判例検索β > 平成14年(わ)第59号
殺人未遂、銃砲刀剣類所持等取締法違反
事件番号平成14(わ)59
事件名殺人未遂,銃砲刀剣類所持等取締法違反
裁判年月日平成17年4月15日
裁判所名・部大分地方裁判所  刑事部
裁判日:西暦2005-04-15
情報公開日2017-10-13 01:41:15
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主文
被告人A及び同Bをそれぞれ無期懲役に,同Cを懲役14年に処する。被告人Cに対し,未決勾留日数中530日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実第1《以下大阪事件ともいう。》の犯行に至る経緯等)1 被告人Aは,1982年(昭和57年)8月,中華人民共和国(以下中国という。)福建省において出生した。被告人Aは,平成12年5月,日本国に入国し,大分県別府市内にあるD大学に入学したが,平成13年10月,同大学を退学した。 Eは,1980年(昭和55年)6月,中国遼寧省において,朝鮮族として出生した。Eは,平成12年10月,日本国に入国し,前記大学に入学したが,平成13年12月,同大学を退学した。被告人Aは,平成12年10月ころ,Eと知り合い,平成13年8月以降,親しく交際していた。
2 被告人Aは,同年10月,同大学を退学後,東京都内の学校に通うため,東京都内の知人方に転居した。被告人Aは,同年11月ころ,母から学費として50万円の送金を受けたが,Eに対して合計12万円を貸し付けたほか,知人への借金返済や遊興費等に使い果たした。被告人Aは,同年12月17日,同居の知人から50万円を借り入れ,専門学校の学費として41万円を支払った。被告人Aは,所持金が少なくなり,在留資格の制限により働くこともできず,他の者から金銭を借り入れることもできなかったので,Eに対し,電話で数回にわたり上記貸付金の返済を求めたところ,Eから何度も

大阪に行って,強盗をしよう。

と誘われた。被告人Aは,金銭が欲しかった上,強盗をして金銭を手に入れれば,Eが借金を返してくれると期待し,同月二十一,二日ころ,Eに対し,電話で

一緒に強盗をします。

と言って,強盗をすることを承諾した。3 同月24日,被告人Aは東京都内から,Eはナイフ及び棒を準備して大分県内から,それぞれ大阪府内に赴き,同日午後六,七時ころ,合流した。被告人A及びEは,三,四時間にわたり,一人歩きの女性をねらって路上強盗をしようとその機会をうかがったが,実行できず,その日はホテルに泊まった。
被告人A及びEは,同月25日夕方,前日と同様に一人歩きの女性を探したが,見つからなかった。被告人A及びEは,カラオケ店に入り,同AがEに対して他に強盗の方法がないかと尋ねたところ,Eは,売春婦をホテルの部屋に呼んで金銭及びキャッシュカードを奪おうと言い,同Aは,これを承諾した。被告人A及びEは,同店を出て,再度一人歩きの女性を探したものの,やはり見つからなかった。Eは,売春勧誘のビラを10枚程度入手し,被告人A及びEは,前日と同じホテルに泊まった。4 Eは,性交目的でホテルの部屋にいわゆるホテトル嬢を呼んだが,若すぎるとして別のホテトル嬢を派遣するように依頼した。Eは,同月26日午前1時ころ,被告人Aに対し,ホテルの部屋に売春婦を呼んで,刃物で脅し,同女の手足を縛った上,金銭及びキャッシュカードを奪い,同カードの暗証番号を聞き出す旨述べ,同Aは,これを承諾
した。その後,別のホテトル嬢が来ることはなかったため,Eは,部屋に男性が2人いるのが分かったから売春婦が来ないのだと考え,被告人Aに対し,それぞれが別の部屋で売春婦を呼び,強盗をしようと言い,同Aは,これも承諾した。5 被告人A及びEは,同日午前10時ころ,ホテルをチェックアウトし,犯行場所として,大阪市内にあるビジネスホテルを利用することに決めた。その後,被告人A及びEは,手足を縛るためのクラフトテープ,顔を見られにくくするための帽子2個,強盗の道具としてのペティナイフ1丁を購入するなどした。
Eは2人が別々にホテルにチェックインした方がいいと言ったため,被告人Aは,同日午後3時すぎころ,一人で上記ビジネスホテルにチェックインした。その後,同室に来たEは,被告人Aに対し,ペティナイフ,クラフトテープ及び売春勧誘のビラを渡し,前夜に話し合った内容を再確認した上,暗証番号を聞き出した後は,売春婦を殺さないと面倒なことになるから,売春婦を殺して逃げるように指示して,同室を出て行った。6 被告人Aは,上記ビラに記載されていた電話番号に電話をかけ,ホテトル嬢の派遣を依頼したところ,同日午後4時30分ころ,被害者が同室に来た。被告人Aは,被害者に対し,代金を支払い,同女は,浴室に入ってシャワーを浴び始めた。被告人Aは,右手にペティナイフを背後に隠し持って浴室に入った。
(罪となるべき事実第1)
被告人Aは,Eと共謀の上,
1 いわゆるホテトル嬢から金銭及びキャッシュカードを強取しようと企て,平成13年12月26日午後4時30分ころ,大阪市北区a町b番c号のビジネスホテルFホテル303号室において,G(当時35歳)に対し,持参したペティナイフ(刃体の長さ約15センチメートル)をその頸部及び胸部に突き付けるなどして脅迫した上,その両手首及び両足首に持参したクラフトテープを巻き付けて縛るなどの暴行を加え,その反抗を抑圧して,同女所有のキャッシュカード2枚を強取し,その際,同女に対し,殺意をもって,上記ペティナイフで,その左側胸部及び頸部等を十数回突き刺すなどし,よって,そのころ,同所において,同女を心・肺刺創により失血死させて殺害した2 業務その他正当な理由による場合でないのに,前記1記載の日時・場所において,同記載のペティナイフ1丁を携帯した
ものである。
(罪となるべき事実第2《以下d事件ともいう。》の犯行に至る経緯等)1 被告人Bは,1976年(昭和51年)1月,大韓民国(以下韓国という。)慶尚南道において出生した。被告人Bは,平成13年3月,日本国に入国し,同年4月,大分県別府市内にあるD大学に入学した。Eは,同月ころ,被告人Bと知り合った。 被告人Cは,1978年(昭和53年)4月,中国吉林省において,朝鮮族として出生した。被告人Cは,平成12年4月,日本国に入国し,前記大学に入学した。被告人Bは,平成13年9月ころ,同Cと知り合い,それ以降,親しく交際していた。被告人Aは,平成12年5月ないし6月ころ,Eは,同年9月ないし10月ころ,それぞれ被告人Cと知り合った。

Hは,1978年(昭和53年)11月,中国吉林省において出生した。Hは,平成11年9月,日本国に入国し,I(以下被害者ともいい,同人の妻と特に区別する必要がある場合には男性被害者ともいう。)を身元保証人として前記大学に入学したが,平成13年10月,同大学を退学した。被告人Aは,平成12年9月ころ,Hと知り合い,平成13年8月ころから同年10月ころまで同居していた。被告人Cは,平成12年5月ころ,Hと知り合った。
2 Hは,平成13年12月26日,被告人Cの部屋において,同Cが自動車を持っていると誤解し,同Cに対し,家に押し入って家人を脅し,キャッシュカードを奪って金銭を引き出す旨の計画を話し,その計画のために自動車を運転するだけで3万円を支払うと言い,その後,二,三日,同Cの部屋に泊まり,何度も同Cを計画に誘ったが,同Cは,これに応じなかった。
Hは,平成14年1月五,六日ころ,被告人Cの部屋を訪れ,その後,度々同Cの部屋に泊まるようになり,Eも,同じころ,同Cの部屋に遊びに来るようになった。H及びEは,被告人Cに対し,別府の金持ちの家を襲って,家の人をビニールテープなどで縛って拉致して,キャッシュカードを奪う。キャッシュカードの暗証番号をしゃべらせて,仲間が銀行で預金を引き下ろす。もうけたお金は山分けにする。あなたは,車を運転するだけでいい。おれたちは,同じようなことを何回もしているが,1回で200から300万円になる。と言って,再び同Cを計画に誘った。 被告人Cは,同月10日ころ,同Bに対し,Hらの話を伝え,同Cの部屋において,同BをH及びEに紹介し,H及びEに対し,同Bが自動車を持っていることを話した。また,被告人Cは,Hに対し,大分県別府市内の金持ちの家として,以前のアルバイト先を教え,H及びEは,その場所を下見するなどした。
3 被告人Aは,同月8日ないし10日ころ,Eから大分県内で強盗をすることに誘われ,Hも計画に参加すると聞いた。被告人Aは,平成13年10月,H及び同Cらとともに偽装結婚の計画を実行するために中国に帰国した際,Hともめたことがあり,同人を信用していなかったので,強盗の計画への参加をためらった。しかし,被告人Aは,大阪事件の際に金銭を奪い取ったと話していたEを信頼しており,Eの計画どおりに進めれば金銭を奪い取れるだろうし,目的が同じである以上,Hとも衝突しないだろうと考え,強盗の計画に参加することに決め,その日のうちにEに電話をかけて,その旨を伝えた。
4 被告人Cは,同月14日,Hから,

Iさんの家を見に行くつもりだが,道をよく覚えていない。一緒に行こう。

と言われた。被告人Cは,平成12年七,八月ころ及び平成13年6月ころ,Hの紹介で,被害者方において草刈りのアルバイトをしたことがあり,その際に男性被害者らに最寄りの駅まで送り迎えをしてもらったことがあったので,同人方への道を知っていた。被告人Cは,Hが,その身元保証人である金持ちの男性被害者をねらって強盗を実行するつもりであると分かったが,当時,同C自身,金銭に困っていて,強盗に興味があったので,Hらについていくことにした。 被告人B運転の自動車にH,E及び同Cが同乗して,同Cの道案内で被害者方に向
かう際,同Cは,Eから,同Bも計画に参加するから参加するように言われて,これを承諾した。また,被告人Cは,Hから,同Bが自動車を運転し,ほかの3人が家の中で仕事をすると言われて,これも承諾した。
被告人Bは,Hの指示で被害者方付近の空き地に自動車を止め,H及びEは,被害者方の下見をしに行った。被告人Bは,強盗が成功すれば,学費のためにアルバイトをする必要がなくなるなどと考えて計画に参加することにしたのであるが,自動車内において,同Cに対し,

大丈夫かな。

と言ったところ,同Cは,同Bが計画への参加を心配していると感じ,同Bに対し,同Bは運転だけでいいなどと言った。被告人Bは,同Cに対し,運転だけでは簡単すぎるし,分け前が少なくなると言った。 その後,H及びEが戻ってきて,被害者方の周囲に人家が少ないことなどを報告し,同人方で強盗を実行することに決まった。
5 平成14年1月15日,被告人B運転の自動車にH,E及び同Cが同乗して,大分県別府市内及び大分市内の店を回り,H及びEは,店内において,強盗に使う道具として,少なくとも包丁2本,長い木製棒,靴2足,ビニールテープ等を万引きした。その際,被告人Cは,ビニールテープの包みを素手で触ったところ,H又はEから,

