判例検索β > 平成19年(ワ)第4860号
損害賠償請求事件
事件番号平成19(ワ)4860
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日平成23年1月20日
裁判所名・部大阪地方裁判所  第7民事部
判示事項の要旨強盗致傷の罪で起訴されたものの無罪判決が確定するなどした原告らが,捜査及び公訴提起の違法性等を理由に国家賠償を求めた事案について,警察官による取調べが違法であったなどとして請求の一部を認容した事例。
裁判日:西暦2011-01-20
情報公開日2017-10-17 20:32:36
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主1文
被告大阪府は,原告Aに対し,330万円及びこれに対する平成16年8月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2
被告大阪府は,原告Bに対し,112万5000円及びこれに対する平成20年9月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3
被告大阪府は,原告Cに対し443万7500円及びこれに対する平成20年7月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4
被告大阪府は,原告Dに対し,318万7500円及びこれに対する平成20年5月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5
被告大阪府は,原告Eに対し,318万7500円及びこれに対する平成20年5月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6
原告らの被告大阪府に対するその余の請求及び被告国に対する請求並びに原告Aの被告大阪市に対する請求をいずれも棄却する。

7
訴訟費用の負担については,以下のとおり定める。

(1)

原告らの負担

原告ら及び被告大阪府に生じた費用の4分の3並び

に被告国に生じた費用の全部
(2)

原告Aの負担

(3)

被告大阪府の負担

第1
1
被告大阪市に生じた費用の全部


原告ら及び被告大阪府に生じた費用の4分の1
及び理由
請求
甲事件
被告らは,原告Aに対し,連帯して550万円及びこれに対する平成16年4月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2
乙事件
被告国及び被告大阪府は,原告D及び原告Eに対し,連帯して,それぞれ1426万5000円及びこれに対する平成16年6月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3
丙事件

(1)

被告国及び被告大阪府は,原告Cに対し,連帯して1684万5000
円及びこれに対する平成16年5月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)

被告国及び被告大阪府は,原告Bに対し,連帯して1800万円及びこ
れに対する平成16年5月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2

事案の概要

1
事案の骨子

(1)

平成16年(以下,平成16年については年の記載を省略することがあ
る。
)2月16日午後8時35分頃,大阪市a区bc丁目D番所在のマンションe
(以下本件マンションという。
)の南側路上(以下本件現場と
いう。において,

当時の大阪地方裁判所所長を被害者とする強盗致傷事件
(以
下本件事件といい,本件事件の被害者を本件被害者という。
)が発生
した。
原告らは,本件事件に関与したとして捜査の対象となった者である。(2)

原告A(平成2年2月22日生。
)は,児童福祉法(平成16年法律第1

50号による改正前のもの。以下同じ。
)25条本文にいう保護者のない児童又は保護者に監護させることが不適当であると認める児童(以下
要保護児童という。
)として児童相談所に通告されて一時保護を受け,本件事件に
ついて取調べを受けた後,児童自立支援施設に入所することとなった。甲事件は,原告Aが,被告大阪府及び被告国に対しては警察官及び検察官の違法捜査を理由として,被告大阪市に対しては大阪市中央児童相談所(以下市児童相談所という。
)の職員が警察による違法捜査に協力したことを
理由として,国家賠償法1条1項に基づき損害賠償を請求している事案である。
(3)

原告B(昭和62年3月29日生。
)と原告C(平成元年4月22日生。


は兄弟であり,両名は本件事件を被疑事実として逮捕・勾留され,中等少年院送致の決定を受けたが,後に非行事実なしとする判断が確定した。丙事件は,原告B及び原告Cが,被告大阪府及び被告国に対し,警察官及び検察官の違法捜査等を理由として国家賠償法1条1項に基づき損害賠償を請求している事案である。
(4)

原告D(昭和49年6月20日生。
)及び原告E(昭和52年10月31

日生。
)は,本件事件を被疑事実として逮捕・勾留・起訴されたが,後に無罪判決が確定した。
乙事件は,原告D及び原告Eが,被告大阪府及び被告国に対し,警察官及び検察官の違法捜査等を理由として国家賠償法1条1項に基づき損害賠償を請求している事案である。
2
前提事実(争いがないか証拠(甲1及び甲D10のほか後掲括弧内記載のもの。
)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお,証拠番号は特記しない限り枝番を含む。


(1)

本件事件の発生


2月16日午後8時35分頃,本件事件が発生した。


本件被害者は,同日,被害届を提出し,同月17日及び3月19日,被害状況に関する取調べを受け,供述調書が作成された。同被害届及び供述調書によれば,被害状況はおおむね以下のとおりである。
本件被害者が,本件マンションの南側にある東西方向の道路を西から東の方向へ歩いていたところ,約30m先にある本件マンションの入口付近に,年齢16歳から17歳くらいの男4人が立ち話をしていた。この男らは,
その後西方向に歩き始め,
いったん本件被害者の右側を通り過ぎたが,
その直後,赤色の上着を着た男が後方から本件被害者にぶつかり,同人をその場に転倒させた。赤色の上着を着た男は,本件被害者に対し,金を出せなどと言い,別の男も殺すぞと脅迫したため,本件被害者は,何をされるか分からないと思い,
財布からすべての紙幣
(6万3000円分)
を取り出し,赤色の上着を着た男に渡した。その後,男らは,小走りで東の方向へ逃げていった。
(以上につき,甲C1,3,4)
(2)

初期捜査
本件事件発生後,大阪府警察本部刑事部機動捜査隊と大阪府a警察署の合同捜査本部(以下捜査本部という。
)が同署内に設置された。捜査本
部は,2月19日,本件現場から約71m東にある民家に設置された防犯カメラ(以下本件防犯カメラという。
)を領置したところ,本件防犯カ
メラには,2月16日午後8時35分頃,4人の人物(黒色上着を着た者2人,白色上着を着た者1人,赤色上着を着た者1人)が一団となって西から東へ走り去る様子が映されており,捜査本部は,この4人が本件事件の犯人であると判断した。もっとも,本件防犯カメラの映像のみからは,犯人を特定することができなかった。
(甲A1からA4まで)


捜査本部は,本件事件が発生した頃に本件現場付近にいた人物に関する目撃情報について聞込み等の捜査を進めたところ,2月16日午後7時50分頃に本件現場近くにあるf鉄道g線h駅近くの踏切付近において恐喝未遂事件が発生していることを把握した(甲C8,9)
。当該事件の被害者
であるFは,赤色の服を着た者を含む年齢18歳から20歳までくらいの4人組が犯人であると供述した(甲C8,9)ことから,捜査本部は,Fの供述に基づき,犯人の1人である赤色の服を着た男の似顔絵(以下本件似顔絵という。)を作成した(甲B1)上,更に捜査を進めた(捜査本
部が,本件事件の犯人と上記恐喝未遂事件の犯人とが同一であると断定していたのか,同一である可能性があるという程度の前提で捜査を進めていたのかについては争いがあるが,上記恐喝未遂事件を以下便宜上前兆事案という。。)
(3)

原告Aに対する嫌疑
捜査本部は,本件似顔絵に似た男がいないか,捜査範囲を広げつつ聞込み捜査を行っていたところ,本件似顔絵に似た者を含む少年グループの存在を把握し,これにより,原告A,その兄であるG,Hほか数名が捜査線上に浮上した(なお,この間の3月10日から,捜査本部の指揮はI警部補(以下I警察官という。
)が執るようになった。。捜査本部は,これ

らの少年について補導歴を確認したところ,Jを被害者とする恐喝未遂等事件(以下J事件という。
)の存在を把握した。J事件は,Jが,平成
15年10月,G,Hらとともに万引きを敢行してi警察署に検挙され,その際,他の共犯者のことを供述したことから,後にG,H,原告A及び原告Bから脅されて金品を要求される被害を受けたというものであった。また,捜査本部が,J及びその母親に対し,本件似顔絵及び本件防犯カメラの映像を基に作成された写真を見せたところ,本件似顔絵及び同写真に写った赤色服の男は原告Aによく似ているとの供述を得た。
(以上につき,甲B11,甲C179)


捜査本部は,J事件に関する捜査に着手し,4月26日,J事件当時14歳未満であった原告Aを要保護児童として市児童相談所に通告した上,一時保護の委託(児童福祉法33条1項)を受けて取調べを開始した。さらに,G及びHについては,4月27日,両名を逮捕した上で取調べを開始し,原告Bについては,関与の程度が低かったことから,この頃,在宅で任意の取調べを開始した。
(甲B11,丁2)


市児童相談所においては,
上記イの通告を受け,
児童福祉司であるK
(以
下K職員という。
)が,同じく児童福祉司であるL(以下L職員と
いう。
)の統括の下,原告Aを担当することとなった(丁5)

(4)

Mの取調べ
捜査本部は,原告Aが属していた少年グループやその関係者に対する事情
聴取を進め,5月初め頃から,関係者の1人としてM(平成元年6月19日生)
を任意同行し,
J事件及び本件事件について取り調べたところ,
同人は,
自身が本件事件に関与したと供述し,5月18日には,原告A,原告B,原告C及び原告Eらもこれに関与していると供述した(甲C126から138まで)

(5)

原告B及び原告Cの取調べ
捜査本部は,5月19日,原告Bを任意同行して取り調べたところ,本件事件への関与を認めたため,
同日,
原告Bを逮捕した。
また,
原告Bは,
同日の取調べにおいて,原告Dが同事件に関与している旨供述した。原告Bは,5月20日,検察官による弁解録取において,原告A,原告B,原告C及び原告Dの4人が本件事件の犯人であり,原告Eの指示により犯行を敢行した旨供述し,裁判官の勾留質問においても,被疑事実に間違いはない旨述べた。
(以上につき,甲C60から72まで)


捜査本部は,5月20日,同月21日及び22日に原告Cを任意同行して取り調べたところ,本件事件への関与を認めたため,同日,原告Cを逮捕した。
原告Cは,5月23日,検察官による弁解録取において,本件事件の犯人として,原告A,原告B及び原告Dらの名前を挙げるとともに,自身も見張りとして関与していた旨供述し,裁判官の勾留質問においても,検察庁での弁解録取のとおりである旨供述した。
(以上につき,甲C98から107まで)


原告B及び原告Cは,その後の取調べにおいても,本件事件に関与した旨の自白を維持し(ただし,原告Cについては,見張りをしていたにすぎない旨の当初の供述を撤回し,自身も実行犯であった旨供述するに至った。,原告Bは6月8日に,原告Cは同月11日に,それぞれ大阪家庭裁)
判所(以下大阪家裁という。
)へ送致された。
(6)

原告D及び原告Eの逮捕から起訴までの経緯
捜査本部は,6月14日,原告D及び原告Eを逮捕し,取り調べたが,両名は犯行を否認した(甲C145,154)



原告Cは,6月17日,少年鑑別所での取調べにおいて,本件事件への関与をいったん否認したものの,その後再び関与を認めた。しかし,同月22日の取調べにおいて,再び犯行を否認し,同月24日の取調べでは,黙秘するようになった。
(甲C124,200の49頁・64頁)


原告Aは,6月24日から同月30日までの取調べにおいて,原告B,原告C,原告D及び原告Eが本件事件に関与している旨供述するに至った(甲C37から43まで)
。また,原告Aは,同日,児童自立支援施設であ
る大阪市立N学園(以下,単にN学園という。
)に入所した(丁2の8
6頁)



原告Bは,
7月2日,
自身の少年審判において本件事件への関与を認め,
大阪家裁は,原告Bにつき中等少年院送致の決定をした(甲D1)。


検察官は,7月5日,大阪地方裁判所(以下大阪地裁という。
)に対
し,原告D及び原告Eを本件事件で起訴した(同裁判所における裁判手続を以下刑事第1審という。。

公訴事実の要旨は,
被告人両名(原告D及び原告E)は,原告B,原告C及び原告Aと共謀の上,通行人を襲って金員を強取しようと企て,平成16年2月16日午後8時35分頃,本件現場において,徒歩で帰宅途中の本件被害者に対し,原告Aが本件被害者の後方から体当たりして同人を路上に転倒させる暴行を加え,さらに,被告人D(原告D),原告A,原告B及び原告Cがこもごも本件被害者の周りを取り囲んで「金出せ。殺すぞ。などと脅迫してその反抗を抑圧し,同人から現金約6万3000円を強取し,その際,上記暴行により,同人に対し,入院加療51日間,その後通院加療約3か月間を要する骨盤骨折の傷害を負わせた。というものであっ」
た。
(7)

判決等
原告D及び原告Eについて
刑事第1審においては,原告A,原告B及び原告Cが証人として尋問されたが,いずれも自身の犯行を否認するほか,原告D及び原告Eの関与も否定した。
大阪地裁は,平成18年3月20日,原告D及び原告Eに対し,無罪判決を言い渡した(甲1,D13)

検察官は,上記判決を不服として大阪高等裁判所(以下大阪高裁という。
)に控訴したが,同裁判所は,平成20年4月17日,控訴棄却の判決を言い渡し(甲D10)
,同年5月2日,上記無罪判決が確定した(同裁
判所における裁判手続を以下刑事控訴審という。。



原告Bについて
原告Bは,中等少年院送致の決定(前記(6)エ)に対して抗告したが,大阪高裁は,9月9日,抗告棄却の決定をした(甲D2)
。原告Bは最高裁
判所に対して再抗告をしたが,同裁判所は,10月21日,これを棄却した(甲D3)

付添人らが保護処分取消の申立てをしたところ,大阪家裁は,平成20年2月28日,保護処分取消決定をした(甲D8)
。検察官はこれを不服と
して抗告受理申立てをしたが,大阪高裁は,同年9月17日,抗告を棄却するとの決定をした(甲D12)



原告Cについて
大阪家裁は,平成18年3月23日,原告Cにつき中等少年院送致の決定をした
(甲D4)これに対して付添人らが抗告したところ,

大阪高裁は,
原告Cに犯人性は認められないとして破棄差戻しの決定をした(甲D6)。
差戻し後の大阪家裁は,原告Cの犯人性を否定し,不処分決定をした(甲D7)ところ,検察官は大阪高裁に対し抗告受理申立てをした。大阪高裁は,
審理不尽との理由により再度の破棄差戻し決定をした
(甲D9)
ため,
付添人らはこれを不服として最高裁判所に再抗告したところ,
同裁判所は,
平成20年7月11日,上記破棄差戻し決定を取り消し(甲D11),これ
により,上記不処分決定が確定した。
(8)

刑事補償等


原告Bは,平成21年4月30日付けで,797万5000円の少年補償決定を受けた(甲D33)



原告Cは,平成21年1月29日付けで,96万2500円の少年補償決定を受けた(甲D40)



原告D及び原告Eは,平成20年10月15日付けで,それぞれ311万2500円の刑事補償決定を受けた(争いのない事実)


3
争点
国家賠償法1条1項にいう違法とは,公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背することをいう(最高裁判所昭和60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁参照)。したがって,本件の争点は,被告らに属する公務員が各原告に対する関係で上記法的義務に違背したと認められるか否かであり(なお,被告大阪市については原告Aに対する違法のみが問題となる。),具体的には以下のとおりである。

(1)

被告大阪府関係
全原告共通
捜査本部は,客観的証拠を無視するなどして原告らを対象とする捜査を違法に継続したか。

原告A関係

(ア)

捜査本部が原告Aを市児童相談所に通告したことは別件逮捕・勾留
に準じる違法なものであったか。
(イ)

市児童相談所における原告Aの取調べは任意取調べの限界を超える
違法なものであったか。
(ウ)

N学園における取調べは脅迫を伴う違法なものであったか。

原告B関係

(ア)

原告Bの取調べは暴行・脅迫等を伴う違法なものであったか。

(イ)

捜査本部が原告Bを逮捕し検察官に送致したことは違法か。

(ウ)

少年鑑別所における原告Bの取調べに違法があったか。


原告C関係

(ア)

原告Cに対する任意同行は実質的な身体拘束に至る違法なものであ
ったか。
(イ)

原告Cの取調べは暴行・脅迫等を伴う違法なものであったか。

(ウ)

捜査本部が原告Cを逮捕し検察官に送致したことは違法か。


原告D関係

(ア)

捜査本部が原告Dを逮捕し検察官に送致したことは違法か。

(イ)

原告Dの取調べは暴行・脅迫等を伴う違法なものであったか。


原告E関係

(ア)

捜査本部が原告Eを逮捕し検察官に送致したことは違法か。

(イ)

原告Eの取調べは暴行・脅迫等を伴う違法なものであったか。

(2)

被告国関係


原告A関係

(ア)

捜査本部が原告Aを市児童相談所に通告することを,検察官が了承
したことは違法か。
(イ)

原告Aが市児童相談所で長期間取調べを受けていることに対して措置を講じなかったことは違法か。
(ウ)

検察官による原告Aの取調べは違法か。

原告B関係

(ア)

検察官が,捜査本部による原告Bの逮捕を了承し,勾留請求をし,
勾留延長請求をしたことは違法か。
(イ)

検察官が原告Bを家庭裁判所に送致したことは違法か。

(ウ)

検察官が保護処分取消請求手続において原告Bの犯人性を主張し,
取消決定に対して抗告受理を申し立てたことは違法か。

原告C関係

(ア)

検察官が,捜査本部による原告Cの逮捕を了承し,勾留請求をし,
勾留延長請求をしたことは違法か。
(イ)

検察官が原告Cを家庭裁判所に送致したことは違法か。

(ウ)

検察官が少年審判において原告Cの犯人性を主張し続けたことは違
法か。
(エ)

検察官が,中等少年院送致決定に対する抗告審等で原告Cの犯人性
を主張したことは違法か。また,その後の差戻審の決定に対して抗告受理を申し立てたことは違法か。

原告D及び原告E関係

(ア)

検察官が,捜査本部による原告D及び原告Eの逮捕を了承し,勾留
請求をし,勾留延長請求をしたことは違法か。
(イ)

検察官が原告D及び原告Eを起訴したことは違法か。

(ウ)

検察官が刑事第1審において公判を維持したことは違法か。

(エ)

検察官が刑事第1審判決に対して控訴を提起・追行したことは違法
か。
(3)

被告大阪市関係
市児童相談所は原告Aに対する警察の違法な取調べを違法に放置したか。イ
市児童相談所が原告Aの取調べに担当職員を立ち会わせなかったことは違法か。


市児童相談所は原告Aと保護者との面会を違法に妨害したか。


市児童相談所は専ら取調べ目的のため違法に一時保護期間を延長したか。
(4)
4
損害

争点に関する当事者の主張
別紙当事者の主張記載のとおり。

第3
1
争点(1)(被告大阪府関係)に対する判断
争点(1)ア(捜査本部は,客観的証拠を無視するなどして原告らを対象とする捜査を違法に継続したか)について

(1)

客観的・中立的証拠の無視
本件防犯カメラの映像について

(ア)

原告らは,本件防犯カメラに映された犯人の体型に照らすと,原告
Dは犯人ではあり得ないところ,捜査本部が,こうした客観的証拠が存在するにもかかわらず原告Dを犯人に含めた供述証拠に信用性を認め,原告らを対象とした捜査を継続したことは違法であると主張する。そこで,以下,本件防犯カメラの映像により原告Dの犯人性が客観的に否定されるか否かについて検討を加える。
(イ)

本件防犯カメラは,本件現場から東方へ約71メートルの地点に設
置されていたものであり,本件現場から同防犯カメラの設置地点までは途中に分かれ道がない一本道である(甲A4)。本件事件が発生した2月16日午後8時35分頃,本件防犯カメラによって,4人の人物が一団となって東方へ走り去る様子が撮影されており,本件被害者の供述と対照させると,この4人が本件事件の犯人と認められる。
しかし,本件防犯カメラの映像は鮮明なものとはいえず,そこに映っている人物の身長や体型が具体的に明らかであるとはいえない。刑事第1審の審理の過程でも,本件防犯カメラに映っている人物の身長につき複数の鑑定書が提出されているが,
それぞれ分析結果が異なり
(甲A5,
7,10),原告Dの体型等とも矛盾しない旨の意見も出されているところであるし,刑事控訴審で取り調べられた鑑定書によれば,本件防犯カメラに映された4名の身長は,原告A,原告B,原告C及び原告Dの身長と矛盾しないと推定される(甲D10)。
各鑑定書で採用された鑑定方法は何らかの仮定を施した上で本件防犯カメラに映された人物の身長を推定するものであるから,そこに一定の誤差が生じることはやむを得ないところであり,いずれの鑑定方法が相当かという問題はあるにせよ,鑑定方法のうち特定のものが明らかに不合理であると認めるに足りる証拠もない。そうすると,捜査段階で本件防犯カメラの映像を解析していたとしても,原告らの犯人性が客観的に否定されるとはいい難く,本件防犯カメラの映像を根拠にして,捜査本部が原告らを対象とする捜査を継続したことが違法とはいえない。イ
本件被害者の供述について

(ア)

原告らは,本件被害者が本件事件の犯人につき年齢16歳∼17歳くらいの高校生風の少年4人と供述していたこと(甲C2)から,2月16日当時,身長183㎝・体重86㎏の29歳であった原告Dが犯人であることはあり得ないと主張する。
(イ)

しかし,本件被害者は,刑事第1審においても,犯人の人相や体型
等について明確に記憶しておらず(甲C203の8・9頁)
,赤い上着を
着た人物が1人いたという点は確実にいえるものの,その他については具体的に記憶していないと証言しており(同12頁)
,犯人が高校生くら
いの年齢であったと認識した根拠も明確なものではない(同3頁)。
このように,犯人の年齢や体型等に関する本件被害者の供述は曖昧なものであるから,同供述を根拠に原告Dの犯人性を否定することまではできないというべきである。

Fによる面通し

(ア)

原告らは,前兆事案の被害者であるFが,面通しの際,原告Aの犯
人性を否定しているにもかかわらず,捜査本部は,原告Aを犯人扱いし続け,原告Aが犯人の一人であることを前提とする少年らの供述を信用するに足りるものとして扱っており,違法であると主張する。
(イ)

しかし,Fは,刑事第1審の公判において,原告Aの面通しをした
際の印象について尋ねられ,
似てると思いますけども,違うと思いますという言い方をしたと思いますと証言しており
(甲C218の19頁)

面通しにおいて原告Aの犯人性を明確に否定したとは認められない。しかも,Fの作成に係る本件似顔絵を見たJ及びその母親は,似顔絵の人物が原告Aに似ている旨申し立てており(前記前提事実(3)ア),こう
した事情に照らせば,面通しの際のFの供述によって原告Aの犯人性が明確に否定されたことにはならないというべきである。
(2)

必要な捜査の懈怠
原告らは,捜査本部が,本件被害者による面通しをしなかったこと,原告
Aのアリバイ捜査をしなかったこと,自白した少年らの携帯電話の通話履歴に関する捜査をしなかったこと,以上の点を指摘し,捜査本部がこうした捜査を怠ったことは違法であると主張するので,以下検討する。

本件被害者による面通し
前記(1)イ(イ)のとおり,本件被害者は,本件事件の犯人について明確な記憶を有していなかったというのであるから,本件被害者による面通しを実施したとしても,犯人について有益な情報が得られたとは考えにくいところであり,捜査機関が本件被害者による面通しを実施しなかったとしても違法とはいえない。


アリバイ捜査
原告らは,原告Aには明確なアリバイが成立するところ,原告Aが捜査段階においてこれを明確に主張していたにもかかわらず,捜査本部はこれについて適切な捜査を怠ったと主張する。
そこで,以下,原告Aにアリバイが成立するか否か,捜査段階においてアリバイの成立可能性を主張していたか否かについて検討を加える。(ア)

アリバイの成否
平成17年2月9日,刑事第1審の第14回公判期日に証人として出頭したOは,おおむね以下のとおり証言した(甲C220)。
原告Aとは小学校・中学校時代の同級生であるところ,平成15年12月頃,原告Aが住んでいるマンションに引っ越し,その後,原告Aと交際するようになった。2月16日,バレンタインデーのチョコレートを渡すため,自宅から,原告Aと携帯電話によるメールのやり取りをし,午後7時55分,原告Aから,

了解!もういけるわ。おばはんおらんから,インターホンならしてな!

