの影響
アサリについては,潮流,流速の変化によって,成長に影響を及ぼすことが考えられるが,その影響の内容,程度を認めるに足りる証拠は見当たらないから,アサリの被害が生じるということはできない。
SS(浮遊物質量)の変化とアサリへの影響
前記認定事実のとおり,アサリは,300~500㎎/L程度のSSでろ水率に影響を受ける(なお,ろ水率の低下自体は,直ちに生存への影響があるものではない。ところ

(前記ア

a)環境アセスメントでは,


ゆるやかな排水門操作を実施しない場合,湾奥部のS1地点(底層)において,
ケース3-2開門1年目の4月に800㎎/L程度までSSが上
昇し,
その後2回ほど600㎎/L程度まで増加すると予測したが,開門2年目以降は1年目を下回り,最大値が,概ね600㎎/L程度にとどまるものと予測され,
いずれも現状の最大値である1000㎎/Lを下回る
(前記


b〈331頁〉。これは,調整池のSSの低下により,現状の


排水門からの排水時と比較してSSの低下が予測されるからである。以上のとおり,SSが急激に増加するのは,開門直後の一時的なものが主であり,短期開門調査は,このようなSSが急激に増加する短い期間のみ実施されたものである。

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
また,4月,8月,2月のSS(平均)をみると,湾央部及び湾口部の各北側(アサリ養殖場付近)は,湾奥部のS1地点ほどのSSの上昇は,予測されない(前記


b〈331頁〉。


そして,前記認定事実のとおり,被告は,ゆるやかな排水門操作を行うこととしているところ,本件各排水門の開度を60㎝に制限した場合のシミュレ-ション結果によれば,
開度を90㎝に制限した場合に比べ,
SSの最大値が,S1地点(底層)で214㎎/L(対開度90㎝比=約23.2%)減少すると予測されている(前記

イ〈323頁〉。そうす


ると,ゆるやかな排水門操作により,上記環境アセスメントの予測値である600~800㎎/L程度のSSの最大値は,
上記と同様に2割程度
低減するものと考えられる。
また,前記認定事実のとおり,被告は,ケース3-2開門の場合,S1地点において汚濁防止膜を設置することを予定しており,その設置の蓋然性がある。そして,設置の方法として,栄養塩の供給を可及的に阻害しないように設置する方法を選択した場合には,汚濁防止膜の背後域において,SSを3割程度低減する効果があると考えられる(前記

b〈344頁〉。

以上を総合すれば,ゆるやかな排水門操作及び汚濁防止膜の設置の事前対策によって,S1地点(底層)のSSの最大値は,概ね500㎎/L程度を下回る(計算式:800㎎/L×(1-0.2)×(1-0.3))
と考えられ,S1地点からアサリ養殖場まで一定の距離があることを踏まえると,上記のSSの上昇が,アサリの生息・成長に影響を及ぼす可能性は否定できないものの,悪影響が生じる高度の蓋然性があるとまではいうことができない。
なお,卵は濁りに弱いとされているものの,アサリの養殖業では稚貝を購入して養殖場にまくという方法が主であり,SSによる濁りが天然
7
原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ③(アサリ養殖)

のアサリの卵に影響を及ぼすことがあったとしても,アサリ養殖業に影響を及ぼすとまではいうことができない。
塩分の変化とアサリへの影響
前記認定事実のとおり,アサリは,20‰以下の塩分濃度で生息に影響を受けるところ
(前記ア

b)ケ-ス3-2開門により,

4月,
8月,

2月の平均塩分濃度(表層)は,24‰~30‰程度の塩分濃度で推移すると予測される(前記


c〈331頁〉
。なお,海洋の平均塩分は3

5‰である。。ケース3-2開門による塩分濃度の低下は,アサリの成)
長に何らかの影響を与えるとは考えられるものの,生息に影響があるということはできない。
他方,夏季の出水期の塩分濃度は,湾奥部では,現状,11‰程度まで低下することがあるのに対し,ケース3-2開門による海水導入によって17‰程度までの低下にとどまると予測されるから(前記

ウc
〈331頁〉,ケース3-2開門によって塩分濃度低下のアサリへの悪影)
響が,現状より緩和される可能性がある。
そうすると,ケース3-2開門による上記の塩分濃度の変化は,アサリに悪影響があるとまでいうことはできない。
堆積の変化とアサリへの影響
前記認定事実のとおり,ケース3-2開門では,アサリ漁場周辺の諫早湾北部には,1年目に数㎝程度の堆積が見込まれるが,現況では泥分が比較的高い泥質であるため,泥質の堆積による底質の変化はほとんどないと予測される(前記


d〈333頁〉。また,このようなゆるやか


な堆積については,アサリは,ゆっくり底を這い上がるか,水管を伸ばして生息することができる(前記ア

c)


そうすると,上記の堆積の変化は,アサリの生息・成長に影響がある可能性は否定できないものの,悪影響が生じる高度の蓋然性があるとま
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
でいうことはできない。
ゴミ,流木の漂流等とアサリ養殖業への影響
前記認定事実のとおり,平成23年あるいは平成24年にアサリ漁場に流木等が漂流し,アサリの防護網に絡まったことがあったものの(前記ウ
〈341頁〉,これらの流木等が有明海側から運ばれた可能性も


あり,現状でも,本件各排水門からの排水時に調整池内の流木等が流れ出るおそれはある。そして,ケース3-2開門の海水導入に伴う排水量の増加によって流木等が増加するとしても,被告は事前対策としてゴミの監視及び回収を予定しており,その効果には限界があるものの(前記エ
〈345頁〉,ケース3-2開門による増加分程度は,被害発生前)

に回収することは可能であると考えられる。
したがって,ケース3-2開門によって,上記のゴミの漂流等によって漁業被害が生じる高度の蓋然性があるということはできない。
その他の要因
前記認定事実(前記ア

,前記


〈310頁〉
,前記


b〈331

頁〉
)のとおり,アサリの餌となる植物プランクトンについては,ケース3-2開門によって植物プランクトンの量の指標となるクロロフィルaは湾奥部から湾口部にかけて,2㎍/L程度の増減が予測されるものの,これをもって直ちに餌が不足するということはできない。その他の餌であるデトリタス(動植物プランクトンの死骸や水棲動植物の破片等)の増減は不明であるが,性質上,底層に存在するものと考えられ,ケース3-2開門では湾奥部から湾口部にかけては,底層のSSの上昇が予想され,これに伴いデトリタスも増加すると考えられるから,特に減少するということはできない。

妨害のおそれ③(アサリ養殖)について
以上のとおり,目録4-1番~27番,37番~43番,45番の各原
7
原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ④(カキ養殖)

告は,漁業行使権に基づき,諫早湾内において,アサリ養殖の漁業を行うところ,ケース3-2開門によって漁業被害が生じる高度の蓋然性があるということはできない。
妨害のおそれ④(カキ養殖)

認定事実
証拠(事実の後に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
カキ養殖業の概要
原告漁業者らのうち目録4-1番,
2番,
4番~6番,
8番~11番,
13番,14番,16番~18番,20番,21番,25番の各原告は,別紙66の区画漁業欄記載の漁業行使権に基づき,諫早湾内(上記区画漁業に係る区域の位置は別紙17記載のとおり。において,

カキ養
殖の漁業を行っている(前記


b〈317頁〉。


カキ垂下式養殖業の養殖サイクルは,11月から翌年1月頃に種貝を購入して6月頃まで水槽で育苗し,その後,養殖場でロープに付着させたカキをカキ筏から垂下し,収穫まで掃除やカキ殻の付着物の除去等を行い,11月頃から4月頃まで収穫が続けられる。カキ筏は,流速1.0m/s程度以上の場合に被害(カキ筏の流出,破壊,沈没)を受けるとされる。
カキの生態
自然のマガキは,卵,
浮遊期,
稚貝期,
成貝期という生活史をたどる。
有明海では,5月上旬から11月上旬に産卵(浮遊卵)がある。浮遊期は,比較的表層に生息する。稚貝期は,多くは水面下15㎝程度に最もよく付着し,深いところでもほとんどが0~1m程度に生息する。成貝期は,内湾の湾奥部中小河川の河口付近で干潮時に干出する岩礁に生息する。

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
カキは,珪藻類等のプランクトンをえらでこして摂餌する。

濁りに関する知見
成貝期は,濁り(成分不明)2~20㎎/Lで,ろ水量に影響があるとされているが,アサリと同様,ろ水量(率)の低下自体は直ちに生存への影響があるものではない。
なお,現況でも本件各排水門の排水時には300~400㎎/LのSSの上昇が観測されており(前記


〈324頁〉,この程度の一


時的な濁りは,直ちにカキの生息・成長に影響を及ぼすものではないということができる。そして,カキは,アサリと同様に植物プランクトンをえらでこしながら摂餌するものであり,
アサリが300㎎/L程
度のSSでろ水率に影響を及ぼすことがあることからすれば,300㎎/L程度のSSを,
カキの生息・成長への影響の目安とするのが相当
である。

塩分に関する知見
マガキの生息域の塩分は,卵が23.3~32.5‰,浮遊期が27~33.
5‰
(下限値は20.7‰)稚貝期が27~33.5‰

(下
限値20.7‰)であり,成貝期の適塩分域が11~32‰である。(甲A103,甲G8,14,乙A32の1_6.13.2-6・10~13頁)


検討(ケ-ス3-2開門による環境の変化のカキ養殖への影響)
潮流の変化とカキ養殖業への影響
前記認定事実のとおり,カキ筏は,流速1.0m/sで被害があるものとされているところ(前記ア


,ケース3-2開門では,北部排水門付

近のS1地点(表層)で最大流速は0.94m/sと予測されており,流速は,概ね排水門付近が速く,排水門から離れるに従って低下するから(前記


a〈329頁〉,排水門から一定の距離があるカキ養殖場付


7
原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ④(カキ養殖)

近(別紙17)では,S1地点よりも流速が低いと考えられる。
そうすると,上記流速の変化によって,カキ養殖業に影響がある可能性は否定できないものの,悪影響が生じる高度の蓋然性があるとまではいうことができない。
SS(浮遊物質量)の変化とカキへの影響
前記認定事実のとおり,カキの生息・成長に影響を及ぼすSSは,アサリと同程度の300㎎/L程度を目安とするのが相当である(前記ア)

カキが養殖されている表層では,ケース3-2開門によりSSの平均値は若干上昇するものの,最大値は,S1地点(湾奥部)
,B3地点(湾
央部)
,B4地点(湾口部)のいずれも現況を下回るか,同程度と予測されている(前記


b〈331頁〉。


そうすると,上記SSの上昇によって,カキの生息・成長に影響がある可能性は否定できないものの,悪影響が生じる高度の蓋然性があるとまではいうことができない。
塩分の変化とカキへの影響
前記認定事実のとおり,カキ養殖では,種貝を購入して水槽で育てた後に養殖場へ移動するところ,
稚貝期の塩分濃度の下限値は,
20.
7‰
とされている(前記ア

b〉。そして,前記のとおり,ケース3-2開


門をする場合の諫早湾の塩分濃度は,現況より,表層で5~10‰の低下が予測されるが,
出水期を除いて上記20.
7‰を下回ることはなく,
出水期は現況の最小11‰よりも高い最小17‰程度となると予測されている(前記


c〈331頁〉。


そうすると,上記塩分の変化によって,カキの生息・成長に影響がある可能性は否定できないものの,悪影響が生じる高度の蓋然性があるとまではいうことができない。

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
ゴミ,流木の漂流等とカキ養殖業への影響
前記認定事実のとおり,平成23年あるいは平成24年にカキ養殖場に流木等が漂流し,
カキ筏に絡まったことがあった
(前記

ウ〈341頁〉


ものの,これらの流木等が有明海側から運ばれた可能性もあり,現状でも本件各排水門からの排水時に調整池内の流木等が流れ出るおそれはある。
そして,
ケース3-2開門の海水導入に伴う排水量の増加によって,
流木等が増加するとしても,被告は事前対策としてゴミの監視及び回収を予定しており,その効果に限界はあるものの,ケース3-2開門による増加分については,被害発生前に回収することは可能と考えられ,被害が生じるおそれが高いということはできない
(前記

ウ〈356頁〉。


したがって,本件開門によって,上記ゴミ等の漂流による漁業被害のおそれが高まるということはできない。
その他の要因
カキの餌となる植物プランクトンについては,その量の指標であるクロロフィルaが,湾奥部から湾口部にかけて,2㎍/L程度の増減があるものの,
直ちに不足するということはできない
(前記

イ〈310頁〉。


妨害のおそれ④(カキ養殖)について
以上のとおり,原告漁業者らのうち目録4-1番,2番,4番~6番,8番~11番,13番,14番,16番~18番,20番,21番,25番の各原告は,漁業行使権に基づき,諫早湾内において,カキ養殖の漁業を行うところ,ケース3-2開門によって漁業被害が生じる高度の蓋然性があるということはできない。
妨害のおそれ⑤(ノリ養殖)


認定事実
証拠(事実の後に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

7
原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ⑤(ノリ養殖)

ノリ養殖業の概要
目録4-28番,33番の各原告は,別紙66の区画漁業欄記載
の漁業行使権に基づき,諫早湾内(位置は別紙29記載のとおり)において,ノリ養殖の漁業を行っている。
なお,ノリ養殖において,下記採苗を行っている場所は,別紙79の【ノリ採苗場】である(前記


c〈317頁〉。


ノリ養殖では,9月から支柱の建て込みが始まり,10月中旬頃に水温等の状況をみて採苗(貝殻に付けた糸状体から殻胞子を放出させ,ノリ網に付着させる作業)を行い,順次,ノリ網を養殖場へ張り込む。ノリの成長,養殖場環境及び病気等の状況に合わせてノリ網の移動や網洗い等の管理を行い,
11月中旬頃に秋芽網を残して,
冷凍網を入庫する。
11月下旬から12月末頃まで秋芽網の摘採が行われる。12月末頃から冷凍網に切り替え,ノリの成長,養殖場環境及び病気等の状況を確認しながら4月頃まで生産が続けられる。
ノリの生態
ノリは,採苗期(殻胞子放出期)
,育苗期(幼芽・単胞子)
,幼葉体期,
葉体期という生活史をたどる。
養殖において採苗は,(塩分の指標)
比重
が1.018以上になるノリ採苗場を選んで行われており,10月上旬に海上野外採苗が行われる。採苗は水温24℃未満になる大潮が適期とされ,これまで10月1日以降に行われてきたが,水温が高くなっていることから採苗期が遅くなる傾向にある。
秋に殻胞子がノリ網に付着し,
発芽して葉体になる。育苗は,ノリ採苗場で,水温がおよそ18℃に低下する頃まで続けられる。幼芽期から幼葉体期には単胞子を放出する栄養生殖を行い,単胞子が発芽して再び葉体となる。10月下旬に幼葉期の網の一部を-20℃で冷凍貯蔵する。有明海では,葉体期のノリ養殖は,秋芽網を使ったものが11月初めから12月上旬まで行われ,冷凍
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
網を使ったものが12月下旬から2月まで行われる。

潮流に関する知見
葉体期は,流速0.2m/s強までは,流速の増加とともに生産速度が増し,更に,0.4m/s付近までは流速の増加に伴う生産速度の改善傾向がみられるが,それ以上の流速増加の効果はなく,むしろ0.7m/s付近以上の強流では,むしろ生産速度の阻害要因となる。

濁りに関する知見
採苗期は,濁り(各種粘土粒子による)の殻胞子着生への最低影響濃度は,1.0~5.0㎎/Lである。育苗期については,殻胞子の発芽及び幼芽の成長について,5ppm(なお,海水における1ppmは,概ね1㎎/Lと同じと考えてよい〈被告第10準備書面において援用された債務者第36準備書面1頁〉)まで影響がなく,1。
0ppmで一部成長が遅れる。20ppm以上で明らかに成長が遅れて,二次芽を放出せず,25ppm以上で13日目以降大きい芽から脱落し,二次芽を放出しなくなる。


塩分に関する知見
採苗期について,殻胞子の放出,着生の下限比重は1.012である。育苗期は,幼芽を蒸留水に浸漬後,正常な海水に戻すと,淡水への浸漬が24時間までは障害も比較的少ないが,淡水に30時間以上浸すと障害を起こした幼芽が多くなる。幼葉体期は,葉長が数㎜から4㎝の幼葉期とされる大きさになると,塩分変化や干出による影響を受けにくくなる。低比重(低塩分)と乾燥が重なると障害を受けることがある。
(乙A32の1_6.13.2-8・14~18頁,乙32の1-参考-143頁)


検討(ケース3-2開門による環境の変化のノリ養殖への影響)

7
原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ⑤(ノリ養殖)

採苗場について
原告らは,ノリの採苗は,上記漁業区画における漁業行使権を行使する上で必要不可欠なものであるから,採苗場における被害は,すなわち漁業行使権の侵害にほかならない旨主張する。
しかし,前記のとおり,目録4-28番,33番の各原告は,別紙66の区画漁業欄記載の漁業行使権に基づき,諫早湾内の別紙29記載の区域において,ノリ養殖の漁業を行っているところ(前記ア


,上

記原告らは,これらとは別のノリ採苗場(別紙79の【ノリ採苗場】)に
おいて,採苗を行った後,上記の各漁業区画において,ノリの養殖を行っている。
そして,
漁業権は,
免許を受けることによって,
一定の期間,
一定の海域において,排他的に漁業を営むことができる権利であるところ,このような免許を受けていない海域において,事実上,区画漁業に関連する作業を行っていたとしても,漁業権の効力が当然に及ぶものではない。
そうすると,漁業権の派生的権利である漁業行使権についても,漁業権の免許の際に漁業権を付与されていない海域におけるノリ養殖に対する侵害行為について,漁業行使権に基づく物権的請求権を行使することはできないと解するのが相当である。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
潮流の変化とノリへの影響
前記認定事実のとおり,ケース3-2開門では,漁業行使権に基づくノリの養殖場がある湾口部では,流速はほとんど変化しないから(前記ウ
a〈329頁〉,潮流の変化によるノリの生息・成長への影響があ)

るということはできない。
SS(浮遊物質量)の変化とノリへの影響
前記認定事実のとおり,ケース3-2開門では,漁業行使権に基づく
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
ノリの養殖を行っている湾口部のB5地点では,ノリ養殖を行っている表層において,SS(経時変化)の現況からの変化はほとんどみられない。
また,湾口部のB5地点では,4月,8月,2月のうち,ノリ養殖の期間内の2月,4月のSS(月平均)をみても,現況からの変化はみられない(前記


b〈331頁〉。


そうすると,上記SSの変化によって,ノリに悪影響が生じる高度の蓋然性があるということはできない。
塩分の変化とノリ養殖への影響
前記認定事実のとおり,ケース3-2開門では,漁業行使権に基づくノリ養殖を行っている湾口部のB5地点では,塩分濃度はほぼ変動がない(前記


c〈331頁〉。


そうすると,上記塩分の変化によって,ノリの生息・成長に悪影響が生じる高度の蓋然性があるということはできない。
ゴミの漂流とノリ養殖業への影響
アサリ養殖,
カキ養殖において検討したとおり
(前記


,イ




認定事実によれば,海水導入に伴う排水量の増加に伴って流木等が増加するおそれはあるが,被告の予定する事前対策によってケース3-2開門による増加分程度のものは,被害発生の前に回収可能と考えられるから,上記ゴミの漂流等によって,ノリ養殖に被害が発生する高度の蓋然性があるということはできない。

妨害のおそれ⑤(ノリ養殖)について
以上のとおり,目録4-28番,33番の各原告は,漁業行使権に基づき,諫早湾内の別紙29の区域において,ノリ養殖の漁業を行うところ,ケース3-2開門によって漁業被害が生じる高度の蓋然性があるということはできない。

7
原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ⑥(その他の魚介類の漁業)

妨害のおそれ⑥(その他の魚介類の漁業)

認定事実
証拠(事実の後に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
スズキ漁の概要とスズキの生態

スズキ漁の概要
目録4-29番の原告は,漁業行使権に基づき,共同漁業権に係る南共第1号(位置は別紙18記載のとおり)のうち主に湾央部ないし湾口部において(別紙79)
,底刺網漁業(固定式底刺し網漁業。綱を
固定して魚介類を漁獲する漁法。
)の漁法により,
スズキの雑魚底刺網
漁業を行っている(前記

bイ
d〈318頁〉。


スズキの生態
スズキは,卵,稚仔期,未成魚期,成魚期という生活史をたどる。スズキは,12月から1月にかけて,諫早湾外の島原沖から口之津沖の深みで産卵する。卵は流況により拡散,移動する。稚仔期は河川を含む沿岸で成長し,仔魚は1,2月に沿岸域に,稚魚は3~6月に藻場,河口,河川に分布する。未成魚期及び成魚期は,冬季は深みに移動し,春季から夏季にかけて接岸する。環境アセスメントにおけるスズキの生息分布の予測は別紙126のとおりである。
稚仔期は,かい脚類,枝角類,ユスリカ幼生,エビ類の幼生,魚類の仔魚等の底生生物を摂餌し,成魚になるにつれて魚食性(アユ,カタクチイワシ,マアジ等)となるが,エビやヤドカリ等も摂餌する。⒜

潮流に関する知見
成魚期は,底層流の主流域に多く,潮通しのよい岩礁域などに群
れる。



濁りに関する知見

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
稚仔期には,
SSが50㎎/Lで生残し,成長に影響はないとされ
ており,筑後川河口域の高濁度水塊の下流川外縁の餌が豊富な水域にい集する。未成魚期,
卵,
成魚期の濁り耐性に関する知見はない。


塩分に関する知見
卵の最適塩分域は32.5~35.1‰,適塩分域は31.8~
34.
97‰である。
稚仔期は,3月に10~30‰,
4月には5‰
以下の水域で確認されている。未成魚期,成魚期の塩分耐性に関する知見はない。
(甲G66,67,乙A32の1_6.13.1-58~63頁)
カニ(ガザミ)漁の概要とカニ(ガザミ)の生態

カニ(ガザミ)漁の概要
前記のとおり,
目録4-5番,
29番~31番,
33番の各原告は,
漁業行使権に基づき,共同漁業権に係る南共第1号(位置は別紙18記載のとおり)のうち主に湾央部ないし湾口部において(別紙79),
底刺網漁業(固定式底刺し網漁業)の漁法により,カニ(ガザミ)の雑魚底刺網漁業を行っている。


カニ(ガザミ)の生態
カニ(ガザミ)は,卵,浮遊期(ゾエア幼生,メガロパ幼生)
,稚ガ
ニ期,成体期という生活史をたどる。
産卵は,4月中旬ないし9月中旬頃に,主に島原半島地先のほか,筑後川・塩田川河口沖合の水深5m以浅の海域において行われ,諫早湾には主な産卵場の分布がないと推認される。なお,卵は雌親の腹肢に付着している。
浮遊期(5~9月)は,水深10m~15mにおいて流れにより分散・集積し,夜間,表層に浮上する。稚ガニは,3m以浅の海域に分布し,
有明海では澪筋に沿った傾斜部の砂泥質の海域に多い。
そして,

