判例検索β > 平成22年(行ケ)第10081号
審決取消請求事件 商標権 行政訴訟
事件番号平成22(行ケ)10081
事件名審決取消請求事件
裁判年月日平成22年6月29日
法廷名知的財産高等裁判所
裁判日:西暦2010-06-29
情報公開日2017-10-19 14:02:48
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平成22年6月29日判決言渡
平成22年(行ケ)第10081号審決取消請求事件
口頭弁論終結日

平成22年5月11日
判決
原告


訴訟代理人弁護士

中村

誠一


近藤

誠一


千川原

公一

被告

ジャス・インターナショナル株式会社

主文1
原告の請求を棄却する。

2
訴訟費用は,原告の負担とする。

3
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。

第1

実及び理由
請求
特許庁が取消2008-301078号事件について平成21年10月29日
にした審決を取り消す。
第2

当事者間に争いのない事実

1
特許庁における手続の経緯
原告は,別紙本件商標目録記載の登録第768139号商標(以下本件商標という。)の商標権者である。被告は,平成20年8月27日,特許庁に対し,本件商標につき商標法50条1項に基づく不使用による商標登録取消審判(取消2008-301078号事件)を請求し(以下,この請求を本件取消審判請求という。),平成20年9月11日,その請求の登録(以下本件予告登録という。)がされた。
特許庁は,平成21年10月29日,

登録第768139号商標の商標登録は取り消す。

との審決をし,その謄本は,同年11月9日,原告に送達された。
2
審決の理由
審決の理由を要約すると,以下のとおりである(別紙審決書写し参照)。
(1)被請求人(原告)は,通常使用権者であるパワーボム及びファインプラスが本件商標と社会通念上同一の商標を使用していると主張し,乙1ないし8(審判時の証拠番号)を提出する。しかし,本件予告登録前3年以内に日本国内において商標権者,専用使用権者,通常使用権者のいずれかによって本件商標がその指定商品について使用された事実の証明がされたと認めることはできない。すなわち,①乙2及び6(審判時の証拠番号)は,署名や日付の記載がないことや,契約書に記載された商標登録番号が本件商標の登録番号ではないことから,被請求人(原告)とパワーボム又はファインプラスとの間の本件商標に係る使用許諾契約書であると認めることができず,他にパワーボム又はファインプラスが本件商標について通常使用権を有していたことを認めるに足りる証拠がない。また,②乙3,4,7,8(審判時の証拠番号)によれば,確かに商品ティーシャツ又はトレーナーについて,使用商標1(その構成は,別掲(1)),使用商標2(その構成は,SmileyWorldの文字を横書きするもの),使用商標3(その構成は,別掲(2))及び使用商標4(その構成は,スマイリーワールドの文字を横書きするもの)
が使用されていると認めることはできる。
しかし,
使用商標1ないし4は,本件商標と社会通念上同一の商標であるとはいえない。すなわち,使用商標1ないし4は,いずれもSmiley又はスマイリーとWorld又はワールドの各文字が同じ書体で表され,一方が他方よりも看者の注意を強く引くような態様で表記されることもなく,外観的特徴において差異がないことから,構成全体をもって一体のものとして認識され,殊更Smiley又はスマイリーの文字部分のみが切り離されて認識されることはなく,その構成文字に相応して生ずるスマイリーワールドの称呼もよどみなく一連に称呼し得るものである。そして,使用標章1ないし4の構成全体からはにこやかな世界又はスマイルマークの世界といった観念を生ずる。そうすると,使用標章1ないし4は,その構成全体をもって,一体不可分のものとして認識し,把握されるというべきである。したがって,使用標章1ないし4は,スマイリーの文字からなる本件商標とは,World又はワールドの文字の有無の差異により,
外観,
称呼及び観念において明らかに相違するものであるから,
本件商標と社会通念上同一の商標であるとは認めることができない。さらに,
③パワーボムのウェブサイトの写しと認められる乙4及び乙8(審判時の証拠番号)は,本件審判の請求の登録後である平成21年6月16日にプリントアウトされたものと認められ,本件審判の請求の登録前3年以内における本件商標の使用の事実を立証するに足りない。その他,本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において,商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれかによって本件商標がその指定商品について使用されていることを示す証拠はない。
(2)また,本件商標の不使用について正当な理由があるとはいえない。すなわち,被請求人(原告)は,①請求人(被告)が,被請求人(原告)との間で本件商標以外の商標に係る専用使用権設定契約(以下「本件専用使用権設定契約」という。)を締結していたから,
その間は事実上,
本件商標を自ら使用
することができず,また,本件専用使用権設定契約が平成16年10月30日に終了した後にも,請求人(被告)がその登録抹消に直ちに応じなかったから本件商標を使用することができなかった,②そして,実際にその専用使用権の登録抹消がされた平成19年5月9日から本件予告登録日までのわずかな期間内に,海外在住の原告が日本国内において新たにライセンス契約を締結して本件商標を使用することは,不可能であった,③また,請求人(被告)は,前記の専用使用権設定登録の抹消から約1年後の平成20年5月15日時点においても,自社のホームページ上において自らスマイリー・フェイス商品化代理人を名乗り,本件商標に関して,所有又は

