判例検索β > 平成19年(行ウ)第466号
公害防止事業費負担決定取消請求事件
事件番号平成19(行ウ)466
事件名公害防止事業費負担決定取消請求事件
裁判年月日平成23年7月7日
法廷名東京地方裁判所
判示事項ダイオキシン類により汚染された化学工場跡地に係る公害防止事業について,前記工場を経営していた会社から営業譲渡を受けた会社に対してされた,公害防止事業費事業者負担法9条に基づく公害防止事業費の事業者負担の決定が,違法とされた事例
裁判要旨ダイオキシン類により汚染された化学工場跡地に係る公害防止事業について,前記工場を経営していた会社から営業譲渡を受けた会社に対してされた,公害防止事業費事業者負担法9条に基づく公害防止事業費の事業者負担の決定につき,同法3条の事業者とは,公害の原因となる事業活動を過去,現在,未来のいずれかの時点で行い,又は行うことが確実な者自身をいうのが原則であり,これらの者と法人格を異にする者は,この者が公害の原因となる事業活動を行ったのと同視し得ることその他特段の事情のない限り,同条の事業者には該当しないとした上で,前記公害防止事業の対象となった土壌汚染が,前記営業譲渡後の時期における前記工場の操業に伴って排出されたダイオキシン類によるものとは認められず,むしろ,前記営業譲渡以前から生じていた可能性が高いこと,前記営業譲渡前に前記工場を経営していた会社と営業譲渡を受けた会社との間に法人格の同一性はないこと,同会社について,前記工場が操業していた全期間又はほとんどの期間について,ダイオキシン類を自ら排出したものと同視できるといった,同条の責任を負うべき特段の事情があるとはいえないことからすれば,同会社は,同条の事業者には該当しないとして,前記決定を違法とした事例
裁判日:西暦2011-07-07
情報公開日2017-10-19 13:37:02
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主1文
δ長が原告に対してした別紙通知目録記載1の通知に係る公害防止事業について原告を費用負担する事業者として定め,事業者負担金の額を1億5825万円と定める旨の決定,同目録記載2の通知に係る原告の平成18年度分の事業者負担金を2350万2081円と定める旨の決定及び同目録記載3の通知に係る原告の平成19年度分の事業者負担金を1億1061万7762円と定める旨の決定をいずれも取り消す。

2
訴訟費用は被告の負担とする。
事実

第1

及び

理由
請求
主文同旨

第2

事案の概要

1
事案の要旨
本件は,ダイオキシン類対策特別措置法(以下「ダイオキシン法」という。)29条1項に基づくダイオキシン類土壌汚染対策地域に指定されたδ内の地域につき東京都知事が策定したダイオキシン類土壌汚染対策計画に関する公害防止事業(以下本件公害防止事業という。)の施行者であるδ長が,公害防止事業費事業者負担法(以下負担法という。)9条1項に基づき原告に対してした,本件公害防止事業について原告を費用負担する事業者として定め,事業者に負担させる負担金(以下事業者負担金という。)の額を1億5825万円と定める旨の別紙通知目録記載1の通知に係る決定(以下本件決定1という。),原告の平成18年度分の事業者負担金を2350万2081円と定める旨の同目録記載2の通知に係る決定(以下本件決定2という。)及び原告の平成19年度分の事業者負担金を1億1061万7762円と定める旨の同目録記載3の通知に係る決定(以下本件決定3といい,本
件決定1及び本件決定2と併せて本件決定と総称する。)について,原告は負担法3条の公害防止事業に要する費用を負担させることができる事業者に該当しないなどとして,その取消しを求める事案である。
2
関係法令の定め
別紙関係法令の定めのとおり(以下,同別紙で定義した略語を本文中においても使用する。)

3
前提事実(争いのない事実,顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)

原告
原告は,肥料,工業薬品の製造,加工,売買及び輸出入等を目的とする株
式会社である。(本件記録第3分類中の現在事項全部証明書)
(2)

事業者負担金の額の決定に至る経緯
被告が,平成16年12月,α所在のP1小学校(以下P1小学校という。)の跡地利用計画を立てるために土壌調査を実施したところ,平成17年2月にダイオキシン類による汚染が確認され,その後行われた調査により,同年4月にP2保育園(以下P2保育園という。)及びβ公園(以下β公園という。)においても土壌汚染が確認された。(乙1の1・2,同2の1・2)


東京都知事は,ダイオキシン法29条1項に基づき,平成18年3月6日,α×番15号の一部(β公園の一部),α××番1号の一部(P1小学校の一部),α××番12号の一部(P2保育園の園庭等)の合計1万3410㎡(以下本件対策地域という。)をダイオキシン類土壌汚染対策地域に指定し,同月7日,その旨を公告した。


上記イの指定を踏まえ,東京都知事は,平成18年12月6日,α地域ダイオキシン類土壌汚染対策計画(以下本件対策計画という。)を定め,同月19日,以下のとおり,その概要を公告した。

(ア)

事業の実施地域
本件対策地域の全域を含む以下の地域


α×番15号の一部(β公園の一部)


α××番1号(P1小学校)


α××番12号の一部(P2保育園の園庭等)

(イ)

事業の内容
汚染土壌による暴露経路を遮断するため,事業実施地域に覆土等を行
う。
(ウ)

事業実施後の措置の内容
対策事業として実施した覆土等の効果を維持するよう適切に管理する。
(エ)

事業費の額
2億1100万円

(オ)

事業の実施者
δ
(カ)

その他
将来,大規模な土地改変や技術の進歩等に伴い汚染除去を行う場合に
は,改めて汚染除去の対策計画を策定する。

処分行政庁は,平成18年12月11日,環境基本法44条及び東京都δ環境基本条例25条に基づいて設置されたδ環境審議会に対し,負担法6条1項に基づき,本件対策計画に係る費用負担計画の策定について諮問し,δ環境審議会は,5名の学識経験者によって構成されるダイオキシン部会を設置して審議することとした。(乙6ないし8)


ダイオキシン部会は,平成18年12月13日,同月14日,同月28日及び平成19年1月17日に開催され,原因者の特定と費用負担計画案について審議が行われた。同日開催されたダイオキシン部会では,原告からの意見聴取が行われた後,原告を費用負担させる事業者と定め,公害防
止事業費の額2億1100万円のうち,事業者の負担額を1億5825万円とする費用負担計画部会案を決定した。(乙9,10,11の1ないし11,同12の1ないし17,同13の1ないし6,同14)

δ環境審議会は,平成19年1月18日,ダイオキシン部会から上記オの費用負担計画部会案の報告を受け,後に提出予定の原告からの意見書をダイオキシン部会の委員が検討した上で修正の必要がないとされた場合には最終答申とするものとして,費用負担計画の答申案を決定した。(乙15)


平成19年1月25日,原告は,同月18日にδ環境審議会から原告に対して送付されたダイオキシン部会の見解をまとめた書面を受けて,ダイオキシン部会に対する意見書を提出した。同月30日,ダイオキシン部会長は,同部会の委員の見解を踏まえ,上記オの費用負担計画部会案の修正の必要がないことをδ環境審議会会長に報告した。(乙16の1・2,弁論の全趣旨)


δ環境審議会は,平成19年1月31日,処分行政庁に対し,費用負担計画案を答申した。(乙17)


処分行政庁は,負担法に基づき,平成19年1月31日,以下のとおり,「α地域ダイオキシン類土壌汚染対策事業に係る費用負担計画」(以下本件費用負担計画という。)を策定し,同年2月1日公表した。(甲5,乙18)
(ア)

公害防止事業の種類
負担法2条2項3号に規定するダイオキシン類により土壌が汚染され
ている土地について実施される事業
(イ)

費用を負担させる事業者を定める基準
ダイオキシン法29条1項の規定に基づきダイオキシン類土壌汚染対
策地域に指定されたαの区域を含む土地において,工場を撤去するまで,
工場の操業に伴いダイオキシン類を排出し,土壌の汚染を引き起こした事業者
(ウ)

公害防止事業費の額
2億1100万円

(エ)

負担総額及びその算定基礎
負担総額
1億5825万円


算定基礎
負担総額=公害防止事業費の額-負担法4条2項に規定する妥当と認められる額(公害防止事業費の額×1/4)=2億1100万円×(1-1/4)=1億5825万円
ダイオキシン類による土壌の汚染が行われた期間が,法規制以前の行為であるため,負担法4条2項の規定に基づく減額を行う。減ずる額は,公害防止事業費の4分の1とする。

(オ)

公害防止事業の実施に必要な事項
物価の変動その他やむを得ない事由により,公害防止事業費の額に変
更を生じたときは,変更後の公害防止事業費の額を基礎として算定した額を負担総額とする。
(カ)

その他
今回の本件対策計画は覆土によるものであるが,将来,大規模な土地
改変や技術の進歩等に伴い汚染除去を行う場合には,改めて対策計画が策定され,それに伴い,改めて費用負担計画が策定されるものである。コ(ア)

処分行政庁は,平成19年2月1日,負担法9条1項により,本件
公害防止事業について原告を負担法3条の費用負担する事業者として定め,納付すべき事業者負担金の額を1億5825万円,納付すべき期限を各年度ごとに別途通知するものとする本件決定1をし,別紙通知目録
記載1の通知によって原告に通知した(以下,別紙通知目録記載1の通知に係る通知書を本件決定1の通知書という。)。
(イ)

本件決定1の通知書には,原告を費用負担する事業者として定めた
理由として,以下の記載がある。

本件対策地域は,P3株式会社(以下P3という。)が工場を
設置し操業を開始するまでは田畑等であり,同社を承継した原告(前身たる企業を含む。以下,(イ)において同じ。)が工場を撤去した昭和45年以降は団地として利用されており,この間,本件対策地域においては原告だけが操業していた。


本件対策地域のダイオキシン類による汚染土壌は,自然地層ではなく,埋土層から確認されており,汚染の深さは2mから4m程度まで広範囲にわたっていることから,汚染土壌は工場を撤去し更地化する時点において,既に地中に存在していたものと考えられる。工場の撤去後に搬入された土壌は,本件対策地域の汚染土壌量からすると極めて少量である。


原告は,工場撤去直前まで,ダイオキシン類を生成する製造工程を稼働させていた。


本件対策地域において確認されたダイオキシン類は,ほぼ全てが特徴的な同族体組成比や異性体プロフィールを示しており,このことから本件対策地域のダイオキシン類汚染が同一の原因によるものと考えられる。

(ウ)

また,本件決定1の通知書には,その他必要な事項として,本通知
は,平成18年12月19日公告の本件対策計画に基づく覆土等の対策に関わるものであり,将来,大規模な土地改変,技術の進歩等に伴い汚染除去を行う場合には,改めて対策計画が策定され,それに伴い,改めて費用負担計画が策定されることになる旨の記載がある(以下,この記
載部分を本件決定1付記部分という。)。

処分行政庁は,別紙通知目録記載2の通知により,原告に対し,本件決定1に基づく平成18年度分の納付すべき事業者負担金の額が2350万2081円であること及び納付すべき期限が平成19年4月19日である旨の本件決定2を通知した。


原告は,平成19年4月10日,上記サの事業者負担金として2350万2081円を納付した。(乙19の1・2)


処分行政庁は,別紙通知目録記載3の通知により,原告に対し,本件決定1に基づく平成19年度分の納付すべき事業者負担金の額が1億1061万7762円であること及び納付すべき期限が平成20年4月18日である旨の本件決定3を通知した。

(3)

本件対策地域においては,明治28年頃,P3の化学工場が建設された。
その後,本件対策地域における化学工場(以下P4工場という。)は,合併や営業譲渡等による経営主体の変動を経て,昭和20年4月1日には,合併又は営業譲渡(合併であるか営業譲渡であるかについては,当事者間に争いがある。また,以下,このことを本件経営主体変更という。)により,原告が経営する工場となり,昭和45年頃まで操業していた。(乙12の2・3・11,同28)
(4)ア

ダイオキシン類とはポリ塩化ジベンゾフラン(以下PCDF又はPCDFsと略称する。),ポリ塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン(以下PCDD,PCDDs又はダイオキシンと略称する。)及びコプラナーポリ塩化ビフェニル(以下Co-PCB,Co-PCBs又はコプラナーPCBと略称する。)をいう(ダイオキシン法2条1項)。

ダイオキシンは,2つのベンゼン環が2つの酸素と対面しているという基本骨格を持つ塩素系化学物質であり,ダイオキシンの基本骨格であるジベンゾ-パラ-ジオキシンの8つの角に付いている水素原子のうちのいく
つが塩素原子に置き換わったかによって一塩化体から八塩化体までの8つの同族体に分類され,水素原子が塩素原子に置き換わる位置の違いから75の異性体がある。このうち,2位,3位,7位及び8位の4か所が置き換わった四塩化体である2378-T4CDDが最も強い毒性を持つとされている。ウ
ポリ塩化ジベンゾフランは,2つのベンゼン環がフラン環の両側に付いた基本骨格を持ち,ダイオキシンと同様に,基本骨格の8つの角に付いている水素原子のうちいくつが塩素原子に置き換わったかによって一塩化体から八塩化体までの8つの同族体に分類され,水素原子が塩素原子に置き換わる位置の違いから135の異性体があるとされている。


