判例検索β > 平成20年(ワ)第2207号
損害賠償請求事件
事件番号平成20(ワ)2207
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日平成22年6月2日
裁判所名・部京都地方裁判所  第7民事部
結果その他
判示事項の要旨中学校における同級生からのいじめにより,転校せざるを得ない状況に追い込まれて,精神的かつ肉体的な苦痛を被ったとして,いじめを受けた生徒とその両親が,いじめをした同級生とその親権者,及び中学校の設置者を被告としてした,不法行為又は安全配慮義務の債務不履行を原因とする損害賠償の請求につき,いじめをした同級生本人のいじめを受けた生徒に対する責任を認めたが,両親のいじめをした同級生に対する請求については,その主張する損害といじめとの間に相当因果関係がないとして,原告らのいじめをした同級生の親権者に対する請求については,親権者は本人の問題行動に対して適宜誠実に対処していたとして,また,原告らの学校設置者に対する請求については,原告らの主張する「安心して勉学できる環境を提供する義務」は,漠然かつ抽象的であるとして,その主張を排斥し,いじめをした生徒の問題行動に対しては,学校設置者としての合理的な裁量の範囲内で対応しており,また,いじめを受けた生徒を転校させるについても,合理的な転校先を指定しており,いずれの点についても安全配慮義務違反はないとして,それぞれの請求を棄却した事例。
裁判日:西暦2010-06-02
情報公開日2017-10-17 20:34:18
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平成22年6月2日判決言渡

同日原本交付

裁判所書記官

平成20年(ワ)第2207号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日

平成22年3月24日
判主1決文
被告Dは,原告Aに対し,55万円及びこれに対する平成19年9月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2
原告Aのその余の請求を棄却する。

3
原告B及び原告Cの請求をいずれも棄却する。

4
原告Aと被告Dとの間の訴訟費用は,これを6分し,その1を被告Dの,その余を原告Aの各負担とし,その余の訴訟費用は原告B及び原告Cの負担とする。

5
この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

第1
1実及び理由
請求
被告らは,原告Aに対し,連帯して330万円及びこれに対する平成19年9月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2
被告らは,原告B及び原告Cに対し,連帯して565万6786円及びこれに対する平成19年9月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3
訴訟費用は被告らの負担とする。

4
仮執行宣言

第2

事案の概要
本件は,原告Aが,被告京都市が設置する甲中学校在学中に同級生であった被告Dからいじめを受け,不登校となり,転校せざるを得ない状況に追い込まれ,精神的かつ肉体的な苦痛を被ったところ,被告Dの親権者である被告E及び甲中学校の教諭らは被告Dに対する必要な指導・監督をせず,被告京都市も安全配慮義務を怠ったから,被告D及び被告Eは不法行為(民法709条,719条)に基づき,被告京都市は不法行為(国家賠償法1条1項)ないし債務不履行(民法415条)に基づき,それぞれ損害賠償責任を負うとして,被告らに対し,連帯して,慰謝料及び原告Aが不登校となった日からの民法所定の遅延損害金の支払を求めるとともに,原告Aの親権者である原告B及び原告Cが,上記転校に伴いマンション及び駐車場を新たに賃借し,家具を購入せざるを得ず,これらに要した費用相当額の損害を被ったとして,被告らに対し,不法行為(民法709条,719条)ないし国家賠償法1条1項に基づき,連帯して,上記費用相当の損害賠償及び原告Aが不登校となった日からの民法所定の遅延損害金の支払を求める事案である。
1
前提事実
(1)

当事者
原告Aは,平成5年a月b日生まれの男性であり,平成18年4月,甲中学校に入学した。
原告B及び原告Cは,原告Aの両親であり,親権者である。


被告Dは,平成5年c月d日生まれの男性であり,平成18年4月,甲中学校に入学した。
被告Eは,被告Dの母であり,親権者である。なお,被告Eは,平成16年11月11日に離婚した。


(2)

被告京都市は,甲中学校を設置し運営している。
原告Aの不登校
原告Aと被告Dは,中学1年生のときは違うクラスであったが,中学2年生で同じ2年4組になった。
2年4組の担任はF講師であり,F講師は,被告Dが所属する野球部の顧問でもあった。なお,F講師は,平成15年12月から中学校の教師をしており,担任をもつのは4回目であった。

平成19年9月19日,2年4組の男子生徒が,教室の隣にある学習室で合唱コンクールの練習をしていたところ,指揮者をしていた被告Dは,原告Aを含む3名の男子生徒を他の生徒の前に立たせて歌わせ,原告Aらが歌うのを見た生徒らは,笑ったり拍手をしたりした。
そして,原告Aは,再度,被告Dから前で歌うよう言われたため,教室を出た。(この一連の出来事を,以下本件合唱練習事件という。)なお,F講師はこの場にいなかった。


(3)

原告Aは,同月20日から甲中学校に登校しなくなった。
原告Aの転校
原告Bは,同年10月19日,原告Cの名義で乙中学校の学区内のマンシ
ョン(以下本件マンションという。)を賃借し,原告Aの住民登録を本件マンションへ移転し,原告Aを乙中学校に転校させた。
原告Aは,同月22日以降,乙中学校に通学した。
2
争点
(1)
(2)

被告Dの行為の違法性の有無

(3)

平成19年9月19日までの被告京都市による注意義務違反の有無
(4)

平成19年9月19日以降の被告京都市による安全配慮義務違反の有無
(5)

被告Eによる注意義務違反の有無

(6)
3
被告Dの問題行動の有無及び内容

原告らの損害及び因果関係

争点に関する当事者の主張
(1)

争点(1)(被告Dの問題行動の有無及び内容)について

〔原告らの主張〕

中学1年生当時
被告Dは,甲中学校で,問題児として有名であった。

平成19年4月
被告Dが代議員(学級を代表する委員のこと。)に立候補したところ,他の生徒は被告Dを恐がって立候補しなかったため,被告Dが代議員になった。


平成19年5月
(ア)

被告Dは,自分と仲の良くない生徒や,おとなしい生徒に暴力を振
るい,手当たり次第に,2年4組の生徒を殴るなどもした。
(イ)

被告Dは,原告Aに対し,

おちんちんを見せろ。

と言ったり,
金もっこりというあだ名をつけるなどした(以下本件いじめ①という。)。
(ウ)

同月下旬頃から,被告Dは,ほとんど毎日,昼食の時間に,原告A
の弁当のおかず(ハンバーグやヒレカツ等)を取り上げて食べたり,原告Aの水筒を無断で同人の鞄から出してお茶を飲んだ(以下本件いじめ②という。)。エ
平成19年6月
(ア)

被告Dは,ほとんど毎日,原告Aの股間,太もも内側,脇の下,上
腕等を何度も殴るなどした(以下本件いじめ③という。)。(イ)

被告Dは,数学の授業中に数学担当のG教諭とけんかをするように
なり,G教諭が

勉強ができないと高校に行けないよ。

と言ったところ,被告Dは,

高校には行かない。僕はマフィアになって原告Aを殺して,原告Aの家の物を盗んで,原告らの家に火をつけて金持ちになるから,勉強はいらない。

と怒鳴った。また,被告Dは,原告Aに対し,直接何度も,

マフィアになってお前を殺す。

僕は甲中学校を卒業したら,原告Aを殺して,家の物を盗んで,お前の家に火をつけて金持ちになる。

などと脅迫した(以下本件いじめ④という。)。オ
夏休み後
(ア)

被告Dは,平成19年8月30日から同年9月11日までの間の数
学の授業中,教室で,G教諭の面前で,原告Aに対し,右手拳で左肩を2回殴打した(以下本件いじめ⑤という。)。
(イ)

被告Dは,ほとんど毎日,原告Aを殴った(以下本件いじめ⑥
という。)。
(ウ)

同年9月19日,本件合唱練習事件が発生した。被告Dは,歌えて
いない者を前に出して歌わせるというルール(以下本件ルールという。)を同日に言い出し,原告Aがきちんと歌っているにもかかわらず,

歌っていない。罰や。

と言って,原告Aを他の生徒の前で4,5回も歌わせた(以下本件いじめ⑦という。)。
〔被告D及びEの主張〕

中学1年生当時
被告Dが問題児として有名であったとの主張は否認する。
授業中の態度や,提出物が出せていないこと等について,担任であったF講師がたびたび家庭訪問に来ていたが,被告Dは問題児ではなかった。

平成19年4月
他の生徒が被告Dを恐がって立候補しなかったとの主張は否認する。

平成19年5月
(ア)

