事件番号 | 平成17(行ウ)622等 |
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事件名 | 事業認可取消等請求事件(第1事件),土地建物明渡請求処分取消請求事件(第2事件),建物明渡請求事件(第3〜5事件),損害賠償反訴請求事件(第6事件) |
裁判年月日 | 平成20年12月25日 |
法廷名 | 東京地方裁判所 |
判示事項 | 独立行政法人都市再生機構が施行する第一種市街地再開発事業に係る施行規程及び事業計画の変更で,新たな施行地区の編入を伴わないものについての認可の行政処分性 |
裁判要旨 | 独立行政法人都市再生機構が施行する第一種市街地再開発事業に係る施行規程及び事業計画の変更で,新たな施行地区の編入を伴わないものについての認可は,都市再開発法が建築行為等の制限や宅地等の処分制限は同法60条2項各号に掲げる公告があった場合に生ずるものであると規定し,同機構が施行する事業について定める同法60条2項5号が「新たな施行地区の編入に係る事業計画の変更」と規定していることからすると,すべての変更認可について建築行為等や宅地等の処分の制限が生ずるのではなく,「新たな施行地区の編入に係る事業計画の変更」の認可の公告があった場合についてのみ,前記各制限が認められるにすぎないと解されることや,同法71条6項が「事業計画を変更して従前の施行地区外の土地を新たに施行地区に編入した場合」に限り,新たに権利変換を希望するか否か等を申し出ることと規定していることから,前記認可が公告されたとしても,前記各制限や権利変換に関する選択の強制という効果が新たに生ずるものではなく,当初の事業計画等の認可による効果が残存する状態にあると解するほかなく,施行地区内の宅地の所有者等の法的地位に直接的な影響を及ぼすものとはいえないから,前記認可は抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらない。 |
裁判日:西暦 | 2008-12-25 |
情報公開日 | 2017-10-19 18:48:19 |
第1事件原告らの同事件被告国に対する訴えを却下する。 2 第1事件原告ら及び第2事件原告らの第1事件及び第2事件被告独立行政法人都市再生機構に対する請求をいずれも棄却する。 3 第3事件被告は,同事件原告に対し,別紙物件目録1(2)記載の建物を明け渡せ。 4(1) 第4事件被告P1は,同事件原告に対し,別紙物件目録2(2)記載の 建物を明け渡せ。 (2) 第4事件被告株式会社P2,同株式会社P3,同特定非営利活動法 人P4及び同特定非営利活動法人P5は,同事件原告に対し,別紙物件目録2(3)記載の建物を明け渡せ。 (3) 第4事件被告P6は,同事件原告に対し,別紙物件目録2(4)記載の 建物を明け渡せ。 5 第5事件被告らは,同事件原告に対し,別紙物件目録2(5)記載の建物を明け渡せ。 6 第6事件反訴原告の請求を棄却する。 7 訴訟費用は,各事件を通じ,第1事件原告ら,第2事件原告ら,第3事件被告,第4事件被告ら,第5事件被告ら及び第6事件反訴原告の負担とする。 8 この判決は,第3項ないし5項に限り,仮に執行することができる。事 第1 実及び理由 請求 (第1事件) 1 国土交通大臣が独立行政法人都市再生機構に対し平成17年8月1日付けでした小金井都市計画α駅南口第1地区第一種市街地再開発事業に係る施行規程及び事業計画の変更の認可を取り消す。 2 被告独立行政法人都市再生機構が平成17年12月2日付けでした小金井都市計画α駅南口第1地区第一種市街地再開発事業に係る権利変換に関する処分を取り消す。 (第2事件) 1 被告が原告P1に対し平成18年2月3日付けでした小金井都市計画α駅南口第1地区第一種市街地再開発事業に係る明渡請求処分を取り消す。 2 被告が原告株式会社P7に対し平成18年2月3日付けでした小金井都市計画α駅南口第1地区第一種市街地再開発事業に係る明渡請求処分を取り消す。 3 被告が原告株式会社P2に対し平成18年2月3日付けでした小金井都市計画α駅南口第1地区第一種市街地再開発事業に係る明渡請求処分を取り消す。 (第3事件) 主文3,8同旨 (第4事件) 主文4(1)ないし(3),8同旨 (第5事件) 主文5,8同旨 (第6事件) 被告は,原告に対し,金110万円及びこれに対する平成18年9月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 第1事件は,小金井都市計画α駅南口第1地区第一種市街地再開発事業(以下本件事業という。 )の施行地区内に宅地及び建築物を有していた同事件 の原告らが,①被告国に対し,国土交通大臣がした本件事業に係る施行規程及び事業計画の変更に関する認可(以下本件変更認可という。 )は,それに 先行する都市計画決定並びに本件事業に係る施行規程及び事業計画の認可(以下本件事業認可という。 )に存する違法事由を承継し,また,本件変更認 可自体に違法があると主張して,その取消しを求めるとともに,②被告独立行政法人都市再生機構(以下都市再生機構という。 )に対し,同被告がした 本件事業に係る権利変換処分(以下本件権利変換処分という。 )には関係 権利者間の衡平を欠くなどの違法があると主張して,その取消しを求めた事案である。 第2事件は,同事件の被告(都市再生機構)から土地及び土地上の物件の明渡しの請求(以下本件明渡請求処分という。 )を受けた同事件の原告らが, 同処分は,上記①及び②の違法事由を承継し違法であると主張して,それぞれ,その取消しを求めた事案である。 第3事件ないし第5事件は,各事件の原告(都市再生機構)が,施行地区内の建物を占有している各事件の被告らに対し,本件権利変換処分により当該建物の所有権を取得したと主張して,各事件の被告らの占有部分の明渡しを求めた事案である。 第6事件は,第4事件被告P6が,同事件の反訴として,同事件原告(都市再生機構)に対し,同事件の提起は訴権の濫用であり違法であると主張して,不法行為に基づき慰謝料等の支払を求めた事案である。 1 争いのない事実等(証拠等により容易に認められる事実は末尾に証拠等を記載した。 ) (1)本件事業の施行者と地権者等 ア 本件事業は,P8株式会社(以下P8という。 )のα駅南口付近の 土地の再開発を目的とし,都市再開発法(以下法という。 )に基づい て行われている第一種市街地再開発事業であり,その施行者は都市再生機構である。 イ 本件事業の施行地区は小金井市に所在し,その面積は約3.4haであり,その主たる地権者はP9家(P10及びその相続人) ,P8及び小金 井市であった。また,第1事件原告P1及び同株式会社P7(以下原告P7という。)も施行地区内に不動産を所有していた。 これらの地権者の土地等の所在の概要は,別紙図面1従前権利状況図(乙19)のとおりである。 (2)本件事業に係る都市計画決定に至る経緯 ア 平成9年,都市再生機構(当時においては住宅・都市整備公団)は,地権者の団体や小金井市長から,α駅南口において市街地再開発事業を施行するよう要請を受け,平成10年4月,同市との間で,同事業に関する基本協定を締結した(丙1の1ないし3,丙2,3) 。 イ 小金井市は,平成12年7月,α駅南口地区市街地再開発事業に係る方針を発表し,駅に隣接した地区をα駅南口第1地区とし,同地区の開発を先行させることとした(丙4,戊3) 。 ウ 平成12年9月,都市再生機構(当時においては都市基盤整備公団。平成16年6月まで同じ。 )は,同地区に関する施設配置計画案として,3 つの案(案-1ないし3)を提案した。都市再生機構は,上記計画案を定めるに当たり, 計画のねらいとして,街の新たなコアとしてフェステ ィバルコート(市民広場)を設け,街の賑わいや各施設の連携を図る場を創出すること,用途・機能の異なる各施設は複合施設とせず,単体での施設計画を目指すことを明らかにした(丙5) 。 これに対し,地権者の団体である街づくり推進会の中心的な存在であった原告P1と同P7(以下原告P1らという。 )は,別の施設配 置計画案を作成し,地権者に諮るなどした(甲22,33,45の1ないし4) 。 都市再生機構は,平成13年7月, α駅南口地区全体説明会を開催 し,上記計画案のうちの案-3を基礎とした施設配置図を明らかにした(丙7,戊13) 。案-3は,施行地区の西から順に,①大規模な店舗の入居を予定した大規模店舗棟(地上7階地下1階建) ,②上層部は共同住 宅,下層部は小規模な店舗の入居を予定した住宅・専門店棟(地上25階地下2階建) ,③小金井市の公益施設やP8などの入居を予定した公益施設・P8施設棟(地上18階地下2階建)を建設し,これらの建物に囲まれた場所にフェスティバルコート(市民広場)を設け,α駅付近には駅前交通広場を設けるという内容であった。 エ 上記説明会以後,原告P1らは,都市再生機構による事業の推進に反対する立場を採るようになった(甲33,丙8の1ないし3) 。 そして,原告P1は,同年9月ころ,施行地区内の同人の所有土地において,別紙物件目録2(1)①記載の建物(以下本件P1建物という。 )の建設に着工し,同建物(鉄骨造陸屋根4階建の店舗・共同住宅)は平成14年5月ころ完成した(甲6,丙10の1,2) 。また,原告P 7は,平成13年11月ころ,施行地区内の同社の所有土地において,別紙物件目録1(1)記載の建物(以下本件P7建物という。 )の建設に 着工し,同建物(鉄骨造陸屋根4階建の店舗・事務所)は平成15年1月ころ完成した(甲8,丙11の1,2) 。 オ 小金井市は,都市再生機構の施設配置案を前提とした都市計画を立案し,平成14年4月,α駅南口地区において予定している都市計画の概要の説明会を開催した(丙12,戊15の1,2) 。 カ 本件地区計画及び本件高度利用地区都市計画決定 小金井市は,平成14年9月27日,小金井都市計画地区計画を変更して本件事業の対象地域に関する地区計画(以下本件地区計画とい う。 )を決定するとともに,同地域を高度利用地区とする都市計画を決定(以下本件高度利用地区都市計画決定という。 )した(戊6,7) 。 本件地区計画は, 地区施設の整備の方針として,区域内に敷地内通 路やコミュニティ広場(以下敷地内通路等という。 )を設けることを 定めた。敷地内通路は,歩行者の回遊性を高めるとともに,歩行者・自転車利用者の利便を図るアクセス動線や散策路として設けるものであり,また,緊急車両の通行路や緊急時における避難通路としての役割を果たすものとされた。そして,本件地区計画の地区整備計画において,敷地内通路等の配置及び規模等が定められた。 他方,本件高度利用地区都市計画決定は,建築物の容積率の最高限度のほか,壁面の位置の制限等を定めた。同決定による壁面の位置制限によって生み出される空地の中には,本件地区計画では敷地内通路等とされている部分があるが(別紙図面2本件高度利用地区における壁面の位置の制限のアないしオ参照),当該部分に関しては,道路に面するような建物 の壁面が存在することは予定されていない。 キ 本件再開発事業都市計画決定 東京都は,平成14年9月27日,α駅南口第1地区第一種市街地再開発事業(本件事業)に係る都市計画決定(以下本件再開発事業都市計画決定という。)をした(甲12,丁1の1,2) 。同決定の概要は以下 のとおりである。 (ア) 施行区域の面積 約3.4ha (イ) 建築物の整備 建築面積は約1万2200m2,延べ面積(容積 対象面積)は約8万1300m2,主要用途は商業, 業務,住宅,公益施設,駐車場等。建築物の高さの 限度は高層部で95m,その他で60m。 (ウ) 建築敷地の整備 建築敷地面積は約1万8100m2。 (エ) 住宅建設の目標 戸数約200戸。面積約2万1000m2。 (3)本件事業計画等の認可に至る経緯 ア 都市再生機構は,平成15年6月,権利者全体説明会において,事業計画案を公表し(丙13) ,平成16年2月18日,国土交通大臣に対し, 本件事業の施行規程及び事業計画(以下本件事業計画等という。 )の 認可申請をした(乙3) 。その概要は以下のとおりである。 (ア) 施行規程 全21条から成り,目的,事業の種類及び名称,施行地区に含まれる 地域の名称,事業の範囲,事務所の所在地,費用の負担,保留床等の管理処分の方法等に関する事項を定める。 (イ) 事業計画 施行地区,施設建築物の設計の概要,事業施行期間,資金計画等を定め,施行地区の位置図,施行地区の区域図,施設建築物の設計図等が添付されている。 上記設計図によれば,施行地区内の施設建築敷地は3つに分けられ,西から順に, 大規模店舗棟 (地上7階地下1階建。以下1-Ⅰ棟という。, )住宅・専門店棟 (地上25階地下2階。以下1-Ⅱ棟という。, )公益・商業業務棟 (地上5階地下1階建。以下 1-Ⅲ棟という。 )を建築することとなっている。 イ 小金井市は,同年3月,本件事業計画等を縦覧に付した(乙4) 。原告 P1らは,法58条3項,16条2項に基づき,本件事業計画等の認可に反対する旨の意見書を国土交通省に提出した(乙5ないし7)が,国土交通大臣は,これを審査し,各意見書を採択すべきではないと認めた(乙8,9) 。 ウ 国土交通大臣は,平成17年1月12日,法58条1項に基づき,本件事業計画等を認可(本件事業認可)し,公告した(甲13,乙10の1,2) 。 (4)本件変更認可に至る経緯 ア 都市再生機構は,同年7月8日,国土交通大臣に対し,本件事業計画等の変更の認可申請をした(乙11) 。その概要は以下のとおりである。 (ア) 設計の概要の変更(事業計画) 事業計画認可申請後,設計の精査及び権利者調整を行ったため,事業 計画書の施設建築物の設計の概要と設計図を変更する。 ① 施設建築物の設計の概要 施設建築物の建築面積を1万2900m2から1万2800m2に減少し,延べ面積を9万7000m2から9万7900m2に増加する。また,住宅の面積を2万1000m2から2万2100m2に増加する。 ② 設計図 1-Ⅲ棟(公益・商業業務棟)については, 施設分棟に伴う建物の形状変更を行う。同棟は,ホール等に使用する部分(以下公益用部分という。)と,商業及び業務に使用する部分(以下商業・業務用部分という。)から成っていたが,このうち,商業・業務用 部分の形状を,ある程度独立性のある2つの建物様部分に分ける(別紙図面3施設建築物平面図⑥を参照。以下,α駅に近い部分をA部分といい,その余をB部分という。A部分は別紙図面1 配置計画図の水色着色部分,B部分は赤色着色部分である。。 ) (イ) 施行期間の変更(事業計画) 事業計画認可申請後,市議会の混乱により当初想定していた平成19 年度内に事業を完了させることが不可能となったことから,施行期間を平成20年度までに変更する。 (ウ) 事務所の所在地の変更(施行規程) 現地事務所の敷地を仮設用地等として活用する必要が生じたため,現 地事務所を移転する。 イ 本件変更認可に係る事業計画に関しては,軽微な変更に当たるとして,縦覧手続に付されなかった(法58条4項,都市再開発法施行規則(以下規則という。 )4条1項) 。 ウ 国土交通大臣は,平成17年8月1日,本件事業計画等の変更を認可(本件変更認可)し,公告した(甲14,乙12の1,2) 。 (5)本件権利変換計画及び本件権利変換処分に至る経緯 ア 都市再生機構は,平成17年1月24日付けで,施行地区内の不動産につき,権利変換手続開始の登記をした(甲1ないし11) 。 イ 都市再生機構は,土地調書及び物件調書を作成した上,同年8月,権利変換計画を作成し,公衆の縦覧に供した(乙13) 。 原告P1らは,土地調書及び物件調書の作成に協力せず,権利変換に関する協議に応じなかった(丙30,弁論の全趣旨) 。そして,原告P1ら は,都市再生機構に対し,権利変換計画に反対する旨の意見書を提出した(乙14,15) 。都市再生機構はこれを審査した上,採択すべきでない と判断した(乙16ないし18) 。 ウ 都市再生機構は,同年11月15日,国土交通大臣に対し,権利変換計画(以下本件権利変換計画という。 )の認可を申請した。同計画にお ける配置設計と権利床(地権者等に割り当てられた施設建築物の一部及び当該施設建築物の存する施設建築敷地の共有持分をいう。以下同じ。)の 割り当て等の概要は以下のとおりである(乙19) (別紙図面4権利変換モデル図参照) 。 (ア) 1-Ⅰ棟は大規模店舗棟とし,商業用途の専用部分(約2万392 4m2。小数点以下切り捨て。以下同じ。 )を設け,このうち,P9家 (P11ほか3名)に約1万2459m2を権利床として割り当てる。(イ) 1-Ⅱ棟は住宅・専門店棟とし,専用部分として,商業用途のもの (約3676m2) ,業務用途のもの(約652m2)及び住宅用途のも の(約1万3577m2)を設け,このうち,原告P1には,住宅用途の専用部分のうち4階の一部約352m2を権利床として割り当てる。(ウ) 1-Ⅲ棟は,公益・商業業務棟とし,専用部分として,公益用途の もの(約6401m2) ,商業用途のもの(約2820m2)及び業務用 途のもの(約663m2)を設ける。