コプラナーPCBもダイオキシンやポリ塩化ジベンゾフランに類似した構造を有し,四つの同族体に分類され12の異性体があるとされている。

ダイオキシン類の毒性は2378-T4CDDの毒性を1とした場合の各異性体の相対的な毒性を示す指数であるTEF(2,3,7,8-四塩化ダイオキシン毒性等価係数)を各異性体の実測濃度に乗じることによって,2,378-T4CDDの量に換算した値であるTEQ(2,3,7,8-四塩化ダイオキシン毒性等価量)によって評価する。(以上,乙30)


毒性があると判断されTEFの値が定められているダイオキシン類は,ダイオキシンで7種,ポリ塩化ジベンゾフランで10種,コプラナーPCBで12種ある。ダイオキシン及びポリ塩化ジベンゾフランについては,2位,3位,7位及び8位の水素がいずれも塩素で置換されたものに毒性があるとされている。また,コプラナーPCBの毒性は比較的低いとされ,そのTEFの値は最も大きいもので0.1である。(乙67)


環境省が定めたダイオキシン類による土壌の汚染に係る環境基準(環境上の条件につき人の健康を保護する上で維持されることが望ましい基準)は,1000pg(ピコグラム)-TEQ/g以下である。(乙68)
4
争点

(1)

本件公害防止事業について,原告が負担法3条の事業者に該当する
かア
原告は,本件経営主体変更以前にP4工場から排出されたダイオキシン類に関して,負担法3条の事業者としての責任を負うかどうか。


本件対策地域のダイオキシン類による土壌汚染が,原告及び原告以前にP4工場を経営していた企業の事業活動(原告が負担法3条の事業者としての責任を負う範囲に限る。)により排出されたダイオキシン類によるものといえるかどうか。


原告のように,負担法施行前の事業活動により,事業所内にのみ公害を発生させた者が負担法3条の事業者に該当するか。また,原告が同条の事業者に該当すると解することが憲法29条,84条や行政法令の不遡及原則に反しないかどうか。

(2)

本件決定に係るその他の瑕疵の有無


本件決定1付記部分(今後改めて費用負担計画が策定される場合がある旨の内容)が行政行為の附款として無効でないかどうか。

イ5
本件決定における理由付記不備の瑕疵の有無

争点に関する当事者の主張の要旨
別紙争点に関する当事者の主張の要旨のとおり(以下,同別紙で定義した略語を本文中においても使用する。)

第3
1
当裁判所の判断
前記前提事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。
(1)ア

本件対策地域及び現在のα団地の区域は,明治13年頃には田又は畑
であったが,明治29年頃,P3により,一部(おおむね現在のα団地の北側3分の2の部分に当たる。)にP4工場が建設された。(乙12の2・5・6,同28,1028)


P3は,大正6年,P4工場において,タウンセンド式(フーカーF型)の電解法による塩素(さらし粉)及び苛性ソーダの生産設備(電解槽40基を含む。)を建設して操業を開始し,大正8年には,電解槽40基を追加するなど生産設備を増強した。(乙28)


明治20年に設立されたP5会社は,その後に他社を吸収合併したり商号を変更したりして,P6となり,大正12年5月頃,P3他1社を吸収合併し,P4工場の経営を引き継いだ。同年9月1日の関東大震災の際,P4工場においては,電解槽が全部将棋倒しとなるなどの被害を受けた。(乙28,1028)


P4工場の敷地は,大正15年ころまでには,拡大されて本件対策地域及び現在のα団地の区域のほぼ全体に及び,現在のβ公園(南側)の部分以外の本件対策地域の全体に工場の建物が建てられていた。また,P6は,大正15年秋に,P4工場の電解槽を増設して132台とした。(乙11の4,同28)


昭和6年ころには,本件対策地域のほぼ全体に工場建物が建ち並んでおり,現在のβ公園(南側)からβ公園(北側)の一部にかけて電槽室が存在した。また,P6は,P4工場において,昭和8年にビリター・ジーメンス電解槽84台を新設し,昭和12年にフーカーF型の電解槽をフーカーS型に変えた。(乙11の4,同12の7・8,同28)


P6は,昭和12年にP7株式会社が改称したP8に包括的に営業を譲渡し,持株会社であるP9株式会社(以下P9という。)と合併することによりP10の傘下となった。P8は,同年,P11株式会社(旧P11)と改称した(乙第1028号証,第1029号証及び第1032号証。なお,被告は,P8とP6が合併した旨主張するが,①
被告がその

根拠として挙げる各社の社史等のうち,乙第1028号証,第1029号証及び第1032号証には,P9がP6を吸収合併した旨の記載があるの
みでP8とP6が合併した旨の記載は見当たらないこと,②
乙第103

1号証にはP7株式会社とP6とが合併した旨の記載があるものの,乙第1028号証や乙第1032号証がP9とP6との合併の条件等について詳しく記載しているのに比して簡単な記載であって,誤記の疑いがあること,③

乙第12号証の2や乙第1028号証(589,590頁)には

P6の営業がP8に譲渡された旨の記載があるところ,真に両社が合併したのであれば,営業譲渡がされた旨の記載がされるのは不自然であること(これに対し,P6とP8の関係が営業譲渡であったと解した場合,乙第1031号証の上記記載は,P9がP6を合併し,P6の営業がP8に譲渡された関係を誤記したものと解することが可能である。)からして,被告の上記主張は失当である。)。

旧P11は,昭和18年3月頃,P10の中核企業であったP12に吸収合併された。(乙12の2,同1028,1031)


他方,大正10年4月に設立されたP13株式会社は,P4工場に隣接する場所に工場を有し,P4工場から産出される水素を利用して事業を行っていた。P13株式会社は,大正12年4月,P14株式会社を合併してP15株式会社と改称したものの,昭和2年3月,親会社の倒産により,P6の傘下に入り,昭和6年12月,P16株式会社と改称した。また,P10傘下にあったP17株式会社は,昭和12年3月,他の会社と統合して,P18株式会社(以下旧々P18という。)となった。上記カのとおりP6がP10傘下に入ったのを機に,昭和12年6月,P16株式会社は旧々P18と合併し,さらに,同月,P18株式会社(旧P18)と改称した。
(以上,甲48ないし52,乙12の2,同1
028,1029,1032,1038)


昭和20年4月,旧P18は,P12からその化学工業に関する営業を
譲り受け,また,P11(原告)と改称した(本件経営主体変更。甲第53号証。なお,この点に関し,被告は,P12の化学部門と旧P18が合併した旨主張し,甲第1028号証等には,それに沿う記載がある。しかし,P12の化学部門と旧P18が合併した旨記載されているものは,いずれも各社の社史等であり,甲第53号証の株主総会議事録と比した場合,その用語の法律的な正確さについては劣るといわざるを得ない上(しかも,原告の社史である乙第1028号証の592頁には,旧P18がP12の化学部門の営業の一切を譲り受け,同時にP11と改称した旨の記載がされている。),株式会社の一部分と他の株式会社が合併するということは当時の商法上あり得ず,P12がその後も存続していることも併せ考慮すれば,少なくとも法律上の形式としては,P12から旧P18に対し営業譲渡が行われたものと認められ,被告の上記主張は失当である。また,被告は,本件経営主体変更前にP4工場を経営していた企業と原告が同一の企業である旨の主張もするが,本件経営主体変更が営業譲渡によって行われており,本件経営主体変更前にP4工場を経営していた企業と原告との間で法人格の同一性がない以上,法的な意味でこれらの企業が同一であるとはいえない。)。

原告は,昭和24年,企業再建整備法に基づき,油脂等の部門を分離し,分離された会社は,P18株式会社となった。(乙1029)


昭和41年ころにおいても,本件対策地域には工場の建物が建ち並び,上記オと同じ場所に電槽室も存在する。(乙11の4,同12の9・11)


本件対策地域の土地は,昭和44年9月13日に原告から住宅公団に売却された。本件対策地域は,昭和46年ころには更地となり,その後,住宅公団によって建設されたα団地内の公共施設(学校,保育園,公園等)が存在している。(乙11の4,同12の4)

(2)

被告が実施した本件対策地域の土壌中のダイオキシン濃度の調査地点及
び調査結果は次のとおりである。

P2保育園
P2保育園について,被告は株式会社P19に委託し
て調査を実施した。その結果は,別表1のとおりである。(乙73,74)


β公園(北側)
β公園について,被告は株式会社P20に委託して調査を実施した。その結果は,別表2のとおりである。(乙11の7,同73,75)

β公園(南側)
β公園について,被告は株式会社P20に委託して2回に分けて調査を実施した。それらの結果は別表3のとおりである。(乙11の7,同73,75,76)


P1小学校
P1小学校について,被告は株式会社P21に委託して調査を実施した。その結果は別表4のとおりである。(乙11の7,同73,77)
2
争点(1)ア(原告は,本件経営主体変更以前にP4工場から排出されたダイオキシン類に関して,負担法3条の事業者としての責任を負うかどうか。)について
(1)

負担法3条は,公害防止事業に要する費用を負担させることができる事
業者について,当該公害防止事業に係る地域において当該公害防止事業に係る公害の原因となる事業活動を行い,又は行うことが確実と認められる事業者とする旨定めている。この負担法に基づく事業者の費用負担は,環境基本法8条1項に規定する事業者の責務を根拠として同法37条の規定により事業者に課せられる公法上の特別負担であり,その性質は,広い意味での原因者負担であると解されることからすれば,負担法3条の事業者とは,公害の
原因となる事業活動を過去,現在,未来のいずれかの時点で行い,又は行うことが確実な者自身をいうのが原則であり,これらの者と法人格を異にする者は,この者が公害の原因となる事業活動を行ったのと同視し得ることその他特段の事情のない限り,負担法3条の事業者には該当しないというべきである。
前記前提事実(2)ウ及びケによれば,本件公害防止事業は,ダイオキシン類により汚染された本件対策地域の土壌について,ダイオキシン類への暴露を防ぐため覆土等を行うものであり,また,前記1(1)シのとおり,本件対策地域には住宅団地内の公共施設が存在しており,そこでは現在ダイオキシン類が発生するような事業活動が行われておらず,今後そのような事業が行われることが予定されていないことも明らかであることからすれば,本件公害防止事業に係る負担法3条の事業者となり得るのは,本件対策地域の汚染の原因となっているダイオキシン類を排出する事業活動を過去に行った事業者に限られる。
ところで,被告は,P4工場から排出されたダイオキシン類が本件対策地域の公害の原因であることの理由として,要するに,①
本件対策地域では,

明治以降P4工場のみが操業を行っており,P4工場ができる前もP4工場が撤去された後もダイオキシン類が排出されるような活動は行われていないこと,②

本件対策地域で検出されたダイオキシン類の同族体及び異性体の

比率並びに本件対策地域でダイオキシン類と共に発見された物質の状況が,P4工場で行われていた食塩電解工程から発生するダイオキシン類の同族体及び異性体の比率並びに食塩電解工程から発生する他の物質やP4工場から排出されたと考えられる物質の状況と合致することを主張するのみであり,本件対策地域の公害の原因となるダイオキシン類が,専ら本件経営主体変更以降現在までに排出されたものであることについて主張立証していない。また,本件対策地域の汚染の原因であるダイオキシンが食塩電解工程に由来す
るものであることについては相当の蓋然性をもって認められるとしても,そのダイオキシンがどのような経緯で本件対策地域を汚染するに至ったか(通常の操業時に排出されたものの蓄積によるのか,何らかの事故等の際に集中的に排出されたものか,また,スラッジや懸濁液が工場から排出されて直接土壌を汚染したのか,スラッジ等が付着したコンクリートガラ等が埋立てに用いられて土壌を汚染したのか等)についてそれを相当の蓋然性をもって認めるに足りる証拠はなく,したがって,本件全証拠によっても,本件公害防止事業の対象となった土壌汚染につき,本件経営主体変更後の時期におけるP4工場の操業に伴って排出されたダイオキシン類によって本件対策地域が汚染されたものであると認めるには足りない。むしろ,被告も,本件対策地域では,大正時代から食塩電解工程が稼働しており,それにより発生した大量の汚泥(スラッジ)が電解槽のメンテナンス等の際に排出されたものと考えられるし,原告の主張するように,電解プラントから排出された懸濁液等が公共河川に排出されていたとしても,高度なプラント設備がいまだ使用されていなかったことなど当時の技術的水準や公害に対する認識の低さを考えれば,大正年間から排出され続けた懸濁液から分離した汚泥が排水路や周辺土壌に付着,蓄積したことが容易に推定でき,さらに,関東大震災の際,P4工場の全ての電解槽が将棋倒しになったことにより電解液が流出したこと等も汚染につながった旨主張しているところであって,そうであるとすれば,本件経営主体変更前に本件対策地域の汚染が生じていた可能性が高い。そうすると,P4工場が操業していた期間の全期間について同じ事業者がP4工場を経営していたのであればこの事業者を本件公害防止事業について負担法3条の事業者とすることができるものの,そうでない限り,その操業期間の一部の期間,特に本件経営主体変更後の期間においてP4工場を経営していた事業者を本件公害防止事業について負担法3条の事業者とすることは,原則として,できないことになる。そして,前記1(1)ケのとおり,本件経営
主体変更は,P12から原告に対する営業譲渡によって行われており,本件経営主体変更以前にP4工場を経営していた企業と原告との間に法人格の同一性はないのである。これらによれば,原告に,本件経営主体変更以前の期間も含めP4工場が操業していた全期間又はほとんどの期間について,ダイオキシン類を自ら排出したものと同視できるといった負担法3条の事業者としての責任を負うべき特段の事情が認められない限り,原告を本件公害防止事業に係る負担法3条の事業者とすることはできず,上記特段の事情が認められない限り,原告を本件公害防止事業の費用の負担者と定め,また,それに基づいて費用の負担額を定めた本件決定は,違法であるといわざるを得ない。
(2)

