判例検索β > 平成27年(う)第1351号
事件番号平成27(う)1351
裁判年月日平成29年3月17日
裁判所名・部大阪高等裁判所  第6刑事部
裁判日:西暦2017-03-17
情報公開日2017-10-13 01:33:46
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平成27年(う)第1351号
死体遺棄,逮捕監禁,殺人,監禁,詐欺,生命身体加害略取,傷害致死被告事件平成29年3月17日

大阪高等裁判所第6刑事部判決
主文
本件控訴を棄却する
当審における未決勾留日数中360日を原判決の刑に算入する。
理由
本件控訴の趣意は,主任弁護人中園江里人,弁護人津久井進及び同中川勘太連名作成の控訴趣意書に記載のとおりであり,これに対する答弁は,検察官奥谷成之作成の答弁書に記載のとおりである。
論旨は,訴訟手続の法令違反,事実誤認及び量刑不当の主張である。なお,略称等については,特に断らない限り,原判決の例による。第1
1
訴訟手続の法令違反の主張について
原判示第1の1のIに対する殺人(以下,この項において本件殺人とい
う。
)の事実につき,訴因逸脱認定及び争点顕在化義務違反を理由とする訴訟手続の法令違反の主張について
論旨は,要するに,原審裁判所が,本件殺人の事実につき,訴因変更手続も争点顕在化措置もとることなく,Iを乙の崖から飛び降りて死ぬ以外に選択することができない精神状態に陥らせた時期について,公訴事実と異なる認定をしたのは訴因逸脱認定又は不意打ち認定に当たるから,原審の訴訟手続には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反がある,というのである。


本件殺人の公訴事実の要旨

本件殺人の公訴事実の要旨は,被告人は,兵庫県尼崎市△△通×丁目×番×号所在の甲○○号室(以下甲という。
)において,B,C,D,E,F,G,H,

Iらと同居していたものであるが,Cの戸籍上の配偶者であるIを被保険者とする生命保険等の保険金を入手するため,同人を事故死に見せかけて殺害しようと企て,B,C,D,E,F,G及びHと共謀の上,遅くとも平成17年3月上旬頃には,同所において,かねてからBの意のままに従わざるを得ない状況に置かれていたIに対し,交通事故を装って死ぬように命じ,これを実行しようとしない同人に対する制裁として,同年5月下旬頃までの間に,同所において,同人に対し,

ええ加減にせえよ。「意地を見せろ。

」などと怒鳴り付け,3日間にわたって飲食をさせ
ず,同人の両腕を机に打ち付けるなどの暴行を加え,長時間の正座を強制するなどして,死ぬことを拒むことができない状況にした上で,沖縄県の指定名勝乙の崖から飛び降りて死ぬよう命じ,同年6月中旬頃,同人を同県へ同行させ,同月30日頃,同県国頭郡△△村所在のロッジにおいて,それぞれ同人と死別の挨拶を交わし,翌7月1日午前9時過ぎ頃,同所において,同人に対し,乙の崖から飛び降りて死ぬよう改めて申し向けつつ,同人の身に着けていたネックレスを遺品としてBが受け取る形見分けの儀式をした上で,同日午前10時20分頃,同村所在の乙の崖(高さ約27.5m)の上において,Iを足場が不安定な同崖の縁に立たせ,その前に被告人,D,E,F,G及びHがIに背を向けて立ち,
はよせな。」などと言
って,早く同所から飛び降りて死ぬよう同人に命じるなどし,同所から飛び降りる以外に選択することができない状態にして,同人をして,前記崖の縁から飛び降りさせ,よって,その頃,前記崖の下において,同人を頭部損傷により死亡させて殺害した,というものである。


原審における本件殺人の審理経過

記録によれば,原審における本件殺人の審理経過は,概略,次のとおりであったと認められる。

検察官は,平成26年2月28日付け証明予定事実記載書(I事件の事実構
造式証明予定)において,威迫等を加えて人を飛び降りさせて死亡させた場合,被害者の意思の抑圧の程度が高い場合には自殺関与罪ではなく,殺人罪が成立し,その判断に当たっては,被害者の性格,飛び降りに至るまで及び飛び降り当時の被害者を取り巻く状況,被害者の心理状態等を総合して検討する必要があると主張し,Iの意思決定の自由を強く制約し,飛び降りる以外の行為を選択することができない精神状態に陥らせていたことにつき,①Iは,Bに逆らわない性格であったこと,②Iは,長年にわたりBの虐待を目の当たりにし続けたことにより,Bを強く恐れ,言いなりに生活していたこと,③Bらが,Iに対し,執ように死を迫り続け,拒むことのできない状態にしたこと,④逃げ出したIを甲に連れ戻した後,被告人及び共犯者らも加わってIを追い込み,死ぬために沖縄に行かざるを得ない状態にしたこと,⑤沖縄観光,下見,別れの挨拶を通じて,Iに対し,更に後戻りできない心理状態にしたこと,⑥被告人らは,Iを乙に連れて行き,同人を飛び降りる以外の行為を選択することができない精神状態に陥らせて飛び降りさせた状況,⑦Iには自殺をする理由がなかったことなどを主張した。
他方,原審弁護人(そのうち3名は当審弁護人と同じ。以下,単に弁護人ともいう。
)は,同年4月24日付け予定主張記載書面(10)において,①Iは,Bから家族,家計を救済するために自殺するよう説得され,集団の一員として家族のために自殺することを決意した,②その後,Iは,Bに対して自殺の決意を固めた旨を伝え,Bが自殺の場所として沖縄県の乙を提案した,③Iは,B及び被告人らと沖縄に観光旅行に出掛けたが,旅行期間中,行動の自由があったし,自殺場所の下見も自らの意思によるものであって,逃走することも可能であった,④Iと死別の挨拶をした事実,Bが形見分けの儀式を行った事実は,いずれも殺人の実行行為とはいえない,⑤Iは,乙の崖から飛び降りたが,これは同人の意思によるものである,なお,その際に被告人が「はよせな。」などと言った事実はない,⑥Iが自殺
をしたのは,A家の家計を救済するようBから説得されたことが理由であり,意思の抑圧が継続していたわけではなく,その時点で飛び降りないという選択をすることも可能であった,⑦被告人は,Bの指示を受けて,Iに対して自殺を決意するよう促し,自殺場所に一緒に赴くなどしたことはあるが,このような行為は自殺関与罪を構成するにとどまるなどと主張した。

検察官は,第16回公判前整理手続期日において,本件殺人の実行行為は,
平成17年3月上旬以降繰り返された一連の命令行為と威迫行為である,公訴事実や証明予定事実に記載した事情を総合的にみれば,被害者の意思決定の自由が失われたと評価できるので,殺人罪が成立する,それらの経緯の中で最も重要なのは,逃げた被害者を連れ戻し,なお死ぬように迫ったという部分であるなどと釈明した。ウ
原審裁判長は,第23回公判前整理手続期日において,検察官に対し,本件
殺人の実行の着手時期について釈明を求め,検察官は,平成26年12月12日付け釈明書において,本件殺人の実行行為は,遅くとも平成17年3月上旬頃から同年7月1日の死亡直前までの,被告人らによる,Iが崖から飛び降りる以外に選択することができない状態に追い込んだ一連の各行為であり,遅くとも同年3月上旬頃に実行の着手が認められると釈明した。

弁護人は,平成27年1月19日付け意見書において,原審裁判所が検察官
の事実構造式証明予定を踏まえて作成した本件殺人の争点整理案(第19回公判前整理手続期日で示されたもの)について,同整理案に記載された客観的事実関係が全て立証されたとしても,そこからIが,飛び降りた時点において,飛び降りる以外の行為を選択することができない精神状態に陥らされていたという推認はできないなどと主張した。他方,検察官は,同年2月17日付け意見書において,Iが乙から飛び降りたときの被告人の認識を明らかにするためには,Iが飛び降りるに至った経緯についての被告人の認識,特に,Iが沖縄に行く前の平成17年5月
下旬頃,Bから飛び降りの方法により死ぬことを承諾させられた状況に関する被告人の認識が重要であるなどと主張した。

原審裁判長は,第33回公判前整理手続期日において,争点整理の結果を確
認し,本件殺人の争点は,公判で立証された事実から,Iを飛び降りる以外の行為を選択することができない精神状態に陥らせていたと評価できるか否か(殺人の実行行為性)と,被告人がBの保険金殺人の計画を認識し,自分の犯罪としてこれに加担したと評価できるか否か(故意,共謀,正犯性)であるとし,検察官及び弁護人は,それに相違ない旨の意見を述べた。

検察官は,第2回公判期日の冒頭陳述において,IとA家の関係や出来事の
流れ(時系列)を示した上,B及び被告人らが時系列欄のようにIを追い込んでいったことを証明するなどと主張した。他方,弁護人は,同期日の冒頭陳述において,①平成17年2月の自殺決意まで,②同年3月ないし5月の自殺方法決定まで,③同年6月から自殺実行までの各時期におけるIの行動等を示し,I自身の意思で飛び降りを選択したなどと主張した。

検察官は,第5回公判期日の中間論告において,Iに対して数々の虐待行為
があったことなどを指摘し,崖から飛び降りる以外の方法を選択することができない精神状態であったことを主張したほか,Iに対し,死ねないことに怒り,強度,多様かつ継続的な暴行,長時間の正座等の虐待を約10日間続け,沖縄での飛び降りを承諾させたという被告人が供述した事実だけでも殺人と評価することができるなどと主張した。他方,弁護人は,同期日の中間弁論において,平成16年末頃から平成17年7月1日までの事実経過について言及し,Iは自分の意思で自殺を選択したことなどを主張した。

原判決は,
事実認定の補足説明の項1⑶において,乙の崖の上で被告人
ら共犯者がIに早く飛び降りて死ぬよう命じた事実は認定できないとした上で,同
項1⑷において,被告人らは,Iが,Bから車に飛び込んで死ぬことを改めて命じられた後もなかなか実行しないため,Iに対し,制裁等を加え続けたのであり,それが何も言い返せない性格のIを徐々に精神的に追い詰め,死ぬことを拒むことができない状況にまで追い込むに足りるものである,このような状況の下,更に,BらA家全員が集まる中,Iが死ぬという前提で実行可能な自殺方法を検討する話合いが行われ,被告人の提案をきっかけに,Iも了解した上で高所から飛び降りるという具体的な自殺の方法が決まったことは,Iにとってみれば,退路を断たれたことに等しく,この時点で,死ぬことを拒むことができない精神状態にまで追い込まれたと認められる,その後,Iは,沖縄行きの日程,自殺までの具体的段取り,自殺の実行日等の実行計画に関する重要事項の全てについて,自分の意思とは無関係にBから一方的に告げられた上,Bの命令によって,A家の者らとの別れの挨拶やBへの形見分けの儀式といった,自分が死ぬことを前提とした行事まで催されていることからすると,公訴事実は,被告人が早く飛び降りて死ぬようIに命じるなどした時点で,崖から飛び降りる以外に選択することができない状態にしたと構成されているが,むしろ,形見分けの儀式の直後である遅くとも平成17年(以下,次項⑶までは同年の出来事については年の記載を省略する。)7月1日午前9時過ぎ
にBをロッジに残して被告人ら共犯者と共に出発した時点で,被告人らは,Iを乙の崖から飛び降りて死ぬ以外に選択することのできない精神状態に陥らせたと認められるとして,原判示第1の1のとおり本件殺人の事実を認定した。⑶

