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懲戒処分取消等請求控訴事件(原審 東京地方裁判所平成19年(行ウ)第552号、同第610号)
事件番号平成26(行コ)177
事件名懲戒処分取消等請求控訴事件(原審 東京地方裁判所平成19年(行ウ)第552号,同第610号)
裁判年月日平成27年5月28日
法廷名東京高等裁判所
裁判日:西暦2015-05-28
情報公開日2017-10-19 09:44:07
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平成27年5月28日判決言渡
平成26年(行コ)第177号

懲戒処分取消等請求控訴事件

主1文
控訴人らの控訴に基づき,原判決中,控訴人ら敗訴部分(原判決主文第2項)を取り消す。

2
東京都教育委員会が控訴人Aに対してした平成19年3月30日付け
懲戒処分を取り消す。
3
被控訴人は,控訴人Bに対し,10万円及びこれに対する平成19年3月30日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
4
被控訴人は,控訴人Aに対し,10万円及びこれに対する平成19年3月30日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
5
控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。

6
被控訴人の控訴を棄却する。

7
訴訟費用は,第1審及び第2審を通じて3分し,その1を控訴人らの,
その余は被控訴人の,それぞれ負担とする。
8
この判決は,第3項及び第4項に限り,仮に執行することができる。事実及び理由

第1
1
当事者の求めている裁判
控訴人ら
(1)

原判決中,控訴人ら敗訴部分(原判決主文第2項)を取り消す。

(2)

主文第2項同旨

(3)

被控訴人は,控訴人Bに対し,300万円及びこれに対する平成19年
3月30日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。(4)

被控訴人は,控訴人Aに対し,300万円及びこれに対する平成19年
3月30日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。2
被控訴人

(1)
(2)
第2
1
原判決中,被控訴人敗訴部分(原判決主文第1項)を取り消す。
上記の部分につき,控訴人Bの請求を棄却する。

事案の概要
本件は,控訴人Bが所属していた東京都立C養護学校(以下C養護学校という。及び控訴人Aが所属していた東京都町田市立D中学校

(以下
D中
という。)でそれぞれ平成19年3月19日に挙行された卒業式の際,事前に各学校の校長(以下本件各校長という。)から控訴人らに対して,式典では国旗に向かって起立し,国歌を斉唱するよう職務命令(以下本件各職務命令という。)が発令されていたにもかかわらず,控訴人らがそれぞれの所属校での卒業式における国歌斉唱時に着席したまま起立しなかった(以下本件各不起立という。)ため,東京都教育委員会(以下都教委という。)が,地方公務員法(以下地公法という。)32条,33条に違反するとして,同月30日,同法29条1項1号ないし3号に基づき,控訴人Bに対して停職3月,控訴人Aに対して停職6月の各懲戒処分(以下,本件B停職処分,本件A停職処分といい,併せて本件各処分という。)をしたところ,控訴人らにおいて,本件各処分は憲法19条,23条,26条,教育基本法16条1項に違反するなどと主張して,本件各処分の取消しを求めるとともに,本件各処分により精神的苦痛を被ったと主張して,都教委の設置者である被控訴人に対し,国家賠償法(以下国賠法という。)1条に基づき,慰謝料各300万円及び本件各処分時から民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。

2
原審は,本件各職務命令は憲法19条等の規定に違反するものでも,教育基本法16条1項に違反するものでもないなどとしたが,本件B停職処分については,処分の選択が重すぎて社会観念上著しく妥当を欠き,懲戒権者としての裁量権の範囲を逸脱する違法なものであるとして取り消したが,本件A停職処分を選択した都教委の判断は社会観念上著しく妥当を欠くものとはいえず,停
職期間も裁量権の範囲内ということができ,本件A停職処分は適法であるとして,同処分の取消しを求める請求を棄却した上,国賠法1条に基づく損害賠償請求については,本件A停職処分は違法とはいえず,また,本件B停職処分については国賠法上の過失は認められないなどとして,控訴人らの各請求をいずれも棄却した。
そこで,これを不服とする控訴人Aは,本件A停職処分は違法であり,国賠法上も違法であると主張して,控訴人Bは本件B停職処分には過失があるなどと主張して,それぞれ本件控訴を提起したのに対し,被控訴人においても,都教委による本件B停職処分には懲戒権者としての裁量権の範囲の逸脱,濫用はないなどと主張して,本件控訴を提起しているものである。
3
前提事実,争点,争点に関する当事者の主張は,次のとおり原判決を補正するほかは,原判決の事実及び理由第2の2及び3並びに第3記載のとおりであるから,これを引用する(以下,原判決を引用する場合には,原告Bを控訴人Bと,原告Aを控訴人Aと,被告を被控訴人と,
それぞれ読み替える。)。

(原判決の補正)
(1)

原判決3頁19行目から20行目の東京都立C養護学校(以下「C養護学校という。)」をC養護学校と改める。(2)

原判決5頁19行目の東京都町田市立D中学校(以下D中という。)
をD中と改める。
(3)

原判決6頁9行目の網を綱と改める。

(4)

原判決12頁24行目の全校又は学年の次に(高等学校学習指導要領では,「全校若しくは学年又はこれに準ずる集団と規定されている。」

を加える。
(5)
ク原判決15頁8行目末尾に改行の上,次のとおり加える。職員の懲戒に関する条例(昭和26年東京都条例第84号)3条減給は,1日以上6月以下の範囲で給料及び暫定手当の合計額の5分の1以下を減ずるものとする。4条1項停職の期間は,1日以上6月以下とする。2項停職者は,その職を保有するが,職務に従事しない。3項停職者は,停職の期間中いかなる給与も支給されない。
(6)

原判決16頁6行目の保護者,その他を保護者その他と改める。

(7)

原判決18頁6行目の考慮のうえを考慮の上と改める。

(8)

原判決19頁12行目から13行目の国歌斉唱時に起立しないで着席し開式時には起立していたが,を司会の国歌斉唱の発声とともに着席しと改める。
(9)

原判決24頁12行目のするととも,をするとともに,と改め

る。
(10)

原判決27頁23行目の①を①許容される目的のための必要かつ合理的なものであること,②と改める。(11)

原判決27頁25行目の②を③と,同28頁1行目の③を
④と,それぞれ改める。
(12)

原判決35頁10行目の

こと明らかである。

ことは明らかである。

と改める。(13)

原判決40頁3行目の課してを科してと改める。

(14)

原判決46頁18行目の30日を30日付けと改める。

(15)