被告Dは,仲の良い友達とも肩パン(生徒が,他の生徒の肩の

辺りをパンチすること。)をし合っており,じゃれあいの範囲内であった。
(イ)

本件いじめ①は否認する。

(ウ)

本件いじめ②は否認する。
被告Dは,原告Aのおかずを食べたことはあるが,原告Aの承諾を得
ていたし,主菜の全部は取っていない。水筒を勝手に原告Aの鞄から取り出したこともない。

平成19年6月
(ア)

本件いじめ③は否認する。
被告Dは,原告Aに対して肩パンをしたが,じゃれあい,ちょっ

かいの範囲内であった。
(イ)

本件いじめ④は否認する。

夏休み後
(ア)

本件いじめ⑤は否認する。

(イ)

本件いじめ⑥について,被告Dが原告Aに暴行を加えたことがある
ことは認める。
(ウ)

本件いじめ⑦について,合唱コンクールの練習において,被告Dが
原告Aを他の生徒の前で歌わせたことは認める。ただし,原告Aを含む生徒らは,練習前に本件ルールを決めたのであって,被告Dはそれに従っただけである。
〔被告京都市の主張〕

中学1年生当時
被告Dが問題児として有名であったとの主張は否認する。
このころの被告Dの問題行動としては,昼食中,被告Dが他の男子生徒に弁当のおかずをくれとせがみ,両者がもみ合いになったところ,被告Dのシャツにソースがついたため,被告Dが腹を立ててその男子生徒を2発殴ったというものがあった。その場にいたF講師は,二人を引き離してすぐに被告Dを別室に連れて行き,被告Dの主張を聞いた上で,暴力行為は許されないということを指導し,反省させ,当日の夜,被告Dとともに殴られた男子生徒の自宅を訪問し,被告Dに謝罪させた。


平成19年4月
他の生徒が被告Dを恐がって立候補しなかったとの主張は否認する。なお,平成19年度後期の代議員を決めるとき,被告Dは立候補しなかったが,立候補者はなかなか出なかった。

平成19年5月
(ア)

被告Dが仲の良くない生徒等に暴力を振るったことは否認する。こ
のころ,2年4組の何人かの男子生徒の間では肩パンがはやっており,男子生徒間のふざけ合いからされていたが,被告Dも肩パンをされていた。
(イ)

本件いじめ①は不知。
原告Aは,原告Aちゃんと呼ばれていた。

(ウ)

本件いじめ②について,被告Dが原告Aの弁当のおかずをねだって
いたことは認める。当初,F講師は男子生徒間でよくあることだと思ったため注意しなかったが,しばらくして原告Aが嫌がっていると感じたため,被告Dに対し,やめるよう指導した。なお,被告Dは,他の男子生徒に対しても,おかずをくれるようねだっていた。
また,被告Dが水筒のお茶を勝手に飲んだことは否認する。昼食時間中,F講師はそのような行動を見たことがない。

平成19年6月
(ア)

本件いじめ③は不知。
ただし,本件合唱練習事件の後,F講師は,原告Aから,本件いじめ
③のようなことがあったことを聞いた。
なお,F講師は,被告Dがボクシングの真似のような感じで原告Aの肩の辺りに拳を当てるの見たときは,その場で,被告Dに対し,やめるように厳しく大きな声で叱りつけた。
(イ)

本件いじめ④について,G教諭と被告Dがけんかをしたとの主張は
否認する。
G教諭が

勉強をしないと,高校に行けないよ。

と言ったところ,被告Dは

高校には行かないから勉強しなくても良い。マフィアとかやくざになる。

と言ったのである。なお,G教諭は,これに対し,

高校に行かないのであれば,学校で勉強できるのは今が最後になるのだから,なおさら勉強しておかないといけない。マフィアとかやくざでは生きていけない。自分をもっと大事にしないといけない。

と指導した。被告Dが直接原告Aに対して脅迫したとの主張については,不知。オ
夏休み後
(ア)

本件いじめ⑤,⑥は否認する。

(イ)

本件いじめ⑦について,合唱コンクールの練習において,被告Dが
原告Aを他の生徒の前で歌わせたことは認める。
平成19年9月19日,F講師は,2年4組の生徒を男子パート,女子ソプラノパート,女子アルトパートに分け,男子パートを教室横の学習室,女子パートをそれぞれ教室及び教室前の廊下で練習させた。通常,F講師は,パート別の練習の際には随時巡回して指導に当たっていたが,この日は,教室で練習していた女子のパートの使う機器の調子が悪く,音楽が流れなかったため,F講師は,教室で機器の設定に対応したり,教頭に対応策を相談するために職員室に行ったりしていた。そのため,F講師は,男子パートの練習を見ることができず,その間に本件合唱練習事件が発生した。
F講師が当日に原告Aから聞いたところによると,声が小さかったりふざけている者は前で一人で歌うというルール(本件ルール)が設けられ,原告Aを含め3名が指名されて歌うと,歌い終わった後に笑い声や拍手が起きた,練習を再開しても,再度,原告Aを含め2名が指名されたため,我慢ができなくなり,学習室を飛び出したとのことであった。カ
その他
被告Dの本件合唱練習事件までの問題行動は,原告が主張するもの以外では,次のとおりである。
(ア)

平成19年9月3日のF講師による授業中,被告Dは,F講師の指
示に従わずに

やる気がない。

と発言したため,F講師が注意したところ,被告Dは大声で反抗した。そのため,F講師は,被告Dを指導し,謝罪させた。
(イ)

同月7日の野球部の部活動中,被告Dが足に擦り傷を負ったため,
F講師が,擦り傷の処置をしたらプレーを続行するように指示すると,被告Dは

部活やめる。

と言ってグラウンドを飛び出した。そのため,F講師及び他の2年生の担当教師は,被告Dを指導し,謝罪させた。(ウ)

同月8日の野球部の公式戦当日,F講師が試合オーダー表を提出し
た後に,被告Dが髪型をモヒカン(前から見れば丸刈りだが,後頭部の中央部分に数㎝髪の毛を残していた。)にしていることが発覚したため,F講師は,被告Dを最初の守備にだけつかせ,すぐに交代させた。そして,F講師は,被告Dに対し,髪型が校則に反し不適切であると指導した。
(エ)

同月10日,被告Dの髪型が上記(ウ)のままであったので,F講師
は,継続して指導していくこととした。
(2)

争点(2)(被告Dの行為の違法性の有無)について

〔原告らの主張〕
被告Dは,原告Aに対し,本件いじめ①ないし⑦のとおり,継続的かつ執拗ないじめを繰り返していたのであり,被告Dのこれらの行為に違法性があることは明らかである。
特に,本件いじめ⑦については,4回も5回も人前で歌わせて嘲笑させており,許されるものではない。
〔被告D及び被告Eの主張〕
当時,生徒間では肩パンがはやっており,教師も黙認していたので,被告Dが原告Aに肩パンをしたことのみを不法行為と評価することはできない。本件合唱練習事件においては,当時,本件ルールがあったから,被告Dはそれに従って原告Aを歌わせたのであり,不法行為と評価することはできない。
(3)

争点(3)(平成19年9月19日までの被告京都市による注意義務違反な
いし安全配慮義務違反の有無)について
〔原告らの主張〕

F講師は,被告Dが代議員になることを容認した。
また,F講師は,平成18年度に被告Dが男子生徒とおかずをめぐってトラブルになり,暴力行為に及んだことを知っており,被告Dが原告Aのおかずを取るのを目撃していたにもかかわらず,よくあることと思い,特に注意をしなかったというのであり,不適切な対応をしていた。


F講師は,原告Aが被告Dに殴られているのを何度も目撃していたにもかかわらず,何回か被告Dに軽く注意したにすぎず,真剣な指導をしなかった。
また,G教諭は,授業中に,被告Dが

マフィアとかやくざになる。

と言ったり,原告Aを殴打するのを見たにもかかわらず,必要な指導・監督をしなかった。


平成19年9月19日の合唱コンクールの練習は,授業時間内に行われたものであるから,F講師ら甲中学校の教師は,体罰やいじめが発生しないようにする注意義務があった。そして,被告Dは,被告京都市が認めているだけでも同月3日から同月10日の短期間に複数の問題行動を起こしていたのであるから,被告Dを合唱コンクールの指揮者にすれば,問題が起こる可能性があることは,F講師らは十分に予測できた。
それにもかかわらず,F講師らは,被告Dが合唱コンクールの指揮者になることを容認した。
また,仮に,被告Dに指揮者をさせるのであれば,F講師らは,被告Dによるいじめや不適切言動が起こらないように細心の注意を払う義務があった。しかし,F講師らは,本件ルールの存在や,原告Aらが前で歌わされているという事実を把握していなかった。

