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意匠権に基づく差止等請求控訴事件 意匠権 民事訴訟
事件番号平成27(ネ)2384
事件名意匠権に基づく差止等請求控訴事件
裁判年月日平成28年1月27日
法廷名大阪高等裁判所
結果棄却
原審裁判所名京都地方裁判所
原審事件番号平成26(ワ)2383
裁判日:西暦2016-01-27
情報公開日2017-10-19 08:57:31
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平成28年1月27日判決言渡
平成27年(ネ)第2384号

同日原本領収

裁判所書記官

意匠権に基づく差止等請求控訴事件(原審・京都地

方裁判所平成26年(ワ)第2383号)
口頭弁論終結日

平成27年11月24日
判控決訴人
協和ハーモネット株式会社

同訴訟代理人弁護士

拾被
フルテック株式会社

控訴人井
同訴訟代理人弁護士

枝同渡辺同井筒美主香潤博大介文1
本件控訴を棄却する

2
控訴人の当審における拡張請求を棄却する。

3
控訴費用は,控訴人の負担とする。

第1

実及び理由
控訴の趣旨

1
原判決を取り消す。

2
被控訴人は,原判決別紙1記載のイヤホンを製造し,使用し,譲渡し,貸し渡し若しくは輸出し,又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。
3
被控訴人は,原判決別紙1記載のイヤホンを廃棄せよ。

4
被控訴人は,控訴人に対し,442万8850円及びこれに対する平成26年8月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。5
訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

第2

事案の概要

1
事案の要旨
原審における本件は,控訴人が,被控訴人は,原判決別紙1記載のイヤホン(以下被控訴人製品という。)を製造及び販売等することで,控訴人の有する意匠権を侵害したと主張して,被控訴人に対し,意匠法37条1項に基づく被控訴人製品の製造及び販売等の差止め並びに同条2項に基づく被控訴人製品の廃棄を求めるとともに,不法行為に基づく損害賠償として436万7000円及びこれに対する平成26年8月26日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。原審は,控訴人の請求をいずれも棄却したため,控訴人がこれを不服として控訴を申し立てた。
控訴人は,当審において,損害賠償請求を442万8850円及びこれに対する上記遅延損害金の支払請求に拡張した。

2
争いのない事実等
争いのない事実等,請求の原因に係る争点及び争点に関する当事者の主張は,当審における当事者の主張を後記3に付加するほかは,原判決事実及び理由中の第3ないし第5(原判決2頁17行目から14頁2行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

3
当審における当事者の主張

(控訴人)
(1)

本件意匠の構成について
炭素繊維により模様が描かれていることは本件意匠の構成に含まれる。ア
意匠登録出願の願書に物品の材質を記載するのは,願書に添付した図面によっては,その意匠の属する分野における通常の知識を有する者がその意匠に係る物品の材質等を理解できない場合であり,一般需要者の理解が基準になるのではない。

炭素繊維は様々な分野で用いられており,オーディオの分野でもこれを用いた製品が種々販売されている。したがって,通常の当業者であれば,願書に添付された写真に表れた本件意匠の模様,質感,光沢感等により,イヤホン胴部の材質が炭素繊維であることを理解し得る。

(2)

本件意匠の要部について
本件意匠の要部は,円柱形状のイヤホン胴部に炭素繊維により矩形区画を隣接して繰り返し描くことにより模様を形成したことである。

意匠の個々の基本的形状が公知ないし周知であっても,当然にそれが要部であることが否定されるわけではなく,各基本的形状の組み合わせに斬新性が認められる場合,その組み合わせが意匠の要部となる。


本件意匠の基本的構成態様は,円柱形状のイヤホン胴部に,炭素繊維により矩形区画を隣接して繰り返し描くことにより模様を形成したことである。本件意匠登録出願前にこれら全部を有する製品は見当たらず,これらの組み合わせに新規性が認められるのであって,それが看者の注意を引く本件意匠の要部である。


本件意匠は,物品自体が小さく,炭素繊維の光沢感により模様の細部を観察しにくく,細部に注目して観察しなければ,矩形区画の形状,個数及び構成まで把握できない。したがって,このような一見して把握できない模様の細部が要部となることはない。

(3)

本件意匠と被控訴人製品の意匠(以下被控訴人意匠という。)との類否について
本件意匠と被控訴人意匠との相違点は,看者に別異の美的印象をもたらすものではない。

イヤホンの購入に当たっては,需要者は,大づかみに観察した場合のイヤホン全体のイメージによって意匠を把握するというべきである。需要者が意匠に係る物品をどのように観察するかは,当該物品の用途,機能,使用形態等を考慮して定めるべきである。イヤホンは,物品の機能及び性質上意匠を施す部分が小さく,一見して形状及び模様の細部を観察しにくいこと,通常の使用形態である耳の穴に装着した状態では装着者本人だけでなく外部からも模様,形状等を観察できないこと,デザインよりも音質等の性能を重視して購入する需要者も多いことなどから,需要者は,意匠の細部にそれほどこだわらないと考えられ,各部の意匠に着目して製品を観察するとは考えられない。

