判例検索β > 平成11年(わ)第82号
銃砲刀剣類所持等取締法違反、暴力行為等処罰に関する法律違反、住居侵入、暴行、器物損壊、強要未遂被告
事件番号平成11(わ)82
事件名銃砲刀剣類所持等取締法違反,暴力行為等処罰に関する法律違反,住居侵入,暴行,器物損壊,強要未遂被告
裁判年月日平成14年4月23日
裁判所名・部岡山地方裁判所  倉敷支部
裁判日:西暦2002-04-23
情報公開日2017-10-13 01:47:31
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主文
被告人を懲役3年に処する
未決勾留日数中400日を同刑に算入する。
押収してある折りたたみ式ナイフ1本(平成11年押第15号の1)を没収する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は
第1(平成11年6月18日付け起訴状記載公訴事実)
1
業務その他正当な理由による場合でないのに,平成11年5月20日午前2時28分ころ,岡山県井原市a町b番地c所在のA警察署玄関前において,刃体の長さ約8.5センチメートルの折りたたみ式ナイフ1丁を携帯し
2
同時刻ころ,同所において,B(当41年)に対し,同人から同所まで乗りつけたタクシー料金を支払うよう説得されたことに立腹し,その目前に前記折り畳み式ナイフを突き出し,
どうしたんな,こりゃなどと怒号しながら同
ナイフを振りかざして後ずさりする同人を追うなどし,同人の生命,身体に危害を加えかねない気勢を示し,もって,兇器を示して脅迫

第2(平成11年8月27日付け起訴状記載公訴事実)
1
平成11年5月13日午後零時ころ,岡山県小田郡d町e番地所在のC方居室内に故なく侵入し

2
同日午後零時30分ころ,同町f番地所在のD方玄関に故なく侵入し,同所において,D(当77年)の着衣の胸部を右手で鷲づかみにして同人の背部をガラス引き戸に突き当てる暴行を加え

3
同月20日午前7時45分ころ,同県井原市a町b番地のc所在のA警察署において,A警察署長管理にかかる留置場3号室の便所の戸の戸当たり及び取っ手金具(損害額合計約1万円)を手で引きちぎるなどし,もって,他人の器
物を損壊し
第3(平成13年11月21日付け起訴状記載公訴事実)
自己が使用している岡山県井原市g町h番地所在の倉の土壁の一部が崩落しているのを聞知するや,遠縁に当たるE(当70年)らにその修理をさせようと企て,平成13年8月28日,岡山市ij番地F刑務所内から,新倉の縦樋のますの所が外れて壁が崩落して…酷い事になっている。Eさん,又分家の立場として,なぜ放っておけたかその意を知りたい。場合に依っては許さないし責任を追求する。このままホテ置くと,帰宅後,それなりのセイサイ覚悟してもらう。自治会で私が申していると云って,壁の修理皆なでする様にしなさい。していない時は,全部の者に責任を取らす。私自身,肺癌と直腸癌にて,いつまで生きるやら。なんなら,道連れになってもらう。G部落全ての者に。私,今迄は,1人だったが,これからは,いろんなブレーンができてきます。その者達がどの様に出るか…私はもう何も云いませんし,しません。それを皆に見せてもらいたい。常会のせつに。では,よい結果を知らされたし。黙っていてはだめだぞ。そんなことしたら,先で生き死にの事にも相なるから。などと記載した前記Eあての手紙を送付し,同月29日,同県井原市g町k番地のlの同人方に到達させて同人に読了させ,もって,同人の生命,身体等に害を加える旨を告知して同人に義務のないことを行わせようとしたが,同人が警察官に届け出たためその目的を遂げなかった
ものである。
(証拠の標目)
省略
(累犯前科)
被告人は,(1)平成6年5月10日,F地方裁判所H支部において,詐欺罪により,懲役10月に処せられ,同6年12月26日,同刑の執行を受け終わり,(2)その後に犯した器物損壊脅迫罪により,
同7年11月28日,
同裁判所において,

懲役8月に処せられ,同8年7月8日,同刑の執行を受け終わり,(3)その後に犯した詐欺暴行器物損壊罪により,同9年6月13日,同裁判所において,懲役1年6月に処せられ,同10年2月25日,同刑の執行を受け終わり,(4)その後に犯した傷害罪により,同10年8月25日,同裁判所において,懲役8月に処せられ,同11年4月16日,同刑の執行を受け終わったものであって,検察事務官作成の前科調書,前記(2)(3)に係る調書判決謄本及び前記(4)に係る判決書謄本によってこれを認める。
(法令の適用)
1罰条
判示第1の1の行為

