判例検索β > 平成22年(行ウ)第462号等
鉄道運賃変更命令等請求事件
事件番号平成22(行ウ)462等
事件名鉄道運賃変更命令等請求事件
裁判年月日平成25年3月26日
法廷名東京地方裁判所
判示事項1 鉄道事業法16条1項(平成11年法律第49号による改正前のものを含む)に基づく鉄道旅客運賃認可処分の取消し又は同処分の無効確認及び同法16条5項1号に基づく前記運賃の変更命令又は同法23条1項1号に基づく前記運賃上限の変更命令の義務付けを求める各訴えにつき,居住地から職場や学校等への日々の通勤や通学等の手段として反復継続して日常的に前記鉄道事業に係る鉄道を利用している者らの原告適格が肯定された事例
2 居住地から職場や学校等への日々の通勤や通学等の手段として反復継続して日常的に鉄道を利用している者らがした,鉄道事業法16条5項1号に基づく旅客運賃の変更命令又は同法23条1項1号に基づく旅客運賃上限の変更命令の義務付けを求める訴えが,行政事件訴訟法37条の2第1項にいう「重大な損害を生ずるおそれ」の要件を満たし適法とされた事例
3 鉄道運賃変更認可処分の無効確認請求が,同処分に鉄道事業法(平成11年法律第49号による改正前)16条2項1号又は2号の規定する認可要件に違反する違法があるとは認められないとして,棄却された事例
裁判要旨1 鉄道事業法16条1項(平成11年法律第49号による改正前のものを含む)に基づく鉄道旅客運賃認可処分の取消し又は同処分の無効確認及び同法16条5項1号に基づく前記運賃の変更命令又は同法23条1項1号に基づく前記運賃上限の変更命令の各義務付けを求める各訴えにつき,居住地から職場や学校等への日々の通勤や通学等の手段として反復継続して日常的に前記鉄道事業に係る鉄道を利用している者については,違法な旅客運賃認可処分が行われ,違法に高額な旅客運賃設定がされれば,経済的負担能力いかんによっては当該鉄道を利用することが困難になり,日常生活の基盤を揺るがすような重大な損害が生じかねないところ,「利用者の利益の保護」を重要な理念として掲げ,その具体的な確保のための条項を置いている鉄道事業法が,このような重大な損害を受けるおそれがある鉄道利用者について,旅客運賃認可処分の違法性を争うことを許さず,これを甘受すべきことを強いているとは考えられないから,前記鉄道事業法16条1項,同法16条5項1号及び同法23条1項1号は,このような鉄道利用者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含んでいると解するのが相当であるとして,前記の者らの原告適格を肯定した事例
2 居住地から職場や学校等への日々の通勤や通学等の手段として反復継続して日常的に鉄道を利用している者らがした,鉄道事業法16条5項1号に基づく旅客運賃の変更命令又は同法23条1項1号に基づく旅客運賃上限の変更命令の義務付けを求める訴えにつき,違法に高額な旅客運賃が設定された場合,前記の者らの経済的負担能力いかんによっては,同鉄道を日常的に利用することが困難になり,職場や学校等に日々通勤や通学等すること自体が不可能になったり,住居をより職場や学校の近くに移転せざるを得なくなったりすることになりかねず,仕事や居住場所などといった日常生活の基盤を揺るがすような損害が生じかねないのであって,このような損害については,事後的な金銭賠償等により救済することが容易ではないから,行政事件訴訟法37条の2第1項にいう「重大な損害を生ずるおそれ」があると認められるとして,前記訴えを適法とした事例
3 近距離の利用者が遠距離の利用者に比べて不当に割高の旅客運賃を負担することになっていることなどを理由としてされた鉄道運賃変更認可処分の無効確認請求につき,鉄道事業法(平成11年法律第49号による改正前)16条2項2号にいう「特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするもの」とは,前記旅客運賃が合理的かつ正当な理由なく,特定の旅客を個別的に優遇又は冷遇するもの,例えば,鉄道事業者が旅客の信条や宗教等によって異なる旅客運賃を適用する場合を指すものと解するのが相当であるところ,前記旅客運賃は全ての旅客に同様に適用されるものであり,特定の旅客によって異なるものではないから「特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするもの」には該当するということはできず,また,旅客運賃設定又は変更の認可に当たっては,あくまで当該旅客運賃を設定する路線全体をみて,同項1号にいう「能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利潤を含むもの」であるか否かを審査することが要求されているものというべきであって,前記旅客運賃が遠距離逓減制となっていることをもって「能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利潤を含むもの」に該当しないということはできないから,前記処分に同法16条2項1号又は2号の規定する認可要件に違反する違法があるとは認められないとして,前記請求が棄却された事例
裁判日:西暦2013-03-26
情報公開日2017-10-19 12:24:37
裁判所の詳細 / 戻る / PDF版
平成25年3月26日判決言渡
平成22年(行ウ)第462号

鉄道運賃変更命令等請求事件

平成24年(行ウ)第384号

追加的併合申立事件

主文
1
本件訴えのうち,以下の各部分をいずれも却下する。
(1)

国土交通大臣が平成22年2月19日付けでP1株式会社に対してした
同社とP2株式会社の間の鉄道線路使用条件の設定を認可する旨の処分の取消しを求める部分
(2)

国土交通大臣が平成22年2月19日付けでP3株式会社に対してした
同社とP2株式会社の間の鉄道線路使用条件の設定を認可する旨の処分の取消しを求める部分
(3)

国土交通大臣が鉄道事業法23条1項4号に基づきP2株式会社及びP
1株式会社に対して上記(1)記載の鉄道線路使用条件の設定を変更するよう命じることの義務付けを求める部分
(4)

運輸大臣が平成10年9月4日付けでP1株式会社に対してした旅客運
賃変更認可処分の取消しを求める部分
(5)

国土交通大臣が平成22年2月19日付けでP2株式会社に対してした
旅客運賃上限設定認可処分の取消しを求める部分
(6)

国土交通大臣が鉄道事業法16条5項1号及び同法23条1項1号に基
づきP2株式会社に対して旅客運賃上限等を変更するよう命じることの義務付けを求める部分
2
原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

3
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由

第1
1
請求
国土交通大臣が平成22年2月19日付けでP1株式会社に対してした同社
とP2株式会社の間の鉄道線路使用条件の設定を認可する旨の処分を取り消す(以下本件請求①という。)。
2
国土交通大臣が平成22年2月19日付けでP3株式会社に対してした同社とP2株式会社の間の鉄道線路使用条件の設定を認可する旨の処分を取り消す(以下本件請求②という。)。

3
国土交通大臣は,鉄道事業法23条1項4号に基づき,P1株式会社及びP2株式会社に対して,上記1記載の鉄道線路使用条件の設定について,P2株式会社が同社P4線の運行によってP1株式会社の営業区間(α1駅とα2駅の間)で取得する旅客運賃及び特別急行料金収入相当額を線路使用料としてP1株式会社に支払い,P1株式会社が同社の上記営業区間でP2株式会社が同社P4線の運行に要した経費をP2株式会社に支払う方式での鉄道線路使用条件に変更するよう命ぜよ(以下本件請求③という。)。
4(主位的請求)
運輸大臣(現在の国土交通大臣)が平成10年9月4日付けでP1株式会社(当時の商号はP5株式会社)に対してした旅客運賃変更認可処分は無効であることを確認する(以下本件請求④という。)。(予備的請求)
運輸大臣(現在の国土交通大臣)が平成10年9月4日付けでP1株式会社(当時の商号はP5株式会社)に対してした旅客運賃変更認可処分を取り消す(以下本件請求⑤という。)。
5
国土交通大臣は,鉄道事業法16条5項1号及び同法23条1項1号に基づき,P1株式会社に対し,上記4記載の認可処分に係る旅客運賃上限及びその範囲内で届け出られた旅客運賃について,同法16条2項の定める適正原価・適正利潤の原則に基づき,上記3記載の鉄道線路使用条件変更命令により定められた線路使用料に基づいて算定された収入額と現時点における収入と原価を基準とするとともに,特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをすることがない
よう距離に比例した原則の下に変更するよう命ぜよ(以下本件請求⑥という。)。
6
国土交通大臣が平成22年2月19日付けでP2株式会社に対してした同社のP4線に係る旅客運賃上限設定認可処分を取り消す(以下本件請求⑦という。)。

7
国土交通大臣は,鉄道事業法16条5項1号及び同法23条1項1号に基づき,P2株式会社に対し,上記6記載の認可処分に係る旅客運賃上限及びその範囲内で届け出られた旅客運賃について,特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをすることがないよう距離に比例した原則の下に変更するよう命ぜよ(以下本件請求⑧といい,本件請求①から⑧までを併せて本件各請求という。)。

第2

事案の概要
P1株式会社(旧商号はP5株式会社。以下,商号変更の前後を問わずP1という。)は,平成10年9月4日付けで鉄道事業法16条1項(平成11年法律第49号による改正前のもの)に基づく旅客運賃変更認可処分を受けて,P6線(α1駅とα2駅の間の32.3kmの路線)における旅客の運送を行っている。
また,P2株式会社(以下P2という。)は,P1が所有する鉄道線路(α1駅とα3駅の間)及びP3株式会社(以下P3という。)が所有する鉄道線路(α3駅とα2駅の間)等を使用して,P4線(α1駅とα4駅の間の51.4kmの路線)における旅客の運送を行っているところ,国土交通大臣は,平成22年2月19日付けで,鉄道事業法15条1項に基づき,P1及びP3がP2との間で上記鉄道線路の使用について設定した各使用条件(線路使用料や旅客運賃収入の配分方法等を定めたもの)を認可する旨の各処分をするとともに,同法16条1項に基づき,P2の申請に係るP4線の旅客運賃上限の設定を認可する旨の処分をした。

本件は,P6線の沿線住民である原告5名が,(1)P1及びP3がP2との間で設定した各鉄道線路使用条件はP1のみに不利益なもので,P1及びその利用者の利益を著しく害するものであり,鉄道事業の適正な運営の確保に支障を及ぼすおそれ(鉄道事業法15条3項)があることからすれば,国土交通大臣がP1及びP3に対してした上記各使用条件の設定を認可する旨の各処分は,鉄道事業法15条3項に規定する認可要件に違反する違法なものであると主張して,上記各処分の取消しを求める(本件請求①及び②)とともに,国土交通大臣が同法23条1項4号に基づきP1とP2の間の鉄道線路使用条件を変更するよう命じることの義務付けを求め(本件請求③),(2)P1の旅客運賃は,距離と運賃が比例しておらず近距離の旅客運賃が異常に高くなっており,特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものである(平成11年法律第49号による改正前の鉄道事業法16条2項2号)ことや,能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利潤を含むもの(同項1号)ではないことなどからすれば,運輸大臣(現在の国土交通大臣。以下同じ。)がP1に対してした旅客運賃変更認可処分は,平成11年法律第49号による改正前の鉄道事業法16条2項に規定する認可要件に違反する違法なものであり,また,上記各使用条件の設定を認可する旨の各処分が取り消されるべき違法なものであって,P1に適正な線路使用料が支払われるべきことからすれば,上記旅客運賃変更認可処分は,後発的に,同項に規定する適正原価・適正利潤の原則に違反する違法なものとなったところ,これらの違法は重大かつ明白であると主張して,主位的に上記旅客運賃変更認可処分の無効確認を求め(本件請求④),予備的に同処分の取消しを求める(本件請求⑤)とともに,国土交通大臣が鉄道事業法16条5項1号及び同法23条1項1号に基づきP1に対して旅客運賃上限等を変更するよう命じることの義務付けを求め(本件請求⑥),(3)国土交通大臣がP2に対してしたP4線に係る旅客運賃上限設定認可処分は,P1に対する旅客運賃変更認可処分と同様の理由により,鉄道
事業法16条2項に規定する認可要件に違反する違法なものであると主張して,上記旅客運賃上限設定認可処分の取消しを求める(本件請求⑦)とともに,国土交通大臣が同法16条5項1号及び同法23条1項1号に基づきP2に対して旅客運賃上限等を変更するよう命じることの義務付けを求める(本件請求⑧)事案である。
なお,本件訴えは,P6線の利用状況が様々に異なる原告17名により提起されたものであるが,原告適格に関する審理がいたずらに複雑かつ長期化するのを避けたいという当裁判所の意向を踏まえて,原告らにおいて,原告を5名に絞るという的確な対応がされたものである。
1
関係法令の定め
本件に関係する法令の定めの主たるものは,別紙関係法令の定め記載のとおりである(なお,別紙中の略称は,本文においても同様に用いることがある。以下同じ。)。

2
争いのない事実等(証拠等により容易に認められる事実は,末尾に証拠等を掲記した。)
(1)

原告らによるP6線の利用状況等
原告P7によるP6線の利用状況等(甲9,118,弁論の全趣旨)(ア)

原告P7は,平成6年4月から,千葉県白井市内の現住所地に居住
し,現在,東京都内に所在する勤務先まで日々通勤しており,自宅の最寄り駅であるP6線α5駅から,P6線α1駅を経由して,勤務先の最寄り駅であるP8P9線α6駅まで,鉄道を利用している。
原告P7は,上記鉄道利用のために6か月通勤定期券を購入しており,その購入額は,P6線区間分が17万0480円(全区間分で24万3440円)である。
(イ)

原告P7と同居している息子は,現在,東京都内に所在する大学院
に日々通学しており,P6線α5駅から,P6線α1駅を経由して,大
学院の最寄り駅であるP10P11線α7駅まで,鉄道を利用している。原告P7の息子は,上記鉄道利用のために3か月通学定期券を購入しており,その購入額は,P6線区間分が3万9140円(全区間分で6万0740円)である。なお,上記定期券の購入費用は原告P7が負担している。
(ウ)

原告P7と同居している娘は,現在,東京都内に所在する大学に

日々通学しており,P6線α5駅から,P6線α1駅を経由して,大学の最寄り駅であるP10P11線α8駅まで,鉄道を利用している。原告P7の娘は,上記鉄道利用のために1か月通学定期券(P6線α5駅からP8P9線α9駅まで)及び3か月通学定期券(P10P11線α9駅から同線α8駅まで)を購入しており,その購入額は,P6線区間分が1万3730円(全区間分で2万6490円)である。なお,上記定期券の購入費用は原告P7が負担している。

原告P12によるP6線の利用状況等(甲10,119,弁論の全趣旨)
(ア)

原告P12は,平成9年から,千葉県印西市内の現住所地に居住し,
現在,東京都内に所在する勤務先まで定期的に通勤しており,自宅の最寄り駅であるP6線α5駅から,P6線α1駅を経由して,勤務先の最寄り駅であるP13P14線α10駅まで,鉄道を利用している。原告P12は,勤務先が負担する交通費は往復1000円が上限であるため,在宅勤務を希望し,勤務先へはP15(一定額をチャージ(入金)しておき,利用のたびに旅客運賃を支払うICカード乗車券。以下同じ。)を利用して1か月に2回から5回程度出社するほか,P6線を利用して顧客先に出向くなどしている。原告P12が勤務先に出社した際に支払う旅客運賃は,P6線区間分が往復1440円(全区間分で2260円)である。

(イ)

原告P12と同居している息子は,現在,千葉県内に所在する大学
に日々通学しており,P6線α5駅から,P6線α11駅を経由して,大学の最寄り駅であるP16本線α12駅まで,鉄道を利用している。原告P12の息子は,上記鉄道利用のために1か月通学定期券を購入しており,その購入額は,P6線区間分が1万0300円(全区間分で1万6010円)である。なお,上記定期券の購入費用は原告P12が負担している。
(ウ)

原告P12と同居している娘は,現在,千葉県内に所在する高等学
校に日々通学しており,P6線α5駅から,P6線α1駅を経由して,高等学校の最寄り駅であるP16本線α13駅まで,鉄道を利用している。
原告P12の娘は,上記鉄道利用のために1か月通学定期券を購入しており,その購入額は,P6線区間分が1万3730円(全区間分で1万5800円)である。なお,上記定期券の購入費用は原告P12が負担している。

原告P17によるP6線の利用状況等(甲13,110,120,弁論の全趣旨)
原告P17は,平成6年頃から,千葉県白井市内の現住所地に居住し,現在,千葉県内に所在する予備校に日々通学しており,自宅の最寄り駅であるP6線α5駅から,P6線α11駅を経由して,予備校の最寄り駅であるP16本線α14駅まで,鉄道を利用している。
原告P17は,上記鉄道利用のために6か月通勤定期券を購入しており,その購入額は,P6線区間分が12万7880円(全区間分で16万9030円)である。


原告P18によるP6線の利用状況等(甲16の1,弁論の全趣旨)原告P18は,平成21年10月から,千葉県白井市内の現住所地に居
住し,現在,企画制作関係の会社を経営しており,取引先への営業のため,自宅の最寄り駅であるP6線α15駅から,P6線α1駅を経由して,東京都内のα16(1か月に平均約6回訪問),α17(同約2回訪問),α18(同約2回訪問),α19(同約2回訪問)等に所在する取引先の最寄り駅まで,鉄道を利用しているほか,個人的な勉強会(1か月に4回実施)のために,P6線α15駅から,勉強会場所の最寄り駅であるP6線α11駅まで,鉄道を利用している。
原告P18は,訪問する取引先が様々な場所に存在するため,通勤定期券を購入するのではなく,P15を利用しているが,例えばα16の取引先を訪れた際に支払う旅客運賃は,P6線区間分が往復1200円(全区間分で1900円)である。

原告P19によるP6線の利用状況等(甲16の2,111,113,弁論の全趣旨)
原告P18の妻である原告P19は,平成21年10月から,千葉県白井市内の現住所地に居住し,現在,東京都内に所在する勤務先まで日々通勤しており,自宅の最寄り駅であるP6線α15駅から,P6線α1駅を経由して,勤務先の最寄り駅であるP8P20線α20駅まで,鉄道を利用している。
原告P19は,上記鉄道利用のために1か月通勤定期券を購入しており,その購入額は,P6線区間分が2万6170円(全区間分で3万9620円)である。

(2)

本件に関係する各鉄道事業者
本件に関係する各鉄道事業者(国土交通大臣から鉄道事業の許可を受けた
者。以下同じ。)による鉄道事業の状況と鉄道線路の使用関係は,以下のとおりである(これを図示したものが別紙鉄道線路の使用関係等である。)。


P1
P1は,P6線(α1駅とα2駅の間の路線)における鉄道事業を営む株式会社であり,P2が50パーセント(P21株式会社を含むP22グループ全体では51パーセント)を出資するP2の子会社である。P1は,α1駅とα3駅の間では,第一種鉄道事業者(自らが所有する鉄道線路を使用して鉄道による旅客等の運送を行う鉄道事業者。以下同じ。)であり,α3駅とα2駅の間では,P3から鉄道線路を借り受けて鉄道事業を行う第二種鉄道事業者(自らが所有する鉄道線路以外の鉄道線路を使用して旅客等の運送を行う鉄道事業者。以下同じ。)である。

P2
P2は,P4線(α1駅とα4駅の間の路線)等における鉄道事業を営む株式会社である。P2は,平成22年7月17日に運行を開始したP4線において,P23(P4線の区間ではα21駅及びα4駅のみに停車する特別急行料金の必要な列車)及びP24(P4線の区間では主要駅のみに停車する特別急行料金の不要な列車)を運行している(甲31,乙31)。
P2は,P4線において,α1駅とα3駅の間ではP1から,α3駅とα2駅の間ではP3から,α2駅とP25線接続点の間ではP26株式会社から,P25線接続点とα4駅の間ではP25株式会社から,それぞれ鉄道線路を借り受けて鉄道事業を行う第二種鉄道事業者である。


P3
P3は,α3駅とα2駅の間の鉄道線路を所有し,同鉄道線路をP1及びP2に貸し付けている第三種鉄道事業者(自ら所有する鉄道線路を第二種鉄道事業者に専ら使用させる鉄道事業者。以下同じ。)であり,P2の100パーセント子会社である。

(3)

本件に関係する各認可処分等


P1に対する旅客運賃変更認可処分等
(ア)

P1は,平成10年7月31日付けで,改正前鉄道事業法16条1
項に基づき,運輸大臣に対し,P6線(当時の名称はP27線。以下,名称変更の前後を問わずP6線という。)のうち当時開通していたα1駅とα22駅の間(28.5km)に係る旅客運賃を下記のとおり変更する内容の旅客運賃変更の認可を申請した(乙33)。
記a
普通旅客運賃(大人片道旅客運賃)

対キロ区間制

3kmまで

200円

3kmを超え5kmまで

300円

5kmを超え9kmまでの部分
2kmまでを増すごとに70円加算
9kmを超え11kmまで

500円

11kmを超え14kmまでの部分

570円

14kmを超え17kmまでの部分

630円

17kmを超え23kmまでの部分
3kmまでを増すごとに50円加算
23kmを超え29kmまでの部分
3kmまでを増すごとに30円加算

定期旅客運賃(1か月)
上記の普通旅客運賃を基礎に,通勤定期は30パーセント,通学定期は56パーセントの割引率を適用して算定した額

(イ)

運輸大臣は,運輸省設置法6条1項(平成11年法律第102号に
よる廃止前のもの)に基づき,平成10年8月6日付けで,上記認可申請を運輸審議会に諮問し,運輸審議会は,同年9月3日付けで,上記認可申請のとおり認可することが適当である旨の答申をした(乙36)。
(ウ)a

運輸大臣は,平成10年9月4日付けで,下記の条件を付して,

改正前鉄道事業法16条1項に基づき,上記認可申請のとおり認可する旨の処分(以下P6運賃変更認可処分という。)をした(甲3
の1)。

認可された上限運賃の範囲内で運賃を設定又は変更しようとするときは,あらかじめ運輸大臣に報告すること。
路線別又は区間別に異なる運賃を設定又は変更し,かつ,その最低額が最高額を2割以上下回るときは,別途認可を得ること。

鉄道事業法は平成11年法律第49号により改正され,従前は旅客運賃の設定及び変更の認可であったもの(改正前鉄道事業法16条1項)が,運輸大臣が認可した旅客運賃上限の範囲内での事前届出とされた(鉄道事業法16条1項,3項)。
なお,平成11年法律第49号附則3条1項は,同法による改正前に認可を受けている運賃であって,改正後の16条1項の運賃の上限に該当するものは,改正後の16条1項により認可を受けた運賃の上限とみなすとしているため,P6運賃変更認可処分についても,旅客運賃上限に係る認可処分とみなされる。

(エ)

P1は,平成12年7月22日,α22駅とα2駅の間での列車の
運行を開始し,これによりP6線(α1駅とα2駅の間の32.3kmの路線)全線が開通したところ,これに伴い,下記のとおり旅客運賃が設定された(乙32,弁論の全趣旨)。

29kmを超え33kmまでの部分
4kmまでを増すごとに30円加算
(オ)

P1は,平成21年11月30日付けで,P6線の沿線自治体であ
る千葉県,船橋市,松戸市,鎌ヶ谷市,印西市,白井市,α23村及びα24村並びにP2との間で,沿線自治体が5年間にわたり年間3億円の補助金を支出し,P1がP2P4線の運行により発生する増収分等の年間3億円を5年間にわたり拠出し,これを原資として,同P4線の運行開始時にP6線の普通旅客運賃を5パーセント弱値下げすること等を合意した(甲50,乙22)。
P1は,国土交通大臣に対して上記旅客運賃の変更を届け出て,P2P4線が運行を開始した平成22年7月17日から,普通旅客運賃を平均4.9パーセント引き下げるなどの旅客運賃の値下げを実施した(甲31,弁論の全趣旨)。なお,上記値下げ後のP6線の旅客運賃は,別紙P4線運賃・P6線新運賃・その他民鉄運賃・距離別比較グラフ(以下別紙グラフという。)のP6線新運賃のとおりである。

P1及びP3に対する鉄道線路使用条件設定認可処分等
(ア)

P1,P3及びP2は,平成21年12月16日付けで,概要下記
の内容のP6線におけるP2株式会社の旅客運輸営業及び線路の使用に関する基本協定(以下,同基本協定のうち,P1の所有する鉄道線路に係る使用条件をP6線路使用条件といい,P3の所有する鉄道線路に係る使用条件をP28線路使用条件といい,両者を併せて
本件各線路使用条件という。)を締結した(甲1の2から4まで,甲2の2から4まで,甲32の2及び3,乙22,弁論の全趣旨)。記a
鉄道施設の使用及び旅客運輸営業
P2は,P1の所有する鉄道施設(α1駅とα3駅の間)及びP3の所有する鉄道施設(α3駅とα2駅の間)を使用して旅客運輸営業を行い,P1及びP3にそれぞれ線路使用料を支払う。


線路使用料

(a)

P2は,P1及びP3に対して,以下の合計額を線路使用料と

して支払う。


資本費相当額等
P1及びP3の所有する鉄道事業用固定資産のうち,(ⅰ)P2
も使用する資産額,(ⅱ)当該資産の残存平均耐用年数,(ⅲ)当該資産保有のために負担する金利を基礎として算出された額のうち
P2の使用する割合に応じて算出される資本費相当額に,P2の
使用割合に応じた租税相当額及び一般管理費相当額を加えた額
(以下資本費相当額等という。)。



加算額
(ⅰ)P6線内相互発着旅客(P6線内において乗降する旅客の
うち,ある駅からある駅までの区間を乗車する旅客をいう。以下
同じ。)に係る旅客運賃収入のうちP2に帰属する旅客運賃収入
と,(ⅱ)P6線とα2で接続するP16線相互発着旅客に係る旅客運賃収入のうち,P2に帰属する旅客運賃収入でP6線の区間
の旅客運賃収入に相当する額の合計額を,P6線の輸送人キロ
(各駅間の利用者数にその駅間の距離を乗じて算出される数値)
に占めるα1駅とα3駅の間又はα3駅とα2駅の間の輸送人キ
ロの割合により按分して得た額が,上記①の資本費相当額等を超える場合,当該按分して得た額と資本費相当額等との差額(以下
加算額という。)

(b)

上記の線路使用料の定めは,P2がP1及びP3の所有する鉄

道施設を使用する以上,使用割合に応じてその建設に要した費用等を負担すべきであるとの考え方に基づき,P2が資本費相当額等を支払うこととするとともに,P2がP6線区間内で列車を運行することによって生じるP1の旅客運賃収入減少額(P2に帰属する旅
客運賃収入額)が資本費相当額等を上回る場合にはその差額を加算額として支払うこととするものである。
なお,P1はα3駅とα2駅の間ではP3から鉄道線路を借り受
けているところ,P1とP3との間で締結されている昭和63年3月15日付けの線路使用条件(P1と住宅・都市整備公団が締結し,これをP3が承継したもの。)においては,P1は,同区間における旅客運賃収入全額を線路使用料としてP3に支払う一方,運行経費をP3から受け取ることになっているので,同区間におけるP1の旅客運賃収入が減少すれば,P3に支払われる線路使用料も減少するという関係になっていた。

収益の帰属(別紙運賃配分の仕組み参照)

(a)

P6線内相互発着旅客(α1駅で接続するP16線及び他社線

連絡旅客を含む。)に係る旅客運賃収入について


P6線内でP2の特急列車が停車する駅の相互発着旅客につい

ては,P1とP2の列車の運転本数(P6線通過列車を除く。)
割合により両社に按分する。(上記別紙の【D】)


P6線内でP2の特急列車が停車しない駅相互間の発着旅客と

P6線内でP2の列車が停車する駅と停車しない駅相互間の発着
旅客については,全てP1の帰属とする。(上記別紙の【E】,
【F】)
(b)

P6線とα2駅で接続するP16線(連絡他社線を含む。)相

互発着旅客に係る旅客運賃収入について


P6線内でP2の列車が停車する駅の発着旅客については,全

てP2の帰属とする。(上記別紙の【B】)


P6線内でP2の列車が停車しない駅の発着旅客については,

P2及びP1に帰属する。α25駅とα26駅の間の各駅(α2

7駅を除く。)発着旅客にあってはα11駅で,α15駅とα2
2駅の間の各駅(α5駅を除く。)発着旅客にあってはα2駅で,P1とP2を乗り継いだものとみなして,それぞれの旅客運賃を
適用する。(上記別紙の【C】)
(c)

P6線通過旅客に係る旅客運賃収入について

全てP2に帰属する。(上記別紙の【A】)
(イ)

P1は,平成21年12月16日付けで,鉄道事業法15条1項及
び鉄道事業法施行規則30条に基づき,P6線のうちα1駅とα3駅の間の区間(19.8km)について,本件各線路使用条件に係る契約書の写し及び線路使用料の算出の基礎を記載した書類を添付して,P6線路使用条件の設定に係る認可を申請した(甲1の2)。
国土交通大臣は,平成22年2月19日付けで,上記認可申請のとおり認可する旨の処分(以下P6線路使用条件認可処分という。)をした。
(ウ)