というメールを受信した。そこで,自宅を出て原告Aと会い,原告A宅の前の通路で2時間くらい話をした。


刑事第1審の第14回公判期日後の平成17年2月18日,O方の捜索がされ,同人が使用していた携帯電話が押収された。当該携帯電話に保存されていたメールデータの解析結果によれば,2月16日午後5時57分から午後7時55分までの間に8回,同日午後9時59分から午後10時32分までの間に4回,それぞれ原告Aの携帯電話からOの携帯電話に以下の内容の電子メールが送信されていた。(甲A14,19)
時刻

本文

17:57

ごめんなさい

18:19

了解

朝起きられへんかってん

明日こそは行くわ

なんしか,ごめんやけど,後でまたメール送るわ
19:35

ちょうど,今帰って来たところ

19:38

呼びに来てくれ

19:42

そう

19:48

悪い

1分待って

19:50

下か

上か

19:55

了解

もういけるわ

おばはんおらんから,インターホンな

らしてな
21:59

今日はどうもありがとう
おな

22:18

22:26

また,会

二人っきりで

わかった

しかもこんな遅くまで

二人っきりな

今週いけたら,一緒に学校いけへ

いけるんやったらやけどぉ

まかしといてぇ

じゃあ,今日はゆっくり寝て

明日,また

学校で喋ろぉ
22:32

じゃあね

おやすみぃ

このように,
原告Aは,
Oに対し,
2月16日午後6時19分に
了解なんしか,ごめんやけど,後でまたメール送るわ,同日午後7
時35分にちょうど,今帰ってきたところ,同日午後7時38分
に呼びに来てくれとの内容のメールをそれぞれ送信している。
これらのメールによると,Oが,外出中の原告Aに対して何らかの連絡を求める旨のメールを送信し,原告Aが,午後7時35分頃,自宅マンションに帰宅してOに連絡を取ったこと,その後,原告Aが午後7時55分まで自宅にとどまり,同時刻にOの来訪を求める連絡をし,午後9時59分頃には同人と別れたこと,以上の事実を推認することができる。
もっとも,以上のメールのやり取りから,2月16日午後7時55分頃に原告Aがその自宅付近でOと会った時点と,同日午後10時頃に原告AがOと別れた時点との間,両名が継続して面談していたことが当然に推認できるわけではなく,原告Aが本件事件を敢行することは時間的に不可能ではない。一方,その間に原告AからO宛てに送信されたメールがないことをも考慮すると,両名は,午後7時55分頃から9時59分頃まで,継続して面談していたことが一応推認されるというべきである。そして,前記Oの証言は,こうしたメールデータと整合するものであるから,その信用性は高いといえるのであって,原告Aにはアリバイが成立する可能性が高いというべきである。

この点について,被告大阪府は,2月16日午後8時頃から午後10時頃までの大阪市の気温は約5度,風速1.6∼3.7m/sであり
(甲B25)原告AとOが会っていたというマンションの通路は,,
外壁のない吹きさらしの通路である(甲B24)から,そのような気温の低い日に,風の当たるマンション通路で約2時間にわたって話をしていたということ自体不自然であると主張するが,原告Aのような中学生の年代の者が,寒い中戸外で長時間にわたって雑談することが著しく不自然とはいえないから,原告Aのアリバイを否定する理由にはなり難い。
また,被告大阪府は,Oが,原告Eの交際相手であったPから,原告Aが警察に捕まったと5月頃に聞き,2月16日のメールデータが残っていないか探してほしいと言われたので,前記メールデータを見つけ,Pに見せ,わざわざ残しておいたなどと証言していること(甲C220),これに対して,Pが,検察官の取調べにおいて,Oのメールデータについて全く言及していないこと(甲C184,215)からすると,原告AとOが2時間にわたって一緒にいたという事実経過は事後的に創作されたものと考えるべきであると主張する。なるほどPが供述調書中でOのメールデータに関して言及していない理由は明らかではない。とはいえ,それだけでは上記メールデータの客観的な証拠価値が左右されるとはいえず,原告Aのアリバイを否定する理由にはならない。
(イ)

アリバイ主張の有無
原告Aは,5月10日頃の取調べにおいて,バレンタインの少し後く
らいにOからチョコクッキーをもらったとの話をし,アリバイが成立する可能性を明確に伝えたと主張する。
しかし,捜査本部は,捜査の過程で名前が挙がったG,原告B,H等についてはアリバイ捜査を行っており,その結果,G及びHについてはアリバイの成立が認められ,捜査対象から外れている(甲C192の24頁,198の109頁,証人I16頁)。このことからすると,原告Aがアリバイを明確に主張し,捜査本部がこれを把握していながら,原告Aについてのみアリバイ捜査を行わない理由は見当たらない。
また,原告Aは,9月22日,刑事第1審公判で証人として証言した際も,2月16日のアリバイについては証言していない(甲C194の6頁)。この点について,原告Aは,本件訴訟で提出した陳述書において,Oとのメールの存在が客観的に明らかになっておらず,それが2月16日のことであったかもはっきりしなかったためであると供述しており(甲D25の20頁),Oと会った時期に関する原告Aの記憶は相当程度曖昧であったことがみてとれる。
さらに,原告Aの母親であるQは,市児童相談所において原告Aと数回面接しているところ(甲C217の17頁),平成17年1月23日になって初めて,原告Aのアリバイの有無を確認する趣旨で,Oに2月16日夜の行動を尋ねたと供述している(甲C222の1頁)。このように,Qが平成17年1月に至るまで2月16日夜の行動をOに確認していないことからすると,原告Aは,平成17年1月以前には母親にもアリバイの成立可能性を伝えていなかったと考えるのが自然である。この点について,Qは,市児童相談所で面会した際にも,原告Aから,2月16日にOと話をしていた可能性があるとは聞いていた旨供述している(同4頁)が,この時点でOと面識があったと供述しながら(同頁),同人がどこに住んでいるか分からず,特に探すようなこともしていないとも述べており(同5頁),アリバイの成立可能性を聞かされた母親の行動としては不自然といわざるを得ず,Qの上記供述はにわかに信用し難い。
以上検討したところからすると,原告Aが捜査段階においてアリバイを主張していたことを認めるに足りる証拠はないといわざるを得ず,捜査機関において,明確な主張のないアリバイを捜査する義務があるとはいえないから,捜査本部が原告Aのアリバイ捜査を怠ったということはできない。

携帯電話の通話履歴の捜査
原告らは,
獲得された供述証拠には携帯電話によるやり取りが頻繁に登
場するにもかかわらず,捜査本部は携帯電話の通話履歴等の照会をしておらず,そのことが原因となって原告らを対象とする捜査が不当に継続されたと主張する。
しかし,後に入手された携帯電話の通話記録(甲B16から18まで)
からは,原告らの犯人性を否定するような記録はうかがえない。確かに,原告Cが使用していた携帯電話の通話記録(甲B17)によると,犯行の約6分前の午後8時29分から原告Aの携帯電話と21秒間通話していることが認められ,
犯行直前はほぼ同一の場所にいたとする原告Cの供述
(甲
C117の6頁)と整合しないのではないかという疑問を差し挟む余地がある。とはいえ,犯行現場付近で待機している際,近い距離にある共犯者同士が携帯電話で連絡をとることがあり得ないとまではいえず,原告らの犯人性を否定するほどの証拠とはいえない。
したがって,こうした通話記録の照会をしなかったことが原告らを対象とする捜査を不当に継続させる原因となったとの原告らの主張は理由がない。
(3)

供述の信用性評価の誤り
原告らは,捜査本部がMの供述を信用できるものとして扱い,これを根拠
に原告らを対象とした捜査を継続したことは違法であると主張する。しかし,Mの供述には変遷がみられ,その証拠評価上の位置づけは捜査の進捗状況によって一様ではないというべきであるから,その信用性については,個別の原告との関係で,問題となる時点ごとに判断するのが相当である。そこで,Mの供述の信用性については,後記2以下において必要に応じて判断することとする。
(4)

原告Aに対する違法捜査
原告らは,原告Aに対する違法捜査が原因となり,結果として原告ら
全員が長期間にわたって捜査の対象とされたとして,原告Aに対する違法捜査は原告ら全員との関係で違法になると主張する。
この主張については,原告Aに対する捜査が違法であったか否かを判断することが前提となるから,後記2においてこれを検討した後,必要に応じて判断することとする。
2
原告A関係(争点(1)イ)

(1)

争点(1)イ(ア)(捜査本部が原告Aを市児童相談所に通告したこと
は別件逮捕・勾留に準じる違法なものであったか)について

原告Aは,捜査本部が児童福祉法25条に基づき原告Aを市児童相談所に通告し,児童相談所長に一時保護の措置を講じさせた(同法33条)ことが実質的な別件逮捕・勾留に当たり違法であると主張する。


別件逮捕・勾留とは,いまだ逮捕状・勾留状の発付を請求し得るだけの乙事実(本件)の証拠がそろっていないにもかかわらず,専ら乙事実について被疑者を取り調べる目的で,既に証拠がそろっている甲事実(別件)について逮捕状・勾留状の発付を受け,同事実に基づく逮捕・勾留に名を借りて,その身体拘束を利用し,乙事実について逮捕・勾留して取り調べるのと同様の効果を得ることを狙いとして乙事実の取調べを行うことをいい,このような別件逮捕・勾留は,逮捕状又は勾留状の発付を請求し得るだけの証拠のない本件の取調べのために別件による逮捕・勾留を
利用する点で,令状主義を潜脱し違法であると解される。

他方,原告Aが問題とする児童福祉法に基づく一時保護と刑事訴訟法に
基づく逮捕・勾留とを比較すると,以下のような違いがある。
(ア)

逮捕状の請求は捜査機関の判断に委ねられている(刑事訴訟法19
9条)のに対し,児童福祉法25条に基づく通告は,要保護児童を発見した者の義務とされている。それゆえ,逮捕状・勾留状を請求する場合においては,逮捕・勾留の必要がない被疑事実についてあえて逮捕状・勾留状を請求するといった事態が発生し得るのに対し,要保護児童を発見した場合においては,通告の必要性がないのにあえて通告するといった事態は観念できない。
(イ)

逮捕状の請求を受けた裁判官は,明らかに逮捕の必要がないと

認めるとき以外は逮捕状を発付するとされており(刑事訴訟法199条2項ただし書),身体拘束の必要性に関する第1次的判断は捜査機関に委ねられている。これに対して,要保護児童の通告を受けた児童相談所長は,必要があると認めるときに一時保護を加えることができるとされており(児童福祉法33条1項),児童の福祉に関する判断には児童心理学等の専門的な知見が必要とされることに鑑みれば,児童に一時保護を加えるか否かの判断は,児童相談所長の合理的な裁量に委ねられていると解され,捜査機関が一時保護を捜査のために利用することは必ずしも容易ではない。
(ウ)

逮捕・勾留された被疑者については,引き続き捜査機関が取調べ等
を行うことができるが,
児童相談所に通告された要保護児童については,
児童相談所による調査が開始されることになり,一時保護中の要保護児童について警察官による取調べを許すか否かも児童相談所長が裁量によって決定することになるため,一時保護措置がされたとしても,警察による取調べの機会が確保される保証はない。
(エ)

逮捕・勾留は被疑事実を単位としてされるのに対し,児童相談所に
対する通告は要保護児童についてされ,一定の非行事実を単位として行われることは必ずしも予定されていない。要保護児童の通告を受けた児童相談所においては,当該要保護児童及びその家庭につき,必要な調査並びに医学的,心理学的,教育学的,社会学的及び精神保健上の判定を行い,当該要保護児童にどのような措置を採るかを決定しなければならない(児童福祉法15条の2第1項2号,26条1項)のであって,そのためには当該児童について広く調査を行うことが不可欠である(同法26条2項参照)。そうであるとすれば,たとえ通告者において要保護児童を認知した契機が一定の非行事実であったとしても,そのことによって児童相談所長の調査の範囲が同非行事実の範囲に限定されることはないと解される。

上記ウのような相違点に照らせば,児童福祉法に基づく一時保護を逮捕・勾留に準じるものとみて,別件逮捕・勾留に類する違法が生じるとする原告Aの主張には理由がないというべきである。

(2)

争点(1)イ(イ)(市児童相談所における原告Aの取調べは任意取調
べの限界を超える違法なものであったか)について

長期間に及ぶ取調べ

(ア)

原告Aは,市児童相談所における一時保護期間が長期間に及び,その間,警察による取調べを連日受けた上,市児童相談所の職員の立会いが常時あったわけでもないことから,原告Aは実質的な身体拘束状態にあったとし,こうした状態で行われた取調べは違法であると主張する。しかし,児童福祉法上の一時保護が刑事訴訟法上の逮捕・勾留とその性格を異にするものであることは,一時保護開始の要件が必要があると認めるときと規定されるにとどまり(同法33条1項),児童相談所
長の裁量に委ねられていると解されることや,期間制限の定めの違いからも明らかである。また,原告Aの取調べは,市児童相談所の要請を受けてその時間が制限されている上,取調べにおいて職員が立ち会うことも許されていたのである(甲2,丁2の17頁)から,逮捕・勾留された被疑者に対する取調べと同視することはできず,一時保護期間が長期化しているからといって事実上の身体拘束状態にあったとみるのは相当でない。したがって,原告Aの上記主張には理由がない。
(イ)

もっとも,一時保護は飽くまで児童の福祉のためにされる措置であ
り,これを専ら犯罪捜査等に利用することは予定されていないというべきであるから,その目的を離れ,専ら取調べ目的で利用されている場合(この場合の取調べには,要保護児童を認知する契機となった非行事実に関する取調べも含まれる。)には,当該一時保護は違法となり,それを利用してされた取調べもまた違法となるというべきである。
ただし,一定の非行事実が疑われる要保護児童について,児童相談所において当該非行事実に係る証拠収集等を行うことは容易ではなく,児童相談所独自の調査のみに委ねることにしたのでは,当該要保護児童に対する措置を決定するに当たって正確かつ十分な情報が得られず,適切な措置を選択することが困難になるおそれがあるばかりか,当該要保護児童を家庭裁判所に送致するとの判断をした場合(児童福祉法26条1項1号,27条1項4号,32条1項参照)において,必要な証拠が収集されないままに送致され,家庭裁判所における審理に支障を来すおそれもある。そうであるとすれば,警察による調査を児童相談所の調査に役立てるという観点から,児童相談所において,当該要保護児童について相当な範囲で警察による取調べを認めることは許容されると解されるから,単に取調べの時間が長いという外形的事実のみをもって,一時保護が専ら取調べ目的で利用されていると判断するのは相当でない。警察に対してどの程度の取調べを認めるかは,取調べの対象となる非行事実の内容,犯情等のほか,当該非行事実の存否及び内容を明らかにすることが当該要保護児童に対する措置を決定するに当たりどの程度の重要性を持つかといった観点から,児童相談所長が合理的な裁量によって決定するほかなく,一時保護が専ら取調べ目的で利用されているか否かを判断するに当たっては,こうした裁量権の存在も念頭に置く必要がある。これを本件についてみるのに,原告Aは,平成15年11月20日にも占有離脱物横領行為を行ったことにより児童相談所に通告されており,これについては在宅指導が試みられたが効果が得られず
(丁2の86頁)

再び恐喝未遂(J事件)という非行行為を行ったのであるから,保護者に監護させることが不適当といえ,要保護児童に該当する。そして,市児童相談所は,4月21日,a警察署から,原告Aについて恐喝未遂(J事件)の他に強盗致傷(本件事件)の疑いがあり,本件事件について自供させた上で市児童相談所に通告する予定であるが家庭裁判所に送致することは可能かという問合せを受け,通告後の措置は児童相談所において判断すると回答するなど(丁5),原告Aの本件事件への関与の有無について関心を抱いていたと考えられること,本件事件は強盗致傷事件という重大なもので,しかも非行少年グループによる犯行が疑われており,原告Aがこれに関与したか否かは,原告Aに対する措置を選択するに当たって重要な考慮要素になると考えられること,刑事第1審において大阪地裁からされた照会に対する市児童相談所の回答書には,平成16年6月4日,6月24日,7月7日の3回に分けて,a警察から追送書類として強盗致傷事件に関する本児の自供書の送付を受けたが,措置時点ではあいまいな内容の域を出ず,事由の付加とは認識していないと記載されており(丁2の86頁),原告Aに対する措置を決定するに当たって,
本件事件への関与の有無が実際に考慮された形跡があること,
市児童相談所は,取調べは平日のみに制限し,5月11日以降は原告Aの学習時間確保の観点から取調べの時間を午後のみに制限するなど(丁2の17頁)警察による取調べを最優先させているわけではないこと,,
以上のことを考慮すると,市児童相談所長において,原告Aが本件事件に関与しているか否かの調査を警察による取調べに委ねたことは,その合理的な裁量の範囲で行われた措置といえ,一時保護が専ら取調べ目的で利用されているということはできない。
なお,原告Aは,市児童相談所における処遇方針(児童自立支援施設への入所)は5月20日の段階で決定しており,それ以降の一時保護は本来的な必要性が認められないかのように主張するが,同日時点においては市児童相談所としての処遇方針が決定したにすぎず,原告Aやその保護者に処遇方針を説明して説得し(丁2の21頁・22頁),N学園と入所日を調整するといった手続は残されており,一時保護の必要性が消滅したとはいえない。また,大阪地裁からの照会に対する上記回答書には,上記記載に続けて,当所としては既に平成16年5月20日の所内協議で処遇方針を決定しており,その後もその方針の変更の必要性を認めなかったとの記載があり,場合によっては処遇方針を変更することも考えられていたことがうかがわれ,5月20日以降に本件事件に関する警察の取調べを認めていたからといって,一時保護が専ら取調べ目的で利用されているとはいえない。
そして,その後一時保護期間は延長されているが,これが専ら取調べ目的でされたものとはいえず適法であることは後記第5の4記載のとおりである。
(ウ)

よって,原告Aに対する一時保護は適法で,その間にされた取調べ
が,一時保護期間中にされたものという理由で違法になることはない。もっとも,こうした長期に及ぶ取調べは,当時14歳の少年であった原告Aにとって,相当な精神的・心理的圧迫となったものと推測されるから,後記イにおける取調べの違法性を判断するに当たっては,このことを十分に考慮する必要がある。

取調べにおける暴行・脅迫・誘導

(ア)

取調警察官等
原告Aの取調べは,R巡査部長(以下R警察官という。
)が,S巡

査部長(以下S警察官という。
)を補助者として行った(丙3)

(イ)

供述の概要
原告Aは,当裁判所における当事者尋問及び陳述書(甲D25)にお
いて,取調べの態様につきおおむね以下のとおり供述している。

5月6日に行われたa警察署での取調べでは,R警察官が,Gがおっさん蹴ってるやろ,お前が蹴ったんかなどの質問を繰り返し,分からないと答えても信用されず,質問は終わらなかった。
夕方頃に自供書を作成することになったが,何を書けばいいのか分からずにいると,R警察官が机をたたいたり蹴ったりしてきた。R警察官が,普段親しくしている友人は誰かを尋ねてきたので,兄のGやHの名前を挙げたところ,じゃあそいつらとやったんちゃうかな
どと言われ,言われるがままに自供書(甲C11)を作成することになった。


5月7日の取調べでも,被害者の身長や犯行時刻等につき,R警察官の誘導に話を合わせる形で自供書(甲C12)を作成した。
また,この日は,G及びHが犯行を認めているとも告げられた。

5月10日の取調べは,
市児童相談所職員の立会いがなかったため,
午前中から厳しい取調べがされた。R警察官から,強く机をたたかれたり蹴られたりしたため,同警察官の話に合わせるようにして,午前中のうちに自供書(甲C13)を作成した。


5月13日,L職員の立会いの下,取調べを受けていると,R警察官から部屋の外に連れ出され,L職員を退席させるよう命じられたため,やむなく,L職員に対し,明日からは立会いはいいですと伝
えた。


5月14日,取調べに対して答えられずにいると,R警察官から,分からんのやったら立っとけと命じられ,直立の姿勢で何時間も
立たされた。また,その状態でペンを投げつけられ,拾えと命令
されたり,髪の毛をつかまれたりした。
この日は,I警察官からの取調べも受けたが,同警察官からは,
お前がちゃんと犯人を言えなければ,お前の友達を片っ端から逮捕すると脅された。

5月17日,
R警察官から,
誰が犯人なのかを延々と聞かれたため,
分からない,Mが嘘をついていると答えたが,R警察官を納得させることはできず,髪の毛を引っ張られたり,胸ぐらをつかまれて窓にたたきつけられたりした。


5月21日の取調べでも,R警察官から厳しい取調べを受けたが,犯人は分からないと言った。


5月24日はJ事件について現場検証が行われたが,現場検証が終わると,そのまま車で本件現場まで連れて行かれた。そして,何の説明もないまま無理矢理指差しの姿勢をとらされ,写真を撮られた。i
5月25日,R警察官から,施設には絶対に行かせない,家族のもとに戻してやるなど虚偽の利益誘導がされた。

5月26日,R警察官の前日の言葉を信じ,同警察官の言うとおりに本件現場の地図を書き,僕はこの地図を書いた所を通ったことがありますとの自供書(甲C16)を作成した。5月27日にも同旨の自供書を作成した。


5月28日,相変わらず犯人の名前が言えなかったため,本件現場に連れて行かれることになった。


6月15日には,本件事件に関する新聞記事を見せられた。


6月17日以降の取調べは,さほど厳しいものではなかったが,早く認めてしまった方が楽だと思い,何とか警察官の求める自供書を作るようにした。


6月28日,R警察官から,お前がここで言わんかったら,Nに行っても取調べはまだ続くし,N出てもまた逮捕して取調べしたるからななどと言われた。(ウ)

供述の信用性と取調べの違法性の検討
原告Aは,刑事第1審において,取調べ時に警察官から脅されたものの具体的にどのようなことを言われたかは覚えていないと証言しながら(甲C194の15頁・77頁),本件訴訟においては,お前がちゃんと犯人を言えなければ,お前の友達を片っ端から逮捕する,
お前がここで言わんかったら,Nに行っても取調べはまだ続くし,N出てもまた逮捕して取調べしたるからなと言われたなどと具体的に供述しているが,
このように具体的な言葉で脅迫されたのであれば,
刑事第1審で証言した時点において覚えていないというのは不自然であるし,本件訴訟においてこれを思い出した理由も不明である。
また,刑事第1審では,暴行を加えたのがどちらの警察官だったか覚えていないと証言しながら(甲C194の80頁),本件訴訟においては,R警察官からペンを投げつけられた,髪の毛をつかまれたり胸ぐらをつかまれたりしたなどと供述している。仮に,本件訴訟で供述するような暴行を加えられていたのであれば,刑事第1審で証言した時点において暴行の主体を覚えていないというのもやはり不自然であるし,原告Aが市児童相談所において作成していた日記(丁4。以下本件A日記という。)に上記暴行に関する記載がないこと,市
児童相談所の職員に相談していないこと(原告A51頁)もまた容易に理解し難い。
さらに,原告Aの母親であるQは,原告Aから取調べで首を絞められたり窓に向かって立たされたりしたなどと聞いたとしながら,警察に対して何ら抗議をしておらず,弁護士等に相談するといった措置も講じていない(甲C217の27頁・45頁)。
以上のような事情は,原告Aの供述の信用性を減殺させるものであり,原告Aの供述する暴行・脅迫等の存在をそのまま認定することはできない。

しかしながら,一方で,市児童相談所作成の原告Aに係る児童記録(丁2。以下本件児童記録という。)をみると,5月10日の欄
には一時保護開始以来土日を除いて連日聴取が続いており警察署での聴取では机を蹴られたりするなど本児にとっての精神的ストレスは大変高い(17頁),5月18日の欄には聴取が連日続いており,本児が否認を続けるため刑事側の対応の厳しさが増している由。本児の話によると,5/17には刑事に頭髪をつかまれたとのこと。又,当所からの注意にもかかわらず,連日のように面接室から刑事のどなり声がひびき,他の面接室にまで聞こえている。(18頁)との各記載があり,上記(イ)c,fの供述と一致する。また,本件A日記にも,5月10日の欄にけいさつの人が机をどついたりけったりして僕にこれやったやろとか言うてきましたとの記載があり,これもまた上記(イ)cの供述に整合する。本件児童記録及び本件A日記は,本件訴訟とは無関係に作成されたものであり,虚偽の事実を記載する理由に乏しいといえ,これらの証拠は,原告Aの供述の信用性を高めるものといえる。
加えて,R警察官も,大声を出したことは認めていること(丙3)を考慮すると,原告Aの取調べは,大声で怒鳴る,机をたたいたり蹴ったりする,頭髪をつかむなどの行為を伴うものであったと認めるのが相当である。

また,原告Aの自供書には,僕はオヤジガリを1人ではしてません。理由は僕はお金にこまっていないからです。2人ではやってません。なんでかとゆうと1人が行くって言ってもう1人がいかんって言ったら話があわんからです。話があわんかったら1人で行くことになるからです。3人以上でやったと思います。理由は2人が行くって言って1人がいかんって言っても2人が行くことになったらもう1人もじゃあ俺も行くわって事になって話が合うからです。僕が思う3人以上は3人・4人・5人です。(甲C28),

僕の性格はすぐちょうしにのって,悪いことでも俺がやると言って,僕が一番最初にやります。このオヤジガリの件も仲間はおもいだされへんけどだれとおっても僕が一番最初にやると言ってやってると思います

(甲C29)といった不自然に理詰めで説明的な供述があるほか,前記1(2)イ(ア)のとおりアリバイが成立する可能性が高い原告Aが,最終的に本件事件への関与を認め,犯行態様等について本件被害者の供述とおおむね一致する供述をしていること(甲C45)からすると,取調べにおいて不相当な誘導がされたことが強く推認されるというべきである。
これに対して,R警察官は,取調べにおいて誘導はなかった旨証言しているが,アリバイが成立する可能性が高い原告Aがなぜ本件事件について詳細に供述することができたのかを説明することができないし,R警察官は,5月24日の引き当たり捜査において原告Aが任意に本件現場付近まで警察官を案内したと証言しながら
(証人R3頁)

それに関する捜査関係書類が何ら作成されていないなど不自然な点があり,その証言をそのまま信用することはできない。
(エ)

評価
以上のとおり,原告Aに対する取調べは,怒鳴り声をあげる,机をた
たいたり蹴ったりする,頭髪をつかむといった行為を伴うものであり,とりわけ原告Aが当時14歳の少年であったことを考慮すると,適切な配慮を欠いた不相当に威圧的なものであったといわざるを得ない。また,取調べにおいて誘導がされた点については,客観的事実と供述内容とが矛盾していたり,供述者において記憶が不確かになっていたりする場合において,これを補うために誘導をする必要があることは否定できないから,誘導があったことをもって直ちに違法とまではいえないが,迎合的になりがちな少年の取調べにおいては不当に供述を歪曲させないよう注意しなければならないのであって,原告Aが上記のとおり不自然に説明的な自供書を作成していることからすると,原告Aに対する誘導が許容可能な限度にとどまっていたとは考えられず,上記のとおり威圧的な取調べもされていることを考え併せると,原告Aに対する取調べは国家賠償法上違法であるというべきである。
(3)

争点(1)イ(ウ)(N学園における取調べは脅迫を伴う違法なもので
あったか)について
原告Aは,7月20日,N学園で取調べを受け,警察官から,翌日に行われる原告Cの少年審判で自白を撤回したら偽証罪で逮捕するなどと脅迫されたと主張する。
しかし,原告Aは,捜査段階の自白が虚偽のものであると証言した刑事第1審の証人尋問において,原告Cの少年審判で自白を維持した理由を尋ねられた際,前日の取調べで脅迫を受けたという説明はしておらず(甲C194の43頁),偽証罪になって逮捕されるかもしれないと刑事から脅されている,そういうことを言っていたが思い出したかという趣旨の弁護人からの質問に対しても,「はい。」と答えているものの,偽証罪になるぞと言われたのはいつの時期かという弁護人からの質問に対して明確に答えていない(同101頁)。これらの刑事第一審の証言内容からすれば,7月20日の取調べで上記のような脅迫があったことを認めるに足りる証拠はないというほかない。
3
原告B関係(争点(1)ウ)

(1)

争点(1)ウ(ア)(原告Bの取調べは暴行・脅迫等を伴う違法なもの
であったか)について

取調警察官
原告Bの取調べは,
4月28日から5月31日まではT警部補
(以下
T警察官という。
)が,6月1日以降はU巡査部長(以下U警察官とい
う。
)が,それぞれV巡査長(以下V警察官という。
)を補助者として
行った(丙3,6)



供述の概要
原告Bは,当裁判所における当事者尋問及び陳述書(甲D24)において,取調べの態様につきおおむね以下のとおり供述している。

(ア)

4月28日,J事件に関する取調べで警察に呼び出された際,約束
の時間に遅刻して警察署に到着したところ,エレベーターの中で,V警察官から,警察をおちょくっているのかなどと言われ怒鳴られた。J事件に関する取調べは4,
5日続いたが,
余罪について黙秘したとき等は,
V警察官から大声で怒鳴られたり,ファイルの角で頭を殴られたりした。T警察官からは怒鳴られることはなかったものの,V警察官の暴行を止めようとはしなかった。
4月30日には,親から同意をもらっていると言われ,ポリグラ
フ検査を受けた。
(イ)

5月19日,J事件について調書を作成するということで任意同行
された。調書作成は10分程度で終わったが,その後,T警察官から,何か隠していることはないか聞かれた。何を聞かれているか分からなかったので何もないと答えたが,同様のやり取りが30分ほど続いた。する
と,
T警察官が,
原告Aが自白し共犯者として自分の名前を挙げている,
ポリグラフに出ているなどと言ってきた。それでも知らないと言い続けたが,全く信用してもらえなかったので,何の事件について聞かれているかは分からなかったものの,認めたら早く帰ることができると思い,認めた。
その後,共犯者の名前を聞かれたので,既にT警察官の話に出ていた原告Aのほか,思いつくまま,G,H,原告C,原告D,原告Eらの名前を挙げた。被害者の年齢についても聞かれ,適当に40歳くらいと答えていたが,もう少し年配だろうなどと言われたため,60歳くらいということになった。現場の見取図(甲C61)については,地図を見せられたのでそれを真似て書いた。犯行時の服装についても,防犯カメラの映像を見せられながら書いた(甲C65)。
(ウ)

