判例検索β > 平成13年(わ)第231号
逮捕監禁致死、死体遺棄、同損壊
事件番号平成13(わ)231
事件名逮捕監禁致死,死体遺棄,同損壊
裁判年月日平成14年4月16日
裁判所名・部秋田地方裁判所
裁判日:西暦2002-04-16
情報公開日2017-10-13 01:47:35
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(判決主文)
被告人Aを懲役7年に,被告人Bを懲役6年に処する
被告人両名に対し,未決勾留日数中各90日を,それぞれその刑に算入する。(罪となるべき事実)
第1 被告人両名は,共謀の上,平成13年9月18日午前8時ころ,山形県酒田市a町b番c号d貸家e号被告人ら方において,C(当時57歳)の身体を全裸のままロープ等で緊縛し,さらに同日午後2時ころ,同所において,同人を布団袋の中に入れた上,同日午後2時20分ころ,緊縛した同人を前記被告人ら方前に駐車中の普通乗用自動車後部荷台に乗せ,同所から同市f町g番地のh所在のA株式会社B酒田C店駐車場まで同車を運転し,上記布団袋詰めした同人を乗せたまま同車を同駐車場に駐車させ,引き続き,同人が死亡した同月19日午後までの間,同人を同車内から脱出不能な状態にして逮捕監禁し,よって,同日午後,同車内において,同人を熱中症により死亡させ
第2 被告人Aは,同月19日午後7時ころ,前記A株式会社B酒田C店駐車場から,前記Cの死体を前記普通乗用自動車に乗せて出発し,同月20日午前4時ころ,秋田県由利郡i町jk番li町牧草地まで運搬した上,同日午前4時30分ころ,同所において,同死体及び同車内に灯油を散布して火を放ち,同車もろとも同死体を焼燬し,もって,死体を遺棄,損壊し
たものである。
(法令の適用)
被告人両名の判示第1の所為はいずれも包括して刑法60条,221条,22 0条に,被告人Aの判示第2の所為は包括して同法190条にそれぞれ該当する ところ,判示第1の罪については同法10条により同法220条所定の刑と同法 205条所定の刑とを比較して重い傷害致死罪の刑に従っていずれも処断するこ ととし,被告人Aについて以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47 条本文,10条により重い判示第1の罪の刑に同法47条ただし書の範囲内で法 定の加重をし,各刑期の範囲内で,被告人Aを懲役7年に,被告人Bを懲役6年 にそれぞれ処し,被告人両名について同法21条を適用して未決勾留日数中各9 0日をそれぞれその刑に算入することとする。(量刑の理由)
第1 本件に至る経緯
被告人Aは,被害者Cの妻であり,被告人Bは,被害者と被告人A間の長男である。被告人Bは山形県酒田市内に居住していたが,前妻Dが夫婦関係の悩みを相談したことから,Dを通じて予知能力があると自称するE(35歳)と知り合い,同女の話にいたく共鳴を覚え,それに従って生活しようと思うようになった。一方,被害者と被告人Aは秋田県i町jにある自宅に居住していた。被告人B,Dそれに被害者には当時農協やサラ金からの多額の借金があり,平成12年春ころには,生活費を切りつめるため,被害者と被告人Aは酒田の被告人Bらの家族と同居するようになった。そうしているうちに,被告人AもEと接触するにより,被告
人B同様Eの話にいたく共鳴し,それに従って生活しようと思うようになった。被告人両名はEの影響を強く受けた結果,自分たちに経済観念がないため,このような借金苦に悩まされているのであるから,まず健全な経済観念を取り戻さなければならず,そのためには,自らが寸暇を惜しんで労働に励むことはもちろん,その収入を全てEに預け,その中から必要最小限の生活費を受領して生活すべきであると考えるに至った。このことは,被害者も一応受け入れる形となった。また,よそで稼働していた被害者と被告人Aの長女Fもそれに従うことになった。被告人両名は,それぞれいくつもの仕事を掛け持ちして昼夜稼働し,稼いだ収入をすべてEに渡した上で,同女から生活に最低限必要な金員のみを受け取って生活するようになった。なお,この間被告人B,D,Fは破産の申立をし,免責を得たが,被害者については,破産管財人費用の予納がなく,破産申立がなされなかった。したがって,被告人ら家族にとっては,平成12年1月被告人Bが交通事故を起こしたとうそを言って被害者名義で同人の親族を保証人として借りた500万円を初め,依然として1400万円余の借金が残り,i町の土地建物は抵当に入り,競売開始決定がなされていた。
平成13年8月,被害者はリストラによって稼働先を解雇されることになり,新しい仕事を探す一方で,失業保険受給の申し込みなどをしていた。ところが,被告人両名は,被害者が真面目に仕事を探さず,失業保険を受給しようしているとか浪費癖があるなどと決めつけ,被告人Aは,被害者に反省を迫る意味で,同年9月12日,同人に対し離婚する旨を告げた。被害者は,生活が余りに切りつめられ,タバコ代すら与えられず働きづめの生活であったことから妻の離婚の申込みを受け入れ,これで自由になれますなどと書き置きを残し,家を出た。被告人両名らは,被害者が自殺するのではないかと考え,同人を探し,翌9月13日朝に,自宅敷地内の軽トラックの中で寝ている被害者を発見した。被告人Bが,このような被害者に対し怒りを覚え,荷物も持たせないまま追い出した。同日,被告人Aは離婚届を提出したが,離婚は形式的なもので心情的にはいまだ夫婦であると思っていた。被害者は,徒歩で以前住んでいたi町jの家に辿り着き,自己の親族に当面の生活に必要な食品や現金を援助してもらった。その際,被害者は親族らに対し,

