判例検索β > 平成22年(ネ)第627号
雇用関係存在確認等反訴、損害賠償請求控訴事件(通称 アールインベストメントアンドデザイン解雇)
事件番号平成22(ネ)627
事件名雇用関係存在確認等反訴,損害賠償請求控訴事件(通称 アールインベストメントアンドデザイン解雇)
裁判年月日平成22年9月16日
法廷名東京高等裁判所
裁判日:西暦2010-09-16
情報公開日2017-10-19 13:58:00
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主1文
控訴人らの被控訴人aに対する控訴に基づき,原判決主文1項
を次のとおり変更する。
(1)

控訴人らは,被控訴人aに対し,連帯して,30万円及びこ

れに対する控訴人b及び同cはいずれも平成20年4月27日
から,控訴人dは同月21日から,控訴人eは同月28日から
各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)
2
被控訴人aのその余の請求をいずれも棄却する。

控訴人bの被控訴人アールインベストメントアンドデザイン株
式会社に対する控訴を棄却する。

3
訴訟費用は,第1,2審を通じ,甲事件及び乙事件を合算して,
これを3分し,その2を控訴人らの,その余を控訴人aの負担と
する。

4
この判決は,主文1項(1)に限り,仮に執行することができる。事
第1
1実及び理由
当事者の求めた裁判
控訴人ら
(1)

原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。

(2)

控訴人bが,被控訴人アールインベストメントアンドデザイン株式会社
(以下被控訴人会社という。)に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
(3)

被控訴人会社は,控訴人bに対し,平成20年6月から毎月末日限り,
各30万円を支払え。
(4)

被控訴人aの控訴人らに対する請求をいずれも棄却する。

(5)

訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人らの負担とする。

(6)

仮執行宣言

2
被控訴人ら

(1)

本件控訴をいずれも棄却する

(2)

控訴費用は,控訴人らの負担とする。

第2
1
事案の概要等
事案の概要
甲事件は,被控訴人会社の従業員である控訴人bが,被控訴人会社による解雇が無効であると主張し,被控訴人会社に対し,①雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と②平成20年6月から毎月末日限り賃金30万円の支払を求めた事案である。
乙事件は,被控訴人会社の代表取締役である被控訴人aが,控訴人らによる街宣活動の際,プライバシーと肖像権を侵害されたと主張し,控訴人らに対し,不法行為に基づく損害賠償請求権として,連帯して,慰謝料300万円及びこれに対する不法行為後である各訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。原審は,甲事件について,控訴人bの請求のうち,本判決確定日の翌日以降の賃金の支払を求める部分の請求にかかる訴えを却下し,その余の請求をいずれも棄却し,乙事件について,被控訴人aの請求を,控訴人らに対し,連帯して,慰謝料70万円及びこれに対する各訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余の請求をいずれも棄却した。
控訴人らは,これを不服として,上記判決を求めて控訴した。

2
前提事実
前提事実は,以下のとおり補正するほか,原判決事実及び理由の第2事案の概要の1前提事実に記載のとおりであるから,これを引用す
る。


原判決3頁15行目から16行目の過労とストレスによる業務上の疾病を理由に自宅療養に入ることを理由に就労しなくなりとあるのを,過労とストレスに基づく業務上の疾病を理由として自宅療養に入りと訂正する。


原判決4頁6行目の求められたがを求めたがと訂正する。



原判決4頁12行目のキックボクシングの試合を観戦している様子を知人に目撃されたをキックボクシングの試合を観戦していたと訂正する。



原判決4頁13行目から同15行目の携帯電話を被告会社に返還せず,深夜時間帯に長時間通話やメールを送信する等,私的利用を頻繁に繰り返し,被告会社は,これらの情報を入手していたを

携帯電話を平成18年2月にfから返還を求められるまで返還しなかった。この間,控訴人bは,この電話を使用し,深夜時間帯に長時間通話やメールを送信することもあった

と訂正する。原判決4頁15行目の(甲8,21)を(甲8,弁論の全趣⑸旨)と訂正する。原判決4頁16行目の団体交渉での次に

被控訴人会社は,前代表⑹のgが控訴人bが業務上の疾病であることを認め,謝罪していることについて理解していると述べた。その後

と付加する。原判決7頁25行目の支払ったを

控訴人b名義の預金口座に振り⑺込んで支払った(なお,控訴人bは,同金員を打切保証金及び日割賃金として受領したものではないと主張している。)

と,同8頁1行目の支払ったを

控訴人b名義の預金口座に振り込んで支払った(なお,控訴人bは,同金員を解雇予告手当及び遅延損害金として受領したものではないと主張している。)

と各訂正する。(8)

原判決9頁13行目から同14行目末尾までの

住民からじろじろ見られたり,怪文書を投函されたりしたため,同マンションから転居した。


住民からじろじろ見られることもあった。

と訂正する。⑼

原判決9頁15行目末尾に,改行して以下のとおり付加する。

(5)東京都労働委員会による救済命令等東京都労働委員会は,平成20年6月27日,組合からの不当労働行為救済申立に対し,被控訴人会社が,平成17年4月19日に行われた組合との第2回団体交渉を拒否したこと,第1回及び第4回ないし第6回の団体交渉において休業補償を6割としている根拠を十分に説明しない対応に終始したこと,並びに第6回団体交渉後の同年12月26日付けで申入れのあった休業補償を議題とする団体交渉に応じなかったことは,いずれも不当労働行為にあたると認定し,被控訴人会社においてそのような行為を繰り返さないよう留意する旨の文書を組合に交付するよう命じた。同命令書の理由中では,被控訴人会社による控訴人bの解雇については,労働基準法上の一つの区切りである療養開始後3年を経過しても控訴人bの復職の見通しが立たないことを理由とする措置とみざるを得ず,控訴人bが組合員であること又は組合活動を理由とする不利益扱いに当たるということはできないとされている。また,前記立会団体交渉における被控訴人会社の対応については,開催の趣旨に反する不誠実なものであったということはできないとされ,第2回立会団体交渉後,被控訴人会社が控訴人bの復職を議題とする組合の団体交渉に応じていないことは,正当な理由のない団体交渉には当たらないとされている。その後,中央労働委員会は,平成22年2月3日,被控訴人会社の不当労働行為を認定した上記東京都労働委員会の命令に対する被控訴人会社の再審査申立を棄却した。なお,中央労働委員会は,棄却した命令書の理由中で,被控訴人会社が控訴人bに対して本件復職命令を発したことは,同人の組合加入等を理由とする不利益扱いとはいえないとし,被控訴人会社の控訴人bに対する本件解雇及び休業補償打切りとした対応は,控訴人bの組合加入等を理由とするものとはいえないとしている。(甲22,乙54)3
争点及び当事者の主張
争点及び当事者の主張は,当審における控訴人らの主な主張を4項に,当審における被控訴人らの主な主張を5項に付加するほか,原判決事実及び理由の第2事案の概要の2争点に記載のとおりである
から,これを引用する。
4
当審における控訴人らの主な主張

