判例検索β > 平成23年(ワ)第17612号等
信用毀損行為差止等請求事件 不正競争 民事訴訟
事件番号平成23(ワ)17612等
事件名信用毀損行為差止等請求事件
裁判年月日平成25年1月18日
法廷名東京地方裁判所
裁判日:西暦2013-01-18
情報公開日2017-10-19 12:34:22
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平成25年1月18日判決言渡

同日原本領収

裁判所書記官

平成23年(ワ)第17612号信用毀損行為差止等請求事件(以下第1事件という。),同年(ワ)第20390号損害賠償請求事件(以下第2事件という。),同年(ワ)第25447号損害賠償請求事件(以下第3事件という。),平成24年(ワ)第8301号損害賠償請求事件(以下第4事件という。)口頭弁論終結日

平成24年10月12日
判決
大韓民国ソウル特別市<以下略>
第1事件原告・第2事件被告・第3事件原告・第4事件被告
株式会社シージェス
エンターテイメント
(C-JeSENTERTAINMENTCO.,LTD)
(以下原告シージェスという。)
大韓民国ソウル特別市<以下略>
第3事件原告

(以下原告甲という。)

上記2名訴訟代理人弁護士

榊原同阿部同西島同阿部輝俊和和一博
東京都港区<以下略>
第1事件被告・第2事件原告・第3事件被告・第4事件原告
エイベックス・マネ
ジメント株式会社
(以下被告エイベックスという。)
同訴訟代理人弁護士
升本喜郎同吉野史紘同金子剛大
同訴訟復代理人弁護士(第4事件につき訴訟代理人)
那須勇太
東京都墨田区<以下略>
第2事件被告
財団法人日本相撲協会

(以下被告相撲協会という。)
同訴訟代理人弁護士

西尾孝幸同吉岡裕貴同辻角智之同小堀同伊村同鈴木同三浦主1優健二朗景謙吾文被告エイベックスは,原告シージェスが,日本において,被告エイベックスの承諾なく,JYJことA,B及びCにコンサート活動を行わせることが,日本におけるJYJの独占的なマネジメント業務を遂行する被告エイベックスの権利を侵害する旨を,文書又は口頭で第三者に告知・流布してはならない。
2
被告エイベックスは,原告シージェスに対し,金6億6595万7108円及び内金6億1411万7108円に対する平成23年8月10日から支払済みまで年6分の割合による金員,内金5184万円に対する同日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3
被告エイベックスは,原告甲に対し,金100万円及びこれに対する平成23年8月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4
原告らのその余の請求及び被告エイベックスの請求をいずれも棄却する。5
訴訟費用は,全事件を通じ,原告シージェスに生じた費用の5分の3,原告甲に生じた費用の5分の1及び被告相撲協会に生じた費用を被告エイベックスの負担,被告エイベックスに生じた費用の5分の2を原告シージェスの負担,被告エイベックスに生じた費用の50分の1を原告甲の負担とし,その余は各自の負担とする。

6
この判決は,2項及び3項に限り,仮に執行することができる。

第1
1実及び理由
請求
第1事件
(1)

主文1項と同旨

(2)

被告エイベックスは,自ら又は第三者をして,原告シージェスが,JY
JことA,B及びCに日本におけるアーティスト活動を行わせる業務及び同業務に附帯する一切の業務を妨害してはならない。
2
第2事件
原告シージェス及び被告相撲協会は,被告エイベックスに対し,連帯して金1億4340万円及びこれに対する平成23年8月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3
第3事件
(1)

被告エイベックスは,原告シージェスに対し,金1億5000万円及び
これに対する平成23年2月24日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(2)

被告エイベックスは,原告シージェスに対し,金12億4306万99
08円及びこれに対する平成23年8月10日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(3)

被告エイベックスは,原告甲に対し,金500万円及びこれに対する平
成23年8月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。(4)

被告エイベックスは,別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告を,エイベック
スグループ・ホールディングス株式会社のホームページに本判決確定の日から6か月間,14ポイント活字をもって掲載せよ。
4
第4事件
原告シージェスは,被告エイベックスに対し,金1億円及びこれに対する平成24年4月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2
1
事案の概要
概要
以下,Aの表記をA’,Cの表記をC’とする場合がある
が,いずれも証拠等の原文に従った表記である。
(1)

第1事件
韓国人アーティストであるJYJことA,B及びC(以下,上記3名を併
せてJYJという。)との間で,専属的にマネジメントを行う契約(以下基本専属契約という。)を締結した原告シージェスが,被告エイベックスとの間でJYJの日本におけるアーティスト活動に関して締結した専属契約(以下本件専属契約という。)について,被告エイベックスの義務違反により解除した(以下本件解除という。)として,被告エイベックスに対し,①被告エイベックスが,原告シージェスの取引先に告知し,ホームページで公表している本件専属契約は現在も有効に成立しており,原告シージェスが被告エイベックスの承諾を得ることなくJYJにアーティスト活動を行わせることは,日本におけるJYJの独占的なマネジメント業務を遂行する被告エイベックスの権利を侵害する旨の事実は虚偽であるなどとして,不正競争防止法2条1項14号に該当する旨主張し,同法3条1項に基づく差止請求として,被告エイベックスが同旨の事実を文書又は口頭で第三者に告知・流布することの禁止を求めるとともに,②被告エイベックスは,本件解除を争い,原告シージェスに対し,被告エイベックスを介することなく日本においてJYJのアーティスト活動を行うことが判明した場合,原告シージェスの業務活動を阻止する行為を行う旨を通知したなどとして,原告シージェスの業務遂行権が妨害されている旨主張し,業務遂行権に基づく差止請求として,被告エイベックスが原告シージェスの業務を妨害することの禁止を求めた事案である。
(2)

第2事件
被告エイベックスが,原告シージェス及びJYJのコンサート会場として
両国国技館の利用を許可した被告相撲協会に対し,被告エイベックスの承諾なくJYJのコンサートを両国国技館で開催したこと(以下国技館コンサートという。)が本件専属契約に違反し,被告相撲協会については債権侵害の共同不法行為に当たるなどと主張して,不法行為に基づく損害賠償請求(原告シージェスについては債務不履行に基づく損害賠償請求との選択的併合)として1億4340万円(附帯請求として訴状送達の日の翌日である平成23年8月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の連帯支払を求めた事案である。
(3)

第3事件
原告シージェスが,被告エイベックスに対し,本件専属契約の契約金等が
未払であるなどと主張して,①本件専属契約に基づく未払契約金の支払請求又は債務不履行に基づく損害賠償請求として1億5000万円(附帯請求として本件解除の日の翌日である平成23年2月24日から支払済みまで商事法定利率の年6分の割合による遅延損害金),②㋐本件専属契約に基づく未払分配金等の支払請求として4511万7108円,㋑債務不履行に基づく損害賠償請求(逸失利益)として11億3119万7416円,㋒コンサート活動の妨害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求として5508万3500円,㋓著作隣接権(実演家の権利)の侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求として3億1889万2150円の合計15億5029万0174円の一部である12億4306万9908円(附帯請求として訴状送達の日の翌日である平成23年8月10日から支払済みまで商事法定利率の年6分の割合による遅延損害金)の支払を求めるとともに,原告甲が,被告エイベックスに対し,被告エイベックスの親会社であるエイベックス・グループ・ホールディングス株式会社(以下エイベックスGHDという。)のホームページにおいて名誉を毀損された旨主張して,③不法行為に基づく損害賠償請求として慰謝料500万円(附帯請求として訴状送達の日の翌日である平成23年8月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払,④民法723条に基づく名誉回復等の措置請求として別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告を求めた事案である。
(4)

第4事件
被告エイベックスが,原告シージェスに対し,被告エイベックスの承諾な
くJYJのコンサートを国営ひたち海浜公園で開催したこと(以下ひたちなかコンサートという。)が本件専属契約に違反するなどと主張して,不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求として,9億6605万6000円の一部である1億円(附帯請求として訴状送達の日の翌日である平成24年4月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求めた事案である。
2
前提事実(証拠等を掲記した事実以外は当事者間に争いがない。)(1)

当事者等
原告シージェス及び原告甲
原告シージェスは,韓国において,アーティストのマネジメント等を業とする株式会社である。原告甲は,原告シージェスの代表者である。

JYJ
JYJは,韓国のアーティストグループ東方神起5名のメンバーのうちの3名であり,現在はJYJのグループ名でアーティスト活動をしている。

被告エイベックス
被告エイベックスは,エイベックスGHDの100%子会社であり,アーティスト,芸能タレント等のマネジメント等を業とする株式会社である。

株式会社ザックコーポレーション
株式会社ザックコーポレーション(以下ザックという。)は,コンサート,イベントの企画,制作や情報の提供販売,チケット販売に関する事業等を業とする株式会社である。ザックは,平成24年2月,当庁に対し,再生手続開始を申し立て,同年3月,再生手続開始決定を受けた(ザックは,第2事件被告であるが,当該開始決定により訴訟手続が中断し,本件から分離された。)。その後,ザックは,同年7月,破産手続開始決定(職権破産)を受けた。
(再生手続・破産手続につき当裁判所に顕著)


被告相撲協会
被告相撲協会は,国技である相撲道を研究し,相撲の技術を練磨し,その指導普及を図ること等を目的として設立された財団法人であり,その事業の一環として,両国国技館の維持経営を行っている。


その他
株式会社S.M.エンターテインメント(以下S.M.という。)は,韓国において,東方神起との間で,アーティスト活動に関する専属契約を締結していた会社である。
(乙41)

(2)

本件専属契約に至る経過
被告エイベックスは,平成16年7月1日,S.M.との間で,日本にお
ける東方神起の専属的なマネジメント業務を行うための専属契約を締結した。他方,JYJは,平成19年7月31日,ソウル中央地方法院に対し,S.M.を相手方として,S.M.との専属契約の効力停止を求める仮処分を申し立てた。これに対し,ソウル中央地方法院は,同年10月27日,S.M.に対し,JYJの芸能活動を妨害してはならないことなどを内容とする仮処分を決定した。
そこで,被告エイベックスは,本案訴訟においてもS.M.の専属契約の効力が否定され,自らのJYJに対するマネジメント権限が無権限となるリスクを考慮し,日本におけるJYJのマネジメント業務の遂行を確実なものとするため,原告シージェスと専属契約を締結することとした。
(以上につき甲28の1,甲87,乙41)
(3)

本件専属契約
原告シージェスは,本件専属契約の締結に先立ち,JYJとの間で,原告
シージェスがJYJのアーティスト活動に関し,専属的にマネジメントを行う契約を締結した(基本専属契約)。原告シージェスは,平成22年2月26日,基本専属契約を前提として,被告エイベックスとの間で,JYJの日本におけるアーティスト活動に関し,別紙本件専属契約の条項記載の内容の契約を締結した(本件専属契約)。
(本件専属契約の条項につき甲1)
(4)

被告エイベックスの発表等
被告エイベックスは,平成22年9月16日,エイベックスGHDのホー
ムページにおいて,以下のとおり,B/A’/C’日本における活動休止のお知らせと題する発表をした(以下本件公表という場合がある。また,本件公表に係る事実のうち,下線部を付した箇所を本件摘示事実という。)。被告エイベックスは,同日以降,JYJの日本における公演等は一切行っていない(以下,本件公表と併せて本件対応という場合がある。)。また,本件公表は,その後もエイベックスGHDのホームページに掲載されている。
当社の100%子会社,エイベックス・エンタテイメント株式会社(本社:東京都港区)専属アーティストであるB/A’/C’の日本におけるアーティスト活動を当分の間休止いたしますので,下記のとおりお知らせいたします。記日本において現在B/A’/C’のマネジメント業務を行っている韓国法人C-JeSENTERTAINMENTCO.,LTDの代表者が,暴力団幹部の経歴をもつ父親の威力を背景に担当アーティストを恐喝し,強要罪で実刑判決を受け服役していた,との報道につき,当社は事実関係を調査しておりました。その結果,現時点での暴力団との関係こそ明らかではないものの,その他につきましては上記報道がすべて事実であることが判明いたしました。また,韓国で係争中のB/A’/C’の専属契約確認訴訟の進展により,彼らと当社との専属契約自体が無効とされる可能性が高まってまいりました。当社はコンプライアンス重視,企業倫理遵守の経営方針から,これらの問題が解決されない限り,彼らのアーティスト活動をマネジメントするべきではないと判断いたしました。(以下省略)(本件公表につき甲2,27)
(5)

本件解除についての通知と回答
原告シージェスは,被告エイベックスに対し,平成23年1月21日付け
通知書をもって,本件対応は,本件専属契約5条,15条,16条の義務に違反するので,本件専属契約17条(2)に基づいて,30日以内に当該違反事項を治癒するよう催告するとともに,当該期間内に治癒されなかった場合には,本件専属契約を解除する旨を通知し,当該通知書は同月24日被告エイベックスに到達した。
これに対し,被告エイベックスは,原告シージェスに対し,平成23年2月1日付け回答書において,本件専属契約における委任の趣旨は,あくまでも当社によるJYJの日本国内における『適正・適法』なアーティスト活動に関するマネジメントであるとし,貴社の代表者が,暴力団幹部の経歴をもつ父親の威力を背景に担当アーティストを恐喝し,強要罪で実刑判決を受け服役していたという事実が判明したこと,及び,韓国での係争中の訴訟の結果次第では本件契約(注記:本件専属契約を指す。以下,引用文につき同じ。)が無効となる可能性があることといった事情が存する以上,当社が上記の委任の本旨に従った事務処理を行うために,これらの事情が克服され,JYJの日本国内における『適正・適法』なアーティスト活動のマネジメントが実現できるようになるまで,マネジメントを一時的に休止することも,事務処理の方法として,適正かつ妥当なものといえることは明らかです。,本件対応は,…JYJの日本でのアーティスト活動に関するマネジメントの一時的な休止に過ぎず,換言すれば,貴社の代表者が交替し,韓国での訴訟の結果,本件契約の有効性に問題がないことが判明すれば,マネジメント業務を再開するつもりであることが明らかにされております。などとした上で,本件対応は,本件契約のいずれの条項にも違反しておらず,本件契約の解除事由は一切存しないものと思料いたします。当社としましては,本件契約を解消する意思はなく,契約の解除事由もありませんので,本件契約は,今後も引き続き有効に成立しているものと考えております。,

なお,万が一,貴社が,本件契約の解除を前提に,当社を介さず日本におけるJYJのアーティスト活動を強行された場合には,必要な法的措置を採らざるを得ないこととなりますので,その旨ご承知おき下さい。

などと回答した。
原告シージェスは,被告エイベックスに対し,平成23年2月22日付け通知書をもって,原告シージェスが指摘する違反事項について30日を経過するも治癒がなかったとして,本件専属契約は,17条(2)に基づいて解除された旨を通知し,当該通知書は同月23日被告エイベックスに到達した(本件解除)。
(以上につき枝番号を含めて甲3~5)
(6)

国技館コンサートに至る経過
原告シージェスは,平成23年3月17日,ザックとの間で,横浜アリーナにおいて,JYJのコンサートを共同主催する旨の契約を締結し,ザックは,同月22日,関係者に対し,同年6月7日横浜アリーナにおいて,JYJのコンサートを開催する旨通知した。
これに対し,被告エイベックスは,原告シージェスに対し,平成23年3月23日付け通知書をもって,本件専属契約について解除事由がなく,本件専属契約は現在もなお有効に存続しているとし,貴社が,本件契約が解除されていることを前提に,当社を介することなく,JYJのアーティスト活動を行うことが判明した場合には,貴社のすべての取引先(テレビ局,レコード製作会社,コンサートイベンター等)に対する事前の警告等,これを阻止するために必要なあらゆる方策を講じる予定であることも,併せて警告して参りましたなどとして,上記コンサートを中止するよう要求した。
また,被告エイベックスは,ザックに対し,平成23年3月23日付け通知書をもって,上記コンサートを開催した場合には,ザックは,被告エイベックスが日本においてJYJのマネジメント業務を独占的に行う権利を有していることを知りながら,被告エイベックスに無断でJYJをイベントに参加させることになるなどとして,上記コンサートの開催中止を要求するとともに,損害賠償を請求することも検討せざるを得ない旨を通知した。
(以上につき甲6,9,10,35,乙15)


被告エイベックスは,横浜アリーナに対し,平成23年3月28日付け文書をもって,被告エイベックスは,原告シージェスとの間で本件専属契約を締結しており,日本においてJYJのマネジメント業務を独占的に行う権利があるので,JYJは被告エイベックスを介することなく日本でアーティスト活動を行うことはできないなどとして,会場の利用を許可しないよう要求した。このため,横浜アリーナは,ザックに対し,同月30日付け文書及び同年4月1日付け通知書をもって,興行権等の帰属を巡って係争中であることが確認されたため,イベントの円滑な開催が困難な状態にあるなどとして,横浜アリーナの利用申込みを承認することができない旨を通知した。
(甲7,11の1及び2,甲35)

そこで,ザックは,さいたまアリーナに会場を変更し,平成23年4月5日,そのホームページにおいて,JYJのコンサートのチケット販売を開始した。しかし,被告エイベックスは,ザックに対し,同日付け通知書をもって,上記コンサートの中止を要求するとともに,さいたまアリーナに対し,会場の利用を許可しないよう要求した。そのため,さいたまアリーナは,ザックに対し,会場の利用を許可しない旨を通知するとともに,同月14日,そのホームページにおいて,お知らせとして,出演が予定されているアーティストの契約に関する問題が存在する中で,ザックに対して会場の利用を許可することは適切でないと判断した旨を掲載した。(甲12,15,16,35)


そのため,ザックは,再び会場を変更し,平成23年4月21日,被告相撲協会に対し,コンサートを目的として,国技館の利用を申し込み,同月25日使用料を支払った。他方,被告エイベックスは,被告相撲協会に対し,同年5月10日付け文書をもって,原告シージェスとの間で本件専属契約を締結しており,日本においてJYJのマネジメント業務を独占的に行う権利があるので,JYJは被告エイベックスを介することなく日本でアーティスト活動を行うことはできないなどとして,会場の利用を許可しないよう要求し,また,同年6月2日付け文書をもって,同様の要求をした上,会場を利用させると損害賠償請求を行わざるを得ない旨を通知した。
(甲35,乙21,22,丙2,8,9の1及び2)

原告シージェスとザックは,平成23年6月7日,国技館において,JYJのコンサートを開催した(国技館コンサート)。


その後,被告エイベックスは,株式会社ノースロードミュージック(一般社団法人コンサートプロモーターズ協会会員)を含む数社に対し,平成23年7月7日付け文書をもって,原告シージェスとの間で本件専属契約を締結しており,日本においてJYJのマネジメント業務を独占的に行う権利があるなどとして,JYJのコンサート等の主催,企画,運営等に関与すると損害賠償請求を行わざるを得ない旨を通知した。
(甲17,21,弁論の全趣旨)

(7)

ひたちなかコンサート
原告シージェスとザックは,頑張ろう日本・頑張れ茨城・復興支援コンサートinひたち海浜公園実行委員会を主催者として,国営ひたち海浜公園において,平成23年10月15日及び16日,JYJの参加するコンサートを開催した(ひたちなかコンサート)。


被告エイベックスは,ひたちなかコンサートに先立ち,国土交通省関東地方整備局に対し,平成23年8月30日付け文書をもって,原告シージェスとの間で本件専属契約を締結しており,日本においてJYJのマネジメント業務を独占的に行う権利があるので,JYJは被告エイベックスを介することなく日本でアーティスト活動を行うことはできないなどとして,会場の利用を許可しないよう要求するとともに,会場を利用させると損害賠償請求を行わざるを得ない旨を通知した。
また,被告エイベックスは,頑張ろう日本・頑張れ茨城・復興支援コンサートinひたち海浜公園実行委員会のメンバーであった株式会社JTBコミュニケーションズに対し,平成23年9月8日付け通知書をもって,原告シージェスとの間で本件専属契約を締結しており,日本においてJYJのマネジメント業務を独占的に行う権利があるなどとして,JYJのイベントの開催中止を要求するなどした。そのため,株式会社JTBコミュニケーションズは,実行委員会のメンバーから離脱することになった。(以上につき甲30~32,35)

