判例検索β > 平成26年(わ)第1494号
受託収賄、事前収賄、公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律違反被告事件
事件番号平成26(わ)1494
事件名受託収賄,事前収賄,公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律違反被告事件
裁判年月日平成27年3月5日
裁判所名・部名古屋地方裁判所  刑事第6部
判示事項の要旨当時市議会議員であった現職市長に対する収賄等被告事件について,現金授受の事実についての贈賄者の供述の信用性に疑問があり,預金口座記録やメール内容等の間接事実を考慮しても現金授受の事実を認めるには合理的な疑いが残るなどとして,被告人を無罪とした事例
裁判日:西暦2015-03-05
情報公開日2017-10-13 01:34:26
裁判所の詳細 / 戻る / PDF版
平成27年3月5日宣告

裁判所書記官

平成26年(わ)第1494号

受託収賄,事前収賄,公職にある者等のあっせん

行為による利得等の処罰に関する法律違反被告事件
判決主文
被告人は無罪

第1
1由
はじめに
公訴事実の要旨
本件各公訴事実の要旨は,被告人は,平成22年10月13日から平成25年5月8日までの間,岐阜県β市議会議員(以下「市議会議員という。)
として,岐阜県β市議会(以下市議会という。における質問,質疑及び)
発言等の権限を有し,同年6月2日施行の岐阜県β市長選挙(以下市長選という。
)に当選して岐阜県β市長(以下市長という。
)に就任した後は,
市長として,岐阜県β市(以下β市という。が行う契約の締結等の事務)
を統轄掌理する職務を行うものであるが
第1

同年3月7日,δ市a区bc丁目d番e号所在の飲食店Aにおいて,株式会
社Bの代表取締役であるCから,株式会社Bがβ市との間で災害時の給水設備である自然循環型雨水浄水プラント(以下浄水プラントという。を)
β市立の学校に設置する契約が締結できるように市議会議員としての権限を行使するとともにβ市職員(以下市職員という。に働きかけるなど有)
利かつ便宜な取り計らいをしてほしい旨の請託を受け,これを承諾し,同月14日,β市γ町v番地w所在の市議会議場において,同年の市議会第1回定例会本会議で,β市に対する質疑を行い,β市での浄水プラントの導入を検討されたい旨発言し,同月22日,δ市f区gh丁目i番j号kl階所在の飲食店Dにおいて,Cから,前同様の有利かつ便宜な取り計らいをしてほしい旨
の請託を受け,これを承諾し,同月25日頃,β市γ町v番地w所在のβ市役所(以下市役所という。において,防災対策,消防防災施設の設置)
及び管理等の職務に従事していたβ市総務部防災安全課(以下防災安全課という。E課長に対し,浄水プラントの資料を交付して検討を促し,市議)
会議員としての質疑及び質問等の権限に基づく影響力を行使して,β市が株式会社Bと浄水プラントを設置する契約を締結するように申し入れてあっせんした上,同年4月2日,β市m町n丁目o番p号所在の飲食店Fにおいて,Cから,前記質疑,発言及びあっせんをしたことの報酬並びに今後も同様の取り計らいをすることの報酬として供与されるものであることを知りながら,現金10万円の供与を受け,もって自己の職務に関し,請託を受けて,賄賂を収受するとともに,自己の権限に基づく影響力を行使して公務員にその職務上の行為をさせるようにあっせんをしたこと及び今後も同様にあっせんをすることにつき,その報酬として財産上の利益を収受し
第2

前記第1記載のとおり,Cから,株式会社Bがβ市と浄水プラントを設
置する契約が締結できるように市職員に働きかけるなど有利かつ便宜な取り計らいをしてほしい旨の請託を受け,これを承諾していたところ,同月15日頃,市役所において,E課長に対し,浄水プラントの件を早急に取り組むように要望した文書を送付し,市議会議員としての質疑及び質問等の権限に基づく影響力を行使して,β市が株式会社Bと浄水プラントを設置する契約を締結するように申し入れてあっせんした上,同月25日,δ市q区rs丁目t番u号所在の飲食店Gにおいて,Cから,市議会議員として引き続き市職員に働きかけて株式会社Bがβ市と浄水プラントを設置する契約が締結できるように有利かつ便宜な取り計らいをしてほしい旨の請託を受けるとともに,市長選に立候補して市長になろうとしていた被告人が市長に就任した後も前記契約が締結できるように有利かつ便宜な取り計らいをしてほしい旨の請託を受け,これを承諾し,同日,飲食店Gにおいて,Cから,市議会議員とし
て前記あっせんをしたことの報酬,今後も同様のあっせんをすることの報酬及び市長に就任した後も前記有利かつ便宜な取り計らいをすることの報酬として供与されるものであることを知りながら,現金20万円の供与を受け,もって自己の権限に基づく影響力を行使して公務員にその職務上の行為をさせるようにあっせんをしたこと及び今後も同様にあっせんをすることにつき,その報酬として財産上の利益を収受するとともに,公務員になろうとする者が,その担当すべき職務に関し,請託を受けて,賄賂を収受した。という」
ものである。
2
本件における争点は,①Cから被告人に対する2度の現金授受(以下本件各現金授受といい,検察官が主張する平成25年4月2日の飲食店Fにおける現金授受を第1現金授受
,同月25日の飲食店Gにおける現金授受を「第
2現金授受」という。
)の存否,②Cから被告人に対する依頼の内容及び同依頼が請託と評価できるか否か,③被告人が市議会において浄水プラントの導入を促す質疑及び発言を行ったと認められるか否か,④被告人のE課長に対する働きかけが市議会議員としての権限に基づく影響力を行使したものといえるか否かであり,これらの点に関する当事者の主張は後記第3のとおりである。当裁判所は,争点①の本件各現金授受に関するCの公判供述について,信用性につき疑問があり,検察官が主張するその他の間接事実を考慮しても,本件各現金授受のいずれについても認めるには合理的な疑いが残ることから,被告人は無罪であると判断したので,以下,その理由を説明する。

第2

前提事実
以下の事実は,弁護人及び被告人とも争っておらず,掲記した関係証拠により明らかに認められる(以下において,証拠として掲記した甲の数字は採用された検察官請求証拠の,弁」の数字は採用された弁護人請求証拠の,職」

「の数字は職権により取り調べた証拠のそれぞれ証拠等関係カードに記載された証拠番号を表す。なお,以下,特に断りのない限り,平成25年の記載は省略し,同年については「同月

の記載は用いない。。)
1
当事者等
(1)被告人は,平成22年10月13日に市議会議員に就任し,市議会議員を議員辞職した5月8日までの間,市議会議員として,市議会における議案提出権,動議発動権,表決権,発言権,質問権等の権限を有していた(なお,市議会規則では,質疑に際しては発言通告書をあらかじめ提出することとされている。。被告人は,同辞職後,9月に任期満了となる前市長Hの病気に)
よる辞職に伴い施行された,5月26日告示,6月2日執行の市長選に出馬して当選し,同日付けで市長に就任し,同就任以降,市長として,一般的職務権限のほか,防災安全課に防災対策並びに消防防災施設の設置及び管理に関する事務を,β市総務部総務課に入札及び契約に関する事務を各分掌させるとともに,部下職員を指揮監督して,これら各事務を掌理する等の具体的職務権限を有していた。
(甲1,2,40,41)
(2)Cは,平成21年10月20日,株式会社Bを設立し,平成22年3月26日,株式会社Bの代表取締役に就任した。株式会社Bは,地下水や雨水を浄化して飲料水化する濾過機のレンタル事業等を業とする株式会社であった。Cは,かねてより,δ市議会議員に働きかけるなどして,プールに溜まった雨水を浄化する濾過機と停電時でも稼働する太陽光発電パネルを一体化した浄水設備である浄水プラント(なお,
自然循環型雨水浄水プラントと
の名称は,Cが付した名称である。
)をレンタルする事業(以下浄水プラント事業という。
)等を進めていたものの,2月当時,δ市における浄水プラ
ント事業等は進展せず,契約締結には至っていなかった。
(C及びIの各公判
供述,甲3)
(3)Cは,平成23年9月ないし10月頃,知人のJの紹介で,Iと知り合った。Iは,δ市議会議員とも人脈があり,Cは,株式会社Bの浄水設備をδ市の施設に導入してレンタル契約を締結してもらうため,Iに対して活動
費を渡すなどしてδ市議会議員等に対する働き掛けを依頼し,Iも同依頼に基づき活動していた。
(C及びIの各公判供述)
被告人とIは,2月に知り合った。また,Cは,同時期頃,Iを介して,市議会議員である被告人の存在を知るようになり,β市に浄水プラントを導入してレンタル契約を締結してもらうため,Iから被告人の紹介を受けることとなった。
(被告人,C及びIの各公判供述,甲24,職1)
2
3月7日の飲食店Aにおける会合等
(1)被告人,C及びI(以下3人という。は,3月7日昼頃,Cが予)
約した飲食店Aに集まり食事をした。なお,被告人とCは,この日が初対面であった。Cは,その席において,被告人に対し,Cがδ市教育委員会宛に作成した浄水プラント事業に関する資料を渡し,その内容を説明するなどした。
(被告人及びCの各公判供述,甲4,5,24,33)
(2)3月7日,Cは,被告人に対し,本日はお忙しい中,足をお運びいただき誠にありがとうございました。微力ながら議員のお力になれることがありましたら,何なりと遠慮なくおっしゃって下さい。つまらないことでも結構です。遠慮なくおっしゃって下さい。役所から問い合わせがございましたら,すぐに報告させていただきます。との文面のメールを送信した。職1)(
(3)被告人は,同日又はその翌日に,前記資料を持参して防災安全課を訪れ,同課職員に対し,同資料を手渡して,同課において浄水プラント事業の検討を行うよう依頼した。また,その頃,同職員を介して同資料を受け取ったE課長は,同資料に目を通した上で,同資料を同課内において回覧に付した。(甲33,35,77)

3
被告人の議会における発言等

(1)被告人は,3月11日付けで,市議会議長に対し,予算関係議案に関し,議案質疑発言通告書を提出したが,同通告書中には,「防災施設整備事業について」との項目を付した下記内容の記載がある。
(甲28)


防災施設整備事業について
①今回の整備で,どれくらいの備蓄が可能になるか。②災害対策に,民間が開発した新技術等を導入する考えは。(2)3月14日に開催された市議会定例会議において,被告人は,予算関係議案に関して質疑を行ったが,その一連の質疑の中で,下記内容の被告人による質問と当時のβ市総務部長Kによる答弁が行われた。
(甲29,32)

(被告人)

175ページの防災施設整備事業についてお伺いします。今,

地域防災計画の案がパブコメでも出されているところだと思いますが,それにあるような備蓄量には今回の予算ではどれぐらい充填ができるようになるのかということと,もう1点が,これからそのような備蓄というか備えをしていく上で,東京とかδとか進んだ都市部のほうの備蓄品を見ていますと,地方に比べて最新鋭というかすぐれた備えができているんじゃないかなというのを拝見しますので,費用の面は当然考慮した上でなんですが,そういう新しいものをできるだけ今後購入するのであれば導入するという考えがあるのかどうか,お伺いします。
(総務部長K)まず,備蓄の予定につきましては,非常用食料としてアルファ米を400食,それからビスケットを1,750食,それから毛布を100枚,子供用おむつを5,400枚,それから大人用おむつを4,500枚,生理用品を4,500枚等のほか,粉ミルクや離乳食,トイレットペーパー,簡易トイレ等の購入を予定しております。これだけではとても十分ではありませんし,また賞味期限等がある食料につきましては毎年少しずつ買っていって費用の平準化を図っていくということも考えておりますので,よろしくお願いします。
また,新しい技術の導入ということで議員さんからもちょっと御提案いた
だいておりますけれども,それはプールにたまる雨水の活用ということで御提案いただきました。これについては環境に大変優しいということもありますし,災害時においても有効な株式会社Bとなるということで,学校の現在の施設ですね,それに簡単に連結ができるかどうか,また維持管理の方法などについても,教育委員会とか,また学校といろいろ協議をしてまいりますし,また業者のほうにもいろいろとこの辺のお話も今後伺って,本当に有効なものであったら導入に向けて検討をしていくということで,よろしくお願いしたいと思います。
(被告人)まず,備蓄品についてですが,答弁にあったように,徐々に備えていかないと賞味期限等があるのは承知していますが,これも自治体によっては,福祉施設等と上手なバランスをとって,結構面倒なことかもしれませんが,ちゃんとした量は備えながらも回していけるような計画ももしできたらお願いしたいと思いますし,2点目の新技術の話ですが,この前テレビで見たのでは,マンホールを簡易式トイレにするだとかいろいろな取り組みが,今アイデアがありますので,しっかりした精査をしていただいた上で,導入できるものは導入するという考えを検討していただきたいと思います。以上です。
4
3月22日の飲食店Dにおける会合等
3月22日午後2時過ぎ頃,3人は,Cが予約した飲食店Dに集まり食事をした。
(被告人及びCの各公判供述,甲6,7,24)

5
3月26日,E課長は,Cに対し,3月27日に市役所において浄水プラント事業に関する打ち合わせを行いたい旨の連絡を入れた。そこで,Cは,同日午前10時頃,防災安全課宛の浄水プラント事業の資料を持参して市役所に赴き,E課長らに対し,同資料を渡して,株式会社Bの浄水プラントの仕組み等について説明をした。
(Cの公判供述,甲33,34)

6
4月1日から4月2日にかけての株式会社B名義の銀行口座の入出金状況等
4月1日,Cの知人であるLが経営する株式会社M名義でN信用組合O支店に開設された普通預金口座から,Cが管理する株式会社P銀行Q支店に開設された株式会社B名義の普通預金口座に15万円が振込送金された。4月2日午前8時57分頃,同行R支店に設置されたATMにおいて,同口座から15万円が出金され,同日午前8時59分頃,同ATMを使用して,C名義で,株式会社S銀行O支店に開設されたT名義の普通預金口座に5万円が振込送金された。
(甲12)
7
4月2日の飲食店Fにおける会合等
(1)4月2日午前8時25分頃から同日午前11時56分頃にかけて,Cと被告人との間で,次の内容のメールがやり取りされた。
(職1)

同日午前8時25分頃のCから被告人への送信メール

おはようございます。朝から申し訳ございません。ご相談とお渡ししたい資料がございます。どの時間でも結構ですので,少しお時間頂けませんでしょうか?βの方に伺わせて頂きますので,宜しくお願い致します。



同日午前8時48分頃の被告人からCへの送信メール
御世話になります!今日は正午なら何とかなりますが,いかがですか!?

同日午前8時49分頃のCから被告人への送信メール

ありがとうございます。正午にどちらに伺えば宜しいでしょうか?



同日午前8時59分頃の被告人からCへの送信メール

市役所の近くの飲食店Fでは,いかがですか?わざわざすいませんm(__)mオ
同日午前9時頃のCから被告人への送信メール

了解致しました。宜しくお願いします。



同日午前9時2分頃の被告人からCへの送信メール
中に入る時間はないと思うので外で宜しくお願いします!


同日午前9時3分頃のCから被告人への送信メール

了解致しました。




同日午前11時52分頃のCから被告人への送信メール

到着致しました。




同日午前11時56分頃の被告人からCへの送信メール
まもなく着きます!

(2)同日,CがIに対して,飲食店Fにおいて被告人と会う予定がある旨を伝えたところ,IがCに同行する旨申し出たことから,CとIは,株式会社Bの事務所からCの運転する自動車に乗って飲食店Fに向かった。同日正午頃,3人は,飲食店Fに入店した上,飲食店Fの座席番号2-9のテーブル席に着座し,各人がいずれもランチ及びドリンクバーを注文して飲食し,同日午後零時45分頃,Cが3人分の飲食代をまとめてクレジットカードで支払い,3人は飲食店Fを退店した。
(被告人及びCの各公判供述,甲8,9,
24,85,90)
(3)同日午後5時40分頃から同日午後7時3分頃にかけて,Cと被告人との間で,次の内容のメールがやり取りされた。
(職1)

同日午後5時40分頃のCから被告人への送信メール

本日はお忙しい中,突然申し訳ございませんでした。議員のお力になれるよう,精一杯頑張りますので宜しくお願いします。



同日午後7時3分頃の被告人からCへの送信メール
こちらこそわざわざありがとうございます!全ては市民と日本のためなので宜しくお願いいたします!
8
4月4日から飲食店Gにおける会合までのできごと
(1)4月4日から4月13日にかけて,3人の間で,防災安全課に提出するPTA対策資料等の作成及びその修正等に関するメールのやり取りが続けられたほか,被告人からCに対し,E課長の対応に不満を感じている内容のメ
ールが送信された。
(職1)
(2)4月8日頃,Cは,市役所を訪れてE課長と面談し,E課長に対し,β市教育総務課宛の浄水プラント事業に関する資料を手渡した。
(甲34)
(3)被告人は,β市は浄水プラント事業に喫緊に取り組むべきであることなどが記載された防災安全課宛の文書を作成した上,4月15日,E課長に対し,前記文書を手渡し,翌日までにβ市としての対応につき回答するよう求め,4月16日夜にE課長から浄水プラントを導入するに当たっての問題点の指摘をメールで受けると,Cとメールで連絡を取り合った上,4月17日,E課長に対し,指摘を受けた問題点に意見を付した上での更なる回答及び株式会社Bによる説明会の開催を求める内容等が記載されたメールを送信するなどして,浄水プラント事業のβ市への導入を働き掛ける行動を取った。(甲
30,34,職1)
9
4月25日の株式会社B名義の銀行口座の入出金状況等
同日午前10時46分頃,株式会社T銀行U支店に設置されたATMにおいて,Cが管理する同行V支店に開設された株式会社B名義の普通預金口座から90万円が出金された。また,同日午後3時15分頃,株式会社W銀行V支店に設置されたATMにおいて,Cが管理する同行X支店に開設された株式会社B名義の普通預金口座に70万円が入金された。
(甲13)

10

4月25日の飲食店Gにおける会合
同日夜,3人は,飲食店Gに順次集まり,飲食店Gの座席番号44の掘りご
たつ式の座敷に着座して飲食をした。Cは,同日午後10時41分頃,Iに対し,そろそろ,おいとまします。議員に具体的に,どう行動すべきかを教授

しておいて下さい。お願いします。との内容のメールを送信した上で先に退

店した。
(Cの公判供述,甲10,11,24)
11

飲食店Gでの会合後のCと被告人との間のメールのやり取り
4月26日,Cと被告人との間で,次の内容のメールがやり取りされた。(職

1)
(1)同日午前8時49分頃のCから被告人への送信メール

昨晩はありがとうございました。市長選頑張って下さい。お手伝いや,ご協力,そして・・・。なんでも遠慮なくご相談下さい。

(2)同日午後零時31分及び32分頃の被告人からCへの送信メール

昨晩はありがとうございました!本当にいつもすいません。昨日は盛り上がりましたが現実はそんなに簡単なものではないので,見極めながら興していきますので,色々お力お借りしますが宜しくお願いします!

