判例検索β > 平成22年(行ケ)第10094号
審決取消請求事件 商標権 行政訴訟
事件番号平成22(行ケ)10094
事件名審決取消請求事件
裁判年月日平成22年8月19日
法廷名知的財産高等裁判所
裁判要旨判決年月日平成22年8月19日担知的財産高等裁判所 第1部

事件番号
平成22年(行ケ)10094号部○  本願商標「AERIE」と引用商標「アエリー」とでは,外観が異なり,称呼も一致する場合と異なる場合があるほか,両者からは特段の観念が生じないとして,称呼が一致することを主たる理由として両商標が類似するとした審決を取り消した事例(関連条文)商標法4条1項11号
(要旨)
本件は,原告が,「AERIE」との名称の本願商標につき出願をしたところ,拒絶査定を受け,これを不服として審判請求をしたが,請求不成立の審決を受けたことから,その取消しを求めた事案である。
争点は,本願商標が,「エアリー」との名称の引用商標と類似し,商標法4条1項11号に該当するか否かである。
本判決は,以下のとおり,両商標では外観が異なり,称呼も同じ場合と異なる場合があり,いずれからも特段の観念は生じないとして,両商標の称呼がいずれも「エアリー」であることを前提として類似するとした審決を取り消した。
「証拠(甲8の4,8の5,乙1)によれば,『aerie』には『(崖や山頂にあるワシ,タカなど猛鳥の)巣,(一般に大形の鳥の)高所にある巣』との意味があることが認められるが,他方において,同用語が,我が国において取引上よく用いられており,親しまれている,又はその意味がよく知られていることを認めるに足りる証拠はない。
したがって,我が国において,本願商標『AERIE』から,特段の観念が生じるものとは認められない。」
「(2) 本願商標は,「AERIE」との5文字の欧文字からなるところ,小学館ランダムハウス英和大辞典第2版(乙1)によれば,その英語での発音は「  ri」又は「i ri」とされる(もっとも,公刊されたいくつかの英和辞典によれば,この英単語にはそのほかに数種類の発音があり,英語を母国語とする者の間でも,これといった定まった発音はないようである。)。そうだとすれば,この英単語を日本語で発音した場合には,「アエリー」ではなく「エアリー」又は「イアリー」と発音するのが,英語の発音に近いということになる。
しかしながら,「aerie」は,いわゆる難語というべきであって,我が国において広く親しまれているとはいえない。そうすると,我が国において,常に「aerie」が「エアリー」と英語の発音に近く読まれるとは限らず,この英単語に接した者は何と発音してよいか分からず,ローマ字読みで「アエリー」又は「アエリ」と読まれることもあるものと解される。」
「(1) 以上を前提として検討するに,まず,本願商標は欧文字5文字からなるのに対し,引用商標1及び2がいずれもカタカナ4文字からなるものであって,外観は大きく異なるものである。・・・
(2) そして,称呼については,本願商標は,英語の発音に近く「エアリー」や「エアリ」と読まれる場合と,ローマ字読みで「アエリー」や「アエリ」と読まれる場合のいずれもあり得ると解されるのに対し,引用商標1及び2は「エアリー」であって,両商標の称呼は,同じ場合と異なる場合があり得る。
(3) 他方で,観念については,本願商標と引用商標1及び2のいずれからも,特定の観念が生じるとはいえず,比較できない。」
「・・・原告は,本願商標に関する商品の需要者が,商標を耳よりも目で捉える機会が多いため,商標の類否判断においては外観をより重視すべき旨主張する。
確かに,本件において,両当事者が提出した証拠(甲9,乙6の1ないし6の3)からすれば,本願商標に係る商品は,インターネット上取引されることが多いものと認められるので,本願商標において,称呼や観念と比較して外観が果たす役割が大きいものといえる。」
「(5) 以上の諸事情を総合的に考慮すると,本願商標と引用商標の外観は大きく異なっている上,称呼上も,同じ場合だけでなく異なる場合もあるから,たとえ両商標が,観念につき比較できないとしても,両商標には誤認混同のおそれがなく,類似していないというべきである。」
裁判日:西暦2010-08-19
情報公開日2017-10-19 14:00:02
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平成22年8月19日判決言渡

平成22年(行ケ)第10094号
口頭弁論終結日

審決取消請求事件(商標)

