判例検索β > 平成23年(う)第7号
住居侵入、強盗強姦、強盗致傷(認定罪名 住居侵入、強盗強姦)被告事件
事件番号平成23(う)7
事件名住居侵入,強盗強姦,強盗致傷(認定罪名 住居侵入,強盗強姦)被告事件
裁判年月日平成23年5月26日
裁判所名・部広島高等裁判所  第1部
結果破棄自判
原審裁判所名広島地方裁判所
原審事件番号平成22(わ)522
原審結果その他
判示事項の要旨裁判員裁判対象事件である住居侵入,強盗強姦,強盗致傷(認定罪名 住居侵入,強盗強姦)被告事件について,控訴審において,懲役11年に処した一審判決の量刑が重過ぎるとし,量刑不当の主張を認め,一審判決を破棄し,懲役8年に処した事例
裁判日:西暦2011-05-26
情報公開日2017-10-13 01:35:35
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主文
原判決を破棄する
被告人を懲役8年に処する
原審における未決勾留日数中90日をその刑に算入する。
理由
本件控訴の趣意は,弁護人佐藤邦男作成の控訴趣意書並びに被告人作成の意見書(控訴についての考え)及び控訴趣意書補充書(意見書(2))に記載されているとおりである(なお,弁護人は,被告人作成の意見書(控訴についての考え)及び控訴趣意書補充書(意見書(2))については,控訴理由として,事実誤認及び量刑不当を主張するものであり,被害女性方に侵入した最大の目的はわいせつ行為を行うことであり,帰宅した被害女性から金品を強取する目的はなく,被害女性に対して行った振る舞いはすべて演技であり,強姦の意思があったに過ぎなかったのに,これらを積極に認定した原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があり,また,被告人において,反省や被害女性に対する謝罪の気持ちを持っていることなどからすると,原判決の量刑は重過ぎて不当であると主張するものであると釈明した。)から,これらを引用する。
1
控訴趣意中,事実誤認の主張について
論旨は,被告人が被害女性方に侵入した目的は,第1次的にはわいせつ目的であり,被害女性が帰宅した以後,被告人には金品窃取の目的はなく,強盗の故意もなかったにもかかわらず,被告人が第1次的には空き巣を遂行しようと考えていたと推認し,帰宅した被害女性に対し,わいせつ行為の目的とともに,金品を奪う目的,すなわち,強盗の故意をもって,暴行脅迫を加え,更に強姦を決意し,被害女性を強姦したと認め,原判示の住居侵入強盗強姦の事実を認定した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある,というのである。
そこで,記録を調査し,検討する。

(1)

関係証拠によれば,被告人は,本件当時,ワンルームマンションを狙った,
いわゆるピッキングによる空き巣を繰り返すことによって生計を立てており,本件時も,ピッキング用の道具を持参して被害女性方へ行き,留守であることを確認した上で玄関扉を解錠して侵入し,内側から施錠した後,被害女性方のたんすの引き出しを開け,クローゼットの扉を開けるなどして物色していること,被害女性が帰宅するかどうかは被告人には分からなかったことが認められ,そして,被告人は,5分ないし10分程度後に帰宅して居間兼寝室にやって来た被害女性に対し,上半身に抱き付くなどし,抵抗する被害女性ともみ合ったが,

静かにせえ。暴れるな。金を出せ。

殺すぞ。」と繰り返し言い,ベッドマットレスに被害女性をうつぶせに押さえ付け,針金やクラフトテープを用いて両腕を後ろ手に縛り,クッションカバー等を頭に被せて目隠しをし,被害女性が抵抗できない状態にし,さらに,

金を出せ。財布はどこだ。キャッシュカードの暗証番号は何番だ。うそを言っても分かるぞ。

などと言い,被害女性が財布はかばんの中にある旨答えると,かばんの置き場所を尋ね,被害女性が玄関先にある旨答えるや,すぐに玄関先にかばんを取りに行き,その中を確認したものの,財布が見つからなかったことから,

財布がないじゃないか。

などと被害女性に文句を言い,被害女性が車の中かもしれないと答えた後,被害女性に対するわいせつ行為を始め,原判示の姦淫行為にも及んだことが認められる。
これらの事実によれば,被害女性方に侵入した際の被告人は,第1次的には被害女性方の住人に見つからずに空き巣を遂行しようとしていたものと推認でき,この日も,生活費を稼ぐため,被害女性方へ空き巣に入ったとの被告人の検察官調書(原審検乙1)における供述は,この推認と符合するものであり,十分信用でき,被告人は,金品窃取目的で被害女性方に侵入したと認定でき,また,被告人は,帰宅した被害女性に対し,わいせつ目的のみならず,金品を奪うという強盗目的で暴行脅迫を加えたと認めるに十分である。
(2)

