判例検索β > 平成14年(わ)第57号
殺人、死体遺棄被告事件
事件番号平成14(わ)57
事件名殺人,死体遺棄被告事件
裁判年月日平成14年10月28日
裁判所名・部山形地方裁判所
裁判日:西暦2002-10-28
情報公開日2017-10-13 01:45:55
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主 文
被告人を懲役8年に処する
未決勾留日数中150日をその刑に算入する。
押収してある馬の置物1個(平成14年押第15号の1)を
没収する。
理 由
(犯行に至る経緯)
被告人は,昭和55年ころ,父親が多額の債務を負ったことで,その取り立てから逃れるために,父母と3人で山形県西置賜郡a町を出て,新潟市で生活するなどした上,水戸市に転居して清掃員として働くうち,そこで知り合った男性との間の子供を妊娠し,1人で育てる決意をして,平成2年11月19日,娘(A)を出産した。平成5年になって,被告人は,父母及び娘ともども山形市に転居することになり,同年11月からは,甲でパートタイムの調理補助員として働くようになり,そこで甲洋食担当部長であったBと知り合った。被告人は,平成6年6月ころから,Bと交際をするようになり,Bにそれほど愛情を感じてはいなかったものの,Bの料理人としての社会的地位の高さなどから娘にとって申し分のない父親になると思い,娘の将来のことなどをも考えて交際を続け,同年12月14日,被告人とBは結婚し,娘はBの養女となった。被告人は,婚姻後,Bから月5万円で生活するように言われ,努力してみたが,およそ渡される月5万円の金員では生活できなかったものの,結婚前に相当な資産を有するかのように嘘偽りの事実をBに話していたこともあって,Bに生活費の増額を強く要求することもできず,姉や叔父から金員を借りたり,母親の年金をBとの生活費に充てたりした末,平成7年4月ころからは,消費者金融にも手を出さざるを得なくなった。他方,被告人は,結婚後ほどなくして,Bからしばしば暴力を振るわれたり,暴言を吐かれたりするようになった。さらに,平成7年から同8年にかけて,被告人は,妊娠したと誤解してその旨をBに伝えてしまい,その誤りをBに打ち明けられないまま時機を失し,服の下にバスタオルやクッションを詰めて妊娠を装うことをしてしまったことから,以来,B及びBの親族の信用を失ってしまった。
被告人は,もともとBに対する愛情も薄かった上,生活費も十分に与えられず,暴力や暴言を吐かれるなどしていたことから,次第にBに対する憎悪の念を抱くようになり,平成13年夏ころからは,Bが病気や事故などで死んでくれたらいいなどとも考えるようになったが,上記甲の取締役兼総料理長にまで昇進したBの妻という社会的地位に対する執着,社会的地位のある父親を失う娘のことなどを考えると離婚などはできなかった。これに対し,Bも,妊娠を偽装したりするなど嘘の多い被告人に対する信頼などはなかったものの世間体や自己の社会的信用への影響なども考え,被告人との夫婦としての生活を続けていた。
このような中,被告人は,平成13年11月30日午前零時30分ころ,自宅1階茶の間において,Bから娘の成長を尋ねられ,

