判例検索β > 平成26年(ワ)第247号
事件番号平成26(ワ)247
裁判年月日平成27年4月21日
裁判所名・部広島地方裁判所  民事第1部
判示事項の要旨原告が,被告の職員である警察官から拳銃の発砲を受けたことにつき,当該発砲行為は,警察官職務執行法等に違反する違法な職務執行であり,これにより原告に精神的損害が生じたと主張し,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求を行ったところ,当該発砲行為は適法であるとして請求を棄却した事例
裁判日:西暦2015-04-21
情報公開日2017-10-17 20:14:01
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主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求の趣旨
被告は,原告に対し,1100万円及びこれに対する平成24年7月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1本件は,原告が,被告の職員である警察官から拳銃の発砲を受けたことにつき,当該発砲行為は,警察官職務執行法等に違反する違法な職務執行であり,これにより原告に精神的損害が生じたと主張し,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求として,慰謝料等1100万円及びこれに対する違法な職務執行日である平成24年7月6日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2前提となる事実(証拠等の記載のない事実は,当事者間に争いがないか,争うことを明らかにしない事実である。)
(1)

当事者等

原告は,昭和58年○月○日生まれの男性である。


被告は,地方自治法1条の3第2項に規定される普通地方公共団体である。

(2)

原告車の追跡の開始

被告の広島県警察A警察署地域課機動警ら係に属する公務員であるB
巡査部長(以下B巡査部長という。)及びC巡査長(以下C巡査長という。)は,平成24年7月6日,無線呼称D4号のパトロールカー(以下本件パトカーという。)に乗車し,その職務の一環として,警ら活動にあたっていた。

同日午後2時46分ころ,B巡査部長らは,広島県警察本部から,

E警察署管内,E区Fの犯罪情報番号は広島○○○み××××ツ覚せい剤容疑の車両が逃走ワゴンR,白色車両人着は半袖黒色Tシャ隣接署であるA警察署であっても,付近の検索を願いたい。

との
指令を受領したことから,付近の検索を開始した。

B巡査部長らは,同日午後3時ころ,山陽自動車道Gインター西交差
点付近にて上記のナンバーのワゴン車(以下原告車という。)を発見した。

B巡査部長らは,赤色灯を点灯させ,サイレンを鳴らして,車線マイ
クによる拡声器にて原告車に停止を呼びかけたが,原告車は停止せず,時速約50キロメートルにて逃走を続け,午後3時4分ころ,広島市E区Fa丁目b番c号所在のH方西側駐車場(以下本件駐車場とい
う。)に進入して停車したので,本件パトカーもその後方近くに停車した。
本件駐車場の出入口は,一箇所である。
(3)

C巡査長による発砲

原告車は,その後,後退で切り返しをして本件駐車場から出ようとした。原告車が後退を終え,本件駐車場の入口に向けて前進を始めたところ,C巡査長は,原告車の右側方から拳銃を一発発射した(以下第1発砲という。)。それでも原告車は停止せず前進を続けたところ,C巡査長は,今度は原告車の後部から,二発目を発射した(以下第2発砲といい,第1発砲と第2発砲を併せて本件発砲という。)。第1発砲の弾丸により,原告車の右後部ドアガラスが破損し,助手席後部座席に設置されていたチャイルドシートの左右側面にも貫通跡が生じた。弾丸は左後部ドアの内部に残留した。
第2発砲の弾丸は,原告車の車両後部ガラスを損壊させ,さらに,前記チャイルドシートの座席背面に貫通跡を生じさせ,助手席のヘッドレスト内に残留した(乙15)。

原告車は,そのまま本件駐車場を出て逃走した。

3争点及び争点に対する当事者の主張
(1)

本件発砲行為が違法なものであったか否か

(原告の主張)

警察官職務執行法(以下警職法という。)7条本文は,警察官は,犯人の逮捕若しくは逃走の防止,自己若しくは他人に対する防護又は公務執行に対する抵抗の抑止のため必要であると認める相当な理由のある場合においては,その事態に応じ合理的に必要と判断される限度において,武器を使用することができる。と定め,武器使用の必要性があり,かつ,武器使用が相当である場合は武器の使用を許容しているが,これを逸脱する場合は,警察官の武器使用は違法となる。