平成22年6月15日
判決原告
リイロヤテーカパー
テルイルィ
ンニ

同訴訟代理人弁理士

志賀同渡邊同村山靖彦同高柴忠夫同実広信哉同鈴木博久同小暮
理恵子

被武隆告特人瀧本
佐代子

同内山進同田村同指定代理主1許正庁長正官明文
特許庁が不服2009-4620号事件について平成21年11月12日にした審決を取り消す。

2
訴訟費用は被告の負担とする。

第1

実及び理由
請求

主文同旨。
第2

事案の概要

本件は,原告が名称をAERIE
(標準文字)とする商標(別紙1記載のとおり。
以下本願商標という。
)につき出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,こ

れを不服として審判請求をしたが,請求不成立の審決を受けたことから,その取消しを求めた事案である。
争点は,本願商標が,別紙2記載の各商標(以下引用商標と総称する。)と
類似するか否かである。
1
特許庁における手続の経緯

原告は,平成19年1月22日,本願商標につき出願した(甲4。優先権主張2005年8月19日

アメリカ合衆国)が,特許庁は,平成20年11月27日付

け(起案日)で拒絶査定をした(甲6)

原告は,平成21年3月3日,上記拒絶査定に対する不服審判請求をした(甲7の1)

特許庁は,上記審判請求を不服2009-4620号事件として審理し,同年11月12日,

本件審判の請求は,成り立たない。

との審決をし,その謄本は,同月25日,原告に送達された。
2
本願商標の内容

本願商標は,別紙1記載のとおり,
AERIEの欧文字よりなる商標であり,指定
商品を第3類ひげそり用クリーム,ひげそり用ローション,非薬用リップクリーム,リップグロス,口紅,バスオイル,ボディパウダー,バスソルト,パック用化粧料,ボディクリーム,バブルバス,スキンクリーム,身体防臭用化粧品,マニキュア,メーキャップ化粧品,アイメイク用化粧品,マッサージオイル,おしろい,スキンローション,皮膚用せっけん,日焼け止め用化粧品,香水類,コロン,香料類とするものである(甲4参照)。
3
審決の内容

審決は,次のとおり,本願商標は登録第821437号商標(甲1。以下引用商標1という。)及び登録第2706159号商標(甲2。以下引用商標2
という。
)と類似し,かつ,引用商標に係る指定商品と同一又は類似の商品について使用をするものであるから,商標法4条1項11号の規定により登録を受けるこ
とができないとした。
(1)引用商標1及び2と本願商標との類似性
本願商標は,・・・AERIE』の欧文字を標準文字で表してなるところ,該文字は,『『高所にある猛禽類の巣』程の意味を有する英語であるものの,請求人も主張するように,ネイティブスピーカーでさえ使用することが稀な難度の高い英単語であることからすると,これに接する取引者,需要者が,これを前記意味を有する語であると理解するというよりは,むしろ,一種の造語と認識すると判断するのが相当である。さらに,本願商標は,『aerobics』をエアロビクス,『aerosol』をエアゾールなどの読みに倣い,その構成文字に相応して,『エアリ』,又は請求人も認めているように『エアリー』の称呼をも生じるものである。一方,引用商標1及び2は,・・・エアリー』の片仮名文字を横書きしてなることから,こ『れより『エアリー』の称呼を生じること明らかであり,かつ,特定の意味合いを有しない一種の造語と判断するのが相当である。そこで,本願商標から生ずる『エアリ』又は『エアリー』の称呼と引用商標1及び2から生ずる『エアリー』の称呼についてみるに,両称呼は,エアリー』の称呼を共通にし,また,エ『『アリ』の称呼と『エアリー』の称呼の差異は,明瞭に聴取され難い語尾における長音の有無という微差にすぎないことから,該差異音が称呼全体に及ぼす影響は決して大きいものとはいえず,両称呼をそれぞれ一連に称呼した場合には,全体としての語調,語感が近似し,互いに聞き誤るおそれがあるものといわなければならない。してみれば,本願商標と引用商標1及び2とは,外観において相違し,観念においては,いずれも造語であることから比較し得ないものの,称呼においては,『エアリー』の称呼を共通にする又は『エアリ』の称呼と『エアリー』の称呼とが類似するものであることから,全体として相紛れるおそれのある類似する商標というべきであり,また,本願商標の指定商品は引用商標1及び2の指定商品と同一又は類似の商品を含むものである。したがって,本願商標は,引用商標1及び2に類似する商標であり,かつ,引用商標に係る指定商品と同一又は類似の商品について使用をするものであるから,商標法4条1項11号に該当すると判断するのが相当である。
(2)請求人(原告)の主張について
請求人は,過去に登録された事例を挙げて本願商標も登録されるべきである旨,主張するが,商標の類否の判断においては,過去の審査例等の一部の判断に拘束されることなく,個別,具体的に検討されるべきところ,本願商標と引用商標1及び2とが類似するものであること,前記認定のとおりであるから,請求人の主張を採用することはできない。
第3