被告は,①

本件経営主体変更は実質的には合併と解すべきである,②
本件経営主体変更の際,原告は,実質的に本件経営主体変更以前にP4工場を経営していた企業の法人格を承継したというべきである,③
本件経営

主体変更の前後で事業者としての社会的実体が実質的に同一であるから原告は本件経営主体変更前に排出されたダイオキシン類に関しても負担法3条の事業者となるなどと主張するが,これらの主張が,公害の原因者と別の法人格を有する者が負担法3条の事業者としての責任を直接負うとの解釈を前提とするものであれば,上記(1)に照らし,いずれも失当である。もっとも,上記①ないし③の主張は,上記(1)の特段の事情があることを主張するものと解することもできるところ,本件公害防止事業に関し,原告に負担法3条の事業者としての責任を負うべき特段の事情が認められるかどうかについては,後記(4)において検討する。
(3)ア

また,被告は,P12から原告に対する化学部門の営業譲渡の際,明
示又は黙示に,P12の化学部門が負う一切の債務を引き受ける旨の約定があった旨主張するが,この点を認めるに足りる証拠はない。被告は,社史等の記載上,本件経営主体変更が合併であったか営業譲渡であったかの
区別があいまいになっているのは,化学部門に属する一切の資産及び負債を含めて営業権を包括的に移転させることが本件経営主体変更の目的であったからであるとして,このことを上記約定があったことの根拠とするが,上記社史等の記載があいまいなのは,会社関係者その他一般向けの文書であるという性質からして,必ずしも法律的に正確な用語が使用されなかったためであると解するのが相当であり,また,営業が包括的に譲渡される場合でも,その部門に関係する負債が営業と共に譲渡されるかどうかは,譲渡契約の内容によるといわざるを得ないのであるから,被告主張の上記事情が,原告による債務引受の事実があったことの根拠になるとはいえない(なお,被告は,乙第12号証の2に,昭和12年のP6から旧P8への営業譲渡の際及び本件経営主体変更の際に,いずれも営業包括譲渡がされた旨の記載があるところ,前者の際には,債務の引受けもされたこと(乙第1028号証の590頁)からすれば,後者の際も債務の引受けがあったはずであると主張するが,上記のとおり,営業の包括譲渡といっても必ずしも債務の引受けを伴うとはいえないことに加え,乙第1028号証の592頁においては,債務の引受けがあった旨の記載がないことに照らし,上記主張は失当である。また,被告は,本件経営主体変更の際に株主総会の決議がされていることは,本件経営主体変更が実質的には合併であったからであると主張するが,甲第53号証によれば,本件経営主体変更を決定した原告の株主総会(昭和20年3月29日)において,特別決議が必要とされたのは,定款変更の決議のためであったことが認められるから,上記主張も失当である。)。

さらに,被告は,原告が商法17条1項の責任を負うと主張するが,営業譲受人が同項の責任を負うのは,同項の文言からも明らかなように,商号を続けて使用する場合(平成18年法律第87号による改正前の同法26条1項の商号を続用する場合というのも同趣旨と解される。)であり,
前記1(1)ケによれば,原告は,本件経営主体変更前のP12という商号を続けて使用したわけではないから,被告の上記主張は失当である。被告は,本件のようにP11という商号が長年にわたって使用され,同種の営業を行ってきた等の事情がある場合には,原告において同項の責任を負うべきであるなどと主張するが,同項により営業譲受人が責任を負う趣旨は,営業譲受人が商号を続用することによって,営業上の債権者をして自らが債務者であるような信頼を生じさせる外観的事実を作出したことにあるところ,本件においては,P4工場を経営する企業は,前記1(1)キ及びケのとおり,P12という商号を約2年にわたり用いていたのであるから,営業譲受人が,その後になって,以前使用されていたP11という商号を再び使用したからといって,債権者の信頼を生じさせるような外形的事実を作出したということはできないのであり,被告の上記主張は失当である。(4)

被告は,原告が本件経営主体変更前に排出されたダイオキシン類につい
て負担法3条の負担者としての責任を負うべき事情として,P4工場における事業が実質的には同一の主体によって行われてきたことを主張する。確かに,前記1(1)及び証拠(乙12の2,同1028,1030,1034の1・2)によれば,(ア)

P4工場においては,明治時代から昭和45年頃

まで,その工場の区域を拡大させつつ,食塩電解工程を含む事業が行われ,同種の商品が生産されてきていること,(イ)

原告の社史においてもP4工

場の創立以来の経緯が記載されていること及び(ウ)

P6の社章と原告の社

章が同一のデザインのものであることが認められ,これらによれば,P4工場における事業は,明治以来,その経営主体となる企業は変動しつつも,連続性を有する一つの事業部門として事業活動を行ってきたということができる。しかし,企業においてある事業部門がある程度の独立性をもって存在しているとしても,その経営方針を最終的に決定するのは一般的には企業自体であるし,また,その収支が帰属するのも企業自体であることからすれば,
その事業により生じた公害の責任を負うべき原因者は,その公害を発生させた企業であるのが原則であることに変わりはなく,法人格を異にする者の排出したダイオキシン類について原告が負担法の責任を負うべき特段の事情があるというためには,①

法人格が全くの形骸にすぎない場合や②

法律の

適用を回避するために新たな会社を設立したなど法人格を濫用したというべき場合等でなければならないというべきである。
そして,前記1(1)キ及びクによれば,P12と原告は,本件経営主体変更時においては,共にP10の傘下にあったことが認められるものの,法人格が全くの形骸にすぎなかったという事情は見当たらない。また,乙第1028号証,第1031号証によれば,旧P11がP12に吸収合併され,その後旧P18に営業譲渡を行うに至った経緯は,太平洋戦争による戦時統制経済下において,炭鉱業と化学業を兼営していた旧P11は,石炭の増産の要求に応えるため大資本を有するP12と合併することが相当であるとされ,この際に,旧P11が炭鉱業と化学業を兼営する効果が失われてきていたことから化学部門を独立させて別会社を設立することも検討されたものの,化学部門を独立させる基盤が十分でなかったことから,将来は独立させることも考慮に入れつつ,化学部門も併せてP12に合併されたところ,P10内での事業再編といった観点から,合併の約2年後に至り,P12の化学部門が同じく化学業を営んでいた旧P18に営業譲渡されたというものであることからすると,本件経営主体変更の際に,法人格が濫用されたという事情は見当たらない(P12に合併された際に,将来の分離が検討されていたという事情は認められるが,この事情をもって法人格の濫用がされたとは到底いえない。)。
したがって,P4工場における事業がある程度の独立性を持って引き続き行われてきたという事情があったとしても,原告が本件経営主体変更前のP4工場の事業に関し,負担法3条の責任を負うべき特段の事情があるという
ことはできない。
その他,原告と原告より前にP4工場を経営していた企業の法人格が異なることを前提としつつ,上記特段の事情を認めるに足りる証拠は見当たらない。
(5)ア

被告は,原告のみがP4工場で操業してきたという事実を原告が争わ
なかったことから,この事実を自白したとみなされる(民訴法159条1項)と主張する。しかし,原告は,本件の弁論終結までに上記事実と反する主張をしているのであるから,同項の効果は生じない。

被告は,本件訴訟の経緯に鑑み,本件経営主体変更以前のP4工場の経営主体が原告とは異なる法人である旨の主張をすることが,訴訟上の信義則(民訴法2条)に反し許されないと主張する。そして,本件訴訟において,被告は,本件決定の適法性の主張の前提として,原告及びその前身たる企業だけが明治時代以降P4工場を経営してきた旨主張したこと,原告も,平成22年6月2日に一旦弁論終結をした時点までは,その点について特に争っていなかったことは当裁判所に顕著な事実である。
しかし,原告は,平成22年6月2日の弁論終結の前の時点で本件経営主体変更時に法人格が承継されたという事実を明示的に認めていたわけではなく,この点は単に争点とされていなかったにすぎない。また,行政処分の取消訴訟においては,処分の適法性について被告が主張立証責任を負うべきであると解されるところ,本件決定の前提である原告及びその前身として同一性を有する企業だけが明治時代以降P4工場を経営してきたという点は,上記(1)ないし(4)で説示したとおり誤りであり,しかも,この点については,乙第9号証によれば,平成18年12月13日に開催されたダイオキシン部会において委員からP3と原告との関連についての質問がされたのに対し,事務局において,社史によると合併を繰り返したがつながっていることが確認できる旨の誤った回答を十分な調査に基づかずに
している(同月28日に開催されたダイオキシン部会には,本件経営主体変更が営業譲渡である旨記載されている乙第12号証の2が提出されており,本件決定前に,本件経営主体変更の性質について更に調査することは十分可能であったはずである。)といわざるを得ないのであって,この点が争点とされなかったことが専ら原告の責めに帰すべき事由によるものとはいえない。これらによれば,平成22年6月2日に一旦弁論が終結されたとはいえ,弁論再開の後に,原告において原告が本件経営主体変更前にP4工場を経営していた企業と法人格を異にする旨主張することが,信義則に反して許されないとまではいえない。
(6)

以上のとおり,原告は,本件経営主体変更前のダイオキシン類の排出に
ついて負担法3条に基づく責任を負うとはいえず,そうすると,本件対策地域において検出され,公害の原因となっているダイオキシン類が原告の事業活動によって排出されたものと認めることはできないから,本件決定は違法であり,取り消されるべきものである。
第4

結論
よって,本件決定を取り消すこととし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民訴法61条を適用して主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第2部

裁判長裁判官

川神
裁判官

内野俊
裁判官

須賀康裕夫太郎
(別紙)
関係法令の定め
1
ダイオキシン法の定め
(1)

都道府県知事は,当該都道府県の区域内においてダイオキシン類による土
壌の汚染の状況が7条の基準のうち土壌の汚染に関する基準を満たさない地域であって,当該地域内の土壌のダイオキシン類による汚染の除去等をする必要があるものとして政令で定める要件に該当するものをダイオキシン類土壌汚染対策地域(以下対策地域という。)として指定することができる(29条1項)。
(2)

都道府県知事は,対策地域を指定したときは,遅滞なく,ダイオキシン類
土壌汚染対策計画(以下対策計画という。)を定めなければならない(31条1項)。
(3)

対策計画においては,次に掲げる事項のうち必要なものを定めるものとす
る(31条2項)。

対策地域の区域内にある土地の利用の状況に応じて,政令で定めるところにより,次に掲げる事項のうち必要なものに関する事項(同項1号)(ア)

ダイオキシン類による土壌の汚染の除去に関する事業の実施に関する
事項(同号イ)
(イ)

その他ダイオキシン類により汚染されている土壌に係る土地の利用等
により人の健康に係る被害が生ずることを防止するため必要な事業の実施その他必要な措置に関する事項(同号ロ)

ダイオキシン類による土壌の汚染を防止するための事業の実施に関する事項(同項2号)

(4)

対策計画に基づく事業については,負担法の規定は,事業者によるダイオ
キシン類の排出とダイオキシン類による土壌の汚染との因果関係が科学的知見に基づいて明確な場合に,適用するものとする(31条7項)。

2
負担法の定め
(1)

この法律において公害防止事業とは,次に掲げる事業であって,事業
者の事業活動による公害を防止するために事業者にその費用の全部又は一部を負担させるものとして国又は地方公共団体が実施するものをいう(同法2条2項)。