本件の第1発砲では,C巡査長は,原告車の右後部座席の窓に向けて弾丸を撃ち込んだ。その当時,原告車は,それほど高速で移動していたわけではないが,動いている自動車への発砲は,拳銃の操作を誤り,発砲のタイミングや発砲の方向を誤れば,思わぬ結果が生じることもあるから,そのような危険性のある発砲自体,相当性を欠いていたというべきである。
また,C巡査長が発砲した時点では,すでに原告車の運転席はC巡査長の前を通り過ぎており,この時点で発砲しても,警職法7条の犯人の逮捕若しくは逃走の防止,自己若しくは他人に対する防護又は公務執行に対する抵抗の抑止にとって,もはや何の役にも立たない状況になっているから,発砲の必要性の要件自体が存在しなかった。
したがって,第1発砲は違法である。


第2発砲では,C巡査長は,原告車の後方から発砲したが,この時点での発砲は,第1発砲と比較して,一層,警職法7条の犯人の逮捕若しくは逃走の防止,自己若しくは他人に対する防護又は公務執行に対する抵抗の抑止にとって役に立たない状況になっているから,やはり発砲の必要性の要件は存在しなかった。
また,第2発砲の弾丸は,原告車の車両後部ガラスを壊して車内に突入し,原告の頭部から至近距離の助手席ヘッドレストに食い込んで止まっており,ひとつ間違えば,弾丸は原告の頭部に命中していた可能性が高い。第2発砲により生じた原告の生命身体への危険は非常に高度で,発砲の相当性の限度を超えていたことは明らかである。
したがって,第2発砲も違法である。

C巡査長は,本件発砲により,原告に精神的損害を与えており,これは,警職法7条ただし書の人に危害を与えた場合に該当する。
そして,本件は,刑法36条(正当防衛),37条(緊急避難)並びに警職法7条ただし書1号及び2号のいずれにも該当しないから,違法である。

(被告の主張)

本件の事実経過
原告が本件発砲前に覚せい剤様のものを見せるなどしたこと

原告は,平成24年7月6日午後2時10分ころ,原告車に一人乗って,広島市E区Fのガソリンスタンドに給油に寄った際,給油をした店員に,

麻取に追われている。

などといい,さらに,

携帯たくさんお持ちなんですね。

との店員の問いに,「秘密よ。」といって,一台の携帯電話のカバーを取り,その中の透明ビニール袋2,3個を見せた。そこには,覚せい剤様の透明な結晶粒が10粒ほど入っていた。


原告は,原告車を発進させて,Gインターの方向へ向かった。店員は,同日午後2時30分頃,110番通報した。
B巡査部長とC巡査長が原告車を追跡したこと
B巡査部長とC巡査長は,B巡査部長が運転し,C巡査長が側乗して,本件パトカーに乗車中,前記2(2)イないしエのとおり,検索活動中に発見した原告車を追跡し,本件駐車場に進入して停車した原告車に続いて,その後方近くに停車した。
本件発砲の経緯

原告車は,別紙①の位置に西向きに停車し,本件パトカーは別紙
警ら用無線自動車の位置に,南向きに停車した。B巡査部長とC
巡査長の服装は,いずれも,一見して警察官と分かるものであった。b
B巡査部長は,運転席から降りて職務質問をする目的で原告車の

運転席側に行き,別紙甲の位置で原告と対峙し,C巡査長も助手席から降りた。
原告車はエンジンがかかったままで,原告が運転席におり,運転
席側の窓ガラスは半開きであった。
B巡査部長は,原告に,

何しよんや。止まれや。

などと話しかけたが,原告がハンドルに手をかけて左手でギアを掴んで上下に動かすので,B巡査部長は,逃げられないように原告車内に右手を伸ばしてエンジンキーを抜き取ろうとしたところ,原告が,突然,原告車を後退させた。B巡査部長は,原告車右前輪で左足背部をひかれ,負傷した(経過観察1週間を要する左足背打撲傷)。
原告は,そのまま原告車を後退させ続けて,別紙④の位置に移動したが,その途中,別紙③の位置で,原告車の右前部角付近を本件パトカーの右前部角付近に接触させ,本件パトカーに修理費約9万5088円を要する損傷を与えた。

