判例検索β > 平成24年(わ)第1906号
恐喝、覚せい剤取締法違反
事件番号平成24(わ)1906
事件名恐喝,覚せい剤取締法違反
裁判年月日平成25年7月17日
裁判所名・部横浜地方裁判所  第6刑事部
判示事項の要旨職場の上司であった被告人両名が,事務所に給料を取りに来た退職者を脅迫して同人に渡した給料を喝取したとされる恐喝の事案で,同人の公判供述には,脅迫があったと確信させるほどの信用性は肯定し難いとして,被告人両名に無罪が言い渡された事例
裁判日:西暦2013-07-17
情報公開日2017-10-13 01:34:53
裁判所の詳細 / 戻る / PDF版
主文
被告人Aを懲役1年10月に処する
被告人Aに対し,未決勾留日数中230日をその刑に算入する。
被告人Aから,横浜地方検察庁で保管中の覚せい剤1袋(同庁平成24年領第2710号の23)を没収する。
本件公訴事実中恐喝の点については,被告人両名はいずれも無罪。理由
(罪となるべき事実)
被告人Aは,
第1

法定の除外事由がないのに,平成24年10月8日頃,神奈川県平塚市a
町b番c号所在の被告人A方居室内において,フェニルメチルアミノプロパンの塩類若干量を含有する水溶液を自己の身体に注射し,もって覚せい剤を使用した,
第2

みだりに,同月9日,同居室内において,覚せい剤であるフェニルメチル
アミノプロパン塩酸塩約0.17グラム(横浜地方検察庁平成24年領第2710号の23はその鑑定残量)を所持した。
(恐喝について無罪と判断した理由)
第1

本件恐喝の公訴事実の要旨
被告人Bは,人材派遣業「Cを実質的に経営していたもの,被告人Aは,
Cにおいて派遣した従業員の管理,監督を担当していたものであるが,被告人両名は,Cの従業員であるD(当時48歳)に因縁を付け,借金返済の名目で現金を脅し取ろうと企て,共謀の上,平成23年3月10日午後7時頃,神奈川県平塚市a町d番e号メゾンEf号室のCの事務所において,同人に対し,

借用書を書け。書かないと帰さないぞ。書かないと若い衆を使って半殺しにするぞ。

などと申し向けて,DにCから34万200円を借用し,これを全額返済する旨の借用書を作成させた上,さらに,

支払わずに逃げたら落とし前をつけてもらう。逃げたらどこまでも追い込みをかける。踏み倒したら若い衆を使って,絶対に探し出して,アンカー付けて海に沈めてやる。

などと語気鋭く申し向けて現金の交付を要求し,もしこの要求に応じなければ,同人の生命,身体等にいかなる危害を加えかねない気勢を示して脅迫し,同人を怖がらせ,よって,その頃,同所において,同人から現金14万円を喝取した。」第2
1
基本的な事実関係と判断の要旨
基本的な事実関係
この公訴事実のうち,被告人両名とCとの関係,平成23年3月10日


(以下,平成23年の出来事については年の記載を省略することがある。),Cの事務所において,被告人Bに言われて,Dが34万200円の借用書を書いたこと,現金14万円を被告人Bに交付したことについては,当事者間に争いはなく,証拠上も優に認められる。
さらに,被告人両名の各公判供述,被告人Bの検察官調書(乙4),警察


官調書(乙3),被告人Aの検察官調書(乙18),警察官調書(乙12,13),証人D,同Fの各公判供述,捜索差押調書(甲9),写し作成報告書(甲11),捜査報告書(甲2,34),写真撮影報告書(甲3,10),示談契約書写し(弁1),取下書写し(弁2,3),電話帳データ(甲39),押収してある計算書,借用書写し,領収証,メモ紙,給料支払明細書,戸籍全部事項証明書,住民票写し,運転免許証写し各1枚(平成25年押第6号の1ないし8)等の関係証拠によれば,以下の事実が認められる。ア
Dは,知り合いのFから紹介を受けて,被告人Bと面接の上,平成22年11月15日からC(なお,Cは,株式会社Cを名乗っているが,会社登録は未了である。)で作業員として勤務していたが,平成23年2月末日頃,被告人Bに辞職を申し出た。


3月1日,Dは,Cの事務所において,被告人両名とFが同席する中で,Cを辞職する意思を明確に確認した(この時の話合いを1回目の話合いともいう。なお,この話合いの日について,Dは3月1日か2日と述べたが,次に記載する内容証明郵便発送の日付,FとD,被告人Bとの連
絡状況等から,3月1日と認定できる。)。Dは,Cの給料支給日である同月10日に,Cの事務所に出向くことになった。

同月2日,Dが相談した弁護士Gは,C宛てに内容証明郵便で通知書を送り,翌3日頃,被告人Bがこれを受け取った。通知書の内容は,Cに対し,3月10日,Dに,2月分の給料14万円(1日7000円,20日分)を支払い,DがCに預けた戸籍謄本,住民票等の返還を求めるなどするものであった。


3月10日午後7時頃,Cの事務所において,再び,被告人両名,F,Dが集まった(この時の話合いを2回目の話合いともいう。)。
まず,被告人Bは,Dに2月分の給料14万円と明細書の入った封筒を渡した。Dは,封筒の中身を確認した。


その後,被告人Bは,Dに対し,既に準備していた計算書なる書面(平成25年押第6号の1はその原本。C作成名義で,D宛てのもの)を示し,計算書に記載された項目,金額をDがCに返済すべきである旨説明して,借用書を書くよう求めた。借金の額は,Dが借用していて当日持参した仕事道具である腰道具一式が汚損するなどしていたため,その買取代金2万円が付加されて,合計34万200円になっていた。Dは,被告人Bが言う内容の借用書(同号の2はその写し)を作成した。借用書には,DがCに対し,合計34万200円の借金があり,3月10日に14万円を返済し,残金20万200円も3月,4月,5月各末日の3回に分割して返済することを約束する旨記載され,Dの署名,押印もあった。借金の細目は,上記計算書を引用するような形になっていた。


この借用書の作成後,被告人Bは,Dに渡した2月分の給料14万円をこれはもらっておくなどと言って回収した。その際,Dは,被告人Bに,全額を取られると困る旨言ったが,被告人Bはこれを無視した。Dにはその領収証(同号の3)が渡された。


また,2回目の話合いの際,Cの事務所にあった戸籍全部事項証明書
(以下戸籍謄本という。),住民票写し,運転免許証の各コピーは,Dに返却され,Dは,その受取書(メモ紙(同号の4))を作成し,被告人Aに渡した。

Dは,平成23年4月1日に警察に恐喝の被害届を提出した(なお,借用書記載の借金の残額については,Dが支払ったことも支払請求を受けたこともなかった。)。


被告人両名は,平成24年10月に本件恐喝の被疑事実で逮捕されたが,同月27日,Dは,被告人Bの弁護人を介して,被告人両名が用意した示談金20万円を受け取り,被告人両名に対する被害届を取り下げる旨記載のある示談書(示談契約書写し(弁1))を作成し,被告人両名それぞれに対する恐喝被疑事件の被害届の取下書にも署名,押印した(取下書写し(弁2,3))。しかし,Dは,その被害届を取り下げなかった。そして,被告人両名は,同月30日,本件恐喝の公訴事実で起訴された。

