事件番号 | 平成22(わ)258 |
---|---|
事件名 | 傷害,殺人,殺人未遂,未成年者略取,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件 |
裁判年月日 | 平成22年11月25日 |
裁判所名・部 | 仙台地方裁判所 第1刑事部 |
判示事項の要旨 | 傷害,殺人,殺人未遂,未成年者略取,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件につき,少年である被告人を死刑に処した裁判員裁判の事案 |
裁判日:西暦 | 2010-11-25 |
情報公開日 | 2017-10-13 01:35:49 |
被告人を死刑に処する。 理由 (犯罪事実) 【第1事実】 第1 被告人は,平成22年2月4日から同月5日までの間,宮城県東松島市a字 bc番地d所在のA方1階茶の間において,B(当時18歳)に対し,金属製の模造刀1振及び鉄棒1本で数十回その全身を殴打し,火の付いたたばこを前額部等に押し付けるなどの暴行を加え,よって,同人に全治約1か月を要する前額部熱傷,全身打撲等の傷害を負わせた。 【第2事実】 第2 被告人は,就寝中のC(当時20歳),D(当時18歳)及びE(当時20 歳)を殺害しようと計画し,同月10日午前6時40分ころ,同県石巻市e町f丁目g番h号所在のF方2階8畳寝室(以下本件寝室という。)において,1 Cに対し,殺意をもって,あらかじめ準備していた刃体の長さ約18cmの 牛刀1丁(以下本件牛刀という。)で,その腹部を突き刺し,よって,同日午前7時26分ころ,同市i字jk番地所在の甲において,同人を腹部刺創による出血性ショックにより死亡させて殺害し, 2 Dに対し,殺意をもって,本件牛刀で,その胸部,左上肢等を数回突き刺し, よって,同日午前7時34分ころ,甲において,同人を胸部・左上肢刺創による失血により死亡させて殺害し, 3 Eに対し,殺意をもって,本件牛刀で,その右胸部を突き刺したが,同人に 1週間の入院加療及びその後2週間の安静を要する右胸壁刺創,右肺損傷等の傷害を負わせたにとどまり,殺害の目的を遂げなかった。 【第3事実】 第3 被告人は,就寝中のBを拉致しようと計画し,同日午前6時40分ころ,本 件寝室において,Bに対し,本件牛刀で,同人の左足を切り付け,さらに,第2事実の犯行現場に居合わせ,犯行直後の状況を目撃して,極度に驚愕,畏怖する同人の腕をつかんで,無理矢理立たせて引っ張り,そのまま,同市e町f丁目l番m号所在の駐車場内に停止中の自動車まで連行した上,同人を自動車に乗車させて発進させ,同人を自己の支配下に置き,もって,未成年者である同人を略取するとともに,本件牛刀で同人の左足を切り付ける暴行により,同人に全治約1週間を要する左下腿切創の傷害を負わせた。 【第4事実】 第4 被告人は,業務その他正当な理由による場合でないのに,同日午前6時40 分ころ,本件寝室において,刃体の長さが約18cmの本件牛刀1丁を携帯した。(証拠の標目-省略) (争点及び争点に対する判断) 1 本件の事実に関する争点は,①第1事実につき,暴行の日時・程度及び傷害の 程度,②第2事実につき,各被害者に対する殺意の発生時期とその程度,③第3事実につき,略取行為と故意の有無及び傷害の故意の有無である。以下,順に検討する。 2 争点①について (1) 第1事実については,平成22年2月4日における被告人の暴行の有無, 同月5日に被告人がBの額にたばこの火を押し付ける暴行を加えたかという点に争いがあるので検討する。 (2) これらの点につき,Bは次のとおり証言する。 被告人は,平成22年2月4日昼ころ,A方1階茶の間において, 「なんでおめえ浮気したのや。」 