被告エイベックス(社長室部長ほか1名)は,ひたちなかコンサートの直前である平成23年10月13日,ひたちなかコンサートの後援者である茨城県庁(広報室),水戸市役所,ひたちなか商工会議所,水戸商工会議所を訪問し,JYJはビザを取得していない旨,原告シージェスとの間で本件専属契約を締結しており,被告エイベックスの承諾なくJYJのコンサートを開催することはできない旨,ひたちなかコンサートを実行した場合には被告相撲協会と同様に訴える旨を説明し,ひたちなかコンサートを中止するよう要求した。
(弁論の全趣旨)

(8)

未払の分配金等
本件専属契約では,被告エイベックスは,原告シージェスに対し,JYJの実演活動の対価として,著作隣接権又は著作権が存続する期間中,本件専属契約10条(1)②の定めに従って,アーティスト印税を算出して支払うものとされ,JYJのコンサート等の出演に関する利益分配として,同条(1)③の定めに従って,利益分配金額を算出して支払うものとされていた。


被告エイベックスは,原告シージェスに対し,平成22年10月から平成23年3月分のアーティスト印税348万6331円が未払である(本件解除後に発売されたCD及びDVDに対するアーティスト印税については,本件専属契約に基づく債務か否かに争いがあるため,上記金額に含めていない。)。

被告エイベックスは,原告シージェスに対し,平成22年10月以降の利益分配金3993万3342円が未払である。


被告エイベックスは,原告シージェスに対し,その他169万7453円(平成23年12月19日現在)が未払である。


(9)

上記イ~エの合計は4511万7126円である。
JYJのCD及びDVD
被告エイベックスが現在発売しているJYJのCD及びDVDは,別紙著
作物目録1~8記載のとおりである。
(10)

原告甲についての韓国における刑事判決
原告甲は,平成19年5月16日,ソウル中央地方法院において,強要罪
に当たる犯罪事実を行ったと認定され,懲役8か月の実刑判決を言い渡されたため,同判決に対して控訴した。そして,原告甲は,控訴審において,一部の犯罪事実がなかったとして同判決が破棄されたものの,別紙認定犯罪事実記載のとおり犯罪事実が認定され,懲役8か月の実刑判決が言い渡されたため,その後刑務所に服役した。
(枝番号を含めて乙26,27,弁論の全趣旨)
3
争点
(1)

全事件共通
被告エイベックスの本件専属契約違反の有無(争点1-1)

(2)

第1事件


不正競争防止法3条1項に基づく差止請求の成否(争点1-2)


業務遂行権に基づく差止請求の成否(争点1-3)

(3)

第2事件

原告シージェスの本件専属契約違反の有無(争点2-1)


共同不法行為(債権侵害)の成否(争点2-2)


損害額(争点2-3)

(4)

第3事件
本件専属契約に基づく未払契約金の額(又は債務不履行に基づく損害賠償としての未払契約金相当額)(争点3-1)


債務不履行に基づく損害賠償としての逸失利益の額(争点3-2)

コンサート活動の妨害を理由とする不法行為の成否及び損害額(争点3-3)


著作隣接権侵害を理由とする不法行為の成否及び損害額(争点3-4)

名誉毀損の成否,損害額及び名誉回復措置の必要性(争点3-5)
(5)

第4事件

アイ1
共同不法行為(債権侵害)の成否(争点4-2)


第3

原告シージェスの本件専属契約違反の有無(争点4-1)

損害額(争点4-3)

争点に関する当事者の主張
全事件共通
被告エイベックスの本件専属契約違反の有無(争点1-1)
(原告シージェスの主張)
(1)

被告エイベックスは,本件専属契約締結後間もなくして,原告甲が過去
において刑事事件で実刑判決を受けており,現在も暴力団関係者と関係があるとして,本件専属契約を解約して,被告エイベックスとJYJとの間で,直接,専属契約を締結するよう要求してきた。
これに対して,原告シージェスは,原告甲が過去において刑事事件で実刑判決を受けたことは事実であるが,被告エイベックスもかかる事実を知った上で本件専属契約を締結していたのであるから,本件専属契約締結後にかかる事実を再燃させるのは不合理であること,また,原告甲が暴力団関係者と関係があるなどという事実は全く存しないことを説明して,被告エイベックスとの間で円満な解決を図ろうと誠実に協議する姿勢を示したが,被告エイベックスは,原告シージェスとの協議に誠実に応じることなく,被告エイベックスの意向を一方的に押しつけてきた。
被告エイベックスは,平成22年6月にJYJのコンサートを開催して以降,個別にJYJのアーティスト活動を企画・計画したり,個別のアーティスト活動にかかる具体的スケジュールについて原告シージェスに通知することも一切しなくなり,同年9月16日頃,突然,被告エイベックスのホームページにおいて,原告甲の父親が暴力団の組員である疑いがあること,原告甲が刑事事件で実刑判決を受けたことが発覚したこと,韓国で係争中のJYJの専属契約確認訴訟の進展により,本件専属契約が無効とされる可能性が高まってきたこと,そのため,コンプライアンス重視,企業倫理重視の経営方針から,これらの問題が解決されない限り,JYJの日本での公演等を一切控えると公表した。
そして,実際,その後も,被告エイベックスは,原告シージェスに対し,JYJのアーティスト活動を企画・計画したり,個別のアーティスト活動にかかる具体的スケジュールについて原告シージェスに通知することも一切せず,JYJの日本での公演等の一切のアーティスト活動を行わせなかった。被告エイベックスは,JYJをいわば飼い殺しにすることとしたのであった。
(2)

被告エイベックスの行為は,本件専属契約5条の業務の履行義務違
反,15条の保証義務違反,16条の社会的信用の失墜を招くような言動をしない義務違反に該当する行為である。

5条の業務の履行義務違反
被告エイベックスは,JYJのアーティスト活動を行わない旨公表するなどして,平成22年7月以降,現在に至るまで,JYJのアーティスト活動を企画・計画しなかった。被告エイベックスのかかる行為は,5条(1)の個別に本件アーティストのアーティスト活動を企画・計画する義務条項に違反するものである。
また,被告エイベックスは,JYJのアーティスト活動を行うために必要なレッスンその他の機会を提供せず(5条(2)①),被告エイベックスが企画,構成,演出した出演業務を提供せず(5条(2)②),レコード等の利用行為を行うために必要な契約を締結せず,(5条(2)③),平成22年7月頃以降のアーティスト活動を行わず(5条(2)④),JYJのための広報宣伝活動を行わず,5条(2)の各条項に違反した。

15条の保証義務違反
被告エイベックスは,原告シージェスに対し,本件専属契約に基づく原告シージェスの権利(JYJのアーティスト活動を行わせる権利等)につき,何らの支障もないことを保証しているにもかかわらず(15条(2)②),被告エイベックスから積極的に原告シージェスの権利を妨げる行為を行い,上記保証義務に違反する行為を行った。
また,本件専属契約15条(5)によれば,被告エイベックスが本契約期間中,本契約に影響を及ぼすおそれのある行為を行う場合,事前に相手方と協議の上,相手方の書面による承諾を得るものとしますとある。そして,被告エイベックスがJYJのアーティスト活動のマネジメント業務を休止することは,同条項にいう本契約に影響を及ぼすおそれのある行為であり,相手方である原告シージェスの書面による承諾を得なければ行うことはできない行為である。ところが,被告エイベックスは,原告シージェスの書面による承諾を得ることなく,JYJのアーティスト活動のマネジメント業務を休止(放棄)したのであるから,被告エイベックスの行為は,明らかに同条項に違反する行為である。

16条の社会的信用の失墜を招くような言動をしない義務違反
被告エイベックスは,原告シージェスに対し,(JYJも含む)原告シージェスの名誉・声望の毀損並びに社会的信用の失墜を招くような言動をしてはならない義務を負っているところ(16条(1)),被告エイベックスは,被告エイベックスのホームページにおいて,原告甲の父親が暴力団の組員である疑いがあること,原告甲が刑事事件で実刑判決を受けたことが発覚したこと,そのことを理由として,本件専属契約が無効である可能性があること,それため,今後,JYJの日本での公演等を一切控えると公表することにより,原告シージェスはもちろんJYJの名誉・声望の毀損並びに社会的信用の失墜を招くような言動を行い,上記条項に違反した。

上記のとおり,被告エイベックスは,本件専属契約の複数の条項に違反する行為を行い,しかも,それらの行為により,被告エイベックスと原告シージェスの信頼関係は回復できないほど破壊された。
しかも,被告エイベックスが指摘する事実のうち,原告甲が過去において刑事事件で実刑判決を受けたことがあるとの事実のみ真実であるが,それ以外の事実は全く事実に反している。特に,原告甲又はその父が暴力団幹部の経歴を持つなどという事実など全くなく,また,韓国での係争中の訴訟は,本件専属契約時に既に織り込み済みであって,本件専属契約の効力とは全く関係はない。仮処分決定において,本案訴訟の確定までJYJに自由なアーティスト活動が保証されている(甲28)以上,被告エイベックスが主張するように,S.M.から損害賠償請求されることもない。

また,本件専属契約17条(4)によれば,第三者の根拠のないあるいは誇張された主張やうわさなどによる場合には甲(被告エイベックス)は最大限乙(原告シージェス又はJYJ)を保護しなければならない義務があるところ,被告エイベックスは,かかる義務に違反して,根拠のないあるいは誇張された主張やうわさを公表して,原告シージェス及びJYJのアーティスト活動を中止するという専属契約違反の行為を行った。(3)

原告シージェスは,被告エイベックスに対し,平成23年1月21日付
け内容証明郵便をもって,本件専属契約17条(2)に基づいて,30日以内に違反事項が治癒されるよう催告するとともに,上記期間内に治癒されなかった場合には,本件専属契約を解除する旨を通知し,同書面は同月24日に被告エイベックスに到達した。しかし,被告エイベックスは,上記30日を経過するも違反事項を治癒させることはなかった。
したがって,本件解除は有効である。
(4)

被告エイベックスは,本件専属契約の法的性質が準委任契約であること
を前提として,民法644条及び商法505条の規定の趣旨から,契約書に明示的に記載されていないことでも,委任の趣旨に合致する行為を行うことができるとして,JYJのマネジメント業務を休止することは委任の趣旨に合致する行為であると主張する。しかし,本件専属契約の法的性質については,雇用的な面もあり,準委任と雇用の混合契約あるいは一種の無名契約であると解すべきである。
確かに,準委任契約についてみれば,民法644条及び商法505条の規定の趣旨から,契約書に明示的に記載されていないことでも,委任の趣旨に合致する行為を行うことができると解されている。しかし,それは,あくまで委任者の利益を図るために,受任者は,委任者に対する善管注意義務の範囲内において,委任者の利益を図る上で必要であれば,契約書に明示的に記載されていないことでも行うことができ,むしろ行うことが義務づけられているという意味である。
ところが,被告エイベックスの主張する被告エイベックスが行うことができる契約書に記載されていない行為とは,JYJのマネジメント業務を遂行する義務を放棄するという,委任者の利益に反する,委任者が望んでいない行為のことであり,被告エイベックスのコンプライアンスを遵守するという目的のためであれば,かかる行為も行うことができるとするものである。これは,民法644条及び商法505条の規定の趣旨に反する解釈論であり,解釈論としての限界を大きく超えるものである。
もし,被告エイベックスの主張のとおり,JYJのマネジメント業務をこのまま継続することが被告エイベックスのコンプライアンスの観点から問題があり,JYJのマネジメント業務を行わないというという経営方針をとらなければならないのであれば,被告エイベックスとしては,本件専属契約を解消して,被告エイベックスの経営理念を守ればよいことであり,委任の趣旨からは,むしろ,本件専属契約を解消することが善管注意義務の観点から契約上義務づけられているというべきである(民法651条1項,同条2項ただし書参照)。
しかも,被告エイベックスは,コンプライアンスの観点からJYJのマネジメント業務を遂行することが困難又は支障が生じると判断した場合,本件専属契約17条(4)に基づき,自らのイニシアティブのみをもって,本件専属契約を解除することもできるのであるから,なおさら,本件専属契約を解消するための方策をとるべき義務を負っているというべきである。ところが,被告エイベックスは,そのような行為をしようとしないばかりか,原告シージェスに対し,本件専属契約を合意解除することにより,被告エイベックスとJYJとの直接契約の締結を可能にすることを強要し,原告シージェスからの本件専属契約解消の申し入れについてもことごとく拒否するという受任者としての善管注意義務に違反する行為を行っているのである。(被告エイベックスの主張)
(1)

原告シージェスの主張(1)のうち,被告エイベックスが,原告甲が過去に
おいて刑事事件で実刑判決を受けていたことを知った後,JYJに対し,被告エイベックスと直接専属契約を締結するよう求めたこと,これに対し,原告シージェスが,原告甲が過去において刑事事件で実刑判決を受けたことは事実であるが,被告エイベックスもかかる事実を知った上で本件専属契約を締結したのであるから,本件専属契約締結後にかかる事実を再燃させるのは不合理であり,原告甲が暴力団関係者と関係があるなどという事実は全く存しない旨の説明をして,被告エイベックスに協議に応じるよう求めたこと,被告エイベックスが,平成22年9月16日,原告甲が刑事事件で実刑判決を受けたことが発覚したこと及び韓国におけるJYJとS.M.との別件訴訟の進展により本件専属契約が無効とされる可能性があることを理由として,今後JYJの日本でのアーティスト活動をマネジメントするべきではないと判断した旨公表したこと,その後被告エイベックスがJYJの日本での公演等を一切行っていないことは認め,その余は不知ないし否認する。被告エイベックスが,原告甲が過去に刑事事件で実刑判決を受けたことを知りながら本件専属契約を締結したとの主張は事実に反する。
原告シージェスの主張(2)アのうち,被告エイベックスが,平成22年9月16日,JYJのアーティスト活動を行わない旨公表したことは認め,その余は否認する。JYJは,同年8月に東京及び大阪で行われた野外イベントa―nation'10に出演しており(乙3),原告シージェスの主張は事実に反する。同(2)イは否認する。同(2)ウのうち,被告エイベックスが,原告甲が刑事事件で実刑判決を受けたことが発覚したこと及び今後JYJの日本でのアーティスト活動をマネジメントするべきではないと判断した旨公表したことは認め,その余の事実は否認する。同(2)エのうち,原告甲が過去において刑事事件で実刑判決を受けたことがあるとの事実が真実であることは認め,その余は不知ないし否認する。同(2)オのうち,本件専属契約17条(4)が第三者の根拠のないあるいは誇張された主張やうわさなどによる場合に甲(被告)は最大限乙(原告)または本件アーティスト(JYJ)を保護しなければならない義務があると規定していることは認め,その余は不知ないし否認する。
原告シージェスの主張(3)のうち,原告シージェスが,被告エイベックスに対し,平成23年1月21日付け通知書にて,本件専属契約17条(2)に基づいて,30日以内に違反事項を治癒するよう催告するとともに,上記期間内に治癒されなかった場合には,本件専属契約を解除する旨を通知したこと,同書面が同月24日に被告エイベックスに到達したことは認め,その余は否認する。
(2)

本件専属契約は,被告エイベックスがJYJの日本におけるアーティス
ト活動に関するマネジメント業務を行うことを目的に締結された準委任契約である。この点,民法644条及び商法505条の規定の趣旨からすれば,たとえ契約書に明示的に記載されていなかったとしても,受任者において,委任の趣旨に合致する行為を行う限りにおいては,何ら契約違反を構成しない。本件においては,原告甲が暴力団幹部の経歴をもつ父親の威力を背景に担当アーティストを恐喝し,強要罪で実刑判決を受け服役していたとの報道がされたこと,及び韓国で係争中のS.M.との別件訴訟の進展により,被告エイベックスが日本におけるJYJのマネジメント業務を独占的に行う権限を失う可能性が高まってきたことを受け,被告エイベックスにおいて,JYJのアーティスト活動に関するマネジメント業務を一時休止するという本件対応をとったことは,委任の趣旨に反しないどころか,むしろ合致するものであって,何ら契約違反となるものではない。特に,アーティストのマネジメント業務を主要な業務内容とする被告エイベックスにとって,自身がマネージャーを務めた俳優に対し,専属契約を結ばなければ弱みを暴露すると迫った強要罪で実刑判決を受けたという事実は,その他の犯罪行為によって有罪判決を受けた場合と比較しても,コンプライアンス上極めて深刻な事実である。加えて,原告甲は,暴力団幹部の経験をもつ父親の威力を背景に担当アーティストに強要したというのであるから,反社会的勢力との関係断絶を基本方針とするエイベックスグループの一員である被告エイベックスにとって,なおさら重大かつ深刻な事実である。
上記のとおり,一部上場企業の傘下にある被告エイベックスにとってコンプライアンス遵守は極めて重要な命題であり,所属アーティストのマネジメントを行うに際しては,適正かつ適法な業務遂行が当然の大前提となる。他方,原告シージェスにとっても,JYJが韓国出身の男性アイドルグループであり,日本でのファン層の中心が十代の女性であることを考えれば,JYJが暴力団や犯罪行為,さらには法的トラブル等とは無縁な清廉なイメージを確保し増進することは日本でのマネジメント戦略上極めて重要であり,JYJのイメージを確保し増進するためには適正かつ適法なマネジメント業務を委託することは自明のことである。
また,被告エイベックスは,韓国でJYJに有利に進んでいると思われた裁判が,平成21年5月に本案訴訟が開始されて以降,S.M.に有利に展開する可能性が出てきたとの報道(乙1の3~4)を受けて韓国での別件訴訟の進展により,被告エイベックスが日本におけるJYJのマネジメントを失う可能性が高まってきたとの認識を抱くようになったのであるから,本件専属契約締結以前とは状況が変わったのである。仮に,本案訴訟でS.M.が勝訴し,S.M.とJYJとの専属契約が仮処分決定時に遡って有効であると判断された場合,被告エイベックスは無権限の原告シージェスから委託を受けたことになり,S.M.から不法行為に基づく損害賠償請求を受けるおそれがある。このような懸念があることから,別件訴訟の趨勢が,JYJのマネジメント業務を行うことの阻害要因となるのである。
そして,原告シージェスと被告エイベックスは,被告エイベックスのコンプライアンス重視・企業倫理遵守という経営方針を十分に理解した上で本件専属契約を締結しているため,本件専属契約における委任の趣旨は,あくまでも被告エイベックスによるJYJの日本国内における『適正・適法』なアーティスト活動に関するマネジメントであるといえる。かかる委任の趣旨に鑑みれば,本件において,韓国でのJYJのマネジメント業務を行っている原告甲を巡る報道や韓国で係争中のS.M.との別件訴訟の結果次第では,被告エイベックスが日本におけるJYJのマネジメント業務を独占的に行う権限を失う可能性があることといった事情が判明したにもかかわらず,被告エイベックスがその後も漫然とJYJの日本国内におけるアーティスト活動のマネジメントを行うことが,適正・適法なマネジメントなどと到底評価することができないことは明らかである。以上の点からすれば,被告エイベックスの本件対応は,本件専属契約の委任の趣旨に合致する,極めて適切かつ妥当な事務処理の方法であるから,被告エイベックスが日本におけるJYJのアーティスト活動を企画・計画する義務を履行する旨規定した本件専属契約5条に違反するものではないことは明らかである。
(3)

本件専属契約15条(2)②は,前号に基づきと規定されているように,
同条(2)①を受けて,被告エイベックスが,原告シージェスの日本におけるJYJのアーティスト活動を行わせる権利等につき,何らの支障もないことを保証している。
ところで,本件専属契約15条(2)①には,如何なる第三者からも何等の拘束又は異議申立てを受けることなく,本契約を自由且つ有効に履行しうることと規定されており,同条(2)②は同条(2)①を受けて,原告シージェスの権利行使に支障を及ぼす第三者からの異議申立てその他の請求等がないように,被告エイベックスが本件専属契約に基づく原告シージェスの権利行使の円滑な遂行を保証するものである。
被告エイベックスが,本件専属契約締結後に発覚した事情に基づいてJYJのマネジメント業務を自らの判断のもとで一時的に休止することは,15条(2)②が想定している第三者による異議申立てその他の請求等により原告シージェスの日本におけるJYJのアーティスト活動に支障が生ずることとは明らかに異なるものである。したがって,かかる被告エイベックスの行為は同条項違反にあたるものではない。また,本件対応は,適切かつ妥当なものであり,同条(2)に違反するものでないことは明らかである。本件専属契約15条(5)にいう本契約に影響を及ぼすおそれのある行為として想定されているのは,同条項の括弧書きに例示列挙されている日本市場を含むアジア市場向け又は全世界市場向けの企業広告に本件アーティストが出演する場合や,日本市場を含むアジア市場向け又は世界市場向けのコンサート・舞台・演劇に本件アーティストが出演する場合及び当該出演したコンサート・舞台・演劇等が収録されたビデオが日本で販売される場合等であって,同条項は,このように本契約と抵触する可能性のある契約やビジネスを行う場合に相手方の書面による同意を要求した規定であるから,被告エイベックスが本件専属契約締結後に発覚した事情に基づいてJYJのマネジメント業務を自らの判断のもとで一時的に休止する場合には,同条項は適用されないものと解するのが相当である。
(4)