専用使用権を得ている。

などとして,権利関係を混同させるような言動を続けていた(甲47)。④よって,本件商標の不使用については正当な理由がある,と主張する。しかし,被請求人(原告)の主張は理由がない。すなわち,商標法50条2項所定の正当な理由があることとは,地震,水害等の不可抗力によって生じた事由,放火,破壊等の第三者の故意又は過失によって生じた事由,法令による禁止等の公権力の発動に係る事由等,商標権者等の責めに帰すことができない事由(以下不可抗力等の事由という。)が発生したために,商標権者等において,登録商標をその指定商品又は指定役務について使用することができなかった場合をいうものと解される。そうすると,被請求人(原告)が主張する前記理由は,被請求人(原告)が自らの自由な意思に基づく選択によって締結した契約に起因していることであるから,そのような当事者間の契約を原因とする事情をもって,不可抗力等の事由に当たるとはいえない。また,甲47(平成20年5月15日当時のホームページ)の左下部の記載は,インターネットのURLであるとは認められず,特定のコンピュータに記録されたホームページのデータであると解されるから,これをもって平成20年5月15日当時に請求人(被告)がホームページ上で営業活動妨害行為をしたと認めることはできない。よって,被請求人(原告)の本件商標の不使用について正当な理由があるとはいえない。
(3)請求人(被告)による本件取消審判請求は,信義則違反・権利濫用には当たらない。この点について,被請求人(原告)は,本件商標を唯一使用することができた請求人(被告)が本件商標を適切に使用せず,また使用できない状態の継続に深く関与しているにもかかわらず,自ら不使用取消審判を請求することは,信義則に反して同審判制度を悪用するものであり,権利濫用として許されない旨主張する。しかし,被請求人(原告)の主張は理由がない。すなわち,商標法50条1項が何人も登録商標の不使用取消審判を請求することができる旨を規定していることからすると,請求人(被告)による本件取消審判請求が専ら被請求人(原告)を害することを目的としていると認められる特段の事情がない限り,当該審判請求を違法なものとすることはできない。これを本件についてみるに,本件専用使用権設定契約は平成16年10月30日に終了しているから,それ以降に請求人(被告)が本件商標について専用使用権を有することはあり得ず,本件予告登録日(平成20年9月11日)
前3年以内に本件商標を適切に使用しないとの被請求人
(原
告)の主張は,理由がない。また,使用できない状態の継続に深く関与していると被請求人(原告)が主張する事情は,本件取消審判請求の対象外の商標についてその専用使用権設定登録の抹消を遅滞させたとの事情であるから,本件商標の不使用とは関係がない。以上に照らすと,請求人(被告)が被請求人(原告)を害する目的で本件取消審判請求をしたものであると認めることはできず,本件取消審判請求が信義則違反・権利濫用に当たるとはいえない。
第3当事者の主張
1審決の取消事由に係る原告の主張
審決には,(1)不使用に係る正当な理由を認めなかった判断の誤り(取消事由1),(2)本件取消審判請求が信義則違反,権利濫用に当たらないとした判断の誤り(取消事由2)がある。
(1)取消事由1(不使用に係る正当な理由を認めなかった判断の誤り)本件商標の不使用については,以下のとおり,正当な理由がある。ア
原告は,平成12年10月30日,本件商標の管理権を与えていたスマイリー・ライセンシング・コーポレーション(現在のスマイリーワールド・リミテッド。以下SLC社という。)を代理人として,被告との間で,契約締結後に登録されるものも含む原告所有に係る商標(後に登録された本件商標も含まれる。)について,契約期間4年の約定で再許諾権を含む専用使用権を設定する旨の本件専用使用権設定契約を締結した(甲42)。その際,被告は,本件商標以外の前記商標について,その契約期間4年を上回る10年を存続期間とする専用使用権設定登録(以下本件専用使用権設定登録という。)の同意書を原告(代理人SLC社)に対して送付し,契約期間を4年とする登録の同意書であると原告(代理人SLC社)を誤信させてその同意書に署名をさせ,平成12年12月20日,事実に反して契約期間を10年とする専用使用権の違法な設定登録をした。