(略)(同項1号,2号)


公害の原因となる物質により被害が生じている農用地若しくは農業用施設又はダイオキシン類(ダイオキシン法2条1項に規定するダイオキシン類をいう。)により土壌が汚染されている土地について実施される客土事業,施設改築事業その他の政令で定める事業(同項3号)


(2)

(略)(同項4号,5号)
公害防止事業に要する費用を負担させることができる事業者は,当該公害
防止事業に係る地域において当該公害防止事業に係る公害の原因となる事業活動を行い,又は行うことが確実と認められる事業者とする(同法3条)。(3)

公害防止事業につき事業者に負担させる費用の総額(以下負担総額と
いう。)は,公害防止事業に要する費用で政令で定めるもの(以下公害防止事業費という。)の額のうち,費用を負担させる全ての事業者の事業活動が当該公害防止事業に係る公害についてその原因となると認められる程度に応じた額とする。(同法4条1項)
(4)

公害防止事業が上記(1)イ等に係る公害防止事業である場合において,その
公害防止の機能以外の機能,当該公害防止事業に係る公害の程度,当該公害防止事業に係る公害の原因となる物質が蓄積された期間等の事情により上記(3)の額を負担総額とすることが妥当でないと認められるときは,上記(3)の規定にかかわらず,上記(3)の額からこれらの事情を勘案して妥当と認められる額を減じた額をもって負担総額とする。(同条2項)
(5)

施行者は,6条1項の規定により費用負担計画を定めたときは,9条2項
に規定する者を除き,当該費用負担計画に基づき費用を負担させる各事業者及び事業者負担金の額(負担総額が設置費と管理費とに区分されているときは,設置費に係る事業者負担金の額。以下この条において同じ。)を定めて,当該各事業者に対し,その者が納付すべき事業者負担金の額及び納付すべき期限その他必要な事項を通知しなければならない(同法9条1項)。
3
公害防止事業費事業者負担法施行令(以下負担法施行令という。)1条3項の定め
上記2(1)イの政令で定める事業は,次のとおりとする。
(1)

(略)(同項1号,2号)

(2)

ダイオキシン類による土壌の汚染の状況がダイオキシン法7条の基準のう
ち土壌の汚染に関する基準を満たさない地域であって,上記1(1)の政令で定める要件に該当する地域内にある土地について行う上記1(3)ア(ア)及び(イ)並びにイに規定する事業(事業者によるダイオキシン類の排出とダイオキシン類による土壌の汚染との因果関係が科学的知見に基づいて明確な場合において実施されるものに限る。)(同項3号)

(別紙)
争点に関する当事者の主張の要旨
1
争点(1)ア(原告は,本件経営主体変更以前にP4工場から排出されたダイオキシン類に関して,負担法3条の事業者としての責任を負うかどうか。)について
(1)

被告
原告は,明治20年にP5株式会社として設立されて以来,他の企業を合併し社名を変更したP6株式会社(以下P6という。),明治29年頃に設立され,P6と大正12年に合併したP3,昭和12年4月にP6を吸収合併したP8株式会社(以下P8という。なお,乙第12号証の2等には,昭和12年4月にP6がP8に対し,営業を包括譲渡した旨の記載があるが,同号証の出典である原告の社史の他の部分によれば,P8による吸収合併であったと認められる。),同社が同年12月に改称し昭和18年にP12株式会社(以下P12という。)に吸収合併されるまで存在したP11株式会社(以下旧P11という。),P12,原告と長期間にわたり連綿と経営が続けられてきた同一の企業である。このことは,原告の本件訴訟におけるこれまでの主張においてこれらの企業によるP4工場の操業と原告によるP4工場の操業が区別されていなかったこと,原告の社史の記載,同一の社章が使用されていること,P4工場の位置が変わっていないこと等からも明らかである。

イ(ア)

乙第12号証の2等には,P12の化学部門が原告の前身である旧P
18株式会社(大正10年4月にP13株式会社として設立された会社で,昭和12年6月から昭和20年4月1日にP11株式会社と改称するまでその名称であった。以下旧P18という。)に対し営業譲渡をした旨の記載があるが,同号証の出典である原告の社史の他の部分やP18株式会社(昭和24年に原告から分離した会社。以下P18という。)の
発行した社史等には,昭和20年4月1日に,旧P18とP12の化学部門が合併した旨記載されており,本件経営主体変更は,両社の合併というべきである(今日の吸収分割であるが,当時はそのような法制度は存在しなかった。)。
なお,社史の記載は,法的な観点からは不正確な点も含まれる可能性はあるが,証拠としての価値は失われない。他方,昭和20年3月29日付けの株主総会議事録には,議案の題名が記載されているだけであるが,もし,その議案の内容に包括的な債権債務の移転を定めるものが含まれていれば,実質的には合併というべきである。昭和12年のP6からP8への営業包括譲渡は,形式的には営業譲渡であるとしても,包括的な債権債務の移転の定めを含み,実質的には合併であったというべきことからすれば,本件経営主体変更の際も実質的には合併であったというべきである。また,昭和25年法律第167号による改正前の商法245条1項によれば,他の会社の営業の一部の譲受けには株主総会の議決は不要であったにもかかわらず,本件経営主体変更の際に株主総会の議決がされているのは,本件経営主体変更が実質的には合併であったからに他ならない。
(イ)

仮に,本件経営主体変更が,形式的には営業譲渡であるとしても,そ
の際に旧P18と統合されたP12の化学部門は,明治20年4月に創設されたP6を前身とし,化学部門として独立性を有していた旧P11であって,本件経営主体変更により,旧P11は,P9傘下にあり,かつての子会社であった旧P18の法人格を借用することによって,実質的に復活したのであるから,旧P11又はP12の法人格は,実質的には原告に承継されているというべきである。営業譲渡という方式が採られたのは,会社分割という法制度がなかった当時,会社を実質的に分割する方法として借用されたものにすぎず,営業譲渡という方式が採られたことをもって法人格の承継を否定するのは相当ではない。


原告の社史によれば,本件経営主体変更が合併であるのか営業譲渡であるのかはあいまいであるが,これは,本件経営主体変更が同じP10内の企業の整理,統合であり,合併か営業譲渡かという法形式が余り重視されていなかった上,化学部門に係る一切の資産及び負債を含めて営業権を包括的に引き継がせることが目的であり,そのことが当然の前提となっていたからであると解される。したがって,本件経営主体変更が営業譲渡であったとしても,その譲渡においては,一切の債務の引受けが明示又は黙示に含まれていたと考えるのが合理的であり,P12の化学部門の債務は当時認識されていなかったものも含めて,全て原告が引き受けていると解すべきである。そうすると,原告は,P12の化学部門又はその前身たる企業がP4工場を操業していた当時排出したダイオキシン類を原因としてこれらの企業が負担法3条の事業者として負う責任を負うというべきである。また,原告が旧P11と同じ商号を使用し,同一の社標を使用していることは,旧P11の債務を引き受ける意思を表示したものというべきである。


P6は,昭和12年にP8に吸収合併されたが,同社は,同年12月に社名をP11株式会社に改称した後,昭和18年4月にP12に吸収合併されるまで,P11株式会社という商号を使用していた(旧P11)。原告は,昭和20年4月以降,以前と同一のP11株式会社という商号を使用しているから商法17条1項(同旨の内容を定める平成18年法律第87号による改正前の26条1項を含む。以下同じ。)に基づく責任を負う。商法17条1項の対象となる債務は,企業取引によって生じたものに限られず,その不履行に基づく損害賠償債務や不法行為及び不当利得によって生じたものでも良いとされており,負担法に基づく費用の負担もこれに該当する。原告は,営業譲受人が営業譲渡人の使用していた商号を引き続き使用する場合ではなく,営業譲渡人が過去に一時使用したにすぎない商号を使用する場合には同項の適用はない旨主張するが,本件は,従前から肥料等の製造販売
において国内有数の企業であった旧P11の信用を利用,維持し,その知名度を利用する目的のもとに,同じ商号を再び使用し,同一の社標を使用した場合であるから,商号の続用に当たると解すべきである。
したがって,原告は,旧P11又はその前身たる企業がP4工場を操業していた当時排出したダイオキシン類を原因としてこれらの企業が負担法3条の事業者として負う責任を負うというべきである。

負担法の趣旨からすれば,負担法に基づき費用負担を求めるべき事業者とは,公害の原因となる事業活動を行うだけの社会的実体を有し,かつ,公害防止費用の負担を求めるに足りるだけの社会的実体を有するものであれば,足りるのであり,厳密な意味での法人格を有するものに限定する必要はない。そして,ある事業を行う事業者の法人格が継承されず,従前とは法人格を異にするに至ったとしても,事業者としての社会的実体が実質的に同一であると認められる限り,負担法に基づく費用負担を免れることはできない。そうすると,大正時代から名称は異なるにせよ実質的に同一の企業である原告が,その営業の一環としてP4工場において食塩電解工程を稼働させ,ダイオキシン類を排出したのであるから,原告が負担法による費用負担の責任を負うのは当然である。
また,営業譲渡の介在により,法人格の継承が認められないとしても,本件経営主体変更の際には,営業包括譲渡がされたのであり,それは企業組織が財産と一体となって移転したものであるから,営業の一環として工場を操業し,公害の原因物質を排出しながら利益を上げてきた事業者という社会的実体も原告に移転したというべきであり,原告が費用法に基づく費用負担をすべきなのは当然である。
負担法は,公害が環境に及ぼす有害な結果の重大性に鑑み,公害防止事業に要する費用を当該公害の原因を作出した者に負担させることを企図しているものであるから,その事業活動が公害の原因となった者は広く負担法3条
の事業者に該当するというべきであり,負担法は,公害防止事業に係る事業活動を行った事業者と費用負担の対象となる事業者との事業者としての同一性を要求しているにとどまり,原因者と負担者の法人格が同一であることまでを要求しているものではないと解すべきである。本件経営主体変更時に営業譲渡の対象となったP12の化学部門はもともと旧P11がP12に合併されたものであり,これらの一連の組織再編行為に着目すれば,旧P11の法人格は,P12との合併により,P12に吸収されて一時的に消滅したが,その実質は,P12という法人格の中で同一性を保ったまま潜在的に存続しており,それが旧P18に承継され,承継後の旧P18から本来のP18部分が分離して,旧P11は再びP11株式会社としての法人格を取得することとなったのであり,これにより,旧P11の法人格が実質的に復活したと解すべきものである。したがって,一時的に法人格の断絶があったとしても,実質的に見れば,旧P11と原告は同一の事業者といえる。本件を実質的に見れば,長年にわたり,同一の工業施設,設備を用いて食塩電解工程を操業し,同様の製品を継続的に製造してきた企業が,P10内の位置付けや内外の経済事情等に対応して,単にその名称の変更を繰り返してきたものと評価できる。しかも,その企業は,その大半の時期をP11株式会社という同一の社名を用いて営業を継続してきた。したがって,仮に,形式的な法人格の継承が認められなかったとしても実質的な事業者としての地位の承継はあるといわざるを得ない。

被告は,本件決定1に,前記前提となる事実(2)コ(イ)aのとおりの理由を付しており,また,本件訴訟においても,P3から原告に至るまでP4工場を経営していた企業を含む原告のみがP4工場において操業してきた旨主張してきたが,原告は,これに対して何ら認否,反論をしなかった。これによれば,原告は,被告の主張する事実を自白したとみなされるべきであり(民訴法159条1項),P3やP6が原告とは異なる法人であるとする原
告の主張は排斥されるべきである。
また,原告は,本件経営主体変更以前にP4工場を経営していた企業が原告とは異なる法人である旨の主張をする機会が十分あったにもかかわらず,長期間そのような主張をしてこなかったばかりか,本件訴訟においては,大正時代から原告がP4工場において食塩電解工程を継続して操業してきたなどというそれと矛盾する主張さえしてきた。訴訟法上の信義則(民訴法2条)の観点からは,本件経営主体変更以前にP4工場を経営していた企業が原告とは異なる法人である旨の主張は許されるべきものではない。原告は,本件訴訟において,主張の大部分を本件対策地域の汚染の原因となったダイオキシン類が本件経営主体変更前も含むP4工場の操業によって発生したものであるかどうかに費やしてきた。これは,原告が自らをP3やP6などと同一の法人であると考えていたからに他ならない。
(2)

