判例検索β > 平成26年(行コ)第365号
遺族一時金不支給決定等取消請求控訴事件
事件番号平成26(行コ)365
事件名遺族一時金不支給決定等取消請求控訴事件
裁判年月日平成27年9月30日
法廷名東京高等裁判所
判示事項オセルタミビルリン酸塩(タミフル)の副作用を理由とする独立行政法人医薬品医療機器総合機構法に基づく医療手当に係る未支給の救済給付並びに遺族一時金及び葬祭料の給付の各請求に対する不支給決定が,適法とされた事例
裁判要旨オセルタミビルリン酸塩(タミフル。以下「タミフル」という。)の副作用を理由とする独立行政法人医薬品医療機器総合機構法に基づく医療手当に係る未支給の救済給付並びに遺族一時金及び葬祭料の給付の各請求に対する不支給決定につき,当該被害が医薬品の副作用によるものであることについての立証責任は,上記の給付の請求をする者がこれを負い,その証明の程度は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを要するとした上で,タミフルと突然死との間の因果関係を裏付ける的確な証拠はなく,本件の死因についてはインフルエンザ脳症の可能性が強く疑われ,その死亡及び死亡に至る症状はタミフルの副作用によるものであるとは認められないとして,上記不支給決定を適法とした事例
裁判日:西暦2015-09-30
情報公開日2017-10-19 09:30:06
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平成27年9月30日判決言渡し
平成26年(行コ)第365号

遺族一時金不支給決定等取消請求控訴事件(原

審・東京地方裁判所平成22年(行ウ)第596号)
主文1
本件控訴を棄却する

2
控訴費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由

第1

控訴の趣旨

1
原判決を取り消す。

2
被控訴人が,平成18年7月3日付けで控訴人に対してした医療手当,遺族一時金及び葬祭料の各不支給決定処分(薬機発第0703052号,第0703053号)を取り消す。

第2
1
事案の概要(以下,原判決の略称をそのまま用いる。)
本件は,控訴人が,インフルエンザに罹患した控訴人の子であるP1が死亡
したことについて,P1が死亡したのは,医師から処方されて服用した独立行政法人医薬品医療機器総合機構法(機構法)所定の許可医薬品である抗インフルエンザウイルス剤のオセルタミビルリン酸塩(製品名○)(タミフル)の副作用であるとして,被控訴人に対し,機構法に基づく医療手当に係る未支給の救済給付並びに遺族一時金及び葬祭料の給付の各請求(本件各請求)をしたところ,被控訴人から,いずれも不支給とする旨の各決定(本件各不支給決定)を受けたため,本件各不支給決定を不服としてその取消しを求めた事案である。
原審は,P1の死亡及びそれに至る症状はタミフルの副作用によるものであるとは認められないから,本件各不支給決定は適法であるとして,控訴人の本件請求をいずれも棄却したため,控訴人が,これを不服として本件控訴を提起した。

2
本件における関係法令等,前提となる事実,争点及び争点に関する当事者双方の主張は,後記3において原判決を補正し,後記4において当審における当事者の主張の補充を加えるほかは,原判決事実及び理由欄の第2事案の概要の1ないし3(原判決2頁17行目から同13頁12行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

3
原判決の補正

(1)

原判決3頁26行目及び4頁7行目の医療手当請求書をいずれも

医療手当請求書(副作用救済給付用)に,同3頁26行目から4頁初行にかけて及び4頁7行目の遺族一時金請求書をいずれも遺族一時金請求書(副作用救済給付用)に改め,4頁9行目の3の次に,11を加える。(2)

原判決4頁14行目の厚生労働大臣はの次に,平成18年6月22日になされた薬事・食品衛生審議会の答申を聴いた上,を,同22行目の未支給のの次に副作用をそれぞれ加える。
(3)

原判決5頁4行目の基づきの次に,本件各不支給決定を不服としてを加える。4
当審における当事者の主張の補充

(1)

控訴人の主張


機構法4条6項に規定する医薬品の副作用によるものであることの立証責任等について
医薬品に関する副作用救済給付制度は,昭和54年におけるスモン訴訟
和解等を契機として,医薬品には,一定の確率で不可避的に有害な副作用を生じる特殊性があるため,当該医薬品の承認過程や医師による投薬に何ら過失がなくとも,薬害被害者が必ず生じてしまうものの,他方で,薬害被害者が,民事上の不法行為責任や債務不履行責任を追及するには,訴訟提起の負担に加えて,極めて高度な医学的知見が必要である責任原因(故
意・過失等)や因果関係の立証等を行わなければならないなど,事実上極めて困難な負担を強いるものであることが認識されるに至ったため,医薬品の副作用による健康被害者の迅速な救済を図ることを目的とした医薬品副作用被害者救済基金法(以下旧基金法という。)が制定され,被控訴人の前身である特別認可法人医薬品副作用被害救済基金(以下旧基金という。)が発足して,昭和55年5月1日から医薬品副作用被害者救済制度が開始されたものであり,上記立法の過程では,政府委員から疑わしきは救済する運用とすべきである旨の答弁がなされ,また,法文上も