5月22日の取調べで,おそらくT警察官から,本当に原告Dが犯
人なのかときつく問いただされたため,代わりにWの名前を出した。(エ)

6月1日の取調べにおいて,U警察官から,Wは現場を満足に案内
できず犯人とは思えない旨言われた。それでもWが犯人の一人だと言い続けたが信用されなかったので,同月2日の取調べにおいて,仕方なくXの名前を出した。
しかし,同日夜の取調べで,U警察官から,Xが否認していると聞かされ,U警察官とV警察官に代わって取調室に入ってきたI警察官からも,
本当は原告Dが犯人ではないかと強く言われた。
最初は否定したが,
I警察官がいきなり机を持ち上げて床にたたきつけ,大きな音を出したので,怖くなって再び原告Dが犯人であると言い,自供書(甲C80)を作成した。
(オ)

警察署における取調べでは,毎日のように怒鳴られ,ファイルの角
で頭をたたかれたことが50回以上,椅子を蹴られたことが約10回,胸ぐらをつかまれて壁に押しつけられたことが約5回あった。移動中のエレベーターの中で脅されることもあった。
(カ)

6月8日に少年鑑別所に送致されたが,その1週間後くらいに見覚
えのない警察官が来て,本当に原告Dが犯人なのかと繰り返し聞かれたので,本当は現場にいたのは原告Eだったと言った。
すると,2日後くらいにI警察官が来て,何でいきなりEやと怒
られ,共犯者の名前を頻繁に変えると別の罪で再逮捕すると言われた。再逮捕されると再び取調べを受けることになるので,怖くなって直前の供述を撤回し,現場にいたのは原告Dだったと言った。

供述の信用性と取調べの違法性の検討

(ア)

原告Bは,原告Cの少年審判において証言した際には,5月19日
の取調べにおいて,怒鳴られたり,胸ぐらをつかまれたり,椅子を蹴られたり,ファイルの角で頭をたたかれたりしたため,怖くなって自白したと証言しながら(甲C192の20頁),刑事第1審においては,5月19日の取調べでは暴行はなく(同114頁),原告Aが自分の名前を出しており,ポリグラフに出ていると言われたため,答えようがなく自白したと証言し(同12頁),本件訴訟においては,前日に寝ていなかったことから精神状態が正常でなく,認めればすぐに終わるだろうと思ったことが一番の原因だったと供述しており(原告B22頁),自白するに至った理由について容易に説明し難い変遷がみられる。
また,本件訴訟においては,4月28日にエレベーター内でV警察官から怒鳴られたと供述しているが,こうした事実は刑事第1審での証言に表れていないだけでなく,本件訴訟において提出された陳述書にも明確には記載されていない。逮捕された後に移動中のエレベーター内で脅迫されたという点についても,刑事第1審で証言されておらず,留置場から取調室への移動にエレベーターは使用しないとのT警察官の証言(証人T5頁)とも整合しない。
そもそも,原告Bは,5月19日の時点で自白し,共犯者として原告A,原告C,原告D及び原告Eの名前を挙げ,犯行状況についても,2月16日から18日くらいの午後8時から9時頃,赤色の上着を着ていた原告Aとともに,本件マンションの南側道路を東方向に歩いていた60歳くらいの男性とすれ違い,その直後,原告Aがその男性に後方からタックルして倒し,近くで隠れていた原告C及び原告Dを加えて倒れた男性を4人で取り囲み,財布から金を取って東方向へ逃げたなど,おおむね本件被害者の供述に一致する供述をし,犯行当時の4人の服装についても,本件防犯カメラの映像と整合する供述をしているのであり(甲C60から69まで),5月20日以降,警察官において,暴行・脅迫を用いてまで原告Bから新しい供述を得る必要がどれだけあったのか疑問である(上記のとおり,原告Bは,本件訴訟において,同月19日の取調べでは暴行はなかったと供述している。)。
確かに,同月22日にいったん原告Dの関与を否定し共犯者としてWの名前を挙げ(甲C75),6月2日には再び原告Dの関与を肯定する(甲C80)など,従前の供述を変遷させ新たな供述をしている部分はあるが,5月22日にいったん原告Dの関与を否定した際の状況については,T警察官から本当に原告Dが犯人なのかときつく問いただされたためその関与を否定し,代わりにWの名前を出したと供述する(甲C192の42頁,196の31頁)のみで,暴行を受けたことが原因で供述を変遷させたとの説明はない。そうすると,毎日のように怒鳴られ,ファイルの角で50回以上頭をたたかれたなど,取調べにおいて頻繁に暴行を受けていた旨の原告Bの供述は,にわかにこれを信用することができない。
もっとも,
再び原告Dの関与を肯定するようになった経緯については,
U警察官から,Wの関与が疑わしい旨の説明を受け,いったんはXの名前を出したが,その後,I警察官が来て,机を持ち上げて床にたたきつけ,
大きな音を出すなどしたため,
怖くなって原告Dの名前を出した旨,
ほぼ一貫して供述しており(甲C192の44頁,196の40頁),その供述内容も具体的で迫真性のあるものといえるから,信用性が高いといえ,こうした取調べがされた事実が認められるというべきである。この点に関連して,U警察官は,6月2日の取調べにI警察官が関与していないかのように証言している(証人U21頁)が,反対趣旨の刑事第1審におけるI警察官の証言(甲C198の40から42頁)に照らし,信用できない。
(イ)

また,原告Bは,前記1(2)イ(ア)のとおりアリバイの成立す
る可能性が高い原告Aを共犯者として挙げ,原告Aが本件被害者にタックルしたと供述しており,この供述は原告Bが実際に体験したものではない虚偽の供述である可能性が高いというべきであるが,原告Bがこうした供述をするに至った理由を考えると,警察官から不当な誘導があったことが強く推認される。特に,5月19日の取調べにおいて,犯行当日の4人の服装を詳細に供述しているが(甲C65),3か月も前の日の服装を,自分のものだけでなく他人のものについてまで記憶しているというのは不自然であり,警察官による誘導・暗示を疑わせる。また,T警察官は,刑事第1審において,犯行を自白していない段階の原告Bに対し,本件現場を中心にしてコピーした地図を示し,その場所で本件事件が発生したことを告げ,何か知っていることはないかと尋ねたと証言しており(甲C201の6頁・31頁・74頁),こうした証言からも,原告Bの取調べにおいて不当な誘導があったことは否定できないというべきである。
(ウ)

以上のような取調べ方法は,原告Bが社会的に未熟な少年であった
ことを考えると,明らかに不適切であり,国家賠償法上違法であるというべきである。
(2)

争点(1)ウ(イ)(捜査本部が原告Bを逮捕し検察官に送致したこと
は違法か)について
上記(1)のとおり,警察官の原告Bに対する取調べは違法であったといわざるを得ず,こうした違法な取調べによって得た自白を疎明資料として逮捕状の発付を受け,これに基づいて原告Bを逮捕し,検察官に送致したことは国家賠償法上違法というべきである。
(3)

争点(1)ウ(ウ)(少年鑑別所における原告Bの取調べに違法があっ
たか)について
原告Bは,捜査本部が,6月16日及び同月18日,J事件に関して取調べを行うことについて家庭裁判所の許可を受けておきながら,実際には本件事件について取調べをしており,違法であると主張するが,そのような取調べがされたことを認めるに足りる証拠はなく(甲D32参照),原告Bの上記主張には理由がない。
4
原告C関係(争点(1)エ)
(1)

争点(1)エ(ア)(原告Cに対する任意同行は実質的な身体拘束に至
る違法なものであったか)について

任意同行が任意捜査にとどまるか,それとも実質的な身体拘束に至っているかは,警察官が同行を求めた時間・場所,同行の方法・態様,同行を求める必要性,同行後の取り調べ時間・方法,監視の状況,被疑者の対応等の諸般の事情を総合して判断するほかない。


この点について,原告Cは,5月20日から22日まで,被疑事実を告げられることなく,かつ,保護者の同行もないまま警察署に連行され,その後長時間にわたって取調べを受けることになり,同月20日の取調べでは原告Cが嘔吐したにもかかわらず,その後も取調べが継続されたといった事情を指摘し,このような任意同行は,実質的な逮捕と同視される違法な身体拘束であると主張する。


そこで検討するのに,警察官が原告Cを同行したのは,5月20日から22日までのいずれの日においても,午前9時頃であり,同行を求めた場所は原告Cの自宅であった
(甲C124,
195の8頁・19頁・28頁)

そして,原告C宅には母親のYがおり,警察官は,同人に対し,原告Cに聞きたいことがあるため警察署に来てもらいたい旨伝えている(甲C200の4頁・11頁・15頁,206の37頁・43頁)。午前9時という時間はさほど早い時間とはいえないし,保護者である母親がその場にいた以上,原告Cや母親が警察への同行を拒絶するか否かの自由が奪われていたとはいい難い。
また,任意同行後の取調べをみると,確かに5月20日及び同月21日の取調べは午前9時30分頃から午後7時頃まで行われており(甲C124)
,昼の休憩を挟むとはいえ,取調べが長時間に及んでいることは否めないし,取調室において警察官2人による取調べを受けることが,当時15歳であった原告Cに相当の精神的圧迫感を与えていたことは否定し難いところである。しかし,取調べが長時間にわたった翌日の任意同行の求めに対して,原告Cや母親が異議を唱えたり,苦情を申し入れたりすることなくこれに応じており(甲C191の11頁)
,同月20日の取調べで原告C
が嘔吐したことは当事者間に争いがないものの,原告Cに体調を確認した上,
大丈夫ですとの回答を得て取調べを継続したのであり(甲C200の10頁)少年に対する取調べとしてはいささか不適切な部分があるとは,
いえ,実質的な身体拘束に該当するものと認めるのは相当でない。(2)

争点(1)エ(イ)(原告Cの取調べは暴行・脅迫等を伴う違法なもの
であったか)について

取調警察官等
原告Cの取調べは,Z警部補(以下Z警察官という。
)が,Aa巡査
長(以下Aa警察官という。
)を補助者として行った(丙5)



供述の概要
原告Cは,当裁判所における当事者尋問及び陳述書(甲D24)において,取調べの態様につきおおむね以下のとおり供述している。

(ア)

5月20日午前9時頃,3人の警察官が自宅に来て,警察署まで任
意同行することになった。取調室では,取調べに当たる警察官2人がおり,その1人であるZ警察官が,お前やろなどと言ってきたため,訳が分からず,分かりませんと答えていたら,Z警察官は,Bもお前がやったっていうてるぞなどと言い,さらに,いきなり机をたたいてお前がやったんやなどと大声で怒鳴った。それでも訳が分からずにいると,Z警察官に髪の毛をわしづかみにされ,そのまま頭を左右に振られた。さらに,首をつかまれた状態で背中を壁に押しつけられ,おまえやなどと怒鳴られた。午前中の取調べが終わり,休憩時間を挟んでから再び取調べが始まった。取調べが再開されてすぐに嘔吐したが,取調べはそのまま継続された。
帰宅後,首をつかまれた痕が残っていたため,母親に暴行のことを告げた。母親は,警察に電話すると言っていたが,そうすると再び暴力を振るわれると思い,電話しないように言った。
(イ)

5月21日の取調べにおいても怒鳴られ,原告Bが自分の名前を出
しているなどと言われた。Z警察官の意に沿わないことをいうと,同警察官から紙を丸めたような物で頭をたたかれ,
違うやろ
と言われた。
Z警察官の言うことに話を合わせ,共犯者については示された写真の中から選び,警察官が下書きした地図を見ながら現場の地図を書いた。(ウ)

5月22日の引き当たり捜査では,前日の取調べの内容に合わせる
形で説明した。その後,警察署に帰って再び取調べを受けたが,やはりZ警察官から机をたたかれたり怒鳴られたりした。
(エ)

逮捕後の取調べでも,警察官に合わせる形で話をした。共犯者とし
てWの名前を挙げていたが,本当にWでいいのかと言われ,いったんはXの名前を出したが,違うだろうと言われて,最終的には原告Dの名前を出した。

供述の信用性と取調べの違法性の検討

(ア)

原告Cの上記供述と刑事第1審における証言(甲C195)を比較
すると,暴行に関する供述には以下のとおり変遷がみられる。
まず,暴行が始まった時期について,原告Cは,当裁判所において,任意同行の初日である5月20日の午前中から暴行を受けたと供述しているが,刑事第1審においては,午前中はきつい取調べはなかったものの,夕方くらいに嘔吐し,それから暴行を受けるようになったと証言している(甲C195の90頁,94頁)。
また,暴行の内容について,原告Cは,当裁判所においては,30㎝くらいの棒のような物でたたかれたとの供述をしているが,刑事第1審ではこうした証言はされていない。さらに,当裁判所においては,5月21日にも初日と同様の暴行があった(原告C36頁),首を絞められたことは何回かあった(同頁)と供述しているが,刑事第1審では,弁護人から

C君いいですか。首何回締められたの。あんた悔しいんやから,よう思い出してよ。ここで十分言うとかなあかんからね

と,十分に記憶を喚起して証言するよう念を押されているにもかかわらず,首を絞められたのは初日だけだった旨供述している
(甲C195の156頁)

暴行の主体についても,当裁判所では,専らZ警察官のみが暴行を加えていた旨供述し(原告C35頁),取調べ初日にZ警察官から首を絞められたときは他に警察官はいなかったとも供述している
(同6頁)
が,
刑事第1審では,Z警察官及びAa警察官の2人に首を絞められた(甲C195の153頁),髪をつかんだのはAa警察官だった(同157頁)などと証言している。
このように,原告Cの供述は,暴行の主体,時期,態様等について重要な部分が変遷しており,にわかに信用することができない。
(イ)

原告Cは,5月20日の取調べが終わって帰宅した際,首を絞めら
れた痕が残っていたことから,母親であるYにそのことを指摘されたため,取調べにおいて首を絞められるなどの暴行を受けたことを伝えたところ,母親は警察に抗議しようとしたと供述する。そして,母親は,刑事第1審において証人として出頭し,5月20日又は同月21日,警察から帰ってきた原告Cの首に紫色の内出血痕が残っていたので,どうしたのかと尋ねると,警察官から首を絞められたり,髪の毛を引っ張られたり,蹴られたりしたなどと聞かされたと証言している(甲C206の42頁・67頁)。
しかし,原告Cの供述するような事実があったのであれば,たとえ原告Cに止められたとしても,母親としては警察に何らかの抗議をしてしかるべきものと考えられるが,そうした抗議をしないばかりか,翌日以降の任意同行にも難色を示していないというのはいささか不自然といえる。加えて,原告Cは,刑事第1審の尋問において,弁護人から

帰って,あなたずっと泣いとったと言うたけども,お母さんものすごく怒りませんでしたか。警察に言うてあげるわとか言わなかったですか

との質問を受けながら,これに答えることなく沈黙しており(甲C195の155頁),母親との間で上記のようなやり取りがされたのか疑問の残るところである。
(ウ)

以上の検討からすると,警察官の暴行に関する原告Cの供述は,事
実を誇張した疑いが強いといわざるを得ず,そのまま信用することはできない。
もっとも,原告Cは,取調べの際に机をたたかれ,怒鳴られることがあったという点については一貫して供述しており
(甲C195の34頁,
原告C26頁),原告Cが,アリバイの成立する可能性の高い原告Aの関与も認めるなど,原告Cが実際に体験したものではない虚偽の可能性が高い供述をしていることからすると,取調べにおいて,机をたたき,怒鳴るといった程度の行為はあったものと認めるのが相当である。(エ)

次に,取調べにおける誘導の有無についてみると,原告Cは,取調
べの早い段階から自白するに至った理由として,原告Bが自分の名前を出していると言われた旨一貫して供述しており(甲C189の4頁・9頁,195の93頁・102頁),Z警察官においては,5月19日の段階で原告Bが原告Cの関与を認める供述をしていたこと(前記3(1)
イ(イ))を認識していたと考えられることに加え,原告Cの供述内容は,見張りとして関与していたとする点で原告Bの供述内容と一致するから,Z警察官が原告Cに対し,原告Bが原告Cの関与を認めている旨告げたものと認めるのが相当である。
さらに,原告Cが,アリバイの成立する可能性の高い原告Aの関与を前提として,犯行状況に関して詳しい供述をし,その最終的な供述内容はおおむね本件被害者や原告Bの供述と一致していること(甲C87,117)からすると,取調警察官から不当な誘導があったことが強く推認される。特に,5月21日の取調べにおいて,犯行当日の4人の服装を詳細に供述しているが(甲C102),3か月も前の日の服装を,自分のものだけでなく他人のものについてまで記憶しているというのが不自然であることは原告Bについて述べたところと同様であり,取調警察官による誘導・暗示を疑わせる。そして,原告Cは,6月2日の取調べにおいて,Wの関与を否定し,原告Dの名前を挙げている(甲C112)ところ,原告Bもまた,同日の取調べにおいて同じように供述を変遷させており(甲C80),これがI警察官による威圧的な取調べが原因と考えられることは前記3(1)ウ(ア)のとおりであるが,原告Cの取調べもI警察官が行っていることが認められ(甲C200の23頁),こうした点からも,原告Cの取調べにおいて不当な誘導・暗示がされたものと認めるのが相当である。
(オ)

以上のような取調べは,当時15歳と社会的に未熟な原告Cに対す
るものであることを考えると,穏当を欠く違法なものといわざるを得ない。
(3)

争点(1)エ(ウ)(捜査本部が原告Cを逮捕し検察官に送致したこと
は違法か)について
上記(2)のとおり,警察官の原告Cに対する取調べは,不当な誘導等を伴うものであり,
原告Cが取調べ当時15歳の少年であったことに鑑みれば,
違法であったというべきである。そして,こうした誘導等によって得た自白を疎明資料とすることで逮捕状の発付を受け,これに基づいて原告Cを逮捕し,検察官に送致した行為は違法といわざるを得ない。
5
原告D関係(争点(1)オ)

(1)

争点(1)オ(ア)(捜査本部が原告Dを逮捕し検察官に送致したこと
は違法か)について
証拠(甲B11)によれば,原告Dに係る逮捕状は,M,原告B及び原告Cの各供述を主たる疎明資料として請求されたものと認められる。しかし,原告B及び原告Cの取調べは前記のとおり違法なものであり,こうした取調べによって得た供述を疎明資料として逮捕状を請求し,原告Dを逮捕したことは違法であるというほかない。
なお,Mの供述に高い信用性が認められ,それによって原告Dの嫌疑が十分に基礎付けられるのであれば,原告B及び原告Cの供述を疎明資料としたとしても逮捕状請求そのものは違法とならないと解する余地もないではない。しかし,原告Dに係る逮捕状が請求された6月14日の時点では,Mの供述は大きく変遷しており(この点については,後記第4の2(5)ウ以下で詳述する。),一定限度で信用性を肯定できるとしても,それのみで原告Dの嫌疑を基礎付けるには不十分といわざるを得ない。
よって,
捜査本部が原告Dを逮捕したことは違法であり,
同様の理由から,
原告Dを検察官に送致したことも違法といわなければならない。
(2)

争点(1)オ(イ)(原告Dの取調べは暴行・脅迫等を伴う違法なもの
であったか)について

供述の概要
原告Dは,当裁判所における当事者尋問及び陳述書(甲D23)において,取調べの態様につきおおむね以下のとおり供述している。

(ア)6月14日に逮捕され,
取調べを受けることとなったが,
警察官は,
自分の弁解には聞く耳を持たず,嘘ばっか言うな,お前は人間のクズやなどと罵られ,耳元で大声を出されることも何度もあった。大声を出すのは主としてV警察官であったが,U警察官から怒鳴られることも少なくなかった。
(イ)警察官から壁に向かって立っていろと命じられたこともあり,結局,
3時間くらいは立たされ続けた。
(ウ)

逮捕されてから10日くらいが経過した頃,何を言っても信じても
らえないことから自暴自棄になり,もう好きにせえやと言ったところ,警察官は,ほんまに好きにしてええねんなと笑い,お前,特高警察って知ってるかと言ってきた。特高警察のことは知らなかったが,かつては警察の取調べにおける拷問で死亡する人もいたということを教えられ,脅されているのだと分かった。そして,警察官から立てと命じられ,これを拒否すると,椅子を後ろに引かれ,床に尻餅をついて転倒させられた。警察官が2人がかりで自分を立たせようとしてきたので,反抗して床に座り込んでいたら,U警察官が後頭部あたりに尻で乗ってきて,右腕をねじり上げられた。痛いと叫ぶと,

お前,こんなんで音を上げるんか。Bはこんなもんやなかったぞ

と言われた。このとき,偶然にも弁護人が接見に来たため,そこで暴行は終わった。暴行のことは弁護人に伝え,その後しばらくは暴力的な取調べがなくなったが,数日が経過すると,前と同じような暴言を言われ,机をたたいて脅されるようになった。

供述の信用性と取調べの違法性の検討
上記アの原告Dの供述に対し,U警察官は,暴行の事実を否定し,取調べにおける原告Dの態度につき,当初は特に問題はなかったものの,勾留後は,やってないんじゃと大声を上げて激高する,椅子から立ち上がりお前ら,悪魔やなと怒鳴って座り込む,立ち上がるように指示すると床に寝そべる,などといった反抗的態度を示していたため,取調室にパソコン等を持ち込むと,これを振り上げて凶器にするなどのおそれがあると判断し,しばらくは取調室にパソコンを持ち込まなかったなどと証言・供述している(丙6の2頁,証人U2頁)。こうした証言・供述の内容は相当程度具体的であるし,取調べの都度作成されていた取調べ状況復命書(丙1)の記載と合致する上,勾留前の6月15日に作成された供述調書がパソコンで作成されている(甲C154)のに対し,同月22日の供述調書は手書きになっており(甲C155),同月24日から再びパソコンでの供述調書が作成されていること
(甲C158)
とも整合する。
そして,
原告D自身,警察官が自分を立たせようとしたことに対して反抗し床に座り込んだことがあり(上記ア(ウ)),取調べの初め頃に大声を出したことも認めていること(原告D13頁)からすると,原告Dが取調べにおいて相当程度反抗的な態度をとっていたものと推認される。
そうすると,そのように反抗的な態度を示していた原告Dが,壁に向かって立っておけとの命令に従い,3時間程度立ち続けていたというのは容易に理解し難い。また,U警察官は,取調べに反抗的な態度を示す被疑者に暴行を加えるなどするとますます供述が得られにくくなるのでそのようなことはしないと証言しており(証人U7頁),そうした対応は少なくとも一般論としてはうなずけるものである。また,原告Dについてはその時点で既に弁護人が選任されており(甲C155,208の36頁),警察官もその事実を当然認識していたと考えられるところ,それにもかかわらず原告Dの供述するような激しい暴行を加えるというのは疑問が残り,取調べの頃から反抗的態度をとっていた原告Dが,取調べに対する嫌悪感から,事実を誇張して供述している可能性は否定できない。
しかし,原告Dは上記アとほぼ同様のことを刑事第1審から一貫して供述しており(甲C208の33から39頁),その供述内容は,特高警察について言及された点など,真実そうした体験をした者でなければ語ることのできないような具体的なものであり,迫真性もある。また,原告Dの弁護人が7月2日付けで検察官に対して提出した処分についての意見と題する書面においても,弁護人から検察官に対して指摘したとおり,被疑者に対する警察官の取調状況は,暴行や脅迫,長時間の直立あるいは正座を強いるなど,甚だ常軌を逸している。共犯者とされる少年らに対する取調べも極めて苛烈であったことは,被疑者の取調べ担当刑事自らが,被疑者に対して自慢げに述べていたところであると記載されており(甲D21),このうち,
共犯者とされる少年ら…ところであるの部分は,
上記ア(ウ)のBはこんなもんやなかったぞという部分と対応し,原告Dが,取調べの段階から一貫して警察官による暴行・脅迫を訴えていたことがみてとれる。
そうすると,原告Dの供述する暴行・脅迫をそのまま認めることはできないとしても,大声で怒鳴る,特高警察について言及するなど,不当に威圧的な取調べがされたものと認めるのが相当であり,違法なものといわざるを得ない。
6
原告E関係(争点(1)カ)

(1)

争点(1)カ(ア)(捜査本部が原告Eを逮捕し検察官に送致したこと
は違法か)について
捜査本部は,違法に獲得した原告B及び原告Cの自白を疎明資料として逮捕状を請求し,これによって発付を受けた逮捕状によって原告Eを逮捕した上検察官送致をしており
(甲B11)こうした行為は違法であるといわざる

を得ない。
(2)

争点(1)カ(イ)(原告Eの取調べは暴行・脅迫等を伴う違法なもの
であったか)について

供述の概要
原告Eは,当裁判所における当事者尋問及び陳述書(甲D27)において,取調べの態様につきおおむね以下のとおり供述している。

(ア)

6月14日に逮捕され,a警察署で取調べを受けた。当初から警察官は自分の弁解に耳を傾けるという姿勢はなく,お前の話なんか聞いても無駄じゃ

態度がでかい。長く放り込む。証拠も全部あがっている


などと怒鳴るように言われたほか,床に倒され,机を蹴られるといった暴行も加えられた。
(イ)

6月15日以降も,否認すると取調室で立たされ,少しでも動くと
文句を言われた。
(ウ)

6月17日以降は,取調室に出入りする際の挨拶の練習をさせられ
た。
また,
平成13年に起こしてしまった交通事故を引き合いに出され,
人殺しなどと罵倒され,
一人殺せるのならばオヤジ狩りなんか簡単だろうなどとも言われた。また,黙秘するとどんどん立場が悪くなると脅迫された。
(エ)

取調べが最終的に終わったときには刑務所に絶対ぶち込んだるからなと言われた。イ
供述の信用性と取調べの違法性の検討

(ア)

原告Eの供述の信用性を検討するに当たっては,原告Eが本件事件
の被疑者として逮捕・勾留された際に作成したという被疑者ノートが重要な証拠となるから,まずはこの被疑者ノートについてその信用性を検討することとするが,最初に指摘しなければならないのは,被疑者ノートが2冊存在するという点である(甲D22の1及び2。以下,前者を本件被疑者ノート1
,後者を本件被疑者ノート2という。。原告

