判例検索β > 平成16年(ワ)第3401号
損害賠償請求事件、独立当事者参加事件
事件番号平成16(ワ)3401
事件名損害賠償請求事件,独立当事者参加事件
裁判年月日平成22年5月25日
裁判所名・部名古屋地方裁判所  民事第10部
判示事項の要旨刑務官らが,ベルトを受刑者の腰部に巻き付けて受刑者の両手首と腰部とを固定する戒具である革手錠を刑務所の受刑者数名に対し高緊度で施用するなどし,うち受刑者1名を腸間膜挫裂等に基づく外傷性ショックにより死亡させ,他の受刑者1名に外傷性腸間膜損傷等の傷害を負わせたことなどにつき,国の国家賠償責任が認められた事例
裁判日:西暦2010-05-25
情報公開日2017-10-17 20:34:30
裁判所の詳細 / 戻る / PDF版
平成16年(ワ)第3401号

損害賠償請求事件

平成16年(ワ)第4774号

独立当事者参加事件

判主1決文
被告国は,原告X1に対し,440万円及びこれに対する平成14年2月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2
被告国は,原告X2,原告X3及び原告X4それぞれに対し,各1611万2460円及びこれに対する平成14年5月27日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3
被告国は,原告X5に対し,3637万6912円及びこれに対する平成14年9月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4
被告国と参加人Z1との間,被告国と参加人Z2との間,被告国と参加人Z3との間で,平成14年5月27日,同参加人3名が名古屋刑務所保護房に収容された亡Aに対して革手錠を施用したなどの行為につき,同参加人3名の被告国に対する国家賠償法1条2項に基づく求償債務が5456万0278円及びこれに対する平成14年5月27日から被告国の上記行為に係る損害賠償債務の支払済みまで年5分の割合による金員を超えて存在しないことを確認する。

5
被告国と参加人Z4との間,被告国と参加人Z1との間,被告国と参加人Z2との間,被告国と参加人Z5との間で,平成14年9月25日,同参加人4名が名古屋刑務所保護房に収容された原告X5に対して革手錠を施用したなどの行為につき,同参加人4名の被告国に対する国家賠償法1条2項に基づく求償債務が3637万6912円及びこれに対する平成14年9月25日から被告国の上記行為に係る損害賠償債務の支払済みまで年5分の割合による金員を超えて存在しないことを確認する。

6
原告らのその余の請求及び参加人らのその余の請求をいずれも棄却する。
7
訴訟費用は,両事件を通じて,これを5分し,その3を原告らの,その1を被告国の,その余を参加人らの各負担とする。

8
この判決の第1項ないし第3項は,本判決が被告国に送達された日から14日を経過したときは,仮に執行することができる。
ただし,被告国が,原告X1に対し300万円の担保を供するとき,原告X2,
原告X3及び原告X4それぞれに対し各1150万円の担保を供するとき,原告X5に対し2600万円の担保を供するときは,その各仮執行を免れることができる。
事実及び理由

第1
1
請求
原告らの請求
(1)被告国,被告Y4及び参加人Z1は,原告X1に対し,各自3031万9502円及びこれに対する平成14年2月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)被告国,被告Y1,被告Y2,被告Y3,被告Y5,参加人Z1,参加人Z2及び参加人Z3は,原告X2,原告X3及び原告X4それぞれに対し,各3145万6954円及びこれに対する平成14年5月27日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)被告国,被告Y1,被告Y2,被告Y3,参加人Z4,参加人Z1,被告Y6,参加人Z2及び参加人Z5は,原告X5に対し,各自5487万1405円及びこれに対する平成14年9月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2
参加人らの請求
(1)被告国と,参加人Z1,参加人Z2及び参加人Z3との間で,平成14年5月27日,同参加人3名が名古屋刑務所保護房に収容された亡Aに対して革手錠を施用したなどの行為につき,同参加人3名の被告国に対する求償債
務が存在しないことを確認する。
(2)被告国と,参加人Z4,参加人Z1,参加人Z2及び参加人Z5との間で,平成14年9月25日,同参加人4名が名古屋刑務所保護房に収容された原告X5に対して革手錠を施用したなどの行為につき,同参加人4名の被告国に対する求償債務が存在しないことを確認する。
第2
1
事案の概要等
事案の概要
原告らは,名古屋刑務所刑務官らが,受刑者であった原告X1,亡A(以下Aという。
)及び原告X5に対する違法な暴行,保護房収容,極度に緊縛
しての革手錠施用により,原告X1に外傷後ストレス障害の後遺障害を生じさせ,Aを死亡させ,原告X5に腸間膜損傷の傷害を負わせるとともに,癒着性腸閉塞症及び外傷後ストレス障害の後遺障害を生じさせ(以下,原告X1に係る事件をX1事件
,Aに係る事件を5月事件
,原告X5に係る事件を
9月事件という。,また,上記刑務官らの上司らが,上記刑務官らの違)
法な行為を防止すべき義務があるのに漫然と放置したり,隠ぺい工作をしたなどと主張する。
本件では,
上記刑務官ら及び上司らの行為等が違法な職務執行であるとして,①国家賠償法1条1項に基づき,被告国に対して,(a)原告X1が,3031万9502円及びこれに対する平成14年2月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払,(b)Aの遺族である原告X2,原告X3及び原告X4(以下原告X2らという。
)それぞれが,各3145
万6954円及びこれに対する平成14年5月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払,(c)原告X5が,5487万1405円及びこれに対する平成14年9月25日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,
②不法行為に基づき,
(a)原告X1が,被告Y4及び参加人Z1に対し,(b)原告X2らが,被告Y5,
参加人Z1,参加人Z2,参加人Z3,被告Y1,被告Y2及び被告Y3に対し,(c)原告X5が,参加人Z4,参加人Z1,被告Y6,参加人Z2,参加人Z5,被告Y1,被告Y2及び被告Y3に対し,それぞれ上記各同額の支払を求めた(なお,原告らの上記②の請求に係る各個人の責任は,刑務官ら及び上司らの行為が職務を行うについてされた場合であっても,そうでない場合であっても生ずるものとされている。。

また,被告国に対し,参加人Z1,参加人Z2及び参加人Z3は,5月事件に係る革手錠施用行為について,参加人Z4,参加人Z1,参加人Z2及び参加人Z5は,9月事件に係る革手錠施用行為について,それぞれ国家賠償法1条2項に基づく求償債務の不存在の確認を求めた。
2
前提事実
(1)当事者等
ア(ア)原告X1(昭和○○年○○月○○日生まれ)は,覚せい剤取締法違反被告事件につき懲役刑の実刑判決(懲役2年6月)を受け,平成12年3月10日(東京拘置所から移管)から平成14年7月15日までの間,矯正施設である名古屋刑務所(愛知県みよし市ひばりヶ丘1丁目1番地所在)において服役していた者である。
なお,原告X1は,名古屋刑務所に入所する以前にも,川越少年刑務所,甲府刑務所で受刑し,名古屋刑務所を出所した後も麻薬及び向精神薬取締法違反被告事件により懲役刑の実刑判決を受け,横浜刑務所に収容された(原告X137頁)

(イ)原告X2らは,平成14年5月27日,名古屋刑務所で死亡した受刑者A(昭和○○年○○月○○日生まれ,死亡当時49歳。
)の遺族で
あり,原告X2はAの実姉,原告X3及び原告X4はAの実妹である。なお,A死亡時,同人には親,子及び配偶者がいなかったが,異母姉が1人存在した。

(ウ)原告X5(旧姓B
。昭和○○年○○月○○日生まれ)は,暴力
団C幹部であった者であるが,恐喝罪により懲役刑の実刑判決を受け,平成14年2月21日から平成15年7月26日までの間,名古屋刑務所において服役していた。
なお,原告X5は,名古屋刑務所を満期出所した後,廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下廃棄物処理法という。
)違反により平成
16年5月ころ逮捕され,同被告事件により実刑判決を受けて,刑務所に服役し,平成18年1月ころ刑務所を満期出所した(丙45,原告X5_68頁)

イ(ア)被告Y1は,昭和40年3月に法務事務官に任命され,福井刑務所管理部保安課に配属されるなどし,平成14年4月1日から同年12月1日までの間,名古屋刑務所長を務めていた者である。
(イ)被告Y2は,昭和43年4月に法務事務官に任命され,東京拘置所に配属されるなどし,平成13年2月1日から平成14年12月1日までの間,名古屋刑務所処遇部長を務めていた者である。
(ウ)被告Y3は,昭和42年10月20日付けで水戸少年刑務所に配属されるなどし,平成14年4月1日から同年12月1日までの間,名古屋刑務所首席矯正処遇官(処遇担当)を務めていた者である。
(エ)被告Y4は,平成元年2月1日付けで甲府刑務所管理部保安課法務事務官看守として採用され,平成13年4月1日,名古屋刑務所処遇部処遇部門に法務事務官看守長として着任し,平成14年3月31日まで同部門において統括矯正処遇官を務めていた者である。
(オ)被告Y5は,昭和46年1月に名古屋刑務所の看守に任命され,同刑務所で勤務するなどし,平成14年4月1日から平成15年3月まで看守長として名古屋刑務所の処遇部門の統括矯正処遇官を務めていた者である。

(カ)参加人Z4は,昭和61年4月に法務事務官に任命され,横浜拘置支所に配属されるなどし,平成11年4月から名古屋刑務所において看守長として処遇部処遇部門統括矯正処遇官(警備担当)を務めていた者である。
(キ)参加人Z1は,昭和55年4月に法務事務官に任命され,金沢刑務所に配属されるなどし,平成10年3月に名古屋刑務所に転入し,同年4月から副看守長として主任矯正処遇官の役職に就き,平成11年2月以降,処遇部処遇部門舎房主任を務めていた者である。
(ク)被告Y6は,9月事件当時,名古屋刑務所処遇部処遇部門に所属し,同刑務所5舎1階を担当する刑務官であった者である。
(ケ)参加人Z2は,平成10年1月に法務事務官に任命され,名古屋刑務所に配属されて刑務官を務めていた者である。
(コ)参加人Z5は,平成8年4月に法務事務官に任命され,名古屋刑務所に配属されて刑務官を務めていた者である。
(サ)参加人Z3は,平成12年4月に法務事務官に任命され,名古屋刑務所に配属されて刑務官を務めていた者である。
(2)事件の発覚等

被告Y1らは,平成14年10月14日に記者会見を行い,同年5月27日に名古屋刑務所の保護房内で革手錠を施用された受刑者(A)が死亡したこと(5月事件)
,及び,同年9月25日に同じく保護房内で革手錠
を施用された受刑者(原告X5)が重傷を負い,外部の病院に搬送されたこと(9月事件)を公表した。同記者会見において,被告Y1は,刑務官は制圧の際に警棒で殴ったりけったりしたことはなく,刑務官の行為は許される範囲の正当な職務行為であったと説明した。


9月事件については,平成14年11月8日,参加人Z4,参加人Z1,参加人Z2,参加人Z5及び副看守長を務めていたDが逮捕され,同月2
7日,特別公務員暴行陵虐致傷罪により起訴された(甲C6)

5月事件については,参加人Z1,参加人Z2及び参加人Z3が逮捕され,同年12月17日,特別公務員暴行陵虐致死罪により起訴された(甲C5)


なお,前記事件のほか,平成13年12月15日,名古屋刑務所の受刑者が肛門直腸破裂により急死したことにつき,同刑務所の刑務官が受刑者の制圧時に消防用ホースを用い,受刑者の肛門部めがけて放水する暴行を加えたなどとして,平成15年3月4日及び同月20日,同刑務所の刑務官が起訴された。


また,5月事件及び9月事件により,被告Y1,被告Y2及び被告Y3は,
①保護房拘禁・革手錠使用の視察表,報告書等の決裁を通じて,革手錠の使用状況に問題があるとの認識を持ちながら,漫然と放置し,部下職員による5月事案を未然に防止できなかった。②5月事案につき,Aの司法解剖により同人の脇腹に革手錠の使用によるのではないかと疑われるような皮下出血・血腫があったことなどから,Aの死亡は革手錠の使用が原因ではないかとの強い疑いを持ちながら,事案の真相究明を怠り,革手錠の使用に関する部下職員への指導も形式的なものに終始した。③5月事案について,②のように職務を怠った結果,9月事案を発生させた。④9月事案の経緯に関して,名古屋矯正管区等に対して不正確な報告をする被(告Y2及びY3については「名古屋矯正管区等に対する不正確な報告書を決裁する)などして真相究明を怠った。
」として,いずれも停職3か月
の処分に付されており(甲A4・1頁・5∼6頁)
,上記被告3名はいず
れも同処分に対する不服を申し立てていない。

(3)X1事件

平成13年10月3日の革手錠施用
原告X1は,平成13年10月3日,第7C工場担当のE主任看守に対
し,他の受刑者の不正な行為を取り締まるように求めるなどしたが,そのやり取りに際し,Eを誹謗したものとして,処遇部門第3調室に連行された(乙B8,9)

その後,上記調室において,同日午前11時2分ころ,原告X1に金属手錠が両手後ろに施用され,さらに,同5分ころ,同人を保護房第5室に収容した上,同7分ころ,同人に対し,革手錠が右手前,左手後ろで施用された(乙B9∼11)

原告X1に対する革手錠施用は,同日午後1時2分ころ解除され,同月4日午後2時11分ころ,同人に対する保護房収容も解除された(乙B12,13)


平成14年2月7日の革手錠施用
(ア)原告X1は,平成14年2月4日,第3C工場で就業していたが,他の受刑者に対し,ベゲダミンA錠を不正に渡した不正授受)として,(
取調べのため昼夜間独居拘禁に付された(乙B15)

(イ)原告X1は,平成14年2月7日,第1舎2階西部居室に収容されていたが,被告Y6に対し,大声を発し続けたとして非常ベルが鳴らされた。これにより,被告Y4を含む多数の刑務官が駆けつけ,刑務官らは同室から原告X1を連れ出した。
その後,刑務官らは,同日午後1時13分ころ,原告X1に対し,金属手錠を両手後ろで施用し,さらに,同15分ころ,同人を保護房に収容した上,同17分ころ,同人に対し革手錠を両手前で施用した(乙B16∼18)

(ウ)原告X1に対する革手錠施用は,平成14年2月7日午後5時13分ころ解除され,同月12日午後1時16分ころ,同人に対する保護房収容も解除された(乙B19∼22)



平成14年2月14日の革手錠施用

(ア)原告X1は,平成14年2月14日,独居房に収容されていたが,横臥したまま起きあがろうとしなかったことから,被告Y4らが,原告X1に,起きるように指示するなどした。
その後,原告X1は,被告Y4につかみかかったなどとして,同日午前7時56分ころ,金属手錠を施用され,同59分ころ,保護房第2室に収容され,
午前8時1分ころ,
革手錠を施用された乙B23∼25)


(イ)原告X1に対する革手錠施用は,平成14年2月14日午後8時41分ころ解除された(乙B27)


平成14年2月15日の革手錠施用
(ア)原告X1は,平成14年2月15日の朝,前日に引き続き保護房に収容されていたが,保護房に入室した参加人Z1に対して飛びかかってきたなどとして,非常ベルが鳴らされた。その後,原告X1に,暴行及び自殺,自傷のおそれが認められたなどとして,同日午前7時32分ころ,革手錠が左手前,右手後ろで施用され,金属手錠も併用された(乙B28)

(イ)原告X1に対する革手錠施用は,平成14年2月15日午後零時56分ころ解除された(乙B29)

(ウ)平成14年2月18日午前10時28分ころ,原告X1に対する保護房収容が解除された(乙B31)


(4)5月事件

保護房収容及び革手錠の施用
Aは,平成14年5月27日午前9時40分ころ,静岡刑務所から名古屋刑務所に移送され,名古屋刑務所内の新入調室において同人に対する身体検査が行われたが,身体検査中,Aが,暴行気勢を示したとして,刑務官らに制圧され,金属手錠を施用され,保護房第3室に連行された。Aは,保護房内においてうつ伏せに倒され,被告Y5が,Aに革手錠を
施用することを指示した。参加人Z1は,他の刑務官らにAの体を押さえさせるなどした上で,自らバンドに極小と記載されたサイズの革手錠を施用し,その後,被告Y5など刑務官らは,Aを残して保護房から退出した。

革手錠の締め直し
参加人Z1は,
Aに革手錠を施用してから,
しばらく経過したことから,
Aの様子を見に行くこととし,平成14年5月27日午前11時40分ころ,F看守,参加人Z2,参加人Z3及び参加人Z5らと共に保護房に赴いた。
参加人Z1らは,同45分ころ,Aが収容されている保護房に入室し,いったんAに施用されている革手錠を外して,再度施用し直し,午後零時ころ,保護房から退出した。


Aの死亡
Aは,平成14年5月27日午後1時47分ころ,保護房巡回中の刑務官の呼び掛けに反応せず,
刑務官が保護房内に入っても全く身動きをせず,
脈も取れない状態であった。同55分ころ,名古屋刑務所医務部で勤務する医師が保護房に駆けつけ,刑務官によりAに施用されている革手錠が外されたが,同医師は,Aが心肺停止状態にあることを確認した。その後,Aに対する治療が続けられたが,同人は,午後8時30分ころ,外傷性ショックにより死亡した。

(5)9月事件

平成14年9月18日の革手錠施用
(ア)参加人Z1は,平成14年9月18日,面接室で原告X5に対する面接を行い,いったん同人を独居房に戻した際,原告X5が刑務官に対する不満等を記載していた雑記用ノートを発見し,それを検閲するなどした後,被告Y6と共に,原告X5を処遇部門第4調室に連行した。
(イ)上記調室において,原告X5と参加人Z1らとの間で,上記ノートに関するやりとりがされた後,
平成14年9月18日午後5時6分ころ,
参加人Z1は,被告Y6と共に,原告X5を制圧し,同人に金属手錠を施用した。原告X5は,同10分ころ,金属手錠を施用されたまま,参加人Z1らにより保護房に収容され,革手錠が施用された。
(ウ)原告X5に対する上記革手錠施用は,平成14年9月18日午後7時14分ころ解除されたが,保護房収容は継続された。

平成14年9月19日の革手錠施用
(ア)参加人Z1は,Gと共に,原告X5が収容されている保護房に入室し,原告X5に対し,給水用のポットのお茶をコップ(ポットの上蓋)に入れて差し出し,お茶を飲むように勧めた。
(イ)その後,非常ベルが鳴らされ,参加人Z1は,原告X5を制圧し,平成14年9月19日午前7時32分ころ,原告X5に革手錠が施用された。
(ウ)平成14年9月19日午前10時4分ころ,原告X5の革手錠施用が解除され,同22分,保護房収容も解除された。なお,保護房収容解除後,参加人Z1が,原告X5に対し,人権救済のための名古屋弁護士会の弁護士との面会や前記原告X5のノートなどについて尋ねたところ,原告X5は,人権救済の申立てを取り下げ,ノートも廃棄するなどと答えた(甲C24・28∼29頁)



平成14年9月25日の革手錠施用
(ア)平成14年9月24日,5舎1階の面接室において,原告X5は,参加人Z1の面接を受けていたが,同面接においては,原告X5が,前記平成14年9月19日における態度を変え,

納得できないものは,納得できません。自分の好きなようにやらせてもらいます。

と答えるなどし,いったん面接は打ち切られた。

参加人Z1は,同月25日午前8時ころから,前日に引き続き,原告X5の面接を行っていたが,面接室においていすに座っていた原告X5がいすから腰を浮かせたところ,途中で入室した被告Y6において原告X5を引き倒し,参加人Z1も,原告X5の制圧に加わり,同14分ころ,参加人Z1は,原告X5に金属手錠を施用し,その後非常ベルが鳴らされ,駆けつけた参加人Z5らにより,原告X5は保護房に連行された。
(イ)参加人Z1は,保護房において原告X5を床に引き倒して制圧し,参加人Z4が,参加人Z1に対して,原告X5に革手錠を両手前で施用するよう指示した。参加人Z1は,原告X5に革手錠のバンドを巻き付けたが,それほど強く締まらなかったため,腕輪を残したまま施用するバンドが変更され,変更後のバンドを用いて革手錠が原告X5に施用された。
(ウ)平成14年9月25日午前9時30分ころ,参加人Z1は,保護房に赴き,原告X5に施用されている革手錠を外した。
(エ)平成14年9月25日午前10時32分ころ,原告X5は,腸の痛みを訴え,同人に対する緊急の開腹手術が行われるなどし,原告X5の腹腔内の小腸間膜における2箇所の裂孔の辺縁から出血していたこと(外傷性腸間膜損傷)が判明した(甲E3∼5)


保護房監視カメラによる映像の存在
(ア)保護房の天井には,自殺や逃走の防止などの目的で受刑者を監視するためのビデオカメラが設置されており,名古屋刑務所処遇部門内の総合警備システム監視室において,平成14年9月25日の午前8時33分ころから午前10時47分ころまでの間のうち,午前8時55分ころから午前9時15分ころまでと午前10時40分ころ以降はH看守が,それ以外はI看守(以下Iという。
)が,モニターを通じて原告X

5が収容されている保護房内を監視していた(甲E35・16頁・26頁・28頁)
。ただし,同監視室には,保護房を映したモニター以外に
も4分割のモニターが12個,他のモニターが6個あるほか,監視担当者には記録業務などもあり,常に保護房の映像だけを見ていたわけではない(甲E49)

(イ)9月事件については,保護房内の状況を録画した録画テープが残されているが,原告X5に関わる映像のうち,午前8時22分12秒ころから同33分15秒ころまで,及び同46分30秒ころから午前9時28分18秒ころまでの映像は残っておらず,また,午前8時33分15秒ころから同38分00秒ころまでについては,音声がほとんど聞き取れない状況である。同46分30秒ころから午前9時28分18秒までについては,前記監視室において監視業務を行っていたH看守ないしIがビデオテープを使い切っていることに気付かなかったためであり,午前8時33分15秒ころから同38分00秒ころまでの音声の欠落については,同業務を行っていたIが,参加人Z4に指摘されるまで音声スイッチを入れ忘れていたことによるものである(甲E35・24頁・27頁・76頁)

(ウ)そして,上記録画テープに録画されている映像はおおむね次のとおりである。

映像開始時の状況(2本目の革手錠施用の途中から開始される。

原告X5は,保護房内において,南寄りの位置に,頭を保護房奥の便器がある方向(東側)に向けて,うつ伏せで横たわっていた。原告X5の下半身の左側では参加人Z1がしゃがんで尾錠の方を向いており,原告X5の背部の左側では,参加人Z2がしゃがんだ姿勢でバンドを両手で持っており,参加人Z2の後方でDが腰を下ろしてバンドを持っていた。

原告X5の臀部付近に,J看守(以下Jという。
)が両足で立
ち,原告X5の両脚をそれぞれ別の刑務官が足で押さえており,参加人Z5が,原告X5の肩付近の右側でしゃがんで尾錠の方を向いていた。
参加人Z4は,
参加人Z1の後方で保護房の入口に近い角に立って,
原告X5を見ていた。

2本目の革手錠施用
(a)参加人Z2は,Dの左前辺りでバンドを両手で持って引っ張り,Dも腰を下ろした状態でバンドを持っていた。参加人Z2らがバンドを引っ張っている間,参加人Z5は,手で約8回,少し間を置いて手で5回,更に間を置いて手で5回,それぞれ尾錠付近を押し,更に左足で2回,右足で3回ほど尾錠付近を押した後,再度しゃがんでバンドの尾錠付近を握り,
両手の親指で尾錠付近を押していた。
(b)参加人Z1は,参加人Z2からバンドを受け取り,立ち上がって原告X5の左腰付近に足を掛けて,体を後方に体重を掛けるようにしてバンドを勢いをつけて数回強く引っ張ったが,その際,原告X5の体が参加人Z1の方へ引きずられるように動いたため,両手でバンドを持っていたDが,原告X5の身体に両足を掛けた。また,バンドから手を離した参加人Z2も,原告X5の頭部の左側付近に立っていたが,原告X5の頭部が体ごと引きずられて動いたことから,原告X5の頭部に足を置き,Jも,引きずられて体が動いた原告X5の臀部付近でバランスを取っていたが,まもなく原告X5の臀部から下り,そのころ参加人Z2も原告X5の頭部に置いていた足を下ろした。
(c)原告X5の臀部から下りたJは,参加人Z2の方に向いて,両手の手のひらを自分の顔の前で上下に動かし,参加人Z2は,いった
んしゃがんで,左を向いていた原告X5の顔付近に手をやるなどの仕草をした後,原告X5の顔の上に右足を置いた。そして,Jが参加人Z2に手で合図すると,参加人Z2は原告X5の顔から足を下ろし,Jが原告X5の両肩を自分の両ひざで押さえつけた。
(d)そして,原告X5の足を押さえていた刑務官の一人が尾錠の方を指し示すなどし,参加人Z1がJかららせん錠のかぎを受け取り,かぎでらせん錠を回して尾錠の爪を固定した。参加人Z1は,参加人Z5と共に,バンドの先を原告X5の背中と原告X5に巻かれているバンドとの間に通して結び目を作り,参加人Z5が結び目から出ているバンドの先を引っ張った。
(e)その後,参加人Z4は,手で合図して,刑務官らは,原告X5を残して保護房から退出した。

保護房退出後の原告X5の状況
(a)参加人Z4らが,保護房から退出した後から午前8時46分ころまで(ただし,時間は甲E51の1,2の表示によるもの。の間,)
原告X5は,頭を保護房の入口とは逆の方(トイレ側)を向けて,仰向けとなったり,うつ伏せとなったりして,もがくように体を動かしていた。また,原告X5の息づかいは,徐々に荒いものとなったが,大声を上げるというようなことはなかった。
(b)原告X5は,
午前9時28分ころの時点で,
保護房の対角線上に,
その入口の方に頭を向けるようにして,保護房のトイレ付近に足を置くような位置で,
仰向けでひざを曲げるような状態となっており,
そのころから同38分ころまでの間,原告X5は,もがくように体を動かし,トイレに両足を突っ込むなどの体勢となったりした。また,その間,原告X5は,非常に荒い息づかいをしており,うめくような声を上げ,また,腹部の左右前部に固定された手で,ズボン
の足の付け根付近の部分をつかみ引き上げる仕草などをし,ひざや足を動かすこともあった。

革手錠施用の解除
(a)参加人Z1が,午前9時39分ころ,K看守部長及びL主任看守と共に保護房内に入り,原告X5に対し,何やっとるんだこら。,

何,お前,足傷付けてる。

などと言い,原告X5は,

下半身がしびれて動かないんです。

と答えた。(b)参加人Z1は,他の刑務官2名と共に原告X5の体を保護房の中央付近に動かし,うつ伏せにし,同人に施用されている革手錠の結び目をほどき,

また暴れるか。

などと尋ねたところ,原告X5は,

暴れません。

と答えた。参加人Z1は,

また暴れるんじゃねえか。

などと言い,原告X5は,

いいえ暴れません。

と答え
た。
(c)その後,刑務官の一人が原告X5の太もも付近を押さえ,Lが原告X5の右肩付近を押さえている状態で,参加人Z1が,原告X5の腹部に巻かれているバンドを持ち,原告X5の左腰付近に右足を掛けて,後ろに体重を掛けながら,約10秒ほどバンドを引っ張った。その間,原告X5は,叫び声を上げていた。そして,刑務官の一人が尾錠の爪をバンドの穴から出し,参加人Z1はバンドを緩めた。
(d)参加人Z1が,

気違いか,お前。

などと原告X5に言い,刑務官の一人が,

しゃべらんなこいつ。もう1回…やったらにゃあかんな。

などと言った。このころ,原告X5はおう吐し,参加人Z1の指示により他の刑務官がおう吐物をティッシュで拭き取っ
た。
(e)その後,参加人Z1は,

頑張れよ。いくぞ。

などと原告X5
に言いながら,原告X5の腰部に巻かれているバンドを握り,原告X5が

それだけはちょっと待ってください。

と答えたが,更に「頑張れよ。」などと言って,バンドを再度引っ張ったところ,原告X5は,叫び声を上げ,再びおう吐した。参加人Z1は,

もっと緊縛するか。…2か月も繰り返すか。,

また頑張れよ。

などと言い,原告X5に巻かれているバンドや腕輪を外した。
(f)参加人Z1は,
頑張れ。」と言いながら,原告X5に座るよう
に指示し,原告X5が

下半身が動かないんです。

と答えた。参加人Z1は,原告X5に対し,更に「頑張れよ。」と言って,座るように指示し,原告X5は,
無理です。」などと答えた。また,
原告X5が,

しゃべれないんです。

と言ったのに対し,参加人Z1は,

しゃべりたくない。,

しゃべりたくないっていうことは,お前,まだまだ繰り返すということか。,

お前のような者はもう信用せえへん。お前になんかもう助言もせんから,お前の好きなようにやれ。

などと言い,原告X5を残して,保護房を出て,その扉を閉めた。

保護房退出後の原告X5の状況
(a)参加人Z1らが,保護房を退出してから,原告X5は,保護房内でうつ伏せや仰向けの状態などで横たわっていたが,午前10時4分ころ,同23分ころ,同25分ころの3度にわたり便器に向かっておう吐した。
(b)午前10時32分ころ,刑務官が,視察孔を開けて原告X5に呼び掛け,更に

どないしたの。

と聞いたところ,腸

腸が痛,いです。,

下腹です。」と答え,刑務官が「なんで。」と問いかけたところ,原告X5は「ベルト。」などと答えた。(c)午前10時34分ころ,刑務官が

なんで,またすぐかっか,かっかくるの。

などと言ったことなどに対し,原告X5は

痛くてしゃべれないです。

などと答えたが,刑務官は,

とんでもないいうことでまたあれだろ。,

すぐかっとくるんだよ。自分でも分からんのか。

などと言った。(d)午前10時36分ころ,M医師と刑務官2名が入室し,原告X5はM医師による腹部の触診と問診等を受けたが,触診の際には,右前腹部の腹部内の痛みと右脇腹付近の表面の痛みを訴えた。
(e)午前10時39分ころ,M医師が保護房から退出し,原告X5もスリッパを履いていったん立ち上がったが崩れ落ちるなどした。
その後,刑務官が

いつまで繰り返す。何回言わせる。いつまで繰り返す。ああ。,

しゃべりゃへんのか。

などと言ったのに対し,原告X5は

すいません。

などと答えた。そして,刑務官が原告X5を立たせるなどして,
原告X5を保護房の外へ連れ出した。
(6)革手錠・保護房の概要

革手錠及び保護房の形状等について
(ア)革手錠とは,一本の革製のバンド(ベルト。幅約4.5㎝,厚さ約1㎝)に鉄製の留め金(通常のベルトのバックルに相当するもの。以下尾錠という。
)及び2個の革製の腕輪が付けられたものであり,腕
輪を被施用者の両手首に装着して,腕輪に取りつけられたかすがい型角鉄にベルトを通した上,バンドを被施用者の腰部に巻き付けて,両手首を腰部の腹側ないし背中側に固定し,被施用者を拘束するものである。バンドには,数個の穴が空けられており,被施用者に巻き付けたバンドの穴に鉄製の尾錠の留め具(幅約1.8㎝,長さ約6.2㎝)を入れて固定し,
更に被施用者自ら革手錠を外すことができないようにするため,
尾錠及び尾錠の留め具に設けられているねじ穴にらせん錠を入れ込み,最後にバンドの余りの部分を処理して(具体的には紙ひもでバンドの余
った部分を留めたり,腰に巻いたバンドの中に入れ込むなどの方法による。丙35・86頁)
,革手錠の施用が完了する。
(イ)平成14年当時,名古屋刑務所には,大きさの表記のない1個を除き,
特大1個,
大1個,
中5個,
小4個,
極小1個と
バンドにそれぞれ表記された合計13個の革手錠が存在していたが,バンドに空いている穴は,その長さがおおむね4ないし5㎝,穴と穴との間隔もおおむね4ないし5㎝,穴の端から次の穴の同じ側の端までの間隔は約10㎝であった。
そして,上記革手錠のうち,
中の革手錠については,最小の穴の
位置は,上記5本の間で最大5.5㎝の差があり,施用時の内周が最も長いものは,尾錠に最も近い位置の穴で69.4㎝,2番目に近い穴で80.4㎝,3番目に近い穴で89.7㎝であった。なお,実際に施用する際は,留め具を入れることとの関係上,一時的に上記内周よりも約4㎝きつく絞める状態となる。
(ウ)なお,5月事件及び9月事件が発覚したことを契機として,平成15年3月5日,法務大臣指示が出され,行刑運営調査検討委員会において革手錠を6か月以内に全廃することが決定され,同年9月30日をもって革手錠は廃止された。

保護房の形状
保護房は,受刑者の鎮静及び保護のために設けられた特別の設備及び構造を有する独居房であって,施設等によって多少の相違はあるものの,原告X1や原告X5が収容されたこともある保護房第2室は,おおむね幅165㎝,奥行き282㎝,高さ358㎝であり,床がリノリウム貼り,壁は木製で,奥に水洗トイレが設備されているほか,採光用の小さいガラスブロック製の窓と換気扇が設けられている以外には何の設備もない特別の房である。


革手錠の使用及び保護房への収容の規制等
(ア)革手錠等の使用要件・方法

革手錠は,X1事件,5月事件及び9月事件当時適用されていた監獄法(平成17年法律第50号による改正前のもの。以下監獄法
という。
)上の戒具の一種であり(監獄法19条1項)
,上記当
時適用されていた監獄法施行規則(平成18年法務省令第58号による改正前のもの。以下規則という。
)48条1項3号の手錠
に該当する。
監獄における戒具(金属手錠及び革手錠)の使用は,緊急を要する場合を除き,所長の命令がなければ使用することが許されず(規則49条1項)
,暴行,逃走もしくは自殺の虞のある在監者または護送中
の在監者で必要性の認められる者に対してしか使用することができない(規則50条1項)
。ここにいう暴行,逃走若しくは自殺のおそれ
があるときとは,計画,着手などの事実があって,客観的に認定できることを意味し,単に,当該受刑者の前歴,性格などからその危険がありそうだというような理由だけでは不十分であり,革手錠使用後その必要性がなくなれば,直ちに使用を解除しなければならず,短時間でも戒具を使用した場合は,すべて使用事由,戒具の種類等を戒具使用書留簿に記録しておかなければならないとされる(甲A2)



また,革手錠につき,平成11年11月1日付け矯保第3329号矯正局長通達戒具の使用及び保護房への収容について
(以下平成11年通達という。甲A1,乙A3,乙B37)によれば,受刑者への革手錠の使用方法につき次のとおり定められている。
(a)腕輪は手首に,バンドは腰部(下腹部及び下背部を含む。以下同じ。
)に使用し,それ以外の部位には使用しないこと。
(b)手の位置は,腰部において,両手前,片手前片手後ろ又は両手後
ろとし,手の位置を前にした場合には手の甲が背部を向くようにすること。その際,手首,前腕部又は上腕部を交錯させないこと。
(c)使用中の者の食事,用便等に当たっては,手錠を一時外すこと。これにより難い場合には,できるだけ次のような措置を採ること。・両手の腕輪を外す。
・両手又は片手を前にし,バンドを緩める。
(d)手首が腕輪から抜けるおそれがあり,これを防止するため必要と認められる場合には,金属手錠を併用できること。この場合には,左右2個の錠を共に同一の手首に使用すること。
(イ)保護房の収容要件等
保護房については監獄法15条,規則47条の定める独居拘禁のための施設として,その収容要件等が平成11年通達に次のとおり定められている(同通達6保護房収容等。


収容要件(平成11年通達6(1))
次の各号のいずれかに該当する被収容者であり,かつ普通房に収容することが不適当と認められる場合に限り収容すること。
(a)逃走のおそれがある者
(b)他人に暴行又は傷害を加えるおそれがある者
(c)自殺又は自傷のおそれがある者
(d)職員の制止に従わず,大声又は騒音を発する者
(e)房内汚染,器物損壊等異常な行動を反覆するおそれがある者

収容手続(平成11年通達6(2))
(a)収容は所長の命令によること。ただし,急速を要し,所長の命令によることができない場合には,収容後直ちにその旨を所長に報告すること。
(b)精神又は身体に異常のある者については,医師に診察させ,健康
に害がないと認められる場合でなければ,
収容してはならないこと。
ただし,急速を要し,あらかじめ医師に診察させることができない場合には,収容後直ちに診察させること。

収容の解除及び収容期間
前記aに定める収容要件が消滅した場合には,直ちに収容を解除すること。
収容期間は3日を超えてはならないこと。ただし,3日を超えて収容を継続する必要があると認められる場合には,2日ごとに収容期間を更新することができること。

(ウ)革手錠施用と保護房収容の併用について

平成11年通達によれば,保護房収容中の者に対する戒具の使用につき,

保護房収容のみでは,逃走,暴行又は自殺を抑止できないと認められる場合に限り,保護房に収容されている者に対して戒具を使用することができること。と定められている(平成11年通達6

(4))



上記通達につき,財団法人矯正協会が発行し,矯正職員に頒布される情報誌保安情報の83号(以下保安情報83号という。甲
A3)によれば,
保護房収容と戒具使用を併用するためには,単に保護房収容要件とか戒具使用要件がそれぞれ存すればよいのではなく,併用しなければならない条件にあることが求められているのであり,視察表には,保護房収容のみでは足りないと判断した状況を具体的に記録すべきである。とされている。
(エ)留意事項
平成11年通達において,戒具の使用及び保護房への収容に当たっての留意事項がおおむね次のとおり定められている。

戒具の使用又は保護房への収容に当たっては,事態に応じ,その目
的を達成するため合理的に必要と判断される限度を超えてはならないこと。
(平成11年通達1(1))
上記通達につき,保安情報83号(甲A3)によれば,