このうち,小金井市には,公益用途の専用部分のうち約6042m2を権利床として割り当てる。原告P1には,商業用途の専用部分のうち1階及び2階の各一部(合計約214m2)を権利床として割り当てる。原告P7には,商業用途の専用部分のうち1階及び2階の各一部と,業務用途の専用部分のうち3階ないし5階(合計約945m2)を権利床として割り当てる。原告P1らに割り当てられたこれらの部分は,いずれも1-Ⅲ棟のうちB部分に属する(甲15,16,18,19) 。他方,P8には,1-Ⅲ棟の商業用 途の専用部分の残りの部分を権利床として割り当てる。これらの部分は,1-Ⅲ棟のうちA部分に属する。 (エ) 施設建築物敷地には,地上権を設定せず,施設建築物の一部を共有 する者が当該施設建築物の施設建築敷地を共有する。 エ 国土交通大臣は,同年12月1日,法72条1項に基づき,本件権利変換計画を認可した(乙20) 。 オ 本件権利変換処分 都市再生機構は,上記認可に関して関係権利者に書面で通知し(甲15,16,乙21の1,2) ,もって権利変換処分(本件権利変換処分)をし た。同処分において,権利変換期日は平成18年1月28日とされた。 (6)本件明渡請求処分及び明渡訴訟に至る経緯 ア 本件P7建物関係 (ア) 原告P7は,本件P7建物のうち別紙物件目録1(2)記載の部分を 占有している。 (イ) 都市再生機構は,平成18年内における工事の着工を予定していた ことから,原告P7に対し,法96条1項に基づき,同年2月3日付けで,同年3月31日までに施行地区内の土地及び物件を明け渡すことを請求し,明渡しに伴う損失補償に係る金員を供託した(甲27,丙45,46(枝番を含む。) )。 イ 本件P1建物関係 (ア) 本件P1建物の各部分はそれぞれ以下の者が占有している。 ① 別紙物件目録2(2)記載の部分 ② 同(3)記載の部分 原告P1(弁論の全趣旨) 第4事件被告株式会社P2,同株式会社P3, 同特定非営利活動法人P4及び同特定非営利活動法人P5 ③ 同(4)記載の部分 第4事件被告P6 ただし,P6は,同年9 月8日,上記部分から退去し,P1に引き渡したが,それに先立ち,都市再生機構は,P6に対する占有移転禁止の仮処分を経ている。④ (イ) 同(5)記載の部分 原告P1及び第5事件被告P12(丙38) 都市再生機構は,平成18年内における工事の着工を予定していた ことから,原告P1らに対し,法96条1項に基づき,同年2月3日付けで,同年3月31日までに施行地区内の土地及び物件を明け渡すことを請求し,明渡しに伴う損失補償に係る金員を供託し又は支払った(甲26,28,丙31ないし33(枝番を含む)。 ) 2 争点 本件訴訟における争点の概要は,以下のとおりである。 (1)本件変更認可の行政処分性(争点1) (2)本件変更認可の取消訴訟において,本件高度利用地区都市計画決定,本件再開発事業都市計画決定及び本件事業認可の違法を主張することができるか(争点2) (3)本件権利変換処分の取消訴訟において,本件事業認可及び本件変更認可の違法を主張することができるか(争点3) (4)本件明渡請求処分の取消訴訟において,本件事業認可,本件変更認可及び本件権利変換処分の違法を主張することができるか(争点4) (5)本件高度利用地区都市計画決定の違法の有無(壁面の位置の制限違反)(争点5) (6)本件再開発事業都市計画決定の違法の有無(法3条4号違反等)(争点 6) (7)本件事業認可の違法の有無(代替案検討の欠如等) (争点7) (8)本件変更認可に固有の違法の有無(縦覧手続の欠如等) (争点8) (9)本件権利変換計画の違法の有無(関係権利者間の衡平原則違反等)(争点 9) (10)原告P1に関する本件権利変換処分の違法の有無(争点10)(11)P6に対する第4事件の提起は訴権の濫用といえるか(争点11) 3 争点に関する当事者の主張の概要 別紙当事者の主張に記載したとおりである。 第3 1 当裁判所の判断 本件変更認可の行政処分性について(争点1) (1)事業計画等の認可の処分性 本件変更認可は法58条1項後段に基づくものであるが,その処分性を検討する前提として,それに先立つ施行規程及び事業計画(以下事業計画等という。)の認可(法58条1項前段)が,抗告訴訟の対象となる行政 処分に該当するかどうかについて検討する。 ア 都市再生機構は,一定の市街地再開発事業を施行する権限を法律上付与されているところ(法2条の2第5項,独立行政法人都市再生機構法11条1項3号) ,市街地再開発事業を施行しようとするときは,事業計画等 を定め,国土交通大臣の認可を受けなければならず(法58条1項前段), 国土交通大臣は,この認可をしたときは,市街地再開発事業の種類及び名称,事業施行期間,施行地区(施行地区を工区に分けるときは,施行地区及び工区。以下同じ。 )その他国土交通省令で定める事項を公告しなけれ ばならないとされている(法58条3項,19条1項) 。 そして,事業計画等の認可の公告がされると,施行地区内において,第一種市街地再開発事業の施行の障害となるおそれがある土地の形質の変更若しくは建築物その他の工作物の新築,改築若しくは増築を行い,又は政令で定める移動の容易でない物件の設置若しくは堆積を行おうとする者は,都道府県知事の許可を受けなければならず(法60条2項5号,66条1項) ,これに違反した者がある場合は,都道府県知事は,当該違反者またはその承継者に対し,当該土地の原状回復等を命ずることができ(同条4項) ,この命令に違反した者に対しては刑罰が科される(法141条の2第2号。以下建築行為等の制限という。。 ) また,事業計画等の認可の公告がされると,施行者は,施行地区内の宅地及び建築物等について権利変換手続開始の登記を申請する義務が生じ,この登記がされると,当該登記に係る宅地又は建築物の所有権を有する者等は,その権利の処分をするには施行者の承認を得ることを要し,承認を得ないでした処分は施行者に対抗することができなくなる(法70条1項,2項,4項。以下宅地等の処分制限という。。 ) さらに,事業計画等の認可の公告がされると,施行地区内の宅地の所有者等で,その権利の変換を希望せず,自己の有する宅地等に代えて金銭の給付を希望し,又は自己の有する建築物を他に移転すべきことを希望する者等は,公告があった日から起算して30日以内に,施行者に対し,その旨を申し出ることとされている(法71条1項,3項) 。そのため,施行 地区内の宅地の所有者等は,権利変換を受けるか,施行地区外へ転出して権利変換計画の対象者から除外されるかの選択を余儀なくされることになる(以下権利変換に関する選択の強制という。。 ) イ 他方,都市再生機構が施行者となって行う第一種市街地再開発事業の施行規程には,事業の種類及び名称,施行地区,事業の範囲,事務所の所在地,費用の分担に関する事項,施行者が取得する施設建築敷地等の管理処分の方法に関する事項等を記載し(法58条3項,52条2項) ,また, 事業計画には,施行地区,設計の概要,事業施行期間及び資金計画を定めることとされている(法58条3項,7条の11第1項) 。 上記の施行地区は,その位置を表示した地形図(縮尺2万5000分の1以上のもの)により定められ,また, 設計の概要に関しては, 設計説明書及び設計図が作成される。そして,設計説明書には,施設建築物,施設建築敷地,公共施設の設計の概要等が記載され,設計図としては,施設建築物,施設建築敷地,公共施設のそれぞれにつき,平面図又は二面以上の断面図(縮尺500分の1以上のもの)が作成される(規則4条,5条) 。これらにより,事業施行後における施行地区とその地区内の施設建築物等の位置及び形状が判明し,また,従前の資産の代わりに提供される施設建築物等の概要や当該事業により設けられる公共施設の概要等が判明することから,事業計画等の認可が公告されると,当該事業の施行によって施行地区内の宅地所有者等の権利にいかなる影響が及ぶかについて,一定の限度で具体的に予測することが可能となる。 ウ そして,第一種市街地再開発事業の事業計画等においては,いったんその認可の公告がされると,特段の事情のない限り,その事業計画等に定められたところに従い,施行地区内の宅地及び建築物について,土地調書及び物件調書の作成が行われ,さらに,権利変換計画が作成されて,権利変換処分に至ることになる(法72条以下参照) 。前記の建築行為等の制限 や宅地等の処分制限は,このような事業計画等の認可に基づく具体的な事業の施行の障害となるおそれのある事態が生ずることを防ぐために法的強制力を伴って設けられているのであり,権利変換期日において権利変換の効果が生ずるまで,上記の制限が継続し続ける。 エ 以上のことからすると,施行地区内の宅地所有者等は,事業計画等の認可がされることによって,前記のような規制を伴う第一種市街地再開発事業の手続に従って権利変換処分を受けるべき地位に立たされるものということができ,その意味で,その法的地位に直接的な影響が生ずるものというべきである。したがって,公告された事業計画等の認可は,施行地区内の宅地の所有者等の法的地位に直接的な影響を及ぼすものとして,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たると解するのが相当である(最高裁判所大法廷平成20年9月10日判決・判例時報2020号18頁参照)。 (2)事業計画等の変更認可の処分性 施行者である都市再生機構は,事業計画等に関する国土交通大臣の認可を受けた後,事業計画等を変更しようとする場合は,国土交通大臣の認可を受けなければならないとされている(法58条1項後段) 。 しかしながら,法は,前記(1)の建築行為等の制限や宅地等の処分制限は,60条2項各号に掲げる公告があった場合に生ずるものであると規定し(法66条1項,70条1項参照) ,都市再生機構が施行する事業について 定める法60条2項5号は新たな施行地区の編入に係る事業計画の変更と規定していることからすると,すべての変更認可について上記の建築行為等や宅地等の処分の制限が生ずるのではなく, 新たな施行地区の編入に係る事業計画の変更の認可の公告があった場合についてのみ,上記の各制限が認められるにすぎないと解される。また,権利変換に関する選択の強制についても同様であり, 事業計画を変更して従前の施行地区外の土地を新たに施行地区に編入した場合に限り,新たに権利変換を希望するか否か等を申し出ることとされている(法71条6項参照) 。これらの規定からすると, 新たな施行地区の編入を伴わない変更の認可については,それが公告されたとしても,建築行為等の制限や宅地等の処分制限,さらに権利変換に関する選択の強制という各効果が新たに生ずるものではなく,当初の事業計画等の認可による効果が残存する状態にあると解するほかはない。 以上によれば,事業計画等の認可の公告がされることによって,ひとたび,前記(1)アのような制限を伴う第一種市街地再開発事業の手続に従って権利変換処分を受けるべき地位に立たされた者については,その後,新たな施行地区の編入を伴わない事業計画等の変更の認可の公告がされたとしても,そのことだけでは,新たな法的効果が及ぶことはない。したがって,上記のような変更の認可は,施行地区内の宅地の所有者等の法的地位に直接的な影響を及ぼすものとはいえず,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらないと解するのが相当である。 なお,このように解すると,例えば,事業計画等の変更が,施設建築物の構造や床面積に関する変更にとどまり,新たな施行地区の編入を伴うものではない場合は,当該変更に係る認可は,行政処分に当たらないこととなる。このような解釈は,上記のとおり,法60条2項5号が, 新たな施行地区の編入に係る事業計画の変更の有無によって,事業計画等の変更による法的効果を区別していることから必然的に導かれるものであるといわざるを得ない。そして,そのように解しても,当該変更の認可の適法性を争う者は,その後に行われる権利変換処分について抗告訴訟を提起し,権利変換処分の違法事由の一つとして上記の変更認可の違法を主張し争うことができると解されるのであり,その救済に欠けることにはならないというべきである。(これに対し,当該変更が,当初の施設建築物の構造等を抜本的に変化させるものであり,変更後の事業計画が,当初の事業計画とは同一性を欠き,事業計画等の変更ではなく新たな事業計画等の決定であると評価せざるを得ないような場合は,上記とは別異に解すべき余地があろう。 ) (3)本件変更認可の行政処分性 以上を前提として本件変更認可についてみると,前記第2の1(4)において認定したとおり,本件変更認可に係る事業計画等の変更の内容は,施設建築物の設計の概要,施行期間及び事務所の所在地に関するものであり,新たな施行地区の編入を伴うものではない。また,変更後の事業計画が,当初の事業計画とは同一性を欠き,事業計画等の変更ではなく新たな事業計画等の決定であると評価せざるを得ないような場合にも当たらない。したがって,本件変更認可については,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たると解することはできず,本件変更認可に係る取消訴訟は不適法であるといわざるを得ない。 2 本件権利変換処分の取消訴訟で主張できる違法事由の範囲について(争点 3) 上記1のように本件変更認可は行政処分に該当しないと解すべきであるから,争点2の本件変更認可の取消訴訟において主張できる違法事由の範囲については検討する必要がないこととなる。そこで,次に,争点3の本件権利変換処分の取消訴訟において主張できる違法事由の範囲について検討する。ところで,上記1で検討したように,事業計画等の認可について行政処分性を肯定することになると,まず,事業計画等の認可の取消訴訟で主張できる違法事由の範囲が問題となり,さらに,事業計画等の認可とその後にされる権利変換処分との間でいわゆる違法性の承継が認められるのか否かが問題となる。以下,これらの点について検討する。 (1) 事業計画等の認可の取消訴訟において主張できる違法事由 本件事業は,都市計画法に基づいて定められる高度利用地区に係る都市計 画の区域について,同法12条1項4号の再開発事業に係る都市計画を定めて実施されるものであるから(法3条1号) ,所定の手続を経てこれらの都 市計画決定がされることを前提として,法に基づき,第一種市街地再開発事業に関する事業計画等が定められることとなる。そして,上記の都市計画決定については,それ自体,未だ直接国民の権利義務を形成しその範囲を確定するものではなく,抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらないと解すべきであるから,抗告訴訟でその適否を争うことができない。これらの点からすると,上記の都市計画決定が違法であることは,事業計画等の認可の取消訴訟における違法事由として主張することができると解すべきである。(2) 権利変換処分の取消訴訟において主張できる違法事由 第一種市街地再開発事業の施行者は,事業計画等の認可を受けた後,権利 変換計画を作成した上,所定の事項を関係権利者に書面で通知し,もって権利変換処分を行う(法86条) 。この権利変換処分は,施行地区内の土地に ついては新たに所有者となるべき者に帰属させるなどの効果を生じさせるものであり(法87条1項) ,事業計画等の認可とは異なる法的効果を付与さ れた別個の処分であることは明らかである。 ところで,処分性が認められる行政行為は,いわゆる公定力を有し,正当な権限を有する機関によって取り消されるまでは適法であるとの推定を受け,たとえこれに違法性があったとしても,原則として,取消訴訟などによって公定力が排除されない限り,その違法性は後行の処分には承継されず,後行処分の取消事由として主張することはできないと解されるが,例外として,先行の行政処分と後行の行政処分とが連続した一連の手続を構成し一定の法律効果の発生を目指している場合は,違法性の承継が認められると解される(前掲最高裁平成20年9月10日大法廷判決における近藤裁判官補足意見参照) 。 しかるところ,事業計画等の認可と権利変換処分は,第一種市街地再開発事業の手続上,順次行われるものではあるが,前者は,第一種都市再開発事業全体の概要を示し,施行地区内に宅地等を有する者の権利を包括的に制限する効果を有するものであるのに対し,後者は,施行地区内の宅地の所有者等のうち権利変換を受ける者についての権利の個別具体的な帰すうを定めるものであることからすると,この両者については,連続した一連の手続を構成し一定の法律の効果の発生を目指すものと評価することはできない。実質的にみても,事業計画等の認可の公告があったときは,施行者は,関係権利者に対し,当該事業の概要を周知させるため必要な措置を講ずることとされているから(法67条) ,この段階で事業計画等が違法であると主張する関 係権利者においてその認可の取消訴訟を提起すべきことと解したとしても,その権利の保護に欠けるところはない。 