このように,F講師らは,被告Dに対して必要な指導・監督を行わず,注意義務違反があったのであり,被告京都市には,注意義務違反ないし安全配慮義務違反があった。

〔被告京都市の主張〕

代議員や指揮者に自発的に立候補した生徒がいる場合,その生徒に代議員や指揮者をさせることは教育上適切であり,特段の事情がない限り適法である。被告Dは,模範的な生徒ではないかもしれないが,同人の立候補の意思を排除しなければならない事情があるとまではいえなかった。

被告Dが原告Aのおかずを食べることについて,当初,F講師は男子生徒間でよくあることだと思ったため注意しなかったが,しばらくして原告Aが嫌がっていると感じたため,被告Dに対し,やめるよう指導した。そして,被告Dは男子生徒から繰り返しおかずをねだっていたため,F講師が被告Dに聞くと,給食(弁当のようなもので,希望者だけが購入する仕組みになっている。)だけでは量が足りないということだったので,F講師は,家庭訪問をし,被告Eに対し,被告Dが男子生徒から繰り返しおかずをねだっていることなどを伝えた上,給食とは別に,更におかずやごはんを持たせるなどして十分な量の昼食をとれるようにできないかとのお願いをした。


F講師は,被告Dがボクシングの真似のような感じで原告Aの肩の辺りに拳を当てるの見たときは,その場で,被告Dに対し,やめるように厳しく大きな声で叱りつけ,やめさせた。
なお,被告Dがいつどこで原告Aに対して肩パンをするか具体的に予見することは不可能であるし,被告Dを常時監視するのは教育上不適切かつ不可能である。

本件合唱練習事件は,前記(1)〔被告京都市の主張〕オ(イ)のとおり,F講師が女子パートの機器トラブルに対応しているときに発生した。また,F講師が女子のパートを見回っている間に男子生徒が本件ルールを作ったとしても,F講師がそのことをを認識することは不可能である。
F講師は,本件合唱練習事件の翌日,被告Dから,本件合唱練習事件について聞き取りを行ったところ,被告Dは

みんなで決めたルールなのに1人で飛び出すのは勝手だ。

と考えているようだったので,被告Dに原告Aの気持ちを考えさせ,反省させた。


原告らが主張する,被告Dが原告Aに対して金もっこり,

原告Aを殺して,原告Aの家の物を盗んで,原告らの家に火を付けて金持ちになる。

と言ったなどといった問題行動があったとしても,これらは,F講師らにおいて十分な注意を払っていても,これを認知することのできなかったものである。被告Dは常時問題行動を起こしている生徒ではなかったのであり,同被告を常時監視することなどは不適切であり,F講師らが認知していなかったことに過失はない。


その他,甲中学校の教師らは,被告Dの行動や発言を放置しておらず,被告Dに対して必要な指導・監督をしていたのであり,被告京都市に注意義務違反ないし安全配慮義務違反はない。

(4)

争点(4)(平成19年9月19日以降の被告京都市による安全配慮義務違
反の有無)
〔原告らの主張〕
被告京都市は,平成19年9月19日の本件合唱練習事件により原告Aが多大な精神的苦痛を受けていたこと,被告Dにはいくつもの問題行動があったことから,①原告Aが被告Dのいじめや仕返し等のおそれを感じず,安心して勉学できる環境を速やかに提供し,②原告Aを転校させる場合は,原告Aが前向きな気持ちで安心して勉学できる環境を速やかに提供する義務があった。そして,転校にはいじめや不適応のリスクが伴うこと,原告Aは被告Dによるいじめが原因で転校せざるを得なくなったこと,公立校から公立校への転校は9割近くが再不登校になるといわれていることからすると,被告京都市は,原告Aの転校については十分な配慮をすべきであった。原告Bは,同月20日,甲中学校校長のH校長に対し,転校の希望を伝え,乙中学校を第一希望とし,丙中学校及び丁中学校を予備的な希望として挙げた。
ところが,被告京都市は,同年10月12日に至ってようやく,転校先を提示した。しかも,転校先として提示された戊中学校は,校内暴力等があったと聞いていた上,通学方向には被告Dの家があると思われたのであり,原告Aに対する配慮を欠くものであった。
このように,被告京都市は,転校先を決めるのに長期間かかった上に,合理的な理由なく原告Aを乙中学校ではなく戊中学校に強制的に転校させようとしたのであり,安全配慮義務違反がある。
〔被告京都市の主張〕
原告の主張する被告京都市の負うとする義務の内容は曖昧であり,不明確である。
また,仮に被告京都市が原告の主張するような安全配慮義務を負うとしても,本件において,本件合唱練習事件以降,学校が一番に目指すべきことは,関係する生徒と教員とが個別に話をするなどして解決することを目指すべきであり,当事者を転校させることでトラブルを終了させたとしても,教育的意義は乏しい。しかし,原告Bは,H校長による説明を頑なに拒み,甲中学校の教師が原告Aと会って話をする機会を作ることさえ拒み,原告Aを甲中学校に登校させなかったため,被告京都市は,やむを得ず原告Aの区域外就学を認めざるを得なかったのである。
そして,被告京都市(教育委員会)は,被告Dの通う甲中学校と異なる中学校であれば原告Aは登校できると考えられたこと,バス通学であれば被告Dの家のある地域が通学路にあっても問題ないことなどから,戊中学校を選んだのであり,その判断は合理的であった。なお,原告らによる戊中学校への評価は,根拠のない噂,風評の域を出ない。
したがって,被告京都市に安全配慮義務違反はない。
(5)

争点(5)(被告Eによる注意義務違反の有無)について

〔原告らの主張〕
平成19年当時,被告Dは両親の離婚後に富山県から京都市に来て2年間ほどしかたっていなかったのであるから,被告Dの親権者であり,同居していた被告Eは,13,14歳の被告Dの生活状態や行動を指導・監督し,違法行為をさせないようにする義務があった。
特に,平成18年度には,被告Dは弁当のおかずに関して他の男子生徒を殴った事件を起こし,被告EはそれをF講師から聞いて知っていたのであるから,被告Dがその後も同様のことをしていないか被告Dや他の生徒やその親たちに尋ねるなどして事実を把握して厳重に指導・監督する義務があり,必要があれば被告Dに弁当を作ってやるなどする義務があった。
それにもかかわらず,被告Eは,被告Dを放任していたのであり,注意義務違反がある。
〔被告D及びEの主張〕
被告Eは,被告Dが他の生徒からおかずを取ることがあることを知ったのは,被告Dが中学1年生のときだったと記憶している。被告Dには,中学2年生の夏休みより前に,給食のほかにおかずを持たせるようになった。なお,平成18年度の事件について知ったのは,平成19年9月26日に,F講師から,被告Dが肩パンをしたりおかずを取ったりした同級生3人に対し謝罪しに言ってほしいと言われたときである。
被告Eは,被告Dに対して母親としてしつけを施してきており,被告Dがその他原告らが主張するような行為をしていることを知らなかったから,被告Eに責任はない。
(6)

争点(6)(原告らの損害及び因果関係)について

〔原告らの主張〕

原告A
原告Aは,本件いじめ①により,恥ずかしい嫌な思いをし続け,本件いじめ②により,いつも空腹で,のども渇いた状態であった。また,本件いじめ③⑤⑥により痛い思いをし,本件いじめ④により恐怖で夜も眠れなかった。そして,本件いじめ⑦により,他の生徒の前でいじめられた屈辱と,被告Dからの仕返しの恐怖等を抱き,登校できなくなった。原告Aは,原告Bに対し,平成19年9月20日,学校へ行くくらいなら死んだほうがましだ,とまで言ったのである。
そして,原告Aは,乙中学校に通学するまでの平成19年9月19日から同年10月21日まで,登校して授業を受けることができなかった。このように,原告Aは,多大な精神的かつ肉体的な苦痛を被ったから,損害額としては,330万円(慰謝料300万円,弁護士費用30万円)を下らない。


原告B及び原告C
原告Aは,被告Dのいじめにより転校せざるを得なくなったところ,被告京都市から転校先として提示された戊中学校は原告Aへの配慮を欠くものであった。
そこで,原告B及び原告Cは,原告Aを乙中学校に転校させるために,原告Aを同中学校の学区内に転居させざるを得ず,本件マンション及び駐車場を賃借し,家具等を購入した。
これらの転居関係費用は,別紙費用明細のとおりであり,合計514万2786円である。そして,弁護士費用としては51万4000円を要するから,損害額としては,565万6786円となる。
〔被告D及びEの主張〕
争う。
特に,被告Dの行為と原告Aの転校との間に因果関係はない。
〔被告京都市の主張〕

