判例検索β > 平成13年(わ)第615号
殺人、死体遺棄被告事件
事件番号平成13(わ)615
事件名殺人,死体遺棄被告事件
裁判年月日平成15年5月21日
裁判所名・部岡山地方裁判所  第2刑事部
裁判日:西暦2003-05-21
情報公開日2017-10-13 01:44:18
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主文
被告人を死刑に処する
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1

平成13年8月9日午前9時20分ころ,岡山市a町b番c号所在のAハイツd号の
当時の被告人方台所において,かねて金銭を貸し情交関係を持っていたB(当時57歳)に対し,殺意をもって,その背後から,同女の頸部を両手で絞め付けた上,たまたま手近にあった電気ポットのコードを同女の頸部に巻き付けて緊縛し,苦しみもがいて同人方6畳間に転倒した同女の身体上に馬乗りになってその頸部を両手で絞めつけ,よって,そのころ,同所において,同女を頸部圧迫により窒息死させて殺害し,
第2

同日午前11時10分ころ,同女の死体を普通乗用自動車後部トランクに積んで同
所から同市e町f番g号西方約60メートルのC川東岸まで運んだ上,これを同所の竹やぶ内に投棄し,もって死体を遺棄したものである。
(量刑の理由)
本件は,殺人及び死体遺棄の事案である。
被告人の経歴,前科及び犯行に至る経緯等
(1)

被告人は,愛知県東加茂郡内で出生し,地元の小,中学校を卒業した後,同県立農林高校へ進学したが中退し,家業の農業に従事したり,運送会社,ガス会社等に勤務した後,昭和47年3月ころから名古屋市内にある郵便局の貯金課外務員として稼働していた。

(2)

被告人は,この間,昭和37年に結婚して2子をもうけ,愛知県岡崎市内に建て売り住宅を購入して妻子とともに生活していたところ,昭和51年夏ころ,たまたま赴いた同市内のバーでホステスをしていた女性と知り合い,間もなく肉体関係を結び,郵便局の金銭を使い込んでまで同女との交際に入れあげるよう
になり,妻も被告人との離婚を決意し,被告人も前記女性との結婚を考えるようになり,同女からも被告人と結婚したい旨打ち明けられるに至った。この間,被告人は同女との遊興費等にあてるため,郵便局職員の地位を利用して有印私文書偽造,同行使,詐欺,業務上横領を敢行して合計600万円以上の金銭を着服するなどした。ところが,被告人が郵便局の金銭を使い込んだことが発覚し,業務上横領事件として新聞報道されたため,それ以後同女の被告人に対する態度が次第に冷淡になり,さらに,昭和52年8月21日の早朝未明ころ,同女から,もう被告人の顔も見たくない,被告人に金銭があったから付き合っていたなどとののしられ,露骨に変心の態度を示されて激怒し,付近に落ちていた丸太棒で同女を殴打して殺害し,さらに同日中に、共犯者と共謀の上、同女の死体を同県東加茂郡足助町地内の川原まで運搬し,岩と岩のすき間に投げ込んで死体を遺棄したが,この殺人死体遺棄事件はしばらく発覚しなかった。(3)

被告人は,上記業務上横領等事件により郵便局を懲戒免職になり,さらに妻から離婚訴訟を提起され,昭和53年8月,妻との離婚の裁判が確定した。
(4)

被告人は,昭和53年12月ころ,同県岩倉市内の小料理店に赴いたところ,同店経営者の女性を気に入り,間もなく常連客となり,同女と肉体関係を結ぶなどし,以後毎晩のようにモーテルで肉体関係を持つなど親密に交際を続けるうち,同女との結婚を考えるようになったが,昭和54年8月26日早朝未明ころ,同女から正式に結婚しようと申し出られた際,この機会に自己の境遇を打ち明けておこうと考え,以前働いていた郵便局で600万円を横領したことなどを告白したところ,口論となり,同女から,もう店へ来なくていい,顔も見たくない,もう2度と来るななどと露骨に変心の態度を示されて憤激し,同女をベッドの上に突き倒して同女の顔を手拳で数回殴打するなどしたが,同女が逆上して叫びながら暴れ出したため,同女に馬乗りとなり,同女の頸部を両手で強く絞め付け,さらに同女が着用していたブラウスのネクタイ様ひもで同女の頸部を強く押しつけて窒息死させて殺害し,同日中に同女の死体を前記同様の川原
まで運搬し,岩と岩のすき間に投げ込んで死体を遺棄した。
(5)

