事件番号 | 平成21(行コ)263 |
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事件名 | 指定取消処分取消請求控訴事件(原審・さいたま地方裁判所平成20年(行ウ)第25号) |
裁判年月日 | 平成22年1月21日 |
法廷名 | 東京高等裁判所 |
判示事項 | 児童福祉法24条1項ただし書に基づく保育の実施を行うための家庭保育室委託事業に関し必要な事項を定める要綱に基づいて市長がした家庭保育室の指定を取り消す旨の通知が,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらないとされた事例 |
裁判要旨 | 児童福祉法24条1項ただし書に基づく保育の実施を行うための家庭保育室委託事業に関し必要な事項を定める要綱に基づいて市長がした家庭保育室の指定を取り消す旨の通知につき,同指定は,指定を受けようとする者からの申請により,保育の実施に対する需用の多寡に応じて市長の裁量によって行われるものであるから,指定の要件を満たすからといって,当然指定を受ける権利を有するものではないこと,市長は,前記指定をした場合,設置者との間で委託契約を締結するものとしており,委託者である市と受託者である家庭保育室設置者との間の権利義務関係は,契約による規制が予定されているのであって,前記指定の審査は,契約締結相手の適正を審査する契約締結の準備行為として位置付けられており,前記要綱が定める委託料等の契約内容に属する事項は,契約内容の画一性を担保することを目的としていることからすれば,前記要綱における市と家庭保育室設置者との委託関係は,契約をその本体とし,契約によってその具体的権利義務が発生し,契約の終了も契約法の規律に従うというべきであるから,申請に基づく指定やその取消しは,契約の締結又は解除の準備行為として位置付けられ,公権力による権利義務の設定,剥奪とは法的に異なる性格のものであるとして,前記指定を取り消す旨の通知は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらないとした事例 |
裁判日:西暦 | 2010-01-21 |
情報公開日 | 2017-10-19 14:11:24 |
本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事 第1 実及び理由 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 本件をさいたま地方裁判所に差し戻す。 第2 1 事案の概要 本件は,新座市家庭保育室委託事業実施要綱(以下本件要綱という。に) 基づく家庭保育室の指定を受けていた控訴人が,被控訴人に対し,新座市長が平成20年8月8日付けで控訴人に対して行った家庭保育室の指定取消し(以下本件指定取消しという。が行政事件訴訟法3条2項の処分に当たるとし) て,その取消しを求めたものである。 2 原判決は,本件指定取消しが行政処分に当たらないとして,控訴人の訴えを却下したので,控訴人がこれを不服として控訴をした。 3 争いのない事実等,法令等の定め,争点及び争点に対する当事者の主張は,原判決の事実及び理由中の第2事案の概要の2から5に記載のとお りであるから,これを引用する。ただし,原判決2頁25行目の法令の定めを法令等の定めに,同6頁9行目の2条4項を2条(4)に改める。第3 1 当裁判所の判断 当裁判所も,控訴人の請求は,取り消しを求める対象が行政処分とはいえないから,同請求に係る訴えは不適法で却下を免れないと判断するが,その理由は,以下のとおりである。 2 後掲証拠によれば,次の各事実が認められる。 (1) 被控訴人において, 昭和47年5月17日付け埼玉県民生部長の乳児保 育対策費補助事業の実施について(通知)を受け,昭和50年4月26日,新座市児童家庭保育補助金交付要綱(告示第44号)を設け,家庭保育室に対する補助金の交付金額及び手続を定めた。上記埼玉県民生部長通知では,市町村長が家庭保育室の指定を行うこと,家庭保育室との間で委託契約を締結することが示されているところ,上記要綱では,家庭保育室について,市長に対する申請及び承認の手続の定めがあるが,委託契約等の定めはない。(乙10,11) (2) 埼玉県生活福祉部児童福祉課長は, 市町村保育主管課長宛の平成7年10 月3日付け家庭保育対策事業に係る事務の取扱いについて依頼)を発し,( 乳児等の家庭保育室への入所は,市町村によるあっせんや紹介ではなく,委託の形態により行うこと,市町村長が家庭保育室との間で委託契約を締結すること,運営費等は委託料として交付されるものであるから,その支出科目を委託料とし,要綱の見直しを行うこと等を指示した。 (乙12) (3) 被控訴人において, 埼玉県生活福祉部児童福祉課長の上記依頼文書を受け て,平成8年2月21日,新座市家庭保育室運営要綱(告示第20号)を定め, (1)の新座市児童家庭保育補助金交付要綱を廃止した。 新たな要綱におい ては,家庭保育室の指定とともに受託者と委託契約を締結することとし,家庭保育室への入室児童の要件,入室の申請,決定等の手続が整備された。乙( 13の1,2) (4) 被控訴人において, 平成11年11月18日, 上記新座市家庭保育室運営 要綱の全部を改正し, 新座市家庭保育室委託事業実施要綱告示第218号, ( 本件要綱)を定めた。