判例検索β > 平成27年(わ)第645号
詐欺未遂、詐欺
事件番号平成27(わ)645
事件名詐欺未遂,詐欺
裁判年月日平成28年4月18日
裁判所名・部名古屋地方裁判所  刑事第5部
判示事項の要旨バイク便を営む被告人が氏名不詳者らと共謀の上,氏名不詳者らが電話でうそを告げて現金を送付させようとしたが,電話相手が警察に相談したためその目的を遂げなかったとして詐欺未遂に問われた事案において,検察官の主張する当該犯行以前の氏名不詳者らとの包括的な詐欺の共謀の成立は認められないとした上,警察の騙された振り作戦によって現金入りにみせかけた荷物が発送された後,被告人が当該荷物受け取りの依頼を受けたことなどにより,氏名不詳者らの前記詐欺について共謀を遂げたことになるものでもないとして,詐欺未遂罪の成立が否定された事例
裁判日:西暦2016-04-18
情報公開日2017-10-13 01:34:05
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主文
被告人を懲役2年6月に処する
この裁判確定の日から4年間その刑の執行を猶予する。
本件公訴事実中,平成27年3月27日付け起訴状記載の詐
欺未遂の公訴事実については,被告人は無罪
理由
(犯罪事実)
被告人は,Aとの屋号でバイク便等の業務に従事していたものであるが,氏名不詳者らと共謀の上,かねてからプラチナ代金名目で現金をだまし取られていたB(当時79歳)から更にプラチナ代金名目で現金をだまし取ろうと考え,平成27年2月24日頃,氏名不詳者が,浜松市a区b町c番地d前記B方に電話をかけ,同人に対し,
同人名義で購入したとされるプラチナ代金の支払いが終わっておらず,逮捕を回避するためには100万円を支払う必要がある旨うそを言って,前記Bをして,100万円を支払えば逮捕が回避できるものと誤信させ,同日午後2時46分頃,同区e町f番地gCD店から東京都江東区hi丁目j番k号lE宛てに現金100万円を送付させ,同月25日午後零時24分頃,同所において,被告人が前記Eになりすましてその交付を受け,もって人を欺いて財物を交付させた。(平成27年5月28日付け起訴状記載の公訴事実関係)
(事実認定に関する補足説明及び一部無罪の理由)
本件公訴事実中,
平成27年3月27日付け起訴状記載の詐欺未遂の公訴事実は,
被告人は,「Aとの屋号でバイク便等の業務に従事していたものであるが,前記A従業員F及び氏名不詳者らと共謀の上,真実は,GグループとH薬品が共同で建設する介護施設は実在せず,同施設入居に関する名義貸しが存在し得ないのに,これがあるかのように装い,氏名不詳者らが,平成27年2月中旬頃,数回にわたり,名古屋市m区no丁目p番地I方に電話をかけ,同人(当時70歳)に対し,GグループのJ,H薬品のKを名乗り,前記IがあたかもGグループとH薬品
が共同で建設する介護施設の入居に関し違法な名義貸しをし,これにより同人が指定された現金を送らなければ刑事訴追を受けるものと誤信させた上,氏名不詳者が,
平成27年2月24日から同月25日までの間,数回にわたり,前記Iに対し,H薬品のLを名乗り,電話で,

私はKの上司ですが,部下のKはIさんの代わりに400万円を立て替えましたよね。これはKの不始末ですので,Kはクビにしました。Iさんはあと200万円を支払ってもらわなければいけません。

金が作れないなら,あんたの家も土地も,全財産を差し押さえることになるぞ。

送り先は,東京都大田区qr-s-tu,M,品名はお菓子にしてください。2月26日午後2時から午後4時までに到着するように指定してください。

旨うそを言い,前記Iをして,介護施設入居に関する違法な名義貸しによる刑事訴追を回避するには指定された住所に宛てて現金を送る必要があるものと誤信させ,もって人を欺いて財物を交付させようとしたが,同人が警察に相談したためその目的を遂げなかった。」というものである。
当裁判所は,判示詐欺の事実(以下ではB事件という。)について被告人を共同正犯と認めたが,
前記公訴事実記載の詐欺未遂の事実
(以下
I事件
という。