以上のとおりであるから,事業計画等の認可の違法については,権利変換処分の取消訴訟における違法事由として主張することができないと解すべきであり,このことは,事業計画等の認可に固有の違法のみならず,事業計画等の認可の前提となる都市計画決定(高度利用地区及び市街地再開発事業に係る都市計画決定)の違法についても同様であるというべきである。これに対し,事業計画等の認可の後にされた,新たな施行地区の編入を伴わない変更認可については,独立して抗告訴訟を提起して争うことができないことは前記のとおりであるから,関係権利者の権利の保護の必要性にかんがみ,当該変更認可の違法事由を,権利変換処分の取消訴訟において主張することは許容されると解すべきである。 なお,原告P1らは,事業計画等の変更認可は,変更部分のみの認可ではなく,当初の事業計画等と一体となってはじめて意味を持ち,変更部分を含む計画全体の新たなる認可と考えるべきものであるから,当初の事業計画等の認可の違法は,その内容を含む変更認可の違法となると主張する。しかしながら,前記のとおり,新たな施行地区の編入を伴わない変更について,法は,特に法的効果を付与せず,事業計画等の認可とはその法的効果を峻別しているのであるから,このような変更認可をもって新たな認可と考えることはできず,原告P1らの上記主張は採用することができない。 3 本件明渡請求処分の取消訴訟において主張できる違法事由の範囲について (争点4) 第一種市街地再開発事業の施行者は,権利変換期日後,事業に係る工事のため必要がある場合,施行地区内の土地又は当該土地にある物件を占有している者に対して明渡しを求めることにより,明渡請求処分を行う(法96条1項)。 占有者が明渡請求処分を受けたにもかかわらず,期限までに土地等の引渡しをしない場合,施行者は,市町村長又は都道府県知事に対して代執行を請求することができる(法98条) 。このような明渡請求処分は,事業計画等の認可や 権利変換処分という先行処分とは異なる性格を有する処分であることは明らかであり,先行処分と連続した一連の手続を構成し一定の法律効果の発生を目指しているものということはできないし,実質的にみても,明渡請求処分に至る前の段階において,先行処分について抗告訴訟を提起することを期待しても何ら酷ではない。したがって,明渡請求処分は,事業計画等の認可や権利変換処分という先行処分の違法性を承継するものということはできず,本件明渡請求処分の取消訴訟において,上記の先行処分の違法を主張することはできないと解すべきである。 4 小括 以上によれば,本件訴訟のうち,権利変換処分の取消請求(第1事件)においては,本件変更認可処分固有の違法及び本件権利変換処分固有の違法を争うことができ,明渡請求処分の取消請求(第2事件)においては,明渡請求処分固有の違法のみを争うことができると解される。これに対し,上記の各取消請求においては,高度利用地区に係る都市計画決定の違法(争点5),再開発事 業に係る都市計画決定の違法(争点6) ,事業計画等の認可の違法(争点7) を争うことはできず,これらの点に関する原告P1らの主張はいずれも失当であるというべきである。 もっとも,原告P1らは,建物明渡請求(第3ないし第5事件)の抗弁として,本件権利変換処分の無効を主張し,その無効事由として,第1及び第2事件において主張している取消事由を援用する旨主張していると解されるので,以下では,その限りにおいて争点5ないし7を検討する。 5 本件高度利用地区都市計画決定の違法,無効について(争点5) (1)原告P1らは,①高度利用地区に関する都市計画法8条3項2号チの規定は,高度利用地区における壁面の位置の制限を当該道路に面する壁面の位置に限ると限定しており,当該道路に面するような建物の壁面の存在が予定されていない場合には壁面の位置の制限をすることはできないと解すべきであるところ,本件高度利用地区都市計画決定には,道路に面するような建物の壁面の存在を予定しない壁面の位置の制限を行う部分があるから,違法,無効である,②壁面の位置の制限は,歩道機能の強化に限って認められるべきであり, 東京都高度利用地区指定方針及び指定基準もその旨規定して いるところ,本件高度利用地区都市計画決定における壁面の位置の制限のうち,自動車の通行を予定する部分(本件地区計画において敷地内通路2号とされた部分)やコミュニティ広場となる部分は,違法,無効であると主張する。 (2)検討 高度利用地区とは,用途地域内の市街地における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図るため,建築物の容積率の最高限度及び最低限度,建築物の建ぺい率の最高限度,建築物の建築面積の最低限度並びに壁面の位置の制限を定めるものとして設けられた地区である(都市計画法9条18項,8条3項2号チ) 。このうち,高度利用地区における壁面の位置 の制限については,同法8条3項2号チが, 壁面の位置の制限にあつては、敷地内に道路(都市計画において定められた計画道路を含む。)に接して有効な空間を確保して市街地の環境の向上を図るため必要な場合における当該道路に面する壁面の位置に限る。次条第18項において同じ。と定めているが,これは,高度利用地区内の建築物の利用者等の通行の用に供する空地や,植え込み等を整備する空地など,市街地の環境の向上に資する有効な空地を確保すべき場合において,建築物の敷地内のうち,道路に接する部分に上記のような空地を確保することによって,市街地の環境の向上を図るという目的を達成させようとした趣旨であると解される。 このように,高度利用地区における壁面の位置の制限は,建築物の敷地のうち,道路に接する部分について,その部分を空地として確保することを要請するものであるから,これにより,道路に接しない部分について空地を確保すること(例えば,道路の全部又は一部に接するように建築物を配置し,道路から見てさらに建物の奥に空地を確保すること)はできないが,その趣旨にかんがみれば,空地が道路に接するように設けられるのであれば,さらにその空地の奥に建築物を設ける余地が必ず残されていなければならないことを要求するものではないことは明らかである。したがって,この点に関する上記(1)①の主張は採用することができない。また,壁面の位置の制限により確保される空地の用途については,都市計画法上,市街地の環境の向上を図るため必要な場合ということ以外に何ら限定が付されていないのであるから,当該空地の用途は,市街地の環境の向上に資するものであれば足り,歩道機能の強化のみに限定されると解することはできないというべきである。そして,東京都高度利用地区指定方針及び指定基準(甲29)は,空地について原則として歩道状に築造すべき旨を規定するにすぎず,歩道以外の用途の空地を確保することを禁ずるものであると解することはできず,上記の法の解釈を左右するものではない。したがって,車両が通行可能な幅員を有する通路や,広場を確保するため,壁面の位置を制限したとしても,都市計画法に違反するものとはいえない。以上のことからすると,上記(1)②の主張は採用することができない。6 本件再開発事業都市計画決定の違法,無効について(争点6) (1)原告P1らは,本件再開発事業都市計画決定に関し,①α駅南口広場に面した位置に小金井市の公共施設を設けることは,再開発地区内外の商業施設を分断する,②大規模商業施設を設けてP13を入店させることは,周辺の商店街の衰退を招き,交通集中による大気汚染等をもたらす,③原告P1らが入居するビルの家賃は従前よりも高額になるから,従前の賃借人はこれを負担することができず,原告P1らは収入を維持できなくなり,事業上損失を被ることなどを主張して,これらの点が,法3条4号所定の当該区域内の土地の高度利用を図ることが,当該都市の機能の更新に貢献することの要件,法4条2項2号の良好な都市環境のものとなるように定めることの要件,同項3号の建築物の利用者の利便を考慮し 健全な高度利用形態となるように定めることとの要件を満たしていないから,本件再開発事業都市計画決定には,重大かつ明白な瑕疵があり,無効であると主張する。(2)この点,前記第2の1(2)キで認定したとおり,本件再開発事業都市計画決定は,商業,業務,住宅,公益施設等を用途とする大規模な建築物を整備することをその内容としているから,本件事業が実施されれば,付近の商業や環境に相応の影響が生ずることが予想される。しかしながら,その影響がいかなる程度のものかを具体的に認めるに足りる証拠はなく,また,原告P1らが事業上の損失を被ることが客観的に確実であることを認めるに足りる証拠はないから,本件再開発事業都市計画決定について,重大かつ明白な違法があって無効であると認めることができないことは明らかである。 7 本件事業計画等の認可の違法,無効について(争点7) (1)原告P1らは,国土交通大臣がした本件事業計画等の認可に関して,①原告P1らが提出した代替案の検討をしなかったこと,②都市再生機構と小金井市が大規模地権者であるP9家の意思に盲従するばかりで原告P1らの意見に耳を傾けなかったことは適正手続に反するのにこれを看過したことを指摘し,同認可には,重大かつ明白な瑕疵があるから無効であると主張する。(2)しかしながら,国土交通大臣が法58条1項に基づき事業計画等の認可を行うに当たり,地権者等が提出した代替案との優劣を検討しなければならない義務があると解すべき法的根拠も,また,都市再生機構による事業計画の作成過程における地権者との協議手続の状況を検討すべき義務があると解すべき法的根拠も見当たらず,法は,同大臣は,地権者等から意見書の提出があったときは,その内容を審査して,その採否を決めれば足りるものとしている(法58条3項,法16条3項) 。そして,原告P1らは,これらの規 定に基づき,国土交通大臣に意見書を提出し(前記第2の1(3)イ),都市 再生機構による事業計画の作成過程における原告P1らとの協議における問題点や,事業計画自体の問題点を指摘したところ,国土交通大臣は,これを審査した上,上記意見書に係る意見は採択すべきではないと判断しているのであって(乙6ないし9) ,上記の審査に関する法定の手続を履践しており, 原告P1らの指摘するような適正手続に反するものであるとは認められないから,その点において何ら違法がないことは明らかである。よって,原告P1らの上記主張は採用することができない。 8 本件変更認可に固有の違法について(争点8) (1)原告P1らは,本件変更認可においては,原告P1らの不利益となる変更があったにもかかわらず,その縦覧を欠いたこと,また,原告P1らに割り当てられた建物には駐車場の設置が予定されていないことなどが違法であると主張するので,これらの点について検討する。 (2)前記第2の1(4)及び(5)で認定したところに加え,証拠(文中に記載したもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア 都市再生機構が定めた事業計画には,原告P1らが権利変換を受けることになる権利床の具体的な位置に関する記載はない(乙11) 。 イ 都市再生機構は,本件変更認可に係る事業計画において,1-Ⅲ棟の商業・業務部分について施設分棟に伴う建物の形状変更を行い,その設計図において,商業・業務部分を,ある程度独立性のある2つの部分(A部分及びB部分)に分けることを示した。同設計図において,A部分とB部分は,それぞれ別の壁を有するが,2階,3階には連絡通路があるように描かれている(乙11) 。 ウ 駐車場法20条は,一定の地区において一定の延べ面積を有する一の建築物を建築する者は,その建築物又はその敷地内に一定の規模を有する駐車施設を設けなければならないとすることを条例により定めることができるとし,これを受けて,東京都駐車場条例17条が,その具体的な内容を定めている。 1-Ⅲ棟は,上記条例の対象となる建築物であるところ,本件変更認可に係る事業計画の設計図では1-Ⅲ棟に附置すべき駐車施設の具体的な位置は示されていないものの(乙11) ,A部分の一部に機械式立体駐車場 を設けることが予定されていた(甲17の3) 。 エ 都市再生機構は,本件権利変換計画において,A部分の専用部分をP8に割り当て,B部分の専用部分を原告P1らに割り当てた。また,A部分の一部たる機械式立体駐車場については,A部分の専用部分(Ⅲ101,301,401,501)の共用とした(乙19) 。 オ 都市再生機構は,1-Ⅲ棟について,公益部分も含めた全体が一の建築物であるという前提で,東京都建築主事に対しその建築の計画を通知したところ,同主事から,平成19年4月17日付けで,建築基準関係規定に適合することの確認(以下本件確認処分という。 )を受けた(建築基 準法18条2項,3項,独立行政法人都市再生機構法施行令34条1項2号) 。 カ 原告P1らは,本件確認処分の取消しを求めて,東京都建築審査会に対して審査請求を行い,B部分が独立した建築物であるのに条例上必要な駐車施設が設置されていないことなどを主張した。同審査会は,平成20年2月18日,1-Ⅲ棟を構成する公益部分,A部分及びB部分につき,機能上,外観上において一体であるとして1-Ⅲ棟を一の建築物として取り扱うことに合理的な理由がないとはいえず,これら全体を一の建築物として駐車施設の台数算定をした建築計画は東京都駐車場条例に違反しているとはいえないとして,審査請求を棄却する決定をした(甲60,弁論の全趣旨) 。 (3) ア 検討 変更に関する縦覧を欠いたこと等の適否ついて 原告P1らは,本件認可に係る事業計画等では,本件P1建物のうちの商業用途に使用されていた部分と本件P7建物とについては,1-Ⅱ棟の権利床が割り当てられる予定であったのに,本件変更認可に係る事業計画等において,1-Ⅲ棟の商業・業務用部分の権利床が割り当てられることに変更されたという事実があることを前提として,当該変更は原告P1らにとって重大な不利益をもたらすものであるから,この内容を記載した事業計画を縦覧に付さず,また,このことについて原告P1らとの協議を経ないまま,本件変更認可が行われたことは,法58条4項,16条1項,2項に違反し,また,適正手続に反し違法であると主張する。 しかしながら,権利床の割当てが,原告P1らが主張するように変更されたという事実を認めるに足りる証拠はないことはもとより,そもそも,事業計画は,施行地区,設計の概要,事業施行期間及び資金計画を定めるものであって(法58条3項,7条の11第1項) ,施行地区内に宅地等 を有する者が権利変換後に取得する権利床の具体的な位置を定めるものではなく,それは,権利変換計画において定めることとされている(法73条1項1号)のであるから,上記の原告P1らの主張は,その前提において失当であるといわざるを得ない。 そして,たしかに事業計画で定められる施設建築物は,多数の関係権利者の権利床の対象となるものであるから,施行者は,事業計画を定める段階において,権利床の割当て方法について相当程度具体的な見通しを有しているのが通常であると考えられるが,上記のとおり,法は,事業計画の内容として権利床の割当てを定める旨の規定を置いていないのであって,法は,権利床の具体的な割当てについて不服のある権利者は,後続する権利変換処分においてこれを争うこととしているものと解される。 なお,法は,事業計画等の認可を得るに先立ち,事業計画を公衆の縦覧に供すべきことを原則としつつも,政令で定める軽微な変更についてはこれを不要とし(法58条4項) ,これを受けて定められた都市再開発法施 行令4条1項によれば,施設建築物の設計の概要の変更で,最近の認可に係る当該施設建築物の延べ面積の十分の一をこえる延べ面積の増減を伴わないものについては,縦覧を要しないものとされている。前記のとおり,法は,事業計画の段階では,施設建築物について設計の概要を定めるものとし(58条3項,法7条の11第1項) ,その後の段階で細部を変更す ることがあり得ることを予定しているものと解されるところ,上記の政令の定めは,このような法の趣旨と整合するものであって,不合理なものではないと解される。 以上のとおりであるから,上記の原告P1らの主張は,その余の点について判断するまでもなく,採用できない。 イ 駐車施設の設置について 原告P1らは,本件変更認可において,1-Ⅲ棟の商業・業務部分は,P8が入居する予定のA部分と,原告P1らが入居する予定のB部分とに分棟され,B部分が独立した建築物となったが,B部分には,東京都駐車場条例17条により設置することが義務付けられている駐車施設が設けられていないから,違法であると主張する。 もとより施行者は,将来,施設建築物について建築基準法上の確認を得る必要があるから,事業計画を定める段階において,通常は,建築関連法規に適合し得る建築物となるように施設建築物及びその敷地の主要な部分の設計を終えており,事業計画で定める設計の概要について作成する設計図には,施設建築物敷地の平面図に駐車施設の位置を示すこととされている(法58条3項,7条の11第1項,規則5条3項) 。