判例検索β > 平成24年(わ)第524号
詐欺
事件番号平成24(わ)524
事件名詐欺
裁判年月日平成25年7月12日
裁判所名・部神戸地方裁判所  第4刑事部
裁判日:西暦2013-07-12
情報公開日2017-10-13 01:34:53
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平成25年7月12日宣告

裁判所書記官

平成24年第524号,第614号,第707号詐欺被告事件
判決主文
被告人を懲役2年に処する
未決勾留日数中230日をその刑に算入する。
この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。
本件公訴事実中,
平成24年7月20日起訴に係る詐欺の点については,
被告人は無罪
理由
【犯罪事実】
被告人は,知人のA以下「A」という。及び夫でE試験を受験中のB以下「B」という。と共謀の上,Bの母であるC以下「C」という。が,AがD株式会社以下「D」という。H支社営業統括部長,被告人がその秘書であって,AらがDを通じてE協会以下「協会」という。に対しBの受験に関してBを有利に取り扱う口利きができると誤信しているのに乗じ,Cから金をだまし取ろうと企て,
第1

平成22年12月8日頃,Aが,神戸市a区bc丁目c1番c2号のC方に電話を
掛け,電話口に出たC当時68歳に対し,真実は,A及び被告人はDと無関係で,協会に献金する意思がなく,E試験におけるBの合格点を通常の合格基準点よりも引き下げることもできないのに,
B君のE試験ですが,日本E協会と交渉を進めまして,前月の話でB君の合格ラインを25パーセントとしていましたところを,今回,追加で300万円の献金を出してもらえば合格ラインを20パーセントに下げることができます。もちろん,論文式試験を免除するという条件に変更はありません。しかも,今回,万一,B君が平成22年12月の短答式試験に不合格となっても,次回,平成23年5月の短答式試験で同条件の合格基準とすることができます。B君が合格した場合には献金の全額を返金しますので,よろしくお願いします。」などと嘘を言い,Cに,被告人らに300万円を交付すれば,Dを通じて協会に献金として引き渡され,それによってBのE試験の合格ラインが下がると信じ込ませ,よって,同月9日頃,神戸市a区de丁目e1番e2号所在のJRf駅で,被告人が,Cから現金300万円の交付を受け,もって人を欺いて財物を交付させた。第2平成23年3月,被告人が,C当時69歳に対し,電話で,真実は,A及び被告人はDと無関係で,Dが協会に働きかけてBをE事務所に就職させる内定を得た事実がなく,かつBを就職させる見返りとして協会が当該E事務所に現金を渡した事実もないのに,これらがあるように装い,「日本E協会の紹介でB君の就職がF事務所に内定していたのに,D株式会社の反対派閥がF事務所に圧力を掛けて,勤務条件を厳しくしました。そのため,とても働ける条件ではなくなり,B君も働きたくないと言いましたので,こちらから断りを入れました。でも,日本E協会は,既にF事務所にB君を就職させるために献金を渡してしまっていたんです。D株式会社の方が半分は持つようですが,Aは,お母さんにも半分をお願いしないといけないと言っていました。などと嘘を言い,さらに同月30日頃,Aが,前記のC方にいたCに対し,電話で,
既に日本E協会は,F事務所に献金として400万円を支払ってしまっています。日本E協会に水面下で口利きさせた以上,日本E協会が支払った400万円の献金は私たちの方で負担しなければいけません。Dの方で200万円は負担しますので,残りの200万円はCさんの方で負担してほしいのです。」「日本E協会は,今回の献金200万円により,B君の論文式試験の基本免除という条件に加えて,通常は監査法人や大企業ですることが求められている2年以上の実務研修という条件を免除すると約束しています。また,B君が次の論文式試験に合格した場合,200万円はD株式会社が責任を持って返金します。などと嘘を言い,Cに,被告人らに200万円を交付すれば,それがDを介して協会に渡り,BをE試験に合格させることができ,Bが合格すれば交付した200万円の返金が受けられるものと信じ込ませ,よって,同月31日頃,前記JRf駅で,Aが,Cから現金200万円の交付を受け,もって人を欺いて財物を交付させた。
【証