本件意匠と被控訴人意匠とは,その具体的構成態様において,矩形区画の形状及び配置方法の点で相違している。しかし,被控訴人意匠は,本件意匠の矩形区画の形状及び配置方法をわずかに改変した程度であること,意匠に係る物品自体が小さく,模様が細かく描かれている上,炭素繊維の光沢により表面のプラスチックを通して模様の細部を観察しにくいことなどから,上記相違点は判別し難い。

(4)

損害について
控訴人の損害は,次の合計442万8850円である。

逸失利益

402万8850円

(ア)

被控訴人製品の販売価格(平均単価)

1万1511円

(イ)

発売開始後現在に至るまでの販売個数

700個

(ウ)

被控訴人製品の利益率

50%

(エ)

被控訴人製品の販売により得た利益額

402万8850円


弁護士費用

40万円

(被控訴人)
(1)

本件意匠の構成について
炭素繊維により模様が描かれていることは本件意匠の構成に含まれない。オーディオ業界においては,炭素繊維ではなく金属等が用いられた製品も多数存在し,当該製品にも光沢があるから,願書に添付された図面のみから光沢が炭素繊維によるものであって,金属等は一切用いられていないと断定できる者はいない。
(2)

本件意匠の要部について
本件意匠において需要者の注意を引く点は,イヤホン胴部に描かれた市松模様を構成する四角形を1辺約1ミリメートルの正方形とした点にすぎず,この点が要部に当たる。
仮にこの点が要部でないとしても,イヤホン胴部が全方向から観察されるものであることから,全方向(立体的に観察した場合と平面的に観察した場合の双方を含む。)から観察した場合の胴部の形状(円柱形状)又は模様(市松模様)との組み合わせにある。
矩形区画が連続しているという極めて抽象的な概念をもって要部を認定すべきでない。

(3)

本件意匠と被控訴人意匠との類否について
本件意匠と被控訴人意匠は,シリコンリング部分の存在等により形状が全く異なるほか,本件意匠の模様は市松模様という周知模様であるのに対し,被控訴人意匠のうち炭素繊維部分に施された模様も綾織模様という広く知れわたった模様であり,このように模様の名称が別に存在することもあって,需要者は一見して模様を区別できる。

意匠の類否の判断に当たり,全体のイメージという極めて抽象的かつ主観的な判断方法によることは,類似性が肯定される範囲を不当に拡大するものであり,妥当でない。


イヤホン胴部は,通常,平面から観察して1.5平方センチメートル程度の大きさは備えているから,意匠を施す部分は十分存するし,通常人であれば,一見して形状及び模様の細部を観察できる。また,イヤホン胴部は耳に入れないため,装着した状態でも外部からイヤホンの模様及び形状を観察できるし,使用者自身も,イヤホンを装着した状態で外部からどのように見えるかという点にも関心をもってイヤホンを使用するから,購入に当たっては,イヤホン胴部の模様及び形状の細部を観察する。そうであるからこそ,多くのイヤホン胴部には模様等が施されている。

デザインにこだわらない者を意匠対比における需要者として考慮することは適切でない。デザインよりも音質等の性能を重視する需要者が多いのであれば,多くのイヤホン胴部には模様等が施されることはない。また,デザインを度外視して性能や機能性のみで購入を判断する者が一定数いることはイヤホンのみに限ったことではない。


被控訴人意匠は,シリコンリング部分により炭素繊維部分を覆っているため,炭素繊維部分の輪郭は,上下左右どの方向から観察しても,本件意匠のように正方形にならない。
イヤホン胴部を構成するのはハウジング部分に限定されるわけではなく,ハウジング部分のほか,複数の素材で構成されるのが通常である。そのため,本件意匠と対比すべき部分は,ハウジング部分のみではなく,飽くまでイヤホン胴部全体である。


四角形の形状は,本件意匠が正方形,被控訴人意匠が長方形と全く異なる上,本件意匠の配置方法は市松模様であるのに対し,被控訴人意匠の配置方法は綾織模様である。
両意匠は共に小さいとはいえないし,通常人であれば,模様全体として市松模様と綾織模様の区別が認識できるのであるから,模様が細かく描かれているともいえない。また,光沢により模様が観察しにくいということもあり得ない。
現物を購入する場合も,模様の判別は十分に可能である。被控訴人製品が販売時に入っているケースの写真を見ても,需要者が被控訴人意匠の細部を判別できないということはあり得ない。
第3

当裁判所の判断

1
当裁判所も,控訴人の請求は,当審における拡張請求も含め,いずれも理由がないものと判断する。
その理由は,次のとおり改め,当審における当事者の主張に対する判断を後記2に付加するほかは,原判決事実及び理由中の第6及び第7の1(原判決14頁3行目から20頁12行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)