について,被告人を共同正犯と認めることはできないと判断したので,以下,その理由を説明する。
第1

本件の主要な争点等

本件の主要な争点は,各事件について,被告人に詐欺の故意があり,氏名不詳者らとの詐欺の共謀が成立していたかである(なお,検察官は,I事件で処罰の対象とされているのは,平成27年2月24日からの詐欺行為であり,公訴事実に記載されたそれ以前の氏名不詳者らの行為は,経緯を記載したものにとどまる旨釈明した。)。
ただし,詐欺の共謀とはいっても,B事件の公訴事実(判示詐欺と同旨)では,被告人が犯罪事実の一部である詐取金の受取に関与したと記載されており,実行共同正犯の成否が問題になるのに対し,I事件の公訴事実には,氏名不詳者らの同月
24日から25日にかけての行為のみが記載されており,問題となるのは,共謀共同正犯の成否である。
第2

前提事実

関係証拠によれば,各事件について,次の事実が認められる。
1
被告人による便利屋事業の内容等

被告人は,東京都中野区でAの屋号で便利屋を営んでおり,平成27年2月当時,Fほか3名を雇用し,換気扇の設置,家具の修理,内装工事,室内清掃等のほか,電話等で依頼を受け,指示された場所で荷物を受け取り,指示された場所へ運ぶいわゆるバイク便の業務を行っていた。
2
B事件に関する事実関係
氏名不詳者らは,平成27年2月2日以降,Bに対し,電話で架空のプラチ
ナ購入の話をしてその代金合計1960万円を支払わなければならないと誤信させ,同月3日に現金270万円,同月10日に現金280万円,同月18日に現金200万円をそれぞれゆうパックで東京都内に送付させていた。これらの荷物の受取に被告人らA関係者が関与したとは認められない。なお,氏名不詳者らは,後記のI事件が発覚した後も,Bに対する詐欺を続けており,同年3月10日には現金200万円をゆうパックで東京都内に送付させていた。
氏名不詳者らは,同年2月24日頃,Bに電話をかけて,判示のとおり,残代金の一部を支払うようにうそを言って,同月24日午後2時46分頃,静岡県浜松市内のコンビニエンスストアから現金100万円をゆうパック(品名・菓子)で配達希望時間を翌25日12時から14時と指定して東京都江東区内のlE宛
に送付させた。実際には,同室は,入居者募集中の賃貸物件であり,空室であった。被告人は,同月24日午後4時54分頃,以前にもAに依頼をしてきた男(以下本件依頼人という。)から,電話(固定電話番号である03-●●●●-●●●●)
でバイク便の仕事の依頼を料金4万円で受けた。
その依頼の内容は,
前記lに配達される荷物を受け取って運んでほしいというものであり,受取人名
や配達先は現地で指示されることになっていた。そして,同室が空室であり,室外のメーターボックス内に部屋の鍵を入れたキーボックスがあること,その暗証番号等も伝えられた。このキーボックスは,同室を管理する不動産業者が内見依頼のあった不動産会社等の関係者に暗証番号を知らせ,直接鍵のやり取りをすることなく鍵の受渡しをするために設置していたものであったが,氏名不詳者らの詐欺グループは,この暗証番号を何らかの方法で知り,これを被告人に伝えていたものと考えられる。
被告人は,同月25日,前記キーボックス内の鍵を使って同室に立ち入り,本件依頼人からの電話での指示に従い,インターホンが使えるように部屋のブレーカーを上げるなどして,荷物の到着を待ち,ゆうパックの配達担当者から上記E宛ての荷物を受け取り,部屋を施錠してキーボックスに鍵を戻した。その後,本件依頼人からの電話の指示で,N駅に向かい,その後同駅近くの喫茶店に向かうよう指示を受け,その後指示に従って喫茶店裏の路地に向かい,そこにいた男に荷物を渡し,料金4万円を受け取った。
3
I事件に関する事実関係
B事件と同一の詐欺グループに属する氏名不詳者らは,平成27年2月10
日頃以降,Iに対し,それぞれ電話で,IがあたかもGグループとH薬品が共同で建設する介護施設の入居に関し違法な名義貸しをし,これにより同人が指定された現金を送らなければ刑事訴追を受けるものと誤信させ,郵便局のゆうパックで,同月13日に現金200万円を東京都世田谷区のvのO宛に,同月16日にも現金34万円を同じ宛先に,同月19日には,現金100万円を東京都新宿区内のwのM宛に送付させていた(いずれも発送翌日の正午から午後2時までの配達時間指定)。これらの荷物の受取は,被告人らA関係者とは別の者によって行われていた。