酒田の女の霊能者に渡したお金が3000万円にもなっていた。一生懸命働いても,全く借金は減っておらず,馬鹿臭い。

保証人に,一日でも早く借金を返したいから,出稼ぎに行って頑張る。

などと話した。 一方,被告人両名は,同月16日,被害者の親族から,被告人両名や被害者ら家族が酒田の霊能者に騙されているのではないかなどと電話で聞かされ,被害者がEの悪口を言っていると考え,自分らが強く信頼していたEを悪者にして,被害者が親族から金を借りようとしていると強い憤りを感じるとともに,このままではEにも迷惑が及びかねないので,被害者を酒田の自分たちのもとに連れてこなければならないと考えた。そして,被害者が抵抗した場合には縛ってでも酒田に連れ戻すため,あらかじめロープ等を準備し,被害者のいるi町jの家に行っ
た。被告人両名は,同所で,Fと落ち合い,3名で被害者を詰問したが,被害者は自己の非を認めなかった。そこで,被告人両名及びFは,被害者を酒田の家に連れて行くことに決め,協力して同人の手足をロープなどで緊縛して自動車に乗せ,酒田の家に連行した。
同月17日の未明,被告人両名は酒田の家に到着し,一旦被害者の緊縛を解いたが,同日午前3時ころ,再度,被害者をロープや布シーツをひも状に破ったものなどで緊縛した上,タオルで猿ぐつわをして,風呂場内に放置した。その後,同日午前に,被害者は,被告人Bによって強要され,耳に電話をあてがわれた状態で,自分の親族らに対し,泣きながらEの悪口を話した自分の発言を取り消す旨伝えた。その後,被告人Bは,同日午後,風呂場内にいた被害者を脅すため,やかんに入った熱湯を足もとにかけた。その後,被告人Aが,被害者の衣服が水や小便で汚れていたことから,ロープの間からはさみで切って,被害者を全裸にした。以後,被害者は全裸のままで手足を緊縛され,猿ぐつわをされた状態で,風呂場に放置された。その間,被害者は,被告人らがすすめる食事や水も殆どとらず,話しかけても満足な応答をしなかった。
翌18日,被告人両名は,被害者が自力でロープをほどいたという連絡を受け,職場から自宅に戻り,被害者をさらにきつくロープなどで縛り直した。被告人両名は,このまま自宅に被害者を置いておくと,いつまたロープをほどかれるか知れないので,自分たちの勤め先の近くに置くこととし,被害者を緊縛したまま布団袋に入れて,頭も隠してひもで縛り,自動車の後部に乗せて連れ出し,被告人Aの稼働先である大型スーパーの駐車場内にその自動車を放置した。被告人両名は,仕事の合間などに飲み物等を持参し,被害者の様子を確認していたが,被害者が一向に態度を改めないとして監禁を続けた。そのような監禁状態が続く中で,被害者は,16日夜から何も食べておらず衰弱し,同月19日午後,熱中症により死亡するに至った。
被告人Aは,同日午後7時ころ,被害者の様子を確認に来たところ,同人がすでに死亡していることに気付いた。被告人Aは,このことが明るみに出れば,自分ばかりではなく息子である被告人Bまでが罪に問われ,場合によっては事情を知っていたEにまで迷惑が及ぶなどと思い悩み,被告人Aは,自動車もろとも被害者の遺体を燃やし,自らも自殺しようと決意した。そこで,被告人Aは,被害者の遺体を積んだ自動車を運転して,以前被害者とともに山菜採りに訪れたことのある秋田県i町の牧草地まで赴き,翌20日午前4時ころ,自動車内に灯油を散布し,ライターで火をつけたティッシュペーパーを投げ入れ,自動車ごと被害者の遺体を焼燬した。しかし,被告人Aは自殺することができなくなり,そのまま徒歩で同所を離れた。
