判例検索β > 平成10年(ワ)第821号
国家賠償等請求
事件番号平成10(ワ)821
事件名国家賠償等請求
裁判年月日平成16年6月29日
裁判所名・部広島地方裁判所
裁判日:西暦2004-06-29
情報公開日2017-10-18 04:35:25
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主 文
1 被告は,原告に対し,金15万円及びこれに対する平成10年7月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを22分し,その21を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。 事 実 及 び 理 由
第1 請求
被告は,原告に対し,340万円及びこれに対する平成10年7月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 請求権
原告は,①懲役刑受刑者として広島拘置所に在監中に同拘置所長から受けた懲罰処分が違法であり,また,②原告が上記懲罰処分の違法を理由とする国家賠償請求訴訟の準備のため,弁護士らとの接見を求めたのに対し,広島刑務所長が同刑務所職員の立会いのない接見を拒否し,2度の接見において同職員を立ち会わせメモを取らせたことが違法であり,上記①及び②の違法な行為により精神的苦痛を被ったとして,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,慰謝料及び弁護士費用並びにこれらに対する遅延損害金の支払を求めた。
2 争いのない事実
(1) 原告は,平成7年8月18日,山口地方裁判所において,覚せい剤取締法違反事件により,懲役2年10月の判決の言渡しを受け,同年9月2日,同判決が確定し,同月13日,山口刑務所から広島刑務所に移送された。
原告は,広島刑務所において受刑中,余罪の詐欺事件により逮捕され,同年10月30日,山口刑務所に移監され,同所在監中の平成9年5月6日,山口地方裁判所において,同事件により懲役1年2月の判決の言渡しを受けたが,原告が控訴したことから,同年8月6日,山口刑務所から広島拘置所に控訴余罪受刑者として移監され,同年11月6日,広島高等裁判所において原判決破棄(懲役10月)判決の言渡しを受け,原告は翌7日に上告したが,同月10日にこれを取り下げ,同月21日に同判決が確定し,同月27日に広島拘置所から移監され再び広島刑務所に入所した。
(2) 懲罰処分
平成9年9月25日,広島拘置所長は,原告が同月11日に職員の職務上の指示に従わず暴言を吐いたことが,広島拘置所受刑者遵守事項44条に違反するとして,軽屏禁10日・文書図画閲読禁止併科とする懲罰に処し,併せて,作業不課及び累進処遇の階級を2級から3級に低下させることを決定して,同日原告にその旨言い渡し,即日その執行を開始し,同年10月5日までの10日間執行した(以下本件懲罰処分という。)。 (3) 接見における刑務所職員の立会い及びメモ録取
ア 平成10年3月31日,A弁護士,B弁護士,C弁護士及びD弁護士は,広島刑務所長に対し,同月4月3日に本件懲罰処分の違法を理由とする原告の国家賠償請求訴訟の打合せをするため,同所職員の立会いなしで接見させるよう求めたが,同所長は,同所職員の立会いを条件として接見を許可し,原告は,同年4月3日,同所職員E(以下Eという。)の立会いのもと,A弁護士,C弁護士及びD弁護士と接見した。その際Eは,原告とA弁護士らの談話の内容についてメモをとった(以下本件第1接見という。)。 イ 平成10年9月22日,A弁護士は,広島刑務所長に対し,同日午後3時ころに本件訴訟の打合せをするため,同所職員の立会いなしで接見させるよう求めたが,同所長は,同所職員の立会いを条件として接見を許可し,原告は,同日,同所職員Eの立会いのもと,A弁護士らと接見した。その際Eは,原告とA弁護士らの談話の内容についてメモをとった(以下本件第2接見という。)。このときEは,本件訴訟の被告指定代理人に就任していた(以下,本件第1接見と本件第2接見を併せて本件各接見という。)。 3 争点
(1) 本件懲罰処分の違法性
(2) 本件各接見制限の違法性
(3) 損害額
4 争点(1)(本件懲罰処分の違法性)に関する当事者の主張 (1) 原告の主張
ア 憲法31条違反
(ア) 本件懲罰処分において原告に科された軽屏禁は,被懲罰者を罰室内に入れて室外に出さないという行動制限のほか,原則として入浴や戸外運動を許さず,接見,信書の発受,ラジオ等の放送の視聴も禁止し,さらに文書図画閲読の禁止を併科するなど,
受刑者に科される通常の行動制限に加えてさらに多くの自由を規制するものであり,刑罰と同視し得るものであるから,憲法31条の保障が及ぶというべきである(最高裁平成4年7月1日大法廷判決)。
(イ) 本件懲罰処分に係る懲罰要件の不明確性
適正手続において最も重要なことは,処分の対象となる行為が明確にされていることである。しかし,監獄法59条は,紀律ニ違ヒタルトキと規定するのみで,懲罰要件を明確にするものではなく,同法施行規則にもこの点に関する定めはない。そして,広島拘置所における受刑者遵守事項44条は,

職員の職務上の指示・命令に対し,抗弁,無視その他の方法で職務の執行を妨害してはならない。

と規定するが,これもまた,一般的に職員の指示命令に違反する行為を懲罰の対象とし,極めて不明確かつ広汎な事項を含み,懲罰要件を明確にするものではないばかりか,常に指示命令違反に当たるとして濫用され,受刑者の人権侵害をもたらすおそれがある。のみならず,この遵守事項は永きにわたり対外的に秘密とされてきたのであり,これが仮に房内に吊されて明示されていたとしても,このような社会的な批判に曝されていない基準によって処分を行うことも適正でない。 以上の点から,本件懲罰処分は憲法31条に違反する。 (ウ) 本件懲罰処分に係る懲罰手続の不適正
a 懲罰表(乙13)記載の容疑事実は,…食器を持っているのであれば出して見せるように指示すると,本人は『どうして出さないけんのか。』等と申し述べ,主食用食器を出すことを拒否したため,同統括が再度『主食用食器は引き上げるようになっているので,出しなさい。』と指示したところ,本人は,『何言ってんだ。ばか野郎』と語気荒く暴言を吐き,もって職員の職務上の指示に対して抗命した。とされているが,これでは,原告が食器を提出しなかったこと,

どうして出さないけんのか。

と言ったこと,及び

何言ってんだ。ばか野郎。

と言ったことのうちどれが抗命ないし暴言に当たるのか不明である。しかも,これを口頭で告知された原告は,この点を十分に理解できず,

何言ってんだ。ばか野郎。

という暴言のみが懲罰に問われたと考えており,仮に職員の指示に従わなかった行為も懲罰の対象とされていたとすれば,極めて重大な手続上の瑕疵があったというべきである。 b また,懲罰審査会は拘置所職員のみで構成され,本来であれば利害関係人として除外されるべきF統括矯正処遇官(以下F統括という。)が同審査会の委員として出席していたこと,受刑者の権利を擁護するために弁護士等の第三者の付添いも認められなかったこと(補佐人が付されたが,これも拘置所職員であったから,十分な援助を期待することは不可能であった。),原告側に証拠閲覧権,証拠提出権,証人尋問権など実質的な防御活動を行うための権限も認められていなかったこと,公開もされなかったこと,再審査手続もなかったこと,調書は,ひな形に従って作成されており,原告の言い分が十分反映されていないこと,原告が容疑事実を認めたというだけで,その他の証拠等による裏付けをすることなく事実を認定しており,事実認定手続が極めてずさんであったこと等の点で,適切さを欠く。
c さらに,当時原告は,腰痛,腹痛,C型慢性肝炎,気管支喘息,不眠症,緑内障,右陰嚢水腫といった疾患を有していたが,それにもかかわらず,原告の診療録は懲罰審査会に提出されず,本件懲罰処分執行前に原告が受けた医師の診察は2,3分程度で,聴診器で胸と背中を調べ,目を診察した程度であり,原告が従前から腰痛,腹痛を訴えることが多かったのに対して,これらの症状の確認すら行われなかったものであり,本件懲罰処分の前提としての医師の診断も不十分であった。
(エ) 結論
以上のとおり,本件懲罰処分に係る懲罰構成要件は不明確である上,懲罰手続は,形式的には告知,弁解の機会を与えているものの,実質的な防御権を行使する環境を保障したものとはいえないから,本件懲罰処分は憲法31条に違反し違法である。 イ 拘置所長の裁量権の逸脱・濫用
(ア) 原告の行為が懲罰の対象とされるべき行為でないこと 本件懲罰の対象となった行為は,原告が