(3)同日午後零時32分頃のCから被告人への送信メール

かしこまりました。


12

5月20日,市役所において,E課長,C,β市立Y中学校の校長らが出
席し,Cが浄水プラントの説明を行う説明会が実施された。甲34,37)(
13

被告人は,市長就任後も,β市への浄水プラント事業の導入に関して,総
務部長KやE課長に対してその進捗状況を確認したり,設置予定場所となっていたY中学校に下見に出向くなどして,浄水プラントの導入を働き掛ける行動を取った。
(甲32,34,37)
14

7月31日付けで,株式会社Bとβ市との間において,浄水プラントをY
中学校に設置して2か月間の実証実験を行う旨の確認書が交わされ,8月12日,Y中学校に浄水プラントが設置されたが,その後,同実証実験期間は平成26年3月末まで延長された。Cの公判供述,甲32,34,36,39)(
15

11月4日,3人は飲食店Gに集まり食事をした。被告人及びIの各公(

判供述,職1)
16

Cは,株式会社Bの事業に関し,株式会社Z銀行の担当者に嘘を言うなど
して1000万円をだまし取るなどしたとして,平成26年2月6日,逮捕され,上記詐欺等を含む公訴事実により,同月26日,起訴された。また,Cは,株式会社Bの事業に関し,株式会社W銀行の担当者に嘘を言うなどして110
0万円をだまし取ったとして,同年3月5日,再逮捕され,上記詐欺の公訴事実により,同月26日,追起訴された。さらに,Cは,被告人の弁護人らの告発に基づき同年9月4日にδ地方検察庁に受理された,株式会社Bの事業に関して株式会社W銀行X支店の担当者に嘘を言うなどして合計4000万円をだまし取った詐欺等の公訴事実により,同年10月20日に追起訴された。弁(
2,86,87)
第3
1
当事者の主張
争点①(本件各現金授受の存否)について
(検察官の主張)
(1)

Cの公判供述によれば,被告人は,Cから,4月2日,飲食店Fにお
いて現金10万円を,4月25日,飲食店Gにおいて現金20万円をそれぞれ収受したことが認められ,同供述は以下のとおり信用できる。

客観的証拠や関係者の公判供述等と符合していること

(ア)第1現金授受について


供与した現金の原資が裏付けられていること
第1現金授受の前日である4月1日,株式会社M名義の口座から株式会社B名義の口座に15万円が振り込まれ,第1現金授受の当日,同口座から15万円が出金され,その直後5万円が別口座に振り込まれている。このように,第1現金授受の直近にその原資の裏付けがある。



メールと符合していること
第1現金授受の当日である4月2日にCと被告人との間で交わされたメールをみると,Cが相談と渡したい資料があるとの口実で被告人を呼び出したことや,Cと被告人が現金授受を前提とする更なる依頼や感謝の言葉を交わすやり取りがされている。



飲食店Fのジャーナルと符合していること

Cの公判供述は,座席位置,注文内容,精算時刻及び方法について,いずれも飲食店Fのジャーナルと合致している。


被告人宅から押収された資料と符合すること
Cが現金とともに被告人に渡したと供述している資料は,被告人宅から押収された紙ファイルに綴られていた書面と合致している。また,この資料が,第1現金授受の時点でCが被告人に早急に直接手渡さなければならないものではなかった点も,Cの公判供述と合致している。
(イ)第2現金授受について


供与した現金の原資が裏付けられていること
第2現金授受の当日である4月25日,株式会社B名義の口座から90万円が出金され,同日,他の株式会社B名義の口座に70万円が入金されている。このように,第2現金授受についてもその直近に原資の裏付けがある。



メールと符合していること
Cは,その翌日である4月26日,被告人に対し,

お手伝いや,ご協力,そして・・・。

などと,飲食店Gで現金を渡したことを前提に更なる資金援助を意味する思わせぶりなメールを送信している。そして,これに対し,被告人は,同日,

本当にいつもすみません。

などと,Cから2回にわたって現金の供与を受けたことに対する感謝の言葉と解されるメールをCに送信している。


丙の公判供述と符合していること
Cの公判供述は,飲食店Gでの座席位置や市長選のことが話題にな
ったことなど,飲食店Gの店長代行である丙の公判供述と合致している。さらに,丙は,第2現金授受の当日,はっきりとは覚えていないが,Iが席におらず,Cと被告人が二人だけの場面があったような記憶がある旨の供述をしており,Cの公判供述と整合している。



Jの公判供述と符合していること
Jは,Cが,Jに対し,4月下旬頃,本気で被告人に現金を渡した
がっている様子で,被告人は市長選で当選確実で,恩を売るために被告人に現金を渡したい旨発言し,さらには,後日,貸してもらった現金を被告人に渡した旨発言したことを供述している。これらCの発言は,いわゆる犯行告白とも評価できる。
(ウ)本件各現金授受の双方について


戊の公判供述と符合していること
戊は,8月22日,Cと一緒にY中学校に設置された株式会社Bの
浄水プラントの視察を行った際,Cに対し,
よくこんなとこに付けれたねと話したところ,Cは,
接待はしてるし,食事も何回もしてるし,渡すもんは渡してる30万くらいと言っていた旨供述して,
いる。かかるCの発言は,いわゆる犯行告白と評価できる。


被告人の言動と符合していること
被告人は,6月21日,Iに対し,Cさんとは,ずっと連絡とっ
てないって事にしておいたほうが良いですよね?と記載したメールを送信している。このような後ろめたさを示す被告人の言動は,現金授受を認めるCの公判供述と符合している。


被告人の資金繰り状況と符合していること
被告人は,当時,臨時収入であった国税還付金を除くと,支出が収
入を上回っており,口座の合計残高は,市議会議員の給与の支給前になると,十数万円から20万円程度まで減っていた。その他,ガソリン代の滞納があったことや生活費を家にほとんど入れていなかったことなどからすると,被告人の資金繰りが楽ではない状況にあったことは明らかである。しかも,被告人は,第1現金授受の2日後の4月4日,経営していた学習塾の口座に現金9万5000円を入金し,第2
現金授受の5日後の4月30日,同じくこの口座に現金8万6000円を入金しているところ,これらの入金について,被告人は明確な説明をしていない。

供述内容が具体的かつ自然であること
Cの公判供述は,前記各現金授受の場面,現金授受に至った経緯及びそ
の後の状況等につき具体的かつ詳細に供述しており,その内容は当時の心境も含め自然である。
すなわち,Cは,第1現金授受及び第2現金授受のいずれも,被告人がCの依頼を受けて迅速な動きをしてくれたことの謝礼とともに,今後も同様に迅速な動きを継続させてほしいとの気持ちから,現金を供与しようと考えた旨供述しているところ,そのように考えることは,当時の株式会社Bの事業の進展状況とも符合しており,自然である。
また,第1現金授受及び第2現金授受双方ともCと被告人との間で短いやり取りがあって被告人が別段驚くでもなくすんなりと現金を受け取ったというCの公判供述は,その場の状況からして極めて自然である上,被告人の資金繰り状況や脇の甘さを示す種々の行動とも整合している。さらに,被告人に現金を供与することをIには知られたくないと思っており,そのため,Iが席を外したときに被告人に現金を渡した旨の公判供述も,具体的かつ自然である。なお,Iは,飲食店F及び飲食店Gにおける会合中,席を外したことは一度もない旨供述しているが,席を外していないことだけを明確に記憶し,その他の事柄を覚えていないとする同人の供述内容は不自然であり,捜査段階においては席を外したかどうか覚えていないと供述していたことからすると合理的理由なく変遷している上,信用できる丙の公判供述にも反するから,信用できない。

供述するに至った理由が自然であること

(ア)供述するに至った理由が十分に納得できること

Cは,前記各現金授受につき供述をするに至った経緯として,警察官に,嘘つき父ちゃんでは娘さんに顔を合わせられないなどと言われ,話すべきかどうかを何回も自問自答したが,やはり本当の反省をするためには全て話して全ての罪を償い,家族とやり直したいと思った旨供述しており,かかる経緯は自然である。
(イ)虚偽の供述をする理由がないこと
Cには,虚偽の供述をして被告人を陥れる動機はない。
なお,弁護人は,Cには起訴されていない融資詐欺が存在しており,その捜査経緯が不自然であるなどとして,Cは融資詐欺の捜査処理で有利な取り計らいを受けることを期待して虚偽の贈賄事実を自白した,いわゆる闇取引が存在した旨主張しているが,かかる闇取引など存在せず,捜査は適正に行われている。Cによる融資詐欺の可能性がある事案は,いずれも,期限が到来したものは返済が行われており,総額約3億6400万円のうち合計約2億3266万円は返済され,完済されていたものも多々あった上,当初起訴した2件の事案以外に被害届が提出された事案はなかった。追起訴をしたもう1件の融資詐欺は,Cが,β市と契約が締結できた旨装って不正融資を受けたという事案であり,市職員の事情聴取を行う必要もあったため,本件の贈収賄事件の立件を先行させていたに過ぎない。
Cが捜査機関と接触する前に,J及び戊に対して被告人に現金を渡した旨の発言をしていること,前記の融資詐欺の追起訴がされた後に行われたCの証人尋問においてC供述が動揺しなかったことも,闇取引などなかったことの証左である。

Cが,平成26年4月下旬頃,留置施設において,人数が合わない。『どうやって合わせればいいか。取り直しだとものすごい怒られた。』などという発言をしていた

旨の庚の公判供述については,第1現金授受の
際の飲食店Fの利用人数が3人であったことは遅くとも同月13日には捜査機関に客観的に判明していたから,同月下旬頃に飲食店Fの利用人数が二人か3人かという点が問題となっていたとは考えられず,新聞報道を見て知った弁護人の主張に合わせて虚偽の供述をしているものと考えられるから,信用できない。また,
Cが,被告人の話を出せば詐欺の起訴がストップするなどという発言をしていた旨の庚の公判供述についても,Cを陥れるとともに検察官を困らせたいとの意図に基づき,虚偽の供述をしているものと考えられるから,信用できない。したがって,前記庚の公判供述は,いわゆる闇取引があったことの証拠にはならない。なお,Cは,庚に宛てた手紙の中で,予想される求刑や検察官との関係等につき記載しているが,Cは,庚との関係につき,留置施設で出会った相手であり,まともに受け答えをする対象ではなく,前記手紙の記載についても,庚に話を合わせたり,脚色しつつ反抗的な言葉を使ったりしていた旨説明しており,この説明を踏まえると,前記記載を根拠にCが検察官から求刑などで有利な取扱いを受けることを期待していたなどということはできない。
また,Cに対する証人テストについても適正に行っており,検察官がCに弁護人の告発した別件の融資詐欺事案を不起訴にする約束などしていないことは当然である。

供述の経過が自然で内容も一貫していること
捜査段階から公判供述に至るまでの供述経過については,自然な供述経
過をたどっている上,供述内容も,第1現金授受及び第2現金授受についての日時,場所,渡し方,被告人とのやり取り等の根幹部分について一貫している。内容は徐々に詳細化しているが,捜査過程で証拠収集が進み,それら証拠により記憶喚起が行われれば,記憶が明確化し供述が詳細化することは当然である。

Cが作成した平成26年3月16日付け上申書(以下3月16日付け上申書という。)及び同月17日付け上申書(以下3月17日付け上申書という。)には,第1現金授受に関する記載がない上,Cの同月27日
付け警察官調書(以下3月27日付け警察官調書という。
)では,第1
現金授受の際,飲食店FにIがおらず,現金を挟んだ資料は飲食店Dで被告人に渡した資料と同じものであった旨記載されており,その記載だけを取り上げ,後に作成された供述調書や公判供述と比較すると,Iの存在や資料の内容に変遷があるかのようにも見える。しかし,Cの公判供述によれば,前記各上申書に第1現金授受の記載がない点については,第1現金授受が全く記憶になかったわけではなく,被告人に供与した現金の額や場所等の詳細がはっきりしなかったに過ぎず,第2現金授受の方が市長選の前ということで印象的であったため,記憶が明確に残っていたと考えると,当初第2現金授受についての供述及び上申書の作成が先行し,その詳細まで思い出せていなかった第1現金授受についての供述及び上申書の作成が後回しになったということであって,何ら不自然ではない。また,Iの存在については,Iに現金供与が知られたとしても警察や世間一般に発覚するのとはわけが違うというCの心境からすれば,IがいるかどうかはCにとってそれほど大きな問題ではなく,3月27日付け警察官調書を作成した当初の段階で,記憶が曖昧であったとしても無理からぬところである。そして,Cが,同月下旬頃から同年4月上旬頃,メールのやり取りを見て,最初に,飲食店Fの駐車場でIとともに被告人を待っていたところ,被告人が到着して,Iと一緒に車を降りたシーンを思い出したことなどの経緯も,十分に了解可能である。さらに,前記資料の内容については,Cにとって資料が重要ではなく,被告人との関係では呼び出すための口実であるとともに現金を紛れさせるための手段にすぎず,どのような資料でも良かったという点では一貫している上,このような位置付けからすれば,資料
の内容に関して,当初は記憶が鮮明ではなく,その後,被告人宅から押収された資料を見て記憶が明確化したという経緯は,自然である。
なお,供述調書に過度に依存することなく公判中心主義,直接主義の下で重要関係者の公判供述に重きを置いて立証する場合,捜査段階の供述調書の些細な変遷を取り上げて変遷理由を供述調書に記載することはせず,そのような変遷が仮に問題とされるのであれば,重要関係者が公判廷で説明することで供述の信用性の吟味を受けることに委ねるのが相当であり,そのような考え方に立つと,変遷理由を記載した供述調書が存在しないことを殊更に問題視するまでもない。
また,公判供述は,弁護人からの反対尋問を受けても全く崩れていない。Cは,第3回公判期日において,4月25日以後は被告人とは会っていないかのようにも聞こえる供述をしているが,これは,第3回公判期日における前記質問を,市長選前の接触状況を聞く質問であると誤解して答えたに過ぎず,供述の変遷には当たらない。

供述態度が真摯かつ誠実であること
被告人をことさら悪く言うことはなく,記憶の濃淡に応じてありのまま
に供述しており,真摯かつ誠実である。

以上によれば,Cの公判供述は信用できる。

(2)他方,被告人は,本件各現金授受の事実をいずれも否定しているが,具体的な状況や客観証拠について,何ら合理的な供述ができておらず,自己に不利益な事柄については,覚えていない,分からないという逃避的な供述に終始しているだけであり,このような被告人の弁解は信用できない。(3)以上によれば,被告人及び弁護人の主張はいずれも現金授受があったことの認定を覆すものではなく,本件各現金授受の事実については,信用性に疑いの余地がないCの公判供述及びそれを裏付ける客観的証拠等から明らかである。

(弁護人の主張)
(1)被告人は,Cから現金を収受したことはなく,Cの供述は虚偽供述であって,信用できない。

Cの贈賄供述の動機と闇取引の疑い
Cは,自治体の首長等の贈収賄事件の立件を目指す警察に協力することで警察の捜査を贈収賄に集中させ,融資詐欺事件の立件及び起訴の範囲を最小限にとどめ,最終的に自分に対する処罰が軽くなることを期待して,被告人に賄賂を渡した旨の虚偽の自白を行った可能性が極めて高い。さらには,Cと検察官の間に,融資詐欺の起訴を最小限にとどめることの見返りとして,贈賄自白を維持し本件の公判における検察官立証に協力するとの明示又は黙示の約束があったものと考えられ,少なくとも,Cが,被告人の有罪立証に協力することで自らの捜査や事件処理に関して有利な取扱いを受けることを期待し,一方で,検察官側が,Cに対する捜査や処分において有利な取扱いを行うことで被告人の有罪立証のために協力させるという関係が続いてきたことは明らかである。
実際にも,総額3億7850万円にのぼる融資詐欺を概括的に認めるCの警察官調書が平成26年3月28日付けで作成されているにもかかわらず,検察官は,当初,同月26日までに,被害額合計2100万円分の2件の融資詐欺につき起訴したのみであり,その余の融資詐欺の事実については弁護人の告発があるまで半年以上放置し,事実上,融資詐欺についての起訴を前記2件分で終了しようとしていたのであり,Cは,検察官のかかる不適切な事件処理によって恩恵を受けた。なお,弁護人は,2回にわたり,Cの融資詐欺の余罪について告発を行ったところ,検察官は,このうち,同年9月4日受理にかかる告発事実については同年10月20日付けで追起訴を行ったが,同月27日受理にかかる告発事実については,嫌疑不十分を理由として同年12月10日付けで不起訴処分とした。この不
起訴処分についても,検察官が,Cが検察官立証に協力しなくなることを恐れたからである。そして,検察官は,Cとの間で,当公判廷における同人の証人尋問期日に向けて,連日長時間にわたって証人テストを行っていたところ,その内実は供述の確認の限度を超えた供述内容の作出や弁護人の反対尋問に対する対策協議に近いものであった。

供述経過及び供述内容の変遷等
(ア)3月16日付け上申書及び3月17日付け上申書には,第1現金授受に関する記述がない。第2現金授受については記憶があるのに,初めて現金供与を行い印象深いはずの第1現金授受についてはこの時点で記憶がないということは極めて不自然である。
また,3月27日付け警察官調書では,被告人と最初に会ったのは3月22日の飲食店Dである旨,飲食店Fでは被告人とCの二人で会った旨記載されているが,実際は,最初に会ったのは3月7日の飲食店Aであり,飲食店Fにおける会合にはIが同席していた。なお,Cの平成26年5月1日付け検察官調書(以下5月1日付け検察官調書という。)
には,飲食店Fでの会合時にIが同席した旨記載されており,非常に重要な点に関して変遷があるが,記憶喚起の経緯や変遷理由についての説明が記載された調書は存在しない。これは,Cが,自ら記憶を喚起したのではなく,飲食店Fでの会食の人数が3人であったことを示す客観的証拠に基づき,これと辻褄が合うように供述を変更したからである。また,Iの同席を前提とすると,贈収賄事件の立件が極めて困難になるので,同人が同席していないとの前提で供述調書を作成したという捜査側の事情があったのだとすると,この点について調書で訂正しなかったことも理解できる。
仮に,捜査段階における飲食店Fでの人数に関するCの供述経過が,Cが公判廷で述べたように,自ら3人で会ったことの記憶を喚起した後
に飲食店Fのジャーナル中から3名利用のものを選び出したなどというものであれば,検察官は,これを裏付けるために,同ジャーナルの抽出経過等の証拠を請求するなどして供述経過を立証すべきであるのに,これをしていない。
以上のとおり,第1現金授受についてのCの供述は,同人の記憶によるものではなく,客観的証拠によって明らかになった事実と辻褄が合うように変更された疑いがあり,信用できない。
(イ)なお,第2現金授受についてのCの供述は,3月16日付け上申書作成時から一貫しているが,第1現金授受に対する前記捜査経緯やその基本姿勢は,第2現金授受にも大きく影響する上,前記虚偽供述の動機,後述する供述内容の不合理性等に照らし,信用できない。
(ウ)Cは,第3回公判期日において,4月25日を最後に被告人とは会っていない旨供述したが,第7回公判期日においては,11月に飲食店Gにおいて被告人及びIと会ったことがある旨供述を変遷させている。11月という時期は,既に被告人が市長に就任し,今後浄水プラントのレンタル契約に向けて本格的に動く必要があった時期であり,11月に会ったとすれば,それは4月25日以降約半年ぶりに,市長就任後は初めて被告人と会う極めて重要な機会であったといえ,かかる重要な会合に関してこのように供述が変遷するのは,Cが全て検察官との打合せのとおりに供述しようとしたからにほかならない。

供述内容の不合理性

(ア)Cは,被告人が賄賂を受け取る人間であると判断した理由について,プライベートでの食事ができる食事の会話の中でお金の話が出る,ような会話になる方であったからと供述しているが,第1現金授受より前にCが被告人と食事をした機会は,いずれもI同席の上,簡素な昼食を共にしたに過ぎないし,お金の話」についても,反対尋問において,被告人ではなくIの発言であった旨認めている。仮に被告人自身,市議会議員の給料が少ないなどの発言をしていたとしても,その発言から,賄賂を受け取る人間であると判断できるようなものではないから,Cの前記供述部分は不合理である。(イ)Cが第1現金授受の際被告人に渡したとする資料の内容からすると,Cには,この時点で,重要な事項を記載したメモや資料を渡すために被告人に直接会う必要があったことは明らかであり,特に会って渡したい資料はなかったというCの供述は不合理である。(ウ)第1現金授受の現場である飲食店Fは市役所に近く,平日昼食時間帯にはβ市民や市職員が利用することも十分に考えられる。そして,被告人らが着席したとされる席は,他の客が近づくことが多いドリンクバーのごく近くであり,店員が頻繁に利用する客席と厨房との出入り口の真横でもある。そのような場所で現金授受を行ったということ自体が不合理である。また,仮に,Iだけがドリンクバーのために席を立ったとしても,ドリンクバーの位置から当該座席でのやり取りは見通しがよい上,座席との距離は数歩程度であり,Cは壁側を向いていて,自分の背後から見られているか否かを確認することもできない状況であって,Iらに見られないで現金入りの封筒を渡せると判断できるような状況でなかったことは明らかである。そして,Cは,4月2日に必ず現金を被告人に渡さなければならない事情はなかった旨も供述しているところ,そうだとすれば,Iに見られるかも知れない上記のような状況下においてあえて金銭を渡すということは不合理である。(エ)Cが供述する,第1現金授受と第2現金授受の場面におけるCと被告人とのやりとりは酷似しており,現実味に乏しい。また,被告人の反応及びその際のCの心情につき,贈賄供述が真実であれば当然具体的に表現されるはずであるのに,Cの捜査段階の調書には全く記載されておらず,公判廷においても具体的な供述はされていない。(オ)第1現金授受の現金の原資についてのC供述は,当時10万円程度であれば,手持ちの現金から捻出できたのに,被告人にいつ会えるかも不明な時点において,他人から,振り込みという記録化される手段によって贈賄原資を調達し,贈賄行為に及ぶ直前にその資金を銀行から引き出したというもので,不合理である。第2現金授受の現金の原資についてのC供述も,その当時手持ちの現金がなかったわけではなく,4月25日に入金が見込まれる金銭もあったのであるから,あえてJから借り入れる必要はなく,仮にJから50万円を借りる際に被告人に渡す金という理由を出した事実があったとしても,そのような理由を説明することと,実際に第2現金授受が行われたか否かとは全く関連性がなく,借入れのための一つの口実にしたとしか考えられない。株式会社B名義の口座履歴は,贈賄原資という以外にも説明がつくものであり,現金を供与したことを裏付ける証拠としての意味を持たない。エ他の証拠との関係について(ア)メールのやり取りについて飲食店Fでの会食後のCと被告人のメールのやり取りは,Cの供述内容に沿うものと見ることが可能であるというだけであり,別の解釈も可能であるから,供述の信用性判断の材料にはならない。また,飲食店Gでの会食後の同人らのメールのやり取りについても,Cが被告人に現金を渡したか否かという点とは直接関係しない。本当にいつもすいませんという文言が,資金援助の謝礼の意味だとする検察官の主張は,的外れである。(イ)Iの公判供述についてIは,4月2日の飲食店Fでも,4月25日の飲食店Gでも,一切席を外していない旨供述しており,同供述は信用できる。すなわち,各会合とも,限られた短い時間の中で,特に飲食店Gに関しては被告人と政策議論等を行うという重要な目的を有しつつ被告人と会っているのであるから,席を外さなかったことは至極当然である。また,Iの警察官調書において,席を外していた旨が録取されているのは,警察官の取調べがしつこかったので折れてしまったからであるし,Iの検察官調書において,席を立ったことが絶対にないかと言われればはっきりとは言い切れない旨録取されているのも,検察官が執拗に「絶対かという質問を繰り返したり,誘導的な取調べを行ったりしたからである。Iは,公判廷においては検察官の執拗な反対尋問にも揺らぐことなく,一貫して,席を外していないという記憶がある旨供述している。しかるに,Cは,Iが席を外した隙に現金を渡したなどと,信用できるI供述に反する供述をしているから,信用できない。
(ウ)丙の公判供述について
丙は,4月25日の飲食店Gでの会合の際,Iが席を外したことがあったような記憶があるという趣旨の供述をしているが,この供述は,目撃した対象者の特定がされておらず,曖昧なものであって信用できず,C供述を補強するものではない。
(エ)J及び戊の各公判供述について
Jは,Cに対し,長年,多数回にわたり,多額の金銭を高利で貸し付け,頻繁に小口の返済を受けていたが,その賃借管理は極めて杜撰であったところ,第2現金授受の直前の50万円に過ぎない金銭貸借に関してのみ貸付けの経緯や応じた理由等を詳細に記憶していることは不自然である。また,Jの公判供述は,貸した金銭の実際の用途を確認するかどうかの点や,被告人に渡す金銭として借金を申し込まれた回数等につ
きC供述と相反している。さらに,Jは,本件贈賄事件の共犯者として捜査を受けたこともあり,自己保身のため,Cに迎合する供述をする動機もある。したがって,Jの公判供述は信用できず,C供述を補強するものではない。
戊が聞いたとするCの発言中,渡すもんは渡してる」との部分については,誰に対して渡したのかという最も重要な部分が欠落しており,また,「接待はしているとの部分については,Cが被告人と昼食を共にした程度であった事実に明確に反するものである。また,戊,J及びCの信頼関係からすれば,戊がCないしJの今後の処遇に少しでも有利に働くように検察官に迎合することも考えられる。したがって,戊の公判供述は信用できず,C供述を補強するものではない。
(オ)被告人の資金繰りについて
被告人は,市議会議員の少ない収入で様々な対外的活動等の費用を賄い,自らは塾の講師料を受け取ることもなく,塾の講師をも務めており,被告人の経済状況が決して楽なものでなかったことは事実であるが,この点は,賄賂と認識しつつ現金を受領することとは無関係である。(2)被告人供述について
被告人は,逮捕以降一貫して本件各公訴事実を全面否認し,終始,断片的な記憶,曖昧な記憶等から言えることを精一杯述べており,供述内容に不自然不合理な点はない。
(3)以上によれば,被告人が,Cから現金を収受した事実がないことは明らかである。
2
争点②(Cから被告人に対する依頼の内容及び同依頼が請託と評価できるか否か)について
(検察官の主張)
Cは,被告人に対し,飲食店A及び飲食店Dにおいて,市議会議員として,
市議会で浄水プラントの導入に向けた質問を行うよう依頼するとともに,市職員に対して浄水プラントを導入することをあっせんするよう依頼した。また,Cは,飲食店Gにおいて,被告人に対し,市議会議員として市職員に対して浄水プラント導入をあっせんするよう依頼するとともに,市長に就任した場合には浄水プラントを導入するよう依頼した。これらの依頼はいずれも請託と評価できる。
(弁護人の主張)
Cは,被告人に対し,議会での質問や市職員への働きかけを明示的にも黙示的にも依頼したことはない。浄水プラントを導入してほしい」といった極めて漠然とした要望を伝えたことはあるが,この程度では,収賄罪における請託に当たらないことはもちろん,公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律にいう請託と評価することもできない。3争点③(被告人が市議会において浄水プラントの導入を促す質疑及び発言を行ったと認められるか否か)について(検察官の主張)被告人は,3月14日の市議会において,浄水プラントの導入を促す質疑及び発言を行った。弁護人は,前記質疑等は,備蓄品に関するものである旨主張するが,被告人が飲食店Aにおいて市議会で浄水プラントの導入に向けた質問をすることに言及したこと,浄水プラントの導入につき検討している旨の総務部長Kの答弁に対して訂正や再質問をすることなく,検討を促す旨発言していることからすると,前記質疑等が,浄水プラントの導入を促すものであることは明らかである。(弁護人の主張)被告人は,市議会において,浄水プラントではなく,備蓄品について質問をしたのであり,浄水プラントにつき答弁がされているのは,答弁者が質問の意図を取り違えたからである。4争点④(被告人のE課長に対する働きかけが市議会議員としての権限に基づく影響力を行使したものといえるか否か)について(検察官の主張)被告人は,3月25日頃,E課長に対し,浄水プラントに関する資料を渡すことにより,浄水プラントの導入につき前向きに検討することを求めるとともに,4月15日頃,同人に対し,浄水プラントの件を早急に取り組むように要望した文書を渡して回答を求めることにより,検討結果によっては,今後も市議会で質問権等を行使することがあり得る旨を明示的ないし黙示的に示したもので,市議会議員としての権限に基づく影響力を行使したものといえる。(弁護人の主張)検察官は,被告人が,今後も市議会で質問権を行使することを示して,市議会議員としての権限に基づく影響力を行使したと主張するが,被告人は,そもそも検察官が主張の前提とする市議会における浄水プラントに関する質問を行ったことはない。また,市職員にとって,議会で再質問されることは一般的なことであって,特に負担になるものではないから,これを恐れて対応することは考えられない。検察官が指摘している被告人の行為は,いずれも「市議会議員としての権限に基づく影響力の行使に該当するとはいえない。防災安全課が浄水プラントの導入に積極的に動いたのは,市として必要があったからであり,被告人の権限に基づく影響力の行使によるものではない。