医薬品の副作用による健康被害の迅速な救済を図ることを目的とする。

(旧基金法1条)と明記され,更に衆参両社会労働委員会において救済対象被害の判定(においては)…被害者がふりにならないように特に留意することとの付帯決議も行われていたものである。このような経緯に鑑みれば,医薬品に関する副作用救済給付制度は,医薬品の投与・服用と副作用の発生との間の因果関係の証明が困難であることから,薬害被害者の立証の負担を軽減し,被害を迅速に救済するためのものであって,この趣旨は,機構法における医薬品副作用被害救済給付制度においても同様であるというべきである。
また,この医薬品副作用救済給付制度は,労働者災害補償保険法における各種補償保険給付制度及び公害による健康被害に対する補償給付制度と並ぶ公的救済制度であるというべきところ,これらの公的救済制度は,被害の救済を徹底させるために,ある活動から生じた損害があれば当然にこれを補填する制度と位置付けられているというべきである。
以上によれば,機構法4条6項に規定する医薬品の副作用の立証においても,副作用救済給付を請求する者について,因果関係の立証の緩和が要請されているというべきであり,また,その証明度の軽減についても,上記のような医薬品副作用救済給付制度を認めた旧基金法の立法経
緯,それを継承した機構法の目的・趣旨等に鑑みれば,いわゆる高度の蓋然性は要しないというべきである。

タミフルの服用と突然死との因果関係について

(ア)

症例報告に関する情報について

タミフルについては,被控訴人及び厚生労働省が,その副作用が疑われる症例報告に関する情報を公表しており,その中には,タミフルの服用後に小児が突然死した例が多数存在している。
東京大学大学院医学系研究科国際生物医科学講座発達医科学分野教授P2が報告したタミフルの服用によりせん妄状態が生じた症例は,そもそも,せん妄のメカニズムがいまだ解明されておらず,P2のせん妄に関する意見も独自のものにすぎない上,せん妄が中枢神経へのダメージによって発症することについては臨床的合意が得られていることに鑑みれば,上記症例は,タミフルにより中枢神経抑制作用が認められたものというべきであり,また,P3医療センター小児救急科P4が報告したインフルエンザシーズンに睡眠中急死した小児6症例は,4症例がタミフルを服用していたものであり,また,その余の2症例も,1症例は薬剤使用歴の聴取が不十分であった可能性があるのであって,これらの症例報告からすると,タミフルの服用と突然死との因果関係を否定することはできない。
(イ)

タミフルに関する動物実験について

タミフルについては,製薬会社が平成13年度に行った動物実験(旧試験)や平成19年4月に行った動物実験(新実験),P5大学薬学部医療薬学科応用薬理学講座P6らが行った動物実験(P6らの実験)などが行われているところ,これらにおいては高用量の薬剤が使用されているが,これは,少数の動物で確実に毒性を検出するため及び特別な条件の人でも毒性が発現することを予測するためであって,これらの目的
のためには臨床用量よりも高用量の薬剤を使用することで初めて当該薬剤の毒性を検出することが可能なのであり,タミフルの製造メーカーであるP7社の研究者(P8)も,毒性を知るためには病態モデルが必要であると指摘しており,これは成熟ラットの動物実験の場合には血中濃度や脳中濃度を高めることが必要であることを意味するのであるから,上記の動物実験において高用量の薬剤が使用されていることをもって,タミフルの服用と突然死との因果関係を否定することはできない。また,動物実験においては,実験群と対照群とを比較して毒性所見に有意差のない用量があった場合でも,それをもって最大無影響量あるいは最大無毒性量とみることはできず,毒性の閾値を示すものではない上,毒性なるものが個体差の大きい生物反応の反映であることに鑑みれば,そもそも閾値が存在するのかが疑問であり,仮に閾値が存在するとしても,統計学的検定の手法では本質的に閾値を検出することは不可能である。したがって,高用量の薬剤を使用することが有用な動物実験は閾値が存在しない薬剤についてであって,タミフルは閾値が存在するから,高用量の薬剤を用いた動物実験が有用でないということはできない。
さらに,P6らの実験は,タミフルをラットに投与する際,酸性溶液の投与により生体反応が生じうることも考慮して,静脈内投与だけでなく十二指腸投与も行い,そのいずれにおいても呼吸抑制の症状が見られており,また,その用量も,人とラットの感受性を考慮して,人に対する臨床投与量とそれほど違わない用量を用いたものである上,P6らは,横隔神経放電が抑制された場合に呼吸中枢の抑制が示唆されるという横隔神経放電実験も行い,横隔神経放電の頻度と振幅が減少するなどの抑制作用も検証しているところであり,これらによれば,タミフルの服用と突然死との因果関係は否定できない。

(ウ)