拠】

省略
【事実認定の補足説明】
第一

本件の争点と当裁判所の判断の概要
本件公訴事実の概要

①(平成24年7月20日起訴,以下①事件という。)被告人は,A及びBと共謀の上,
AがDの社員で被告人がその秘書であると誤信していたCから金をだまし取ろうと企て,平成22年3月22日,C方において,真実は,被告人及びAはDと無関係で,協会に献金する意思がなく,BのE試験における合格点を通常の合格基準点よりも引き下げることもできないのに,Aにおいて,
Dは,E協会と取引がありますので,E試験の合格のために便宜を図ることができます。実は,5月の試験でB君を合格させるために,既に協会側と話を進めています。E協会に働きかければ,全体の合格基準点の57パーセントまでB君に合格ラインを引き下げることができます。そのためには,日本E協会に500万円の献金を差し入れる必要がありますので用意してほしいのです。」「500万円の献金は,B君が試験に合格した段階で85パーセントが返金されます。」などと嘘を言い,被告人において,「D株式会社が会社としてかかわっていることですから全く心配いりませんよ。私もBさんのことを支えますから,お母さんも一緒によろしくお願いします。」などと嘘を言ってCにそれを信じ込ませ,よって,同月23日,C方で,Cから現金500万円の交付を受け,もって人を欺いて財物を交付させた。②(平成24年8月16日付け起訴,以下「②事件という。)犯罪事実第1とほぼ同旨。
③(同年9月28日付け起訴,以下③事件という。)犯罪事実第2とほぼ同旨。

弁護人の主張

弁護人は,①及び②事件については,AがCに対して各公訴事実記載の嘘を言い,それを信じたCがA又は被告人に金を交付したこと及び被告人が外形的に概ね各公訴事実記載の行為をしたことは争わないが,被告人は,各事件当時,Aの話は真実であると考えており,詐欺の故意や正犯意思がない(Aとの共謀が成立しないとの趣旨を含む主張と考えられる。
)から無罪である旨の主張をし,③事件については,被告人は,被告人らがCにした話が嘘であることを未必的に認識しており,故意は否定できないが,その関与は幇助にとどまる旨の主張をした。

争点の整理と当裁判所の判断の概要

本件では,①ないし③事件のいずれにおいても,Dの社員になりすましたAが,Cに対し,各公訴事実記載の嘘を言って金を騙し取ったことは,証拠上明らかであり,被告人が,各事件の際,Aの秘書として振る舞い,各公訴事実記載の行為をしたことも一部の文言等を除いては争いがない。一方,3つの事件の前後を通じ,被告人,A及びBの間で,Cを騙す旨の明示の謀議の存在を示す証拠はなく,Aが,自身がDの社員ではないことを被告人やBに明かした事実も認められない。そこで,本件では,間接事実から,被告人が,Aの地位やAがCにした話の虚偽性を認識・認容していたと推認できるか,仮にそれが推認できる場合,A及びBとの間で黙示的な共謀があったと推認できるかが問題となる。当裁判所は,後記の理由から,①事件当時は,被告人は,A及び被告人自身の地位が偽りであると認識していたとは認められず,AがCにした話が嘘であるとの認識があったとも認められないから,詐欺の故意が認められず無罪であるが,②及び③事件においては,被告人はAの地位や各献金話の虚偽性につき未必的な故意があり,共謀についても黙示の共謀を認定でき,さらに,被告人の各犯行への関与の内容,被告人の意図等から,被告人の正犯性も肯定できると判断した。
第二

当裁判所の判断
前提事実

以下の事実は,証拠上比較的容易に認定でき,当事者間でも概ね争いがない。ア
被告人(Bと婚姻前の姓はG)は,高校卒業後,下着販売会社の販売員,ガソリンス
タンド等のアルバイト従業員などの仕事を経験した後,平成16年頃から歯科医院で歯科助手として勤務し,平成19年頃からは,その傍らデリバリーヘルス(デリヘル)嬢としても働くようになった。

被告人は,平成16年春頃,Bと知り合い,交際を始めた。Bは,従前,父親が経営
する会社に勤めていたが,平成16年4月に父親が自殺して会社が整理されたため,平成17年頃には無職となった。Bは,被告人との交際を始めた頃からEを志して受験勉強を始め,無職になった後は,Cから小遣いをもらい予備校に通う生活を送っていた(その後,BはE試験を受験し続けたが,いずれの試験にも合格したことはなかった。。)