原告A関係
争う。
原告Aが平成19年9月19日以降に甲中学校に登校しなくなったのは,原告Bが休ませたからであり,被告Dの行為との間に因果関係はない。仮に,被告京都市に損害賠償責任があるとしても,原告Aの主張する慰謝料は高額にすぎる。


原告B及び原告C関係
争う。
被告京都市は,前記(4)〔被告京都市の主張〕のとおり,合理的な理由をもって戊中学校を転校先として提示したにもかかわらず,原告Bはこれを拒否し,本件マンションに転居することによって乙中学校に転校したのであり,かかる転居は原告らの意思によるものであるから,仮に被告京都市に安全配慮義務違反があるとしても,原告B及び原告Cが請求する転居関係費用は,相当因果関係のある損害ではない。
また,家具の新調等は不要であって,原告B及び原告Cの主張する転居関係費用は高額にすぎる。

第3
1
当裁判所の判断
争点(1)(被告Dの問題行動の有無及び内容)について
前記前提事実,証拠(甲1,2,22,33,乙A1ないし3,6ないし10,乙B1ないし3,証人E講師,原告B本人,被告E本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告A及び被告Dに関し,以下の事実が認められる。(1)

原告A及び被告Dの家族関係
原告ら
原告Aは,原告B及び原告Cの長男であり,2人の異母姉(原告Bと前妻との子),弟,妹のきょうだいがいる。
原告Bは呉服製造卸を業とする株式会社Iを経営しており,原告Aは,原告家の11代目の墓守及び同会社の跡取りとして育てられている。原告Aは,小学生のときは,原告Bから,己中学校を受験するよう言われて受験したが落ちたため,もともとおとなしく内向的な性格であったが,より内向的になった。
また,原告Aは,原告Bから,体ができあがる前にスポーツをすると年齢を重ねてから体が壊れること,運動部に入ると勉強時間がなくなり高校受験に響くことを理由に,中学生・高校生のときはスポーツをしないように言われていた。


被告D及び被告E
被告Dは,被告Eの二男であり,兄及び姉のきょうだいがいる。
被告Eは,夫(被告Dらの父親)とともに,e県f村で民宿及び食堂を経営していたが,平成16年1月に胆石の手術のために京都の実家に戻り,それを機に夫及び子らと別居することとなった。被告Eは,同年8月,高校受験を控えた長男を引き取るとともに,同年10月,夫が被告D(当時11歳)及び長女を被告Eの元に遊びに来させ,そのまま行方不明になったため,実家で,被告Eの両親,弟,被告Dら3人の子と生活するようになった。同年11月11日,被告Eは子らの携帯電話で夫と連絡をとって離婚したが,平成17年3月,夫は自殺した。
被告Eは,平成16年に京都に戻ってからヘルパーの資格を取得し,同年7月から看護助手として働き,平成19年4月からは特別養護老人ホームで介護職として働きながら,子らを育てている。
被告Dは,目立ちたがり屋な性格であり,調子に乗ると度を超すところがあるが,被告Eに対して,家庭環境等について不満を述べたり反抗することはあまりなく,暴力を振るったことは一切ない。
(2)

甲中学校への入学
1年生時のクラス
平成18年4月,原告A及び被告Dは甲中学校に入学したが,両者は違うクラスであり,被告Dのクラスの担任はF講師であった。なお,1年生のクラス担任を受け持つ教師は,クラスの生徒が卒業した小学校から,当該生徒について引き継ぎを受けるところ,被告Dについての引継ぎは,感情に起伏がある,という程度であった。


被告Dによる暴行事件
平成18年10月24日の昼食時間中,被告Dは,他の男子生徒(原告Aではない。)にお弁当のおかずをくれとせがみ,もみ合いになったところ,被告Dのシャツにソースがついたため,被告Dは,腹を立ててその男子生徒を2発殴った。
その場に居合わせたF講師は,両者を引き離し,被告Dを別室に連れて行き,被告Dの主張を聞いた上で,暴力行為は許されないと言い聞かせた。そして,同日の夜,F講師は,被告Dとともに殴られた男子生徒の自宅を訪問し,被告Dに謝罪させた。
また,F講師は,数日後,被告Eに対して,この出来事について報告した。
平成18年度においては,被告Dの問題行動はこの1件のみであり,他には,風邪・発熱により10日間欠席したのみで,怠学もなかった。

原告Aについての調理実習買い出し事件
平成19年2月,原告Aと班の同級生ら(被告Dではない。)とで,家庭科の調理実習の買い出しをする者を決めていたところ,原告Aは,その同級生らから,

原告Aは金持ちやからみんなの分出して。

などと言われた。
そこで,原告Aが帰宅後に原告Bに相談すると,原告Bから

恐喝にあたる。

とのメールをその同級生らに送るよう言われたため,原告Aは,その旨のメールを送った。また,原告Bは,原告Aに対し,このような行為は強要罪・脅迫罪・恐喝罪にあたり,刑務所に3年から10年入らなければならない罪であるなどと説明するとともに,甲中学校へ

恐喝・いじめのおそれがある。

と連絡した。この件に対応した原告Aの担任教師は,当該同級生らから事情を聞いた上で,原告ら宅を訪問し,当該同級生らは冗談で言ったことであるなどと説明したが,原告Bは,教師が検事・裁判官・弁護士であるかのように振る舞っており越権行為であるという不満を抱いた。
(3)

2年生への進級
平成19年4月,原告A及び被告Dは2年生に進級し,両者は同じ2年4
組になった。なお,担任はF講師であった。
同月,2年4組の前期(甲中学校では2学期制をとっており,前期は,4月1日からおおむね10月の第2週ころまでの学期である。)の男女1名ずつの代議員を決める際,被告Dが男子の代議員に立候補した。男子の代議員では他に立候補者がいなかったため,被告Dが代議員となった。
(原告らは,他の生徒が被告Dを恐がったため被告D以外の者が立候補しなかったと主張するが,上記(2)イのとおり,被告Dは,1年生時において,暴力事件を1件起こしたものの,それ以外に特段の問題行動があったとまではいえないこと,同年10月に後期の代議員を決める際,被告Dが立候補していないにもかかわらず立候補者がなかなか出なかったこと〔弁論の全趣旨〕,中学生がクラスの学級代表に積極的に立候補したがらないのはよくあることであることからすれば,他の立候補者が出なかったのが,被告Dを恐がったためであると認めることはできない。)
(4)

原告Aへのあだ名付け(本件いじめ①について)
被告Dや他の複数の男子生徒は,原告Aのことを,原告Aちゃん,
原告Aと呼ぶこともあったが,平成19年5月ころ,金もっこりというあだ名を付け,そのように呼んだり,

おちんちんを見せろ。

などと言ってからかうことがあった。
(被告らは,これを不知ないし否認するが,原告Aに対して同級生からさすが金もっこりの原告Aちゃんなどと書かれたメールが送られている〔甲33〕ことなどからすると,原告Aは,このようなあだ名を付けられるなどして,からかわれていたと認めるのが相当である。)
(5)

原告Aからのおかず等の取り上げ(本件いじめ②について)原告Aは,毎日,昼食として原告Cの作る弁当を学校に持ってきていたが,被告Dは給食を頼んでいた。
クラスの中では,昼食時間に弁当のおかずを生徒どうしで交換することが日常的に行われていたところ,被告Dは,平成19年5月下旬ころから,ほぼ毎日,原告Aや他の男子生徒に対し,弁当のおかずをくれるようねだり,もらっていた。原告Aは,被告Dにあげるのは嫌であったが,仕方なく承諾していた。
F講師は,基本的に,昼食時間中は教室で生徒と一緒に昼食を食べていたため,そのような様子を見ていたところ,しばらくして(同月から同年7月の間),原告Aが被告Dに対しておかずをあげるのを嫌がっているのではないかと感じたため,被告Dに対し,給食だけで我慢するよう指導した。これに対し,被告Dが,給食だけでは空腹が満たせないと述べたため,F講師は,家庭訪問の際,被告Eに対し,パンなりおにぎりなり,一品持たせてやれないかと頼んだ。これを受け,被告Eは,被告Dに対し,おかずを作って持たせるようにした。
なお,F講師は,被告Dの自宅に月に1回程度家庭訪問をし,被告Eに被告Dの学校での様子等を連絡していたが,提出物をきちんと出すようにという程度の内容が多く,本件合唱練習事件までに,暴力や嫌がらせをしているとの話は出なかった。