C巡査長は,上記状況に遭遇し,原告の逃走を防止して原告を公務執行妨害罪等で逮捕するには,拳銃を使用して逃走を断念させるしかないと判断し,別紙アの位置あたりで,4.5メートルくらい先の別紙④の位置で後退から前進に移行した原告車に向けて,両手で拳銃を前方に構え,「止まれ。」と何度も叫んだ。それにもかかわらず,原告車はそれを無視してC巡査長にぶつけるように勢いよくまっすぐ前進してきた。
C巡査長は,危険を感じ,近づいてくる原告車に向かって左に身
をかわして原告車を避けた。そして,別紙イの位置付近で,逃走を断念させる目的で,原告車の運転席側の後部座席の方を狙って拳銃を一発発射した。
この発砲により,原告車の後部座席のドアガラスが割れた。しか
し,原告は,原告車を止めることなく,そのまま前進して本件駐車場の出入口の方に向かって逃走を続けた。C巡査長は,一発目と同じ目的で,別紙ウの位置付近から,2.8メートルくらい先の原告車の助手席の方を狙って拳銃を再度一発発射した。これにより,原告車の車両後部ガラスが割れた。
それでも,原告は,原告車を止めることなく,さらに速度を上げ
て本件駐車場を出て行き,北方へ向けて逃走した。

原告の上記一連の行為は,車を凶器に用いた暴行であって,B巡査部長及びC巡査長に対する公務執行妨害罪が成立する。


本件発砲は,警職法7条本文の要件を充足し適法であること
警職法7条本文は,犯人の逮捕逃走の防止・自己若しくは他人に対する防護・公務執行に対する抵抗の抑止という4つを武器使用目的の類型として定めた上,いずれかの目的のため必要と認める相当な理由がある場合には,事態に応じ合理的に必要と判断される限度において武器を使用できることを定めている。
同法7条本文が,相当な理由がある場合と定めているのは,個々の警察官は,具体的な職務執行の場面で,その状況に応じて適正な職務を行う必要があるが,実際の職務執行はその場の状況に応じてとっさの判断によらなければならないことが通例であり,同法7条の適用に当たっても,武器を使用する警察官において,その必要性を認める相当な理由があると判断した場合には使用を可能とするとして,当該警察官の合理的な判断に委ねたものと解される。
そうすると,審理の対象になるのは,拳銃を使用する警察官が,上記4つの武器使用目的のうちいずれかがあると考え,当該目的のため必要であると認める相当な理由があると判断し,武器の使用が事態に応じて合理的に必要であると判断したことの当否である。しかも,国家賠償法1条1項の解釈からしても,その当否は,警察官の職務執行時を基準にして,現実に認識し,あるいは当然に認識し得た状況を前提として判断されることになる。
本件では,

武器を使用する相当の理由があったこと
C巡査長は,原告の行為について公務執行妨害傷害器物損壊

の現行犯が成立すると認識した上,これら容疑で原告を逮捕すること,原告が原告車で逃走するのを防止すること,さらに原告車を凶器に使って抵抗するのを抑止することの必要性から,武器を使用する相当の理由がある場合に該当すると判断したことは明らかである。



本件発砲が,その事態に応じた合理的必要性の限度内にあったこと当時,原告による自動車という凶器を用いた激しい抵抗があり,
原告が本件駐車場から逃走してしまう極めて緊迫した状況があっ
た,



原告が,警察官の職務質問や原告車の停止の求めに応じることな
く,原告車を後前進させて抵抗すること自体が,現実的かつ具体
的な切迫した危険であると認められ,現に原告は,C巡査長に衝
突するように原告車を前進させ,C巡査長が身をかわしていなか
ったら,同人が重大な受傷を負うことが必至であった,


第1発砲は原告車の後部座席の方を,第2発砲は原告車の助手席
の方を狙ったもので,結果も狙いどおりで,原告に危害を与える
ことはなかった,



原告車が逃走すると,原告のこれまでの危険な運転の仕方からし
て,逃走中に人身事故等の事故が発生することが予想された,

こと等を考えれば,C巡査長が,原告車の逃走を断念させ,公務執行妨害罪・傷害罪・器物損壊罪等の現行犯として逮捕するなどの目的で拳銃を使用したことは,その場の事態に応じた合理的な必要範囲内の行為であり,本件発砲は正当にして適法である。
おって,原告の逮捕後判明したことであるが,原告は,当時,無免許で原告車を運転していたのであり,また,当時覚せい剤を身体に摂取していて,その影響下にあった。
(2)