銃砲刀剣類所持等取締法32条4号,22条

判示第1の2の行為

暴力行為等処罰に関する法律1条,刑法222条1

判示第2の1の行為
判示第2の2の行為

刑法130条前段,208条

判示第2の3の行為

刑法261条

判示第3の行為
2
刑法130条前段

刑法223条1項,3項

牽連犯

刑法54条1項後段,10条

判示第2の2の行為は一罪として重い住居侵入罪の刑で処断
3
刑種の選択

判示第1の1,2,第2の1ないし3の各行為につ
きいずれも懲役刑を選択

4
累犯加重

刑法59条,56条1項,57条

判示第1の1,2,第2の1ないし3の各行為は前記(1)(2)(3)(4)の各前科と累犯(五犯)の関係,判示第3の行為は前記(3)(4)の各前科と累犯(三犯)の関係
5
併合罪加重

刑法45条前段,47条本文,10条,14条

刑及び犯情の最も重い判示第2の2の罪の刑に法定の加重

6
未決勾留日数の算入

刑法21条

7没
刑法19条1項1号,2号,2項本文

8
訴訟費用の不負担


刑事訴訟法181条1項但書

(被告人,弁護人の主張に対する判断)
被告人,弁護人は,
被告人は,本件の銃砲刀剣類所持等取締法違反,暴力行為等処罰に関する法律違反,住居侵入暴行の各公訴事実については,いずれも記憶になく,銃砲刀剣類所持等取締法違反,暴力行為等処罰に関する法律違反,住居侵入暴行の各事実については,事実自体が存せず,仮に上記各事実が存在したとしても,飲酒による異常酩酊の病的酩酊に基づくものであり,心神喪失状態に陥っていた。次に,器物損壊の事実は,社会通念上物の効用を害したものとは認められず,また過失によるものであって,器物損壊罪の構成要件に該当せず,仮に故意が認められたとしても,同様に飲酒による異常酩酊の病的酩酊に基づくものであり,心神喪失状態に陥っていた。そして,強要未遂事実については,その外形的事実はあるものの故意は存在しなかった。いずれも無罪である。と主張するのでこれについて検討する。
1
平成11年8月27日付け公訴事実第1ないし第3,平成11年6月18日付け公訴事実第1,第2について
(1)

平成11年8月27日付け公訴事実第1(住居侵入
,第2(住居侵入
暴行)について


住居侵入
被害者と一緒に現場にいた証人Iは,面識のない被告人が,勝手に被害者方へ上がり込んで口を荒らしており,その際,被告人は酔ってしまって訳が分からない状態ではなかった旨供述している。すなわち,証人Iは,義父のC方である自宅にいたところ,玄関で声がするので出てみると,玄関の土間に初対面の被告人がおり,被告人は何も言わずに勝手に座敷に上がった。被告人は座敷に上がった後,義父に自分を知っているかなどと話しかけ,義父が知らないと答えると『馬鹿じゃな。などと言ったりし,』その後私にタクシーを呼べと言ったのでその手配をした。そして,私は被告人が怖かったのと仕事があったことから自宅を出た。私が見たり聞いたりした状況からすると,被告人は酔ってしまって訳が分からない状態ではなかった。旨供述している。ィ
住居侵入暴行
証人Dは,面識のない被告人が,勝手に証人方へ入ってきて,胸ぐらをつかんで押すなどし,そのため同女の頭や背中が背後のガラス戸に当たったが,その際,被告人は酔ってしまって訳が分からない状態ではなかった旨供述している。すなわち,証人Dは,
昼前に玄関の外に出たところ,Jさん方の方から初対面の被告人がやって来て,『パトカーを呼べ。』と言った。しかし,私は怖かったので黙っていたところ,被告人は立ち去った。その後,家の中にいたところ,玄関の戸を開け閉めする音がした後,『おるんか,おるんか』という被告人の声が聞こえてきたので出てみると,被告人が玄関の土間に立っており,被告人は私の胸倉を掴んで『タクシーを呼べ。タクシーを呼べ。』と言った後,そのままの状態で私を2度程押した。そのため,私の頭や背中が背後のガラス戸に当たった。私は怖くて黙っていたところ,被告人は私を離して出て行った。被告人は,酒を飲んでいるようだったが,聞いていて理解できないようなことは言っておらず,足元がふらついて歩けないような状態でもなかった。旨供述している。(2)