本件専属契約16条は,契約の相手方の社会的信用の失墜を招くような
言動をしない義務を規定しているところ,一般人の普通の捉え方と注意に基づいて判断した場合,本件対応が,原告シージェス又はJYJの社会的信用を失墜させるものでないことは明らかである。
本件対応は,JYJの日本でのアーティスト活動に関するマネジメントの一時的な休止にすぎず,原告甲が交替し,韓国での別件訴訟の結果,被告エイベックスが日本におけるJYJのマネジメント業務を独占的に行うことに何ら問題がないことが判明すれば,マネジメント業務を再開するつもりであることが明らかにされている。被告エイベックスとしては,事態の好転と本件専属契約の継続を期待して推移を見守っていることを明らかにしているのであり,原告シージェス又はJYJの社会的信用の失墜があったとは到底いえない。
また,被告エイベックスの行為は,暴力団や犯罪行為,さらには法的トラブル等とは無縁の清廉なJYJのアーティストとしてのイメージの維持に資することはあっても,これを損なうことはない以上,原告シージェス又はJYJの社会的信用の失墜がないことは明らかである。
(5)

原告シージェスは,被告エイベックスが本件専属契約の複数の条項に違
反する行為を行ったことにより,原告シージェスと被告エイベックス間の信頼関係は回復できないほど破壊された旨主張するが,上記のとおり,被告エイベックスが本件専属契約の条項に違反した事実は一切存しないのであるから,かかる原告シージェスの主張には前提に誤りがあり,失当である。(6)

原告シージェスは,被告エイベックスが本件専属契約17条(4)に違反し
て,『根拠のないあるいは誇張された主張やうわさ』を公表して,原告シージェス及びJYJのアーティスト活動を中止するという専属違反契約を行った旨主張する。しかしながら,原告甲が暴力団幹部の経歴をもつ父親の威力を背景に担当アーティストを恐喝し,強要罪で実刑判決を受け服役していたとの報道がされたのは事実であり,また,実際に,韓国で別件訴訟が係属しており,この別件訴訟の結果次第では,原告シージェスがJYJの独占的なマネジメント業務の権限を失い,それにより被告エイベックスが本件専属契約に基づく日本でのJYJの独占的なマネジメント業務の権利を失う可能性があることは事実であるから,被告エイベックスが根拠のないあるいは誇張された主張やうわさを公表したのではないことは明らかである。(7)

以上のとおりであるから,被告エイベックスに本件専属契約の契約違反
がなく,原告シージェスによる本件解除が無効であることは明らかであり,本件専属契約は現在もなお,有効に存続している。
(被告相撲協会の主張)
原告シージェスの主張を援用する。
2
第1事件
(1)

不正競争防止法3条1項に基づく差止請求の成否(争点1-2)

(原告シージェスの主張)

被告エイベックスは,本件解除後も,原告シージェスから依頼されてJYJのコンサートを主催しようとしたザックや,JYJにコンサート会場を提供しようとした横浜アリーナに対し,本件専属契約は現在も有効に成立しており,原告シージェスは被告エイベックスの承諾を得ることなくJYJのアーティスト活動を行うことはできないので,上記各業務を中止するよう要求し,もし,被告エイベックスの上記要求に応じない場合には損害賠償を請求することを検討する旨の通知をした。
また,被告エイベックスは,本件解除後,被告エイベックスのホームページ上で,被告エイベックスが日本国内におけるJYJの独占的なマネジメント権を保有しているもので,原告シージェスが被告エイベックスの許諾なくコンサートを行うことができない旨を公表した。


しかし,被告エイベックスは,本件解除により,日本におけるJYJのマネジメント権を喪失したから,被告エイベックスが原告シージェスの取引先に対し告知し,ホームページで公表している本件専属契約は現在も有効に成立しており,原告シージェスが被告エイベックスの承諾を得ることなくJYJにアーティスト活動を行わせることは,日本におけるJYJの独占的なマネジメント業務を遂行する被告エイベックスの権利を侵害する旨の事実は虚偽である。そして,この虚偽の事実は,原告シージェスが被告エイベックスの権利を侵害しようとしているという内容を含み,原告シージェスの営業上の信用を毀損する事実である。


よって,被告エイベックスのかかる行為は,不正競争防止法2条1項14号の競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し,又は流布する行為であり,原告シージェスは,不正競争防止法3条1項に基づき,被告エイベックスのかかる侵害行為の差止めを請求することができる。
(被告エイベックスの主張)

原告シージェスの主張アのうち,被告エイベックスが,原告シージェスから解除通知を受領して以降,原告シージェスから依頼されてJYJのコンサートを主催しようとしたザック及びJYJにコンサート会場を提供しようとした横浜アリーナに対し,本件専属契約は現在も有効に成立しており,原告シージェスは被告エイベックスの承諾を得ることなくJYJのアーティスト活動を行うことはできないので,JYJの参加するイベント等を開催しないことや横浜アリーナの利用を許諾しないことを要請したこと,ザックに対しては,上記に加え,被告エイベックスの請求に応じない場合,損害賠償を請求することを検討せざるを得ない旨通知したこと,被告エイベックスが日本国内におけるJJY(=JYJ)の独占的なマネジメント権を保有しており,原告シージェスが被告エイベックスの許諾なくJYJの参加するコンサートを開催することはできない旨公表したことは認め,その余は否認する。被告エイベックスが,横浜アリーナに対して,被告エイベックスの要請に応じない場合には,損害賠償を検討せざるを得ない旨の通知を行った事実はない。
原告シージェスの主張イ及びウは否認する。


本件専属契約が,現在も有効である以上,被告エイベックスは,日本におけるJYJの独占的なマネジメント業務を遂行する権利を有しており,原告シージェスが,被告エイベックスの承諾を得ることなくJYJにアーティスト活動を行わせることは,かかる被告エイベックスの権利を侵害することになるのである。


したがって,被告エイベックスが,ザック及び横浜アリーナ社に通知し,ホームページ上で公表している事実は真実であって,これらの行為は不正競争防止法2条1項14号には該当しないのであるから,同法3条1項に基づく差止請求権が認められないことは明らかである。
(2)

業務遂行権に基づく差止請求の成否(争点1-3)

(原告シージェスの主張)

被告エイベックスは,ザックとともにコンサートを企画していた原告シージェスに対し,本件解除を争い,もし原告シージェスが被告エイベックスを介することなく日本においてJYJのアーティスト活動を行うことが判明した場合,貴社の全ての取引先(テレビ局,レコード制作会社,コンサートイベンター等)に対する事前の警告等,これを阻止するために必要なあらゆる方策を講じる予定である(甲10)として,原告シージェスの業務活動を阻止する行為を行う旨を通知した。
そして,被告エイベックスは,上記通知と同時期に,ザックに対し,本件専属契約は現在も有効に成立しているのだから,原告シージェスは被告エイベックスの承諾を得ることなくJYJのアーティスト活動を行うことはできないことなどを理由として,コンサートを中止するよう要求し,もしザックが上記要求に応じない場合には損害賠償を請求する旨通知した。被告エイベックスは,平成23年3月28日,横浜アリーナに対し,JYJのコンサートの利用許諾を行わないよう申し入れ,横浜アリーナは,ザックに対し,会場の利用許諾を与えない旨を通知した。
また,被告エイベックスは,平成23年4月5日付け通知書において,ザックに対し,さいたまアリーナに変更後のコンサートについても中止するよう要求した。さいたまアリーナは,同月14日,そのホームページ上で,ザックに対してコンサートの利用許可を出していない旨公表し,ザックに対し,会場の利用許諾を与えない旨を通知した。
さらに,被告エイベックスは,ひたちなかコンサートに先立ち,国土交通省及び株式会社JTBコミュニケーションズに対し,本件専属契約は有効に存続しており,ひたちなかコンサートを強行した場合には,被告相撲協会に対して行ったのと同様に法的措置をとることも検討せざるをえない旨通知した。そして,被告エイベックス(社長室部長ほか1名)は,ひたちなかコンサートの直前である平成23年10月13日,県会議員とともに,後援者である茨城県庁(広報室),水戸市役所,ひたちなか商工会議所,水戸商工会議所,ひたちなか公園事務所を訪問し,①ひたちなかコンサートを主催しているザックは右翼と繋がっている反社会的勢力である,②JYJはビザをとっていない,③本件専属契約を締結しており,被告エイベックスの承諾なくJYJのコンサートを開催することはできない,④公演を実行したら被告相撲協会と同様に訴えるなどと言って,ひたちなかコンサートを中止するよう要請し,⑤もし公演を実行したらマスコミにまきちらしてやると公言した。

本件専属契約の有効性がどのようなものだとしても,原告シージェスは,基本専属契約に基づき,JYJのマネジメント業務を行う権利を有するのであるが,法人である原告シージェスの業務を遂行する権利は,法人の財産権及び従業員の労働行為により構成されるものであるから,法人自体の権利であるとともに,法人の業務に従事する者の人格権を内包する権利ということができる。
そして,被告エイベックスの妨害行為は,権利行使としての相当性を超え,原告シージェスの持つ資産の本来予定された利用を著しく害し,業務に及ぼす支障の程度が著しく,事後的な損害賠償では原告シージェスに回復困難な重大な損害が発生すると認められるのであるから,被告エイベックスの妨害行為は原告シージェスの業務遂行権に対する違法な妨害行為といえ,原告シージェスは,被告エイベックスに対し,業務遂行権に基づき,被告エイベックスの妨害行為の差止めを請求することができる。

本件では,東京高等裁判所平成20年7月1日決定の基準に従ったとしても,以下のとおり,業務遂行権に基づく妨害行為差止請求権が認められるというべきである。
(ア)

当該行為が権利行使としての相当性を超えていること(要件①)被告エイベックスの原告シージェスに対する妨害行為の内容
被告エイベックスは,原告シージェスに対し,内容証明郵便をもって,あらゆる手段を講じてJYJの日本におけるアーティスト活動のマネジメント業務を妨害すると通知し,実際,そのとおりの行動をとってきたのである。具体的には,平成23年6月7日にJYJのチャリティーコンサートを開催するために,各コンサート会場に利用申込みをしたところ,コンサートの主催者,コンサート会場の運営者等に対し,会場の利用を許諾してコンサートを開催した場合には,仮処分等の法的手続きをとるなどと通知したり,各テレビ局,各新聞社,その他のマスコミ各社に対して,上記コンサート開催の事実を含めてあらゆるJYJに関する情報規制をかけたりしているのである。
その結果,原告シージェスは,横浜アリーナからも,さいたまアリーナからも,会場利用の許諾を拒否されたのであり,唯一,被告エイベックスと取引のない(今後も被告エイベックスと取引がないと考えられる)被告相撲協会が被告エイベックスの圧力に屈することなく会場を利用させてコンサートを開催することができた。しかし,被告エイベックスが被告相撲協会に対して損害賠償請求訴訟を提起したことから,今後,被告相撲協会を含めて被告エイベックスと取引のない者に対しても,JYJのアーティスト活動に協力すれば訴訟を提起されるという現実が突きつけられることになった。
しかも,被告エイベックスは,本件提起後も,平成23年7月7日付けの書面にて,一般社団法人コンサートプロモーターズ協会(ACPC)の会員(東京ドーム,横浜スーパーアリーナ,さいたまアリーナ,国技館などのコンサート会場を運営している企業の大半が加入している団体)に対して,JYJのコンサートには一切関わらないように通知している。
以上のことから,今後,コンサート会場を利用させるなどのJYJのアーティスト活動に協力してくれる者は皆無となったといえる。b
権利行使としての相当性の有無
被告エイベックスは,原告シージェスの代表理事の変更及び韓国におけるS.M.とJYJの裁判が終結するまでは,JYJのアーティスト活動のマネジメントを一切休止すると公表しているのであるから,原告シージェスが日本においてJYJのアーティスト活動を行わせたとしても,被告エイベックスに対して,損害その他何らかの不利益が生じるものではない。
しかも,被告エイベックスがJYJのアーティスト活動のマネジメントを休止したのは,自らがJYJのマネジメントを行うことは被告エイベックスのコンプライアンスの観点から問題があるからであるとの理由によるのであるから,被告エイベックスのコンプライアンスを遵守するとの見地からは,自らがJYJのアーティスト活動のマネジメントを行わなければよいだけのことであって,原告シージェスがJYJの日本におけるアーティスト活動を行おうとしている行為を妨害する必要性は皆無のはずである。
したがって,被告エイベックスにおいて,本件解除が無効であり,原告シージェスの行為が本件専属契約に違反する行為であると考えていたとしても,それに対する被告エイベックスの対抗策としては,原告シージェスに対する損害賠償請求等の法的手続きによるべきであって,それ以上に,原告シージェスのJYJの日本におけるアーティスト活動のマネジメントを妨害する行為まで認められるべきではない。また,被告エイベックスによる妨害行為が実際に功を奏している最大の理由は,被告エイベックスが音楽業界において圧倒的なシェアを誇っており,音楽業界を含めて,その周辺業界に対して,多大な社会的・経済的な影響力を持っていることによる。
それゆえ,被告エイベックスの権利行使が相当性を逸脱しているかどうかを判断するに際しては,被告エイベックスの妨害行為の圧力の大きさとその影響力の大きさを重要な判断要素とされるべきことは,社会正義・公平の観点,あるいは信義則の観点から当然要求されるべきことである。
そのような観点からは,被告エイベックスの行為は,音楽業界及びその周辺業界に対する圧倒的な影響力の下で行使されたものであって,社会正義・公平の観点,あるいは信義則の観点からは許されるべきものではない。

よって,被告エイベックスの妨害行為は,法的手続によることなく,JYJのアーティスト活動を妨害する何らの利益を有していないにもかかわらず,被告エイベックスの社会的・経済的な圧倒的な影響力を背景に,原告シージェスによるJYJの日本におけるアーティスト活動のマネジメントを一切妨害する行為であり,権利行使の相当性を大きく超えた行為であるというべきである。

(イ)

法人の資産の本来予定された利用を著しく害し,かつ,これら従業
員に受忍限度を超える困惑・不快を与えていること(要件②)原告シージェスは,JYJとの間で基本専属契約を締結しており,JYJに対し,マネジメント業務を行う義務を負うのと同時に,当該業務を遂行するために,JYJをしてアーティスト活動を行わせ,当該業務を遂行する権利を有する。人気アーティストであるJYJに対しアーティスト活動を行わせる権利を持つということは,芸能プロダクション会社である原告シージェスにとっては,その法人の目的たる営業活動を遂行するうえで重要な正に財産(資産)といえるものである。
それに対し,被告エイベックスは,原告シージェスとの間で本件専属契約を締結したことにより,JYJにアーティスト活動を行わせて,原告シージェスの資産の利用を図らなければならない立場にあり,もし,それができなくなった場合には,本件専属契約を解消して,原告シージェス自らが資産の利用を図れるようにすべき立場にある。
そして,被告エイベックスは,JYJの日本におけるアーティスト活動のマネジメント業務を遂行する義務を一切放棄し,原告シージェスによるJYJのマネジメントも認めず,JYJを飼い殺しにするという対応をとることにより,原告シージェスにとって正に財産(資産)であるJYJにアーティスト活動を行わせる権利を奪っただけでなく,原告シージェスがJYJにアーティスト活動を行わせて,本来得られるべき資産(数十億円と試算される)の利用をも奪ってきたのである。このような被告エイベックスの行為は,法人(原告シージェス)の資産の本来予定された利用を著しく害する行為であり,かつ,これら従業員(本件では,原告シージェス代表者,原告シージェス従業員,そして,JYJ)に受忍限度を超える困惑・不快を与える行為であることは明らかである。
(ウ)

業務に及ぼす支障の程度が著しく,事後的な損害賠償では当該法人
に回復の困難な重大な損害が発生すると認められること(要件③)JYJは,韓国だけでなく,日本においても,絶大な人気を誇るスーパースターである。しかし,芸能人は,卑近な言葉を借りれば生ものであり,数ヶ月でも乾されれば,あっという間に人気がなくなってしまうという宿命を負っているのである。本件では,本件専属契約の期間は2年半も残っているのであるから,そのような長期間,JYJが日本において一切アーティスト活動を行うことができないということになれば,日本のファンから忘れ去れてしまうことは必定である。
それゆえ,被告エイベックスの行為は,業務に及ぼす支障の程度が著しく,事後的な損害賠償では当該法人に回復の困難な重大な損害が発生すると認められるものである。(被告エイベックスの主張)

原告シージェスの主張アのうち,原告シージェスが,ザックとともにコンサートの開催を企画していたこと,被告エイベックスが,原告シージェスに対し,本件解除の有効性を争い,原告シージェスが被告エイベックスを介することなく,JYJのアーティスト活動を行うことが判明した場合には,原告シージェスのすべての取引先(テレビ局,レコード製作会社,コンサートイベンター等)に対する事前の警告等,これを阻止するために必要なあらゆる方策を講じる予定である旨通知したこと,被告エイベックスが,上記通知と同時期に,ザックに対し,本件専属契約は現在も有効に存続しているのだから,ザックがコンサートを強行することは民法上の不法行為に該当する可能性が高いことを述べた上で,ザックに対しコンサートを中止するよう要求し,もし上記要求に応じない場合には,損害賠償を請求することも検討せざるを得ない旨通知したこと,被告エイベックスが,横浜アリーナに対し,平成23年3月28日付け書面において,横浜アリーナの利用許諾を行わないよう要請したこと,横浜アリーナが,ザックに対し,横浜アリーナの利用許諾を与えない旨通知したこと,被告エイベックスが,ザックに対し,同年4月5日付け通知書において,さいたまアリーナでのコンサートを中止するよう要求したこと,さいたまアリーナが,同月14日,そのホームページ上において,ザックに対して利用許可を出していないことを公表したこと,ひたちなかコンサートに先立ち,被告エイベックスは,国土交通省及び株式会社JTBコミュニケーションズに対し,甲30,31号証の通知書を送付したこと,被告エイベックスが,平成23年10月13日,茨城県庁(広報室),水戸市役所,ひたちなか商工会議所,水戸商工会議所を訪問したこと,その際,被告エイベックスが概ね②~④の事実を説明した上,ひたちなか公演を中止するよう要請したことは認め,その余は否認する。
原告シージェスの主張イは不知ないし否認する。

業務遂行権に基づく妨害行為差止請求権について,東京高等裁判所平成20年7月1日決定(判時2012号70頁)は,業務遂行権が違法な妨害行為の差止請求の被保全権利となりうることを認める一方,かかる業務遂行権に対する違法な妨害行為については,①当該行為が権利行使としての相当性を超えていること(要件①),②法人の資産の本来予定された利用を著しく害し,かつ,これら従業員に受忍限度を超える困惑・不快を与えていること(要件②),③業務に及ぼす支障の程度が著しく,事後的な損害賠償では当該法人に回復の困難な重大な損害が発生すると認められること(要件③),という3要件を満たす場合にのみ認められると判示している。
そして,業務遂行権,営業権といった権利は,明文規定がなく,
その性質や内容等が不明確である一方,行為の差止めは被告エイベックスに重大な影響を及ぼすものであるから,差止請求が認められる場合は限定的に解されるべきであり,これらの権利に基づく業務妨害行為の差止請求権を否定する裁判例も多数存在することからすれば,業務遂行権に基づく差止請求を認めるための上記3要件の充足性は,厳格に解釈されるべきである。