当審の判断

前記のとおり,原判決は,形見分けの儀式の直後である7月1日午前9時過ぎにBをロッジに残して被告人ら共犯者と共に出発した時点で,被告人らはIを乙の崖から飛び降りて死ぬ以外に選択することのできない精神状態に陥らせたと認定し,被告人らが乙の崖の上で「はよせな。」などと言って早く飛び降りて死ぬようIに
命じた事実は認定していない。
しかしながら,本件公訴事実は,被告人らがIを前記精神状態に陥らせた時期について,BがIに交通事故を装って死ぬように命じた3月上旬頃から,Iが崖から飛び降りる直前の7月1日午前10時20分頃までの間のいずれかの時点であるとして,一定の幅のある記載をしているものと解される。また,原審公判前整理手続において,検察官は,遅くとも3月上旬頃に本件殺人の実行の着手が認められると釈明し,本件殺人の争点は,公判で立証された事実から,Iを飛び降りる以外の行為を選択することができない精神状態に陥らせていたと評価できるか否かであると整理されていたのであり,原判決は,本件公訴事実に掲げられた3月上旬頃から7月1日にIが崖から飛び降りるまでの被告人らの一連の行為のうち,崖から飛び降りる直前の命令行為を除いてほぼ公訴事実どおり認定し,形見分けの儀式の直後に被告人ら共犯者と共にロッジを出発した時点で,Iを前記精神状態に陥らせたと認定しており,これは公訴事実の範囲内での認定であるから,訴因逸脱認定とはいえない。
そして,前記の審理経過に鑑みると,検察官及び弁護人は,冒頭陳述,中間論告及び中間弁論において,3月上旬頃から7月1日にIが飛び降りる直前までの被告人らの一連の行為によってIが前記心理状態に陥ったか否かを巡り,攻撃防御を尽くしていたことが認められ,原判決は,この争点に即して前記のとおり認定したのであるから,これが不意打ち認定に当たるともいえない。なお,所論が引用する最高裁判所昭和58年12月13日第三小法廷判決(刑集37巻10号1581頁)は,ハイジャックの共謀共同正犯として起訴された被告人につき,謀議の認定手続に不意打ちの違法があるとされた事例であり,実行行為性が問題となった本件殺人とは事案及び審理経過を全く異にするものであるから,同様に論ずることはできない。したがって,所論はいずれも採用できない。

以上のとおり,原審裁判所において本件殺人の事実を認定するに当たり訴因変更手続及び争点顕在化措置をとる必要があったとは認められず,原審の訴訟手続に所論指摘の法令違反はない。
2
原判示第2の2のJに対する傷害致死(以下,この項において本件傷害致死という。)の事実につき,原審弁護人がしたFの証人尋問請求を却下したことを理由とする訴訟手続の法令違反の主張について
論旨は,要するに,本件傷害致死の事実について,被告人がJの頭を揺さぶるのを目撃したというG証言及びこれに一部沿う供述をしたD証言を弾劾するため,原審弁護人が請求したFの証人尋問を採用すべきであったのに,これを却下した原審の訴訟手続には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反がある,というのである。


原審における本件傷害致死の審理経過

記録によれば,原審における本件傷害致死の審理経過は,概略,次のとおりであったと認められる。

検察官は,平成26年3月31日付け証明予定事実記載書(事実構造式)に
おいて,本件傷害致死の犯行状況について,被告人が,本件当時,パチンコ店駐車場(原判示のパチンコ店第1駐車場。以下本件現場ともいう。
)で,運転席に
D,助手席にB,後部座席の運転席側にJ,中央にK,助手席側にGが乗っている自動車の後部座席の運転席側ドアを開け,

頭,ウジわいとんちゃうか。

などと言いながら,Jの頭髪を両手でつかんで頭部を数十回にわたり強く上下に振るなどし,その際,G,Dが,同じ車内にいて,被告人の前記暴行を目撃したことなどを主張した。他方,弁護人は,同年5月26日付け予定主張記載書面(11)において,Jは,パチンコ店駐車場で,B,K,Gと共に自動車内に座っていた際に意識障害を呈したものであり,その際,被告人は,同駐車場にいたものの,同車内に入っておらず,
Jに暴行を加えたことはない,被告人は,当時,Bから,Jに暴行を加えるよう指示されたこともなく,被告人がJに暴行を加える動機もなかったなどと主張した。イ
検察官は,平成27年4月3日付け証人尋問請求書により,被告人による傷
害致死の状況等を立証趣旨として,Gの証人尋問を請求し,Jの硬膜下血腫について考えられる生成原因等を立証趣旨として,P医師の証人尋問を請求した。ウ
弁護人は,第33回公判前整理手続期日において,被告人のA家における地
位,被告人の本件傷害致死を含む各事案における役割等を立証趣旨として,Fの証人尋問を請求するとともに,平成27年8月11日付け証拠調べ請求に関する意見書において,Bが被告人に対してJに暴行を加えるよう指示したことはなく,そのような指示はL,G,Kに対してなされており,Bが本件当日に限って被告人に対してJへの暴行を指示したというのは不自然,不合理である,Jが意識障害を発症する直前には,被告人は,Fらと談笑しながら弁当を食べていたものであり,その直後に被告人がJに暴行を加えたとするのは不自然である,Fは,Bから,Lの暴行等によってJが負傷したことを聞いていたとして,Fの証人尋問が必要であるなどと主張した。

原審裁判所は,第36回公判前整理手続期日において,G及びP医師の証人
尋問を採用する一方,Fの証人尋問請求を却下した。原審裁判所は,同期日において,争点整理の結果の確認として,本件傷害致死の争点は,被告人がパチンコ店駐車場において,Jに暴行を加えたか否か(犯人性)
,具体的には,目撃者であるG
の証言の信用性が争点であるとし,検察官及び弁護人は,それに相違ない旨の意見を述べた。

第6回公判期日において,Gは,自動車を本件現場に止めた後,被告人がや
ってきて,運転席にいたDに挨拶みたいなことをした後,Jの座る後部座席のドアを開けて文句を言うと,Jの頭髪を両手でつかみ,頭部を10回か15回くらい連
続で,前後にものすごく勢いよく振ることを四,五回繰り返したのを目撃した旨証言した。

第7回公判期日において,P医師は,頭が回旋する力が加わった場合に架橋
静脈が切れ,急性硬膜下血腫が起こることがある,Jについては,首から下が固定され,髪の毛を持って前後に揺さぶった場合,頭が前後に回旋するので架橋静脈が切れることは考えられる旨証言した。また,同期日において,被告人は,Jの様子がおかしくなった当時,Dは1階のパチンコ店にいたので自動車にはいなかったなどと供述した。
そこで,原審裁判所は,同期日において,検察官及び弁護人の意見を聴いた上,公判前整理手続では,弁護人はDが本件現場を離れていたことを明示的に主張していなかったところ,被告人がその旨供述したため,新たに証拠調べをして解明する必要が生じたとし,Dの証人尋問を職権で採用した。これに対し,弁護人は,同期日において,被告人がJに暴行するのを目撃した旨のG証言及びD証言に信用性が認められないことを立証趣旨として,Fの証人尋問を請求し,その必要性について,Dを証人として採用するのであれば,Fも証人として採用すべきである,Dが本件当時,本件現場にいたかどうかは重要な争点であるところ,Fはその状況を現認しているので,尋問の必要性があるなどと主張した。

第8回公判期日において,Dは,本件当時,本件現場にいて自動車から降り
たことはない,自分の記憶では,被告人がJの頭頂部から側頭部の辺りを両手で持っていたなどと証言した。原審裁判所は,同期日において,検察官の意見を聴取した上,Fの証人尋問請求を却下し,これに対する弁護人の異議申立ても棄却した。⑵

当審の判断

前記のとおり,弁護人は,Fの証人尋問により,①本件当日,被告人は,Jの様子が急変する前にFらと談笑しながら弁当を食べていたこと,②Fは,Bから,L
の暴行によってJが負傷したことを聞いたこと,③Jの異変に気付いた時,自動車内にDがいなかったことを立証する予定であったと認められる。
しかしながら,本件当日,パチンコ店駐車場に止めた自動車内でJの様子が急変した時,Fが同所付近にいなかったことは争いがなく,Fの証人尋問を行っても,被告人がJの頭部をつかんで揺さぶるなどしたかという本件の争点が解明されるわけではない上,①の点を立証しても,被告人がFらと談笑しながら弁当を食べ,同人らと別れた後,Jに対して暴行を加えた可能性は残ることになる。また,②の点については,G証言によれば,Jの搬送先の病院で,医師にJの意識がなくなった原因について説明する前に,Bから被告人のことは絶対に言うななどと言われ,説明内容も言われたので,そのとおり医師に話した,その後,甲に戻った際,BはJの様子がおかしくなったのはLの暴力が原因であると言っていたというのであるから,FがBから同様の発言を聞いたと証言しても,Gの前記証言を弾劾するものとはいえない。
③の点については,まずはDを尋問し,その証言の信用性を判断すべきであるところ,Dは,自動車を運転してパチンコ店駐車場に同車を止めた後,同車から降りたことはなく,Jの様子がおかしくなった時,自分が同車に乗っていたことは間違いない旨証言し,弁護人の反対尋問によっても,本件当時,Dが同車に乗っていたことに疑問を生じさせる事情は何ら現れなかったのであるから,同人の証人尋問終了後,Fの証人尋問請求を却下した原審裁判所の判断に裁量を逸脱した違法があるとはいえない。なお,所論は,原審裁判所がDの証人尋問を職権で採用したのは,有罪認定のための職権証拠調べであり不公正であるとも主張するが,原審裁判所が同尋問を採用した理由は前記⑴カのとおりであるから,その批判は当たらない。以上のとおり,Fの証人尋問請求を却下した原審裁判所の判断に裁量を逸脱した違法はなく,所論はいずれも採用できない。

3
原審弁護人請求に係るQ臨床心理士の証人尋問を却下したことを理由とする
訴訟手続の法令違反の主張について
論旨は,要するに,原審裁判所は,原審弁護人がしたQ臨床心理士の証人尋問請求を却下したが,同人の証人尋問は弁護側の実質的に唯一の情状立証であり,その証人尋問を行っていれば,被告人の知的能力及び人格的特性等が明らかとなり,原判決のような量刑には至らなかったから,原審の訴訟手続には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反がある,というのである。


原審公判前整理手続におけるQ臨床心理士の証人尋問請求を巡る経緯
記録によれば,Q臨床心理士の証人尋問請求を巡る経緯は,概略,次のとおりであったと認められる。

弁護人は,第16回公判前整理手続期日において,情状鑑定を私的に行い,
これを前提に鑑定請求をするかどうか検討している旨を明らかにし,その後,R臨床心理学博士に同鑑定を依頼した。

弁護人は,第27回公判前整理手続期日において,新たにQ臨床心理士に対
しても情状鑑定を私的に依頼することを明らかにした。

神戸地方裁判所裁判官は,弁護人の申立てにより,R博士ほか1名との関係
で被告人の接見等禁止を一部解除する決定をしていたが(平成26年8月8日付け)
,さらに,弁護人の申立てを受け,Q臨床心理士との間でも被告人の接見等禁止を一部解除する決定をした(平成27年3月6日付け及び同月11日付け)。し
かし,Q臨床心理士において被告人の知的能力のテストをする際,被告人とQ臨床心理士が拘置所内のアクリル板(しきり板)のない部屋で面会する必要があり,拘置所側は裁判所による鑑定以外ではそのような面会の要望に応じないとしたため,原審裁判所は,検察官及び弁護人と協議し,実質的には私的鑑定でも,便宜的に裁判所による鑑定の形式で行うこともやむを得ないと判断して,被告人の知的能力の
みを鑑定事項とする旨の弁護人の鑑定請求を採用し,裁判員の参加する刑事裁判に関する法律50条1項による鑑定手続実施決定をして,Q臨床心理士を鑑定人に選任した。

弁護人は,第33回公判前整理手続期日において,立証趣旨をいずれも被告人の心理的・人格的特性等としてR博士及びQ臨床心理士の証人尋問を請求した。

原審裁判所は,第36回公判前整理手続期日において,R博士の証人尋問を
採用したが,Q臨床心理士の証人尋問請求及び同人作成の鑑定書等については,公判手続開始後の平成27年9月末までにR博士の証人尋問のほかに重ねて採用する必要性があるかを判断することとし,採否を留保した。

弁護人は,平成27年9月11日付け証拠調請求補充書を提出し,弁護人と
しては,方向性や分析の対象が異なるQ臨床心理士及びR博士の双方の証言によって,被告人がBの支配下でその指示に従って犯行に及んだ心理的・人格的要因の解明を行う予定であるなどと主張した。