7
原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ⑥(その他の魚介類の漁業)

主に3m以浅の砂泥底は,有明海東部沿岸に存在し,諫早湾には存在しないから,
稚ガニは,
主に有明海東部沿岸に生息すると推認される。
そして,浮遊期の生息場については,浮遊後に着底した稚ガニは,上記のとおり,主に有明海東部に生息すると推認されること,諫早湾及び有明海の平均流は,カニ(ガザミ)の主な産卵場である島原半島地先や筑後川・塩田川河口沖合の水深5m以浅の海域から諫早湾内に向かう強い潮流はみられず,浮遊期に潮流によって諫早湾内へと移動することは考え難いことに照らせば,諫早湾内にはほとんど生息しないと推認される。
成体期は,
有明海に広く分布しているところ,
諫早湾内においては,
かにかご漁(カニ〈ガザミ〉等をかごで漁獲する漁法)の漁場が,湾奥部から湾口部に存在するから,これらの海域に生息するとうかがわれるものの,
成体期は,
水深10m以深の泥底,
砂泥底に分布が多く,
このような海域は,諫早湾においては湾央部から湾口部に存在することからすれば,湾奥部にはほとんど生息していないと推認される。環境アセスメントにおけるカニ(ガザミ)の生息分布の予測は別紙127のとおりである。
カニ(ガザミ)は,浮遊期(ゾエア幼生)に植物プランクトンや小型甲殻類を,稚ガニ期に端脚類,フジツボ類等を,成体期に巻貝,二枚貝,多毛類等の底生生物を摂餌する。


潮流に関する知見
甲殻類一般は,潮通しがよく,比較的流れの弱いところに生息し
ているものが多い。



濁りに関する知見
浮遊期は,25㎎/Lまでの陸土による濁りは,ゾエア幼生Ⅰ,Ⅱ期の生存に影響を与えず,
25~50㎎/Lで影響が生じる。ゾエア

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
幼生Ⅳ期からメガロパ幼生は,200㎎/Lの暴露量でも影響は少ない。その他の生活史におけるSSへの耐性は不明である。


塩分に関する知見
浮遊期の適塩分域は,ゾエア幼生期で26~36‰である。その
他の生活史における塩分に関する知見は不明である。

(甲G40,66,67,乙A32の1_6.1.1-214・217頁,乙A32の1_3.1-44頁,乙A32の1_6.13.1-47・48・85~89頁)
イイダコ漁の概要とイイダコの生態

イイダコ漁の概要
目録4-31番,36番の各原告は,漁業行使権に基づき,共同漁業権に係る南共第1号(位置は別紙18記載のとおり)のうち主に湾口部において(別紙79)
,イイダコ漁(たこ縄。貝殻を海底に設置し
て魚介類を漁獲する漁法)の漁法により,イイダコの漁業を行っている。


イイダコの生態
イイダコは,
卵,
稚仔期,
未成体期,
成体期という生活史をたどる。
春先に産卵し,大型の貝殻やカキ礁の隙間,あるいは海底に落ちている瓶や食器類等を利用して卵を産み付ける。稚仔は,短時間で海底生活に入り,ふ化後1日すれば,刺激がなければ浮遊行動を示さない。成体期は,外洋水域ではなく,沿岸水帯中にのみ分布し,潮間帯下から水深20m位の礫混じりの砂底を好む。成体期は,諫早湾では,たこ縄の漁場が諫早湾全域(湾奥部から湾口部)に存在するから,湾奥部から湾口部の底層に生息すると考えられる。なお,産卵場所・稚仔期・未成体期の生息場は明らかでないが,概ね成体期と同様と推認される。環境アセスメントにおけるイイダコの生息分布の予測は別紙1
7
原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ⑥(その他の魚介類の漁業)

28のとおりである。


潮流に関する知見
タコ類は,潮通しのよいところに生息している。



濁りに関する知見
イカ・タコ類は,特に濁り及び低塩分を嫌うので,これらの変化
によって影響を受けるおそれがある。



塩分に関する知見
稚仔期は,低塩分に弱く,24時間以内に半数が致死となる塩分
濃度は25‰であり,全滅する塩分濃度は20‰である。イイダコの生存塩分範囲は28.9~35‰である。

(甲G35,66,67,乙A32の1_6.13.1-51・52・103~106頁)

検討1(短期開門調査期間中の漁獲量の低下の機序)
魚類等については,短期開門調査期間中に漁業被害(漁獲量の低下)があったことから,その原因,すなわち,機序について検討する。
魚類の漁獲量の低下とその原因に関する農林水産省農村振興局の見解前記認定事実のとおり,短期開門調査をした際,諫早湾内4漁協が漁業権を共有する南共第1号共同漁業権に基づく諫早湾内(湾奥部,湾央部及び湾口部)における漁業につき,魚類(スズキ,カニ(ガザミ),タ
コ等)の漁獲量の減少が生じ(なお,上記漁獲量の減少は,諫早湾内4漁協の過去3か年平均漁獲量と平成14年の漁獲量との比較である。,)
魚類に係る漁業被害が発生した(前記


b〈321頁〉。


農林水産省農村振興局は,魚類の漁獲量が減少した原因として,①低塩分水と濁り,浮遊物質の拡散による魚類の忌避行動,②一過性に大量の海水導入と排水を頻繁に繰り返したことにより,諫早湾内の魚類が忌避,③調整池への海水導入により,海水性魚類が調整池でへい死したと
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
考えられる旨報告した(前記


〈339頁〉。


短期開門調査時の開門(調整池への海水導入)と魚類等の漁獲量の低下の機序
短期開門調査期間中に魚類等の漁獲量が低下した原因として考えられる漁場環境の変化としては,前記のとおり,①湾奥部でのSSの最大値の上昇,
②塩分濃度の低下,
③赤潮,
④堆積がある
(前記
前記

ウ〈334頁〉


)。

しかし,前記認定事実のとおり,①のSSの上昇については,湾口部及び湾央部ではSSの顕著な上昇がなく(前記


b〈334頁〉),湾

奥部でのSSの最大値の上昇は漁獲に影響を与えた可能性はあるが,魚類等の濁りへの耐性が未解明で(前記ア),その影響の程度は不明である。また,④の堆積について,海底に生息するカニ(ガザミ)及びイイダコがその影響を受けると考えられるものの,堆積量について短期開門調査時の調査結果はなく,環境アセスメントの予測では短期開門調査と管理水位が同じであるケース3-2開門で1年目に数㎝程度の堆積である(前記


d〈333頁〉)。そして,カニ(ガザミ)及びイイダコは,

貝類と比較して移動性が高く,堆積そのものによる影響は小さかったと考えられる。
また,
ヘドロの堆積及び硫化物の増加は,
短期開門調査
(海
水導入)によってもたらされたか明らかではない(前記


d〈350

頁〉)。
そして,②塩分濃度の著しい低下及び③赤潮は,魚類等に対する影響があったと考えられるものの(前記ア),そのうち,②の塩分濃度の著しい低下は,短期開門調査期間中の平成14年4月,5月に平年の1.5倍の降雨があったことや,調整池からの開門による排水が行われていない時期に塩分濃度の低下がみられ,有明海北西部からの低塩分濃度の水の流入が寄与したと考えられることに照らすと,短期開門調査(海水
7
原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ⑥(その他の魚介類の漁業)

導入による排水量の増大)によってもたらされたとまではいうことができない(前記


b〈348頁〉)。また,③の赤潮は,諫早湾において
少なくとも短期開門調査後,毎年発生しているものであり(前記


〈309頁〉),本件において短期開門調査と赤潮の発生の時期の符合のみで,その機序の証明があるということはできない。
さらに,平成14年度の魚類等の漁獲量は,前記認定事実のとおり,年ごとの変動の範囲内であり,
この漁獲量の減少には,
スズキ,
カニ
(ガ
ザミ),イイダコ以外の魚類等の漁獲量の変動が算定の基礎に含まれていたことからすれば
(前記⑷イ


〈321頁〉前記




〈340頁〉,


短期開門調査における開門と魚類等の漁業被害との関係は明らかということはできない。
そうすると,短期開門調査をしたこと及び短期開門調査期間中にアサリ及び魚介類等の被害が生じたことは,本件開門によって,
漁業被害のおそれがあることを推認させる程度は低いものにとどまる。
そこで,以下,ケース3-2開門によってもたらされる環境の変化によって,スズキ,カニ(ガザミ)
,イイダコにどのような影響が生じ,漁
業被害をもたらすのかを検討する。

検討2(ケース3-2開門による環境の変化のスズキ,カニ(ガザミ),
イイダコへの影響)
スズキについて

潮流の変化とスズキへの影響
前記認定事実のとおり,スズキは,成魚が底層流の主流域に多く,潮通しがよい岩礁を好むところ(前記ア

b⒜〈365頁〉,ケース3


-2開門では諫早湾内においてほとんど流速の変化がないか増加すると予測される(前記


a〈329頁〉。


第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
そうすると,上記流速の変化によってスズキの生息に悪影響が生じる高度の蓋然性があるということはできない。

SS(浮遊物質量)の変化とスズキへの影響
前記認定事実のとおり,ケース3-2開門ではSSの上昇は,ほぼ湾奥部の北部排水門前面に限られ,湾央部から湾口部ではほとんど変化がないところ(前記


b〈331頁〉,スズキは,高濁度の河川付


近にい集し,濁りには耐性が強いものと考えられ(前記ア

b〈365

頁〉,SSの上昇による顕著な影響があるとは考え難く,上記い集状)
況に照らすと,SSの上昇によってスズキが忌避行動をするのか明らかではない。
そうすると,上記SSの変化によって,スズキへの影響がある可能性を否定することはできないが,悪影響が生じる高度の蓋然性があるとまではいうことができない。

塩分の変化とスズキへの影響
前記認定事実のとおり,スズキは稚仔期に淡水域で生息する(前記ア
b〈365頁〉
)など,低塩分には強いものと考えられる。また,島

原沖から口之津沖(いずれも有明海)の深みで産卵が行われており,卵の最適塩分域は32.
5~35.
1‰,
適塩分域は31.
8~34.
97‰であるところ
(前記ア

b〈365頁〉,
)ケース3-2開門では,

湾口部(底層)ではほとんど塩分濃度の変化がないと予測される(前記ウ
c〈331頁〉
)から,産卵場所である有明海付近の塩分濃度は

ほとんど変化がないと考えられる。
そうすると,上記塩分の変化によるスズキへの悪影響が生じる高度の蓋然性があるということはできない。

その他の要因
稚仔期は,
底生生物等を餌としているところ
(前記ア


〈365頁〉,


7
原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ⑥(その他の魚介類の漁業)

ケース3-2開門により調整池に海水が流入すれば,調整池を含めた全体で底生生物が増殖する可能性があり,
スズキは回遊性があるから,
ケース3-2開門により餌等の不足の被害があるということはできない。

小括
以上によれば,目録4-29番の原告は,漁業行使権に基づき,共同漁業権に係る南共第1号において,スズキ漁を行っているところ,ケース3-2開門によって漁業被害が生じる高度の蓋然性があるということはできない。
カニ(ガザミ)について


潮流の変化とカニ(ガザミ)への影響
前記認定事実のとおり,カニ(ガザミ)は,底層に生息し,潮通しがよく,流れが比較的弱い場所を好むところ,諫早湾内では,成体期のカニ(ガザミ)が生息するのは,主として湾央部ないし湾口部であり(前記ア

b〈366頁〉,ケース3-2開門では,諫早湾内の底層に


おいて,
流速の著しい増加はないと予測されている
(前記



〈329

頁〉。

そうすると,上記流速の変化によってカニ(ガザミ)への悪影響があるということはできない。

SS(浮遊物質量)の変化とカニ(ガザミ)への影響
前記認定事実のとおり,カニ(ガザミ)は,浮遊期に,水深10m~15m程度において流れによって移動,拡散しているものであり,25~50㎎/Lの濁り(陸土による)は,ゾエア幼生Ⅰ,Ⅱ期の生存に影響があり,
ゾエア幼生Ⅳ期からメガロパ幼生は,
200㎎/Lの暴
露量でも影響が少ないが,その他の生活史におけるSSへの耐性は不明である(前記ア

b〈366頁〉。そして,ケース3-2開門の場合,


第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
湾奥部のS1地点(底層)の,月平均のSSは,4月が現況の5㎎/Lから138㎎/Lへ,8月が現況の26㎎/Lから50㎎/Lへ,2月が
現況の7㎎/Lから68㎎/Lへの上昇が予測される。しかし,このような顕著な増加はS1地点付近に限られており,カニ(ガザミ)は,浮遊期から稚ガニ期にかけては,諫早湾外において生息すると推認され,成体期には主として湾央部ないし湾口部に生息し,湾奥部にはほとんど生息していないと推認されるから,SSの影響を受ける蓋然性が高いということはできない。
そうすると,上記S1地点のSSの上昇によって,カニ(ガザミ)に影響がある可能性は否定できないが,悪影響が生じる高度の蓋然性があるということはできない。

塩分の変化とカニ(ガザミ)への影響
前記認定事実のとおり,カニ(ガザミ)については,諫早湾内に産卵場や浮遊期ないし稚ガニの生息場がほとんど存在しないと推測され,主として湾央部から湾口部にかけて,成体期の生息場が存在すると推認されるものである。そして,成体期における塩分耐性は不明であるところ(前記ア

b〈366頁〉,ケース3-2開門がなされた場合の


諫早湾内の塩分濃度は,湾奥部の表層を除けば,現況からの変化はほとんどなく,浮遊期の適塩分域とされる26~36‰を下回ることもないと予測される。
そうすると,上記塩分濃度の変化により,カニ(ガザミ)に悪影響が生じる高度の蓋然性があるということはできない。

堆積の変化とカニ(ガザミ)への影響
カニ(ガザミ)の成体が主として生息する湾央部から湾口部の海底で,摂餌する食物や底質の変化をうかがわせる事情は見当たらない。

小括

7
原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ⑥(その他の魚介類の漁業)

以上によれば,
目録4-5番,
29番~31番,
33番の各原告は,
漁業行使権に基づき,
共同漁業権に係る南共第1号において,(ガ
カニ
ザミ)漁を行っているところ,ケース3-2開門によって漁業被害が生じる高度の蓋然性があるということはできない。
イイダコについて

潮流の変化とイイダコへの影響
前記認定事実のとおり,タコ類は,潮通しのよい底層に生息しているところ(前記ア

b〈368頁〉,ケース3-2開門では,底層の流速


は,湾奥部のS1地点で0.15m/s程度増加するのを除いて,諫早湾内ではほとんど変化がないと予測されている(前記


a〈329

頁〉。

そうすると,上記流速の変化によって,イイダコの生息に悪影響が生じる高度の蓋然性があるということはできない。

SS(浮遊物質量)の変化とイイダコへの影響
前記認定事実のとおり,タコ類は,特に濁りを嫌うので,濁りないしSSの変化によって影響を受けるおそれがあるとされるところ(前記ア

b〈368頁〉,ケース3-2開門をした場合,イイダコの生息


場である湾奥部から湾口部の底層のうち湾奥部でSSが上昇するものの,湾央部から湾口部の底層では,SSにほとんど変化がない(前記ウ
b〈331頁〉。


そうすると,イイダコの生息場の変化は予想されるが,生息に悪影響が生じる高度の蓋然性があるということはできない。

塩分の変化とイイダコへの影響
前記認定事実のとおり,イイダコの生存塩分範囲は28.9‰~35‰とされている(前記ア

b〈368頁〉
)ところ(なお,稚仔期は低

塩分に弱く,24時間以内半数致死塩分濃度は25‰,全滅塩分濃度
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
は20‰である。,ケース3-2開門をした場合,イイダコが生息す)
る湾奥部から湾口部の底層では,夏季の出水期を除いて塩分濃度が生存塩分濃度を下回ると予測されていない。また,夏季の出水期には,S1地点(湾奥部),B3地点(湾央部)
,B4地点(湾口部)におい
て,生存塩分範囲を下回るものの,これは現況も同様である(前記ウ
c〈331頁〉。

そうすると,イイダコの生息場の変化は予想されるが,生息に悪影
響が生じる高度の蓋然性があるということはできない。

堆積の変化とイイダコへの影響
前記認定事実のとおり,イイダコが生息する湾奥部から湾口部の底層においては,底質の変化や堆積はほとんどない(前記ウ

d〈333

頁〉。また,摂餌する食物等の変化をうかがわせる事情は見当たらな)
い。

小括
以上によれば,目録4-31番,36番の各原告は,漁業行使権に基づき,共同漁業権に係る南共第1号において,イイダコ漁を行っているところ,ケース3-2開門によって漁業被害が生じる高度の蓋然性があるということはできない。


妨害のおそれ⑥(その他の魚介類の漁業)について上記のとおり,ケース3-2開門によってその他の魚介類(スズキ,カニ〈ガザミ〉
,イイダコ)の漁業について漁業被害が生じる高度の蓋然性が
あるということはできない。


結論(原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ)
以上のとおり,原告漁業者らは,漁業行使権に基づき,諫早湾内で,アサリ養殖,カキ養殖,ノリ養殖,その他の魚介類(スズキ,カニ(ガザミ),イ
イダコ漁)の各漁業を営むところ,認定事実によれば,ケース3-2開門が
8原告住民の人格権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ①(大雨時の湛水による生活妨害)

なされても,調整池内で発生した赤潮が調整池から諫早湾に流出することによって漁業被害が発生する
(妨害のおそれ①
〈赤潮による漁業被害〉,
)また,
魚介類のへい死によりへい死した魚介類が腐敗して諫早湾の海底にたまり,原告漁業者らの諫早湾内における上記漁業につき漁業被害が発生する,さらには,魚介類のへい死による風評被害が発生する(妨害のおそれ②〈魚介類のへい死による漁業被害及び風評被害〉
)高度の蓋然性があるということは
できない。
また,ケース3-2開門がなされることによって,原告漁業者らの上記漁業について漁業被害が発生する(妨害のおそれ③〈アサリ養殖〉,同④〈カキ
養殖〉
,同⑤〈ノリ養殖〉
,同⑥〈その他の魚介類の漁業。スズキ,カニ(ガザミ)
,イイダコ〉
)高度の蓋然性があるということはできない。
したがって,原告漁業者らの漁業行使権について,妨害のおそれがあるということはできないから,原告漁業者らの3-2開門を求める請求は理由がない。
8
原告住民の人格権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ①(大雨時の湛水による生活妨害)

原告らの主張
樋門・樋管の閉門による排水不良
原告らは,ケース3-2開門がなされれば,10年大雨があった場合に,樋門・樋管の閉門による排水不良が起こり,これによって,原告住民らの前記居住地が湛水する(現状において発生する湛水より,湛水の程度(範囲・湛水深)が大きくなることを含む。以下同じ。
)被害を受け
る高度の蓋然性がある旨主張する。
ガタ土堆積による排水不良
また,原告らは,ケース3-2開門がなされれば,本件締切り前と同様,有明海から運ばれる泥(ガタ土)が排水樋門・樋管の調整池等への
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
排水口付近に堆積して排水を阻害し,排水不良が起こる高度の蓋然性がある旨主張し,その根拠として,短期開門調査をした時に,調整池内の山田川河口部
(その位置は別紙21記載のとおり。にガタ土が約6㎝堆

積したとの事実を挙げる。

認定事実
前記前提事実並びに証拠
(事実の後に掲記)
及び弁論の全趣旨によれば,
以下の事実が認められる。
原告住民らの居住地
原告住民らは,本件後背地(旧干拓地(諫早)及び新干拓地(中央)の後背地)に居住している(居住地の位置は別紙19記載のとおり。。)
(前記前提事実




現状における調整池等への排水方法
本件後背地では,現状,生活用水及び雨水等を主ゲート付き樋門・樋管(その位置は別紙33の20番~35番のとおりであり,本件後背地及びその付近に16か所ある。により後背地排水路から調整池等へ排水)
している。
上記排水方法は,無降雨時は,樋門・樋管の主ゲートを開き,自然排水を行うところ(別紙41)
,降雨時も,調整池等の水位が後背地排水路
の水位よりも低い場合には,樋門・樋管の主ゲートを開き,自然排水を行うものである(別紙43)

これに対し,降雨により調整池等の水位が後背地排水路の水位より高い時は,樋門・樋管の主ゲートを閉じ,調整池等の水が後背地排水路に流入するのを防ぐとともに,既設排水ポンプにより,後背地排水路の水を調整池等へ排水する
(別紙43)上記排水のため用いる既設排水ポン

プの位置は別紙34の5番から12番であり,本件後背地及びその付近に8カ所ある。

(前記前提事実




8原告住民の人格権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ①(大雨時の湛水による生活妨害)

ケース3-2開門をした場合の排水方法

無降雨時
被告は,ケース3-2開門をする場合,調整池等の塩水が,排水樋門・樋管を通じ後背地排水路に浸入することを防止するため,無降雨時には,
その敷高が調整池の管理水位の最高水位である標高
(-)
1.
0mより低い7か所の樋門・樋管(別紙51の25番~31番)の主ゲートを閉門することとしている(別紙54記載の無降雨時(敷高(-)1.0m以下)部分。。)


降雨時
被告は,ケース3―2開門をする場合,降雨時には,当該樋門・樋管ごとに調整池等の水位と後背地排水路の水位を比較し,調整池等の水位が後背地排水路の水位より低い場合に,上記樋門・樋管の主ゲートを開けて後背地排水路から調整池等への排水をし,調整池等の水位が後背地排水路の水位と同程度になった時に,調整池等から後背地排水路への塩水の浸入を防止するため,主ゲートを閉門することとしている(なお,別紙52は,本件後背地と同様の方法により排水がなされる旧干拓地
(諫早)
における状況である。。(前記前提事実



イ)

環境アセスメントの予測
環境アセスメントは,調整池の水位の変動は,現状と同様であるから,洪水時の後背地への影響はないものと考えられるとしている。(乙A32_6.15.4-12頁)


検討1(樋門・樋管の閉門による排水不良)
前記イの事実及び証拠(乙J5-3頁)並びに弁論の全趣旨によれば,①本件後背地では,現状,無降雨時は,樋門・樋管(別紙33の20番~35番)の主ゲートを開き,後背地排水路から調整池等へ自然排水を行うという方法で排水しているところ,
被告は,
ケース3-2開門をする場合,