本件専属契約は現在もなお有効に存続する以上,JYJの日本におけるマネジメント業務を独占的に行う法的権利は被告エイベックスに帰属しており,原告シージェスも,被告エイベックスの事前承諾なく,JYJにアーティスト活動を行わせてはならない義務を負っている(本件専属契約4条)。
原告シージェスは,日本においてJYJのマネジメント業務を行う権利を有しておらず,仮に被告エイベックスの承諾なくこれを実施した場合には,本件専属契約に違反することとなる。また,原告シージェスは,本件専属契約の当事者であって,原告シージェスが本件専属契約に違反して,被告エイベックスの意思に反してJYJの日本におけるマネジメント業務を行った場合,これによって日本におけるJYJのマネジメント業務を独占的に行う権利を有する被告エイベックスに多大な損害を与えることになることは当然認識していたはずであるから,原告シージェスの行為は,被告エイベックスの上記権利を故意に侵害する極めて悪質な行為であり,不法行為に該当する違法な行為である。被告エイベックスは,一時的にJYJの日本におけるアーティスト活動に関するマネジメント業務を休止してはいるものの,コンプライアンス上の問題が解消された場合には,マネジメント業務を再開し,これによって経済的利益を獲得することを目指しているのであって,原告シージェスが日本においてJYJのアーティスト活動に関するマネジメントを行うことが,被告エイベックスにとって不利益であることは明らかである。
被告エイベックスは,かかる契約違反行為,不法行為を阻止すべく,正当な権利の行使を行っているにすぎず,これらの行為が違法な妨害行為に当たらないことは明らかである。以上のとおり,本件について,要件①が認められないことは明らかである。

被告エイベックスは,原告シージェスの資産の本来予定された利用を著しく害したことも,原告シージェスの従業員に受忍限度を超える困惑・不快を与えたこともないから,要件②は満たさない。オ
原告シージェスが,どのような業務に支障を及ぼし,どのようにして事後的な損害賠償では回復困難な重大な損害が発生すると主張しているのか全くもって不明である。
本件において,業務に及ぼす支障の程度及び事後的な損害賠償では原告シージェスに回復の困難な重大な損害が発生するおそれなど一切存せず要件③も認められないことは明らかである。

以上のとおり,上記の東京高裁決定の規範を前提にしたとしても,被告エイベックスの行為は,同決定の3要件をいずれも満たさず,原告シージェスの業務遂行権に対する違法な妨害行為に該当しないことは明らかである。

3
第2事件
(1)

原告シージェスの本件専属契約違反の有無(争点2-1)

(被告エイベックスの主張)
原告シージェスは,本件専属契約が現在もなお有効に存続しているにもかかわらず,被告エイベックスの承諾を得ないまま,国技館コンサートを開催した。
国技館コンサートを開催する行為は,本件専属契約上のアーティスト活動に該当する行為であり(4条③),被告エイベックスの事前の承諾なく,これを行うことは本件専属契約4条に違反する行為である。
したがって,被告エイベックスは,本件専属契約17条(1)及び民法415条に基づき,原告シージェスに対し,国技館コンサートの開催によって被告エイベックスが被った損害の賠償を請求する権利を有する。
(原告シージェスの主張)
被告エイベックスの主張のうち,国技館コンサートを開催したことを認め,その余は否認ないし争う。
(2)

共同不法行為(債権侵害)の成否(争点2-2)

(被告エイベックスの主張)

原告シージェス,ザック及び被告相撲協会は,共同して国技館コンサートを開催し,その結果,被告エイベックスの本件専属契約に基づく日本におけるJYJのマネジメント業務を独占的に遂行する権利を侵害して,被告エイベックスに損害を与えているのであるから,原告シージェス,ザック及び被告相撲協会の行為は共同不法行為に該当する。


原告シージェス,ザック及び被告相撲協会は,本件専属契約が現在もなお有効に存続しているにもかかわらず,被告エイベックスの承諾を得ないまま,国技館コンサートを開催した。原告シージェス,ザック及び被告相撲協会は,国技館コンサートを開催する以前に,被告エイベックスが,日本におけるJYJのマネジメント業務を独占的に遂行する権利を有していること,及び,国技館コンサートを開催することによって被告エイベックスに損害が生じることを知りながら,あえて国技館コンサートを開催したものであり,原告シージェス,ザック及び被告相撲協会による本件コンサートの開催が,被告エイベックスの権利を侵害する違法な行為であることは明らかである。
被告相撲協会は,被告エイベックスの権利を認識していなかったと主張するが,被告相撲協会は,原告シージェスらが平成23年5月23日に仮処分命令申立事件を取り下げたことを認識しており,かかる仮処分命令申立事件の帰趨から,両国国技館の利用を許可することが被告エイベックスの権利を侵害する可能性が極めて高いことを認識していたのであり,それにもかかわらず,これを認容したものであって,未必の故意があったことは明らかである。また,被告相撲協会には,原告シージェスによる本件解除が有効であると信じたことについて相当の理由があるとはいえないから,少なくとも重過失又は過失があったものである。

共同不法行為の成立要件である共同の不法行為としては,行為者間の関連共同(各人の違法行為が関連共同して損害の原因となったこと)が必要であると考えられており,ここでいう関連共同とは,客観的に一個の不法行為があると見られる関係,すなわち客観的関連共同関係があれば足りるものと理解されている(客観的関連共同説)(最高裁判所昭和43年4月23日第三小法廷判決民集22巻4号964頁参照)。そして,かかる客観的関連共同関係とは,結果の発生に対して社会通念上全体として一個の行為と認められる程度の一体性があることをいい,結局,その判断の基準は,法的に見て,複数の加害者の加害行為が,損害との関係で,ひとつの加害行為と評価できるほどに一体性を有するかどうかという点にかかっている。この点,本件においては,原告シージェスが主催者,ザックが企画・制作・運営担当,被告相撲協会が会場の提供者として,国技館コンサートの開催にそれぞれが必要不可欠な役割を果たしており,いずれかの関与がなければ,国技館コンサートが実現することはなかったことからすれば,原告シージェス,ザック及び被告相撲協会は,共同して国技館コンサートを開催しているといえる。被告エイベックスの受けた損害との関係では,国技館コンサートを開催する行為が加害行為に該当するのであるから,原告シージェス,ザック及び被告相撲協会の行為は被告エイベックスの受けた損害との関係で,ひとつの加害行為と評価できるほどに一体性を有していることは明らかである。
したがって,原告シージェス,ザック及び被告相撲協会の行為には客観的関連共同関係が認められるから,共同不法行為に該当する。

(原告シージェスの主張)
被告エイベックスの主張アは否認ないし争う。同イのうち,国技館コンサートを開催したことは認め,その余は否認ないし争う。同ウのうち,第1段落及び第2段落は争わず,その余は否認ないし争う。
(被告相撲協会の主張)
被告エイベックスの主張アは争う。同イのうち,被告相撲協会が国技館コンサートの会場として貸館したことは認め,その余の事実は不知,国技館コンサートの会場として貸館した行為が不法行為に当たるとの主張は争う。同ウは争う。
仮に,被告エイベックスが国技館コンサート当時において日本におけるJYJのマネジメント業務を独占的に遂行する権利を有していたとしても,被告相撲協会は当該権利を認識していないのであるから,共同不法行為は成立しない。
被告エイベックスは,原告シージェスらが仮処分事件を取り下げたことを被告相撲協会が認識していたことをもって未必の故意の根拠とするが,仮処分事件の当事者でもなく,また仮処分事件の詳細も知らされていない被告相撲協会が,仮処分事件の取下げがどのような状況・意図のもとにされたものであるか判断することは不可能であり,未必の故意を基礎づけるものとはいえない。また,被告相撲協会は,被告エイベックスから連絡を受けた時点では,既に貸館契約を成立させており,被告エイベックスとザック双方の言い分を確認した上で,明確な貸館取消事由が確認できないところから,貸館契約を取り消すことは逆にザックから契約不履行に基づく損害賠償を受けるおそれがあると判断して貸館契約を取り消さなかったものであり,故意は認められない。
(3)

損害額(争点2-3)

(被告エイベックスの主張)

被告エイベックスが被った損害は,国技館コンサートを被告エイベックスが開催した場合に被告エイベックスが得られたはずの利益である。被告エイベックスが長年にわたって数多くのイベントの開催に携わってきており,ノウハウの蓄積もあることからすれば,少なくとも国技館コンサートの開催によって原告シージェス及びザックが得た利益と同額の利益を得られたことは明らかである。被告エイベックスによるJYJのマネジメント業務の休止は一時的なものであり,その後の事情変更によって休止を解除する可能性も十分考えられたのであるから,原告シージェスの行為と損害との間の相当因果関係を否定する根拠とはなり得ない。

国技館コンサートは,昼と夜の2回に分けて行われており,1回当たりの入場者数は,1万人程度であったものと推測される。国技館コンサートのチケットは1枚あたり8500円で販売されている。したがって,国技館コンサートによるチケット収入は,1万人×8500円×2回=1億7000万円(税込)と試算される。
他方,被告エイベックスが国技館コンサートにおける会場運営費及び舞台制作費の試算を依頼したところ,会場運営費は2000万円(税込),舞台制作費は4500万円(税込)と試算された。
よって,国技館コンサートの公演自体によって,原告シージェス及びザックが得た利益は,1億7000万円-(2000万円+4500万円)=1億0500万円(税込)と試算される。


原告シージェス及びザックは,国技館コンサートにおいて,記念Tシャツ及びストラップ付パンフレットの2つのグッズを販売していたが,国技館コンサートに来場したファンの少なくとも8割以上がこれらのグッズを両方購入していた。それぞれのグッズの販売価格は,記念Tシャツが3500円(税込),ストラップ付パンフレットが2500円(税込)であった。したがって,国技館コンサートにおけるグッズ販売による収入は,(3500円+2500円)×1万人×8割×2回=9600万円(税込)と試算される。
また,グッズ販売における原価及び手数料の合計額は通常販売価額の60%程度であるから,グッズの原価及び手数料の合計額は,9600万円×60%=5760万円(税込)と試算される。
よって,グッズ販売によって,原告シージェス及びザックが得た利益は,9600万円-5760万円=3840万円(税込)と試算される。エ
以上からすれば,国技館コンサートの開催によって原告シージェス及びザックが得た利益の総額は,1億0500万円+3840万円=1億4340万円(税込)であり,原告シージェスはこれと同額の損害を被ったものである。

(原告シージェスの主張)
被告エイベックスの主張アは否認する。被告エイベックスの主張は,コンプライアンス遵守の観点から被告エイベックスが日本におけるJYJのアーティスト活動についてマネジメント業務を行うことができないという被告エイベックスの基本的主張と全く矛盾するものである。同イのうち,国技館コンサートが昼と夜の2回に分けて行われたこと,国技館コンサートのチケットが1枚当たり8500円で販売されたことは認め,その余は否認する。同ウのうち,国技館コンサートにおいて,記念Tシャツを3500円(税込み)で,ストラップ付パンフレットを2500円(税込)でそれぞれ販売したことは認め,その余は否認する。同エは争う。
(被告相撲協会の主張)
被告エイベックスの主張は争う。
4
第3事件
(1)

本件専属契約に基づく未払契約金の額(又は債務不履行に基づく損害賠
償としての未払契約金相当額)(争点3-1)
(原告シージェスの主張)
被告エイベックスは,原告シージェスに対し,本件専属契約において,契約金として7億円を支払うとされている。しかし,被告エイベックスは,契約金のうち5億5000万円を支払ったのみであり,1億5000万円を支払っていない。また,本件解除により,上記債務が消滅したことになるのであれば,同金員は債務不履行に基づく損害になる。
(被告エイベックスの主張)

原告シージェスの主張のうち,本件専属契約に係る契約金が7億円であること,被告エイベックスが原告シージェスに対して契約金として5億円5000万円を支払済みであることは認め,その余は否認する。


原告シージェスは,被告エイベックスのコンプライアンス重視の経営方針を十分に理解していたのであるから,原告甲が以前担当アーティストに対する強要罪で実刑判決を受けたことが判明すれば,被告エイベックスがコンプライアンス上深刻な問題があるとして本件専属契約を締結するはずがないことを知っていた。
それにもかかわらず,原告シージェスは,かかる事実を殊更隠して,本件専属契約を締結し,その結果,被告エイベックスのJYJに対する適正・適法なマネジメント権の行使につき,重大な支障を与えたのであるから,かかる原告シージェスの行為は,被告エイベックスに対し,本契約を締結,履行,存続するに必要且つ十分な権利,権限及び能力を有していることを保証する本件専属契約15条(1)①に基づき,被告エイベックスの権利行使につき何らの支障もないことを保証する同条(1)②の保証義務違反に該当する。
したがって,原告シージェスは,契約金の残部を被告エイベックスに請求する権利を有しないどころか,本件専属契約28条(2)の定めに従って,契約金の一部を被告エイベックスに返還する義務を負っている。
なお,被告エイベックスは,5億5000万円に加え,契約金の一部として,平成22年4月1日付け覚書に基づき,直接JYJの3名のアーティストに対して,既にそれぞれ720万円ずつ(合計金2160万円)支払っているのであるから,かかる金額は被告エイベックスによる契約金の既払分に含めて計算されるべきである。
(2)

債務不履行に基づく損害賠償としての逸失利益の額(争点3-2)
(原告シージェスの主張)

原告シージェスは,被告エイベックスより,アーティスト印税として,以下の報告を受けている。
平成22年4月から6月分

604万6111円

平成22年7月から9月分

3623万4017円

平成22年10月から12月分

249万2405円

平成23年1月から3月分

606万6289円

この点,平成23年1月から3月分のアーティスト印税には,本件解除後に被告エイベックスが無断で販売したCD及びDVD(別紙著作物目録7及び8)に対するアーティスト印税分である507万2363円が含まれている。この金額分は,本件専属契約に基づかないもの,換言すれば,本件専属契約に基づく平成22年4月から6月にかけてのJYJのアーティスト活動の対価として発生した金額ではないから,そのような金額として被告エイベックスが原告シージェスに支払うべきものではない。イ
原告シージェスは,被告エイベックスより,利益分配金として,以下の報告を受けている。
平成22年4月から6月分

2億5834万7113円

平成22年7月から9月分

8015万2118円

平成22年10月から12月分

3180万6852円

平成23年1月から3月分

808万6714円

平成23年4月分

3万4516円

平成23年10月分

5260円

被告エイベックスは,平成22年7月以降,JYJの日本での公演等のアーティスト活動を行わせることはなくなった(ただし,同年8月に野外イベントにJYJを参加させているが,これは従前から企画されていた唯一の例外である。)。しかし,上記ア及びイの分配金等(ただし,上記アのうち507万2363円を除く。)は,被告エイベックスが本件専属契約に基づき個別にJYJのアーティスト活動を企画・計画等していた頃のJYJの活動に対するものである。
また,被告エイベックスは,平成22年7月以降も,それ以前にJYJが活動した実演等の原盤を利用し,原告シージェスとの間で事前協議等をすることなく,JYJのコンサートDVD等の販売を継続していた。つまり,上記分配金等は,本件専属契約に基づく平成22年4月から6月にかけてのJYJのアーティスト活動から生まれた対価として発生した金額であり,たとえ7月分以降の支払であっても,その支払を基礎づけるJYJのアーティスト活動は,被告エイベックスが本件専属契約に基づきJYJのアーティスト活動を企画・計画等していた4月から6月にかけてのものである。

以上のとおり,平成22年4月から6月分のJYJの活動の対価として,被告エイベックスが原告シージェスに対し支払うべき金額は,アーティスト印税として合計4576万6459円(上記アの合計5083万8822円から507万2363円を控除した額)と,利益分配金として3億7843万2573円(上記イの合計)を合計した4億2419万9032円(1か月当たり1億4139万9677円)である。


したがって,原告シージェスは,被告エイベックスに対し,平成22年7月以降,本件専属契約が解除される平成23年2月23日までの約8か月間分の逸失利益として,11億3119万7416円(1億4139万9677円×8)の支払を請求する。

(被告エイベックスの主張)
原告シージェスの主張アのうち,平成22年4月から6月分,同年10月から12月分及び平成23年1月から3月分のアーティスト印税額が原告シージェス主張のとおりであること,本件解除後に販売したCD及びDVDに対するアーティスト印税分が507万2363円であること,当該金額が平成22年4月から6月にかけてのJYJのアーティスト活動の対価ではないことは認め,その余は否認する。平成22年7月から9月分のアーティスト印税は3588万1577円である。また,被告エイベックスは無断でCD及びDVDを発売していない。原盤の利用に係る本件専属契約6条(2)では,協議することのみが利用の条件とされており,協議をすれば,それが整わなくとも原盤及びレコード等の最終決定権限は被告エイベックスにあるとされている。日本国内での原盤の利用については,原告甲,JYJ及び被告エイベックス担当者との間で協議がされており,CD及びDVDが無断で行われた事実はない。また,仮に原告シージェスが主張するように本件専属契約が解除により終了しているとすれば,本件専属契約6条(2)ただし書,8条ただし書により,被告エイベックスは,原告シージェスと協議することなく,商品の発売・販売を含む権利行使をすることができる。
原告シージェスの主張イは認める。
原告シージェスの主張ウのうち,被告エイベックスが平成22年8月JYJを野外イベントに出演させたことは認め,その余は否認する。被告エイベックスは,同月までJYJのマネジメント業務を行っていた。
原告シージェスの主張エ及びオは否認する。
(3)

コンサート活動の妨害を理由とする不法行為の成否及び損害額(争点3
-3)
(原告シージェスの主張)

原告シージェスは,ザックに対し,日本においてJYJの東北関東大震災チャリティーコンサートの開催を依頼し,平成23年3月14日,ザックとの間でコンサート契約を締結した。原告シージェスとザックは,コンサートの売上から諸経費を控除した残金のそれぞれ2分の1ずつ利益とすることを合意した。

ザックは,横浜アリーナでのコンサートを開催すべく,会場利用の申込みをしたところ,被告エイベックスは,横浜アリーナに対し,本件専属契約が現在も有効に成立していることから,ザックに対して会場の利用を許諾した場合,仮処分等の裁判を起こすこと等を記載した書面を送達するなどしたことから,ザックは会場の利用を拒否された。


そこで,ザックは,さいたまアリーナでのコンサートを開催すべく,会場利用の申込みをしたところ,被告エイベックスは,さいたまアリーナに対し,本件専属契約が現在も有効に成立していることから,ザックに対して会場の利用を許諾した場合,仮処分等の裁判を起こすこと等を記載した書面を送達するなどしたことから,ザックは会場の利用を拒否された。

さいたまアリーナでコンサートを開催した場合の想定利益
(ア)

チケット売り上げによる想定利益
想定売上
さいたまアリーナの収容人数は1万8000人であり,昼と夜の2部制とし,チケットは1枚8500円のものを1万6000人分,7500円のものを2000人分発売することを予定していた。
したがって,チケットの想定売上は,税込みで3億0200万円である。
(計算式)(8500円×1万6000人+7500円×2000人)×2=3億0200万円


想定支出
想定支出は,別紙支出表のさいたまアリーナ欄記載のとおりであり,その合計は1億4247万円である。

チケット売上の想定利益
チケット売上の想定利益は,3億0200万円から1億4247万円を差し引いた1億5953万円である。

(イ)

グッズ販売による想定利益
想定売上
さいたまアリーナの公演では,3500円(税込)の記念Tシャツ及び2500円(税込)のストラップ付きパンフレットを販売する予定であった。
そして,国技館コンサートにおける販売実績は1人当たり平均2500円のグッズを購入していたことから,さいたまアリーナでの収入予定は,2500円に収容人数3万6000人を掛けた9000万円である。


想定支出
想定支出には,韓国でのグッズ制作費(売価の7割=6300万
円),輸入関税,運搬費,アルバイト人件費,会場コミッションなどに約900万円がかかり,その合計は7200万円である。


グッズ販売による想定利益
グッズ販売による想定利益は,9000万円から7200万円を差し引いた1800万円である。

(ウ)

想定利益の合計
以上より,さいたまアリーナにおいてJYJのコンサートを開催する
ことができていれば,1億5953万円と1800万円との合計1億7753万円の利益が見込まれていた。

国技館コンサートを開催したことによる実際の利益
(ア)

チケット売上による実際利益
売上
国技館の収容人数は9577人であり,昼と夜の2部制とし,チケットは1枚8500円(諸手数料を加算して1枚9750円)で発売し,実際1万9105人分販売されたことから,チケットの売り上げは1億8624万3750円(税込み)であった。