そして,本件変 更認可に係る事業計画においても,その認可に先立つ平成17年6月16日付けで商業業務棟計画調整案 (甲17の3)が作成され,1-Ⅲ棟 に機械式駐車場を設けることが計画されていたことが認められる。そうすると,仮に,事業計画において定めた設計の概要に,建築関連法規に適合しないという瑕疵があり,設計の一部変更をしても建築関連法規に適合し得る建築物の建築は不可能であり,将来,違法な建築物を建築することとなることが不可避であると認められるような場合であれば,そのような事業計画は,違法であると解する余地があるということができる。 しかしながら,前記で認定したところによれば,本件変更認可に係る事業計画においては,前記のとおり,都市再生機構は,1-Ⅲ棟について,公益部分も含めた全体が一の建築物であるという前提で,東京都建築主事に対しその建築の計画を通知し,同主事から,平成19年4月17日付けで,建築基準関係規定に適合することの確認を受け,東京都建築審査会もまた,平成20年2月18日,1-Ⅲ棟を構成する公益部分,A部分及びB部分につき,機能上,外観上において一体であるとして1-Ⅲ棟を一の建築物として取り扱うことに合理的な理由がないとはいえず,これら全体を一の建築物として駐車施設の台数算定をした建築計画は駐車場条例に違反しているとはいえないとして,審査請求を棄却する決定をしているのであって,この建築確認処分がその後取り消されたことを認めるに足りる証拠はないことからするならば,1-Ⅲ棟に関して上記のような違法をもたらす瑕疵があったとは認められないというべきである。 以上によれば,上記の原告P1らの主張は採用することができない。9 本件権利変換計画の違法について(争点9) (1)原告P1らは,本件権利変換計画は,P9家,小金井市等を優遇する一方,原告P1らに不利益をもたらすものであって,関係権利者間の衡平原則違反があるから,法74条2項,77条2項前段に違反すると主張するので,これらの点について検討する。 (2)証拠(文中に記載したもの)によれば,以下の事実が認められる。ア 本件P1建物は,施行地区内の東側部分の南端にあるが,β街道の西側にある住宅地に所在し,幅員4mに満たない私道に面しており,本件事業に係る地権者の中で最も路線価の低い道路に接していた(丙17ないし19) 。 都市再生機構は,P1が上記建物において賃貸店舗及び賃貸住宅を営んでいたこと等を斟酌し,1-Ⅱ棟の4階の住宅用途部分と,1-Ⅲ棟の1階及び2階の商業用途部分を権利床として割り当てた。本件P1建物の延べ床面積は約519m2であったが,割り当てられた権利床の合計は約567m2となった(甲15,乙19) 。 イ 本件P7建物は,施行地区内の西側部分の北端にあり,鉄道線路に面した位置にあるが,β街道からは離れており,また,α駅の改札口から同建物に至るには迂回する必要があるため,利便性にやや劣っていた。同建物は,本件事業に係る地権者の中では2番目に路線価の低い道路に接していた(丙17,19) 。 都市再生機構は,P7が同建物において賃貸店舗及び賃貸オフィスを営んでいたこと等を斟酌し,1-Ⅲ棟の1階及び2階の商業用途部分と,3階から5階の業務用途部分を権利床として割り当てた。本件P7建物の延べ床面積は約1366m2であったが,割り当てられた権利床の合計は約945m2となった(甲16,乙19) 。 ウ 施行地区内の西端には,小金井市公会堂が所在していた。小金井市は,平成12年7月, α駅南口地区市街地再開発事業に係る市の方針を作 成した。同方針は, まちづくりの目標の一つとして, シビックセンターの機能の強化を掲げ,具体的には,既存の公会堂を建て替えて,市民の文化振興に資するホールを整備すること,駅前立地を活かした市民主体のコミュニティ活動・生涯学習活動の場を整備することを実施方針として設け,5000m2の面積を有する市民交流センター(文化ホールを含む。 )を建設することを挙げていた(丙4) 。 (3)検討 ア 権利変換計画の決定の基準について 権利変換計画は,関係権利者間の利害の衡平に十分な考慮を払って定めなければならない(法74条2項)とされ,施設建築敷地に地上権を設定しないものとして定められる権利変換計画の場合には,施行地区内の宅地を有する者及び権原に基づき建築物を所有する者に対して与えられる施設建築物の部分は,それらの者が権利を有する土地又は建築物の位置,地積又は床面積,環境及び利用状況とそれらの者に与えられる施設建築物の部分の位置,床面積及び環境とを総合的に勘案して,それらの者の相互間に不均衡が生じないように,かつ,その価額と従前の価額との間に著しい差額が生じないように定めなければならないとされている(法111条,77条2項前段) 。 このように,法は,施行者が権利変換計画を定めるに際してどの権利者にどの施設建築物の部分を与えるかを決める基準について,上記のような概括的な規定しか置いていないから,施行者は,上記法条所定の基準の範囲内において,多数の権利者の利益状況を勘案し,施行地区内の宅地等についてそれぞれの権利床を配置していくこととなるところ,権利床等の配置の方法は一義的に定まらず,多数の選択肢があり得ることに照らすと,具体的な権利変換計画の策定は,施行者の合目的的な見地からする裁量的判断に委ねられているものと解すべきである。したがって,権利変換計画が上記基準に反して違法といえるかどうかは,施行者により策定された権利変換計画の内容が,上記法条所定の各要素に照らして社会通念上不相当であり,その裁量権を逸脱,濫用したといえるかどうかにより決すべきものと解される。 なお,前記認定のとおり,本件権利変換計画では,施設建築敷地に地上権を設定しないものと定められているから,二以上の施設建築物がある場合において各宅地の所有者等に与えられる施設建築敷地等に関し,土地区画整理法89条1項所定の照応の原則等の適用を定める法76条2項及び法77条2項後段は適用されない(法111条) 。 イ P9家及び小金井市の優遇について 原告P1らは,本件事業はP9家を優遇するものであり,関係権利者間の利害の衡平に十分の考慮を払うべきであることを定めた法74条2項に違反すると主張し,その理由として,①単独でビルを所有したいという要求を都市再生機構等が受け入れ,P9家のための街区を設けて1-Ⅰ棟を作り,②P9家の相続対策として,単独では売りにくいP9家の土地を,それに隣接する小金井市所有地と一括して民間の開発会社に売却し,これらによって保留床が減少したことを指摘する。 しかしながら,そもそも,上記①の点のうち1-Ⅰ棟を作るかどうかという施設建築物の設計の概要に関わる問題は,事業計画等によって定まる事項であって,権利変換計画によって定まる事項ではない。そして,1-Ⅰ棟を作ることによりそうではない場合に比較して,保留床がいかなる理由によっていかなる程度に減少したというのかを示す的確な証拠もない。また,②の点についても,仮にP9家の土地を,隣接する小金井市所有地と一括して民間の開発会社に売却したことがあったとしても,それは権利変換計画とは無関係な事柄であることが明らかである。したがって,これらの主張は,法74条2項違反に関する主張として失当といわざるを得ない。 また,原告P1らは,小金井市の施設である小金井市公会堂は,もともと施行地区の西端に位置し,原告P1らの建物よりもα駅から離れた場所にあったところ,本件権利変換計画では,①市の公共公益施設が入居する1-Ⅲ棟の公益部分は駅前交通広場の正面に設置されているのに対し,原告P1らが入居する同棟のB部分は同広場の裏側の区画道路に面して配置されたこと,②同棟の施設建築敷地の土地単価が一律104万円に設定されていることが,関係権利者間の利害の衡平に十分に考慮を払ったものではないと主張する。 しかしながら,前記のとおり,法は,駅からの距離というような建築物の位置に関する要素だけではなく,環境や利用状況等の要素を総合して権利変換計画を定めるべきことを規定しているのであるから,駅からの距離のみで衡平を論じる上記の原告P1らの主張はそれ自体不適切なものといわざるを得ない。そして,前記(2)ウで認定したところによれば,市の公共公益施設を駅前交通広場正面に配置することは,小金井市が従前からまちづくりの目標として掲げていた方針に合致するものであり,他方,もともと本件P1建物及び本件P7建物は,本件事業の施行地区内でも路線価の低い道路に接していたというのであるから,市の公共公益施設を駅前交通広場の正面に配置し,原告P1らが入居する部分が同広場の裏側に配置されたとしても,社会通念上不相当ということはできず,施行者がその裁量権を逸脱濫用し法74条2項に違反するということはできない。したがって,原告P1らの上記①に関する主張は採用できない。また,一の施設建築敷地の土地単価が同一になるのは,法が,権利変換計画は,一個の施設建築物の敷地は一筆の土地なるものとして定めなければならないとしており(法75条1項) ,当該敷地が一筆の土地である以 上単価が同一になるのは当然の事柄であるし,実質的に考えても,土地単価が同一であったからといって,当該施設建築敷地上の施設建築物の権利床の価値までもが同一となるわけではないのであるから,関係権利者間の利害の衡平を考慮していないことにはならないことは明らかであって,原告P1らの上記②の主張は失当というほかない。 ウ P13との不衡平について 原告P1らは,同原告らの入居場所は,南口広場に面しないため収益性が悪く,賃料収入が減ることが予想されるのに,1-Ⅰ棟に入居する大規模商業施設(P13)は大きな利益を得られることが確実であるから,本件権利変換計画は,関係権利者間の利害の衡平に十分の考慮を払ったものではなく,法74条2項に違反すると主張する。 しかしながら,商業系施設における権利床の収益性の大小は,各権利床の価値の一要素としてその価格に反映されるべきものであるから,そのことを勘案しないで入居場所間の収益性の大小を比較しても意味がない。また,権利変換後の権利床から得られる具体的な収益の大小は,個別の契約によって定まるものであって権利変換計画の当否とは関係のない事柄である。これらの点を措くとしても,原告P1らの賃料収入が従前よりも減少することを認めるに足りる的確な証拠はなく,むしろ,原告P1らが入居するB部分は,β街道に面した建物であって,従前の本件P1建物及び本件P7建物に比較して,商業や業務等の用途に供するものとしては良好な立地条件にあると評価することもでき,他方で,1-Ⅰ棟に入居する大規模商業施設が大きな利益を得ることが確実であることを認めるに足りる証拠はない。以上のとおりであるから,原告P1らの上記主張は採用することができない。 エ 土地単価設定の不均衡について 原告P1らは,権利変換計画において,1-Ⅱ棟の敷地の単価が1m2当たり87万7000円と設定されているのに対し,1-Ⅲ棟の敷地の単価が1m2当たり104万8000円と設定されているのは,1-Ⅱ棟のほうがα駅の改札から近いこと等に照らし不合理であり,原告P1らを不利に扱っていると主張する。なお,上記の数値は権利変換計画等を分析した結果判明した(甲23)ものであることからすると,法73条1項 4号,81条,111条により権利変換計画に定められた建築施設の部分の価額の概算額のうち,土地に関する部分(以下土地価額という。) について指摘しているものであることがうかがわれる。 しかしながら,都市再生機構は,上記の概算額を定めるに当たり,不動産鑑定士が作成したα駅南口第1地区第一種市街地再開発事業に係る従後資産評価業務に係る報告書(丙60。以下業務報告書という。) に依拠して,各棟の敷地につき土地原価配分割合を求めた上,各棟の敷地の土地価額を定めたものであるところ(丙59) ,その算定過程に不合理 な点は見当たらない。 この点,原告P1らは,業務報告書が,土地の最有効使用を前提とした評価を行い,実際の施設建築物を前提とした評価をしていないことを非難するが,業務報告書は,上記のいずれの評価方法を採用すべきかを検討した上で,①そもそも土地の価格は当該土地の最有効使用を前提とする土地利用を基本として形成されるものであり,通常の不動産鑑定評価においても,土地の最有効使用を前提とした評価が行われていること,②従前土地の評価においても最有効使用を前提とした評価方法が採用されており,従前,従後で評価方法を一致させ,整合させるべきであることなどを考慮して,土地の最有効使用を前提とした評価を採用したものであるというのであるから(丙60) ,このような評価方法を採用したことについては十分 に合理性が認められるというべきである。よって,原告P1らの上記主張は採用できない。 オ 建て替えの制限について 原告P1らは,小金井市の条例の定めによれば,本件事業の対象区域では敷地面積が500m2以上ないと新たな建物の建築ができないこととされているところ,原告P1らが共有する1-Ⅲ棟の施設建築敷地の面積はその共有持分割合を勘案すると322m2にすぎず,原告P1らが建て替えたいと思っても,他の共有者であるP8や小金井市の同意がない限りそれが実現しない可能性が高いのに対し,P8や小金井市は単独で建て替えができるし,また,1-Ⅱ棟については地権者の共通の利益に基づいて建て替えが可能であることからすると,原告P1らは不公平に取り扱われていると主張する。 しかしながら,そもそも,1-Ⅲ棟の施設建築物の部分は,区分所有権の目的とされ(法2条10号,8号) ,その建て替えについては,建物の 区分所有等に関する法律等により規律されることとなるから,P8や小金井市が単独で建て替えを行うことができるという原告P1らの上記主張は,その前提において誤っている。また,いずれの建物においても,その区分所有者の共通の利益に基づいて建て替えをすることは可能なのであって,特に1-Ⅱ棟について将来建て替えが容易であると認めることはできない。よって,原告P1らの上記主張は失当というほかない。 (4)駐車施設の設置に関する差別等について ア 原告P1らは,1-Ⅲ棟の駐車施設がP8の権利床として割り当てられており,原告P1らがそれを使用できることが保障されていないことが,不当な差別であると主張する。 この点,本件権利変換計画において,1-Ⅲ棟の駐車施設は,A部分に設けられ,P8に割り当てられた権利床の共用部分とされていること,他方,建築確認の手続では,当該駐車施設は1-Ⅲ棟全体の共用のものとされ,それを前提として建築確認がされたことは前記8(2)エないしカで認定したとおりであり,また,P8は,原告P1らに対し上記駐車施設の使用を許すかどうかにつき回答を留保していること(甲55,56)からすると,原告P1らの上記駐車施設の利用権原は確実なものとはいえないことがうかがわれるところである。しかしながら,このことがP8と原告P1らとの間の不合理な差別といえるかどうかは,P8に割り当てられた権利床の価額の評価において上記駐車施設がどの程度勘案されているのか(共用部分となる駐車施設相当額がどの程度上乗せされているのか)はもとより,各権利者における駐車需要の大小,他に利用し得る駐車施設の有無等の諸事情を総合的に考慮して判断されるべきものであって,原告P1らが,上記駐車施設を使用することが保障されていないことをもって,直ちに不合理な差別といえないことは明らかであり,他に不合理な差別であると認めるべき証拠はない。したがって,原告P1らの上記主張は採用することができない。 イ 原告P1らは,同原告らが入居する予定のB部分に駐車施設を設けることとされていない点が東京都駐車場条例17条に違反し,本件権利変換計画の違法事由となると主張するが,上記の点が上記条例に違反するものではないことについては前記8(3)イで判断したとおりであるから,原告P1らの上記主張は,その前提において失当である。 (5)P14からの先行取得等について ア 前記第2の1(3)ウ及び(5)アで認定したところに加え,証拠(文中に記載したもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。(ア) 本件事業計画等の認可の公告は平成17年1月12日にされ,同月 24日,施行地区内の土地について権利変換手続開始の登記がされた。(イ) 都市再生機構は,同年3月18日,P14から,同社が所有する施 行地区内の土地886.14m2(小金井市γ×番15ほか3筆。以下本件P14土地という。 )を,1m2あたり49万8000円の価 格で取得した(丙58,甲40ないし43) 。 (ウ) 都市再生機構は,権利変換計画において,本件P14土地の西側の 土地(同×番13ほか)の価額につき,1m2あたり47万9000円と評価している(甲57) 。 (エ) 都市再生機構は,権利変換計画書において,本件P14土地につき, 同機構が建築施設の部分又は借家権を与えられない者として所有しているものとして記載したが,その権利の価額は記載しなかった(丙21) 。 