原判決47頁2行目末尾に改行の上,次のとおり加える。

(オ)国旗国歌法制定前の行為である平成6年4月25日付け減給処分,平成7年11月16日付け文書訓告及び平成11年8月30日の文書訓告の対象となった行為を考慮して,本件A不起立に対する懲戒処分の量定を加重することは,裁量権の濫用となり,違法と判断されるべきであるから,控訴人Aの行った1回目の不起立行為において,上記の処分歴を機械的に考慮して戒告を超える減給の懲戒処分を採用することは,裁量権の範囲を超えて違法であり,2回目以降の不起立行為についても同様に機械的に処分を加重することは許されないし,平成17年12月1日付け減給処分の対象となった再発防止研修時の控訴人Aの行為をその後の処分の加重の理由とすることも許されない。(16)

原判決48頁4行目のあること,をあり,6月という長期間,しかも,2学期開始から1か月が経過するまで教壇に立つことも,生徒との人格的触れ合いもできないようにする処分であって,と改める。(17)

原判決48頁5行目から6行目のあること,をあることからすると,と改める。(18)

原判決48頁25行目末尾にそして,当該公務員に過去に処分歴等があれば,当該公務員については,「その責任を確認し,公務員関係の秩序を維持する必要が増大するから,これが繰り返されればその必要は量的にばかりでなく,質的にも増大していくのであって,当該公務員に対する懲戒処分の量定が加重されたものとなるのは当然のことである。」を加える。(19)

原判決49頁8行目の付を付けと改める。

(20)

原判決54頁19行目の子どもらを子どもたちと改める。

(21)

原判決59頁26行目の(イ)を次のとおり改める。

(イ)都教委の故意都教委は,君が代斉唱時の不起立者に対して,累積加重処分を機械的に適用することを宣言し,累積加重処分の有する非道な性質を十分認識しながら,本件対B職務命令を発することによって本件B不起立という職務命令違反行為を作出させた。(ウ)(22)

原判決60頁2行目の検討すべきであること,を検討すべきであり,本件では,減給以上の懲戒処分を選択することの相当性を基礎付ける具体的な事情がないことは,都教委において複雑な調査をするまでもなく容易に判明したこと,と改める。(23)

原判決60頁14行目の分断し,の次に児童・生徒との人格的触れ合いを通じて成り立つ教育活動を強制的に中断せしめ,を加える。(24)

原判決61頁12行目の分断し,の次に児童・生徒との人格的触れ合いを通じて成り立つ教育活動を強制的に中断せしめ,を加える。(25)

原判決61頁13行目の
被ってきたこと,の次に
停職処分6月は,あとは免職しかないという最も重い過酷な処分であること,を加える。第3
1
当裁判所の判断
当裁判所は,原判決が控訴人Bに対する懲戒処分の取消請求を認容したことは相当であり,この点に係る被控訴人の控訴は棄却すべきものと判断するが,控訴人Aに対する懲戒処分については,原判決と異なり,取り消されるべきものであり,また,控訴人らの国賠法1条に基づく各損害賠償請求については,それぞれ10万円及びこれに対する本件各処分の日である平成19年3月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その限度で認容されるべきであるから,控訴人らの控訴に基づき,上記の限度で原判決を変更すべきであると判断する。その理由は,次のとおり原判決を補正するほか,原判決第4の1ないし7に記載のとおりであるから,これを引用する。

(原判決の補正)
(1)

原判決64頁16行目の「を削り,同頁18行目から19行目の「こと。」」を削る。(2)

原判決64頁17行目の生徒を児童及び生徒と改める。

(3)

原判決66頁13行目の校歌の伴奏を校歌のピアノ伴奏と改め

る。
(4)

原判決66頁21行目末尾に改行の上,次のとおり加える。

(ク)本件都教委通達発出後,都立学校の校長は,入学式,卒業式,周年記念式典に当たって,国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱すること(以下「起立斉唱行為という。)を命ずる職務命令を発出するようになり,これに反して起立しない教職員については,職務命令違反が生ずることとなった。
都教委は,上記職務命令違反の事案については,①当該行為は,児童・生徒にとって学校生活に有意義な変化や折り目をつけるために重要な学校行事である入学式,
卒業式等の場において,
公教育を担う教育公務員が,
公教育の根幹である学習指導要領に基づき教育課程を適正に実施するために発せられた重要な職務命令に違反するという重大な非違行為であること,②当該行為は,入学式,卒業式等の来賓,保護者はもとより,適正に国旗・国歌指導を受けることとされている児童・生徒を目の前にして教職員が行ったものであり,教育上好ましくないこと,③当該行為は,校長が適正に卒業式等を実施するよう指導を繰り返し行い,さらに,本件都教委通達が発せられた後は同通達に基づいて校長が教職員に対して適正に卒業式等を実施するよう指導を行った経過があったにもかかわらず,発生した職務命令違反行為であること,④学校も組織である以上,上司の職務上の命令に従うことは当然のことであり,当該行為は,組織人としての職務上の義務違反であることという観点から,懲戒処分を行うこととした。都教委は,平成15年11月から12月にかけて行われた都立学校の周年記念式典以降,入学式,卒業式又は周年記念式典において,校長から起立斉唱行為を命ずる職務命令が発せられていたにもかかわらず,国歌斉唱時に起立しなかった教職員に対して,職務命令違反とし,1回目は戒告,2回目は給与1月の月額10分の1を減ずる減給,3回目は給与6月の月額10分の1を減ずる減給,4回目は停職1月,5回目は停職3月,6回目は停職6月の各処分を行ってきた。(甲19の1,159,363~3
65,367,368,370~372,374~376,乙イ87,88,178,証人E(原審))」
(5)
ウ原判決67頁8行目末尾に改行の上,次のとおり加える。入学式や卒業式などにおける国旗掲揚及び国歌斉唱の指導に関する資料都教育庁指導部は,平成14年11月に「入学式や卒業式などにおける国旗掲揚及び国歌斉唱の指導に関する資料(以下本件指導資料という。)を作成し,その中において,次の答弁が含まれている国旗及び国歌に関する法律主要国会審議状況を掲載した(乙イ27)。(ア)

国旗・国歌の法制化の意義について

政府としては,今回の法制化に当たり,国旗の掲揚等に関し義務づけを行うことは考えておらず,したがって,国民の生活に何らの影響や変化が生ずることとはならないと考えている。

(平成11年6月29日内閣総理大臣)
(イ)

