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建造物侵入、窃盗
事件番号平成26(う)123
事件名建造物侵入,窃盗
裁判年月日平成27年3月18日
裁判所名・部広島高等裁判所  岡山支部
結果破棄差戻
原審裁判所名岡山地方裁判所
原審事件番号平成25(わ)844
判示事項の要旨建造物侵入,窃盗被告事件について,原審で証言を拒絶した証人の証言を得るための手が尽くされているとはいえないから,同証人の検察官調書を刑訴法321条1項2号前段に基づき証拠採用した原審の訴訟手続には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があるとして,第一審判決を破棄して差し戻した事例
裁判日:西暦2015-03-18
情報公開日2017-10-13 01:34:25
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平成27年3月18日宣告
平成26年(う)第123号

広島高等裁判所岡山支部判決
建造物侵入窃盗

原審:岡山地方裁判所(平成25年(わ)第844号等)
主文
原判決を破棄する
本件を岡山地方裁判所に差し戻す。
理由
本件控訴の趣意は,主任弁護人佐々木浩史及び弁護人頓宮尚公共同作成の控訴趣意書に記載のとおりである。
論旨は,訴訟手続の法令違反,事実誤認及び量刑不当の主張である。1
訴訟手続の法令違反の主張について
論旨は,原審が,①Aの検察官調書(原審甲15ないし18,37ないし40。以下まとめて本件検察官調書1という。)について,刑訴法321条1項2号前段の要件を満たしていないのに,これを満たすとして,証拠として採用し,判決の基礎としたこと,②弁護人の異議にもかかわらず,Aの平成26年5月1日付け検察官調書(以下本件検察官調書2という。)を証拠として採用したことは,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反に当たる,というのである。そこで検討するに,原審の②の訴訟手続に法令違反があるとは認められないが,①の訴訟手続,すなわち,本件検察官調書1について刑訴法321条1項2号前段の要件を満たすとして証拠として採用し,有罪認定の用に供したことは,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の
法令違反に当たる。以下補足して説明する。
(1)

関係記録によれば,以下の事実が認められる。
Aは,原判示第3の事実の被疑者として勾留中あるいは同事実に
より起訴された後である平成25年12月2日から平成26年1
月23日までの間に,捜査担当検察官の取調べを受け,要旨平成25年6月頃,被告人から『トラックを盗んできたら1台20万から30万円で買い取る』旨言われ,トラックを盗むようになった。原判示第1及び第2の事実については,犯行に及ぶ数日前,被告人から『原判示第2のフォークリフトが欲しい』旨言われ,フォークリフトを運ぶためのトラックも合わせて買い取ってもらう旨の話をした上で,犯行に及び,盗んだトラック及びフォークリフトを合計60万円で買い取ってもらった。原判示第3の事実については,犯行現場である被害会社の敷地内に侵入した後,被告人が買い取ってくれるトラックがどれかを確認するために被告人に電話をかけ,被告人が買い取ることを約束したトラック等を盗み,被告人の指示に従って解体した上,合計60万円で被告人に買い取ってもらった旨の本件検察官調書1に署名指印した。なお,Aの平成25年12月19日付け検察官調書(原審甲17)には,

自分が話したことは全て事実であり,もし被告人の前でこれらのことを話すようにと言われても,話すことができると思う。今後そのような要請があれば協力する

旨の記載がある。

被告人は,平成25年12月4日,原判示第3の事実により逮捕

され,引き続き勾留されて同月25日に同事実により起訴され,さらに平成26年1月10日,原判示第1及び第2の事実により逮捕され,引き続き勾留されて同月30日に起訴された。
平成26年2月4日に原審第1回公判期日が,同年3月4日に原
審第2回公判期日がそれぞれ開かれ,被告人及び弁護人は原判示の各事実についていずれも否認し,
公判担当の検察官
(以下,
単に
検察官という。)から証拠請求された本件検察官調書1について不同意の意見を述べた。
平成26年4月11日に裁判官,検察官,弁護人の3者で打合せ
を行い,検察官がAの証人尋問を請求し,同年5月12日に行う原審第3回公判期日において,同証人尋問を実施することなどが確認された。
検察官は,平成26年4月15日,Aの証人尋問を請求し(立証
趣旨は共謀状況,共同犯行状況,被告人に対する盗品の売却状況等),裁判所は,同日,同証人尋問を第3回公判期日に実施する旨の決定をした。

