判例検索β > 平成20年(行ウ)第279号
遺族補償給付不支給処分取消等請求事件(通称 新宿労基署長遺族補償等不支給処分取消)
事件番号平成20(行ウ)279
事件名遺族補償給付不支給処分取消等請求事件(通称 新宿労基署長遺族補償等不支給処分取消)
裁判年月日平成22年10月18日
法廷名東京地方裁判所
裁判日:西暦2010-10-18
情報公開日2017-10-19 13:56:03
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主1文
新宿労働基準監督署長が原告に対し平成15年2月3日付けでした
労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料を支給しない旨の処分を取り消す。
2
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由

第1

請求
主文同旨

第2

事案の概要

本件は,出光タンカー株式会社(以下本件会社という。)に勤務していた亡a(以下被災者という。)が平成▲年▲月▲日に本件会社で飛び降り自殺をしたのは,業務に起因するうつ病によるものであるとして,被災者の妻である原告が,新宿労働基準監督署長(以下処分庁という。)に対し,労働者災害補償保険法(以下労災保険法という。)に基づく遺族補償給付及び葬祭料の請求をしたが,これらを支給しないという決定(以下本件処分という。)を受けたため,その取消を求めた事案である。
1
争いのない事実
(1)被災者
(昭和▲年▲月▲日生。
死亡当時43歳)
は,
昭和53年4月1日,
出光興産株式会社(以下出光興産という。)に入社し,主として経理関係の業務に従事していたが,平成9年7月から本件会社に出向し,業務一部経理課(以下経理課という。)の課員として稼働した。
被災者が経理課に在籍した当時の課長はbであった。
(2)被災者は,平成▲年▲月▲日以降には精神障害を発症し,うつ病と診断できる状態に陥っていた。
(3)被災者は,同月▲日,出社後の午前7時25分ころ,本件会社の本社ビル6階から飛び降り,c大学病院に搬送されたが,同日午前7時59分,全身
打撲により死亡した。
(4)原告は,平成13年3月23日,被災者の自殺は業務上の事由によるものであるとして,処分庁に対し,労災保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料の請求をしたが,処分庁は,平成15年2月3日付けで本件処分をした。原告は,本件処分の取消を求め,同年4月1日,東京労働者災害補償保険審査官に対して審査請求をしたが,平成16年3月11日付けで棄却され,同年4月28日,労働保険審査会に対して再審査請求をしたが,平成19年11月16日付けで棄却された。原告は,平成20年5月15日,本件処分の取消を求めて本件訴訟を提起した。
2
本件の争点及び当事者の主張
被災者の自殺の業務起因性

(原告の主張)
(1)業務が過重であったこと
被災者は経理課で,主として本件会社のグループ会社を含めた資金業務を担当していたが,同業務は,会社の存立にかかわる重要な業務であり,1円単位まで適切に管理する必要から細かな神経を使わなければならず,負担の大きい業務であった。また,被災者は,遅くとも平成11年4月以降,b課長に命じられて,上記資金業務に加え,余剰資金対策の検討や資金システム等の業務の改善に関する業務,資金業務の一般職への移管をはじめとする業務遂行体制の改善,
収支計画,
決算処理等の会計業務も担当するようになり,
仕事内容の大きな変化があった。中でも,コンピュータの資金システムの容量を増大する作業は,著しく困難なものであり,休日出勤や極めて長時間の時間外労働をもたらす要因となったが,b課長は,被災者を厳しく叱責する対応に終始し,援助や配慮をしなかった。
このように,b課長からノルマとして命じられた業務は過大であり,それを円滑に達成できないことが被災者に非常に大きな心理的負担を与えた。
(2)恒常的な長時間労働
被災者は,
経理課に配属されて以来,
恒常的な長時間労働に従事しており,
被災者の従事していた業務は,時間的側面においても著しく過重であった。特に,平成▲年▲月の時間外労働時間は130時間,自殺した同月▲日までの休日は1日間,15日間の連続勤務で,本件会社に泊まった日もある等極めて過酷な労働実態であったし,通勤時間が片道1時間半以上であって,生理的に最低限必要な睡眠時間すら確保されない状況であった。
平成11年1月~7月の間の被災者の時間外労働時間は次のとおりである。
時間外労働時間数(月平均時間外労働時間)
平成11年7月

130時間35分

平成11年6月

108時間

2分(119時間18分)

平成11年5月

77時間26分(105時間21分)

平成11年4月

102時間37分(104時間40分)

平成11年3月

69時間

4分

(97時間32分)

平成11年2月

64時間

8分

(91時間58分)

平成11年1月

50時間29分

(86時間

3分)

(3)b課長による虐待行為
b課長は,被災者に対し,平成10年秋ころから,被災者から仕事を取り上げるような発言を繰り返したり,嫌がらせのための業務を命じる等し,平成11年6,7月ころ,他の課員の面前で恒常的に罵倒,暴言を繰り返すようになった。その発言内容は,上司の部下に対する指導と捉えられるものではなく,被災者がこれまで長年にわたって経理業務を行ってきたキャリアや能力,さらには人格を否定するもの,被災者に対する嫌悪の感情の発露というべきものであった。同年7月には,他の社員もいる場所で大声で