上記(4)の事件発覚を契機に前記(2)の殺人等も発覚し,被告人は,昭和55年3月19日,名古屋地方裁判所一宮支部で,殺人死体遺棄,有印私文書偽造,同行使,詐欺,業務上横領事件で無期懲役刑に処せられ,同年4月3日,確定した。

(6)

受刑中の被告人は,いわゆる模範囚で,くも膜下出血により入院することなどはあったものの,規律違反は皆無で,15年間無事故(規律違反なし)の表彰を受けるなどした。

(7)

被告人は,平成11年11月11日,仮出獄を得て,約70万円の作業賞与金を持って更生保護施設に身を寄せ,職業訓練を受けるなどしていたが,平成12年3月,判示肩書地に住居を借り,新聞配達や清掃業に従事して生活していた。
(8)

被告人は,新聞配達をしていたころ顔見知りとなった男性と親しくなり,何回か金銭を貸していたこともあったが,同人を介して,平成13年3月ころ,B(以下被害者という。)と知り合い,直後に前記男性を介して被害者に金銭を貸した。被告人は,上記男性から,同人を介さず被害者に直接金銭を貸してはいけない旨言われていたものの,その後,借金返済に困っていた被害者から直接金銭を貸してくれと哀願されて断り切れず,以後,被害者から無心されて,1回に1万円ないし30万円くらいの金銭を直接貸すようになり,ついには被害者と肉体関係を結ぶに至った。
被害者は,既に破産宣告を2度も受け,多額の借金を抱え(平成13年8月9日現在で1192万余円),同年6月には生活保護を受けるため夫と仮装離婚するなどしており,借金を返済してもすぐに再度借金をしたり,借金の保証人になるよう求める状態であり,同様に多額の借金を抱えて破産宣告を受けたことのある友人数名に相互に貸し付けを求めたり,相互に保証人になるなどしていた。被告人は,次第に被害者が借金まみれで,貸金の返済を受ける見込みがないことに気づき,また被告人自身の手持金も底を尽くに至り,これ以上被害者に
関わったら抜き差しならない状態になると思い,被害者と縁を切ろうと考え実際に縁を切ろうとしたこともあった。しかし,複数回同女と肉体関係を結んでいたことなどによる未練や,身体に障害を抱えていた同女への同情心,さらには同女から重ねて借金を申し込まれたこと,頼りがいのある男と思われたいという見栄等から断り切れず,被告人自身が消費者金融業者から借金をして得た金銭を被害者に貸すようになり,また被害者の依頼で,被害者同様借金に困っている被害者の友人にも貸すようになり,こうして被害者に金銭を貸し続け,被害者に対する貸金の額は約185万円にのぼった。被告人は,2つの仕事をするなどして収入を得ており,単身での生活に困ることはなかったのであるが,被害者らに対する貸し付けのため,自らの生活を切りつめた上,隣人や消費者金融業者等から約140万円を借り,本件当時その残額の約132万余円の借金を抱えていた。
(9)

被告人は,担当保護司から月に数回来訪を受けたりして指導監督を受け,保護司等から女性関係に気をつけるよう注意されていたものの,女性関係のことを積極的に相談するのに気が引けたことや,相談しても被害者のような女性との付き合いは止めるよう言われるだけだと思いこみ,被害者との付き合いを相談することはなかった。
平成13年7月11日,保護観察所主任官が面接し,生活状況,交友関係について聴取した際,女性関係については仕事上のつきあいはあるが,個人的な付き合いはない旨述べたため,同主任官は,更に,以前担当者が往訪した際,女性が居たことが何回かあったが,それはどのような関係かと質したが,被告人は一切話さなかった。

(10)

被告人は,被害者からの度重なる金の無心に,つい口から出まかせで,名
古屋の方に当てがあるなどと言ってしまい,その話を聞いた被害者からしつこくきかれたことで,さらに,被害者と結婚することにすれば名古屋にいる叔母から金銭を調達できるだろうなどと嘘を重ねたところ,これを真に受けた被害
者が前記友人らに吹聴し,被害者らの間では,名古屋へ行けば金銭が入ることが当然の前提のようになってしまった。被告人は,平成13年8月8日に,やむを得ず名古屋方面を旅行することになったが,その際,被害者の要請でその友人らも連れて行かざるを得なくなった。当日,被告人は,被害者に求められ,同女やその友人らの復路の新幹線代等を負担したほか,同女らの食事代,パチンコ代,当日必要な借金の返済金を貸すなどした。また,被告人は,嘘を取り繕うため,知人に依頼して,被告人の叔母が金銭を銀行振込した芝居をさせた。そして,同日夜,岡山駅で,被告人は,被害者に対し,友人らのいる前で,振り込まれた100万円を貸すので,翌9日午前8時30分ころに被告人方に1人で来るように言って別れた。
犯行状況等
(1)