原告主張の要旨

審決は,次のとおり,本願商標と引用商標1及び2の類否判断を誤ったものである。
1
(1)

本願商標の認定について
本願商標からは,
アエリーアエリエアエリといった称呼が生じ



る可能性が高いものと考えられる。
用語AERIEは,
崖か山地にある鳥,特にワシや猛禽類の巣を意味する英語
の名詞であり,その意味からも推し量ることができるとおり,英語のネイティブスピーカーですら日常では使用することがまれな,又は使用する必要のない難度の高い用語であるといえる。
そのため,多くの需要者は,本願商標AERIEを造語と認識するものと考えられるが,その場合,英語風の読み方よりもローマ字読みがされる可能性が高いと考えられる。つまり,本願商標AERIEが何らかの言語に属する言葉ではなく,どの言語にも属しない造語と考えられる場合,読み方のルールが不明なため,欧文字の文字列を一字ずつ辿ってローマ字読みする傾向が強いと考えられるためである。片仮名用語エアロビクスやエアロゾルが知られているとしても,元の英単語がその正確な綴りとともに広く知られているとは考えられず,AERIEという
大文字で書された欧文字からなる本願商標に接した際に,これらの用語の元の英語の綴りを即座に思い浮かべることのできる需要者は少ないものと考えられる。確かに,
aerobicsとエアロビクスaerosolとエアロゾルを両方記,

した宣伝広告等はあるものの,乙2の1ないし4のように,併記されていても,片仮名文字の方が欧文字より目立つ形で表されていることが多い上,通常の日本人としては,欧文字よりも片仮名文字の方により注意を惹かれるのが普通であり,英単語aerobics」aerosol」

「とその発音の認識度はそれほど高くはないと考えられる。「エア

の音に対応する英語の用語としてはむしろ,air(空気)やairplane「(航空機)
」等が親しまれているところであり,需要者の多くは,
エアロビクス
等のエアの英語の綴りがairではなくaeであるとすぐに思い出せるほどに認識してはいないと思われるからである。
実際に,原告が属する企業グループの中核にある企業であるアメリカン・イーグル・アウトフィッターズ・インコーポレイテッド社以下アメリカンイーグル社」(

という。)の商品を米国から輸入販売している企業のウェブサイトにおいても,本願商標「AERIE

をアエリーと表記している例が多数見受けられる。したがって,本願商標AERIEからは自然にアエリーアエリエ」アエリ」

「の称呼が生ずる可能性が高いと考えられる。また,仮に,本願商標につき,「エアリ

又はエアリーの称呼が生ずるとしても,総合的に観察すれば,引用商標とは非類似である。
(2)なお,文字商標AMERICANEAGLEは,グループ企業であるアメリカンイーグル社の商号の一部から選択された商標であり,商品販売や広告宣伝の際に,ハウスマークとして広く使用されている。本願商標AERIE(ワシや猛禽類の巣)は,アメリカンイーグル社の社名や同社商標に含まれる用語や図形のEAGLE(ワシ)と,しゃれで掛けられたものであり,用語AERIEが指す意味を知る人であれば,この言葉遊びに気付いて,
本願商標に関する印象や記憶を強めるものと考えられる。
もっとも,前記(1)のとおり,英語の用語AERIEは,英語のネイティブスピーカーでさえ使用することが稀な難度の高いものであるため,本願商標に接する取引者,需要者の多くは,上記のような意味を有する用語であると理解するよりも,むしろ一種の造語として認識するものと考えられる。

2
引用商標1及び2の認定について

(1)引用商標1も2も,いずれもエアリーの片仮名文字を横書きにしてなるものであり,その構成より,いずれもエアリーの称呼を自然に生じるものである。
(2)引用商標1及び2からは,特定の意味合いが看取されるものと解される。すなわち,ヘアケア商品や,化粧品の使用感や効果を感じさせる言葉として,最近では,しばしば用語エアリーを含む言葉が使用されている。
エアリーを
含む用語の使用例をみると,例えば,髪用ワックスについてふんわり,やわらか空気感,洗顔フォームについてふわっふわ(泡),ファンデーションについて空気感のある軽やかさといった表現とともに用いられている。
ファッションの分野では,
エアリーな髪型エアリーボブエアリーカー,,ルエアリーパーマなど髪型に関する表現への使用や,,
エアリー感のあるチュニック軽やかなエアリー感(ストール),など洋服に関する表現への使用が数多く見受けられる(甲10)