タミフルに関する疫学調査について

疫学研究では,症例報告,症例集積検討,集団傾向分析,ケース・コントロール研究,コホート研究,無作為化臨床試験があり,これらの中では,ある規定された集団の対象者を同定し,その集団を時間経過のなかで追跡して結果の差異を探す研究であるコホート研究が,曝露の有無に基づいて患者が選ばれ,その後の疾患が調べられるため,新薬の様々な作用の可能性を評価する販売後監視研究にとっては有用であるところ,統計数理研究所P9らの研究は,いわゆる前向きコホート研究である上,抗インフルエンザ剤以外の処方や一般市販薬の使用状況も検討し,症状についても必要な情報を収集し,集積期間についても2時間毎の解析を行うなどしており,現時点において,タミフルの服用と有害事象発症との因果関係に関する最も優れた疫学研究であるというべきであり,同研究においてタミフルとせん妄及び意識障害との関連性が指摘されている。
他方,P10大学P11らの研究は,電子化されたデータベースを用いたいわゆる後ろ向きのコホート研究である上,抗インフルエンザ剤以外の薬剤の処方や一般市販薬の使用状況が不明であり,症状が出ていても受診していなかったり,病名として何も記載されていなかったり,集計期間が長すぎるなどの根本的な欠陥が認められから,疫学調査としての意義に乏しい。
これらの疫学調査の結果によれば,タミフルの服用と突然死との因果関係は否定できない。
(エ)

オセルタミビルの脳内の各種受容体等への作用について

未変化オセルタミビルは,中枢神経に存在する155個の受容体等のうち,NMDA受容体の阻害剤であると考えられるところ,バインディング・アッセイによれば,オセルタミビルについては,30μMまでの
脳内濃度では中枢神経に存在する155個の受容体等に意味のある結合が確認されないとされているが,同じくNMDA受容体を阻害するアマンタジンも30μMでは50%阻害に達しないことに照らせば,タミフルにおいても,30μM以上の濃度での結合親和性を検査することが必要であり,したがって,上記バインディング・アッセイの結果をもって,タミフルが中枢神経系に作用しないということはできない。

インフルエンザ脳症の可能性について

(ア)

P1は,タミフルを服用した後,頭痛を訴え,その後,突然に心肺
停止となっているところ,タミフルには脳圧亢進作用があることに照らすと,脳圧亢進作用によって急速に脳浮腫が生じたため,P1が頭痛を訴えたものと考えるのが合理的であり,したがって,P1について,心肺停止後,程なく脳浮腫が生じていたとしても,タミフルを服用したためであると考えて何ら矛盾はない。
(イ)

インフルエンザ脳症ガイドラインにおいては,病態に薬剤が関与し
ている場合や心停止で低酸素が関与している場合には,インフルエンザ脳症とは診断できず除外されると示されているところ,P1は,50分間という長時間の心肺停止が生じており,低酸素が生じていたことは明らかであるから,インフルエンザ脳症とは診断できない。
(ウ)

睡眠前には全く異常が認められていなかったにもかかわらず,突然
に心肺停止に陥る症例は,従来のインフルエンザ関連脳症では認められていないことからも,P1の死亡がインフルエンザ脳症によるものと考えることはできない。
(エ)

典型的な大脳浮腫型(全大脳型)インフルエンザ脳症は,確立した
概念ではなく,タミフルが承認された後に幼児の突然死が多発したことから提唱され始めた脳症であり,むしろタミフルで幼児に呼吸抑制が発生した場合に生じるものというべきであり,したがって,P1の
頭部CT所見が大脳浮腫型であったことをもって,典型的なインフルエンザ脳症というべきではなく,タミフルと突然死との因果関係を否定することはできない。
(オ)

これまでにも,低酸素脳症になった直後に脳浮腫が認められた絞首
の症例が報告されているのであって,低酸素虚血性脳症の場合においても24時間以内に脳浮腫が出現するのであるから,P1の頭部CT所見において,短時間で脳浮腫が認められたからといって,低酸素虚血性脳症が否定されるものではない。
(2)

被控訴人の主張
機構法4条6項に規定する医薬品の副作用によるものであることの立証責任等について
医薬品に関する副作用救済給付制度は,医薬品の副作用被害を迅速に救済するため,医薬品の副作用の特殊性や,通常の民事訴訟における副作用被害者の立証の困難さなどを踏まえ,中立・公平かつ専門的な第三者機関において医薬品による副作用等の医学的薬学的事項を判断させる仕組みを通じて請求者の立証の負担を軽減するという独自の制度を採用したものであり,このような立法趣旨や経緯等に照らすと,請求者が,高度に専門的でありかつ中立・公平な機関による判定の内容を不服として,不支給決定の取消訴訟を提起する場合においてまで立証負担の軽減を図ることは,当該制度は想定していないというべきである。
また,医薬品による副作用救済給付制度は,許可医薬品の製造販売業者が有する社会的責任に基づいて行われる見舞金的性格の強い給付であるから,医薬品により健康被害を生じた者の損害を塡補するという民事上の損害賠償責任に基づく給付ではなく,労災保険給付等の他の公的制度ともその性質を根本的に異なるから,副作用救済制度と他の公的救済制度を同一視することはできない。

さらに,法令上も,機構法等には,不支給決定に対する取消訴訟において,請求者の立証責任の軽減を図る特別な定めはないのであるから,当該取消訴訟における因果関係の立証についても,通常の民事訴訟と同様,高度の蓋然性の証明が必要であるというべきである。

タミフルの服用と突然死との因果関係について
(ア)