辞表を出せ。

と怒鳴る等,退職を強要する言動を繰り返した。
b課長による虐待行為は,被災者に対して強度の心理的負荷を与えた。(4)以上のように,被災者の過大な担当業務内容や恒常的な長時間労働,b課長による恒常的な,上司としての指導の範囲から著しく逸脱した暴言,退職強要等の虐待行為等の業務上の負荷により,被災者はうつ病を発症し,自殺したのであり,被災者のうつ病発症及び自殺には業務起因性が認められる。(被告の主張)
(1)業務起因性に関する判断枠組み
精神障害の発病が業務上のものと認められるためには,精神障害の発病と業務との間に条件関係及び相当因果関係が肯定されることが必要である。条件関係を肯定するためには,環境由来のストレスと個体側の反応性,脆弱性との関係で精神破綻が生じるというストレス-脆弱性理論を前提とし,業務上一定以上の大きさを伴う客観的に意味のあるストレスが精神障害の発病に寄与しており,当該ストレスがなければ精神障害は発病していなかったとの関係が高度の蓋然性をもって認められることが必要である。また,労災補償制度の前提となる使用者の補償責任が危険責任に基づく無過失責任であり,労災補償制度が使用者の保険料の拠出により運営されていることに照らせば,精神障害の発病と業務との相当因果関係が認められるためには,当該業務による負荷が,平均的な労働者にとって業務によるストレスが客観的に精神障害を発症させるに足りる程度の負荷であると認められること及び当該業務による負荷が,その他の業務外の要因に比して相対的に有力な原因となって,当該精神障害を発病させたと認められることが必要である。そして,相当因果関係の立証責任は,保険給付の請求者であり,保険給付に係る不支給決定を争う原告にある。
(2)心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針
旧労働省は,業務による心理的負荷を原因として精神障害を発病し,自殺したとする労災保険給付請求の増加に対応するため,精神医学,心理学及び
法律学の専門家に専門的見地からの検討を依頼し,その専門家により構成された精神障害等の労災認定に係る専門検討会の検討結果の報告を受け,心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針(以下判断指針という。)を策定した。判断指針は,対象疾病をICD-10第Ⅴ章精神および行動の障害に分類される精神障害とし,①対象疾病に該当する精神障害を発病していること,②対象疾病の発症前概ね6か月の間に,客観的に当該精神障害を発病させる虞れのある業務による強い心理的負荷が認められること,③業務以外の心理的負荷及び個体側要因により当該精神障害を発病したとは認められないことという3要件を満たす精神障害を業務上の疾病として扱うこととした。
業務による心理的負荷の強度については,職場における心理的負荷評価表に基づき,出来事の心理的負荷の強度をⅠ(日常的に経験する心理的負荷で一般的に問題とならない程度の心理的負荷)~Ⅲ(人生の中でまれに経験することもある強い心理的負荷)に評価し,その上で,出来事の心理的負荷の強度及びその出来事に伴う変化等に係る精神的負荷の過重性を総合評価し,弱中強のいずれに該当するか評価する。さらに,業務以
外の心理的負荷の強度については,職場以外の心理的負荷評価表に基づいてこれを評価し,また,既往歴等の個体側要因として考慮すべき点が認められれば,それが客観的に精神障害を発病させる虞れのある程度のものかについて検討する。以上の業務による心理的負荷の強度の評価,業務以外の心理的負荷の強度の評価,個体側要因のそれぞれを検討し,その上で,これらと当該精神障害の発病との関係について総合判断する。
業務による心理的負荷によって精神障害が発病したと認められる者が自殺を図った場合には,精神障害によって正常な認識,行動選択能力が著しく阻害され,又は,自殺行為を思い止まる精神的な抑制力が著しく阻害されて
いる状態で自殺が行われたものと推定し,原則として業務起因性を認める。精神障害の業務起因性については,最新の専門的知見に基づく専門検討会の報告を踏まえて策定された判断指針に依拠するのが最も適当である。(3)被災者を取り巻く状況
ア被災者の業務内容
被災者は,経理課に在籍中,主として,資金担当者として資金業務に従事していたほか,資金システム維持管理業務及び経理課の女子社員の教育業務に従事した。もっとも,被災者の業務のほとんどは,ルーティン業務で機械的な処理をすれば足りるものであった。資金業務についても,最も難しい判断を伴う,金利,為替動向を把握し為替予約方針及び資金調達方法を決定する部分はb課長が行い,資料作成はほとんどをdが行っていたから,被災者の担当業務は資料の一部の作成等に止まり,さほど難しい業務ではなかった。b課長は,経理課での業務改善とともに,被災者の評価レベルアップを意図して,被災者に資金システムの構築と女子社員の教育を指示したが,いずれも特段困難な内容ではなかった。それにもかかわらず,被災者は,未達成の仕事が多かったため,b課長は,被災者の業務の一部を他の社員に配分していた。