平成11年6月18日付け公訴事実第1(銃砲刀剣類所持等取締法違反),
第2(暴力行為等処罰に関する法律違反)について


証人Bは,被告人にナイフを示されて脅迫された,その際,被告人には是非善悪の判断能力及びそれに従って行動する能力はあると認められた旨供述している。すなわち,証人Bは,
被告人を乗せたタクシーがやって来て,同人が寝込んでしまって困っているということだったので,私は被告人に『ここはA署じゃ。』と言ったところ,同人はそのことを理解し,『わしゃ,何もしとらん。』と言い,さらに『歩いて帰る。』と言った。被告人はそれまでタクシーの無賃乗車をしたことがあるという話を聞いていたので,私はタクシー代を払うようにと注意をした。そうしたところ,被告人は右足首の靴下の中から折りたたみ式ナイフをとりだして刃を出し,それを突き付けたり頭上に振りかざしたりして示しながら,『どがんしたんなら。こりゃ。』などと言って迫ってきた。それで他の警察官2名が被告人を銃砲刀剣類所持等取締法違反で現行犯逮捕した。被告人は酒を飲んでいたが,酒で訳が分からない状態ではなかった。旨供述している。ィ
証人Kは,被告人がBにナイフを示して脅迫していたが,その際,被告人は,足がもつれたりふらついたようなこともなく,酔って全く訳が分からない状態には見えなかった旨供述している。すなわち,証人Kは,福山市内のスナックから被告人をタクシーに乗せ,その指示で井原市に向かったが,被告人は途中で寝てしまい,起こそうとしても目を覚まさなかったのでA署へ行った。そこで警察官が被告人を起こして何か言ったところ,被告人は何か黒い小さなものを上げたり下げたりしながら警察官の方へ向かっていった。そのため被告人は他の警察官に捕まったが,後で被告人の持っていたものがナイフと分かった。被告人は少し酔っているなと思ったが,酔ってしまって全く訳が分からないという状態ではなかった。旨供述している。


被告人自身,本件より7,8時間前に,岡山県後月郡m町n番地所在の面識のないL方において,同人に対し,ソックスの中から本件ナイフを取り出して拡げて見せ,

これは護身用に持っている。お父さんが手作りで作ったものじゃ。

旨供述している。
(3)