所論(事実取調べの結果に基づく弁論を含む。)は,①被告人は,相当長
時間被害女性方にいたにもかかわらず,実際に金品を奪取しておらず,また,当時の被告人には貯えが二,三百万円ほどあり,はした金のために強盗までするようなことは絶対になく,②被告人は,被害女性の抵抗を抑え,また,過去に住居侵入窃盗強盗致傷,強盗強姦未遂,強盗強姦,銃砲刀剣類所持等取締法違反の罪により懲役9年の刑に処せられた前科があり,強盗は割りに合わず,絶対にしてはならない犯罪であると思っており,わいせつ目的という下心を隠し,他で行っていたピッキングによる窃盗とは異なる犯行態様を装い,自身が本件の捜査対象者にならないようにするため,被害女性に対してあたかも強盗であるかのように振る舞うことで,強盗強姦犯人を装ったものである旨主張し,被告人も,原審ないし当審公判廷において,これらの所論に沿う供述をしている。
しかし,①については,原判決が金品を奪う目的で暴行脅迫を加えたかについてと題する項4及び5に適切にその認定,判断を説示しているとおりであり,財布が車の中にあるかもしれないと聞いた被告人において,通行人等に顔を見られる危険を冒してまで,財布等を取りに行くようなことはせず,他に被害女性方にめぼしい金品も見当たらなかったために何も奪取しなかったものと見て何ら不自然,不合理ではなく,当時の被告人は空き巣によって生計を立てていたものであり,被告人の貯えに関する事情は,金品を奪う目的で暴行脅迫を加えたという認定とそもそも矛盾するものではなく,被告人において,わいせつ目的のみならず,金品を奪う目的も有して暴行脅迫を加えたとの認定は左右されない。②については,前記(1)に認定したとおり,被告人は,被害女性を抵抗できない状態にした後も,金を出せと言うなどし,財布の所在にこだわり,目隠しをされていた被害女性がその様子を見ることなどできないにもかかわらず,実際に玄関先にかばんを取りに行き,かばんの中を確認したりしているのであり,これらの振る舞いが被害女性の抵抗を抑えるためであった
という主張を採用する余地はない。また,被告人は,原審公判廷においては,被害女性に対する前記(1)の言動の理由として,自身が本件の捜査対象者とならないよう,強盗強姦犯人を装うためのものであったなどとは全く述べていない一方,被害女性の抵抗を一段階下げるために強盗の演技をしたと供述するほか,わいせつ目的を隠し,恥ずかしさを隠すためであった,あるいは,被害女性にわいせつ目的と思われるのが嫌だったからであるなどと供述している(なお,これらの供述が採用できないことは,原判決が金品を奪う目的で暴行脅迫を加えたかについてと題する項4(3)に説示しているとおりである。)上,ほかに何か特に心残りな点はないかと質問され,物を取る気持ちが少なかったのに,それに反する内容を調書に書かれたことだけが心残りであると述べているのであり,原審公判廷では,気持ちの整理がついておらず,一番大事なところを言うことができなかったのであるとの当審公判廷における被告人の供述も,到底納得できるものとはいえず,のみならず,所論ないし所論に沿う被告人の供述を前提にすると,被告人は,当時自身の前科も踏まえた上で,自身が本件の捜査対象にならないよう,強盗強姦犯人を装ったということになるが,むしろ,捜査機関には自身の前科と同じ犯行を犯したと受け止められることになるのであり,不可解というしかなく,しかも,強盗について,割に合わないから絶対にしてはならない犯罪だと思っていたというにもかかわらず,被害女性に強盗と解されるように振る舞ったということになり,やはり不可解であり,不自然,不合理に過ぎ,警察の捜査が自身の身辺に及ばないように強盗強姦犯人を装ったとする被告人の当審公判廷における供述を採用する余地はない。以上のとおりであり,その他所論が主張するところにかんがみ,検討しても,被告人が,金品窃取の目的で,被害女性方に侵入したこと,帰宅した被害女性に対し,わいせつ目的のみならず,強盗の故意をもって暴行脅迫に及んだことを含め,原判示の事実を認定し,住居侵入強盗強姦罪の成立を認めた原判決に事実の誤認はない。