と言った後,いきなり手拳でBの肩を10回連続で殴った。それから,被告人は,Bを正座させ,模造刀で,両腿,背中を中心に,約20回にわたって振り下ろすようにして殴り付けた後,Bを立たせてその左太もも内側の付け根にたばこの火を2回押し付けた。また,被告人は,同月5日昼ころ,上記茶の間において,Bに対し, 「おめえ顔に入れなきゃ分かんねんでねえ。」 と言って,たばこの火をBの額に押し付けた上,素手で暴行を加えた。その後,鞘の付いた模造刀で背中を殴り,鞘が折れると今度は模造刀の抜き身で腕やももを殴り,脇腹を刃先で突いた。さらに,鉄棒でもBの腕などを殴った。殴られたりした回数は合計20回くらいだった。そして,被告人から昨日と同じところに根性焼きを入れるよう言われたので,B自身が,左太もも内側の付け根にたばこの火を押し付けた。すると,もっと入れるように言われたので同じところに合計4回たばこの火を押し付けた。(3) 上記Bの証言は以下の理由から信用できる。すなわち,Bは,被告人から 受けた暴行の内容につき,平成22年2月4日と5日の暴行を明確に区別し,かつ,それぞれの暴行の方法,部位等の暴行内容を具体的に,暴行の先後関係を明らかにする発言なども含めて詳細に証言するもので,その内容は,統合捜査報告書の写真から認められるBの怪我の状況とも合致している。また,Bが,浮気の発覚後,被告人から連日暴行を受けていたという経緯からしても自然なものであり,Bの証言は信用できる。したがって,Bの証言どおりの暴行が存在したと認められる。これに対し,弁護人は,Bが同月9日,暴行の日付を5日と申告していることをもって,Bの証言は信用できない旨主張するが,申告に際し,まず直近の暴行のみを述べ,その外の事実は詳細に述べないことは十分にありうるというべきであるから,弁護人の主張は採用できない。 また,弁護人は,被告人の供述を根拠に,被告人自身はBにたばこの火を押し付けたことはなく,被告人からBにそうするよう言ったことはあるが,実行するとは思っていなかったし,火を押し付けた場面も見ていない旨主張する。しかし,被告人の供述は,前述のとおり信用できるBの証言内容と食い違っている上,被告人がBの浮気を理由に連日暴行を加えていた経緯や,女性のBが自分から進んでたばこの火を額に押し付け,さらに複数回にわたり左太もも内側の付け根にたばこの火を押し付けたという内容自体の不合理性に照らすと信用できず,弁護人の主張は採用 できない。 (4) 以上より,第1事実については,被告人が,Bに対し,判示のとおりの暴 行を加えて判示の傷害を負わせたことが認定できる。 3 争点②について (1) ア 関係証拠によれば,以下の各事実が認められる。 被告人が平成22年2月9日夜にBを連れ出すためにF方に不法侵入した際, 被告人は,Cの首を絞めて 「警察にちくったら,おめえら全員ぶっ殺すからな。」 と怒鳴っていたことイ 被告人が,前記不法侵入後,G(以下共犯者という。)に対し,お前のせいで見つかったんだから,お前が姉ちゃん刺せ,通報しそうなやついたら,すぐ刺せと話し,共犯者が誰か人がいたらどうするのか尋ねると,全員一気にぶっ刺せばいいべやと答えていたことウ その後,被告人が,共犯者に,本件牛刀と革手袋を準備させた上,本件牛刀 を共犯者に握らせて指紋を付けさせたほか,お前が犯人の代わりなんだから,返り血浴びてもお前のせいになっから貸せと言って,共犯者のジャンパーを着用したこと エ 第2事実の犯行当時,被告人は,Cが警察に通報していることに気付くと, 躊躇することなく,直ちにCの腹部を本件牛刀で刺した上,立て続けにD,Eを本件牛刀で刺していること オ 被告人は,Cに対しては本件牛刀を背側の左腎臓を貫通する程深く腹部に刺 したまま二,三回前後させ,Dに対しては右手を思い切り後ろに引いて前に突き出すようにして,刺される度にその体が浮き上がる程の強い力で三,四回腹部を刺し,その傷の深さは15cm以上に及んでいること,Eに対しては本件牛刀をその胸部に対し,深さ15cm以上で肋骨を傷つけるほどの強い力で刺していること(2) そこで,以上の事実を前提に,まず,殺意の発生時期について検討する。 