指紋が残るから触るな。後でふいておくから。

と言われ,あわててビニールテープから手を離した。また,被告人Cは,包丁2本を同Bに渡し,同Bは,これを車外から見えない場所に隠した。被告人Cは,包丁を見て,被害者らが危害を加えられるのではないかなどと考えて,強盗の計画に参加することが怖くなり,Hに対し,計画から外れたい旨述べたところ,Hは,これを承諾した。
6 被告人Aは,同日,Eから電話で翌日に大分県別府市内まで来るように言われ,同月16日,東京都内から大分県別府市内に赴き,同日午後七,八時ころ,H,E,同C及び同Bと合流した。被告人ら,H及びEは,強盗の計画について話し合うため,以前Eが同居していたJの部屋に行った。被告人Cは,計画から外れていたが,同Bが中国語を理解できないので,韓国語の通訳のために一緒に行った。Hが中心となって計画について話し合った結果,被告人Bが自動車を運転し,H,E及び同Aが被害者方に侵入し,被害者らを包丁で脅して手足を縛り,現金及びキャッシュカードを奪って暗証番号を聞き出し,2人が被害者らを被害者方に監禁して見張り,2人が金融機関で現金を引き出し,もし暗証番号が違っていれば,再度被害者らを脅すこと,同Cは計画に参加しないが,金銭を奪ったら,各自が同Cに対して5万円ずつ支払うことが決まった。
被告人Aは,被害者方の下見を提案し,翌日,同人方の下見をすることになった。7 同月17日午前6時ころ,被告人B運転の自動車にH,E及び同Aが同乗して被害者方に向かい,同人方を確認してから同人方付近の空き地に到着した。H及びEは,同日午前7時30分ころ,被害者方にかぎがかかっているか,新聞を取り込んでいるかを確認しに行った。H及びEは,10ないし15分後に戻ってきて,被害者方の玄関にかぎがかかっていないことや,まだ新聞が取り込まれていないことを報告し,被害者らはまだ寝ている様子であったので,30分後にもう一度来ることになった。
被告人Aらは,同日午前8時前ころ,同B運転の自動車で空き地を出発し,約10分後,銀行を見つけ,強盗の際にその銀行で現金を引き出すことになった。その後,被告人Aらは,約10分間,時間をつぶし,再び被害者方に向かう途中,男性被害者運転の自動車とすれ違い,同人方に行って自動車がないことを確認し,この時刻には同人が起きていることが分かった。また,Hは,被害者方倉庫の前に中年の男性がいるのを見て,被害者らを監禁する場所を変更する必要がある旨述べた。このときの一連の話は,ある程度韓国語を話せるEが被告人Bに通訳していた。
その後,被告人B,同A,H及びEは,大分県別府市内の店を回り,H及びEは,店内において,強盗に使う道具として,懐中電灯3本,電池1パックを万引きした。また,その付近には郵便局も銀行もあったことから,その付近で現金を引き出すことに変えた。さらに,被告人Aらは,大分市内の店を回り,H及びEは,店内において,帽子等を万引きした。
8 その後,被告人Bらは,大分県別府市内に戻り,同Cも自動車に同乗して,同市内の公園の駐車場に行った。Hは,自動車内において,同日夜にH,E及び被告人Aが被害者方に侵入し,被害者らを包丁で脅して縛り,被害者らを同B運転の自動車に乗せて同市内の人目につかない場所に連れていき,E及び同Bが銀行に行って現金を引き出す旨述べた。被告人Bは,同Bと被害者の自動車2台を利用することを提案した。Hは,これに難色を示し,被告人Cは,同Bに対し,同B以外に自動車を運転できる者がいないと言ったところ,同Bは,同Cが同Bの自動車を運転するように言った。これに対し,被告人Cが自分は計画に参加しないと言ったはずだと言ったところ,同Bは,同Cが計画に参加しないなら,自分も参加しないと言い出した。そこで,Hらは,被告人Cに対し,計画に参加するように説得し,Hは,同Cに対し,H,E及び同Aが被害者方に侵入し,被害者らを包丁で脅して縛る,同Cは同Bの自動車を運転してHらが乗る被害者の自動車の後をついてくればいい,被害者の自動車は同Bが運転する,被害者らを別府市内まで連れてきたら自宅に帰っていい,金が取れれば山分けにするなどと述べた。被告人Cは,一人だけ反対するわけにはいかないなどと考え,計画への参加を承諾した。また,被告人Bは,Hらが奪った金銭をごまかすのではないかと心配していたので,現金を引き出した後に取引明細書を同Bに見せることになった。 結局,H,E,被告人A,同B及び同Cの間で,強盗の具体的な方法として次のように話がまとまった。すなわち,平成14年1月18日の午前二,三時ころにH,E及び被告人Aが被害者方に侵入し,被害者らを包丁で脅して縛り,現金及びキャッシュカードを奪って暗証番号を聞き出すこと,被害者らを被害者の自動車に乗せて同Bがこれを運転し,携帯電話で連絡を受けた同Cが同Bの自動車を運転して後をついていき,山中で被害者の自動車を捨て,被害者らを同Bの自動車に乗せ替えて同Bの運転で同市内に戻ること,同Cが自宅に帰った後,人目につかない小屋に被害者らを監禁して,H及び同Aが被害者らを見張り,Eが同B運転の自動車で金融機関に行って現金を引き出すこと,もし暗証番号が違っていれば,再度被害者らを包丁で脅して暗証番号を聞き出すことなどが決まった。

その後,Eがいったん自宅に帰り,被告人ら及びHは,被害者らを監禁する場所を探しに行き,小屋を見つけて,その場所に被害者らを監禁することにした。9 被告人ら,H及びEは,同日夕方以降,被告人Cの部屋等で休むなどしていた。被告人B,同A,H及びEは,同月18日午前零時ころ,Jの部屋に行き,Eは,包丁3本を取り出して,E,同A及び同Bがこれらを持ち,Hが木の棒を持って,それぞれ被害者方に入ると説明した。また,被告人A,同B,H及びEは,服を着替えたり,手袋,靴及びロープ五,六本等を準備した。
10 被告人A,同B,H及びEは,Jの部屋を出発し,同日午前1時前ころ,同Cと合流して被害者方に向かい,その途中で,包丁の入っていた紙箱等の不要のものを投棄するなどした。Hは,被害者方に向かう車内において,被告人Cに対し,

