判例検索β > 平成14年(わ)第3号
殺人、死体遺棄被告
事件番号平成14(わ)3
事件名殺人,死体遺棄被告
裁判年月日平成14年7月19日
裁判所名・部福島地方裁判所
裁判日:西暦2002-07-19
情報公開日2017-10-13 01:46:47
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主 文
被告人Aを懲役12年に,被告人Bを懲役9年に各処する。 被告人両名に対し,未決勾留日数中各130日を,それぞれその刑に算入する。
被告人両名から,押収してある金属バット1本(平成14年押第9号の1)を没収する。
理 由
(犯行に至る経緯)
被告人Bは,埼玉県大里郡C村(現在の埼玉県熊谷市内)で出生し,尋常小学校を卒業した後,実家が営む農業の手伝いをし,昭和19年1月,前妻を亡くしたDと婚姻し,埼玉県行田市内において夫と共に農業を営み,同人との間に長女E,長男F,二女G,二男Hをもうけたが,昭和34年に交通事故で夫を亡くしてから後は一人で農業に従事しながら,夫の連れ子を含めた5人の子供を育ててきた。本件の被害者Fは,昭和22年2月8目,被告人Bと夫Dの長男として出生し,地元の中学校を卒業したが,その後,家業の農業を継ぐわけでもなく,また定職に就くこともなく,素行が不良で金遣いが荒く,刑事事件を起こしては刑務所への入出所を繰り返し,出所すると被告人Bに金を無心したり,酔余暴力を振るうようになった。このような中で,昭和49年ころ,被告人Bの亡義父(亡夫Dの亡父)名義となっていた土地が上越新幹線建設用地として買収されることとなり,被告人Bらはその土地の所有名義を変更する必要に迫られた。被告人Bはこれまでの慣習に従えば,I家の長男であるFが相続することになると思ったものの,上記のとおり素行の悪いFをI家の跡取りとするわけにはいかないと考え,当時服役中であったFに無断で,その土地の大部分を二男Hの名義に変更した。Fは,出所後,上記名義変更の事実を知るや俺に内緒で跡取りである俺の財産を横取りしたとして怒り,被告人Bに対し金を無心し,被告人Bは心ならずもこれに応じ金を渡すなどしていた。このようにして,Fは出所後も相変わらず仕事に就かず酒を飲み続けては金を無心するとともにその金額を増額するようになり,被告人BがFの要求を拒むと顔面を殴打するなどの暴行に及んだ。被告人Bは,Fの暴力を怖れ心ならずも金を渡していたが,Fは,平成12年7月ころ,被告人Bの自宅窓ガラスを壊すなどしたほか,同年9月ごろには鍬の柄で被告人Bの頭を殴打して負傷させるなどし,被告人Bは,娘の家に逃げ込むようになるなど,このようなFに対する対応に苦慮していた。Fは,上記のとおり,これまで被告人Bから相当額の金員を受け取っていたにもかかわらず,平成12年12月ごろ,さらに被告人Bに対し,家を出ていくから3000万円を渡すよう要求した。被告人BはFに出ていってもらいたいとの一心でその要求に応じることとし,被告人B所有名義の土地の一部を売却するなどして現金を工面し,同年暮れから翌13年正月にかけてFに3000万円を渡した。ところが,Fは,わずか数日間でこの3000万円を使い果たし,平成13年正月過ぎには約束を破り,被告人Bの自宅に戻ってきた。Fは,この後も,被告人Bに対し金を無心し,被告人Bがこれに応じないと暴力を振るったりすることを繰り返した。被告人Bは,このままでは,自分自身の身が持たないしI家の財産がFに食いつぶされてしまうのではないかと危惧するようになったが,被告人Bの二男Hは頼りにならず,娘たちは他家へ嫁いでおり,ほかに頼るべき親戚もいなかったことから,

実の子とはいえFなどいない方がましだ。Fさえいなかったら,死んでくれたら。

などとFを亡き者にしたいという漠然とした思いを抱くまでになった。 一方,被告人Aは,福島県喜多方市J町内で出生し,昭和59年3月,地元の県立高校を卒業した後,茨城県内や埼玉県内で工員,トラック運転手などとして稼働していたが,平成13年3月ころから,定職に就いていない。被告人Aは,平成10年か11年ころ,遊びに出かけた埼玉県行田市内の麻雀店において,Hと知り合い,同人との交遊を続けていく中,被告人Bの自宅に出入りするようになった。被告人Aは,平成13年1月ころには,I家が同市内では有数の資産家であったものの,長男のFが服役中に土地の所有名義を二男のH名義にしたことから,Fが被告人Bに金員を要求するようになり,平成12年暮れころに被告人BがFに3000万円を渡し一旦は被告人Bの家から出ていったものの,数日で被告人B宅に戻ってきて,酔余,被告人Bに金員を要求し,応じないと被告人Bに暴力を振るったり,物を壊したりしているとのI家の内情やFの行状を知るに至った。被告人Aは,当時いわゆるサラ金業者等への借金が約280万円ほどあったことから,3000万円もの金を一度に支払う資力のあるI家であれば,適当な口実を作れば大金を引き出せるのではないかと思い至り,その方法を考えるようになった。被告人Aは,被告人
Bが常日ごろFの素行に悩み,