国旗・国歌の法制化による,今後の学校における国旗・国歌の指導
について

法制化に伴い,学校教育における国旗・国歌の指導に関する取り扱いを変えるものではないと考えており,今後とも,各学校における適切な指導を期待するものであります。(同日内閣総理大臣,

同旨文部大臣)
(ウ)

学校における国旗・国歌の指導と,児童・生徒の内心の自由との関
係について
我が国の国民として,学校教育におきまして,国旗・国歌の意義を理解させ,それらを尊重する態度を育てることは極めて重要であることから,学習指導要領に基づいて,校長,教員は,児童生徒に対し国旗・国歌の指導をするものであります。このことは,児童生徒の内心にまで立ち至って強制しようとする趣旨のものでなく,あくまでも教育指導上の課題として指導を進めていくことを意味するものでございます。・・・国旗・国歌が法制化された後も,この考え方は変わるところはないと考えます。(同年7月21日内閣総理大臣)単に従わなかった,あるいは単に起立をしなかった,あるいは歌わなかったといったようなことのみをもって,何らかの不利益をこうむるようなことが学校内で行われたり,あるいは児童生徒に心理的な強制力が働くような方法でその後の指導等が行われるということはあってはならない(同日政府委員)(エ)

国旗・国歌の指導に係る教職員の職務と内心の自由との関係につい

教員は,関係の法令や上司の職務上の命令に従いまして教育指導を行わなければならないものでございまして,各学校においては,法規としての性質を有する学習指導要領を基準といたしまして,校長が教育課程を編成し,これに基づいて教員は国旗・国歌に関する指導を含め教育指導を実施するという職務上の責務を負うものでございます。・・・これ(本法案)によって国旗・国歌の指導にかかわる教員の職務上の責務について変更を加えるものではございません。(同年8月2日文部大臣)(オ)

国旗・国歌の指導に関する教職員への職務命令や処分について

このような取り組みをしたにもかかわらず国旗・国歌の指導を教員に求めることが困難な場合,そういう場合につきましては,校長は,学校運営の責任者として学習指導要領の趣旨を実現するために,必要に応じ教員に対し職務命令を発することもあり得るものでございます。(同日政府委員)

職務命令というのは最後のことでありまして,その前に,さまざまな努力ということはしていかなきゃならないと思っています。

(同月6日文部大臣)
職務命令を受けた教員は,これに従い,指導を行う職務上の責務を有し,これに従わなかった場合につきましては,地方公務員法に基づき懲戒処分を行うことができることとされている・・・実際の処分を行うかどうか,処分を行う場合にどの程度の処分とするかにつきましては,基本的には任命権者でございます都道府県教育委員会の裁量にゆだねられているものでございまして,任命権者である都道府県におきまして,個々の事案に応じ,問題となる行為の性質,対応(ママ),結果,影響等を総合的に考慮して適切に判断すべきものでございます。・・・なお,処分につきましては,その裁量権が乱用されることがあってはならない(同日政府委員)
教育の現場というのは信頼関係でございますので,・・・処分であるとかそういうものはもう本当に最終段階,万やむを得ないときというふうに考えております。このことは,国旗・国歌が法制化されたときにも全く同じ考えでございます。(同日文部大臣)エ
本件処分量定
都教委は,
職員の非違行為への対応として,
過去の非違事例を類型化し,
非行の種類ごとに処分量定を示した本件処分量定を表を用いて作成しているが,本件処分量定では,処分量定の決定に当たっては,①非違行為の態様,被害の大きさ及び司法の動向など社会的重大性の程度,②非違行為を行った職員の職責,過失の大きさ及び職務への影響など信用失墜の度合い,③日常の勤務態度及び常習性など非違行為を行った職員固有の事情を考慮するほか,適宜,非違行為後の対応等も含め総合的に考慮の上で判断し,処分量定の加重として,過去に非違行為を行い懲戒処分を受けたにもかかわらず,再び同様の非違行為を行った場合は,量定を加重すると定められている。もっとも,他方で,表に記載された処分量定は,あくまで標準であり,個別の事案の内容や処分の加重によっては,表に掲げる処分量定以外とすることもあり得るとされている。そして,勤務態度不良(職務
命令違反,職務専念義務違反,職場離脱)を行った場合には,減給,戒告と定められており,欠勤については,無届欠勤1日又は私事欠勤5日以上が戒告,無届欠勤3日又は私事欠勤9日以上が減給,無届欠勤5日又は私事欠勤15日以上が停職,3週間以上無届欠勤の継続が免職と細分化して定められている(甲157)。
本件標準量定の運用を体罰の事案についてみると,都教委は,体罰に至る背景事情,体罰等の態様,傷害の有無・程度,児童・生徒への影響,過去の処分等を総合的に判断し,量定を決定しており,個別の事案ごとに処分を決定し,あらかじめ体罰の回数に応じて機械的,一律的に処分を加重していくという運用はしていない
(甲268~361,
387の1~7)」

(6)

原判決69頁7行目の子どもらを子どもたちと改める。

(7)

原判決70頁6行目の国歌斉唱時に起立しないで着席しを開式時には起立していたが,司会の国歌斉唱の発声とともに着席しと改める。(8)

原判決70頁24行目の起立斉唱行為は,の次に一般的,客観的に見て,学校の儀式的行事である卒業式等の式典における慣例上の儀礼的な所作としての性質を有するものであり,かつ,そのような所作として外部から認識されるものといえるから,そのことだけで直ちに控訴人らの有する歴史観や世界観を否定しようとするものとまでみることは,一般的,客観的に相当なものとはいえず,公務員である控訴人らに対して卒業式等の式典における国歌斉唱時に起立して国歌を斉唱することを求める本件各職務命令は,控訴人ら個人の内心における歴史観や世界観それ自体を直ちに否定することになるとまではいえない。また,上記の起立斉唱行為は,を加える。(9)

原判決71頁5行目のなく,から同頁6行目の「できない。」まで
を次のとおり改める。
ない。なお,控訴人らは,本件各職務命令は,控訴人らに対して特定の思想の有無について告白することを強要することにつながるとも主張しているが,上記説示のとおり,社会一般では,さまざまな式典において,国歌が斉唱される時には,特に起立の指示がなくても,参加者は起立して国歌を斉唱することが広く行われている慣例があり,学校における卒業式等の式典における国歌斉唱のときも同様であって,そのような式典における国歌斉唱時に起立して国歌を斉唱したからといって,社会的に,特に何らかの思想を表明し,告白したものと理解されることはないが,それまで起立していたのに,上記のような慣例に反して,わざわざ着席して国歌斉唱を拒絶するなどの行為をすれば,その者が国歌斉唱に反対の考えや思想を有していることが外部からも容易に認識されるのは当然のことである。本件についていえば,控訴人らは,司会の国歌斉唱の発声とともに,それまで起立していたのにわざわざ着席し,そのような自らの積極的な行為等により,国歌斉唱に反対の考えや思想を有していることを積極的に表明し,告白したものであって,本件各職務命令によって上記思想を有していることが判明したものではないことは明らかである。(10)