平成19年春頃,被告人は,デリヘルの客であったAと知り合い,その後繰り返しA
に接客する中で親しくなった。Aは,実際は無職であったが,被告人にはDの社員で部長に昇進したなどと話し,D株式会社H支社営業統括部長の肩書きのある名刺を見せるなどした(以後,Aは,被告人に対して,一貫してその地位にあるように振る舞い続けた。。)
平成20年頃,Aは,被告人に対して,デリヘルの料金とは別に1回1万円程度の金を払って性交渉するようになった。平成21年春頃,被告人は,BにAを紹介し(ただし,自身がデリヘルの仕事をしていることやAと性交渉があることは秘していた。,以後,被告)
人,
A及びBの3人で飲食をしたりゲームやパチンコなどの遊興をするようになったAは,BにもDの社員として振る舞っていた。。

平成21年夏頃,Aは,被告人に対し,Aの秘書になること,秘書検定試験に合格す
れば給料が上がり,Dに出社できることなどを持ち掛け,被告人はこれに応じた。また,この頃,Aは,被告人に対して,1回3万5000円で性交渉を持つことも持ち掛け,被告人はこれにも応じた(以上の際の被告人とAのやりとり等については,後に詳しく検討する。。Aは,同年7月15日,被告人名義の銀行預金口座にD名義で5万円余を入)
金し,以後,AによるD名義での入金は平成24年5月28日までほぼ毎月行われた。被告人は,平成21年11月,秘書検定試験を受験(2級と3級を併願)し,3級に合格した。その後も,被告人は,平成23年11月までの間,5回にわたって秘書検定試験を受験し,2級及び準1級に合格した(この間,被告人が秘書として行っていた事務については後に詳しく検討する。。


平成21年12月頃までに,Aは,自身の生活費や被告人及びBとの遊興費を得るた
め,Cに対し,D社員として協会に口利きをすればBのE試験の合格ラインを下げて合格しやすくできるが,それには協会への献金が必要である旨以下「第1の献金話」という。嘘を言い,Cから金をだまし取ることを考えた。そして,その頃,Aは,それが嘘であることを隠したまま,まず被告人に対して話し,さらに,被告人及びBのいる場面でもその話をした。直ちに,Cから献金を出させる話には至らなかったが,遅くとも平成22年1月頃には,被告人,A及びBの間で,献金をCに出してもらう考えが共有され,BからCに対してその旨の話が伝えられた(その間の平成21年12月下旬,被告人は,BとともにC方を訪れ,初めてCと対面し,Bと交際していることなどを話したが,この際には献金の話は出なかった。この点,Cの検察官調書には,この時期に被告人とAがC方を訪れ,Dの肩書きのある名刺を示した上,第1の献金話をした旨の供述があるが,被告人,A,Bのいずれもそれを否定している上,後述のAがDの名刺を作成した時期とも整合しないから,Cの供述は信用できない。。


平成22年2月,Aは,Cに対する詐欺の際に使用する目的で,A自身と被告人の名
刺(いずれもDの部長又は秘書の肩書きのあるもの)をあつらえた。同年3月中旬頃,Aは,
詐欺を実行に移そうと考え,
改めて被告人やBに対して第1の献金話をするとともに,
Cに金を出してもらう考えを伝えた上,Aと被告人の2人でC方に赴き,AがCに第1の献金話をし,被告人は秘書としてそれに口添えをすることを話し合った。その後,①事件
に至った。

平成22年10月,被告人とBは婚姻した。


平成22年12月初め頃,Aは,被告人及びBに対し,Bの成績からして,E試験に
合格させるためにはさらに300万円の献金をCに出してもらう必要がある旨(以下第2の献金話という。)を持ち掛け,AがCに会ってその旨話すこととした上,被告人がCから金を受け取るよう依頼した。被告人は,当初は金の受け取りを拒否したが,結局はそれに応じた(この際のやりとりは,後に詳しく検討する)
。その後,②事件に至った。

平成22年12月12日,Bは,E試験(一次試験)を受験し,平成23年1月17
日,その合格発表があった。Bは実際には不合格であったが,Aは,被告人及びBに対し,公式には発表されないがBは合格した旨の嘘の連絡をし,さらに,同月下旬から同年2月上旬頃,Aは,被告人及びBに対し,Bの就職先としてF事務所が見つかった旨嘘を言った。