そして,本件専用使用権設定契約は,平成16年10月30日の契約期間満了時に更新契約がされなかった上,再三にわたる原告からの本件専用使用権設定登録の抹消要求にもかかわらず,
被告は平成19年1月9日
(甲
50)まで本件専用使用権設定登録の抹消に同意せず,実際に抹消登録をしたのは,同年5月9日であった。


さらに,被告は,平成20年5月15日の時点において

本件商標については被告が所有しており,また,その専用使用権を得ている。

旨の虚偽の事実を被告のインターネットのホームページ上で広告するという,原告に対する営業活動妨害行為をしていた(甲47)。
なお,甲47のホームページを印刷した書面は,K弁護士が平成20年5月15日当時にインターネットで閲覧し,瑕疵なくプリントアウトするため,自己のパソコンのプリント・スクリーンに一度取り込んでから印刷したものであり,弁護士倫理に反して証拠操作をしたようなものではないから,甲47の信用性を否定した審決の判断は誤りである。

このように,原告は,本件専用使用権設定登録が残っていたため,本件商標の使用許諾契約を締結しようとしても,契約交渉の相手方から本件商標の通常使用権許諾契約の締結を拒絶された。また,本件専用使用権設定登録が抹消された平成19年5月以降においても,前記ホームページ上の営業活動妨害行為を受けていたほか,本件取消審判請求がされた平成20年8月27日まではわずかな期間しかなかったことから,外国在住の原告が新たにライセンス契約を締結することは,不可能であった。


以上のとおり,原告が本件予告登録前3年以内に日本国内において本件商標を使用することができなかったのは,被告が,期間を10年とする違法な本件専用使用権設定登録をしたほか,本件専用使用権設定登録の抹消拒否による使用妨害行為,ホームページ上で営業活動妨害行為をしたことに原因があるから,本件商標の不使用については商標法50条2項にいう正当な理由がある。その正当理由を認めなかった審決の判断は,誤りである。

(2)取消事由2(本件取消審判請求が信義則違反,
権利濫用に当たらないと
した判断の誤り)
本件取消審判請求が信義則違反,権利濫用に当たらないとした審決の判断は,次のとおり誤りである。

被告は,前記のとおり,本件専用使用権設定契約の更新を原告から拒絶されたことから,原告に報復し,原告の利益を害することを目的として,ホームページ上で営業活動妨害行為をし(甲47),本件取消審判請求をしたから,そのような請求は,信義則違反,権利濫用に当たる。