P3は,平成21年12月16日付けで,国土交通大臣に対し,P
6線のうちα3駅とα2駅の間の区間(12.5km)について,本件各線路使用条件に係る契約書の写し及び線路使用料の算出の基礎を記載した書類を添付して,P28線路使用条件の設定に係る認可を申請した(甲2の2)。
国土交通大臣は,平成22年2月19日付けで,上記認可申請のとおり認可する旨の処分(以下P28線路使用条件認可処分といい,P6線路使用条件認可処分と併せて本件各線路使用条件認可処分という。)をした。

P2に対する旅客運賃上限設定認可処分等
(ア)

P2は,平成21年12月16日付けで,鉄道事業法16条1項に
基づき,国土交通大臣に対し,P4線に係る旅客運賃上限を下記のとお
りとする内容の旅客運賃上限設定の認可を申請した(乙23)。なお,下記の旅客運賃上限の額のうち33kmまでの部分は,平成22年7月17日から値下げされる前のP6線の旅客運賃の額と同額である。記a
普通旅客運賃(大人片道旅客運賃)

対キロ区間制

3kmまで

200円

3kmを超え5kmまで

300円

5kmを超え9kmまでの部分
2kmまでを増すごとに70円加算
9kmを超え11kmまで

500円

11kmを超え14kmまで

570円

14kmを超え17kmまで

630円

17kmを超え23kmまでの部分
3kmまでを増すごとに50円加算
23kmを超え29kmまでの部分
3kmまでを増すごとに30円加算
29kmを超え45kmまでの部分
4kmまでを増すごとに30円加算
45kmを超え49kmまで
49kmを超え52kmまで

930円
950円

定期旅客運賃(1か月)
上記の普通旅客運賃を基礎に,通勤定期は30パーセント,通学定期は56パーセントの割引率を適用して算定した額

(イ)

国土交通大臣は,平成21年12月17日付けで,上記認可申請を
運輸審議会に諮問し,運輸審議会は,平成22年1月26日及び同月28日に公聴会を開催し,同年2月18日付けで,国土交通大臣に対し,
上記認可申請について申請のとおり認可するのが適当である旨の答申をした(乙27)。
(ウ)

国土交通大臣は,平成22年2月19日付けで,鉄道事業法16条
1項に基づき,上記認可申請のとおり認可する旨の処分(以下P16運賃上限認可処分といい,P6運賃変更認可処分と併せて本件各運賃認可処分という。)をした。(エ)

P2は,平成22年2月19日付けで,国土交通大臣に対し,鉄道
事業法16条3項に基づき,P4線の旅客運賃の額をP16運賃上限認可処分に係る旅客運賃上限の額(ただし,α1駅とα2駅の間の各駅相互間のみを利用する場合は,平成22年7月17日から値下げされたP6線の旅客運賃と同額)とする旨の届出をした(乙22,29)。なお,上記届出におけるP4線の旅客運賃は,別紙グラフのP4線運賃のとおりである。
3
争点
(本案前の争点)
(1)

原告適格の有無。すなわち,本件各請求に係る訴えについて原告らが原
告適格を有するか否か。
(2)

重大な損害を生ずるおそれの有無。すなわち,本件請求③,⑥及び
⑧に係る義務付けの訴えについて,これらの請求に係る処分がされないことにより原告らに重大な損害を生ずるおそれ(行政事件訴訟法37条の2第1項)があるか否か。
(3)

出訴期間徒過の有無。すなわち,本件請求⑤に係る取消しの訴えが出訴
期間を徒過しているか否か。
(本案の争点)
(4)

本件各線路使用条件認可処分の適法性。すなわち,本件各線路使用条件
認可処分が鉄道事業法15条3項に違反する違法なものであるか否か(本件
請求①及び②関係)。
(5)

P6線路使用条件の変更命令の可否。すなわち,国土交通大臣が鉄道事
業法23条1項4号に基づきP2及びP1に対してP6線路使用条件の変更を命じないことが裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用するものであるか否か(本件請求③関係)。
(6)

P6運賃変更認可処分の適法性。すなわち,P6運賃変更認可処分が改
正前鉄道事業法16条2項に違反する違法なものであり,その違法は重大かつ明白であるか否か(本件請求④及び⑤関係)。(7)

P1に対する旅客運賃上限等の変更命令の可否。すなわち,国土交通大
臣が鉄道事業法16条5項1号及び同法23条1項1号に基づきP1に対して旅客運賃上限等の変更を命じないことが裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用するものであるか否か(本件請求⑥関係)。(8)

P16運賃上限認可処分の適法性。すなわち,P16運賃上限認可処分
が鉄道事業法16条2項に違反する違法なものであるか否か(本件請求⑦関係)。
(9)

P2に対する旅客運賃上限等の変更命令の可否。すなわち,国土交通大
臣が鉄道事業法16条5項1号及び同法23条1項1号に基づきP1に対して旅客運賃上限等の変更を命じないことが裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用するものであるか否か(本件請求⑧関係)。4
争点に関する当事者の主張
争点に関する当事者の主張は,別紙当事者の主張記載のとおりであるところ,その要旨は以下のとおりである。
(1)

争点(1)(原告適格の有無)について

(原告らの主張)

本件各運賃認可処分の取消し又は無効確認の訴え(本件請求④,⑤及び⑦)及び旅客運賃上限等の変更命令の義務付けの訴え(本件請求⑥及び
⑧)について
(ア)

鉄道事業法は,その文言上も仕組み上も,鉄道利用者を個別具体的
に保護することを趣旨及び目的としており,そのことは,鉄道事業法の制定経緯及び改正経緯からも明らかである。また,ここでいう利用者には,鉄道に乗車する者だけではなく,旅客運賃の負担者も含まれるというべきである。そして,旅客運賃認可処分において考慮されるべき利益は,鉄道利用者の経済的利益及び日常生活・社会生活上の利益であるところ,違法な旅客運賃認可処分がされれば,日常的に鉄道を利用する沿線住民は,経済的にも日常生活・社会生活上でも重大な不利益を被ることになるから,その利益は個別具体的に保護されなければならない。
(イ)

したがって,反復継続的に鉄道を利用している者又はその旅客運賃
を法的義務として負担している者(扶養義務者,雇用主等)は,旅客運賃認可処分の取消し又は無効確認の訴えについて原告適格を有するというべきであり,このことは,旅客運賃上限等の変更命令の義務付けの訴えについても同様である。
そして,原告らは,P6線を反復継続的に利用し又は扶養義務に基づき旅客運賃を負担しているから,本件各運賃認可処分の取消し又は無効確認の訴え(本件請求④,⑤及び⑦)及び旅客運賃上限等の変更命令の義務付けの訴え(本件請求⑥及び⑧)のいずれについても,原告適格を有するというべきである。
(ウ)

なお,P29特急最高裁判決(最高裁判所平成元年4月13日第一
小法廷判決・裁判集民事156号499頁)は,地方鉄道法21条に基づく特別急行料金改定認可処分の取消訴訟における原告適格について判断したものであるが,その後,鉄道利用者の利益を個別具体的に保護することを明らかにした鉄道事業法が制定され,平成16年には行政事件
訴訟法が改正されているし,上記判決の事案では,特別急行を利用する者だけが負担する特別急行料金部分のみが争われたものであるから,本件とは事案を異にし,本件には射程が及ばないというべきである。イ
本件各線路使用条件認可処分の取消しの訴え(本件請求①及び②)及びP6線路使用条件の変更命令の義務付けの訴え(本件請求③)について(ア)

鉄道事業法は,その文言上も仕組み上も,鉄道利用者を個別具体的
に保護することを趣旨及び目的としており,総括原価主義(同法16条2項)に基づく旅客運賃の算定制度においては,総収入額は原価総額を下回らなければならず,線路使用料収入が増加すれば,他の収入が変わらない限り,旅客運賃を値下げして旅客運賃収入を減らさなければならない関係が必然的に生じることになるから,旅客運賃認可制度(同法16条)と同様に,鉄道線路使用条件認可制度(同法15条)は,鉄道利用者の利益を個別具体的に保護することを目的としているというべきである。
(イ)

したがって,反復継続的に鉄道を利用している者又はその旅客運賃
を法的義務として負担している者(扶養義務者,雇用主等)は,鉄道線路使用条件設定認可処分の取消しの訴えについて,原告適格を有するというべきであり,このことは,鉄道線路使用条件の変更命令の義務付けの訴えについても同様である。
そして,原告らは,P6線を反復継続的に利用し又は扶養義務に基づき旅客運賃を負担しているから,本件各線路使用条件認可処分の取消しの訴え(本件請求①及び②)及びP6線路使用条件の変更命令の義務付けの訴え(本件請求③)のいずれについても,原告適格を有するというべきである。
(被告の主張)

本件各運賃認可処分の取消し又は無効確認の訴え(本件請求④,⑤及び
⑦)及び旅客運賃上限等の変更命令の義務付けの訴え(本件請求⑥及び⑧)について
(ア)

鉄道事業法が公共の利益という観点から同法16条1項に基づく旅
客運賃の認可を規定していることは明らかであり,同法が,不特定多数者である鉄道利用者の具体的利益を,専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々の鉄道利用者の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むものであると解することはできない。
したがって,鉄道事業法16条1項に基づく旅客運賃の認可において,鉄道利用者個々人の個別的利益は,たとえ当該鉄道沿線の住民の利益であっても,公共の利益の保護を通じて間接的に保護されているところの反射的利益又は事実上の利益にすぎず,法律上保護された利益とはいえないから,原告らは本件各運賃認可処分の取消し又は無効確認を求めるにつき法律上の利益を有せず,本件各運賃認可処分の取消し又は無効確認の訴え(本件請求④,⑤及び⑦)について,原告らは原告適格を有しないというべきである。
(イ)

また,鉄道事業法16条5項1号及び同法23条1項1号は,公共
の利益という観点から旅客運賃又はその上限の変更を命じることができる旨を規定しているにすぎず,その変更に関し,同法あるいは関係法令を子細にみても,不特定多数者である鉄道利用者の具体的利益を,専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々の鉄道利用者の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨の規定は見当たらない。
したがって,鉄道事業法16条5項1号及び同法23条1項1号に基づく旅客運賃上限等の変更命令において,鉄道利用者個々人の個別的利益は,たとえ当該鉄道沿線の住民の利益であっても,公共の利益の保護
を通じて間接的に保護されているところの反射的利益又は事実上の利益にすぎず,法律上保護された利益とはいえないから,旅客運賃上限等の変更命令に係る各義務付けの訴え(本件請求⑥及び⑧)について,原告らは原告適格を有しないというべきである。
(ウ)

なお,P29特急最高裁判決は,平成16年法律第84号による改
正前の行政事件訴訟法下におけるものであるが,同改正により行政事件訴訟法9条2項が追加された趣旨は,原告適格の有無について判断すべき事項について,法律の明文でこれらの事項を考慮すべきこと等を定めることにより,全ての事案において,これらの事項が適切に考慮されることが一般的に担保され,行政過程における利益調整の在り方が適切に考慮されて第三者の原告適格が実質的に広く認められることを期したものであり,原告適格の判断方法を実質的に変更することを意図したものではないから,上記改正の前後によってP29特急最高裁判決の評価が変化すると解する余地はない。

本件各線路使用条件認可処分の取消しの訴え(本件請求①及び②)及びP6線路使用条件の変更命令の義務付けの訴え(本件請求③)について
(ア)

鉄道事業法が公共の利益という観点から鉄道線路使用条件設定の認
可を規定していることは明らかであり,同法が,不特定多数者である鉄道利用者の具体的利益を,専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々の鉄道利用者の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むものであると解することはできない。したがって,鉄道事業法15条1項に基づく鉄道線路使用条件設定の認可において,鉄道利用者個々人の個別的利益は,たとえ当該鉄道沿線の住民の利益であっても,公共の利益の保護を通じて間接的に保護されているところの反射的利益又は事実上の利益にすぎず,法律上保護された利益とはいえないから,原告らは本件各線路使用条件認可処分の取消
しを求めるにつき法律上の利益を有せず,本件各線路使用条件認可処分の取消しの訴え(本件請求①及び②)について,原告らは原告適格を有しないというべきである。
(イ)

また,鉄道事業法23条1項4号は,公共の利益という観点から鉄
道施設の使用条件等の変更を命じることができる旨を規定しているにすぎず,その変更に関し,同法あるいは関係法令を子細にみても,不特定多数者である鉄道利用者の具体的利益を,専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々の鉄道利用者の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨の規定は見当たらない。
したがって,鉄道事業法23条1項4号に基づく鉄道線路使用条件の変更命令において,鉄道利用者個々人の個別的利益は,たとえ当該鉄道沿線の住民の利益であっても,公共の利益の保護を通じて間接的に保護されているところの反射的利益又は事実上の利益にすぎず,法律上保護された利益とはいえないから,P6線路使用条件の変更命令に係る義務付けの訴え(本件請求③)について,原告らは原告適格を有しないというべきである。
(2)

争点(2)(重大な損害を生ずるおそれの有無)について

(原告らの主張)
原告らは,鉄道事業法16条5項1号及び同法23条1項1号に基づくP1及びP2の旅客運賃上限等の変更命令又は同法23条1項4号に基づくP6線路使用条件の変更命令がされないことにより,多額の金銭的負担と移動の自由に対する制限を被るところ,これらの損害は重大であり,金銭によって償うことができないものである。
したがって,P1及びP2の旅客運賃上限等の変更命令(本件請求⑥及び⑧)又はP6線路使用条件の変更命令(本件請求③)がされないことにより,原告らに重大な損害を生ずるおそれ(行政事件訴訟法37条の2第1
項)があるというべきであり,かつ,その損害を避けるためには上記各変更命令以外に適当な方法がないことは明らかである。
(被告の主張)
移動の自由の制限は,金銭的負担を避けるために自らの意思に基づいて生じる副次的なものであり,P1及びP2の旅客運賃上限等の変更命令又はP6線路使用条件の変更命令がされないことにより直接的に生じるものではないし,現行のP6線の旅客運賃と原告らが適正とする旅客運賃との差額に相当する金銭的損害は,事後の金銭賠償によって回復することが可能な性質の損害である。
したがって,P1及びP2の旅客運賃上限等の変更命令(本件請求⑥及び⑧)又はP6線路使用条件の変更命令(本件請求③)がされないことにより,原告らに重大な損害を生ずるおそれがある(行政事件訴訟法37条の2第1項)とはいえない。
(3)

争点(3)(出訴期間徒過の有無)について

(被告の主張)
P6運賃変更認可処分は,平成10年9月4日付けでされたものであり,処分の日から本件訴え提起までに1年を経過していることは明らかであるし,出訴期間を徒過したことについての正当な理由も認められない。
したがって,P6運賃変更認可処分の取消しの訴え(本件請求③)は,出訴期間を徒過して提起された不適法なものというべきである。
(原告らの主張)
本件各線路使用条件認可処分が適法にされれば,適正な線路使用料がP1に支払われるから,P6運賃変更認可処分は旅客運賃上限を減額するように変更されなければならないことになる。そうすると,P6運賃変更認可処分は,平成22年2月19日に違法な本件各線路使用条件認可処分がされたことにより,後発的に瑕疵が生じ,違法となったものである。

したがって,P6運賃変更認可処分の取消しの訴えについては,後発的違法が生じた平成22年2月19日から出訴期間が進行するというべきところ,本件訴えは,同年8月17日に提起されたものであるから,出訴期間を徒過した不適法なものではない。
(4)

争点(4)(本件各線路使用条件認可処分の適法性)について

(原告らの主張)
本件各線路使用条件は,P2の列車がP6線区間内を運行しているにもかかわらず,その旅客運賃はP2が取得し,P1はその旅客運賃を全く取得することができないという経済的に不合理な仕組みとなっており,いわばP2がP6線区間をただ乗りしているところ,このような仕組みが可能となるのは,P1及びP3がP2の支配下にあるからである。
このようにP1のみに不利益な本件各線路使用条件は,P1の経営を困難なものとし,更にはP1の利用者の利益を著しく害するものであって,鉄道事業の適正な運営の確保に支障を及ぼすおそれ(鉄道事業法15条3項)があるというべきである。
したがって,本件各線路使用条件を認可した本件各線路使用条件認可処分は,鉄道事業法15条3項に違反する違法なものであるから,取り消されるべきである(本件請求①及び②)。(被告の主張)
本件各線路使用条件においては,P6線の区間においてP2に帰属する旅客運賃収入額が資本費相当額等を超える場合に,P2がP1及びP3に対して資本費相当額等に加算額を加えた線路使用料を支払うこととされ,P1及びP3の収支に対する影響が可及的に排除されているから,P1及びP3は,引き続き,鉄道線路の適切な維持管理を行うことが可能であり,鉄道事業の適正な運営の確保に支障を及ぼすおそれ(鉄道事業法15条3項)はないといえる。

したがって,本件各線路使用条件は,鉄道事業法15条3項に規定する認可要件を満たしているから,本件各線路使用条件認可処分は適法なものというべきである。
(5)

争点(5)(P6線路使用条件の変更命令の可否)について

(原告らの主張)
本件各線路使用条件認可処分は違法であるだけでなく,これによりP1の旅客運賃は異常に高いものとなっているから,利用者の利便その他公共の利益を阻害している(鉄道事業法23条1項柱書き)ことは明らかである。そうすると,国土交通大臣が,鉄道事業法23条1項4号に基づき,P6線路使用条件について,P6線区間をP2の列車が運行したことによる旅客運賃収入をP1が取得することができる内容に変更するよう命じないことは,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用するものである(行政事件訴訟法37条の2第5項)。
したがって,国土交通大臣は,鉄道事業法23条1項4号に基づき,P1及びP2に対して,P6線路使用条件について,P2が同社P4線の運行によってP6線区間で取得する旅客運賃及び特別急行料金収入相当額を線路使用料としてP1に支払い,P2がP6線区間で同社P4線の運行に要した経費をP1がP2に支払う方式での鉄道線路使用条件に変更するよう命じなければならないというべきである(本件請求③)。
(被告の主張)
P6線路使用条件は,鉄道事業法15条3項の要件を満たしているところ,同項の要件を満たす使用条件が輸送の安全,利用者の利便その他公共の利益を阻害している(同法23条1項柱書き)ものではないことは明らかである。
したがって,P6線路使用条件について,鉄道事業法23条1項4号に基づく使用条件変更命令を発する前提を欠いていることは明らかである。
(6)

争点(6)(P6運賃変更認可処分の適法性)について

(原告らの主張)

P1の旅客運賃は,本件各線路使用条件認可処分が適法であることが前提となっているところ,本件各線路使用条件認可処分が違法なものであることによって,P1の旅客運賃は能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないもの(鉄道事業法16条2項)に該当しなくなったから,P6運賃変更認可処分は後発的に違法となったものであり,その違法は重大かつ明白である。


また,P6線の旅客運賃は,初乗りから中間距離までの旅客運賃が異常に高く,運賃表のグラフがメタボのような曲線を描くメタボ運賃となっており(別紙グラフ参照),このようなメタボ運賃は,近距離の利用者が遠距離の利用者に比べて不当に割高の旅客運賃を負担することになるので,特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするもの(改正前鉄道事業法16条2項2号)に該当するし,旅客運賃の認可においては,利用者が公平に旅客運賃を負担するような配分になっているか,すなわち距離に比例した旅客運賃体系となっているかを審査すべきであるが,P6線の旅客運賃はメタボ運賃となっており,能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利潤を含むもの(同項1号)に該当しないから,P6運賃変更認可処分には原始的違法があり,その違法は重大かつ明白である。
さらに,P6運賃変更認可処分に当たってP1から提出されたP6収入原価表には平成9年度実績以外の記載がなく,原価計算期間を3年間と定めていた平成8年算定要領に反するし,P6収入原価表に記載された数字とP1の平成9年度損益計算書記載の数字が異なるから,P6運賃変更認可処分は,不十分な資料に基づいてされたものであって,能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利潤を含むもの(改正前
鉄道事業法16条2項1号)であるかを適正に審査せずにされたという原始的違法があり,その違法は重大かつ明白である。

したがって,原告らは,主位的に,P6運賃変更認可処分が無効であることの確認を求め(本件請求④),予備的に,P6運賃変更認可処分の取消しを求める(本件請求⑤)。

(被告の主張)

運輸大臣は,申請書及び添付書類,P1からの説明等による審査,運輸審議会の答申を踏まえ,P1の申請に係る旅客運賃が,改正前鉄道事業法16条2項の基準に適合すると認め,P6運賃変更認可処分を行ったものである。


そして,行政処分の後,当該処分の根拠となった事実状態が変動した場合であっても,取消訴訟における行政処分の違法性判断は,当該処分を行った時の事実状態を基準として行われるべきであるから,P6運賃変更認可処分が後発的に違法となることはあり得ない。


また,鉄道事業者がどのような旅客運賃制度を採用するかは,当該鉄道事業者の経営判断に委ねられているから,近距離利用した場合の1km当たりの旅客運賃が,遠距離利用した場合の1km当たりの旅客運賃に比して相当程度高額になることも十分にあり得ることであるし,P6線の旅客運賃制度は全ての旅客に適用されるものであり,特定の旅客のみに異なる旅客運賃を設定し,不当に高額な旅客運賃を負担させるものではないから,特定の旅客又は荷主に対し不当な差別的取扱いをするもの(改正前鉄道事業法16条2項2号)とはいえない。
さらに,平成8年算定要領における原価計算期間3年間とは,旅客運賃改定年度の翌年度以降の3年間を意味するし,平年度の収入及び原価を算定するに当たっては,経常的性格を有する損益及び鉄軌道事業部門に帰属する収入・費用以外のものは除外されることになるから,平成8年算
定要領に従って算出されたP6収入原価表の数字と損益計算書における数字とが異なるのは当然のことである。

したがって,P6運賃変更認可処分は適法なものであって,もとより重大かつ明白な違法は存在しないというべきである。

(7)

争点(7)(P1に対する旅客運賃上限等の変更命令の可否)について
(原告らの主張)

P6線の旅客運賃は,近距離を移動する沿線住民にのみ不当に割高なメタボ運賃であり,特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものであるから,国土交通大臣は,鉄道事業法16条5項1号に基づき,届け出られた旅客運賃の変更を命ずる義務を負っている。


本件各線路使用条件認可処分は違法なものであり,P6線路使用条件が変更されれば,P1の収入額が増大することになるから,国土交通大臣は,鉄道事業法23条1項1号に基づき,上記変更された線路使用料を基準に,適正原価・適正利潤の原則(鉄道事業法16条2項)に基づいて旅客運賃上限を変更するよう命ずる義務を負っている。
また,P6線の旅客運賃は,異常に高額であって鉄道利用者の利便を阻害しているだけでなく,P6運賃変更認可処分は,不十分な資料に基づき,適正原価・適正利潤の原則(改正前鉄道事業法16条2項1号,鉄道事業法16条2項)に適合するかが適正に審査されずにされたものであり,現時点で適切な原価計算に基づき算定し直されなければならないから,国土交通大臣は,鉄道事業法23条1項1号に基づき,旅客運賃上限の変更を命ずる義務を負っている。
さらに,平成21年のP1の収支の実績をP6運賃変更認可処分の基礎とされた平成9年の収支の実績と比較すると,経常損益が約34.5億円のマイナスから約34.23億円のプラスに転じており,総括原価方式によれば,平成9年度と平成21年度の経常損益の差額分約68.73億円
について,旅客運賃を減額させるために用いられなければならないから,国土交通大臣は,鉄道事業法23条1項1号に基づき,旅客運賃上限の変更を命ずる義務を負っている。

そうすると,国土交通大臣が鉄道事業法16条5項1号及び同法23条1項1号に基づき,P1に対して旅客運賃上限等の変更を命じないことは,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用するものである(行政事件訴訟法37条の2第5項)。
したがって,国土交通大臣は,鉄道事業法16条5項1号及び同法23条1項1号に基づき,P1に対し,P6運賃変更認可処分に係る旅客運賃上限及びその範囲内で届け出られた旅客運賃について,同法16条2項の定める適正原価・適正利潤の原則に基づき,P6線路使用条件の変更命令により定められた線路使用料に基づいて算定された収入額と現時点における収入と原価を基準とするとともに,特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをすることがないよう距離に比例した原則の下に変更するよう命じなければならないというべきである(本件請求⑥)。

(被告の主張)

本件各線路使用条件認可処分及びP6運賃変更認可処分は,いずれも適法であるから,P6運賃変更認可処分に係る旅客運賃上限及びその範囲内で届け出られた旅客運賃の変更を命じるべき理由はない。


現行算定要領によると,総括原価の算定に当たり,払込資本金に対し10パーセント配当に必要な額の鉄軌道事業分担額を配当所要額(適正利潤)として計上しなければならないとされているから,P1の平成21年度実績を前提としても,損益計算書上の経費計114億8239万円に配当所要額約46億5000万円(平成9年度と同額と想定したもの)を加えた合計約161億円が同年度の総括原価となり,これは旅客運賃等による収入に運輸雑収入及び営業外収益を加えた149億円余を大幅に上回
るから,収入が総括原価を上回る状況にあるとはいえない。

したがって,平成21年度におけるP1の決算実績に照らしても,P6運賃変更認可処分に係る旅客運賃上限は,鉄道事業法16条2項にいう能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものといえるから,P6運賃変更認可処分に係る旅客運賃上限及びその範囲内で設定された旅客運賃が,同法23条1項柱書きにいう利用者の利便その他公共の利益を阻害している事実があると認めるときに当たると解することはできない。

(8)

争点(8)(P16運賃上限認可処分の適法性)について

(原告らの主張)
P2P4線の旅客運賃は,鉄道利用者に混乱を生じさせないという理由で,P6線の旅客運賃と同額に設定されており,近距離の旅客運賃が異常に高いメタボ運賃となっているから,P16運賃上限認可処分についても,P6運賃変更認可処分と同様に違法であって,取り消されるべきである(本件請求⑦)。
(被告の主張)
P6運賃変更認可処分は適法なものであるから,P16運賃上限認可処分も同様に適法なものというべきである。
(9)

争点(9)(P2に対する旅客運賃上限等の変更命令の可否)について
(原告らの主張)
P2P4線の旅客運賃は,P6線の旅客運賃と同額に設定されているから,P1に対する旅客運賃上限等の変更命令と同様に,国土交通大臣が鉄道事業法16条5項1号及び同法23条1項1号に基づき,P2に対して旅客運賃上限等の変更を命じないことは,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用するものである(行政事件訴訟法37条の2第5項)。
したがって,国土交通大臣は,鉄道事業法16条5項1号及び同法23条
1項1号に基づき,P2に対し,P16運賃上限認可処分に係る旅客運賃上限及びその範囲内で届け出られた旅客運賃について,特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをすることがないよう距離に比例した原則の下に変更するよう命じなければならないというべきである(本件請求⑧)。(被告の主張)
P16運賃上限認可処分は適法なものであるから,P2に対する旅客運賃上限等の変更命令の義務付けを求める請求に理由がないことは明らかである。第3
1
当裁判所の判断
本案前の争点について
(1)

争点(1)(原告適格の有無)について
原告らは,改正前鉄道事業法16条1項又は鉄道事業法16条1項に基づ
く旅客運賃認可処分の取消し又は無効確認の訴えについて,反復継続して当該鉄道を利用している者又はその旅客運賃を法的義務として負担している者は原告適格を有する旨主張し,これを前提として,同法16条5項1号及び同法23条1項1号に基づく旅客運賃上限等の変更命令の義務付けの訴え,同法15条1項に基づく鉄道線路使用条件設定認可処分の取消しの訴え,並びに同法23条1項4号に基づく鉄道線路使用条件の変更命令の義務付けの訴えについても,上記の者は原告適格を有する旨主張する。
そこで,まずは,本件各運賃認可処分の取消し又は無効確認の訴え(本件請求④,⑤及び⑦)について,P6線の沿線住民でありP6線を利用している原告らに原告適格が認められるか否かを検討し,その後,旅客運賃上限等の変更命令の義務付けの訴え(本件請求⑥及び⑧),本件各線路使用条件認可処分の取消しの訴え(本件請求①及び②),並びにP6線路使用条件の変更命令の義務付けの訴え(本件請求③)について,原告らに原告適格が認められるか否かを順次検討することとする。

本件各運賃認可処分の取消し又は無効確認の訴え(本件請求④,⑤及び
⑦)について
(ア)

行政事件訴訟法9条は,取消訴訟の原告適格について規定している
ところ,同条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいい,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有するというべきである(最高裁判所平成17年12月7日大法廷判決・民集59巻10号2645頁参照)。なお,行政事件訴訟法36条は,無効確認訴訟の原告適格について規定しているところ,同条にいう無効確認を求めるにつき法律上の利益を有する者の意義についても,取消訴訟の原告適格の場合と同義に解するのが相当である(最高裁判所平成4年9月22日第三小法廷判決・民集46巻6号1090頁参照)。
そして,行政事件訴訟法9条2項は,裁判所は,処分又は裁決の相手方以外の者について同条1項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たっては,当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとし,この場合において,当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし,当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては,当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の
内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする旨規定している。
(イ)

そこで,上記の見地に立って,原告らが本件各運賃認可処分の取消
し又は無効確認を求めるにつき法律上の利益を有する者に該当するといえるかについて判断することとするが,その前提として,まず,本件各運賃認可処分の根拠法である鉄道事業法の趣旨及び目的について検討する。