症例報告に関する情報について

P2が報告したタミフルの服用によりせん妄が生じた症例は,神経病理学を専門とする小児科医であるP2において,脳の部位に関する具体的な医学的知見に基づいて,中枢神経抑制作用とせん妄との相違を指摘した上,タミフルを服用した幼児にせん妄が生じたとしても,それが直ちにタミフルの服用により突然死が生ずることを示唆しないとしているのであって,その見解を否定する医学的な根拠は何らない。
また,P4が報告した睡眠中急死した小児6症例は,4症例がタミフルを服用していたものではあるが,タミフルとは別の原因で突然死した可能性も否定できず,また,2症例はタミフルを服用していなかったのであって,タミフルを服用しなくとも突然死が生じうることを十分に示しているものである。
(イ)

タミフルに関する動物実験について

旧試験は,計算式に誤りがあったことが企業から報告されているのであるからそのデータは信頼性に乏しく,より正確な新試験のデータを重視すべきであるところ,新試験は,中毒量・致死量等を明らかにすることを主たる目的として臨床用量に比して非常に高用量のタミフルを投与した急性毒性試験であるのであるから,このような新試験の結果をもって,タミフルと突然死との間の因果関係を認めることはできない。
また,P7社の研究者(P8)において病態モデルが必要であると言及した文献などは見当たらず,元国立衛生医薬品研究所長P12も,毒性試
験においてインフルエンザに罹患した動物を病態モデルとして使うことはない旨を述べており,さらに,日・米・EC三極医薬品承認審査ハーモナイゼーション国際会議(ICH)における合意事項に基づいて改正された単回及び反復投与毒性試験のガイドラインの改正について(平成5年8月10日付け薬新薬88号,厚生省薬務局新医薬品課長,審査課長通知)(乙88)においても,病態モデルが必要であるとはされていないのであるから,動物実験において,高用量の薬剤を投与することが必要であるとの主張は,毒性学における知見にそぐわず,動物実験の実情を曲解しているというべきである。
さらに,P6らの実験は,酸性溶液を用いたものである上,静脈内投与だけでなく十二指腸内投与も行い,横隔神経放電実験も行っているが,十二指腸内投与は,経口投与とは異なり,一度に全ての薬物が消化管において最大の薬物吸収表面積を有する小腸へと移行するから,結果として最高血漿中濃度も高くなるのであり,また,横隔神経放電の抑制がオセルタミビルの特異的な薬理作用によるのであれば,投与量の増加に応じて作用の程度が大きくなったり持続時間が徐々に長くなることが想定されるが,そのような変化はみられないのであるから,P6らの実験によるラットの呼吸停止や死亡は,酸性溶液の影響ないし高用量のオセルタミビルの投与による瀕死状態によって引き起こされたものというべきである。
(ウ)

タミフルに関する疫学調査について

疫学研究においては,いわゆる前向き又は後ろ向きの研究であるか否かでその信頼性の優劣が判断されるものではなく,当該研究の実施方法が適切であったか否かを吟味する必要があるところ,P9らの研究は,一般市販薬(非処方薬)と意識障害との関係を検討しておらず,回収した調査票についても不明な点についての照会ができていないため適切な情報が収集されておらず,さらに発熱から8時間以降を2時間毎に分析しているにと
どまるものであって,P9らにおいても,統計学的に有意な上昇がみられたという考察に至っていない上,P9らの研究に対しては,安全対策調査会においても種々の問題点が指摘されていることからすると,P9らの研究に対する信頼性は低いというべきである。
他方,P11らの論文は,平成19年1月から平成22年6月にかけてのものであるところ,アメリカでは,アスピリンとライ症候群(急性脳症のひとつ)との関連性が報告されたことを契機として,昭和62年以降は非ステロイド性抗炎症薬の服用が大きく減少していたと推察され(乙90の2),また,平成19年には米国食品医薬品庁により小児や青少年は発熱やインフルエンザにアスピリンを使うべきではないとの注意喚起も発せられていたこと(乙91の2)からすると,P11らの論文が,非ステロイド性抗炎症薬が処方された事例を多数含むものであるとは考え難い上,そもそも,P11らの論文は,米国疾病病管理予防センターと米国健康保険会社の業界団体及び参加医療機関の共同プロジェクトによってなされた積極的な監視システムであり,データをプロスペクティブに収集したものであるから,データベース研究であっても重大な欠陥があるということはできず,その集計期間も科学的な合理性を有することに照らすと,十分に信頼性が認められる。
(エ)

オセルタミビルの脳内の各種受容体等への作用について

そもそも,臨床用量のアマンタジンがNMDA受容体の阻害により薬理作用を示す科学的根拠がない上,バインディング・アッセイにおいて設定された30μMが,既に極めて特異的な状況下において臨床用量を使用した際の限界と想定されるオセルタミビル脳内濃度の10倍から15倍を超えた濃度である以上,これを超える濃度でのバインディング・アッセイの実施は臨床的な意義がない。

インフルエンザ脳症の可能性について

(ア)

そもそも,タミフルに脳圧亢進作用がみられるという科学的根拠に乏
しく,P1について,タミフル服用による頭蓋内亢進が生じていたとは考え難い上,P1の臨床経過は,インフルエンザ脳症の経過と合致し,神経病理学を専門とする小児科医であるP2も,その医学的経験と知見に基づき,P1が典型的な全大脳型インフルエンザ脳症と判断していることに照らせば,P1にはインフルエンザ脳症が生じていたと判断するのが医学的に妥当である。なお,P1が,50分間という長時間にわたって心肺停止が生じていたことを示す根拠は何らない。
(イ)