おれたち3人が家の中に入るだけじゃ人数が足りない。4人入って,一人に二人ずつかかった方が安全だ。Bにも家の中に入るように言ってくれ。

と言ったので,同Cがこれを同Bに通訳したところ,同Bは,被害者方に入ることを承諾した。また,Hは,

Bは,おれたち3人の仕事を手伝う。Iの車のかぎが見つかれば,先に家を出て待っておいてもらう。

と言ったので,被告人Cがこれを同Bに通訳したところ,同Bは,これも承諾した。11 被告人ら,H及びEは,同日午前2時ころ,被害者方付近の空き地に到着した。被告人B,同A,H及びEは,自動車を降りて,それぞれ目出し帽をかぶり,手袋を手にはめた。Eは,包丁を被告人B及び同Aに,懐中電灯を同B,同A及びHに,それぞれ渡した。Hは,被告人Aらに対し,懐中電灯の光が周りに広がらないように先の部分を持つことや,中国語を話したり,Hの名前を呼んだりしないことを指示した。また,自動車内にいた被告人Cは,同B及びEとの間で,携帯電話が通じるかを確認した。12 被告人Cは,自動車内で待機し,同B,同A,H及びEは,歩いて被害者方に向かった。その途中で,Hは,被告人A及びHが男性被害者を,同B及びEが男性被害者の妻であるKを,それぞれ縛るように指示した。
(罪となるべき事実第2)
被告人3名は,H及びEと共謀の上,
1 I(当時73歳)及び同人の妻K(当時71歳)から金銭及びキャッシュカード等を強取しようと企て,平成14年1月18日午前2時10分ころ,大分県速見郡d町大字ef番地にあるI方に,施錠されていない脇玄関から侵入し,2階寝室において,寝ていたKに対し,「金出せ。」と言いながら,その顔面等を木製棒(全長約45.5センチメートル)及び手拳で多数回殴打するなどの暴行を加えたが,同女が悲鳴を上げるなどしたため,金品強取の目的を遂げず,その際,同女に対し,持参した包丁(刃体の長さ約21.2センチメートル)で,その左側頭部を切り付け,胸部及び腹部を突き刺して,同女に全治まで34日間を要する頭部裂傷及び切傷,顔面打撲,血胸・横隔膜損傷を伴う胸部刺傷,胃損傷を伴う腹部刺傷を負わせ,引き続き,同所において,Iに対し,その左腰部を上記包丁で突き刺して,同人を左腰部貫通刺創に基づく腹大動脈,上腸間膜動脈及び腹腔動脈損傷により失血死させた
2 業務その他正当な理由による場合でないのに,前記1記載の日時・場所において,
包丁3本(いずれも刃体の長さ約21.2センチメートル)を携帯したものである。
(事実認定の補足説明)
第1 本件の争点及び証拠構造
1 争点
被告人らは,公判廷において,いずれもd事件について,被害者らを包丁で刺しておらず,殺意はなかった旨供述している。また,被告人Cは,d事件の犯行当日は包丁を見ていないし,包丁を強盗に使うとは思わなかった旨供述している。そして,これを受けて,被告人B及び同Aの弁護人らは,いずれも,d事件について,被害者らの殺害に関する共謀は成立していないし,各被告人に殺意はなかったから,強盗殺人及び同未遂ではなく,強盗致死傷の限度で責任を負うにとどまる旨主張する。また,被告人Cの弁護人は,被害者ら殺害の共謀及び殺意はないとの上記主張に加えて,同Cに被害者らの死傷の結果についての過失はないためその責任を負わず,共同正犯ともいえないから強盗の幇助犯の限度で責任を負うにとどまり,さらに,包丁の携帯に関する共謀も成立していないから,その点は無罪である旨主張する。
そうすると,d事件に関する争点は,まず被告人ら全員に関しては,①被害者らの殺害に関する共謀の成否及び殺意の有無であり,加えて被告人Cに関し,②強盗の共同正犯の成否,③被告人Cは被害者らの死傷の結果について責任を負うか否か,④包丁の携帯に関する共謀の成否及び故意の有無である。 2 証拠構造
争点①については,被告人3名が被害者らを包丁で刺した旨の供述はないものの,被害者らの殺害に関する共謀の成立及び殺意の存在については,これに沿う証拠として被告人らの捜査段階の供述があり,これを否定する証拠として被告人らの公判供述があるが,これらは被告人らの主観面に関わる問題であるから,第一次的にはd事件の計画内容や犯行に至る経緯,犯行状況などの間接事実によってこれらを推認できるか否かをまず検討すべきである。
争点②の強盗の共同正犯の成否については,被告人Cが本件に果たした役割等について,間接事実を総合評価して判断すべきである。
争点④の包丁の携帯に関する共謀の成立及び故意の存在については,これを証明する直接証拠として被告人Cの捜査段階の自白があり,これに沿う証拠として,同A及び同Bの供述がある。他方,上記共謀の成立及び故意の存在を否定する証拠として,被告人Cの公判供述がある。そこで,これらの供述証拠の信用性をそれぞれ検討しなければならない。
そして,被告人らは,d事件の事実経過について食い違う供述をしているので,これらの争点について判断する前提として,それぞれの供述の信用性を踏まえてd事件の事実経過を確定する必要がある。
なお,争点③については,主として法解釈の問題であることから,他の争点検討
の際に確認した事実関係を踏まえて,これを判断する。
第2 証拠によって認められる事実
1 d事件の犯行に至る経緯等は,前記のとおりであり,その要旨は次のとおりである。
(1)H及びEは,平成13年12月26日以降,被告人Cに対し,大分県別府市内の金持ちの家に押し入り,キャッシュカードを奪って金銭を引き出す旨の計画を説明して何度も誘った。
被告人Cは,当初はその誘いに応じなかったが,平成14年1月10日ころ,同Bに対し,Hらの話を伝え,同BをH及びEに紹介し,H及びEに対し,同Bが自動車を持っていることを話した。また,被告人Cは,Hに対し,同市内の金持ちの家として,以前のアルバイト先を教えた。
(2)被告人Aは,同月8日ないし10日ころ,Eから強盗に誘われ,これを承諾した。(3)被告人Cは,同月14日,Hから,被害者方への道案内を頼まれ,同B運転の自動車にH,E及び同Cが同乗して被害者方に向かう際,Eから,同Bも計画に参加するから参加するように言われて,これを承諾した。
H及びEは,被害者方の下見をしに行き,同人方の周囲に人家が少ないなどとして,同人方で強盗を実行することに決まった。
(4)同月15日,被告人B運転の自動車にH,E及び同Cが同乗して,大分県別府市内及び大分市内の店を回り,H及びEは,店内において,強盗に使う道具として,少なくとも包丁2本,長い木製棒,靴2足,ビニールテープ等を万引きした。被告人Cは,包丁を見て,被害者らが危害を加えられるのではないかなどと考えて,強盗の計画に参加することが怖くなり,Hに対し,計画から外れたい旨述べたところ,Hは,これを承諾した。
(5)被告人Aは,同月16日,東京都内から大分県別府市内に赴き,H,E,同B及び同Cと合流した。以前Eが同居していたJの部屋において,Hが中心となって計画について話し合った結果,被告人Bが自動車を運転し,H,E及び同Aが被害者方に侵入し,被害者らを包丁で脅して手足を縛り,現金及びキャッシュカードを奪って暗証番号を聞き出し,2人が被害者らを被害者方に監禁して見張り,2人が金融機関で現金を引き出し,もし暗証番号が違っていれば,再度被害者らを脅すこと,同Cは計画に参加しないが,金銭を奪ったら,各自が同Cに対して5万円ずつ支払うことが決まった。
(6)同月17日午前6時ころ,被告人B運転の自動車にH,E及び同Aが同乗して被害者方に向かい,同人方を確認してから同人方付近の空き地に到着した。H及びEは,同日午前7時30分ころ,被害者方に行って,同人方の玄関にかぎがかかっていないことや,まだ新聞が取り込まれていないことを確認し,被害者らはまだ寝ている様子であったので,30分後にもう一度来ることになった。被告人Aらは,同日午前8時前ころ,同B運転の自動車で空き地を出発し,約10分後,銀行を見つけ,強盗の際にその銀行で現金を引き出すことになった。
その後,被告人Aらは,約10分間,時間をつぶし,再び被害者方に向かう途中,男性被害者運転の自動車とすれ違い,同人方に行って自動車がないことを確認し,この時刻には同人が起きていることが分かった。また,Hは,被害者方倉庫の前に中年の男性がいるのを見て,被害者らを監禁する場所を変更する必要がある旨述べた。
その後,被告人B,同A,H及びEは,大分県別府市内及び大分市内の店を回り,H及びEは,店内において,強盗に使う道具として,懐中電灯や帽子等を万引きした。また,現金を引き出す金融機関を大分県別府市内の店付近に変更することが決まった。
(7)その後,被告人B運転の自動車に同Cも同乗して,大分県別府市内の公園の駐車場に行った。Hが強盗の計画について話したところ,被告人Bは,同Bと被害者の自動車2台を利用することを提案し,同Cが同Bの自動車を運転するように言った。被告人Cが自分は計画に参加しないと言ったはずだと言ったところ,同Bは,同Cが計画に参加しないなら,自分も参加しないと言い出した。そこで,Hらは,被告人Cに対し,計画に参加するように説得し,Hは,同Cに対し,同Cは同Bの自動車を運転してHらが乗る被害者の自動車の後をついてくればいい,被害者らを同市内まで連れてきたら自宅に帰っていい,金が取れれば山分けにするなどと述べた。被告人Cは,一人だけ反対するわけにはいかないなどと考え,計画への参加を承諾した。
結局,平成14年1月18日午前二,三時ころにH,E及び被告人Aが被害者方に侵入し,被害者らを包丁で脅して縛り,現金及びキャッシュカードを奪って暗証番号を聞き出すこと,被害者らを被害者の自動車に乗せて同Bがこれを運転し,携帯電話で連絡を受けた同Cが同Bの自動車を運転して後をついていき,山中で被害者の自動車を捨て,被害者らを同Bの自動車に乗せ替えて同Bの運転で同市内に戻ること,同Cが自宅に帰った後,人目につかない小屋に被害者らを監禁して,H及び同Aが被害者らを見張り,Eが同B運転の自動車で金融機関に行って現金を引き出すこと,もし暗証番号が違っていれば,再度被害者らを包丁で脅して暗証番号を聞き出すことなどが決まった。
その後,被告人ら及びHは,被害者らを監禁する小屋を見つけた。(8)被告人B,同A,H及びEは,同月18日午前零時ころ,Jの部屋に行き,Eは,包丁3本を取り出して,E,同A及び同Bがこれらを持ち,Hが木製棒を持って,それぞれ被害者方に入ると説明した。また,被告人B,同A,H及びEは,服を着替えたり,手袋,靴及びロープ五,六本等を準備した。
(9)被告人ら,H及びEは,同日午前1時前ころ,被害者方に向かって出発した。Hは,自動車内において,被告人Bに対し,同Cを介して,同Bも家の中に入って他の3人の仕事を手伝い,被害者の自動車のかぎが見つかれば,先に家を出て待っておくように言い,同Bは,これを承諾した。
(10)被告人ら,H及びEは,同日午前2時ころ,被害者方付近の空き地に到着した。
Eは,包丁を被告人B及び同Aに,懐中電灯を同B,同A及びHに,それぞれ渡した。また,自動車内にいた被告人Cは,同B及びEとの間で,携帯電話が通じるかを確認した。
(11)被告人Cは,自動車内で待機し,同B,同A,H及びEは,歩いて被害者方に向かった。その途中で,Hは,被告人A及びHが男性被害者を,同B及びEが男性被害者の妻であるKを,それぞれ縛るように指示した。
2 d事件の犯行状況
(1)被告人B,同A,H及びEは,同日午前2時10分ころ,被害者方に,施錠されていない脇玄関から侵入し,2階寝室に向かった。Hが寝室に入り,E及び被告人Bも続いて寝室に入ろうとしたところ,ベッド上に寝ていた女性被害者は,Hらに気づいて悲鳴を上げた。そのため,被告人Aも含めた全員が同女に駆け寄り,Hは,同女の頭部を木製棒で何度も殴打し,Eは,同女に対し,包丁を示して「金出せ。」と言い,同B及び同Aは,同女の足を押さえつけた。(2)そのとき,1階から男性被害者の大きな声が聞こえてきたので,Eが寝室から逃げ出し,被告人Aも,他の2人に対して中国語で逃げろと叫びながら,寝室から逃げ出した。その際,Hは,同女の頭部を木製棒で殴打し続けていた。Eは,階段を駆け下りて,脇玄関に向かって走っていった。被告人Aも,階段を駆け下り,いすを持ち上げようとしていた男性被害者の横をすり抜けて,脇玄関から外に出た。
(3)しかし,他の2人が外に出てこなかったので,被告人Aは,犯行の発覚を免れるため,他の2人を呼びに行こうと考え,Eにその旨を告げた上,被害者方に戻った。すると,階段付近において,Hが男性被害者と向き合い,いすを互いにつかんで押し合っていた。被告人Aは,Hに対し,中国語で逃げろと大声で言い,外に出たところ,Hも,外に走って出てきた。
(4)ところが,被告人Bが外に出てこなかったので,同Aは,H及びEに対し,もう一人を呼び出さないといけないと言ったところ,Hは,被害者方に入っていった。被告人Aは,Eがその場に立ったままであったことから,中国語が通じない同Bではないかと思い,Eに対し,日本語で自動車を運転するように言ったところ,Eは,道路の方向に走っていった。被告人Aは,それを確認してから,被害者方に入った。
(5)被告人Bは,女性被害者の顔面等を手拳で何度も殴打した。また,女性被害者は,被告人Bの指にかみつくなどして抵抗した。
(6)被告人B,H及びEのうち寝室にいただれかが,女性被害者に対し,包丁で,その左側頭部を切り付け,胸部及び腹部を突き刺して,同女に全治まで34日間を要する頭部裂傷及び切傷,顔面打撲,血胸・横隔膜損傷を伴う胸部刺傷,胃損傷を伴う腹部刺傷を負わせた。そして,被告人B,H及びEのうちだれかが,引き続き,同所において,男性被害者に対し,その左腰部を包丁で突き刺して,同人を左腰部貫通刺創に基づく腹大動脈,上腸間膜動脈及び腹腔動脈損傷により
失血死させた。
被告人Aは,被害者方に入って2階に上がったとき,男性被害者のわーという叫び声を聞き,寝室において,同人がベッド上に倒れるのを見た。第3 被告人らの供述の信用性
前記認定事実に沿う主要な証拠として,被告人Aの捜査・公判での供述及び同Cの捜査段階の供述がある。他方,これに反する証拠として,被告人Cの公判供述及び同Bの供述がある。そこで,それぞれの信用性について検討する。 1 被告人Aの捜査・公判での供述の信用性
被告人Aの捜査段階の供述は,極めて具体的かつ詳細で,一貫している上,同Aらが寝室に入るまでの行動,女性被害者が暴行を加えられるのを目撃した状況,いったん逃走しようとしたものの,仲間が外に出てこないため,二度にわたり被害者方に戻って仲間に逃げるように促し,その際,男性被害者が叫び声を上げて倒れるのを目撃した状況などの点は,自ら体験した者でなければ語ることができないような内容であり,迫真性に富んでいる。
他方,被告人Aは,記憶があいまいな部分はその旨述べているし,最初に被害者方から逃げ出したEが中国語に反応しなかったことから,同Bではないかと思ったが,その後やはりEであると分かった旨述べるなど,当時の記憶に忠実に供述していることが認められる。被告人Aは,公判廷においても,記憶が薄れている部分はあるものの,被害者らの殺害を考えたことがあるか否かの点を除けば,おおむね捜査段階と一貫する供述をしている。
さらに,被告人Aの供述は,本件現場及びその付近から包丁3本や手提げバッグに入ったロープ等が発見された状況等の客観的事実と符合する上,被害者方の下見の際に同人方付近で同Aらを目撃した者や,同Cの部屋で同Aらと会った者ら等の第三者の供述と合致する。そして,被告人Aの供述は,後記のとおり信用することができる同Cの捜査段階の供述ともおおむね合致している。
したがって,被告人Aの供述のうち,被害者らの殺害を考えたことがあるか否かの点を留保しても,前記認定事実に沿う部分は,十分に信用することができる。なお,被告人Aは,第27回公判及び第28回公判において,供述を拒み,あるいは黙秘したが,これは,自己の刑罰として死刑がふさわしく,これ以上自己に有利な弁解をしたくないという理由から主として情状事実に関して供述拒否ないし黙秘をしたものであり,それ以前にしたd事件の事実関係に関する同Aの供述の信用性に疑問を生じさせるものではない。
2 被告人Cの捜査段階の供述の信用性
(1)被告人Cの捜査段階の供述は,極めて具体的かつ詳細で,一貫している上,同Cが刺身包丁を見て,被害者らが危害を加えられるのではないかと怖くなり,いったんは強盗の計画から外れたものの,同Bが,同Cが計画に参加しなければ自分も参加しないと言い出したことから,他の共犯者らから参加を説得され,一人だけ反対するわけにはいかないなどと考えて,計画に参加することにしたとい
うように,その当時の心情を交えて計画への参加に至った経緯を述べるなど,迫真性に富んでいる。
他方,被告人Cは,記憶があいまいな部分はその旨述べており,供述態度にも真摯なものがあるといえる。
また,被告人Cの捜査段階の供述は,携帯電話の発着信状況等の客観的事実と符合する上,同Cの部屋で同Aらと会った者らや,被害者方への出発直前に同Cと話をした同Cの交際相手等の第三者の供述と合致する。そして,被告人Cの捜査段階の供述は,前記のとおり信用することができる同Aの供述とも,同Aが同Cに計画への参加を説得したか否かなどの点を除き,おおむね合致している。
したがって,被告人Cの捜査段階の供述のうち,前記認定事実に沿う部分は,十分に信用することができる。
(2)これに対し,被告人Cは,公判廷において,H及びEが刺身包丁を盗んできたときにこれを見たが,強盗と結びつけて考えたことはないなどと捜査段階の供述を変遷させているところ,捜査段階の供述が事実に反するとする理由について,次のとおり述べている。
すなわち,①被告人Cは,警察官や検察官に対し,包丁を強盗と結びつけて考えたことはないなどと述べたが,幾ら説明しても信用してくれず,供述調書にサインしないと,検察官は,数分間から10分間くらい,何も言わずにそのままずっと同Cがサインするのを待ち,また,

ふざけるな,おまえ。Iさんが死んだぞ。Iさんの前でそういうことを言えるか。包丁をもう1回見せようか。

と怒った様子で大きな声で言ったので,同Cは,言い張っても無理であり,供述調書の内容に関係なく,供述調書に署名指印するしかないと思った(第12回公判331項,第15回公判37,38,42ないし45,47,101ないし106項,第16回公判120ないし122項等)。②被告人Cは,男性被害者が亡くなり,女性被害者もけがをしたし,警察官から,

