判例検索β > 平成25年(ワ)第34号
損害賠償請求事件
事件番号平成25(ワ)34
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日平成27年3月19日
裁判所名・部仙台地方裁判所  第3民事部
判示事項の要旨社会福祉法人の前理事長を県が業務上横領の疑いで警察に告発したことなどを内容とする新聞記事を掲載した新聞社及び上記告発に係る情報を新聞社に提供した県において,上記記事により摘示された事実が真実であると信ずるについて相当の理由があったと認められた事例
裁判日:西暦2015-03-19
情報公開日2017-10-17 20:14:45
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主文1
原告の請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は,原告の負担とする。

第1
1実及び理由
請求
被告らは,原告に対し,連帯して2200万円及びこれに対する平成25年1月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2
被告宮城県は,本判決確定の日から1週間以内に,被告株式会社河北新報社が発行する日刊新聞河北新報の朝刊に,別紙2記載の掲載要領で,同別紙記載の謝罪文を掲載せよ。

3
被告株式会社河北新報社は,本判決確定の日から1週間以内に,同被告が発行する日刊新聞河北新報の朝刊に,別紙3記載の掲載要領で,同別紙記載の謝罪文を掲載せよ。

第2

事案の概要等
本件は,被告株式会社河北新報社(以下被告河北新報社という。)が発行する日刊新聞に,被告宮城県(以下被告県という。)が社会福祉法人A(以下Aという。)の理事長であった原告を業務上横領の疑いで宮城県警察に告発したことなどを内容とする記事が掲載されたことにより,名誉及び社会的信用を毀損されたとして,原告が,被告河北新報社に上記告発に係る情報を提供した被告県に対しては国家賠償法1条1項に基づき,上記記事を掲載した被告河北新報社に対しては民法715条1項に基づき,慰謝料と弁護士費用の合計2200万円及びこれに対する被告河北新報社が上記記事を掲載した日である平成25年1月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めるとともに,被告らに対して民法723条に基づく原状回復処分として謝罪文の掲載を求める事案である。

1
前提事実等(争いがない事実,当事者が争うことを明らかにしない事実及び
当裁判所に顕著な事実については特に根拠を明記しない。)
(1)

当事者等
原告は,平成11年12月から平成24年8月13日までの間,宮城県栗原市に主たる事務所を設け特別養護老人ホームなどの施設を運営するAの理事長であった。


都道府県知事は,法令や定款が遵守されているかどうかなどを確かめるため必要があると認めるときは,社会福祉法人からその業務若しくは会計の状況に関して報告を徴し,又は社会福祉法人の業務及び財産の状況を検査させることができるほか,運営が著しく適正を欠くと認めるときなどは,所轄庁として,社会福祉法人に対し,必要な措置を採るべき旨を命ずることができるなどの監督権限を有している(社会福祉法56条1項,2項,30条)。


(2)

被告河北新報社は,日刊新聞河北新報を発行する株式会社である。本件記事が掲載された経緯
宮城県保健福祉部社会福祉課(以下県社会福祉課という。)が宮城県知事(以下県知事という。)の命を受けて平成22年10月8日に実施した監査等により,Aの決算関係書類の数値の誤りや使途が不明瞭な支出などが発見されたため,県社会福祉課は,Aに対する監査や関係者からの聞き取りなどの調査を行った。これらの調査の結果,平成20年4月から平成22年3月にかけての,別紙4使途不明金一覧表の日付
欄に記載された日に,A本部又はAが開設・運営するBデイサービスセンターの銀行口座から出金された同別紙の金額欄記載の合計1490万円が,支出を裏付ける資料が確認できない使途不明金であることが判明した(以下,これらの使途不明金を本件使途不明金という。)。


県知事は,本件使途不明金の存在等を受けて,平成24年7月26日,Aに対し,社会福祉法56条2項に基づき,役員執行体制の適正化や会計
経理体制の全面的見直し,使途不明金に係る賠償等の検討などを内容とする改善措置を命じた(以下本件措置命令という。)。
原告は,同年8月13日付けでAの理事長及び理事を辞任した。(以上につき丙4,弁論の全趣旨)

県知事は,被告県の一連の調査の結果,本件使途不明金は原告の横領により生じたと判断して,同年12月27日,宮城県警察の司法警察員に対し,原告に業務上横領の疑いがある旨の告発(以下本件告発という。)をした(乙28)。


被告県の担当職員は,平成25年1月9日,被告河北新報社の記者に対して,本件告発をした事実,原告による横領の時期,回数,金額等の情報を提供した(以下本件情報提供行為という。)(丙9,10,証人C,証人D)。


被告河北新報社は,本件情報提供行為を受けて,同月10日,河北新報朝刊の社会面において,被告県が,Aの前理事長がAの運営費1490万円を着服したとして,前理事長を業務上横領の疑いで宮城県警察に告発をし,同警察が同告発を受理したこと,前理事長の主導のもとに平成20年4月4日から平成22年3月15日にかけて,Aの預金口座から22回にわたり30万円から100万円ずつ合計1490万円が引き出されて横領されたと被告県が判断したこと,本件使途不明金の一部につき取引業者に実態のない領収書を発行させて現金支出があったように装っていたこと,前理事長が,被告県の監査において不正なことは何もやっていない旨を話していたこと,管理監督責任をとって平成24年8月に理事長と理事を辞任したことなどを記載した記事(以下本件記事という。)を掲載した(甲1)。


被告県による本件情報提供行為と被告河北新報社による本件記事の掲載行為は,公共の利害に関する事実に係り,専ら公益を図る目的に出たもの
であった。
(3)

原告の逮捕,起訴等の経緯


原告は,平成25年6月25日,本件使途不明金のうちの300万円を業務上横領したとの嫌疑により逮捕され,同年7月12日に本件使途不明金のうちの274万8949円を業務上横領したとの公訴事実により起訴され,同年8月2日に本件使途不明金のうちの518万円を業務上横領したとの公訴事実により追起訴された。


原告は,平成26年3月27日,上記業務上横領被告事件の第一審において無罪判決を受けた。上記業務上横領被告事件は,現在,控訴審に係属している。

2
争点
本件の争点は,①本件記事が掲載されたことにより原告の社会的評価が低下したか,②本件記事により摘示された事実(真実性ないし相当性の証明の対象となる事実)は何か,③本件記事により摘示された事実がその重要部分において真実であると認められるか,④本件記事により摘示された事実が真実であると被告県が信ずるについて相当の理由があったか,⑤本件記事により摘示された事実が真実であると被告河北新報社が信ずるについて相当の理由があったか,⑥原告が被った損害等であり,これらの点に関する当事者の主張は以下のとおりである。
(1)

本件記事が掲載されたことにより原告の社会的評価が低下したか(争点
①)