被告人が本件犯行前日にF方に不法侵入した際に,Cらに対し,全員殺害すると怒 鳴り,共犯者にも全員殺害するよう命じていたこと(前記ア,イ),その後,殺害に必要な凶器や被告人による犯行を隠すための革手袋を準備した上,共犯者に本件牛刀を握らせてジャンパーを交換し,共犯者を身代わり犯人とする工夫をしていること(前記ウ),本件犯行当時,Cが110番通報をしていることに気付くと,直ちに躊躇なくCを殺害し,その場にいたDやEをも立て続けに刺していること(前記エ)に照らせば,被告人には本件犯行前日の不法侵入後の時点から,Bを連れ出す被告人を邪魔する者がいたら殺害するという殺意を継続して有していたと認めるのが相当である。そして,殺意の程度については,さらに,被告人の犯行態様がCらの身体の枢要部に対し,複数回強い力で刺突を繰り返すなど執拗なもので,いずれも15cm以上という深い傷を与えていること(前記オ)を併せ考慮すれば,その程度は強固なものであったと認められる。 他方,弁護人は,被告人が不法侵入直後に殺意を抱いたとしても,本件現場に向かう時点では殺意はなくなっており,脅す目的しかなかった旨主張する。しかし,仮に脅す目的しかなかったのであれば,指紋を付けないように革手袋を準備する必要は一切ない。また,共犯者の証言によれば,被告人らは,本件犯行前日の午後9時ころ,F方を訪れたが,電気がついていたので中に入らなかったことが認められ,脅し目的であればその時点で犯行に及ぶのが自然であるといえ,その主張と矛盾している。したがって,弁護人の主張は採用できない。 また,弁護人は,被告人が本件寝室に入った後,Bのみに声をかけ,直ちにCらの殺害に及んでいないことから,警察に通報されるまでは殺意を有していなかった旨主張する。しかし,これらの事情は,先に認定した殺意の内容と矛盾しないばかりか,被告人が,共犯者を招き寄せ,本件寝室の出入口ドアを閉めさせているなどのBを連れ出すのを邪魔する者は殺害するという殺意の実現に沿う合理的な行動を取っていることからすると,何ら殺意を有していなかったと認めることはできず,このような事情があったからといって,被告人の殺意が突発的に生じたものとはいえず,弁護人の主張は採用できない。 さらに,弁護人は,被告人がEを殺す動機はなく,殺そうという意欲まではなかった旨主張するが,前述のとおり,被告人はBを連れ出すのを邪魔する者がいたら殺害するという殺意を継続して有していたと認められるのであって,先に述べた犯行態様や傷の状況等からすれば,Eについても被告人の邪魔をする者として,CやDと同様に殺害を意図して犯行に及んだものというべきであり,弁護人の主張は採用できない。 (3) 以上より,被告人は,C,D及びEに対し,平成22年2月9日の不法侵 入後の時点から犯行時にかけて,被告人がBを連れ出すことを邪魔すれば殺害するという内容の殺意を有しており,その程度は強いものであったと認定できる。4 争点③について (1) 略取行為の有無について B,共犯者及びEの各証言によれば,被告人は,第2事実の犯行後,Bの腕を引っ張り行くぞと言って立たせようとしたこと,Bが「嫌だ。」