判例検索β > 平成22年(ネ)第278号
損害賠償請求控訴事件
事件番号平成22(ネ)278
事件名損害賠償請求控訴事件
裁判年月日平成23年4月14日
裁判所名・部名古屋高等裁判所  民事第1部
原審結果その他
判示事項の要旨被控訴人は,当時17歳であったA子と性行為をしたことについて,愛知県青少年保護育成条例に違反するとして,逮捕,勾留,公訴提起され,その後,無罪判決が確定したため,(1)愛知県に対し,警察官による逮捕状請求等と警察官から意思に反して供述調書に署名・押印させられたことが違法であるとして,(2)国に対し,検察官による勾留請求,公訴提起等と検察官から意思に反して供述調書に署名・押印させられたことが違法であるとして損害賠償の支払を求めた事案について,31歳の社会人で妻子のある被控訴人が,妻と離婚する意思はなく,最初のデートからわずか2週間ないし1か月程度でA子と性行為に至っているなどの事情によれば,警察官又は検察官が,被控訴人について,A子を「単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような場合」に当たると判断し,逮捕状請求,勾留請求,公訴提起等したことに,合理的根拠が欠如しているとは認められないし,供述調書作成に違法はないとして,原判決を変更して被控訴人の請求を棄却した。
裁判日:西暦2011-04-14
情報公開日2017-10-17 20:30:48
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平成23年4月14日判決言渡
平成22年(ネ)第278号

同日原本領収

裁判所書記官

損害賠償請求控訴事件〔原審・名古屋地方裁判所平

成19年(ワ)第3946号〕
口頭弁論終結日

平成22年10月13日
判決主文1
原判決中,控訴人らの敗訴部分を取り消す。

2
上記の部分につき,被控訴人の請求をいずれも棄却する。

3
訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

第1

実及び理由
当事者の求めた裁判

1
控訴の趣旨
控訴人国



原判決中,控訴人国の敗訴部分を取り消す。


上記の部分につき,被控訴人の請求を棄却する。


訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
控訴人県


アイ
上記の部分につき,被控訴人の請求を棄却する。

ウ2
原判決中,控訴人県の敗訴部分を取り消す。

訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

控訴の趣旨に対する答弁


本件各控訴をいずれも棄却する



控訴費用は控訴人らの負担とする。

第2

事案の概要(以下,略称は原則として原判決の表記に従い,原判決の記載箇所を適宜示す。)

1

本件は,被控訴人が,平成18年7月24日に当時17歳9か月であったA子と性行為をしたこと(本件性行為〔原判決2頁20行目〕)について,18歳未満の青少年の健全育成を目的とする愛知県青少年保護育成条例(本件条例〔同2頁22行目〕)29条1項,14条1項(本件規定〔同2頁23行目〕)違反の罪により逮捕,勾留,公訴提起され,その後,その事件(本件被告事件〔同2頁24行目〕)について無罪判決が確定したところ,被控訴人が,
①控訴人県所属の警察官が違法な逮捕状の請求
(本件逮捕状請求
〔同
5頁4行目〕)及び逮捕(本件逮捕〔同5頁24行目〕)をし,被控訴人の弁解を供述調書(本件各員面調書〔同7頁24行目〕)に記載せず,かえって同人の意思に反する自白の文言を原判決別紙8(一覧表2〔同11頁21行目〕)の№1ないし6欄の各書類(員面調書)に作文して同人に署名・押印させたとして,②控訴人国所属の検察官が違法な勾留請求(本件勾留請求〔同6頁22行目〕)及び勾留状の執行(本件勾留状執行〔同7頁5行目〕)並びに公訴提起(本件公訴提起〔同8頁17行目〕)をし,被控訴人の弁解を供述調書(本件各検面調書〔同8頁8行目〕)に記載せず,かえって同人の意思に反する本件被疑事実(同2頁25行目)に沿う文言を一覧表2の№7ないし12欄の各書類(検面調書)に作文して同人に署名・押印させたとして,控訴人らに対し,国家賠償法1条1項に基づき,連帯して,慰謝料500万円及びこれに対する不法行為後の平成19年6月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

原判決は,①被控訴人とA子との関係は,被控訴人に妻子がおり,被控訴人が妻と離婚してA子と結婚するつもりはなかったという点を除けば,いわゆる恋人同士の関係と全く異なるところはなく,被控訴人が,A子を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないものではないことが明らかである旨,
②控訴人県所属の担当警察官ら
(本
件警察官ら〔原判決4頁4行目〕)は,犯罪の嫌疑の相当な理由についての合理的根拠が客観的に欠如しているのに,本件逮捕状請求をし,かつ本件逮捕をしているところ,それは違法であり,必要な捜査を怠り,明らかに不合理な構成要件への当てはめをしているから過失が認められる旨,③控訴人国所属の担当副検事(本件副検事〔同6頁18行目〕)の本件勾留請求及び本件勾留状の執行については,違法なものとは認められない旨,④控訴人国所属の本件副検事は,有罪判決を期待しうる合理的な根拠が客観的に欠如しているのに,本件公訴提起をしているところ,それは違法であり,必要な捜査を怠り,明らかに不合理な構成要件への当てはめをしているから過失が認められる旨,⑤控訴人県所属の警察官による取調べ(本件各警察官調べ〔同7頁23行目〕。一覧表2の№1ないし6欄の各書類の作成を含む。)に違法性は認められない旨,⑥本件副検事による取調べ(本件各副検事調べ〔同8頁7行目〕)について,一覧表2の№7ないし12欄の各書類に関し,誘導により虚偽の自白を取得したもので違法であり,その点に過失も認められる旨,⑦慰謝料額は控訴人国関係で100万円,控訴人県関係で100万円が相当である旨判示し,被控訴人の請求を,控訴人ら各自が,被控訴人に対し,100万円及びこれに対する平成19年6月7日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払(連帯関係にはない。)を求める限度で認容したところ,控訴人らがこれを不服として控訴した。
2
前提事実,争点及び当事者の主張は,後記3のとおり当審における当事者の主張(原審での主張を敷衍するものを含む。)を付加するほかは,原判決事実及び理由欄の第2事案の概要の1及び2に記載のとおりであるから,
これを引用する。
3
当審における当事者の主張
控訴人国の主張