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
無降雨時には,上記樋門・樋管(16か所)のうち7か所(別紙51の25番~31番)の樋門・樋管の主ゲートを閉門することとしているから,ケース3-2開門がなされれば,上記主ゲートの閉門により,後背地排水路から調整池等への排水ができなくなり,無降雨時の後背地排水路の水位が現状より高くなること,②その高くなる分に相当する水量は,無降雨時に調整池等へ排水されずに後背地排水路にたまっている状態となること(なお,この場合は,既設排水ポンプによる排水が可能である。,③現状)
においても,10年大雨があった場合,本件後背地のうち調整池に近い部分(別紙81の本件後背地の青色部分)には湛水被害が発生する可能性があることが認められる。
しかしながら,前記認定のとおり,被告は,ケース3―2開門をする場合においても,降雨時には,現状と同様,調整池等の水位が後背地排水路の水位より低い場合に,上記樋門・樋管の主ゲートを開けて後背地排水路から調整池等への排水をすることとしていること,既設排水ポンプによる排水可能性及び洪水時の後背地への影響はないとの環境アセスメントの予測に照らすと,ケース3-2開門がなされれば無降雨時に後背地排水路の水位が現状より高くなるということから,直ちに,ケース3-2開門がなされれば,10年大雨があった場合に排水不良による湛水被害が発生する高度の蓋然性があるということはできず,ほかにこれを認めるに足りる証拠はない。

検討2(ガタ土堆積による排水不良)
前記前提事実(

及び

ア)によれば,短期開門調査の開門方法は,調

整池の管理水位(標高(-)1.0mから標高(-)1.2mまでの範囲内で調整池の水位を管理するというもの)及び排水門操作の方法(外潮位が調整池の水位より低い時に本件各排水門を開門し調整池の水を諫早湾海域へ排水し,外潮位が調整池の水位より高い時に本件各排水門を開門し調
8原告住民の人格権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ①(大雨時の湛水による生活妨害)

整池に海水を導入するというもの)において,ケース3-2開門と同じであることが認められる。
しかし,証拠(事実の後に掲記)によれば,①樋門・樋管(別紙33の20番~35番)
の調整池等への排出口付近は,
同じ調整池内であっても,
短期開門調査をした時にガタ土が約6㎝堆積した山田川河口部とは場所が異なること(乙A32の1-6.15.2.2-5頁,乙A102),②短
期開門調査をした際,上記樋門・樋管のうち,観測場所となった梅崎樋門及び備後崎樋門,釜の鼻西樋門,釜の鼻東樋門(別紙33の25番,30番,31番,34番)の調整池等への排水口付近では,ガタ土が堆積することはなく,かえって,洗掘があり,観測場所となった天狗鼻樋門,大開樋門及び本村仮排水路(別紙33の26番,27番,29番)の調整池等への排水口付近では,ガタ土の堆積があったものの,約1㎝の堆積にすぎなかったこと(甲A2-387頁)
,③アセス評価書(補正版)は,平成1
9年の気象条件下でケース3-2開門がなされた場合における開門1年後の地形の変化(堆積及び洗掘)の予測をしているところ,上記樋門・樋管の調整池等への排水口付近についてはガタ土の堆積はほとんどないものと予測していること(乙A32の1-6.6.1-73頁,74頁,102頁)が認められ,これらに照らせば,原告らが挙げる前記ア

の事実(短

期開門調査時の山田川河口部のガタ土堆積)によって上記樋門・樋管の調整池等への排水口付近にガタ土が排水を阻害するほど堆積する高度の蓋然性があるということはできず,ほかにこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告らの上記主張は,採用することができない。

妨害のおそれ①(大雨時の湛水による生活妨害)についてしたがって,ケース3-2開門がなされれば,10年大雨があった場合に,原告住民らの居住地が湛水する高度の蓋然性があるとの事実は,認め
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
られないというべきである。
以上によれば,ケース3-2開門がなされても,10年大雨があった場合に,原告住民らの居住地が湛水し,これにより,原告住民らが,平穏に日常生活を営むという人格的利益が侵害される被害(生活妨害)を受ける高度の蓋然性があるということはできない。
妨害のおそれ②(飛来塩分による生活妨害及び健康被害)ア
原告らの主張
調整池からの飛来塩分による生活妨害のおそれ
原告らは,ケース3-2開門がなされれば,調整池からの塩分の飛来によって,本件後背地において,電力設備の絶縁不良等が発生する高度の蓋然性がある旨主張し,その根拠として,一般的に,海域からの飛来塩分の付着によって,電力設備の絶縁不良等が発生することがあること(甲M12ないし14)を主張する。
調整池からの飛来塩分による健康被害のおそれ
また,原告らは,ケース3-2開門がなされれば,調整池からの塩分の飛来によって,本件後背地に居住している原告住民らに健康被害が生じる具体的危険がある旨主張し,その根拠として,一般的に,海域からの飛来塩分によって,
付近住民の健康への影響が発生することがある
(甲
M12)と主張する。


認定事実
証拠(甲A34の3)及び弁論の全趣旨によれば,①現状では,調整池が淡水であり,原告住民らが居住している本件後背地は,諫早湾海域から一定の距離があること(旧干拓地(諫早)及び新干拓地(中央)と海域との距離は別紙60記載のとおり。,②ケース3-2開門がなされれば,調)
整池が塩水化するため,季節風等の強風が長時間続く場合,海面の波高が高くなり,波が砕けて飛沫となって強風により塩分が運ばれ,その間に雨
8原告住民の人格権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ③(地盤沈下及び生活用井戸枯渇による生活妨害)
がないときに,塩分が本件後背地まで飛来すること,そして,飛来塩分量は,海岸に近いほど指数的に大きくなることが認められる。

原告らの主張1(飛来塩分による生活妨害のおそれ)について
ケース3-2開門がなされれば,調整池からの塩分の飛来があることは前記イのとおりであるが,その飛来塩分の量が,電力設備の絶縁不良等を発生させる高度の蓋然性があるものであることについては,これを認めるに足りる証拠がない。原告らの挙げる証拠は,これを認めるに足るものではない。
したがって,原告らの前記主張は,採用することができない。


原告らの主張2(飛来塩分による健康被害のおそれ)について
ケース3-2開門がなされれば,調整池からの塩分の飛来があることは前記イのとおりであるが,その飛来塩分の量が,本件後背地に居住している原告住民らに健康被害が生じる具体的危険があるものであることについては,これを認めるに足りる証拠がない。原告らの挙げる証拠は,これを認めるに足るものではない。
したがって,原告らの前記主張は,採用することができない。


妨害のおそれ②(飛来塩分による生活妨害及び健康被害)について以上のとおり,ケース3-2開門がなされても,①調整池からの塩分の飛来によって,本件後背地において電力設備の絶縁不良等が発生し,原告住民らが,平穏に日常生活を営むという人格的利益が侵害される被害(生活妨害)を受ける高度の蓋然性があるということはできず,また,②上記の塩分の飛来によって,本件後背地に居住している原告住民らに健康被害が生じる高度の蓋然性があるということはできない。
妨害のおそれ③(地盤沈下及び生活用井戸枯渇による生活妨害)

原告らの主張
原告らは,ケース3-2開門がなされれば,被告は,農業用水を確保す
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
るための事前対策として,地下水案(旧干拓地(諫早)では既存井戸を深井戸に改修し,旧干拓地(吾妻)
,新干拓地では深井戸を新設し,地下水を
取水するというもの)の事前対策を行う蓋然性が高く,地下水案の事前対策が行われれば,原告住民らが地盤沈下又は生活用井戸枯渇による生活妨害を受ける高度の蓋然性がある旨主張する。

検討
前判示のとおり(前記第2の2

イ〈156頁〉,認定事実によれば,被


告が地下水案を行う蓋然性が高いということはできないから,原告らの上記主張は,前提を欠き採用することができない。

妨害のおそれ③(地盤沈下及び生活用井戸枯渇による生活妨害)について
以上のとおり,原告住民らの人格的利益につき,妨害のおそれ③(地盤沈下及び生活用井戸枯渇による生活妨害)があるということはできない。結論(原告住民の人格権についての妨害のおそれ)
以上によれば,ケース3-2開門の差止めを求める原告住民らの請求のう
ち,人格権に基づく妨害予防請求としてケース3-2開門の差止めを求める請求は理由がない。
9
原告住民の環境権に基づく請求について
原告らは,
原告住民らは,自らを取り巻く自然環境を支配し,良好な自然環境を享受する権利である環境権を有しており,環境権に基づく妨害予防請求として,侵害行為の差止めを求めることができる旨主張する。しかしながら,良好な自然環境に近接する地域内に居住している者が有する良好な自然環境の恵沢を享受する利益は,その保護に値する範囲・内容等が不明確であるのみならず,社会の変化に伴って変化する可能性のあるものでもあるから,現時点においては,私法上の権利といい得るような明確な実体を有するものとは認められず,良好な自然環境の恵沢を享受することができることに
10被侵害利益の性質と内容及び侵害の程度
原告農業者の被侵害利益

つき環境権という権利性を有するものを認めることはできない。
したがって,環境権に基づく妨害予防請求として侵害行為の差止めを求めることはできないと解すべきであり,原告らの上記主張は,採用することができない。
以上によれば,ケース3-2開門の差止めを求める原告住民らの請求のうち,環境権に基づく妨害予防請求として上記差止めを求める請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。
被侵害利益の性質と内容及び侵害の程度
原告農業者の被侵害利益

認定事実
前記前提事実(

ア〉
)のほか,証拠(甲C3,9,24,甲F1)及び

弁論の全趣旨によれば,原告旧干拓地農業者らは,旧干拓地内に農地を所有し,所有権に基づく使用収益として旧干拓地において農業を営み,原告新干拓地農業者らは,新干拓地内の農地を原告県公社から賃借し,賃借権に基づく使用収益として新干拓地において農業を営み,これらの営農が原告農業者ら(原告旧干拓地農業者ら及び原告新干拓地農業者ら)の生活ないし経営の基盤となっていることが認められる。

被侵害利益の性質,内容
原告農業者らの被侵害利益である土地所有権又は土地賃借権は,財産的権利ではあるが,原告農業者らは,上記の所有権又は賃借権に基づき農業を営んでおり,それが生活ないし経営の基盤となっているから,その侵害により受ける被害は,重大なものとなる。


侵害の程度
前記2ないし5のとおり,ケース3-2開門がなされれば,①目録1-7番(旧干拓地(諫早)農業者)
,目録6-2番,3番,67番,81番,
87番(以上,旧干拓地(吾妻)農業者)の各原告は,旧干拓地における
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
上記農地において栽培する作物について,塩害が発生する高度の蓋然性がある。そして,前記認定事実(前記2〈旧干拓地(諫早)の所有権〉⑷ケb〈243頁〉
)のとおり,塩害は,一旦発生すると,農地に塩分が残留す
るので次作にも影響し,作付作物を変更するか,塩害を改善するために除塩及び土壌改良をする必要があり,塩害は,経済的損失だけでなく,上記各原告農業者に著しい負担を発生させる。また,②各原告農業者(224名)は,旧干拓地又は新干拓地における上記農業につき潮風害を受ける高度の蓋然性があり,③目録6-1番~21番,23番~35番,37番,38番,74番,84番,87番(以上,原告旧干拓地(吾妻)農業者らのうち原告Aら

46名以外の者)の各原告は,農業用水の一部の水源喪

失の高度の蓋然性がある。
上記原告農業者らの農業用水の一部の水源喪失,
潮風害は,それぞれその被害の性質に照らし,相当の農作物の被害の発生が予想されるものである(なお,被害が重複する者については,それだけ被害が著しくなりうる。。

被告の主張(侵害の程度)について
被告は,ケース3-2開門がなされた場合に原告旧干拓地農業者らが受ける上記被害は,軽度であって侵害の程度は低い旨主張し,その根拠として,侵害行為であるケース3-2開門は,本件各排水門を開門し,平成9年の本件締切り(被告がこれを行ったものである。)によって生じた便益(防災効果・営農効果等)を一部失わせて本件締切り前の状態に復するものであり,本件締切り前の状態より悪化させるものではないと主張する。しかし,原告旧干拓地農業者らは,土地所有権に基づく妨害予防請求として,被告に対し,ケース3-2開門の差止めを求めるところ,上記の所有権に基づく目的物の使用収益権能は,現在存在する旧干拓地について使用収益することを内容とするものであるから,原告旧干拓地農業者らが現時点において所有権の行使として旧干拓地につき行っている使用収益について,その
11侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容及び程度
諫早湾及び有明海の漁場環境が改善する可能性

権利行使の円満な状態を侵害するおそれのある行為は,侵害行為に当たるというべきであって,その場合の侵害の程度は,現時点における権利行使の状態と比較し,どの程度の侵害といえるかという見地から判断すべきである。また,前記前提事実(

ないし

)及び前記

の事実並びに弁論の全趣旨

によれば,原告旧干拓地農業者らは,本件締切り前から旧干拓地において農業を営んできたが,既に(口頭弁論を終結した平成27年10月6日時点),
平成9年の本件締切りから既に18年以上経過しており,原告旧干拓地農業者らは,本件締切り後の状態で,旧干拓地において長期間にわたって農業を行い,その間,本件締切り後の環境を前提として従前の農業から農業用水の確保手段,作付内容,施設栽培の有無等を変化させ,新たな農業へと展開・発展させて農業を営んでいることが認められる。そうすると,本件締切り前の状態と現在とでは,その所有地における使用収益の前提を異にするものである。以上のとおり,本件締切りによって生じた便益(防災効果・営農効果等)は,既に上記原告旧干拓地農業者らが土地所有権を円満に行使するための前提となっているから,原告旧干拓地農業者らの被侵害利益に対する侵害の程度を検討するに当たり,この前提を無視し,ケース3-2開門の後の状態と平成9年に行われた本件締切りの前の状態とを比較する合理的な理由は存しない。
以上のとおり,被告が挙げる本件締切り前の状態は,上記原告旧干拓地農業者らがケース3-2開門によって受けるおそれのある侵害の程度を低いものとする根拠となるものではない。
したがって,被告の前記主張は,採用することができない。
侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容及び程度
諫早湾及び有明海の漁場環境が改善する可能性

漁場環境が改善する可能性の有無
前記前提事実及び証拠
(事実の後に掲記)
並びに弁論の全趣旨によれば,

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
①ケース3-2開門がなされる期間は5年間にわたること(前記前提事実イ)
,②環境アセスメントは,アカエイ,ヒラ,スズキ等の魚類及びコノシロ,シログチ等の海域生態系典型種(以下,上記魚類等を併せてアカエイ等という。)の餌となるのは,海水性・汽水性の底生生物であるとこ
ろ,ケース3-2開門がなされれば,上記底生生物は,開門がなされる5年の間に,浮遊幼生として調整池内に入り増殖する可能性があり,そうすると,アカエイ等が,諫早湾海域から本件各排水門を通じて調整池内に進入し,調整池内において次第に生息し繁殖する可能性があると予測すること(乙A32の1_6.7.2-433・509頁,乙A32の1_6.9.1-136・137・176頁)
,③スズキは移動性が高く,その移動
範囲が広範囲に及ぶこと(乙A32の1_6.13.1-61頁)が認められる。
そうすると,上記のとおり,開門の期間は比較的長く,その間に諫早湾ないし有明海に生息する魚類の餌となる底生生物が調整池内で繁殖し,少なくとも上記魚類のうちスズキの移動範囲が広がってその漁場環境が改善することが期待できるから,ケース3-2開門がなされれば,諫早湾及び有明海の漁場環境が改善する可能性があるということができる。

漁場環境が改善する可能性の程度
認定事実
証拠(事実の後に掲記)によれば,以下の事実が認められる。
環境アセスメントは,
アカエイ等が,諫早湾海域から本件各排水門を通じて調整池内に進入し,調整池内において次第に生息し繁殖する可能性があることを予測するにとどまり,上記の予測において,ただし,調整池では,塩分は出水時(河川の流量が多い時期)に11‰程度に低下後,6か月で徐々に25‰~27‰程度に回復して同程度で推移し,夏季にかけて海水性の植物プランクトンが増殖すると予測されており,11侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容及び程度諫早湾及び有明海の漁場環境が改善する可能性塩分回復の長期化や赤潮になった場合には,アカエイ等の生息へ影響する可能性もある。また,干出範囲が現状と同様に限られた範囲となる。このため,塩分等の水質,底質の条件が潮受堤防締切り前の干潟とは異なり,不確定要素が多いことから,どのくらいの期間で,どの程度アカエイ等が調整池内で生息が変化するかを予測することは困難である。としている。
(乙A32の1_6.7.2-433・509頁,乙A32の1_6.9.1-136・137・176頁)
検討
上記のとおり,環境アセスメントは,アカエイ等が調整池内で生殖,繁殖する可能性を挙げて,諫早湾及び有明海の漁場環境が改善する可能性を指摘するが,
その可能性が高い旨を予測するものではなく,
他方で,
塩分回復が長期化した場合や赤潮になった場合には,アカエイ等の生息に悪影響が生じる可能性があると予測するとともに,ケース3-2開門がなされた場合に,どの程度,アカエイ等の生息が増加するかは不明とするものである。また,前記7

ないし

のとおり,ケース3-2開門

がなされれば,諫早湾内におけるアサリ養殖,カキ養殖,ノリ養殖及びその他の魚介類(スズキ・カニ〈ガザミ〉
・イイダコ)の漁業につき,漁
業被害が発生する可能性は否定できないところ,ケース3-2開門がなされた場合に,上記漁場環境の改善効果が,上記の漁業被害の可能性を上回るものであることについては,証拠がない。
そうすると,ケース3-2開門がなされることによって,漁場環境が改善する可能性及びその効果は,いずれも高くないというのが相当である。

被告補助参加人らの主張について
被告補助参加人らは,平成元年の潮受堤防の設置工事着工や平成9年の
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
本件締切り以降,諫早湾や有明海において漁業を営む被告補助参加人らの漁獲量が低下しており,その原因は主として,潮受堤防による諫早湾の締切りに伴う漁場環境の悪化であると主張する。具体的には,潮受堤防による諫早湾の締切りに起因して,赤潮の大規模化・長期化,海域の底層の貧酸素化,底質の泥化・硫化水素の発生による底質環境の悪化等の漁場環境の悪化のほか,魚類の産卵場所・生育場所であった海域(調整池)の喪失を挙げ,本件各排水門の開門によって,①潮流速が増加するなどして上記の漁場環境の悪化が改善し,②調整池が魚類の産卵場所・生育場所となる旨主張する(被告補助参加人準備書面2)

しかし,被告は,本件開門による漁場環境改善効果として,上記②の事実については主張したものの
(前記ア)上記①の事実については主張せず,

係る事実の主張は,被参加人である被告の主張と抵触する旨主張した(被告第11準備書面,被告第20準備書面)

そうすると,被告補助参加人らの上記事実の主張は,被参加人の訴訟行為と抵触するため,
本件訴訟において,
その効力を有しないものである
(民
事訴訟法45条2項)

したがって,上記被告補助参加人らの上記主張は採用することができない。
開門調査を実施し調査結果を公表することの公共性ないし公益上の必要性ア
公共性ないし公益上の必要性の存否
前記前提事実(



)並びに証拠(事実の後に掲記)及び弁論の全趣

旨によれば,①昭和60年から平成18年までの間,諫早湾及び有明海において,長期的な漁獲量減少があったこと,そのため,諫早湾及び有明海の漁業者らの一部の者は,被告(九州農政局)に対し,漁獲量減少の原因究明及び漁場環境改善策を求めてきた(前記前提事実

。乙A25の3-

11侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容及び程度
開門調査を実施し調査結果を公表することの公共性ないし公益上の必要性
1頁)こと,②有明海における漁業生産の不振等に関する調査がなされたが,上記調査は,漁獲量減少の原因や本件事業と諫早湾及び有明海の漁場環境の変化との関連性を明らかにすることができなかった(前記前提事実)ことが認められる。
そうすると,上記漁獲量減少の原因等を究明するため,ケース3-2開門による開門調査(開門して行う海域環境の調査)を実施し調査結果を公表することは,一定の公共性ないし公益上の必要性があるということができる。

公共性ないし公益上の必要性の程度
しかし,前記前提事実(

ないし



)及び証拠(乙A9,10)並

びに弁論の全趣旨によれば,諫早湾及び有明海における漁獲量減少の原因について,これまで,潮受堤防による海域の締切り(本件事業において,湾奥部に潮受堤防を設置し,平成9年に本件締切りをしたこと)がその原因であるかが問題とされてきたところ,本件開門(ケース3-2開門を含むものである。
)は,潮受堤防が設置された現在の状況で,潮受堤防の一部
である本件各排水門(本件各排水門の長さは,北部排水門及び南部排水門を合わせて250mであり,潮受堤防が存する場所の諫早湾海域の幅〈約7000m〉の約3.6%にすぎない。
)につき上記開門をするものである
ことが認められる。
そうすると『潮受堤防による締切り』
自体をなくす『潮受堤防の撤去』
と(潮受堤防が設置された現在の状況での)本件開門とでは,諫早湾及び有明海の漁場環境に与える影響が大きく異なるといわざるを得ない。そして,証拠(甲G36)及び弁論の全趣旨によれば,本件開門(ケース3-2開門を含む。
)がなされても,地象,気象,海象の複合的な要因に
より変動する環境条件の中で,本件開門をすることにより漁場環境に与える影響を抽出することは困難であることが認められる。

第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
そうすると,本件開門をすることによって,上記漁獲量減少の原因等を解明すること,とりわけ潮受堤防の設置及び潮受堤防の締切り(調整池に海水を導入しないこと)と漁獲量減少との関連性を解明することができるかは不明といわざるを得ない。
上記のとおり,本件開門による開門調査を実施し調査結果を公表することは,一定の公共性ないし公益上の必要性があるということができるが,本件開門をすることによって,本件事業と漁獲量減少の関連性等を解明することができるかは不明であるから,公共性ないし公益上の必要性が高いということはできない。

被告の主張(対立状況の解消,前訴判決の存在)について
被告の主張の内容
被告は,①諫早湾及び有明海の漁業者らは,被告に対し,本件各排水門の開門を求める訴えを提起し,
一方,
旧干拓地や新干拓地の農業者ら,
諫早湾内の漁業者ら又は諫早湾付近の住民らである原告らは,被告に対し,本件各排水門の開門をしないこと(本件開門の差止め)を求める訴えを提起しており,諫早湾及び有明海の漁業者ら,旧干拓地及び新干拓地の農業者ら,諫早湾付近の住民らの間で,本件各排水門の開門を巡って対立状況にあり,その対立状況を解消する必要があること,②佐賀地方裁判所及び福岡高等裁判所が,
前訴において,
3年の猶予期間が経過するまでに本件各排水門を開放すること及び上記開放以後,5年間にわたって上記開放を継続することを命ずる判決をしたことは,ケース3-2開門による開門調査を実施し調査結果を公表することの公共性ないし公益上の必要性を根拠付けるものである旨主張する。
被告の主張①(対立状況の解消)について
前記前提事実