検察官は,平成26年5月1日,Aが収容されていたB刑務所に
行き,Aに対し,被告人の公判での証言を依頼した。
Aはこれに対し,要旨取調べを担当した検事が自分の話にしっかり耳を傾けてくれたので,本当のことを全て話した。各事件についてちゃんと記憶に残っており,裁判で証言することは不可能ではない。しかし,被告人のことが怖い。被告人は(地元)の重要人物で,敵に回したらどんな仕打ちをされるか分からない。もし自分が被告人の裁判で,自分のトラック盗に被告人が関与していることを供述してしまうと,被告人から間違いなく恨みを買うと思う。自分がそのように証言して被告人が有罪になっても,おそらく自分が出所する前に被告人が出所し,自分に恨みを持っている被告人が,自分の妻子に危害を加える可能性が否定できない。取調べの際には,被告人がいなかったので,気兼ねなく事件のことをありのままに話すことができた。しかし,被告人の裁判では,自分が証言するすぐ隣に被告人が座って自分を見ているという状態で,そのようなプレッシャーをかけられ続ける状態では,被告人のことが怖くて,本当のことを証言する勇気がない旨供述した。検察官は,Aの上記供述を録取した本件検察官調書2を作成し,
Aにこれを読み聞かせた上,署名指印を得た。

平成26年5月12日の原審第3回公判期日において,Aが出廷
して,証人尋問が実施された。
検察官から,Aの証人尋問開始時までに,証人尋問の際の証人と
被告人,傍聴人との間の遮蔽措置の申出(刑訴法157条の3)や,ビデオリンク方式による証人尋問の申出(同条の4)等はなされなかった。
Aは,宣誓した上で,検察官からの主尋問に対し,自分も原判示
第1ないし第3の事実で起訴されていること,これらの事件は全て自分が実行犯として実際に窃盗行為を行ったことについては認め

たが,被告人の名前は知っているかという質問に対して黙秘権を行使したい旨述べ,裁判官から,自分の事件に関わるということであれば証言拒絶ということもある旨の説明があると,それ以降
は,検察官の原判示第1ないし第3の事実に関する尋問,本件検察官調書1における供述内容との相反性に関する尋問,本件検察官調書1の署名指印を確認する尋問の全てに対し,答えたくありませんとのみ供述した。また,Aは,検察官から,法廷で答えたくないと言っている理由
について尋問されたが,これに対しても答えたくありませんと
供述し,本件検察官調書2に関する尋問に対しても,全て答えたくありませんとのみ供述した。その後,検察官は,それまで証拠請求も弁護人に対する開示もし
ていなかった本件検察官調書2をAに示そうとし,弁護人から開示を受けていないので異議がある旨の意見を受けると,その場で弁護人に開示した上で,同調書をAに示し,署名指印がAのものに間違いないかなどについて尋問したが,Aはいずれの尋問に対しても答えたくありませんとのみ供述した。
Aは,弁護人の反対尋問においても,答えたくない理由について
の尋問に対し答えたくありませんと供述したが,他方,被告人の関係者が面会して特定の供述をするよう求められたことはない本件検察官調書2に記載された『自分の家族に被告人の関係者から害があるのではないかなどのプレッシャーがある』ということについては,自分が勝手に思っただけであるとも供述した。また,Aは,裁判官の補充尋問に対して,被告人の事件で証人として法廷に行きたくなかった,今日法廷で証言するつもりはなかったと供述し,最後に再度答えられない理由について尋問されたのに対し,