ら代理人作成の報告書(甲D30)によれば,被疑者ノートの作成に不慣れな原告Eは,
途中まで書いてはまた書き直すということを繰り返し,
勾留が終了した時点で2冊の被疑者ノートができあがったが,本件被疑者ノート2が草稿段階のもので,これを基に文章等を推敲・清書して仕上げたものが本件被疑者ノート1ということである。しかし,本件被疑者ノート1の相当部分は本件被疑者ノート2のコピーであるし,本件被疑者ノート1には,6月17日以降の取調べについて相当量の別紙が追加され,取調べの状況が詳細に記載されている。そうすると,本件被疑者ノート1は,勾留中にその都度記載されたものではなく,事後的に作成された可能性が高いというべきであり,その信用性は相対的に低いといわざるを得ない。
(イ)そこで,
本件被疑者ノート2について検討するのに,
被告大阪府は,
本件被疑者ノート2には,6月14日付け,同月15日付け,同月17日付けのものがそれぞれ3通ずつ,同月16日付け,同月18日付け,同月19日付けのものがそれぞれ2通ずつあり,その記載内容を比較すると,同日付のものであってもその記載内容が異なっていたり記載が追加されたりしている部分があること等から,本件被疑者ノート2もまた後日に作成されたものであり,信用できないと主張する。
確かに,本件被疑者ノート2には,6月14日,同月15日,同月17日のことがまず記載され,次いで6月14日から同月19日までのことが記載された後,更に続けて6月14日から同月22日までのことが記載されており,少なくとも,記載が複数ある日付のうち,2回目以降のものについては後日作成されたものであることは明らかである。しかし,例えば6月14日に関する記載のうち,1回目に登場するもの(5頁)と2回目に登場するもの(13頁)とを比較すると,1回目では名前が分からないとされていた警察官の名前がBbと特定されるなど具体的になっている部分はあるものの,大部分の記載はむしろ簡略になっている。この点は3回目に登場するもの(27頁)についても同様であるし,机を蹴られた,刑務所行きは決定と言われたといった記載は3つの記載を通じて一貫している。同月15日に関する記載についても,1回目(7頁)にはなかった暴行態様が2回目(15頁)及び3回目(29頁)には追加されている点を除けば,記載内容は次第に簡略化されているし,反省して話をするようになるまで取調べはしない,原告Dはお前と違ってしっかりしているなどと言われた点については一貫した記載がある。同月17日の記載については,1回目(9頁)は簡単な記載で,2回目(19頁)が非常に詳しく,3回目(33頁)はそれをやや簡略化した記載となっている点で前2日と異なっているが,人間の血が流れていない,少年を見捨てて自分だけ助かればいいのかなどと言われ,長時間立たされた旨の記載は一貫しているし,2回目のものには,
反抗も当然したと一方的に暴行等を受けていたわけではない旨の
記載があり,
こうした記載は1回目のものにはなかったことからすると,
専ら自己に有利な証拠を事後的に作成したものと断じるのは相当でない。本件被疑者ノート2がこのような記載になった経緯は不明というほかないが,その記載はかなり具体的なもので,事後的に創作したものばかりとはいい難いし,上記のとおり一方的に被害を受けていたわけではない旨の記載もあることからすると,取調べの際の状況を記載したものとして一定の信用性はあるというべきである。
もっとも,原告Eは,被疑者ノートの記載はやや大げさに書いている部分があることを認める供述をしている(原告E4頁)
。その趣旨は,事
実に係る記載について言うものではなく,自分の感情に係る記載が大げさであることを言うもののようであるが,取調べに嫌悪感を抱く原告Eが,事実そのものを誇張して記載している可能性は否定できない。さらに,原告Eは,暴言や暴行があれば同じことを警察官にやり返したとも供述しており(原告E12頁)
,取調べがそのような状況であったことを
考慮すると,原告Eが警察官のいいなりになっていたとはおよそ考え難く,長時間立たされたなどの事実も,警察官の何らかの言動がそのきっかけになった可能性はあるものの,原告Eが意固地になって自らの意思で立っていたという可能性も否定できない。
そうすると,原告Eの供述する暴行・脅迫をそのまま認めることはできないが,黙秘した際に机を蹴る(本件被疑者ノート2の5頁,原告E7頁)
などの行為や,
証拠はそろっている
(本件被疑者ノート2の5頁)

黙秘すると不利になる(同21頁・37頁)
,少年らを見捨てて自分だけ
助かればいいのか(同9頁・19頁・33頁)といった程度の発言はあったものと認めるのが相当である。
(ウ)

このような取調べ方法は,不必要に威圧的で,原告Eの黙秘権を侵
害しかねないものであり,国家賠償法上違法といわざるを得ない。第4
1
争点(2)(被告国関係)に対する判断
争点(2)ア(原告A関係)について

(1)

争点(2)ア(ア)(捜査本部が原告Aを市児童相談所に通告すること
を,検察官が了承したことは違法か)について
原告Aは,J事件を理由とする通告及びその後の一時保護がいわゆる別件逮捕・勾留に類するものであり,捜査本部がこうした違法行為を行うことを了承した本件事件の主任検察官であったCc(以下Cc検察官という。)の行為は違法であると主張するが,捜査本部の上記行為が適法であることは前記第3の2(1)のとおりであり,原告Aの上記主張に理由はない。(2)

争点(2)ア(イ)(原告Aが市児童相談所で長期間取調べを受けてい
ることに対して措置を講じなかったことは違法か)について
原告Aは,市児童相談所における原告Aの取調べが成人に対する刑事事件でも許されないほど長期間にわたり違法状態となっていたにもかかわらず,検察官が警察官に対し捜査の適正化を指示するなどしなかったと主張するが,市児童相談所における取調べが,その期間の長期化を理由に違法とされるものではないことは前記第3の2(2)アのとおりであり,原告Aの上記主張に理由はない。
(3)

争点(2)ア(ウ)(検察官による原告Aの取調べは違法か)についてCc検察官による原告Aの取調べは,6月25日,同月30日及び7月17日の合計3回行われている(甲C36,43,45)ところ,原告Aは,同検察官は,原告Aが長期間の取調べに耐えかねて,警察官に対して迎合的な供述態度をとっている可能性を疑い,慎重に取調べを行うべきであったにもかかわらずこれを怠った違法があると主張する。しかし,原告Aは,6月25日の時点で,原告Cの関与は認めるものの,その他の共犯者については思い出せないとし(甲C95),原告Dの関与については同月30日のCc検察官による取調べでようやく認めるに至ったのであり(甲C43),警察官による取調べにおいて必ずしも迎合的な供述態度をとっていたとはいえない。また,Cc検察官は,6月25日の取調べにおいて,原告Aが5月28日に本件現場を案内した状況について尋ね,自発的に案内したものかどうかを確認し(甲C95,194の27頁),原告Aが犯行を自白した際には再度念押しで本当かどうかを確認しており(甲C194の118頁),同月30日の取調べにおいても,原告D及び原告Eを起訴したら検察官は誤りを犯すことになるのかと尋ねており(同32頁),原告Aの供述が真実か否かにつき相当な注意を払って見極めているといえ,これを違法と評価することはできない。原告Aは,検察官が同月30日の取調べで上記のように尋ねたことは原告Aに過度の精神的負担を課すものと主張するが,原告A自身,刑事第1審において,その質問に対して回答することがどのような意味を持つのかあまり理解していなかったと証言し
(同32頁)

なぜ本当のことを言えなかったのかという質問に対しても答えられていない(同頁)のであるから,検察官のした上記質問が原告Aに精神的負担を課したとは認められない。
また,原告Aは,7月17日の取調べは虚偽自白を固めるための証人テストにすぎない違法なものであるとも主張するが,Cc検察官は,6月25日及び同月30日の取調べにおいて,上記のとおり,原告Aが任意に供述しているか否かについて相当な注意を払い,その上で,7月17日の取調べに臨んでおり,このような取調べが虚偽自白を固めるためのものとはいい難い。原告A自身,刑事第1審において,この日の取調べがきっかけで原告Cの少年審判で自白を維持したなどの説明はしておらず(甲C194の43頁),検察官の取調べで怖い思いをしたことはなかったと証言している
(同38頁)

したがって,Cc検察官による原告Aの取調べが違法であるという原告Aの主張に理由はない。
2
供述の信用性に関する検討
原告B,原告C,原告D及び原告Eに対する国の責任の有無を検討するに当たっては,これら原告らの嫌疑を基礎付ける供述証拠に,検察官にとって信用を置くだけの相当な根拠があったか否かを判断することが必要となる。そこで,国の責任に関する各原告ごとの個別の検討(後記3から5まで)に先立って,問題となる各時点における証拠の信用性に関する判断について順次検討することとする。
ところで,前記第3のとおり,各供述の中には警察官の誘導等を伴う取調べによって得られたものも含まれるが,検察官において,そのような取調べがされていることを認識することは必ずしも容易ではない。特に,Cc検察官は,I警察官に対し,少年は誘導に乗りやすいことを指摘した上で慎重な取調べを行うよう指示し,I警察官もこれを了承していたのであり(証人Cc5頁,甲C198の30頁)
,特段の事情がない限り,警察官が適法な取調べをしてい
るものと信頼して行動しても不合理とはいえない。したがって,違法な取調べがされていることを容易に認識できる場合でない限り,そうした違法な取調べはないものとして証拠評価することは許されるというべきであり,以下ではこうした観点から各供述証拠の信用性に関する判断について検討を加える。
(1)

原告Bの逮捕段階(5月19日)
原告Bの供述の信用性
原告Bは,5月19日に任意同行されて取調べを受けているところ,取調べ開始後わずか30分程度で本件事件に関与した旨供述しており(甲C60),同日中に警察官を本件現場に案内している(甲C76)。しかも,その供述内容は,2月16日から18日までの間くらいの午後8時から9時頃,赤色の上着を着ていた原告Aとともに,本件マンションの南側道路を東方向に歩いていた60歳くらいの男性とすれ違い,その直後,原告Aがその男性にタックルして倒し,近くに隠れていた原告C及び原告Dを加えて倒れた男性を4人で取り囲み,財布から金を取って東方向へ逃げ,奪った金は原告Eに渡したと思うというものであり,おおむね本件被害者の供述に一致するし,実行犯とされる4人の服装に関する供述も,本件防犯カメラの映像と整合する(甲C60から69まで)。
このように,
原告Bは,
取調べの早い段階から自己に不利益な供述をし,
本件現場を案内することもできたのであり,しかもその供述内容は具体的で本件被害者の供述ともおおむね一致するものであるから,その供述に信用を置くことができる状況にあったといえる。また,原告Bは,見張りという限度ではあるものの,
原告Cが本件事件に関与しているとし,
さらに,
実行犯として原告A及び原告Dの名前を挙げ,最終的に原告Eが利益を得たと供述しているが,原告Bがあえて上記4名に不利な虚偽供述をする理由は見当たらず,とりわけ,原告Cは原告Bの弟であり,兄弟仲が悪かったといった事情も見受けられないから,原告Cに不利な虚偽供述をするとは考え難いのであって,
このこともまた原告Bの供述の信用性を補強する。
そして,一部の自供書(甲C61)の記載を見ると,犯行前の待機場所について本件被害者の供述(甲C5)と異なる部分がある上,それまで捜査機関が把握していなかった原告Dの名前を挙げていること等からすると,検察官において,原告Bが警察官による誘導等により自白するに至ったと認識することは困難であったというべきである。
以上検討したところによると,5月19日時点での原告Bの供述は十分に信用することができる状況にあったといえる。

Mの供述の信用性
Mは,5月4日から取調べを受けているが,同日から同月13日までに作成された自供書(甲C126から134まで)は検察官に送致されておらず(甲D31),検察官においてその存在を認識していないものであった。そこで,5月14日以降のMの供述に限定してその信用性を検討するのに,同人は,同日,本件現場付近のものと思われる地図を書いた上で,原告A,原告B,原告C,原告Eらとともに本件事件に関与した旨の自供書を作成し(甲C135),同月16日,上記原告らを含む9名で本件事件を敢行した旨供述するとともに,引き当たり捜査において,同行した警察官を本件現場に案内し(甲C137),同月18日にも上記供述を維持している(甲C138)。こうしたMの供述は,自己に不利益な事実を認め,供述内容も一貫している上,虚偽の供述をする理由も特に見当たらないことから,
信用性が高いものとみるだけの相当な根拠があったといえる。
一方,Mの供述には,実行犯又は本件現場の近くにいた者の人数が何人で誰が含まれていたかという点で,5月19日時点の原告Bの供述及び本件被害者の供述と一致しない部分があり,この点は,Mの供述の信用性を弱める事情といえるが,複数の少年らとともに犯行を敢行したという点や原告B及び原告Cが関与しているという点では原告Bの供述と一致しており,一定の信用を置くだけの相当な根拠があったといえる。

(2)

原告Bの勾留請求段階(5月20日)
原告Bの供述の信用性
原告Bは,5月20日,検察官による弁解録取においても従前どおり自白を維持した(甲C71)
。そうすると,原告Bの供述の信用性に関する評
価は5月19日の時点と変わらない。

Mの供述の信用性
Mは,5月20日の時点において,従前の供述を変更するなどしていない。したがって,その信用性に関する評価については上記(1)イのとおりである。

(3)

原告Cの逮捕段階(5月22日)
原告Bの供述
原告Bは,5月22日の取調べにおいて,原告Cが見張りであったとの供述を撤回し,原告Cが実行犯である旨の供述をしているように見受けられ,さらに,原告Dは実行犯ではなく,本当はWが実行犯の1人であったと供述している。そして,実行犯として原告Dの名前を挙げた理由については,暴走族の元総長である原告Eの名前をうっかり出してしまったことで,同じく暴走族の元総長である原告Dから何かされるのではないかと怖くなり,それならば原告Dも一緒に逮捕してほしいと考えたからであると説明している。(甲C75)
原告Cの直接的な関与を認めるに至った点については,原告Cは原告Bの弟であるから,原告Cの刑責を少しでも軽減させるため,関与の程度を低く供述していたとしても不自然とはいえない。しかし,原告Dの関与を否定した部分については,それほど怖いと思っていた原告Eの名前をなぜ安易に出したのかという点で疑問が残る上,原告Dを逮捕してもらうためにその名前を出したという言い分も必ずしも得心のいくものではなく,原告Bが上記のように供述を変遷させたことは,原告Bの供述の信用性を疑わせる事情といえる。
しかしながら,原告Bは,自身の関与については一貫して認める供述をしており,原告Cの関与についても,関与の態様について変遷はあるものの,関与したこと自体は一貫して認めている。そして,後記イのとおり,この時点では原告Cも見張りとしてではあるが犯行への関与を自白し,原告Bの関与も認めているから,原告Bの供述の信用性を補強しているといえる。
そうであるとすれば,少なくとも原告B及び原告Cの関与を認める限度においては,原告Bの供述に信用を置く相当な根拠があったというべきである。
なお,原告Bは,本件の犯行を敢行する前に一度ファストフード店に集まった旨供述しているところ,そこに集まったメンバーについて,5月20日までの取調べでは6名と供述し,
Mは含まれていなかった
(甲C69)
のに対し,5月22日の取調べでは,同店に集まったメンバーは12名であり,そこにMもいた旨供述しており(甲C73),Mの供述に合わせる形で誘導されたのではないかという疑問も生じないではない。しかし,Mは,自身が本件現場で見張りをしていたと供述している(甲C138)のに対し,原告Bは,Mが本件事件に関与したとまでは供述していない上,本件現場付近にいた人数等についてもMの供述と一致しない部分があるから,原告BがMの供述を前提とした誘導を受けているとみることは困難であったといえる。

原告Cの供述
原告Cは,5月20日から任意で取調べを受けていたところ,同月21日になって,原告A,原告B,W,その他の誰かとともにjにあるマンションの裏道に行った,原告Bに頼まれて見張りをしていたが,原告Bが逃げろと言うので逃げた,原告Aと原告Bが誰かからお金を取ったと思うなどと供述するに至り(甲C100),同月22日には警察官を本件現場に案内した(甲C110)上,逃げろという声が聞こえた時にその方向に走っていったところ,
道路に中年男性が倒れており,
その近くに原告A,
原告B及びWがいたことから,上記中年男性に対していわゆる親父狩りをしたのだと分かったと供述している(甲C104)。そして,犯行については原告Eの指示があったと思っていたとして,原告Eの関与を認めている(甲C104)。このように,原告Cは,取調べの比較的早い段階から自己に不利益な供述をした上,本件現場を案内したものとされており,また,原告A,
原告B及びWが実行犯であったとする点や原告Eの指示があっ
たとする点で原告Bの供述内容と一致し,その供述に高い信用性を認めるだけの根拠があったといえる。また,原告Cが,あえて共犯者とされる原告Aらに不利な虚偽供述をする理由は見当たらず,とりわけ,原告Bは原告Cの兄であり,兄弟仲が悪かったという事情も見受けられないことは原告Bについて述べたところと同様であるから,あえて原告Bに不利な供述をするとは考え難いのであって,このこともまた原告Cの供述の信用性を補強する。
そして,原告Cは比較的早期に自白しており,そのような早い段階で暴行等を伴う取調べがされるとは一般に考え難いことからすると,検察官において,原告Cが警察官による誘導等により自白するに至ったと認識することは容易でなかったというべきである。
以上検討したところによると,5月22日の時点での原告Cの供述は十分に信用することができる状況にあったといえる。

Mの供述
Mは,5月22日の時点において,従前の供述を変更するなどしていない。したがって,その信用性に関する評価については前記(2)イのとおりである。

(4)

原告Cの勾留請求段階(5月23日)
原告Bの供述
原告Bは,5月23日の時点において,従前の供述を変更するなどしていない。したがって,その信用性に関する評価については前記(3)アのとおりである。

原告Cの供述
原告Cは,5月23日の検察官による弁解録取において,原告Dもまた本件事件に関与している(ただし,関与の態様は明確ではない。)旨の供述をしており(甲C106),供述の変遷がみられる上,原告Dが実行犯として関与したことを否定するようになった原告Bの供述と必ずしも整合しない。
しかし,
原告Cは,
原告Bの関与については一貫して認めており,
これについては原告Bの供述とも合致する。そうであるとすれば,原告Bの関与を認め,自らも何らかの形で犯行に関与していることを認める限度においては,原告Cの供述は信用するだけの相当な根拠があったというべきである。
なお,原告Cは,刑事第1審において,5月23日の検察官による弁解録取において原告Dの関与を示唆されたとして,検察官からの誘導があったかのような証言をしている(甲C189の114頁)が,同月22日には原告Bが原告Dは実行犯でない旨供述をしている(甲C75)上,Mにおいてもこの時点では原告Dが関与しているとは供述していなかったのであるから,検察官が原告Dの関与を示唆するとは考え難く,上記証言は信用できない。


Mの供述
Mは,5月23日の時点において,従前の供述を変更するなどしていない。したがって,その信用性に関する評価については前記(3)ウのとおりである。

(5)

原告Bの勾留延長請求段階(5月29日頃)
原告Bについては,5月29日に勾留期間の満期を迎えることから,この
頃,勾留延長請求がされたものと認められる。

原告Bの供述
原告Bは,5月29日の時点において,共犯者及び犯行態様に関する従前の供述を変更するなどしていない(5月26日の取調べで,犯行に及んだのは原告D及び原告Eに指示されたからであり,原告Dは本件マンションの近くまで来ていた旨供述しており(甲C78)
,原告Dの関与につき供
述が変遷しているようにも見受けられるが,同月22日の取調べでは,原告Dが実行犯ではないと供述しているにとどまり,犯行に全く関与していないと供述したわけではないし,同月27日の取調べでは,原告Dが実行犯である旨供述していたのは,
原告Dは本件現場の近くまで来ていたため,
実行犯であると嘘をつくのに都合がよかったからと説明しており(甲C79)
,供述が変遷しているとまではいえない。
)から,その信用性に関する
評価は前記(4)アのとおりである。
なお,後記ウのとおり,Mが同月27日に供述を大きく変更していることから,検察官において,警察官による取調べが誘導等を伴うものではないかと疑う契機はあるといえるが,原告Bは一般的に誘導等がされるとは考えにくい取調べの初日から自白しており,その供述には本件被害者及びMの供述と一致しない部分も含まれていたことは前記のとおりである(前記(1)ア,
(3)ア)から,少なくとも原告Bの関係では,警察官による
誘導等を認識することは容易でなかったというべきである。

原告Cの供述
原告Cは,前記(4)イのとおり,5月23日の時点で既に原告Dの関与を認めていたが,同月26日の取調べにおいて,原告Dが本件現場の近くまで来ていたと明確に供述し,それまで原告Dの名前を出していなかった理由につき,原告Dは暴走族の元総長で,名前を出すと仕返しされると思い,怖かったためと説明しており(甲C109),その説明は一応合理的なものといえるし,
原告Dが本件現場付近に来ていたとする上記供述は,
原告Bの供述とも整合する(上記ア)。
したがって,5月29日頃の原告Cの供述についても,一定の信用を置くだけの相当な根拠があったといえる。

Mの供述
Mは,5月18日の取調べまでは,見張りとして本件事件に関与したと供述していた(甲C138)が,同月27日,本当は本件現場には行っていないと供述するとともに,原告Dが本件事件に関与していたことを初めて供述し(甲C139),同月28日,本件事件発生の翌日である2月17日に原告Eから本件事件のことを聞いたと供述するに至った(甲C140)。そして,当初は自分自身の関与を認める一方で原告Dの関与について言及しなかった理由につき,原告Eから原告Dの名前を出すなと口止めされていた,もし話をするなら自分自身も犯行に関与したことにしろと命令されていたなどと説明している(甲C139)。
しかし,Mは,原告Eの関与については早い段階から認めており(甲C131),原告Eの口止めや命令によって真実と異なる供述をしていたというのは不合理であるし,引き当り捜査においても本件現場に行ったことを前提に同行警察官を案内するなどしておきながら,後に本件現場に行ったこと自体を否定している点で供述の変遷の程度は極めて大きい上,なぜ本件現場に行っていないにもかかわらず引き当たり捜査において同行警察官を案内できたのかという疑問が生じるから,Mの供述の信用性は大きく減殺されるといわざるを得ない。
もっとも,5月27日時点でのMの供述は,原告A,原告B,原告C,原告D及び原告Eの関与を認める点で原告B及び原告Cの供述と整合する。また,実際に犯行に関与していないにもかかわらず,犯行について供述できた理由については,原告Eに教えられたためと説明しており(甲C140の12頁),その説明は必ずしも説得的ではないものの,原告Eが内輪の話としてMに犯行を告げることも考えられないことではないし,原告Eの名前を早期に出していた点についても,自分なりの原告Eに対する仕返しだったと一応の説明をしており(甲C139の8頁),この説明もまた説得的とはいい難いが,いまだ社会的に未成熟で必ずしも合理的な行動ばかりをとるとは限らない少年において,仕返しのために原告Eの名前を挙げることもあり得ないとはいえない。さらに,Mは,5月14日に原告D及び原告Eから公園に呼び出され,同月17日には両名が自宅へ来て,警察での取調べについて圧力をかけられたと供述しており(甲C139の6頁),仮にこうした事実について裏付けをとることができれば,Mの供述の信用性は相当程度回復すると考えられるから,そのような裏付け捜査が未了の時点においては,Mの供述の信用性を完全に否定してしまうのは相当でないし,少なくとも,原告B及び原告Cの供述の信用性を否定させるようなものではないというべきである。
(6)

原告Cの勾留延長請求段階(6月1日)
原告Cについては,
6月1日に勾留期間の満期を迎えることから,
この頃,

勾留延長請求がされたものと認められる。

原告Bの供述
原告Bは,6月1日の時点において,それまでの供述を変更するなどしていない。したがって,その信用性に関する評価については前記(5)アのとおりである。


原告Cの供述
原告Cは,
5月31日の取調べにおいて,
原告Eが本件現場付近に潜み,
お金を奪えそうな男性が来たら原告Cの携帯電話にワンコール(携帯電話の呼出音を鳴らしただけで電話を切り,通話することなく着信の事実のみを伝える方法)の合図をすることになっていたこと,実際に原告Eからワンコールの合図を受け,それを原告Aらに伝えたことを供述している(甲C111)が,共犯者及び犯行態様に関する従前の供述を変更するなどしていない。したがって,6月1日時点の原告Cの供述の信用性に関する評価については前記(5)イのとおりである。

Mの供述
Mは,6月1日の時点において,それまでの供述を変更するなどしていない。したがって,その信用性に関する評価については前記(5)ウのとおりである。

(7)

原告Bの家庭裁判所送致段階(6月8日)
原告Bの供述
原告Bは,6月2日の取調べにおいて再び原告Dが実行犯の1人であると供述し
(甲C80)6月4日にはWは無関係であると供述するに至った

(甲C85)
。そして,原告Bは,それまで原告DではなくWが実行犯であ
る旨供述していた理由について,原告Eから,本件事件のことは絶対に警察に話すな,原告Dの名前は絶対に出すな,代わりにWの名前を出せ,などと命令されており,命令に逆らうと何をされるか分からなかったため,その命令に従ったと説明している(甲C85,86)

こうした説明については,原告Eから上記のような命令を受けたとしながら,なぜ命令をした本人である原告Eの関与については当初から一貫して認めているのかという疑問があり,にわかに信用できないものといえなくもない。
しかし,原告Bはいまだ社会的に未成熟な少年であるから,常に合理的な行動をとるという前提でその供述の信用性を判断することが相当でない場合もあるし(後記のとおり,原告Bが否認に転じた後の供述もまた,合理的に説明できない部分が多々ある。),そもそも,原告Bは,原告D及び原告Eを暴走族の元総長であると認識しており,仲間の中で,悪いことをして警察に捕まっても絶対仲間の名前を言わないという決まりがあった(なお,こうした決まりがあることはJ事件の発生経緯からもうかがえる。)と言いながら(甲C75),取調べの初日から原告D及び原告Eの関与を認め,犯行態様に関する供述は本件被害者の供述とおおむね一致していたのであり,この供述に高い信用を置くだけの相当な根拠があったことは前記(1)アのとおりである。むしろ,この当初の供述を撤回し,原告DではなくWが実行犯であったと供述するに至った理由が説得的でないのであって,怖いと認識していたはずの原告Dの名前を取調べの早々に出した理由は明らかにされないままである。そうすると,Wの関与について否定に転じた上,再び実行犯として原告Dの名前を出した理由を必ずしも合理的に説明できないからといって,原告Bの供述の信用性を直ちに否定してしまうのは相当でない。
かえって6月2日には原告Cも原告Dが実行犯の1人である旨の供述をしており(後記イ),同月8日時点の原告Bの供述と原告Cの供述は,見張りをしていた原告Eから原告Cの携帯電話に合図(ワンコール)があったこと,その合図を受けて本件現場付近で待機していたところ,60歳くらいの男性が西から東へ歩いてきたこと,原告A,原告B,原告C及び原告Dの4人で上記男性とすれ違い,直後に原告Aがタックルして倒したこと,原告Aが金出せなどと言い,原告B,原告C及び原告Dも殺すぞなどと脅したこと,倒された男性は財布から紙幣を取り出して原告Aに渡したこと,その後は4人で東方向へ逃走したこと等,共犯者や犯行態様の点でかなり具体的に一致してきているのである(甲C87,117)から,この時点での原告Bの供述の信用性は低いものではないと評価するだけの相当な根拠があったというべきである。