及び弁論の全趣旨によれば,旧干拓地や新干拓地の農

業者ら(又は,新干拓地を農業者に賃貸しているもの)
,諫早湾内の漁業

11侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容及び程度
開門調査を実施し調査結果を公表することの公共性ないし公益上の必要性
者ら又は諫早湾付近の住民らである原告らは,
土地所有権,
土地賃借権,
漁業行使権又は人格権等に基づく妨害予防請求として,被告に対し,本件各排水門の開門をしないこと(本件開門の差止め)を求める訴えの提起をし,
本件請求をしているのに対し,
諫早湾及び有明海の漁業者らは,
被告に対し,本件各排水門の開門を求める訴えを提起しており,本件開門の差止めを求める原告らとの間で,対立状況にあること,現在,この対立状況が極めて深刻な問題となっていることが認められる。
しかし,ケース3-2開門をすることにより,本件各排水門の開閉をめぐる争いが終局する可能性はあるものの,前訴原告58名ないし原告らとの間で対立状況にある者(本件各排水門の開門を求める者)が,ケース3-2開門ではなく,前訴判決の定める開門を求め続ける蓋然性もあり,あるいは5年間だけではなく,永続的な開門を求める可能性も相当程度あるのであって,ケース3-2開門をすることにより上記の対立状況が解消する可能性が高いということはできない。
かえって,前記

のとおり,被告が予定する事前対策を講じてもケー

ス3-2開門によって原告らの一部が被害を受ける高度の蓋然性があり,その被害が軽度ということはできないから,これをそのままにしてケース3-2開門を行うとすれば,かえってその対立状況が深刻化する蓋然性が高い。
そうすると,前記

の対立状況を解消する必要があることは,ケ

ース3-2開門による開門調査を実施し調査結果を公表することの公共性ないし公益上の必要性を根拠付けるものとは認められない。
したがって,被告の前記主張は,採用することができない。
被告の主張②(前訴判決)について
被告は,福岡高等裁判所が,前訴判決において,被告に対して3年の猶予期間が経過するまでに本件各排水門を開放すること及び上記第2争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について開放以後,5年間にわたって上記開放を継続することを命じたこと自体が,ケース3-2開門をすることの公共性ないし公益上の必要性を根拠付けるものである旨主張する(佐賀地方裁判所が前訴において福岡高等裁判所の前訴判決と同様の判決をしたことについても,同様の主張をする。。

確かに,前訴原告58名は,前訴判決によって被告が命じられた本件各排水門を原則として5年間にわたって開門するという義務を履行させ,その判決内容の履行を実現する利益を有することから,前訴判決によって命じられた義務が履行されることは,前訴原告58名の人数に照らし,一定の公共性ないし公益上の必要性を基礎付けるものということができる。
しかし,前訴原告58名が,被告に対して前訴判決を履行させる権利を有するとしても,原告らが,その履行がなされるのを受忍しなければならないとまでいうことはできない。すなわち,民事訴訟においては,手続に当事者あるいは参加人として関与しなかった者には,原則として判決の効力が及ばないところ(民事訴訟法115条,46条)
,原告らに
おいて本件各開門を受忍すべき事情として,前訴判決が存在すること自体を考慮することは,実質的に自己が関与していない民事訴訟手続の判決の拘束力を及ぼすに等しいもので,民事訴訟の原則に反するものである。
そうすると,前訴判決が,被告に対し,本件各排水門を開放し上記開放を継続することを命じたこと自体(被告が前訴原告58名に対し本件各排水門を開放し上記開放を継続する義務を負っていること自体)は,侵害行為(ケース3-2開門をすること)の持つ公共性ないし公益上の必要性を根拠付ける事実に当たるとは直ちにいうことができず,被告の前記主張は採用することができない。

12違法性の判断に当たり考慮すべきその他の要素
結論(侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容及び程度)
結論(侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容及び程度)以上のとおり,被告がケース3-2開門をする場合,侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度については,①ケース3-2開門がなされれば,被告が主張する諫早湾及び有明海の漁場環境が改善する可能性はあるものの,改善の可能性及び改善の効果はいずれも高くない上(前記



②ケース3-2開門による開門調査を実施し調査結果を公表することは,一定の公共性ないし公益上の必要性があるものの,その程度は高くない(前記)

違法性の判断に当たり考慮すべきその他の要素
事後対策
被告は,ケース3-2開門後において原告らに被害が生じないように,事後対策を行う蓋然性が高く,事後対策を行うことにより,前記2ないし5の妨害のおそれ
(原告農業者らの所有権ないし賃借権についての妨害のおそれ)
は,事後的に(事後対策を行った時以後は)なくなるとして,ケース3-2開門の差止請求を認容すべき違法性があるかどうかを判断するに当たって,事後対策を考慮すべきである旨主張する。
しかし,被告が行うという事後対策の具体的内容は明らかでないから,事後対策に,前記2ないし5の妨害のおそれに係る被害の発生を防止する効果があるということはできない。
したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
補償
被告は,
ケース3-2開門の差止請求を認容すべき違法性はない旨主張し,その根拠として,
被告は,原告らにケース3-2開門と相当因果関係がある被害が生じた場合には,上記原告らに対し,上記被害による損害を補填する補償を行うこととしていると主張する。しかし,原告農業者らは,ケース3-2開門によって,相当の農業被害を
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
受ける高度の蓋然性があるところ,干拓地における農業が,原告農業者らの生活または経営の基盤となっていることから,その補償が速やかに行われなければ,その生活又は経営において深刻な問題が生ずるおそれが高く,その補償の時期は極めて重要である。他方で,農作物の生育不良等が発生した場合に,それがケース3-2開門により惹き起こされた塩害,潮風害,農業用水の一部喪失又はこれらに対する事前対策によって発生したものかの原因を特定することは困難というべきであり,被告が主張するケース3-2開門と相当因果関係がある被害の立証は,
相当の困難を伴うというべきである。
そこで,どのような方法・基準によって,ケース3-2開門と被害との関係を判断するのかが重要となるところ,被告は,具体的な補償の時期・方法・基準について,あらかじめ明らかにしていない。
したがって,被告が事後的補償を予定することが,ケース3-2開門の違法性を減殺する程度は,低いというべきである。
被告の背信性
原告らは,土地所有権,土地賃借権,漁業行使権又は人格権に基づく妨害予防請求として,
ケース3-2開門の差止めを求めているところ,
被告が前訴において十分な主張・立証を行わなかったこと及び被告が,原告らの意向に反して,前訴判決に対して上告しなかったことは,被告の背信性のある行為であり,上記行為により,被告に対して本件各排水門を開放することを命ずる前訴判決がなされ,それが確定したものであるから,差止請求を認容すべき違法性があることを根拠付けるものである旨主張する。しかし,原告らのいう背信性のある行為によって生じたことは,被告が,確定判決上の義務として,前訴原告58名に対し,本件各排水門を開放し上記開放を継続する義務を負ったということであるが,そのこと自体は,侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性を根拠付ける事実に当たるとは直ちにいうことができず,差止請求を認容すべき違法性があることを否定す
13ケース3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか
被告の背信性

る根拠となるものでないことは,前判示のとおりである(前記11
ウ)
。そ

うすると,上記背信性のある行為は,原告らの前記アのケース3-2開門の差止請求を何ら妨げるものではないのであるから,差止請求を認容すべき違法性があるかを判断するに当たって,これを考慮する理由は存しないというべきである。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
ケース3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか
ケース3-2開門によって権利侵害を生ずる高度の蓋然性が認められる各原告との関係で,ケース3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるかを判断するに当たっては,前判示のとおり(前記1〈153頁〉,侵害行為の態様)
と侵害の程度,被侵害利益の性質と内容,侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか,被害の防止に関する措置の有無及びその内容,効果等の事情を考慮し,これらを総合的に考察してこれを決すべきであり,上記被侵害利益の性質と内容については,個々の原告の被侵害利益を考慮すべきであるが,多数の当事者の権利について妨害のおそれがあることは,公共性ないし公益上の必要性の程度を減殺する事情として考慮することができるというべきである。
以上を踏まえて検討する。
まず,侵害行為の態様をみると,本件事業は,諫早湾の奥部の海面を長さ約7㎞の潮受堤防で締め切り(本件締切り)
,調整池とするもので,被告は,潮受
堤防に本件各排水門を設け,現状,調整池の管理水位(目標値)を標高(-)1.0mから(-)1.2mまでの範囲内とし,調整池から諫早湾海域への排水を行う場合に限り本件各排水門を開門して,調整池を淡水化したものである。これに対し,
ケース3-2開門は,
本件各排水門の管理水位をそのまま維持し,
外潮位が調整池の水位より高いときに本件各排水門を開門して,調整池に海水を導入するもので,被告の意思に基づいて少なくとも前訴判決が命じた5年間
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
という比較的長期にわたって行われるものである(前記前提事実
ア・イ,

ア・ウ,

イ)


ケース3-2開門がなされた場合の侵害の程度及び被侵害利益の性質と内容をみると,前記のとおり,原告農業者においては,①目録1-7番(原告旧干拓地(諫早)農業者),目録6-2番,3番,67番,81番,87番(以上,原告旧干拓地(吾妻)農業者)の各原告は,その所有する農地において栽培する作物について塩害が発生する高度の蓋然性があり,塩害は一旦発生すると経済的損失だけでなく,作付作物の変更ないしは除塩と土壌改良が必要であって,そこで農業を営む土地所有者に著しい負担が発生する。また,②各原告農業者は,旧干拓地又は新干拓地における農業につき,潮風害を受ける高度の蓋然性があり,③目録6-1番~21番,23番~35番,37番,38番,74番,84番,87番(以上,原告旧干拓地(吾妻)農業者らのうち原告Aら
46名以外の者)の各原告は,旧干拓地(吾妻)における上記農業につき
農業用水の水源の一部喪失の被害を受ける高度の蓋然性があり,それぞれ農作物に被害が発生するおそれがある(なお,被害が重複する者については,それだけ被害が著しくなりうる。)。
そして,各原告旧干拓地農業者は,旧干拓地内に農地を所有し,所有権に基づく使用収益として旧干拓地において農業を営み,各原告新干拓地農業者は,新干拓地内の農地を原告県公社から賃借し,賃借権に基づく使用収益として新干拓地において農業を営み,これらの営農が各原告農業者の生活ないし経営の基盤となっている。被侵害利益である所有権ないし賃借権は,財産的権利ではあるが,上記のとおり,各原告農業者の生活ないし経営の基盤となっているから,その侵害により受ける被害は重大である(前記




次に,侵害行為(ケース3-2開門)のもつ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度をみると,前記のとおり,ケース3-2開門がなされれば,被告が主張する諫早湾及び有明海の漁場環境が改善する可能性はあるものの,その可
13ケース3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか
被告の背信性

能性及び改善の効果はいずれも高くない。被告補助参加人らの漁場環境改善効果についての別個の主張は,被告の主張と抵触し,採用することができない。また,ケース3-2開門による開門調査を実施し,本件事業と漁獲量減少との関連性等の調査結果を公表することは,一定の公共性ないし公益上の必要性はあるものの,解明の見込みは不明であり,その程度が高いということはできない(前記

)。

なお,前記のとおり,差止請求を認容すべき違法性があるか判断するに当たっては,多数の当事者について権利・利益の妨害のおそれがある場合に,これを公共性ないし公益上の必要性を減殺するものとして考慮できるところ,前記のとおり,ケース3-2開門がなされれば,原告農業者ら224名は,それぞれ旧干拓地又は新干拓地における所有権又は賃借権に基づく使用収益として営む農業につき,農業被害が発生するおそれがあり,上記原告農業者らの所有権ないし賃借権は,その生活ないし経営の基盤となっているから,その侵害により上記原告農業者らが受ける被害は重大なものというべきである。そうすると,ケース3-2開門がなされた場合,多数の原告(原告農業者ら224名)について所有権ないし賃借権の行使として営む農業に重大な被害を受けるおそれがあり,ケース3-2開門の公共性ないし公益上の必要性は,相当減殺されるというべきである。
なお,被害の防止に関する措置の有無及びその内容,効果等をみると,被告の事前対策には,その実効性に疑問があるものがあり(散水等)
,被告の事前対
策を考慮しても,上記原告らについて,妨害のおそれは否定されないものである。また,前記のとおり,被告は,ケース3-2開門と相当因果関係がある損害を事後的に補償することを予定するが,具体的な補償の時期・方法・基準についてあらかじめ明らかにしていないから,このことが違法性を減殺する程度は低いものにとどまる(前記

)。

以上のとおり,ケース3-2開門は,本件各排水門の管理水位を維持したま
第2

争点⑵(ケ-ス3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
ま5年間の比較的長期にわたり,調整池に海水を導入するもので,これにより各原告農業者の所有又は賃借に係る農地には塩害,潮風害又は農業用水の一部喪失(被害が重複するものがある。)の発生する高度の蓋然性があり,これらにより農業被害の発生するおそれがある。これらの農業被害は,財産的権利に関するものであるが,各原告農業者の生活等の基盤に直接関わるものであり,重大というべきである。特に塩害については,一旦発生すると作付作物の変更ないしは除塩と土壌改良が必要であって,そこで農業を営む土地所有者に著しい負担が生じる。他方で,認定事実によれば,ケース3-2開門がなされても,被告が主張する諫早湾及び有明海の漁場環境が改善する可能性及び改善の効果はいずれも高くない。また,ケース3-2開門による開門調査を実施し,本件事業と漁獲量減少との関連性等の調査結果を公表することには一定の公共性ないし公益上の必要性はあるが,解明の見込みは不明である上,ケース3-2開門がなされた場合に,多数の原告が土地所有権ないし賃借権の行使として営む農業に上記被害を受けるおそれが生じることに照らすと,ケース3-2開門の公共性ないし公益上の必要性は相当減殺される。しかも,被告の予定する事前対策は,その実効性に疑問があるものがあり,これによって,上記原告らの妨害のおそれは否定されない。
そうすると,ケース3-2開門によって侵害を受けるおそれのある上記各原告の被侵害利益と上記ケース3-2開門の公共性ないし公益上の必要性とを比較し,上記の各事情を総合的に考慮すれば,ケース3-2開門については,上記各原告との関係で,上記差止請求を認容すべき違法性があるというべきである。
結論
以上によれば,①原告旧干拓地(諫早)農業者ら(103名)及び原告旧干拓地(吾妻)農業者ら(85名)は前記土地所有権に基づく妨害予防請求,②原告新干拓地農業者ら(36名)は前記土地賃借権に基づく妨害予防請求とし
1
判断の枠組み
被告の背信性

て,被告に対し,ケース3-2開門(ただし,調整池から諫早湾海域への排水を行う場合の開門を除く。
)の差止めを求める権利を有するというべきである。
これに対し,上記の原告以外の原告らのケース3-2開門の差止めを求める請求は,理由がない。
第3
1
争点⑶(ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について判断の枠組み
前判示のとおり(前記第2争点⑵(ケース3-2開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について〈以下ケース3-2開門の違法性という。〉の1〈153頁〉,原告らは,被告に対し,本件開門の差止めを求めるとこ)
ろ,ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるかを判断するに当たっては,侵害行為の態様と侵害の程度,被侵害利益の性質と内容,侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか,被害防止に関する措置の有無及びその内容,効果等の事情をも考慮し,これらを総合的に考察してこれを決すべきである。
そして,上記各原告の被侵害利益については,妨害のおそれが認められる個々の原告の被侵害利益のみを考慮すべきであるが,本件開門により多数の当事者の権利・利益について妨害のおそれがあることは,公共性ないし公益上の必要性を減殺する事情として斟酌することができるというべきである。そこで,以下,後記2ないし8において,ケ-ス1開門がなされれば,旧干拓地の所有権,新干拓地の賃借権・所有権,諫早湾内における漁業行使権及び本件後背地に居住する者の人格権の各行使につき妨害のおそれがあるか,妨害のおそれがある場合,その内容及び程度等はどのようなものであるか,被告が予定する被害防止のための事前対策の内容及び効果,その実施の蓋然性について検討する。また,後記9において,環境権に基づく請求の可否を検討し,その上で,後記10から12において,被侵害利益の性質と内容,侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性,侵害行為の違法性判断において考慮すべきその
第3

争点⑶(ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
他の要素を個別に検討し,後記13(499頁)において,上記の見地に基づく総合的な考察を行い,ケ-ス1開門に差止請求を認容すべき違法性があるかを判断する。
2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ


妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)
前判示のとおり
(前記第2の2
〈ケース3-2開門の違法性・旧干拓地
(諫
早)の所有権〉⑴),原告旧干拓地(諫早)農業者らは,その所有に係る旧干拓地(諫早)の土地においてそれぞれ農業を営むところ,事前対策をせずに本件開門(ケース1開門を含むものである。)がなされれば,上記原告らが農業用水の水源として利用している潮遊池が塩水化し,上記農業用水の水源喪失の高度の蓋然性がある。しかし,認定事実によれば,被告が海水淡水化案という事前対策を実施することにより農業用水が確保され,その実施の蓋然性は高いということができる。
したがって,原告旧干拓地(諫早)農業者らの所有権の行使につき,本件開門がなされた場合の農業用水の水源喪失による妨害のおそれがあるということはできない。



妨害のおそれ②(潮風害)
前判示のとおり(前記第2の2
〈ケース3-2開門の違法性・旧干拓地
(諫
早〉の所有権〉⑵)
,原告旧干拓地(諫早)農業者らは,その所有に係る旧干
拓地(諫早)の土地においてそれぞれ農業を営むところ,本件開門(ケース1開門を含むものである。
)がなされれば,調整池が塩水化し,上記各土地に
おいて栽培する作物について季節風等の強風による潮風害が生じる高度の蓋然性がある。
被告の予定する散水等の事前対策は,
実効性等に疑問があり,
上記潮風害が発生する高度の蓋然性を否定するものということはできない。したがって,原告旧干拓地(諫早)農業者らの旧干拓地(諫早)の所有権の行使につき,本件開門がなされれば,潮風害による妨害のおそれがあると
2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑶妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)
いうべきである。


妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)

事前対策を実施しない場合の湛水被害のおそれ
原告Bら

98名

前記前提事実のとおり,旧干拓地(諫早)の農業者である原告

Bら

98名(目録1-1番~30番,33番~40番,42番~79番,81番~97番,100番~103番,105番)は,その所有に係る旧干拓地(諫早)において,それぞれ農業を営むところ,ケース1開門が行われた場合,以下のa及びbの機序が競合することによって,10年大雨があった場合に,現状より,湛水被害の程度(範囲・湛水深)が大きくなり,旧干拓地(諫早)における上記農業につき湛水被害が発生する高度の蓋然性があり,上記原告Bら
害のおそれがある(別紙70)


98名の所有権の行使につき妨
(前記前提事実




樋門・樋管の閉門による排水不良
旧干拓地(諫早)では,現状,無降雨時には潮遊池に貯まった農業用水及び雨水等を主ゲート付きの樋門・樋管2か所(その位置は別紙33の30番及び31番)から,調整池へ自然排水している(前記前提事実





ケース1開門がなされれば,被告は,塩水化した調整池から潮遊池への塩水浸入を防止するため,無降雨時には,その敷高が標高(+)2.4mより低い上記全ての樋門・樋管の主ゲートを閉門する(前記前提事実

イ。別紙49。。そのため,無降雨時に潮遊池の水位が現


状より高くなり,これにより,旧干拓地(諫早)では排水不良が起こる(前記前提事実
bイ
a)


排水時間短縮による排水不良
被告は,現状では,調整池の水位を標高(-)1.0mから(-)
第3

争点⑶(ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
1.2mまでの範囲内で管理しており,調整池の水位は,降雨量が平成19年降雨量以下であれば,概ね標高(-)0.68mから(-)1.2mまでの範囲内となる(前記前提事実

ア)。

ケース1開門がなされれば,外潮位の変動に伴い,調整池の水位が変動し,調整池の水位は,降雨量が平成19年降雨量以下であれば,概ね標高(+)2.4mから(-)1.8mまでの範囲内となる(前記前提事実

イ)。被告は,1日2回の諫早湾の干満により,周辺の

低平地よりも調整池の水位が低くなる時にのみ,農業用水及び雨水等を潮遊池から調整池へ排出する。このように,排水を行うことのできる時間が限定され短くなるため,旧干拓地(諫早)では,農業用水及び雨水等を十分に排水できなくなる(前記前提事実
原告Eら
aイ
b)。

5名

原告らの主張
原告らは,原告Bら
らのうち原告Eら

98名のほか,原告旧干拓地(諫早)農業者

5名
(目録1-31番,
32番,
98番,
99番,

104番)が,その所有に係る旧干拓地(諫早)において農業を営むところ,ケース1開門が行われた場合,①樋門・樋管の閉門による排水不良,排水時間短縮による排水不良という機序のほか,②ガタ土堆積による排水不良,③既設堤防の倒壊による調整池の水の浸入の機序が競合することによって,10年大雨があった場合に,又は④20年大雨があった場合に,現状より,湛水被害の程度(範囲・湛水深)が大きくなり,旧干拓地(諫早)における上記農業につき湛水被害が発生する高度の蓋然性があり,上記所有権の行使につき妨害のおそれがある旨主張する。

認定事実
証拠(事実の後に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,環境アセスメ
2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑶妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)
ントの予測が以下のとおりであると認められる。


湛水範囲の予測
原告Eら

5名の所有する農地は,環境アセスメントにおいて,

ケース1開門がなされた場合に10年大雨があったときに湛水す
ると予測された地域の範囲外にある(別紙70)
。なお,これは調整
池の水位変化による洪水時の農地等の浸水・湛水状況の変化を予測するものであるから,ガタ土堆積による排水不良を考慮していないものと推認される。
(乙A32の1_6.14.4-28頁,乙C37-1頁)


ガタ土の堆積の予測
環境アセスメントは,ケース1開門がなされた場合,開門から1
年で,旧干拓地(諫早)の樋門・樋管の調整池への排水口付近に最大0.5m程度のガタ土が堆積すると予測する(別紙88-2頁の図6.6.1-37部分)

(乙A32の1_6.6.1-62・63頁)


検討(原告Eら

5名についての湛水被害のおそれ)

前記10年大雨時に湛水する地域の範囲外であるとの環境アセス
メントの予測(ただし,ガタ土の堆積による排水不良を考慮しないもの)に照らせば,事前対策を実施せずにケース1開門がなされた場合に,原告Eら

5名の所有する農地が,樋門・樋管の閉門及び排水時

間短縮による排水不良によって湛水被害が生じる高度の蓋然性があるということはできない(原告らの主張①)
。また,既設堤防の耐久力に
係る状態が,ケース1開門がなされれば,10年大雨があった場合に倒壊する高度の蓋然性があるといえる程度のものであることを認めるに足りる証拠がない(原告らの主張③)。さらに,前記前提事実(イ
)のとおり,ケース1開門は5年間の開門をするものであるとこ

第3

争点⑶(ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
ろ,ケース1開門がなされる5年間に,20年大雨が発生する高度の蓋然性があるということはできない(原告らの主張④)。これに対し,前記環境アセスメントの予測に照らせば,ケース1開門がなされれば,旧干拓地(諫早)の樋門・樋管の調整池への排水口付近にガタ土が堆積する(原告らの主張②)
。その量は,1年間で最大
0.5m程度であるから,事前対策を実施しない場合にはガタ土堆積による排水不良が発生する高度の蓋然性がある。そのことによって,旧干拓地(諫早)における農業につき湛水被害が発生する高度の蓋然性がある。
そうすると,事前対策を実施せずにケース1開門がなされれば,原告Eら