被災者の労働時間
上記のような被災者の担当業務内容によれば,被災者が本件会社に出勤していた時間のすべてを労働時間と認めるのは相当でなく,午前8時30分前に出社していたとしても,被災者の始業時刻は午前8時30分とすべきである。終業時刻は,原則として被災者が施錠しているときは施錠時刻を終業時刻とし,被災者以外が施錠しているときは本件会社の調査結果に基づいて退社時刻を推定し,これを終業時刻とする。休日の労働時間は,入退館カードの記録があるものは同記録により,記録がない日は,施錠記録の実績から午後5時35分とすべきである。

以上を前提として算出した平成11年1月~7月の間の被災者の時間外労働時間は,次のとおりであり,被災者が恒常的な長時間労働に従事した事実は認められない。
時間外労働時間数
平成11年7月

95時間41分

平成11年6月

77時間42分

平成11年5月

58時間56分

平成11年4月

79時間52分

平成11年3月

58時間

平成11年2月

54時間38分

平成11年1月

41時間59分

4分

なお,平成11年7月の時間外労働時間が長い原因は,主として休日出勤が多いことによるのであり,通常勤務日における時間外労働時間は合計35時間1分で,休日出勤の際も,午後4時から午後7時には退社しており,通勤時間を考慮しても,必要最小限度の睡眠時間を確保できていなかったとはいえない。

b課長との関係
b課長が被災者に対して暴言及び退職強要を行った事実は一切存在しない。被災者は,平成10年ころから,仕事を巡ってb課長から口頭により再三の注意を受けていたものの,b課長が被災者に対して一方的に罵倒,暴言を繰り返していたとはいえないし,b課長は,被災者に限らず,部下の男性社員に対して厳しい指導をしており,b課長が被災者に対して特に厳しく対応していたものではない。b課長の被災者に対する指導等は,通常の上司と部下との範囲を超えたものとはいえない。


以上のとおり,被災者の担当業務内容は,客観的にみて量的にも質的にも過重であったとは認められず,b課長による被災者への虐待等の事実も
認められないから,被災者のうつ病発症の業務起因性は否定される。オ
被災者の業務以外の心理的負荷要因として,①収入の減少(平成11年
度から給与が平均10%減額),②子の受験勉強(同年4月に長男が高校受験の勉強開始),③長い通勤時間(片道約1時間45分以上),④受傷(平成10年12月の交通事故による受傷),⑤健康状態(メニエール病に罹患。平成11年2月5日の健康診断結果に異常を認め,経過観察要となる。),⑥習慣飲酒という各事情があった。
(4)上記のb課長との関係は,職場における心理的負荷評価表のうち対人関係のトラブル(上司とのトラブルがあった)に該当し,その平均的心理的負荷の強度はⅡ(中程度)である。上司が部下に対して,仕事の期限を守れないこと,仕事の内容が詰められていないことについて注意,指導のための発言をするのは当然であり,人格を否定するような発言はなかったから,強度はⅡからⅠに修正されるが,他方,他の部下の前で大きな声で叱責し,注意をする際の配慮に欠ける点があるので,強度はⅡのままとする。そして,上記の被災者の労働時間からすると,恒常的な長時間労働は認められないことから,業務による心理的負荷の評価は中である。
以上のとおり,判断指針を本件に当てはめても,業務上の心理的負荷の総合評価は強には至らないから,その余の検討をするまでもなく,被災者の発病について業務起因性は否定される。
第3
1
当裁判所の判断
認定事実
上記争いのない事実に加え,証拠(各項目の括弧内に掲記のもの)及び弁論
の全趣旨によれば,上記争点に関して,以下の事実を認定することができる。(1)経理課の構成員(乙7,8)
被災者が本件会社に出向した平成9年7月当時,経理課には,被災者と同様に出光興産から本件会社に出向中のb課長の下に,被災者,被災者に業務
の引継ぎを行うことになっていたe,f,被災者の補佐をしていたdとg,fの補佐をしていたhがいた。
平成11年7月当時の経理課には,b課長の下,被災者,f,被災者の補佐をしていたdとi,fの補佐をしていたjがいた。なお,fは,b課長よりも年長である。
(2)本件会社での評価レベル(乙1,15)
出光興産及び本件会社では,従業員の資格評価のためのレベル評価の制度があり,管理職以外の社員のレベルを,低い方から1~7にランク付けし,各1~7のレベルの中で,低い方からD,C,B,A,Sにランク付けをしている。レベル6からレベル7に昇格するときは,直属の上司が評価した上で,その結果を役員会で協議して決定する。そして,レベル7を超えるF2のランク以上の者が管理職となる。
被災者は,本件会社に出向した平成9年7月当時,レベル6Bであった。そのころ,経理課に在籍していたeとfがレベル5で,被災者は両名より年下だったが,経理課ではb課長に次ぐ地位にあった。
被災者は,出向前に出光興産経理部でレベル6Aからレベル6Bに降格されており,
平成9年7月当時,
将来管理職になれるか否かの分岐点にあった。
(3)被災者の業務内容(甲13~16,乙1,7,8,15~18,37,38,証人b,同k,同i)