当該被収容者の状況を綿密に観察した上で,その使用が合理的に必要と判断される限度を超えないものであるかを吟味することが重要である。

とされている。

戒具は,必要以上に緊度を強くして,使用部位を傷つけ,又は著しく血液の循環を妨げる等健康を害するような方法で使用しないこと。(平成11年通達1(2))
上記通達につき,保安情報83号(甲A3)によれば,

バンド等を必要以上に締め付けて腹部等を圧迫することなどのないよう,確認的に規定したものである。

とされている。

戒具使用中又は保護房収容中の者については,巡回,監視用テレビカメラ等により,綿密かつ頻繁に視察し,その動静を的確に把握すること。
(平成11年通達1(4))


戒具使用中(護送中の者を除く。
)又は保護房収容中の者について
は,常に医師にその心身の状況を確実に把握させ,必要に応じて診察させること。
(平成11年通達1(5))

(オ)革手錠の使用及び保護房への収容の記録化
平成11年通達によれば,受刑者に対する革手錠の使用及び保護房への収容に関し,おおむね次のとおり記録化することが定められている。a
戒具を使用した場合,解除した場合又は使用方法を変更した場合には,戒具使用書留簿及び視察表に記録し,①使用,解除,使用方法変更の日時,②使用場所,③戒具の種類・使用方法,④指揮者,⑤実施者,⑥使用要件に該当する事実(解除した場合には,使用要件が消滅した事実)
,⑦被使用者の動静,⑧被使用者の負傷の有無・程度,⑨
使用状況,⑩医師の診察を実施した場合,医師の意見の各事項うち必要と認められるもの及びその他参考となる事項を視察表に記載すること。

被収容者を保護房に収容した場合,解除した場合又は収容期間を更新した場合には,保護房収容書留簿及び視察表に記録し,①収容,解除,収容期間更新の日時,②収容居房,③指揮者,④実施者,⑤収容又は収容期間更新の要件に該当する事実(解除した場合には,収容要件が消滅した事実)
,⑥被収容者の動静,⑦被収容者の負傷の有無・程度,⑧戒具使用の有無,⑨医師の診察を実施した場合,医師の意見の各事項のうち必要と認められるもの及びその他参考となる事項を視察表に記載すること。


戒具使用中又は保護房収容中の者の動静は,少なくとも15分に1回以上の割合で当該被収容者ごとに作成する書面に記録し,特異な動静については,適宜視察表に記録すること。

(7)刑務官の職務に関する規定
行刑施設の規律の維持及び秩序の維持並びに警備に関する職務の在り方を定めた法令として行刑施設の規律の維持等に関する刑務官職務規程(平
成3年矯保訓第689号法務大臣訓令,同5年矯保訓第1973号により改正。以下刑務官職務規程という。乙A4)が存在し,同規程の内容を更に詳細に説明したものである行刑施設の規律の維持等に関する刑務官職務規程の運用について(依命通達)(平成3年矯保第690号矯正局長通達,同5年矯保第819号,同1974号により改正。以下依命通達という。乙A5)が存在する。また,刑務官職務規程34条には,行政施設の長は,刑務官に対し,この規程に定める内容を周知させ,遵守させるために必要な措置を執るものとする同条1項)行政施設の長は,前項の処置として,(,この規程を実施するための細則を定める場合には,矯正管区長の認可を受けなければならない(同条2項)と定められており,名古屋刑務所において
は,同所長が定め,名古屋矯正管区長の認可を受けた細則である名古屋刑務所における規律維持等に関する刑務官職務規程実施細則(以下実施細則という。甲E12)が存在する。刑務官職務規程,依命通達及び実施細則では,受刑者の自傷他害行為等に対する刑務官の抑止処置などについて,次のとおり定められている。

被収容者の制圧等について
刑務官職務規程7条1項では,
刑務官は,被収容者が自己若しくは他人に危害を加え,逃走し,行刑施設の職員の職務執行を妨げ,その他行刑施設の規律の維持等に支障を生じさせる行為をし,又はしようとする場合には,その行為を制止し,その者を拘束し,その他その行為を抑止するための処置を執らなければならない。と定められており,実施細則10条1項において同趣旨の定めがある。
また,刑務官職務規程7条2項では,前項の処置は,その事態に応じ,

目的を達成するため合理的に必要と判断される限度を超えてはならない。

と定められており,依命通達4項(2)では,質問等の処置及び制止等の処置を執るに当たっては,いわゆる比例原則に配慮することは当然であり,刑務官職務規程第7条第2項は,同条第1項の処置につき,その旨を確認的に明示したものであって,例えば,注意等(第6条)を行うだけで目的が達せられるにもかかわらず,制止等の実力行使(第7条)に及ぶことがないようにするのは当然であるなどと定められ,実施細則10条においても,

前条の注意等の処置で目的が達成される場合においては,前項の制止等の処置を執ってはならない。(2項)

,実施細則10条

第1項の処置を執るに当たっては,その事態に応じ,目的を達成するため合理的に必要と判断される限度を超えてはならない。(3項)と定められている。

実施細則10条3項にも同趣旨の内容が定められている。


刑務官の間の権限等
刑務官職務規程には,

行刑施設の規律の維持等に関して緊急の処置を執る場合において,その場に階級を有する複数の職員がいるときは,そのうち上位の階級にあるものが指揮を執るものとする。(31条1項)「指


揮を受けた刑務官は,その指揮に従わなければならない。(同条3項)」
と定められており,実施細則68条1項,3項に同趣旨の定めがある。また,実施細則72条2項には,

看守長等は,部下職員を職務に従事させるに当たり,必要な指揮,命令又は指導を行い,その職務の遂行を監督しなければならない。

と定められている。
3
争点
(1)X1事件の違法性
(原告X1の主張)
名古屋刑務所の刑務官らは,
次のとおり,
その要件を欠くにもかかわらず,
原告X1を保護房に収容し,同人に対し,革手錠を施用したのであり,しかも,革手錠の緊度は必要な限度を超えてきつく施用されたものであり,それらの行為は違法である。

第1不法行為
(ア)平成13年10月3日,取調室に連行された原告X1が取調室から出るのを拒否したところ,NとO副看守長(以下Oという。
)が,
突然取調室に入ってきて原告X1の襟首を掴み,原告X1を取調室から引きずり出した。Nが非常ベルを押し,約20人の刑務官が駆けつけ,原告X1を殴るけるなどしてうつ伏せに転倒させ,原告X1の両手を後ろに回し,背部に2名,脚部にそれぞれ1名ずつの計4名の刑務官が乗り,頭を土足で踏みつけて押さえるなどし,Nにおいて,原告X1の腕を乱暴に捻じ上げ,
このまま腕,折ったろうかなどと脅した上,原
告X1に金属手錠を両手後ろで装着した。

(イ)その後,刑務官らは原告X1を保護房に連行し,原告X1の両腕を後方に回して革手錠を装着した。この時,被告Y4が安全靴を履いたままの足を原告X1の腰にかけて,ギーっと音がするまで両腕で革手錠のベルトを引っ張り続け,
7人以上の刑務官が原告X1の体を押えながら,
原告X1の両脇や腹を安全靴を履いたままけり上げた。さらに,複数の刑務官が同時に原告X1の背中の上で跳躍し,その都度,他の刑務官らがきつくベルトを締め上げた。刑務官らは原告X1の左手を前,右手を後ろにして革手錠のベルト部に固定したまま,原告X1を保護房内に放置した。
(ウ)しばらくの後,被告Y4が監視口からのぞいて

X1,言うこと聞け。

と言いながら,5,6名の看守とともに保護房に入り,

まだ緩いんだ。締め直しだ。

といって,更に革手錠のベルトをきつく増し締めた。原告X1は,あまりの痛みに脂汗をにじませ,吐き気をもよおし,同じ姿勢でいると痛みが増すため止まっていることも出来ず,転がり苦痛にうなっていた。その後,被告Y4らにより,いったん上記革手錠が外され,よりウエストが締まる別の革手錠が装着された。

第2不法行為
平成14年2月7日午前,担当刑務官の被告Y6が原告X1の独居房の扉を足でけったため,原告X1は

兄弟そろって汚いまねするな。

と述べた。
これに対し,
被告Y6が連れてきた別の刑務官が非常ベルを押したため,
20人以上の刑務官が駆けつけ,
原告X1は独居房から引きずり出されて,
保護房へ連行され,被告Y4や他の刑務官から片手前・片手後ろの状態で革手錠が施用され,金属手錠も併せて手首に装着され,横臥のまま放置された。
この際の革手錠の緊度は,第1不法行為の際よりきつく,呼吸が止まる
のではないかと原告X1が思うほどであり,原告X1の腰部及び腰から下約10㎝の部分がしびれ,口からは泡と血が出ていた。

第3不法行為
平成14年2月14日,被告Y4及び参加人Z1が原告X1のいる独居房を訪れた。被告Y4は入室して原告X1に話しかけ,参加人Z1は非常ベルの前に立っていた。原告X1は,脇及び手首の痣や擦過傷について,写真撮影を求めたところ,被告Y4が激昂して,いきなり腕を原告X1の首に回して締めて転倒させ,無抵抗の原告X1を房から引きずり出し(乙B23)
,参加人Z1が非常ベルを鳴らした。
被告Y4らにより,原告X1は腕を掴まれて保護房まで引きずり連行されたが,保護房までの連行途中でも腹部や腕部,顔などを刑務官らに繰り返し殴られる暴行を受けた。保護房へ収容後,被告Y4は,K,Pら他の刑務官とともに,片手前・片手後ろの状態で革手錠を原告X1に装着し,Kが安全靴を履いたままの足で原告X1の側頭部を踏みつけるなどして,必要な限度を超えて刑務官らが原告X1の体を強く押さえつけて息もできないほどベルトを締めあげた。


第4不法行為
平成14年2月15日朝,参加人Z1と被告Y4他の刑務官らが引き続き原告X1が収容されていた保護房を訪れ,参加人Z1が,他の刑務官に他の受刑者らが工場に出役したことを確認して,保護房内に立ち入った。原告X1は,参加人Z1から,同人が差し出したプラスチック茶碗に入ったお茶を取るように言われたが,
何でですかと述べたところ,参加
人Z1はいきなり原告X1を押し倒し,うつ伏せにし,

昨日の続きだ。パッキン持ってこい。

と他の看守に命じ,原告X1に再び左手前・右手後ろの状態で革手錠が施用され,金属手錠も併用された。
この際の革手錠の緊度も,息をするのも困難で,気を失いそうな激しい
痛みを伴うほどに異常に胴体を締め付けるものであり,必要な限度を超えるものであった。
(被告国及び参加人らの主張)
原告X1が主張する第1ないし第4不法行為については,次のとおりいずれも裁量の範囲内の行為であり違法と評価されるものではない。

第1不法行為
(ア)原告X1は,取調独居拘禁に付する旨告知された後,刑務官が原告X1の腕をつかんで取調室から連れ出したところ,刑務官に対し

何触るんだ。

などと怒号して,つばを吐きかけながら体当たりをするなどの暴行をし始めたため,暴行のおそれがあり,必要性,緊急性も認められたため,金属手錠が施用された。
そして,原告X1は,金属手錠が施用された後も,

N覚えとれ。職員が暴行していいのか。

などと怒号し続け,刑務官の制止に従わず,大声を発し,上半身を前後左右に激しく振り動かし,さらには刑務官に足げりをしようとするなど,暴れ続けており,他人に暴行又は傷害を加えるおそれや普通房に収容することが不適当と認められる事情があったことから,原告X1を保護房に収容したのであり,その行為は,裁量の範囲内の行為であって,違法と評価されるものではない。
(イ)さらに,原告X1は,保護房に収容される際,刑務官の制圧が一時的に外れ,金属手錠を外すために近づこうとする刑務官を足でけるなど攻撃を加える気勢を示していたほか,壁を背にして両手後ろに施用されていた金属手錠を壁に打ち付けたり,金属手錠から手を引き抜こうとしたりし,保護房内においても著しい興奮状態で,刑務官に対して激しい抵抗を繰り返していた。このことからすれば,原告X1の金属手錠施用を解除して保護房から退出する際や何らかの要件で保護房を開扉するなどした際,当該刑務官に暴行を加えるおそれが顕著に認められたという
べきであり,保護房収容のみでは暴行を抑止できないことが明らかであり,しかも,激しい抵抗の状況等にかんがみると,戒具として金属手錠を使用することでは足りず,より緊縛度の高い戒具を使用する必要性もあった。したがって,原告X1に革手錠を施用したことは合理的な裁量の範囲内というべきであり,違法と評価されるものではない。
(ウ)刑務官らが原告X1に革手錠を施用して,保護房から退出した後,原告X1は助走を付けるようにして保護房の扉に近づき,これをけり,革手錠もバンドごと上下に動くような状況であったため,刑務官らは,ズボンを脱ぐようにして両足から革手錠を抜き取られ,これが凶器として使用される危険性があると判断し,原告X1の革手錠につき,バンドの穴一つ分きつく締めて,適正な緊度で施用したものであり,このことについても合理的裁量の範囲内の行為というべきであり,違法と評価されるものではない。

第2不法行為
(ア)原告X1は,被告Y6に

こらー,Y6ー。

などと声を掛けたことにつき,後に同人から問い質されたのに対し,

うるせぇなー。ぼけ看守。豚でも飼ってろ。

などと大声で喚き出し,非常ベルにより駆けつけた被告Y4から居室から出るように指示されてもその場を動かず,他の刑務官が両腕を抱えるようにして居室前に連行したところ,

何するんだ。

などと大声で喚き続け,刑務官を振り払おうとしたり体当たりしようとするなど暴れ続けたため,金属手錠を施用した。
そして,原告X1は,金属手錠を施用された後も,刑務官を足でけ飛ばすなど,刑務官からの制止の指示があったにもかかわらず上半身及び両足を揺り動かして刑務官らの制止から逃れようとしたのであり,原告X1には,他人に暴行又は傷害を加えるおそれや普通房に収容することが不適当と認められる事情が認められたため,原告X1を保護房に収容
したのであり,その行為は裁量の範囲内の行為であり違法と評価されるものではない。
(イ)原告X1は,保護房に収容されても,刑務官の戒護が手薄になった虚を突くような形で刑務官をけ飛ばし,金属手錠を壁に打ち付けるなどして暴れ続け,被告Y4による制止に従うこともなかったのであり,原告X1が著しい興奮状態で刑務官に激しく抵抗していたことからすれば,暴行のおそれのみならず,保護房収容のみでは暴行を抑止できないことが明らかであったため原告X1に革手錠を施用し,その緊度も適正であることが確認されているのであるから,革手錠を施用した行為は,裁量の範囲内の行為であり,違法と評価されるものではない。

第3不法行為
(ア)原告X1は,刑務作業の時間であるにもかかわらず,居房で横臥し続けていたため,被告Y4及び参加人Z1が原告X1の居房を訪れて,生活態度等について説諭したのに対し,原告X1が

おれは,どうせ子供ですよ。汚い大人にはなりたくないし,あんたはひきょうだ。

などと言いながら右手を振り上げて被告Y4の左肩につかみかかろうとしたことから,被告Y4及び参加人Z1が原告X1を制圧したところ,同人は,上半身を前後左右に激しく揺り動かすなどして暴れ続けたため,金属手錠を施用したものである。
原告X1は,金属手錠を施用されたものの,興奮状態が収まらず,被告Y4や参加人Z1に突っかかってくるような奇声を発し,

何をするんだ,この野郎ー。

などと喚き散らし,周囲の刑務官に体当たりをしようとしたり,両足を交互に振り上げたりするなどして暴れ続け,被告Y4の制止にも従わず,上半身及び両足を揺り動かして刑務官の制止から逃れようとしたものであって,原告X1には他人に暴行又は傷害を加えるおそれや普通房に収容することが不適当と認められる事情などが認
められたから,原告X1を保護房に収容したのであり,その措置は裁量の範囲内の行為であり,違法と評価されるものではない。
(イ)原告X1は,保護房に入れられてもなお刑務官に対し危害を加えるように体を激しく動かしたり,両足でけりつけようとしたり,こらー。

おれ様を誰だと思っているんだー。

などと大声で騒ぎ,金属手錠を壁に打ち当てるなどして暴れ続けたりし,被告Y4の制止に従おうとしなかったのであるから,暴行のおそれのみならず,保護房収容のみでは暴行を抑止できないことが明らかであったため原告X1に革手錠を施用し,その緊度も適正であることが確認されているのであるから,革手錠施用は,裁量の範囲内の行為であり,違法と評価されるものではない。エ
第4不法行為
原告X1は,参加人Z1が保護房内に入り,布団を出したところ,参加人Z1に対し,大声で喚きながら飛びかかり,刑務官に制圧された状況でも,

殺してくれ。,

もう死にたいんだ。

などと落ち着かない様子で,上半身及び両足を揺り動かすなどして暴れ続けていたのであって,原告X1には自殺のおそれがあり,かつ保護房収容のみでは自殺を抑止できないことが優に認められたため,原告X1に革手錠を施用したのであり,その緊度も適正であることが確認されているのであるから,革手錠を施用した行為は,裁量の範囲内の行為であり,違法と評価されるものではない。
(2)5月事件の違法性
(原告らの主張)

革手錠施用による不法行為
(ア)平成14年5月27日午前10時14分ころ,参加人Z1,Q看守部長(以下Qという。,R,Kらは,Aを連行して保護房内に入

り,参加人Z1らがAをうつ伏せに倒し,被告Y5が革手錠,両手前と革手錠を装着するよう指示した。参加人Z1は,他の刑務官らに,A
の身体を手で押さえさせるなどした上で,自ら,Aの金属手錠を外し,Aの両手に革手錠の腕輪をし,そのベルトをAの身体に巻き付けてから尾錠に通して革手錠を装着した。名古屋刑務所において使用されていた革手錠には,
数種類の異なるサイズがあったが,
Aに装着されたものは,
最も短い極小サイズのものであった。参加人Z1は,革手錠を強く締めつけて名古屋刑務所内において,今後反抗的態度を取ることがないようにさせようと考え,懲らしめのため,Aの身体に装着した革手錠のベルトを強く引いて尾錠から数えて2番目の穴に尾錠の爪を入れ,胴囲80㎝以上のAに対し,円周約70.2㎝の状態で,革手錠をいったん固定した。
(イ)参加人Z1は,平成14年5月27日午前11時45分ころ,Aに革手錠を装着してしばらく経過したことから,その様子を見に行くことにし,反省の態度が見られなければ,革手錠をさらに強く締め直すことにより同人に苦痛を与えて懲らしめようと考え,参加人Z2,参加人Z3,参加人Z5に保護房まで同行するよう指示し,これらの者と共にAを収容した保護房に赴いた。
保護房内において,Aは,うつ伏せに横たわっていたが,うめき声を上げ,腹部の痛みを訴えた。参加人Z1らは,これを反抗的態度とみなして,懲らしめのため更に革手錠を強く締めつけることを決意し,革手錠の尾錠の爪をベルトの穴からいったん抜いて,Aの身体に足をかけるなどして体を固定させた上で腰部のベルトを勢いよく強く引いて,参加人Z2,参加人Z3にベルトの端を持たせた。参加人Z2,参加人Z3は,参加人Z1が懲らしめのため革手錠のベルトを締めつけるよう指示したことを了解した上で,参加人Z1の指示の下,二人掛かりでベルトを強く引き,尾錠に最も近いベルトの穴(円周約59.8㎝)に尾錠の爪を入れて革手錠を固定した。

(ウ)以上のとおり,名古屋刑務所の刑務官らは,革手錠施用要件を満たしていないにもかかわらず革手錠を施用し,しかも,必要な限度を超えた緊度で革手錠を施用したものであって,違法な行為である。

不作為による不法行為
被告Y1は,名古屋刑務所の所長として,被告Y2は,同刑務所の処遇部長として,被告Y3は,同刑務所の首席矯正処遇官として,いずれも部下の刑務官を指導監督すべき立場にあり,革手錠施用時の視察表,報告書などの決裁等を通じて,
同刑務所における革手錠の使用状況に問題があり,
革手錠の施用によって受刑者の死傷という結果が生じる危険性を予見しながら,これを制止することなく漫然と放置した。特に,5月事件以前にX1事件が発生しており,上記被告らは,違法な革手錠施用によって受刑者に死傷者が生じる危険性を具体的事例をもって認識していながら,何ら適切な指導監督を行わず,しかも,被告Y1においては,革手錠施用による負傷者が後を絶たない同刑務所の現状を容認するのみならず,革手錠施用を積極的に認め,現状を助長してきたものであり,上記各被告らの重大な過失により,刑務官らの違法な革手錠施用によるAの死亡という結果を招いたものであり,刑務官らの違法な革手錠の施用を漫然と放置した行為は違法である。


隠ぺい工作による不法行為
5月事件につき,次のとおり隠ぺい工作を図ることにより,Aの遺族である原告X2らによる被告らに対する刑事責任,民事責任の追及を困難ならしめ,その被害感情を著しく傷つけたものであり,被告らによる隠ぺい工作は,原告X2らとの関係において不法行為となる。
(ア)虚偽の再現見分
被告Y1は,平成14年5月27日,5月事件の具体的状況を把握するため参加人Z4に対し,Aに対する制圧から,連行,保護房収容,革
手錠施用に至るまでの場面について,関与した刑務官を対象とした再現の実況見分を実施することを指示し,参加人Z4が自ら見分官となり,参加人Z1らを立会人として,立会人が一堂に会する形式で再現見分を実施した。
その際,参加人Z1や参加人Z4の指示により,①実際には,非常ベル発報当時は新入調室に来ていなかった参加人Z1,J及びQが同室まで駆けつけて,Aをうつ伏せに引き倒して金属手錠を後ろ手に施用したとされたこと,②JやQが新入調室まで駆けつけてAを起きあがらせ,その両脇を腕絡みしながら,同室の外に連れ出したとされたこと,③連行途中のAがJらに足げりや体当たりをしようとされたこと,④保護房収容の際,Aが保護房内の壁に体当たりをしたり刑務官を足げりにしたりしたとされたこと,⑤革手錠施用を完了して参加人Z1らが保護房から退出する際,Aが立ち上がり,参加人Z1に対し,足げりや体当たりをしたとされたことなど虚偽の内容の再現見分が行われた。なお,5月事件における再入室や締め直しについては,これに関与した参加人Z1ら及びその状況を知っていたS看守(以下Sという。
)及びRらが
報告しなかったことから,再現見分の対象とされなかった。
また,参加人Z1らは,同日,上記再現見分に合わせた被告Y1あての虚偽の内容の報告書を作成した。
(イ)参加人Z1による隠ぺい工作
参加人Z1は,平成14年5月27日,Sから提出された処遇表の用紙に,
11:11扉を足蹴りしている11:34,しながら「くそーなどとわめている」12:01,ち,扉横の壁付近を足蹴りしている12:26,室内を徘徊扉前付近に立室内を徘徊し,う「おーなどと怒鳴りながら,扉を足蹴りしている。,」12:56内の壁にもたれたまま,「クソーと怒鳴っている。,」13:35室室内にうつ伏せになったまま「うおーなどとわめいている。」など,
Sから提出された元の処遇表にはなかった虚偽の事実を含む内容を鉛筆で記載した上,同日の夕方ころ,これをSに手渡し,Sにその内容のとおり処遇表を書き直させた。
また,参加人Z1は,そのころ,Aの動静に関する視察状況を記載した動静視察表を提出していたRに対しても,
12:29室内を徘徊し,視察に気付くと「こらーなどと怒鳴りながら,扉を足蹴りしてくる。
」など,提出された元の動静視察表にはなかった内容を動静視察表の用紙に鉛筆で記載した上,Rに手渡して,そのとおり動静視察表を書き直させた。
そして,これらの隠ぺい工作については,被告Y3も承知するところであった。
(ウ)被告Y1による事実の隠ぺい

被告Y1は,
司法解剖当日の平成14年5月28日,
矯正局に対し,
緊急の報告をしたが,腹部の圧迫痕や皮下出血など,革手錠の施用による死亡をうかがわせる事情はすべて隠ぺいした。


また,被告Y1は,平成14年6月5日,監督者である法務省矯正局保安課長に5月事件の概要を口頭で説明したが,その際,死因が不詳であること,関係看守は制圧時等における暴行を一貫して否認していること,挫裂創及び出血の原因は,制圧時にAが暴れたことから何らかの形で腹部が圧迫されたとか,外傷性のてんかんを治療中であったため何らかの病的原因があったなどとする明らかな虚偽の報告をした。


さらに,被告Y1は,平成14年7月15日には,矯正局及び名古屋矯正管区あてに被収容者死亡報告をしているが,ここでも肝臓の挫裂創が心肺蘇生術によって生じた可能性が否定できないことを繰り返
し強調し,革手錠による強度の締め付けをうかがわせることになる腹部の圧迫痕や皮下出血については,全く触れておらず,名古屋刑務所が組織的に事実を隠ぺいしようとしたことは明らかである。
(エ)隠滅工作の共謀
被告Y1は,自ら検視に立ち会った際に,Aの腹部にひどく革手錠で締めた痕があったことから,革手錠の締めすぎが死因に影響を与えているのではないかと疑い,また,平成14年5月29日,T医師,U医師,M医師の各医師及び医務部長,被告Y2らが出席する検討会において,医師らから,死因の詳細は判明しないものの革手錠施用が死亡の原因である可能性が高いことを指摘された。そのため,被告Y1は,再発防止策として,被告Y3に命じて保護房収容時のビデオ録画を実施する取扱いとさせたほか,処遇部門の刑務官に対する研修等を実施させた。しかし,被告Y1は,Aに対する革手錠の施用が不適切であったことが明らかとなった場合の幹部職員に対する責任追及や刑務官の士気に対する影響を懸念し,革手錠の施用が不適切であったことは伝えないように指示したため,革手錠使用状況に関する事実解明は行われなかった。被告Y3も革手錠の施用に伴い受刑者が死傷することが予見可能であったにもかかわらず,被告Y1らと共謀の上,原告X2らに対し,Aの死因について

身体検査で暴れたので保護房に入れた。,

その後も大声を出して暴れていた。,

食事の時もこんなもの食えるかと言っていた。,ずっと暴れていたが声がしないので行ってみると倒れていた。

との虚偽の報告をするなど,隠ぺい工作を行った。
(オ)遺族に対する対応
被告Y1をはじめとする名古屋刑務所の幹部らは,
前記(エ)のとおり,
原告X2らに対し,虚偽の説明をするなどし,制圧や革手錠の使用については全く触れなかったばかりか,原告X2らがAの遺骸との対面を求
めたところ,
顔は見てもいいが体は見せられないとして全身を見せ
ることを拒否して顔だけを見せた。
このように,被告Y1らは,Aが刑務官らの暴行により死亡した事実を遺族にも隠ぺいして,虚偽の事実を説明して欺き,自己の保身を図ったのである。
(被告国の主張)

革手錠施用による不法行為については認否を留保する。


被告Y1,被告Y2及び被告Y3の不作為がAを死亡させる結果を招いたとする主張は争う。


隠ぺい工作による不法行為のうち,遺族に対して被告Y1らが対応した際,虚偽の事実のみを説明したことはなく,霊安室において,刑務官が原告X2らに対し

ご覧になりますか。

と尋ねたところ,一部の者のみがAの顔のみを見たものであり,全身を見せることを拒否したことはない。その余については認否を留保する。

(参加人らの主張)

革手錠施用による不法行為
(ア)平成14年5月27日午前10時10分ころ,Aは,新入調室の前の廊下の壁に体を押しつけられ,制圧されていたが,被告Y3が保護房収容を指揮し,QとJとがAを保護房に連行した。連行される間,Aは両腕に力を入れ,周囲に大声で

俺をなめるなよ。

などと放言しながら興奮した様子で肩を震わせていた。
Aは,被告Y5の指揮下で保護房第3室に入室させられ,参加人Z1らによりうつ伏せに制圧されたが,うつ伏せにされた状態でもかなり興奮しており,被告Y5が革手錠施用要件を具備していると判断し,革手錠施用を指揮し,参加人Z1らにより革手錠が施用された。なお,参加人Z1は,革手錠の施用に当たって緊度を確認しており,固定位置も尾
錠から5番目の穴であり,適正に革手錠が施用された。
(イ)参加人Z1らは,平成14年5月27日午前11時45分ころ,革手錠施用解除の可能性も念頭において,Aの動静を視察する目的で保護房に出向いたが,保護房に再入室し,Aに声をかけたところ,Aは,興奮した様子で体を揺すって,
こら。」と大声で罵声を浴びせ,足で刑
務官をけりつけるような動静を示した。この様子から,参加人Z1は革手錠施用が解除できないと判断したが,その際,Aに施用されていた革手錠の尾錠の位置が背中の中央寄りにずれており,着衣がめくれあがって,
肌に直接バンドが当たっていたため,
尾錠で背骨が損傷を受けたり,
皮膚が擦過傷を起こしたりしないように革手錠の施用をやり直す必要があると判断し,いったんバンドを外して,上着がバンドの下になるように整えた上で,Aに革手錠を改めて施用した。なお,施用をやり直した際も,参加人Z1は緊度を確認しており,固定位置も尾錠に最も近いバンドの穴ではなく,適正な位置に施用した。
(ウ)Aが外傷性ショックで死亡したのは,A自らの自傷,転倒等の事故によるものであって,革手錠の強度の緊縛によるものではなく,因果関係はない。

隠ぺい工作による不法行為のうち,参加人Z1が処遇表と動静視察表を書き直させたのは,事実経過を正確に上級庁,監督庁に報告するために不備を補ったものにすぎず,ことさら事実関係を隠ぺい,改変したものではない。

(3)9月事件の違法性
(原告X5の主張)
名古屋刑務所の刑務官らは,
次のとおり,
その要件を欠くにもかかわらず,
原告X5を保護房に収容し,同人に対し,革手錠を施用したのであり,しかも,革手錠の緊度は必要な限度を超えてきつく施用されたものであり,それ
らの行為は違法である。

革手錠施用による不法行為
(ア)第1不法行為

平成14年9月18日,被告Y6及び参加人Z1による原告X5の看守に対する不満等が記載されたノートに関する取調べにおいて,被告Y6は,

なんだこのノートは。嘘ばっか,書いてるじゃないか。

と述べたのに対して原告X5は

どこが嘘なんですか。

と聞いた。被告Y6は

ここ嘘じゃないか。

とノートを指さしながら話したため,原告X5がノートをのぞき込んだところ,その途端,参加人Z1が後ろ手をとって,腕を上に高く掲げ金属手錠を掛けた。原告X5は苦しさから前屈みになったところ,襟首をつかんで上に持ち上げられたため,原告X5の首が締められることとなった。


この姿勢のまま,原告X5は保護房に運ばれたため,原告X5は呼吸困難となって保護房に到着する前に気絶し,刑務官らは気を失っている原告を引きずりながら保護房に運んだ。原告X5は,砂利道を引きずられたことにより,両足の甲と右手首に傷害を負った。


保護房に連れられた原告X5は,革手錠を施用され,最初の革手錠はいつも使用されているものであったが,途中からこれまで使われていたものと異なるものに変えられ,革手錠の緊度も強められた。

(イ)第2不法行為

平成14年9月19日朝,,
56人の刑務官が保護房に入ってきて,
原告X5を囲むように立った。参加人Z1は原告X5にお茶を飲むよう言い,原告X5はこれを断ったが,何度もお茶を飲むように言われたため,3杯までは飲み,4杯目はいらないと断ったところ,庶務課の刑務官が

まだ反省が足りんな。

と言って保護房を出ていった。参加人Z1は原告X5に対して,

いつまでコップを持たせるんだ。


と難癖を付けた。原告X5は,コップを取らないと何をされるかわからないと思い,このコップを取ろうとしたところ,参加人Z1は,原告X5の手を払いのけるようにして原告X5にコップを投げつけると同時に原告X5をうつ伏せに押し倒し,他の刑務官と共に制圧した。b
原告X5は,その場で革手錠を施用されたが,途中で革手錠をより胴囲の小さい物に交換され,緊度を強めて革手錠を施用された。


参加人Z1は無理矢理原告X5にお茶を飲ませ,腹を膨れさせた上で革手錠を締めて,苦痛を増幅させようとし,また,

いつまでコップを持たせているんだ。

という発言も,原告X5に対する制圧の機会を作るためのものというべきであり,施用された革手錠の緊度が強められたことと併せると,この革手錠施用の犯罪性は顕著である。
(ウ)第3不法行為

保護房連行
原告X5は,平成14年9月19日の保護房解除の後,面接において,

暴行気勢の事実を認めます。Wの件(暴行を受けた件)もあきらめます。,人権救済の申立ても取り下げると答えていたにもかか

わらず,平成14年9月25日午前8時ころ,参加人Z1による原告X5に対する面接において,その態度を変えたことから,参加人Z1は,

どういうつもりだ。,

ころころ言う事を変えやがって。

等と怒鳴り,テーブルを叩いて,原告X5の方に歩み寄った。被告Y6も参加人Z1がテーブルを叩くのと同時に部屋に入ってきて,原告X5の方に歩み寄り,被告Y6は原告の左側に,参加人Z1は原告X5の右側に立った。
参加人Z1は,原告X5の座っている椅子の足を何度もけりつけたため,原告X5が耐えかねて座り直そうとして腰を上げたところ,被告Y6は,原告X5を引き倒し,参加人Z1も,原告X5の制圧に加
わり,同人に金属手錠を施用し,非常ベルを聞いて駆けつけた参加人Z5らは,
参加人Z1の指示で,
原告X5を担いで保護房に連行した。

異常な緊縛度の革手錠使用
原告X5の保護房連行後,参加人Z1は,保護房内で原告X5を床に引き倒して制圧した。参加人Z1は,原告X5に対して立腹していたため,同人が刑務官らに制圧され,暴行に及ぶおそれがなかったにもかかわらず,懲らしめのため革手錠を施用しようと考え,保護房に駆けつけてきていた参加人Z4に指揮を仰いだところ,その意を察した参加人Z4は,参加人Z1に対し,

革手錠,両手前。

と革手錠
を施用するように指示した。
そこで,参加人Z1は,原告X5に腕輪をして中サイズの革手錠のベルトを原告X5の身体に巻き付けて強く引いたものの,それほど強く締まらず,更に緊度を強めて固定しようと考え,

もっと小さいのを持ってこい。

などと述べ,参加人Z4もその旨指示したため,小サイズの革手錠が届けられた。
そして,参加人Z1は,小サイズの革手錠に交換して,ベルトを強く引き,さらに,参加人Z1の意を察した参加人Z5,参加人Z2及びDが順次交代しながら二人がかりでベルトを強く引き,参加人Z4が「もう一段。」などと更に狭い円周となる穴に尾錠の爪を入れるように指示したことから,参加人Z5が尾錠部を手拳で数回叩いたり,靴底で数回けりつけるなどした。
原告X5は本件当時の体重は70㎏以上あり,胴囲は約90㎝程度あった上,当日は,原告X5は,人権救済の申立ての取下げの意向を撤回したことによる報復のために革手錠の施用を受ける可能性があることを覚悟し,服を3枚着込んでいたことから,実際の胴囲は90㎝以上になっていたと推測される。

このような胴囲及び着衣状況にあった原告X5に対し,被告看守らは,通常の締め方よりも一段きつい締め方となる穴(約70㎝と思われる。
)に尾錠の爪を入れて革手錠を固定しており,原告X5が,革
手錠を締め上げられる際に

殺される,助けてくれ。

と叫んだのに対し,被告刑務官らから「うるさい。」と足で顔をけられた。原告X5は,息をするのも苦しい状態で革手錠を固定され,徐々に足がしびれ始め,最終的に足の感覚がなくなり,動かなくなった。c
革手錠解除時の暴行
平成14年9月25日午前9時30分ころ,参加人Z1は,原告X5の革手錠を解錠するため,他2名の者とともに保護房に赴き,原告X5に施用した革手錠を解錠しようとしたが,原告X5に対する怒りから,更に懲らしめようと考え,革手錠を解錠する際,必要もないのに,ベルトを強く引き,また

頑張れ。いくぞ。などと言いながら,

いったん解錠したベルトを原告X5の身体に巻き付けて強く引き,ま

たここに入れてやるからな。

などといいながら,革手錠施用を解除した。


不作為による不法行為
被告Y1は,名古屋刑務所の所長として,被告Y2は,同刑務所の処遇部長として,被告Y3は,同刑務所の首席矯正処遇官として,いずれも部下の刑務官を指導監督すべき立場にあり,革手錠施用時の視察表,報告書などの決裁等を通じて,
同刑務所における革手錠の使用状況に問題があり,
受刑者の死傷という結果が生じる危険性を予見しながら,これを制止することなく漫然と放置した。特に,9月事件以前にX1事件及び5月事件が発生しており,上記被告らは,違法な革手錠施用によって受刑者に死傷者が生じる危険性を具体的事例をもって認識していながら,何ら適切な指導監督を行わず,しかも,被告Y1においては,革手錠施用による負傷者が
後を絶たない名古屋刑務所の現状を容認するのみならず,革手錠施用を積極的に認め,現状を助長してきた。このように,上記各被告らの重大な過失により,刑務官らの違法な革手錠施用による原告X5の傷害という結果を招いたものであり,刑務官らの革手錠施用を漫然と放置した行為は違法である。

証拠隠ぺい工作による不法行為
名古屋刑務所内においては,処遇部門の責任者である被告Y3などを構成員とする9月事件の調査等を担当するチームが作られた。
しかし,
被告Y1及び被告Y3は,
9月事件に関係した刑務官らに対し,
革手錠を引いていたのは参加人Z1だけであったとか,サイズの小さい革手錠への交換はしていないなどと虚偽の説明をするように指示し,そのため事件に関係した刑務官らは検察官に対して,その旨虚偽の説明をしたのであり,真相究明を困難にした上記被告Y1及び被告Y3の行為は原告X5に対する関係で不法行為となる。

(被告国の主張)

革手錠施用による不法行為については認否を留保する。


不作為による不法行為につき,被告Y1,被告Y2及び被告Y3の不作為が原告X5の傷害を招いたとする主張は争う。


証拠隠ぺい工作による不法行為については認否を留保する。

(参加人らの主張)