原告の主張
新聞記事が人の名誉を毀損するか否かは一般読者の普通の注意と読み方を基準として判断される。本件記事は,被告県が原告を業務上横領の疑いがあるとして告発をした旨が記載されているが,被告県という地方公共団体が告発し,宮城県警察がこれを受理したという事実は,一般読者に対し,
告発に係る犯罪事実は真実であるとの印象を強く抱かせる。さらに,本件記事には,横領した時期,額などにつき具体的な数字が記載されているため,上記印象が一層強められている。
したがって,本件記事を読んだ一般読者は,原告が業務上横領という犯罪行為を行った,又は少なくともその疑いが強いと理解するから,本件記事が原告の社会的評価を低下させることは明らかである。

被告県の主張
本件記事により,原告の社会的評価が低下したことについては否定しない。


被告河北新報社の主張
本件記事においては,被告県が告発し,宮城県警察が受理したことなどの客観的事実のみが記載され,被告河北新報社の主観に基づく記載は含まれておらず,原告の弁解等も記載されており,告発に係る事実があたかも真実であるかのように報じたものではないことは明らかである。また,県知事が本件措置命令を発した事実などAの使途不明金の問題は報道機関や宮城県議会等において取り上げられており,宮城県議会等における議論状況は,本件記事が掲載される前から被告県のホームページにおいて公開されていた。
以上のような,本件記事全体の内容,報道各社の報道内容や宮城県議会における議論状況等に照らすと,本件記事が掲載されたことによって原告の社会的評価が低下したとはいえない。

(2)

本件記事により摘示された事実(真実性ないし相当性の証明の対象となる事実)は何か(争点②)

被告県の主張
強制調査権を持たない地方自治体が,任意調査の限界の下で収集し得た資料によって犯罪が存在すると思料して刑事訴訟法上の告発義務を履行す
る場合に,社会一般が受ける印象は,強制調査権を持つ機関が告発する場合とは異なるというべきであるから,本件記事により摘示された事実(真実性ないし相当性の証明の対象となる事実)は,当該犯罪事実そのものではなく,行政機関において告発が相当と判断される程度の嫌疑の存在であると解すべきである。

被告河北新報社の主張
被告河北新報社は,本件記事において,被告県が本件告発をし,宮城県警察が同告発を受理したことなどの客観的事実を記載したにすぎず,原告が業務上横領行為を行ったとの事実を記載したものではない。原告の弁解も掲載されていることなどからすると,一般読者が普通の注意と読み方で本件記事を読んだ場合,原告が業務上横領行為を行ったと捉えるとは考えられず,被告県が原告を業務上横領で告発し,宮城県警察がそれを受理した事実があるにすぎないと捉えるものと考えられるから,真実性ないし相当性の証明の対象となる本件記事により摘示された事実は,被告県が本件告発をし,宮城県警察が同告発を受理した事実である。

原告の主張
被告県という地方公共団体が告発し,宮城県警察がこれを受理したという事実は,一般読者に告発に係る犯罪事実は真実であるとの印象を強く抱かせる。さらに,本件記事には,横領した時期,額などにつき具体的な数字を示して犯罪事実が記載されているため,上記印象が一層強められる。このように,一般読者は,本件記事により,原告が業務上横領行為を行ったという印象を受けるから,真実性ないし相当性の証明の対象となる本件記事により摘示された事実は,原告が業務上横領行為を行った事実である。

(3)

本件記事により摘示された事実がその重要部分において真実であると認められるか,又は真実であると被告県が信ずるについて相当の理由があったか
(争点③④)

被告県の主張
仮に,本件記事により摘示された事実が,原告が合計1490万円の本件使途不明金を横領した事実であると認められるとしても,以下の事情を総合考慮すると,上記事実は真実であると認められ,少なくとも真実であると被告県が信ずるについて相当の理由があったというべきである。
(ア)Aにおける原告の地位
原告は,Aの理事長を務めていただけでなく,理事会の決議事項とされていた社会福祉施設長の任免を独断で行い,財政上の理由から職員の昇給を見合わせたにもかかわらず,自分だけ昇給させていたなど,Aを独善的に運営していた。
さらに,原告は,平成20年4月1日以降,会計責任者の職も兼務し,実態としても会計事務について事務局長が関与する体制になっていなかった。
(イ)銀行印及びキャッシュカードの管理状況
平成22年10月8日に実施されたAに対する一般監査において,Aや各施設の銀行口座の銀行印は原告が使用している理事長室に保管されている旨の説明がされた。また,被告県が,平成24年7月3日に原告の立会いの下に理事長室の金庫内を確認したところ,A及び各施設の銀行印及びキャッシュカードが収められていた上,原告自身も

銀行印は原告自らが押印することを基本としているが,原告の監視の下,理事長室で職員に押印してもらう場合もある。

旨説明した。さらに,Aの元総務課長であるEは,同年9月14日,EがAに勤務していた平成20年4月から平成21年5月までの間,Aの通帳はEが管理していたが,銀行印とキャッシュカードは原告が保管しており,職員が自由にお金を下ろせる状況ではなかった旨説明した。

(ウ)預金通帳等のメモ
別紙4使途不明金一覧表No.8~11,14~19の各支出に
ついて,Aの預金通帳に理事長,理事cho,りじcho
又はりじ長というメモが記載され,同一覧表No.19の支出については総勘定元帳の摘要欄に仮払金,理事長と記載されている。
これらの記載は,その支出に係る金銭が原告に渡ったことを強く推認させる。
(エ)Eの供述
Eは,平成24年9月14日,被告県に対し,