2
判断のポイント


Dは,14万円の現金を被告人Bに交付した時期について,借用書を書き終えた後に,被告人Bがこれは先に取るからと言って(それ以外,特に何も言わずに),先に渡された14万円の入った封筒ごと持っていかれた旨供述しているところ,借用書にも,当日14万円は返済する(文言は返済致します)ので残金は20万200円である旨記載されており,他に,Dの供述と明確に異なるような供述をしている者もいないから,Dの上記供述は信用できると思われる。これらによれば,14万円を被告人Bに取られたのは,借用書作成の直後であって,借用書を作成した後,14万円を取られるまでの間に何らかの脅迫があったとは考えられず,仮に借用書作成の後に脅迫があったとしても,それは現金交付の後にあったことになるから,その脅迫が現金交付の原因となるとは考えられない。
したがって,現金交付の原因となる脅迫の有無を検討する上では,Dに借用書を作成させるために借用書の作成前ないし作成中に脅迫があったかどう
かが重要である。
Dは,公判廷で,借用書を書く前に,被告人Aから脅し文句を言われた旨


供述し,他方,被告人両名は,いずれも脅し文句は一切言っていない旨述べ,さらに,Fも,公判廷で,被告人両名と同旨の供述をしている。
したがって,本件は,Dの上記公判供述につき,借用書作成,ひいては現金交付につながる脅迫があったと合理的な疑いを差し挟まない程度に確信させるほどの高い信用性を肯定できるかどうかにかかっているといえる。3
判断の要諦
そこで,当裁判所は,Dの上記公判供述の信用性を,Fの公判供述及び被告人両名の各供述の信用性とも対比しつつ,慎重に検討した。
その結果,Dの公判供述は,Fや被告人両名の各供述に比して,相対的には信用性が高いといえるが,疑念を抱かせる点もあり,他方,Fの公判供述も,直ちにDの供述の信用性を左右するほどの信用性は認め難いものの,軽視し難い面があり,さらに,被告人両名の各供述も,いずれも直ちに信用し難いものの,一定の排斥しにくい部分もあり,それらを総合すると,Dの公判供述については,脅迫があったと合理的な疑いを差し挟まない程度に確信させるほどの高い信用性は肯定し難いとの判断に至った。
以下,詳述する。

第3
1
各供述の信用性に関する基本的な評価
Dの公判供述について
供述内容の要旨



2月20日過ぎに,被告人Aに,会社で使うから戸籍謄本等を持ってくるよう言われた。入社して大分たつので,理由を聞いたら返事がないので,ごねていたが,結局しょうがないと思い,戸籍謄本,住民票,運転免許証の各コピーを被告人Aに渡した。その時,被告人Aから,中国に行って偽装結婚すると70万円くらい入るなどと,偽装結婚を持ち掛けられた。一般社会の話じゃない,断ったらどうなるかなどとも言われた。被告人Bや
Fから,Cは,暴力団幹部であるHの指定企業みたいな存在であると聞いており,ヤクザとつながりがある話だと思い,怖かったので,偽装結婚の話についてはうやむやな返事をした。

Cでは同月28日まで仕事をしたが,偽装結婚の話が出て怖くなっており,同日仕事を終えてCの事務所に行った際,ちょうど被告人Bに,3月から仕事がない(仕事が一時なくなる)と言われたので,けじめも付くと思い,その日,被告人Bに辞職を申し出た。すると,被告人Bは,Hに電話をして,

Dの馬鹿が辞めると言うんだけど,どうしよう。

と言っていた。被告人Aからこの野郎と言われ襟をつかまれて殴られそうになったり,被告人両名から,俺の顔に泥を塗るのかと言われたりした。その日は考え直せと言われて帰ったが,もう一度話し合うことになった。

それで,3月1日か2日に,Cの事務所に集まった。被告人両名とFが同席していた。やっぱり辞めると告げた。被告人両名から,

俺の顔に泥を塗るのか。

などと言われた(被告人Aからは,アンカー,脅し文句で言われた。)。Fも

俺の顔に泥を塗るのか。

と言っていたが,Fには偽装結婚の話を持ち掛けられたことは言っていなかった。帰りがけに,FがHに電話をかけ,

Dが辞めるって言うんだけど,顔に泥を塗ってすみません。

などと会話していた。

その後,知り合いの紹介で弁護士に相談し,3月10日に,2月分の給料の支払と戸籍謄本のコピー等の返還を求める内容証明郵便を送ってもらった。


3月10日は,自分のことなので迷惑を掛けたくないと思い,一人でCの事務所に行った。被告人両名,Fが同席する中,被告人Bから給料を受け取った。安心して帰ろうとしたら,被告人Bは,計算書を見せ,借用書を書くよう言ってきた。書かないで立ち去ろうとすると,若い者を連れていってぼこぼこにするなどと言われ,怖くなって,やむを得ず借用書を書いた。被告人Bに内容を言われながら書いた。書き終えるとすぐに,被告
人Bに

これは先に取るから。

と言われ,先ほどもらった14万円を明細書を除いて封筒ごと無理矢理取られた。

生活できなくなるから困る。

とごねたが,返してもらえなかった。被告人Bは,

踏み倒したらどうなるか分かってるな。

などと脅してきた。また,この話合いで,内容証明郵便についても,被告人Bから

こんなの送りやがってふざけるな。

と言われた。信用性



まず何より,Dの供述内容は,Dが14万円を被告人Bに交付するなどした状況と整合している。
Dは,弁護士に相談し,2月分の給与14万円の支払を確実に受けら


れるよう備えた上で,2回目の話合いに臨んだにもかかわらず,結局14万円を持ち帰ることができなかったばかりか,さらに20万円余りの借金返済を約する借用書まで作成した。
しかも,借用書作成の基となった計算書記載の請求内容には,正当な


根拠があるといえないものが多く含まれている。被告人Bは,後述のとおり,供述を不合理に変遷させてまで,その正当性を主張したいようであるが,被告人Aも請求内容の不合理性を認める旨の供述をしており,以下に見るように,その請求内容の大半が正当な根拠に基づかないことは明らかである。
借用書が引用する計算書記載の借金の内訳は,通勤バイクのリース料,腰道具一式のリース料,食事代金,3月分食材費,仮払金,アパート清掃,片付け,冷蔵庫運搬費,冷蔵庫代金,腰道具一式の買取費である。①

このうち,仮払金2万円は,Dが給与の前借りをしていたものであり,Cに返済すべきものである。



また,2月20日から同月末までの間の食事代1万6200円も,Dは,料金のことは言われず,食べていけと言われ,厚意に甘えた旨供述するが,2月20日以降,DがスナックIで食事をするようにな
った経緯は明らかではない(被告人Aは,被告人Bに言われて,Dに,手持ちの現金がなくても給料で精算できるからと,スナックIに連れていった覚えがある旨述べており,その供述する経緯は,Dの供述と比べてもより自然なものである。)。いずれにせよ,9日間はスナックIにおいて一日3食を賄ってもらったことは間違いなく,被告人Aを含め他の従業員も一日二食で1500円の代金を支払っているのであるから,Dが9日間分の食事代の請求を受けてもやむを得ないし,一日3食で1800円という金額も不当に高いとまではいえない。③

冷蔵庫代金も,Dは被告人Aから要らなくなった中古をもらった旨供述し,真偽は定かでないが,5000円(金額は1万円となっているが,冷蔵庫を提供した被告人Aの供述によっても5000円にとどまる。)はやむを得ないだろう。