氏名不詳者らは,さらに,同月24日,Iに対し,I事件の公訴事実記載のとおり,Lを名乗って電話をかけ,さらに200万円を送付させようとしたが(た
だし,現金の送付先については,前記wの前記M宛とするよう告げていた。),Iは,同月25日昼過ぎに長女と警察に行って相談し,氏名不詳者らの行為が詐欺であることが発覚した。
そこでIは,
警察の騙されたふり作戦に協力することとし,
警察官の用意した現金入りにみせかけた箱を,指示されたゆうパックではなく,Pの宅急便で宛先として電話で指示された前記wの前記M宛に正午から午後2時までの配達時間指定で送付し,Lに対し,宅急便で送った旨を伝えた。すると,Lは,その後,宅急便で送るのであれば,東京都大田区内のuの前記M宛に翌26日午後2時から午後4時までの配達時刻指定で送るよう電話で連絡してきたため,Iは警察官とともにPのサービスセンターを訪れて,荷物(品名・菓子)の発送手続をやり直し,その旨をLに電話し,配送伝票の番号を伝えた。
このように氏名不詳者らは,I事件の公訴事実記載のとおり,同月24日から25日にかけてIに対する欺罔行為を行ったが,Iが同月25日に警察に相談したため,その犯行は未遂に終わった。
なお,前記uは,同マンションを管理する不動産管理会社が入居希望者用のモデルルームとして使用していた部屋であり,家具等は設置されていたものの,居住者はいなかった。
被告人は,同月25日午後5時9分頃,本件依頼人から,電話(前記末尾●●●●の番号)
で,
前記
u
に配達される荷物を受け取って運ぶ仕事の依頼を受け,
料金4万円でこれを引き受けた(この時点で氏名不詳者らの公訴事実記載の詐欺による結果惹起は不能になっており,また,この時点での意思連絡が氏名不詳者らの前記詐欺を促進するものでもない。)。
被告人は,その際,本件依頼人から,オートロックの鍵を入れたキーボックスの場所とその暗証番号,同室のジョイナーキー(玄関扉用のダイヤル式錠)の暗証番号等を伝えられた。このキーボックスやジョイナーキーは,同室をモデルルームとして使用する前記不動産管理会社が内覧依頼のあった不動産業者や内装業者等の関係者に暗証番号を伝え,直接鍵の受渡しをすることなく入室できるように設置して
いたものであり,同室の玄関扉の鍵はもとから施錠されていなかった。氏名不詳者らの詐欺グループは,この暗証番号を何らかの方法で知り,被告人に伝えていたものと考えられる。
被告人は,この仕事を従業員のFに行わせることとし,同月26日午前6時51分頃,Fに対し,メールで,同日の仕事としてこの依頼とピアノ搬入の仕事の指示をした。
Fは,同日,uに到着し,キーボックスから鍵を取り出してオートロックを開け,玄関扉のジョイナーキーを取り外すなどして同室に入室し,本件依頼人からの電話の指示に従い,Pの配達員を装った警察官から荷物を受け取った。第3
1
詐欺の共謀に関する検察官の主張
以上のとおり,氏名不詳者らは,判示事実あるいはI事件の公訴事実記載の
とおり,平成27年2月24日頃から翌25日の間に各犯行に及んだものであるところ,検察官は,同月19日の時点で被告人と氏名不詳者らとの間に包括的な詐欺の共謀が成立し,被告人は,その後に氏名不詳者らの行う一連の詐欺の犯行について共同正犯としての責任を負うと主張する。なお,検察官は,論告において,前記のような共謀成立時期を前提としながらも,この共謀成立時期より後の事実関係を多数援用して被告人は詐欺であることを認識したと主張しており,実質的には,その後に詐欺の共謀が成立したことも併せて主張する趣旨ではないかと解される。2
ただし,I事件については,共謀の成立時期に関する検察官の当初の主張,
すなわち,氏名不詳者らとの直接の共謀が成立したのが,同月25日の被告人に対する仕事依頼の際であったとの主張は,公判において明示的に撤回されている(当裁判所が第3回公判期日において検察官にこの点に関する釈明を命じたところ,検察官は,論告においても援用する平成27年6月22日付け上申書において,直接の共謀に関する主張を撤回するとし,前記依頼は共謀成立後の日時や場所の指示に過ぎないと述べて共謀を構成する意思連絡であることを否定して釈明に応じず,前記の包括的な共謀の成立を主張するに至った。)。そして,I事件については,前
記依頼(検察官が共謀成立後の事情にすぎないとするもの)を含めて考慮しても,公訴事実記載の氏名不詳者らの詐欺につき,被告人と氏名不詳者らとの間で個別的な共謀を構成する意思の連絡があったとは認められないから,専ら包括的な共謀の成立を考えるべきことになる。
第4