最初に,鉄道事業法の制定経緯等についてみるに,証拠(甲55,甲61,甲67)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。
(a)

そもそも我が国の鉄道については,明治39年に制定された鉄

道国有法が,一地方ノ交通ヲ目的トスル鉄道以外の鉄道は全て
国の所有とする旨規定し(同法1条),いわゆる鉄道国有主義を採用し,昭和24年に設立された日本国有鉄道が,日本国有鉄道法及び国有鉄道運賃法等による規制の下でその経営を行ってきた。他方で,鉄道国有法が例外的に国以外の者の経営を認めた一地方ノ交通ヲ目的トスル鉄道については,大正8年に制定された地方鉄道法によって,必要な規制及び監督が行われてきた。
日本国有鉄道は,第二次世界大戦後の我が国の経済復興と高度成
長に大きな役割を果たしてきたが,この間のモータリゼーションの発達に伴う輸送手段や国民の輸送に対するニーズの高度化・多様化に適時適切に対応することが困難となり,経営が危機に瀕したことなどから,昭和60年代に至り,これを分割して民営化することによって,利用者のニーズに沿ったサービスを適時適切に提供し得る経営力と経営の自主性を与えることで,再出発を図ることとされた。(b)

このように日本国有鉄道が民営化されることに伴い,既存の地

方鉄道とともに,鉄道事業として一元的に規律する新たな法制度の整備が必要となったところ,地方鉄道法は,一地方の交通を目的とする鉄道を前提に大正8年に制定された法律であり,上記民営化後の新しい鉄道事業を規律する法律としては適切なものとはいい難かった。また,従前はほぼ全ての鉄道事業者が自ら敷設した鉄道線路を使用して鉄道による輸送を行っていたが,都市圏における土地取得費用等の高騰により,鉄道線路の敷設業務と鉄道による運送業務を異なる事業者が行うという,従前は想定されていなかった事態も増えることが予測された。このような事業者の様々なニーズに応じて自主性を発揮させ,鉄道事業の経営の活性化を図るために,鉄道事業者への規制を緩和し種々の手続を簡素化することが必要である一方,公共輸送手段としての鉄道事業の性質に鑑み,鉄道利用者の利便を確保し,鉄道事業の健全な発達を図るための所要の法規制も必要であると考えられるようになった。
(c)

以上のような鉄道を巡る社会事情の変化に対応して,鉄道事業

の在り方を根本的に見直すこととし,鉄道国有法,日本国有鉄道法及び地方鉄道法等を廃止するとともに,新たな鉄道事業に関する一元的な法制度を整備するために,昭和61年に鉄道事業法が制定された。

鉄道事業法は,上記のように,一方で規制を緩和し手続を簡素化することで鉄道事業の活性化を図り,他方で鉄道利用者の利益保護や鉄道事業の健全な発達等のために必要な法規制を行うという理念の下に,目的規定を置き,

この法律は,鉄道事業等の運営を適正かつ合理的なものとすることにより,鉄道等の利用者の利益を保護するとともに,鉄道事業等の健全な発達を図り,もって公共の福祉を増進することを目的とする。

と規定した(改正前鉄道事業法1条)。
鉄道事業法に上記のような規定が設けられたのは,鉄道事業の活性化等によって鉄道事業等の運営を適正かつ合理的なものにするが,鉄道事業法のいう適正かつ合理的な運営は,当然の前提として
利用者の利益の保護,そして鉄道事業等の健全な発達に資す
るものでなければならないことを明示することで,上記の2つの基本的な理念を明らかにするとともに,それらの実現により,公共輸送手段としての鉄道の役割を全うして公共の福祉の増進という鉄道事
業の究極的な目的を達成すべきことを明らかにしたものであると解される。

このように,鉄道事業法は,国有鉄道法及び地方鉄道法には存在しなかった目的規定を置き,同規定において,適正かつ合理的な運
営は,当然に利用者の利益の保護等を前提とするものでなければ
ならないことを明示することで,鉄道事業の合理化が図られる場合でも,利用者の利益の保護は当然の前提として確保されなければな
らないものであることを明らかにしたものと解される。
なお,改正前鉄道事業法1条は,運輸の安全性の向上のための鉄道事業法等の一部を改正する法律(平成18年法律第19号)により改正されて,輸送の安全を確保しという文言が加えられたが,この
改正は,利用者の利益の保護に加えて,輸送の安全の確保を
も鉄道事業法の目的として追加したものであるから,上記で述べたことは現行の鉄道事業法においても何ら変わるものではないと解される。
(ウ)

次に,本件各運賃認可処分の根拠規定である改正前鉄道事業法16
条1項及び鉄道事業法16条1項について検討する。
まず,改正前鉄道事業法についてみるに,同法は,16条1項において旅客の運賃及び料金の設定について運輸大臣の認可を受けなければならないと規定するとともに,同条2項3号において,旅客又は貨物の運賃及び料金を負担する能力にかんがみ,旅客又は荷主が当該事業を利用することを困難にするおそれがないものであることを認可の要件として明示していた。改正前鉄道事業法が上記のような規定を設けた趣旨は,鉄道の運送の対価である運賃や運送に直接附帯する役務の対価等である料金は,鉄道事業者の収益に直接影響を及ぼすものである一方で,鉄道利用者が直接これを負担するものであることから,旅客運賃等の設定を鉄道事業者の自由に任せることなく,運輸大臣の認可を要することとして,鉄道利用者の利益を保護するところにあり,改正前鉄道事業法1条が要請する利用者の利益の保護を旅客運賃等に関して具体的に確保しようとしたものであると解される。
また,現行の鉄道事業法16条1項についてみても,平成11年法律第49号による改正により,認可の対象が旅客運賃等からそれらの上限に変更され,これに伴って,改正前鉄道事業法16条2項3号の規定も削除されるに至ったが,同号は同法1条の目的規定が掲げる利用者の利益の保護という理念を旅客運賃等の認可において具体化したものであるところ,上記(イ)で述べた同法1条の趣旨,目的に鑑みれば,認可の対象が変わったことに伴って当該規定が削除された後も,旅客運賃等が,利用者の負担能力に鑑みて当該事業を利用することを困難にするおそれがあるならば,それは利用者の利益の保護を掲げる同法1条が容認するところではないと解すべきである。
そして,鉄道事業法は,16条5項1号において,旅客運賃上限の範囲内で届け出られた旅客運賃が特定の旅客に対して不当な差別的取扱いをするものであるときには,国土交通大臣がこれを変更することを命ずることができるとし,また,23条1項1号において,利用者の利便を阻害している事実があると認めるときには,国土交通大臣が旅客運賃上限を変更することを命ずることができるとすることにより,鉄
道事業者に対する事前規制を緩和しつつも利用者の利益の保護を図るという同法の目的を達成するため,国土交通大臣に旅客運賃又はその上限の変更を命じる権限を与えているものであると解される。
(エ)

さらに,鉄道事業法の関係法令をみると,国土交通大臣が同法16
条1項の規定による旅客運賃上限の認可をしようとするときは,運輸審議会に諮らなければならないとされているところ(同法64条の2第1号),運輸審議会は,必要があると認めるときは公聴会を開くことができ,利害関係人の請求があったときは公聴会を開かなければならないとされている(国土交通省設置法15条1項,23条)。そして,運輸審議会一般規則5条6号は,上記の利害関係人として,運輸審議会が当該事案に関し特に重大な利害関係を有すると認める者を規定しているところ,後記のとおり,鉄道事業法施行規則73条3号が,地方運輸局長が同法16条1項の規定による旅客運賃上限の認可を行う場合に意見聴取をする利害関係人として,利用者その他の者のうち地方運輸局長が当該事案に関し特に重大な利害関係を有する者と認める者を規定していることからすれば,運輸審議会一般規則5条6号に規定する利害関係人についても,利用者が含まれるものと解するのが相当である。そうすると,鉄道利用者は,運輸審議会が特に重大な利害関係を有すると認めれば,公聴会の開催を請求することができるし,仮に上記のような利害関係人に該当するとは認められなかったとしても,公述人として公聴会において公述をすることができるものである(国土交通省設置法23条,運輸審議会一般規則5条,35条から37条まで)。また,国土交通大臣の委任により地方運輸局長が旅客運賃上限に関する認可を行う場合には,運輸審議会に代わる手続として利害関係人等の意見聴取をすることができるとされているところ(鉄道事業法65条1項),鉄道事業法施行規則73条3号は,ここにいう利害関係人とは,
利用者その他の者のうち地方運輸局長が当該事案に関し特に重大な利害関係を有する者と認める者であると規定しており,利害関係人の選定に関して利用者を特に例示してその他一般の者とは別異の扱いをしている。これは,旅客運賃上限の認可に関し,関係法令が,当該鉄道の利用者が特別の利害関係を有することを前提としていることの表れであると解される。
このように,鉄道事業法の関係法令は,旅客運賃上限認可処分について利用者が特別の利害関係を有することを前提に,国土交通大臣が上記処分を行うに当たり,鉄道利用者に一定の手続関与の機会を付与しているものということができる。
(オ)

ところで,現在,我が国における輸送手段や国民の輸送に対するニ
ーズは多様化・高度化しているが,依然として,鉄道は,人や荷物を大量,高速,定時に輸送する公共的存在として,我が国において重要な地位を占めている。特に,都市圏等で通勤や通学等に鉄道を利用する住民にとっては,居住地から職場や学校等に日々通うための足として,その仕事や学業を継続して続けていくために欠くことのできない移動手段となっているものである。さらに,土地の価格や建物の家賃の額等は,どの鉄道のどの駅が利用できるか,駅に近いか否かなどによって大きく変化し,通勤や通学等のために日々鉄道を利用する者にとっては,鉄道との関係が住居を選定するときの重要な要素になっている現状にある。他方で,鉄道の利用は,法的には利用者が鉄道事業者との間で運送契約を締結して行われるものであり,更に定期券による鉄道利用に至っては継続的契約関係を生じさせるものであると解されるが,その運送の対価である旅客運賃は鉄道事業者の約款により一方的に定められており,利用者としては,一方的に定められた旅客運賃を支払って鉄道を利用するか,それともそもそも鉄道を利用しないかの自由しか与えられていな
いものである。そして,通勤や通学等に日々鉄道を利用している住民にとって,鉄道を全く利用せずに,従前と同様に日々の通勤や通学等を継続するということがいかに非現実的であるかは,災害等において鉄道が不通になったときの大きな混乱等をみれば明らかである。
そうすると,改正前鉄道事業法16条1項又は鉄道事業法16条1項に基づく旅客運賃認可処分が違法にされ,違法に高額な旅客運賃が設定された場合,日々の仕事や学業等を行うための通勤や通学等の手段として当該鉄道を反復継続して日常的に利用する者は,その違法に高額な旅客運賃を支払って,引き続き鉄道を利用することを余儀なくされることになるし,また,その経済的負担能力いかんによっては,当該鉄道を日常的に利用することが困難になり,職場や学校等に日々通勤や通学等すること自体が不可能になったり,住居をより職場や学校の近くに移転せざるを得なくなったりすることになりかねない。すなわち,このように通勤や通学等のために当該鉄道を反復継続して日常的に利用する者にとっては,旅客運賃認可処分が違法にされた場合,仕事や居住場所などといった日常生活の基盤を揺るがすような重大な損害が生じかねないものである。
(カ)

確かに,鉄道事業法が,その目的として利用者の利益の保護

(1条)を掲げているからといって,直ちに,当該鉄道を利用するあらゆる者が旅客運賃認可処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有することになるとはいい難い。
しかしながら,上記(イ)から(エ)までで述べたとおり,鉄道事業法1条は,鉄道事業の合理化が図られる場合でも,利用者の利益の保護は当然の前提として確保されなければならないことを示し,改正前鉄道事業法16条1項及び鉄道事業法16条1項は,上記のような鉄道利用者の利益の保護のために,旅客運賃又はその上限について運輸大臣又は
国土交通大臣の認可を経なければならないこととし,また,鉄道事業法の関係法令も,同認可に関して鉄道利用者が特別の利害関係を有していることを前提とし,事案によっては鉄道利用者が利害関係人として意見聴取の対象となり得るとしているのであって,このような法令の仕組みからすれば,鉄道事業法が,旅客運賃認可処分が違法にされた場合に,およそいかなる鉄道利用者であっても,その違法性を一切争うことはできないものとしたと解さなければならない合理的理由はないというべきである。
そして,行政事件訴訟法9条2項が,法律上の利益の判断におけ
る考慮要素として掲げる,本件各運賃認可処分の根拠規定である改正前鉄道事業法16条1項及び鉄道事業法16条1項の趣旨及び目的,鉄道事業法あるいはその関係法令の趣旨及び目的等は,上記(イ)から(エ)までで述べたとおりであるところ,行政事件訴訟法9条2項が,これらに加えて,処分において考慮される利益の判断の際に勘案すべきであるとしている,処分が違法にされた場合に害される利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度についてみるに,少なくとも居住地から職場や学校等への日々の通勤や通学等の手段として反復継続して日常的に鉄道を利用している者については,違法な旅客運賃認可処分が行われ,違法に高額な旅客運賃設定がされるならば,上記(オ)で述べたとおり,経済的負担能力いかんによっては,当該鉄道を利用することが困難になり,日々職場や学校等に通勤や通学等すること自体が不可能になったり,住居をより職場の近くに移転せざるを得なくなったりするなどの日常生活の基盤を揺るがすような重大な損害が生じかねないものである。そうすると,利用者の利益の保護を重要な理念として掲げ,その
具体的な確保のための条項を置いている鉄道事業法が,上記のような重大な損害を受けるおそれがある鉄道利用者についてまで,違法な旅客運
賃認可処分がされてもその違法性を争うことを許さず,これを甘受すべきことを強いているとは到底考えられないというべきであるから,改正前鉄道事業法16条1項及び鉄道事業法16条1項は,これらの者の具体的利益を,専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含んでいると解すべきである。
したがって,改正前鉄道事業法16条1項又は鉄道事業法16条1項に基づく旅客運賃認可処分に関し,少なくとも居住地から職場や学校等への日々の通勤や通学等の手段として反復継続して日常的に鉄道を利用している者が有する利益は,法律上保護された利益に該当するというべきである。
なお,前述のとおり,平成11年法律第49号による改正後の鉄道事業法16条1項に基づく認可は,旅客運賃の金額そのものではなく,その上限についての認可であるが,その上限についての認可を得た鉄道事業者は,いわばいつでも自由にその上限まで旅客運賃を上げることができる権限を取得するのであって,その後,上限まで旅客運賃が上げられたとしても鉄道利用者はこれを争う機会はないのであるから,これを争う鉄道利用者にとっては上限まで旅客運賃が上げられた場合と何ら異なることがないのであって,法律上保護された利益の有無について,旅客運賃の金額そのものの認可の場合と別異に解する必要はないものというべきである。
(キ)

以上によれば,少なくとも居住地から職場や学校等への日々の通勤
や通学等の手段として反復継続して日常的に鉄道を利用している者は,改正前鉄道事業法16条1項又は鉄道事業法16条1項に基づく旅客運賃認可処分により法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者として,上記処分の取消し又は無効確認の訴え
について原告適格を有するものと解するのが相当である。
被告が指摘するP29特急最高裁判決は,鉄道事業法が制定される前の地方鉄道法21条に基づく特別急行料金改定認可処分の取消しの訴えに関する原告適格について判断したものであるところ,上記(イ)で述べたとおり,鉄道事業法が,地方鉄道法には存在しなかった目的規定を置き,利用者の利益の保護が確保されなければならないものであることを明らかにしていることに鑑みれば,P29特急最高裁判決の射程は,改正前鉄道事業法16条1項又は鉄道事業法16条1項に基づく旅客運賃認可処分の取消し又は無効確認の訴えには及ばないものと解するのが相当である。
(ク)

そして,前記争いのない事実等(1)によれば,原告ら5名はいずれ
も,P1に旅客運賃を支払って,居住地から職場や学校等への日々の通勤や通学等の手段として反復継続して日常的にP6線を利用している者であると認められるから,いずれも,P6運賃変更認可処分の取消し又は無効確認の訴えについて,原告適格を有するものというべきである(なお,原告らが扶養義務に基づいて旅客運賃を負担していると主張する原告P7及び原告P12についても,自ら反復継続して日常的にP6線を利用していることが認められるから,原告適格を有するということができる。)。
(ケ)

一方,P2が定めたP4線の旅客営業規則(乙48)は,13条1
項において

列車に乗車する旅客は,その乗車に有効な乗車券を購入し,これを所持しなければならない。

と規定し,13条の2第1項において

前条第1項の規定にかかわらず,P4線のうち,α1~α2間を乗車する旅客は,P1が発売する乗車券を購入し,これを所持するものとする。

と規定し,同条2項において,

前項に規定する乗車券を所持する旅客は,P4線の列車に乗車することができるものとする。

と規
定している。上記旅客営業規則によれば,P2P4線のα1駅とα2駅の間(P6線区間と同一である。)においては,旅客は,P1に旅客運賃を支払って乗車券を購入し,P1とP2の両者から運送の役務の提供を受ける関係にあり,P1とP2は本件各線路使用条件に従って上記旅客運賃収入を配分することになるものと解されるところ,この点については,当事者間に争いがない。
また,前記争いのない事実等(1)によれば,原告らは,P6線区間内(α1駅とα2駅の間)でのみ日々列車に乗車しており,P6線とP4線が重なり合っていない区間(α2駅とα4駅の間)では列車に乗車していないことが認められる。
そうすると,原告らは,P1に対して,P6運賃変更認可処分により認可された旅客運賃を支払うことにより,P6線区間内において,P1の運行する列車又はP2の運行するP24のいずれかに乗車しているものであるから,P6運賃変更認可処分の取消し又は無効確認を求めるにつき法律上の利益を有するということはできるものの,P2に旅客運賃を支払っているわけではないから,P4線について認可されたP16運賃上限認可処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有するものではないというべきである。
したがって,原告らは,P16運賃上限認可処分の取消しの訴え(本件請求⑦)について原告適格を有しないものというべきである。(なお,仮に,P16運賃上限認可処分の取消しの訴えについて原告らが原告適格を有するとしても,原告らは,同処分の違法性について,P6運賃変更認可処分の違法事由と同様の違法事由を主張しており,後に述べるとおり,P6運賃変更認可処分が違法なものと認められない以上,いずれにせよ請求は棄却されることになる。)

旅客運賃上限等の変更命令の義務付けの訴え(本件請求⑥及び⑧)につ
いて
(ア)

鉄道事業法16条5項1号に基づく旅客運賃の変更命令又は同法2
3条1項1号に基づく旅客運賃上限の変更命令は,いずれも申請によりされるものではないから,上記変更命令の義務付けを求める訴えは,いわゆる非申請型義務付けの訴え(行政事件訴訟法3条6項1号)に該当するものと解される。そして,いわゆる非申請型義務付けの訴えは,一定の処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り提起することができるところ(同法37条の2第3項),ここにいう法律上の利益の有無については,取消訴訟の原告適格と同様に判断すべきものである(同条第4項)。
(イ)

そこで,鉄道事業法16条5項1号に基づく旅客運賃の変更命令又
は同法23条1項1号に基づく旅客運賃上限の変更命令の義務付けを求める訴えについて,原告らが原告適格を有するか否かを検討するに,同法16条5項1号及び同法23条1項1号は,旅客運賃又はその上限が同法が保護しようとしている利用者の利益を損なっている場合に,これを是正する権限を国土交通大臣に与えたものであると解することができる。
そして,上記アで述べたとおり,鉄道事業法16条1項に規定する旅客運賃認可処分は,旅客運賃を支払って日々の通勤や通学等の手段として反復継続して日常的に鉄道を利用している者の具体的利益を,専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含んでいると解されることからすれば,同法16条5項1号に基づく旅客運賃の変更命令又は同法23条1項1号に基づく旅客運賃上限の変更命令についても,上記のような鉄道利用者の具体的利益を,専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれ
を保護すべきものとする趣旨を含んでいるものと解するのが相当である。そうすると,鉄道事業法16条1項に規定する旅客運賃認可処分の取消しの訴えについて原告適格を有する者は,同法16条5項1号に基づく旅客運賃の変更命令及び同法23条1項1号に基づく旅客運賃上限の変更命令の義務付けの訴えについても原告適格を有するものと解するべきである。
(ウ)

したがって,原告らは,P1に対する鉄道事業法16条5項1号に
基づく旅客運賃の変更命令及び同法23条1項1号に基づく旅客運賃上限の変更命令の義務付けの訴え(本件請求⑥)について原告適格を有するものというべきである。
一方,上記イ(ケ)で述べたとおり,原告らは,P16運賃上限認可処分の取消しの訴えについて原告適格を有しない以上,P2に対する旅客運賃上限等の変更命令の義務付けの訴え(本件請求⑧)についても原告適格を有しないものというべきである。

本件各線路使用条件認可処分の取消しの訴え(本件請求①及び②)について
(ア)

取消訴訟の原告適格の判断基準については上記ア(ア)で述べたとお
りであるところ,このような見地から,原告らが本件各線路使用条件認可処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に該当するといえるかについて検討する。
(イ)

まず,本件各線路使用条件認可処分の根拠法である鉄道事業法の趣
旨及び目的についてみるに,上記ア(イ)で述べたとおり,鉄道事業法1条は,鉄道事業の合理化が図られる場合でも,利用者の利益の保護は当然の前提として確保されなければならないものであることを明らかにしているものであるものと解される。
(ウ)

次に,本件各線路使用条件認可処分の根拠規定である鉄道事業法1
5条1項についてみるに,同項は,第一種鉄道事業者及び第三種鉄道事業者が鉄道線路を第二種鉄道事業者に使用させようとするときは,使用料その他の使用条件について国土交通大臣の認可を受けなければならないと規定し,上記の認可要件について,同条3項は,鉄道線路使用条件が

鉄道事業の適正な運営の確保に支障を及ぼすおそれがあると認める場合を除き,・・・(略)・・・認可をしなければならない。

と規定している。
鉄道事業法が上記のような規定を設けた趣旨は,鉄道線路の適切な維持管理及び鉄道利用者への良好かつ安定的な鉄道輸送サービスの提供を図るためには,適正な鉄道線路の使用関係を構成し,鉄道事業の適正な運営を確保する必要がある一方で,鉄道線路使用条件は,旅客運賃や鉄道施設の変更等のように鉄道利用者に直接影響を及ぼすものではなく,飽くまでも鉄道事業者相互間の関係を規律するものであることから,鉄道事業の適正な運営を阻害しない限り,鉄道線路使用条件の内容を原則として鉄道事業者相互間の調整に委ねたものであると解される。
また,鉄道事業法は,国土交通大臣が同法15条1項に基づく鉄道線路使用条件設定認可処分をするに当たって運輸審議会に諮問することを義務付けておらず,そのほか鉄道事業法の関係法令において,国土交通大臣が上記処分を行うに当たり,鉄道利用者に何らかの手続関与の機会が付与されていることをうかがわせる規定は見当たらない。
(エ)

さらに,鉄道線路使用条件設定認可処分が違法にされた場合に害さ
れる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をみるに,上記(ウ)で述べたとおり,鉄道線路使用条件は,飽くまでも鉄道事業者相互間の関係を規律するものであって,旅客運賃のように鉄道利用者に直接影響を及ぼすものではない。そして,鉄道事業法の規定をみても,同法15条1項に基づく鉄道線路使用条件設定の認可申請と同時に,同
法16条1項に基づく旅客運賃上限変更の認可申請をすべきものとはされていないから,同法が,鉄道線路使用条件の設定が旅客運賃上限に直接的な影響を及ぼすものと想定しているとは解されない。
また,鉄道事業法16条2項は,旅客運賃上限の設定又は変更の認可は能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであるかどうかを審査してしなければならないと規定し,事業運用に係る適正な費用と適正な利潤を加えたものが適正な料金であると考えるいわゆる総括原価主義を基本的に採用しているものの,能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであれば旅客運賃上限の設定又は変更が認可されるものとしているから,そもそも認可された旅客運賃上限に基づく総収入が,適正な原価に適正な利潤を加えた額を相当程度下回っているならば,その後新たに線路使用料を受領することとなったとしても,これを加えた総収入が依然として能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないことも十分に考えられ,そのような場合には,上記の旅客運賃上限は,鉄道事業法16条2項に適合するのであって,何らの変更をする必要がないことになる。
そうすると,鉄道線路使用条件設定認可処分が違法にされた場合,そのことによって直ちに旅客運賃上限に影響が生じ,鉄道利用者に損害が及ぶことになるものではないということができる。
(オ)

確かに,鉄道事業法は,その目的として利用者の利益の保護

(1条)を掲げているものの,そのことから直ちに同法に規定するあらゆる処分について,鉄道利用者が当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有すると解することができるわけではないことは明らかである。
そして,行政事件訴訟法9条2項が,法律上の利益の判断におけ

る考慮要素として掲げる,本件各線路使用条件認可処分の根拠規定である鉄道事業法15条1項や鉄道事業法の関係法令の内容及び趣旨は上記のとおりであるところ,上記処分が違法にされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度を勘案しつつ,上記処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮したとしても,鉄道事業法15条1項が,鉄道利用者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解することはできないといわざるを得ない。
そうすると,鉄道事業法15条1項に基づく鉄道線路使用条件設定認可処分によって,鉄道利用者が法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがあるとは認められないから,鉄道利用者は,上記処分の取消訴訟における原告適格を有しないものというべきである。
(カ)

したがって,原告らは,本件各線路使用条件認可処分の取消しの訴
え(本件請求①及び②)について原告適格を有しないものというべきである。

P6線路使用条件の変更命令の義務付けの訴え(本件請求③)について上記ウで述べたとおり,原告らは,本件各線路使用条件認可処分の取消しの訴えについての原告適格を有しない以上,P6線路使用条件の変更命令の義務付けの訴え(本件請求③)についても原告適格を有しないものというべきである。


小括
以上によれば,原告らは,P6運賃変更認可処分の取消し又は無効確認の訴え(本件請求④及び⑤)及びP1に対する旅客運賃上限等の変更命令の義務付けの訴え(本件請求⑥)について原告適格を有するものと認めら
れるが,その余の訴え(本件各線路使用条件認可処分の取消しの訴え(本件請求①及び②),P6線路使用条件の変更命令の義務付けの訴え(本件請求③),P16運賃上限認可処分の取消しの訴え(本件請求⑦)及びP2に対する旅客運賃上限等の変更命令の義務付けの訴え(本件請求⑧))については,いずれも原告適格を有しないものというべきである。(2)

争点(2)(重大な損害を生ずるおそれの有無)について
上記(1)イ(ア)で述べたとおり,鉄道事業法16条5項1号に基づく旅客運賃の変更命令又は同法23条1項1号に基づく旅客運賃上限の変更命令の義務付けを求める訴えは,いわゆる非申請型義務付けの訴え(行政事件訴訟法3条6項1号)に該当するものと解されるところ,いわゆる非申請型義務付けの訴えの訴訟要件については,当該処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあることが必要であり(同法37条の2第1項),その有無の判断に当たっては,損害の回復の困難の程度を考慮するものとし,損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとされている(同条2項)。
いわゆる非申請型義務付けの訴えは,一定の処分を求める法令上の申請権のない者が第三者に対する規制権限の行使としての処分等の一定の処分をすべき旨を命ずることを求める訴えであり,法令上の申請権がない者にあたかも申請権を認めることと同じような結果をもたらすものであるから,そのような訴訟上の救済を認めるのは,国民の権利利益の実効的な救済と司法と行政の権能の適切な均衡の双方の観点から,そのような措置を行わなければならないだけの救済の必要性がある場合であることを要するものと解される。そうすると,非申請型義務付けの訴えの訴訟要件としての上記重大な損害を生ずるおそれがあると認められるためには,処分がされないことにより生ずるおそれのある損害が,事後的な金銭賠償等により容易に救済を受けることができるものでなく,裁判所が一定の処分を命ず
る方法によるのでなければ救済を受けることが困難なものであることを要するものと解するのが相当である。

本件においては,前記のとおり,原告らは,P1に旅客運賃を支払って,居住地から職場や学校等への日々の通勤や通学等の手段として反復継続して日常的にP6線を利用している者であるから,違法に高額な旅客運賃が設定された場合,その経済的負担能力いかんによっては,当該鉄道を日常的に利用することが困難になり,職場や学校等に日々通勤や通学等すること自体が不可能になったり,住居をより職場や学校の近くに移転せざるを得なくなったりすることになりかねず,仕事や居住場所などといった日常生活の基盤を揺るがすような損害が生じかねないのであって,このような損害については,事後的な金銭賠償等により救済することが容易ではないものと認めるのが相当である。
そうすると,P1に対する旅客運賃上限等の変更命令がされないことにより生ずる損害は,事後的な金銭賠償等により容易に救済を受けることができるものでなく,裁判所が一定の処分を命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが困難なものであるということができ,その回復の困難の程度等に鑑み,上記変更命令の義務付けの訴えについては,上記重大な損害を生ずるおそれがあると認められるというべきである。