被告Dは,休憩時間中に,原告Aの水筒から勝手にお茶を飲むことをしていた。
(被告らは,これを否認するが,原告Aがその旨を作文〔乙A9〕に書いていること,当時は被告DはF講師に逆らっておらず,F講師の目があり,時間も短い昼食時間中〔午後零時35分から同50分まで〕に勝手に原告Aのお茶を飲むとは考えにくいが,F講師の目が届きにくい休憩時間中にすることはあり得ることなどからすれば,休憩時間中にかかる事実があったと認めるのが相当である。)

(6)

原告Aの肩等への殴打(本件いじめ③について)
被告Dは,平成19年6月下旬以降,ほぼ毎日,休憩時間中に原告Aの肩
を殴るようになった。このころ,男子生徒の間では肩パンがはやっていたが,被告Dの原告Aに対するものは,遊びといえない程度に強い力でされていた。また,被告Dは,原告Aの股間や大腿内側等を殴ることもあった。F講師は,休憩時間中,被告Dが原告Aの肩を殴るのを1,2回目撃したため,その都度,その場で被告Dを制止し,

やめなさい。

と強い口調で注意した。
(原告らは,F講師は被告Dの暴力を見ても時々軽く注意するだけであったと主張するが,F講師は通常,10分間の休憩時間中は職員室に戻って授業の準備をしていたこと,被告Dが原告Aの肩等を殴るのは休憩時間中であったこと,F講師は被告Dと原告Aとがそれほど仲が良くないことを認識していたこと,F講師は,上記(5)ア,下記(7)のとおり,クラスの生徒が自ら言わなくても,様子がおかしいことを察知して声かけをするなど,クラスの生徒の様子に目を配っていたこと,F講師は,上記(1),(5)ア,下記(7)のとおり,被告Dを含む生徒らに対し,問題行動があればその都度指導していたことなどからすれば,F講師は被告Dの原告Aに対する暴力行為を目撃した場合には,被告Dに対して適切に注意をしていたと認めるのが相当である。また,被告らは,被告Dによる肩への殴打はじゃれあいの範囲内であると主張するが,同年9月26日ころ,被告EがF講師から

被告Dによる同級生〔原告Aではない。〕に対する肩パンは,ちょっかいの度を超して暴力としか見えない。

と言われたこと〔被告E本人〕,上記のとおりF講師が被告Dによる原告Aに対する肩への殴打を見たときには制止して強い口調で注意していること,被告Dと原告Aとは仲が良かったわけではないこと〔証人F講師〕,上記のとおり被告Dは原告Aの股間や大腿内側等も殴っていたことなどからすれば,被告Dによる原告Aに対する肩への殴打が遊びの範囲内であったとは認められない。)

(7)

原告Aらへの喧嘩けしかけ事件
平成19年6月ころ,2年4組の男子生徒3名(被告Dではない。)は,
同じクラスの男子生徒1名に対し,トイレで原告Aら2名の男子生徒に水をかけろとか,原告Aら2名の男子生徒を殴れなどと言い,喧嘩を無理矢理けしかけ実行させた。
F講師は,けしかけられた男子生徒の様子がなんとなくおかしいことに気づき,その男子生徒から事情を聞き,けしかけた男子生徒らを指導し,原告Aらに対して謝罪させた。
(8)

原告Aらへの暴言(本件いじめ④について)
平成19年6月ころ,G教諭は,数学の授業中,被告Dが反抗したため,

勉強をしないと高校に行けないよ。

と言った。これに対し,被告Dは,

高校には行かないから勉強はしなくても良い。僕はマフィアかやくざになる。

などと言った。なお,G教諭は,自分をもっと大事にしないといけないなどと諭した。
また,そのころ,被告Dは,放課後,原告A又は他の生徒に対し,

甲中学校を卒業したら,原告Aを殺して家の物を盗んで家に火をつけて金持ちになる。

などと言うことがあった。(原告らは,数学の授業中に被告Dが原告Aを殺すなどと言ったと主張するが,原告Aの作文〔乙A9〕には,殺すなどの発言は授業中ではなく別の機会に原告Aに対してされたように記載されていることなどからすると,授業中の発言は,上記認定事実のとおりと認めるのが相当である。)
(9)

おみやげの要求
原告Aは,株式会社Iの後継者として絹について勉強するため,平成19
年7月21日から1か月間,タイへ行った。
被告Dら同級生らは,夏休み前,原告Aに対し,おみやげを買ってこないとぶち殺すなどと言って,おみやげを要求した。
(10)

原告Aに対する暴行(本件いじめ⑤,⑥について)被告Dは,夏休み後も,ほぼ毎日,休憩時間中に原告Aの肩,股間,大腿
内側等を殴った。
なお,原告らは,原告Aは,夏休み後の数学の授業中に被告Dに殴られたことがあると主張する。たしかに,被告Dは,京都府g警察署警察官による取調べにおいて,数学の授業中に原告Aを2回殴ったことを供述している(甲34)が,同供述調書の内容は,自らを人非人と認めているほど一方的かつ極端であり,被告Dは同供述調書作成当時14歳であったことをも考えれば,同供述は,取調べの警察官に迎合して供述した可能性を否定できないこと,本件訴訟において被告Dは授業中に原告Aを殴ったことを否認していること,原告Aの作文(乙A9)にも,授業中に殴られたとの明確な記載がないことなどからすると,被告Dが授業中に原告Aを殴ったとまでは認めることはできないというべきである。
(11)

F講師の指導への反抗
平成19年9月3日,F講師の授業中,被告Dが授業の指示に従わず,

やる気がない。

と述べたため,F講師が注意すると,被告Dは大声で反抗した。そのため,F講師は,被告Dを指導し,謝罪させた。
また,同月7日,野球部の部活動中,被告Dが足に擦り傷を負ったため,F講師が擦り傷の処置をし,プレーを続行するように指示すると,被告Dは,

部活やめる。

と言い出してグラウンドを飛び出した。そのため,F講師及び他の2年生の担当教師は,被告Dを連れ戻した上で指導し,謝罪させた。(12)

校則違反の髪型
平成19年9月8日,野球部の公式戦において,F講師が試合オーダー表
を提出した後に,被告Dが校則に反する髪型(前から見れば丸刈りだが,後頭部の中央部分に数㎝髪の毛を残していた。)にしていることが発覚した。そのため,F講師は,被告Dを最初の守備にだけつかせ,すぐに交代させ,きちんと丸刈りにするよう指導した。
同月10日,被告Dの髪型が直っていなかったため,F講師は,再度被告Dを指導した。
また,被告Eも,被告Dに対し,髪を切るよう何度も注意した。
被告Dは,遅くとも同月19日までには,後頭部に残していた髪を切った。(13)

本件合唱練習事件(本件いじめ⑦について)
甲中学校では,毎年クラス対抗の合唱コンクールを行っており,平成19
年度は9月28日が合唱コンクールの日とされていた。そして,同月14日から同月27日は合唱コンクール・文化祭取組期間とされており,午後の授業(5,6時間目)が合唱コンクールの練習に充てられることとなっていた。同月19日の5,6時間目,F講師は,合唱コンクールの練習のため,2年4組の生徒を男子パート,女子ソプラノパート,女子アルトパートに分け,男子パートを教室横の学習室,女子パートをそれぞれ教室及び教室前の廊下で練習させることとした。
同日,男子パートの練習では,生徒の間で,声が小さかったりふざけている者は前で一人で歌うというルール(本件ルール)が設けられた。そこで,指揮者であった被告Dは,原告Aを含め3名を指名して前で歌わせた。原告Aらが歌い終わった後には,それを見ていた被告Dを含む複数の男子生徒から笑い声や拍手が起きた。その後も,被告Dは,原告Aを含め複数の生徒を数回指名し,前で歌わせたが,原告Aは我慢ができなくなり,学習室を飛び出した。なお,指揮者は選択曲と課題曲のために各1人ずつおり,同年6月に被告Dは立候補によって指揮者の一人に選ばれていた。
F講師は,パート別の練習の際には随時巡回して指導に当たることとしていたが,この日は,教室で練習しようとしていた女子パートの使う機器(パソコン)の調子が当初から悪く,音楽がうまく流れなかった。そのため,F講師は,教室で,パソコンの設定を変えるなどして対応してみたが,うまくいかないので,職員室へ行き,教頭に対応策を相談していた。
午後2時ころ,F講師は,教頭との相談を終えて職員室から教室へ戻る途中,原告Aが歩いているのを見かけたため,声をかけると,原告Aは涙ぐんでおり,