原審裁判所は,第13回公判期日において,鑑定事項の性質や同公判期日ま
での被告人質問の状況その他の経過から,弁護人の前記主張を踏まえても,Q臨床心理士や同人作成の鑑定書を取り調べる必要はないとして,同人の証人尋問請求及び鑑定書の請求をいずれも却下した。弁護人は,前記却下決定に対して異議を申し立てたが,原審裁判所は,第14回公判期日において異議申立てを棄却した。⑵

当審の判断

前記のとおり,R博士とQ臨床心理士の専門分野はいずれも臨床心理学であり,弁護人が両名に依頼した鑑定事項や立証趣旨は同一であったから,R博士の証人尋問を採用した以上,Q臨床心理士の証人尋問が不可欠とは解されず,同人の証人尋問が弁護側にとって実質的に唯一の情状に関する立証であったということはできな
い。確かに,R博士は被告人の知的能力面の検査を行わなかったのに対し,Q臨床心理士は各種の知能検査を行っているが,弁護人において,Q臨床心理士がした知能検査の結果や同人の意見を踏まえてR博士に再度意見を尋ねたり尋問したりすることは十分可能であったと考えられる。また,R博士は,被告人に対する心理学的検査(文章完成法テスト)を2回実施し,それで被告人の心境が理解できると判断した,2回目の検査で,被告人はやや病的な,偏った考えを持っていることが分かった,被告人に知的障害があるとは判断せず,知能テストは必要ないと判断したなどと証言しており,その証言内容に弁護人も特段疑問を示していない。そうすると,R博士の尋問に加えて,更にQ臨床心理士の証人尋問等を採用しなければならないというものではないから,その証人尋問請求等を却下した原審裁判所の判断に裁量を逸脱した違法があるとはいえない。
4
裁判員に不当な影響を与える裁判長の言動があったことを理由とする訴訟手
続の法令違反の主張について
論旨は,要するに,原審裁判長は,審理中,被告人及び弁護人に対する悪印象を与える不当な言動を行っており,そのことにより裁判員が不当な影響を受け,原判決に至ったから,原審の訴訟手続には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反がある,というのである。
しかしながら,記録を調査しても,原審裁判長が裁判員に不当な影響を与える言動をしたことをうかがわせる状況を見いだすことはできない。
所論は,原審被告人供述調書及び調書異議申立書の記載を引用し,原審裁判長が被告人質問時に被告人の口調をまねて質問するなど不当,不適切な質問をしたというのであるが,調書異議申立書等の記載を前提にしたとしても,原審裁判長は,被告人が質問に早口で答え,聞き取りにくかったことから,もっとゆっくりと答えるように注意する趣旨で述べたにすぎないと認められる。また,所論は,前記調書異
議申立書等の記載を引用して,原審弁護人による証人尋問時及び被告人質問時に原審裁判長が不当な介入や違法な尋問の制限をしたなどと主張するが,尋問又は質問の前後のやり取りに照らすと,原審裁判長の訴訟指揮に特段違法,不当な点があったとは認められない。
したがって,原審裁判長の訴訟指揮等の手続に所論の法令違反はなく,所論はいずれも採用できない。
5
第2
1
訴訟手続の法令違反の論旨はいずれも理由がない。
事実誤認の主張について
原判示第1の1のIに対する殺人の事実について

論旨は,要するに,原判決は,被告人が,Bらと共謀の上,Iを乙の崖から飛び降りて死ぬ以外に選択することができない精神状態に陥らせ,平成17年7月1日(以下,この項及び次項では同年の出来事については年の記載を省略する。)にI
に自ら崖から飛び降りさせ,殺害したとの事実を認定したが,Iは,Bらから制裁を受ける前から生命放棄の決断をしており,自殺を幇助したにすぎないから,原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある,というのである。⑴

原判決の認定及び判断

原判決は,
事実認定の補足説明の項1⑶で,Iが崖から飛び降りて死ぬに至った経緯について認定した上,同項1⑷で,殺人罪の成否等について検討し,被告人らがIに制裁等を加え続けたことは,Iを徐々に精神的に追い詰め,死ぬことを拒むことができない状況にまで追い込むに足りるものであり,被告人の提案をきっかけに高所から飛び降りるという具体的な自殺の方法が決まった時点で,Iは死ぬことを拒むことができない精神状態にまで追い込まれたと認められる,形見分けの儀式の直後である7月1日午前9時過ぎに被告人ら共犯者と共にロッジを出発した時点で,Iを乙の崖から飛び降りて死ぬ以外に選択することのできない精神状態に
陥らせたと認められ,これは殺人の実行行為に該当する,被告人は,見届け役として同行する行為や言って聞かせる行為,当日崖まで同行する行為をし,これら一連の行為の積み重ねによりIをして自殺する以外の行為を選択することができない精神状態に陥らせているのであるから,これらは殺人の実行行為の一部に該当する,被告人は,Iに掛けられた保険金を得るというBの意図を十分理解してそれらの行為に及んでいることから殺人の故意に欠けるところもなく,3月4日頃にBが被告人ら共犯者の前でIを叱責した際に,被告人ら共犯者全員が,BがIを死亡させて保険金をだまし取る計画であることを理解し,その時点で,Iを自殺まで追い込む旨の意思の連絡を遂げたとして,被告人に殺人罪の共同正犯の成立を認めた。このような原判決の認定及び判断が論理則,経験則等に照らして不合理であるとは認められない。


前提事実に誤認があるとの所論について

所論は,原判決が前提事実として認定した,①IをA家唯一の定職者とする点,②IがBやA家に対して死んでまで報いるほどの恩義を感じていたとは思われないとする点,③Iが自動車事故の偽装を実行できずに行方をくらませたとする点,④Iが自動車事故の偽装を実行せずに酔いつぶれたとする点,⑤Iが飛び降りる直前に被告人らがIを取り囲んだとする点について誤認がある,というのである。①についてみると,記録によれば,平成17年当時,IがA家唯一の定職者であり,給料のほぼ全額をBらに渡し,自由に使える現金を持っていなかったことが認められる。所論は,Cもかつて働いており,その収入をA家に入れていたことを指摘するが,そのこととIが崖から飛び降りて死ぬに至った経緯との関連性は乏しく,それゆえ原判決は所論指摘の点を前提事実として認定しなかったにすぎない。②についてみると,IにとってBは怒らせてはならないという存在でしかなく,B以外のA家の者たちも,長年の共同生活を通じて相互に仲間意識のようなものを
抱いていた可能性は否定できないものの,もともと親族関係のない赤の他人であり,Cとは,同人に厚生年金の受給資格を取得させるためにBの指示により入籍させられたもので,夫婦としての実態はなく,Iが望んで同居するようになった者たちでもないことからすると,自らの命を投げ出してまでもその生活を守ってやろうと思うほどの存在ではなく,Iがその犠牲にならなければならない道理は存在しない。原判決は,このことをもって,IがBやA家に対して死んでまで報いるほどの恩義はなかったと説示しているにすぎない。
③についてみると,被告人の原審供述によれば,被告人は,2月頃,Bから,Iと連絡が取れなくなったと聞き,Iを探せと言われたので,Iの職場を見張るなどして探していたところ,2週間後,Iは丙マンションにいるところを発見されたというのであるから,この間,Iが行方をくらましていたことは明らかである。所論は,丙マンションはIが平素から仕事が遅くなったときなどに宿泊していた場所であったから,Iが行方をくらませたとはいえないというのであるが,記録によれば,被告人らがIの現れそうな場所で待ち伏せしたり,Bが,Iの勤務先に対してIに給料を渡さないよう依頼したりした状況がうかがわれ,Iは,逃走資金もなく,かくまってくれる知人もおらず,他に居場所もなかったことから,最終的に丙マンションに行き着いたにすぎないと考えられる。また,所論は,Iが3月3日の夜に甲に戻ってきた際,Bに叱責されることなく,一緒に食事をし,酒を飲んでいたことを指摘して,Iが行方をくらましていたのであれば,そのようなことはあり得ないというのである。しかしながら,Bは,同人に逆らえないIの性格に付け入り,Iに事故を装わせて自殺させ,死亡保険金を得ることをもくろんでいたのであるから,硬軟両方の手段を取り混ぜてIに精神的圧力を加え,偽装事故の実行を迫るために,行方をくらましたIを強く叱責することなく,一旦は安心させるため,食事や酒を与えることも十分考えられるところである。したがって,このことは,Iが行方を
くらましていたことを否定する事情とはいえない。
④についてみると,被告人は,Iが国道2号線で走行中の自動車に対して自転車に乗ったまま飛び込むことを試みる前に,飲み過ぎて酔い潰れ,自転車に乗ってもひっくり返る状態であったことを原審で供述しており,このことは,Iが自動車に飛び込んで死ぬことを嫌がっていたことを推測させる事情といえる。⑤についてみると,Iが乙の崖から飛び降りる直前頃に撮影された写真によれば,被告人らが,Iに背を向け,Iの前で遮るように立っていたことが認められ,被告人の原審供述によれば,6月28日に,B,Iを含め,沖縄旅行に行った全員で乙に下見に行き,その際,BがIの立つ場所を海側の崖の端と決め,記念撮影をしているふりをして事故に遭うことなどを指示していたというのであるから,被告人らの前記行動は,Iに対して崖から飛び降りることを暗に迫るものといえる。したがって,原判決が前提事実として認定した事実に誤認はなく,所論はいずれも採用できない。


Iに自殺の動機及び意思があったとの所論について

所論は,原判決は,Iを含め,A家の全員が家族のために命を捨てるという特殊な価値観を有していたという事実を看過しており,Iには自殺の動機も意思もあったのであり,IはBから制裁を受ける前の段階から生命放棄の決断をしていたとして,原判決がIに自殺する意思がなかったと認定したのは誤りであると主張する。
しかしながら,Iは,Bから逃亡しても連れ戻され,家族とも生き別れてA家にいたものであり,このような経緯からすると,A家のために命を真意から投げ出すという価値観を共有していたとは認め難い。原判決が認定したIが崖から飛び降りて死ぬに至った経緯に鑑みると,Iは,Bに逆らえない性格やBを強く恐れていたことから,Bの唱える価値観に異議を挟めなかっただけであると考えるのが自然で
ある。また,Iが自殺を決意していたのであれば,BらがIに制裁を加える必要もなかったはずであるが,現実には,暴行,正座強制,飲食制限などの制裁を加えて,Iを精神的に追い込んでいる。Bが高い所から飛び降ることができるかと尋ねた際に,Iが

それやったらできる。

と言ったのは,前記のような制裁を受け,A家の者から無視され,耐えられなくなったからであると容易に推察できる。Iは,死ぬ場所,方法及び日時までBによって決められたのであるから,自分の意思で自殺したとは到底認められない。したがって,所論はいずれも採用することができない。以上のとおり,被告人が,Bらと共謀の上,Iを崖から飛び降りさせて殺害したと認定した原判決に事実誤認はない。
2
原判示第1の2及び3の各詐欺の事実について

論旨は,要するに,原判決は,被告人が,Bらと共謀の上,保険会社2社に対し,Iが乙の崖から誤って転落して事故死した旨のうその内容を記載した保険金請求書を提出するなどして保険金の支払を請求し,保険金をだまし取ったとの事実を認定しているが,被告人は,これらの各犯行(以下本件各詐欺という。)に関与し
ていないから,原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある,というのである。


原判決の認定及び判断

原判決は,
事実認定の補足説明の項1⑸で,被告人は,もともと保険金詐欺の目的でIを殺害するという事前共謀に基づき自ら殺人の実行行為の一部を担当し,その共同正犯の刑事責任を負う以上,保険金を直接受け取らず,保険金請求の手続や入金状況等の詳細を知らなかったとしても,保険金詐欺についての関与が薄いなどとはいえない上,原判示第1の2の犯行において,請求書等にM(Iの弟)の氏名を署名するなど犯行に不可欠な行為を行っていることから,本件各詐欺の共同正犯が成立すると認定した。