イ 原告P1らは,都市再生機構は,権利変換手続開始の登記の後に隣地よりも高い単価で本件P14土地を取得し,P14に特別の利益を与えているところ,他の権利者に対しては同様の機会を与えていないのであるから,P14を特別に優遇したものであると主張する。 この点,法は,施行者が,事業の用に供することを目的として,その裁量により,施行地区内の土地をその所有者から任意に取得することを禁じるものではなく,そのことは,地権者等の権利変換手続開始の登記の後であっても異なるところはないと解される(法70条2項参照)から,都市再生機構が,権利変換手続開始の登記の後にP14から本件P14土地を取得したことは何ら違法ではない。そして,その価額についても,本件P14土地とその隣地とは,形状,道路付けが異なることがうかがわれるから(甲57) ,両土地の価額に上記アで認定したとおり1m2当たり1万 9000円程度の差があるからといって,都市再生機構が本件P14土地を取得するに当たり特別の利益を与えたものと断ずることは到底できず,他に,都市再生機構が特にP14を優遇して土地を買い受けたという事情を認めるに足りる証拠はない。したがって,原告P1らの上記主張は採用することができない。 ウ 原告P1らは,P14に対しては法80条1項に基づいて算定した価額が支払われるべきであるところ,都市再生機構が本件P14土地につき1m2あたり49万8000円を支払ったことは,隣地の価額が1m2あたり47万9000円であることに照らすと,法80条1項に違反すると主張する。 しかしながら,法80条1項は,権利変換計画における土地等の価額の算定基準であって,施行者が事業の用に供することを目的として施行地区内の土地所有者から任意に土地を買い受ける場合の価額を規律するものではないから,原告P1らの上記主張は,その前提において失当である。また,本件P14土地とその隣地とは,形状,道路付けが異なり,両土地の価額に上記アで認定した程度の差があるからといって,本件P14土地の買受価額が不相当と断ずることはできないことは,上記イで判断したとおりである。したがって,原告P1らの上記主張は採用することができない。 エ 原告P1らは,都市再生機構が権利変換計画に本件P14土地の価額を記載していないことは,権利変換計画の縦覧を定める法83条の趣旨に反し違法であると主張する。 この点,前記のとおり,施行者は,事業の用に供することを目的として,その裁量により,施行地区内の土地所有者から任意に土地を買い受けることができると解されるところ,この場合においては,その取得費用が当該事業に要した費用(法103条1項参照)として計上されるにすぎず, 当該土地については,権利変換の対象とはならず,施行者が当該所有権を失うことに関して補償金を受け取ることもないこととなる。 他方,法が,権利変換計画において, 施行地区内の宅地…を有する者で,権利変換期日において当該権利を失い,かつ,当該権利に対応して,施設建築敷地又は施設建築物に関する権利…を与えられないもの(法7 3条1項12号,111条)については,その氏名又は名称,住所,失われる宅地及びその価額を定めるべきものと規定しているのは,権利変換の対象となる当該宅地については上記価額に基づいて計算される補償金を支払うべきこととされていること(法91条1項)から,当該価額を明らかにする趣旨であると解される。したがって,本件P14土地の取得のように施行者が土地を任意取得する場合には,法73条1項12号は適用されず,権利変換計画にその取得価額を記載する必要はないというべきである。以上によれば,そもそも本件において,都市再生機構が権利変換計画書に法73条1項12号に該当するものとして本件P14土地の名称を記載したのは,本来は無用のものであったということとなるが,本件P14土地の価額が権利変換計画書に記載されていないことは,同号に違反するものではなく,権利変換計画の縦覧を定める法83条の趣旨に反するものでもないと解すべきである。 したがって,原告P1らの上記主張は採用できない。 10 原告P1に関する本件権利変換処分の違法の有無について(争点10) (1)原告P1は,本件権利変換処分における本件P1建物等の価格の評価方法や権利床の割り当て等について違法があると主張するので,これらの点について検討する。 (2)証拠(文中に記載したもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア 原告P1は,本件事業の施行地区内に,別紙物件目録2(1)①の建物(本件P1建物)及び同②の建物(以下本件景品交換所建物という。 )を所有していた。また,原告P1は,上記の各建物の敷地となる土地(東京都小金井市γ×番38,同番44,同番50及び同番56。以下本件P1土地という。 )と,同土地に接し公衆用道路として使用され ている土地(同番62)の共有持分(39600分の2414。以下本件私道持分という。)とを所有していた。このうち,本件P1土地と本 件P1建物は,同一の抵当権の目的とされてその旨の登記がされていたが,本件景品交換所建物と本件私道持分には抵当権が設定されておらず,また,本件景品交換所建物は未登記であった(甲1ないし6,15,乙21の1) 。 イ 都市再生機構は,本件権利変換計画において,本件P1土地と本件P1建物については,法73条1項3号に該当する宅地及び建築物に当たるとし,本件景品交換所建物と本件私道持分については,法73条1項11号に該当する宅地及び建築物に当たるとして,以下のとおり,それぞれ価額を定めた(甲15,18,乙21の1) 。 (ア) 1億6622万4000円 (イ) 本件P1建物 1億2103万円 (ウ) 本件景品交換所建物 (エ) ウ 本件P1土地 本件私道持分 228万2000円 58万2000円 本件P1土地及び本件P1建物は,その一部が商業用途に使用され,残りが住宅用途に使用されていたところ,本件権利変換計画においては,以下のとおり,権利床が割り当てられた。 (ア) 住宅用途の部分について,1-Ⅱ棟の4階(Ⅱ404) ,床面積合 計352.58m2(住宅14戸。以下住宅部分という。 ) (イ) 商業用途の部分について,1-Ⅲ棟の商業・業務用部分の1階(Ⅲ 102) ,床面積143.27m2,同2階(Ⅲ201) ,床面積71. 41m2, (以下商業部分という。 ) エ 上記ウ(ア)の住宅部分については,1m2当たりの平均単価が51万0200円と評価された(甲18) 。他方,他の地権者の中には,1-Ⅱ棟 の5階の住戸につき1m2当たり42万9900円で割り当てられた者や,同8階の住戸につき1m2当たり48万8300円で割り当てられた者がいた。 オ 上記ウ(イ)の商業部分(Ⅲ102)については,1m2当たり53万2600円と評価された(甲18) 。同部分は,1-Ⅲ棟の商業・業務用部 分の1階の東側を占めるものであるが,借家権者が占有することを想定して, 〈1〉ないし〈4〉の4つの区画に仕切られている(別紙図面5配置設計図参照)。このうち, 〈1〉と〈3〉は株式会社P2の有する借 家権の対象となる部分, 〈2〉はP6の有する借家権の対象となる部分で ある(乙21の1) 。 カ 都市再生機構は,法79条2項の規定に基づき,市街地再開発審査会の議決を経て,事務所,店舗等の用に供される部分の過小な床面積の基準を都市再開発法施行令27条2号が定める下限値である10m2と定めた(弁論の全趣旨) 。 (3)検討 ア 複数の宅地,建築物を個別に取り扱ったことの適否 原告P1は,都市再生機構が,本件景品交換所建物と本件私道持分につき,これらを本件P1土地及び本件P1建物と一体として権利変換しなかったことは,法73条2項の適用を誤るものであり,関係権利者間の利害の衡平に十分な考慮を払うべきことを定めた法74条2項に違反すると主張する。 この点,法73条2項は,宅地を有する者が当該宅地の上に建築物を有し,かつ,当該宅地又は建築物について担保権の登記があるときは,これらの宅地又は建築物はそれぞれ別個の権利者に属するものとみなして権利変換計画を定めなければならないが,宅地と建築物とが同一の担保権の登記に係る権利の目的となっており,それらのすべての権利の順位が宅地と建築物とにおいて同一であるとき(同項2号)は,この限りではなく,同一の権利者に属するものとして権利変換計画を定める旨を定めている。これは,宅地上に建築物があり,それぞれ別個の抵当権が設定されている場合,権利変換に際し,宅地と建築物とを別個の権利床に移行させないと,それぞれの抵当権が把握する価値を適切に移行することができず,抵当権者を害することがあることから,宅地と建築物を別個の権利者に属するものとして権利変換をすることを定めたものと解される。 しかるに,前記認定によれば,本件P1土地と本件P1建物は共同担保の目的とされていたのに対し,本件私道持分は抵当権が設定されておらず,さらに,本件景品交換所建物は未登記であったというのであるから,都市再生機構が,法73条2項に従い,本件P1土地と本件P1建物とを合わせて扱い,それ以外の不動産については,別個の権利者に属するものとして別異に扱ったことに特段の違法はないといわざるを得ない。 これに対し,原告P1は,本件私道持分と本件景品交換所建物には抵当権が設定されていないのであるから,これらを,本件P1土地及び本件P1建物と合わせて一つとして権利変換したとしても,抵当権者は不測の損害を被ることはなく,原告P1もこのような権利変換を希望していたのであるから,都市再生機構の上記取扱いは違法であり,関係権利者間の衡平を考慮すべきことを定める法74条2項にも違反すると主張する。しかしながら,そもそも,原告P1が上記のような希望を都市再生機構に対して申し入れていたことを認めるに足りる的確な証拠はないから,原告P1の主張はその前提を欠く。そして,都市再生機構が法73条2項の規定するところに従って原告P1の所有に係る不動産につき権利変換計画を定めことが適法であることは上記のとおりであり,他にそのことが法74条2項に反すると解すべき理由はない。したがって,原告P1の上記主張は採用することができない。 イ 本件私道部分等を過小床として処理したことの適否 原告P1は,都市再生機構が,本件私道持分と本件景品交換所建物につき,法79条のいわゆる過小床であるとして金銭補償をしたことは,同条の適用を誤ったものである旨主張する。 この点,法79条1項は,権利変換後の居住条件の改善を図る趣旨から,権利変換の対象となる宅地等が狭小であり,等価原則によって権利床を定めるとそれが過小となるときは,その床面積を増して適正なものとすべきことを定めたものと解される。他方,同条3項は,このような増床の原則のみを規定しておくと,事業妨害のため故意に過小な床面積を多数生じさせることがあり,その場合,増床だけでは対処しえなくなることを考慮し,例外的に,床面積が著しく過小となるときは,増床を行わず,権利床を与えないことができる権限を施行者に与えたものと解される。 ところで,前記認定したところによれば,本件事業において事務所,店舗等の用に供される部分の過小な床面積の基準は10m2と定められ,また,Ⅲ102の1m2当たりの単価は50万円を超えるのに対し,本件私道持分の価額は58万2000円,本件景品交換所建物の価額は228万2000円であるというのであるから,これに対応する権利床の面積は10m2を大きく下回るのであって,これらは,法79条3項所定の床面積が著しく過小な場合に当たるということができる。そして,証拠(甲5,丙16)によれば,原告P1は,本件事業認可に先立つ平成17年1月11日,P1が共有持分を有していた公衆用道路の一部を39600分の2ずつ合計62名の者に贈与し(その残余が本件私道持分である。,) 多数の過小床を生じさせる行為をしていたこと,また,原告P1は,本件再開発事業都市計画決定がされた後である平成15年5月に本件景品交換所建物を新築していたことに照らすと,施行者である都市再生機構が,法79条3項に基づいて,本件共有持分及び本件景品交換所建物に対応する建築物の一部を配分しないことにしたことは適法であると解すべきである。したがって,原告P1の上記主張は採用することができない。 ウ 床単価の設定の適否 原告P1は,原告P1に割り当てられた1-Ⅱ棟4階の住宅部分(Ⅱ404)の1m2当たりの床単価が,それよりも上階である5階や8階の住宅部分の床単価よりも高いことは不合理であり,権利者相互間の不均衡を生じさせるものであるから,法77条2項に違反すると主張する。前記認定によれば,原告P1が割り当てられたⅡ404の床単価は,14戸の住宅の全体で1m2当たり51万0200円とされたが,5階の特定の住戸には1m2当たり42万9900円のものや,8階の特定の住戸には1m2当たり48万8300円のものがあることが認められる。他方,前記認定によれば,1-Ⅱ棟は,地上25階,地下2階の建物であり,4階以上が住宅用途に当てられ,住宅用途に当てられた部分は中央に設けられた回廊を中心としてその三方に複数の規模の異なる住戸が配置されるという形態のものであるが,このような建物の各住戸の1m2当たりの単価は,当該専有部分が属する階層のみならず,当該専有部分が当該階層において占める位置,規模(面積) ,方位,日照,眺望,隣棟との関 係,騒音源との近さ,内装,設備の程度など,様々な要因に左右されるものと考えられるところである。例えば,原告P1に割り当てられたⅡ404のうち北西の角住戸である〈14〉についてみると,日照が優れないこと,隣棟があること,鉄道騒音の影響を受けやすいことなど,同一階層であっても他の住戸よりも価格の評価を低くする方向に働く多くの負の要因が認められる(乙21の1) 。そうすると,各住戸の個別的な要因を考慮 にいれることなく,単に階層が上にあるというだけで,単価が高いと断定することはおよそ困難である。 しかるに,Ⅱ404との比較対照として挙げられた5階及び8階の特定の住戸については,階層がⅡ404の所在する4階よりも上であることを除けば,他にその価格の評価に影響する要因について何ら主張も立証もされていない。したがって,原告P1の上記主張は採用することができないといわざるを得ない。 エ 商業部分(Ⅲ102)の設計の合理性 原告P1は,原告P1に割り当てられた1-3棟の商業部分(Ⅲ102)の4つの区画は,それぞれ,窓がないこと,β街道からみて店舗の存在が分かりにくいこと,店舗内を見通せないことなどの問題があるため,店舗として利用するには不向きなものとなっており,これは,都市再生機構がP1に対して嫌がらせをする目的で不当な設計をしたものであると主張する。 この点,前記認定によれば,都市再生機構は,Ⅲ102を原告P1に割り当てることとし,借家人の存在を念頭において,間仕切りを行ったものであるところ,証拠(甲52[図E],乙21の1)及び弁論の全趣旨によれば,間仕切り自体は,原告P1が借家人らと協議して変更することが可能な性質のものであり(本件権利変換処分においても,間仕切りは点線で示されている。,都市再生機構は間仕切りを変更することを許容するこ) とを表明しているのであるから,間仕切りの設計が,都市再生機構のP1に対する嫌がらせを目的とするものであったと認めることは困難というほかはなく,他に,原告P1に割り当てられた1-3棟の商業部分(Ⅲ102)の4つの区画について,都市再生機構がP1に対して嫌がらせをする目的で不当な設計をしたものであると認めるに足りる証拠はない。したがって,原告P1の上記主張は採用することができない。 11 P6に対する第4事件の提起と訴権の濫用について(争点11) (1)前記第2の1(6)イで認定したところに加え,証拠(文中に記載したもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア P6は,別紙物件目録2(4)記載の部分(以下本件店舗部分 )を原 告P1から賃借し,店舗として使用していた。 イ P6と都市再生機構は,平成18年5月17日,本件店舗部分の明渡し及び物件の移転に伴って通常生ずる損失に関する損失補償契約を締結した。同契約において,都市再生機構は通損補償金を支払うことを約し,P6は本件店舗部分を都市再生機構に対し明け渡すことを約した(丙53)。さ らに,両者は,都市再生機構が仮店舗を完成させ次第,P6は速やかに仮店舗に転居して,本件店舗部分を明け渡すことに合意した。なお,上記の仮店舗は,同年5月15日ころの段階では,同年8月初旬ころに完成して使用できる予定であったが(甲36) ,その後,同年9月初旬ころに完成 して使用できる予定に変更された(甲37ないし39) 。 ウ P6は,都市再生機構に対し,本件店舗部分の明渡しは従前の賃貸人である原告P1に対して鍵を渡して行うのが筋であると主張するようになった。そこで,都市再生機構は,P6が原告P1に対して占有を移転することを阻止するため,同年8月4日,東京地方裁判所八王子支部において占有移転禁止仮処分の申立てを行い,同月16日,同仮処分が執行された。 エ P6は,上記仮処分の執行後も,本件店舗部分の鍵を原告P1に渡す意思を有していたところ,都市再生機構は,同月30日,同支部において建物明渡請求訴訟(第4事件)を提起した。