論旨は理由がない。
2
控訴趣意中,量刑不当の主張について
論旨は,被告人の反省態度や謝罪を全く考慮せず,被告人を懲役11年に処した原判決の刑の量定は不当である,というのである。
そこで,記録を調査し,検討する。
本件は,金品窃取の目的で,被害女性方に侵入し,帰宅した当時28歳の被害女性に対し,金品を強取するとともに,わいせつな行為をしようと考え,

静かにせえ。殺すぞ。金を出せ。

などと言い,被害女性をうつぶせに押さえ付け,両腕を後ろ手にして緊縛するなどし,その反抗を抑圧し,かばん内等を物色したものの,金品を発見できなかったため,強盗の目的を遂げなかったが,さらに,強姦しようと決意し,反抗を抑圧された被害女性の衣服を脱がすなどして強姦し,その際,一連の暴行により,被害女性に加療約2週間を要する傷害を負わせた住居侵入強盗強姦の事案である。
原審では,裁判員が参加して審理,判決がされ,一般市民の視点及び感覚,健全な社会常識を量刑事実の評価,判断に反映させ,適切な刑を量定することが期されたものであり,原判決は,被告人の刑を重くする事情として,犯行に計画性が認められること,卑劣かつ執ようで極めて悪質な犯行であること,被害結果が重大であり,被害女性の処罰感情の極めて強いことを特に考慮し,また,過去に同種犯罪を犯して懲役9年に処せられて服役したのに反省の機会を活かすことなく犯行に及んだことも相応に考慮し,被告人の刑事責任は重大であるといわざるを得ないとしているところ,これらの説示はいずれも正当である。すなわち,被告人は,被害女性方には若い女性が一人で暮らしていることを従前から把握しており,被害女性方に空き巣に入るため,ピッキング用の道具,室内を覗くための単眼鏡,指紋を残さないための手袋等を用意したのみならず,被害女性が帰宅した場合には,その抵抗を排除してわいせつ行為に及ぶことを企図し,針金まで用意しているのであり,住居侵入の犯行のみならず,条件付きとは
いえ,被害女性に対するわいせつ行為についても計画性が認められる。さらに,帰宅した被害女性に対し,その不意をついて襲い掛かり,「金を出せ。」「殺すぞ。」などと言い,うつぶせに押さえ付け,両腕を針金やクラフトテープで後ろ手にして縛り,頭にクッションカバー等を被せ,抵抗できない状態にし,金品強取の目的は遂げなかったが,身体に触るなどした後,強姦を決意して衣服を脱がすなどし,姦淫行為に及んだものであり,この間の暴行によって,被害女性は傷害を負わされているのであって,その態様は,被害女性の人格や尊厳を根底から無視した卑劣にして執拗なものであり,極めて悪質なものであり,犯行後,緊縛され,衣服を脱がされた被害女性を放置したまま,電話線を引きちぎるなどして逃走しており,被害女性の恐怖など顧みることなく,自身が確実に逃走するための行為に及んでいるのであり,この点でも悪質である。そして,犯行の動機は,自身の生計に当てる金品を得るため,自身の性欲を満たすためというものであって,酌量の余地がないことはいうまでもない。被害女性は,最も安心できるはずの自宅において,突然に予想だにしない被害に遭ったものであり,その身体的苦痛のみならず,精神的苦痛も相当に大きく,本件から7年以上が経過してもなお,日常生活の様々な場面において,本件による恐怖心を感じることがあるなど,被害結果は重大であり,被害女性が被告人に対する厳しい処罰を求めているのも当然である。しかも,被告人は,本件と同種である強盗致傷,強盗強姦未遂,強盗強姦の罪を含む罪により懲役9年に処せられ,長期間服役したことがあるにもかかわらず,その服役中に興味を持ったというピッキングの技術を用い,刑の執行終了後わずか2か月ほどにして,空き巣を行うようになり,職業的に空き巣を繰り返す中で本件犯行に及ぶに至っており,これらの点からすると,被告人の刑事責任は重大である。
しかし,他方で,原判決は,被告人の刑を軽くする方向に働く事情として,被害女性に対する損害賠償として,被告人及び被告人の父親が計106万円を支払ったことや,被告人を心配する被告人の母親の存在が更生の一助となることを考