経理課の主な業務は,資金業務(資金繰り業務)及び決算業務であり,
被災者が主として資金業務を,fが決算業務を担当していた。資金業務の主な内容は,いずれも本件会社及び関係会社のタンカー購入のための資金手当,支払の資金手当,入出金管理,外貨支払のために行う円・ドルの為替業務であった。なお,本件会社の決算期は,毎年3月と9月であり,この時期の経理課は繁忙時期に当たる。
被災者の日常業務は,資金関係伝票の照合,日次資金繰表の作成,毎週
月曜日の資金繰りのためのミーティング
(b課長,
被災者及びdが参加
(平
成11年4月からはiも参加)するもの。以下資金ミーティングという。)への参加と検討資料の作成,関係部署と調整し,銀行に連絡して行う為替の予約,実行,借入れ,借換え等があった。また,被災者の月単位の業務は,月次収支に関する検討資料の作成,月次資金繰表の作成,短期借入金についての銀行との折衝と事務手続,為替相場に伴う為替差損益分析資料の作成等があった。さらに被災者の年単位の業務は,銀行に対する説明資料の作成があった。また,被災者は,為替相場のチェックを目的として,日経新聞のデータ入力を担当していた。
以上の業務のうち,資料作成についてはdが担当するものもあったし,入社以来経理関係の業務に従事してきた経験を有し,レベル6Bにあった被災者の立場から客観的に見れば,いずれもさほど困難な業務であったとは評価できない。
もっとも,
被災者は,
為替業務に従事した経験は乏しく,
資金ミーティングの検討資料の作成には苦労していた。
b課長は,これまでの経理の業務の中で,機械化できるものは省力化,効率化すべきであるという考え方から,
経理課の業務改善を企図しており,
そのような観点から,被災者に業務の指示をしていた。

資金ミーティングの開催経緯,開催状況
資金ミーティングでは,為替予約方針,資金調達方法,資金運用方法,
為替差損益分析等が検討,決定されていた。
平成9年7月当初は,b課長と被災者の打合せにより上記事項が検討,決定され,被災者が決定内容をdに伝え,dが実行していたが,被災者のdに対する指示が不十分であったために業務に支障を来すことがあった。そこで,決定内容が間違いなくdに伝わるようにするとともに被災者が為替,金利等の知識を習得し,為替予約等の判断を自分でできるようにすることを目的として,資金ミーティングが開かれるようになった。

資金ミーティングでは,まず被災者がb課長に予め指示された事項を報告し,b課長がその報告に対して意見を言ったり質問したりしたが,被災者は,何も答えずに黙り込んでしまうことがしばしばあり,結局,b課長が判断して決定していた。
なお,被災者死亡後は,資金ミーティングは開かれなくなった。

資金システムの維持管理業務
平成10年,b課長は,資金業務を効率的に行うため,資金システムを
構築しようと考えて被災者をその担当とし,夏ころ,被災者にプログラミングの社外研修を受講させたが,被災者は,同システムを完成させることができなかった。その後,b課長は,lに同システム構築を指示し,lがシステムを完成させたが,情報量の拡大により容量が不足したことから,使い勝手が悪くなっていたため,b課長は,平成11年1月ころ,退職したlに代わり,被災者に,資金システムの容量を拡大する作業(同年3月期限)を指示した。被災者は,結局,資金システムの容量拡大の作業を完成させることができなかった。同年7月ころ,被災者は,dに対し,資金システムのプログラムの修正をしたが容量の拡大が困難であり,プログラム修正のために休日出勤をした等と話した。

女子社員の教育業務
b課長は,平成10年4月,経理課の女子社員のレベルアップを図ると
ともに被災者のルーティン業務を女子社員に移行させようと考え,被災者に女子社員の教育業務を担当させたが,被災者は,この業務に着手しなかった。b課長は,平成11年3月,被災者を同業務の担当から外した。オ
決算業務
b課長は,平成11年5月ころ,資金業務と決算業務のつながりが悪い
等として,被災者に決算業務を勉強するように指示し,被災者は,決算システムの概要について担当者から説明を受けたり決算業務の一部の引継ぎ
を受ける等した。b課長は,同年7月ころ,決算業務のうち決算説明用資料の作成等をコンピューターを使用して機械的,効率的に行えるようにしようと考え,その機械化の業務を被災者に担当させることとしたが,被災者は,自殺した時点で,この業務に着手していなかった。
(4)被災者の労働時間(甲10,乙13)