そして,P6は,原告P1に鍵を渡した。 オ P6は,同年9月8日,仮店舗に移転し,都市再生機構との間で,仮店舗に関し,同年9月11日付けの建物一時使用貸借契約を締結した(甲35) 。 (2)検討 ア P6は,都市再生機構が仮店舗を完成させる前にP6に対して建物明渡訴訟(第4事件)を提起したことが違法であると主張する。 しかしながら,前記認定によれば,P6は,本件店舗部分から転居はするものの,本件店舗部分の占有を原告P1に対して移転する意思を明らかにしていたというのであるから,都市再生機構が,原告P1に対する占有移転を阻止し,土地上にある物件の明渡しを円滑に行うために,P6に対して占有移転禁止の仮処分を得ることは十分に合理性が認められ,その本案訴訟として建物明渡訴訟(第4事件)を提起したことは,本件店舗部分に関する権利の行使として当然に許される行為というべきであるから,それによってP6が同訴訟について応訴の負担を負うとしても,都市再生機構が建物明渡訴訟(第4事件)を提起したことが訴権の濫用に当たると評価することはできない。 イ また,P6は,都市再生機構が,原告P1らのほかにP6を共同被告として建物明渡訴訟(第4事件)を東京地方裁判所八王子支部に提起したのは,原告P1や同P7が東京地方裁判所本庁において提訴していた権利変換処分取消訴訟(第1事件)との併合を困難なものとし,原告P1らに対する明渡請求訴訟の判決を先に獲得しようとの意図によるものであって違法であると主張する。 しかしながら,法律上,建物明渡訴訟(第4事件)と権利変換処分取消訴訟(第1事件)とは,同一の裁判所において審理しなければならないものではないし,また,同支部は,建物明渡訴訟(第4事件)で被告とされた者の住所地を管轄する裁判所であり,かつ,明渡訴訟の対象となる不動産の所在地を管轄する裁判所でもあるのであるから,同訴訟を同支部に提起することはむしろ当然である。したがって,都市再生機構が,建物明渡訴訟(第4事件)を同支部に提訴したことが権利の濫用となり違法となるということはできない。 ウ 第4 よって,P6の主張はいずれも採用することができない。 結論 以上によれば,本件変更認可に係る取消しの訴え(第1事件のうち被告国に対する訴え)は不適法であるからこれを却下することとし,本件権利変換処分の取消請求(第1事件のうち都市再生機構に対するもの)及び明渡請求処分の取消請求(第2事件)はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,都市再生機構の明渡請求(第3事件ないし第5事件)はいずれも理由があるからこれを認容することとし,P6の損害賠償請求(第6事件)は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,65条1項を,仮執行の宣言につき民事訴訟法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第3部 裁判長裁判官 定塚誠 裁判官 谷口豊 裁判官 工藤哲郎 (別紙) 当事者の主張 1 本件変更認可の行政処分性(争点1) (原告P1らの主張) 最高裁平成4年11月26日第一小法廷判決・民集46巻8号2658頁は,第二種市街地再開発事業における事業計画決定の行政処分性を肯定しているところ,第一種市街地再開発事業においても,施行地区内の宅地の所有者等は,事業計画決定等の公告後30日以内に,施行者に対し,権利変換又は新たな借家権の取得を希望しない旨申し出ることにより,他へ転出して権利変換計画の対象者から除外されるか否かの選択を余儀なくされるのであって,この点における不利益は第二種市街地再開発事業における場合と異なるものではない。仮に第一種市街地再開発事業における事業計画決定等の処分性を否定すると,当該決定等を違法と考えている者は,その段階ではその効力を争うことができず,後に権利変換処分の効力を争うこととなるが,その結果,権利変換処分が適法とされると,他に転出しようとしても補償金又は移転に伴う損失補償を施行者から受領することはできないから,このような不利益を避けるには当初から他に転出することを余儀なくされ,事業計画決定等の違法を争う余地は実際上なくなってしまうこととなる。このような不合理な事態を避けるためにも,事業計画決定等の処分性を肯定するのが相当である。 なお,最高裁昭和41年2月23日大法廷判決・民集20巻2号271頁は,土地区画整理事業計画の決定について行政処分性を否定したものであるが,第一種市街地再開発事業においては,事業計画決定等が公告されることにより,既存建物の取り壊し,再開発ビルの新築という事実に伴う基本的な権利変動が生じることが確定し,かつそれは不確定な将来においてではなく,差し迫った一定期間後に生じることが確実という点で土地区画整理事業の場合とは趣を異にする。 (第1事件被告国の主張) 第一種市街地再開発事業における施行規程及び事業計画は,長期的な見通しのもとに,当該事業の概要及び当該事業の施行に当たっての基本的枠組みを一般的,抽象的に定めたにすぎないものであって,利害関係人の権利にどのような変動を及ぼすかを具体的に確定するものではなく,特定個人に向けられた具体的な処分とは著しく趣を異にするものであり,これらに関する国土交通大臣の認可もまた,特定の個人の権利関係に対し,直接かつ具体的な変動を及ぼすような効果はないというべきであるから,抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらない(最高裁昭和41年2月23日大法廷判決・民集20巻2号271頁参照) 。施行規程及び事業計画が認可され,公告されると,施行地区内において建築物の新築や既存建築物の増築の制限等の効果が生じることになるが(法66条) ,これは,当該事業計画を円滑に遂行するために法律が特に設け た効果で,公告に伴う付随的な効果にとどまるというべきである(前掲最高裁判決参照) 。 また,第二種市街地再開発事業について地方公共団体が行った事業計画決定を抗告訴訟の対象となる行政処分であるとした最高裁判決があるが(最高裁平成4年11月26日第一小法廷判決・民集46巻8号2658頁),① 第一 種市街地再開発事業においては,第二種市街地再開発事業と異なり,事業計画認可に土地収用法上の事業認定と同一の法的効果が定められておらず,② 第 一種市街地再開発事業においても,施行地区内の宅地の所有者等は,権利変換を希望しない場合には,事業計画決定等の公告の日から30日以内に,金銭給付の希望又は建築物の移転の申出をしなければならないが(法71条),これ は,関係権利者の従前の生活形態を極力保護するために現地での権利変換を原則とした上で,事業の円滑な遂行を図るために,権利変換に代わる金銭給付等を求める権利を地区内権利者に付与したにすぎないものであって,事業計画の決定ないし公告そのものの効果として発生するものではなく,また,地区内権利者は,原則として,再開発後の施設建築敷地,施設建築物の所有権等を取得することができるところ,これを希望しない場合には,権利変換計画の作成に支障を生じさせないように,一定期間内にその旨を申し出なければならないこととされているもので,第二種市街地再開発事業における施行地区内の宅地の所有者等の様に,土地収用法の規定の適用を受ける結果,事業計画決定等の公告後30日以内に申出をしない限り,当該宅地所有権等を強制的に収用されることとは全く不利益の度合いが異なるのであり,同列には論じられない。2 本件変更認可の取消訴訟において,本件高度利用地区都市計画決定,本件再開発事業都市計画決定及び本件事業認可の違法を主張することができるか(争点2) (原告P1らの主張) 本件高度利用地区都市計画決定の違法及び本件再開発事業都市計画決定の違法は,いずれも,本件事業認可の違法事由となる。そして,本件事業認可と本件変更認可との間には違法性の承継が認められるから,本件変更認可の違法事由として本件事業認可の違法を主張することができる。 仮に違法性の承継が認められないとしても,事業計画等の変更認可は,変更部分のみの認可ではなく,変更部分も他の計画内容と一体となってはじめて意味を持ち,変更部分を含む計画全体の新たなる認可と考えるべきものであるから,当初の計画認可の違法は,その内容を含む計画変更認可の違法となる。(第1事件被告国の主張) 本件高度利用地区都市計画決定の違法及び本件再開発事業都市計画決定の違法は,本件事業認可の違法事由となる。しかしながら,本件事業認可と本件変更認可との間には違法性の承継が認められないから,本件変更認可の違法事由として本件事業認可の違法を主張することはできない。 また,変更認可の効力は,事業計画等が変更される部分についてのみ及ぶものであり,事業計画等の全体についての新たな認可をしているものではないから,本件事業認可の違法が直ちに本件変更認可の違法となるものではない。3 本件権利変換処分の取消訴訟において,本件事業認可及び本件変更認可の違法を主張することができるか(争点3) (原告P1らの主張) 本件事業認可及び本件変更認可と本件権利変換処分との間には違法性の承継が認められるから,本件権利変換処分の違法事由として本件事業認可及び本件変更認可の違法を主張することができる。 (都市再生機構の主張) 本件事業認可及び本件変更認可と本件権利変換処分との間には違法性の承継が認められないから,本件権利変換処分の違法事由として本件事業認可及び本件変更認可の違法を主張することはできない。 4 本件土地明渡請求処分の取消訴訟において,本件事業認可,本件変更認可及び本件権利変換処分の違法を主張することができるか(争点4) (原告P1らの主張) 本件事業認可,本件変更認可及び本件権利変換処分と本件土地明渡請求処分との間には違法性の承継が認められるから,本件土地明渡請求処分の違法事由として本件事業認可,本件変更認可及び本件権利変換処分の違法を主張することができる。 (都市再生機構の主張) 本件事業認可,本件変更認可及び本件権利変換処分と本件土地明渡請求処分との間には違法性の承継が認められないから,本件土地明渡請求処分の違法事由として本件事業認可,本件変更認可及び本件権利変換処分の違法を主張することはできない。 5 本件高度利用地区都市計画決定の違法の有無(壁面の位置の制限違反)(争 点5) (原告P1らの主張) 都市計画法8条3項2号チは,高度利用地区について定める壁面の位置の制限を当該道路に面する壁面の位置に限るとして限定し,それ以上に地権者の権利の制限となる壁面の制限を許していない。同規定は,当然にその位置を制限される壁面の存在を前提としており(だからこそ壁面の禁止ではなく,壁面の位置の制限と規定されている。,当該道路に面する壁面の存在を) 前提とする位置の制限以外の規制を許容しない趣旨である。また,東京都の運用基準では,地権者の権利制限との調和の観点から,壁面が面している道路の歩道機能の強化(歩道スペースのゆとり)に限って壁面の位置の制限を認めている。さらに,小金井市が決定した地区計画における地区施設の整備の方針では,敷地内通路は,緊急車両以外は,歩行者と自転車の利用が前提とされており,恒常的な車の出入りは予定されていない。 ところが,本件高度利用地区都市計画決定における壁面の位置の制限は,敷地内通路2号及びコミュニティ広場等の箇所について,実質的に道路に面しない壁面の位置を制限している。例えば,敷地内通路2号は,その西側の終点は区画道路4号であって,1-Ⅱ街区の建物の壁面の存在を全く予定していないだけでなく,同建物のうち, 当該道路である駅前交通広場に面してい ない北側の壁面の位置の制限により生み出された空間であることは明らかである(本件では,そもそも制限部分のほとんどが道路に面する壁面の存在を予定していない。。また,本件の制限部分はいずれも歩道との一体整備とは) いえないような空地を設けるものであり,敷地内通路2号には入居者等のための駐車場が設置され,これを車道として使用することが前提とされている。これらは,上記の都市計画法の規定,東京都の運用基準及び小金井市の地区計画に違反し,本来は小金井市の負担で用地を確保しなければならない広場や道路について地権者をごまかして,地権者に負担を押しつけたものであって,違法である。 (第1事件被告国,同参加行政庁小金井市の主張) 都市計画法8条3項2号チが道路に面する壁面の位置に限ると規定する趣旨は,一般的に道路部分の空間が一般公衆の通行,防災上の避難路,緑地の確保などに一定の役割を果たしており,建築物の敷地内においては道路空間と連続した空地の確保が市街地環境の向上の上で有効であること等から,壁面の位置の制限による建築規制の適用を市街地環境の向上の効果の蓋然性が高い部分に限定することにあり,同規定は,道路空間と連続した空地を確保することをもって地域の特性に応じて市街地環境の向上に資することをその目的とし,当該空地の確保のために壁面の位置の制限を行うことを許容しているのであり,壁面の予定の有無は壁面の位置の制限を行う際の法的要件ではない。本件高度利用地区都市計画決定における壁面の位置の制限は適法である。 東京都の運用基準は,裁量権行使の準則であり,これに違背することが当然に違法となるものではない。しかも,同基準は,歩道機能の強化に限って壁面の位置の制限を認める趣旨ではないから,本件高度利用地区都市計画決定における壁面の位置の制限に同基準違反は存在しない。 また,小金井市の地区計画における敷地内通路の整備方針は,敷地内通路の利用趣旨を概括的に定めたものにすぎず,建築物の利用者が敷地内駐車場を利用するために車両で通行することを排除することを予定していないから,敷地内通路に車が通行することをもって地区計画に違背するとはいえない。さらに,小金井市は,本件における壁面の位置の制限の趣旨等について地権者に説明し,都市計画手続も適正に行い民意の反映に努めており,地権者をごまかして負担を違法に押しつけているということはない。 6 本件再開発事業都市計画決定の違法の有無(法3条4号違反等) (争点6) (原告P1らの主張) (1)土地の高度利用を図り,当該都市の機能の更新に貢献するには,大勢の人が往来し,営業上最も利用価値の高い駅前広場隣接地は商業ないし業務に供されるべきである。にもかかわらず,本件事業ではα駅南口広場に面した位置に小金井市の公共施設(仮称市民交流センター )が建設されることが 予定されており,このことにより,再開発地区内に新設される商業床と再開発区域外の商業が分断され,消費者の流れが分断されるとともに,民間の事業者にそれにふさわしい立地で営業を行う機会を失わしめ,ひいては小金井市にとっても固定資産税などの税収が見込めない事態を招くおそれが高い。また,本件事業では大規模小売店であるP13の進出が予定されているが,半径1.5ないし1.8㎞圏内を商業圏としているP13の進出により,周辺の中小の事業者の営業が著しく妨げられ,周辺の商店街が衰退を招くおそれが高い。 したがって,本件事業は, 当該区域内の土地の高度利用を図ることが,当該都市の機能の更新に貢献することの条件を満たしておらず,法3条4号に違反する。 (2)P13の進出により,周辺の中小の事業者の営業が著しく妨げられ,周辺の商店街が衰退を招くおそれが高く,商店街が衰退すれば良好な都市環境を獲得することは不可能である。また,その駐車場への入庫を待つ車両が住宅街前の路上に長蛇の列を作ることは確実であり,そうなれば,深刻な大気汚染及び騒音を惹起し,良好な都市環境を著しく破壊することが確実である。したがって,本件事業は, 良好な都市環境のものとなるように定めることの条件を満たしておらず,法4条2項2号に違反する。(3)原告P1らが移転することになっている再開発ビルの家賃は1階で1m2当たり6000円とされているが,共益費(エレベーターの設置が必要であり,少なく見積もっても1m2当たり500円は必要と思われる。)の負担 も勘案すれば,従前の賃借人がこれらの賃料等を負担することは不可能であり,そうなれば原告P1らは従前の賃料収入を維持できなくなり,事業上大きな損失を被ることが避けられない。 したがって,本件事業は, 建築物の利用者の利便を考慮したとも健全な高度利用形態となるよう定めたともいえず,法4条2項3号に違反する。 (第1事件被告国,同参加行政庁東京都の主張) 本件再開発事業都市計画決定で定めた事項は,名称,施行区域,面積,公共施設(道路)の配置及び規模,建築物の整備,建築敷地の整備並びに住宅建設の目標に関する計画であり,このうち建築物の整備に関する事項としては,主要用途を商業,業務,住宅,公益施設,駐車場等と定めるのみで,本件事業の具体的内容として,市の公共施設(仮称市民交流センター )の位置, P13の出店,原告P1らが権利変換を受ける部分までは定めていない。したがって,原告P1らの主張は,本件再開発事業都市計画決定の違法事由としては失当である。 