判例検索β > 平成21年(わ)第5630号
補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律違反被告事件
事件番号平成21(わ)5630
事件名補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律違反被告事件
裁判年月日平成22年7月14日
裁判所名・部大阪地方裁判所  第11刑事部
判示事項の要旨社会福祉法人の当時の副会長であった被告人が,当時の同会長らと共謀の上,厚労省所管の調査研究事業を実施する意思がないのにこれがあるかのように偽り,内容虚偽の補助金交付申請書等を提出し,2会計年度にわたり,同省から総額5000万円余りの補助金の交付を受けたという補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律違反の事案について,各公訴事実を認定した上で,血税を犠牲にして自己の属する組織の利益を求めるその態度や実際に多額の補助金を目的外に流用した点などは強い非難に値するとしつつも,本件各犯行が,被告人のみならず,上記法人関係者の強い関与,さらには厚労省担当者による軽視できない程度の助長行為によって遂行されたものであること,個人的利益を得ていないこと,自らの負担で贖罪寄付をしていること,これまで長年にわたり社会福祉の分野で活動しており,今後も同様の活動を続けたいと述べるなど更生への意欲を示していることなどをも考慮して,刑の執行猶予を言い渡した事例
裁判日:西暦2010-07-14
情報公開日2017-10-13 01:35:59
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主文
被告人を懲役1年6月に処する
この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,東京都文京区ab丁目c番d号に主たる事務所を置き,精神障害者入所授産施設A(以下入所授産施設Aという。)等を経営する厚生労働省(以下厚労省という。)所管の社会福祉法人B協会(以下B協会という。)の当時の副会長として,当時のB協会会長であったC(以下Cという。)を補佐していたものであるが
第1

厚労省所管の公益法人等関係団体等が障害者自立支援調査研究プロジェクト
として調査研究事業を実施し,国が同事業に要する経費を障害程度区分認定等事業費補助金として交付してその補助を行う平成19年度の障害者保健福祉推進事業に関し,同事業を所管する同省から,概算払いの方法により,不正に上記補助金の交付を受けようと考え,Cのほか,平成19年3月までB協会の理事長を務めていたD(以下Dという。),B協会の当時の事務局次長E(以下Eという。)らと共謀の上,B協会の業務に関し,平成20年2月12日ころ,東京都千代田区霞が関1丁目2番2号中央合同庁舎第5号館所在の同省社会・援護局障害保健福祉部企画課において,同課員らを介して厚生労働大臣に対し,平成19年度の上記補助金の交付申請をするに当たり,真実は,B協会が上記プロジェクトとして総額3130万円の経費を支出する重度精神障害者の地域生活を効果的に支援するための調査研究事業ほか2件の調査研究事業(以下19年度申請事業という。)を実施する意思はなく,交付を受けた補助金を直ちに19年度申請事業と無関係のB協会の事業資金等に充てる意図であるのに,総額3130万円の経費を支出して19年度申請事業を実施するかのように偽り,補助金申請額を3130万円とするB協会会長C作成名義の内容虚偽の交付申請書等を一括して提出し,平成20年3月19日ころ,厚生労働大臣の権限に属する補助金の交付決定に関する事項についての専決者である同局障害保健福祉部長らをして,Bに上記障害程度区分認定等事業費補助金として総額3130万円を交付する旨決定させた上,同月27日ころ,上記決定に基づき,同省大臣官房会計課長らをして,東京都台東区ef丁目g番h号所在の株式会社F銀行i支店に開設されたB協会助成金口会長C名義の普通預金口座に3130万円を振込送金させ,もって偽りその他不正の手段により補助金の交付を受け
第2