5名は,ガタ土堆積の排水不良により,その所有する旧干拓

地(諫早)の農地に湛水被害が生じる高度の蓋然性があり,その所有権の行使につき妨害のおそれがある。

湛水被害に対する事前対策の効果とその実施の蓋然性
認定事実
証拠(事実の後に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

被告が予定する事前対策の内容


常時排水ポンプの設置
無降雨時に樋門・樋管の主ゲートを閉門することによる排水不良
を防止するため,潮遊池の水位を現状より30㎝低くし,潮遊池から調整池への排水をする常時排水ポンプを旧干拓地(諫早)に1台設置して
(その位置は別紙61-2頁の6番)
,その起動水位を標高
(-)1.3mに,停止水位を標高(-)1.8mに設定する。



ガタ土対策
ガタ土堆積による排水不良を防止するため,

2ⅰ
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑶妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)
ガタ土除去
ガタ土の堆積状況を1年間で4回程度の頻度で定期的に観測
し,
必要があればガタ土の浚渫を行う。浚渫した土砂については,
調整池内での処理を基本として行う。


護床工の設置
本件各排水門周辺で顕著な洗掘や底質の巻き上げが生じないよ
う,洗掘に対する許容速度(1.6m/s)を超える範囲を対象に護床工(捨石工)を行う。



洪水時排水ポンプの設置
排水時間短縮による排水不良に起因して10年大雨があった場
合に湛水被害が発生することを防止するため,洪水時排水ポンプを,旧干拓地(諫早)に2台設置する(その位置は別紙61-2頁の6番)



予算措置


環境アセスメントは,ケース3-2開門の事前対策(ただし,農
業用水を確保するための事前対策を除く。以下本項において同じ。)
に要する費用を合計約42億円,ケース1開門の事前対策に要する費用を合計約1002億円(うち,洪水時排水ポンプの設置20か所291億円,1か所187億円,護床工の設置395億円)と予測した。



(乙A32の2-154頁)

内閣は,平成25年1月29日,ケース3-2開門の事前対策に
要する費用につき合計約49億円を計上した農林水産省予算の概
算を閣議決定した。

(乙A42,
44)

国会は,同年5月15日,上記の閣議決定された内容と同内容の
予算を成立させた。


(乙A44,
117,
118)

被告が予定するケース1開門の事前対策のうち常時排水ポンプ第3争点⑶(ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)についての設置及びガタ土除去は,ケース3-2開門の事前対策と同様のものである。
そして,ケース3-2開門の事前対策について予算措置がとられ
ているが,ケース1開門の事前対策(
洪水時排水ポンプの設置

護床工の設置
)に必要な予算措置はとられていない。
検討(被告が事前対策を実施する蓋然性及び効果)

被告が事前対策を実施する蓋然性
そうすると,ケース1開門の事前対策のうち,ケース3-2開門の事前対策と同様の事前対策
(常時排水ポンプの設置,
ガタ土除去)
は,
ケース3-2開門の事前対策を行うために必要なものとして予算措置がとられており,被告がこれを行う蓋然性が高い。
これに対し,ケース1開門の事前対策を行うために必要な予算(約1002億円)は,ケース3-2開門の事前対策を行うために必要な予算(約49億円)を大きく上回り,その予算措置がとられる蓋然性が高いということはできない。したがって,ケース3-2開門の事前対策を行うために必要な予算措置が既にとられたことを根拠として,被告が,ケース1開門の事前対策のうちケース3-2開門の事前対策とは別個の対策,すなわち,
洪水時排水ポンプの設置護床工の設,置を実施する蓋然性が高いということはできない。そして,ほかに上記事前対策を行うために必要な予算措置がとられる事実を認めるに足りる証拠はない。


原告らの主張について
これに対し,原告らは,前記⒜のガタ土除去の事前対策実施の蓋然性が高いということはできない旨主張し,
その根拠として,
①被告は,
浚渫したガタ土を調整池内で処理することを基本とするところ,それを実施するには河川管理者の許可が必要であるが,その許可が得られ
2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑶妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)
る見込みはない,②ガタ土が堆積する樋門・樋管の前は,狭隘であったり,コンクリートが被覆してあったりして,泥上車や高濃度浚渫船では,ガタ土を十分に除去することはできない,③被告は,ガタ土除去のための重労働を原告らに行わせようとしていることを主張する。上記①に関しては,前記のとおり
(前記第2の2

ウ〈165頁〉,


被告が,国の事業として調整池(1級河川である本明川の一部)において,土地を占有しようとする場合,河川法95条の河川管理者(調整池の一部〈別紙94の図の濃い水色部分〉は,国土交通大臣が河川管理者であり,その余は指定区間であって,長崎県知事が河川管理者である。との協議の成立が必要である。

前判示のとおり
(前記ア

c)


ガタ土が堆積することによって原告旧干拓地(諫早)農業者らに湛水被害が生じる高度の蓋然性があるから,ガタ土除去は河川法95条の協議の考慮要素である公益性,必要性があるということができる。そうすると,本件においては,河川管理者が河川区域内の上記土地の占有に関して河川法95条の協議に応じない具体的理由となるべきものは見当たらない。なお,開門の是非は,上記土地占有の公益性等とは異なる事項であり,現在,長崎県知事が本件開門に反対していることをもって,ガタ土除去の事前対策を実施する蓋然性を否定すべき事情ということはできない。したがって,河川管理者である国土交通大臣ないし長崎県知事との協議が成立する蓋然性は高いというべきである。また,原告らが主張する樋門・樋管前は,泥上車や高濃度浚渫船では,ガタ土を十分に除去することはできないような状態にあるとの事実(前記②)及び被告は,ガタ土除去のための作業を原告らに行わせようとしているとの事実(前記③)を認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

第3

争点⑶(ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について

被告の予定する事前対策と湛水被害のおそれ
排水時間短縮による湛水被害が発生する蓋然性
弁論の全趣旨によれば,排水時間短縮による排水不良の発生を防止するためには,
常時排水ポンプの設置だけでなく洪水時排水ポンプの設置の事前対策を行う必要性があると認められる。前記のとおり,洪水時排水ポンプの設置の事前対策は,被告が予算措置をとっていないので,これを行う蓋然性が高いということはできないから,被告の予定する事前対策により排水不良の発生が防止されるということはできない。ガタ土堆積による湛水被害が発生する蓋然性
前記のとおり(前記イ


,護床工の設置の事前対策は,被告が予算措

置をとっていないので,これを実施する蓋然性が高いということはできない。もっとも,環境アセスメントの予測によれば,ガタ土の堆積量は1年間で最大0.5m程度であり,被告が事前対策として実施を予定するガタ土除去の内容は,ガタ土の堆積状況を1年間で4回程度の頻度で定期的に観測し,必要に応じて浚渫するというものであることに鑑みれば,堆積したガタ土による排水不良が生じる前に,ガタ土を除去することは可能というべきである。そして,被告がガタ土除去の事前対策を実施する蓋然性は高いから,ガタ土の堆積によって,旧干拓地(諫早)において,
湛水被害が発生する高度の蓋然性があるということはできない。

妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)について
以上によれば,原告旧干拓地(諫早)農業者らは,その所有に係る旧干拓地(諫早)において,それぞれ農業を営むところ,原告旧干拓地(諫早)農業者らのうち原告Bら

98名(目録1-1番~30番,33番~40

番,42番~79番,81番~97番,100番~103番,105番)は,ケース1開門がなされ,10年大雨が発生すると,排水時間短縮による排水不良により,湛水被害の程度(範囲・湛水深)が大きくなり,旧干
2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑷妨害のおそれ④(塩害)

拓地(諫早)における上記農業につき湛水被害が発生する高度の蓋然性がある。被告の予定する事前対策は妨害のおそれを否定するものということはできないから,上記所有権の行使につき妨害のおそれがある。
これに対し,原告Eら

5名の所有する農地は,事前対策をせずにケー

ス1開門がなされれば,ガタ土堆積による排水不良で,10年大雨があったときに,現状より,湛水被害の程度(範囲・湛水深)が大きくなる高度の蓋然性があるが,被告がガタ土除去の事前対策を実施することにより,上記湛水被害の蓋然性は低下する。そして,被告が上記事前対策を実施する蓋然性は高いから,湛水被害が生じる高度の蓋然性があるということはできない。


妨害のおそれ④(塩害)

開門による作土層の塩化物イオン濃度上昇の機序等と環境アセスメントの信頼性
前判示のとおり(前記第2の2〈ケース3-2開門の違法性・旧干拓地(諫早)の所有権〉⑷),認定事実によれば,開門による作土層の塩化物イオン濃度上昇の機序が以下の①~③のとおりであり,これらについての環境アセスメントの予測が以下の範囲で信頼できるものと認められる。すなわち,その機序は,①大雨時における地下水位の上昇,②毛管現象,③飛来塩分の増加という機序の競合であり,さらに,④大雨時の湛水被害が考えられる(④については争いがある。)ところ,大雨時における地下水位の上昇の具体的な機序は次のとおりである。
大雨時には,心土層の塩化物イオン濃度の高い地下水(その濃度は,環境アセスメントのとおり。前記第2の2⑷ウ)が地下水位の上昇にともなって暗渠管の上層まで浸入し,また,本件開門によって塩水化した潮遊池に由来する塩水(潮遊池の塩化物イオン濃度は,環境アセスメントのとおり。前記第2の2⑷イ)が暗渠管に浸入して(浸入する農地の範囲は,環
第3

争点⑶(ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
境アセスメントのとおり。前記第2の2⑷エ),これらが暗渠管付近で混合する。さらに,心土層の塩化物イオン濃度が高い地下水が毛管現象により作土層に上昇する(なお,作土層の塩化物イオン濃度は,環境アセスメントの予測値に1.1の補正係数を乗ずるのが相当である。前記第2の2⑷オ)。
なお,塩害のおそれを判断する土壌の深さは,作物毎の主要根群域の深さによるべきである(前記第2の2⑷カ)。また,妨害のおそれを検討するにあたり,マグネシウム等による農作物被害について検討する必要があるとまではいうことができない(前記第2の2⑷キ)。そこで,以下,環境アセスメントの予測をもとに事前対策を実施しない場合の塩害のおそれ(後記イ),被告の予定する事前対策の内容,効果,その実施の蓋然性
(後記ウ)事前対策を実施した場合の塩害のおそれ

(後
記エ)について,順に検討する。

事前対策を実施しない場合の塩害のおそれ
認定事実
証拠
(事実の後に掲記)
及び弁論の全趣旨によれば,
前記第2の2
(ケ
ース3-2開門の違法性・旧干拓地(諫早)の所有権)⑷ク
の認定事

実のほか,以下の事実(環境アセスメントによる土壌中の塩化物イオン濃度の予測)が認められる。
環境アセスメントは,ケース1開門における,前記アの①ないし③の機序,すなわち,大雨時の地下水位の上昇,毛管現象,飛来塩分の増加を踏まえた,
釜ノ鼻地区
(MJ-1地点・森山モデル。
旧干拓地
(諫早)

における各深度の土壌間隙水の塩化物イオン濃度の年間最大値を,深度10㎝が466㎎/L,深度20㎝が855㎎/L,深度30㎝が1724㎎/L,深度38㎝が3712㎎/Lと予測した(平成8年度及び本件事業が完成した平成19年度気象下の予測値の最大値。以下同じ。)。
2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑷妨害のおそれ④(塩害)

(乙A32の1_6.5.1-47~50・53~56頁)
釜ノ鼻地区(MJ-1地点)と同様に地盤が低く,堤防沿いの潮遊池や排水路に接するなどの条件が類似し,畑作物を栽培している後背地のほ場では,釜ノ鼻地区(MJ-1地点)と同様の影響が推定される。(乙A32の1_6.14.2-5~6頁)
検討(事前対策を実施しない場合の塩害のおそれ)

稲類
前判示のとおり(前記第2の2〈ケース3-2開門の違法性・旧干拓地(諫早)の所有権〉

ク),旧干拓地では,本件締切り前,稲作

を中心に営農が行われたところ,稲類について本件締切りまで塩害の報告はなく,他の干拓地でも塩害の報告はないから,稲類について塩害のおそれがあるということはできない。

稲類以外
ケース1開門後の釜ノ鼻地区(MJ-1地点)の各深度の土壌間隙水の塩化物イオン濃度の最大値は,環境アセスメントの予測値(前記)に補正係数1.1を乗じた数値というべきであるから(前記ア),深度10㎝が513㎎/L,20㎝が941㎎/L,30㎝が1896㎎/L,38㎝が4083㎎/Lであるところ,釜ノ鼻地区(MJ-1地点)と条件が類似する地域はこれと同様と予測される(前記

)。

また,旧干拓地(諫早)において栽培されている農作物の主要根群域の最低深さ及び限界塩化物イオン濃度は,タマネギ20㎝・250㎎/L,麦類25㎝・300㎎/L,カボチャ40㎝・300㎎/L,大豆40㎝・350㎎/Lであり,
このほかの作物については限界塩化物イ
オン濃度が不明である(前記第2の2


d〈237頁〉)。上記の主

要根群域及び限界塩化物イオン濃度が明らかな旧干拓地(諫早)の作付作物については,いずれも主要根群域の深度の土壌間隙水の塩化物
第3

争点⑶(ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
イオン濃度が限界塩化物イオン濃度を上回る。
したがって,旧干拓地(諫早)で生産される作物については,事前対策をしない場合,環境アセスメントが土壌間隙水中の塩化物イオン濃度を予測した釜ノ鼻地区(MJ-1地点)と同様,地盤が低く,潮遊池の付近の土地では,タマネギ,麦類,カボチャ,大豆について塩害が発生するおそれがあり,他の作物については,主要根群域及び限界塩化物イオン濃度についての証明がなく,そのおそれは不明である(検討結果は,別紙102-2頁のBケース1開門の事前対策なし欄に記載のとおり。)。また,原告らは大雨時に潮遊池の塩水が溢水することによる塩害のおそれを主張するが,その場合の作土層の土壌間隙水の塩化物イオン濃度を認めるに足りる証拠はないから,原告らの上記主張は,採用することができない。

塩害に対する事前対策の効果とその実施の蓋然性
認定事実
前記イ

の認定事実のほか,証拠(事実の後に掲記)及び弁論の全趣

旨によれば,以下の事実が認められる。

被告の予定する事前対策の効果とその実施の蓋然性

常時排水ポンプの設置
潮遊池の水を排水する常時排水ポンプ1台を旧干拓地(諫早)に
設置する(その位置は別紙61-2頁の6番)
。そして,常時排水ポ
ンプの起動水位を現況の管理水位から30㎝低くして,潮遊池の水位を,標高(-)1.3m~(-)1.8mで管理する。
環境アセスメントは,潮遊池の水位を30㎝低下させる事前対策
をした場合の釜ノ鼻地区(MJ-1地点・森山モデル)における
各深度の土壌間隙水の塩化物イオン濃度の年間最大値を,深度1

2
旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑷妨害のおそれ④(塩害)

0㎝が236㎎/L,深度20㎝が200㎎/L,深度30㎝が261㎎/L,深度38㎝が339㎎/Lと予測した。
(乙A32の1_6.14.2-15・16頁)

鋼矢板の打設
旧干拓地について,調整池から潮遊池への塩水の浸透が大きいと
見込まれる場所について,調整池と潮遊池の間に地下4m程度まで鋼矢板を打設し,塩水の浸入を防止する。設置する場所は,概ね別紙64記載のとおりである。
(乙A32の2-105頁,乙A142)


モニタリング及び散水
ほ場及び排水路(潮遊池)において,電気伝導度のモニタリング
(連続観測)等を行う。モニタリングにおいて,観測地の塩化物イオン濃度に一定以上の上昇が確認された場合,大雨によりほ場が湛水した場合,夏季において干天が連続した場合,地元関係者との協議により,深度別の調査を行い,塩害発生の可能性があるときは,散水等の対策を講じる。


(乙A32の2-104頁)

洪水時排水ポンプの設置
排水時間短縮による排水不良に起因して10年大雨があった場
合に湛水被害及び潮遊池の塩水が農地に浸入することによる塩害
が発生することを防止するため,
洪水時排水ポンプを,
旧干拓地
(諫
早)に2台設置する(その位置は別紙61-2頁の6番)

(乙A32の2-126頁)


予算措置
前判示のとおり(前記イ妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)
)被告が予定するケース1開門の塩害のおそれに対する事前対策


は,洪水時排水ポンプの設置を除き,ケース3-2開門の事前対策と
第3

争点⑶(ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
同じであり,ケース3-2開門の事前対策として予算措置がとられている。
検討(塩害に対する事前対策の効果とその実施の蓋然性)
以上のとおり,常時排水ポンプを設置する事前対策(潮遊池の水位を30㎝低下させる)は,被告が予算措置をとっており,実施される蓋然性が高い。そして,土壌間隙水中の塩化物イオン濃度の予測値を,事前対策実施の有無で比較すれば,土壌間隙水中の塩化物イオン濃度が低下する蓋然性は高い。
他方,前判示のとおり(前記第2の2〈ケース3-2開門の違法性・旧干拓地(諫早)の所有権〉



,鋼矢板の打設の事前対策は,具体

的な設置数は不明であり,シミュレーションの有無も明らかでなく,また,散水等の事前対策は,散水が作物の収穫後に行うことができる可能性があるという限られたものでしかないから,いずれも塩害のおそれを否定するものということはできない。
なお,洪水時排水ポンプの事前対策は,大雨時の潮遊池の塩水溢水に対する事前対策であり,その溢水による塩害のおそれを認めるに足りる証拠がないから(前記イ

b〈413頁〉),洪水時排水ポンプの実施の蓋

然性等を判断する必要はない。

事前対策を実施した場合の塩害のおそれ
稲類
前判示のとおり(前記イれ

事前対策を実施しない場合の塩害のおそ

a),稲類の塩害のおそれがあるということはできない。

稲類以外
前記のとおり,ケース1開門後,常時排水ポンプを設置して,潮遊池の水位を30㎝低くした場合の釜ノ鼻地区(MJ-1地点)の各深度の土壌間隙水の塩化物イオン濃度の最大値は,環境アセスメントの予測値
2
(前記ウ

旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑷妨害のおそれ④(塩害)

a)に補正係数1.1を乗じた数値というべきであり(前記

ア),深度10㎝が260㎎/L,20㎝が220㎎/L,30㎝が287㎎/L,38㎝が373㎎/Lであるところ,釜ノ鼻地区(MJ-1地点)と条件が類似する地域はこれと同様と予測される(前記イ

)。旧

干拓地(諫早)において栽培されている農作物の主要根群域の最低深さ及び限界塩化物イオン濃度は,タマネギ20㎝・250㎎/L,麦類25㎝・300㎎/L,カボチャ40㎝・300㎎/L,大豆40㎝・350㎎/Lである。このほかの作物については不明である(前記第2の2ク
d〈237頁〉)。そうすると,タマネギ,カボチャ及び大豆につ
いて,事前対策を実施した場合の土壌間隙水の塩化物イオン濃度が限界塩化物イオン濃度を上回る。
したがって,旧干拓地(諫早)で生産される作物については,事前対策を実施した場合,釜ノ鼻地区(MJ-1地点)と同様,地盤が低く,潮遊池の付近の土地では,タマネギ,カボチャ及び大豆について塩害が発生するおそれがある。他の作物については,これを認めるに足りる証拠がない(検討結果は,別紙102-2頁のBケース1開門の

事前対策あり欄に記載のとおり。)。
塩害のおそれのある原告

認定事実
前記認定事実のほか,証拠(甲A65,甲B3の5,乙A32の1_6.14.4-7頁)によれば,原告旧干拓地(諫早)農業者らのうち,目録1-2番~5番,7番,8番,19番~21番,24番~29番,33番~35番,43番~46番,73番,89番~96番の各原告は,旧干拓地(諫早)において,タマネギ,カボチャ又は大豆を栽培していること,
また,
これらの原告の所有に係る旧干拓地
(諫
早)の土地は,いずれも地盤が低く,潮遊池の付近であることがそれ
第3

争点⑶(ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
ぞれ認められる。

検討(塩害のおそれのある原告)
そうすると,ケース1開門(事前対策あり)を実施した場合に塩害のおそれがある農作物は,
タマネギ,
カボチャ及び大豆であるところ,
旧干拓地(諫早)において,タマネギ,カボチャ又は大豆を栽培しているのは,目録1-2番~5番,7番,8番,19番~21番,24番~29番,33番~35番,43番~46番,73番,89番~96番の各原告であり,これらの原告の所有に係る旧干拓地(諫早)の土地は,いずれも潮遊池付近であり,農地の標高が低いから,環境アセスメントにおいて土壌の塩化物イオン濃度の変化が予測される範囲に含まれるものということができる。
したがって,上記各原告は,その所有に係る旧干拓地(諫早)で栽培する農作物(タマネギ,カボチャ又は大豆)について,塩害が生じるおそれがある。


原告らの主張(100年大雨があった場合の塩害のおそれ〈既設堤防の越波〉
)について
原告らは,ケース1開門がなされれば,調整池の水位が上昇し,100年大雨があった場合に,
調整池の塩水が既設堤防を越えて旧干拓地
(諫早)
に浸入する高度の蓋然性があり,これによって,被告の予定する事前対策の有無にかかわらず旧干拓地(諫早)において作土層の塩化物イオン濃度が上昇し,旧干拓地(諫早)における農業につき塩害が発生する高度の蓋然性がある旨主張する。
しかし,前記前提事実(


)のとおり,ケース1開門は,5年間の

開門をするものであるところ,
ケース1開門がなされる5年間に,100年大雨が発生する高度の蓋然性があるとの事実は,これを認めるに足りる証拠がない。



2旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ
結論(旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ)
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

妨害のおそれ④(塩害)について
以上のとおり,原告旧干拓地(諫早)農業者らは,その所有に係る旧干拓地(諫早)の農地において農業を営むところ,原告旧干拓地(諫早)農業者らのうち目録1-2番~5番,7番,8番,19番~21番,24番~29番,33番~35番,43番~46番,73番,89番~96番の各原告は,ケース1開門がなされた場合,上記農地において栽培する農作物に塩害が発生し,上記所有権に基づく使用収益につき妨害のおそれがある。
その余の原告旧干拓地(諫早)農業者らについては,上記農地において栽培する農作物に塩害が発生し,上記所有権に基づく使用収益につき妨害のおそれがあるということはできない。



結論(旧干拓地(諫早)の所有権の行使についての妨害のおそれ)以上のとおり,原告旧干拓地(諫早)農業者らは,その所有する旧干拓地(諫早)の農地において,農業を営むところ,ケース1開門がなされれば,季節風等の強風による潮風害(妨害のおそれ②)が生じる高度の蓋然性があり,被告の予定する散水等の事前対策は,上記潮風害の発生する高度の蓋然性を否定するものということはできない。
また,ケース1開門がなされれば,10年大雨があった場合に,排水不良により原告旧干拓地(諫早)農業者らのうち原告Bら