大脳浮腫型(全脳型)インフルエンザ脳症は,P4が,タミフルが承
認される以前においても当該症例があった旨を報告しており,これについては,P2も指摘しているところであって,大脳浮腫型(全脳型)インフルエンザ脳症は,タミフルが承認された後に幼児の突然死が多発したことから提唱され始めた脳症ではない。
(ウ)

低酸素状態となった直後に脳浮腫が認められたとされる絞首例につい
ては,絞首から頭部CT検査までの時間的経過が不明であるから,短時間で脳浮腫を発症する低酸素性虚血性脳症の症例はみられない。
第3
1
当裁判所の判断
当裁判所も,原判決と同様,P1の死亡及びそれに至る症状はタミフルの
副作用によるものとは認められず,したがって,本件各不支給決定は適法であるから,本件請求は棄却すべきものと判断する。その理由は,後記2において原判決を補正するほかは,以下に説示するとおりである。
2
原判決の補正

(1)

原判決16頁4行目のうつぶせになったを顔を横に向けてうつぶせになったに改める。(2)

原判決16頁5行目の4日午後3時55分頃の次に,P1の兄が目を覚ましたので,を加える。
(3)

原判決16頁23行目のCT検査を頭部CT検査に改め,2

4行目の「であった。」の次に

なお,同頭部CT検査は,4日午後5時10分頃から午後6時50分頃までの間に行われた。

を加える。(4)

原判決17頁20行目の「死亡した。」の次に

なお,病理解剖は,控訴人らの意向により実施されなかった。

を加える。(5)

原判決21頁2行目の被告はの次に,薬事法77条の4の5第3項に基づき,医薬品等の製造販売業者等が医薬品等の副作用によるものと疑われる疾病,障害又は死亡の発生等を知ったときに,その旨の報告を受けることとされており,その際の「副作用によるものと疑われるものとは,厚生労働省医薬食品局長の平成17年3月17日付け薬事法施行規則の一部を改正する省令等の施行について(副作用等の報告について)(乙17)により,因果関係が否定できるもの以外を指し,因果関係が不明なものも含まれることとされているため,」を,3行目のしておりの次に,したがってをそれぞれ加える。(6)

原判決21頁9行目の否定的であるとされているとしているを

否定的とされているとし,これらの小児症例を,平成18年1月27日に開催された同省の薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会に報告したに改める。(7)

原判決25頁12行目のP2はの次に,小児神経学,神経病理学(脳形成異常,神経皮膚症候群,急性脳症)を専門とする小児科医であり,平成21年9月に出されたインフルエンザ脳症ガイドライン(改訂版)(甲5)の総括担当者としてその編纂に当たった者であるがを加える。
(8)

原判決25頁25行目のP4はの次に,平成15年を,26

行目の小児6例をの次に『小児内科』に「インフルエンザ脳症の臨床スペクトラムとして」を,同26頁2行目の医師の次に,聞き取り調査を実施した医師らはをそれぞれ加える。(9)

原判決26頁26行目のP9らはの次に,平成16年,を,

学会においての次に,「神経症状を認めることなく死亡したインフルエンザ脳症の一例として」をそれぞれ加える。(10)

原判決27頁9行目の平成17年6月の次に,平成16年7月から平成17年3月までにおけるを加え,16行目の医師はその膨隆を見ていないというものであったを医師が診察したときには問題はなかったというものであったに改める。(11)

原判決27頁19行目の平成13年度にの次に幼若ラットを用いたリン酸オセルタミビル単回投与毒性試験としてを加える。(12)

原判決28頁9行目から10行目にかけての製薬会社にの次に

幼若ラットを用いたリン酸オセルタミビル単回投与毒性試験としてを加える。
(13)

原判決30頁17行目の平成20年の次に,「抗インフルエンザウイルス薬リン酸オセルタミビル(タミフル)のマウスにおける体温低下作用と呼吸抑制作用と題して」を,18行目の体温を体温及び呼吸抑制をそれぞれ加える。(14)

原判決31頁4行目の24日の次に,「リン酸オセルタミビルの高用量は,麻酔下のラットで急性呼吸停止を誘発すると題する」を加える。
(15)

原判決32頁3行目の平成20年の次に,「P糖蛋白質がオセルタミビルの血液脳関門通過を制限すると題して」を加える。(16)

原判決32頁11行目の実施しの次に「中枢神経系に関する非臨床試験および精神神経系有害事象の臨床的意義に関する総括と題して」を加える。
(17)

原判決33頁26行目のとおりであったをとおりであり,得られた暫定成績は,オセルタミビルとせん妄及び意識障害の関連を疑わせるものであるとしたに改める。(18)

原判決35頁5行目のP13の次には,P14病院に20年間勤務した内科医であり,退職後にP15を設立した者であるが,P13らはを加える。(19)

原判決36頁15行目の1・2の次に,83の1・2を加え

る。
(20)

原判決36頁24行目の推定したものでを推定するという,いわゆるデータベース研究であってに改める。(21)