平成23年2月中旬頃から同年3月頃までの間,Aは,被告人及びBに対し,

D内の派閥争いのために,Bの就職が駄目になりそうだ。協会からF事務所に流れた献金400万円の内,200万円をCに負担してもらわなければならない

との趣旨の話(以下第3の献金話という。)をした。そして,被告人に対して,AからCにその旨の説明をするが,それに先だって,被告人からもCに対してAからその旨の説明があることを話しておいてほしい旨依頼した。被告人は,難色を示したが結局それに応じ,③事件に至った。二
①事件について

①事件の際,被告人に詐欺の故意があったか否かについては,被告人が,Aや被告人自身が実際にはDの関係者ではないことを認識していたか否かと,第1の献金話が嘘であることを認識していたか否かの両面から検討する必要がある。
1
A及び被告人自身の地位の虚偽性に関する認識について
関連する間接事実

①事件の際,被告人がAの地位の虚偽性について認識(推知)していた可能性を示す主な事実として,以下が挙げられる。

平成21年春頃に被告人がAとBを引き合わせて以降,Aは,被告人及びBと連日の
ように会い,
飲食したりパチンコ店やゲームセンターで遊興するなどした。
その時間帯は,
多くの場合平日の午後4時頃から深夜までであり,平日の昼頃の場合もあった。その際のAの服装は,スーツ姿のこともあったが,多くの場合はTシャツやジーパンなどカジュアルな服装であった。

平成21年夏頃,Aは,被告人に対し,秘書検定3級に合格すれば,非常勤のAの私
設秘書として毎月8万円の報酬が支払われ,さらに2級に合格すればDの秘書課に出社することができること,3級合格までの間は試用期間のような形で,Aのスケジュール表作成だけをしてもらい,その間は毎月5万円ぐらいの報酬を支払うことなどを持ちかけた。被告人が社会保険の取扱いについて尋ねると,Aは,非常勤の間は社会保険を作れないの
で国民健康保険等を利用することになる旨答えた。また,その際,Aは,秘書の報酬だけでは生活できないであろうから,1回3万5000円の対価で肉体関係を持つことを提案した。被告人は,Aのこれらの申し出について,承諾した。そして,その直後から,被告人は,Aのスケジュール表を作成する事務を開始した(主として被告人の公判供述により認定した。
この供述は,
相応に具体的である上,
後述のように平成21年7月以降Aが

名義で被告人の預金口座に継続的に入金し,被告人が秘書検定に合格した際に増額されていること(入金額については被告人供述と多少異なるが大幅な食い違いではない。,平成)
21年夏頃,被告人がデリヘルを辞めていること(甲30)等とも概ね整合する。なお,Aも,概略において被告人供述に沿う供述をしているが,Aが秘書の話を持ちかけた時期や,持ちかけた際の条件,被告人がスケジュール管理を始めた時期等細かな点については被告人供述とは異なる供述をしているが,やや曖昧であり,被告人供述を排斥するまでの信用性は認められない。。


被告人が秘書として行っていた事務は,当初は,Aの行動予定(どこに行くか等)を
2種類のスケジュール表(A個人に渡すものとDに提出するもの)に記入するというものであったが,A個人用の表には,Aと被告人が肉体関係を持ったり,Aがパチンコ店で遊ぶ予定なども隠語で記載していた。平成21年12月頃(被告人が秘書検定3級に合格後)には,これに加え,来客管理,経費(交際費,接待費等)の管理,企業の株価チェック等も加わったが,来客管理は,取引先のアポイントをとることなく,被告人の一方的な判断で取引先との面会等の予定を決めており,経費の管理についても,領収書を保存したり,専用の帳簿に記載するなどはしていなかった。

Aは,平成21年7月15日,初めて被告人名義の銀行預金口座にD名義で5万
3970円を入金し,以後,同年12月8日までは毎月1回(ただし同年9月のみ入金がない。
)4万円台ないし5万円台の入金を,被告人が秘書検定3級に合格後の同年12月16日から平成22年3月までは毎月10万円から12万円を入金した。ただし,入金日や入金額は必ずしも一定しておらず,入金に伴ってその明細を記したものを被告人に交付したこともなかった。
検