確かに,用語エアリーが用いられる表現は様々であるが,
エアリーと表
現された対象物が空気のように軽やかである,又は対象物の効果が空気のように軽やかな状態を生み出すという共通した意味合いは十分に把握できる。用語エアリーを含む言葉は,本願商標と引用商標1及び2の指定商品に係る化粧品を含む美容やファッションの分野で広く使用され,
親しまれているといえる。
そして,化粧品,ファッションの分野では,それらを紹介,発信する雑誌やインターネットなどの媒体において新しい用語が早いサイクルで生み出され,瞬く間に広がっていく状況にある。そのため,平成17年発行の辞典(乙7,8)に記載がなくとも,一般には広く使用されている用語は,
エアリーを含め,多数あると考
えられる。また,大きな字のカタカナ新語辞典」乙9)や現代用語の基礎知識((乙10)も,ビジネスや報道で使用される新語をターゲットとしているため,用語「エアリーが我が国で親しまれているかを測るバロメータとしては適当ではな
い。
以上により,片仮名文字エアリーは,需要者,取引者において風通しのよい,空気のような,軽やかなを表す英語の形容詞airyの音訳であると容易に理解されると考えられる。
すなわち,
空気,大気を意味するairという基礎的な英単語が親しまれて
おり,また英語において語尾にyが付く場合には名詞が形容詞化することがよく知られているため,片仮名用語エアリーをairと結びついたイメージで空気のように軽やかなの意味合いが感覚的に把握されると思料される。したがって,引用商標1及び2エアリーは,特定の意味合いを有しない一種の造語ではなく,需要者,取引者において空気のように軽やかな程度の観念を生ずるものと考えられる。
(3)原告とそのグループ企業は,化粧品及びせっけん類について,米国やカナダなど各国の直営店舗や,自社ウェブサイトを通じて販売している(甲12)また,。
引用商標1の商標権者も,平成16年ころまでは自社ウェブサイトを通じて化粧品販売を行っており,現在は継続して同社商品を使用する顧客への直販を行っている様子である。
これにより,需要者が本願商標及び引用商標1に接するのは,実際に店頭で商品を見たり,商標がウェブサイト上で表示されたり,又は既に使用している商品のパッケージを見たりといった,視覚を通じての場合がほとんどと考えられる。3
本願商標と引用商標1及び2の類否について

(1)本願商標AERIE」
は標準文字で構成され,5つの欧文字AE」R」I」
「「「「Eの綴りからなる商標である。観念については,英語の用語AERIEにより崖か山地にある鳥,特にワシや猛禽類の巣の意味合いが生じるが,同用語は親しまれていないため,一般には特定の意味を有しない一種の造語として認識されるものと解される。
そして,本願商標からは自然にアエリー
アエリア
アエリの称呼が生ず

る可能性が高いと考えられる。もっとも,英語読み風の称呼エアリエアリー」を生ずる需要者,取引者においても,「aeの綴りをエアと同時にアエとも認識する可能性が高いと解され,ローマ字読み風の称呼アエリアエリア,

アエリーの称呼をも自然に生ずるものと思料される。
一方,引用商標エアリーは,片仮名文字エアリーを横書きに構成した商標であり,自然にエアリーの称呼が生ずる。観念については,特に指定商品の分野に関連して空気のように軽やかなほどの意味合いが理解,認識されるものと解される。
対比すると,本願商標AERIEと引用商標エアリーとは,構成する文字種(欧文字と片仮名文字)や構成文字数において全く異なり,これより生ずる印象の違いは大きいものと解される。
なお,本願商標と引用商標双方に,図形が付されている,文字の形態が特殊である等の特徴のある態様ではない点については認めるが,AERIE」とエアリー

では,欧文字と片仮名文字でまず文字種が異なり,構成文字数も5文字と4文字で異なるため,需要者において明確に区別されるものと解される。「両者の外観に著しい差異があるとはいえない

との指摘は適切ではない。観念についても,本願商標から崖か山地にある鳥,特にワシや猛禽類の巣の意味合いが生ずる場合には,
空気のように軽やかなの意味合いを生ずる引用商
標とは大きく異なる。また,本願商標が一種の造語と認識される場合には,通常,観念的に比較し得ないとされるものの,むしろ,全く意味不明な本願商標と空気のように軽やかなという認識しやすい観念を生じる引用商標とでは,与える印象・記憶が全く異なるものと評価すべきである。
そして,本願商標からアエリー
アエリア
アエリの称呼が生ずる場合,
本願商標と引用商標とは,3音中2音が異なるか又は構成音数が異なる非類似の称呼を生ずるため,非類似の商標というべきである。
また,本願商標から称呼エアリ
エアリーを認識する需要者,取引者にお