第1不法行為
(ア)参加人Z1は,平成14年9月18日,原告X5がノートに記載してはならない刑務所職員や同衆と思料される者の氏名等を記載し,かつこれらの者を批判する内容の記述をしていたことから,
被告Y6と共に,
原告X5を処遇部門第4調室に連行し,当該記載が規律違反である旨説諭するなどしていたところ,原告X5が,声を荒げ,右手を突き出し,
参加人Z1の左腕につかみかかろうとしたため,参加人Z1は,原告X5の右腕をつかむなどして,被告Y6と共に制圧した。原告X5は,制圧された後も

何だ,この野郎ー,訴えてやるからなぁー。

などと大声で怒鳴り散らしながら全身を激しく揺り動かすなどして暴れ続けた。このため,被告Y5の指揮の下,刑務官らは,原告X5に金属手錠を施用し,保護房へ収容した。なお,原告X5は,保護房へ連行中も

お前ら,皆,覚えとけぇー。

などと怒鳴り続けたり,上半身を前後左右に激しく揺さぶったりして暴れ続けた。
(イ)そして,保護房収容後も原告X5は,

どうにでもしろぉー。

など
と怒鳴りながら全身を激しく揺さぶるなどし,制止にも従わなかったため革手錠が施用されるに至ったものである。
(ウ)以上からすれば,革手錠施用の要件は充足されており,また,緊度も適正なものであって,上記一連の行為が違法であるとはいえない。イ
第2不法行為
参加人Z1は,平成14年9月19日,Gとともに保護房を巡回し,給水用のポットの上蓋にお茶を入れて原告X5に差し出したところ,原告X5が,

こんなもん飲めるかぁー。

などと怒鳴りながら,その手を振り払い(暴行)
,お茶がGに振りかかった。そこで,参加人Z1及び非常ベ
ルで駆けつけた被告Y6が原告X5を取り押さえたが,原告X5は,なおも激しく体を揺さぶり続けたため,
申統括矯正処遇官以下申」

という。)の指揮の下,原告X5に革手錠が施用されたものである。したがって,原告X5に対する革手錠施用は,その施用要件が充足されており,また,緊度も適正なものであって,上記行為が違法な行為であるとはいえない。ウ第3不法行為(ア)参加人Z1は,平成14年9月25日,原告X5の面接を行い,説諭を行っていたところ,突然原告X5が,いすから立ち上がり,「俺の好きなようにやっていくんだ。と怒鳴りながら,参加人Z1に詰め寄ってきて,暴行気勢を示した。そのため,被告Y6が,原告X5の両肩をつかみうつ伏せの状態に引き倒した。参加人Z1は,原告X5の制圧に加わったが,原告X5は,全身を激しく揺さぶったり,足をはねつけるなどして暴れたため,参加人Z1が原告X5に金属手錠を施用した。(イ)その後,参加人Z1及び被告Y6は,非常ベルで駆けつけた刑務官らと共に,
体を激しく揺すって激しい抵抗をする原告X5を制圧したが,
原告X5は上体を激しく揺さぶるなど抵抗したため,申が保護房への収容を指揮し,保護房へ連行した。
(ウ)原告X5は,保護房内でうつ伏せに制圧されたが,なおも無言のまま上体をくねらせるように動かし続け,満身の力を込めて,制圧していた刑務官を振り払おうとしたり,両足をばたつかせるなどして暴れ続けたため,再び刑務官に暴行を加えるおそれが顕著であり,保護房収容のみでは抑止できないと判断した参加人Z4の指揮により,原告X5に施用する戒具を革手錠に変更することとなった。
参加人Z1が,まもなく届けられた革手錠を原告X5の胴囲に巻き,爪を適当な固定穴に入れようとしたが,入りそうもなかったため,一段緩めの穴に施用したところ,緊度が緩かったため,参加人Z4に対し,バンドの交換が必要である旨示し(ただし,

もっと小さいのを持ってこい。

などとは言っていない。,バンド交換が行われ,2本目のバン)
ドの5番目の固定穴に爪を固定することにより,適正な緊度で施用された。
上記2本目の革手錠施用に当たって,刑務官らが「うるさい。」などと言って,原告X5の顔面を足げりにしたことはない。また,参加人Z1らは,尾錠にピンが残っていることに気付かず,爪が固定穴にはまった後,尾錠に納まらなかったため参加人Z5が手足で爪を押し入れよう
としたり,引いたバンドを戻す勢いを利用して押し込もうとしたのであり,爪が固定穴に入らなかったため上記行為に及んだものではない。さらに,結び目を作る際,参加人Z5がバンドの余りの部分を強く引っ張っているが,爪が固定穴に入っており,緊度に影響しないので原告X5には何ら負担が掛かるものではない。
(エ)参加人Z1は,原告X5への革手錠施用後,他の刑務官と共に保護房に出向き,声掛けをしたところ,原告X5が暴れる可能性は低いと判断し,革手錠を解除することとした。
なお,参加人Z1は,原告X5に対し,

がんばれよ,いくぞ。


どと声を掛けているが,原告X5の動静,反応を見るためのものにすぎず,革手錠解除後に参加人Z1がバンドを強く引いたことなどない。(4)革手錠の施用とAの死亡との因果関係
(原告X2らの主張)
平成14年5月27日午後8時30分ころ,Aは外傷性ショックにより死亡するに至っているが,これは前記革手錠の強度の緊縛によるものであることが明らかである。
(被告国の主張)
いずれも認否を留保する。
(参加人らの主張)
Aが外傷性ショックで死亡したことは,A自らの自傷,転倒等の事故によるものであって,
革手錠の強度の緊縛によるものではなく,
因果関係はない。
(5)革手錠の施用と原告X5の傷害結果との因果関係
(原告X5の主張)
原告X5は,
外傷性腸間膜損傷等の傷害により,
緊急手術を受けているが,
このような原告X5の症状は革手錠の度重なる締め付け,とりわけ前記第3不法行為による革手錠の締め上げににより腸間膜損傷の傷害を負ったもので
ある。
(被告国の主張)
いずれも認否を留保する。
(参加人らの主張)
原告X5に生じた腸間膜損傷については,革手錠によりいくら強く腹部を緊縛しても起こりえず,原告X5の腸間膜損傷の原因は,原告X5が,革手錠施用中に右斜め前方に転倒したため,右腕輪に装着された角鉄が腹部にくい込み,瞬時に右側腸間膜が角鉄と脊椎との間で挟撃されたためであり,革手錠施用行為との因果関係はない。
(6)原告らの個人の被告に対する直接の損害賠償請求の可否
(原告らの主張)

個人責任の根拠
公務員の不法行為が国家賠償法1条に該当する場合において,少なくとも,当該公務員に故意又は重過失が認められる場合には,当該公務員個人も損害賠償責任を免れないと解するべきである。
すなわち,少なくとも故意又は重過失による不法行為の場合に当該公務員個人に対する直接の賠償請求を認めなければ,公務員の職務執行に対する責任意識を希薄化させ,国家賠償制度による公務員の職務執行に対する監督機能を失わせることになるし,民法の一般原則と比しても,公務員を過度に保護するものであり極めて不均衡である上,被害者等の被害感情に著しく反することとなる。また,国家賠償法1条2項が,本来他人の負担すべき債務を支払った場合の求償という用語を用いているのは,公務員に故意又は重過失がある場合に,当該公務員個人が損害賠償責任を負うという理解を前提としているためである。
なお,故意又は重過失がある公務員に個人責任を認めても,公権力の行使にあたる公務員を不当に萎縮させ,円滑かつ適正な職務執行を阻害する
弊害はないし,求償権の行使も実際に行われていないという実態からすれば,国家賠償法上,求償権の行使が予定されていることをもって,直接の個人責任の追及が否定されるものではない。

X1事件
(ア)被告Y4
被告Y4は,統括矯正処遇官として部下の刑務官らに革手錠の適正な使用など,職務の適正な執行を指導するべき地位にありながら,自ら率先して革手錠を締め上げ,又は他の刑務官らに指示し,あるいは黙認して革手錠を締め上げるなどの暴行に直接に関与しており,原告X1に対する不法行為の中心的な実行行為者として個人としても責任を負う。(イ)参加人Z1
参加人Z1は,原告X1に対する第3不法行為の際に他の刑務官らと共同して保護房まで連行途中の原告X1に殴る,
けるなどの暴行を加え,
革手錠を締め上げる暴行に直接関与し,第4不法行為の際には,原告X1の目前に茶碗を差し出して暴行のきっかけを作り出し,いきなり原告X1を押し倒す暴行を加え,何の必要もないのに改めて革手錠を装着して目一杯まで締め上げる暴行を加えており,原告X1に対しての虐待だけを自己目的とする極めて悪質かつ非道・残酷な暴行の中心的な実行行為者として個人としても責任を負う。
なお,
参加人Z1は第3と第4の各不法行為に関与したにすぎないが,
第1ないし第4不法行為の総体が原告X1のPTSDの発症に寄与し,しかも参加人Z1が関与した第3,第4不法行為は第1,第2不法行為と比較してもより重大かつ悪質であることなどからして,原告X1の損害との因果関係において被告Y4と異なるところはなく,参加人Z1も損害全体につき責任を負う。


5月事件

(ア)参加人Z1
参加人Z1は,本件において一貫して,積極的に,Aへの革手錠を施用し,最初の施用の際にも過度に革手錠を締め上げ,その後にも改めて更に増し締めを行っており,重大な違法行為をその違法性を十分に認識しながら行ったものであり,個人として損害賠償責任を負うことを免れない。
しかも,
5月事件はX1事件から3か月後に発生したものであり,
参加人Z1が,意識的に受刑者に対する支配・服従強制の手段として暴力を利用していたことは明らかである。
(イ)被告Y5
被告Y5は,要件を具備しないことを熟知しているにもかかわらず,Aに対する保護房収容及び革手錠施用を指揮し,参加人Z1による革手錠の過度の締め上げを積極的に是認し,その結果として,Aを死亡させたものである。
被告Y5は,参加人Z1による増し締め現場には立ち会っていないものの,同人が過度に革手錠を締め上げる可能性を熟知しながら,革手錠の施用方法についての指示・注意を怠り,同人による革手錠の増し締めを放置したものであり,監督義務違反に基づき個人として損害賠償責任を負う。
(ウ)参加人Z2及び参加人Z3について
参加人Z2及び参加人Z3は,参加人Z1と共謀の上,懲らしめの目的で,Aの腹部に巻き付けた革手錠のベルトを更に強く締め付けて腹部を強度に圧迫する等の暴行を加え,Aを死亡させたものであり,その責任は重大である。
(エ)被告Y1について
被告Y1は,5月事件当時,名古屋刑務所長として,所務全般を掌理し,所属の刑務官を指導監督するべき責任を負うものであるが,保護房
収容・革手錠施用時の視察表,報告書等の決裁を通じて,革手錠の施用状況に問題があるとの認識を持ちながら,革手錠施用による負傷者が後を絶たない現状を容認し,さらに革手錠施用を積極的に認めるなど,上記問題を漫然と放置するという重大な過失により,部下の刑務官がAを死亡させるという重大な不法行為を未然に防止することを怠った。(オ)被告Y2について
被告Y2は,本件当時,名古屋刑務所の処遇部長として,所長の命を受けて処遇部の事務を掌理し,所属の刑務官を指導監督するべき職責にあったが,革手錠使用により死傷結果が生ずる危険性を認識し,参加人Z1や被告Y5らの上司として,参加人Z1らがAを死亡させるに至る違法な革手錠使用を制止すべき職責にあるにもかかわらず,これを漫然放置するという重大な過失により,Aが死亡する結果を招いたものであり,その責任は重大である。
(カ)被告Y3について
被告Y3は,首席矯正処遇官(処遇担当)として,上司の命を受けて処遇部門の事務を掌理し,所属の刑務官を指導監督するべき職責にあったが,過度に強く革手錠を緊縛する行為が日常的に行われていること,その結果,革手錠施用による死傷結果が生ずる危険性を認識し,参加人Z1や被告Y5らの上司として,参加人Z1らがAを死亡させるに至る違法な革手錠使用を制止すべき職責があるにもかかわらず,これを漫然と放置するという重大な過失により,Aが死亡する結果を招いたものであり,その責任は重大である。

9月事件
(ア)参加人Z1
参加人Z1は,原告X5に対する不法行為として本件で法的責任を追及している3度の不法行為の中で最も積極的に原告X5に暴行を加えた
中心的な実行行為者であり,各不法行為以前にも,原告X5に対する革手錠の使用などの不当な処遇の全体に関わっている者であるから,あらゆる意味で,9月事件について最も重い責任を負うべきものであることは明らかである。
(イ)被告Y6
被告Y6は,原告X5に対する各不法行為において常に参加人Z1と行動を共にし,同人の意を受けて,原告X5に対する違法な革手錠の施用の大半について共同して行っており,平成14年9月25日の革手錠施用には立ち会っていなかったものの,原告X5が何ら暴行気勢を示していないにもかかわらず真っ先に同人を制圧し,第3不法行為のきっかけを作ったものであり,参加人Z1に次いで重い責任を負うべきものである。
(ウ)参加人Z4
参加人Z4は,平成14年9月25日の革手錠施用の際の指揮者であり,参加人Z1に対し,

革手錠,両手前。

と革手錠の施用を指示し,参加人Z1が,

もっと小さいのを持ってこい。

などと言ったことにも同意を与え,更に緊度の高い穴に尾錠の爪を入れるように指示している。原告X5に対する決定的な傷害行為を指揮して,その原因を作った参加人Z4の責任は極めて重大である。
(エ)

参加人Z2及び参加人Z5
参加人Z2と参加人Z5は,平成14年9月25日の保護房内での革
手錠施用に際し,順次交代しながら二人がかりで交換後の革手錠のバンドを強く引いている。参加人Z4が更に狭い円周となる穴に尾錠の爪を入れるように指示したのを受けて,参加人Z5が尾錠部を手拳で数回叩いたり,靴底で数回けりつけるなどして,同日の革手錠の締め上げに積極的に荷担したものであり,
個人として損害賠償責任を負うべきである。

(オ)被告Y1,被告Y2,被告Y3
これら3名の管理者の監督責任については5月事件と同様である。(参加人らの主張)
国家賠償請求については,個々の公務員は対外的な個人責任を負わないものと解されており,参加人らが原告らに対し直接責任を負うことはない。(被告Y2,被告Y5,被告Y3,被告Y6及び被告Y4の主張)公権力の行使に当たる国家公務員が,その職務を行うについて違法に他人に損害を与えた場合には,国が賠償の責めを負い,公務員個人がその責めを負わないと解されるのであり(最高裁昭和49年(オ)第419号同53年10月20日第二小法廷判決・民集32巻7号1367頁)
,公務員個人に
対する原告らの請求は失当である。
(7)損害
(原告らの主張)

X1事件
(ア)逸失利益

1631万9502円

原告X1は一連の不法行為,すなわち革手錠の度重なる締め上げ,革手錠を絞められたままの放置等の被告らの暴行行為による著しい苦痛を原因とする外傷後ストレス障害(PTSD)を発症している。
後遺障害別等級表(自動車損害賠償保障法施行令第2条)及び障害等級認定基準(労災保険関係)によれば,原告X1のPTSDの症状は,第9級10号の神経系統の機能又は精神に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるものに該当し,労働能力喪失率は35%である。そして,原告X1は,本件当時36歳であり,平成13年度の賃金センサスによる男子労働者(学歴計)の平均年収額は598万0600円であるから,これに67歳までの就労可能年数31年に対応するライプニッツ係数15.5928と上記労働能力喪失割合とを
乗じると,3263万9004円となる。
なお,原告X1は名古屋刑務所に入る以前に胸を刺されて傷害を負ったことがあり,
これも原告X1のPTSDに関係している可能性がある。
しかし,PTSDの症状としては体験を想起させる物音が鍵,靴の足音,鉄扉の音等であるとされていることからも,X1事件の各不法行為が原告のPTSDに5割以上の寄与をしていることは明らかである。
したがって,前記損害額の5割である1631万9502円が本件に基づく逸失利益である。
(イ)慰謝料

1000万円

原告X1の受けた暴行は,10名以上もの刑務官による集団暴行であり,しかもその態様も原告X1をうつ伏せに転倒させ,原告X1の両手を後ろに回し,背中・足に刑務官が乗り,頭を土足で踏みつけて押さえた上,腕を捻じ上げる(第1不法行為)
,安全靴を履いたままの足で原
告X1の側頭部を踏みつける(第3不法行為)などの非常に激しいものであった。
革手錠の装着も,原告X1が呼吸が止まると思うほどの異常な締め上げ方であり,腰部および腰から下約10㎝の部分がしびれ,口から泡と血を流すほどであったり(第2不法行為)
,あるいは一旦装着した革手
錠を更に胴囲が小さく,苦痛の程度が激しい革手錠に取り替えてベルトを締め直すなど(第3不法行為)
,肉体的苦痛を与えることのみを目的
とする残虐かつ異常な態様であった。
これら一連の激しい暴行の結果,原告X1は筆舌に尽くしがたい肉体的・精神的苦痛を長時間味わされただけではなく,ベルトの位置の皮膚及び足腰に傷害を負い,更に現在に至るもPTSDに悩まされ続けている。

以上の原告X1の被った肉体的・精神的苦痛を慰謝するに足りる金額は,少なくとも金1000万円を下らない。
(ウ)弁護士費用

400万円

原告X1は,本件訴訟を原告代理人らに委任し,弁護士報酬として請求額の約15%相当額である400万円の支払を約した。その全額がX1事件の各不法行為と相当因果関係ある損害として,被告らはこれについても賠償に応ずる義務がある。

5月事件
(ア)逸失利益

4014万9341円

Aは,本件当時49歳であり,平成13年度の賃金センサスによる男子労働者(学歴計)の平均年収額は686万9300円であるから,これに67歳までの就労可能年数18年に対応するライプニッツ係数11.6895と生活費控除割合(独身男子であるので5割とする)とを乗じると,4014万9341円となる。
(イ)Aの慰謝料

5000万円

Aは,前記のような激しい集団暴行,保護房への収容により,志半ばにしてその前途を絶たれたのであり,Aが被った苦痛を慰謝するには,少なくとも金5000万円は下らない。
(ウ)遺族固有の慰謝料

各200万円

原告X2らは,Aの遺体を引き取るに際しても,Aが,制圧され革手錠による緊縛によって殺害された事実を告げられることなく,Aの顔面以外の遺体の状況を見ることさえ禁止されていたものである。
原告X2,
原告X3,原告X4は,肉親であるAの死亡について,虚偽の事実を告げられ,事実を隠ぺいされ,Aの殺害の事実から遠ざけられていたものであり,その精神的苦痛を慰謝するに足りる金額は,少なくとも原告X2,原告X3,原告X41人につき金200万円は下らない。

(エ)弁護士費用

各370万円

以上のとおり,原告X2らの各請求額は,Aの損害の相続分として各自2575万6954円及び固有の慰謝料として各自200万円の合計2775万6954円となる。
原告X2らは,本件訴訟を原告代理人らに委任し,弁護士報酬として請求額の約15%相当額である370万円の支払を約した。その全額が5月事件の不法行為と相当因果関係ある損害として,被告らはこれについても賠償に応ずる義務がある。

9月事件
(ア)逸失利益

3787万1405円

原告X5の腸間膜損傷の後遺症は,胸腹部臓器の機能に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるものに当たり,後遺障害等級9級11号に該当する。
また,9月事件により発症したPTSDは神経系統の機能に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるものに当たり,これ自体も9級10号に該当する。よって,後遺症は併合8級となり,労働能力喪失割合は45%である。
原告X5は,訴え提起時点で症状固定したものとみなすと,当時31歳であり,平成13年度の賃金センサスによる男子労働者(学歴計)の平均年収額は508万6100円であるから,これに67歳までの就労可能年数36年に対応するライプニッツ係数16.5468と労働能力喪失割合45%とを乗じると,3787万1405円となる。
(イ)慰謝料

1000万円

原告X5に対する拷問行為とこれによる重傷,開腹手術,その後の闘病,後遺症の残存による慰謝料は,その加害行為の強い違法性,傷害の被害の重篤性,その後の治療経過とその予後が思わしくないこと,また
悪質な証拠隠ぺい工作の結果,9月事件の真相究明が困難にされたことなどに照らすと,金1000万円を下ることはない。
(ウ)弁護士費用

700万円

原告X5は,本件訴訟を原告代理人らに委任し,弁護士報酬として請求額の約15%相当額である700万円の支払を約した。その全額が9月事件の各不法行為と相当因果関係ある損害として,被告らはこれについても賠償に応ずる義務がある。
(被告国の主張)

X1事件
原告X1が,全治数か月の全身挫傷,全身打撲傷及び皮下出血等の傷害を負ったという診断はない。
また,外傷後ストレス障害の診断についても,9月事件が社会問題として広く耳目を集める以前には,そのような診断はされていないこと,平成18年5月下旬ころ,三重刑務所に勤務中であった被告Y4に電話を掛けるなど,外傷体験を想起する刺激の回避という外傷後ストレス障害特有の症状に反することなどからすれば,原告X1が外傷後ストレス障害に罹患したというのには疑問があると言わざるを得ない。


5月事件及び9月事件の原告の損害に関する主張については不知ないし争う。

(参加人らの主張)

X1事件
原告X1に対するカルテの記載では,右脇腹及び腰部に擦過傷等があった旨記載されるとともに,負傷の程度が軽度であったことが記載されており,負傷部位について医療処置もされていないのであり,全治約数か月を要する全身挫傷,打撲及び皮下出血等の傷害を負っていたとは認められなず,原告X1が負った軽度の傷害は革手錠の正当な施用によっても生じ得
るものにすぎない。
また,原告X1の外傷後ストレス障害については,同人のパネリストとして発言したり,記者会見を行ったりするなどの行動傾向は,同障害の典型症状である回避行動に逆行するものであって,V医師も原告X1の主訴をもとに診断し,原告X1の

PTSDといわれた。さされてから,こういう症状が出ている。

との発言に対し,PTSDを否定し,

覚醒剤使用歴あり,覚醒剤精神病と理解している。

と答えるなど,V医師の診断の信用性は乏しく,仮に外傷後ストレス障害の症状があったとしても,不法行為との因果関係を認めることはできない。

5月事件及び9月事件の原告の損害に関する主張については否認ないし争う。

第3
1
当裁判所の判断
総論
(1)名古屋刑務所における保護房収容及び革手錠施用

名古屋刑務所は,府中刑務所,大阪刑務所に次ぐ3番目に大規模な刑務所であり,府中及び大阪刑務所と同様,処遇困難なB級処遇者(犯罪傾向が進んでいる者)
,F級処遇者(外国人の処遇者)などを処遇する施設で
ある(甲A51・24頁)
。その被収容者数は,平成13年末の時点で府
中刑務所が約2800人(公務員一人当たりの被収容者数は約6.4人),
大阪刑務所が約2500人(同約5.6人)
,名古屋刑務所が1975人
(同6.43人)
,平成14年末の時点で府中刑務所が約3000人(同
約6.4人)
,大阪刑務所が約2800人(同約6.5人)
,名古屋刑務
所が2181人(同約7.06人)であり,独居房については,大阪刑務所が1404房,名古屋刑務所が705房,府中刑務所が1302房であり,名古屋刑務所における被収容者数と比較した独居房の数(独居比率)は,大阪刑務所や府中刑務所と比較すると低い数値となっている。名古屋
刑務所の収容率は,平成13年末が103%,平成14年末が113%であり,府中刑務所及び大阪刑務所もそれ以上の収容率となっていた(甲A6)


平成11年通達が発出された後の平成12年から平成14年までの保護房収容件数は,府中刑務所が順に約400件,380件,350件,大阪刑務所が順に約300件,約310件,約400件,名古屋刑務所が順に157件,177件,220件である。
上記期間の革手錠施用件数は,府中刑務所がおおむね10件程度,大阪刑務所がおおむね20件から30件程度,名古屋刑務所は,順に34件,61件,160件(平成14年9月末までで158件)であり,平成13年夏ころから,名古屋刑務所における革手錠の施用件数が増加し,平成14年3月からは同件数が急増している(甲A6)

このように,上記期間において,名古屋刑務所では,府中刑務所及び大阪刑務所と比較し,保護房収容件数では下回っているものの,革手錠施用件数が極めて多く,保護房収容中の受刑者に対する革手錠施用率が高かった。


以上のような名古屋刑務所における特徴につき,過剰収容や多数の処遇困難者の存在にもその原因があることは否定できないものの,その大きな要因は名古屋刑務所の刑務官が保護房収容の要件と革手錠施用の要件の差異を明確に理解していない,ないしは同差異を意識しなかったことによるものである(甲A51・25∼27頁,甲C29・11頁,被告Y110頁)

なお,被告Y5は名古屋刑務所における革手錠の施用件数が多かったのは,同刑務所の被収容者の人員,質などを理由とするとも供述する(被告Y5_4頁)が,名古屋刑務所と府中刑務所や大阪刑務所とが上記面において大きく異なるというような事情は見当たらず,後記のとおり,少なく
とも,参加人Z1が,受刑者に苦痛を与えるために革手錠を利用していたなどの事情にかんがみれば,保護房と革手錠との併用率が高かったのは上記のとおりと認めるのが相当である。
(2)名古屋刑務所における革手錠の施用方法について
革手錠の施用の手順はおおむね前記前提事実のとおりであるが,名古屋刑務所においては,革手錠の具体的な施用方法として次のような方法が執られていた。

バンドの引き方について
(ア)まず,革手錠の施用に当たって,革手錠のバンドを刑務官二人掛かりで引っ張ることが行われていた(甲C19・19頁など)が,二人掛かりでバンドを引くことは,一人で引っ張ることに比して,革手錠を必要以上の緊度で被収容者に緊縛する危険性がある(甲E17,甲A51・45頁。ただし,必然的に強い緊度で緊縛することとなるわけではない。。

(イ)また,名古屋刑務所では,受刑者の身体に足を掛けてバンドを引っ張る方法が執られていたが,同方法によるとバンドを体重を掛けて引っ張ることとなりかねず,革手錠を必要以上の緊度で被収容者に緊縛することとなる可能性がある(甲E17,甲A51・39頁。ただし,この方法についても必然的に強く緊縛することとなるわけではない。。)


緊度について
(ア)名古屋刑務所では,革手錠の腕輪が左右になるべく動かないような状態(緊度)で革手錠を施用しているが,他の刑務所では,腕輪が多少動くような締め方でも是認されており,名古屋刑務所の革手錠の施用緊度は,他の刑務所と比較すると強めに緊縛されていた(被告Y321頁)

(イ)革手錠施用後,施用された革手錠の緊度を確認する方法については,
決められた確認方法はなく,バンドをつかんで上下にずらす方法,受刑者の腰背部とバンドとの間に指を何本か差し入れる方法などによって行われていた。

バンドの余った部分の最終処理方法
名古屋刑務所では,革手錠のバンドに尾錠の爪を入れるなどして,革手錠を固定した段階で,バンドの先端部分を装着されているバンドと受刑者の背部との間に差し込んだ後,結わえて結び目を作る方法により革手錠施用の最終処理がされていた(甲C22・36∼37頁など)


(3)参加人Z1の日記について
参加人Z1は,自ら日記を記載していたが,同日記には次のような記載がされている(甲C27,28)



職員に暴行気勢1名。しかし,革手錠なし,やっとれん

(平成11
年2月23日)



保護房けんか2名革手錠なし。こんなのはやっとれん。上願だ,告訴だと好きなことを言わせとる。独居はいったい何だ!独居は締めな,刑務所は終りや。(同月24日)

保護房1名革手錠もいったが,気違いに効き目なし。何んだか空しい。

(同年3月19日)


保護房,革手錠2名。忙しかったが,すっきりした。これが名刑や。

(同月23日)



職員に我慢というか,つらい思いをさせた。チンピラに…。パッキンかけてやるぞ。(同年9月19日)




Hとうとう俺を怒らせた。パッキンだ。(平成14年2月7日)


(4)制裁目的

名古屋刑務所においては,前記のような保護房収容と革手錠施用の併用率が高かったこと,他の刑務所と比較して施用緊度も高かったこと,参加
人Z1の前記日記の記載内容などからすれば,刑務官に反抗的な受刑者に対し革手錠を施用することにより苦痛を与えて制裁し,もってその反抗心を低下させ,刑務所全体の規律を維持しようという運用が行われていたと認められる。そして,刑務官の中には,参加人Z1など,刑務官に反抗的な受刑者を懲らしめるためにきつく施用する刑務官が少なくなかった(甲C40,45,46,甲E22,27,30)


なお,参加人Z1は,規律違反を繰り返したり刑務官に反抗的な態度を取ったりする受刑者に苦痛を与える目的で革手錠をきつく施用したことはないと供述するが,参加人Z1の前記日記の記載内容からすれば,参加人Z1は,おおむね反抗的な受刑者に苦痛を与えることによって規律を守らせるために革手錠を利用していたものと推認されるのであって,参加人Z1の供述は信用することができない。

(5)保護房収容,革手錠施用要件及び革手錠の適正緊度

革手錠施用や保護房収容については,前記のとおり監獄法や規則において一定の定めがなされており,平成11年通達においては,革手錠施用要件や保護房収容要件が具体化されるとともに,戒具の使用又は保護房収容に当たっては,事態に応じ,その目的を達成するため合理的に必要と判断される限度を超えてはならない(平成11年通達1(1))と定められている。
保護房への収容は被収容者の自由を制限し,心身への影響も大きく,また革手錠の施用は被施用者の自由を極度に制限する戒具であり,いずれについても警察比例の原則が妥当するところであって,上記通達もこれを確認したものにすぎないと考えられる。このことは,上記通達に関し,保安情報83号(甲A3)において,平成11年通達1(1)は

いわゆる警察比例の原則である。,

当該被収容者の状況を綿密に観察した上で,その使用が合理的に必要と判断される限度を超えないものであるかを吟味することが重要である。

などとされていることからもいえることである。そして,個々の場面における保護房収容及び革手錠施用の各要件を充足するか否かについては,第1次的には個別具体的な状況に応じた判断者の判断に委ねられる面があるにしても,上記のとおり,保護房収容や革手錠施用の受刑者に与える影響などにかんがみれば,それらの措置を採るに当たっては相当慎重に対応することが求められているというべきであって,判断者の裁量の余地が大きいものということは到底できない。

また,革手錠は,受刑者の身体を拘束することにより,受刑者の逃走,暴行又は自殺を抑制するためなどに施用するものであって,たとえ腕輪が左右に動くことがあっても,バンドが腰腹部から抜け落ちない程度に密着する緊度であればその機能を十分に果たすことが可能ということができる。そして,平成11年通達において,戒具は,必要以上に緊度を強くして,使用部位を傷つけ,又は著しく血液の循環を妨げる等健康を害するような方法で使用しないこと(平成11年通達1(2))などと定められているところ,受刑者に戒具を使用する目的には,受刑者の自傷行為等を防ぐなどの意味も有することからすれば,
必要な緊度を超えて革手錠を施用し,
かえって受刑者を傷つけることのないようにすることが要求されることは当然であり,上記同様警察比例の原則が妥当するというべきである。上記保安情報83号においても

バンド等を必要以上に締め付けて腹部等を圧迫することなどのないよう,確認的に規定したものである。

とされている。
以上のことなどからすれば,革手錠の緊度は,革手錠の構造上一定の幅はあるものの,基本的には,被施用者の腰腹部からバンドが抜け落ちない程度に身体に密着する緊度を基準として適正緊度か否かが判断されるべきものと解される。そして,どの程度の緊度であれば抜け落ちないかの判断は,個別具体的な状況に応じた判断者の判断に委ねられる面があるにして
も,判断者の裁量の余地が大きいものということは到底できない。ウ
なお,国会の審議の中で革手錠が施用された際,76㎝のウエストの被験者に70㎝の胴囲となる緊度で施用し,爪が尾錠から出る程度(4㎝程度狭くなる程度)を下回るようにバンドを引っ張ることには身体的危険を伴う旨刑務官の経験を有するという補助者から進言されたことから,革手錠施用実験が終了させられている(丙25)


(6)以上の(1)ないし(5)の事実関係等を踏まえて,以下において,9月事件,5月事件,X1事件の順に当裁判所の判断を示すこととする。なお,以下に認定する刑務官の行為は,
客観的に職務執行の外形を備える行為であるから,
いずれも職務を行うについて
(国家賠償法1条1項)された行為である
と認められるものである。
2
9月事件について
(1)認定事実(後掲証拠及び弁論の全趣旨による。


原告X5の体格等
原告X5は,名古屋刑務所に収容された平成14年2月21日当時,身長168㎝,体重82㎏であり,同年9月17日及び同月19日当時,体重69㎏,同月30日当時,体重66.8㎏,腹囲(腹帯上より測定)85㎝,
同年10月1日当時,
体重67.6㎏,
腹囲83㎝であり甲E3)


同年9月25日当時の原告X5の腹囲は80㎝をやや超える程度であった(原告X5は,同日当時,原告X5の胴囲は90㎝程度であったと主張するが,それを認めるに足りる的確な証拠はない。。



革手錠施用に至るまでの原告X5の名古屋刑務所での行状等
(ア)原告X5は,平成14年4月1日,刑務作業中にエアードライバーを自らの首付近に当てていたところ,
刑務官から怠業として注意を受け,
叱責の懲罰を受けた(原告X5_3頁)
。原告X5は,同懲罰に対し不
満を抱き,名古屋弁護士会現愛知県弁護士会)に人権救済を申し立て,(

名古屋弁護士会は,同申立てに対し,同会所属の弁護士による原告X5の予備調査の面接を行い,同年9月初旬ころ,本調査のための面接を同月27日に行う旨原告X5に連絡した(原告X5_3頁)

(イ)原告X5は,平成14年6月10日,他の受刑者と不正交談をしたとして,7日間の軽屏禁の懲罰を受けた(甲E37・15∼16頁)。
(ウ)原告X5は,平成14年7月30日,刑務作業中に他の受刑者(W)から便所内で顔面,頭部を殴打され,大腿部を足げりにされるなどの暴行を受けたこと(甲E13)につき,所長面接や被害申告を前提として同受刑者の氏名の教示を求め(甲C26・93頁)
,また,これを暴行
事件として立件して欲しい旨刑務官に申し出ていたが,これが受け入れられることはなかった(甲E37・24∼25頁)

(エ)原告X5は,平成14年9月6日,刑務作業への出業を拒否したことから,それが懲罰の対象とされ,昼夜間独居房で拘禁されることとなった(甲E37・26頁)


第1回から第4回までの革手錠施用について
(ア)平成14年9月12日(1回目の革手錠施用)
原告X5は,平成14年9月12日,運動終了時に舎房前で身体検査を受けた際,原告X5が指示される前に口を開け,P看守部長から注意されたことに対し,口答えをしたため,Pの指示により居房前に立っていたところ,Pから,よそ見をしていたとして注意を受けた。その直後,原告X5は,Pに詰め寄り,暴行気勢を示したとして制圧され,非常ベルにより駆けつけた刑務官らに金属手錠を後ろ手に施用された上で,午前9時16分ころ,保護房に連行され,保護房において戒具が金属手錠から革手錠に交換された(甲E37・29∼33頁)

原告X5に対する革手錠施用は同日の午後2時50分ころに解除されたが,保護房収容は解除されなかった。

(イ)平成14年9月13日(2回目,3回目の革手錠施用)

平成14年9月13日,原告X5は,前日から引き続いて保護房に収容されていたが,保護房に入室した参加人Z1に対し暴行気勢を示したとして,午前7時21分ころ,革手錠が施用された。
原告X5に対する革手錠施用は,午前11時30分ころ解除され,間もなく保護房収容も解除された。


平成14年9月13日,保護房を解除された原告X5は,医務室において診察を受けた後(診察において特に異常は報告されていな
い。,独居房に戻された。そして,入浴を終え,再度独居房に戻っ)
た後,被告Y6が,原告X5に対し,

何をにらんでいるんだ。


言ったところ,原告X5は,

にらんでいません。

と答えた。その後,原告X5は,暴行気勢を示したとして,午後零時ころ,被告Y6にうつ伏せに制圧され,参加人Z1により金属手錠を施用された。そして,駆けつけた複数の刑務官により保護房に連行され,金属手錠を外されて,革手錠が施用された(甲E37・47∼52頁)

原告X5に対する革手錠施用は,午後3時54分ころ解除され,保護房収容も午後4時14分ころ解除された。

(ウ)平成14年9月17日(4回目の革手錠施用)
平成14年9月17日,参加人Z1が,夜勤の刑務官から,昨晩原告X5が毛布を掛けて陰部を触っていたということを聞き,被告Y6と共に,原告X5の独居房に行き,原告X5に対し,

昨日の夜,何をやっていた。

と尋ねたところ,原告X5は,

眼鏡を拭いていた。

と答え
たため,参加人Z1は,検査をすると言った。その直後,原告X5は,暴行気勢を示したとして,うつ伏せに制圧され金属手錠を施用された。そして,非常ベルにより駆け付けた数名の刑務官により保護房に連行され,午前7時22分ころ,革手錠を施用された。

午前11時33分ころ,原告X5に対する革手錠施用は解除され,保護房収容も解除された。

平成14年9月18日の革手錠施用(5回目,原告X5主張の第1不法行為関係)について
(ア)平成14年9月18日の夕方ころ,原告X5は,面接室において,参加人Z1から,人権救済の申立ての件,名古屋刑務所刑務官に対する暴行気勢の事実の件,同年7月30日にW受刑者から暴行を受けて同人を訴えるとしていた件について尋ねられた。それに対し,原告X5は,人権救済は権利であるから維持すること,刑務官に対する暴行気勢は認めないこと,W受刑者に対して刑事罰としての処罰を望んでおり,被害届を受理してもらいたいことを参加人Z1に述べた(原告X5_4∼5頁)