原判決72頁10行目の地方公務員の性質及びを地方公務員としての地位を有することや,と改める。(11)

原判決72頁12行目の地方公務員法を地公法と改める。

(12)

原判決72頁26行目の本件各職務命令は,の次に地方公務員という地位を有し,卒業式という式典に参加しようとしている者に対して,式典における慣例上の儀礼的な所作をとるよう命じたもので,特に何か異常な行為や行動をとるよう求めたものではなく,その範囲内にとどまるものである限り,を加える。(13)

原判決73頁6行目の日本国憲法から同頁7行目のまた,まで


国家権力が人々の思想信条に介入・干渉することを禁止し,特定の思想,信条,価値観を強制することを禁じている憲法19条の定める価値中立性原則に反し,「日の丸・君が代が象徴する国家を尊敬する心を外部に表明する
ことを教員に対して強制するだけでなく,子どもたちの思想信条の形成に対する過度の介入・干渉でもあるから,」と改める。
(14)

原判決73頁10行目のしかし,から同頁17行目の「できない。
までを次のとおり改める。
確かに,教育委員会の指示に基づき校長等の学校管理者等が職務命令をもって,同命令を受ける教員の内心に踏み込み,特定の思想を持つことを強制したり,特定の思想に反する歴史観や世界観を持つことを禁止したり,特定の思想の有無について告白することを強要することは,これを受ける教員の思想及び良心の自由を侵害することになる可能性が高いものといえる。しかし,上記(ア(イ)ないし(エ))で説示したとおり,本件各職務命令は,地方公務員としての地位を有する控訴人らに対して,地方公務員として参加する式典における慣例上の儀礼的な所作をとるよう命じたものであるところ,控訴人らが卒業式において慣例となっている儀礼的な所作を任意にとるならば,本件各職務命令を発する必要はなかったのであるが,控訴人らがそのような慣例上の儀礼的な所作に反する行為をすることが予想されたため,控訴人らに対して本件各職務命令が発令されたのが実態であって,本件各職務命令は,その実質において,地方公務員としての控訴人らの身分を離れて,控訴人らの個人的な領域に踏み込んで特に何か異常な所作や行動をとるよう求めたとか,控訴人らの「日の丸や君が代に対する考え方や思想や歴史観や世界観を禁止したり,国旗である日の丸や国歌である君が代について控訴人らが抱いている考えや思想や歴史観や世界観等を告白するように強要したものでもないから,本件各職務命令が直ちに控訴人らの個人的な思想及び良心の自由を侵害するものとまでは認められない。したがって,本件各職務命令が控訴人らの思想及び良心の自由を侵害していることを前提とする控訴人らの上記主張は理由がないというべきであり,本件各職務命令が憲法19条に違反しているとする控訴人らの主張は,その前提において失当
である。」
(15)

原判決73頁22行目の同職務命令がから同頁24行目末尾までを
次のとおり改める。
日本国憲法において,「君が代を国歌として斉唱することを禁止する条項や文言は見当たらないし,かえって日本国憲法は,その第1章において天皇に関する規定を設け,第1条では,天皇は,日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であると明文で定めて,象徴天皇制を大前提としているものであるから,そのような日本国憲法が,国歌である君が代が天皇制と密接に関連するものであることなどの理由で,公立学校における卒業式等の式典において国歌を斉唱することを禁止しているものではないことは明らかであるから,公立学校の教員として地方公務員であった控訴人らに対し,その式典に教員という立場で参加するに際して,式典における慣例上の儀礼的な所作として社会一般に広く認められている起立して国歌を斉唱するよう求めることは,何ら公務員としての憲法尊重擁護義務に反するものではないというべきである。したがって,控訴人らの上記主張は,その前提において失当である。」
(16)

原判決74頁23行目末尾に改行の上,次のとおり加える。この点,控訴人らは,学習指導要領には,入学式や卒業式等の学校行事において「国旗の掲揚及び国歌の斉唱を指導するものとする

との文言はあるが,国歌斉唱に際して敬意を表明する起立をさせるべきだとする文言は一切ないから,起立を要請する本件各通達は目的が不当であるとも主張している。しかし,学習指導要領は,そもそも国旗の掲揚や国歌の斉唱に際して参加者が起立することは当然の前提としたものと考えられる上,入学式や卒業式等の儀式的行事を,学校生活に有意義な変化や折り目を付け,厳粛で清新な気分を味わい,新しい生活の展開への動機付けとなるような活動として位置付けており,これらの式典等において行われる国旗の掲揚や国歌の斉唱の際に,
上記の観点から参加者に起立することを求めることは,上記の学習指導要領の趣旨に沿うものということができる。しかも,控訴人Bは,国歌斉唱時に起立する生徒だけにその理由を尋ねたり,日の丸,君が代の問題点を指導したりするなどして(乙イ84),日の丸,君が代を否定する立場からだけの授業を行い,一方的な観念を子どもたちに押し付け,自由かつ独立した人格形成を妨げたものであって,そのような行為こそ子どもの教育を受ける権利を侵害する違法なものである可能性が高いというべきである。
いずれにしても,公立学校の教諭としての地位を有する控訴人らに対し,教諭として参加する卒業式等の式典における国歌斉唱の際に起立するよう求めた本件各通達は,上記の学習指導要領の目的や趣旨に合致するものというべきであり,これと異なる控訴人らの主張は独自のものであって,採用することはできない。」
(17)

原判決79頁25行目のものであって,の次にそのこと自体が直ちにを加える。(18)

原判決80頁7行目の原告らはから同頁9行目の

失当である。


までを次のとおり改める。
本件各職務命令は控訴人らに対して発せられたもので,子どもたちに対して発せられたものではないから,その名宛人ではない子どもたちの思想及び良心の自由や教育を受ける権利を侵害するとの理由で本件各職務命令の取消しを求めることはできない(行政事件訴訟法10条1項)。これに対し,控訴人らは,教員には子どもたちの思想及び良心の自由や教育を受ける権利を国家権力から守るために,子どもたちの上記自由や権利を主張することが認められるとも主張しているが,日本国憲法は卒業式等の式典において国歌を斉唱することを禁止したりしているものではないから,控訴人らの上記主張は独自の見解であって,その前提において失当である。しかも,本件各処分は控訴人らに対してなされたものであって,子どもたちに対してなされたものではないから,本件各処分の取消しによって回復される法的利益が控訴人らの法的利益のみであることは明らかである。したがって,いずれにしても,控訴人らの上記主張を採用することはできない。(19)