また,
公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標に関する商標法4条1項7号の適用に関しては,
特定の商標の使用者と一定の取引関係その他特別の関係にある者が,その関係を通じて知り得た相手方使用の当該商標を剽窃したと認めるべき事情があるなど,当該商標の登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり,その商標登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合も,この規定に該当すると解するのが相当である。とされている(東京高等裁判所平成16年(行ケ)第7号平成16年12月21日判決参照)。この法理は,商標法50条による商標取消審判請求にも適用されるべきであり,
本件取消審判請求
は,
本件専用使用権設定契約を締結していた被告が,
前記のとおり違法な本
件専用使用権設定登録並びに信義則違反及び権利濫用による行為により2年6か月余にわたって原告による本件商標の使用を妨害した上で,不使用期
間3年の経過を待って商標法50条1項により本件商標の登録取消審判請求をしたものである。
よって,
被告による本件取消審判請求は,
商標法の予定する秩序に反する
ものとして到底容認し得ない場合に該当するから,
信義則違反又は権利濫用
に当たるものとして,許されない。
ウなお,
被告が前提となる背景事情として述べる事実関係は,
否認又は争う。
2
被告の反論

(1)取消事由1(不使用に係る正当な理由を認めなかった判断の誤り)に対しア
前提となる背景事情

(ア)

原告は,スマイル・マークの著作者ではないこと

原告は,1971年にスマイル・マークを自ら創作,著作したと公言している。しかし,原告は,仏国のフランス・ソワール紙が1970年当時にスマイル・キャンペーンを行った際のスマイル・マークを盗用して,その商標登録をした者にすぎず,著作権者ではない(乙38の1及び2,乙39,乙40,乙41の1及び2)。なお,1968年ころ原告を含む3人のフランス人が,アメリカ旅行をした際にスマイル・マークを見て,帰国後に3人の名前でフランスでの商標登録の出願をしようと約束したが,原告が単独でスマイル・マークの商標登録出願をした旨のレポートの記載がある(乙45,49頁)。
また,原告は,すべてのスマイル関連商標について,米国特許庁
により拒絶されている。
さらに,原告は,米国People誌において,

自分はスマイルを創作した事はなく,商標登録をしただけである。

旨告白している(乙49)。
(イ)

米国人Hがスマイル・マークの著作者であること

スマイル・マークは,1963年に米国人Hが創作,著作したものである。スマイル・マークが創作・著作された経緯は,Hの故郷である米国マサチューセッツ州ウスター市の2つの保険会社が合併する際,両社の社員の融合を図るために保険会社副会長が,当時ウスター州でグラフィック・デザイナーをしていたHにバッジやカード,ポスター等に使える小さなシンボルマークの制作を依頼した。Hは,同依頼に基づきスマイリー・フェイスを制作した(乙10の1及び2)。当初,同保険会社は,バッジを顧客に配布していたが,バッジの人気が全米に広
まり,米国民1億人の胸にスマイル・バッジが着けられた。2001年4月12日,Hが死去したときには,全世界の新聞でスマイルの生みの親の死去として紹介された(乙18の1及び2)。ハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団又は有限会社ハーベイ・ボール・スマイル・リミテッドは,スマイル・マークの基本マーク(DESIGNEDBYHARVEYR.BALLUSA1963と一体となったもの)等104件について米国で商標登録をし(乙8),我が国でも834件の本件商標及びその関連商標についての商標登録をし(乙7),126件の著作物について著作権登録をしている(乙6)。
(ウ)

日本でのスマイリー・フェイスの登場

日本では,1970年(昭和45年),ニコニコ・マーク,ラブ・ピースの大流行とともに,スマイリー・フェイスの人気が高まった。文具メーカーが,スマイル・マークを使用し,文具等の企業26社がラブ・ピース・アソシエーションを作り,大規模な共同宣伝を行った(乙21)。その結果,人気が高まり,スマイル・マークは,知らない者がいないほど著名になった(乙20)。ニコニコ・マークの大流行は,当時のアメリカを訪問した文具メーカーの担当者がアメリカの大流行を真似したものであり,それもHの功績であるといえる。(エ)