EがAに勤務し始めた平成20年4月頃から,多額の仮払金(原告への現金引渡し)が発生している状況であった。

通帳にある『理事長』,『理事cho』,『りじcho』などの記載については,下ろしてこいという意味であり,原告又はAの事務局長であるFから言われることがあった。

Eが知らないうちに預金が下ろされていたこともあり,返してもらわないとまずいという話を原告に何度もしていた。

Eは,原告への仮払いについて,続けることはできないと原告に言ったが,言えば言うほど環境が悪くなる一方で,原告は誰の言うことも聞かなくなった。

原告から抜いた現金を返してもらったことは一度もない。

などの内容を述べた。
Eの上記供述は,Aにおいて,預金が払い戻されて原告に渡るという事態が日常的に発生していたことを推認させる。
(オ)虚偽の領収証等の作成及び提出に対する原告の関与等
Aが提出した本件使途不明金に係る領収証等には実態の伴わない内容虚偽のものが含まれていたところ,Fは,平成24年7月2日,内容虚偽の領収証の作成を指示したのは原告である旨を説明した。原告が,内容虚偽の領収証等の作成や提出に深く関与していたことは,本件使途不
明金が原告に渡っていたことを推認させる。
また,原告は,内容虚偽の領収証等の作成や提出に自ら関与しただけではなく,虚偽の説明を行うなど,理事長兼会計責任者の立場にありながら,本件使途不明金について一向に明らかにしようとしなかった。(カ)原告による700万円の補填
原告は,同年6月27日,別紙4使途不明金一覧表No.1~7
の合計700万円の支出について,私費をAの口座に入金して補填した。Aの理事長兼会計責任者である原告としては,上記700万円の行方について徹底的に調査し,もし不正が認められれば,その不正をした者に賠償を求めるのが通常であるところ,原告は,そのような手順を経ずに,管理責任をとるという名目で700万円もの大金をAに支払った。原告のこのような行動自体が,当該700万円が原告に渡っていたことを推認させる。
(キ)ベンツ修理費の支払
Aの元理事であるGは,同年11月21日,本件使途不明金の一部である300万円(別紙4使途不明金一覧表No.3~7)は自動車修理会社に対する原告のベンツの修理代金293万9260円に充てられた旨を述べた。このときGが提出した上記会社の納品書によれば,平成20年4月21日に原告の自動車の修理代金として293万9260円が同会社に支払われているところ,同日にAの銀行口座から合計300万円が払い戻されている。この事実は,原告がAの銀行口座から合計300万円を払い戻して私的に費消したことを推認させる。

被告河北新報社の主張
仮に,本件記事により摘示された事実が,原告が本件使途不明金を横領した事実であるとしても,同事実が真実であることについては,被告県の主張を全て援用する。


原告の主張
原告が業務上横領罪で起訴された刑事事件の第一審において無罪判決が言い渡されたことからすると,原告が本件使途不明金を横領したという事実が真実でないことが明らかである。
また,以下のとおり,原告の横領行為を裏付けるべき事情はなく,上記事実が真実であると被告県が信ずるについて相当の理由があったということはできない。

(ア)Aにおける原告の地位
原告がAを独善的に運営したことはない。また,Aにおける経理事務の責任者は総務課長であり,原告がAの会計責任者を兼任していたことは,原告の業務上横領を裏付けるものではない。
(イ)銀行印及びキャッシュカードの管理状況
本件使途不明金の一部(別紙4使途不明金一覧表No.20~2
2)が生じた平成22年3月15日当時,原告がAの銀行印を管理していたことは認めるが,本件使途不明金の大部分が発生したとされる平成20年当時Aの銀行印を保管していたのは,原告ではなくEであった。仮に原告が同年頃から銀行印を保管していたとしても,原告がどのような状況において,どのような意図を持って利用したのかを推認することは困難であり,原告が銀行印を保管していたという事実が原告の横領行為の裏付けとなるとはいえない。
本件使途不明金のうちキャッシュカードにより預金口座から出金されたのは,平成20年4月21日の合計200万円の出金(別紙4使途不明金一覧表No.3~6)のみであるが,その当時キャッシュカードを保管していたのは,Eであって原告ではない。
(ウ)預金通帳等のメモ
Aの預金通帳に理事長等のメモが記載されていることについて,

原告が出金を指示したことを示している旨のEの供述は,メモの記載者や預金の引き出し方法などの重要部分について虚偽の内容が含まれており,信用性に乏しい。また,被告県は,メモの筆跡を調べるなどの調査をすればEの供述が虚偽であることを容易に知り得たにもかかわらず,そのような調査をしていないから,原告が本件使途不明金を横領したという事実を真実であると信ずるについて相当の理由があったとはいえない。
(エ)Eの供述
平成20年4月頃から既に原告への多額の現金引渡しが発生しており,原告やFが預金からの出金を指示していた旨のEの供述は,原告がいつ誰にどのような指示を行ったのかが明らかではなく,極めて一般的かつ抽象的であるから,信用性に欠ける。また,被告県は,Eの供述に表れた人物からの事情聴取等の必要な裏付け調査をしていないから,原告が本件使途不明金を横領したという事実を真実であると信ずるについて相当の理由があったとはいえない。
(オ)虚偽の領収証等の作成及び提出に対する原告の関与等
本件使途不明金についてAが被告県に提出した領収証が全て架空のものであったことは認めるが,Aが各取引先に内容虚偽の領収証を作成させたのは,被告県から使途不明金に係る出金を裏付ける帳票類を提出するよう強く求められたからにすぎず,原告の横領行為を隠蔽するためではないから,上記領収証が虚偽であったからといって,原告による横領の事実が裏付けられるとはいえない。
(カ)原告による700万円の補填
原告は,Aに対し,私費から700万円を補填したが,単に理事長としての監督責任を認めて弁償したにすぎず,横領行為を認めたものではない。

(キ)ベンツ修理費の支払
本件使途不明金の一部である300万円(別紙4使途不明金一覧表No.3~7)が自動車修理会社に対する原告のベンツの修理代金に充てられた旨のGの供述は,伝聞に基づく推測にすぎず,必要な裏付け調査も行われていないから,信用性に乏しい。また,上記会社に修理代金が支払われたのは平成20年4月21日の午後2時9分であり,上記300万円のうち100万円(別紙4使途不明金一覧表No.7)が出金されたのは,上記支払よりも遅い,同日の午後2時37分であるから,上記300万円を上記会社に送金することは不可能である。
(ク)平成21年に行われた一般監査の不備
被告県は平成21年10月にも一般監査を行っているが,同監査によって平成20年度の使途不明金の存在が発見されていれば,使途不明金の真相が明らかにされ,平成21年度の使途不明金は発生しなかったと考えられるから,上記監査の不備こそが問題である。
(4)

本件記事により摘示された事実がその重要部分において真実であると被告河北新報社が信ずるについて相当の理由があったか(争点⑤)ア
被告河北新報社の主張
仮に本件記事により摘示された事実が,原告が本件使途不明金を横領した事実であるとしても,以下の事情からすると,被告河北新報社が同事実を真実と信ずることについて相当の理由があったといえる。

(ア)本件使途不明金の問題は,宮城県保健福祉委員会や宮城県議会において取り上げられるなど,広く県民の関心事となっていたところ,被告河北新報社は,平成24年9月10日及び同月19日,Aの元理事に対し,Aの運営状況,理事会の協議内容,原告の行動等について取材を行い,同元理事から虚偽の領収証をめぐるやり取りが記載されたメールの写しを入手するとともに,原告がAの資産を私物化している状況,不明朗な
会計をめぐり理事会が紛糾した様子,原告が非を認めて使途不明金の一部を返還した事実等の情報を得た。
(イ)被告河北新報社は,Aの運営実態や本件告発に係る宮城県警察とのやり取り等に関して県社会福祉課を継続的に取材し,Aが取引先に発行させた虚偽の領収証は,原告から発行させるよう指示された旨をFが供述したこと等の情報を得た。
(ウ)被告河北新報社は,同月13日,同月20日,同年11月9日,平成25年1月5日等に,Aの現職理事や元理事,地元関係者,警察署等を継続的に取材した。
(エ)被告河北新報社は,同月9日,被告県の担当者から,県知事が本件告発を行い,宮城県警察がこれを受理したという情報提供を受けるとともに,本件使途不明金の存在についての被告県の認定根拠等が記載されている特別監査指摘事項に関する事実認定と題する書面及び県知事が本件告発に至った経緯や原告の業務上横領行為の悪質性等が記載されている社会福祉法人Aに関する告発についてと題する書面を入手した。(オ)被告県は,宮城県保健福祉委員会において,