第4
1
C及び被告人の各公判供述要旨
Cは,被告人との関係等につき,当公判廷において,要旨,以下のとおり
供述している。
(1)被告人を知った経緯について
2月頃,Iから,市議会議員であり前回の選挙でトップ当選をした被告人を紹介してもらい今度会うことになっているが,その際に株式会社Bの宣伝をしておくので株式会社Bの資料を用意してもらいたいと言われたため,C
がδ市宛に作成した株式会社Bの資料を用意してIに交付していたところ,Iから,被告人が株式会社Bに興味を持ってくれたので,3人で会おうと誘われた。当時は,銀行に対する詐欺行為により株式会社Bが受けた不正融資の返済やCが個人的に借りていたJへの返済を行うために,株式会社Bの資金繰りは自転車操業状態が続いており,β市への浄水プラントの導入を実績にして他の自治体にも販路を拡大すれば,この自転車操業状態から抜け出せるのではないかと思い,β市への浄水プラントの導入をチャンスと考えた。(2)3月7日の飲食店Aでの会合について
3月7日昼,Cが店を予約し,Iが被告人に会う段取りを付け,飲食店Aにおいて3人で会った。飲食店Aに先に到着したIとCは,被告人が到着するまでに店内の個室で話をしたが,その際,Iは,当時開かれていた市議会において,被告人が防災について質問することになっているが,このタイミングだと株式会社Bのことを質問に盛り込むことは少し難しいかもしれないと話していた。その後,被告人が飲食店Aに到着し,前記個室において,Cと被告人が名刺交換をした後,Cは,持参していたδ市教育委員会宛の浄水プラントの資料を被告人に渡すと,被告人は,この資料をぱらぱらとめくって読んでいた。その後,食事が運ばれてきたので3人で食事を取ったが,その頃,Iが被告人に対し,今度議会で防災のことをやるらしいが,株式会社Bのことを盛り込むのは難しいのではと問い掛けると,被告人も,今回は時間的に難しいかも知れないというように答えていた。また,食事をしていた頃,Iは,被告人に対し,株式会社Bの事業に関して,δ市議会議員に動いてもらってδ市立病院への地下水の濾過機設備の導入の働き掛けを行っていることや,δ市議会における同市議会議員の質問原稿もIが作成していることなどを話していた。食事を終えてから,Cが,被告人に対し,先に渡している資料に基づき,災害時であっても太陽光の動力を使って濾過機を動かしてプールにたまった雨水を飲料化することは災害対策として有効であること,
設置はレンタル契約であることから初期費用は不要であることなど浄水プラントに関する説明を行った上,全国で最初にβ市で導入していただきたいので,被告人には是非力を貸してほしい旨頼むと,被告人が,いいですね,やりましょうと言ってくれたので,Cは,被告人による市議会における質問や市職員に対する働き掛けにより,β市における浄水プラントの導入が実現するかも知れないと思った。浄水プラントの話が一段落すると,その後はIが被告人と政策論議をしていた。飲食店Aの食事代はまとめてCがクレジットカードで支払った。
店員に声を掛けられたために3時過ぎに店を出ることになったが,その際,被告人が,今からだと議会には間に合わないかもしれないが,役所には今から行けば間に合うので,一度担当者に話してみると言ってくれたので,Cは,是非よろしくお願いします」と頼んだ。帰り間際に被告人が財布を出したので,Cが,今日の会計は済んでいる旨伝えると,被告人は,どう「もすいません,ごちそうになりますと発言し,被告人とは飲食店Aの玄関で別れた。被告人が帰った後,CがIに対し,被告人についてすごい行動力だと伝えると,Iも,δ市議会議員と比較してか,さすがに違いますね」と答えていた。Iと別れた後,Cは事務所に戻ってから,被告人に対し,「微力ながら議員のお力になれることがありましたら,何なりと遠慮なくおっしゃってください。という文言が含まれるメールを送信しているが,このメールの文言は,被告人がβ市における浄水プラントの導入に動いてくれるのであれば金のことを考えるという示唆をしたものである。
(3)3月22日の飲食店Dでの会合について
3月22日午後2時開始でCが店に予約を入れ,Iが被告人と会う段取りを付け,飲食店Dで3人で会うことになった。CとIは,一緒に株式会社Bの事務所から自動車で飲食店Dに向かい,被告人とは現地で集合した。座席は掘りごたつ式で,時間も遅かったことから先に食事を注文した。食事の注
文後,Cが,被告人に対し,β市宛に作成した資料を被告人に渡すと,被告人から,こないだの議会の反応,良かったですよ」などと言われ,飲食店Aで話していたことが間に合い,議会で質問してくれたのだと分かった。食事中はIと被告人が政策論議的な話をしていたが,食事後に,Cが,β市宛に作成した資料に基づき,太陽光発電パネルで太陽電池を使って濾過機を稼働させれば,その濾過機でプールにたまった雨水を飲料水化できるという説明や,レンタル契約をしてもらえば初期費用が不要であることなど,浄水プラントの説明をすると,被告人は真剣に聞き,被告人からも濾過機の性能等につき質問してきた。Cが被告人に対して株式会社Bの浄水プラントがβ市で導入されるよう是非力を貸してもらいたい旨お願いすると,被告人も「是非やりましょうと言ってくれた。一方,Iは,市職員に対する働き掛けの方法について,被告人に対し,役人は議会で質問するぞと言えばびびって動く議会で質問されたくなかっ,たらちゃんと動けと言ってやればいい口頭でやり取りしてもごまかされ,るので,全部書面でやり取りして証拠を残して逃げられないようにすればいいと述べたほか,被告人が今後議会で質問するようなことになったら,原稿はIの方で準備するので心配しなくてもよいなどと話していた。さらに,Iは,9月に予定されていた市長選を話題に出し,被告人に対して,前市長Hが再出馬しない場合には被告人に出馬するように勧め,被告人から本当にそういう状況になったら協力してもらえるのか問われると,何でもやるなどと答え,Iが,Cに対して資金面で協力してもらえるか求めてきたことから,Cは,その際にはもちろん協力する旨答えた。さらに,Iは,被告人に対し,梅雨の時期くらいまでにβ市にモデルとしてとりあえず1校の学校に株式会社Bの浄水プラントを導入し,被告人がマスコミに名前と顔を売って市長選に向かえば良いとも発言し,Cに対して梅雨の時期までに導入するにはどのようなスケジュールになるのか尋ねてきたことから,Cは,4月中に仮契約
か発注をしてもらえれば梅雨までに導入は間に合うと答えた。そのほか,この日には,被告人がIに対し,選挙戦は別として,普段からも政策ブレーンとして協力してほしい旨言うと,Iは,何でもやるが自分は高くつくなどと答え,これに対して,被告人が,市議会議員の給料は安いので金はないが,市長になればポケットマネーで出せるかもしれないなどと言うと,Iが,Cに対して,
Cさんも協力してくれますよねなどと言ってきたので,Cも,
被告人が自分の願いを聞いて動いてくれればIの活動費について当然に協力させてもらうという意味合いで,もちろん私も協力します」などと答えるやり取りもあった。この日の食事代は3人分まとめてCがクレジットカードで支払い,被告人が1000円を出してきたのでこれを受け取り,飲食店Dの玄関先で別れた。その際,被告人は,今から役所に行けば間に合うので資料を持って担当者に会ってくると言っていた。その後,Iと一緒に株式会社Bの事務所に戻り,事務所でIとは別れた。(4)飲食店Dでの会合から第1現金授受までのできごとについて飲食店Dで会った翌日の3月23日に被告人からCに対して電話があり,昨日は担当者に会えなかったので,週明けの月曜日である3月25日に担当者に会いに行くので,行ったらまた連絡を入れる旨言われた。しかし,同日に被告人から電話がなかったことから,その翌日にCから被告人に様子を尋ねる簡単なメールを入れると,E課長から株式会社Bの事務所に電話があり,被告人から話を聞いた,一度詳しい話を聞きたいので市役所まで来てもらいたい旨言われたことから,3月27日午前10時にCが市役所を訪れる旨の約束をした。Cのイメージよりも市役所側の反応が早かったため,被告人が相当なプレッシャーを掛けてくれたのだと感じた。E課長からの連絡を受けて,被告人にメールでその旨を伝えると,被告人からも,E課長からはとりあえず浄水プラントに関する説明を聞きたいという話だけであった旨及び被告人からE課長に対して同人に渡した株式会社Bの資料は日曜日(3月24日)に株式会社Bの事務所まで再度取りに行ったという話をしてあるのでCにもE課長と話をする際には話を合わせてもらいたいと読み取れる内容のメールの返信があった。3月27日にCが市役所を訪れ,E課長らと会い,資料を渡し,浄水プラントの説明を一通り行った上で,まずモデルとしてどちらかの学校1校に設置してもらえないかと申し出たところ,E課長からは,モデルを設置するならY中学校かと思うので,Y中学校に設置することを前提として具体的に提案をしてもらいたい旨告げられた。そこで,CがY中学校の平面図や配管図等の資料を見せてもらいたい旨申し出ると,3月28日及び3月29日に2日間にわたり,市役所においてその資料を見せてもらうことができた。(5)第1現金授受についてア被告人に現金10万円を渡そうと具体的に考えるようになったのは,3月30日か3月31日頃だった。そのように考えるようになったのは,議会において被告人が質問をしてくれたことや,被告人の迅速な行動でE課長に取り次いでもらったことに対するお礼と,この勢いを今後も続けてE課長らへの働き掛けを継続し,また,議会で発言する機会があれば発言や質問をしてもらいたいというお願いの気持ちからである。被告人がCからの金を受け取らなかったらどうしようということまで,当時は考えていなかった。この当時,手持ちの金がなかったわけではないが,資金繰りの関係でこの金を使うと次の支払等が厳しくなるように思ったことから,これまでにも金を借りたことがあるLから金を借りて渡そうと考えた。また,Lから金を借りるに当たっては,当時,Cの個人的な借金の返済資金も5万円必要だったので,併せて15万円をLから借りることにした。Lに対して,具体的に使途を説明せずに借入れを申し込んだところ,Lは,休み明けに振り込むことを承諾し,4月1日月曜日,株式会社Bの株式会社P銀行の口座に15万円を振り込んでくれた。なお,この日は,朝から市役所においてE課長と打ち合わせが入っていた日であった。4月2日はCのスケジュールが空いており,被告人の都合に合わせやすかった。このため,Cは,同日の朝自宅を出る前に,被告人に対して,時間を取って会ってもらいたい旨のメールを送信した。なお,Cの本心は,金を渡したいだけで,直接会って相談したいことや渡したい資料があったわけではなかったが,金を渡したいとメールではさすがに記載できなかったことから,メールの文面としては,相談したり渡したい資料があるという内容となった。その後,Cは,Lから振り込んでもらった15万円を引き出した上で返済分の5万円を振り込むため,自動車で株式会社P銀行R支店に向かった。すると,銀行に到着する前に,被告人から,飲食店Fで会うとの提案のメールが送信され,さらに,その後も被告人から,時間がないと思うので外で会うことを提案する内容のメールが送信され,Cはこれをいずれも了解する旨のメールを返信した。Cは,同支店で株式会社Bの口座から15万円を引き出すと,内5万円を使って返済のために振込手続を行い,残る10万円を同支店備え付けの封筒(以下,この10万円入りの封筒を「銀行封筒という。
)に入れた。Cは,被告人との上記メールのやり取りの内容から,飲食店Fの駐車場で手渡すことになることが予想されたため,銀行封筒をそのまま駐車場で渡す場面を人に見られるとまずいと考え,資料に挟んでカモフラージュしようと考え,その準備のために同支店から株式会社Bの事務所に向かった。
株式会社Bの事務所に向かう途中,Iに被告人と会うことになった旨の連絡を入れた。Iには,これまでも活動費として300万円を渡したこともあり,被告人に金を渡すことを知られると,Iからも金を要求されかねないことから,本当は同行したくなかったが,Iに黙って被告人と会ったことが後からIに知れて関係が悪くなるのも嫌だと感じたことから,被告
人と会うことだけは報告しておこうと思う一方で,Iが同行すると言い出す可能性もあったことから,Iに連絡を取った際には,資料を届けたら被告人も時間がないのですぐに帰ってくるだけだと説明した。しかし,Iが自分も一緒に行くと言い出したため,やむなくIと一緒に被告人に会うことになってしまった。そこで,Iに現金を渡していることがばれないように資料に金を紛れ込ませて渡せばよいと考え,その方法として,製本用のクリアファイルに資料を挟み,その資料の裏に銀行封筒を挟み,クリアファイルごと大きめの封筒に入れて被告人に渡せばよいと考えた。また,Cとしては,駐車場で渡す際に近くにIがいて被告人に現金が銀行封筒の中に入っていることを伝えられない場合には,最悪,外側の封筒ごと資料を渡して後で被告人に連絡を入れることになっても仕方がないとも考えていた。もっとも,仮に被告人に金を渡したことがIにばれてしまったとしても,Iにはこれまでにもδ市において株式会社Bの事業を導入するための活動費として金を渡していたこともあったので,警察とか世間一般の人間にばれるのとは違い,絶対にIにばれてはいけないというまでの気持ちはなかった。株式会社Bの事務所に着いてから,Iに何の資料を渡すのか聞かれた際に説明するため,前日に会ったE課長との打合せ結果をまとめた報告書や工程表を新たに作成し,これら資料に株式会社Bの提案書の表紙を付けて製本用のクリアファイルに一緒に挟み込んだ後,資料の一番裏面とクリアファイルの裏表紙との間に銀行封筒を挟み,クリアファイルごと飲食店A4サイズより一回り大きい薄緑色の封筒(以下大封筒という。)
に入れた。
その後,Iが株式会社Bの事務所まで来たので,Cの運転する自動車で一緒に飲食店Fに向かった。CとIは,12時少し前に飲食店Fに到着したが,その時点ではまだ被告人は到着していなかった。このため,Cが被告人に到着したことをメールで知らせると,被告人から,間もなく到着す
るとのメールが返信された。その後,被告人が自動車で到着したことから,CとIが自動車から降りて被告人に近付くと,被告人から,時間があるので店に入ろうと誘われ,3人で飲食店F店内に入った。

3人で飲食店F店内に入った後,人目もあるのでCは一番奥の端のテーブル席を選び,奥側のベンチシートに被告人が一人で,椅子席側にCとIが横並びに被告人と向かい合って座り,3人ともランチとドリンクバーを注文した。Iが席を立ってドリンクバーに行く際,被告人に飲み物を確認していたので,Cは,IがIの分と被告人の分の二人分の飲み物を取りに行くと思った。Cは,もともとIが動いた機会に被告人に現金を渡そうと思っていたので,その際には,ドリンクは後で取りに行くと言った。Iが席を立ってドリンクバーに行った後,Cは,大封筒をテーブルの上に出し,クリアファイルの表面の半分くらいを大封筒から出して,向かいに座っていた被告人に見せ,次いで,ひっくり返して裏面を見せて銀行封筒が挟まっているのを確認してもらい,大封筒の中にクリアファイルを仕舞ってから,これ,少ないですけど足しにしてください」と小声で言いながら大封筒を差し出すと,被告人は,すいません,助かりますと小声で言っ

て大封筒ごと受け取った。その際,Cは,Iには金を渡したことを内緒にしてもらいたいという気持ちを伝えるために,被告人に対し,Iさんに「は

と口に出した後,左手の人差し指を唇に立てて当て,内緒にしてもらいたいというジェスチャーをしたところ,被告人は,小声で「分かりました」と言って,受け取った大封筒を被告人の右側の座席に置いた。この間,IがCの背後からどちらの方向を見ているかは,Cの位置からは分からなかった。その後,Iが席に戻ってきたので,Cはドリンクバーに行くため席を立った。


その後,3人で浄水プラントについての話をしたり,被告人とIがβ市の政策について話をしながら3人で食事を終え,一人当たり800円くら
いの食事代の会計をCが3人分まとめてCのクレジットカードで支払ったが,飲食店Fは被告人の地元であったことから,Cから被告人に対し,割り勘にすることを申し出た上で,切りの良い500円で良い旨伝えると,被告人が500円を出したので受け取った。
被告人とは飲食店Fの駐車場で別れ,CはIと一緒に自動車で株式会社Bの事務所に戻り,同所でIとは別れた。その日のうちに,Cは被告人に対してメールを送信しているが,そのメールの記載内容のうち,議員の

お力になれるよう,精一杯頑張りますので宜しくお願いします。との文

言は,今まで被告人が株式会社Bのために動いてくれたお礼及び今後もよろしくお願いしたいという気持ちと,今後もまた被告人が株式会社Bのために動いてくれれば更に金を渡すとの意図を含むものであった。その後,被告人からCに対しては,
こちらこそわざわざありがとうございます!
とのメールが返信されてきているが,Cは,この文言は,飲食店Fで現金を渡されたことに対する謝礼の趣旨と理解した。
(6)飲食店Fでの会合から第2現金授受までのできごとについて飲食店Fでの会合の後,CはE課長からの依頼を受けて,PTAを含めた教育関係宛の資料を作成し,被告人にも見てもらい,後日,E課長にも届けた。被告人もまた,Y中学校のPTA会長や校長に会って直接話をしてくれたり,水道課に行って直接話をしてくれたりした。さらに,被告人は,この時期,被告人と浄水プラントの導入に反対していた教育関係のβ市の役人との板挟み状態となっているE課長に働き掛けるため,書面を作成して働き掛けるような行動を取るようになっていた。
(7)第2現金授受について