原告の日本での権利主張

他方,原告は,平成9年ころ,来日し,当時の代理人であった株式会社イングラム(以下イングラム社という。)と共同で記者会見
を行い,

スマイルは自分が『著作権』と商標権を有している。

無断使用者には断固たる処置を行う。

旨宣言し,同時に平成9年2月11日付け及び同年4月10日付けの日本経済新聞において,私を勝手に使わないで!などとする全面広告による警告を行った(乙42の1及び2)。
そのため,スマイル商標を使用していた日本の企業約30社は,原告に対して,多額の支払を余儀なくされ,共同広告まで強要された(乙43,乙44の1及び2)。
イングラム社は,平成10年,株式会社エフエム東京に対し,

原告及びイングラム社が,詐欺ビジネスを行っている。

旨の放送が営業妨害又は信用棄損に当たると主張して,損害賠償等を求める訴訟を提起した。2審の東京高等裁判所は,平成12年1月19日,原告はスマイル・マークの創作者でも著作権者でもなく,スマイル・マークの商標権を有しておらず,『国際的詐欺ビジネスの様相を見せ始めている』と形容することも,あながち不当ではないなどと指摘して,イングラム社敗訴の判決を言い渡し(東京高等裁判所平成11年(ネ)第5027号事件),これが広く新聞報道された(乙38の1及び2)。
(オ)

被告と原告との本件専用使用権設定契約の締結

被告は,既にハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団とのライセンス契約に基づくスマイル商品化事業を文房具等を中心として
行っていた。しかし,被告は,イングラム社と原告との代理人契約の終了により困窮したライセンシーの混乱を収拾し,ハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団をライセンス元とする前記
スマイル商品化事業
に対する原告からの妨害を排除して,スマイル商品化事業を維持発展させるため,平成12年10月30日,被告との間で,契約期間を4年間とする独占的使用権(再許諾を含む。)を設定する契約(本件専用使用権設定契約)を締結した。

違法な本件専用使用権設定登録及び本件専用使用権設定登録の抹消拒否による使用妨害行為が存在しないこと
(ア)

被告は,専用使用権設定登録における存続期間については10年とすることについて,原告に説明して,その同意を得ていた。すなわち,専用使用権設定登録については,その手続の煩雑さ,費用負担その他を考えて,
商標権の存続期間を10年にするのが業界の常識であり,
本件専用使用権設定登録もそれに従ったにすぎない。よって,違法行為はない。
(イ)

被告は,本件専用使用権設定契約の更新を懇願したにもかかわら

ず,原告から一方的に更新を拒絶され,本件専用使用権設定契約は,平成16年10月30日の期間満了により終了した。その専用使用権の登録抹消が遅れたのは,原告から平成19年まで要請がなかったため失念していたものにすぎない。
(ウ)