あなたは何もやらなくても,仲間がそういうことをやったから,あなたも同じ罪になる。

と言われ,強盗殺人罪と決められた感じもしたので,供述調書の内容がどうでもいいし,自分の罪がどうなってもいいと思い,事実と異なる警察官調書や検察官調書を作成した(第13回公判203,204項,第15回公判92,95ないし97,100,119ないし122項等)。③被告人Cは,検察官による取調べの際,包丁を何丁持っていくかについては家の中に入る他の仲間の判断に任せていたと言ったことはないが,そのように供述調書に記載されていて(乙40),任せるという言葉の意味がはっきりと分からなかったので,通訳人に聞いたところ,通訳人は,自分は何も知らない,他の仲間が勝手にしたことと中国語で通訳してくれたため,同Cは,任せるという言葉を包丁のことを知らないという意味に理解し,その旨の供述調書を作成した(第12回公判309項,第14回公判280ないし282項,第15回公判84ないし86項)。
しかしながら,被告人Cは,他方において,検察官調書を作成する前に接見した
弁護人から,記憶どおりに正直に話しなさい,違うことは違うと言いなさい,供述調書の記載が違うなら,署名指印はしなくていいし,訂正してもらいなさいと言われたとも供述しており(第13回公判170,205ないし208項,第15回公判98項),実際に訂正の申立てにより訂正された検察官調書もある(乙39)。また,被告人Cの検察官調書には,同Cは被害者らが殺傷されることは絶対にあってほしくないと望んでいたという同Cにとって有利な記載もみられる(乙38)。これらの点に照らすと,取調官が強引に供述を押し付けたとか,被告人Cが投げやりな気持ちで供述調書に署名指印したとは考え難い。また,被告人Cが言うように,検察官が上記のような発言をしたとすれば,同Cにとって強く印象に残るはずであるが,同Cは,公判廷において,取調べの際に包丁が強盗に使われるものだとは思わなかったと述べたときに警察官や検察官から何と言われたかをはっきりと覚えていないとも供述していること(第15回公判82項)からすると,検察官が上記のような発言をしたかは疑わしい。
さらに,通訳人が任せるという日常会話でも用いられる言葉の意味を知らなかったとか,誤解していたとは考え難い。被告人Cの検察官調書には,通訳人の話す北京語はよく分かる旨が繰り返し記載されている上,同Cは,検察官調書の訂正の申立てをしていることからも,その内容を理解していたと考えられる。これらの点に照らすと,通訳人の通訳能力に問題はなかったと認められる。また,被告人Cは,公判廷において,検察官とはほとんど日本語でやり取りをし,通訳人に中国語で通訳してもらったのは1時間に1ないし3回くらいであったと述べていること(第12回公判321,322項,第15回公判113,114項,第16回公判182,183項)からすると,取調時にも十分に日本語を理解する能力を有していたと認められる。そうすると,被告人Cが任せるという言葉の意味を正しく理解しないまま供述調書に署名指印したとは考え難い。
以上によれば,被告人Cの捜査段階の供述が事実に反するとする理由に関する同Cの上記公判供述は,信用性に乏しいといわざるを得ず,前記の被告人Cの捜査段階の供述に関する信用性には影響を与えない。
3 被告人Cの公判供述の信用性
(1)被告人Cの公判供述の要旨
ア Hは,平成13年12月26日,被告人Cに対し,金持ちの家を襲って,キャッシュカードを奪って,銀行で金を下ろす,車を運転するだけで3万円をやると言った(第10回公判93,101項)。被告人Cは,これを聞いて,Hの計画していることが強盗に当たるとは思わなかったが,悪いことであることだけは分かり,そんな悪いことはできないと思ったので,Hに対し,計画に参加しないと答えた(第10回公判111,114,118,120,121項,第13回公判13,80,82項,第14回公判84,85,88,89項,第15回公判4項)。 イ 被告人Cは,平成14年1月14日午後,Hから,被害者方を1回見たいが,道がはっきり分からないので,教えてほしいと言われたとき,これが強盗の下見で
あるとは意識しなかった(第14回公判145,148項)。
被害者方に悪いことをしに行くと決まったのは,被告人Cらが被害者方を見に行って帰る自動車の中であるが,詳しい話はなく,同Cは,悪いこととはキャッシュカードを取って,銀行で現金を下ろすことくらいと思い,被害者方で何をするかは考えていなかった(第14回公判152ないし158項)。また,被告人Cは,このとき,被害者方で悪いことをすると決まったわけではなく,H及びEが本当に強盗をするとも思わなかった(第14回公判161,162,177項)。ウ 被告人Cらは,同月15日,同Bが自動車を運転して大分県別府市内と大分市内の店を回り,H及びEがいろいろと品物を盗んできたが,道具を用意したとははっきり言えない(第10回公判396ないし404,411項)。被告人Cは,大分市内の店の駐車場に停めた自動車の中で,刺身包丁2本,ビニールテープ1個等を見たが,これらを何に使うかは考えていなかった(第10回公判423ないし428,432,435項,第13回公判89,92項,第16回公判100,101項)。被告人Cは,同日夕方,大分から帰ってくるとき,ビニールテープの袋を触ったところ,Hから,指紋が残るから触るなと怒られて,これが事件のときに使うものであると分かったが,刺身包丁については,事件のときに使うものと考えたことはないし,これを用意する理由を考えたこともない(第10回公判438ないし440,443,449,451,452,463項,第12回公判336項,第13回公判112,117項,第16回公判107,108項)。
被告人Cは,強盗の内容について考えたことはないが,刺身包丁とは関係ないものの,強盗が恐ろしくなって,同日,大分市内から大分県別府市内に戻る自動車の中で,H及びEに対し,計画から外れたいと言ったところ,Hは,同Cが被害者らからいっぱい世話になったからやめてもいいと言った(第11回公判33ないし39項,第13回公判137,138項,第14回公判212,223項)。 エ Hは,同月16日夜,Jの部屋において,強盗の計画について,被害者方に強盗に入ると決まった,被告人Cは参加しない,同Bが自動車を運転し,同A,H及びEが家の中に入り,被害者らを縛ってキャッシュカードを奪って暗証番号を聞き出し,銀行で現金を引き出すという話をした(第11回公判106,107項)。このとき,刺身包丁を持って被害者方に入るという話は出ていない(第11回公判120項,第13回公判38,41項)。
オ 同月17日,公園の駐車場に停めた自動車の中で強盗の計画を話したとき,被告人Cが計画に参加することになった変更の前後を通じて,強盗の際に包丁を使うという話はなかった(第11回公判212,250項,第14回公判257項,第15回公判76項)。被告人Cは,被害者らが抵抗するとは思わなかったし,計画の中で刺身包丁を使うという話は出ていなかったので,刺身包丁を強盗の計画に使うとは思わなかった(第11回公判275,276,283,285,290,311項,第12回公判306項,第14回公判259項)。 カ 被告人Bは,同月18日,被害者方付近の空き地に自動車を停めたとき,ハイネ
ックセーターの右腕のそでの中に,長さ約10センチメートル,幅二,三センチメートルの棒状で,肌の色よりやや黒いものを入れようとしていた(第12回公判52,61ないし63,66ないし68項。第14回公判269,271項)。被告人Bが服のそでの中に入れようとしていたものは,今思えば包丁ではないかと思うが(第12回公判89項),記憶ではどう見ても木の棒に見える(第16回公判29項)。
(2)検討
ア このように,被告人Cは,公判廷においては,捜査段階と異なり,刺身包丁を持って被害者方に入るという話は出ておらず,これを強盗に使うとは思っていなかったし,同人方付近の空き地において同Bが持っていたのは木製棒である旨供述している。
イ しかしながら,被告人Cの公判供述には,前後矛盾し,自己に有利な方向で変遷している部分が多数みられる。すなわち,被告人Cは,公判廷において,例えば,
前記(1)アに関しては,当初は,Hがキャッシュカードを奪うなどと言っていた旨供述していたが,その後,Hはキャッシュカードを奪うと言ったのではなく,持つと言った旨供述して(第14回公判94,95,103項等),本件の計画内容について,より犯罪性の低い表現に変更させている。
次に,同イに関しては,被告人Cは,当初,Hから被害者方への道順を教えるように頼まれた際,強盗のために行くのではないかと思った旨供述し(第10回公判258ないし260,269項),また,被害者方下見の際における計画の把握状況等については,被害者方に向かう自動車内で計画への参加を了承し,同人方に入って何をするかについても理解していた旨供述しており(第10回公判305ないし308,311ないし315,318項),公判供述の中で,被告人Cの計画への関与開始時期が遅くなる方向で変わっている。
そして,同ウに関しては,当初は,被告人Cは刺身包丁が事件のときに使われるのではないかと心配した旨供述していたが(第11回公判17,18,20項),その後,刺身包丁を見たときには,これを事件のときに使うと考えたことはあったかもしれないが,その後は全然考えていないと供述を変え(第13回公判86,87項),その直後に,前記のとおり,刺身包丁を見たときに,強盗に使うことは考えていなかったと述べた上で(第13回89,92項),当初の供述については,そのように述べた記憶がないと弁解して(第13回公判119,120,122項),同Cが計画を十分に認識していなかったかのように供述を変遷させている。また,被告人Cは,一度計画から外れた理由について,特にきっかけはなかった(第11回公判40,43ないし46項),刺身包丁を見て怖くなり,強盗の恐ろしさが分かったため(第13回公判142項),ビニールテープを触ってHから怒られて本当に悪いことをすると意識したため(第14回公判211項),HやEが下見や万引きをするのを見て,悪いことをする現実味を帯び,一緒にい
ることも怖くなったため(第16回公判145ないし155項)などと供述し,供述が一貫しない上に刺身包丁の認識についての供述を殊更に避けている。 ウ また,被告人Cの最終的な公判供述の内容自体にも不自然な点がある。 まず,被告人Cは,計画の内容について話合いがあったこと自体は認めているところ,その過程で包丁に関する話が全くなかったというのは,前記のとおり信用することができる同Aの供述に反する上,実際に包丁が準備されて被害者方に持ち込まれたことにそぐわず,不自然である。
そして,被告人Cは,計画から外れようと思ったきっかけに関して,特にないが,強盗の恐ろしさが分かったというものについては不自然である上,強盗のいかなる点が恐ろしいかについてはあいまいな供述に終始し,また,Hらが万引きをする際に一緒にいるだけで怖かったというものについては,唐突で不合理さを免れない。
その上,被告人Cは,ビニールテープを触って指紋が残るからと怒られたときにHらが本当に悪いことをするのだと意識し,自分はできないと思った旨述べながら,ビニールテープと同じ機会に入手された包丁を犯行に使うとは思わなかったというのも不自然である。
エ 加えて,被告人Cは,公判廷において,取調べの際に懐中電灯,長い木製棒及び包丁を見せられて,同Bが右腕のそでに入れようとしていたものは包丁ではないかと答えたが,供述調書ができ上がった後,短めの棒を見せられ,自分が見たものはこれにも似ていると思った旨供述する(第14回公判274ないし276項)。しかし,これは,被告人Cが平成14年2月25日に警察官から懐中電灯や包丁のほか,木製棒を2本とも示された上,同月26日に同Bがセーターの右腕のそでの中に押し込んでいたものは証拠品として見せてもらった刺身包丁であると思う旨の供述調書を作成したこと(乙32,34)と整合しない。 オ 以上によれば,被告人Cは,公判廷において,包丁の携帯を認識していなかったとの主張を貫こうとして,場当たり的な供述をしているといわざるを得ず,その公判供述の信用性は乏しいというべきである。
4 被告人Bの捜査段階の供述の信用性
(1)被告人Bの捜査段階の供述の要旨
ア 被告人Bは,平成14年1月14日午後3時ころ,Eから電話で,自動車で行きたいところがあるので,同Cの部屋に来るように言われ,自分の自動車を運転して同Cの部屋に行った。
被告人Bは,同Cから,被害者方に泥棒の調査をしに行きたいと聞いて,それが悪いことだと分かり,自動車を運転することもしたくなかったが,同Cから,H及びEが家の中に入るが,同Bは運転だけでよく,成功したら金を山分けにすると聞き,金が欲しいという気持ちから,運転手役を引き受けることに決め,同Cに対し,「分かった。」と答えた。
被告人Bは,被害者方付近の空き地に自動車を止め,H及びEが被害者方
の下見をしに行っている間,同Cから強盗の計画内容を聞いて,これに加わることが怖くなり,同Cに対し,

そんな怖いことできない。

などと言ったが,同Cは,同Bは運転だけでよく,金を山分けにするし,同Cらが責任を持つなどと言って説得し,同Bは,金が欲しかったので,強盗の計画に加わることを決心し,同Cに対し,「分かった。」と言った。
イ 被告人Bは,同日夜,再び強盗に参加することをためらい,同Cの部屋において,同Cに対し,強盗をやめるように言ったが,同Cは,同Bは運転だけでいいなどと言って,同Bが強盗に参加することを誘ってきた。被告人Bは,余りにも熱心に同Cが同Bを誘ってくるので,同Cに対し,強盗の計画から抜けないことを再び伝えた。
ウ 被告人Bらは,同月16日,Eの部屋において,強盗の計画について話し合ったが,その際,同Cが強盗の計画から外れるという話を聞いたことはない。エ その後,被告人Bらは,同Cの部屋に移動した。被告人Bは,Hから,箱に入った包丁を手渡され,Hに対し,本当にこれを使うのかと尋ねたところ,Hは,黙ってうなずいた。
オ 被告人Bらは,同月17日,Eを含めた5人全員で,被害者らを監禁する小屋を探しに行き,その小屋付近で強盗の計画について話し合った。被告人Bは,同Cから,Hらが被害者方に入り,刺身包丁で被害者らを脅すなどしてキャッシュカード等を奪い取ることや,被害者らから聞き出した暗証番号が違っていれば,被害者らを刺身包丁で脅して暗証番号を聞き出すことなどを聞いた。被告人Bは,刺身包丁を持って家の中に入ると,被害者らに危害が加えられるのではないかという不安な気持ちをぬぐいきれず,同Cに対し,刺身包丁を使わないように説得したが,同Cは,同Bに対し,心配しないように言った。被告人Bは,被害者らに危害を加えたくなかったが,それにもかかわらず,強盗に加わることにしたのは,金銭が必要であったし,この計画には同Bの自動車が必要だと説得されたからである。
また,被告人Bは,Hに対し,被害者らを小屋に放置したら,飢え死にしてしまうと言ったが,Hから,同Cを通じて,縄をほどいてやると,警察に通報されて捕まると言われ,捕まるわけにはいかないので,Hの指示に従うことにした。その後,被害者らを被害者の自動車と被告人Bの自動車に詰め込むという話が出たが,これは,被告人Cが提案したと思う。
カ 被告人Bらは,同月18日午前零時ころ,Eの部屋に行き,Hが何かを点検したりしていたが,だれが何を持つかを決めたことはない。
キ 被告人Bは,被害者方に向かう自動車内において,Hから,同C又はEを通じて,同Bも一緒に家の中に入って,被害者らを運ぶのを手伝ってほしいなどと言われ,自動車の運転だけのはずだったので,一瞬戸惑ったものの,強盗の計画を成功させて金銭を手に入れるためには,同Bも被害者方に入った方がいいだろうと考え,これを承諾した。