このような原判決の認定及び判断が論理則,経験則等に照らして不合理であるとは認められない。


所論及びこれに対する当審の判断

所論は,①殺人又は自殺関与と詐欺とは別の犯罪であり,前者の犯罪について実行行為の一部を担当して正犯性が認められる場合でも,後者の犯罪について正犯性が認められるとはいえない,②被告人は,
保険金請求権・受領権に関する同意書
等にMの氏名を記入しているが,Bの指示に従って言われたとおり書いたにすぎず,被告人がIの死亡保険金を詐取するための書面であることを理解できたとはいえない,③保険金詐欺は,BとCが計画したものであり,保険契約の内容や手続について被告人に説明がされたことはなく,被告人が保険金を請求したことも取得したこともないから,被告人に本件各詐欺の共同正犯は成立しないと主張する。①についてみると,被告人は,Iの殺害に加担したのに,警察に対しIの死亡は不慮の事故であるとうその説明をしたほか,保険金請求に関する前記同意書等にMの氏名を記入したのであるから,保険金をだまし取る上で重要な役割を果たしたことは明らかである。そして,だまし取った保険金で自らを含むBらとの共同生活上の生活費や遊興費を賄うことが見込まれており,被告人にも詐欺に加担する利益があったといえるから,いずれの詐欺についても被告人に共同正犯の成立が認められる。所論は,仙台高等裁判所平成15年7月8日判決(判例時報1847号154頁)を引用し,保険金殺人に関与しながら,保険金詐欺の共同正犯ではなく,幇助犯の成立を認めた事案があり,被告人にも同様に幇助犯が成立すると主張する。しかしながら,前記事案で保険金詐欺の幇助犯にとどまるとされた者は,急きょ共犯者から殺人の手伝いを頼まれたもので,保険金を目的とした殺害計画の立案には関与しておらず,殺害実行への関わり方も補助的な役割を務めたにすぎなかった上,保険金取得について特に積極的な関心を持っていなかったことなどから,詐欺の正
犯意思がないと認定されたのであって,前記のとおり,転落事故を装った保険金殺人の計画立案に関与し,その計画の詳細を知った上でIを乙の崖の上まで連れて行くという重要な役割を担い,保険金請求の場面でもそれなりに重要な役割を果たした被告人について同様に論じることはできない。
②についてみると,前記同意書は,保険会社宛の保険金請求権・受領権に関する同意書の表題があり,保険契約者及び被保険者の各欄にIの氏名が書き込まれていたほか,相続人記名捺印欄には,
Cの氏名が書き込まれ,さらに,被
告人自身がMの氏名を書き込んだのであるから,同書面の内容を詳しく読まなくても,これが死亡保険金請求に関する書類であることは一見して理解できるものである。
③についてみると,被告人は,遅くとも,Iが甲に連れ戻された3月4日頃,BがIを死亡させて保険金をだまし取る計画を立てていることを理解し,4月下旬から5月中旬にかけて,3回程度,Bの指示により見届け役として,自転車に乗ったIが走行中の自動車の前に飛び出して事故を起こそうとする場面に居合わせたほか,Iの自殺の方法を変更する話合いの中で,高所からの転落事故を装う方法を提案したのであるから,B及びCが計画した保険金詐欺の内容や方法を知った上で,自ら積極的に犯行に関与したと認められる。
したがって,被告人が本件各詐欺について共同正犯の罪責を負うと認定した原判決に事実誤認はなく,所論はいずれも採用できない。
3
原判示第2の2のJに対する傷害致死の事実について

論旨は,要するに,原判決は,被告人が,平成20年3月1日(以下,この項では同年の出来事については年の記載を省略する。,Bと共謀の上,Jの頭髪を自ら)
両手でつかんで頭部を多数回にわたって激しく振る暴行を加えて,Jに急性硬膜下血腫の傷害を負わせ,その後,死亡させたとの事実を認定しているが,被告人は,
そのような行為をしていないから,原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある,というのである。


原判決の認定及び判断

原判決は,
事実認定の補足説明の項2⑵で,被告人の犯行を目撃したというG証言の信用性について検討し,①証言内容がP医師の証言によって裏付けられている,②Gが被告人の犯行を捜査機関に告白した経緯や状況に作為性が感じられず,被告人を陥れようとする意図がうかがわれない,③誰がJの頭部を振ったかという核心部分を除けば,D証言と,暴行の際の状況やJの頭部を振った回数等についてまで一致している,④Gが証言する犯行時の状況は自然であるとして,G証言に基づき,被告人がJの頭部を振る暴行を加え,死亡するに至らしめたと認定した。また,原判決は,同項2⑶で,被告人の原審公判供述の信用性について検討し,2台の車の間を5回も往復したなど内容が詳し過ぎて不自然な印象が否めない,パチンコ店駐車場でのD,B及び被告人の行動について,A家の特徴的な人間関係からみて不自然な内容が含まれる,車内にいたBらよりも先に被告人がJの異変に気付いたというのも不自然であることから疑わしく,G証言やこれと符合するP医師の証言によって認められる事実に合理的な疑いを生じさせるものではないとした。このような原判決の認定及び判断が論理則,経験則等に照らして不合理であるとは認められない。


P医師の原審証言(以下P証言という。
)はG証言を裏付けるものでは

ないとの所論について
所論は,P証言は,KやGがJの頭部を振ったこととも矛盾せず,G証言がP証言によって裏付けられているとはいえないと主張する。
P医師は,Jの受傷原因等について,Jの頭部CT写真の画像によれば,頭頂側の架橋静脈が切れて出血したとみられる,架橋静脈から出血する原因で,典型的な
のは交通事故であり,頭部に強い衝撃が加わったときに起きる,そのほか,高所からの墜落,階段からの転落,ボクシングできれいに打ち抜かれた場合に架橋静脈が切れて急性硬膜下血腫ができることがあるなどと証言し,相当強い力が加わった結果,架橋静脈が切れたとの見解を示している。
所論は,原審弁護人の

効果的に回旋力が加わるのであれば,力が弱くても刺激は与えることは可能なんですか。

との質問に対し,P医師が

それは可能だと思います。

と答えたことをもって,弱い力でも架橋静脈が切断される可能性があるというのであるが,刺激を与えることと切断されることとは別問題であると考えられる。そして,P医師は,交通事故やボクシングを例に挙げ,一般的には相当強い力が加わらないと架橋静脈が切れることはなく,頭部を何度も勢いよく振るという行為によってJのCT画像のような脳の状態になると思う,頭を何度も勢いよく振られた後に意識を失ったり吐いたりし,病院に運ばれたときに急性硬膜下血腫ができていたという一連の流れは非常に自然な感じがすると証言している。本件当時,自動車の後部座席にG,K,Jが並んで座っていたことは争いなく認められるところ,そのような状態で,KやGがJの頭を架橋静脈が切れるほど激しく振ることは困難であったと考えられるから,P証言はG証言の信用性を裏付けるものである。なお,所論は,血腫による意識喪失等の症状が発生するには少なくとも受傷後30分以上かかるというP証言は,駐車場で具合が悪くなった直前にJが受傷したことを推認させるものではなく,むしろ,具合が悪くなった30分以上前にJが受傷していたことを推認させるものであると主張する。しかしながら,P医師は,頭を何度も勢いよく振られた後に意識を失ったり吐いたりしたという症状が出たことと急性硬膜下血腫との関係について質問され,頭を揺さぶられて脳震盪のような症状になって意識が障害された可能性と,架橋静脈が切れて血腫ができ,その血腫による脳の圧迫によって意識が失われた可能性,あるいは両方合わさって起こる可能性
もあると証言し,数分で意識障害が起きたのであれば,これは血腫が脳を圧迫したというよりは脳震盪の影響を受けていると考えられる旨証言しているのであるから,所論のように推認することはできない。
したがって,所論は,P証言を正解しないものであり,いずれも採用できない。⑶

G証言は信用できないとの所論について

所論は,①事件当日,Bらがパチンコ店に向かっているときに,Bがパチンコ店にいる被告人と電話で話をし,その際に,BがJのことについて文句を言っていたとのG証言は,携帯電話の発着信履歴という客観証拠と矛盾している,②J事件についてGが捜査機関の追及を受けることは予想できたし,生存者の中で同事件について知っているのはGのみであったから,Gの告白に作為性がないとはいえず,Gが自己防御のために被告人に責任をなすり付けた疑いがある,③身内同士で暴力を振るい合うという普段の行動やその場にいた各人の位置関係からすると,Jへの怒りを表しているBの歓心を真っ先に買おうとするのは,KとGであり,この両名を差し置いて被告人がJに暴力を振るうことはあり得ない,④3月1日にKがJに暴行したかについて,Gの捜査段階の供述と原審証言との間に変遷がみられることから,G証言は信用できないと主張する。
①についてみると,所論が前提とする通話履歴に関する捜査報告書は証拠として取り調べられていない上,被告人は,原審公判廷において,3月1日,Bらがパチンコ店駐車場に来る前に,パチンコ店にいるEと車で移動中のBが電話で連絡を取っていた旨供述していることからすると,被告人は,Eの携帯電話を介するなどしてBと会話することもできたと考えられるから,仮に,同日,被告人使用の携帯電話とB使用の携帯電話との間の通話履歴がなかったとしても,このことは,パチンコ店に向かう前にBが被告人と電話で会話したというG証言の信用性を左右するものとはいえない。

②についてみると,記録によれば,別件の窃盗事件で勾留されていたCによる平成24年10月11日の余罪自供とそれに引き続く兵庫県尼崎市△△の民家からの死体発見をきっかけに,被告人らが関与する一連の事件の捜査が進展したこと,それ以前は,警察は,行方不明になっていたK,N,Mらのことについては関心を持ち,Eらから任意で事情を聞いていたが,I及びJのことについては事情聴取していなかったこと,Gは,K事件,N事件及びM事件について,同年10月13日の取調べで自供を始めたものの,I事件及びJ事件については,自供しなければ事件自体が発覚しないなどと考え,その時点では自供せず,その2日後の同月15日になって両事件について自供したことが認められる。このようなGの自供の経過に作為性はうかがえない上,Gが自分の子供のために本当のことを全て話したいと思ったという自供の動機も納得できるものである。このことに加え,GがJ事件について自供した当時,Bが生きており(Bが死亡したのは同年12月12日であることは記録上明らかである。,同事件の際にはBもDも同じ自動車内にいたのであるか)
ら,GがJにしたことを被告人がしたことにすり替えて供述したならば,BやDの供述により,真実が露見するおそれがあった上,そもそも,Gが自己保身を図ろうとしたのであれば,既に死亡していたKがJの頭を振ったことにしておけば足り,あえて被告人に責任を転嫁する必要はなかったとも考えられる。
③についてみると,Gは,平成20年に入ってから,被告人が,Bの意向を受けてJに対して暴力を振るうことがあったと証言しているほか,被告人自身も,Jが甲に連れ戻されてから事件当日まで,手加減しながらではあるものの,被告人がJの頭や背中を叩いたり,尻を蹴ったりしたことがあった旨原審で供述している。そして,Bに迎合的であった被告人の性格や行動傾向を考えると,本件当時,被告人がBの機嫌をとるために,KやGよりも先にJに暴行を加えることは十分考えられるところである。

④についてみると,所論指摘のGの捜査段階の供述調書は証拠として取り調べられていないが,Gの捜査段階の供述と原審証言との間に所論指摘の変遷があったとしても,その変遷の理由には,取調官による尋問の重点の置き方やGの記憶減退又は記憶喚起など様々な理由が考えられるところであり,前記のとおり,G証言はP証言によって裏付けられていることからすると,被告人がJの髪の毛をつかんで揺さぶったというG証言の核心部分の信用性を揺るがすものとはいえない。⑷