バイクのリース料については,事前にリース料の話がなかったと認められる上,被告人B自身,リース料の日額を1000円とする根拠は特にない旨述べており(検察官調書(乙4)。公判廷で,電車等を使った場合の運賃と比較して1000円という金額を出したと述べたが,後付けの理由にすぎないし,日当7000円に比して高額に過ぎる。),被告人Aはリース料をとるようなバイクではない,自分も借りているがリース料を払っていないと述べていることからも,不当な請求である。



また,腰道具のリース料についても,事前にリース料の話はなかったと認められる上,リース料の日額も500円とする根拠がなく,汚損したなどとして請求した買取費2万円も併せて,高額に過ぎることは明らかである。



さらに,3月分の食材費3万円は,明らかに不当な請求である。被告人Bは,月極で食事をする予定であったため,スナックIの経営者Jが既に調達してしまった食材費であり,いわばキャンセル料である
と説明するが,明らかに不合理である。


Dのアパートの清掃費も,被告人両名の2日間分,危険作業費を入れて日額2万円,合計8万円の請求となっているが,Dが負担する日当が発生するとは事前に告げていない上,不当に高額である(Dによれば,ほとんど自分でやったと述べたが,被告人両名は,冷蔵庫をD方に運んだ際にゴミ屋敷となっていて驚き,掃除をしたが,1日
で終わらず,2日かかったというのであって,手袋等を準備して2日目も出向いたことなども含む被告人両名の各供述は排斥し難い。なお,日当については,被告人Aは通常の日当の8000円程度と考えていた旨供述している。)。



なお,被告人Bは,14万円を受け取りながら,2月分の食事代をJに支払っていない。冷蔵庫代金等,被告人Aに支払われるべき分も一切支払われていない(この点については,被告人Bは,翌3月11日の東日本大震災のためにうやむやになったなどと述べている。)。



さらに,一方では,CがDに返還すべき金員もある。平成22年12月分と平成23年1月分の給与からは,10%の源泉徴収がされており(合計3万800円),これらは精算時にDに返還すべきものである(被告人Bによると,Cが源泉徴収分を納税していなかったため,2月分以降は,他の従業員に関しても源泉徴収を廃止したという。)。


以上によると,計算書に基づく借金返済の請求は,その大半が正当な根拠に基づくものでなく,正当な精算といえるものではないことは明白である(被告人Bの弁護人は,退職に当たって優遇措置の精算を行うことはあり得る旨主張するが,到底採用できない。)。



2月分の給料を受け取りに来たはずのDがなぜこのような借用書を作成したのか,確かに疑問がある。そして,Dがそのような借用書を作成するには何らかの事情があり,そのような事情として,Dが供述する脅迫されたという筋書きは一応筋の通るものである(この点は,検察官も
何らかの不当な働きかけがあったとして,Dの供述が信用でき,F,被告人両名の各供述が信用できないことの根拠として特に強調している。)。

さらに,全体的に見ても,その供述内容は,具体性を持ったものであり,大筋において不自然なところや客観的な資料と決定的に矛盾するようなところはない。


Dは,Cを辞める理由として,偽装結婚の話を持ち掛けられて怖くなったことと3月から仕事がないと言われたことを挙げている。
偽装結婚の話については,それ自体具体的な内容であり,被告人Aも,Dにそのような話をしたこと自体は否定していない(ただし,後述のとおり,冗談で言ったなどと供述している。)。Dは,2月22日付けの戸籍謄本,住民票写し(平成25年押第6号の6,7)の各コピーと裏面に同日付け住居変更の記載がされた運転免許証写し(同号の8)のコピーを被告人Aに渡し(渡した時期は,2月22日以降ということになる。),2回目の話合いの際に返却された。このことも偽装結婚の話と整合する。被告人Aは,公判廷で,Cの仕事の元請け先に提出するため必要であったと供述するが,DがCで勤務し始めて3か月以上経過しており,時期が不自然であるし,戸籍謄本まで必要とも思われない。また,被告人Aは,捜査段階では,車購入のためにD名義で融資を受けることにし,身元確認のための資料を出させたという話もしているところ(警察官調書(乙13)),被告人Bはそのような話は知らない旨述べている。被告人Aが公判廷で述べるように,偽装結婚の話が単なる冗談レベルの話であるならば,被告人Bが否定するような別の話を持ち出してまで,それを否定する必要はないはずであり,却って偽装結婚の話が冗談などではなかったことをうかがわせる(さらに,次のような見方も不可能ではない。本件において,被告人Bは,明らかに不当な内容の計算書を準備するなどして,Dに借用書を書かせ,高額の借金を負わせるとい
う形を作っているが,そのような無理をした理由が今一つ明らかではない。検察官は,DがCを辞めることへの報復,因縁付けと推測しており,確かに,被告人両名がDの急な辞職の意思表示に怒りを覚えたということもありそうではあるが,Dの供述によれば,被告人Bは,Dに怒りをぶつけてもろくなことはないという旨の発言もしていたのであり,辞職の意思表示から2回目の話合いまで9日間もの時間もあり,内容証明郵便が来たことを考えても,犯罪を犯すほどまでに怒りが持続したというのも腑に落ちないところである。いずれにせよ,Hから指示があったとすると,説明がつかないわけではないが,むしろ,偽装結婚の話に絡む何らかの思惑が背景にあったのではないかとも推察され(例えば,Dが偽装結婚の話を断ったことにより何らかの損失が生じたことから,これを補填するなどしようとする意図等が考えられる。),そうであるとすれば,偽装結婚の話がより一層現実味を帯びるのである。)。被告人Aの弁護人は,Dの偽装結婚の話は虚偽であると主張するが,そうとは断じ難いというべきである。


また,3月から仕事がないと言われたことについては,被告人両名とも,3月初めに一時仕事が切れるだけであり,仕事の予定も入っていたと供述しており,3月も仕事がなかったわけではないと思われる。しかし,Dとしては,一時的に仕事が切れることを言われ,また仕事に関して注意を受けてこのままでは仕事がなくなるという趣旨で言われたことを,3月から仕事がないというふうに受け取ったとしても,不自然とまではいえない。