原告Cの供述
原告Cは,6月2日の取調べにおいて,実は原告Dは現場の近くにいたのではなく実行犯の一人であった旨供述するとともに,
Wの関与を否定し,
自分自身の関与についても,見張りにすぎなかったとする供述を撤回し,本件被害者に対して殺すぞなどと脅した旨供述するに至った(甲C112)。そして,それまで原告Dの関与について異なる供述をし,Wが関与していたと供述していた理由につき,兄である原告Bから,原告Dのことは黙っておけ,代わりにWの名前を出しておけ,などと言われていたところ,5月23日の弁解録取でうっかり原告Dの名前を出してしまったため,現場近くまで来ていたなどとしてごまかした,Wについては原告Bに言われたとおり名前を出した,などと説明している(甲C114)。自分自身の関与について供述を変更した点については,当初は自己の刑責を軽減させるため虚偽の供述をしていたものと考えることが可能であり,供述の信用性を大きく減殺させる事情とまではいえないが,原告Dの関与に関する供述を変遷させた点については,さほど厳しい追及があったとは考え難い弁解録取の段階において原告Dの名前を出していることを十分に説明できないことを指摘できるほか,原告Dの代わりにWの名前を出せと命じられたとしながら,原告Dの名前を出した後もWの名前を出し続けている点で説明に矛盾があるともいい得る。
しかし,取調べ当時15歳であり,いまだ判断能力や注意力が発達途上にあったといえる原告Cにおいて,検察官による弁解録取でうっかり原告Dの名前を出すことも考えられないではなく,そうして名前を出してしまった以上,どうにかしてこれを取り繕うため,原告Dは現場付近に来ていたにとどまり,
実行犯はWである旨供述することはさほど不自然ではない。
そして,原告Dの関与をその限度にとどめた以上,実行犯としてWの名前を出し続けたことはむしろ合理的ともいえ,6月2日に至ってようやくWの関与を否定し,原告Dが実行犯であると供述するに至った経緯からすると,原告Bの口止めが原告Cの供述に影響を与えていたのではないかと推測することにもそれなりの合理性があるといえる。
さらに,原告Cは,6月8日の検察官の取調べにおいて,Cc検察官から,犯行現場で被害者とすれ違った際の状況について説明を求められ,図面を作成しているが,その際,自分の位置について,当初は,先頭が原告A,そのやや後ろから原告B,その後を原告D,自分は一番最後であった旨図面を書いて説明したが,検察官の口授の途中で,自分の位置はDの後ろではなく,少し右斜め後ろであったと思い出したので,図面を訂正させて欲しい旨申し出,自ら図面に訂正を加えたと認められる(甲C123,195の53頁,204の21頁)。このように,犯行状況を自らの意思に基づいて具体的に供述していること,その供述内容は原告Bの供述と整合するものであったこと(上記ア)を考慮すると,検察官からみて,6月8日時点での原告Cの供述は十分に信用できたというべきであるし,原告Cが警察官の誘導等により供述していると認識することは容易でなかったといえる。
よって,この時点での原告Cの供述の信用性は低いものではないと判断することに相当な根拠があったというべきである。

Mの供述
Mは,
6月8日の時点において,
従前の供述を変更するなどしていない。
したがって,その信用性に関する評価については前記(6)ウのとおりである。

(8)

原告Cの家庭裁判所送致段階(6月11日)
6月11日の時点では,原告B,原告C及びMは,いずれも従前の供述を
変更するなどしていない。したがって,それぞれの供述の信用性に関する評価は上記(7)のとおりである。
(9)

原告D及び原告Eの逮捕段階(6月14日)
原告B,原告C及びMの供述
6月14日の時点では,原告B,原告C及びMは,いずれも従前の供述を変更するなどしていない。したがって,それぞれの供述の信用性に関する評価は上記(8)のとおりである。

原告Aの供述
原告Aは,5月28日,本件現場の地図を書いた上で,
この場所でオヤジ狩りをしたかもしれませんとの自供書を作成し(甲C19),引き当た
り捜査において同行警察官を本件現場に案内した(甲C23)後,僕が今日けいじさんを案内した場所でオヤジガリをしました1月か2月だと,思いますとの自供書(甲C20)を作成した(甲C202の17頁)。そ
して,6月1日,上記犯行は原告D及び原告Eのために行った旨の自供書を作成した(甲C22)

これらの供述は,原告D及び原告Eの関与の態様を明確にしたものではないものの,自己に不利益な事実を認めており,原告Aがあえて両名に不利な供述をする理由は見当たらないことからすると,その信用性を低いものではないと判断したことに相当な根拠があったというべきである。なお,前記第3の2(2)イ(ウ)のとおり,原告Aの供述は警察官の誘導等によるものと認められるが,5月24日の引き当たり捜査に関する捜査報告書等が作成されていないこと,6月14日の時点では原告B及び原告Cが原告D及び原告Eの関与について具体的に供述しているにもかかわらず,原告Aはこれを明確にしていないこと等からすると,検察官において,原告Aが誘導等によって自供したものと認識することは容易でなかったといえる。

(10)

原告D及び原告Eの勾留請求段階(6月15日頃)

原告D及び原告Eは,6月15日頃勾留請求されたものと考えられるが,この時点では,原告B,原告C,M及び原告Aは,いずれも従前の供述を変更するなどしていない。したがって,それぞれの供述の信用性に関する評価は上記(9)のとおりである。
(11)

原告D及び原告Eの勾留延長請求段階(6月24日頃)

原告D及び原告Eの勾留は6月24日頃満期を迎えることから,この頃,両名につき勾留延長請求がされたものと認められる。

原告Bの供述
原告Bは,6月24日頃の時点において,従前の供述を変更するなどしていない。したがって,その信用性に関する評価については上記(10)のとおりである。
また,原告Bは,6月22日の検察官の取調べにおいて,原告D及び原告Eが逮捕されてうれしいと供述する
(甲C94,
196の46頁)
など,
両名の犯人性について虚偽の供述をしているとは思えない態度を示しており,検察官において,原告Bが任意に供述しているものと判断することもやむを得ず,誘導等により供述していると認識することは容易でなかったといえる。


原告Cの供述
原告Cは,6月22日の取調べにおいて否認に転じている(甲C200の49頁・64頁)

しかし,6月8日時点での原告Cの供述内容を信用するだけの相当な根拠があることは前記(7)イのとおりであるし,後記エのとおり,原告Aもまた原告Cの関与をほのめかす供述をするに至っており,原告Cの否認にかかわらず,6月8日時点での供述は6月24日時点においても信用するだけの相当な根拠があったというべきである。


Mの供述
6月24日の時点においてもMの供述に変更はないが,6月20日に同人の母親であるDdに対する事情聴取がされ,
同人は,
5月17日夕方頃,
帰ってきたMが,原告D及び原告Eから

お前,大人なめてんのか。ポリにEチクリやがって。刑事がお前言うたと言うてるやないか

などと脅されたと話していたこと,その夜,原告D及び原告Eが自宅を訪ねてきて,原告Dから,
お宅の息子さんがね,こいつ(原告E)のことね,殺人者とか,怖くて一緒におったとか,命令されてたとか,警察に言うとるんですわ。何もしてないのに何でそんなこと言うんかなぁと思ってね。それで,さっきも『俺等と関わらんといてくれ』って息子さんにも言うたんですわなどと言われたこと等を供述した(甲C142)

そして,原告Dも,同月23日の取調べにおいて,①原告Eは,逮捕されたHと面会した同人の姉から,Mが警察の取調べで

Eという男は,人殺しして,威張っている人間や。それで,子供を怖がらせてる。僕らがEの所に行くのも,それに従わないとシバかれるから,行っているんだ

と言っているようだという話を聞いており,5月中頃,自分もその話の内容を原告Eから電話で聞かされた,②Mが人殺しと言っているのは,かつて原告Eが交通事故を起こして1人の小学生を死亡させてしまったことを指してそのように言っているものと思い,Mに注意しなければならないと考え,原告EとともにMに注意したが,同人はそのようなことは言っていないと否定した,③その夜,同人宅を訪問し,母親(Dd)に対し,Mが警察の取調べで原告Eを人殺しなどと言っているようだが,原告Eはそのような人間ではないと伝えた,などと供述している(甲C156)。
また,原告Eも,6月23日の取調べで,おおむね同旨の供述をしており(甲C148)5月17日に原告D及び原告EがM宅を訪れ,

警察での取
調べにおける供述内容に関してMに何らかの注意を与えたことは証拠上明らかであるといえる。
Mは,上記のとおり,5月17日に原告D及び原告Eの訪問を受け,本件事件に関する取調べについて圧力をかけられたと供述しているところ,この供述は,Mからjでの親父狩りの事件について取調べを受け
ていることを聞いていたとする原告Eの供述(甲C148の3頁)とも符合しており,一定の信用を置くだけの根拠があったといえる。
この点について,原告D及び原告Eは,上記のとおり,Mが警察で原告Eのことを人殺しなどと言っていることを注意したにすぎないと説明しており,Ddの供述もこうした説明と整合する。しかし,そうしたMの発言のみを捉えて,わざわざ自宅を訪問し,しかも本人ではなくその母親に注意するとは考えにくい。また,Ddは,原告Dがさっきも『俺等と関わらんといてくれ』って息子さんにも言うたんですわと言ったと供述しており(甲C142の5頁)
,その発言内容からすると,Mに対し,本件
事件との関係を含め,一切の不利益供述を口止めしていたものと推測する余地もある。
そうすると,原告D及び原告Eの口止めがあって本当のことが言えなかったとするMの前記供述は,それなりの裏付けを伴うものであり,あながち不合理ともいい難いから,同人の供述のうち,原告D及び原告Eの関与を認める部分については,6月24日までに一定の信用性を回復したとみることにも相当な根拠があったといえる。

原告Aの供述
原告Aは,5月28日以降,本件事件に関与したことを認めるような供述をする一方,共犯者については思い出せないと供述していた(甲C19から21まで,25,28から30まで)が,6月24日の取調べで,原告Cが近くにいたことを思い出したと供述するに至った
(甲C33,
35)

原告Aには,あえて原告Cに不利な供述をする動機は見当たらない上,原告Cが関与したとする点で原告B及び6月8日時点の原告Cの供述と整合するから,原告Aの上記供述には信用を置くだけの相当な根拠があったといえる。
なお,この間の原告Aの供述には不自然に理詰めで説明的な部分があり(甲C28,29)
,取調べにおける誘導を疑わせることは前記第3の2
(2)イ(ウ)のとおりであるが,共犯者が誰でありその具体的な犯行態様はどのようなものであったかについては6月24日の時点においても明確に供述していないのであるから,検察官において,原告Aが警察官の誘導により供述していると認識することは困難であったというべきである。(12)

原告D及び原告Eの起訴段階(7月5日)
原告Bの供述
原告Bは,
6月30日付けで本件被害者に宛てて謝罪の手紙を送付し
(甲

C95)7月2日に行われた自身の少年審判においても自白を維持してい,
る(甲C188)
。こうした事実は,原告Bの供述の信用性を補強するとい
える。

原告Cの供述
原告Cは既に取調べで本件事件への関与を否認するようになっているが,依然として6月8日時点での供述は信用を置ける状況にあったといえることは前記(11)イのとおりである。


Mの供述
7月5日の時点では,Mの供述の信用性に関し,以下のような事情を指摘することができる。

(ア)

7月2日にはMの姉であるEeが事情聴取を受けている(甲C14
3)
。同人の供述はおおむね以下のようなものである。
Mが警察での取調べを受け始めた5月初め頃,同人は,原告Eが関与した親父狩りがあると話していた。それについてMが関与していないか問い詰めたところ,最初は曖昧な答えしかしていなかったものの,更に追及すると,関与していないと言い,その事件のことについて知っているのは,原告Eから説明を受けたからだと言っていた。そして,その事件には原告A,原告B,原告C及び原告Dが関与していると言っていた。その後,Mが,警察の取調べで本件事件に関与していると供述したと言ったため,なぜそのような嘘を言ったのか尋ねたところ,原告Eが怖いという趣旨の説明をしていた。Mは,その後,原告D及び原告Eに呼び出され,
お前,何でチンコロしたんやと,本件事件について警
察に話したことを責められたようで,
別の日にも呼び出された上,お前,

俺らのことをチクッとんやろが。大人なめんなよ

などと,警察での取調べについて圧力をかけられたようであった。また,その日の夜には原告D及び原告Eが自宅に訪ねてきて,母と自分が応対したところ,

お宅の息子さんが,警察で,こいつのことを殺人者とか,怖くていつも一緒にいたとか,命令されていたとか言っている。こいつは何もしてないのに,何でそんなことを言うのですかね

などと言われた。以上の供述は,5月27日のMの供述(前記(5)ウ)とおおむね一致する。確かに,Eeは,原告D及び原告Eの訪問を受けた際,本件事件については直接言及がなかったと供述している(甲C143の8頁)が,Mがその直前に原告D及び原告Eに呼び出されて,
チクッとんやろがなどと警察で本件事件についてしゃべったことを追及されていたとも供述しており(同6頁)
,原告D及び原告Eが,Mに対し,本件事件へ
の関与も含めて,一切の不利益供述を口止めしていたものと推測する余地もある。
(イ)

一方,原告Dは,7月3日の取調べで,Mの自宅を訪問した日より
も前に,同人を公園に呼び出したと供述し(甲C163の5頁)
,原告E
も,7月4日の取調べで,ゴールデンウィークが明けた頃,原告Dとともに公園でMと話をした旨供述している(甲C152)
。これは,Mが5
月27日に供述していた,5月14日の出来事と推認される。
この点について,原告Dは,Mが警察の取調べで原告Eの悪口を言っていること及び学校で弱い者いじめをしていることを注意するためだったとし,原告Eは,Mが原告E宅から500円を盗んだことを周囲に自慢していることについて原告Dが注意したとし,いずれも本件事件について口止めするためにMと会ったわけではないと供述している。
しかし,わざわざMを呼び出した理由として原告D及び原告Eの上記説明は必ずしも説得力がない。また,原告Dは,Mを公園に呼び出した際,警察でどのような事件について聴取を受けているのか尋ねていないと供述するが(甲C165の2頁)
,Mが警察の取調べで原告Eの悪口を
言っていることを問題にしているのであるから,どのような事件について聴取されているかを尋ねないというのは不自然であり,Mが本件事件での取調べを受けていることを知っていたにもかかわらず,原告Dはあえてこの点を隠そうとしているようにも見受けられる。
(ウ)

以上からすると,5月中に2回にわたって原告D及び原告Eから口
止めされたとするMの供述はそれなりに信用できる状況にあったといえ,変遷の経緯にいささか理解し難いところがあるとしても,原告D及び原告Eが本件事件に関与しているとするMの供述についても信用できないような状況にあったとはいえない。

原告Aの供述
原告Aは,6月28日の取調べで,原告Eが近くにいたと思うと供述し(甲C37)同月29日の取調べでは,

原告Bが共犯者の1人である旨供
述した(甲C40,42)
。さらに,同月30日の取調べにおいて,それま
で供述していたもう1人の共犯者とは原告Dであると供述するに至った
(甲C43)原告Aがあえて上記3名に不利な供述をする理由は見当た。
らず,原告B,原告D及び原告Eの関与を認める点で原告B及び6月8日時点での原告Cの供述と一致することからも,信用するに足りる相当な根拠があったといえる。もっとも,その供述経緯をみると,6月1日に原告D及び原告Eのために犯行に及んだと供述しながら他の共犯者の名前を挙げず,自身の関与は一貫して認めつつ自分がどのような行動をしていたか思い出せないなどの供述を続けており,真に犯行に関与した者の供述としては不自然であることを指摘できるが,原告Aが,原告D及び原告Eに対する恐怖心等から,
自らの意思で,
あえて共犯者の名前を出すことを避け,
これに伴って犯行状況等に関する具体的な供述も避けていたとみることも十分可能である。また,Cc検察官は,6月25日,原告Aを取り調べた際,5月28日の引き当たり捜査は自分から案内したのか尋ね,原告Aはこれを肯定しているのであり(甲C194の27頁)
,検察官において,原
告Aが誘導等により供述していると認識することは容易ではなかったといえる。
(13)

アリバイ立証終了後(平成17年2月18日頃)
原告Bの供述
平成17年2月9日に開かれた刑事第1審の第14回公判期日において
Oが原告Aのアリバイに関する証言をし,同月18日,Oが使用していた携帯電話が押収され,メールデータが解析されることになった。前記第3の1(2)イ(ア)のとおり,同メールデータ及びOの証言によれば,原告Aにアリバイが成立する可能性が高く,原告Aの関与を前提とする原告Bの供述の信用性は大きく減殺されるといわざるを得ないが,刑事第1審における原告Bの証言には以下のとおり不可解な部分がある。
すなわち,原告Bは,刑事第1審において,5月19日には特に警察官からの暴行はなく,机をたたかれるということもなかった(甲C196の97頁・114頁)ものの,取調べ開始から30分程度で自白した(同10頁)と供述しており,真に犯行に関与していないのであれば,なぜそのように早期に自白するに至ったのかという疑問は解決されないままになっていたといえる。この点について,原告Bは,ポリグラフ検査の結果を指摘され,機械は嘘をつかないと言われたため何も言えなくなったと供述している(同12頁)が,必ずしも納得のいく説明とはいえない。認めてしまえば早く家に帰ることができると思ったとも説明している
(同143頁)
が,一方で,僕だけ逮捕されてなかったから,多分逮捕されるというのは,そういう勘というのはありましたと供述しており(同頁。既にG及びHが逮捕されていることを踏まえて,自身もいずれ逮捕されるであろうという認識を示した発言と思われる。),説明として矛盾しているといわざるを得ない。
そして,原告Bは,その後も自身の関与を認める旨の供述をし,少年院に送致される可能性も認識しながら,自身の少年審判においても自白を維持している。このように自白を維持した理由について,原告Bは,少年院に行くよりも取調べを受け続ける方が嫌だったと供述するが
(同52頁)

取調べにおいて原告Bが供述するような暴行がされたことは認め難いことは前記第3の3(1)ウのとおりであり,自白を維持した理由として得心のいくものではない。
また,原告Bは,原告D及び原告Eは暴走族の元総長であると認識しており(同62頁),原告Dや原告Eといった年上の人間を共犯者として供述するのは怖いと思っていたと言いながら(同18頁),原告Dの名前を特に理由もなく当てずっぽうで出したとし(同102頁),原告Eが経済的に困窮していたことが犯行に及んだ理由であると供述した点についても,自分で考えたことである旨証言しており(同19,20頁),あえて成人である原告D及び原告Eの名前を挙げ,しかもその責任を重くするような供述をした理由が不明である。この点について,原告Bは,誰でもよかったので身近な人間の名前を挙げたと説明している(同18頁)が,その他にも親しい友人はいた(同66頁)というのであるから,さほど親しいわけでもなかったという原告D及び原告E(同69頁)の名前を出した理由にはなっていない。原告Bは,最終的には,原告D及び原告Eに命令されていたことにすれば自分の責任を軽くすることができると思ったと証言している(同147頁)が,弁護人からの誘導を受けてようやく供述した内容であり,にわかに信用することができない。
さらに,原告Bは,原告Cの名前も挙げているところ,これについてもたまたま出たなどと証言するにとどまり(18頁),説得的な理由とはいえない。しかも,原告Bは,強盗致傷罪の法定刑について警察官から聞いており(同60頁),強盗致傷の非行事実が認められることになれば原告Cは少年院送致となるであろうことを認識していたと考えられる(同51頁参照)にもかかわらず,自身の少年審判において,原告Cが否認していると認識した後も原告Cの関与を認める証言をしており(同59頁),あえて原告Cに不利な供述を維持した理由もまた不可解である。
そうすると,原告Aに係るアリバイ立証が終了した後も,原告Bの捜査段階の供述の信用性を直ちに否定することができるような状況にはなかったというべきである。

原告Cの供述
原告Cもまた,原告Aの関与を前提とする供述をしていたため,原告Aについてのアリバイ立証が終了した後は,その供述の信用性が減殺されるといわざるを得ないが,刑事第1審における証言だけでなく既に否認に転じた後の少年審判における供述にも不可解な部分がある。
すなわち,原告Cは,刑事第1審において,自白するに至った理由につき,否認しても信用してもらえない上,警察官から暴行を受けたためと証言している(甲C195の33頁)が,任意同行中の取調べにおいて原告Cが供述するような激しい暴行があったとは認め難いことは前記第3の4(2)ウのとおりである。また,原告Bが自白していると聞かされたことも自白に至った理由として挙げているものの,5月20日の取調べから原告Bの自白は聞かされていたといいながら
(同93頁)翌日の取調べでは

いったん否認に転じているのであり(同99頁,甲C124)
,原告Bの自
白を聞かされたことが原告Cの供述に直接的な影響を与えたとも考え難い。原告Cは,検察官による弁解録取において原告Dの名前を出したことにつき,検察官から誘導があった旨証言している(甲C195の114頁)が,その前日である同月22日には原告Bが原告Dは実行犯ではない旨供述をしている(甲C75)上,Mにおいてもこの時点では原告Dが関与しているとは供述していなかったのであるから,検察官が原告Dの関与を示唆するとは考え難く,上記証言は信用できない。また,原告Cは,原告Dが暴走族の元総長であると認識していながら(同C195の62頁),検察官から原告Dの存在を示唆され当てずっぽうで名前を出したと証言しており,1回しか話したことがないという原告D(甲C195の3頁)の名前を弁解録取の段階で出した理由は明らかでない。
原告Aの名前を出した理由についても,Aは違うかといった感じで聞かれたとし(甲C195の107頁),これを肯定したと証言する一方(同108頁),日常的には,Aとよくつるんでいるから,Aから呼ばれたということにしたということではないんですかとの弁護人の質問に対しては,覚えてないと答えており(同109頁),原告Aの名前を出した経緯が曖昧であるし,本件事件当時最も仲が良かったとする原告A(同68頁)の名前を出すに当たって,多少なりともちゅうちょした形跡もうかがえない。原告Eの名前を出した点についても,食事をごちそうしてくれたりするという原告E(同60頁)にあえて不利な供述をした理由は明確に説明されていない。
もともとは見張りをしていたという供述をしながら,自身も直接関与したと供述するに至った経緯についても,本当はやっただろうと何度も言われたので供述を変えたとしながら(同123頁),少年審判では,そのように供述を変えた経緯を覚えていないと供述しており(甲C189の27頁),供述を変えた理由は明確でない。また,5月21日作成の自供書(甲C101)に書いた地図については,警察官が別の紙に書いた地図を見ながら書いたとし
(甲C195の26頁)引き当たり捜査においてもそうし

て書いた地図を見ながら案内したと証言している(同30頁)が,少年審判では,5月20日及び同月21日に作成した地図は押しつけられて書いたものかとの質問に対して沈黙し
(甲C189の31頁)引き当たり捜査

では自分で案内して自供書を作成したのではないかとの質問に対してもこれを否定することなく沈黙している(同34頁)
。そして,刑事第1審にお
いてこの点を追及されても沈黙しており
(甲C195の16頁)自分で書

いた地図だけを見て現場を案内することができたのかという問いに対しても答えていない(同31頁)

さらに,6月8日の検察官の取調べにおいて,いったん犯行状況を説明した図面(甲C117)を書きながら,人物の位置関係を訂正した(甲C123)
理由についても,
検察官から書き直せと命じられたわけではなく,
特段の理由はないまま書き直したと説明するにとどまり(甲C195の54頁)
,明確な説明はできていない。
そうすると,刑事第1審における証人尋問の後においても,原告Cが,取調べの比較的早い段階から原告A,原告E及び原告Dの関与を認め,しかも本件現場を案内することができた理由は明らかになっていないといわざるを得ず,原告Cの捜査段階の供述の信用性を直ちに否定することができるような状況にはなかったというべきである。

Mの供述
Mは,刑事第1審公判においても,原告Eから本件事件を敢行した旨の説明を受け,そのことについて原告D及び原告Eから口止めを受けていたと証言し,5月14日及び同月17日の出来事についても,従前とおおむね同内容の証言をした(甲C197)

これに対して,原告D及び原告Eは,上記両日に本件事件について口止めをしたことはなく,Mが原告E宅から500円を盗んだことを自慢していることや警察の取調べで原告Eの悪口を言っていることについて注意をしたにすぎないと,起訴前と同内容の供述をした(甲C205,208)。
原告Aに係るアリバイ立証がされた後の時点においても,原告D及び原告EがMをわざわざ呼び出してまでそうした注意をするかという疑問が残ることは前記(11)ウ,
(12)ウでみたところと変わりはなく,原告D
及び原告Eから本件事件について口止めを受けたというMの証言が信用できない状況に至っていたとまではいい難い。

原告Aの供述
原告Aは,原告D及び原告Eが起訴された後,7月21日に行われた原告Cの少年審判においても従前の供述を維持する証言をしていた(甲C191)が,9月22日の刑事第1審において否認に転じ,他の原告らの関与も否定する証言をした
(甲C194)原告Aにはアリバイが成立する可

能性が高く,アリバイ立証後は自己の関与を前提とする供述の信用性が大きく減殺されることはこれまでに述べたところと同様であるが,刑事第1審の証言には次のような疑問も残る。
まず,自白するに至った理由について,警察に脅されて嫌になった(甲C194の15頁)原告B,

原告C及びMが自分の名前を出していると言
われた(同70頁,71頁,136頁)などと説明しているが,どのように脅迫されたかは覚えていないとし
(同15頁,
77頁)弁護人からの

君はずっと1か月以上にわたって否認しておったんですけれども,最後,これはもう辛抱がたまらんわと思って認める一番の理由,自分にとってもう認めざるを得ないというふうに諦めたのはどの段階ですかとの質問に対しても,明確に答えられていない(同85頁)
。そして,自白を撤回した理
由につき,自分の供述で他人が迷惑を被っている状態に耐えられなくなった旨説明している(同121頁)が,原告Aは,かなり仲が良かったとする原告C(同4頁)の少年審判においてさえ,原告Cが否認していることを知りながら(同44頁)自白を維持し,原告Cの関与を認める証言をしているのであり
(甲C191)否認に転じた理由は必ずしも説得的ではな

い。
また,6月1日の取調べで原告D及び原告Eのために犯行に及んだ旨供述した理由につき,警察官から何日も誘導を受けたためと説明するにとどまっている(甲C194の87頁)
。しかし,原告Aは,警察官の取調べに
対し,原告D及び原告Eを怖いと思っている旨供述し,その理由として,平成15年頃,原告Eが好意を抱いている女性の自宅を原告Bとともに訪れるなどしていたところ,原告D及び原告Eから呼び出され,車の中に連れ込まれて大声で怒られたこと,同じく平成15年頃,原告Eが,当時交際していた女性に声をかけた男性に対し,他人の目を気にせず暴行を加えていたことといった具体的事実を挙げており
(甲C46)これらの事実自

体は刑事第1審においても認めている(甲C194の47頁)ことからすると,そのように怖いと思っている人物の名前を出した理由として原告Aの上記説明は必ずしも説得的ではない。
さらに,原告Aは,自供書には自分で考えて書いたものもある(同86頁)原告B及び原告Cが自分の名前を出していることは警察官から聞いた,
ものの,誰がどのような行動をしたかは聞いていない(同136頁,139頁)などと証言しており,

共犯者の名前を小出しにするという供述経緯
に照らせば,原告Aは取調べにおいて自発的に供述しているのではないかと考えることも不可能ではなく,原告Aが本件事件への関与について否認に転じる決意をした時期が,刑事第1審で証人として証言することが決まった頃であると述べていること(同105頁)を考慮すると,刑事第1審では原告D及び原告Eに対する恐怖心から犯行を否認する証言をしたのではないかとの推測も成り立つところである。
そうすると,原告D及び原告Eの関与を認めていた原告Aの供述は,アリバイ立証終了後もなお一定の信用を置くことができる状況にあったというべきである。
3
争点(2)イ(原告B関係)について