被災者は,平成11年3月までは午前8時ころ,同年4月~6月の間は
午前7時25分ころ,同年7月には午前6時55分ころ出社していたと認められる。被告は,他の社員の大半が午前9時を始業時間として出社していること,被災者が新幹線通勤をしていることを根拠に,被災者の早い出社時間は新幹線通勤による旨主張するが,上記認定事実に係る被災者の業務の多様さ及びその業務量に照らせば,業務がないのに,わざわざ上記のような早朝出社をするとは考え難い。
被災者は新幹線通勤をしているため,
新幹線の本数が少ない面があるにしても,時期によって出社時刻が異なることは新幹線の本数との関係では説明がつかないから,上記の出社時刻をもって被災者の平日の始業時刻と認定するのが相当である。
原告は,同年6月28日~30日の始業時刻を午前6時55分と主張するが,本件会社による調査結果によれば,午前7時25分である。以上より,始業時刻は,別紙始業時刻欄記載のとおりである。

平日の終業時刻について争いがない部分は,これを前提にする。
原告は,
平成11年7月5日の終業時刻を午後8時30分と主張するが,

その根拠は乏しく,本件会社の調査結果の午後8時と認めるべきである。原告は,同月12日に,被災者が午後9時まで銀行関係者と会食したことを前提に終業時刻を午後9時であると主張するが,このような会食を業務と認めるのは相当でない。同月14日に,被災者は本件会社に泊まったと認められ,終業時刻が午後10時過ぎの日でも被災者は帰宅していることからすると,この日の終業時刻は午後11時と認めるのが相当である。
以上より,終業時刻は,別紙終業時刻欄記載のとおりである。

休日の労働時間及び平日の休憩時間について争いがない部分は,これを
前提にする。
平成11年7月17日及び同月25日の始業時刻について,原告は,各午前8時30分及び午前7時と主張するが,その根拠は乏しく,本件会社の調査結果に基づき,それぞれ少なくとも午前9時30分であったと認めるのが相当である。同年6月26日について,原告は,調査官による労働時間の調査結果(乙1の45頁)を根拠に,午後1時~午後7時の出勤を主張するが,本件会社による調査結果によると休みであり,被災者がこの日労務に従事したことを裏付ける資料が見当たらず,原告の上記主張は採用できない。

以上によれば,下記各月の時間外労働時間は,以下のとおりである。時間外労働時間数

(月平均時間外労働時間)

平成11年7月

123時間35分

平成11年6月

101時間32分

(112時間33分)

平成11年5月

77時間26分

(100時間51分)

平成11年4月

102時間37分

(101時間17分)

平成11年3月

69時間

4分

(94時間50分)

平成11年2月

64時間

8分

(89時間43分)

平成11年1月

50時間29分

(84時間

7分)

(5)b課長と被災者の関係(甲7~9,15,17,19,乙1,15,37,証人b,同i)
b課長は,被災者が経理課に着任した平成9年7月当時,将来管理職になれるか否かの分岐点にあった被災者に対し,期待感をもっており,被災者に経理課全体の業務を掌握させるべく,強い指導をしていた。しかし,被災者は,b課長の期待に十分応えられず,期限までに業務を達成できないことが
多くあったことから,平成11年ころには,b課長は,被災者が管理職になるのは難しいと考えていた。
b課長は,部下の男性社員である被災者やfに対して,できなければやめろ等と強い口調で注意,指導をすることがあったが,b課長自身は,被災者とfに対する口調や態度に特に差はないと認識していた。
同年ころから,b課長の被災者に対する注意が厳しくなった。その結果,被災者は,本件会社の業務第一部長のmに対し,b課長の強い指導を重みに感じている旨2度相談した。また,同年7月に業務第一部長になったnに対しても,b課長と合わないので転勤させて欲しい旨述べるにいたったが,n部長からは,もう少し待つように言われた。
本件会社の業務一部総務課(経理課と同フロアにあった。)課長のoは,m部長に対し,b課長の部下に対する叱責がやり過ぎではないかと2度ほど相談し,m部長は,b課長に対し,個人差があるので,周囲に人がいる前で強く叱責すると大きくショックを受ける人もいるので注意するように指導した。o課長自身も,b課長に対して,被災者やfを部下の前で叱責しない方がよい旨注意した。
b課長は,被災者が期限までに達成できない業務を抱えていたことから,経理課の女子社員のレベルアップを図る目的もあって,
同年3月~5月ころ,
被災者のルーティン業務の一部を女子社員に移行したが,被災者は,b課長から仕事を取り上げられたと受け取った。
b課長は,被災者が作成した資金ミーティングの結果メモにコメントを書き込むことがあったが,
同年5月24日実施の結果メモに

金融環境,為替,自社の資金ポジション等といったファクターを組み合わせ,何をするのかといった発想で仕事をすること。単なる資料作成は総合職の仕事とはいいがたい。

仕事の仕組みを整理し,誰でもできるようにするのが同様に総合職の仕事。自分でシコシコは単なる自己満足。

と,同月31日実施の結果メ
モに

業務のシビアリティをもっと追求すること。中途半端なつめ方が目立つ。

と,同年6月21日実施の結果メモに

指摘事項に対して担当としてどのように思っているのですか?このようなレベルの低い指摘をせざるを得ないことは非常に残念です。自分の担当している業務に対する責任感とは何ですか?