何言ってんだ。ばか野郎。

と発言したことであると解されるが,上記発言は,原告が,食器の汚れを拘置所職員に申し出たが聞き入れられずに

死にやせん。

などと言われ,食器を証拠として保管することを申し出たのに対してもF統括から頭ごなしに

何をぎゃあぎゃあ言いよるんか。

と高圧的な態度で言われたことから,とっさに言ったものにすぎず,いわゆる売り言葉に買い言葉といった程度のものである。
しかも,房内にいた原告が,房外にいたF統括に対して物理的な職務妨害行為を行う危険性はなく,実際に原告もそのような素振りは示していないのであるから,上記発言をもって,職員の命令に背いたものと評価すべきではない。
したがって,原告の上記行為は,懲罰をもって処罰すべき行為ではなく,これに
対して本件懲罰処分を行った広島拘置所長の判断は裁量権の範囲を逸脱ないし濫用したもので違法である。
(イ) 行為の違法性の程度と懲罰処分の不均衡
仮に,原告の上記行為が懲罰の対象行為に当たるとしても,上記(ア)記載の経緯での発言にすぎず,拘置所職員に対する物理的危険性は全くなかったのに対し,本件懲罰処分は,10日間の軽屏禁のみならず,10日間の文書図画閲読禁止を併科し,3級への累進階級の低下の処置をも行ったもので,職員に無礼な発言をした者を懲らしめるための恣意的な懲罰であると評価されてもやむを得ない内容である。
また,原告は,前記ア・cのとおり様々な疾患を有しており,体力的にも軽屏禁に耐えられない状況にあった。実際原告は,懲罰期間中腰痛がひどく,1日に10回以上壁すがりの許可を申し出ており,本件懲罰処分後は3日間くらい腰をかがめてしか歩けなくなった。
したがって,本件懲罰処分は原告の行為の態様及び健康状態に比して重すぎる処分であり,この点においても広島拘置所長の判断は裁量権の範囲を逸脱ないし濫用したもので違法である。
(2) 被告の主張
ア 懲罰は,監獄内の規律秩序維持を目的とした行政上の秩序罰であって,刑罰ではないが,受罰者に不利益を科し自由を制限する側面を有するものであるため,人権保障の見地から,懲罰の対象となる規律違反行為及びそれに対応する懲罰の種類・内容は,事前にできるだけ明示されていることが望ましいという,刑罰に関する罪刑法定主義類似の要請が働き,また,懲罰の種類・内容(それによってもたらされる受罰者の自由の制限の程度)は,当該監獄内の規律秩序を維持する上で必要かつ合理的なものでなければならないという,刑罰に関する罪刑の均衡類似の要請が働くところ,実務上,前者の要請は遵守事項科罰基準を通じて実現が図られており,後者の要請は科罰基準懲罰審査会における合議等によって実現が図られている。 イ 懲罰の対象となる規律違反行為及びそれに対応する懲罰の種類・内容の事前の明示については,予想し難い内容の規律違反行為にも適切に対応して監獄内の規律秩序を維持していく必要性に照らし,当該監獄の個別的事情(場所的・地理的環境,保安・管理面における物的・人的状況,被収容者の動静等)に応じてある程度一般的・抽象的なものとなることはやむを得ないというべきであり,その判断は,監獄内の実情に通暁した監獄の長の広範な裁量権にゆだねられている。
本件についてみると,広島拘置所長は,広島拘置所作成に係る受刑者遵守事項(乙12)及び科罰基準(乙11の(2))を明示しており,事前の明示の程度に関する広島拘置所長の判断に裁量権の逸脱・濫用があったとすることは到底不可能である。 ウ 懲罰の種類・内容(それによってもたらされる受罰者の自由の制限の程度)については,どのような種類・内容によるのが必要かつ合理的なものであるかは,場所的・地理的環境,保安・管理面における物的・人的状況,被収容者の動静等の各監獄の個別的事情に応じて決せられるべきものであるから,その判断は,監獄内の実情に通暁した監獄の長の広範な裁量権にゆだねられている。
原告による抗命(暴言)事犯の具体的状況としては,①原告が,主食食器を返却するようにとのF統括の命令に対し,「ばか野郎。」などという暴言をもってあらがった,②F統括は,主食食器を返却する際,原告を興奮させるような高圧的な言い方はしなかった,③原告が不満としていた主食食器の状態は,衛生上は何ら問題の認められないものであった,というものであるが,これらの点について広島拘置所長がした事実認定が合理的根拠を欠くとする理由はない。
そして,軽屏禁10日・文書図画閲読禁止併科という本件懲罰処分の種類・内容は,上記①ないし③のような広島拘置所長としての事実認定を踏まえつつ,④抗命(暴言)事犯に係る科罰基準では,最高が軽屏禁30日,最低が軽屏禁5日,標準が軽屏禁15日とされていたこと,⑤当該抗命(暴言)事犯については,単発的事犯であったこと,⑥原告には反省の気持ちが一応認められたこと,⑦原告の健康が必ずしも良好とはいえなかったこと,といった諸事情が考慮されて決定されたものであるから,本件懲罰処分の種類・内容が著しく妥当性を欠いているとすることは到底不可能である。
エ 懲罰の審理手続,執行手続についても,どのような手続によるのが相当かは場所的・地理的環境,保安・管理面における物的・人的状況,被収容者の動静等の各監獄の個別的事情に応じて決せられるべきものであるから,その判断は,監獄内の実情に通暁した監獄の長の広範な裁量権にゆだねられている。具体的には,弁解の機会の付与,健康への適切な配慮,防御権への適切な配慮などが要求されるものと解される。 本件懲罰処分の審理手続に関しては,懲罰手続規定の定めるところに従い,①
G副看守長(以下G副看守長という。)において取調べが実施され,原告に対しては供述拒否権が告知されるとともに弁解の機会が与えられた,②H首席矯正処遇官(以下H首席という。)は,原告による当該抗命事犯を懲罰審査会へ付議した,③懲罰審査会が開催され,原告に対しては弁解の機会が与えられ,補佐人が寛大な処分を求め,合議を経て懲罰審査会の意見がとりまとめられて広島拘置所長に意見具申された,という一連の手続を経て,本件懲罰処分が決定されたものである。
本件懲罰処分の執行手続に関しては,入浴等の清潔保持を含む健康保持への適切な配慮,防御権への適切な配慮のいずれにも欠けるところはなかったというべきである。 以上で述べたことからすると,懲罰の審理手続,執行手続に関する広島拘置所長の判断に裁量権の逸脱・濫用があったとすることは到底不可能である。 オ 以上によれば,本件懲罰処分は適法である。
5 争点(2)(本件各接見制限の違法性)に関する当事者の主張 (1) 原告の主張
ア 憲法上の保障内容(民事手続について)
(ア) 憲法31条は,主として刑事手続における手続的適正を念頭に置きつつも,何らかの形で人権制約一般について適正手続の要請が及ぶことをも想定していると解されるのであり,そうであれば,憲法32条における裁判についても,一定の手続的保障を伴った裁判が想定されていると考えるのが自然であること,後述の市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下B規約という。)14条1項やヨーロッパ人権条約6条1項の解釈は,憲法32条の解釈に当たっても当然に参照されるべきものであることからすれば,憲法32条の裁判を受ける権利は,民事手続においても,紛争解決にふさわしい手続的保障両当事者が平等に訴訟上の攻防を展開できる保障武器対等当事者対等を要請・保障するものと考えるべきである。
そして,今日の我が国における社会の多様化,法益の複雑化等により,民事裁判において代理人を依頼することは実効的な訴訟活動を行う上で不可欠になっていることからすれば,憲法32条は,上記要請・保障の内容として,民事裁判における代理人依頼権も保障していると考えるべきであり,この代理人依頼権は,その内容として当然に代理人と接見して実効的な打合せをする権利を包含する。すなわち,上記要請を没却するような形で訴訟代理人との実効的な打合せが妨害された場合には,違法・違憲と評価されるべきである。
(イ) なお,同様の内容は憲法13条においても保障されているというべきである。 イ B規約14条1項
(ア) B規約14条1項は,その第1文で,