損害額

(原告の主張)
本件発砲は,いずれも,原告の生命身体に危険を生じさせるものであった。また,本件発砲の発砲音,弾丸が原告車の窓ガラスに衝突してガラスが割れる音及び弾丸が原告車に突入して車内を飛び,車体にぶつかって生じる衝撃音はすさまじく,原告は,撃ち殺されるのではないかとの著しい恐怖を感じた。
そして,原告は,必死の思いで車を運転して逃走し,車を乗り捨てて近くの山に逃げ込んだが,警察官が自分を追いかけて殺しに来るのではないか,出ていったら撃ち殺されるのではないかなどの恐怖から,翌日になっても日が暮れるまで山から出ることができず,その間,雨に打たれ,食事もできず,疲労困憊した。
原告は,今に至っても,発砲された当時のことをしばしば思い出しては,当時と同じような恐怖を感じ続けており,生活する上で重大な支障を生じている。
これにより原告が被った精神的損害は1000万円を下らない。
本件と相当因果関係のある弁護士費用は100万円である。
したがって,損害額は,1100万円である。
(被告の主張)
争う。
第3争点に対する判断
1認定事実
前提事実に,後掲各証拠及び弁論の全趣旨を併せると,以下の事実が認められる。
(1)

原告車の追跡の開始(乙3,5,10,45,46)

被告の職員であり,広島県警察A警察署地域課機動警ら係に属するB
巡査部長及びC巡査長は,平成24年7月6日,本件パトカーに乗車して,警ら活動にあたっていた。
B巡査部長が運転席に座り,C巡査長は助手席に側乗していた。

同日午後2時46分ころ,B巡査部長らは,広島県警察本部から,

E警察署管内,E区Fの犯罪情報番号は広島○○○み××××ツ覚せい剤容疑の車両が逃走ワゴンR,白色車両人着は半袖黒色Tシャ隣接署であるA警察署であっても,付近の検索を願いたい。

との
指令を受領したことから,付近の検索を開始した。

B巡査部長らは,同日午後3時ころ,広島市E区Fd丁目e番地fユ
アーズ△△店先の山陽自動車道Gインター西入口交差点付近にて原告車を発見した。

B巡査部長らは,赤色灯を点灯させ,サイレンを鳴らして,車線マイ
クにて原告車に停止を呼びかけたが,原告車は停止しなかった。原告車は,時速約50キロメートルにて,団地内の狭い道路を走行し,途中にある複数の交差点も減速せずに通過するなどして逃走を続けた。B巡査部長らは,原告車の逃走態様から,覚せい剤事犯の嫌疑が高いと考えて追跡を続けたところ,原告車は,午後3時5分ころ,広島市E区Fa丁目b番c号所在のH方西側駐車場(本件駐車場)に進入し,別紙①の位置付近に,西向きで停車した。
B巡査部長らは,原告車に続いて本件駐車場内に進入し,本件パトカーを,別紙警ら用無線自動車の位置に南向きで停止させた。
本件駐車場の出入口は,北側の一箇所のみである。
(2)

C巡査長による本件発砲に至るまでの経緯(乙4,5,9,10,14,15,16,45,46)


B巡査部長は,本件パトカーを停止させると,原告に対する職務質問をすべく,原告車の運転席側ドアへ赴いた。このとき,原告車のエンジンはかかったままで,原告は原告車の運転席に座っていた。運転席の窓ガラスが半開状態であったため,B巡査部長は,原告に対し,

何しよんや,止まれ。

などと言ったところ,原告は,ハンドルに手をかけたまま,シフトレバーを動かすなどした。B巡査部長は,原告が逃走を図ろうとしていると判断し,エンジンキーを抜こうと運転席ドアの窓から車内に手を差し入れたところ,原告車が左後方に後退を始めた。B巡査部長は,体を左にひねるように原告車を避けようとしたが,B巡査部長の体が原告車に衝突し,さらに,その左足の甲部が原告車の右前輪により轢過された。
C巡査長は,B巡査部長に遅れて本件パトカーを降車した。C巡査長は,B巡査部長は原告車の運転席窓に手を差し入れている様子や,原告車が後退を開始した様子を,本件パトカーの助手席の脇で目撃した。イ
原告車は,上記の後退の途中,原告車の右前角部を本件パトカーの右前角部に接触させた。


原告車は,そのまま別紙④の位置まで後退を続けた。一方,C巡査長は,原告車の逃走を防止すべく,別紙アの位置に移動して原告車の進路を塞ぎ,停止するよう警告しつつ,原告車に向けて拳銃を構えた。しかし,原告車は,C巡査長の方へ向けて前進を開始したため,C巡査長は,原告車が一,二メートルの距離に迫ったところで左方に飛び,原告車を避けた。そして,C巡査長は,前進を続ける原告車の後部ドアが目の前に来た時,原告車の右側方七,八十センチメートルの距離から,原告車の後部座席を狙って,拳銃を1発発射した(第1発砲)。
この弾丸は,原告車の右後部ドアガラスを破損させ,助手席後部座席に取り付けられていたチャイルドシートの左右側面を貫通した後,左後方ドア内部に残留した。