4月24日午前9時過ぎ頃,Iからのメールに対してIに電話をかけたところ,Iは,被告人が市長選に出ることになった,前市長Hの後継指名ももらっているようであり,被告人はまず間違いなく当選するだろうなど
と伝えてきた。これを聞いたCは,それまで被告人に動いてもらっているお礼の気持ちに加えて,今後市長選に突入して忙しくなったとしても,株式会社Bの件は動きを止めないでほしい,市議会議員の立場にあるときは,今まで同様にβ市の役人に働き掛けを続けてもらいたい,議員辞職後もそのまま影響力を持って働き掛けをお願いしたい,市長になればその力で浄水プラントの導入をお願いしたいとの気持ちから,この機会にもう一度,被告人に金を渡しておいた方がいいと考え,その金額としては,前回が10万円であったことから,その倍の20万円を渡そうと考えた。Cは,この当時,被告人に渡す手持ち金がなかったわけではないが,今後のCの支払や資金繰りが苦しくなることが予想できたことから,Jから,被告人に渡す20万円に加えて,他の支払に充てる分や資金繰りを上乗せして50万円を借りようと考え,同日朝,Jに電話をかけた。この電話の中で,Cが,Jに対し,被告人が市長選に出るということになったので,このタイミングで金を渡しておきたいから金を貸してほしい旨依頼したところ,Jは,被告人が落選したらどうするのか,あげ損じゃないかなどと言ってきた。そこで,Cが,前市長Hの後継指名の話や,被告人が市議会議員選挙にトップ当選しており,この勢いがあれば当選する旨Iが言っていることなどを説明して説得したところ,渋るJからは,貸し主を当たってみる旨の返答がなされ,その時点では借金の話は留保となった。なお,Jに借金を依頼した時点では,まだ被告人と会う日程は決まっていなかった。イ
4月25日夕方過ぎ,Cは,Iから,被告人がδに来るとの連絡を受け,3人で集まることになった。しかし,その時点では,Jから金を借りる段取りはできてはいたものの,受取は4月26日となっていて,Cの手元にはまだその金が来ていなかった。このため,Cは,同日朝に株式会社T銀行U支店で株式会社Bの口座から90万円を引き出し,その中から株式会社W銀行X支店に開設された株式会社Bの口座に入金した70万円を差し
引いた20万円が手元に残っていたことから,この20万円を被告人に渡すこととした。なお,この金を被告人に渡すことは,飲食店Fのときと同じ理由で,Iに伝えるつもりがなかったので,Iが席を外したときに渡せば良いと思っていた。

4月25日の夕方過ぎになって,飲食店Gでその日の午後9時半に会うことが決まり,Cが飲食店Gに予約を入れた。飲食店Gには,先にIが,次に午後9時頃にCが着き,最後に被告人が午後10時前に到着したと思う。Cはあらかじめスーツの内ポケットに現金20万円を茶封筒(以下,この20万円入りの封筒を茶封筒という。に入れて持参した。飲食)
店Gでは,座敷の掘りごたつ式のテーブル席に座り,先に到着したCとIは軽く話をした。その話の中で,Cから,Iに対し,被告人はIに選挙協力の依頼に来るはずだから,それには応えてあげてほしい,Iの活動費はC側で負担するので,その代わりに市長選で忙しくなっても,被告人には浄水プラントの件で動きが止まらないようにIから被告人に話をしてもらいたい旨依頼すると,Iもこれを了解した。また,その話の中で,CからIに対し,当日は自分は先に帰るので,後はゆっくりと被告人とIとで話をしてもらいたい旨を告げた上で,Cは食事代として2万円をIに渡した。Iに先に帰ると告げたのは,被告人とIにゆっくり打合せをしてもらいたかったという気持ちと,当日に絶対に被告人に金を渡さなければいけないとまでは思っておらず,最悪,後日でもいいかというように思っていたからである。また,Cには,飲食店GにおいてIが席を外さなければ,帰り際に被告人を飲食店Gのトイレか玄関口に呼び出して金を渡そうという考えもあった。さらに,仮にIに見られたとしても,Iだから最悪ばれても問題ないだろうという気持ちもあった。


被告人が飲食店Gに到着し,CとIは横並びに二人で座り,向かい側に被告人が一人で座った。飲食店Gにおいて,被告人からは,市長選に出る
ことになった,前市長Hの後継指名ももらった,前市長Hの市議会の青年部の後援ももらえそうだとの報告があり,Cは,被告人が市長選に当選することは間違いないと感じた。Iから被告人に対し,選対でも何でもやる旨申し出ると,被告人は,選対は市議選のときの選対と前市長Hの後援会の青年部の選対があるから大丈夫と告げた上で,Iには,マニフェストや政策を作る仕事を至急手伝ってもらいたい旨依頼があり,Iはこれを承諾していた。その後,Iが,自分は高いですよと言った上で,Cに対し,資金面での協力の話を振ってきたことから,Cが,もちろん協力する旨答えたところ,Iは,被告人に対し,市長選で忙しくなるかもしれないが浄水プラントの件は止めないでやってほしい旨依頼し,Cからも同様の依頼をしたところ,被告人は,「分かってます」何でも言ってくださいと答,
えた。飲食店Gでは,上記やり取り以外には,主として被告人とIが市長選を見据えた政策の話をしていたが,そのような中で,理由は分からないもののIがちょっと席を外したときがあったので,Cは,脱いであったジャケットの内ポケットから茶封筒を取り出して,それを持ってテーブルを回るような形で被告人の左横隣まで移動し,正座よりもやや腰を浮かせた姿勢で,テーブルのちょっと下の陰になるようなところで両手で茶封筒を持ち,被告人に対し,これ,少ないけど足しにしてください」というふ

うに言いながら差し出した。これに対し,被告人は,「いつもすいません,助かります

というふうに言ってこれを受け取った。Cは,これもIさんには内緒にしといてくださいというふうに言い,Iが戻ってきたらまずいと思ったのですぐに自席に戻った。被告人が受け取った茶封筒をどうしたか最後まで確認はしていないが,鞄の中に仕舞ったのではないかと思う。Cは,自席に戻った後,被告人に対し,選挙の期間中,費用は自分が負担するので,Iを自由に使ってほしい旨伝えると,被告人は,ありがとうございますというふうに言っていた。その後,Cは,被告人に対し,
自分は先に帰るが,後はゆっくりとIと打合せをしてもらうよう,また,飲食代の支払はIに金を預けてあるので心配しないでよい旨を伝えた。このようなやり取りの後,席に戻ってきたIから,何を話していたのか尋ねられたため,Cは,Iの噂をしていたと答えた。その後,被告人とIは政策について話をしていたと思う。Cは,Iに対し,メールにて,そろそろ帰ることを告げるとともに,被告人には市長選で忙しくなったとしても浄水プラントの件を止めないためにどう行動したらよいか教えておくよう依頼した。そして,上記メールを送信した後,ほどなくして飲食店Gを出た。

翌4月26日,被告人に対してメールを送信しているが,その中のお手伝いや,ご協力の文言は,市長選でCが個人的に何か手伝えることがあれば言ってもらいたいという趣旨であり,

そして・・・。

の文言は,
金や資金のことを意味し,金を渡したので浄水プラントの件はよろしく頼むということや,被告人が動いてくれたのでCもできる限り資金面で協力するという意味を伝えたい気持ちを表したものである。これに対して,被告人からメールの返信があったが,Cは,その趣旨につき,飲食店Gで金を渡したことに対するお礼と,Iを動かすことによって発生するIの活動費等についてCの金の力を借りたいということだと理解した。

(8)飲食店Gでの会合以降のできごとについて

被告人は市長選に立候補して市長になったが,市長選に関して,Cは,Iを派遣する形で被告人に協力した。具体的なIの選挙運動の内容としては,被告人のために政策作りをしたり,マスコミからの質問に対する回答を作成したりすることがあったとIから聞いていた。Cは,そのような活動をしているIに合計十数万円の活動費を支払ったほか,Iのために手配した宿泊施設の宿泊費もCが負担した。


市長選に入ってからも,浄水プラントの導入の動きは止まらず,5月2
0日に開かれたβ市での担当者会議にCは出席して浄水プラントの説明を行った。また,被告人が市長になった後の6月中旬頃だと思うが,E課長から,入札方式の一つであるプロポーザル方式を予定している旨及び入札手続を行うには半年くらいの時間を要する旨の連絡がCにあった。このため,CがE課長に対し,もっと何か早く導入できる方法がないか相談すると,E課長から,株式会社Bが費用負担して社会実験か共同実験という形を取れば早く導入できるとの説明があったことから,Cは,それでも構わないのでその方法で話を進めてもらいたいと伝えた。Cが浄水プラントについて当初の目的であったレンタル契約ではなく社会実験等という形を取ってでもβ市に導入したいと考えたのは,早期に設置して他の自治体への営業を拡販したいとの理由に加えて,β市に設置する浄水プラントについては,社会実験等を終えた後にプロポーザル方式をとってレンタル契約に移行すれば良いと判断したからである。

Cは,浄水プラントをY中学校に設置することについて,Y中学校の校長が反対しているとの話をE課長から聞いたため,被告人に連絡して,何とか同校長を説得してほしいと頼んだところ,被告人は,その後すぐにE課長と一緒に同校長の元に行って説得してくれた。Y中学校に浄水プラントを設置して社会実験を行う件については,7月31日付けで株式会社Bとβ市との間で確認書が交わされ,8月12日にはY中学校への浄水プラントの設置が完了し,実験が開始された。


この社会実験は,当初2か月の予定であったが,その後,平成26年3月末まで延長された。被告人は,Cに対し,Y中学校に設置した浄水プラントの同時期以降の取扱いやβ市内の他の学校への浄水プラントの設置を含めて,株式会社Bの件は,同年4月に設置される市長直属の新しい部署において取り扱っていくと説明していたが,その時期が来る前の同年2月にCは詐欺等の被疑事実で逮捕されてしまった。

2
他方,被告人は,当公判廷において,要旨,次のように供述している。(1)今回起訴された公訴事実に関し,Cから現金を受け取ったことは絶対にない。
Cは,被告人がβ市における浄水プラント事業の導入に関し,議会質問,市議会議員としてのβ市当局への働き掛け及び市長就任後は市長としての取り計らいを依頼した旨供述している。しかしながら,浄水プラント事業に関して被告人が議会で質問した事実はない。β市当局への働き掛けという点についても,被告人は浄水プラントがβ市にとって有意義なものになると考えたためにE課長らに資料を持って行ったり,メールを送信したりしたことはあるが,これはCの依頼に基づくものではない。市長就任後の取り計らいの点についても,市長就任前から既に防災安全課でも話が進んでいたので,市長になってからも,特段何か指示を出したり,会議で発言をしたりしたことはない。
(2)本件当時の被告人の経済状態について
本件当時は,市議会議員の収入のほかに学習塾の経営による収入があった。4月4日に塾の口座に入金された9万5000円の原資については,その少し前に塾の月謝等の収入が現金で入ってきており,それを入金したものである。4月30日に塾の口座に入金された8万6000円の原資については,どこから出た金かはっきりと覚えていないが,給料,塾の月謝などの可能性がある。3月末から4月初めにかけては,年度初めということで,年間維持費や教材費など,月謝以外の収入もあり,これらの収入分から月初めに支払ったと思われる塾のアルバイト講師の給料を支払っても,10万円くらいの現金は手元に残ることになる。また,4月3日には国税還付金として28万円が振込入金されているが,被告人としても飲食店FでCと会った時点で,近い時期に国税還付金が振り込まれることは予想していた。したがって,この時期に被告人において資金繰りが楽でなかったという状況は存在していな
い。
(3)I及びCと知り合った経緯について
2月19日に岐阜市の会社で開催されたバイオエタノールの勉強会に被告人が参加していたとき,同社社長から,δ市議会議員にバイオエタノールの説明をしてほしいと言われ,被告人が同市議会議員に会いに行った際,Iが同席していたことから,Iと知り合った。その会合の中で,同市議会議員から,浄水プラントを研究しているという話が出たので,もう少しその話を聞かせてほしいということでIと連絡を取り,3月7日に飲食店AでIと会うことになった。
(4)3月7日の飲食店Aでの会合について
3月7日に飲食店Aに到着すると,その場にIの他に初めて会うCがいたが,自分はCが来ることはIからは聞いていなかったはずである。飲食店Aでは昼のランチの弁当を食べた。また,Cから,資料を基に,病院にどのように濾過機を取り入れているかとの話を聞いた後,具体的な濾過機についていろいろと説明を受けた。Cが,被告人の知らなかった隈井式という濾過機について,鉱物で濾過をすることや,性能も非常に優れているということを説明したのをよく覚えている。資料には,濾過機の実績一覧があり,岐阜県にも実績場所が2か所あったことははっきり覚えている。その他,病院局の資料とδ市の学校か教育委員会宛のプールについての資料をもらった。Cからは,浄水プラントについて,プールの水を使うとの話も聞いた。このとき,自分が,濾過機又は浄水プラントについて,是非やりましょうという発言をしたかどうかははっきり覚えていないが,濾過機についても浄水機についても,良いものなのでβ市に政策的に取り入れられないかと思ったこともあり,そのような発言をした可能性は十分にある。Cとは水のリサイクルや浄水プラント以外の雑談はしていない。その後は,Iと政策についていろいろと話をした。

この日,飲食店Aを出た後,浄水プラントの資料を持って防災安全課を訪れたことについて,被告人にははっきりとした記憶はないが,防災安全課の職員がそのように話しているなら間違いないと思う。
(5)浄水プラントに関する被告人の考え方
東日本大震災以降は,災害に対する意識をもっと高めなければという気持ちがあり,その中で市民のための水の確保というのも大切なものの一つということで,Cから話を聞いたときは,設備も大きく費用も掛かるという浄水設備のイメージとは異なり,浄水プラントは,性能も良く,非常に簡易的で,財政的にもほとんど負担がないという話だったので,β市の政策の中に取り込んでいけないかという思いを持った。
(6)議会質問等について
議会での質問には,大きく分けて,一般質問と質疑の2種類があり,このうち一般質問は,年4回の定例議会において,議員一人当たり約1時間の時間が与えられ,答える市役所側も,議員の質問通告を受け,市長を交えてしっかりと答弁するので,議員活動の重要なものの一つとして議員も位置付けているのに対し,質疑は,各議会で提出された議案に対する質問であり,一般質問と質疑とでは重みが全然異なる。3月14日に被告人が行った質問は,質疑である。
また,議員が質問を行えば,当然に真摯には受け止められるものの,毎回の議会では10人以上が質問に立つ上,一人で何項目も質問するので,年間にして何十件の提案や意見を市の政策に取り込むことはなかなか簡単なものではなく,多くの場合には,市側も,検討するとか研究するとか今後の課題にするというような答弁にとどまり,再質問を恐れて議員の意見や提案に従わざるを得ないということはあり得ない。
地方議会で過半数を占める会派の主要メンバーなど,地方議会の議員の中でも特別に大きな影響力を持っている人の意見や質問であれば,影響力も違
ってくることはあるが,被告人は一人会派で活動しており,そのような影響力は全くなかった。
(7)3月14日の市議会について
3月14日の市議会の議題は次年度の予算であった。被告人は,この日,質疑を行うに当たり,議案質疑発言通告書を事前に提出しているが,同通告書中,

①今回の整備で,どれくらいの備蓄が可能になるか。

との趣旨は,β市として新年度にどれぐらい備蓄品を備える予定かということを尋ねたものである。また,②災害対策に,民間が開発した新技術等を導入する考え

は。との趣旨は,①に関連して,これから備蓄品を備えていくに当たり,

都市部の方の備蓄品には地方に比べて優れた備えができているということを聞いていたので,今後購入するのであれば,民間が開発した保存食等の最新鋭の備蓄品を導入する考えがあるかということを尋ねたものである。被告人が浄水機について一切質問していないのに,答弁者が浄水プラントについて答弁しているのは,その前に,被告人がE課長に浄水プラントの資料を持っていったため,それと混同して勘違いをしたためだろうと思う。被告人としては浄水機のことも当然に念頭にあったとは思うが,再質問の際,マンホールの簡易式トイレの例を挙げたのは,今回は一般論として聞いているということを言いたくて,あえて知識としてあった他の例を出してとっさに言ったのだと思う。この議会で浄水プラントのことを出していないのは,まだ一度しか話を聞いていないものに対して,議事録が残るような議会という場で発言するのはどうかという思いが自分自身にあったのだと思う。
(8)3月22日の飲食店Dでの会合について
3月22日に飲食店Dに行ったことは,はっきりとは覚えていないが,いろいろな記録を見せてもらうと,自分が行ったことは間違いないと思う。Cから何か資料を受け取ったかどうかはっきりと覚えていないが,浄水機の話をするときは大体資料を基にCが話をしていたので,この場でも資料をもら
っている可能性は十分ある。
Cが,被告人から,議会で質問したら反応が良かったという発言があった旨供述している点に関しては,議会で浄水プラントについての質問はしていないものの,提案書を持って行ったらそういう答弁があったというような話をした可能性は十分ある。しかし,Iが,議会で質問するようなことがあったら原稿はIが作るなどという発言をしたことはなかったと思う。被告人はいつも自分で原稿を必ず作っていたので,誰かに頼むということはあり得ないからである。また,Iから,4月中に仮契約とか発注までいこうとの発言もなかったと思う。議員としては契約とかそういったものに関与できるような立場では全くないので,そういった話が出るということはあり得ないからである。その席で,市長選の話題も一切出ていないと思う。前市長Hは,入院等はしていたが,もう一期続けるということは周知の事実であり,そこで市長選の話が出るということは考えられない。被告人の立場の人間が,市長選に出るなど,うかつにも言える話ではないし,被告人は,前市長Hには市議会議員時代からいろいろと可愛がってもらっており,そのような前市長Hが次の選挙には出ないと言わない状況で,被告人が選挙に出るとか出ないという話になることはあり得ない。市長選に出るにも被告人には金がないという話も,そもそも市長選の話自体が出ていないので,そのような話が出ることはあり得ない。被告人が市長選に出ようと思ったのは,4月18日に辛から,前市長Hが辞めるという情報とともに,被告人に市長選に出る気があるのかと聞かれたときが最初である。Iの活動費について,被告人が,市議会議員の給料は安いが市長になったらポケットマネーで出せるかもしれないなどと言ったという話もあり得ないことである。
飲食店Dを出た後,被告人が,これから役所に行って話をしてくるという話をすることは,時間さえ間に合えば役所に行くということは十分考えられるので,あり得ると思う。

被告人は,よほどお世話になっている人以外はしっかりと支払うので,飲食店Dの食事代も割り勘で払っているはずである。Cと食事を取ったときは,すべて割り勘で払っていた。
仮に飲食店DでCから資料を受け取ったのであれば,防災安全課に被告人が受け取った資料を持って行った可能性は十分にあると思う。飲食店Aや飲食店DでCから受け取った資料について,被告人にも浄水プラントを是非防災安全課で検討してもらいたいという思いもあり,Cから頼まれたから役所に持っていったのか,自分から進んで持っていったのかについては,はっきりと覚えていない。
(9)3月26日に被告人がCに送信したメールについて
Cから被告人宛に3月26日送信されてきたメールに対して,被告人がCに対して返信した日曜日に再度僕が聞きに行って資料をもらってきた,と言う話にしたので宜しくお願いしますとのメールの意味は,被告人がE課長と話をする中で日曜日に資料をもらってきたと言ってしまったので,Cにも話を合わせてもらいたいという趣旨のことを書いたものであるが,このような発言をE課長にした理由は,被告人が土日を問わずに活動していたことから,自分が日曜日も活動しているので,E課長も頑張ってほしいということを言いたかったかも知れないし,そう捉えられても仕方はない。(10)4月2日の飲食店Fでの会合について
4月2日に飲食店Fで3人で会ったことは,はっきり覚えていないが,いろいろな記録を見せてもらって,行ったことは間違いないし,少し場面場面で思い出せることはある。Cからメールをもらったとき,CがE課長と会っていることは知っていたし,逐一,どのように進んでいるかの情報が欲しいとは思っていたので,会うことにしたのだと思う。この日は,年度初めということで,スケジュールがしっかり詰まっていたので,最初は会って資料をもらうだけという話をしたのだろうと思う。しかし,実際にあったやり取り
は覚えていない。飲食店FでCから資料を受け取ったかどうかについては,はっきりは覚えていないが,受け取った可能性はある。しかし,Cから,中に金が入った封筒を挟んで見せられながら資料を受け取ったということは絶対にない。被告人が資料を受け取るときは,普通は,資料を受け取るだけということはなく,資料を見て説明を受けるなどして資料の中身をしっかりと見たり,ときにはメモを取ることもしている。
あまり飲食店Fの光景を覚えていないので,ドリンクバーに行った具体的な記憶はないし,何を食べたかということも覚えていない。ただし,いわゆるファミレスでドリンクバーを頼んだとき,後輩と行ったときなどは取りに行ってもらうことはあるが,ドリンクバーの飲み物は,大体は自分で取りに行くし,Iに被告人の飲み物を取りに行ってもらうことはあり得ない。Cは,被告人が現金入りの封筒を受け取ったときに,「すいません,助かります」と言ったと供述したが,被告人はすいませんという言葉はよく使っても,「助かります」という言葉は普段使うことはない。また,Cは,被告人に金を渡したことをIに内緒にしてほしいと言ったと供述しているが,CはもともとIが連れてきた人間であり,Cとの話については,全て情報を共有しており,Iに内緒にしていることはない。
飲食店Fでの食事代については,Cとは基本的に割り勘にしていたし,飲食店Fのジャーナルを見てから思い出したことだが,誰かが大盛りを頼んで珍しいなと思ったことや,被告人が小銭を出した場面を何となく記憶している。
飲食店Fでの会食後,Cからのメールに議員のお力になれるよう,精一杯頑張りますので宜しくお願いしますという文言があるが,同文言の意味としては,被告人も市議会議員として浄水プラントの導入を実現させたいとの思いがあったので,そのことに協力してもらえるものと理解していた。被告人がCに送信したメールのこちらこそわざわざありがとうございます!
という文言の意味は,年上のCがわざわざβ市まで来て自分に時間を割いてくれたことへの感謝の気持ちだと思うし,市民と日本のためなので」という文言の意味は,この浄水機が市民のため,ひいては社会などのためになると思ったので,付け足したものだと思う。(11)飲食店Fでの会合から4月25日の飲食店Gでの会合までのできごとについてア被告人は,4月4日,その年度にY中学校のPTA役員になった人を訪れた際,浄水機の話をしたほか,以前から仲良くしてもらっていたこともあり,政策についてもいろいろ話をした。同人は,もともと環境に理解のある人で,浄水機について,水を生かすということは大事だずっと「,使っていなかったプールを活用することも面白いと言ったが,飲料水にするということについてはあまり同人の理解は得られなかったという感じを覚えている。その後,4月12日くらいまでの間に,Cから,今度は教育総務課宛に資料を作るという話で何度かメールが送信されてきた。Cからのメールの中に,4月中に仮契約という言葉が入っているものがあるが,市議会議員としては契約等には関与できない上,被告人もそういう知識が全くないので,Cが言っていただけだと思う。β市は洪水の被害等が普段からあり,梅雨の時期までに浄水機の設置ができればという話はあったので,それで4月という話が出たのではないかと思う。
被告人が,4月15日に防災安全課宛に書面を出したことがあるが,これは,もともと東日本大震災の話から,高い防災意識を持たなければならないと思い,浄水プラントの話を進めていたところ,4月13日に発生した淡路島地震の際,水道管の破裂等の大きな被害があったということがニュースで大きく報道されたので,災害に対する備えは一日でも早く取り組まなければならないと思い,あえてE課長に宛ててこの書面を手渡した。これに対し,E課長は,その数日後,導入に向けての課題を五,六項目指
摘するメールをくれた。その課題点については,もともと技術的なことはCとかIに聞きながらという考えがあったので,そのままCのほうに転送した。Cの返信では,ある程度の解決策が書いてあったが,それだけでは足りない部分もあり,結果的には被告人が考えた付け足し部分が多くなり,被告人自身も調べていたこと等をかなり付け足して作り直した上で,E課長にもう一度メールで送信した。