暴力団組員であるH(Cを被告人Bとともに興したKの母親Jが付き合いのあった人物が組長を務めていた暴力団の組員である。Cは,Kを更生させるために興したものであり,HはCの顧問的な立場にあったという(被告人Aの検察官調書(乙18)等)。)の関与に関しては,Dは,CはHの指定企業みたいなものであると聞いていた旨述べ,初めて
被告人Bに辞職の意思表示をした後,被告人BがHに電話をかけて話していた,また,1回目の話合いの後,FがHに電話をかけて話していた旨も供述した。HのCへの関与について被告人両名はいずれも否定している(被告人Aは,上記のとおり,捜査段階でHはCの顧問である旨述べたが,公判廷ではCへの実質的な関与は全くないと供述した。)。そして,Fも,DをCに紹介したことに関して,Hから求人を頼まれたのではないかと問われ,それを否定しており,さらに,自身のHとの関わりを聞かれた際も,おやじと付き合いがあったなどと述べて,自身との付き合いを否定するかのような供述をしている。
この点,3月1日午後8時5分頃,Fの携帯電話からH(捜査報告書(甲34)の携帯電話スライド票上の名義人L)の携帯電話に
電話をかけて1分42秒通話した記録があり(DがCに雇われた平成22年11月も初旬にFとHが電話で通話している。),Dの供述には一定の裏付けがあることになる。
また,最初に辞職の意思表示をした後の被告人BのHへの電話については,その日が2月28日であるとすると,被告人BからHに同日夜に電話をかけたという通話記録は残されていない。しかし,Dは,1回目の話合いが3月1日なのか2日なのか,明言しない一方で,辞めたいと被告人Bに言ったのは2月28日(2月の最後の仕事帰り)であることを前提とした供述をしているが,3月2日には相談した弁護士から同日付けの内容証明郵便による通知書が発送されており,1回目の話合いも夜であること,Fが3月1日の午後,被告人BやDと通話していることなどを考えると,その話合いは3月1日に持たれたとしか考えられない。しかるに,Dが3月2日かもしれない旨を述べるのは,初めて辞めたいと言ってから1回目の話合いまでの間に1日入っていたような記憶があるからではないかとも推測される。すなわち,Dが初めて辞めたいと言ったのは,2月27日である可能性がある(もっとも,被告人Bは,D
が日曜に勤務したことがなかったことなどを根拠に挙げて,2月27日を明確に否定する。しかし,勤務日の分かる日報等の証拠は提出されておらず,真偽は不明である。)。そして,それが2月27日であるとすると,午後7時54分頃に被告人BがHに電話をかけ,21秒とわずかであるが通話した記録がある。そうすると,この点も,Dの供述が客観的な資料と矛盾するとまでは断定できない。

また,Dは,証人尋問において淡々と質問に答えていた。自己の仕事に関する評判について,自分なりに頑張っていたと述べつつも,スコップも使えないなどと言われていることも聞いたし,たまにどやされたことがあったことも認めた。仕事場への足として貸してもらったバイクを私的にも使っていたことを認めている。このように自己の印象を悪くするような事情についても供述しており,供述態度にも大きな不審は感じられなかった。Dは,偽証罪の制裁はもとより,暴力団組員が背後にいると聞いている中で,あえて虚偽の供述をするというのも一般的には考えにくいといえる。

そうすると,Dの供述にはかなり高い信用性を肯定できるように思われる。

2
Fの公判供述について
供述内容の要旨



被告人Bとは人材派遣の仕事をしている人を通して知り合った。被告人Aとは付き合いはない。Dとは,同人がホームレスの雑誌販売をしている時に知り合い,(かわいそうなので)いろいろ面倒を見ていた。仕事を探していると言うので,(Mという人から)求人していると聞いていたCを紹介した。


平成23年3月1日か2日(1回目の話合い)の前だったと思うが,被告人Bから電話があり,Dが辞めると言っている,連れてきてくれと言われた。それまでは,Dに電話をしてはいなかったが,その時は,Dに連絡した。Dは,辞める理由として,仕事ができなくて怒られるのが嫌になっ
たと言っていた。Dから偽装結婚の話は聞いていない。

1回目の話合いには,Dと一緒に行った。紹介者の立場で同席した。Dに,

俺の顔に泥を塗るのか。

と言ったが,辞めることに決まった。辞めるなら辞めていいが,前借り等があるので,また給料日の3月10日に集まることになった。それ以外に,被告人両名が特に言っていたことはない。


3月10日の2回目の話合いも同席したが,私自身は,借金の項目,金額は一つ一つ確認しておらず,分からない。34万幾らの合計金額も聞いていない。他人の借金のことは気にならないので,余り聞いていなかった。借用書を書き出す直前のやり取りは覚えていないが,Dが自分で書くと言っていた。被告人Bは,

これはもらっておくぞ。

と言って14万円を取った。Dは

支払があるのに。

と言ったが,被告人Bは無視した。借用書を書いた後,被告人Bが

逃げたら追い掛けるぞ。

と言い,Dは

分かりました。

と言った。話合いの間,被告人両名からの脅迫は一切なかった。言ってないから記憶にないのであって,絶対に言っていない。自分は,この時も,Dに,

俺の顔に泥を塗るのか。

と言った。また,

借金があるならちゃんと返せよ。

と言った。被告人両名は,顔に泥を塗るといったことは言っていない。


平成24年終わり頃に本件について警察官による取調べを受けた。それまでは警察から連絡はなかった。警察官には,自分がDに

俺の顔に泥を塗るのか。

と言ったことを述べた。

俺も逮捕しないんですか。

と聞いたら,

逮捕する必要はない。

と言われた。被告人両名による恐喝や脅しは全くなかったと供述した。調書の作成は拒否していない。

調書は書かないんですか。

と聞いたら,調書はいいと言っていた。検察庁からの呼出はなかった。
信用性



Fは,俺の顔に泥を塗るのかなどとDに言ったほか,14万円をその場
で回収されたことに関しても,借りたものを返すのは当たり前であり,それで生活できないのもしょうがないとも述べている。少なくとも本件時においては,Dに対して良い感情を持っていなかったことがうかがわれる。イ
計算書の説明や借用書の作成については,2回目の話合いの主たる会話内容であったと考えられるのに,それらについてはよく聞いていなかったし,借用書を書き出す直前のやり取りについても覚えていないと述べるが,上記のとおり,これらには不当な請求が含まれており,詳しい事情までは分からないとしても,Dにかなり酷な請求をするものであることくらいは容易に分かるはずである。そのようなことに関しては,関心がない,覚えていないなどと供述する一方で,被告人両名の脅迫文言については,明確になかったと否定しているのは,やや不自然な感を否めない。


Hとの関係については,Fは,供述を避けているようである。

うちのおやじと付き合いがあったと思う。

などと供述したが,1回目の話合いの後の時刻頃,FからHに電話をかけた記録があり,通話記録と整合しない嫌いがある(上述のように,この通話記録はDの供述と整合する。)。なお,被告人Bから,Dが辞めると言っていることを知らせる電話があったと述べている点については,被告人Bも,2月28日,Dから辞めると言われて,すぐにFに電話をした旨供述しているが,そのような通話記録はない(もっとも,Fは,2月28日夜に被告人Bから電話を受けたとは述べておらず,Dが辞めることを電話で聞いたのが3月1日なら,同日午後3時59分にFから被告人Bに,午後4時にFからDに通話した記録があるから,通話記録と矛盾するとまではいえない。)。


DがCに勤め出してからFがDと連絡を取っていなかったというのは,通話記録とそごしている(2月中も数回電話をかけている。)。


取調べに関する供述もやや不自然である。警察官に自分も逮捕しないのかと聞いたというのは,何らやましいことがないとすると,唐突で不自然であることは否めない。


以上によると,脅迫文言がなかったとのFの供述に高い信用性までは認め難い。

3
被告人Bの供述について
供述内容の要旨



被告人Bは,公判廷で以下のような供述をした。

偽装結婚の話は一切聞いてない。Cで車を購入するためのローンをD名義で組むという話も聞いてない。Dの戸籍謄本等のコピーを被告人Aを通じて提出してもらったことはない。被告人Aから事務所で預かってくれと言われて,預かった記憶はある(Dの身元をはっきりさせたり,給料の前借りを踏み倒して逃げた場合に備えたりするために,それらの書面が必要と考えていたので,被告人Aに指示を出したかもしれないとも供述する。)。