支出
国技館コンサートの支出は,別紙支出表の両国国技館欄記載とおりであり,その合計は1億3320万9500円であった(注記:別紙支出表の両国国技館欄の記載と異なるが,原告らの平成24年3月16日付け準備書面6本文のとおり記載する。以下同じ。)。
そのうち,舞台制作費については,さいたまアリーナとは異なり,両国国技館でコンサートを行う場合,元々コンサートを行うために作られた会場ではなく,基礎舞台が存在しないため,多額の舞台制作費がかかっており,その金額は1854万3000円となっている。また,国技館の場合,会場費として,電源が不足するため,さいたまアリーナでコンサートを開催した場合に比較して電源車の費用がかさんだり,グッズの販売を館外で行わなければならないため,テント設営などのレンタル代として別途361万4310円がかかっている。さらに,通常,コンサートを開催する場合,ローソン等にプレイガイドを依頼することから,ローソン等のプレイガイドに対し,販売手数料として8パーセントを支払うこととなっており,1億8624万3750円の8パーセントに相当する1489万9500円を控除した1億7134万4250円が本来の実質的な売上金額となっていたはずである。
しかし,被告エイベックスからJYJのチケットを扱った場合には被告所属のアーティストのコンサートにチケット販売はやらせないとの圧力がかかったことから,ローソンなどのプレイガイドの利用が不可能となった。そのため,ザックにおいて,自社受注発券システムを開発して上記作業を行わざるを得ず,そのための開発費用が2300万円,電話対応スタッフの臨時雇用による費用が83万2303円,チケットを発送するための郵便代が359万2440円かかっており,その合計額は2742万4743円となった。

チケット売上の実際利益
チケット売上の実際利益は,1億8624万3750円から1億3320万9500円を差し引いた5303万4250円であった。
(イ)

グッズ販売による実際利益
売上
国技館コンサートで販売したグッズは,3500円(税込)の記念Tシャツ及び2500円(税込)のストラップ付きパンフレットであり,合計で4776万2500円の売上となった。


支出
支出には,韓国でのグッズ制作費(売価の7割=3343万3750円)がかかり,支出の合計は3343万3750円となる。


グッズ販売による実際利益
グッズ販売による実際利益は,4776万2500円から3343万3750円を差し引いた残金1432万8750円となる。

(ウ)

実際利益の合計
以上より,両国国技館コンサートによる利益は,チケット販売による
実際利益5303万4250円とグッズ販売による実際利益1432万8750円との合計6736万3000円である。

原告シージェスと株式会社ザックコーポレーションは,被告エイベックスの不法行為により,少なくとも,さいたまアリーナでJYJのコンサートを開催していたら得られたであろう想定利益1億7753万円と両国国技館において実際に開催されたコンサートにおいて得られた利益6736万3000円との差額である1億1016万7000円の損害を被ったことになる。
そして,原告シージェスは,ザックとの間で,両者の間で分担する利益を各2分の1とすることを合意していることから,原告シージェスの被った損害は1億1016万7000円の2分の1に相当する5508万3500円となる。
(被告エイベックスの主張)

原告シージェスの主張アは知らない。同イのうち,ザックが横浜アリーナに対して会場利用の申し込みをしたこと,横浜アリーナが利用申込みを拒否したことは認め,その余は否認する。同ウのうち,ザックがさいたまアリーナに対して会場利用の申込みをしたこと,さいたまアリーナが利用申込みを拒否したことは認め,その余は否認する。同エは知らない。同オ(ア)aのうち,両国国技館で行われたコンサートのチケット1枚当たりの代価が8500円であることは認め,その余は知らない。同オ(ア)b及びcは不知ないし否認する。同オ(イ)は知らない。同オ(ウ)は不知ないし否認する。同カは不知ないし否認する。


横浜アリーナ及びさいたまアリーナ社がザックからの会場利用の申し込みを拒否したのは,あくまで横浜アリーナ及びさいたまアリーナの独自の判断に基づくものである。


原告シージェスは,被告エイベックスから圧力がかかったことから,ローソンなどのプレイガイドの利用が不可能となり,ザックにおいて自社受注発券システムを開発し,そのための開発費用が2300万円,電話対応スタッフの臨時雇用による費用が83万2303円,チケットを発送するための郵便代が359万2440円かかっており,その合計額は2742万4743円となったなどと主張する。
しかしながら,被告エイベックスから圧力がかかったとされる時点が必ずしも明らかではないが(早くても,原告シージェスが横浜アリーナでのコンサートを告知した平成23年3月22日以降のことである。),チケットの抽選申込みの開始期間である平成23年5月10日までは,どんなに長くても1か月半程度しかない。チケット発券システムの開発には,通常1年程度の期間がかかるものであるから,1か月半程度という短期間で,突貫的に開発を行うことはおよそ不可能である。また,チケット発券システムの開発には,億単位の費用を要するのが通常であり,これを2300万円程度の費用で開発することはできないものである。JYJのコンサートのために新たに自社受注発見システムを開発したなどという主張は極めて不自然である。
原告シージェスは,発券・発送手数料800円,システム使用料450円として,1顧客あたり1250円もの実費負担を強いている。そうだとすれば,仮に電話スタッフの臨時雇用による費用83万2303円及び郵便代359万2240円が支出に含まれるとしても,原告シージェスは,当該費用を最初から顧客に転嫁することを予定していたことは明らかであるから,当該費用が被告エイベックスから圧力がかかったことから生じた費用であるかのような原告シージェスの主張は,全く理由がないものである。
また,支出の中には,ダンサーの費用1172万2530円など常識的にはありえない数字も多々見受けられるものである上,これらの数値は客観性に欠け,信用に値しないものである。
(4)

著作隣接権侵害を理由とする不法行為の成否及び損害額(争点3-4)
(原告シージェスの主張)

本件専属契約は,被告エイベックスが,原告シージェスとの別途協議の上,JYJの実演を収録して原盤を作成することができること,及び,被告エイベックスが,作成した原盤の利用行為について,原告シージェスとの別途協議の上,決定できるものと規定し(6条),また,権利の帰属について,契約期間中に行われたJYJの①創作した著作物にかかる著作権,②実演家の権利,③レコード制作者の著作隣接権又は映画制作者の著作権,④肖像権及びパブリシティ権,⑤デザインやロゴマークにかかる著作権等各種権利等を,原告シージェス及びJYJより被告エイベックスに独占的に譲渡すると規定し(7条),さらに,7条により被告エイベックスに譲渡された権利の行使について,被告エイベックスは,原告シージェスとの別途協議の上,行使すること並びに第三者に権利行使の許諾もしくは譲渡ができるものと規定している(8条)。そして,本件専属契約では,これら定められた原告シージェス及びJYJの行為(義務)等一切の対価として,被告エイベックスは,①契約金,②アーティスト印税,③利益分配金を,原告シージェスに対し支払うと規定している(10条)。

本件解除により,本件専属契約で定められた上記取り決めは,少なくとも将来に向かっては効力を失ったというべきである。つまり,本件解除日以降は,被告エイベックスは,JYJの実演を収録して原盤を作成することはできず,既に作成した原盤の利用行為もできないし,また,7条により譲渡された権利の行使も当然できないというべきである。もとより,被告エイベックスの債務不履行を起因とする本件解除によって,7条により原告シージェス及びJYJから被告エイベックスに対して譲渡された各種権利も,本件解除後は少なくとも将来に向かって効力を失い,これら各権利は本件解除時からJYJから専属権を与えられた原告シージェスの元へ復帰するものと解すべきである。
また,実質的にも,被告エイベックスが,原告シージェス及びJYJにより譲渡された権利を利用する前提となる,原告シージェスと別途協議の場自体も,本件解除によりが失われることになるし,そもそも,その原告シージェス及びJYJの持つ権利の被告エイベックスに対する譲渡も,それは,被告エイベックスが,本件専属契約で定められた被告エイベックスの各義務を果たすことを条件として認められるものであるから,被告エイベックスが自らの義務を怠った以上,譲渡の効力も失われると解さなければ,極めて不合理かつ不平等である。
この点,本件専属契約6条,8条,14条,24条等に,本件専属契約終了後の取り決めが定められているが,解除の効果から当然これらの取り決めも効力を失うものと解すべきである。上記各条項は,被告エイベックスの債務不履行によって本件専属契約が解除されることなく存続期間を経過して終了した場合を想定するものであると解することが当事者の合理的意思に合致している。

被告エイベックスは,本件解除後以降,本件専属契約により原告シージェス及びJYJから譲渡された7条の権利を失ったものである。そうであるならば,本件解除日以降,被告エイベックスは,原告シージェスの許諾を得ない限り,JYJの実演が収録された原盤を利用してCD等を増製したり販売したりすることは許されない。それにもかかわらず,被告エイベックスは,別紙著作物目録1~8記載のCD及びDVDを原告シージェスの許諾なく販売し続けており,これは,原告シージェスが専属権を持つJYJの実演家の権利である録音権・録画権(著作権法91条1項)及び譲渡権(同法95条の2第1項)を明確に侵害する行為である。

エ(ア)

ところで,著作権法91条2項・95条の2第2項においては,許
諾を得て映画の著作物において録音され又は録画された実演については,実演家の録音権・録画権・譲渡権が消尽することを定めているところ,別紙著作物目録1~8記載の著作物のうち,7を除き,記録媒体として,音と映像がともに再生されるDVDを一部あるいは全部に採用している。(イ)

著作権法91条2項は,映画の著作物において,実演家の録音権・録画権が消尽する場合として,録音権・録画権を持つ者の許諾を得ることを要件としているところ,本件専属契約は被告エイベックスの債務不履行を理由として解除されたのであるから,たとえ収録時に原告シージェスおよびJYJがビデオの収録を認めていたとしても,解除後においては,その許諾は(少なくとも)将来に向かっては効力を失ったものと解すべきである。
なぜならば,原告シージェスが被告エイベックスに対し,上記ビデオの収録を認めていたのは,少なくとも本件専属契約の当初契約期間内は,被告エイベックスが,本件専属契約で定められた義務(JYJのマネジメント業務)を遂行することを期待したからこそ認めたのであり,本件専属契約が被告エイベックスの債務不履行によって解除された場合には,将来に向かってそのような許諾は効力を失うものとするのが当事者の合理的意思であると解すべきだからである。
また,被告エイベックスが自身の義務を本件専属契約後半年も経たず放棄した場合においては,その後,被告エイベックスが,当該著作物の利用について本件専属契約で定められたアーティスト印税を支払ったとしても,原告シージェス及びJYJが失った利益に比し,被告エイベックスが得る利益があまりにも大きく,公平の原理に著しく反することからも,かかる意思が当事者の合理的意思であると解すべきである。したがって,仮にこれらの著作物が映画の著作物だとしても,原告シージェスの許諾はなく,著作権法91条2項は適用されない。
(ウ)

映画の著作物についての実演家の権利に,著作権法上,他の著作物
とは異なる規定が定められているのは,同著作物が他の著作物に比し,一般的に,権利者(実演家)が多数であるため,権利関係を簡素化しなければ,映画の著作物利用上支障を来たすからである。被告エイベックスが原告シージェスの権利を侵害している著作物は,JYJの実演のみを収録した(バックミュージシャンなどは除く)JYJの実演自体を表現したものであり,法の予定している映画の著作物とは異なるものであるから,単純に,これを映画の著作物と解し,実演家の権利を消尽させる条項を適用するべきではない。
また,本件専属契約においては,映像著作物に関してレコード等
と称し(1条),レコードとビデオ(映像物)を特段区別していないし,アーティスト印税の計算方法についても,レコードとビデオを区別せず,原盤の著作隣接権又は著作権が存続する期間中支払うものとしている(10条)。そうであるならば,本件専属契約においては,ビデオについても,原告シージェスが,その収録後もレコードと同様の権利(録音権・録画権・譲渡権)を持ち続けることを当然の前提としており,実演家の権利を消尽させる条項を適用しないのが当事者の合理的意思というべきである。
仮に,これらの著作物が映画の著作物であるとしても,DVDに収録されている映像物は,オフショットと称するJYJの普段の(誰からも演技等を要求されていない)自然体の様子をとらえたものであったり,JYJ自身が自分の意思,及び,自己の創作性をもって演じるJYJのコンサートの映像を収録したものがほとんどである。つまり,これら著作物は,JYJ自身が著作物全体に渡り,自分の思想・感情を創作的に表現したものを,そのまま収録した映像物であり,当該著作物において,JYJは実演家であると同時に,その映像物の共同著作者というべきである。
したがって,仮に,これらのDVDが映画の著作物であり,また,当該著作物に原告シージェス及びJYJが持つ,実演家の権利が消尽していたとしても,原告シージェス及びJYJはこの映画の著作物の共同著作権者というべきであるから,被告エイベックスの販売行為は,著作権者の持つ複製権・頒布権(著作権法21条・26条)を侵害する行為である。

仮に,著作権法上の権利を侵害しないとしても,本件専属契約が,被告エイベックスの債務不履行に起因して原告シージェスにより解除された後には,被告エイベックスは,原告シージェスに無断でこれらDVD等の販売行為を行うことはできないから,被告エイベックスの行う販売行為は,違法な行為であり,民法709条の不法行為を構成する。


被告エイベックスは,JYJのCD及びDVDの販売により,原告シージェスの持つ権利を侵害することを認識し又は容易に認識し得た。また,別紙著作物目録1~8記載のCD及びDVDをエイベックス・マーケティング株式会社が販売しているとしても,同社と被告エイベックスとの間には客観的共同関係が認められるから,被告エイベックスは共同不法行為責任を負う。


被告エイベックスからは,アーティスト印税(JYJの著作権使用料)として,以下の報告を受けている。
平成23年1月から3月分

606万6289円

平成23年4月から6月分

69万9846円

平成23年7月から9月分

60万5634円

ただし,平成23年1月から3月分には,本件専属契約に基づく平成22年4月から6月にかけてのJYJのアーティスト活動の対価として発生した金額である99万3926円が含まれており,本件解除後に,原告シージェスに無断で販売したCD及びDVDに対するアーティスト印税分(平成23年1月から3月分)は,上記を控除した507万2363円である。
ところで,上記報告は,本件専属契約の別紙に定める本件レコード等における計算方法に基づき算出されたものであるが,その計算方法は(税込価格-消費税-容器代)×2%×販売数量とされており,また,容器代は税込価格の10%,販売数量は総括倉庫から出荷される数量の80%と定められている。これは,本件レコードの製造原価等を考慮したこと及び必ずしも出荷枚数が売上枚数と一致しないことを考慮したものであり,これら一定の金額を控除することによって,被告エイベックスが本件レコード等の販売で得る利益の金額を擬制し,その金額の2%をアーティスト印税と定めたものである。
したがって,上記報告にある平成23年1月から3月分のうち507万2363円,同年4月から6月分69万9846円,同年7月から9月分60万5634円を合計した637万7843円を2%で割った,3億1889万2150円が被告エイベックスの利益である。
よって,原告シージェスは,被告エイベックスに対し,損害賠償金として,上記と同額の請求権を有する。
(被告エイベックスの主張)

原告シージェスの主張アは認める。同イ及びウは否認する。同エ(ア)は認め,同エ(イ)及び(ウ)は否認する。同オ及びカは否認する。同キは不知ないし否認する。別紙著作物目録1~8記載のCD及びDVDの実際の販売元はエイベックス・マーケティング株式会社であるものの,その販売に関する責任は,包括的に被告エイベックスが負っているものであるから,当該CD及びDVDの販売主体は,あくまでも被告エイベックスである。
イ(ア)

本件専属契約7条(1)柱書では,本件専属契約の有効期間中に行わ
れたJYJのアーティスト活動に関する同条項各号の権利(一切の著作物にかかる著作権,実演家の権利等)が,期間の制限なく被告エイベックスに独占的に譲渡されると規定されている。
そのため,本件専属契約が有効期間満了により終了したか,解除により終了したか,その終了原因を問うことなく,本契約終了後においても,被告エイベックスは,地域,範囲,期間の制限なく,自由な判断により,有効期間中のJYJの活動に関する本件専属契約7条に基づく権利を行使し,又は第三者に許諾若しくは譲渡でき(8条ただし書),また,原盤の利用行為に関する決定をできる旨が規定されている(6条(2)ただし書)。
その反面,被告エイベックスは,原告シージェスに対し,著作隣接権又は著作権が存続する期間中,JYJの実演活動の対価としてアーティスト印税を支払うこととされており(10条(1)①),契約終了原因を問うことなく本件専属契約終了後も有効に存続する旨規定されている(24条)。
以上のような本件専属契約書の規定の仕方からすれば,上記の各条項は,本件専属契約が存続期間を経過して終了した場合のみならず,債務不履行解除によって終了した場合も当然に適用されることは明らかである。
(イ)

また,レコードビジネスにおいて,レコード会社等の原盤製作者は,
原盤製作にあたって,スタジオ使用料,スタジオミュージシャンの報酬,編集室使用料,エンジニア料,編曲料等の膨大な資本を投下しており,レコードの販売やデジタル配信等の原盤の各種利用によって,その投下資本を回収していくことが元々予定されている。したがって,既に製作された原盤については,原盤製作者において,期間に関わりなく継続的に利用できるようにすることが必要である。
そのため,本件においても,原盤製作に資本を投下した被告エイベックスが,かかる投下資本を回収するために,本件専属契約終了後も原盤を利用できるとする本件専属契約は,レコード業界の慣行にも合致した合理的な内容である。
原告シージェスも,本件専属契約の解除の効果が将来効であることは認めているが,上記レコード業界の慣行からすれば,これは,被告エイベックスが,本件専属契約解除後に,新たな原盤及びレコードの製作又は利用を行うことができないことを意味するにすぎず,本件専属契約の有効期間中に製作された原盤及びレコードの利用には何ら影響がないというべきである。
そして,上記のように解したとしても,被告エイベックスは,原告シージェスに対し,著作隣接権又は著作権が存続する期間中,JYJの実演活動の対価としてアーティスト印税を支払うこととされており(10条(1)①),原告シージェスも本件原盤の利用によって一定の利益を確保することができるのであるから,原告シージェスに不利益はない。(ウ)

以上からすれば,仮に本件解除が有効であったとしても,本件専属
契約の有効期間中に製作された原盤及びレコードの利用には何ら影響がない。
ウ(ア)

著作権法上,映画の著作物は映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され,かつ,物に固定されている著作物を含むとされている(2条3項)。そして,映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果については視覚的効果は,映写される影像が動きをもって見えるという効果であると解されている。これを本件についてみると,JYJのコンサートにおけるライブやオフショットの様子を収録したDVDは,まさに映写される影像が動きをもって見えるという効果を生じさせる方法で表現されており,また,本件専属契約上,収録とは,実演その他の素材を物に固定して実演の再生を可能とする行為をいうとされていることからも(1条②),上記定義規定に該当し,映画の著作物にあたることは明らかである。
(イ)

映画の著作物の著作者は制作,監督,演出,撮影,美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とされている(著作権法16条)。そして,映画の出演者たる俳優は,映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与しているとはいえず,原則として,映画の著作者ではなく,映画に利用されている実演を行った実演家としての地位にあるものである。
本件においても,JYJはDVDにおいて実演家にすぎず,その全体的形成に創作的に寄与した者とはいえないから,DVDの共同著作者とはいえない。
(ウ)

著作権法上,映画の著作権は,その著作者が映画製作者に対し当該
映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは,当該映画製作者に帰属するとされている(29条1項)。そして,映画製作者とは,映画の著作物の製作に発意と責任を有する者(2条1項10号),すなわち映画の著作物を製作する意思を有し,同著作物の製作に関する法律上の権利義務が帰属する主体であって,そのことの反映として同著作物の製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者のことであるとされている。
本件において,DVDを製作する意思を有し,DVD製作に関する法律上の権利義務が帰属する主体であって,そのための費用を支出するのは被告エイベックスであるから,DVD製作者すなわち著作権法上の映画製作者は被告エイベックスである。そして,映画著作者は,映画製作者に対し参加を約束して映画を製作するのが通常であり,現に原告シージェス及びJYJはDVDの製作への参加を約束したのであるから,著作権法29条1項の要件が充足されることによって,DVDの著作権が帰属するのもエイベックスである。
したがって,原告シージェス又はJYJにDVDの著作権が帰属するとはいえない。
(5)

名誉毀損の成否,損害額及び名誉回復措置の必要性(争点3-5)(原告甲の主張)

被告エイベックスは,平成22年9月16日,エイベックスGHDのホームページにおいて,本件摘示事実を摘示して,原告甲の社会的評価を著しく低下させ,原告甲の名誉を毀損した。