(イ)面接後,参加人Z1と被告Y6が,原告X5を独居房に連行した際,ノ検査後に返却された原告X5の雑記用ノートが同房の扉付近に置いてあったため,同ノートをその場で読んだ。同ノートには,原告X5のエアドライバーによる作業怠慢の件,W受刑者による暴行の件,そのほかの事柄に関して刑務官を非難することなどが記載してあり,
原告X5は,
同ノートを見た参加人Z1と被告Y6により,処遇部門第4調室に連行された(甲C26・117頁,原告X5_5∼8頁)

(ウ)被告Y6は,上記調室において,原告X5に対し,

何だ,これは,うそばっかじゃないか。

と言ったところ,原告X5が,

どこがうそなんですか。

などと言い返した。被告Y6が,ノートの一部分を指で指し示しながら,

ここはうそじゃないか。

などと言ったため,原告X5は,

どこがうそなんですか。

などと言いながら,ノートをのぞき込もうとしたところ,いきなりうつ伏せに倒された。そして,原告X5は,参加人Z1により金属手錠が施用され,保護房に連行された(原
告X5_7∼8頁)

(エ)原告X5は,平成14年9月18日午後5時10分ころ,金属手錠を施用されたまま参加人Z1らにより保護房に収容された。
そして,原告X5に対して,革手錠が施用されたが,途中で刑務官が別のバンドを持ってくるように指示し,届けられた2本目のバンドが原告X5に施用されたが,この時施用された革手錠の緊度はきついものであった(甲E37・69∼71頁,丙38・34∼35頁,原告X5_10頁)

(オ)原告X5に対する上記革手錠の施用は,平成14年9月18日午後7時14分ころ解除された。
(カ)事実認定の補足説明

参加人Z1は,平成19年9月18日の午後の面接において,暴行気勢を認めるかどうか,人権救済の申立ての件,W受刑者からの暴行の件など細かいことについては言っていないと供述する(甲C26・114∼115頁)

しかし,参加人Z1は,原告X5の心情を把握するために原告X5と面接をしており,その時点では書類の決裁などを通じて人権救済の申立てやW受刑者からの暴行の件について被害届けの提出等を求めていることを知悉していたと考えられ(甲C26・82頁・86頁,93頁)
,同月19日の革手錠解除後には,人権救済の申立てなどの具
体的なやり取りがされていることなどからすれば,同月18日の面接においても同様の話がされたとするのが自然であって,前記のとおり認めるのが相当である。


参加人Z1は,原告X5を説諭するためだけに取調室に連行し,原告X5に対して,前記雑記用ノートに親族以外の名前を記載してはならないことを注意するなどしていたところ,原告X5がにらみつけ,
更に詰め寄るなどしてきたため,参加人Z1ないし被告Y6に対して暴行気勢を示したものとして,原告X5を制圧し,被告Y6に非常ベルを鳴らすよう指示したと供述する(甲C24・17∼19頁,甲C26・116頁)

しかし,参加人Z1は,上記原告X5に対して注意をしていた際,原告X5が親族以外の名前を記載することにつき工場主任の許可を得ていると言っていたことから,保護房収容後に工場主任に許可していないことを確認したとも供述しているのであるが(甲C24・17頁)
,工場主任の許可が得られているのであれば,そもそも注意する
必要はないのであって,通常は注意する前に工場主任に確認すべきものである。そして,工場主任の許可印がないことから許可していないと判断されるとしても(甲C24・17頁)
,原告X5が弁解してい
る以上,説諭の前提として事前に工場主任に確認すべきことに変わりはないはずであるところ,参加人Z1が,そのような確認をしていないことからすれば,
専ら注意を目的としていたとするには疑問が残る。
また,原告X5は,それまでにも何度も保護房収容及び革手錠施用を経験していたのであるから,刑務官に暴行気勢を示せば再び革手錠を施用されることは容易に想定できたのであり,工場主任の許可を得ていると弁解しながら,参加人Z1ないし被告Y6に突然襲いかかるというのは,あまりにも不自然な行為といわざるを得ない。
しかも,前記雑記用ノートの件について取調室へ連行するきっかけとして,参加人Z1も含む参加人らは,納得できないことは上記ノートに書いてあると原告X5が述べたことから上記ノートを検閲したと主張しているところ,参加人Z1は,原告X5に対し,それまでにも何度も上記違反を注意してきたと供述し,そうであれば,原告X5が自ら参加人Z1らから注意を受けるような行動を取るとは考えにく
く,取調べに至る経緯について主張と供述との間で整合しない部分もある。
そして,上記ノートの記載は刑務官を非難する内容が含まれるなど参加人Z1や被告Y6にとって不愉快なものであり,後記のとおり,参加人Z1は,原告X5の暴行気勢を作出していることなども併せかんがみれば,原告X5の供述は信用でき,原告X5が制圧されるに至った経緯については前記(ウ)のとおり認めるのが相当である。

原告X5は,保護房に連行される途中で刑務官に襟首の後ろを持たれて連行されたため,首が絞まり,気を失ったと供述する(原告X5_9頁)が,気を失っているにもかかわらず,刑務官がこれを気にも留めず無視してそのまま原告X5を連行したとするのは,やや違和感があり,他にそれを認めるに足りる証拠もないことから,上記原告X5の供述を直ちに採用することはできない。


参加人らは,5回目の革手錠施用の際,革手錠を交換したことを否定し,適正な緊度で革手錠を施用したと主張する。
しかし,後記のとおり,7回目の革手錠施用の際には原告X5に施用する革手錠を交換していること,参加人Z1は,制裁目的で革手錠を施用する傾向にあるところ,原告X5につき処遇困難で迷惑な受刑者であると考えており,原告X5に対する5回目の革手錠施用に参加人Z1も加わっていること,後記オのとおり,翌日には自ら革手錠施用のきっかけを作出するなどの行為に及んでいること,ビデオ録画されている原告X5に対する革手錠の施用態様,すなわち刑務官らは原告X5の左腰部に足を掛けるなどしてバンドを強く引っ張っていることなどにかんがみれば,革手錠を交換され,きつく革手錠が施用されたとする原告X5の供述は十分に信用できるというべきである。
したがって,参加人らの上記主張は採用することができない。


平成14年9月19日の革手錠施用(6回目,原告X5主張の第2不法行為関係)について
(ア)参加人Z1は,平成14年9月19日の朝,Gと共に,前日から原告X5が収容されている保護房に入房し,原告X5に対し,給水用のポットのお茶をコップ(ポットの上蓋)に入れて差し出し,お茶を飲むように勧めた。
原告X5は,参加人Z1らが勧めるお茶を数杯飲んだ後,更に飲むように勧められたお茶をもう飲めないとして断った。しかし,参加人Z1が,原告X5に対し,

いつまでコップを持たせるつもりだ。

などと言ったため,原告X5は,参加人Z1の持っているコップを受け取ろうとしたところ,参加人Z1は,原告X5が暴行気勢を示したとして,同人をうつ伏せに制圧した。
その後,同日午前7時32分ころ,原告X5に,革手錠が施用されたが,途中で刑務官が

これじゃない違うやつを持ってこい。

などと言って,革手錠が交換され,交換された後のバンドを用いて原告X5に革手錠が施用されたが,この時もきつい緊度で施用された(甲E37・77∼79頁,原告X5_12∼14頁)

(イ)平成14年9月19日午前10時4分ころ,原告X5の革手錠施用が解除され,同22分,原告X5に対する保護房収容も解除された。そして,参加人Z1は,原告X5に対し,

いつまでこんなことを続けるんだ。

などと言い,同人は,

いろいろやったり言ったりしてきましたが,まじめにやっていきます。

と答えた。これを聞いた参加人Z1は,原告X5に対し,

弁護士との面会をどうするのか。,

ノートはどうするのか。

などと尋ねたところ,同人は,

今までやってきたことはやめます。,

ノートについても廃棄します。

と言った。これを受けた参加人Z1は,
原告X5に対し,
担当の被告Y6に願せんノ


ートの廃棄は廃棄願せん,人権救済の申立ての取下げは特別発信の願せん)を提出するようにと伝えた。なお,人権救済の申立てについては,原告X5が特別発信を記載したが,参加人Z1は,原告X5に対し,同月27日に弁護士が面会に来ることから,同日に口頭で取り下げるように言った(甲C24・28∼29頁,26・129∼132頁,甲E37・82∼85頁,原告X5_16∼19頁)

(ウ)事実認定の補足説明

参加人らは,原告X5を制圧した経緯につき,原告X5にお茶をコップに入れて差し出したところ,原告X5が,

こんなもん飲めるかぁー。

などと怒鳴りながら,その手を振り払い,お茶がGに降りかかったためであると主張し,参加人Z1もそれに沿う供述をする(甲C24・21∼26頁)

しかし,上記主張等を裏付けるものとされる写真撮影報告書(丙21)におけるポットが投げつけられたとして記録され,
服が濡れた状況として撮影された写真では,少なくとも刑務官の首もとから腰の下まで広範囲にわたって服が濡れており,コップを手で振り払ってお茶がかかった状態としては相当不自然であって,同報告書は,参加人Z1らが革手錠施用を正当化するために作出した虚偽の内容の報告書であると判断するのが相当である。
したがって,参加人らの上記主張等は採用することができない。


参加人らは,6回目の革手錠施用に際して,原告X5に対して施用された革手錠が交換されたことを否定し,革手錠の緊度は適切であったと主張する。
しかし,前記エ(カ)dの事情に加え,6回目の革手錠施用後には,原告X5が各種の申立てを取り下げると述べるに至っており,革手錠施用によって相当程度の苦痛が与えられたことは想像に難くないこと
からすれば,革手錠を交換され,きつく革手錠を施用されたとする原告X5の供述は十分に信用することができる。
したがって,参加人らの上記主張は信用することができない。

平成14年9月25日の革手錠施用(7回目,原告X5主張の第3不法行為関係)について
(ア)平成14年9月24日の面接
原告X5は,平成14年9月24日,5舎1階の面接室において,参加人Z1の面接を受けたが,同面接において,前記同月19日に述べたことを変え,参加人Z1に対し,

納得できないものは,納得できません。自分の好きなようにやらせてもらいます。

と述べ,刑務官に対する暴行気勢を否認すること,名古屋弁護士会への人権救済の申立てを維持すること,他の受刑者からの暴行について被害届の用紙をもらいたいことなどを伝えた。同面接は,夕食の時間になったため,いったん打ち切られた(甲C24・30∼32頁,甲E37・89∼90頁,原告X5_19頁)

(イ)平成14年9月25日の面接等
参加人Z1は,平成14年9月25日午前8時ころから,前日に引き続き,原告X5の面接を行ったが,原告X5が前日の前記態度を維持したため,参加人Z1は,原告X5に対し,

ころころころころと言うことを変えやがって,どういうつもりなんだ。

などと大声で言い,同人が座っていたいすをけった。被告Y6は,参加人Z1が大声を出していたことから,原告X5が怒鳴っていると思い,面接室に駆けつけ,参加人Z1の左隣の辺りに立った。なお,被告Y6が面接室に入室してからも,原告X5が大声を出したというようなことはなかった(甲E6,24,37・93∼94頁,原告X5_20∼21頁)

原告X5は,参加人Z1から何度も座っていたいすをけり付けられた
ため,座り直そうとしていすから腰を中腰程度まで浮かせたところ,被告Y6が原告X5を引き倒した。参加人Z1は,被告Y6の制圧行為が性急にすぎると思ったが,
そのまま原告X5の制圧に加わった。
そして,
被告Y6が,いったん廊下に出て非常ベルを鳴らして,面接室に戻った後,参加人Z1は,原告X5に対し後ろ手に金属手錠を施用した(甲E6,24,37・93∼94頁,原告X5_21頁)

(ウ)保護房連行
非常ベルにより参加人Z5らが駆け付け,すでに腕絡み(手を受刑者の脇から差し込んで背中に回して差し込んだ側の肩に置き,他方の手で差し込んだ手の手首付近を掴む体勢)をして原告X5を制圧していた参加人Z1及び被告Y6に代わり,参加人Z5が原告X5の左腕,Jが同右腕を担当する形でそれぞれ腕絡みをし,更に参加人Z2が原告X5のズボンをつかむなどして,
同刑務官らは,
原告X5を保護房に連行した。
原告X5は,保護房へ連行される途中,言葉は発していなかったが,上体を左右に揺さぶったり,刑務官にぶら下がるように両ひざを曲げて腰を落としたりして,連行されるのを嫌がっていた(甲E21,24,31,32など)

原告X5が連行されてきた保護房第2室のある建物には,すでに申が到着していた。原告X5は,同建物の出入口の前においても,両ひざを曲げたり,腕絡みをしている刑務官にぶら下がるように体重を掛けてたりして,同建物に入れられるのに対し抵抗していたが,α看守(以下αという。
)が,原告X5の両脚を抱えるなどして,原告X5を保
護房第2室に入れた。
(甲E21,24,31,32,37・94頁な
ど)

このころ,申は,Dに,

革手錠まだだよね。

と話掛けたところ,Dは,
まだです。」などと答え,申は,他の刑務官に革手錠を持って
くるように言った(甲E21,28,32,36・46頁)

(エ)革手錠施用等

保護房内の制圧状況等
原告X5は,連行された保護房第2室において,両腕を参加人Z5及びJに腕絡みの状態で抱えられ立たされていたが,参加人Z1は,原告X5に座るように指示し,Jや参加人Z5も同様に指示した。しかし,原告X5が座らないため,参加人Z1らは,原告X5の両肩付近をつかんで,原告X5を押さえつけるなどして,原告X5を,その場でうつ伏せに引き倒し,参加人Z5が原告X5の左肩,Jが右肩を押さえつけていたほか,足で原告X5の足を動かないように制圧する刑務官もいた。なお,原告X5は,無言のまま,体を揺り動かし,制圧から逃れようとしていた(甲E7,21,25,29,31など)。
このころ,同保護房内には,参加人Z4,参加人Z1,β主任矯正処遇官,D,参加人Z5,G,γ看守,Jら10名ほどの刑務官がいた(革手錠の施用には通常5,6名ほどの刑務官がいれば足りる。。)
なお,申及びαは,1本目の革手錠が届けられるまでに,すでに保護房第2室から退去していた甲E21,

25,
28,
29,
32など)

参加人Z4は,保護房に収容された者が原告X5であることを認識したが,参加人Z1が原告X5の処遇に苦心していたことも承知していた。
そして,
次のような原告X5に対する革手錠の施用に当たって,
参加人Z1は,原告X5が前記のとおり態度を豹変させたことに対する腹立たしい気持ちも抱いており,その気持ちも込めて,後記のように革手錠のバンドを強く引き,高緊度で締め上げたものである(甲E22,23)



1本目の革手錠施用
原告X5の制圧後まもなく,バンドに中と記載された革手錠が

届けられ,参加人Z4は,

革手錠,両手前。

などと述べて革手錠の施用を指揮し,原告X5に革手錠が施用されることとなった(甲E22など)
。なお,原告X5は,当時,刑務官らによりきつく革手錠
が絞められる可能性を考慮して厚着(シャツ,襟なしシャツ及び襟首シャツの3枚(甲E37・103頁)
)をしていた。
参加人Z1は,参加人Z4の上記指揮を受けて,原告X5に施用されている金属手錠を外し,参加人Z5,G,Jによる補助の下,中サイズの革手錠の腕輪を原告X5の手首にはめて,バンドを片方の腕輪の角鉄,原告X5の腹部と床の間,もう一方の腕輪の角鉄,原告X5の背面の尾錠にそれぞれ通して,原告X5の腹部に巻き付けるなどして,原告X5に革手錠を施用した(甲E21,22,25,28,29など)


バンドの交換
参加人Z1は,原告X5に革手錠を施用した後,自身の手の指を原告X5の体と革手錠のバンドとの間に差し入れたところ,思うほど革手錠のバンドがきつく締まらなかったため,

これじゃだめだ。もっと小さいのを持ってこい。

などとより小さいサイズの革手錠を持ってくるように言ったところ,参加人Z4も,

バンド交換。

と別の
バンドに交換するように指示した(甲E8,9,21,22,25,28,29,37・98頁,原告X5_21頁など)



2本目の革手錠施用
(a)その後,保護房に,
小と記載されたバンドが届けられ,参加
人Z1は,原告X5に巻かれていた中と記載されたバンドを外
し,届けられた小のバンドを,1本目と同様の要領で原告X5
の腹部に巻き付けた。このころ,Gは携帯していた無線機が鳴り,他に勤務があることから保護房から退出した(甲E22,25,3
2,37・98頁,原告X5_21頁など)

なお,原告X5に施用された小」と記載されたバンドを用いて,
尾錠の留め具を同バンドの先端から4番目の穴に入れて施用した場合,革手錠内周が79.3㎝,5番目の穴では69.8㎝,最も狭い6番目の穴では60.4㎝となる(甲E14,15,36)。(b)そして,参加人Z5と参加人Z2とが,原告X5の左側から,原告X5の腹部に巻き付けられたバンドを二人掛かりで引っ張ったが,途中で参加人Z5がバンドから手を放し,参加人Z2が一人でバンドを引っ張る形となった。その後,Dと参加人Z2とが二人掛かりでバンドを引っ張ったが,参加人Z2はバンドから手を放し,D一人で更にバンドを引っ張った。Dが一人でバンドを引っ張っているころ,参加人Z2は,その右足で原告X5の腰付近を押さえつけていた(甲C20・99∼108頁,29・80∼86頁,甲E7∼9,22,23,25,28,29,46・68頁)。その後,参加人Z2は,Dと共に,原告X5の腰付近に足を掛けてバンドを引っ張った。参加人Z2らがバンドを引っ張っている間,参加人Z5は,手や足で何度も尾錠の爪を押した後,両手の親指で尾錠の爪を押して,尾錠の爪をバンドの穴に入れようとしたが,爪は穴に入らなかった。なお,このころ,Jが,原告X5の臀部に両足で立っており,原告X5は「殺せー。殺せー。と叫んでいる(甲C20・99∼108頁,29・80∼86頁,甲E7∼9,22,23,25,28,29,51の1,2など)

参加人Z1は,参加人Z2からバンドを受け取り,原告X5の左
腰付近に足を掛けて,バンドを勢いをつけて数回強く引っ張ったところ,原告X5の体が引きずられたため,Dが原告X5の身体に両足を掛け,参加人Z2が原告X5の頭部に足を置いた。なお,Jは
まもなく原告X5の臀部から下りた甲E29,

51の1,
2など)

参加人Z2は,原告X5の顔の上に右足を置いたが,Jの手によ
る合図で原告X5の顔から足を下ろし,Jが原告X5の両肩を自分の両ひざで押さえつけた(甲51の1,2など)

(c)そして,参加人Z1らは,相当高緊度となるバンドの穴に尾錠の爪を入れ,参加人Z1がJから受け取ったかぎを使い爪を尾錠に固定した。参加人Z1は,参加人Z5と共に,若干時間を要しながらも原告X5の背中においてバンドで結び目を作り,参加人Z5が結び目から出ているバンドの先を強く引っ張って同結び目を小さくした(甲C24・67頁,27・59頁,甲E51の1,2など)

(d)参加人Z4は,原告X5に革手錠を施用し終えた後,
撤収。
と指揮し,刑務官らは,原告X5を残して,保護房から退出した甲(
E8,29,51の1,2)

(e)なお,以上のような革手錠施用行為のうち,二人掛かりでバンドを引っ張ったり,足を掛けてバンドを引っ張っていた行為は,バンドをより強く締めるために行っていたものである。
(オ)保護房退出後の原告X5の状態

参加人Z4らが保護房から退出してから午前8時46分ころまで,原告X5は,仰向けとなったり,うつ伏せとなったりして,もがくように体を動かしていた。また,原告X5の息づかいは,徐々に荒いものとなったが,大声を上げるというようなことはなかった(甲E51の1,2)



原告X5は,午前9時28分ころから同38分ころまでの間,もがくように体を動かしていた。また,原告X5は,呼吸が苦しく,意識がもうろうとし,足がしびれて動かない状態にあったため,助けを求めようとしてうめくような声を上げていた(甲E51の1,2,原告
X5_51頁)

(カ)革手錠の解除

参加人Z1は,処遇部門事務室において事務処理を行っていたが,警備システムのスピーカーから原告X5のウォーという声が聞こ
えてきたため,警備システムのモニターで原告X5の状況を確認したところ,原告X5が足を便器に入れている状態にあり,同人の両足の甲の部分が赤くなっているように見えたため,K及びLと共に,原告X5を収容している保護房第2室に赴いた(甲E26)



参加人Z1は,保護房内に入り,原告X5に対し,

何やっとるんだこら。

などと声をかけたところ,原告X5は,

下半身がしびれて動かないんです。

と答えた(甲E51の1,2)。
参加人Z1は,原告X5の体を保護房の中央付近に動かし,うつ伏せにし,施用されている革手錠の結び目をほどき,

また暴れるか。


などと尋ねたところ,原告X5は,

暴れません。

と答えた。
参加人Z1らは,革手錠の尾錠の爪を外すために,KとLが原告X5を押さえ,参加人Z1が,原告X5の左腰付近に右足をかけて,後ろに体重を掛けながら,約10秒という不必要に長い時間にわたって数回,勢いをつけてバンドを引っ張り,その間,原告X5は,叫び声を上げていた。その後,バンドはいったん緩められたが,参加人Z1において

お前気違いか。

と言い,Kにおいて,

しゃべらんなこいつ。もう一回…やったらにゃあかんな。などと言った。このころ,

原告X5においてはおう吐していた(甲E51の1,2)

その後,参加人Z1は,

頑張れよ。いくぞ。

などと原告X5に言いながら,バンドを再度引っ張ったところ,原告X5は,叫び声を上げ,再びおう吐した。参加人Z1は,

もっと緊縛するか。…2か月も繰り返すか。

などと言いながら,原告X5に巻かれているバン
ドや腕輪を外した(甲51の1,2)

参加人Z1は,原告X5に座るように指示したが,原告X5は下半身が動かないと答えるなどした。そして,原告X5が,

しゃべれないんです。と言ったところ,参加人Z1は,しゃべりたくない。,


しゃべりたくないっていうことは,お前,まだまだ繰り返すということか。,

お前のような者はもう信用せえへん。お前になんかもう助言もせんから,お前の好きなようにやれ。

などと言って,他の刑務官と共に保護房を退出した甲E10,11,26,51の1,2)(

(キ)保護房退出後の原告X5の状況
参加人Z1らが,保護房を退出してから,原告X5は,保護房内でうつ伏せや仰向けの状態などで横たわっていたが,その後,保護房内でU医師による診察等を受けるまでの間に2度おう吐している。
(ク)事実認定の補足説明

参加人Z1は,平成14年9月25日,面接室において原告X5を制圧したが,原告X5が,にらみつけるような態度で,突然勢いよく立ち上がって怒鳴りながら参加人Z1の方に詰め寄ってきたため,被告Y6が制圧したものであると供述する(甲C24・35∼36頁)。
しかし,参加人Z1は,原告X5を制圧するまでの経過につき,原告X5が参加人Z1をにらみつけるような不穏な態度をとるなど,原告X5の様子が急変し,殴りかかられるなどされたら困ると思うとともに前に出て同人の気を静めたいと思ったため,いすから立ち上がって,原告X5に近づいたと供述する(甲C27・9∼10頁)が,そのような不穏な態度をとっている原告X5にあえて近づくことは原告X5を刺激する可能性も高く,近づくことによって暴行を受ける危険性も高まることからすれば,原告X5が不穏な態度を取ったことも含めて,参加人Z1が上記行動に出たという供述には疑問を抱かざるを
得ない。また,面接室の制圧状況などについて事後に提出した報告書には,参加人Z1が制圧したなどと事実と異なる内容の記載したことについても説明が十分にされているとはいい難い甲C27・24頁)(
ことなどからすれば,参加人Z1の上記供述を直ちに信用することはできない。

参加人Z4や参加人Z1は,参加人Z5が,尾錠の爪をバンドの穴に押し込もうとしたように見える行為は,すでに爪がバンドの穴にはまった後の行為であり,尾錠にらせん錠がはまったままであることに気付かず,爪を尾錠に入れようとしていたものであると供述し(甲C24・58∼59頁,甲E50・92頁)
,参加人Z5も,足を使用
した時点では,すでに爪がバンドの穴に入っていたと供述する(甲E46・47頁)
。また,参加人Z1は,2本目のバンドを参加人Z2
から受け取った後に2,3度バンドを引っ張っているが,これはバンドの穴の上からの圧力を利用して尾錠に爪を押し込もうとしたためにすぎないと供述する(甲C27・61頁)

しかし,参加人Z5が上記各行為に及んでいたのは,参加人Z2とDとがバンドを引っ張っている時のことであるし,参加人Z1は勢いよく連続的にバンドを引っ張っており,その態様などからすれば上記目的のためにバンドを強く引っ張っていたというのは不自然にすぎる。
したがって,参加人Z5や参加人Z1の行為に関する上記各供述は信用することができない。


参加人Z1は,腹立たしい気持ちで革手錠を強く引っ張ったということはないと供述する(甲C27・32頁)

しかし,前記1(4)のとおり,参加人Z1は,受刑者に苦痛を与える目的で革手錠をきつく締め付ける行動に及ぶ傾向があるところ,前
記エ(カ)aのとおり,参加人Z1は,原告X5が,名古屋刑務所に入所してから,人権救済の申立て等を行っていることなどを知悉しており,参加人Z1の日記に記載があるように,原告X5につき情願などを行う迷惑な受刑者であると考えていたといえる。そうすると,参加人Z1は,原告X5に対して革手錠を施用するに際しても,原告X5に対する腹立たしいという感情も混入させ,懲らしめる目的も有していたと認めるのが素直であって,参加人Z1の上記供述は信用することができない。

また,参加人Z4や参加人Z1は,2人でバンドを引っ張るときには,1人が介添えやサポートという形で入るのであり,1人の力では限界のところで2人が一気に引っ張るのではなく,2人がゆっくり引いて急激に過度な力が加わらないようにしているにすぎないなどと供述し(甲C22・14頁,甲E50・21頁など)
,きつく締めるた
めではないなどというようである。
しかし,前記認定事実のとおり,参加人Z1はバンドをゆっくり引っ張るというようなことはしておらず,急激に過度な力を加えることを躊躇なく行っていることからすれば,2人でバンドを引っ張ることもより強い緊度でバンドを締めるための一態様であるというのが相当であって,参加人Z4や参加人Z1の上記供述は信用することができない。
また,同様に,受刑者の腰部等に足を掛けてバンドを引っ張る行為も強い緊度でバンドを締めるための一態様というべきである。


参加人らは,原告X5に対し,胴囲70㎝となるような程度の緊度で施用しており,同緊度は適正な緊度であると主張する。
しかし,参加人らやその他の刑務官が,原告X5の左腰部に足を掛けて,2人掛かりでバンドを引っ張ったり,何度も強く引っ張ったり
し,バンドの穴に爪を入れるのに苦心しているような前記施用状況にかんがみれば,仮に革手錠の内周が70㎝となる穴に爪を入れたとしても,およそ適正な緊度で施用されているということができないのは明らかである。
したがって,参加人らの上記主張は採用することができない。

参加人らは,革手錠を解除する際,不必要に長時間バンドを引っ張ったことを否定するが,参加人Z1は,革手錠を外すコツを知悉し,これを外そうと思えば短時間で外すことができることがうかがわれ(甲C23・105∼108頁参照)
,いったんバンドを緩くした後
においてもバンドを引っ張っていること,参加人Z1やその他の刑務官の原告X5に対する発言等にかんがみれば,制裁目的で長い時間引っ張ったものと認めるのが相当である。


参加人Z1は,いったん革手錠の爪を外した後,再度バンドを引っ張ったように見えるが,原告X5の動静を探る(暴れないか反応を見る。
)ために引く真似をしたのであり,単にバンドを握って胴囲と同
じ程度まで引っ張ったにすぎないと供述する(甲C24・88頁)。
しかし,
原告X5は,
いったん革手錠を緩めた後におう吐するなど,
暴れることができるような状態でないことは明白であって,しかも,バンドを引かれた際,原告X5は悲鳴を上げ,その後まもなく再度おう吐していることなどに照らせば,参加人Z1の上記供述は信用することができない。


参加人らは,原告X5が,革手錠施用後にうめいていたのは,痛みのためであると主張する。
しかし,痛みのためというのであれば革手錠の施用解除後においても同様にうめくのが自然であるが,大声でうめいているのは革手錠施用の解除前にすぎないことからすれば,痛みによって大声を出してい
たわけではなく,足の感覚がまひするなど苦しかったため,助けを呼ぶために叫んでいたとの原告X5の供述(原告X5_23頁・49頁・51頁)は,十分に信用することができるというべきである。
したがって,参加人らの上記主張は採用することができない。

腸間膜損傷の発覚
(ア)原告X5は,平成14年9月25日午前10時32分ころ,保護房第2室の外から同人に呼び掛けた者に対し,腸の痛みを訴えたため,保護房内において,刑務官から連絡を受けたM医師による診察を受けた。同40分ころ,原告X5は,保護房収容を解除されて名古屋刑務所医務部診察室に搬送され,
U医師による診察を受けたところ,
原告X5には,
右下腹部に皮下出血を伴う横に広い擦過傷,わずかな筋性防御(腹膜に炎症がある場合に腹部の触診時に腹筋の緊張が見られる現象)及び胃部の圧痛が認められるとともに,エコー検査の結果,右横隔膜下,脾臓周囲,モリソン窩及びダグラス窩に液体貯留が認められ,腹腔内出血の疑いがあるとされた(甲E3,4)

U医師は,CT検査を実施して,原告X5の腹腔内出血の出血部位を明らかにするため,原告X5をδ病院に搬送することとし,搬送された同病院においてε医師によりCT検査が実施された結果,原告X5の症状につき腸間膜及び腸管の損傷が疑われた。U医師は,腸間膜損傷の緊急手術を行う必要があると判断して,原告X5を重傷患者に指定し,ε医師により,午後2時22分ころ,同病院において原告X5の緊急の開腹手術が行われた結果,原告X5は腸間膜損傷の傷害を負っていることが判明し,ε医師は,原告X5の腸間膜の裂孔部分及び回腸末端部から約40㎝の位置する部分から約40㎝にわたる回腸の腸管を切除し,切除部分を吻合した(甲E3∼5)

(イ)原告X5の術後の経過が良好であったため,平成14年9月27日,
原告X5に対する重傷患者の指定が解除され,
同月30日,
原告X5は,
δ病院を退院し,名古屋刑務所内で引き続き治療を受けた(甲E4)。
原告X5は,現在においても,癒着性腸閉塞の合併症により治療を受けており,食後や運動後に腹痛が起き,調整剤や軟便剤を服用している(甲E37・3頁)


報告書等の作成
参加人Z4,参加人Z1,参加人Z2,参加人Z5らは,平成14年9月25日の原告X5に対する制圧から保護房解除に至るまでの状況につき報告書を作成した(甲C18・26頁,甲E50・127頁など)。
(ア)上記報告書では,原告X5を制圧した際の状況について,被告Y6が状況を十分に把握しないまま性急に原告X5を制圧したことを記録に残さないために,被告Y6が面接室に入った時には,すでに参加人Z1が原告X5を壁に押さえつけて制圧していたとの虚偽の記載がされていた(甲E6)

(イ)また,革手錠施用場面でも,革手錠の施用に当たってバンドを交換したこと,Jが原告X5の臀部に両足で乗っていたことなどの事実が記載されていないほか,参加人Z1だけがバンドを引っ張ったこととされていること,参加人Z5が足を使用してバックル付近を押すのを参加人Z4が制止したことなどの事実と異なる記載もされている。

(2)第1不法行為の違法性
前記認定事実によれば,原告X5は,特段暴行気勢等を示したということもないにもかかわらず,いきなりうつ伏せに倒され,一方的に金属手錠を施用された上,保護房に収容され,更には戒具が金属手錠から革手錠に変更され,革手錠の交換も経てきつく革手錠が施用されたのであり,参加人Z1や被告Y6の上記行為は,保護房収容要件及び革手錠施用要件を満たすことなく,原告X5を保護房に収容し,また必要な限度を超えて革手錠を施用した
ものということができ,国家賠償法上違法である。
(3)第2不法行為の違法性
前記認定事実によれば,原告X5は,参加人Z1から勧められたお茶を受け取ろうとしたことを暴行気勢と捉えられて,
突如うつ伏せに制圧された上,
革手錠を施用され,その緊度も革手錠の交換を経てきつく革手錠が施用されたのであり,原告X5が暴行気勢等を示したということはなく,革手錠施用要件が満たされていないにもかかわらず,一方的に暴行気勢を作出され,必要な緊度を超えて革手錠をきつく施用されたものということができ,かかる参加人Z1の行為は,国家賠償法上違法である。
(4)第3不法行為の違法性

前記認定事実によれば,原告X5は,いすに座り直すため腰をいすから浮かせたにすぎないにもかかわらず,突然被告Y6や参加人Z1に制圧された上,保護房に収容され,革手錠を施用されるに至っており,施用された革手錠もその交換を経たきつい緊度によるものであったのであり,原告X5が暴行気勢等を示したことはなく,保護房収容及び革手錠施用要件がいずれも満たされていないにもかかわらず,一方的に保護房に収容された上,必要な緊度を超えて革手錠を施用されたということができ,かかる刑務官らの行為は,国家賠償法上違法である。


また,前記認定事実のとおり,参加人Z1は,革手錠の解除に際して,不必要に長い時間にわたり,数回強くバンドを引っ張ったほか,原告X5に施用されていた革手錠を緩めた後も,

頑張れよ。いくぞ。

などと原
告X5に言いながら,もはや革手錠のバンドを引っ張る必要など全くないにもかかわらず,バンドを再度引っ張っており,参加人Z1の上記行為は国家賠償法上明らかに違法というほかない。

(5)被告Y1らの不作為
原告らは,被告Y1,被告Y2及び被告Y3が,刑務官らに適切な指導監
督を行わなかったなどの不作為により,刑務官らの原告X5に対する革手錠施用による違法行為を漫然と放置した旨主張するところ,本件においては,前記のとおり,不作為よりも態様の悪質な参加人Z1らの作為による違法行為が認められる以上,当該作為を阻止しなかった被告Y1らの不作為の違法性について判断するまでもなく,被告国の国家賠償責任(違法性の程度を含む。
)は優に肯定することができる。
(6)証拠隠ぺい工作による違法行為
原告らは,
被告Y1及び被告Y3が,
9月事件に関係した刑務官らに対し,
革手錠のバンドを引いていたのは参加人Z1だけであったとか,サイズの小さい革手錠への交換はしていないなどと虚偽の説明をするように指示し,そのため事件に関係した刑務官らは検察官に対しその旨虚偽の説明をしたのであり,真相究明を困難にした上記被告Y1及び被告Y3の行為は違法な行為であると主張する。
しかし,被告Y1及び被告Y3が上記指示をした事実を認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告らの主張は採用することができない。
3
5月事件について
(1)認定事実

Aの名古屋刑務所への収容等
Aは,平成14年4月17日,静岡地方裁判所浜松支部において,器物損壊及び傷害の各罪により懲役1年に処せられ(同年5月2日確定),同
年5月14日,浜松拘置支所から静岡刑務所に移送され,同刑務所における分類審査を経た後,同月27日午前9時40分ころ,名古屋刑務所に移送された。なお,Aは,以前服役した際,横浜刑務所へ移送されるまでの間に収容されていた静岡刑務所において大声を出すなどして保護房に収容された経験もあったが,同月14日以降の静岡刑務所収容中は特に問題を
起こすことはなかった。

Aの体格
Aは,浜松拘置支所に収容されていた際,食事を取るのを拒否していた(14食不食)が,静岡刑務所においては,通常のとおり,食事を取っおり(甲C4,10)
,5月事件当時,Aの身長は約158㎝,体重約65
㎏であり(甲C3)
,胴囲は80㎝を超えていた(なお,Aの胴囲につい
ては,同人が小太りの体型であり,その身長及び体重と原告X5の前記身長,体重及びその当時の前記胴囲などとを比較すれば,80㎝を超えていたことは優に推認されるということができる。。



保護房収容から革手錠施用,Aの死亡に至る経緯
(ア)保護房収容に至る経緯

名古屋刑務所に移送されたAに対し,ζ看守部長及びη看守が,名古屋刑務所内の新入調室において,Aの身体検査を始め,ηがAに全裸になるように命じたところ,Aはこれに従い全裸となった。
ηが,Aに対し,その口の中を確認するため,口を開けるように指示したところ,Aが

開けとるじゃないか。などと言った。その後,

Aが暴行気勢を示したとして,ηはAの右腕をつかんで背中にねじり上げた上で,Aの身体をロッカーに押しつけて制圧し,ζが非常ベルを押して,ηと共にAを制圧した(甲C34,35)



非常ベルにより数名の刑務官が駆けつけ,η及びζは,Aを駆けつけた刑務官らに引き渡し,その刑務官らはAを廊下へ連れ出し,両手を後ろにして金属手錠を施用した。


そして,被告Y5がAを保護房に収容するよう指揮し(被告Y5_41頁)
,JがAの右側,Qが同左側を担当し,それぞれ腕絡みの状
態でAの連行を開始した。Aは,連行される途中,腕に力を入れ肩を震わせるなどしていたが,JやQに対し,体当たりや足げりをしたと
いうようなことはなかった(甲C39,丙22・14∼15頁・17頁)

参加人Z1は,処遇管理棟1階の新入調室に向かう通路の途中で,上半身裸で両腕を刑務官に制圧されながら連行されてくるAを認めたが,Aの背後には新入調室があることから,同人が名古屋刑務所に移送されてきて,身体検査の最中に刑務官に対し暴行気勢を示すなどしたものと思い,とんでもない新入りが来たと感じた。そして,参加人Z1は,新入者について舎房主任である参加人Z1の扱う身柄で,自身が保護房に収容し,革手錠を施用することになるなどと思い,連行されるAと共に保護房に向かった(甲C39)