いても,これらの称呼と同時に,語頭のAEよりアエリー
アエリア等の
ローマ字読み風の称呼を認識する可能性が高く,そのため引用商標と異なった印象を強く受け,記憶するものと解される。
これらにより,
本願商標と引用商標とは,
その外観,観念,
称呼を通じて需要者,
取引者に与える印象・記憶・連想が大きく異なるものと思料される。よって,
印象,
記憶,連想等を総合して全体的に考察すれば,本願商標と引用商標とは商標の出所に誤認混同を来すおそれがないものと解される。
(2)なお,
商標の類否判断においては,
商品の取引の実情を明らかにし得る限り,
その具体的な取引状況に基づいて判断すべき(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁)とされており,実際,指定商品全般についての一般的・恒常的なもの以外の取引の実情まで考慮した判決・審決が散見されるものである。
そして,原告及び引用商標1の商標権者が,直営店舗及び自社ウェブサイト又は従来顧客への直販を通じて化粧品等の販売を行っており,需要者が商標を耳よりも目で捉える機会が多い状況にかんがみると,本願商標と引用商標1の文字種や構成文字数などの違いから生じる印象,
記憶,
連想の相違は両商標の類否判断において,
より重視されるべきと解される。
したがって,本願商標と引用商標1及び2とは,十分に区別し得る,全体的に相紛れるおそれのない非類似の商標と評価されるべきである。
4
他の審決例の検討について

原告が,審判段階で過去の登録事例を指摘したのは,これらの登録事例で示された判断基準が,本願商標にかかる類否判断を行う際にも同様に用いることが可能と考えたためであり,一概に個別,具体的に検討されるべきとするのは妥当ではない。
第4
1
被告の反論
本願商標の認定について

(1)本願商標は,
AERIEの欧文字を標準文字で表してなり,第3類ひげそり用クリーム,ひげそり用ローション,非薬用リップクリーム,リップグロス,口紅,バスオイル,ボディパウダー,バスソルト,パック用化粧料,ボディクリーム,バブルバス,スキンクリーム,身体防臭用化粧品,マニキュア,メーキャップ化粧品,アイメイク用化粧品,マッサージオイル,おしろい,スキンローション,皮膚用せっけん,日焼け止め用化粧品,香水類,コロン,香料類を指定商品とするものである。
AERIEは,(崖や山頂にあるワシ,タカなどの猛鳥の)巣,
(一般に大形の鳥の)高所にある巣の意味を有する英語であるものの,難度の高い英語であることからすると,これに接する取引者,需要者が,これを前記意味を有する英語であると理解するというよりは,むしろ,特定の意味合いを有しない一種の造語と理解するものである。
そして,
AERIEをローマ字読みで称呼する場合には,
アエリエと称呼され
る場合があったとしても,同語を英語風の読み方で称呼した場合には,エアリ
又はエアリーの称呼を生ずるというべきである。
(2)我が国の本願指定商品の取引者,需要者を含む一般大衆が,特定の言語の特徴を有するものでなく,知られていない欧文字よりなる語句に接する場合,その語をローマ字読みするばかりでなく,学校教育及び日常生活の中で慣れ親しんだ英語風の読み方で読もうとするのが自然である。
そうすると,知らない欧文字については,すべてローマ字読みをするのが一般的であるというような原告の主張は失当である。
(3)

本願商標は,欧文字AERIEからなるものであり,この文字に接した需要
者がどのように称呼するかが問題であるから,片仮名エア・・・をみた需要者がその対応する欧文字をどのように考えるかは問題ではない。そして,例えばaerobicsをエアロビクスaerosolをエアロゾルaerialsをエ,,アリアルaerogramをエアログラムと発音することは知られ,その発音に,
倣ってaer・・・がエア・・・と発音されるというべきであるから,本願商標は,その構成文字に相応して,英語風の読み方のエアリ又はエアリーの称呼をも生ずるとみるのが自然である。
(4)

aerieの語は,前記のとおり英語であり,その発音記号からもエアリーと発音する語である。また,aerieにつきエアリーと併用して使用され
ており(乙3ないし5参照)
,原告のグループ企業(アメリカンイーグル社)の販
売に係る商品の販売に際してaerieをエアリーと表記している企業も多数ある(乙6の1ないし3参照)