2月28日,Dが日報をCの事務所に届けに来た際,被告人Aが,メモを取れなどという指導に従わないDに,

どうするんだ。このままでは仕事もなくなるよ。

などと注意した。私も,いろいろクレームを受けていたので,Dに対し,

仕事がどんどん薄くなるよ。

などと言った。すると,Dは,突然

辞めさせてくれ。

と言った。すぐにFに電話して,どう考えるかを聞いたら,

明日時間を作ってくれ。

と言われたので,Dに,3月1日午後7時過ぎにFが来るので,もう一度来てほしいと伝えた。バイクは事務所に置いていかせた。Hには一切電話をしていない。被告人AがDの胸ぐらをつかむような暴行は一切なかった。


1回目の話合いで,Dは,気持ちは変わらない,辞めるということだった。Fは,

何でだ。もうちょっと頑張ってみたら。

俺の顔をつぶすのか。

というようなことを言った。Dが帰りがけに今給料が欲しいと言ったが,給料日は決まっているし,精算すべきものがあるから,給料日に支払うと言ったら,Dは了解した。


2回目の話合いの際,Dが腰道具を持ってきたが,使えなくなっている
ものもあったので買ってもらうことにした。その買取代金をあらかじめ作っていた計算書に加えた。バイクのリース料については,往復運賃が1000円以上なので1000円にしたとか,3月分の食材費についてはJが困るなどと,一つ一つ項目ごとに説明した。Dは何も言わなかった。請求が過大だとは思わない。借用書を作成してほしいと言うと,Dは

分かりました。書きます。

と言った。文面は私が口頭で言ってDに書いてもらった。脅し文句は私も被告人Aも一切言っていない。極力言葉は必要以外話さず,被告人Aにも,腹が立つのは分かるが,余計なことは言わないように言っていた。

私が14万円を取った際,Dは,嫌という素振りはなかったが,

支払があるので。

とは言っていた。私は,関係ないと言った。借金は,返済されるとは思わなかったが,

払ってもらえないと捜さないといけないので,きちんと払ってください。

と言った。受け取った14万円については,Jに渡す分は分けたが,翌日大震災があって,その後どうしたか覚えていない。
14万円については,G弁護士が間に入ってくれば,譲歩するつもりはあった。


恐喝は一切していないが,示談については,私が逮捕されてからCを任せていた被告人Aを一刻も早くCに復帰させるために行った。


Hは,稲川会の人と聞いたことがあるが,おみこしの会の先輩として付き合っている。Cとは関係ない。JとHが懇意にしているという話も聞いていない。2月末頃にHに電話をしたのはお祭りの関係である。



信用性
被告人Bは,捜査段階(検察官調書(乙4),警察官調書(乙2,3))で,計算書に記載された内容は,正当な請求代金であり,Dは,何も言わず,不満そうな顔もしなかった,借用書を書いた後,踏み倒したらどこまでも追い掛けるとは言っていないなどと供述した。F等の供述とそごしている上,
計算書が正当な請求代金である旨述べる点も含め,自己に不利益な事実を否定する態度が顕著である。
公判供述は,捜査段階の供述に比べると,幾分そのような態度は緩和された感がある(しかし,このことは供述に変遷があったことを意味する。)が,それでも計算書の内容が過大ではないなどと強弁している部分があるほか,辞めると言われてすぐにFに電話したとの供述も通話記録との間でそごがある。被告人Bは,Hに2月27,28日,3月5,7,8日に電話をかけた通話記録があり(加えて,後述のとおり,3月1日に被告人Aが3回Hと電話通話をしている。),Hとみこしの会の関係だけの付き合いというのも整合しない嫌いがある。Dの戸籍謄本等のコピーに関しても曖昧な供述をしており,捜査段階の供述との間でも変遷があるなど,不自然である。これらに照らすと,脅迫文言がなかったとする供述も,直ちにDの供述の信用性を左右するほどの信用性は認め難い。
4
被告人Aの供述について
供述内容の要旨



被告人Aは,公判廷で以下のような供述をした。

偽装結婚の話をDにしたことは覚えていないが,したとすれば,冗談で出たかもしれない。交際相手を探すという話が発展したのかもしれない。住民票と運転免許証のコピーを出すように言ったのは,次の現場の元請けに作業員名簿を提出するためである。運転免許証のコピーは,働き始めた当初から提出するように言っていたと思う。運転免許証のコピーの提出に関しては,車を購入するためのローンをD名義で組むという話も出ていた。そのことは,被告人Bにも話したと思う。戸籍謄本は,通常不要であるが,素性(身元)のよく分からないDの家族等を把握するために出させた。被告人Bにも身分証として取るように進言していた。


辞めると聞いたのは,2月28日だったと思う。事務所で日報を提出する際,Dの日報が泥まみれだったので,日報は金と一緒だと前から指導し
ていたのに,どういうことだと恫喝した。そうしたら,Dは,

じゃ辞める。

と言った。胸ぐらをつかむような暴行はしていない。被告人Bは,引き止めるようなことを言っていた気がする。私は,Dの仕事ぶりについてクレームが多かったので,辞めたいと言った時,正直肩の荷が下りた気がした。その時,被告人Bが,誰かとの間で電話をかけたり受けたりしたかは覚えていないが,重要な電話はしていないと思う。被告人Bが,Dに,明日Fが来るといった話をしたかどうかについても覚えていない。

被告人Bは,1回目でも2回目でも,俺の顔に泥を塗るのかというようなことは言っていない。


1回目の話合いの際に,Fが借金があるなら返した方がいいよと言っていたような覚えがある。また,Fは,被告人Bに謝っていた覚えがある。Dが被告人Bに今日給料を払ってくれと言ったというのは記憶になく,聞いていない。被告人Bが,Dに,精算しなければならないものがあるというような話はしていたと思う。Dは了解したと思う。


弁護士から来た内容証明郵便を被告人Bに見せられたが,なぜわざわざ弁護士を頼むのか,一緒に不思議がっていた。被告人Bは,憤りも感じていたと思う。


2回目の話合いの際,Dに給料を渡した後,精算するものがあるということで計算書が出てきた。計算書や借用書の内容は見ていないが,耳に入った限りでは,Dの立場からすると多過ぎると思った。被告人Bが

払えるだけ精算してもらう。

と言って14万円を取ると,Dは,一杯支払等があるので全部は困るという意味合いのことを言っていたが,被告人Bは,

そちらの都合でこちらには関係ない。

というようなことを言っていた。金に関しては,自分は口を出す立場ではないので,口を出さなかった。脅し文句も言っていない。Fも口を出していなかった。被告人Bは,借用書の借金が支払われなければ,捜さなくてはいけなくなるようなことを言っ
た。
Dのことを気の毒に思ったが,なぜDがそんなに多過ぎる請求をされ,14万円を取られるようなひどい扱いを受けたのか,その理由については思い当たることはない。
Fは,2回目の話合いで顔に泥を塗るのかと言った。

2回目の話合いの後,G弁護士から何らかのアクションがあると思っていた。


Dとの示談については,恐喝を認めることが条件なら,応じなかった。

Hは,Jと家族ぐるみの付き合いをしていることくらいしか,知らない。暴力団組員であることは薄々分かっていた。Hは,Cの経営には関与していない(被告人Bが逮捕され,自分が実質的に経営を取り仕切っていたときもHからの指示は全くないし,Hへの報酬もない。)。
3月1日,Hに電話をかけたことは覚えていないが,かけたなら,みこしの会の待ち合わせの関係だと思う。3月は祭りが多いので,週5回くらいかけることもある。みこしの会以外の用件でかけることはないと思う。