原告
原告の前身は,旧P18である。同社は,昭和20年3月29日開催の臨時株主総会において,①
日予定)及び②

P12の化学工業に関する営業譲受(同年4月1

定款変更(商号及び目的の変更)を決議し,P4工場など

で稼働していたP12の化学部門を譲り受け,商号をP11株式会社と変更した。原告は,この本件経営主体変更の際,初めてP4工場を承継したのであり,それ以前にP4工場で事業を行っていたP3,P6,P8等とは法人格を異にする。なお,本件経営主体変更は,P12から原告への化学部門の営業譲渡であり,同社との合併ではない。
原告と本件経営主体変更以前にP4工場を経営していた企業の法人格が同一かどうかは純粋な法的問題であり,経済論や事実論と混同してはならない。本件においては,本件経営主体変更当時の登記簿が既に廃棄されているため,この点を判断するための唯一の証拠は,原告の昭和20年3月29日付けの株主総会議事録である。なお,被告は,本件訴訟における原告の準備書面の
記載から,原告がP3,P6等と同一の法人格を有することを前提としていたと主張するが,これは揚げ足取りにすぎない。

被告は,本件経営主体変更が法形式的には営業譲渡であるとしても,実質的には人格が承継されている旨の主張をするが,上記のとおり,法人格の承継は法的な概念であり,営業譲渡が実質的には合併であって,法人格を承継するということはあり得ない。
次に,被告は,本件経営主体変更の際の営業譲渡には,旧P18の債務の一切の引受けが明示又は黙示に含まれていたと考えるのが合理的であると主張するが,債務の引受けの効果は,法的な手段が執られなければ生じないのであり,負担法に基づく費用負担の債務が営業譲渡により引き受けられるということは,ダイオキシン類の存在が認識されておらず,負担法も成立していなかった昭和20年においてはあり得ない。
また,被告は,商法17条1項により,原告が旧P11が負担していた債務を負う旨主張するが,同項の趣旨及び文理によれば,同項は営業譲受人が営業譲渡人の商号を使用している場合に適用されるのであって,本件のように営業譲受人が,営業譲渡人が過去に一時使用したにすぎない商号を使用する場合には適用されないことは明白である。また,営業上発生した債務についての債権者の信頼の保護という同項の趣旨からすれば,負担法による費用負担の債務を営業譲受人に負担させる必要はない。
さらに,被告は,負担法の趣旨からして,大正時代から昭和45年まで同一の企業としてP4工業の操業によりダイオキシン類を排出してきた原告が負担法の費用負担の責任を負うべきである旨主張するが,負担法は,事業費の負担者を事業者と定め,原因者と法人格を同一とするかどうかによってその範囲を限定しているのであるから,失当である。
加えて,被告は,前記前提事実(2)コ(イ)aの処分理由について擬制自白が成立する旨主張するが,原告は,上記処分理由について争っているのであ
り,擬制自白は成立しない。また,本件訴訟においては,従前,本件対策地域において確認されたダイオキシン類がP4工場における食塩電解工程により発生したものであるかが最大の争点とされたため,原告は,その点について集中して主張立証をしてきたが,裁判所の示唆もあり,これに加えて本件経営主体変更以前にP4工場を経営していた企業の責任までは原告が負担しない旨をも主張することとなったものであり,このことが信義則に反するものではない。

本件決定は,本件対策地域にP4工場以外の汚染源がなく,P4工場を操業したのが原告のみであることから,原告が本件対策地域において確認されたダイオキシン類の唯一の排出原因者であるとして,原告に公害防止事業に要する費用の全額(汚染を引き起こした時期を考慮して4分の1を減額している。)を負担させている。しかし,上記アのとおり,P4工場を稼働させていたのは原告のみではないことからすれば,原告が本件対策地域において確認されたダイオキシン類の唯一の排出者であるとはいえず,むしろP4工場を操業していた原告以外の事業者が食塩電解工程によりダイオキシン類を発生させた蓋然性が高いのであり,原告が公害防止事業に要する費用の全額を負担する理由はないから,本件決定は取消しを免れない。

2
争点(1)イ(本件対策地域のダイオキシン類による土壌汚染が,原告及び原告以前にP4工場を経営していた企業の事業活動(原告が負担法3条の事業者としての責任を負う範囲に限る。)により排出されたダイオキシン類によるものといえるかどうか。)について
(1)

被告
ダイオキシン法31条7項について
ダイオキシン法31条7項は,国民の健康保護と事業者の負担の調和を図る趣旨の下,事業者によるダイオキシン類の排出とダイオキシン類による土壌の汚染との因果関係が科学的知見に基づいて明確であることを求めている
のであり,同項の適用が認められるためには,一点の疑いも許されないような厳密な意味での因果関係の存在まで認められる必要はなく,科学的知見に基づいて,事業者による排出と汚染との因果関係が高度の蓋然性をもって明確に推定されることで足りると解すべきである(最高裁昭和48年(オ)第517号同50年10月24日第二小法廷判決・民集29巻9号1417頁参照)。なお,ここでいう科学的知見とは,自然科学的知見に限られるものではなく,統計的手法による知見も含むと解すべきである。そして,ダイオキシン類の同族体組成比及び異性体の分布パターンを比較検討し,既知のパターンのいずれに属するか又はそのいずれでもないかを明らかにするプロセスを経てダイオキシン類の発生源を特定することは科学的な手法に基づく推定方法である。本件決定は,以下のとおり,ダイオキシン類の排出と土壌汚染との因果関係が科学的知見に基づいて明確である結果されたものである。イ
本件対策地域の汚染状況について
(ア)

本件対策地域は,P3がP4工場を設置し,操業を開始するまでは田
畑等であり,同社を承継した原告が昭和45年にP4工場を撤去するまで,原告及びその前身たる企業だけが同地において操業していた。これは,過去の地図等により明らかである。
(イ)

ダイオキシン類による汚染土壌は埋土層から確認され,汚染の深さは
2mから4m程度まで広範囲にわたっていることから,汚染土壌はP4工場を撤去し更地化する時点において,既に地中に存在していたものと考えられる。
本件対策地域はもともと砂地の土壌であるところ,本件対策地域の土壌調査の結果は砂質の層の上に埋土層が存在し,これは埋立てによるものと推定できる。ダイオキシン類は埋土層から確認されているところ,土壌中の無機物質分析調査によると,鉛,マンガン,銅,亜鉛等の金属成分が高く,人為由来の工業活動に起因する工程が汚染原因と推定された。また,
同様の調査において,かつて食塩電解工程が行われていた場所の土壌から高濃度の塩素が検出されたこと,かつて苛性ソーダ生産を目的としていた地点の土壌がアルカリ性を示しナトリウムの濃度が高いこと,かつて硫酸を取り扱っていた地点の土壌が酸性を示し鉄,銅,亜鉛等の金属成分が高いこと,ダイオキシン類に汚染されている土壌では,鉛の濃度が高いことなどが判明し,これらからもP4工場から排出された物質により土壌が汚染されていることが推認される。
高濃度のダイオキシン類の発見された土壌は,いずれも全体にコンクリートガラ,ガラ,レンガ片等が混入した土壌であって,これらは,P4工場が操業していた時期又は本件対策地域の土地が原告から旧日本住宅公団(現在の独立行政法人都市再生機構。以下住宅公団という。)に引き継がれた後に,P4工場の施設・建物等を解体した後の廃棄ガラ,敷地内の残土,産業廃棄物であるガラ等を用いて土地が造成されたことを裏付けている。土壌中のガラが土地の深部からも発見されていることは,それらの廃棄物がP4工場内の溝や池などの底に廃棄されたことを表している。なお,γ公園で外部から搬入された土壌が汚染の原因とされていることについては,同公園の事例は地表面に近い地点に汚染がみられる点や同公園は公有水面を埋め立てたものであり,εが管理する公園として継続使用されている点,埋立て用材として使用した土砂に汚染があった可能性が高い点において本件の場合とは異なる。
(ウ)

原告は,食塩電解工程がダイオキシン類発生の主たる原因であるとす
ると,ダイオキシン類がP23株式会社が所有し又は所有していた土地(以下P23の敷地という。)から検出されていること,食塩電解工程があった場所以外のP4工場全体のかなり深い地域から検出されていること,搬入土壌である表層部からも検出されていることの説明ができないという。しかし,P23の敷地のうち,ダイオキシン類が検出されたのは
P4工場にごく近接した部分であり,何らかの原因により,P4工場内にあった土砂ないしスラッジ(汚泥)が他の鉱さいなどと共に当該地に移置された可能性が高いと解される。また,P1小学校,β公園(北側)及びβ公園(南側)の表層から2m程度までの汚染は,原告及び原告以前にP4工場を経営していた企業が食塩電解工程で非意図的に生成されるダイオキシン類を含んだスラッジを同工程(電解槽)の近辺に廃棄したもの又は近辺の土壌中にスラッジを含んだ電解液等が漏出したものが主な原因であると推定される。さらに,β公園(南側)の表層から3mないし4m程度の汚染は,電解工程後の懸濁液を流していた排水路又は貯留地に沈殿又は持ち込まれたスラッジが主な原因であると推定される。加えて,P2保育園の表層近くから発見された汚染された土壌は,原告から住宅公団への土地の引渡し後に行われた土地の平準化(P4工場内に存在した土壌を用いて行われた。)により,汚染した土壌が移動したものと推定される。以上によれば,原告の上記主張は失当である。
(エ)

原告がP4工場を撤去した後に搬入された土壌は極めて少量である。
客土による盛土は,0.1mから1.85mであり,団地内の一部に局所的に実施されたものである。標高図によっても,原告から住宅公団への引渡時の標高と住宅公団による造成後の標高はほとんど変わっていない。P2保育園の深さ約1mから約1.5mにわたる土壌は,コンクリートガラ,ガラ,レンガ片等が混入した土壌で,外から持ち込まれたものとは考えられない。また,本件対策地域で発見された高濃度の異例な異性体パターンを示すダイオキシン類が外部からの搬入土壌に含まれることは考えられない。なお,P2保育園敷地で検出されたダイオキシン類は複合汚染のパターンを示しているが,ここで検出された1,3,6,8-四塩化ジベンゾジオキシンと1,3,7,9-四塩化ジベンゾジオキシンは法的規制の対象となっているダイオキシン類に含まれないため,環境基準値の算定からは除外
される。β公園(北側)及びβ公園(南側)の地表下の土壌並びにP1小学校の舗装下の土壌も同様に外から持ち込まれた土壌とは考えられない。β公園(南側)の一部は現在高くなっているが,本件対策計画では,高くなっている部分のうち,表層でダイオキシン汚染が確認された区域だけを事業実施区域としている。この事業実施区域から除かれた部分は,平成14年に行われたスーパー堤防工事に伴い盛土がされた区域で,この工事の際外部からの土壌で盛土がされているが,この区域は,表層においてダイオキシンが検出された場所とは離れており,盛土に使用した土壌も重金属チェック済みのものを使用しており,スーパー堤防工事に伴って搬入された土壌が土壌汚染の原因とはいえない。表層でダイオキシンが検出された場所は,平成7年ころ及び平成13年に行われた団地内の工事の際に発生した土壌で盛土したものであり,平成7年の工事の際に発生した土壌は鉱さいと思われる赤紫色の土壌及びコンクリート廃材を多量に含むものであったのであり,P4工場に由来する土壌であることは明らかである。ウ
P4工場の食塩電解工程からダイオキシンが発生することについて原告(原告以前にP4工場を経営していた企業を含む。以下ウにおいて同じ。)は,P4工場が撤去される直前まで,長期間にわたって電槽(電解槽)室において食塩電解工程を稼働させており,この電解工程により,塩素及び苛性ソーダを製造していた。この間,原告が非意図的に高濃度のダイオキシン類を生成していたことが強く推定される。原告の食塩電解工程では,大量のスラッジが常時発生していたものと解され,そのスラッジは,電解槽のメンテナンスの際に不要物として排出され,それが他の残さいと共に埋立てに利用されたものと解され,それが本件対策地域における広範な土壌汚染の原因となったものと推定される。食塩電解工程の過程では,黒鉛電極そのきょう

もの,黒鉛電極中の夾雑物,食塩中に含まれる石灰,苦土,酸化鉄及びアルミナ,珪酸等の不純物等が析出したものが混在したスラッジが生成される。
P4工場においては,最大200基を超える電解槽が常時稼働していたのであり,その稼働期間も数十年にわたるのであるから,その間,電解槽からはスラッジが大量に発生し,それがメンテナンスの際に排出されていたはずである。また,関東大震災の際,P4工場の電解槽は将棋倒しになったとされ,この際に電解槽自体が損傷したり電解槽内のスラッジを含んだ電解液等が流出したことは十分考えられる。
隔膜法を用いた食塩電解工程においても,脱落した黒鉛粒子,はく落した石綿,コンクリートから溶け込んだマグネシウムやカルシウム等が電解液に混濁し,これらが沈殿してスラッジが発生する。
本件対策地域のうちで,高濃度のダイオキシン類による汚染が確認された地点の試料の中から,クリソタイル系のアスベストが発見された。原告がP4工場で食塩電解に使用していたフーカーS型においては,隔膜材料としてクリソタイル系アスベストが使用されており,上記のようにクリソタイル系アスベストが発見された周囲の土壌が高濃度のダイオキシン類で汚染がされていることからすれば,P4工場の電解槽で使用されたアスベストがスラッジとして食塩電解工程で生成された高濃度のダイオキシン類と共にP4工場敷地内に埋め立てられていることが強く推定される。
スウェーデンのクリストファー・ラッペらによる論文(乙27。以下ラッペ論文という。)及びM.E.ストランデルらによる論文(乙38。以下ストランデル論文という。)は食塩電解工程にピッチやゴムに含まれる多環芳香族炭化水素の一種であるジベンゾフランが存在すると,電解工程から発生した塩素により塩素化してポリ塩化ジベンゾフランが発生するという推論を述べており,食塩電解工程からダイオキシン類が発生するとの被告の推論は科学的根拠に基づくものである。
原告が現在市販されているものと同等の黒鉛電極を使用していたとの主張は事実に反する。原告が苛性ソーダの生産を開始した大正6年ころには,国
産の黒鉛陽極の品質は現在と同等のものとはいえなかった。なお,P24研究所による実証実験(以下本件実証実験という。)の結果(乙65の1・2)は,現在市販されている黒鉛電極を使用した場合もダイオキシン類が発生することを示している。