D証言はG証言を補強するものではないとの所論について

所論は,Dは,自分のノートの記載に基づき,GとKがJの髪を引っ張った旨を証言しており,G証言と一致せず,D証言はG証言を補強するものではないと主張する。
Dの証言内容をみると,Dは,自動車を運転してパチンコ店の立体駐車場に同車を止め,同車から降りずにいたところ,被告人がエレベーターの方から同車の方まで来て,Jが乗っている後部座席ドアの辺りに行き,被告人がBと何か話をした後,車が揺れて,後ろを振り返ると,被告人とKがJの頭を持って揺らしていた旨証言する一方で,証言前に,被告人がJに手を出していないと主張していることを聞き,自分のノートを確認すると,Jの件で被告人の名前を書いておらず,GとKがJの頭を振ったと読み取れる記載があることから,自分の勘違いかと思ったとも証言する。
しかしながら,Dは,前記ノートの記載について,KとGがJの頭を振ったと断定するような書き方とは言い切れないとも証言し,現在の記憶では,被告人とKがJの頭を振っている映像,イメージが頭に残っている旨証言していることからすると,現在の記憶に自信を持てないか,あるいは,被告人の面前で被告人に不利な供述をすることへの抵抗感から前記のような証言をしたものと推測される。また,前記ノートは,Dが逮捕後に便箋に書いた内容を転記したものであって,その過程で
意味合いが不正確になった可能性も考えられる。したがって,前記ノートの記載を踏まえても,D証言は,G証言の信用性を揺るがすものではない。原判決の説示するとおり,D証言は,犯人が誰かという肝心の部分について供述内容が揺れているので,信用性を高く評価することはできないが,被告人をかばおうとする証言態度にもかかわらず,Jの異変に気付いた際にDは自動車に乗っていなかったという被告人供述と矛盾する一方で,G証言とほぼ一致していることからすると,その限度でG証言の信用性を補強するものといえる。


以上のとおり,所論を踏まえて検討してもG証言の信用性は左右されない。
他方,被告人の原審供述には,原判決の指摘するとおり不自然,不合理な点が多く認められ,所論を踏まえて検討しても,被告人供述は信用できない。なお,所論は,弁護人が,GやKにおいてJに暴行した合理的疑いがあると主張したのに対し,原判決が,被告人自身,GやKがJの頭部を振る場面を目撃したわけではなく,Gらが犯行に及んだことをうかがわせる証拠は全く提出されていないとして,その主張を排斥したのは,実質的な立証責任を被告人に転換したに等しく,不当であると主張するが,原判決の前記説示は,被告人供述を前提にしたとしても,GやKがJの頭部を揺さぶるなどした状況はうかがえないことを指摘したにすぎず,前記のとおり,原判決が,G証言に依拠して被告人のJに対する暴行の事実を認定したことは明らかである。所論はいずれも採用できない。
したがって,被告人がJの頭部を激しく振る暴行を加え,その結果,Jを死亡させたと認定した原判決に事実誤認はない。
4
原判示第3のKに対する殺人の事実について

論旨は,要するに,原判決は,被告人が,Bらと共謀の上,平成20年(以下,この項及び次項では同年の出来事については年の記載を省略する。)7月頃から1
2月8日頃までの間,Kに対する監禁,暴行,飲食制限,睡眠制限等の虐待を継続
し,Kをこれら一連の虐待行為によって惹起された低体温症により死亡させて殺害したとの事実を認定しているが,その前提となるKの衰弱状況,死亡までの虐待行為の具体的内容等について誤認があり,殺人の実行行為性,殺意及び共謀が認められないから,原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある,というのである。


原判決の認定及び判断

原判決は,
事実認定の補足説明の項3⑵で,前提事実として,監禁,虐待に至る経緯等のほか,Kに対する監禁及び虐待の内容,すなわち,①監禁行為,②継続的な暴行,③飲食制限,④睡眠制限,⑤排せつや入浴の制限による不衛生,⑥その他の虐待を認定した上,同項3⑶で,S医師の原審証言に基づきKの死因を低体温症と認定し,同項3⑷で,殺人の実行行為性,殺意及び共謀について検討し,11月中旬頃の時点で,Kに対し,それまでと同様に監禁下で虐待を継続する行為は,客観的にみて,Kの生命を大きな危険にさらす行為であり,殺人罪の実行行為に該当する,Bも被告人も,Kに加えられた虐待の内容や,11月中旬頃の時点でKが相当痩せていることを認識し,それ以降,ますます気温が下がることも当然理解していたはずであるから,殺意に欠けるところはなく,Bと被告人が,11月中旬頃の時点で衰弱したKが死ぬかもしれないことを認識しながら,それまでどおりの虐待を続けるとともに,Kの死亡直前に顔を踏み付けるなどの激しい暴行に及んでいる以上,Kが死んでも構わないと思っていたことは明らかであるとして,殺意及び共謀を認定した。
このような原判決の認定及び判断が論理則,経験則等に照らして不合理であるとは認められない。


前提事実に誤認があるとの所論について

所論は,原判決は,Kに対する暴行等の虐待行為がその死亡時まで継続していた
ことを前提としているが,そのような前提は誤っていると主張する。記録によれば,Kは,7月頃から12月8日頃までの間,夏期は高温多湿,冬期は低温となる物置内に,全裸又は半袖Tシャツに七分丈のズボン姿で監禁され,その状況は,物置内に設置された防犯カメラと甲のリビング内に設置されたモニターを通じてBらに監視されていたこと,この間,BによってKの飲食や睡眠時間が極端に制限されていた上,排せつや入浴も制限され,極めて不衛生な状況に置かれていたことが認められ,このことは原審及び当審を通じ,弁護人も特段争っていないところ,このような状況下での監禁を継続したことのみを捉えても,Kの心身の状態に大きな影響を与え,生命に危険を及ぼす虐待行為であると評価できる。所論は,9月中旬以降にはKに対する暴力等の虐待行為は収まっており,虐待行為は次第に緩和されていたというのである。この点に関し,G証言及びL証言によれば,Kに対する暴行は,KがLと一緒に物置内に監禁されていた7月ないし8月頃が最も激しく回数も多かったことがうかがわれるが,後記のとおり信用性を肯定できるG証言によれば,Bは全期間を通じてKに対し,サンダルのかかとやつま先で顔面を突くなどの暴行を多数回加えたことが認められる。そして,G証言以外でも,原審において,Lは,9月中旬以降もBがKを殴ったり蹴ったりしたことが何度かあった旨証言し,Eは,Kが死亡する数日前にB及び被告人によるKへの暴行を目撃した旨証言していることからすると,Kに対する暴力はその死亡直前まで断続的にあったと認められる。このことに加え,前記のような監禁の態様に照らすと,直接的な暴行の頻度はともかく,Kに対する暴力を伴う虐待行為が継続していたことは明らかである。


7月から11月中旬までの虐待行為の態様に関するG証言は信用できないと
の所論について
所論は,7月から11月中旬までの虐待行為の態様に関するG証言は,①その証
言どおりの暴行及び飲食制限が行われたのであれば,数日ないし数週間で死の結果が生じたはずであり,証言内容が不合理である,②9月23日撮影の写真及び11月16日撮影の写真にはKの顔に腫れなどが写っておらず,G証言は客観証拠と食い違っている,③11月24日撮影の物置内の写真にはペットボトル様のもの3本が写っており,Kに対する水分提供が1日1リットルより減っていたというG証言は信用できない,④捜査段階の供述と対比するとG証言はKに対する暴行及び飲食制限の過酷さが誇張される方向で変遷しており,不自然である,⑤自己の責任を軽減するため,あるいは捜査官に迎合するなどして虚偽供述をする動機があることから,信用できないと主張する。
①についてみると,記録によれば,Bは,Kが直ちに死亡しないよう,同人の身体の状況を毎日観察しながら,暴行及び飲食制限等の虐待行為に及んでいたことが認められるから,G証言の内容の虐待を受けながら,Kが約5か月間生存したことが不自然とはいえない。
②についてみると,所論の指摘する写真はいずれも不鮮明で,Kの顔の状態を確認することはできない上,E証言によれば,Kの顔や頭のけが,あざは監禁中,常にあったというのであるから,所論指摘の点はG証言の信用性を左右するものとはいえない。
③についてみると,所論の指摘する写真に写ったペットボトル様のものに水が入っているかは確認できない上,11月23日撮影の写真及び同月27日撮影の写真にはペットボトル様のものが写っていないことからすると,継続的に十分な水分の提供があったとは認め難く,所論指摘の点はG証言の信用性を左右するものとはいえない。
④についてみると,Gの捜査段階の供述調書は証拠として取り調べられていない上,仮に,所論指摘の供述の変遷があったとしても,L及びEも,Kに対する暴行
及び飲食制限があったことについてG証言とおおむね整合する証言をしていることからすると,そのような虐待行為が継続的に行われたというG証言の核心部分の信用性は揺るがない。
⑤についてみると,Gは,自らの殺意の認定につながるKに対する過酷な虐待状況,同人の痩せ具合や負傷状況,BがKに死を迫るような話をしていたことなどを証言したばかりか,嫉妬心から,KがBに嫌われるように仕向け,虐待されるきっかけを作ったことなども証言しており,Bや被告人に責任転嫁して自己の刑事責任を軽減しようとする姿勢はうかがえない。また,Gは,原審において,Kに対する虐待状況について詳細かつ具体的に証言し,弁護人の反対尋問に対しても揺るぎなく答えているのであるから,捜査官に迎合して証言をしているとは認め難い。したがって,所論を踏まえて検討しても,7月から11月中旬までのKに対する虐待状況についてのG証言の信用性は左右されない。


Kの死亡直前に激しい暴行が加えられたとのG証言は信用できないとの所論
について
所論は,Kの死亡直前に,Bや被告人がKの顔を踏み付けるなどの激しい暴行を加えたというG証言は,①なぜBや被告人がKに暴力を振るったのか,その後どうなったのかという経緯等が曖昧で,なぜ死亡前日に暴行があったと特定できるのかも不明である,②G証言のとおりKの頭部を踏み付けるなどの暴行が加えられたのであれば,Kの遺体の頭部に出血痕その他何らかの異常が認められるはずであるが,解剖結果によれば,頭部には頭蓋骨骨折,出血痕その他の異常は認められていない,③Gの捜査段階の供述と原審証言との間には,誰がどれくらい暴行を加えたか,Kが出血していたか,出血の態様,血を拭くのにタオルを使用したかについて,供述に変遷がみられる,④Eの証言内容は,Kに対する暴行の日付け,態様,出血の有無,顔が変形するほど強度であったかについてG証言と全く異なっている,⑤Lは,
9月中旬以降,被告人がKに暴行を加えるところは見ていないと証言しており,G証言のようなKへの暴行があったとすれば,Lがそのことに気付かないはずがない,⑥Gは,B及び被告人がKの死亡前日に激しい暴行を加えたことを証言することにより,それに加わっていない自分の刑事責任が相対的に軽減されるという利点があり,虚偽供述の動機があるとして,信用できないと主張する。
①についてみると,Gは,家事の最中などに,たまたま暴行の場面を目撃したとも考えられるから,暴力を振るうまでの経緯やその後の状況についてまで把握していなくても不自然とはいえない。また,Gは,Bが暴力を振るった経緯について,BがKの言葉尻を捉えて怒ったと思ったと証言しているほか,死亡の前日に暴行があった後,Kは,正座し直したものの,痴呆老人のような行動がみられ,夕飯時には柿をご飯の上に載せて食べるなど,明らかに様子がおかしかった,Kが死んだ後,そういえば昨日のご飯の食べ方も変だったと思ったなどと証言しており,その証言内容や記憶の残り方に不自然な点は認められない。
②についてみると,記録によれば,Kの遺体は,発見時ほぼ完全に白骨化しており,解剖の結果,頭蓋内に残存していた脳組織に出血の痕が認められなかったため,生前に目立った頭蓋内出血が生じたとは考えにくいと推測されたのであり,頭部を足で踏み付けたとしても直ちに頭蓋内出血が生じるとは限らないから,G証言はKの遺体の解剖結果と矛盾するものではない。
③についてみると,所論の引用するGの捜査段階の供述調書は証拠として取り調べられていないが,弁護人は,前記調書の記載を引用するなどしてGに反対尋問を行っているところ,Gは,捜査段階の供述内容はよく覚えていないが,現在の記憶では,Bが文句を言いながら殴る音,被告人が怒鳴りながら暴力を振るう音を聞いた,斜めの角度で足元とKの顔が赤い色になっているのを見た,踏み付ける勢いは強かった,上を見て顔を確認したわけではないが,踏んでいるのは被告人だと思っ
た旨を証言しており,Bと被告人のどちらがKの顔を踏み付けたのかは断定できず,記憶が曖昧な部分はあるものの,Kの顔が踏み付けられる状況を目撃したことについては一貫して供述しているとみられる。そうすると,所論指摘の点を踏まえても,Kの死亡の前日に,Bや被告人がKに対して激しい暴行を加えたというG証言の根幹部分の信用性は揺るがないというべきである。
④についてみると,Eは,Kが死亡する1週間ぐらい前に,Bが物置に行ってKの顔面を平手打ちし,体を蹴って倒し,頭を二,三回踏み付け,その後,被告人が,正座しているKの顔面を平手打ちし,体を蹴って倒し,頭を二,三回踏み付けるのを目撃した旨証言している。E証言は,Kの死亡前に,Bや被告人がKの頭を踏み付けるなどの激しい暴力を加えたという点でG証言と共通しているものの,所論の指摘するとおり,Kに対する暴行の日時,出血の有無等についてG証言とE証言には食い違いがある。しかしながら,これは,両名の目撃状況や記憶保持の状態の違いのほか,別の機会の暴行を目撃したとも考えられるから,G証言の信用性を揺るがすものとはいえない。
⑤についてみると,Lは,原審公判廷において,自分がBに許されて物置から出た以降,Bから因縁を付けられるのを避けるため,モニターも物置の方も見ないようにしていた旨証言し,また,前記暴行があったのは11月下旬ないし12月上旬頃の気温が低い時期で甲の掃き出し窓は閉められた状態であったと考えられるから,LがB及び被告人による前記の暴行を目撃せず,物音にも気付かなかったとしても不自然とはいえない。所論は,Lは,被告人と一緒に行動していたことから,被告人による暴行があったとすれば,そのことに気付かないはずがないというのであるが,Lは,外出の際,被告人と行動を共にしていたことを証言しているにすぎず,甲の室内でも常に被告人と一緒に行動していたわけではないと考えられるから,所論の指摘は当てはまらない。