(1)争点(2)イ(ア)
(検察官が,捜査本部による原告Bの逮捕を了承し,
勾留請求をし,勾留延長請求をしたことは違法か)について

違法性の判断基準
捜査機関がある被疑事実について被疑者を逮捕・勾留した場合,仮にその後に無罪判決が確定したり,少年審判において非行事実なしとの判断が確定したりしたとしても,直ちに上記逮捕・勾留が違法とされるわけではなく,逮捕・勾留の時点において犯罪の嫌疑について相当な理由があり,かつ,必要性が認められる限りは適法というべきである(最高裁判所昭和53年10月20日第二小法廷判決・民集32巻7号136頁参照)。


逮捕了承の違法性
前記2(1)アのとおり,原告Bの逮捕時点での供述はそれ自体として高い信用を置くだけの相当な根拠があり,しかもMの供述によってその信用性が補強されていた。
したがって,犯罪の嫌疑について相当な理由があったといえ,具体的指揮権の行使の有無にかかわりなく,検察官が原告Bの逮捕を了承したことは適法である。


勾留請求の違法性
原告Bの勾留請求時点で,原告B及びMの供述の信用性を判断する上で状況に変化がないことは前記2(2)のとおりであり,犯罪の嫌疑について相当な理由があったといえるから,検察官が原告Bにつき勾留請求をしたことは適法である。


勾留延長請求の違法性
原告Bに対する勾留延長請求時点での原告Bの供述の信用性は前記2(5)のとおりである。また,弟である原告Cも原告Bの関与を認めるようになった点で,その信用性は補強されているといえるし,Mの供述が変遷していることから,原告Bの関与を認める原告B自身及び原告Cの供述の信用性を否定するに足りるものともいえず,検察官が原告Bにつき勾留延長請求をしたことは適法である。
(2)

争点(2)イ(イ)(検察官が原告Bを家庭裁判所に送致したことは違
法か)について

違法性の判断基準
検察官は,少年の被疑事件について捜査を遂げた結果,犯罪の嫌疑があるものと思料するときは,家庭裁判所から送致を受けた事件について公訴を提起する場合を除いて,家庭裁判所に送致しなければならないとされている(少年法42条)ところ,この場合の嫌疑の程度については,刑事事件の公訴を提起する場合と同程度の嫌疑があることを必要とするか否かについて議論の存するところである。少年法42条が検察官の家庭裁判所送致については犯罪の嫌疑があるものと思料するときと規定しているのに対し,同法45条5号が家庭裁判所から送致を受けた事件を公訴提起する場合について公訴を提起するに足りる犯罪の嫌疑があると思料するときと定め,異なる表現を用いていることからすると,少年の被疑事件について家庭裁判所に送致する場合の嫌疑は,公訴を提起する場合の嫌疑よりも低いもので足りると解する余地もある。実際にも,誤った家庭裁判所送致によって受ける少年の権利侵害の程度は,少年法の制度の理念からしても,刑事事件の公訴の提起による場合に比較して低いものと考えられるから,検察官が家庭裁判所送致をする際に要求される犯罪の嫌疑の確実性の程度は,刑事事件の公訴の提起の場合に要求されるそれと比較して,自ずと差異が生ずることは否定できない。しかしながら,その場合であっても,少年の被疑事件が検察官によって家庭裁判所に送致されることは少年の側からみれば一種の不利益処分に当たるのであるから,検察官が事案の性質上当然になすべき捜査を故意又は過失によって怠り,その結果,収集した資料の証拠評価を誤るなどして,経験則に反する不合理な心証を形成し,客観的には犯罪の嫌疑が認められないのに,
嫌疑があるものと思料して少年の被疑事件を家庭裁判所に送致したような場合には,その家庭裁判所への送致が違法になることはいうまでもない。

原告Bの嫌疑
家庭裁判所送致時点での原告Bの供述について信用性が低いと評価すべきものではないことは前記2(7)アのとおりである。特に,原告B自身の関与については供述を変遷させているわけではないから,原告Dの関与に関する供述の変遷があったとはいえ,自身の関与を認める部分に限れば信用できるとする評価も十分に可能である。
そして,この時点までの原告Cの供述が信用できることも前記2(7)イのとおりであり,原告Bの関与を認める部分についてはその一貫性ゆえに信用性が高いともいい得る。よって,原告Bに犯罪の嫌疑があるとの心証を抱いたとしても不合理とはいえず,検察官が原告Bを家庭裁判所に送致した行為に違法はない。

(3)

争点(2)イ(ウ)(検察官が保護処分取消請求手続において原告Bの
犯人性を主張し,取消決定に対して抗告受理を申し立てたことは違法か)について

原告Bは,保護処分取消請求手続の段階では,既に原告Aのアリバイが明らかになっており,
原告Bに対する嫌疑は消滅しているにもかかわらず,
検察官が保護処分取消請求手続において原告Bの犯人性を主張し続け,保護処分取消しの決定に対して抗告受理申立てをしたのは違法であると主張する。


しかし,原告Aのアリバイ立証が終了した後も,原告Bの関与を認める各人の供述が全く信用できないような状況にあったとはいえないことは前記2(13)のとおりである。とりわけ,原告Bについては,暴行等を受けることのないまま,取調べ初日の早い段階から犯行を自白し,虚偽の不利益供述をする理由がない人物を共犯者として挙げ,本件被害者の供述とおおむね一致する供述をしているばかりか,原告Bの弟である原告Cも,比較的早い段階から犯行を自白し,原告Bの関与も認めていたのであり,これだけをみれば,これらの供述になお高い信用を置いたとしても不合理とまではいえない。
この時点で,原告Bの供述の信用性に再検討を迫る最も大きな事情は刑事第1審での原告Aのアリバイ立証であるが,原告AとOとのメールのやり取りから明らかにいえることは,2月16日午後7時55分頃に原告Aがその自宅付近でOと会ったこと及び同日22時頃に同人と別れたことであり,その間,両名が継続して面談していたことが当然に推認できるわけではなく,原告Aが本件事件を敢行することは時間的に不可能ではない。また,アリバイ主張の経緯に関する原告Aや関係者の供述がそのまま信用することはできないことは前記第3の1(2)イ(イ)のとおりであり,Oを始めとする関係者が,原告AとOとのメールのやり取りは原告Aのアリバイにならないと認識していたとの見方もできないではない。
そうすると,原告Aが午後7時55分頃にいったんOと会った後,同人と分かれて他の原告らと合流して本件事件を敢行し,その後再びOと会って話をしたという事実関係も一応は想定可能である。
もっとも,
その場合,
原告Aがそのような行動をとったことを関係者の誰もが供述していないという点をどのように評価するかという問題が残るが,犯行前の行動は犯行そのものと比較すれば周辺的な事情として位置づけられるし,原告Bの供述が上記のとおりそれ自体として信用性が高いと評価できる事情があり,同じような事情のある原告Cの供述によっても補強されていることを考えると,犯行前の原告Aの行動について事実と異なる供述があるとしても,犯行そのものに関する供述の信用性を減殺するものではないと評価することも可能である。
こうした考え方は,当裁判所の採用するところではないものの,原告B及び原告Cの供述がそれ自体として信用性が高いと評価できる事情があり,否認に転じた後の説明も必ずしも説得的でないことや,原告AとOとのメールのやり取りを踏まえてもなお原告Aにアリバイは成立しないとした裁判所の判断もあること(甲D4)に鑑みれば,その合理性を一概に否定することはできないというべきである。

そうすると,原告Bに係る保護処分取消請求がされた時点においても,原告Bにおいて,犯罪の嫌疑について相当な理由があったということができ,検察官が保護処分取消請求手続において原告Bの犯人性を主張したとしても,国家賠償法上違法とまではいえないというべきである。
また,検察官が少年事件において抗告受理申立てをするために必要とされる嫌疑の程度には議論の余地があるものの,少なくとも上記の程度の嫌疑があれば足りると解するのが相当であるから,検察官が保護処分取消決定に対して抗告受理申立てをしたこともまた違法ではないというべきである。

4
争点(2)ウ(原告C関係)について

(1)争点(2)ウ(ア)
(検察官が,捜査本部による原告Cの逮捕を了承し,
勾留請求をし,勾留延長請求をしたことは違法か)について

逮捕の了承
原告Cは逮捕時点で犯行を自白しており,それに信用を置ける状況にあったといえることは前記2(3)イのとおりであって,この自白は原告B及びMの供述によって補強されているから,原告Cの犯罪の嫌疑について相当な理由があったといえる。


勾留請求
原告Cの勾留請求の時点における各人の供述の信用性についての判断は前記2(4)のとおりである。よって,原告Cにおいて,犯罪の嫌疑について相当な理由があったといえ,検察官が原告Cについて勾留請求したことに違法はない。

勾留延長請求
原告Cの勾留延長請求の時点における各人の供述の信用性についての判断は前記2(6)のとおりである。よって,原告Cにおいて,犯罪の嫌疑について相当な理由があったといえ,検察官が原告Cについて勾留延長請求をしたことに違法はない。

(2)

争点(2)ウ(イ)(検察官が原告Cを家庭裁判所に送致したことは違
法か)について
原告Cの家庭裁判所送致の時点における各人の供述の信用性についての判断は前記2(8)のとおりである。よって,原告Cにおいて,犯罪の嫌疑について相当な理由があったといえ,検察官が原告Cを家庭裁判所に送致した行為に違法はない。
(3)

争点(2)ウ(ウ)(検察官が少年審判において原告Cの犯人性を主張
し続けたことは違法か)について
原告Aのアリバイ立証が終了した後も,原告Cの関与を認める各人の供述が全く信用できないものではないことは前記2(13)のとおりである。そして,原告Aにアリバイが成立しないと考えることにも合理性がないとまではいえないから(前記3(3)),原告Cの犯罪の嫌疑についてなお相当な理由があったといえ,検察官が原告Cの少年審判において原告Cの犯人性を主張したことは違法ではないというべきである。
(4)

争点(2)ウ(エ)(検察官が,中等少年院送致決定に対する抗告審等
で原告Cの犯人性を主張したことは違法か。また,その後の差戻審の決定に対して抗告受理を申し立てたことは違法か)について
原告Aのアリバイ立証終了後も原告Cにおいて犯罪の嫌疑について相当な理由があったといえることは上記(3)のとおりである。したがって,原告Cが中等少年院決定を不服として申し立てた抗告審等において検察官が原告Cの犯人性を主張し,立証活動を継続したことは違法ではないというべきである。
また,少年審判における抗告受理申立てに必要とされる嫌疑の程度については議論の余地があるが,少なくとも上記の程度の嫌疑があれば足りると解すべきであるから,
検察官が抗告受理申立てをしたこともまた違法ではない。
5
争点(2)エ(原告D及び原告E関係)について

(1)

争点(2)エ(ア)(検察官が,捜査本部による原告D及び原告Eの逮
捕を了承し,勾留請求をし,勾留延長請求をしたことは違法か)についてア
逮捕
この時点における各人の供述の信用性に関する判断は前記2(9)のとおりである。よって,逮捕時点では原告D及び原告Eのいずれにおいても犯罪の嫌疑について相当な理由があったといえるから,検察官が原告D及び原告Eの逮捕を了承したことは違法とはいえない。


勾留請求
この時点における各人の供述の信用性に関する判断は前記2(10)のとおりであり,原告D及び原告Eのいずれにおいても犯罪の嫌疑につき相当な理由があったといえるから,検察官が原告D及び原告Eにつき勾留請求をしたことが違法とはいえない。


勾留延長請求
この時点における各人の供述の信用性に関する判断は前記2(11)のとおりであり,原告D及び原告Eのいずれにおいても犯罪の嫌疑につき相当な理由があったといえるから,検察官が原告D及び原告Eにつき勾留延長請求をしたことが違法とはいえない。
(2)

争点(2)エ(イ)(検察官が原告D及び原告Eを起訴したことは違法
か)について

違法性の判断基準
刑事事件において無罪の判決が確定したというだけで直ちに公訴の提起が違法となるということはなく,公訴提起時の検察官の心証は,その性質上,判決時における裁判官の心証と異なり,公訴提起時における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば足りるものと解するのが相当である(最高裁判所昭和53年10月20日第二小法廷判決・民集32巻7号1367頁参照)



原告D及び原告Eにつき公訴が提起された時点における各人の供述の信用性に関する判断は前記2(12)のとおりであり,原告D及び原告Eのいずれについても,合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があったといえ,検察官が公訴を提起したことは違法とはいえない。

(3)

争点(2)エ(ウ)(検察官が刑事第1審において公判を維持したこと
は違法か)について

違法性の判断基準
公訴提起時の検察官の心証は,その性質上,判決時における裁判官の心証と異なり,公訴提起時における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば足りるものと解すべきことは上記(2)アのとおりであるが,公訴の提起が違法でないならば、原則としてその追行も違法でないと解すべきである(最高裁判所平成元年6月29日第一小法廷判決・民集43巻6号664頁参照)



本件において公訴の提起が違法でないことは前記(2)イのとおりである。そして,刑事第1審の過程で原告Aに係るアリバイ立証がされたものの,同立証後も,原告D及び原告Eの犯人性を基礎付ける供述証拠に一定の信用性があり(前記2(13)),原告Aのアリバイを否定する余地もある(前記3(3))と判断することには相当な根拠があったと認められるから,上記アリバイ立証終了後も公訴を追行したことは違法とはいえない。
(4)

争点(2)エ(エ)(検察官が刑事第1審判決に対して控訴を提起・追
行したことは違法か)について

違法性の判断基準
検察官の控訴の申立て又は控訴審における訴訟の追行が国家賠償法上違法となるのは,第1審の判断を不当とする検察官が,既に提出した証拠や新たに提出する証拠について上級裁判所の評価,判断を求めて控訴を申し立て,追行することが明らかに不当であり,検察官に控訴権を付与した法の趣旨に反すると認められるような特別の事情がある場合に限られるというべきである。また,控訴の提起が違法でないならば,原則としてその追行も違法ではないと解すべきである。


本件においては,刑事第1審における原告Aのアリバイ立証終了後も,原告D及び原告Eの犯人性を基礎付ける供述証拠に一定の信用を置くだけの相当な根拠があり(前記2(13)),原告Aのアリバイを否定する余地もある(前記3(3))から,検察官が第1審の判決に対して控訴したことが,検察官に控訴権を付与した法の趣旨に反すると認められるような特別の事情があるとはいえない。この点は控訴追行時も同様であるから,検察官が刑事第1審の判決に対して控訴を提起し,追行したことは違法とはいえない。

第5
1
争点(3)(被告大阪市関係)に対する判断
争点(3)ア(市児童相談所は原告Aに対する警察の違法な取調べを違法に放置したか)について

(1)

原告Aは,J事件による通告は違法な別件捜査を目的とするものであっ
たにもかかわらず,市児童相談所はこれを認識しながら違法捜査に積極的に協力しており,違法であると主張する。
しかし,児童福祉法に基づく一時保護を逮捕・勾留に準じるものとみて,別件逮捕・勾留に類する違法が生じるとする原告Aの主張には理由がないことは前記第3の2(1)のとおりである。また,一時保護が専ら取調べ目的のために利用されているような場合には当該一時保護は違法というべきであるが,原告Aに対する一時保護が専ら取調べ目的のために利用されたものでないこともまた前記第3の2(1)のとおりである。
したがって,市児童相談所が一時保護を利用した違法捜査に協力した旨の原告Aの主張には理由がない。
(2)

原告Aは,暴力的な取調べがされており,これによって原告Aが相当の
精神的苦痛を受けていることを市児童相談所の担当者が認識しながら,これについて適切な措置を講じていないことが違法であるとも主張する。確かに,警察官が取調べにおいて原告Aを怒鳴りつける声が市児童相談所の職員らに聞こえることがあったことは当事者間に争いがなく,また,本件A日記にも,取調べにより相当の精神的苦痛を受けていることがうかがえる部分がある。しかし,原告Aから取調べが苦痛であるとの訴えを受けた5月10日には,
警察に対し,
翌日以降の取調べを午後のみにするよう申し入れ,
これはそのとおり実現しているし,その後3日間は取調べ状況を確認するため,職員が取調べに立ち会っている(甲2)
。また,取調べにおいて怒鳴り声
が聞こえたことに対しては,
数回にわたって注意していることが認められ
(丁
2の18頁)不適切と思われる取調べに対して一定の措置を講じたものとい,
える。
そもそも,
取調べにおいて大声を出すことは不適切な場合が多いとはいえ,
そのことから,警察が違法な取調べをするという前提に立って常時注意を払うべきであるとまではいえない。また,確かに本件A日記には,取調べが苦痛である旨の記載が多々見受けられるものの,市児童相談所職員が取調べに立ち会い,さほど問題のある取調べが行われたとは考え難い日についても,取調べが過酷である旨の記載がある。例えば,5月11日の欄には

けいさつの人とは早く終わってほしいしもう二度と会いたくありません。毎日毎日来てるし,休けいも全然ないから死にそうなぐらいしんどいです。との記載

が,同月12日の欄には

まぁー二度とけいさつには会いたくないし早く取り調べが終わってほしいです。

との記載が,同月13日の欄には

だいぶ前から月∼金曜日毎日のように取り調べです。もぉー本間にしんどいです。死にたいような気持ちになるぐらい

との記載がそれぞれあり,取調べに対する嫌悪感から,やや誇張した表現が用いられていると考えられ,こうした記載から直ちに過酷な取調べがされていると認識することはできないというべきである。
原告Aは,取調室から怒鳴り声が聞こえたことに対して注意するだけでは不十分であると主張するが,5月18日以降の本件A日記の記載を見ると,同月21日の欄に

僕はけいさつの人が大キライです。死んだら絶対うらんでやる

との記載があるものの,それ以降,具体的な取調べ方法についての不満を記載したものは見当たらないのであって,市児童相談所が注意したことによって一定の効果があったものとみることもできる。
したがって,市児童相談所が違法な取調べを認識しながらこれを放置した事実は認められず,原告Aの主張に理由はない。
2
争点(3)イ(市児童相談所が原告Aの取調べに担当職員を立ち会わせなかったことは違法か)について
原告Aは,不当な取調べがされていることを認識しながら,市児童相談所の職員が原告Aに対する取調べに立ち会わなかったことは違法であると主張する。
しかし,市児童相談所の職員は,原告Aから取調べが苦痛であるとの訴えを受けた翌日である5月11日から3日間は連続して取調べに立ち会い(甲1),
同月13日,原告Aから翌日以降の立会いは不要であるとの申入れを受けた(原告A74頁)ため,原告Aの立会希望がある場合にのみ立ち会うこととした(丁5)というのであり,原告Aの希望にもかかわらず立ち会わなかったことはない(原告A77頁)のであるから,市児童相談所の職員が立会いを懈怠したとは認められない。
原告Aは,5月13日に翌日以降の立会いを断ったのは,警察官がそれを強制したためで,原告Aの真意ではなかったと主張するが,5月13日以降の原告A日記には,取調べに対して不満を述べる記載がある一方で立会いを求めるような記載はないし,前記1のとおり,警察による違法な取調べがされていることを認識するのは困難であったというべきであり,立会いを断ったのが警察官の強制によるもので真意に基づくものではないことを認識するのはなおさら困難であったというべきであるから,市児童相談所において,原告Aの立会希望がないにもかかわらず取調べに立ち会うべき義務があったとまでは認められない。
3
争点(3)ウ(市児童相談所は原告Aと保護者との面会を違法に妨害したか)について
原告Aは,市児童相談所に入所した当初から母親との面会を希望しており,母親もまた原告Aとの早期の面会を希望していたにもかかわらず,市児童相談所は警察による取調べを優先させ,入所後3週間が経過するまで面会をさせなかったと主張する。
しかし,原告Aに関して作成された児童記録によれば,4月30日,原告Aが母親との面会を希望したが,ケースワーカーが,母親との面接が終了する連休明けまでは我慢するよう伝え,母親に対しても,5月6日の家庭訪問を約束し,連休中の面会は控えるよう伝えたことが認められる(丁2の16頁)。こ
れは,要保護児童が保護者に監護させることが不適当であると認める児童であることから,ケースワーカーがいったん保護者と面接した後でなければ保護者と児童とを面会させないとしたものと解され,こうした措置が違法とはいえない。
また,K職員は,原告Aと母親との面会が5月18日まで実現しなかったことにつき,
母親の仕事の都合によるものと思う旨証言しており
(証人K6頁)

家庭訪問から12日後の面会は著しく遅いものとはいえないことや本件児童記録に母親からの苦情が申し入れられたなどの記載がないことからすれば,K職員の上記証言は特段不自然なものとはいえない。本件児童記録には,警察からの要望や捜査情報が少なからず記載されており(丁2の6頁・19頁・21頁)
,仮に警察から面会よりも取調べを優先させてほしいなどの申し入れがあったならばその旨記載されていると考えられるところ,そうした記載はない。そうであるとすれば,市児童相談所が警察による取調べを優先させ,原告Aと保護者との面会を不当に拒絶していたことを認めるに足りる証拠はないというべきである。
4
争点(3)エ(市児童相談所は専ら取調べ目的のため違法に一時保護期間を延長したか)について
原告Aは,市児童相談所が5月20日の時点で原告Aの処遇方針を決定していたにもかかわらず,取調べ目的のために一時保護期間を延長したことが違法であると主張する。
しかし,一時保護の延長は必要があると認めるときに許されるとされており
(児童福祉法33条4項)いかなる場合にどの程度の延長を認めるかは,,
児童相談所長の合理的な裁量に委ねられているというべきである。本件においては,原告Aが,6月17日,
事件のことが思い出せそうな気がするのでもう少し時間がほしいと申し述べた(丁2の24頁)ことから,一時保護期間が延長されたものであるが,取調べに応じて自己の非行事実と向き合うことは児童福祉の観点から必要なことといえるし,取調べに積極的に応じようとする児童の意向を尊重して一時保護期間を延長することが裁量権の範囲の逸脱又は濫用とはいい難い。
原告Aは,延長を希望したのは原告Aの真意に基づくものでないと主張するが,この頃の原告A日記には,取調べに積極的に応じようとする記載があり,延長希望が原告Aの真意に基づくものではないと認識することは容易ではない。原告Aは,こうした日記の記載も警察官に迎合したものであると主張するが,たとえそうであったとしても,取調べの状況や供述調書の内容をすべて把握しているわけではない児童相談所が,原告Aが警察官に迎合していると認識することは困難であったといえ,いずれにせよ,一時保護期間の延長が裁量権の範囲の逸脱又はその濫用により違法となることはないというべきである。第6
1
争点(4)(損害)に対する判断
原告Aについて
原告Aが,警察官による違法な取調べを受けたことは前記第3の2(2)のとおりである。取調べは4月26日に始まり,不連続ながら8月6日まで継続されており,すべての取調べにおいて暴行等が行われたわけではないと考えられるものの,遅くとも5月10日には一定の暴行があり,原告Aが当時14歳の少年であったことを考慮すると,それ以降は取調べがない日であっても一定の精神的負担を感じていたものと考えられる。そうすると,原告Aは89日の間そうした精神的負担を抱えていたことになり,その間の取調べが前記第3の2(2)イのとおり違法なものであったことを考慮に入れると,その慰謝料としては300万円が相当である。また,弁護士費用としては,その1割である30万円をもって相当因果関係にある損害と認めるのが相当である。なお,遅延損害金については,最終の取調日である平成16年8月6日までに全損害が発生しているといえるから,同日から付すのが相当である。
2
原告Bについて
原告Bは,5月19日,警察官の違法な取調べによって自白し,本件事件の被疑者として逮捕され,
引き続き同月20日に勾留された。
そして,
6月8日,
家庭裁判所へ送致されるとともに少年鑑別所に収容され,7月2日に中等少年院送致の決定を受けて同月5日に中等少年院に入院し,平成18年2月15日に仮退院したものであり,その身体拘束期間は合計638日間という長期間に及んでいる(甲D33)
。その後は身体拘束こそないものの,平成20年9月
17日に非行事実なしとする裁判が確定する(前記前提事実(7)イ)まで,極めて不安定な地位に置かれることとなった。そして,原告Bの取調べが前記第3の3(1)のとおり違法なものであったことをも考慮に入れると,原告Bが受けた精神的苦痛に対する慰謝料としては900万円が相当である。一方,原告Bは,平成21年4月30日付けで,797万5000円の少年補償決定を受けているから,これを控除した102万5000円が賠償すべき損害となる。また,弁護士費用としては,賠償すべき損害額の約1割である10万円をもって相当因果関係にある損害と認めるのが相当である。
なお,遅延損害金については,上記裁判が確定した時点までに全損害が発生しているといえるから,平成20年9月17日から付すのが相当である。3
原告Cについて
原告Cは,5月22日,警察官の違法な取調べによって自白し,本件事件の被疑者として逮捕され,引き続き同月23日に勾留された。そして,6月11日,家庭裁判所へ送致されるとともに少年鑑別所に収容され,7月21日にいったん退所したものの,平成17年1月31日に再び同所に収容され,同年2月14日に再び同所を退所した。その後,平成18年3月23日に中等少年院送致の決定を受けて少年鑑別所に収容されたが,執行停止決定がされたため,即日退所したのであり,
その身体拘束期間は合計77日間に及ぶ
(甲D40)

その後は身体拘束こそないものの,平成20年7月11日に非行事実なしとする裁判が確定する(前記前提事実(7)ウ)まで,極めて不安定な地位に置かれることになった。そして,原告Cの取調べが前記第3の4(2)のとおり違法なものであったことをも考慮に入れると原告Cが受けた精神的苦痛に対する慰謝料としては500万円が相当である。一方,原告Cは,平成21年1月29日付けで,96万2500円の少年補償決定を受けているから,これを控除した403万7500円が賠償すべき損害となる。また,弁護士費用としては,賠償すべき損害額の約1割である40万円をもって相当因果関係にある損害と認めるのが相当である。
なお,遅延損害金については,上記裁判が確定した時点までに全損害が発生しているといえるから,平成20年7月11日から付すのが相当である。4
原告D及び原告Eについて
原告D及び原告Eは,いずれも6月14日に逮捕,7月5日に起訴され,平成17年2月17日に至り保釈されることとなったが,それまでは接見禁止処分も付されており,自由が大きく制約される状態が継続していたといえる。そして,無罪判決が確定した平成20年5月2日までの間,刑事被告人として極めて不安定な地位に置かれていたものであり,両名に対する取調べが前記第3の5
(2)
及び6
(2)
のとおり違法なものであったことをも考慮に入れると,
原告D及び原告Eが受けた精神的苦痛に対する慰謝料としては600万円が相当である。一方,原告D及び原告Eは,平成20年10月15日付けで,それぞれ311万2500円の刑事補償決定を受けているから,これを控除した288万7500円が賠償すべき損害となる。また,弁護士費用としては,賠償すべき損害額の約1割である30万円をもって相当因果関係にある損害と認めるのが相当である。
なお,遅延損害金については,上記無罪判決が確定した時点までに全損害が発生しているといえるから,平成20年5月2日から付すのが相当である。
第7