と,同年7月12日実施の結果メモに

日常業務として注意している視点にそった資料作成,検討を行う必要あり。業務に対する責任感をしっかりもつこと。すみやかに対応されたし。

等と記載した。被災者は,fに対し,b課長から厳しく言われていると話し,相当苦にしている様子であったが,同年6月下旬ころには,被災者は,fに対し,b課長に「死ね。」と言われたと話した。
同年7月21日ころ,b課長は,期限までに達成できない業務があった被災者に対し,自席で大きな声で

与えられた仕事をきちんとできないというのはどういうことか。

等と叱責したところ,被災者が

それは私に会社を辞めろと言っているのか。

等と言い返し,b課長が

そのようなことを言っているのではない。

等と反論したことがあった。両者のやり取りを耳にしたiは,被災者がb課長に言い返したのを意外に感じ,たまっていたものが爆発したのではないかという印象を抱いた。
同月ころ,b課長は,被災者に対し,

納得しなければ仕事しないというのであればしなくていい。

恥を知れ。

頭を下げて,悪うございました,心を入れ替えて死ぬ気で働きますと言いに来い。

シビアリティがない。

会社を辞めろ。会社に来るな。組織にいられない。

卑怯者。」等と言い,被災者を自席に立たせて

会社を辞めろ。辞表を出せ。

等と叱責したことがあった。
(6)データの消去(乙1,15,25)
被災者が自殺直前に書いたと思われるd宛のメモには,コンピューター操作を誤ってデータを消去したことを詫びる内容が記載されていた。このコン
ピューターの不具合は,被災者の自殺後半日で修復された。
2
争点に対する判断
以上の認定事実を前提に,被災者の自殺の業務起因性を判断する。(1)業務起因性の判断基準

労災保険法に基づく保険給付は,労働者の業務上の死亡等について行われるところ(同法7条1項1号),労働者の死亡等を業務上のものと認めるためには,業務と死亡との間に相当因果関係が認められることが必要である(最高裁昭和51年11月12日第二小法廷判決・判例時報837号34頁参照)。また,労災保険制度が,労働基準法上の危険責任の法理に基づく使用者の災害補償責任を担保する制度であることからすれば,上記の相当因果関係を認めるためには,当該死亡等の結果が,当該業務に内在する危険が現実化したものであると評価し得ることが必要である(最高裁第三小法廷平成8年1月23日判決・判例時報1557号58頁,最高裁第三小法廷平成8年3月5日判決・判例時報1564号137頁参照)。

精神障害の発症については,環境からくるストレスと個体側の反応性,脆弱性との関係で精神的破綻が生じるかどうかが決まるというストレス-脆弱性理論が広く受け入れられていると認められることからすれば,業務と精神障害の発症との間の相当因果関係が認められるためには,ストレス
(業務による心理的負荷と業務以外の心理的負荷)
と個体側の反応性,
脆弱性を総合考慮し,業務による心理的負荷が,社会通念上,客観的にみて,精神障害を発症させる程度に過重であるといえる場合に,業務に内在ないし随伴する危険が現実化したものとして,当該精神障害の業務起因性を肯定するのが相当である。そして,業務により発症した精神障害に罹患していると認められる者が自殺を図った場合には,原則として,当該自殺による死亡につき業務起因性を認めるのが相当である(乙2~4参照)。
(2)被災者の精神障害発症の業務起因性についての判断


精神障害の発症
前記争いのない事実記載のとおり,被災者が,遅くとも平成▲年▲月▲
日ころ,うつ病に罹患していたことは,当事者間に争いがない。そこで,以下,同年1月ころから,被災者の周りに発生したできごとの内容が,被災者に対して,
どのような心理的負荷を生じさせたかを検討し,
その上で,
被災者の発病についての業務起因性の有無を検討することとする。イ
b課長との関係
原告は,被災者を巡る心理的負荷の内容として,b課長による虐待行為
があったと主張する。そこで,上記認定事実を前提として,被災者とb課長との関係について検討し,この点に関する被災者の心理的負荷の程度について考察を加える。
一般に,企業等の労働者が,上司との間で意見の相違等により軋轢を生じる場合があることは,組織体である企業等において避け難いものであることは当然なのであり,企業等において一般的に生じ得る程度のものである限り,上司とのトラブルに伴う心理的負荷が社会通念上客観的にみて精神障害を発症させる程度に過重であるとは認められない。しかしながら,そのトラブルの内容が,上記の通常予定されるような範疇を超えるものである場合には,その心理的負荷を評価して,精神障害の発症のための要因と評価すべきである。
そして,上記認定事実を前提とすれば,b課長による叱責は,次の点に鑑みれば,精神障害を発症させる程度の心理的な負荷を生じさせる程度に過重なものであったものと考えることができる。
第1に,b課長による叱責は,人が見ている場所でも公然と行うものであり(これ自体は,被災者に対する叱責に限らない。),経理課の課員をはじめとする周囲の人間は,共通して,それを認識していることである。第2に,b課長の被災者に対する発言は,ことば自体が厳しく,その表
現は,
感情的なものと見られる程度のものが多い点を挙げることができる。そして,ついには,