原判決81頁19行目の原告を控訴人らと改める。

(20)

原判決83頁9行目の処分歴やから同頁11行目末尾までを次のと
おり改める。
処分歴を主張するほか,本件都教委通達前においても,控訴人Bが入学式・卒業式に際して,日の丸,君が代にかかわる準備作業には一切協力しないとの行動をとったり,国歌斉唱時に起立する生徒に対してだけ意図的にその理由を尋ねて,当該生徒に控訴人Bが日の丸,君が代の問題点だと考える内容を指導したり,日の丸,君が代を否定するだけの一方的授業を行ったことなどの一連の職務中における問題行動等が存在することを主張している。しかし,上記の控訴人Bの職務中の一連の行動等は,いずれも本件都教委通達前の行動であって,本件B不起立行為の前後における問題ではないから,これらの過去の行為等を理由として本件不起立行為の処分量定に際して処分の加重を根拠付けることはできないというべきである。したがって,被控訴人の上記主張を採用することはできない。また,被控訴人は,控訴人Bに対する停職1月の懲戒処分(以下「前回B停職処分という。)は,最高裁平成24年1月判決によって取り消されているものの,本件B停職処分時においては,上記停職1月の前回B停職処分は有効に存在していたのであるから,都教委が同処分を考慮して本件B停職処分をしたことに何ら違法はないとも主張している。確かに,前回B停職処分が最高裁平成24年1月判決において取り消されるまでは有効な処分であったことは被控訴人の主張するとおりである。しかし,前回B停職処分が懲戒権者としての裁量権の範囲を逸脱するものとして違法なものであることは,最高裁平成24年1月判決によって取り消される前後を通じて何ら異
なるものではないから,本件B停職処分時には未だ前回B停職処分は取り消されておらず,形式的には有効なものとして存在していたとしても,本件B停職処分が当然に適法な処分であることになるものではない。」
(21)

原判決83頁25行目の

認められるというべきである。そうすると,


を次のとおり改める。
認めるのが相当である。なお,控訴人Aは,不起立以外の非違行為による懲戒処分及び文書訓告については,卒業式・入学式における不起立に関する職務命令違反事案とは事案の性質を異にするものであるし,文書訓告は懲戒処分ではないから,上記懲戒処分や文書訓告を累積加重の理由とすることはできないと主張するが,懲戒処分に際して,懲戒権者は,問題とされる行為の性質,態様,結果,影響等だけではなく,当該公務員のそれまでの勤務態度や処分歴や処分をした場合の個人的影響や社会的影響など諸般の事情を総合考慮してどのような処分が相当かを判断することができるというべきところ,上記懲戒処分や文書訓告に係る控訴人Aの行為は,いずれも国旗や国歌の問題に関するものであるから,本件A停職処分の対象となった本件A不起立と関連するものといえるし,懲戒対象となった行為の評価については,初めて行われた場合と繰り返し行われている場合とでは,その意味合いが異なることはいうまでもないことであるから,懲戒権者が懲戒事由に該当すると認められる行為につき,懲戒処分をすべきかどうか,どのような処分を選択すべきかを決定する際に,その考慮要素の1つとなる過去の処分歴等として,文書訓告に係る同種の事実が存在することを参照することも許されるというべきである。したがって,(22)

原判決84頁1行目のとするの次に懲戒処分6回及び上記内容の文書の配布等を非違行為とするを加える。(23)

原判決84頁3行目のまた,から同頁8行目末尾までを改行の上,
次のとおり改める。

ウ次に停職期間について検討する。(ア)被控訴人は,本件A不起立は,最高裁平成24年1月判決において裁量権の逸脱・濫用がないとされた停職3月の懲戒処分(以下「前回A停職処分

という。)の後,更に控訴人Aが本件対A職務命令に違反して行ったものであるだけではなく,それまでの控訴人Aの処分歴に係る非違行為はその内容,頻度において学校の規律や秩序を害する程度の大きいものであることや,控訴人Aが前回A停職処分についてD中やF中において抗議活動を行い,あまつさえ,G新聞紙上において職務命令違反を呼び掛ける発言を行うという学校の規律や秩序を害する程度の相応に大きい言動も行っていることをも考慮すれば,停職期間を6月としたのは最高裁平成24年1月判決の趣旨に合致し,裁量権の逸脱・濫用は存在しないと主張している。
(イ)

しかし,控訴人Aは,過去の不起立行為により,平成17年3月3
1日には減給6月の,同年5月27日には停職1月の,平成18年3月31日には停職3月の,各懲戒処分を受けているところ,第2回目の停職1月の処分を受けた後,再発防止研修でのゼッケン着用を巡る抗議等を行ったことによって減給1月の懲戒処分を受けたことが認められるから,第3回目の不起立行為に対する前回A停職処分における停職期間が3月とされたことは,その期間の選択が重過ぎて相当ではないとまではいえない。もっとも,上記説示のとおり,停職処分は,処分それ自体によって被処分者に対して一定の期間,職務の停止及び給与の全額不支給という直接の職務上及び給与上の不利益が及ぶ処分であり,将来の昇給等にも相応の影響が及ぶから,過去に同様の行為が行われた際に停職処分がされていたとしても,懲戒権者において当然に前の停職処分よりも長期の停職期間を選択してよいということにはならないのであって,
停職期間の選択については,過去の非違行為による懲戒処分等の処分歴や不起立行為の前後における態度等をも踏まえて,学校の規律や秩序を保持する必要性と処分によって被処分者が被る不利益の内容との権衡を十分に検討して,当該停職期間を選択することの相当性や合理性を基礎付ける具体的な事情が認められることが必要というべきである。(ウ)