(1)

本件解雇の効力について
労働基準法81条及び19条の理解と就業規則31条1項4号の評価の誤り
労働基準法19条1項は,労働者が業務上の疾病の場合の療養を安心してなし得るように解雇制限を行ない,但書で例外として,使用者が,同法81条の規定による打切補償を支払う場合にこの限りではないと規定するものである。すなわち,同法19条1項但書は,同条1項本文の解雇制限を,同法81条の規定による打切補償を支払った場合には解除する旨の規定であって,この規定自体は,解雇事由を定めたものではない。
被控訴人会社の平成18年2月16日改正の就業規則31条1項4号は,解雇事由として,業務上の負傷又は疾病による療養の開始後3年を経過しても当該負傷または疾病がなおらない場合であって,従業員が傷病補償年金を受けているとき又は受けることとなったとき(打切補償を支払ったときを含む)と規定している。原判決は,就業規則31条1項4号の解雇事由の規定は,・・・労働基準法の規定内容と齟齬がないもので,同法の趣旨を確認的に規定したものと解されると判示するが,上記のとおり,労働基準法19条1
項但書の規定は,同法81条により打切補償を支払った場合,単に同法19条1項本文の解雇制限を解除する趣旨の規定に過ぎず,積極的に解雇事由を定めた就業規則31条1項4号とは,全く趣旨を異にしている。したがって,労働基準法81条の規定による打切補償を支払った場合であっても,それは,単に解雇制限が解除されるに過ぎず,解雇を有効に行うためには客観的に合理的な理由が存在し,かつ,社会通念上相当であると認められる場合であることを要する。原判決は,就業規則31条1項4号に該当すれば,打切補償を支払って控訴人bを解雇することができると短絡的に結論づけており,解雇の正当化要件についての考慮を欠いている。

解雇の正当化要件の基礎となる事実の無視ないし考慮の欠如
(ア)

本件解雇の理由を作り出し,継続させてきたのは被控訴人会社で

あること


控訴人bが解雇の理由とされた傷病に罹患するに至った原因は,
株式会社fが控訴人bに対して極めて過重な労働を強要していたことであった。



株式会社f及び被控訴人会社の前社長であったgは,控訴人bが
職場復帰するために,復帰する職場の労働環境の改善整備を図るとともに,

最初は,まず会社の近所に来ることから始め,そのうちにfのカフェかレストランでも入って,職場の仲間とお茶を飲んだり話しをしたりする。そうしたことから始め,それを積み重ねていきましょう。

と提案し,職場環境の改善を約束した。このため,控訴人bの傷病の状況は,回復に向かっていた。



被控訴人aは,平成17年1月4日に,gに代わって,株式会社
f及び被控訴人会社の社長に就任したが,控訴人bに対して,上記リハビリ復帰についての合意を反故にして,即時に職場復帰を強要
して精神的圧迫を加え,療養に専念できなくさせた。傷病発症から3年にわたり控訴人bの傷病の回復が阻害されてきたのは,被控訴人会社の対応に原因がある。したがって,本件解雇の理由とされた事情は,全て被控訴人会社の責めに帰すべきものである。
(イ)

被控訴人らは,不当労働行為意思をもって控訴人bの排除を企図

したこと


被控訴人aは,第1に,株式会社f及び被控訴人会社の大規模な
リストラに向けての意図,第2に,多数の従業員の労働組合加入をもたらした被控訴人の行為に対する嫌悪の念から,控訴人bを排除するべく,同人に精神的圧力を加えて,自主退職に追い込むことが企図されたのであり,以下の経緯からも明らかである。



被控訴人会社は,平成17年2月7日,控訴人bに対し,合理的
な期間を経過しているのではないかとの認識を示して,1週間以内に貴殿の症状及び復職可能性について言及した診断書の提出を
要求する旨を記載した申入書(乙4)を交付し,さらに,同年
3月2日には,診断書の提出がなければ,理由なく就業していないと判断せざるを得ないと記載した通告書(乙7)を交付するなどして,無理に復職を迫り精神的圧力を加える内容の文書を連発した。



組合は,被控訴人会社の不当な対応に対し,控訴人bの休業補償
と職場復帰に向けた話合いを求めて団体交渉の開催を要求した。上記団体交渉は,形式上6回開催されたが,その後組合が申し立てた不当労働行為救済申立てに対し東京都労働委員会は,そのうち5回の団体交渉について被控訴人会社の不誠実な団交ないし正当な理由のない団交拒否で不当労働行為と認定し,その後の団交拒否を含めて被控訴人の不当労働行為があったとの判定を下し,その再審査を
行った中央労働委員会も同一の判断を下している。これは,被控訴人会社が組合との控訴人bに関する上記団交及びその後の団交拒否において,不当労働行為意思を有していたことが明らかである。


被控訴人会社は,組合が上記不当労働行為救済申立てをした後,
平成18年2月16日,就業規則31条1項4号を新設する改訂を行なった(甲11)が,これは,控訴人bに適用して,同人を解雇するために新設した規定である。被控訴人会社は,これを控訴人bや組合に周知せず,3年の経過を待って,上記就業規則に基づき,控訴人bを解雇した。


本件解雇時に控訴人bの職場復帰が可能でなかったことの認定の
誤り
本件解雇の要件は,リハビリ復帰としての復職が可能か否かであ
り,疾病がなおっているか否かではない。そして,復職が不可能な状況であることが明らかになったという事実は全くない。原判決は,疾病がなおっておらず,職場復帰が可能ではなかったと認定するのが相当であると判示しているが,相当でない。