⑥についてみると,Gは,Kの死亡前日にBや被告人がKの顔面を踏み付けるなどの激しい暴行を加えたことを目撃しながら,その後,Kのけがの手当をすることもKに十分な食事や衣類を与えることもなく,いわゆる衰弱死させたのであるから,Gが前記暴行に加わっていないとしても,前記暴行の事実を証言することによってGの刑事責任が相対的に軽減されるとはいえない。
したがって,所論を踏まえて検討してもG証言の信用性は左右されず,所論はいずれも採用できない。


S医師の原審証言(以下S証言という。
)は信用できないとの所論につ

いて
所論は,Kの死因に関するS証言は,G証言を前提としており,同証言が信用できない以上,S証言も信用できないと主張する。
前記のとおり,G証言は基本的に信用できるが,この点をおくとしても,S医師は,G証言のみに依拠してKの死因について判断しているわけではなく,写真等の客観証拠を踏まえて総合的に死因を検討していることが認められる。すなわち,S医師は,11月24日のKの写真を見て,8月に撮影された写真と比べてもかなり痩せており,気管の周りにほとんど肉が付いていない上,下顎に脂肪組織があまり見られないことなどを指摘し,これが低栄養と結び付くと証言している。また,S医師は,Kの膝から足首にかけてくびれがなく,象の足のようにむくんでいたというL証言について,低栄養になると,血中のタンパクが減少し,水分が血管の外に出てくるので,むくみ,浮腫の状態になると証言している。所論は,S医師はKが監禁中,終始下痢をしていたことを前提にそれがストレスにつながったと証言しているが,Kが終始下痢をしていたとは認められず,その推論過程に誤りがあると主張する。しかしながら,S医師は,低栄養の原因の1つとして消化吸収不良,すなわち,下痢が挙げられること,ストレスが下痢の原因とな
り得ることを医学的知見として述べ,検察官から,Kが虐待を受けていた場合に,下痢をしていたことが考えられるかと尋ねられ,その可能性を肯定したにすぎず,監禁中に終始下痢をしていたと考えられるなどとは証言していない。また,所論は,Kの死因が衰弱死であるとのS証言は,11月27日の写真ではKが直立姿勢をとっていることや死亡の前日に食事をしていることと整合していないと主張する。しかしながら,S医師は,前記写真によれば,立つことのできる筋力がまだあることから低栄養のみで死亡したとは考えにくく,11月末になると気温が下がるので,低体温症になって死亡する危険性が高い,Kが亡くなる前日にある程度元気に食事をしていたことからすれば,敗血症よりも低体温症の方が考えやすいと証言しており,所論指摘の点を踏まえてKの死因を判断していることは明らかである。
したがって,所論は,S証言を正解しないものであり,いずれも採用できない。⑹

以上のとおり,原判決が認定したKの衰弱状況,死亡までの虐待行為の具体
的内容及び死因等について誤りはなく,これを前提に,Kに対する殺人の実行行為性,殺意及び共謀を認定した原判決に事実誤認はない。
5
原判示第3のNに対する監禁の事実について

論旨は,要するに,原判決は,被告人が,Bらと共謀の上,Nが物置から脱出することを不可能にして不法に監禁したとの事実を認定しているが,被告人はNの監禁について共謀も実行もしていないから,原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある,というのである。


原判決の認定及び判断

原判決は,
事実認定の補足説明の項3⑸で,被告人は,Bに命じられてモニターで物置内の様子を見ていた上,Eが,11月8日深夜ないし翌9日未明に甲に戻った際,Bから,Nが勝手に通院したことから物置に入れた旨聞かされ,

病院はあかんなあ。

と言ったところ,横で聞いていた被告人も「そやなあ。」と言って同調し,物置の前でBから,

こんな人,おばはんいうていいで。

と言われた際,被告人がNに対し

ここまで落ちたらあかんわな,Nさん。

と言ったことや,被告人自身も,仮にNが物置から逃げようとしたならば,Bの意向に沿って逃がさないように捕まえていたなどと供述していることからすると,被告人が甲に戻った時点で,Nを監禁するというBの意向に賛同し,以後これに協力したと認めることができるとして,その限度で監禁罪の共同正犯の罪責を負うと認定した。このような原判決の認定及び判断が論理則,経験則等に照らして不合理であるとは認められない。


所論及びこれに対する当審の判断

所論は,①被告人が

病院はあかんなあ。

とのEの発言に同調し,あるいは被告人がNに対して

ここまで落ちたらあかんわな,Nさん。

と言ったとしても,これは,被告人がNの監禁に至る経緯を認識し,感想を述べたにすぎず,監禁の犯意を抱き,共謀したと評価することはできない,②被告人の,仮にNが物置から逃げようとしたならば捕まえていたとの原審供述は,飽くまでも仮定の話にすぎず,被告人としては,Nが逃げることなど想定していなかった,③被告人は,Nの監禁について,Bから指示を受けたことはなく,共犯者間で謀議を行ったこともない,また,暴行,脅迫,監視その他監禁の実行行為も行っていないと主張する。①についてみると,被告人は,BがNの行動に怒り,Kと同様,制裁目的でNを物置に入れたことを理解した上で,前記の発言をしていることが認められるから,これが単なる感想を述べたものとはいえず,Bの意図を知り,Nを監禁することにつき,Bらと意思を通じ合わせたことは明らかである。
②についてみると,被告人は,モニターを通じて物置内の様子を監視するとともに,Bの意向に従って行動するA家の一員として甲の居室内で生活することにより,
Nの物置からの脱出を著しく困難にするという監禁行為に関与していたと認められる。
③についてみると,前記のとおり,被告人は,BとEのやり取りからBの意図を知った時点で,Nを物置内に監禁することにつき,Bらと黙示の共謀を遂げ,以後,モニターを通じて物置内の状況を監視し,甲の居室内での生活を続けることにより監禁行為に及んでいたと認められる。
したがって,所論はいずれも採用できない。


被告人がBらと共謀の上,Nを物置内に監禁したことを認定した原判決に事
実誤認はない。
6
原判示第4の1のMに対する殺人の事実について

論旨は,原判決は,被告人が,Bらと共謀の上,平成23年(以下,この項では同年の出来事については年の記載を省略する。
)7月25日未明頃から同月27日
の日中までの間,Mを物置内に逮捕監禁し,殺害したとの事実を認定しているが,被告人には殺意がなく,Bらとの間で殺人を共謀したこともないから,原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある,というのである。⑴

原判決の認定及び判断

原判決は,
事実認定の補足説明の項4⑵で,前提事実として,①BがMに激怒した経緯等,②物置内でMを緊縛した状況,③その後の緊縛等の状況,④Mの死因等について認定した上,同項4⑶で,殺人罪の成否について検討し,暴行,長時間の正座強制,緊縛,飲食制限は,いずれも身体に悪影響を及ぼし,程度がひどければ,どれもが単独でも高カリウム血症ないし肺塞栓症の原因となり得るし,単独ではそれほどの程度ではなかったとしても,それらが全て繰り返されることによって生命の危険に与える影響は極めて高くなるから,被告人らがMに対して行った緊縛等の虐待行為は,人が死ぬ危険性の高い行為であり,殺人罪の実行行為に該当す
る,Bも被告人も,真夏の相当高温になる物置に水分を与えずに2日以上にわたって監禁すれば,生命の危険が生じるであろうことは当然分かっていたはずであり,BがMに相当怒っていたことをも併せると,Mを物置に逮捕監禁した時点で,Bは,少なくとも,Mが死んでも構わない程度の殺意を有していたと認められ,被告人も,Bの言動からその怒りが相当強いことを容易に認識し得たはずであるから,同様に殺意を認めることができ,そのような意思を連絡して犯行に及んだとして,被告人にMに対する殺人罪の共同正犯の成立を認めた。
このような原判決の認定及び判断は,被告人の殺意の発生時期及び共謀の成立時期を除いて,おおむね正当であり,これが論理則,経験則等に照らして不合理であるとは認められない。


BのMへの殺意は認められないとの所論について

所論は,①原判決は,BがMに水分を与えず2日以上にわたって逮捕監禁したという逮捕監禁開始後の事情に基づき逮捕監禁開始時より殺害の意思があったと認定しているが,これは論理矛盾である,②BがMに激怒したとしても,従前のBとMの関係からすれば,BにおいてMを死に至らしめることを決意させる事情とまではいえない,③BにM殺害の動機はなく,

今回は許さん。

等の発言はBがしばしば口にしていた過激な表現にすぎないから,そのような発言をもってBが監禁開始時点において殺意を有していたと認定することはできないなどと主張する。①ないし③についてみると,Bは,当時,財産を巻き上げる目的で,T,U夫妻の家庭に介入し,その長女を甲で預かるなどして事を有利に進めようとしていたのに,Mがその長女にいたずらしたことにより逆に弱みを握られ,不利な立場に立たされることになったから,その怒りの程度はすさまじかったと考えられ,これまでMがBの意向に従わなかったり横着な態度を取ったりしたときに加えられた制裁とは比較にならないくらい激しい暴力を加えるつもりであったことは,Bの性格や日
頃の言動に照らして容易に推認できる。そして,Bは,Mの前記いたずらを知った後,直ちに被告人とLに命じてMを緊縛し,夏場の高温多湿の物置内に監禁したのであり,これまでのBの行動傾向や怒りの激しさからすると,緊縛を解かないまま,すなわち,食事や水を与えることなく,少なくとも数日間,逮捕監禁を続ける意思であったことも容易に推認でき,実際にそのような状態で2日以上にわたって逮捕監禁を継続し,Mを死亡させている。原判決は,このようなBの性格等と逮捕監禁開始後の事情に照らすと,逮捕監禁の開始当初からBにMに対する未必的殺意があったと推認できるとしたものであって,その判断に論理矛盾はない。なお,所論は,被告人供述を前提として,Mの身体拘束のための重しとして水の入ったバケツが使用されていたことから,水分摂取が全く制限されていたわけではないと主張する。しかしながら,被告人と共にMの緊縛に関与したLは,物置にひもを持って行った時,Mは後ろ手に手錠を掛けられていた,緊縛の際にバケツを使用した記憶はない旨証言し,最初に緊縛したときの様子が大きく異なる上,被告人が供述する方法では,初めからMに水を与えることとなって制裁の趣旨にそぐわないし,バケツの水がこぼれてしまえば重しとしての用をなさなくなると考えられるから,被告人供述は信用し難い。また,被告人供述によっても,7月25日未明に逮捕監禁を開始し,同日朝にはBの指示によりバケツの使用をやめたというのであるから,Bとしては,Mに水分を与える意思はなかったと認められる。したがって,BのMへの殺意を認めた原判決に事実誤認はなく,所論はいずれも採用できない。