原告車は,その後も,本件駐車場出入口に向けて前進を継続した。C巡査長は,別紙ウの位置付近まで移動し,約2メートルの距離から,原告車の助手席を狙って,拳銃をさらに一発発射した(第2発砲)。
この弾丸は,原告車の車両後部ガラスを損壊させ,さらに,前記チャイルドシートの座席背面に貫通跡を生じさせ,助手席のヘッドレスト内に残留した。


(3)

原告車は,それでも前進を続け,本件駐車場から走り去った。
事実認定の補足説明


以上に対し,原告は,原告に対する公務執行妨害,覚せい剤取締法違反,
道路交通法違反,建造物侵入窃盗被告事件(以下本件被告事件という。)の被告人質問において,大要,①B巡査部長が原告車の運転席に来たことや運転席ドアガラスから腕を差し入れたということはなく,B巡査部長の足を原告車で轢いたことはない,②別紙①の位置からいったん後退した原告車を再発進させたとき,C巡査長は原告車の正面ではなく右前方に立っており,C巡査長はその位置から第1発砲をしてきたもので,原告車の進路前方にC巡査長がいる状態で原告車を前進させたこともないなどと供述している(乙44)。そこで,以下で上記のとおり認定した理由を述べる。

①の点について
証拠(乙10)によれば,原告車の運転席ドアミラーは,原告車が別紙
①の位置にあったときは,通常の角度でついていたにもかかわらず,別紙④の位置に移動する途中の段階で,外側に向けて不自然に曲がった状態でついていたことが認められる。ドアミラーが本件駐車場内でこのように曲がった原因は,現場の状況からして,B巡査部長の身体との接触によるものと考えるのが自然である。この事実は,原告の上記ア①の供述と矛盾するとともに,前記(2)アの認定に沿う本件被告事件におけるB巡査部長の証言(乙45)を裏付けるものといえる。
また,証拠(乙10)によれば,原告車が別紙①の位置にあった際は,原告車運転席のドアガラスは一部が開いている状態であったにもかかわらず,別紙④の位置へ後退途中であった約6秒後には,同ドアガラスは全て閉じられていたことが認められる。この事実は,B巡査部長が原告車のエンジンキーを抜き取ろうとしたことと整合する一方で,原告は,本件被告事件において,窓ガラスを閉めた記憶はないと供述するに留まり(乙44),ドアガラスを閉じた理由について何ら説明をしていない。
以上からすると,①の点に関する原告の供述は信用できない。ウ
②の点について
この点につき,C巡査長は,本件被告事件において,前記認定事実に沿う証言をしているところ,前記(2)ウ認定のとおり,本件発砲直前,原告車は本件駐車場からの逃走を試みていたことからすれば,C巡査長としては,原告の逃走を阻止すべく,原告車の前方に立つことは,その職務内容に照らして極めて自然である。また,前記(2)オのとおり,原告車は,最終的に本件駐車場から走り去ったところ,C巡査長が自発的に原告車に進路を空けるとは考えがたいことからして,原告がC巡査長に向けて原告車を進行させた結果,原告車をよけざるを得なかったとするC巡査長の証言(乙46)も自然なものといえる。
その上,前記(2)ウのとおり,第1発砲による弾丸は,原告車の右後部ドアガラスを破損させ,助手席後部座席に取り付けられていたチャイルドシートの左右側面を貫通した後,左後方ドア内部に残留したことが認められる。これによれば,この弾丸の入射角は,原告車の右側方からと推認され,原告車の前方から発射したとは考えられない。この点も,C巡査長の上記証言を裏付けている。
以上からすれば,②の点に関する本件被告事件におけるC巡査長の証言(乙46)は,内容において自然であり客観的事実にも符合するから信用することができ,これに反する本件被告事件における原告の供述(乙44)は採用できない。
2争点(1)(本件発砲行為が違法なものであったか否か)について(1)

警職法7条本文は,警察官は,犯人の逮捕若しくは逃走の防止,自己若しくは他人に対する防護又は公務執行に対する抵抗の抑止のため必要であると認める相当な理由のある場合においては,その事態に応じ合理的に必要と判断される限度において,武器を使用することができる。と規定している。
このように,警職法は,一定の目的のために武器を使用することが必要と認められる場合には,必要と判断される限度において武器の使用をすることができると定めている。
(2)