本件解雇の手続的法令違反について(労働基準法20条)
本件解雇は,平成18年6月27日付けで発した即日解雇する旨の通告(甲14の1,2)によるものであり,解雇予告がなく,解雇予告手当の支払もなされていないので,被控訴人会社の就業規則31条2項に違反し(甲11),労働基準法20条に違反する解雇予告義務違反の解雇である。
被控訴人会社は,本件解雇の1年半後の平成19年11月6日に,組合から追及され,本件解雇が労働基準法20条の手続要件を欠いていることに気付き,同月9日付けで解雇予告手当名目で,控訴人bの口座に30日分の給与相当額の金銭と遅延相当額の金銭を一方的に送金し
たが,これにより,本件解雇の労働基準法20条に違反した瑕疵が解消されるものではない。
(2)

ビラ配布行為に対する損害賠償請求について


本件におけるビラ配布行為について

(ア)

本件街宣活動の必要性
組合は,控訴人bの業務上の疾病に対する休業補償,療養補償の充
実と同人の職場復帰に向けた適切な対応を図るために団体交渉に応ずるように被控訴人会社に要求してきたが,被控訴人会社は,東京都労働委員会の第2回立会団交以降,一切団体交渉に応じようとしなかったため,争議権及び団体交渉権の行使として,本件街宣活動を行うことが必要であった。
(イ)

本件ビラの内容,趣旨
本件で問題とされているビラは,被控訴人会社の社前で配布した被
控訴人aの顔写真を掲載したビラ(甲28の5ないし9)及び同人の自宅周辺に配布した顔写真と住所を記載したビラ(甲28の10)の6種である。
本件ビラは,組合が現に争議行為の当事者である被控訴人会社及び同aの行動を具体的に記載し,両者がこれまでに行ってきた組合に対する不当労働行為と本件解雇の不当性を批判する内容を記載したものである。被控訴人aは,本件不当解雇と不当労働行為を主導してきた被控訴人会社の最高責任者であり,当該ビラの被控訴人aに関する記載は全て被控訴人会社の社長としての上記各行為に関する事実を記載したものであり,私人としての行為にわたるものではない。組合は,被控訴人aの個人の私生活上の事実に関する情報を不特定かつ多
数人に暴露するという意図は全く有していないのである。

本件ビラ配布行為によるプライバシー権,肖像権侵害などが存在しな
いこと
(プライバシー権侵害について)
(ア)

原審の事実認定上の誤り
甲28の10のビラは,被控訴人aの住所,労働争議を抱えている
ことについては記載されているが,同人の職業については特の記
載していない。原審は,本件ビラは,被控訴人aが被控訴人会社の社長であることを示しているが,それは職業そのものではない。
(イ)

不快,不安の念を抱くことは,プライバシー侵害に当らない

こと
プライバシー権とは,みだりに私的生活領域へ侵害されたり,他人に知られたくない私生活上の事実,情報を公開されない権利であり,被控訴人aのプライバシー権が侵害されたか否かは,上記侵入や公開がされたか具体的に検討すべきであって,被控訴人aが不快,不安の念を抱いたかによるべきではない。
(ウ)

氏名,住所などの公開は、当然にプライバシー侵害にはあたらな

いこと
本件で問題となっている氏名,住所の記載は,一私人の氏名,住所ではなく,争議の相手方当事者としての住所である。会社登記には,代表取締役の肩書,住所は,必要的記載事項になっており,その限りにおいて,代表取締役の肩書,住所は,私生活上のものではなく,プライバシーの対象とはならない。
(エ)

被控訴人aの自宅周辺でのビラ配布について
自宅住所の記載があるビラは,被控訴人aの自宅周辺で1回だけ配
布されたものである。
(肖像権侵害について)
(オ)

被控訴人aの写真の使用は,肖像権の侵害に当らない。
原審は,①何人も自己の容姿や姿態を撮影した写真をみだりに公開されない利益を有している,②被控訴人aは,写真をビラに承諾なく使用されたことによって肖像権が侵害されたと判示している。
本件ビラに掲載された被控訴人aの写真は,同人の同意を得て,本人自身が公開を欲してインターネット上で公開しているものであり,その写真は,同人の上半身の肖像であり,それ自体秘匿されるべき態様の写真ではない。
また,組合が配布したビラの趣旨は,争議解決のために地域社会の働き掛けを得たいというものであり,その理由は不当なものではない。したがって,被控訴人aの写真の使用は,肖像権の侵害にあたらない。

控訴人らの行為に違法性は存在しないこと
(ア)

労働組合法1条2項の趣旨
労働組合法1条2項は,労働組合の団体交渉その他の行為で同

法1条1項の目的を達成するためにした正当なものについては,刑法35条により違法性が阻却される旨規定している。同法8条は,

使用者は,同盟罷業その他の争議行為であって正当なものによって損害を受けたことの故をもって,労働組合又はその組合員に対し,損害賠償することができない。

と規定している。これらの規定は,労働組合の活動として社会通念上相当と認められる行為が行われた場合,その結果として当該使用者等に業務の妨害,社旗的評価の低下又は損害が生じた場合であっても,民事上,刑事上の法的責任が生じないことを意味している。
(イ)

違法性判断の基準
違法性判断の要素としては,ビラの記載内容,配付方法に関して,
A-①当該行為の意図,目的,②私生活上の事実や個人的情報,肖像を公表することの意義,③情報入手の手段の適法性,相当性,④内容の正確性,⑤記載内容,配付方法の相当性を考慮し,他方,プライバシー権,肖像権については,B-①公表される事実,肖像の種類内容,②当該私人の社会的地位,影響力,③受けた不利益の態様,程度を考慮すべきである。
(ウ)

本件の検討
A-①

本件ビラ配付の目的は,争議の解決である。争議の解決の

ためには話し合いが必要であるが,被控訴人aは,団体交渉に応じようとしなかったため,組合としては,労使間の紛争を地域社会の中で解決してゆくことを目指すしかなかった。故に,組合は,争議権及び団体交渉権の行使として,本件街宣活動をすることが必要であったのであるから,本件ビラ配付行為は,正当な理由のある組合活動である。A-②

本件ビラに写真を掲載することや自宅周辺に,自宅住所の記

載されたビラを配付することは,個人に対する働きかけを容易にするもであり,容認できる。
A-③

住所の記載は,会社登記に記載されているので,誰にでもア

クセス可能な情報であり,肖像については,被控訴人aが了解して公開しているインターネットのウェブサイトから掲載したものであり,入取手段は適法である。
A-④

本件ビラの記載内容は,事実関係に関しては,全て真実で

ある。
A-⑤

本件ビラの記載内容は,表現を含めて相当である。また,

配付方法は,社前での情宣活動は,会社周辺で,毎月1回程度,1時間前後,マイクで訴えながらビラを撒くというものであり,争議行為としては穏当な形態である。被控訴人aの自宅マンションでの活動は,マンションの外にある共同の郵便受けにビラを投函するだけの行為であり,投函した回数も1回に過ぎない。
B-①