アについてみると,平日の夕方からカジュアルな服装で遊興するAの行動は,大企業の社員の一般的なイメージとは異なるものがある。もっとも,この点については,Aは,被告人やBに対して,
営業職なのである程度時間を自由に使える,仕事後,着替えている旨説明し,被告人らも一応納得していたことがうかがわれる。また,飲食や遊興にかかる金については基本的にAが支出しており,被告人が立て替えた場合でも,Aは比較的速やかに被告人に立替分を支払っていた。こうしたことから,被告人が,Aが無職・無収入でないのはもちろん,相当程度の高給を得ていると思い込んだとしても必ずしも不自然ではないともいえる。
イないしエについては,被告人が秘書となることについての合意は,専ら口頭で,給与
や労働条件等について曖昧な取決めしかなされていない大雑把なものであること,被告人が秘書として行っていた事務も,客観的にみれば秘書業務の実質を伴わない形だけのものというほかなく,何より,Dに出社しないで秘書業務を行う点で不自然さがあること,報酬の支払いに関しても,大企業の取扱いにしてはずさんさが目につくことなどから,被告人が,自身が現実にはDに勤務する秘書などではないことを察知し,ひいてはAの地位にも疑問を持つ契機はあったと考えられる。ただ,他方で,実際にD名義でしかも概ね定期的に金が振り込まれ,秘書検定合格後は約束どおり増額されている事実は,被告人にとってAの話を信じるに足りる大きな事情である。その上,被告人は,平成21年12月頃には,Dの社員を名乗る者(実際にはAの依頼を受けてDの社員になりすました者)から電話連絡を受けたことがあり,また,出張と称して静岡県内の製紙工場に連れて行かれたこともあったこと,Aは以前,製紙会社に勤務した経験があり,製紙業界の専門的な話を被告人にしていたのに対し,被告人はその業界での職歴がないことはもちろん,大企業での勤務や秘書業務の経験がないこと等も考慮すると,少なくとも①事件に至るまでは,被告人がAの話をそのまま受け入れて信じ込んでいた可能性が十分ある。被告人は,①事件の際は,Aや被告人自身の地位について疑いを持っていなかった旨述べるが,その弁解は排除できない。
なお,検察官は,前記のアないしエの事情に加えて,

被告人とAの間でやりとりされていたメールの内容は大半が遊興に関する事柄であっ
たこと

平成22年2月頃,Aは,知人からの借金に関してトラブルが起きた際,Bに弁護士
の振りをして交渉の場に立ち会ってもらうなどしているところ,このような行動はおよそ大企業の社員がすることではないこと

被告人は,秘書検定2級及び3級の申込みをした際,申込書の勤務先欄に何も記入し
なかったこと
などの事実も指摘し,これらを総合すれば,被告人がAや被告人自身の地位が虚偽であることを認識していたことが推認できる旨主張する。しかし,オについては,被告人とAとが元々遊び仲間又は愛人のような関係にあることからして,必ずしも不自然ではない上,メールの中にはAの仕事に関するとみられるものも少なからず存在しており,メールの内容からAの地位の虚偽性の認識を判断することは難しい。カについては,確かに奇異なエピソードではあるが,Aは,あくまでもDに関連するトラブルであるかのような説明をしていた上,被告人自身は交渉の生々しい現場に立ち会ったわけではないから,この出来事によりAの地位を疑うことはなかったという被告人の弁解も不自然ではない。キについては,被告人はAから試用期間と告げられ,Dへの出社もしていない立場であったことからすると,必ずしも不自然な対応とはいえない。そして,これらの事情を総合的に見ても,被告人がA及び自身の地位の虚偽性を認識していたことを推認するには足りない。2
第1の献金話の虚偽性に関する認識について