これを本件についてみると,上記説示のとおり,控訴人Aは,過去
に不起立行為以外の非違行為によって3回の懲戒処分と,不起立行為によって3回の懲戒処分とを受け,2回の文書訓告をも受けているものの,これらの懲戒処分や文書訓告の対象となった控訴人Aの行為は,既に停職期間3月とする前回A停職処分において考慮されていることや,本件A不起立が卒業式での着席(不起立)行為であって,物理的に式次第の遂行を積極的に妨げるものではないから,停職期間3月とする前回A停職処分を更に加重してそれ以上の停職期間を選択することを相当とするためには,本件A不起立の前後における態度等において,特に処分の加重を必要とするような特段の事情が認められるか否かという点に加えて,停職期間を加重することによって控訴人Aが受けることになる具体的な不利益の内容をも十分に勘案して,慎重に検討することが必要である。
このような観点から検討すると,上記認定のとおり,控訴人Aは,前回A停職処分を受けた後,停職期間中に停職出勤と称して,支援者らを伴い,平成18年4月からの勤務校であるD中や前任校であるF中などに赴き,停職3ヶ月処分は不当である,また,卒業式に際しての校長の職務命令について私は間違っていると思うなどの意見を記載したプラカードを掲げ,校門前の生徒が通学する場などにおいて,抗議活動を行い,平成19年3月2日には,G新聞紙上において,

退職間際の先生なら,処分が加算され,免職を恐れる心配はない。自らの良心に従って起立しなければ,流れは変わる。最後に,現場の教師や子どもたちに,それをプレゼントしてもらえればと願っています。

などと,職務命令違反を呼び掛ける発言を行ったことが認められ,これらの行為は,前回A停職処分が間違っているとの控訴人Aの意思を表明する行為であって,一般的には学校の規律や秩序を乱す可能性のある行為であるとはいえるものの,控訴人Aは,上記の行為を勤務時間中に勤務場所で行ったのではなく,これらの行為によって具体的に学校の運営が妨害されたような事実はなく,日の丸,君が代が戦前の軍国主義等との関係で一定の役割を果たしていたとする控訴人A自身の歴史観や世界観に基づく思想等の表現活動の一環としてなされたものというべきであるから,控訴人Aがこれらの行為を行ったことを,本件A停職処分における停職期間の加重を基礎づける具体的な事情として大きく評価することは,思想及び良心の自由や表現の自由を保障する日本国憲法の精神に抵触する可能性があり,相当ではないというべきである。
上記のところに加えて,停職処分は,上記説示のとおり,処分それ自体によって一定の期間における教員としての職務の停止及び給与の全額不支給という直接的な職務上及び給与上の大きな不利益を与える処分であって,将来の昇給等にも相応の影響が及ぶだけではなく,職員の懲戒に関する条例によれば,停職期間の上限は6月とされていて,停職期間を6月とする本件A停職処分を科すことは,控訴人Aが更に同種の不起立行為を行った場合に残されている懲戒処分は免職だけであって,次は地方公務員である教員としての身分を失うおそれがあるとの警告を与えることとなり,その影響は,単に期間が倍になったという量的な問題にとどまるものではなく,身分喪失の可能性という著しい質的な違いを控訴人Aに対して意識させざるを得ないものであって,極めて大きな心理的圧力を加える結果になるものであるから,十分な根拠をもって慎
重に行われなければならないものというべきである。そして,控訴人Aにおいて過去に懲戒処分や文書訓告の対象となったいくつかの行為は,既に前回A停職処分において考慮されている上,本件A不起立は,以前に行われた掲揚された国旗を下ろすなどの積極的な式典の妨害行為ではなく,国歌斉唱の際に着席したという消極的な行為であって,気分を害した参加者がいることは否定できないものの,その限度にとどまるもので,特に式典が混乱したこともないから,停職期間3月という前回A停職処分を更に加重しなければならない個別具体的な事情は見当たらないというべきであって,控訴人Aがこれまでにも同種の行為を繰り返していることを考慮したとしても,前回A停職処分の3月の停職期間を超える処分を科すことを正当なものとすることはできないというべきである。
(エ)

以上によれば,本件A停職処分において停職期間を6月とした都教
委の判断は,具体的に行われた非違行為の内容や影響の程度等に鑑み,社会通念上,行為と処分との均衡を著しく失していて妥当性を欠くものであり,懲戒権者としての都教委に与えられている裁量権の合理的な範囲を逸脱してなされたものといわざるを得ず,違法なものというべきである。したがって,この点に関する被控訴人の上記主張を採用することはできない。」
(24)

原判決84頁9行目冒頭から87頁20行目末尾までを削る。

(25)

原判決87頁21行目の7を6と改める。

(26)

原判決88頁2行目冒頭から89頁15行目末尾までを次のとおり改
める。
(2)ア本件各処分の違法性及び都教委の過失の有無について本件各処分が懲戒権者としての裁量権の範囲を逸脱してなされたものとして違法であることは,上記説示のとおりであるが,控訴人らは,この点について国賠法1条による損害賠償をも請求しているから,以下,都教委が控訴人らに対して本件各処分を行ったことについて,通常尽くすべき注意義務を怠ったといえるか否かについて検討する。イ上記認定のとおり,都教育庁指導部は,平成14年11月に本件指導資料を作成し,国旗・国歌の法制化に当たり,主要国会審議における内閣総理大臣,文部大臣及び政府委員からの答弁(以下「本件国会審議答弁という。)を掲載したが,その中には,学校における国旗・国歌の指導と,児童・生徒の内心の自由との関係についての答弁として,

学習指導要領に基づいて,校長,教員は,児童生徒に対し国旗・国歌の指導をするものであります。このことは,児童生徒の内心にまで立ち至って強制しようとする趣旨のものでない

との内閣総理大臣の答弁,単に従わなかった,あるいは単に起立をしなかった,あるいは歌わなかったといったようなことのみをもって,何らかの不利益をこうむるようなことが学校内で行われたり,あるいは児童生徒に心理的な強制力が働くような方法でその後の指導等が行われるということはあってはならないとの政府委員の答弁が掲載されていることが認められ,上記答弁をみると,国旗国歌法制定に至る国会審議の過程においても,国旗国歌に対する起立及び国歌斉唱には,日本国憲法が保障している思想及び良心の自由との関係で微妙な問題を含むものであることが,すなわち,個人の歴史観ないし世界観に由来する行動(敬意の表明の拒否)と異なる外部的行為(敬意の表明の要素を含む行為)を求められることとなり,その限りにおいて,その者の思想及び良心の自由についての間接的な制約となる面があること(前掲最高裁平成23年5月30日判決,前掲最
高裁平成23年6月6日判決,前掲最高裁平成23年6月14日判決,前掲最高裁平成23年6月21日判決)が意識されていたことが認められる。したがって,国旗国歌法制定に当たって,外部的行為は,思想及び
良心の自由との関係で微妙な問題を含むものであることにも配慮して,起立斉唱行為を命ずる職務命令に従わず,殊更に着席するなどして起立しなかった者について懲戒処分を行う際にも,その不起立の理由等を考慮に入れてはならないことが要請されていたものというべきである。ウ
また,上記認定のとおり,本件処分量定では,処分量定はあくまで標準であり,個別の事案の内容や処分の加重については,表に掲げる処分量定以外とすることもあり得るものと定められていることを考慮すると,本件処分量定が定めている処分量定の加重ということは,必ず加重しなければならないという意味での必要的な加重を定めているものではないと解される。しかも,上記認定のとおり,本件指導資料に掲載された本件国会審議答弁には,国旗・国歌の指導に関する教職員への職務命令や処分についての答弁として,