被告人は関係ない。自分の裁判だけを考えたい

旨供述した。

検察官は,Aの証人尋問終了後,同じ原審第3回公判期日におい
て,本件検察官調書1及び2(2の立証趣旨はAが公判廷において証言を拒絶した理由等。原審甲53)を,刑訴法321条1項2号後段の書面として請求し,その後,本件検察官調書1のみを同号前段あるいは後段の書面として請求する旨請求を変更した。
検察官は,
平成26年7月11日の原審第5回公判期日において,
原審甲53として請求していた本件検察官調書2を撤回した上で,改めて,同調書を,本件検察官調書1に刑訴法321条1項2号に基づく証拠能力が認められることという立証趣旨で原審甲56として請求し,同請求について実質証拠ではなく,訴訟法的事実を立証するため,自由な証明として取り調べられたい旨の意見を付した。
弁護人は,
原審甲56について不同意の意見を述べたが,
原審は,
同証拠を自由な証明としてとの理由で採用し,取り調べた上で,
本件検察官調書1を刑訴法321条1項2号前段の書面として採
用し,取り調べた。


Aは,平成26年9月8日,原判示第1ないし第3の事実を含む
建造物侵入窃盗等の罪により有罪判決を受けたが,同判決に対して控訴せず,同判決は確定した。
被告人の原審公判は,前記原審第5回公判期日(内容は前記証拠
調べのほか,罪体に関する被告人質問等が実施された)の後,平成26年8月7日に原審第6回公判期日(内容は情状に関する被告人質問,証拠整理等),同年9月29日に原審第7回公判期日(内容は共犯者の判決や被害弁償に関する書証等の証拠調べ,
論告,
弁論,
最終陳述)がそれぞれ開かれ,同年11月5日の原審第8回公判期日で原判決が宣告された。