結論
以上の次第であり,原告Aの請求は被告大阪府に対して330万円及びこれに対する平成16年8月6日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で,原告Bの請求は被告大阪府に対して112万5000円及びこれに対する平成20年9月17日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で,
原告Cの請求は被告大阪府に対して443万
7500円及びこれに対する平成20年7月11日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で,原告D及び原告Eの請求は被告大阪府に対して各自318万7500円及びこれに対する平成20年5月2日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度でそれぞれ理由があるからこれを認容し,原告らの請求のうち被告大阪府に対するその余の請求及び被告国に対する請求並びに原告Aの被告大阪市に対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。なお,仮執行宣言は相当でないのでこれを付さない。

大阪地方裁判所第7民事部

裁判長裁判官




裁判官

小林康彦
裁判官

金森陽介徹
(別紙)
当事者の主張
第1

被告大阪府関係

(原告らの主張)
1
争点(1)ア(捜査本部は,客観的証拠を無視するなどして原告らを対象とする捜査を違法に継続したか)について

(1)

客観的・中立的証拠の無視
捜査本部は,原告らの犯人性を否定する以下のような客観的証拠があるに
もかかわらず,これを無視して原告らを対象とする捜査を継続しており,違法である。

本件防犯カメラの映像
本件防犯カメラに映された犯人像からすると,原告Dが犯人に含まれないことは一見して明らかである。にもかかわらず,捜査本部はこれを無視し,本件防犯カメラの映像について追加的な解析も行わないまま,原告Dを犯人に含めた供述証拠を信用し,原告らを捜査の対象とし続けた。

本件被害者の供述
本件被害者は,本件事件の犯人像につき年齢16歳∼17歳位の高校生風の少年4人と供述していた。ところが,原告Dは,身長183㎝,体重86㎏の29歳であり,上記供述と整合しない。


Fによる面通し
前兆事案の被害者であるFは,面通しにおいて,前兆事案の犯人と原告Aとの同一性を否定した。捜査本部は,前兆事案と本件事件の犯人が同一であるとの前提で捜査を行っていたのであるから,Fが前兆事案の犯人と原告Aとの同一性を否定した時点で,
原告Aの嫌疑は消滅するはずである。

(2)

必要な捜査の懈怠
捜査本部は,当然行うべき以下のような捜査を行わず,原告らを対象とする捜査を継続した。
こうした捜査を早期に行っていれば,
原告らの嫌疑は早々
に消滅したはずであり,捜査本部がこれを怠ったことは違法である。ア
本件被害者による面通しの不実施
捜査本部は,犯人を唯一目撃している本件被害者に対して,原告らの面通しを実施しなかった。


アリバイ捜査の懈怠
原告Aは,2月16日午後7時56分頃から同日午後9時59分頃までの間,当時の交際相手であったOとマンションで話をしていた。このことは,
同人の携帯電話のメールデータから明らかである。
そして,
原告Aは,
5月頃の取調べで,本件事件の起こった日時には当時交際していた女性と話していた可能性がある旨を明確に伝えていた。
捜査本部が原告Aの主張に耳を傾け,原告Aの携帯電話の通信記録等を調査するなどしていれば,
原告Aの嫌疑は早期に消滅していたはずである。
にもかかわらず,捜査本部はこれを怠った。


携帯電話の通話履歴の確認の懈怠
捜査本部によって獲得された供述証拠には,携帯電話によるやり取りが頻繁に登場してくる。にもかかわらず,捜査本部は,携帯電話の通話履歴等の照会をしておらず,裏付け捜査の懈怠である。

(3)

供述の信用性評価の誤り
原告らが本件事件に関与していることを最初に供述したのは,Mであった。
その意味で,同人の供述は重要な証拠であり,その信用性は慎重に判断されなければならないにもかかわらず,捜査本部は,不合理な変遷を繰り返すMの供述を信用性が高いものと強引に判断し,原告らを対象とする捜査を継続したのであり,違法である。
(4)

原告Aに対する違法捜査

後記2のとおり,捜査本部は,J事件を理由に原告Aを市児童相談所へ通告し,一時保護状態を利用して違法な別件捜査を行った。しかも,その期間は不当に長期にわたるものであり,原告Aの取調べは,原告Aに対する違法行為であることはもちろん,その他の原告らとの関係でも,不要な捜査を継続する原因となった点で違法である。
2
争点(1)イ(原告A関係)について

(1)

争点(1)イ(ア)(捜査本部が原告Aを市児童相談所に通告したこと
は別件逮捕・勾留に準じる違法なものであったか)について
捜査本部は,4月26日,原告Aを,J事件を理由に市児童相談所へ通告した。これによって原告Aは,事実上の身体拘束状態に置かれることとなった。しかし,J事件は管轄警察署が半年近くも放置していた事件であること等からすると,捜査本部が,本件事件について取り調べる目的で原告Aを市児童相談所に通告したことは明らかであり,別件逮捕に類する違法な行為である。
(2)

争点(1)イ(イ)(市児童相談所における原告Aの取調べは任意取調
べの限界を超える違法なものであったか)について

長期間に及ぶ取調べ
原告Aに対する取調べは,市児童相談所による一時保護期間を利用して80日余りの長期にわたって継続された。取調べにおいて必ずしも市児童相談所の職員の立会いがなかったこと等からすると,原告Aは実質的な身体拘束状態にあったというべきであり,この間にされた取調べは違法である。


取調べにおける暴行・脅迫・誘導

(ア)

原告Aは,5月6日以降,本件事件に関して取調べを受けたが,警
察官は,原告Aを何時間も立たせ,大声で怒鳴りつけ,机をたたくなどのほか,頭を殴る,小突く,蹴る,椅子を蹴り倒して転倒させる,首を絞めるといった数々の暴行を加えた。
(イ)

警察官は,取調べにおいて,本件被害者の供述等に基づき,原告A
を不当に誘導した。また,施設には絶対に行かせない,家族のもとに戻してやるなどとして利益誘導をすることもあり,こうした取調べの結果,原告Aから自白を獲得した。
(3)

争点(1)イ(ウ)(N学園における取調べは脅迫を伴う違法なもので
あったか)について
原告Aは,7月20日,N学園で取調べを受け,警察官から,翌日に行われる原告Cの少年審判で自白を撤回したら偽証罪で逮捕するなどとして脅迫された。
3
争点(1)ウ(原告B関係)について

(1)

争点(1)ウ(ア)(原告Bの取調べは暴行・脅迫等を伴う違法なもの
であったか)について
原告Bは,取調べにおいて,怒鳴られる,胸ぐらをつかまれる,椅子を蹴られる,ファイルの角でたたかれるといった数々の暴行を受けた。また,供述内容を変えると再逮捕するなどと脅迫されたこともあった。
さらに,原告Bは,警察官から,原告Aが原告Bの関与を認める供述をしており,原告Bのポリグラフ検査の結果が原告Bの犯人性を示している旨の不当な誘導を受けた。その他,現場の場所,事件発生の日時,自身の服装,被害者の年齢等についても,警察官からの誘導により供述した。
(2)

争点(1)ウ(イ)(捜査本部が原告Bを逮捕し検察官に送致したこと
は違法か)について
捜査本部が原告Bを逮捕した時点で,原告Bの嫌疑を基礎付ける十分な証拠はなかった。しかも,捜査本部は,5月13日以前に原告A及びMが作成した各自供書(甲C11から13まで,126から134まで)を検察官に送致しておらず,こうした行為は検察官による証拠評価を不当に誤らせるものであるから,捜査本部が原告Bを逮捕し,検察官に送致した行為は違法である。
(3)

争点(1)ウ(ウ)(少年鑑別所における原告Bの取調べに違法があっ
たか)について
少年事件においては,観護措置がされた後の送致事件に関する補充捜査は許されず,余罪取調べについては,裁判所の許可を得た上,少年鑑別所の了解があれば可能と解されている。
ところが,捜査本部は,6月16日及び同月18日,家庭裁判所からJ事件に関する取調べを行うことについて許可を受けておきながら
(甲D32)

実際には送致事件である本件事件について取調べをしており,違法である。4
争点(1)エ(原告C関係)について

(1)

争点(1)エ(ア)(原告Cに対する任意同行は実質的な身体拘束に至
る違法なものであったか)について
警察官は,原告Cに対し,被疑事実を明示せず,かつ保護者の同行を求めることもないまま原告Cを任意同行し,その後長時間にわたって取調べを行っている。このような任意同行は,少年一般に対するものとして許容される限度を超えており,また実質的な逮捕と同視される違法な行為である。(2)

争点(1)エ(イ)(原告Cの取調べは暴行・脅迫等を伴う違法なもの
であったか)について
警察官は,原告Cの取調べにおいて,原告Cの髪の毛をつかんで頭を振り回す,椅子を蹴るなどの暴行を加え,さらには,原告Cの首を手で絞めた上で原告Cを壁に押さえつけ,鼻先で怒鳴ることもあった。
また,原告Cは,兄である原告Bが原告Cの名前を出し,一緒に犯罪を行ったと供述していると言われるなど,警察官から不当な誘導を受けた。(3)

争点(1)エ(ウ)(捜査本部が原告Cを逮捕し検察官に送致したこと
は違法か)について
捜査本部が原告Cを逮捕した時点では,前記1のとおり必要な捜査が遂げられておらず,原告Cの嫌疑を基礎付ける十分な証拠はなかった。しかも,捜査本部は,5月13日以前に原告A及びMが作成した各自供書(甲C11から13まで,126から134まで)を検察官に送致しておらず,こうした行為は検察官による証拠評価を不当に誤らせるものであるから,捜査本部が原告Cを逮捕し,検察官に送致した行為は違法である。
5
争点(1)オ(原告D関係)について

(1)

争点(1)オ(ア)(捜査本部が原告Dを逮捕し検察官に送致したこと
は違法か)について
原告Dは,6月14日,本件事件の被疑者として逮捕されたが,前記1のとおり,必要な捜査が遂げられておらず,原告Dの嫌疑を裏付ける証拠は乏しいものであった。しかも,捜査本部は,5月13日以前に原告A及びMが作成した各自供書(甲C11から13まで,126から134まで)を検察官に送致しておらず,こうした行為は検察官による証拠評価を不当に誤らせるものであるから,捜査本部が原告Dを逮捕し,検察官に送致した行為は違法である。
(2)

争点(1)オ(イ)(原告Dの取調べは暴行・脅迫等を伴う違法なもの
であったか)について取調べの違法
取調警察官は,取調べにおいて,原告Dの話を聞くことなく,大声で怒鳴ったり,原告Dの座っている椅子を引いて転倒させたり,床に座り込んだ原告Dの後頭部に乗ったりするなどの暴行を加えた。また,取調室内で壁に向かって長時間立っておくことを強要し,戦前の特別高等警察に言及して原告Dを脅迫したこともあった。このような取調べが違法であることは明らかである。
6
争点(1)カ(原告E関係)について

(1)

争点(1)カ(ア)(捜査本部が原告Eを逮捕し検察官に送致したこと
は違法か)について
捜査本部が原告Eを逮捕し検察官に送致したことが違法であることは,原告Dについて述べたところと同様である。
(2)

争点(1)カ(イ)(原告Eの取調べは暴行・脅迫等を伴う違法なもの
であったか)について
警察官は,犯行を否認する原告Eに対し,取調室への入退室に際して大声で挨拶をすることを強要し,声が小さいなどの理由で何度もやり直しをさせた。また,連日,大声で怒鳴り,机をたたく,足で蹴りつける,顔や頭を小突く,首を絞めるなどの直接的な暴行や威力を示した取調べが行われた。さらに,
犯人のくせに態度がでかい,いくら否認しても,刑務所へぶち込む,
認めなくても,意地でも確実に送ってやる
などと発言することもあった。
このような取調べが違法なものであることは明らかである。
(被告大阪府の主張)
1
争点(1)ア(捜査本部は,客観的証拠を無視するなどして原告らを対象とする捜査を違法に継続したか)について

(1)

客観的・中立的証拠の無視
防犯カメラの映像
本件防犯カメラに映された犯人と原告Dの身長・体型に矛盾はなく,原告Dの犯人性を否定する証拠にはならない。


本件被害者の供述
本件被害者の犯人識別供述は必ずしも明確なものではなく,これによって原告らの犯人性が否定されるものではない。


Fによる面通し
Fは,原告Aの面通しの際,犯人と原告Aとの同一性を否定するような供述はしていないし,Fの供述に基づいて作成した本件似顔絵を見たJやその母親は,原告Aに似ていると申し立てている。そもそも,Fは飽くまで前兆事案の被害者にすぎず,
同人が原告Aの犯人性を否定したとしても,
原告Aに対する本件事件の嫌疑が消滅することはない。
(2)

必要な捜査の懈怠
本件被害者による面通しの不実施
本件被害者は,暗がりで後方から突然襲われたことや負傷による激痛等から,犯人について明確な記憶を有していなかった。そのため,捜査本部においては,犯人の識別が期待できないと考え,本件被害者による面通しをしなかったのであり,そのことが捜査の違法となるものではない。

アリバイ捜査の懈怠

(ア)

アリバイの成否
原告らは,原告Aにはアリバイが成立することを前提として,捜査本
部が原告Aのアリバイを適切に捜査しなかったことは違法であると主張する。しかし,原告Aの主張するアリバイには疑問があり,アリバイが成立するとはいい難い。
(イ)

アリバイ主張の有無
仮に原告Aにアリバイが成立するとしても,原告Aは,捜査段階にお
いてこのアリバイを主張していなかったから,捜査本部がこれについて捜査しなかったとしても違法とはいえない。
(3)

供述の信用性評価の誤り
Mの供述は多少の変遷はあるものの,全体として信用できるものであり,
これに依拠した捜査が違法となることはない。供述の変遷は,同人が刑事第1審において証言しているように,原告Eから脅されたためと考えられる。Mの供述は刑事控訴審の判決においても信用できるものと判断されている。(4)

原告Aに対する違法捜査
J事件は,Jが共犯者の名を明らかにしたことで,暴行を受けたり,現金
を要求されたり,自宅への嫌がらせをされたりした結果,その追及を逃れるため転居を余儀なくされたという極めて悪質な事案であって,それ自体捜査の必要性が大きい事件であるから,違法な別件捜査とはいえない。2
争点(1)イ(原告A関係)について

(1)

争点(1)イ(ア)(捜査本部が原告Aを市児童相談所に通告したこと
は別件逮捕・勾留に準じる違法なものであったか)について
原告Aは,捜査本部がJ事件を理由に原告Aを補導し,市児童相談所に通告したことが別件逮捕に相当する違法な行為であると主張するが,J事件が極めて悪質な事件であることは上記1のとおりであり,これについて原告Aを補導し市児童相談所に通告する行為に何ら違法はない。
(2)

争点(1)イ(イ)(市児童相談所における原告Aの取調べは任意取調
べの限界を超える違法なものであったか)について

長時間に及ぶ取調べ
児童相談所における原告Aの取調べは,通算30日にわたって行われたが,平日のみに実施し,時間も主として午後1時から午後4,5時までであったから,不当に長時間の取調べとはいえない。


取調べにおける暴行・脅迫・誘導
原告Aが嘘をついたり,供述が頻繁に変遷したときには,取調べに当たる警察官が大声でたしなめることはあったが,原告Aの主張するような暴行,脅迫又は誘導の事実はない。

(3)

争点(1)イ(ウ)(N学園における取調べは脅迫を伴う違法なもので
あったか)について
7月20日の取調べは,原告Aの要望によって行われたものであり,警察官が,自白を撤回したら逮捕するなどと告げたことはない。
3
争点(1)ウ(原告B関係)について

(1)

争点(1)ウ(ア)(原告Bの取調べは暴行・脅迫等を伴う違法なもの
であったか)について
原告Bが主張するような暴行・脅迫の事実はない。
警察官が本件現場の地図を見せたことはあるが,原告Bらは,本件事件について警察がMを取り調べていることを認識しており,原告Eらとともに対応を話し合っていたのであるから,本件事件の発生現場は当然に知っているはずであり,
本件現場の地図を見せることが不当な誘導になるとはいえない。
原告Bは,ポリグラフ検査の結果が原告Bの犯人性を示しているなどと言われたと主張するが,そのような事実はない。
(2)

争点(1)ウ(イ)(捜査本部が原告Bを逮捕し検察官に送致したこと
は違法か)について
原告Bは,5月19日に任意同行した上で取り調べたところ,取調べ開始後1時間から1時間半が経過した頃自白するに至った。そこで,現場を案内させたところ,正確に案内することができたため,嫌疑が認められると判断し,逮捕状の発付を受けて逮捕した。逮捕要件に欠けるところはなく,違法はない。そして,検察官送致の段階でも,上記供述に変更はなく,検察官送致もまた適法である。
なお,原告らは,捜査本部が証拠の一部を検察官に送付していなかったことを問題視するが,本件事件と直接関係がなく,意図的に送らなかったわけでもないから,違法性はない。
4
争点(1)エ(原告C関係)について

(1)

争点(1)エ(イ)(原告Cの取調べは暴行・脅迫等を伴う違法なもの
であったか)について
原告Cの主張するような暴行・脅迫・誘導の事実はない。5月20日の取調べで原告Cが嘔吐したことは事実であるが,Z警察官が何度も原告Cに体調を確認し,大丈夫ですとの回答を得たため取調べを継続したものであり,違法とはいえない。
(2)

争点(1)エ(ウ)(捜査本部が原告Cを逮捕し検察官に送致したこと
は違法か)について
原告Cは,5月20日,21日及び22日に任意同行した上で取り調べたところ,同日,本件犯行を自白するに至った。そこで,現場を案内させたところ,正確に案内することができた。加えて,原告Bは,5月19日,原告Cが共犯者である旨供述していた。これらの証拠関係から原告Cに嫌疑が認められると判断し,逮捕状の発付を受けて逮捕したものであって,逮捕要件に欠けるところはなく,違法はない。そして,検察官送致の段階でも,上記供述に変更はなく,検察官送致もまた適法である。証拠の一部を検察官に送致しなかったことが違法でないことは原告Bについて述べたところと同様である。
5
争点(1)オ(原告D関係)について

(1)

争点(1)オ(ア)(捜査本部が原告Dを逮捕し検察官に送致したこと
は違法か)について
捜査本部は,関係者の供述調書等の関係証拠により,本件事件につき原告Dに十分な嫌疑が認められるとして逮捕状を請求し,検察官に送致したものであり,何ら違法はない。
証拠の一部を検察官に送致しなかったことが違法でないことは原告Bについて述べたところと同様である。
(2)

争点(1)オ(イ)(原告Dの取調べは暴行・脅迫等を伴う違法なもの
であったか)について
原告Dの主張するような暴行等の事実は一切ない。むしろ,取調べにおいては,原告Dの方が,大声を出したり,横柄な態度を取ったり,時には取調べに当たる警察官を挑発するような振る舞いをしたりしていた。警察官は,原告Dのこのような態度を受け,挑発に絶対乗らないとして対応していたのであり,暴行等を加えるはずがない。
6
争点(1)カ(原告E関係)について

(1)

争点(1)カ(ア)(捜査本部が原告Eを逮捕し検察官に送致したことは違法か)について
原告Eの逮捕及び検察官送致が適法であることは原告Dについて述べたところと同様である。
(2)

争点(1)カ(イ)(原告Eの取調べは暴行・脅迫等を伴う違法なもの
であったか)について
原告Eの主張するような暴行の事実等は一切ない。むしろ,取調べにおいては,原告Eの方が,大声を出したり,机をたたいて立ち上がったり,横柄な態度を取ったり,時には取調べに当たる警察官を挑発するような振る舞いをしたりしており,この点は,原告E自身,何度か暴力的に出ることがあったと自認しているところである。警察官は,原告Eのこのような態度を受け,挑発に絶対乗らないとして対応していたのであり,暴行等を加えるはずがない。
第2

被告国関係

(原告らの主張)
1
争点(2)ア(原告A関係)について

(1)

争点(2)ア(ア)(捜査本部が原告Aを市児童相談所に通告するこ
とを,検察官が了承したことは違法か)について
Cc検察官は,本件事件の主任検事として,いまだ原告Aが同事件の犯人であると特定するに足りる程度の証拠が得られておらず,本件事件のためにJ事件の別件捜査が行われようとしていることを認識しつつ,市児童相談所への通告を了承した。そして,こうした行為は,司法警察員に対する具体的指揮(刑事訴訟法193条3項)の行使として行われたものであり違法である。
被告国は,児童相談所への通告は逮捕・勾留とは異なるので別件逮捕・勾留には該当しないと主張するが,身体の自由を制約され事実上取調べに応じざるを得ない状況にあったことに変わりはないから,被告国の主張は失当である。
(2)

争点(2)ア(イ)(原告Aが市児童相談所で長期間取調べを受けて
いることに対して措置を講じなかったことは違法か)について
原告Aに対する取調べは,本件事件を自白し始めた5月末の時点で既に約1か月に及んでおり,その後も更に1か月余りの期間,市児童相談所での取調べが行われた。取調べは平日の連日にわたって行われ,時には終日に及ぶこともあった。こうした長期間にわたる取調べは,成人の刑事事件においても許されないものであり,任意取調べの限界を超えたものであるから,その違法性は明らかである。
それにもかかわらず,Cc検察官は,上記のことを認識していながら捜査本部に対して捜査の適正化を指示するなどしなかった。
(3)

争点(2)ア(ウ)(検察官による原告Aの取調べは違法か)につい

Cc検察官は,6月25日,同月30日及び7月17日にそれぞれ原告Aの取調べをしている。6月25日の時点では,原告Aの一時保護(4月26日)ら61日が,月17日の時点では83日が経過しており,か
7
この間,原告Aは,市児童相談所又は児童自立支援施設において,事実上の身体拘束状態に置かれ,保護者等の立会いもないまま長期間にわたる取調べを受けていたのであり,その供述内容も不合理な内容であったから,Cc検察官としては,原告Aが,長期間の取調べに耐えかねて,警察官に対して迎合的な供述態度をとっている可能性を疑い,慎重に取調べを行うべきであった。
ところが,Cc検察官は,原告Aが本件事件に関与した方向での供述を得ることを目的とする取調べを行っており,6月30日の取調べにおいては,EとDの2人を起訴して裁判にかけることになったら,僕は誤りを犯したことになるのかなどと原告Aに尋ね,過重な精神的負担を課している。さらに,7月17日の取調べにおいては,その4日後である同月21日に原告Aが原告Cの少年審判で証言する予定であったことから,君が今まで話してきたようなことを正直に話せばいいなどと指示しており,こうした取調べは,虚偽自白を固めるための証人テストとしてしか作用しない違法なものである。
2
争点(2)イ(原告B関係)について

(1)

争点(2)イ(ア)(検察官が,捜査本部による原告Bの逮捕を了承
し,勾留請求をし,勾留延長請求をしたことは違法か)について
Cc検事は,Mの供述や原告Bの供述は信用できないものであったにもかかわらず,捜査本部から相談を受け,原告Bの逮捕を了承した。これは,具体的指揮権に基づく指揮であり,違法な逮捕については国もまた責任を負うべきである。
また,Cc検事が勾留請求及び勾留延長請求をした段階においても,原告Bの嫌疑は信用性の低い供述証拠に支えられており,十分な嫌疑があるとはいえなかった。
(2)

争点(2)イ(イ)(検察官が原告Bを家庭裁判所に送致したことは
違法か)について
検察官は,本件防犯カメラの映像についての矛盾点が解消されていなかったにもかかわらず,嫌疑不十分として不送致とすることなく,十分な嫌疑のないまま原告Bを違法に家庭裁判所に送致した。
(3)

争点(2)イ(ウ)(検察官が保護処分取消請求手続において原告B
の犯人性を主張し,取消決定に対して抗告受理を申し立てたことは違法か)について
平成17年2月9日に行われた刑事第1審の第14回公判において,原告Aのアリバイが明らかになり,これによって,原告Aが犯行に関与している旨の原告Bらの供述は,客観的事実に反するものであることが明らかになった。それにもかかわらず,検察官は,その後の保護処分取消請求の手続において,原告Bが犯人である旨の主張を続け,公益代表者として適切な対応をとらなかった。うした活動は,当な理由なく,こ

原告Bの地位を長期にわたって不安定にするものであり,違法である。さらに,検察官は,原告Bについて保護処分取消決定がされるや,抗告受理申立てを行い,従前の主張立証を繰り返した。少年審判における検察官の抗告権は,成人の刑事手続における控訴権よりも慎重に行使しなければならないにもかかわらず,十分な嫌疑もないまま抗告受理申立てを行ったことは違法である。
3
争点(2)ウ(原告C関係)について

(1)

争点(2)ウ(ア)(検察官が,捜査本部による原告Cの逮捕を了承
し,勾留請求をし,勾留延長請求をしたことは違法か)について
検察官は,Mの供述や原告B及び原告Cの供述が信用できないものであったにもかかわらず,捜査本部から相談を受け,原告Cの逮捕を了承した。これは,具体的指揮権に基づく指揮であり,違法な逮捕については国もまた責任を負うべきである。
また,検察官が勾留請求及び勾留延長請求をした段階においても,原告Cの嫌疑は信用性の低い供述証拠に支えられており,十分な嫌疑があるとはいえなかった。
(2)

争点(2)ウ(イ)(検察官が原告Cを家庭裁判所に送致したことは
違法か)について
送致の段階でも,防犯カメラの映像についての矛盾点が解消されていなかったから,十分な嫌疑なく原告Cを家庭裁判所に送致した違法がある。
(3)

争点(2)ウ(ウ)(検察官が少年審判において原告Cの犯人性を主
張し続けたことは違法か)について
平成17年2月9日に行われた刑事第1審の第14回公判において,原告Aのアリバイが明らかになり,これによって,原告Aが犯行に関与している旨の原告Cらの供述は,客観的事実に反するものであることが明らかになった。それにもかかわらず,検察官は,その後の少年審判の手続において,原告Cが犯人である旨の主張を続け,公益代表者として適切な対応をとらなかった。
(4)

争点(2)ウ(エ)(検察官が,中等少年院送致決定に対する抗告審
等で原告Cの犯人性を主張したことは違法か。また,その後の差戻審の決定に対して抗告受理を申し立てたことは違法か)について
原告Cは,等少年院送致の決定に対して抗告したところ,察官は,中

犯人の身長に関してより大きな推定の幅を持たせる新たな鑑定書を提出したり,原告らとは体型が明らかに異なる捜査官を原告らに見立てた再現実験のDVDを報告書化して提出したりするなどの不当な立証活動を行った。そして,抗告審が,原告Cの犯人性に疑問があるとして差戻しの決定をしたところ,検察官は,差戻審においても,不当な立証活動を執拗に繰り返した。
さらに,少年事件における抗告権は,成人の刑事事件における控訴権よりも慎重に行使しなければならないにもかかわらず,検察官は,差戻審において非行事実なしとの決定がされると,十分な嫌疑もないまま抗告受理申立てをした。
このような検察官の行為は,原告Cに対する審判手続を不当に長期化させるものであり,違法である。
4
争点(2)エ(原告D及び原告E関係)について

(1)