はっきりいつとは覚えていないが,3人でβ市の壬という喫茶店で会ったような記憶がある。そういった話が出たので,一度地元の喫茶店壬に行ってみたところ,喫茶店壬の確か喫煙席で3人で話をしたことがあることを何となく思い出した。その際には,はっきりとは覚えていないが,浄水機の話をしたように思う。


4月18日,辛に呼ばれて,前市長Hが辞めるということと,被告人に市長選に出る気持ちはあるかということを聞かれ,被告人は,出る気持ちはあると答えた。4月22日夜に辛のほかに二人の支援者と被告人を含めて4人で会い,その場で被告人から市長選に出る気持ちはあるという話をした。そして,4月23日,もし被告人が市長選に出るならば準備をしておかなければならないと考え,以前から政策の話をいろいろしていたIにも連絡を入れた。4月22日の会合の結果,他のメンバーにも話を直接に聞いてみようということになり,4月30日に集まることになった。
(12)4月25日の飲食店Gでの会合について
4月23日に被告人からIに連絡を入れた結果,一度話をしたいということになり,Iと二人で会うことになった。その場にCが来るということはおそらく事前には聞いていなかったと思う。この日は飲食店Gに行くまで勉強会に出席するなどしていたが,飲食店Gを捜すのに手間取り,かなり遅れて飲食店Gに到着したところ,既にIとCが到着し,テーブルの上にいろいろ食事が並んでいた光景は覚えている。丙とは,市長になってから11月に飲
食店Gに行ったときに名刺交換したことは覚えているが,4月25日に丙に会ったかどうかは覚えておらず,むしろ紹介されていないのではないかと思う。丙は,被告人を市長選に出る人だと言って紹介されたと供述しているが,まだ市長選に出るということは決まっていないし,外に向かって言えない時期なので,わざわざ店の人にそういった紹介をされるというのは時期的にもおかしいと思う。Cは,被告人が前市長Hから後継指名されたと発言したと供述しているが,前市長Hは後継指名はしないと言われていたし,実際もしていない。また,市長選に出るという被告人の挨拶回りは5月1日からだったので,Cが供述するような,飲食店Gにおいて挨拶回りでばたばたしていたなどという発言を被告人はしていない。Cは,市議選のときの選対と前市長Hの後援会の青年部の選対があって調整が必要だと被告人が発言した旨供述しているが,被告人の場合は,市議会議員選挙のときも本当に被告人のことを応援してくれる人たちだけで何とか作り上げた選挙だったので,その選対ともう一つの選対などという話は出ておらず,当然だが,二つの選対の調整という話も出るはずはない。
飲食店Gでは,市長選の話になったが,選挙は地域ごとによって異なるため,Iとは選挙自体についてはあまり話をせず,もし市長になったらという具体的な政策について,熱く語った記憶はある。Cは,その話の間,横で聞いていたり,いつも電話とか煙草とかで席を立つので,いたりいなかったりという印象で,時々口をはさむことはあったものの,あまり発言した印象はない。また,この日に飲食店GでCと二人きりになった時間は記憶にない。Iは基本的に席を立たないし,この日の飲食店Gでは,特に普段にも増して熱く政策の話などをいろいろ語ったことを覚えているので,わざわざトイレとか携帯電話で席を立つということはなかったはずである。浄水プラントの話は,Cが来ていたので,少しくらいはあったかなとは思うが,Cから浄水プラントの資料を受け取ったか否かも含めて良く覚えていない。この頃の被
告人の浄水プラント事業に対するスタンスは,CとE課長の双方から話を聞いて情報にずれがないかを確認するようなものだった。この頃は,市長選に出るとしたら,準備があるのでほとんど市議会議員の期間はなく,もしそこでCから浄水プラントについて頼まれたとしても,何か市議会議員としてできることはもう何もない。もし市長選に出なかった場合は,引き続き市議会議員として同じ活動をするだけで,市議会議員を辞職してしまっては,逆に市役所にも行きづらくなるのでβ市の役人に対する影響力というのは考えられない。この時期は,市長選に出馬するか否かもはっきりしていなかったし,市長選に出馬したとしても,勝てるかどうか大変厳しいのは目に見えていたことから,Cが供述するような,市長になったら云々という話は場違いだと思うし,一切出ていない。また,被告人としては,そのようなことをCが期待しているともそのときは全く思っていなかった。もし,Cがそれを期待していることが分かっていて,被告人がそれに応えようと思ったら,市長選のマニフェストに掲げるということが考えられるが,この日に市長選でマニフェストに株式会社Bのことを掲げる話は全く出ていないし,実際にも浄水プラントに関連することはマニフェストには掲げていない。
飲食店Gで会った翌日にCから送信があったメールの文言の意味は,飲食店Gで話が出ていた市長選に関するものと思う。被告人としては,自分が市長選に出たら応援してくれるという気持ちはありがたいと思ったことはあるが,そのメールの中の

そして・・・。という文言の意味については,特

に思い当たることはない。このCからのメールに対して,被告人は,メールを返信しているが,これは,これまでと同様に,Cに時間を割いてもらったことへのお礼の気持ちと,Cが応援してくれるなら有り難いという気持ちを述べたものである。
(13)4月25日の飲食店Gでの会合後のできごとについて

5月7日に市長選への出馬の記者会見を行い,5月8日に議員辞職をし
た。Iにも政策については引き続き相談していた。5月7日にIから送信されたメールには,市長選においてIが被告人をバックアップしやすいように,CがIの拠点をεに準備していることなどを知らせる内容が書かれているが,そのときは忙しかったせいか,読み飛ばしてしまい,頭には入っていなかった。その後,日付等は覚えていないが,Iからβ市の旅館にいるというメールが送信されてきたので,1度くらいは会っておこうと思ったことはあるが,Iに市長選に関して選挙運動を手伝ってもらおうと考えたことは一切なかったし,実際にIに選挙運動を手伝ってもらったことはなかった。Iの旅館の費用についても,誰が出しているかというのは当時は全く考えなかった。

浄水プラント導入の件に関しては,市長就任前に,もう既に防災安全課でも話が進んでいたので,特段市長になってから何か指示をしたりとか,会議で発言をしたということはない。被告人が市議会議員のときにもβ市にとって良いものだと思っていたし,市長になってからも,可能であれば導入したいという思いはあった。また,雨水の利用等に関する法案が出て法律化されるという話があったので,Cに対し,この機会にマスコミにPRできるのではないかということや,その頃に実証実験を株式会社Bの費用負担で実施するとの話があったので,そういったことに協力をしてもらうというような電話を被告人からしたかと思う。Cからのメールの文言に,Cと被告人との関係について,
良い癒着との表現があるが,被告人は,

明るい癒着という言葉はいろいろな場所で積極的に使っているものの,良い癒着という言葉を使うことはない。なお,この「癒着」という言葉は,決して金のやり取りとか資金提供を意味するものではなく,自治体と企業が協力して市民のサービスに応えるために,良い関係作り,協力関係を築くことを意味するものである。

市長になってから,浄水プラント事業の件について,E課長や総務部長
Kからときどき話を聞くことがあった。また,E課長とともにY中学校を訪れ,校長先生と会ってプールを見たことはあるが,同校長を説得したようなことは一切ない。7月末に,β市と株式会社Bとの間で,自然循環型雨水浄水プラント実証実験の実施に関する確認書が交わされているが,その締結に至るまで,被告人が部長会議等で発言をしたことは一切ない。また,9月30日までとされていた上記実験期間は,その後,確認書を締結して平成26年3月末まで期間延長されているが,同確認書の締結に当たっても,被告人が部長会議等で発言したり,指示したりしたことはない。9月18日頃,市職員一同でY中学校まで上記実験結果を見に行ったことがあり,その際,その場にいたCを久しぶりに見掛けた。Cは,居合わせた幹部に話し掛けていたが,被告人はCには話し掛けなかった。エ
11月,Cから連絡があり,δ市の癸市長を紹介できるような話があるということだったので,会うことにした。このときは,被告人が最初に店に到着し,次にI,その後にCが遅れて来たということを覚えている。この日は,浄水プラントのレンタル契約のことは話題に一切出ていない。この日は,Iが政策について話をし,被告人も,アンテナショップの話やゆるキャラの話をしたことを鮮明に覚えている。また,癸市長の話題も出ていた。この日の食事代も割り勘にしているはずである。帰りは,Cの自動車でβ市まで送ってもらったことははっきりと覚えている。Cと二人で話をすることがそれまでなかったので,被告人からCの住んでいる場所を尋ねたり,Cからも,被告人が政治家になった理由を尋ねてきたりして,その場でいろいろ話をしたのを覚えている。その際には,Cが次の事業計画として,ソーラー発電と一緒に風力発電も考えているということで,風力発電の資料も受け取っている。

第5
1
争点①に関するCの公判供述の信用性の検討
基本的視点

本件において,4月2日に飲食店Fで,4月25日に飲食店Gで,いずれも被告人がCと会食した事実及び上記各会食の席にIが同席している事実については検察官及び弁護人の間に争いはなく,関係証拠によっても明らかであることから,本件の真の争点は,Iが離席した機会にCが被告人に対して現金を交付した事実を認めることができるかという点にあることになるところ,本件各現金授受に関しては,第三者による目撃供述はなく,また,後述のとおり本件各現金授受の点を直接に基礎付ける客観的で決定的な証拠も存在しない。そうすると,本件各現金授受の事実を基礎づける証拠としては,贈賄者であるCの公判供述があるのみであるところ,被告人はそれらの機会に現金を受け取った事実を捜査段階から一貫して否認していることなどから,Cの公判供述の信用性判断は特に慎重に行う必要があるものといえる。
そして,弁護人は,Cの公判供述に関し,Cには贈収賄事件に関して虚偽供述をする動機があり,また,Cの公判供述自体に不合理性があること,さらに,第1現金授受については,Cの捜査段階における供述経過及び供述内容には不自然な変遷等があるなどとして,その信用性を争っているので,以下,Cの捜査段階における供述内容及び捜査段階における記憶状況等に関するCの公判供述を順に掲記する。
2
捜査段階におけるCの供述のうち,贈収賄事件に関連する被告人との関係等に関する供述要旨は次のとおりである。
(1)3月16日付け上申書(甲73)
被告人が市長選に出る旨を本人から聞いて知り,その選挙前に,市長になった後も株式会社Bの浄水設備をβ市に導入してもらえるように力を貸してほしいという意味合いで現金20万円を渡した。渡した場所は,確か,飲食店Gという居酒屋で,その際,被告人に対し,少ないですけど使ってくださいなどと言って渡した。その他のことは良く思い出して話をしたい。(2)3月17日付け上申書(甲74)

以前,被告人に20万円の賄賂を渡した。その頃,被告人には,株式会社Bの浄水設備をβ市に導入させてほしいなどと,メールや口頭で,自分やIからお願いしていた。
(3)3月27日付け警察官調書(弁3)
被告人のことを知ったのは,3月頃のことで,Iから,若くして市議会議員にトップ当選した被告人と知り合ったので,株式会社Bの事業がβ市に参入できるように話をすると言われた。Iから,まずIが被告人と会って株式会社Bの事業がβ市で採用されるように頼んでみると言われ,Iにその食事代を渡した。後日,Iから,被告人が株式会社Bの事業に興味を持ってくれたので話を進めてくれそうだと聞かされ,一度,3人で会うことになり,3月頃の昼,自分が予約した飲食店Dにおいて3人で会った。飲食店Dでは,被告人に株式会社Bの事業について説明し,株式会社Bのパンフレットを渡し,浄水設備をβ市の学校などに入れさせてもらいたい,設置は株式会社Bで負担するのでレンタル契約をしてもらいたいなどと株式会社Bの浄水設備がβ市で採用されるよう力を貸してほしいとお願いすると,被告人は,株式会社Bの事業に興味を抱き,いいですね,ぜひやりましょう」などと言って力を貸すことを承知してくれた。同席していたIも,自分の話を後押しする発言をしていた。Iは,自称政策シンクタンクを名乗っており,δ市議会議員にも政策を提供する男であり,被告人もIの政策に非常に興味を持っているようだった。また,この席で,Iは,金がないという被告人に対し,Iの活動費はCからもらうので,Cの事業を勧めてやってほしいとか,被告人が株式会社Bとの癒着を疑われないように,株式会社Bの浄水事業を政策にしてしまえば良いとの発言もしていた。被告人は,今から市役所に行けば間に合うので,株式会社Bの事業を勧めにこの足で役所に行くと言って帰った。その約2日後に,E課長から事業の内容を聞きたいのでβ市へ説明に来てもらいたい旨の連絡が来たので,被告人が株式会社Bのために働きかけてくれたのだと感謝するとともに,もっと尽力してもらうためにとりあえず10万円位は差し上げておかなければと思った。そこで,4月上旬頃と思うが,被告人に直接アポイントを取って,用事があるなどと言って呼び出した。アポイントが取れた後に銀行のATMで10万円を引き出し,これを封筒に入れ,株式会社Bのパンフレットにこの封筒を挟んで被告人に渡せるように準備した上で飲食店Fの駐車場で落ち会い店内に入った。店内において簡単な挨拶をした後,自分の鞄に忍ばせていたそのパンフレットを封筒が見えるように被告人に示し,その後,他の人たちにばれないよう封筒側を下にして,被告人に対し,議員,これ資料です少「,ないですけど足しにしてくださいなどと言って被告人に渡すと,被告人は,現金入り封筒が入っていることを知った上で,助かります。すみません」などと言って現金入りパンフレットをすっと受け取り,被告人の持っていた鞄の中にしまった。現金入り封筒を挟んだパンフレットは,飲食店Dで会った時に被告人に渡したものと同一の資料であった。二度も渡す必要のない資料を自分がわざわざβ市まで持ってきて再度被告人に渡したことからも,被告人はパンフレットが賄賂をカモフラージュする意味だと分かったはずであるし,被告人には封筒が見えるように見せていたから,現金が入っていることは当然に分かったはずである。被告人は,断るようなそぶりもなく,いとも簡単に賄賂を受け取ったので,議員というのは簡単に賄賂を受け取るもんなんだなどと思った。Cが賄賂を渡した後は,E課長やIの話をしながら食事をした。会計については,被告人の方から別々にすることを提案された。会計を終えた後,二人で店を出た際,被告人に対し,今後ともよろしくお「願いしますなどと,株式会社Bの浄水設備がβ市で採用されることに力を貸してほしいとお願いした。その後,被告人からメールでお礼が届いた。被告人は,10万円の賄賂を受け取った後,E課長に質問書を提出するなど株式会社Bのために本当によく力を貸してくれた。そうした中,4月下旬
頃,Iから,被告人が市長選に出馬する旨を聞かされ,市長選の間に株式会社Bの事業の話がしばらく進展しなくなってしまうのではないかと危惧し,被告人には市長選の間も株式会社Bの事業を忘れずにいてもらい,市長選に当選後は今以上に株式会社Bに力を貸してほしいという意味合いで,市長選前に賄賂を渡すことにした。金額は,前回よりも多くした方がよいと考え,Jに電話をして,被告人が市長選に当選した際には,株式会社Bの事業がβ市に採用される可能性がものすごく高くなると説明して,50万円を貸してくれるよう頼み,落選した際のリスクを理由に渋るJを口説き落とした。Jには,被告人に50万円を渡すと説明したものの,あまり多い賄賂だと被告人に受け取ってもらえないリスクも考えて,被告人には20万円を渡すことにして,残りは自分の生活費に充てようと思っていた。Jは貸す旨約束してくれたが,実際に借りることができる前の4月下旬頃に被告人及びIと自分が予約を入れた飲食店Gで会うことになり,Jからの借入れが間に合わなかったことから,株式会社T銀行V支店の株式会社Bの口座から90万円を引き出し,うち70万円をクレジットカードの返済に充て,手元に残った20万円を被告人に渡すことにした。この20万円は,株式会社Bの事務所にあった茶封筒に入れて自分の胸内ポケットに忍ばせて,飲食店Gに行った。飲食店Gには,IとCが先に到着し,被告人が後から来た覚えである。Cは,被告人が到着する前に,Iに対し,被告人はIと二人で話したいだろうから途中で先に帰るが,自分から言うのもどうかと思うので,被告人と仲の良いIから被告人に,市長選で忙しくなっても,浄水プラントの導入に向けた動きが止まらないようにお願いしてもらいたい旨を依頼した。その後,被告人が飲食店Gに到着し,3人で食事を始めたが,この日はIと被告人が市長選の話で盛り上がっており,自分も,被告人に対し,市長になってほしいこと,市長になっても株式会社Bのことをお願いしたいこと等を話した。そうした中,Iがトイレか何かで席を立ったので,今がチャンスと思い,Cは被告人
側の席に移動し,胸内ポケットに入れて用意していた20万円入りの封筒を差し出して,

少ないですけど足しにしてください。Iさんには内緒で。

などと言いながら差し出すと,被告人は,あー,どうもすみません」などと言って持っていた鞄に封筒をさっとしまった。Cが被告人に対し,Iには黙っているように告げたのは,Cから被告人に金が渡されたことを知ったIからも金を要求されることが嫌だったからである。しばらくして,Iが戻ってきたので,被告人に市長選を頑張るように声を掛け,Iと被告人を残して先に店を出た。(4)5月1日付け検察官調書(弁6)ア2月頃,Iから,被告人を紹介してもらったので会うことになったことを告げられ,その際,Iは,被告人について,市議会議員選挙でトップ当選した若くて勢いがある議員だと言っていた。当時は,δ市における株式会社Bの事業が思うように進展しない状況にあったことから,Cとしても,β市の学校に浄水プラントが設置できれば,それを足がかりにして他の自治体も交渉に応じてくれるようになり,浄水プラント事業を展開していくことができるのではないかと考えたが,Iも同様の考えからか,被告人に会った際には株式会社Bのことを宣伝してくると言ってきたことから,Iに対し,被告人に渡すための浄水プラントの資料を渡した上で,浄水プラントをβ市の学校に設置してレンタル契約が締結できるように宣伝してきてほしい旨を頼んだ。その後,被告人と会ったIから話を聞いたところ,被告人が浄水プラント事業に興味を抱いたことが分かり,また,Iからも被告人をCに紹介すると言ってきたので,Cが被告人に直接会って,浄水プラントのレンタル契約が締結できるように取り計らってほしいとお願いすることになった。イ3月7日の昼,Iの仲介により,飲食店Aで3人で会うことができたことから,Cは,被告人に対し,浄水プラントの資料を渡した上で株式会社Bの事業内容を説明し,β市への浄水プラント事業の導入に力を貸してほしい旨お願いすると,被告人は,いいですね,やりましょうなどと言ってくれた。また,このときは市議会が開会中であったことから,被告人は,うまくβ市の担当者に働き掛けることができれば,市議会において株式会社Bの事業について言及することができるかもしれないなどとも言ってくれた。そして,市議会が開会中の時期であったことから,被告人はなかなか時間がとれないとのことだったため,次に会うのは,市議会が一段落した後ということになった。ウ3月22日の午後,飲食店Dで3人で会った。飲食店Dでは,被告人に対し,新たにβ市宛に作成した浄水プラントの資料を渡した上で,被告人の質問に答える形で,浄水プラント事業を説明し,β市で導入してもらえるように力を貸してほしい旨お願いした。また,この日,Iは,役人は議会で質問されることを嫌うので,そのことを持ち出して働き掛ければ効果があるということを言っていた。被告人は,Cの願いを快く了解してくれ,市議会議員の力をもって,株式会社Bの事業に関してβ市の役人に働き掛けるなどしてうまく取り計らってくれることになった。また,この日,Iの提案もあって,β市の学校に浄水プラントを設置してレンタル契約を締結する件に関しては,4月中に仮契約や仮発注など何らかの形にできるようにしようということになった。Cは,進捗状況が芳しくないδ市と異なり,フットワーク軽く動いてくれそうな被告人の様子から,β市における株式会社Bの事業の導入に期待をした。エその後,被告人がβ市の担当者に働き掛けるなどしてくれたお陰で,E課長から連絡があった。自分としては,どうやって被告人がβ市の担当者に働き掛けたかは分からなかったものの,Iが言っていたように,市議会で質問することを引き合いに出すなど,市議会議員としての力を使ってうまくやってくれたんだろうと思った。Cは,3月27日にβ市に出向き,E課長らに対し,株式会社Bの事業を説明した。また,このとき,E課長らに対し,まずはモデルという形で1校に浄水プラントを設置してレンタル契約を締結し,それが軌道に乗れば,他の学校にも順次設置していくという計画を提案した。これに対し,E課長は,検討して連絡すると言い,その後は,まずはY中学校に浄水プラントを設置してレンタル契約を締結するという方向で話が進んでいった。オβ市ではCの依頼により被告人が動いてくれた結果,E課長らと話を進めることができ,浄水プラント事業も現実化してきた。そこで,浄水プラント事業についてβ市の役人に働き掛けるなどうまく取り計らってくれた見返りと,今後も同様にうまく取り計らってもらう見返りとして,被告人に金を渡そうと思った。自分が渡す金は賄賂になるので,被告人が金を受け取ってくれるか不安もあったが,被告人に会った際に市議会議員の給料が安いなどと言っていたので,その様子などからして受け取ってくれるだろうと思った。被告人に渡す賄賂の原資については,経済的な余裕がなかったことから,以前に勤務していた病院の院長に対する支払分5万円を含めて15万円の借金を,これまでにも借金をしたことがあるLから借りることにして,Lに申し込んだところ,Lはこれを了解し,4月1日,株式会社Bの口座に15万円を振り込んでくれた。Cは,4月2日,ちょうど予定が空いていたので,被告人に会って賄賂を渡そうと思い,被告人に連絡を取ったところ,当日昼に飲食店Fで会えることになった。そこで,Lに振り込んでもらった株式会社Bの口座から15万円を引き出し,うち5万円は上記院長の口座に振り込み,残りの10万円を封筒に入れた。被告人に金を渡していることを周囲にばれないよう,透明ファイルに浄水プラントの資料とともに10万円入りの封筒を挟み,それを大きめの封筒に入れて準備した。以前よりIから,議員に金を渡すくらいなら自分に金を渡すように言われていたため,Iには被告人に金を渡すことを秘密にしておきたかったことから,Iには知らせずに被告人と二人で会おうかとも考えたが,後でそれを知ったIから何か言われると嫌なので,Iに連絡を入れ,被告人と会って浄水プラントの資料を渡すなどと告げた。そうしたところ,Iから同行すると言われたので,断るのも不自然だし,資料を渡すふりをすれば金を渡すこともばれないだろうと判断し,Iと一緒に被告人に会うことにし,準備した10万円を持ってIと一緒に飲食店Fに行った。間もなく被告人も到着したので,3人で店内に入って席に着いたが,その後,Iが席を外したとき,Cは被告人に対し,大きめの封筒から10万円入りの封筒が見えるように中身を引き出して見せ,これ少ないですけど足しにしてくだ「さいなどと小声で言った。すると,被告人は,どうもすみません」助「,かりますなどと小声で言い,大きめの封筒ごと10万円入りの封筒を受け取った。Cは,Iには被告人に賄賂を渡したことを秘密にしておきたかったので,続けて,被告人に対し,これはIさんには内緒にしといてくださいなどと言った。その後,Iが席に戻ってきた。Iが席に戻った後は,Cが被告人と浄水プラント事業について話をしたこともあったが,主として話をしていたのは,被告人とIであった。
被告人は,4月2日以降も,株式会社Bの事業について,議会のことを引き合いに出して質問状を送りつけるなど,市議会議員の力をもって,E課長らに働きかけてくれたほか,Y中学校の校長やPTA等にも働き掛けてくれたようだった。