また,本件商標はスマイルに係る文字商標であり,本件専用使用

権設定登録がされたスマイルに係る図形商標とは,
全く関係がないから,
本件専用使用権設定登録が期間満了後も残存していたとしても,原告が本件商標を使用することについては何ら支障がなかった。よって,本件専用使用権の設定登録の残存は,本件商標の不使用についての正当な理由にはなり得ない。
さらに,前記商標の相違の点を除いても,本件専用使用権設定契約が期間満了により終了している以上,本件専用使用権設定登録が残存した状態でも原告が第三者と通常使用権許諾契約を締結することは可能であった。実際にも,原告は,本件専用使用権設定契約が平成16年10月30日の期間満了により終了した後,
LICENSINGASIA2006・2007に出展し,本件商標を使用するライセンシーを探していた。したがって,本件専用使用権設定登録が抹消されなかったことと,
本件商標が使用されなかったこととの間には因果関係が存在しない。(2)取消事由2(本件取消審判請求が信義則違反,
権利濫用に当たらないと
した判断の誤り)に対し
前記のとおり,原告は,スマイル・マークの創作者ではなく,著作権者でもなく,スマイル・マークの商標権を有しておらず,『国際的詐欺ビジネスの様相を見せ始めている』と形容することも,あながち不当ではないなどとする東京高等裁判所の判決言渡しを受けた経緯がある。原告が,スマイル・マークのライセンス事業を拡大できないのは,そのような事情が原因である。何人も商標不使用取消請求をすることができるとの制度の下で,そのような事情によって使用されていない商標に対して,被告が商標の不使用取消請求をすることが信義則違反や権利濫用に当たる余地はない。
第4
1
当裁判所の判断
取消事由1(不使用に係る正当な理由を認めなかった判断の誤り)について原告は,本件予告登録前3年以内に日本国内において本件商標を使用することができなかったのは,被告による違法な本件専用使用権設定登録,その登録抹消拒否による使用妨害行為,ホームページ上での営業活動妨害行為があったためであるから,本件商標の不使用については,商標法50条2項にいう正当な理由がある旨主張する。
しかし,原告の主張は,理由がない。以下,その理由を述べる。
(1)

事実認定

各証拠によれば,以下の事実が認められる。

日本においては,昭和45年ころから,アメリカで既に大流行していたスマイル・マークに似たニコニコ・マーク,ラブ・ピースが流行
した(乙20,21)。


その後,
同マークの流行は収まったが,
被告は,
米国では米国人Hが
スマイリー・フェイスの創作者であるとされていたことから,平成10年以降,米国のハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団をライセンス元とするスマイリー・フェイスのライセンス契約を締結し,許諾されたスマイリー・フェイスに関するサブ・ライセンス契約を締結し(乙56の1及び2),現在まで,日本における同マークの商品化事業を継続してきた。


他方,フランス人である原告は,平成9年ころ,来日し,当時の代理人であったイングラム社と共同で記者会見を行い,イングラム社は,平成9年2月11日付け及び同年4月10日付けの日本経済新聞において,

スマイルマークは登録商標です。

私を勝手に使わないで!

日本においてスマイルマークを使用される場合は,X氏及び弊社の事前承認が必要となります。

などとする全面広告による警告を行った(乙42の1及び2)。
その後,当時のイングラム社について

詐欺ビジネスを行っている。

旨放送したエフエム東京に対し,イングラム社は,営業妨害又は信用棄損に当たるとして東京地方裁判所に提訴したが,2審(東京高等裁判所平成11年(ネ)第5027号事件)において,平成12年1月19日,敗訴判決の言渡しを受けた。同判決は,①原告は日本においてスマイル・マークの出願をしている者にすぎず,第三者に対して差止請求をし得る商標権者ではなく,スマイル・マークの創作者でも著作権者でもない,②原告がスマイル・マークの創作者,著作権者であり,スマイル・マークが登録商標であるなどとする広告内容は虚偽であり,イングラム社の許諾なしにスマイル・マークを使用することができないことを前提として,イングラム社が,同人との間でライセンス契約を締結するよう宣伝することは,原告の詐欺的商法に加担したと言われてもやむを得ない,③原告又はイングラム社の商法について国際的詐欺ビジネスの様相を見せ始めていると形容することも,
あながち不当ではないというべきであるなどと判断し,
イングラム社の請求を棄却した(乙38の1及び2)。

被告は,イングラム社と原告との間の代理人契約が終了したことにより困窮した数多くのメーカーを,ハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団をライセンス元とする前記スマイル商品化事業に取り込み,併せて同事業に対する原告からの妨害を排除するため(乙55),平成12年10月30日,本件商標を含む原告名義の商標権の管理を委託されていたSLC社(代表者原告)との間で,契約書添付の一覧に示す原告名義のスマイル・マーク商標について,