と何回も言って救急車を呼ぼうとしていたこと,その後,被告人が引っ張るようにしてBを立ち上がらせ,足に力を入れて踏ん張っていたBを連れ出したことが認められる(弁護人は,E証言の信用性を争っているが,この点に関するB,共犯者及びEの各証言は,核心部分において一致しており,いずれも信用できる。)。これらの事実からすれば,被告人は,Bの意思に反して無理矢理本件寝室から連れ出し,自動車に乗車させて発進させて被告人の支配下にBを置いたといえ,被告人による略取行為が認められる。なお,弁護人は,Bらが本件寝室を出た順序や被告人が途中からBの腕をつかんでいないこと,Bが自ら自動車のドアを開けたことなどから略取行為が認められない旨主張するが,仮に弁護人が主張するとおりの事実が認められたとしても,上記認定を左右するものとはいえず,弁護人の主張は採用できない。(2) 略取の故意について 被告人は,前記(1)に認定したとおりの事実を認識して行動しているのであるから,Bが嫌がっているのを承知の上で無理矢理連れ出したと認められる。B及びE の各証言によれば,被告人は,同行を拒むBに対し,こういう状況になっても分からねえのかと言っていることが認められるところ,このような発言からしても,被告人が,Bが嫌がっていないと勘違いしていたとはいえない。してみると,Bに対する略取の故意も認められる。 これに対し,弁護人は,被告人はBが自らの意思で付いてきたと思っていたとして,故意がない旨主張する。しかし,第2事実の犯行現場に居合わせたBが,包丁を持った被告人から連行を求められて自発的に同行することは常識的に考えられない上,前記(1)に認定した事実関係に照らせば被告人が,Bが嫌がっていないと勘違いする状況にあったとは到底いえない。したがって,弁護人の主張は採用できない。 (3) 傷害の故意について B及び共犯者の各証言によれば,被告人は,本件寝室に侵入した後,Bを起こそうと呼びかけ,本件牛刀の刃先をBの左足のすね付近に向けた状態で,本件牛刀を持った右手を前後させていたことが認められる(なお,弁護人は,共犯者の視力や視認条件が悪いことなどを理由にその証言の信用性を争うが,共犯者の当時の視認条件等を前提としても,先述した程度の手の動きであれば見えていたと考えるのが相当であり,共犯者の前記認定にかかる証言は信用できる。)。そして,統合捜査報告書(甲65)によれば,Bの左下腿切創は,深さ約1cm,長さ約3ないし4cmであり,その形状は鋭利な刃先で突き刺したような形をしていることが認められる。 これらの事実からすれば,被告人は,本件牛刀とBの足との位置関係を認識した上で,わざとBの足を傷つけたというべきであり,被告人には,Bの左足に対する傷害の故意が認められる。 これに対し,弁護人は,被告人にはBの足を傷つける動機がなく,Bが寝返りを打とうとしたために誤って切ったものであって傷害の故意がない旨主張するが,被告人がBに対して日常的に暴行を加えていたという経緯等からすれば,Bを起こす ために足を傷つける等の暴行を加えることは十分にありうるし,寝返りを打った際に誤って切ったという点も上記傷の形状と矛盾するというべきであり,弁護人の主張は採用できない。 (4) 以上より,第3事実につき,被告人のBに対する略取行為とその故意及び 傷害の故意を認定できる。 (法令の適用-省略) (量刑の理由) 1 本件は,被告人が,元交際相手(以下被害者という。)の態度に腹を立て て2日間にわたって暴行を加えて傷害を負わせたという傷害事件(第1事実),被告人から被害者を引き離して守ろうとした同人の姉(以下被害者姉という。)やその友人(以下被害男性という。),被害者の友人(以下被害者友人という。)