本件公訴提起に国家賠償法上の違法は認められず,本件副検事には過失もないこと


公訴提起に要求される犯罪の嫌疑は,有罪判決に要求される嫌疑とは異なるから,無罪判決が確定したという事実をもって直ちに公訴提起が違法であるとすることはできず,公訴提起時において有罪判決を期待し得る合理的理由が欠如していない限り,検察官には注意義務違反は認められない。そして,検察官の判断の合理性の有無を検討するに当たり,証拠評価及び法的評価の性質を考慮する必要があり,単に検察官が実際にした証拠評価及び法的評価と異なる評価をなし得ることをもって,当該検察官の判断の合理性が否定されるものではない。


本件条例中の本件規定におけるいん行の意義は,青少年を誘惑し,威迫し,欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為(第1形態の性行為〔原判決14頁10行目〕)のほか,青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為(第2形態の性行為〔同14頁10行目〕)をいうものと解される。そして,第2形態の性行為に当たるかを検討するに際し,従来の一般的な考え方によれば,当該性行為が結婚を前提としないものか否かが重要な判断要素とされていたところ,本件被告事件についての名古屋簡易裁判所の無罪判決(以下本件無罪判決という。)は,時代の変化を踏まえた新しい判断を示したといえる。本件性行為は,結婚を前提としないものである上,被控訴人には第2子を妊娠中の妻と子がおり,妻と別れる意思は全くなく,被控訴人とA子との付合いや性交渉がいずれも被控訴人による誘いをきっかけとしているなど,両者の年齢,性交渉に至る経緯,両者間の付合いの態様等に徴すると,本件性行為は,少なくとも従来の一般的な考え方に依拠すれば,第2形態の性行為に当たるとみる余地はあったから,本件公訴提起が国家賠償法上違法とはいえないし,本件副検事に過失があったともいえない。



原判決は,被控訴人が有罪か否かを裁判官の立場から判断したものであり,有罪と認められる嫌疑があると判断した検察官の証拠評価及び法的判断が,法の予定する一般的検察官を前提として,通常考えられる検察官の個人差による判断の幅を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして到底その合理性を肯定することができない程度に達しているか否かという観点から判断したものではなく,不当である。

本件各副検事調べは合理的かつ相当であって国家賠償法上の違法は認められないこと


原判決は,本件副検事が本件条例に規定するいん行の該当性判断
について誤った前提をもって,
誘導により被控訴人に虚偽の自白を迫り,
これを取得したことが国家賠償法上違法である旨判示する。



しかし,取調官が取調べの際に,内心でいかなる事情を前提としていたかは,
当該前提事情に基づく取調官の発言が偽計等に該当しない限り,
取調べの違法に直ちに影響するとはいえない。
本件被疑事件(原判決2頁24行目)において,被控訴人に妊娠中の妻がいるという客観的事実は,少なくとも従来の考え方によれば,一般社会通念上,A子と恋愛関係にあるという被控訴人の供述とは相容れないものである。このような供述を得た検察官としては,この点について解明するため,被控訴人に対し,妻の存在を前提とすれば,被控訴人の上記供述を直ちに信用することはできない点を指摘した上で,妻との関係を踏まえた質問を行うのは取調官として当然である。このような質問がおよそ偽計による取調べと評価される余地はなく,取調官の裁量として合理的かつ社会的相当性の範囲内と認められ,当然に許されるべきものである。
また,本件条例におけるいん行の規定が,行為者及び青少年の年
齢,性行為に至る経緯及び行為の状況等客観的事情を基にして判断される評価的な構成要件であることも併せて考えると,各人によってその評価が分かれる可能性を有する内容について,取調官が一定の価値観に基づき,被疑者に対して当該証拠に基づく事実関係を根拠に一定の評価を示してこれを誘導し,被控訴人に認めさせたとしても,その取調べは,法の予定する一般的な検察官を前提とすると,合理性が認められ,かつ社会通念上も相当であるといえる。


原判決が違法であると指摘した被控訴人の個別の供述部分について,被控訴人の供述の自由の侵害の有無という観点から検討してみても,淡い,真摯なという表現は各人の価値観による幅が大きく,被
控訴人の供述を録取するに当たり,本件副検事がこうした表現を使用したことにより,被控訴人の供述の自由が侵害されたとは考えられない。また,

・・・と言われても,やむを得ません。

との表現は,当該評価を受け入れることも仕方がないとの意味にすぎないから,被控訴人が当該評価に対して納得していないことが窺われ,本件副検事が当該供述を録取したことにより被控訴人の供述の自由が侵害されたとは考えられない。
さらに,

処罰については,素直に受けます。

との内容についても,処罰されることになったら処罰を受けるという趣旨であり,これをもって処罰を受ける必要のない被控訴人に自白を迫り,本件副検事の事実評価を認めさせたなどということはできないし,被控訴人の供述の自由が侵害されたとはいえない。

控訴人県の主張



被控訴人とA子との関係が真摯な交際には当たらないこと
原判決は,被控訴人とA子との付合いが性行為のみを目的とするものではなく,愛情を持った真摯なものであった旨判断している。
しかし,被控訴人とA子は,平成18年5月に初めて2人だけで会うデートをし,その後の5月終わりないし6月初めころから,同年7月24日の本件性行為までの間に,合計7回の性行為をしているほか,ドライブ等は性行為をする場所への単なる移動手段にすぎず,被控訴人は31歳の社会人で妊娠中の妻と子をもち,離婚する意思もないのであるから,被控訴人とA子との関係が性行為のみを目的としたものであったことは明らかである。

本件警察官らが第2形態の性行為の解釈を誤っていないこと
本件警察官らは,被控訴人とA子の各年齢,被控訴人がA子のアルバイト先の副店長としてA子ら青少年の従業員の保護,育成を図るべき立場にありながら,自らの仕事のシフトの権限を利用し,A子の仕事を調整してA子をデートやホテルに誘い,本件性行為に至ったという経緯や本件性行為に至るまでの性行為の回数や頻度,被控訴人のA子との付合いの態様が普通の恋人同士のような付合いではなく,一時の遊び友達のような付合いで,両者の愛情や人格的交流に欠けるものであったことから,被控訴人とA子との本件性行為が第2形態の性行為に該当すると判断したのであり,本件警察官らは第2形態の性行為の解釈を誤っていない。