添付の一覧に記載のない現存の商標,およびSLCが本契約の調印後に登録する商標は,いずれも自動的に同一覧に含まれる。

との特約の下に,契約の有効期間を契約執行の日付けから4年間とし,許諾地域を日本とし,対象商品を商標権の全指定商品として,被告に対して独占的権利(再許諾権を含む。)を設定する旨の本件専用使用権設定契約を締結した(甲42,弁論の全趣旨)。

本件専用使用権設定登録
スマイルマークに係る図形商標
(例えば,
登録第4383223号商標)
については,平成13年2月8日,期間満了日を平成22年5月19日とする本件専用使用権設定登録がされた(乙54,弁論の全趣旨)。他方,スマイルに係る文字商標である本件商標については,本件専用使用権設定契約の対象には含まれるが,その専用使用権設定登録はされなかった。

本件専用使用権設定契約は,
被告が契約更新を希望したにもかかわらず,
原告がこれを受け入れなかったため,4年の契約期間の満了により平成16年10月30日に終了した。


本件専用使用権設定契約の終了から約2年半後である平成19年5月9日に,本件専用使用権設定登録が抹消された(乙54)。


他方,原告は,平成18年と平成19年に,日本国内外の企業が著作物や商標権を展示して商談を行う
LICENSINGASIA2006
又はLICENSINGASIA2007に,それぞれ権利者として出展し,本件商標の商品化事業を行う相手先の日本企業を探す等の営業活動をした(乙57)。

(2)判断
上記認定した事実に基づいて検討する。

専用使用権の違法な設定登録行為について
以下のとおり,被告が違法な本件専用使用権設定登録をしたとの原告の主張事実を認めることはできない。すなわち,①被告と原告との間の専用使用権の登録における満了日が,当初の契約期間満了日より遅い期限とされていることについては当然に原告(代理人SLC社)が知り得る事項であったにもかかわらず,特に異議を留めずに原告が各登録手続に協力して登録が完了していること,②本件専用使用権設定登録の抹消を合意した原告と被告との間の平成19年1月9日付け和解契約書(甲50)及びそれに先立つ専用使用権抹消登録申請のご協力のお願いと題する被告あての書面(乙58)においても,被告が原告を欺罔して無断で存続期間10年の長い設定登録をしたことをうかがわせるに足りる記載がないことに照らせば,原告は,当初の契約期間である4年よりも長い存続期間を想定した登録を了解していたと推認するのが合理的である。よって,登録期間満了日が実際の契約期間満了日より後の日付とされたことをもって,被告が原告を欺罔して違法な専用使用権の設定登録行為をしたと認めることはできない。その他に前記原告主張事実を認めるに足りる証拠もない。イ
本件専用使用権設定登録の抹消拒否による使用妨害行為について
また,被告が本件専用使用権設定登録の抹消を拒否し,本件商標の使用妨害行為をしたとの原告の主張事実も認めることはできない。すなわち,本件専用使用権設定登録の抹消を合意した前記和解契約書(甲50)及びそれに先立つ専用使用権抹消登録申請のご協力のお願いと題する被告あての前記書面(乙58)においても,専用使用権の登録抹消が平成16年10月30日の契約終了時から約2年半遅れたことについて,被告に原因のあることをうかがわせるに足りる記載はないから,単に登録抹消が遅れた事実をもって,被告が本件専用使用権設定登録抹消を拒否して本件商標の使用妨害行為をしたと認めることはできない。また,その他に前記原告主張事実を認めるに足りる証拠はない。
また,そもそも本件商標はスマイルに係る文字商標であるから,スマイルに係る図形商標についてされた本件専用使用権設定登録が期間満了後に残存していたとしても,原告が本件商標を使用することについては事実上も何ら支障がないはずである。よって,本件専用使用権設定登録の抹消拒否(登録残存)は,本件商標の不使用についての正当な理由にはなり得ない。