すべての者は,裁判所の前に平等とする。

と定めているが,これは憲法14条1項が保障する法の下の平等と同様の平等原則を規定しているものと解される。
また,その第2文で,

すべての者は,法律で設置された,権限のある,独立の,かつ公平な裁判所による公正な公開審理を受ける権利を有する。

と定めているが,これは,憲法32条が保障するところの,政治権力から独立の公平な司法機関に対してすべての個人が平等に権利・自由の救済を求め,かつ,そのような公平な裁判所以外の機関から裁判されることがない権利,当該事件に対して法律上正当な管轄権を有する裁判所で権限のある裁判官の裁判を受ける権利を各保障し,裁判の拒絶が許されないこと及び憲法82条が保障する対審及び判決の公開原則を規定しているものと解される。 この点,B規約草案を参考にして作成されたヨーロッパ人権条約は,6条1項でB規約と共通する内容で公正な裁判を受ける権利を規定しており,ヨーロッパ人権裁判所の裁判例は,同項の権利には受刑者が民事裁判を起こすために弁護士と面接する権利を含み,上記面接に刑務官が立会い,聴取することを条件とする措置は同項に違反すると判断している。我が国はヨーロッパ人権条約に加盟していないことから,同条約は,条約法に関するウィーン条約31条3項(c)が条約の解釈に当たり考慮するものとしている当事国の間の関係において適用される国際法の関連規則には当たらないが,ヨーロッパの多くの国々が加盟した地域的人権条約としてその重要性を評価すべきものである上,前記のようなB規約との関連性も考慮すると,そこに含まれる一般的法原則あるいは法理念についてはB規約14条1項の解釈に際して指針とすることができる。また,1988年に国連の第43回総会決議で採択されたあらゆる形態の拘禁・収監下にあるすべての人の保護のための原則は,18条1項において受刑者に対し接見交通権を保障し,2項において弁護士と協議するための十分な時間及び便宜の保障を,4項において刑務官による接見内容聴取の禁止を定めており,これは国連総会で採択された決議であって直ちに法規範性を有するものではないが,法体系又は経済発展の程度の如何にかかわりなく,ほとんどの諸国においてさしたる困難もなく受け入れ得るものとして専門家によって起草され,慎重な審議が行われた後に
積極的な反対がないうちに採択されたものであることを考慮すれば,被拘禁者保護についての国際的な基準としての意義を有しており,条約法に関するウィーン条約31条3項(b)が条約の解釈に当たり考慮するものとしている条約の適用につき後に生じた慣行であって,条約の解釈についての当事国の合意を確立するものに当たらないとしても,B規約14条1項の解釈に際して指針となし得るものと解される。
なお,規約人権委員会(B規約28条)が,B規約14条1項における公正な審理の概念は,武器の平等,当事者対等の訴訟手続の遵守を要求していると解釈すべきである,との見解を示している(甲3)ことも,同項の解釈について参考とすべきである。 (イ) 以上の諸事情を総合して勘案すれば,B規約14条1項は,その内容として武器平等ないし当事者対等の原則を保障し,受刑者が自己の民事事件の訴訟代理人である弁護士と接見する権利をも保障していると解するのが相当であり,その趣旨を没却するような接見の制限は許されないというべきである。
そして,憲法98条2項は,我が国の締結した条約が一般の法律に優位する効力を有することを認めているのであるから,監獄法及び同法施行規則の接見に関する条項の解釈は,上記B規約14条1項の趣旨にのっとってなされなければならない。 ウ 接見における刑務所職員の立会いの可否
以上のとおり,憲法32条,13条及びB規約14条1項により,受刑者には民事事件について訴訟代理人を依頼し,訴訟代理人と接見して打合せをする権利が保障されていると解される。もっとも,この権利も公共の福祉の観点から一定の制限を受けるものであるところ,その制限は,拘禁・戒護・受刑者の矯正教化という在監目的達成のため必要最小限度でのみ認められるというべきである。
そして,監獄法施行規則127条1項本文は,逃走,不法な物品の授受その他の事故を防止するため,原則として接見に監獄職員の立会いを求めているところ,国家賠償請求訴訟の代理人との打合せに刑務所職員が立ち会う場合には,打合せ内容が被告側に筒抜けになってしまうという心理的圧迫から受刑者と代理人との実効的な打合せが大きく制限され,上記のように憲法等により要請される民事事件の訴訟代理人と打合せをする権利の実効性が失われることからすれば,具体的事情を踏まえた立会い及び立会い省略の必要性の判断についての刑務所長の裁量の幅はとりわけ狭く限定されるというべきである。 エ 本件第1接見について
(ア) 第1回目の打合せは,広島拘置所における本件懲罰処分を理由とする国家賠償請求訴訟提起についての初回打合せであるが,広島刑務所職員が立ち会いメモをとることによって,原告及び弁護士らが,実質的な当事者である広島拘置所側に情報が漏れる可能性をおもんばかって,精神的に萎縮してしまい,原告が事件の全体像及び核心となる事実などを自由に語り,弁護士が聞くべきことを聞き出し,説明すべき事情を説明するといった,通常の初回打合せの際に行うべきことができず,事案の重要な部分についての実質的な打合せができなかった。
(イ) 本件において刑務所職員を立ち会わせることによって防止すべき危険の有無について見ると,打合せ中に原告が逃走や不法な物品の授受を行うことは広島刑務所における面会室の構造上不可能であるし,まして打合せの相手方が民事事件の弁護士であれば,接見室において逃亡や不法な物品の授受等について謀議・打合せをして後刻実行するといった可能性も考え難い。また,原告がかつて逃亡等を企てたこともなく,逃亡等を企てようとする具体的な動機の存在や逃亡を計画している様子も全くないのであるから,逃亡等という事故が発生する相当の蓋然性を認めることはできない。
また,被告は,原告の健康面が万全な状態でなかったこと等を理由として,事故防止の必要性を主張する。しかし,訴訟代理人になろうとする弁護士との事件に関する打合せで受刑者が心理的に不安定になることは一般的に考え難いし,心理的な不安定や健康面の問題が直ちに事故を招致するとはいえない。さらに,原告がかつて刑務所等において自傷行為や器物損壊行為に及んだこともなく,そのような行為に及ぶ気配や具体的な動機も存在しなかったのであるから,そのような事故発生の相当の蓋然性は全く認められない。
さらに,監獄内の規律及び秩序の維持に対する障害の発生の可能性については,そもそも刑務所長において考慮されていないし,受刑者の改善教化に関しては,民事事件の訴訟代理人である弁護人との打合せにおいて処遇上の参考になる動静が見られる可能性があるとしても,それは単なる一般的・抽象的な蓋然性にすぎない。 以上のように,逃走ないし不法な物品の授受その他の事故防止,監獄内の規律及び秩序維持,受刑者の改善教化のいずれの観点からしても,在監目的の達成に対する障害発生の相当の蓋然性は存在せず,そのような蓋然性を広島刑務所長が認めたとすれば,その判断は明らかに不合理であって,裁量権の範囲を逸脱ないし濫用したものである。
(ウ) 仮に,広島刑務所長が上記障害発生の相当の蓋然性があると認定したことに裁量権の逸脱が認められないとしても,上記のような理由からすれば,その障害発生防止の必要性はそれほど強いものとはいえず,これを実現するためには,刑事弁護人との打合せの場合と同様に,面会室のすぐ側の面会人控室に職員を待機させて異常が発生すればすぐに駆けつけられる位置に配置して,時折ドアにあるガラス窓の外から面会室内部の様子を監視し,場合によっては終了後に受刑者等に必要な限度で談話の内容を聴取してその要領を接見表等に記載するという対応で十分であり,そのような措置をとることは容易であった。にもかかわらず,同所長は,面会室内において職員を立ち会わせてメモをとらせるという不必要に過剰な手段をとり,原告の裁判を受ける権利を侵害したものであり,上記のような措置を取らせた同所長の判断は裁量権の範囲を逸脱ないし濫用したものである。 オ 本件第2接見について
(ア) 第2回目の打合せは,本件訴訟提起後,被告から答弁書が提出された後のものであるが,答弁書に対する認否反論を検討するためには事件の核心に立ち入った内容の聴き取りや協議が必要であったし,A弁護士が裁判の打合せを行う旨申し出ていたのであるから,広島刑務所長はこのような事情を知り得た。
そして,請求原因として本件第1接見時に広島刑務所職員が立ち会ってメモをとったことも挙げており,同所側も本件訴訟の実質的な当事者となっていたため,同所職員が立ち会いメモをとることにより,打合せの内容が実質的当事者に確実に知られてしまう状況にあった。このような状況のもとでは,刑事被告人と弁護人の打合せに捜査当局の職員が立ち会う場合に被告人あるいは弁護人が受けるであろう心理的圧迫に劣らぬ圧力を原告及び訴訟代理人に与え,打合せに重大な支障を生じさせるから,打合せに同所職員を立ち会わせるべきでない要請が本件第1接見時よりも強固であった。 そして,立ち会った職員はその時点で被告の指定代理人に就任し訟務活動を行っていたEであり,これは,被告指定代理人以外の広島刑務所職員が立ち会う場合に比し,原告と代理人に対し格段に大きな心理的圧迫を与え,訴訟の打合せを全く不能にし,原告側に極めて大きな不利益を課するものである。
(イ) 原告に関し逃走等の事故発生の可能性は考え難かったこと,監獄内の規律及び秩序の維持に対する障害の発生の可能性について広島刑務所長が考慮していなかったこと,原告の改善教化という目的達成に障害が発生する相当の蓋然性が認められなかったことは本件第1接見時と基本的に同様であり,むしろ,本件第1接見時に原告が体調を乱したとか精神的に不安定になったという事情は一切なく,処遇上の参考になる動静が見られたという事情も全くなかったのであるから,本件第2接見時には,事故防止や処遇上の参考になる動静の把握の具体的必要性は本件第1接見時よりも低下していたといえる。 このように,本件第2接見時においては,本件第1接見時にもまして在監目的の達成に対する障害発生の相当の蓋然性は認められず,そのような蓋然性を広島刑務所長が認めたとすれば,それは明らかに不合理であって,裁量権の範囲を逸脱ないし濫用したものである。
(ウ) 仮に,上記障害発生の相当の蓋然性の認定に裁量権の逸脱がなかったとしても,面会室のすぐ側の待機所に職員を配置して,時折ドアにあるガラス窓の外から面会室内部の様子を監視し,場合によっては終了後に受刑者等に必要な限度で談話の内容を聴取してその要領を接見表等に記載するという対応で十分であり,そのような措置をとることは容易であった。
にもかかわらず,広島刑務所長は,面会室内において職員を立ち会わせてメモをとるという不必要に過剰な手段をとり,しかもその職員として被告の訴訟代理人を立ち会わせて原告にさらなる心理的圧迫を与え,その結果,原告が代理人との間で答弁書に対する認否反論を含め,訴訟の核心に触れるような協議を行うことをおよそ不可能ならしめ,打合せに重大な支障を生じさせて,原告が民事事件の訴訟代理人である弁護士と接見する権利を侵害したものであり,上記のような措置を取らせた同所長の判断は裁量権の範囲を逸脱ないし濫用したものである。
(2) 被告の主張
ア 制限される自由の内容・性格等
本件で制限されている受刑者の自由は,受刑者の外部交通の一環としての外部者と接見する自由であるが,それは民事訴訟準備目的で弁護士と接見する自由であって,受刑者自身の裁判を受ける権利を背景とするものと評価する余地がなくはない。しかし,当該自由に対する制限の態様・程度としては,接見に対する態様的制限であるから,接見自体を拒否したような場合と比較して,より軽度な制限といえるのであり,このような制限を行うか否かについては監獄の長の裁量が広範に認められるべきである。