ク 被告人Bは,被害者方付近の空き地において,Hから目出し帽と手袋を手渡されたが,懐中電灯も包丁も受け取っていない。
もっとも,被告人Bは,同Aから刺身包丁を貸してもらい,いたずら半分の気持ちで刺身包丁を振り回したり,自動車のそばに立っていた同Cの前で刺身包丁を構えたりしたが,その後,刺身包丁を同Aに返した。
被害者方に行く際,被告人Aは,右手に包丁を持ち,Hは,左手に懐中電灯,右手に木製棒を持ち,Eは,包丁を持っていたが,被告人Bは,何も持っていなかった。
ケ 被告人Bらが被害者方に入ったとき,同Aが玄関口にあった電話機の受話器を外した。
仲間の2人が先に寝室に入ったところ,寝ていた女性被害者が悲鳴を上げ,仲間の一人が同女を木の棒でたたき続けたが,同女が叫ぶのをやめなかったので,被告人Bは,同女を黙らせて犯行の発覚を免れるとともに,金品を奪い取るため,寝室に入って同女の口を左手でふさごうとした。すると,女性被害者は,被告人Bの左手の人差し指や右手の薬指にかみつくなどして抵抗した。被告人Bは,そのことに腹を立て,また,同女を振りほどこうとして,同女の顔面等を手拳で何度も殴り続けるなどした。
そして,被告人Bが男性被害者から棒のようなもので背中をたたかれた後,

兄さん,行こう。

という韓国語が聞こえた。(2)検討
被告人Bの捜査段階の供述は,同Cに対して強盗をすることや包丁を使うことを止めたか否か(前記(1)イ及びオ),平成14年1月16日に同Cが強盗の計画から外れるという話を聞いたか否か(同ウ),Eも被害者らを監禁する小屋を探しに行ったか否か(同オ),その際に強盗の計画について話し合ったか否か(同オ),自動車を2台使うという話をしたのが同Bであるか同Cであるか(同オ),本件当時,同Bが包丁等を持っていたか否か(同ク),同Aが被害者方の電話機の受話器を外したか否か(同ケ),寝室で仲間が同Bにかけた言葉が中国語であったか韓国語であったか(同ケ),逃走する自動車内でEが自分が男性被害者を刺したと述べたか否かなど,多くの点で,前記のとおり信用することができる同Aの供述及び同Cの捜査段階の供述に反する。
また,被告人Bは,本件当時,刺身包丁等を持っていなかったと供述するが,同Bを含む4人が被害者方に侵入し,本件現場及びその付近から包丁3本及び木製棒1本が発見されているという客観的事実を合理的に説明することができないし,同Bのみが凶器を持たない合理的理由も見いだせない。
そして,被告人Bは,公判廷において,捜査段階の供述について,同Aから刺身包丁を借りて振り回すなどしたという部分は虚偽であり(第22回公判110ないし126項等),寝室でEが韓国語で声をかけたという部分ははっきりとした話ではなく(第19回公判152項),Eは自分が男性被害者を刺したと述べたという部分
は,EはHが刺したと述べたかもしれない(第19回公判158,161項,第23回公判179ないし186項)と述べるように,捜査段階の供述を翻して他の被告人らの供述に合わせようとする態度がうかがわれることからすると,同Bが捜査段階において真摯に供述したかについては疑問がある。
以上によれば,被告人Bの捜査段階の供述は,同Bに不利益な部分や,同Aの供述及び同Cの捜査段階の供述に合致する限度で信用することができるが,その余の部分は信用性に乏しいというべきである。
5 被告人Bの公判供述の信用性
(1)被告人Bの公判供述の要旨
ア 被告人Bは,平成14年1月14日午後,被害者方に行った際,同Cから,何をしに行くかは具体的に言われず,泥棒の調査に行きたいとは言われなかった(第17回公判53,54項,第21回公判48項)。
被告人Bは,被害者方付近の空き地に停めた自動車内で,同Cから,家に入って泥棒をするという計画やこのときはそのための下見であることを聞いたが,詳しい計画内容は言ってくれなかった(第17回公判97ないし100項,第21回公判70,71項)。被告人Bは,同Cから,以前にもこのようなことをしたことがあったが,逮捕されることはなかったなどと聞いて驚き,大丈夫かなという怖い気持ちであったが,彼らにやめるように説得するため,するとも言えないし,断ることもできない状態であった(第17回公判105ないし110項,第25回公判130項)。
また,被告人Bは,同日,同Cから,自動車の運転について協力を求められたが,最終的な判断は自動車を持っている自分がするのであり,悪いことをする日に行かなければいいことなので,はっきりと答えを言わなかった(第21回公判84ないし92項,第25回公判129項)。
なお,被告人Bは,当時,金銭が必要な理由はなかった(第17回公判121ないし123項)。
イ 被告人Bは,同日,同Cの部屋での夕食後,同C及びEから,運転だけでいいからと頼まれたが,分からないと答え,分かったとは言わなかった(第17回公判186ないし190項等)。被告人Bは,他の者らが被害者方で泥棒をすることをやめさせたかったが,被害者らは山の中に2人だけで住んでいて,周りに家も余りないことなどから,やめさせる理由がなかったし,誘いを断ると,留学生活に必要な友人をなくすのではないかとも思ったので,やめた方がいいと言わなかった(第21回公判122,123項)。
ウ 被告人Bは,同月15日午前,同C,H及びEとともに,大分県別府市内及び大分市内の多数の店を回った(第17回公判194ないし199項)。その際,被告人Bは,同Cから包丁を渡されたことはない(第22回公判174項)。 被告人Bは,同日,大分市内から大分県別府市内に帰る自動車内で,同CがHに対し,自分は参加しないと言っているのを聞いていない(第24回公判180
項)。
エ 被告人Bは,同日,同Cの部屋において,Eから,同Bが自動車の運転を手伝ってくれれば成功すると説得されたが,Eに対し,もうちょっと考えなさいなどと言ったものの(第21回公判151ないし155項),様々な事情があったので,協力するかどうかについてはっきりとは言わなかったし,はっきりとやめろと言えなかった(第21回公判170,171項)。
オ 被告人Bは,同月14日又は同月15日,同Cから,計画内容について説明を受けたが,被害者らを縛るとか,包丁で脅すという話はなかった(第21回公判78ないし82,174ないし182項)。
カ 被告人Bは,同月16日の昼間には,前日に道具をチェックして,足りないものを取りに行った可能性もある(第17回公判226項)。
そして,被告人Bは,同日昼ころ,学校の授業中に,E又は同Cから電話で,自動車に乗せるように頼まれたことから,授業を早退して,同Cの部屋に行って,H及びEとも会い,E又は同Cから,監禁場所を変えないといけないと言われ,H及びEが既に決めていた監禁場所に4人で行った(第18回公判46ないし71項,第21回公判192,198,208,210項,第24回公判38,39,64,67項)。被告人Bは,監禁場所付近において,Eから,被害者らを監禁場所に置いておいて,暗証番号を聞き出し,もし違っていたら,刃物で脅すと言われた(第21回公判227項)。
被告人Bは,同C及びEから,自動車の運転だけをすればいいなどと言われ,悩みに悩んだが,はっきりやるとは言わなかった(第21回公判235ないし240項,第22回公判3ないし5項)。
キ 同日夜は,いろいろな話が中国語で行われたが,被害者らを監禁場所に連れていくとか,現金を引き下ろすという話は,被告人Bに韓国語で伝わっていなかった(第22回公判14,17項等)。しかし,ときどき新しい話が出たときは,被告人Cが通訳してくれたので,同Bは,同Cが計画に参加しないと聞いた(第24回公判135,136項)。
ク 被告人Bは,同日,同CとともにJの部屋を先に出て,同Cの部屋に行く途中で,自分もやるとはっきりと言った(第21回公判246項,第24回公判120項,第25回公判138,139,144,149項)。その理由は,誘いを断ると,留学生活に必要な友人(同C)を失うのではないかと恐れていたこと,他の者らが服等いろいろなものをくれたので,いつか恩返しをしたいと思っていたことなどである(第21回公判258ないし280項)。
ケ 被告人Bは,同Cの部屋において,包丁は見なかった(第16回公判53項,第17回公判259,260項)。
コ 被告人Bは,同日又は同月17日夜,同Cの部屋において,中国人らに協力してほしいと誘われたとき,Eから,同B及びEが現金を引き下ろしに行き,もし暗証番号が違っていたら,他のメンバーは暗証番号を聞くために包丁を使うと聞
いた(第17回公判266ないし277項)。
サ 被告人Cは,同月17日,公園の駐車場において,同Bの自動車と被害者の自動車の2台を使うことを言い出した(第22回公判47ないし50項)。 被告人Bらは,Eを含めた5人全員で,監禁場所に行った(第18回公判80項)。被告人Bは,その付近において,同C及びEから,強盗の計画について説明を受け,暗証番号が違っていたら,包丁で被害者らを脅して暗証番号を聞き出すと言われたが,最初に包丁で被害者らを脅すとは聞いていない(第18回公判88ないし118,135項,第22回公判68項等)。
被告人Bは,被害者らを縛ったまま監禁場所に置き去りにしたら,寒くて被害者らが死ぬかもしれないと思ったので,どうするかと聞いたところ,同C又はEは,電話で警察にそのことを知らせると言った(第22回公判78ないし81項)。シ 被告人Bは,同日夜,Eの部屋に入らず,事件に使うものを自動車に載せるため,自動車内で待っていた(第18回公判227ないし235項)。 ス 被告人Bは,同月18日,被害者方付近に到着する前に,自動車内で,同Bも一緒に被害者方に行って,同人の自動車のかぎをもらうために家の前で待つなどと聞いたが,一緒に家に入って被害者らを縛ったり,運ぶ手伝いをしてほしいという話はなかった(第18回公判278ないし290,293,295,296,307項,第26回公判101ないし103項)。
セ 被告人Bは,Eから,手袋及び目出し帽を渡されたが,包丁は渡されていない(第18回公判330ないし337項)。被告人Bは,同Aが包丁を持っているのを見たが,同Aから包丁を受け取ったことはないし,自分は包丁も懐中電灯も持っていなかった(第18回公判338,341,374,378,380,383項,第22回公判107,108,111,159項,第26回公判15,248ないし250項)。被告人Bは,同Aが包丁を家の中まで持っていくことは知らなかった(第26回公判73項)。
ソ 被告人Bは,被害者方玄関の前で立ち止まったところ,Eが左手で同Bの背中をたたきながら,右手で指をさして家の中に入るように指示し,同Bは,仕方なく,Eの指示どおり,被害者の自動車のかぎをもらうため,同人方に入った(第22回公判220ないし226,235項,第26回公判3,83,251項)。タ H及び被告人Aが,被害者方2階の寝室に入り,同Bは,被害者の自動車のかぎをもらうため,寝室の入口で待っていた(第19回公判30,41,48ないし50項,第23回公判12,13,16項)。
被告人Bは,Hが女性被害者を木の棒でたたくのを見て,事前にそういう話はなく,同女がとてもかわいそうであったので,それをやめさせようと思って寝室に入り,Hと同女を離れさせようとしたところ,同女が同Bの左手をつかまえてかんだが,この際,同Bは同女の口を左手でふさいだことはない(第23回公判36,38ないし41,66項,第26回公判129項)。被告人Bは,右手で同女の頭を押さえて,左手を同女の口から離すことができたが,同女がもっと大き
な声で悲鳴を上げたので,同女の口を右手で初めてふさいだところ,同女に右手をかまれて,2人とも倒れた(第23回公判69,76ないし90項,第26回公判141ないし154,159項)。被告人Bは,同女を強く手のひらで押したが,何回押したかは数字的には考えられず,同女が同Bの髪の毛をつかんでいたので,同女のどこを押したかははっきりと覚えていない(第25回公判56ないし62項)。
このように,被告人Bは,約10分間,ずっと同女につかまれていたが,その間,仲間のだれかが同女を引っ張ってくれたものの,なかなか離すことができず,その途中で男性被害者が上がってきて,木の棒のようなもので同Bの背中を三,四回たたき,同Bは,手に力を入れて,だんだん力が弱くなってきた同女を払いのけた(第19回公判118ないし135項,第23回公判128ないし130項,第26回公判194項等)。
男性被害者が刃物で刺された後,被告人Bは,何か声が聞こえたが,どういう意味かは分からなかった(第19回公判150項)。
(2)検討
ア 被告人Bの公判供述は,前記のとおり信用することができる同Aの供述及び同Cの捜査段階の供述に反するのみならず,同Bの捜査段階の供述とも異なる。すなわち,被告人Bは,公判廷において,捜査段階とは異なり,同Cの部屋において刺身包丁を見なかったし(前記(1)ケ),被害者らを最初から刺身包丁で脅すという話はなく,暗証番号が違っていた場合に暗証番号を聞き出すために刺身包丁を使うと聞いていた(同コ及びサ),同Bらは平成14年1月16日に監禁場所を探しに行った(同カ),同Bが計画に加わることにしたのは同月14日ではなく,同月16日であり,その動機は友人を失いたくないことなど金銭以外の点にある(同ア,イ,エ,カ及びク),一緒に被害者方に入って被害者らを運び出す手伝いをするように頼まれたことはなく,被害者方玄関の前でEから指示を受けて,被害者の自動車のかぎをもらうために同人方に入ることになった(同ス及びソ),Hが同女を木製棒でたたくのをやめさせようと思って2人を離れさせようとしたところ,同女に左手をかまれたが,同女に対して殴るなどの暴力を加えていない(同タ)などと供述する。
イ しかしながら,被告人Bの公判供述には,その中でも,二転三転している部分が多数みられる。すなわち,被告人Bは,公判廷において,例えば,まず,前記(1)アに関し,被告人Bが同Cから計画について説明を受けた際,するとも言えないし,断ることもできない状態であった旨供述しているが,一時は,同Cに対し,気が狂ったのかと言った旨供述していた(第21回公判73,74項,第25回公判122項)。
そして,同エに関し,後に,Eらに対し,犯行をやめるように言ったかどうか記憶にないと述べている(第25回公判132項)。
次に,同カに関しては,当初は,同月16日の昼間のことは余り覚えていな
い旨供述していたが(第17回公判225項),その後になって,同日は監禁場所を探しに行った旨供述した。
続いて,同キに関しては,当初は,同日の夜,被告人Cから,キャッシュカードを取って,銀行で現金を引き下ろすと言われた旨供述していたが(第17回公判243ないし245項),その後,このときの会話は韓国語で一切通訳されなかったかのような供述をし(第22回公判14,17項等),さらに,新しい話が出たときはこれを話してくれた旨供述を変更した(第24回公判129ないし133項)ほか,当初は,同Cが,計画に参加しないという話は聞いたことはないなどと供述していた(第24回公判93,94項)。
また,同サに関しては,被告人Bは,当初,犯行後,被害者らを縛ったひもをほどいて逃がすと聞いた旨供述し(第18回公判146項),その後,被害者らを置き去りにしたらどうなるのかとHに聞いたが,そのときのHの答えは覚えていないと供述した後(第18回公判161ないし165項),同サの供述に至っている。
その上,同ス及びソに関しては,当初は,被害者方に向かう車中において被告人Bは被害者方の前で待つと聞いたが,一緒に同人方に入るという話はなかった旨供述していたところ,その後,その車中において同Bも被害者方に入ることになった旨供述したものの(第24回公判189項),さらに,これを否定する供述をした(第26回公判4,101ないし103項)。
最後に,同タに関しては,被告人Bは,当初,女性被害者に左手をかまれた状況について,同女に大声を出されて気が動転し,同女の口を左手で押さえたところ,同女に左手人差し指をかまれた旨供述し(第19回公判61ないし76項),また,同女に加えた暴力については,当初,殴るなどの暴力を加えておらず,必死に同女の体を押しただけである旨供述していたが(第19回公判93ないし107項),その後,同女を殴った旨供述して(第23回公判91項),最終的に同女を強く手のひらで押した旨供述を変更している(第25回公判56ないし62項,第26回公判154項)。
ウ また,被告人Bの供述によると,同Bが同Cから計画を聞かされた際に気が狂ったのかとまで言いながら,自動車を持っている自分が犯行当日に行かなければいいことであるから,明確に計画への参加を断らなかったというのであるが,これは不自然である。さらに,被告人Bは,犯行直前に同Aが刺身包丁を持っているのを見たと供述しながら,同Aがこれを被害者方まで持っていくことは知らなかったと供述するのも,一貫せず,不自然である。そして,被告人Bが女性被害者を手のひらで押したと供述しながら,押した回数や部位について明確に答えられなかったり,20歳代の男性である同Bが70歳代の女性である同女に約10分間もつかまれて逃げられなかったというのも不自然である。
エ さらにまた,被告人Bは,同月15日及び同月16日の午前に大学の授業に出
席していたという客観的事実に反する供述をしている。
オ 加えて,被告人Bの公判供述は,捜査段階における供述よりも,更に自己に有利な方向で変遷しているところ,その理由について,主に次のとおり述べている。
すなわち,①被告人Bは,警察官や検察官は自分の味方になって質問するものと信用し,その質問にきちんと答えないと疑われるのではないかと思って,事実と想像を交えて全部答えた(第17回公判69項,第23回公判202ないし204,211項等)。②警察官は,大声を出したり,怖い目で視線を合わせたり,犯人はおまえしかいないんだと言ったり,机を手でたたいたりしたので,被告人Bは,ものすごくおびえて,半分も表現できなかった(第23回公判205ないし210項)。③被告人Bは,警察官から,間違っている部分は検察官に訂正してもらえばいいから,とりあえず答えてくれと言われ,検察官に一,二か所くらい訂正してもらったが,訂正してくれなかったところもあった(第23回公判212ないし214項)。④通訳人は,韓国語を勉強してから1年もたっておらず,分からない言葉はいちいち辞書で調べたり,被告人Bに聞きながら通訳していたものであり,重要な部分について想像で話したことが真実のように通訳されたり,女性被害者を殴ったとは言っていないのに,通訳人は同Bの言葉を殴ったと受け取ったようである(第17回公判69項,第19回公判109,110項,第23回公判216項,第25回公判13,34,35項)。
しかしながら,被告人Bは,捜査段階において,本件当時,刺身包丁を持っていなかったし,被害者らを刺していない旨の弁解を最後まで維持し続けたものであるし(第25回公判38,39項,第26回公判254項),前記のとおり,多くの点で他の被告人らの供述と異なる供述をしているから,同Bが取調官の言うままに答えたとか,取調官に脅迫されるなどして一定の供述を強要されたなどとは考えられない。また,被告人Bの警察官調書には訂正の申立てにより訂正された部分もある上(乙6),3通の検察官調書にも訂正された部分があり(乙14,17,18),この点に関する同Bの上記公判供述は整合しないし,上記の弁解状況に照らし,取調官が訂正に応じなかったとは考え難い。さらに,被告人Bの検察官調書には通訳人の話す韓国語はよく分かる旨が繰り返し記載されている上,同Bが公判廷において供述調書の内容を聞いて理解していた旨供述していること(第25回公判33項)は,通訳人が適切に通訳していたことを裏付けるものである。そして,被告人Bは,公判廷において,取調べの際に女性被害者を殴ったとは供述していない旨供述する一方,殴ったと供述したことを認める供述もしていること(第25回公判55,56,73項)からすると,通訳人が同Bの言葉を殴ったと誤って通訳したとはいえない。
カ 以上によれば,被告人Bは,公判廷において,その場しのぎの不誠実な供述を繰り返しているといわざるを得ず,その公判供述の信用性は乏しいというべきである。