本件ビラに記載されたのは,被控訴人会社の経営者である

被控訴人aの行為であり,私人としての行為にわたるものではない。また,住所は,個人を表象するものであり,秘匿性の高い情報ではない。
B-②

被控訴人aは,争議行為を起こした経営の責任者として,

組合との交渉に応じるべきである。
B-③

被控訴人aの受けた影響は,抽象的であり,立証されてい

ない。
(エ)

以上によれば,控訴人らの行為に違法性は存在しない。

被控訴人aにはビラ配付によって何ら損害が発生していないこと
原審は,被控訴人aの損害として,①被控訴人aが,被控訴人会社が入居しているオフィスビルのコンビニエンスストアに立ち寄った際,客から好奇の目で見られたり,同じマンションの住民からじろじろ見られたり,怪文書を投函されたりしたため,同マンションから転居したことを認定した。しかし,被控訴人aが,上記マンションを転居した事実を認めることができないし,また,転居と本件ビラとの間の因果関係も明らかでない。その他の損害は,主観的かつ曖昧であり,本件ビラ配付によって被控訴人aに何らかの損害が発生しているとは認められない。
(3)

損害賠償の相手方について
本件において,被控訴人aは,組合員4名に対し,損害賠償を請求し,
原審は,これを認め,組合員4名に個人責任を課した。
しかし,組合活動として行われた表現活動は,組合自身の表現活動と解すべきである。争議行為は,労働組合の意思決定に基づく組合の行為であり,団結して行われる活動は,組合員個々人を超えた集団としての意思の確立の上になされている。そして,組合員個々人の活動が,組合活動としての資格を付与されれば,評価の次元は,集団法に移行し,その結果,組合のみが問責されることになると解される。
5
当審における被控訴人らの主な主張



本件解雇の効力について

労働基準法81条及び19条の理解と就業規則31条1項4号の評価の誤りについて
解雇権濫用法理における解雇の合理的理由の一つとして,労働者の労務提供の不能や労働能力または適格性の欠如・喪失が存在することは言うまでもなく,労働基準法18条の2(平成19年法律第128号による改正前のもの,現労働契約法16条)はそれを明文化したものである。従って,労働者の労務提供の不能や労働能力の喪失の場合には,労働基準法19条の適用に当たっては,同法18条の2が適用されることが当然の前提であって,本件のように労働者の労務提供の不能が業務上の疾病による場合は同法19条1項本文により,例外として解雇ができないことになるが,同法19条1項但書の打切補償を行った場合には,さらにその例外として,解雇ができることになるというべきである。原判決は,就業規則31条1項4号を,労働基準法18条の2,19条1項本文,同項但し書き全ての内容を含んだ規定と捉えているからこそ,労働基準法の規定と齟齬がなく,労働基準法の趣旨を確認的に規定したものと解しているのである。


本件解雇時に控訴人bの職場復帰は可能ではなかったとの認定の
誤りについて
控訴人らは,本件における打切補償による解雇の要件は,リハビリ復帰としての復職が可能か否かであって,疾病がなおっているか否かではないと主張するが,この主張は,解雇権濫用法理において解雇の合理的理由として労働者の労務提供の不能や労働能力または適格性の欠如・喪失が認められていることや,労働基準法81条の明文で疾病がなおらない場合と規定されていることに明らかに反するものであり,失当である。

本件解雇の手続的法令違反について
使用者が労働基準法20条所定の予告期間をおかず,また予告手当の支払いをしないで労働者に解雇の通知をした場合,その通知は即時解雇としての効力を生じないが,使用者が即時解雇を固執する趣旨でない限り,通知後同条所定の30日の期間を経過するか,または予告手当の支払いをしたときに解雇の効力を生ずるものと解すべきであり(最高裁第二小法廷昭和35年3月11日判決・民集14巻3号403頁参照),被控訴人会社は,控訴人bが3年に亘って休職している以上,控訴人bを即時解雇することに固執する趣旨ではなかったから解雇は効力を生じている。



ビラ配布行為に対する損害賠償請求についての被控訴人aの主張

本件ビラにおける氏名・住所の記載について
控訴人らは,被控訴人aの氏名・住所の本件ビラへの記載はプライバシー侵害にはあたらないと主張し,その根拠として,被控訴人aが争議の当事者かつ責任者であって私人としての立場にないことや,争議の過程で氏名・住所が一致の範囲に公開されることが予測できたはずであることを挙げる。しかしながら,本件争議はあくまで私人間の紛争に過ぎず,被控訴人aは私人であることは明らかであり,争議当事者の氏名・住所が一定の範囲に公開されるなどということはあり得ない。


本件ビラにおける被控訴人aの写真の使用について

インターネット上で公開されている被控訴人aの本件顔写真は,当該ウェブサイトの記事の内容を補完すべく,被控訴人a自ら掲載に同意を与えたものである。これに対し,本件ビラについては,その内容において被控訴人aを誹謗中傷するものであるから,控訴人らとしては,被控訴人aの意思を確認するまでもなく,本件顔写真を掲載することにつき被控訴人aの同意が得られないことを容易に予測できたはずである。控訴人らが地域社会に働きかけることは勝手であるが,そのために被控訴人aの顔写真を無断で使用して肖像権を侵害してもよいというのは本末転倒である。

本件ビラ配布の違法性判断の基準の検討について

(ア)

Aー①について
本件ビラの実態は,控訴人らが根拠のない正当性だけを声高に主張
し,被控訴人らを揶揄し誹謗中傷するものにすぎないから,争議解決に向けた真摯な意図が存するものであるとは認められない。
(イ)

Aー②について

争議行為は基本的には当事者同士の問題にすぎない。したがって,控訴人らが地域社会に働きかけを求めることは勝手であるが,そのために被控訴人aの肖像権やプライバシーを侵害してもよいというのは本末転倒であり,顔写真や自宅住所を掲載することに正当な意義は認められない。
(ウ)

Aー③について

肖像につては,控訴人らは,被控訴人aに無断で写真を使用しており,情報入手手段として明らかに違法である。住所については,被控訴人会社の法人履歴事項証明書に記載されているとしても,被控訴人aの職業を知らないマンションの近隣住民が容易のアクセスできるものではないから,そのような情報を入手して公開することは相当性を欠くものである。
(エ)