あんなせがれは自分のせがれではない。どこかに行ってしまって戻ってこなければいい。

などと愚痴をこぼすのを聞くに及び,平成13年1月中旬ごろ,Fの素行不良に手を焼き,

Fさえいなかったら,死んでくれたら。

などとFを亡き者にしたいと思い詰めている被告人Bの姿を見て,被告人Bに報酬の支払いと引換えにF殺害の話をもちかけた。被告人Bは,Fを亡き者にしたいと考えていた折りに被告人AからF殺害の話をもちかけられたものの,Fを殺害したとしてもその死体が発見されれば,Fの仕打ちに耐えかねて被告人BがFを殺害したとの嫌疑をかけられると危惧し,F殺害を決めかねていた。しかし,被告人Bは,被告人Aから,Fを殺害した後は,その死体を薬で溶かしてわからなくするからF殺害が発覚することはない旨告げられるや,被告人Aに依頼してFを殺害してもらえばFの暴力からも逃れられるし,FにI家の財産を食いつぶされることもないと考えるに至り,被告人Aの上記申し出を受けてF殺害を決意し,同年2月上旬ころ,被告人Aに対し,1000万円の報酬を支払う約束でF殺害を依頼した。
被告人Bは,被告人Aに対し,F殺害に対する報酬の前払金として同年3月上旬ごろまでの間に現金300万円を手渡した。被告人Aは,同年4月ころ,被告人Bとの約束に基づきF殺害を実行することとし,泥酔させたFを人気のない場所まで連れ出し,絞殺しようと計画し,これを実行に移そうとしたが,Fが飲食店で泥酔したあげく,他の者と喧嘩をしたため,発覚をおそれF殺害を一時断念した。しかし,その後も,被告人AはF殺害の実行をほのめかして被告人Bから報酬の前払金を受領し続け,同年7月には報酬総額が950万円に減縮されたが,同年2月上旬から9月ころまでの間に多数回にわたり多額の現金を受領し,自らの借金返済や旅行,遊興費などに費消した。ところが,同年9月ころになると,被告人Bは,F殺害を実行しない被告人Aにしびれを切らし,被告人Aから金員支払いの要求があってもFを殺害しない限り支払いに応じないようになった。被告人Aは,同年10月上旬ころ,そのころまでに被告人Bから受領したF殺害の報酬前払金を使い果たしてしまった。そこで,被告人Aは,さらに残りの報酬を手に入れるために,F殺害を実行するしかないと考え,同月22日,Fとの間で翌23日に一緒に酒を飲みに行く約束を取り付けた上,翌23日昼ころ,被告人Bの自宅へ赴き,被告人Bに対し,

今晩やるよ。

と言って同日夜にF殺害を実行する旨告げ,被告人Bもこれを了承し,遅くともここにおいて,被告人Aと被告人BはF殺害及び死体遺棄の共謀を遂げた。被告人Aは,F殺害の方法として,金属バットで頭部を一撃して殺害しようと考え,あらかじめ犯行に使用する自動車に金属バットを積み込んだ上,同日午後7時30分ころ被告人B方を訪ねて行き,Fを誘い出して自動車で出発し,被告人Bがこれを見送った。被告人Aは,その後Fを居酒屋などに連れて行き酒を飲ませて酔わせた後,