信用性
被告人Aは,計算書の内容が高額に過ぎると述べるなど,自己又は被告人Bに不利益な内容の供述もしているし,被告人Bが述べていることでも知らないことは知らないと述べている。また,捜査段階から供述内容にさほど大きな変遷はない。被告人Bの供述に比べると,信用性を低くみるべき要素は少ない。
しかし,戸籍謄本等のコピーを出させた経緯については,車のローンの話等,被告人Bも否定している話を出しており,偽装結婚の話についても,捜査段階ではDはすぐに断ったとまで述べながら,公判廷では,Dに言ったかどうか覚えておらず,言ったとすれば冗談で言ったなどという曖昧な供述もしている。さらに,やはりHについては,用件は不明であるが,3月1日午後に3回電話をかけており(合計通話時間も6分半に及ぶ。),被告人Aの
説明と整合しない嫌いがある。そして,結局,被告人Bがなぜ無理をしてまでDに高額に過ぎる請求をし14万円を回収したのかについて,何ら思い当たることがないというのも不自然な感を否めない。
これらに照らすと,脅迫文言がなかったとする供述もにわかに相応の信用性を認めるわけにはいかない。
5
小括
以上によれば,Dの公判供述は,Fや被告人両名の各供述に比して相対的には信用性が高く,その供述するとおり,借用書を作成する直前に脅迫があった可能性はかなり高いとはいえる。

第4
1
D供述の信用性の程度
しかし,Dの供述には,子細に見ると,やや不自然さが感じられる部分が幾
つか含まれている。


上述のとおり,借用書の作成前ないし作成中の脅迫の有無が重要であるところ,その点についてのDの供述をつぶさに見ると,Dは,14万円を渡され,安心して帰ろうとしたら,被告人Bに計算書を見せられてこれを払えと言われ,借用書を書けと言われた。一切書かないで立ち去ろうとしたが,被告人Aがいい加減にしろ,若い者を連れていってぼこぼこにするとかいう言葉があって脅され,怖くなってやむを得ず書いた。被告人Aからは,半殺しとか,アンカーって言われ,襟首もつかまれたが,被告人Bが,こんなやつ殴ってもすぐ警察に行くからやめろと止めに入った。そういうことがあったので怖くて借用書を書いた。脅されて,書かないと帰れないので,借用書を書いた。納得できないと話したが,アンカーとか埋めてやるとか言われて怖くなって書いた。などと供述した。Dは,借用書の作成中の状況について,

頭がパニックだったので,書くだけは書いた。

とか,

これは何,何と聞きながら書いた。

説明を受けたが,納得できないので,書くのもごねていた。

携帯で漢字を調べながら書いた。

などとも供述している。


しかし,Dは,ほかにも,複数の機会に特に被告人Aから脅迫や暴行を受
けた旨供述している。

まず,2月28日,最初に辞めると言った時,被告人Aが怒ってこの野郎と言われ,襟をつかまれて殴られそうになったり,

俺の顔に泥を塗るのか。

と言われたりしたが,被告人Bが,

この馬鹿,殴っても警察に行くだけだからやめろ。

と言っていたと供述した。

1回目の話合いの際も,被告人両名から脅されたと供述している。具体的には,被告人Bが

やっぱり泥を塗るのか。

とか言い,被告人Aも,アンカーという言葉を入れて,

この野郎,俺の顔に泥を塗るのか。

などといろいろ脅し文句を言われた旨供述している(ちなみに,Fからは,俺の顔に泥を塗るのかということしか言われていないと供述した。)。


3月10日,借用書を書き終えた後,被告人Bが,

踏み倒したらどうなるか分かっているな。どこまでも捜して追い込みをかける。

と言い,被告人Aが,

踏み倒したら若い衆を使って半殺しにする。アンカーを付けて海に埋めてやる。

と言ったとも供述した。さらに,同日,被告人両名から,

俺の顔に泥を塗るのか。

とも言われたが,被告人Bは,自分が中途半端に辞めると言ったため,仕事もないのに今まで世話してやったのに急にいい加減なこと言うなという趣旨であろうし,被告人Aは,単に脅せばいいと思っていたんだろうと思うとも供述している。


ちなみに,2月20日過ぎに,戸籍謄本等のコピーを被告人Aに渡した後,偽装結婚を持ち掛けられた際も,断ったらどうなるとか半殺しとか言われた旨供述している。



もちろん,これらの借用書作成前ないし作成中を含むすべての機会に,被告人両名から脅されるなどした可能性もある。しかし,別の機会の脅迫や暴行の内容が類似しており,しかも,被告人Bが,早い段階で被告人Aの行為を制止していたにもかかわらず,それと同様のことが2回目の話合いの際に
もあったことになっているし,特に,2回目の話合いでは,Dが辞職することは前提となっているのに,俺の顔に泥を塗るのかというのをFが言うならともかく(Fは,2回目の話合いでもそのように言った経緯についてそれなりの説明をしている。),被告人両名も言ったというのはいささか不自然である(その趣旨についての推測も納得し難い。)。このように見ると,Dが,記憶の混同等から,借用書作成後を含むいずれかの機会の脅し文句や怒りの文言を,借用書作成前ないし作成中のこととして供述した可能性があるのではないかという疑念を抱かせる(例えば,借用書作成後については,Fも,被告人Bが逃げたら追い掛けるということを言っていたと述べており,この際にやや激しい文言が出たのを借用書作成前のこととして述べたことなどがあるのではないかとも思われる。)。


加えて,Dは,上記のように,14万円を受け取った際,帰ろうとしたなどと供述している。ほかに,仮払金2万円の精算について聞かれて,2万円は,帰りがけに返そうと思っていたなどとも述べている。これは,まるで,当日精算があることを分かっていなかったかのような供述である。しかし,そもそも3月2日に弁護士を介して内容証明郵便で給料を支払うように求めたのは,1回目の話合いの際に,給料の支払を受けられないおそれを感じたからであろうと推測される。その時,被告人Bから精算がある旨告げられたからこそ,そのように感じたとみるのが自然である。最低でも仮払金2万円は精算する必要があることは当然分かっていたはずであるのに,精算をせずに帰ろうとしたというのはやや不自然といえる。



このように,Dが脅迫されたと供述する借用書作成の直前における状況には若干の疑念や不自然さが感じられる。そして,このような疑問を持って見ると,借用書を書かせるのに,アンカー(船のいかりのことと推察される。)という言葉まで出して海に沈めるようなことまで言ったというのはやや飛躍があるようにも思われる。Dがよほど借用書の作成を頑強に拒んだなどの事情があれば,そのような過激な脅し文句が出たことも得心しやすいが,
D本人も借用書の作成に激しく抵抗したというふうな供述はしておらず,Dがそれを頑なに拒んだという状況はうかがわれない。