もう嫌や。家に帰ります。

と言った。そこで,F講師は,休息室に原告Aを連れて行き,練習中に何があったのか,また,これまでどんな嫌がらせを受けていたのかを聞いた。
経緯を聞いたF講師が学習室へ行ったところ,男子生徒らは,

先生,原告A出て行ったで。

ちゃんと歌わなかった原告Aが悪い。

などと述べたため,F講師は,

学級全体で考えていこう。

などと呼びかけ,原告Aの気持ちを考えるよう指導した。また,F講師は,放課後,原告Aと同様に前で歌わされた生徒からも事情を聞いた。
F講師は,放課後に原告Aを自宅まで送り届け,原告Cに事情を説明したところ,原告Cから,出張中の原告Bと協議して対応を検討する,弁護士と相談して告訴・被害届も検討するなどと言われた。また,同日夜,原告Bは,甲中学校に電話をかけ,法的措置をとるなどと連絡した。
原告Aは,同月20日から,甲中学校に登校しなくなった。
2
争点(2)(被告Dの行為の違法性の有無)について
前記1(4)ないし(6),(8)ないし(10)のとおり,被告Dは,平成19年5月ころから同年9月19日まで,原告Aに対し,金もっこりと呼ぶなどしてからかう,弁当のおかずを無理にもらう,水筒のお茶を勝手に飲む,肩等を強く殴る,殺すなどと言うなどの行為を継続的に行ったことが認められ,その態様や継続性等からすると,それは,一面では被告Dの自己顕示性や,母子家庭で精神的な不安定さを抱えていたことの現れともみられるが,他方で,原告Aがこれらの行為を嫌がっていることを認識しながら,原告Aがおとなしく内向的な性格であったことに乗じて,原告Aに対する嫌がらせとして行っていたことは明らかである。
また,被告Dは,前記1(13)のとおり,同月19日,原告Aらを他の男子生徒の前で数回歌わせているが,歌い終わった後に他の生徒から笑い声等が起きていたこと,同年5月ころから被告Dは原告Aに対して上記のとおりの嫌がらせを行っていたことなどからすれば,被告Dが原告Aらに歌わせた目的は,合唱の練習を真摯に行うことにあったのではなく,これも前記同様に,原告Aらに対する嫌がらせにあったというべきである。なお,被告D及びEは,被告Dが原告Aらを歌わせたのは生徒間で決めた本件ルールに従っただけであると主張するが,上記のとおり笑い声等が起きていたことなどからすると,本件ルールは真摯に合唱練習を行うためではなく,原告Aらに懲罰的に歌わせる口実として決められたものであったと考えられるから,本件ルールに従ったことは,何ら被告Dの行為を正当化するものではない。
そうすると,被告Dの原告Aに対するこれら一連の嫌がらせ行為には,違法性があるといわざるを得ない。
3
争点(3)(平成19年9月19日までの被告京都市による注意義務違反ないし安全配慮義務違反の有無)について
(1)

本件合唱練習事件の前
F講師は,前記1(2)イのとおり,被告Dが同級生を殴ったときには制止
し,前記1(5)のとおり,被告Dが原告Aらの弁当のおかずをもらっているのを見て,原告Aが嫌がっていると感じた後は,被告Dに給食で我慢するよう指導するとともに,被告Eに対し,被告Dにパンなりおにぎりなりを持たせてやるよう頼み,前記1(6)のとおり,被告Dが原告Aの肩を殴っているのを見たときには,その場で制止して強い口調で注意していたなど,被告Dの問題行動を認識したときには,それをやめさせ,反省を促すなどの指導をしていた。
また,G教諭は,前記1(8)のとおり,被告Dが授業中に勉強しないなどと発言したときには,言葉で諭すことをしていた。
このように,F講師らは,本件合唱練習事件の前まで,被告Dに対して適宜必要な指導をしていたと認められ,注意義務違反はない。なお,F講師が被告Dを代議員にしたことについて注意義務違反がないことは,下記(2)のとおりである。
(2)

本件合唱練習事件
原告らは,被告Dを指揮者(代議員についても)に選んだこと自体が注意
義務違反であると主張する。
しかし,前記1(13)のとおり,F講師が被告Dを指揮者に選んだのは平成19年6月であったところ,前記1(2)イのとおり,平成18年度はおかずをめぐって同級生を殴ったこと以外には被告Dに目立った問題行動はなく,前記1(5)ア,(6)のとおり,被告Dが原告Aらの弁当のおかずをねだったり原告Aの肩を1,2回殴ったりしたことについては,F講師がやめさせていた。また,当時,休憩時間中に行われる嫌がらせ行為については,F講師ら甲中学校の教師はその存在を認識していなかった(当時の被告DがF講師らに対して特に強い抵抗を示していなかったこと,生徒らからの嫌がらせ行為についての申告もなかったこと,休憩時間中まで教師が生徒を監視することは,かえって生徒の反発や面従腹背のより好ましからざる態度を招き,問題行動が潜行化したり陰湿化しかねないことなどからすると,F講師らが休憩時間中に被告Dを監視せず,その嫌がらせ行為を認識していなかったことについて,注意義務違反があったとはいえない。)。これらに加え,たしかに,被告Dは,目立ちたがり屋で調子に乗って度を超しやすい,精神的に不安定で暴力的な面もある生徒であったとはいえるものの,そのような生徒であっても,これを代議員や指揮者等の責任のある役職に就かせ,その役割を果たしていく過程で当該生徒の成長を促すことは教育上意義のあることであり,もともと中学生は精神的に著しい変化を遂げる可能性を秘めた時期であることも考えれば,F講師が,被告Dが良い方向へ成長していくよう期待し,指揮者や代議員をさせたことは,教育上合理的な範囲の措置であるといえ,何ら注意義務違反となる行為ではない。
そして,こと本件合唱練習事件をみても,上記のとおり,F講師が被告Dの原告Aに対する,他の同級生に対するものとは異なる継続的な嫌がらせ行為を,認識していなかったこと,本件ルールは当日男子生徒の間で設けられたものであり,事前にF講師が認識することは不可能であったこと,前記1(13)のとおり,事件当時は,女子のパートの機器(パソコン)が故障してしまい女子パートが練習できない状態になってしまっていたこと,F講師が男子パートを見ていなかったのは,どんなに長くても,昼食時間後(昼食終了時間が午後零時50分)から原告Aを中庭で発見した午後2時ころまでの約1時間であったこと,合唱コンクールの練習において,生徒達の自主性・自律性を育てるために生徒達だけで練習させることは教育上不合理ではないことなどからすれば,F講師が,被告Dが本件ルールを設けるなどして原告Aらを他の生徒の前で歌わせるなどの嫌がらせをすることを予見することはできず,F講師が原告Aを中庭で発見する午後2時ころまでの間に,女子のパートの機器の故障への対応を措いて男子パートを見回るべき注意義務はなかったというべきである。
(3)

以上のとおり,F講師らに注意義務違反はなく,被告京都市は国賠法上
の責任ないし安全配慮義務違反による責任を負うものではない。
なお,以上の経過を通じてみると,たしかに,F講師やその他の甲中学校の教師らは,問題行動を起こしがちな被告Dに対して,継続的な監視を行うこともせず,その問題行動に対して,懲罰を与えることもしていない。しかしながら,中学校は,性格も能力も様々で,思春期にあって,精神的に未熟さや不安定さから逸脱行動を起こしがちな年齢の生徒を集団で教育する場であって,その中では,勉学のみに止まらず,生徒が他者との関わり合いを通じて行動を変容させ,社会性を身につけていくことも,大きな課題とされているのであって,そのことは,原告Aにとっても,被告Dにとっても同じことである。そうであるから,問題行動を起こす恐れのある生徒を継続的に監視し,その問題行動に懲罰を与え,他の生徒と隔離するといった対応をとることは,当該問題行動を起こしがちな生徒にとっても,その他の生徒にとっても,教育上は好ましいことではなく,やむを得ず許容される場合があるとはいえ,それを最初に,あるいは早期に選択すべき手段であるとすることはできないというべきである。そうすると,被告Dのように問題行動を起こしがちな生徒に対する対応は,第一には,現場を預かる教師の教育的見地からの裁量に委ねられているといわなければならず,その場合の現場の教師や,校長ら学校側の負う注意義務も,そのような現場の教師の裁量を前提としたものにならざるを得ないのであって,監視,懲戒,隔離といった手段を採らなかったことに注意義務違反が認められるのは,そのような手段をとることがやむを得ないと認められるような限定された場合に限られるといわなければならない。そして,本件では,そのような手段をとることがやむを得ないと認められるような事情があるとまではいえない。
平成19年2月5日付け文部科学省初等中等教育局長発出の問題行動を起こす児童生徒に対する指導について(通知)と題する通達文書(甲11)に,いじめの問題への対応では,いじめられる子どもを最後まで守り通すことは,児童生徒の生命・身体の安全を預かる学校としては当然の責務です。同時に,いじめる子どもに対しては,毅然とした対応と粘り強い指導により,いじめは絶対に許されない行為であること,卑怯で恥ずべき行為であることを認識させる必要があります。との記述があることは,上記を裏付けるものである。同文書には,併せて,出席停止や懲戒等の措置も含め,毅然とした対応をとることも記述されているが,その記述は,そのような措置を原則的な対応とすべきことをいうものではなく,上記の理解と矛盾するものではない。
原告らの主張が,本件合唱練習事件に至るまでの間に,甲中学校側に,被告Dに対する,監視,懲戒,隔離の注意義務があったというにあるのであれば,そのような主張を採用することはできない。
4
争点(4)(平成19年9月19日以降の被告京都市による安全配慮義務違反の有無)について
(1)