以上からすれば,本願商標についてアエリーの称呼をもって取引されることがあるとしても,本願商標からはエアリ又はエアリーの称呼をも生ずるというべきである。
2
引用商標1及び2の認定について

(1)引用商標1は,指定商品を第3類化粧品とし,引用商標2は,指定商品を第3類せっけん類,歯磨き,香料類及び第30類

食品香料(精油のものを除く。

とするもので,いずれも現に有効に存続しているものである。)
引用商標1及び2は,
エアリーの片仮名文字を横書きしてなることから,こ
れよりエアリーの称呼を生じることが明らかであり,かつ,特定の意味合いを有しない一種の造語といえるものである。
(2)

エアリーは,
コンサイスカタカナ語辞典ためのカタカナ語辞典用語の基礎知識第3版日経新聞を読む,改訂版大きな字のカタカナ新語辞典,第2版現代,2010等の辞書類に記載されていない語であり,
たとえair」
の英語の形容詞「airy
(風のあたる,
(広くて)風通しのよい,空気のような,無
形の)のカタカナ表記であるとしても,
空気のように軽やかなほどの意味を有
する外来語として,我が国で親しまれているものとはいえないので,引用商標からは特定の観念は生ぜず,一種の造語として認識されるべきである。なお,
エアリーの語について,原告が提出した甲10においても,必ずしも一定の意味合いをもって使用されているものとはいえず,これらの使用例があるとしても,引用商標から特定の観念を生ずるものとはいえない。
3
(1)

本願商標と引用商標1及び2の類否について
外観について,本願商標AERIEは,標準文字によるものであり,引用商
標1エアリーは甲1のとおりの態様であり,引用商標2エアリーは甲2のとおりの態様であって,外観上相違はしているものの,いずれも格別に印象を与えるような特徴のある態様ではないから,両者の外観に著しい差異があるとはいえない。
次に,称呼については,
本願商標と引用商標1及び2とは,
いずれもエアリー
の称呼を生じ,その称呼を共通にするものである。
さらに,観念については,いずれも特定の観念を生じないものであるから,比較することができないものである。
ところで,本願商標と引用商標1及び2に共通する指定商品化粧品,せっけん類,香料を取り扱う取引者,需要者には,広く一般消費者も含まれるものであり,
簡易迅速を尊ぶ取引の実際においては,電話を用いた口頭による取引を行う場合も少なくないこと,テレビ・ラジオ等によるコマーシャル等のように専ら称呼による商品の宣伝広告が行われる場合があり,これらの宣伝広告を記憶してその称呼を頼りに取引に当たる場合もあることから,上記の取引者,需要者が商品の同一性を識別するに際して,商標から生ずる称呼が極めて重要な要素となることは明らかである。
そうすると,本願商標と引用商標の指定商品に係る商品の取引者,需要者による取引の実情を考慮すれば,本願商標と引用商標の類否を判断するに当たっては,外観及び観念に比して称呼を重視すべきことが明らかであり,上記のとおり,本願商標と引用商標とは称呼において共通するものであり,外観や観念上,識別力に影響を与えるような顕著な差異を有するものではなく,引用商標と同一の称呼を生じる本願商標を付した商品を引用商標を付した商品と誤認混同するおそれがあるというべきである。
したがって,本願商標は,引用商標1及び2と類似の商標であって,かつ,その指定商品も同一又は類似のものであって,商標法4条1項11号に該当する。また,仮に,引用商標1及び2より,
空気のように軽やかなとの意味合いを
想起し,観念を生ずるとしても,本願商標は,特定の観念を生ずるものではなく,本願商標と引用商標1及び2とは,
エアリーの称呼を共通にし,外観において
強く印象されるような差異を有しないものであって,
上記取引の実情を考慮すれば,
両商標は,商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるというべきである。(2)本願商標から複数の称呼を生ずるとしても,特定の称呼をもって商標の類否が検討されるべきである。
(3)商標の類否判断に当たり考慮すべき取引の実情とは,その指定商品全般についての一般的・恒常的な取引の実情をいうものと解すべきであって,原告グループによる現在の販売方法がウェブサイトを通じての販売等であったとしても,そのような個別具体的事情に基づき判断することは適切ではない。
本願商標と引用商標1及び2に共通する指定商品を取り扱う取引者,需要者の取引の実情は前記(1)のとおりであり,商標から生ずる称呼が極めて重要な要素となることは明らかである。
また,インターネット上による商品の紹介,宣伝広告についても,商品の商標とは別に,
その商標から生ずる称呼を片仮名によって表示することも一般的に行われ,この称呼によって取引に当たる場合もあること,インターネット上で片仮名表記により検索する場合があることから,需要者が商標の称呼を頼りに商品を特定することが普通に行われているところである。
4
他の審決例の検討について