本件逮捕状請求及び本件逮捕が適法であること
本件被疑事件の捜査は,A子がその母親とa署(原判決3頁23行目)を訪問して届け出たことを端緒として開始されたところ,A子は,被控訴人には妻子がおり,A子のアルバイト先の副店長であること,被控訴人との関係は結婚を前提としない一時の遊び友達であると思っていたこと,被控訴人もA子とは一時の遊び友達である旨をA子に言っていたこと等を供述しているのであり,A子によるa署への届出がその意思に反したような事情は全く窺われなかった。また,被控訴人がA子と食事をし,映画に行き,ディズニーランドに行く約束をすることがあったとしても,これらのことから,直ちに,被控訴人がA子を単に自己の性的欲望を満足させる対象として扱っていたわけではないということにはならない。さらに,前記ア及びイを併せ考慮すると,被控訴人がいん行の罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があったといえるし,被控訴人が身辺に捜査が及ぶのを察知すれば逃走のおそれや罪証隠滅のおそれも認められ,逮捕の必要性もあったから,本件逮捕状請求及び本件逮捕は適法である。
被控訴人の主張



被控訴人の行為はいん行に当たらないこと
本件無罪判決は,検察官が控訴することなく確定しているから,被控訴人の行為がいん行に当たらないことは裁判で確定しているというべきで,これを蒸し返すことは許されない。実質的に見ても,検察官が控訴せずに本件無罪判決を確定させたのは,警察官又は検察官が作り上げたストーリーに合わせた供述をA子から再度得ようと試みたができなかったためと考えられるし,A子を法廷に出頭させることで,被控訴人とA子が真摯に交際していたことや,A子の親らが被控訴人から金員を恐喝しようとしたができずに,その腹いせとしてA子の親らがA子に暴力を振るって無理に告訴をさせたことが明らかになると考えたからである。したがって,被控訴人の行為がいん行に当たらないことは明らかである。


本件警察官ら及び本件検察官による違法な行為について
a署のC(原判決4頁1行目)や本件副検事は,原審で18歳未満の女子と性交渉をすればいん行に該当するが,例外的に結婚前提で性交渉をしたのであればいん行に当たらないと述べるなど,いん行の定義について最高裁判例その他の正しい知識を持っていなかったことは明らかである。本件警察官ら及び本件副検事は,被控訴人とA子の交際状況等の事実関係を何らかの不注意で認定を誤ったというより,被控訴人やA子からいくら話をされても本件をいん行で立件するのに都合の良いストーリー以外の一切を聞かなかったのであり,このことは,被控訴人代理人がいん行の定義を説明しても取り合わなかったことからも明らかである。本件警察官ら及び本件検察官は,いん行について正しい知識を持っていないのに,キャンペーン月間中のために検挙件数を上げたいという動機から,自分達の考えるストーリーに都合の良い勝手な作文をして事件処理を進めたのであるから,本件逮捕状請求及び本件逮捕,本件勾留請求及び本件勾留状の執行並びに本件公訴提起等が違法であることは明らかである。
第3

当裁判所の判断
当裁判所は,原判決と異なり,被控訴人の請求はいずれも理由がないと判断す
る。その理由は以下に記載のとおりである。
1
いん行の意義について


本件規定は,何人も,青少年に対して,いん行又はわいせつな行為をしてはならないと規定しているところ,いん行の意義については,福岡県青少年保護育成条例違反事件に関する昭和60年大法廷判決(原判決13頁9行目)
が判断しており,
この法理が本件条例にも及ぶと解されることは,
原判決13頁のに記載のとおりであるから,これを引用する。



昭和60年大法廷判決について
昭和60年大法廷判決が判断するいん行の意義の具体的内容及びその理由等は,原判決13頁から15頁までのに記載のとおりであるから,これを引用する。
すなわち,昭和60年大法廷判決は,いん行とは広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきではなく,①青少年を誘惑し,威迫し,欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為(第1形態の性行為)のほか,②青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為(第2形態の性行為)をいうものと解される旨判示している。
第2形態の性行為について



原判決16頁から18頁までのに記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,同17頁18,19行目のとし,から21行目の

(同・58頁)。

までを

としている。

と改める。)。すなわち,第2形態の性行為に該当するためには,結婚を前提としない性行為であることが必要であるが,結婚する意思がなければ直ちにいん行に該当するというのではなく,昭和60年大法廷判決が具体的判断要素として挙げている,
当時における両者のそれぞれの年齢,
性交渉に至る経緯,
その他両者間の付合いの態様等の諸事情を考慮して,健全な常識を有する一般社会人の立場から判断する必要がある。
2
認定事実(補足説明を含む。)
証拠(甲1,24,30ないし37,43,44,49ないし51,乙イ


1,3,乙ロ1,4の1・2,原審証人C,原審証人D〔原判決6頁17行目〕,原審被控訴人本人)及び弁論の全趣旨によると,本件性行為及び本件申告
(同3頁24行目)
に至る経緯等について,
以下の事実が認められる
(補
足説明は後記に記載)。

被控訴人とA子の年齢等
被控訴人は,本件性行為時,31歳の会社員であり,平成15年6月27日に結婚した妻と1歳になる子供がおり,妻は妊娠していた。被控訴人は,A子と初めて性行為をした後,平成18年6月終わりころ,妻が妊娠した事実を知った。
A子は,本件性行為時,17歳9か月の高等学校の生徒であり,被控訴人と初めて性行為をするより前にも性行為の経験があった。