原判決18頁11行目のしたがって,から13行目末尾までを次のとおりに改める。
しかしながら,イヤホンは,使用中には耳元の装飾(装身具)的な意味で観察の対象となるから,その意匠は重視される上,使用に当たっては胴部付近を手でもって自分の耳に着脱するため至近距離で目にするものである。したがって,需要者は,イヤホン購入に当たっては,全体の形状のみならず,イヤホン胴部を含む各部の意匠の細部に着目して,製品を観察することになる。
(2)

原判決18頁24行目の横方向に6個半,縦方向に9個を繰り返しに改める。

(3)

原判決19頁3行目の,個数,を削る。

(4)

原判決19頁4行目から5行目にかけての横方向に6個半,縦方向に9個を繰り返しに改める。
(5)

原判決19頁6行目の長辺が約4ミリメートル,短辺が約2ミリメートルの大きさのを長辺と短辺の長さの比が2対1のに改める。
(6)
2
(1)

原判決19頁7行目の交互にの次に繰り返しを加える。
当審における当事者の主張に対する判断
本件意匠の構成について
控訴人は,通常の当業者であれば,願書に添付された写真に表れた本件意匠の模様,質感,光沢感等により,イヤホン胴部の材質が炭素繊維であることを理解し得るから,願書に材質の記載がなくても,炭素繊維により模様が描かれていることは本件意匠の構成に含まれる旨主張する。
しかし,本件全証拠によっても,願書添付の図面(写真)に表れたイヤホン胴部の光沢感等が炭素繊維以外の素材では容易に実現できないものと認めることはできないから,願書に材質についての記載がない以上,炭素繊維により模様が描かれていることは本件意匠の構成とはなり得ず,控訴人の上記主張は採用できない。
(2)

本件意匠の要部について
控訴人は,本件意匠の要部は,円柱形状のイヤホン胴部に炭素繊維により矩形区画を隣接して繰り返し描くことにより模様を形成したことであって,矩形区画の形状,個数及び構成といった模様の細部は,一見して把握できないから,要部となることはない旨主張する。
しかし,まず,炭素繊維により模様が描かれていることは,前記(1)のとおり,本件意匠の構成には含まれないから,本件意匠の要部となることもない。
また,模様である矩形区画の形状,個数及び構成のうち,個数については,繰り返し並んでいるという限度でしか把握されないというべきであるから要部には含まれないが,形状及び構成については,光沢により見え方が曖昧な箇所もあるものの,そのような箇所も含めて色合いの違いにより格子状の直線を看取することができ,全体として市松模様が描かれていることは十分感得することができるというべきである。
したがって,控訴人の上記主張は,前記1で訂正の上引用した原判決事実及び理由中の第6の3(3)ウにおける要部の認定を左右するものではない。
(3)

本件意匠と被控訴人意匠との類否について
控訴人は,需要者は,イヤホンの意匠の細部にそれほどこだわらないと考えられ,各部の意匠に着目して製品を観察するとは考えられない旨主張する。しかし,イヤホンは,使用中には耳元の装飾的な意味で観察の対象となり,意匠が重視される上,使用に当たっては胴部付近を手でもって自分の耳に着脱するため至近距離で目にするものであるから,需要者は,購入に当たってイヤホンの意匠の細部に着目して,製品を観察することになると認められることは,前記1で訂正の上引用した事実及び理由中の第6の3(3)アにおいて説示するとおりである。したがって,控訴人の上記主張は採用できない。
また,控訴人は,本件意匠と被控訴人意匠との相違点につき,矩形区画の形状及び配置方法をわずかに改変した程度であること,意匠に係る物品自体が小さく,模様が細かく描かれている上,炭素繊維の光沢により表面のプラスチックを通して模様の細部を観察しにくいことなどから判別し難い旨主張する。
そこで,この点を検討すると,本件意匠の願書添付の図面(写真)においては,表面の色合いの違いによる格子状の直線を看取することができる。これに対し,原審における検証の結果によれば,被控訴人製品がイヤホン胴部において1ないし2センチメートル程度の比較的小さな物品であり,かつ,円筒の側面部分に当たることから炭素繊維の光沢が相当目立つにもかかわらず,そのイヤホン胴部においては,表面の色合いの違いによる階段状の直線を看取することができる一方,本件意匠に見られる格子状の直線は看取することはできない。この点において看者に与える両者の美観は大きく異なるというべきである。したがって,控訴人の上記主張は採用できない。
3
結論
以上の次第で,当裁判所の上記判断と同旨の原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却し,控訴人の当審における拡張請求もまた理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。

大阪高等裁判所第8民事部

裁判長裁判官

山田知司
裁判官

寺本佳子
裁判官

中尾彰
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