98名所有の土地に

ついて湛水被害が発生する(妨害のおそれ③)高度の蓋然性がある。被告の予定する事前対策は,妨害のおそれを否定するものということはできない。さらに,大雨時の地下水の上昇等により,作土層の塩化物イオン濃度が上昇し,地盤が低く,潮遊池付近の土地では,一部の農作物(タマネギ,麦類,カボチャ及び大豆)について塩害が発生する(妨害のおそれ④)高度の蓋然性があるところ,被告の事前対策によって,土壌間隙水の塩化物イオン濃度
第3

争点⑶(ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
が低下するものの,タマネギ,カボチャ及び大豆については塩害発生の高度の蓋然性が残存する。そのため,その所有する旧干拓地(諫早)の土地でタマネギ,カボチャ又は大豆を栽培する原告農業者ら(目録1-2番~5番,7番,8番,19番~21番,24番~29番,33番~35番,43番~46番,73番,89番~96番)については,その所有する土地につき塩害のおそれがある。
他方,ケース1開門により,事前対策をしなければ,農業用水の水源喪失(妨害のおそれ①)の高度の蓋然性はあるが,被告が事前対策として,海水淡水化案を実施することにより,農業用水が確保され,その対策実施の蓋然性は高いということができる。
したがって,原告旧干拓地(諫早)農業者らの干拓地(諫早)の土地の所有権の行使については,妨害のおそれ②(潮風害)並びにその一部について妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)及び同④(塩害)があるというべきである。
3
旧干拓地(吾妻)の所有権の行使についての妨害のおそれ


妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)
前判示のとおり
(前記第2の3
〈ケース3-2開門の違法性・旧干拓地
(吾
妻)の所有権〉


,原告旧干拓地(吾妻)農業者らは,その所有に係る旧干

拓地(吾妻)の土地においてそれぞれ農業を営むところ,現状では,淡水である潮遊池から農業用水を取水しているものである。事前対策をせずに本件開門(ケース1開門を含むものである。
)がなされて潮遊池が塩水化すると,
上記原告らのうち,原告Aら

46名は,上記農業用水の水源を喪失する高

度の蓋然性がある。しかし,認定事実によれば,被告が事前対策として,海水淡水化案を実施することにより,
農業用水が確保される蓋然性が高いから,
旧干拓地(吾妻)において農業用水の水源を失う高度の蓋然性があるということはできない。

3
旧干拓地(吾妻)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑵妨害のおそれ②(潮風害)

これに対し,原告旧干拓地(吾妻)農業者らのうち,原告Aら

46名以

外(目録6-1番~21番,23番~35番,37番,38番,74番,84番,87番)は,農業用水の一部について移動式ポンプを使用して,潮遊池の水を利用していたところ,
これが塩水化して利用できなくなり,
被告は,
上記移動式ポンプを使用して潮遊池の水をかんがいに利用している地域について事前対策を予定していないから,
原告Aら

46名以外は,
旧干拓地
(吾

妻)における農業につき農業用水の水源を一部喪失し,これにより,旧干拓地(吾妻)において農業に被害を生じる高度の蓋然性があり,その所有権の行使につき,農業用水の水源喪失による妨害のおそれがある。
したがって,原告旧干拓地(諫早)農業者らのうち,原告Aら

46名以

外は,その所有権の行使につき,農業用水の水源の一部喪失による妨害のおそれがある。


妨害のおそれ②(潮風害)
前判示のとおり
(前記第2の2
〈ケース3-2開門の違法性・旧干拓地
(吾
妻〉の所有権〉


,原告旧干拓地(吾妻)農業者らは,その所有に係る旧干

拓地(吾妻)の土地においてそれぞれ農業を営むところ,本件開門(ケース1開門を含むものである。
)がなされれば,調整池が塩水化し,上記各土地に
おいて栽培する作物について季節風等の強風による潮風害が生じる高度の蓋然性があり,被告の予定する散水等の事前対策は,実効性等に疑問があり,上記潮風害が発生する高度の蓋然性を否定するものということはできない。したがって,原告旧干拓地(吾妻)農業者らの旧干拓地(吾妻)の所有権の行使につき,潮風害による妨害のおそれがあるというべきである。⑶

妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)

事前対策を実施しない場合の妨害のおそれ
原告Cら

84名

前記前提事実のとおり,原告旧干拓地(吾妻)農業者らのうち原告C
第3

争点⑶(ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について

84名
(目録6-1番~21番,
23番~35番,
37番~83番,

85番~87番)は,その所有に係る旧干拓地(吾妻)において,それぞれ農業を営むところ,ケース1開門が行われた場合,樋門・樋管4か所(別紙33の39~42番)の閉門による排水不良,排水時間短縮による排水不良の機序(その内容は,樋門・樋管の数,位置を除き,前記2〈旧干拓地(諫早)の所有権〉


と同じである。
)が競合すること

によって,10年大雨が発生すると,現状より,湛水被害の程度(範囲・湛水深)が大きくなり(別紙71)
,旧干拓地(吾妻)における上記農業
につき湛水被害が発生する高度の蓋然性があり,上記原告Cら

84名

の所有権の行使につき妨害のおそれがある。


(前記前提事実



原告F

原告らの主張
原告らは,原告Cら
らのうち原告

84名のほか,原告旧干拓地(吾妻)農業者

F(目録6-84番)が,ケース1開門が行われた場

合,①樋門・樋管の閉門による排水不良,排水時間短縮による排水不良という機序のほか,②ガタ土堆積による排水不良,③既設堤防の倒壊による調整池の水の浸入が競合することによって,10年大雨があった場合に,又は④20年大雨があった場合に,現状より,湛水被害の程度(範囲・湛水深)が大きくなり,旧干拓地(吾妻)における上記農業につき湛水被害が発生する高度の蓋然性があり,上記所有権の行使につき妨害のおそれがある旨主張する。

認定事実
証拠(事実の後に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,環境アセスメントの予測が以下とおりであると認められる。


湛水範囲の予測
原告

Fの所有する農地は,ケース1開門がなされた場合に10

3
旧干拓地(吾妻)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑶妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)
年大雨があったときに湛水すると予測された地域の範囲外にある
(別紙71)
。なお,これは,調整池の水位変化による洪水時の農地
等の浸水・湛水状況の変化を予測するものであるから,ガタ土堆積による排水不良を考慮していないと推認される。
(乙A32の1_6.14.4-28頁,乙C38-1頁)


ガタ土の堆積の予測
ケース1開門がなされた場合,
開門から1年で,
旧干拓地
(吾妻)
の樋門・樋管の調整池への排水口付近に0.2~0.4m程度のガタ土が堆積する(別紙88-2頁の図6.6.1-37部分)

(乙A32の1_6.6.1-62・63頁)


検討(原告

Fについての湛水被害のおそれ)

前記湛水被害についての環境アセスメントの予測に照らせば,事前対策を実施せずにケース1開門がなされた場合に,原告

Fの所有す

る農地が,樋門・樋管の閉門及び排水時間短縮による排水不良によって湛水被害が生じる高度の蓋然性があるということはできない(原告らの主張①)
。また,既設堤防の耐久力に係る状態が,ケース1開門が
なされて,10年大雨があった場合に倒壊する高度の蓋然性があるといえる程度のものであることを認めるに足りる証拠がない(原告らの主張③)。さらに,前記前提事実(


)のとおり,ケース1開門

は5年間の開門をするものであるところ,ケース1開門がなされる5年間に,20年大雨が発生する高度の蓋然性があるということはできない(原告らの主張④)。
これに対し,ケース1開門がなされれば,旧干拓地(吾妻)の樋門・樋管の調整池への排水口付近にガタ土が堆積する(原告らの主張②)。
その量は,1年間で0.2~0.4m程度であるから,事前対策を実施しない場合には,ガタ土堆積による排水不良が発生し,そのことに
第3

争点⑶(ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
よって,旧干拓地(吾妻)における農業につき湛水被害が発生する高度の蓋然性がある。
そうすると,事前対策を実施せずにケース1開門がなされれば,原告
Fは,ガタ土堆積の排水不良により,その所有する旧干拓地(吾

妻)の農地に湛水被害が生じる高度の蓋然性があり,その所有権の行使につき妨害のおそれがある。

湛水被害に対する事前対策実施の蓋然性
認定事実
弁論の全趣旨によれば,前記2(旧干拓地(諫早)の所有権)


の認定事実のほかに,被告が,大雨時の湛水被害に対する事前対策として,常時排水ポンプの設置(旧干拓地(吾妻)に2台。その位置は別紙61-2頁の1番及び2番)
,ガタ土除去,護床工の設置,洪水時排水ポ
ンプの設置(旧干拓地(吾妻)に6台)を予定することが認められる。検討(湛水被害に対する事前対策実施の蓋然性)
前記のとおり,ケース1開門の事前対策のうち,ケース3-2開門の事前対策と同じ事前対策(常時排水ポンプの設置,ガタ土除去)については,ケース3-2開門のものとして予算措置がとられており,被告がこれを行う蓋然性が高い。なお,原告らは,被告がガタ土除去の事前対策を実施する蓋然性が高いということはできない旨主張するが,前判示のとおり(前記2〈旧干拓地(諫早)の所有権〉

イ〈408頁〉,採用


することはできない。
これに対し,ケース1開門の事前対策のうち,ケース3-2開門の事前対策とは異なる対策,すなわち,大雨時の湛水被害との関係では,洪水時排水ポンプの設置護床工の設置の事前対策は,ケース1開門,
の事前対策を行うために必要な予算(約1002億円)がケース3-2開門の事前対策を行うために必要な予算
(約49億円)
を大きく上回り,

3
旧干拓地(吾妻)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑶妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)
その予算措置がとられる蓋然性が高いということはできないから,被告がこれを行う蓋然性が高いということはできない。

被告の予定する事前対策と湛水被害のおそれ
排水時間短縮による湛水被害が発生する蓋然性
弁論の全趣旨によれば,排水時間短縮による排水不良の発生を防止するためには,
常時排水ポンプの設置だけでなく洪水時排水ポンプの設置の事前対策を行う必要性があると認められる。前記のとおり,洪水時排水ポンプの設置の事前対策は,被告が予算措置をとっていないので,これを行う蓋然性が高いということはできないから,被告の予定する事前対策により排水不良の発生が防止されるということはできない。ガタ土堆積による湛水被害が発生する蓋然性
前記のとおり,護床工の設置の事前対策は,被告が予算措置をとっていないので,これを実施する蓋然性が高いということはできない。もっとも,
環境アセスメントの予測によれば,
ガタ土の堆積量は1年間で0.
2~0.4m程度であり,被告が事前対策として実施を予定するガタ土除去の内容は,ガタ土の堆積状況を1年間で4回程度の頻度で定期的に観測し,必要に応じて浚渫するというものであることに鑑みれば,堆積したガタ土による排水不良が生じる前に,ガタ土を除去することは可能というべきである。そして,被告がガタ土除去の事前対策を実施する蓋然性は高いから,旧干拓地(吾妻)において,ガタ土の堆積によって湛水被害が生じる高度の蓋然性があるということはできない。


妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)について
以上によれば,原告旧干拓地(吾妻)農業者らは,その所有に係る旧干拓地(吾妻)において,それぞれ農業を営むところ,旧干拓地(吾妻)の農業者のうち原告Cら

84名
(目録6-1番~21番,
23番~35番,

37番~83番,85番~87番)は,ケース1開門がなされ,10年大
第3

争点⑶(ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
雨が発生すると,排水時間短縮による排水不良により,現状より,湛水被害の程度(範囲・湛水深)が大きくなり,旧干拓地(吾妻)における上記農業につき湛水被害が発生する高度の蓋然性がある。被告の予定する事前対策は妨害のおそれを否定するものということはできないから,上記所有権の行使につき妨害のおそれがある。
これに対し,原告

Fの所有する農地は,事前対策をせずにケース1開

門がなされ,10年大雨があったときに,ガタ土堆積による排水不良で,10年大雨があったときに,現状より,湛水被害の程度(範囲・湛水深)が大きくなる高度の蓋然性があるが,被告がガタ土除去の事前対策を実施することにより,上記湛水被害の蓋然性は低下する。そして,上記事前対策を実施する蓋然性は高いから,湛水被害が生じる高度の蓋然性があるということはできない。


妨害のおそれ④(塩害)

開門による作土層の塩化物イオン濃度上昇の機序等と環境アセスメントの信頼性
開門による作土層の塩化物イオン濃度上昇の機序及びこれに関する環境アセスメントの予測が信頼できること,さらに,塩害のおそれを判断する土壌の深さは,作物毎の主要根群域の深さによるべきであり,作土層の塩化物イオン濃度については,環境アセスメントの予測値に1.1の補正係数を乗ずるのが相当であることは,前判示のとおり(前記第2の2〈ケース3-2開門の違法性・旧干拓地(諫早〉の所有権〉

)である。

そこで,以下,環境アセスメントの予測をもとに事前対策を実施しない場合の塩害のおそれ(後記イ),被告の予定する事前対策の内容,効果,その実施の蓋然性
(後記ウ)事前対策を実施した場合の塩害のおそれ

(後
記エ)について,順に検討する。

事前対策を実施しない場合の塩害のおそれ

3
旧干拓地(吾妻)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑷妨害のおそれ④(塩害)

稲類
前判示のとおり
(前記第2の2
〈ケース3-2開門の違法性・旧干拓地
(諫早)の所有権〉

ク)
,旧干拓地では,本件締切り前,稲作を中心に

営農が行われたところ,
稲類について本件締切りまで塩害の報告はなく,
他の干拓地でも塩害の報告はないから,稲類について塩害のおそれがあるということはできない。
稲類以外
稲類以外の作物については,ケース1開門後の釜ノ鼻地区(MJ-1地点)の各深度の土壌間隙水の塩化物イオン濃度の最大値は,環境アセスメントの予測値(前記2〈旧干拓地(諫早)の所有権〉


)に補

正係数1.1を乗じた数値というべきであり(前記ア)
,深度10㎝が5
13㎎/L,20㎝が941㎎/L,30㎝が1896㎎/L,38㎝が4083㎎/Lであるところ,釜ノ鼻地区(MJ-1地点)と条件が類似する地域はこれと同様と予測される(前記2



。旧干拓地(吾妻)に

おいて栽培されている農作物の主要根群域の最低深さ及び限界塩化物イオン濃度は,ブロッコリー20㎝・210㎎/L,タマネギ20㎝・250㎎/L,麦類25㎝・300㎎/L,アスパラガス40㎝・300㎎/Lであって,このほかの作物については不明であり(前記第2の3〈ケース3-2開門の違法性・旧干拓地
(吾妻)
の所有権〉イ

b⒜
〈263頁〉,


上記主要根群域及び限界塩化物イオン濃度が明らかな旧干拓地(吾妻)の作付作物については,いずれも主要根群域の深度の土壌間隙水の塩化物イオン濃度が限界塩化物イオン濃度を上回る。
したがって,旧干拓地(吾妻)で生産される作物については,事前対策を実施しない場合,環境アセスメントが土壌間隙水中の塩化物イオン濃度を予測した釜ノ鼻地区(MJ-1地点)と同様,地盤が低く,潮遊池の付近の土地では,ブロッコリー,タマネギ,麦類及びアスパラガス
第3

争点⑶(ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
について塩害が発生するおそれがあり,他の作物については,証明がなく,
そのおそれは不明である
(検討結果は,
別紙102-2頁の
Bケース1開門の事前対策なし欄に記載のとおり。。

また,原告らは大雨時に潮遊池の塩水が溢水することによる塩害のおそれを主張するが,その場合の作土層の土壌間隙水の塩化物イオン濃度を認めるに足りる証拠はないから,上記原告らの主張は,採用することができない。

塩害に対する事前対策の効果とその実施の蓋然性
認定事実
弁論の全趣旨によれば,前記2(旧干拓地(諫早)の所有権)


(414頁)の認定事実のほか,被告が事前対策として,旧干拓地(吾妻)に常時排水ポンプ2台及び洪水時排水ポンプ6台の設置(その位置は別紙61-2頁の1番及び2番)を予定することが認められる。
検討(塩害に対する事前対策の効果とその実施の蓋然性)
認定事実によれば,常時排水ポンプを設置する事前対策(潮遊池の水位を30㎝低下させる)は,被告が予算措置をとっており,実施される蓋然性が高く,土壌間隙水中の塩化物イオン濃度の予測値を,事前対策実施の有無で比較すれば,土壌間隙水中の塩化物イオン濃度が低下する蓋然性は高い。
これに対し,前判示のとおり(前記第2の2〈ケース3-2開門の違法性・旧干拓地
(諫早)
の所有権〉ケ

)鋼矢板の打設の事前対策は,


具体的な設置数は不明であり,
シミュレーションの有無も明らかでなく,
また,散水等の事前対策は,散水が作物の収穫後に行うことができる可能性があるという限られたものでしかないから,いずれも塩害のおそれを否定するものということはできない。
なお,洪水時排水ポンプの事前対策は,大雨時の潮遊池の塩水溢水に
3
旧干拓地(吾妻)の所有権の行使についての妨害のおそれ
⑷妨害のおそれ④(塩害)

対する事前対策であり,その溢水による塩害のおそれを認めるに足りる証拠はないから(前記イ

),洪水時排水ポンプの実施の蓋然性等を判

断する必要はない。

事前対策を実施した場合の塩害のおそれ
稲類
前判示のとおり(前記イれ

事前対策を実施しない場合の塩害のおそ


,稲類の塩害のおそれがあるということはできない。

稲類以外
前記のとおり,ケース1開門後,常時排水ポンプを設置して,潮遊池の水位を30㎝低くした場合の釜ノ鼻地区(MJ-1地点)の各深度の土壌間隙水の塩化物イオン濃度の最大値は,その予測値(前記2〈旧干拓地(諫早)の所有権〉


a)に補正係数1.1を乗じた数値とい

うべきであり(前記ア)
,深度10㎝が260㎎/L,20㎝が220㎎
/L,30㎝が287㎎/L,38㎝が373㎎/Lであるところ,釜ノ鼻地区
(MJ-1地点)
と条件が類似する地域はこれと同様と予測され
(前
記2



,旧干拓地(吾妻)において栽培されている農作物の主要根

群域の最低深さ及び限界塩化物イオン濃度は,ブロッコリー20㎝・210㎎/L,タマネギ20㎝・250㎎/L,麦類25㎝・300㎎/L,アスパラガス40㎝・300㎎/Lであり,
このほかの作物については不
明である(前記第2の3〈ケース3-2開門の違法性・旧干拓地(吾妻)の所有権〉イ

b⒜〈263頁〉。そうすると,ブロッコリー,タマネギ


及びアスパラガスについて,主要根群域の深度の土壌間隙水の塩化物イオン濃度が限界塩化物イオン濃度を上回る。
したがって,旧干拓地(吾妻)で生産される作物については,事前対策をした場合は,環境アセスメントが土壌間隙水中の塩化物イオン濃度を予測した釜ノ鼻地区(MJ-1地点)と同様,地盤が低く,潮遊池の
第3

争点⑶(ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
付近の土地では,ブロッコリー,タマネギ及びアスパラガスについて塩害が発生するおそれがあるが,他の作物については,これを認めるに足りる証拠がない
(検討結果は,
別紙102-2頁の
Bケース1開門

の事前対策あり欄に記載のとおり。。

塩害のおそれのある原告

認定事実
証拠(甲A65,甲B3の8,乙A32の1_6.14.4-7頁,乙C38-1頁)によれば,原告の作付作物等について,原告旧干拓地(吾妻)農業者らのうち,目録6-2番,3番,59番,67番,81番の各原告は,旧干拓地(吾妻)においてブロッコリーを栽培しており,目録6-39番,40番,84番の各原告らはタマネギを栽培していること,目録6-87番の原告は,アスパラガスをハウス栽培していること,また,これら原告の所有に係る旧干拓地(吾妻)の土地は,目録6-39番,40番,59番,84番の各原告を除き,いずれも地盤が低く,潮遊池の付近であることが認められる。


検討(塩害のおそれのある原告)
そうすると,ケース1開門(事前対策あり)を実施した場合に,塩害のおそれがある農作物は,ブロッコリー,タマネギ及びアスパラガスであるところ,旧干拓地(吾妻)において,ブロッコリー,タマネギ又はアスパラガスを栽培しているのは,目録6-2番,3番,39番,40番,59番,67番,81番,84番及び87番の各原告であり,これらの原告の所有に係る旧干拓地(吾妻)の土地は,上記原告らのうち,目録6-39番,40番,59番,84番を除き,いずれも地盤が低く,潮遊池付近であるから,環境アセスメントにおいて土壌間隙水の塩化物イオン濃度の変化が予測される範囲に含まれるものということができる。



3旧干拓地(吾妻)の所有権の行使についての妨害のおそれ
結論(旧干拓地(吾妻)の所有権の行使についての妨害のおそれ)
したがって,目録6-2番,3番,67番,81番及び87番の各原告はいずれも,その所有に係る旧干拓地(吾妻)で栽培する農作物(ブロッコリー又はアスパラガス)について,塩害が生じるおそれがある。

妨害のおそれ④(塩害)について
以上によれば,原告旧干拓地(吾妻)農業者らは,その所有に係る旧干拓地の農地において農業を営むところ,目録6-2番,3番,67番,81番及び87番の各原告は,ケース1開門がなされた場合,上記農地において栽培する作物について塩害が発生し,上記所有権の行使につき妨害のおそれがある。
その余の原告旧干拓地
(吾妻)
農業者らは,
ケース1開門がなされると,
その所有する旧干拓地(吾妻)の農地において栽培する作物について塩害が発生するという,上記所有権の行使についての妨害のおそれがあるということはできない。



結論(旧干拓地(吾妻)の所有権の行使についての妨害のおそれ)以上のとおり,原告旧干拓地(吾妻)農業者らは,その所有する旧干拓地(吾妻)の農地において,農業を営むところ,ケース1開門がなされれば,季節風等の強風による潮風害(妨害のおそれ②)が生じる高度の蓋然性があり,被告の予定する散水等の事前対策は,上記潮風害の発生する高度の蓋然性を否定するものということはできない。
また,
ケース1開門がなされれば,
農業用水の水源喪失
(妨害のおそれ①)
の高度の蓋然性があり,これに対し,被告は事前対策として海水淡水化案を実施することを予定し,その実施の蓋然性は高いが,移動式ポンプを使用して潮遊池の水をかんがいに利用している地域についてはその予定がなく,同地域で農業を営む,原告Aら

46名以外の者(目録6-1番~21番,2

3番~35番,37番,38番,74番,84番,87番の39名)につい
第3

争点⑶(ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
ては,農業用水の水源の一部を喪失する高度の蓋然性がある。また,10年大雨があった場合に,排水不良により原告旧干拓地(吾妻)農業者らのうち原告Cら