4月24日,Iからの連絡で,被告人が,病気で辞任する前市長Hの後任指名を受けて市長選に立候補することになったとの情報を得た。当時は,被告人のお陰で浄水プラント事業に関して話は進んでいたが,まだ学校関係でクリアしなければならない問題があったほか,他の自治体と交渉するためにもY中学校への浄水プラントの設置及びレンタル契約の締結をでき
る限り早く進めたい気持ちがあった上,被告人が市長選に立候補すれば,Y中学校に浄水プラントを設置する件が滞ることが予想された。そこで,被告人に対し,引き続き浄水プラント事業に尽力してもらうべく,その見返りとして更に金を渡そうと考えた。被告人に渡す金額については,市長に就任するだろうことを考えると前回よりも多くしなければと思ったが,あまり大金すぎても受け取ってもらえないのではと考え,20万円に決めた。ただ,Cには資金に余裕がなかったことから,以前からβ市における浄水プラント事業について被告人に働き掛けていることを話していたJから生活費等を含めて50万円を借りることにし,Jには被告人が市長選に立候補することも告げた上で,被告人に渡す金を貸してほしい旨頼んだ。被告人との連絡はIが取っていたが,4月25日午後,Iから連絡があり,同日夜に飲食店GでIを交えて3人で会うことになった。そこで,被告人に渡す20万円を封筒に入れて準備したものを持って飲食店Gに行ったが,このとき持っていった20万円は,Jから借りたものではなく,当日Lから株式会社Bの口座に振り込まれた金の中から90万円を引き出し,うち70万円を引き落としのある株式会社Bの口座に振り込んだ残りの20万円である。
飲食店Gには,IとCが先に到着したが,浄水プラント事業について被告人に何度もあからさまにお願いするのはいやらしいという気持ちがCにあったことから,被告人が来る前に,Iとの間で,Iから被告人に対して株式会社Bの事業について市長選の前後にわたって尽力してほしい旨をお願いするように言っておいた。その後,被告人が到着したことから,3人は一緒の席に着いたが,この日は,まず市長選の話題となり,被告人がIに協力を求め,IはCが活動費を出す形で被告人に協力することになった。Cは,市長選の話の合間には,被告人に対し,市長になってください,市長になっても株式会社Bのことを見捨てないでくださいなどとお願いし,
Iも,被告人に対し,市長選で忙しくなっても浄水プラント事業は引き続き協力してやるように言ってくれたが,これに対し,被告人は,これを了解してくれた。そして,飲食店Fと同様に,Iが席を外したとき,被告人の側に行き,被告人に対し,少ないですけど足しにしてください」などと言い,封筒を差し出すと,被告人は,いつもすいません助かりま「,すなどと言いながら封筒を受け取った。このときも,Cは,被告人に対し,これもIさんには内緒にしておいてください」などと言った。その後,Iが席に戻ってきたので,Cは,被告人とIは市長選で掲げる政策のことなどで相談したいのだろうと判断し,しばらく経った頃,先に帰ったが,帰るに当たり,Iにメールを送信して,改めて,事前に打ち合わせておいたとおり,β市における浄水プラント事業について,被告人が市長選の前後にわたって尽力するようIからもうまく言っておいてほしい旨お願いした。キ被告人は,5月の連休明け頃に市長選への立候補を正式に表明し,市議会議員を辞職した。β市における株式会社Bの事業の件は,4月25日以降も止まることはなく,Cは5月20日にβ市で浄水プラントの説明を行うこともできた。市長選は5月26日が公示日で,6月2日に投票が行われ,被告人が当選して市長に就任した。その後,E課長から,β市で浄水プラント事業を行うことになれば,入札方式の一つであるプロポーザル方式の公募にする必要があり,それには時間を要するが,株式会社Bが費用負担して社会実験という形にすれば早く結論を出せると言われた。Cとしては,実験という形であっても,浄水プラントをβ市の学校に設置できるわけで,それを足がかりとして他の自治体に交渉できると判断し,将来的にはプロポーザル方式の公募に応募するなど何でもやってレンタル契約の締結にまでこぎ着けたいとは思ったものの,この段階では早く結論が出るということなので,実験という形で了承することにした。E課長は,被告人が市長に就任後も,β市における浄水プラント事業について,以前にも増して積極的に推し進めてくれたことから,市長となった被告人の力は大きいと感じた。その後,7月に入り,Y中学校に浄水プラントを設置して実験を行う件につき,株式会社Bとβ市との間で確認書が交わされた。被告人は,このような経過も把握しており,浄水プラント事業について実験となったことは申し訳なく,今後,レンタル契約の締結は,平成26年4月に立ち上げる市長直属の部署において取り扱っていくと言ってくれた。Cは,実験という形で1校であっても,浄水プラントがβ市の学校に設置されたことをありがたいと思っており,被告人に対してお礼を差し上げようと思った。ただ,被告人が,実験という形となったことを申し訳ないと言っていたことから,被告人には,レンタル契約の締結まで至った際に改めてお礼をしようと考えていたが,その後も他の自治体に浄水プラント営業を行うなどしていたところ,平成26年2月にCは詐欺で逮捕された。(5)平成26年5月7日付け警察官調書(以下「5月7日付け警察官調書という。弁7)

先日,刑事に対して,被告人と初めて会ったのは3月頃の昼で場所は飲食店Dだと話していたが,刑事と話していく中で,飲食店Aで3人で会って食事したことがあったことを思い出した。飲食店Aでは食事を終えた後,被告人を見送った覚えがあり,その際,被告人が今から役所に行ってくると言っていたことも思い出した。刑事から,3月7日に飲食店Aでクレジットカードを使用していると教えてもらい,伝票のサインも確認して,その場に自分がいたことは間違いないことが分かった。警察が押収した資料の中にも3月7日に被告人とIが飲食店Aで会った資料があると聞いて,その日,3人で飲食店Aに行ったことは間違いないと確信した。初めて被告人と会った場所が飲食店Dと思い込んでいたのは,株式会社Bの浄水設備をβ市に導入してもらえるように具体的に話した飲食店Dの場面が鮮明
に残っていたため,そのように思い込んでいたので,初めて被告人に会った事実に関して以前に話した内容は訂正する。

3月7日に飲食店Aで被告人に初めて会った際,δ市宛に作成した資料を持参し,浄水設備をβ市の学校などに入れさせてほしい,学校のプールを利用して災害時に飲料水として利用したり,普段から飲み水やトイレ用水としても利用できる,設置代金は株式会社Bが負担するのでレンタル契約でお願いしたいなどと,株式会社Bの浄水設備がβ市で採用されるように力を貸してほしいとお願いした。これに対して,被告人は,浄水プラント事業に興味を持ってくれ,いいですね。やりましょう」などと株式会社Bの浄水設備がβ市で導入されるように市議会議員としての立場を使って役所に働き掛けてくれることを約束してくれた。この当時,β市は議会が開会中だったことから,うまくいけば議会で株式会社Bの浄水設備の件を出せるかもしれないと言ってくれ,Cは,お願いしますと頼んだ。また,この日,被告人は,食事を終えた後,Cの持参した資料を持って,今から役所に説明に行くなどとも言ってくれた。その後,Iと電話で話した際,市議会が終わった頃に再度被告人と会って,株式会社Bの浄水設備がβ市で導入してもらえるように,具体的な進め方を打ち合わせようなどと言われた。そして,Iから,市議会が終わったので,被告人と会って食事をする場所を探すように言われ,飲食店Dを予約した。ウ3月下旬の昼頃,飲食店Dで3人で会った際には,あらかじめβ市宛に作ったパンフレットを持参し,被告人に対して食事の場でパンフレットの内容を説明したり,被告人から質問を受けたりしながら,株式会社Bの事業がβ市で導入されるように市議会議員としての力を使って役所に働き掛けてほしい旨お願いしたところ,被告人は,飲食店Aで会ったときと同様に株式会社Bに力を貸してくれることを約束してくれた。このように,飲食店Aでは,被告人は株式会社Bの事業に興味を持ち,株式会社Bへの力添えを約束してもらったが,株式会社Bの浄水設備をβ市で採用してもらえるように具体的に話を進めたのが飲食店Dだった。だから,飲食店Dでのできごととして前回に話をした,Iの活動費をCからもらうので,被告人には浄水プラント事業を勧めてやってもらいたいとIが被告人に言ってくれたことや,株式会社Bとの癒着が疑われないために,浄水プラント事業も政策にしてしまえばよいなどとIが言ったことは,飲食店Dでの会話に間違いない。また,この日,Iは,被告人に対し,議会で質問すると言えば役人はすぐに動くなどとも言っていた。この日,食事を終えた際にも,飲食店Aと同様に,被告人は,フットワークよく,今から行けば間に合うので,浄水プラント事業を勧めにこの足で役所に行ってくる旨発言し,その日のうちに市役所まで足を運んでくれた。エその数日後くらいに,E課長から浄水プラント事業の内容を聞きたいので役所に説明に来てもらいたい旨の連絡があったので,Cは,3月下旬に市役所に行き,E課長らに株式会社Bの事業説明や浄水プラントを有償でレンタルするなどの説明をさせてもらった。被告人には,市議会議員という立場を使って役所に掛け合ってもらい,その結果,Cが市役所に呼んでもらって株式会社Bの浄水設備を導入してもらえるようにβ市にアピールすることができ,また,今後も被告人はどんどん株式会社Bのために動いてくれるだろうと思い,被告人に賄賂を渡そうと思った。また,被告人に渡す金額は,以前にδ市議会議員に渡した10万円と同額にしようと思い,その10万円は,仕事上の付き合いがあり,何度も金を融通してくれたLから,賄賂であることは隠して株式会社Bの口座に振り込んでもらった。オ4月上旬頃,被告人にアポイントを取り,その日の昼に被告人と飲食店fで会い,10万円を渡したが,その際にはIも同席していた。当初は飲食店Fで食事をする予定はなく,飲食店Fの駐車場で資料の中に挟んだ封筒に入った10万円をさっと渡すつもりだったことから,Iにはばれないだろうと思った。ところが,被告人と駐車場で落ち合った際,被告人から時間ができたので食事をしようと誘われ,3人で食事をすることになった。そこで,飲食店F店内では,Iがドリンクを取りに行っている隙を見計らって,飲食店F店内のテーブルで,被告人に対し,これ,少ないですけ「どと言って資料に挟んだ賄賂を渡すと,被告人は,どうもすみません,助かりますなどと言って受け取った。このとき被告人に渡した10万円の賄賂は,被告人が市議会議員としての力を使って浄水プラント事業に関してβ市の役人に働き掛けてくれた見返りと,今後も同様に働き掛けたり役人の動きが悪ければ議会で取り上げてもらうなど,市議会議員の力を使ってうまく取り計らってほしいという意味合いで渡したものであり,被告人も当然に分かっていると思っていた。

飲食店Fで10万円を渡した後,被告人が市長選に立候補する話を4月下旬頃にIから聞いた。この話を聞いて,Cは,市長に当選してもらって更に株式会社Bのために力を貸してほしいと思うと同時に,選挙になれば被告人は忙しくなってしまうだろうから,市議会議員でいる間にその立場を使って浄水プラント事業をβ市で行う件を止めずに進めるよう,β市の役人に働き掛けるなどしてほしいと思った。そのため,被告人には飲食店Fと同様に賄賂を渡して,引き続き株式会社Bの事業に力を貸してもらおうと思った。そして,被告人に渡す金額については,市長になるかもしれないことを考えると,10万円では少なく,前回より多い20万円くらいなら受け取ってもらいやすいのではないかと判断し,その20万円はJから借り入れることにした。Jには50万円を被告人に渡すので貸してほしいと嘘を言ったが,差額の30万円はCの生活費などに充てるつもりだった。しかし,実際にはJから借りる前に被告人と会うことになった。ちょうどその頃,Lには,β市で浄水プラント事業を行うことができるかもしれないので出資してほしいと依頼して,Lに銀行から3000万円を借り
てもらっており,ちょうどその金が株式会社Bの口座に振り込まれたので,その中から90万円を払い戻し,うち20万円を賄賂として用意した。4月下旬頃,3人で会って食事をしたのは,飲食店Gという居酒屋で,この席でも,被告人に対し,Cが,市長になっても株式会社Bのことはよろしくお願いしたいと頼んだり,Iが,市長選で忙しくなっても引き続き株式会社Bの事業に協力してやってほしいとお願いするなどしていた。飲食店G店内において,Iが席を外している隙に,被告人に対し,封筒に入れて準備しておいた20万円を,

少ないですけど,足しにしてください。

などと言って渡したところ,被告人は,

いつもすみません。

などと言って受け取った。被告人に渡した20万円は,被告人が市議会議員としての力を使ってこれまで浄水プラント事業についてβ市の役人に働き掛けてくれた見返りと,今後も被告人に市議会議員の間と同じようにβ市の役人に働き掛けるなどうまく取り計らってもらう見返り,更には,市長に就任した暁にもうまく取り計らってもらう見返りだった。その後,Iが戻ってしばらくしてから,Cは被告人とIを残して帰ったが,帰り間際にIに対し,β市における浄水プラント事業に関して市長選の前後に関係なく進めていくように被告人にうまく言っておいてほしい旨のメールを送信し,被告人に対しては,市長選を頑張るよう声を掛けて店を出た。
(6)平成26年7月12日付け検察官調書(弁8)

3月7日に飲食店Aで,3月22日に飲食店Dで被告人と会った。その際,被告人に対し,浄水プラント事業に関し,市議会議員の力をもって,議会で質問したり役人に働き掛けたりなど,うまく取り計らってほしいとお願いした。被告人は,Cの願いを受け入れ,3月の議会で株式会社Bの浄水プラントの件について質問したり,E課長に働き掛けたりするなど,市議会議員の力をもって取り計らってくれた。その結果,3月27日にはE課長らに株式会社Bの浄水プラントの件を説明することができ,その後
も打合せを行うなど,β市における浄水プラント事業の件はどんどん進んで現実化してきた。このような状況だったため,被告人に対しては,Cの願いを受けて取り計らってくれた点で感謝していたし,今後も引き続きE課長らに働き掛けたり,議会で質問したりするなどして市議会議員の力をもってうまく取り組んでほしいと思った。特に,E課長の対応やδ市の状況などを考えると,今後はβ市の教育委員会等の役人とも折衝する必要があり,被告人にはそれら役人にも働き掛けてもらうなど,ますます市議会議員の力をもって動いてもらう必要が出てくると思った。そこで,これらの見返りとして,被告人に金を渡そうと考えた。また,その金額については,以前にδ市議会議員に同様に金を渡す際,Jにそれとなく相談するなどして10万円を渡していたことから,被告人にも同額の10万円を渡すことにした。被告人は,市議会議員の給料は安いと言っていたので,そのような賄賂であっても受け取ってくれるだろうという気持ちもあった。そのように,被告人に賄賂として10万円を渡そうと決めたのは,3月30日か3月31日頃であった。

当時,Cの手元には多少の金はあったが,余裕がなかったので,これまでにも何度か金を借りたことがあるLから金を借りることにした。また,Cは,以前に働いていた病院の院長に対して返済しなければならない5万円も必要であったことから,被告人に渡す10万円と併せて15万円をLから借りることにした。Lには,3月30日か3月31日頃に連絡を取り,15万円を貸してほしいとお願いした。Lはこの申入れを了解し,4月1日,株式会社P銀行Q支店の株式会社B名義の口座に15万円を振り込んでくれた。なお,Cは,4月1日も,朝から株式会社Bの浄水プラントの件で市役所に行ってE課長と打合せをするなどしていた。Cは,Lから金を借りることができ,4月2日はちょうど予定が空いていたので,この日に被告人に会って金を渡すことにした。