上記第1同様の平成20年度の障害者保健福祉推進事業に関し,同事業を所
管する同省から,概算払いの方法により,不正に障害程度区分認定等事業費補助金の交付を受けようと考え,Cのほか,B協会常務理事G(以下Gという。)らと共謀の上,B協会の業務に関し,同年11月10日ころ,同部企画課において,同課員らを介して厚生労働大臣に対し,同年度の上記補助金の交付申請をするに当たり,真実は,B協会が上記プロジェクトとして1980万円の経費を支出する旧精神障害者社会復帰施設の新体系サービスへの移行促進のための調査研究事業(以下20年度申請事業という。)を実施する意思はなく,交付を受けた補助金を直ちに上記事業と無関係のB協会の事業資金等に充てる意図であるのに,総額1980万円の経費を支出して20年度申請事業を実施するかのように偽り,補助金申請額を1980万円とするB協会C作成名義の内容虚偽の交付申請書等を提出し,同月28日ころ,同局障害保健福祉部長らをして,B協会に上記障害程度区分認定等事業費補助金として総額1980万円を交付する旨決定させた上,同年12月12日ころ,上記決定に基づき,同省大臣官房会計課長らをして,上記普通預金口座に1980万円を振込送金させ,もって偽りその他不正の手段により補助金の交付を受けたものである。
(証拠の標目)
括弧内の甲乙の数字は,すべて証拠等関係カード記載の検察官請求番号を示す。判示事実全部について
被告人の公判供述
第1回公判調書中の被告人及び分離前の相被告人Cの各供述部分
被告人の検察官調書(乙11,15)
C(乙8)及びH(甲4,7ないし9)の各検察官調書
履歴事項全部証明書(甲1)
捜査報告書(甲2,3)
判示第1の事実について
被告人の検察官調書(乙12,13)
C(乙3ないし5),H(甲5)及びE(甲10ないし13)の各検察官調書判示第2の事実について
被告人の検察官調書(乙14)
C(乙6,7),H(甲6)及びG(甲16ないし18)の各検察官調書(法令の適用)
被告人の判示各所為はいずれも刑法60条,補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律29条1項に該当するところ,判示第1については,3件の事業に係る補助金交付申請行為は各申請書を一括して提出することにより行われたため1個の行為が3個の罪名に触れる場合であるから刑法54条1項前段,10条により1罪として犯情の最も重い重度精神障害者の地域生活を効果的に支援するための調査研究事業に係る補助金の交付を受けた罪の刑で処断することとし,判示第1及び第2の各罪につき各所定刑中いずれも懲役刑を選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により犯情の重い判示第1の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役1年6月に処し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予することとする。
(量刑の理由)
1
事案の概要
本件は,B協会の当時の副会長であった被告人が,会長であったCらと共謀の上,障害者自立支援調査研究プロジェクトとしての調査研究事業を行う意思がなく,交付を受けた補助金は上記調査研究事業と無関係のB協会の事業資金等に充てる意思であるにもかかわらず,上記調査研究事業を実施するかのように偽り,内容虚偽の補助金交付申請書等を提出し,2会計年度にわたり,厚労省から総額5000万円余りの補助金の交付を受けたという事案である。

2
判示各犯行の経緯,犯行態様,流用状況等についての事実経過
判示各犯行に至る経緯,犯行態様,補助金の流用状況等についての事実経過は,以下のとおりである。
(1)

B協会は,平成2年10月に,全国の精神障害者社会復帰施設相互の連
絡・調整を図る団体として設立され,平成6年12月に社会福祉法人としての認可を得たものであり,会員である全国各地の精神障害者社会復帰施設からの会費によって運営されていたが,遅くとも平成17年ころには,厚労省から交付される補助金を流用することが常態化しており,被告人やCも,そのころ,上記実態についてB協会事務局員から聞き知ったが,特にこれに異を唱えることはなかった。
(2)

厚労省では,かねてから,精神障害者社会復帰促進センターの指定を受け
ていた財団法人が多額の補助金を受けるなどして運営していたものの,赤字のため破綻が懸念されていた入所授産施設Aの引受先を探していたところ,平成19年2月ころ,同省担当者が,当時のB協会の理事長で,その運営に大きな力を有していたDに,その引継ぎを勧めた。Dは,入所授産施設Aの引受によって生じる新たな経済的負担は,従前と同様に補助金の流用によって賄おうと考え,厚労省担当者からも,それに協力する旨伝えられたこともあって,これに応じることにした。そこで,Dは,同年3月9日ころのB協会の理事会にはかり,同理事会で入所授産施設Aの引継ぎが決定された。
(3)