俺の女の家に行って飲もう。

などと言って口実を作って本件現場まで連れ出し,同日午後11時30分ころ,同所に着いた後,Fが自動車を降りて歩いていくのを,その背後から金属バットを持って近づいていった。(罪となるべき事実)
被告人両名は,共謀の上,
第1 F(当時54歳)を殺害しようと企て,平成13年10月23日午後11時30分ころ,埼玉県児玉郡K町L番先路上において,被告人Aが,Fの頭部を所携の金属バットで数回殴打し,よって,そのころ,同所において,同人を頭蓋骨骨折,硬膜下出血等による外傷性脳障害により死亡させて殺害し,
第2 同月24日午前9時ころ,福島県喜多方市M町N番地内の山林において,被告人Aが同所に穴を掘ってFの死体を土中に埋め,もって,死体を遺棄したものである。
(量刑の理由)
本件は,被告人両名が共謀の上,被告人Bの長男Fを殺害し,その死体を遺棄した殺人及び死体遺棄の事犯である。被告人Bは,犯行に至る経緯で記載したとおり,Fから金を無心され,これを拒むと暴力を振るわれたり,被告人B宅の家財を壊されるなどされたことからやむなくFの言うとおり金を渡していたが,Fの要求がエスカレートしていくにつれてI家の財産が食いつぶされてしまうとおそれ,Fを亡き者にしたいとの思いを抱くようになっていたところへ,被告人AからF殺害をもちかけられるや,当初は犯行が発覚して自らが逮捕されることをおそれF殺害の話に応じるのを躊踏したが,被告人AからF殺害が発覚せず逮捕されることはない旨告げられるや本件F殺害の犯行を決意するに至ったもので,その動機は身勝手で短絡的というほかない。被告人Bは,確かに,Fを亡き者にしたいとの思いを抱
くに至った経緯にはFの行状に問題がなかったとはいえないことに照らし同情すべきものがあることを否定できないものの,被告人Aに対し1000万円もの高額な報酬の支払いを約束して被告人AにF殺害を依頼した点については酌むべきものはない。しかも,被告人Bは,F殺害の実行をすべて被告人Aに分担させたもので,いわば金により自らが手を下すことなくFを亡き者にするとの結果を得ようとしたといってよく,F殺害を被告人Aに依頼するに至った経緯も自己保身的なものであって酌むべきものはなく,もとより,被告人Bの本件犯行を正当化することはできない。
被告人Aは,資産家であった被告人Bの家庭内の上記事情を知るに至るや被告人Bの意向を察し,報酬を得る目的から被告人BにF殺害の話をもちかけ,被告人Bに1000万円の報酬支払いを約束させた上,被告人Bの依頼を引き出して共謀の上,本件殺人死体遺棄に及んだものである。被告人Aは,現に本件各犯行の報酬として高額な金を被告人Bから受領し,その金員は自らの借金の返済や旅行,遊興費などに費消したもので,金のためなら人を殺害することをも辞さないという利欲的動機には酌むべきものは全くない。
被告人Aは,F殺害に当たってあらかじめ殺害場所,死体を遺棄する場所等の下見を行った上で,Fを飲酒に誘い気を許したFを殺害場所まで誘い出して殺害に及んだものであり,その犯行は極めて計画的で悪質である。被告人Aは,無防備かつ無抵抗となったFに対し,その隙を見て,背後から所携の金属バットでFの後頭部などを強打して転倒させ,Fが命乞いをしたのにこれを無視して,その頭部に対する殴打行為を続けたあげく同人を殺害したほか,さらに,犯行の発覚を防ぐため,その死体を被害者と接点のない遠隔地の福島県喜多方市内の山林に埋めたもので,その犯行態様は極めて危険かつ残虐なものというほかなく,死体遺棄の態様も悪質である。被害者に上記のような素行不良な点があったとはいえ,被害者がその生命まで断たれなければならない事情はとうてい認められず,本件結果は極めて重大である。本件犯行は,実母である被告人Bが,金で雇った他人である被告人Aに実の息子・長男を殺害させたものであり,本件犯行が社会に与えた衝撃は計り知れない。
被告人Aは,上記のとおり,自らはFの行状に格別困っていたわけではなく,報酬を得る目的から本件を敢行するに至ったもので,F殺害を渋る被告人Bを説得し,被告人BにF殺害を決意させ,1000万円もの高額な報酬の支払いを約束させた上,本件各犯行を自ら単独で実行して報酬を得ており,本件各犯行の直接の実行者であり主導者というべき立場にあり,その責任は極めて重い。 被告人Bは,被告人Aに対し1000万円もの高額な報酬支払いを約束して被告人AにF殺害を依頼し,F殺害をなかなか実行しようとしない被告人Aに対し,途中からは,F殺害を実行しなければ残りの報酬支払いを拒絶する旨告げてF殺害を執拗に催促しているほか,さらに,F殺害後,被告人AにFの死体を被告人B方まで運ばせてFの死亡を自ら確認した上,長男Fに対する憐欄の情を見せることなく,犯行の発覚を惧れて徹底してFの死体の処分を被告人Aに促しているのであって,自らF殺害の実行行為に直接関与しなかったとはいえ,被告人AにF殺害及び死体遺棄を実行する動機を与えた者として重要な役割を担っている。 しかしながら,被告人Aは,被告人BがFから暴力を振るわれていたことを知り,少なからず同情したことからF殺害を被告人Bにもちかけた面を否定することができないこと,被告人Aに前科がなく,本件各犯行を認め反省の情を示していること,被告人Bは,Fからたびたび金員を要求されこれを拒むと暴力を振るわれたり家財を壊されるなどの被害に遭っていたこと,女手一つで守ってきたI家の資産をFに奪われると思い悩み,思い余って本件に及んだこと,前科がなく,84歳という高齢であること,本件各犯行を認めていることなど,被告人両名のために有利に斟酌すべき情状も認められる。したがって,これらの諸点も十分考慮し,主文掲記の刑に処するのが相当であると判断した。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑 被告人A 懲役15年,被告人B 懲役12年,押収してある金属バット1本の没収)
平成14年7月19日
福島地方裁判所刑事部
裁判長裁判官 原 啓

裁判官 本 間 陽 子
裁判官 久 保 孝 二

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