Aが,被告人やBに対し,第1の献金話が虚偽である旨話した事実を認めるべき証拠はない。また,被告人やBが第1の献金話が嘘であることを前提としたり,その真実性を疑うような言動をした事実も証拠上認められない。むしろ,被告人は,平成21年12月に初めてAから第1の献金話を聞いた後,Bに対して本気でEになる気持ちがあるのかを真剣な面持ちで確認した事実が認められ,こうしたエピソードからは,被告人が第1の献金話を真実と受け止め,Bにその話を切り出すべきかを慎重に検討していたことがうかがわれる。また,①事件の直前に被告人,A及びBが話し合った際も,被告人は,Bが合格するためならばよい話ではないかなどと話し,Cを説得することに難色や抵抗を示していなかった。Bも,①事件の時点で,第1の献金話が真実であると信じていた旨供述している。検察官は,被告人はCに会うためにいつもは着ないスーツを購入し,①事件当日それを着用したこと,①事件の際,C方へ往復するのに,ふだん自動車の運転をしない被告人がAを乗せた自動車を運転したこと,Cと面談する場面では,被告人は日常では使わない丁寧な言葉遣いをしていたことなど,①事件の際の被告人は日頃とは違う振る舞いをしており,
このことから,
被告人においてもCを騙す意図があったことが推認できる旨主張する。確かに,①事件当日の被告人やAの振舞いは日頃とは異なっており,Cの好感や信頼を得ようと努めていたことは確かであると考えられるが,高額の献金を勧めるという話題の性質や,結婚を念頭に置いた交際相手の母親に会うという被告人の立場からすれば,最大限あらたまった振舞いをするのは不自然ではなく,このことから,第1の献金話(あるいはAや被告人自身の地位)の虚偽性を認識していたと推認することは難しい。3
①事件に関する結論

以上によれば,①事件当時,被告人が,Aや被告人自身の地位が虚偽であることや第1の献金話が嘘であることの認識があったとは認められないから,詐欺の故意があったとは認定できない。そうすると,①事件については犯罪の証明がないことになるから,刑事訴訟法336条により,被告人に対し無罪の言い渡しをする。

②事件について
1
関連する間接事実

証拠によれば,②事件までの間に,以下に述べる事実があったことが認められる。ア
被告人は,平成22年3月中旬に秘書検定2級に合格後,Aから,同年4月にはDに
出社して勤務できると言われていたが,その出社予定時期になると,Aから,社内の派閥争いの影響で出社が遅れているなどと言われ,
出社できなかった。
不安を感じた被告人は,
同月頃,Dに電話を掛けたところ,Aという社員は在籍しないと言われた。被告人は,そのことをBに伝えた上,Aにも問いただしたところ,Aは,女性関係でもめ事があり,女性からの電話にはAという人物は在籍しないと答えるよう指示してある旨答えた(なお,被告人,A及びBの各供述によれば,①ないし③事件の前後を通じて,被告人あるいはBがDに電話をかけ,Aが在籍していない旨の回答を受けたことが複数回あったことが認められるが,その時期や回数について各供述に食い違いがあり,正確な事実を認定すること
ができない。その中で,平成22年春頃,被告人がDに連絡を取り,Aが在籍していない旨の回答を得た事実に関しては,被告人とBの供述が概ね一致し,Aも①事件と②事件の間にそのような出来事があった旨供述をしていることから,事実として確定しうると考えられる。。


Aは,①事件後平成22年の秋頃までの間,被告人やBに無断で,複数回にわたって
Cに連絡を取り,協会への献金名目で合計約700万円の現金を受け取っていた。同年秋頃にそれを知った被告人は,無断でそのようなことをしたAを厳しく責め,けんかとなった。また,Aは,名目の詳細は明確でないが献金とは別に,被告人に無断でCから金を受け取っていた。それを知った被告人は,同年10月14日及び15日の2日間にわたり,Aに対し,激しいことばで詰った上,コップをAの顔に投げつける,被告人が手に持っていたたばこをAに投げつける,Aの髪を引っ張って被告人の部屋に引きずり込もうとする等の行為に及んだ(いずれの場面にもBがその場にいた。。


同年12月7日頃,Aが被告人やBに第2の献金話を持ち掛けた際,被告人は,E試
験の日が目前に迫った時期にそのような話が出るのはおかしい旨述べた。また,Aが,被告人に対し,Cへの説明はAがするが,金の受取りはAの都合がつかないので被告人が秘書としてやってほしい旨頼んだところ,被告人は,