会社を辞めろ。会社に来るな。組織にいられない。

会社を辞めろ。辞表を出せ。

等,20年以上経理関係の業務に従事してきた被災者のキャリア,ひいては,本件会社で稼働することを否定する内容に至ったり,「死ね。」との発言は,被災者の存在自体を否定するような暴言であるといわなければならない。このような過度な表現は,後述のとおり,業務遂行が不十分であった被災者に対しては,特に強く心理的負荷を生じさせていたことは,推認に難くないといわざるを得ない。第3に,b課長による被災者に対する叱責の程度は,経理課と同フロアにあった業務一部総務課のo課長が,その改善をm部長に相談して,m部長から注意してもらったり,b課長に対して直接に注意を促したりするほどのものであった。
第4に,b課長による叱責に関して,被災者が,同僚であるfに,b課長から暴言を吐かれたことを相談をし,
さらには,
上司であるm部長には,
2度にわたり,b課長の強い指導を重みに感じている旨を相談し,その後任者であるn部長に対しても,b課長とあわないので転勤させて欲しい旨を相談している。
この事実は,
被災者の側も,
b課長による叱責の程度が,
耐え難いことを発信せざるを得ない状況にあったこと,更には,被災者が叱責の程度の甚だしさを周りに発信したのに改善されず,心理的負荷が増したことを推認させる事情であるといえる。
第5に,b課長による被災者に対する叱責は,平成11年ころから厳しくなっているのであり,それは,当初は被災者の管理職登用の可能性を考えて,指導をしようと考えていながら,被災者が十分な業務遂行をすることができず,管理職登用が困難であると考えていた時期と符合するものである。してみると,それまでの指導という側面から,b課長の被災者に対する嫌悪の情を感じさせるものへの変化があり,その点でも,被災者に対
する心理的負荷が嵩じる要因となったものと推認されるところである。以上のような要因を含む遅くとも同年以降のb課長による叱責は,被災者に対して,企業等において一般的に生じ得る程度を超えるものであると評価すべきであるから,被災者の心理的負荷を極めて高めるについて,強い影響を及ぼしたものであるといわなければならない。