84名の所有の土地について湛水被害が発生する(妨害のおそれ

③)高度の蓋然性があり,被告の予定する事前対策は,妨害のおそれを否定するものということはできない。そして,大雨時の地下水の上昇等により,作土層の塩化物イオン濃度が上昇し,地盤が低く,潮遊池付近の土地では,一部の農作物(ブロッコリー,タマネギ,麦類及びアスパラガス)について塩害が発生する(妨害のおそれ④)高度の蓋然性があるところ,被告の事前対策によって,土壌間隙水の塩化物イオン濃度が低下するものの,ブロッコリー及びアスパラガスについては塩害発生の高度の蓋然性が残存する。そのため,その所有する旧干拓地(吾妻)の土地でブロッコリー又はアスパラガスを栽培する原告農業者ら(目録6-2番,3番,67番,81番,87番)については,その所有する土地につき塩害のおそれがある。
したがって,原告旧干拓地(吾妻)農業者らの干拓地(吾妻)の土地の所有権の行使については,妨害のおそれ②(潮風害)並びにその一部について妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)
,同③(大雨時の湛水被害)及び同④(塩害)があるというべきである。
4
新干拓地(中央)の賃借権の行使についての妨害のおそれ


妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)
前判示のとおり
(前記第2の4
〈ケース3-2開門の違法性・新干拓地
(中
央)の賃借権〉)
,原告新干拓地(中央)農業者ら及び原告新干拓地(中央・
小江)農業者らは,その賃借に係る新干拓地(中央)の土地においてそれぞれ農業を営むところ,事前対策をせずに本件開門(ケース1開門を含むものである。がなされれば,

上記原告らが農業用水の水源として利用している調
整池が塩水化し,上記農業用水の水源喪失の高度の蓋然性がある。しかし,認定事実によれば,被告は事前対策として海水淡水化案の実施を予定してお
4
新干拓地(中央)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
⑵妨害のおそれ②(潮風害)

り,その実施の蓋然性は高いということができる。そして,その海水淡水化案の内容に照らせば,新干拓地(中央)において,農業用水の水源を喪失することによる農業被害の高度の蓋然性があるということはできない。したがって,原告新干拓地(中央)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らの新干拓地(中央)の賃借権の行使につき,農業用水の水源喪失による妨害のおそれがあるということはできない。


妨害のおそれ②(潮風害)
前判示のとおり
(前記第2の4
〈ケース3-2開門の違法性・新干拓地
(中
央〉の賃借権〉,第2の2〈ケース3-2開門の違法性・旧干拓地(諫早)の所有権〉


,原告新干拓地(中央)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小

江)農業者らは,その賃借に係る新干拓地(中央)の土地においてそれぞれ農業を営むところ,本件開門(ケース1開門を含むものである。
)がなされれ
ば,調整池が塩水化し,上記各土地において栽培する作物について季節風等の強風による潮風害が生じる高度の蓋然性があり,被告の予定する散水等の事前対策は,実効性等に疑問があり,上記潮風害が発生する高度の蓋然性を否定するものということはできない。
したがって,原告新干拓地(中央)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らの新干拓地(中央)の賃借権の行使については,潮風害による妨害のおそれがあるというべきである。


妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)

新干拓地(中央)における調整池への排水方法
前判示のとおり
(前記2の4
〈ケース3-2開門の違法性・新干拓地(中
央)の賃借権〉

ア)
,新干拓地(中央)では,現状,農業用水及び雨水等

を既設排水ポンプ(1か所)により新干拓地排水路から調整池へ排水しており,樋門・樋管による排水は行っていない。新干拓地(中央)には樋門・樋管がないため,ケース1~3開門のいずれを実施する場合においても,
第3

争点⑶(ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
樋門樋管を閉じるという措置は行われず,

排水方法は現状と同様である。
また,被告は,新干拓地(中央)において大雨による湛水被害への事前対策は予定していない。

原告らの主張1(内部堤防の倒壊による湛水被害のおそれ)について原告らは,
ケース1開門がなされれば,10年大雨があった場合に,内部堤防が倒壊し,調整池等の水が農地に浸入する高度の蓋然性がある旨主張し,その根拠として,内部堤防の構造(生石灰による改良を行っていること)を挙げる。
しかし,内部堤防の耐久力に係る状態が,ケース1開門がなされれば,10年大雨があった場合に倒壊する高度の蓋然性があるといえる程度のものであるとの事実は,これを認めるに足りる証拠がない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。


原告らの主張2(100年大雨があった場合の湛水被害のおそれ〈内部堤防の越波〉
)について
原告らは,ケース1開門がなされれば調整池の水位が上昇し,100年大雨があった場合に,①内部堤防の倒壊に加え,②調整池の水が内部堤防を越えて新干拓地(中央)に浸入し,現状より,湛水被害の程度(範囲・湛水深)が大きくなり,原告新干拓地(中央)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らが,その賃借に係る新干拓地(中央)において営む農業につき湛水被害が発生する高度の蓋然性があり,上記賃借権に基づく使用収益につき妨害のおそれがある旨主張する。
しかし,ケース1開門は5年間の開門をするものであるところ(前記前提事実


)ケース1開門がなされる5年間に,100年大雨が発生す


る高度の蓋然性があるということはできない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)について

4
新干拓地(中央)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
⑷妨害のおそれ④(塩害)

したがって,原告新干拓地(中央)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らの新干拓地(中央)の土地の賃借権の行使につき,ケース1開門がなされた場合の大雨時の湛水被害による妨害のおそれがあるということはできない。


妨害のおそれ④(塩害)

原告らの主張(事前対策を実施しない場合の妨害のおそれ)について原告新干拓地農業者らは,その賃借に係る新干拓地において農業を営むところ,開門による作土層の塩化物イオン濃度上昇の機序として,ケース1開門がなされれば,調整池が塩水化し,①毛管現象による作土層の塩分上昇,心土層の塩分の増加,②大雨時における地下水位の上昇による塩分上昇,③大雨時の新干拓地排水路のオーバーフローによる塩分の増加,④飛来塩分の増加という機序が競合して,作土層における塩化物イオン濃度の上昇により,新干拓地における上記農業につき塩害が発生する高度の蓋然性がある旨主張する。
また,
塩害発生の蓋然性に関するその他の要因
(⑤,
⑥)として,⑤ハウス栽培について,露地栽培と比較して,降雨が遮断され,土壌が乾燥しやすくなるため,毛管現象による塩分上昇が生じ塩害が発生する可能性が高い,⑥マグネシウム等による農作物被害が発生する旨主張する。
さらに,⑦ケース1開門がなされれば,調整池の水位が上昇し,100年大雨があった場合に,調整池の塩水が内部堤防を越えて新干拓地に浸入する高度の蓋然性があり,これによって,新干拓地において作土層の塩化物イオン濃度が上昇し,新干拓地における農業につき塩害が発生する高度の蓋然性がある旨主張する。
しかし,前判示のとおり(前記2の4〈ケース3-2開門の違法性・新干拓地(中央)の賃借権〉

イ・ウ・オ・カ・キ)のとおり,原告の主張

のうち①,③,⑤,⑥についての各主張はいずれも採用することができな
第3

争点⑶(ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
い。すなわち,①毛管現象による塩分上昇については,ⅰ被告が設置を予定する海水淡水化施設により,
必要な農業用水が確保される蓋然性が高く,
かんがいによる洗い流しは可能であり,ⅱ心土層の塩分上昇についても,排水路が土水路であることから,直ちに排水路の水位が上昇した際に,塩水が横浸透するということはできず,仮に横浸透が生じるとしてもその程度は明らかでない。また,ⅲ淡塩混合水の遡上の範囲に関する本件水理実験は採用することができない上,暗渠管に淡塩混合水が浸入して,深度70㎝の土壌間隙水の塩化物イオン濃度が,
一時6000㎎/Lまで上昇する
が,
暗渠管から排水がされて地下水位が低下すると,
同濃度が500㎎/L
程度まで低下するから,暗渠管に淡塩混合水が浸入しても,塩化物イオンが高い濃度で残留するということはできない,ⅳ調整池から堤体下部の有明粘土層を介した塩水の浸透について,心土層の地下水の塩化物イオン濃度への影響は明らかでない。③大雨時の新干拓地排水路の溢水による塩分の増加については,溢水までに流れ込む相当量の淡水により排水路の塩水は希釈され,また,塩化物イオン濃度の高い水は下層にとどまるので,溢水した水が農作物の限界塩化物イオン濃度を超えるとまでは直ちにいうことができない。⑤ハウス栽培については,ハウス栽培が行われている土地は,幹線排水路から一定程度離れており,標高もやや高く,毛管現象による塩類の集積が生じるとまではいうことができない。⑥マグネシウム等による農作物被害については,塩化物による農作物被害について検討すれば足りるので検討する必要がない。
そこで,以下,上記②及び④,⑦について検討する。イ
大雨時における地下水位の上昇による塩分上昇(ア②)及び飛来塩分の増加(ア④)について
原告らの主張
原告らは,大雨時における地下水位の上昇による塩分上昇,暗渠管か
4
新干拓地(中央)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
⑷妨害のおそれ④(塩害)

らの新干拓地排水路の塩水の浸入及び飛来塩分の増加により,心土層ないし作土層の塩化物イオン濃度が上昇し,塩害が発生するおそれがある旨主張する。
認定事実
証拠(事実の後に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

ケース1開門後の土壌中の塩化物イオン濃度の予測
環境アセスメントは,大雨時の地下水位の上昇,毛管現象,飛来塩分の増加を踏まえて,ケース1開門を実施した場合の,新干拓地(中央)の任意の耕作地(暗渠モデル)における各深度の土壌間隙水の塩化物イオン濃度の年間最大値を,
深度10㎝が27㎎/L,
深度20㎝
が38㎎/L,
深度30㎝が290㎎/L,深度40㎝が2338㎎/L
と予測した(平成8年度及び平成19年度気象下の予測値のうちの最大値)


(乙A32の1_6.5.1-44・47~50頁)

なお,この暗渠モデルは,新干拓地(中央)において塩水化した幹線排水路又は中央遊水池の塩水の影響を,暗渠管を通じて直接受ける農地として透水係数の現地調査が行われたDJ-3地点(調整池近くのほ場周辺部にある)について,作土層上層の透水係数を補正し,作土層下層及び心土層の土層を暗渠管の周りに用いられる土層に変更したモデルである。
(乙A32の1_6.5.1-30・32・38頁)
そして,この環境アセスメントの予測と同程度の塩化物イオン濃度の上昇が予想される範囲は,概ね別紙96-2頁のとおりであり,内部堤防の前面堤防から概ね4ブロックまでの農地である。
(乙A32の1_6.14.2-5~8頁,乙C35)

農作物の主要根群域及び限界塩化物イオン濃度
ニンジン,レタス(210㎎/L以下)
,ブロッコリー(210㎎/L

第3

争点⑶(ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
程度)タマネギ,

バレイショ,
ショウガ,
ゴボウ
(250㎎/L以内)

ホウレンソウ,キャベツ,カボチャ,サトイモ,トマト(300㎎/L以内)
,ダイコン,ハクサイ,麦類,アスパラガス(300㎎/L程度)はいずれも限界塩化物イオン濃度が319㎎/Lを下回る。
その余の野
菜については不明である。
また,このうち,ニンジン,レタス,ショウガ,ゴボウ,ホウレンソウ,キャベツ,カボチャ,トマト,ダイコン,ハクサイ及びアスパラガスは,主要根群域の最低深さが深度30㎝以深である。なお,ブロッコリーが含まれないことは,
前判示
(前記第2の3


b⒜
〈263

頁〉
)のとおりである。
(甲A65~71,
乙A32の1_6.14.
2-2頁,
乙A142)

原告らの作付作物等
内部堤防である前面堤防から概ね4ブロックまでの農地を賃借する原告は,目録3-6番,13番,26番,27番,34番,36番,37番,
49番であり,
そのうち限界塩化物イオン濃度が319㎎/L
を下回り,主要根群域の最低深さが深度30㎝以深である上記農作物を栽培しているのは,目録3-13番の原告であり,ニンジンとカボチャを栽培している。

(甲A65,甲F49,甲E3の3の7)

検討(大雨時における地下水位の上昇による塩分上昇及び飛来塩分の増加)
ケース1開門後の新干拓地の各深度の土壌間隙水の塩化物イオン濃度の最大値は,環境アセスメントの予測値(前記

a)に補正係数1.1

を乗じた数値というべきであり(前記第2の2〈ケース3-2開門の違法性・旧干拓地(諫早)の所有権〉

オ)
,深度10㎝が29㎎/L,2

0㎝が41㎎/L,
30㎝が319㎎/L,
40㎝が2571㎎/Lである。
そして,
限界塩化物イオン濃度が319㎎/L以下,
主要根群域の最低

4
新干拓地(中央)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
⑷妨害のおそれ④(塩害)

深さが30㎝以深の作物には,ニンジン,レタス,ショウガ,ゴボウ,ホウレンソウ,キャベツ,カボチャ,トマト,ダイコン,ハクサイ及びアスパラガスがある。
なお,
前判示のとおり
(前記第2の4



〈290

頁〉,現状の新干拓地(中央)における深度40㎝ないし50㎝の塩化)
物イオン濃度が相当高いにもかかわらず,塩害が報告されていないことに照らせば,新干拓地(中央)の農地の作付作物の主要根群域が深度40㎝以深であるということはできず,仮に深度40㎝以深であったとしても,深度40㎝ないし50㎝の土壌間隙水の塩化物イオン濃度が高い土地と比較して,心土層に高い塩化物イオン濃度の地下水が存在するということはできないから,環境アセスメントの予測する大雨時の地下水位の上昇による作土層の塩化物イオン濃度の変化は該当しないというべきである。そして,上記塩化物イオン濃度予測値が該当する前面堤防から概ね4ブロックまでの農地を賃借してこれらを栽培する原告は,目録3-13番の原告であり,
栽培する作物は,
ニンジンとカボチャである。
したがって,
目録3-13番の原告は,
事前対策を実施しない場合に,
その賃借する新干拓地
(中央)
の農地につき塩害が生じるおそれがある。
他方,内部堤防より遠方の農地は,環境アセスメントの予測よりも,暗渠管を通じた新干拓地の幹線排水路及び中央遊水池(いずれも内部堤防沿いにある。別紙38)の塩水の影響を受けにくいため,土壌水中の塩化物イオン濃度が低いと推定され,その作付作物について塩害が生じるおそれがあるかは不明であるといわざるを得ない。

塩害に対する事前対策の効果とその実施の蓋然性
弁論の全趣旨によれば,被告は,ケース1開門の事前対策として,新干拓地(中央)において,モニタリング及び散水を予定することが認められる。しかし,前判示のとおり(前記第2の2〈ケース3-2開門の違法性・旧干拓地(諫早)の所有権〉



,散水は,作物の収穫後に行うことが

第3

争点⑶(ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
できる可能性があるという限られたものでしかない。
そうすると,散水等の事前対策は,効果が明らかではないから,塩害のおそれを否定するものということはできない。

事前対策を実施した場合の塩害のおそれ
前記のとおり,原告新干拓地(中央)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らのうち,目録3-13番の原告は,その賃借する新干拓地(中央)の前面堤防から概ね4ブロックまでの農地において,ニンジンとカボチャを栽培しており,塩害が発生する高度の蓋然性があるところ,上記のとおり,被告が予定する事前対策(散水等)は,塩害のおそれを否定するものということはできない。
その余の原告の賃借する農地に塩害が発生するおそれについては,これを認めるに足りる証拠がない。


100年大雨があった場合の塩害のおそれ(内部堤防越波・ア⑦)について
原告らは,ケース1開門がなされれば,調整池の水位が上昇し,100年大雨があった場合に,調整池の塩水が内部堤防を越えて新干拓地に浸入する高度の蓋然性があり,これによって,新干拓地において作土層の塩化物イオン濃度が上昇し,新干拓地における農業につき塩害が発生する高度の蓋然性がある旨主張する。
しかし,前記前提事実(


)のとおり,ケース1開門は5年間の

開門をするものであるところ,ケース1開門がなされる5年間に,100年大雨が発生する高度の蓋然性があるということはできない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

妨害のおそれ④(塩害)について
以上のとおり,原告新干拓地(中央)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らは,その賃借に係る新干拓地(中央)の農地において農業


4新干拓地(中央)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
結論(新干拓地(中央)の賃借権の行使についての妨害のおそれ)
を営むところ,上記原告らのうち目録3-13番の原告は,ケース1開門がなされた場合,上記の土地において栽培する農作物に塩害が発生し,上記所有権に基づく使用収益につき妨害のおそれがある。
その余の原告らについては,上記農地において栽培する農作物に塩害が発生し,上記所有権の行使につき,妨害のおそれがあるということはできない。


結論(新干拓地(中央)の賃借権の行使についての妨害のおそれ)以上のとおり,原告新干拓地(中央)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らは,その賃借する新干拓地(中央)の土地において,農業を営むところ,ケース1開門がなされれば,季節風等の強風による潮風害(妨害のおそれ②)が生じる高度の蓋然性があり,被告の予定する散水等の事前対策は,上記潮風害の発生する高度の蓋然性を否定するものということはできない。
また,大雨時の地下水の上昇等により,作土層の塩化物イオン濃度が上昇し,前面堤防から4ブロックまでの農地において,原告新干拓地(中央)農業者の作付けする一部の農作物(ニンジン,カボチャ)について塩害が発生する(妨害のおそれ④)高度の蓋然性があるところ,被告の予定する事前対策は,妨害のおそれを否定するものということはできない。そのため,その賃借する前面堤防から4ブロックまでの新干拓地(中央)の土地でニンジン及びカボチャを栽培する目録3-13番の原告については,その賃借する土地につき塩害のおそれがある。
他方,被告が事前対策をしなければ,ケース1開門により,農業用水の水源喪失(妨害のおそれ①)の高度の蓋然性はあるが,認定事実によれば,被告が事前対策として,海水淡水化案を実施する蓋然性は高く,海水淡水化案の内容に照らせば,農業用水の水源喪失による農業被害の高度の蓋然性があるということはできない。また,大雨時の湛水被害(妨害のおそれ③)につ
第3

争点⑶(ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
いては,その発生の高度の蓋然性があるということはできない。
したがって,原告新干拓地(中央)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らの新干拓地(中央)の土地の賃借権の行使については,妨害のおそれ②(潮風害)及び一部について妨害のおそれ④(塩害)があるというべきである。
5
新干拓地(小江)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ①(農業用水の水源喪失)
前判示のとおり(前記第2〈ケース3-2開門の違法性〉の5新干拓地(小江)の賃借権の行使についての妨害のおそれ〈以下新干拓地(小江)の賃借権
という。,

第2の4
〈ケース3-2開門の違法性・新干拓地
(中
央)の賃借権〉)
,原告新干拓地(小江)農業者ら及び原告新干拓地(中央・
小江)農業者らは,その賃借に係る新干拓地(小江)の土地においてそれぞれ農業を営むところ,事前対策をせずに本件開門(ケース1開門を含むものである。がなされれば,

上記原告らが農業用水の水源として利用している調
整池が塩水化し,上記農業用水の水源喪失の高度の蓋然性がある。しかし,認定事実によれば,被告は事前対策として海水淡水化案の実施を予定しており,その実施の蓋然性は高いということができる。そして,その海水淡水化案の内容に照らせば,新干拓地(小江)において,農業用水の水源を喪失することによる農業被害の高度の蓋然性があるということはできない。したがって,原告新干拓地(小江)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らの新干拓地(小江)の賃借権の行使につき,農業用水の水源喪失による,妨害のおそれがあるということはできない。
妨害のおそれ②(潮風害)
前判示のとおり
(前記第2の5
〈ケース3-2開門の違法性・新干拓地
(小
江〉の賃借権〉,第2の2〈ケース3-2開門の違法性・旧干拓地(諫早)の所有権〉


,原告新干拓地(小江)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小

5
新干拓地(小江)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)

江)農業者らは,その賃借に係る新干拓地(小江)の土地においてそれぞれ農業を営むところ,本件開門(ケース1開門を含むものである。
)がなされれ
ば,調整池が塩水化し,上記各土地において栽培する作物について季節風等の強風による潮風害が生じる高度の蓋然性があり,被告の予定する散水等の事前対策は,実効性等に疑問があり,上記潮風害が発生する高度の蓋然性を否定するものということはできない。
したがって,原告新干拓地(小江)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らの新干拓地(小江)の賃借権の行使については,潮風害による妨害のおそれがあるというべきである。
妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)

事前対策を実施しない場合の妨害のおそれの存在
前記前提事実(⑽イ

)のとおり,原告新干拓地(小江)農業者ら及び

原告新干拓地(中央・小江)農業者らは,その賃借に係る新干拓地(小江)において,それぞれ農業を営むところ,ケース1開門がなされ,10年大雨があると,樋門・樋管の閉門による排水不良,排水時間短縮による排水不良の機序が競合することによって,現状より,湛水被害の程度(範囲・湛水深)が大きくなり,新干拓地(小江)における上記農業につき湛水被害が発生する高度の蓋然性があり,上記賃借権の行使につき妨害のおそれがある。

湛水被害に対する事前対策の効果とその実施の蓋然性
認定事実
証拠(事実の後に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,前記2〈旧干拓地(諫早)の所有権〉


の認定事実のほかに,以下の事実が認めら

れる。
被告は,湛水被害に対する事前対策として,常時排水ポンプの設置,護床工の設置,洪水時排水ポンプの設置を予定しており,そのうち新干
第3

争点⑶(ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
拓地(小江)には,常時排水ポンプを2台,洪水時排水ポンプを3台設置する(その位置は別紙61-2頁の20番及び21番)

なお,被告は,ケース3-2開門の場合について,新干拓地(小江)の湛水被害防止のための事前対策の実施を予定していない。
(乙A32-126頁)
検討(被告が事前対策を実施する蓋然性)
上記認定事実及び前記2


(406頁)の認定事実のとおり,被告

は,新干拓地(小江)の湛水被害についてケース3-2開門では事前対策を予定していないところ,ケース1開門の事前対策を行うために必要な予算(約1002億円)は,ケース3-2開門の事前対策を行うために必要な予算(約49億円)を大きく上回り,ケース1開門の事前対策のための予算措置がとられる蓋然性が高いということはできない。したがって,被告が,ケース1開門の事前対策を実施する蓋然性が高いということはできない。

妨害のおそれ③(大雨時の湛水被害)について
以上によれば,
その余の点を判断するまでもなく,
原告新干拓地
(小江)
農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らは,その賃借に係る新干拓地(小江)において,それぞれ農業を営むところ,ケース1開門がなされ,10年大雨があると,樋門・樋管の閉門による排水不良及び排水時間短縮による排水不良の機序が競合することにより,現状より,湛水被害の程度(範囲・湛水深)が大きくなり,新干拓地(小江)における上記農業につき湛水被害が発生する高度の蓋然性があり,被告が湛水被害に対する事前対策を実施する蓋然性が高いということはできないから,上記賃借権の行使につき妨害のおそれがある。
妨害のおそれ④(塩害)


原告らの主張(事前対策を実施しない場合の妨害のおそれ)について
5
新干拓地(小江)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
妨害のおそれ④(塩害)