本件性行為に至るまでの経緯及び付合いの態様


被控訴人は,平成18年2月,勤務するB社が経営する飲食店(以下本件店舗という。)に副店長として異動になった際,本件店舗でアルバイトをしていたA子と知り合った。
被控訴人は,平成18年4月ころ,勤務の空いた時間にA子と話す機会が多くなったところ,A子は,被控訴人に対し,仕事や学校の話をしたほか,A子の母が2回離婚し,当時,別の男性と交際していること,母とけんかをした際に,施設に入ったらとか,出て行けなどと言われたことなどを話し,また,A子が過去に付き合っていた男性の話や,当時,A子にしつこくつきまとっている男性の話や相談をするうちに,次第に被控訴人と親しくなっていった。
被控訴人は,当初,A子に対し,特別な感情を有していなかったものの,A子の顔も雰囲気も自分の好みのかわいい子であると感じ,A子の仕事ぶりを見て,あるいは話をして親しくなるにつれ,A子に次第に好意を持つようになった。
A子は,
被控訴人が一緒にいて楽で,
波長が合うタイプであると感じ,
被控訴人に自然に惹かれていった。


被控訴人は,平成18年4月ころ(認定理由は後述),A子から見たい映画があると言われ,A子と共に映画を見に行くことになり,A子と携帯電話のメールアドレスを交換し,後日映画を見に行く日を決めた。被控訴人は,同年4月末ないし5月初めころの仕事が休みの平日(認定理由は後述),A子が学校が終わった後,A子の自宅の近くまで車で迎えに行き,A子と共に映画を見に行った。被控訴人は,映画の後,A子を車で送って帰る途中,A子に対して了解を求めた上で,A子と初めてキスをした。
なお,A子は,同月初めころ,A子の母に対し,被控訴人から付き合ってほしいと言われていることを話したところ,A子の母から,普通に友達として付き合うのは良いが,肉体関係になってはだめと言われていた。


被控訴人とA子は,その後,携帯電話のメール交換により,今度いつ会うといった連絡のほか,仕事の些細な話や趣味の合った音楽の話などを通じてお互いの感情を伝え合うようになり,メールの回数も徐々に増え,また,ドライブデートなどをし,キスの回数も多くなり,お互いに好きだという話をして,感情が盛り上がり体を触れ合うこともあった。また,被控訴人とA子は,休みがなかなか合わなかったため,A子がアルバイトの日を削るなどして2人で会う時間を作っていた。



被控訴人は,A子と何回かデートをした後,同人に対し,気持ちが高ぶっており性行為をしないかとメールで尋ねたところ,まだ早いとの返事であったが,その後A子に対し,正式にA子と付き合っているつもりでいる旨の話をして性行為の同意を得たため,日程を調整し,平成18年5月11日(認定理由は後述),本件ホテル(原判決3頁16行目)でA子と性行為をした。



被控訴人とA子は,その後,平成18年5月31日,同年6月8日,同月19日,同月26日,同年7月5日,同月17日,本件ホテルで性行為をした(認定理由は後述)。被控訴人とA子は,本件ホテルで,30分くらいテレビを見たり話をしたりすることもあり,性行為が終わった後は,他愛もない会話をし,ホテルを出ると途中で食事をするなどして,被控訴人は,A子を同人の自宅まで送っていた。被控訴人とA子は,性行為を持つようになった後も,性行為をするだけではなく,ドライブや映画に行くなどのデートをし,ホテルに行った帰りに食事をすることもあり,2人でディズニーランドに行くという約束もしていた。
なお,A子の母は,同年6月に入ったころには,A子が被控訴人の話ばかりをするようになり,A子が被控訴人と肉体関係になっているのではないかと心配するようになっていた。



被控訴人は,平成18年7月24日にA子と会って本件ホテルに行く約束をしていたため,本件店舗での仕事のシフトを調整し,同日午後7時ころ,A子を車で迎えに行き,すぐに本件ホテルに向かい,同日午後8時30分ころ,本件ホテルのb号室において,A子と性行為(本件性行為)をした。
被控訴人とA子が本件ホテルを出た後,A子は,同日午後10時30分ころ,A子の母に,被控訴人と遠くまでドライブをしているので帰りが遅くなる旨のメールを入れたところ,A子の母から電話で,すぐに帰宅するように言われたため,被控訴人は,A子を同人の自宅に送った。ウ
本件申告に至る経緯等


A子の母は,平成18年7月24日,前記イの経緯でA子が帰宅した際,被控訴人とA子との交際状況に不審を持ち,A子を問いただしたところ,A子が被控訴人との性行為の事実を認めたため,被控訴人を呼び戻した。
被控訴人は,A子の母及び同人の交際相手(以下A子の母らとい
う。)から問いただされ,A子との性行為の事実を認めて謝罪し,A子の母は,被控訴人に対し,二度とA子に近づかないように求めた。その際,A子の母は,A子に対して暴力を振るい,A子の母の交際相手と共に被控訴人に対しても暴力を振るい,被控訴人に全治2週間の顔面打撲の傷害を負わせた。



A子の母らは,
被控訴人がA子との関係を絶つ旨の発言をしたものの,
平成18年7月24日午後11時過ぎころ,A子と共に本件店舗に向かい,本件店舗の店長(以下店長という。)に抗議した。店長は,A子の母らの要求が,被控訴人の勤務先に対し,暗に金銭の支払を要求するものであり,店長の一存で決められることではなかったため,一度上の人間と相談する旨返答した。
被控訴人の勤務先のマネージャーは,2ないし3日後,A子の自宅を訪れ,A子の母らに被控訴人を異動させることなどを告げたものの,金銭の支払についてはプライベートの問題であるとして要求を拒絶した。A子の母らは,同マネージャーの対応に納得せず,被控訴人を連れて再度謝罪に来るよう要求した。同マネージャーが,約1週間後,被控訴人を含めて3名でA子の自宅を訪問し,
被控訴人と共に謝罪したものの,
A子の母らは,被控訴人や被控訴人の勤務先の態度に誠意がみられないとして,A子の母らの主導によりa署に本件申告をするに至った。エ
被控訴人及びA子の認識等
被控訴人は,職務上,A子と知り合った当初から,A子が17歳であることを知っており,A子も,被控訴人に妻と子供1人がいることを知っていた。A子は,被控訴人とは,年齢も離れているし,被控訴人が結婚して妻もいることを知っていたので,結婚することは考えておらず,被控訴人も,妻や子供と別れてA子と結婚することを考えておらず,A子に対しても妻と離婚するつもりはない旨を告げていた。
また,被控訴人は,A子に対し,性行為の対価として,金銭を渡したことはなく,A子を騙して同人と性行為に至ったという事実もなかった。補足説明