被災者の業務の状況
次に,上記認定事実を前提として,被災者にとって,経理課に配属され
た後の,被災者を巡る職務の内容,職場の環境の状況を検討し,平成11年1月ころ以降の被災者の心理的負荷の程度を検討する。
被災者が,平成9年7月に本件会社に出向して経理課に配属された段階で,
被災者の出光興産及び本件会社での評価レベルは,
レベル6Bであり,
レベル7を超えるF2のランク以上の者が管理職となることからすれば,管理職の一歩手前の状況にあったものである。
しかも,
被災者については,
出向前の出光興産経理部で,レベル6Aからレベル6Bに降格されていたのであるから,
被災者の立場は,
将来の昇進の分岐点にあったものである。
そして,被災者と同様に出光興産から本件会社に出向していたb課長の下でナンバー2としての地位にあったのであり,b課長としては,被災者が管理職の候補となることについて期待感をもって指導しようとしていた。ところが,被災者の担当業務は,被災者のキャリアを前提とすれば,客観的にみて困難性を伴う業務ではなかったにもかかわらず,b課長の期待に応えることができず,日常的な業務が不十分であったり,指示された業務を期限内に処理することができなかったものである。
例えば,資金ミーティングは,為替予約方針,資金調達方法等の業務について,当初の段階は,b課長と被災者の打合せによって検討,決定した上で,被災者が決定内容をdに伝え,dが実行しようとしていたところ,被災者のdに対する指示が不十分で業務に支障を来すことがあったことか
ら,b課長は,被災者に対する教育的な効果も考慮して,資金ミーティングを始めたものである。この資金ミーティングは,被災者死亡後には実施されなくなり,このようなミーティングを行わなくても,被災者の後任者は,この業務をこなしていたことから見ても,被災者は,通常期待される程度の業務遂行ができなかったことを推認させる。
また,平成10年夏ころにb課長に指示された資金システムの構築についても,被災者はこれを完成させることができず,fの補佐職であるlが完成させたのであり,被災者は,さほどに困難なものとはいえないこの作業の完成ができなかったものである。
そして,
平成11年1月にb課長は,
被災者に対して,退職したlに代わって容量の拡大を指示しているが,これも経緯に照らせば,自然な指示であった。
さらに,平成10年4月にb課長が被災者に対して指示した経理課の女子社員の教育業務についても,その段階のb課長の判断としては,相当なものではあるが,被災者は,結局,この業務に着手せず,b課長は,平成11年3月,被災者を同業務の担当から外している。
以上のように,同年初めころの段階において,b課長は,被災者に対して,ルーティンの仕事についても,また,それ以外の仕事についても,被災者の経歴からして,無理のない業務を指示していたが,被災者は,これに応えることができなかった状況にあるということができる。
以上のような経緯の中で,上記判断のとおり,b課長は,当初は期待感を持って接していたのに,次第に被災者が管理職になるのは難しいと考えるようになり,同年1月の段階では,企業等において一般的に生じ得る程度を超えるものと評価できる程度の叱責を,しかも,嫌悪感を持って厳しい叱責を行うようになっていたところ,以下に述べるとおり,それと軌を一にして同時期以降の被災者による業務処理自体も,質的な変化が生じていたものということができる。加えて,そのような中にあっても,b課長
は,
経理課の業務を改善するための指示を被災者に対して行い続けたため,被災者の担当する業務は多様なものとなっていた。
資金ミーティングでは,強い調子でb課長が被災者を問い詰め,被災者が対応できないのに対して,
b課長が方針を決定し,
被災者は黙っていた。
また,同年3月以降,被災者は,b課長が被災者のルーティン業務の一部を女子社員に移行したことを,仕事を取り上げられたと感じていたものである。上記の資金システムの容量拡大の作業についても,被災者は困難と感じ,同年7月に休日出勤までして行っていたが,ついには完成することができなかった。さらに,同年5月ころに,b課長は,被災者に対して,資金業務と決算業務のつながりが悪い等として,決算業務を勉強するように指示し,被災者は,決算業務について研究を始めたものの,b課長から最終的に指示された決算業務のうち決算説明用資料の作成等の機械化の業務については,自殺するまで着手していなかったものである。
これを被災者の労働時間の側から見ると,同年3月までは午前8時ころに出社していたのが,同年4月~6月の間は午前7時25分ころ,同年7月には午前6時55分ころ出社するようになっている。上記認定事実のとおり,経理課の繁忙時期である3月,4月を超えても,長時間の時間外労働を行っていることからしても,この時期の被災者の業務処理の質が変化していたものと考えざるを得ない。
このように,同年に入ってから,特に同年5月ころ以降の被災者の業務処理の質は大きく変化しており,さらにその中で多様な業務を担当し,その処理に困難を来していたものであって,こうした業務処理の性質自体が,被災者に対し大きな心理的な負荷を生じさせたものということができるのである。
なお,上記のとおり,この段階の被災者に課せられた業務は,少なくとも客観的に見ると特に過大なものではないことからすれば,それに強い心
理的負荷を感じたのは,被災者の脆弱性に帰するものと評価する余地もないではない。しかしながら,上記判断のとおり,一定の期待を背負って業務処理に当たっていた被災者が,期待される業務処理を行えず,期待が解けた段階で,企業等において一般的に生じ得る程度を超えるものと評価できる程度の,嫌悪感を含む厳しい叱責を受けるようになった末に,業務処理の質が変化した中で多様かつ大量な業務を処理しなければならないという困難な状況にあったのであるから,平均的労働者を基準としても,この間に生じた被災者の心理的負荷を考慮することは,許容されるというべきである。

業務以外の心理的負荷及び個体側の要因
けが,メニエール病の罹患等の出来事は,いずれも発症の6か月以上前
のものであるし,通勤時間の長さは,発症の6か月よりも前から継続して発生している事情であり,発症の6か月前の段階で,これらの事情が,特に変化したというものではない。また,その他被告が主張する業務以外の心理的負荷要因は,いずれも憶測の域を出るものではないといわなければならない。
してみると,被災者には,発症の前後を通じて,業務以外で特段の心理的負荷を発生させるような出来事は認められない。

まとめ
以上によれば,被災者の精神障害発症の6か月前以降の段階において,
b課長による叱責は,企業等において一般的に生じ得る程度を超えたものであり,これ自体から被災者が受けた心理的負荷は非常に大きいものであったし,この事情も関係して,平成11年に入ってから,特に同年5月ころ以降に被災者が課された業務から生じた負荷による心理的負荷が加わり,さらに被災者が同僚ないし上司にその改善を訴えても,状況が改善しなかったという状況に照らせば,被災者が受けた心理的負荷は重大なものであ
って,業務以外の心理的負荷が特に認められないことからすれば,社会通念上,客観的にみて,上記の被災者の心理的負荷は,精神障害を発症させる程度に過重なものと評価するのが相当であり,
被災者のうつ病の発症は,
業務に内在ないし随伴する危険が現実化したものとして,業務と被災者のうつ病の発症との間には相当因果関係を認めることができる。
そして,うつ病を発症した被災者が自殺時点において,正常な認識,行為選択能力が著しく阻害されていなかった等の特段の事情は認められないから,被災者の死亡についても,業務起因性を認めるのが相当である。第4

結論

以上によれば,被災者の自殺による死亡が業務に起因するものではないことを前提にして行われた本件処分は違法であり,その取消を求める原告の請求は理由があるから,これを認容することとする。
東京地方裁判所民事第36部

裁判長裁判官

渡邉
裁判官

早田尚
裁判官

村田
千香子

弘貴
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