また,いわゆる非申請型義務付けの訴えの訴訟要件については,その損害を避けるため他に適当な方法がないこと,すなわち補充性の要件を満たすことが必要であるとされている(行政事件訴訟法37条の2第1項)ところ,本件においては,原告らがP1に支払う旅客運賃について争う方法として他に適当な方法があるとは解されないから,P1に対する旅客運賃上限等の変更命令の義務付けを求める訴えは,補充性の要件を満たすものということができる。


したがって,P1に対する旅客運賃上限等の変更命令の義務付けを求め
る訴えは適法なものというべきである。
(3)

争点(3)(出訴期間徒過の有無)について
前記争いのない事実等(3)アによれば,P6運賃変更認可処分は平成10年9月4日付けでされたものであることが認められるところ,本件訴えが提起されたのは,それから10年以上が経過した平成22年8月17日であることは当裁判所に顕著である。そして,原告らがP6運賃変更認可処分の日から1年以内に本件訴えを提起しなかったことについて正当な理由(平成16年法律第84号による改正前の行政事件訴訟法14条3項ただし書)があると認めるに足りる主張立証はない。
したがって,P6運賃変更認可処分の取消しの訴え(本件請求⑤)は,1年間の出訴期間(平成16年法律第84号による改正前の行政事件訴訟法14条3項本文)を徒過してされた不適法なものというべきである。

なお,原告らは,P6運賃変更認可処分は,平成22年2月19日に違法な本件各線路使用条件認可処分がされたことにより,後発的に瑕疵が生じて違法となったから,同処分の取消しの訴えの出訴期間は,上記後発的違法が生じた平成22年2月19日から進行するというべきである旨主張する。
しかし,原告らの上記主張は,平成16年法律第84号による改正前の行政事件訴訟法14条3項本文の文言に反する独自の見解というほかないし,そもそも行政処分の取消しを求める訴えにおいて,裁判所が判断すべきことは当該行政処分が違法に行われたかどうかの点であり,行政処分が行われた後に事情の変化があったからといって,新たな事情を前提として行政処分の当否を判断することはできないと解すべきである(最高裁判所昭和27年1月25日第二小法廷判決・民集6巻1号22頁,最高裁判所昭和28年10月30日第二小法廷判決・裁判集民事10号331頁,最高裁判所昭和34年7月15日第二小法廷判決・民集13巻7号1062
頁参照)ことからすれば,P6運賃変更認可処分の後に本件各線路使用条件認可処分がされたことが,出訴期間を徒過したことについての正当な理由(平成16年法律第84号による改正前の行政事件訴訟法14条3項ただし書)に該当すると解する余地もないというべきである。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
(4)

まとめ
以上によれば,本件各請求のうち,P6運賃変更認可処分の無効確認の訴
え(本件請求④)及びP1に対する旅客運賃上限等の変更命令の義務付けの訴え(本件請求⑥)は適法なものということができるが,その余の訴え(本件請求①,②,③,⑤,⑦及び⑧)はいずれも不適法なものというべきである。
したがって,本案の争点のうち争点(4)(本件各線路使用条件認可処分の適法性),争点(5)(P6線路使用条件の変更命令の可否),争点(8)(P16運賃上限認可処分の適法性)及び争点(9)(P2に対する旅客運賃上限等の変更命令の可否)については,いずれも判断の必要がないこととなる。2
本案の争点について
(1)

争点(6)(P6運賃変更認可処分の適法性)について
P6運賃変更認可処分の後発的違法について
原告らは,違法な本件各線路使用条件認可処分がされたことによって,P6運賃変更認可処分は後発的に違法となったものであり,その違法は重大かつ明白であるから,P6運賃変更認可処分は無効である旨主張する。しかしながら,行政処分が無効であるというためには,処分に重大かつ明白な瑕疵がなければならないところ,行政処分の瑕疵が明白であるということは,処分要件の存在を肯定する処分庁の認定の誤認であることが,処分成立の当初から,外形上,客観的に明白であることを指すものと解すべきである(最高裁判所昭和36年3月7日第三小法廷判決・民集15巻
3号381頁参照)。そうすると,行政処分の取消しの訴えについて上記1(3)で述べたところと同様,行政処分の無効確認の訴えについても,行政処分がされた時点において当該処分に重大かつ明白な瑕疵があったか否かを判断すべきものであって,当該処分後口頭弁論終結時までに生じた事情を参酌して当該処分に重大かつ明白な瑕疵があったか否かを判断すべきものではないと解すべきである。
したがって,原告らの上記主張は主張自体失当なものといわざるを得ない。

P6運賃変更認可処分の原始的違法について
(ア)

原告らは,P6線の旅客運賃は,初乗りから中間距離までの旅客運
賃が異常に高いメタボ運賃となっており近距離の利用者が遠距離の利用者に比べて不当に割高の旅客運賃を負担することになることなどからすれば,特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするもの(改正前鉄道事業法16条2項2号)に該当し,能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利潤を含むもの(同項1号)に該当しないから,P6運賃変更認可処分は違法であり,その違法は重大かつ明白である旨主張するので,以下検討する。
(イ)a

そもそも鉄道事業における旅客運賃は,一義的には,輸送人員や

費用等を踏まえ,各鉄道事業者の経営判断の下で設定されるものであって,改正前鉄道事業法16条2項各号に規定する認可要件を満たせば,旅客運賃の設定が認可されるものである。

そこで,まず,P6線の旅客運賃が,特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするもの(改正前鉄道事業法16条2項2号)に該当するか否かについてみるに,ここでいう特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものとは,当該旅客運賃が合理的かつ正当な理由なく,特定の旅客を個別的に優遇又は冷遇するもの,例えば鉄道事業
者が旅客の信条や宗教等によって異なる旅客運賃を適用する場合を指すものと解するのが相当である。
そして,前記争いのない事実等(3)ア及び弁論の全趣旨によれば,P6線の旅客運賃は,全ての旅客に同様に適用されるものであり,特定の旅客によって異なるものではないことが認められるから,特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものに該当するということはできない。

これに対し,原告らは,P6線の旅客運賃が遠距離逓減されており,近距離の利用者が遠距離の利用者に比べて割高の旅客運賃を負担していることをもって,特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものである旨主張する。しかしながら,P6線の旅客運賃はP6線のどの区間を乗車しても等しく適用されるものであるところ,P6線を利用する者は,一般に近距離を利用することも遠距離を利用することもあり得るのであって,およそ近距離しか利用しない者や遠距離しか利用しない者と
いう特定の旅客を観念することはできないから,P6線の旅客運
賃が遠距離逓減されているからといって,特定の旅客が不当な差
別的取扱いを受けているものということはできず,原告らの上記主張は採用することができない。
なお,上記のとおり,そもそも鉄道事業における旅客運賃は,一義的には各鉄道事業者の経営判断の下で設定されるものであるところ,証拠(乙22,52,53)によれば,遠距離逓減の程度の違いはあるものの,遠距離逓減制に基づく旅客運賃を設定している鉄道路線が存在することが認められるから,P1のみが特異な旅客運賃体系を採用しているものとも認め難い。

(ウ)a

次に,P6線の旅客運賃が能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利潤を含むもの(改正前鉄道事業法16条2項1号)に該当するか否かについてみるに,前記争いのない事実等(3)ア並びに証拠(乙33)及び弁論の全趣旨によれば,P6運賃変更認可処分がされた当時の運輸大臣は,P1から提出されたP6収入原価表等の資料に加え,運輸審議会の答申を踏まえ,P6線の旅客運賃が能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利潤を含むものに該当するものと判断したものと認められ,その判断過程及び判断内容に何らかの瑕疵があると認めるに足りる証拠はない。b
これに対し,原告らは,旅客運賃設定又は変更の認可においては,利用者が公平に旅客運賃を負担するような配分になっているか,すなわち距離に比例した旅客運賃体系となっているかを審査すべきであるところ,P6線の旅客運賃はメタボ運賃となっているから,能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利潤を含むものに該当しない旨主張する。しかしながら,旅客運賃が能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利潤を含むもの(改正前鉄道事業法16条2項1号)であるか否かについて,当該旅客運賃を設定する路線の各区間ごとに全て個別にみて,能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利潤を含むものに該当するか否かを算定して審査することは現実的に困難であるし,改正前鉄道事業法16条2項1号の文言に照らしても,そのような審査をすることが要求されているものとは解されない。
そうすると,旅客運賃設定又は変更の認可に当たっては,飽くまで当該旅客運賃を設定する路線全体をみて,能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利潤を含むものであるか否かを審査することが要求されているものというべきであって,原告らが主
張するように,P6線の旅客運賃が遠距離逓減制となっていることをもって,能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利潤を含むものに該当しないということはできないから,原告らの上記主張は採用することができない。

また,原告らは,P6運賃変更認可処分に当たってP1から提出されたP6収入原価表には平成9年度実績以外の記載がなく,原価計算期間を3年間と定めていた平成8年算定要領に反するし,P6収入原価表に記載された数字とP1の平成9年度損益計算書記載の数字が異なるから,P6運賃変更認可処分は,不十分な資料に基づいてされたものである旨主張する。
しかしながら,証拠(甲112,乙55)によれば,平成8年算定要領にいうところの原価計算期間(平年度)とは,旅客運賃を設
定又は変更した場合に予測される原価を計算する期間,すなわち旅客運賃を設定又は変更する年度の翌年度以降の期間を指すものであって,過去の実績年度を指すものではないものと認められる。そして,証拠(甲112,乙33)によれば,平成8年算定要領においては,上記の原価計算期間(平年度)は改定年度の翌年度以降3年間とされ
ていたところ,P6運賃変更認可処分に当たって提出されたP6収入原価表には,平成9年度実績値に加えて,改定年度の翌年度以降3年分の平年度3年間平均の原価計算が記載されているから,P6運
賃変更認可処分は,平成8年算定要領に則って行われたものである。また,証拠(甲112)によれば,平成8年算定要領においては,原価計算に当たって,経常的性格を担保するため,固定資産売却損益等の特別損益を除外することとされていることが認められるから,平成8年算定要領に基づき作成されたP6線収入原価表に記載された収入及び費用の数字と,企業会計原則等に基づき作成された損益計算書
に記載された収益及び費用の数字が異なることは当然のことであって,上記数字が異なることをもって,P6運賃変更認可処分の審査資料とされたP6収入原価表に誤りがあったと認めることはできない。

そうすると,P6運賃変更認可処分について,不十分な資料に基づき,能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利潤を含むものに該当するか否かを適切に審査せずにされたものであったということはできない。


以上によれば,P6運賃変更認可処分について,改正前鉄道事業法16条2項1号又は2号の規定する認可要件に違反する違法があるとは認められず,もとより重大かつ明白な違法があるとはいえない。
したがって,P6運賃変更認可処分の無効確認を求める原告らの請求(本件請求④)は理由がないというべきである。

(2)

争点(7)(P1に対する旅客運賃上限等の変更命令の可否)について鉄道事業法16条5項1号は,同法16条3項に基づき届け出られた旅客運賃が特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものであるときに,国土交通大臣が上記旅客運賃の変更を命ずることができることを定め,また,同法23条1項1号は,鉄道事業者の事業について利用者の利便その他公共の利益を阻害している事実があると認めるときに,国土交通大臣が旅客運賃上限の変更を命ずることができることを定めている。これらの規定は,鉄道事業が極めて公益性の高い事業であることから,鉄道事業等の健全な発達を図るとともに,利用者の利益を保護す
る(鉄道事業法1条)ため,国土交通大臣に対して,上記各変更命令をする権限を与えたものであるところ,このような特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものであるか利用者の利便その他公共の利益を阻害している事実があるかについては,鉄道事業の性質や内容等を踏まえた専門技術的かつ公益的な観点からの判断が不可欠であることから,上記
変更命令をするかどうかについては,国土交通大臣の専門技術的かつ公益的な見地からの裁量に委ねられているものと解するべきである。

そして,上記のような裁量処分に係る義務付けの訴えの本案要件(本案の判断において請求が認容されるための要件)については,行政庁がその処分をしないことがその裁量権の範囲を超え又はその濫用となると認められることが要件とされていること(行政事件訴訟法37条の2第5項)から,国土交通大臣がP1に対して鉄道事業法16条5項1号に基づく旅客運賃の変更命令又は同法23条1項1号に基づく旅客運賃上限の変更命令をしないことが裁量権の範囲を超え又はその濫用となると認められるか否かについて検討する。


まず,鉄道事業法16条5項1号に基づく旅客運賃の変更命令について検討するに,原告らは,P6線の旅客運賃がメタボ運賃となっており,近距離の利用者が遠距離の利用者に比べて不当に割高の旅客運賃を負担しているから,特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものであるときに該当し,国土交通大臣は上記変更命令をすべき義務を負っている旨主張する。
しかし,P6線の旅客運賃が特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものであるときに該当するとはいえないことは,上記(1)イ(イ)で述べたとおりであるから,原告らの上記主張は理由がない。


次に,鉄道事業法23条1項1号に基づく旅客運賃上限の変更命令について検討する。
(ア)

まず,原告らは,P6運賃変更認可処分は,不十分な資料に基づき
適正原価・適正利潤の原則に適合するかが適正に審査されずにされたものであり,現時点で適切な原価計算に基づき算定し直さなければならないから,国土交通大臣は,上記変更命令をすべき義務を負っている旨主張する。

しかしながら,P6線運賃変更認可処分が改正前鉄道事業法16条2項1号に規定する認可要件を満たす適法なものであることは,上記(1)イ(ウ)で述べたとおりであるから,この点についての原告らの主張もまた理由がない。
(イ)

また,原告らは,本件各線路使用条件認可処分は違法なものであり,
P6線路使用条件が変更されれば,P1の収入額が増大することになるから,国土交通大臣は,鉄道事業法23条1項1号に基づき,上記変更された線路使用料を基準に,適正原価・適正利潤の原則(鉄道事業法16条2項)に基づいて旅客運賃上限を変更するよう命ずる義務を負っている旨主張する。

しかしながら,本件各線路使用条件認可処分は,いずれも取消権限を有する機関により取り消されておらず,行政庁及び裁判所を含む何人もその効果を否定することができないものであるから,国土交通大臣がP1に対して鉄道事業法23条1項1号に基づく旅客運賃上限の変更命令をすべき義務を負っているか否かについては,本件各線路使用条件認可処分が適法にされ,P1とP2及びP3の間では本件各線路使用条件が有効に存在していることを前提に検討すべきことになる。そして,前記争いのない事実等(3)並びに証拠(乙22)及び弁論の全趣旨によれば,本件各線路使用条件においては,P2からP1に対して線路使用料として資本費相当額等(P1及びP3の所有する鉄道事業用固定資産のうち,P2も使用する資産額等を基礎に算出された額。前記第2の2(3)イ(ア)b(a)①,(b)参照。)及び加算額(P2がP6線区間内で列車を運行することによって生じるP1の旅客運賃収入減少額が資本費相当額等を上回る場合の差額。前記第2の2(3)イ(ア)b(a)②,(b)参照。)が支払われることにより,P2がP6線区間内で列車を運行することによるP1の収支に対する影響
は可及的に排除されていることが認められる。
そうすると,P1がP2に対してP1所有区間を貸し付けていることによって,P1の総収入が増加してP1の旅客運賃上限が能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないもの(鉄道事業法16条2項)に該当しなくなるということにはならないから,国土交通大臣がP1に対して鉄道事業法23条1項1号に基づき旅客運賃上限の変更を命ずるべき理由はないというべきである。

一方,仮に,本件各線路使用条件認可処分に重大かつ明白な瑕疵があり同処分が無効であるならば,国土交通大臣が鉄道事業法23条1項1号に基づく旅客運賃上限の変更命令をすべきか否かについては,本件各線路使用条件が有効に存在しないことを前提に検討すべきことになる。
(a)

そこで本件各線路使用条件認可処分について,鉄道事業法15

条3項の認可要件に反する重大かつ明白な違法があるか否かについて検討するに,同法は,15条1項において鉄道線路使用条件について国土交通大臣の認可を受けなければならないと規定するとともに,同条3項において,上記の認可要件について,鉄道線路使用条件が

鉄道事業の適正な運営の確保に支障を及ぼすおそれがあると認める場合を除き,・・・(略)・・・認可をしなければならない。

と規定している。そして,同法が,上記のような規定を設けた趣旨は,上記1(1)ウ(ウ)で述べたとおり,鉄道線路の適切な維持管理及び鉄道利用者への良好かつ安定的な鉄道輸送サービスの提供を図るためには,適正な鉄道線路の使用関係を構成し,鉄道事業の適正な運営を確保する必要がある一方で,鉄道線路使用条件は,旅客運賃や鉄道施設の変更等のように鉄道利用者に直接影響を及ぼすものでは
なく,飽くまでも鉄道事業者相互間の関係を規律するものであるため,鉄道事業の適正な運営を阻害しない限り,鉄道線路使用条件の内容を原則として鉄道事業者相互間の調整に委ねたものであると解される。
そうすると,鉄道事業法15条3項が,鉄道線路使用条件設定の
認可要件として規定している鉄道事業の適正な運営の確保に支障を及ぼすおそれがあるか否かについては,鉄道線路使用条件の設定に関する鉄道事業者相互の経営判断を尊重しつつ,当該使用条件の設定が,鉄道線路の適切な維持管理や鉄道利用者への良好かつ安定的な鉄道輸送サービスの提供に支障を及ぼすおそれがあると認められるか否かについて判断すべきものと解される。
(b)

そして,本件各線路使用条件においては,上記aで述べたとお

り,P2がP6線区間内で列車を運行することによるP1の収支に対する影響は可及的に排除されているのであるから,本件線路使用条件に基づきP2がP6線区間内で列車を運行することによって,原則としてP1に減収が生じることもなければ,線路使用料収入による増収が生じることもないことが認められるのであり,そうすると,P1によるP1所有区間の適切な維持管理に支障を及ぼすおそれが生じたり,P6線の利用者への良好かつ安定的な鉄道輸送サービスの提供に支障が生じたりするような事態は生じないと認められる。
(c)

また,上記1(1)ウ(エ)で述べたとおり,総括原価主義の下に
おいても,鉄道線路使用条件が設定され第一種鉄道事業者が線路使用料を受領することとなった場合,そのことによって直ちに,当該第一種鉄道事業者が設定している旅客運賃上限が能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないもの
ではなくなるものではないと解されることからすれば,仮に,P1がP2及びP3との間で設定する鉄道線路使用条件が,本件各線路使用条件よりもP1に有利で,P1に増収が生じるようなものであったとしても,そのことが直ちにP1の旅客運賃上限の引下げにつながるわけでもないといえるから,本件各線路使用条件の設定により,直ちにP6線の旅客運賃が高止まりすることになって,P6線の利用者への良好かつ安定的な鉄道輸送サービスの提供に支障が生じるおそれが生じるものともいえない。
(d)

したがって,本件各線路使用条件認可処分について,鉄道事業

法15条3項の認可要件に違反する違法なものであるとは認められず,もとより重大かつ明白な違法があるとはいえないから,国土交通大臣が鉄道事業法23条1項1号に基づきP1に対して旅客運賃上限の変更を命ずるべき理由はないというべきである。
なお,原告らは,P2がP1及びP3の間で本件各線路使用条件
を設定したことが独占禁止法の禁止する優越的な地位の濫用等に該当する旨主張するが,上記のような独占禁止法違反が仮に存在したとしても,そのことから直ちに本件各線路使用条件認可処分が鉄道事業法15条3項の認可要件を満たさない違法なものとなると解することはできない。
(ウ)

さらに,原告らは,平成21年のP1の収支の実績をP6運賃変更
認可処分の基礎とされた平成9年の収支の実績と比較すると,経常損益が約34.5億円のマイナスから約34.23億円のプラスに転じており,総括原価方式によれば,平成9年度と平成21年度の経常損益の差額分約68.73億円について,旅客運賃を減額させるために用いられなければならないから,国土交通大臣は,鉄道事業法23条1項1号に基づき,旅客運賃上限の変更を命ずる義務を負っている旨主張する。
しかしながら,証拠(甲51の2,甲108,乙22)及び弁論の全趣旨によれば,P1の平成21年度損益計算書における経常損益はプラスとなっているものの,国土交通省がP1を含む中小民鉄事業者の旅客運賃算定に用いている現行算定要領においては,適正利潤として払込資本金の10パーセントの配当所要額を計上することとされており,現行算定要領に基づき,想定される配当所要額を平成21年度のP1の経常損益に計上すれば,P1の旅客運賃等の収入が原価及び利潤を超えることはないものと認められる。
そうすると,現時点において,P1の旅客運賃が,鉄道事業法16条2項に規定する能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えるものとなっているとは認められない。したがって,国土交通大臣が鉄道事業法23条1項1号に基づきP1に対して旅客運賃上限の変更を命ずるべき理由はないというべきである。オ
以上によれば,国土交通大臣がP1に対して鉄道事業法16条5項1号及び同法23条1項1号に基づく旅客運賃上限等の変更命令をしないことが裁量権の範囲を超え又はその濫用となるとは認められないから,上記変更命令の義務付けを求める原告らの請求(本件請求⑥)は理由がないというべきである。

(3)

まとめ
以上によれば,P6運賃変更認可処分の無効確認の訴え(本件請求④)及
びP1に対する旅客運賃上限等の変更命令の義務付けの訴え(本件請求⑥)については,いずれも理由がないものというべきである。
第4

結論
よって,本件訴えのうち主文第1項掲記の各部分はいずれも不適法であるからこれらを却下することとし,原告らのその余の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,
民事訴訟法61条,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第38部

裁判長裁判官

定塚
裁判官

竹林俊憲
裁判官

馬場俊宏誠
別紙
関係法令の定め

第1
1
鉄道事業法
1条(目的)
この法律は,鉄道事業等の運営を適正かつ合理的なものとすることにより,輸送の安全を確保し,鉄道等の利用者の利益を保護するとともに,鉄道事業等の健全な発達を図り,もって公共の福祉を増進することを目的とする。
2
2条(定義)
(1)

1項
この法律において鉄道事業とは,第一種鉄道事業,第二種鉄道事業及
び第三種鉄道事業をいう。
(2)

2項
この法律において第一種鉄道事業とは,他人の需要に応じ,鉄道

(・・・(略)・・・)による旅客又は貨物の運送を行う事業であって,第二種鉄道事業以外のものをいう。
(3)

3項
この法律において第二種鉄道事業とは,他人の需要に応じ,自らが敷
設する鉄道線路(・・・(略)・・・)以外の鉄道線路を使用して鉄道による旅客又は貨物の運送を行う事業をいう。
(4)

4項
この法律において第三種鉄道事業とは,鉄道線路を第一種鉄道事業を
経営する者に譲渡する目的をもって敷設する事業及び鉄道線路を敷設して当該鉄道線路を第二種鉄道事業を経営する者に専ら使用させる事業をいう。3
15条(鉄道線路の使用等)
(1)

1項

第一種鉄道事業者及び第三種鉄道事業の許可を受けた者(以下第三種鉄道事業者という。)は,許可を受けた路線に係る鉄道線路を第二種鉄道事業者に使用させようとするときは,使用料その他の国土交通省令で定める使用条件について,国土交通大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも,同様とする。
(2)

3項
国土交通大臣は,前二項に規定する使用条件又は譲渡条件が,鉄道事業の
適正な運営の確保に支障を及ぼすおそれがあると認める場合を除き,前二項の認可をしなければならない。
4
16条(旅客の運賃及び料金)
(1)

1項
鉄道運送事業者は,旅客の運賃及び国土交通省令で定める旅客の料金(以
下旅客運賃等という。)の上限を定め,国土交通大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも,同様とする。
(2)

2項
国土交通大臣は,前項の認可をしようとするときは,能率的な経営の下に
おける適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであるかどうかを審査して,これをしなければならない。
(3)

3項
鉄道運送事業者は,第1項の認可を受けた旅客運賃等の上限の範囲内で旅
客運賃等を定め,あらかじめ,その旨を国土交通大臣に届け出なければならない。これを変更しようとするときも,同様とする。
(4)

5項
国土交通大臣は,第3項の旅客運賃等又は前項の旅客の料金が次の各号の
いずれかに該当すると認めるときは,当該鉄道運送事業者に対し,期限を定めてその旅客運賃等又は旅客の料金を変更すべきことを命ずることができる。

特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものであるとき。


他の鉄道運送事業者との間に不当な競争を引き起こすおそれがあるものであるとき。

5
23条(事業改善の命令)1項
国土交通大臣は,鉄道事業者の事業について輸送の安全,利用者の利便その他公共の利益を阻害している事実があると認めるときは,鉄道事業者に対し,次に掲げる事項を命ずることができる。

旅客運賃等の上限若しくは旅客の料金(・・・(略)・・・)又は貨物の運賃若しくは料金を変更すること。

二,三

・・・(略)・・・

鉄道施設の使用若しくは譲渡に関する契約を締結し,又は使用条件若しくは譲渡条件を変更すること。

五から七まで
6
・・・(略)・・・

64条(権限の委任)
この法律に規定する国土交通大臣の権限は,国土交通省令で定めるところにより,地方運輸局長に委任することができる。

7
64条の2(運輸審議会への諮問)
国土交通大臣は,次に掲げる処分等をしようとするときは,運輸審議会に諮らなければならない。

第16条第1項の規定による旅客運賃等の上限の認可


第16条第5項の規定による旅客運賃等又は旅客の料金の変更の命令

第23条第1項の規定による旅客運賃等の上限若しくは旅客の料金又は貨物の運賃若しくは料金の変更の命令

四,五
8
・・・(略)・・・

65条(意見の聴取)
(1)

1項

地方運輸局長は,第64条の規定により,旅客運賃等の上限に関する認可に係る事項がその権限に属することとなった場合において,当該事項について必要があると認めるときは,利害関係人又は参考人の出頭を求めて意見を聴取することができる。
(2)

2項
地方運輸局長は,その権限に属する前項に規定する事項について利害関係
人の申請があったときは,利害関係人又は参考人の出頭を求めて意見を聴取しなければならない。
9
66条(国土交通省令への委任)
この法律に定めるもののほか,この法律の実施のため必要な手続その他の事項は,国土交通省令で定める。

第2

平成11年法律第49号(平成12年3月1日施行)による改正前の鉄道事
業法(以下改正前鉄道事業法という。)
1
1条(目的)
この法律は,鉄道事業等の運営を適正かつ合理的なものとすることにより,鉄道等の利用者の利益を保護するとともに,鉄道事業等の健全な発達を図り,もって公共の福祉を増進することを目的とする。

2
16条(運賃及び料金)
(1)

1項
鉄道運送事業者は,旅客又は貨物の運賃及び料金(・・・(略)・・・)を定め,
運輸大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも,同様とする。
(2)

2項
運輸大臣は,前項の認可をしようとするときは,次の基準によって,これ
をしなければならない。

能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利潤を含む
ものであること。

特定の旅客又は荷主に対し不当な差別的取扱いをするものでないこと。

旅客又は貨物の運賃及び料金を負担する能力にかんがみ,旅客又は荷主が当該事業を利用することを困難にするおそれがないものであること

他の鉄道運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること。

(3)

4項
鉄道運送事業者は,第1項後段の規定にかかわらず,当該鉄道事業に係る
総収入を減少させないと見込まれる範囲内で,運輸省令で定めるところにより,適用する期間又は区間その他の条件を定めて,同項の認可を受けた運賃又は料金の割引を行うことができる。この場合には,当該鉄道運送事業者は,あらかじめ,その旨を運輸大臣に届け出なければならない。
3
23条(事業改善の命令)1項
運輸大臣は,鉄道事業者の事業について利用者の利便その他公共の利益を阻害している事実があると認めるときは,鉄道事業者に対し,次に掲げる事項を命ずることができる。

運賃又は料金を変更すること。

二から七まで
第3
1
・・・(略)・・・

鉄道事業法施行規則
30条(鉄道線路の使用条件の認可申請)
(1)

1項
法第15条第1項の国土交通省令で定める使用条件は,次のとおりとする。

使用料及びその収受方法


使用の開始予定日及びその期間


管理の方法


前3号に掲げるもののほか,鉄道事業の運営に重大な関係を有する事項
がある場合には,その事項
(2)

2項
法第15条第1項の規定により鉄道線路の使用条件の設定又は変更の認可
を申請しようとする者は,次に掲げる事項を記載した使用条件設定(変更)認可申請書を提出しなければならない。

氏名又は名称及び住所


設定し,又は変更しようとする使用条件を適用する鉄道線路


設定し,又は変更しようとする使用条件(変更の認可申請の場合には,新旧の対照を明示すること。)


(3)

変更の認可申請の場合には,変更を必要とする理由
3項
前項の申請書には,次に掲げる書類を添付しなければならない。

一二2
使用契約書の写し
使用料の算出の基礎を記載した書類(・・・(略)・・・)

32条(旅客運賃等の上限の認可申請)
(1)