原判決37頁20行目の弁論の全趣旨)の次に,行を改めて次を

加える。
国は,厚生労働省設置法(平成11年7月16日法律第97号)11条に基づき,薬事法等の規定によりその権限に属させられた事項を処理する目的で,厚生労働省に薬事・食品衛生審議会を設置しており,タミフルの安全性等に関する検討は,主として,同審議会における医薬品等安全対策部会内の安全対策調査会が行っているところ,同安全対策調査会は,内科,小児科,感染症科,アレルギー膠原病科,産婦人科,心臓・循環器科,麻酔科,精神・神経内科,皮膚科等の医師,薬剤師,薬学者,統計学者,疫学者らの専門家により構成されている。安全対策調査会は,平成19年4月4日,タミフルに関する専門的事項を検討するため,2つのワーキンググループを設置した。(弁論の全趣旨(被控訴人の原審における第7準備書面))
(22)

原判決38頁4行目の

得られていないとされた。

の次に,行を改
めて次を加える。

なお,基礎WGは,精神科,突然死の専門家である医師,中枢神経系や末梢,心臓の薬理を専門とする薬理学者らにより構成されている。(弁論の全趣旨(被控訴人の原審における第7準備書面))

(23)

原判決38頁10行目の(乙67)の次に,行を改めて次を加え

る。

なお,臨床WGは,精神・神経内科,麻酔科,小児科,心臓血管内科等を専門とする医師,薬剤師,統計学者らにより構成されている。(弁論の全趣旨(被控訴人の原審における第7準備書面))


(24)

原判決39頁7行目のまたの次に,タミフルとその活性体が中枢神経系に作用を示す可能性があるか否かを検討するため,神経細胞上の受容体等へのタミフルとその活性体の結合性を調べる実験であるを加える。
(25)

原判決40頁4行目の調査報告書の次に(乙22)を加え

る。
3
機構法4条6項に規定する医薬品の副作用によるものであることの立証責任等について
そもそも,医薬品による副作用の被害救済制度は,サリドマイド事件,スモン事件などを契機として,医薬品副作用被害救済基金法(昭和54年法律第55号)が制定され,同法に基づいて認可法人である医薬品副作用被害救済基金が設立され,医薬品副作用被害救済業務を開始したことに由来しているところ,同法は,医薬品の副作用による健康被害者を迅速に救済することを目的としており(1条),そのためには,現行の民事法上の責任とは切り離し,医薬品の製造業者等が負っている有効かつ安全な医薬品を適切に社会に供給すべきという社会的責任に基づいてこれを遂行することを基本的な性格としていたものと解される。すなわち,医薬品には,現在の科学水準では副作用を完全に防止することはできないという特殊性が存するところ,副作用による健康被害者を迅速に救済するには司法的解決に委ねることは十分ではないものの,医薬品の製造業者等に無過失責任を負わせることも現行の民事法体系のもとではとり
得ないため,危険を内在する医薬品を社会に供給することにより企業活動を営んでいる医薬品の製造業者等の社会的責任に基づき,かかる製造業者等から拠出される拠出金によって給付を行うことにより迅速な救済を図ることを企図し,そのために,給付の定型化や医学的・薬学的な専門機関でありかつ第三者的な機関である中央薬事審議会による医学的薬学的事項に関する判定の制度等を設けていたものと解される。このような立法目的や制度趣旨,救済制度の仕組み等に鑑みると,同法における救済給付は,民事上の損害賠償責任や公的な社会保障給付とは異なった新しい性格の給付であり見舞金的性格の強い給付であると解するのが相当である。(甲2,乙9)
このような医薬品副作用被害救済基金が,その後,旧機構に改組され,さらに,平成13年に閣議決定された特殊法人等整理合理化計画により旧機構が解散されて機構法が制定され,被控訴人が設立されたものであり,旧機構の解散に当たっては,その一切の権利及び義務を被控訴人が承継したものである上(機構法附則13条),機構法においても,許可医薬品製造販売業者に対する拠出金の納付の義務付け(19条),副作用救済給付の定型化(16条),薬事・食品衛生審議会の意見聴取を踏まえた厚生労働大臣の判定(17条)等,医薬品副作用被害救済基金の下での救済給付と同様の仕組みを設けていることに照らせば,機構法の下における救済給付制度もまた見舞金的性格の強い給付であって,副作用救済給付の支給決定も受益処分としての性格を有するものと解するのが相当である。
以上によれば,健康被害が,機構法4条6項に規定する医薬品の副作用によるものであること(当該健康被害が,許可医薬品が適正な使用目的に従い,適正に使用された場合においても,その許可医薬品により人に発現する有害な反応により生じたものであること)に関する立証責任は,副作用救済給付の請求権の権利発生事由に係るものとして,副作用救済給付を請求する者がこれを負うものと解するのが相当である。

そして,機構法の下における救済給付においても,医薬品による健康被害者の救済のために,医学的・薬学的な専門機関でありかつ第三者的な機関である薬事・食品衛生審議会の意見聴取を踏まえた判定制度を設けているのであって,このような判定を踏まえた不支給決定を不服として提起される取消訴訟において,さらに請求者の立証責任を軽減を図る特別な規定を機構法その他の関係法令は何ら規定していない以上,当該健康被害が医薬品の副作用によるものであることの立証も,経験則に照らし,全証拠を総合検討し,特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであって,一点の疑義も許されない自然科学的証明であることを要するものではないものの,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを要するものと解するのが相当である(最高裁昭和48年(オ)第517号同50年10月24日第二小法廷判決・民集29巻9号1417頁参照)。
これらによれば,控訴人の主張は,独自の見解にすぎず,採用することができない。
4
タミフルの服用と突然死との因果関係について,
(1)