本件の経緯について

以上の争点及び検察官の主張に照らし,本件各犯行前にさかのぼってその経緯をみると,関係証拠によれば,次の事実が認められる。
1
被告人に対する大分県警による事情聴取とその後のAの経営
被告人は,平成26年2月27日,Qという人物から,東京都渋谷区内の私
設私書箱から書類かカタログを受け取り,東京都新宿区内のマンション前まで運んでほしいというバイク便の仕事の依頼を受けた。被告人は,指定された私設私書箱に向かい,荷物を受け取って建物の外に出たところ,大分県警の警察官数名から,受け取った荷物は詐欺に関するものであり,捜査に協力してほしいと言われ,被告人は,捜査に協力することとした。
被告人は,依頼人に荷物を受け取った旨の電話をして,指定された配送先に向かったところ,Qから受渡し先をホテル付近の路上に変更したいとの連絡があり,これを警察官に伝え,指定された場所で男に荷物を渡した。
被告人は,その後数回,警察官の事情聴取を受けた。
大分県警の警察官は,この際,被告人に対し,私設私書箱とかに荷物を取りに行くのはおかしい,相手の確認をしないで運ぶのは振り込め詐欺とか組織的な詐欺の片棒を担ぐことになる,覚せい剤などを運んでしまうといった注意をしたが,居住者のいない部屋での荷物受取に言及することはなかった。
被告人は,このように事情聴取を受けた後,いわゆる私設私書箱で荷物の受取をする仕事の依頼は断っていたが,バイク便の仕事は止めずに続けていた。2
検察官の主張する詐欺共謀成立の頃までの経緯
平成27年2月当時,Aの売り上げは,1か月200万円程度であり,
そのうち15パーセント程度がバイク便の売り上げであった。
被告人は,同月14日午後5時22分頃,電話(通話先は固定電話番号03-▲▲▲▲-▲▲▲▲)により本件依頼人からAの仕事の依頼を受けた。依頼の内容は,翌15日に東京都目黒区内か世田谷区内のマンションの空室に届いた荷物を受け取って運んでほしいというものであって,報酬は3万円,受け取るのは書類との説明であり,届け先等は,部屋についてから指示するというものであった。本件依頼人からは,部屋の鍵は,マンションの郵便ポスト内にあることが説明され,郵便ポストのダイヤル式の鍵の暗証番号を教えられた。この際,被告人は連絡先となる前記電話番号は確認しているものの,本件依頼人の氏名の確認は怠っていた。被告人は,同月15日,指定の空室に入室し,本件依頼人に電話をしたところ,インターホンが使えるようにブレーカーを上げてほしいとの依頼があり,ブレーカを上げて待っていたところ,約1時間半待ったところで,宅配便の配達があり,本件依頼人に指示された名前で配達担当者から荷物を受け取った。その後,指示されたR駅に向かい,本件依頼人に電話をかけたところ,近くのコンビニエンスストアに受渡し場所が変更され,
20代前半くらいの男に荷物を渡し,
料金を受け取った。
被告人は,同月18日午後3時32分頃,電話(通話先は前記末尾▲▲▲▲番号の電話)により本件依頼人から料金3万円で同様の仕事の依頼を受け,これを引き受けた。その依頼の内容は,翌19日に空室である東京都世田谷区内のxで荷物を受け取り,これを指定した場所に運んでほしいというもので,その際,同室の鍵はかかっていないことや,マンションのオートロックの暗証番号等を伝えられた。
被告人は,この仕事を引き受け,これを従業員のSにさせることとし,同月19日午前0時47分頃,Sに対し,メールで同日の仕事としてこの依頼と家具組立の仕事の指示をした。Sは,同日,xに立ち入り,電話(前記末尾▲▲▲▲の番号)で指示を受けたとおりに荷物を受け取り,指示された場所に運び,男に荷物を渡して料金を受け取った。