Aー④について

本件ビラの内容は,被控訴人らを揶揄し,誹謗中傷するものであり,また,事実関係についても控訴人らに都合良くねじ枉げられており,正確かつ正当なものとは認められない。
(オ)

Aー⑤について

本件ビラの内容については,上記エに述べたとおりであり,また,本件ビラの配布方法についても,控訴人らが街宣活動に際し被控訴人会社従業員に対し脅迫や暴行を行っていることや,被控訴人aが居住するマンションの近隣住民の各郵便受けにビラを投函していることからすると,相当性を逸脱していることは明らかである。
(カ)

Bー①について

控訴人らは,本件ビラに記載されたのは,被控訴人会社の経営者である被控訴人aの行為であり,私人としての行為にわたるものではないと主張するが,そうであるとすれば,私人たる被控訴人aが居住している自宅マンションの近隣住民に対し,被控訴人aの自宅住所を記載したビラを配布した理由が説明できないものである。
(キ)

Bー②について

控訴人らの主張するところによれば,控訴人らにおいても,被控訴人aに社会的地位や影響力がないことを認めているものである。
(ク)

Bー③について

被控訴人aが被った不利益や損害については,同人の陳述書(甲30)及び原審における被控訴人aの供述で十分に立証されている。第3
1
当裁判所の判断
当裁判所は,甲事件について,控訴人bの請求のうち,本判決確定日の翌日以降の賃金の支払を求める部分の請求にかかる訴えを却下し,その余の請求をいずれも棄却し,乙事件について,被控訴人aの請求を,控訴人らに対し,連帯して,慰謝料30万円及びこれに対する各訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余の請求をいずれも棄却すべきであると判断する。その理由は,次のとおり補正し,次項に当審における控訴人らの主な主張に対する判断を付加するほか,原判決事実及び理由の第3争点に対する判断に記載のとおりであるから,これを引用する。(1)

原判決13頁20行目の争いがないからの次に

(なお,前記各金員の受領については,控訴人bは受領の事実はみとめるものの,受領の趣旨を争っているが,弁論の全趣旨により前記金員は,前記の趣旨で支払われたものと認められる。)

を付加する。(2)

原判決15頁2行目から13行目までを削除する。

(3)

原判決15頁14行目のイをアと訂正する。

(4)

原判決15頁16行目冒頭から同19行目末尾までを以下のとおり訂正
する。
確かに,平成17年12月14日には,被控訴人会社は控訴人bに対し,本件復職命令を発令しており,それまでの組合との交渉の過程に照らしても,控訴人bとしては,控訴人bの被控訴人会社への復職を前提に交渉が進んでいるものと考えていたことが窺われることからすると,被控訴人会社が平成18年6月19日の第2回立会団交の際に,打切補償による解雇の提案を行ったことについては,控訴人b自身が唐突な印象を受け,騙し討ちに会ったと受けとめたこと自体は理解できないではない。しかしながら,証拠(甲23,24)によれば,被控訴人会社は,平成18年3月ころには,代理人である弁護士との間で,控訴人bとの間での労使紛争を打切補償により解決することを検討し,関係者と打合せを行っていたもので,平成18年5月26日に東京都労働委員会で行われた第4回調査期日において,組合が立会団交の条件としていた「6月19日に打切補償を行わないことの確約を撤回し,同年6月19日の第2回立会団交の期日が指定されたことも認められるものである。そうであるとすれば,打切補償自体は労働基準法81条に規定された解雇方法であり,その要件も法定されているものであることからすると,被控訴人会社が,打切補償による解雇の提案を行ったことについては,これが騙し討ちであり,信義則に反すると評価することはできない。」
(5)

原判決15頁20行目のウをイと訂正する。

(6)

原判決16頁2行目のエをウと訂正する。

(7)

原判決16頁16行目のオをエと訂正する。

(8)

原判決16頁25行目の効力が生じたというべきであるの次に,

(最高裁第二小法廷昭和35年3月11日判決・民集14巻3号403頁参照)を付加する。(9)

原判決18頁14行目及び21行目の本件ビラ①の次に及び本件ビラ②と付加する。(10)
2
原判決19頁3行目から12行目までを削除する。

当審における控訴人らの主な主張に対する判断
本件解雇の効力について

(1)

控訴人らは,原審は,労働基準法81条及び19条の理解と就業規則
31条1項4号の評価を誤っている旨主張する。
労働基準法18条の2(現労働契約法16条)は,

解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして無効とする。

と規定し,他方,同法19条1項は,労働者が業務上の疾病の場合の療養を安心してなし得るように解雇制限を行ない,但書で例外として,使用者が,同法81条の規定による打切補償を支払う場合にこの限りではないと規定している。これらの規定によれば,労働基準法19条1項が業務上の疾病によって療養している者の解雇を制限している趣旨は,労務提供の対価としてその報酬を支払うという労働契約の性質上,一般に労働者の労務提供の不能や労働能力の喪失が認められる場合には,解雇に合理的な理由が認められ,特段の事情がない限り社会通念上も相当と認められるというべきところ,業務上の疾病による労務不提供は自己の責めに帰すべき事由による債務不履行とはいえないことから,労働者が労働災害補償としての療養のための休業を安心して行えるよう配慮して,例外として解雇を制限したところにあるというべきである。そして,同項但書は,さらにその例外として,労働基準法81条に定める打切補償を支払う場合(労働者が療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合において,使用者が平均賃金の1200日分の打ち切り補償を行った場合)には,労働基準法19条1項本文の解雇制限に服することなく労働者を解雇することができると定めているものである。この打切補償とは,業務上の負傷または疾病に対する事業主の補償義務を永久的なものとせず,療養開始後3年を経過したときに相当額の補償を行うことにより,その後の事業主の補償責任を免責させようとするものであり,上記のような労働基準法各条の解釈に照らすと,打切補償の要件を満たした場合には,雇用者側が労働者を打切補償により解雇することを意図し,業務上の疾病の回復のための配慮を全く欠いていたというような,打切補償制度の濫用ともいうべき特段の事情が認められない限りは,解雇は合理的理由があり社会通念上も相当と認められることになるというべきである。被控訴人会社の就業規則31条1項4号は,解雇事由として,業務上の負傷又は疾病による療養の開始後3年を経過しても当該負傷または疾病がなおらない場合であって,従業員が傷病補償年金を受けているとき又は受けることとなったとき(打切補償を支払ったときを含む)と規定しているが,これは,上記労働基準法上の各規定内容に沿った規定であり,その趣旨を確認的に規定したものであると解される。
したがって,控訴人らの上記主張は採用できない。