控訴人は,当審においても,タミフルの服用と突然死との間には因果関
係がある旨を主張し,その根拠として,(1)P2やP4の症例報告など,タミフルの服用後に小児が突然死した例が多数存在する旨の症例報告がなされていること,(2)旧試験及び新試験並びにP6らの動物実験によって,タミフルには中枢神経を抑制し呼吸中枢を抑制する作用のあることが明らかであること,(3)疫学調査の点からみても,P9らの研究が,前向きのコホート研究であり,意識的に適切な情報を収集してなされたものであって最も優れた調査であるところ,この調査結果もタミフルと有害事象発症との因果関係を示していること,(4)オセルタミビル未変化体は脳内のNMDA受容体に作用していると考えられ,これが突然死と関係しているものと考
えられること,(5)P1の死亡に至るまでの臨床経過は,インフルエンザ脳症によるものとは考えられず,タミフルの服用によって頭蓋内亢進により脳浮腫が急速に生じ,また中枢神経抑制作用により呼吸中枢が抑制され,呼吸停止及び心停止を来たし低酸素脳症となって死亡したものと考えられることを挙げており,P13の意見書(甲3),鑑定意見書(甲4),論文(甲7),鑑定意見書(2)ないし(7),(9),(10),(15)(甲12,13,20,24,25,26,27,28,33),鑑定意見書(甲23)及びP13の証言部分も,上記各主張に副うものである。
しかしながら,医薬品の副作用により健康被害が生じたものと認めるには,医薬品の有する特殊性に鑑み,当然のことながら,当該医薬品の非臨床試験や臨床試験の結果,当該医薬品に関する疫学調査の結果及び当該医薬品の投与により副作用が疑われる報告等について,医学的・薬学的観点のみならず,統計学的・疫学的観点も含めた専門的な観点からの総合的な検討を踏まえることが必要であるというべきところ,認定事実(当審において補正後のもの。以下に同じ。)によれば,P13は,臨床薬理学会の指導医の資格を有するものの,内科医として20年間の勤務経験を有するものであるから,臨床内科の視点については豊富な医学的知見及び経験があるものとは認められるものの,医薬品の副作用による健康被害を検討するには,上記のとおり,専門的かつ多角的な観点からの総合的な検討が必要であることに鑑みれば,タミフルの服用とP1の死亡との間の因果関係を判断するに当たっては,P13の鑑定意見書等や証言部分は,多角的な観点からの検討や批判等を踏まえたものとはいえず,いまだ独自の見解にとどまるものと評価せざるを得ないから,これらをもって,タミフルの服用とP1の死亡との間の因果関係を認める根拠とすることは相当ではない。
(2)

以上を踏まえて,まず,タミフルの服用に関する症例報告についてみる
と,認定事実によれば,P2が報告した症例では,タミフルの服用によって6歳の女児にせん妄が生じたことは否定できないものの,P2は,これについて,せん妄は大脳半球あるいは間脳や脳幹に影響が生じているものであって,脳幹に影響が生じている中枢神経抑制とは脳の部位に違いがあるため,せん妄が生じたことをもってタミフルの服用により突然死が生じることを示唆しないとの見解を示しているところであり,同見解は,小児神経学及び神経病理学(脳形成異常・神経皮膚症候群・急性脳症)を専門とする小児科医としての医学的経験及び知見に基づくものであって,これを排斥する的確な医学的根拠も見当たらないことに照らすと,上記の症例報告をもって,タミフルの服用と突然死との因果関係を肯定することはできない。
また,P4が報告した症例では,インフルエンザシーズンに睡眠中急死した小児6例のうち4例はタミフルを服用していた症例であるが,P4や診察に当たった医師がタミフルと急死との関連を否定している上,その余の2例についてはタミフルを服用していなかったものであるから,上記の症例報告も,タミフルの服用と突然死との因果関係を肯定するものとはなりえない。
(3)

次に,タミフルに関する動物実験についてみると,認定事実によれば,
旧試験は,脳中濃度算出時の計算式に500倍の誤りがあったというのであるから,検討対象とするには適切ではない。そして,新実験においては,タミフルを投与したラットについて,用量依存的に嗅覚性方向反応の欠如,断崖回避反応の欠如及び低覚醒状態とその後の死亡がみられ,行動観察における活動の低下等の症状もみられ,また,P6らの実験においても,タミフルを静脈内に投与したラットについて,用量依存的に呼吸抑制が生じ,十二指腸内に投与したラットについては心肺停止に至ったというのであるが,薬学のうち特に薬理・毒性学を専門とし,動物や試験管内実
験系を用いた薬理・毒性学研究に長年携わってきたP12国立医薬品食品衛生研究所名誉所長によれば,新実験及びP6らの実験は,いずれも臨床用量に比して非常に高濃度,高用量のタミフルを投与していることから,高用量のオセルタミビルと突然死との因果関係は示唆されるとしても,臨床用量のタミフルの服用と突然死との因果関係まで示唆するものではないとの見解が示されていることを考慮すると,上記の動物実験の結果をもって,タミフルの服用と突然死との因果関係を肯定するものとは直ちにはいえない。
なお,P7社の研究者(P8)も病態モデルが必要であると言及しているとの主張は,そもそも,そのような証拠は見当たらない以上,採用の限りではない。
(4)