慮したとしており,これらの説示も正当であるが,被告人が,被害女性を強姦し,その際に傷害を負わせたことなどについて事実を認め,謝罪文や反省文を作成し,原審公判廷においても反省の弁を述べていることを指摘するものの,被告人は,原審公判廷において,自身の刑事責任を軽くしようとして,被害女性方への侵入はわいせつ目的であり,金品を盗むつもりはなかったとも供述しており,また,被害女性に対する暴行脅迫等の際に金品を要求したのは演技であったなどと供述して強盗の故意を否定するなどしており,このような不自然,不合理な弁解及び供述態度に照らすと,その反省や謝罪が真摯なものであるとはいい難く,被告人の反省や謝罪の言葉は,本件の量刑上考慮するに値しないものといえるとしているところ,この判断には賛同し難い。
すなわち,被告人の強盗の故意を否定するなどの弁解は,前記1にも説示したとおり採用できず,その点では,不自然,不合理な弁解をしていると評価せざるを得ない。しかし,被告人は,本件の核心部分である強姦を行ったことについては,DNA鑑定結果等の決定的証拠を突き付けられるまでもなく,逮捕以降一貫して認めており,原審公判廷において,事後強盗の限度ではあるにせよ,強盗強姦罪の成立も争ってはおらず,それなりに事実関係を認めて反省の態度を示しているものと評価でき,上記弁解をしている供述態度から,被告人の反省や謝罪の言葉は量刑上考慮するに値しないとすることは,適切な評価であるとはいえない。のみならず,被告人は,本件と同種の罪を含む前科の刑の執行終了後,2か月ほど経ったころから,盗みを始めたこと(被告人の検察官調書(原審検乙4)),ピッキングの技術は,刑務所の中で興味を持ち,覚えようと思ったこと(被告人の原審公判供述)を供述しており,これらの事情については,いずれも被告人の供述以外に認定できる証拠がないのであり,被告人が敢えて自身に不利なこれらの供述をしていることも,その反省の顕れとして評価できるところ,原判決は,これらの供述に基づく認定を行い,被告人の刑を重くする事情として相応に考慮するものとしているのであり,その一方で,このような供述をしていることも含
め,被告人の反省や謝罪は量刑上考慮するに値しないとするものであって,適正な量刑判断を行っているとすることはできない。
そして,本件は,確定裁判のあった罪の余罪であって,有期懲役刑の長期が引き上げられた刑法改正前に犯された犯行であり,さらに,量刑に当たっては,行為責任を基本として公平の理念から,同種事案に対する従来の量刑を参照すべきであるところ,量刑判断は,個別,具体的な事情を総合考慮して行われるものであり,とりわけ,本件は,裁判員が参加して審理,判決がされたものであり,単純に従来の量刑との軽重を論じることはできないことはいうまでもないが,本件と同種事案である単独犯による住居侵入強盗強姦の事案に対する近時を含めた量刑傾向に照らしても,原判決の量刑は著しく重いといわざるを得ない。以上のとおりであり,前記のとおり,被告人の刑事責任は重大というべきであるが,他方で,被害女性に対し,損害賠償金の一部として,被告人において,86万円を支払っており,被告人の父親においても,20万円を支払っていること,被告人の反省の態度や謝罪も相応に評価すべきものであることのほか,被告人の母親が,社会復帰後の被告人を同居させ,監督する旨述べていることなどの被告人のために酌むべき事情に加え,同時審判を受けた場合との刑の均衡の観点から,既に刑の執行も終了した原判示の確定裁判があること,本件と同種事案についての量刑傾向を考慮すると,被告人を懲役11年に処した原判決の量刑は重きに過ぎるというべきである。
論旨は理由がある。
よって,刑訴法397条1項,381条により原判決を破棄し,同法400条ただし書により更に判決することとし,原判決の認定した罪となるべき事実及び確定裁判に原判決が挙示する法条(刑の変更の処理,科刑上一罪の処理,刑種の選択及び併合罪の処理を含む。)を適用し,その刑期の範囲内で,上記の諸事情に加えて,原判決後,被告人が,従前作成した謝罪文の内容が不十分なものであったとして,被害女性に対し,被告人なりに熟慮して改めて作成した反省文を送付するなど,反
省を深めていることも考慮し,被告人を懲役8年に処することとし,刑法21条を適用して,原審における未決勾留日数中90日をその刑に算入し,原審及び当審における訴訟費用は,刑訴法181条1項ただし書を適用して,被告人に負担させないこととし,主文のとおり判決する。
平成23年5月26日
広島高等裁判所第1部

裁判長裁判官

竹田
裁判官

野原利幸
裁判官

結城剛行隆
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