(イ)保護房内での制圧状況
参加人Z1,被告Y5,Q,Jらは,Aを連行して保護房第3室に入ったが,その際,Aは,保護房に入れられないように足を踏ん張ったりするなどの特段の抵抗を示したりすることはなかった(丙22・18頁・20頁)

Aを保護房に入れた後,参加人Z1がAと正対し,
座れ。」と同人
に指示したが,同人は同指示に従わず,Jも

座らんかい。

などと指示したが,なおもAは指示に従うことはなかった。そのため,参加人Z1がAの両肩に両手を置き,下方に押さえ付けるように力を入れ,JやQの補助の下,Aをうつ伏せに制圧した(甲C40,丙22・20∼22頁)

(ウ)革手錠の施用

被告Y5は,Aを保護房内において制圧した後,Aに対して革手錠を両手前で施用するよう刑務官らに指示した(甲C40,被告Y5_16頁)



参加人Z1は,J,QらがAを制圧する下で,Aに施用されている
金属手錠を外した。そして,Aは上半身裸の状態であったため,同人に対し,官製の上着を着せて革手錠の腕輪を両腕にはめ,他の刑務官の補助の下,バンドを腕輪の角鉄,Aの腹の下,尾錠に通すなどして,Aの腹部に巻き付けた。なお,この時,施用されたバンドは,極小」と記載されたバンドであり,尾錠の爪をバンドの先端から4番目の穴に入れて施用した場合の革手錠の内周は77.4㎝,5番目の穴での内周は70.2㎝,最も狭い6番目の穴での内周は59.8㎝であった(甲C40,甲E14,15)。c参加人Z1は,反抗的な態度を取った新入者に反抗すれば痛い目に遭うことを体で分からせてやり,2度と刑務官に反抗することのないようにしようと考え,Aの左腰付近に立ち,バンドを強引に相当強く引っ張るなどして,胴囲より狭い相当高緊度となるバンドの穴に爪を入れた(甲C40,47)。そして,参加人Z1は,余ったベルトの先端をAの体と同人に巻き付けられているバンドとの間に通して輪を作り,その輪にバンドを通して結び目を作って,革手錠の施用を終え,他の刑務官らと共に保護房第3室から退室した(甲C40,47)。dなお,上記革手錠施用後において,Sがモニター画面で監視している範囲では,Aは,足をばたつかせるような動作をしていたが,保護房の壁や扉を足でけっていたということはなく,転がって壁に当たるということはあったが,体を強くぶつけたということはなかったし,立ち上がったりしたということもなかった(甲C33・39∼40頁)。(エ)革手錠の締め直し等a保護房に向かうまでの経緯参加人Z1は,Aに革手錠を施用してしばらく経過した平成14年5月27日午前11時40分ころ,同人の様子を見に行くこととし,同人が十分に反省しているようであれば,革手錠を解除し,そうでなければ更に強く締め上げようと思っていた(甲C42)。参加人Z1は,Aの様子を見に行くに当たって,Fに電話をかけ,「革手錠を見に行くので,付き合ってもらえませんか。などと言って同行することを求め,さらに参加人Z2に対し,

ちょっと時間いいですか。

などと言って同行を求め,参加人Z5や参加人Z3に対しても参加人Z1らが声を掛けるなどして,
参加人Z1,
参加人Z2,
参加人Z5,参加人Z3及びFの5名でAが収容されている保護房第3室に向かった(甲C42,45,46,48)

保護房第3室に向かう途中,参加人Z1が

誰か保護房のかぎを借りてきてくれますか。

などと言ったため,参加人Z3がこれに応じ4舎1階の担当で保護房の巡回視察担当でもあるRのもとへ保護房第3室のかぎを借りに行き,Fは参加人Z3が若い刑務官であるためRが保護房のかぎを貸してくれないかもしれないと思い,参加人Z3の後ろについて4舎1階に向かった(甲C42,45,46,48)。

保護房への再入室及び革手錠の締め直し
(a)参加人Z1,参加人Z2及び参加人Z5が,保護房第3室の前に到着し,参加人Z1が視察孔からAの様子を見たところ,Aは,ほぼうつ伏せの状態で,
暴れているような様子ではなかった。
その後,
参加人Z1は,Rから保護房第3室のかぎを借りて来た参加人Z3から保護房第3室のかぎを受け取ってそのかぎを開け,
参加人Z1,
参加人Z2,参加人Z5及び参加人Z3が,保護房第3室に入室した。なお,Fは,参加人Z1らが保護房第3室に入室した後に同室の前に到着したが,同室には入ることなく,入口に立って同室内を見ており,Fが見た時は,すでに参加人Z1がAに対してバンドを
締め付けていた状態であった(甲C42,45,46,48)

参加人Z1らが,平成14年5月27日午前11時45分ころ,
保護房第3室内に入ると,Aはうつ伏せの状態で,
くそー。」な
どと言いながら,肩を揺するようにしていたが,激しく暴れるような状態ではなかった(甲C46,49)

(b)参加人Z1は,Aの動静を見て,Aが反省しているとは思えなかったため,新人であるAに対して暴れればつらい目に遭うことことを早く体で分からせてやろうという気持ちなどから,Aに対し施用されていた革手錠をきつく締め直そうと考えた(甲C42)

そして,参加人Z1は,参加人Z5がAの左肩,参加人Z3が同
右肩,参加人Z2が同足を押さえつけている状況で,いったん革手錠の爪をバンドの穴から外し,Aの左側からバンドを両手で持ち,腰を落として後ろに体重を掛けて引っ張った(甲C42,45,46,48,49)

参加人Z1は,自らバンドを引っ張った後,参加人Z2にバンド
を引くように指示し,参加人Z2が,参加人Z1からバンドを受け取り,Aの左側から,腰を落として後ろに体重を掛けバンドを引っ張った。その時,参加人Z1は,Aの右側に移動し,両ひざでAの右腰付近を押さえつけていた甲C42,

45,
46,
48,
49)

さらに,参加人Z1は,Aの右肩を押さえていた参加人Z3に対
し,
参加人Z2と共にバンドを引くように指示した。
参加人Z3は,
その指示に従いAの左側に回り,バンドを両手で持ち,参加人Z2と共に二人掛かりでバンドを強く引っ張った。バンドを強く引っ張られたAは,
うー。」などという声にならないうめき声をあげていた(甲C42,45,46,48,49)

参加人Z1は,Aの右腰付近を押さえ込みながら,

まだまだ。もうちょい。

などと更にきつく締めるように指示して,参加人Z2及び参加人Z3にバンドを引っ張らせて,爪を胴囲より狭い相当高緊度となるバンドの穴に入れ,参加人Z2らに「よし。」などと声を掛けてバンドを引っ張るのを止めさせた(甲C42,45,46,48,49)

そして,参加人Z1は,尾錠のねじを締め,余ったバンドの先端
をバンドとAの体との間に通して輪を作り,その輪にバンドの先端を通して結び目を作って,革手錠の締め直しを終え,参加人Z1らは保護房第3室から退室した甲C42,

45,
46,
48,
49)

(オ)締め直し後の状況

参加人Z1は,Aの革手錠を締め直した後,保護房第3室のかぎを返す際,Rに対し,

締め直したからよく見ておいてください。

と声を掛けた(甲C42)



また,参加人Z1は,Aに対する締め直しの件を処遇表に記載されては困ると考え,
モニター画像にて保護房の監視をしていたSに対し,

今のは書かなくてもいいから。

などと言って,参加人Z1らが締め直しをしたことを処遇表に記載しないように指示した(甲C42,49)



なお,締め直し後のAの様子につき,Sが監視していた範囲では,保護房内で壁や扉を足げりにしたり,壁にぶつかっていたという記憶はなく,転がっていたということと大声を出していたということしか記憶がなく,立ち上がって保護房内を徘徊していたということはなかった(甲C33・56∼57頁)


(カ)Aの異変及び死亡

Rは,平成14年5月27日午後1時47分ころ,保護房巡回中にAがRの呼び掛けに反応せず,連絡を受けて駆けつけたD及びKと共
に保護房第3室内に入ったが,Aは全く身動きをせず,脈も取れない状態であった。

T医師は,平成14年5月27日午後1時55分ころ,保護房第3室に駆けつけたが,Aは全く身動きせず,T医師の呼び掛けにも全く反応しなかった。T医師は,刑務官らに対し,革手錠を外すように言い,まずDが,Aに施用されている革手錠のバンドを両手で持ち,Aの腰に足を掛け,
後ろに体重を掛け力を入れてバンドを引っ張ったが,
爪をバンドの穴から外すことができず,その後も2度ほど引っ張ったが,爪は穴から外れなかった。そのため,次にRが,両手でバンドを持ち,足をAの腰に当てて引っ張ったところ,多少手間取りながらも爪をバンドの穴から外すことができたが,Aに施用された革手錠を外すまでに約1,2分の時間を要した(甲C8,9・5∼7頁,甲C29・37頁・40∼41頁)



その後,T医師は,Aの診察を行い同人が心肺停止状態にあることを確認し,すぐに医務部外来処置室に搬送した上で,M医師らと共にAに対する救命治療を続けたが,Aは,平成15年5月27日午後8時30分ころ,外傷性ショックにより死亡した(甲C1,8,9・11頁・18頁)

なお,Aには,革手錠施用部位である腹部,背部,手首等に広範囲にわたる皮下出血が認められた(甲C2)


(キ)事実認定の補足説明

保護房連行中のAの動静
保護房連行中のAについて,Dは,刑務官を足げりにしていたという趣旨の供述をする(甲C29・19頁)が,

歩いてるときに何かやっていたような記憶が残ってます。,

連行中の両脇の職員とか,周囲にいた職員じゃなかったかと思います。(甲C29・19頁)


などとも供述し,その供述内容は必ずしも明確なものではなく,Dの上記供述を直ちに信用することはできない。

参加人Z1がAを認めた時の認識
参加人Z1は,Aを認めた際,新入検査の際に刑務官に暴行気勢を示したということは想像できなかったし,Aに対して特別な感情を抱いたことはないと供述する(甲C22・51頁)

しかし,参加人Z1は見たことのない受刑者が上半身裸で新入調室の方を背にして連行されてきたのを認めており,その受刑者は激しい抵抗をしていたというのであるから,まず,新入者が検査において,刑務官に暴行気勢を示したのではないかと思い至るのは自然というべきである。そして,参加人Z1は,将来的には自身が担当する独居房に来ると考えていたというのであり(甲C25・66頁)
,連行され
ている受刑者が何をして連行されているのか興味を抱くのが自然ということができるところ,保護房に行く間に他の刑務官に保護房に連行されている理由を聞いたというような事情も見当たらないばかりか,かたくなに保護房に連行される理由は分からなかった,受刑者に特別な感情を抱いたことはないなどと供述し続けており(甲C22・50∼51頁)こうした供述態度はかえって不自然というべきであって,,
参加人Z1の上記供述を信用することはできない。


革手錠のサイズ
参加人Z3や参加人Z2は,極小と記載されている革手錠はAに施用された革手錠とは違うと思うと供述し(甲C12・52頁,17・25頁)
,参加人Z1は,バンドが極小サイズかどうか記憶にないと
供述する(甲C23・39頁)

しかし,平成14年5月29日,参加人Z4が被告Y3からAに施用されていた革手錠を確保することを指示され,参加人Z1ないしD
に当時使用した革手錠のサイズを尋ねたところ,参加人Z1又はDから,机の下に置いてあったバンドに極小と記載された革手錠が提
出され,同革手錠をいったん保管した上で検察庁に提出したと認められ(甲E49・90∼91頁,106∼109頁)
,Aに施用されて
いた革手錠も同サイズのものと認めるのが相当である。
参加人Z3らの上記供述は,サイズが違うことについて,もっと汚れたものであったというような漠然とした根拠をもって述べられたものにすぎず,バンドの状態について注視していたというわけでもないから信用することはできない。

参加人Z1の認識
参加人Z1は,Aに反省の態度が見られなければ強く締め直して苦痛を与えて懲らしめようと考えたことはなく,食事の時間が近づいてきたため革手錠の解除を考えて保護房に再入室することとしたなどと供述する(甲C23・48∼49頁)

しかし,参加人Z1は,Aに革手錠を施用する直前に戌受刑者を保護房に収容して革手錠を施用しているのであるが(甲C22・47頁)
,戌受刑者が収容されている保護房には再入室していない。そし
て,参加人Z1は,戌受刑者についてモニターで確認して解除できないと判断したとも供述する(甲C25・103頁)が,そのように判断する前提となる戌受刑者の動静や判断過程などについて具体的かつ十分な説明がされているとはいい難く,Aと戌受刑者とで再入室に関して取扱いを区別したことについて合理的な理由を見い出すことができない。
したがって,参加人Z1の上記供述は信用することができない。


保護房に再入室した際のAの動静
参加人Z3は,Aが「外せー。」などと大声を出しており,落ち着
いた様子ではなかったなどと供述し(甲C11・50頁,12・59頁,14)
,参加人Z2は,Aが

外せ,こら。「離せ,こら。

」な
どと暴言を吐きながら,足をばたばたさせていたと供述し(甲C19・75頁)
,参加人Z1は,Aが体を揺すったり,刑務官を足でけり
つけるような動作をし,また,顔をにらみつけて罵声を浴びせるなど反抗的な態度を示したなどと供述する(甲C23・52頁)

しかし,参加人Z3は,参加人Z1が,バンドの結び目を触った際に,革手錠を解除するつもりかと思ったとも供述しており(甲C11・54頁)
,上記刑務官らの各供述のとおりのAの動静からすれば,
参加人Z3が何ら疑問を抱くことなく革手錠を解除するつもりと考えたというのは不自然である。そして,参加人Z1も視察孔からのぞいた際,暴れている様子もなく,革手錠を解除してもよいとの自身の検察官面前調書の供述内容を否定していないこと(甲C25・120頁)
,保護房第3室に再入室した参加人Z1らを監視していたSもA
が暴れたりしていたかは覚えていないなどと供述している(甲C33・44頁,49)ところ,上記各参加人の供述するAの動静(足で刑務官をけりつけるような動作をしているなど)からすれば,全く覚えていないとするのはやや不自然ということができることなどを併せかんがみれば,上記各参加人の供述を直ちに信用することはできない。f
参加人Z5の保護房再入室の有無
参加人Z5は,自身が保護房内に入ったことはなく,Fの背中ごしに保護房内をのぞいていたと供述し(甲E45・39頁)
,Fも参加
人Z5が保護房内にいた記憶はないとし(丙23・22頁など)
,参
加人Z3も参加人Z5を見ていないなどと供述する(甲C15・36頁)

しかし,Fは,参加人Z5が保護房第3室に同行したことや締め直
しが終わって保護房第3室から帰る際に参加人Z5がいたと供述していることから,少なくとも参加人Z5がどこにいたかは記憶しているはずであり,保護房内にいたかどうか記憶がないとするのは不自然である。また,参加人Z1らと共に保護房に向かった参加人Z5があえて保護房内に入らなかったことについて十分な説明がされておらず,上記参加人Z5らの各供述を直ちに信用することはできない。

締め直し
(a)締め直しの態様
参加人Z3は,保護房内は狭く,綱引きをするように力を入れて
バンドを引くことはできず,参加人Z1の手の動きに合わせてバンドをゆっくり引いたのであり,勢いを付けて引っ張ったということはないなどと供述する(甲C11・59∼67頁)

しかし,参加人Z3は,横幅約170㎝の保護房内においてAが
入口から見てやや右側の位置にてうつ伏せで制圧されている状況
で,その左側からバンドを引っ張っていたというのであり(甲C11・別紙④)
,力を入れてバンドを引っ張ることができないとはい
えない。そして,参加人Z2やFは,参加人Z1が手で引っ張り方を指示していたというようなことを全く供述しておらず,前記9月事件における刑務官らのバンドの引っ張り方からすれば,二人でバンドをゆっくり引くということを参加人Z1が想定していたとは考え難く,参加人Z3の上記供述は俄に措信し難い。
(b)締め直しの目的
参加人Z1は,新入りには暴れればつらい目に遭うことを体で分
からせてやろうなどとは思っていなかったと供述する(甲C25・127頁)が,前記参加人Z1の日記の記載内容,前記(エ)の事情などからすれば,参加人Z1の供述は信用することができない。

(c)締め直しをした時のAの動静
参加人Z2は,
Aがバンドで腹部を締め付けられ,
爪が入った際,

お前ら,こら。

などと怒鳴っていたと供述し(甲C17・26頁)
,参加人Z3も,Aが

お前ら,おれにこんなまねして,ただで済むのか。

などと暴言を大声で吐いていたと供述する(甲C11・73頁)

しかし,前記eに述べたとおり,Aの動静についての参加人Z2
及び参加人Z3の上記各供述を直ちに信用することはできない。

参加人Z1のSに対する発言の意図
参加人Z1は,Sに対し,保護房に再入室したことなどを処遇表に記載しなくてもよい旨述べたことについて,戒具の変更ではなく,刑務官がモニターを見ても何をしているか分からない可能性などがあったからであると供述する(甲C23・89頁)

しかし,処遇表には作成者が見た保護房内の客観的状況が記載されるべきものであり,戒具の変更に当たらなければ記載しなくともよいなどというものではない。そして,参加人Z1は,当初再入室の事実を上司等に報告しておらず,自身の日記にも

締め直しに行ったことを見られた。マズかった。などと記載したこともあったのであり(甲

C27・別紙④)
,これらの各事情などからすれば,締め直しが適切
な行為ではないことを自覚していたことは容易に推認されるところである。
したがって,参加人Z1の上記供述は信用することができない。


Aの搬送後ないし死亡後の対応等
(ア)参加人Z1の処遇表等の書き換えの指示

参加人Z1は,平成14年5月27日の夕方ころ,Sから提出された処遇表には記載されていなかった次の事実などが記載された処遇表
の用紙をSに手渡し,

S君,悪いが書き直してくれ。

などと言って,既にSが提出していた処遇表を書き直し,差し替えるように指示した(甲C49。括弧内はSの認識を示す。。



11:11扉を足蹴りしている
(足げりしていたことはな

い。

②11:34室内を徘徊しながらくそーなどとわめている」

(Aが徘徊していたことはない。なお,時間ははっきりしないが,「くそー

などという言葉を発していた。)
③12:01扉前付近に立ち,扉横の壁付近を足蹴りしている
(Aが立っていたり,足げりをしていたことはなく,横たわっていただけである。



12:26室内を徘徊し,「うおーなどと怒鳴りながら,

扉を足蹴りしている。(Aは,そのころわめいてはいたが,室内

を徘徊しておらず,扉を足げりにしていることもなかった。



12:56室内の壁にもたれたまま,「クソーと怒鳴って

いる。(Aが,室内の壁にもたれたことはなく,横たわったまま

であり,
クソーなどとは怒鳴っておらず,
ウオーなどとい
う言葉にならない叫び声であった。



13:35室内にうつ伏せになったまま「うおーなどとわ

めいている。(午後1時35分以降は,Aはわめいていなかった。」


また,参加人Z1は,同じころ,Aの収容されている保護房の視察状況について動静視察表を記載したRに対しても,元の動静視察表にはなかった内容を記載する形で書き直しをさせた(甲C23・99∼101頁)



以上のような参加人Z1の指示は,Aが保護房内で暴れていたことを強調するなど,事実を改ざんして保護房収容及び革手錠施用の各要
件を充足していることを装うためのものである。
(イ)締め直しの中止
参加人Z1は,Aの死亡につき,仮に革手錠の締めすぎが原因であったとしても,おそらく締め直しの時に締めすぎたのが原因であると思っており,これまで受刑者に強くバンドを締め付けても重傷を負わせたというようなことはなかったことなどから,締め直しさえ行わなければ大丈夫であろうと考え,5月事件以後,革手錠の締め直しは行わなくなった。
(ウ)再現見分
被告Y1は,Aの死亡当日,参加人Z4に対して,5月事件の事実経過の実況見分を行うように指示し,参加人Z4は,参加人Z1,J,Qら関係者を集めて全員が一同に介する状況で実況見分を行った。同実況見分では,参加人Z1が,新入調室に駆けつけて,Aを制圧して金属手錠を施用したとされていること,JやQが,Aを新入調室の中から同室の外に連行したこと,JやQは新入調室の中でAから体当たりされたこと,保護房へAを連行する途中,同人が刑務官に対して,体当たりしたり,足げりにしたりしたこと,保護房収容の際,Aが壁に体当たりしたり,刑務官を足げりにしたりしたこと,参加人Z1が保護房から退出するに当たり,Aは立ち上がり,参加人Z1の背後から同人に体当たりしたり,足げりにしたりしたことなど虚偽の内容を含む再現が行われ,同日,参加人Z1らは,同実況見分に従った被告Y1あての報告書を作成した(甲A51・5∼6頁,甲C26・46∼51頁,甲E49・77∼87頁,丙22・15頁・17頁・31頁)

また,
前記再入室や締め直しの事実については,
上記再現見分の当時,
参加人Z1らが上司等に報告していないこともあって,再現は行われていない(甲A44・16∼22頁,甲A51・6頁,52など)


(エ)死因等の検討について

平成14年5月28日,θ大学のι教授の執刀の下,Aの遺体の司法解剖が行われ,κ保健課長補佐らが同解剖に立会い,ι教授の所見を聴取したところ,

腹部内に肝臓と腸間膜の損傷による出血が認められたが,出血多量で死亡するほどの出血量ではなく,現段階では死因は不明であり,今後,臓器の組織検査によって死因を解明する。

とされ,
その旨被告Y1や被告Y2に報告した甲A52,

甲C37)



被告Y1は,平成14年5月29日,当時総務部長であったλに対し,名古屋刑務所医務部の医師からAの死因等について意見を聴取するよう指示し,同日,名古屋刑務所の医務部長室において,λ,T医師,M医師らの出席の下,Aの死因の検討会が開催された。同検討会において,M医師は,革手錠の使用との関係についても考慮しなければならないと発言し,また保護房内で再度革手錠を使用した事実の有無がM医師から質問されたのに対し,そのような事実はないなどと回答されている(甲A52,甲C37)



さらに,被告Y2は,平成14年6月3日,M医師から自ら意見聴取をしているが,同意見聴取の場において,M医師からは,

肝臓の挫裂は,革手錠の使用と関係づけるのが相当である。

と指摘され,革手錠で締められた痛みに対する反応として迷走神経反射が起きて血圧が低下し,これが原因で心停止に至った可能性などにも言及された(甲A52)



こうした各報告などを受け,被告Y2は,少なくともAの内臓損傷は革手錠の施用が原因であると認識し,
被告Y1及び被告Y3も含め,
Aの死亡には革手錠の施用が関係している可能性が高いことを認識していた(甲A48,52)


(オ)5月事件の報告等


被告Y1は,平成14年5月28日,名古屋矯正管区や矯正局に対し,Aが死亡したことにつき口頭で概要を報告し,同月29日には,名古屋地方検察庁に捜査を依頼した(甲A51・3∼4頁)



被告Y1は,平成14年6月5日,矯正局保安課長に対し,5月事件の概要を口頭で説明したが,その説明は,Aの死因が不詳であること,関係看守は制圧時における暴行を一貫して否認していることなどを内容とするものであった。
また,
挫裂創及び出血の原因については,
制圧時にAが暴れたとか,外傷性のてんかんの治療中であったため何らかの病的原因があったなどと説明した。


平成14年7月15日,名古屋矯正管区及び矯正局あてに被収容者死亡の報告書が提出されたが,その内容は肝臓の挫裂創は心肺蘇生術によって生じた可能性が否定できないことを繰り返し述べるものであり,腹部の圧迫痕や皮下出血については全く触れられていなかった。
(カ)名古屋刑務所の事後的措置

被告Y1は,平成14年5月29日に開催された刑務官会議において,保護房に収容した上戒具を使用することの判断について,統括,

主任クラスについて,規定等を再確認することも踏まえて研修を実施されたい。,

戒具の使用に十分留意すること。,

保護房収容後の動静視察を綿密に実施すること。,

ビデオを使用して保護房拘禁者を録画すること。

などの指示をした(甲A48)。
こうした指示を受けて,名古屋刑務所では,次のb,cが実施されたほか,
保護房収容中の被収容者のビデオ録画が開始された。
しかし,
Aの死亡に革手錠の施用が関わっている可能性が高かったものの,直接的な死因が明らかとされておらず,関係職員の処分や幹部の監督責任などの問題が生じることとなる事態は回避したいという思いから,被告Y1において革手錠の施用方法そのものを問題として検証したり
することはなかった(甲A48,52)


被告Y3は,平成14年6月3日から同月6日にかけて,一般職員を対象として職務研究会を開催した。
被告Y3は,同研究会において,Aの死亡原因が不明のため司法解剖が行われたが,現在までの死因は不明であること,現在までの調査過程からは,戒具の施用等については適切になされており,事故者に対して刑務官が暴行をした事実はない,今後も戒具の施用等については適切に行い,被収容者に暴行を行ったと疑いを持たれる行為はしないこと,保護房収容中の者の動静につき24時間録画を実施することとしたことなどを述べた。他方,Aの死因や革手錠が原因となって死亡に至った可能性については触れなかった(甲A48,被告Y3_40頁)が,それは刑務官の士気の低下を危惧したり,事を大きくしたくないなどの意図があったためであった。


被告Y2は,平成14年6月4日,名古屋刑務所において行われ,処遇部門の首席,次席,統括などの役職の者が参加していた処遇会議(被告Y3や参加人Z4も出席。
)において,被告Y1からも指示が
あったとして,
矯正局長通達「戒具の使用及び保護房への収容についての解説をよく読んでおくように。,」

また,保安情報記載の国会答弁もよく読んでおくように。

と出席者に対して指示した(甲A45・10∼11頁)


(キ)遺族に対する対応
5月事件の後,名古屋刑務所は,原告X2らに対し,Aの死亡に関する説明を行ったが,その内容は,Aが身体検査の際に暴れて保護房に入れられ,その後も暴れていたが,昼過ぎころ急に声が聞こえなくなりぐったりし,その後,心臓マッサージを何度しても助からず,死亡したというようなものであり,平成14年5月30日に,原告X2や原告X4
がAの遺骸を引き取りに行った際も

暴れたから拘束した。見に行ったら倒れていた。

などとされ,Aに革手錠が施用されたことについては説明がなされていない(甲C50,51)

(ク)事実認定の補足説明

参加人Z1の処遇表書き直しの指示
(a)参加人Z1は,処遇表等の書き直しの指示は,Sらが所長に報告するときに困らないようにするために事実経過を整理したにすぎ
ず,事実を歪曲しようとして行ったものではないと供述する(甲C23・100頁)

しかし,処遇表等は,本来各刑務官が認識した事実をそれぞれ記
載すべきものであって,他の刑務官が認識した事実関係を流用して記載することは通常行われておらず(甲C23・100頁)
,自ら
確認していない事実を記載することは,その部分については処遇表等の作成者が事実関係を説明できないこととなるから不自然というほかなく,参加人Z1の上記供述は信用することができない。
(b)なお,原告X2らは,上記処遇表等の書き直しについては被告Y3も認識していたと主張するが,それを認めるに足りる的確な証拠はない。


被告Y1らのAの死因に対する認識
(a)被告Y1,
被告Y2及び被告Y3は,
Aが死亡したことについて,
革手錠の施用が関係している可能性もあるとは認識していたが,可能性が高いとまで認識していたわけではなく,あくまで可能性の一つであったなどと供述する(被告Y2_24頁,被告Y3_32頁など)

しかし,当時革手錠を施用した後にAに異変が生じたこと,M医
師らから聴取した内容などからすれば,Aの死亡に革手錠の施用が
関わっている可能性が高いと認識するのが自然というべきであり,それ以外に可能性が高いと考えていた事柄については十分な説明がされているとはいい難く,上記被告Y1らの供述は信用することができない。
(b)また,被告Y1,被告Y2及び被告Y3は,職務研究会において,Aの死亡に革手錠の施用が関わっている可能性があることについては,事を大きくしたり,士気を低下させたりしないために触れなかったということはなく,意図的に言わなかったというわけではないなどと供述する(被告Y1_23頁,被告Y2_25頁,被告Y3_40∼41頁)

しかし,被告Y2が,平成14年6月19日ころに記載したと思
料されるノートには,
士気の低下防止のために職員研修の実施

指揮者,実施者が職責をとる案件に発展する前に,対処する必要があるなどと記載されている(甲A52)。かかる記載は5月事
件後まもない時期に記載されていることからすれば,5月事件と無関係であるというのは相当ではない。そして,被告Y1らが,Aの死亡に革手錠の施用が関わっている可能性が高いことを認識していたという前記事実関係,職務研究会で上記可能性に触れず,かえって,革手錠が適正に施用されていた旨を発言したことなどからすれば,刑務官の士気の低下を危惧したり,事を大きくしたくないなどの意図があったとするのが自然というべきである。
したがって,被告Y1らの上記供述は信用することができない。

原告らは,被告Y1が積極的に革手錠を施用するように指示していたと主張するが,それを裏付けるに足りる的確な証拠はない。


原告X2は,Aの遺骸との対面を求めたところ,名古屋刑務所の刑務官より顔しか見せることができないと言われたと供述するが,それ
を認めるに足りる的確な証拠はない。
(2)革手錠施用行為等の違法性

革手錠の施用
(ア)前記認定事実のとおり,Aは,保護房に連行されるに当たって,腕に力を入れ,肩を揺するなどしていたが,刑務官に体当たりや足げりをしたことはなく,保護房に収容されることに対して足で踏ん張るなどの抵抗を特にすることもなかったが,保護房内において,Aは,刑務官らの座るようにとの指示に従わなかったため,参加人Z1らが,Aをうつ伏せに制圧し,被告Y5が革手錠を施用するように指示し,相当高緊度の穴に爪を入れて,Aに革手錠を施用したものである。
(イ)Aは,保護房内において,単に刑務官の指示に従わなかったという理由で,革手錠が施用されたものであって,少なくとも保護房収容のみでは暴行等を抑止できなかったという事情は認められず,革手錠を施用する要件を満たしていなかったものと評価せざるを得ない。
また,Aに施用された革手錠は必要な限度を超えた緊度で施用された相当性を欠くものということができる
したがって,Aに対する革手錠施用は国家賠償法上違法というべきである。


締め直しについて
(ア)前記認定事実のとおり,Aは,参加人Z1らが改めて保護房内に入った際,
くそー。」などと言いながら肩を揺するようにしていたが,特段暴れるような状態ではなかったにもかかわらず,参加人Z1は,Aに対し,
暴れればつらい目に遭うということを体で分からせようとして,
参加人Z5,参加人Z2及び参加人Z3と共に,革手錠を締め直しており,締め直された革手錠の緊度も相当高緊度のものであった。
(イ)そうすると,Aは,革手錠を解除すれば刑務官に対し暴行に及ぶと
いうような状態であったとはいえず,もはや革手錠の施用を継続する必要がある状況ではなかったものであって,参加人Z1らは,Aに施用されていた革手錠を直ちに外すべきであったといえる。それにもかかわらず,参加人Z1らは革手錠を外すどころか,制裁目的で革手錠を再度締め直している。
また,Aに施用された革手錠は必要な限度を超えた緊度で施用された相当性を欠くものということができる
したがって,上記参加人Z1らのAに対して革手錠を締め直した行為は違法というほかない。

参加人らは,
Aに対し施用した革手錠の緊度は適正であったと主張する。
しかし,前記認定事実のとおり,5月事件当時,Aの胴囲は80㎝を超えるものであり,着衣状態で革手錠を施用されたことからすれば,Aに対して施用された革手錠は4番目の穴(内周77.4㎝)で装着したとしても胴囲から抜け落ちることなく革手錠が施用できるという点で十分な状態であった。そうすると,参加人らが主張する5番目の穴に爪を入れた状態(内周70.2㎝)で革手錠がAに施用されたとしても,前記4番目の穴から約7㎝進めた高緊度の施用状態となるのであって,適正な緊度ではなかったというべきであり,
参加人らの上記主張は採用することができない。

(3)被告Y1らの不作為
原告らは,被告Y1,被告Y2及び被告Y3が,刑務官らに適切な指導監督を行わなかったなどの不作為により,刑務官らのAに対する革手錠施用による違法行為を漫然と放置した旨主張するところ,本件においては,前記(2)ア,イのとおり,不作為よりも態様の悪質な参加人Z1らの作為による違法行為が認められる以上,当該作為を阻止しなかった被告Y1らの不作為の違法性について判断するまでもなく,被告国の国家賠償責任(違法性の程度を含む。
)は優に肯定することができる。

(4)5月事件後の対応の違法性

虚偽の再現見分
(ア)前記のとおり,参加人Z4が,参加人Z1,J,Qら5月事件の関係者全員を集めて行われた実況見分において,再入室や締め直しの事実は再現されなかったばかりか,参加人Z1が,新入調室に駆けつけて,Aを制圧して金属手錠を施用したとされていること,JやQが,Aを新入調室の中から外に連行したこと,JやQが新入調室の中でAから体当たりされたこと,保護房への連行途中,Aが刑務官に体当たりしたり足げりにしたりしたこと,保護房収容の際,Aが壁に体当たりしたり,刑務官を足げりにしたりしたこと,参加人Z1が保護房から退出するに当たり,Aは立ち上がり,背後から参加人Z1に体当たりしたり,足げりにしたりしたことなど虚偽の内容を含む再現が行われ,
参加人Z1らは,
同実況見分に従った被告Y1あての報告書を作成するなどしている。(イ)しかし,原告X2らは,上記行為によって侵害されたとする権利又は利益は原告X2らによる被告らに対する責任追及の利益などというのであるが,上記行為によって責任追及が不可能となったものではなく,原告X2らが主張する上記利益は飽くまで自らの立証上の問題に解消できる事柄であって,上記行為が原告X2らとの関係において直ちに独立して違法となるとは解されない。
(ウ)したがって,前記行為が原告X2らとの関係において独立した違法行為となるとする原告X2らの主張は採用することができない(なお,前記行為により原告X2らの精神的苦痛が増加した点については,慰謝料算定の一要素として考慮することとする。後記イないしエについても同様である。。



参加人Z1による隠ぺい工作
前記のとおり,参加人Z1は,5月事件の直後,事実を改ざんするため
に,
SやRに対して,
動静視察表等の書き直しをさせているが,
前記ア(イ)
と同様,同行為が,原告X2らとの関係において直ちに独立の違法行為となるとは解されない。
したがって,この点の原告X2らの主張も採用することができない。ウ
被告Y1による事実の隠ぺい
(ア)前記のとおり,被告Y1は,平成14年5月28日,名古屋矯正管区や矯正局に対し,Aが死亡したことについて報告したこと,同年6月5日,矯正局保安課長に対し,5月事件の概要を口頭で説明したが,死因が不詳であり,関係看守は制圧時における暴行を一貫して否認しているなどと説明し,挫裂創及び出血の原因については,制圧時にAが暴れたとか外傷性のてんかんの治療中であったため何らかの病的原因があったなどと説明したこと,同年7月15日,名古屋矯正管区及び矯正局あてに被収容者死亡の報告がされたが,肝臓の挫裂創が心肺蘇生術によって生じた可能性が否定できないことを繰り返し述べるものであり,腹部の圧迫痕や皮下出血については全く触れられていなかったことが認められる。
(イ)しかし,いずれの事実も名古屋刑務所の上部組織たる行政機関である名古屋矯正管区等に対する報告に関するものであって,前記同様,それが原告X2らとの関係において直ちに独立の違法行為と評価されるものとは解されない。
(ウ)したがって,被告Y1の前記行為が原告X2らとの関係において違法な行為となるとする原告X2らの主張は採用することができない。

隠ぺい工作の共謀
(ア)前記のとおり,被告Y1,被告Y2及び被告Y3は,Aが革手錠を原因として死亡した可能性が高いことを認識していたが,刑務官の士気の低下を危惧したり,事を大きくしたくないなどの意図があり,一般職
員を対象として職務研究会を開催したものの,同研究会において,被告Y3は,戒具の使用等は適切に行われていたなどと説明し,Aの死因や革手錠が原因となって死亡に至った可能性については触れなかったなどの事実が認められる。
(イ)しかし,上記事実についても,刑務所内部の事後的措置の問題であり,原告X2らとの関係において直ちに独立の違法行為と評価されるものとは解されない。

遺族に対する対応
原告らは,被告Y1らが,原告X2らに対し,Aの死因について,手錠を付けて保護房に入れた後,容体がおかしくなったとの虚偽の説明を行い,制圧や革手錠の使用については全く触れず,原告X2らがAの遺骸との対面を求めたところ,
顔は見てもいいが体は見せられないとして
全身を見せることを拒否して顔だけを見せたことが違法な行為であると主張する。
しかし,Aの死因については,司法解剖や医師からの報告によっても,革手錠の強度の締め付けが関係している蓋然性が高かったということはできても,確定的なものとしては把握できなかったのであり,被告Y1や被告Y3は,参加人Z1らから虚偽の再現見分を基として報告がされているとはいえ,同事実関係の虚偽性を確定的に認識していたとまでは認められないのであって,仮に原告X2らに対し,

身体検査で暴れたので保護房に入れた。,

その後も大声を出して暴れていた。,

食事の時もこんなもの食えるかと言っていた。,

ずっと暴れていたが声がしないので行ってみると倒れていた。

との説明がされたとしても,それをもって直ちに虚偽の説明であると認めることはできない。
したがって,上記各行為が違法な行為となるとする原告X2らの上記主張は採用することができない。