平成11年8月27日付け公訴事実第3(器物損壊)について
証人Mは,被告人が留置室内の便所ドアの戸当たりと取っ手金具を外し
て壊している,それについて被告人に器物損壊の故意があったと認められるし,被告人には責任能力もあったと認められる旨供述している。すなわち,証人Mは,
私が留置場で看守業務に就いていた時に,留置場の便所に入った被告人が『水』と言ったので,私が水洗便所の水を流したところ,被告人は『飲む水じゃ。』と言ったので,コップに水を入れて差入れ口に置いた。その後,便所の扉を力強く叩きつけながら閉めるような音が2秒から3秒の間隔で2回した直後,カチャンという金属が床に落ちる音がした。その後,被告人は水を飲みながら,私に『まだ,おるんじゃのお。白バイに乗りょんか。』などと話しかけてきた。その際,半分開いた状態になっていた留置室内の便所のドアを見たところ,取っ手金具が落ちているように見えた。それで,『何か壊れとりゃせんか。』と聞いたところ,被告人は『知らん。』と言った。その後,私は宿直長のB警部に連絡して一緒に留置室内に入ったところ,留置室内便所ドア内側の取っ手金具が便所の床に落ちており,便所の壁に付けられていた戸当たりが便器の中に落ちていたことが分かった。トイレのドアの取っ手金具や戸当たりは被告人が故意に強く叩きつけるように閉めたため取れたものと思う。また,これらを手で取り外して壊した可能性もあると思う。なぜ故意があったかというと,被告人は平成10年に留置されたときにも,『何を壊してやろうか。』と言ってトイレのドアを何回も強く叩きつけていたことがあり,今回も2回にわたって叩きつけていることや,官弁の容器を壊していることからそのように言える。また,取っ手金具が壊れた際に,被告人は私に『まだ,おるんじゃのお。白バイに乗りょんか。』などと普通に話しかけていたし,その後も『少しやり過ぎた。』などと言ったことから,正常な判断能力はあったと思う。旨供述している。ィ
証人Nは,留置室便所ドアの取っ手金具や戸当たりは木ネジでしっかり固定されていて異常はなく,故意に叩き付けるなどしない限り壊れること
はないと供述している。すなわち,証人Nは,
私は留置場の管理業務に従事しており,当日,被告人を収容する前に留置室を点検した。便所ドアの取っ手金具や戸当たりは木ネジで固定して取り付けられており,これらについて目視だけでなく手で触ってみるなどして,しっかりと固定されてされて異常がないことを確認した。その後,M巡査長から報告を受け,取っ手金具と戸当たりが外され,壊されたことが分かった。外された後の取っ手金具や戸当たりを見たが,取っ手金具はビス(木ネジ)の抜けたところが片方の穴が膨らんで正常に使えない状態になっており,戸当たりは止めてあった木ネジの1本が途中で折れており,他の2本も取り付けられていた壁から外れたような状態になっていた。外れる以前の取っ手金具や戸当たりの取り付け状況から,多少力を入れて便所ドアを開け閉めしても取っ手金具等が外れて壊れるようなことはない。壊す目的で力一杯叩きつけるか,ドアを蹴り込めば外れると思う。また,何らかの強い衝撃を与え,緩んだ戸当たりと壁面との間に指を入れて引っ張れば戸当たりは外れるし,取っ手金具についても指を引っかける部分があるので,力の強い者であれば手で外すことも可能かもしれない。旨供述している。ゥ
本件便所ドアに取っ手金具を設置し,便所の壁板に戸当たりを設置した会社の代表者Oは,過失により取っ手金具や戸当たりが外れることは考えられない旨供述している。すなわち,Oは,
取っ手金具は,あらかじめ開けていた同金具がきっちりはめ込むことができる穴にはめ込んでおり,それだけでも容易に外すことができないのに,なおかつ,その上下をネジ釘によって固定している。また,戸当たりは,相当力を入れても剥がすことができないような業務用糊で糊付けした上,3か所を釘で固定している。以上のような取り付け状況から,少々力を入れてドアの上辺を持って引っ張ったり,また,少々力を入れて外からドアを押すなどしても,取っ手金具や戸当たりが外れるようなことはない。ただ,力一杯外側からドアを押すなどすれば,その衝撃で戸当たりが外れたり,トイレの内側から取っ手金具の手を入れる部分に手を入れて力一杯引っ張ると,ドアが戸当たりに当たった衝撃などで取っ手金具が外れたりする可能性は否定できないが,過ちでそのように力一杯押したり引いたりすることは考えられない。力一杯押したり引いたりするのであれば,壊そうと思ってわざとやったとしか考えられない。旨供述している。ェ
展示に係る証拠品の取っ手金具及びネジ釘は,本件によりドアから外された取っ手金具及びこれを固定するネジ釘と同一形状,材質,重量のものであり,これらの形状等に鑑みると,少々力を入れてドアを閉めたぐらいでかかるネジ釘で固定された本件の取っ手金具がドアから外れることは考え難く,展示された証拠品の形状,材質,重量に,ネジで固定された本件の取っ手金具が外されていたこと自体を併せ考慮すれば,被告人にはドアを壊すか取っ手金具をドアから取り外そうとした故意が認められる。
(4)

被告人の弁解


平成11年8月27日付け公訴事実第1(住居侵入)第2(住居侵入,,
暴行)について
被告人は,平成11年5月13日深夜過ぎから朝にかけ,焼酎8合位を飲酒し,その後犯行前迄にビール缶350CCを3缶と焼酎約3合位を飲酒し,犯行前の午前零時ころから,被告人が男性と喧嘩をし,Pが止めに入った時点からoの小さな商店街をうろうろしていた午後2時ころまでの間の記憶が完全に喪失していると供述している。