その後も,エイベックスGHDのホームページにおいて,本件摘示事実は削除されることなく掲載されている。
しかも,エイベックスGHDは,芸能関係・音楽事業において,他を圧倒する突出したシェアを有している業界ナンバーワンの企業であり,エイベックスGHDのホームページを閲覧している国民及び外国人の数は知れない。JYJのファンの大半は,同ホームページを閲覧している可能性が高く,同ホームページ上に本件摘示事実が掲載されることにより,原告甲,原告シージェス及び所属しているアーティストであるJYJの社会的評価及び社会的信用が毀損される程度は著しく,その意味において,被告エイベックスの行為の違法性は著しく高いといえる。
よって,エイベックスGHDのホームページにおいて,本件摘示事実が真実に反していることを掲載するなどして,謝罪広告を掲載してもらわなければ原告らの名誉・信用の回復は図れないといえる。


原告甲は,被告エイベックスの名誉毀損行為により,多大な精神的苦痛を被り,その損害を金銭に見積もるならば,少なくとも500万円を下ることはない。

エ(ア)

被告エイベックスは,本件摘示事実は,原告C-JeSの代表者が,担当アーティストを恐喝し,強要罪で実刑判決を受け服役していたという事実を摘示するものにすぎないと主張する。しかし,本件摘示事実は,①原告甲の前科に関する事実(原告甲が,暴力団幹部の経歴を持つ父親の威力を背景に担当アーティストを恐喝し,強要罪で実刑判決を受け服役していた,という報道があったこと。),②原告甲が暴力団と関係があるとの事実(現時点での暴力団との関係は明らかでないが,暴力団と関係がある可能性があること)の2つである。(イ)

そして,①の事実については,原告甲の社会的評価を低下させる事
実であることは否定し得ない事実である。特に,被告エイベックスは,担当アーティストを恐喝したとの事実を記載しているが,恐喝
と脅迫は全く異なる行為態様であり,前者は後者に比して悪質性の高い行為態様であり,判決文にも恐喝なる表現はなく,事実に反するばかりではなく,原告甲を陥れようとする意図がありありと読み取れるものとなっている。
また,仮に①の事実がある程度知れていたとしても,社会的影響力のある上場企業(エイベックスGHD)のホームページ上(及びJYJのオフィシャルホームページ上)に公表すれば,それまで事実を知らなかった不特定多数の者に,その内容が伝播し,これによって原告甲の社会的評価がさらに低下することは否定できない。そもそも,上記のとおり,本件摘示事実は,被告エイベックスが指摘する新聞や週刊誌の報道内容にとどまっておらず,新たな内容をも含むものである。
特に,前科等にかかわる事実は,その者の名誉・信用に直接かかわる事項であるから,みだりにその事実を公表されないこと,及び,前科等の事実の公表によって,社会復帰後に,新しく形成された社会生活の平穏等を害されない利益を有することはいうまでもない。本件摘示事実は,週刊誌等が報じた報道について,被告エイベックスが独自に調査した結果,原告甲の前科が事実であったなどとするものであり,これにより原告甲の社会的評価がさらに低下したことは疑いがない。
(ウ)

②の事実については,現時点でのという表現を使うことにより,
将来,暴力団との関係が解明されることを示唆する内容となっている。しかも,被告エイベックスは,本件専属契約を締結している立場にあることからすれば,かかる表現を見た読者は,被告エイベックスが暴力団との関係を強く疑っていると読み取ることは必定であり,原告甲の社会的評価を著しく低下させる表現であることは否定しようのない事実である。
また,上記前科及び前科の内容が事実であったことを摘示することで,あたかも原告甲が暴力団と関係する可能性がある人物であることを読み手に深く印象づけることにもなっている。暴力団排除が叫ばれている昨今において,原告甲が暴力団に関係する人物である可能性があるとして公表することが,原告甲の社会的評価を低下させることはいうまでもない。
オ(ア)

被告エイベックスは,原告甲の前科等の事実について,多くの人々
が関心を持った事件であったことをもって,事実の公共性が認められると主張する。
しかし,人々が関心を持ったことと,その事実に公共性があることとは全く異なる概念であり,人々の関心を持ったとの点のみで,公共の利害に関する事実であるとは到底いえない。乙1号証の1~4の報道内容を読めば明らかなとおり,報道に基づく人々の関心の的は,日本で絶大な人気を誇るJYJが暴力団など反社会的勢力と関係があるかどうかであり,原告甲の前科ではない。
(イ)

被告エイベックスの名誉毀損行為は,被告エイベックスのJYJの
日本におけるアーティスト活動を一方的に休止するとの発表(本件発表)に付随して行われたものであり,本件発表をするに当たって,原告甲の前科等の事実を摘示する必要性は全くないものである。換言すれば,目的の公益性が欠如しているというべきである。
(ウ)

本件摘示事実のうち,少なくとも,原告甲が暴力団と関係している
との事実については,被告エイベックスも,それが真実であるとは信じていないのであり,また,真実であると信じるについて相当の理由も存しないことから,上記事実を摘示する行為には,真実性の証明がないものとして,違法性は阻却されない。
(被告エイベックスの主張)

原告シージェスの主張アのうち,被告エイベックスが,エイベックスGHDのホームページにおいて,本件摘示事実を摘示したことは認め,その余は争う。同イのうち,本件摘示事実が削除されていないことは認め,その余は不知ないし否認する。同ウは不知ないし否認する。


一般読者の普通の読み方を基準にすると,本件摘示事実は,原告C-JeSの代表者が,担当アーティストを恐喝し,強要罪で実刑判決を受け服役していたという事実を摘示するものにすぎない。そして,エイベックスGHDのホームページにおいて本件摘示事実が掲載された平成22年9月16日以前において,様々な新聞及び週刊誌の報道により,原告C-JeSの代表者が,担当アーティストを恐喝し,強要罪で実刑判決を受け服役していたことは広く知れ渡っていたのであるから,原告甲の社会的評価は既に相当程度低下していたといえ,本件摘示事実の摘示により,原告甲に新たな社会的評価の低下をもたらさないことは明らかである。
したがって,被告エイベックスに名誉毀損の不法行為が成立しない。
ウ(ア)

公共の利害に関する事実とは,摘示された事実自体の内容,性

質に照らし,客観的にみて,当該事実を摘示することが公共の利益に沿うと認められることをいう。
そして,本件摘示事実は,原告甲が担当アーティストを恐喝し,強要罪で実刑判決を受け服役していたという重大な刑事事件に関するものであり,実刑判決を受けたのが著名なアーティストであるJYJの韓国における所属プロダクションの代表者ということも相まって,多くの人々が関心を持った事件であった。
よって,事実の公共性が認められることは明らかである。
(イ)

被告エイベックスは,社会的な影響力のあるJYJの今後のマネジ
メントについて,ファン等の一般人に対して説明を行うために本件摘示事実を公表したのであり,その目的は専ら公益を図ることにある。そもそも,公共の利害に関する事実を記載しているものは,特段の事情がない限り,その目的は専ら公益を図るものと認められる上,本件摘示事実は,特段原告甲を揶揄誹謗し,敵意や反感を示すものではないから,かかる意味においても,目的の公益性が認められることは明らかである。
(ウ)

原告甲が過去において刑事事件で実刑判決を受けたことがあるとの
事実が真実であることについては,原告甲自身が認めており,また,当該刑事事件に関する判決においても,以前の担当アーティストに対する原告甲の強要行為が認定され,実刑判決が下されていることからすれば,本件摘示事実が真実であることにはもはや疑いがない。
(エ)

以上のとおり,本件摘示事実には,①事実の公共性,②目的の公益
性が認められ,かつ③真実性が認められるから,仮に原告甲の社会的評価が低下したとしても,違法性が阻却され,被告エイベックスに名誉毀損の不法行為は成立しない。
5
第4事件
(1)

原告シージェスの本件専属契約違反の有無(争点4-1)

(被告エイベックスの主張)
原告シージェスは,本件専属契約が現在もなお有効に存続しているにもかかわらず,被告エイベックスの承諾を得ないまま,平成23年10月15日及び16日,ザックとともに,ひたちなかコンサートを開催した。ひたちなかコンサートを開催する行為は,本件専属契約上のアーティスト活動に該当する行為であり(4条3号),被告エイベックスの事前の承諾なく,これを行うことは本件専属契約4条に違反する行為である。したがって,被告エイベックスは,本件専属契約17条(1)及び民法415条に基づき,原告シージェスに対し,ひたちなかコンサートの開催によって被告エイベックスが被った損害の賠償を請求する権利を有する。(原告シージェスの主張)
被告エイベックスの主張のうち,原告シージェスがひたちなかコンサートを開催したことは認め,その余は否認ないし争う。
(2)

共同不法行為(債権侵害)の成否(争点4-2)

(被告エイベックスの主張)

原告シージェス及びザックは,共同してひたちなかコンサートを開催し,その結果,被告エイベックスの本件専属契約に基づく日本におけるJYJのマネジメント業務を独占的に遂行する権利を侵害して,被告エイベックスに損害を与えているのであるから,原告シージェス及びザックの行為は共同不法行為に該当する。


原告シージェス及びザックは,本件専属契約が現在もなお有効に存続しているにもかかわらず,被告エイベックスの承諾を得ないまま,ひたちなかコンサートを開催した。原告シージェス及びザックは,ひたちなかコンサートを開催する以前に,被告エイベックスが,日本におけるJYJのマネジメント業務を独占的に遂行する権利を有していること,及び,ひたちなかコンサートを開催することによって被告エイベックスに損害が生じることを知りながら,あえてひたちなかコンサートを開催したものであり,原告シージェス及びザックによるひたちなかコンサートの開催が,被告エイベックスの権利を侵害する違法な行為であることは明らかである。

共同不法行為の成立要件である共同の不法行為としては,行為者間の関連共同(各人の違法行為が関連共同して損害の原因となったこと)が必要であると考えられており,ここでいう関連共同とは,客観的に一個の不法行為があると見られる関係,すなわち客観的関連共同関係があれば足りるものと理解されている(客観的関連共同説)(最判昭和43年4月23日民集22巻4号964頁参照)。
そして,かかる客観的関連共同関係とは,結果の発生に対して社会通念上全体として一個の行為と認められる程度の一体性があることをいい,結局,その判断の基準は,法的に見て,複数の加害者の加害行為が,損害との関係で,ひとつの加害行為と評価できるほどに一体性を有するかどうかという点にかかっている。この点,本件においては,頑張ろう日本・頑張れ茨城・復興支援コンサートinひたち海浜公園実行委員会がひたちなかコンサートの主催者であるものの,原告シージェス及びザックがひたちなかコンサートの開催に必要不可欠な役割を果たしていることは明らかである。そのため,原告シージェス及びザックの関与がなければ,ひたちなかコンサートが実現することはなかったことからすれば,原告シージェス及びザックは,実行委員会を通じて,共同してひたちなかコンサートを開催しているといえる。被告エイベックスの受けた損害との関係では,ひたちなかコンサートを開催する行為が加害行為に該当するのであるから,原告シージェス及びザックの行為は被告エイベックスの受けた損害との関係で,ひとつの加害行為と評価できるほどに一体性を有していることは明らかである。
したがって,原告シージェス及びザックの行為には客観的関連共同関係が認められるから,共同不法行為に該当する。
(原告シージェスの主張)
被告エイベックスの主張アは否認ないし争う。同イのうち,原告シージェスがひたちなかコンサートを開催したことは認め,その余は否認ないし争う。同ウのうち,第1段落及び第2段落は争わず,その余は否認ないし争う。(3)

損害額(争点4-3)

(被告エイベックスの主張)

被告エイベックスが被った損害は,ひたちなかコンサートを被告エイベックスが開催した場合に被告エイベックスが得られたはずの利益である。被告エイベックスが長年にわたって数多くのイベントの開催に携わってきており,ノウハウの蓄積もあることからすれば,少なくともひたちなかコンサートの開催によって実行委員会が得た利益と同額の利益を得られたことは明らかである。


ひたちなかコンサートは,平成23年10月15日及び16日の各日に1回ずつ行われており,1回あたりの入場者数は,4万人程度であった。ひたちなかコンサートのチケットは1枚当たり,SS席が1万5280円,S席が1万3280円,A席が1万1280円(それぞれ,消費税及び手数料込み)で販売されており,SS席及びS席が1万席,A席が2万席用意されている。ひたちなかコンサートによるチケット収入は,(1万人×1万5280円+1万人×1万3280円+2万人×1万1280円)×2回=10億2240万円(税込)と試算される。
他方,被告エイベックスがひたちなかコンサートにおける会場運営費及び舞台制作費の試算を依頼したところ,会場運営費は5000万円(税込),舞台制作費は2億6234万4000円(税込)と試算された。よって,ひたちなかコンサートの公演自体によって,実行委員会が得た利益は,10億2240万円-(5000万円+2億6234万4000円)=7億1005万6000円(税込)と試算される。


実行委員会は,ひたちなかコンサートにおいて,Tシャツ3000円,タオル2000円,ペンライト2000円,クリアファイル1000円,クリアフォルダー1000円,写真セット2000円,うちわ500円,コンサートブック2500円,バッグ500円のグッズを販売していた。そして,ひたちなかコンサートに来場したファンの8割以上がこれらのグッズを少なくとも1万円分購入していたことがうかがえる。ひたちなかコンサートにおけるグッズ販売による収入は,1万円×4万人×8割×2回=6億4000万円(税込)と試算される。
また,グッズ販売における原価及び手数料の合計額は通常販売価額の60%程度であるから,グッズの原価及び手数料の合計額は,6億4000万円×60%=3億8400万円(税込)と試算される。
よって,グッズ販売によって,実行委員会が得た利益は,6億4000万円-3億8400万円=2億5600万円(税込)と試算される。エ
以上からすれば,ひたちなかコンサートの開催によって実行委員会が得た利益の総額は,7億1005万6000円+2億5600万円=9億6605万6000円(税込)である。

(原告シージェスの主張)
被告エイベックスの主張アは否認する。同イのうち,ひたちなかコンサートの開催日及びチケット設定価格は認め,その余は否認する。同ウのうち,ひたちなかコンサートにおけるグッズの価格設定は認め,その余は否認する。同エは否認する。被告エイベックスは,本件専属契約に基づくマネジメントを休止しているのであるから,仮に,本件専属契約の解除が無効であったとしても,ひたちなかコンサートの開催により,原告に何ら損害は発生していない。
第4
1
当裁判所の判断
被告エイベックスの本件専属契約違反の有無(争点1-1)について(1)

前提事実(3)のとおり,原告シージェスと被告エイベックスは,平成22
年2月26日,本件専属契約を締結したが,後掲の証拠等によれば,本件専属契約締結後の事情として,以下の各事実がそれぞれ認められる。ア
サンケイスポーツ新聞は,平成22年5月29日,原告甲について,人気韓流スターの元マネージャーだったが,このスターを脅迫して実刑判決を受けたことがあり,暴力団とのつながりもあるというとの記事を掲載した。
(乙42)

被告エイベックスは,上記の記事に記載された事実関係を調査し,原告甲が記事に対応した前科があることを確認した。被告エイベックスは,平成22年6月,社内協議の結果,本件専属契約を合意解除してJYJとの直接契約とする方針とし,原告シージェスに対し,その旨を伝えたが,原告シージェスはこれを拒否した。
(甲86,87,乙41,証人X,証人Y)


被告エイベックスは,平成22年6月下旬,原告シージェスを代理した韓国法律事務所である法務法人世宗に対し,同年8月に予定されていたa-nation'10へのJYJ出演中止のプレスリリース案を送付し,同年7月2日,同月5日夕方にはプレスリリースを行う旨をメールにより通知した。当該プレスリリース案の内容は,以下のとおりであった。本年8月21日および22日(大阪:長居スタジアム)ならびに8月28日および29日(東京:味の素スタジアム)に開催予定の『a-nation'10』において,B/A’/C’の出演を中止することといたしましたので,お知らせいたします。日本において現在B/A’/C’のマネジメント業務を行っているC-JeSENTERTAINMENTCO.,LTD(以下C-JeS社)の代表者が,暴力団幹部を父親にもち,その威力を背景に担当アーティストを恐喝し,強要罪で実刑判決を受け服役していたとの報道につき,当社は事実関係を調査しておりました。その結果,現時点での暴力団との関係こそ明らかではないものの,その他につきましては上記報道がすべて事実であることが判明いたしました。当社はコンプライアンス重視,企業倫理遵守の経営方針から,C-JeS社およびその代表者がB/A’/C’のマネジメントに関与している限り,彼らのアーティスト活動を見合わせるべきと判断いたしました。(以下省略)(甲34の1及び2,甲86,87,乙41,証人X,証人Y)

法務法人世宗は,平成22年7月5日,被告エイベックスに対し,原告甲との確認事項として,①原告シージェスが本件専属契約を解約する意思があること,②原告シージェスはJYJが被告エイベックスと契約することに異議がないこと,③JYJはa-nation'10に出演することを願っているため,出演中止のプレスリリースをする必要はないことなどをメールにより通知した。そのため,被告エイベックスは,同日予定していたプレスリリースを中止した。
(甲87,90,乙41,43の1及び2,証人X,証人Y)


その後,原告シージェスと被告エイベックスとは,本件専属契約の合意解約を交渉したものの,特段の進展がなかった。そこで,被告エイベックスの代表取締役であるZは,平成22年8月22日及び同月30日,直接JYJと話し合いをしたが,JYJは,被告エイベックスとの直接契約を拒否した。そのころ,Zは,JYJとS.M.との訴訟が係属するソウル中央地方法院あてに,同月29日付け確認書を作成して提出した。当該確認書には,弊社としては,今までも今の東方神起を作りあげるため共に歩んできたエスエムエンタテインメントとの契約を通じて,東方神起の日本活動を展開するのが最善だと考えています。そのためには早急に3人とエスエムとの専属契約は有効という判決が下されることを,弊社は強く希望しています。と記載されていた。(甲86,87,91,乙41,証人X,証人Y)


被告エイベックスは,平成22年9月1日,法務法人世宗に対し,JYJが直接契約を拒否したことを前提として,本件専属契約の解除合意書を修正して送付するとともに,合意解除についてのプレスリリース案を送付し,同月7日プレスリリース予定である旨をメールにより通知した。メールにより通知された解除合意書の修正案の概要によれば,金銭の精算について,原告シージェスは,受領した契約金のうち,未経過分3億8669万3334円を被告エイベックスに返還し,他方,被告エイベックスは,同年4月1日から同年6月30日までのアーティスト活動による収益分配金2億1701万1575円を分配するものとし,被告エイベックスが上記返還金と分配金を相殺する結果として,原告シージェスが被告エイベックスに対し,相殺後の残額1億6968万1759円を支払うというものであった。
上記メールには,注記として以下のような記載があった。ご不満かもしれませんが,本件契約終了については,その理由を明確にした対外発表を行わなければなりません。本件解除は当社の売上および利益,ならびに株価に大きな影響をおよぼす事項であり,東京証券取引所や監査法人の指導,上場企業としての情報開示義務がございます。また,東方神起およびJJYを応援してくれているファンに対する説明責任も重大です。先生方や甲代表は,従前の当社のプレスリリース案について『脅迫である』『事実と違っている』などと評されておりましたが,当社の発表する内容にいささかの悪意も誤記もございません(ございましたら具体的にご指摘ください)。そして,当該メールに添付されたプレスリリース案の内容は,以下のとおりであった。
B/A’/C’の専属契約に関し,メンバーと当社間で協議の結果,本年8月31日付にて合意解除することとなりました。日本において現在B/A’/C’のマネジメント業務を行っている韓国法人C-JeSENTERTAINMENTCO.,LTD(以下C-JeS社)の代表者が,暴力団幹部を父親にもち,その威力を背景に担当アーティストを恐喝し,強要罪で実刑判決を受け服役していたとの報道につき,当社は事実関係を調査しておりました。その結果,現時点での暴力団との関係こそ明らかではないものの,その他につきましては上記報道がすべて事実であることが判明いたしました。当社はコンプライアンス重視,企業倫理遵守の経営方針から,C-JeS社およびその代表者がB/A’/C’のマネジメントに関与している限り,彼らとの専属契約を継続すべきではないと判断いたしました。(以下省略)(以上につき甲34の4及び5,甲87)