被告人は,平成13年8月9日の午前8時過ぎころ,職業安定所へ職探しに行くため,レンタカー会社へ小型車のレンタカーを借りに行ったが,あいにく小型車の空きがなかった。
そこで,被告人は,同日午前8時19分ころ,同系列会社の別の営業所に電話を入れて小型車を予約し,同日午前9時30分ころに同営業所へ赴く旨告げた。
(2)

被害者は,同日午前7時55分ころ,被告人に電話を入れ,これから被告人方に行く旨告げた後,同日午前8時39分ころ,タクシーで被告人方へ到着した。なお,被害者は,被告人と会った後,同日午前9時30分に友人と会う約束をしていた。

(3)

被告人は,被害者に対し,前日の名古屋での叔母からの銀行振込は嘘であった旨告げ,借金返済資金として当てにしていたと怒る被害者と口論したりしたもののいったんは収まり,それまでの被害者の被告人に対する借金状況を確認することとした。
ところが,その最中,被害者はいわゆる暴力金融への返済金10万円がどうしても必要であり,被告人が前日の名古屋の件で嘘をついたから当然被告人が都
合をつけなければならないようなことを言い出し,他方,被告人は,既に期限が到来した隣人からの借金24万円の遅延が気になっていたことや,被告人が消費者金融業者から借りてまで被害者に貸していたこれまでの貸付経緯等に基づく不満を口にしたことから再度激しく口論となった。被害者は,返すあてが不明確なのに,なおも

プライドがある。払うものは払う。

などと被告人に対する返済を実行すると言い張ったり,自分の借金返済のことや,自分の都合ばかり言った上,

金の都合がつかないところにいてもしょうがないから,帰る。

などと借金状況の確認や被告人の隣人に対する返済の話も済んでいないのに帰ろうとし,これに対して被告人が被害者の左肩をつかんで引っ張ったところ,被害者は

返さないとは言ってない。

などと大声で怒鳴った。被告人は,被害者からこのように開き直った態度をとられたことで,それまでの被害者に対する好意,同情,見栄,肉体関係を持った特別な関係などから,被害者に対し金銭の都合をしていたのに,被告人の援助を何とも思っていないように急変した被害者の態度を見て,

今まで散々利用しておきながらその態度は何だ,俺のことは考えずに自分のことばかり考えて。

などと思って激高し,とっさに怒りから殺意を生じ,判示第1の犯行に及んだ。
(4)

その後の同日午前9時26分ころ,被害者の携帯電話にその友人から電話があり,続いて被告人の携帯電話にも電話があった。被告人は,同人から被害者の所在を問われたものの,とっさに自分も被害者と会う約束をして待っているが来ない,早く来るように伝えて欲しいなどと答えた。
そして,同日午前10時1分ころ,被告人は,かねて予約していたレンタカー会社に電話し,予約の時間に遅れる旨告げ,午前10時20分ころ,レンタカーを借り出した。その際,被告人は顔に引っ掻き傷があり,レンタカー会社の係員には猫に引っかかれた旨説明した。

(5)

被告人は,借り出した車で自宅に戻り,トランク内に被害者の死体や同女の所持品を積み込み,通勤途上に見知っていた判示第2の場所に赴いて判示第2の
犯行に及んだ。
(6)

そして,被害者の安否を気遣っていた同女の友人らのもとへ赴き,同女が被告人方に来ていないなどと嘘を言った。その際,同女の友人らから左頬の引っ掻き傷を指摘されたが,仕事場でけがをしたなどとごまかした。その後,被告人は同日午後零時20分ころ,レンタカーを返却した。

(7)

自宅に戻った被告人は,被害者の靴や被害者の吸ったたばこの吸い殻を処分し,自宅を出て岡山市内のサウナに泊まった後,愛知県内の名古屋市や岡崎市等へ行き,電話で知人に金を無心したり,犯行をほのめかす発言をしたり,自殺するための紐を購入したりしていたが,同月15日,愛知県東加茂郡足助町付近で捜査員に発見され,逮捕された。

そこで,以上認定の事実をもとに,本件を検討する。
(1)