武器の使用の目的及び武器の使用が必要と認められる相当な理由の有無前記認定事実のとおり,原告は,本件当日,ガソリンスタンドにて,覚せい剤事犯に関与していることを強くうかがわせる不審な言動をとり,その後にB巡査部長らから停止を求められても,これに従わず,団地内の道路を高速度で走行したり,減速することなく複数の交差点を通過するといった不特定多数の通行人等の生命身体に対する危険性の高い運転をしていたことが認められる。
また,原告は,本件駐車場に進入した後は,職務質問を試みたB巡査部長が原告車の傍らにいるにもかかわらず,原告車を後退させて同人の左足を轢過したり,原告車の逃走を阻止するために原告車の進路を塞いで停止するよう警告したC巡査長の方に向けて前進するといった危険な行為をしていたことが認められる(これらは,公務執行妨害罪に該当し得る。)。さらに,原告が本件駐車場の出入口に向けて前進を開始した時点で,B巡査部長及びC巡査長は既に本件パトカーから降車していたから,本件パトカーで直ちに原告車を追跡することができる状況ではなく,原告の逃走を防止し,通行人等の生命身体に対する危険を避けるためには,原告車を停止させる必要性が高いということができる。
以上によれば,本件発砲については,犯人の逮捕又は逃走を防止するためのものであるといえる。また,原告車に対して威嚇発砲することとしたC巡査長の判断は,合理的な判断によるものであり,上記目的のために拳銃を使用することが必要であると認める相当な理由があったということができる。

(3)

本件発砲が,合理的に必要と判断される限度内であったか否か


まず,第1発砲についてみるに,前記認定事実(2)ウのとおり,C巡査
長は,原告車の後部ドアが目の前に来た時に,後部座席を狙って,後部座席の側方七,八十センチメートルの位置から発砲したことが認められる。
したがって,C巡査長が第1発砲をした際,原告車の運転席は既にC巡査長の前を通過していたから,C巡査長が発砲の目標とした後部座席は,C巡査長からみて,原告がいた運転席とは反対の方向となる上,第1発砲は,原告車から七,八十センチメートルと至近距離からの発砲であったのであるから,C巡査長が年に1回,実射訓練を行うなど拳銃の実射の経験を有していること(乙46)も考慮すれば,第1発砲による弾丸が原告に危害を加えるおそれが現実的に生じていたとは考えられない。
そして,前記認定事実(2)で判断したとおり,原告は,強固な逃亡の意思を持って本件駐車場から走り去ろうとしており,原告が原告車を運転して逃走すると通行人等を巻き込んで重大な事故を起こしかねない状況にあったことや,上記のとおりの第1発砲の態様からすると,第1発砲は,その事態に応じ合理的に必要と判断される限度内の武器の使用であったと認められる。

次に,第2発砲についてみるに,C巡査長は,前記認定事実(2)エのとおり,原告車の約2メートル後方から,原告車の助手席を狙って発砲したことが認められる。上記アで述べたとおり,原告は強固な逃亡の意思を持って本件駐車場から走り去ろうとしており,原告が原告車を運転して逃走すると通行人等を巻き込んで重大な事故を起こしかねない状況にあったこと,C巡査長は,近接した位置から助手席を狙って発砲したこと,C巡査長の拳銃の訓練歴に照らすと,第2発砲も,その事態に応じ合理的に必要と判断される限度内の武器の使用であったと認められる。
(4)

原告は,本件発砲が,警職法7条ただし書きの人に危害を与えた場合に当たると主張する。しかしながら,同条にいう危害とは,人の生命・身体を侵害することをいい,単に人に恐怖心を与えたに留まる場合は含まないものと解される。
本件では,本件発砲により原告に何らかの傷害結果が発生したとは認められないし,前記(3)の認定・判断によれば,本件発砲は,原告に対して危害を与えるような方法による武器の使用であるとは認められないから,本件発砲が警職法7条ただし書きの人に危害を与えた場合に当たるとする原告の主張は採用できない。
(5)

結論
以上によれば,本件発砲は,いずれも警職法7条所定の要件を満たした警察官の適法な職務行為と認められるから,これが国家賠償法1条1項所定の違法な行為であるとする原告の主張は採用できない。

第4結論
したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

広島地方裁判所民事第1部

裁判長裁判官

龍見
裁判官

中尾昇隆宏
裁判官

奥田惠美
(別紙省略)

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