第4 被害者らの殺害に関する共謀の成否及び殺意の有無(争点①) 1 事前共謀の成否
(1)前記認定事実によれば,本件において最終的に成立した謀議の内容は,被告人B,同A,H及びEが,被害者らが眠っている深夜,被害者方に侵入し,被害者らを刺身包丁で脅して縛り上げ,現金及びキャッシュカードを奪い取って暗証番号を聞き出し,被害者らを被害者の自動車に乗せて,同Bがこれを運転し,Eから連絡を受けた同Cが同Bの自動車を運転してついていき,山中で被害者らを同Bの自動車に乗せ替えて,被害者の自動車を放置し,同Bの自動車で被害者らを大分県別府市内の小屋に連れていって監禁し,同A及びHが被害者らを見張り,同B及びEが金融機関に行ってEが現金を引き出し,もし暗証番号が違っていれば,その旨の連絡を受けた同A及びHが被害者らに刺身包丁を突き付けて再度脅し,暗証番号を聞き出すというものであった。すなわち,上記謀議は,明示的に被害者らを包丁等で殺害することを内容としていないばかりか,被害者らを包丁で脅してキャッシュカードの暗証番号を聞き出すことを内容としており,仮に被害者らを殺害すると,金銭を奪うという目的を達成できないことからすると,上記謀議は,むしろ,少なくとも現金を引き出すまでの間は被害者らの生存を前提としたものであることが明らかである。
また,被告人ら,H及びEの間で,被害者らが抵抗するなどした場合や,現金の引出しに成功した後,被害者らをどうするかについて話し合った形跡はうかがわれない。
そして,被告人ら,H及びEは,周囲に人家が少なく,高齢の夫婦のみが住んでいる被害者方にねらいをつけ,事前に下見を繰り返して,同人方にかぎがかかっていないことなどを確認するなどし,被害者らを監禁する場所を探して見つけた上,綿密に謀議を重ねて上記のとおり強盗の実行方法や役割分担を詳細に決定するなど,周到に計画を練り上げたものであるから,計画のとおりに被害者方に侵入した被告人ら4人で高齢の被害者ら2人を刺身包丁で脅すなどすれば,被害者らは抵抗せず,本件犯行が成功する可能性が高いと考えて,被害者らが抵抗するなどの事態を想定していなかったとしても不思議ではない。現に,本件においては,女性被害者が悲鳴を上げるなどし,階下から男性被害者の声が聞こえたため,ほどなくE及び被告人Aは犯行継続の意思を失って被害者方から逃げ出した上,同Aは二度にわたり被害者方に戻って,まだ同人方に残っていたH及び同Bに対して逃げるように促し,Hもこれに応じていったんは逃げ出した。そして,Hは,現場から逃走する車内において,被告人Aに対し,

なぜ逃げた。

と尋ねたのに対し,同被告人は,

自分より先に一人が逃げた。おじいちゃんとおばあちゃんが叫んでいて怖かった。

などと述べている。これらの事情は,被告人らにとって,被害者らが抵抗したことが予想外の事態であったことを裏付けるものである。
そうすると,被告人ら,H及びEの間で,被害者らが抵抗するなどした場合や,現
金の引出しに成功した後,被害者らを殺害する旨の明示又は黙示の共謀が成立していたと認めるには合理的な疑いがあるといわざるを得ない。 これに対し,検察官は,被害者らの殺害に関する共謀が成立し,かつ,殺意があったとする根拠として,深夜に多数の危険な凶器を準備して被害者方に侵入したことや,犯行計画自体に身元発覚の危険があり,検挙等を免れたいという被害者らの殺害の動機があったことなどの事情を主張するが,これらの事情を総合しても,上記共謀が成立していた可能性があるというにとどまり,共謀があったと認定するには合理的な疑いがある。
(2)

もっとも,被告人Aは,捜査段階において,刃物を使った強盗の計画に参加する以上,被害者らに抵抗されたり,騒がれたり,警察に通報されそうになった場合には,自分たちが逮捕されないようにするため,被害者らを持っている刃物で刺し殺すこともあるだろうと思っていたし,自らも,そのような場合には,持っていた刃物で被害者らを殺害するつもりであった旨供述する。

しかしながら,前記のとおり,悲鳴を上げた女性被害者や階下から声を出した男性被害者に対し,包丁を持っていることを告げるなどして,抵抗を止めるように脅迫することなく,被害者方に侵入した4名のうち3名が逃げ出していることからすると,被告人Aらが被害者らに抵抗されたりする場合をあらかじめ想定していたかは甚だ疑問であり,被害者らが抵抗した場合には,同人らを殺害する旨の共謀が成立していたと認めるには,合理的な疑いがある。また,被告人Aが,取調官から理詰めの質問を受け,d事件で殺意があろうとなかろうと自分は死刑になる可能性が非常に高いと思っていた当時の心境と相まって,なげやりな気持ちから,その意に沿う供述をせざるを得ない状況に追い込まれた可能性を否定することはできない(第9回公判106ないし111項)。
したがって,被告人Aの上記供述の信用性は十分でないというべきであり,前記(1)の判断を左右するものではない。
2 現場共謀の成否
さらに,前記認定事実を踏まえると,被害者らに対して包丁を使用した実行犯は,被告人B,H及びEのうちのだれであるかは特定できないものの,当該実行犯と犯行現場における共謀が成立しうるか検討する。
(1)まず,被告人Aは,被害者らが包丁で刺される場面を目撃していない。また,被告人Aは,男性被害者と向き合い,いすを互いにつかんで押し合っていた仲間(H)に対し,逃げろと声をかけたが,同人が凶器として何を持っていたかははっきりと分からなかったものであるし,男性被害者を殺害しなければ逃げられない状況ではなかったといえるから,同Aが男性被害者を殺して逃げろという趣旨で声をかけたとは考え難い。
したがって,被告人Aと実行犯との間で,犯行現場において被害者らの殺害に関する共謀が成立したとは認められない。
(2)