前記のとおり(前記4〈新干拓地(中央)の賃借権〉


,原告新干拓地

農業者らは,その賃借に係る新干拓地において農業を営むところ,開門による作土層の塩化物イオン濃度上昇の機序として,ケース1開門がなされれば,調整池が塩水化し,①毛管現象による作土層の塩分上昇,心土層の塩分の増加,②大雨時における地下水位の上昇による塩分上昇,③大雨時の新干拓地排水路のオーバーフローによる塩分の増加,④飛来塩分の増加という機序が競合して作土層における塩化物イオン濃度の上昇により,新干拓地における上記農業につき塩害が発生する高度の蓋然性がある旨主張する。
また,塩害発生の蓋然性に関するその他の要因(⑤,⑥)として,⑤ハウス栽培について,露地栽培と比較して,降雨が遮断され,土壌が乾燥しやすくなるため,毛管現象による塩分上昇が生じ塩害が発生する可能性が高い,⑥マグネシウム等による農作物被害が発生する旨,さらに,⑦ケース1開門がなされれば,調整池の水位が上昇し,100年大雨があった場合に,調整池の塩水が内部堤防を越えて新干拓地に浸入する高度の蓋然性があり,これによって,新干拓地において作土層の塩化物イオン濃度が上昇し,新干拓地における農業につき塩害が発生する高度の蓋然性がある旨主張する。
しかし,前判示のとおり(前記第2の4〈ケース3-2開門の違法性・新干拓地(中央)の賃借権〉〈284頁〉イ・ウ・オ・キ,前記第2の5〈ケース3-2開門の違法性・新干拓地(小江)の賃借権〉

ウ〈303頁〉
,前

記第3の4〈新干拓地(中央)の賃借権〉オ〈440頁〉,上記原告らの主)
張のうち①,③,⑤~⑦についての各主張はいずれも採用することができない。
そこで,以下,②及び④について検討する。イ
大雨時における地下水位の上昇による塩分上昇(ア②)及び飛来塩分の
第3

争点⑶(ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
増加(ア④)について
認定事実
証拠(事実の後に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
農作物の限界塩化物イオン濃度は,
一般に210㎎/L以上であるとこ
ろ,環境アセスメントは,大雨時の地下水位の上昇,毛管現象,飛来塩分の増加を踏まえて,
ケース1開門を実施した場合の,
新干拓地
(中央)
の任意の耕作地(暗渠モデル)における各深度の土壌間隙水の塩化物イオン濃度の年間最大値を,
深度10㎝が27㎎/L,
深度20㎝が38㎎
/L,
深度30㎝が290㎎/L,
深度40㎝が2338㎎/Lと予測した。
(乙A32の1_6.5.1-44・47~50頁,乙A32の1_6.14.2-2頁)
検討(大雨時における地下水位の上昇による塩分上昇及び飛来塩分の増加)
前記のとおり(前記第2の2〈ケース3-2開門の違法性・旧干拓地(諫早)の所有権〉


〈213頁〉,新干拓地(小江)は,新干拓地


(中央)よりも最低農地標高が2.3m高いため,ほ場の水が暗渠管を通じて流れ込む末端排水路も標高が高いと推認される。
新干拓地
(小江)
の農地は,環境アセスメントが暗渠モデルによって土壌間隙水の塩化物イオン濃度を予測した新干拓地(中央)の任意の耕作地とは,地盤の高低,排水路の状況といった条件が異なり,排水路と調整池との高低差も異なる。上記条件の違いに照らすと,新干拓地排水路へと浸透する調整池の塩水の量は,新干拓地(中央)よりも少なくなり,新干拓地(小江)の暗渠管に浸入し得る水も,新干拓地(中央)より塩化物イオン濃度が低くなると推認される。そうすると,新干拓地(小江)の土壌間隙水中の塩化物イオン濃度は,上記予測値よりも低いと推定されるから,環境
5新干拓地(小江)の賃借権の行使についての妨害のおそれ
結論(新干拓地(小江)の賃借権の行使についての妨害のおそれ)
アセスメントの予測値をそのまま適用することはできない。
したがって,
新干拓地(小江)の作付作物について塩害が生じるおそれがあるかは不明であるといわざるを得ない。そして,その余に,新干拓地(小江)の農地に塩害が発生するおそれを認めるに足りる証拠はない。

妨害のおそれ④(塩害)について
以上によれば,大雨時の地下水の上昇等により,新干拓地(小江)に塩害が発生する(妨害のおそれ④)高度の蓋然性があるということはできない。
結論(新干拓地(小江)の賃借権の行使についての妨害のおそれ)以上のとおり,原告新干拓地(小江)農業者ら及び原告新干拓地(中央・
小江)農業者らは,その賃借する新干拓地(小江)の土地において,農業を営むところ,ケース1開門がなされれば,季節風等の強風による潮風害(妨害のおそれ②)が生じる高度の蓋然性があり,被告の予定する事前対策は,上記潮風害の発生する高度の蓋然性を否定するものということはできない。また,
ケース1開門がなされ,10年大雨があると,
湛水被害が発生する
(妨
害のおそれ③)高度の蓋然性があり,被告が湛水被害に対する事前対策を実施する蓋然性が高いということはできない。
他方,被告が事前対策をしなければ,ケース1開門により,農業用水の水源喪失(妨害のおそれ①)の高度の蓋然性があるが,認定事実によれば,被告が事前対策として,海水淡水化案を実施する蓋然性は高く,海水淡水化案の内容に照らせば,農業用水の水源喪失による農業被害の高度の蓋然性があるということはできない。また,大雨時の地下水の上昇等により,新干拓地(小江)に塩害が発生する(妨害のおそれ④)高度の蓋然性があるということはできない。
したがって,原告新干拓地(小江)農業者ら及び原告新干拓地(中央・小江)農業者らの新干拓地(小江)の土地の賃借権の行使については,妨害の
第3

争点⑶(ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
おそれ②
(潮風害)
及び同③
(大雨時の湛水被害)
があるというべきである。
6
新干拓地の所有権の行使についての妨害のおそれ(原告県公社の請求関係)認定事実
前記認定事実(前記第2〈ケース3-2開門の違法性〉の6新干拓地の所有権の行使についての妨害のおそれ(原告県公社の請求関係)(以下「新干拓地の所有権」という。〈304頁〉

)のとおり,次の事実が認められる。
原告県公社は,別紙13(新干拓地土地目録)記載の新干拓地を所有し,その一部である新干拓地(賃貸部分)を農地として使用収益をすることを目的として原告新干拓地農業者ら等に対して賃貸し,
賃料収入を得ているもの
である。
原告新干拓地農業者ら等は,
原告県公社から賃借した新干拓地
(賃貸部分)
において,農業を営むものである。


賃貸部分についての妨害のおそれ
前記4及び5の事実並びに弁論の全趣旨によれば,ケ-ス1開門がなされれば,原告新干拓地農業者らは新干拓地(賃貸部分)における農業につき,季節風等の強風による潮風害(妨害のおそれ②)が生じる高度の蓋然性がある。また,新干拓地(小江)の賃貸部分における農業につき,10年大雨時に湛水被害(妨害のおそれ③)が生じる高度の蓋然性がある(賃貸部分において農業を営む原告新干拓地農業者ら以外の者も同様と考えられる。。さら)
に,原告新干拓地(中央)農業者らの賃貸部分おける農業のうち作付作物の一部について塩害(妨害のおそれ④)が生じる高度の蓋然性がある。もっとも,原告県公社はその所有する新干拓地の土地において農業を営むものではない。また,潮風害が想定される頻度は必ずしも明らかではなく,ケース1開門の期間(5年間)
,湛水被害の影響,塩害の規模等に照らすと,
これにより,当該新干拓地(賃貸部分)の農地が,爾後,農業を行うことができない土地となる高度の蓋然性があるとまではいうことはできない。そし


7原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
結論(新干拓地の所有権の行使についての妨害のおそれ)

て,上記判断を覆すに足る証拠はない。
そうすると,
前記認定事実のとおり,原告県公社は,
新干拓地
(賃貸部分)
の所有権に基づき,これを原告新干拓地農業者らに対して農地として使用収益をすることを目的として賃貸し,賃料収入を得ているところ,ケ-ス1開門がなされて,原告県公社が賃貸する新干拓地(賃貸部分)が,爾後,農業を行うことができない土地となり,そのため,原告県公社は,新干拓地(賃貸部分)について賃料収入を得ることができなくなる高度の蓋然性があるとまではいうことができない。


結論(新干拓地の所有権の行使についての妨害のおそれ)
したがって,新干拓地(別紙13記載の各土地)の所有権の行使につき,妨害のおそれがあるということはできないから,原告県公社のケース1開門の差止めを求める請求は理由がない。

7
原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ


漁業行使権に基づく妨害予防請求としての侵害行為差止めの可否
前判示のとおり(前記第2〈ケース3-2開門の違法性〉の7原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ(以下
原告漁業者の漁業行使権
という。
)⑴〈306頁〉,漁業行使権を有する者は,第三者がその権利行使の)
円満な状態を侵害するおそれがあるときは,その第三者に対し,漁業行使権に基づき,将来生ずるおそれのある侵害を予防するため,侵害行為の差止めを求めることができるものと解すべきである。



妨害のおそれ①(魚介類へい死による漁業被害及び風評被害)前判示のとおり(前記第2の7〈ケース3-2開門の違法性・原告漁業者の漁業行使権〉⑶〈313頁〉,原告漁業者らは,漁業行使権に基づき,別紙6)
6の魚種欄記載の魚種に係る漁業を諫早湾内において行うところ,ケース1開門がなされれば,調整池が塩水化し,これによって,調整池内及び諫早湾内に生息する魚介類がへい死し,これらのへい死した魚介類が腐敗して
第3

争点⑶(ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
諫早湾の海底にたまる高度の蓋然性があるが,被告が淡水魚を保護するための対策(移動経路の確保。ケース1開門の場合は,淡水池の設置及び淡水魚の漁獲・淡水池への移動を実施しない。
)及びへい死した魚介類の回収の事前
対策を行うことにより,へい死する魚介類及び腐敗し諫早湾の海底にたまる魚介類の量は一定程度減少することが認められ,被告は,事前対策についての予算措置をとっており,上記事前対策を実施する蓋然性は高い。そして,諫早湾の面積や容積に照らすと,へい死した魚介類が腐敗し諫早湾の海底にたまることから,直ちに,諫早湾内における漁業につき漁業被害が発生する高度の蓋然性があるということはできない。その余に,上記漁業被害の高度の蓋然性を認めるに足りる証拠はない。
また,ケース1開門がなされれば,魚介類がへい死する高度の蓋然性があり,これによって風評被害が発生する可能性は否定できないが,上記の魚介類へい死の原因は,ケ-ス1開門による調整池の塩水化という環境の急激な変化によるものであり,魚介類のへい死が大量に発生するのは一時的なものであって,魚介類へい死の原因が上記のとおりであることは,その発生とともに報道等によって明らかにされる可能性が高く,そうすると,風評被害が発生する高度の蓋然性があるということはできない。そして,短期開門調査時の魚介類のへい死が起こった際に風評被害があったとする証拠はなく,ほかに風評被害の高度の蓋然性を認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告漁業者の漁業行使権につき,魚介類のへい死を原因とする漁業被害及び風評被害による,
妨害のおそれがあるということはできない。


妨害のおそれ②~⑤(アサリ養殖,カキ養殖,ノリ養殖,その他の魚介類の漁業)

短期開門調査時の漁業被害との関係
原告らは,妨害のおそれ②(アサリ養殖)
,同③(カキ養殖)
,同④(ノ
リ養殖)同⑤
,(その他の魚介類の漁業)
があるとして,
本件開門によって,



7原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ②~⑤(アサリ養殖,カキ養殖,ノリ養殖,その他の魚介類の漁業)
原告らの漁業行使権(その内容は前記第2の7〈ケース3-2開門の違法性・原告漁業者の漁業行使権〉⑷イ

のとおり)に基づくアサリ養殖,カ

キ養殖,ノリ養殖及びその他の魚介類の漁業につき被害が発生する高度の蓋然性があると主張する。そして,その根拠として,短期開門調査時にアサリ及び魚類等について漁業被害が生じたことを挙げる。
しかし,短期開門調査時のアサリのへい死及び魚類等の漁獲高の減少については,前判示のとおり(前記第2の7〈ケース3-2開門の違法性・原告漁業者の漁業行使権〉ウ〈326頁〉イ
,〈348頁〉イ
,〈369頁〉,

その原因として短期開門調査期間中に生じた漁場環境の変化,すなわち,①SSの上昇,②塩分濃度の著しい低下,③赤潮,④ヘドロの堆積等が考えられるところ,短期開門調査時に湾奥部のSSが一時的に上昇したが,このことをもって,湾央部及び湾口部で生じたアサリのへい死を全て説明することはできず,
これはアサリのへい死が生じた要因の一つにとどまる。
また,魚類等のSSへの耐性は不明であって,SSの一時的な上昇が,漁獲に与えた影響の程度は不明である。さらに,短期開門調査時の塩分濃度の著しい低下はアサリや魚類等の漁獲に影響を与えたものと考えられるが,当時,平年の1.5倍の降雨があったことなどに照らすと,塩分濃度の低下が短期開門調査によってもたらされたということはできない。そして,短期開門調査による堆積の量は少ないものと予想され(多くてもケース3-2開門の予測と同じ数㎝)
,海底で生息するアサリやカニ(ガザミ)
,イ
イダコに与えた影響は低いと考えられる。また,短期開門調査がなされた平成14年度のアサリや魚類等の漁獲量の減少は,年ごとの変動の範囲内であることなどからすれば,短期開門調査における開門とアサリ及び魚類等の漁業被害との関係が明らかということはできない。③赤潮は,諫早湾において少なくとも短期開門調査後,毎年発生しているものであり(前記第2の7


〈309頁〉),本件において短期開門調査と赤潮の発生の

第3

争点⑶(ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
時期の符合のみでその機序の証明があるということはできない。なお,被告が,短期開門調査時に行った漁業補償は,厳密な因果関係を問わずに包括的に補償を行ったもので,具体的な機序を明らかにした上でのものではない。
そうすると,短期開門調査をしたことと短期開門調査の期間中にアサリ及び魚類等の漁業被害が生じたことをもって,ケース1開門による漁業被害のおそれを推認させる根拠ということはできず,被告が漁業補償をしたことも,推認の根拠となるものではない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

漁場環境の変化について
原告らの主張
原告漁業者らは,妨害のおそれ②(アサリ養殖)
,同③(カキ養殖)

同④(ノリ養殖)
,同⑤(その他の魚介類の漁業)として,本件開門によって,原告らの漁業行使権に基づくアサリ養殖,カキ養殖,ノリ養殖及びその他の魚介類(スズキ,カニ〈ガザミ〉及びイイダコ)の漁業につき被害が発生する高度の蓋然性があると主張し,漁業被害が発生する具体的機序について,①潮流の変化,②濁りの変化,③塩分の変化,④堆積の変化,⑤ゴミ,流木等の漂流を挙げる。
判断の枠組み
そこで,以下,ケース1開門による漁場環境の変化(環境アセスメントの予測)並びに被告の予定している事前対策の効果及びその実施の蓋然性について,まず検討し(本項)
,アサリ養殖,カキ養殖,ノリ養殖,
その他の魚介類(スズキ,カニ〈ガザミ〉及びイイダコ)の漁業について,それぞれ認定事実から漁業被害が生じる高度の蓋然性があるということができるか判断する(後記
認定事実

ないし






7原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ②~⑤(アサリ養殖,カキ養殖,ノリ養殖,その他の魚介類の漁業)
証拠
(事実の後に掲記)
及び弁論の全趣旨によれば,
前記第2の7
(ケ
ース3-2開門の違法性・原告漁業者の漁業行使権)⑸ウ(328頁)の認定事実のほか,以下の事実が認められる。

ケース1開門についての環境アセスメントの予測


潮流
ケ-ス1開門では,下げ潮時に,北部排水門から潮受堤防に沿っ
て湾口部南側にかけて流速が増加する。上げ潮時には,諫早湾北側で流速が増加するが,
南側では表層流速が最大0.1m/s程度減少
する。平均流(表層・底層)は,湾奥部の北部排水門から潮受堤防に沿って湾口部南側にかけて流速の増加がみられるが,その余の諫早湾や有明海においてはほとんど変化がみられない。
また,8月,2月の大潮期の潮流・流速は,別紙116記載のと
おりである。S1地点(北部排水門付近)
,S6地点(南部排水門付
近)及びB3地点(湾央部)における,現況及びケ-ス1開門時の月平均流速は,以下の表のとおりであり,湾奥部の本件各排水門付近の流速の増加は顕著であるが,湾央部の流速は,表層,底層とも0.5m/s以下である。
また,
ケース1開門時のM2分潮の最大流速は,
湾口部南側のB5
地点で現況から0~2㎝/s増加するが,湾口部北側のStn19地点では0~3㎝/s減少する。なお,M2分潮とは,有明海において最も大きな振幅を示す分潮である。潮汐や潮流は,太陽,地球,月の自転,公転によって生じる複数の周期成分より構成され,この複数の周期成分は,決まった正弦関数で表され,この個別の周期成分を分潮という。M2分潮は,月の起潮力による約半日周期(12.42時間周期)の波を指し,主要4分潮の一つである。
(単位:m/s)

第3

争点⑶(ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
8月(大潮期)

地点

2月(大潮期)


現況

ケ-ス1

現況

ケ-ス1

表層

0.07

4.13

0.07

4.24

底層

0.04

1.75

0.06

1.80

表層

0.05

2.65

0.04

2.17

底層

0.03

0.61

0.02

0.64

表層

0.23

0.31

0.25

0.36

底層

0.13

0.19

0.15

0.19

表層

0.05

1.13

0.03

1.14

底層

0.04

0.76

0.02

0.77

表層

0.09

0.44

0.04

0.44

底層

0.03

0.20

0.05

0.19

表層

0.34

0.36

0.28

0.35

底層

0.10

0.16

0.09

0.13

S1
下げ潮
S6


B3

S1
上げ
S6



B3

(乙A32の1_6.1.1-182・184・187・190・193・196・199・201~213・216・219頁,乙A32の1_参考―143頁)


SS(浮遊物質量)
ケース1開門の1,2年目のSSの経時変化は,別紙117記載
のとおりであり,湾奥部のS1地点の底層では,SSが,開門1年目に最大1万㎎/L程度まで上昇し,開門2年目以降も最大5000㎎/L程度まで上昇する。
これに対し,
湾口部南側沿岸のB5地点
の底層では,開門1年目は,現況と比較してやや高いものの,開門2年目以降は,開門1年目との違いはほとんどみられない。
4月(開門時)
,8月(夏季)
,2月(冬季)の現況と開門1年目



7原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ②~⑤(アサリ養殖,カキ養殖,ノリ養殖,その他の魚介類の漁業)
の月平均SSの比較は,別紙118記載のとおりであり,8月,2月に湾奥部北側沿岸のアサリ養殖場付近(S1地点底層)は,月平均値で8月に5000㎎/L,2月に3800㎎/Lまで上昇する。これに対し,2月及び4月の湾口部南側沿岸のノリ養殖場付近(B5地点底層)では,月平均値で10㎎/Lを超えることはない(8月の月平均値は,
湾口部のB4~B6地点で,
現況の2~5㎎/Lから
3~13㎎/Lへ上昇する。。また,湾央部(B3地点底層)で,4)
月,8月,2月の月平均値を比較すると,現況の8~44㎎/Lから183~356㎎/Lへ上昇する。
他方で,表層のSS濃度は,湾奥部北側のカキ養殖場付近(S1
地点表層)
で,
開門当初に限らず1000㎎/Lに達することがあり,
月平均(8月,2月)で,現況の3~8㎎/Lから300~413㎎/Lに上昇する。
ケース1開門の1年目は,諫早湾では有明海に比べて常にSSが
高濃度である。これは開門に伴う強い流速の発生により,排水門近傍だけでなく,調整池,諫早湾で底質の巻き上げが生じていることによると推定される。開門2年目は,S1地点及びS6地点における大潮期のSSの上昇の程度は1年目に比べて小さくなるが,湾央部から湾口部及び有明海においては,1年目からほとんど変化がみられない。そして,開門3年目については,概ね2年目と同様の年間変化を示す。
(乙A32の1_6.2.1-62・64・68・73~77・83・84・88・92~94・100・101・105・109~111頁)


塩分濃度
諫早湾の塩分の経時変化の状況並びに塩分平面分布図及び現況と

第3

争点⑶(ケース1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか)について
の差分図は,別紙119記載のとおりである。また,現況とケース1開門(1年目)の代表地点における月平均塩分は,以下の表のとおりである。なお,表中の網掛部分は,28‰以下の部分である。ケース1開門をした場合,開門初期に湾奥部のS1地点及びS6
地点で表層・底層ともに,現況に比べて10‰程度の塩分低下がみられるが,現況における7月の出水期よりは低くない。その後は,湾奥部で,大潮期に数‰の塩分低下がみられるほかは,現況と同様である。他方,7月の出水時において,表層の塩分濃度が,現況では,最低で11‰程度まで低下するのに対し,ケース1開門(1年目)では,18‰程度までの低下となる。なお,現況では湾奥部において周期的に表層塩分が急激に低下する期間があるところ,これは本件各排水門からの排水時であり,ケース1開門後は,このような変化は消滅する。湾央部から湾口部にかけては,開門初期に2
5‰程度に低下するのを除いてほとんど現況からの変化はみられ
ない。そして,現況では北部排水門前面における表層と底層に塩分の差が生じるのに対し,ケース1開門では塩分の水深方向の差異は小さく,表層の塩分濃度は現況に比べて高くなる。ケース1開門の2年目及び3年目は,開門当初の淡水の排水の影響を受けないため,4月に各地点で表層が28.3‰~29.5‰,底層が28.4‰~31.0‰となるほかは,概ね1年目と同様である。
(単位:‰)
現況

ケース1開門

地点
表層

底層

表層

底層

S1

29.4

29.5

26.7

28.0

S6

27.8

29.2

26.1

27.2

4月



7原告漁業者の漁業行使権についての妨害のおそれ
妨害のおそれ②~⑤(アサリ養殖,カキ養殖,ノリ養殖,その他の魚介類の漁業)
B3

29.3

30.2

28.1

30.2

B4

29.2

30.2

28.6

30.1

B5

29.5

30.9

28.8

30.9

B6

29.3

30.7

28.9

30.7

S1

26.2

27.5

26.6

27.0

S6

26.0

27.3

26.2

26.4

B3

26.6

29.4

26.9

29.5

B4

26.7

29.5

26.8

29.5

B5

27.0

30.4

27.1

30.4

B6

26.7

30.3

26.8

30.3

S1

29.3

29.5

29.0

29.1

S6

29.1

29.4

28.7

28.7

B3

29.7

30.1

29.5

30.1

B4

29.6

30.2

29.6

30.2

B5

30.1

30.9

30.0

30.9

B6

29.8

30.7

29.8

30.7

8月

2月

(乙A32の1_6.2.3-52・54・62~65・74・86・93・105頁