4
X1事件
(1)認定事実

X1事件に至るまでの経緯等
(ア)原告X1は,平成12年3月30日,参加人Z1が原告X1に対して行った面接において,刑務官であるμが受刑者2名に対して暴行を加えたのを見たため,同受刑者2名に代わり面接を願い出たのであり,告発も考えている旨述べ,同年4月3日には廃棄品の職員の着服職,員による(μ先生)暴力行為2件言葉による脅迫の件につき,,
名古屋刑務所長との面接を申し入れた(乙B1)

同日に行われた原告X1に対する事情聴取において,原告X1は,同年3月24日,μが午前中に考査工場に向かう途中,両手で受刑者の肩を突き飛ばし,同日の昼食時のころ考査工場において両手で受刑者の左肩を突き飛ばすのを見たと述べた。
また,ν首席矯正処遇官は,同月6日,原告X1の事情聴取を実施したところ,原告X1は,刑務官であるμが,同年3月24日に受刑者2名に対し肩で突き飛ばす暴行を加えていること,
μが頻繁にてめえら」
「ごみなどの言葉を発しており,それを止めさせてもらいたいこと,東京拘置所から入所した際,ある受刑者が廃棄しようとした手帳を刑務官が着服したことがあり,そのような行動を止めさせてもらいたいなどと述べたが,νが事情聴取をした後,原告X1は,適正な調査及び処置がされることが確信できたとして,所長の回答は不要であると述べ,同月7日,所長面接を取り下げた(乙B2,原告X1_2頁)

(イ)原告X1は,平成12年8月7日,
面接願として,
以前より処遇部長に対し,職員の暴行事件,越権行為,物品の着服その他違法行為に対し再三面接を願い出て居るのですが,代理の職員が来て回答が得られません。この度の漏洩事件も含め処遇部長に面接願います。尚,一切の代理はお断り致します。とする願書を提出した(乙B47)。
名古屋刑務所としては,
上記求めに対して,
統括で対応することとし,
同月18日にNが原告X1に面接を実施したところ,原告X1は,処遇部長以外の面接は拒否する,今回の被収容者リストの流失に関し,原告X1の名前が入っているか知りたい,今回の被収容者情報リストの流失に係る所長の謝罪については納得していないことを伝えてもらいたいなどと述べた(乙B48)

原告X1に対して,同年9月4日,流失したリストに原告X1の名前があるかは調査中であるが,名古屋刑務所が入手しているリストの一部には原告X1の名前は登載されていないなどと告知された(乙B48)。
(ウ)原告X1は,平成12年8月28日,
写真診断書の交付願いと
して,

人権擁護委員会へ提出する為,職員に本年5月に受けた際の暴行に対する証拠の写真,又診断書の交付願います。

とする名古屋刑務所所長あての願書を提出している(乙B40)
。なお,同願書の余白欄
には,願書が提出された後に刑務官により記載されたと思われる書き込みとして5月に職員が本人を暴行した事実はない。本人は,体調不良の酉に職員が訓練を無理にさせたため倒れさせたことにより本人が負傷したとして訴え出ており(前第16号),その件を職員暴行としてとらえているものと思料される。と記載されているところ,同訓練中の負傷については,原告X1については,右腰部を捻ったとして湿布薬で患部を処置し,右ひざ等は擦り傷程度の負傷であったため特に処置の必要はないと診断されている(乙B51)

上記願書に対しては,同年9月8日,

人権擁護委員会から請求があった時点で交付請求すればよいものであり,いま直ちに交付を受けて添付しなければ,人権擁護委員会への訴えができないというものでもない。

として写真や診断書は交付しないこととされ,同月18日,その
内容が原告X1に告知された(乙B41)

そして,原告X1は,同月19日,
職員の暴力,廃棄品の着服,越権行為違法行為の件などとして処遇部長との面接を出願し(乙B4),
同年10月13日に行われた処遇部長面接において,再度,写真と診断書の交付を求め,交付できないのであればその理由を示すように求めたが,
すでに告知されている理由により診断書等は交付しないとされた乙(
B42)

(エ)原告X1は,平成12年9月18日,統括の面接を受け,ξ(第7工場主任)が,

οのやろうがてんかんを起こした。

と他人の病気のことを言い振らしていた旨統括に話した(乙B5)

また,原告X1は,同月19日,
主任による個人的情報の他の者に対しての吹聴の件などとして処遇部長との面接を出願し(乙B4),
同年10月13日に行われた処遇部長面接において,上記事実があったかどうかを調査し結果の回答を求めたところ,
必要に応じ調査は行うが,
その結果については回答の限りではないとされている(乙B42)。
(オ)原告X1は,平成12年9月19日に黙想をせず,よそ見をしていたにつき注意を受けたが,ふて腐れた態度でξをあざ笑い,その直後検身場においても笑ったことを注意したπを小馬鹿にした態度であざ笑ったという理由で刑務官を侮辱したものとして,
詳細な取調べを行うため,
昼夜独居拘禁に付されることとされ,その後原告X1に対して同月28日から同年10月12日まで軽屏禁15日の懲罰が執行された(乙B5)

なお,原告X1は,上記侮辱の事実に係る同年9月21日の事情聴取において,頭の中では毎日刑務官を愚弄しているが,極力態度に出さないようにしている,脇見をしていた受刑者は他にもいたが原告X1のみ注意を受けたことが納得できず,原告X1が前記(エ)のとおり統括に話
したことに対する仕返しをされたと考えていると述べた(乙B5)。
(カ)原告X1は,平成12年9月ころ,
職員の暴行などに対する告発
と題した人権擁護委員会あての特別発信を出願し,その内容は名古屋刑務所では,職員による暴行,被収容者の私物の廃棄品の着服,訓練の強要による大けが,その他越権行為及び違法行為が頻繁に行われている。私も被害を受けた者です。来所の上,面会,調査,適切な処置又はこれらの件に対する告発に協力を願いたい。とするものであり,同月27日,同委員会あてに発送された(乙B46)

同発信に対し,名古屋弁護士会から,原告X1に対して,
職員による暴行,被収容者の私物の廃棄品の着服,その他越権行為又は違法行為が行われているとあるが,抽象的な申立だけでは,取り扱うことができません。個々の問題について,いつ,誰が,誰に対して,どのようなことをしたのか,具体的に回答してください。それによって,取り扱うか決めたいと思います。との照会がされた(乙B43)。
原告X1は,上記照会に対し何ら返信をしなかったため,上記原告X1の申立ては不受理とされた(乙B45)

(キ)原告X1は,平成12年10月1日付けで,①他の受刑者の廃棄物の取扱い,②μ看守による暴行,③面接2件,④刑執行開始時の訓練に関する不服などを記載した上願を法務大臣あてに提出した。なお,同上願に対しては,平成13年12月20日付けで,①は上願事実に係る不服に当たらない,②は申立てに係る事実は認められない,③及び④は名古屋刑務所の処置に不当な点は認められないとして,いずれも却下するとの裁決がされている(乙B3)

(ク)原告X1は,平成12年6月5日に独居運動場へ連行される際,連行職員から右腕をねじ曲げられ,右肩を捻挫し,出血するなどの傷害を受けた旨の同年10月2日付け上願書を提出したが,同年6月5日に原
告X1の診察を行ったρ医師がだれからいつ暴行を受けたか尋ねても原告X1は何も言わず,ρ医師は右肩の擦過傷について,右肩関節痛(圧痛),軽い擦過傷右足関節捻挫としており,擦過傷については,
」,原告X1自身が左手で引っ掻いてできた可能性が高いとの所見も述べた(乙B34,35)。(ケ)原告X1は,平成12年10月12日の経過をもって,前記(オ)の軽屏禁の執行が終了することとなっていたところ,原告X1が「今後,刑務所側と闘っていきます。と述べるなど,粗暴言動事犯を反覆することが考えられるなどとして,同月13日から昼夜間独居拘禁に付され(乙B6)
,同拘禁は,平成13年9月3日まで続いた(乙B7)

(コ)原告X1は,平成13年1月ころに懲罰を受けているが,同月25日付けで,その懲罰終了時感想録につき,

頭の悪い職員にぼけと一言云っただけ。,

ぼくに悪い点などないよーん。,

反省など一切していないよーん。,

君が反省しなさい。

などと記載している(乙B50)

(サ)原告X1は,平成13年3月24日ころ,就業時間中にひざかけ毛布を使用していた(禁止行為の対象である。
)ところ,そのことをNが
原告X1に注意したが,原告X1は,注意に気付かないふりをして抵抗していた。これに対し,Nが毛布を取るよう原告X1に怒鳴ったが,原告X1は,Nのことを軽蔑の対象としており,Nが興奮する姿が滑稽であったため,Nの言を数分にわたり無視し続けて,Nが興奮している様子を楽しんだり,からかうなどしたりしてNに対し挑発的な行動に及ぶこともあった。
なお,原告X1は,毛布を使用し,Nの注意に従わなかったことを理由として原告X1に対する取調べが行われ,懲罰を受けている(乙B32)



平成13年10月3日の革手錠施用原告X1主張の第1不法行為関係)(
について
(ア)原告X1は,平成13年10月3日,Eに対し,他の受刑者の不正な行為を取り締まるように求めるなどしたが,そのやり取りに際し,粗暴言辞(後に誹謗とされている。
)をしたものとして,処遇部門第3調
室に連行された(乙B8,9)

(イ)原告X1は,連行された取調室において,刑務官を誹謗した行為について同人に対する取調べのため,
昼夜間独居に付する旨言い渡された。
その後,処遇部門第4統括であったNが原告X1に対し,取調室を出るように言ったが,原告X1が取調室から出ようとせず,Nが原告X1の上衣をつかんで立たせるなどしたため,原告X1は,何。触るんだ。

職員が暴行するのか。

などと叫んだ。そして,N及びOが,原告X1の左腕をつかんで原告X1を取調室から引っ張り出した。その後,原告X1は,Nに向けて

N覚えていろ。

などと言いながらつばをはきかけるなどしたため,Nが原告X1をうつ伏せに引き倒して,平成13年10月3日午前11時02分ころ,原告X1に金属手錠を両手後ろで施用した(乙B9,10)
。なお,このころ,原告X1は,被告Y4を認
めるや

Y4か。あんたも汚いなぁ。

などと被告Y4に言った(乙B49)

(ウ)金属手錠を施用された原告X1は,上半身を激しく左右に動かしたり,両足をばたつかせて,周囲の刑務官をけりつけようするなど,興奮状態にあったため,Nが原告X1の保護房収容を指示し,平成13年10月3日午前11時05分ころ,原告X1は保護房第5室に連行された(乙B10,49,被告Y4_6頁)

(エ)保護房第5室に連行された原告X1は,Nに対し,N,覚えとけ。
などと叫ぶなどしていたため,Nが

革手錠を施用する。

と指示し,
平成13年10月3日午前11時07分ころ,原告X1に対し,革手錠が左手前,右手後ろで施用された(乙B49)
。この時,被告Y4が緊
度確認をしたが,その緊度は不適正とはいえないと判断した。
(オ)刑務官らが,革手錠を施用して保護房を出た後,原告X1は,立ち上がって保護房の扉を数回けりつけるなどしたため,被告Y4は,視察孔から原告X1の保護房をのぞき,原告X1に施用されている革手錠の緊度が緩いと判断して,
バンドを増し締めすることを指示した。
そして,
被告Y4らは,
再度上記保護房に入り,
原告X1をうつ伏せに横臥させ,
被告Y4が,原告X1に施用されている革手錠のバンドの穴から爪をはずして,再度バンドを引き,当初の穴よりの一つきつい位置の穴に爪を入れて固定した(乙B49,被告Y459頁)
。これにより,当初の緊
度より約10㎝ほどきつい緊度となり,
原告X1に施用された革手錠は,
相当程度きつい緊度となった。
(カ)原告X1に対する革手錠施用は,平成13年10月3日午後1時02分ころ解除され,同月4日午後2時11分ころ,原告X1の保護房収容も解除された。
(キ)原告X1は,平成13年10月4日,保護房収容を解除された後,名古屋刑務所医務部の医師による診察を受けたが,診療録には

理学的所見に異常なし。

と記載されている(乙B38)。
また,同月5日の診断では,両腰部に3㎝×6㎝,両ひざに5㎝×4.5㎝,右上腕前部に2㎝×10㎝,右上腕後部に5㎝×6㎝の皮下出血が認められ,
右腹の皮下出血は他の部位のものと比べ新鮮であると
され,同診断において,原告X1はパッキン
(革手錠を指す。
)を
強く締められたこと,
上記皮下出血を撮影してもらいたい旨述べている。
そのほか,同月10日の診断でも両腰部に内出血の痕があった(乙B38)


(ク)なお,原告X1は,平成13年10月31日,前記各事実(誹謗及び職員暴行)により,軽屏禁20日間(同日から同年11月19日まで)の懲罰に処せられている(乙B32)

(ケ)事実認定の補足説明

原告X1は,取調室から引っ張り出されるに当たり,Nから背中や腹部を殴られたり,けられたりし,また,うつ伏せに倒される際も刑務官に同様の暴行を受け,さらにNが原告X1の腕を持って,

このまま腕折ったろうか。

などと脅し,腕をねじ上げたところ,ばきばきと音を立てたなどとする(甲B10,原告X1_48頁)

しかし,前記のとおり,原告X1は,訓練中の軽い擦過傷などで特に処置の必要はないとされた負傷を大けがであると人権擁護委員会あての特別発信を出願したり(前記ア(カ))
,刑務官に右腕を捻られた
として診察を受け,ρ医師が右肩の軽い擦過傷と診断した内容を出血するなどの傷害を受けたといった上願書を提出する(前記ア(ク))など刑務官から受けた暴行などに対して誇張して述べる傾向にあり,何度も刑務所幹部(所長や処遇部長)などとの面接を求めたり,人権擁護委員会に対する申立てや法務大臣に対する上願を行ったりするなど好訴性も見受けられる。加えて,ばきばきと音を立てるほどのねじ曲げたのであれば,後に相当の痛みが残ると思われるところ,原告X1は保護房解除後の診察などに関して述べる部分でも右肩等の痛みについて触れていない(甲B10)ことに照らすと,原告X1の上記供述を信用することはできない。


原告X1は,保護房に入れられる際,荷物を投げ込むように体を地面に落とされたと陳述する(甲B10)が,前記のとおり,原告X1の誇張性や好訴性に照らせば,保護房に連行され,うつ伏せに制圧された際にやや強めに押しつけられたことなどをもって上記のように述
べている可能性も否定できず,また,一時的とはいえ,金属手錠を施用された後も両足をばたつかせ,周囲の刑務官をけりつけようとしており,その後特段落ち着いたことがうかがわれない原告X1の拘束を解くこととなる行動に及ぶのにはやや違和感があり,原告X1の上記陳述を直ちに信用することはできない。

被告Y4は,保護房の入口が狭かったため,原告X1を保護房に入れる際,拘束が弱まり,原告X1が壁に駆け寄り,壁を背にして両手後ろに施用された金属手錠を壁に打ち付け始めたと供述する(被告Y4_50∼51頁)

しかし,たとえ保護房の入口が狭く,保護房に入れる際に拘束が若干弱まる可能性があるとしても,連行する刑務官による身体拘束をたやすく解くことができるとは考えにくい。しかも,後記のとおり,被告Y4は平成14年2月7日の際にも,原告X1が刑務官の間隙を突くようにして同様の行動に及んだと陳述し,同月14日にも金属手錠を原告X1が壁に打ち付けていたと陳述している。そして,被告Y4としては原告X1の拘束を解くなどの意識を持っていたことは全くうかがわれないにもかかわらず,数度にわたって原告X1の身体に対する拘束状態が外れたということとなり,不自然さは否めない。また,被告Y4が当審の本人尋問において手首を打ち付けるのを実演した際,相当大きな音がしていたが,保護房収容を解除された後に原告X1の手首にさほど損傷の痕が見られないことにかんがみれば,平成13年10月3日の革手錠施用の際にも原告X1が手首を壁に打ち付けるなどの行動に及んだとの被告Y4の供述を直ちに信用することはできないというべきである。


原告X1は,革手錠が施用される際,刑務官が背中の上で複数名の刑務官が同時に跳躍したり,肺と腹部の左右に刑務官が立って,原告
X1をけり上げたなどと陳述し,原告らは,上記のように刑務官が受刑者の背中で跳躍するのは,受刑者に息を吐き出させ,きつい緊度で施用するためであると主張する。
しかし,
きつい緊度で施用された際原告X5に係る第3不法行為)

の原告X5の録画された撮影内容を見ても,複数名が同時に跳躍したというようなことはなく,原告X1も増し絞め(前記(オ))をされる以前はそれほどきつい緊度ではなかったと述べていること(甲B10・12頁)に照らせば,原告X1の上記陳述を信用することはできない。

原告X1は,増し締めをされる前の革手錠の緊度も厳しい締め方であったと供述する(原告X1_15頁)

しかし,前記のとおり革手錠のバンドに空いている穴の間隔は約10㎝あり,持ってこられ施用されたバンドに適当な穴が存在するとは限らないところ,原告X1はすぐに立ち上がって保護房の扉をけることができ,また,前記のとおりそれほどきつい緊度ではなかったと述べていることに照らせば,不適切な緊度であったということはできない。
他方で,増し絞めをされた後については,革手錠の施用を相当数経験する被告Y4が,増し絞め前に確認した緊度は不適正とはいえない状態であったとするのであり,そこから一つ穴を進めた緊度とすれば10㎝程度内周が狭まるのであるから,前記のとおり,相当きつい緊度となるというべきである。


平成14年2月7日の革手錠施用(原告X1主張の第2不法行為関係)について
(ア)原告X1は,平成14年2月7日,独居房である第1舎2階西部居室に収容されていたが,被告Y6に対して,暴言を吐いたなどとして,
非常ベルが鳴らされ,被告Y4を含む多数の刑務官が駆けつけた。なお,被告Y6は,前記ア(ア)のとおり,原告X1が受刑者に暴行していたとして所長面接等を求めていたμの弟に当たる者である。
(イ)被告Y4は,原告X1に対し,居室から出てくるように指示したが,原告X1は居室から出ることはなく,

寄ってたかって汚ねえな。


どと言った。
被告Y4は,原告X1を連れ出すように指示し,刑務官らが原告X1を居室から出した。そして,被告Y4は,原告X1に対する金属手錠の施用を指揮し,原告X1に金属手錠が施用された上で,被告Y4の指揮の下,原告X1は保護房第1室に収容され,きつく革手錠が施用された(甲B10,原告X1_21頁・55∼56頁)

なお,この時の革手錠施用について,参加人Z1の日記には

H(原告X1を指す。)とうとうおれを怒らせた,パッキンだ。

と記載され(甲C27,28・22頁)
,参加人Z1は原告X1の態度等に憤りを
覚えており,参加人Z1以外の刑務官の中には参加人Z1と同様の感情を抱く者もあった。
(ウ)原告X1に対し施用された革手錠は,平成14年2月7日午後5時13分ころ解除され,同月12日午後1時16分ころ同人に対する保護房収容も解除された(乙B19∼22)

(エ)平成14年2月12日の保護房収容の解除後,原告X1は,名古屋刑務所医務部の医師による診察を受けたが,そこでは1週間来

めまいがする。以前より慢性的に),右膝,両外腸骨部

皮下出血(少々)(
」と診断されている(乙B38)。(オ)原告X1は,上記保護房収容の解除後,独居房で横になっており,平成14年2月13日の刑務作業については,被告Y4が仮横臥の許可を与えたため作業を行うことはなかった。そのころ,原告X1は,話し掛けてきた被告Y4に対し,「医者を呼んでください。などと言った(甲B10,原告X1_24頁)

(カ)事実認定の補足説明

原告X1は,被告Y6を見ていたところ,同人から

なんだこら。

などと言われ,独居房の扉をけってきたため,

兄弟そろって汚いまねするな。

と言ったことを端緒として被告Y6と言い合いになり,非常ベルにより駆けつけた刑務官らにより房の外へ引きずり出されたなどとする(甲B10)

しかし,前記のとおり,原告X1は,Nを軽蔑の対象とし挑発的な行動に及んだことがあるほか(前記ア(サ))
,N以外の刑務官に対し
ても「ぼけ。」などと言ったこともあり,頭の中では刑務官を愚弄しているともし,刑務官に対する挑戦的な行動に及ぶなどしており,被告Y6は,原告X1が受刑者に暴行していたとして目を付けていたμの弟でもあることなどからすれば,被告Y6に対し,原告X1から挑発的行動に及ぶなどした可能性も否定できないところであり,原告X1の上記陳述のとおり認めることはできない。


被告Y4は,保護房内において,原告X1が保護房内の壁に駆け寄って,大声を発しながら金属手錠を壁に打ち付けたりしていたと陳述する(乙B49)が,前記イ(ケ)cと同様,これを直ちに信用することはできない。


原告X1は,革手錠施用に当たり,刑務官に背中に乗られて跳躍されたほか,肺や腹部をけられたなどと供述する(原告X1_21頁)が,原告X1は,同様の行為を平成12年10月3日の革手錠施用の際にも行われたとしているところ,この点については前記のとおり原告X1の陳述を信用することができないところであり,原告X1の誇張性,好訴性なども踏まえると平成13年2月7日の際についても原
告X1の上記供述をそのまま採用することはできない。

被告国は,参加人Z1の日記の記載内容をもってして,参加人Z1以外の刑務官の主観的意図などを推認できるものではないと主張する。
しかし,参加人Z1の日記の記載内容からすれば,原告X1が刑務官らに反抗する態度を取り,刑務所の制裁目的もあって原告X1に革手錠が施用されたということは推認されるところであり,前記のとおり,名古屋刑務所では,受刑者に革手錠施用により苦痛を与えて反抗心を低下させ,刑務所全体の規律を維持しようという運用が行われていたという実情などに照らせば,参加人Z1以外にも制裁目的を持っていた者は存在していたということは推認し得る。


被告国は,原告X1に施用された革手錠は適正緊度であったと主張する。
しかし,名古屋刑務所では制裁目的で革手錠をきつめに施用する傾向にあるところ(前記1(4))
,平成14年2月7日の革手錠施用は,
参加人Z1がわざわざ原告X1を名指しして日記に記載するほど原告X1に対する強い憤りを覚え,他の刑務官においても同様の感情を抱く者があり,原告X1の第1不法行為の際にも増し絞め後にはきつめの緊度で施用されている。
そして,保護房収容解除後の診断による診断書において,緊度がきつめであったことを直ちにうかがわせる記載はないものの,革手錠施用が解除されてから保護房収容が解除されるまで約5日ほどの期間があったにもかかわらず,原告X1に皮下出血が見られることからすれば,革手錠の緊度がきつめであったことを否定するものとまではいえない。また,通常,革手錠の施用により擦過傷程度の傷害が生ずるともされるところ(被告Y415頁)
,第1不法行為の後の保護房解除

後の診断においては

理学的所見に異常なし。

と診断され,その後の診断で内出血が見られたなどと記載されたことなどからすれば,名古屋刑務所の医師において傷害状態を過小評価した可能性も否定できず適切な診断がなされているのか疑問も残るところであり,保護房解除後の診断をもって,革手錠の緊度が適正であったということはできない。
以上に照らせば,平成14年2月7日の革手錠施用の緊度もきつめであったと認めるのが相当である。

平成14年2月14日の革手錠施用原告X1主張の第3不法行為関係)(
について
(ア)被告Y4及び参加人Z1は,平成14年2月14日,原告X1が刑務作業をせず,
独居房で横臥していたことから,
原告X1のもとを訪れ,
起床して刑務作業を開始するように指示した。原告X1は,被告Y4らに対し,

医者を呼んでください。

などと言うとともに,平成13年12月20日付けの裁決(乙B3,前記ア(キ))への不満や被告Y4を含む刑務官らが汚い人間である旨を述べ,被告Y4との間で押し問答をする状態が生じた。その後,被告Y4が,原告X1を制圧して,非常ベルが鳴らされた(甲B10,乙B23,原告X1_26∼28頁)。
(イ)原告X1は,参加人Z1らに金属手錠を両手後ろで施用された上,被告Y4は,保護房収容を指揮し,原告X1を保護房第2室に連行した(甲B10,乙B23,24,原告X1_26∼28頁)

(ウ)そして,原告X1は,保護房に連行されたが,被告Y4は,原告X1に革手錠を施用することを指示し,午前8時1分ころ,参加人Z1らは,原告X1に両手後ろで革手錠を施用したが,この際の緊度もきついものであった(甲B10,乙B25)

(エ)革手錠を原告X1に施用してしばらくした平成14年2月14日午
前10時21分ころ,被告Y4は,革手錠の施用の変更を指示し,腕輪の位置を左手前,
右手後ろに変更し,
金属手錠が併用された乙B26)


(オ)原告X1は,革手錠が施用されている際,

殺してくれ。

などと言
ったこともあった(甲B10,乙B26)

(カ)原告X1に対する革手錠施用は,平成14年2月14日午後8時41分ころ解除されたが,保護房収容は解除されず,同月28日午前10時28分まで(後記第4不法行為後)そのまま継続された(乙B27,31)

(キ)事実認定の補足説明

被告Y4は,非常ベルを鳴らす前,刑務官らを汚い人間であるなどと言う原告X1に対し,原告X1の行為は

まるでがきのすることではないか。

などと述べたところ,原告X1が,「何を。」と言いなが
ら,飛びかかってきたとし(乙B49,被告Y4_23頁)
,参加人
Z1も原告X1が突然被告Y4につかみかかるようにしてきたと陳述する(丙13)

しかし,被告Y4は,安座していた原告X1と同じ目線の位置になった上で説諭したとするとともに,原告X1が被告Y4の話に耳を傾けつつあったと陳述している(乙B49)が,原告X1は,すでに2度の保護房収容及び革手錠施用の経験者であり,2度目はわずか1週間前のことであり,その際は,被告Y4の述べるところによれば非常に興奮して刑務官に対する暴行気勢も十分に認められるような状況であったというのである。そして,原告X1と被告Y4とは,すでに押し問答を続けている状況であり,説諭のためとはいえ,逃げにくい独居房に入ってまで目線を同じ位置にして話をすることは危険な行動である。また,原告X1が被告Y4の話に耳を傾けつつあったということも,
原告X1と被告Y4との直前の問答などからすれば想定し難い。

加えて,原告X1は,安座の姿勢であり飛びかかるにはやや不向きな体勢にあったのであり,従前刑務官らを挑発するようなことはしていたものの,自ら飛びかかるといった行動に及んだことはなく,後記のとおり,相当高緊度で革手錠をすでに締められていることなどからすれば,原告X1から被告Y4につかみかかり,あえて再び革手錠を施用される口実を与える行動に及んだとすることにはやや疑問も残る。また,前記1(4)のとおり,名古屋刑務所においては制裁目的で受刑者に革手錠をきつく施用する傾向にあったところ,
前記ウのとおり,
平成14年2月7日の原告X1の態度などについて参加人Z1など刑務官の中には原告X1に対する憤りを覚えていた者もいたことも併せ考慮すれば,被告Y4の上記陳述を直ちに信用することはできない。b
原告X1は,保護房において被告Y4に腕と手を殴られ,腹も10発くらい殴られたと陳述する(甲B10)が,他の9月事件などにおいても保護房において刑務官が原告X5に対し,直接殴るなどの暴行を加えたというようなことは認めることができず,保護房内において制圧される際に強く捕まれたり,押さえつけられるなどした際の状況を,上記のように捉えて陳述している可能性も否定できず,原告X1の上記陳述を直ちに信用することはできない。


被告国は,原告X1に施用された革手錠の緊度は適正なものであったと主張するが,革手錠施用の要件を満たさない革手錠の施用が原告X1に苦痛を与えるためになされたことは明らかであり,原告X1に対し憤慨している参加人Z1において革手錠を施用していること,制裁目的で苦痛を与えるために革手錠を施用していた名古屋刑務所の実情,
革手錠が施用されている際,
あまりの苦痛のためか殺してくれ。

などと言ったこともあったことなどにかんがみると,原告X1に施用された革手錠の緊度はきついものであったと認めるのが相当である。

平成14年2月15日の革手錠施用原告X1主張の第4不法行為関係)(
について
(ア)原告X1は,平成14年2月15日の朝,前日に引き続いて保護房に収容されていたが,参加人Z1が保護房に入房して,原告X1に布団を出すように指示し,原告X1が布団を出した。参加人Z1は,お茶の入っているコップを原告X1に差し出して,
お茶を取るように指示した。
原告X1がコップを取ろうと手を伸ばすと,うつ伏せに制圧され,参加人Z1から

昨日の続きだ。パッキン持ってこい。

と言われた(原告X1_30∼31頁)
。そして,同日午前7時32分ころ,原告X1に
革手錠が左手前,右手後ろで施用され,金属手錠も併用されたが,この時,革手錠の緊度もきつめのものであった。
原告X1は,革手錠が施用されている間,

殺してくれ。

などと言
ったこともある(甲B10)

(イ)原告X1に対する革手錠施用は,平成14年2月15日午後零時56分ころ解除され,同月18日午前10時28分ころ,原告X1に対する保護房収容が解除された(乙B31)が,同解除後の医師による診察においては,原告X1の腰部付近に軽度の擦過傷があり,両ひざ付近の痛みを訴えるなどと診療録に記載されている(乙B38)

(ウ)事実認定の補足説明

参加人Z1は,保護房の扉を開けて布団を出そうとしたところ,原告X1が刑務官に対して,手を伸ばしてつかみかかるような暴行気勢を示し,
殺せー。」などとわめきながら暴れ始めたため原告X1を制圧したと陳述し(丙13)
,被告Y4も参加人Z1から同様の報告
を受け,また,被告Y4自身が駆けつけた際,原告X1が

殺してくれ。「もう死にたいんだ。

」などと言って,興奮しており,半泣きの
様相でもあったとする(乙B49,被告Y4_28頁)


しかし,前日の革手錠解除の際に,原告X1に上記と同様の取り乱した様子が見られたというようなことはうかがわれず,平成14年2月15日の朝,原告X1が起床した後,刑務官が入房する前の状況においても,上記様子がうかがわれる状況は認められず,かえって悪態を付いている様子が動静視察表に記載されている(乙B27)
。その
ほか,原告X1が,革手錠未施用の状況において

殺してくれ。

などという発言をしたこともうかがわれないこと(乙B27,31)をも考慮すると,同日の朝に刑務官が入房した際にのみ,突然原告X1が

殺してくれ。

などとわめき,自傷自殺の危険が認められるほど自失状態になったいうのには疑問が残り,被告Y4らの上記供述等を直ちに信用することはできない。
その上で,前記参加人Z1の原告X1に対する憤慨状況,平成14年2月14日(前日)の原告X1に対する被告Y4ないし参加人Z1の前記行動や参加人Z1の前記憤り,
前記名古屋刑務所における風潮,
さらには9月事件における平成14年9月18日から同月19日までの原告X5に対する参加人Z1の行動などにかんがみると,革手錠施用に至るまでの経過については,前記(ア)のとおり,おおむね原告X1の供述に沿う事実関係にあったものと認められる。

被告国は,原告X1に施用された革手錠の緊度は適正なものであったと主張するが,前記エ(キ)cと同様,革手錠施用の要件を満たさないまま参加人Z1において革手錠を施用し,原告X1は革手錠が施用されている際,

殺してくれ。

などと言ったこともあったことなどにかんがみると,原告X1に施用された革手錠の緊度はきついものであったと認めるのが相当である。

(2)第1不法行為の違法性

前記認定事実(前記(1)イ)によれば,原告X1は,大声を出し,Nに
対し,実際につばを吐きかけた上,刑務官をけりつけようとするなど,興奮状態にあったのであるから,Nにおいて暴行気勢がうかがわれると判断したとしても,不当ということはできず,原告X1を保護房に収容した上で,革手錠に戒具を変更したことは,Nの裁量の範囲内の行為ということができ,違法ということはできない。
また,増し絞めされる前の原告X1に対し施用された革手錠の緊度は不適正とはいえないのであって(前記(1)イ(ケ)e)
,緊度の点においても
増し絞め前の革手錠の施用は違法とはいえない。
イ(ア)しかしながら,被告Y4は,前記アの状態で革手錠を施用した後,更に一つきつい穴(約10㎝ほど内周が狭くなる。
)で固定して施用し
ており,前記(1)イ(ケ)eのとおり,増し絞め後の革手錠の緊度はきついものであったと認めることができ,増し絞め前の緊度が不適正とはいえないものであったことにも照らすと,適正緊度を不必要に超えて革手錠が施用されたものというべきである。
(イ)なお,被告Y4は,胴囲80㎝の受刑者に対し,胴囲70㎝程度となるように革手錠を施用することは適正であるとし,10㎝程度胴囲よりきつくする程度であれば適正であるように供述する。
しかし,被告Y4が,約10㎝程度狭くなった状態を意識して革手錠を施用していたことはうかがわれず,被告Y4の上記供述をそのまま採用することはできない。
(ウ)したがって,第1不法行為は,締め直した後の緊度が適正緊度ではなかった点で違法性を有するというべきである。
(3)第2不法行為の違法性

前記(1)ウ(カ)aのとおり,原告X1が被告Y6に対して,挑発的な行動に及ぶなどした可能性等も否定できないことなど,保護房収容要件や革手錠施用要件を欠いていたと認めることはできず,この点において刑務官
らが原告X1を保護房に収容し,革手錠を施用したことが違法であるということはできない。

他方で,第2不法行為の際,革手錠の緊度はきつめに施用されたと認められ(前記(1)ウ(イ))
,適正緊度を超えていたというべきである。
したがって,第2不法行為も革手錠の緊度が適正ではなかったという点で違法性を有するというべきである。

(4)第3不法行為の違法性

前記認定事実のとおり,被告Y4は,原告X1と押し問答となり,原告X1の言動に立腹したため原告X1を制圧し,保護房に収容し,革手錠施用に至ったのであり,原告X1につき保護房収容及び革手錠施用要件は認められなかったといえる。


そして,第3不法行為において,原告X1に対し,きつく革手錠が施用されたと認められ(前記(1)エ(ウ))
,適正緊度を超えた緊度で施用され
たというのが相当である。


したがって,第3不法行為は,要件を満たすことなく保護房収容や革手錠施用に至った点,及び施用された革手錠の緊度は適正緊度を超えていた点において違法性があるというべきである。

(5)第4不法行為

前記認定事実のとおり,参加人Z1は,差し出したお茶の入ったコップに原告X1が手を伸ばした際,同人を制圧し,革手錠を施用しており,原告X1には,暴行気勢,自傷,自殺のおそれなどの革手錠施用の要件は認められないにもかかわらず,革手錠を施用したと認められる。


そして,第4不法行為において,原告X1に施用された革手錠の緊度もきつめのものであったのであり(前記(1)オ(ア))
,適正緊度を超えた緊
度で施用されたと認めるのが相当である。


したがって,第4不法行為は,要件を満たすことなく革手錠施用に至っ
た点,及び施用された革手錠の緊度は適正緊度を超えていた点において違法性があるというべきである。
5
革手錠の施用とAの死亡との因果関係(争点(4))
(1)ι教授による司法解剖
Aは,腹部の軟部組織間出血,腹腔内出血,腸間膜挫裂等の傷害に基づく外傷性ショックにより死亡したが,名古屋簡易裁判所の裁判官の発布した鑑定処分許可状に基づき,Aの死亡翌日に同人の遺体の司法解剖を行ったι教授は,同遺体の主な損傷の状況について,次のとおり鑑定する(以下ι原鑑定という。甲C52)。

外表及び皮下の損傷
(ア)右側頭部において,2倍米粒大の,革皮様化した表皮剥奪を1個認める。
(イ)額部全体において,栗粒大から小指頭大までの,一部革皮様化した表皮剥奪をやや多数認める。
(ウ)上下口腔粘膜において,栗粒大から米粒大までの,やや純な粘膜損傷を6個認め,一部は革皮様化している。
(エ)臍窩を中心として,腹部をほぼ一周する幅約5㎝から6㎝の圧迫痕様の変化を認め,その中に米粒大から小指頭大までの紫赤色の皮膚変色やや多数と,2倍米粒大から示指頭大までの,一部革皮様化した表皮剥奪やや多数を認める以下,