7 本件事業認可の違法の有無(代替案検討の欠如等) (争点7) (原告P1らの主張) (1)事業計画等の認可に当たり,代替案の検討を行わなくても当該事業の合理性が優に認められるといえるだけの事情が存在しないにもかかわらず,代替案の検討を行わずに事業認可がされた場合は,十分な審査がされたとはいえず,事業認可庁に与えられた裁量を逸脱すると解するべきである。しかるに,本件においては,α駅南口第一ブロック街づくり推進会が本件事業において採用されている案(第1案)及び3つの代替案(第2案ないし第4案)を用意し,地権者らにアンケート調査を行ったところ,29名中14名が第4案を支持し,第1案を支持したのは3名に過ぎなかったのであり,代替案の検討を行わなくても当該事業の合理性が優に認められるといえるだけの事情は存在しないから,本件事業認可は違法である。 (2)都市再生機構及び小金井市は,本件事業の推進に当たって,大規模地権者であるP11の意思に盲従する一方で,原告P1ら関係権利者が本件再開発事業都市計画決定に関する前記の問題点について指摘した上で意見を述べたにもかかわらず,これに一切耳を傾けず,自らが決めた方針をごり押しすることに終始した。また,平成12年から平成13年3月ころの段階で,4案を要望するα駅南口第一ブロック街づくり推進会と都市再生機構との間で話し合いが行われ,合意形成に向けた努力が重ねられていたにもかかわらず,都市再生機構は,同年6月に担当者らを異動させ,同年7月に赴任した新たな担当者らはそれまでの話し合いを一切反故にし,都市再生機構側の案を住民らに一方的に押しつけた。 このような適正手続違反を看過してされた本件事業認可は違法である。(第1事件被告国の主張) 法令上,国土交通大臣に対し,法58条1項の規定に基づき事業計画等の認可を行うに当たって代替案と比較することを義務付ける根拠はないから,代替案との比較衡量をしないことが直ちに本件事業認可を違法とするものではない。また,原告P1らが適正手続に違反するとして主張する点は,いずれも事業計画等の認可手続における法定の要件ではなく,本件事業認可を取り消すべき手続上の瑕疵に該当するものではない。 8 本件変更認可に固有の違法の有無(縦覧手続の欠如等) (争点8) (原告P1らの主張) (1)本件事業計画の変更において,原告P1は移転先の一部を,原告P7は移転先の全部を,1-Ⅱ街区から1-Ⅲ街区の商業業務棟の南側の位置に変更させられている。しかるに,1-Ⅲ街区の商業業務棟の南側はα駅南口広場に面しないため収益性が低く,大幅な収入減となることが予想される。しかも,原告P1らは, 商業業務棟の北側の所有者であるP8及び 公益棟の所有者である小金井市の同意がなければ新たな建物の建築ができなくなるという不利益を被る。したがって,これらの変更は,少なくとも原告P1らにとっては重大な変更であり, 軽微な変更とはいえないから, 本件変更について縦覧を行わず,意見書提出の機会を失わせた本件変更認可は,法58条4項,16条1項,2項に違反している。また,上記のような質的に重大な変更は,都市再開発法施行令(以下施行令という。 )4条 1項2号にいう設計の概要の変更には該当しない。仮に同号の設計の概要の変更が本件のような変更を含む趣旨であるとすれば,同号の規定は法58条4項に反して無効である。 (2)都市再生機構は,本件変更認可について,原告P1らに対して事前に協議の申し入れも情報提供もしていない。地権者本人が全く知らないうちに入居先のビルが変更させられるのは,明らかに適正手続の要請に反するものであり,しかも,都市再生機構が本件事業に反対でない地権者に対して同様の対応をするとは想定し難いことに鑑みれば,都市再生機構は,原告P1らに対し露骨な報復を行うことで反対派封じを目論んだものにほかならず,憲法31条に反する違法な手続である。このような適正手続違反を看過してされた本件変更認可は違法である。 (3)本件変更認可によって設置が計画されている1-Ⅲ街区の商業業務棟は,北側のP8が入居する予定の棟(P8棟)と,南側の原告P1らが入居する予定とされている棟(一般権利者棟)とに分かれている。この一般権利者棟には,東京都駐車場条例17条1項により駐車場の附置義務があるが,駐車場の設置が予定されておらず,本件変更認可には,同条例違反の瑕疵がある。 (第1事件被告国の主張) 施行地区内に宅地等を有する者が権利変換後に権利を取得する建築施設の部分の具体的位置については,権利変換計画において定められるものであり,施行規程及び事業計画において定められるものではなく,本件変更認可に係る事業計画等の変更においても,原告P1らが主張するような変更はされていないのであるから,原告P1らの主張は,前提を欠くものであって失当である。地権者に対する事前の協議申入れや情報提供等は,本件変更認可の手続における法定の要件ではなく,本件変更認可を取り消すべき手続上の瑕疵に該当しない。 本件変更認可に係る事業計画は,駐車場の附置予定の有無等について定めるものではなく,そもそも,そのようなことは施行規程及び事業計画並びにその変更において定められるようなものではないから,原告P1らの主張は,前提を欠くものであって失当である。 本件変更認可に係る事業計画等の変更の内容は,事務所の所在地,設計説明書及び設計図,事業施行期間に関するものである。このうち,設計説明書及び設計図における施設建築物の延べ面積は,当初の事業計画においては9万7000m2,変更後の事業計画においては9万7900m2で,900m2の増加であり,本件事業認可に係る施設建築物の面積の10分の1を超えない増減であるから,本件変更認可に係る事業計画等の変更の内容は,いずれも,施行令4条の定める軽微な変更に該当し,事業計画等の変更に当たって縦覧手続を要しないものであった(法58条4項) 。なお,施行令4条1項2号の規定は, 法の趣旨に反するものではない。 9 本件権利変換計画の違法の有無(関係権利者間の衡平原則違反等)(争点 9) (1)配置等の不平等(法74条2項,77条2項前段違反。照応の原則違反の主張を含む。 ) ア P9家の優遇 (原告P1らの主張) 本件事業において,大規模地権者であるP11の単独でビルを所有したいという要求を都市再生機構及び小金井市が受け入れ,P11のための街区(1-Ⅰ街区大規模店舗棟 )を作り,またP11に相続が発生した 際の相続税の支払のため,地形が悪く単独では処分できないP11所有の土地とそれに隣接する小金井市有地を本件事業の区域から外し,一括で民間の開発会社に売却するなど,P11の利益を重視し続けた結果,保留床が減少してしまった。このような事態は,事業自体の収益性の大幅な減少を招くばかりでなく,P11以外の地権者などの関係者に多大な不利益を及ぼすものである。 (都市再生機構の主張) 本件権利変換計画において,1-Ⅰ街区の大規模店舗棟は,P11外3名の権利床及び本件権利変換処分後に法99条の3第1項の規定に基づき都市再生機構が公募して決定する特定建築者が取得する保留床によって構成されており,P11のためだけに1-Ⅰ街区を作ったという事実はない。なお,P9家については,本事業区域3.4haのうち,従前資産として1.4haの土地を所有し,その資産に対応してまとまった床を確保できる大規模店舗棟に権利床を与えたものである。 また,原告P1らが主張するP11及び小金井市所有の土地に係る土地取引は,いずれも本件再開発事業都市計画決定前に行われたものであり,当該土地取引によって同都市計画において定められた施行区域及び本件事業計画において定められた施行地区を変更したことはなく,当該土地取引は,本件権利変換処分と何ら関係がない。したがって,P11の利益を重視し続けた結果,保留床が減少したということはない。 イ 小金井市の優遇 (原告P1らの主張) 現在の小金井市の公共公益施設である小金井市公会堂は,本件事業の対象区域の西端に位置し,原告P1らの所有地よりもα駅から離れているにもかかわらず,本件事業では,1-Ⅲ街区において,市の公共公益施設が駅前交通広場の正面に,原告P1らの建物が裏通り(区画道路)に面する位置とされている。しかも,1-Ⅲ街区の土地単価は一律1m2当たり104万円に設定されており,駅前交通広場に面する小金井市も,同広場に面しない原告P1らも同じ金額となっている。 都市再生機構は,当初の計画では,原告P1らについても1-Ⅱ街区を割り当てていたが,1-Ⅲ街区の当初の案であるP8棟と保留床とで14階建にする案がP8から拒否されたことから,1-Ⅲ街区を5階建にして,原告P1らの意見を聞くことなく,一方的に原告P1らを1-Ⅲ街区の裏側に封じ込めたものである。 このような権利変換計画は,本件事業に異論を唱える原告P1らにのみ大きな不利益を背負わせ,小金井市を優遇するものである。 (都市再生機構の主張) 都市再生機構は,権利変換計画の策定に当たって,原告P1らが権利変換計画について都市再生機構との協議に応じなかったことから,原告P1らの従前資産の利用状況を鑑み,原告P1の従前資産のうち住宅に相当する部分については,他の権利者と同様に1-Ⅱ棟の住宅部分を与えることとした。また,原告P1らの従前資産のうち店舗等に相当する部分については,従前路面型店舗であったことを考慮して,他店舗の営業時間等の影響を受ける1-Ⅱ棟のビル内の区画ではなく,各区画の独立性が高く,利用勝手が従前の形態に近い区画道路3号に面した1-Ⅲ棟の1階を中心として,まとまった外向き店舗又は事務所を与えることとした。 他方,小金井市に与えられることとなる公益施設は,小金井市の基本構想・基本計画において,南北に分断されていた小金井市の一体化を図り,市民生活の活性化,市民交流・市民文化振興のシンボルゾーンとして位置付けられ,また,フェスティバルコートとして計画されている外部空間との連携を図ることが予定されていることから,公益施設を駅前広場及びフェスティバルコートに面して配置することは,施設建築物及び施設建築敷地の合理的利用を図るという法74条1項の規定の趣旨に合致するものである。 さらに,1-Ⅲ街区の施設建築物は1棟の建物であり,法75条1項の規定により,施設建築敷地について1筆の土地となるものとして定めている。つまり,小金井市と原告P1らは1筆の土地を共有していることから,土地の1m2当たりの単価は当然に同一である。ただし,当該土地の共有持分は,法75条3項の規定に基づき,各権利者が取得することとなる施設建築物の一部の位置及び床面積を勘案して定めたものであり, 原告P1らが不当に土地代を多く負担しているわけではない。 なお,原告P1らの従後資産は,従前資産に比べ,α駅からの距離,道路付け等の立地条件が向上するものである。また,原告P1については従前より広い床面積を,原告P7については従前借家人に賃貸していた床面積と同等の床面積を確保している。このように,従後資産は,従前資産に比べて,原告P1らにとって不利益なものとはなっていない。 1-Ⅲ街区の施設建築物は,本件事業計画を策定するに当たり,保留床の需要を鑑みて5階建にしたものであり,原告P1らが主張するような経緯はない。また,原告P1らが主張する経緯と原告P1らを1-Ⅲ街区の裏側に封じ込めたことの関係についても何ら論拠がない。ウ P13の優遇等 (原告P1らの主張) 原告P1らが移転することになっている1-Ⅲ街区の商業業務棟の南側はα駅南口広場に面しないため収益性が低く,大幅な収入減となることが予想されることに加え,同再開発ビルの家賃は1階で1m2当たり6000円とされているが,共益費(エレベーターの設置が必要であり,少なく見積もっても1m2当たり500円は必要と思われる。 )の負担も勘 案すれば,従前の賃借人がこれらの賃料等を負担することは不可能であり,そうなれば原告P1らの従前の賃料収入を維持することは不可能である。その一方で,小金井市という巨大な市場に拠点を得たP13は大きな利益を得られることは確実であり,関係権利者間の利害の衡平を著しく欠いた事態を招来する。 (都市再生機構の主張) 権利床の従後の賃料は,床所有者と借家人との間で取り決める事項であり,権利変換計画において定める事項ではない。また,権利者が従前所有していた土地建物から得られる賃料を従後においても維持することは,権利変換計画を定めるに当たっての要件とはされていない。 なお,原告P1らの従後資産は,従前資産に比べ,α駅からの距離,道路付け等の立地条件が向上するものである。また,原告P1については従前より広い床面積を,原告P7については従前借家人に賃貸していた床面積と同等の床面積を確保していることから,従前に比べて,従後は大幅な収入減が予想されるとの原告P1らの主観に基づいた主張は根拠がない。また,P13の出店は,本件権利変換計画において定められた事項ではなく,本件権利変換処分により関係権利者間の利害の衡平を著しく欠いた事態を招来するとの主張は失当である。 エ 土地単価設定の不平等 (原告P1らの主張) 通常,土地の単価は,改札口から近いほど,容積率が高いほど高くなる。また,商業的にも駅前ロータリーに面する方が面しない方よりも,人の流れ等から見ても明らかに有利であり金銭的に高く評価されるはずである。ところが,都市再生機構の土地単価設定によれば,これらの点でいずれも有利であるはずの1-Ⅱ街区の土地単価が1m2当たり約87万7000円であるのに対し,1-Ⅲ街区はそれより約20%も割高の1m2当たり約104万8000円に設定されており,明らかに不合理な逆転現象が生じている。 これは,都市再生機構が取得して転売する予定の土地の単価を恣意的に安くし,他方で1-Ⅲ街区に土地を取得することになる小金井市,P8,原告P1らを不利に扱う不平等なものである。 (都市再生機構の主張) 土地の単価については,従後資産価格の構成要素として,法81条及び同法施行令46条において,本件事業に要する費用及び近傍類似の土地の取引価格等を考慮して定めることが規定されており,都市再生機構は,この規定に従って不動産鑑定士による調査に基づき,適正に定めている。土地の評価において,改札口からの距離は評価の一要素にすぎず,間口,奥行,形状,道路付け等の要因も勘案される。例えば間口及び形状については,1-Ⅱ街区よりも1-Ⅲ街区のほうが優っている。 また,都市再生機構は,1-Ⅲ街区の保留床も取得しており,1-Ⅱ街区同様その処分によって事業費を回収することから,都市再生機構が土地単価の安い保留床のみを取得して利益を得ているかのようにいう原告P1らの主張は理由がない。 オ 建替えの困難性 (原告P1らの主張) 小金井市の定めにより,本件事業の対象区域においては,土地の面積が500m2以上ないと新たな建物の建築ができないことになっているところ,1-Ⅱ街区の他の大多数の一般の地権者は,利害や立場に共通する点が多いため,その共通の利益に基づいて建替えが可能である。 それに対して,1-Ⅲ街区の一般の地権者は原告P1らの2名だけであり,権利変換された土地を面積割合で考えると,両名を合わせても322.84m2にしかならず, 商業業務棟の北側の所有者であるP8及び 公益棟の所有者である小金井市の同意がない限りは建替えができないが,これらの自治体や大手企業と一般の地権者との建替えに対する考え方は異なるから,一般の地権者の立場から必要な時期に建て替えたいと思っても同意が得られず建て替えられない可能性が強い。 そもそも,原告P1らの床面積を合算し,それに比例して土地を配分すると511.63m2となり,建替えが可能な500m2を超えるにもかかわらず,これを500m2以下に圧縮しているのは,原告P1らに対する都市再生機構の嫌がらせとしか言いようがない。 他方,P8や小金井市は,1-Ⅲ街区において単独で建替えができるのであり,権利者の均衡を欠く。 このように特定の地権者のみを不公平,不平等に扱う権利変換計画は違法である。 (都市再生機構の主張) 本件事業において整備される施設建築物は,建物の区分所有等に関する法律(昭和37年法律第69号)に基づく建物であり,建替えを行う際には区分所有者間で一定の合意が必要となるが,その合意形成については,将来において必要となる条件であり,また,原告P1らの主張する困難性については,主観に基づくものであることから,その主張には理由がない。1-Ⅲ棟も同様に区分所有建物であるので,P8や小金井市が単独で建替えできるものではない。 また,本件権利変換計画における施設建築敷地の共有持分は,法75条3項の規定に基づき,各権利者が取得することとなる施設建築物の一部の位置及び床面積を勘案して定めたものであるから,原告P1らの 独自の計算に基づく施設建築敷地の共有持分及びその共有持分に基づく面積に根拠はなく,1-Ⅲ街区への権利変換が都市再生機構による嫌がらせであるとする原告P1らの主張は失当である。 (2)駐車場設置に関する差別等 (原告P1らの主張) ア 本件権利変換処分は,1-Ⅲ街区の商業業務棟のうちP8棟にのみ専用の駐車場を附置し,一般権利者棟には駐車場を附置せず,原告P1らとP8とを不当に差別するものである。P8棟の駐車場の管理につきP8が同意を与えているか否かについて,原告P1らはP8に問い合わせをしたが,P8は回答を拒否した。したがって,駐車場を原告P1らが使用することが可能となる保障はない。 