争点(2)エ(ア)(検察官が,捜査本部による原告D及び原告Eの
逮捕を了承し,勾留請求をし,勾留延長請求をしたことは違法か)について原告D及び原告Eが逮捕された時点において,両名の嫌疑を基礎づける証拠が不十分であったことは前記第1の5(1),6(1)のとおりである。にもかかわらず,Cc検察官は,証拠を適切に評価せず,こうした逮捕を指揮し,更に勾留請求及び勾留延長請求をしたものであり,違法である。
(2)

争点(2)エ(イ)(検察官が原告D及び原告Eを起訴したことは違
法か)について
Cc検察官は,7月5日,原告D及び原告Eを強盗致傷の罪により起訴したが,名を本件事件の犯人とする合理的な根拠はなく,えって,両

両名が犯人であることと矛盾する証拠さえ存在した。検察官において,本件被害者に対する面通しや,携帯電話の通話記録の調査といった必要な捜査を怠り,十分な嫌疑のないまま原告D及び原告Eにつき公訴を提起したことは違法である。
(3)

争点(2)エ(ウ)(検察官が刑事第1審において公判を維持したこ
とは違法か)について
刑事第1審においては,捜査段階で自白していた少年らがことごとく自白を撤回する証言をした。そして,本件防犯カメラの映像の鑑定により,原告Dの犯人性が明白に否定されるとともに,原告Dの関与を前提としていた少年らの捜査段階の供述が信用できないことも明らかになった。さらに,平成17年2月9日の第14回公判において,原告Aが本件事件当時交際していたOの携帯電話のメールデータから,原告Aが,本件事件当時,本件現場にいなかったことが明らかになった。
こうした経緯により,検察側の立証は崩壊したのであるから,検察官としては,直ちに原告D及び原告Eが犯人でないことを前提として無罪の論告をするなど,適切に対応すべきであった。
にもかかわらず,検察官は,本件防犯カメラの映像に関する鑑定結果の信用性を争う立証をするなどして不当な訴訟活動を継続した上,論告においては,前兆事案の犯人と本件事件の犯人とが同一であるというそれまでの前提を覆すことまでして公判を維持した。
こうした公判活動は公益代表者にあるまじき行為であり違法である。(4)

争点(2)エ(エ)(検察官が刑事第1審判決に対して控訴を提起・
追行したことは違法か)について
検察官は,原告Aのアリバイが明らかになり,他の少年らの捜査段階での自白が信用性を失ったにもかかわらず,刑事第1審の無罪判決に対して,事実誤認を理由に控訴を提起した。原判決が破棄される見込みが皆無であるにもかかわらず控訴提起を強行する行為は違法といわなければならない。
(被告国の主張)
1
争点(2)ア(原告A関係)について

(1)

争点(2)ア(ア)(捜査本部が原告Aを市児童相談所に通告するこ
とを,検察官が了承したことは違法か)について

原告Aは,J事件を理由とする通告及びその後の一時保護がいわゆる別件逮捕・勾留に類するものであり,捜査本部がこうした違法行為を行うことを黙認又は積極的に了承したCc検察官の行為は違法であると主張するが,以下のとおり,捜査本部の行為に何ら違法はない。

(ア)

児童福祉法に基づく一時保護は,逮捕又は勾留と異なり,身体を拘
束するわけではなく,いわゆる取調受忍義務もない。また,一時保護を行うか否かは児童相談所長の判断によるとされており,警察の一存で決められるわけではないから,これを警察が取調べのために利用するのは困難である。
(イ)

J事件は,Jが原告A及びGらとともに敢行した万引き事件につい
て,警察で供述したことへの腹いせに,原告A及びGがJを呼び出して同人に執拗な暴行を加えて金員を要求し,その後も同人が母親と2人で住む住居等に押しかけて口封じをしたり,脅迫を繰り返したりするなどした恐喝未遂等の事案であり,事案の内容及び犯情は極めて悪質であった。それゆえ,それ自体として捜査の必要性が高かった。

そもそも,検察官は,組織法上警察官に対する指揮監督権限を有しておらず,
原則として警察官の違法行為について責任を負わないのであるから,仮に捜査本部の行為に違法があったとしても,そのことが当然に検察官の違法行為になるわけではない。
この点について,原告Aは,検察官がJ事件の捜査を認めたことは検察官による具体的指揮権の行使に当たると主張するが,具体的指揮権を行使するには,検察官が自ら捜査を行っている必要があるところ,Cc検察官がJ事件の捜査について相談を受けたのは,事件が検察官に送致される前であるから,検察官が自ら捜査を行っていたとはいえない。

(2)

争点(2)ア(イ)(原告Aが市児童相談所で長期間取調べを受けて
いることに対して措置を講じなかったことは違法か)について

児童福祉法に基づく一時保護は,取調受忍義務がある逮捕・勾留とは異なるものであり,原告Aに対する一時保護が長期間に及び,その間に取調べがされたとしても,そのことから直ちに違法となるわけではない。

実際の取調べの経緯をみると,4月26日から5月18日までの間は,同月6日頃から本件事件に関する取調べが始まり,合計8回の取調べが行われているところ,うち7回は午前又は午後いずれかのみの取調べであるし,そのうち少なくとも4回は市児童相談所の職員が立ち会っている(甲2)

そして,Cc検察官は,警察官に対し,取調べの対象が少年であることを考慮し,後で任意性又は信用性が問題となるような無理な取調べを行うことなく慎重に対応するよう指導しており,
取調べに当たる警察官からは,
原告Aとの信頼関係を築くべく努力していることを確認していたのである。以上のことからすれば,Cc検察官において,原告Aの取調べを中止させるべき職務上の法的義務があったとはいえない。
(3)

争点(2)ア(ウ)(検察官による原告Aの取調べは違法か)につい

原告Aは,Cc検察官が6月25日,同月30日及び7月17日に行った取調べが違法であると主張するが,以下のとおり理由がない。

任意取調べの限界を超えるか否かは,事案の性質や被疑者の態度等諸般の事情を勘案して,社会通念上相当と認められる方法,態様及び限度で行われたかどうかで判断すべきであり,単に帰宅できない状態が長期間にわたっていたとか,その間の取調べ回数が多かったとか,立会人がいなかったなどの事情のみから取調べが違法となるものではない。


Cc検察官が行った3回の取調べは,いずれも長時間に及ぶものではないし(甲C49)
,原告Aが少年であることに留意し,原告Aがあっさりと
犯行を認めた場合には,本当にやったのかと再度尋ねるなどして,供述内容が真実かどうかについて適切に確認していたのであり,このような穏当な取調べは違法とはいえない。


原告Aは,Cc検察官がEとDの2人を起訴して裁判にかけることになったら,僕は誤りを犯したことになるのかと問いかけたことを問題視するが,Cc検察官が上記のように問いかけたのは,原告Aに供述を押しつけることなく率直な供述を得ようとしたためであることは明らかであり,何ら違法はないというべきである。

2
争点(2)イ(原告B関係)について

(1)

争点(2)イ(ア)(検察官が,捜査本部による原告Bの逮捕を了承
し,勾留請求をし,勾留延長請求をしたことは違法か)について

成人の刑事事件については,無罪が確定したというだけで逮捕・勾留が違法となることはなく,犯罪の嫌疑について相当な理由があり,かつ,必要性が認められる限り適法であると解されているところ,この点は,少年の逮捕・勾留についても同様に解されるべきである。

原告Bを逮捕した時点においては,
原告Bの犯人性に関する証拠として,
Mの供述及び原告B自身の供述があった。Mは,自らも犯罪を敢行したという不利益事実を供述した上で,本件現場に警察官を案内したのであるから,同人の供述に信用性を認め,これに依拠して捜査を展開したことは何ら不当なことではない。また,原告Bは,本件に関与したという不利益事実を自白した上で,本件現場に警察官を案内したのであるから,一定の信用性が認められた。
そして,原告Bは,逮捕後も自白を維持し,弁解録取においても関与を認めていたから,勾留請求の段階では更に嫌疑が強まっていた。
その後,
原告Cもまた原告Bが本件事件の犯人である旨供述するに至り,
勾留延長請求の段階では,原告Bの嫌疑は更に強まっていた。


このように,逮捕,勾留請求及び勾留延長請求のいずれの段階においても,原告Bには本件事件の嫌疑について相当な理由があったといえ,検察官の行為に違法はない。

(2)

争点(2)イ(イ)(検察官が原告Bを家庭裁判所に送致したことは
違法か)について

検察官による家庭裁判所送致が違法となるのは,検察官が事案の性質上当然にすべき捜査を故意又は過失により怠り,その結果収集した資料の証拠評価を誤るなどして,経験則上到底受け入れられないような不合理な心証を形成し,客観的には犯罪の嫌疑が認められないのに,少年の被疑事件を家庭裁判所に送致したような場合に限られると解すべきである。

原告Bを家庭裁判所に送致した6月8日の時点では,原告B自身が本件犯行への関与を認めており,その供述内容は原告Cのものとおおむね一致していたから,原告Bには十分な嫌疑が認められたといえる。
(3)

争点(2)イ(ウ)(検察官が保護処分取消請求手続において原告B
の犯人性を主張し,取消決定に対して抗告受理を申し立てたことは違法か)について

本件防犯カメラの映像は,原告Bの犯人性を否定するものではなかったし,原告Aのアリバイについても,客観的かつ明白に認められるようなものではなかった。そうであるとすれば,検察官が,保護処分取消請求の手続において,原告Bが犯人である旨の主張をすることは違法ではない。

原告Bは,保護処分取消決定に対して検察官が抗告受理申立てをしたことが違法であると主張するが,検察官が抗告を申し立て,抗告審において審判を追行する行為は原則として適法であり,検察官に抗告権を付与した法の趣旨に反すると認められるような例外的な場合を除いて,検察官の抗告申立て及び追行が違法となることはないというべきである。
原告Bの嫌疑が客観的に否定されたわけではないことは上記アのとおりであり,裁判所においても判断が分かれているのであるから,上記例外的な場合には当たらない。

3
争点(2)ウ(原告C関係)について

(1)

争点(2)ウ(ア)(検察官が,捜査本部による原告Cの逮捕を了承
し,勾留請求をし,勾留延長請求をしたことは違法か)について

犯罪の嫌疑について相当な理由があり,
かつ,
必要性が認められる限り,
逮捕・勾留・勾留延長が適法であることは原告Bについて述べたところと同様である。


原告Cが逮捕された5月22日の段階では,原告Cの犯人性を基礎づける証拠として,Mの供述及び原告Bの供述があった。また,原告Cも,見張りの限度ではあるが,本件事件に関与したことを認めていた。
原告Cは,自身の関与を認めるにとどまらず,あえて不利な虚偽供述をする必要のない原告A及び原告Bについてもその関与を認めており,その後もこうした供述を維持していた。

よって,逮捕,勾留請求及び勾留延長請求のいずれの段階においても,原告Cには本件事件の嫌疑について相当な理由があったといえ,検察官の行為に違法はない。

(2)

争点(2)ウ(イ)(検察官が原告Cを家庭裁判所に送致したことは
違法か)について

家庭裁判所送致が違法となる場合が極めて限定されることは前記2(2)
アのとおりである。


原告Cを家庭裁判所に送致した6月11日の時点では,原告C自身が本件犯行への関与を認めており,その供述内容は原告Bのものとおおむね一致していたのであって,家庭裁判所送致が違法となるような例外的場合には当たらない。

(3)

争点(2)ウ(ウ)(検察官が少年審判において原告Cの犯人性を主
張し続けたことは違法か)について

審判追行の違法性の有無の判断基準についても,家庭裁判所送致時における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により嫌疑があれば足りると解すべきである。そして,少年の被疑事件の家庭裁判所への送致が違法でないならば,審判を維持するだけの嫌疑があるのであるから,審判の追行は原則として違法ではなく,審判で嫌疑を客観的かつ明白に否定する証拠が提出され,もはや到底非行事実の認定を期待し得ない状況に至らない限り,違法とされることはないと解すべきである。


本件では,平成17年2月9日に行われた刑事第1審の第14回公判において,Oが原告Aのアリバイを証言したが,寒空の中で2時間も話し込むという不自然な内容であり,告Aのアリバイを客観的に証明す原
るものではなかった。事実,原告Aにアリバイが成立するか否かについては,裁判所の判断も分かれているところである。そうすると,Oの証言等を考慮しても,はや到底非行事実を認定し得ない状況に至ったとも
いうことはできず,年審判における検察官の行為が違法となることは少
ない。
(4)

争点(2)ウ(エ)(検察官が,中等少年院送致決定に対する抗告審
等で原告Cの犯人性を主張したことは違法か。また,その後の差戻審の決定に対して抗告受理を申し立てたことは違法か)について

検察官が抗告を申し立て,抗告審において審判を追行する行為は原則として適法であり,検察官に抗告権を付与した法の趣旨に反すると認められるような例外的な場合を除いて,検察官の抗告申立て及び追行が違法となることはないというべきである。


原告Aのアリバイが客観的に証明されたものではないことは上記(3)イのとおりであり,
原告Cの嫌疑は依然として存在していたといえるから,
検察官の抗告申立て及び追行は適法である。

4
争点(2)エ(原告D及び原告E関係)について

(1)

争点(2)エ(ア)(検察官が,捜査本部による原告D及び原告Eの
逮捕を了承し,勾留請求をし,勾留延長請求をしたことは違法か)についてア
逮捕
原告D及び原告Eの逮捕前の段階で,既に原告B及び原告Cはいずれも自らの犯行を認めた上で,原告D及び原告Eの関与についてそれぞれ供述していた。そして,原告B及び原告Cの供述には変遷もみられるものの,逮捕後の早い段階から,自己の関与という核心部分では一貫して認めていたものであるし,原告D及び原告Eに不利な虚偽供述をあえてするとは考え難いことを考慮すると,これらの供述には一定の信用性が認められる。

勾留請求及び勾留延長請求
検察官の勾留請求及び勾留延長請求が違法となるのは,検察官として事案の性質上当然行うべき捜査を著しく怠り又は収集された証拠についての判断・評価を著しく誤るなどの合理性を欠く重大な過失により,これを看過して勾留請求がされた場合であることを要する。
原告D及び原告Eにつき勾留請求及び勾留延長請求をした段階で,既に原告B及び原告Cが原告D及び原告Eの関与を認める供述をしていたことは,逮捕時と同様であり,合理性を欠いた重大な過失はない。
(2)

争点(2)エ(イ)(検察官が原告D及び原告Eを起訴したことは違
法か)について
検察官の公訴提起が違法となるのは,当該被告人について有罪と認められる嫌疑があると判断した検察官の証拠評価及び法的判断が,法の予定する一般的検察官を前提として通常考えられる検察官の個人差による判断の幅を考慮しても,論理則・経験則に照らして到底その合理性を肯定することができない程度に達している場合に限られるというべきである。
公訴提起時点では,原告Cが否認に転じていたものの,原告D及び原告Eが本件事件の犯人であることの直接証拠として,原告A及び原告Bの供述があった。
原告Bにあっては,
6月30日付けで被害者に謝罪の手紙を送付し,
7月2日に行われた自身の少年審判においても自白を維持していた。これらの直接証拠に加え,原告Eから犯行の告白を受け,更に原告D及び原告Eから口止めをされたとのMの供述をも総合すれば,
公訴提起の段階で,
原告D及び原告Eには有罪と認められる嫌疑があったといえる。
なお,原告らは,被害者の面通しや携帯電話記録の捜査を行わなかったことを理由に,なすべき捜査を怠ったと主張するが,本件被害者に犯人を識別することは期待できず,面通しを実施しなかった検察官の判断はやむを得ないものである。また,原告Aはそもそもアリバイを主張していなかったし,携帯電話会社の通話記録等の保存期間は3か月で,2月時点の記録は4月までしか保存されないというのが捜査機関の常識であったから,検察官が通話記録等の捜査を行わなかったとしても違法ではない。
(3)

争点(2)エ(ウ)(検察官が刑事第1審において公判を維持したこ
とは違法か)について
公訴追行の違法性の有無の判断基準についても,公訴提起時における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば足りると解すべきであるが,公訴追行時の検察官は,公訴を提起した検察官の収集した証拠及び心証を引き継いで公訴を追行することになるから,公訴提起が違法でないならば,公訴の追行は原則として違法でなく,公訴提起後に公判で嫌疑を客観的かつ明白に否定する証拠が提出され,もはや到底有罪判決を期待し得ない状況に至らない限り,違法とされることはないと解すべきである。
原告AとOとのメールは,本件事件当時,原告Aがどこにいたかを直接証明するものではなく,メールのやり取りがない時間帯については,時間的・場所的に,原告Aが交際相手と離れて本件現場に赴いた可能性が否定できない以上,原告Aには高度な証明力をもってアリバイが立証されたとまではいえない。
一方,捜査段階で得られていた少年らの供述には一定の信用性が認められたから,なお有罪の見込みをもって公訴を追行することに何ら違法はない。(4)

争点(2)エ(エ)(検察官が刑事第1審判決に対して控訴を提起・
追行したことは違法か)について
検察官の控訴提起追行は原則として適法であり,

それが明らかに不当で,
検察官に控訴権を付与した法の趣旨に反すると認められるような特別の場合を除いては,検察官の権限に属する適法な行為であると解すべきである。本件では,刑事第1審判決が問題とした諸点について,いずれも検察官が刑事控訴審において異なる判断を得る見込みがあると考えたことは不合理ではなく,違法はないというべきである。
第3

被告大阪市関係
(原告Aの主張)
1
争点(3)ア(市児童相談所は原告Aに対する警察の違法な取調べを違法に放置したか)について

(1)

被告大阪市は,法令に基づき,児童相談所を設置し,その職務を行うに
当たっては,
児童福祉法の基本理念に基づき,
児童を愛護し
(同法1条2項)

保護者とともに,又はこれに代わって,児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う(同法2条)
。このような児童福祉法の理念からすると,児童相談
所は,一時保護されている児童が何らかの違法行為にさらされる可能性があるか又は現にさらされている場合,児童保護という観点から,積極的にこれを是正する義務があると解される。
(2)

ところが,市児童相談所は,警察が原告Aを要保護児童として通告して
きた時点で,警察が別件捜査を行う目的を有していることを認識していたにもかかわらず,警察の違法な別件捜査から原告Aを守るための何らの措置も講じていないのであって,上記(1)の義務に違反している。
(3)

また,原告Aの取調べが進む中で,警察官が原告Aを怒鳴りつける声が
市児童相談所の職員らにしばしば聞こえており,また,原告Aが,夕食時刻を過ぎても取調べから解放されないことがあったにもかかわらず,市児童相談所は,警察官を抑止したり,抗議したり,その後の取調べに同席したりするなど,児童保護の趣旨に即した措置を全く採らなかった。
本件A日記(丁4)の記載を見れば,原告Aが取調べによって大きな精神的負担を負っていることは明白であり,また,警察官から暴行を受けていたことも明らかである。市児童相談所は,こうした事実を把握していたにもかかわらず,
今後の聴取のあり方や継続期間等について,改めて警察側の意向を聴取の上,所としての対応を検討することとし,その旨a警察にも伝えた(丁2の18頁)だけであり,不十分な対応というほかない。
2
争点(3)イ(市児童相談所が原告Aの取調べに担当職員を立ち会わせなかったことは違法か)について
年少者に対する取調べは特に慎重にされるべきであり,これを保護する立場にある者の立会いが望ましいことはいうまでもない。これについては,原告Aが取調べを受けていた当時の児童相談所運営指針について
(平成2年3月
5日児発第133号)が,児童福祉法33条1項に基づいて児童を一時保護する際に留意すべき事項について,
一時保護中の児童に対して警察等による聴取がある場合には,児童福祉の観点から,本人及び外の一時保護児童に与える影響に特に注意し,本人,保護者等の同意,保護者,職員の立ち会い,聴取の場所,時間等について十分留意する。と定めているところである。ところが,市児童相談所においては,警察官の怒鳴り声が職員の耳にも届いており,原告Aからも,取調警察官から髪をつかまれた旨の申告がされていたにもかかわらず,職員が積極的に取調べに立ち会うことはなかったのであり,立会義務を懈怠しているというほかない。
3
争点(3)ウ(市児童相談所は原告Aと保護者との面会を違法に妨害したか)について
原告Aは,市児童相談所に入所した当初から母親との面会を希望しており,母親もまた原告Aとの早期の面会を希望していたにもかかわらず,最初の面会が実現したのは入所後3週間が経過してからであった。これは,親子の面会よりも警察の取調べを優先させた結果であり,違法である。

4
争点(3)エ(市児童相談所は専ら取調べ目的のため違法に一時保護期間を延長したか)について
一時保護の期間は必要最小限でなければならず,これを延長する場合においては,児童保護の観点からその可否及び延長期間を決定しなければならないところ,原告Aについては,5月20日の時点で処遇方針が決定していたにもかかわらず,法律上の上限である2か月を超えて一時保護期間が延長された。原告Aに対する一時保護延長は,取調べ目的のためにされたことが明らかであり,違法である。
この点について,被告大阪市は,一時保護が延長されたのは原告Aの希望に基づいてのことである旨主張するが,原告Aがそのように申し述べたのは,取調べの担当警察官2名が同席している状況においてであるから,その発言が真意に基づくものでないことは明らかであり,これを理由に一時保護延長が適法となることはない。
(被告大阪市の主張)
1
争点(3)ア(市児童相談所は原告Aに対する警察の違法な取調べを違法に放置したか)について

(1)

本件児童記録(丁2)には,警察からの連絡内容を書き留めたものとし

恐喝未遂であげ,強盗致傷自供させる予定。その上で身柄付通告→家裁送致して欲しい

と記載されており,市児童相談所としては,強盗致傷事件での身柄付通告がされるものと予想していた。また,警察から捜査方針を聞いていたわけでもないから,原告Aが主張するように,市児童相談所において警察が別件捜査を行う目的を有していることを認識していたという事実はない。
(2)

原告Aは,本件A日記(丁4)の記載内容から,原告Aが取調べによっ
て大きな精神的負担を負っていたことは容易に認識できたと主張するが,上記日記には,原告Aが反省の情を示して積極的に取調べに応じようとしているようにみえる記載もあり,原告Aが精神的負担を負っていたことが容易に認識できたとはいえない。
(3)

取調べに問題があると感じた場合は,警察に対して是正を申し入れてい
る。すなわち,5月10日には,原告Aから取調べが苦痛であるとの訴えがあったため,午前中の取調べを中止するよう警察に申し入れており,翌日以降の取調べは午後のみになった。また,同月14日及び17日の取調べに際し,取調警察官の声が面談室の近くを通った職員に聞こえたことから,警察に対して善処方を申し入れた。さらに,同月18日には,原告Aの体調を考慮して警察に対して取調べの中止を申し入れ,実際に取調べは中止となっている。
2
争点(3)イ(市児童相談所が原告Aの取調べに担当職員を立ち会わせなかったことは違法か)について
市児童相談所の職員は,4月30日,5月7日,同月11日,同月12日,同月13日,同月25日及び同月26日の計7回,原告Aの取調べに立ち会っている。5月10日には原告Aから取調べが苦痛であるとの訴えがあったため,翌日から3日間は連続して立ち会っており,それ以降も,取調べに先立って,原告Aに対し,職員の立会いを希望するか否かを確認している。結局,原告Aからの立会希望はなかったが,それでも慎重を期して,以後4回の取調べに立ち会っている。

3
争点(3)ウ(市児童相談所は原告Aと保護者との面会を違法に妨害したか)について
市児童相談所では,原告Aの福祉向上を図り,原告Aに対する的確な援助方針を決めていく必要から,原告Aと保護者との最初の面会は,ケースワーカー(児童福祉司)が家庭訪問を行って保護者の面接調査を経た後,ケースワーカー立会いの下で行う方針とし,ケースワーカーのK職員は,その旨を原告Aに説明し,了解を得ていた。
そして,K職員は,5月6日,原告A宅の家庭訪問を実施して面接調査を行うとともに,仕事で多忙な母親に対し,面会の時間ができたならば市児童相談所に電話で連絡をするよう依頼していたところ,同人から原告Aの面会に行くことができるとの連絡を受けて日程調整の上,5月18日に原告Aと母親との面会が行われたのであって,市児童相談所が合理的な理由もなく同日まで面会を許さなかったのではない。

4
争点(3)エ(市児童相談所は専ら取調べ目的のため違法に一時保護期間を延長したか)について
市児童相談所の所長が,原告Aの一時保護期間を延長したのは,職員が,6月17日,原告Aに対し,同月20日付けでN学園へ入所することとなった旨を伝えたところ,原告Aが,事件のことが思い出せそうな気がするのでもう少し時間がほしいなどと訴えたためである。
第4

損害

(原告らの主張)
1
原告Aについて
原告Aは,違法捜査によってその心身に著しい苦痛を与えられた。この苦痛を金銭に換算すれば,500万円は下らない。そして,原告Aが本件訴訟を提起するための弁護士費用としては,その1割である50万円が相当である。なお,遅延損害金については,原告Aが補導された4月26日から付すのが相当である。

2
原告Bについて
原告Bは,5月19日,本件事件の被疑者として逮捕され,その後,家族にも会うことができないなど,自由が大きく制約される日々が続き,平成20年9月17日になってようやく,非行事実なしとする裁判が確定した。こうした中で,
原告Bは,
肉体的・精神的・経済的に大きな負担を強いられ,
こうした苦痛を金銭に換算するならば,1500万円は下らない。そして,原告Bが本件訴訟を提起するための弁護士費用としては,その2割である300万円が相当である。
なお,遅延損害金については,原告Bが逮捕された5月19日から付すのが相当である。

3
原告Cについて
原告Cは,5月22日,本件事件の被疑者として逮捕され,その後,家族にも会うことができないなど,自由が大きく制約される日々が続き,平成20年7月11日になってようやく,非行事実なしとする裁判が確定した。こうした中で,
原告Cは,
肉体的・精神的・経済的に大きな負担を強いられ,
こうした苦痛を金銭に換算するならば,1500万円は下らない。そして,原告Cが本件訴訟を提起するための弁護士費用としては,その2割である300万円が相当である。
なお,遅延損害金については,原告Cが逮捕された5月22日から付すのが相当である。
4
原告D及び原告Eについて
原告D及び原告Eは,いずれも6月14日に逮捕され,7月5日に起訴された。平成17年2月17日に至り保釈されることとなったが,それまでは接見禁止処分が付され,自由が極めて制限される日々が続いていた。これにより原告Eは新たな職に就く機会を失い,原告Dは,当時勤務していた職場を辞めざるを得なくなった。
しかも,
検察官が第1審判決に対して控訴を提起したため,
無罪判決が確定したのは平成20年5月2日のことであり,それまでは刑事被告人という立場を強いられ,物心両面での損害を受けた。
このような原告D及び原告Eの損害を金銭で評価するとすれば,各人につき1500万円は下らないが,原告D及び原告Eについては,平成20年10月15日付けでそれぞれ311万2500円の刑事補償決定がされているため,この額は請求から控除する。弁護士費用については,残余部分の2割に相当する237万7500円が相当である。
なお,遅延損害金については,原告D及び原告Eが逮捕された6月14日から付すべきである。

(被告らの主張)
争う。

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