被告人のMへの殺意は認められないとの所論について

所論は,①逮捕監禁開始当初におけるBの意図は証拠上不明であり,Mは本件以前にもBの怒りを買い,物置に入れられることがあったが,Eらの仲介などにより許されて終わっており,被告人は,本件逮捕監禁についても,Eらが仲介するなど
して終了すると考えていた,②被告人は,Bから,Mがどの程度の期間,どのような制裁を受けるか聞かされておらず,被告人にとってそのことは不明であったし,被告人はMの死を認容していなかったから,逮捕監禁開始時において被告人に殺意があったとは認められない。③被告人は,逮捕監禁の態様やMの様子から,Mがすぐに死ぬような状態であるとは認識していなかったから,監禁中に殺意が生じたとも認められないと主張する。
①についてみると,確かに,被告人は,逮捕監禁開始の時点で,BがMに食事や水を与えることなく逮捕監禁を2日以上継続することについてまで理解していたとは認め難い。しかしながら,Bの性格や行動傾向を知る被告人としては,BのMに対する怒りは,その原因を併せると容易に収まるものではないことを理解していたと推認されるし,被告人供述を前提にしても,Mの逮捕監禁が終了するためには,EやFがBに許しを請うことが必要であるが,Mが死亡した時点では,その時期が早かったと思っていたというのであるから,少なくとも,数日間,Mに対する過酷な逮捕監禁が続くことも理解していたと認められる。そして,後記のとおり,Bの指示によりMに対する逮捕監禁を継続する中で,被告人にMに対する未必的殺意が生じたものと認められる。
②及び③についてみると,記録によれば,被告人とLは,Mが緊縛を緩める都度,Bの指示により,ひもを巻く回数を増やしてMを縛り直し,更にはMに丸太を背負わせて丸太ごと緊縛し,Mの身体の周囲に金属製のたわしを置くなど,緊縛の程度を強めていったこと,そのため,Mが衰弱していったことが認められる。そして,被告人供述によっても,7月26日の昼頃,Mと会話した際,Mが

しんどいわ。

などと言い,丸太でMを縛り直した際には,Mの声がかすれ,かなり辛そうな感じであったというのであり,緊縛されているMに食事や水分が与えられていないことも理解していたのであるから,被告人においても,このままMの逮捕監禁を継続す
れば,Mの生命に危険が及ぶことを認識しながら,これを認容したものと認められる。そうすると,被告人には,遅くとも,逮捕監禁中にMに対する未必的殺意が生じたと認められる。同時に,被告人は,その時点で,食事や水を与えることなく,高温多湿の物置内にMを逮捕監禁するというBの意図を理解したと認められるから,Bらとの間で,黙示にMに対する殺人の共謀を遂げたと認められる。したがって,逮捕監禁開始当初から被告人のMに対する殺意及びBらとの殺人の共謀があったとの原判決の認定には賛同できないが,その後,逮捕監禁継続中に被告人のMに対する未必的殺意が生じ,Bらと共謀の上,Mを殺害したものであり,被告人にMに対する殺人の共同正犯が成立することには変わりがないから,殺意等の発生時期が異なる点は原判決に影響を及ぼさない。
なお,所論は,原判決が,被告人についてMが死んでも構わない程度の殺意を有していたと認定しながら,被告人が仮に本当にMが死亡する危険性があると思っていなかったとしても,単に人の生死に無頓着になって自分の行為の危険性につき違法性の意識を喚起しなかったというにすぎず,殺意を否定する根拠にはならないと説示しているのは論理的に矛盾していると主張する。
しかしながら,原判決の前記説示は,被告人において,Mが死んでも構わないという意思のもとに,客観的に見てMが死亡する危険性が高いと認められる行為を行っている以上,事実の認識に欠けるところはなく,仮に,自分がそれほど危険な行為をしておらず,Mがすぐに死ぬことはないと思っていたとしても,その行為を思い止まらなかったというだけで,殺意は否定されないことを注意的に述べたにすぎないと理解できるから,論理的に矛盾しているとはいえない。


以上のとおり,被告人にMに対する殺人の共同正犯が成立することを認定し
た原判決に事実誤認はなく,所論はいずれも採用できない。
7
各犯行において被告人が果たした役割(犯情)につき,事実誤認があるとの
主張について
論旨は,要するに,原判決は,被告人の果たした役割について,殺人3件と傷害致死の各犯行のいずれにおいても,主犯であるBに匹敵するほどの重要な役割を積極的に果たしたと認定,評価して,被告人の刑事責任を重く捉え,被告人を無期懲役に処しているが,被告人は,Bに命じられるままに各犯行に関与したにすぎず,その役割は従属的なものにとどまるから,原判決の認定,評価には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある,というのである。


原判示第1の各犯行において被告人が果たした役割について


原判決は,量刑の理由の項3で,原判示第1の各犯行について,被告人は,
詐欺への関与は薄いが,殺人については,Bの指示に基づき見届け役や言い聞かせをしてIに自殺の実行を連日迫った上,高所からの飛び降りという自殺の方法を提案し,死亡当日に崖でIを取り囲んだ際もIのすぐ近くに立つなど,終始他の共犯者よりも重要な役割を果たし続けたと認定,評価している。イ
所論は,①見届け役や言い聞かせは,Bの指示に従って単に自殺を
見届け,あるいはBの意向を伝えるだけの役割にすぎない,②被告人は,他の共犯者と同様に,家族会議の中で自殺の方法について提案し,その中で飛び降りという発言をしたにすぎない,③崖の上で集合写真を撮影するという事前の取決めにより並んで写真を撮影したものであって,並んだ際の位置関係には意味はないから,被告人が他の共犯者と比べて重要な役割を果たしたとはいえず,原判決の認定,評価に誤認がある,というのである。
①についてみると,記録によれば,被告人は,Iが交通事故を装って自殺を試みるために外出する際,Iと一緒に外出し,Iが実際に走行中の自動車の前に飛び込む行動を取ったかどうかを観察し,その状況をBに報告していたことが認められ,Iとしては,自動車の前に飛び込む行動を取らなければ,そのことを被告人によっ
てBに告げ口され,Bとの約束を守っていないとして強く叱責され,虐待を受けることになるという重圧下に置かれていたのであるから,被告人が,単なる見届け役としてIの行動を見守るだけでなく,Iが実際に自動車の前に飛び込む行動を取るかを監視し,Iを精神的に追い詰め,そのような行動を取ることを余儀なくさせるという役割を果たしていたというべきである。また,
言い聞かせについても,
被告人は,Iが就寝する前,Iが交通事故を装って自殺することができなかったことについて責め,次の機会にはBとの約束を守って自殺することを暗に迫ったのであるから,これがIを精神的に追い詰め,生きる希望を失わせるものであることは明らかである。このように,被告人は,Iを精神的に追い詰め,実際に自動車の前に飛び込ませる役割を担っていたと認められる。
②についてみると,記録によれば,被告人は,Iが走行中の自動車の前に飛び込むことに何度も失敗する状況を目撃し,Bに対し,そのような方法では何回やってもだめであるとして別の方法を考えることを提案し,A家全員で,その方法について話し合う中,被告人が高所から飛び降りることを提案し,Bがこれに賛成し,Bを恐れるIもその方法を承諾せざるを得なくなったことが認められ,被告人がこのような提案をしなければ,実現可能性の高い殺害計画が立てられ,これが実行に移されることはなかったと考えられる。
についてみると,確かに,乙の崖の上で,被告人及び共犯者らの立つ位置があらかじめ決まっていたとはいえず,並んで立った位置にそれほど意味があるともいい難いが,前記のとおり,被告人は,Iの自殺の見届け役やIにBとの約束を守るよう言って聞かせるなどしていたほか,被告人の提案によってIが高所から飛び降りることが決められたという経緯があり,Iにとって被告人はBの片腕的な存在として大きな脅威になっていたと推察され,そのような被告人が,乙まで同行し,Iが崖から飛び降りる直前までIと行動を共にしたことにより,Iを精神的に追い詰
めたものと評価できる。
したがって,被告人は,Iに対する殺人事件において,積極的に重要な役割を果たしたと認められるから,所論はいずれも採用できない。

以上のとおり,原判示第1の殺人の犯行において,被告人が果たした役割は,
他の共犯者と比べて大きかったと認められる。


原判示第2の各犯行において被告人が果たした役割について


原判決は,量刑の理由の項3で,原判示第2の各犯行について,被告人は,
生命身体加害略取の犯行への関与は薄いが,傷害致死の犯行では,Bの意向を察し,特に指示されてもいないのに自ら犯行を実行したと認定,評価している。イ
所論は,①被告人は,Bの指示に従って和歌山まで行き,Jを連れ戻したに
すぎず,生命身体加害略取の犯行への関与は従属的なものにとどまる,②被告人は,Jに対する傷害致死の犯行には関与していないと主張する。
①についてみると,生命身体加害略取の犯行への被告人の関与の程度について,原判決の認定,評価は,所論とそれほど変わらない。②についてみると,前記第2の3で説示したとおり,被告人は,Bの意向を察し,Bとの間で黙示の共謀を遂げた上,Jの頭部を激しく振る暴行を加え,その結果,Jを死亡させたことが認められるから,所論は前提を欠くものである。所論はいずれも採用できない。ウ
したがって,原判示第2の各犯行における被告人の役割につき,原判決が認
定,評価した内容は相当である。


原判示第3のKに対する監禁,殺人の犯行において被告人が果たした役割に
ついて

原判決は,量刑の理由の項3で,原判示第3のKに対する監禁,殺人の犯行
について,被告人は,自ら監視モニターの設置をBに提案したほか,Bの指示によりKに暴行を加えたり,性行為やものまねを強要してからかったりするなど,他の
共犯者がBに命じられるままに動いたのとは異なり,積極的にKの虐待を楽しんでいた様子がうかがえる上,虐待内容がひどくなったことに被告人が影響したことは否定できないと認定,評価している。

所論は,①監視モニターの有無は,物置内を直接監視するかモニターを通し
て監視するかの違いがあるにすぎず,監視モニターの設置によりKへの虐待内容がひどくなったということはできない,②被告人がしたKへの暴行は,BやLと比べると軽いものであった,③性行為やものまねは,BがKに指示して行わせたものであり,被告人は,Bに迎合してはやし立てを行っていたにすぎないとして,被告人が積極的にKへの虐待に関与していたわけではないと主張する。
①についてみると,被告人が提案した監視カメラの設置によりKは,その行動を常に被告人らによって監視され,緊張を強いられることになったのであるから,監視カメラがない場合と比べて,Kの精神面に及ぼす悪影響は格段に高くなったということができ,これがKへの虐待を更に強めるものであることは明らかである。②についてみると,Lは,被告人が,物置の中で,あるいは外出時に,Kの顔を平手打ちしたり,拳骨で頭を殴ったり,下半身を蹴ったりすることが何度かあった,Bの指示がなくても被告人がいらいらしてKを殴ることもあったと証言しているほか,前記のとおり,被告人が,Kの死亡直前に,その頭部を踏み付けるなどの激しい暴行を加えたことが認められる。被告人の原審供述によれば,被告人は武道の心得があることから,手加減しながら暴行を加えていたというのであるが,仮にそうであったとしても,前記のような暴行の態様等に照らすと,被告人が他の共犯者と比べて軽い暴行しか加えていなかったということはできない。
③についてみると,L証言によれば,BがKとLに人前での性的行為を強要した際,被告人も具体的な行為をするようLに指示し,その様子を見て笑ったりもっとやれなどと言ってあおったりした,Bや被告人がKにものまねを強要することもあ
ったというのであり,また,G証言によれば,BがLとKに互いに暴力を振るわせ,その状況をモニターで見ていた際,被告人がボクシングの実況中継のまねをしてふざけていたというのである。このような被告人の言動に照らすと,被告人は,Bに追従しただけではなく,自ら積極的にKをからかい,辱めていたと認められるから,他の共犯者と比較しても虐待への関与の程度は強いといえる。
したがって,所論はいずれも採用できない。