同改正は,保育者の資格,年齢制限,保育施設の環境,防災設備に関する規定の整備等を行ったものであり,その後,若干の改正を経て現在に至っている。 (甲1) (5) 被控訴人における家庭保育室については, 通常, 認可外保育施設の届出児 ( 童福祉法59条の2)を済ませた施設が,本件要綱に基づいて指定の申請を行い,被控訴人の担当職員が現地調査を行い,要綱に定める基準を満たすと判断された場合には,指定書及び委託契約書2通を送付し,委託契約を締結する。 (乙15,16の1から5,乙17から19,弁論の全趣旨) (6) 家庭保育室の入室を希望する保護者は, 新座市家庭保育事業対象乳幼児認 定申請書に就労証明書等を添付し,希望する家庭保育室を通じて市長に対して申請を行い,市長は,本件要綱7条の要件を満たす場合には,新座市家庭保育室事業対象乳幼児決定通知書を交付するとともに,当該家庭保育室の設置者にその旨を通知する。 (甲1,乙20,21) (7) 家庭保育室の設置者は, 毎月10日までに, 委託料請求書に内訳書を添付 して,前月分の委託料を市長に対して請求し,市長は,請求から1か月以内に委託料を支払う。保護者は,保育料から本件要綱が定める保育料軽減事業に係る委託基準額を差し引いた額を家庭保育室設置者に支払う。乙22,( 2 3,弁論の全趣旨) (8) 家庭保育室設置者は, 市長から乳幼児の保育の委託を受けるが, 認可外保 育施設として,保育事業を行うこともできる。控訴人は,本件指定取消し後も,保育園事業を継続している。 (乙24,25,弁論の全趣旨) 3 以上の事実に基づいて検討する。 (1) 児童福祉法24条1項は, 保護者の労働又は疾病等の事由により, 監護す べき乳幼児の保育に欠けるところがある場合において,保護者の申込みがあったときは,市町村が保育所における保育を行い,付近に保育所がない等やむを得ない事由があるときは, その他の適切な保護を行う義務を定めている。 被控訴人における家庭保育室の制度は,保育所における保育に代わる上記のその他の適切な保護を実施するために設けられた制度である(本件要綱1条) 。 (2) 児童福祉法は,保育所を児童福祉施設の一つとして定め(同法7条),市 町村が保育所を設置するほか同法35条3項)私人が保育所の設置をしよ( , うとするときは,都道府県知事の認可を受けることとしている(同条4項)。 また,認可された保育所以外に,都道府県知事に届け出ることによって,認可外保育施設を設け,保育事業を営むことができる(同法59条の2)被控。 訴人においては,認可外保育施設の設置者について,家庭保育室の指定を行うのを通例としている。家庭保育室の指定により,認可外保育施設において保育業務を営む者は,保育料の軽減措置を取られた保護者の乳幼児を受け入れることが可能となる経営上の利益があるが,保育事業を営むこと自体は,届出をすることによって自由に行うことができる。 (3) 本件要綱に基づく家庭保育室の指定は, 指定を受けようとする者からの申 請によって市長が行うものであるが, 保育所の不足を補うためのものであり, 保育の実施に対する需要の多寡に応じて市長の裁量によって行われるものであるから,家庭保育室の指定の要件を満たすからといって,当然指定を受ける権利を有するものではない。本件要綱による対象乳幼児の認定が,保育に欠ける乳幼児の保護者が市町村に対して保育の実施を求める権利を有するのとはその性格を異にするものといわなければならない。 (4) 市長は, 本件要綱に基づく家庭保育室の指定をした場合, 設置者との間で 委託契約を締結するものとしており,委託者である被控訴人と受託者である家庭保育室設置者との間の権利義務関係は, 契約による規制を予定している。 本件要綱による家庭保育室の指定の審査は,契約締結相手の適格性を審査する契約締結の準備行為として位置付けられているといえるし,被控訴人は複数の家庭保育室との委託契約を予定しているところから,その契約内容の画一性を必要としており,本件要綱が定める委託料等の契約内容に属する事項は, 契約の画一性を担保することを目的としていると解するのが相当である。(5) したがって, 本件要綱における被控訴人と家庭保育室設置者との委託関係 は,契約をその本体とし,契約によってその具体的権利義務が発生し,契約の終了も契約法の規律に従うというべきである。したがって,申請に基づく指定やその取消しは,契約の締結又は解除の準備行為として位置付けられるものであり,公権力による権利義務の設定・剥奪とは法的に異なる性格であると解される。 (6) 家庭保育室の指定を受け, 委託契約を締結した設置者の受託者としての利 益は,委託契約に基づく受託者の契約上の地位として保護されることが予定されており,家庭保育室の指定取消しという本件要綱上の手続は,契約解除の予備的行為と解することができ,これを不利益処分として,行政訴訟における取消訴訟の手続で律さなければならない必然性はないし,その必要性もない。民事訴訟における契約上の地位の確認等の手続によって,委託契約を解除された設置者の保護を図ることで足りるというべきである。 (7) 以上のとおり, 本件指定取消しは, 行政事件訴訟法3条2項の処分ではな いから,その取消しを求める本件訴えは不適法であって,却下を免れない。4 以上の次第で,控訴人の訴えを却下した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第4民事部 裁判長裁判官 稲田龍 裁判官 浅香 紀久雄 樹 裁判官 内堀宏達 |