2項
法第16条第1項の規定により旅客運賃等の上限の設定又は変更の認可を
申請しようとする者は,次に掲げる事項を記載した運賃(料金)上限設定(変更)認可申請書を提出しなければならない。

氏名又は名称及び住所


設定し,又は変更しようとする旅客運賃等の上限を適用する路線


設定し,又は変更しようとする旅客運賃等の上限の種類,額及び適用方法(変更の認可申請の場合には,新旧の対照を明示すること。)


(2)

変更の認可申請の場合には,変更を必要とする理由
3項
前項の申請書には,原価計算書その他の旅客運賃等の上限の額の算出の基
礎を記載した書類を添付しなければならない。
3
71条(権限の委任)1項
法及びこの省令に規定する国土交通大臣の権限で次に掲げるものは,地方運輸局長に委任する。
一から五まで・・・(略)・・・
五の二

法第15条第1項及び第2項の認可であって次に掲げるもの
年間の旅客の運賃及び料金の収入額又は収入予想額(・・・(略)・・・)3
0億円を基準として国土交通大臣が告示で定める鉄道事業者に鉄道線路を使用させ又は譲渡する場合の使用条件又は譲渡条件に係るもの
ロ,ハ

・・・(略)・・・

法第16条第1項の認可であって次に掲げるもの

前号イの告示で定める鉄道事業者の旅客運賃等に係るもの


イに掲げるもののほか,普通旅客運賃,定期旅客運賃その他の基本的な旅客の運賃(・・・(略)・・・)に係るもの(軽微なものを除く。)以外のもの
七から十六まで
4
・・・(略)・・・

73条
法第65条第1項及び第2項の利害関係人(・・・(略)・・・)とは,次のいずれかに該当する者をいう。

鉄道事業における基本的な旅客運賃等の上限に関する認可の申請者

第一号の申請者と競争の関係にある者


利用者その他の者のうち地方運輸局長が当該事案に関し特に重大な利害関係を有すると認める者

第4
1
国土交通省設置法
15条(所掌事務等)
(1)

1項

運輸審議会は,鉄道事業法(・・・(略)・・・)・・・(略)・・・の規定により同審議会に諮ることを要する事項のうち国土交通大臣の行う処分等に係るものを処理する。
(2)

3項
第1項に規定する事項に係る処分等及び前項に規定する決定等(・・・
(略)・・・)のうち,運輸審議会が軽微なものと認めるものについては,国土交通大臣は,運輸審議会に諮らないでこれを行うことができる。2
23条(公聴会)
運輸審議会は,第15条第1項に規定する事項及び同条第2項の規定により付議された事項については,必要があると認めるときは,公聴会を開くことができ,又は国土交通大臣の指示若しくは運輸審議会の定める利害関係人の請求があったときは,公聴会を開かなければならない。

第5

運輸審議会一般規則

1
5条
国土交通省設置法(・・・(略)・・・)第23条の規定による利害関係人とは,当該事案に関し,次の各号のいずれかに該当する者をいう。

許可,認可,特許,認定若しくは承認の申請者,同意を要する協議をした者又は行政不服審査法(・・・(略)・・・)による不服申立てをした者(・・・(略)・・・)


事案において,行政手続法(・・・(略)・・・)第2条第4号に規定する不利益処分(・・・(略)・・・)の名あて人となるべき者


事案の申請者と競争の関係にある者


料率の変更を請求した者

四の二

臨港地区の区域の案の変更を請求した者


港湾管理者の設立に関する調停を受ける者


前各号に掲げる者のほか,運輸審議会が当該事案に関し特に重大な利害関
係を有すると認める者
2
35条(公述の申出)
公聴会において公述しようとする者は,第31条第1項の規定により公示した期限までに,公述申込書及び公述書を運輸審議会に提出しなければならない。この場合において,自己のために公述を申し込んだ者があるときは,その者に関しとりまとめて公述の申出をすることができる。

3
36条1項
公述申込書には,公述しようとする者の氏名,住所,職業,年令(・・・(略)・・・)及び当該事案に対する賛否並びに利害関係人にあっては利害関係を説明する事項を記載しなければならない。

4
37条(公述人の選定)
(1)

1項
運輸審議会は,第35条の規定により提出された文書を審査して,公述内
容が同類であるか,又は事案の範囲外にあると認めるときは,公述申込書に記載された者のうちから公述人を選定することができる。
(2)

2項
運輸審議会は,前項の規定による選定を行なったうえ,さらに,議事の整
理上必要があると認めるときは,利害関係人以外の者であって公述の申出をしたものについては,数を定めて公述人を選定することができる。この場合において,選定されなかった者の公述書は,事実の審理の資料に供するものとする。

別紙
当事者の主張

第1
1
争点(1)(原告適格の有無)について
原告らの主張
(1)

本件各運賃認可処分の取消し又は無効確認の訴え(本件請求④,⑤及び
⑦)及び旅客運賃上限等の変更命令の義務付けの訴え(本件請求⑥及び⑧)について

鉄道事業法の趣旨及び目的等について
(ア)

鉄道事業法は,鉄道利用者の利益を保護することを目的とし(同法
1条),適正原価・適正利潤を基準として旅客運賃の認可をすることとしている(同法16条2項)。すなわち,旅客運賃を当事者の自由な契約に任せれば,鉄道事業者が優越的な地位を利用して不当に高額の旅客運賃を設定し,鉄道利用者の利益を害することがあるので,旅客運賃の認可制がとられているのである。
改正前鉄道事業法16条2項3号は,旅客又は貨物の運賃及び料金を負担する能力にかんがみ,旅客又は荷主が当該事業を利用することを困難にするおそれがないものであることを認可要件として規定しており,これは,鉄道利用者の利便の保護・確保の観点から,旅客運賃が鉄道利用者の負担能力を考慮したものであるかどうかについて審査するための要件として設けられていたものである。そして,改正前鉄道事業法16条2項3号の規定は平成11年法律第49号により削除されたが,これは,鉄道事業者の自主性・主体性を尊重するため,旅客運賃の設定について,認可された旅客運賃上限の範囲内の事前届出制とされたことに伴い,鉄道利用者一般の利益は旅客運賃上限の適切性について審査することにより十分対応することができること,また,鉄道事業者は経営
維持のためには鉄道利用者数を増やして事業収入を最大にするべく努力することが通例であることから,上記規定を削除することとなったものであって,この改正は,鉄道利用者の利益を保護する趣旨を変更するものではない。
そうすると,鉄道事業法は,その仕組みだけでなく,その文言上も,鉄道利用者の利益を個別具体的に保護しているというべきである。(イ)

そして,ここでいう鉄道の利用者には,鉄道に乗車する者だけ

ではなく,旅客運賃の負担者も含まれるというべきである。すなわち,鉄道事業法は,鉄道線路使用条件設定の認可(同法15条),旅客運賃上限設定の認可(同法16条),旅客運賃上限や使用条件の変更命令(同法23条1号,4号)といった制度を置いているが,これは,独占企業の一方的な旅客運賃設定から消費者を守る法的仕組みであるから,乗車する者の利益を個別具体的に保護するのはもちろんのこと,旅客運賃を負担する者の利益を個別具体的に保護する趣旨も含まれている。また,鉄道利用者の利用形態は多種多様であって,将来乗車するかもしれない潜在的な利用者や1回的な利用者はともかく,日常的に当該鉄道を利用する沿線住民については,個別具体的な保護が与えられなくてはならない。
そうすると,反復継続的に鉄道を利用している者又はその旅客運賃を法的義務として負担している者(扶養義務者,雇用主等)の利益は,鉄道事業法において個別具体的に保護されていると解するべきである。旅客運賃を負担する扶養義務者や雇用主等と,実際に鉄道に乗車する者のいずれもが原告適格を有しないということは極めて不合理であり,少なくともいずれかには原告適格が認められなければならない。

処分において考慮されるべき利益の内容及び性質について
違法な旅客運賃上限が認可されれば,旅客運賃が高額となり,日常的に
鉄道を利用する者は,経済的な不利益を受けることになるところ,P6線の旅客運賃は他の鉄道路線の旅客運賃と比較して異常に高額であり(別紙グラフ参照),原告らが支出しているP6線の旅客運賃は各家計の少なくとも1割を占めているから,その生活に重大な影響を生じさせている。また,P6線は,地域独占的な性格を有する公共事業であるから,P6線沿線住民にとっては,移動するのにP6線を利用せざるを得ない。そして,P6線の利用者は,異常に高額な旅客運賃のために,利用したいときに自由にP6線を利用することができず,移動の自由が制限されるという,日常生活・社会生活上の不利益を受けている。

鉄道事業法の制定経緯について
(ア)

鉄道事業法制定時における国会の審議の中では,同法の趣旨が鉄道
利用者の経済的利益を個別に保護することにあることが明らかにされている。すなわち,昭和61年10月に実施された衆議院及び参議院における各日本国有鉄道改革に関する特別委員会において,当時の運輸大臣は,鉄道事業法案について,

本法律案は,・・・(略)・・・地方鉄道法を廃止し,新たに鉄道事業に関する一元的な法制度を整備することにより,鉄道等の利用者の利益を保護するとともに鉄道事業等の健全な発達を図ろうとするものであります。

と説明しているし,参議院日本国有鉄道改革に関する特別委員会では国及び各旅客鉄道株式会社は,・・・(略)・・・地域鉄道網を健全に保全し,利用者サービスの向上,運賃及び料金の適正な水準維持に努めるとの附帯決議がされ,衆議院日本国有鉄道改革に関する特別委員会では各旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社は,経営の効率化,合理化に努め,経営の安定と活性化に維持するよう努めるとともに,輸送の安全の確保のために万全を期すこととの附帯決議がされている。(イ)

また,昭和61年10月6日の衆議院日本国有鉄道改革に関する特
別委員会において,委員から利用者の声が反映できるような機関を設ける必要があるのではないかと思うのですがと質問されたのに対し,当時の運輸大臣は,

運輸審議会の場というものを,私どもは,まさに委員御指摘のような利用される方々,地域の住民の声というものを集約し,判断をさせていただく場所,そのように考えております。

と答弁し,運輸審議会を鉄道利用者の意見を集約する場と明確に位置付けている。
そして,運輸審議会は,必要があると認めるときその他一定の場合に公聴会を開くとされており(国土交通省設置法23条),公聴会では,利害関係人のほか,公述人の公述が認められている(運輸審議会一般規則5条,35条以下)。
(ウ)

このように,鉄道事業法は,日本国有鉄道法及び地方鉄道法を一元
化し,その内容を引き継いでいるものの,鉄道利用者の保護を明文をもって規定したという点で,これまでの鉄道事業の根拠法から更に進んで,鉄道事業のあるべき姿を明らかにした法律であるといえる。
そして,鉄道事業法は,16条に規定する旅客運賃認可の仕組みを通じて,旅客又は貨物の運賃及び料金を負担する能力にかんがみ,旅客又は荷主が当該事業を利用することを困難にするおそれ(改正前鉄道事業法16条2項3号)がないように,鉄道利用者の個別的利益を保護しており,鉄道利用者を保護する手続の場として,運輸審議会を位置付けているものである。

鉄道事業法の改正経緯について
当時の運輸大臣が,参議院交通・情報通信委員会及び衆議院運輸委員会において,平成11年法律第49号による鉄道事業法改正の趣旨及び目的に関し,鉄道事業について,需給調整規制の廃止を初めとする規制緩和等を通じて,鉄道事業者の自主性,主体性を尊重しつつ,事業者間の競争を促進し,もって利用者の利便の向上及び事業活動の活性化を図ることが求められているところであります。・・・(略)・・・このような趣旨から,このたびこの法律案を提案することとした次第であります。と述べるなどしていることからすれば,上記改正が,旅客運賃の低廉化を通じての鉄道利用者の利便の向上を目的としてされたものであることは明らかである。そして,鉄道事業法が改正されて,改正前鉄道事業法16条2項各号が全て削除されたのは,旅客の個別的利益を保護しない趣旨ではなく,旅客運賃の低廉化を通じて鉄道利用者の利益を保護するために,柔軟な旅客運賃設定を可能とすることを目的としたものであった。すなわち,上記改正後の鉄道事業法においても,旅客又は貨物の運賃及び料金を負担する能力にかんがみ,旅客又は荷主が当該事業を利用することを困難にするおそれがないものであることという認可要件は,旅客運賃の低廉化を通じて鉄道利用者の利益を保護するという改正趣旨に含まれているものといえる。オ
P16運賃上限認可処分について
P6線区間内においては,P1が運行する列車及びP2が運行する列車のいずれにも乗車することができるから,原告らは,P6運賃変更認可処分の取消し及び無効確認の訴えと同様に,P16運賃上限認可処分の取消しの訴えについても,原告適格を有するというべきである。


まとめ
(ア)

鉄道事業法は,その文言上も仕組み上も,鉄道利用者を個別具体的
に保護することを趣旨及び目的としており,そのことは,鉄道事業法の制定経緯及び改正経緯からも明らかである。また,ここでいう利用者には,鉄道に乗車する者だけではなく,旅客運賃の負担者も含まれるというべきである。そして,改正前鉄道事業法16条1項に基づく旅客運賃変更認可処分又は鉄道事業法16条1項に基づく旅客運賃上限設定(以下,これらの処分を併せて旅客運賃認可処分という。)にお
いて考慮されるべき利益は,鉄道利用者の経済的利益及び日常生活・社会生活上の利益であるところ,違法な旅客運賃認可処分がされれば,日常的に鉄道を利用する沿線住民は,経済的にも日常生活・社会生活上でも重大な不利益を被ることになるから,その利益は個別具体的に保護されなければならない。
(イ)

したがって,反復継続的に鉄道を利用している者又はその旅客運賃
を法的義務として負担している者(扶養義務者,雇用主等)は,旅客運賃認可処分の取消し又は無効確認の訴えについて原告適格を有するというべきであり,このことは,旅客運賃上限等の変更命令の義務付けの訴えについても同様である。
そして,原告らは,P6線を反復継続的に利用し又は扶養義務に基づき旅客運賃を負担しているから,本件各運賃認可処分の取消し又は無効確認の訴え(本件請求④,⑤及び⑦)及び旅客運賃上限等の変更命令の義務付けの訴え(本件請求⑥及び⑧)のいずれについても,原告適格を有するというべきである。
(ウ)

なお,最高裁判所平成元年4月13日第一小法廷判決・裁判集民事
156号499頁(以下P29特急最高裁判決という。)は,地方鉄道法21条に基づく特別急行料金改定認可処分の取消しの訴えにおける原告適格について判断したものであるが,その後,鉄道利用者の利益を個別具体的に保護することを明らかにした鉄道事業法が制定され,平成16年には行政事件訴訟法が改正されているし,上記判決の事案では,特別急行を利用する者だけが負担する特別急行料金部分のみが争われたものであるから,本件とは事案を異にし,本件には射程が及ばないというべきである。
(2)

本件各線路使用条件認可処分の取消しの訴え(本件請求①及び②関係)
及びP6線路使用条件の変更命令の義務付けの訴え(本件請求③)について

鉄道事業法の趣旨及び目的等について
(ア)

上記(1)ア(ア)のとおり,鉄道事業法は,その仕組みだけでなく,
その文言上も,鉄道利用者の利益を個別具体的に保護している。
(イ)

鉄道線路使用条件は,鉄道事業者間における契約であるものの,鉄
道事業法は,これについて認可制を採用し,同法の仕組みに合致しないものは許容しない制度としている(同法15条1項)。このように鉄道事業法が鉄道線路使用条件について認可制としたのは,鉄道線路使用条件(線路使用料等)の設定が,鉄道事業者の経営に対して大きな影響力を有し,当該鉄道事業者が運営する鉄道の利用者に対するサービス内容に影響を及ぼすことになることから,鉄道利用者の利益を保護することを目的とするものである。鉄道線路使用条件について,鉄道事業の適正な運営の確保に支障を及ぼすおそれがあると認める場合を除き・・・(略)・・・認可をしなければならない(鉄道事業法15条3項)とされているのも,適正原価・適正利潤の原則(同法16条2項)を外れれば,鉄道利用者の保護に反し,鉄道事業の適正な運営の確保に支障を及ぼすことになるからである。
そうすると,鉄道線路使用条件認可制度(鉄道事業法15条)は,鉄道利用者の利益を個別具体的に保護することを目的としているというべきである。

鉄道線路使用条件と旅客運賃の関係
鉄道事業法16条2項は,適正原価・適正利潤の原則を定めており,旅客運賃は,いわゆる総括原価方式に基づいて定められることになる。この総括原価方式について,国土交通省鉄道局は,P10旅客会社,大手民鉄及び地下鉄事業者の収入原価算定要領及び中小民鉄事業者の収入原価算定要領において算定方法を定めている。P1に適用される中小民鉄事業者の収入原価算定要領(平成12年
3月1日以降の申請から適用されるもの。以下現行算定要領とい
う。)においては,人件費,修繕費,経費,諸税,減価償却費,営業外費用及び配当所要額(適正利潤)が原価とされ,旅客運賃収入,貨物運輸収入,運輸雑収及び営業外収益が収入とされている。そして,総括原価方式においては,総収入額は原価総額を下回らなければならないから,線路使用料収入(運輸雑収)が増加すれば,他の収入が変わらない限り,旅客運賃を値下げして旅客運賃収入を減らさなければならない関係が必然的に生じることになる。
そうすると,鉄道利用者は,旅客運賃認可処分と同様に,鉄道線路使用条件設定認可処分についても利害関係を有するものというべきである。ウ
まとめ
(ア)

鉄道事業法は,その文言上も仕組み上も,鉄道利用者を個別具体的
に保護することを趣旨及び目的としており,総括原価主義(同法16条2項)に基づく旅客運賃の算定制度においては,総収入額は原価総額を下回らなければならず,線路使用料収入が増加すれば,他の収入が変わらない限り,旅客運賃を値下げして旅客運賃収入を減らさなければならない関係が必然的に生じることになるから,旅客運賃認可制度(同法16条)と同様に,鉄道線路使用条件認可制度(同法15条)は,鉄道利用者の利益を個別具体的に保護することを目的としているというべきである。
(イ)

したがって,反復継続的に鉄道を利用している者又はその旅客運賃
を法的義務として負担している者(扶養義務者,雇用主等)は,鉄道線路使用条件設定認可処分の取消しの訴えについて原告適格を有するというべきであり,このことは,鉄道線路使用条件の変更命令の義務付けの訴えについても同様である。
そして,原告らは,P6線を反復継続的に利用し又は扶養義務に基づ
き旅客運賃を負担しているから,本件各線路使用条件認可処分の取消しの訴え(本件請求①及び②)及びP6線路使用条件の変更命令の義務付けの訴え(本件請求③)のいずれについても,原告適格を有するというべきである。
2
被告の主張
(1)

本件各運賃認可処分の取消し又は無効確認の訴え(本件請求④,⑤及び
⑦)及び旅客運賃上限等の変更命令の義務付けの訴え(本件請求⑥及び⑧)について

鉄道事業法の趣旨及び目的について
鉄道事業法1条の文理からすれば,同法が,「鉄道事業等の運営を適正
かつ合理的なものとすることにより」,公共の福祉を増進することを目的としていることは明らかであり,鉄道等の利用者の利益を保護し,鉄道事業等の健全な発達を図ることは,その結果として実現されるべき利益であって,公共の福祉を増進することの例示と解すべきである。そうすると,鉄道事業法1条が鉄道等の利用者の利益を保護すると規定したのも,鉄道等の利用者の利益を個々の鉄道利用者に固有の個別的利益として保護する趣旨ではなく,一般公衆の利益として保護するという趣旨と解すべきであって,同法の趣旨及び目的において,個々の鉄道利用者の個別的利益は,公共の福祉を増進するという公益目的に吸収解消されているというべきである。

(ア)

旅客運賃認可の要件,審査基準及び認可の手続について
鉄道事業法16条2項が能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであるかどうかを審査して,これをしなければならないと規定していることからすれば,同条1項に基づく認可の趣旨及び目的が鉄道事業の適正な運営の確保にあることは明らかであり,鉄道利用者の個々の利益を保護することを目的としている
と解することはできない。
また,旅客運賃上限の認可に係る審査基準を定めた鉄道事業法等に係る審査基準及び標準処理期間について(平成8年鉄総第75号。平成19年6月25日改正後のもの。)は,能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであること。具体的には,運賃及び料金の上限が,効率的かつ合理的に鉄道事業を経営した場合における適正な原価に公正妥当な利潤を加えたものを回収し得るような水準を超えないものであること。と規定しており,個々の鉄道利用者の利益を考慮すべきとはしていない。
そうすると,鉄道事業法16条1項が旅客運賃上限の設定又は変更を国土交通大臣の認可にかからしめている趣旨は,鉄道事業の持つ公共的性格に鑑み,鉄道事業の適正な運営を確保するとともに,鉄道事業者が万一不当な旅客運賃の設定等をしようとする場合にこれを防止し,もって不特定多数にわたる一般利用者の利益,すなわち公共の利益を保護しようとしているところにあると解される。
(イ)a

鉄道事業法64条の2は,同法16条1項の認可をしようとする

ときには運輸審議会に諮らなければならないと規定し,国土交通省設置法23条は,利害関係人の請求があれば公聴会を開かなければならないとしているものの,運輸審議会一般規則5条各号は,鉄道利用者又は鉄道沿線の住民を利害関係人とする旨の明示の規定は置いていない。そして,運輸審議会一般規則35条から37条までによれば,運輸審議会の公聴会において利害関係人以外の者が公述することも可能であるが,鉄道利用者又は鉄道沿線の住民の公述が不可欠なものとされているわけではない。

さらに,国土交通省設置法15条3項によれば,運輸審議会が軽微なものと認めるものについては運輸審議会に諮ることなく認可をする
こともできるのであるから,この場合には,公聴会が開催される余地はなく,鉄道利用者又は鉄道沿線の住民の公述の機会は与えられないことになる。

なお,原告らは,昭和61年10月6日の衆議院日本国有鉄道改革に関する特別委員会において,当時の運輸大臣が

運輸審議会の場というものを,私どもは,まさに委員御指摘のような利用される方々,地域の住民の声というものを集約し,判断をさせていただく場所,そのように考えております。

と発言したことなどを根拠に,運輸審議会は,鉄道利用者の個別の意見聴取の場として位置付けられている旨主張する。
しかし,上記のような鉄道事業法16条1項に基づく旅客運賃の認可手続における運輸審議会や公聴会の位置付けに照らせば,運輸審議会が個別の鉄道利用者の意見聴取の場であると解することはできない。また,昭和61年10月6日当時の運輸省設置法(昭和61年法律第93号による改正前のもの)は,

運輸省に,公共の利益を確保するため次条第1項に掲げる事項について公平且つ合理的な決定をさせるため,運輸審議会を常置する。

(5条)と規定し,また,

運輸大臣は,次に掲げる事項について必要な措置をする場合には,運輸審議会にはかり,その決定を尊重して,これをしなければならない。

(6条1項柱書き)と規定し,次に掲げる事項として地方鉄道・・・(略)・・・における運賃及び料金の認可又は変更の命令(同項2号)と規定しており,運輸大臣は,公共の利益を確保するため,旅客運賃の認可又は変更等をする場合には,運輸審議会に諮ることとされていたのであるから,運輸審議会における旅客運賃設定の審議も公共の利益の確保という見地からされるものであったことは明ら
かである。


以上のように,鉄道事業法16条1項に規定する旅客運賃の認可の手続において,個々の鉄道利用者又は鉄道沿線の個々の住民の関与が不可欠のものとされているわけではない。


旅客運賃上限等の変更命令及びその手続について

(ア)

鉄道事業法16条5項1号に基づく旅客運賃変更命令について
鉄道事業法の趣旨及び目的や,同法16条が個々の鉄道利用者の個
別的利益を保護することを目的とせず,公益的見地から基本的には旅客運賃の上限について認可規制を及ぼすにとどめ(同条1項及
び2項),旅客運賃そのものについては届出制にとどめているこ
と(同条3項)からすれば,同条は,旅客運賃に係る個々の鉄道利用者の利害を公益に吸収解消されない個別的利益としてではなく,公益の中の一要素として考慮していると理解するのが自然である。
このような理解からすれば,鉄道事業法16条5項1号も,届出制の対象とされているにすぎない旅客運賃について,公益的見地か
らも看過することができないような特定の旅客に対する不当な差別的取扱いをするものや他の鉄道運送事業者との間に不当な競争を引き起こすおそれがあるものである場合に限って規制に乗り出す仕組みであるということができる。しかも,鉄道事業法16条5項1号に基づく旅客運賃変更命令は,それによって鉄道事業者の旅客運賃の体系を直接に変更する効果を生ずるものではなく,鉄道事業者自身が特定の旅客に対する不当な差別的取扱いをするものとならないよ
うに旅客運賃の体系を自ら改訂することによって,その内容が実現されるにすぎない。
そうすると,鉄道事業法16条5項1号は,鉄道事業が高度な公共性を有していて,一般公衆に与える影響が重大であり,また,特定の旅客に対する不当な差別的取扱いをすることや他の事業者との間に不
当な競争を引き起こすことが明らかに公益に反するため,これらを禁止することで公益を実現しようとする趣旨の規定であって,直接,個々の鉄道利用者の個別的利益又は利便を保護する趣旨までは含んでいないと解すべきである。

国土交通大臣が鉄道事業法16条5項1号の規定による旅客運賃変
更命令をするときは,運輸審議会に諮らなければならないとされている(同法64条の2第2号)。もっとも,運輸審議会において公聴会が開催されるのは,運輸審議会が必要と認めた場合や国土交通大臣の指示若しくは運輸審議会の定める利害関係人の請求があった場合に限られており(国土交通省設置法23条),しかも,運輸審議会の審査方法等を定める運輸審議会一般規則5条は,上記の利害関係人の範囲について,鉄道利用者又は鉄道沿線の住民を列挙していない。また,鉄道事業法や鉄道事業法施行規則を子細にみても,旅客運賃変更命令をするに当たり,鉄道利用者又は鉄道沿線の住民の関与を保障している規定は存在しない。
このように,鉄道事業法及び同法と目的を共通にする関係法令において,個々の鉄道利用者は,旅客運賃上限等の変更命令の手続に関与することが保障されているわけではなく,その個別的利益又は意向が旅客運賃の決定に反映されることにはなっていない。
(イ)

鉄道事業法23条1項1号に基づく旅客運賃上限の変更命令につい
てa
鉄道事業法23条1項1号は旅客運賃上限の変更命令について規定しているところ,同項柱書きは利用者の利便が阻害されているこ
とを事業改善の命令の要件の一つとして掲げているが,同法の趣旨及び目的が,個々具体的な鉄道利用者の利益を保護するというものではなく,一般公衆の利益を保護するということにあることからすれば,
上記利用者の利便も一般的公益の中に吸収解消された不特定多数者の鉄道利用者の利便という意味に解すべきであって,個々具体的な鉄道利用者の個別的な利便は含まれないと解すべきである。b
国土交通大臣が鉄道事業法23条1項1号に基づき鉄道事業者に対して旅客運賃上限の変更を命ずる場合には,運輸審議会に諮らなければならないとされている(同法64条の2第3号)が,運輸審議会における手続は,同法16条1項による旅客運賃上限の認可の場合と同様であり,同法23条1項1号に基づく旅客運賃上限の変更命令の手続の上でも,鉄道利用者又は鉄道沿線の個々の住民の関与が不可欠のものとされているわけではない。


改正前鉄道事業法における旅客運賃認可制度について
原告らは,改正前鉄道事業法16条2項が,旅客運賃の認可要件として,旅客又は貨物の運賃及び料金を負担する能力にかんがみ,旅客又は荷主が当該事業を利用することを困難にするおそれがないものであること(同項3号)と定めていたことを根拠に,鉄道事業法が鉄道利用者の利益を個別的に保護しているなどと主張する。
しかしながら,改正前鉄道事業法16条2項3号が旅客運賃の認可要件として上記のとおり規定していたのは,旅客運賃変更認可に際し,利用者の負担能力も考慮しなければならないことを定めた趣旨であり,同条が定める認可要件は,鉄道事業の高度の公共性に鑑み,一般公衆に与える影響が重大であるとの視点から設けられたものであって,同法1条が,同法の目的について公共の福祉を増進することを目的とすると規定していることを考え併せると,同法16条2項3号所定の運賃及び料金を負担する能力も,鉄道を利用する国民又は地域住民一般の所得・家計の状況,鉄道の利用実態といった国民一般の経済生活上における負担能力を意味し,個々の鉄道利用者の個別的な負担能力を想定したものではないと解すべき
である。
また,改正前鉄道事業法16条2項1号が,旅客運賃の認可要件として能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利潤を含むものであることと規定していたのは,公益的な鉄道事業を維持,存続させるためには,旅客運賃の収入が適正な原価の上に立ち,かつ,適正な利潤を含む水準のものであることを要するという総括原価主義に立つことを明らかにしたものである。そして,総括原価主義のみによって旅客運賃を定めると,旅客運賃が国民一般の経済水準に照らして極めて高額となる可能性があり,このような場合には,当該鉄道需要の減退を招き,鉄道事業者として十分な鉄道輸送サービスの提供が困難になりかねず,鉄道利用者の立場からみても,当該鉄道を利用することが困難となりかねない。そこで,このような事態を招くことなく鉄道事業の維持,発展を確保するために,旅客運賃認可において,鉄道利用者の負担能力も考慮し,できるだけ多くの者が当該鉄道を利用することができるように運賃を設定する必要があるとの趣旨で,改正前鉄道事業法16条2項3号が設けられていたものである。
そうすると,改正前鉄道事業法の旅客運賃認可制度も,個々の鉄道利用者の個別的利益を保護することを目的とするものであったとはいえない。オ
鉄道事業法の制定経緯について
原告らは,鉄道事業法が制定された際の国会での説明等を根拠として,鉄道事業法の制定経緯からすれば,鉄道事業法は個々の鉄道利用者の個別具体的利益を保護していると主張する。
しかし,鉄道事業法制定時の運輸大臣の発言や附帯決議は,同法が不特定多数の一般利用者とは区別された個々の鉄道利用者の個別的利益を保護するものであることを読み取ることができるものではなく,そこで使用されている利用者サービスの向上,運賃及び料金の適正な水準維持