イ 本件第1接見に対する職員の立会い等が適法であること 本件第1接見に職員を立ち会わせたことについては,監獄法施行規則127条1項本文によって接見には職員を立ち会わせるべきことが一般的に義務づけられているところ,本件では原告は刑事被告人ではないから同項但書の適用はないし,本件では原告についてC型肝炎などの持病,腰痛,不眠,暴力団関係等の事情があり,逃走等の事故防止の観点から職員の立会いを省略しないのが相当であり同条3項を適用すべきではない,という判断に基づいたもので,その判断に何ら違法な点はない。
メモをとらせたことについては,監獄法施行規則139条が接見ノ立会及ビ信書ノ検閲ノ際処遇上其他参考ト為ル可キ事項ヲ発見シタルトキハ其要旨ヲ本人ノ身分帳簿ニ記載ス可シとして,処遇上其他参考ト為ル可キ事項の要旨を記録することを義務づけていることに従ったものであり,その判断に何ら違法な点はない。
ウ 本件第2接見に対する態様的制限が適法であること
本件第2接見に職員を立ち会わせたこと及びメモをとらせたことについては,本件第1接見と同様の理由に基づくものであり,その判断に何ら違法な点はない。 本件第2接見時において,Eが本件訴訟の被告指定代理人となっていたことについては,①I第一統括矯正処遇官(以下I統括という。)としては,いわゆる適材適所の人員配置により限られた人的資源の中でその所管業務を効率的かつ円滑に遂行することを志向して,候補者たちの中から経験・能力・性格を比較した結果としてEを指名したものであること,②3時間前に来所を予告されたという時間的制約の中にあった当時のI統括にとって,3名の候補者の中で安心して接見立会の任務を担当させることができたのはEだけであったこと,③そもそも接見立会職員と訟務担当職員が時に一致してしまう事態というのは,広島刑務所における外部交通業務と訟務業務はいずれも第一統括が担当するという職制上の理由から,やむを得ず生じてしまう事態であったこと,④I統括としては,本件民事訴訟を有利に進めるための情報を収集するなどという目的のためにEを接見立会職員に指名したわけではなかったのであるし,そもそも職員の立会いを省略しない以上は,どの職員を立ち会わせようとも,談話の要旨はいやおうなしに第一統括であるI統括に伝わるようになっていたのであり,結局,問題の本質は,接見立会職員に誰を指名するかというところにはなく,接見に職員を立ち会わせたこと自体にあったものと考えられたこと,⑤本件訴訟の進行状況は,簡略な内容の答弁書が被告側から提出されただけであったこと,といった諸事情によるものであり,その判断に何ら違法な点はない。
エ 上記アで述べたとおり,受刑者自身の裁判を受ける権利を背景とした外部者と接見する自由に対して,職員の立会い及びメモの録取という態様的制限が加えられた本件については,監獄の長の裁量が広範に認められるべきである。
そのような観点から,原告が民事訴訟準備目的でA弁護士らと接見した際,当該接見に職員の立会い及びメモの録取という態様的制限を加えた広島刑務所長の事実認定及び各裁量的判断を検討するならば,同所長の事実認定が合理的根拠を欠いているとまで断ずることは不可能であり,かつ,そのような事実認定に基づいた各裁量的判断が著しく妥当性を欠いているとまで断ずることもまた不可能というべきである。 6 争点(3)(損害額)に関する当事者の主張
(1) 原告の主張
ア 慰謝料
上記4,5の不法行為により原告は精神的損害を被った。その慰謝料としては合計300万円が相当である。
イ 弁護士費用
原告は本件訴訟のため弁護士を依頼したが,被告の負担すべき弁護士費用として40万円が相当である。
(2) 被告の主張
争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件懲罰処分の違法性)について
(1) 前提事実
証拠(乙1ないし3,5ないし18,24ないし26,28,31,証人F,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 抗命(暴言)事犯発生までの状況
(ア) 平成9年8月6日,原告は,覚せい剤取締法違反で山口刑務所に服役中に発覚し起訴された詐欺余罪事件の控訴審のため,山口刑務所から広島拘置所に移監され,南3舎26房(独居房)に収容された。
入所時の健康診断において,原告は,C型慢性肝炎,頭痛症,不眠,緑内障,腰
痛等の疾患を訴え,各種薬剤の処方や腰痛緩和のためのコルセット使用の許可を受けていた。
(イ) 同月11日,原告は,統括面接願いを提出してF統括との面接を求め,翌12日,広島拘置所調室において,F統括の面接を受け,その際,広島拘置所の食器は山口刑務所のそれと比べて古いこと等の不服申立てを行った。これに対しF統括は,食器等に関する取扱いについては広島拘置所のやり方があることなどを説明した。 (ウ) 同年9月8日,原告は,主食食器が汚いとして善処を求める用度課長面接願い(乙1)を提出して用度課長J(以下J課長という。)との面接を求めた。
イ 抗命(暴言)事犯発生当日の状況
(ア) 平成9年9月11日午前7時50分ころの朝食時,原告は,南3舎勤務中の看守K(以下K看守という。)に対し,その日原告が使
用した主食食器(以下本件主食食器という。)が汚いので新しい食器と交換してほしい旨房内から申し出た。K看守は,本件主食食器の状態を見て,衛生上問題はなく直ちに交換する必要はないと判断し,

他の者の食器もみな同じである。

旨を述べて,原告の申し出に応じなかった。
(イ) 同日午前8時10分ころの朝食終了時,原告は,残飯の回収及び主食食器の搬出作業に立ち会っていたK看守に対し,食器が汚れていることで裁判にしようと思うので,本件主食食器を証拠物として自分が預かる旨述べた。K看守は,原告に対し,房の中で勝手に食器を所持することはできないので返却するよう指示したが,原告はこれに従わなかった。
(ウ) 同日午前8時14分ころ,K看守は,南3舎を巡回していたF統括に上記経緯を報告した。
そこで,F統括は,直ちに原告の房に行き,原告に対し本件主食食器を返却するよう指示したが,原告が