4月2日午前8時25分頃,被告人に会えないか打診するメールを送信した。このメールを送信後,上記院長に対する借金の返済期限が月末だったことから,とりあえずLから振り込んでもらった15万円のうち5万円を院長の口座に振り込むことにした。Cは,同日午前8時30分頃,自宅を出て,自動車で株式会社Bの事務所に行く途中,株式会社P銀行R支店に向かったところ,その途中と思われる同日午前8時48分頃,被告人から,その日の正午なら何とかなるとの返信メールがあった。Cは,この日の昼に被告人と会えると思い,Lに振り込んでもらった15万円のうちの10万円を被告人に渡すこととし,会う場所を確認するために,同日午前8時49分頃,正午に落ち合う場所を尋ねるメールを被告人に送信した。その後のことになると思うが,上記R支店に到着し,同日午前8時57分頃,ATMを使用して株式会社B名義の口座から15万円を引き出し,同日午前8時59分頃,そのうち5万円を上記院長の口座に振り込んだ。そして,手元に残った10万円をATMの近くに置いてあった株式会社P銀行の封筒に入れた。上記R支店でこのような出入金を行っていたところ,被告人から飲食店Fでどうかというメールが送信されてきたが,Cとしては,場所はそれほど気にしていなかったので,同日午前9時頃,被告人に対し,落ち合う場所を飲食店Fにする旨のメールを返信した。すると,被告人から,同日午前9時2分頃,飲食店F店内に入るような時間がないと思うので外で落ち合うことを了承してもらいたい旨のメールが送信されてきたため,Cは,同日午前9時3分頃,これを了解する旨のメールを返信し,その後,Cは株式会社Bの事務所に向かった。Cは,これまで被告人に会うときにはいつもIと一緒だったが,被告人に賄賂として金を渡すことをIが知ると,Iからも金を要求される可能性があったことから,Iには秘密にしておくつもりだった。そのため,Iには知らせずに被告人と会おうとも考えたが,その一方で,Iに知らせずにCが被告人と会ったこと
が,後になってIに知られると,Iの機嫌を損ねるかもしれず,また,かえって何かしたのかと疑われる可能性もあった。このため,Cが被告人と会うこと自体はIに伝えておこう,Iには資料を被告人に渡すだけだと説明すればIも分かったということで話は終わるだろうと思った。そこで,Iに連絡を取り,被告人と会って資料を渡すことを伝えたところ,Iも同行すると言い出した。Cは,Iには来てほしくないと思っていたことから,本当に資料を渡すだけだと説明したが,Iはそれでもいいから一緒に行くと言ってきたため,ここであまり拒否するのもかえって不自然だと思った上,資料を入れる封筒の中に現金を入れて渡せば,Iにもばれずに金を渡せるだろうと考え,仕方なくIと一緒に被告人に会うことにした。Cとしては,被告人に渡したい資料は特になかったが,Iから,被告人にどのような資料を渡すのか聞かれたときに備え,渡す意味があると説明が付く資料を作成しようと考え,株式会社Bの事務所において,まだ被告人には報告していなかったE課長との4月1日の打合せ結果をまとめた資料を新たに作成した上,同資料等を透明なクリアファイルに挟み,その後ろ側に現金10万円を入れた銀行封筒を挟み,それを大封筒に入れて準備した。同月2日午前11時前頃,Iが株式会社Bの事務所まで来たので,Cの運転する自動車にIを同乗させ,飲食店Fに向かった。飲食店Fの駐車場に到着したところ,被告人の姿がまだ見えなかったことから,同日午前11時52分頃,被告人に対し,自分たちが到着したことを知らせるメールを送信すると,同日午前11時56分頃,被告人から,間もなく到着することを知らせるメールが返信され,その後間もなく,被告人が運転する自動車が飲食店Fの駐車場に入ってきた。Cは,飲食店Fの駐車場で被告人に金を渡すつもりであったことから,銀行封筒の入った大封筒を手に持って自動車を降りたが,自動車から降りてきた被告人から,時間ができたので中に入ろうと言われたので,3人で飲食店Fに入店した。このとき,Cは,
準備してきた10万円については店内でIが席を外したときにでも渡そうと考え,大封筒を持ったまま店内に入った。3人が座った位置は,飲食店Fの奥の4人掛けテーブルで,CとIが横に並び,テーブルを挟んだ向かい側に被告人が座った。飲食店Fでは3人ともランチとドリンクバーを注文し,注文を終えると,Iは席を立ってドリンクバーに飲み物を取りに行ったが,その際,Iは,被告人の分も取ってくるため,被告人に飲み物を確認していた。Cは,被告人と二人きりになりたかったので,自分は後で取りに行くとIに告げた。Cは,こうしてIが席を外したとき,今のうちだと思い,大封筒をテーブルの上に出し,まず,大封筒からクリアファイルを半分くらい引き出し,被告人に対し,クリアファイルの中の資料だけが見える表側を見せ,次に,金を渡すことを分かってもらうため,大封筒ごと裏返し,クリアファイルの後ろに挟んだ銀行封筒を見せ,その上で,クリアファイルを大封筒に戻し,小声で,これ少ないですけど足しにしてくださいと言いながら差し出すと,被告人は,すみません,助かりますと小声で言って大封筒ごとさっと受け取った。Cは,被告人に金を渡すことをIには秘密にしておくつもりだったので,Iさんには」と言った上で,人差し指を唇に当て,内緒にしてもらいたいというジェスチャーをした。すると,被告人は,「分かりました,ありがとうございます」と小声で答えたが,受け取った大封筒を隣の座席に置いたと思う。Cの仕草や発言内容からも,被告人は渡されたものが単なる資料ではなく金であることが分かるだろうと思った。また,Cにとって,被告人に渡した金はこれまでの被告人の株式会社Bの事業に関する取り計らいに対する見返りであり,そのことは被告人も分かっていると思った。しばらくすると,Iが飲み物を取って席に戻ってきたので,Cも,自分の分の飲み物をドリンクバーに取りに行った。3人は食事をしながら話をしたが,被告人は,浄水プラント事業に関してE課長が精力的に動いてくれていい感じになっていると話し,また,Cも,もっと被告人に動いてもらいたいと思っていたことから,今後もいろいろお願いすることがあるのでよろしくお願いしたい旨発言した。飲食店Fでは,浄水プラント事業以外にも,被告人とIが政策論議などもしていたと思う。飲食店Fの食事代は,Cの方から割り勘を持ちかけ,実際は一人当たり800円くらいであったが,500円くらい出してもらえばと申し出たところ,被告人が500円を出してきたので受け取り,同日午後零時45分頃,Cが3人分をまとめてCのクレジットカードで支払った。3人は食事を終え,午後1時前には店を出たと思う。そして,被告人とは駐車場で別れ,CはIと一緒に自動車で株式会社Bの事務所に戻り,Iとは株式会社Bの事務所で別れた。その日の午後5時40分頃,見返りとして金を渡したことで被告人には浄水プラント事業に関してうまく取り計らってもらおうと思いメールを送信したが,その中の「議員のお力になれるようという文言は,要するに,見返りとして金を渡したということを伝えたかったからである。すると,同日午後7時3分頃に,被告人からメールが返信されてきたが,その中のわざわざありがとうございますという文言は,Cがわざわざ飲食店Fまで来て金を渡したことに対する感謝の意味だと理解した。
3
Cは,公判廷において,本件に関する捜査段階における記憶状況,記憶喚起の経緯,捜査段階の供述からの変遷を指摘された点などについて,次のとおり説明している。
(1)被告人に金を渡したことを刑事に初めて話したのは平成26年3月15日である。翌日に3月16日付け上申書を書いたが,刑事から,もう一度書いてくれと言われ,さらにその翌日にはもう少し付け足すような内容の3月17日付け上申書を書いた。この時点では,市長選のことを知った頃,飲食店Gで被告人に20万円を渡したことは覚えていたので話したが,その時点ではそれ以上のことは思い出せなかった。3月16日付け上申書の作成時点
では,飲食店Fの件について,刑事には,前にも金を渡したことはあるけれども,今は,いつ,どこで,幾ら渡したかは思い出せない,はっきりしないというふうに話した。飲食店Fで10万円渡したことを思い出したのは,それから二,三日後のことである。刑事から,思い出したら話してくれと言われ,いろいろ過去のことを思い返しているうちに,δ市議会議員に動いてもらって10万円を渡したことを最初に思い出し,それに関連して,被告人にも10万円でいいかと思って渡したことを思い出し,確か場所は飲食店Fだったなということまで思い出した。そこから細かな記憶を思い出す作業をするに当たって,メールとか銀行口座の金の動きなどの資料とかいろいろ見せてもらい,日にちとか,Iがいたなとか,順番に一つ一つ思い出し,思い出したことでまた次が思い出されてという作業をした結果,今話している内容のことを思い出した。
(2)3月27日付け警察官調書の作成時点では,メールはたまに見せてもらったことはあるが,しっかりと自分の手元で見せてもらうことはなかった。自分の思い出せる範囲と,そうだったかもしれない,だったんじゃないかなとか,そういう抽象的な話し方をしていた記憶がある。3月27日付け警察官調書は,自分の記憶がはっきりしているところとはっきりしていないところを自分がまとめて話をして取ったものである。もっとも,はっきり思い出さないことを,はっきり思い出したかのように話したことはない。ただ,今になって3月27日付け警察官調書を見ると,実際に自分が言った言葉と違うようになったりしているところもあり,正直,その当時はあまり細かくチェックして読んでいなかったなと感じた。
同日より前にも,警察官に対し,Iが飲食店Fにいたかどうかについては,はっきりしないと話しており,3月27日付け警察官調書を作成する際,自分としても,被告人に金を渡したときは二人だったということは思い出せたが,そのほかのことはうろ覚えであったことに加えて,刑事から,4月2日
のメールを見てもIはいるように思えない,今回はIの件は外しておくぞというふうに言われ,刑事がそう言うんだったら,自分もはっきりしなかったので,まあいいかと思い,はい」と答え,その結果,3月27日付け警察官調書ではIがいないふうに書かれてしまった。Iが飲食店Fに同行していたことを思い出して最初に話したのは検察官ではなく刑事であったと思う。メールを熟読して思い出す作業をしていたときに思い出した記憶がある。思い出した時期は,平成26年3月末頃から同年4月上旬頃である。警察では,3月27日付け警察官調書の作成後,詳しい資料を見せてもらうようになり,飲食店Fの店外で被告人と待ち合わせのためにやり取りした4月2日のメールをじっくりと読ませてもらっているときに,最初に,Iと一緒に飲食店Fの駐車場で待っていたときに,被告人が到着したので,Iと二人で自動車を降りていったという情景を思い出した。Iと一緒に行ったにもかかわらず,どのようにしてIに知られないで被告人に金を渡したかという具体的な状況についても,最初にIがいたことを思い出した時点では思い出せなかったが,そのときに自分がどう考えていたかということを一つ一つ思い出していった結果,平成26年4月上旬頃には,Iがドリンクバーに行っているときに被告人に現金入りの資料を渡したことを思い出した。同年3月27日の取調べにおいて,現金入り封筒を挟んだ資料については,カモフラージュをしたという印象の記憶しかなく,資料に関しては全然思い出せないが,資料は何でもいいと思っていたはずなので,もしかしたら飲食店Dで渡した資料をもう一回用意して渡したかもしれないし,そうであってもおかしくないという言い方をしたところ,3月27日付け警察官調書では飲食店Dで渡したのと同じ資料を渡したというふうに断定的に書かれてしまった。同日に同警察官調書を読んだときには,そこまで細かく意識しておらず,後になって断定されたんだということを思った。同日の時点では,飲食店Fにおける金の渡し方は,まだはっきりとした記憶が喚起できておらず,カモフラージュのために資料をクリアファイルに挟み,現金入り封筒を挟んで大きめの封筒の中に入れて鞄の中に入れたことくらいは覚えていたが,クリアファイルの表裏を順番に見せたことまでは覚えていなかったと思う。また,その時点では,被告人に渡す物の中に現金が入っていることをきちんと確認してもらおうと思っていたかどうかまでは思い出せなかったし,渡した具体的な場面も覚えていなかった。3月27日付け警察官調書に記載された「これ資料ですという自分の発言は,覚えていたわけではないが,刑事に対し,それくらいのことは言ったんじゃないかなというふうな言い方をした記憶がある。少ないですけど足しにしてくださいとの自分の発言は,自分が言ったというふうに伝えており,同じく記載された助かります,すいませんという被告人の発言は,そういう言葉を聞いたというふうに覚えていた。
(3)検事調べが始まった平成26年4月中旬前には,飲食店FにIが一緒にいて,被告人に対して公判廷で供述しているような示し方をしながら大封筒を渡したということは思い出しており,検事調べのときにもちゃんと話している。金を渡した具体的状況についても,Iがドリンクバーに飲み物を取りに行くために席を外した間に現金入りの資料を渡したことも,検事調べが始まった時点で話をしていた。5月1日付け検察官調書にその旨の記載がない理由は,検事に聞いてみないと分からないが,検事からは,一連の流れをざっと取ること,細かなところは後から別に要所要所で調書を取ることを告げられた。
(4)警察の取調べの際には,あんなことはなかったかとか,こんなことはなかったかとか,Cの記憶を思い出させるためのキーワード的なことにならないかというような意味で,そういうことを言われたことはあった。しかし,検事調べでは,基本的にそういうことは言われておらず,客観的な資料を示
されてこういう話だったら辻褄が合うとか,こうなんじゃないかと言われたこともない。すべて自分が思い出して話をしている。
(5)証人として公判廷で供述している内容については,平成26年4月中旬頃までには,細部はともかくその大部分につき記憶は喚起できていた。11月4日に飲食店Gで3人で会ったことも平成26年4月中旬頃には記憶喚起できていた。被告人から自分に対し,Iと会える段取りを取ってほしいとの連絡があったのでその日を設定した記憶である。具体的な日付は,飲食店Gの予約表を見て思い出した。3人で会った際に話した内容は,今後,β市のアンテナショップをδに出そうとか,来年(平成26年)4月に市長直属の部署が立ち上がるので,株式会社Bの件はそこで扱っていく予定だというものだった。第2回公判期日において,4月25日以降,被告人とは会っていない旨供述したが,これは,市長選までの間に会ったかどうかを聞かれていると勘違いしてしまったからである。また,同公判期日において,4月25日以降は被告人と接触を試みたこともない旨供述したが,これは,金を渡すという用件のために接触したかどうかを聞かれていると思い,そのように答えてしまったものである。
4
本件各現金授受に関するCの公判供述の信用性に関する判断等
(1)ア

供述の信用性が大きな争点となる事件においては,信用性の吟味に
際しては,供述の具体性や裏付け事実の存在等のほか,供述内容の一貫性,反対尋問にも揺らいでいないか,供述態度が真摯なものであるか,内容に迫真性があるか,虚偽の供述をする合理的な動機がないか等が判断の要素となる。
この点についてCの公判供述は,全体として具体的かつ詳細なものであり,飲食店Fにおける3人の飲食内容や飲食代金の支払状況については客観的資料の裏付けが存在する上,被告人に対して飲食店Fで交付したとする現金10万円及び飲食店Gで交付したとする現金20万円の各原資に関
しても一定の裏付けも存在し,弁護人からの反対尋問にも揺らいでおらず,供述内容に矛盾を含むなど明らかに不合理な内容も見受けられない。イ
しかしながら,その一方で,第1現金授受について,Cの公判供述によれば,飲食店FにおいてIが被告人に何を飲むか尋ねていたのでIが被告人の分の飲み物も取りに行ったと思ったというものの,被告人がIに取ってくるよう頼んだ飲み物の種類について具体的な説明はなく,また,Iがドリンクバーから二人分の飲み物を持ち帰った状況や,取ってきた飲み物を被告人に渡した際のやり取りの様子,さらには,C自身がドリンクバーから取ってきた飲み物の種類についても何らの説明もなされていないが,この点は,Cが被告人に対して現金を交付した際の状況について具体的かつ詳細に説明していることと対比すると違和感を感じざるを得ない。また,Cの公判供述では,Iがドリンクバーに飲み物を取りに行くため席を立ってから戻ってくるまでの間のIの様子について何ら説明はなされていないが,ドリンクバーが,3人が座っていたテーブル席の壁際から約3.4メートルないし約6.4メートルという比較的近い場所に設置され,かつCの着座位置からしてほぼ真後ろの背中側の位置にある(甲85)ために被告人の方を向いた状態ではIの様子をうかがい知ることができない状況にあったことから,Cの述べるように被告人に現金を渡す事実をIにできる限り知られたくなかったというのであれば,Cにおいて,Iが3人のテーブル席の方向を見ていないかどうかを確認しようとする行動を取るか,少なくともIの様子について警戒心を抱いて然るべきところ,本件においてCがそのような行動等を取った形跡はない。この点,Cは,公判廷において,被告人に現金を渡したことがIに発覚したとしたらそのときは仕方がないと覚悟していた旨の説明をしているが,そのような説明は,Iが同行するのを避けたいと考えたCの行動等に照らして不自然である上,捜査段階でも一切なされていない。さらに,それまで飲食店Aと飲食店D
において昼食を2回取った以外に会ったことはなく,個人的にも親しい関係にあったわけではない市議会議員である被告人に対して賄賂であるという認識を持ちながら現金を交付する場合,犯罪行為を行う者として少なからず緊張感を覚えたり,相手に受け取りを拒否されて浄水プラント事業のβ市への導入が頓挫してしまうことへの警戒感などの気持ちを抱いたりしても不思議ではないが,Cの公判供述ではそのような心情について具体的に述べられていない。

第2現金授受について,Cは,第2現金授受の核心部分ともいえるIの離席時の状況については,Iが何かの理由により少し席を外したときがあったので,机を回り込んで被告人の左側まで移動して茶封筒を渡したと述べるに止まっている。しかしながら,Cの述べるように被告人に現金を渡す事実をIにできる限り知られたくなかったというのであれば,CにおいてIの動静に注意を払うのが普通であるが,Cは,公判廷においても,Iが席を離れてから戻ってくるまでのIの様子については何も具体的に説明していないし,C自身において,Iが席に戻って来ないかどうかについて注意を払った形跡もない。さらに,第2現金授受の場面をIに見られたくないというCの立場に立てば,少しでも手早く被告人に茶封筒を渡すためには,例えば,席を移動することなくその場で茶封筒をメニュー表でカモフラージュするなどして机越しに手渡す方が簡便であることは明らかであり,Cにおいてそのような行動を取ることに支障があった事実もうかがえない。しかるに,Cによれば,わざわざ机を回り込んで被告人の左横隣に移動した上,正座よりもやや腰を浮かせた姿勢で両手で茶封筒を被告人に差し出したというのであるが,そのような行動を取れば,余分に時間を要するばかりか,Iにその状況を遠くから見られた場合にも目立ちやすく,さらには席に戻って来るIが自分の背中側で死角になることでその姿に気付きにくい結果となるが,合理的とは思えないそのような行動を取った理
由について,Cは公判廷でも合理的な説明をなし得ていない。この点,Cは,公判廷において,被告人に現金を渡したことがIに発覚したとしても,Iだから最悪ばれても問題ないと思った旨の説明をしているが,そのような説明は,被告人に対する現金交付の事実をIには発覚したくないと考えたCの行動等に照らして不自然である上,捜査段階でも一切なされていない。加えて,Cの公判供述における第2現金授受の際のCと被告人との発言内容を含むやり取りについては,第1現金授受の内容とほとんど変わらない内容となっている。

以上の点に照らすと,Cの公判供述は,全体的にみて具体的かつ詳細なものといえるとしても,本件各現金授受という本件の核心的な場面について,具体的で臨場感を伴う供述がなされていると評価することはできない。
(2)そこで,さらに進んで,Cの捜査段階における供述経過等について検討する。前記のとおり,Cは,公判廷において,被告人に現金を渡したことを刑事に初めて話したのは平成26年3月15日であり,その当時は曖昧な記憶しかなく,3月27日付け警察官調書の作成時点では,メールはたまに見せてもらったことはあったが,しっかりと自分の手元で見せてもらうことはなく,自分のその時点の記憶に基づき調書を作成した,同時期以降,メールや銀行口座の記録などを熟読する中で,一つ一つ思い出していく作業を続けた結果,平成26年3月末頃から同年4月上旬頃に,Iが飲食店Fに同行していた記憶が思い出され,同月上旬頃には,Iがドリンクバーに飲み物を取りに行ったときに被告人に現金入り封筒を挟んだ資料を渡したことを思い出し,検事調べが開始された同月中旬頃前には,Iが飲食店Fに同行し,公判廷で供述しているような現金の渡し方をしたことは思い出しており,同月中旬頃までには,細部はともかくとして,公判廷で述べている事実の大部分は記憶を喚起できていた旨供述しているところ,上記供述には,次のような疑義がある。


前記のとおり,Cは,3月16日付け上申書及び3月17日付け上申書において,被告人に対して現金を渡した事実に関し,4月25日の飲食店Gにおける出来事しか記載していないところ,その理由について,Cは,公判廷において,その当時は,飲食店Gで被告人に20万円を渡したこと以外は思い出せず,平成26年3月16日時点では,刑事には,飲食店Fの件に関して,前にも金を渡したことはあるが,いつ,どこで,幾ら渡したかは思い出せないと説明した旨供述している。しかしながら,そもそも,市議会議員である被告人に対して賄賂であるとの認識を持った上で現金を渡すという行為は非日常的なものとして,通常はそれを行った者において強く印象に残るはずであるし,多数回にわたる現金交付の事実があったとするならばともかく,Cの述べるところによれば,現実には被告人と会食をした回数は11月4日の飲食店Gを含めても合計5回に過ぎず,Cが被告人に現金を渡したとする回数もわずか2回に過ぎないというのであれば,具体的な日の特定はまだしも,被告人に現金を渡した機会及びその金額については記憶に残っていて然るべきである。この点,Cは,8月22日,Y中学校において,浄水プラントが設置できたことに感心した業者仲間である戊に対し,渡した相手方が被告人であることを暗に認めた上で,しかるべき人に30万円くらいを渡している旨を告げた事実が認められるがC(
及び戊の各公判供述,甲68)それから約7か月しか経ておらず,しか,
も自ら警察官に贈賄行為を上申するという状況において,平成26年4月中旬頃には現在とほぼ同程度の記憶喚起ができていたと述べるCが,同年3月中旬頃の時点では飲食店Fの件について極めて曖昧な記憶しかなかったというのは不自然といわざるを得ない。
なお,Cは,公判廷において,同月16日頃に飲食店Gの件を刑事に話した二,三日後には,飲食店Fで10万円を渡したことを思い出したとも供述しているが,本件において上記供述の裏付けとなる上申書や捜査資料
の存在はうかがわれず,Cの上記供述内容はそのまま信用することはできない。

Cは,飲食店FにおいてIが同席していた事実について,同月27日より前に,警察官に対し,Iが飲食店Fにいたかどうかはっきりしないと説明していた,3月27日付け警察官調書の作成時点では,飲食店Fで被告人に現金を渡したときに二人だけだったことは思い出せたが,それ以外についてはうろ覚えであり,刑事からも,メールを見てもIが同席していたようには思えないと言われたことから,Iが同席していなかった内容の供述調書が作成されてしまった旨説明している。
しかしながら,同日の取調べに関して作成された警察官の取調べメモにおいても,CがIの存在の可能性について刑事に話していた形跡はうかがえない。また,3月27日付け警察官調書においても,Iが同席していた可能性を示唆したような記載は全く見当たらないばかりか,同警察官調書には賄賂を渡した後にIの話題などを出しながら食事をした旨の記載すら存在することに照らすと,同日の取調べの際には,Cには被告人と二人きりで食事をしたとの記憶しかなかったのではないかと疑われる。さらに,Cは,公判廷において,3月27日付け警察官調書を作成した後,メール等の詳しい資料を熟読するうちに,平成26年3月末頃から同年4月上旬頃,被告人が到着するのを飲食店Fの駐車場でIと一緒に待っていた情景等を思い出したとも供述している。しかし,Cは,すでに3月27日付け警察官調書において,被告人と飲食店Fの駐車場で待ち合わせたこと自体は供述しているし,4月2日午前中に被告人とCとの間でやり取りされたメールを見ても,Iを同行していた事実を推測させるような記載は見当たらないことからして,前記資料等を見たことをきっかけに前記情景等が思い出されたとするCの説明はそのまま首肯し難い。
以上によれば,平成26年3月27日の時点でCが刑事に対して飲食店
Fで被告人と会った際にIが同席していた可能性があることを告げていたこと及び同年4月上旬までには飲食店FにIを同行していた場面の記憶を具体的に喚起できていたとのCの公判廷における供述内容の信用性には大きな疑問があるといわざるを得ず,Iが飲食店Fに同席していたか否かという重要な事実に関して,Cの供述は変遷しているといわざるを得ない。ウ
Cは,公判廷において,3月27日付け警察官調書の作成時点では,飲食店Fにおいて被告人に現金を渡した具体的場面は覚えておらず,現金の渡し方についても,現金入り封筒を株式会社Bの資料に挟んでカモフラージュしたという印象しかなかったなどと供述している。しかしながら,Cについては,同警察官調書が作成された翌日である同月28日,市長選に関してIの便宜を図るためにβ市内に旅館を確保したほか,Iに活動資金を渡したことなどの事実や,被告人の市長就任後の時期にIから被告人を乗せるためとして要求されたために自動車を準備した上でIに提供した事実に関して,相当に具体的かつ詳細に供述した2通の警察官調書(弁4,5)が作成されているところ,同時期頃に被告人との関係について他の事実に関して詳細な記憶をとどめていたCが,公判廷において述べるように,3月27日付け警察官調書の作成時点において賄賂の供与という強く印象に残るべき第1現金授受に関して,その具体的場面やIの同席の有無に関する記憶が曖昧であったというのも不自然といわざるを得ない。
また,Cは,公判廷において,同月27日の時点においては飲食店Fにおける記憶が曖昧であったと供述する一方,現金を被告人に渡す際に,Cがこれ,少ないですけど足しにしてくださいという発言をしたことがある旨を刑事に伝えており,また,被告人が,