本件対策地域で検出されたダイオキシンが食塩電解工程により発生したものといえるかどうかについて
(ア)

ダイオキシン類を構成するダイオキシンには8つの同族体と75種の
異性体があるが,ダイオキシン類はその発生源によって,同族体組成比及び異性体パターンに異なる特徴が現れる。本件対策地域で確認されたダイオキシン類は極めて高濃度であり,かつ,ほぼ全てが塩素処理の過程で発生するダイオキシン類の特徴的な同族体組成比(四塩化ベンゾフラン以下の組成比が大きい。)や異性体の分布パターン(1,2,7,8-T4CDF及び2,3,7,8-T4CDFの割合が高い。)を示しており,本件対策地域のダイオキシン類汚染が同一の原因(塩素処理)によるものであることが明らかである。ダイオキシン類の同族体組成比及び異性体の分布パターンのパターン分析とは,同族体組成比及び異性体の分布パターンの構成比グラフをその形状のみから比較することではなく,それぞれの土壌分析によって明らかになったダイオキシン類の各同族体の種類,その組成比及び濃度,各同族体の異性体の種類・構成組成比等を比較して,その特徴を読み取り,そこに基本的な一致が認められるかどうかを判断する方法である。スウェーデンの苛性ソーダ製造工場の黒鉛電極を用いた塩化ナトリウム電解槽の陽極スラッジのダイオキシン類には,①

生成するダイオキシン類のほぼ全量が

ポリ塩化ジベンゾフランであること,②

実測濃度比でポリ塩化ジベンゾ

フランはダイオキシンの38倍,TEQ比でポリ塩化ジベンゾフランはダイオキシンの1920倍と異常に高いこと,③

ポリ塩化ジベンゾフラン

は広範囲な同族体で構成され,極めて高濃度であること,④
ポリ塩化ジ

ベンゾフラン異性体の主成分は,2,3,7,8-塩素置換体であることという特徴が認められ,さらに,次の各同族体において掲記した異性体が主成分である異性体組成が認められることが苛性ソーダ製造に伴うポリ塩化ジベンゾフラン生成の重要な指標となる。
一塩化体(M1CDF):2-M1CDF
二塩化体(D2CDF):3,6/2,8-D2CDF
三塩化体(T3CDF):1,2,8-T3CDF,2,3,4/2,3,8-T3CDF四塩化体(T4CDF):1,2,7,8-T4CDF,2,3,7,8-T4CDF五塩化体(P5CDF):1,2,3,7,8/1,2,3,4,8-P5CDF六塩化体(H6CDF):1,2,3,4,7,8/1,2,3,4,7,9-H6CDF(イ)

本件対策地域内において確認されたダイオキシン類の同族体組成比及
び異性体の分布パターンは,食塩電解工程に由来するダイオキシン類(苛性ソーダ製造工場の黒鉛電極を用いた塩化ナトリウム電解槽の陽極スラッジのダイオキシン類)とほぼ完全に一致し,本件対策地域におけるダイオキシン類による土壌汚染の原因は,P4工場における食塩電解工程に伴って排出されたスラッジの埋立てによるものであることは明らかである。(ウ)

原告は,本件対策地域から検出されたダイオキシンと食塩電解工程か
ら発生するとされるダイオキシンの同族体組成及び異性体の分布パターンを示すグラフが異なることから,本件対策地域から検出されたダイオキシンは食塩電解工程によるものではないというが,食塩電解工程において生ずるダイオキシン類は常に一定の構成組成を示すわけではなく,ジベンゾフランの塩素との反応条件の差や反応時間の長短によってかなり変動するものであるから,それをグラフの形状のみから比較して分類し,発生源が異なるとすることは意味がない。旧P25株式会社が同一製法で製造したCNP(ニトロフェノキシベンゼン)製品でも製造時期が異なればダイオキシン類の構成組成が大きく異なることが明らかとなっている。P4工場
はほぼ1世紀前から食塩電解工程を稼働させ塩素を製造していたのであるから,その間に製造工程を取り巻く事情は大きく変わっており,それらの事情の推移に応じて非意図的に生成されたダイオキシン類も様々な構成組成を示すであろうことは容易に推定される。また,原告は,ジベンゾフランの四塩化体が最も多く含まれるものと五塩化体又は六塩化体が最も多く含まれるものとでは決定的に異なると主張するが,これらは,どちらも工業化された食塩電解工程において生成されるもので,両者の違いは反応時間の長短にすぎないのであるから,これらに決定的な違いがあるとはいえない。
高濃度のダイオキシンの解析をせずに,本件対策地域全体の調査結果の平均値を用いる原告の方法には意味がない。乙第1023号証の意見書(以下P26意見書(Ⅱ)という。)が前提とする試料は,被告が土壌分析結果のうちから環境基準値を超えたものを抜き出したもの(乙12の13で分析対象とされた46地点とほぼ一致する。)で明確な根拠に基づくものである。
原告は,乙第1024号証の意見書(以下P26意見書(Ⅲ)という。)が食塩電解工程ではダイオキシンやコプラナーPCBがほとんど発生しないとしていることからすると,ダイオキシンやコプラナーPCBが検出されたP2保育園のダイオキシン類は食塩電解工程によるものではない旨主張するが,P2保育園で検出されたダイオキシンやコプラナーPCBは,前記のとおり,複合汚染の可能性を示すものである。なお,ここで検出されたダイオキシンやコプラナーPCBは環境基準に影響しないものである。
塩素処理に類似した同族体組成比を示すダイオキシン類として,都市ごみ焼却炉排ガス,同フライアッシュ,金属精錬工場排ガスがあるとの原告の主張は争う。

原告は,例えば,アセチレン製造工程によって生成されるダイオキシン類も上記の特徴を有するというが,アセチレン製造工程において生成されるダイオキシン類の濃度は極めて低いため,食塩電解工程で生成されるものと区別することができる。
さらに,原告は,本件対策地域内の全ての調査試料の測定結果を前提に科学的根拠を明らかにして同族体組成比や異性体の分布パターンを明らかにする必要があるとか,CNP,PCP(五塩化フェノール),PCB(ポリ塩化ビフェニル)等の汚染原因に関する分析を欠落させているとかいうが,本件において被告が行う必要があるのは,高濃度のダイオキシン類を発生させた事業者に応分の負担を求めるに必要な範囲での原因者の特定であって,本件対策地域内で発見された全てのダイオキシンの発生源を逐一明らかにすることではないから,高濃度のダイオキシン類の発生原因である塩素処理以外の可能性についてまで分析する必要はない。

原告は,被告が本件対策地域で検出されたダイオキシン類が食塩電解工程によるものであることの理由を変更した旨主張するが,乙第11号証の10は環境審議会における検討過程のものにすぎない。この資料を基にダイオキシン部会での審議が進むにつれ,本件対策地域で発見された高濃度のダイオキシン類が極めて特異な塩素処理パターンであることが判明したのであるから,同号証の分類が本件決定の根拠と多少異なることは不自然ではない。ダイオキシン類の同族体組成比及び異性体の分布パターンのパターン分析とは,上記のとおり,その構成比グラフを形状のみから比較することではなく,それぞれの化学分析によって明らかになったダイオキシン類の各同族体の種類,その組成比及び濃度並びに各同族体の異性体の種類・構成組成比等を比較して,その特徴を読み取り,そこに基本的な一致が認められるかどうかを判断する方法であり,被告は,当初からこのような方法でパターン分析を行っている。環境審議会ダイオキシン部会においても,上記四つの特徴を
前提とした審議が実質的に行われている。
なお,被告の作成した資料中の塩素処理とは当初から食塩電解工程を意味するものであった。

その他,原告及び原告以前にP4工場を経営していた企業の食塩電解工程以外の原因を否定する旨の主張は,本件対策地域の汚染原因についての反論とならない。

(2)

原告
ダイオキシン法31条7項について
ダイオキシン法31条7項は,排出と汚染との間に科学的知見に基づいて明確な因果関係を要求する。これは,ダイオキシン類がそもそも意図しない副生成物として生ずるものであり,汚染経路等の科学的知見になお不十分な点が多いため,事業者による排出と土壌の汚染との因果関係が科学的知見によって明確な場合にのみ,その排出者に公害防止事業費を負担させるという趣旨と解される。同項の科学的知見とは,自然科学的知見をいうと解すべきであり,また,同項の科学的知見に基づいて明確な場合との文言は,排出と汚染の間の因果関係の証明度について高度の蓋然性より高い,自然科学的知見に裏打ちされた証明を求める趣旨を明文化したものであって,排出と汚染との間に科学的知見に基づいて一点でも疑義が残れば,これに該当しないと解すべきである。医療過誤に基づく損害賠償請求の事案である最高裁昭和50年10月24日判決の場合と本件の場合とでは背景となる事情が異なる。
本件決定は,本件対策地域を汚染するダイオキシン類の具体的な排出原因,排出経路及び汚染経路をまったく特定しておらず,原告によるダイオキシン類の排出と土壌の汚染との因果関係が科学的知見に基づいて明確な場合とはいえない。したがって,本件決定がダイオキシン法31条7項,負担法2条2項3号,負担法施行令1条3項3号に反することは明らかである。
ダイオキシン類の発生機構や発生源については解明されていない部分がかなり多い。本件対策地域で検出されたダイオキシン類の原因が科学的に解明されないのであれば,公害防止事業の費用は被告が負担すべきであり,原告に負担させるべき理由はない。

本件対策地域の汚染状況について
(ア)

被告は,地表面から2mないし4mの埋土層からダイオキシン類が確
認されたとするが,本件対策地域には,地表面から2m以内の層にもダイオキシン類が広く存在しており,原告が本件対策地域の土地を住宅公団に引き渡した後の搬入土壌による汚染の可能性を無視したものである。現にγ公園においては,搬入土壌がダイオキシン類汚染の原因とされている。また,埋土層の土壌中の無機物質分析調査の結果から人為由来の工業活動に起因する工程が汚染原因であると推定しているが,上記調査の方法には信用性が低いし,また,そもそも自然土壌中の値には差がある上,ナトリウムについての検査結果は特に高い数値であるともいえない。
被告は,排水路を通過した懸濁液からスラッジが沈殿したことを汚染の原因とするが,食塩電解プラントの位置から公共河川までは比較的近く,食塩電解プラントから排出された懸濁液がP4工場の他の地域に流出,拡散したり,深部に及んだりすることはない。また,食塩電解プラントの位置は低く,この部分の土壌を他の場所に移動したことは考えられない。(イ)

食塩電解工程がダイオキシン類による汚染の主たる原因であるとする
と,P23の敷地から本件対策地域と同様のダイオキシンが検出されていること(この点に関する被告の反論は想像の域を出ず,しかも的はずれである。),食塩電解工程があった場所以外のP4工場全体のかなり深い地域でダイオキシン類が検出されていること,搬入土壌である表層部からも環境基準値を超えるダイオキシン類が検出されていることの説明ができない。

(ウ)