を,それぞれ殺意をもって,牛刀で突き刺し,被害者姉や被害者友人を殺害し,被害男性には重傷を負わせたが,殺害目的を遂げなかったという殺人,殺人未遂事件(第2事実),その後,被害者を無理矢理連れ帰ろうとして,被害者の足を牛刀で切り付けて,連れ出したという未成年者略取,傷害事件(第3事実),第2事実及び第3事実の際,正当な理由なく刃の長さ約18cmの牛刀1丁を携帯したという銃砲刀剣類所持等取締法違反事件(第4事実)からなる事案である。このように,本件は,2人に対する殺人,1人に対する殺人未遂(第2事実)を含む重大事案であり,以下に述べる本件の犯行態様の残虐さや被害結果の重大性からすれば,被告人について保護処分相当性を認める余地はなく,検察官が主張するとおり,被告人に対して,死刑と無期懲役のいずれを選択すべきかが問われているというべきである。そこで,本件においても,第2事実を中心にして,最高裁判所がいわゆる永山判決で示した死刑選択の基準に従って,犯行の罪質,動機,態様,結果の重大性,遺族の被害感情,社会的影響,犯人の年齢,前科,犯行後の情状等諸般の情状を考察する。 2 まず,本件の罪質についてみるに,被告人は,被害者に対し日常的に暴行を加 え続け,被害者が自己の下を離れてしまうと同人を自らの下に連れ戻すために,これを邪魔する者を排除しようとして2人を殺害し,1名に対して重傷を負わせ,被害者を連れ去っており,被害者を一人の人間としてではなく,自己の思いどおりに弄ぶことのできる玩具であるかのように扱っていたことをも併せ考えると,本件は,自分の欲しいものを手に入れるために人の生命を奪うという強盗殺人に類似した側面を有する重大な事案であるといえる。 3 次に,犯行態様を検討する。検察官が主張するとおり,被告人は,被害者姉の 肩をつかんで逃げられないように押し付けながら,ためらうことなく,本件牛刀を腹部に思い切り突き刺した上,刺した状態のまま二,三回前後に動かすなどして同人を殺害している。本件牛刀は,被害者姉の肝臓や膵臓を貫き,背中に近い腎臓まで達し,すぐには引き抜けないほど深く突き刺さっている。 次に,被告人は,悲鳴を上げ,四つんばいになりながら逃げようとする被害者友人をわざわざ引き起こした上, 「お願い,許して。」 と命乞いをしているのを無視して,「おめえもだ。」 などと言いながら胸部を思い切り突き刺している。しかも,被告人は,刺した衝撃でその身体が浮き上がるほどの強い力で三,四回も被害者友人を突き刺しており,脇から突き抜けて背中まで達するような深い傷なども含めて5か所もの大きな傷を負わせて殺害している。さらに,被告人は,被害男性がなだめるのも聞かずに,躊躇せず心臓に近い場所を本件牛刀の刃の8割が刺さるほどの強い力で突き刺しており,その傷は,肋骨を貫いて肺に達している。 以上に加えて,被告人が,上記被害者姉らがいずれも無抵抗であったにもかかわらず,ためらうことなく上記の殺傷行為に次々と及んでいることからすれば,検察官が主張するとおり,被告人の殺人,殺人未遂の各犯行態様は,極めて執拗かつ冷酷で,残忍さが際立っているといえる。 他方,確かに,被告人が犯行現場において,まず,被害者に声を掛けて連れ出そうとし,直ちに被害者姉らに対する殺傷行為に及んではいないことに照らせば,弁 護人が主張するとおり,本件は綿密に計画された犯行とまでは認められない。しかしながら,被告人は,被害者の連出しを邪魔した者は殺害する意図のもとに凶器や革手袋を準備し,共犯者を身代わり犯人に仕立て上げようとするなど周到な計画を立てた上で,その計画どおりに犯行に及んでいるのであって,犯罪実現の可能性の高さからいえば,このような計画性は被告人に不利な事情として考慮せざるを得ない。もっとも,その計画には稚拙な側面があることからすれば,上記計画性をそれほど重視することは相当でない。 4 続いて被害結果について検討する。