イ 本件権利変換処分は,1-Ⅲ街区の商業業務棟のうちP8棟にのみ専用の駐車場を附置し,一般権利者棟には駐車場を附置しておらず,東京都駐車場条例17条1項に違反している。都市再生機構は同建物につき建築確認を受けているが,1-Ⅲ街区の建物がP8棟と一般権利者棟とに分けられている(分棟である)ことを看過してされた違法な処分である。 (都市再生機構の主張) ア 権利者が取得する権利床に駐車場を附置するかどうかは,施設建築物及び施設建築敷地の合理的利用,当該権利床の用途等の観点から総合的に判断するものであり,法令上,各権利床に駐車場を必ず附置しなければならないという趣旨の規定もない。したがって,一部の権利床に対して駐車場用途の区分所有権又は駐車場用途の共用部分の共有持分が与えられていないからといって,直ちに本件権利変換計画の違法事由となるものではない。また,商業業務棟に係る管理規約において,共用部分である駐車場を原告P1らが使用できるように定めることは可能であり,原告P1らとP8とを不当に差別するものではない。 イ 権利変換計画に駐車場の台数を定めなければならないとの趣旨の規定はない。したがって,本件権利変換計画が東京都駐車場条例に違反するが故に違法であるとの原告P1らの主張は,前提を欠くものであり失当である。なお,都市再生機構は,1-Ⅲ街区の商業業務棟について,建築基準法に定める手続に従い,東京都建築主事に対し建築計画を通知し,同建築主事から,東京都駐車場条例等の駐車場附置義務に係る関係規定にも適合する適法な計画であり,外形上及び機能的に一の建物として,建築基準法18条3項に規定する確認済証の交付を受けている。 (3)P14からの先行取得に関する問題 ア P14の優遇 (原告P1らの主張) 本来,転出を希望する地権者は,施行者である都市再生機構にその旨を申し出て,権利変換計画が認可された後に補償金を受領することになる。ところが,都市再生機構は,本件事業の対象地のうち,P14が所有していた土地を,本件事業認可がなされ権利変換手続開始の登記がなされた後の平成17年3月18日に,売買により取得した。 しかも,都市再生機構がP14から買い取った土地の価格は,隣地の価格の1m2当たり47万9000円を上回る49万8000円という高値であった。P14から買い取った土地の面積は,886.14m2であるから,P14に対して,近傍土地の所有者よりも,1683万6660円もの特別の利益を供与したことになる。 都市再生機構は,他の権利者に対し同様の扱いをする旨の広報等をしておらず,他の権利者に資産買取の機会を与えていない。 このような扱いは,P14を特別に優遇するものである。 (都市再生機構の主張) 権利者が早期に転出を希望する場合は,たとえ事業計画認可後で権利変換手続開始の登記後であっても,権利者は,法70条2項の規定に基づく施行者の承認を得れば,その有する従前資産を第三者に譲渡することは可能であり,かつ,施行者は,事業の遂行に重大な支障が生ずることその他正当な理由がなければ,当該承認を拒むことができないものとされている(法70条3項) 。さらに,権利者から資産の買取申出があり,事業の用 に供するために必要と施行者が判断すれば,施行者がその資産を先行的に買い取ることも可能である。 都市再生機構が先行的に資産を買い取ることについては,積極的に告知するものではないが(法令上もそのような告知をすべき旨の規定はない。,権利者から資産の買取申出があれば,同様の取扱いをするもので) あり,特定の権利者のみを特別に優遇するものではない。 また,都市再生機構は,P14の土地を不動産鑑定評価を踏まえて、近傍類似の土地の取引価格等を考慮した適正な価額(1m2当たり49万8000円)で買い取っており、本件取引はP14を特別に優遇するものではない。 P14の土地と隣地との価格差は,評価時点が異なる上,形状,道路付け等が異なるから,3%強の価格差が生じることに全く問題はない。イ 法80条1項違反 (原告P1らの主張) 本来,転出者には,補償金として, 近傍類似の土地,近傍同種の建築物又は近傍類似の土地若しくは近傍同種の建築物に関する同種の権利の取引価格等を考慮して定める相当の価額(法80条1項)が支払われるこ とになる。したがって,都市再生機構が,隣地の価格が1m2当たり47万9000円であるのに49万8000円という高額でP14から土地を買い取ったことは,法80条1項に違反する。 (都市再生機構の主張) 法80条1項の規定は,権利変換計画における土地等の価額の算定基準であり,権利変換計画の策定に先立ち施行者が取得した土地の価額の算定に当たっては,法80条1項の規定の適用はない。 また,都市再生機構は,不動産鑑定評価を踏まえて,近傍類似の土地の取引価格等を考慮した適正な評価額(1m2当たり49万8000円)で買い取っている。P14の土地と隣地との価格差は,評価時点が異なる上,形状,道路付け等が異なることから,3%強の価格差が生じることに全く問題はない。 ウ 法83条違反 (原告P1らの主張) 都市再生機構は,P14から買い取った土地について,権利変換計画書に価格を記載していない。 法83条は,権利変換計画を対象物の所有者である地権者だけでなく,広く一般の公衆の縦覧に供することを定めている。地権者についても,自己の土地に関する評価だけでなく,他の地権者の土地の評価を含めて権利変換計画全体の縦覧が規定されていることからすると,その趣旨は,関係権利者に自己の土地の評価と他の土地の評価を比較検討して,権利変換計画全体について,意見書提出の機会を与えることにあり,単に補償金等の対価の授受のためだけに規定されているものではない。なぜなら,単に補償金等の授受のためだけであるならば,プライバシーの問題からしても,権利変換の内容を当該補償金を受領する地権者にのみ開示すべきだからである。しかるに,都市再生機構が買い取った土地に関して,価格について記載をしなければ,関係権利者は価格につき,自己の土地と他の土地との価格を比較検討することができず,自己の土地が関係権利者間の利害の衡平に十分の考慮を払って適正に評価されているのか否か,他の土地が適正に評価されているのかどうか,さらに権利変換計画が適正かどうかについて,意見書提出の機会を奪われることになり,都市再生機構の上記措置は同条の趣旨に反する。 (都市再生機構の主張) 都市再生機構は,本件事業の施行者であり,P14から買い取った土地に相当する権利床を取得するものでも,当該土地に相当する補償金を受領するものでもないから,権利者と同様に,都市再生機構が取得した土地を法80条の規定に基づいて評価し,その価額を権利変換計画に記載する必要はない。また,記載したとしても,補償金等の対価の授受は発生しないことから,その評価額自体には意味はない。 したがって,権利変換計画において,施行者たる都市再生機構が取得した土地の評価額を記載していなかったからといって,法83条に違反するものではない。 10 原告P1に関する権利変換処分の違法の有無(争点10) (1)複数の宅地,建築物等を個別に取り扱ったことの違法 (原告P1の主張) 原告P1は,従前の資産として,小金井市γ×番38,同44,同50及び同56の宅地(本件P1土地)並びにこれに接する同62の公衆用道路の共有持分(本件私道持分)並びに本件P1土地上の店舗・賃貸マンション(本件P1建物)及び本件P1土地上の景品交換所(本件景品交換所建物)を所有しているが,本件権利変換計画では,本件P1土地と本件P1建物とで1個の権利とされ,本件私道持分と本件景品交換所建物はそれぞれ別個の権利と評価されており,これは,法73条2項を適用して,抵当権の設定されている資産(本件P1土地,本件P1建物)と設定されていない資産(本件私道持分,本件景品交換所建物)とは別個の権利者に属するものとしたことによる。 しかしながら,本件P1土地及び本件P1建物には共同担保として抵当権が設定され,本件私道持分及び本件景品交換所建物には抵当権等の設定がないから,原則に戻って,これら全てを1個の権利とし,これに対応して施設建築物の一部を1個の権利床として原告P1に与えても,抵当権者は不測の損害を被ることはなく,所有者の原告P1もそのような権利変換を希望しているために不測の損害を被ることはない。このように不測の損害を被る者がいない場合に法73条2項を適用して権利変換計画を作成するのは違法であり,このような権利変換計画は法74条2項に違反する。 (都市再生機構の主張) 法73条2項の趣旨は,所有者及び担保権者双方にとって,徒に担保価値の変動を来さないよう適切に担保権を移行させることにあるところ,仮に,原告P1の従前資産を1個の権利床として権利変換計画を定めた場合,従前は抵当権が設定されていなかった資産に従後は抵当権が設定されることになり,原告P1にとっては必要以上に抵当権の範囲が拡大することから何らかの損害を被る可能性が高いと考えられる。特に,本件権利変換計画の策定に当たって,原告P1が権利変換計画について都市再生機構との協議に応じなかったことから,1個の権利床を得ることを希望している旨の申出もない中で,上記のとおり何らかの損害を被る可能性が高い権利変換計画を定めることは適切ではないと判断した。 また,原告P1に1個の権利床として与えるようにするためには,法73条2項ただし書の規定により同項各号の規定に適合する必要があるが,本件ではこれらのいずれにも該当しない。 以上のことから,都市再生機構は,法73条2項の規定の趣旨に鑑み,権利変換計画を定めたもので適法であり,法74条2項にも違反しない。(2)本件P1土地及び本件P1建物に関する法77条2項違反 ア 床単価の設定の違法(逆転現象) (原告P1の主張) 1-Ⅱ街区の25階建てマンションにおいて,原告P1に割り当てられた4階部分の床単価は1m2当たり51万0200円に設定されている。他方,都市再生機構が他の地権者に割り当てた権利床は,5階部分で1m2 当たり42万9900円,8階部分で1m2当たり48万8300円と 設定されている。 マンションでは,階が高くなるほど床単価が高くなるのが通常であり,明らかに不合理な逆転現象が生じている。これは,都市再生機構が,事業に非協力の意思を示している原告P1への反感から,不当な単価設定を行った結果である。このような価格設定は,法77条2項に違反する。(都市再生機構の主張) 権利床の価格は,法81条及び同法施行令46条の規定に基づき,不動産鑑定士の調査に基づいて,適正に設定しており,権利者相互間に不均衡は生じていない。 床の価格については,階数のみでなく,部屋の設備,構造,向き,形状,眺望等によっても評価される。原告P1の4階部分の権利床の単価については,同人が従前建物において14部屋の単身者用住宅を賃貸経営していたことから,当該権利床は1つの区分所有床を14部屋に区画した単身者用住宅の形状としており,他のファミリータイプ住宅の権利床と比較しても14部屋分の浴室,便所,キッチンの設備費用等が余分にかかるためである。単純に階数のみで比較することは不適切である。 イ 不合理な設計 (原告P1の主張) 原告P1に権利変換された1-Ⅲ街区の床は,以下のとおり,商業用には著しく不向きな物件であり,都市再生機構が計画に反対する原告P1に対して嫌がらせをする目的で不当な設計をしたものと言わざるを得ず,原告P1と他の地権者との間で著しい不平等,不公平が生じていることは明らかであり,法77条2項に違反する。 ①商業Ⅲ-102区画 奥まったところに横幅80㎝のドアが1つあるのみで窓はない。表通り(β街道)に面する東側の壁面部分に階段が配置されているため,奥に店舗があることを指し示す有効な表示もできない。このため倉庫としてしか利用できない。 ②店舗A区画 入口は奥に横幅80㎝のドアが1つあるのみで窓はない。東側の壁面部分に階段が配置されているため,奥に店舗があることを指し示す有効な表示もできない。 ③店舗B区画 入口は南側に横幅80㎝のドアが1つあるのみで窓はない。表通り(β街道)に面した部分は階段スペースで,表通りからは店舗内を見通すことができない。 ④店舗C区画 奥行2.6mに対し間口が9.3mといううなぎの寝床である。 賃貸物件としては用途が限定され,相応の賃料を得ることは困難である。(都市再生機構の主張) 都市再生機構は,原告P1に対する嫌がらせを目的とするような不当な設計は行っていない。各区画割は,原告P1に与えられた1-Ⅲ棟1階のⅢ102区画に,従前借家人の借家継続先を確保するために,一つの区分所有床を間仕切りしたものであり,間仕切りを変更して利用することは可能である。 ① 商業Ⅲ102<3> 従前原告P1が株式会社P2に倉庫として賃貸していたことから,当該部分について株式会社P2に借家権を与えたものである。 ② 商業Ⅲ102<1>(店舗A) 従前原告P1が株式会社P2にパチンコの景品交換所として賃貸していたことから,当該部分について株式会社P2に借家権を与えたものである。店舗の表示(看板等)については,本件権利変換計画において定める事項ではなく,今後のサイン計画等により実現するものである。③ 商業Ⅲ102<2>(店舗B) 従前原告P1がP6に美容室として賃貸していたことから,当該部分についてP6に借家権を与えたものである。当該店舗は,南面が区画道路3号に面し,β街道との交差点に位置することから,β街道を南側から駅に向かって進む者からは店舗内を見通すことができる。 ④ 商業Ⅲ102<4>(店舗C) 一般的には,間口がわずかで奥行が長大なものを指してうなぎの寝床と呼ぶが,当該部分はその逆であり,間口が広いことで,前面道路からの見通しが良くなる。 (3)本件私道持分及び本件景品交換所建物につき,過少床としたことの違法(原告P1の主張) 権利変換計画の作成に当たっては,零細な権利者等がその意思に反して金銭補償で追い出されることのないように,原則として,すべての権利者に従前の権利に対応する権利が与えられるように定めなければならないので,過少床となる者に対しても,できるだけ増し床することを原則とし,権利者が希望する場合に限り金銭給付を行うべきである。 ところが,都市再生機構は,原告P1の意見を聴取することなく,事前の告知もなく,一方的に本件私道持分及び本件景品交換所建物について金銭補償をしてしまった。しかも,このような措置は,計画に反対する原告P1の権利の割合を小さくするために,都市再生機構が意図的に行ったもので,極めて悪質かつ不公平なものである。このような権利変換計画は,法79条1項に違反する。 (都市再生機構の主張) 都市再生機構は,法79条2項の規定に基づき,市街地再開発審査会の議決を経て,事務所,店舗等の用に供される部分の過小な床面積の基準を法施行令27条2号が定める下限値である10m2と定めた。都市再生機構は,本件私道持分及び本件景品交換所建物の価額を286万4000円と評価しており,これに対応する権利床を与える場合には,10m2の過小な床面積の基準に照らし床面積が著しく小となることから,法79条3項の規定に基づき,建築施設の部分が与えられないように権利変換計画を定めたもので,適法である。 権利変換計画を定める場合は,権利者の同意は法定要件ではないが,一般的には,施行者は,各権利者と協議を行いながら,権利変換計画を策定する。原告P1は,本件権利変換計画の策定に当たって,都市再生機構からの協議の申出に一切応じず,増し床を希望する旨の申出もなかった。このような申出がない中で,大幅な増し床をした権利床を与え,事業完了時に,法104条1項の規定に基づき,権利者が数百万円の清算金を負担するような権利変換計画を定めることは,かえって不適切である。 11 P6に対する第4事件の提起は訴権の濫用といえるか(争点11) (P6の主張) P6と都市再生機構は,都市再生機構が仮店舗を完成させ次第,P6が速やかに仮店舗に転居して本件建物を明け渡す旨合意したが,都市再生機構は,仮店舗を完成させる前に,本訴を提起した。 また,都市再生機構が,本訴を八王子支部に提起したのは,本庁に係属していた権利変換処分取消訴訟との併合をしにくくし,明渡請求訴訟の判決を先に獲得しようとの意図によるものである。 (都市再生機構の主張) P6は,都市再生機構との間で締結した損失補償契約(以下補償契約という。 )において,占有する部屋を都市再生機構に明け渡すことに合意しており,補償契約締結後,法97条1項の規定に基づく通損補償金も受領した。ところが,P6は,移転する仮店舗の完成に先立って,本件建物を従前の賃貸人である原告P1に対して明け渡すのが筋である旨を再三主張し続けたため,都市再生機構は,裁判所にP6に対する占有移転禁止仮処分申立を行い,その執行も行われた。このような経緯があるにもかかわらず,P6は,原告P1に対し鍵を引き渡すことを強硬に主張したことから,仮店舗完成前であったが,都市再生機構は,やむを得ず,本件訴訟を提訴したものである。 都市再生機構が本訴をP1らの住所地である小金井市等を管轄する八王子支部に提起することは当然である。また,処分の取消しの訴えの提起は,処分の効力,処分の執行又は手続の続行を妨げず,本件権利変換処分及び本件明渡請求処分の効力を基に,本訴を提起することは正当である。 |