逆に,Dは,14万円を取られた際,生活ができなくなるから困るとごねたが,一切聞く耳を持ってくれなかったとも供述している(この点は,F,被告人Aも同旨の供述をし,被告人Bも,公判廷では同様の供述をしている。ただし,いずれも,生活できなくなるというのではなく,支払をするところがある旨言ったという。)。また,Dは,借用書作成中も書くのをごねていた旨も供述している。もし,生命を脅かされるような脅迫を受けていたら,このような抵抗めいたことが言えるのか,いささか疑問である。



Dの最初の調書(4月1日付け警察官調書(甲4)と推察される。)には,2回目の話合いの席に,Fが同席したことが記載されていなかったという(証人尋問で被告人Aの弁護人がその点を追及した。)。Dは,捜査官に,Fが同席していたことを述べたと供述したが,供述調書に記載がないとすると,Fのことを述べなかった可能性が高い(そうでなければ,捜査官が何らかの意図又は失念によりFの同席を供述調書に記載しなかったことになるが,Fがどのような供述をするか不明の段階で,しかもどちらかというとDの理解者であると思われるのに,捜査官がそのような脱漏をする可能性は低いと考えられる。)。
なお,Fは,平成24年終わり頃まで警察官からの連絡はなかったと供述している。その真偽は定かではないが,もしこれが真実であれば,被告人両名が逮捕されたのは,同年10月であり,被告人両名が取調べを受けて,Fが同席していた旨述べたことにより,捜査官がFから事情を聴くことにしたということも考えられ,Dは,被害届を提出した最初の頃,Fが2回目の話合いに同席していたことを供述していなかった可能性が大きくなる(もっとも,これは,捜査段階の初期におけるDの他の供述調書に,Fの同席が記載されていないことを前提とする推測である。)。
Dが,実際に脅迫されたのに,それを聞いているはずのFの同席をあえて
供述しなかったというのは理解し難い面がある。このことも,Dの供述に一定の疑念を生じさせるといえる。


Dは,本件後,第三者に相談し,市の市民相談センターに行ったところ,被害届を出すよう勧められ,4月1日に警察に本件の被害届を提出している。しかし,14万円を受け取りに行って,脅迫を受けて借用書を書かされ,そのために全く現金を受け取れなかったとすれば,真っ先にG弁護士や警察に相談に行くということが考えられるのに,G弁護士を紹介した知人に相談したとしながら,まずはアパートの退室手続等,居住場所の確保に動いたというのである(見方によっては,給料を取り戻すのを諦めているかのようにも思える。)。むしろ,被告人両名ともに,G弁護士による何らかの介入を予想していたというのに,やや理解し難い行動である。



更に幾つかの細かい部分についても疑問がある。
辞職の理由に関して,3月から仕事がないと言われたとも供述しているが,仕事が一時なくなると言われた旨も述べており,その趣旨は曖昧である。仕事のやり方について被告人Aから叱責されたとすれば,それは仕事の継続を前提とするものであるし,被告人両名とも,3月から仕事が一切なくなるという状況ではなかったというのであり,これは排斥し難い。辞職の理由について,FがDから聞いたと述べる事情も,被告人両名が推測する事情もいずれも怒られるのが嫌になったという点で符合している。
また,14万円を交付したのに対し,領収証を受け取ったことを覚えていない,もらっていないと思うなどとも供述した。領収証を受け取ったことは明らかであるのに,なぜこのような曖昧な供述をするのか理解し難い。上述のとおり,Dの供述は不自然とまではいえないけれども,Dが被告人両名の発言をやや誇張したり自分の主張に沿うように解釈して供述することがあることをうかがわせる。



以上の諸点に照らすと,Dの供述には,若干の疑念を禁じ得ないところがある。

2
同時に,Fの供述も軽視し得ない面がある。
Fは,DがCで働く前,雑誌を路上で売って月わずか四,五万円を得てい


た時期に,Dにジュース代や御飯代を渡したり,1度日雇いの仕事を提供したりした。Dが金がないというので,就労先としてCも紹介した。Dも,公判廷で,Fのことを雑誌を売っていた時の客,理解者であると述べ,2回目の話合いで被告人両名が脅し文句を言ったかどうかについては,Fに聞いてもらえば分かる旨も供述した。
また,Fの供述内容を見ると,Dの供述と符合する部分がかなりあるし,


被告人両名にとって不利益な供述もしている。Dと食い違う点でも,Fの供述内容の方が成り行きとして自然であると思われる部分もある。

Dは,偽装結婚の話をFにはしていない,自分がCを辞めることについて,Fが,俺の顔に泥を塗るのかと言っていたのは偽装結婚の話を知らないからであるなどと供述している。Fは,Dからは辞める理由として,怒られるのが嫌だからというふうに聞いたと供述しており,これはDの供述と符合する。また,2回目の話合いでの同席者の発言内容については,俺の顔に泥を塗るのかと言ったのは,自分だけであると述べている。これは,Dが俺の顔に泥を塗るのかというのは,被告人両名も言っていたとの供述をしているのと対比すると,Fの供述の方が自然である。


Fは,Dが借用書を書いた後,被告人Bが

借用書を書いたんだから逃げたら追い掛けるぞ。

と言ったと供述している。被告人Bは,捜査段階でどこまでも追い掛けるなどと言っていない旨供述しており(公判供述ではもっと柔らかい表現ながら同旨の発言をしたことは認める。),これは,被告人Bに不利益な供述もしていることを意味する。
また,被告人Bが

これはもらっておくぞ。

と14万円を回収した,Dは

支払があるのに。

と不満を言ったが,被告人Bは無視した旨も供述している。被告人Bが捜査段階で,Dは不満そうな顔もせず,何も言わなかったと供述しているのと比べると(公判廷では異なる供述をしてい
る。),これも被告人Bに不利益な供述である。

また,1回目の話合いと2回目の話合いの関係について,Fは,1回目の際に,Dが辞める意思が固いことから,辞めるなら辞めていいが精算があるので,10日の給料日に集まって話そうということになったと供述している。これは合理的な流れである(この点については,被告人両名も同旨の供述をしている。)。



確かに,Fは,Hとの関係については,供述を避ける態度が明らかに見て取れる。しかし,Hは,暴力団組員である。実際に本件との関わりが薄く,ありのままに供述したとしても,客観的にはさして影響のないように思える場合であっても,全く無関係であるかのような供述をすることもあり得るところである。Hとの関わりについて虚偽を含む供述をしているとしても,被告人両名がHに指示されてDを脅したということまでをも推測できるわけではないし,それを認めるに足りる証拠があるわけでもない。



Fは,捜査段階において供述調書が作成されていない。Fが,捜査官に,被告人両名からの脅迫があったと述べながら,被告人両名や背後者からの報復を恐れて,調書の作成を拒否した可能性もあるが,そもそもFは,自らが供述するように,捜査官にも脅迫はなかった旨供述した可能性も否定できない。Fは,公判廷で,自分も逮捕されるのかと聞いたと吐露し,既述のように,何らかの不正の存在をうかがわせるが,他方で,調書は作成しなくていいのかと捜査官に告げた旨も供述しているのである。



以上のように,Fの供述は,Dとの関係のほか,内容的にも第三者的な立場からのものと理解できる点を含んでいること,Hとの関係について回避的な供述をしていることを必ずしも重視できないことなどに照らすと,信用性が乏しいと断ずるにはいささかためらいを覚えるのであり,Fが被告人両名による脅迫を否定していることを直ちに軽視し難い面がある。