第2事実の犯行により,2人の尊い生命 が失われ,さらに,1人の生命も失われる危険性が高かったものであり,殺害された被害者姉及び被害者友人が本件犯行により感じたであろう無念さや苦痛は察するに余りある。そして,第2事実の被害者姉らには何ら落ち度がないことを併せ考慮すると,本件被害結果は,検察官が主張するとおり,極めて重大かつ深刻である。 この点で,被害男性が 「被告人が死刑になるのを見届けるまで死んでも死にきれません。」 と述べて被告人に極刑を望む心情も,当然のものとして理解できる。また,被害者姉の遺族は,家族への心配りを欠かさなかった一家の大黒柱であった娘を20歳という若さで突如失っており,実妹である被害者を含め,被告人に対しては一様に極刑を望むなど峻烈な処罰感情を有している。同様に,被害者友人の遺族も,高校の卒業式を目前に控え,心優しく,人というものを考えぬき沢山の人々を救う手助けをしていきたいと福祉関係の仕事に就くことを夢見て,大学進学も決まっていた18歳の娘を失って深く悲しんでいる上,「私は犯人を絶対許せません。」 と述べて被告人に極刑を望んでおり,その処罰感情はやはり峻烈である。このような被害男性や被害者遺族らの処罰感情も,被害結果の重大さ,深刻さの現れとして量刑上考慮するのが相当である。加えて,被害者は,第1事実において,その顔面等にたばこの火を押し付けられ,鉄棒や模造刀で殴られるなどして全治約1か月間を要する前額部熱傷や全身 打撲等という重い傷害を負わされており,このような被害結果も看過できない。5 犯行動機についても,被告人は,被害者を手元に置きたいという身勝手な思 いから,第2事実の犯行前日に被害者宅へ不法侵入をして被害者を無理矢理連れ出そうとしたが,被害者がこれを拒み,被害者姉らに警察へ通報されるなどして制止され,当時保護観察中で警察に通報されると少年院送致になると思っていたことからもこれに激怒し,被害者の連出しを邪魔する者を殺そうと考えて第2事実の犯行に及んでおり,その犯行動機は極めて身勝手かつ自己中心的であるといえる。 これに対し,弁護人は,被害者の言動に影響された被告人が,被害者に対する愛情から,意に反して閉じ込められている被害者を救い出そうとしたとして,犯行動機には同情の余地がある旨主張する。しかし,一連の事実経過からしても,被害者が意に反して閉じ込められていたという事実は認められない上,被害者の言動は,思いどおりの返答をしないと暴力を振るう被告人の態度に起因するものであって,仮に被告人が被害者の言動に影響されたとしても,そのことを被告人に有利に考慮することはできない。そもそも,被告人の従前の行動からすると,被告人の被害者に対する感情は支配的なものであって愛情とは評価できない上,仮に,被告人の感情を愛情と評価したとしても,それが本件各犯行を正当化する理由には到底ならない。したがって,弁護人が指摘する各事情は,被告人にとって有利に考慮することはできない。 6 本件は,当時18歳の少年が,早朝の住宅密集地の民家に侵入し,2人を殺害 し1人に重傷を負わせた上,1人を拉致して逃走したという重大事案で,近隣住民へ多大な不安を与えるなど大きな社会的影響を与えたことも,検察官が主張するとおりであり,量刑上看過できない事情といえる。 7 続いて,被告人の更生可能性について検討する。被告人は平成21年6月に実 母に対する傷害事件で保護観察処分を受けたにもかかわらず,被害者に対する暴行を繰り返し,更に暴行をエスカレートさせたばかりか,警察からの警告を受けても 自らの態度を改めることなく,本件各犯行に及んでおり,その犯罪性向には根深いものがあるといえる。