また,タミフルに関する疫学調査についてみるに,認定事実によれば,
P9らの報告は,オセルタミビルとせん妄及び意識障害の関連が疑われるというものであるが,P9らの報告は,せん妄及び意識障害が対象となっているものであって突然死が対象となっているものではない上,分析の手法についても様々な問題が指摘されていることに鑑みると,これをもってタミフルの服用と突然死との因果関係を肯定するものとは到底いえない。他方,P11らの論文は,オセルタミビル投与後に精神神経系の有害事象及びその他の有害事象の発現リスクが上昇するような証拠は認められなかったというのであり,同研究は,いわゆるデータベース研究ではあるものの,その分析の手法において,特段,問題とされる点は見受けられない上,P11らの論文は,米国食品医薬品庁小児諮問委員会において検討され,同様の結論付けがなされたことに照らせば,タミフルの服用と突然死との因果関係が否定されることが窺えるというべきである。
(5)

オセルタミビルの脳内の各種受容体への作用について
認定事実によれば,タミフルに関するバインディング・アッセイにおい
て,臨床用量の150倍に相当する30μMまでの濃度においてもタミフルの結合により50%以上の阻害が認められたものは存在しないというものであるところ,控訴人の主張する臨床用量のアマンタジンがNMDA受容体の阻害により薬理作用を示すという前提事実について,それを裏付けるに足りる的確な資料が見当たらない以上,上記30μMの濃度でのバインディング・アッセイについて問題が存するということはできず,したがって,オセルタミビルが脳内の各種受容体に作用すると認めるには至らない。
(6)

以上については,認定事実によれば,内科,小児科,感染症科,アレル
ギー膠原病科,産婦人科,心臓・循環器科,麻酔科,精神・神経内科,皮膚科等の医師,薬剤師,薬学者,統計学者,疫学者らの専門家により構成されている医薬品等安全対策部会及び安全対策調査会においても,各専門的な観点から多角的な検討が重ねられ,その結果,タミフルの服用と異常な行動及び突然死との因果関係を示唆する結果は得られていないと結論付けられていることも踏まえると,タミフルと突然死との間の因果関係については明らかになっていないと解するのが相当である。
5
インフルエンザ脳症の可能性について
認定事実によれば,インフルエンザ脳症ガイドライン(甲5,乙12)によると,インフルエンザ脳症は,インフルエンザに伴う急性の意識障害と定義され,主に5歳以下の乳幼児に発症し,急速な症状の進行と予後の悪さを特徴とする疾患であるところ,臨床上の最も重要な指標は意識障害であり,診断基準としては,神経所見においてJCS20以上の意識障害があり,頭部CT検査においてびまん性低吸収域(全脳,大脳皮質全域),脳幹浮腫(脳幹周囲の脳槽の狭小化),脳浮腫が疑われる場合等であり,これらの所見が認められた場合は,インフルエンザ脳症の確定診断又は疑い診断とされ,また,血液検査及び尿検査において,血小板の減
少,AST(GOT)及びALT(GPT)の上昇,CPK(CK)の上昇,低血糖,高血糖,凝固異常,高アンモニア血症,血尿及び蛋白尿も診断上有用とされて,予後不良因子としては,AST(GOT)及びALT(GPT)100IU/l以上,CPK(CK)1000IU/l以上,血糖150mg/dl以上,PT%70%未満等が挙げられているところ,P1は,入院後の血液検査結果は,AST(GOT)896IU/l,ALT(GPT)594IU/l,CPK(CK)1036IU/l,血糖436mg/dl,PT%28.7%であり,また,頭部CT検査で脳浮腫著明と診断されていたものであり,翌日の血液検査の結果も,AST(GOT)4578IU/l,ALT(GPT)1824IU/l,CPK(CK)22632IU/l,血糖518mg/dlであって更に悪化し,急速に極めて重篤な状態に陥っていったというのであり,インフルエンザ脳症ガイドラインによれば,インフルエンザ脳症に合致するものということができる上,P1の主治医であるP16医師は,直接死因としてインフルエンザ脳症,その原因としてインフルエンザ感染症と記載するなど,P1の死因をインフルエンザ脳症と診断していたこと,さらには,小児科医として多数のインフルエンザ患者を診察してきたP2においても,P1については典型的な全大脳型(大脳浮腫型)のインフルエンザ脳症の症例であるとみていることも併せて考慮すると,P1は,インフルエンザ脳症により死亡したものと認めるのが相当である。6
以上に認定,説示したところによれば,P1の死亡及びそれに至る症状はタミフルの副作用によるものとは認められず,したがって,本件各不支給決定は適法であると解されるから,控訴人の主張は理由がないから,控訴人の本件請求を棄却した原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第9民事部

裁判長裁判官

奥田正昭
裁判官

吉村真幸
裁判官

三村義幸
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