次に,被告人Bは,被害者らが包丁で刺された際,同じ部屋にいたが,同被告
人が被害者らを刺したと認めるに足りる証拠はなく,また,実行犯が被害者らを刺そうとしているとの状況を認識していたと認めるに足りる的確な証拠はない。したがって,被告人Bと実行犯との間で,犯行現場において前記共謀が成立したとは認められない。
(3)最後に,被告人Cは,被害者方に侵入していないから,実行犯との間で,犯行現場において前記共謀が成立したと認める余地はない。
3 結論
以上によれば,被告人らにつき,被害者らの殺害に関する共謀の成立及び殺意の存在を認めるには合理的な疑いがあるといわざるを得ないから,強盗殺人罪及び同未遂罪は成立せず,強盗致死傷罪が成立するにとどまる。
したがって,上記共謀が成立し,かつ,殺意が存在する旨の検察官の主張は採用することができない。
第5 強盗の共同正犯の成否(被告人Cにつき。争点②) 本件の計画を実現するに当たっては,被告人ら,H及びEが被害者方に行き,被害者らを監禁場所まで運搬するために,被告人Bが犯行に加わってその所有する自動車を使用することが重要であったといえる。被告人Bは,同Cが計画に参加しなければ自分も計画に参加しないと言っていたのであるから,いったんは共謀から離脱した同Cがそのまま計画に参加しなければ,本件犯行は実行されなかった可能性が高かったといえる。それにもかかわらず,被告人Cは,結局本件犯行に加わって,同Bが共謀から離脱するのを引き止め,本件犯行の実行に大きく寄与した。 また,被告人Cは,本件の計画の全容を把握した上でこれに参加し,同C自身も,山中で被害者らを同Bの自動車に乗せ替えるため,被害者方付近から山中までこれを運転するなどの重要な役割を分担することになっていた。そのため,被告人Cは,本件当時,他の共犯者らとともに被害者方付近に赴いて同Bの自動車内で待機するなどしていたものである。被告人Cがその役割を実行できなかったのは,結果として,被害者らを連れ出す前に計画が失敗に終わったからであるにすぎない。 さらに,本件により得られる利益は,被告人Cにも外の被告人ら,H及びEと平等に分配するものとされていた。
これらの事実によれば,被告人Cに強盗致死傷罪の共同正犯が成立することは明らかであり,強盗の幇助犯にとどまるとはいえない。
したがって,被告人Cは強盗の共同正犯ではなく,強盗の幇助犯の限度で責任を負うにとどまる旨の同Cの弁護人の主張は採用することができない。第6 被告人Cは被害者らの死傷の結果について責任を負うか否か(争点③) 被告人Cの弁護人は,同Cは被害者らの死傷の結果について過失がないから責任を負わない旨主張する。
しかしながら,前記のとおり,被告人Cは,他の共犯者らとの間で,強盗について共謀した上,他の共犯者がその強盗の機会に被害者らを殺傷した以上,同Cは,たとえ被害者らの死傷の結果について過失がなかったとしても,強盗致死傷罪の共同
正犯の責任を負うものと解すべきである。
したがって,被告人Cの弁護人の上記主張は採用することができない。第7 包丁の携帯に関する共謀の成否及び故意の有無について(被告人Cにつき。争点④)
前記のとおり信用することができる被告人Cの捜査段階の供述や関係各証拠によれば,同Cは,他の共犯者らとともに,被害者らを刺身包丁で脅すなどして強盗を実行する旨の謀議に加わったものであり,また,Hらが入手した包丁を見て,これを強盗に使うと考えて怖くなり,いったんは強盗の共謀から離脱したものの,その後,再度強盗の共謀に加わったことが認められる。
これらの事実によれば,被告人Cにつき,包丁の携帯に関する共謀の成立及び故意の存在が認められるから,銃砲刀剣類所持等取締法違反の罪が成立する。 これに対し,包丁を強盗に使うとは思わなかった旨の被告人Cの公判供述が信用できないことは前記のとおりであり,これに基づいて上記共謀の成立を否定する同Cの弁護人の主張は,その前提を欠き,理由がないから,採用することができない。
第8 結語
以上の次第で,被告人らに対し,判示のとおり,それぞれ住居侵入罪,強盗致死罪,強盗致傷罪,銃砲刀剣類所持等取締法違反の罪が成立すると認定した。(量刑の理由)
1 事案の概要
本件は,①被告人Aが,共犯者1名と共謀の上,いわゆるホテトル嬢から金銭及びキャッシュカードを強取しようと企て,被告人Aにおいて,ホテルの部屋に呼び出した被害者からキャッシュカード2枚を強取し,その際,ペティナイフで同女の左側胸部及び頸部等を十数回突き刺すなどして同女を殺害したという強盗殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反(大阪事件),②被告人3名及び共犯者2名が共謀の上,被害者らから金銭及びキャッシュカード等を強取しようと企て,深夜,包丁3本等を携帯して被害者方に侵入した上,女性被害者の顔面等を木製棒及び手拳で多数回殴打するなどの暴行を加え,金品の強奪はできなかったものの,その際,被告人B及び共犯者らのうちのだれかが包丁で,男性被害者の左腰部を突き刺して同人を死亡に至らしめ,女性被害者の胸部及び腹部を突き刺すなどして同女に全治まで34日間を要する傷害を負わせたという住居侵入,強盗致死傷及び銃砲刀剣類所持等取締法違反(d事件)の各事案である。
2 被告人Aの大阪事件(前記①)に関する情状
被告人Aは,所持金を借金返済や遊興費等に使い果たすなどして生活費等に困り,共犯者に対し,貸付金の返済を求めたところ,共犯者から大阪府内で強盗をすることに誘われたことから,強盗をすれば共犯者から貸付金の返済を受けられるし,生活費等が得られると考えて,共犯者と共謀の上,強盗を実行した上,逃走する際,被害者が声を出したことから,本件の発覚を免れるため,同女の殺害を決意し,本件犯行に
及んだ。その犯行動機は,利欲的かつ自己中心的で,余りにも短絡的であり,酌量の余地はない。
被告人Aは東京都内から,共犯者は大分県内から大阪府内に赴いて合流し,当初は路上強盗を企てたが,実行できなかったため,いわゆるホテトル嬢をホテルの部屋に呼び出して現金及びキャッシュカードを奪うことにし,強盗の実行方法や逃走の際に被害者を殺害することなどについて謀議を遂げた。また,被告人Aらは,あらかじめペティナイフやクラフトテープ等を準備して持参した。このように,本件は計画的で,強固な犯意に基づく犯行である。
そして,被告人Aは,計画どおり,ホテルの部屋にホテトル嬢の被害者を呼び出し,シャワーを浴びていた同女にいきなりペティナイフを突き付けて脅迫し,同女を浴室から連れ出してベッドの上に座らせ,ペティナイフを突き付けながら金銭を要求し,クラフトテープで同女の両手首及び両足首を縛り,口をふさいだ上,キャッシュカード2枚を奪って,同女から同カードの暗証番号を聞き出した。さらに,被告人Aは,被害者に騒がれないように,その口にタオルを押し込んだ上,逃走しようとしたが,その際,同女が声を出したことから,ペティナイフで,抵抗できない同女の左側胸部等を力を込めて十数回,ペティナイフの刃が根本から曲がるほど突き刺すなどして同女を殺害した。このように,犯行態様は,冷酷,非情で,極めて執よう,残虐かつ凶悪である。 被害者は,何ら落ち度がないのに,突然無防備の状態で被告人Aに襲われ,命ごいをしたにもかかわらず,身動きの取れない状態でもがきながら合計17か所もの刺切創を受け,命を絶たれたものである。なすすべもなく,残酷にもペティナイフで繰り返し突き刺されるなどして殺害された被害者の肉体的・精神的苦痛や恐怖感は想像を絶するものがあり,35歳の若さでその生涯を閉じることを余儀なくされた同女の無念の気持ちは察するに余りある。
また,被害者の夫は,変わり果てた同女の遺体と対面して,精神的に大きな衝撃を受けたものであり,突然最愛の妻を奪われた悲しみや怒りは強く,被告人Aらを絶対に許せないなどと述べて,同Aに対する極刑を求めている。それにもかかわらず,被告人Aは,被害者の遺族に対し,何ら慰謝の措置をとっていない。 加えて,被告人Aは,本件犯行後,ドアの取っ手等に付着した指紋をふき取るなどして逃走し,奪ったキャッシュカードで預金を引き出そうとして失敗し,同カードを共犯者に渡した上,ペティナイフを投棄して罪証隠滅を図るなど,冷静に振る舞っていたものであり,犯行後の情状も芳しくない。
他方,被告人Aとしては,共謀の内容とは異なり,被害者を殺害せずにホテルの客室から立ち去ろうとしていたところ,被害者が声を出したことから狼狽し,結果として殺害方法が残虐になってしまった一面があることは否定できない。
3 被告人3名に共通のd事件(前記②)に関する情状 被告人3名は,いずれも生活費等に困っていたところ,他の共犯者らから強盗に誘われて,金銭欲しさなどからこれを承諾し,本件犯行に及んだ。その犯行動機は,利欲的かつ自己中心的で,余りにも短絡的であり,酌量の余地はない。
被告人らは,資産家で強盗しやすい家として,被告人C及び共犯者Hが面識のあった,高齢の被害者らが2人だけで暮らしていた被害者方に目をつけた。そして,深夜,同人方に侵入し,刺身包丁等で被害者らを脅すなどして現金及びキャッシュカードを奪い,被害者らを連れ出して監禁し,その間に金融機関で現金を引き出す旨の謀議を遂げた上,他の共犯者らとともに,被害者方やその付近,現金を引き出す金融機関の下見を重ね,被害者らを監禁する場所の見当もつけていた。また,被告人らは,包丁等の凶器,懐中電灯,被害者らを縛ったりするためのロープ及びビニールテープ,指紋が付かないようにするための手袋,顔を見られないようにするための目出し帽等を準備し,綿密な話合いを繰り返した末,強盗の実行方法や役割分担等について詳細に決定した。このように,本件は,周到に計画された組織的な犯行である。 そして,深夜,刃体の長さ約21.2センチメートルの包丁3本等を携帯して被害者方に押し入り,目を覚まして悲鳴を上げた女性被害者に対し,同女の頭部や顔面等を木製棒や素手で多数回殴打するなどの暴行を加え,その際,被告人B及び共犯者らのうちのだれかが包丁で,同女の胸部等を数回突き刺し,また,同女を助けようとした男性被害者の左腰部を1回突き刺して,同人を死亡に至らしめ,同女に重傷を負わせた。このように,犯行態様は,極めて危険かつ悪質である。
被害者らは,深夜,のどかな地域にある自宅で寝ていたところ,その安全であるはずの自宅に押し入ってきた4名もの強盗犯人らに突然襲われ,何ら落ち度がないのに,包丁で突き刺されるなどしたことにより,男性被害者は死亡し,また,女性被害者も幸い一命を取り留めたものの,全治まで34日間を要する重傷を負ったものであり,その刺傷の部位等に照らし,死亡の危険性も十分にあったといえる。被害者らは,その際,極度の恐怖を感じたであろうし,その肉体的・精神的苦痛は極めて大きかったと考えられる。
男性被害者は,中国において終戦を迎えた後,帰国するまでの間に中国人に助けられたことに感謝の念を抱き続け,その恩返しの気持ちから,昭和60年ころ以降,多くの中国人留学生の留学をあっせんしたり,アルバイト等の世話をするなどの面倒をみるようになり,中国人留学生の父と呼ばれるほど信望が厚く,中国の日本語学校の名誉校長を務めるなど,日中友好親善に尽力していた。男性被害者は,犯人の一人である中国人のHが留学する際にその身元保証人になったり,同人や,同じく中国人留学生であった被告人Cに被害者方で草刈りのアルバイトをさせるなどの面倒もみていた。男性被害者は,本件がなければ,孫の成長を見守り,中国人留学生の世話を生きがいとしつつ,平穏で充実した余生を送ることができたはずである。ところが,自ら面倒をみた被告人C及びHを含む犯行グループによって本件の凶行に遭い,妻である女性被害者を助けようとして刃に倒れ,命を奪われるに至ったものであり,理不尽この上なく,その無念の気持ちや悔しさは察するに余りある。
女性被害者は,男性被害者の妻として,男性被害者の中国にかける思いをくみ取って,中国人留学生の世話に協力していたものであり,また,本件がなければ,男性被害者と同様,幸せな余生を送ることができたはずである。ところが,女性被害者は,理
不尽にも本件の凶行に遭い,本件から3年が経過した現在でも精神的な後遺症が深刻であることがうかがわれる。女性被害者は,昭和25年以来長年連れ添った最愛の夫を失った悲しみや怒りも強く,犯人らの中には被害者らが愛情をかけて世話をした者らが含まれていると聞いて,ただでさえ犯人が憎くてたまらないのに,憎さが増すばかりであり,絶対に許すことはできず,犯人らの目の玉をくり抜いて切り刻んで殺してやりたいなどと述べるように,その被害感情は極めて厳しく,被告人3名の極刑を求めている。
また,男性被害者の遺族も,突然の凶行により男性被害者を失って,精神的に大きな衝撃を受けたものであり,その悲しみや怒りが強い上,本件をきっかけに,順調であった生活が一変するほどの大きな影響を受けている。遺族も,犯人が憎く,絶対に許すことはできないなどと述べるように,その被害感情は極めて厳しく,やはり被告人3名の極刑を求めている。
それにもかかわらず,被告人3名は,いずれも,女性被害者や男性被害者の遺族に対し,何ら慰謝の措置をとるに至っていない。
さらに,本件犯行は,地域住民に恐怖感を与えたばかりでなく,広く社会一般にも大きな衝撃を与え,また,中国人留学生等の在日外国人が生活しづらくなるなどの好ましくない影響を及ぼしていることがうかがわれ,その社会的影響の大きさも無視できない。
4 被告人Cの個別情状及び量刑