消耗品や備品等に係る使途不明金についてはグレーの状況であり,顧問弁護士にも相談したところ,これらについて告発するには立証が難しい状況にある。

告発の可否については,顧問弁護士等の意見も伺っており,改善命令や措置命令の実行状況を確認しながら,必要性なども念頭に置きつつ対処していきたい。

旨述べていた。それにもかかわらず,被告県が本件告発に及んだということは,社会福祉法人の監督官庁であり,監査権限等の広範な権限を持つ県知事を代表者とする被告県が十分な根拠に基づき確信を得て告発したと考えられた。

原告の主張
一般的に,強制的な捜査権限を有する捜査機関の情報提供に基づいて記
事を掲載した場合であっても,そのことを理由として相当性が認められてはいないのであって,まして,強制的な権限を有しない被告県からの情報提供があったからといって,相当性が認められることにはならない。被告河北新報社が行った独自調査は,被告県の調査を超えるものではなく,本件記事を掲載するに当たり,必要な裏付け調査が行われたとはいえないから,原告が横領行為を行ったと被告河北新報社が誤信したことにつき,相当の理由があったとはいえない。
(5)

原告が被った損害等(争点⑥)


原告の主張

(ア)被告県がした本件情報提供行為及び被告河北新報社がした本件記事の掲載により,原告は,名誉及び社会的信用を毀損された。これを慰謝するために必要な金額は,2000万円を下らない。また,被告らの不法行為と因果関係のある弁護士費用は200万円を下らない。
(イ)原告の名誉の回復のためには,別紙2又は別紙3記載の要領で,別紙2又は別紙3の謝罪文を河北新報に掲載することが必要である。

被告らの主張
いずれも争う。

第3
1
当裁判所の判断
本件記事が掲載されたことにより原告の社会的評価が低下したか(争点①)について
(1)ある記事の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは,一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきである(最高裁昭和29年(オ)第634号同31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照)。
そこで本件記事についてみるに,その記載内容は前提事実(2)オのとおりであり,社会福祉法人に対して法令上の監督権限を持つ県知事を代表者とす
る被告県が,社会福祉法人の前理事長を業務上横領の疑いで告発したという記載事実は,一般の読者に対して,被告県が監督権限を行使して相当の根拠を得た上で告発に至ったという印象を与えるというべきである。そして,本件記事には,横領が行われた時期,回数,金額等の具体的な情報や,実態のない領収書を取引業者に発行させたという事実の隠蔽を窺わせる事実等も記載されているのである。これらを総合考慮すると,本件記事は,上記告発に係る事実が真実である旨を断定した記載はないことや,原告が不正行為をしたことを否定する発言をしていた旨の記載があることを勘案しても,一般の読者に対し,全体として,上記告発に係る原告の業務上横領の事実が真実存在するという印象を与えると認められる。
(2)被告河北新報社は,Aにおける使途不明金の問題は,本件記事が掲載される以前から一般に公開されて広く県民の関心事となっていたから,本件記事の掲載により原告の社会的評価が低下したとはいえないとも主張する。確かに,Aにおける使途不明金については,証拠(甲2,丙5~7(枝番を含む。))及び弁論の全趣旨によれば,本件記事が掲載される前である平成24年8月21日に開催された宮城県保健福祉委員会や同年9月26日に開催された宮城県議会において,本件使途不明金の問題が取り上げられ,それらの議論状況は,被告県のホームページに掲載され一般に公開されていたこと,同年8月22日に発行された河北新報,読売新聞及び毎日新聞等において,本件使途不明金の存在を理由にAに対する本件措置命令が発せられたことなどを報ずる記事が掲載されたことが認められる。
しかし,上記の議論状況や新聞記事等においては,Aにおける多額の使途不明金が問題視されていることや,本件措置命令が出されたことについて言及されているにとどまり,原告がAの運営費を着服したと被告県が判断したことまでは言及されていない。そうすると,本件記事が掲載される前から,原告が本件使途不明金を横領したということが社会一般の認識であったと認
めるには足りないというべきである。
(3)以上によれば,被告県の本件情報提供行為に基づいて被告河北新報社がした本件記事の掲載により,原告の社会的評価が低下したと認められる。2
本件記事により摘示された事実(真実性ないし相当性の証明の対象となる事実)は何か(争点②)について
(1)民事上の不法行為たる名誉毀損については,その行為が公共の利害に関する事実に係り,その目的が専ら公益を図るものである場合には,摘示された事実がその重要な部分において真実であることの証明があれば,上記行為は違法性がなく,また,真実であることの証明がなくても,行為者がそれを真実と信ずるについて相当の理由があるときは,上記行為には故意又は過失がなく,不法行為は成立しないところ(最高裁平成9年(オ)第411号同11年10月26日第三小法廷判決・民集53巻7号1313頁),被告県による本件情報提供行為及び被告河北新報社による本件記事の掲載行為は,いずれも,公共の利害に関する事実に係り,その目的が専ら公益を図るものであった(前提事実(2)カ)。
(2)そこで,本件記事により摘示された事実の内容についてみるに,本件記事が,一般の読者に対し,本件告発に係る原告の業務上横領の事実が真実存在するという印象を与えることは,上記1において検討したとおりである。そうすると,本件記事により摘示された事実は,原告がAの使途不明金1490万円を横領したという事実であると認められ,業務上横領で告発される程度の嫌疑が原告にあるという事実又は被告県が本件告発をして宮城県警察がこれを受理した事実のみであるとの被告らの主張は,採用することができない。

3
本件記事により摘示された事実が真実であると被告県が信ずるについて相当の理由があったか(争点④)について
(1)次に,本件記事により摘示された事実がその重要部分において真実である
と認められるか(争点③)についての判断をしばらく措き,被告県がこれを真実であると信ずるについて相当の理由があったか否かを検討するに,前記前提事実に後掲証拠及び弁論の全趣旨を併せると,本件告発や本件記事の掲載に至る経緯等につき,以下の事実が認められる。

原告の地位
原告は,平成11年12月からAの代表者理事長の地位にあり,平成20年4月1日からはAの会計責任者の地位も兼ねていた。Aにおける会計責任者は,Aの経理事務に関する責任者であり,Aが支出をする場合は,支出に先立って会計責任者の決裁が必要となる。(以上につき前提事実(1)ア,甲8,10,証人C,弁論の全趣旨)