どうして出さないけんのか。

などと言ってこれを拒否したため,かなり大きな声で,

主食用食器を出しなさい。

との趣旨の発言をして厳しく指示した。これに立腹した原告は,興奮した様子で,

何言ってんだ。ばか野郎。

と言い返し,F統括の上記指示に従わなかった。(原告は,

F統括が『何ぎゃあぎゃあ言いよるんか。』などと大きな声で怒鳴りつけた。

と供述するが(原告本人調書4頁),原告自身,同じ尋問の中で,F統括の発言としては何言うとるんならあの方が正しいと供述していることや(原告本人調書60頁),反対趣旨の証人Fの証言,及び,原告が後に開かれた懲罰審査会において容疑事実を争わなかったこと等に照らすと,原告の上記供述をにわかに信用することはできない。しかし,原告がF統括の発言に立腹して上記のような発言に至ったのは明らかであり,この事実からすれば,F統括は,平穏な口調で説諭したものではなく,大声で上記のような趣旨の発言をしたものと推認される。この点についての証人Fの証言は,原告に対して平穏な口調で説諭したとの趣旨と思われるが,そうだとすれば,この点に関する証人Fの証言は信用できない。)
F統括は,原告の上記言動が,職員の正当な指示・命令に対して暴言をもってあらがった行為として,抗命(暴言)事犯に該当すると判断し,他の職員らに指示して,本件主食食器を持ったままの原告を,取調べのため処遇部門第2調室(以下第2調室という。)まで連
行し,H首席に上記経緯について報告した。
(エ) 同日午前8時30分ころ,H首席は,第2調室において,原告に対し抗命(暴言)事犯について弁明の機会を与えたところ,原告は,

入所当時から食器が汚いと何度も苦情を申し立てているが一向に改善されない,自分の家の犬の食器の方がきれいである。

旨述べた。H首席,F統括及びG副看守長は,原告が携行してきた本件主食食器の確認を行い,薄茶色の本体及び上蓋に梅干などの色素付着や漂白処理による退色があるのを認めたが,衛生上の問題はなく直ちに交換する必要はないと判断し,その旨原告に説明したが,原告は納得しなかった。
(オ) 同日午前8時40分ころ,H首席は,原告に対し,職員の正当な指示・命令に対して暴言をもってあらがったという抗命(暴言)事犯について,規律違反容疑行為として取調べに付する旨を言い渡した。原告は,H首席の事情聴取に対して,食器を提出しなかったのは裁判のために証拠が必要だからである,ばか野郎とは言っていないなどと弁明した。 ウ 遵守事項及び科罰基準
広島拘置所長は,平成9年3月11日付達示第2号受刑者遵守事項(乙12)で,受刑者が遵守すべき事項を定め,同日付達示第3号懲罰の科罰基準運用細則の制定について(乙11の・)で,規律違反行為に対する科罰基準を定めており,受刑者遵守事項については,房内に置いて受刑者に周知させていた。

上記遵守事項の七(刑事施設の職員の正当な職務行為を妨げる行為)の44項(以下遵守事項44項という。)には,抗弁等として,

職員の職務上の指示・命令に対し,抗弁,無視その他の方法で職務の執行を妨害してはならない。

と定められていた(以下,同項によって禁止された行為を抗命という。)。また,上記科罰基準では,受刑者の抗命(その態様として,抗弁,無視,暴言,愚弄が列挙されている。)に対する軽屏禁科罰基準として,最高が30日,標準が15日,最低が軽屏禁5日と定められていた。 エ 本件懲罰処分が決定されるまでの経緯
(ア) 平成9年9月12日,J課長は,前記用度課長面接願い(乙1)記載の不服について原告から聴取するため,第2調室において原告と面接したところ,原告は,主食食器があまりに汚く,食器がすぐには購入できないのは分かっているので,洗い方等を工夫してほしいなどと不服を申し立てた。これに対しJ課長は,食器は計画的に更新しており,今後とも計画的に更新整備を図る予定であること,食器洗浄も計画的に実施しており,今後とも業者等に照会するなどして洗浄方法等について検討することなどを説明した。 (イ) 同月18日,原告は,取調べ担当のG副看守長に対して,

子細については一切申し上げることはありませんので黙秘させて下さい。

すべては私の責任に帰すところであり,一切の申し開きも言い分等もありません。そのため,ああ言った,こう言った等論ずる余地等どこにもありませんから黙秘権を行使します。言い分等全くなく,悪かった,この一言につきます。職員に対して理由のいかんにかかわらず不適切な言葉(暴言)を使ったことは,自分の立場をわきまえない無謀な発言であったことを認めます。そのため私が本件で黙秘権行使と申しましたのは,弁明の余地がありませんし,すべて私の責任ですから何も申し上げることができませんので黙秘するもので,他意はありません。

職員の方に対して,大変申し訳なく済まない気持ちで一杯です。

などと供述し,その旨を記載した供述調書に署名捺印した。(なお,原告は上記調書がひな型に従って作成された旨主張供述するが,上記調書の内容が,黙秘すると言いながらも事実を認めて反省の弁を述べるという点で特異なものであることからすれば,これがひな型に従って作成されたものとは考え難いから,原告の上記主張供述は採用できない。)
(ウ) 同月25日の午前10時30分から,懲罰審査会が開催された。同審査会には,処遇部長L(以下L処遇部長という。)が議長,H
首席,F統括,首席矯正処遇官(企画担当)M,統括矯正処遇官N,統括矯正処遇官Oの5名が委員,副看守長Pが補佐人として,それぞれ出席した。
まず,原告立会いの上で,F統括が抗弁(暴言)の容疑事実を読み聞かせた。 同容疑事実の要旨は,平成9年9月11日午前8時14分ころ,原告が,朝食終了時の食器空上げの際食器が汚れているので証拠物として預かる旨申し立て,主食用食器を出さなかった旨,K看守から報告を受けたF統括が,原告の居房に赴き,原告に対し,食器が汚れているとの報告を受けたが,その食器を持っているのであれば出して見せるよう指示すると,原告は,『どうして出さないけんのか。』等と申し述べ,主食用食器を出すことを拒否したため,F統括が再度『主食用食器は引き上げるようになっているので,出しなさい。と指示したところ,原告は,『何言ってんだ。ばか野郎。』と語気荒く暴言を吐き,もって職員の職務上の指示に対して抗命したものである。」というものであった。 その後,議長が原告に対し容疑事実の認否の確認及び弁解を求めたところ,原告は,容疑事実を認め,これを争ったり,あるいはF統括の発言内容について異議を述べたりはしなかった。
補佐人Pは,

自己の非を認め,陳謝しているので,寛大な処分を申請する。

との意見を述べた。
原告を退出させた後,議長1名及び委員5名は,合議を行い,原告の上記行為は,抗命(暴言)事犯に当たるが,単発的事犯であり,原告には反省の気持ちが一応認められ,原告の健康が必ずしも良好とはいえないことなどを考慮して,軽屏禁10日・文書図画閲読禁止併科が相当であるとの結論に達し,議長がこれを懲罰審査会意見として広島拘置所長に具申した。
(エ) 広島拘置所長は,前記容疑事実にある原告の行為が抗命に当たると判断し,同日,懲罰審査会意見のとおり軽屏禁10日・文書図画閲読禁止併科とする本件懲罰処分を決定し,併せて,作業不課,累進処遇の階級を2級から3級に低下させることを決定した。 (オ) 同月25日,本件懲罰処分執行に先立ち,医務課長医師Q(以下Q医務課長という。)は,原告について,監獄法施行規則160条2項に基づく医務検診を実施し,心音,肺音に異常を認めず,体重56.5キログラム,血圧130/80mmHgであり,原告自身も検診中に体調不良等を訴えなかったことから,本件懲罰処分執行に身体上の支障はないと診断
した。
同日午後2時58分,L処遇部長は原告に対して本件懲罰処分を言い渡し,原告を直ちに自己の居房である南3舎26房に連行して本件懲罰処分の執行を開始した。 なお,同日,原告に本件懲罰処分執行の言渡しをする前に戸外運動を実施する予定であったが,その際,原告が体調不良を申し立てて出房しなかったことから,実施しなかった。
オ 本件懲罰執行中の状況
(ア) 懲罰中の健康状態
原告は,平成9年9月26日,27日,28日,29日,同年10月4日に,腰痛を理由に壁すがり(壁に腰や背を当てて寄り掛かること)及び足伸ばしを願い出たところ,壁すがりについては9月26日に2回,27日に4回,28日に3回,29日に1回,足伸ばしについては10月4日に1回,それぞれ許可された。
また,同年9月29日には原告が腹痛及び悪寒を訴えたため,Q医務課長が鎮痛剤を注射,投与し,衣類を追加貸与し,同年10月2日及び同月4日には原告が腹痛を訴えたため,Q医務課長が鎮痛剤を注射,投与した。
(イ) 入浴,戸外運動
原告は,平成9年10月1日に入浴を行い,同月3日に拭身(入浴に代え,支給した湯水により,房内で濡れタオルを使用し,体をふいて清潔にすること。)を行った。また,同月2日には戸外運動が実施される予定であったが,雨天のため中止された。 (ウ) 刑事事件の弁護人との連絡
広島拘置所長は,平成9年9月29日,原告が詐欺余罪事件の控訴審の弁護人であるA弁護士と接見するため,本件懲罰処分の執行を一時停止した。 原告は,同月30日,受罰中の筆記及閲読許可願受罰中所持等(使用)許可願の各願せんを提出し,事情聴取したF統括に対し,