本件は,前記のとおり,いずれも被告人が金銭をつぎこんで交際していた女性から露骨に変心の態度をとられたことに激高し,わずか約2年の間に2度にわたり,合計2名の女性を殺害し,それぞれの死体を隠すために山中の川原に遺棄した罪等により無期懲役刑に処せられて約19年7か月間服役し,その後ようやく仮出獄を得たが,仮出獄後わずか約1年9か月後の犯行であり,被害者と知り合ってからわずか約5か月後に敢行した犯行である。
しかも,肉体関係のある女性との間で金銭関係を背景にして敢行している点では,前刑の2つの殺人死体遺棄事件と共通している。

(2)

本件犯行の動機は,前記のとおり,被告人が借金返済に困っていた被害者から哀願されて断り切れず被害者に金銭を貸し続けたものの,貸金の返済を受ける見込みがないのにさらに金の無心をする被害者に不満を抱いていたところ,被告人も手持金が底をついたばかりでなく消費者金融業者からの借金にまで手を染め,その額が百数十万円にまで膨らむに至ったことで,ついに同女との金銭貸借関係を清算しようとしたのに,その金銭貸借関係の確認の最中に,

金の都合のつかない被告人方にいても仕方がないから帰る。

などと言って被害
者が帰ろうとする素振りを見せ,またこれを引き留めようとした被告人に対し,

返さないとは言っていない。

などと怒鳴り返すなど開き直る態度を示したことに激高したことにある。
(3)

被告人は,判示のとおりの残忍な方法で被害者を殺害したもので,その尊い生命を奪った結果の重大性はいうまでもない。

(4)

犯行後も,同女の安否を気遣う同女の友人からの電話に平静を装い,同女の行方を知らない旨とぼけたり,同女の友人らやレンタカー会社の係員に対し,本件犯行により頬に出来た傷を取り繕うなど狡猾である上,同女の死体と所持品をレンタカーに積み込み,人目につかない河川沿いの竹藪の中に投棄し,判示の真夏の暑さにより腐乱するに任せて,自身は知人に金を無心するなどしながら,故郷の愛知県方面で逃亡生活を送っていたもので,その間,死体は到底見るに耐えない悲惨な状態となり,遺族は死体を見ることなく荼毘に付さざるを得なかったことからすると,非情であるといわざるを得ない。

(5)

被害者の行状は,前記のとおり芳しくない面もあるが,自己の借金によって家族に迷惑をかけるのを防ぐために仮装離婚するほどで,仮装離婚後も元夫と同居し,元夫や子供らに愛され孫からも慕われていたものであり,いまだ57歳にして,突然の凶行によりこれら家族に囲まれた人生を断ち切られた被害者はさぞ無念であったと推認される。
被害者の遺族の,被害者に対する哀惜の念は強く,処罰感情は峻烈であって,被害者の元夫は,公判廷において

むごい仕打ちで殺すということは人間じゃないです。だから,できることだったら死刑にしてもらいたいです。

と証言している外,被害者の子らは一様に極刑を望む旨述べている。

(6)

他方,被告人の本件犯行前後の行動を時系列に沿って見ると,前記犯行に至る経緯のとおりであり,被告人が本件犯行前にレンタカー会社に小型車のレンタカーを予約していたのは職業安定所等へ赴くための職探しのためであり,本件犯行後に被害者の死体を遺棄するために用いたのは偶然であるといわざるを
得ず,本件犯行が事前に計画された用意周到な犯行であるとはいえない。また,本件犯行も,前記認定のとおり,とっさの激情に基づく犯行であるといえる。しかしながら,その犯行態様は,突然,被害者の首を背後から両手で絞めつけ,さらに逃げようとする同女の首に偶々手近にあった電気ポットのコードを巻き付け,必死に抵抗する被害者を転倒させてさらに両手で首を絞めて殺害したものであり,とっさの激情に基づくものとはいえ,首を絞め続け死に至るまでの一定の時間,殺意が継続していたものであり,この殺意の継続を考えると,計画的でなかったことは決定的に有利な事情とはならない。
(7)