平成22年10月の一般監査等

(ア)県社会福祉課が平成22年10月8日に行ったAや関連施設に対する一般監査の結果,決算関係書類に数値の誤りが見受けられたほか,取引先に対する合計300万円の支出(別紙4使途不明金一覧表No.20~22)につき,各支出を裏付ける資料を確認することができなかった。また,理事会決議事項とされている社会福祉施設の施設長の任免につき,理事長である原告が同年4月以降の施設長を独断で選任していた事実や,原告は,財政上の理由から職員の昇給を見合わせたにもかかわらず自らの昇給を決めていた事実などが確認された。
被告県は,上記一般監査の結果を踏まえ,Aに対し,支出根拠が明らかではない支出につき,早急に確認することなどを求めるとともに,会計部門を中心とした再度の一般監査を実施することとした。(以上につき前提事実(2)ア,乙1~3,弁論の全趣旨)
(イ)Aの事務局長であるFは,上記一般監査の際に判明した根拠不明の支出につき説明するため,同年11月9日に県社会福祉課を訪問した。Fは,上記(ア)の300万円の支出のうち,株式会社Hに対する100万
円の支出(別紙4使途不明金一覧表No.22)については銀行振込依頼書や領収証が確認できたが,その余の200万円の支出(別紙4使途不明金一覧表No.20,21)については確認できておらず,通帳等を全て管理している原告に領収証を探してもらっているところであるなどと説明した。
Aは,同年12月14日,県社会福祉課に対し,上記100万円の支出について,備品及び事務用品の代金であることを前提とする株式会社H名義の請求書及び領収証を提出したが,物品購入に係る伺い書,見積書,検収確認書,支出に当たっての施行伺い書等がないこと,現金で支払った理由が不明であることなどから,県社会福祉課は,支出について疑念を払拭することができなかった。
Fは,平成23年1月11日,宮城県庁を訪れ,上記200万円の支出について,うち95万円については当初説明した取引先に支払ったのではなく株式会社Hから購入した事務用品等の代金として支払ったものであり,その余の105万円については平成21年12月12日に宮城県宮城郡a町所在のホテル(以下本件ホテルという。)で開催した研修会の費用として旅行会社であるI株式会社に支払ったものである旨説明し,株式会社H名義の請求書や領収証,I株式会社名義の費用明細書や領収証などを提出した。しかし,県社会福祉課は,物品購入又は研修会実施に係る伺い書,見積書,検収確認書,支出に当たっての施行伺い書等がないこと,現金で支払った理由が不明であることなどから,上記200万円の支出についても疑念を払拭することができなかった。(以上につき乙3~6(枝番を含む。),弁論の全趣旨)

平成23年1月及び同年3月の一般監査

(ア)県社会福祉課は,平成23年1月12日,Aや関連施設に対する一般監査を実施したが,上記200万円の支出(別紙4使途不明金一覧表
No.20,21)につき,依然として見積書や検収確認書,支出に当たっての施行伺い書,研修会の復命書等を確認することができず,また,原告が自ら現金で支払を行ったとのことであったが,通常は職員が銀行振込によって支払を行うにもかかわらず,そのような支払方法をとった理由や,株式会社H名義の請求書やI株式会社名義の費用明細書等を保管していたとされる原告が同月になるまで提出できなかった理由なども不明のままであった(乙7,8,弁論の全趣旨)。
(イ)県社会福祉課は,同年3月1日,Aや関連施設に対する一般監査を実施し,原告からAの現状の認識や今後の経営改善に向けた方針について聞き取り調査を行った。同監査において,上記200万円の支出についても話題に上ったが,原告は,これらの支出の事実について否定しなかった。(以上につき乙9,弁論の全趣旨)

取引先等に対する訪問調査
県社会福祉課が,同月8日,本件ホテルに対する訪問調査を行ったところ,Aが平成21年12月12日に本件ホテルで研修会を開催した事実はないことが確認された。
また,県社会福祉課は,平成23年11月1日,株式会社Hに対する訪問調査を実施したが,株式会社Hの代表取締役の説明によっても,取引の有無についての疑念を依然として払拭できなかったため,上記研修会につき疑義があることも踏まえ,特別監査を実施することとした。(以上につき乙11,12,弁論の全趣旨)


特別監査等
県社会福祉課が,本件ホテルでの研修会の開催の有無や株式会社Hとの取引の有無を確認するため,同月17日及び同年12月5日にAや関連施設に対する特別監査を実施したところ,新たに合計1190万円の使途不明な支出(別紙4使途不明金一覧表No.1~19)が確認された。
上記支出の一部につき,別紙4使途不明金一覧表の通帳の記載
欄のとおり,Aの通帳に印字されている出金額の右側に,理事長,理事cho,りじcho,りじ長などの手書きのメモが記載
されていることが判明した。また,原告及びFは,上記研修会に係る支出につき,研修会を開催したと主張したが,県社会福祉課が本件ホテルに対する訪問調査の結果を指摘すると,再度調べてみる旨回答した。
Aは,同年11月25日,別紙4使途不明金一覧表No.1~7の合計700万円の支出について,福祉施設の造園工事に係る支出であると推察されるなどと説明し,J株式会社名義の領収証3通を提出した。また,Aは,別紙4使途不明金一覧表No.8~19の合計490万円の支出については,株式会社Hからの器具備品購入費用である旨回答し,株式会社H名義の納品書及び領収証を提出した。(以上につき乙13,19~20(枝番を含む。),弁論の全趣旨)

取引先に対する訪問調査等
県社会福祉課は,本件使途不明金について提出された領収証に記載されていた支払先である各業者に対して,平成24年5月31日及び同年6月4日に以下のとおり訪問調査を行い,本件使途不明金は横領の疑いがあるという認識を持つに至った(乙21~23,29,証人C)。

(ア)県社会福祉課が,造園工事に係る支出であるとの説明がされた上記700万円の支出(別紙4使途不明金一覧表No.1~7)について確認するために,同年5月31日,J株式会社に対する訪問調査を行ったところ,上記700万円の支払の事実はなく,J株式会社名義の上記領収証は内容虚偽のものであることが判明した。
(イ)県社会福祉課は,株式会社Hからの器具備品購入費用であるとの説明がされた別紙4使途不明金一覧表No.8~19に係る取引の有無を確認するために,同年6月4日,株式会社Hに対する訪問調査を行っ
たが,Aから代金を受領したことを裏付ける預金通帳等の資料を確認することはできず,取引の有無についての疑念を払拭することはできなかった。
(ウ)県社会福祉課は,本件ホテルでの研修会の費用であるとの説明がされた105万円の支出(別紙4使途不明金一覧表No.20,21の支出の一部)について確認するために,同日,I株式会社に対する訪問調査を行ったところ,同社の代表者が,