平成11年6月18日付け公訴事実第1(銃砲刀剣類所持等取締法違
反)
,第2(暴力行為等処罰に関する法律違反)について
被告人は,平成11年5月19日午前3時か4時ころから,焼酎3合を飲み,その後,ワンカップの焼酎1本,ビール大瓶2本,Q方でビール大瓶1本,ウィスキーサントリーオールド720CC1本を午後6時ころま
での間飲酒し,その後,カラオケハウスRでビール中瓶5∼6本を飲み,パブSでビールを半分飲み,ラウンジTでビール約200C
Cと小瓶に半分を5月20日午前2時ころまで飲酒しており,5月19日午後3時ころから同月20日のA警察署の留置場で酒の酔いが醒め気が付くまで,記憶が完全に喪失していると供述している。

平成11年8月27日付け公訴事実第3(器物損壊)について
被告人は,A警察署の留置場3号室で目を覚ましたのは,5月20日午
前7時45分ころであったが,目が覚めて,官弁の蓋を壊すまでの間の記憶はないと供述している。
(5)

証拠の検討及び公訴事実の認定
証人I,同D,同B,同K,同M,同Nの供述はいずれも詳細かつ具体的で自然であり,他の関係証拠とも符合しており,これらの信用性に疑いを抱かせる証拠はなく,上記各証人の供述にはいずれも十分信用性が認められる。


これらに対して,被告人の弁解は,各事件のあった時間帯以外のことは相当詳細に記憶しているのに,上記各事件のあった時間帯のことについては,記憶の欠落が生じているというのであって,被害者,目撃者らの供述に照らすと,被告人はその時間帯の間,その行動もそれなりに合目的的,合理的で了解可能であって,各事件の犯行時には意識が鮮明であったことが窺われる。これに,記憶欠落が被告人にとって都合が悪いことについてのみ生じているなどの事情に鑑みると,被告人の上記弁解は余りにも不自然,不合理であって,信用性が認められない(但し,この記憶欠落の真偽は,後記のとおり,本件公訴事実の認定に関連するものとは認められない。。



以上によれば,上記各証人の供述及び関係証拠によって,本件各公訴事実を優に認めることができ,被告人が各公訴事実について記憶がないと弁
解していることは,何らその認定の妨げとはならないものと考える。弁護人は,器物損壊罪について,社会通念上物の効用を害したものとは認められず,また過失によるものであって,器物損壊罪の構成要件に該当しないと主張するが,上記証人Nの供述によれば,
外された後の取っ手金具や戸当たりを見たが,取っ手金具はビス(木ネジ)の抜けたところが片方の穴が膨らんで正常に使えない状態になっており,戸当たりは止めてあった木ネジの1本が途中で折れており,他の2本も取り付けられていた壁から外れたような状態になっていた。もので,その修理のために1万500円の費用を要し(検57)
,社会通念上物の効用を害したものと認
めるのが相当であって,また,被告人に器物損壊の故意が認められることは上記各証人の供述及び関係証拠によって証明十分であって,弁護人の主張は採用できない。
(6)

被告人の責任能力について
被告人の酩酊の程度及び酩酊の質
鑑定人Uは,本件各犯行時における被告人の酩酊の程度及び酩酊の質について,以下のとおり判断している。
(ア)

平成11年8月27日付け公訴事実第1(住居侵入
,第2(住居

侵入,暴行)について
事件当時,被告人に運動失調はなく,記憶はないもののその間に激昂し喧嘩をしたり,勝手に住居侵入しているものの,その会話は成立しており,中等度酩酊と推定される。
本件の場合,幻覚・妄想は認めず,見当識や周囲の状況は把握していると判断できる。従って,本件犯行時は,単純酩酊であったと判断している。
(イ)

平成11年6月18日付け公訴事実第1(銃砲刀剣類所持等取締法違反)
,第2(暴力行為等処罰に関する法律違反)について

事件直前のタクシー内での会話のやりとりに奇妙な点はなく,トラブルはなく,自宅への道案内も的確であった。そのうち,被告人は,横になってしまった。しかし,A警察署で起こされ,B警部に

タクシー代を払わないといけない。

と注意されたことに対して,急に腹を立てることは,感情の易変性を示してはいるものの,ナイフで切りかかるといった行動に出た時の足取りもしっかりしており,弱度酩酊から中等度酩酊の範囲内と推察できる。
本件犯行時にも,幻覚・妄想は認めず,タクシーの中で眠り込んでしまったものの,警察官に揺り起こされて,すぐに辺りを見渡しA署であることを認識している。従って,本件犯行時は,単純酩酊であったと判断している。
(ウ)