前日のA弁護士との接見の際,A弁護士から,本人尋問の詳細について,本人の意図しているところを早急に知らせてほしい旨の指示を受けたため,弁護人にその旨至急連絡したい。

と申し述べた。そこで,同所長は,防御権行使上,これを許可した。
同年10月2日,原告が,A弁護士あての認書作成が終了したとして,特別発信を願い出たので,同所長は,防御権行使上これを許可し,発信した。 カ 本件懲罰処分の終了
平成9年10月5日午前8時46分,監督当直者副看守長Rが原告に対して本件懲罰処分終了の言渡しをした。
同月6日,Q医務課長が監獄法施行規則163条に基づく本件懲罰処分終了後の診察を実施したところ,心音,肺音とも正常で,体重57キログラム,血圧104/68mmHgであり,原告は体調不良等を訴えなかった。
(2) 原告の憲法31条違反の主張について
ア 受刑者に対する懲罰は,多数の被拘禁者を外部から隔離して収容し,これらの者を集団として管理する監獄において,内部における規律及び秩序を維持し,その正常な状態を保持する目的で,監獄の長によって科される行政上の制裁である秩序罰であるから,刑罰とはその性質を異にし,刑事司法手続に要求されるような厳格な罪刑法定主義及び手続が必ずしも要求されるものではないというべきである。そして,監獄の場所的・地理的環境,施設の保安・管理面における物的・人的状況,施設内の被収容者の動静等は個々の監獄によって異なるから,被拘禁者の遵守事項やこれに違反した場合の科罰基準もまた個々の監獄によって異ならざるを得ないのであり,このような監獄の特殊性から,監獄法59条は在監者規律ニ違ヒタルトキハ懲罰ニ処スと定めるにとどめ,同施行規則19条1項は所長ハ在監者ノ遵守スヘキ事項…ヲ入監者ニ告知ス可シと定めており,その趣旨は,被拘禁者の遵守事項,これに違反した場合の科罰基準の定め,科罰のための手続及び個別の懲罰の内容等について,監獄内の実情に通暁し直接その衝に当たる監獄の長の裁量にゆだねたものと解される。
イ 懲罰要件が不明確であるとの主張について
原告は,遵守事項44項は,処分構成要件が不明瞭かつ広汎で,外部者に明らかにされず,社会的批判にさらされていないものであるから,これに基づく本件懲罰処分は憲法31条に違反すると主張する。
しかし,前記認定のとおり,広島拘置所長は,遵守事項44項で,

職員の職務上の指示・命令に対し,抗弁,無視その他の方法で職務の執行を妨害してはならない。

と定め,いわゆる抗命行為を禁止していたところ,監獄の秩序維持のためには,被拘禁者が施設職員の指示・命令に服さなければならないとし,これに違反した被拘禁者を懲罰することが必要であるのは明らかである上,上記抗命行為の種類・態様は多種多様であって,これ
を網羅し尽くすことは困難であり,予想し難い種類,態様の抗命行為が発生する可能性も否定できず,拘置所長としてはこのような行為についても相応の懲罰に処する必要がある。そうすると,遵守事項44項が上記のような抽象的な事項を含むことはやむを得ないものといわざるを得ないから,これが不明確であるとして違法ということはできない。 また,前記認定のとおり,広島拘置所長の定めた遵守事項は受刑者に対しては明らかにされていること,その制定や適用は広島拘置所長の裁量にゆだねられていることからすれば,これが外部者に明らかにされていないことを理由に違法であるということはできない。
したがって,原告の上記主張は採用できない。
ウ 懲罰手続が不適正であったとの原告の主張について
(ア) 原告は,懲罰表記載の容疑事実では,何が抗命ないし暴言なのか不明であり,これを口頭で告知するのみでは不十分である旨主張する。
しかし,上記容疑事実の内容からすれば,これを口頭で告知された原告は,懲罰審査会において上記容疑事実を読んで聞かされた際,原告がF統括から本件主食食器を出して見せるよう2度にわたり指示されたのに対して

何言ってんだ。ばか野郎。

と言ってこれに従わなかった行為が本件懲罰処分の対象とされていることを容易に理解し得たといえるから,容疑事実の告知の手続としてはこれで足り,それ以上にどの行為が懲罰対象とされているかを細かく説明しなかったことを理由として告知の手続が適正でなく違法であるということはできない。したがって,原告の上記主張は採用できない。 (イ) 原告は,懲罰審査会が拘置所職員のみで構成され,F統括が同審査会の委員となっていたこと,弁護士等の第三者の付添いがないこと,原告側に証拠閲覧権,証拠提出権,証人尋問権などが認められていないこと,非公開であることを適正手続の保障に反すると主張する。
しかし,前記アに説示したとおり,監獄の被拘禁者に対する懲罰は,犯罪に対する刑罰とはその性質を異にし,刑事司法手続に要求されるような厳格な罪刑法定主義及び手続が必ずしも要求されるものではなく,懲罰委員会の構成等の懲罰手続の具体的内容については拘置所長の裁量的判断にゆだねられているというべきであるから,上記懲罰についても弁護士等の第三者の付添い,懲罰対象者の証拠閲覧権,証拠提出権,証人尋問権などを保障するべきであるとの原告の主張は,上記懲罰決定の手続についても刑事司法手続とほぼ同等の手続保障がなされるべきであるとする独自の見解であって,到底採用できない。
また,原告は,

本件懲罰処分は,原告が容疑事実を認めたというだけで,その他の証拠等による裏付けをすることなく,事実を認定しており,事実認定手続が極めてずさんである。

旨主張する。しかし,そもそも容疑事実自体が客観的な証拠によって裏付けられる性質の事柄ではないから,その認定はF統括と原告の各供述に依拠するほかなく,容疑事実はF統括の報告書(乙7)に基づいて作成され,原告も懲罰審査会において弁解をする機会を与えられたが,これを争うことはしなかったのであるから,広島拘置所長のした本件懲罰処分の前提たる事実認定手続がずさんであったといえないのは明らかである。したがって,原告の上記主張も採用できない。
(ウ) 原告は,本件懲罰処分の前提としての医師の診断が不十分であったと主張するが,前記1(1)エ(オ)認定のとおり,本件懲罰執行に先立ち,Q医務課長が原告の心音,肺音を聴取したところ異常はなく,体重及び血圧も正常であり,原告自身も体調不良等を訴えなかったのであり,広島拘置所においてそれ以上の診察をすべき必要があったことを窺わせる証拠もないから,原告の上記主張は採用できない。
(3) 拘置所長の裁量権逸脱・濫用の主張について
原告は,本件懲罰処分の対象となった原告の発言は懲罰をもって処罰すべき行為ではなく,仮に懲罰の対象となるとしても,原告の行為の態様及び健康状態に比して重すぎる処分であり,拘置所長の裁量権の範囲を逸脱ないし濫用したもので違法であると主張する。
しかし,前示のとおり,多数の被拘禁者を収容する監獄の秩序を維持するため,被拘禁者が施設職員の指示・命令に服さなければならないとし,これに違反した者を懲罰するのが合理的であることは明らかである。そして,本件における原告の抗命行為は,喫食後の主食食器を提出するという,原告にとって何ら困難ではないことについて何度も指示を受けながら,後の訴訟追行のためにこれを自ら保管するといった到底拘置所内で許されるはずのないことを動機として述べ,上記指示に頑なに従わずに,