研修会があったかどうかは分からない。

上記105万円には忘年会の2次会費用が含まれている。

そのままの内容では支払ができないとAの事務局職員から言われたため見積書を書き改めた。

などと回答したため,上記の支出は研修会の費用ではなく忘年会の2次会の費用であった可能性が高いと判断した。

原告による700万円の補填
原告は,同月27日,別紙4使途不明金一覧表No.1~7の合計700万円の支出につき,Aに同額を支払い補填した(乙24,弁論の全趣旨)。


平成24年7月の一般監査
県社会福祉課が同年7月2日及び同月3日にAや関連施設に対する一般監査を実施した結果,A及び関連施設の銀行口座の銀行印及びキャッシュカード並びに原告個人の通帳が理事長室の金庫に収められていたことや,理事長室の鍵の所在や金庫のダイヤルは原告のみが知っていることが明らかになった。
また,上記一般監査において,Fは,内容虚偽の領収証が作成された経緯について,原告から依頼されたのでJ株式会社に作成を要請した旨述べ,原告は,銀行印は原告自らが押印することを基本としているが,原告の監視の下,理事長室で職員に押印してもらう場合もある旨述べた。(以上に
つき乙25,29,証人C,弁論の全趣旨)

Aに対する改善措置命令等
県知事は,以上の経緯を踏まえ,別紙4使途不明金一覧表記載の合計1490万円は使途不明金であると判断し,同月26日,Aに対し,社会福祉法56条2項に基づき,役員執行体制の適正化や会計経理体制の全面的見直し,使途不明金に係る賠償等の検討などを内容とする改善措置を命じた(本件措置命令)。
原告は,同年8月13日付けでAの理事長及び理事を辞任した。(以上につき前提事実(2)イ)


Eからの事情聴取
県社会福祉課は,同年9月14日,平成20年4月から平成21年5月までAに勤務し,総務課長としてAの決算書類の作成や経理入力業務等の経理事務全般を行っていたEから,以下の供述を得た(甲8,乙26,29,証人C)。

(ア)EがAでの勤務を始めた平成20年4月当時,既に多額の仮払金(原告への現金引渡し)が発生している状況であった。仮払いされた金銭は,原告への現金引渡しであるから,支払伺い書等の会計書類は存在しない。(イ)EがAに勤務していた当時,業者への支払は振込みでやっていたので,預金口座から現金で引き出されたもので業者への支払をすることはない。したがって,本件使途不明金が造園工事代金,備品等の購入代金又は研修会費用の支払に充てられた事実はない。
(ウ)EがAに勤務していた間,通帳はEが管理していたが,銀行印とキャッシュカードは原告が保管していた。
(エ)通帳にある理事長,理事cho,りじchoなどの記載
(上記オ)は,預金を下ろしてこいという意味である。原告から言われることもあったし,Fから言われることもあった。

(オ)Eが知らないうちに預金が下ろされていることもあり,原告に返していただかないとまずい旨の話を何度もしていたが,原告から現金を返してもらったことは一度もない。

Gからの事情聴取
県社会福祉課は,平成24年11月21日,Aの元理事であるGから,以下の供述を得るとともに,原告の自動車の修理代金として平成20年4月21日に293万9260円の支払を受けたことを示す自動車修理会社の納品書等の提出を受けた(乙27,29,証人C,弁論の全趣旨)。
(ア)原告は,上記会社に原告のベンツの修理を依頼したが,納品から約2か月経過してもその代金293万9260円を支払わなかったため,同会社の社長からGに相談があった。
(イ)上記修理代金が上記会社に支払われたのは平成20年4月21日であるが,上記社長が

平成20年4月21日に,Aの職員から,修理代金を同日中に支払う旨連絡があった。

旨述べていたこと,Aの口座から同日に合計300万円が下ろされていることなどからすると,上記300万円が上記修理代金の原資に充てられたのだと思う。

本件告発
県知事は,以上の経緯等を踏まえ,平成24年12月27日,合計1490万円の本件使途不明金につき,原告を業務上横領の疑いで告発した(本件告発)(前提事実(2)ウ)。


被告河北新報社に対する情報提供及び本件記事の掲載
被告県の担当職員は,平成25年1月9日,被告河北新報社に対し,本件告発に係る情報を提供し,被告河北新報社は,同月10日,河北新報朝刊の社会面に本件記事を掲載した(前提事実(2)エ,オ)。

(2)本件記事により摘示された事実は,原告がAの使途不明金1490万円を横領したという事実であることは,上記2において検討したとおりであると
ころ,(1)で認定した事実経過を踏まえ,被告県が本件情報提供行為をした当時,上記事実が真実であると信ずるについて相当な理由があったかについて以下検討する。

本件使途不明金は,A本部又はAが開設・運営している施設の銀行口座から平成20年4月から平成22年3月までの2年近くの間に合計22回にもわたって合計1490万円もの金額が出金されたものであるところ(前提事実(2)ア),原告は,平成11年12月から平成24年8月13日

までAの理事長職にあり,施設長の独断選任や昇給などの実権

を行使していただけでなく,平成20年4月からは会計責任者も兼ねていた上(上記(1)ア),少なくとも平成24年7月にAや関連施設に対して行われた一般監査の時点では,A及び関連施設の銀行口座の銀行印及びキャッシュカードが理事長室の金庫に収められており,理事長室の鍵の所在や金庫のダイヤルは原告のみが知っていることが判明し,銀行印は原告自らが押印することを基本とし,職員に押印させる場合も理事長室において原告の監視の下で行わせる旨を原告自身が述べたのであるから(上記(1)ク),平成22年10月以降の被告県による監査で指摘されるまでA内部で何ら問題とされていなかった本件使途不明金の支出に原告が関与していると被告県が判断したことには十分な根拠があったというべきである。
これに対し,原告は,本件使途不明金の大部分が発生したとされる平成20年当時Aの銀行印及びキャッシュカードを保管していたのは,原告ではなく,その頃Aの総務課長として経理事務全般を行っていたEであったと主張し,被告県による監査等が行われていた平成24年7月頃も同旨の主張をしていたことが認められる(乙25)。しかし,原告の上記主張に係る事実を認めるに足りる証拠はないし,仮に銀行印及びキャッシュカードの保管状況についての原告の主張を前提とするとしても,Aにおける
原告の立場,一般監査の時点での上記のとおりの銀行印及びキャッシュカードの保管状況及び使用方法や,EがAに勤務していたのは平成21年5月までであって(上記(1)コ),その後も本件使途不明金の一部の発生が認められること(別紙4使途不明金一覧表No.20~22)などに照らし,被告県の上記判断の合理性が否定されることにはならないというべきである。