との表現等からすれば,立法担当者及び国会は,同法は,鉄道事業者に対し,鉄道利用者の利便確保のために努力すべきであるとする一般的な義務を負わせたにすぎず,個々の鉄道利用者の個別的利益を保護する趣旨のものではないと理解していたことが読み取れる。また,鉄道事業法の国会審議時の概要説明をみても,同法の制定過程において,特に個別利用者の保護を目的として法律が整備されたとの事情はなく,鉄道事業法の前身である地方鉄道法にはなかった目的規定(1条)が盛り込まれたのも,鉄道等の利用者の利益を保護とは公共の福祉を増進することの内容の例示であると理解すべきであり,保護の対象となる利用者も利用者一般を指すことを明らかにする趣旨であると解するのが合理的である。そうすると,鉄道事業法の制定経緯に照らしても,同法が個々の鉄道利用者の個別的利益を保護しているとは解されない。

鉄道事業法の改正経緯について
原告らは,平成11年法律第49号による鉄道事業法改正の趣旨及び目
的について,同改正時の国会において,当時の運輸大臣が鉄道事業者の自主性,主体性を尊重しつつ,事業者間の競争を促進し,もって利用者の利便の向上及び事業活動の活性化を図ることが求められているところであります。・・・(略)・・・このような趣旨から,このたびこの法律案を提案することとした次第であります。などと述べたことなどを根拠に,上記改正が鉄道利用者の利便の向上を目的としてされたものであるなどとして,鉄道事業法は,個々の鉄道利用者の個別的利益も保護していると主張する。しかしながら,国会審議の場における運輸大臣の発言を全体としてみれば,立法担当者が,鉄道事業法の改正の趣旨及び目的について,不特定多数の一般利用者とは区別された個々の鉄道利用者の利便等の向上を,個々の鉄道利用者に固有の個別的利益として図るという点にあるとの認識を有していたとは解されない。かえって,平成11年4月16日の衆議院運輸
委員会において,当時の運輸省鉄道局長は鉄道事業は公共の福祉,すなわち利用者利便の増進の観点から一定の責務を有すると述べていたことからすれば,改正法案の審議過程において,当時の運輸大臣等が利用者の利便という言葉を使用していたとしても,利用者の利便は,公共の利益の中に吸収解消され,公共の利益の一例として使用されていることは明らかであるから,運輸大臣等の発言は,鉄道事業法改正の趣旨及び目的が鉄道利用者一般の利便の向上を図るという点にある旨を説明したものというべきである。
また,平成11年法律第49号による改正により,①認可の対象が旅客運賃の上限のみとなり,②能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであるかどうかを審査するという要件以外の認可要件が削除されたが,これは,旅客運賃の設定について規制を緩和し,行政の監督,関与の度合いを限定的なものにすることによって鉄道事業者の自主性,主体性を尊重しつつ,事業者間の競争を促進し,もって利用者の利便性の向上及び事業活動の活性化を図る目的でされたものである。このように,旅客運賃上限のみを認可制とし,改正前鉄道事業法16条2項3号を削除したのは,旅客運賃上限の認可を通じて得られる限度で一般の利用者の保護を図りつつ,実際の旅客運賃等の設定については,鉄道事業者の自主性,主体性に委ねることが公益の増進につながるという配慮によるものである。
仮に,原告らが主張するとおり,個々の鉄道利用者の個別的利益が鉄道事業法上保護されており,同法の趣旨に高額な旅客運賃の発生を防いで個別の鉄道利用者を経済的に保護することが含まれているとすれば,認可の対象を,旅客運賃の上限ではなく旅客運賃そのものとすることで,厳格に規制すべきということになるものと思われるが,実際にはそれとは反対の方向で法改正がされている。

そうすると,平成11年法律第49号による改正の前後を問わず,鉄道事業法16条の趣旨が個々の鉄道利用者の保護にあるとはいえず,同改正の趣旨が公益の増進にあることは明らかである。

まとめ
(ア)

以上によれば,鉄道事業法が公共の利益という観点から同法16条
1項に基づく旅客運賃の認可を規定していることは明らかであり,同法が,不特定多数者である鉄道利用者の具体的利益を,専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々の鉄道利用者の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むものであると解することはできない。
したがって,鉄道事業法16条1項に基づく旅客運賃の認可において,鉄道利用者個々人の個別的利益は,たとえ当該鉄道沿線の住民の利益であっても,公共の利益の保護を通じて間接的に保護されているところの反射的利益又は事実上の利益にすぎず,法律上保護された利益とはいえないから,原告らは本件各運賃認可処分の取消し又は無効確認を求めるにつき法律上の利益を有せず,本件各運賃認可処分の取消し又は無効確認の訴え(本件請求④,⑤及び⑦)について,原告らは原告適格を有しないというべきである。
(イ)

また,鉄道事業法16条5項1号及び同法23条1項1号は,公共
の利益という観点から旅客運賃又はその上限の変更を命じることができる旨を規定しているにすぎず,その変更に関し,同法あるいは関係法令を子細にみても,不特定多数者である鉄道利用者の具体的利益を,専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々の鉄道利用者の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨の規定は見当たらない。
したがって,鉄道事業法16条5項1号及び同法23条1項1号に基
づく旅客運賃上限等の変更命令において,鉄道利用者個々人の個別的利益は,たとえ当該鉄道沿線の住民の利益であっても,公共の利益の保護を通じて間接的に保護されているところの反射的利益又は事実上の利益にすぎず,法律上保護された利益とはいえないから,旅客運賃上限等の変更命令に係る各義務付けの訴え(本件請求⑥及び⑧)について,原告らは原告適格を有しないというべきである。
(ウ)

なお,P29特急最高裁判決は,鉄道事業法の前身である地方鉄道
法21条に基づく地方鉄道事業者の特別急行料金改定認可処分の取消訴訟において,当該地方鉄道事業者の路線周辺に居住し通勤定期券を購入するなどして,その特別急行旅客列車を利用している者の原告適格について,地方鉄道法(・・・(略)・・・)21条は,地方鉄道における運賃,料金の定め,変更につき監督官庁の認可を受けさせることとしているが,同条に基づく認可処分そのものは,本来,当該地方鉄道の利用者の契約上の地位に直接影響を及ぼすものではなく,このことは,その利用形態のいかんにより差異を生ずるものではない。また,同条の趣旨は,もっぱら公共の利益を確保することにあるのであって,当該地方鉄道の利用者の個別的な権利利益を保護することにあるのではなく,他に同条が当該地方鉄道の利用者の個別的な権利利益を保護することを目的として認可権の行使に制約を課していると解すべき根拠はない。そうすると,たとえ上告人らがP29株式会社の路線の周辺に居住する者であって通勤定期券を購入するなどしたうえ,日常同社が運行している特別急行旅客列車を利用しているとしても,上告人らは,本件特別急行料金の改定(変更)の認可処分によって自己の権利利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者に当たるということができず,右認可処分の取消しを求める原告適格を有しないというべきであると判示しているところ,同判決は,本件における被告の主張と同趣旨のものと理解するこ
とができる。
P29特急最高裁判決は,平成16年法律第84号による改正前の行政事件訴訟法下におけるものであるが,同改正により行政事件訴訟法9条2項が追加された趣旨は,原告適格の有無について判断すべき事項について,法律の明文でこれらの事項を考慮すべきこと等を定めることにより,全ての事案において,これらの事項が適切に考慮されることが一般的に担保され,行政過程における利益調整の在り方が適切に考慮されて第三者の原告適格が実質的に広く認められることを期したものであり,原告適格の判断方法を実質的に変更することを意図したものではないから,上記改正の前後によってP29特急最高裁判決の評価が変化すると解する余地はない。
(2)

本件各線路使用条件認可処分の取消しの訴え(本件請求①及び②関係)
及びP6線路使用条件の変更命令の義務付けの訴え(本件請求③)についてア
鉄道事業法の趣旨及び目的について
上記(1)アと同様である。


鉄道線路使用条件設定の認可要件及び審査基準について

(ア)

鉄道事業法15条3項が

鉄道事業の適正な運営の確保に支障を及ぼすおそれがあると認める場合を除き・・・(略)・・・認可をしなければならない。

と規定しているその文理によれば,同条1項に基づく認可の趣旨及び目的が鉄道事業の適正な運営の確保にあることは明らかであり,鉄道利用者の個別的利益を保護することを目的としていると解することはできない。
また,鉄道事業法15条1項に基づく鉄道線路使用条件設定の認可に係る審査基準を定めた「鉄道事業法等に係る審査基準及び標準処理期間について」(平成8年鉄総第75号。平成19年6月25日改正後のもの。)は,鉄道線路を使用させる第一種鉄道事業者又は第三種鉄道事業者及び鉄道線路を使用する第二種鉄道事業者が共に適正な事業運営を確保し,安定的な鉄道線路の使用関係を維持することができる使用条件であることと規定しており,個々の鉄道利用者の利益を考慮すべきとはしていない。
(イ)

そうすると,鉄道事業法15条1項の趣旨は,鉄道事業が,生産,
流通,人の移動等の面からみて,産業のみならず国民の日常生活にとって不可欠な事業であり,強い公共性を有するものであることに鑑み,安定的な鉄道線路の使用関係を維持し,もって公共の福祉を増進することを目的とするものであると解される。

鉄道線路使用条件変更命令及びその手続について

(ア)

鉄道事業法23条1項4号は,鉄道施設の使用条件等の変更命令につ
いて規定しているところ,同項柱書きは利用者の利便が阻害されていることを事業改善の命令の要件の一つとして掲げているが,同法の趣旨及び目的が,個々具体的な鉄道利用者の利益を保護するというものではなく,一般公衆の利益を保護するということにあることからすれば,上記利用者の利便も一般的公益の中に吸収解消された不特定多数者の鉄道利用者の利便という意味に解すべきであって,個々具体的な鉄道利用者の個別的な利便は含まれないと解すべきである。(イ)

鉄道事業法23条1項4号に基づく鉄道施設の使用条件等の変更命令
について,鉄道利用者又は鉄道沿線の個々の住民の関与が予定されている規定は存在しない。

鉄道線路使用条件と旅客運賃の関係について
原告らは,鉄道線路使用条件設定認可処分は旅客運賃認可処分と同様に
鉄道利用者に重大な影響を及ぼすし,鉄道事業法16条2項が予定する総括原価方式の下では,当該鉄道事業者が収受する線路使用料が増えれば,旅客運賃を含む他の収入を減らさなければならない関係が必然的に生じる
から,鉄道線路使用条件設定認可処分の取消しの訴えについても,個々の鉄道利用者は原告適格を有する旨主張する。
しかしながら,そもそも鉄道事業法16条1項に基づく旅客運賃上限認可処分の取消しの訴えについて,個々の鉄道利用者に原告適格は認められないのであるから,原告らの主張はその前提において理由がない。また,鉄道事業法15条に規定する鉄道線路使用条件設定の認可制度と同法16条に規定する旅客運賃上限変更の認可制度は別個独立した制度であって,原告らが主張するような相互的な関連性はなく,また,線路使用料が増額することによって旅客運賃を値下げしなければならない状態が必然的に生じるものでもない。そして,原告らの主張を前提にすると,線路使用料の額を変更する場合には,常に旅客運賃上限を変更して鉄道事業法16条1項に基づく旅客運賃上限の変更申請をしなければならないことになるが,同法の規定上,同法15条1項に基づく鉄道線路使用条件設定の認可申請の際に,同法16条1項に基づく旅客運賃上限変更の認可申請を行うことは要求されていないし,実際にも,線路使用料等の鉄道線路使用条件の変更認可に当たって,同法16条1項に基づく旅客運賃上限の変更認可は行われていない。
さらに,鉄道事業法16条1項に基づく旅客運賃上限の認可をする際には,旅客運賃上限が,能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたもの(総括原価)を超えないものであるかどうかについて審査することになる(同条2項)ところ,認可された旅客運賃の下での総収入が,総括原価を大きく下回ることもあり得るのであり,その場合,たとえ線路使用料等の旅客運賃以外の収入が増加したとしても,それらの総収入が総括原価の額を上回らない限り,なお当該旅客運賃は同条2項に適合するものといえ,同法の規定上,当然に減額が求められることになるものではない。そして,P6運賃変更認可処分についてみると,その申請のあった新
旅客運賃によっても,P1の総収入が総括原価を60億円以上も下回ることが見込まれており,P1がP2から収受する線路使用料が増加した場合に,必然的に旅客運賃収入を減額しなければならないというものではないというべきである。

まとめ

(ア)

以上によれば,鉄道事業法が公共の利益という観点から鉄道線路使
用条件設定の認可を規定していることは明らかであり,同法が,不特定多数者である鉄道利用者の具体的利益を,専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々の鉄道利用者の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むものであると解することはできない。
したがって,鉄道事業法15条1項に基づく鉄道線路使用条件設定の認可において,鉄道利用者個々人の個別的利益は,たとえ当該鉄道沿線の住民の利益であっても,公共の利益の保護を通じて間接的に保護されているところの反射的利益又は事実上の利益にすぎず,法律上保護された利益とはいえないから,原告らは本件各線路使用条件認可処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有せず,本件各線路使用条件認可処分の取消しの訴え(本件請求①及び②)について,原告らは原告適格を有しないというべきである。
(イ)

また,鉄道事業法23条1項4号は,公共の利益という観点から鉄
道施設の使用条件等の変更を命じることができる旨を規定しているにすぎず,その変更に関し,同法あるいは関係法令を子細にみても,不特定多数者である鉄道利用者の具体的利益を,専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々の鉄道利用者の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨の規定は見当たらない。
したがって,鉄道事業法23条1項4号に基づく鉄道線路使用条件の
変更命令において,個々の鉄道利用者の個別的利益は,たとえ当該鉄道沿線の住民の利益であっても,公共の利益の保護を通じて間接的に保護されているところの反射的利益又は事実上の利益にすぎず,法律上保護された利益とはいえないから,P6線路使用条件の変更命令に係る義務付けの訴え(本件請求③)について,原告らは原告適格を有しないというべきである。
第2
1
争点(2)(重大な損害を生ずるおそれの有無)について
原告らの主張
(1)

鉄道事業法16条5項1号及び同法23条1項1号に基づく旅客運賃上
限等の変更命令又は同法23条1項4号に基づくP6線路使用条件の変更命令がされないことにより原告らが被る損害は,現行のP1の旅客運賃と適正旅客運賃の差額についての金銭的負担と,移動の自由に対する制限であるところ,これらの損害は重大であり,金銭によって償うことができないものである。
(2)

金銭的負担については,P1の旅客運賃が異常に高い(別紙グラフ参
照)ので,やむなく他の路線で遠回りをしたり,遠方の駅まで自転車を使ったりした損害を事後の国家賠償請求訴訟で回復することはできないし,P6線沿線に居住することを断念して転居して過去の旅客運賃の差額を請求したり,勤務先や通学先を旅客運賃の比較的安いところにしたりした場合も,その損害が後の国家賠償請求訴訟で償われることはない。
ほぼ同じ距離のP30線の定期旅客運賃(32.1kmから33.0kmまでの1か月通勤定期旅客運賃が1万3080円)と比較すれば,P6線の定期旅客運賃(α1駅とα2駅の間の32.3kmの1か月通勤定期旅客運賃(値下げ前)が3万4440円)が異常に高いことは明らかであり,原告らは経済的に重大な損害を被っているものである。
(3)

また,移動の自由の制限についても,形式的には自らの意思により選択
したものであったとしても,実際上は高額な旅客運賃のために余儀なくされたものであるし,P1には都心へ直結する路線を保有する競合他社がなく,実際上移動の方法について選択する余地はない。そして,P1の高額な旅客運賃を回避するために遠回りすることによって生じる身体の疲れや時間の増加についても考慮すると,移動の自由を制限されたことによる損害は,金銭によって償うことができない損害である。
(4)

以上によれば,原告らは,鉄道事業法16条5項1号及び同法23条1
項1号に基づくP1及びP2の旅客運賃上限等の変更命令又は同法23条1項4号に基づくP6線路使用条件の変更命令がされないことにより,多額の金銭的負担と移動の自由に対する制限を被るところ,これらの損害は重大であり,金銭によって償うことができないものである。
したがって,P1及びP2の旅客運賃上限等の変更命令(本件請求⑥及び⑧)又はP6線路使用条件の変更命令(本件請求③)がされないことにより,原告らに重大な損害を生ずるおそれがある(行政事件訴訟法37条の2第1項)があるというべきであり,かつ,その損害を避けるためには上記各変更命令以外に適当な方法がないことは明らかである。
2
被告の主張
(1)

鉄道事業法16条5項1号及び同法23条1項1号に基づく旅客運賃上
限等の変更命令又は同法23条1項4号に基づくP6線路使用条件の変更命令がされないことにより原告らが被るという損害は,P6線の旅客運賃が高額であることによる金銭的負担と移動の自由の制限であると解される。しかしながら,移動の自由の制限は,仮にそれが生じるとしても,金銭的負担を避けるために自らの意思に基づいて生じる副次的なものであり,上記の各変更命令がされないことにより直接的に生じるものではなく,上記各条項がこれを保護しているとは解されない。
そして,原告らが被るという金銭的負担とは,要するに現行のP6線の旅
客運賃と適正とする旅客運賃との差額にすぎないところ,このような損害は,事後の金銭賠償によって回復することが可能な性質の損害である。また,そもそも,首都圏の主な路線と比較して,P6線の旅客運賃が高額であると一概にいえるものではないし,定期的にP6線を利用することを前提としても,その利用者が支払う旅客運賃の額が著しく高額であるとまではいえないのであって(例えば,P6線の全区間であるα2駅からα1駅までの通勤定期券の1か月運賃ですら3万4060円である。),P6線の旅客運賃と適正とする旅客運賃の差額が著しいとも考え難い。
(2)

以上によれば,P1及びP2の旅客運賃上限等の変更命令(本件請求⑥
及び⑧)又はP6線路使用条件の変更命令(本件請求③)がされないことにより,原告らに重大な損害を生ずるおそれがある(行政事件訴訟法37条の2第1項)とはいえないことは明らかである。
第3
1
争点(3)(出訴期間徒過の有無)について
被告の主張
(1)

P6運賃変更認可処分は,平成10年9月4日付けでされたものであり,
処分の日から本件訴え提起までに1年を経過していることは明らかである。また,P6運賃変更認可処分がされてから本件訴え提起までに約10年経過していることを併せ考えると,出訴期間を徒過したことについての正当な理由が認められないことも明らかである。(2)

なお,原告らは,P6運賃変更認可処分は違法な本件各線路使用条件認
可処分がされたことにより後発的に違法となったから,出訴期間は後発的違法が生じた時点から進行すると解すべきである旨主張するが,行政処分の後,当該処分の根拠となった事実状態が変動した場合であっても,取消訴訟における行政処分の違法性判断は,当該処分を行った時の事実状態を基準として行われるべきであるから,原告らの上記主張は採用の余地がない。(3)

したがって,P6運賃変更認可処分の取消しの訴え(本件請求③)は,
出訴期間を徒過して提起された不適法なものといべきである。
2
原告らの主張
(1)

本件各線路使用条件認可処分が適法にされれば,適正な線路使用料がP
1に支払われるから,P6運賃変更認可処分は旅客運賃上限を減額するように変更されなければならないことになる。そうすると,P6運賃変更認可処分は,平成22年2月19日に違法な本件各線路使用条件認可処分がされたことにより,後発的に瑕疵が生じ,違法となったものである。
(2)

仮に,後発的に違法となった場合でも出訴期間は当初の処分時から起算
されるとすると,後発的に違法となった処分について救済方法がなくなるので,法治国家とはいえないし,裁判を受ける権利が侵害される。
(3)

したがって,P6運賃変更認可処分の取消しの訴えについては,後発的
違法が生じた平成22年2月19日から出訴期間が進行するというべきところ,本件訴えは,同年8月17日に提起されたものであるから,出訴期間を徒過した不適法なものではない。
第4
1
争点(4)(本件各線路使用条件認可処分の適法性)について
原告らの主張
(1)

本件各線路使用条件について
P2によるP1及びP3の支配について
(ア)

P2は,P1の株式の50パーセント(P22グループでは51パ
ーセント)保有し,その重要事項の決定権を有している(会社法309条,329条等)ので,P1を意のままに経営することが可能である。そして,P1の取締役及び監査役の過半数は,P2出身者で占められており,P2の取締役がP1の代表取締役を務めている。
また,P3は,P2の100パーセント子会社であり,P2の取締役がP1の代表取締役を務めている。
(イ)

以上のとおり,P2は,P1及びP3に対して強い影響力を持ち,
その経営を意のままに行うことが可能な状態であったことから,P2が一方的に利益を上げるための本件各線路使用条件が締結されたものである。

本件各線路使用条件の経済的不合理性について
(ア)

P6線路使用条件について
P2P4線開通前は,P1はP16本線α28駅まで,P2はP6線α2駅まで,それぞれ相互乗り入れ運転を行っていた。この相互乗り入れ運転の下では,P6線区間内(α1駅とα2駅の間)の旅客運賃収入はP1に帰属していた。ところが,本件各線路使用条件においては,P2がP6線区間内で列車を運行させたことによる旅客運賃収入は同社が取得することとなった。
しかし,P2P4線が開通した後も,P2がP1の所有する鉄道線路上で自社の列車を運行させていることには変わりがないのであるから,従前どおり,P1が,同社が所有する鉄道線路(α1駅とα3駅の間。以下P1所有区間という。)上をP2の列車が運行したこ
とによる旅客運賃収入の全額を取得すべきである。


P2が運行する列車は,P6線区間だけでなく,P31線区間(α1駅とα29駅の間)を経由して,P8P9線区間(α29駅とα30駅又はα31駅の間)及びP32線区間(α30駅からα32駅の間)に乗り入れているが,P2がP8P9線区間及びP32線区間で列車を運行したことによる旅客運賃収入は,全て東京都交通局又はP32株式会社が取得し,P2は収入を得ていない。
P1所有区間についても,旅客運賃収入をP1が全額収受するのが合理的であって,現にP2P4線の開通前は,このような方式で旅客運賃の配分が行われていたものである。


また,P2がP6線区間内でP24を運行することにより,P6線
区間内で列車の本数が増加したとしても,鉄道利用者に便利になることがあっても,P1には旅客運賃収入が入らないのであるから,P1には何らの利益も生じない。

以上のとおり,P6線路使用条件は,一方的にP1に不利益をもたらすものであって,経済的に不合理なものである。

(イ)

P28線路使用条件について
P28線路使用条件においては,P3が所有する鉄道線路(α3駅とα2駅の間。以下P3所有区間という。)をP2の列車が運行
するにもかかわらず,P3がP1から受領する線路使用料の減少分,すなわちP1の旅客運賃収入の減少分が補填されるだけで,P3には何らの増収も生じない。


また,P3所有区間を列車が運行することによる線路使用料についての考え方は,P1とP2とでは異なっている。すなわち,P3所有区間で列車を運行する場合,P1は,従前から締結されていた線路使用条件に基づき,線路使用料として同区間内の旅客運賃収入全額を支払うことになっているが,P2は,本件各線路使用条件に基づき,P1と比較して非常に負担が少ない資本費相当額等を支払うにすぎず,しかもその支払の原資はP1の旅客運賃減少分であるから,P1にのみ著しく不利益で不公平な内容となっている。
P1がP3に支払う線路使用料について,P2がP1に支払うのと同じ資本費相当額等に改めれば,P1の負担は大幅に減少し,P1は,現状では将来にわたって利益を得られないP3所有区間内での列車の運行により,年間8億円程度の利益を得られるようになる。


以上のとおり,P28線路使用条件は,一方的にP3及びP1に不利益をもたらすものであって,経済的に不合理なものである。


以上によれば,本件各線路使用条件は,P6線区間内を列車が運行して
いるにもかかわらず,その旅客運賃はP2が取得し,P1はその旅客運賃を取得することができないという経済的に不合理な仕組みとなっており,いわばP2がP6線区間をただ乗りしているところ,このような仕組みが可能となるのは,P1及びP3がP2の支配下にあるからである。本来,P2は,P1所有区間においてP24及びP23を運行することによる旅客運賃及び特別急行料金を全て含め,経済的に合理的に算出された線路使用料をP1に対して支払うべきであり,このような支払がされれば,P1の収入が増えることになる。
(2)

本件各線路使用条件認可処分について
鉄道線路使用条件に関する契約が鉄道事業者間の私的な合意であるにもかかわらず,鉄道事業法15条1項が認可制としているのは,鉄道利用者の利益(同法1条)が害されないようにするためである。すなわち,線路使用料等は,鉄道事業者による鉄道事業の運営に非常に大きな影響を与え,不利な使用条件を押しつけられた鉄道事業者は,鉄道線路の適切な維持管理に加え,旅客運賃その他鉄道利用者への良好かつ安定的な鉄道輸送サービスの提供という公共的任務を適切に果たすことができなくなり,鉄道利用者の利益が害されることになる。
そうすると,鉄道事業法15条3項にいう鉄道事業の適正な運営の確保に支障を及ぼすおそれについても,単に鉄道事業者が鉄道線路の維持管理をすることができればよいのではなく,鉄道事業者相互が経済的に合理的な計算に基づく利益を得られ,更には鉄道利用者の利益が損なわれないようにすることを含むものと解するべきである。


本件各線路使用条件は,P2の不当な支配によりP1に一方的に不利益なものとなっており,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下独占禁止法という。)が禁止する優越的な地位の濫用等の不公正な取引方法(同法2条9項5号,同項6号ホ,19条)に該当するもの
であって,P1の経営を困難なものとし,更にはP1の利用者の利益を著しく害するものである。

したがって,本件各線路使用条件認可処分は,本件各線路使用条件が鉄道事業の適正な運営の確保に支障を及ぼすおそれがあるにもかかわらず,これを認可したものであるから,鉄道事業法15条3項に違反する違法なものである。

(3)

まとめ
以上によれば,本件各線路使用条件は,P2の列車がP6線区間内を運行
しているにもかかわらず,その旅客運賃はP2が取得し,P1はその旅客運賃を全く取得することができないという経済的に不合理な仕組みとなっており,いわばP2がP6線区間をただ乗りしているところ,このような仕組みが可能となるのは,P1及びP3がP2の支配下にあるからである。このようにP1に一方的に不利益な本件各線路使用条件は,P1の経営を困難なものとし,更にはP1の利用者の利益を著しく害するものであって,鉄道事業の適正な運営の確保に支障を及ぼすおそれ(鉄道事業法15条3項)があるというべきである。
したがって,本件各線路使用条件を認可した本件各線路使用条件認可処分は,鉄道事業法15条3項に違反する違法なものであるから,取り消されるべきである(本件請求①及び②)。2
被告の主張
(1)

本件各線路使用条件について


P2P4線が開業したことによってP1の旅客運賃収入及びP3の線路
使用料収入が減少することとなるが,本件各線路使用条件においては,P6線区間においてP2に帰属する旅客運賃収入額が資本費相当額等を超える場合,P2がP1及びP3に対して資本費相当額等に加算額を加えた線路使用料を支払うこととされているので,結果として,P1及びP3の収
支に対する影響が可及的に排除されている。