被告人は,同日午後7時8分頃,本件依頼人から,電話(通話先は前記末尾▲▲▲▲番号の電話)により,空室である東京都中野区内のyで荷物を受け取る仕事の依頼を報酬4万円で受け,同室の鍵はかかっていないことや,マンションのエントランスの暗証番号等を伝えられた。この際,本件依頼人は,今後定期的に同じ仕事を依頼したい,報酬を3万円から4万円に増やす代わりに1人人員を確保してもらいたい旨述べ,被告人は,これに応じる返事をしたが,実際には,新たに人を確保したわけではなかった。
被告人は,この仕事も従業員のSにさせることとし,同日午後11時22分頃,Sに対し,メールで翌日の仕事としてこの依頼と前日の家具組み立ての仕事の続きをするよう指示した。
Sは,同月20日,yに立ち入り,電話(前記末尾▲▲▲▲の番号)での指示通りに荷物を受け取って,これを指示された場所に運び,男に渡して,料金を受け取った。
3
検察官が主張する詐欺共謀の成立後の経緯

被告人は,同月23日午後5時52分頃,本件依頼人からの電話(これまでと異なる前提事実記載の末尾●●●●の番号)で,空室である東京都世田谷区内のzで荷物を受け取る仕事の依頼を受け,鍵が郵便ポスト内にあることや,その解錠方法を指示された。
被告人は,この仕事を従業員のFにさせることとし,同日午後11時37分頃,Fに対し,メールで,この依頼と別のバイク便の仕事の指示をした。なお,本件依頼人は,以前とは別の固定電話番号で連絡をしてきたが,被告人は,これに気付かないまま,メールで指示を出していた。
Fは,同月24日,zに着き,前記電話番号(前記末尾▲▲▲▲の番号)に電話をしたが通じず,これを被告人に連絡した。被告人には,その頃,本件依頼人から電話番号が変更になった旨の連絡があり,被告人は,Fに新たな電話番号(前記末尾●●●●の番号)を伝えた。Fは,この番号に電話をして,その指示通りにz
に立ち入って荷物を受け取り,指示された場所に運び,男に荷物を渡して料金を受け取った。
第5
1
詐欺の共謀及び故意に関する判断
被告人の認識等の検討
本件依頼人が平成27年2月14日から同月23日までの間に受取りを依頼
した荷物というのは,B事件と同様に詐取金入りのものであったと考えられる。そして,本件依頼人からの仕事の依頼内容は,同月14日の依頼当初から居住者のいない部屋で荷物を受け取って運ぶということであり,荷物の受取人名や配達先については現地で電話連絡を受ける手はずであったことも認められる。そして,最初に依頼を受けた仕事で,現地で指示された配達先は都度変更され,路上で受渡しをするという経緯をたどっていたのであるから,被告人は,その後の依頼でも同様の経緯をたどる可能性を認識していたといえる(実際にその後,被告人がSあるいはFにさせた仕事でも同様の経緯をたどったが,被告人がそのような経緯を事後的に把握していたと認めるに足りる証拠はない。)。しかも,同月19日の時点で,本件依頼人から同様の仕事の依頼を今後も続けて行うことが告げられていた。加えて,移動時間や室内での待ち時間を含めて3時間程度は要する可能性のある仕事であって,相応の料金は得られるものとはいえ,それにしても本件依頼人が示した3万円あるいは4万円といった料金は,通常より高額なものであった(通常であれば,1万5000円程度から高くみても2万5000円程度であった。)。何かの事情で送り主が空室に荷物を送り,部屋の管理者の承諾を得て管理者が室外に置いていた鍵等で部屋に入って荷物を受け取ること自体は考えられないことではないとしても,そのような空室での荷物の受取の依頼が続くとなれば,それは,はなはだ不自然であるというほかない。そして,最初に依頼を受けた荷物の配送方法等については,これまでバイク便の仕事の中で関与するに至った詐欺事件での依頼内容の類似性も認められる。
そうすると,被告人には,空室に詐取金を送らせる手口の実現に重要な部屋の管理者によって管理される鍵の隠し場所やキーボックスの暗証番号等を本件依頼人が的確に指示できた理由・経緯はわかっておらず,被告人の認識において,送り主自身がやましいことに関わり,中身や送付先などを隠したいといった理由から荷物をあえて空室に送っている可能性を排除できるまでの事情があったわけではないものの,被告人は,同月19日か,遅くともその次に仕事の依頼を受けた同月23日の時点では,これまで本件依頼人から受取の依頼を受けた荷物について,送り主は,何かの意図があって空室に荷物を送っているのではなく,だまされて財産的価値のある物を空室に送っているのかもしれないという認識はあったと認められる。このような認識が本件依頼人からの依頼につき被告人が他の便利屋の仕事と一緒に従業員に指示を出していることや,従業員に仕事内容の口外を禁じていなかったことなどの被告人の従業員への対応と特に矛盾するものとまでは考えられない。このような認識までも否定する被告人の供述は信用することはできない。