原告は,Aの理事長であり会計責任者の地位も兼務していたにもかかわらず,被告県による本件使途不明金の調査に対し,説得的な説明をしないだけでなく,架空の領収証の作成を事務局長に指示し(上記(1)ク,弁論の全趣旨),取引先への被告県の訪問調査等により領収証が虚偽であることが判明するまでは被告県の監査に対して上記領収証に記載された架空の支出があったことを前提とする対応をしていたのであって(上記(1)ウ,オ),事実の隠蔽や責任の回避を試みていたとの評価を受けてもやむを得ない行動を取っていたことが認められる。
この点につき,原告は,内容虚偽の領収証を作成させたのは被告県から使途不明金に係る出金を裏付ける帳票類を提出するよう強く求められたからにすぎず,自らの横領行為を隠蔽するためではないと主張するが,上記の主張は,原告の行動自体が客観的にみて原告の横領行為を強く疑わせるものであったという事実に何ら影響を及ぼさない。


加えて,本件使途不明金のうち平成20年4月21日の合計300万円の出金(別紙4使途不明金一覧表No.3~7)については,これらの出金と同日に,ほぼ同額である293万9260円が原告の自動車の修理代金として自動車修理会社に支払われたことが,Aの元理事であるGの調査により判明し,さらに,Gは,Aの職員が自動車修理会社に対して上記の日に修理代金を支払うとの電話連絡をしたことを自動車修理会社の社長から聞いた旨を被告県に報告したのであって(上記(1)サ),これらは
上記の300万円の出金が原告の自動車の修理代金に充てられたのではないかという疑いを強める事情であったということができる。
これに対し,原告は,Gの供述は伝聞にすぎない上,原告の自動車の修理代金に充てられたとGが供述する合計300万円の出金(別紙4本件使途不明金一覧表No.3~7)のうち100万円(別紙4本件使途不明金一覧表No.7)が出金されたのは,上記修理代金の支払よりも後であるから,上記300万円は上記修理代金に充てられたものではないと主張する。
しかし,本件使途不明金の出金と原告の自動車修理代金の支払の関係についての上記の事情は,Gの伝聞供述のみではなく,出金の日にちや金額といった客観的な事情も含まれているから,上記事情が客観性を欠く旨の原告の主張は当たらないというべきである。また,被告県は,本件情報提供行為の時点では,原告が指摘するような送金等の時刻は把握していなかったことが認められ(証人C),捜査機関ではない被告県が本件告発及び本件情報提供行為をするに当たって送金等の時刻まで調査を行うべきであったということはできないから,送金時刻等に係る原告の指摘は,被告県の本件情報提供行為の時点での判断の合理性を否定するには足りないというべきである。

上記(1)の事実経過によれば,被告県は,平成20年4月から平成21年5月までAで総務課長を務めていたEの供述内容を信頼できるものと評価して本件告発及び本件情報提供行為をしたことが認められるところ,原告は,Eの供述は,通帳にある理事長,理事cho,りじchoなどの手書きのメモを記載した者や預金の引き出し方法などの重要部分について虚偽の内容が含まれており,信用性に乏しいだけでなく,原告の横領行為については一般的かつ抽象的な言及にとどまるのに,被告県が必要な裏付け調査を行わずにEの供述を鵜呑みにしたと主張する。
しかし,被告県が本件情報提供行為をした当時,Eの供述のみではなく,原告の横領行為を疑わせるべき客観的事情が存在したことは,上記アないしウで検討したとおりである。上記認定事実のとおり,被告県は,Aに対する数度の監査や関係取引先への訪問調査,関係者からの聞き取り等を経て,EのみならずFやGといった関係者の供述について,調査により判明した客観的事実と矛盾せず,虚偽の事実を述べていることを疑わせる事情が見当たらなかったことから,その信用性を肯定することができると判断し,本件告発及び本件情報提供行為に至ったと認められ,被告県は,強制的な調査権限を有していないことなども踏まえると,被告県の調査が不十分であったということはできない。なお,原告は,通帳の理事長等の手書きの記載が誰の筆跡であるかという点がEの供述の信用性を評価する上で極めて重要であるから,この点についての裏付け調査が不可欠であった旨主張するが,本件告発及び本件情報提供行為の当時被告県が収集していた上記のような情報を踏まえると,上記の手書きの記載を誰がしたかという点について更に調査する必要性を認めなかった被告県の判断が不合理であったということはできず,原告の主張は採用することができない。
なお,原告は,被告県が平成21年に行った一般監査が不備であったことが,平成22年以降の監査等で十分な真相解明をなし得なかった原因となったともいうが,仮に原告の主張のとおり平成21年の一般監査が不備であったためにその時点で被告県が本件使途不明金の存在に気付かなかったとしても,その事実が平成22年以降の被告県の調査に影響を及ぼしたと認めるには足りないし,そもそも,被告県による監査を受けるまでもなく,Aの理事長であり会計責任者も兼務する者として,適正な会計経理に責任を負うべき立場にあった原告が,上記のような主張をすること自体が失当であるといわざるを得ない。
以上のとおり,被告県が,その監査及び調査により判明した,原告のAに
おける立場や,Aの銀行印等の管理状況,真相を隠蔽して責任を回避しようとした原告の態度,原告の業務上横領行為を示唆する関係者の供述等を総合して,本件使途不明金を原告が横領したと結論付けたことは,本件情報提供行為の時点において,十分な根拠に基づく判断であったというべきであり,本件記事により摘示された事実が真実であると被告県が信ずるについて相当の理由があったと認められる。
4
本件記事により摘示された事実が真実であると被告河北新報社が信ずるについて相当の理由があったか(争点⑤)について

(1)次に,本件記事を掲載した被告河北新報社が,本件記事により摘示された事実を真実と信ずるについて相当の理由があったか否かを検討するに,前記前提事実に後掲証拠及び弁論の全趣旨を併せると,本件記事を掲載するに当たり被告河北新報社が行った取材活動等につき,以下の事実が認められる。ア
被告河北新報社は,平成24年8月20日,Aにおいて使途不明金が確認されて被告県から措置命令を出された旨の情報提供をAの元理事から受けたことを契機に,Aに関する取材活動を開始した(丙11,証人D,弁論の全趣旨)。


被告河北新報社は,同月21日,宮城県保健福祉部から,Aに対する一般監査や特別監査の結果,合計1490万円の使途不明金が確認されたこと,長期にわたって不適正な会計経理処理が行われて多額の使途不明金が発生したことについて法人としての責任を明確にし,役員執行体制の適正化や監査機能の強化,使途不明金についてその範囲を明らかにして責任及び賠償等について検討すること等を命じた措置命令を出したことなどが記載された社会福祉法人Aに対する措置命令についてと題する書面を受け取った。また,同日に開催された宮城県保健福祉委員会において,本件措置命令が出されたことを受けてAをめぐる議論が行われ,

Aの内部監査が全く機能していないのは理事長の独裁であり,証拠書類の一切を紛失したというのはあまりにも悪質であるから,措置命令程度ですむものではなく理事長を告発すべきである。