ホームページ上での営業活動妨害行為について
さらに,被告が平成20年5月15日当時の被告ホームページ上で本件商標を所有し又はその専用使用権を有するかのような営業活動妨
害行為をしているとの原告主張事実を認めることもできない。すなわち,file://C:―DOCUME~1―AE9E3~1.KAR―LOCALS~1―Temp―4LVDJ3A8.htm(甲4
7左下欄)の記載からすると,それがインターネットのURLであると認めることはできず,むしろ前半部のfile://C:―DOCUME~の記載からすれば,特定のコンピュータに記録されたホームページのデータであるものと推認される。この点について,原告は,当時の代理人弁護士がホームページを瑕疵なくプリントアウトするため,自己のパソコンのプリント・スクリーンに一度取り込んでから印刷したものであると主張する。しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,インターネットのホームページを裁判の証拠として提出する場合には,欄外のURLがそのホームページの特定事項として重要な記載であることは訴訟実務関係者にとって常識的な事項であるから,原告の前記主張は,不自然であり,たやすく採用することができない。そうすると,原告提出の甲47をもって原告主張の営業活動妨害行為があったことを認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。


不使用に係る正当な理由の存否について
以上によれば,被告による違法な本件専用使用権設定登録,本件専用使用権設定登録の抹消拒否による使用妨害行為,ホームページ上での営業活動妨害行為があったから本件商標の不使用について正当な理由があるとする原告の主張は,その前提事実が認められないから,理由がない。かえって,前記認定のとおり,原告は,平成18年と平成19年に,日本国内外の企業が著作物や商標権を出展して商談を行う
LICENSINGASIA2006及びLICENSINGASIA2007に,それぞれ権利者として参加し,本件商標の商品化事業を行う相手先の日本企業を探していたと認められるから,平成20年9月11日の本件予告登録前3年以内に本件商標を使用しないことについて正当な理由が存在したと認めることはできない。
2
取消事由2(本件取消審判請求が信義則違反,
権利濫用に当たらないとした判

断の誤り)について
原告は,被告による違法な本件専用使用権設定登録,本件専用使用権設定登録の抹消拒否による使用妨害行為,ホームページ上での営業活動妨害行為があったから,そのような被告による本件取消審判請求は,信義則に反し,権利濫用に当たる旨主張する。
しかし,原告の主張は理由がない。すなわち,被告による違法な本件専用使用権設定登録,本件専用使用権設定登録の抹消拒否による使用妨害行為,ホームページ上での営業活動妨害行為があったと認めることができないことは,前記説示のとおりであるから,原告の前記主張は,その前提を欠き,主張自体失当である。
そして,前記認定のとおり,本件取消審判請求は,被告が,スマイル・マークに係る事業を行う上でその障害となる本件商標を排除するためにしたものであると推認されるが(乙55),そのような被告が,不使用取消審判を請求することは,格別違法なものであるということはできない。また,前記認定のとおり,①イングラム社を代理人として展開していた原告の事業は,エフエム東京とイングラム社との間の訴訟の控訴審判決において,国際的詐欺ビジネスの様相を見せ始めていると形容することも,あながち不当ではないなどと厳しい評価を受け,その後のライセンシー獲得に困難を来したこと,②被告が原告と本件専用使用権設定契約を締結した動機は,原告からの妨害行為を回避する目的によるものであったこと等の事実を総合すれば,被告による本件取消審判請求が信義則に反し,権利濫用に当たるということはできない。3結論
以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。その他,原告は縷々主張するが,いずれも理由がない。よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部

裁判長裁判官
飯村敏明齊木教朗武宮英子
裁判官

裁判官
(別紙)

本件商標目録

(甲8)
登録第768139号商標(取消2008-301078号)
商標の構成

スマイリーの文字を横書きしてなるもの

登録出願日

昭和41年7月21日

設定登録日

昭和43年1月24日

指定商品及び指定役務:第17類に属する被服,布製見回品,寝具類存続期間の更新登録日:昭和53年6月7日,昭和63年2月26日,平成10年1月20日,平成20年1月29日
予告登録日:平成20年9月11日
(別掲)
(1)

(2)
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