職務命令というのは最後のことでありまして,その前に,さまざまな努力ということはしていかなきゃならないと思っています。

との文部大臣の答弁,実際の処分を行うかどうか,処分を行う場合にどの程度の処分とするかにつきましては,基本的には任命権者でございます都道府県教育委員会の裁量にゆだねられているものでございまして,任命権者である都道府県におきまして,個々の事案に応じ,問題となる行為の性質,対応(ママ),結果,影響等を総合的に考慮して適切に判断すべきものでございます。・・・なお,処分につきましては,その裁量権が乱用されることがあってはならないとの政府委員の答弁,教育の現場というのは信頼関係でございますので,・・・処分であるとかそういうものはもう本当に最終段階,万やむを得ないときというふうに考えております。このことは,国旗・国歌が法制化されたときにも全く同じ考えでございます。との文部大臣の答弁が掲載されていることが認められるのであって,このような上記答弁の趣旨は,国旗国歌法制定に当たり,国旗の掲揚や国歌の斉唱に関する
指示や職務命令等に従わない教職員に対する懲戒処分を発令する場合には,問題となる行為の性質,態様,結果,影響等を総合的に考慮して適切に判断すべきであることや,その発令が合理的な裁量権の範囲を逸脱したり,裁量権を濫用してなされるものであってはならないことを要請していたものと解するのが相当である。

また,本件標準量定の運用を体罰の事案についてみると,上記認定のとおり,都教委は,体罰に至る背景事情,体罰等の態様,傷害の有無・程度,児童・生徒への影響,過去の処分等を総合的に判断し,量定を決定しており,個別の事案ごとに処分を決定し,あらかじめ体罰の回数に応じて機械的に一律に処分を加重していくという運用はしていないことが認められる。


そうすると,
本件処分量定においても,
本件国会審議答弁においても,
機械的に一律に処分を加重して行うことには,もともと慎重な検討が要請されていたものということができる。
しかるに,都教委は,上記認定のとおり,平成15年11月から12月にかけて行われた都立学校の周年記念式典以降,入学式,卒業式又は周年記念式典において,校長から起立斉唱行為を命ずる職務命令が発せられていたにもかかわらず,国歌斉唱時に起立しなかった教職員に対して,職務命令違反として,1回目は戒告,2回目は給与1月の月額10分の1を減ずる減給,3回目は給与6月の月額10分の1を減ずる減給,4回目は停職1月,5回目は停職3月,6回目は停職6月の各処分を行っており,このような機械的な運用は,もともと機械的に一律に加重して処分を行うことには慎重な検討を要請していた本件国会審議答弁における各答弁内容や本件処分量定を定めた趣旨に反するものといわざるを得ない。しかも,このような学校における入学式,卒業式などの行事は毎年恒常的に行われる性質のものであって,
しかも,
通常であれば,

各年に2回ずつ実施されるものであるから,仮に不起立に対して,上記のように戒告から減給,減給から停職へと機械的に一律にその処分を加重していくとすると,教職員は,2,3年間不起立を繰り返すだけで停職処分を受けることになってしまい,仮にその後にも不起立を繰り返すと,より長期間の停職処分を受け,ついには免職処分を受けることにならざるを得ない事態に至って,自己の歴史観や世界観を含む思想等により忠実であろうとする教員にとっては,自らの思想や信条を捨てるか,それとも教職員としての身分を捨てるかの二者択一の選択を迫られることとなり,そのような事態は,もともとその者が地方公務員としての教職員という地位を自ら選択したものであることを考慮しても,日本国憲法が保障している個人としての思想及び良心の自由に対する実質的な侵害につながるものであり,相当ではないというべきである。

上記のところを考慮するならば,被控訴人においては,起立斉唱の職務命令に反して起立して斉唱しなかった控訴人らに対して不利益処分を科す際には,その処分が控訴人らの個人的な思想及び良心の自由に対しても影響を与えるものであることを十分に考慮した上,不起立の回数によって機械的かつ一律に加重して処分を行うのではなく,本件各処分の対象となった不起立等の態様や,不起立によって式典にどのような影響が生じたのか等を個別具体的に認定し,想定される処分がなされた場合に生ずる個人的な影響や社会的な影響等をも慎重に検討した上で,それぞれの非違行為にふさわしい処分をすべきものであった。
しかるに,本件では,都教委が控訴人らに対して本件各処分を行うに当たり,本件各不起立の性質,実質的影響,本件各処分によって控訴人らが受けることになる不利益,社会的影響等についても十分に考慮した上で慎重に検討されたことを認めるに足りる的確な証拠はない。そうである以上,本件各処分には懲戒権者に与えられている合理的な裁量権の
範囲を逸脱した違法があるものといわざるを得ず,しかも,上記認定のとおり,本件指導資料に掲載された本件国会審議答弁の内容やその趣旨は,都教委関係者は当然に理解しておくべきものであって,これらの答弁内容等に照らすならば,一部の教職員に国歌・国旗に関する職務命令等に違反する非違行為があったからといって,そのことだけで機械的かつ一律に処分を加重することを許容するものではないことは明らかであるから,そのような趣旨に反した本件各処分を行った都教委には,本件各処分に際して過失があったものといわざるを得ず,国賠法上も違法性が認められるというべきである。

この点について,被控訴人は,控訴人らに職務命令違反があり,懲戒事由該当性が認められること自体は明らかであって,都教委が控訴人らに対して懲戒処分をしたこと自体には職務上通常尽くすべき注意義務違反も過失もなかったし,本件各不起立に対する懲戒処分の処分量定においても,懲戒権者たる都教委が控訴人らの過去の非違行為及び処分歴を考慮して加重したことには違法性がないと主張している。しかし,控訴人らにおいて,何度も国旗・国歌に関する職務命令に違反し,その都度,懲戒処分を受けていることは事実であり,都教委において控訴人らに対して何らかの懲戒処分を科すことができるとしても,そのことと,都教委において,控訴人らに対して本件各処分を科すに際して,その職務上尽くすべき通常の注意義務を尽くしたか否かは別問題であるから,被控訴人の上記主張は,前提において失当であり,しかも,上記認定のとおり,注意義務を尽くしたともいえないから,当裁判所の採用する限りではない。