被控訴人は,平成18年5月ころからA子との交際を開始し,同月末ないし同年6月初めころ,A子と初めて性行為をするようになった旨を司法警察員に対する供述調書(甲33)及び公判供述調書(甲36)等で供述している。
しかし,被控訴人の本件ホテルの利用状況を捜査した捜査報告書(乙ロ4の1)によれば,平成18年5月11日から同年7月24日までの8回にわたり,前記イないしのとおり,被控訴人が本件ホテルを利用しており,上記のとおり被控訴人がA子と本件ホテルで性交渉を行ったことが認められる。そして,被控訴人とA子との最初の性交渉が,上記のとおり同年5月11日と認められることなどからすると,被控訴人とA子が初めて映画に行った日(交際を開始した日)は,同年4月末ないし同年5月初めころと認められる。

被控訴人は,前記エに関し,妻に対しては愛情はないとか,A子と恋愛関係にあったとか,A子に夢中であったとか供述し,あるいはその旨を陳述書に記載する(甲37,44)。しかし,子細に検討すると,本件性行為がA子の母らや被控訴人の妻に発覚後の被控訴人の気持ちとそれ以前の感情とを正確には区別せずに供述しているのであり,加えて,本件検面調書(甲34,35)の内容に異議がなかったと認められる(原審被控訴人本人36頁)のである。したがって,本件性行為時の気持ちとして上記の供述内容どおりであったとの趣旨であるとすると,上記供述は採用することはできない。

3
本件逮捕状請求及び本件逮捕の違法性の有無について


判断基準
標記については,原判決25頁から26頁までのに記載のとおりであるから,これを引用する。
すなわち,逮捕状請求及び逮捕は,刑事事件において無罪の判決が確定したというだけで直ちに違法になるものではなく,逮捕状請求及び逮捕状による逮捕の各時点において,犯罪の嫌疑について相当な理由があり,かつ,必要性が認められる限りは適法であり,反対に警察官が現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して,その各時点で,犯罪の嫌疑についての相当な理由及び逮捕の必要性に関する合理的根拠が客観的に欠如している場合には,違法になると解するのが相当である。



本件警察官らが把握していた事実
標記については,原判決26頁から29頁までのイに記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,27頁20行目の(ただしから23行目の

うかがわれる。)

までを削除する。)すなわち,本件逮捕状請求時及び本件逮捕時において,本件警察官らの把握していた事実は,本件性行為当時,被控訴人が31歳の会社員で,A子が高校生(17歳9か月)であったこと,被控訴人とA子は被控訴人が副店長をしていた本件店舗でA子がアルバイトとして働いていたことで知り合い,被控訴人とA子とが初めてデートをしてから1か月余り(実際には約2週間程度〔前記2イないし〕)で性行為に至り,本件性行為までの間に少なくとも4ないし5回の性行為を持ったこと(実際には平成18年5月11日から同年7月24日までに8回〔前記2イないし〕),被控訴人には妊娠している妻と1歳になる子供がおり,A子と婚姻する意思はなく,A子も被控訴人とは婚姻する意思はなかったことなどであったと認められる。違法性の有無



判断


犯罪の嫌疑の有無
前記によれば,被控訴人には妻があるから,被控訴人とA子との性行為は,
単に成人と18歳未満の青少年との性行為というにとどまらず,
被控訴人の妻に対する関係で民事上不法行為を構成する違法行為であり,このような関係を継続すれば,A子において被控訴人の妻から損害賠償を請求され得るのであり,双方独身(あるいは婚姻関係が破綻している場合)の恋人同士の関係とは質的に明らかに異なっているところ,31歳の社会人で妻子のある被控訴人は,被控訴人とA子とがこのような関係であることを理解していたばかりか,妻と離婚してA子との婚姻に発展することは望んでいなかったと認められる。
そして,
被控訴人は,
A子がアルバイトとして働く店舗の副店長という立場でA子を管理監督する立場にあり,その職務上もA子との関係が一定範囲から逸脱しないようにすべき立場にあった。他方で,A子は高校生であり,前記のとおり,被控訴人と婚姻に発展することは望まないが,被控訴人が真剣に付き合うというのであれば妻子があっても性的関係にも同意するというのであり,被控訴人との交際の社会的・法的意味の理解は十分でなく,被控訴人の真剣度に関心があったと認められる。したがって,被控訴人は,上記のとおりその身分的・雇用関係上の立場を顧みることなく,被控訴人との性行為が法的にいかなる意味を持つかを十分に理解していない18歳未満のA子との間で本件性行為に至ったということができる。殊に本件においては,被控訴人がA子と初めてのデートをしてからわずか1か月余り(本件警察官らの認識。実際には約2週間程度)で性行為に至っており,本件性行為までの2か月弱の間で少なくとも4ないし5回(本件警察官らの認識。実際には8回)の性行為を持っている。このような場合,本件規定にいういん行のうち,昭和60年大法廷判決がいう第2形態の性行為に当たる蓋然性が高いということができる。

本件警察官らの認識・判断と相当性の有無
前記の事実及び上記の判断を踏まえると,被控訴人がA子を専ら性行為のための一時の遊び友達として扱っているとの判断を本件警察官らがすることは無理からぬということができ,そのように判断するのが合理性を欠くということはできず,本件警察官らが,本件性行為について,被控訴人において青少年(A子)を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような場合(第2形態の性行為)に当たると判断したこと(犯罪の嫌疑の相当な理由)に合理的根拠が欠如しているとは認められない。