控訴人らは,原判決は,就業規則31条1項4号に該当すれば,打切補償を支払って控訴人bを解雇することができると短絡的に結論づけており,解雇の正当化要件についての考慮を欠いている旨主張する。しかしながら,原判決は,就業規則31条1項4号は,前記労働基準法18条の2,19条1項,81条の趣旨を確認的に記載したものというべきであるとしているのであり,そうであるとすれば,被控訴人会社が,行った控訴人bに対する解雇は,労働基準法81条に規定する打切補償による解雇にほかならないというべきで,この解雇を有効に行うためには,さらに客観的に合理的な理由が存在し,社会通念上相当であると認められる場合であることを要するとする控訴人らの主張は,前記判示に照らし,採用できないものである。


控訴人らは,就業規則31条1項4号に該当したとしても,解雇の正当化要件の基礎となる事実の無視ないし考慮が欠如している旨主張する。前記認定のとおり,本件解雇は,被控訴人会社の就業規則31条1項4号に基づくものであるが,その実質は労働基準法81条に基づく打切補償による解雇にほかならないものである。そして,後記認定のとおり,本件解雇は労働基準法81条に基づく打切補償の要件を満たしているといえるから,前記認定のとおり,特段の事情が認められない限りは,解雇は合理的理由があり社会通念上も相当と認められることになるというべきである。
そこで,控訴人らの上記主張については,被控訴人会社において,控訴
人bを打切補償により解雇することを意図し,業務上の疾病の回復のための配慮を全く欠いていたというような,打切補償制度の濫用ともいうべき特段の事情が認められるかという観点から検討を加えるものとする。(ア)

確かに,証拠(乙30,40,41,控訴人b・原審)及び弁論

の全趣旨によれば,控訴人bが本件打切補償による解雇の理由とされた業務上の疾病に罹患するに至った原因は,控訴人bが,被控訴人会社の親会社である株式会社fにおいて過重な労働を行っていたことにあると認められるが,その労働の実態は,他の社員とともに会社の当面の業務課題について,プロジェクトチームを作って集中的に仕事を行うというもので,株式会社fが意図的に控訴人bに対して過重な労働を強要したとまで認めることはできない。そして,株式会社f及び被控訴人会社は,控訴人bが自宅療養に入って以降,平成17年1月まで1年7か月余りにわたって,控訴人bの自宅での療養を静観し,休業補償として給料の6割を支給していたものであり,この時点までの経緯をみる限りでは,被控訴人会社において,控訴人bを打切補償により解雇することを意図していたようなことは窺えないし,また,業務上の疾病の回復のための配慮を欠いていたというような事情も認められないものである。
(イ)

また,控訴人らは,被控訴人aは,平成17年1月4日に,gに

代わって,株式会社f及び被控訴人会社の社長に就任したが,控訴人bに対して,上記リハビリ復帰についての合意を反故にして,即時に職場復帰を強要して精神的圧迫を加え,療養に専念できなくさせた旨主張する。
そこで検討すると,被控訴人会社が,同年2月7日,控訴人bに対し,療養期間が長くなっているとして,1週間以内に貴殿の症状及び復職可能性について言及した診断書の提出を要求する旨を記載した申入書(乙4)を交付し,さらに,同年3月2日には,診断書
の提出がなければ,理由なく就業していないと判断せざるを得ないと記載した通告書(乙7)を交付するなどしたことが認められるが,既にこの時点で控訴人bの自宅療養が1年7か月の長期に及び,しかもその間に診断書の提出がなされていなかったことからすると,上記事実をもって,即時に職場復帰を強要して精神的圧迫を加え,療養に専念できなくさせたとまでは言い難い。
なお,控訴人らは,株式会社f及び被控訴人会社の前社長であったgは,控訴人bが職場復帰するために,復帰する職場の労働環境整備を図るとともに,

最初は,まず会社の近所に来ることから始め,そのうちfのカフェレストランにでも入って,職場の仲間とお茶を飲んだり話したりする。そうしたことから始め,それを積み重ねていきましょう。

と提案し,職場環境の改善を約束した旨主張する。この点については,被控訴人会社は,事実自体を否認して争っているところであるが,仮にそのような事実が認められたとしても,そのことから直ちに被控訴人会社と控訴人bとの間で,控訴人bの会社復帰のための具体的な時期や手順が合意されていたと認めることはできないものである。そして,上記のとおり,既に自宅療養が1年7月に及び,しかもその間に控訴人bの診断書の提出が一切なされていなかったという状況に照らすと,被控訴人会社の代表者の交代に際し,被控訴人会社において,上記のような措置をとったとしても,そのことから,被控訴人会社において意図的に控訴人bを被控訴人会社から排除しようとしたとまで認めることはできないものである。
(ウ)

次に,控訴人らは,被控訴人らは不当労働行為意思をもって控訴

人bの排除を企図した旨主張し,被控訴人会社は,平成17年2月7日,1週間以内に貴殿の症状及び復職可能性について言及した診断書の提出を要求する旨を記載した申入書(乙4)を交付し,さらに,同年3月2日には,診断書の提出がなければ,理由なく就業していないと判断せざるを得ないと記載した通告書(乙7)を交付するなどしたことが認められるが,前記判示のとおり(訂正後の原判決引用),疾病が治らず,職場復帰ができないと主張して,診断書の提出もないまま就労しない状態を1年7か月以上継続している控訴人bに対し,被控訴人会社が,今後の職場復帰の可能性を検討するために診断書の提出を求めたり,職場復帰が可能になった場合の復職命令を発令する可能性に言及したりしたとしても,不当であるとは言い難いものである。
したがって,上記事実をもって,控訴人会社が,不当労働行為意思をもって控訴人bの排除を企図したもであるとは認められない。
(エ)