商標法4条1項11号に該当するか否かの判断は,当該商標の構成態様に基づいて,その指定商品に係る取引の実情を踏まえつつ,個々の商標ごとに個別具体的に検討,判断がされるべきである。
そして,原告が審判請求時に挙げた登録例は,商標の具体的構成やその指定商品及び取引の実情が本願商標とは相違し,事案を異にするものであるから,原告の主張は失当である。
第5
1
当裁判所の判断
商標の類否の判断手法について

商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である。
また,商標の外観,観念又は称呼の類似は,その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず,したがって,上記3点のうち1点において類似するものでも,他の2点において著しく相違するなどして,取引の実情等によって,商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては,これを類似商標とすべきではない(最高裁昭和43年2月27日判決・民集22巻2号399頁参照)

2
本願商標について

(1)本願商標は,
AERIEの欧文字よりなる商標であり,指定商品を第3類ひげそり用クリーム,ひげそり用ローション,非薬用リップクリーム,リップグロス,口紅,バスオイル,ボディパウダー,バスソルト,パック用化粧料,ボディクリーム,バブルバス,スキンクリーム,身体防臭用化粧品,マニキュア,メーキャップ化粧品,アイメイク用化粧品,マッサージオイル,おしろい,スキンローション,皮膚用せっけん,日焼け止め用化粧品,香水類,コロン,香料類とするものである。
そして,証拠(甲8の4,8の5,乙1)によれば,
aerieには崖や山頂(にあるワシ,タカなど猛鳥の)巣,(一般に大形の鳥の)高所にある巣との意味があることが認められるが,他方において,同用語が,我が国において取引上よく用いられており,親しまれている,又はその意味がよく知られていることを認めるに足りる証拠はない。
したがって,我が国において,本願商標AERIEから,特段の観念が生じるものとは認められない。
このほか,証拠(甲12)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,アメリカ合衆国の会社であって,
ワシやタカなどの猛鳥の巣との意味があるaerieにつき,
原告のグループ企業であるアメリカンイーグル社の社名であるEAGLE(ワシ)としゃれで掛けて用いていることが認められる。
(2)本願商標は,
AERIEとの5文字の欧文字からなるところ,小学館ランダム
ハウス英和大辞典第2版(乙1)によれば,その英語での発音はɛəri又はiəriとされる(もっとも,公刊されたいくつかの英和辞典によれば,この英単語にはそのほかに数種類の発音があり,英語を母国語とする者の間でも,これといった定まった発音はないようである。。そうだとすれば,この英単語を日本語で発音)
した場合には,
アエリーではなくエアリー又はイアリーと発音するの
が,英語の発音に近いということになる。
しかしながら,
aerieは,いわゆる難語というべきであって,我が国において広く親しまれているとはいえない。そうすると,我が国において,常にaerieがエアリーと英語の発音に近く読まれるとは限らず,この英単語に接した者は何と発音してよいか分からず,ローマ字読みでアエリー又はアエリと読まれることもあるものと解される。
これに対し,
被告は,エアロビクス」Aerobicsエアゾール」Aerosolと,「ととが,それぞれ併記されて使用されている例があるとして,乙2の1ないし2の4を挙げるところ,これらの証拠からすれば,AerobicsエアロビクスAerosol」と,「と「エアゾールが併記されて使用されている事例が散見されるといえるが,被告の指摘する例は空気を意味するaeroの場合に限られており,我が国において,Aerが通常エアと読まれるとか,
Aerieをエアリーと読むのが原則
であるなどとはいえない。
このほか,被告は,
aerieがエアリーと読まれている事例があるとして,
乙3ないし乙6の3を挙げるところ,これらの証拠からは,aerie」がエアリー」

「と読まれたり,両者が併記されている事例があることが認められる。しかし,他方で,証拠(甲9)からすれば,「aerie

をアエリーとして読んだり,併記したりしている事例も多数ある。
以上からすれば,
aerieについては,英語の発音に近くエアリーやエアリと読まれる場合と,ローマ字読みでアエリーやアエリと読まれる場合のいずれもあり得るというべきである。
3
引用商標1及び2について

証拠(甲1,2)によれば,引用商標1及び2は,いずれもエアリーとの商標であり,引用商標1は指定商品を第3類化粧品
,引用商標2は指定商品を第
3類せっけん類,歯磨き,香料類第30類