このようななかで,同年4月に,CがB協会の会長に,被告人が副会長に
就任したが,従前の方針通り,EらB協会事務局員らは,流用すべき補助金の交付を受けるべく,Dの指導のもとに,1件の申請につき経費が補助金の限度額いっぱいの2000万円となるよう架空経費を計上した3件の申請をまとめた19年度申請事業の計画書を作成し,その内容について,Dはもとより,被告人及びCの了解を得た上で,同年5月ころ,厚労省に申請し,同年7月2日ころ,そのうち2件について,合計2230万円の補助金を交付する旨の内示があったが,1件については不採択となった。しかしながら,同年9月ころ,B協会に対し,厚労省担当者から,二次募集に応じるよう示唆があったことから,E及びDにおいて,1500万円の架空経費を計上した計画書を作成し,被告人らの了解のもとに,これを申請した結果,同年12月14日ころに900万円の補助金を交付する旨の内示があった。そこで,被告人らは,平成20年2月12日ころ,上記内示のあった3件について補助金交付の申請をし,もって,判示第1の犯行に至った。その後,同年3月27日に,3130万円の補助金がB協会の口座に振り込まれ,このうち,少なくとも2500万円余りがB協会の資金繰りなどに流用・費消された。
(4)

B協会においては,平成20年4月以後もB協会の資金繰りが苦しかった
ことから,これを補助金の流用によって乗り切るべく,Dの指導のもとに,19年度事業の継続申請をすることになったが,同年6月上旬ころ,不採択の通知を受けた。被告人及びCは,このままでは補助金の流用を当てにしていたB協会の資金繰りが窮迫することから,常務理事で事務局業務を統括するGとともに,厚労省担当者から示唆された20年度事業の二次募集に応じることにし,Gに対し,同事業により交付される補助金の上限である2000万円になるよう経費計上した申請書を作成するように指示した。これを受けて,Gは,当初2000万円の経費計上をした申請書を作成したものの,厚労省担当者からの示唆を受けてこれを1980万円に減額した上,被告人及びCの了解を得て,同年11月10日ころ,厚労省に申請し,もって,被告人らは,判示第2の犯行に至った。その結果,同年12月12日,1980万円の補助金がB協会の口座に振り込まれ,このうち,少なくとも1500万円余りがB協会の資金繰りなどに流用・費消された。
3
判示各犯行に対する評価
(1)

上記2の一連の経過から明らかなように,判示各犯行は,主として,B協
会において,資金繰りの悪化等を補助金の流用によって賄うべく,被告人らB協会の役員において誰も明確な異議を唱える者もないまま,組織ぐるみで敢行されたばかりか,厚労省担当者においても,そのような不正の補助金の申請が行われないようにすべき立場にありながら,B協会に入所授産施設Aを運営させていきたいとの思惑から,補助金の不正受給を助長するような行動に終始したものである。これからすれば,判示各犯行は,被告人及び共犯者らはもとより,上記経緯に関与した厚労省担当者も含めて,自らの属する組織の利益や都合を考えるばかりで,補助金が国民からの貴重な血税によって賄われること,それゆえに,法律が本来目指す政策目的実現のために補助金の適正な執行を厳に求めていることに全く思いをいたさなかったことにより引き起こされたものというほかはなく,このような被告人らの判示各犯行の動機は身勝手であり,法軽視の態度も顕著というべきである。
(2)