お前はもう役に立たないから,Aに代わりをやってもらう。

などと申し向けられたことで,Bが大切な娘を性欲の対象にしようとしていると強い衝撃を受けた。被告人は,Bにマッサージを命じられてその場にうつ伏せになったBの身体をもみほぐしながらBの上記発言について自問自答するうち,Bに対する強い嫌悪感や怒りと憎しみの感情を押さえられなくなり,同室内に置かれていた馬の置物を目にして,咄嗟にBを殺害することを決意し,立ち上がって上記馬の置物を取りに行った。
(罪となるべき事実)
被告人は
第1 平成13年11月30日午前1時ころ,山形市bc丁目d番e号所在の当時の自宅1階茶の間において,夫であるBに対し,殺意を
もって,くつろいでうつ伏せに横たわっている同人の背中を跨いで立ち,その後頭部目掛けて重量約6.5キログラムの金属製の馬の置物(平成14年押第15号の1)を多数回にわたって振り下ろして殴打し,よって,そのころ,同所において,同人を外傷性脳障害により死亡させて殺害し
第2 上記犯行の発覚を免れるため,同日午前3時ころ,Bの死体を,上記自宅1階南側6畳和室に運び入れて同室押入内に隠匿して遺棄し
第3 上記自宅から退去せざるをえなくなり,上記第2の犯行で隠匿したBの死体をさらに隠匿する必要が生じたことから,平成14年2月27日午後8時30分ころ,同所において,上記死体を布製布団袋及び青色ビニールシート等で梱包した上,同月28日午前11時ころ,情を知らない乙株式会社従業員Cらを介し,上記死体を,同所から山形市fg丁目h番i号丙j号室の北側6畳和室に運び入れて同室押入内に隠匿して遺棄したものである。
(法令の適用)
被告人の判示第1の所為は刑法199条に,判示第2及び第3の各所為はいずれも同法190条にそれぞれ該当するところ,判示第1の罪について所定刑中有期懲役刑を選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により最も重い判示第1の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役8年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中150日をその刑に算入することとし,押収してある馬の置物1個(平成14年押第15号の1)は判示殺人の用に供したもので被告人以外の者に属しないから,同法19条1項2号,2項本文を適用してこれを没収し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
1 本件は,被告人が,夫である被害者を撲殺したという殺人(判示第1)及び,その夫の死体を自宅押入に隠匿して遺棄し(判示第2),その後転居の際,その死体も運び出してさらに引っ越し先に隠匿して遺棄した(判示第3)という殺人及び2件の死体遺棄の各事案である。2 第1の犯行は,娘の将来のことなどを考えて被害者との結婚生活を忍従してきた被告人が,被害者が娘を性欲の対象にしようとしていると衝撃を受け,被害者に対する憎悪の念を押さえられず,同人を金属製の置物で殴打して殺害したものであるところ,その動機については,そもそも被害者が小学校5年生の娘を本当に性欲の対象にしようとしていたかどうかその真偽については疑問が残る上,仮にそれが真実であったとしても,被告人において他に取りうる手段もあったことを考えるとあまりに短絡的であったといわざるをえず,被告人が犯した罪を正当化できるものではないことは明らかであって,その動機に酌むべき点はない。さらに,その態様をみると,くつろいでうつ伏せになり被告人に背中をみせている無防備な状態の被害者に対し,その背後から重さ約6.5キログラムもある金属製の馬の置物を両手で持ち,その頭部目掛けて多数回にわたり殴打するという残虐かつ執拗な犯行であって,被害者が受けた恐怖,苦痛は想像するに余りあるものがある。
また,第2,第3の犯行は,第1の犯行の発覚を免れるために,被害者の遺体を丁重に葬ろうとすることなく,およそ3か月にわたり自宅押入内に隠匿した上,さらに,自宅を退去する必要に迫られ,情を知らない引越業者にその遺体を運ばせるなどして,改めてこれを転居先の押入内に隠匿したものであって,その動機にも酌量の余地はない。そして,被害者殺害後,被告人は,甲関係者らに対して,被害者が女
性と出ていったきり戻ってこないなどとその人格をおとしめるような理由をもって自らの犯行を隠蔽したり,被害者の遺族が来訪した際には,被害者が突然出奔したかのように振る舞い,その遺体が隠された家で平然と会話を交わすなどしており,犯行後の犯情も悪質である。 このように,被害者は,52歳という働き盛りの年齢で命を奪われたもので,その無念さは想像に難くなく,被害者の母親や兄弟などの遺族らは,第1の犯行後の被告人の対応も含めて,その衝撃や怒りの念が強く,被告人に対し厳罰を求めるなど,その被害感情は非常に厳しい。
以上からすれば,被告人の刑事責任は重いものといわざるをえない。3 他方,第1の犯行は,被害者の不用意な発言がきっかけとなった衝動的な犯行であるが,これを誘発した原因として,被害者において,被告人に家計を維持しうるだけの生活費を渡さなかったことや暴言や暴力等により被告人の人格を軽視するなど,日常的に被告人に憤懣の念を強く抱かせていたことが背景にあり,被害者にも責められるべき点があったことも否定しがたいこと,被告人は,捜査・公判を通じて本件各犯行を認め,今後は一生かけて被害者の供養をしたい旨述べるなど反省悔悟の情を示していること,被告人による保護を必要とする一人娘が被告人の帰りを待っていること,被告人には前科前歴がないこと,その他弁護人主張の被告人のために酌むべき事情も認められる。4 そこで,これらの諸事情を総合考慮し,被告人につき,主文のとおりの刑を定めることが相当と判断した。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑 懲役10年 押収してある馬の置物1個の没収)
平成14年10月28日
山形地方裁判所刑事部
裁判長裁判官 木 下 徹 信
裁判官 小 林 直 樹
裁判官 三 浦 隆 昭

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