また,控訴人らが主張するとおり,組合が,被控訴人会社の対応

に対し,控訴人bの休業補償と職場復帰に向けた話合いを求めて団体交渉の開催を要求したこと,上記団体交渉は,形式上6回開催されたが,その後組合が申し立てた不当労働行為救済申立てに対し東京都労働委員会は,そのうち5回の団体交渉について被控訴人会社の不誠実な団交ないし正当な理由のない団交拒否で不当労働行為と認定し,その後の団交拒否を含めて被控訴人の不当労働行為があったとの判定を下し,その再審査を行った中央労働委員会も同一の判断を下していることが認められるが,東京都労働委員会及び中央労働委員会が不当労働行為として認定したのは,①被控訴人会社が,第2回団体交渉の冒頭において,同業他社に就職する可能性が高い組合員がいることを理由として団体交渉を拒否したこと,②第1回及び第4回ないし第6回の団体交渉において休業補償を6割としている根拠を十分に説明しないなどの対応に終始したこと,③第6回団体交渉後の平成17年12月26日付けで組合から休業補償を議題とする団体交渉に応じなかったことであるから,上記被控訴人会社の組合に対する対する対応が,不当労働行為に該当することは明らかであるが,控訴人のbの職場復帰に関する対応であるとは認めらないので,被控訴人会社の上記不当労働行為から,控訴人会社が,不当労働行為意思をもって控訴人bの排除を企図したもであるとは認められない。
また,控訴人らは,控訴人会社は,組合が上記不当労働行為救済申立てをした後,平成18年2月16日,就業規則31条1項4号を新設する改訂を行なった(甲11)が,これは,控訴人bに適用して,同人を解雇するために新設した規定である旨主張するが,上記就業規則は,前記判示のとおり,労働基準法上の各規定内容に沿った規定であり,その趣旨を確認的に規定したものであると解されるのであるから,この規定を新設したことが直ちに不当労働行為意思をもって控訴人bの排除を目的としたもであるとは認められない。
したがって,控訴人らの上記主張は,採用できない。
(オ)

以上のとおりであって,前記認定の事実と(ア)ないし(エ)で検討し
た結果を総合してみても,被控訴人会社について,控訴人bを打切補償により解雇することを意図し,業務上の疾病の回復のための配慮を全く欠いていたというような,打切補償制度の濫用ともいうべき特段の事情が存在するとまでは認められないというべきであり,後記認定のとおり,本件解雇は労働基準法81条に基づく打切補償の要件を満たしているといえるから,本件解雇は有効というべきである。

控訴人らは,本件解雇の要件は,リハビリ復帰としての復職が可能か否かであり,疾病がなおっているか否かではない。そして,復職が不可能な状況であることが明らかになったという事実は全くない旨主張する。
しかしながら,労働基準法81条は,打切補償の要件として療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合と明確に規定しており,控訴人らの主張するするところは,同条の文言に反するものと言わざるを得ず,採用することはできない。
なお,前記判示のとおり(訂正後の原判決引用),控訴人bが,平成15年6月に自宅療養に入ってから3年経過した本件解雇時である平成18年6月の段階では,同年3月に結婚披露宴を行い,5月にはキックボクシングの試合を観戦していたという事情があるとはいえ,それまでに提出されていた診断書や,2回にわたる組合との立会団交で組合側から示された控訴人bの疾病の状況に照らすと,控訴人bについては,その時点で療養開始後3年を経過しても疾病がなおっておらず復職が不可能な状態にあったというべきであり,被控訴人会社が控訴人bに対して行った本件解雇については,就業規則31条1項4号で確認的に記載した労働基準法81条に基づく打切補償の要件を満たしていると言わざるを得ない。

控訴人らは,本件解雇は,平成18年6月27日付けで発した即日解雇する旨の通告(甲14の1,2)によるものであり,解雇予告がなく,解雇予告手当の支払もなされていないので,被控訴人会社の就業規則31条2項に違反し(甲11),労働基準法20条に違反する解雇予告義務違反の解雇である旨主張する。
しかしながら,前記判示のとおり(原判決引用),被控訴人会社は,即時解雇に固執する趣旨でなく,平成19年11月9日,解雇予告手当30万円及びこれに対する同日までの遅延損害金2万4658円を支払っているので,本件解雇の意思表示をした日から,期間が経過しているものの,上記日から30日を経過した平成18年7月28日の経過をもって,本件解雇の効力が生じたものである。
したがって,控訴人らの上記主張は,採用できない。

(2)

ビラ配布行為に対する損害賠償請求について
本件ビラの内容と配布行為の目的について
控訴人らは,本件街宣活動の必要性について述べ,被控訴人会社の社前で配布した被控訴人aの顔写真を掲載したビラ(本件ビラ①)及び同人の自宅周辺に配布した被控訴人aの顔写真と住所を記載したビラ(本件ビラ②)内容に照らし,組合としては,控訴人aの私生活上の事実に関する情報を不特定多数人に暴露する意図は有していなかったと主張する。しかしながら,被控訴人aの住所,職業は,控訴人aの私生活上の事実に関する情報であることは明らかであり,前記認定の本件ビラの内容及び配布の態様に照らすと,組合活動としての街宣活動自体の必要性が存したとしても,被控訴人らが,控訴人aの私生活上の事実に関する情報を不特定多数人に暴露する意図は有していなかったとすることには無理があるというべきである。

本件ビラ配布によるプライバシー権,肖像権の侵害について
控訴人らは,被控訴人aが争議の当事者かつ責任者であって私人としての立場にないことや,争議の過程で氏名・住所が一定の範囲に公開されることが予測できたはずであると主張する。
しかしながら,本件争議はあくまで一私企業での紛争に過ぎず,被控訴人aは被控訴人会社の代表取締役であるとはいえ,私人であることは明らかであり,少なくとも被控訴人aの住所は,個人情報として私生活上の事実にあたるというべきである。
また,控訴人らは,本件各ビラに掲載された被控訴人aの顔写真は,本人自身がインターネット上で公開しているものであり,それ自体秘匿されるべきものではないと主張する。
しかしながら,本件ビラについては,その内容において被控訴人aの行動を一方的に批判するものであるから,控訴人らとしては,被控訴人aの意思を確認するまでもなく,本件顔写真を掲載することにつき被控訴人aの同意が得られないことを容易に予測できたというべきである。そうであるとすれば,前記判示のとおり(原判決引用),人格と直接結びついた肖像の利用は,本人の意思に委ねられるべきであり,他人がみだりにこれを公表することは肖像権の侵害にほかならないというべきである。