(1)被告人Cは,アルバイトをしておらず,生活が苦しかった上,家賃及び授業料の支払や借金の返済に困っていたため,まとまった金銭を手に入れたいなどと考え,本件に加わった。
被告人Cは,いったんは強盗の共謀から離脱したものの,同Bが,同Cが計画に参加しなければ自分も計画に参加しないと言ったことから,他の共犯者らから計画に参加するように促されて本件に加わったことにより,同Bが共謀から離脱するのを引き止めたものであり,同Bの自動車が必要な本件犯行の実行に大きく寄与した。また,被告人Cは,中国語と韓国語を話せることから,他の中国人共犯者らと韓国人である同Bの話を通訳して円滑な意思の疎通を図り,謀議の成立にも重要な役割を果たした。
そして,被告人Cは,被害者方やその付近の下見をする際に道案内をし,被害者らを監禁する場所を探しに行った。また,被告人Cは,本件当時,山中で被害者らを同Bの自動車に乗せ替えるため,被害者方付近から山中までこれを運転するなどの役割を実行すべく,被害者方付近で待機していた。
さらに,被告人Cは,被害者らの殺害に関する共謀の成立こそ認められないものの,実行犯らが深夜に包丁を携帯して被害者方に押し入り,被害者らの不意をついて強盗をすることなどを認識していた。したがって,被告人Cは,場合によってはアルバイト等で世話になっていた被害者らに重篤な傷害を負わせる危険性のある犯行態様で強盗をすることを認識していたといえるが,それにもかかわらず,あえ
て本件に加わったことにより,その危険性が現実化し,男性被害者を死亡に至らしめ,女性被害者に重傷を負わせたものである。被告人Cは,被害者らに対し,いわば恩を仇で返したものというほかなく,厳しい非難を免れない。
加えて,被告人Cは,自分が犯人であると疑われないようにするため,男性被害者の葬儀等に出席し,遺族の神経を逆なでした。また,被告人Cは,共犯者の逃走資金を用立てた。
さらにまた,被告人Cは,包丁を強盗に使うとは思わなかったなどと不自然,不合理な供述を繰り返し,不誠実な態度をとっていたことからすると,本件を真摯に反省しているとは認められないし,そのような態度により,遺族の更なる怒りを買っている。
以上によれば,被告人Cの刑事責任は極めて重いというべきである。 (2)他方,被告人Cは,被害者方に侵入しておらず,被害者らの監禁等にも加わらないことになっていたことなどから,関与の態様は,他の共犯者らに比べてやや従属的である。また,被告人Cは,住居侵入と強盗への関与自体は認めて一応反省の態度を示し,被害者らに対して申し訳ないなどと述べて謝罪の気持ちを表すとともに,拘置所内において経を上げるなどして男性被害者の冥福を祈っている。さらに,被告人Cには日本において占有離脱物横領の前歴があるのみで,これまで前科はない。そして,被告人Cの姉が情状証人として出廷して,同Cのために証言した。このように,被告人Cのために酌むべき事情も認められる。
(3)そこで,以上の諸事情を総合考慮し,被告人Cに対しては,酌量減軽をした上,主文の刑に処するのが相当である。
5 被告人Bの個別情状及び量刑
(1)被告人Bは,生活に余裕がなかった上,学費が必要であったところ,強盗により金銭を手に入れれば,学費のためにアルバイトをする必要がなくなるなどと考えて,本件に加わった。
被告人Bは,犯行グループ内で唯一自動車を所有していたものであり,同Bが本件に加わらなければ,自動車が必要な本件犯行は実行されなかったといえるから,本件に不可欠の役割を果たしたものである。
そして,被告人Bは,自己の自動車で被害者方やその付近等の下見を重ね,共犯者らが犯行に必要な道具を調達する際にも自動車を運転して同行し,また,被害者らを監禁する場所を探しに行った。さらに,被告人Bは,被害者らを連れ出す際に同Bの自動車のほかに被害者の自動車も使うことを提案して,これが計画に取り入れられた上,いったんは共謀から離脱していた同Cを同Bの自動車の運転手役として本件に巻き込んだ。そして,被告人Bは,本件当日,自動車で共犯者らを被害者方付近に連れていった。その上,被告人Bは,女性被害者をロープ等で縛って連れ出し,自動車で被害者らを監禁する場所に連れていき,さらに,現金を引き出すために共犯者を金融機関に連れていくという役割を実行するため,包丁等を携帯して被害者方に侵入し,女性被害者の顔面等を素手で多数回殴打するなどの暴
行を加えた。
また,被告人Bは,被害者らの殺害に関する共謀の成立こそ認められないものの,自らを含む実行犯らが深夜に包丁3本を抜き身で携帯して被害者方に押し入り,被害者らの不意をついて強盗をすることなどを認識していた。したがって,被告人Bは,場合によっては被害者らに重篤な傷害を負わせる危険性のある犯行態様で強盗をすることを認識していたといえるが,それにもかかわらず,あえて本件に加わったことにより,その危険性が現実化し,男性被害者を死亡に至らしめ,女性被害者に重傷を負わせたものである。
加えて,被告人Bは,公判廷において,本件当時,包丁を携帯していなかったなどと不自然,不合理な供述を繰り返し,不誠実な態度をとっていたことからすると,本件を真摯に反省しているとは認められないし,そのような態度により,遺族の更なる怒りを買っている。
以上によれば,被告人Bの刑事責任は極めて重いというべきである。 (2)他方,被告人Bは,本件への関与自体は認めて一応反省の態度を示し,被害者らに対して申し訳ないなどと述べて謝罪の気持ちを表すとともに,拘置所内において経を上げるなどして男性被害者の冥福を祈っている。また,被告人Bには,これまで日本において前科前歴がない。そして,被告人Bの父が情状証人として出廷して,同Bのために証言し,被害弁償をしたいと述べている。
このように,被告人Bのために酌むべき事情も認められる。
(3)しかしながら,被告人Bの刑事責任の重大性にかんがみると,同被告人に対しては酌量減軽をすべき事案とは認められない。
6 被告人Aの個別情状及び量刑
(1)被告人Aは,共犯者らから強盗に誘われ,生活費や遊興費が欲しかったことから,d事件に加わった。
そして,被告人Aは,東京都内から大分県内に赴き,被害者方やその付近等の下見をし,被害者らを監禁する場所を探しに行った。また,被告人Aは,男性被害者をロープ等で縛って連れ出し,被害者らを監禁するという役割を実行するため,包丁等を携帯して被害者方に侵入し,Hが女性被害者の頭部等を木製棒で多数回殴打している際,同女の両足を押さえつけるなどした。
また,被告人Aは,被害者らの殺害に関する共謀の成立こそ認められないものの,自らを含む実行犯らが深夜に包丁3本を抜き身で携帯して被害者方に押し入り,被害者らの不意をついて強盗をすることなどを認識していた。したがって,被告人Aは,場合によっては被害者らに重篤な傷害を負わせる危険性のある犯行態様で強盗をすることを認識していたといえるが,それにもかかわらず,あえて本件に加わったことにより,その危険性が現実化し,男性被害者を死亡に至らしめ,女性被害者に重傷を負わせたものである。しかも,被告人Aは,大阪事件で強盗殺人という極めて重大な犯罪を犯したにもかかわらず,そのわずか3週間余り後に,人の生命・身体に危険を及ぼしかねない犯行に加わったのであるから,その犯罪傾向は根深
く,人命軽視の態度が顕著であるといわざるを得ない。
加えて,被告人Aは,共犯者とともに,本件犯行時に着用していた衣服等を廃棄するなどして罪証隠滅を図った。また,被告人Aは,共犯者の逃走資金を用立てた。 以上の事情と前記2及び3の事情を総合すると,被告人Aの刑事責任は誠に重いというべきである。被告人Aは,d事件に関与したのみならず,大阪事件でも強盗殺人を実行したものであり,その刑事責任の重さは,d事件のみに関与した同Bを上回ることは明らかであるから,同Aに対して死刑を選択することも十分考慮しなければならない。
(2)他方,d事件については,被害者らの殺害に関する共謀の成立及び殺意の存在が認められない。また,被告人Aは,d事件においては,被害者らに対して傷害を負わせるような暴行は加えていないし,女性被害者が悲鳴を上げるなどし,階下から男性被害者の声が聞こえたため,被害者方から逃げ出し,他の共犯者らにも逃げるように促したものであり,同Aの本件に占める地位は,首謀者のH及びE並びに女性被害者に強度の暴行を加えるなどした同Bよりも劣るといわざるを得ない。さらに,被告人Aは,捜査段階において,本件各犯行について詳細に供述し,その解明に寄与した上,被害者らに対して申し訳ないなどと述べて謝罪の気持ちを表し,公判廷においても,他の被告人ら及び共犯者らの客観的行為等について供述している。また,被告人Aは,犯行時19歳の少年であり,本件各犯行がその人格の未熟さに起因している面もあることは否定できず,矯正可能性がないとまではいいきれない。加えて,被告人Aには,これまで日本において前科前歴がない。 このように,被告人Aのために酌むべき事情も認められる。 (3)そこで,以上の諸事情を踏まえて,被告人Aに対して死刑を選択すべきか否かについて検討する。
ア 前記2,3及び6(1)のとおり,本件各犯行の動機に酌量の余地はなく,特に大阪事件の犯行態様は冷酷で,極めて執ようかつ残虐であり,2名が死亡し,1名が重傷を負ったという本件各犯行の結果は極めて重大であって,被害者及び遺族の被害感情は極めて厳しく,社会的影響も大きい上,犯行後の情状も芳しくないことなどの諸事情を考慮すると,被告人Aの刑事責任は極めて重大であって,その重さは,同Bの刑事責任を上回ることは明らかである。
しかしながら,死刑はしゅん厳な究極の刑罰であることにかんがみると,その適用は慎重に行われなければならず,罪責が誠に重大であって,罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむを得ないと認められる場合でなければ,死刑を選択することは相当でないというべきである。
イ そこで,まず,一般予防の観点から検討すると,大阪事件は,最初から強盗殺人を計画して,ほぼその計画どおりに実行したものであって,酌量の余地のない犯罪である。客のいるホテルの室内に入って行う業務は多々あるのであって,これらの業務に携わる人々に与えた不安感は計り知れない。
そして,d事件は,近時,資産家をねらった集団的・組織的な住居侵入型の強盗
事件が多発しており,これらの犯罪から社会を防衛する必要性が高まっていることは否定できない。しかも,被告人Aは,大阪事件で強盗殺人を実行し,人を殺すことの重さを実体験したにもかかわらず,その忌まわしい体験を教訓として,そのような危険性のある場に自らを置かないように気を付けるべきであるのに,そのわずか3週間余り後に,大阪事件の共犯者を含む多人数で被害者方に侵入し,しかも危険な凶器である刺身包丁を抜き身で3本も携行するという,危険な犯行態様であることを認識しながら,d事件に加わったものである。被告人A自身は,強盗殺人ないし強盗殺人未遂の実行犯ではないとしても,その犯行態様の持つ危険性が現実化したものであるとの評価を免れない。
そうすると,わずか1か月足らずの間に,強盗殺人と強盗致死傷を連続的に行った者に対しては,そのような行為を行ったことに対し,社会的に存在することが許されないものであるとの評価を行うことによって,将来の同種の犯罪を抑止する必要性があることも否定できない。
ウ しかし,罪刑の均衡の見地から検討を加えると,d事件は,その計画としては,前記のとおり,被害者らを殺害したうえ金品を強奪するというものではなく,また,罪証隠滅のために被害者らを殺害することも共謀の内容とはなっていない。そして,被告人Aは,被害者らに犯行が発覚し,抵抗されたことに対し,屋外に逃走しているのであって,被害者らの受傷を望んだものでもない。また,共犯者に対し,犯罪の実行を継続するのではなく,逃げるように呼びかけているのであって,犯行場所に長く留まったHや女性被害者に強度の暴行を加えた被告人Bなどと同視できないものがある。そして,被告人Aの捜査段階及び公判段階の各供述は,本件を解明し,同B,同Cその他の共犯者の行為を認定するに際し,大きく貢献したものである。また,被告人Aは,犯行時19歳の少年であって,特に大阪事件においては,共犯者Eから自分も別室で強盗殺人を行うから,大阪事件を実行するように唆されて実行し,Eに強取品のキャッシュカードを渡しているというように,同人から騙されて実行した側面があり,人格の未熟さが犯行の一因となっていることもまた否定できない。
エ 以上のような諸点を総合して考察すると,被告人Aの刑事責任が,極めて重大であることを考慮してもなお,極刑がやむを得ないとまでは認め難く,自己の犯した罪の重大さ,深刻さを改めて深く自覚させ,生涯にわたって亡くなられた被害者の冥福を祈らせるとともに,被害者らに対する贖罪と猛省の日々を送らせるのが相当であると判断した。
したがって,被告人Aに対しては,死刑を選択せず,無期懲役に処するのが相当である。
7 結 論
よって,被告人A及び同Bをいずれも無期懲役に,同Cを懲役14年に処することとし,主文のとおり判決する。
(求刑 被告人Aにつき死刑,同Bにつき無期懲役,同Cにつき懲役15年)
平成17年4月15日
大分地方裁判所刑事部
裁判長裁判官 鈴木浩美
裁判官 増田純平

裁判官駒田秀和は転補のため署名押印することができない。
裁判長裁判官 鈴木浩美

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