逮捕の必要性の有無
被控訴人には勤務先や妻子があるものの,妻子のもとを出奔するおそれもあるから,逮捕の必要性に合理的根拠が欠如しているとも認められない。

被控訴人の主張に対する判断


被控訴人は,本件警察官らが,合理的根拠なく本件逮捕状請求及び本件逮捕を行った旨主張するところ,A子は,本件性行為時,既に17歳9か月であり,以後3か月を待たずに18歳になること,A子は,被控訴人と性行為を持つより前に,性行為の経験を有していたこと,被控訴人とA子が数回の食事などのデートを重ねて性行為に至ったことなどを本件警察官らが把握していたと認められるし,証拠(甲1,30ないし37,44,原審証人C,原審被控訴人本人)及び弁論の全趣旨によると,本件警察官らが,A子やA子の母から事情聴取をすれば,本件警察官らが既に収集した証拠資料により把握していた事実以外にも,A子が被控訴人に対し悩みを話したり相談したりして,自然に惹かれていき,お互いの感情を伝え合い,
映画やドライブなどの数回のデートを重ねて,
性行為に至ったことや,性行為を持った後もドライブや映画に行くなどのデートをし,ホテルに行った帰りに食事をすることもあり,2人でディズニーランドに行くという約束もしていたことが明らかになったと認められる。
しかし,被控訴人がどのような内心の意思でA子との本件性行為に至っているかは,被控訴人の供述のみから判断すべきではなく,他の客観的な事実関係をも基礎にすべきところ,被控訴人は,少なくともA子の母らから暴力を受ける際までは,妻と離婚するつもりがなかったというのであり(甲37の16頁),A子との交際は,被控訴人の妻に知られるとか,A子の親に知られて(そのとおりの事実が生じた)反対されると,それに抗してでも婚姻するつもりが被控訴人にはなかったものと窺われるのであり,その意味で,この交際は,被控訴人にとって真剣度の乏しいものであったといわざるを得ない。現に,被控訴人とA子は,初めてのデートをしてから性行為に至るまでの期間は1か月余り(実際には約2週間程度)と長くはないし,被控訴人とA子が性行為を持った後もドライブや映画に行くなどのデートをし,ディズニーランドに行く約束をしていても,被控訴人がA子の歓心を買って関係を継続するために行っていたにすぎないとみることも可能というべきで,前記説示のとおり,被控訴人が所詮A子を自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められない場合に当たると本件警察官らが判断したことに,合理的根拠が欠如しているということはできず,この点についての被控訴人の主張は採用できない。


被控訴人は,本件警察官らがいん行についての正しい定義を理解していなかったと主張するところ,a署所属のCの原審証人尋問中には,被控訴人とA子が真剣に付き合っていても結婚するつもりがなければ第2形態の性行為に該当するとの認識をCが有していた旨述べている部分がある。
しかし,Cの証言には,真摯な交際が認められていれば問題ないと思う旨をいったんは述べている部分(原審証人C24頁から25頁)や第2形態の性行為であるかは被控訴人がA子に対して一時的な遊び友達である旨話していたことなどを総合的に判断したと述べる部分(同8頁から9頁)等もあり,Cにおいて,被控訴人とA子が真剣に付き合っていても結婚するつもりがなければ第2形態の性行為に該当するとの認識を有していたかには疑問がある上,そもそもCは,被控訴人やA子の供述をはじめ,その他の客観的な事実関係等も総合考慮し,被控訴人の本件性行為が第2形態の性行為に当たると判断したと認められ,その判断が合理的根拠を欠いていると認められないことは前記説示のとおりであり,この点についての被控訴人の主張は採用できない。



被控訴人は,本件警察官らが,キャンペーン月間中のために検挙件数を挙げたいという動機から,本件逮捕状請求及び本件逮捕を行った旨主張するが,これを認めるに足りる証拠はなく,被控訴人の主張は採用できない。


被控訴人は,本件被告事件において無罪判決を得ている旨主張する。しかし,本件無罪判決は,昭和60年大法廷判決から20年以上が経過し,結婚のあり方や成人男女の出会いと交際,結婚生活や同棲生活,離婚に対する考え方や意識等も大きく変化し,多様化している状況下の判決であり,時代の変化や価値観の多様化等を前提にすれば,真摯な交際でないというためには,
現在の社会通念から見て
結婚を前提としない
ことだけで決めるのは難しいとした上で,被控訴人とA子との本件性行為について,第2類型の性行為というには,なお相当な疑問が残ると言わざるを得ないとしており(甲1),時代の変化を踏まえた上で事実のあてはめを示しているというべきである。しかし,本件性行為は,結婚を前提としないものである上,被控訴人には第2子を妊娠中の妻と子供がおり,被控訴人には妻と別れる意思は全くなく,両者の付合いや性交渉はいずれも被控訴人による誘いをきっかけとしているほか,前記説示のとおり,両者の年齢,性交渉に至る経緯,両者間の付合いの態様等を勘案すると,
本件無罪判決の考え方とは異なり,
本件性行為については,
第2形態の性行為に当たるとのあてはめをする余地は十分にあったというべきであるから,本件警察官らのそのような判断に合理的根拠が欠如しているといえないことは明らかで,この点についての被控訴人の主張は採用できない。



被控訴人は,本件について,A子の母親らが被控訴人から金員を恐喝しようとしたができず,その腹いせとしてA子の親らがA子に暴力を振るって無理に告訴をさせた旨主張する。しかし,本件条例は青少年の健全な育成を阻害するおそれのある行為を防止し,
もって青少年を保護し,
その健全な育成に寄与することを目的として定められ,その中で本件規定が設けられており,その違反の罪は親告罪でもないから,被控訴人の上記主張が本件規定違反の罪の成否を左右することはなく,この点についての被控訴人の主張は採用できない。


まとめ
したがって,控訴人県所属の本件警察官らの本件逮捕状請求及び本件逮捕に違法性はないから,この点について,控訴人県が被控訴人に損害賠償義務を負うことはない。

4
本件勾留請求及び本件勾留状執行の違法性の有無について


控訴人国所属の本件副検事の本件勾留請求及び本件勾留状執行に違法性がなく,この点について,控訴人国が被控訴人に損害賠償義務を負わないことは,後記のとおり原判決を補正するほかは,原判決33頁から38頁までの5に記載のとおりであるから,これを引用する。