その後,法務法人世宗は,平成22年9月3日,被告エイベックスに対し,合意解除の条件について,契約金の返還に関する被告エイベックスの意見は大部分反映するようにするが,契約期間が解除された以降に,被告エイベックスにおいてCD等が販売されることを望んでいないことなどを内容とする意見を提示するとともに,上記プレスリリース案について,原告甲の名誉を毀損し,JYJの今後の活動に影響を与えるものであるなどとして反対する旨をメールにより通知した。そして,法務法人世宗は,同メール中に

当方の依頼人らは,貴社がプレスリリースをC-Jes社との契約解除およびJJYとの直接契約締結を強要するための武器であると認識しております。

と記載した。これに対し,被告エイベックスは,同月8日,プレスリリースがC-Jes社との契約解除およびJJYとの直接契約締結を強要するための武器であると認識している旨の記載は,全く的外れな思い違いであり,JYJが被告エイベックスよりも原告シージェスを選んだという現実を真摯に受け止めているとし,被告エイベックスが契約解除後にCD等を販売できないものとすることは,重大な契約条件の事後変更であり容認できない旨,プレスリリースをどうしても出して欲しくないということ及び解除後の被告エイベックスによるCD等の販売中止が解除の条件として譲れないのであれば,合意解除は不可能である旨を,メールで法務法人世宗宛てに通知した。
法務法人世宗は,同月9日付けのメールで,被告エイベックスに対し,プレスリリースについて,解除の事実以外に解除理由を公開することは依頼人としては絶対に認められないこと,解除以後のCDの発売は,収益分配や曲の活用等において被告エイベックスが中立的な合意方法を提案することを前提として要請を受け入れることなどを通知した。
被告エイベックスは,同月13日,法務法人世宗に対し,原告シージェスが新たに被告エイベックスにとって不利益な合意解除の条件を付け加えたなどとして,解除をあきらめるとし,契約の不利益変更をして解除するくらいならば,契約金の返還を放棄してでも契約を継続した方がよい旨,留保している分配金については速やかに支払う用意がある旨を通知するとともに,活動休止のお知らせとしてプレスリリースをする旨通知した。プレスリリースの理由としては,これは,何かを要求するための脅しではけっしてありません。また,貴法人の承諾を得るべきものではありません。これ以上,東京証券取引所や監査法人や株主に秘匿しておくことはできないのです。また,ファンに対しても9月以降3人が日本で活動していないことを説明しなければなりません。と記載した。(以上につき甲87,89の1~4)

法務法人世宗は,平成22年9月15日,被告エイベックスに対し,原告シージェスがプレスリリースを含めて被告エイベックスの提示する合意解除の条件を受け入れる旨をメールで通知した。ただ,プレスリリースについては,将来そのような発表による法的責任の問題は残るとしていた。これに対し,被告エイベックスは,同月16日,法務法人世宗に対し,たいへんありがたいものであると感謝する一方,たいへん意外なものであり,対処に窮しているとし,本件専属契約の継続について既に取締役会の決議がされているため,当該決議を覆すには再度取締役会の決議が必要であり,合意解約について取締役会の決議がされた場合でも,合意解除の条件として,当社が発するプレスリリース等の広報対応,韓国裁判所に出した確認書その他について,貴法人の依頼人らは名誉毀損,損害賠償など名目あるいは刑事・民事の如何にかかわらず,提訴,仮処分およびその他一切の法的措置を採らないこと。また,当社に対する批判,誹謗中傷等をマスコミ,インターネットなど媒体の如何を問わず,あらゆるメディアにおいて行わないこと,また,3人にも行わせないことを求める旨とともに,同日夕刻にはプレスリリースをする旨をメールで通知し,同日,本件公表を行った(前提事実(4)参照)。その後,被告エイベックスは,同月29日,法務法人世宗に対し,取締役会において本件専属契約を継続する旨の決議が再度された旨メールで通知した。
(甲34の6~8,甲86,87,証人X,証人Y)

被告エイベックスは,平成22年9月1日以降,JYJの日本におけるアーティスト活動について,マネジメント業務を行うことはなかった。(甲89の2及び4,弁論の全趣旨)

(2)

以上に基づいて,被告エイベックスの本件専属契約違反の有無について
検討する。

まず,本件専属契約5条違反について検討するに,被告エイベックスは,平成22年9月1日以降,JYJの日本におけるアーティスト活動について,マネジメント業務を行うことはなかったのであるから(上記(1)ケ),個別にJYJのアーティスト活動を企画・計画することを怠ったほか,少なくともJYJに対するアーティスト活動に必要なレッスンその他の機会の提供及び出演業務の提供を怠り,JYJのための広告宣伝活動を怠ったことが明らかである。
そうすると,被告エイベックスは,本件専属契約5条(1)のほか,少なくとも同条(2)①,②及び⑤に違反したといえる。イ
本件専属契約15条違反について検討するに,本件専属契約15条(2)①は,被告エイベックスが,その権利,権限及び能力に照らし,本件専属契約を履行できることを保証し,同条(2)②は,それを前提として,原告シージェスの権利行使について支障がないことを保証する規定である。そうすると,本件専属契約15条(2)②は,被告エイベックスの権利,権限及び能力に照らし,原告シージェスの権利行使につき支障が生じている場合を規律するものであって,本件公表のような場合を規律する規定ではないから,被告エイベックスが同号に違反するとはいえない。
他方で,本件専属契約15条(5)は,被告エイベックス及び原告シージェスは,契約期間中,本件専属契約に影響を及ぼすおそれのある行為を行う場合には,事前に相手方と協議の上,相手方の書面による承諾を得るものとする旨規定する。そして,被告エイベックスは,平成22年9月1日以降,JYJのアーティスト活動について,マネジメント業務を行うことはなく,同月16日,本件公表を行ってJYJの日本におけるアーティスト活動の休止を発表しており(上記(1)ク及びケ),当該行為が本件専属契約に影響を及ぼすおそれのある行為であることは明らかである。しかし,被告エイベックスは,原告シージェスの書面による承諾を得ていないのであるから,本件専属契約15条(5)に違反したといえる。
この点,被告エイベックスは,本件専属契約15条(5)が想定しているのは,括弧書に例示列挙されているような場合である旨主張するが,この括弧書は例示であって限定列挙ではないと解されるのであるから,被告エイベックスの主張は採用できない。

さらに,本件専属契約16条違反について検討するに,同条(1)は,被告エイベックス及び原告シージェスは,自己及び相手方の名誉・声望の毀損,並びに社会的信用の失墜を招くような言動をしてはならない旨規定する。
そして,本件公表は,後記4(6)のとおり,原告シージェスの代表者である原告甲の名誉を毀損する摘示を含むものであるから,被告エイベックスは,本件専属契約16条(1)に違反したといえる。


最後に,本件専属契約17条違反について検討するに,同条(4)なお書は,第三者の根拠のないあるいは誇張された主張やうわさなどによる場合に,被告エイベックスは最大限原告シージェス又はJYJを保護しなければならない義務がある旨規定する。
確かに,サンケイスポーツ新聞は,原告甲について,人気韓流スターの元マネージャーだったが,このスターを脅迫して実刑判決を受けたことがあり,暴力団とのつながりがあるというとの記事を掲載したことが認められる(上記(1)ア)。しかしながら,原告甲は,韓国において,別紙認定犯罪事実記載のとおり犯罪事実が認定され,懲役8か月の実刑判決が言い渡されたことがあるから(前提事実(10)),暴力団とのつながり以外については,上記の記事は事実に基づくものであるといえる。そして,別紙認定犯罪事実においては,原告甲は自分の父親が暴力団の副親分格であることを被害者に告げていた旨が認定されているのであるから,上記の記事が根拠のないあるいは誇張された主張やうわさであるということはできない。
そうすると,上記の記事が掲載されたことによって,被告エイベックスにおいて,原告シージェス及びJYJを保護する義務が生じたとはいえないから,その余について判断するまでもなく,被告エイベックスが本件専属契約17条(4)なお書に違反したとはいえない。
ところで,原告シージェスは,被告エイベックスが根拠のないあるいは誇張された主張やうわさを公表したとして,本件専属契約17条(4)なお書に違反した旨主張するが,被告エイベックスは契約当事者であって第三者ではなく,被告エイベックスを根拠のないあるいは誇張された主張やうわさの主体と解することはできないから,原告シージェスの主張は理由がない。

以上のとおり,被告エイベックスは,本件専属契約5条(1),同条(2)①,②及び⑤,15条(5)並びに16条(1)に違反したと認められる。そして,前提事実(5)のとおり,原告シージェスは,本件専属契約17条(2)に基づいて,本件解除をしたことが認められるから,本件専属契約の違反事項の治癒を求める通知書が被告エイベックスに到達した平成23年1月24日から30日を経過した同年2月23日の経過をもって解除できる状況となり,原告シージェスによる契約解除の意思表示が被告エイベックスに到達した同日の翌日である同月24日には契約解除の効力が発生したものと認めるのが相当である。
したがって,本件解除をもって本件専属契約は終了したと認められる。
(3)

これに対し,被告エイベックスは,民法644条及び商法505条の規
定の趣旨からすれば,たとえ契約書に明示的に記載されていなかったとしても,受任者において,委任の趣旨に合致する行為を行う限りにおいては,何ら契約違反を構成しないとし,本件専属契約における委任の趣旨は,あくまでも被告エイベックスによるJYJの日本国内における『適正・適法』なアーティスト活動に関するマネジメントであるといえ,かかる委任の趣旨に鑑みれば,本件において,韓国でのJYJのマネジメント業務を行っている原告甲を巡る報道や韓国で係争中のS.M.との別件訴訟の結果次第では,被告エイベックスが日本におけるJYJのマネジメント業務を独占的に行う権限を失う可能性があることといった事情が判明したにもかかわらず,被告エイベックスがその後も漫然とJYJの日本国内におけるアーティスト活動のマネジメントを行うことが,適正・適法なマネジメントなどと到底評価することができないことは明らかであり,被告エイベックスの本件対応は,本件専属契約の委任の趣旨に合致する,極めて適切かつ妥当な事務処理の方法であるから,本件専属契約5条に違反しない旨主張する。
確かに,民法644条及び商法505条の規定の趣旨に照らすと,契約書に明示的に記載されてなくとも,受任者は委任の趣旨に合致する行為を行うことができると解される。しかしながら,本件専属契約は,原告シージェスが被告エイベックスに対してJYJの日本におけるマネジメント業務を委託することが主要な目的であると解されるのであるから,マネジメント業務により行われるJYJの活動内容自体がコンプライアンスに反するような深刻な事態を引き起こすようなことがあれば格別,JYJの活動内容には直接反映することのない,原告甲の過去の経歴の存在等を理由として,被告エイベックスがJYJの日本におけるマネジメント業務を行わないことが委任の趣旨に合致するとは到底解されない。
そして,上記(1)のとおり,サンケイスポーツ新聞の記事が掲載された後,被告エイベックスは,本件専属契約を合意解除してJYJと直接契約をすることを試みたものの,JYJに拒否されてJYJと直接契約をすることができなくなると,最終的に原告シージェスがプレスリリースすることを含めて被告エイベックスの提示する合意解除の条件を受け入れる旨を通知したにもかかわらず,本件専属契約の継続について既に取締役会において決議されているとして合意解除を拒否している。被告エイベックスのコンプライアンスとして,原告甲の前科等が重要な問題になるのであれば,JYJとの直接契約ができなくとも本件専属契約の解除を優先するであろうと解されるのに,被告エイベックスは本件専属契約の継続を選択しているのであり,このような被告エイベックスの行動は,適正・適法なマネジメントのためであったとは到底理解できないし,かえって前記(1)の交渉の経緯に照らせば,JYJとの直接契約などの目的があったと推認されてもやむを得ないものである。
また,被告エイベックスは,韓国においてJYJとS.M.との係争があることを知った上で,本件専属契約を締結したのであるから(前提事実(2)及び(3)。また,証人Yによれば,被告エイベックスは本件専属契約の締結についてS.M.に報告し,消極的な反応ながらも,一応の理解を得ていたと認められる。),たとえJYJとS.M.との訴訟の帰趨について当初の予測と異なる点が生じたとしても,訴訟の決着も見ない段階で,そのことがマネジメント業務を行わない理由にはならない。
以上のとおり,被告エイベックスの主張は採用できない。
2
第1事件について
(1)

不正競争防止法3条1項に基づく差止請求の成否(争点1-2)について
前記1のとおり,本件解除は有効であるから,本件解除をもって本件専属
契約は終了したと認められる。
そして,前提事実(6)及び(7)のとおり,被告エイベックスは,本件解除の効力が発生した平成23年2月24日以降においても,ザック,横浜アリーナ及び被告相撲協会に対し,原告シージェスとの間で本件専属契約を締結しており,日本においてJYJのマネジメント業務を独占的に行う権利があるので,JYJは被告エイベックスを介することなく日本でアーティスト活動を行うことはできないなどと通知したほか,株式会社ノースロードミュージックを含む数社,国土交通省関東地方整備局,株式会社JTBコミュニケーションズ,茨城県庁(広報室),水戸市役所,ひたちなか商工会議所,水戸商工会議所に対しても,同様の旨を通知ないし説明している。
そうすると,被告エイベックスは,原告シージェスについて虚偽の事実を告知したというべきであるし,上記の告知内容は,原告シージェスのマネジメント業務について信用を害するものである。また,被告エイベックスと原告シージェスとは,アーティストのマネジメントを業務とするから(前提事実(1)ア及びイ),競争関係があることは明らかである。
以上のとおり,被告エイベックスは,不正競争防止法2条1項14号に該当する。そして,原告シージェスは,被告エイベックスの不正競争により営業上の利益を侵害されるおそれがあることは明らかであるから,同法3条1項に基づく差止請求(第1請求1(1))は理由がある。
(2)

業務遂行権に基づく差止請求の成否(争点1-3)について
原告シージェスは,業務遂行権に基づく差止請求権として,被告エイベックスが原告シージェスの業務を妨害することの禁止を求める。
そこで検討するに,法人の営業又は業務に係る利益も法人の財産権の行使又は法人の人格的利益と評価できる場合には,差止請求の根拠となる場合があり得る。これは,刑法233条,234条において,業務が保護法益とされ,その妨害が刑罰の対象とされていることからも根拠付けられる。もっとも,このような差止請求については,相手方の権利行使との衝突が予想されるものであるから,相手方の権利行使の相当性,業務に支障を及ぼす程度,相手方の行為の継続性等を考慮して,差止請求の必要性と相当性を判断するのが相当である。


前提事実(6)及び(7)のとおり,被告エイベックスは,①原告シージェスに対し,本件専属契約について解除事由がなく,本件専属契約は現在もなお有効に存続しているとし,貴社が,本件契約が解除されていることを前提に,当社を介することなく,JYJのアーティスト活動を行うことが判明した場合には,貴社のすべての取引先(テレビ局,レコード製作会社,コンサートイベンター等)に対する事前の警告等,これを阻止するために必要なあらゆる方策を講じる予定であることも,併せて警告して参りましたなどとして,横浜アリーナでのコンサートを中止するよう要求したこと,②ザックに対し,被告エイベックスが日本においてJYJのマネジメント業務を独占的に行う権利を有していることを知りながら,被告エイベックスに無断でJYJをイベントに参加させることになるなどとして,横浜アリーナでのコンサートの開催中止を要求するとともに,損害賠償を請求することも検討せざるを得ない旨を通知したこと,③横浜アリーナに対し,原告シージェスとの間で本件専属契約を締結しており,日本においてJYJのマネジメント業務を独占的に行う権利があるので,JYJは被告エイベックスを介することなく日本でアーティスト活動を行うことはできないなどとして,会場の利用を許可しないよう要求したこと,④さいたまアリーナに対し,ザックの会場の利用を許可しないよう要求したこと,⑤被告相撲協会に対し,原告シージェスとの間で本件専属契約を締結しており,日本においてJYJのマネジメント業務を独占的に行う権利があるので,JYJは被告エイベックスを介することなく日本でアーティスト活動を行うことはできないなどとして,会場の利用を許可しないよう要求し,会場を利用させると損害賠償請求を行わざるを得ない旨を通知したこと,⑥株式会社ノースロードミュージックを含む数社に対し,原告シージェスとの間で本件専属契約を締結しており,日本においてJYJのマネジメント業務を独占的に行う権利があるなどとして,JYJのコンサート等の主催,企画,運営等に関与すると損害賠償請求を行わざるを得ない旨を通知したこと,⑦国土交通省関東地方整備局に対し,原告シージェスとの間で本件専属契約を締結しており,日本においてJYJのマネジメント業務を独占的に行う権利があるので,JYJは被告エイベックスを介することなく日本でアーティスト活動を行うことはできないなどとして,会場の利用を許可しないよう要求するとともに,会場を利用させると損害賠償請求を行わざるを得ない旨を通知したこと,⑧株式会社JTBコミュニケーションズに対し,原告シージェスとの間で本件専属契約を締結しており,日本においてJYJのマネジメント業務を独占的に行う権利があるなどとして,JYJのイベントの開催中止を要求するなどしたこと,⑨茨城県庁(広報室),水戸市役所,ひたちなか商工会議所,水戸商工会議所を訪問し,JYJはビザを取得していない旨,原告シージェスとの間で本件専属契約を締結しており,被告エイベックスの承諾なくJYJのコンサートを開催することはできない旨,ひたちなかコンサートを実行した場合には被告相撲協会と同様に訴える旨を説明し,ひたちなかコンサートを中止するよう要求したことがそれぞれ認められる。

以上のとおり,被告エイベックスは,本件解除後においても本件専属契約が有効であることを前提として,JYJのコンサートを開催しようとした原告シージェス及びザックに対し,コンサートの中止を要求するなどした上,コンサートの施設管理者等に対し,会場の利用を許可しないよう要求するなどしたものである。
確かに,被告エイベックスの行動は,本件解除後においても本件専属契約が有効であることを前提とする点において,権利行使として相当性を疑われるものである。しかしながら,その態様は,自らの見解を表明した上で,それに従った要求又は事後的措置として訴訟提起の可能性を通知するなどしたものであって,実力行使をもって原告シージェスの業務を妨害するなどというものではない。また,原告シージェスは,横浜アリーナ及びさいたまアリーナでのコンサートを開催できなかったものの,国技館コンサート及びひたちなかコンサートを開催できていることをも併せ考慮するならば,原告シージェスの日本におけるJYJのマネジメント業務について,被告エイベックスの行為を差し止める必要性があるとは直ちにいい難いし,その差止請求の内容も広汎であって相当性に欠けるというべきである。
したがって,原告シージェスの業務遂行権に基づく差止請求(第1請求1(2))は理由がない。
(3)

まとめ
以上のとおり,第1事件について,不正競争防止法3条1項に基づく差止
請求(第1請求1(1))は理由があるから認容し,業務遂行権に基づく差止請求(第1請求1(2))は理由がないから棄却する。
3
第2事件及び第4事件について
(1)

第2事件について
被告エイベックスは,原告シージェスの本件専属契約違反として,原告シ
ージェスは,本件専属契約が現在もなお有効に存続しているにもかかわらず,被告エイベックスの承諾を得ないまま,国技館コンサートを開催したと主張する。
しかしながら,前記1のとおり,本件解除は有効であり,本件解除をもって本件専属契約は終了したと認められるから,被告エイベックスの主張は理由がない。
そうすると,その余について判断するまでもなく,被告エイベックスの原告シージェス及び被告日本相撲協会に対する不法行為(原告シージェスに対しては選択的に債務不履行)に基づく損害賠償請求(第1請求2)は理由がないからいずれも棄却する。
(2)

第4事件について
被告エイベックスは,原告シージェスの本件専属契約違反として,本件専
属契約が現在もなお有効に存続しているにもかかわらず,被告エイベックスの承諾を得ないまま,平成23年10月15日及び16日,ザックとともに,ひたちなかコンサートを開催したと主張する。
しかしながら,前記1のとおり,本件解除は有効であり,本件解除をもって本件専属契約は終了したと認められるから,被告エイベックスの主張は理由がない。
そうすると,その余について判断するまでもなく,被告エイベックスの不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求(第1請求4)は理由がないから棄却する。
4
第3事件について
(1)

本件専属契約に基づく未払契約金の額(又は債務不履行に基づく損害賠
償としての未払契約金相当額)(争点3-1)について

本件専属契約10条(1)①は,被告エイベックスが,原告シージェスに対し,本件専属契約の契約金として7億円支払う旨を定め(前提事実(3)),被告エイベックスが5億5000万円を支払済みであることは当事者間に争いがない。