(3)

控訴人らの損害について
そこで,控訴人らに認められるべき慰謝料の額について検討する。まず,弁論の全趣旨によれば,本件各処分が取り消されて確定したな
らば,
停職期間中に控訴人らに支給されなかった給与
(給料及び諸手当)
については,当然に全て回復措置が図られることになり,また,本件各処分によって昇給や退職手当や退職共済年金に影響が生じた場合には,必要な是正措置がとられることが認められる。そうすると,控訴人らが本件各処分によって受けた経済的な不利益については,本件各処分を取り消すことによって当然に回復される蓋然性が極めて高いということができる。

しかし,前提事実のとおり,停職処分は,減給とは異なって,単に経済的な不利益があるだけではなく,一定の期間,その職務が停止されるという職務上の不利益を伴い,しかも,戒告や減給と比較すると,処分を受けたことが外部からも認識することができるものであることや,教員の場合は,停職期間中は教室等で授業をすることができず,教壇に立てないことによって,児童生徒との継続的な人格的触れ合いをすることもできなくなり,ひいては教育活動に欠かすことができない児童生徒との信頼関係の維持にも悪影響を及ぼすおそれがあり,長くなればなるほど影響も大きくなることを考えると,本件各処分を受けたことにより,控訴人らは精神的な苦痛も受けているものというべきである。しかも,控訴人らは,本件各処分による停職期間経過後に復職しても,児童生徒との間で当然に信頼関係が回復されるわけではなく,控訴人らにおいて児童生徒との信頼関係を再構築して,再び円滑に人格的な接触を図ることができるようになるまでには,やはり精神的な苦痛を受け,相応の努力を要するものと考えられることなどの事情を総合的に考慮するならば,本件各処分によって控訴人らが被った上記のような精神的苦痛は,本件各処分が取り消されたことによって図られる財産的な損害の回復によって当然に慰謝されて回復することになるものではないというべきである。

この点,被控訴人は,労働者には就労請求権が認められるわけではなく,地方公務員たる教員が教育活動を行うのは職務上の義務であって,教員の個人的権利ではないし,
また,
児童生徒との人格的な触れ合いは,
教員が児童生徒の利益を図るための義務として行う職務活動であって,教員の個人的利益のためになされるものではないから,本件各処分によってそのような職務活動ができなくなったとしても,損害賠償を求めることができるものではないなどと主張している。しかし,労働者に就労請求権が認められるか否かの議論はさておき,上記認定のとおり,控訴人らは停職期間中は教室等で授業をすることができず,児童生徒との継続的な信頼関係の維持にも悪影響が生じ,精神的な苦痛を受けるだけではなく,職場復帰後も信頼関係の再構築等で精神的な苦痛を受けたりするものと認められ,そのような精神的な苦痛は,本件各処分の取消しにより回復される財産的な損害の補填をもっては十分ではないというべきであるから,これと異なる被控訴人の上記主張を採用することはできないというべきである。

そして,前提事実に加え,証拠(甲512,513,原審における控訴人ら本人)
によれば,
控訴人Bにおいては平成19年6月30日まで,
控訴人Aについては同年9月30日まで,それぞれ教壇に立つことを禁止され,その間,生徒との人格的触れ合いができず,職場復帰後も生徒との信頼関係を再び築くまでに相応の努力を要する状況であったと認められるから,控訴人らが本件各処分によって受けた上記の職務上の不利益が,財産的損害の回復によって同時に慰謝されるとみるのは相当ではないというべきである。
なお,控訴人らは,上記に加え,停職後の職場復帰の困難さなどの職務上の不利益を被り,加重処分による違法な退職強要を事実上迫られてきたなどとも主張しているが,本件各処分後の控訴人らの職場復帰自体
が著しく困難であったと認めるに足りる証拠はないし,控訴人らが更に不起立をすることによって,本件各処分よりも重い懲戒処分を受ける可能性があったことは否定できないとしても,それは,本件各処分後に更に控訴人らが同様の行為を行い,それに対して都教委が何らかの処分をすることによって生ずるものであるから,そのような点まで本件各処分による精神的苦痛ということはできない。

上記のとおり,本件においては,都教委において,控訴人Bにつき停職3月,控訴人Aにつき停職6月としたことは,いずれも裁量権の合理的な範囲を逸脱したものとして違法というべきであり,そのような処分によって控訴人らが受けた精神的苦痛については損害賠償によって慰謝されるべきものと考えるが,他方において,控訴人らは,本件各不起立の当時,いずれも公立学校の教員として地方公務員の立場にあり,しかも,事前に校長から式典においては起立して国歌を斉唱するよう命ずる職務命令が発せられていたにもかかわらず,国歌斉唱のときに至って着席して職務命令に違反したものであって,そのこと自体は懲戒処分に相当する違法なものといわざるを得ず,控訴人らが何らかの懲戒処分を受けるべき立場にあったことは否定できないところ,控訴人らは本件各処分の前にも懲戒処分を受けており,仮に今回の処分が,控訴人Bにつき減給,控訴人Aにつき停職3月であったならば,違法なものとして取り消されることはなかったであろうと考えられることなど,本件に現れた一切の事情を総合考慮するならば,本件各処分によって控訴人らが被った精神的苦痛に対する慰謝料は,控訴人らそれぞれに対して10万円とするのが相当である。」

2
以上の次第で,控訴人らに対してなされた本件各処分は,いずれも違法なものであって,取り消されるべきであるから,本件B停職処分を取り消した原判決は相当であるが,本件A停職処分の取消請求を棄却した原判決は不当である。
また,控訴人らの国賠法1条に基づく損害賠償請求は,上記のとおり,それぞれ10万円及びこれに対する本件各処分の日である平成19年3月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その限度で認容されるべきであるから,これと異なる原判決は上記の限度で不当である。
よって,控訴人らの控訴は一部理由があるから,原判決を主文第1項ないし第4項のとおり変更することとし,他方,被控訴人の控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第14民事部

裁判長裁判官

須藤典明
裁判官

小池晴彦
裁判官

小濱浩庸
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