なお,検察官は,本件依頼人が連絡に使った固定電話番号が同月23日に変わったことを捉え,固定電話の番号は,通常変更されることはなく,固定電話様の番号が変更となるのは相当な事情がある場合であり,
そのような相当な事情というのは,
本件では特殊詐欺で電話が不通になるなどの事情と認識でき,現金を送付させる特殊詐欺であることを容易に認識することができたと主張する(そういいながら,検察官は,実際に当初の固定電話番号が不通になった事情は立証していない。)。しかし,連絡先の固定電話番号が変更されること自体は,転居などに伴う電話の設置場所の変更によりしばしばみられるものであり,詐欺を含めた犯罪への関与をうかがわせるような特殊な事情ではない。そして,本件では実際には二つの固定電話番号の設置場所がデータセンタであって,本件依頼人は転送サービス等を利用して被告人と連絡を取っていたと考えられることなどの本件依頼人側の事情を被告人は知る由もないのであるから,電話に関する検察官の主張には無理があるというほかない。
2
B事件に関する共謀等の検討
氏名不詳者らは,同月24日頃からBにうそを言って,同月24日に詐取金を空室である前記lに送付させていたところ,被告人は,その後,同日中に本件依頼人からこの荷物を受け取るよう依頼を受け,上記の荷物に関する認識の下,この依頼を引き受け,翌25日に実際に同室で荷物を受け取ったというのである。そうすると,被告人は,本件依頼人からの依頼に際し,だまされて送られてきた荷物でも構わないと考えてこれを引き受けたものであって,詐欺に加担する意思を有し,荷物の受取という判示詐欺の一部に加わり,実際に詐欺の結果を生じさせたと認められるから,自ら行った行為とその結果にとどまらず,加担前に行われた氏名不詳者らの詐欺行為についてもその責任を負うものであり,前記依頼の際の意思連絡により,判示詐欺について被告人が判示の氏名不詳者らと共謀を遂げたと認めるのに十分である。また,被告人について詐欺罪の故意に欠ける点もない。被告人は,判示詐欺の全部について共同正犯としての責任を負うものである。3
検察官主張の包括的な共謀についての検討
これに対し,検察官は,この共謀に先立って被告人が同月19日に氏名不詳
者らの1人人員を確保してもらいたい旨の依頼に応じる旨回答したことを捉え(実際にだれか人を確保したわけではない。),これによって氏名不詳者らのその後の詐欺について因果的寄与があり,その時点で氏名不詳者らとの間に包括的な詐欺の共謀が成立したものであって,被告人は,その後に氏名不詳者らにより行われた一連の詐欺に含まれるB事件及びI事件について共同正犯としての責任を負うと主張する。被告人に対する荷物受取の依頼やその実行がなくとも共謀は成立し,共同正犯としての責任を免れないというのである。
しかしながら,本件の詐欺グループがどのようなメンバーで構成され,どの程度の規模であったのかといった事情はまったくわかっていない。被告人は,I事件以前の氏名不詳者らのIに対する詐欺について関与をしておらず,Aとは別に,本件グループの行う詐欺について詐取金を受け取る者が存在していたことは明らかであるところ,その人数も確定することはできない。したがって,氏名不詳者らによる受取をする者の使い分けの理由・基準も明らかになっていない。このような証拠関係の下で,被告人による上記回答がその後の氏名不詳者らの本件各犯行を具体的にどのように促進したのかについて,検察官は何も立証しておらず(要するに,受取役が1人でも多い方が氏名不詳者らの犯行をより容易にするという自らの見立てを述べているだけである。),因果的寄与の内実は明らかになっていない。
加えて,①被告人の詐欺の認識は上記の程度にとどまっており,被告人は,犯人グループがどのようなメンバーで構成されていたかや,実際にどのような詐欺を行っているかといった詐欺の核心部分は何も知らなかったこと,②被告人は,営業実態のある便利屋としてのAを経営しており,本件の犯人グループとは別の組織であり,依頼を受けた仕事以外について報酬(料金)を得るものではないことを併せて考えると,被告人について,同月19日あるいはそれ以降の時点であっても,包括的な詐欺の共謀が成立したとして,その後の氏名不詳者らによる一連の詐欺詐欺未遂について,
被告人が共犯正犯としての責任を負うと考えることはできない。
この点についての検察官の主張は採ることができない。
4
I事件の共謀についての判断