何言ってんだ。ばか野郎。

と暴言を吐いたというものであって,その動機に酌むべき事情はなく,態様も悪質であり,拘置所の秩序維持の点から軽視し得ない行為である。なお,前記認定のとおり,F統括がかなり大声で食器を出すよう指示したことは認められるけれども,原告の上記態度からすれば,
F統括の上記対応に非難すべき点があったとは到底いえない。
上記の点に加えて,原告の行動に対して軽屏禁10日間及び同期間の文書図画閲読禁止を併科した本件懲罰処分は,広島拘置所における抗命事犯の科罰基準の標準が軽屏禁15日間であるのに比して軽い処分である(乙11の2)ことにかんがみると,これを重すぎるということはできない。
また,原告の健康状態についてみると,本件懲罰処分執行に先立ち実施された医務検診において,原告の心音,肺音,体重,血圧に異常は認められず,原告自身も検診中に体調不良等を訴えず,Q医務課長においても本件懲罰処分執行に差し支えないと診断したのであり,特に10日間の軽屏禁に耐えられないような事情は窺われず,壁すがり及び足伸ばしの許可を数回得ているが,その回数が異常に多いとはいえず,9月29日,10月2日及び同月4日に腹痛や悪寒を訴えているが,これに対しては鎮痛剤の注射及び衣類の追加貸与がなされており,これをもって本件懲罰処分執行に差し支えがあるとまではいえず,本件懲罰処分終了後の診察においても,心音,肺音,体重,血圧に異常はなく,原告も体調不良等を訴えなかったのであるから,本件懲罰処分が重すぎたということはできない。原告は,本件懲罰処分後は3日間くらい腰をかがめてしか歩けなくなった旨供述するが,原告の診療録(乙28)及び乙18によれば,原告は本件懲罰処分終了後の10月7日から腹痛を何度も訴えているものの腰痛はほとんど訴えておらず,乙14によれば,原告は10月6日の運動に参加し,その後も1度辞退したのみですべての運動に参加していることからすれば,原告の上記供述はたやすく信用できない。
したがって,広島拘置所長の裁量権逸脱ないし濫用があったとする原告の主張は採用できない。
2 争点(2)(本件各接見制限の違法性)について
(1) 前提事実
証拠(甲42,乙19ないし23,32ないし35,証人I,同E,同D,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 本件第1接見
(ア) 平成10年2月25日,A弁護士らは要請書と題する文書(乙19の(2))を広島刑務所長あてにファクシミリで送信し,同月26日又は同年3月2日に原告に接見して本件懲罰処分についての国家賠償請求訴訟の準備のため事情聴取を行う予定であるが,接見の際職員に立会いをさせないよう求めた。
上記要請を受けて,同年2月26日,S首席矯正処遇官(以下S首席という。)がA弁護士に電話して,接見は可能であるが,職員による立会いの省略については監獄法令に照らし受け入れられない旨広島刑務所長の回答として伝えたところ,A弁護士らは,同日及び同年3月2日には接見に来なかった。
(イ) 同月31日,A弁護士ほか3名の弁護士は,連名による要望書と題する文書(乙21の(2))を広島刑務所長あてにファクシミリで送信し,同年4月3日午前10時から原告に接見して,前記国家賠償請求訴訟の準備のため事情聴取を行いたいが,接見の際職員に立会いをさせないよう求めた。
S首席及びT統括矯正処遇官らは,上記申入れについて検討し,接見自体については,民事訴訟準備目的の接見であることから,監獄法第45条2項の特ニ必要アリト認ムル場合として許可するが,職員の立会いは原則どおり行うこととした。これを受けて,同月1日,第一統括に就任したI統括は,上記方針についてD弁護士に電話で伝えた。 (ウ) 同月3日,I統括とU首席矯正処遇官(以下U首席という。)は,A弁護士らの来所に先立ち,接見立会職員として誰を指名すべきか検討し,当時訟務業務を担当する一方で接見立会などの外部交通業務についても必要に応じて担当していた矯正処遇官のEを立ち会わせることとした。
同日午前10時30分ころ,A弁護士,C弁護士,D弁護士が広島刑務所を訪れた。
I統括は,Eに対し,原告とA弁護士らの接見に立ち会って接見中の談話の要旨を簡潔に記録すること,弁護士から抗議を受けた場合には談話の要旨とは別途記録すること,弁護士から難しい質問を受けた場合には自分で判断せず上司であるI統括に報告して指示を仰ぐこと,などを指示した。
(エ) 同日午前10時45分ころ,A弁護士は,面会室に接見立会いのため入室したEに対して質問したい旨述べ,Eからその旨報告を受けて面会室に来たI統括に対し,広島刑務所と広島拘置所は同じ法務省関係の機関であり,打合せ内容が筒抜けになり,裁判を受ける権利を著しく侵害するから,刑務所職員の立会いをさせないよう求める旨述べ,接見に立会いを付するという決定の根拠法令を明らかにするように求めた。これに対してI統括は,接見立会いについては先に電話で回答したとおりであり,根拠法令については面会後しか
るべき場所で応対する旨回答したところ,A弁護士らはこれをひとまず了承して,午前11時40分まで原告との接見を行った。
接見の中で,A弁護士らは原告に対し,国家賠償請求訴訟提起の理由,本件懲罰処分に至る事実関係,手続,本件懲罰処分の内容等について質問し,原告はこれに答えた。その間,Eは上記談話の内容についてメモをとっており,A弁護士は,接見終了間際に,Eがメモをとることについて抗議する旨述べた。
イ 本件第2接見
(ア) 本件訴訟について被告から答弁書が提出されたのを受けて,A弁護士らは,上記答弁書の内容等について原告と打合せをすることとし,平成10年9月22日昼ころ,要請書と題する文書(乙33)を広島刑務所長あてにファクシミリで送信し,本件訴訟の打合せのため同日午後3時ころから原告と接見したいが,接見の際職員に立会いをさせないよう求めた。
I統括とU首席はこれについて検討し,本件第1接見と同じく,接見自体については許可するものの,職員を立ち会わせて談話の要旨を録取させることとし,接見立会職員も本件第1接見と同じくEにさせることとし,I統括はEに対して,1回目の接見時と同様の指示を行った。
(イ) 同日午後2時45分ころ,A弁護士,D弁護士の2名が来所し,E立会いのもと午後3時5分から午後3時44分まで原告と接見した。
接見の中で,A弁護士らは原告に対し,本件訴訟の第1回期日が変更されたこと,本件訴訟がマスコミにより報道されたことを報告・確認し,原告は,独居拘禁下での生活等についてA弁護士らに説明した。その間,Eは上記談話の内容についてメモをとっていたところ,A弁護士らが答弁書の内容についての打合せに取りかかろうとしたとき,Eが本件訴訟において被告の指定代理人となっていることに気が付いた。そのため,A弁護士らは答弁書の内容についての打合せはしないこととし,出所後の予定や体調について話すにとどめた。
(2) 接見制限の根拠
監獄法45条2項によれば,受刑者については親族以外の者との接見は原則として禁止され,刑務所長において特に必要ありと認める場合に限って例外的にこれを許すものとされている。そして,同法50条は接見の立会いなど接見の態様に関する制限を命令に委任し,監獄法施行規則127条1項本文は接見ニハ監獄官吏之ニ立会フ可シと規定し,同条3項は所長ニ於テ教化上其他必要アリト認ムルトキハ受刑者ノ接見ニ付立会ヲ為サシメサルコトヲ得と規定している。このように,受刑者との接見に刑務所職員の立会いを要するのは,不法な物品の授受等刑務所の規律及び秩序を害する行為や逃走その他収容目的を阻害する行為を防止するためであるとともに,接見を通じて観察了知される事情を当該受刑者に対する適切な処遇の実施の資料とするところにその目的がある。したがって,教化上その他の必要から立会いを行わないとするかどうかは,当該受刑者の性向,行状等を含めて刑務所内の実情に通暁した刑務所長の裁量的判断にゆだねられているものと解すべきであり,刑務所長が上記の裁量権の行使としてした判断は,裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したと認められる場合でない限り,国家賠償法1条1項にいう違法な行為に当たらないと解するのが相当であり,以上の理は,受刑者が自己の民事事件の訴訟代理人である弁護士と接見する場合でも異ならないものと解すべきである(最高裁平成12年9月7日判決・判例時報1728号17頁参照)。
(3) 受刑者が自己の民事事件の訴訟代理人である弁護士と接見する権利 ア 原告は,受刑者が自己の民事事件の訴訟代理人である弁護士と接見する権利は,憲法32条,13条及びB規約14条1項によって保障されている旨主張する。 イ 受刑者であっても憲法32条の裁判を受ける権利の保障は及ぶものの,同権利は,民事・行政事件については,すべての者が公平な裁判所の裁判を求める権利を有し,裁判所は適式な訴えの提起に対して裁判を拒絶したり怠ったりすることは許されないとする,いわゆる司法拒絶の禁止を意味するものと解され,同条の文言が裁判所において裁判を受ける権利として,公権力に対する関係で認められる国務請求権としての権利を定めているという規定の仕方からしても,同権利が受刑者において自己の民事事件の訴訟代理人である弁護士と接見する権利ないし自由まで直接的に保障したものと解することはできない。 ウ しかしながら,他方でB規約14条1項は,第1文で

すべての者は,裁判所の前に平等とする。

と規定し,第2文で

すべての者は,その刑事上の罪の決定又は民事上の権利及び義務の争いについての決定のため,法律で設置された,権限のある,独立の,かつ,公平な裁判所による公正な公開審理を受ける権利を有する。