証拠(甲11,14,22,乙A4ないし6,9,10,13,乙B3,
証人F講師,原告B本人,被告E本人)及び弁論の全趣旨によれば,本件合唱練習事件後について,以下の事実が認められる。

甲中学校の対応
(ア)

平成19年9月19日の本件合唱練習事件後,F講師は,原告Aか
ら事情を聞き,2年4組の男子生徒らに対して原告Aの気持ちを考えるよう指導し,原告Aと同様に前で歌わされた生徒からも事情を聞いた。放課後,F講師は,原告Aを自宅まで送り届けて原告Cに事情を説明したところ,原告Cから,出張中の原告Bと協議して対応を検討する,弁護士と相談して告訴・被害届も検討するなどと言われた。また,同日夜,原告Bは,甲中学校に電話をかけ,法的措置をとるなどと連絡した。原告Bは,原告Aに対し,甲中学校には

もう行かんでもよろしい。

と言った。
同日夜,原告Aは,嫌がらせをした男子生徒1名(被告Dではな
い。)から塾に呼び出され,謝罪を受け,仲直りをした。
(イ)

同月20日以降,原告Aは,甲中学校に登校しなくなった。なお,
原告Aは,同日以降は塾には毎日通っており,甲中学校の生徒とも話していた。
同日,F講師ら甲中学校の教師らは,被告Dら原告Aに対して嫌がらせをしていた男子生徒らに対し,事実関係を聞くとともに,反省を促し,原告Aに対する謝罪の意思を確認するなどした。放課後,F講師は,被告Dらを自宅まで送り,保護者に事情を説明した。なお,被告Eは不在であったため,被告D宅では被告Dの祖母に概要を説明した。
同日,原告Bは,甲中学校を訪問し,H校長に対し,

転校させてください。

犯人を捕まえて矯正機関に送るなり,刑罰を与えるなり,そういうことをするか,それかうちが出て行くか,どちらかにさせてください。

などと述べ,謝罪は断ることも伝えた。また,原告Bは,転校先の第一希望として乙中学校を,予備的な希望として丙中学校及び丁中学校を挙げた。
同日の夜,F講師及び学年主任のJ教諭は,原告Aに謝罪したいという男子生徒1名(被告Dではない。)とその母親とともに,謝罪のために原告ら宅を訪問したが,同男子生徒が,原告Bから,

お前のやったことは犯罪だ。野球ばかりしているからこんな馬鹿なことをするんだ。

などと怒鳴られたため,原告Aに対して謝罪することができなかった。
(ウ)

同月21日,F講師は,被告Dの自宅を訪問し,前日不在であった
被告Eに対して事情を説明した。被告D及び被告Eは,原告Aに対して謝罪する意思を示したが,F講師は,原告らが謝罪を断っており,上記(イ)のとおり原告Bが謝罪に来た男子生徒を怒鳴る出来事があったことから,被告Dらが謝罪に行くと,余計に関係が悪化しかねないと考え,その時点においては謝罪を控えてもらうこととした。
同日ころ,原告Aは,友人の男子生徒らに対し,転校することになったとのメールを送った。
(エ)

同月22日,F講師及びJ教諭が原告ら宅を訪問したところ,原告
Bから,転校の手続を早くとってほしいこと,顧問弁護士と相談したこと,加害者が学校に残って被害者が転校するのは納得がいかないこと,原告Aが被告Dから何百発も殴られたと言っていること,甲中学校には管理不行届の責任があること,学校はもっと子ども達への接し方を考えるべきであることなどの話をされた。F講師らは,原告Aに対する甲中学校による今後の対応について,ほとんど話すことができなかった。F講師らは,原告ら宅を辞するときに,2,3分原告Aと話をすることができたが,あまり内容のある話はできなかった。
(オ)

同月26日,H校長は,原告ら宅を訪問し,原告Bに対し,もう一
度チャンスをもらえないか申し出たが,原告Aも嫌がっているとして拒否された。
(カ)

F講師は,同月27日及び同年10月4日,原告ら宅を訪問し,原
告Aに対し自習等のためのプリントを渡した。
また,同月9日,F講師は,原告ら宅を訪問し,原告Aに対して転校の意思を尋ねたところ,原告Aは,

別にどちらでもよい。明日から口中学校に行けと言われれば行くし,転校してもかまわない。

あえてどちらかというと転校したい。

塾には通っており,甲中学校の生徒とも話す。

などと述べた。イ
区域外就学への手続
(ア)

平成19年9月19日,H校長は,京都市教育委員会事務局指導部
生徒指導課の指導主事であったK主事に本件合唱練習事件について相談した。同月20日,K主事は,H校長に対し,詳しい経緯や原告Aが登校していないことなどを聞き,

学校全体として取り組むように。保護者に対しては転校を思いとどまってもらうように話をしていくように。原告Aからもしっかり話を聞くように。

と助言し,その後もほぼ毎日経過について報告を受けていた。
同年10月2日,K主事は,H校長と相談した上で,原告Bの転校の意思は固く,これ以上甲中学校の原告Aへの取組を説明しても効果がなく,転校はやむを得ないとの判断に至った。
同月3日,K主事は,原告Aの区域外就学先について検討し,戊中学校であれば,乗り換えなしにバスで通学することができ,学校全体として十分な受け入れ態勢を整えることができる状況にあり,他に候補となる適当な中学校がないことから,戊中学校を原告Aの転校先とすることとした。なお,K主事は,乙中学校は,中京区担当の指導主事や同中学校のL校長から,転入生の人数が1クラス分くらいになっており,区域外就学で生徒を受け入れる余裕がないと聞いたことなどから,丙中学校は,h区担当の指導主事から,2年生で生徒間トラブルが発生しており,十分な受け入れ態勢を整えることができる状況ではないと聞いたことなどから,丁中学校は,京都市立の中学校ではなく区域外就学の対象ではないことから,それぞれ候補から外した。
(イ)

同年10月4日,H校長は,原告ら宅を訪問し,区域外就学の手続に必要な書類を原告Cに渡し,翌5日,記入された書類を受け取った。同月11日,K主事は,戊中学校のM校長から,受け入れ態勢をとれる旨返事をもらったため,H校長に対してその旨伝えた。
そこで,同月12日,H校長は,原告ら宅を訪問し,受け入れ先が戊中学校に決まったことを報告した。しかし,原告B及び原告Cはこれを拒否するとともに,被告Dに対して民事訴訟を提起すると述べた。ウ
転校後
同年10月22日,原告Aは,乙中学校に転校して通学を開始した。原告Aは,2,3週間は本件マンションから通学していたが,その後は原告ら宅へ戻り,そこから通学するようになった。
同月30日,F講師及び生徒指導部長のN教諭が,被告Dへの指導について報告するために原告ら宅を訪問したところ,原告Bは,

刑事では罰を与えきれない。民事で長引かせることが抑止につながる。私から社会へのプレゼント。

などと話した。同年11月16日,F講師が原告ら宅を訪問すると,原告Bは,被告D以外の男子生徒についても刑事事件にすることを考えている旨話した。
(2)

検討
原告らは,被告京都市には,原告Aが安心して勉学できる環境を速やかに提供するなどの義務があったと主張するが,かかる義務の内容は,それ自体としては漠然とした極めて抽象的なものであり,債務不履行(安全配慮義務違反)の前提となる義務たり得ないというべきである。