上記2・(3),(4)のとおり,判示各犯行においては,B協会においては,
当該事業において認められ得る限りの補助金を取得するため,その限度額に合わせて架空経費を計上しているばかりか,それを正式に申請する以前から,申請に係る事業テーマの選定,当該事業が採択される見込みなどについて,厚労省担当者から適宜情報を得るなどしており,その犯行態様からも,B協会の資金をできる限り補助金から得ようとする強欲な態度が顕著であるばかりか,内容においても,厚労省担当者の情報をふまえ,採択されやすいように巧妙に経費内訳を整えるなどしており,悪質である。
(3)

上記2・(3),(4)のとおり,判示各犯行の結果,B協会に対し,合計51
10万円もの多額の補助金が不正に交付されたばかりか,それらのうち少なくとも4000万円余りがB協会の人件費等の経費に目的外流用されているのであって,当該補助金の交付によって期待された本来の政策目的が損なわれ,国民の貴重な血税が浪費されたその結果は到底軽視できないが,B協会から上記不正受給に係る補助金が返済される見込みは立っていない。
4
被告人の果たした役割,その他の個別的情状
(1)

判示各犯行において被告人の果たした役割をみると,判示第1の犯行にお
いては,それを主導したのは,上記2・(2),(3)のとおり,Dであり,その申請書作成事務を行ったのはEであり,また,判示第2の犯行においても,上記2・(3)のとおり,申請書作成事務を行ったのはGであり,さらに,判示各犯行を通じて,厚労省担当者においても,B協会の申請が採択されやすいよう示唆を与えた続けたものであって,これらが,判示各犯行において大きな役割を果たしたことは否定できない。
しかしながら,被告人は,判示第2の犯行においては,上記2・(4)のとおり,Gに申請書作成を指示したほか,判示各犯行を通じて,B協会副会長として,各事業申請に賛成したものであり,その果たした役割も,また軽視できないものがある。この点,弁護人は,被告人の関与は形式的なものに過ぎない旨主張する。しかしながら,B協会においては,副会長はその運営のすべてを把握し,その決定に関わることになっており,現に,本件各事業申請においても,上記2・(3),(4)のとおり,被告人に報告されているのである。被告人は,B協会の副会長に就任した以上,やはり,不正なことが行われていれば,それに対し,断固異議を述べることによって,その職責を果たすべきであり,自らも地域で社会福祉法人の運営に携わっていた被告人であれば,その職責の重要性も十分認識できたはずである。しかるに,被告人は,上記2・(3),(4)のとおり,上記報告を受けても漫然とこれに了解し,判示第2の犯行にあっては,Gに対し,不正申請を慫慂する指示さえ与えているのである。これからすれば,被告人の関与が形式的であったということはできない。
(2)

他方で,判示各犯行は,被告人のみならず,上記2で掲げたB協会関係
者,さらには厚労省担当者の軽視できない関与により遂行されたものであり,そのすべての責任を被告人のみに帰することは,上記関係者らとの間で均衡を欠くというべきである。
さらに,被告人は,本件により個人的利益を得るなどして私腹を肥やしたものではなく,また,捜査段階から事実を素直に認めた上で,自己の行為を深く反省し,B協会の副会長を辞任したのはもちろん,社会福祉法人の理事も辞任するなどしているほか,自らの貯金から300万円を支出して,これを精神保健ボランティアグループに寄付するなどして,贖罪に努めている。また,被告人は,本件に至るまで,何らの前科・前歴もなく,社会福祉法人の理事として,長年精神障害者通所授産施設の運営に尽力し,地元からも評価される活動を行ってきたものであり,今後も引き続き,地元で精神障害者福祉の仕事を行っていきたい旨述べて,更生への意欲を新たにし,被告人の妻も,これに協力する旨述べている。
以上の諸事情は,被告人の有利に斟酌されるべきである。
5
結論
そこで,以上の諸事情を総合考慮して,被告人には,主文掲記の懲役刑を科した上で,その執行を猶予し,社会内で更生させるのが相当と考えた。
(求刑)懲役1年6月
平成22年7月14日
大阪地方裁判所第11刑事部

裁判長裁判官
岩倉広修
裁判官

並河浩二
裁判官

佐藤敬弘
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