この創傷全体を圧迫痕様変化」
ともいう。。)表皮剥奪は圧迫痕様変化の上下端部において,左右に走り,帯状を呈する。皮膚変色部の皮下に出血を認める。この圧迫痕様変化の上に当たる部,右上前腸骨棘の上後方わずか左方21㎝の部に前後径11㎝,上下径8㎝の,やや境界不鮮明な紫藍色の皮膚変色を認める。さらに,切開を加えると,帯状の圧迫痕様変化と皮膚変色に対応して,小児頭大の領域に軟部組織間出血及び血腫を認める。(オ)左鼠径部において,大豆大の,一部革皮様化した不整形の表皮剥奪1個。(カ)右側腹部の鶏卵大の領域に,栗粒大から小豆大までの,一部革皮様化した表皮剥奪やや多数。(キ)左上腕上1/3外側において,拇指頭大の領域に,栗粒大の一部革皮様化した表皮剥奪を4個認める。(ク)左肘関節部において,大豆大から小指頭大までの,一部革皮様化した表皮剥奪を3個認める。(ケ)右肩部において,鳥口突起の左方わずか前方6㎝の部に,蚤刺大から栗粒大までの一部革皮様化した表皮剥奪を2個認める。(コ)右肩部において,鳥口突起の下右方わずか後方7㎝の部を中心とした鶏卵大の領域に,大豆大の境界のやや不鮮明な紫色の皮膚変色1個と栗粒大の一部革皮様化した表皮剥奪を数個認める。皮膚変色の皮下に出血あり。(サ)右肘関節において,小鶏卵大の,境界のやや不鮮明な紫赤色の皮膚変色を1個認める。皮下に出血あり。さらに,小指頭大の一部革皮様化した表皮剥奪を1個認める。(シ)左膝関節部において,半米粒大から示指頭大までの一部革皮様化した表皮剥奪を3個認める。(ス)左下腿前面において,栗粒大及び小豆大の一部革皮様化した表皮剥奪を各1個認める。(セ)左内踝部を中心とした超鶏卵大の領域に,大豆大及び小指頭大の,一部革皮様化した表皮剥奪を各1個認める。(ソ)左足背部において,栗粒大及び2倍米粒大の一部革皮様化した表皮剥奪を各1個認める。(タ)右膝関節部において,小指頭大の一部革皮様化した表皮剥奪を1個認める。(チ)右下腿外側上1/4の部において,大豆大及び小指頭大の,一部革皮様化した表皮剥奪を各1個認める。(ツ)右足背部及び足指背部において,蚤刺大から栗粒大の,一部革皮様化した表皮剥奪を各1個認める。イ腹腔内の損傷(ア)腹腔内に400mlの暗赤色の流動性血液が認められた。(イ)回盲部の漿膜及び小腸間膜に広範囲の血腫が認められ,血腫の重さは約250gであった。(ウ)横行結腸の付着部付近の腸間膜に小鶏卵大程度の挫裂が認められ,下行結腸の付近の腸間膜には2倍手掌面大の挫裂が認められる。(エ)さらに,肝右葉に挫裂を認め,左第5肋骨及び肋軟骨付着部に骨折を認め,その周囲に鶏卵大の領域に軟部組織間及び筋肉内出血を認める。(オ)膵尾部に示指頭大の血腫を認める。ウ死因,自他殺の別について死因は腹部の軟部組織間出血,腹腔内出血,腸間膜及び肝挫裂等による外傷性ショックと考えられ,死因となった損傷は,一般的には他為によると考えるのが自然であるが,状況によっては,自為及び事故で生じたとしても矛盾しない。(2)ι教授による再鑑定アι教授は,平成17年8月18日,名古屋地方検察庁の検察官の嘱託に基づき,あらためてAの死因等に関する鑑定を行い,平成18年5月8日付けの鑑定補充書(甲C53)及び鑑定書(甲C54。以下,併せて「ι鑑定という。)を作成した。
ι鑑定においては,Aの遺体に認められる損傷に関して,角鉄で生じた
可能性が存在する一部の損傷を除けば,革手錠の絞扼作用により生じたとして矛盾しないとする。また,その受傷機序としては,転倒の可能性を完全に否定することは困難であるものの,その場合の転倒回数は少なくとも2回ないしそれ以上の回数であったと考えるのが相当である一方,2回の革手錠による強い絞扼作用によって生じたとしても,皮膚,皮下,及び腹腔内の損傷は十分説明可能であり,むしろ無理なく説明できるとし,おおむね次のとおり述べている(甲C53,54,57,58)

イ(ア)外表の損傷
Aには,
腹部から背部にかけて一周する帯状の圧迫痕様変化のほかに,
左右側腹部には,圧迫痕様変化を横断する形で,上下に走る線状ないし帯状の表皮剥奪が認められるところ,それが角鉄とほぼ同じ大きさ,方向であることから,同表皮剥奪は革手錠の角鉄によって生じた可能性が高い。また,右上前腸骨棘付近に同表皮剥奪と類似する表皮剥奪が存在しており,これも角鉄により生じたと考えられる。そして,これとほぼ同じ高さで左上前腸骨棘付近に表皮剥奪が存在している。これらのことからすれば,臍窩を通る高さ,及び左右上前腸骨棘を通る高さで,計2回革手錠の絞扼作用が生じたと考えるのが自然である。
なお,臍窩を通る高さでは圧迫痕様変化が腹部を一周して存在するのに対し,左右上前腸骨棘を通る高さではそれが明らかではなく,また,左上前腸骨棘付近では,線状ないし帯状の表皮剥奪が存在していないものの,これらは,上前腸骨棘の高さでは,腸骨を通り,体の湾曲に対し変形しづらい革手錠が体表面に密着して強く作用するような圧迫痕様変化を起きにくかったことや腕輪の位置によっては圧迫する力がさほど強くないことによって説明できるため必ずしも不自然ではない(甲C58・60∼70頁)

(イ)皮下の損傷


臍窩の高さの前記(1)ア(エ)の損傷について,その右背部に近い皮
下及び軟部組織間出血の部位は,左右肋骨を通る革手錠が作用した部位とほぼ一致しており,革手錠が肋骨を強く圧迫して出血したと考えられる。
また,前記(1)ア(カ)の損傷に対応した部からやや後ろ上方に向かう,幅4∼5㎝程度,長さ12㎝程度の帯状の皮下組織の出血(右腸骨部分の出血部位)が認められるが,これも腸骨と革手錠の間で出血が生じたとするのが自然である。そして,バンドは,上前腸骨棘を通る高さで背部に向かって上部に位置するようにやや斜めに掛けられていたと考えられる。

なお,臍窩の高さの前記皮下及び軟部組織間出血は,少なくとも幅が5㎝以上あり,革手錠の幅よりも広いが,これは当該皮下組織が比較的疎な構造であり,外力の作用した部位を超えて侵潤した可能性が高く,他方で右腸骨に当たる皮下出血は,上縁及び下縁が明瞭で幅が狭いが,これは,比較的密な線維組織で構成された部分の皮下出血であり,侵潤の度合いが比較的少ないためと考えられるため,両者の皮下出血の所見の相違は説明可能である(甲C57・70∼71頁)。
また,右腸骨部分の皮下出血は,成傷器の形状だけではなく,皮膚及び軟部組織を挟む骨の形状も影響していると考えられ,上縁の出血の湾曲は腸骨の湾曲が印象され,下縁の比較的はっきりした辺縁は,革手錠の下縁が作用したものと考えても矛盾せず,成傷器の作用面積が広いこととも整合するものである。

(ウ)腹腔内の損傷

肝右葉の損傷(甲C54・13∼15頁)
Aに施用されていた革手錠は,一部が肋骨の上を通過していたと考えられ,肝挫裂が左右に走っていることを考慮すれば,少なくとも革
手錠の装着ないし解除の際に革手錠の作用により生じた可能性を完全に否定することはできない。そして,当該挫裂位置を含めれば,革手錠の絞扼によると推定した方が,革手錠が施用されていた状況によっては無理なく説明できる。
しかし,胸骨や肋骨の骨折を伴う通常の生じ方とは異なるが,心臓マッサージに不随して生じる可能性も完全に否定することも困難である。

腸間膜及び腸管等の損傷
(a)Aの小腸間膜の血腫は,相当広範囲にわたり,小腸間膜,特にその根部において出血が著明であるが,これは小腸間膜の漿膜下出血であり,挫裂は特に認められず,小血管が多発的に破れて,その出血が浸潤したと考えられる(甲C57・33頁,58・154頁・156頁)

(b)回盲部後面の漿膜下出血が認められた部位については,挫裂部分は確認されておらず,
鈍体と骨が当たることによって生じた可能性,
広範囲にわたる腸間膜の出血が波及して広がった可能性も否定できない(甲C57・35∼36頁)

(c)横行結腸の腸間膜前面の出血については,若干挫裂が伴っているものの,漿膜下出血が主であり,血腫部位のどこかに発生したいくつかの多発性の血管損傷が原因である可能性が高い(甲C57・39∼40頁,58・158頁)
。また,横行結腸付着部付近の腸間
膜挫裂は,正中よりやや肝曲寄りに存在し,挫裂部位の周囲は,血腫に取り囲まれており,穴が空いた状態というよりは,一部組織の連続性が保たれている状態と考えられる(甲C57・43頁,58・158頁)

(d)下行結腸付近の腸間膜の挫裂は,下行結腸とS字結腸の移行部付
近に存在すると考えられ,組織の連続性が一部保たれた挫裂と考えられる(甲C58・45頁・50頁)

(e)Aの小腸間膜の血腫は,相当広範囲にわたり,小腸間膜,特にその根部において出血が著明であり,横行結腸及び下行結腸付近の挫裂部位の周囲の軟部組織間出血も著明であり,挫裂部位の性状は記述が困難である。つまり,当該腸間膜損傷は,挫裂主体というよりも,
挫傷的な要素が強く,
小血管の多発的な損傷が強く示唆される。
すなわち,比較的大きな血管,特に動脈の損傷であれば,弾性繊
維に富んだ動脈の損傷が生じると共に,より脆弱な腸間膜の組織も裂開する可能性が高く,
動脈と共に腸間膜組織も裂開している場合,
出血が組織圧に逆らって,周囲の軟部組織に浸潤していくよりもフリースペースである腹腔内へ出血する方がより自然であると考えられるが,Aの症例はこうした一般的な症例とは異なる。
このような小腸間膜の損傷状況からすれば,成傷器は,作用面積
の広いものと考えるのが自然であり,小腸間膜の根部を中心とした小腸間膜に広範囲の血腫が認められることを考慮すると,作用面積の広い革手錠と椎骨との間で力が作用して腸間膜損傷が生じたとしても矛盾しない(甲C57・85頁)が,横行結腸と下行結腸付近の腸間膜の挫裂については,作用面の狭い鈍体,すなわち,角鉄の作用により生じた可能性も否定できない(甲C54・16頁)

なお,革手錠が施用されている位置と損傷の位置がずれている部
分もあるが,出血が浸潤して広がり,圧迫部位よりも損傷部位が広がった可能性,革手錠が強く絞扼され,臓器の位置が移動し,様々な複雑なひずみや力がかかり,最も脆弱なところに力が掛かった可能性も考えられる(甲C57・81頁・89∼90頁)


ι鑑定は,Aの解剖に携わった法医学の専門家の意見であり,Aの遺体
の各損傷につき,表皮剥奪や血腫の状況から角鉄の位置,バンドの施用状況を推認した過程は合理的で,多種多様な可能性を詳細に検討して導かれたものであり,後記のような各医師の鑑定意見をもってしても,信用性が否定されるとはいい難い。
(3)亥大学生産技術研究所教授であるσは,人がうつ伏せに制圧された状態でその左側から革手錠を引っ張り施用された場合,体表面に加わる外力は,右側腹部から前腹部が最も高くなり,革手錠の絞圧によって腹部表面に発生する応力は転倒により発生する圧力より大きく,革手錠による絞圧の方が,腹部に損傷を与えやすく,
臓器破壊の原因となる可能性も高いとする以下σ

鑑定という。甲C55,56,60)


σ鑑定では,人体胴部を模した試験体(ペットボトルに水を入れ,その側面に紙を丸めて棒状にしたものを配し,ペーパータオルを巻いてガムテープで固定し,さらにエアークッション及び腰コルセットサポーターを巻いて,胴回りが80㎝となるようにしたもの。
)に対し,感圧紙(圧力の
程度で発色の度合いが変化するシート状のもの。
)を貼り付けた上で,試
験体を上から押さえつけ,尾錠が背面に位置する状態で装着した革手錠のバンドを左側から引っ張った。その際,バンドを引く力は,40㎏,50㎏,胴囲が60㎝に縮むまでの3種類で行ったが,いずれの場合も,右側腹部から前腹部,左側腹部,左側腹部から前腹部の順に,感圧紙が色濃く発色したことなどから,腹部表面に発生する内側に押す力の強さも同じ順番となるとしている。こうした結果について,σは,バンドを巻き付けて締め付けると,曲率の大きい部分に働く垂直に押す力は,曲率の小さい部分と比べて大きくなり,側腹部ほど強くなって(なお,バンドを巻き付け,尾錠で折り返して引っ張ることにより,バンドを左側に引っ張る力が2倍となるが,バンドと胴体の間の摩擦力,前腹部と床にバンドが挟まれて生じた摩擦力により,尾錠が左側腹部に移動することなく,背部に止まって
いると考えられるとする。,背中からの押しつける力も加味して,前記)
順序のとおりの圧力の強さになると考えられるとする。
これによれば,少なくとも,バンドが当たっている腹部表面に発生する内側に押す垂直の外力は,
上記順序により大きくなると認めることができ,
革手錠の施用によって腹部の右側に損傷が偏在していたとしても,Aの損傷が革手錠の絞扼作用によるものである可能性を否定することはできないというべきである。

他方で,σ鑑定では,革手錠絞扼による腹部表面に生じるとする外力の大きさなどについて検討されていない上,飽くまで腹部表面に生じる外力について意見が述べられているものであり,同外力による腹部内部の応力についてまで検討されているものではないことからすれば,革手錠の絞扼作用による腹部の臓器破壊の可能性が明らかにされたものとまではいえない。

(4)前記ι鑑定やσ鑑定によれば,Aの各損傷の原因としては革手錠の施用による可能性が十分に認められる。
他方,上記損傷の原因につき,転倒の可能性はいずれも否定できないものの,Aにおいて保護房内において転倒したり,起きあがっていたことを直接的に示す証拠は見当たらない。そして,Aの受傷状況に照らせば,2回ないしはそれ以上の転倒などを必要とするというべきである(前記ι鑑定)が,少なくとも,Sがモニター画面により監視していた範囲では,Aが保護房内で壁や扉を足げりにしたり,壁にぶつかっていたという記憶はなく,転がっていたということと大声を出していたということの記憶しかなく,立ち上がって徘徊していたということもなかったことなどに照らせば,Aが保護房内で転倒したということはないと認められる。
そして,Aに対し革手錠が施用された後に,Aの死亡の原因となる腹腔内の損傷が生じたことにかんがみれば,Aに対して施用された革手錠による絞
扼作用によってAが小腸間膜損傷等の傷害を負ったと認めるのが相当である。
(5)被告らの主張等について

τ鑑定について
(ア)υ大学大学院医学研究科法医学科教授であるτ教授は,φ大学大学院医学系研究科器官調節外科学教授であるχ及びψ大学医学部法医学講座のω教授を協力者としてAの死因及び機序について鑑定を行い,Aの死因はι鑑定と同様に外傷性ショックとした上で,その機序について,革手錠の絞圧作用によるものではなく,壁や床などの幅の広い鈍体にぶつかるとか,右方へ転倒したことによるものと考えられるとする(以下τ鑑定という。丙27,28)

(イ)しかし,τ鑑定については,その根拠とするところなどについて,ι教授から次のとおり問題点が指摘され,その指摘する内容にはもっともな点が含まれているというべきであって,τ鑑定を直ちに採用することはできない。

過度の緊度での革手錠を機序とする場合について
まず,τ鑑定は,皮下の損傷について,バンドの幅と比較して皮下出血が生じている範囲が広く,革手錠の施用によって生じる皮下出血とは考えにくいとするが,この点は,革手錠が,腹部の離れた部位に対して2回作用したと考えられ,右背部に近い皮下及び軟部組織間出血については,当該皮下組織が比較的疎な構造であり,外力の作用した部位を超え血液が侵潤したとしても矛盾せず,十分説明可能である(甲C54・9頁・11頁,57・93頁)

また,τ鑑定は,皮下出血等の損傷が右側に偏在していることも,革手錠の絞扼による損傷であることを否定する根拠とするが,後記のとおり,革手錠のバンドを左側から引っ張ることにより,右側により
強い外力が作用することからすれば,右側に損傷が偏在していたとしても革手錠の絞扼作用により生じた可能性を否定することはできない(甲C54・10頁)

そのほか,肝鎌状間膜に皮膜下出血が存在しないことについても,胸腔及び腹腔を革手錠で強く絞められ,諸臓器の可動性がかなり制限されているため,腹壁が激しく動いて肝円索が強く引っ張られることにより肝鎌状間膜が損傷する可能性は考えにくい甲C54・19頁,(
57・89頁)


転倒を機序とする場合について
τ教授は,Aが転倒した際,右ひじあるいは上腕部分が右側腹部にくい込むようにして皮下出血を起こしたとするが,成傷器とする右腕は,皮下組織や筋肉におおわれた構造であり,前腕の骨の形状が明瞭に印象されるということは考えにくく,床面への激しい打撲があったはずの右前腕には著明な皮下出血が確認できず,右手背部,特に皮下組織の少ない中手指節関節部や指節関節部に皮下出血が認められないことも不自然であり,右ひじの皮下出血は,左ひじの皮下出血と比較して大きいものであるにもかかわらず,左側への転倒をうかがわせるものはないことなどからすると,右ひじ関節部の皮下出血のみをもって転倒の傍証とするにはあまりに不十分である(甲C54,57・75∼76頁)

加えて,
腹腔内の損傷について見ても,
横行結腸の挫裂については,
同部における腸間膜の血腫の広がりに対して,右腎臓の損傷が著しく少ないと考えられ,右側腹部への打撃によって生じたとするのは不自然である(甲C54・19頁)



丁鑑定
(ア)φ大学高等研究院教授である丁は,革手錠による絞圧作用で腹部臓
器に損傷が生じる可能性はなく,他方,革手錠を装着した状態で転倒すると腸間膜損傷等が生じることがあり得るとする(以下丁鑑定という。丙6の1,丙7,8)
すなわち,丁鑑定では,人体が均一の高分子のゲル体であり,革手錠を腹部に装着して締め上げても,その絞圧作用による力は人体に対して上下方向に変わり,腹部内部に向かっては力がかからないこと,革手錠による絞圧作用は周囲から均等に力が掛かり(静的外力)
,材料は静的
外力に対しては抵抗性が強く,
通常は臓器が破壊されることはないこと,
人が革手錠を締め上げたとしてもその力は500N(ニュートン)くらいであり,その力が小さいことなどから,革手錠による絞扼作用では腹腔内の臓器の損傷が起こることはあり得ないとする。
(イ)a

しかしながら,
丁鑑定では,
実際の革手錠施用の場面においては,

うつ伏せの状態で背部や側腹部などを床に押しつけた状態で,バンドを強く引っ張るなどしており,革手錠施用においては絞扼の力のみが作用しているわけではないという点など,実際の施用の際に腹腔内に生じる種の応力が検討されたものではないし,上記制圧時における他種多様な応力が加わった場合の腹腔内における臓器の移動の可能性についても十分に検討されておらず,腹腔内における応力集中の可能性も否定できない(甲C60・55頁)


また,丁鑑定では,人力で革手錠を締め上げる力を500N(約50㎏)とするが,σ鑑定では平均的な成人男性の背筋力を基準として一人当たりの力を1400N(二人で2800N)とするのに比してあまりにも低い値であり,後記する戊鑑定の際に提供された成人男性2名でバンドを引っ張った際の引張力の値(2082.5N)と比較しても,丁鑑定で使用された引張力の値は適当とはいえない。


さらに,革手錠による絞圧では,材料全体に均一に力が掛かる,つ
まり静的外力が掛かっているとする点についても,前記のとおりσ鑑定において,右側腹部から前腹部の表面において,その他の部分に比して強い外力が掛かるものとされ,後記戊鑑定においても,腹部内部において必ずしも均一な力が掛かっているわけではないとされていることからすると,丁鑑定が革手錠の絞扼時に加わる外力を正確に算定していると評価するにはやや疑問が残る。

以上のことなどからすれば,革手錠の絞圧作用では腹腔内の臓器の損傷が起こることはないとする丁鑑定の意見を直ちに採用することはできない。


戊鑑定
(ア)己大学再生医科学研究所教授である戊は,同大学大学院に在籍する庚と共に有限要素法(考察の対象とする物体を要素と呼ばれる有限個の小領域に分割して,それぞれの領域について力と変形の関係を計算し,物体のどこにどのような力・変形を受けているかを計算する手法。)
による解析を行った結果,バンドの絞圧による腹部圧迫では,腹部内部は損傷しないことが明らかになったとする(以下戊鑑定という。丙14,15の1,2)

すなわち,戊鑑定では,解析座位の人体モデル(身長177㎝,体重77㎏,胴囲90㎝,30代から40代男性を想定。
)に対し,腹部臍
窩部の高さの周囲を幅4.5㎝,厚さ1㎝のバンドを巻き,成人男性が二人掛かりで引っ張った際に想定される引張力の最大値である2940N(約300㎏)がバンドを引っ張り始めてから0.2秒後に生じるものとして絞圧した場合,バンドは約16㎝引っ張られ,正中線を通る臍と背中との間の直径が5㎝圧縮されたが,腹部内部で受傷したとされる錐体右斜め前方部位付近に発生した応力は0.074MPa(メガパスカル)
であり,
人体の小腸及び大腸の破断強度として報告されている0.

47MPaに達しておらず,バンドの絞圧による腹部圧迫では,腹部内部は損傷しないとする(丙14)

(イ)a

しかしながら,戊鑑定においても,実際の革手錠施用の場面にお

ける腹腔内に生じる応力まで検討されたものではないという点は丁鑑定と同様であるし,戊鑑定で使用された有限要素THUMS)では,(
内部臓器の詳細なモデル化はされておらず,実際の人体には各臓器の物性値の違いなどもあることからすれば,戊鑑定をもってしても,複雑な腹腔内の構造において,局所的に応力集中が起こる可能性を排除することはできない。

また,戊鑑定は,革手錠の絞扼作用によって生じる力は,大腸(腸管)の最低破断応力値やそれよりも破断応力値が高い血管の同数値などに至らないとして,革手錠の絞扼作用による腸間膜損傷の可能性を否定している。
しかし,腸間膜は,2枚の漿膜とその間に介在する疎性結合組織から形成され,結合組織中には小腸に分布する血管・神経・リンパ節及び脂肪塊が含まれるものであるのに対し,大腸は,漿膜及び疎性結合組織に加えて,粘膜と筋層(平滑筋から形成されている。
)から形成
されていることから,最低破断応力値も大腸の方が腸間膜よりも高い可能性が十分に考えられる(丙15の2・89∼91頁)
。また,戊
鑑定が血管の破断応力値として参考としたのは肺動脈幹であり,腸間膜の血管の破断応力値は示されていない(丙15の2・96頁)



以上のとおり,有限要素法という解析手法自体の有用性が否定されるものではないが,実際の革手錠施用場面における腹部内部の状況を踏まえた解析がなされたとはいえないことや腸間膜の破断応力値が戊鑑定の値よりも相当程度低い可能性が十分にあることなどからすれば,革手錠の絞圧作用によって腸間膜損傷が起こりえないと断定する
ことはできず,戊鑑定を採用することはできない。

辛鑑定
(ア)壬病院の院長である辛医師は,人の周囲約84㎝前後の腹部を瞬時に約65㎝前後の円周となるように革手錠で緊縛したとしても,バンドと脊椎骨の間で腸間膜が挟撃・圧挫されるほどの腹壁の陥凹は起こらないこと,革手錠で腹部を緊縛した場合に最も荷重のかかる左右両側部と脊椎骨との間に腸間膜は存在しないことから,腸間膜の解剖学的な構造・位置関係からみて,角鉄部分が側腹部にある状態では革手錠の上記程度の緊縛により腸間膜が損傷することは起こりえないとし,角鉄部分が前腹部にある状態で,右斜前方に転倒するなどした場合,革手錠の角鉄部分と脊椎骨との間で腸間膜が挟撃・圧挫されることによって外傷性腸間膜損傷は十分に起こり得るとする(以下辛鑑定という。丙30,50)

(イ)a

しかしながら,辛鑑定では,Aに対する実際の制圧及び革手錠施

用場面の再現がなされているわけではない。すなわち,実際の施用場面においては,うつ伏せの状態で背中から床へと押さえつけられている者の腹部にバンドを巻き付け,尾錠でバンドを折り返して左方向へ左腰部に足を掛けて引っ張るなど,腹部周辺には多方面からそれぞれ違う大きさの種々の力が加えられているのであり,その場合に腹部内部に加わる外力及び腹腔内の状況なども十分に検討する必要があるというべきである。辛鑑定は,そのようなことを考慮せず,単に施用後の腹部内部を再現したCT画像をもって外傷性腸間膜損傷が起こり得ないと即断するものであり,容易に与し得ない。とりわけ,9月事件の際には,Jが原告X5の臀部に乗っていたが,革手錠を強く引いた際にバランスを崩し,原告X5の臀部に乗りながら体制を立て直そうとするなどしており,その際には両足で単に乗っている時と比較すれ
ば,原告X5を押さえつける力が強く加わったことは容易に想定できることである。

また,辛鑑定では,腕輪の角鉄部分が前腹部にある状態で角鉄付近から推体の方向への外力が加わった場合,腸間膜が挟撃されることとなるとする。
しかし,辛鑑定は,腸間膜が挟撃された際の革手錠の腕輪が前腹部に位置することを前提としているところ,前記のとおり,ι鑑定においてAに認められた表皮剥奪の痕跡などから角鉄の位置を把握した点は合理的であり,辛医師が想定するような位置に角鉄が存在したということをうかがわせる痕跡は,
少なくともAの遺体には見当たらない。
また,いったん前腹部に腕輪が位置するとする以上,革手錠を解除する際にも前腹部の位置に腕輪があった可能性を考える必要があり,革手錠の解除ないし締め直しの際の革手錠の一時的な絞扼作用による腸間膜損傷の可能性も存することとなる。


また,辛医師は,腸骨のレベルで革手錠を緊縛すれば,革手錠からの圧力は腸骨でブロックされて,その内側に位置する腸間膜は圧挫されないので,腸間膜損傷は起こらないとする。
しかし,ι教授からは,バンドの当たっている位置から外れた部位に腸間膜損傷が生じる可能性があると指摘されており,その可能性は無視できるものではない。また,そもそも,Aに施用された革手錠が最終的に腸骨のレベルで緊縛されていたとしても,9月事件の際に,刑務官らが爪が穴に入るまで何度もバンドを引っ張っていたことなどにかんがみれば,Aに対する革手錠の施用や解除などの際にバンドを引っ張ったことにより,腸骨のレベルと若干ずれる位置で引っ張られた可能性なども否定できない。


したがって,革手錠の絞扼作用では腸間膜損傷は起こりえないと断
定する辛鑑定を採用することはできないというべきである。

その他参加人らの主張
(ア)参加人らは,ι鑑定が指摘する革手錠の施用位置について,通常,革手錠は,バンドの上縁が肋骨に掛からず,下縁が腸骨に掛からないように施用するのであり,上下やや離れた位置にそれぞれ革手錠が施用されたとするι鑑定が想定するバンドの位置は,実務の運用とかけ離れたものである,バンドの形状及び材質からすれば,バンドは被施用者の身体に水平に装着することしかできず,ι鑑定のような斜めにバンドを施用することはできない,角鉄痕についても,Aが臍窩の高さにバンドが装着された状態で転倒しそうになった際,強く前腕部を伸ばすなどしたため,バンドごと位置がずれて印象されたと考えるのが相当であるとなどと主張する。
しかし,前記のとおり,ι鑑定における角鉄の位置やバンドの状況の推認過程は特段不合理ではない。
また,原告X5に対する革手錠施用の際には,刑務官らは強引に何度も強く引っ張るなどしているが,そのような状況でバンドが必ず腸骨や肋骨に掛からない位置で身体に水平になるように施用されたといえるかは疑問であり,現に,原告X5の腹部にも臍窩から上前腸骨棘の高さにかけてバンドの痕跡と考えられる筋状の擦過傷が認められ,その筋も離れた位置に2本を超えて,しかも水平ではなく,前方(腹部方向)に向かいやや下るように存在するものもある(甲E2)
。この点を踏まえて
検討すると,刑務官らはAに対する革手錠施用の際にも強引に相当強く引っ張るなどしたのであるから,バンドの施用位置が通常の位置と異なることはあり得ることであり,ι鑑定の指摘するバンドの施用位置が不自然であるということはできない。
さらに,前記のとおり,Aに対し,革手錠の最初の施用以外にも,締
め直しが行われていることなどにかんがみれば,各角鉄痕は,革手錠の2度の施用により印象されたものと考えるのが相当というべきである。したがって,参加人らの上記主張は採用することができない。
(イ)参加人らは,回盲部やその付近の小腸間膜根部の血腫については,レントゲン画像に回盲部の圧迫像としてその所見が確認されたのであるから,横行結腸付着部付近や下行結腸付近の腸間膜に挫裂があれば,より大量の出血を伴い,レントゲン画像から読影できるはずであるが,そのような所見が腹腔内の出血部位につき,
Aの腹部レントゲン写真では,
上行結腸,下行結腸及び横行結腸には血液の貯留を疑わせる所見は認められないとして,ι原鑑定が不正確であると指摘する。
しかし,流動性血液がフリースペースの方に出てしまった可能性もあり,血腫の厚さが薄かったことなどからレントゲン写真で読影できなかったことなどの可能性もι教授によって指摘されている(甲C58・39∼40頁)ところ,これらの可能性を否定することはできない。(ウ)参加人らは,ι教授が指摘する出血部位,所見が正確性を欠く,すなわち,甲第52号証添付の写真81から88までは,一連の剖検所見を撮影したものであるが,これらの写真に撮っている小腸間膜の根部,横行結腸付着部付近,下行結腸付近の血腫・血塊は,一体・一塊のものとして,右側腹部から回盲部付近に貯留したものと理解するのが合理的であると主張する。
しかし,ι教授は,自ら執刀した解剖医の立場から,上記各写真を基にして,同写真における他の組織との位置関係,撮影状況などを踏まえて損傷状況を説明しており,その内容が特段不合理であるといった事情は見当たらない(甲C57・29∼30頁・37∼42頁・45∼47頁・112∼114頁など)
。そして,腹腔内の血腫は,一塊の血腫と
して見ることも可能ではあるが,複数の部位からの出血が癒合したとも
評価できるのであり,ι鑑定の説明する損傷部分が不正確であるということはいえない。
したがって,参加人らの上記主張は採用することができない。
(エ)参加人らは,Aが,革手錠の施用により腸間膜損傷の傷害を負ったのであれば,激しい痛みを覚えたはずであるのに,当初の施用時や締め直しの際に痛みを訴えることはしていなかったのであり,革手錠の施用によって腸間膜損傷は生じていなかったと主張する。
しかし,腹部の痛みがあったとしても,刑務官らによる前記各暴行などが行われた後に,Aが同痛みを必ず訴えるとは限らず,現に,原告X5においては,革手錠が解除された際にそのようなことを刑務官には訴えておらず,相当程度の時間が経過した後に腸の痛みを訴えている(なお,参加人らは,午前9時41分54秒の時点で

お腹が痛いです。

と原告X5が発言したとするが,前後の原告X5と刑務官らとのやり取りなどからすれば,同時点では

なんも考えてません。

と発言していると認めるのが相当である。。しかも,当初の革手錠施用時ではなく,)
締め直しの際に腸間膜損傷が生じた可能性も否定できないところであって,締め直しの際にAが悪態をついていたことから上記の可能性が否定されるものともいい難い。
したがって,参加人らの上記主張は採用することができない。
(オ)そのほか,参加人らは,ι鑑定ではAの遺体の損傷のうち,両ひじの損傷について的確に説明できておらず,合理性を欠く旨主張するが,左ひじや右ひじの関節付近は,暴れた時などに皮下出血や表皮剥奪が生じやすい部位であり(甲C57・76∼77頁)
,革手錠により生じた
ものでない可能性も否定できないことに照らせば,これをもってι鑑定が不合理なものということはできない。
6
革手錠の施用と原告X5の傷害結果との因果関係

(1)原告X5の腹腔内の損傷状況
原告X5の腹腔内の損傷状況については,腹腔内における血塊及び1358gもの出血(術中出血も含む。
)の出血部位につき,回腸末端部から約4
0㎝に位置する小腸間膜における2箇所の裂孔の辺縁からじわじわと出血していることによるものであった(外傷性腸間膜損傷)ほか,原告X5には,小腸間膜の裂孔上部及び結腸の後腹膜に血腫が存在しており,回腸末端部付近に2ないし3㎝ほどの間膜(被膜)損傷が認められた。
(甲E3∼5)

(2)検討

原告X5は,二人の刑務官がバンドを引っ張るなどして革手錠が施用されるなどした後に腸間膜損傷という傷害を負っている。
ところで,原告X5は,革手錠が施用された後に保護房内で立ち上がったことはないと供述している(甲E37・118∼119頁)ところ,録画されたビデオ映像に残っている革手錠施用後の原告X5の状況を見る限り,息使いも荒く,およそ立ち上がるような様子はうかがわれず,原告X5の上記供述は十分に信用でき,原告X5が保護房内で立ち上がったことはないと認めることができる。
そして,上記事実や革手錠に施用等による腸間膜を損傷する可能性が十分に認められること,前記革手錠の施用状況や損傷部位が革手錠施用位置と整合することなどに照らせば,原告X5の腸間膜損傷等の傷害は,革手錠の施用によると認めることができる。

イ(ア)なお,原告X5の腹部の傷害結果は,Aのそれとは腸間膜損傷の具体的状況(裂孔かどうか,損傷部位,出血量など)に若干の違いはあるものの,革手錠の施用位置が同じとは限らず,それぞれの革手錠施用時の制圧状況なども全く同じというわけではないことなどに照らせば,前記認定が妨げられるものとはいい難い。
(イ)癸大学教授であり,子病院副院長,外科部長,治験センター長であ
る丑は,原告X5の腸間膜損傷が,右下腹部に局在し,かつ,腹腔内に血液が貯留する程度の損傷であること,
革手錠施用後の原告X5の動静,
すなわち,原告X5は,前記ビデオ録画における中断前の映像においては,腹部の強い痛みに耐えている様子等はないが,中断していた録画が再開した直後の映像では,強い痛みのためか,苦しい表情で痛みを訴える声を出していることなどから,原告X5の腸間膜損傷は,ビデオ録画が中断している間に右下腹部に限局した衝撃性の外力が加わったものであり,革手錠の絞扼作用によるものではないとする(丙17,31)。
しかし,革手錠の絞扼作用によっても右側腹部に強い力が加わる可能性があることは前記のとおりである。また,前記のとおり,ビデオ録画の再開後の映像について,原告X5は,痛みによって大声を出していたわけではなく,足の感覚がまひするなど苦しかったため,助けを呼ぶために叫んでいたと認められることからすれば,映像の中断前後の原告X5の動静の違いをもって,革手錠の施用による損傷の事実を否定することはできないというべきである。
(ウ)したがって,丑教授の前記意見をもってしても,原告X5の腸間膜損傷等の傷害が革手錠の施用から生じたとする前記認定は左右されない。
7
損害
(1)X1事件

認定事実
(ア)原告X1は,18歳のころから32歳ころまで覚せい剤を使用しており,覚せい剤使用による不眠,幻聴,妄想出現の症状のもと,平成11年11月22日を初診日として名古屋刑務所に収容される前までに4回にわたって寅病院において診療を受けたことがある(丙5・38頁)。
また,32歳の時,けんかをして包丁で胸を刺されて以来,その傷の痛
みが現在もある。
(イ)原告X1は,名古屋刑務所出所後の平成14年7月26日,寅病院にてV医師の診療を受け,その後,継続的に同病院を訪れ,主としてV医師より通院精神療法による治療を受けているが,その際話していた内容等はおおむね次のとおりである(甲B11,丙5)


当初の診断書(甲B3)作成までの状況
(a)原告X1は,平成14年7月26日,

神経がたかぶった。それまで強いくすりをもらっていた。現実と空想の区別がつかなかった

知らないうちにけがをする。,,

出所日までは安定。新幹線にのっていたら顔がつっぱった。自分の意識,記憶が薄らいで,自分がどこを向いて歩いているか分からなくなり,駅員にタクシーを拾ってもらい帰宅した。,18歳から32歳までの14年間覚せい剤を継続的に使用していたこと,3年前にけんかで刺されたが,その箇所がいまだに痛いこと,3回刑務所に服役しており,1回目の服役の時にも出所時に今回と同様のことがあったことなどを述べており,V医師は覚せい剤後遺症,不眠症などと診断した。
(b)原告X1は,平成14年8月9日,

人ごみや人目に疲れる。できれば避けたい。,おもしろいことは特にないなどと述べており,

同席していた原告X1の母親からは

大分落ち着いているが,物事を忘れっぽい。,

同じ質問を繰り返す。「よく銭湯に行き,昨日

行ったばかりなのに,一昨日行ったと言う。時間日付がずれる。

などと状況が説明された。
(c)原告X1は,平成14年8月23日,

寝付けない。体を疲れさせるように,神経も使うようにしている。,

午前中,めまい,吐き気があり,たまにおう吐する。

などと述べ,また

PTSDと言われた。刺されてからこういう症状が出ている。

と述べたが,
V医師は,けんかをして刺された出来事と原告X1の精神状態との関連性が薄いと判断し,この時点ではPTSDと診断せず,覚せい剤使用歴があることなどから,覚せい剤精神病と理解していると原告X1に説明した。
(d)原告X1は,平成14年9月6日,

眠れるように落ち着いてきた。,夢は覚えていないことが多いが,

たまに追われる夢を見る。


などと述べた。
(e)原告X1は,平成14年10月4日,

あまり寝られない。寝付きが悪く,午前4時に起きる。一週間に1,2日は眠れる。昼はほとんど寝ていない。

などと述べた。(f)原告X1は,平成14年11月1日,

夢を見る。雑然。あり得ない夢

疲れる。,内容は起きたとき覚えていることがある。,

などと述べた。
(g)原告X1は,平成14年11月22日,

名古屋刑務所での事件について,職員を相手に告発した。,

記者会見した。新聞やNHKの取材。,

弁護士に色々聴取された。,

毎回同じことを聞かれる。嫌な記憶を思い出す。,

全然眠れない。寝ていても汗びっちょり。,AM2-5しか寝ていない。その状態が続いている。,

しゃべっている最中はないが,朝起きると声が出ないことがある。夕方,ほっとして電話しようと思うと声がでない。,

告発したい気持ちがある。弁護団4人くらい。話をしなければならない。,話

を聞いて欲しかった。

などと述べており,この日,V医師に対して,名古屋刑務所において革手錠を施用されたことなどを初めて述べた。
(h)V医師は,平成14年12月10日,原告X1の診断の見直しが必要となる可能性があると感じていたため,心理検査を行ったが,
その結果はおおむね以下のとおりである(丙5・19頁)