また,交際相手であった被害者や自分の家族に対して常習的に暴行を加えていること,第2事実においては躊躇せず被害者姉らに対して残虐な殺傷行為に及んでいること,自らの保身を図るため共犯者に対しても凶器等を準備させた挙げ句,身代わり犯人となるよう命令していること,被告人が本件犯行後,被害者に性交を強要し,血の付いた牛刀を被害者に示して包丁の根本まで血が付いているのを確かめながら姉ちゃん,動かなかったから,イッたべと告げ,被害者姉らが死亡した内容のニュースを見せ, 「何で泣いてるの。」 と言ったこと等の被告人の言動からすれば,検察官も指摘するように,被告人には他人の痛みや苦しみに対する共感が全く欠けており,その異常性やゆがんだ人間性は顕著であるといわざるを得ない。また,被告人の上記言動からすれば,他者への共感の前提となる周囲の者の言動に関する認識自体に相当なゆがみも認められる。他方で,被告人は,公判廷で被害者姉らに申し訳なかった旨述べ,涙を流すなどして本件各犯行を後悔し,極刑をも覚悟して自らを厳罰に処して欲しいと述べるなど,一応の反省はしているといえる。しかし,被告人が被害男性や被害者遺族らに対して手紙を送付したのは1回にとどまり,被害男性らの精神的苦痛を和らげるに足りる謝罪をしていない上,被告人が述べる反省の言葉は表面的であり,自分なりの言葉で反省の気持ちを表現したものとまではいえない。事実関係についても,現時点においてもなお,自己の事実認識にゆがみがあることについての自覚に乏しく,また,他方で自己に不利益な点は覚えていないと述べるなど不合理な弁解をしている。以上の事情からすれば,被告人は,本件の重大性を十分に認識しているとは到底いえず,その現れからか,被告人の反省には深みがないといわざるを得ない。また,弁護人は,被告人と実母との関係改善などを指摘するが,実母が被告人の抱えている人間性のゆがみを正確に認識しているかについて疑問がある上,実母による従前の監督状況やその被害者遺族に対する対応などに鑑みると,実母による指導,監督に期待することはできない。 以上から,当裁判所は,被告人の更生可能性は著しく低いと評価せざるを得ないと判断した。 8 弁護人は,被告人が本件当時18歳7か月の少年であることを指摘するが,こ の点は,被告人の刑を決めるにあたって相応の考慮を払うべき事情ではあるが,先に見た本件犯行態様の残虐さや被害結果の重大性に鑑みると死刑を回避すべき決定的な事情とまではいえず,総合考慮する際の一事情にとどまり,ことさらに重視することはできない。 また,弁護人は,被告人の鑑別結果において矯正の可能性があると判断されている旨指摘する。しかし,弁護人が指摘する鑑別結果の総合所見については,生育環境上の問題に根ざした人格の偏りは大きく,暴力や共感性等の問題は深刻で,その矯正には相当の時間を要するという点に主眼があるというべきであって,他方,矯正可能性を認めた根拠は,被告人の年齢などの抽象的なものに過ぎず,当裁判所が認定した上記事実を排斥してまで被告人の矯正可能性を認める根拠にはなりがたい。さらに,弁護人は,被告人の不安定な家庭環境や母から暴力を受けるなどしたという生い立ちが本件犯行の遠因であるとして,この点を被告人に有利に考慮すべきである旨主張するが,弁護人が主張するとおりの事情が認められるとしても,本件犯行態様の残虐さや被害結果の重大性に照らせば,この点を量刑上考慮することは相当ではない。 9 以上の事情,特に,犯行態様の残虐さや被害結果の重大性からすれば,被告人 の罪責は誠に重大であって,被告人なりの反省など被告人に有利な諸事情を最大限考慮しても,極刑を回避すべき事情があるとは評価できず,罪刑均衡の見地からも,一般予防の見地からも,被告人については,極刑をもって臨むほかない。よって,主文のとおり判決する。 (求刑―死刑) 平成22年11月25日 仙台地方裁判所第1刑事部 裁判長裁判官 鈴木信行 裁判官 内藤尚子 裁判官 吉賀朝哉 |