なんで私がせなあかんの。

等と言って拒み,容易に了承しなかった。しかし,Bが取りなすなどしたことから渋々応じ,②事件に至った。
2
故意の有無について

被告人がD側からAが在籍していない旨聞いた事実前記アは,被告人にとってAの地位が虚偽である現実的可能性を強く認識させる重大な事実であったと考えられる。また,それに対するAの説明は,疑念を払拭させるに足りるものとは到底言い難い上,その後も,被告人は秘書として出社する機会は得られなかったから,疑念が深まることこそあれ,解消される契機はなかった。そうすると,アの出来事以降,被告人においては,Aが実はDの社員ではないかもしれないとの疑いを常に抱いていたとみるのが相当である。また,Aが被告人やBと連日のように会いながら,被告人に無断でCから金を受け取っていたという事実前記イは,もとより被告人に強い不信を抱かせて然るべき事情であると考えられるが,現にそれを知った際の被告人の激高ぶりは並大抵のものではなかった(Bは,
このときの被告人の発言について,
人として一番荒れた口調
と表現しており,
Aは,
被告人の行為によって負傷した旨述べている。。こうした被告人の激しい言動からは,被)
告人のAに対する基本的な信頼が大きく動揺していることがうかがわれる。そして,前記のとおり,AがDの社員であることへの具体的な疑念も生じていたことも考慮すると,被告人は,Aのする話全般について疑いを抱いていたことが推認できる。さらに,②事件直前のAとのやりとりにおける被告人の言動前記ウからは,被告人が第2の献金話の真実性に疑いを抱き,それに加担することに抵抗を感じていたことがうかがわれる。そして,前記で検討したそれまでの経緯も考慮すれば,②事件の際,被告人は,
AがDの社員ではない可能性があり,かつAのする第2の献金話が嘘である可能性があることを認識しながら,それを認容しつつ犯行に関与したと認められる。この点について,被告人は,第2の献金話について疑いの気持ちはあったが信じる気持ちも強く,仮に第2の献金話が真実であるのに被告人が金の受取りを拒むなどすれば,Bが合格できなくなるのではないかと考え,Aに協力した旨述べる(第2の献金話が虚偽である可能性を認識していたが認容はしていなかった旨の説明ともみうる。。しかし,被告人が第2の献金話が)
真実である(BやCにとってメリットがある)可能性ゆえにAに協力したというのであれば,Aの秘書としてCから金を受け取るという,容易かつ秘書にふさわしい役割を拒み,あるいは引き受ける段でも消極的な態度をとった合理的な理由を見出すことができない被告人は,Aが面倒なことを被告人に押し付けるのがいやだった,あるいは,Bの父であるIが命の代償として残した金を出させるのがいやだった,さらには,Aの秘書の立場でCに会うのが辛かった等と説明するが,到底合理性のある理由とは考えられない。。被告人が,金銭の受取りにかくも消極的だったのは,第2の献金話によりCを騙すことになるかもしれず,それに加担することに抵抗を覚えたからであると考える以外,合理的な説明はつかない。
以上から,②事件においては,被告人には,詐欺の未必的な故意があったと認められる(なお,Bについても,前記1アないしウの出来事を通じてAの地位や第2の献金話が虚偽である可能性について認識していたことが推認され,B自身もそのような認識があった旨供述している。したがって,Bにも,被告人同様,詐欺の未必的な故意があったと認められる。。

3
共謀の成否及び正犯性について

②事件が実行されるまでに,被告人,A及びBの間で,Cを欺もうすることについての明示の共謀はなされていない。しかし,前記1アないしウの事実に加え,被告人とBが夫婦であり,Aとは連日のように会って遊興する極めて密着した関係にあったことからすれば,Aにおいて,被告人及びBが,第2の献金話が虚偽であるかもしれないこと(すなわちAがCを欺もうする意図を持っているかもしれないこと)を認識しつつ加担していること,を察知していたと推認できる(Aもその旨公判廷で供述している。。そうすると,被)
告人,A,Bの間には,詐欺に関する黙示の共謀があったと認められる。なお,被告人の正犯性については,以下のように考えられる。②事件において被告人の果たした役割は,Cから直接金銭を受け取るという重要なものである。また,前記のとおり,被告人は,②事件の段階で,Aの地位についても疑いを抱いていたと考えられる一方,被告人とBは,Aから受け取る秘書報酬名目の金銭に支えられている状況にあった。そうすると,Aの地位への疑念は,自ずから,Aから受け取っている金銭の出所への疑念(すなわち,それまでにCがAに渡していた献金名目等の金銭が被告人の報酬に当てられていた可能性があり,②事件で被告人が受け取る金銭についても同様に扱われるかもしれないとの認識)に結びついたと考えられる。そして,②事件において金銭の受領に消極的であ
りながら,結局はそれに加担した経過を見れば,被告人は,唯一の収入の途を確保する(又はその途を閉ざさない)という被告人自身の利益を考えて,犯行への関与を決断したと考えるのが自然である。そうすると,被告人は,単にAの犯行を助けたのではなく,被告人自身の犯行として②事件に関与したというべきであり,正犯と評価すべきである。4
まとめ