イ(ア)

なお,仮に,本件合唱練習事件後に,被告京都市に原告Aに対する
何らかの義務が認められるとして検討すると,たしかに,既に認定説示したとおり,原告Aは,被告Dによる繰り返された嫌がらせに,本件合唱練習事件における他の生徒らの行動も相まって,甲中学校に登校できない状態に陥ったのであるから,これに対して,学校側が何の対応もとる必要がないとまではいうことができない。しかし,上記認定事実によれば,H校長ら甲中学校の教師らは,当初,原告Aを転校させるのではなく,被告Dら原告Aに対して嫌がらせをしていた男子生徒らを反省させ,生徒らの行動を変え,原告Aに対して謝罪させることなどによって,原告Aと被告Dらの関係を改善,修復し,原告Aにも,従前どおり,甲中学校に登校できるようになることを目指していたことが認められる。前記の平成19年2月5日付け文部科学省初等中等教育局長通知の記述からしても,生徒間で嫌がらせ等の問題行動が生じた場合に,直ちに転校等により,嫌がらせをした生徒と嫌がらせを受けた生徒を完全に引き離す形で問題を終わらせるのではなく,事案に応じて,嫌がらせ行為をした生徒に,相手の気持ちを考えさせ,自分のしたことの重大さを気付かせ,反省させ,嫌がらせをされた生徒に対する真摯な謝罪をさせ,他方,嫌がらせを受けた生徒の心情をケアするなどして,人間関係の修復を目指すことは,精神的に未成熟な中学生の成長を促す上で,教育上取り得る合理的な手段であることは明らかといわなければならない。本件では,上記(1)ア(ア)(イ)(カ)のとおり,原告Aは不登校になった後も甲中学校の生徒と塾で会って話すことができており,1名の男子生徒からの謝罪を受け入れていたこと,上記(1)ア(カ)のとおり,原告A自身が必ず転校したいとまで考えているわけではなかったと思われたこと,上記(1)ア(ウ)のとおり,被告Dが謝罪する意思を示していたことなどからすると,F講師らが,原告Aと被告Dらとの関係を修復させることを第一に考え,原告Aを直ちに転校させなかったことは,学校がとりうる対応として合理的な裁量の中にあり,安全配慮義務(原告らのいう安心して勉学できる環境を速やかに提供する義務)違反とならないというべきである。
また,K主事は,原告らの転校の意思が固く区域外就学もやむを得ないと判断した同年10月2日以降,転校先を検討し,同月12日に転校先を提示したものであるが,不当に時間を要したとまではいえず,前記と同様に安全配慮義務に違反したとはいえない。
(イ)

また,上記(1)イ(ア)のとおり,被告京都市(教育委員会)が転校
先として戊中学校を指定したのは,原告らの希望した乙中学校,丙中学校,丁中学校は,いずれも区域外就学での受入れが困難ないし不可能とされる学校であったことと,戊中学校であれば乗り継ぎなくバスで通学できること,学校として区域外就学で生徒を受け入れる態勢が整っていたことによるのであって,合理的な判断であったといえる。
原告らは,戊中学校に通学するためには被告Dの家のある地域を通らなくてはならないと主張するが,原告ら宅の最寄りのバス停から戊中学校前のバス停までは,乗り継ぎを要することなくバス一本で行けるのであって,当時の被告Dの自宅のあった区域(京都市i区j町)はバスが走るk通りに面していないし,甲中学校は被告Dの自宅より北にあり,k通りは被告Dの自宅よりも南にあるから,被告Dの通学路と原告ら宅から戊中学校への通学路とは交差しないこと(甲14,乙A13,顕著な事実)からすれば,転校先を戊中学校にすることが,通学路の点で不合理であるということはできない。
また,原告らは,戊中学校では校内暴力があるなど問題のある学校であると主張し,証拠(甲23ないし31)を提出するが,戊中学校で,京都市教育委員会と市教組とが対立して分裂授業を行った事件や教師による転任拒否事件が起きたのは昭和29年(甲23,25,30,31)のことであるし,校内暴力があったという原告らの主張は,風評の域を出ない根拠を欠くものであり,戊中学校を転校先とすることを不合理とする理由となるものではない。
したがって,被告京都市が戊中学校を転校先として提示したことについて,前記と同様に安全配慮義務違反はない。

以上のとおり,平成19年9月19日以降の対応について,被告京都市に安全配慮義務違反は認められない。

5
争点(5)(被告Eによる注意義務違反の有無)について
上記1(2)イのとおり,1年生の段階では,被告Eは,被告Dがおかずをめぐって同級生を殴るという事件を起こしたと聞いたものの,被告Dはその同級生や親に謝罪をしており,それ以外に目立った問題行動はなかったこと,上記1(12)のとおり,2年生の段階では,夏休み後に被告Dが校則違反の髪型にしたときには,被告Eはやめるよう何度も注意し,本件合唱練習事件までには髪型が直ったこと,上記1(5)アのとおり,被告Eは,月に1回程度のF講師による家庭訪問のときに,被告Dの学校での様子を聞き,昼食の量が足りずに同級生のおかずを取るとは聞いたが,暴力や嫌がらせなどをしているとは聞いていなかったし,それ以降はおかずを作って持たせるようにしたこと,上記1(1)イのとおり,被告Dは被告Eに対して反抗することはあまりなく,暴力を振るうこともなかったことからすると,被告Eが,被告Dが原告Aら同級生に対して嫌がらせをしていると具体的に予見することは困難であって,被告Eには,原告らの主張するような,被告Dや同級生らに対して被告Dが学校で他人に嫌がらせなどをしていないか尋ねる義務はなかった。
また,上記1(5)アのとおり,被告Eが,被告Dの昼食の量が足りないとのF講師の指摘を受け,おかずを作って被告Dに持たせるようにしたこと,被告Dが校則違反の髪型にしたときには,被告Eはやめるよう何度も注意したこと,本件合唱練習事件を知った後,被告Eは被告Dに対して

謝りに行かなあかんことしたから,ちゃんと謝りに行くから。

自分されたら嫌なことは人にしたらあかん。

などと諭したことなどからすれば,被告Eは,被告Dについて問題が起これば適宜誠実に対応していたのであって,被告Dを放任していたとは認められない。
よって,被告Eに注意義務違反があったとは認められない。
6
争点(6)(損害及び因果関係)
(1)

原告Aについて
上記2のとおり,原告Aは,被告Dから嫌がらせを受け,その都度不愉快
な思いをするとともに,本件合唱練習事件のため,結局のところ甲中学校から転校することになったと認められるから,被告Dは,原告Aの受けた精神的苦痛について損害賠償義務を負う。被告D及び被告Eは,被告Dの嫌がらせと原告Aの転校とは因果関係はないと主張するが,上記4(1)ア(カ)のとおり,原告Aは強くはないが転校する意思を持っており,原告Bの一存で転校したとまではいえないこと,被告Dによる本件合唱練習事件までの一連の嫌がらせを含めて,原告Aが被告Dのいる甲中学校に通いたくないと考えるに至ったことは不自然ではないことからすれば,被告Dの嫌がらせ行為と原告Aの転校との間には相当因果関係がある。なお,後記(2)のとおり,乙中学校への転校との間には相当因果関係は認められない。
そして,被告Dの原告Aに対する嫌がらせの期間,態様,転校の経緯等からすると,原告Aの慰謝料は50万円と認めるのが相当であり,弁護士費用としては5万円と認めるのが相当である。
(2)

原告B及び原告Cについて
被告Dの嫌がらせにより,原告Aは転校することになったが,上記4のと
おり,被告京都市が戊中学校を転校先として提示したことは合理的な判断であり,原告らが戊中学校を拒否した理由は合理的なものとはいえないことからすると,被告Dの嫌がらせと原告Aの乙中学校への転校との間に相当因果関係はないというべきである。
よって,被告Dは,原告B及び原告Cに対しては損害賠償責任を負わない。7
結論
以上のとおりであり,原告Aの被告Dに対する請求は,55万円及びこれに対する不法行為終了後の平成19年9月20日から支払済みまで民法所定の遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,これを認容し,原告らの被告らに対するその余の請求は理由がないから,これらを棄却することとして,主文のとおり判決する。
京都地方裁判所第7民事部

裁判長裁判官

松本清隆
裁判官

橋本眞一
裁判官髙橋里奈は,転補のため,署名押印することができ
ない。

裁判長裁判官

松本清隆
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