原判決の補正
原判決37頁19行目の

認められない。

を以下のとおり改める。

認められないし,前記説示のとおり,そもそもこれらの事実を把握していたとしても,被控訴人の本件性行為を第2形態の性行為に当たると判断したことが合理的根拠を欠いているとは認められない。


5
本件公訴提起の違法性の有無について


判断基準
標記については,原判決38頁から39頁までのに記載のとおりであるから,これを引用する。
すなわち,検察官の公訴の提起は,刑事事件において無罪の判決が確定したというだけで直ちに違法となるものではなく,公訴提起時における証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば違法性はないが,検察官が現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑がない,つまり有罪判決を期待し得る合理的な根拠が客観的に欠如しているのに,
公訴を提起した場合には違法と解するのが相当である。
本件副検事が把握していた事実



標記については,原判決39頁から43頁までのイ及びウに記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,同43頁13行目から23行目までを削除する。)。
すなわち,本件副検事は,本件公訴提起に際し,本件勾留請求時までに把握していた事実(引用に係る原判決34頁から36頁までのイ)のほか,以下の①ないし⑤の事実を把握していたと認められる。すなわち,①被控訴人が勾留質問で,自己の性欲を満足させるだけの目的でというのは違っており,互いに恋愛感情をもっていた等を供述していたこと,②準抗告申立書には被控訴人とA子が互いに恋愛感情を抱いており,A子の母の内縁の夫が被控訴人に対し,約20発の殴る蹴るの暴行を加え,被控訴人の勤務先を訪れて暗に金銭を要求した等の記載があること,③本件各警察官調べでは,被控訴人がA子をホテルに誘ったところ,A子がこれに応じたのでホテルに行ってA子と性行為を持ったが,被控訴人には妻も子供もいるためA子とは結婚するつもりはなかった等を供述していたこと,④本件各副検事調べでは,被控訴人に恋愛関係って,どういうものなの?などと質問したが,被控訴人は妻と別れるつもりはなく,A子と結婚するつもりもなかったと供述したこと,⑤本件副検事が17歳であるにもかかわらず,私と彼女との間に淡い恋愛関係が生まれたことから,妻子があり,妻が妊娠しているにもかかわらず,彼女の若さに惹かれてセックスしたのですと整理したところ,被控訴人が確認した上で,供述調書に署名・押印したこと。
違法性の有無



判断
前記によれば,前記3で説示したとおり,高校生(17歳9か月)のA子よりも10歳以上年長で,妊娠中の妻と1歳の子供を有し,妻と別れてA子と婚姻する意思はない被控訴人が,職場のアルバイト高校生で被控訴人との性行為を伴う交際が被控訴人の妻との関係で違法となること等の意味を十分に理解していないA子と初めてのデートをしてからわずか1か月余り(実際には約2週間程度)で性行為に至り,本件性行為までの2か月弱の間で少なくとも4ないし5回(実際には8回)の性行為を持っていると認められ,被控訴人とA子とが普通の恋人同士の関係あるいは男女の真剣な交際関係にあるとはいえず,社会通念上は被控訴人がA子を専ら性行為のための一時の遊び友達として扱っていると判断される蓋然性が高いから,本件副検事が,本件性行為について,青少年(A子)を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような場合(第2形態の性行為)に当たると判断したこと(有罪と認められる嫌疑)に合理的根拠が欠如しているとは認められない。

被控訴人の主張に対する判断


被控訴人は,本件副検事が有罪判決を期待し得る合理的根拠が客観的に欠如しているのに,公訴を提起した旨主張する。
しかし,前記3イのとおり,A子との性行為を伴う交際は,被控訴人にとって,妻に隠れてのものであって,妻やA子の親に明るみになって反対されれば終わることになるような真剣度の乏しいものであること,他方でA子は,被控訴人の職場のアルバイト高校生で,上記交際の社会的・法的意味を十分に理解していないこと,交際開始から性行為に至るまでの期間は短いこと等からすると,被控訴人が,ドライブや映画に行き,ディズニーランドに行く約束等をしたのも,A子の歓心を買って関係を継続するためにすぎないと窺われるのであり,A子の年齢が18歳に近いことや性経験があることを考慮しても,前記説示のとおり,被控訴人がA子を自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められない場合に当たると本件副検事が判断したことに,有罪判決を期待しうる合理的根拠が欠如しているということはできず,この点についての被控訴人の主張は採用できない。


被控訴人は,本件副検事がいん行についての正しい定義を理解し
ていなかったと主張するところ,これを具体的に認めるに足りる証拠はない。



被控訴人は,本件副検事が,キャンペーン月間中のために公訴提起を行った旨主張するが,これを認めるに足りる証拠はなく,被控訴人の主張は採用できない。



被控訴人は,本件被告事件において無罪判決を得ている旨主張する。まず,前記3イのとおり,本件無罪判決は時代の変化を踏まえた上でのあてはめの判断を示しているというべきである。しかし,本件性行為は,結婚を前提としないものである上,被控訴人には第2子を妊娠中の妻と子供を捨てる意思は全くなく,被控訴人とA子との付合いや性交渉はいずれも被控訴人による誘いをきっかけとしているほか,前記説示のとおり,両者の年齢,性交渉に至る経緯,両者間の付合いの態様等を勘案すると,本件性行為については,第2形態の性行為に当たるとのあてはめをする余地は十分にあったというべきであるから,本件副検事のその旨の判断に合理的根拠が欠如しているといえないことは明らかで,この点についての被控訴人の主張は採用できない。



まとめ
したがって,控訴人国所属の本件副検事の本件公訴提起に違法性はないから,この点について,控訴人国が被控訴人に損害賠償義務を負うとは認められない。

6
本件各警察官調べの違法性の有無について
本件各警察官調べに違法性がなく,この点について,控訴人県が被控訴人


に損害賠償義務を負わないことは,
後記のとおり原判決を補正するほかは,
原判決47頁から49頁までの7に記載のとおりであるから,これを引用する。
原判決の補正



原判決48頁5行目の前記のとおりから8行目の認められ,まで
を削除する。
7
本件各副検事調べの違法性の有無について
ア

被控訴人は,本件副検事が,本件副検事調べにおいて,被控訴人の言い分を一切取り合わず,その弁解を供述調書に記載しなかったから,被控訴人の人格権,自己決定権を蹂躙し,違法である旨主張するが,裁量権の範囲を逸脱した違法なものといえないことは,後記イのとおり原判決を補正するほかは,原判決49頁のに記載のとおりであるから,これを引用する。