すいません。助かります


と発言したことは当時から覚えている旨供述するが,現金を渡した具体的場面等について曖昧な記憶しかなかったにもかかわらず,その際の被告人と自分の会話部分については具体的な記憶があるということもまた不自然
といわざるを得ない。

Cは,3月27日付け警察官調書において,飲食店Fで被告人に渡した資料は,飲食店Dで渡した資料と同一であった旨供述していた点について,公判供述の際,同日の時点では,飲食店Fで被告人に渡した資料について全然思い出せなかったので,もしかしたら飲食店Dで渡した資料と同じ物だったかも知れないと刑事に話したにもかかわらず,断定的に供述したような供述調書ができてしまい,供述調書を読んだときも意識していなかった旨説明している。
しかしながら,3月27日付け警察官調書の記載内容をみると,資料について供述した内容は,飲食店Fにおいて現金を被告人に渡した理由に関連する積極的な根拠として供述されているのであって,曖昧な供述をしていたのにそのような記載になってしまった旨のCの説明には無理があると言わざるを得ない。そうすると,同日の時点において,警察官に対して,飲食店Fで渡した資料に関して上記のような説明をしていながら,公判廷で異なる説明をした理由としては,同調書作成後に捜査機関が被告人宅から差し押さえた株式会社Bの資料(甲78)の内容に供述を合わせた疑いがあり,Cの供述は変遷しているといわざるを得ない。
そこで,以下,前記説示に基づき,Cが捜査機関に対して,飲食店Fにお
いてIが同席した事実及びIがドリンクバーに飲み物を取りに離席した機会に被告人に対して現金を交付した事実を記憶喚起して具体的に供述するようになった時期について判断する。上記のとおり,平成26年3月末頃から同年4月上旬頃に,Iが飲食店Fに同行していた記憶が自発的に思い出され,同月上旬頃には,Iがドリンクバーに飲み物を取りに行ったときに被告人に現金入り封筒を挟んだ資料を渡したことも自発的に思い出した旨のCの供述には,不自然な点や供述の変遷などの看過し難い問題が多々含まれており信用できない。そして,捜査機関においてIが飲食店Fに同行していた事実が
初めて調書化された時期が5月1日付け検察官調書の作成時であり,Iが飲食店Fにおいてドリンクバーに飲み物を取りに離席した機会に被告人に対して現金を交付した事実が初めて調書化された時期が5月7日付け警察官調書の作成時であるところ,一件記録によっても,Cが,平成26年4月13日までに,Iが飲食店Fに同行していた事実やIが飲食店Fにおいてドリンクバーに飲み物を取りに離席した機会に被告人に対して現金を交付した事実を捜査機関に話していた形跡はうかがわれず,また,検察官からその点に関して何らの立証もなされていない。その一方で,Cが同月14日から始まった検事調べの直前である同月13日頃に,刑事から同日付け捜査報告書に添付された4月2日付け飲食店Fのジャーナルを示されている事実があることを認めていることに照らすと(Cの公判供述)本件では,Cが上記ジャーナ,
ルを刑事から提示されたことをきっかけに,Iを飲食店Fに同行していた事実やIが飲食店Fにおいてドリンクバーに飲み物を取りに離席した機会に被告人に対して現金を交付した事実を捜査機関に対して供述するようになった可能性がある。
(3)その他のC供述の問題点

3月27日付け警察官調書には,3人で飲食店Aで会った事実は記載されていないところ,Cは,5月7日付け警察官調書において,それまで刑事には,被告人と初めて会った機会が飲食店Dであったと説明してきたが,実際は,3月7日に飲食店Aで会ったのが,被告人と初めて会った機会であることを思い出したので,その点を訂正する旨供述するとともに,そのような記憶違いをしていた理由として,株式会社Bの浄水設備についてβ市に導入してもらえるように具体的に話した飲食店Dの場面が鮮明に残っていたので,そのように思い込んでしまった旨説明している。
しかしながら,Cは,公判廷において,Cが初めて被告人に会った飲食店Aにおいても,δ市教育委員会宛の資料ではあったものの,同資料を被
告人に渡した上で,δ市における株式会社Bの事業の動きについて説明したほか,浄水プラントが災害対策としても有効であり,設置はレンタル契約であることから初期費用が不要であることなどを説明し,全国で最初にβ市で導入していただきたいので被告人に是非力を貸してほしいと頼むと,被告人が前向きな発言をしてくれたことから,Cにおいてもβ市において浄水プラントの導入が実現するかもしれないと感じたことがあること,飲食店Aでの別れ際に,被告人がこれから役所に行って担当者に話をしてみると発言したため,Cが,Iに対して,被告人はすごい行動力だと言った記憶がある旨の供述をしているほか,飲食店Dでの会合において,被告人から,市議会での反応が良かったとの発言があったことから,飲食店Aで話したことが間に合い,市議会で質問をしてくれたのだと分かった旨述べているが,そのように飲食店Aにおいて被告人に対して浄水プラントにつき具体的な働き掛けを行い,被告人からも前向きな返答をもらったことでその行動力に強い印象を抱き,飲食店Dにおいても飲食店Aでの会合を前提とした議会質問に関する話題が出ていたというのであれば,飲食店Aにおけるやり取りはCの記憶に強く残っていて然るべきであって,飲食店Dの場面が鮮明に残っていたために平成26年3月27日の時点で飲食店Aの件を失念していたとのCの説明は不自然といわざるを得ず,上記の点もまたCの記憶状況に関する重大な問題点といえる。

Cは,5月1日付け検察官調書において,飲食店Dでの会合の後,E課長から株式会社Bに連絡をもらった点に関し,被告人がβ市の役人にどのように働き掛けたのかは分からないが,Iが言っていたように,議会で質問することを引き合いに出すなど,市議会議員としての力を使ってうまくやってくれたのではないかと思った旨供述している。しかしながら,このような供述内容は,Cの公判供述にある,飲食店Dにおいて市議会での反応が良かったという被告人の発言を聞いて,飲食店Aで話していたことが
間に合って被告人が議会で質問してくれたことが分かった,3月23日の被告人からのメールなどにより,被告人がβ市の役人に相当なプレッシャーを掛けてくれたのだと感じたとの供述とは整合性を欠き,その供述には変遷が認められる。この点につき,Cからは何ら説明はないが,5月1日付け検察官調書の作成時点において検察官に対して上記のような説明をしていながら,公判廷で異なる説明をしている理由としては,平成26年5月7日に捜査機関がβ市から入手した市議会の資料(甲29の原資料)により被告人の発言内容を知ったCにおいて供述を合わせた可能性があり,この点は,Cが同年4月中旬頃までにほぼ現在の記憶を喚起していたとのCの説明の信用性の判断に影響を与える事情といえる。
第6

第1現金授受の存否に関する判断
検察官は,第1現金授受に関するCの公判供述について,客観的証拠や関係者の供述等と符合していることや,供述内容が具体的かつ自然であること,供述経過が自然で内容も一貫しているなどとして,Cの公判供述には信用性が認められる旨主張しているので,この点について判断する。

1
客観的証拠や関係者の供述等と符合しているとの検察官の主張について前提事実のとおり,本件では,Cが4月2日に株式会社B名義の預金口座から15万円を引き出した上で,5万円を振込送金した事実から,同日,Cの手元に現金10万円が残ったことになる。しかしながら,この事実は,Cにおいて被告人に渡すことができる現金10万円の原資があったことを裏付ける事実にはなり得るとしても,直ちに被告人に対する第1現金授受の存在を裏付ける事実となるものではない。また,本件では,4月4日に被告人経営の塾の預金口座に9万5000円が入金されている事実(甲71)は存在するが,そもそも被告人が本件当時学習塾を経営しており,年度初めということで月謝以外にも学習塾関係の現金収入が相当額あった事実が存在する上(被告人の公判供述,甲86)その入金時期及び金額に照らしてみても,Cが出金した現金との関,

連性は希薄といわざるを得ず,4月2日に被告人がCから現金10万円を受領した事実の裏付けとみることはできない。
検察官は,同日午前中に被告人とCとの間でやり取りされたメールの文言は,被告人に対して現金を渡そうと考えたCの行動を裏付けるものであると主張するが,同文言は,その内容に照らしても何ら第1現金授受の裏付けになり得るものではない。検察官は,飲食店Fでの会合後にCから被告人に送信された同日のメールの文言について,現金授受を前提とする更なるCからの資金援助の意図を含むものと解釈できる旨主張するが,同メールの文言は多義的に解釈し得る上,現金授受がなかった飲食店Aでの会合後にCから被告人に対して同旨のメールが送信されている事実に照らしても,Cの上記意図を裏付ける証左であるとの検察官の主張は根拠に乏しい推測というほかない。また,飲食店Fでの会合後に被告人からCに送信された同日のメールの内容についても,防災対策について関心が高く,浄水プラント事業を積極的にβ市において導入したいという被告人の政策に合致する株式会社Bの事業についての資料をβ市まで持参してくれたCに対する感謝の気持ちを表したとの趣旨に取ることも十分にできるなど,やはり多義的な解釈を許すものであって,上記メールもまた第1現金授受の裏付けとなり得る証拠とはいえない。
なお,Cの公判供述を裏付ける飲食店Fのジャーナルが存在することや被告人宅からCが渡したと供述するものと合致する資料が押収されていることは,第1現金授受自体の存否について裏付けとなり得る証拠とはいえない。検察官は,その他,本件各現金授受に共通する裏付ける事実として,被告人の言動や被告人の経済状態を挙げるが,これら事実もいずれも直ちに本件各現金授受を推認させるような事情と認めることができないか,あるいはC供述の核心部分の信用性との関係では,これを強める効果に限界があるものといわざるを得ない。
2
Cの公判供述の内容が具体的かつ自然であること及び供述経過が自然で内容
も一貫しているとの検察官の主張について
Cの公判供述は,前記のとおり,全体として具体的かつ詳細なものと評価でき,一定の裏付けも存在し,弁護人からの反対尋問にも揺らいでおらず,供述内容に矛盾を含むなど明らかに不合理な内容も見受けられないことは検察官の主張するとおりである。しかしながら,Cのような会社経営の経験があり,また,金融機関を相手として数億円の融資詐欺を行うことができる程度の能力を有する者がその気になれば,その内容が真実である場合と,虚偽や誇張等を含む場合であるとにかかわらず,法廷において具体的で詳細な体裁を備えた供述をすることはさほど困難なことではない。加えて,本件では,Cは,平成26年10月1日の第2回公判期日及び同月2日の第3回公判期日で実施された証人尋問に臨むに当たり,検察官との間において相当入念な打合せをしてきたものと考えられる上,庚との間で対質の方法により行われた第7回公判期日で実施された証人尋問に臨むに当たっても,検察官との間で六,七回に及ぶ打合せを行っていたというのであるから,公判廷において,客観的資料と矛盾がなく,具体的かつ詳細で不自然かつ不合理な点がない供述となることは自然の成り行きといえる。さらに,Cの公判供述に一定の裏付けが存在する点も,既に説示したとおり,第1現金授受の裏付けとなり得るものと評価できなかったり,Cの公判供述までの間に捜査機関において入手したメール,預金口座及び議会資料を含む各種資料に整合するように供述を整えたりした可能性が否定できず,第1現金授受に関するCの公判供述の信用性を強く裏付けるものではない。そして,Cの公判供述については少なからず変遷が認められ,捜査段階からの一貫性に疑義があることは既述のとおりである。
なお,8月22日にCが戊に対して,浄水プラント事業に関し,約30万円の賄賂を渡したとの話をした事実がある旨の戊の公判供述は,その性質上伝聞証拠に当たり,Cの公判供述の信用性に関する補助事実に過ぎない上,戊の公判供述におけるCの発言内容は曖昧な内容であることからすると,上記戊の公
判供述によってもCの公判供述の信用性に関する前記判断は左右されるものではない。
3
以上,詳述したように,第1現金授受に関しては,これを直接に基礎付ける客観的で決定的な証拠は存在せず,また,Cの公判供述の信用性については看過し難い問題点があることに照らすと,果たしてC自身において第1現金授受に関して自ら経験した事実を語っているのか疑問といわざるを得ず,第1現金授受の事実を一貫して否認している被告人供述や,被告人とCを席に残してドリンクバーに被告人の分の飲み物を取りに行った事実を否定するI供述を排斥することはできない。そうすると,結局,関係証拠を総合しても,被告人が飲食店Fの会合においてCから現金10万円を受領したと認めるには,なお合理的な疑いが残るというべきである。

第7

第2現金授受の存否に関する判断
検察官は,第2現金授受に関するCの公判供述について,客観的証拠や関係者の供述等と符合していることや,供述内容が具体的かつ自然であること,供述経過が自然で内容も一貫しているなどとして,Cの公判供述には信用性が認められる旨主張しているので,この点について判断する。

1
客観的証拠や関係者の供述等と符合しているとの検察官の主張について前提事実のとおり,本件では,Cが4月25日に株式会社B名義の預金口座から90万円を引き出した上で,その日のうちに株式会社B名義の他の預金口座に70万円を入金した事実から,同日,Cの手元に現金20万円が残ったことになる。しかしながら,この事実は,Cにおいて被告人に渡すことができる現金20万円の原資があったことを裏付ける事実にはなり得るとしても,直ちに被告人に対する第2現金授受の存在を裏付ける事実となるものではない。また,本件では,4月24日頃,CがJに対し,株式会社Bの事業を進めるために被告人に渡す現金として50万円の借入れを申し入れた事実は認められるものの(C及びJの各公判供述)上記事実は,その当時自転車操業状態にあっ,

た株式会社Bの資金繰りを解消するためにβ市への浄水プラント事業の導入を早期に進めたいとの気持ちがあったCにおいて被告人に対して現金供与の計画を抱いていたとの事実の裏付けにはなり得るものの,それ以上に第2現金授受の存在を直接に裏付ける事実となるものではない。さらに,本件では,4月30日に被告人の塾の預金口座に8万6000円が入金されている事実は存在するものの(甲71)その入金時期及び金額に照らしてみても,Cが出金した,
現金との関連性は希薄といわざるを得ず,上記入金の事実をもって第2現金授受の裏付けとみることはできない。
検察官は,4月26日に被告人とCとの間でやり取りされたメールの文言は,Cによる資金援助を意味する思わせぶりな内容と2度にわたる現金供与を受けたことに対する被告人の感謝の言葉と解釈できる旨主張するが,同メールの文言もまた多義的に解釈し得るところであり,Cから被告人に対して将来的に現金供与を行う気持ちがあることを暗に伝えようとしたものと解釈する余地はあるとしても,第2現金授受があったことを裏付ける証左であるとの検察官の主張は根拠に乏しい推測というほかない。
さらに,検察官は,Iが4月25日の飲食店Gにおける会合中に離席したとのCの公判供述を裏付ける証拠として当時飲食店Gの店長代行であった甲の供述の存在を挙げるが,その供述内容は具体性に乏しく,およそCの公判供述の裏付けとなり得る証拠とはいえない。
2
Cの公判供述の内容が具体的かつ自然であること及び供述経過が自然で内容も一貫しているとの検察官の主張について
第2現金授受に関するCの公判供述は,全体として具体的かつ詳細なものと評価でき,一定の裏付けも存在し,弁護人からの反対尋問にも揺らいでおらず,供述内容に矛盾を含むなど明らかに不合理な内容も見受けられないことは検察官の主張するとおりである。
しかしながら,上記事情をもって,直ちに信用性が認められるものではない
ことは,第1現金授受に関する判断と同様であり,また,前記のとおり,第2現金授受の核心的な場面についても具体的で臨場感及び迫真性を伴う供述がなされているとはいえない上,個々に観察すれば不自然かつ不合理な点も見受けられる。
3
以上,詳述したように,第2現金授受に関しても,これを直接に基礎付ける客観的で決定的な証拠は存在せず,また,Cの公判供述については,前記説示した供述自体の問題点に加え,Cが第2現金授受の実行に当たりその前提となったと述べる第1現金授受の存在が認定できないこと,後述のとおり虚偽供述の動機も否定できないことなどに照らすと,Cが第2現金授受に関して当初から捜査機関に申告している点を考慮してもその信用性には疑念が残り,果たしてC自身において第2現金授受に関して自ら経験した事実を語っているのか疑問であって,第2現金授受の事実を一貫して否認している被告人供述や飲食店Gでの離席を否認するI供述を排斥することはできない。そうすると,結局,関係証拠を総合しても,被告人が飲食店Gの会合においてCから現金20万円を受領したと認めるには,なお合理的な疑いが残るというべきである。
第8
1
Cの虚偽供述の動機の可能性に関する当裁判所の判断
前記第7までに説示したところによれば,本件各現金授受については,その存在を認めることはできないところ,本件の経緯に鑑み,Cの虚偽供述の動機の可能性に関して当裁判所の判断を敷衍して示すこととする。

2
この点に関し,弁護人は,Cと検察官との間には,融資詐欺の起訴を最小限にとどめることの見返りとして,贈賄自白を維持し本件の公判における検察官立証に協力するとの明示又は黙示の約束という闇取引が存在した疑いがある旨主張するが,本件においてこのような闇取引の事実はうかがえない。しかしながら,Cが被告人に現金を渡した事実を初めて刑事に話したとする平成26年3月15日当時,Cは,株式会社Bの事業に関し,既に株式会社Z銀行に対する1000万円の融資詐欺等で起訴され,さらに,株式会社W銀行
に対する1100万円の融資詐欺で強制捜査を受けていた立場にあるところ,そのようなCにおいて,自分の量刑に大きな関心を抱くのは至極当然のことであり,自ら認めていた総額3億7850万円に及ぶ金融機関に対する融資詐欺に関して更なる追起訴が続けば,量刑上も不利になることも,Cにおいては当然に予想していたはずである。そうすると,そのようなCが,融資詐欺に関して,なるべく軽い処分,できれば執行猶予付き判決を受けたいとの願いから,捜査機関の関心を他の重大な事件に向けることにより融資詐欺に関するそれ以上の捜査の進展を止めたいと考えたり,C自身の刑事事件の情状を良くするために,捜査機関,特に検察官に迎合し,少なくともその意向に沿う行動に出ようと考えることは十分にあり得るところである。現に,Cは,平成26年9月頃,かつて愛知県α警察署に収容されていた当時に隣接する収容場所にいた庚に対して,被告人の弁護団から4000万円の融資詐欺について告発されたことを知って,期待していた執行猶予の可能性が遠のいたことを嘆く内容の手紙や,被告人の弁護人らがCを悪く言えば言うほどC自身の公判では有利に働く結果となるものと判断していることを伝える手紙を郵送しているが,これらの手紙の内容は,Cに上記意図があった事実をうかがわせるものといえる。そして,実際にも,同年3月26日に融資詐欺に関して2回目の起訴がなされた後は,被告人の弁護人らの告発を受けて同年10月20日に融資詐欺に関して3回目の起訴がなされるまでの間,融資詐欺に関する起訴はなされておらず,また,被告人の弁護人らによる告発を受けて,検察庁内でその対応をめぐり協議中である旨が検察官からCの弁護人に伝えられた事実があること(第3回公判期日のCの証人尋問中における関口真美検察官の発言)からも,当初起訴された2件の融資詐欺等の起訴事実以外の融資詐欺については,上記告発がなされるまでは具体的な起訴の予定がなかったものと考えられる。こうした状況は,結果的にみれば,上記告発がなされるまでは,Cにとって当初の期待に沿う有利な展開となっていたといえるところ,さらに同年4月頃,Cが,庚に対し,
被告人に対する現金供与の話を出せば融資詐欺の捜査が止まる旨の話をしている事実(庚の公判供述)もCの上記意図の存在を推認させるものといえる。なお,庚は,同月2日から同年6月13日までの間,恐喝又は覚せい剤事犯の容疑により愛知県α警察署においてCの収容場所と隣接する収容場所に収容されていたものであり,本件第7回公判期日においてCとの対質の方法により証人尋問を受けた者であるところ,検察官は,庚の上記供述は信用性がない旨主張し,また,Cも,公判廷において,庚とは留置場で出会った関係なので波風を立てないような付き合いを心掛けており,贈収賄事件に関する取調べ状況についてもあまり説明をすることはなかったなどと供述して,庚の供述内容を否定している。
しかしながら,Cとは隣接する収容場所にいる間は取調べ状況を含めて親しく話をする仲であったとの庚の供述内容は,Cとの間で交わされた会話等に関する具体的な供述内容や,庚が平成26年6月13日にδ拘置所に移送された後において庚とCとの間で交わされた手紙のやり取りの内容及び庚がCの依頼に応じてCが知ることができなかった贈収賄事件に関する新聞等の情報提供を密に手紙で伝えていた事実等に照らして信用できるのであって,庚とは親しい関係ではなかったとのCの公判供述は信用できない。また,庚の公判供述は,時間の経過に伴い記憶が乏しくなった部分はあるものの,具体的で不自然な点はなく,Cが庚に郵送した手紙の内容にも良く符合しており,その供述態度を見ても,そこには殊更に事実を作り上げようとする供述態度も窺われないし,庚は,贈収賄事件とは何らの利害関係もなく,証人としてあえて虚偽の供述を行う具体的動機も見当たらず,これらのことからも上記内容の庚の公判供述は信用できるのであって,検察官の主張は理由がない。
3
以上,詳述したところによれば,Cの虚偽供述の動機となりうる事情は存在し,かつ,その動機の存在を裏付ける事情も少なからずあることからすると,Cには,虚偽供述をする理由ないし動機が存在した可能性があったものと考え
られる。
第9

結論
以上によれば,本件各公訴事実については,争点①に関して本件各現金授受の事実を認めることはできない。そうすると,いずれも犯罪の証明がないことになるから,刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言渡しをする。
(求刑

懲役1年6月,30万円の追徴)

平成27年3月5日
名古屋地方裁判所刑事第6部
裁判長裁判官

鵜飼祐充
裁判官

伊藤大介
裁判官

柘植明子
トップに戻る

saiban.in