なお,原告らは,本件各線路使用条件に基づく旅客運賃収入の配分について,本来P1に帰属すべきP6線区間内の旅客運賃及び特別急行料金収入をP2が全て取得するものであって,経済的に不合理なものであるなどと主張する。
しかし,本件各線路使用条件に基づく旅客運賃収入の配分は,基本的に,
列車を運行させている事業者がその旅客運賃及び特別急行料金収入を取得するという合理的な内容のものである。
また,上記旅客運賃収入の配分方法によれば,P1がP2に鉄道線路を貸与したことによりP1が利益を得る場合は限られている(資本費相当額等がP2に帰属する旅客運賃収入を上回る場合に限られる。)が,P2がP6線区間内においてP24を運行することによって,P1は,費用を負担することなく,P6線区間内における列車の運行数や特急列車の本数を増加させることができ,これによる都心方面との連絡旅客の増加や,沿線地域の開発に伴うP6線内利用者数の増加が見込まれるのであるから,P2とP1は互恵関係に立つというべきである。かえって,原告らが主張するように,P2において,同社がP6線区間内で運行する列車の旅客運賃全てをP1に線路使用料として支払わなければならないとすれば,P2は同区間における旅客運送業務に対する対価を一切得ることができないこととなるのであって,このようにP2のみに不利益となるような内容の協定を締結する方が,よほど鉄道事業の適正な運営の確保に支障を及ぼすおそれ(鉄道事業法15条3項)があるといわざるを得ない。そうすると,本件各線路使用条件に基づく旅客運賃収入の配分が経済的合理性のないものということはできない。
(2)

本件各線路使用条件認可処分について
鉄道線路使用条件については,鉄道事業の適正な運営の確保に支障を及ぼすおそれがあると認める場合を除き,・・・(略)・・・認可をしなければならない(鉄道事業法15条3項)ところ,P1及びP3から申請のあった鉄道線路使用条件については,上記(1)のとおり,P2に鉄道線路を使用させたとしてもP1及びP3の収益が減少しない仕組みがとられており,P1及びP3の収支に与える影響が可及的に排除されている。そうすると,P1及びP3は,引き続き,鉄道線路の適切な維持管理を行うことが可能であることが認められ,鉄道事業の適正な運営の確保に支障を及ぼすおそれはないといえる。イ
なお,原告らは,鉄道事業法15条3項にいう鉄道事業の適正な運営の確保には鉄道利用者の経済的利益も含まれるとの理解を前提に,本件各線路使用条件はP1の経営を困難なものとし,更にはP1の利用者の利益を著しく害するものであるから,これを認可したP6線路使用条件認可処分は違法であるなどと主張する。
しかし,鉄道事業法15条3項は,自由経済社会の下,鉄道線路使用条件の設定についても鉄道事業者間の自由な経済活動に委ね,行政上の規制は制限的に行われるべきことを前提として,申請に係る鉄道線路使用条件については原則として認可すべきとした上で,鉄道事業の公共性に鑑み,例外として,鉄道事業等の運営を適性かつ合理的なものとする(同法1条)観点から最低限度の規制を認めたものである。すなわち,鉄道事業の適正な運営の確保に支障を及ぼすおそれがあるとして規制が認められるのは,鉄道事業の公共性に由来する公益を保護するためであって,鉄道利用者の利益の保護は,公益を保護することの反射的な効果として図られているにすぎないというべきである。
そして,鉄道事業の適正な運営の確保に支障を及ぼすおそれがあるか否かを判断するに当たって,鉄道事業者相互が経済的に合理的な計算に基づく利益を得られるか否かを考慮しなければならないとすると,本来鉄
道事業者間の自由な経済活動に委ねられるべき鉄道線路使用条件について,広く行政上の規制を及ぼすことを認めることになり,鉄道事業法15条3項の趣旨に明らかに反することになるというべきである。

また,原告らは,P28線路使用条件認可処分について,P1に著しく
不利益であるため,上記認可処分はP1の適正な事業運営の確保に支障があると主張する。
しかし,P28線路使用条件認可処分は,P3とP2との間における鉄道線路使用条件に関する認可処分であり,そこにおいて考慮されるべきは,P3とP2の適正な事業運営の確保に支障があるか否かであって,P1の事業運営に支障があるか否かは考慮されるべきものではないから,原告らの上記主張は上記認可処分の違法性とは無関係であるから,主張自体失当である。

さらに,原告らは,P3所有区間において,P2とP1の鉄道線路使用
条件が異なることについて,P1に一方的に不利益な内容となっているなどと主張する。
しかし,鉄道線路使用条件設定の認可要件(鉄道事業法15条3項)は,鉄道事業等の運営を適正かつ合理的なものとする観点から,最低限度の規制として設定されたものである。そして,同一区間における鉄道線路使用条件であっても,条件について合意する鉄道事業者が異なれば,当該鉄道事業者間の自由な経済活動によって設定されるのが原則であることから,条件を設定する鉄道事業者が異なれば,異なる条件の下で鉄道事業法15条1項に基づく認可がされることはむしろ当然であり,鉄道線路使用条件が異なることのみをもって,その認可処分が違法となるものではない。オ
したがって,本件各線路使用条件認可処分は鉄道事業法15条3項に規
定する認可要件を満たす適法な処分であるというべきであるから,その取消しを求める原告らの請求(本件請求①及び②)は理由がない。
(3)

まとめ
以上によれば,本件各線路使用条件においては,P6線の区間においてP
2に帰属する旅客運賃収入額が資本費相当額等を超える場合に,P2がP1及びP3に対して資本費相当額等に加算額を加えた線路使用料を支払うこととされ,P1及びP3の収支に対する影響が可及的に排除されているから,P1及びP3は,引き続き,鉄道線路の適切な維持管理を行うことが可能であり,鉄道事業の適正な運営の確保に支障を及ぼすおそれ(鉄道事業法15条3項))はないといえる。
したがって,本件各線路使用条件は,鉄道事業法15条3項に規定する認可要件を満たしているから,本件各線路使用条件認可処分は適法なものというべきである。
第5
1
争点(5)(P6線路使用条件の変更命令の可否)について
原告らの主張
(1)

鉄道事業法23条1項4号は,鉄道事業者の事業について輸送の安全,利用者の利便その他公共の利益を阻害している事実があると認めるときに,旅客運賃上限を変更することを命ずることができるとしているところ,鉄道事業が極めて公益性の高い事業であることから,国土交通大臣は,上記の要件を満たす場合には,積極的に使用条件の変更を命じ,利用者の利便その他公共の利益を回復,改善,確保しなければならない。
そして,総括原価主義(鉄道事業法16条2項)に基づく旅客運賃の算定制度においては,総収入額は原価総額を下回らなければならず,線路使用料収入が増加すれば,他の収入が変わらない限り,旅客運賃を値下げして旅客運賃収入を減らさなければならない関係が必然的に生じることになる。一方,線路使用料が不合理に安ければ,鉄道線路を貸し付ける第一種鉄道事業者は,自ら運行する鉄道の旅客運賃を高くするしかないから,鉄道利用者の利便が阻害されることになる。

(2)

本件においては,本件各線路使用条件認可処分が違法であるだけでなく,
これによりP1の旅客運賃は異常に高いものとなっているから,利用者の利便その他公共の利益を阻害している(鉄道事業法23条1項柱書き)ことは明らかである。
そうすると,国土交通大臣が,鉄道事業法23条1項4号に基づき,P6線路使用条件について,P6線区間をP2の列車が運行したことによる旅客運賃収入をP1が取得することができる内容に変更するよう命じないことは,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用するものである(行政事件訴訟法37条の2第5項)。
(3)

したがって,国土交通大臣は,鉄道事業法23条1項4号に基づき,P
1及びP2に対して,P6線路使用条件について,P2が同社P4線の運行によってP6線区間で取得する旅客運賃及び特別急行料金収入相当額を線路使用料としてP1に支払い,P2がP6線区間で同社P4線の運行に要した経費をP1がP2に支払う方式での鉄道線路使用条件に変更するよう命じなければならないというべきである(本件請求③)。2
被告の主張
(1)

P6線路使用条件認可処分によって認可されたP6線路使用条件は,鉄
道事業法15条3項の要件を満たしているところ,同項の要件を満たす使用条件が輸送の安全,利用者の利便その他公共の利益を阻害している(同法23条1項柱書き)ものではないことは明らかである。
(2)

したがって,P6線路使用条件については,鉄道事業法23条1項4号
に基づく使用条件変更命令を発する前提を欠いていることが明らかであるから,行政庁がその処分をすべきであることがその処分の根拠となる法令の規定から明らかとはいえず(行政事件訴訟法37条の2第5項),P6線路使用条件の変更命令の義務付けを求める原告らの請求(本件請求③)に理由がないことは明らかである。

第6
1
争点(6)(P6運賃変更認可処分の適法性)について
原告らの主張
(1)

P6運賃変更認可処分の後発的違法について
P1の旅客運賃は,本件各線路使用条件認可処分が適法であることが前提
となっているところ,上記のとおり,本件各線路使用条件認可処分は違法なものであり,これによって,P1の旅客運賃は能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないもの(鉄道事業法16条2項)に該当しなくなった。
なお,仮に,本件各線路使用条件認可処分の取消しの訴え(本件請求①及び②)について原告らが原告適格を有しないとしても,本件各線路使用条件認可処分の違法性は,P6運賃変更認可処分に承継されるというべきである。したがって,P6運賃変更認可処分は後発的に違法となったものであり,その違法は重大かつ明白である。
(2)

P6運賃変更認可処分の原始的違法について
近距離運賃が異常に高いこと
(ア)

鉄道事業法は,鉄道事業者に対して鉄道事業の適正な運営を求め,
これにより鉄道利用者の利益を守るための法律であるから,乗車する者・距離・区間において不当な差別があってはならず,旅客運賃負担は公平であるべきである。また,鉄道事業法は,旅客運賃は鉄道利用者が負担するものであるとともに,鉄道事業者の収益に直接影響を及ぼすものであることから,旅客運賃を認可制としたものである(同法16条1項)。
そうすると,旅客運賃の認可は,単に当該申請運賃の収入がどの程度で,それが総括原価を超えるか否かに尽きるものではなく,利用者が公平に旅客運賃を負担するような配分になっているか,すなわち距離に比例した旅客運賃体系となっているかを審査すべきものである。

(イ)

P6線及びP4線以外の各鉄道路線の旅客運賃をみると,P6線に
比べて,著しく安いだけでなく,距離に比例して旅客運賃が高くなっており,初乗り旅客運賃と最遠距離の旅客運賃がほとんど正比例する運賃表のグラフとなる。しかし,P6線の旅客運賃は,初乗りから中間距離までの旅客運賃が異常に高くなっているので,運賃表のグラフがメタボのような曲線を描いている(別紙グラフ参照。以下メタボ運賃という。)。
なお,遠距離逓減制は,走行距離が非常に長くなる路線において採用されるものであり,約32kmしかないP6線において,このような遠距離逓減制を採用するのは適切ではない。
このようなメタボ運賃は,近距離の利用者が遠距離の利用者に比
べて不当に割高の旅客運賃を負担することになるので,特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするもの(改正前鉄道事業法16条2項2号)に該当し,能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利潤を含むもの(同項1号)に該当しないというべきである。(ウ)

したがって,P6運賃変更認可処分は,改正前鉄道事業法16条2
項の認可要件を満たしていないにもかかわらずされた違法なものであり,その違法は重大かつ明白であるというべきである。

認可処分が不十分な資料に基づきされたこと
(ア)

旅客運賃認可処分は,改正前鉄道事業法16条2項1号に規定する
能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利潤を含むものであるか否かを基準とし,当時の運輸省が策定した中小民鉄事業者の収入原価算定要領(平成8年12月策定のもの。以下平成8年算定要領という。)に基づき審査されることになる。そして,将来に向けて能率的な経営の下における適正な原価であ
るか否かは,これまでの実績が能率的な経営であったことを示す数
字の裏付けが必要であるところ,平成8年算定要領においては,原価計算期間(平年度)は,3年間と定められていた。しかし,P1が提出した平成10年7月31日付け鉄道事業の旅客運賃変更認可申請書に添付された収入・原価表(以下P6収入原価表という。)には,平成9年度実績以外の記載がなく,比較対象のない単年度だけの数字だけで能率的な経営の有無を判断することはできず,過去に能率的な経営を行えなかった鉄道事業者が,将来だけは能率的な経営を行うことができると判断することもできない。そうすると,P6運賃変更認可処分は,不十分な資料に基づいてされたものであって,能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利潤を含むもの(改正前鉄道事業法16条2項1号)であるかを適正に審査せずにされた違法なものというべきである。
(イ)

また,P6収入原価表に記載された平成9年度の実績においては,
雑収入が833万4000円,収入合計が100億5214万
7000円,支出合計が135億9856万円,差引損益が△
35億5350万7000円であるのに対し,P1が公表している平成9年度損益計算書においては,それぞれ営業外収益が2億6968万7000円,収益(営業収益及び営業外収益)が103億1349万9000円,費用(営業費及び営業外費用)が137億6430万3000円,経常損失が△34億0803万円といずれも異なっている。
そうすると,P6運賃変更認可処分は,不正確な数字に基づいてされたものであって,能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利潤を含むもの(改正前鉄道事業法16条2項1号)であるかを適正に審査せずにされた違法なものというべきである。
(ウ)

したがって,P6運賃変更認可処分は,改正前鉄道事業法16条2
項の認可要件を満たしていないにもかかわらずされた違法なものであり,その違法は重大かつ明白であるというべきである。
(3)

まとめ
以上によれば,P1の旅客運賃は,本件各線路使用条件認可処分が適法で
あることが前提となっているところ,本件各線路使用条件認可処分が違法なものであることによって,P1の旅客運賃は能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないもの(鉄道事業法16条2項)に該当しなくなったから,P6運賃変更認可処分は後発的に違法となったものであり,その違法は重大かつ明白である。
また,P6線の旅客運賃は,初乗りから中間距離までの旅客運賃が異常に高く,運賃表のグラフがメタボのような曲線を描くメタボ運賃となっており(別紙グラフ参照),このようなメタボ運賃は,近距離の利用者が遠距離の利用者に比べて不当に割高の旅客運賃を負担することになるので,特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするもの(改正前鉄道事業法16条2項2号)に該当するし,旅客運賃の認可においては,利用者が公平に旅客運賃を負担するような配分になっているか,すなわち距離に比例した旅客運賃体系となっているかを審査すべきであるが,P6線の旅客運賃はメタボ運賃となっており,能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利潤を含むもの(同項1号)に該当しないから,P6運賃変更認可処分には原始的違法があり,その違法は重大かつ明白である。さらに,P6運賃変更認可処分に当たってP1から提出されたP6収入原価表には平成9年度実績以外の記載がなく,原価計算期間を3年間と定めていた平成8年算定要領に反するし,P6収入原価表に記載された数字とP1の平成9年度損益計算書記載の数字が異なるから,P6運賃変更認可処分は,不十分な資料に基づいてされたものであって,能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利潤を含むもの(改正前鉄道事業法16
条2項1号)であるかを適正に審査せずにされたという原始的違法があり,その違法は重大かつ明白である。
したがって,原告らは,主位的に,P6運賃変更認可処分が無効であることの確認を求め(本件請求④),予備的に,P6運賃変更認可処分の取消しを求める(本件請求⑤)。
2
被告の主張
(1)

P6運賃変更認可処分の後発的違法について
原告らは,P6運賃変更認可処分は違法な本件各線路使用条件認可処分が
されたことにより後発的に違法となった旨主張するが,行政処分の後,当該処分の根拠となった事実状態が変動した場合であっても,取消訴訟における行政処分の違法性判断は,当該処分を行った時の事実状態を基準として行われるべきであるから,原告らの上記主張は採用の余地がない。(2)

P6運賃変更認可処分の原始的違法について
運輸大臣は,申請書及び添付書類,P1からの説明等による審査,運輸審議会の答申を踏まえ,P1の申請に係る旅客運賃が,能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利潤を含むものであり,特定の旅客又は荷主に対し不当な差別的取扱いをするものでなく,旅客又は貨物の運賃及び料金を負担する能力に鑑み,旅客又は荷主が該当事業を利用することを困難にするおそれがないものであり,他の鉄道運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであったことから,改正前鉄道事業法16条2項の基準に適合すると認め,P6運賃変更認可処分を行ったものである。


原告らは,P6運賃変更認可処分当時のP6線の旅客運賃体系について,近距離の旅客運賃が遠距離の旅客運賃に比べて異常に高額であり,特定の鉄道利用者を不当に差別的に取り扱うものであるから違法である旨主張する。

(ア)

しかし,鉄道事業者がどのような旅客運賃制度を採用するかは,当
該鉄道事業者の経営規模,旅客流動量,沿線の状況等の路線の特性を勘案する必要があるため,法令による規制が及ばない部分については,当該鉄道事業者の経営判断に委ねられている。
(イ)

また,旅客運賃制度は鉄道事業者や路線によって様々であるが,大
別して,①対キロ制(キロ当たり賃率に乗車区間の営業キロを乗じて旅客運賃額を計算する制度),②対キロ区間制(一定の距離を基準に区間を設定し,乗車区間に応じた旅客運賃を算出する制度),③区間制(ほぼ等距離に区分できる駅を基準として2以上の区間に分割した上で,区間に応じて旅客運賃を算出する制度),④均一制(乗車キロに関係なく旅客運賃を均一とする制度)に分けられる。P6運賃変更認可処分当時のP6線の旅客運賃制度は,上記の②対キロ区間制が採用されていた。鉄道事業における旅客運賃の遠距離逓減については,主に,上記①の対キロ制と上記②の対キロ区間制の旅客運賃制度において採用されており,長距離で利用するほど旅客運賃÷利用キロ数が低くなるように設定されているのが一般的である。例えば,P10各社の旅客運賃制度は対キロ制(P10P33の100kmまでは,対キロ区間制)であり,11km以上乗車した場合の旅客運賃は,距離帯によって賃率が減少するという遠距離逓減制が採用されている。
そして,各鉄道事業者が様々な旅客運賃制度を採用し,遠距離逓減を採用する路線も存在することから,必ずしも距離に比例して1km当たりの旅客運賃が増額する旅客運賃制度を採用する必要はない。さらに,遠距離逓減制を採用した上で,具体的にどのような旅客運賃を設定するかについては,鉄道事業者の経営判断に委ねられていることから,近距離利用した場合の1km当たりの旅客運賃が,遠距離利用した場合の1km当たりの旅客運賃に比して相当程度高額になることも十分にあり得
ることである。このことは,P6運賃変更認可処分当時のP6線と同様の旅客運賃制度を採用している事業者として,P34,P35等があり,大都市近郊の路線においても,旅客運賃の上昇割合が大きい路線,小さい路線,遠距離逓減が大きい路線,小さい路線等様々な旅客運賃制度を採用する路線があるため,P6線の旅客運賃制度が他の路線の旅客運賃制度と比較して特異なものということができないことからも明らかである。
(ウ)

さらに,P6運賃変更認可処分当時のP6線の旅客運賃制度は,全
ての旅客に適用されるものであり,特定の旅客のみに異なる旅客運賃を設定し,不当に高額の旅客運賃を負担させるものではないから,特定の旅客又は荷主に対し不当な差別的取扱いをするものでないこと(改正前鉄道事業法16条2項2号)という認可要件に反しないことは明らかである。

また,原告らは,平成8年算定要領において,原価計算期間(平年度)は,3年間と定められているのに,P1が提出したP6収入原価表には,平成9年度実績以外の記載がなく,かつ,P6収入原価表記載の数字とP1の平成9年度損益計算書記載の数字が異なることから,P6運賃変更認可処分は違法であるなどと主張する。
(ア)

しかし,平成8年算定要領は,原価計算期間について,旅客運賃改
定年度の翌年度1年間であったものを3年間に変更したものであるところ,その目的は,旅客運賃改定周期の長期化を実現することにより,経営効率化インセンティブをより高め,規制コストの縮小を図るとともに,経営の安定性を確保することにあったから,平成8年算定要領における

原価計算期間(平年度)は,3年間とする。

との規定の3年間とは,旅客運賃改定年度の翌年度以降の3年間を意味する。そして,P6収入原価表には平年度3年間平均の原価と計算が記載されている
から,P6収入原価表の記載等に基づいてされたP6運賃変更認可処分に何ら瑕疵はない。
(イ)

旅客運賃を定めるに当たり考慮されるべき原価及び収入の算定は,
平成8年算定要領に従って行われることになっているが,平成8年算定要領においては,収入・原価の算定方法における一般原則として,①経常的性格を担保するため,固定資産売却損益等の特別損益は,これを除外する。②鉄軌道事業部門を他の事業部門と区別して収支を算定する。なお,鋼索鉄道は,これを鉄軌道事業部門と区分するものとする。イ明らかに鉄軌道事業部門に帰属する収入及び原価は,これを鉄軌道事業部門に帰属させる。ロ他部門と関連する収入及び原価は,一定の配賦基準で按分した鉄軌道事業分担を鉄軌道事業部門に帰属させる。③投融資については,これを独立の事業部門として処理することとする。との規定が置かれている。そのため,平年度の収入及び原価を算定するに当たっては,損益計算書上の数字から,経常的性格を有する損益及び鉄軌道事業部門に帰属する収入・費用以外のものは除外されることになるのであるから,平成8年算定要領に従って算出されたP6収入原価表の数字と損益計算書における数字とが異なるのは当然のことである。なお,P1の平成9年度損益計算書上の営業外収益のその他の収益の数字には経常的性格を有しない収益である利子補給金,工事立会費,事業保険解約配当金等が,減価償却費の数字には経常的性格を有しない費用である負担金工事(特別利益)に係る償却分が,その他費用の数字には経常的性格を有しない費用である利子補給金の支出分等が,それぞれ含まれているものと推測される。
(ウ)

そうすると,P6収入原価表には平成9年度実績以外の記載がなく,
かつ,P6収入原価表記載の数字とP1の平成9年度損益計算書記載の数字が異なることをもって,P6運賃変更認可処分が違法であるとはい
えない。

したがって,P6運賃変更認可処分に原始的違法が存在するとはいえない。

(3)

まとめ
以上によれば,当時の運輸大臣は,申請書及び添付書類,申請者からの説
明等による審査,運輸審議会の答申を踏まえ,P1の申請に係る旅客運賃が,改正前鉄道事業法16条2項の基準に適合すると認め,P6運賃変更認可処分を行ったものである。
そして,行政処分の後,当該処分の根拠となった事実状態が変動した場合であっても,取消訴訟における行政処分の違法性判断は,当該処分を行った時の事実状態を基準として行われるべきであるから,P6運賃変更認可処分が後発的に違法となることはあり得ない。
また,鉄道事業者がどのような旅客運賃制度を採用するかは,当該鉄道事業者の経営判断に委ねられているから,近距離利用した場合の1km当たりの旅客運賃が,遠距離利用した場合の1km当たりの旅客運賃に比して相当程度高額になることも十分にあり得ることであるし,P6線の旅客運賃制度は全ての旅客に適用されるものであり,特定の旅客のみに異なる旅客運賃を設定し,不当に高額な旅客運賃を負担させるものではないから,特定の旅客又は荷主に対し不当な差別的取扱いをするもの(改正前鉄道事業法16条2項2号)とはいえない。
さらに,平成8年算定要領における原価計算期間3年間とは,旅客運賃改定年度の翌年度以降の3年間を意味するし,平年度の収入及び原価を算定するに当たっては,経常的性格を有する損益及び鉄軌道事業部門に帰属する収入・費用以外のものは除外されることになるから,平成8年算定要領に従って算出されたP6収入原価表の数字と損益計算書における数字とが異なるのは当然のことである。

したがって,P6運賃変更認可処分は適法なものであって,もとより重大かつ明白な違法は存在しないというべきである。
第7
1
争点(7)(P1に対する旅客運賃上限等の変更命令の可否)について原告らの主張
(1)

鉄道事業法16条5項1号は,旅客運賃が特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものであるときに,国土交通大臣は,同条1項の旅客運賃上限の範囲内で届け出られた旅客運賃(同条3項)を変更すべきことを命ずることができるとし,同法23条1項1号は,鉄道事業者の事業について輸送の安全,利用者の利便その他公共の利益を阻害している事実があると認めるときに,国土交通大臣は,旅客運賃上限を変更することを命ずることができるとしている。
鉄道事業法がこのような変更命令に関する条項を置いているのは,旅客運賃が鉄道利用者の利便に直結する重要な要素であることから,鉄道利用者の利益を保護し,鉄道事業者の独断による不当に高額な旅客運賃の設定を防止するためである。
(2)

P6線の旅客運賃は,近距離を移動する沿線住民にのみ不当に割高な
メタボ運賃であり,特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものであるから,国土交通大臣は,鉄道事業法16条5項1号に基づき,届け出られた旅客運賃の変更を命ずる義務を負っている。
(3)

本件各線路使用条件認可処分は違法なものであり,P6線路使用条件は,
P2が同社P4線の運行によってP6線区間で取得する旅客運賃及び特別急行料金収入相当額を線路使用料としてP1に支払い,P2がP6線区間で同社P4線の運行に要した経費をP1がP2に支払う方式での鉄道線路使用条件に変更されるべきものであり(本件請求③),これにより,P1の収入額が増大することになるから,国土交通大臣は,鉄道事業法23条1項1号に基づき,上記変更された線路使用料を基準に,適正原価・適正利潤の原則
(鉄道事業法16条2項)に基づいて旅客運賃上限を変更するよう命ずる義務を負っている。
また,P6線の旅客運賃は,異常に高額であって鉄道利用者の利便を阻害しているだけでなく,P6運賃変更認可処分は,不十分な資料に基づき,適正原価・適正利潤の原則(改正前鉄道事業法16条2項1号,鉄道事業法16条2項)に適合するかが適正に審査されずにされたものであり,現時点で適切な原価計算に基づき算定し直されなければならないから,国土交通大臣は,鉄道事業法23条1項1号に基づき,旅客運賃上限の変更を命ずる義務を負っている。
さらに,平成21年のP1の収支の実績をP6運賃変更認可処分の基礎とされた平成9年の収支の実績と比較すると,原価が約22.82億円減少し,収入は約45.91億円増加しており,その結果,経常損益は約34.5億円のマイナスから約34.23億円のプラスに転じている。そして,総括原価方式によれば,平成9年度と平成21年度の経常損益の差額分約68.73億円について,旅客運賃を減額させるために用いられなければならないから,国土交通大臣は,鉄道事業法23条1項1号に基づき,旅客運賃上限の変更を命ずる義務を負っている。
(4)

以上によれば,国土交通大臣が鉄道事業法16条5項1号及び同法23
条1項1号に基づき,P1に対して旅客運賃上限等の変更を命じないことは,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用するものである(行政事件訴訟法37条の2第5項)。
したがって,国土交通大臣は,鉄道事業法16条5項1号及び同法23条1項1号に基づき,P1に対し,P6運賃変更認可処分に係る旅客運賃上限及びその範囲内で届け出られた旅客運賃について,同法16条2項の定める適正原価・適正利潤の原則に基づき,P6線路使用条件の変更命令により定められた線路使用料に基づいて算定された収入額と現時点における収入と原
価を基準とするとともに,特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをすることがないよう距離に比例した原則の下に変更するよう命じなければならないというべきである(本件請求⑥)。
2
被告の主張
(1)

本件各線路使用条件認可処分及びP6運賃変更認可処分は,いずれも適
法であるから,P6運賃変更認可処分に係る旅客運賃上限及びその範囲内で届け出られた旅客運賃の変更を命じるべき理由はない。
(2)

原告らは,P1の損益計算表上認められる経常損益は,平成9年度の約
34.5億円のマイナスから平成21年度には約34.23億円のプラスに転じたのであり,総括原価方式によれば,国土交通大臣は,鉄道事業法16条5項1号及び同法23条1項1号に基づき,平成9年度と平成21年度の経常損益の差額分約68.73億円がP1の旅客運賃を減額させるために用いられるよう,P1に対し,旅客運賃上限等の変更命令をしなければならない旨主張する。

しかし,鉄道事業法16条2項にいう能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであるか否かは,現行算定要領において,実績に基づき算定された改定年度の翌年度以降の3年間における総括原価と総収入によって審査されることになっている。それにもかかわらず,原告らは,平成22年度以降平年3年間における総括原価と総収入の対比ではなく,平成9年度と平成21年度における経常損益を対比して,その差額分について旅客運賃を減額すべきである旨主張しているのであって,このような主張は,鉄道事業法16条2項の趣旨を正解しないものである。


原告らの主張するP1の平成21年度実績を前提としても,P1の平成21年度における総収入が総括原価を上回っているとはいえない。すなわち,現行算定要領によると,総括原価の算定に当たり,払込資本金に対し
10パーセント配当に必要な額の鉄軌道事業分担額を配当所要額(適正利潤)として計上しなければならないと定めている。そのため,鉄道事業者については,現行算定要領により,損益計算書上利益が出ていたとしても,資本金相当額のおよそ10パーセントについては,配当に充てなければならないことになる。
そして,P1の平成21年度における払込資本金額は定かではないが,平成9年度当時と大きな変化はないと考えれば,同年度の払込資本金額に基づき算定された配当所要額相当額が,46億5605万6000円であるから,平成21年度においても,現行算定要領に基づいて同額を配当所要額として計上しなければならないことになる。そうすると,現行算定要領に基づき,平成21年度の損益計算書上の経費計114億8239万円に配当所要額約46億5000万円を加えた合計約161億円が同年度の総括原価となるのであり,これは,同年度におけるP1の旅客運賃等による収入に運輸雑収入及び営業外収益を加えた149億円余を大幅に上回るから,収入が総括原価を上回る状況にあるとはいえない。
(3)