原判決の補正


原判決49頁15行目の上記原告のから16行目のせず,ま
でを削除する。


ア

同49頁16行目の前記7と同様に,を削除する。
被控訴人は,本件副検事が,上記と異なり,一覧表2の№7ないし1
2の各書類につき②①の部分の調書作成に関する主張(原告)欄に
記載のとおり,
被控訴人の意に反する本件被疑事実に沿う文言を作文して,
妻がいるのだから真剣な付合いのはずがないなどと理詰めで追及するなどして,これに署名・指印させたものであるから,被控訴人の人格権,自己決定権を蹂躙するものであり,違法である旨主張するので,次項以下で検討する。

刑事訴訟法198条1項は,検察官が犯罪の捜査について必要があるときは,被疑者の出頭を求め,これを取り調べることができると規定しているところ,取調べにおける検察官の言動については,被疑者が被疑事実を否認している場合においてその取調べに当たって行われる検察官の被疑者への説得行為その他の言動は,取調べ対象事件の内容・性質,取調べ時点における証拠関係の下での取調べの必要性等の諸事情を勘案し,取調べを行う上で合理性があり,かつ,社会通念上相当性を欠くと認められるものでない限り,許容されるというべきである。また,取調べをする検察官には,取調べ方法の選択・実施について,裁量が認められていると解され,取調べの技術として,理詰めの尋問自体は,合理的な必要性がある限り許され,理詰めの尋問であるというだけでは直ちに被控訴人の供述の自由などの被控訴人の権利利益を侵害することになるわけではない。

本件ついて,引用にかかる原判決3頁から9頁までの前提事実のほか,証拠(甲34ないし37,44,原審証人D,原審被控訴人本人)及び弁論の全趣旨によれば,①被控訴人は,本件各副検事調べにおいて,本件副検事に対し,A子と互いに恋愛関係を持っていたと供述したこと,②本件副検事は,被控訴人に,恋愛関係って,どういうものなの?,恋愛関係といっても濃淡があるよね?,妻子と別れてもいいと言うくらいの,熱烈な恋愛関係だったの?などと質問したところ,被控訴人は妻と別れるつもりはなく,A子と結婚するつもりもなかったと供述したこと,③本件副検事が,被控訴人に対し,A子との関係が真摯なものであったといえないのではないかと投げかけたところ,被控訴人がさらに具体的にA子との恋愛感情について供述しなかったこと,④本件副検事は,被控訴人は被疑事実を認めるものと判断し,
事実はそのとおり間違いありません
(一覧表2の№7),17歳であるにもかかわらず,私と彼女との間に淡い恋愛関係が生まれたことから,妻子があり,妻が妊娠しているにもかかわらず,彼女の若さに惹かれてセックスしたのです(同№8・9),真摯な付き合いではありません(同№10),

A子とセックスするについて,正直言って専ら自分の性欲を満たすためだけだと言われても,やむを得ません。

(同№11),

処罰については,素直に受けます。

(同№12)などと整理した本件各検面調書を作成したところ,被控訴人は,本件各検面調書の内容を確認した上,いずれも署名・指印をしたものと認められる。
また,原判決3頁から9頁までの前提事実のほか,証拠(甲34,35,原審証人D,原審被控訴人本人)及び弁論の全趣旨によれば,本件副検事は,あらかじめ被控訴人に対し,自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げ,被控訴人の供述した内容を,被控訴人の面前で口頭でまとめて述べ,検察事務官がこれを入力して録取した上,印刷して被控訴人に手渡して読ませながら,
本件副検事がパソコンの画面で読み聞かせたところ,
内容に誤りがないことを確認し(平成18年10月3日の取調べにおいては,誤記・誤字・脱字について,被控訴人の確認を受けながら増減変更した。),これらに署名・指印することを求め,被控訴人はいずれもこれらに署名・指印をしたことが認められる。

前記5(前記3も含む。)で説示したとおり,本件被疑事件において,高校生(17歳9か月)のA子よりも10歳以上年長で,妊娠中の妻と1歳の子供を有する被控訴人が,A子と初めてのデートをしてからわずか1か月余り(実際には約2週間程度)で性行為に至り,その後も本件性行為までの2か月弱の間で少なくとも4ないし5回(実際には8回)の性行為を持っている上,被控訴人においてA子と婚姻する意思はないと述べていることからすると,被控訴人とA子とが普通の恋人同士の関係とはいえず,被控訴人がA子を専ら性行為のための一時の遊び友達として扱っているとの判断をすることが合理性を欠くということはできない。
ところが,
被控訴人が,A子とは恋愛関係にあると供述するので,本件副検事は,恋愛関係又は真摯な交際が妻との関係等と矛盾するのではないか
との質問をしたのであるから,これらの質問は当然のことというべきであり,
取調官の裁量としても合理的かつ社会的相当性の範囲内と認められる。そして,一覧表2の№7ないし12については,被控訴人が前記のとおり内容に誤りがないことを確認した上で署名・指印していることも踏まえると,被控訴人が本件副検事からの上記取調べや指摘にいったんは納得した上で署名・押印したと認められ,被控訴人の人格権又は自己決定権を蹂躙するものとはいえず,違法性があるとは認められない。


まとめ
したがって,控訴人国所属の本件副検事の本件各副検事調べに違法性はないから,この点について,控訴人国が被控訴人に損害賠償義務を負うとは認められない。

第4

結論
以上によれば,
被控訴人の請求は,
いずれも理由がないから棄却すべきところ,

これと異なる原判決の控訴人ら敗訴部分を取り消し,上記部分の被控訴人の請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事第1部

裁判長裁判官

岡光民雄
裁判官

片田信

裁判官光吉恵子は,転補のため署名押印することができない。

裁判長裁判官

岡光民雄
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