旨の委員からの発言に対し,保健福祉部長が,消耗品,備品関係については,グレーという状況であるため警察への告発には至っておらず,顧問弁護士にも相談したが,立証が難しい状況であるということであり,今後の改革の状況をみながら警察に対する関係について考えていきたいと思っている。旨回答し,同委員会の議事録は被告県のホームページで公開された。
被告河北新報社は,上記の社会福祉法人Aに対する措置命令についてと題する書面の内容等について,上記アの元理事に裏付け取材を行い,同月22日,河北新報の朝刊に,本件措置命令に関する記事を掲載するとともに,今後も被告県がどの段階で告発をするのかについて慎重に取材を続ける方針とした。(以上につき甲2,丙4,5,11,証人D,弁論の全趣旨)ウ
被告河北新報社は,同年9月10日及び同月19日に,Aの元理事を取材
し,同元理事から,FとJ株式会社が同年6月8日及び同月11日にやり取りをした虚偽の領収証に関するメールの内容の写し(J株式会社からFに対するメールには,被告県が領収証の調査のためにJ株式会社を訪れたこと,領収証の件は隠せないので正直に答えたことなどの内容が記載されている。)を入手するとともに,原告が会計責任者を兼任して現金を自由に出入金することができた状況,不明朗な会計をめぐってAの理事会が紛糾した様子,原告が使途不明金の一部を返還した事実等に係る情報を得た。(以上につき丙8,11,証人D,弁論の全趣旨)

被告河北新報社は,県社会福祉課を継続的に取材して,Aの運営実態,記虚偽の領収証につきFが原告から発行させるよう頼まれた旨述べていることなどの情報を入手し,さらに,Aの現職理事や元理事,地元関係者,警察に対しても,Aの運営実態や使途不明金の取扱いをめぐる理事会の協議内容等について,継続的に取材した(丙11,証人D,弁論の全趣旨)。

被告河北新報社は,上記の一連の取材を経て,同年末頃に被告県が告発の方針を固めたとの感触を得ていたところ,平成25年1月9日,被告県の担当職員から,特別監査指摘事項に関する事実認定と題する書面及び社会福祉法人Aに関する告発についてと題する書面を入手し,原告の業務上横領行為により本件使途不明金が生じたと被告県が判断して原告を宮城県警察に告発したことを知った。
上記特別監査指摘事項に関する事実認定と題する書面には,県社会福祉課が特別監査においてAに指摘した事項とそれに対するAの回答,県が調査を踏まえて認定した事実(使途不明金の金額,内容,使途不明金であると判断した根拠等を含む。)が記載され,上記社会福祉法人Aに関する告発についてと題する書面には,被告県の調査の結果,原告の横領により本件使途不明金が発生したものと強く推定されるため,県知事が原告を告発したこと,原告は平成20年4月4日から平成22年3月15日までの間にAの通帳から22回にわたり繰り返し現金を引き出し,合計1490万円を着服・横領したものと推定され,その行為は長期にわたり計画的に行われた悪質なものであること,原告は,法人を統括し,会計責任者を兼務するなどの立場にありながら,本件使途不明金について何ら責任ある説明をしないばかりか,実態のない領収書を取引業者に作成させて被告県に提出するなど,その行為は極めて悪質であることなどについて言及されている。(以上につき前提事実(2)エ,丙9~11,証人D,弁論の全趣旨)


被告河北新報社は,被告県から提供された情報に基づき,平成25年1月
10日,本件記事を掲載した。
また,被告河北新報社は,本件記事を掲載するに当たり,Aを通じて原告に取材を申し入れたが,原告はこれを拒否した。(以上につき前提事実(オ,証人D,弁論の全趣旨)
(2)

以上の事実経過を踏まえ,被告河北新報社が本件記事を掲載した当時におい
て,原告がAの使途不明金1490万円を横領したという事実(本件記事により摘示された事実)が真実であると信ずるについて相当の理由があったかについて検討する。

上記認定事実に証人Dの証言を併せると,被告河北新報社は,地方公共団体である被告県が,その監督下にある社会福祉法人であるAに対する一般監査を契機に1490万円もの使途不明金(本件使途不明金)の存在を確認して本件措置命令を発し,本件措置命令の時点では,Aの理事長であった原告を告発すべきか否かについては顧問弁護士にも相談しながら慎重に検討する姿勢を示していたものの,その約4か月半後に業務上横領の嫌疑で原告につき本件告発をするに至ったという経緯を踏まえ,本件告発は,監督権限を背景とした被告県により慎重な調査検討を経た上で原告の横領の嫌疑を裏付ける事実が揃ったという意思決定がされて行われたものと判断し,これを報ずる内容の本件記事を掲載したと認められる。
さらに,被告県による被告河北新報社への本件情報提供行為は,上記特別監査指摘事項に関する事実認定と題する書面及び上記社会福祉法人Aに関する告発についてと題する書面の交付とともにされており,これらの書面には,被告県が行った調査の結果判明した本件使途不明金の内訳,使途不明金であると判断した根拠,原告の横領行為の時期,態様等の詳細が記載されていたこと(上記(1)オ)によれば,被告河北新報社は,原告が本件使途不明金を横領したという被告県の判断に具体的かつ客観的な根拠があることを確認することができたと認められる。
また,被告河北新報社は,被告県に対する取材活動だけでなく,Aの元理事や現職理事等への取材を継続的に行い,原告がAの資金を自由に出入金することができた状況や原告が虚偽の領収証を発行させた事実等について裏付けを取った上(上記(1)イ~エ),本件記事の掲載に先立ってAを通じて原告への取材の申入れをしたのに対し,原告がこれを拒否したという経緯があっ
た(上記(1)カ)。

上記のとおり,Aに対する法令上の監督権限を有する県知事を代表者とする被告県から本件告発に関する詳細な情報提供を受けたこと,被告河北新報社においても被告県が本件告発に至る経緯を把握するとともに独自の取材を行い一定の裏付けを取っていたこと,原告からの直接の取材を試みたがこれを拒否されたことなどの事情を総合考慮すると,被告県に強制的な捜査権限がないことを勘案しても,被告県からの本件情報提供行為に基づいて本件記事を掲載した被告河北新報社が,その当時,本件告発に係る事実すなわち原告が本件使途不明金を横領したという事実が真実であると信ずるについて,相当の理由があったと認めることができる。

5
被告らの不法行為責任について
以上の検討によれば,被告県による本件情報提供行為及び被告河北新報社による本件記事の掲載行為は,いずれも,公共の利害に関する事実に係り,専ら公益を図る目的に出たものであり(前提事実(2)カ),被告らにおいて,本件記事により摘示された事実を真実と信ずるについて相当の理由があったと認められるから(上記3,4),本件記事により摘示された事実がその重要部分において真実であると認められるか(争点③)について判断するまでもなく,上記各行為には故意又は過失がなく,不法行為は成立しない。

第4

結論
以上によれば,原告が被った損害等(争点⑥)について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。
仙台地方裁判所第3民事部

裁判長裁判官

市川
多美子

裁判官

工藤哲郎
裁判官

志田智之
(別紙省略)

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