平成11年8月27日付け公訴事実第3(器物損壊)について
直前の事件から,約6時間が経過しており,その間警察署での取り調
べと起床までの短時間の睡眠をとっただけで,飲酒は当然していない。被告人の歩行状態に問題はなく,警察官との会話も成立しており,奇妙な点は見られず,仮に飲酒の影響があったとしても弱度酩酊と考えられる。
本件犯行時にも,幻覚・妄想は認めず,看守業務に就いていた顔見知りのM巡査長に話しかけたり,飲用の水を要求し,水洗便所の水と勘違いした同巡査長に再度飲用の水を要求するなど,状況を正しく認識している。従って,本件犯行時は,単純酩酊であったと判断している。ィ
以上の結果を踏まえて,鑑定人Uは,被告人には現在(鑑定時平成13年4月7日)は責任能力があり,本件各犯行時には,ほぼ完全に責任能力があった旨鑑定している。すなわち,U鑑定人は,同人作成の鑑定書において,
被告人の現在の精神状態は正常範囲内であり,同人は理非善悪の弁別能力及びそれに従って行動する能力を有している。また,被告人は,本件各犯行時,単純酩酊であったと推定され,理非善悪の弁別能力及びそれに従って行動する能力は酩酊の影響で若干可低下していた可能性が考えられるが,著しく減弱していたとは言えない。なお,被告人は,本件各犯行について,『記憶がない。』と供述していたところ,単純酩酊であっても健忘があり得ることから,記憶欠損だけでは異常酩酊にならない。そして,記憶欠損の供述が虚偽の供述という可能性も否定できないが,この供述が虚偽であったか否かは本鑑定に影響しない。と鑑定している。この鑑定書に対して,被告人,弁護人は,種々論難し,到底信用できないと主張するが,それが被告人の犯行時の精神状態との間に因果関係,関連性があるとは認め難く,鑑定人は,鑑定面接の際の供述のみならず,他の証拠をも比較検討して,専門的知識,経験則に基づいて鑑定を行ったものであり,鑑定書記載の事実及び判断は正当であって,被告人,弁護人の主張は採用できない。

以上によれば,本件各犯行時における被告人の責任能力は優に認められるところであって,他に被告人が各犯行時に心神喪失または心神耗弱であったと判断すべき事情は認められず,被告人,弁護人の主張は採用できない。

2
平成13年11月21日付け公訴事実(強要未遂)について
被告人は,本件の手紙を出したことは認めるものの,心底から強要するつもりはなかったと弁解する。
しかしながら,被告人の供述によると,被告人は本件倉を被告人所有のものと認識していたこと,本件土壁の崩落が被害者,G自治会らの人為的作用によるものでなく,従って被害者,G自治会らに本件倉の修繕義務がないことを認識していたものと認められること,さらに新倉の縦樋のますの所が外れて壁が崩落して…酷い事になっている。Eさん,又分家の立場として,なぜ放っておけたかその意を知りたい。場合に依っては許さないし責任を追求する。このままホテ置くと,帰宅後,それなりのセイサイ覚悟してもらう。自治会で私が申していると云って,壁の修理皆なでする様にしなさい。していない時は,全部の者に責任を取らす。私自身,肺癌と直腸癌にて,いつまで生きるやら。なんなら,道連れになってもらう。G部落全ての者に。私,今迄は,1人だったが,これからは,いろんなブレーンができてきます。その者達がどの様に出るか…私はもう何も云いませんし,しません。それを皆に見せてもらいたい。常会のせつに。では,よい結果を知らされたし。黙っていてはだめだぞ。そんなことしたら,先で生き死にの事にも相なるから。等の公訴事実記載の本件手紙の文言,内容,これを被告人が直筆で記載して発送していることなどに鑑みると,被告人には,
本件倉の土壁を修理させようとして被害者らの生命,身体等に危害を加えることを告知する意思が存したものと認められ,これによれば強要の故意が存在したことは明白であって,被告人,弁護人の主張は採用できない。
よって主文のとおり判決する。
(国選弁護人白井公平

求刑懲役3年6月及び押収にかかる折りたたみ式ナイ

フの没収)
平成14年4月23日
岡山地方裁判所倉敷支部

裁判官

濱本丈夫

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