被告は,P4工場撤去後に搬入された土壌が少量であるとしているが,
その根拠は乏しい。標高図によれば,原告が住宅公団に引き渡した後に相当の土砂が搬入されているはずであり,搬入された土砂による汚染の可能性がある。
住宅公団が作成した団地の造成図(乙26)における造成計画高と現在の標高の差の部分は団地完成後に外部から搬入された土壌により形成されているところ,この部分にもダイオキシン類による環境基準を超えた汚染が存在する。これは,原告及び原告以前にP4工場を経営していた企業の事業に起因するものではなく,本件対策地域のダイオキシン類による汚染は複合汚染であることになる(被告もその可能性を認めている。)。それにもかかわらず,塩素処理以外の発生源や汚染原因者について調査特定しないまま負担総額の全額を一部の特定された汚染原因者の事業負担金とすることは違法である。
特にβ公園(南側)においては,平成7年ころまでの航空写真によれば平坦であるが,平成9年に至ってその一部が盛土されて高くなっており,その高さは約2mである。この盛土は外部から搬入されたものとしか考えられず,この部分についてもダイオキシン類による汚染がある。そして,ガラが混入した土壌はP4工場の土壌に限定されないし,平成7年から9年にかけて搬入された土壌については,資料がなく,畑土以外のものが搬入された可能性が高い。
本件対策計画は覆土により汚染土壌による暴露経路を遮断するものであるから,少なくともβ公園(南側)においては,盛土部分の汚染土壌の暴露を遮断する目的のものであることは明らかである。そうすると,当該部分の事業費は盛土部分の汚染を発生させた事業者に負担させるべきである。仮に,そうではなく,下部の土壌の汚染者も事業費を負担すべきであるとしても,盛土部分の汚染者を特定せずに負担を定めるのは違法である。

原告(原告以前にP4工場を経営していた企業を含む。以下,ウにおいて同じ。)の食塩電解工程がダイオキシンの発生源であるとはいえないことについて
被告は,P4工場の食塩電解工場における電解過程において大量のスラッジが発生しており,当該スラッジが汚染の原因である旨主張するが,原告の電解工程は隔膜法でありスラッジが大量に発生することはない。隔膜法では,電解槽に至る前の工程で硫酸カルシウム,炭酸カルシウム,水酸化マグネシウムが水中に沈殿するが,これらは,ミルク状の懸濁液としてそのまま場外に放流される。電解槽の黒鉛電極は,ほとんどが炭酸ガスとなり摩耗消滅すきょう

るので,その夾雑物と共にごく微量が電解液に残留することはあってもスラッジとなることはなく,懸濁液と共に場外に放流される。なお,原告は,摩耗後の黒鉛電極を有価物として売却している。また,石綿のクリソタイルが発見されたことについては,隔膜の石綿は電解液中にはく落することはなく,また交換後の石綿も有価物として売却するので,廃棄・埋設することはない。P4工場においては,クリソタイルを電解槽の隔膜以外にも使用しており,電解槽のスラッジが埋設された根拠とはならない。さらに,クリソタイルが埋設されていたことと土中の無機物質分析調査の結果は矛盾する。硫化鉄鉱の残さいを埋設したとの事実をもってスラッジを埋設したことの根拠とはならない。被告が,食塩電解工程からダイオキシン類が発生することの根拠とした論文は原告の工程と異なる工程を前提としている。
食塩電解工程そのものからダイオキシンが発生するのではない以上,食塩きょう

電解工程において存在する夾雑物や反応装置に使用されているものがダイオきょう

キシン類の発生に関与していると推測されるが,そうすると,夾雑物や反応装置に使用されているものごとにダイオキシン類の発生を論ずるべきである。被告が食塩電解工程からダイオキシン類が発生することの根拠とするラッペ論文及びストランデル論文は,ダイオキシン類の発生根拠を明らかにしてい
ないし,それぞれの論文で装置などが異なることからすれば,科学的な根拠とはいえない。なお,本件実証実験もイオン交換膜法を用いたこと,陽極の電流密度が過大であること,ピッチ共存の方法が異なることから原告の食塩電解工程とは異なるものであり,ダイオキシン類発生の根拠とはならない。本件実証実験は,タールピッチと塩素の反応を問題としているが,原告が使用していた黒鉛電極は,現在市販されているタールピッチがほとんど残っていないものと同等のものであった。
また,被告の主張を前提とすると,黒鉛粒子を構成する炭素も土壌中に多量に含まれるはずであるが,そのような事実はない。

確認されたダイオキシンが特徴的な同族体組成比や異性体の分布パターンを示しているとの前提が誤っていること
(ア)

被告の土壌分析に対する解析手法はずさんであり,非科学的である。本件対策地域で採取された土壌を分析した結果は2000件を超える数
値によって示されるデータであり,これらの全てが同じパターンの一定の同族体組成比及び異性体の分布パターンを示すとは考えられないし,実際被告が複合汚染があることを認めていることからしても複数のダイオキシン類の同族体組成比や異性体の分布パターンが発見されていることがうかがわれるが,これらからどのような判断に基づいて全てが特徴的な同族体組成比及び異性体の分布パターンを示しているとの結論に達したのかという過程は示されておらず,被告は,因果関係が科学的知見に基づいて明確な場合であることの主張立証をしていない。
例えば,ジベンゾフランが顕著であるという点で,被告の主張する塩素処理に類似した同族体組成比を示すダイオキシン類としては,都市ごみ焼却炉排ガス,同フライアッシュ,金属精錬工場排ガスなども挙げられる。(イ)a

被告は,本件対策地域のダイオキシン類汚染の原因がP4工場の食
塩電解工程によるものであることの根拠として本件対策地域内で検出さ
れたダイオキシン類の同族体組成比及び異性体の分布パターンが塩素製造所のものと同じであることを挙げるが,P1小学校のパターンは同族体組成比でみるとジベンゾフランの四塩化体(T4CDFs)から八塩化体(O8CDFs)に向かって減少しているほぼ三角形の形状を示すのに対し,塩素製造所のパターンは五塩化体(P5CDFs)にピークがあり,両側が減少するほぼ山形の形状をしており,両者は同じではない。そもそも,同じ塩素処理であっても乙第11号証の10のアセチレン製造①(次亜塩素酸洗浄排水)とアセチレン製造②(塩素水洗浄排水)とではパターンが異なるのであり,これらをひとくくりにするのは非科学的である。ラッペ論文から引用した塩素製造所の同族体組成比及び異性体の分布パターンは,被告が乙第12号証の13で分類した塩素処理の同族体組成比及び異性体の分布パターンとは明らかに異なる。本件対策地域のうち環境基準を超過したほぼ全地点の同族体組成比及び異性体の分布パターンによると同族体組成比については,強いていえば,ジベンゾフランの四塩化体(T4CDFs)が最高値を示し,五塩化体(P5CDFs),六塩化体(H6CDFs)となるに従って低下していく三角形の傾向にあるものが比較的多くみられるが,ダイオキシンの四塩化体(T4CDDs),五塩化体(P5CDDs)等が高い値を示すものなどもある。また,異性体の分布パターンは必ずしもパターンを特定できない。これらについても被告が乙第12号証の13で分類した食塩電解工程とは異なる。
また,ラッペ論文,ストランデル論文,ドイツのH.ハーゲンマイヤーらによる論文(甲40。以下ハーゲンマイヤー論文という。)のグラフには共通点がみられるのに対し,本件対策地域から検出されたダイオキシン類の同族体組成比及び異性体の分布パターンのグラフはこれらと異なる。特に,上記3論文では五塩化体及び六塩化体がピークを示しているのに,本件対策地域から検出されたダイオキシン類は四塩化体
がピークを示している点で決定的な違いがある。四塩化体から五塩化体への反応はそれまでの反応に比べて著しく遅くなるのであり,食塩電解工程では高温・長時間の反応条件下であるから五塩化体以降まで反応が進行することに特徴があるのであるから,四塩化体が多く含まれることは発生源が食塩電解工程以外であることを示している。原告は,グラフの形状の比較のみによってダイオキシン類の発生源を判断すべきであるとしているのではなく,グラフの形状の比較を無視して発生源を判断することはできないとしているのである。現に乙第72号証の意見書(以下P26意見書(Ⅰ)という。)は同族体組成比のグラフの形状を手掛かりに排出場所を検討している。その上で同意見書は,本件対策地域のダイオキシン類の同族体組成比のグラフが食塩電解工程により発生するものと比して高塩素化されたものが多くなっていることを認めており,これによれば,本件対策地域のダイオキシン類が食塩電解工程から発生したものとはいえない。

被告が食塩電解工程由来のダイオキシン類の特徴として挙げる上記(1)エ(ア)の四つの点は,ジベンゾフランと塩素が反応する場合一般の特徴を挙げるにすぎず,食塩電解工程由来のダイオキシン類のみを特定するための特徴となっていない。特に,アセチレン製造工程と食塩電解工程を区別することはできない。このように被告の挙げる上記四つの特徴をもって,本件対策地域において確認されたダイオキシン類が食塩電解工程に由来するものであると断定することができないとすると,本件対策地域において確認されたダイオキシン類の発生の由来を特定するためには他の要件を検討する必要がある。ダイオキシン類の同族体組成比及び異性体の分布パターンのグラフの形状の異同はその重要な要件であるが,本件ダイオキシン類の同族体組成比の構成と食塩電解工程に由来するダイオキシン類の同族体組成比の構成(ラッペ論文に示されるも
の)は明らかに異なっている。このグラフの形状を比較する方法はごく一般的な方法であり,被告も審議会において採用している。一般的には同じ発生源からは一定の同族体組成比及び異性体の分布パターンを示すものとされているのであり,グラフの形状が同一であるダイオキシン類の発生源が全て同一かどうかまで断言することはできないとしても,グラフの形状が明らかに異なるダイオキシン類の発生源を同一であるとすることはできない。
被告が同族体組成比のグラフの形状を参考にできないとする理由はいずれも相当でない(CNP製品の組成が時期によって変化しているとの事実もない。)。被告は,食塩電解工程のジベンゾフランの塩素化反応は,塩素濃度,ジベンゾフラン濃度,反応温度などで異なり,高塩素化体の構成組成比も異なり,また,塩素量は,電解液,食塩濃度,電解条件,電解装置,電解温度などによってかなり変動し,黒鉛電極の結合材として使用されるタールピッチの種類によってPCDFsの生成量や構成組成が大きく変わるとするが,これは,工業化された食塩電解工程におけるジベンゾフランの塩素化反応と,条件が著しく異なる研究室レベルの実験による食塩電解を同視し,両者を混同するものである。また,P24研究所の実験も,イオン交換膜法による食塩電解工程において,多環芳香族炭化水素が存在すると,塩素化されてポリ塩化ジベンゾフランが発生すること及び大量のピッチを投入すれば高レベルのポリ塩化ジベンゾフランが生成されることが検証できたとする点に意義があるとしても,それ以上のものではないし,実際の工業装置としての食塩電解工程とも異なる。工業化された食塩電解工程は360日単位で運転されるものであり,四塩化体が多く残っているものと四塩化体から五塩化体に塩素化が進んで六塩化体,七塩化体,八塩化体がかなり多く出ているタイプとはその同族体組成比が決定的に違う。そうすると多くが四塩化体にとど
まり五塩化体,六塩化体の発生が少ないということは工業装置としての食塩電解工程ではあり得ないことである。仮に,発生源を食塩電解工程であると仮定すると,塩素化が進まず四塩化体が大量に残っているフラン類が発生するのは,反応時間が数時間又は数日というごく短い場合に限られるが,そのような状態が主たる操業条件となることは考えられない。ラッペ論文やハーゲンマイヤー論文にもこのような特徴は現れている。
(ウ)

被告の主張する上記(1)エ(ア)の四つの特徴のうち,③及び④は多く
のダイオキシン類についていえることであって,③又は④のみではダイオキシン類の発生源を特定する要件とはならないことからすれば,食塩電解工程により生成されたダイオキシン類であるといえるためには①から④まで全ての条件を満たすことが必要と解される。そして,①及び②について,被告はストランデル論文に基づき①のほぼ全量とは,実測値で97.45%,TEQ比で99.95%であるとし,②の実測濃度比でポリ塩化ジベンゾフランはダイオキシンの38倍,TEQ比で1920倍とする。しかし,この数値(特に②の数値)はラッペ論文から導かれる値と大きく異なっており,食塩電解工程由来のダイオキシン類と判断するための特徴とはいえない。なお,本件対策地域から検出されたダイオキシン類のポリ塩化ジベンゾフランとダイオキシンの比率の値はラッペ論文から導かれる値を満たしていない。
被告は,本件対策地域で検出されたダイオキシン類が上記(1)エ(ア)の四つの特徴を示すというが,その検証の対象とされた試料数は全体に比してわずかであり,その抽出方法にも規則性はみられない。本件対策地域で採取された1242点の試料のうち②の要件を満たすものは極めて少なく,それらの平均値も②の要件を満たさない。一部の分析結果を基に塩素処理のパターンと決めつけているのは不十分な分析である。環境基準値を超え
た407点の試料についてみても同様である。
P2保育園において検出されたダイオキシン類は,被告が食塩電解工程によるものと主張する上記四つの特徴に合致しない。
また,被告(P26意見書(Ⅲ))は,本件対策地域から検出されたダイオキシン類の特徴としてダイオキシンやコプラナーPCBがほとんど発生していないことを挙げるが,これは,P2保育園で検出されたダイオキシン類の分析結果と明らかに異なる。被告が複合汚染の典型的な場所とするP2保育園の分析結果は表層部分のものが大半であるが,P2保育園の表層土壌はP4工場閉鎖後に搬入されたものである。
(エ)