と規定している。その趣旨は,まず憲法14条1項が保障するところの法の下における平等と同様の平等原則を規定し,憲法32条が保障するところの裁判の拒絶が許されないこと及び憲法82条が保障すると
ころの対審及び判決の公開原則と同様の原則を規定しているものと解せられるが,それにとどまらず,法の下の平等の訴訟的具現として,刑事や民事・行政を問わず,訴訟手続における武器平等ないし当事者対等の原則を保障し,この原則の帰結として,受刑者が追行しようとする民事訴訟手続について言えば,受刑者が自己の民事事件の訴訟代理人である弁護士と接見する権利を保障しているものと解するのが相当である。 また,憲法やB規約が保障する裁判を受ける権利の行使による司法的救済は,個人の基本的人権の保障を確保して法の支配を実現するための重要な手段であること,受刑者が自己の民事事件の訴訟代理人と接見するということは,監獄内にあってその立場上自由な訴訟活動を行うことが困難な受刑者にとって,司法による実効的な人権救済を受けるための重要な手段であることにかんがみると,受刑者が自己の民事事件の訴訟代理人である弁護士と接見する権利ないし自由は,憲法13条の保障する基本的自由権のひとつとして保障されていると解するのが相当である。
そして,前示のとおり,刑務所職員の立会いを行わないとするかどうかは,刑務所長の裁量的判断にゆだねられており,刑務所長が上記の裁量権の行使としてした判断は,裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したと認められる場合でない限り,違法な行為に当たらないと解せられ,この理は,受刑者が自己の民事事件の訴訟代理人である弁護士と接見する場合でも異ならないけれども,一方で,本件のように当該民事事件が拘置所での処遇を問題とする場合に受刑者と民事事件の訴訟代理人である弁護士との接見に刑務所職員の立会いを強制することは,上記の憲法やB規約によって保障された受刑者の接見の権利に一定の制約を与えるものといえるから,この点は,上記の刑務所長の裁量権の逸脱ないしは濫用があったかどうかの判断において考慮されるべきと解せられる。 (4) 本件各接見制限の違法性
ア 本件各接見における職員立会いの必要性
被告は,本件では原告についてC型肝炎などの持病,腰痛,不眠,暴力団関係等の事情があり,逃走等の事故防止の観点から,本件各接見において立会いを省略しないのが相当であった旨主張し,証人Iは,原告が本件懲罰処分を不満に思っており,C型肝炎や腰痛,不眠などで体調が万全でなく,原告が余罪について自首したことにより同じ広島刑務所に在監中の他の暴力団組員のことも暴露したことになり,当該暴力団組員が原告について快く思っていなかったことなどから,原告が精神的に不安定な状態にあったこと,原告が暴力団関係者で比較的犯罪傾向の進んだ受刑者であり,広島拘置所において本件懲罰処分の対象となった粗暴な行為を行ったこともあり,一人にさせると器物損壊や自傷行為を行う危険性があったこと,接見に際しての原告の言動が各種事故防止につながったり処遇の参考になる可能性があった旨供述する(証人I調書17,18頁)。 そこで検討するに,前記認定のとおり,原告は,広島拘置所入所時からC型慢性肝炎,頭痛症,不眠,緑内障,腰痛等の疾患を訴えており,広島拘置所入所後主食用食器について数回苦情を述べ,ついにはF統括の指示に従わずに暴言を吐いて本件懲罰処分を科されたことからすれば,原告が他の受刑者に比して精神的にやや不安定な状態にあったと判断したことが不当であるとは必ずしもいえない。
しかし,他方で原告には,広島拘置所及び広島刑務所在監時を通じて,本件各接見時まで,本件懲罰処分の対象となった抗命行為のほかに特段の問題行動があったことは証拠上窺われず,本件懲罰処分以外に懲罰を科されたことはなかったのであるから(原告本人),上記のように原告が精神的にやや不安定な状態にあるとの判断が一応可能であったことから,直ちに原告が器物損壊や自傷行為などに及ぶおそれがあると判断するのは相当でない。そうすると,原告の器物損壊行為等による事故防止の観点から,職員が接見に立ち会う必要性はほとんどなかったといえる。上記の点に関する事実について,前記最高裁判決の事例と本件とは大きく異なる。
また,逃走のおそれについてみると,広島刑務所における面会室の構造は,受刑者側と面会者側双方に向かい合わせの形で机があり,机の上から天井まで透明なプラスチック様の板が全面に取り付けられ,両者の顔の正面位置に小さな穴が数十個あいているが,その部分の板が二重ないし三重になっており,それぞれの穴の位置がずれているため,その穴を通して何か小さなものをやり取りすることはできない構造になっているというのであるから(甲42の4,5頁),面会室から物理的手段を用いて逃走することは困難であり,また,民事事件の訴訟代理人である弁護士との接見において逃走の謀議をすることも考え難く,原告が本件各接見までの間に逃走を企てたような事情もうかがわれないことからすれば,逃走防止の観点から職員が接見に立ち会う必要性もまたほとんどなかったといえる。 さらに,証人Iは,接見に際しての原告の言動が各種事故防止につながったり処遇の参考になる可能性があった旨証言するところ,確かにその可能性は否定できないものの,これはすべての受刑者について一般的にいえることであるし,刑務所職員は受刑中の
原告の生活ぶりを日々見分しているのであるから接見時の言動を見分しなければ適正な処遇の決定をすることができないとまではいえない。のみならず,前記のとおり,原告には,本件懲罰処分の対象となった抗命行為のほかに特段の問題行動があったことは証拠上窺われないことからすれば,原告について,事故防止や処遇決定のために接見時の言動を認識しておく必要性はさほどなかったといえる。このような点からすれば,上記証言にある理由のみから原告に対し後記の本件各接見に生じる支障を強いてまで職員の立会いの合理性を肯定することは困難である。 イ 本件各接見制限が本件各接見に及ぼす影響 (ア) 本件第1接見の目的は,本件懲罰処分についての国家賠償請求訴訟を提起するための事情聴取であったところ,訴訟提起を準備するための弁護士との初めての打合せの際には,依頼者が弁護士に対して事件発生の経緯や状況について,弁護士の質問に応じて説明することが必要になる(甲42,43,証人D)。このような打合せの場に拘置所と同じ法務省管轄の行刑施設である刑務所の職員が立ち会って会話内容を聴取し,しかも監獄法施行規則139条に従いメモを録取した場合には,原告が,打合せ内容を被告側関係者に知られることを懸念して,率直な話をすることができず,打合せに支障が生じることが容易に推認される。
(イ) また,本件第2接見の目的は,本件訴訟提起後に,被告から提出された答弁書の内容等について打合せをすることであったところ,この時点では本件懲罰処分に加えて本件第1接見における刑務所職員の立会いについても違法事由として国家賠償請求訴訟を提起していたのであるから,刑務所職員が立ち会って会話内容を聴取し,しかもメモを録取した場合には,打合せ内容が被告側関係者に知られることへの懸念は本件第1接見時よりも大きいといえ,答弁書に対する認否及び反論をどのような内容とするかについて率直な意見交換が困難となり,打合せに支障が生じることが容易に推認される。さらに,本件第2接見時には立会職員のEは本件訴訟における被告国の指定代理人となっていたのであり,原告に与える上記懸念はより一層大きいものといわざるを得ない。 ウ 上記アに判示したとおり,本件各接見における刑務所職員の立会いは,自傷行為等の事故防止や逃走の防止等の戒護上の必要性はほとんどなかった上,接見時の原告の言動を把握することがその後の処遇の決定に資するという理由から,接見に刑務所職員の立会いを強いることの合理性を肯定することは困難である。さらに,上記イに判示したとおり,その立会いを強制することは,原告が自己の民事事件の訴訟代理人となる弁護士との間で行う打合せに多大な支障を生じさせるばかりか,被告に敵対当事者の情報を知り得る機会を与え,その結果,実効的な司法救済を求めることを困難ならしめ,憲法13条やB規約14条1項が保障する受刑者が自己の民事事件の訴訟代理人である弁護士と接見する権利ないし自由を実質的に侵害し,さらには,B規約14条1項が保障する武器平等ないし当事者対等の原則に違反する行為というべきである。
以上の点を総合考慮すると,広島刑務所長が本件各接見において広島刑務所職員の立会いを強制した行為は,社会通念上著しく妥当性を欠くものであり,裁量権の範囲を逸脱し,これを濫用した行為として,国家賠償法1条1項にいう違法な行為に当たるというべきである。
3 争点3(損害額)について
本件各接見において広島刑務所職員を立ち会わせた同所長の行為によって,原告は自己の民事事件の訴訟代理人である弁護士と接見する権利ないし自由を侵害され,精神的苦痛を被ったものと認められ,本件における諸般の事情を考慮すると,その精神的苦痛を慰謝するには10万円が相当である。
また,本件訴訟の内容及び認容慰謝料額に照らすと,上記不法行為による損害としての弁護士費用は5万円とするのが相当である。
4 結論
よって,原告の請求は,損害賠償金15万円及びこれに対する不法行為の後である平成10年7月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。なお,仮執行宣言は相当でないから付さないこととする。

広島地方裁判所民事第3部

裁判長裁判官 能 勢 顯 男


裁判官 田 中 一 隆



裁判官 武 林 仁 美

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