生産性の乏しさが認められる。,受検態度は「終始切迫した

状態で,落ち着いて対処できない様子であった。,現実検討力に

ついては

極めて主観性の強い反応が目立ち不十分である。,公

共性についても

常識的な対応に問題が指摘される。,

精神内界は観念内容の乏しさから,外界への関心の狭さなど貧困な印象を与える。,

感情の統合が不良で,情緒は極めて不安定である。

などとされた上で,特徴的な反応内容として,①

動物の死骸が車にひかれた。動物に食い荒らされたもの,頭蓋骨。動物が生き血を吸っている。

など,不快感を伴う解剖・骨反応が出現しており,生命感情の乏しい心気傾向としても理解されるが,敵意・破壊衝動などのニュアンスを感じさせる,②

間の抜けた妖怪が笑っている。進化してる架空の動物。悪魔が生き血を吸っている。

などと非現実的な反応が目立ち,空想的な世界を展開している,③

にらんでいる。怒っている。

など,対象関係における悪い感情が投影されている,などの特徴が見られた。
そして,形態から大きく逸脱する内容ではなく,一定の認知機能
は保持されていると思われるが,主観的な意味づけや感情移入が激しく,原始的な防衛機制も頻発することから,人格障害を示唆する内容となっており,PTSD,覚せい剤後遺症,拘禁反応,疾病利得など他種多様な影響が考えられる。
(i)原告X1は,平成14年12月20日,

あまり寝れない。事件で名古屋行ったり,地検で何時間も話してきた。嫌な記憶を細かく聞かれる。,

吐き気がひどい。

などと述べている。V医師は,同日,原告X1の求めに応じ,診断書を作成したが,
抑うつ,多彩な自覚的訴え,軽度記銘力障害,希死念慮,情緒不安定,自律神経症状,不眠,疲労感,切迫して落ち着かない態度などが持続している。不安や抑うつの原因の特定は困難である。今後,通院服薬を要するが,期間の見込みは不明である。として,病名を混合性不安抑うつ障害」
とする内容の診断書であった甲B3)(。なお,V医師は,混合性不安抑うつ障害は,PTSDの症状の一部ではあるが,PTSDと安易に判断することには慎重であるべきと考えたため,PTSDとは診断しなかったとする。bPTSDの診断書作成までの状況(a)その後,原告X1は,平成15年1月9日,同月23日,同月26日,同年3月13日に診察を受け,同月31日の診察においては,「物忘れがひどい。こと,同年4月28日の診察においては,寝汗をかき,悪夢も見るなどと述べた。
(b)原告X1は,平成15年5月26日,

少し眠れるようになりました。,

夢は見る。寝汗をかく。夢を見て起きてしまうこともある。

と述べており,

死んじゃいたいな。よくなんないなら。今の環境から抜け出せないなら

と思いつめたりすること,予定が入ると逆に苦痛に感じていることなどが診療録に記載されている。
(c)原告X1は,平成15年6月16日,

薬が減って眠れない。早く(午前4時ころ)起きる。

などと述べている。(d)原告X1は,平成15年7月14日,

夜は眠れている。寝汗がひどい。,

裁判を頻繁にやっている。陳述書,検分書送られてきて見ると,また嫌な夢を見る。

と述べている。(e)原告X1は,平成15年8月4日,同年9月1日,同月29日に診察を受け,同年10月6日,V医師は,原告X1から弁護士から言われたとして,PTSDが残ったとする診断書を希望された(診療録では

診断書希望→弁ゴ士からいわれた。PTSDのこった。


と記載されている。。なお,原告X1は,同日の診療においては,)

かぎの音,革ぐつの音,鉄扉の音を聞くと思い出す。手掌発汗,額の発汗,動機,息苦しさあり,気が遠くなる。家のドアもゴムで処理している。,

名古屋弁聞くとダメ,「∼がや∼だを聞,
くとしゃべれなくなる。
」などと述べていた。
V医師は,上記原告X1の求めに応じて診断書を作成することと
したが,原告X1の①現実と空想の区別がつかない(意識混濁
を含む。,②解離性健忘

(けがをしていてその前後のいきさつ
が分からない,エピソード記憶が抜けてしまう,車をぶつけてしまっていたが覚えていない。,③不眠,不安,追われる夢,悪夢,)意識障害,家から出られない④自律N症状,過緊張状態発,汗(手掌,額),動悸,寝汗,⑤心理テスト
記銘力障害

⑥希死念慮,⑦カギの音,皮ぐつの音,鉄扉の音など体験を想起させる刺激にふれると,動悸・発汗,息苦しさ,気が遠くなるなどの症状が原告X1から自然な態度で淡々と語られること,症状を過大にアピールする姿勢が見られないこと,利得を求めての主張もないこと,上記②,④,⑤の症状は当院でも確かめられていること,名古屋刑務所で過ごした時期があること,原告X1によれば,名古屋刑務所で持続的な暴力行為があったとされることなどから,外傷後ストレス障害が最も有力な疾病であると判断し,意識変容,記銘障害により刺激を回避しようとする原告X1の状態はPTSDと診断されるとした。そして,それを前提として,V医師は,白日夢,不眠,不安,意欲障害,自律神経失調症状に加え,体験を想起させる物音(鍵,靴の足音,鉄扉の音)や刺激を回避しようとする行動,回避しきれないときは動機,発汗,息苦しさから解離性健忘まで引き起こされる状態が続き,悪夢,希死念慮も日常的に認められることから,外傷後ストレス障害と診断される。として,病名を外傷後ストレス障害とする内容の診断書(丙5・38頁)を発行した。

PTSDの診断後の診療の状況
(a)原告X1は,その後もV医師などのもとで診療を受けており,その診療録(丙5)には,


PTSDによる摂取不良(食べても吐いてしまいうけつけない)(平成15年12月19日)


ねれないけどねれなくても気にしないようにしてます。(平

成16年6月18日)

ボーとする。人と話したこと約束事,記憶になくなる。,1

wに2∼3回抜けてしまうことがある。,

夜中覚醒,不安(flashback)(同年7月16日)・

ねれないときある。調子はいいです。(同年8月18日)




最近は夜もよく眠れる。その他,著変した。(同年10月


25日)


考えごと多い。神経高ぶる

刑務所の裁判始まる。加害,者の刑ム官みただけで動悸,めまい。起きあがると立ちくらみする。そのままたおれそうになる。(平成17年2月2日)



記憶とぶ。ケータイ手にもちながらケータイさがしている,コンビニにてかいもの,おつりもらって出ていく,品物もたずにいく,よくやる

瞬間的にどこにいるか,なにしているかわ,からないことあり音,革ぐつ,カギの音知らない人場面で使用されていると動悸,めまい,しゃがみこむ
(平成17
年2月23日)


人ごみ
一人ではいかない
カギのガチャガチャするおと
かわぐつの音
日常音に反応せまいへや,こまかい,ものへの思い
エレベーターはだめ付かいだんをつかう

日,キオクがとんでしまう。弁ゴ士さんも何回も確認してくれる。わすれたいのと日付をおぼえたいというきもち。同じ質問くりかえしている。,家々をまわって「僕のお母さんしりませんか

,」
うなされる
1人で大声,いびき知らないうちケガして,いる錯乱状態のとき灰皿や食器で自分の顔…を殴打→今は,ない(平成17年3月25日)


ねれるようになった。食欲も出て来るし

(平成17年6月

3日)
などと記載されている。
(b)そして,上記の間,V医師は,
食欲,睡眠,意識障害中心。ケガ(手や額)をして血を流していても,その前後のいきさつを覚えていない。エピソード記憶が抜けてしまう。外傷体験を想起する刺激を回避しようとする行動,回避しきれないときは自律神経症状から解離性健忘までひきおこされる。ことなどを内容する平成16年10月29日付けの診断書,1)白日夢,(2)外傷を想起させる(活動や状況の回避,(3)(2)にもかかわらず生じる侵入的回想,(4)夢の中で反覆する外傷の再体験,(5)外傷体験想起に誘発される恐怖・パニック,(6)自律神経の過覚醒状態,不眠,不安,抑うつが現在に至るまで継続している。この状態が名古屋刑務所での外傷体験から6か月以内に生じており,名古屋刑務所での体験と因果関係は明白である。ことに解離性健忘は自分や他人の身を危険に晒しかねない重篤な状態である。以上を根拠としてX1殿を外傷後ストレス障害と診断する。との平成17年3月25日付けの診断書を作成している(甲B9)


(ウ)原告X1の活動状況等

原告X1は,平成15年11月21日,本件訴えを提起するに当たり,原告X5と共に記者会見に臨んでいる(丙12)



原告X1は,平成15年6月25日午後7時から午後9時までの予定で名古屋市内の会場で開催されたシンポジウム刑務所をどう変えるか∼受刑者・刑務官の体験をふまえて∼において,受刑者に対する拷問や虐待をなくすために刑務所をどのように変えたらよいかという問題に関し,パネリストとして参加しているところ,同シンポジウムのパネリストとしては刑務官の弁護人とされる弁護士も含まれ
ていた(丙11)



また,原告X1は,平成18年5月下旬ころ,当時三重刑務所で勤務していた被告Y4に架電した。その際,原告X1は,監獄法が改正されて,誰でも受刑者と面会させてくれるようで,三重刑務所に知り合いがおり,面会に行った際に,被告Y4の顔を見させてもらうなどと言った(被告Y4_31頁・71∼73頁)



その後,原告X1は,原告X5の前記平成14年9月25日のビデオを見た後に,MDMAを使用したとし(麻薬及び向精神薬取締法違反)
,それにより実刑判決を受け,横浜刑務所に収容されていた(原
告X1_37∼38頁)


逸失利益
(ア)外傷後ストレス障害は,ほとんど誰にでも大きな苦悩を引き起こすような,例外的に著しく脅威的な,あるいは破局的な性質をもってストレスの多い出来事あるいは状況短時間もしくは長時間に持続するもの)(
に対する遅延した反応として生じる身体精神症状などとされる。
外傷後ストレス障害の症状としては,侵入的回想(フラッシュバック)
,あるいは夢の中での反覆的な外傷の再体験,患者に外傷を思い起
こさせる手掛かりとなるものへのおそれや回避(まれに,外傷あるいはそれに対するもとの反応を突然想起ないし再現させる刺激に誘発されて,恐怖,パニックあるいは攻撃性が,劇的で急激に生じることがある。,過剰な覚せいを伴う自律神経の過覚せい状態,強い驚愕反応,)
及び不眠などが認められる。なお,不安と抑うつは,通常上記症状及び徴候に伴って生じ,自殺念慮もまれではないとされる(甲E55の1)。
そして,外傷後ストレス障害に罹患しているか否かについては,別紙(丙46の414∼415頁)のとおりDMS-Ⅳ及びICD-10といった診断基準が一般的に用いられており,外傷後ストレス障害該当性の診断において参考とされるべきものである。
(イ)本件においては,原告X1は,X1事件による革手錠施用により,外傷後ストレス障害(PTSD)に罹患したと主張し,被告ら及び参加人らはこれを否定する。
原告X1の症状については,V医師により外傷後ストレス障害に罹患している旨診断されているところ,原告X1は,前記のとおり,保護房内において多数の刑務官が関与するもとで複数回にわたり革手錠を高緊度で施用されており,外傷的体験としては,並はずれた驚異や破局的な性質でストレスの強い出来事又は状況であって,ほとんどの人にとって広範な苦痛をもたらすものと評価でき(ICD-10)
,危うく重傷を
負うような出来事を数度自らの身体において体験し,
原告X1の反応は,
強い恐怖等に関するものと評価できる(DMS-Ⅳ)
。また,回避行動
について,V医師は,回避行動を除去することが外傷後ストレス障害の治療になるため,シンポジウムに参加できるのであれば参加するように指示したことから,原告X1がシンポジウムに参加したことは回避行動の症状と矛盾するものではないし,長期間にわたり名古屋刑務所での出来事を訴えなかったことから,原告X1には明白な回避行動が見られた
としており(甲B11)
,その意見自体を否定することもできない。
したがって,原告X1の症状は外傷後ストレス障害と認めるのが相当である。
(ウ)a

もっとも,出所後1年も経たないうちにシンポジウムへパネリス

トとして参加したことは,長時間にわたって,積極的に名古屋刑務所での出来事を話すことになりかねないものであることなどからすれば,たとえ回避行動を除去する治療といえども,外傷後ストレス障害の患者にとって相当の苦痛となるものである。平成18年5月に被告Y4に架電し,加害者とされる者と積極的に話をしていること,名古屋刑務所での出来事を話した時期は,刑務官らを告訴した直後の平成14年11月22日である上,具体的に反応する事項などについて詳細に話がされたことがうかがれるのが約1年弱も経過した平成15年10月6日のことであり,同日は,弁護士からの要望もあり,外傷後ストレス障害の診断書の作成を依頼した時期でもあることなどに照らせば,原告X1が罹患した外傷後ストレス障害が重い症状であったとまでいうことはできない。

そして,原告X1は,名古屋刑務所に服役する前に包丁で胸を刺された経験もあり,それにより外傷後ストレス障害の症状が出ていること,すでに2度の収容経験を有し,1度目の服役の際にも出所時に同様のことがあった旨述べており,覚せい剤使用による不眠及び幻聴などにより診療を受けている。また,原告X1は,名古屋刑務所においても向精神薬を処方されていたことなども併せかんがみれば,外傷後ストレス障害については,名古屋刑務所における革手錠施用等以外にも外傷後ストレス傷害と判断し得る症状を生じさせたとうかがわれる多数の要因があり,その中には上記のとおり名古屋刑務所以外の刑務所を出所した後のことも含まれており,原告X1の症状における名古
屋刑務所の革手錠施用等が寄与した程度が大きいものともいうことができない。

以上のことにかんがみれば,X1事件の第1ないし第4不法行為によって生じた原告X1の外傷後ストレス障害が後遺障害9級10号に当たるとする原告X1の主張は採用することができず,また,これが特定の後遺障害等級に該当するものと確定的に認定することも困難である。
したがって,上記行為によって生じた原告X1の外傷後ストレス障害については,慰謝料の算定に当たり,これを考慮することとする。

慰謝料

400万円

前記のとおり,原告X1は,被告Y4やZ1ら名古屋刑務所の刑務官から,4回にわたり違法に革手錠を高緊度で施用され,うち2回は革手錠施用要件を満たさなかったという理不尽なものである。また,第3不法行為については,保護房収容要件を欠くにもかかわらず,原告X1を2日間にわたり保護房に収容したものであって,2月という季節柄などを考えるとその苦痛は相当のものであったことは想像に難くない。そして,革手錠施用等が原告X1の外傷後ストレス障害の前記症状に寄与していること,その他一切の事情を考慮して,原告X1の精神的苦痛を慰謝するための金額は400万円と認めるのが相当である。

弁護士費用

40万円

原告X1に生じた損害及び本件訴訟の経過,難易度等本件における一切の事情を考慮すると,被告国が原告X1に対し国家賠償法上の違法行為と相当因果関係を有するものとして賠償すべき弁護士費用は損害額の1割に相当する40万円と認める。

小括
以上のとおり,前記X1事件における違法行為によって原告X1に生じ
た因果関係ある損害は440万円と認められる。
(2)5月事件

逸失利益

1356万0278円

(ア)Aは,昭和○○年○○月○○日生まれで,死亡時49歳であり,生前,中学校を卒業後,職業訓練校に入校するなどして,工務店に勤務し大工の仕事をしていたところ,Aが35歳の時,交通事故による脳挫傷等の傷害を負い,
後遺症として足を引きずるような状態となるとともに,
物忘れがひどく,またてんかんも患うこととなり,高所での作業が禁じられるなど大工仕事が満足にできない状態となった。Aは,平成14年4月17日,静岡地方裁判所浜松支部において,器物損壊及び傷害の各罪により懲役1年に処せられているところ(同年5月2日確定)
,その
刑事手続が始まるころは定職にも就いていなかった(甲C50)

これらの事情にかんがみると,逸失利益を算定するに当たっては,基礎収入を平成14年賃金センサス第1巻第1表男性労働者学歴計中卒の45から49歳の賃金505万1700円の5割である年252万5850円とし,生活費控除を50%とし,就労可能年数を18年と認めるのが相当であるが,上記各事情にかんがみると,Aは,死亡時である平成14年5月27日から約1年間は収入を得ることはできなかったものと認められる。
(イ)以上を前提に,ライプニッツ方式により年5%の中間利息を控除すると,逸失利益の額は,1356万0278円となる(252万5850円×(1-0.5)×10.7372(18年のライプニッツ係数11.6895から1年のライプニッツ係数0.9523を控除したもの)。


慰謝料

3000万円

5月事件は,被告Y5,参加人Z1及びその他の刑務官が,名古屋刑務
所刑務官という立場にありながら,革手錠施用要件等を満たさないにもかかわらず,懲らしめる目的で,Aに対し革手錠を施用し,さらに,参加人Z1,参加人Z2,参加人Z3及び参加人Z5が,Aに施用されている革手錠を締め直すなどの行為に及び,多大な肉体的苦痛を与えた末,結果としてAを死亡させたという悪質な事案であり,Aの無念さは計り知れず,Aは極めて多大な精神的苦痛を被ったといえる。
そして,本件の一切の事情を斟酌すれば,その精神的苦痛を慰謝するため金額は3000万円とするのが相当である。

遺族固有の慰謝料

各200万円

原告X2らは,名古屋刑務所に収容された実の兄又は弟であるAが刑務官による前記各行為により突然死亡したというのであり,その悲しみや精神的ショックの大きさは察するに余りあり,5月事件後の刑務官らによる虚偽の再現見分,隠ぺい工作等を踏まえると,遺族自身の精神的苦痛も償われるべきであり,これを慰謝するための金額は1人当たり200万円とするのが相当である。

弁護士費用

500万円

Aに生じた損害及び本件訴訟の経過,難易度等本件における一切の事情を考慮すると,被告国が原告X2らに対し国家賠償法上の違法行為と相当因果関係を有するものとして賠償すべき弁護士費用は前記損害額の約1割に相当する500万円と認める。

小括
以上のとおり,前記5月事件における違法行為によってAに生じた因果関係ある損害の合計は4356万0278円であり,遺族固有の慰謝料及び弁護士費用との合計は5456万0278円となる。
そして,原告X2らそれぞれが請求し得る額は,上記Aに生じた損害を相続分(原告X2らが各7分の2を相続)に応じて計算し,上記慰謝料及
び弁護士費用(原告X2らの按分)を加算した各1611万2460円であると認められる。
(3)9月事件

認定事実
(ア)原告X5は,昭和○○年○○月○○日生まれで,中学校卒業後,いったん就職したが,その後は職を転々とし,平成12年ころには暴力団C幹部も務め(丙20の1)
,恐喝被告事件の刑事手続が始まるころは
定職に就いていなかった(丙4)
。現在は,自動車を4台所有し,レン
タカー業務(自営業)を営んでおり,月収として約20万程度の収入がある(原告_X5_26頁)

(イ)平成12年8月,交通事故により脳挫傷,クモ膜下出血の傷害を受け,2週間入院しているが,
診療票において,事故以来頭痛がある
こと,視力が落ち,外斜位があることについては後遺症との断定はできないとされている(甲E3)

(ウ)a

原告X5は,9月事件により前記のとおり腸間膜損傷などの傷害

を負ったが,名古屋刑務所出所後の平成15年8月6日,腹痛により卯病院に来院し,癒着性腸閉塞症と診断され,緊急入院することとなった。その後,絶飲食,補液による治療を行うなどして,同月14日退院した(丙40)

また,原告X5は,平成15年10月26日,腸閉塞症により卯病院に入院し,絶飲食,補液などによる経過観察を経た上で,同人の強い希望により,同月30日退院した(丙40)

さらに,原告X5は,平成20年1月ころにも,腹痛により入院したことがある(丙40,原告X5_2頁)


なお,原告X5には,辰医師により,平成20年4月9日,平成14年9月25日の開腹術施行後も度々腹痛を伴うことがあり消化管癒
着症と考えられるとの診断,平成20年9月24日,平成15年10月30日の前記退院以降も腸閉塞様の腹痛を繰り返しており,癒着性腸閉塞を今後も起こすことが予想され,重労働により腸閉塞が誘発される傾向にあるため重労働は避けるべきとの診断がされており(丙40)
,癒着性腸閉塞については,完治することはないと言われている
(原告X5_26頁)

(エ)a

原告X5は,平成15年9月25日,弁護士に勧められて,巳ク

リニックにおいて午医師による診療を受けた(初診)が,その際,原告X5は,昨年(平成14年)9月ころからPTSDの症状がある旨診療申込書に記載している。なお,午医師による上記診療を受ける以前に精神科などに通院したことはなかった(丙4,原告X5_60頁)

上記診療等において,原告X5は,

ねていて冷や汗が出たり,シートベルト,ひも状のものがだめ。,寝付けず,

途中で目が覚める。,


平成14年9月25日にしめつけ事件

それ以来汗がでる。,こ,

のまんま死んでしまう恐怖感があった。,全部で6回あった。,こ

の25日がひどかった。,

自分のことを説明しようと思っても言葉に出ないんです。,ベルトに関する恐怖が強い

などと述べており,」

午医師は,同日,「シートベルト,革状のものへの恐怖感,腹痛(事件)の想起,集中困難,不安感,不眠も顕著に認められます。

などとして,原告X5を外傷後ストレス障害(PTSD)であると診断した(丙4)

なお,原告X5は,同日以後,外傷後ストレス障害の治療のために午医師のもとを訪れることはなかった(午41頁)


原告X5は,
廃棄物処理法違反により平成16年5月ころ逮捕され,
その後実刑判決を受けて,刑務所に服役し,平成18年1月ころ刑務
所を満期出所した(丙45,原告X5_68頁)

原告X5は,平成20年11月27日(当審における原告X5尋問前の5日前)
,睡眠剤を多量に服薬し,意識を喪失したため未病院に
搬送されて入院し,同日退院した(丙42)



逸失利益

2307万6912円

(ア)外傷後ストレス障害について
前記のとおり,原告X5に対しては,平成15年9月25日,午医師により外傷後ストレス障害であるとの診断がされているが,被告ら及び参加人らは,原告X5が外傷後ストレス障害に罹患していたことを否認するので,以下検討する。
a(a)まず,原告X5は,前記のとおり,保護房内において多数の刑務官が関与するもとで複数回にわたり革手錠を高緊度で施用され,平成14年9月25日の革手錠施用等により腸間膜損傷という重傷を負う結果に至っており,外傷的体験としては,並はずれた驚異や破局的な性質でストレスの強い出来事又は状況であって,ほとんどの人にとって広範な苦痛をもたらすものと評価でき(ICD-10),
実際に重傷を負うような出来事を自らの身体において体験してお
り,
原告X5の反応は,
強い恐怖等に関するものとも評価できるD

MS-Ⅳ)

(b)また,原告X5は,革手錠で絞められた時のことを思い出して,冷や汗が出たり,腹痛が起きたり,冷感を感じ,食欲が落ちたりし,シートベルト,革状のものへの恐怖感と腹痛が想起されており(午4∼5頁)乱入してきた「フラッシュバック

,生々しい記憶,
繰り返し見る夢,あるいはストレス因に似た状況や関連した状況に曝されたときに体験する苦痛によって,ストレス因の記憶がしつこくよみがえったり,
再体験されたりする。
」という事項(IC

D-10)や

出来事の反復的,侵入的,かつ苦痛な想起で,それは心像,思考,または知覚を含む。,及び「外傷的な出来事が再

び起こっているかのように行動したり,感じたりする」という事項(DMS-Ⅳ)に該当する。
(c)原告X5は,シートベルトや革状のものへの恐怖感があったり,平成15年9月25日当時,元気もなく,無関心という印象も持たれていたり(午5頁)
,当審における原告X5に対する尋問の直前
に睡眠剤の過剰摂取により入院することとなっているなどの事情にかんがみれば,
そのストレス因子と類似または関連する状況からの現実的な回避,あるいは回避を好むことという事項(ICD-10)や,
外傷と関連した思考,感情,または会話を回避しようとする努力外傷を想起させる活動,場所または人物を避けよ,うとする努力外傷の重要な側面の想起不能重要な活動へ,,の関心または参加の著しい減退という事項(DMS-Ⅳ)に該当し,それらが外傷以前に存在していたことはうかがわれない。
(d)さらに,原告X5には,不眠(ほぼ毎日)
,不安感,集中力の低
下が顕著に認められた(午6頁・12頁)ことから,
入眠困難や睡眠(熟睡)困難集中困難という事項(ICD-10)や,,
入眠,または睡眠維持の困難集中困難という事項(DM

S-Ⅳ)に該当し,それらが外傷以前に存在していたことはうかがわれない。
(e)なお,ICD-10には,前記bないしdのすべてがストレスフルな出来事の6か月以内またはストレス期の終わりの時点までに起こっていることが基準とされており,例外的に強い外傷的出来事から6か月以内に起きたという証拠がなければ,一般にはこの診断をくだすべきではないともされており,DMS-Ⅳでも外傷から
症状発生までに6か月が経過した場合には発生遅延として捉えている。
午医師が,原告X5を外傷後ストレス障害と診断したのは,9月
事件(平成14年9月25日)から1年後であるが,前記原告X5の症状(革ベルトに対する恐怖感など)に照らせば,9月事件による革手錠以外の発生要因というのは考えにくいというべきであり,診断が1年後のものであることをもって,原告X5の外傷後ストレス障害該当性を否定するものとはいい難い。
(f)以上のとおり,原告X5が多数の刑務官が関与するもとで高緊度で何度も革手錠を施用され,腸間膜損傷に至ったという極めて強い外傷を体験していること,前記原告X5の各症状などに照らせば,原告X5の症状は外傷後ストレス障害と認めるのが相当である。
b(a)原告X5は,
前記ア(エ)aの診療申込書の症状を回答する欄にP
TSDと回答しているが,もともと弁護士に勧められて午医師の
もとを訪れていることからすれば,PTSDの可能性があることを弁護士などから示唆されていたとしても不自然ではなく,上記記載をしたことをもって,原告X5の症状が信用できないということまではできない。
(b)なお,原告X5は,平成15年9月25日以外に午医師のところを訪れたりしたことはないが,必ずしも外傷後ストレス障害に罹患した患者全員が治療を積極的に受けようとするものではなく,金銭的な問題により受診しなかったこと原告X5_60頁,

午27頁)
が不自然ということはできず,当審における原告X5に対する尋問の直前に睡眠剤の過剰摂取により入院することとなっているなどの事情にかんがみれば,上記事情をもって外傷後ストレス障害を否定することはできない。

(c)そのほか,原告X5は,名古屋刑務所出所後,廃棄物処理法違反の罪により実刑判決となっているが,そもそも,廃棄物処理法違反の行動に至ったとしても,直ちに服役することとなったりするものではなく,一定の手続を履践した上で,初めて服役することとなるのであって,上記行動に至ったことが,外傷と関連した刺激(DMS-Ⅳ)と捉えられるかは疑問であるし,原告X5は,それ以前にも恐喝といった犯罪行為に及んでいることなどからすれば,一定のパーソナリティと捉えることもできる(午31頁)のであり,外傷後ストレス障害の認定を左右するものとまではいえない。

そして,原告X5の症状については,多数の者に囲まれる職業,ベルトを締める職業は困難であるとされること(午7頁)
,前記のとお
り,当審尋問直前に睡眠剤の過剰摂取に至っているなどの事情もあるが,他方で現在ではレンタカー業を営んでおり,回復の傾向も見えることなどにかんがみると,原告X5の外傷後ストレス障害は,日常生活又は就労にある程度支障があるものとして後遺障害等級14級に該当するものというのが相当である。

(イ)癒着性腸閉塞症について
また,原告X5は,前記のとおり,腸間膜損傷に起因して現時点においても癒着性腸閉塞症により入退院及び腹痛を繰り返しており,癒着性腸閉塞症を今後も起こすことが予想され,重労働により腸閉塞が誘発される傾向にあるため重労働は避けるべきとの診断がされるとともに,癒着性腸閉塞症については,完治することはないと言われている。
以上の事情にかんがみれば,原告X5の上記癒着性腸閉塞症は,後遺障害等級9級11号(胸腹部臓器の機能に障害を残し,服することができる労務が相当程度に制限されるもの
)に該当すると認めるのが相
当であり,遅くとも訴え提起時点(平成15年11月21日)には同症
状は固定したものと認めるのが相当である。
(ウ)そして,原告X5は,中学校を卒業した後,職業を転々とし,暴力団に所属していたこともあったが,現在はレンタカー業を営んでいること,上記症状固定時点では31歳であることから,逸失利益を算定するに当たっては,基礎収入を平成15年賃金センサス男性労働者第1巻第1表学歴計中卒の30から34歳の年収398万4700円,就労可能年数は36年と認めるのが相当である。そして,労働能力喪失率については,原告X5の後遺障害が外傷後ストレス障害(14級)と癒着性腸閉塞症(9級)であることから,全体として35%と認めるのが相当である。
(エ)以上を前提に,ライプニッツ方式により年5%の中間利息を控除すると,逸失利益の額は,2307万6912円となる(398万4700円×0.35×16.5468(36年のライプニッツ係数)。)

慰謝料

1000万円

原告X5は,刑務官らから要件を満たすことなく違法に高緊度で革手錠を施用されたことなどにより激しい肉体的苦痛を被るとともに,腸間膜損傷の傷害を負うこととなるなど,9月事件は一歩誤れば生命の危険を生じさせかねない悪質な事案であって,
原告X5には前記各後遺障害が残存し,
とりわけ癒着性腸閉塞症が完治することはないなど重大な結果をもたらしていることなどにかんがみれば,極めて多大な精神的苦痛を被ったということができる。
そして,本件の一切の事情を考慮すれば,原告X5の精神的損害を慰謝するための金額は1000万円と認めるのが相当である。

弁護士費用

330万円

原告X5に生じた損害及び本件訴訟の経過,難易度等本件における一切の事情を考慮すると,被告国が原告X5に対し国家賠償法上違法行為と相
当因果関係を有するものとして賠償すべき弁護士費用は前記損害額の約1割に相当する330万円と認めるのが相当である。

小括
以上のとおり,前記9月事件における違法行為によって原告X5に生じた因果関係ある損害は3637万6912円と認められる。

8
被告個人に対する直接の損害賠償請求の可否
(1)国家賠償法1条1項は,
国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が,
その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には,国又は公共団体がその被害者に対して賠償の責めに任ずることとし,公務員個人は民事上の損害賠償責任を負わないこととしたものと解される(最高裁昭和28年(オ)第625号同30年4月19日第三小法廷判決・民集9巻5号534頁,最高裁判所昭和46年(オ)第665号同47年3月21日第三小法廷判決・裁判集民事105号309頁,最高裁昭和49年(オ)第419号同53年10月20日第二小法廷判決・民集32巻7号1367頁等)

したがって,原告らが,被告個人に対して,損害賠償を請求することはできない。
(2)なお,原告らは,少なくとも故意又は重過失による不法行為の場合に当該公務員個人に対する直接賠償請求を認めなければ,公務員の職務執行に対する責任意識を希薄化させ,国家賠償制度による公務員の職務執行に対する監督機能を失わせることとなる上,民法の一般原則と比しても,公務員を過度に保護するものであり極めて不均衡である上,被害者等の被害感情に著しく反することとなり,また,国家賠償法1条2項が,本来他人の負担すべき債務を支払った場合の求償という用語を用い,公務員に故意又は重過失がある場合には,当該公務員個人が損害賠償責任を負うという理解を前提としているなどとして,公務員の不法行為が国家賠償法1条に該当する場合にお
いて,少なくとも,当該公務員に故意又は重過失が認められる場合には,当該公務員個人も損害賠償責任を免れないと解するべきである旨主張する。しかし,公務員の職務執行に対する監督機能については,公務員に対する直接の損害賠償請求以外に方法がないというものではない。また,損害賠償制度は,被害者の損害の回復をその目的とするところであり,私人に対する責任追及と異なり,被害者としては,国又公共団体から確実に賠償を受けることができる以上,公務員個人に対する直接の損害賠償請求を否定したとしても被害者の損害の回復として欠けるところはない。加えて,国家賠償法1条2項が,国又は公共団体からの求償を定めていることをもって,公務員個人が被害者に対して直接の損害賠償責任を負うことを当然の前提としているとは解されない。
したがって,原告らの上記主張はいずれも採用することができない。9
参加人らの被告国に対する求償債務の存否
(1)5月事件

5月事件につき,参加人Z1,参加人Z2及び参加人Z3が,被告国に対し,求償債務を負うか否かにつき検討するに,上記参加人3名は,Aに革手錠を締め直すなどしており,その施用態様などからすれば,この行為は刑務官の職務執行としての正当性を著しく欠くものである。
このことからすれば,参加人Z1及び参加人Z2については,上記違法な職務執行について故意又は重過失が認められるのは明らかである。

なお,参加人Z3については,平成12年4月に法務事務官となり,平成13年1月から同年3月まで初等科研修を経るなどし(甲C11・5頁)
,5月事件までの刑務官としての経験は約2年程度と比較的浅く,革手錠の施用経験も多くなかったため革手錠施用要件の有無,適正緊度については的確な判断を期待しにくい面があることも否定できない。しかし,いったんは参加人Z1ないし参加人Z2がそれぞれ単独で腰を落として後
ろに体重を掛けてバンドを引っ張っており,少なくとも参加人Z2が引っ張っていたことについては見ているのであって,そのような状況を経た上で,さらに参加人Z3が加わることとなる以上,参加人Z21人では革手錠の施用に困難を伴う程度(緊度)にバンドを絞めようとしていることは容易に想定できる。そして,参加人Z3は,バンドを両手で持ち,参加人Z2と共に二人掛かりでバンドを強く引っ張っており,その際,Aはうめき声を上げており,それにもかかわらず更に強くバンドを引っ張るなどしている。確かに,受刑者が誇張してうめき声を上げている可能性も否定できないが,上記施用態様等に照らせば苦痛によりうめき声を上げた可能性も高いと認識できたといえる。
したがって,参加人Z3についても,前記違法な職務執行について少なくとも重過失は認められるということができる。

以上によれば,被告国は,国家賠償法1条1項に基づき,Aの死亡結果につき前記責任を負うこととなったのであるから,同条2項に基づき,前記参加人3名に対し,求償債権を有することとなる。


なお,5月事件では,求償債務を負う者が2名以上存在することとなるが,求償債務を負う者がすべて故意又は重過失による共同不法行為者(民法719条1項,2項参照)である場合には,民法上,これらの者は発生した損害につき全額を賠償する責任を負担すべきものであり,
そのことは,
公務員が国家賠償法1条2項に基づき求償請求を受ける場合にも異なるものではないから,前記参加人3名は,原告X2らの被告国に対する損害賠償請求権の全額について被告国に対する求償債務を負うものと解される。
(2)9月事件

9月事件につき,参加人Z4,参加人Z1,参加人Z2及び参加人Z5が,被告国に対し,求償債務を負うか否かにつき検討するに,上記参加人4名は,
原告X5に要件を満たさないまま革手錠を施用するなどしており,
その施用態様などからすれば,違法な職務執行につき故意又は重過失が認められるのは明らかであって,その結果,被告国は,国家賠償法1条1項に基づき,原告X5の前記腸間膜損傷等の損害につき責任を負うこととなったのであるから,同条2項に基づき,上記参加人4名に対し,求償債権を有することとなる。

そして,
9月事件においても,
求償債務を負う者が2名以上存在するが,
前記同様,前記参加人4名は,原告X5の被告国に対する損害賠償請求権の全額について被告国に対する求償債務を負うものと解される。

(3)ところで,被告国は,5月事件及び9月事件に関し,国家賠償法1条2項の責任を基礎付ける事実を何ら主張していないが,上記各事件における求償請求権については,参加人らとの関係で,原告X2ら及び原告X5と被告国とは,共同訴訟人に準じる関係にあるといえ,民訴法47条4項,40条1項に基づき,原告X2ら及び原告X5の上記各事件における主張は,被告国のためにその効力を有し,被告国の参加人らに対する求償権を基礎付ける事実として判断の基礎とすることが可能と解されるから,被告国の参加人らに対する求償債権の存在を認めたとしても,弁論主義に反するものではない。ただし,Aには,原告X2らのほか異母姉1人が相続人として存在するところ,同人の被告国に対する遺族固有の慰謝料及び弁護士費用に係る損害については,本件において主張がなく,参加人らが被告国に対して負う求償債務としては認定できない。
まとめ
以上によれば,①被告国は,国家賠償法1条1項に基づき,(a)原告X1に対し,440万円及びこれに対する平成14年2月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務,(b)原告X2,原告X3及び原告X4それぞれに対し,各1611万2460円及びこれに対する平成14年5月27日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害
金の支払義務,(c)原告X5に対し,3637万6912円及びこれに対する平成14年9月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負い,②(a)参加人Z1,参加人Z2及び参加人Z3は,平成14年5月27日,名古屋刑務所保護房に収容されたAに対して革手錠を施用したなどの行為につき,国家賠償法1条2項に基づき,被告国に対し,連帯して,5456万0278円及びこれに対する平成14年5月27日から被告国が上記行為に係る損害賠償債務を支払った日までの民法所定の年5分の割合による遅延損害金と同額の金員の支払義務,(b)参加人Z4,参加人Z1,参加人Z2及び参加人Z5は,平成14年9月25日,名古屋刑務所保護房に収容された原告X5に対して革手錠を施用したなどの行為につき,国家賠償法1条2項に基づき,被告国に対し,連帯して,3637万6912円及びこれに対する平成14年9月25日から被告国が上記行為に係る損害賠償債務を支払った日までの民法所定の年5分の割合による遅延損害金と同額の金員の支払義務を負うこととなる。
結論
よって,原告らの請求は,主文第1項から第3項の限度で理由があるから,その限度で認容し,その余の請求をいずれも棄却することとし,参加人らの請求は,主文第4項及び第5項の限度で理由があるから,その限度で認容し,その余の請求をいずれも棄却することとし,被告国の申立てにより同被告に担保を立てさせて仮執行免脱の宣言をすることとして,主文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第10部

裁判長裁判官

戸田久
裁判官

河村隆司
裁判官

池田好英
トップに戻る

saiban.in