被告は,CNP,PCP,PCB等がある可能性を示しながら,原告
及び原告以前にP4工場を経営していた企業がそれらを排出していたことを確認していないし,それらが確認された範囲や深さについても分析していない。

本件対策地域で検出されたダイオキシン類が食塩電解工程に由来するものであることの根拠についての被告の主張が変遷していること及びその結果,本件決定は実質的に審議会を経ていないものであることについて
被告の本件対策地域で検出されたダイオキシン類が食塩電解工程に由来するものであることの根拠についての主張は,平成21年5月1日付けの準備書面より前と同準備書面以降で変化している。すなわち,平成21年5月1日付け準備書面より前においては,本件対策地域から検出されたダイオキシン類の同族体組成比及び異性体の分布パターンのグラフが塩素製造所のグラフと類似していることがその根拠とされていたが,同準備書面以後は,上記(1)エ(ア)の四つの特徴に合致することがその根拠とされた。このような変遷が生じていることは平成21年5月1日付け準備書面より前の主張が非科学的判断であることのみならず,それ以後の主張も同様に非科学的なものであったことを表すものである。

本件決定に当たって聞いた審議会の意見は,平成21年5月1日付け準備書面前の根拠に基づくものであり,それ以後の根拠に基づくものではなく,少なくとも上記四つの特徴及び付随的な特徴を示して行われたものではないから,本件決定は本件ダイオキシンの発生源について審議会による審議を経ないまま行われたもので,この点からも取消しを免れない。
さらに,被告は,上記四つの特徴は絶対的な基準ではない旨の主張をするが,そうだとすると,ダイオキシン類の発生源を他の原因に由来するダイオキシン類と区別することができなくなってしまい,被告が本件対策地域で検出されたダイオキシン類が食塩電解工程によるものと認める根拠はないことになる。
3
争点(1)ウ(原告のように,負担法施行前の事業活動により,事業所内にのみ公害を発生させた者が負担法3条の事業者に該当するか。また,原告が負担法3条の事業者に該当すると解することが憲法29条,84条や行政法令の不遡及原則に反しないかどうか。)について
(1)

被告
負担法は,公害対策における正義と公平の原則としての原因者負担の観点から事業者に応分の負担を求めているものであって,一般的に公共事業を実施する地方公共団体が民間企業に税を課す場面とは基本的な構造が異なる。
イ(ア)

負担法4条2項や7条3号の規定に鑑みれば,負担法は,負担法施行
前に発生した公害も念頭に置き,その事業者に対しても応分の費用負担を求めることを当然の前提としていると解すべきである。そして,公害における原因者負担の考え方は,原因者の故意,過失を負担の要件とするものではないから,事業が公害につながることについて認識していなかったとしても,汚染の原因者である以上費用の負担をすべきことは当然である。したがって,負担法施行前の事業活動により公害を発生させた者も負担法3条の事業者に該当すると解すべきである。

(イ)

原告は,負担法3条を遡及適用することが憲法29条2項に反すると
主張するが,原告主張の(a)については,資料が乏しいのは,被告も同様であり,原告のみが資料の収集において不利な立場に置かれているわけではないこと,同(b)については,公害を防止し環境を保護するためには従来の不法行為法によるのでは不十分であるとして,公害対策における正義と公平の観点から制定されたという負担法の趣旨からすれば,操業当時に原因物質の有害性等について認識がなかったからといって負担を免れることができないのは当然であること,同(c)については,負担金の性質からすれば,一般的に地方公共団体が課税する場合とは異なること,同(d)については,公害対策における汚染者負担,原因者負担の原則は,公害対策を必要とする社会全体との関係での正義,公平の観念に適合するものであり,過去の操業時に原因物質を排出していた企業が,現在は操業していないとしても,汚染者・原因者であることに変わりはなく,過去の行為責任を費用負担の形で果たすべきことは当然であること,同(e)については,ダイオキシン法の趣旨からすれば事業者による排出と汚染との因果関係が高度の蓋然性をもって明確に推定されれば良いのであり,またそのように解したからといって財産上の負担が不合理であるとはいえないことからすれば,原告の主張は失当である。
(ウ)

負担法3条の費用負担は,行政主体がその課税権に基づき国民一般に
課す租税とは明確にその性格が異なり,租税に類するものとはいえない。行政法令不遡及の原則も全く例外が認められないものではなく,行政の本来的目的としての公益実現のため必要な場合は,一定の合理性の認められる範囲で遡及的な適用も許容されていると解すべきところ,負担法の趣旨・構造からすれば,事業活動に伴って特定の土中に公害原因物質を保持ないし排出等していた事業者は,いずれの時点にせよ,当該土地から公害原因物質が顕在化した時には,原因事業者としてその公害防止費用を負担す
べきであるから,このような場合の遡及的適用には合理性が認められるというべきである。原告の主張する事情は遡及適用が許されないとする理由とはならない。

負担法の趣旨からすれば,不特定多数の人の健康又は生活環境に被害を生じさせている場合は公害に該当するというべきであり,事業者が事業活動に伴い公害の原因となる物質を一定の地域内に保持していた場合であっても,その物質がその地域に出入りする者や事業活動停止後に当該地域内に居住するようになった者に被害を生じさせるときは,これを公害というのは当然であって,その事業活動が公害の原因となった者は負担法3条の事業者に該当すると解すべきであって,原告の主張するように限定して解釈すべきではない。

(2)

原告
公害防止事業は公共事業であるから,その費用は一般の財政資金によってまかなわれるのが原則であり,負担法に基づいて事業者に負担金を課すことができるとしても,それが公法上の負担金であり強制徴収される税と同種のものである以上,事業者の概念を拡大して解釈することは当該事業者の財産権を侵害することになって許されない。

イ(ア)

負担法施行前の事業活動により公害を発生させた者に負担を課するこ
とは,事業活動終了から長期間が経過した後に過大な事業者負担金を強いられるという不合理な結果をもたらすこととなるから,負担法施行前の事業活動により公害を発生させた者は負担法3条の事業者に該当しないというべきである。特に原告及び原告以前にP4工場を経営していた企業の事業実施当時はダイオキシン類の有害性は認識されておらず,何らの故意過失も違法性もなく行っていた事業活動に対し負担金を課すのは合理性を有しないから,負担法の遡及適用は認められない。
(イ)

財産権は,公共の福祉に適合する場合に限り制限を受けることになる
(憲法29条2項)が,この制限が立法府による規制である場合,その規制目的が公共の福祉に合致するものであっても規制手段が上記目的を達成するための手段として必要性若しくは合理性に欠けていることが明らかであって,そのため立法府の判断が合理的裁量の範囲を超えることとなる場合には,憲法29条2項に違反するところ,本件において負担法を遡及して適用することは,(a)

原告がP4工場での操業を終了してから約40

年経過し,当時の操業の状況等についての資料やそれを知る関係者も少なく,有効な反証のための証拠収集が極めて困難であること,(b)
原告が

P4工場での操業を停止した当時にはダイオキシン類の発生とその毒性は認識されておらず,何ら責められるべき理由もなく操業していた企業が数十年後にその責任を問われることは極めて不合理であること,(c)
負担

法は,費用を負担させられる事業者の故意や過失を問わずに,本来国や地方公共団体がその負担で行うべき公共事業を原因事業者に負担させる性質を有し,一種の課税に類する性質を有するものであるから,これを遡及して適用することは著しく不合理であること,(d)

結果として,企業存続

のために経営努力を重ね,企業組織の永続性を実現している企業のみが負担を強いられる一方,経営努力を怠って市場から淘汰された企業は負担を免れることは規制目的達成手段としては不合理であること,(e)
ダイオ

キシン類の排出と汚染との因果関係を緩やかに解することになれば,原告に対し,理由なく財産上の負担が課されることになることからすれば,立法府の合理的裁量の範囲を超えていることは明らかである。
(ウ)

負担法3条の費用負担は,厳密な意味での租税ではないものの,公法
上の金銭債権の性質を有し,納付しないときには強制徴収されるものであることから租税に類する性質を有するので,これを遡及適用することは,憲法84条に含まれる租税法規の遡及適用禁止の原則に反する。また,行政法規の適用に関しては,法的安定性,当事者の予測可能性の観点から,
一般的に行政法令不遡及の原則が,憲法31条,39条により導かれるというべきである。
公共の福祉などの観点から,一定の場合に遡及適用が認められるとしても,国民の予測可能性と法的安定性を害さない範囲に限定されるべきであるところ,(あ)

原告(原告以前にP4工場を経営していた企業を含む。

以下(ウ)において同じ。)が操業していた時期には,ダイオキシン類の毒性を予見することは不可能であったこと,(い)

ダイオキシン類は意図せ

ずに発生するものであり,原告は操業中にはダイオキシン類の発生すら認識していなかったこと,(う)

原告の操業停止後,負担法改正までには約

30年,本件決定までには約40年という長い期間が経過していること,(え)

現在の医学的知見によれば,ダイオキシンの毒性は高いとはいえな
いことからすれば,遡及適用が許される場合とはいえない。

負担法における公害(負担法2条1項,環境基本法2条3項)は,相当範囲にわたって,人の健康又は生活環境に係る被害が生ずることであり,健康又は生活環境という不特定又は多数の人々の環境を悪化させることを意味し,負担法は,この公害の定義を前提に事業者の概念を定めていると解される。また,負担法が当初予定していた公害防止事業の内容からすると,同事業は事業者が事業活動中に公害を継続して排出することを前提として事業所以外の主として公の場所を対象として行われるものと解される。これらによれば,負担法3条の事業者は,その事業活動が原因となって当該事業所外に公害を発生させた者と解すべきであり,ある事業者が事業活動中は公害の原因となる物質を工場などの事業所の内部のみに保持していたが,事業活動を廃止した後に何らかの原因により公害の原因となる物質が公害化したような場合はこれに該当せず,当該事業所であった土地に人を居住させるなどして原因物質を公害化させた場合は別として,当該事業者は負担法3条の事業者に該当しないというべきである。

4
争点(2)ア(本件決定1付記部分(今後改めて費用負担計画が策定される場合がある旨の内容)が行政行為の附款として無効でないかどうか。)について(1)

被告
本件決定1付記部分は,単なる事実の通知にすぎず,行政行為の附款ではな
いから,原告の主張はその前提を欠き,上記部分を含む本件決定は違法ではない。
(2)

原告
本件決定1付記部分は,今回の事業者負担金で不利益処分が完了するという
原告の期待・信頼や法的安定性,予測可能性をあらかじめ奪うものであり,行政の裁量権を拡大するもので行政行為の附款と解する余地もあるところ,この部分を行政行為の附款と解すると,それは,①

今回の公害防止対策により今

後公害が発生するおそれはなくなり,将来の汚染除去のための公害防止事業はその前提を欠く違法なものとなることからすれば,違法な公害防止事業に伴う将来の負担を留保するものというべきであるという点,②点,③

比例原則に反する

不明確・不確定な内容のものである点において違法であるから,この
部分を含む本件決定は違法である。
5
争点(2)イ(本件決定における理由付記不備の瑕疵の有無)について(1)

被告
本件決定1の通知書に付記された理由は,δ環境審議会のダイオキシン部会
による専門的かつ科学的な判断に基づくものであり,この付記された事実によれば,原告(原告以前にP4工場を経営していた企業を含む。以下5において同じ。)によるダイオキシン類の排出と汚染との因果関係が高度の蓋然性をもって明確に推定できるから,本件では,科学的知見に基づく明確な因果関係が明らかにされているのであり,行政手続法14条が要求する理由の提示に欠けるところはない。本件決定1の通知書に付記された理由に汚染の主たる原因が電解工程である旨の文言がないとしても,電解工程が原告の製造工程の一部を
構成するものであるし,理由の記載やそれ以前に原告に情報提供された文書からすれば,本件対策地域におけるダイオキシン類が塩素処理によるものであることは明白に読み取れる。
(2)

原告
行政手続法14条が行政庁に不利益処分の理由の提示を課した趣旨は,処分
の客観性及び判断の慎重・合理性を担保させることのみならず,当該名宛人に処分の理由を理解してもらうと同時に事後救済手続上の便宜に資することにある。
本件決定1の通知書に付記された理由は,原告による排出と土壌汚染との因果関係について科学的知見に基づいて具体的に明らかにするものではなく,原告において処分の理由を理解するには到底足りないものであるばかりか,処分の理由が具体的に明らかにならない以上,提示された理由のみでは本件決定に対する事後救済手続の検討さえ満足にできないものである。
特に,被告は,本件決定の理由の提示において,汚染の原因の主たる工程が電解工程であるという点に一切言及していない。
よって,本件決定は,行政手続法14条の理由の提示を欠くものといわざるを得ない。

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