第2 量刑にあたって特に考慮した事情
本件は,上述の経緯で,被告人両名が,被告人Aにとっては元の夫(なお心情的には真実の夫と思っていた),被告人Bにとっては父親である被害者を,自宅でロ
ープなどで手足を縛ったり,口に猿ぐつわをしたりして逮捕監禁し,その後,布団袋に入れて自動車の後部座席に乗せ,よその駐車場に放置し,被害者を熱中症で死亡させたという逮捕監禁致死の事案及び被害者が死亡したことを知った被告人Aが,被害者の遺体に灯油をかけて車ごと焼燬したという死体遺棄・損壊の事案である。
被告人両名は,当公判廷において,専ら被害者が自殺するのを防ぐために緊縛していたものであり,やむを得なかったかのように供述する。しかしながら,被告人Bが供述するように,被害者が自ら灯油や熱湯をかぶったということは,仮にそのような事実があったとしても,自殺する方法としては甚だ不可解であり,その真意には疑問があり,むしろ,自分の受けている理不尽な仕打ちに対する抵抗とも考えられる。確かに被害者は,本件の発生する数か月前,自分の兄弟らに借金のため自殺することをほのめかす言動をとったことがうかがわれるが,自分に生命保険をかけた形跡はなく,他の自動車に故意に衝突して,その自動車にかかっている保険金を取得するという趣旨のようであって,極めて実現の難しい方法であり,はたして被害者が真剣にそのことを考えていたか疑問であり,逆に被害者は職業安定所で仕事を探したり,東京方面に住む兄弟らに出稼ぎにつき打診していたのであって,労働意欲があったことがうかがわれる。仮に被害者に自殺企画があるなら,象潟町関の家でひとりになった時実行できたのに,全くその形跡はない。このようなことから,被害者が真実自殺する意思をもっていたとは考えられない。これらのことから被告人両名の前記供述は信用できない。仮に一歩譲って,被告人両名が被害者が自殺すると誤解したとしても,本件監禁のような虐待行為が何ら正当化されるものではないことは明らかであるから,被告人両名の誤解はそもそも何らの評価に値しないものというべきである。また,被告人両名は,被害者がパチンコなどで多額の借金をしたとその行状の悪さを挙げているが,それは,被告人ら家族の負担していた借金のごく一部であり,被告人両名やDが負担していた借金より少なく,特に前記のように被告人Bが被害者名義を用いて農協から借りた500万円は,同被告人でさえ,元妻Dに交付したというだけで,何に使われたか明確にし得ないのであり,また,Dに浪費癖があって借金を増やしたことは同被告人も認めている。このことから,被告人Bは,Dの借金の責任も合わせて負うべきであり,そうすると被告人Bには被害者の行状の悪さを主張する資格はなく,被告人ら家族の借金状況と被害者の行状とを結びつけて評価するのは当を得ない。また,被害者は,リストラにあった後も,他の職場の稼働時間を増やしてもらったり,職業安定所に仕事のあっせんを依頼していたものであって,特に怠惰であったとはいえず,被害者に本件を誘発した特段の落ち度は認められない。