この点,被告エイベックスは,原告シージェスが,原告甲の前科を殊更隠して,本件専属契約を締結し,その結果,被告エイベックスのJYJに対する適正・適法なマネジメント権の行使につき,重大な支障を与えたのであるから,本件専属契約15条(1)①に基づき,被告エイベックスの権利行使につき何らの支障もないことを保証する同条(1)②に違反し,原告シージェスは,契約金の残部を被告エイベックスに請求する権利を有しない旨主張する。
しかしながら,本件専属契約15条(1)①は,原告シージェスが,その権利,権限及び能力に照らし,本件専属契約を履行できることを保証し,同条(1)②は,それを前提として,被告エイベックスの権利行使について支障がないことを保証する規定である。
そうすると,本件専属契約15条(1)②は,原告シージェスの権利,権限及び能力に照らし,被告エイベックスの権利行使につき支障が生じている場合を規律するものであって,原告シージェスの代表者である原告甲に前科があった場合を規律する規定ではないから,原告シージェスが同号に違反するとはいえない。

他方で,前提事実(3)に加え,証拠(乙28)及び弁論の全趣旨によれば,本件専属契約10条(1)①は,契約金7億円のうち1億5000万円について,平成23年2月末日支払と定めていたところ,被告エイベックスと原告シージェスとは,平成22年4月1日,上記1億5000万円のうち2160万円を直接JYJに対して支払う旨を合意し,これを同年6月末日までに支払ったことが認められるから,被告エイベックスの未払契約金は1億2840万円であったと認められる。
そして,前記1のとおり,本件解除をもって本件専属契約は終了したと認められる。本件専属契約10条(1)によれば,契約金は,権利譲渡の対価及び本件アーティスト活動の遂行の対価を含む本契約上に定める行為等一切の対価として支払うものとされているから,契約金が契約時点において既に発生しており,契約書にいう支払期日は単にその支払日を定めたものとみるのは相当でない。そして,本件専属契約における存続事項(24条)には契約金の支払についての10条(1)①は挙げられていないから,上記の未払契約金債務1億2840万円は解除の効果により消滅したものというべきである。もっとも,前記1のとおり,被告エイベックスの本件専属契約違反により本件解除がされたのであり,被告エイベックスの違反行為がなければ,本件専属契約は継続し,原告シージェスは未払契約金を取得できたものと認められるから,原告シージェスは,被告エイベックスに対し,同額を債務不履行に基づく損害賠償として請求することができるというべきである。
したがって,原告シージェスの債務不履行に基づく損害賠償請求(第1請求3(1))は,1億2840万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成23年8月10日から商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
(2)

債務不履行に基づく損害賠償としての逸失利益の額(争点3-2)につ
いて

まず,原告シージェスは,被告エイベックスが,平成22年7月以降,JYJの日本におけるアーティスト活動を行わせることはなくなったと主張した上で,同月以降,本件専属契約が解除されるまでの8か月間分の逸失利益を主張する。
そこで検討するに,前記1(1)ケのとおり,被告エイベックスは,平成22年9月1日以降,JYJの日本におけるアーティスト活動について,マネジメント業務を行うことはなかったことが認められる。しかし,証拠(乙25)によれば,JYJは,平成22年7月以降,同年8月に開催されたa-nation'10の出演以外に日本におけるスケジュールはなかったものの,同年7月及び8月には,アメリカ及び韓国でのスケジュールがあったことが認められ,このようなスケジュールに照らすと,被告エイベックスが,同年7月及び8月,JYJの日本におけるアーティスト活動について,マネジメント業務を行わなかったとは認められない。そうすると,原告シージェスの逸失利益を算定する期間は,平成22年9月1日から本件解除の効力が発生した日の前日である平成23年2月23日までと認めるのが相当である。


また,原告シージェスは,JYJが活動した期間に対応するアーティスト印税と利益分配金の額をもって,逸失利益の算定数値とすべき旨主張する。
そこで検討するに,アーティスト印税はJYJの実演活動の対価であり,利益分配金はJYJのコンサート等の出演に関する利益分配である(前提事実(8)ア)。そうすると,アーティスト印税は,JYJのアーティスト活動にかかわらず,CD等の売上に応じて発生するものであり,上記の逸失利益の算定期間において,CD等の発売が具体的に予定されていたにもかかわらず,被告エイベックスが行わなかったなどの事情があればともかく,そのような事情が認められない本件においては,算定数値とするのは相当ではないというべきである。
そして,平成22年4月分以降の利益分配金が合計3億7843万2573円であったことに当事者間に争いがない。そこで,JYJの活動期間を5か月(平成22年4月~同年8月)として,上記の利益分配金額を5で除した数値に,逸失利益の算定期間(5+23/28)を乗じて,逸失利益を算定すると,4億4060万円(1万円未満切り捨て)となる。(計算式)(3億7843万2573円/5)×(5+23/28)=4億4060万円(1万円未満切り捨て)

したがって,原告シージェスの債務不履行に基づく損害賠償請求(第1請求3(2)の一部)は,4億4060万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成23年8月10日から商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(3)

コンサート活動の妨害を理由とする不法行為の成否及び損害額(争点3
-3)について

まず,コンサート活動の妨害を理由とする不法行為の成否について検討する。
(ア)

前提事実(6)のとおり,①ザックは,関係者に対し,平成23年6
月7日横浜アリーナにおいて,JYJのコンサートを開催する旨を通知した。しかし,被告エイベックスは,横浜アリーナに対し,原告シージェスとの間で本件専属契約を締結しており,日本においてJYJのマネジメント業務を独占的に行う権利があるので,JYJは被告エイベックスを介することなく日本でアーティスト活動を行うことはできないなどとして,会場の利用を許可しないよう要求した。そのため,横浜アリーナは,ザックに対し,興行権等の帰属を巡って係争中であることが確認されたため,イベントの円滑な開催が困難な状態にあるなどとして,横浜アリーナの利用申込みを承認することができない旨を通知した。②そこで,ザックは,さいたまアリーナに会場を変更したところ,被告エイベックスは,さいたまアリーナに対し,会場の利用を許可しないよう要求した。そのため,さいたまアリーナは,ザックに対し,会場の利用を許可しない旨を通知するとともに,そのホームページにおいて,お知らせとして,出演が予定されているアーティストの契約に関する問題が存在する中で,ザックに対して会場の利用を許可することは適切でないと判断した旨を掲載した。③そのため,ザックは再び会場を変更し,原告シージェスとザックは,国技館において,国技館コンサートを開催した。(イ)

以上のとおり,ザック及び原告シージェスは,被告エイベックスが
施設管理者である横浜アリーナ及びさいたまアリーナに対して会場の利用を許可しないよう要求し,横浜アリーナ及びさいたまアリーナが会場の利用を許可しなかったため,会場の変更を余儀なくされたものである。そして,前記1のとおり,本件解除をもって本件専属契約は終了したと認められるから,被告エイベックスは,虚偽の事実を告知するなどして,原告シージェスのコンサート活動を妨害したものと認められる。
そうすると,被告エイベックスが原告シージェスのコンサート活動を妨害したことについて,不法行為が成立するというべきである。
(ウ)

したがって,被告エイベックスは,原告シージェスに対し,不法行
為に基づき,コンサート活動の妨害に係る損害を賠償する責任がある。イ
続いて,コンサート活動の妨害に係る損害額について検討する。
(ア)

まず,国技館コンサートの利益について検討する。
チケット売上に係る利益について検討するに,証拠(甲37,乙31)によれば,チケット売上は,1億8627万3750円(=9750円〔諸手数料を含む。〕×1万9105名)であることが認められる。また,証拠(枝番号を含めて甲37,63~85,乙12,丙9)によれば,コンサート開催に係る費用は,別紙認定支出表のとおり,1億2675万6981円であると認められるから,コンサートのチケット売上に係る利益は,5951万6769円である。
なお,コンサート開催に係る費用について補足するに,ダンサー出演料については,甲63号証の各号証は,その趣旨が判然としないため,乙12号証記載の想定金額と同額を認定した。また,販売手数料等については,国技館コンサートでは,プレイガイドに委託しないで,ザックにおいてチケットを発券しているところ(甲37),チケット購入者にシステム使用料を含む諸手数料を上乗せしているから(乙31),諸手数料合計と同額である2388万1250円(=1250円×1万9105名)を認定した。

グッズ売上に係る利益について検討するに,証拠(甲37)によれば,グッズ売上は,3500円(税込)の記念Tシャツ及び2500円(税込)のストラップ付きパンフレットを販売し,合計4776万2500円であったこと,受託販売として売上の30%が利益になること(販売費用はコンサート開催に係る費用に計上)がそれぞれ認められるから,グッズ売上に係る利益は1432万8750円であると認められる。


したがって,国技館コンサートに係る利益は7384万5519円である。

(イ)

続いて,さいたまアリーナでコンサートを行った場合の想定利益に
ついて検討する。

チケット売上に係る想定利益を検討するに,証拠(甲37)によれば,さいたまアリーナの収容人数は1万8000名であり,昼と夜の2部制とし,1枚8500円のチケットを1万6000名分,7500円のチケットを2000名分発売することを予定であったことが認められるから,チケットの想定売上は3億0200万円であると認められる(甲33の1~3及び弁論の全趣旨によれば,平成23年10月15日及び16日の両日に開催されたJYJのひたちなかコンサートにおいては,1回当たりの入場者数が4万人程度であったことが認められるから,さいたまアリーナでのチケットの想定売上を上記のとおりとすることは相当である。)。また,証拠(甲37)によれば,コンサート開催に係る想定費用は,別紙支出表のさいたまアリーナ欄記載のとおり,1億4247万円であると認められるから,チケット売上に係る想定利益は,1億5953万円であると認められる。

グッズ売上に係る想定利益について検討するに,証拠(甲37)によれば,さいたまアリーナのコンサートでは,3500円(税込)の記念Tシャツ及び2500円(税込)のストラップ付きパンフレットを販売する予定であったこと,国技館コンサートの実績では1名平均2500円のグッズを購入していたことがそれぞれ認められ,さいたまアリーナでの動員見込みが3万6000名であることに照らすと,グッズの想定売上は9000万円であると認められる。そして,証拠(甲37)によれば,グッズ売上に係る想定費用として,グッズ制作費(売価の7割=6300万円)に加え,輸入関税,運搬費,アルバイト人件費,会場コミッション等の費用約900万円が見込まれていたことが認められるから,グッズ売上に係る想定費用は7200万円であると認められる。
そうすると,グッズ売上に係る想定利益は1800万円であると認められる。


したがって,さいたまアリーナでコンサートを行った場合の想定利益は1億7753万円である。
(ウ)

以上のとおり,さいたまアリーナでコンサートを行った場合の想定
利益は1億7753万円であり,国技館コンサートに係る利益は7384万5519円であるから,その差額である1億0368万4481円がコンサート活動の妨害に係る損害であると認められる。
そして,弁論の全趣旨によれば,原告シージェス及びザックとは,JYJのコンサートに係る利益について,その配分をそれぞれ2分の1とする合意があったと認められるから,原告シージェスの損害額は5184万円(1万円未満切り捨て)であると認められる。

したがって,原告シージェスのコンサート活動の妨害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求(第1請求3(2)の一部)は,5184万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成23年8月10日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
(4)

著作隣接権侵害を理由とする不法行為の成否及び損害額(争点3-4)
について

まず,本件専属契約の規定について検討する。
本件専属契約では,①契約の期間中に行われたJYJのアーティスト活動の遂行による一切の著作物に係る著作権,実演家の権利等の権利は,地域及び期間の制限なく,その発生と同時に独占的に被告エイベックスに帰属,もしくは原告シージェス又はJYJから被告エイベックスに独占的に譲渡され(7条(1)),②被告エイベックスは,契約の期間中,原告シージェスと別途協議の上,7条に基づき被告エイベックスの保有する権利の行使,第三者許諾,譲渡をすることができるが,契約終了後においては,地域,範囲,期間の制限なく,自由な判断により当該行使,第三者許諾,譲渡を行うことができる(8条),③被告エイベックスは,契約の期間中,原盤等の利用行為にかかる規格,種類,内容等の一切の事項について,原告シージェスと別途協議の上,決定することができるが,契約終了後においては,地域,範囲,期間の制限なく,自由な判断により当該決定を行うことができる(6条(2)),④被告エイベックスは,原告シージェスに対し,JYJの実演活動の対価として,著作隣接権又は著作権が存続する期間中,アーティスト印税を支払う(10条(1)②),⑤6条(2),7条,8条,10条(1)②等の規定について,契約終了後も有効に存続する(24条)などと規定されている。

以上のとおり,本件専属契約では,被告エイベックスが,契約終了後においても,契約の期間中に行われたJYJのアーティスト活動の遂行による著作権,実演家の権利等の権利を保有するとされ,これを前提とした規定を設けられている。
そうすると,原告シージェスは,別紙著作物目録1~8記載のCD及びDVDについて,実演家の権利を保有することはないから,その余について判断するまでもなく,原告シージェスの著作隣接権侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求(第1請求3(2)の一部)は理由がない。また,原告シージェスは,実演家の権利を有さなくとも,被告エイベックスが本件解除後にJYJのCD等を発売する行為が不法行為である旨主張するけれども,その根拠は不明であるといわざるを得ないから,理由がない。


これに対し,原告シージェスは,本件解除により,上記アの各規定が効力を失う旨主張する。
しかしながら,本件専属契約は,当事者の契約違反があった場合の解除について規定しながら(17条(2)),上記アの各規定を設けているのであるから,当事者の契約違反を理由とする解除によっても,上記アの各規定の効力が失われることはないと解するのが相当である。本件専属契約において,被告エイベックスが契約終了後も著作権,実演家の権利等の権利を保有することなどが規定されているのは,被告エイベックスの投下資本の回収を企図するものであると解されるが,他方で,被告エイベックスは,原告シージェスに対し,契約終了後においても,アーティスト印税を支払う旨が規定されている(10条(1)②)のであるから,上記アの各規定が当事者間の公平に反するなどということもできない。
また,原告シージェスは,実演家の権利を有することを前提として,別紙著作物目録1~6及び8記載のDVDについて,①映画の著作物だとしても,本件解除によって許諾の効力が失われた(著作権法91条2項参照),②法の予定している映画の著作物ではない,③実演家の権利を消尽させる条項の適用はないと主張するけれども,上記イのとおり,原告シージェスは実演家の権利を有していないのであるから,原告シージェスの主張は理由がない。
さらに,原告シージェスは,別紙著作物目録1~6及び8記載のDVDについて,映画の著作物だとしても,JYJが共同著作者である旨主張する。しかしながら,映画の著作物の著作者は制作,監督,演出,撮影,美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者であって(著作権法16条),実演家であるJYJがその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とはいい難いし,その立証もないから,原告シージェスの主張は理由がない。
(5)

原告シージェスの請求のまとめ
上記(1)のとおり,原告シージェスの債務不履行に基づく損害賠償請求
(第1請求3(1))は,1億2840万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成23年8月10日から商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
前提事実(8)のとおり,被告エイベックスが,原告シージェスに対し,利益分配金等の合計4511万7126円が未払であることに当事者間に争いがないから,その範囲内の請求として,原告シージェスの本件専属契約に基づく未払分配金等の支払請求(第1請求3(2)の一部)は理由がある(4511万7108円及び訴状送達の日の翌日である平成23年8月10日から商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払)。
上記(2)のとおり,原告シージェスの債務不履行に基づく損害賠償請求(第1請求3(2)の一部)は,4億4060万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成23年8月10日から商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
上記(3)のとおり,原告シージェスのコンサート活動の妨害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求(第1請求3(2)の一部)は,5184万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成23年8月10日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。上記(4)のとおり,原告シージェスの著作隣接権侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求(第1請求3(2)の一部)は理由がない。以上をまとめると,原告シージェスの請求(第1請求3(1)及び(2))は,6億6595万7108円及び内金6億1411万7108円に対する平成23年8月10日から支払済みまで年6分の割合による金員,内金5184万円に対する同日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから,これを認容し,その余は理由がないから棄却する。(6)

名誉毀損の成否,損害額及び名誉回復措置の必要性(争点3-5)につ
いて

被告エイベックスは,本件公表を行って,本件摘示事実を摘示したのであり,本件摘示事実には原告甲の前科に関する事実も記載されていたから(前提事実(4)),本件摘示事実の摘示が名誉毀損に当たることは明らかである。
これに対し,被告エイベックスは,平成22年9月16日以前において,様々な新聞及び週刊誌の報道により,原告C-JeSの代表者が,担当アーティストを恐喝し,強要罪で実刑判決を受け服役していたことは広く知れ渡っていたのであるから,原告甲の社会的評価は既に相当程度低下していたといえ,本件摘示事実の摘示により,原告甲に新たな社会的評価の低下をもたらさない旨主張する。
しかしながら,前記1(1)アのとおり,サンケイスポーツ新聞が,平成22年5月29日,原告甲について,人気韓流スターの元マネージャーだったが,このスターを脅迫して実刑判決を受けたことがあり,暴力団とのつながりもあるというとの記事を掲載したことが認められるものの,それ以外には,平成22年9月16日以前において,原告甲の前科に関する事実の報道があったことを認めるに足りる証拠はない。かえって,証拠(乙1の1~3)によれば,スポーツニッポン,デイリースポーツ及びサンケイスポーツ新聞は,同月17日,本件公表が行われたことを報道する記事において,原告甲の前科に関する事実の報道を行ったことが認められる。
以上のとおり,平成22年9月16日以前においては,原告甲の前科に関する事実の報道はスポーツ新聞の1件だけであったのであるから,原告甲の前科に関する事実が社会に広く知れ渡っていたということはできないのであり,本件摘示事実の摘示により,原告甲の社会的評価が低下したと認めるのが相当である。

また,被告エイベックスは,本件摘示事実は,原告甲が担当アーティストを恐喝し,強要罪で実刑判決を受け服役していたという重大な刑事事件に関するものであり,実刑判決を受けたのが著名なアーティストであるJYJの韓国における所属プロダクションの代表者ということも相まって,多くの人々が関心を持った事件であったとして,事実の公共性が認められる旨主張する。
しかしながら,JYJが日本においても著名なアーティストであっても,原告甲は,JYJと基本専属契約を締結した原告シージェスの代表者にすぎないのであり,原告シージェスの代表者としてJYJを通じて社会に及ぼす影響力の程度を考慮したとしても,さほど社会的な影響力があるとはいい難いのであるから,その前科に関する事実が公共の利害に関する事実であるとは認められない。
そうすると,その余について判断するまでもなく,本件摘示事実の摘示について違法性が阻却されるとは認められない。なお,本件摘示事実には恐喝との摘示があるが,これが事実と異なることは別紙認定犯罪事実の記載に照らして明らかである。
したがって,被告エイベックスは,原告甲に対し,本件摘示事実の摘示により,不法行為責任を負うというべきである。

続いて,名誉毀損に係る慰謝料額について検討するに,本件摘示事実には,原告甲の前科に関する事実の摘示があることに加え,恐喝との誤った摘示があること,原告甲が暴力団と関係があるのではないかと推知させる記載(現時点での暴力団との関係こそ明らかではないものの)があること,他方で,原告甲は原告シージェスの代表者として摘示されているにとどまり,実名は摘示されていないこと,本件公表(本件摘示事実の摘示)がその後もエイベックスGHDのホームページに掲載されていることなどに照らすと,名誉毀損に係る慰謝料としては100万円を認めるのが相当である。


また,民法723条に基づく名誉回復等の措置請求について検討するに,上記ウのとおり,本件公表(本件摘示事実の摘示)の内容は,一部事実と異なる等の点があるものの全く事実の基礎を欠くものではないこと,原告甲の実名が記載されているものではないこと,本判決が確定すれば被告エイベックスの親会社であるエイベックスGHDのホームページにおける本件公表(本件摘示事実の摘示)の記載が削除されることが予想されることなどを考慮すると,名誉回復等の措置として原告甲の求める謝罪広告までを認めるのは相当でない。
よって,原告甲の名誉回復等の措置請求は理由がない。

以上のとおり,原告甲の不法行為に基づく損害賠償請求(第1請求3
(3))は,100万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成23年8月10日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があるから,これを認容し,その余は理由がないから棄却する。また,原告甲の民法723条に基づく名誉回復等の措置請求(第1請求3(4))は,理由がないから棄却する。
第5

結論
よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部

裁判長裁判官


裁判官

小川雅
裁判官

森川さ須賀滋敏つき
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