以上によれば,平成21年度におけるP1の決算実績に照らしても,P
6運賃変更認可処分に係る旅客運賃上限は,鉄道事業法16条2項にいう能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものといえるから,P6運賃変更認可処分に係る旅客運賃上限及びその範囲内で設定された旅客運賃が,同法23条1項柱書きにいう利用者の利便その他公共の利益を阻害している事実があると認めるときに当たると解することはできない。
したがって,行政庁がその処分をすべきであることがその処分の根拠となる法令の規定から明らかとはいえず(行政事件訴訟法37条の2第5項),旅客運賃上限等の変更命令の義務付けを求める請求に理由がないことは明らかである。

第8
1
争点(8)(P16運賃上限認可処分の適法性)について
原告らの主張
P2P4線の旅客運賃は,鉄道利用者に混乱を生じさせないという理由で,P6線の旅客運賃と同額に設定されており,近距離の旅客運賃が異常に高いメタボ運賃となっているから,P16運賃上限認可処分についても,P6運賃変更認可処分と同様に違法であるというべきである。

2
被告の主張
P6運賃変更認可処分は適法なものであるから,P16運賃上限認可処分も同様に適法なものというべきである。

第9
1
争点(9)(P2に対する旅客運賃上限等の変更命令の可否)について原告らの主張
P2P4線の旅客運賃は,P6線の旅客運賃と同額に設定されているから,P1に対する旅客運賃上限等の変更命令と同様に,国土交通大臣が鉄道事業法16条5項1号及び同法23条1項1号に基づき,P2に対して旅客運賃上限等の変更を命じないことは,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用するものである(行政事件訴訟法37条の2第5項)。
したがって,国土交通大臣は,鉄道事業法16条5項1号及び同法23条1項1号に基づき,P2に対し,P16運賃上限認可処分に係る旅客運賃上限及びその範囲内で届け出られた旅客運賃について,特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをすることがないよう距離に比例した原則の下に変更するよう命じなければならないというべきである(本件請求⑧)。
2
被告の主張
P16運賃上限認可処分は適法なものであるから,P2に対する旅客運賃上限等の変更命令の義務付けを求める請求に理由がないことは明らかである。
(判決要旨)

【主文】
1
本件訴えのうち,以下の各部分をいずれも却下する。
(1)

国土交通大臣が平成22年2月19日付けでP1株式会社に対してした同
社とP2株式会社の間の鉄道線路使用条件の設定を認可する旨の処分の取消しを求める部分
(2)

国土交通大臣が平成22年2月19日付けでP3株式会社に対してした同
社とP2株式会社の間の鉄道線路使用条件の設定を認可する旨の処分の取消しを求める部分
(3)

国土交通大臣が鉄道事業法23条1項4号に基づきP2株式会社及びP1
株式会社に対して上記(1)記載の鉄道線路使用条件の設定を変更するよう命じることの義務付けを求める部分
(4)

運輸大臣が平成10年9月4日付けでP1株式会社に対してした旅客運賃
変更認可処分の取消しを求める部分
(5)

国土交通大臣が平成22年2月19日付けでP2株式会社に対してした旅
客運賃上限設定認可処分の取消しを求める部分
(6)

国土交通大臣が鉄道事業法16条5項1号及び同法23条1項1号に基づ
きP2株式会社に対して旅客運賃上限等を変更するよう命じることの義務付けを求める部分
2
原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

3
訴訟費用は原告らの負担とする。



本件は,事案の概要2(1)ないし(3)に記載したとおり,大きく3つのカテゴリーに分かれており,(1)第1が,P1及びP3がP2との間で設定した鉄道線路使用条件に関するもの,(2)第2が,P1の旅客運賃に関するもの,(3)第3が,
P2の旅客運賃に関するものである。そして,上記(1)について請求の趣旨記載の本件請求①ないし③,上記(2)について同④ないし⑥,上記(3)について同⑦,⑧の請求がされた。
本判決は,上記(2)のP1の旅客運賃に関する訴え(本件請求④ないし⑥)について,原告らの原告適格を認め,他の(1)と(3)に関する各請求(本件請求①ないし③,⑦,⑧)については原告適格がないとした。そして,原告適格があるとした本件請求⑤は,既に出訴期間が経過しており不適法な訴えであるとし,結局,本件請求①ないし③,⑤,⑦,⑧に係る訴えを不適法なものとして却下し,本件請求④と⑥については,原告適格その他の訴訟要件の存在が認められるから適法な訴えであるとし,実体法上の判断として理由がないとして棄却したものである。

【事案の概要】
1
P1株式会社(以下P1という。)は,平成10年9月4日付けで鉄道事業法16条1項(平成11年法律第49号による改正前のもの)に基づく旅客運賃変更認可処分を受けて,P6線(α1駅とα2駅の間の32.3kmの路線)における旅客の運送を行っている。
また,P2株式会社(以下P2という。)は,P1が所有する鉄道線路(α1駅とα3駅の間)及びP3株式会社(以下P3という。)が所有する鉄道線路(α3駅とα2駅の間)等を使用して,P4線(α1駅とα4駅の間の51.4kmの路線)における旅客の運送を行っているところ,国土交通大臣は,平成22年2月19日付けで,鉄道事業法15条1項に基づき,P1及びP3がP2との間で上記鉄道線路の使用について設定した各使用条件(線路使用料や旅客運賃収入の配分方法等を定めたもの)を認可する旨の各処分をするとともに,同法16条1項に基づき,P2の申請に係るP4線の旅客運賃上限の設定を認可する旨の処分をした。

2
本件は,P6線の沿線住民である原告5名が,以下のとおり,請求の趣旨記載の8つの請求(本件請求①ないし⑧)をする事案である(1)

P1及びP3がP2との間で設定した鉄道線路使用条件はP1のみに不利
益なもので,P1及びその利用者の利益を著しく害するものであり,鉄道事業の適正な運営の確保に支障を及ぼすおそれ(鉄道事業法15条3項)があることからすれば,国土交通大臣がP1及びP3に対してした上記使用条件の設定を認可する旨の各処分(以下本件各線路使用条件認可処分という。)は,鉄道事業法15条3項に規定する認可要件に違反する違法なものであると主張して,上記各処分の取消しを求める(本件請求①及び②)とともに,国土交通大臣が同法23条1項4号に基づきP1とP2の間の上記使用条件を変更するよう命じることの義務付けを求めている(本件請求③)。(2)

P1の旅客運賃は,距離と運賃が比例しておらず近距離の旅客運賃が異常
に高くなっており,特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものである(改正前鉄道事業法16条2項2号)ことや,能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利潤を含むもの(同項1号)ではないことなどからすれば,運輸大臣(現在の国土交通大臣)がP1に対してした旅客運賃変更認可処分(以下P6運賃変更認可処分という。)は,改正前鉄道事業法16条2項に規定する認可要件に違反する違法なものであり,また,上記使用条件の設定を認可する旨の各処分が取り消されるべき違法なものであって,P1に適正な線路使用料が支払われるべきことからすれば,P6運賃変更認可処分は,後発的に,同項に規定する適正原価・適正利潤の原則に違反する違法なものとなったところ,これらの違法は重大かつ明白であると主張して,主位的に上記処分の無効確認を求め(本件請求④),予備的に同処分の取消しを求める(本件請求⑤)とともに,国土交通大臣が鉄道事業法16条5項1号及び同法23条1項1号に基づきP1に対して旅客運賃上限等を変更するよう命じることの義務付けを求めている(本件請求⑥)。
(3)

国土交通大臣がP2に対してしたP4線に係る旅客運賃上限設定認可処分
(以下P16運賃上限認可処分といい,P6運賃変更認可処分と併せて本件各運賃認可処分という。)は,P1に対する旅客運賃変更認可処分と同様の理由により,鉄道事業法16条2項に規定する認可要件に違反する違法なものであると主張して,P16運賃上限認可処分の取消しを求める(本件請求⑦)とともに,国土交通大臣が同法16条5項1号及び同法23条1項1号に基づきP2に対して旅客運賃上限等を変更するよう命じることの義務付けを求めている(本件請求⑧)。

【争点及び当事者の主張の骨子】
別紙のとおり

【判決理由の要旨】
1
本案前の争点について
(1)

争点(1)(原告適格の有無)について
本件各運賃認可処分の取消し又は無効確認の訴え(本件請求④,⑤及び⑦)について
(ア)

本件各運賃認可処分の根拠法である鉄道事業法は,目的規定(1条)
において,適正かつ合理的な運営は,当然に利用者の利益の保護
等を前提とするものでなければならないことを明示することで,鉄道事業の合理化が図られる場合でも,利用者の利益の保護は当然の前提として確保されなければならないものであることを明らかにしている。また,本件各運賃認可処分の根拠規定である改正前鉄道事業法16条1項及び鉄道事業法16条1項は,旅客運賃等の設定を鉄道事業者の自由に任せることなく,認可を要することとして,利用者の利益の保護を旅客運賃等に関して具体的に確保しようとしたものである。

さらに,鉄道事業法の関係法令をみると,旅客運賃認可処分について利用者が特別の利害関係を有することを前提に,鉄道利用者に一定の手続関与の機会を付与している。
(イ)

鉄道は,人や荷物を大量,高速,定時に輸送する公共的存在として重
要な地位を占めており,特に,都市圏等で通勤や通学等に鉄道を利用する住民にとっては,居住地から職場や学校等に日々通うための足として,その仕事や学業を継続して続けていくために欠くことのできない移動手段となっている。他方で,鉄道利用の対価である旅客運賃は鉄道事業者の約款により一方的に定められており,利用者としては,一方的に定められた旅客運賃を支払って鉄道を利用するか,それともそもそも鉄道を利用しないかの自由しか与えられていない。
そうすると,旅客運賃認可処分が違法にされ,違法に高額な旅客運賃が設定された場合,日々の仕事や学業等を行うための通勤や通学等の手段として当該鉄道を反復継続して日常的に利用する者は,その違法に高額な旅客運賃を支払って,引き続き鉄道を利用することを余儀なくされることになるし,また,その経済的負担能力いかんによっては,当該鉄道を日常的に利用することが困難になり,職場や学校等に日々通勤や通学等すること自体が不可能になったり,住居をより職場や学校の近くに移転せざるを得なくなったりするなどし,仕事や居住場所などといった日常生活の基盤を揺るがすような重大な損害が生じかねない。
(ウ)

利用者の利益の保護を重要な理念として掲げ,その具体的な確保

のための条項を置いている鉄道事業法が,上記のような重大な損害を受けるおそれがある鉄道利用者についてまで,違法な旅客運賃認可処分がされてもその違法性を争うことを許さず,これを甘受すべきことを強いているとは考えられないから,改正前鉄道事業法16条1項及び鉄道事業法16条1項は,これらの者の具体的利益を,専ら一般的公益の中に吸収解消さ
せるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含んでいると解すべきである。
(エ)

したがって,改正前鉄道事業法16条1項又は鉄道事業法16条1項
に基づく旅客運賃認可処分に関し,少なくとも居住地から職場や学校等への日々の通勤や通学等の手段として反復継続して日常的に鉄道を利用している者が有する利益は,法律上保護された利益に該当するというべきであり,このような者は,旅客運賃認可処分の取消し又は無効確認の訴えについて原告適格を有するものと解するのが相当である。
そして,原告ら5名はいずれも,P1に旅客運賃を支払って,居住地から職場や学校等への日々の通勤や通学等の手段として反復継続して日常的にP6線を利用している者であると認められるから,いずれも,P6運賃変更認可処分の取消し又は無効確認の訴え(本件請求④及び⑤)について,原告適格を有する。
(オ)

一方,原告らは,P2に旅客運賃を支払っているわけではないから,
P4線について認可されたP16運賃上限認可処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有するものではなく,P16運賃上限認可処分の取消しの訴え(本件請求⑦)について原告適格を有しない。イ
旅客運賃上限等の変更命令の義務付けの訴え(本件請求⑥及び⑧)について
鉄道事業法16条1項に規定する旅客運賃認可処分の取消しの訴えについて原告適格を有する者は,同法16条5項1号に基づく旅客運賃の変更命令及び同法23条1項1号に基づく旅客運賃上限の変更命令の義務付けの訴えについても原告適格を有するものと解するべきである。
したがって,原告らは,P1に対する鉄道事業法16条5項1号に基づく旅客運賃の変更命令及び同法23条1項1号に基づく旅客運賃上限の変更命令の義務付けの訴え(本件請求⑥)について原告適格を有する。
一方,原告らは,P16運賃上限認可処分の取消しの訴えについて原告適格を有しない以上,P2に対する旅客運賃上限等の変更命令の義務付けの訴え(本件請求⑧)についても原告適格を有しない。ウ
本件各線路使用条件認可処分の取消しの訴え(本件請求①及び②)について
(ア)

本件各線路使用条件認可処分の根拠規定である鉄道事業法15条1項
は,鉄道線路の適切な維持管理及び鉄道利用者への良好かつ安定的な鉄道輸送サービスの提供を図るためには,適正な鉄道線路の使用関係を構成し,鉄道事業の適正な運営を確保する必要がある一方で,鉄道線路使用条件は,旅客運賃や鉄道施設の変更等のように鉄道利用者に直接影響を及ぼすものではなく,飽くまでも鉄道事業者相互間の関係を規律するものであることから,鉄道事業の適正な運営を阻害しない限り,鉄道線路使用条件の内容を原則として鉄道事業者相互間の調整に委ねたものであると解される。また,鉄道事業法の関係法令において,国土交通大臣が鉄道線路使用条件設定認可処分を行うに当たり,鉄道利用者に何らかの手続関与の機会が付与されていることをうかがわせる規定は見当たらない。
さらに,鉄道線路使用条件は,飽くまでも鉄道事業者相互間の関係を規律するものであって,旅客運賃のように鉄道利用者に直接影響を及ぼすものではなく,鉄道線路使用条件認可処分が違法にされた場合,そのことによって直ちに旅客運賃上限に影響が生じ,鉄道利用者に損害が及ぶことになるものではない。
(イ)

そうすると,鉄道事業法15条1項に基づく鉄道線路使用条件設定認
可処分によって,鉄道利用者が法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがあるとは認められないから,鉄道利用者は,上記処分の取消訴訟における原告適格を有しないというべきである。したがって,原告らは,本件各線路使用条件認可処分の取消しの訴え
(本件請求①及び②)について原告適格を有しない。エ
P1に係る線路使用条件の変更命令の義務付けの訴え(本件請求③)について
原告らは,本件各線路使用条件認可処分の取消しの訴えについて原告適格を有しない以上,P1に係る線路使用条件の変更命令の義務付けの訴え(本件請求③)についても原告適格を有しない。


小括
以上によれば,原告らは,P6運賃変更認可処分の取消し又は無効確認の訴え(本件請求④及び⑤)及びP1に対する旅客運賃上限等の変更命令の義務付けの訴え(本件請求⑥)について原告適格を有するが,その余の訴え(本件各線路使用条件認可処分の取消しの訴え(本件請求①及び②),P1に係る線路使用条件の変更命令の義務付けの訴え(本件請求③),P16運賃上限認可処分の取消しの訴え(本件請求⑦)及びP2に対する旅客運賃上限等の変更命令の義務付けの訴え(本件請求⑧))については,いずれも原告適格を有しない。

(2)

争点(2)(重大な損害を生ずるおそれの有無)について(本件請求⑥の
関係)
原告らは,P1に旅客運賃を支払って,居住地から職場や学校等への日々の通勤や通学等の手段として反復継続して日常的にP6線を利用している者であるから,違法に高額な旅客運賃が設定された場合,仕事や居住場所などといった日常生活の基盤を揺るがすような損害が生じかねないところ,このような損害については,事後的な金銭賠償等により救済することが容易ではない。そうすると,P1に対する旅客運賃上限等の変更命令がされないことにより,原告らに重大な損害を生ずるおそれ(行政事件訴訟法37条の2第1項)があると認められるから,上記変更命令の義務付けを求める訴えは適法である。(3)

争点(3)(出訴期間徒過の有無)について

P6運賃変更認可処分の取消しの訴え(本件請求⑤)は,出訴期間を徒過してされた不適法なものである。
(4)

本案前の争点に関するまとめ
以上によれば,本件各請求のうち,P6運賃変更認可処分の無効確認の訴え
(本件請求④)及びP1に対する旅客運賃上限等の変更命令の義務付けの訴え(本件請求⑥)は適法であるが,その余の訴え(本件請求①ないし③,⑤,⑦及び⑧)はいずれも不適法である。
2
本案の争点について
(1)

争点(6)(P6運賃変更認可処分の適法性)について(本件請求④の関係)原告らは,違法な本件各線路使用条件認可処分がされたことによって,P6運賃変更認可処分は後発的に無効となった旨主張するが,行政処分の無効確認の訴えにおいては,行政処分がされた時点において当該処分に重大かつ明白な瑕疵があったか否かを判断すべきものであって,当該処分後口頭弁論終結時までに生じた事情を参酌して当該処分に重大かつ明白な瑕疵があったか否かを判断すべきものではないから,原告らの主張は主張自体失当である。

原告らは,P6線の旅客運賃は,初乗りから中間距離までの旅客運賃が異常に高いメタボ運賃となっており近距離の利用者が遠距離の利用者に比べて不当に割高の旅客運賃を負担することになるから,これを認可したP6運賃変更認可処分は違法である旨主張する。
しかし,P6線の旅客運賃は,全ての旅客に同様に適用されるものであり,特定の旅客によって異なるものではないことが認められるから,特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするもの(改正前鉄道事業法16条2項2号)に該当するものではない。また,当時の運輸大臣は,P1から提出された資料に加え,運輸審議会の答申を踏まえ,P6線の旅客運賃が能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利潤を含むもの(改正前鉄道事業法16条2項1号)に該当するものと判断したものと認められ,
その判断過程及び判断内容に何らかの瑕疵があると認めるに足りる証拠はない。
また,原告らは,P6運賃変更認可処分は不十分な資料に基づいてされたものである旨主張するが,上記認可処分は,当時の運輸省が定めた原価算定要領に則って行われたものであり,その審査資料に誤りがあったとも認められない。

したがって,P6運賃変更認可処分について,改正前鉄道事業法16条2項1号又は2号の規定する認可要件に違反する違法があるとは認められないから,上記認可処分の無効確認を求める原告らの請求(本件請求④)は理由がない。

(2)

争点(7)(P1に対する旅客運賃上限等の変更命令の可否)について(本件
請求⑥の関係)

原告らは,P6線の旅客運賃がメタボ運賃となっており近距離の利用者が遠距離の利用者に比べて不当に割高の旅客運賃を負担しているから,国土交通大臣は鉄道事業法16条5項1号に基づき上記変更命令をすべき義務を負っている旨主張するが,上記のとおり,P6線の旅客運賃が特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものであるときに該当するとはいえないから,原告らの上記主張は理由がない。


原告らは,本件各線路使用条件認可処分は違法なものであり,線路使用条件が変更されれば,P1の収入額が増大することになるから,国土交通大臣は,鉄道事業法23条1項1号に基づき,上記変更された線路使用料を基準に,適正原価・適正利潤の原則(鉄道事業法16条2項)に基づいて旅客運賃上限を変更するよう命ずる義務を負っている旨主張する。
しかし,本件各線路使用条件認可処分は取消権限を有する機関により取り消されていないから,本件各線路使用条件認可処分が適法にされ,本件各線路使用条件が有効に存在していることを前提に検討すべきである。そして,
本件各線路使用条件においては,P1がP2に対してP1所有区間を貸し付けていることによって,P1の総収入が増加してP1の旅客運賃上限が能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないもの(鉄道事業法16条2項)に該当しなくなるものではないから,国土交通大臣がP1に対して旅客運賃上限の変更命令をすべき理由はない。また,本件各線路使用条件認可処分が無効であるか否かについて検討しても,本件各線路使用条件においては,P2がP6線区間内で列車を運行することによるP1の収支に対する影響は可及的に排除されており,P2がP6線区間内で列車を運行することによって,原則としてP1に減収が生じることもなければ,線路使用料収入による増収が生じることもないから,P1によるP1所有区間の適切な維持管理に支障を及ぼすおそれが生じたり,P6線の利用者への良好かつ安定的な鉄道輸送サービスの提供に支障が生じるような事態が生じるとはいえない。そうすると,本件各線路使用条件認可処分について,鉄道事業法15条3項の認可要件に違反する無効なものとは認められない。

さらに,原告らは,平成21年のP1の収支の実績をP6運賃変更認可処分の基礎とされた平成9年の収支の実績と比較すると,経常損益がマイナスからプラスに転じており,その経常損益の差額分は旅客運賃を減額させるために用いられなければならないから,国土交通大臣は,鉄道事業法23条1項1号に基づき,旅客運賃上限の変更を命ずる義務を負っている旨主張する。しかし,国土交通省が定めた原価算定要領に基づけば,現時点において,P1の旅客運賃が,鉄道事業法16条2項に規定する能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えるものとなっているとは認められない。


したがって,国土交通大臣がP1に対して旅客運賃上限等の変更を命ずるべき理由はなく,P1に対する旅客運賃上限等の変更命令の義務付けを求め
る原告らの請求(本件請求⑥)は理由がない。
(3)

まとめ
以上によれば,P6運賃変更認可処分の無効確認の訴え(本件請求④)及び
P1に対する旅客運賃上限等の変更命令の義務付けの訴え(本件請求⑥)については,いずれも理由がない。
以上

(別紙)
【争点】
(本案前の争点)
(1)

原告適格の有無。すなわち,本件各請求に係る訴えについて原告らが原告適
格を有するか否か。
(2)

重大な損害を生ずるおそれの有無。すなわち,本件請求③,⑥及び⑧に
係る義務付けの訴えについて,これらの請求に係る処分がされないことにより原告らに重大な損害を生ずるおそれ(行政事件訴訟法37条の2第1項)があるか否か。
(3)

出訴期間徒過の有無。すなわち,本件請求⑤に係る取消しの訴えが出訴期間
を徒過しているか否か。
(本案の争点)
(4)

本件各線路使用条件認可処分の適法性。すなわち,本件各線路使用条件認可
処分が鉄道事業法15条3項に違反する違法なものであるか否か(本件請求①及び②関係)。
(5)

線路使用条件の変更命令の可否。すなわち,国土交通大臣が鉄道事業法23
条1項4号に基づきP1に係る線路使用条件の変更を命じないことが裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用するものであるか否か(本件請求③関係)。(6)

P6運賃変更認可処分の適法性。すなわち,P6運賃変更認可処分が改正前
鉄道事業法16条2項に違反する違法なものであり,その違法は重大かつ明白であるか否か(本件請求④及び⑤関係)。(7)

P1に対する運賃上限等の変更命令の可否。すなわち,国土交通大臣が鉄道
事業法16条5項1号及び同法23条1項1号に基づきP1に対して運賃上限等の変更を命じないことが裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用するものであるか否か(本件請求⑥関係)。
(8)

P16運賃上限認可処分の適法性。すなわち,P16運賃上限認可処分が鉄
道事業法16条2項に違反する違法なものであるか否か(本件請求⑦関係)。(9)

P2に対する運賃上限等の変更命令の可否。すなわち,国土交通大臣が鉄道
事業法16条5項1号及び同法23条1項1号に基づきP2に対して運賃上限等の変更を命じないことが裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用するものであるか否か(本件請求⑧関係)。

【争点に関する当事者の主張の骨子】
(本案前の争点)
1
争点(1)(原告適格の有無)について
(1)

原告らの主張
鉄道事業法は,その文言上も仕組み上も,鉄道利用者を個別具体的に保護す
ることを趣旨及び目的としており,そのことは,鉄道事業法の制定経緯及び改正経緯からも明らかである。また,ここでいう利用者には,鉄道に乗車する者だけではなく,運賃の負担者も含まれる。そして,違法な運賃認可処分がされれば,日常的に鉄道を利用する沿線住民は,経済的にも日常生活・社会生活上でも重大な不利益を被ることになるから,その利益は個別具体的に保護されなければならない。
また,総括原価主義(鉄道事業法16条2項)に基づく運賃の算定制度においては,総収入額は原価総額を下回らなければならず,線路使用料収入が増加すれば,他の収入が変わらない限り,運賃を値下げして運賃収入を減らさなければならない関係が必然的に生じるから,運賃認可制度と同様に,線路使用条件認可制度は,鉄道利用者の利益を個別具体的に保護することを目的としている。
したがって,反復継続的に鉄道を利用している者又はその運賃を法的義務として負担している者(扶養義務者)である原告らは,本件各請求に係る訴えについて原告適格を有する。

(2)

被告の主張
鉄道事業法は,公共の利益という観点から運賃や線路使用条件の認可を規定
していることは明らかであり,同法が,不特定多数者である鉄道利用者の具体的利益を,専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々の鉄道利用者の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むものであるとは解されない。
したがって,運賃や線路使用条件の認可においては,鉄道利用者個々人の個別的利益は,公共の利益の保護を通じて間接的に保護されているところの反射的利益又は事実上の利益にすぎないから,原告らは本件各請求に係る訴えについて原告適格を有しない。
2
争点(2)(重大な損害を生ずるおそれの有無)について
(1)

原告らの主張
原告らは,運賃上限等変更命令及び線路使用条件変更命令がされないことに
より,多額の金銭的負担と移動の自由に対する制限を被るところ,これらの損害は金銭によって償うことができないものであるから,原告らに重大な損害を生ずるおそれがある。(2)

被告の主張
移動の自由の制限は,金銭的負担を避けるために自らの意思に基づいて生じ
る副次的なものであるし,金銭的損害は,事後の金銭賠償によって回復することが可能であるから,原告らに重大な損害を生ずるおそれはない。3
争点(3)(出訴期間徒過の有無)について
(1)

被告の主張
P6運賃変更認可処分は,平成10年9月4日付けでされたものであるから,
同処分の取消しの訴えは,1年間の出訴期間を徒過した不適法なものである。(2)

原告らの主張
P6運賃変更認可処分は,平成22年2月19日に違法な本件各線路使用条
件認可処分がされたことにより,後発的に瑕疵が生じて違法となったから,出訴期間も同日から進行し,上記処分の取消しの訴えは出訴期間を徒過していない。

(本案の争点)
4
争点(4)及び(5)(本件各線路使用条件認可処分の適法性及び使用条件変更命令の可否)について
(1)

原告らの主張
P1及びP3がP2の支配下にあるため,本件各線路使用条件は,P2がP
6線区間をただ乗りし,P1が運賃を全く取得することができないという経済的に不合理な仕組みとなっており,このような線路使用条件は,P1の経営を困難なものとし,更にはP1の利用者の利益を著しく害するもので,鉄道事業の適正な運営の確保に支障を及ぼすおそれ(鉄道事業法15条3項)があるから,これを認可した各処分は違法であるし,国土交通大臣はこれを変更するよう命じる義務がある。
(2)

被告の主張
本件各線路使用条件においては,P1及びP3の収支に対する影響が可及的
に排除されており,P1及びP3は,引き続き鉄道線路の適切な維持管理を行うことが可能であり,鉄道事業の適正な運営の確保に支障を及ぼすおそれ(鉄道事業法15条3項)はない。
5
争点(6)及び(7)(P6運賃変更認可処分の適法性及び運賃上限等変更命令の可否)について
(1)

原告らの主張
本件各線路使用条件認可処分が違法なものであることによって,P1の運賃
は能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないもの(鉄道事業法16条2項)に該当しなくなったから,P1に対する運
賃変更認可処分は後発的に違法となった。
また,P6線の運賃は,初乗りから中間距離までの旅客運賃が異常に高いメタボ運賃となっており,近距離の利用者が遠距離の利用者に比べて不当に割高の旅客運賃を負担することになるので,特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするもの(改正前鉄道事業法16条2項2号)に該当するなどの原始的違法がある。
さらに,P6運賃変更認可処分は,不十分な資料に基づいてされたものであって,能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利潤を含むもの(改正前鉄道事業法16条2項1号)であるかを適正に審査せずにされたという原始的違法がある。
したがって,P6運賃変更認可処分には重大かつ明白な違法があり,国土交通大臣は,運賃上限を変更するよう命じる義務がある。
(2)

被告の主張
P6運賃変更認可処分は,運輸審議会に対する諮問等を経て適正にされたも
のである。
鉄道事業者がどのような運賃制度を採用するかは,当該鉄道事業者の経営判断に委ねられているから,近距離利用した場合の運賃が,遠距離利用した場合の運賃に比して相当程度高額になることも十分にあり得ることであるし,P6線の運賃制度は全ての旅客に適用されるものであるから,特定の旅客又は荷主に対し不当な差別的取扱いをするものとはいえない。6
争点(8)及び(9)(P16運賃上限認可処分の適法性及び運賃上限等変更命令の可否)について
(1)

原告らの主張
P2P4線の運賃は,鉄道利用者に混乱を生じさせないという理由で,P6
線の運賃と同額に設定されているから,P16運賃上限認可処分は,P6運賃変更認可処分と同様に違法である。

(2)

被告の主張
P6運賃変更認可処分は適法なものであるから,P16運賃上限認可処分も
同様に適法である。

トップに戻る

saiban.in