そうすると,I事件について,共謀共同正犯成立の前提となる包括的な共謀の成立は認められない(個別的な共謀を構成する意思の連絡があったとは認められないことは既に述べたとおりである。)。したがって,氏名不詳者らが,公訴事実記載の詐欺を行うに際して被告人との共謀を遂げていたとは認められず,被告人が共同正犯としての責任を負うものではない。
第6

結論

以上検討してきたところによれば,B事件に係る判示事実は認められるものの,I事件に係る公訴事実については,犯罪の証明がないことに帰着し,同公訴事実については,刑訴法336条により被告人に対し,無罪の言渡しをすることとする。(量刑の理由)
本件は,詐欺1件の事案である。
詐欺の犯行態様は,高齢の被害者の判断能力の甘さに付け込む卑怯なもので,被害額も100万円と多額である。
被告人は,詐欺の具体的な態様は知らなかったとはいえ,便利屋を経営する中,詐欺とわかる依頼を断ることなく安易に引き受けて本件に及んだものであって,その経緯は,甚だ思慮に欠けるものである。しかし,被告人の経営する便利屋は,正業としての実態を有しており,実際の犯行においても,顧客である本件依頼人から専ら指示を受ける従属的立場にあって,仕事をよく選ぶことなく引き受ける便利屋として詐欺グループに利用されたという側面があることも否めない。以上の犯情に照らし,被告人の刑事責任を軽く見ることはできないが,それが当然に実刑に処さなければならないほど重いものということはできない。被告人は,詐欺の認識等は否定するものの,自らが体験した事実関係そのものについては捜査段階から素直に述べていることなど,被告人のために酌むべき事情も併せて考慮すると,被告人に対しては,刑の執行を猶予するのが相当である。
(求刑

懲役3年6月)
平成28年4月20日
名古屋地方裁判所刑事第5部

裁判官
奥山豪
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