以上の検討から,②事件については,被告人には詐欺の未必的な故意があったと認められ,かつ共同正犯としての罪責を負うものと判断する。

③事件について

③事件前,Aは,被告人とBに対し,Cに対して第3の献金話を持ち掛けることを話したが,その際,被告人は,なぜCが金を出さなければならないのかなどと疑問を示し,

ええかげんにせえや。

などとも述べており,被告人が第3の献金話自体が不合理であると認識していたことが推認できる。また,Aから,AがCに第3の献金話をするに先立ち,被告人からもCにその予告をするよう依頼した際も,被告人は,当初それを拒んだものの,結局はそれに応じ,概ね犯罪事実第2記載のとおりの話をしたCの検察官調書〔甲12〕。
なお,被告人は,Cに対し,金銭的な話をした記憶がない旨述べるが,その際の具体的なやりとりについて十分な記憶があるわけではないことがうかがわれる上,Aの欺もうに先立って被告人が電話を掛ける意味は被告人の口からCに金銭的な負担を予告することにあり,被告人が金銭的な話に全く触れなかったということは想定しにくい。。このような経過に加え,既に検討したとおり,②事件の段階で被告人はAの地位やAのする献金話が虚偽である可能性について認識していたと認められることからすると,③事件の際においても,被告人は,第3の献金話やその前提となるAの地位が虚偽である可能性を②事件の際以上に強く認識していたと推認できる。被告人も公判廷でその旨自認しており,被告人に詐欺の未必の故意があったことは優に認定できる(Bについても同様に未必の故意があったものと認められる。。

被告人,A及びBの間で,Cを騙すことについて黙示の共謀があったと認められることは,②事件と同様である。また,③事件においては,被告人自身がCに対して直接欺もう行為に及んでいること,③事件当時も,被告人がAの秘書名目で報酬を受け取っており,それが被告人及びBの唯一の収入源であった状況は変わっておらず,被告人は,②事件の際と同様,収入の途を確保するという被告人自身の利益も念頭に置いて加担したものとみられること(この点は,被告人自身も自認している。
)などからして,被告人の正犯性も認
められる。
以上から,③事件についても,被告人には詐欺の未必的な故意があり,共同正犯としての罪責を負うと判断する。
【法令の適用】
罰条
併合罪加重

いずれも刑法60条,246条1項
刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の重い犯罪事実第1の
罪の刑に加重)
未決勾留日数の算入刑法21条
刑の執行猶予

刑法25条1項

訴訟費用

刑事訴訟法181条1項ただし書(負担させない)

【量刑の理由】
2度にわたり,知人及び夫と共謀して,義母から現金合計500万円をだまし取った事案である。
欺もう内容は,客観的にみれば不自然あるいは現実離れした点が見られ,精緻で手の込んだ詐欺とはいえないが,Cが近親者である被告人らに信頼を寄せていたことに乗じている点や,資格試験を受験中の息子を案じる親心につけ込んだ点で,卑劣さ,冷酷さが際立っている。被害額も多額で,被害者の打撃は深刻である。そうした点で,犯情はかなり悪い。
ただし,いずれの犯行においても,詐欺を企て,具体的な方法を考案し,中核的な欺もう行為をしたのはAであり,被告人は補助的な役割をAの指示どおりに行ったにとどまる。Aが周到に計画を立て,強固な犯意のもと犯行を押し進めたのに対し,被告人は計画を知らず,詐欺の未必的な故意があったにすぎなかった。もとより,Cを騙すことになる可能性を認識しながら,そのことに目を背け,現在の暮らしを維持することを選んで各犯行に関与したことは非難を免れないが,Aに比べてその刑事責任が格段に小さいことは明らかである。
加えて,被告人は,犯罪事実第1(②事件)についてはやや不合理とも思える弁解をしているものの,各犯行に加担したことを悔い,Cに謝罪することばを述べていること,被告人にはこれまで犯罪歴はないことなども考慮すると,被告人に対しては,その刑の執行を猶予し,社会内で更生する機会を与えるのが相当である(求刑は懲役3年)。
平成25年7月12日
神戸地方裁判所第4刑事部

判官

丸田顕
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