食品香料(精油のものを除く。



とするものであることが認められる。
そして,引用商標1及び2からは,文字どおりエアリーの称呼が生じるものといえる。
また,
エアリーからは,特段の観念は生じないものと認められる。
これに対し,原告は,
エアリーからは,需要者,取引者において空気のように軽やかな程度の意味合いが生じると主張し,証拠(甲10の1ないし甲10の3)を挙げる。
確かに,証拠(甲11の4,11の5)によれば,
airyという語には,英語
で風のよく当たる,(広くて)風通しのよい,空気のような,無形の,(物が)軽やかな等の意味があることが認められる。しかし,甲10の1ないし10の3上も,
エアリーという語は,
くしゅっとやわらか,ふんわり空気感のある軽やかさ軽やかな等,様々な意味に用,

いられたり,
単にエアリーなエアリー感のあると説明なく用いられている。

そして,証拠(乙7ないし10)によれば,
エアリーという語は,コンサイ
スカタカナ語辞典第3版(2005年10月20日第2刷発行)
,日経新聞を読む
ためのカタカナ語辞典〈改訂版〉
(2005年5月15日第1刷発行)
,大きな字の
カタカナ新語辞典第2版(2009年1月19日第2版発行)
,現代用語の基礎知
識(2010年1月1日発行)のいずれにも載っていないことが認められる。そうであれば,いかに化粧品や被服,髪型などのファッションの分野でエアリーの語の使用例があるとしても,いまだ,我が国において,一般にエアリーという語が空気のように軽やかなという単一の意味で広く知られているとはいえない。
そうすると,やはり,我が国において,引用商標1及び2のエアリーからは,特段の観念は生じないというべきである。
4
本願商標と引用商標1及び2の類否について

(1)以上を前提として検討するに,まず,本願商標は欧文字5文字からなるのに対し,引用商標1及び2がいずれもカタカナ4文字からなるものであって,外観は大きく異なるものである。
この点に関し,被告は,本願商標も引用商標1及び2も,外観上相違はしているものの,いずれも格別に印象を与えるような特徴のある態様ではないから,両者の外観に著しい差異があるとはいえない旨主張する。しかし,上記のとおり,本願商標と引用商標1及び2は,外観上明らかに相違しているものであって,そうであるにもかかわらず,被告の上記主張を採用すると,一般論として,英語による記述型の商標については,外観の相違は多くの場合問題とならなくなってしまうものであり,このような主張を採用することはできない。
(2)そして,称呼については,本願商標は,英語の発音に近くエアリーやエアリと読まれる場合と,ローマ字読みでアエリーやアエリと読まれる場合のいずれもあり得ると解されるのに対し,引用商標1及び2はエアリーであって,両商標の称呼は,同じ場合と異なる場合があり得る。
(3)他方で,観念については,本願商標と引用商標1及び2のいずれからも,特定の観念が生じるとはいえず,比較できない。
(4)なお,被告は,本願商標と引用商標の指定商品に係る商品の取引者,需要者による取引の実情を考慮すれば,本願商標と引用商標の類否を判断するに当たっては外観及び観念に比して称呼を重視すべきことが明らかである旨主張する。しかし,本願商標及び引用商標に関して,被告が主張するように,電話を用いた口頭による取引を行う場合が少なくないことを認めるに足りる証拠はない。また,そもそも,テレビ・ラジオ等によるコマーシャルが重要であるのは,業界を問わないことであって,本願商標や引用商標に関して,専ら称呼による商品の宣伝広告が行われており,これらの宣伝広告を記憶してその称呼を頼りに取引に当たるものであることを認めるに足りる証拠もない。
逆に,原告は,本願商標に関する商品の需要者が,商標を耳よりも目で捉える機会が多いため,商標の類否判断においては外観をより重視すべき旨主張する。確かに,本件において,
両当事者が提出した証拠(甲9,乙6の1ないし6の3)
からすれば,本願商標に係る商品は,インターネット上取引されることが多いものと認められるので,本願商標において,称呼や観念と比較して外観が果たす役割が大きいものといえる。
(5)以上の諸事情を総合的に考慮すると,本願商標と引用商標の外観は大きく異なっている上,称呼上も,同じ場合だけでなく異なる場合もあるから,たとえ両商標が,観念につき比較できないとしても,両商標には誤認混同のおそれがなく,類似していないというべきである。
したがって,本願商標につき商標法4条1項11号を適用することはできず,審決は誤りであるから,これを取り消すこととする。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官
塚原朋一
裁判官
東海林保
裁判官
矢口俊哉
別紙1

AERIE
別紙2

登録第821437号

登録第2706159号
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