このようなことから,被告人両名が本件犯行を起こすに至った動機は,被告人両名が前記のEなる霊能力者といわれる人物の話を信奉する余り,借金地獄から逃れるためと称して,Eに全収入を預け,同女から生活費として必要最小限の現金支給を受けるという生活設計を立てたのに対し,被害者が反発したため,同人を力ず
くで押さえつけようとしたことにあるというべきである。被告人両名のこのような考え方は,一般の常識とはおよそかけ離れたもので,到底このようなことで被告人らの経済観念が健全なものに戻り,借金が減少していくとは考えられない。被告人両名がEに預けた金員はEが運用して後に経済的利益をもたらすということを予定したものではなく,むしろEに対する寄進にも等しく,Eが自由に利用することができるとされ,現に数百万円を自己のため費消したことを同人が認めている。このようなことでは,自分たちの収益が全てEに吸い上げられるに等しく,借金の返済はおぼつかなく,i町の実家の抵当を解除してこれを取り戻すことができず,いつまでも保証人になってくれた親族らに迷惑が及ぶことになるのは明らかである。被害者がこのことに強く心を痛め,親族に対し申し訳ないと思うのは当然である。だから,このことを親族らに語り,結局Eの考えには同調できないと考えたのはごく自然である。それにもかかわらず,被告人両名が,このことに異常なまでに神経をとがらせたのは,とりもなおさず,Eの考えを狂信的に信奉する余り,周囲の状況に対する常識的な判断を欠くに至ったからにほかならない。この結果,被害者が,ほぼ3日間,手足を縛られたり,猿ぐつわをかませられたりして,ほとんど食事もとらせられず,トイレにも行かせられず,布団袋詰めにされ,高温の車内に放置されて熱中症により死亡したのであるから,まことに残虐というべく,その犯行態様は極めて非道かつ悪質というほかない。自分の元妻や大学まで出してやった長男によって,このような仕打ちを受けて死んでいった被害者の心情は察するに余りある。 被告人Bは,被害者の逮捕監禁について,終始主導的役割を果たしており,その責任は大きい。また,被告人Aも,被告人Bを止めるどころか,一緒になって夫である被害者を緊縛し,さらに,被害者の死亡後,罪証隠滅を図るために,車ごと山中で死体を焼燬し,そのまま放置したものであって,やはりその責任は重大である。 これらの事情に加えて,被告人両名が,当公判廷においても,被害者の方に落ち度があるかの供述をするなど,いまだに自己の行為を受け止め,真摯に反省しているとは言い難いことを併せ考えると,いずれの刑事責任も極めて重大であると言わざるを得ない。
以上の諸点に照らせば,被告人両名には,これまで前科前歴がないこと,Eの心理的影響下にあったことや当時被告人両名とも連日長時間の労働で疲れていたことなどの事情を考慮したとしても,被告人両名をそれぞれ主文掲記の刑に処するのが相当である。
よって,主文のとおり判決する。
平成14年3月20日
秋田地方裁判所刑事部
裁判長裁判官

穴 澤 成 巳

裁判官 菊 池 絵 理

裁判官

剱 持 亮

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