3
その上,被告人両名,特に被告人Bが,内容証明郵便を送ってきた弁護士の存在を意識していたことは明らかである。だからこそ,内容証明郵便による通
知書で求められた2月分の給与14万円の支払を実行した形をとるために,従前の給与では前借り分である仮払金を控除して渡していたのに,仮払金を控除していない明細書を準備していたし,借用書を作成させたのもその14万円の返還を受ける書類上の根拠を揃えている(借用書と一体となる計算書については,借用書はコピーを渡し,D宛ての計算書は原本(平成25年押第6号の1)を交付するなど,書類の授受に関しても周到な念の入れようである。もちろん,14万円の領収証も作成して,Dに交付している。)。いずれもDの背後に弁護士がいることを意識したものと解されるのであって,Dに請求した内容こそ正当性に欠けるものが多いものの,このような準備をした被告人Bなら,あからさまな脅迫を行うのも控えるのではないかとも考えられる(被告人両名ともに,後に問題とならないよう,穏やかに事を進めようと考えていた旨供述している。)。Dが14万円を受け取れずに帰るわけであるから,弁護士等に相談に行く可能性はかなり高いといえるのであり(被告人両名とも,本件後にG弁護士からの何らかの介入等があることを予期していた旨供述している。),そのようなあからさまな違法行為を行えば,それを弁護士あるいは警察に告げられる可能性が高いのである(もちろん,Fをいざというときに脅迫を否定する供述をする第三者として確保した上で,脅迫を行ったということも考えられないではない。しかし,被告人BとFとが3月1日から同月10日までの間に数度通話した記録があることなどから推測し得ることには限度があり,Fが確実にそのような被告人Bの意に沿う供述をする人物であるとの立証もされてはいない。)。
4
借用書作成につながる脅迫がなかったとすると,説明に窮するような事情がないかどうかについて改めて検討する。


まずは,借用書作成の経緯である。借用書記載の借金の内容は,正当な根拠のないものが多いから,Dが何らかの特別な心理状態にあって借用書を作成したことは間違いない。
検察官が主張するように,現場にいた被告人両名とDとの関係,Fの発言
(さらには,Dの供述を信用できるとして,内容証明郵便を送ったことに関してした被告人Bの発言)等を考えると,借用書作成時に威圧的な状況があったことも肯認してよいであろう。しかし,現金の交付について本件恐喝が成立するには,その原因となる程度の脅迫行為が存在したことが必要であって,何らかの威圧的状況だけでは,恐喝を認定することはできない。Dが,それまでの被告人両名との関係等を考え,仮払金という正当な請求に加え,項目としては何らかの返済義務があることは否定し難いものも含まれる計算書を示されて,動揺し(本人も頭がパニックになったと供述しているが,なぜパニックになったのかは供述上不明確である。),逐一文句や反論を言うことができず,あるいは,文句等を言っても聞き入れてもらえないと諦めて,借用書作成に渋々ながら応じた可能性も考えられないではない。

さらに,Dが脅迫されたと供述した理由である(そもそも恐喝の被害届を出した理由とも関係する。)。上記のように,偽証罪の制裁,背後の暴力団組員による報復も予想される中で,あえて被告人両名に不利な虚偽の供述をするかという疑問である。しかも,本件恐喝の起訴がされる直前には,示談金20万円を受け取っており,今更恐喝があったことを立証しても,Dが更に何らかの利益を得られる見込みは乏しいと思われる。しかし,示談したにもかかわらず,被害届を取り下げなかった理由について,Dは,示談の際に被告人Bの弁護人から被告人両名が恐喝の事実を認めたと聞いたのに,検察官から電話で被告人両名が認めていないと聞いたからである旨供述したが,この説明は,示談契約書に被告人両名が事実を認めた旨の記載がないことと整合しない。Dの説明を全くの虚偽とは断じ難いにしても,示談契約書の記載内容と整合しないDの説明のとおりの経緯であったともいえない。このことも考えると,供述の一貫性維持,被告人両名に対する何らかの屈折した感情,Dの性格,記憶の混同,誤った記憶の形成等が原因となって,Dが事実と異なる供述をしたことも考えられないではないのである(被害届の提出に関しても,上述した3月10日以降のDの行動を見ると,いろいろと相談す
るうち,脅されるようなことでもなければ,そのような借金を背負わされることはないはずであると指摘され,14万円を取り戻そうと動いたということなどが考えられないわけではない。)。


なお,被告人Bが,Dに対し正当な根拠のない高額過ぎる請求をし,14万円を回収した理由がもう少し明らかになれば,別の認定もできるかもしれない。しかし,差し当たり,前述のように,偽装結婚の話に絡む何らかの思惑が背景にあったことなども推測できないわけではないものの,証拠上それは明らかでないといわざるを得ない。

5
以上を要すると,前述のように,脅迫があった可能性はかなり高いとはいえるが,これを認定するには合理的な疑いを差し挟まない程度に脅迫があったとの確信に至ることが必要である。Dの供述に対する疑念は,個々に見れば,いずれもわずかなもので,他の説明も不可能ではないが,これらが重なると,一定の疑いとなって残る。そして,Fの供述や被告人両名の各供述も,軽視ないし排斥し難い面を持っており,Dの供述の信用性をある程度揺るがす要素となり得る。さらに,脅迫がなかったとしても,必ずしも説明に窮するとまでいえるような事情は存しない。それらを併せ考えると,Dの供述に,現金交付につながる脅迫があったと上記の程度に確信させるほどの,すなわち本件恐喝を認定し得るほどの高い信用性は肯定し難いといわなければならない。
第5

結論
よって,Dが現金14万円を交付するに当たり,被告人両名が脅迫を行った
と認めることはできないので,被告人両名に対する本件恐喝の公訴事実については犯罪の証明がないことになるから,刑訴法336条により被告人両名に対し無罪の言渡しをする。
(法令の適用)
被告人Aについて


判示第1の所為

覚せい剤取締法41条の3第1項1号,19条

判示第2の所為

同法41条の2第1項

併合罪の処理

刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の重い判示
第1の罪の刑に加重)

未決勾留日数の算入

刑法21条


覚せい剤取締法41条の8第1項本文


(量刑の理由)
被告人Aは,平成15年に覚せい剤取締法違反を含む罪により実刑に処せられて服役し,平成17年に仮出所したが,仮出所中に覚せい剤を使用し,同年7月,懲役1年6月に処せられた。それにもかかわらず,前刑終了後5年余りで,またしても本件覚せい剤の使用,所持の各犯行に及んだ。仕事や人間関係のことで現実逃避したくなり,覚せい剤の薬理作用を利用しようとしたものであり,その動機の安易さやこれまでの覚せい剤使用歴等を考えると,被告人Aの覚せい剤に対する依存性,親和性は高く,その規範意識の希薄さも顕著である。そうすると,被告人Aの刑責を軽くみることはできないが,覚せい剤取締法違反の各事実について素直に認め,反省の態度を示していること,今度こそ二度と覚せい剤を使用しないと誓っていること,仕事は真面目にしていたことなど,被告人Aのために斟酌すべき事情もあるので,それらを十分考慮して,被告人Aには主文掲記の刑を科するのが相当であると判断した。
(被告人Aに対する恐喝と併せた求刑

懲役4年,覚せい剤1袋の没収)

平成25年7月30日
横浜地方裁判所第6刑事部

裁判官

景山太郎
トップに戻る

saiban.in