(2)以上を基に,まず,原審の②の訴訟手続について検討するに,前記認定事実によれば,検察官は,最終的には,本件検察官調書2(原審甲56)を,本件検察官調書1が刑訴法321条1項2号の要件を満たすことを立証する証拠として請求し,原審も,原審甲56を,本件検察官調書1が同号前段の要件を満たすこと(Aが供述不能であること)の証拠として採用したものと認められるところ,供述不能であることなどの手続上の事実の立証については,自由な証明で足りると解されるから,原審が,原審甲56を,弁護人の不同意意見にもかかわらず,自由な証明として採用したことが,訴訟手続の法令違反に当たるとはいえない。このことは,所論が指摘するように,本件検察官調書1が最重要の直接証拠であったとしても,
変わるところはない。
また,所論は,検察官は,本件検察官調書2について,Aの証人尋
問前には証拠請求する意向を有していたにもかかわらず,弁護人に事前に開示せず,Aの証人尋問中に突如示し,尋問後直ちに証拠請求しており,これは,刑訴法299条1項等に違反し,被告人の訴訟の準備の機会を奪うものであったのであるから,原審は訴訟指揮権を行使するなどして被告人の手続保障を図るべきであったとして,原審甲56を採用した原審の訴訟手続には法令違反がある,というが,前記認定事実のとおり,検察官は,原審第3回公判期日において,原審甲53として証拠請求した本件検察官調書2を原審第5回公判期日において撤回し,改めて原審甲56として証拠請求しており,この原審甲56の証拠請求については,所論が問題とする刑訴法299条1項等の被告人の手続保障が満たされていることは明らかであるから,原審甲53としての証拠請求手続に所論のいうような問題があったとしても,原審甲56として採用した原審の訴訟手続に法令違反があるとはいえない。
(3)次に,原審の訴訟手続①について検討する。証人が証言を拒絶した場合にも,刑訴法321条1項2号前段の供述不能の要件を満たすものとして,その検察官調書を採用することができる(最高裁昭和27年4月9日大法廷判決・刑集6巻4号584頁参照)が,供述不能の要件は,証人尋問が不可能又は困難なため,被告人の反対尋問権不行使という犠牲において,例外的に伝聞証拠を用いる必要性を基礎付けるものであるから,単に証人が証言を拒絶したというのでは足りず,証人の供述態度や証言拒絶の理由等に照らし
て証言拒絶の決意が固く,期日を改めたり,尋問場所や方法に配慮したりするなど,証人の証言を得るための手を尽くしても,翻意して証言する見通しが低いと認められるときに,同要件を満たすものと解される。
本件についてみると,Aの原審公判廷における供述態度,特に検察官に対する供述態度は,証言拒絶の理由も含めて答えないという頑ななものであるが,証言拒絶の理由については,本件検察官調書2(原審甲56)では,被告人に不利な証言をすることにより被告人の恨みを買い,自分の妻子に危害を加えられる可能性等を危惧するものとなっているのに対し,弁護人あるいは裁判官からの尋問に対する答えでは,これを否定し,自分の裁判への影響を危惧するかのような供述をしており,証言拒絶の理由が明確になっているとはいい難い。
また,Aは,本件検察官調書1(原審甲17)の時点では,被告人の公判で証言できるとしており,本件検察官調書2においても,被告人の公判で証言できないとまではしておらず,むしろ被告人の裁判では,自分が証言するすぐ隣に被告人が座って自分を見ているという状態で,そのようなプレッシャーをかけられ続ける状態では,被告人のことが怖くて,本当のことを証言する勇気がない旨供述しているのであるから,被告人等との間の遮蔽措置やビデオリンク方式による尋問等の方法により,Aが証言する可能性があることを否定できないところ,検察官は,証人尋問の10日以上前にAの上記意向を把握したにもかかわらず,尋問実施までに上記遮蔽措置等の申出をしなかっ
たばかりか,本件検察官調書2を事前に証拠請求するなどして証言拒絶の可能性を弁護人や裁判所に認識させることもしておらず,およそAから公判廷で証言を得るための努力をしたとはいえない。
原審としても,証人尋問の重要性を意識して,公判廷で証人から証言を得られるように手を尽くすべきであるところ,Aは,証言拒絶の理由を明らかにしていないのであるから,過料その他の制裁を受けることがある旨を告げて証言を命じなければならない(刑訴規則122条2項)のに,原審において同手続は全くとられていないし,上記のとおり,証言拒絶の理由が明確になっていないのに,立証責任を負う検察官に立証を促すこともされていない。また,Aの証言拒絶の理由が,自分の裁判への影響(刑訴法146条)にあったとしても,本件におけるAの証言あるいは本件検察官調書1の重要性や原審公判の審理経過等に鑑みると,本件検察官調書1を採用する前にAを再尋問することも検討してしかるべきところ,原審においてそのような検討がなされた形跡はみられない。
以上によれば,Aの証言拒絶の理由が明確でなく,証言拒絶の決意が翻意されることが期待できないほど固いとまではいい切れないし,尋問方法や時期等を配慮することにより,証言が得られる可能性があることも否定できないところ,これらの配慮をするなど証言を得るための手が尽くされているとはいえないから,Aが原審第3回公判期日で証言を拒絶したことをもって,刑訴法321条1項2号前段の供述拒否の要件を満たすものとは認められない。

そうすると,本件検察官調書1について刑訴法321条1項2号前段の要件を満たすとして証拠として採用した原審の訴訟手続には法令違反があるといわざるを得ない。そして,原審は,本件検察官調書1を原判決の(証拠の標目)の項に掲記し,有罪認定の用に供しているから,上記訴訟手続の法令違反が判決に影響を及ぼすことは明らかである。
論旨は理由がある。
2
破棄差戻し
よって,弁護人のその余の論旨について判断するまでもなく,刑訴法397条1項,379条により原判決を破棄し,同法400条本文に則り,前記のとおりAの証人尋問を実施し,それを踏まえて更に証拠調べが必要ならばその審理を尽くさせるため,本件を原裁判所である岡山地方裁判所に差し戻すこととし,主文のとおり判決する。
平成27年3月18日
広島高等裁判所岡山支部第1部

裁判長裁判官

傳田喜久
裁判官

森實有紀
裁判官

白石篤史
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