以上のとおり,原判示第3のKに対する監禁,殺人の犯行において,被告人
が果たした役割は,他の共犯者と比べて大きかったと認められる。⑷

原判示第4の各犯行において被告人が果たした役割について


原判決は,量刑の理由の項3で,原判示第4の各犯行について,被告人は,
Bの指示を受けて自らあるいはLに命じてMを緊縛したが,LがBに命じられるままに機械的に関与したのとは異なり,丸太等の道具の使用をBに提案して準備したほか,死体遺棄の犯行についてもBから指示を受けることなく積極的に関与したと認定,評価している。

所論は,これに対し,①被告人は,BからMの手と重しをつなぐ手錠の音が
響くので,別の方法を考えるように指示され,その指示に従い,丸太の使用を提案したにすぎない,②Mの死亡後,その遺体を動かすよう指示したのはBであり,遺体のコンクリート詰めについてはDが指示し,ドラム缶の移動についてはGが中心となっていたものであって,被告人はドラム缶の海中投棄の現場には行っておらず,死体遺棄について積極的に関与していないから,原判決の前記認定,評価は誤りであると主張する。
①についてみると,被告人の原審供述によれば,Mは手錠で手首を金属製のプランター台につながれていたところ,Bから,手錠がガチャガチャと音を出してうるさいので,別の方法を考えるように言われ,被告人が丸太を使用することを提案し
たというのであるが,Bは,手錠の使用をやめ,別の道具を使ってMの手首と重しをつなぐよう被告人に指示したと理解できるのに,被告人は,より身体拘束の程度がひどくなる丸太の使用を提案し,そのため,Mは丸太にはり付けにされる形で緊縛されることになったものである。また,被告人は,同時に,Mの周囲に金属製のたわしを置くようにも提案したことからすると,単にBの指示に従っただけでなく,Mへの暴行をより激しくする方法を考え,積極的に犯行に関与していたと認められる。
②についてみると,Mの遺体をコンクリート詰めにすることを提案したのは被告人であると認められ,被告人がドラム缶を運搬する際に同行しなかったのは,被告人は身体が大きいことなどから目立つ上,ドラム缶を積んだ車が被告人の体重により更に重くなるなどという理由でFが反対したからにすぎず,ドラム缶の投棄場所まで被告人が同行しなかったからといって被告人の死体遺棄への関与が薄いということはできない。
したがって,所論はいずれも採用できない。

原判示第4の各犯行,特に逮捕監禁,殺人の犯行において,被告人が果たし
た役割は,直接実行行為に関与しなかったC,D,E及びGら共犯者はもとより,被告人と共に実行行為に加担したLと比べても大きかったと認められる。⑸

以上のとおり,主犯格であるBに匹敵するといえるかはさておき,被告人は,
殺人3件と傷害致死の各犯行のいずれにおいても,Bに次ぐ重要な役割を積極的に果たしていたと認められるから,これと同旨の原判決の認定,評価に誤りはない。8
第3

事実誤認の論旨はいずれも理由がない。
量刑不当の主張について

論旨は,要するに,被告人を無期懲役に処した原判決の量刑は重過ぎて不当である,というのである。

1
本件事案の概要

本件は,被告人が,Bらと共謀の上,⑴Iを事故死に見せかけて殺害し,生命保険金をだまし取ることを企て,同人に対し,暴行や飲食制限等の虐待を加えるなどして死ぬことを拒むことのできない精神状態に陥らせ,平成17年7月1日,乙の崖の上から飛び降りさせて同人(当時51歳)を殺害し,その後,うその事故報告を行うなどして保険金の支払を請求し,保険会社2社から合計5000万円をだまし取ったという殺人,詐欺(原判示第1)
,⑵平成19年12月,Jが住み込みで
働いていた和歌山県内のホテルにおいて,同人(当時58歳)に対し,その生命,身体等に危害を加える態度を示して脅迫し,同人を自動車に乗せて甲まで連れ去って略取し,平成20年3月1日,被告人が,大阪市東成区内のパチンコ店駐車場で,Jの頭部を激しく振る暴行を加えて急性硬膜下血腫の傷害を負わせ,その後,同人を死亡させたという生命身体加害略取,傷害致死(原判示第2)
,⑶平成20年7
月頃から同年12月8日頃までの間,K(当時25歳)を甲のベランダに設置された物置内に監禁し,同人に対し,暴行を加えるなどして継続的に虐待し,低体温症により死亡させて殺害したという監禁,殺人と,同年11月の数日間,N(当時67歳)を前記物置内に一緒に閉じ込めたという監禁(原判示第3),⑷平成23年
7月25日未明頃から同月27日の日中までの間,M(当時53歳)を甲のベランダに設置された,前記物置とは別の物置内に閉じ込め,その手足等を手錠,丸太,ビニールひも等で緊縛した上,同人に対し,飲食を与えず,多数回の暴行を加えて,一連の行為により惹起された高カリウム血症に基づく心停止又は肺塞栓症に基づく循環不全により死亡させて殺害し,その後,同人の死体を甲から搬出し,兵庫県尼崎市内の倉庫において,その死体をドラム缶にコンクリート詰めにするなどした末,ドラム缶ごと海中に投棄したという逮捕監禁,殺人,死体遺棄(原判示第4)の各事実からなる事案である。

2
原判決の量刑判断

原判決は,量刑の理由の項3で,各犯行の内容及び被告人の果たした役割について検討した上,同項4で,被告人の量刑について検討し,本件のような複数回殺人を犯す中に保険金目的の犯行を含み,死亡した被害者が3名以上の事件については,その量刑傾向が表すとおり,基本的には死刑の選択の是非を検討しなければならない相当重大な部類に属する事件であるとし,特筆すべきは,被告人が,いずれの犯行についても,Bに匹敵するほどの重要な役割を積極的に果たし,一部には自ら犯行の方法を提案するなど,単にBの指示に従って行動していた他の共犯者らとは質的に異なる関与をしている点であり,主謀者であるBがいなければ起こらなかったが,その指示を手足となって実行する被告人がいなければ,その実現が不可能ないし非常に困難であったという意味で,被告人の刑事責任は極めて重大であり,3人が殺害され,1人が死亡させられたという重大な結果を発生させている以上,複数の前科がいずれも重大犯罪によるものではなく,更生可能性がないとは断定できないことなど,被告人のために酌むべき諸事情を考慮し,死刑の適用に関する最高裁判決の趣旨を踏まえても,死刑を選択する余地も含めて検討すべきであり,有期懲役刑では軽過ぎるとしたが,しかし,いずれの犯行についても,Bを頂点とするA家という特殊な人間関係に基づく閉鎖的環境の中で起きた事件であり,被告人がBに比べて従たる役割であったことは否定できず,被告人をBと全く同列には論じられないから,被告人に死刑を選択することは躊躇せざるを得ず,無期懲役刑をもって処断するのが相当であると判断した。
このような原判決の量刑判断はおおむね相当であり,被告人を無期懲役に処した原判決の量刑が重過ぎて不当であるとは認められない。
3
所論及びこれに対する当審の判断

所論は,①本件各犯行において,被告人がBに匹敵するほどの重大な役割を果た
したとはいえず,共犯者らとは質的に異なる関与をしていたともいえないから,原判決の犯情評価に誤りがある,②他の共犯者の量刑と比較すると,被告人に対する原判決の量刑は重過ぎ,共犯者間の刑の均衡を失している,③原判決は,被告人の反省状況や再犯のおそれがないことを考慮していない,④原判決は,被告人の情緒や知的能力の発達が妨げられ,無力感が強く,主体性が乏しいという他者に依存的な人格傾向が形成され,こうした人格的要因がBに取り込まれ,支配されたことを考慮していない,⑤被告人がB及びA家に取り込まれた経緯には同情すべき点があるのに,原判決はこの点を考慮していないとして,量刑不当を主張する。①についてみると,本件各犯行は,原判決も説示するとおり,Bを頂点とするA家という特殊な人間関係に基づく閉鎖的な環境の中で起きた事件であり,Bが他の共犯者らに及ぼした影響は圧倒的なものであったと考えられるから,その中で,被告人が自らの意思に基づいて積極的に本件各犯行に加担したとしても,被告人が,Bに匹敵するほど重要な役割を果たしたとの評価は相当とはいえない。しかしながら,前記第2の7のとおり,被告人は,本件各犯行において,Bに次ぐ程の重要な役割を積極的に果たし,その手足となって犯罪を実行したものと認められるから,原判決の犯情評価は,その限度において誤りはない。
②についてみると,前記第2の7のとおり,被告人は,本件各犯行において,Bの右腕ともいうべき役割を果たし,他の共犯者らとは質的に異なる関与をしていたと認められる上,I,K及びMに対する殺人3件の犯行に加担したほか,Jに対する傷害致死の犯行にも及んだことが認められるから,結果の面でも他の共犯者と比べて責任が重い。しかも,被告人は,傷害致死事件の犯人性を争っており,Jを死亡させたことにつき真摯に反省しているとは認め難いのであるから,より強い非難に値する。したがって,Jに対する傷害致死事件を除き,被告人と同様の罪で起訴され,被告人を除く起訴された共犯者の中で最も責任が重いと考えられるGに対し
て一審で言い渡された刑(懲役23年)と比較しても,被告人の量刑が不当に重いということはできない。
③についてみると,原判決が所論指摘の事情を一定程度考慮していることは,その量刑説示に照らして明らかであり,本件事案の重大性に鑑みると,所論指摘の点を量刑上考慮するとしても自ずと限度があるというべきである。
④及び⑤についてみると,記録及び当審における事実取調べの結果によれば,Bは,被告人の母親とその再婚相手であるOの借金問題の解決などを口実に被告人の家庭に介入し,そのことにより被告人は,妻と離婚し,甲でBらと共同生活を送るようになったこと,被告人がBに従うようになったのは,主体性に乏しく,他者に依存的な被告人の人格傾向が関係していることがうかがわれ,被告人が本件各犯行に加担した背景にはBの強い影響力があったことは否定できない。しかしながら,被告人は,Bと知り合った当時,社会人として働いており,社会経験を重ねていたことからすると,それなりに判断能力を有していたと考えられるから,Bの犯罪行為を警察に通報するなどして同人との関係を断ち切ることもできたというべきである。また,被告人自身がKに対する虐待方法を考え出してBに提案することもあったことや,Bの意向に従っていれば,働かなくても生活できたことから,自分の意思でA家での生活を選択したこともうかがわれる。そうすると,所論指摘の事情は被告人の刑事責任を減ずる要素ではあるが,これを考慮しても,原判決の量刑を変更すべきものとは認められない。
以上のとおり,所論指摘の点を踏まえて検討しても,原判決の量刑はやむを得ないものというべきである。
論旨は理由がない。
第4

結論

よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却することとし,当審における未決
勾留日数の算入につき刑法21条を,当審における訴訟費用を被告人に負担させないことにつき刑訴法181条1項ただし書をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
平成29年3月21日
大阪高等裁判所第6刑事部
裁判長裁判官

笹野明義
裁判官

石川恭司
裁判官

田中健司
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