控訴人らの本件ビラ配布行為の違法性について
控訴人らは,本件ビラ配付行為の違法性判断の要素として,ビラの記載内容,配付方法に関して,A-①当該行為の意図,目的,②私生活上の事実や個人的情報,肖像を公表することの意義,③情報入手の手段の適法性,相当性,④内容の正確性,⑤記載内容,配付方法の相当性を考慮し,他方,プライバシー権,肖像権については,B-①公表される事実,肖像の種類内容,②当該私人の社会的地位,影響力,③受けた不利益の態様,程度を考慮すべきである旨主張し,A-①ないし⑤の事実及びB-①ないし③の事実を指摘し,被控訴人aもこれに対応する反論をしているところ,上記のような要素を踏まえて,控訴人らの本件ビラ配布行為の違法性を判断するのが相当と考えられるので,以下検討する。
Aー①の本件各ビラ配布行為の意図,目的の観点からは,組合の争議権行使の一貫として行われたことは認められ,その必要性自体は一応肯定できるものの,内容的には被控訴人aの行為の一方的な批判に終始していることが認められる。次にAー②の私生活上の事実や個人情報,肖像を公表することの意義の点では,控訴人らの主張を考慮したとしても,争議行為は,組合と会社間の問題であるところ,控訴人らが組合活動の正当性を地域社会に理解してもらえるよう働きかける必要があったとしても,そのために被控訴人aの肖像権やプライバシーを侵害してもよいということはいえず,本件各ビラに被控訴人aの顔写真や自宅住所を掲載することに正当な意義は認められない。Aー③の情報手段の適法性,相当性の点については,肖像については,控訴人らは,被控訴人aに無断でインターネット上の写真を被控訴人aの意に反して使用したと認めざるを得ず,情報入手手段として相当とはいえない。住所については,被控訴人会社の法人履歴事項証明書に記載されているとしても,被控訴人aの職業を知らないマンションの近隣住民が容易のアクセスできるものではないから,そのような情報を入手して公開することは相当性を欠くものというべきである。Aー④の内容の正確性という観点からは,被控訴人会社が組合との労働紛争に至った原因として,被控訴人aの言動を挙げて,組合側の立場から非難するもので,内容が明らかに虚偽とまでは認められないものの,事実が一方的な立場から記載されているという問題点が指摘できる。Aー⑤の記載内容,配布方法の相当性という観点からは,本件ビラの内容は,被控訴人aの顔写真を無断で掲載し,被控訴人aの言動を挙げて非難するとともに,抗議先としてその住居を記載して近隣住民に抗議を呼びかけるもので,正当な組合活動の範囲を逸脱しているというほかないし,本件ビラ①の配布は,被控訴人aの顔写真を無断で掲載している点で,本件ビラ②の配布も一回に止まったとはいえ,本件解雇や被控訴人会社の業務とは無関係な被控訴人aが居住するマンションの近隣住民の郵便受けに上記の内容のビラを投函するというもので明らかに相当性を欠くものと認めざるを得ない。また,Bー①の公表される事実,肖像の種類,内容及びBー②の当該私人の社会的地位や影響力という観点からは,被控訴人aは被控訴人会社の代表者ではあるが,プライバシーとしての住居の秘匿や肖像権の保護の観点からは私人とみるべきであり,企業経営者個人のプライバシーや肖像権を侵害する行為が組合活動であることから当然に正当化されることはないというべきである。そして,Bー③の受けた不利益の態様,程度については,被控訴人aの陳述書(甲30)及び原審における被控訴人aの供述並びに弁論の全趣旨によれば,前記認定のとおり(訂正後の原判決引用),本件ビラ②の配布により被控訴人aが住居であるマンションから好奇の目で見られる等したことは認められるが,控訴人らの本件ビラ②の配布行為が1回に止まることを考慮すると,被控訴人aの転居の事実は認められ,本件ビラ②の配布行為がその一因となった可能性自体は否定できないとしても,本件ビラ②の配布行為と被控訴人aの転居の間に直接の因果関係があるとまで認定することには躊躇を覚えるものである。
以上認定したところによれば,本件各ビラの配布行為が,組合の争議権行使の一環として行われたこと自体は認められるものの,前記判示のとおり(原判決引用),本件各ビラには,被控訴人aの顔写真のほか被控訴人aの住所,職業,会社代表者として組合との間で労使紛争を抱えていることが記載されていることが認められる。そして,本件ビラ配布行為の違法性を判断するについての前記各要素の検討の結果も考慮すると,本件各ビラの配布行為が被控訴人aの肖像権を違法に侵害していることは明らかというべきであるし,被控訴人aは,身上,経歴,住所に関する情報で,一般に広く知られていない情報についてはみだりに公表されない法的な利益を有しているといえるところ,控訴人らは本件ビラ②を被控訴人aの居住するマンションの居住者の郵便受けに投函したというのであり,そのような行為は,正当な組合活動の範囲を逸脱しているというほかなく,被控訴人aのプライバシーを違法に侵害するものであると認めざるを得ない。エ
控訴人らは,組合員個々人の活動が,組合活動としての資格を付与されれば,評価の次元は,集団法に移行し,その結果,組合のみが問責されることになると解される旨主張する。
しかしながら,本件ビラ配付行為が違法であると認められる以上,組合がその責任を負うことは別として,実際の行動をした控訴人らが,個人責任を負担するのは当然であり,控訴人らの上記主張は,独自の見解であり,採用できない。


損害額の認定について
以上認定したとおりであって,本件各ビラの記載内容に照らし,本件各ビラの配布行為により,被控訴人aは,違法に肖像権を侵害され,プライバシーを侵害されたというべきであり,その結果,実際に被控訴人aは周囲から好奇の目で見られる等の被害を被ったことが認められる。一方で,本件各ビラの配布行為は,その範囲を逸脱しているとはいえ,組合活動の一環として行われたものであることが認められるところ,本件ビラ②の配付は1回に止まるものであること,前記認定のとおり,被控訴人aが代表取締役を務める被控訴人会社と組合の間の当時の団体交渉については,平成17年4月から同年12月にかけて行われた6回の団体交渉のうち5回について,東京都労働委員会及び中央労働委員会が不当労働行為であると認定していることも認められる。これらの事実を総合考慮すると,被控訴人aの精神的苦痛を慰謝するには30万円が相当と認める。
3
結論
よって,被控訴人aの控訴人らに対する請求は,控訴人らに対し,連帯して,30万円及びこれに対する控訴人b及び控訴人cはいずれも平成20年4月27日から,控訴人dは同月21日から,控訴人eは同月28日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払を命じる限度で理由があり,その余の請求は理由がないから,控訴人らの被控訴人aに対する控訴に基づき,原判決主文1項を主文掲記のとおり変更し,控訴人bの被控訴人会社に対する控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第14民事部

裁判長裁判官

西岡清一郎
裁判官


裁判官

脇澤雄次博人
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