また,被害者は,前記のとおり,既に2回の破産宣告を経ながら事件当時1192万円余りの借財を抱えていたところ,被告人と知り合った当初から被告人に借金申込みを依頼し,その好意を利用して金銭を借り続け,被告人が手持金を使い果たしたことを知っても,被告人名義で消費者金融業者から借金して貸して欲しいなどと金の無心を続け,被告人に,消費者金融業者等に対する合計約132万円の借金を負わせた上,夫のある身でありながら被告人と肉体関係を結んでいたものであり,その行状には芳しくない面もあると同時に,被害者に落ち度が認められる。
しかし,被告人は,被害者が借金まみれで,貸金の返済を受ける見込みがないことに気づき,いったんは被害者と縁を切ろうとしたこともあったのに,同女との情交関係への未練や,身体障害への同情心,見栄等から,同女からの重ねての借金申込みを断り切れず,敢えて被害者に金銭を貸し続けたものであること,被告人の被害者に対する貸金は合計約185万円,同女らのための被告人自身の借金も合計約132万円程度であり,貸金の回収ができなかったとしても,被告人の今後の生活が立ち直り不可能であって破綻を来すほどの額ではなく,被害者と縁を切り,仕事に打ち込んで収入を得ることで(最悪の場合でも破産手続等により),新たな生活設計を立てる見込みがあったことがそれぞれ認められ,そうすると,被害者の落ち度は,殺害されてもやむを得ないほどの重大
なものということはできない。
(8)

このほか,被告人は,逮捕後は犯行を素直に認めており,被害者を悼む気持ちが認められること,前刑服役中は,作業賞与金の中から殺人前科の被害者のうちの1人の遺族に毎年3万円を送金し,もう1人の被害者の遺族にも送金を申し出ていたこと等斟酌すべき事情も認められる。

当裁判所の職権により実施した被告人の情状鑑定によれば,被告人は,種々の心理テストの結果では,能力的な度合いは平均レベルであるが,全体的に性格のバランスを保ちつつもどこか一部の尺度が平均からずれる傾向にある,客観的な情報収集能力,判断能力が低い,社会不適応が顕著で異性との関係は分裂しやすい,欲求不満の原因を他者や状況のせいにする傾向が強い,現実吟味能力が低下し容易に衝動的な行動に走りがちである,環境の変化があっても内的状況に変化はないのではないか,日和見主義的対応をし,真面目でおとなしい印象を与えるが,依存の反動形成として不誠実な対人態度を示すことが多い,計画性がなく,衝動的で熟慮に欠ける,という傾向が見られた。そして,被告人は,①人間関係を築くのに困難はないにもかかわらず,持続的な人間関係を維持できないこと,②フラストレーションに対する耐性が非常に低いこと,および暴力を含む攻撃性の発散に対する閾値が低いこと,③罪悪感を感じることができないこと,あるいは体験,特に刑罰から学ぶことができないこと等の項目を備え,④他人の感情への冷淡な無関心,⑤他人を非難する傾向,あるいは社会と衝突を引き起こす行動をもっともらしく合理化したりする傾向が著しいという傾向もあり,非社会的人格障害(反社会性人格障害とほぼ同義)に該当するとされた。
外見上は一見わかりにくいタイプの性格障害者であるが,これまでの犯行や心理テストでは,熟慮性の欠如があり,感情的になったときの自己の精神のコントロール不能状態が起こりやすいこと,残虐な行為も比較的淡々となしえることが明らかであり,内面的には表面と異なる要素が潜んでいることが窺えるし,また,再犯を犯したことから,刑に服したことが学習にあまりなっていなかったことが窺え,こ
れは心理テストからも類推されている,一方,被告人は模範囚であったことから,管理される状況であれば問題行動は著しく減弱する可能性が想定される,とされた。上記鑑定結果も考慮すると,被告人は,今回,自己が2度と前科と同種の犯行を惹き起こすことのないよう,その衝動を抑制すべきであったし,また,そうすることが可能であったと考えられる。被告人が有している上記の人格障害は,今回,前刑の無期懲役刑の仮出獄により,自力更生の機会を与えられたのに,その機会を生かすことなく,社会復帰してから約1年9か月後に本件犯行を犯していること,無期懲役刑に処せられて19年余りの服役を経たのに再び同種の犯行を行っていること,既に60歳を越えているというその年齢,今後改善更生に協力する肉親もいないこと等を考慮すると,人格を変容し,犯罪傾向を改善する見込みがあるとは,到底いえないというべきである。
以上を前提に考察すると,被告人に有利な情状があり,死刑が究極の刑罰であって,その適用は慎重でなければならないことを十分に考慮しても,既に類似の殺人罪2件等により無期懲役に処せられたにもかかわらず,さらに殺人を敢行した被告人に対しては,極刑がやむを得ないものと認められる。
よって,被告人を死刑に処することとした。
平成15年5月21日
岡山地方裁判所第2刑事部

裁判長裁判官

榎本巧
裁判官

中川綾子
裁判官

足立堅太
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